勇者「集え!我らアリアハン高校野球部!」 (564)

それは勇者が16歳になる誕生日のことであった




「起きなさい。起きなさい私の可愛い勇者や」

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───

勇者「うーん……」

母「おはよう勇者。もう朝ですよ」

勇者「あと5分……」

母「今日はとても大切な日。あなたの高校の入学式だったでしょ」

勇者「あ!そうだった!」ガバッ

母「私は今日まであなたを立派な男の子として育ててきました」

勇者「うん」

母「さあ、母さんについてきなさい」

勇者「あれ?もう出るの?朝食は?」

母「あなたが寝坊したからそんな暇はないわ。歩きながら食べなさい」

勇者「寝坊だったのかよ!だったらもっと慌てて起こしてよ!」

───アリアハン高校前

母「ここから真っ直ぐ行けば学校よ。あとは一人で行けるわね?」

勇者「……」モグモグ

母「どうしたの勇者。あんなに楽しみにしていたのに学校に行きたくないの?」

勇者「いや初めから一人で来れたんだけど。母さんがわざわざ付き添わなくても……」

母「入学式には父兄も出るのよ」

勇者「ああそうだっけ。帰りは先帰ってていいよ。俺色々見て回るから」

母「わかったわ。あ、最初に校長先生にお会いしていきなさい」

勇者「校長先生に?なんで?」

母「あなたにお話があるそうよ」

勇者「ふーん。なんだろ」

母「ちゃんと挨拶するのよ。さあ行ってらっしゃい」

───校長室

コンコン

勇者「失礼しまーす」ガチャ

校長「よくぞ来た。その精悍な顔つきはオルテガの息子じゃな」

勇者「父さんを知っているんですか?」

校長「うむ。我が校野球部の英雄じゃったからな」

勇者「へえ。今でも語り継がれてるんだ」

校長「そしてわしの教え子でもあった」

勇者「そうなんだ。俺も父さんに負けない英雄になってみせますよ」

校長「うむ……」

勇者「不安ですか?まあ俺の実力を知らなければしょうがないか」

校長「非常に言いにくいのじゃが……野球部はなくなってしまったのじゃ」

勇者「え?」

勇者「どういうことですか!?野球部がなくなったって!?」

校長「オルテガがいた時代、アリアハンは全国の頂点に君臨していた」

勇者「詳しくは知らないけど、それは俺も聞いたことあります」

校長「やつが卒業した後もいずれは監督として戻ってくるはずじゃった」

勇者「あれ?そんな話は知らない。戻ってくるはずって……?」

校長「他の強豪校、火山高校が横からオルテガを口説き落としたのじゃ」

勇者「え?」

校長「それからアリアハンは衰退し、力を失い、有力な人材も集まらなくなり、とうとう廃部じゃ」

勇者「そんな……」

校長「オルテガが火山に落ちたばかりに……!」

勇者「……父さんはずっと家に帰っていません。俺は父さんの記憶すらない」

校長「未だ連絡が取れないらしいな」

勇者「……はい」

校長「お主を呼んだのは他でもない。もう一度野球部の栄光を取り戻してほしいのじゃ」

勇者「え?」

校長「オルテガの血をひくお主ならやれるはず」

勇者「ちょっと待って下さい」

校長「必要になるであろう布の練習着とひのきのバットを与える。それから……」スッ

勇者「この封筒は?中は……五千円?」ピラッ

校長「野球部復活のための活動資金に当てよ。わしからの特別な依頼なので他言無用じゃぞ?」

勇者「いやちょっと待って」

校長「とりあえず4人いれば部として認められる。まずは仲間を集めるのじゃ」

勇者「……」

校長「では行け。勇者よ」

───1年青組教室

勇者「くそ、なんなんだよ。勝手に話を進めやがって」ブツブツ

勇者「野球部が無いなんて知ってりゃこんな学校来なかったのに」ブツブツ

勇者「仲間を集めろったって、素人寄せ集めて何ができんだよ」ブツブツ

勇者「全部父さんのせいだ。どこで何やってんだよ……」ブツブツ

?「随分と小言が多いのね」

勇者「ん?」

?「初めまして。今日からクラスメイトね。あなたの後ろの席になったルイーダよ。よろしく」

勇者「……勇者だ」

ルイーダ「入学早々何かお困りかしら?」

勇者「関係ないだろ」

ルイーダ「そう。ま、いいわ」

?「邪魔だ。どけ」

生徒「ひっ」



勇者「なんだあいつ。ガラの悪いやつだな」

ルイーダ「あら?彼は……」

勇者「知り合いか?」

ルイーダ「いえ、中学の頃有名だった悪ガキよ。盗賊さんって名前だったかしら」

勇者「ふーん……」



?「1!2!3!」



勇者「うわ、教室で腕立てしている変人がいるぞ。関わりたくねえ」

ルイーダ「あら?彼は……」

勇者「知り合いか?」

ルイーダ「いえ、中学の頃有名だったスポーツマンよ。武闘家さんだったかしら」

勇者「ふーん……」

?「ええと、僕の席は……」



ルイーダ「あら?彼は……」

勇者「今度こそ知り合いか?」

ルイーダ「いえ、中学の頃有名だったガリ勉よ。魔法使いさんといったかしら」

勇者「お前さ、知らないやつのこと結構詳しいよな」

ルイーダ「そうかしら。普通よ」

勇者「俺なんて情報弱者の筆頭だからそれが普通だろうと羨ましいよ」

ルイーダ「野球一筋で生きてきた人だものね」

勇者「お、俺のことまで知っていたのか!?」

ルイーダ「お父さんが有名人だし」

勇者「すげえな……親が有名だからって子供のことまで知っているってさすがに普通じゃねえぞ」

ルイーダ「そっか。野球しか生き甲斐がないのに、野球部が無いのを知らずに入学しちゃったんだ」

勇者「う……そうだよ。仕方ないだろ」

ルイーダ「近代野球には情報は欠かせない武器よ」

勇者「なあ、お前の情報網で調べてほしいことがあるんだが」

ルイーダ「いいわよ。何がお望みかしら?」

勇者「この学校にいる野球経験者」

ルイーダ「ちょっと待ってね……」ピッピッ

勇者(すでに押さえてあるのか……)

ルイーダ「……いるわね」

勇者「本当か!何人いるんだ?」

ルイーダ「あなたは入れないで8人ね。一年生に7人、二年生に1人いるわ」

勇者「上の学年まで……お前すごすぎだろ」

ルイーダ「どうも」

勇者「経験者がいればなんとかなるかも。とりあえず近場から勧誘するか。そのリストくれよ」

ルイーダ「ここから先は有料よ」

勇者「金とるのか!?」

ルイーダ「そうね、これくらいだったら……五千円でいいわ」

勇者「そんな大金……あ」

ルイーダ「どうする?今ならオマケで各々の一口情報もつけるわよ」

勇者(校長にもらった金、こんなところで使っていいのか……?でも今一番必要なもの……)

ルイーダ「……まあいいわ。今日は特別にタダであげる」

勇者「本当か!?」

ルイーダ「今日だけよ」

勇者「なんで今日だけなんだ?」

ルイーダ「あなたの誕生日じゃない」

勇者「!?」

ルイーダ「おめでとう」

勇者「お前……」

ルイーダ「別に感謝の言葉はいらないわ」

勇者「さすがに怖い」

ルイーダ「……」

勇者(そういえば家族以外に祝ってもらったの初めてだ。今日は家族すらなかったけど)

つづく

勇者「ちょうど8人か」ペラッ

勇者「まあ野球しに入ったやつなんて俺くらいだろうし、足りて良かったと思っておこう」

勇者「ほとんど一年生なら面倒な規律とか気にしなくてよさそうだし」

勇者「こうなったらなんとか全員引き入れないとな」

勇者「とりあえずあと2人。リストによると……お、うちのクラスに3人もいるじゃん」ペラッ

ルイーダ「待って。なんであと2人なの?」

勇者「俺とお前で2人。あともう2人集めりゃ部になる」

ルイーダ「誰が野球部に入るって言ったのよ」

勇者「お前役に立ちそうだしマネージャーやってくれよ」

ルイーダ「私は色々忙しいの。私を頼る人なんてそこら中にいるんだから」

勇者「お前探偵か何かか?」

ルイーダ「いいでしょなんだって。さっさと勧誘してくれば」

勇者「今してる」

ルイーダ「入らないって言ってるでしょ。もう面倒くさいわね。魔法使いさーん、勇者さんがお呼びよー」

勇者「あ、お前勝手に」

魔法使い「え?僕?なんだろ」



勇者「仕方ない。お前は後回しだ」

ルイーダ「……」ベー

魔法使い「勇者君って君だよね?なんの用?」

勇者「野球部に入らないか?」

魔法使い「え?」

勇者「たしか経験あるんだよな、魔法使い君」

魔法使い「魔法使いでいいよ。あと経験があるといっても小学生の頃だよ」

勇者「小学……まあ経験あるだけいいよ。入ろう」

魔法使い「うち野球部はないはずだけど」

勇者「これから作るんだよ。きっと楽しいぞ」

魔法使い「でも……」

勇者「入る部活決めてんのか?」

魔法使い「まだだけど……」

勇者「だったら人助けだと思って!」

魔法使い「ええ……」

勇者「お願い!」

魔法使い「うーん、わかったよ。でも上手くはないから期待しないでね」

勇者「やった!サンキュー!」

勇者(一口メモの通りだ。魔法使いは押しに弱い、と)

勇者「ポジションはどこだったんだ?」

魔法使い「キャッチャー。でも身体が強くないし諦めちゃったんだ」

勇者「そうなんだ。俺ピッチャーやるしバッテリー組めるかもな」

魔法使い「僕の体格じゃ高校野球で通用しないよ。できれば他のポジションをお願いしたいな」

勇者(まあそうだよな。ここは押してもいいことはない。もっと強そうなやつにやらせよう)

勇者「強そうといえば……」チラッ

武闘家「1!2!3!」



勇者「あの変質者も経験者だったとは」

魔法使い「武闘家君だっけ。彼も誘うの?」

勇者「ああ。その筋じゃ割と有名人だったみたいだし期待できるかもな」

魔法使い「そうなの?僕リトルリーグにいたけど聞いたことないな」

勇者「じゃあ中学から始めたのかな」

武闘家「さっきから何を見ている」

勇者「野球やらないか?」

武闘家「助っ人か?」

勇者「助っ人?野球部に誘っているんだが」

武闘家「俺は様々な競技の助っ人として銭を稼いでいる。特定の部活には入らない」

勇者「なんだそりゃ」

魔法使い「一応経験者は経験者みたいだね……」

勇者「それにしたってまともな指導も受けていないお遊びレベルかよ」

武闘家「……」ピクッ

勇者「助っ人なんて聞こえはいいけど、ただの数合わせなんだろ」

魔法使い「ち、ちょっと……」

武闘家「訂正しろ。俺は今まで確実に実績を残してきた。どのスポーツでもエースになれた」

勇者「だったら俺たちと勝負して証明しろ。それでお前が勝ったら認めて謝ってやる」

武闘家「いいだろう。万が一俺が負けるようなことがあれば野球部に入ってやる」

勇者(これもルイーダ情報の通りだ。武闘家は煽りに弱い、と)

───グラウンド

勇者「へえ、かなり荒れてはいるけど野球グラウンドは残っているんだな。マウンドやベースまでついてらあ」

魔法使い「ねえ、本当に大丈夫なの?」

勇者「任せとけって。今グローブは俺のしかないからこれでキャッチャー頼むな」

魔法使い「う、うん……」

勇者「勝負は一打席。ヒットならお前の勝ち。アウトなら俺の勝ち。わかりやすいだろ」

武闘家「いいだろう。来い」スッ

勇者「吠え面かくなよ」

魔法使い(あ、そういえば変化球何投げるのか知らない)

勇者「不安そうな顔するなよ魔法使い。変化球なんか投げないから」

魔法使い「え?」

勇者「俺の人生を捧げてきた野球がちょっとかじった程度のお遊び野球に負けるかよ!」ピュッ

魔法使い「速い!」

武闘家「ふん!」ブン

カキィン

勇者「……え?」

魔法使い「あ……」

ヒューン

ポトッ

武闘家「ヒットだ」

勇者「嘘だろ……初球で……」

武闘家「なかなかいい球だ。ホームランを狙ったのだが」

勇者「俺が……負けた?」

つづく

武闘家「さあ謝ってもらおうか。俺をバカにしたことを」

勇者「……」

武闘家「ふん、プライドが邪魔をしているか」

勇者「……」

武闘家「素直に負けを認めないようでは余計惨めだがな」

勇者「……」

武闘家「帰る」ザッ

魔法使い「いや、君の負けだよ」

武闘家「なんだと?どこからどう見ても……」

魔法使い「君の打ったボールを取ってきた。それで動かない君にタッチアウト」ポン

武闘家「は?」

魔法使い「勝負の内容は一打席勝負。ヒット性の当たりを出すゲームじゃないよ」

勇者「!?」

武闘家「そんな屁理屈が通用すると……」

魔法使い「屁理屈?これは野球だよ。打ったら走る。当たり前じゃないか」

武闘家「おい、お前はこれでいいのか?明らかに……」

勇者「ああ。いいね」

武闘家「!?」

勇者「魔法使い、お前気が弱そうに見えて実は腹黒いやつだったんだな」

魔法使い「!?」

勇者「冗談だよ。機転が利いて助かったぜ。キャッチャーの素質あるよお前」

魔法使い「あ、ありがとう」

武闘家「お前にはプライドがないのか」

勇者「そんなもん目的を達成するためならゴミの価値しかないね」

武闘家「!?」

勇者「だが野球に対するプライドはある。だから約束通り謝る。舐めたことを言ってすまなかった」

武闘家「……」

勇者「勝負は俺の負けだ。だが、野球は俺の勝ちだ」

武闘家「……」

勇者「……」

武闘家「……ふん。俺こそ野球を知った気になって舐めていたようだ。悪かった」

勇者「じゃあ」

武闘家「約束通り野球部に入る」

勇者「やった!」

魔法使い「よかったあ」

勇者(あんな屁理屈が通用するとは単純なやつだ。頭の方は弱いらしい)

勇者(だが実力は本物。これならクリーンナップも任せられる)

勇者「ポジションはどこだったんだ?」

武闘家「どこでもいい。ピッチャーもできる」

勇者「どこでも守れるなら二遊間やってもらおうかな。鍛えているから肩も強そうだし」

武闘家「肩には自信がある。ピッチャーもやっていたからな」

勇者「じゃあ今日のところはもう帰ろうか」

武闘家「やれというのならピッチャーでも構わない」

魔法使い「そうだね。もう遅くなっちゃったし」

武闘家「ピッチャーでもいいぞ」

勇者「じゃあまた明日な」

───家

勇者「ただいま」

母「おかえりなさい。校長先生にちゃんと挨拶できた?」

勇者「ねえ、今父さんって……」

母「わからないわ」

勇者「母さんはそれでいいの?」

母「父さんを信じているもの」

勇者「……」

母「疲れたでしょ?もうお休みなさい。ゆっくり休むのですよ」

勇者「……飯は?」

つづく

───次の日

ルイーダ「おはよう」

勇者「……おう」モグモグ

ルイーダ「いきなり早弁?もしかして今日も午前で終わりって知らなかったのかしら?」

勇者「うるせえな。夕……朝飯だよ」

ルイーダ「あ、これ新発売のジュースね。ちょうだい」

勇者「おい、俺の朝飯だって言ってんだろ」

ルイーダ「ある野球経験者の情報と交換」

勇者「なに?仕方ないな。なんだよ」シブシブ

ルイーダ「その人、お昼は屋上で過ごすのが日課らしいわよ」

勇者「へえ。なんてやつ?」

ルイーダ「おかずと交換」

勇者「ふざけんな。いいよ。屋上に行けば会えるだろ」

魔法使い「おはよう」

勇者「おう。今日も勧誘行くぞ」

武闘家「どの組だ?」

勇者「うちのクラスにもう一人経験者がいるんだ。盗賊ってやつ」

魔法使い「え……あの人?」

勇者「でも見当たらないな」キョロキョロ

魔法使い「だって来てないもの」

勇者「え?」

武闘家「いわゆる不良だ。サボりだろう」

魔法使い「彼は諦めた方がいいんじゃないかな」

勇者「……まあ様子を伺ってから決めようぜ」

勇者(たしかに諦める必要も出てくる)

勇者(だがそうなると素人を補充しなくちゃならない)

勇者(一人分カバーするためには経験者でも確実な戦力……できたら大砲が欲しいところだが)

───放課後・1年赤組

勇者「このクラスに経験者が一人いるらしい」

武闘家「4人目か。まだまだ先は長そうだな」

魔法使い「うん。でも頑張ろう」

勇者「名前は戦士というらしい」

武闘家「知っているか?」

魔法使い「知らないなあ」

勇者「聞いたことあるような有名なやつがうちの学校にいるはずないしな。行こうぜ」

生徒「こんにちは。ここは1年赤組の教室だよ」

勇者「戦士ってやついるか?」

生徒「彼ならいないよ」

武闘家「帰ったか。まあ仕方あるまい」

生徒「いや、部活に行ったんだよ」

勇者「なに!?もう別の部活に入っちまったのか!?」

生徒「まだ入ってはいないんじゃないかな。そこら中の部活から勧誘されているんだよ」

魔法使い「すごい。スポーツエリートってこと?」

武闘家「……」ピクッ

勇者「こりゃ絶対引き入れないとな」

武闘家「俺は存在すらない野球部にしか勧誘されなかったのに……」

勇者「お前より上手いのかもな」

武闘家「だったらお前よりも上手いだろう!」

魔法使い「まあまあ。僕たちも早く勧誘に行こうよ。早くしないと他に獲得されちゃうよ」

武闘家「面白い。どれほどの男か見極めてやる」

───体育館

魔法使い「今バスケ部に体験入部しているみたいだね」

勇者「なあ、バスケってなんだ?」

魔法使い「知らないの?本当に野球一筋だったんだね……」

勇者「へへ」

武闘家(褒められたと思っているのか……)

魔法使い「身体能力が相当高くないと通用しないスポーツだよ」

勇者「そうなのか。やっぱり期待できるな」

武闘家「俺だってバスケくらいできる!それこそどのポジションでもな!」

魔法使い(ライバル視!?)

勇者「どれどれ、どんなやつかな?」チラッ

バスケ部員「リバウンド任せたぞ戦士君!」


ドスーンドスーン



魔法使い「えっ!?」

武闘家「な……」

勇者「あいつが……戦士?」



戦士「はい!」ズーン



勇者「でかい……2mはあるんじゃないか」

魔法使い「それに横幅もかなりある。あの体格ならどこも欲しがるわけだよ」

勇者「うちも大砲として是非欲しい」

武闘家「だ、だがでかいだけでは意味がないぞ!あの身体を活かす技術と───」



戦士「あっ」スカッ

バスケ部員「何やってんだよ!それくらいのボール取れよ!」

戦士「す、すみません」ドタドタ



武闘家「身体能力が───」



戦士「うわっ」ズルッ

ドスーン

バスケ部員「……」

戦士「いてて……」



武闘家「なければ……」

勇者「……」

魔法使い「……」

バスケ部員「……ああうん。じゃあ体験入部は終わり。楽しかったかい?」

戦士「え、えっと……はい」

バスケ部員「なら良かった。いい部活に巡り会えたらいいね」

戦士「……はい」




武闘家「……期待していたような人材ではなかったようだな」

勇者「……」

魔法使い「こ、声かけてみようよ。まだどこも獲ろうとしてないみたいだし」

武闘家「あの身体をもってしても、どこにも必要とされていない。ということになる」

魔法使い「で、でも誰だって得意不得意はあるものでしょ?」

勇者「そうだ!ルイーダメモに何か武器になるような情報が書いてあるかも」ペラッ


『戦士:大食い』


勇者「……」

───

戦士「はぁー……またやっちゃった」

戦士「今日だけでラグビー、相撲、バスケ」

戦士「結局俺に向いているスポーツなんてないんだよな……」

戦士「部活は諦め……」

戦士「……」

戦士「そうだ!調理部に入ろう!」

戦士「調理部なら女の子ばかりだろうし皆優しいに違いない」

戦士「むふふ……つまり」

戦士「きっと食い放題だぞ(食べ物が)!」

つづく

───1年黄組

勇者「このクラスに経験者が一人いるらしい」

武闘家「4人目か。まだまだ先は長そうだな」

魔法使い「うん。でも頑張ろ……ってあれ!?さっきの時間なかったことになってない!?」

勇者「名前は商人というらしい」

魔法使い(あれ?無視された?)

武闘家「商人だと!?」

勇者「知っているのか?」

武闘家「同じ中学だった。家が金持ちで欲しいものなら金に糸目をつけない男だ」

勇者「金持ちか。羨ましいぜ」

魔法使い(なかったことにするんだね?その体でいくんだね?了解)

武闘家「だが性格に難がある。ありがちなわがまま坊っちゃんだ。部活動に励む姿はどうも想像がつかん」

魔法使い「そんな人が野球をやっていたの?」

武闘家「野球は儲かるからな。観戦料をとったり選手のグッズを売ったり賭博したり」

勇者「商人の金の出どころは野球ってことか?」

武闘家「そう。やつの親は大手芸能プロダクション、ショニーズ事務所の社長だ」

魔法使い「ショニーズだって!?」

勇者「なんだそれ?」

魔法使い「イケメンタレントを使って野球リーグを作っている会社だよ」

勇者「プロのリーグとは違うんだな」

魔法使い「そりゃそうだよ。お客さんなんて女性ばかりだし、野球というよりイケメンを観に行くようなものだよ」

武闘家「あんなもの競技ではない。ただのエンターテイメントだ」

勇者「それでなんで商人が野球を?」

武闘家「やつ自身もスター選手に憧れ、父親のコネでショニーズ所属のタレントとして野球を始めた」

勇者「金や名誉のためか。不純だな」

武闘家「俺もやつは好かん」

商人「あれー?武闘家じゃん。久しぶりー」

勇者「こいつか。軽そうなやつだ」

武闘家「今日は頼みがあってきた」

商人「なに?お金?」

武闘家「野球部に入ってくれ」

商人「え?やだよ。俺自分のチーム持ってるし」

武闘家「だそうだ」

勇者「仕方ない。諦めよう」

魔法使い「だんだん諦めるの雑になってきてない!?」

商人「あっ!ルイーダちゃん!」

勇者「え?」

ルイーダ「どうも。苦労しているみたいね」

勇者「まあな。曲者しかいないよ」

商人「ルイーダちゃん、こいつらと知り合いなの?」

ルイーダ「クラスメイト」

勇者「お前商人と知り合いだったのか」

ルイーダ「私の常連客……というより金づるね」

商人「相変わらずキツいね。でもそこが可愛い!」

勇者「マゾかな?」

商人「ルイーダちゃん、今日のパンツの色は?」

ルイーダ「白」

商人「ウヒョォー!はい情報料」スッ

ルイーダ「どうも」

勇者「それが売る情報なのか……てか」

武闘家「……もうけたな」

勇者「ああ、タダで聞けた」

魔法使い(純白……)ゴクリ

ルイーダ「やっぱり商人君も仲間に入れるの?」

勇者「そのつもりだったけどダメだってさ」

ルイーダ「そう。そんな気はしていたけど」

商人「ルイーダちゃん、今日お店行っていい?」

ルイーダ「あ、こら」

勇者「店?」

ルイーダ「そのことは公衆の面前で言うんじゃない。殺すわよ」

商人「ひっ、ゴメン」

魔法使い(パンツの色はいいの……?)

勇者「なあ、店ってなんだ?」

ルイーダ「詮索したら高くつくわよ」

勇者「なんだよ。別にいいよ。大して興味もねーし」

ルイーダ「……」

───帰り道

ルイーダ「……」テクテク




魔法使い「……と言いつつ後をつけるんだね」

勇者「誤解するな。俺の帰り道だ」

武闘家「ならコソコソしないで堂々と歩け」

勇者「いやお前らこそなんでついてくるんだよ」

武闘家「今日は失敗続きだったからな。今後の部員勧誘方法を共に考えたいと思ってな」

魔法使い「僕も」

勇者「くそ、考えることは一緒かよ」

武闘家「ふっ、観念しろ」

勇者「仕方ない。絶対尾行バレるなよ」

武闘家「俺はそんなヘマはしない。気をつけるべきは魔法使いだ」

魔法使い「え?あ、うん」

勇者「じゃあ行くぞ」

武闘家「おう」

魔法使い「……」

魔法使い(本当に作戦会議だと思っていた僕って……)

───街中

勇者「おかしいな。いないぞ。ここを曲がったと思ったんだが」

武闘家「俺の目から逃れるとは……あの女只者じゃない」

魔法使い「ねえ、ここって……」

勇者「なんか……高校生が来るような場所じゃないな」

武闘家「ここで見失ったということは、この辺りの建物に入っていったということ」

勇者「商人が言っていた店ってこういうことかよ……」

武闘家「恥ずかしげもなく下着の色を言えるわけだ」

魔法使い「ルイーダさんが……?」

勇者「……見なかったことにしよう」

武闘家「ああ、他人が踏み込んでいい領域じゃない」

魔法使い「……」

勇者「じゃあまた明日。勧誘頑張ろうぜ」

武闘家「ああ」

魔法使い(結局作戦会議しないんだ……)

つづく

───次の日

ルイーダ「おはよう」

勇者「……おう」

ルイーダ「毎日気が滅入った顔で迎えられると気分がいいものじゃないわね」

勇者「……色々あるんだよ」

ルイーダ「早く野球部つくってくれないとこっちまで滅入ってきそうだわ」

勇者「だったら協力しろっての」

ルイーダ「仕方ないわね。また経験者の情報いる?」

勇者「金とるんだろ?」

ルイーダ「大した情報じゃないし、お昼奢ってくれたらいいわ」

勇者「結局とるんじゃねえか。まあ昼飯くらいなら……」シブシブ

ルイーダ「じゃあはい」スッ

勇者「役に立つ情報だろうな?」ペラッ



『勇者・武闘家・魔法使い:ストーカー癖あり』

勇者「ギョッ!?」

ルイーダ「昨日の帰りに可愛い女の子の後をつけていたらしいわよ」

勇者「あわ……あわわ……あれは……その」

ルイーダ「その子は怖くて怖くて夜眠れなかったらしいわ。可哀想に」

勇者「……悪かった」

ルイーダ「お昼で許してもらえるんだからラッキーよね」

勇者「気づいていたのか?それとも情報網から……?」

ルイーダ「詮索しない」

勇者「あんなところに入り浸るのやめろよ」

ルイーダ「あなたには関係ない」

勇者「……」

───

魔法使い「今日はどうする?お昼休みに勧誘行く?」

勇者「悪い。俺ルイーダに昼飯奢んなきゃいけないから放課後にしようぜ」

武闘家「奢る?なぜだ?」

勇者「尾行バレていたんだよ。そんで俺だけペナルティ」

魔法使い「え……」

武闘家「俺の尾行がバレていただと……?」

勇者「バレバレだし見失うし変な場所見せられるし奢らされるし散々だよ」

魔法使い「なんか悪いね。僕が代わりに行こうか?」

勇者「いいって。元々俺が仕出かしたことだし」

魔法使い「まあ女の子と一緒にご飯食べられると思えば……」

勇者「あいつでそんな気分になるかよ。ただでさえ昨日のことが頭に残ってんだ」

武闘家「あまり考えるな。では俺たちだけで今後の方針を考えておこう」

勇者「悪いな」

───昼休み・屋上

魔法使い「どうにかして経験者には入ってもらわないと」

武闘家「弱みを握って脅すというのは?」

魔法使い「ダメに決まっているじゃないか!?」

武闘家「策略を練るのは俺には向かん」プイッ

魔法使い「開始5秒で不貞腐れないでよ……」

武闘家「……む?」

魔法使い「どうしたの?」

武闘家「誰か来る!隠れろ!」

魔法使い「……なんで?」

ガチャ

盗賊「ここが屋上ッスか」

?「ああ。誰もいないからよく利用している」

盗賊「さすが先輩。物知りッスね」

?「まあな」シュボ

盗賊「俺、先輩にずっとついていくッス」

?「ふっ、俺なんてお前が思っているより小さい男だ」プハー

盗賊「何言ってんスか。そんなもん簡単に盗めるのは先輩しかいないッスよ」

?「俺が作ったピッキングツールさえあれば教員ロッカーから盗むくらいわけない」プハー

盗賊「さすがッスね。バコタ先輩」

つづく

コソコソ

武闘家「あれはうちのクラスの盗賊か。クラスに顔を出さないと思ったら不良仲間とつるんでいたのか」

魔法使い「ねえ、なんで隠れたの?何もやましいことしていないのに」

武闘家「癖だ」

魔法使い「なんの!?」

武闘家「それよりやつらだ。タバコという上級生がバコタを盗んだらしいぞ」

魔法使い「……逆じゃないかな」

武闘家「見過ごせんな」スッ

魔法使い「関わるの?やめようよ」

盗賊「俺にも一本ください」

バコタ「お、吸えるようになったのか」

盗賊「試してみたいッス」

バコタ「いいぜ。ほら」シュボ

盗賊「……」ゴクリ

バコタ「……」

盗賊「……」プルプル

バコタ「やめとくか」

盗賊「くそ……やっぱり俺にはまだ無理ッス」

バコタ「こういうもんは怖い思いしてまで吸うもんじゃねえよ」プハー

盗賊「でもバコタ先輩は中学の頃から吸っているのに」

バコタ「だから無理に吸うもんじゃねえんだ。格好つけるためだけだってならやめておけ」プハー

盗賊「は、はい……ん?」

ガチャ

教師「こらー!バコター!俺のタバコを……またお前かー!」

バコタ「げ、やべ」

教師「お前というやつはー!停学だー!」

バコタ「ちっ……あれ?」

教師「どうした?」

バコタ「……なんでもないッス」

コソコソ

魔法使い「先生に見つかったみたい。停学だって」

武闘家「自業自得だ」

魔法使い「でも捕まったのはバコタさんだけだね。盗賊君は……?」

盗賊「危ねー……」ヒョコ

武闘家「!?」

魔法使い「ひっ」

盗賊「なんだお前ら。こんなところに隠れているやつらがいたのか」

魔法使い「いつの間に後ろに……」

盗賊「危機察知と逃げ足と気配を消すのには自信がある。俺は今まで悪さしても見つかったことがない」

武闘家「この俺の目から逃れただと……?」

魔法使い「昨日からその目あまり活躍していないよね」

盗賊「あーあ、これからどうするかな。バコタ先輩は捕まっちまったし……」

武闘家「バコタは口を割らなかったな」

盗賊「優しい人だからな。憧れるぜ」

魔法使い(この人不良だけどそんなに悪い人じゃないのかな)

武闘家「やつが帰る前に何かやれることがあるんじゃないか?」

盗賊「……」

武闘家「隠蔽とはいえお前を守ったんだ」

盗賊「……そうだな」

───校門

バコタ「……ふう」

バコタ「新学期早々停学か。そろそろ卒業も危ういかもな」

盗賊「バコタ先輩!」

バコタ「お前……」

盗賊「すみません。俺、また一人で逃げちまって……」

バコタ「あんな簡単に見つかっちまって、俺は格好悪いな」

盗賊「先輩は格好いいッス!」

バコタ「……」

盗賊「俺が今まで教師に目をつけられなかったのは、先輩が自分に目を向けさせていてくれたお蔭だってわかっているッス!」

バコタ「……悪いな。もう守ってやることも……」

盗賊「見ていてくださいッス!」シュボ

バコタ「お前それ、さっきの一本……」

盗賊「ゲホッゲホッ……どうッスか。俺だってもう一人前ッスよ!ゲホッオエッ」

バコタ「……ああ。何も心配いらねえな」

盗賊「今までありがとうございましたゲホッ!」

───

魔法使い「……ねえ。何あれ」

武闘家「茶番というやつではないか?」

魔法使い「停学だったらいつでもまた会えるよね」

武闘家「そうだな」

魔法使い「タバコ吸って一人前とか頭おかしいのかな」

武闘家「そうだな」

魔法使い「なんで彼の背中を押したりしたのさ」

武闘家「これでいいんだ」

魔法使い「何がだよ」

───

盗賊「……ん?」

武闘家「無事別れはできたようだな」

盗賊「ああ、お前のお蔭だ。ありがとよ」

武闘家「そんなことはいい。それよりこいつを見てくれ。どう思う?」スッ

盗賊「ん?」



『俺にも一本ください』



盗賊「!?」

魔法使い「こ、これは……」

武闘家「……」



『見ていてくださいッス!』シュボ



盗賊「まさかこれ……」



『ゲホッゲホッ……どうッスか。俺だってもう一人前ッスよ!ゲホッオエッ』



魔法使い「盗撮じゃないか!?」

盗賊「……」

武闘家「現場はきっちり押さえた。これを教師に見せればお前も晴れて停学だ」

魔法使い「いつの間に……」

盗賊「……俺を売るのか?」

武闘家「野球部に入れ」

魔法使い「!?」

盗賊「は?なんで俺が……」

武闘家「いいんだな?バコタが身を呈して守った全てが台無しになるぞ」

魔法使い「脅迫じゃないか!?」

盗賊「くそ、わかったよ」

武闘家「いい子だ」

魔法使い「なんてことを……君にはプライドがないの?」

武闘家「そんなものは目的を達成する上ではゴミ同然」

魔法使い「いやそれあのときと状況違うし意味おかしいよ!格好よく言ったつもりだろうけど滅茶苦茶格好悪いよ!」

武闘家「策略を練るのは俺には向かん」

魔法使い「嘘つけ!手慣れてるだろ!」

武闘家「弱みを握って脅すだけ。簡単だろう?」

魔法使い「黒い……ここの人たち皆黒いよおおおおおお!」

つづく

───屋上

ガチャ

勇者「……あれ?誰もいない」

勇者「昼休みには誰かいるって言ってたのに」

勇者「おいおいガセネタか?ジュース奪っておいてそりゃねえぞ」

ガチャ

魔法使い「あ、勇者君」

勇者「あれ?お前らも来たのか」

武闘家「なぜお前がここに?」

勇者「前にルイーダから昼休みに経験者の誰かがいるって聞いたから、どんなやつか見ておこうと思って」

魔法使い「ああ、多分盗賊君のことじゃないかな」

勇者「盗賊ってうちのクラスのか?何かあったのか?」

魔法使い「実は……」

───

勇者「へえ、一人ゲットしたか。俺のいない間によくやった」

魔法使い「褒められたもんじゃないよ。ほとんど犯罪なんだから」

武闘家「犯罪であろうと、やつにはあれくらいしなければならなかったんだ」

魔法使い「え?」

武闘家「やつは居場所を失っていた。道標を失い孤独になり、暗闇が残るだけになった」

魔法使い「……」

武闘家「だから無理矢理にでも引き入れなければ、やつはどんどん闇へ堕ちていき……手遅れになる」

魔法使い「武闘家君……」

武闘家「俺はやつを救うために野球部を利用したんだ……すまない」

魔法使い「でも君バコタさんが捕まる前から盗撮していたよね。最初から脅す気だったよね」

武闘家「盗賊はリードオフマンの適性が当てはまると思うのだが、どう思う?勇者」

魔法使い「無視!?」

勇者「話だけ聞くとそうみたいだな。経験者なんだしいいじゃねえか」

武闘家「俺の目に狂いはない」

魔法使い「……」

勇者「そんでその盗賊はどこ行ったんだ?」

武闘家「馴れ合うのが嫌いらしい。根っからの一匹狼だと言っていた」

魔法使い「おもいっきり先輩にベタベタしていたけどね」

勇者「おいおい、そんなんで大丈夫か?」

武闘家「部が成立したら姿を見せるだろう。逃げられはしない。問題ない」

魔法使い「チームスポーツなんだよなあ……」

武闘家「これで4人集まった。校長に届を出せばいいのだな?」

勇者「でも申請するには本人のサインがないと認められないぜ」

武闘家「くっ、不覚。名前を書かせ忘れた」

勇者「まあ早く部にしたいところだよな。部室が欲しいよ」

武闘家「ああ。部にならなければ活動もままならない。学校に残っているかわからんが放課後探しにいくか」

魔法使い「それより他の人を勧誘しに行かない?盗賊君を当てにしてもちょっと不安だよ」

勇者「うーん、まあいいか。どうせ集めなきゃなんないし」

武闘家「簡単に捕まりそうなやつがいればだが」

魔法使い「戦士君誘わない?彼なら入ってくれるかもよ」

勇者「あいつか……うーん」

魔法使い「戦力云々は置いておいてさ、とりあえず部員は欲しいじゃない」

武闘家「役に立たないだけならまだしも、あんな肉塊が入ってきたら部室が狭くなる」

魔法使い「君登場時そんなクズキャラだったっけ?」

勇者「仕方ない。一応誘っとくか」

つづく

───放課後

勇者「またいないってよ」

魔法使い「まだ他の部活に狙われているのかな」

武闘家「メッキはすぐに剥がされる。あの人気も長くは続かんだろう」

勇者「探しにいくか。あんだけ目立つならすぐ見つかると……」



「キャー!」



勇者「なんだ?」

魔法使い「女の人の叫び声だ」

武闘家「事件か。行くぞ」

勇者「やれやれ。さっさと解決して仕事に戻りますか」

魔法使い(僕たちって一体……)

───調理室

勇者「この辺りから聞こえたぞ」

武闘家「中の部屋が騒がしい。ここで間違いない」

魔法使い「調理室……?」

ガラッ

魔法使い「誰か出てきた」

調理部員「た、助けて」

勇者「何があったんだ?」

調理部員「彼が……」

勇者「彼?」

武闘家「おい……あれは」



戦士「はあ……はあ……」

魔法使い「戦士君!?なんで彼が!?」

武闘家「なんて光景だ。部屋中血まみれではないか」

勇者「見ろ。包丁持っていやがる。あいつの仕業だ」



戦士「う、うおおおおお!」ブルン



勇者「鍋の熱湯ぶちまけてきた!」

武闘家「避けきれ……!」

ビシャア

魔法使い「ぎゃあああああ!」

勇者「熱いいいいい!」

武闘家「水!水!」タッタッタッ



戦士「うおおおおお!」ヒュン



魔法使い「今度は包丁だ!?」

勇者「武闘家危ねえ!」

ザクッ

武闘家「か……」

タラー

武闘家「……間一髪」

魔法使い「包丁投げて壁に……僕らに水を使わせない気だ」

勇者「それどころか武闘家殺されかけたぜ。野郎……」

武闘家「やつの本性が見えてきたな。散々バカにされて発狂したか」

勇者「まずいな。戦士の手元にはまだ熱湯が残されている。迂闊に近づけないぜ」



戦士「はあ……はあ……」

?「僕が行く。君たちは下がれ」

勇者「ん?」

魔法使い「誰?」

調理部員「遊び人君逃げて!体験入部中のあなたが怪我でもしたら……」

勇者「遊び人?」

遊び人「先輩もそこから動かないでください。彼は調理部の体験入部仲間だ。僕が止めてみせます」

調理部員「遊び人君……」

勇者「遊び人……どこかで聞いたような」

つづく

遊び人「戦士君、落ち着いて」テクテク

勇者「おい、そんな悠長に……」

遊び人「大丈夫だから」テクテク

武闘家「あの怪物は高熱の全体攻撃と全てを切り裂く殺傷攻撃を使い分けてくる。近づいては危険だ」

遊び人「僕を信じて」テクテク



戦士「うおおおおお!」ブルン



魔法使い「来たよ!極熱熱湯シャワーアタックだ!」

遊び人「……」テクテク

武闘家「あんな素人の動きでは避けようがない!」

ビシャア

魔法使い「ああ……」

勇者「まともに浴びち……ん?」

遊び人「僕にはかからなかったよ。ラッキー」

武闘家「バカな。あれほどの飛沫を浴びなかっただと?」

遊び人「さあ戦士君」スッ

ペタッ

勇者「なんだ?札を戦士に貼ったのか?」

戦士「あ……あ……」

遊び人「眠れ」

戦士「う……」バターン

勇者「!?」

武闘家「な……」

戦士「」 ピクピク

遊び人「ふう」

勇者「大人しくなったと思ったら倒れた……?」

魔法使い「何あれ……なんの呪術だよ」

調理部員「あ、ありがとう遊び人君」

遊び人「先輩の美しい肌が荒れずに済んで何よりです」ニコッ

調理部員「やだもう……」ポー

勇者「キザなやつだな」

武闘家「だがそれを裏付けるあの甘いマスク。女はひとたまりもあるまい」

魔法使い「そんなどうでもいいことより一体君は何をしたの!?あの戦士君を止めるなんて」

遊び人「彼の傷口に絆創膏を貼ったのさ」

勇者「は?絆創膏?」

遊び人「血が止まってようやく落ち着いたようだ。疲弊していたからそのまま眠ったんだ」

勇者「どういうことだよ。じゃあこの部屋の血は全部戦士のなのか?」

魔法使い「こんな大量の血が一人分なわけないよ。さすがに被害者は出たって」

遊び人「いいや。他の部員の先輩方は無傷で避難させたはずだよ」

勇者「じゃあ一体……」

武闘家「ペロッ……これはケチャップ!」

魔法使い「んなベタな……」

遊び人「彼は絶望的に料理が下手だった。包丁を滑らせて指を切り、慌てた拍子に滑って近くにあった大量のケチャップを撒き散らせ、熱湯消毒をしようとして鍋を滑らせてしまったんだ」

魔法使い「いやおもいっきり鍋を投げてきたじゃないか」

遊び人「滑らせてしまったんだ」

武闘家「俺の顔に包丁まで投げてきた」

遊び人「滑らせてしまったんだ」

魔法使い「……」

武闘家「……」

勇者「料理が下手ってレベルじゃねえぞ。なんだよこの惨状」

武闘家「不器用にも程がある」

遊び人「君たちは戦士君の知り合いのようだね。僕はここを片付けなきゃならないから彼を保健室に連れていってやってくれないか?」

勇者「いいけど別に知り合いじゃねえぞ」

遊び人「そうなのか。君は良い人だ。また会いたいね。僕は1年緑組の遊び人」

勇者「1年青組の勇者だ。そっちが魔法使いと武闘家」

遊び人「覚えておくよ」

調理部員「遊び人君もまだ体験入部中なのにありがとう」

遊び人「先輩だけに後始末させるわけにはいきませんよ。男として」

調理部員「遊び人君……正式に調理部に入ってくれないかな?」

遊び人「すみません。ここも本当に居心地が良かったのですが、他の部も体験してみたいので」

調理部員「そう……ならせめて連絡先を交換させて」

遊び人「喜んで」ニコッ

調理部員「やった!」

魔法使い「……」

武闘家「さっきから見すぎだぞ魔法使い。嫉妬か?それともそっちの気があるのか?」

勇者「あの先輩結構可愛いもんな」

魔法使い「ち、違うし!羨ましいなんて少ししか思ってなくもないこともないわけじゃないし!」

武闘家「お?お……うん?」

魔法使い「そうじゃなくてあの遊び人君、どこかで見たことがある気がするんだ」

勇者「俺も名前をどこかで……あ!」

武闘家「どうした?」

勇者「ルイーダメモだ……あいつ野球経験者だ」

武闘家「なに?では魔法使いが見たというのも?」

魔法使い「うーん、それとは違うような。野球とは関係ない場所で見たような……」

勇者「まあそのうち思い出すだろ。それより勧誘したいところだが戦士を運ぶのが先だ」

武闘家「3人でやっと運べそうなサイズだからな」

魔法使い「でも彼が経験者だってわかって良かったよ。顔見知りにもなれたし今度誘ってみよう」

つづく

───保健室

戦士「うーん……」パチリ

保健教諭「おお戦士、意識が戻ったか。失神してしまうとは情けない」

戦士「……そうか。また保健室のお世話になっちゃったか」

勇者「まったく。料理してあんな暴れるやつ初めて見たぜ」

戦士「君たちは?」

武闘家「覚えていないか。よほどの興奮状態だったのだろう」

魔法使い「僕たちは調理室で気を失った君を運んできたんだよ」

戦士「そうか……ありがとう。迷惑をかけたね」

魔法使い「迷惑なんて……」

戦士「いいんだ。この身体だから色々求められるんだけど、何をやってもすぐに化けの皮が剥がれて見限られてきた」

勇者「……」

戦士「ただでかいだけの戦士が必要とされたことなんて一度もない。部活はもう諦めるよ」

勇者「じゃあ野球部入れよ」

戦士「え?」

勇者「俺たちは野球部だ」

戦士「でも……」

勇者「必要とされたいんだろ?俺たちはお前を必要としている。ちょうどいいじゃんか」

戦士「でも……でも……」

勇者「野球経験者なんだろ?」

戦士「でも俺絶対また下手こくし……」

保健教諭「そんなの関係ねえ!」

戦士「え?」

保健教諭「そんなの関係ねえ!こいつらはお前の事情を知った上で必要と言ってくれた!自分だけじゃ飽きたらず、その心意気まで裏切るのか!」

魔法使い(言えない。数合わせで必要なんて言えない)

保健教諭「諦めるなんて言葉を使うのは全ての可能性が消えたときだ。お前にはまだいくらでも可能性が残っているだろ」

戦士「先生……」

保健教諭「何度でも挑戦してみろ。その度お前が傷つき倒れても、俺が何度だって復活させてやる」

戦士「……俺、部活がしたいです」

───

勇者「やれやれ。モブのくせに出番欲しさに重要キャラのふりしたおっさんはタチが悪いな」

魔法使い「でもこれでちゃんと部員が揃ったよ。とうとう野球部ができるんだ」

武闘家「ああ。早速申請しに行こう」

戦士「……」

戦士(……あれー?野球部ってこれからつくるの?俺って頭数揃えるために利用されたの?)

勇者「そんなことないぞ戦士」

戦士「なんで俺の考えていることわかったの!?絶対そう思っていたからだろ!」

魔法使い「ま、まあまあ。それより戦士君はどれくらい野球経験があるの?」

武闘家「魔法使いも知らないと言っていたな。これだけ目立つ男なのに知られていないとは」

戦士「ああ、俺って昔はチビだったから。身長伸びたのは最近なんだ」

勇者「最近伸びてそんなに!?」

戦士「目立たなかったけど野球は中学までやっていて、それなりにできたとは思うんだ」

武闘家「お前がそれなりに……?信じられんな」

魔法使い「まさか……急激に身長が伸びたからうまく動けなくなったとか?」

戦士「うん。その上成長期だから腹も減るでしょ。引退してからは食べた分横にもでかくなって、自分の身体の感覚じゃなくなったんだ」

勇者「それ全部ぜい肉かよ」

武闘家「なるほど。その肉を筋肉に変えてやれば少しはまともになるかもしれん」

勇者「よし、お前毎日筋トレしろ。それから基本練習で身体の使い方を覚えるんだ」

魔法使い「まずは有酸素運動で余分な脂肪を落とした方がいいかも。ランニングから始めよう」

戦士「え?やだよ。疲れるし」

勇者「……」

武闘家「……」

魔法使い「……」

戦士「それより今日は野球部発足記念に皆でラーメン食べに行こうよ」

武闘家「……なるほど。その身体を手に入れた代償に相当な怠け者に育ってしまったらしいな」

勇者「努力もせずに誰にも必要とされないなんて嘆いていたのかよ」

戦士「お勧めのラーメン屋なら任せておいてよ」

魔法使い「やれやれ。もう面倒見きれないや☆」

つづく

───校長室

校長「よくぞ戻った。勇者よ」

勇者「校長先生に言われた通り仲間を集めてきました」

校長「うむ。野球部を正式な部活動と認めよう」

勇者「やった」

校長「だが野球は9人で行う競技。あと5人揃えなければ公式戦への道は閉ざされたままじゃ」

勇者「わかってますって。この調子で集めちゃいますよ」

校長「うむ。その意気じゃ」

魔法使い「あの、なんとなく空気を壊すからやめようかと思ったんですが」

校長「なんじゃ?」

魔法使い「顧問の先生がいないんじゃ……」

戦士「な……」

武闘家「くっ、不覚」

勇者「お前それ早く言えよ!」

魔法使い「むしろなんで誰も気づかなかったの!?申請書にも書く欄絶対あったよね!?」

校長「顧問か。ふむ」

勇者「ええ……先生も探さなきゃならないんですか」

校長「それなら話はすでについておる」

魔法使い「そうなんですか!?」

校長「うむ。野球部復活の件はわしから依頼したもの。それくらいはしなくてはな」

武闘家「助かったな」

勇者「ああ。それでなんて先生ですか?」

校長「謎のマントマスク先生じゃ」

魔法使い「!?」

勇者「謎のマントマスク先生か。知らないな」

戦士「でもどこか優しそうな感じはするね」

魔法使い「どこがだよ!明らかにおかしいよ!なんだよ謎のって!?」

武闘家「風情があるではないか」

魔法使い「マントマスクがか!?」

校長「謎のマントマスク先生はお主らの前にはあまり現れん。だが公式戦には同行させるから心配するな」

勇者「ならよかった」

魔法使い「よかないよ!全然知らない人が顧問ってそれで成り立つの!?」

校長「連絡事項があるときくらいは会えるじゃろ。そのときに挨拶せい」

勇者「わかりました」

魔法使い「……」

───野球部部室前

勇者「……やったな」

武闘家「ああ。とうとう手に入れた」

戦士「これが俺たちの部室になるんだね」

魔法使い「不安だ……」

勇者「まだそんなこと言ってんのか。校長だって心配するなって言ってただろ」

魔法使い「あの校長先生もなかなか信用できないよ」

武闘家「もうその辺にしておけ。せっかくの記念の瞬間なのに空気が悪くなる」

魔法使い「そうだった。ゴメン」

勇者「じゃあまず部長の俺から入るぞ」スッ

武闘家「待て。いつお前が部長になった」ガシッ

勇者「立ち上げたのは俺だ。申請書にも書いちゃったし。あ、副部長は魔法使いな」

魔法使い「いいけど……おや?空気が」

武闘家「納得がいかん。長というからには一番実力のある者がやるべきだ」

勇者「あの勝負はただの一打席勝負。野球全てで負けたわけじゃない」

武闘家「だったら今度は俺が投げる。お前が打席に立て」

勇者「いやもう提出しちゃったし」

武闘家「今ならまだ間に合う!早く勝負しろ!間に合わなくなっても知らんぞ!」

勇者「いや知らないのはこっちだし」

戦士「いい加減にしろよ!なんで二人が争ってるの!」

魔法使い「そうだよ。落ち着いて」

戦士「俺だって(楽な練習メニュー組むために)部長やりたい!」

勇者「は?」

武闘家「寝言は寝て言え豚」

魔法使い「出荷されたいの?」

戦士「うう……うう」

ガチャ

盗賊「うるせえな。眠れねえだろが」ヌッ

勇者「!?」

武闘家「お……お前……」

魔法使い「中にいたの……?」

勇者「記念の瞬間が……」ガクッ

盗賊「せっかくいい場所がものになったってのに、こうもうるさいのか?」

武闘家「貴様許さんぞ!なぶり殺しをじわじわしてやる!」

盗賊「くだらねえ。誰が先に入っても同じだろうが」

武闘家「あ?貴様も停学にしてやろうか?あの先輩と同じように」

盗賊「バコタ先輩のこと言ってんのかー!?」

ガタッ

戦士「おや?まだ中に誰かいるの?」

盗賊「いや俺しか……ってなんだこのデカブツは。狭くなるからお前は入るなよ」

戦士「皆酷いよ!俺だって好きででかくなったわけじゃないよ!」

勇者「不摂生でデブったんだろうが」

戦士「……そんなことより物音がしたんだけど」

勇者「なに誤魔化してんだよ」

武闘家「戦士の証言だけなら怪しいが俺も聴こえた」

戦士「……」

勇者「だがしかし誰もいないみたいだが……」キョロキョロ

盗賊「窓の外だ!何かいる!」

魔法使い「ええっ!?」

戦士「の、覗き!?」

勇者「誰だ!」ガラッ

シーン


勇者「誰もいない……ん?なんだこの紙」ヒョイ

武闘家「置き手紙か?何が書いてある?」

勇者「えーと……」




『精一杯頑張った君たちへ。野球部発足おめでとう。これからの君たちの健闘を祈ります。謎のマントマスク先生』

武闘家「謎のマントマスクだと!?」

戦士「連絡事項ってこういうやり方なの?」

魔法使い「結局姿見せないじゃん!どう関われと!?」

武闘家「俺たちも手紙を置いてやり取りするしかあるまい」

魔法使い「文通か!」

盗賊「誰だ?」

勇者「俺たちの顧問。きっと恥ずかしがり屋なんだ」

魔法使い「ポジティブだねえ!」

盗賊「かなり怪しいが、ずかずかと生徒の中に踏み込んでこないだけ気楽でいい」

勇者「だからってタバコは吸うなよ」

武闘家「心配しなくてもそいつは吸えない」

盗賊「……ちっ」

武闘家「あと皆、ロッカーの中に貴重品は入れておくな」

盗賊「どういう意味だそりゃあ!?」

魔法使い「なんでおめでたい日にこんなギスギスしているんだろう……」

戦士「ねえ、ラーメン───」

魔法使い「黙れよ!」

つづく

───次の日

戦士「ひぃー……ひぃー……」ドスンドスン



勇者「やってるな」

武闘家「ふん。なぜ俺があんなやつのために」

勇者「そう言うなって。あいつを鍛えるのはお前が適任だ」

武闘家「だからといって余計なものを摂取しないよう見張りも兼ねるのは……苦行だ」

魔法使い「まあまあ。勧誘は僕と勇者君で行ってくるからさ」

武闘家「ふう。いつになったらまともな活動ができるのか」

戦士「ぜえ……ぜえ……あと何周走ればいいの……?」ドスンドスン

武闘家「俺の気が済むまでだ」

戦士「絶対ゴールないですやん!?」

勇者「こっちは大丈夫そうだな」

魔法使い「大丈夫なのかなあ……」

───放課後・1年緑組

生徒「遊び人君ならいないよ」

勇者「帰ったか?」

魔法使い「前さ、色んな部を体験してみたいとか言ってなかった?」

勇者「そうだったな。今日もどこかでやってるかも」

魔法使い「前は調理部だったし、運動部にいる線は薄そうだね」

勇者「かもな。文化系の部がある棟に行ってみよう」

───文芸部部室前

ガラッ

遊び人「ではお世話になりました」

魔法使い「あ、いた。文芸部を体験していたみたい」

勇者「ちょうど出てきてくれてよかったな。おーい、遊び人」

遊び人「ん?誰だい?」

勇者「忘れたのかよ。一緒に戦士助けただろ」

遊び人「えーと……?」

勇者「ほら、調理室で……」

遊び人「調理室……ああ。いつぞやの」

勇者「会ったの昨日だぞ……」

文芸部員「待って」

遊び人「ん?」

文芸部員「文芸部には入ってくれる気ない?」

遊び人「すみません。ここも本当に居心地が良かったのですが、他の部も体験してみたいので」

文芸部員「そう……じゃあせめて……他の皆には内緒で」

遊び人「連絡先交換ですね。わかります」ニコッ

魔法使い「……なんか、思っていたような人とは違う気がする。僕たちのことも覚えていなかったし、良い人に見えたのは女の人が傍にいたからなんじゃ……」

勇者「体験入部しまくってんのも女目当てか」

魔法使い「まさか学校中の女子とお近づきになるつもり……?」

勇者「いや、そうとは限らないぜ。文芸部の中見てみろよ」

魔法使い「結構な人数いるね。女の人ばかりだけど」チラッ

勇者「連絡先を交換したのは今出てきた彼女だけっぽい。ただ、ルックスは彼女が飛び抜けて一番だな」

魔法使い「そういえば調理部のあの人も美人さんだった。人を選んでいるとか……?」

勇者「おいおい、それじゃああいつが好みの女残して連絡先交換しているってのか?戦士が暴れていたあの状況でそんな余裕あるのか?」

魔法使い「だよね。考えすぎだよね」



遊び人「ふふ。運よく狙っていた彼女だけと交換できた。ラッキー」スタスタ



勇者「あ、行っちまった」

魔法使い「案の定僕たちは忘れられたね」

勇者「追うぞ」

───

勇者「見失った。どこ行ったんだ?」

魔法使い「はあ……やっとまともな人が出てきてくれたと思ったのに」

勇者「俺は野球ができれば女たらしでも気にしないけどな」

魔法使い「部室に女の子連れ込まれたらどうすんの」

勇者「……悪くないな」

魔法使い「何言ってんの……って前!危ない!」

勇者「え?」

ドン

勇者「痛っ!」ドサッ

?「うっ」ドサッ

魔法使い「ああ、チョメチョメな妄想して歩くから」

勇者「悪い。大丈夫か?」スッ

?「ん……大丈夫」ガシッ

魔法使い「すみません。うちの勇者君が……あれ?」

?「……」

勇者「なんだよ。お前遊び人じゃん。そんな格好してどうしたんだ?」

魔法使い「違うよ……遊び人君じゃない」

勇者「え?」

?「……」

魔法使い「中学MVPの賢者君!?君もアリアハンに!?」

賢者「……」

つづく

勇者「知り合いか?」

魔法使い「僕らガリ勉の間じゃ有名人だよ。全国模試では常にトップでついた異名がM(Moshi)V(Victory)P(Perfect)なんだ」

勇者「そりゃすげえな」

賢者「ん……魔法使い君か」

魔法使い「僕を覚えているの?」

賢者「模試のとき一度話した」

魔法使い「僕も覚えている……でもそれは君が有名人だからだ。昔一回、全国各地から色んな人が集まる模試のとき会って挨拶程度しか喋っていないのに覚えているなんて……」

賢者「一度覚えたら忘れないんだ」

勇者「天才ってやつだな」

魔法使い「どうして君が?もっと偏差値高い学校に行けたでしょ」

賢者「受験日が大事な用と重なっちゃって。ここには推薦で入ったんだ」

勇者「うわあ、運はないんだな」

魔法使い「でも君の地元ってガルナだよね。かなり離れているのにわざわざここに?」

賢者「中学の途中でこっちに引っ越したんだ」

魔法使い「そうなの?まあ、うちの学校も進学コースの銀組だったら割と偏差値高いけど、それでも勿体ないと思うな」

賢者「今さら編入も面倒だしどうでもいいよ」

勇者「すげえ感覚だな。それより気になってんだが、お前遊び人と顔そっくりだけど関係あるのか?」

賢者「……双子の兄弟」

魔法使い「そうなの!?」

勇者「へえ、双子でも全然違うもんだな。かたやプレイボーイでかたや全国一の天才とか」

賢者「……」

勇者「同じ顔してんだから眼鏡とったり髪型変えてお洒落したらお前も絶対モテるぜ」

賢者「面倒くさい」

勇者「勿体ない」

魔法使い「そうか……僕が遊び人君を見たことがあると感じたのは賢者君と見間違えたからなんだ」

勇者「リストにはなかったし、お前は野球やっていないんだよな?」

賢者「ん……一回だけなら」

勇者「まあ遊び程度なら誰でもあるわな」

魔法使い「あ、遊び人君追わなきゃ」

勇者「そうだった。じゃあな。今度勉強教えてくれよな」タッタッタッ

賢者「……」

つづく

───部室

勇者「くそ、結局あいつ見つからなかった」

魔法使い「今日はもう無理っぽいからグラウンド整備でもしようかと思って切り上げてきたんだ」

武闘家「そうか。なら俺も加わろう」

戦士「俺も?」

武闘家「お前は走っていろ。誰が休んでいいと言った」

戦士「!?」

勇者「あと4人集めりゃいいだけなのに先が長いぜ」

盗賊「人数が揃ったとしても、まだ問題はあるだろ」

勇者「うお、お前いたのか」

武闘家「よほど部室が気に入ったようだな」

盗賊「お前らさえいなけりゃ言うことないんだがな」

魔法使い「それより問題って?」

盗賊「道具がねえだろ。そういうの全部備品でまかなえるのか?」

勇者「たしかにな。一応布の練習着とひのきのバットだけは用意されたが」

魔法使い「ひのきのバットって……まともに飛ばせないじゃないか」

戦士「布の練習着って……すぐ破けちゃうじゃないか」

武闘家「お前だけだ。痩せろ」

盗賊「ケチな校長だ。本気で復活させたいならまともな道具をよこせってんだ」

勇者「あの五千円で買えるとしたらボールか。ボールはいくつも必要になるから用意しとかないとな」

魔法使い「道具がなきゃ練習もできないね……」

勇者「俺は自前のグローブと銅のバットを持ってるぞ。お前らグローブは?」

魔法使い「昔のならあるけど、もう小さくてはめられないよ」

戦士「同じく」

武闘家「俺は助っ人の際は借り物でやっていた」

盗賊「売っ払った」

勇者「こりゃ前途多難だわ」

ガタッ


勇者「!?」

盗賊「窓の外で音が……」

戦士「ということはまさか」

勇者「先生そこにいるのか!?」ガラッ

シーン

勇者「くそ、また逃げられた。手紙だけ置いてある」

魔法使い「なんで頑なに姿見せないんだろう……」

武闘家「それは考えるだけ無駄だ。手紙の内容は?」



『霊感的な何かが働き、君たちが何かを欲していると気づきました。必要なあれはロッカーに入れてあります。使ってください。謎のマントマスク先生』

勇者「相変わらず可愛い字だぜ」

武闘家「ロッカーに……?」

魔法使い「まさか僕たちの会話聞いていたの?内容めっちゃ噛み合っているけど」

盗賊「偶然だろ。ロッカーに入れておいたんなら俺たちが来るより早く忍び込んでいたってことだ」

戦士「何入ってんだろ」

魔法使い「いや野球道具以外に何があるの」

武闘家「む……」ガコガコ

勇者「鍵掛かってんじゃん」

盗賊「ダメだ。全部開かねえ」ガコガコ

魔法使い「マントマスクゥー!」

勇者「先生が鍵持ってんのか。とんだドジっこだな」

武闘家「仕方あるまい。この旨手紙に書き記しておこう」

魔法使い「面倒だなあ……」

勇者「道具の件は先生が手紙に気づくまで保留だな」

魔法使い「ちゃんと届くの……?」

勇者「さあな」

魔法使い「……」

盗賊(鍵……まてよ。バコタ先輩のあれがあれば)

勇者「じゃあグラウンド整備でもするか」

盗賊「用事思い出したから帰るわ」ガチャ

魔法使い「え、一緒にやらないの?」

武闘家「いつものことだ。放っておけ」

───

盗賊「えっと、先輩の家はたしかこの辺……」キョロキョロ

盗賊「……ん?」



タッタッタッ

「簡単だったな」

「ああ」

「早く持って帰ろうぜ」

タッタッタッ



盗賊「……」

盗賊「あの制服……ワルでお馴染みナジミ高校のやつらか」

盗賊「っとそれより先輩の家……あ!」


バコタ「うう……」


盗賊「バコタ先輩!?」

バコタ「お、お前……どうして」

盗賊「怪我してるじゃないッスか!何が……」

バコタ「……俺としたことが油断していた。ピッキングツールを奪われちまった」

盗賊「なぬ!?」

バコタ「複数で急に後ろから襲いかかってきやがった」

盗賊「さっき通り過ぎたやつらか。ナジミッスね。顔覚えていますよ」

バコタ「……」

盗賊「俺も行きます。取り返しましょう」

バコタ「やめろ。やつらは危険だ」

盗賊「やられっぱなしでいろって言うんスか!」

バコタ「そうだ」

盗賊「……」

バコタ「この件は忘れろ。関わるな」

盗賊「奪われたのはピッキングツールだけじゃなかったみたいッスね。幻滅しました」

つづく

───次の日・1年黄組

勇者「頼むって」

商人「だからやだって。部活なんかやってもなんのメリットもないじゃん」

勇者「皆で同じ目標に向かって頑張れば、同じ思い出が共有できて楽しいぞ」

商人「くだらないね。女の子にモテるってんなら考えてやってもいいけど」

勇者「ぜ、全国大会に出られれば……」

商人「じゃあ全国に行けたら入ってやるよ」

勇者「……」

───

勇者「くそ、ダメだったか。あいつを引き入れりゃ道具とかカンパしてもらえると思ったのに」

魔法使い「やっぱり商人君は難しいよ」

勇者「こうなったら弱みを握って……」

魔法使い「武闘家君と同じ思考じゃないか!?ダメだよ!」

勇者「でもなあ……」

魔法使い「そんなことで入ってもらってもチームがまとまらないよ。だったら経験者じゃなくてもやる気のある人の方がいい」

勇者「たしかにそうなんだが」

魔法使い「大体盗賊君だってまだ仲間というより被害者だからね」

勇者「あいつ、なんだかんだいって馴染んでいるように見えたけどな」

魔法使い「僕もそれは思っていた。彼の場合は寂しがり屋なだけなのかも」

勇者「お、噂をすれば盗賊」

盗賊「おう」

勇者「珍しいな。授業に出るのか?」

盗賊「いや、退部届を渡しにな」

魔法使い「え……」

勇者「退部届って……お前辞める気か?武闘家に脅されていただろ」

盗賊「もういいや。好きにしろって言っておいてくれ」

魔法使い「そんな、バコタさんがせっかく守ってくれたのに」

盗賊「もういいって言ってんだろ!」

───部室

勇者「盗賊、部活辞めるってよ」

武闘家「なに?」

魔法使い「吹っ切れたような……もう全部どうでもいいって感じだった。何かあったのかも」

武闘家「……」

勇者「せっかくだしもう解放してやってもいいんじゃないか。あいつが決めたことなんだ」

武闘家「いや、俺が行く。俺に任せてくれ」

魔法使い「え?」

武闘家「やつは必ず連れ戻す」

魔法使い「でも君のやり方じゃ……」

武闘家「心配するな。任せてくれ」

戦士「じゃあ今日のメニュー終わり?やった」

武闘家「お前は下校時も買い食いしないよう俺の監視下に置く。一緒に来い」

戦士「!?」

魔法使い「大丈夫かなあ」

勇者「ま、武闘家に任せようぜ」

───

戦士「そもそも居場所わかるの?」

武闘家「やつには発信機をつけてある。俺からは逃げられん」

戦士「怖っ!絶対まともな方法で連れ戻さない気だろ!?」

武闘家「お前が俺といるのは監視のためだけだ。口出しする権利はない。さっさと歩け」

戦士「はあ……こんな重りつけてちゃ歩くのも大変なんだよ」ドスンドスン

武闘家「俺は毎日それを使い鍛えている。今はお前にくれてやった分何もなくて気持ち悪いくらいだ」

戦士「毎日こんなの着けてたの……?ただのヤ○ザじゃなかったんだね」

武闘家「誰がヤクザだ……む」

戦士「どうしたの?」

武闘家「盗賊の動きが止まった」

戦士「ここから近い?近い?」

武闘家「この場所は……ナジミ高校か」

戦士「ナジミ高校って悪くてお馴染みの?なんでそんな場所に……?」

武闘家「……」

つづく

───ナジミ高校校門

盗賊「……その面、ようやく見つけたぜ」

スライム「なんだてめえ」

盗賊「アリアハン高校のもんだ」

一角兎「アリアハン?ひょっとしてバコタの連れピョン?」

大烏「あの野郎自分で歯向かう勇気もないのかよ。カッカッカー」

盗賊「……」

一角兎「まああんな弱っちい野郎じゃ歯向かう気も起きないピョン」

スライム「そうだそうだ」

大烏「ちょろかったぜ。2、3発ぶん殴っただけでブツを寄越してくれたんだからよ。カッカッカー」

盗賊「てめえら……!」

武闘家「落ち着け」ガシッ

盗賊「な……お前」

大烏「こいついつの間に」

スライム「なんだてめえ」

一角兎「仲間か。一人増えたところで……」



ドスーンドスーン



大烏「なんだ?地響き?」



戦士「あ、いた」ドスーンドスーン



スライム「で……でかい」

一角兎「あれの足音!?こっちに来るピョン!」

戦士「おいおい、喧嘩しにきたの?」ドスーンドスーン

盗賊「お前らどうして……」

大烏「あいつも仲間か!?」

一角兎「あんなやつ相手じゃ分が悪いピョン!」

スライム「にげろお!」タッタッタッ

盗賊「あ、待ちやがれ」

戦士「あれ?行っちゃった」

盗賊「くそ!恐れをなして校舎に逃げやがった。汚ねえ野郎共が」

武闘家「何をしているんだお前は」

盗賊「……関係ないだろ」

武闘家「問題を起こされては困るんだ」

盗賊「部は辞めたぜ。迷惑となんか思ってねえだろ」

武闘家「退部届は俺が預かっている。お前はまだ部員のままだ」

盗賊「ふざけんな!これじゃあなんのために……!」

武闘家「……」

盗賊「……あんな動画好きにしていいからよ。退部させてくれ」

武闘家「だったら消させてもらう」ピッ

盗賊「な……」

武闘家「好きにしただけだ。その上でお前と話す」

盗賊「……」

武闘家「バカなことはやめて帰ってこい」

───ナジミ高校校舎裏

タッタッタッ

一角兎「はあ……はあ……」

大烏「まさかあんな大男が仲間にいたなんて」

スライム「やべえよ、やべえよ……」

一角兎「でもお前だって負けないくらいでかいじゃねえかピョン」

大烏「俺は身長があるってだけだよ。あっちは重量が違う。歩くたびに震動なんて人間じゃねえ。モンスターだ」

一角兎「一緒にいた男も結構強そうだったピョン」

大烏「むしろあっちのがやばい。二人組の小さい方は大きい方より強い法則を忘れたのか」

スライム「ちげえねえ……ん?」

?「お前たち、何をやっている」

スライム「げえっ!あなたは!」

───ナジミ高校校門

盗賊「……ピッキングツールを奪うために、バコタ先輩を襲撃しやがったんだよ」

戦士「え……」

武闘家「……」

盗賊「俺は取り戻さなきゃなんねえ。バコタ先輩のピッキングツールとプライドを」

武闘家「……」

盗賊「そのためにお前らを巻き込むわけにはいかねえんだ!もう俺とは関わらないでくれ!」

武闘家「……バコタがお前に取り戻すよう頼んだのか?」

盗賊「んなわけねえだろ。先輩はむしろ関わるなと言った」

戦士「それって……」

武闘家「そうだろう。お前の身を案じてのこと」

盗賊「どうだかな。今の先輩は腑抜けちまっているからよ」

戦士「でもそれって君が俺たちにしていることと同じなんじゃない?」

盗賊「……」

武闘家「それがわからないほどお前もバカじゃあるまい」

盗賊「だったら泣き寝入りしろってのか」

武闘家「誰がそんなことを言った」

盗賊「え?」

戦士「そうだよ。あいつらを説得してさ」

盗賊「説得すれば反省してすんなり返してくれる連中だと思ってんのか?甘いんだよ」

戦士「うう……」

武闘家「誰が説得しろと言った」

盗賊「え?」

武闘家「こいつを見てくれ。どう思う?」スッ

盗賊「なんだよ。もう嫌な予感しかしねえぞ……」

『アリアハン?ひょっとしてバコタの連れピョン?』

『あの野郎自分で歯向かう勇気もないのかよ。カッカッカー』

『まああんな弱っちい野郎じゃ歯向かう気も起きないピョン』

『そうだそうだ』

『ちょろかったぜ。2、3発ぶん殴っただけでブツを寄越してくれたんだからよ。カッカッカー』



盗賊「……」

武闘家「……」

戦士「結局盗撮じゃないか!?」

武闘家「これとバコタの証言があればやつらは停学、いや警察沙汰かな」

盗賊「お前……いつの間に」

戦士「この人だけは信じちゃいけない……」

?「盗撮とは味な真似してくれる」

盗賊「!?」

つづく

これモンスターも擬人化してんじゃないの?

武闘家「……何者だ」

一角兎「この方は俺たちの番長、夢爺さんだピョン!」

大烏「夢爺さんが来たからにはそっちの大男でも終わりだぜ!多分……」

戦士「ひっ、なんで俺!?」

夢爺「ピッキングツールを盗ませたのは俺だ。だからそれが残っていると非常に厄介なんだ。消してくれないか?」

盗賊「ふざけんな!返しやがれ!」

夢爺「それはできない」

盗賊「てめえ……!」

武闘家「ならばどう出る?力づくか?」

盗賊「待て。お前らは関係ない」

戦士「でも……」

盗賊「俺は元々そんな盗撮動画で脅す気なんかねえよ」

武闘家「……」

夢爺「ほう?」

戦士「そっか。盗撮も脅迫も犯罪だもんね」

武闘家「違う」

戦士「違う!?」

盗賊「……」

武闘家「こんな汚いやり方をバコタが望まないからだ」

盗賊「……お前に何がわかるんだ」

武闘家「一度話した。どういう男かは大体わかる」

盗賊「なに?」

武闘家「一昨日俺はバコタと会い、お前の現状を話してきた」

盗賊「え……」

武闘家「お前からは言えないだろう。そこでお前のことをよろしくと言われたよ」

盗賊「なんで……バコタ先輩」

武闘家「……」

盗賊「俺は先輩に見捨てられたのか……」

武闘家「……お前はあのとき、タバコが吸えたことでバコタに一人前と認められたと思っているのか?」

盗賊「……」

武闘家「タバコなど手段に過ぎない。あの行動の本質はお前が見せた、バコタに頼らずとも進んでいくという意思表示のはずだ」

盗賊「……」

武闘家「やつはお前の新しい居場所を守るために、この件に関わらせたくなかったんだ」

盗賊「先輩……」

武闘家「……」

盗賊「……」

武闘家「ここで暴力沙汰を起こしてはやつの思いを無駄にする。だからといって脅迫という手段もやつは望まない」

盗賊「じゃあどうしろってんだよ!」

夢爺「はっはっは。面白いな。お前たち」

盗賊「ああ?」

夢爺「だったら俺がその答えをやろう。野球でけりをつけようじゃないか」

盗賊「なに?」

スライム「やきゅう?」

一角兎「どうしたんですか。夢爺さん。なんで野球なんか……?」

夢爺「こいつらはアリアハン高校の野球部だからだ」

武闘家「!?」

戦士「あれ?俺たち身分を明かしていないはずだよね」

盗賊「どういうことだ」

大烏「カッカッカー。夢爺さんは予知夢を見ることができるんだよ」

一角兎「近い未来に起こることは必ず当たるピョン」

戦士「嘘……」

盗賊「そんなバカな」

武闘家「しかし俺たちのことを知っていた。夢で今の状況も予習済みというわけか」

夢爺「会話の内容など大して覚えちゃいないがね。アリアハン高校野球部と揉めたことははっきりと覚えている」

大烏「でも夢爺さん、野球で勝負なんて無理ですよ。俺たち全然やったことないし」

武闘家「なるほど。こちらの状況も夢のどこかで知ったということか」

スライム「え?」

夢爺「ふっ、まだ部になって日が浅く人数も道具も揃わない。ブランクだらけの集まりだったかな?」

一角兎「そうか。じゃあ運動神経良さそうなの集めりゃ勝ち目はありそうピョン」

夢爺「向こうの人数が集まらず不戦勝という可能性もあるが。ふっ」

武闘家「それでも経験者の俺たちが有利なのは変わりない。真意はなんだ」

夢爺「あえて言うならお前だ」

武闘家「……」

夢爺「お前の思考は危険だ。そっちの盗賊君が泣き寝入りしたとしても、お前はどう出るかわからない。だからあえてお前たちの土俵に乗ってやる」

盗賊「くだらねえ。そんな挑発に───」

武闘家「いいだろう」

盗賊「……おい。勝手に」

武闘家「俺たちが勝てばピッキングツールを返してもらう」

夢爺「俺たちが勝てば動画を消してもらう。契約成立だな」

武闘家「日時と場所はこちらで指定させてもらう」

夢爺「ああ。どうぞ」

武闘家「2週間後日曜日の正午。場所は……追って連絡する」

つづく

>>158
全員人間です

───アリアハン高校・1年緑組

生徒「遊び人君ならさっき向こうで女子と話していたよ」

勇者「おう、ありがとな」

魔法使い「また女……」

勇者「あいつ女のことしか頭にないのか。野球部は恋愛禁止にしようかな」

魔法使い「いいね。男なら部活一筋だよ」

勇者「でもそうなると俺もできないな。やめた。お前も自由に彼女つくれよ」

魔法使い「……無理だよ。モテないし。僕なんかどうせ三十路越えても綺麗な身体のままなんだ」

勇者「でもせっかくの高校生活、部活一筋ってのもどうなんだ」

魔法使い「……じゃあ勉強も頑張るよ」

勇者「お前がそれでいいならいいけど……」

魔法使い「あ、いたよ!」




遊び人「今度よかったら一緒に勉強でもしないかい?」

ルイーダ「……はい?」

魔法使い「ルイーダさん!?」

勇者「よりによってあいつかよ。怖いもの知らずだな」

魔法使い「ルイーダさん美人だから……」

勇者「ちょっと面白そうだし様子見てみるか」




遊び人「一目見たときからわかったよ。君は真面目なタイプだってね」

ルイーダ「……」

遊び人「図書館デートも悪くないよね」

ルイーダ「結構よ」

遊び人「僕が勉強教えてあげるからさ」

ルイーダ「あなたに教わることは何もないわ」

遊び人「まあ知らなければ無理もないね。僕はこの学校でも一番成績がいいはずだよ」

ルイーダ「はあ……」

コソコソ

魔法使い「ルイーダさんはなびかない。当然だよね」

勇者「さすが鉄仮面。スキだらけのやつとは一味違うな」

魔法使い「好き!?なんで僕がルイーダさんを好きだってわかったの!?」

勇者「しかしあいつも頭が良かったのか。優秀な血統だこと」

魔法使い「ね、ねえ……ルイーダさんには黙っていてくれない?」

勇者「でも今あいつ学校で一番って言ったよな。賢者よりも……?」

魔法使い「学校で一番好きだって本人に知られたら恥ずかしいよお」

勇者「高校に入ってから抜いたのか」

魔法使い「ルイーダさんで抜いたことも知ってたの!?」

勇者「賢者もどきのくせにやるじゃねえか」

魔法使い「賢者モードになったらやらないよ!?」

勇者「うるせえな。見つかっちまうだろ」

魔法使い「武闘家君に頼み込んで撮ってもらったルイーダさんの隠し撮りブロマイドが!?」

勇者「それ以上はやめろ。ツッコミがいなくなる」

ルイーダ「……」

遊び人「あれ?信じてない?」

ルイーダ「はあ……わかったわ。じゃあ勝負しましょう」

遊び人「僕と勉強で?構わないよ」

ルイーダ「勉強じゃない。野球で」

遊び人「野球……?」

ルイーダ「彼らに勝ったらどこへでも行ってあげるわ。映画でもホテルでも」

遊び人「彼らって?」

ルイーダ「そこの物陰で見ている彼らよ」

勇者「ギョッ!?」

魔法使い「バレていた……っていうかホテルって」ゴクリ

遊び人「君たちは……」

勇者「バレちまったらしょうがねえ。昨日ぶりだな」スッ

遊び人「誰だっけ?」

勇者「初めまして。勇者です。俺たちは野球部だ」

遊び人「野球部……だと?」

勇者「勧誘する手間が省けたぜ。俺たちが勝ったら野球部に入れ。その代わりお前が勝ったらルイーダを好きにしろ」

ルイーダ「あなたに利用されているみたいな言い方はやめて」

勇者「どうだ?お前も経験者なら条件は五分だ」

遊び人「……」

魔法使い「ルイーダさんはそれでいいの!?だって負けたら……」

ルイーダ「ええ。彼が勝ってくれるから」

勇者「……一応信頼されているのか?」

遊び人「わかった。受けて立つよ」

魔法使い「!?」

勇者「一打席勝負だ。俺が投げるからお前が打て」

遊び人「ああ。構わないよ」

魔法使い「絶対に負けられない戦いだよ!」

つづく

───グラウンド

勇者「あいつ遅いな。準備があるとか言ってたけど」

魔法使い「女子の応援要請してたりして……」

勇者「俺はその方が燃えるな。ギャラリー全員俺のファンにしてやるよ」

魔法使い「どこからそんな自信が……」

勇者「じゃあ前みたいにキャッチャー頼むな」

魔法使い「大丈夫なの?今度は本当に負けられないんだよ」

勇者「心配すんなって。俺だって成長したんだ」

遊び人「お待たせ」

勇者「なんだ。女子呼ばないのか」

遊び人「いつでもどうぞ」スッ

魔法使い(あ……この期に及んでまだ変化球何投げるのか知らない)

勇者「心配そうな顔すんなって魔法使い。変化球なんか投げないから」

魔法使い「……え?」

勇者「俺の人生を捧げてきた野球がこんなチャラチャラしたやつに負けるかよ!」ピュッ

魔法使い「まるで成長してねええええええええ!?」

遊び人「……」ブン

カキィン

勇者「……え?」

ヒューン

魔法使い「ちょ……」

ヒューン

ポトッ

遊び人「……」

魔法使い「ホ……ホームラン……」

勇者「嘘だろ……」

遊び人「これで一周すればいいかな。ホームランでも回らなきゃアウトだから」タッタッタッ

魔法使い「僕の秘策まで見破られている!?」

遊び人「僕の勝ち」スタッ

魔法使い「そんな……」

遊び人「彼女は返してもらうよ」

魔法使い「ルイーダさんは誰のものでもないんだよお」

遊び人「……」

魔法使い「頼むよお……ルイーダさんを取らないでよお……」

遊び人「……」

魔法使い「僕の大切な人なんだよお……」

遊び人「……君にとっても?」

勇者「え?俺?」

遊び人「どうなの?」

勇者「……」

遊び人「……」

勇者「……そうだよ」

魔法使い「ええええええ!?なにそれええええええ!?」

遊び人「……」

つづく

───物陰

遊び人「よし!さすが兄貴。完勝だ」

遊び人「やっぱり何も問題なしか。あの才能が羨ましいよ」

遊び人「でもこれであの生意気な子も……」

ルイーダ「ごめんなさい。生意気なのは生まれつきなの」

遊び人「!?」

ルイーダ「勝負をお兄さんに任せて高みの見物はどんな気分かしら?」

遊び人「な……」

ルイーダ「何も感じることはないでしょうね。これがあなたのやり方だから」

遊び人「……気づいていたのか」

ルイーダ「お兄さんがあなたに扮していたこと?それなら知っていた、の方が正しいかしら」

遊び人「知っていたって……君は一体」

ルイーダ「だからあなたが勝負前に何を準備していたのかも」

───少し前

遊び人『頼む兄貴!』

賢者『……』

遊び人『また僕の代役をお願い』

賢者『……今度は何?』

遊び人『野球だよ』

賢者『野球……?』

遊び人『野球で勝負を挑まれた。兄貴なら問題ないでしょ?』

賢者『……』

遊び人『兄貴なら……』

賢者『……』

遊び人『頼むよ』

賢者『ん……いいよ』

───

勇者『───』

魔法使い『───』



賢者『……あの人たち?』

遊び人『そう。僕の彼女を奪っておいて勝ったら返すなんて言うんだ』

賢者『……』

遊び人『じゃあコンタクト入れるよ』

賢者『ん……』

遊び人『髪型も変えて……』サッサッ

賢者『……大丈夫?』

遊び人『うん。どこからどう見ても僕だ』

賢者『じゃあ行ってくる』

遊び人『任せたよ』

───現在

遊び人「君は一体……?」

ルイーダ「気になるじゃない。全国一の天才がなぜこの学校にいるのか。調べさせてもらったわ」

遊び人「なに?」

ルイーダ「簡単なことよね。あなたと同じ学校にいるだけの話ですもの」

遊び人「……関係ないよ。兄貴には兄貴の、僕には僕の理由がある」

ルイーダ「そうかしら。まあいいわ。私にはどうでもいい」

遊び人「君は何を……どこまで知っているんだ」

ルイーダ「私を陥れようとした人に答える必要はないわ」

遊び人「……」

ルイーダ「あんなやり方で一体何人の女の子を騙してきたのかしら」

遊び人「……」

ルイーダ「あなたにとっての一番の幸運はなんでもできるお兄さんの存在かしら」

遊び人「幸運?冗談じゃない。僕の一番の不幸だよ」

ルイーダ「それは野球を辞めたきっかけでもあるから?」

遊び人「な……」

賢者「すごいね。そんなことまで知っているんだ」

遊び人「兄貴!」

ルイーダ「……」

魔法使い「え?え?」

勇者「お前、賢者だったのか」

賢者「ゴメン」

遊び人「……」

賢者「遊び人もゴメン。彼らを連れてきちゃった」

遊び人「……どうせもう全部バレてたんだ。隠しても意味ないよ」

賢者「……」

魔法使い「じゃあ勝負は反則負け?僕たちの勝ちだ!ルイーダさんを守れた!」

ルイーダ「私はこうなると思っていた。無意味な勝負だったかしら」

勇者「俺を信頼していたわけじゃないのね」

ルイーダ「だってあなたのことまだよく知らないもの」

勇者「よく言うぜ」

魔法使い「遊び人君、なんでこんなことを……?」

遊び人「……」

勇者「俺たちは何がなんだかわからないままここにいるんだ。ちゃんと話してくれよ」

ルイーダ「説明してあげたら?反則で勝負を台無しにされた彼らには聞く権利がある」

遊び人「……」

賢者「……遊び人は昔野球少年だったんだ。他のことは目もくれないような」

勇者「お前が?」

遊び人「……」

賢者「でも……」

遊び人「……」

賢者「……」

遊び人「……いいよ。僕が話す。兄貴の知らないことも」

つづく

遊び人「僕らが生まれ育ったのはガルナ。僕はそこで野球を始めた」

遊び人「所属したチームはそこそこの強豪だった。でも頑張って、なんとかレギュラーになることができた」

遊び人「楽しかったよ。僕の努力が認められたようで」

賢者「……」

遊び人「ある大事な試合前に僕は体調を崩した」

遊び人「どうしても穴を空けるわけにはいかず、兄貴に代役を頼んだ。チームメイトにも内緒にしてね」

魔法使い「ん?でも賢者君って一回しか野球をしたことないって」

遊び人「その一回が僕の代役で出た試合なんだ」

魔法使い「え?」

賢者「……」

遊び人「僕の試合は何度か見に来ていた。それでルールも覚えたらしい」

魔法使い「だからって無茶な。ルールを覚えても実際にできるかは別問題だよ」

遊び人「兄貴はその試合で大活躍。相手エースをいとも容易く打ち崩し、僕らが一度も勝ったことのない相手に勝ってしまった」

魔法使い「!?」

勇者「なんだと……」

遊び人「さっき君も対戦して打たれただろ。あれがなんの練習もしていない素人のバッティングなんだよ」

勇者「マジかよ……」

賢者「……」

遊び人「兄貴は昔からなんでもできた。だから試合を壊さない程度の代役もそれなりにできるんじゃないかって、浅はかな子供の考えで頼んだんだ」

魔法使い「本当に天才なんだ……」

遊び人「僕も兄貴凄いとしか思わなかった。兄貴を自慢したくてしょうがなかった」

勇者「兄弟いないからわかんねえけど、そういう気持ちになるんだろうな」

遊び人「そこまではよかった」

魔法使い「え?」

遊び人「その日から周りの僕を見る目が変わった。やたらと持ち上げ、僕さえいればどこにも勝てるという空気が出来上がった」

遊び人「初めてチヤホヤされたこともあり、舞い上がってしまったよ」

遊び人「求められていたのは僕じゃないのにね」

賢者「……」

遊び人「その後の試合は当然求められた結果が出ず、プレッシャーに押し潰され大敗」

遊び人「それからは一度もまともな状態で試合に挑めなかった」

遊び人「僕の成績に関係なく、全ての敗戦のスケープゴートになった」

遊び人「期待に応えられない人間はどうなると思う?陰口から始まりイジメへと繋がっていくのさ」

魔法使い「そんな、イジメなんて……」

遊び人「悲しかったよ。でも厄介なことに、同時に悔しいという感情もあることに気づいてしまった」

遊び人「僕が今までしてきた努力はなんだったんだろう」

賢者「……」

遊び人「僕は兄貴に嫉妬していたんだ」

遊び人「チームメイトからのイジメと兄貴への妬み。もう自分じゃどうすることもできない流れに飲み込まれるしかなかった」

遊び人「僕は野球を辞め、不登校になり、しばらく引きこもるようになった」

魔法使い「遊び人君が引きこもり……?」

勇者「全然結びつかないな」

遊び人「出席日数も足りなくなってきて、学校には行かなければならない。でもガルナから離れたかった」

遊び人「祖父母のいるアリアハン地方に転校させてほしいと親に頼んだよ」

遊び人「でも親は仕事上転勤はできない。精神が不安定の僕を祖父母に任せるのは困難だと判断された」

遊び人「ところが兄貴と一緒ならという条件で認めてくれた。誰からも信頼されている兄貴とならね」

遊び人「……兄貴は文句一つ言わずついてきてくれたよ」

賢者「……」

遊び人「僕が兄貴のことをどう思っているかも知らずに」

遊び人「正直兄貴と一緒にいるのは嫌だったよ」

遊び人「でも兄貴は昔から僕の言うことはなんでも聞いてくれた」

遊び人「そんな兄貴を利用して思いっきりやりたいことをやってやろうと思った。さっきみたいに僕に変装してもらってね」

賢者「……」

魔法使い「それで女の子を……」

遊び人「ナンパだけじゃない。受験もそうさ。僕の代わりに受けてもらったんだ。兄貴は推薦で合格していたから運よく受験日が空いていたしね」

魔法使い「そんなことを……」

勇者「賢者と同じアリアハンを受けたのも、近くにいてずっと利用しようとしたからか」

遊び人「……兄貴と一緒の高校も本当は嫌だった」

魔法使い「え?」

遊び人「でもそれ以上に……」

遊び人「……野球が嫌いだ。全ての原因の野球が」

勇者「……」

遊び人「この学校を選んだのは野球部がなかったから」

魔法使い「あ……」

遊び人「だからアリアハン地方で野球部がない高校を探した」

遊び人「ここの他にナジミ高校も該当したが、イジメ問題も多そうな学校だったから当然除外。結果的にアリアハンしか選択肢はなかった」

遊び人「なのにいつの間にか野球部は存在していて僕を誘いに来る。不条理な世の中は僕を追い詰めてどうしたいのだろうね」

勇者「……」

魔法使い「でもだからって……」

遊び人「間違えていると言いたいんだろ?わかっているさ」

遊び人「僕がこうなってしまった原因は野球と兄貴。そうやって言い聞かせることが、壊れそうな僕を支えてくれた」

遊び人「それを大義名分に兄貴を逆恨みしていた哀れなピエロだってね」

勇者「……」

魔法使い「……」

遊び人「これで僕の話は終わり。満足したかい?」

勇者「……」

遊び人「それじゃあ」

勇者「待てよ」

遊び人「もういいだろ。話せることは話したよ。隠し事してても彼女の前では無意味だろ」

勇者「俺とお前の勝負がまだ終わってねえだろ」

遊び人「え……?」

魔法使い「勇者君?」

賢者「……」

遊び人「僕の反則負けで決着はついたはずだよ。名前なら貸すから勝手に入部でもさせておけばいい」

勇者「納得してねえよ。俺はお前と勝負したいんだ」

遊び人「……」

勇者「野球が嫌いなら別に入部しなくていいよ。でも勝負を途中で投げ出してそれでいいのか?」

遊び人「……」

勇者「ずっとこんなこと続けんのか?」

遊び人「……」

勇者「嫌なものから逃げてちゃお前はピエロのままだぞ。後悔してんなら、今の自分を変えたいならお前の力で、本気でぶつかってこいよ」

遊び人「……」

賢者「……」

魔法使い「勇者君……」

遊び人「……ふう」

勇者「……」

遊び人「君も相当しつこいね。わかったよ」

つづく

───グラウンド

ルイーダ「……この勝負は私は関係ないのよね」

魔法使い「当たり前だよ!もし遊び人君が難癖つけてきても僕が守るから」

賢者「それは大丈夫だと思うよ」

魔法使い「あれ?賢者君も見ていくの?」

賢者「ん……」

魔法使い「そういえば賢者君はどうして遊び人君と入れ替わっていることを僕たちに明かしたの?」

賢者「……」

魔法使い「……?」

勇者「そろそろ始めるぞ。キャッチャーについてくれ魔法使い」

魔法使い「あ……うん」タッタッタッ

ルイーダ「……この勝負のためでしょ」

賢者「……」

ルイーダ「この勝負の結末があなたの望みだから、あなたは彼らを連れてきた」

賢者「本当になんでもわかっているんだね」

ルイーダ「なんでもってわけじゃないわ。神様じゃあるまいし」

賢者「……ミステリアス」

ルイーダ「いいお兄さんよね。あなた」

勇者「いくぜ」

遊び人「ああ」スッ

勇者「おりゃ!」ピュッ

魔法使い「速い!これが勇者君の本気!?」

バシィ

遊び人「!?」

魔法使い「ストライクだよ」ピュッ

勇者「どうだ」パシッ

遊び人「……なるほど。大口を叩くだけある」

勇者「へへ。恐れ入ったか」

遊び人「だが打てない球じゃない」スッ

勇者「じゃあ打ってみろよ!」ピュッ

遊び人「はっ!」キィン

魔法使い「ファール。追い込んだ」

遊び人「くっ」

勇者「よっしゃ。三振狙うぜ」

遊び人「そんなダサい終わり方はごめんだ」スッ

勇者「おりゃ!」ピュッ

遊び人「はっ!」キィン

魔法使い「またファール……でもタイミングが合ってきている」

勇者「粘るねえ」

遊び人「ふふ……よし」

魔法使い(笑った?何か掴んだ……?)

勇者「おりゃ!」ピュッ

魔法使い「うっ、考えなしに何度も同じ球じゃ……!」

遊び人「はっ!」ブン

コン

コロッコロッ

魔法使い「打った!でも緩いピッチャーゴロだ。打ち取った!」



ルイーダ「純粋に勝負を楽しんでいた野球少年」

遊び人「いいや。僕の勝ちだね」

魔法使い「え?」

遊び人「グラウンドは荒れている。あれなら確実に、ボールが彼の元に届く前にイレギュラーするはず」

魔法使い「まさか最初からそれを狙って!?」

遊び人「ちゃんと整備されていないグラウンドでラッキーだ」

コロッコロコロッ

魔法使い「まずい。すでに不規則な動きだ。どこへ転がるんだ!?」

コロコロッコロッ



ルイーダ「厳しい環境の中で少年の心は揺れ、どこへ向かうのか迷い続けた」

タンッ

パシッ

遊び人「……え?」

勇者「おお、イレギュラーバウンドしたボールがちょうど俺の手の中に。ラッキー」

遊び人「嘘……」

勇者「ピッチャーゴロで俺の勝ちだよな。お前は魔法使いみたいな屁理屈言わないだろ」

魔法使い「あ、あれは君を助けたんじゃないか!?」



ルイーダ「そして行き着いた先は新たな場所」

遊び人「ツキが彼に向いていたのか……」

ルイーダ「ツキがどうのという話ならあなたに向いているんじゃないかしら」

遊び人「だって負けてしまったんだよ」

ルイーダ「彼の中にあなたの幸運がある。私はそう思う」



勇者「勝った勝った!初めて俺が勝ったんだ!」

魔法使い「どうなるかと思ったよまったく」

勇者「喜べよ。初めて実力で勝ったんだぞ」

魔法使い「運の要素が強かったよ。実際狙ったところに打たれたんだから」

勇者「勝ちは勝ちだろ!」



遊び人「……」

ルイーダ「偶然だと思う?」

遊び人「……」

ルイーダ「それを確かめられるのはあなた自身しかいない」

遊び人「……」

ルイーダ「まあ私は関係ないから。これで失礼するわ」テクテク

遊び人「……」

勇者「もう帰るのかよ。相変わらず冷めたやつだな」

魔法使い「でもそんなルイーダさんを勇者君も好きなんだよね……」

勇者「は?なんの話だ?」

魔法使い「だってさっき大切な人だって」

勇者「ああ、あいつはいずれ野球部のマネージャーにするからな。大切な戦力だろ」

魔法使い「え?それだけ?」

勇者「それだけだぞ」

賢者「僕も帰るよ」

勇者「おう。じゃあな」

遊び人「……兄貴、あの」

賢者「いい顔してたよ」

遊び人「!?」

賢者「久しぶりに見た」

遊び人「兄貴……ゴメン」

賢者「何も謝ることはしてないから大丈夫だよ」

遊び人「……」

賢者「じゃ」スタスタ

勇者「あいつ、お前の考えていたこと全部わかっていたんだろうな」

遊び人「……」

勇者「まああいつくらい頭が良ければ当然か」

魔法使い「その上で全部受け止めていてくれたんだね」

遊び人「……本当に敵わないよ」

魔法使い「遊び人君、それであの……勝負のことなんだけど」

遊び人「運という僕の得意分野でも負けた。完敗だと認めざるを得ない」

魔法使い「じゃあ」

遊び人「どうやら僕の幸運は野球部にあるらしい。入部させてくれ」

つづく

───部室

勇者「ようこそ野球部へ」

遊び人「……僕なんかを勧誘に来るなんておかしいと思っていたけど、人数が揃ってなかったんだね……」

勇者「賢者も一緒に入ってくれたらすげえ戦力になっただろうな」

魔法使い「今度誘ってみない?」

遊び人「僕は反対だよ。兄貴が入ってきたらまた惨めな思いをしなくちゃならない」

勇者「情けねえなあ。好きなことで負けたくないって気概はないのか」

遊び人「君たちはまだ兄貴のことを知らないからそんなこと言えるんだ。圧倒的な才能の差というものを」

魔法使い「たしかに……素人なのにいきなり初球でホームランなんてね」

遊び人「素人どころか僕だってホームランなんて打ったことないよ」

魔法使い「僕も……」

勇者「俺はうまけりゃ全然構わないけどな」

遊び人「兄弟がいなければわからない問題さ。兄貴に憎しみはないけど、さすがに同じチームではいられないよ」

勇者「あいつ自身はどう思ってんだろ」

遊び人「昔誘ったことあるけど面倒くさいって断られたよ」

勇者「本人がやりたくないならしょうがないか」

魔法使い「でも遊び人君のことはちゃんと応援してくれる」

勇者「みたいだな。自分を嫌っているやつを応援ってなかなかできないぜ」

遊び人「まあ、そういう人なんだよね。自分の小ささを思い知らされたよ」

魔法使い「僕なんとなくわかったけど、賢者君は遊び人君にもう一度野球をやってほしかったんだよね」

勇者「昔の遊び人に戻ってほしかったんだな」

魔法使い「妬まれている本人から昔の君に戻って、なんて言われても逆効果だったろうし」

遊び人「……」

魔法使い「心の底では野球が嫌いになりきれてなかった。それもわかっていたから」

勇者「俺たちに託した、か」

遊び人「僕だって今までの僕とは違う。兄貴の思いに応えるためにも、これから生まれ変わったNEW遊び人をお見せするよ」

勇者「そいつは楽しみだ」

ガチャ

武闘家「ん?皆揃っていたか」

盗賊「……」

勇者「おう盗賊」

魔法使い「おかえり」

盗賊「……ふん」

武闘家「そちらも遊び人を仲間にできたようだな」

遊び人「初めまして。話には聞いているよ。武闘家君?それからそっちが盗賊君かな」

武闘家「……俺は初めてではないが」

遊び人「え?ゴメン。覚えていない」

魔法使い「どうなってんのこの人の記憶力……」

勇者「幸先不安なNEW遊び人だぜ」

魔法使い「戦士君は?」

武闘家「監視が手間になるから家まで送り届けてきた」

遊び人「戦士……?」

勇者「さすがにそこは覚えておいてやれ」

武闘家「戦士の家に行って家族と少し話をしてきた」

勇者「へえ。どんな家庭だったんだ?」

武闘家「あの体型と性格からわかると思うが、かなり甘やかされて育ったようだ」

魔法使い「想像しやすいね……」

武闘家「あのままでは確実に望んだ分食料を与え、これまで絞らせてきた意味がなくなる。だから家を出させ、知り合いの寺に預けてきた」

勇者「そこまでやるか」

魔法使い「君そろそろ訴えられるんじゃないかな」

武闘家「家族には有難がられたぞ。やはりどこかで自制しなければと思っていたようだ。本人は抵抗したが」

勇者「なら問題ないか。寺なら摂生できるし戦士の精神面も鍛えられるだろ」

魔法使い「うーん、いいのかな」

勇者「お前らもそのまま帰ってよかったのに」

武闘家「ついでの報告があるから戻ってきた」

───

勇者「へえ。試合を取り決めてきたか。よくやった」

武闘家「俺にかかれば大したことではない」

盗賊「なんで得意気なんだ。たまたまそういう結果になっただけだ」

魔法使い「ついでどころじゃないじゃん!戦士君のことなんてこの際どうでもいいよ!」

勇者「初めての試合か。わくわくするぜ」

武闘家「実戦でしか得られない経験値もあるだろう」

勇者「今の俺たちのレベルじゃちょうどいい相手かもな」

盗賊「おい、俺たちは問題だらけって忘れんな」

勇者「再来週だろ。時間はあるしなんとかなるんじゃないか」

盗賊「絶対負けられないんだよ!」

遊び人「日時は決まっているのに場所はまだ決まってないの?うちのグラウンドじゃダメなのかい?」

武闘家「そうなれば理想だが……まだ決定する段階ではない」

勇者「また何か企んでんのか」

盗賊「……嫌な予感しかしないぜ」

つづく

───次の日

戦士「おはよ……」グッタリ

勇者「なんかすでにくたびれてんな」

魔法使い「お寺でお世話になっているんでしょ?どうだった?」

戦士「……」

武闘家「ランニング始めるぞ」

戦士「ひ……」

魔法使い「ちょっと可哀想だね。学校でも帰っても休まるところがないなんて」

勇者「まあ無理矢理にでもないとあの性根は治りそうもないしな」

魔法使い「じゃあ僕たちはまた勧誘に行ってくるよ」

武闘家「……ああ。行ってくれ」

───1年紫組

魔法使い「どんな人だろうね」

勇者「ああ。この組の僧侶ってやつは……お、あいつかな」

テクテク

僧侶「ん?お前たちか。俺を呼んだのは」

勇者「急に呼び出して悪かったな。俺たちは野球部だ」

僧侶「野球部……そうか。お前たちが例の」

魔法使い「え?僕らのこと知っていたの?」

僧侶「わはは。昨日武闘家がうちの寺に戦士とかいうのを預けに来たぞ。相変わらず強引なやつだった」

勇者「戦士預けた寺ってお前んちだったのか!?」

僧侶「聞いていないのか?」

勇者「知り合いの寺に預けたとしか……」

僧侶「わはは。そりゃそうか。あいつは俺が野球部に入れないことを知っているから」

魔法使い「野球部に入れない!?なんで!?」

僧侶「俺には寺の修行がある。部活動は禁じられているんだ」

魔法使い「そんな……」

僧侶「仕方ないさ。寺生まれ……だからな」

───1年青組

勇者「お前僧侶と知り合いだったのか」

武闘家「ああ。幼い頃からやつの寺で共に修行した仲だ」

魔法使い「へえ。幼馴染なんだ」

武闘家「やつに野球を教えたのは俺だ。厳しい家のため、やつはチームに所属することを許されなかった。そこで俺と色々なチームの助っ人をして遊んだものだ」

勇者「なんでそれ最初に言わなかったんだよ。無駄骨じゃんかよ」

武闘家「やつはなかなか鋭い。俺の考えが見抜かれるわけにはいかなかった」

魔法使い「また何か考えていたの……?」

勇者「あいつを入部させる気か?」

武闘家「無論だ。昨日少し話して察したが、やつには野球への未練がある」

魔法使い「……どうする気?」

武闘家「そこで戦士を預けた意味が生きてくる。あの怠惰を体現させたような男が野球のために懸命に取り組む姿を見たら、かつての情熱が掘り起こされるはず」

魔法使い「お寺を利用させてもらうと見せかけて戦士君を利用していたの……?恐ろしい」

武闘家「一石二鳥と言え。その後事情を知らないお前たちが純粋に野球に誘う。今かなり心が揺れているはずだ」

勇者「俺たちも利用されていたのか……」

武闘家「俺の目論見通りなら明日にでも決意を固めるはず」

勇者「そんなうまくいくかねえ。あいつの場合は本人の意思というより家の事情だろ」

武闘家「やつが本気ならそんなものどうにでもなる」

魔法使い「そんなものなの……」

武闘家「大船に乗ったつもりで待っていろ。では俺は戦士の監視に行ってくる」スタスタ

魔法使い「相変わらず不安だ……」

勇者「じゃあ僧侶は保留にして俺たちはまた別の経験者勧誘に行くか」

魔法使い「あと残っている人って二年生だっけ?」

勇者「ああ。初めての上級生だな」

魔法使い「二年生の教室に行くのなんだか怖いなあ」

勇者「俺だって嫌だよ。でもしょうがないだろ」

遊び人「じゃあ魔法使い君の代わりに僕が一緒に行くよ」

魔法使い「!?」

勇者「おま……なんでうちのクラスにいるんだよ」

遊び人「ルイーダ嬢にデートの申し入れにね」

魔法使い「……は?」

勇者「お前懲りないな。脈なしだってわかってるだろ」

遊び人「僕じゃないよ。兄貴とさ」

魔法使い「……は?」

遊び人「どうもあれからルイーダ嬢のことが気になっているらしいんだ」

魔法使い「なんだと……?」

勇者「へえ。あいつがルイーダを……意外な感じだな」

遊び人「でも兄貴は恋愛をしたことないからその感情がなんなのかわかっていない。僕が一肌脱いであげようと思って」

勇者「たしかに恋愛のイメージはないな」

遊び人「というわけなんだけどどうかな?」チラッ

ルイーダ「……」

勇者「お前いたのか!?」

ルイーダ「最初からいたわよ。あなたの後ろの席なんだから当たり前でしょ」

勇者「だったらなんか発しといてくれよ。お前の話なんだぞ」

ルイーダ「申し訳ないけど彼に特別な感情はないわ」

魔法使い「……」ニヤリ

遊び人「デートしてくれるだけでいい。なんなら振ってくれても構わない」

魔法使い「ええ?」

勇者「お前、振ってもいいって……まだ賢者のこと」

遊び人「誤解しないでよ。もうわだかまりはないよ」

魔法使い「だったらどうして?」

遊び人「兄貴に恋愛というものを経験させてあげたいんだ。恋愛には喜びも、当然挫折だって含まれる。兄貴は挫折なんかしたことないからその方がいいのかもしれない」

ルイーダ「……」

勇者「勝手だな。いくら身内でも首突っ込みすぎじゃないか?」

魔法使い「そ、そうだよ。そういうことは賢者君にも……」

ルイーダ「いいわ」

魔法使い「!?」

遊び人「本当かい?」

勇者「お前……」

ルイーダ「好きにしていいんでしょ?あとはどうなっても知らないわよ」

遊び人「ああ。ありがとう」

勇者「お前も悪趣味だな。わざわざ振りに行くのかよ」

ルイーダ「頼まれたから行くだけよ」

勇者「嫌なら断ればいいだろ」

ルイーダ「あなたには関係ない」

勇者「……」

遊び人「じゃあ早速兄貴にも伝えてくるよ」

勇者「おい、お前はこれから俺と勧誘に行くんだよ」

遊び人「あ、そうだったっけ」

勇者「お前から言い出したのに忘れるなよー」

ルイーダ「いいわ。私が直接お誘いに行く。日にちは私が決めるわ。それでいい?」

遊び人「悪いね。よろしく頼むよ」

魔法使い「……」

───2年教室

生徒「あの人なら……あれ?いないしー」

勇者「どこ行ったかわかります?」

生徒「さあ?休み時間はいつもいないし。部活もやってないっぽいからすぐ帰っちゃうしー」

勇者「そっか……でも部活やってないなら好都合だ。放課後また来よ……」

遊び人「はい。これ僕の連絡先です」スッ

生徒「やったー。放課後も来てくれるの?だったらそのまま遊びに行かない?」

遊び人「喜んで」ニコッ

勇者「……おい。NEW遊び人」

───放課後・2年教室

勇者「もう帰った?」

生徒「うん」

勇者「来るのが遅かったか。結構早めに来たと思ったのにな」

魔法使い「仕方ないよ。また今度来よう」

生徒「ねえねえ、遊び人君はー?」

勇者「あいつなら二度と来ません」

───部室

遊び人「ひどいじゃないか!僕を置いて行くなんて!」

勇者「うるせえ!お前は二度と連れて行かねえ!」

遊び人「そんな……ひどい」

魔法使い「これで土日に入るし勧誘はひとまず終わりだね」

勇者「ああ。でもグラウンド整備やるから明日も学校に来いよ」

戦士「き、休日なのに……?」

武闘家「お前は来なくていい」

戦士「え?」

武闘家「まともに動けるようになるまで部活に出なくてもいい。俺も監視は疲れる」

勇者「へえ。優しいじゃん」

武闘家「どうせ寺にいるなら一日中ぐうたらはできんからな」

戦士「……」

つづく

───土曜日・グラウンド

勇者「じゃあ今日中に終わらせるぞ」

武闘家「魔法使いはどうした?」

勇者「体調悪くて休むらしい。戦士もいないし今日は4人でやらなきゃな」

盗賊「面倒だからってサボりじゃねえのか」

武闘家「魔法使いは自分勝手な都合でサボる男ではない。俺の目に狂いはない」

遊び人「はあ……せっかくの休日にデートもできないなんて」

勇者「来ていきなり文句言うなよ」

遊び人「だってさ、今日は兄貴もデートだってのに」

勇者「え?ルイーダとのか?」

遊び人「うん。彼女が今日を指定してきたみたいなんだ」

勇者「昨日の今日じゃねえか。せっかちだな」

遊び人「これ終わったら様子見に行ってみない?」

勇者「やめとこうぜ。振られるのがわかってるんだし、さすがに野暮だわ」

武闘家「皆、そのまま作業しながら聞け」

勇者「ん?」

遊び人「急にどうしたの?」

武闘家「頭は動かさず、目だけで校舎側を見ろ」

盗賊「なんだよ……」チラッ



僧侶「……」



勇者「あ、あれは……!」

遊び人「誰だい?」

武闘家「僧侶だ。どうやら気になって休日だというのにわざわざ見学に来たようだ」

勇者「マジか。正直お前の作戦期待していなかったんだけどな」

武闘家「ふっ、言っていろ。この後入部したいと言いに来る。自然に接しろ」

盗賊「そんなうまく……」

僧侶「おい」

勇者「本当に来た!?」

武闘家「おやおや?どうしたんだ僧侶。俺たちに何か大切な用か?」

勇者「お、俺たち草取りで忙しいんだけどなー」

僧侶「戦士はいないか……」

武闘家「やつなら寺だろう。それより俺たちに何か言いたいことがあるのではないか?さあ言ってみろ。にゅ?にゅ?」

僧侶「戦士が脱走した」

武闘家「……は?」

僧侶「野球部にいると思ったが来てないのか」

武闘家「やつめ……俺の計画が」

勇者「まああいつなら逃げるって考えられそうなもんだけどな」

武闘家「勿論その可能性も考慮した。俺も昔、精神鍛練が耐えられず脱走を試みたことがある。だが坊主どもの厳重な見張りから逃れることはできなかった」

盗賊「牢獄かよ」

武闘家「それをあの戦士が……」

僧侶「わはは。すまん油断していた。どうやら綿密に脱出経路を練っていたらしい」

勇者「楽するためにそんな執念見せるなよ……」

僧侶「ここにいないとなると実家か。一応預かった身としては所在は確かめねば」

勇者「わざわざ悪かったな。あいつは俺たちが探すよ」

───部室

勇者「ん?開いてる。中に誰か……」ガチャ

戦士「やあ」

勇者「戦士!?」

武闘家「お前……何をしている」

戦士「野球部なんだから部室にいてもいいでしょ」

勇者「今からお前んちに行こうとしてたんだよ」

戦士「うちに?なんで?」

僧侶「お前が脱走したことを伝えたからだ」

戦士「ひっ!」

ドタドタドタ

サッ

盗賊「……俺の後ろに隠れるな。全然隠れられてねえぞ」

勇者「そんな動きができたのか……」

戦士「お、俺を連れ戻しに来たの!?」

僧侶「いや、勝手にいなくなるから心配しただけだ」

戦士「え?」

僧侶「寺が嫌なら別に俺は引き止めはしないよ」

戦士「ほんとお?」ヒョコ

僧侶「ああ。その旨親父に伝えておく」

戦士「よかったあ」

武闘家「よくない!俺がどんな思いでお前を預けたと思っている!」

戦士「もう嫌だよあんなとこ!ご飯は少ないし修行という名の雑用は厳しいし!」

武闘家「いいから戻れ。お前のためだ」

戦士「やだ!絶対戻らない!」プイッ

勇者「もういいんじゃないか。あの戦士がここまでやるなんて思わなかったし、努力を認めてやろうぜ」

武闘家「しかし……!」

僧侶「では俺は帰るよ」

武闘家「ま、待て」

僧侶「次からは正々堂々と誘いに来い」

武闘家「!?」

僧侶「わはは。お前の考えなんてお見通しだよ。何年の付き合いだと思っている」

武闘家「……」

勇者「じゃあ野球部に入ってくれ」

僧侶「わはは。考えておく。では邪魔したな」ガチャ

バタン

武闘家「……」

盗賊「お前の浅い考え程度お見通しだとよ」ニヤ

武闘家「くっ……」

戦士「考えってなあに?」

勇者「なんでもねえよ。お前を生け贄にして僧侶を引き入れようとしただけだ」

戦士「!?」

勇者「でも考えておくって。前とは明らかに反応が違ったぜ」

遊び人「ポジティブに捉えていいんじゃないかな。ツキはこちらに傾いている気がする」

勇者「そういやお前、なんで部室にいたんだ?家にいると思ったのに」

戦士「不本意だけど俺が自立するってなったとき、親は快く送り出してくれたんだ……期待を裏切りたくないモン」

遊び人「か、可愛くない……」

戦士「だからさ、俺は寺にいるってことにしておいて誰か泊めてくれない?」

盗賊「早速裏切ってんじゃねえか」

戦士「バレなきゃいいんだよ。ね、誰か」

勇者「じゃあ責任とって武闘家」

武闘家「なに?」

戦士「不束者ですがよろしくね」

武闘家「勝手に決めるな。俺は一人暮らしだ。部屋は狭くお前が入れる余地はない」

戦士「じゃあ……」チラッ

遊び人「僕は兄貴と祖父母の家に無理矢理転がり込んだんだ。これ以上迷惑かけたくないし君を養う余裕はないよ」

盗賊「俺は一匹狼。他人と暮らすなんて考えたくもない」

戦士「そんなあー」

勇者「仕方ないな。ならうち来いよ」

戦士「いいの?」

勇者「でもずっといられたら困るぞ。行く当てが見つからなかったら大人しく家に帰れよ」

戦士「うう……」

つづく

───グラウンド

勇者「おし。大分綺麗になったな」

武闘家「思ったより早く終わったな。昼は過ぎたが」

勇者「ああ。あとはローラーをかけ終われば」

遊び人「労力がのこのこ来てくれてラッキーだったね」

戦士「ひぃー、ひぃー、なんで俺だけ力仕事なの」ゴロゴロ

武闘家「お前が草取りや石拾いなどしても足腰を壊すだけ。必然だ」

戦士「終わったー」バタン

勇者「おうご苦労さん。やっぱ力だけはあるんだよな」

戦士「お腹すいたー。ご飯食べ行こうよ」

勇者「そうだな。皆で昼飯に行くか」

武闘家「食い過ぎないよう俺が見張ってやる」

遊び人「男だけで食事か……早くマネージャーも募集しようよ」

盗賊「俺は一匹狼だがたまには付き合ってやるか」

勇者「嬉しそうだなお前」

───某飲食店

ルイーダ「……」

賢者「……」

ルイーダ「……何か言うことはないの?」

賢者「ん……どうしてこんなことになっているのかな」

ルイーダ「迷惑だったかしら?」

賢者「そんなことないよ」

ルイーダ「そう」

賢者「ん……」

ルイーダ「……」

賢者「……」

ルイーダ「つまらないかしら?」

賢者「いや楽しいよ。こういうことは初めてで」

ルイーダ「なら良かったわ」

賢者「ん……」

ルイーダ「……私も良かったと思っている」

賢者「……」

ルイーダ「こんなつもりじゃなかったけど、あなたにはずっと一緒にいてほしくなっちゃった」




コソコソ

?「なんてこった……」

───

勇者「ふう、食った食った」

遊び人「たまには男だけのご飯もいいね。たまにはでいいけど」

盗賊「ふん。俺はもうごめんだ。飯は一人に限る」

勇者「嘘つけ。初めてのドリンクバー何度も嬉しそうに取りに行きやがって」

遊び人「得意気にブレンドジュース作って見せびらかしていたよね。一人であんな恥ずかしいことできるの?」

盗賊「……ちっ」

戦士「お腹すいたー」

勇者「お爺ちゃん、お昼食べたばっかりですよ」

ハハハ

武闘家「……」

勇者「どうしたんだ?さっきから静かだな」

武闘家「いや、飲食店で何かイベントが起こる気がしたのだが……気のせいだったか」

勇者「そんなホイホイ何かあってたまるかよ」

武闘家「それもそうだ」

勇者「じゃあ今日はこれで解散……おい」

遊び人「どうしたの?」

勇者「……あれ見ろ」

遊び人「あれ?」チラッ

武闘家「!?」

盗賊「あ、あれは……」

戦士「そんな……」

勇者「スポーツショップだ」

遊び人「そうだね。なんの変哲もないスポーツショップだね」

戦士「あのスポーツショップがどうしたの?」

勇者「お前らグローブないんだろ。ちょっと見ていかないか」

盗賊「マントマスクが用意してんじゃないのか」

勇者「だって相変わらずロッカーは開かないし、あんまり期待しすぎんのもな」

武闘家「たしかにグローブやスパイクなどは、各々のサイズやポジションに合ったものがすでに用意されているとは考えにくい」

遊び人「そもそもポジション決まってもないしね」

勇者「こればっかりは自分で用意しなくちゃいけないぜ」

戦士「でもお金ないよ。俺なんて家出ちゃったし」

遊び人「僕はお金はデート代につぎ込んじゃうから」

武闘家「俺も助っ人稼業を休止してからは……」

勇者「放課後の練習の時間削ってアルバイトでもするか」

盗賊「2週間後には試合だ。そんな余裕ねえだろ」

武闘家「では練習終わりの夜間になるか」

遊び人「うちの学校、夜のアルバイトは禁止のはずだよ」

戦士「どうしようもないね」

勇者「……やっぱマントマスク先生に懸けるしかないのか」

───勇者の家

勇者「ただいまー」

戦士「お邪魔しまーす」

母「おかえりなさい勇者」

勇者「母さん、少しの間こいつ泊めていい?」

母「ええ。疲れたでしょ?お友達もご一緒に、ゆっくり休むのですよ」

戦士「普通に違和感なく歓迎されたね」

勇者「うちはいつもあんな感じだ」

戦士「夕飯まだかなあ」

勇者「遠慮しろよ。それから夕飯前にやることあるだろ」

戦士「お風呂?やったあ」

勇者「素振り。俺の銅のバット貸してやるからお前もやれよ」

戦士「ええ……帰ってきてまでやるの?」

勇者「当たり前だろ。お前は初日だし……300回くらいでいいか」

戦士「それで優しさ見せたつもり!?」

勇者「俺の家にいる限り毎日だぞ」

戦士「やれやれ……面倒な家に来ちゃったな」

勇者「人んちを面倒とか言うな」

戦士「しかも初日だからってことはこれから増えるのか……」

勇者「スイング見てやるからさっさとやれよ」

戦士「はいはい……」グッ

勇者「お、銅のバットなかなか様になってるじゃん。新しいバット買ったらお下がりであげようか」

戦士「えい……って滑った!」ブルン

勇者「おま───」

ガシャーン

つづく

───日曜日・部室

武闘家「近くに物がある場所でこいつに素振りさせる方が悪い」

戦士「そうだよ。嫌がる俺に無理矢理自分のバットを握らせて……」

勇者「でもまさか一回もできないなんて、たまげたよなあ」

盗賊「こいつものすごく危険なんじゃねえのか」

勇者「ともかくガラス代は弁償な」

戦士「トホホ……」

ガチャ

遊び人「大変だよ!」

勇者「なんだよ朝から騒がしいな」

遊び人「あ、兄貴が朝帰りしてきた……」

勇者「なに!?」

遊び人「ルイーダ嬢とずっと一緒だったらしい……」

盗賊「ヒュー。やるじゃねえの」

勇者「あいつ振るつもりで行ったんじゃなかったのか?」

遊び人「朝帰りなんて僕もしたことないのに、これも兄貴に先を行かれるなんて……」

勇者「なんか帰れない事情があっただけかもしれないだろ」

遊び人「でも今日もデート行くんだってよ」

戦士「完全に付き合ってるね、それ」

勇者「……」

武闘家「……勇者」

勇者「ああ、俺も多分同じことがよぎった」

武闘家「やはりそういう女だったということだ」

遊び人「なに?そういう女って」

勇者「まだ賢者に対して本気かどうかもわからない。迂闊なことは言えねえよ」

遊び人「なんだよー。気になるよ」

勇者「ともかくこのことは魔法使いには言うな。あいつルイーダにホの字なんだ」

盗賊「ああいうタイプはキレたら何仕出かすかわかんねえもんな」

ガチャ

魔法使い「おはよ……」

勇者「!?」

遊び人「なんてタイミング……」

勇者「た、体調はもういいのか?」

魔法使い「う、うん。心配かけてゴメン」

武闘家「あまり無理するな」

魔法使い「だ、大丈夫。身体を動かしたい気分だから……あれ?戦士君?お寺の修行はいいの?」

戦士「えっと……」

魔法使い「……逃げてきたんだ?」

戦士「なんでわかったの!?」

僧侶「そりゃわかるだろう」

戦士「え?」

僧侶「邪魔をする」スッ

勇者「僧侶!?」

武闘家「お前……何しに来た?」

僧侶「入部したい。野球部に入れてくれ」

勇者「え……」

魔法使い「え?え?なんで?何があったの?」

武闘家「どういう魂胆だ?」

僧侶「脱走した戦士を見て思った。ああ、俺もこうすればよかったのだな、と」

戦士「え?俺?」

僧侶「野球への未練は残ったままだった。それを親父に伝えた。しかし答えは変わらなかった。そこで強行手段に出たというわけだ」

武闘家「家を出たのか?」

僧侶「そうするしかなかったからな」

勇者「おいおい。気持ちは嬉しいけど、お前の人生まで背負えないぜ俺たち」

僧侶「わはは。どうにでもなるだろう。勘当されたわけでも破門されたわけでもない。ただの家出だ」

魔法使い「だからって……」

盗賊「なんか……お前の思惑とは大分違うが、うまくいったみたいだな」

武闘家「……」

僧侶「それにこれは外を見るいい機会でもある。俺はこれまでずっと寺を継ぐものだと思っていた。それしか選択肢のない狭い世界にいたんだ」

魔法使い「え?他の選択肢も考えているの?」

僧侶「わはは。面白いではないか。一度の人生を楽しむこと。見聞を広げることで悟りの道も開けるというものだ」

勇者「結局寺での道を一番に考えてんじゃねえか。やっぱり坊主が天職に見えるぜ」

僧侶「わはは。というわけで行くところがない。誰か居候させてくれ」

勇者「お前もか……」

───グラウンド

勇者「始めて練習ができるな」

僧侶「練習メニューは決まっているのか?」

勇者「道具がボール数個とバットと俺のグローブしかないから、今日はそれ回しながら使ってノックだな」

僧侶「試合が近いのだろう?ただのノックでもポジションごとの練習ができれば効率がいい。お前たちポジションは?」

勇者「俺はピッチャー」

武闘家「俺もピッチャーで構わない」

魔法使い「僕はキャッチャーしかやったことないけどできれば他を……」

盗賊「俺は左利きだから外野かファーストしかできない」

遊び人「僕も外野がいい」

戦士「俺は動かなくていいならどこでも」

勇者「とまあ、まだこんな状況なんだ」

僧侶「ふむ。では近い試合までのとりあえずのポジションということになるが、俺がノックをして決めてみよう」

盗賊「新入りなのに偉そうだな」

武闘家「まあやつに任せておけば間違いはない」

勇者「そんなにすごいのか?」

武闘家「守備に関しては右に出る者はいない。チームを守る、守りのエキスパートだ」

つづく

───

魔法使い「はあ、はあ。初めて野球部らしいことしたね」

勇者「ああ。これで大体決まったのか?」

僧侶「うむ。ピッチャーは勇者でいいだろう」

勇者「おう」

僧侶「武闘家はショート兼リリーフ」

武闘家「先発と間違えているぞ」

僧侶「お前は瞬発力も肩もある。守備の要なのだが……無理なら勇者に代わってもらうか」

武闘家「なんだと?守備の要の俺がショートくらいできるに決まっている!」

勇者(幼馴染みだな。扱い方がよくわかっている)

魔法使い「肩強いなら武闘家君がキャッチャーでもいいんじゃない?」

僧侶「キャッチャーはお前だ」

魔法使い「ええ!?無理だよ」

僧侶「今のところはこれがベストだ。ナジミ戦までは頑張ってくれ」

魔法使い「そんな……」

僧侶「相手は素人なのだろう?盗塁はさほど警戒しなくていい。それより捕球とリードは慣れた者でないと難しい」

魔法使い「でも経験があるといっても随分昔だし……」

勇者「心配するなって。俺が完全試合やってやるから」

魔法使い「どの口が言ってんの!?」

僧侶「センター盗賊」

勇者「足があるからな。素早さがあれば守備力も上がるし」

盗賊「ふん」

僧侶「ライト戦士」

武闘家「無理だ」

戦士「否定早すぎい!」

僧侶「素人なら外野まで飛んでくる機会はそれほどない」

勇者「なるほど。もしライト寄りに飛んできたとしても盗賊にカバーさせりゃいいもんな」

盗賊「!?」

僧侶「そのためのセンター盗賊だ。負担はかかるが頼むぞ」

盗賊「ちっ……」

僧侶「サード遊び人」

遊び人「ええ!?」

僧侶「そしてセカンドが俺。後から入ってくる者がどんな選手かわからないから後に変えるかもしれんが、とりあえずはこれでいこうと思う」

勇者「うん。いいんじゃないか」

遊び人「よくないよ!外野がいいって言ったじゃないか!」

僧侶「お前外野の経験は?」

遊び人「ないけど……」

勇者「え?じゃあなんで?」

遊び人「言ったろ。NEW遊び人として心機一転さ。昔の自分に決別して新しい気持ちで野球に取り組みたいんだ」

盗賊「試合には絶対勝たなきゃなんねえんだよ。そんな気持ちは後回しにしろよ」

勇者「いくら盗賊でも外野全部はカバーしきれないぞ」

僧侶「繰り返すがとりあえずのポジションだ。外野がいいならナジミ戦の後練習してくれ」

遊び人「はあ……仕方ない。わかったよ」

───勇者の家

勇者「ただいま」

戦士「今日もお邪魔しまーす」

僧侶「失礼する。うむ、趣があっていい家だ」

母「おかえりなさい勇者。疲れたでしょ。お友達もご一緒に、ゆっくり休むのですよ」

僧侶「普通に歓迎されたな。これならしばらく居ても問題ないか」

戦士「だね」

勇者「お前らなあ。ずっと居座る気じゃないだろうな」

僧侶「わはは。冗談だ」

僧侶(かといって行く当てもない……住み込みのバイトでも探すか)

戦士(行く当てなんてない……なんとかずっと居座る方法を考えなきゃ)

勇者「ふざけるなよ戦士」

戦士「なんで俺の考えてることわかったの!?」

つづく

───次の日・1年青組

勇者「やれやれ。居候が二人もいたんじゃやりたいこともままならねえぜ」

ルイーダ「男の子は大変ね」スッ

勇者「お前……」

ルイーダ「あら失礼。野暮だったわ」

勇者「お前、賢者と付き合うのか?」

ルイーダ「あなたも大概に野暮ね」

勇者「賢者には興味ないみたいなこと言ってたのにな」

ルイーダ「関係ないでしょ」

勇者「……」

───部室

遊び人「……兄貴が家を出ていった」

勇者「なに?」

遊び人「昨晩デートから帰ってきたらすぐ荷物をまとめて……ルイーダ嬢と一緒に暮らすらしい」

勇者「一緒にって、ルイーダの家族もか?」

遊び人「そんな状況あるわけないだろ。同棲だよ」

魔法使い「……」

勇者「あいつ一人暮らししてんのか?それとも二人でどこか部屋を借りて……?」

遊び人「知らないよ。兄貴そのことは黙秘してんだもん」

盗賊「浸りたいんだろ。もう放っておけよ」

遊び人「でも兄貴が心配だよ。いきなり同棲なんて……ルイーダ嬢もそこまで積極的な女の子だと思わなかったし」

武闘家「あのような場所で働いている女だ。貞操観念もさほどないのだろう」

魔法使い「違う……ルイーダさんはそんな女の子じゃない」

勇者「あ、魔法使いの前で話すなよ!」

遊び人「ゴメン。忘れてた」

勇者「えっと……これはだな」

魔法使い「いいよ気を遣ってくれなくても。ルイーダさんは君らが思っているような人じゃないから……」

武闘家「信じたくない気持ちはわかるが、世の中には己の力だけではどうしようもないことがある」

魔法使い「違うんだ」

勇者「何がだよ」

魔法使い「実は僕あの日、ルイーダさんと賢者君がデート……とにかく現場を見ちゃったんだ」

勇者「具合悪いって嘘だったのか?」

魔法使い「ゴメン。ルイーダさんが賢者君と約束したところを偶然聞いちゃって、いてもたってもいられなくなって……」

勇者(絶対)

遊び人(間違いなく)

盗賊(偶然じゃ)

武闘家(あるまい)

つづく

───街中

魔法使い「こっちだよ」

武闘家「ここは……」

勇者「俺たちがルイーダを尾行して見失った場所じゃんか」

戦士「ええ……こんなとこ来たの?」

僧侶「煩悩が溜まった……よくない雰囲気の店ばかりだな」

盗賊「聞いたことがある。夜の街、『いざない通り』だ。な、なかなか楽しそうな場所だ」ドキドキ

遊び人「い、誘われる……」スー

武闘家「一度入ったら多額の金をむしり取られるぞ」

遊び人「ひっ、危ない」

勇者「やっぱこの辺りで働いてんのかあいつ」

魔法使い「もうちょっと行った街はずれにルイーダさんの家がある」

勇者「え?」

魔法使い「ここってルイーダさんの通学路なんだ。エッチなお店で働いているわけじゃないんだよ」

勇者「なんだ……そうだったのか」

───街はずれ

戦士「ちょっと離れただけで閑散としたとこになっちゃったね」

僧侶「静かな方が落ち着けていいが」

魔法使い「あれだよ。あの小さいビル」

勇者「あれがルイーダの家?」

魔法使い「一階のお店の看板見て」

勇者「看板……?」

遊び人「あ、あれは……!」

武闘家「『ルイーダの居酒屋』だと?」

盗賊「まんまのネーミングじゃねえか」

戦士「わかりやすいね」

勇者「居酒屋を経営していたのか」

魔法使い「そう。一人でね」

勇者「なに?」

魔法使い「賢者君、あそこでバイトしているんだ」

遊び人「え?」

魔法使い「従業員がいなくて困っていたみたい。それで一昨日からお店を手伝うことになったんだ」

勇者「はあ?」

武闘家「なるほど。デートをうまく利用したものだ」

遊び人「せっかく僕がお膳立てしたデートを……でも結果同棲することになったようだけど」

魔法使い「それもちょっと違うみたい。賢者君はルイーダさんが好きとかじゃなくて、ルイーダさんっていう人間に興味を持ったみたい」

遊び人「そうなの?兄貴らしいっちゃらしいけど、じゃあ家を出たのは……」

魔法使い「住み込みだよ。ルイーダさんも最初は一日だけ手伝ってもらうつもりだったけど、賢者君優しいから事情を聞いて力になりたかったんじゃないかな」

遊び人「そうだったのか……」

魔法使い「あのビルの上が従業員用の部屋なんだ」

僧侶「窓の数から察するに、部屋の数は多そうだ」

盗賊「でも夜のバイトは禁止されているんだろ?いいのかよ」

魔法使い「これは友達の店を手伝っているだけだし、いいんじゃないかな」

武闘家「下宿先の店の手伝いという理由付けでも通るかもしれん」

勇者「それよりあいつ一人ってどういうことだよ。親は協力してくれないのか?」

魔法使い「ご両親は亡くされていたみたい」

勇者「え……」

僧侶「そうだったか。冥福を祈ろう」

魔法使い「ご両親がいた頃から働いていたルイーダさんも信頼していた人が最近辞めちゃって、経営が難しくなったみたい。でもルイーダさんは店を畳もうとしなかった」

勇者「なんだよそれ……無茶だろ。高校生が居酒屋経営なんて」

武闘家「すごいな……」

魔法使い「うん。知らないところでルイーダさんはこんなに頑張っていたんだ」

武闘家「いやお前がだ。よくそんなに調べたな。気持ち悪い」

魔法使い「!?」

僧侶「住み込みで金が稼げるか。なるほど」

戦士「どうしたの?」

僧侶「面白そうだ。入ってみようぞ」

つづく

───店内

ガラッ

商人「ルイーダちゃん、来たよ!」

ルイーダ「また来たの?ここはあなたが来るような店じゃないのに」

商人「俺はルイーダちゃんの金づるだよ。一番売上に貢献してんだからいいじゃん!」

ルイーダ「はいはい。で、ご注文は?いつもの?」

商人「うん!一番高いメニューフルコースで!」

ルイーダ「じゃあ賢者君、お願いね」

賢者「ん……」

商人「あれ?ルイーダちゃんが作ってくれないの!?」

ルイーダ「私は色々忙しいの。それに彼が作った方が美味しいわよ」

商人「味なんてどうでもいいんだよ!ルイーダちゃんが作ってくれなきゃひっくり返してやる!」

戦士「じゃ、じゃあひっくり返したやつ俺がもらっていい?」

商人「!?」

僧侶「食事を粗末にするとは感心せんな」

商人「誰!?」

ルイーダ「あなたたち……」

勇者「よっ」

ルイーダ「……なんの用?」

勇者「ふらっと飲食店に立ち寄っちゃ悪いのか?」

ルイーダ「誰の差し金かしら?」

賢者「僕は誰にも言っていない」

魔法使い「ゴメン。一昨日たまたまここでルイーダさんが賢者君に料理教えているのを目撃しちゃって……本当偶然」

ルイーダ「……はあ」

勇者(その嘘絶対バレているがここで言わないのが粋ってもんだぜ)

遊び人「そういうことだったんだね」

賢者「ん……」

遊び人「すっかり騙された。見損なうところだったよ」

賢者「黙っていてゴメン」

遊び人「いや、やっぱり兄貴には敵わないよ」

勇者「隠すことないのに。恥ずかしかったのか?」

ルイーダ「関係ないでしょ。私は忙しいから注文なら賢者君にして」

僧侶「待ってくれ。その前に俺の頼みを聞いてほしい」

ルイーダ「何かしら?1年紫組の僧侶さん」

僧侶「噂通りの女子か。面白い。実は俺と戦士は家を出てしまってな。行くところがないのだ」

武闘家「お前……まさか」

僧侶「ここは住み込みで働けると聞いた。俺たちを雇ってほしい。後生だ」バッ

戦士「え……俺も?てか土下座?俺もしなくちゃだよね……お願いします」ノソッ

ルイーダ「……」

商人「貧乏人は大変だねえ。冷めちゃった。帰ろ」

勇者「お前さ、なんでルイーダに構うんだ?お前なら女に不自由しないだろ」

商人「だってルイーダちゃんいくらお金積んでも落ちないんだもん。攻略したいじゃん」

勇者「そんな浅い理由かよ……」

遊び人「わかるよ。そういう女性を落とすのがたまらなく興奮する」

商人「でしょ?ユー話わかるしイケメンだしうちの事務所来ない?」

遊び人「なんだい事務所って?」

商人「今度うちのイベントやるからユーも参加しちゃいなよ」

遊び人「女の子いるの?」

商人「勿論だよ。あ、ルイーダちゃんはお客として来ちゃいなよ。フリーパスあげるからね」ピラッ

勇者「ここに変な絆が……」

武闘家「モテる男の恋愛というやつらしいな……わからない」

魔法使い「世の中ね、顔かお金かなのよ」

僧侶「商人という男は帰ったようだ」ヒソヒソ

戦士「……俺たちこの間ずっと土下座してんだけど、いつまでやっていればいいの?」ヒソヒソ

僧侶「無論、了承してくれるまでだ」ヒソヒソ

ルイーダ「いいわよ」

僧侶「本当か!」

戦士「やったあ」

ルイーダ「ただしお客がいないとお給料は払えない。見ての通りそんなに期待できないわ」

僧侶「構わん。寝床が与えられれば十分だ」

戦士「部屋代はいいの?」

ルイーダ「ええ」

武闘家「勿体ないな。テナント募集して貸し出せばいいと思うが」

戦士「余計なこと言わないで!」

ルイーダ「こんな物件じゃ誰も寄って来ないわ」

戦士「ほっ……」

勇者「良かったな。戦士にはあまり食わせないでくれよ」

戦士「ま、まかないは出るのかな?」

ルイーダ「全員同じ量しか出さない。つまみ食いしたらお給料から差し引くわ」

戦士「!?」

勇者「なんで驚いてんだよ。ってかお前料理も散々だったし物運ぶのすら怪しいし、ちゃんと仕事できんのか?」

戦士「……」

ルイーダ「彼に合った仕事を与えるわ」

勇者「戦士に合った仕事?どんな?」

ルイーダ「申し訳ありませんが詳細は従業員以外の方にお教えできません」

勇者「なんだよ。別にいいや。関係ねーし」

つづく

魔法使い「じゃあせっかくだし食べていかない?」

戦士「賛成!」

僧侶「戦士、俺たちは従業員だ。もう客という扱いを受けるわけにはいかん」

戦士「そんな……」

ルイーダ「いいわ。今日のところはあなたたちもお客として還元して」

戦士「いいの!?」

ルイーダ「ええ。まず見て仕事を覚えて」

戦士「やったあ!」

僧侶「ふむ。それも大事な仕事か。ではお言葉に甘えるとしよう」

盗賊「俺は黙っていると見せかけてずっとメニューを観察していた。かなりバラエティに富んだ品々だ。定食屋としてもお洒落なカフェレストランとしても通用しそうなほどだ」

魔法使い「わ……すごい。お酒は飲めないしありがたいね」

勇者「えっ、本当にこの中からどれ選んでもいいのか?」

武闘家「ああ、どんどん頼め」

盗賊「ドリンクバーもあるぞ!」

戦士「カツ丼とコロッケとサンマと焼きそばと回鍋肉とラーメン」

盗賊「おい、勝手に俺たちのも注文すんな」

勇者「……一人分だろ?」

戦士「……うん」

武闘家「ふざけるな。量もそうだが油と塩分、炭水化物が多すぎる」

戦士「でも今日くらい……」

武闘家「まともに動けるようになってから言え。お前の分は俺が決める」

戦士「!?」

勇者「じゃあ俺今頼んだカツ丼でいいや」

遊び人「ラーメンは僕がもらうよ」

僧侶「では俺はサンマを定食で」

勇者「坊主が生臭食っていいのかよ」

僧侶「わはは。今どきそんな坊主は稀だぞ」

遊び人「あ、やっぱりラーメンやめて僕ツケメン」

盗賊「なら俺がラーメン。豚骨醤油だ」

武闘家「では俺は焼きそば。それからコロッケ定食も」

戦士「自分炭水化物ばっかやん……当てつけやんけ」

盗賊「やっぱり味噌にする」

勇者「俺のカツ丼大盛りなー」

魔法使い「僕は回鍋肉定食で。ピーマン抜いてほしいな。あとサラダも皆で食べようよ。シーザーとトマトでいい?」

遊び人「トマト苦手なんだ。バーニャカウダにしよう」

勇者「揚げ物も皆で一個頼むか。唐揚げとエビフライどっちにする?」

盗賊「エビフライだろうよ」

僧侶「やはりホッケにする。法華だけにな。わはは」

戦士「俺は……」

武闘家「サラダチキンだ」

戦士「!?」

武闘家「ソースなしでな」

戦士「!?」

盗賊「ドリンクバーも頼むよな!」

武闘家「戦士はプーアル茶だけでいい」

戦士「!?」

魔法使い「ちょっと待って。一気に頼みすぎだよ!賢者君メモすらとれてないから!」

賢者「カツ丼大盛りと……」

魔法使い「え?」

賢者「つけ麺と味噌ラーメンとホッケ定食と焼きそばとコロッケ定食と回鍋肉定食ピーマン抜きとサラダチキンソース抜きとシーザーサラダとバーニャカウダとエビフライとドリンクバー6つとプーアル茶でいい?」

魔法使い「!?」

勇者「お、おう……」

盗賊「嘘だろ……覚えたのかよ」

武闘家「あのわかりにくくした注文を……」

僧侶「天才の片鱗を見た……というか一人で全部やるのか?」

───

勇者「しかも早くてうまい!」ガツガツ

武闘家「動きに全く無駄がなかった」

僧侶「キッチンとホールの二刀流で……これは3、4人分の仕事だぞ」

盗賊「しかも働き始めたの一昨日からだろ。この三日間で全部のレシピまで覚えたってのか」

遊び人「これが兄貴なんだよ……」

魔法使い「やっぱり賢者君すごすぎるよ……」

ルイーダ「ご苦労様」

賢者「ん……」

ルイーダ「あなたたちはどれくらいできるのか楽しみにしているわ」

僧侶「わはは……なんというハードルだ」

戦士「……」パクパク

ルイーダ「冗談よ。彼が特別なんだってわかっている」

賢者「……」

ルイーダ「料理の知識はほとんどないのに一昨日一晩かけて全部覚えてくれた。そんなことできる人他にいないわ」

魔法使い「ひ、一晩で!?」

ルイーダ「あなたがいてくれて本当に良かったわ。ありがとう」

賢者「ん……」

魔法使い「……」

盗賊「……おい、あの二人本当にいい感じなんじゃねえのか」

僧侶「互いの空気も違和感がない。お似合いとはこういうことをいうのかな」

戦士「美男美女で絵にもなるよね」

魔法使い「ルイーダさん!僕もここで働かせてくれない!?」

勇者「なに?」

ルイーダ「……」

魔法使い「君のお手伝いを僕にもさせてほしいんだ!」

遊び人「面白そうだ。だったら僕もお願いしようかな」

勇者「え?」

遊び人「兄貴は僕のお目付け役だろ。一緒にいてくれなきゃ」

賢者「……」

武闘家「夜働ける機会は他にあるまい。俺も頼む」

勇者「お前ら……」

ルイーダ「わかっていると思うけどお給料は」

魔法使い「僕はお金なんかいらないよ!」

武闘家「部屋代や食費がかからないならそれだけでプラスになる」

遊び人「なんなら僕がお客さんをキャッチしてきてもいいよ」

ルイーダ「……わかったわ。採用する」

武闘家「恩に着る」

遊び人「よろしくね」

魔法使い「……」ニヤリ

賢者「……」

ルイーダ「あなたたちはどうする?まだ部屋は空いているけど」

勇者「なんで俺に聞くんだよ。俺は家があるし金にも別に困ってねえよ」

盗賊「俺は一匹狼。他人と共同生活などあり得ない」

ルイーダ「そう」

戦士「皆一緒かあ。なんか楽しくなりそうだね」

僧侶「わはは。そうだな。寺にいてはこんな経験はできなかった」

勇者「……」

───帰り道

勇者「なんだよあいつら。給料少ないのにどこがいいんだよ」

盗賊「……」

勇者「楽しいだけでやっていけるほど社会は甘くないんだ。多分な」

盗賊「……」

勇者「お前だけだよまともなのは。どうだ?これからうちに来て一緒に素振りでもやらないか?」

盗賊「……やっぱり」

勇者「ん?」

盗賊「やっぱり俺もあそこで働くー!」タッタッタッ

勇者「あ、おい……」

勇者「……」

勇者「いい加減一匹狼キャラ無理があるだろあいつ……」

つづく

───勇者の部屋

勇者「あー、快適快適」

勇者「家が広くなって清々するぜ」

勇者「居候もいなくなったし部屋は俺一人」

勇者「やっとできる……」ゴソゴソ

勇者「三日分も溜まっちまった。早く早く」ゴソゴソ

勇者「本棚に隠しておいたけど見つからなくてよかった」ゴソゴソ

勇者「あったあった。うへへ」ガシッ

勇者「今日は……このページ」ペラッ

勇者「やっと……」

勇者「やっと日記が書ける」

一日目

いよいよ高校の入学式。(と俺の誕生日)
野球ができると意気込んだものの、野球部が消滅したと校長に告げられる。
何を思ったのか野球部を復活させろと、ひのきのバットと布の練習着と五千円寄越して丸投げする始末。
クラスメイトで情報通(守銭奴)のルイーダと出合い、野球経験者の情報をもらう。
1年生に7人、2年生に1人。俺を入れてちょうど9人。絶対全員仲間にしてやる!
ルイーダは役に立ちそうだしいつかマネージャーにしよう。
早速クラスメイトで経験者の魔法使いと武闘家(勝負して俺が勝った)を仲間にした。
順調だ。明日も頑張ろう。



二日目

ルイーダから経験者の誰かが昼休み屋上にいると聞かされた。
誰か気になるけど朝飯が奪われそうになったから聞かなかった。行けばわかるだろう。
クラスメイトにもう一人盗賊とかいう経験者がいるらしい。でも不良みたいだし無理して入れる必要ないかな。
経験者のめっちゃでかい戦士を仲間にしようとしたけど役に立たなそうだからやめた。
同じく経験者の商人はウザいからやめた。親がショニーズとかいう芸能事務所の社長で金持ちらしい。向こうから断ってきたし好都合だ。バーカ。
商人の話からルイーダが気になり、帰り道後をつけた。やばい店に通っているみたいだった。
マネージャーにするならいつか辞めさせないとな。
今日はなんの成果もなかった。部員集めは思ったより大変だ。

三日目

尾行がバレていて昼飯奢らされた。
その間に魔法使いと武闘家が盗賊を仲間にした。バコタとかいう盗賊の先輩が喫煙で停学処分になった。(どうでもいい)
放課後、調理室で戦士が暴れていた。野球経験者の遊び人が止めてくれた。イケメンでいい奴っぽい。明日勧誘しよう。
とりあえず戦士を仲間にして野球部ができた(俺が部長!)
謎のマントマスク先生とかいう人が顧問らしい。姿を見せない恥ずかしがり屋のようだ(字は可愛い)

※追記 この日武闘家がバコタに盗賊を野球部で預かると言いに行ったらしい。義理としてか無理矢理入部させた罪悪感からかはわからない。



四日目

遊び人を追っていたらそっくりの賢者と出会う。遊び人とは双子で魔法使いに言わせると全国一の天才とのこと。
(ちなみに魔法使いも頭が良さそうだったが地方でもそれなりに上の学力らしい。俺と同じ普通科にいるしそれほど大したことはないんだな。賢者のいる銀組は地方でトップレベルの学力。でも全国一の天才が本来いるレベルではないから勿体ない)
謎のマントマスク先生からプレゼントをもらう。
はずだったがロッカーの鍵が開かずに断念。
盗賊が帰ったから3人でグラウンド整備をした。戦士はずっと走っていた。

五日目

野球道具欲しさに商人をもう一度仲間にしようとしたが失敗。二度と誘わない。
盗賊が部活を辞めると言い出した。武闘家が戦士を連れて説得しに行った。
そこでバコタのピッキングツールを取り返すとかいうよくわからない理由でナジミ高校と試合が決まった(嬉)。
遊び人を仲間にした。暗い過去話をしていたが俺にはどうでもよかった。
勝負して俺が勝った。それだけのことだ。(遊び人に変装した賢者には完敗だった)
武闘家がダイエット目的で戦士を寺に預けた。頑張れ。



六日目

経験者の僧侶を誘おうとしたが断られる(こいつの家が戦士を預けた寺だった)
武闘家に作戦があるらしく僧侶のことは任せることにした。
遊び人が賢者とデートするようルイーダに頼んだ。ルイーダは断らなかった。何考えてんだあいつ。
最後の経験者、二年生の先輩を誘いに行ったがいなかった。放課後もさっさと帰ってしまったらしく会えなかった。
今日も収穫なし。あと3人が遠い。ナジミ戦まであと2週間。

勇者「ここまでは書いたんだな」

勇者「居候のせいで一昨日から書けなかったし」

勇者「三日分一気に書いちゃおう」

七日目

休日。グラウンド整備のために集合した。魔法使いは体調不良で休んだ(本当はルイーダのデートが気になりストーキングしていた)
僧侶が見学に来た。と思ったら戦士が脱走したと伝えに来ただけだった。
戦士は部室にいた。家に帰らないと言うので仕方ないから俺が預かることに。
グラウンド整備が終わってやっと練習ができる環境になったが、俺以外は道具を何も持っていない。金もない。
夜、戦士に素振りさせたらすっぽ抜けて窓割られた。
野球ができる以前の問題だ。



八日目

休日。賢者が朝帰りしてきたと遊び人が騒ぐ。やっぱりルイーダは夜の女だった(とこのときは思った)
僧侶が入部するために家出してきた。戦士とまとめて俺が預かることに。
初めて野球の練習をした。僧侶は守備の名手らしく皆のポジションを決めてくれた。
当然俺がピッチャー、武闘家ショート、魔法使いキャッチャー、盗賊センター、戦士ライト、遊び人サード、僧侶セカンドだ。
ポジションが決まったら俄然やる気が出てきた。
早く残りも埋めて試合がしたい。

九日目

賢者がルイーダと同棲を始めたと遊び人が騒ぐ。魔法使いは(ストーキングしたから)事情を知っていて、ルイーダの家に案内された。
ルイーダには複雑な事情があったらしい。苦労してたんだな。
賢者はルイーダの経営する居酒屋で住み込みのバイトをしていただけだった。
行くところがない僧侶と戦士もそこで一緒に働くことに。
なぜか魔法使い、遊び人、武闘家、盗賊も住み込む流れに。
つまり俺以外全員一緒に暮らすってこと。
ルームシェアのつもりか?全然羨ましくないけどな。






勇者「よし、終わり」

勇者「それにしてもあいつら……全然羨ましくないけどな」

勇者「家があるって俺恵まれてんな。家族と食う飯はなんてうまいのだろう」

勇者「……」

勇者「……とりあえずの目標は2週間後のナジミ戦。それまでに部員と道具を揃える」

勇者「そしてその後は公式戦」

勇者「どんな猛者が待ち受けているのか楽しみだぜ」

つづく

───

魔法使い「おはよう」

勇者「おう。今日からあそこに住むんだよな。大丈夫か?」

魔法使い「不安がないわけじゃないけど、皆一緒だから頑張れるよ」

勇者「でもあんなとこで金稼げるのかよ」

魔法使い「あ、そうか。勇者君は知らないんだ。居酒屋だけが仕事じゃないって」

勇者「え?」

武闘家「それ以上は言うな。部外者に業務内容は明かせん」

魔法使い「そうだった。ゴメン。忘れて」

勇者「なんだよ別の仕事って。お前ら何やってんだ?」

武闘家「言えない。店主様に堅く口止めされている」

勇者「はは。なんだよ店主様って。毒されすぎだろ」

ルイーダ「おはよう」

魔法使い「おはようございます店主様!」シャキッ

武闘家「おはようございます店主様!」シャキッ

勇者「え?マジなの?」

ルイーダ「早速仕事よ。あの店を知ってしまった人物を消してほしいの」

勇者「消すって……」

魔法使い「勇者君のことですね」

勇者「え?」

ルイーダ「残骸は見つからないよう山に埋めておいてちょうだい」

武闘家「仰せのままに」

勇者「おい……お前ら何を……」

魔法使い「じゃあ勇者君、悪いけど」

勇者「や、やめろ……」

武闘家「店主様の命は絶対なのだ!」

勇者「やめろーーー!」

ルイーダ「オーホッホッホ!」










勇者「や……!」ガバッ

勇者「……」

勇者「夢か」

───次の日・1年青組

勇者「なんであんな夢……仲間外れにされて悔しいってことなのか……?」

勇者「はは……まさか」

ルイーダ「おはよう」

勇者「!?」ビクッ

ルイーダ「また暗い顔してる」

勇者「……昨日は悪かったな。いきなり大人数で押しかけて」

ルイーダ「働き手が増えたし別にいいわ」

勇者「でもあんな大人数ちゃんと雇えるのか?」

ルイーダ「あなたには関係ないでしょ」

勇者「もしかして居酒屋とは別の秘密の仕事があったりしてな。ははは」

ルイーダ「……」

勇者「……黙るなよ」

ルイーダ「武闘家君、魔法使い君」

勇者「!?」

ルイーダ「ちょっと来て」

勇者「な、何をするつもりだ……」

魔法使い「おはようルイーダさん。今日からよろしくね」

武闘家「どうした?」

ルイーダ「住所変更の手続きとか、色々書類を渡すから後で皆集めておいて」

勇者「え……」

武闘家「ああ、わかった」

魔法使い「学校にも提出するんだよね。夜のアルバイトってこと大丈夫?」

ルイーダ「ええ」

勇者「……」

武闘家「お前は何を怯えているんだ?」

勇者「……なんでもねえよ」

魔法使い「というわけで今日僕らは勧誘に行けない。ゴメンね」

勇者「……ああ。一人で行くよ」

───昼休み・2年教室

生徒「あの人ならいないしー」

勇者「またか……」

生徒「いつも一人だからどこ行ったかなんてわかんないし」

勇者「その人に俺が来たってこと伝えてもらえません?」

生徒「無理じゃない?教室にいるときはずっと寝てるし誰かと話しているところも見たことないしー」

勇者「マジか。コミュ症か」

生徒「それより遊び人君はー?」

勇者「あいつ俺のクラスの女と一緒に暮らし始めましたよ」

生徒「なにそれー!」

───屋上

勇者「なんにもうまくいかねえ」

勇者「俺は一人で何やってんだろ……本格的にのけ者にされた気分だ」

勇者「……」

勇者「やっぱり俺も───」



「zzz」



勇者「誰だ!?」

シーン

勇者「……誰もいない。気配はしたのに」キョロキョロ

勇者「ということは……」チラッ

勇者「出入り口の上か」

ヨジヨジ

勇者「……いた」

?「zzz」

勇者「女子……?寝てんのか」

?「zzz」

勇者「無防備だな。スカートの下見えそ……うわ!」ズルッ

ドスーン

勇者「いてて……はしご踏み外した。変なこと考えたバチだな」

?「……」ジー

勇者「あ……」

?「……」

勇者「悪い。起こしちゃったか。こんなところに人がいるなんて思わなかったからさ」

?「あなたはたしか……」

勇者「俺のこと知ってんのか?」

?「以前も屋上に来ましたね。野球部をつくろうとしていた……」

勇者「盗賊がらみのときか。あんたここにいたのか」

?「私の特等席ですから」

勇者「じゃあ毎日?」

?「はい」

勇者「野球部はできたよ。野球するにはまだ人数足りないんだけどな」ヨジヨジ

?「そうですか」

勇者「屋上好きなのか?」

?「ここが空に一番近い」

勇者「たしかに気持ちいいな」

?「大空は私のもの……全てがちっぽけなもの……そんな気分になれる」

勇者「変わった人だな。毎日いて飽きないのか?」

?「zzz」

勇者「また寝た。会話の最中だろ」

?「zzz」

勇者「……まあいいや。放っておこ」

つづく

───部室

僧侶「しかしあの賢者という男は凄まじいな」

戦士「昨日皆帰った後、俺たちの宿題見てもらったんだ」

勇者「へえ……そんな特典が」

魔法使い「料理や勉強だけじゃないよ。野球だってすごくうまいんだ」

僧侶「ほう。だったら是非勧誘しなくては」

魔法使い「そうだね。僕も一緒にやりたいと思っていたんだ」

遊び人「野球までいいところ見せたらルイーダ嬢も惚れちゃうんじゃないかなあ?」

魔法使い「やめよう。賢者君がやりたくないみたいだし無理強いさせるのはよくないよ」

僧侶「そうなのか。勿体ないな」

武闘家「これから共にいる時間は多くなる。野球の話は避けて通れないぞ」

遊び人「兄貴もそれを懸念しているようだったよ。店の自分以外は全員野球部なんだもの」

僧侶「ふむ。同じ屋根の下で生活するなら問題事は避けたい。賢者がいるときは野球部の話は禁句だな」

武闘家「しかし腑に落ちん」

勇者「何がだ?」

武闘家「野球をやりたくない理由が面倒くさいだ。そんな男がわざわざ金にならないアルバイトをしていることがおかしいだろう」

魔法使い「ルイーダさんのためでしょ」

戦士「いくら優しくても面倒くさいものは面倒くさいよ」

勇者「ルイーダに興味があるとか言っていなかったか?」

武闘家「それだ。興味のあるものなら面倒なんて思わないはずだ」

僧侶「つまり野球に興味を持ってもらうと?」

武闘家「そう。その方法を考えた方がいい」

戦士「俺たちの試合を観に来てもらうとか」

遊び人「無理じゃないかな。兄貴、僕の試合を何度か観に来たことはあっても自分からやろうとしたことは一度もないもの」

盗賊「レベルが低すぎてつまらなかったんじゃねえのか?」

遊び人「プロの試合だって観に行ったことあるよ!」

武闘家「ではどうすればいい?」

遊び人「知らないよ。そもそも僕は兄貴を入れるの反対派なんだ。協力を仰がないでくれ」

勇者「それに俺たちは部活で少し遅くなるもんな。賢者まで入ったら店ほったらかしになるんじゃねえの?」

僧侶「そうだ。事情をわかってもらえているから俺たちは遅くなってもいいと言われている。これ以上はさすがに欲張り過ぎか」

魔法使い「仕方ないよね。うん」

武闘家「……」

僧侶(……また何か考えているな)

───練習後・グラウンド

勇者「今日の練習は終わり。解散」

僧侶「では我々は仕事に行くか」

遊び人「練習終わりだとやっぱりキツいね。シャワー浴びる時間あるかな」

盗賊「客少なそうだし大丈夫だろ」

戦士「早く行こうよ。お腹すいたよ」

武闘家「お前は何しに仕事へ行く気だ」

勇者「……ふーん。頑張ってな」

魔法使い「勇者君は帰らないの?」

勇者「どうせ暇だし一人でもうちょっと練習していく」

魔法使い「じゃあ付き合うよ。僕は今日仕事休みだから」

勇者「本当か?サンキュー」

魔法使い「まだバッテリー練習してないもんね」

勇者「そうだな。そろそろ投げ込みたいよ」

魔法使い「でも相変わらずグローブが勇者君の一個だけだからね……」

勇者「仕方ない。これで受けてくれ。早く道具揃えろよ」

魔法使い「悪いね。で、今さらなんだけど勇者君は変化球何投げられるの?」

勇者「なんにも」

魔法使い「え?」

勇者「なんにも」

魔法使い「ナンニモかあ……聞いたことない変化球だなあ」

勇者「何言ってんだ?変化球なんか投げられないって言ってんだぞ」

魔法使い「君が何言ってんの!?変化球投げられないの!?傲慢だったわけじゃなくてただ投げられなかっただけなの!?それでよく色んなもの賭けて勝負挑めたね!?」

勇者「仕方ないじゃん。投げ方教えてくれる人もいなかったし」

魔法使い「……え?」

勇者「でもストレートはなかなかのもんだろ?」

魔法使い「ちょっと嫌な予感が……君、今まで誰に野球教わってきたの?」

勇者「だから誰にも教わってないって。独学ってやつ」

魔法使い「まさかとは思うけど……今までチームに所属したことは」

勇者「ないぞ」

魔法使い「試合したこと」

勇者「ないぞ」

魔法使い「なんなの!?なんでそれで経験者面してたの!?それで野球に人生を捧げてきたとか言ってたの!?試合もやったことないのに勝手な勝負して玉砕して部長までして完全試合やるって!?知ってる!?人はそれを身の程知らずって呼ぶことを!?そうだよね!?僕そういえばリトル時代勇者君なんて知らなかったもの!?」

勇者「いや聞かれなかったし……」

魔法使い「あまりにも堂々としているから相当なキャリアかと……騙された」

勇者「練習はバッチリやってるから心配すんなって」

魔法使い「ダメだ……これじゃあ勝てるかわからないよ。武闘家君に投げてもらおうよ……」

勇者「えー、やだ」

魔法使い「やだじゃないよもう。高校でストレート一本とか無謀だよ」

武闘家「話は聞かせてもらった。俺の出番のようだな」ニヤリ

勇者「くっ、狙っていたかのようなタイミングで」

魔法使い「武闘家君、頼んだよ」

武闘家「ああ。今度の試合は俺が投げる」

魔法使い「武闘家君がこんなにも頼もしく見えるなんて」

武闘家「ただ俺も変化球投げられないと言ったら……どうする?」

魔法使い「なんなの君ら!?」

勇者「お前もか」

武闘家「奇遇だな」

魔法使い「こんな人たちがエースの座を争っていたなんて……」

武闘家「男なら直球勝負」

魔法使い「人生変化球のくせにやかましいわ!」

勇者「お前何か投げられないか?知ってたら教えてくれよ」

魔法使い「僕が知るわけないじゃん……大体もうすぐ試合なのに付け焼き刃じゃ武器にならないよ」

勇者「どうせいずれ必要になるんだ。練習しといて損はないって」

魔法使い「じゃあスライダーとかどう?」

勇者「お、いいじゃん。どんな風に曲がる球なんだ?」

魔法使い「そこから!?」

───部室

魔法使い「結構投げ込んだけどやっぱり難しいね」

勇者「全然曲がらなかったぞ。本当に投げ方合ってんのか?」

魔法使い「僕に文句言わないでよ。僕だって本見ながら試行錯誤してんだから」

勇者「やっぱちゃんとした指導者ほしいな」

魔法使い「マントマスク先生ってどうなんだろ。校長先生の推薦だしすごい人なのかな」

勇者「さあな。どっちにしろ姿見せてくれないとどうしようもないけどな」


ガタッ


勇者「ん?」

魔法使い「この音ってもしかして」

勇者「マントマスク先生の手紙だ」ガラッ

魔法使い「今?なんなんだろ」



『ルールくらいならかろうじてわかります。謎のマントマスク先生』



魔法使い「お前も素人かい!」ビリリッ

勇者「はは。これじゃあ先生俺より野球知らないぜ」

魔法使い「笑い事じゃないよ……っていうかやっぱり僕たちの会話聞いているじゃん。どこにいるんだよ」

勇者「これで先生も頼れなくなったな」

魔法使い「誰も頼れない……こんなんじゃ相手が素人でも勝てないかも」

勇者「2週間後の試合までにはものになるかな変化球」

魔法使い「そんな甘くないから。10点取られる覚悟して11点取る練習した方がいいよ」

勇者「任せとけって。俺が満塁ホームラン3本打ってやるから」

魔法使い「そうだね。じゃあ僕は4本だ」

勇者「いや、俺の前にランナーで出てくれなきゃ満塁にならないだろ」

魔法使い「真に受けないでよ……本気で言っていたの?」

勇者「お前なあ、状況わかってんのか?冗談言ってる場合じゃないぞ」

魔法使い「うるせえよ!」

つづく

───数日後

武闘家「すまんな。待ったか?」

勇者「いや、今来たとこ」

武闘家「そうか。それにしても珍しいな。二人で帰ろうなんて」

勇者「まあ……な」

武闘家「お前、やっぱり俺のことを……?」

勇者「……ああ」

武闘家「そうか」

勇者「……」

武闘家「ならお前の気持ちを受け取り、俺の正直な気持ちを話す」

勇者「頼む」

武闘家「俺たちがどう頑張っても、この先報われる可能性はない」

勇者「くそ……やっぱり」

武闘家「ただしそれは周りの目を気にした場合の話だ」

勇者「……」

武闘家「俺はそんな目など気にする必要はないと思う。何が大事かは自分に聞いてみろ」

勇者「……」

武闘家「お前が言ったことだ。目的を果たすためならプライドなどゴミ同然だと」

勇者「この2週間、俺たちの状況は何も変わらなかった。商人は相変わらずだし二年の先輩は会えもしなかった」

武闘家「用具も揃えられなかったな。さすがにあの人数で給料の前借りまではできん」

勇者「どうすんだよ!もう明日が試合なんだぞ!」

武闘家「だから俺のことを当てにするしかなくなった」

勇者「でも、まともな方法じゃないんだろ?」

武闘家「お前もわかっているから二人で話したかったのだろう?」

勇者「ああ。もう形振り構っていられねえ。教えてくれ。周りの目を気にしなければ、俺たちが準備不足でも試合ができるって方法を」

武闘家「それは……」ゴニョゴニョ

勇者「な、なんだってー!?」

───ルイーダの居酒屋

武闘家「……というわけだ」

勇者「……」

盗賊「な……」

魔法使い「嘘でしょ……」

戦士「そんなことできるの?」

僧侶「わはは。やはりお前は考えがぶっ飛んでいるな」

武闘家「これから俺はその準備に入る。皆も覚悟しておいてくれ」

遊び人「面白そうじゃないか」

武闘家「うまくいくかはお前にかかっている。遊び人」

遊び人「ああ。僕の実力を見せてあげるよ」

───その夜

盗賊「バコタ先輩」

バコタ「おう、久しぶりだな。こんな夜にわざわざどうした?」

盗賊「俺、先輩にずっと謝らなきゃと思って……先輩の気持ちも知らずに酷いこと言っちまって……」

バコタ「気にすることじゃねえよ」

盗賊「その先輩の優しさにいつまでも甘えるだけの自分じゃいけねえと思うんス」

バコタ「……」

盗賊「でもなんて償ったらいいかずっと考えてもわかんねえんス。だから俺なりのけじめをつけさせて下さい」

バコタ「わかった。お前の気が済むまでやってみろ」

盗賊「俺の……野球部の究極にして至高の大勝負があるんス」

バコタ「なに?」

盗賊「明日来て下さい。俺が一人前になった証をお見せしますよ」

バコタ「……わかった」

盗賊「ありがとうございます!」

バコタ「場所は?」

盗賊「それがッスね……」

───

魔法使い「ルイーダさん」

ルイーダ「何かしら?」

魔法使い「あの、明日なんだけど」

ルイーダ「試合があるんでしょ?夜の仕事までに戻ればどこで何しようが自由よ」

魔法使い「よかったら観に来ない?」

ルイーダ「私は忙しいの」

魔法使い「そうだったね……ゴメン」

ルイーダ「ああ、これ武闘家君に頼まれていたもの。後で渡しておいて」

魔法使い「わかった。ところで衣類の洗濯物ある?よかったら一緒に洗うけど」

ルイーダ「……自分でやるからいいわ」

───

遊び人「兄貴」

賢者「ん……?」

遊び人「頼みがあるんだけど……」

賢者「……なに?」

───

僧侶「顧問の……なんといったかな」

戦士「謎のマントマスク先生」

僧侶「それだ。明日は来るのか?」

戦士「さあ?来ないんじゃない。練習試合ですらないし」

僧侶「そういえば顧問には会ったことがないな」

戦士「俺も……ってか誰も見たことないよ」

僧侶「わはは。本当に面白いな、我が野球部は」

───

夢爺「!?」ガバッ

夢爺「はあ……はあ……なんだ……今の夢は……」

夢爺「明日の試合……まさかあんな場所で……」

prrr

夢爺「電話……武闘家から」ピッ

武闘家『もしもし』

夢爺「おい……」

武闘家『遅くなったな。明日の試合を行う場所を伝える』

夢爺「お前正気か?あんな場所で……」

武闘家『夢で見たのか。だったら話が早い。お前たちもよく知っている場所だろう』

夢爺「当然だ。あれは俺たちの街の名所でお馴染みの───」

武闘家『ナジミドームだ』

夢爺「なんでそんな……」

武闘家『正午開始だ。遅れるな』ピッ

プープー

夢爺「……」

───

勇者「998」ブン

勇者「999」ブン

勇者「1000!」ブン

勇者「ふう……」

勇者「いよいよ明日だ」

勇者「武闘家の作戦でうまくいくかは不安だが……」

勇者「ずっとこのときを楽しみにしていたんだ」

勇者「やっと……」

勇者「やっと試合ができる!」

つづく

試合進行は安価コンマかな?

───日曜日・ナジミドーム

ワイワイガヤガヤ

「どっちが勝つかな」

「わかんないけど楽しみ」

「早く試合見たーい」

ワイワイガヤガヤ



勇者「おお、すげえ」

戦士「人多いなー。これ全部今日の試合見にきたの?」

僧侶「だがやはり見物客は女子ばかりだな」

魔法使い「そりゃそうだよ。だって今日は……」チラッ




『ショニーズ野球リーグ ☆ 商人ウェポンズvsイケメンインズ』




魔法使い「これだもん……」

僧侶「ところでショニーズ野球リーグとはどういうものなのだ?」

魔法使い「プロの野球リーグとは全く関係ないイケメンタレントの興業だよ」

魔法使い「所属タレントは普通にテレビにも出るし人気もある」

魔法使い「アイドルがドームとかで歌って踊るコンサートやるでしょ。それの野球盤みたいなものだね」

魔法使い「だからホームとかも別にないし全国各地をツアーしながらの試合になる。ナジミドームでやるのは初めてみたいだよ」

魔法使い「チームは全部で5つ。ウェポンズ、プロテクターズ、インズ、グッズ、チャーチーズ。今日は特に人気のある2チームの試合なんだ」

魔法使い「ちなみに商人君はウェポンズの選手でもある」

魔法使い「ただ選手のレベルはぶっちゃけ高校野球でも下の方じゃないかな」

魔法使い「まあお客さんはショニーズが見られればいい女性ばかりだからレベルなんて気にならないだろうね」

武闘家「ではお前たちは待っていてくれ」

魔法使い「本当に大丈夫?」

武闘家「当然だ。遊び人、準備はいいか?」

遊び人「うん。いいよ」

武闘家「まずは俺が行く。ルイーダからもらったこのイベントのフリーパスで客として潜入する」

遊び人「このパス彼女にとってはゴミ同然だもんね。プレミアものなのに」

武闘家「タイミングを見てお前も来い」

遊び人「僕は以前商人君から直接このイベントに招待されているから堂々と入れるってわけだ」

武闘家「ぬかるなよ」

遊び人「わかってるって」

───

夢爺(結局あの後一睡もできなかった……)ゲッソリ

盗賊「ふん。逃げずによく来たな」

大烏「なんだよこれ……」

一角兎「ドームってお前……」

スライム「ばかじゃないの!?」

盗賊「ピッキングツールは持ってきたんだろうな」

大烏「あんなもんを取り返すためだけにこんな場所使うのかよ……」

スライム「ばかじゃないの!?」

一角兎「何考えてんだ……」

盗賊(俺が聞きたい……)

大烏「なんか大きいイベントあるみたいだぜ?本当にここでできんのかよ」

盗賊「準備が終わったら控室に案内する。それまで大人しくしていろ」

一角兎「控室まで用意してんのかぴょん?」

スライム「ばかじゃないの!?」

───ナジミドーム貴賓室

商人「オーシャン」

商人「スカイ」

商人「世界でも有数のリゾート地、ナジミの島」

商人「中でもこのナジミドームは人気が高いスポット」

商人「いつも話題のイベントをやっている俺もお気に入りのドームだ」

商人「そんなナジミドームにショニーズ初登場。見に来たくない女子が存在するのだろうか」

商人「ふふ。細胞レベルで楽しませてあげなくちゃ」

商人「ブキヤ」

スッ

ブキヤ「なんでしょう若」

商人「客の入りはどう?」

ブキヤ「勿論満員です」

商人「今日の会場はアリアハンから近い所だからね。学校の女子もいっぱい見に来ているはずだよね」

ブキヤ「若がアリアハンの女子生徒を牛耳るいい機会……というわけですか」

商人「だからいいところ見せなきゃ。ね?」

ブキヤ「投げては完封、打っては3安打3打点でいかがでしょう?」

商人「んー、4安打5打点」

ブキヤ「かしこまりました」

───

ブキヤ「やれやれ、5打点か。どうしたものか」

?「5?そりゃ若もはりきってんな」

ブキヤ「ヤドヤ……か」

ヤドヤ「ホームランでも打たせろってのか。空調調節して」

ブキヤ「そこまでしなくていい強い風は観客の女性に被害を加える」

ヤドヤ「立派なフェミニストだねえ」

ブキヤ「若の前に常にランナーを貯めるようお前のチームにも指示しておいてくれ」

ヤドヤ「あーいよ」

───商人ウェポンズ控室

ショニーズA「聞いたか?ここ若の地元の近くなんだってよ」

ショニーズB「じゃあいつもより活躍させなきゃいけないのか」

ショニーズC「まったく。なんで俺たちがあんなフツメンの引き立て役にならなきゃいけねえんだよな」

ショニーズD「社長の息子なだけでオーラなんて皆無なのにな」

ショニーズE「でも頭が軽めな女子はフツメンといえどもそれなりの舞台を用意されたら騙されるもんだ」

ショニーズF「なんせショニーズのイベントに出て毎回活躍するんだ。若の人気もフツメンにしちゃ高いもんな」

ショニーズG「くそ、俺たちがいつまでもかませ犬で終わると思うなよ」

コンコン

ガチャ

弁当屋「失礼します。お弁当お持ちしました」

ショニーズA「お、昼飯か。午後の試合に備えて食っとこうぜ」

弁当屋「どうぞ」ドサッ

ショニーズB「この弁当はもしかして……」

弁当屋「そう。この辺りの海の幸をふんだんに使った特製名物弁当ですよ」

ショニーズC「おお、これだけでもナジミに来た甲斐があったな!」

弁当屋「では失礼します」

ショニーズ「「「いただきまーす」」」

弁当屋「……じっくり楽しいお食事を」

ガチャ



弁当屋「……」コクッ

遊び人「……」コクッ

───

ガチャ

ブキヤ「今日の流れを決めてきた。皆集まって……」

ショニーズA「うう……」

ブキヤ「!?」

ショニーズB「は……腹が……」

ブキヤ「腹だと!?何があった!?」

ショニーズC「ブキヤ……わからねえ……急に全員下痢吐き気が……」

ブキヤ「全員だと!?何か食べたのか!?」

ショニーズD「弁当しか食ってねえよ……」

ブキヤ「弁当だと!?弁当なら隣の部屋に用意されてあった……お前たち何を食べたんだ!?」

ショニーズE「そこの海鮮弁当だ……」

ブキヤ「海鮮弁当だと!?これは危険な香りがする生牡蠣ではないか!?なぜ食べた!?」

ショニーズF「弁当屋が勧めるから……」

ブキヤ「弁当屋だと!?一体どうなっている!?」

ガチャ

ヤドヤ「う、こっちもか」

ブキヤ「ということは」

ヤドヤ「イケメンインズ、俺を除いて全滅だ」

ブキヤ「なんてことだ……若になんて言えば」

───貴賓室

商人「バカバカバカバカ!何やってんだよ!」

ブキヤ「紛れもないバカです」

ヤドヤ「他に言いようがないほど適切な叱咤です」

商人「うー……あー……どうしようどうしよう」

ブキヤ「これからマネージャーに報告してきます」

商人「待って!しちゃダメ!」

ブキヤ「何故です?」

商人「こんなこと知られたら中止になるだろ!誰にも言っちゃダメ!」

ヤドヤ「中止にするしかないでしょう」

商人「今日はパパに無理言って俺が用意させた会場なんだ。中止にしたら怒られちゃうよ」

ブキヤ「怒られるだけならいいのですが……」

ヤドヤ「残ったショニーズは俺たち3人だけ。何もできませんぜ」

コンコン

遊び人「やあ商人君お招きありがとうおやおや何やら大変そうだね何があったんだい?」ガチャ

商人「今ユーに構っている暇ないんだよ。悪いけど今日は……」

遊び人「えっイベント中止になりそうなのそれは残念だせっかく友達も見に来てくれたのに」

商人「そうなんだよ。忙しいから今日はこれで……」

遊び人「あともう二人いれば野球ができるくらいの人数の友達皆残念がるだろうなーここ最近ずっと野球の練習してきて問題なくプレイできる友達見るの楽しみにしていた野球ができるくらいの人数の友達皆残念がるだろうなー」

ブキヤ「……」

ヤドヤ「……」

商人「……友達って男?」

遊び人「そうだよ」

商人「イケメン?」

遊び人「勿論さ」

つづく

>>344
その予定はないです

───

実況『本日は商人ウェポンズvsイケメンインズのゲーム、初開催となるナジミドームからお送りします。解説さんよろしくお願いします』

解説『よろしくお願いします』

実況『常勝軍団ウェポンズ、開幕から連勝し続けて調子いいですね』

解説『坊っちゃ……商人選手の活躍が大きいでしょう』

実況『この試合の注目ポイントは?』

解説『坊っちゃ……商人選手の無失点記録がどこまで伸びるかでしょうな』

実況『ありがとうございます。ではまず商人ウェポンズの選手入場です』



\キャーキャーブキヤー!/

\キャーキャー……/

\キャー……/

\キャ……?/

ザワザワ


戦士「すご……こんなにいっぱいの人に見られてるよ」

僧侶「わはは。騒がしかったのが急に静まり返ったな」

武闘家「想定内のリアクションだ」

魔法使い「絶対僕たち場違いだよね……」

盗賊「この試合を乗っとるなんて、大胆にも程があるだろ」

商人「乗っとる?」

勇者「あー、あー……そ、それにしてもすごいな!お前いつもこんな観客の中で試合してんのか!」

商人「うう……やっぱり観客動揺してるじゃないか」

勇者「そりゃそうだな。でも人の目なんか気にするなよ。そうすりゃなんでもうまくいくって」

商人「人の目を気にしなきゃいけない商売やってんの!」

遊び人「まあまあ落ち着いて」

商人「ユーのせいだよ!?ユーの友達ただのうちの野球部じゃん!?」

遊び人「言わなかったっけ?」

商人「イケメン連れてきてよ!」

遊び人「いけ(ないことして)めん(ぼくない)じゃないか」

商人「違うよ!しかもこっちは見れる顔だしまだいいんだよ。問題は……」

実況『続いてイケメンインズの入場です』



\キャーキャーヤドヤー!/

\キャーキャー……/

\キャー……/

\キャアアアアアアァァァ!/



スライム「……」ポカーン

大烏「……」ポカーン

一角兎「……」ポカーン

大蟻食い「……」ポカーン

フロッガー「……」ポカーン

バブルスライム「……」ポカーン

人面蝶「……」ポカーン



商人「あっちほとんどグロメンじゃん!?」

\誰よあの不細工!/

\金返せ!/

\ブーブー!/

\ヤドヤ逃げてー!/



大烏「は、恥ずかしい……」カァ

一角兎「なんで俺たちがこんな目に……」

スライム「ひでえよ……ひでえよ」

ヤドヤ(……俺なんでこんなやつらと組まなきゃなんないんだ)

遊び人「なのにチーム名はイケメンという公開処刑。精神的なダメージは大きいだろう。これも計算の内かい?」

武闘家「いや……さすがに俺もここまでは……哀れ」

商人「あんなの目の毒だよ!お客さんチラホラ帰っちゃってるよ!」

武闘家「いいか。これはチャンスだ」

商人「え?」

武闘家「お前はフツメンだ」

商人「!?」

武闘家「受け入れろ。それがお前に人気が足りない理由。同じチームでもそこのブキヤというイケメンへの声援が多かった」

ブキヤ「……」

武闘家「今まさに正義のウェポンズ対悪のインズという構図が出来上がったんだ。観客は俺たちを応援するしかなくなった」

商人「……」

武闘家「この試合で活躍しようものなら絶対的な人気を得られるだろう」

商人「そうだね!」

魔法使い(ちょろい……)

商人「ブキヤ活躍しちゃダメだよ!ヤドヤにも伝えといて!」

ブキヤ「かしこまりました」

武闘家(やはりこいつらの試合は八百長か)

実況『えー……只今入った情報によりますと……両チームとも予定していたメンバーをほぼ代えて……代わりには本日登録されたばかりのルーキーが入るようです』




商人ウェポンズ(アリアハン高校)先発オーダー

1(中)盗賊
2(二)僧侶
3(遊)武闘家
4(投)商人
5(左)ブキヤ
6(一)勇者
7(三)遊び人
8(捕)魔法使い
9(右)戦士



イケメンインズ(ナジミ高校)先発オーダー

1(左)一角兎
2(中)大烏
3(投)夢爺
4(捕)ヤドヤ
5(一)フロッガー
6(三)バブルスライム
7(遊)人面蝶
8(二)大蟻食い
9(右)スライム

───

夢爺「やってくれたな。お前はやっぱり危険だよ」

武闘家「さて。なんのことだ」

夢爺「とぼけなくていい。このイベントがある日を指定したということは、あの時点でここまで計画していたということ」

武闘家「保険のつもりだった。さすがに今日までには俺もメンバーと道具を揃えられると思っていた」

夢爺(これより大変なことなのか……?)

武闘家「勝敗は夢で見たのか?」

夢爺「こんな面白そうなこと、先に結果を知っちまったらつまらんだろう(本当は眠れなかっただけだが)」

武闘家「ほう。勝負師の心はあったようだな」

夢爺「お前の方は用意周到だったな。弁当に毒まで仕込むとは」

武闘家「ん?」

夢爺「メンバーの一人が倒れた時点で気づけてよかったよ」

武闘家(こいつらに用意したのではないが、あれを食べたのか……というか食いかけだったろう)

武闘家「ふん。そこで終わるようならそこまでの相手。俺たちと戦うに値するか確かめただけのこと」

夢爺「ふっ、怖い怖い」

武闘家「試合は正々堂々とやってもらうぞ」

夢爺「こちらのセリフだ」

───商人ウェポンズベンチ

魔法使い「えっ?あの人夢爺さん!?」

戦士「知ってんの?」

魔法使い「僕がいたリトルでは伝説だったOBだよ」

武闘家「なに?」

盗賊「あの野郎経験者だったのか!?」

魔法使い「でも僕が入った頃はもういなかった。それどころかナジミ高校ではアリアハン高校の黄金期、あのオルテガさんのいた頃の野球部と死闘を演じた記録もある」

勇者「父さんと?」

盗賊「おいおい、あいついくつなんだよ。つーか何年高校生やってんだよ」

───イケメンインズベンチ

夢爺「ヤドヤとやら、俺の用意したチームから一人欠員が出ての埋め合わせなのに4番を背負うとは。余程自信があると見ていいのかな?」

ヤドヤ「あ?何言ってんだ。インズは俺のチーム。埋め合わせはお前らだ」

夢爺「ふっ、そういうことにしておいてやろう」

ヤドヤ「それから活躍して観客にいいところ見せようなんて思うなよ」

夢爺「何を言っているんだ?勝つには誰かしら活躍するしかないぞ」

ヤドヤ「いいから試合中は大人しくしていろ」

夢爺「俺たちは勝つために試合に出る」

ヤドヤ「……まあいいや。好きにしてくれ。どうせ寄せ集めの高校生に何ができるわけでもないしな」

夢爺「……?」

つづく

───一回表

勇者「ファーストか。練習してないけど大丈夫かな」

僧侶「基本の動きさえわかっていればあとは俺たち内野陣がなんとかする」

武闘家「……」コクッ

遊び人「……」コクッ

勇者「塁上で来た球キャッチすればいいんだよな。いい道具使わせてもらっているしノーエラーでいくぜ」バシッ



実況『さあ始まります。一回の表、インズの攻撃はルーキーの一人、一角兎選手。ウェポンズの先発はご存知商人選手』



\商人くーんあんな悪そうなのやっつけてー!/



一角兎「なんだこの声援……やり辛いぴょん」

商人「いくぞ。俺のグロメン退治伝説の幕開けだよ」

魔法使い(うう……緊張する……ってそういえば変化球何投げられるのか聞いてない!?)

商人「くらえ!」ピュッ

魔法使い「ちょ、まだサイン出してな……ってサインすら決めてなかった!」

バシィ

魔法使い「……え?」

アンパイア「アアァイッ!(ストライク!)」

一角兎「はや……」

魔法使い「すごいよ商人君!勇者君より速いかも。口だけじゃなかったんだね」ピュッ

商人「当たり前だよ」パシッ

僧侶「ほう。思った以上だ」

勇者「すげえ……」

ブキヤ(若はショニーズの中ではどうしても目立てなかった。だから血の滲むような努力をした)

一角兎「くっ」スカッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

ブキヤ(社長の息子という立場だけでこの舞台に立ち続けられるわけがない)

一角兎「ぴょん!」スカッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」



\キャー!すごーい!/


実況『先頭バッター三振!今日も絶好調です!』

解説『当然でしょうなあ』



魔法使い「やった。いきなり三振。向こうに嫌な印象を与えられた」

商人「楽チン楽チン」

僧侶「わはは。これはお前の出番は来ないかもな」

勇者「う……俺のデビュー戦が」

───

大烏「カァーッ!」スカッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

魔法使い「すごい。二者連続三振」

商人「味気ないな。これじゃあ悪者退治じゃなくて弱い者いじめみたいじゃん」

夢爺「それはすまなかったな。あいつらがバットを握ったのはつい最近のことなのでな」

盗賊「……来たか」

武闘家「……」

魔法使い「夢爺さん……」ゴクリ

商人「ユーは楽しませてくれるんだろうね」

夢爺「さてね」スッ

魔法使い(すごい威圧感……今までみたいにストレートだけじゃ危ないかな。ここは変化球を……)チョイチョイ

商人「……」フルフル

魔法使い(首振られた。横の変化球は持ってないか。じゃあ緩いのは)チョイチョイ

商人「……」フルフル

魔法使い(これもないの?いや、僕の適当なサインじゃ伝わってないのか)

夢爺「ふっ、随分時間をかけるな。俺が怖いか?」

魔法使い(怖っ……)ゴクリ

魔法使い(仕方ない。さっきと同じ攻めで様子を見よう。どうせ2アウトだ)

商人「えいや!」ピュッ

魔法使い「いい球!」

夢爺「同じ球か。何度も見たぞ」ブン

カキィン

魔法使い「!?」



実況『打ったー!いい角度で上がったぞ!』



魔法使い「やっぱりワンパターンじゃこの人には通じないのか」

僧侶「だが失速している。オーバーフェンスとまではいかない」

商人「平凡なフライか。三連続三振がよかったけどまあいいや。チェンジだね」

武闘家「待て。あの方向は……」

夢爺「ちっ、ライトフライか。まだ調子が上がらんな」



ドタドタドタ


夢爺「……ん?」


戦士「うおおおお!」ドタドタドタ

魔法使い「ほぼ定位置なのに全力疾走!?」

勇者「しかも届きそうにない!守備範囲狭すぎ!」

武闘家「戦士!無理に捕ろうとするな!」


戦士「だーっ!」ピョーン

戦士「ぎゃふん!」ドテッ

ポーン

ポーン


商人「ええっ!?」

僧侶「やはり……」

魔法使い「全然届いてないよ……跳ぶ必要もなかったし……」

夢爺「おっとこれはついている」タッタッタッ

武闘家「くっ、ただのライトフライが後逸して長打コースに。早く起きろ!」

商人「何やってんのバカバカ!完全試合狙ったのに!」

夢爺「このまま三塁まで行かせてもらう」タッタッタッ



盗賊「そうはいくかよ」

勇者「盗賊! 」

夢爺「なに?」ピタッ

武闘家「もうカバーに入ったのか」

魔法使い「すごい!速いよ盗賊君!」

盗賊「こいつのミスは計算済みだ」ピュッ

僧侶「よくやった。予測していたとはいえ完全なライトの打球をよくフォローした」パシッ

勇者「なんとか二塁で止めたな。ナイス盗賊」

夢爺「……ほう」

盗賊「てめえにだけは好き勝手させねえよ」

戦士「いてて……」

盗賊「ったく世話の焼ける」

戦士「うう……ゴメンよ」

盗賊「練習でもできないことはやるんじゃねえよ」

戦士「へへ。ギャラリー意識しちゃった」

盗賊「ちっ、くだらねえ。大体お前は……」



\今の見た?すごい速かったね/

\ちょっと格好いいかも。ファンになりそう/



盗賊「……ふ、ふん。しょうがねえな。次からは気をつけるんだぞ?」

夢爺「まあいい。穴は見つけた。今のを見たなら頼むぞ4番」

ヤドヤ「……」



実況『盗賊選手いいプレーを見せましたね』

解説『坊っちゃ……商人選手の球威がなければホームランでしたがね』

実況『しかし得点圏にランナーは残ります。このチャンスに4番ヤドヤ選手。4割近い打率を残しています』

解説『いいバッターですよ。ただ坊っちゃ……商人選手との対戦成績はパッとしませんね』



ヤドヤ「……」ブン

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」

魔法使い「よし。ピンチを抑えた」

ヤドヤ「……」

夢爺「あいつ……」

つづく

───商人ウェポンズベンチ

魔法使い「アウト全部三振なんてすごいよ商人君!」

商人「完封は決まっているんだから大袈裟だよ」

魔法使い「え?」

商人「まあでも今日はなかなかいい立ち上がりの演出だったよ」

魔法使い「演出……?」

商人「完全試合だけは残念だったけど」

ブキヤ「あれはライトエラーがついたのでまだノーヒットノーランは終わっていません」

商人「そうだね。次はバッティングだ。ちゃんとランナーためといてよ」

魔法使い「……?」

武闘家「野球部、ちょっと集まってくれ」

勇者「なんだよ」

戦士「俺怒られる……?」

僧侶「……」

盗賊「……」

遊び人「……」

武闘家「薄々感づいているかもしれんが、ショニーズ野球リーグは最初から勝敗が仕組まれているものだ」

魔法使い「そうなんだ……」

武闘家「俺たちは勝つ。そして俺たちもこの八百長に協力している。と商人はそう思っている」

盗賊「……」

武闘家「この試合もただの真剣勝負というわけにはいかんだろう」

戦士「そうなの?だったら必死こいてやらなくていいの?」

魔法使い「でもそれじゃあ……なんのために練習してきたのか」

僧侶「俺たちは現状この世界に置かされている身だ。ここでそれが普通なら従うべきなのか」

盗賊「俺は先輩に言った。一人前になった姿を見てほしいと。それはこんな八百長に加担することじゃねえ」

勇者「ああ。実力で勝たないとつまんねえじゃん」

ブキヤ「君たち」

魔法使い「ブキヤさん?」

ブキヤ「君たちには事情があるみたいだな。協力が必要だったのはお互い様のようだ」

勇者「それは……まあ」

ブキヤ「だがここはショニーズのイベントだということもわかっているはず」

魔法使い「はい……」

ブキヤ「我々の野球のモットーはお客様を楽しませること。勝敗に大した意味はない」

魔法使い「え?でもウェポンズは毎回勝っているんじゃ?」

ブキヤ「若は自分が活躍できればいいと思っている。それを全員が補助する形になり、結果的にチームの勝利に繋がっているだけだ」

僧侶「たしかに完封などと商人が言い出したら勝ちは決まりも同然だ」

ブキヤ「今日も本来ならショニーズが試合を行い、いつも通りの盛り上がりを見せているはずだった」

武闘家「……」

ブキヤ「それがなぜかほとんどの選手が食中毒に倒れ、君たちがたまたま居合わせたおかげで試合ができている」

武闘家「……」

ブキヤ「言及するつもりはない。事実は君たちがいなければイベントが中止になるということだけ」

武闘家「何が言いたい?」

ブキヤ「どちらにとっても後腐れは残したくない。だから」

ブキヤ「君たちはただ全力で試合をやってくれればいい」

勇者「最初からそのつもりだぜ」

ブキヤ「ただ若はいつも通りの八百長だと思っている。そこはそのまま貫き通してほしい」

魔法使い「商人君に八百長と思わせた上で勝てと?」

ブキヤ「ああ。できれば若の望み通り完封勝ちがいい」

戦士「勝つのは決まってんじゃないの?」

ブキヤ「本気の勝負だと思っているのは相手側も同じだろう?」

僧侶「問題は向こうにはヤドヤという男がいることだ。あの者がいては真剣勝負もあったものではないと思うが」

勇者「あいつも商人の……つまり俺たちの味方なんだろ?」

魔法使い「だね……敵の中に味方がいる。まるでダンジョン内に宿屋を用意してくれているようなものだよ」

ブキヤ「あいつは本気を出さない。しかしそれは自分も同じ。お互い一人ずつ役立たずがいるだけだと思えば試合は成り立つ」

僧侶「それはできないことではないが……」

戦士(一人役立たずがいるか……やれやれ、いい迷惑だな)

ブキヤ「難しいかもしれないが君たちは余計なことは考えずにやってくれ」

魔法使い「でもだったら商人君にも事情を知っといてもらえば……今日はいつもみたいに望んだ結果になるとは限らないって」

ブキヤ「今日はただでさえ予想外の出来事が続いている。若はあれでも繊細な人だ」

魔法使い(……見えない)

ブキヤ「若にこれ以上余計な気苦労はさせないでほしい」

───

武闘家「見上げた忠誠心だ」

魔法使い「しかも僕たちを咎めようとしないなんて大人……いや、あれがイケメンという生き物なんだね」

勇者「つーか俺たちの仕業だってバレてたんだな」

武闘家「こんなあり得ない状況に気づいてないのは商人くらいだろう」

魔法使い「そもそも僕たちがやったことが不正だもんね……」

武闘家「だがこれで心置きなく本気の試合ができるというものだ」

魔法使い「完封だよ。守備陣の出来にかかっているよ」

僧侶「あの男もできればと言っていた。そう気負うな。意識し過ぎると本来の動きもできなくなるぞ」

魔法使い「そ、そうだね。ブキヤさんもそこは考慮してくれているみたいだし……」チラッ


ブキヤ「絶対完封……絶対完封……」ブツブツ


魔法使い「……」

───イケメンインズベンチ

夢爺「ヤドヤ」

ヤドヤ「ん?」

夢爺「今の三振はわざとだな?」

ヤドヤ「だったらなんだ?」

夢爺「勝ちたくないのか?」

ヤドヤ「勝ちたいか勝ちたくないか。そんな単純な話なら勝ちたいねえ」

夢爺「だったら本気で挑んでみろ」

ヤドヤ「無理なんだよ。俺たちの世界じゃ」

夢爺「つまらんしがらみか」

ヤドヤ「大人になるってこった。お前にゃわかんないよ」

夢爺「わからんな。だから夢を見る」

ヤドヤ「……噛み合わねえな。老け顔の高校生」

つづく

───一回裏

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『さあ最初の守りを見事に抑えたウェポンズ。トップバッターは盗賊選手。先程はいい守備を見せました』

解説『坊っちゃ……商人選手が見事な三振で抑えたのであまり意味はありませんでしたがね』



夢爺(お前がどう振る舞おうと、俺が抑えればいいだけのこと)

ヤドヤ「……」

盗賊「てめえが経験者だったとはな」ザッ

夢爺「ふっ、俺は素人だと言った覚えはないが」

盗賊「だから野球で勝負を持ちかけてきたのか。油断を誘うとは汚え野郎だ」

夢爺「お前たちが言っていいセリフではないな」

勇者「父さんとも戦った男、どんな実力なんだ」

武闘家「バッターとしては試合勘が戻っていないように見えた。おそらくやつも相当なブランクがある」

魔法使い「でもあの威圧感はやっぱり怖いよ」



盗賊「こいや」

ヤドヤ「……」

夢爺「サインもなしか。だったら好きに投げさせてもらう」ピュッ

盗賊「!?」

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

盗賊「速い……」

ヤドヤ「なかなかやるじゃねえの」ピュッ

夢爺「キャッチはしてくれるみたいだな。安心したぞ」パシッ

盗賊「舐めていた。相当だぜ」ゴクリ

夢爺「まだ肩慣らしだぞ」ピュッ

盗賊「くっ」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

夢爺「大分振り遅れているな」

盗賊「うるせえ。様子見だ」

夢爺「なら様子見のまま終わらせてやる」ピュッ

ビュン

盗賊「ボールだ」サッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

盗賊「!?」

夢爺「ふっ」ニヤリ

盗賊「コーナーギリギリを……コントロールもいいのか」

夢爺「まず一人」




勇者「すげえ……」

武闘家「やはり実力はある。あれが本調子でないなら相当厄介だ」

勇者「すげえ」

魔法使い「打てる気がしないよ……」

勇者「すげえ」

武闘家「そればっかりだなお前は。呑まれてしまっては実力が出せんぞ」

勇者「だってすげえじゃん。早く対戦したいぜ」

魔法使い「勇者君……全然呑まれてないみたい」

武闘家「お前というやつは……」

───

僧侶「くっ」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

夢爺「これで二人」

僧侶「いや参ったな。当たりもしなかった」

武闘家「お前はバッティングは相変わらずだな」

僧侶「わはは。粘ろうとしたのだがあっさり終わらせてくれたな」

武闘家「まだやつの調子が上がらないうちに俺が叩く」


夢爺「武闘家か。こいつは単調では危険かな」

武闘家「……」スッ

夢爺(構えに迷いがない。場馴れしている)

武闘家「……」

夢爺「だが、そんな男とは何度も対戦してきた」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

武闘家「……」

夢爺「一球見たか」

武闘家「なるほど」

夢爺「お前も様子見のまま終わるか」ピュッ

武闘家「ふん」ブン

カキィン

魔法使い「当てた!」

勇者「さすが武闘家」

僧侶「しかし球威に押されたか。緩い内野ゴロだ」



武闘家「なあに。野手が素人なら捌いている間に到達できるさ」タッタッタッ

夢爺「ショート!」

タッタッタッ

武闘家「……ん?」

人面蝶「よっ」パシッ

武闘家「なっ……」

人面蝶「そらよ」ピュッ

フロッガー「ナイスボール」パシッ

武闘家「!?」

塁審「アウッ!」



勇者「え?上手いじゃんあいつら」

僧侶「あの慣れた動き……どうやら経験者は一人じゃなかったらしい」

魔法使い「ええ……聞いてないよ」



武闘家「……」

夢爺「すまない。言い忘れたがこの内野陣も全て経験者だ」ニヤリ

フロッガー「ゲッゲッゲ」

大蟻食い「ペロリ」

人面蝶「パタパタ」

バブルスライム「バブみ。バブみ」

武闘家「……やってくれる」

───商人ウェポンズベンチ

商人「あれ?三者凡退?俺の前にランナーためてくれないの?」

ブキヤ「それは……」

武闘家「最初から勝負が見えたのではつまらんだろう。今日のような相手は劇的に勝利してこそ観客も喜ぶ」

商人「そっか。だからわざとアウトになったんだね?」

武闘家「当然だ」

魔法使い(嘘だ……)

ブキヤ「気を遣わせてすまない。だが本気でやってくれていいんだぞ」ヒソヒソ

武闘家「気にするな」

魔法使い(この人罪悪感とか……)

商人「じゃああまり大差をつけない方がいいね。5打点もいらないか」

武闘家「ああ。大差では勝たない方がいい」

魔法使い(接戦になると悟ったね)

つづく

───二回表

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『お互い初回の攻撃が終わり無得点。この回インズの攻撃、5番ファーストフロッガー選手から始まります』



フロッガー「ゲッゲッゲ」

商人「……醜い」

魔法使い(この回は経験者が続く。外野には飛ばされないように……落ちる変化球は?)チョイチョイ

商人「……」フルフル

魔法使い(また断られた。好きに投げたいのか。大変だ)

商人「そりゃ!」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

魔法使い(ストレートは走っている。コントロールも悪くない。これなら低めに集めていれば大丈夫かな)

商人「三振しちゃいなよ」ピュッ

フロッガー「げへ」ブン

カキィン

商人「!?」

魔法使い「ファーストゴロ!」

勇者「お、俺のとこに来たか」

フロッガー「ゲゲ、まずい」

勇者「あれ?でもファースト空けていいのか?」ピタッ

コロコロ

勇者「この場合はどうすんだっけ」

僧侶「ファーストには俺が入る。勇者はボールを捕りに行け」タッタッタッ

勇者「わかった。よっ」パシッ

フロッガー「ゲッゲッゲ。その隙にセーフ」

勇者「あー、くそ。悪い」

僧侶「仕方ない。一塁の練習はしていなかったからな」

商人「エラーだね。ノーヒットノーヒット」

フロッガー「ゲッゲッゲ。そっちも素人が混じっていたか」

勇者「なんだと」

僧侶「わはは。言わせとけ言わせとけ。その通りじゃないか」

勇者「くそ、絶対挽回してやるからな」

僧侶「とにかくファーストへの打球が来たら塁は空けていい。迷わず捕りに行け」

勇者「わかった」

僧侶(それにしても今のピッチャーの動き……何か妙だ)

実況『ファースト勇者選手のエラーでノーアウト一塁。続くバッターは6番ショート人面蝶選手です』



人面蝶「パタパタ」

魔法使い(序盤、同点、ノーアウト一塁か。セオリー通りなら送りバントだけど……)

魔法使い(あのランナーの足なら盗塁はないか。でも商人君はランナー全く気にしていないし、走られたら僕じゃきっと刺せない)

魔法使い(どうせ色々考えても商人君次第なんだよな。何があっても慌てないよう心の準備だけはしておかなくちゃ)

商人「そりゃ!」ピュッ

人面蝶「ほい」コン

魔法使い「やっぱりバントだ。ファースト!」

勇者「くそ、あからさまに俺のとこ狙いやがって」タッタッタッ

勇者「動きさえわかりゃこんなの大したことねえっての」パシッ

勇者「二塁は無理か」チラッ

勇者「じゃあ一塁……」クルッ

勇者「!?」

魔法使い「商人君ファーストカバー!」

商人「え?」

人面蝶「パタパタ。セーフ。またまたついている」

勇者「なんで誰もいないんだよ」

魔法使い「タ、タイム」

───

魔法使い「商人君、なんでカバーに行かなかったの……?」

商人「え?俺が入るの?」

ブキヤ(……若はピッチング以外はほとんど練習していない)

武闘家「当然だ。一つ前のプレーも僧侶がカバーしたがお前は全く動かなかったな」

商人「それでできてるならいいじゃん。またユーがカバーしちゃいなよ」

武闘家「ランナーがいたら僧侶は二塁も警戒しなくちゃならん」

僧侶「ファーストが空いたとき今までどうしていた?」

商人「別に何も。誰かしら入ってたよ」

魔法使い「ええ……」

商人「大体そんなたかがワンプレー重要じゃないし」

武闘家(点が入らないとわかっているならそうだろうな)

商人「大事なのは俺が最後まで投げきる体力を残しておくこと。余計な仕事させないでよ」

勇者「お前それは……」

僧侶「わはは。すまん。次からは俺がファーストカバーに入ろう」

勇者「え?でも」

僧侶「この連係の練習を取り入れなかった俺に非がある」

勇者「いやさすがに二週間でそこまでできないだろ。道具もなかったしお前のせいじゃ……」

僧侶「二塁は武闘家に任せる。三塁は遊び人。三塁側にバントされたら魔法使いが処理してくれ」

商人「ユーはわかってるね。じゃあ頼むよ」

僧侶「うむ」

勇者「ちょっと甘やかしすぎじゃないか?」

僧侶「今あいつにあれこれ言ってもどうにかなるわけではない。だったら俺たちでなんとかするしかない」

勇者「実質7人で守らなきゃいけないのかよ」

僧侶「戦士の分も考えると6人だな」

勇者「い……ハンデやりすぎだろ」

僧侶「向こうも素人が混じっているんだ。これで実質互角だろう」


魔法使い「商人君、そういえば変化球のサインなんだけど」

商人「変化球なんか投げられないよ」

魔法使い「やっぱりね!驚くと思った?残念このパターンは慣れてるよ!」

商人「お客さんにはそんなのわからないし速い球投げてた方がすごいって言われるんだよ」

魔法使い(やっぱり根本的にやっている野球が違うんだ……)

───

実況『またしても勇者選手のエラーでノーアウト一、二塁。インズにとっては大きなチャンスですよ。バッターは7番サードバブルスライム選手』



勇者「俺のエラーかよ」

僧侶「全体が商人贔屓だな」

バブルスライム「さて、どうするかな。送るかな」

魔法使い(僕を惑わそうとしているのか)

バブルスライム「ファーストが素人っぽいからそっちに転がそうかな」スッ

魔法使い(主導権は僕にないから無意味なのに)

商人「そりゃ!」ピュッ

バブルスライム「やっぱ何もしーない」サッ

魔法使い「え?」バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

僧侶「ダブルスチールだ!」

フロッガー「ゲッゲッゲ。隙あり」タッタッタッ

人面蝶「パタパタ」タッタッタッ

魔法使い「嘘!?三塁は難しい、二塁へ!」ピュッ

ヒューン

僧侶「くっ」スカッ

勇者「げ、逸らした」

魔法使い「ああ!ゴメン!僕のボールが悪かったから……」

フロッガー「お?またチャンス。本塁まで……」

タッタッタッ

盗賊「させるか」パシッ

魔法使い「ナイスフォロー盗賊君!」

フロッガー「ちっ、またあいつか」ピタッ

僧侶「すまん盗賊」

武闘家「らしくないな。どうした?」

僧侶「わはは。久しぶりで試合勘が鈍っているようだ」

武闘家「今のところ俺たちのミスだけでピンチを生み出している。相手はますますそこに付け込んでくるぞ」

僧侶「ああ。なんとか流れを変えないと」

バブルスライム「なんでえ。こいつら素人ばかりかよ。バブみを感じてても勝てそうだぜ」

魔法使い(あんなグダグダな守備やってたら攻められるのは当然か)

魔法使い(僧侶君が捕れなかったのは僕のせいだ……タイミングも全然間に合わなかった。きっと相手はそれに気付いてどんどん仕掛けてくる)

魔法使い(これ本格的にまずいんじゃ……)

つづく

実況『ダブルスチールから僧侶選手の捕球ミスも重なりウェポンズはピンチが広がります。ノーアウト二、三塁。バッターは変わらず7番バブルスライム選手』

解説『味方に足を引っ張られて可哀想ですなあ』

実況『さあウェポンズここを凌げるか』

実況『下位打線ですしね。坊っちゃ……商人選手なら抑えるでしょう』



フロッガー「ゲッゲッゲ。犠牲フライでもホームへカエルぜ」

人面蝶「パタパタ。俺も生還するからタイムリーチョウだい」

商人「あれ?今日は完封のはずだよね?」

ブキヤ(ノーアウト二、三塁……まずい)

商人「あ、これから全員三振にするんだね」

魔法使い(無理だと思う)

商人「劇的な演出ありがとー!」ピュッ

バブルスライム「バブあ!」カキィン

商人「違うじゃん!?」

魔法使い「しかも勇者君狙いじゃない!三遊間だ!」

武闘家「ちっ、裏をかかれた。抜ける……」

タッタッタッ

武闘家「ん?」

バッ

遊び人「……」パシッ

武闘家「!?」

塁審「アウッ!」

バブルスライム「えええ!?」

魔法使い「捕った……あの鋭いライナーを」

遊び人「……」スタッ

武闘家「三塁ランナー飛び出しているぞ!タッチだ!」

フロッガー「ゲゲ!しまっ……!」

遊び人「……」シャッ

フロッガー「はや!」

遊び人「……」ポン

塁審「アウッ!」

フロッガー「嘘お……」

僧侶「二塁も飛び出している!投げ───」バシィ

僧侶「……」

僧侶「……え?」

魔法使い「すでにボールは僧侶君の手元に!?」

人面蝶「やべ」

僧侶「タッチだ」ポン

塁審「アウッ!」

人面蝶「んなあああ!?」

武闘家「速い……タッチしたその流れで投げていた……」

僧侶「それも動かさない俺のグラブの中にストライク送球……」

遊び人「……」

魔法使い「ト、トリプルプレーだ」

勇者「すげえ!すげえぞ遊び人!」

実況『なんとトリプルプレーが出ました!ウェポンズ、遊び人選手のビッグプレーでピンチを切り抜けた!』

解説『坊っちゃ……商人選手があそこに打たせたんですよ。狙い通り。さすがのピッチングです』



魔法使い「助かったよ遊び人君!」

戦士「あの場面絶対失点すると思ったよ」

盗賊「やるじゃねえか。まだ信じらんねえぜ」

勇者「遊び人、お前練習じゃ見せなかったけどすごいじゃん」

遊び人「ん……」

武闘家「……」

僧侶「悪い流れを断ち切った。まだこれからだぞ」

ブキヤ(助かった……若の完封)



\すごくない?/

\てかあの人めっちゃイケメン/

\遊び人君格好いい!/



商人「……ちょっと。ユーも自重しちゃいなよ。俺より目立ってどうすんの」

遊び人「……ゴメン」

商人「ブキヤ、今日はこういう演出なの?」

ブキヤ「これから若には見せ場がきますのでご安心を」

商人「ならいいけど」

ブキヤ(ならいいのだが……)

勇者「しっかし驚いたな。あんなプレーなかなか見られないぜ」

遊び人「……」

勇者「どうした?いつものお前らしくないな。今なら調子に乗っていいんだぞ」

武闘家「わからないか?」

勇者「何を?」

武闘家「……あそこを見ろ」

勇者「ん?客席?」クルッ

観客「さっきはすごかったよ」

遊び人「僕ならあれくらい当然さ」



勇者「!?」



観客「格好いい……サインください」

遊び人「いいよ。君の名は?」



勇者「お前もしかして……」クルッ

賢者「……」

勇者「入れ替わってるうー!?」

───客席

遊び人「僕とずっと一緒にいてくれないか?」

観客「ずっとって、この試合中?」

遊び人「いいや」

観客「じゃあ今日一日?」

遊び人「いいや」

観客「じゃあいつまで?」

遊び人「僕が言いたいのは……永遠」

観客「喜んで……ぽっ」

勇者「失礼ながらあなたさっきまでグラウンドにいた人とは別人では?よく若い方は騙されるのですが」

遊び人「!?」

勇者「何やってんだてめえ」

遊び人「あ、あれ?もうバレた?」

勇者「お前ら見分けつかねえんだよ。来い!」グイッ

遊び人「待ってよ!まだ10人しか連絡先を……」

勇者「うるせえ!何がNEW遊び人だ!なんにも変わってねえじゃねえか!」

───商人ウェポンズベンチ

遊び人「うう……」ボロッ

魔法使い「おかえり……うわ」

僧侶「また派手にやったな」

盗賊「自慢の顔が台無しだな」

戦士「そこまでしなくても……」

遊び人「うう……」

勇者「もうあんなことできないようにピエロメイクしてやった」

遊び人「ひどいじゃないか!これじゃあ僕が誰だかわからないだろ!」

武闘家「賢者と見分けがつけばいい」

僧侶「うむ。お前が文句言える立場ではない」

魔法使い「でもよく賢者君代わってくれたね」

遊び人「今日は女の子といっぱいお近づきになれるチャンスなんだ。昨日頼み込んだんだよ」

戦士「意外と簡単に引き受けてくれんだね。野球は嫌なのかと思ったけど」

遊び人「僕がお願いすればなんでも聞いてくれるからね」

盗賊「戦力的にはあいつの方が頼もしいんだがな」

遊び人「う……」

勇者「野球部は賢者じゃない。遊び人だ。野球部の力で勝たなきゃ意味ないだろ」

遊び人「そっか……そうだった。僕はまた過ちを犯すところだった」

勇者「ああ、お前が必要なんだ」

遊び人「兄貴より僕を……うん。頑張るよ。ところで兄貴は?」

魔法使い「店の仕込みがあるから帰っちゃったよ」

遊び人「おおい!ならこのメイクなんなんだよ!」

武闘家「それより勇者の打順に回ってきている。急げ」

勇者「あれ?商人は?」

僧侶「ツーベースヒットを打ったよ」

勇者「え?あいつ打つ方もすごかったのか?」

盗賊「なんか、ボールの来る場所がわかっていたような感じだったが」

武闘家「そしてブキヤが三振でワンナウト二塁だ」

魔法使い「チャンスだよ。頑張って」

勇者「おう」ブンブン

つづく

───二回裏

ウェポンズ 0-0 インズ

1死 2塁


夢爺「ヤドヤめ……珍しくサインを出したと思ったら」

ヤドヤ「……」

夢爺「このピンチもお前の望み通りというわけか」



実況『ウェポンズのチャンスはまだ続きます。6番ファースト勇者選手。守備ではミスがありました。ここで挽回したいところ』



夢爺「まあいい。ランナーを返さなければいいだけのこと」

勇者「よっしゃ。来い!」

夢爺「こいつはほぼ素人。抑える」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「うお、近くで見るとやっぱ速え」

夢爺「どうした?手も出せないか」

勇者「へへ」

ヤドヤ「ん?」

夢爺(笑っている……?)

勇者「絶対打ってやる」

夢爺「ふっ、打てるものなら打ってみろ」ピュッ

勇者「おりゃ!」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「ダメだ。振り遅れちまう。もっと早く振らないと」

夢爺「ふん」ピュッ

勇者「おりゃ!」ブン

スゥー

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

勇者「!?」

夢爺「緩急だ。こんな投球は初めてかな?坊や」

勇者「……」

夢爺「ふっ、言葉も出ないか」

勇者「……はは。楽しいな」

夢爺「なに?」

勇者「やっぱ野球は楽しいや。こんなすげえやつと戦えるんだもんな」

夢爺「こいつ……」

ヤドヤ「……」

実況『おおっと、いい投球を見せました夢爺選手。ワンナウト2塁からツーアウト2塁に変わります』

解説『坊っちゃ……商人選手の好投に刺激を受けたんでしょうなあ』

実況『次のバッターは先程ファインプレーを見せた7番サード遊び人選手。本日初打席……ですがあのメイクはなんでしょう?』

解説『さあ?ハーフタイムショーか何かやるんじゃないですか』



\キャー!遊び人くーん!/

\頑張ってー!/

\ピエロメイクもお茶目/



遊び人「こんな顔だけど兄貴のお陰でいっぱいファンがついたよ。ラッキー」

夢爺(こいつははっきり言ってレベルが違う。あのプレーからただの素人ではないとわかる)

遊び人「ここで打ったら会場の女の子皆僕のファンになっちゃうかもね」

夢爺(ヤドヤもどう出るかわからない。ここは……)

バシィ

アンパイア「ボールフォア!」

遊び人「あれ?四球か。まあいいや。出塁できてラッキー」


武闘家「安全策か。賢者の活躍が効いているな」

盗賊「別人だと気づかれたらどうなることやら」

僧侶「魔法使い、番が来たぞ」

魔法使い「うう。僕かあ」

僧侶「わはは。まだ序盤。最初の打席だ。気負わずにいけ」

魔法使い「う、うん」

───

カキィン

魔法使い「あー……」

ヒューン

パシッ

夢爺「ピッチャーフライ。チェンジだ」ニヤ

魔法使い「くそ、当てたのに」

勇者「ドンマイドンマイ」

魔法使い「商人君、ホームに返せなくてゴメン」

商人「気にしないでよ」

魔法使い「商人君……」

商人「打点つけるのは俺だからどんどんアウトになっちゃいなよ」

魔法使い「……」

武闘家「そういうことだ。気にするな」

盗賊「あいつフライのとき走ってもなかったしな」

魔法使い「はあ……どうなるんだこれ」

つづく

───三回表

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『傾きかけた流れを止めました夢爺選手』

解説『坊っちゃ……商人選手がせっかくチャンスをつくったのですがね』

実況『ここまで両チームともチャンスはつくるも無得点。この回はインズの攻撃、8番セカンド大蟻食い選手からです』



\ブーブー!/

\引っ込めー!/



大蟻食い「俺何もしてないのに……このブーイングあり得ない」

勇者「ありゃー、すげえブーイング。相手やりづらいだろうな」

僧侶「賢者の活躍もあり、ますます応援が増えたようだ」

勇者「でもちゃんと野球見てくれてるってことだろ。だったらこの声援もアリだな」

僧侶「うむ。有り難い」

商人「じゃあさっさと仕留めちゃうかな」

大蟻食い「ありあり?もしかして舐めてる?」ペロッ

商人「おりゃ!」ピュッ

大蟻食い「アリィ!」カキィン

魔法使い「一二塁間のゴロだ!」

勇者「やっぱ遊び人の方は狙わねえか。僧侶!」

僧侶「うむ」パシッ

ピュッ

勇者「おし、ナイスボール」バシィ

塁審「アウッ!」

魔法使い「さすが。軽快」

大蟻食い「ありあり?あそこも堅い」ペロッ

遊び人「なるほどね……」

武闘家「そちらを狙われるとは舐められたものだな。守りのエキスパート」

僧侶「わはは。今までいいところがなかったからな。見せ場はこれからだ」

勇者「今のサード狙われるより助かるぜ」チラッ

遊び人「なるほど。あの辺りの席に可愛い子が揃っている。後で連絡先聞きに行かなきゃ」

───

一角兎「くっ」スカッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」



実況『9番1番を二者連続三振!商人選手、流れは渡さない!』

解説『さすがですなあ』



僧侶「うむ。危なげなく後続も抑えたな」

武闘家「素人が続けばそうなる」

魔法使い(でも経験者には捉えられている。そろそろちゃんと対策しないと二巡目はどうなるか……)

勇者「よし、この回で試合動かそうぜ。トップバッターは」

戦士「俺だよ」

勇者「……」

戦士「任せてよ」

武闘家「戦士」

戦士「頑張るよ」

武闘家「バットは振るな」

戦士「!?」

武闘家「球数を多く投げさせて四球狙い作戦だ」

戦士「じゃあファウルで粘って……」

武闘家「振るな。お前の打撃はまだ見せるときじゃない。秘密兵器なんだ」

魔法使い(バット振られたら危ないもんね)

戦士「でもコントロール良さそうだし……」

武闘家「やつはブランクがある。そろそろ疲れが出てきてもおかしくない。四球狙いだ。絶対振るな」

戦士「……」

魔法使い(本当に期待されていないってここまで悲しいんだ……)

───三回裏

ウェポンズ 0-0 インズ


バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

戦士「三球で終わったやんけ……」



\ブーブー!/

\これ以上足引っ張らないで!/

\動けデブ!/



戦士「俺だけアウェーやん……トホホ」

実況『9番戦士選手、一度も振らずに三球三振。両チームとも得点なく一巡しました。次のバッターは1番盗賊選手です』

解説『どちらもアウトのうち三振が多いですね。ピッチャーの質がいい。特にウェポンズ』



夢爺「お互いのレベルが低いということだ。このままでは塩試合だな」

盗賊「けっ、すぐ打ち崩してやる」

夢爺「口先だけならなんとでも言える」ピュッ

盗賊「くっ」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

盗賊「くそ、当たらねえ」

夢爺「ふっ、何も考えずに振っているだけではな。それでもリードオフマンか?」

盗賊「リードオフマン……」

夢爺「お前が出られないようじゃ得点チャンスは半減だな」ピュッ

盗賊「……」

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

盗賊「俺はリードオフマン……俺の武器は足だ」

盗賊「認めたくねえがあいつからヒットを打つのは可能性が低い」

夢爺「これで三振だ」ピュッ

盗賊「塁に出られる方法があるなら……!」スッ


魔法使い「えっ!?」

勇者「バントの構え?」

遊び人「ツーストライクだよ」

武闘家「いや、だからこそ意表をつける」


盗賊「なんだって試すぜ!」コン

夢爺「スリーバントだと?」

コロコロ

盗賊「うおおおお!」ダッ

夢爺「ちっ、うまく転がしたな。サード!」

バブルスライム「バブ!バブ!」ガシッ

ピュッ

盗賊「うおおおお!」ズサー

フロッガー「ゲロッ!」パシッ

塁審「……」

盗賊「……」チラッ

フロッガー「……」チラッ

塁審「セーフ!」

盗賊「しゃあ!」

勇者「すげえ。やっぱ速いなあいつ」

魔法使い「セーフティバントでいいところにいったね」

武闘家「打てないのであれば勝負にいくべきと踏んだのだろう。やつの集中力の勝ちだ」



\やっぱ格好いいかも/

\あんたブキヤのファンでしょ/

\やめてよブキヤに聞こえちゃう/



盗賊「ふ、ふん。アリアハンのリードオフマン舐めんなよ」

夢爺「ほう」

つづく

僧侶「さて、せっかく足のあるランナーが出た。どうするか」

魔法使い「選択肢が一気に増えたからね。盗賊君の盗塁もいけるよ」

勇者「いや、あいつやんないと思うぜ」

魔法使い「え?なんで?」

武闘家「キャッチャーが飾りじゃ簡単に盗める。やつはバコタの精神を受け継ぎ、アンフェアは嫌うはず」

魔法使い「一番勝ちたがっていたのに……」

僧侶「任せてもいいか?」

武闘家「まあ普通なら送るな。その後のチャンスを次の俺が仕留めるというのがセオリーだ」

僧侶「俺にはそれしかできそうもない」

武闘家「だが意表をつくやり方で攻めるのも面白い」

僧侶「……」

武闘家「今なら向こうに動揺がある。何かを起こすチャンスということだ」

僧侶「……お前ならそう考えると思ったよ」

武闘家「盗賊が切り開くヒントを残してくれた」

僧侶「たしかにセオリー通りではつまらんな。仮にもショニーズ。自信はないがお客を楽しませるとするか」

───

実況『盗賊選手の見事なセーフティバントでワンナウト1塁になりました。続くバッターは2番僧侶選手』



僧侶「さて……」スッ

夢爺「送りバントか。盗塁をさせないとはなかなかフェアじゃないか」

僧侶「キャッチャーが地蔵ではつまらんからな」

夢爺「ふっ、言われているぞ。ヤドヤ」

ヤドヤ「……」

夢爺「だが送ろうが関係ない。アウトが一つ増えるだけ」ピュッ

フロッガー「バント処理なんてゲロいぜ」タッタッタッ

バブルスライム「ああ……バブみを感じてえ」タッタッタッ



実況『ファーストとサードが前に出た!』



僧侶「すまないな。これは邪道かな」スッ

ヤドヤ「バッティング?」

僧侶「アンフェアではないぞ。戦法だ」

夢爺「なんだと?下がれ!」

フロッガー「ゲロッ!?」ピタッ

バブルスライム「バブッ!?」ピタッ

僧侶「遅い」ニヤリ

カキィン



実況『打ったー!僧侶選手ここでバスターだ!』

コロコロ

僧侶「……すまん」


勇者「げ、ボテボテ」

戦士「あんだけ格好つけてたのに!?」

武闘家「……こんなものだ。奇襲を仕掛けるには根拠となるレベルが低すぎたということ」

魔法使い「バスターなんて難しいもん……当たっただけいいよ。結果的に進塁打にはなりそうだし」


コロコロ

夢爺「ファーストサードは反応が遅れている。キャッチャー」

ヤドヤ「……」

夢爺「……ふう」ダッ

夢爺「これも捕ろうとしないか」パシッ

夢爺「一塁は……」チラッ

僧侶「ん?セーフか?」タッタッタッ

夢爺「ちっ」

ヤドヤ「……」


勇者「あら?なんかセーフになったぞ」

魔法使い「ヤドヤさんの守備範囲だったけど捕らなかったんだ」

遊び人「本当に最低限のキャッチャーの働きしかしないんだねえ」



\なにあれ?/

\よくわかんなーい/

\でもウェポンズが押してるし面白ーい/



僧侶「喜んでもらっているようだが、いまいち達成感はないな」

実況『バスターで意表をつき、当たり損ねの内野安打で出塁。ワンナウト1、2塁になりました。続くバッターは3番武闘家選手』



夢爺「アウトにするには三振かキャッチャーの守備範囲に打たせない、か」

ヤドヤ「……」

武闘家「随分と苦戦しているようだな」

夢爺「苦戦?まだ点を与えていないが」

武闘家「今から失点するだろう。この俺によって」

夢爺「お前たちごときには無理だ」ピュッ

武闘家「残念だったな。お前の球はすでに見切っている」ブン

カキィン



実況『打ったー!武闘家選手初球からいったー!』

ヒューン

武闘家「……すまん」


勇者「げ、ファウルフライ」

戦士「あんだけ大口叩いておいて!?」

魔法使い「いやなんとなく予想できたけど……」

遊び人「大きいの狙おうとして大振りしすぎたね。女の子の前だからって」

勇者「レベルが低いって辛いな……」

遊び人「あれ?でもキャッチャーフライだよ。彼は捕らないんじゃない?」

勇者「じゃあファウルか。不可抗力だけど気を取り直して……」


タッタッタッ

ヤドヤ「ん?」

夢爺「どけ!」タッタッタッ

ヤドヤ「なに?」

勇者「嘘だろ。あいつ捕る気か」

戦士「打球こっちのベンチに入りそうだよ。無理だって」

遊び人「球しか見ていない。危険だ」

魔法使い「こっちに来る!?」


夢爺「おおおおお!」バッ

パシッ

武闘家「捕った……が」

魔法使い「危ない!」

ドンガラガッシャーン

戦士「う、うわあ……」

勇者「おいおい。突っ込んでベンチに……無茶しすぎだろ」

魔法使い「夢爺さん、大丈……」

夢爺「」

魔法使い「え?」

勇者「おっさん!やべえ。気を失ってる。頭打ったか」

つづく

実況『なんとピッチャーの夢爺選手、ファウルフライを捕りにウェポンズベンチへ飛び込んでしまいました』

解説『ヤドヤ選手は見切って捕りに行かなかったんですが、彼の方は判断を誤りましたね』

実況『ここからはよく見えないんですが大丈夫でしょうか。アウトが宣告されたのでキャッチはしたようですが……インズの選手も集まってきました』



\え……何あれ大丈夫だよね?/

\死んだ?/

\ヤドヤに任せればよかったのに張り切るから/

\死んだ?/



商人「お客さんドン引きじゃん!やり過ぎだよ!」

ヤドヤ「……」

大烏「夢爺さん!」

一角兎「しっかり!」

スライム「うわああん」

勇者「おい、おっさん!」ペチペチ

魔法使い「そんな無茶な起こし方まずいって!」

夢爺「ん……」パチリ

勇者「お、気がついたぞ」

魔法使い「嘘……でもよかった」

大烏「夢爺さん!大丈夫ですか!」

一角兎「わかりますか!?」

スライム「ひっく……ひっく」

夢爺「……ああ。少し打ちつけただけだ。どれくらい眠っていた?」

勇者「1、2分ってとこだな」

夢爺「そうか。中断させて悪かった。再開しよう」

大烏「でも……」

夢爺「大事にするな。大勢の人間が見ている」

ヤドヤ「無理しない方がいいんじゃないの」

夢爺「お前に言われる筋合いはない」

ヤドヤ「そんな減らず口を叩けるなら大丈夫そうだな」

夢爺「ふん……」

勇者「本当に大丈夫か?結構派手にいったぜ」

夢爺「敵の心配より自分の心配をしたらどうだ。本気で勝つ気があるのか?」

勇者「それとこれとは……」

夢爺「ただでさえレベルの低い試合を見せているのにこのままでは事故のような空気になるぞ。こんなものは野球ではよくあるプレーだ」

勇者「……」

商人「大丈夫って言ってるならいいじゃん。一人欠けたら中止なんだから派手な演出でも怪我はやめてよね」

夢爺「悪かったな。試合再開だ」

───

実況『どうやら大丈夫そうですね』

解説『ショニーズ野球リーグではあまり見られない出来事だったので大袈裟になりましたな』

実況『捕球後にボールデッドとなりランナーそれぞれ進塁します。ツーアウトですが2、3塁になってここで4番商人選手です』



商人「ヤドヤ、また真ん中に投げさせちゃいなよ」

ヤドヤ「いやあ……あいつもう俺のサインは無視すると思います」

商人「なんで!?頭でも打っておかしくなっちゃったの?」

ヤドヤ「まあ……そういう感じですかね」

商人「なんだよそれ。だったらピッチャー代えちゃってよ」

ヤドヤ「若なら実力で打てますって」

商人「え?本当?」

夢爺「お喋りとは余裕だな。二人で俺を打ち崩す相談か?」

商人「うるさいな。言うこと聞かないやつなんか給料減俸だ」

夢爺「そろそろ投げるぞ」

商人「どの辺に投げそうかな?変化球あるのかな?」

ヤドヤ「もう来ますよ。構えた方が」

夢爺「ふう」スッ

ズキッ

夢爺「うっ」ピュッ

夢爺「しまっ……!」

商人「え?」

ドゴッ

商人「ぐええ……」

ヤドヤ「若!」

アンパイア「デッボー」

夢爺「……」

勇者「うわ、やりやがった」

遊び人「今なんかフォームおかしかったね」

戦士「さっきどこか痛めたんじゃない?」


ヤドヤ「若!大丈夫ですか」

商人「うう……痛いよ」

ヤドヤ「右手が腫れている。骨折かもしれない」

商人「なんだよ……あいつなんでぶつけたの?」

ヤドヤ「わざとじゃないと思いますが」

夢爺「すまない。故意ではないが野球とはこういうもの」

ヤドヤ「俺たちの野球は客を楽しませてナンボだ。本気のデッドボールはまずいんだよ」

夢爺「……」

武闘家「お前のやり方は客を楽しませているか?」

ヤドヤ「ああ?」

武闘家「元を辿れば誰の怠慢プレーが引き起こした?」

ヤドヤ「……」

武闘家「お前のやっていることは客ではなく、商人を喜ばせているだけじゃないのか?」

ヤドヤ「……なんだと?」

夢爺「当てたのは俺だ。ヤドヤは関係ない」

ヤドヤ「……」

商人「ちょっと、俺を無視して揉めないでよ。救急車呼んで」

ブキヤ「……若」

商人「ブキヤ、早く救急車」

ブキヤ「しかし若がこのまま退場となれば、試合中止ということになります」

商人「だって骨折れちゃってるよ」

僧侶「見せてみろ」ガシッ

商人「折れてるよ!触らないでよ!」

僧侶「ふむ、これなら大丈夫だ。ただの打撲だ」

勇者「なんだ。よかったな」

商人「素人の意見なんて参考にならないよ!すごく痛いんだよ!」

武闘家「僧侶はその辺の医療従事者よりは当てになる」

魔法使い「なんで!?」

僧侶「そういう宗派に生まれ育ったからな」

魔法使い「どういう!?」

僧侶「打撲に対して医者ができることはさほどない。精々薬を処方するだけ。ならば素人でもやることは同じ」スッ

魔法使い「それは?」

僧侶「うちの寺に代々伝わる秘伝の薬草だ。そこらの湿布よりは効くぞ。わはは」

魔法使い「う、胡散臭い……」

ヌリヌリ

商人「あれ?ちょっと痛みがなくなってきた」

魔法使い「嘘でしょ!?」

僧侶「完全に治ったわけではない。あまり動かすな」

魔法使い(この人何者なんだろう)

商人「くっそー……なんでこんなことに」

武闘家「あんなの避けられない方が悪い。お前が敵のキャッチャーと話をしているから避けられなかっただけだろう」

商人「なんで当てられた俺が責められるの」

武闘家「いつまでもこんなことをしていたら不穏な空気になる。観客にアピールしてやれ」

商人「なんで……」フリフリ


ヤドヤ「意外だね。お前も俺を責めるかと思ったが」

夢爺「事実を言ったまで。それに……いや、なんでもない」

ヤドヤ「……なんだよ」

実況『観客席に手を振って一塁に向かっていますね。どうやら大丈夫のようです』

解説『ほっ……』

実況『これでツーアウトながら満塁になり、バッターは5番ブキヤ選手です』



夢爺「一人当てたからといって遠慮はせん。今まで通りに投球する」

ブキヤ「あれでは若が活躍することはもう不可能……」

ヤドヤ「本当厄介な連中を巻き込んじまったな。どうすんだ?」

ブキヤ「若が打てないなら自分も打つわけにはいかない」

ヤドヤ「いいんじゃないの。もう若も試合どころじゃないし」

ブキヤ「お前はどうする?」

ヤドヤ「どうもしないよ。今まで通りだ」

ブキヤ「……自分は純粋に彼らを勝たせてやりたいと思っている」

ヤドヤ「情が沸いたか。俺は全くだね」

ブキヤ「だが」

バシィ

バシィ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」

ブキヤ「勝負にけりをつけるのは彼らだ」

ヤドヤ「そっか」

ブキヤ「彼が言ったことは気にするな」

ヤドヤ「うん?」

ブキヤ「我々には我々の信念がある。お前は間違っていない。自分を貫き通せ」

ヤドヤ「わかってる」

───商人ウェポンズベンチ

僧侶「さて我々の守りだが、ピッチャー交代だ」

商人「は?代わるの?」

僧侶「そりゃそうだ。重傷ではないがそれでは球は握れまい」

商人「せっかく我慢して出てんだから活躍しないと意味ないよ。向こうのやつらに全部三振させちゃえばいいよ」

武闘家「無理だ。ストライクどころかキャッチャーに届くかもわからん球を振らせれば、どんな客だろうと八百長と気づくぞ」

商人「うう……」

魔法使い(そもそもそんな指示向こうはヤドヤさん以外聞かないもんね)

勇者「後は任せておけって」

商人「ウェポンズのピッチャーは俺だけなのに……」

ブキヤ「若……」

魔法使い「商人君の守備はどうするの?」

僧侶「できそうなところはファーストか」

商人「ファーストなんてやったことないよ」

僧侶「常に塁上にいてくれれば守備は放棄していい。俺たちが投げたボールくらいは捕れるだろう?」

商人「そんなのなんの見せ場もないじゃん」

武闘家「試合を成立させることを第一に考えろ。大体負担は俺たちにかかるんだ」

魔法使い「じゃあピッチャー頑張って勇者」

勇者「よっしゃ。いよいよ俺の出番」

僧侶「いや」

勇者「え?」

僧侶「ただでさえ内野守備が緩くなり、商人とほぼ同じ実力・球種の勇者ではおそらく打たれる」

武闘家「そういうことだ。俺に任せるんだな」

僧侶「いや」

武闘家「なに?」

僧侶「お前も変化球持っていないだろう。なぜ出てきた」

勇者「でも他にピッチャーは……」

遊び人「やれやれ仕方ない。僕が」

僧侶「魔法使い」

魔法使い「ん?」

僧侶「お前が投げろ」

魔法使い「……は?」

つづく

勇者「魔法使いだって……?」

僧侶「違うタイプのピッチャーなら向こうもすぐには対応できまい」

魔法使い「いやいや待ってよ。僕ピッチャーじゃないし」

僧侶「お前には独特の球筋がある。あれは変化球のようなものだ。十分武器になる」

魔法使い「僕の球が……?」

勇者「なんでそんなのわかるんだ」

僧侶「先ほど魔法使いが盗塁を刺そうとしたとき、俺は捕球できなかった」

魔法使い「そういえば……あれって僕が捕り辛いところに投げたからじゃ?」

僧侶「いや、いい球だった。ただ予測した軌道とズレがあったんだ」

魔法使い「そうなの?」

僧侶「自信を持て。お前のストレートは生まれ持ったものだ。真似しようと思っても誰もできん」

魔法使い「僕がピッチャー……」

勇者「……」

魔法使い「だったらキャッチャーはどうするの?」

僧侶「それなのだが……」

魔法使い「経験のある人いないよ。まさかブキヤさんに頼るの?」

ブキヤ「自分もキャッチャーの経験はない」

魔法使い「ですよね」

ブキヤ「だがどうしても試合が成り立たなくなるというのなら……」

勇者「俺がやるよ」

魔法使い「え?」

勇者「僧侶でも捕れなかったんだろ。俺はいつも魔法使いとキャッチボールしてたから慣れてるし」

魔法使い「キャッチャー舐めないでよ。素人がそんなすぐできるもんじゃないんだよ。キャッチボールとは違うんだよ。一番大事なポジションなんだよ。ねえ?」

武闘家「だが俺か僧侶がやるとしても内野に穴が空きすぎる。代われない」

魔法使い「君ピッチャーのときは真っ先に代わろうとしたよね!?」

僧侶「俺も勇者に懸けようと思っていた。野球経験のない勇者なら本来の球筋と違っても惑わされにくい」

勇者「ああ、やってやるよ」

魔法使い「ちょっと皆本気なの?」

勇者「お前の投球、じっくり見させてもらうからな」

魔法使い「いやいや……」

───4回表

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『ピッチャー交代ですね。商人選手、やはりデッドボールの影響か』

解説『あわわ……坊っちゃんに何かあったら社長になんて言われるか』

実況『リリーフは先ほどまでキャッチャーだった魔法使い選手のようです。どうなりますかね』

解説『知るか!どうでもいいわ!』

実況『キャッチャーは勇者選手、ファーストは商人選手に代わりました』

解説『何やらせてんだよ!病院連れてけよ!』

実況『投球練習が終わり、バッターは2番大烏選手からです』



魔法使い「なんでこんなことに……」

勇者「……」

武闘家「……大丈夫なのか本当に」

僧侶「やはり投球練習で勇者は捕ることができた。あとは打者を立たせてどうなるか」

武闘家「それはいいんだが、投球練習を見ている限り……」

僧侶「二人には試合中にいつもと違うポジションに慣れていってもらうしかない」

武闘家「打ちごろの球にしか見えん。本当に変化しているのか……?」

大烏「カッカッカ、さっきのやつより遅いぞ。あれなら俺でも打てるかも」

勇者「じゃあお手並み拝見といくぜ」スッ

魔法使い(ど真ん中!?何そのリード!?)

勇者「……」コクッ

魔法使い(……まずストライクが入るかだもんね。あの辺に投げればど真ん中じゃなくていい具合に散らばるかも……そういうことだよね!?)

勇者「ここだぞ。しっかり投げろ」

魔法使い(何も考えてなさそう……)

魔法使い「もうやるしかない。いくよ」ゴクリ

勇者「来い」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

大烏「カァーッ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

大烏「あれ?」

勇者「おお……やっぱりバッターがいると怖いけど捕れたぜ」

魔法使い「よかった……」

僧侶「ふむ。初体験なのにバットを振られても捕れるか。あの勇気とセンスは見事だな」

武闘家「問題は魔法使いだ。初球はたまたま空振りにできたが、あれではいずれ打たれる」

僧侶「まあ見ていろ」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

大烏「カァーッ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「いいぞ。二球続けて空振りだ」

魔法使い「ほっ……」

大烏「あ、あれ?」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

大烏「カァーッ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

勇者「すげえ!いきなり三振だ!」

魔法使い「や、やった!」

武闘家「どういうことだ……なぜあんな球で」

僧侶「上々だ。とはいえ今のは素人。ここからが本番だ」


夢爺「……」

大烏「くそっ」

夢爺「ただのストレート……というわけではなさそうだな」

大烏「俺が油断したカラッスよ。でも意外と速かったかも。前のピッチャーと同じくらい」

夢爺「……ほう」

つづく

魔法使い「次は夢爺さんか……」

夢爺「なかなか興味深いピッチャーだ」

勇者「へへ。腰抜かしたら怪我して退場、なんてやめてくれよ」

夢爺「遠目で見るのと体感速度が違うのだろう。それだけわかっていれば打席で驚くことはない」

勇者「そうなのか。たしかに速いと思ったけど」

夢爺(こいつもあのストレートの秘密がわかっていないのか。では……)

魔法使い「三振は無理でも打たせてとれれば」ピュッ

勇者「いっ!?」

バスッ

アンパイア「ボール」

勇者「いってー……ワンバンだけど装備のない足に当たった」

夢爺「……」

勇者「おいおい、構えたところと全然違うぞ。あれ捕るのは難しいって」

魔法使い「ゴ、ゴメン」

僧侶「やはり球が荒れるといくら勇者でも捕球は難しいか」

武闘家「ランナーがいなくてよかったが、あれでは」

僧侶「それでも後ろに逸らせていない。勇者を信じろ」

武闘家「さっきから勇者のことじゃない。不安なのは魔法使いだ」

魔法使い「いけない。夢爺さんの威圧感にやられちゃう」

勇者「ここだぞ」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

バスッ

アンパイア「ボール」

勇者「いてて……またかよ」

魔法使い「うう……ゴメン」

夢爺「やはり急造ピッチャーか」

勇者「うげ、バレてら」

夢爺「ならばこの打席はじっくり観察させてもらおうか」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

パシッ

魔法使い「えいっ!」ピュッ

パシッ

アンパイア「ボールフォア」

夢爺「……」

勇者「今の2球お前手抜いたろ」

魔法使い「そ、そんなこと」

勇者「俺なら大丈夫だ。本気で投げろよ。お前本当はコントロール悪くないんだしさ」

魔法使い「う、うん」

僧侶「想定内だ。振ってくれなければ急造ピッチャーにストライクはなかなか難しい」

武闘家「とはいえストレートの四球はまずいだろう。惨事になる前に代えるべきだ。俺に」

僧侶「慌てるな。今のは魔法使いが相手に萎縮していたせいもある」

実況『代わったピッチャーの魔法使い選手、ストレートのフォアボールを出してしまいました。ワンナウト1塁で続くバッターは4番ヤドヤ選手です』



夢爺「ヤドヤは自動アウトとして、あのピッチャーの調子で次からどうなるか」

商人「……」

夢爺「連続四球で押し出しでは塩試合にも程がある。そう思わんか」

商人「うるさい。ユーのせいだろ」

夢爺「ふっ、嫌われたものだ。それで負けるようならお前たちに見込みはない」

商人「なんだよ偉そうに。何様だ」


カキィン


夢爺「ん?」



実況『ヤドヤ選手打ったー!これは大きい!』



夢爺「なに……?」

ヤドヤ「……」

盗賊「くっ」タッタッタッ

ヒューン

ガン



実況『フェンス直撃!長打になるぞ!』



魔法使い「そんな……」

勇者「やべえ!」

武闘家「おい打たれたぞ!」

僧侶「しかし不幸中の幸いか。打球はセンター方向だ」


盗賊「くそ!油断したぜ。まさかあいつが打ってくるとは」パシッ

ブキヤ「ヤドヤ……」


夢爺「ホームは少し難しいか」タッタッタッ

遊び人「ん?三塁で止まるのかい?ホームまで行けそうな当たりと思ったけど」

夢爺(ついスタートが遅れた)

夢爺「それにしてもあいつ……」

つづく

実況『ヤドヤ選手あわやホームランというバッティングでした。しかし一塁で止まってしまいましたね。ツーベースは行けそうな当たりでしたが』

解説『一塁走者も三塁止まりかよ。スタートも足も遅すぎだろうがよ』



魔法使い「ゴメン……打たれちゃった」

武闘家「やつめ、商人が代わった途端本気を見せてきたか。こちらもすぐに本気を出すべきだ。ピッチャー俺に」

魔法使い「やっぱり僕じゃ……」

僧侶「大丈夫だ。大した問題じゃない」

魔法使い「でも……」

僧侶「おそらくヤドヤは打つ気がなかった。本人も今のは予想外だったはずだ」

魔法使い「え?」

僧侶「ツーベースの当たりなのに一塁で止まった。これ以上チャンスを広げないためと商人に弁明するためだろう。見てみろ」


商人「ピッチャー俺じゃないから打ちにいったの?」

ヤドヤ「いや……」

商人「別にいいけどね。こんな試合」

ヤドヤ「空振ったつもりだったんすが」


魔法使い「あのヤドヤさんが焦った表情を……」

武闘家「どういうことだ」

僧侶「やつも魔法使いの球に対応できなかった」

魔法使い「……」

勇者「訳わかんねえぜ。打とうと思っても打てなくて、打つ気がないのに打てるのか」

武闘家「……そういう変化をしている?」

僧侶「詳しくはわからない。だがあれは変化球とは違う」

魔法使い「……」

僧侶「向こうのレベルではお前の球は対応できない。自信を持て」

魔法使い「う、うん」

実況『ヤドヤ選手のヒットでチャンスが広がります。ワンナウト一塁三塁。バッターは5番フロッガー選手』



フロッガー「ゲッゲッゲ。犠牲フライでもランナーカエル状況じゃねーの」

僧侶「ランナーは気にするな。打者を打ち取ることだけ考えろ」

魔法使い「うん。大丈夫」

勇者「よし来い」スッ

魔法使い「えいっ!」ピュッ

フロッガー「おら!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

フロッガー「あれ?」

勇者「いいぞ。いい球だ」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

フロッガー「うおお!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

フロッガー「あれれ?」

魔法使い「えいっ!」ピュッ

フロッガー「せめて外野フライ……!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

勇者「よっしゃ!」

フロッガー「なんで……」

武闘家「……」

僧侶「魔法使いを少しは信じる気になったか?」

武闘家「わからん。もう何を見ているのかもわからん」

僧侶「わはは。素直な感想だ。俺もわからん」

───

人面蝶「うおりゃあ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」



実況『魔法使い選手、6番人面蝶選手も抑え、ピンチを切り抜けた。また三振です』

解説『締まらん試合だなあ。大した球投げてないし』ホジホジ



勇者「やったな。お前すげえよ」

魔法使い「勇者君も素人キャッチャーには見えなかった」

勇者「へへ。頭空っぽにしてボール捕ることしか考えてなかったよ」

魔法使い「それはそれでダメなキャッチャーだよね……」

勇者「お前を信じていたからな。絶対打たれないって」

魔法使い「なんか、普通に打ち取るよりヤドヤさんに打たれたことで自信がついたよ」

勇者「変な話だな」

魔法使い「はは。そうだね。おかしいね」

僧侶「どうだ?ピッチャーの感想は」

魔法使い「ちょっと面白いかもって思った。でもプレッシャーすごいしあれだけでクタクタ。僕にはやっぱり向いてないよ」

僧侶「そうか。よく動じないと思っていたが、周りを見る余裕がなかったか」

魔法使い「え?」

僧侶「見てみろ」



\ピッチャーいいぞー/

\三振すごーい/

\誰だか知らないけど格好いいぞー/



魔法使い「……」

僧侶「客は素直だ。思ったことを言ってくれる。なのにせっかくの主役がそんな感想ではつまらんぞ」

魔法使い「……僕、エースになるよ」

勇者(うわあ)

───イケメンインズベンチ

ヤドヤ「せっかくチャンスを演出してやったのにまた無得点。残念だったな」

夢爺「……」

ヤドヤ「あいつらも振らなきゃ四球の可能性があったのに。なまじチャンスだったから色気出しちゃったかな」

夢爺「……」

ヤドヤ「もしかして俺、打たない方がよかった?」

夢爺「あの球、どうやって打った?」

ヤドヤ「さあ。覚えてない」

夢爺「そうか」

ヤドヤ「役立たずですんませんね」

夢爺「いや、見ていて大体わかった。あれは俺には真似できん投球だな」

ヤドヤ「やっぱ秘密があんのか」

夢爺「もう一打席見てみれば確信できる」

ヤドヤ「そっか。わかったら教えてくれ」

夢爺「お前に教える気はない。もしかしたらまた空振りするつもりで打ってくれるかもしれんからな」

ヤドヤ「なんだ。わかってたんじゃねえか」

つづく

───4回裏

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『この回はキャッチャーとして見事なリードを見せた6番勇者選手から始まります』



勇者「よーし打撃だ。投げられない鬱憤はここで晴らすぜ」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

勇者「やっぱいい球だな。魔法使いとも違う感じだ」

夢爺「おや?お前は何も考えずに振ってくるかと思ったが」

勇者「人それぞれの投球があるもんな。じっくり球見た方が対策しやすいし」

夢爺「キャッチャーの経験も糧にするか」

勇者「あんたの打席からも学ばせてもらった」

夢爺「ふん」ピュッ

勇者「……よっ」ブン

カキィン

勇者「当たった!」

アンパイア「ファール」

夢爺「カットされたか。少々甘かったかな」

勇者「今の感じでいけそうだ」

夢爺「調子に乗るな」

勇者「俺なら……」

夢爺「打たせん」ピュッ

勇者「打てる!」ブン

カキィン

夢爺「!?」

勇者「やった!今度は前に飛んだ!」

ヒューン

夢爺「詰まっているぞ!レフト!」

ヒューン

一角兎「うぐぐ」タッタッタッ

ヒューン

一角兎「無理……」タッタッタッ

ポトッ

一角兎「くそ、追いつけなかったピョン」パシッ

勇者「よっしゃ!初ヒット!」


魔法使い「やった。捉えたよ」

盗賊「いい当たりじゃねえが、先頭バッターが出られたのは大きいぜ」

武闘家「いい流れだ。守備でリズムが作れたか」

僧侶「無失点で抑えられる自信がついたことで余裕が生まれたな」

遊び人「じゃあ僕もこの流れに乗せてもらおうかな」

実況『先頭バッター勇者選手ヒットで出塁。続くは7番遊び人選手。前の打席では敬遠で歩かされましたが、この打席はどう動くか』



遊び人「バント?しないよ。わざわざ向いてきたツキを逃すことはしない」

夢爺(こいつか……ここで逃げては完全に向こうのペースだ。勝負してみるか)

遊び人「送ったところで後ろが不安だしね」

夢爺「ふん」ピュッ

遊び人「はっ!」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

遊び人「……あれえ?」

夢爺(いける)ピュッ

遊び人「このっ!」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

夢爺(そうか。こいつが超人的なのは守備だけだったのか)ピュッ

遊び人「だあああ!」ブン

バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

遊び人「うそぉ……」クルンクルン

ドシーン

遊び人「僕が打つ流れじゃないの……?」

盗賊「空振りして尻もちまでつかされてんじゃねえか。格好悪」

戦士「ピエロメイクといい、イケメンとは程遠い姿だね」

武闘家「ふっ、これはさすがにやつのファンも減ったに違いない」

魔法使い(密かに妬んでたんだ……)

僧侶「いや、待て」



\あはは。今の面白かった/

\コミカルなピエロになりきってる。うまーい/

\遊び人君ユーモアのセンスも抜群だね/



武闘家「なんだと!?」ガタッ

魔法使い「なんか今までで一番声援すごくない?」

盗賊「むしろアクシデント続きで会場の空気は重くなっていた。それを笑いで一新させやがった」

戦士「アウトなのに全然悲観的にならないね」

僧侶「プレーだけが流れを生むわけじゃない。一つ勉強になったな」

ブキヤ(ショニーズ向きだ)

遊び人「これはもしや……」

遊び人「活躍しなくても……」テクテク

遊び人「!?」ツルッ

ステーン

遊び人「てへへ」ポリポリ



\あはは。もう何やってんの。うける/

\お茶目すぎる。可愛いー/



遊び人「この路線もいける。ラッキー」


魔法使い「新境地を見つけたみたいだね……」

戦士「あんなメイクするから」

武闘家「なぜやつばかり必ずいい方向へ転がるんだ」

僧侶「持って生まれたものが違う。真似しようとなんて思うな」

盗賊「それはいいんだが、あれにハマって野球は役立たずなんてことにならなきゃいいが」

魔法使い「あり得そうで怖い……」

───観客席

?「……ふっ」

??「あれ?今笑いました?」

?「……」

??「さっきまでムスーってしてたのに。今のそんなに面白かったですかあ?」

?「……」

??「それとも生徒たちの活躍が嬉しかっただけだったりして」

?「……」チョイチョイ

??「わかってますって。売店でこのメモに書いてあるの買ってくればいいんでしょ」

?「……」

??「面白くなってきたから私だって見たいのに」

?「……」シッシッ

??「邪魔者扱いしないで下さいよ。性格歪んでますよ」

?「……」ギロッ

??「うう、怖いよお……字はこんなに可愛いのに」

つづく

───

実況『その後も打線が続かず8番魔法使い選手内野フライ、9番戦士選手見逃し三振でチェンジです』



魔法使い「……」ズーン

戦士「……」ズーン

魔法使い「見せ場なし……」

戦士「せっかく盛り上がっていたのに振るなと言われた……」

魔法使い「所詮僕らは下位打線……」

戦士「ピッチングで見せ場あるだけいいじゃん……」

魔法使い「そうだったね」

戦士「え?」

魔法使い「僕ピッチャーだしバッティングはしょうがないよね」

戦士「う、うん。俺は……」

魔法使い「よし、気を取り直して頑張るぞ」

戦士「次は俺を励ます番だよ!早くして」

魔法使い「そっちには打たせないようにするからね」

戦士「……」

───5回表

ウェポンズ 0-0 インズ


アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」



実況『7、8、9番を空振り三振に仕留め三振凡退!魔法使い選手完璧なピッチングです!』



僧侶「四球の心配はしばらくしなくていいな」

武闘家「なぜあんな球で……やつらもそう思っているから手が出てしまう」

僧侶「打てそうで打てない。一番厄介かもしれんな」

魔法使い「ふう」

勇者「ここまでアウト全部三振とか、お前何者だよ」

魔法使い「今は全然打たれる気がしないんだ」

勇者「貫禄ついてきたな」

魔法使い「まだまだ。この後だってかすらせもしないよ」

勇者「おお、強豪っぽい貫禄だ」

魔法使い「肩冷やさないようウインドブレーカー着なきゃ」

勇者「ケアも忘れない。すげえ貫禄だ」

魔法使い「タオルとドリンクある?」

勇者「貫禄……ならしょうがない。ほらよ」

魔法使い「あ、ちょっとどいてくれるかな。ファンの子たちに手振るから」

勇者「貫禄つきすぎてもいいことないぞ」

───5回裏

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『1番から始まる好打順。難攻不落の夢爺選手を打ち崩せるか』



盗賊「おらっ!」ブン

カキィン

コンッコロッ

夢爺「セカンド!」

大蟻食い「ほいほいっと」パシッ

盗賊「くそっ、内野正面のゴロかよ。間に合うか」ダッ

大蟻食い「いくら素早くてもそれは無理」ピュッ

フロッガー「ナイスボール」パシッ

塁審「アウッ!」

大蟻食い「なまじいい当たりだと逆に守りやすいんだよなあ」

盗賊「ちっ」

───

僧侶「くっ」ブン

キィン

ヒューン

僧侶「うぐう」

夢爺「内野フライか。任せたぞ」

大蟻食い「ピッチャー寄りのセカンドフライ……いやショート任せた」

人面蝶「俺ね。オーライ」タッタッタッ

ヒューン

人面蝶「はいな」パシッ

塁審「アウッ!」

僧侶「うーむ。また流れが停滞してしまったか」

武闘家「俺たちのレベルでは流れが来たとしても、ものにできていないのが現状」

僧侶「そういう意味では打線にはならない。我慢のときか」

武闘家「だが突破口はどこにでもあるものだ」

僧侶「何か見つけたか?」

武闘家「……ああ」

つづく

実況『ツーアウトランナーなしで3番武闘家選手です』



夢爺「普通なら何もプレッシャーを感じる場面じゃないが」

武闘家「さあ来てみろ」

夢爺「何を仕掛けてくるか読めんやつは面倒だ」

武闘家「俺を恐れているのか。大口を叩く余裕はなくなったのか?」

夢爺「お前のペースには引き込まれんよ」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

武闘家「……」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

武闘家(前の打席程の球威、コントロールはない。皆バットに当たるようにはなった。遊び人以外)

武闘家(ピッチャーフライも以前ならやつ自身が捕っていたはず。やはりあのとき、動くだけで痛みが出る程の怪我をしていたか……だが)

武闘家(情けをかける程俺は甘くない。チャンスと受け取り全力で潰しにいく)

武闘家「どうした。バテてきたか?」

夢爺「ほざけ」ピュッ

武闘家「ここだ!」ブン

カキィン

夢爺「!?」ガッ



僧侶「ピッチャー返し!グラブを弾いた!」

勇者「さすが武闘家。止められはしたけど十分ヒットコースだぜ」

盗賊「ちっ、あのバットコントロールは認めざるを得ねえ」

魔法使い「夢爺さんも反応したけど捕れなかったね。弾いたボールを追いかけようともしない」

戦士「まあどうせ追いかけても間に合わないし」



コロコロ

夢爺「サード!」

バブルスライム「えっ俺?」タッタッタッ

武闘家「遅い。余裕でセーフだ」タッタッタッ

バブルスライム「でしょうね」パシッ

夢爺「ちっ」

武闘家「お前のピッチングは攻略できた。もう俺の思い通りだな」

夢爺「……そう簡単にはいかせん」

武闘家(やつが気丈に振る舞うため、他の連中は怪我だとは思わないだろう)

武闘家(知ってしまったら情けをかけるはず。やつもそう思っているから隠している)

武闘家(お前がどうしようが勝手だが、おそらくこの試合はもたないだろうな)

実況『武闘家選手内野安打で出塁。ここで4番商人選手に回りました』

解説『ブーブー!坊っちゃんはお前のせいで怪我してんだぞー。本気で投げるなんて汚い真似すんなよー』



夢爺「同情できるものならしてなりたいがね」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

夢爺「ふう」

商人「はあ。面倒くさ。打席に立つ意味ないのに」

ヤドヤ「打たないんですか?」

商人「嫌み?こんな手でまともに打てるわけないじゃん」

ヤドヤ「案外打てるかもしれませんよ」

商人「うるさいな。もうこの試合はいいの。さっさと終わらせちゃいなよ」

ヤドヤ「……へーい」

───

実況『商人選手バットを振らずに三振。やはり怪我をしていたか』

解説『で、でも試合に出てるってことは大した怪我じゃないよね?ね?』

実況『またも残塁でチェンジ。歯がゆい展開が続きます』



勇者「今のあいつはダメだな。完全にやる気を無くしている」

盗賊「仕方ねえよ。元々計算に入れてなかったしどうでもいい」

僧侶「しかし打線にならなければいくら個人が頑張っても点は入らないか」

遊び人「ホームラン狙って打つなんて兄貴でもないと無理だしねえ」

武闘家「4番商人、5番ブキヤの並びは捨てるとしても」

戦士「……」

魔法使い「僕ら下位打線がストップしちゃうのか……」

つづく

───6回表

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『この回インズは1番からの攻撃になります。圧倒的なパフォーマンスを見せる魔法使い選手を攻略できるか』



一角兎「皆なんであんな球打てないんだ?もしかしてあれが大したことないように見える俺がすごいのかピョン?」

魔法使い「えい!」ピュッ

一角兎「どりゃ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

一角兎「……あれ?」

勇者「このパターンは見飽きたぜ」

パシッ

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

一角兎「打席で見ると全然違う……」

───

大烏「カァーッ!」ブン

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

大烏「でしょうね……」



実況『なんと7者連続三振!魔法使い選手もう止まらない!』

解説『坊っちゃんのが球速いからすごいもん!』

実況『次は前の打席でストレートのフォアボールを選んだ夢爺選手です。ここは一つポイントになりますかね?』

解説『こんな試合やだ!もう見ない!』プイッ



夢爺「一巡してヒットはヤドヤのまぐれ当たりだけか」

勇者「出来すぎて怖くなってくるぜ」

夢爺「敵の俺はそれ以上に怖いのだがな」

勇者「皆振ってくれるからだよ。四球だけ不安だったけど、あんたみたいに様子見ることもしないし」

夢爺「俺が全員に指示した。空振りするつもりで振れ、と」

勇者「え、そうだったのか」

夢爺「だがそれで打てる程甘くはない。うちの連中もまだレベルが低い」

魔法使い「えい!」ピュッ

パシッ

アンパイア「ボール」

夢爺「……」

魔法使い「う、夢爺さんはやっぱり振ってくれない……」

勇者「大丈夫だ。今まで通り投げろよ」

魔法使い「う、うん」

夢爺「お前はあのボールの秘密にそろそろ気づいたのか?」

勇者「あんたの球とどこか違う……とはわかるんだけどな」

夢爺「ああ。俺の棒球とは質が違う」

勇者「質?」

夢爺「まず球の回転数」

勇者「回転数……」

魔法使い「えい!」ピュッ

ギュルルルル

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「たしかに……ものすごい回転している」

夢爺「ふっ、見切るか。なかなかの動体視力だ」

勇者「あとは何が違うだ?」

夢爺「全てが違う。球の握りから下半身、肩、手首や指の動き。そこから自然に放られる回転軸の向き」

魔法使い「えい!」ピュッ

ギュルルルル

パシッ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「歪んでいない。真っ直ぐな縦回転だ」

夢爺「この魔球に最適なフォームだ」

勇者「魔法使いのフォーム……」

夢爺「勿論さらにスピードがつけば効果は上がるが、あの身体では少々酷かな」

勇者「……」ジッ

魔法使い「えい!」ピュッ

バスッ

勇者「いて!」

魔法使い「あ、ゴメン!また夢爺さんの打席でパスボールだ……」

勇者「だ、大丈夫だ」

夢爺「ピッチャーを見過ぎだ。それでキャッチャーの仕事が務まるのか」

勇者「いてて……そうだった」

夢爺「垂直な縦回転による浮力で本来重力で沈むはずのボールが落ちてこない。それにより打者は浮き上がってくるように錯覚する」

勇者「浮き上がって……そうか。それで皆空振りを」

夢爺「浮力を得たボールは重力分をこちらに向かってくる力に」

勇者「それで体感スピードが上がった……」

夢爺「終速はメラメラと火がつき加速したように感じる。それゆえあのボールはこう呼ばれている」

魔法使い「えい!」ピュッ

ギュルルルル

夢爺「火の玉ストレート、と」

パシッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」

夢爺「ふっ、いかんいかん。お喋りに夢中で三振か。てっきりまた四球を出してくれるかと思ったが、あいつも試合中に成長していたか」

勇者「火の玉ストレート……」

つづく

───6回裏

ウェポンズ 0-0 インズ


バシィ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!」

ブキヤ「……」

夢爺「ふう」



実況『ブキヤ選手またも三振でワンナウト。今日はいいところがありませんね』

解説『知らない!』

実況『次のバッターは前の打席でヒットを打ちました6番勇者選手』

解説『まぐれまぐれ!』



勇者「火の玉ストレートか……」

夢爺「……」スッ

勇者「たしかに魔法使いのフォームとは全然違う」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「でもあの投げ方だったら……」

ヤドヤ「……」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

勇者「そうなる……か」

ヤドヤ「……」

夢爺「ふん」ピュッ

勇者「うーん」

ヤドヤ「考え事か。打席に集中しろよ」

勇者「おお、やべえ」ブン

カキィン

夢爺「なに!三遊間!」

バブルスライム「無理!頼む」

人面蝶「おりゃ!」バッ

パシッ

バブルスライム「おお、よく止めた」

人面蝶「でも投げるのは間に合わない。ちくしょう」

勇者「よし、内野安打!今度は綺麗に当たったぜ」タッタッタッ

ヤドヤ「……急でも対応しやがった。普通に打てるようになってんじゃねえの」

夢爺「……一段階レベルが上がったか」

遊び人「さてさて、もう僕の番か」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

遊び人「アウトになろうがなるまいが」

バシィ

アンパイア「ボール」

遊び人「僕としてはどっちでもいい方に転ぶからなあ」

バシィ

アンパイア「ボール」

遊び人「どうしようかなあ……って」

バシィ

アンパイア「ボールフォア」

遊び人「また四球。ラッキー」

夢爺「ちっ」

実況『おおっと、ストレートのフォアボールを出してしまいました』

解説『ノーコン!ノーコン!』

実況『ワンナウト12塁のチャンスで8番魔法使い選手です』



魔法使い「またチャンス……また僕らで潰すことになったら……」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

魔法使い「外れた……でも打てる気がしない」

夢爺「ふん」ピュッ

バシィ

アンパイア「ボール」

魔法使い「おかしいな。あんなに制球よかった夢爺さんが……僕を警戒するはずないし、やっぱり怪我」

ヤドヤ「お前も考え事か。集中しろって」

魔法使い「あ、はい」ブン

カキィン

魔法使い「あ……」

ヒューン

夢爺「内野フライ。任せたぞ」

人面蝶「よっと」パシッ

塁審「アウッ!」

魔法使い「やっぱり僕程度じゃ相手の調子どうこうのレベルじゃないよね……」

夢爺「2アウトか……ふう」

ヤドヤ「……」

───


\なんか退屈だね/

\全然試合変わらないしあんまり面白くないね/

\せめて贔屓の選手がいたらなあ/



ブキヤ「……」

武闘家「ふん。こっちだって望んでこんな展開にしたわけじゃない」

僧侶「武闘家、ちょっといいか。守備連携の確認だが」

武闘家「ああ」

戦士「……」

僧侶「お前の守備位置、レフトをケアしようとかなり深めに守っていたが」

武闘家「ああ。だが外野に飛ぶどころか全て三振だからな。通常に変更するか」

僧侶「そうしてくれ。俺も少し一塁側に寄りたい」

武闘家「するとああなった場合……」ペチャクチャ

僧侶「それをそうして……」ペチャクチャ

戦士「……」

武闘家「あーだこーだ」ペチャクチャ

僧侶「斯く斯く然々」ペチャクチャ

戦士「……」

戦士「……」キラーン

───

実況『まだチャンスは続きますがここで9番戦士選手。エラーに2三振と全くいいところがありません』



\ブーブー!/

\さっさと三振しろー/

\ブーイングするの結構楽しい/



戦士「……」

夢爺「こいつも振る気がないやつだったな」

戦士「……」

夢爺「振ってくれた方が有難かったが」ピュッ

戦士「うおおお!」ブルン

夢爺「!?」



魔法使い「戦士君の野郎武闘家君が目を離した隙に振りやがった!?」



バシィ

アンパイア「アアァイッ!」

夢爺「な……」

ヤドヤ「なんてスイングだ……」

戦士「うう……全然当たらない……おや?」

一角兎「暇だピョンねえ。外野に飛んでくることなんて滅多にないし」

一角兎「バッターはあののろまだし、余裕過ぎて昼寝でもしたい気分だピョン」

一角兎「むにゃ……」


ワーワー


一角兎「ん?皆俺を見てるピョン。観客の女の子も……もしかして俺人気者?」

大烏「避けろ!バットが飛んで来たぞ!」

一角兎「え?ぐごっ」ボゴッ



実況『な……なんてパワーだ戦士選手!すっぽ抜けたバットがレフトの一角兎選手を直撃しました!』



大烏「カァー……よそ見してっから」

一角兎「」ピクピク

つづく

勇者「おいおい……」

魔法使い「なんてことを……」

盗賊「いい気味だ……とはさすがに思えねえ」

僧侶「あいつは本当に危険だな」

武闘家「くそ、やつめ勝手な真似を」

遊び人「しかしちゃんと人に当てちゃうもんだね」

武闘家「だから振らせたくなかったんだ!」

魔法使い「済んだことはしょうがないんだし落ち着いてよ」

武闘家「落ち着いていられるか!俺はあれで以前殺されかけた!死人が出てからじゃ遅いんだ!」

商人「え……何あれ。怖いんだけど」

武闘家「演出だ」

魔法使い「!?」

武闘家「ヒールのインズを懲らしめるための演出に決まっているだろう」

魔法使い「!?」

商人「あ、そうなの?でも外野のあいつ大丈夫?」

武闘家「あのバットは軽くて柔らかい素材でできている」

商人「普段俺たちが使っているバットに見えたけど」

武闘家「でなきゃあそこまで飛ぶはずないだろう」

商人「そうだね。リアルに痛がってるように見えたから驚いたよ」

武闘家「痛がる演技も習得済みだ」

魔法使い(よくそんなペラペラと嘘が……)

ザワザワ

\死んだ?/

\すごいの見ちゃった/

\死んだ?/



実況『大丈夫でしょうか……本日の登録選手は両チームとも9人。交代枠はありません』



一角兎「うぎぎ……」

大烏「大丈夫カァ?」

一角兎「い、痛いピョン……」

大烏「息があるなら大丈夫だな」

一角兎「は、薄情な」



実況『あ、今入った情報によりますと演出みたいです。大丈夫のようですね』



一角兎「ウサォ!?」

───

戦士「えい!」スカッ

アンパイア「アアァイッ!」

戦士「どりゃ!」スカッ

アンパイア「アアァイッ!バッターアウッ!チェンッ!」


戦士「あはは……ゴメン。やっぱり三球三振だ」

盗賊「それは計算通りだが……」



大烏「」ピクピク

スライム「」ピクピク



勇者「まさか三回とも外野殺すとは」

ザワザワ

\死んだ?/

\あ、起き上がった/

\辛そうすぎて演出に見えない/



商人「やっぱりやりすぎじゃないの!?皆ドン引いてるよ!」

魔法使い「なぜ一度で学習しなかった……」

戦士「ゴメンなさい。でもこんな試合どうでもいいんじゃなかった?」

商人「それはそれ!興行なんだから事故みたいにするのはダメに決まってんでしょ!」

勇者「お前も怪我我慢したもんな」

商人「まずいよー。なんとか空気変えないと」ウロウロ

僧侶「一人ならまだしも三人もじゃ誤魔化しにくいな」

武闘家「くっ……」

僧侶「仕方ない。気休め程度だが俺の薬草を与えてくるか」

ブキヤ「待ってくれ」

僧侶「む?」

ブキヤ「そんな場面を見られたら本当の事故だとわかる。演出では通らなくなる」ヒソヒソ

僧侶「しかしあれでは」

ブキヤ「若やお客様に悟られないよう済ます。自分に任せてくれ」ヒソヒソ

僧侶「……?」

ブキヤ「若」

商人「なに?」

ブキヤ「ご相談が」

出塁したはずの勇者と遊び人がベンチにいるのはミスなのか?

───イケメンインズベンチ

夢爺「大丈夫か?」

一角兎「うぎぎ……」フラフラ

大烏「もう嫌……」バタッ

スライム「ひでえよ……ひでえよ」ヒックヒック

ヤドヤ「この様じゃ続行は無理だな」

夢爺「棄権……するか」

一角兎「だ……大丈夫ピョン」

大烏「夢爺さんは気にせず投げてください……」

スライム「ひっく……ひっく」

夢爺「お前たち……」

ヤドヤ「……なんでそこまでして」

夢爺「一つの試合に懸ける意気込み。お前にもわかるはずだ」

ヤドヤ「……」

ヤドヤ「……はあ。しょうがないな」

ブキヤ「ヤドヤ」

ヤドヤ「お?」

ブキヤ「話がある」

ヤドヤ「丁度いいところに来たな。俺も話したかった」

ブキヤ「そう……だろうな」チラッ

スライム「ひっく……ひっく」フラフラ

大烏「ひい……ひい……」フラフラ

一角兎「ふう……」フラフラ

ヤドヤ「できそうなのか?」

ブキヤ「ああ。というよりやるしかない。また客席の空気が怪しくなってきた」

ヤドヤ「……若は?」

ブキヤ「了承してくれた。お前もいいな?」

ヤドヤ「こんな状況だ。俺にはありがたいねえ」

夢爺「なんの相談だ?」

ヤドヤ「お前はこっち。ついてこい」

夢爺「……」

ヤドヤ「じゃあちょっと抜けるから頼むわ」

ブキヤ「了解だ。早く連れて行ってやれ」

夢爺「……」

───イケメンインズ控室

夢爺「こんなところまで……なんのつもりだ」

ヤドヤ「いいから」

大烏「俺たち歩くのもしんどいんだぜ……」

夢爺「大体次はお前の打順だろう。こんなところで油を売っていて」

ヤドヤ「黙ってこの中に入れ」パカッ

夢爺「なんだこれは」

ヤドヤ「怪我人用の酸素カプセル。うちのチームの持ち物だ」

スライム「さんそかぷせる?」

ヤドヤ「この中で眠ってりゃ怪我も多少は回復する。4つあるから丁度定員だ」

一角兎「俺たちが使っていいのか?」

ヤドヤ「おお。滅多に使うことなかったから、こいつもしばらくぶりのお客だ。嬉しいねえ」

夢爺「……」

ヤドヤ「勘違いするなよ。お前らがいないと試合が中止になって困る。それだけ」

夢爺「……なぜ俺も連れてきた?」

ヤドヤ「怪我してんのが見え見えなんだよ。クソみたいな球しか投げないし、バットは振らないし、守備しないし、走塁はてんで遅いし」

夢爺「……お前には言われたくなかったな」

一角兎「そうだったんですか?」

大烏「全然わからなかった……」

夢爺「言うほどのものじゃない」

ヤドヤ「いーや。あのままじゃ打たれるどころか試合中にぶっ倒れていただろうね」

夢爺「……」

ヤドヤ「本当は一晩寝りゃ完全回復といったところだが、そんなに待ってくれる人はいない」

夢爺「当然だ。次の攻撃を終えたらすぐ守備につく。寝ている暇はない」

ヤドヤ「40分。そんだけ寝てりゃこの試合くらいは乗り越えられる」

夢爺「40分?俺たちの一回の攻撃がそんなにかかるはずがない。誰もあのピッチャーを打てていないんだぞ」

ヤドヤ「いいから寝てろ。40分だぞ。経ったら熟睡してても叩き起こすからな」

大烏「助かる……」

一角兎「お先に……」スヤァ

スライム「ありがてえ……ありがてえ」

夢爺「……」

つづく

>>518
すみません。ミスです。設定忘れてました

───

解説『遅い。誰も守備につかないで何してんだよ』

実況『ただいま入った情報によりますと、どうやらあれが始まるようです』

解説『あ、あれが!?』



勇者「何が始まるんだ?」

ブキヤ「ショニーズ野球ではイニングの合間に何度かファンサービスが入る」

勇者「へえ。そんなのあるのか」

ブキヤ「今日は事情が事情なだけにできないと思っていた。マネージャーや事務所の人間に相談したいところだったが、謎の食中毒に倒れてしまった」

武闘家「……」

魔法使い「そっちにも手を出してたの!?」

ブキヤ「しかしせっかく来てくれたお客様を退屈させて帰らせたくない。君たちも協力してほしい」

戦士「まあこんな退屈な試合しちゃっている以上責任感じるしね」

魔法使い「いやそもそも僕らのせいだから」

武闘家「空気を変えるためにも必要か」

僧侶「なるほど。そして怪我人の治療の時間も稼げる一石二鳥というわけか」

遊び人「なになに?何やるの?」

ブキヤ「一番簡単なパターンだ。サインボールを客席に投げ入れてプレゼントする」

魔法使い「ええ……」

勇者「それなら俺たちでもできそうだな」

魔法使い「でもショニーズを見に来たお客さん、僕らのサインボールなんか欲しがるかな」

遊び人「いいじゃん。やろうよ」

魔法使い「遊び人君は受け入れられそうだけど……」

ブキヤ「試合も大事だが、お客様もそれ以上に大切だ」

魔法使い「それはわかるんですけどね」

ブキヤ「試合の後にはお客様の投票でMVPが決まる」

魔法使い「え?」

ブキヤ「ここでサービスしておけば株も上がる。若やヤドヤ、それに自分が活躍できていない今、君たちにはチャンスだ」

勇者「MVPって何かもらえるのか?」

ブキヤ「教えたらそれ目的になってしまうから言いたくなかったが、仕方ない」

魔法使い「え……そんなにすごいものが?」

ブキヤ「MVP受賞者には……」

魔法使い「……」ゴクリ

ブキヤ「その選手のグッズが作られる」

魔法使い「しょうもねえ!」

ブキヤ「し、しょうもない……?」

魔法使い「ファンサービスって全員参加しなきゃいけないんですか?」

ブキヤ「強制ではないが……え?まさかMVPを諦めるのか?」

魔法使い「いやグッズとか作られても僕らショニーズじゃないから意味ないし」

勇者「行かないのか?」

魔法使い「怖いし僕は遠慮させてもらうよ」

勇者「でもお前にだって声援くれた客いるだろ。応えてやろうぜ」

魔法使い「うん……でも……いいや」

勇者「そうか。俺は行くぜ」

───

ブキヤ「受け取ってくれ」ポイッ

\キャーキャーブキヤー!/



商人「アリアハンの女子生徒いるはずだし、いい顔見せておかなきゃ」ポイッ

\商人君怪我に負けないでー/



盗賊「ふん。くだらねえ。が、しょうがないから付き合ってやるか」ポイッ

\盗賊君の欲しーい/



勇者「おりゃ」ポイッ

武闘家「やれやれ」ポイッ

僧侶「サインなど初めて書いたぞ。わはは」ポイッ

\まあいいか。もらっとこ。今後に期待/



戦士「はいどうぞ」ポイッ

\いるかボケ/ポイッ

\キャーキャー/



勇者「ん?なんかあっち盛り上がってんな。誰だ?」チラッ



\遊び人くーんボールちょうだーい/




勇者「遊び人か。何やってんだあいつ」

僧侶「注目を集めているな」

盗賊「あ、あれは……!」



遊び人「ダンス部に体験入部して得たタップダンス」タッタタッタ

遊び人「さらに……」

遊び人「ジャグリング部に体験入部して得たこの技をご覧あれ」シャシャシャシャ



\すごーい。サーカスみたい/



戦士「アドリブでなんかやってる!?」

武闘家「あのピエロ……タップダンスしながらいくつものボールをお手玉している」

僧侶「あの器用さを野球に役立ててもらいたいものだ」

勇者「女目当ての数撃ち体験入部がこんなところで役に立つとは……」

盗賊「これも女目当てには変わらないけどな」

遊び人「はい。これ全部僕のサインボールでしたー」ポイッポイッポイッ



\キャー欲しーい/



勇者「馴染みすぎだろあいつ……」

ブキヤ「ファンサービスにおいて彼ほど心強い者はいない」

勇者「なんかこのままショニーズに入っちゃいそうな勢いだな」

ブキヤ「さて、自分の分は投げ終わった。皆も終わったようだな」

戦士「喜んでもらえたか微妙だなー」

盗賊「そ、そうだな……」

武闘家(戦士……)

勇者「いいじゃねえの。今はあれだけど、野球部で全国優勝して俺たちのサインボールをプレミアものにしてやろうぜ」

僧侶「わはは。それはいいな」

ブキヤ「これでまた会場の空気も良く……」



\うう……ブキヤのボールもらえなかった/

\あんたブキヤの熱狂的ファンだもんね。戦士のボール転がってきたけどいる?/

\そんなのいらない。せっかく見に来れたのに……グスン/



ブキヤ「……」

───

魔法使い「はあ……」

魔法使い「残酷なほど一目で人気があるかわかるよ」

魔法使い「MVPとかいっても所詮人気投票だろうし、どうせ元々人気のあるブキヤさんか、商人君は……微妙か」

魔法使い「ショニーズ勢に対抗できるとしたら、ここまで株上げまくった遊び人君」

魔法使い「大穴でちょっと活躍して割とイケメンの盗賊君」

魔法使い「勇者君と武闘家君と僧侶君も顔面偏差値は悪くないけど、さすがに試合で目立ってないし無理だ」

魔法使い「あとはヤドヤさんか……」

魔法使い「ヤドヤさん、勝ちにはこだわってなさそうだしMVPは貰う気ないんだろうな」

魔法使い「そもそも向こうのチームはファンサービスに参加してないし、ってかヤドヤさんベンチにもいないし」

魔法使い「でも僕たちが負けちゃったらどうせヤドヤさんで決まりでしょ」

魔法使い「……」

魔法使い「負けること考えてちゃダメだ。こんなにたくさんの人たちが僕らを応援してくれているんだから」

───イケメンインズベンチ

ヤドヤ「ただいま。お、やってるな。サインボールプレゼントか。まあ今日はそんなとこだろ」

フロッガー「おろおろ」

人面蝶「あたふた」

ヤドヤ「ってお前らはボール投げに行かないのか?」

大蟻食い「何がなんだか……」

バブルスライム「俺たちがやってもいいのか?」

ヤドヤ「それもそうだな。お前らのサインボール欲しがる人間なんかいないから、このファンサービスは無視していいよ」

フロッガー「なんだと」

人面蝶「でも事実だし……仕方ない」

大蟻食い「お前だけでも行けよう。グスン」

ヤドヤ「俺もお前らのチームメイトだ。付き合うよ」

バブルスライム「え?大事なファンサービスだろ。やんないのか?」

ヤドヤ「悪役は悪役らしくしていようぜ」

人面蝶「お前……」

ヤドヤ「あれが終わって大体20分……まだ足りないな」

つづく

───七回表

ウェポンズ 0-0 インズ


実況『ボールをもらえた人、もらえなかった人、もらえたけど捨てた人、様々な反応が見られた時間でした』

解説『坊っちゃんのボールをもらえた人は幸運ですなあ』

実況『あの反応で決まるといっても過言ではありません。そろそろMVPの行方も気になるところです』

解説『坊っちゃんが有力でしょう』

実況『そしてこのファンサービスを嘲笑うかのように傍観していたインズの攻撃。4番ヤドヤ選手から始まります』



\ヤドヤの欲しかった……/



ヤドヤ「悪かったねー」

勇者「あれ結構楽しかったぜ」

ヤドヤ「そっか。まあ協力には感謝しとく」

勇者「なんであんたやらなかったんだ?」

ヤドヤ「別に関係ないだろ。もう頭切り替えろよ」

勇者「はいはい。わかってるって」

魔法使い「えい!」ピュッ

パシッ

勇者「ん……?」

アンパイア「ボール」

ヤドヤ「……」

勇者「振らないのか?」

ヤドヤ「振ってほしかったら空振りしやすいところに投げさせろ」

勇者「難しいこと言うなよ」

魔法使い「えい!」ピュッ

パシッ

アンパイア「ボール」

勇者「う、またわかりやすいボール球……」

魔法使い「えい!」ピュッ

パシッ

アンパイア「ボール」

勇者「まずいな。間隔空けちゃったから集中切れたか?」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「……」ブン

キィン

アンパイア「ファール」

魔法使い「あ……」

勇者「当てられた」

ヤドヤ「……」

勇者「打とうとしたのか?それとも空振り狙い?」

ヤドヤ「……やっぱりな」

勇者「何が?」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「……」ブン

キィン

アンパイア「ファール」

勇者「またかよ。でも追い詰めたぜ」

ヤドヤ「お前、気づいてるのか?」

勇者「あの球の秘密?さっき夢爺のおっさんから聞いた」

ヤドヤ「……あの野郎。自分も敵に塩送ってんじゃねえかよ」

勇者「まあそれを教えてもらえたところでって感じだけど」

ヤドヤ「ってそうじゃないよ。あいつあの球何球投げた?」

勇者「さあ……どうだったっけな」

ヤドヤ「キャッチャーだったらそれくらい把握しとけ」

勇者「そういうもんなのか」

ヤドヤ「そろそろあいつ危ないぜ」

勇者「え?」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「ほら」ブン

キィン

アンパイア「ファール」

勇者「また……どういうことだ」

ヤドヤ「あんな球をいつまでも投げられると思うな」

勇者「!?」

ヤドヤ「そっちのチーム、さっきあいつだけ参加していなかったよな」

勇者「まさか……」

ヤドヤ「よりによってボールを投げるファンサービスときたもんだ」

勇者「手を休めていた……?」


魔法使い「はあ……はあ……」

ヤドヤ「残念だが限界だ」

勇者「限界って……もう投げられなくなるのか?」

ヤドヤ「少なくともあの魔球はな。疲れでフォームがバラバラ。そして何より握力がなくなっている」

勇者「確かにさっきとは違う球だった。でもそんなに投げてないぞ」

ヤドヤ「それだけ握力を消耗するんだろ。元々体力もなさそうだし」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「棒球なら俺でも対応できる」ブン

キィン

アンパイア「ファール」

勇者「まさかわざとカットしてんのか?」

ヤドヤ「いい時間稼ぎになるもんでね」

勇者「なんのことだ?」

ヤドヤ「ただいつまでもやってたら、今度はあいつが潰れちゃうな」

勇者「よくわかんねえけど、ファウルで粘って魔法使いを消耗させる作戦か?」

ヤドヤ「警笛鳴らしてやってんの。あれはすでに棒球だ。あんなの投げてりゃ他のやつに打たれる」

勇者「三振は厳しいってだけだろ。打たれても守備陣がいる」

ヤドヤ「もうそんな次元の話じゃないんだよ」

勇者「なに?」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「……」ブン

カキィン



実況『打ったー!大きい!大きい!』



勇者「い!?」



実況『入るか入るか……切れましたファウル。しかし惜しい当たりでした』

勇者「あ、危ねえ……」

ヤドヤ「あんな球じゃ簡単に運べる」

勇者「い……今のもわざと?」

ヤドヤ「言っただろ。警笛」

勇者「……」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「交代しろよ」ブン

勇者「え?」

キィン

アンパイア「ファール」

ヤドヤ「お前ピッチャーなんだろ?ずっとうちのピッチャー観察してやがって」

勇者「……」

魔法使い「えい!」ピュッ

ヤドヤ「実力は知らないが、今のあいつよりはマシなはずだ」ブン

キィン

アンパイア「ファール」

勇者「なんでそんな助言してくれるんだ?」

ヤドヤ「なんでもいいだろ」

勇者「でももう商人投げてないし、あんたが加勢する意味ないだろ」

ヤドヤ「交代しないなら打つぞ。今度はバックスクリーン狙ってみるか」

勇者「……」

実況『ヤドヤ選手粘ります。魔法使い選手はそろそろ苦しいか。肩で息をするようになりました』

解説『あんなに粘られたんじゃピッチャーは精神的にきついでしょうなあ』



魔法使い「はあ……はあ……」



実況『ちょっと心配ですがブルペンには誰もいません』



勇者「……」ピュッ

魔法使い「あ……」ポロッ

勇者「!?」

ヤドヤ「ほらな。もうキャッチすら危ういじゃねえか」

勇者「……タイム」

アンパイア「ターイ!」

つづく

───

勇者「お前、限界だったのか」

魔法使い「……ゴメン」

武闘家「3イニングか。やはり荷が重かったのだな」

魔法使い「……ゴメン」

僧侶「慣れないことを急にやったんだ。それでも想像以上によくやってくれた」

魔法使い「……うん」

遊び人「胸を張りなよ。あんなに女の子に注目されるなんて滅多にないよ」

魔法使い「う、うん……」

僧侶「交代だ。勇者、準備はいいな」

勇者「……」

僧侶「どうした?」

勇者「投げたくない」

僧侶「なに?」

遊び人「なんで?あんなに楽しみにしていたでしょ」

武闘家「わかっている。後は俺に任せておけ」

勇者「そうじゃなくてさ」

武闘家「なに?」

勇者「悔しかったよ俺は」

僧侶「どういうことだ?」

勇者「あいつ俺に言ったんだ。交代しないならホームラン打つって脅してきた」

魔法使い「……」

勇者「敵に手助けしてもらってさ、ヒット打つ気がないのにファウルで遊ばれているみたいで」

魔法使い「……」

勇者「悔しくないか?」

僧侶「それは悔しくないと言えば嘘になる。だが」

勇者「……」

武闘家「ではどうする?」

勇者「ヤドヤとは魔法使い、お前がそのまま勝負しろよ」

魔法使い「え……」

勇者「初めて本気でやってくれるかもしれないんだ。だったら勝負に乗っかってみようぜ」

魔法使い「でも今の僕じゃ」

勇者「俺が投げてわざと三振されるなんてもっと嫌だ。本気の勝負にならないなら負けた方がマシだ」

遊び人「意地ってやつかい?」

武闘家「プライドをゴミとまで言っていたお前がな」

勇者「プライドが邪魔ならいつでも捨てるよ。でもあいつに打たれたからって負けるわけじゃないし、そもそも打たれるって決まっていることなのか?」

魔法使い「……」

勇者「それにこの試合って盗賊には悪いけど……野球部にとっては勝ちが一番の目的じゃない気がする」

僧侶「公式戦ではないからと言いたいのか?」

勇者「意地だけで言っているんじゃない。ギリギリの勝負ってやつを経験しなくちゃ先に進めない。世界の見え方が変わらない」

魔法使い「……」

勇者「俺はここが、その一番大事な局面だと思う」

武闘家「……」

遊び人「……」

僧侶「……どうする?魔法使い」

魔法使い「……」

───

ヤドヤ「ちょっと待て……」

勇者「さあ勝負だ」

ヤドヤ「なんでだよ。警告しただろ」

勇者「別に。抑えられると思ったからあいつが投げるだけだぞ」

ヤドヤ「んなわけないだろ。最後まであいつを使う気か?」

勇者「代えてほしかったら打ってみろよ」

ヤドヤ「……本当に痛い目見なきゃわかんないみたいだな」


魔法使い(多分、一球)

魔法使い(次の一球が僕の最後の投球)

魔法使い(集中しろ)グッ

魔法使い(やっぱりちゃんと握れない。でも……)

魔法使い(ここだけは投げきらなきゃ)

魔法使い「これが僕の……」スッ

ヤドヤ「やっぱりフォームも戻っていない。確実に棒球じゃねえか」

勇者「来い!」

魔法使い「最後の球だ!」ピュッ

ヤドヤ「ん?」

スゥー

ヤドヤ(これは……ストレートじゃない)

スゥー

ヤドヤ(こんな奥の手取っておいたのか。タイミングが……)グググ


武闘家「なんだと」

僧侶「先ほどまでと全く違う球筋!」

遊び人「こりゃひょっとしたらひょっとするかも」

勇者「やったか!?」


ヤドヤ「……だが」ブン

カキィン

魔法使い「あ……」

勇者「……」

武闘家「……」

僧侶「……」

遊び人「これは……」



実況『打ったー!今度は確実にフェアゾーン!打球は綺麗にセンターへ!』



盗賊「おいおい……」タッタッタッ

盗賊「……」タッタッ

盗賊「……」ピタッ

盗賊「……マジかよ」


ガン


実況『入ったー!バックスクリーン直撃!ヤドヤ選手のホームランでついに、ついに試合が動きました!』



ヤドヤ「一時の感情で試合を壊しやがって……若いんだよ」

つづく

ヤドヤ「……」タッタッタッ

商人「また空振りするつもりで打っちゃった?」

ヤドヤ「いや。世間知らずの若者に勝負の厳しさを教えてやりました」タッタッタッ

商人「ふーん。ま、いいけどね。相対的に俺がすごいってことになるし。ファンサービスに参加しなかったヤドヤは印象良くないだろうしね」

ヤドヤ「……そっすね」タッタッタッ



実況『ヤドヤ選手ゆっくり回ってホームイン。ようやく待ちに待った先制点が入りました』

解説『坊っちゃんが投げていればあり得ない得点ですがね』



勇者「ナイスバッティング」

ヤドヤ「これが現実だ。わかったら代われ」

勇者「ああ。そうさせてもらう。勝負してくれてありがとうな」

ヤドヤ「……」

───

遊び人「大事な大事な先制点。本当に重要な局面になっちゃったね」

武闘家「公式戦ではこんな我が儘は許さんからな」

勇者「悪かったって。でもこれで心置きなく代われるな」

魔法使い「もう。打たれた僕は置いてきた気分だよ」

遊び人「それにしてはスッキリした顔だよね」

魔法使い「そう?ピッチャーの重圧から解放されるからだよきっと」

僧侶「わはは。何事も経験だ。これが後の糧となることを祈ろう」

魔法使い「うん。僕次第だよね」

武闘家「そういえば最後に投げたあの球はなんだったんだ」

勇者「そうだよ。あんなのあるなら言っておいてくれないと俺捕れなかったぜ」

魔法使い「え?何か変わっていた?」

武闘家「気づいていなかったのか?」

魔法使い「う、うん」

僧侶「球種はわからんが、おそらく変化球だった」

魔法使い「僕が変化球を……?」

遊び人「偶然投げられたの?それはまた……」

勇者「どこか投げ方変えたのか?」

魔法使い「前みたいな握り方できなかったから、ちょっと握りを変えてみたんだ。あとは必死で覚えてないよ」

僧侶「あれを磨けばまた武器が増えるかもしれん」

武闘家「雨降って地固まるか。無駄な失点にならずに済みそうだな」

勇者「でも、ヤドヤだって初めて見たはずなのに……それでも打たれちゃったのかよ」

僧侶「自分の間を持っているんだ。やつは相当な実力者だぞ」

武闘家「ショニーズなど道楽で野球をやっていると思ったが、あんな男もいたとはな」

勇者「すげえな。俺もあいつと本気の勝負してみたかったな」

武闘家「やめておけ。結果は見えている。まずは目の前のことに集中しろ」

遊び人「そうそう。のんびり相手を賞賛している場合じゃないよ」

勇者「別にまだ負けたわけじゃないぞ。取り返せばいいんだ」

僧侶「その前にこの一失点で留める方が先だ」

勇者「ああ」

武闘家「正直なところ、お前が投げることで魔法使いの投球時より楽はできないと思っている」

勇者「俺だって初めて試合してみて思ったよ。俺はまだまだ弱い。知らないことも多すぎる。だから……」クルッ

勇者「外野陣も聞いてくれ!」



戦士「ん?」

盗賊「なんだよ」

ブキヤ「……」



勇者「俺これから投げるけど、打たれるかもしれないからよろしく頼むな!」



盗賊「な……」

戦士「ええ……?」 

ブキヤ「……」



僧侶「なんともはや……」

武闘家「まったく。敵にも聞こえる声で弱気な宣言をするな」

魔法使い「はは……勇者君らしいや」

遊び人「野球ってそういうものさ。一人じゃできない。だから支えてくれる仲間や応援してくれる人が力になって、そんな皆とチームの勝利のために頑張れる」

勇者「お前が締めるのかよ」

───イケメンインズベンチ

ヤドヤ「……やっちまった」ズーン

人面蝶「なんで項垂れてんだよ。ホームランだぞ。チョウ凄えよ。喜べって」

ヤドヤ「……」

バブルスライム「伏兵のお前が先制点取るなんてブルったが、よくやったぜ?」

ヤドヤ「……」

フロッガー「ピッチャー消耗してたんだろ。カエルみたいだ」

ヤドヤ「……」

大蟻食い「アリがてえ。あいつが代わればチャンスだ」

ヤドヤ「はあ……」

フロッガー「他の連中どこ連れてったんだ?向こうピッチャーカエルならこの回打順回ってくるかもしれんぜ」

ヤドヤ「……そうだな。そろそろ起こしてくるか」

つづく

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