ウルトラマンオーブ -Episode EX- (117)


※ウルトラマンオーブのSSです

※オリキャラがいます

※既存怪獣のリメイクという形でオリジナル怪獣がいます

※オーブ世界に登場させるにあたり、怪獣の設定を捏造しています

※その他、独自の解釈や設定があります

※以上のことにご注意ください


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491559237


第一話 『動かない時の針』


ナオミ「めだま?」

ジェッタ「そうなんだよキャップ。これ見てよ!」

 興奮した様子のジェッタに言われ、彼のデスクのパソコンの画面を覗き込む。
 ネットニュースの写真が表示されている。航空写真のようだ。山の緑の中にレモンのような形の虚がぽっかりと空いている。
 そこにあったのは「目玉」のように見えた。血走った眼球の真ん中に光る深いブルーの瞳。

ジェッタ「長野県矢渡山脈上空を飛行中のヘリコプターが偶然発見したもの、だって。慌てて撮影したけど次の瞬間には――」

ナオミ「消えていた?」

ジェッタ「うん。ドロンとね。幽霊でも見たんじゃないかって思ったけど、カメラには真実が映っていた」

ナオミ「シンくんはどう思う?」

シン「普通に考えると地中に潜ったと推測されますが、駆け付けたビートル隊が調査したところそのような形跡は見られなかったようです」

ナオミ「やっぱり、ドロンと消えちゃった?」

シン「はい。しかし森の中でそこだけ空き地になっていたのは明らかに妙です。合成写真ではなく、やはり消えてしまったと考えた方がいいでしょう」

ジェッタ「ねえキャップ、次の記事はこれにしようよ! 突如現れ消失した謎の眼! その名も……『ガンQ』!」

ナオミ「いいわね……よーし。SSP、調査開始よ!」

シン・ジェッタ「「了解!」」


   ★


ガイ「――んんっ」

 森を抜けると眩しい光が目に飛び込んできて、ガイは帽子を目深に被り直した。
 斜面の下に街並みが広がっている。長屋のような横長の建物が碁盤目のように規則的に並び、くすんだ煉瓦屋根を見せている。
 スイスのラ・ショー=ド=フォン。ガイは何年かぶりにこの地を訪れていた。

 斜面を下り、森に近い閑静な住宅地を抜けると、中世的な都市の中に投げ込まれる。
 石造りの白壁と大きな窓といった建物が多く、どれもこれも似通っていて道に迷いそうになる。
 記憶を手繰り太陽の方向を見ながら歩いていると、どうにか目的の場所が見えてきた。

ガイ(おっ)

 その建物の前に少女がいた。まろやかなブラウンの長髪を後ろにまとめてポニーテールにしている。
 服装はラフなTシャツとライトグリーンの作業ズボンといったところ。昼の日光を浴びながら大きく伸びをしている。
 白い腕は健康的な肉付きで、それでいて引き締まっている。ひとつ欠伸をして、それから視線に気付いたようにガイの方を振り向いた。

ガイ「ミラール。久しぶり」

ミラール「……ガイ!?」

 大きな青い瞳が見開かれ、それから走り寄ってきた。
 爪先から顔まで確認すると、ぱっと笑顔が弾け、勢いよくガイに抱きついた。

ガイ「大きくなったな。いくつになったんだ?」

ミラール「十四。もう八年ぶり」

ガイ「そうか。たった八年で見違えたなあ」

ミラール「『たった』? そのうちまた会えるって言って八年『も』待たされたんだけど?」

 口を尖らせるミラールにガイは苦笑いした。

ミラール「まあいいや。おじいちゃんも会いたがってるよ、たぶん。あがってあがって」


ブレーメ「ガイくん!」

 建物に入るとリビングのソファでコーヒーを飲んでいた老人がいた。
 ミラールの祖父でブレーメ・エデゥアール・ピアジェという。頭も禿げあがった七十代くらいの時計職人だ。

ガイ「お久しぶりです。お元気そうで何より」

ブレーメ「元気なものか。最近じゃすぐ疲れが来て長い作業が全然できん。不便なもんだ」

ガイ「そうですか。この前会ったときには『まだ十年でも二十年でも働ける』って言っていたのに」

ブレーメ「そんなこと言ったかな……どうやらボケも来たようだ」

ミラール「おじいちゃん、そんなことはいいから! ね、ガイ。お昼は食べた? 何か食べる?」

ガイ「まだ食べてないけど」

ミラール「じゃあ私が作るわ。おじいちゃんと話でもしながら待ってて」

ガイ「お前が作るのか?」

ミラール「当然。何年経ったと思ってんの」

 ガイにぱちりとウインクしてミラールはキッチンへと駆け込んでいった。
 言われた通り古びたソファセットに腰を下ろす。ブレーメはカップを更に戻し、煙草をくゆらせながら天井を見上げた。

ブレーメ「何年……何年ぶりだろうか。君と会うのは」

ガイ「八年ぶりらしいですね」

ブレーメ「そうか……それだけあれば人は変わるもんさ。私の体力は衰えたし、孫はあんなに成長した。今では私の手伝いもやっている」

ガイ「手伝い? 時計作りの?」

ブレーメ「ああ。けっこう飲み込みが早い。あと四、五年すればちゃんと跡を継いでくれると思う」


 ブレーメは天井に向けていた目を向かいのガイに戻した。

ブレーメ「ガイくん。君はこれまで何をしていたんだい」

ガイ「色々」

ブレーメ「ふふっ。八年前も同じことを言っていたな。あの時君はまるで浮浪者のような恰好で森から下りてきて……」

ガイ「お恥ずかしい話です」

ブレーメ「実は君について考えていたことがあってね」

ガイ「何です?」

ブレーメ「君、ここに来る前は日本にいたんじゃないか?」

ガイ「……よく分かりますね」

ブレーメ「八年前、君がこの街にやって来た頃の話だ。森の方角から雷鳴や地鳴りのような轟音が聞こえてきたことがあった。この話はしたかな」

ガイ「聞きました」

ブレーメ「日本で起こった事件の数々を知って思ったんだよ。あの轟音も、怪獣と巨人が戦っていたからではないかとね。そしてその直後、君が現れた」

 煙草を灰皿に押し付け、ブレーメはガイの目を見た。

ブレーメ「ここから先は私の勝手な想像になるが、ガイくん、君はまさか――」


ミラール「ガイ、お待たせーっ!」

 ブレーメが言いかけたとき、ミラールが元気よくリビングに入ってきた。

ミラール「簡単なものしかできなかったけど良いよね? ほら、どうぞっ」

 テーブルに皿が乗せられる。一口大に切ったバケットとハム入りのサラダにドレッシングを和えたもの。

ミラール「今日はまだこっちにいるでしょ? 夜ご飯は腕によりをかけて作るから期待しててね」

 孫のはしゃぐ様子に苦笑しながら、ブレーメはガイに目配せした。
 促されるまま一口、二口と口に入れて、それからガイはがつがつと料理に夢中になった。

ガイ「うまい」

ミラール「良かった。ね、おじいちゃん。何の話してたの?」

ブレーメ「ちょっとね。それよりミラール、頼んでおいた件は」

ミラール「い、今からやってくる!」

 仕事場がある二階への階段を上りかけて、ミラールはガイの方を振り向いた。

ミラール「ガイ、家にいてね! これが終わったら買物行こう!」

ガイ「ああ。頑張れ」

ミラール「うん!」

 にっこり笑うミラール。とん、とんと足音が穏やかに響いた。


ブレーメ「ふふ。ミラールは綺麗になっただろう」

ガイ「え? あぁ……そうですね」

ブレーメ「どうだいガイくん、あいつを貰う気はないかい」

ガイ「!? ――ごほっ、えほっ!」

ブレーメ「そんなに驚かなくてもいいだろう。あいつは君によく懐いているし」

ガイ「い、いやいや。話が飛躍しすぎでしょう」

ブレーメ「そうかな? 君がいなくなってからというものあいつはずっと寂しそうだったよ」

ガイ「そ……そうですか」

ブレーメ「私の跡を継ぎたいって言い出したのも……いや、その話は本人から聞いた方がいいか」

 にやりと笑いながらブレーメは煙草に火をつけた。ガイは冷や汗をかきながら、とりあえず目の前の食事に集中することにした。


   ★


ミラール「こうして二人で歩くのも久しぶりだねっ」

ガイ「そうだな」

 三時間ほど経ってミラールの仕事が終わり、二人は石畳の街路を歩いていた。
 見慣れない男と一緒にいるからか視線が集まる。しかしミラールはどこ吹く風、楽しそうに話しかける。

ミラール「また昔みたいに遊ぼうね。森にピクニックに出掛けて、湖で泳いで。
     昆虫採集もやったよね。ガイは珍しい蝶を捕まえるのが得意だった。すぐ逃がしちゃったけど」

ガイ「ああ。でも、爺さんの下で修行してるんだろ? 時間はとれるのか?」

ミラール「大丈夫大丈夫。私ってこう見えてもけっこう将来有望なんだよ。パッパッと済ませちゃうから」

ガイ「そうか」

ミラール「……ね、ガイ。いつまでこの街にいるの?」

 隣を見たが、背後から夕日が影を投げかけていてミラールの表情はよくわからなかった。

ガイ「そう長くはいられない。またどこかへ行くことになる」

ミラール「…………」


 それを聞いたミラールはしばらく無言で歩いた。ガイも声を出さなかった。
 二人の影が石畳の上に長く伸びる。八年前も遊んだ帰りにこうして二人で歩いたな、とガイは思い出した。
 あの頃に比べて、ミラールの影はずいぶんと長くなった。

ミラール「私がおじいちゃんの跡を継ごうと思ったのはね、夢を叶えるためなんだ」

 不意にミラールが口を開いた。

ガイ「夢?」

ミラール「うん。まずね、そっくり同じ時計を二つ作るの。その片方は自分が持っていて、もう一方は誰かに渡す。
     そしたらね、二人は同じ時の針で結ばれてることになるの。ロマンチックじゃない?」

ガイ「いい夢だ。掛け値なしに」

ミラール「ありがとう。それでね、ガイ。私は――」

 ミラールが言いかけた時だった。ヒュオオオオオオッ!! という乾いた音が風を切り裂いた。
 二人の影の間にもう一つの影が稲妻のように駆け走る。

ミラール「!?」

 頭上を見上げるミラール。しかし上空を通り過ぎていった「それ」は既に地上に墜落していた。
 轟音。石畳が砕け、飛び散った破片が周囲の建物に穴を空ける。迫りくる衝撃波。

ガイ「!」

 ガイは咄嗟にミラールを抱きしめて飛んだ。道の脇にあった建物の赤い屋根の上に降り立つ。

ミラール「あ、あれは……?」

ガイ「…………」


 砂埃が立ち、空から降ってきた「それ」の正体は未だわからない。だがガイは目元を険しくして、再びミラールを抱いて道に降りた。
 音を聞きつけて建物の窓から首を出す住人たち。ガイは周囲をぐるりと見回しながら声を張り上げた。

ガイ「みんな、逃げろ! 今すぐに!」

ミラール「何? 何が起こったの……?」

「キィィィィイイイッ!!」

 空をつんざくような甲高い音。いや、声だ。叫び声。
 砂埃の中からぬっと巨大な影が現れる。大きな顎を持った、アリジゴクにもクワガタにも見える昆虫怪獣だった。

ミラール「か、怪獣……!?」

ガイ「ミラール、今すぐ逃げろ。爺さんを助けるんだ」

ミラール「ガイは?」

ガイ「俺はあいつを食い止める」

 そう言って走っていくガイ。ミラールはその場で躊躇ったが、踵を返して駆け出した。

「キィィィィイイイッ!!」

ガイ「こいつは……アントラーか……?」

 知っている姿とは少し違う気もするが――
 そう思いつつ、ガイはオーブリングを取り出し身体の前に翳した。


ガイ『メビウスさん!』

『ウルトラマンメビウス!』

ガイ『ギンガさん!』

『ウルトラマンギンガ!』

ガイ『――無限の力、お借りします!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ メビュームエスペシャリー!』


 地上から空に向かって光の柱が昇る。柔らかい光が薄れゆき、その中の巨躯があらわになる。
 赤と銀に染まった体躯。胸や肩、腕、そして頭部には鋭い形状の青い発光体が備わっている。

オーブ『眩い光で未来を示せ!』

 それこそメビウスとギンガの力をフュージョンアップした姿、“メビュームエスペシャリー”。
 ファイティングポーズを取りながら怪獣に対峙した。

オーブ「――シュワッ!」

アントラー「キィィィィィイイッ!!」

 両顎をカチカチと鳴らしながら怪獣が迫りくる。オーブはその場にとどまり、顎をがっしりと受け止めた。


アントラー「キィィィィイ……!!」

 アントラーが力任せに顎を左右に開く。地面を蹴り、前進しながら再び顎を閉じようとする。
 しかしそれは空を切った。オーブは顎から手を離し、身を屈めていた。

オーブ「セアッ!」

 怪獣の懐にショルダータックルを叩き込む。喉元に手をやって持ち上げる。
 だが怪獣も抵抗する。腕でオーブの脇腹を叩く。力が緩んで体勢が崩れたところを怪獣の両顎が狙っていた。

アントラー「キィィッ!!」

オーブ「ジュワッ……!」

 胴体がアントラーの両顎の棘に挟まれ、その怪力にギリギリと締め付けられる。
 まるで万力のような力だ。今にも皮膚を食い破り、胴体が真っ二つにされそう。
 鋭い痛みを感じつつ、オーブは右腕のクリスタルから光の剣を伸ばした。

オーブ「ハァァ――セヤァッ!!」

アントラー「! キィィィィィィッ!!」

 怪獣の右顎に勢いよく振り下ろし、切断する。
 左顎も残っていたが痛みですぐには動けなかった。怪獣も二、三歩よろよろと後退する。


アントラー「キィィィ……」

 その時だった。アントラーの背の固い前羽が開かれ、中に収められていた薄い後羽が展開された。

オーブ「……!」

 瞬く間に空に踊り出し、オーブに背を向けて逃げ出す。
 オーブもまた地面を蹴り空中へ浮かび上がった。

オーブ「フッ!」

 追尾するオーブは光剣を収め、左腕のクリスタルに右手を当てた。両腕を大きく開いてから上方で円の形にする。

オーブ『――メビュームシュート!』

 夕焼け空を切り裂く金色の光線。しかしアントラーはそれを察知して素早く躱し続ける。

オーブ「グッ……。――ハアァッ!」

 オーブのカラータイマーが点滅を開始する。あまり猶予はない。オーブが両腕を交差させると、その背から光が放たれた。
 光の中から虹色に輝く剣が五本現れる。腕を突き出すと空中を乱れ飛び、そのうちの一本がレーザーを放った。

アントラー「キィィッ!!」

 咄嗟に横に身体をずらして躱す。しかし次なる剣が光線を放つ。
 アントラーはそれすらも素早く避ける。だが三本目、四本目といくにつれ回避に余裕がなくなっていく。


オーブ「シュアッ!」

アントラー「! キィィィッ……!!」

 そして遂に最後のレーザーがアントラーの後羽を貫いた。飛行のバランスが崩れるアントラー。
 それを見てオーブは剣の一本を握りしめた。

オーブ「オオオ―――――サアッ!!」

 アントラーの飛行速度は下がっている。オーブが加速するとあっという間に追いついた。
 手にした光剣を振るい、怪獣の二枚の羽を根元から切断する。

アントラー「キィィィィ……!」

 地上に転落するアントラー。地上に激突するとその体重で石畳を砕き、土埃が激しく立ち昇った。

アントラー「キィィィッ……!!」

 アントラーが満身創痍と言った様子でよろよろと身を起こす。
 少し離れた場所に降り立ったオーブは光剣を掲げた。宙を飛び交っていた残る四本が剣の周りに纏わり回転し出す。

オーブ『メビューエスペシャリー――――』

 剣を振り上げると五本それぞれがエネルギーを迸らせ、一本の巨大な光剣と化した。
 それを振り下ろして怪獣にトドメを刺そうとした、その時――


「ギャアアオオオッ!!」

オーブ「――シュアッ……!?」

 突然背中に襲い掛かる火球。振り返ると、飛行する黒い影が目前に迫っていた。

「ギャアアアアッ!!」

オーブ「グアッ……!」

 突進を躱すことができず突き飛ばされてしまう。
 地上に降り立ったのは新手の怪獣だった。南国の蛾のような派手な模様の翼を持つ鳥型怪獣だ。
 岩肌のような外表には無数の孔が開いており、瞳は鋭く赤に光っている。

鳥型怪獣「ギャアアアアアアア!!」

アントラー「キィィィィィッ!!」

オーブ「……!」

 二体の怪獣に挟まれる形になる。右腕のクリスタルから剣を伸ばして鳥型怪獣の火球を叩き落とし、アントラーの突進をキックで撥ね退ける。
 カラータイマーは今なお鳴り響いている。雄叫びを上げる怪獣たちの姿に焦燥感が駆り立てられる。

鳥型怪獣「ギギャアアアッ!!」

 鳥型怪獣も突進してくる。そちらの相手をしていると背後からアントラーが攻撃してきた。
 思わず膝を突く。すると鳩尾に鳥型怪獣の蹴りが入った。

オーブ「ジュアァ……ッ!」

 倒されたオーブに向けて鳥型怪獣が火球を放ち続ける。辺りに爆発が巻き起こり、火花が盛大に飛び散る。
 薄れていった爆煙の中に、オーブの姿はなかった。


鳥型怪獣「ギギャアアアアアアアアッッ!!!」

アントラー「キィィィィィッ!!!」

 オーブが消えると鳥型怪獣の次のターゲットはアントラーに定められた。
 吐き出された火球が次々と襲い掛かる。アントラーは手近な建物を壊しながら悶え上がった。

ミラール「…………」

ブレーメ「何ということだ……」

 住人の一部は森まで避難してその戦いを見下ろしていた。
 整然としたラ・ショー=ド=フォンの街並みが壊されていく。歴史ある時計作りの街が。

ミラール「ガイ……!」

ブレーメ「! ミラール!」

 ミラールは居ても立っても居られず斜面を駆け下りた。

ミラール「ガイー! どこー!? 返事してー!」

 声を張り上げながら街中を走り回る。怪獣の叫び声がどんどん近くなる。
 このままだと自分たちの工房も危ない。そしてそこには――

ミラール「っ!」

 ミラールは自分の家に向けて駆け出した。


 家に入るとすぐさま二階の自分の部屋に上る。
 轟音。すぐそばのようで部屋の中がびりびりと震動した。空気が張り詰める。明らかに怪獣たちの声が近くなっている。
 早く戻らねば。ミラールは自分の机の上から作りかけの懐中時計を取り上げた。

「キィィィィイイイッ!!!」

 それと怪獣の悲鳴が聞こえたのが同時だった。
 壁が崩れ、次いで床が崩れる。足場がなくなり身体が宙に落ちていく。
 転落する視界に怪獣の姿が見え、すぐ砂埃で見えなくなった。

 そして、頭頂に走る激痛。

ミラール(――――)

 一瞬にしてミラールの意識は暗転し――


   ★


ガイ「――はっ!」

ブレーメ「お、ガイくん。起きたか」

ガイ「ここは……」

 ガイが辺りを見回す。清潔感のある白い壁と翡翠色のリノリウムの床。
 病院の待合室のようだった。人がごった返している。頭や腕や足に包帯を巻いている者が大半だった。


ブレーメ「見ての通り病院だ。怪我人が多くてベッドが足りなくてね……こんなところで済まない」

ガイ「いや……俺は大丈夫です。それより街は? あの怪獣は……」

ブレーメ「ウルトラマンが消えたあと、街中で怪獣同士が戦い始めた。ほぼ壊滅状態だ」

ガイ「…………」

 ガイはうつむいて唇を噛んだ。

ブレーメ「最終的に昆虫型の方が敗れた。鳥型怪獣はどこかへ飛んでいったよ」

ガイ「そう……ですか」

 ガイはじっと口を噤んでいたが、しばらくするとはっと顔を上げた。

ガイ「ミラールは?」

 ブレーメは黙ったまま立ち上がり、ガイの腕を引いた。ガイも黙ってその後に続いた。
 待合室を抜け、廊下に出る。階段を上り、三階の病室に入った。

ガイ「ミラール……」

 そこにはベッドに横たわるミラールの姿があった。
 病衣に身を包み、頭に包帯を巻き、腕や胸からコードが伸びて点滴や機械に接続されている。
 瞼は静かに閉じられ、開く気配がない。まるで石にでもなったかのように彼女は沈黙していた。


ブレーメ「家にこれを取りに帰ったんだろう。倒れたまま握りしめていた」

 サイドテーブルに置いてあったそれをブレーメはガイに渡した。
 丸い形をした何か。内部に細かい部品が入り組んでいるが、それらも死んだように動かない。
 懐中時計だ。ガイはそう判断した。そして二人で歩いていた時にミラールが語った言葉を思い出した。

ガイ「ミラール……」

 ベッドに寄り、ミラールの手を優しく握った。

ガイ「……すまない……」

ブレーメ「…………」

 ひとしきりそうしたのち、ミラールの手をそっと戻し、ガイは立ち上がった。

ガイ「あの怪獣が出現する直前、空から『棘』が飛んできたのを俺は見ました」

ブレーメ「『棘』……?」

ガイ「はい。……心当たりがあります。ブレーメさん、ミラールを頼みます」

ブレーメ「ああ。……気を付けるんだよ」

ガイ「はい」

 ガイは病室を出、病院を後にした。
 時計作りのために整備された都市は見るも無残に破壊され尽くし、明かりのひとつもない。

ガイ「…………」

 ガイはジャケットの内ポケットからオーブニカを取り出し、口に当てた。
 無人の街に響き渡る物悲しい旋律。夜風が寂しい音を立てて流れ、音色と共に消えていった。


To be continued...


≪次回予告≫

ラ・ショー=ド=フォンを後にした俺が向かった先は日本……婆羅慈遺跡。

そこに現れる謎の男。その手には消えたはずのダークリングが……。

そして男の持つ闇の力が、地中に眠る災厄を目覚めさせてしまう……!

次回、ウルトラマンオーブ 『地獄襲来』

銀河の光が、我を呼ぶ!


≪登場怪獣≫

“閻魔分身獣”ゴーグアントラー
・体長:40m
・体重:20,000t

ラ・ショー=ド=フォンに墜落した謎の棘から生まれた昆虫型怪獣。
巨大な顎が特徴的で、強靭な力で獲物を捕らえる。防御力にも秀でている。
“磁力怪獣”アントラーと酷似しているが、体色は赤味がかかった黒。
そちらとは違い、後羽を広げて空を高速で飛行することも可能。

“超古代尖兵怪獣”ゾイガー
・体長:55m
・体重:48,000t

ラ・ショー=ド=フォンに突如飛来した鳥獣型怪獣。
鋭い嘴と蛾のような派手な模様を持つ翼が特徴的。腕も持っており、格闘戦も得意。

ひとまずお疲れさんです
メビュームエスペシャリー出てるし映画より更に後かな?
前Xでも似たようなスレタイで書いてた人だよね?期待して待つよ

>>23
映画より後です。
注意書きに載せるの忘れてましたが劇場版のネタバレ注意です。


第二話 『地獄襲来』


ナオミ「ガンQの正体がわかったってホント!?」

 オフィスに駆け込んでくるやいなやナオミは声を上げた。
 シンのデスクの後ろにいたジェッタが手招きする。ナオミは牛の着ぐるみという恰好のまま駆け寄った。

シン「手こずりましたよ~。なんせ、『太平風土記』には載っていませんでしたからね」

ジェッタ「なおかつ目玉のお化けなんていっぱいいすぎて特定が難しい……だけど!」

シン「はい! 遂にそれらしきものを見つけたんです!」

 パソコンの画面を指さす。古文書の見開きが映っている。
 そこには山の中で地面に露出した目玉が描かれていた。先の事件と全く同じ構図だ。

ナオミ「この本は?」

シン「『日本太平風土記・異本』といいます」

ナオミ「異本? 『太平風土記』とは違うの?」

シン「はい。『太平風土記』は八世紀前半から中頃に書かれたものだと言われていますが、『異本』は戦国時代に書かれたものなんです。
   そのため今まで『太平風土記』を真似たただの娯楽本として扱われてきましたが、現代の事件が記されているとなると……」

ナオミ「つまり、『太平風土記』と同じように予言の書……ってこと?」

シン「恐らくは。そしてここから肝心なのですが……」

ジェッタ「とんでもないことが書いてあるんだよ。この古文書」

ナオミ「とんでもないこと?」

シン「はい。次のページに移ります」

 ページが切り替わる。ハリネズミのように棘だらけの怪獣が描かれている。
 そこに付された文字。「閻魔獣罪業苦」と書かれていた。

ナオミ「えんまじゅう……ザイゴーグ……?」


シン「『呪いの力満ちる時、出羽の国の光の水晶破られ、奈落の底より地獄が蘇らん』」

ナオミ「地獄……?」

ジェッタ「出羽の国は今で言う秋田県。秋田県の『光の水晶』って言ったら心当たりがあるだろ、キャップ」

ナオミ「そういえばこの間ニュースになってたわね。秋田県の婆羅慈郡に謎のピラミッドが出土したとか……」

ジェッタ「うん。完璧にドンピシャなんだよ、これ」

シン「更に次のページです」

 次の見開きは一面墨で塗りたくられていた。夥しい数の怪獣が地上を歩き、空を飛んでいる。
 その中でもひときわ目を引くのがアンモナイトのような形をした黒い何かの絵だった。

シン「『大地を揺るがす怪獣』『空を切り裂く怪獣』『地を焼き払う悪しき翼』……様々な怪獣が出現しています。
   そして予言はこうです。『地獄が蘇りし時、大いなる闇もまた蘇らん。二つの闇によりて天地は闇に覆い尽くされん』」

ナオミ「二つの闇……」

シン「もしこの全てが的中するとなれば、大変なことになります」

ジェッタ「まず、婆羅慈遺跡のピラミッドをどうにかしないと……」

ナオミ「わかったわ。早速行きましょう!」

『次のニュースです。現地時間午後六時、スイスの世界遺産都市ラ・ショー=ド=フォンに怪獣が二体出現しました』

 するとそのとき、つけっぱなしにしていたテレビがニュースを告げた。

『ウルトラマンオーブと思われる巨人も現れ怪獣と交戦しましたが、敗れて消失。その後は姿を現していません』

ジェッタ「え?」


『その後怪獣同士の戦闘が始まり、先に出現した一体目が敗れると二体目は逃走。足取りはまだ掴めていないとのことです』

『この戦闘によって街は潰滅的な打撃を被り、これを受けてビートル隊ジュネーブ支部は現在仮設住宅の建設や配給を行っています』

『繰り返します。現地時間午後六時、スイスの世界遺産都市ラ・ショー=ド=フォンに怪獣が二体出現しました。
 ウルトラマンオーブと思われる巨人が抗戦しましたが敗北したとのことです…… …… ……』

ナオミ「ガイさん……」

ジェッタ「…………」

シン「…………」

 三人はしばらく無言でテレビの画面を見続けていた。
 崩れた建物の瓦礫まみれになった街。配給の列を作る悲痛な表情を湛えた住人たち。
 だが突然その映像が途切れた。ジェッタがテレビの電源を消したのだ。

ジェッタ「ガイさんは大丈夫だよ。それよりも俺たちは俺たちのやるべきことをやろう」

シン「そうですね」

ナオミ「うん。まずはおじさんに連絡して、それから婆羅慈遺跡に行こう。――SSP、出動!」

ジェッタ・シン「「了解!」」


   ★


ガイ「……ここか」

 ガイの目の前には岩肌に露出したピラミッドがあった。日本、秋田県の婆羅慈遺跡。ガイもまたこの場所にやってきていた。
 注意深く観察していると、ピラミッドの上部に崩落している箇所があった。人並み外れた跳躍力でそこから内部に入る。

ガイ「……!」

 降り立ったガイは地面にもぽっかりと穴が空いているのを目にした。
 ちょうど天井の穴と一直線になる位置だ。

ガイ「この穴は……あの棘が撃たれた痕跡なのか?」

 しゃがみこんで中の様子を探ろうとするガイ。
 その時、背後に何かの気配を察した。

ガイ「!」

 振り返ると、暗がりの中に男が浮かんでいた。
 縦に長い馬面はまだ老け込んではいないが、髪は銀がかかった白に染まっている。
 だがアイシャドウをしているかのように目の輪郭がくっきりしていてある種の力が滲み出ている。
 服装は奇妙で、古い南蛮風。表が黒、裏が白というマントを羽織り、それがゆるりとはためいている。

ガイ「誰だ……」

男「ようこそ、ウルトラマンオーブ。私の名は、魔頭鬼十朗」

ガイ「魔頭……鬼十朗」


魔頭「よくここが分かったものだ。流石だと言わせてもらおう」

ガイ「御託はいい。お前がこの地に眠る地獄を復活させようとしているのか」

 魔頭は口角を大きく吊り上げた。そして、朗々と語り出す。

魔頭「その通り。安穏とした此の現世を闇に染める。それが私の望みだ」

ガイ「お前……!」

魔頭「もう止められんぞ。地獄はもう目覚めかけている。『棘』を放ってこの封印を解こうとするほどには」

 そう言って魔頭はぐるりと辺りを見回した。
 婆羅慈遺跡のピラミッド。これこそが『地獄』を封印する聖域なのだ。

魔頭「さあ、最高の客が来ているところで最後の仕上げといこう」

 魔頭が何かを取り出す。それを見てガイは目を見開いた。

ガイ「ダークリング……!」

魔頭「さあ蘇れ! 此の世を地獄へと塗り替える“閻魔獣”――罪業苦よ!」

 ダークリングにカードがリードされる。カードは赤いエネルギー体となって地面を突き抜け消える。
 ガイの耳は何かが破れる音を聞き取った。遺跡全体が震え出す。天井が割れ、砂と岩が落ちてくる。
 魔頭の高笑いが反響し、轟音の中に掻き消える。ガイは地面を蹴り、天井の穴から脱出した。


「ガァァアアアアアアアアアア!!!」

 その直後、ピラミッドの壁が崩れ落ち、中から巨大な影が姿を現した。

「ガ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……!! ――ガァァアアアアアアアアッッ!!!」

 地の底から響いてくるような叫び声が天を衝く。咆哮のひとつで空気が震動し、周囲の森がざわめく。鳥たちが一斉に逃げ出す。
 60メートルを優に超える巨体。背中側は瑠璃色、腹側は暗紅色。右手は棍棒のような形になっており、背中には無数の棘が生えている。
 頭部に伸びる二本の赤い角の下には夥しく連なる金色の眼。口を開くと鋭い歯が覗き、熱い吐息が湯気となって宙を漂う。

ガイ「あれがザイゴーグ……!」

ザイゴーグ「ガゴゴゴゴゴ……!!」

 ザイゴーグの無数の目はどこを向いているのか全くわからない。
 だがその殺気は感じ取れた。背骨まで震わせ、全身から冷や汗を噴き出させるどす黒い殺気だ。
 ガイはオーブリングを取り出し、構えた。

『覚醒せよ、オーブオリジン!』

ガイ『オーブカリバー!』

 召喚したオーブカリバーを握りしめ、カリバーホイールを回してエレメントの力を集約させる。
 渦のように中央に集った光が混じり合い、蒼い光となって弾ける。

オーブ「――テヤッ!」

 大剣を掲げながらオーブが姿を現す。その切っ先で宙に光の円を描きながら、オーブは叫んだ。

オーブ『銀河の光が、我を呼ぶ!』


ザイゴーグ「ガァァァァァァ……!! ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……」

 猛禽類を彷彿とさせる鋭い足の爪が木々をへし折り、地面を抉る。

オーブ「ハアァッ!」

 迫りくるザイゴーグに対してオーブは敢然と立ち向かった。
 オーブカリバーを振り上げ、袈裟懸けに斬ろうとする。だが――

オーブ「グッ――!?」

 刃が通らない。弾かれるわけでもなく、ただ固い。体表がまるで鎧のようだ。

ザイゴーグ「ガァァアアッ!!」

 ザイゴーグの右手の棍棒がオーブの横っ面を殴りつける。その腕力に吹っ飛ばされてしまう。
 森の中をごろごろと転がり続ける。脳が揺さぶられ、激しく痛む。思考が澱んで沈み、視界が掠れる。
 一発殴られただけでこの威力。よろよろと立ち上がりながら接近戦は危険だと判断する。

ザイゴーグ「オオオオオオオ……!!!」

 洞窟の奥深くから聞こえてくる風の音のような唸り声。それと共に放たれる殺気。
 まるで胸を刺し貫くような殺気だ。思わず及び腰になってしまっている自分に気付く。首を振って恐怖心を振り払う。
 ザイゴーグの背の突起が明滅する。開いた口内にエネルギーが迸っているのが見えた。

オーブ「グッ……!」

ザイゴーグ「ガァァァァアアッ!!!」

 溶鉄の色をした光線が放たれる。間一髪、オーブは横に飛んで躱す。
 地を走った光線は木々どころか地面すらも溶かし尽くした。地上に血の川が流れる。


『解き放て、オーブの力!』

オーブ「オーブスプリームカリバーーーーー!!!」

 立ち上がったオーブはオーブカリバーに四つのエレメントを宿し、最大威力の必殺技を繰り出した。
 突き出された剣先から光の奔流が飛ぶ。ザイゴーグを襲い、爆発の炎がその身体を飲み込んだ。

オーブ「…………」

 オーブが剣を下ろす。だが――

ザイゴーグ「ガ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……」

オーブ「!」

ザイゴーグ「ガァァアアアアアアッッ!!!」

 その煙の中から猛然とザイゴーグが突進してきた。全くの無傷だ。
 咄嗟に剣を構えようとするが、ザイゴーグが振るった棍棒に弾き飛ばされた。

オーブ「シュワッ!」

 ならばと怪獣の胸に打撃を入れるが、びくともしない。

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

オーブ「グアァッ……!」

 ザイゴーグの棍棒が肩に叩きつけられ倒れ込むオーブ。すかさずザイゴーグはその身体を蹴り飛ばす。
 宙に浮かんだところをちょうどよく棍棒で殴りつけた。オーブは再び地面に叩きつけられ、倒れ伏す。


   ★


ジェッタ「あ、あれ……!」

渋川「オーブ!?」

 一方その頃。SSP7で山道を進んでいたSSPとビートル隊の渋川はその戦いを発見していた。
 遠目でよくわからないが、背に棘を生やした怪獣が倒れたオーブを踏みつけている。

シン「ああっ! 婆羅慈遺跡が壊れてます!」

ナオミ「ってことは……あの怪獣が『ザイゴーグ』?!」

渋川「まずいぞ……ここは一旦退避した方がいい!」

ナオミ「ジェッタ急いで! あとどれくらい!?」

渋川「おい!?」

ジェッタ「うーん、あと三十分かな。急ぐから、みんな何かに掴まって!」

渋川「おいおいちょっと待てよお前らぁ!」


   ★


ガイ『ぐっ……!! ――ゾフィーさんっ!』

『ゾフィー』

ガイ『ベリアルさんっ!』

『ウルトラマンベリアル』

ガイ『光と闇の力……お借りします!!』

『フュージョンアップ! ウルトラマンオーブ サンダーブレスター!』


オーブ「ウオオオオッ!!」

 オーブを踏みつけていたザイゴーグの足を力任せに持ち上げ、投げ飛ばす。

オーブ『闇を抱いて……光と成る!』

 肩で息をするオーブのカラータイマーが点滅し出す。
 手のひらに巨大なゼットシウム光輪を形成し、身を起こすザイゴーグ向け走り出す。

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

 だがその時だった。ザイゴーグが素早く回転したのだ。
 長く太い尻尾が鞭のようにしなる。その不意打ちをオーブは躱せない。光輪を持ったまま撥ね飛ばされる。


オーブ「ヴ……オオオオッ……」

 オーブが起き上がろうとして頭を起こすと視界に光が満ちていた。ザイゴーグが追い打ちに光線を放っていたのだ。

オーブ「グゥッ!!」

 光輪を盾にするが罅割れ、砕けてしまう。

オーブ『サンダークロスガード!』

 すかさずエネルギーを溜めた両腕を交差させて光線を防ぐ。

ザイゴーグ「ガァァ…………ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…………!!」

 背を丸めるザイゴーグ。背の赤い突起がちかちかと明滅する。
 オーブは片膝を突いたまま両腕を構え、光と闇の力を溜め込む。

ザイゴーグ「ガァァァアアアッ!!」

オーブ『ゼットシウム――――光ッ線ッッ!!!』

 同時に放たれた両者の光線が激突する。衝撃波が森を薙ぎ払い、木々の葉を飛ばしていく。

オーブ「オオオオオ……!!」

 力を込め、光線の威力を強める。全身のエネルギーを絞り取り、この一撃に全てを賭ける。

オーブ「グッ…………!!」

 だが、一向に相手を押す気配がない。拮抗――いや、押されている。
 徐々に押され始めている。じりじりと、相手の勢いに侵食されている。


ザイゴーグ「オオオオオオ……!!」

 ザイゴーグが一歩、前に出る。また一歩。光線の勢いもまた強くなっていく。

オーブ「――――グゥゥゥウウッ!!」

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

 そして、次の一歩。ザイゴーグの光線がオーブの身体を襲った。

オーブ「グッ――――」

ザイゴーグ「ガァァアアアアアッッ!!」

 吐き出される光線が容赦なくオーブに襲い掛かる。

オーブ「ヴォオアアアアアア……ッ!!!」

 糸が切れた人形のように前のめりに倒れるオーブ。
 その身体は赤い光に包まれ、そして消えていった。

ガイ「ぐっ……がはっ……」

 その跡に残されたガイ。全身がぼろぼろで意識も朦朧としている。指先ですら動かせない。
 ザイゴーグが近づいてくる。足をゆったりと持ち上げる。巨大な影がガイを覆う。

ガイ「く……そ…………」

 ガイの意識は、そこで途絶えた。


ザイゴーグ「オオオオオ…………」

 足を下ろしたザイゴーグは地面に光線を吐き始めた。
 地面が溶け、どろどろとした溶岩になる。辺り一面がそうなると、一帯はまるで血の池地獄のような様相を見せた。

ザイゴーグ「ガァァッ! グゴゴゴゴゴゴ……」

 ザイゴーグは血の池に潜り、姿を消した。


   ★


 SSP7が現場に着いた時にはオーブもザイゴーグもおらず、血の池が残されているだけだった。
 婆羅慈遺跡は崩壊し、ガイの姿もない。渋川の目を盗んで探してみたがどこにも見つからなかった。

ナオミ「どうしよう……」

ジェッタ「キャップ。気持ちはわかるけど……俺もガイさんが心配だけど……」

ナオミ「……そうよね。ガイさんなら大丈夫」

ジェッタ「うん。俺も信じてる」

 ナオミは頷いて二人でシンと渋川の元に戻った。

渋川「こちら渋川。エリアA2にて怪獣が出現。オーブと交戦した後、逃走した模様。現場には赤い液体の池ができている。至急解析班を頼む」

 渋川はビートル隊の本部に連絡を送っていた。しばらくして通信を終えると、SSPの三人にこう言った。

渋川「お前たち。ちょっと来てくれないか」

三人「「「えっ?」」」


   ★


 三時間後。現場に到着したヘリに乗せられてSSPが向かった先は東京のビートル隊本部だった。

菅沼「初めまして。ビートル隊日本支部長官の菅沼といいます」

 通された会議室で現れたのはビートル隊の長官。
 急展開に次ぐ急展開でナオミたちはすっかり動揺していた。

菅沼「あなた方が、例のSSPという組織ですか」

ナオミ「は、はいっ」

渋川「彼らはマガタノオロチの弱点について情報を提供してくれました。今回の件でも重要な手掛かりを握っています」

菅沼「怪獣と戦うために有用な情報を提供してくれると?」

渋川「はい」

 菅沼が目配せすると渋川は壁際に下がった。

菅沼「SSPの皆さん」

ジェッタ「は……」

シン「はいっ」

菅沼「今回の件は人類の存亡に関わる極めて重大な事件だと言えます。我々ビートル隊にお力を貸していただけますか」

 ぺこりと頭を下げる菅沼とその言葉に、しばらく三人は呆然として口がきけなかった。
 が、顔を起こしてこちらに向けられた視線にハッとなって、慌てて礼を返した。

ナオミ「こ、こちらこそ! お役に立てることがあれば!」

 壁にもたれてそれを見ていた渋川はにやっと笑いをこぼした。


To be continued...


≪次回予告≫

目を覚ました俺が見たのは赤く錆び付いたオーブリングだった。

変身する力を失い、放浪する俺……だが敵はそんなのに構ってはくれない。

世界が闇に覆い尽くされ、そして遂に、あの魔王獣も深い眠りから目覚めてしまう……。

次回、ウルトラマンオーブ 『閉ざされる世界』

俺はオーブトリニティ。三つの光と絆を結び、今、立ち上がる!


≪登場怪獣≫

“閻魔獣”ザイゴーグ
・体長:66m
・体重:70,000t

秋田県にある婆羅慈遺跡に封印されていた怪獣。
右腕が巨大な棍棒となっており、その打撃は強烈。体表はボース=アインシュタイン凝縮しており極めて強固。
光線で血の池地獄を作り出したり、背の棘から閻魔分身獣を生み出したりすることもできる。
他にも多彩な能力・攻撃方法を持つ。


第三話 『閉ざされる世界』


ガイ「…………」

 ガイが目を覚ますと、そこは森の中だった。
 じんじんと痛む身体を無理やり起こして辺りを見回す。誰もいなかった。
 少し歩いてみると崖になっていて視界が開けた。遠くに血の池が広がっているのが見える。

ガイ(…………)

 あのときザイゴーグに踏み潰されたはずだったのだが何故こんなところにいるのだろう。
 ガイは首を傾げたが、ふっと溜め息を吐き出した。

ガイ「負けたのか……」

 途轍もない強敵だった。それこそマガタノオロチと相対した時と似たような気持ちだった。
 こちらの攻撃は一切通らないのに相手の攻撃は全て重い。攻撃と防御という基礎だけでもここまで圧倒的だと恐ろしいことになる。

ガイ(だが――)

 負けたまま引き下がるわけにはいかない。ミラールのためにも。魔頭が言うような闇に染まった世界など絶対に実現させてはならない。
 そう思ってオーブリングを取り出したガイは、それを見て愕然とした。

ガイ「……そんな……」

 オーブリングに毛細血管のようなものが絡まりついていた。
 それらがリングもウイングも覆い尽くし赤く錆び付かせていた。

ガイ「………………」

 しばらく呆然としていたガイはやがて、力なく立ち上がり、ふらふらとした足取りでどこかへ消えた。


   ★


オペレーターA「エリアA2地下に熱源探知! 地下600m、時速120㎞で潜行中!」

菅沼「進行方向は!」

オペレーターA「南です! このまま行くと二時間半後に仙台市地下を通過します!」

 ビートル隊日本支部の作戦室。ザイゴーグの足取りがモニターに出ていた。
 広いデスクに地図が広げられる。菅沼はそれをじっと眺め、ある一点に指を置いた。

菅沼「仙台市泉区役所をザイゴーグ邀撃作戦の本部とする。作戦地域半径5㎞に緊急避難指示を発令。手配を急げ」

隊員「了解!」

 きびきびと隊員たちが動く作戦室の隅っこでSSPの三人は所在なげにしていた。

ジェッタ「ど、どうするよキャップ……何か俺たち場違いじゃない……?」

ナオミ「ねえシンくん、何か画期的な作戦とかないの……?」

シン「そんなこと言われたって……」

ジェッタ「シンさん頼むよ~……このままじゃ俺たちこの場にいる意味ないじゃん……」

菅沼「皆さん」

ナオミ「は、はいっ!?」

 いつの間にか目の前に菅沼が立っていて、三人は一斉に背筋を強張らせた。

菅沼「作戦デスクに。共にザイゴーグへの対策を考えましょう」

シン「は……」

ジェッタ「はっ、はいっ!」


   ★


隊員「地底貫通弾、命中確認!」

 仙台市泉区。ザイゴーグ邀撃作戦が始まっていた。
 地底貫通弾を当てられたザイゴーグが浮上する。道路がどろどろに溶け、血の池と化したその中から姿を現した。

隊員「ザイゴーグ出現! 攻撃、開始!」

 空を飛び交うゼットビートルが次々と光弾やミサイルを放つ。
 ひとつ残らずザイゴーグに命中するが、痛くも痒くもないように平然としている。

隊員「地上部隊! 撃てー!!」

 待機していた戦車の砲口が火を噴く。避難が完了しがらんとした街に重低音がこだまする。

ザイゴーグ「ガ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……」

 ザイゴーグの背の突起が赤く明滅した。

隊員「! 警戒! 至急退避せよ!」

ザイゴーグ「ガァァァアッ!!」

 しかしそんな暇は与えられなかった。ザイゴーグが吐いた光線が地上部隊の戦車を一撃のもとに消し飛ばした。

ザイゴーグ「オオオオオ…………!!!」

 続けてザイゴーグは背の棘を発射した。

パイロット「! うわああああっ!!」

 ゼットビートルが突き破られ、空中で爆散する。まるで花火大会のようにあちこちで爆発が起きている。
 ザイゴーグが放った棘は全部で九発。それらが全てゼットビートルを撃墜したのだ。


   ★


『地上部隊全滅! ただ今退避――うわあああっ!!』

『ゼットビートル全機撃墜……! 発射された棘は散り散りになりました!』

菅沼「捕捉できるか」

オペレーターA「……駄目です! ロストしました!」

ジェッタ「なんてスピードなんだ……」

『ザイゴーグ、再び地上に光線を吐きました! 逃走します!』

菅沼「くっ……作戦終了だ」

『了解……』

 その時、作戦室に新しい通信が入った。

オペレーターB「はい、こちらビートル隊日本支部! ……えっ、パリに怪獣が出現!?」

 通信は一本だけでなく、次々と入ってくる。

オペレーターC「キャンベラにアントラーらしき怪獣が……了解しました」

オペレーターD「ホーチミンからです! レイキュバスに酷似した怪獣が出現したとのこと。日本の方角から飛来した棘から生まれたと言っています!」

オペレーターB「イスタンブール……はい。データベースに照合するとコッヴに似ている? 分かりました」

 まとめると、オーストラリアのキャンベラにアントラーらしき怪獣。
 ベトナムのホーチミンにレイキュバスらしき怪獣。トルコのイスタンブールにコッヴらしき怪獣。
 そしてエジプトのカイロ、フランスのパリ、ロシアのエカテリンブルク、アメリカのラスベガス、ペルーのリマ、インドのコルカタにデマーガらしき怪獣が出現したという。


   ★


 フランス、パリ。着弾した棘からデマーガの別形態ツルギデマーガが生まれていた。
 突然の襲来に人々は悲鳴を上げながら逃げ回る。だが怪獣が身じろぎして尻尾を叩きつけただけで多くの命が蚊のように潰された。

ツルギデマーガ「グォオオルルルルル……」

 腕に発達した巨大な剣で建物を切り裂き、熱線で中世の街並みを滅茶苦茶に破壊する。
 古くから守られてきた美しい街の景観も、怪獣一体の前に為す術もなく崩れ去った。

ツルギデマーガ「グォォォオオオルルルルル……」

 更に暴れ回ろうとするツルギデマーガ。しかしその時、地鳴りが響いた。
 地面が揺れる。怪獣は背後を振り返った。道路が砕けながら地面が沈む。土中から巨大怪獣が姿を現した。

ゴルザ「シャアアアアアッ!!」

 それは“超古代怪獣”ゴルザ。『地を揺るがす怪獣』。
 ツルギデマーガへと猛然と突進し、その巨体を撥ね飛ばした。


   ★


 オーストラリア、キャンベラ。ビルも少なく深い紺青が空いっぱいに広がっている。
 国の首都として作られたこの計画都市にはゴーグアントラーが生み出されていた。

ゴーグアントラー「キィィィイイイイッ!!」

 中心地のシティ・ヒルから手近な建物に向けて歩いていく。

メルバ「キュアアアアッ!!」

 すると背後から光弾が襲ってきた。ゴーグアントラーの頭上を通り過ぎる影。
 その正体は“超古代竜”メルバ。『空を切り裂く怪獣』。

ゴーグアントラー「キィイイッ!!」

 ゴーグアントラーも羽を広げて飛び立つ。オーストラリアの空を背に、超高速の追走劇が始まった。


   ★


菅沼「いったいどうなっているんだ……」

シン「もしかすると、ザイゴーグの背の棘は怪獣を生み出す力を持っているのかもしれません」

菅沼「もしそうだとすると恐ろしいことになる。捕捉できない速度でしかも射程範囲は地球の裏側まである。このままでは世界中が怪獣地獄に――」

 その時、またも通信が入った。それを聞いていたオペレーターは顔を真っ青にして菅沼を振り返った。

菅沼「何があった」

オペレーターB「パリに怪獣が出現。今度は地中からのようです。それがデマーガと戦闘を開始したと」

菅沼「何……!?」

 同時に別のオペレーターたちの元にも世界中から連絡が入っていた。
 棘が着弾し怪獣が現れた場所に、新たな怪獣たちが現れたという。ある者は地中から、ある者は空から。

シン「『日本太平風土記・異本』の記述と一致します。『大地を揺るがす怪獣』『空を切り裂く怪獣』『地を焼き払う悪しき翼』……これらの出現がこの書物には予言されています」

菅沼「それはどうしてなんだ……?! 棘から生まれたのではないとすると、ザイゴーグとは関係ないはずだろう」

 焦りからか、菅沼の口調が荒くなっている。

シン「このページの予言はこうです。『地獄が蘇りし時、大いなる闇もまた蘇らん。二つの闇によりて天地は闇に覆い尽くされん』」

菅沼「『大いなる闇』……」

シン「恐らく、今デマーガらと戦っている怪獣は『大いなる闇』に仕える眷族のようなものでしょう」

ジェッタ「ねえシンさん。ってことは……」

シン「……はい。『大いなる闇』はもう目覚めかけている……ということです」


オペレーターC「長官! ホノルル支部より入電!」

菅沼「どうした!」

オペレーターC「北緯19度、東経174度地点に異常な電磁波をキャッチしたとのことです!」

 SSPの三人が顔を見合わせる。モニターに表示された地点は太平洋のど真ん中だった。

菅沼「太平洋……? 監視衛星からの映像は出せるか」

オペレーターA「はい。今出します!」

 モニターの画面が切り替わり、太平洋を真上から見た映像になる。
 ところどころに黒い点があった。それらがなす多角形の中で海が激しく荒れ狂っている。

シン「あれは……」

 シンは『太平風土記・異本』のページとモニターを交互に見た。

シン「あの黒い点々は柱です。このページ……『大いなる闇』の周囲に突き出している石柱じゃないでしょうか」

菅沼「……!」

 もう菅沼は声を出さなかった。これから何が起こるか、その光景は既に頭の中にありありと浮かんでいたからだ。
 モニターの中で海面が裂ける。何かが水中から浮かび上がってきたのだ。黒々しく、画面越しでもその邪悪さが肌に突き刺さってくる。

菅沼「あれが……『大いなる闇』……」


   ★


「アオオオオオオオオン…………」

 水中より浮上した怪獣は二つのアンモナイトを合体させたような形をしていた。

 その二つの間に挟まれた頭部はまるで上下が逆転したようで、大きく裂けた口の下に一対の赤い眼が爛々と光っている。
 眼球の間には三角錐の赤い結晶体が伸びている。頭部の両脇から胴体にかけては二対の腕が伸び、それらは鋏の形状を取っている。

 アンモナイトのような殻の表面には無数の孔が空き、それら全てが妖しい紫色に明滅している。
 そして、殻の出口から這い出ている夥しい数の触手。それら一本一本が意思を持ったように蠢き、海面を叩いている。

 この怪獣――いや、正確に言うなら魔王獣。
 『日本太平風土記・異本』に「大いなる闇」として描かれ語られている邪神。
 その名は――“闇ノ魔王獣”マガタノゾーア。

「アオオオオオオオオン…………」

 マガタノゾーアが不気味な叫び声を響かせると、海中から黒い影が次々と飛び出てきた。マガタノゾーアの足元は超古代の遺跡となっていた。その中から怪獣が蘇っているのだ。
 それはラ・ショー=ド=フォンにも現れた“超古代尖兵怪獣”ゾイガー。『地を焼き払う悪しき翼』。
 飛び出たかと思うと散り散りになってどこかへ飛んでいく。無論、ザイゴーグが生んだ閻魔分身獣と戦うためだ。

 青空を遮るゾイガーの黒い影。次第に空そのものが暗くなっていく。色彩を失ったような灰色に。
 その灰色は空の青色を侵食する。光が遮られたように辺りの彩度が更に低くなる。暗黒色と化した闇は魔王獣の頭上を中心として世界中に広がっていく。

「アオオオオオオオオン…………」

 マガタノゾーアはその場に佇んだまま遠くをじっと見詰め続けている。
 まるで何かが見え、何かが聞こえているように。まるで、何かを待っているかのように。


   ★


菅沼「! どうした!」

 一方、ビートル隊日本支部。モニターに映っていた映像が突然真っ暗になって何も見えなくなった。

オペレーターA「通信妨害ではないようです。雲がかかった……?」

 別の監視衛星の映像を出してみる。しかしそれらが映す光景も全く同じものだった。

オペレーターD「長官! パリ本部からの入電です! 現在、世界中の空が暗雲のようなものに覆われているとのことです!」

菅沼「くっ……ゼットビートルを出撃させろ! 現地から映像を送らせるんだ!」

 それを聞いてジェッタはナオミの顔を振り返った。ナオミも同じことを思っていたようで頷く。

ナオミ「菅沼長官。そのビートルに私たちも乗せてください」

菅沼「それは……」

ナオミ「お願いします。ここに映像を送る以外に……私たちにしかできないことがあると思うんです」

菅沼「……」

 菅沼はしばらく考え込んでいたが、決心したように顔を上げた。

菅沼「わかりました。ただし乗ってもらうのは小型ビートルになります。そして作戦行動が始まった場合、必ず退避してもらいます。いいですね?」

ナオミ「はい。ありがとうございます!」


   ★


ガイ「世界が闇に覆われていく……」

 失意の内に放浪していたガイは、とある街で空を仰ぎながらぽつりと呟いた。

ガイ「マガタノゾーアが蘇ったのか……」

 オーブリングを取り出す。しかし赤く錆び付いたオーブリングは冷たく沈黙している。
 触っていても力が感じられない。しかも時間が経つにつれ錆の腐食が進んでいるように見える。

ガイ「……どうすれば……」

「何をしている、ガイ」

ガイ「!」

 驚いて振り向くと、後ろの路地裏から現れた影があった。

ガイ「ジャグラー……」

ジャグラー「ザイゴーグに負けて変身能力を失って傷心旅行ってか? フフフフフッ、呑気なもんだなあ」

ガイ「…………」

ジャグラー「どうした。何も言い返せないのか? お前はオーブの光を失えばただの役立たずなのか?」

 挑発的な視線をまるで蛇のようにガイに絡ませながら、ジャグラーが歩み寄ってくる。


ジャグラー「お前の耳には聞こえているんだろう? 世界中で上がっている『悲鳴』が」

ガイ「…………」

ジャグラー「無様だなあ。助けを求める声が聞こえるのに、己の無力さのせいで何もできない。お前は光の戦士失格だ」

ガイ「…………」

ジャグラー「――ふんっ!」

ガイ「!」

 突然、ジャグラーが殴りかかってきた。反射的にそれを躱し、反撃しようとするが、あっさりと腕を取られ投げ飛ばされた。
 背中から地面に落ちる。起き上がろうとすると、その首に刀が突きつけられた。

ガイ「……!」

ジャグラー「……はっ」

 ジャグラーは鼻で笑って刀を鞘に戻した。そしてガイに背を向け、高笑いをしながら去っていった。

ガイ「…………」

 拳を握りしめるガイ。ジャグラーの言ったことは本当だ。
 ガイの心は『悲鳴』をキャッチしていた。悲しく苦しく痛ましく、胸を刺し貫くような悲鳴だ。
 それが幾重にも重なりあい、うねり、阿鼻叫喚となってガイの脳に響いている。

ガイ「だが……今の俺には……!」

 どうすることもできない――
 ガイは握った拳を道に叩きつけた。


   ★


マガタノゾーア「アオオオオオオオオン…………」

 荒れ狂う波。黒く染まった空からは稲妻が走る。次第に風が強くなり、雨が落ちる。嵐になる。
 海面にぶくぶくと大きな泡が浮かび上がってくる。弾ける泡の数が多くなるたびに海の色が赤に染まっていく。

ザイゴーグ「ガァァアアアアアッッ!! ガ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……!!」

 やがてザイゴーグが水中からその姿を現す。マガタノゾーアが立つ遺跡に上陸する。
 それを見詰める魔王獣の瞳が強く輝く。怒りと憎しみ、あらゆる邪悪に染まった悪魔的な赤だ。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオン…………!!!」

ザイゴーグ「オオオオオオ……!!」

 ずんずんと突き進むザイゴーグ。マガタノゾーアの触手が水中から現れ、その右腕を締め付ける。

ザイゴーグ「ガァァアアッ!!」

 しかしザイゴーグが右腕を振るとその剛力の前に引き千切られる。そのままマガタノゾーアの頭に棍棒を振り下ろす。

マガタノゾーア「アオオオオン……!!」

 マガタノゾーアの周囲に闇が立ち込める。それに包まれたザイゴーグの身体から火花が噴き出す。

ザイゴーグ「グォオゴゴゴゴゴゴ……!!」


マガタノゾーア「ギャアアアアアアアオオン…………!!」

 水中でマガタノゾーアの触手がザイゴーグの足に絡まりつく。
 そのまま転ばせようとしたが、

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

 それより先にザイゴーグが破壊光線を放った。マガタノゾーアの体表に爆発が起きる。
 触手の力が緩んだところを見計らってザイゴーグが歩を進める。足元の触手を踏みつけ、爪で切り裂く。

ザイゴーグ「ガァァァアアッ!!」

マガタノゾーア「アオオオオオオオン!!!」

 ザイゴーグの棍棒が振り下ろされる。マガタノゾーアの鋏が喉を締め付ける。
 閻魔獣と魔王獣の激突は波を更に激しく荒立たせ、風はもはや暴風、轟く雷鳴はまるで終末の告げる笛のよう。

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

マガタノゾーア「アオオオオオオン……!!」

 二体が同時に光線を放ち、それが衝突する。その衝撃波は海面を走り、地平の果てまで駆け抜けていく。


   ★


ジェッタ『こちらSSP……! ただいま到着しました!』

 ビートル隊日本支部。ジェッタのビデオカメラから映像が届く。天候が荒れているためひっきりなしに画面が揺れている。


ジェッタ『二体の怪獣が争っています! そのせいで、すごい衝撃波が……!!』

菅沼「願わくは、この二体が共倒れになってくれれば……」

 しかしそんな一縷の希望すら掻き消すように甲高い通信音が鳴った。

オペレーターA「長官! パリ本部より入電! 突然世界中で異常気象が観測されているとのことです!」

菅沼「何……? それはこの戦いと関係あるのか?」

シン『バタフライエフェクトですよ! 蝶の羽ばたきが海を越えてハリケーンになる理論です! この二体の戦いの影響が世界中に伝播してるんです!』

菅沼「くっ……放っておくことはできないか。攻撃を開始する! 至急、スパイナーR1の発射準備を!」

オペレーターB「了解!」

菅沼「ビートル全機に告ぐ! 全機半径5㎞地点まで離脱せよ!」

パイロット『了解!』

 パイロットたちの対応は迅速で、五分後には退避完了の通信が入った。その十分後には武器班からの通信も入った。

オペレーターB「スパイナーR1、発射準備完了!」

菅沼「発射!」

オペレーターB「了解! スパイナーR1発射まで、5、4、3、2、1……発射!」

 手元の赤いスイッチを押す。連動して、発射台にセットされていたミサイルが火を噴いた。


   ★


ザイゴーグ「ガァァアアアアアッ!! グ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……」

マガタノゾーア「ガアアアアアオオオオオオン!!!」

 衝突し合う二体の怪獣。その争いに割り込むように空の彼方からミサイルが飛んでくる。

ザイゴーグ「ガァァッ!!」

 光線を吐いてマガタノゾーアの触手を焼き切る。悲鳴を上げながら魔王獣は鋏を鈍器のようにして殴りつける。
 二体には互いしか見えていないようだった。ミサイルは誘導機能に従って突き進む。
 激突と共に、巨大な閃光が周囲に撒き散らされた。

ジェッタ「よしっ……! 命中した!」

 小型ビートルの中でガッツポーズをするジェッタ。スパイナーR1は人類最強の兵器だ。着弾地点から半径1kmを跡形もなく消滅させる。
 爆発が収まる。もうもうと立ち込める灰色の煙。天を舐めるように立ち上がる爆炎。

ナオミ「…………」

 歓喜に包まれるビートルの中で――ナオミはある種の不安を抱えていた。
 人間は強い。今まで数え切れない生物を絶滅させてきたし、その勇気と知恵があれば大抵の敵を打ち負かすことができる。
 だが、その力が全く通用しなくなる「線」がある。それは地震や津波であったり、超大魔王獣マガタノオロチであったりした。

ナオミ「…………!」

 そしてナオミはその不安が的中したことを知った。
 突然、炎が消えたのだ。まるで誕生日ケーキの蝋燭をふっと吹き消したようにあっさりと。


ジェッタ「え……?」

 しん、と静まり返ったビートル内に重低音が響く。5㎞も離れているのにびりびりと空気を痺れさせた。

ザイゴーグ「ガァァアアアアアアアアッッッッ!!!!」

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………!!!!」

 煙が吹き飛ばされる。ザイゴーグとマガタノゾーアの激突で衝撃波が発生したからだ。
 人類最強の兵器など一切意に介さず、二体の怪獣は戦い続けていた。

ジェッタ「っ……! スパイナーR1……効果なし……」



 その光景を、宙に浮かびながら眺めている一対の眼があった。

魔頭「愚かな……。この星の真の支配者を決める闇と闇の戦いは超古代から続くもの……」

魔頭「ちっぽけな人間ごときの科学力が干渉する余地など、どこにもありはしない」


   ★


菅沼「馬鹿な……」

 脱力しそうな身体をすんでのところで持ち直す。沈黙した作戦室、通信音が鳴り止まない。
 だが誰もそれを取ろうとはしない。聞かなくても内容はわかる。

 世界が怪獣地獄と化し、そして人類、延いてはこの星全体の存亡の危機が迫っているのだと。


   ★


ナオミ「ジェッタ。ここからサイトの更新ってできる?」

ジェッタ「え? まさかこの状況を……」

シン「キャップ、そんなことをしたら……」

 ジェッタとシンが言葉を返そうとするが、ナオミは首を振ってそれを収めた。

ナオミ「私は信じてる。本当のことを知ったって、人間は希望を捨てない」

 そして、人間の持つ力を信じる。その力は、きっと――


   ★






















女「速く速く! スマホなんか見てないで走れ!」

男「ちょ、ちょっと待って……!」

 ポルトガル、リスボン。日本より八時間遅いこの街はまだ早朝だが、空は暗雲に包まれ、今まで経験したこともないような暴風が吹き荒れている。
 パジャマ姿の男女が慌てた様子で道路を走っていた。遠雷のようにドーン、ドーン……という音が聞こえてくる。

女(チッ……何で怪獣なんかが……)

 ゆったりと寝ていたのに、突然警報が入って避難を余儀なくされるなんて。
 それにしても既に怪獣が現れているって、予測なんかはできなかったのだろうか。心の中で悪態をつく。

女「速くしなー! 置いてくよー!」

男「お、おい。これ見てみろよ!」

 とは言いつつ男がノロノロ歩いているせいで遠い。差し出される画面なんて見えるわけがない。
 苛々しながら男の元まで戻る。「SSP」というニュースサイトだった。

女「これがどうしたの……」

男「記事の内容。太平洋で二体の怪獣が戦ってるんだって。それが新しい怪獣を生んで、ここにもやって来たんだよ」

女「……そんなことより、今は避難! ほら、早く行くよ!」

 男の手を引っ張る。するとその時――

「ギャアアアオオオオッ!!」

 悲鳴のような甲高い音が耳をつんざいた。そして頭上を通り過ぎていく巨大な影。
 強風が吹き抜け、二人は立っていられず尻餅をついた。


女「一体、何――」

 そう言おうとすると、地面がずしんと揺れた。男が何かに気付いて震えながら指を差す。
 その先を見ると――

ゾイガー「ギャアアアオオオオオッッ!!」

 黒い鳥のような怪獣が立っていた。その顔は明らかに二人に向けられている。
 口が開かれ、地面に涎が垂れ落ちる。躊躇いなく二人の元に歩を進める。

男「……うわああああああああ!!!」

女「きゃあああああああ!!!」

 二人して絶叫する。目を強く瞑り、頭を抱える。耳を塞ぐが、怪獣の雄叫びが反響する。
 近づいてくる怪獣の存在感。もうダメだ――そう思った、次の瞬間。

男「うわあああっ!?」

女「きゃああああっ!?!?」

 今度は別の意味で絶叫した。二人の体が突然、宙に浮かんだのだ。強い力に引っ張られ、飛んでいく。
 着地したかと思うとまた飛ぶ。目を瞑っているから何が起きているのかわからない。目を開ける勇気もない。
 しばらくそれを繰り返し着地すると、二人の体は地面に下ろされた。

ガイ「大丈夫か」

 二人の顔を覗き込む青年はガイだった。男と女は顔を見合わせ、揃って周囲を見回す。怪獣の姿がなかった。


ガイ「かなり遠くまで逃げてきたから、たぶんもう大丈夫だ」

女「あ……ありがとう……」

ガイ「礼には及ばない。……今の俺には、これくらいしかできないから」

女「……?」

男「それにしても、怪獣なんて初めて見たよ……あんなのが世界中にいるのか」

ガイ「……みたいだな」

 男は溜め息をつきながら言った。

男「やっぱりウルトラマンオーブが来てくれないとな……人間じゃ勝てない相手だ」

ガイ「…………」

女「あんた! 来ない人を頼りにしてもしょうがないだろ! オーブはスイスと日本で負けて以来姿を現してないらしいじゃないか」

男「でも俺はオーブを信じるよ。ほら、俺以外にもいっぱいいる」

 男が再びスマホの画面を示す。ガイも訝し気にそれを覗き込んだ。
 そこには――


   ★


ナオミ(私は、信じてる……)

ナオミ(人間には、どんなに頑張っても勝てない相手がいる)

ナオミ(でも、そんな非力な人間でも)

ナオミ(光を集めて、誰かに力を与えることができる)

ナオミ(限界なんてない。きっと、一緒に超えていくことができる)

ナオミ(だって、私たちは仲間なんだから)

ナオミ(そうでしょ? ガイさん……)

 その時、機体が大きく傾いた。

ジェッタ「わあっ!? ど、どうしたんですか!」

パイロット「か、怪獣が!」

ジェッタ「えっ!?」

ナオミ(……!!)


   ★


『Hang in there! ORB!』

『これまで戦ってきてくれたあなたを信じてます!』

『Koeta kestää, jokainen hurraavat』

『მხოლოდ თქვენ გაქვთ ეს იმედი!』

『Come questa sensazione sarà la potenza del Globo』

ガイ「…………」

 「ウルトラマンオーブへの応援」という投稿フォームに、様々な言語で書き込みがなされていた。
 そしてそこには、SSPからのメッセージもあった。

『頑張れ、ウルトラマンオーブ! 世界中が君を信じてる!』

ガイ「……っ!!」

女「あっ、おい! どこに行くんだい!」

 ガイは居ても立っても居られなくなって駆け出した。
 閑散とした道路を走る。その先にゾイガーがぬっと現れ、ガイの姿に気付く。

ゾイガー「ギャアオオッ!!」

 ゾイガーが火球を放つ。次々と地上に爆発が起こる。だがガイは立ち止まらなかった。
 オーブリングを取り出す。赤く錆び付いて、変身できない。だけど――


ガイ(これは……俺の心の弱さだ)

 ミラールを、大切な街を守れなくて。そしてザイゴーグに敗れ、恐怖心を植え付けられて。
 敗北を認めた自分の心が、オーブリングを錆び付かせていたのだ。

ガイ「だけど! みんなが俺を信じてくれている!」

 オーブリングが淡く光り出す。ホルダーを開き、走りながらカードを取り出す。

ガイ「――ギンガさんっ!」

『ウルトラマンギンガ!』

 カードをリードすると蒼い光がリングに宿り、錆を消し払った。

ガイ「ビクトリーさん!」

『ウルトラマンビクトリー!』

ガイ「エックスさん!」

『ウルトラマンエックス!』

 三つの光が宿ったオーブリングを掲げ上げる。

『トリニティフュージョン!』

 混ざり合った光が神秘のアイテム“オーブスラッシャー”の形に変わる。
 それを握りしめ、ガイは地面を蹴った。

ガイ「三つの光の力、お借りします! オーブトリニティーーーーー!!!」

 ギンガ、ビクトリー、エックス。その力が重なり、オーブの姿を生まれ変わらせる。

ゾイガー「ギャアアアオオッ!?」

 ゾイガーが突然真っ二つになる。地面に倒れ伏し、爆発が起こる。
 それを背に光の塊が天空を駆け走る。光をも超えるスピードで。


   ★


ゾイガー「ギャアアオオッ!!」

パイロット「ぐっ!?」

 ゼットビートルよりも小さな小型ビートルでゾイガーのスピードに勝れるはずはなかった。
 散々に弄ばれた挙句、前方に回り込まれた。回避しようとするが、怪獣は既に口を開けてエネルギーを溜め込んでいた。

ナオミ「……っ!」

パイロット「くそっ!」

 しかし、その時――

ゾイガー「ギィィイイイイッ!?!?」

ジェッタ「え……?」

 コックピットに柔らかな光が満ちた。次いで、怪獣の悲鳴が。
 その光の源は一直線に閻魔獣と魔王獣の元に向かっていく。

ジェッタ「あれは……!」

ナオミ「オーブ……!」

 二体の前に降り立った光が薄れる。
 そこにあったのは、三つの光をその身に宿したオーブの究極の姿だった。

オーブ『俺は、オーブトリニティ』

 ゆっくりと腰を上げ、眼前の敵を見据えるオーブ。
 その存在感に、今まで互いしか見えてなかった怪獣たちも顔を向ける。

オーブ『三つの光と絆を結び――――』

 右肩の棘が回転し、オーブの手の内でオーブスラッシャーとなる。
 その柄を強く握りしめ、オーブは叫んだ。

オーブ『――――今! 立ち上がる!!』


To be continued...


≪次回予告≫

世界中のみんなが信じてくれたおかげで、俺は力を取り戻すことができた。

その信頼に応えるためにも……俺は必ず勝つ!

さあ来い、ザイゴーグ! マガタノゾーア! 今こそ決着の時だ!

次回、ウルトラマンオーブ 『動き出す時の針』

俺の名はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!


≪登場怪獣≫

“閻魔分身獣”ゴーグレイキュバス
・体長:65m
・体重:72,000t

ザイゴーグの棘から生まれた閻魔分身獣。

“閻魔分身獣”ゴーグ超コッヴ
・体長:85m
・体重:107,000t

ザイゴーグの棘から生まれた閻魔分身獣。

“閻魔分身獣”ツルギデマーガ
・体長:55m
・体重:59,000t

ザイゴーグの棘から生まれた閻魔分身獣。
デマーガの太古の姿であり、両腕と背中に巨大な刃が生えている。

“闇ノ魔王獣”マガタノゾーア
・体長:200m
・体重:200,000t

闇を司る魔王獣の一体。
ジャグラーが所持していた魔王獣カードは失われてしまったが、闇という概念的存在となって復活の時を待ち続けていた。
ザイゴーグが世界中にもたらした恐怖と絶望によりルルイエと共に復活。超古代から繰り返され続けてきた闇と闇の戦いを現代で再び行った。

“超古代怪獣”ゴルザ
・体長:62m
・体重:68,000t

マガタノゾーアの眷族。
頭部が兜のような形になっており、額から光線を放つ。怪力も自慢。

“超古代竜”メルバ
・体長:57m
・体重:46,000t

マガタノゾーアの眷族。
超高速で空を飛び回り、目から光弾を発射する。


第四話 『動き出す時の針』


ザイゴーグ「オオオォォォオオ……」

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン……!!」

オーブ「――デアッ!」

 閻魔獣と魔王獣向けファイティングポーズを取るオーブトリニティ。
 嵐はやまない。荒波と風雨がオーブの身体を濡らしていく。だがそれに気を取られることなく、オーブの意識は二体の怪獣に向けられている。
 突然、辺りに閃光が満ちた。少し遅れて雷鳴が轟く。

オーブ「シュアッ!」

 それを合図にして、決戦の火蓋は切って落とされた。

マガタノゾーア「ガアアアオオオオオオオン……!!」

 マガタノゾーアの触手が飛ぶ。オーブスラッシャーを振るい、それらを斬り払っていく。

ザイゴーグ「ガァァアアアアアアアッ!!」

 そうしている間にザイゴーグが接近していた。
 斜め前方に転がり、振り下ろされる棍棒の軌道から咄嗟に外れる。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオン…………」

 起き上がると目の前にマガタノゾーアの顔があった。足元から鋏が飛び出、オーブの首を絞める。

オーブ「グッ……!!」

 オーブスラッシャーを振り上げるが、足首に触手が巻き付いた。
 足が引っ張られ、体勢が崩れる。仰向けに転がり、水飛沫が立ち昇った。


オーブ「――シュアア……ッ!!」

 海中で鋏がギリギリと首を絞めつける。
 オーブスラッシャーの刃を叩きつけようとするが、その前に右手首が触手に絡めとられた。

オーブ「ジュ……ジュアァ……!!」

 このままだと埒が明かない。オーブは自らオーブスラッシャーを手放した。
 彼の右腕が光を纏い、エレキングの尻尾に変形した。オーブトリニティはウルトラマンビクトリーの能力“ウルトランス”を使うことができるのだ。

オーブ「ハアアアッ!!」

 電撃を流すと手首の触手が離れた。すぐさまウルトランスを解除し、代わりにオーブスラッシャーを取る。
 武器の持つエネルギーを回転刃のような形状にし、鋏と胴体を繋ぐ触手に叩きつけた。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン……!!」

 マガタノゾーアが悶え、波が押し寄せてきた。
 触手より固いため一撃では切断できない。マガタノゾーアも激しく抵抗する。首を絞めつける力が更に強くなる。

オーブ「グッ、グアァァアアアッ――――!! デアアアッ!!」

 腕から力が抜けそうになるが、必死で堪え、遂に切断に成功する。
 足首の触手もするすると下がっていく。オーブは立ち上がり、首に纏わりついた鋏を放り捨てた。


オーブ「――デアッ!?」

 だが続けざまに次の攻撃が来る。背後から触手が放たれ、オーブの首に巻き付いたのだ。

ザイゴーグ「オオオオオオオオ……」

オーブ「ジュァッ……!」

 今度はザイゴーグの触手だった。胸が花弁のようにぱっくりと開き、中から飛び出している。
 オーブの全身に衝撃が走る。巻き付いた触手が彼のエネルギーを吸い取っていた。

オーブ「グッ!」

 すぐさま身体を反転させ、触手が正面に来るようにする。オーブスラッシャーを振り下ろし、それを叩き切った。

ザイゴーグ「ギャアアオオオオオゴゴゴゴゴゴ…………!!!」

 悲鳴を上げながら二、三歩後退するザイゴーグ。
 背中を丸めて痛そうにしている――かと思いきや、背の棘が明滅し始めた。

オーブ「!」

ザイゴーグ「ガァァアアアアッッ!!」

 ザイゴーグが身体を開くと同時に胸に埋まった赤い発光器官から光線が放たれた。

オーブ『――トリニティウムシールド!!』

 咄嗟にオーブスラッシャーを肩に収め、赤・青・黄が混ざり合った円形のシールドを展開する。
 シールドは割られることなくオーブを守ったが、背後でマガタノゾーアが攻撃態勢に入っていた。


オーブ「!」

 それを察知し、首だけ振り返るオーブ。
 マガタノゾーアが口を大きく開き、紫色のエネルギーを溜め込んでいる。

オーブ「ハアッ!」

 シールドを支えるのを右手だけにする。光線の勢いに少しずつ押され、足元が抉れていく。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオン……!!」

 マガタノゾーアの口が光線を放つと同時に、オーブの左腕もまた紫色の光を纏った。
 その光が盾の形となり左腕に装着される。それを構え、両サイドからの光線を防ぎ切った。

オーブ「デエヤッ!!」

 光線が止むと左腕の盾をザイゴーグに向け、地面に突き立てた。
 マガタノゾーアの光線は全てこのサイバーベムスターアーマーの盾に吸収されていた。それを一気に解き放つ。

ザイゴーグ「オオオオオオオン……!!」

 ザイゴーグの開かれた胸に直撃し、発光器官がズタズタに破壊される。
 怯んだ隙を狙ってオーブが飛び込む。オーブスラッシャーを出現させ、Xの字を描くように二度振り下ろした。

ザイゴーグ「ガァァ……ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…………」

オーブ『――トリニティウムブレイク!!』

 最後にジャンプし、空中から垂直に叩き下ろした。悲鳴と共にザイゴーグが後退する。


ザイゴーグ「ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…………!!」

 ザイゴーグの棍棒から赤い光が滲み出す。オーブはオーブスラッシャーを収め、右腕にEXレッドキングナックルを纏った。

ザイゴーグ「ガァァアアアアアッ!!」

オーブ「オオリャアアッ!!」

 棍棒と拳が激突する。衝撃波が放たれ、海面を薙ぐ。

ザイゴーグ「グ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…………!!」

 ビシッビシッと音を立てて棍棒に罅が入る。ウルトランスを解除し、左腕にゴモラアーマーを纏う。

オーブ「オォッ、サァアアッ!!」

 アームアーマーの爪が鈍く、蒼白く光る。ゴモラ振動波が伝導し、棍棒が内部から破裂した。

ザイゴーグ「グギャァアオオオゴゴゴゴゴ……!!」

オーブ「フッ!」

 オーブが飛び上がり、ザイゴーグの反対側に降り立つ。
 オーブスラッシャーを握り、ブーストスイッチを押して刃を伸長させる。


オーブ「ハアアアアア……!!」

 全身を後方に捻ると、足元から青白い光が浮き上がってくる。
 そして彼はオーブスラッシャーを掲げた。その頭上に巨大な光輪が形成され、回転し出す。

オーブ『トリニティウム――――』

 オーブスラッシャーを振り下ろすと共に、光輪が放たれた。

オーブ『光――――――輪ッッ!!』

 地面と垂直になり、海面を切り裂く。唸りを上げて突き進む。
 振り返ったザイゴーグは防御姿勢を取ることもできないまま、頭頂から股、尻尾の先まで真っ二つに切り裂かれた。

ザイゴーグ「ガ……アァァア…………!!」

オーブ「!?」

 だがザイゴーグが倒れる寸前、オーブは驚愕することになった。
 その瞳がギラリと光ったのだ。背の棘が溶鉄のような赤に染まり、そして――

ザイゴーグ「――ガァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 棘が射出され、宙を乱れ飛んだ。その数は、もう数え切れないほど。
 死に際に力を振り絞り、背の棘全てを発射したのだ。

オーブ「グッ……!!」

 オーブは飛び上がってそれを追尾しようとした。だが足首に触手が絡まり、海面に引き摺り落とされた。
 振り返るとマガタノゾーアがオーブを睨んでいた。そうしている間にも、棘は世界中に飛んでいく。

ザイゴーグ「――――」

 そして声もなくザイゴーグが倒れる。
 その重量で地面が揺れ、どこまでも轟きそうな爆発が、虚空を震動させた。


   ★


ツルギデマーガ「グォォオルルルルル……!!」

 日本、東京。ザイゴーグの棘が墜落し、ツルギデマーガが生まれていた。
 暗雲が垂れ込め、竜巻が渦巻いている。誰も彼もが地下シェルターに避難していて街は閑散としている。

ツルギデマーガ「グォォォオオルルルルル!!」

 手始めに電波塔に向けて熱線を吐く。腕の刃を振り回し、周囲のビルを次々と切断していく。

ゾイガー「ギャアアアオオッ!!」

 そこに飛来するゾイガー。撒き散らすように火球を吐く。
 ツルギデマーガの周囲に爆発が起きて炎が立つ。外れた火球は街路樹を燃やし、ビルの窓を砕いた。

ツルギデマーガ「グォォォオルルルルルッ!!」

 頭上を通り過ぎたゾイガーの方向を振り返り、熱線を吐き出す。
 片翼が焼き尽くされ、ゾイガーが墜落する。

ツルギデマーガ「グォォォッルルルル……」

ゾイガー「ギャアアアオオッ!!」

 立ち上がったゾイガーは迫りくるツルギデマーガに向き直り、残った翼を自ら引き千切った。
 ツルギデマーガへ突進する。振るわれた刃を身軽なフットワークで躱し、横っ面を殴りつけた。

ツルギデマーガ「グォォォォオオルルルル……!!」

 世界中で同じようなことが起こっていた。
 ザイゴーグが飛ばした無数の棘は閻魔分身獣を生み、彼らは本能のままに暴れ、魔王獣の眷族と争った。


   ★


 イタリア、ベネチア。水の都と謳われるこの街にも閻魔分身獣が出現していた。

ゴーグドラコ「キュアアアッ!!」

 体表を黒い鱗に包んだ怪獣、ゴーグドラコだ。
 両腕の先は鉤爪になっており、背の翼には薄い飛膜が張られている。

ゴーグドラコ「キアアアアッ!!」

 荒れる運河の両脇に並ぶ古い街並みにゴーグドラコは爪を振り下ろしていく。
 異変に気付いた住人たちが建物から飛び出、逃げ始める。

少女「きゃあっ!」

 人の波に押され、躓いた少女がいた。誰も顧みることなく逃げていく。
 波が引いた後のように一人残された少女を巨大な影が覆った。

ゴーグドラコ「キュアアアアアッッ!!」

少女「いやああああああああっ!!」

ゴーグドラコ「キュアアッ!!」

 ゴーグドラコが大きく口を開く。雨風を切り裂いて火炎弾が飛ぶ――

「――フンッ!」

 刹那、剣光が閃いた。迫っていた火炎弾がその一閃の元に消し飛ばされる。

少女「……?」

 恐る恐る顔を上げた少女が見たのは――全身に鎧のようなものを纏った怪人だった。
 二人の頭上に新たな影が迫る。例に漏れずマガタノゾーアの眷族、ゾイガーだった。

ジャグラー「逃げるぞ」

少女「え――」

 戸惑う少女を勝手に抱きかかえ、ジャグラーは飛んだ。


   ★


マガタノゾーア「アオオオオオオオン…………」

オーブ「グッ……!!」

 足元の触手を切断し、マガタノゾーアと対峙する。

オーブ「サアッ!!」

 接近し、上顎にオーブスラッシャーの刃を叩きつけた。
 刃が回転し、体表を抉っていく。しかしそうしていると、いつの間にかオーブの全身は黒煙に包まれていた。

オーブ「!」

 身体のところどころから火花が飛ぶ。
 背後に飛び退こうとした瞬間、それを読んでいたように胴体に触手が巻き付いた。

オーブ「グッ!」

 オーブスラッシャーを振り上げるが、黒煙の中から鋏が飛んできた。
 不意打ちだった。右腕に命中し、その勢いでオーブスラッシャーが放り出されてしまう。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオン…………!!」

 そのまま鋏でオーブの首を殴りつける。そして触手を引っ張り、黒煙の中に引き摺り込む。


オーブ「グゥッ……!! デアアアアアッ……!!」

 黒煙から逃れられず、オーブへのダメージが止まない。
 明らかにマガタノゾーアの力が増していた。ザイゴーグが分身獣を世界中に生み出したために蔓延した恐怖が、マガタノゾーアに力を与えているのだ。

マガタノゾーア「ガアアアアオオオオオオオオン…………!!!」

 黒煙の中に魔王獣の叫び声が響く。だが視界が利かない。
 オーブをそんな状態に閉じ込めたまま、マガタノゾーアは口から光線を放った。

オーブ「グッ――――」

 オーブの腹部を突き抜ける。オーブの身体から力が抜けていく。
 胴体に巻き付いていた触手を解き、マガタノゾーアはそれを胸に叩きつけた。

オーブ「――――」

 よろよろと後退する。遺跡の縁まで来て、オーブの身体は仰向きに倒れた。
 水飛沫が立つ。海の中に、オーブが沈んでいく。



ジェッタ「ガイさん……!!」

 それを見詰めているジェッタとシンは唇を結んだまま何も言わなくなった。
 ナオミも同じだった。だが彼らの心にあるのは絶望ではなかった。

ナオミ(私は……信じてる……)

ナオミ(世界中のみんなも、あなたを信じてる……!)

 SSPのサイトへの投稿は今なお増え続けていた。
 みんな両手を握りしめ、祈っていた。そして願っていた。この想いが、オーブに届くようにと。


ガイ(俺は…………)

ガイ(俺は、また負けるのか……?)

 どこまでも深く沈んでいく。身体も意識も。
 筋肉が石に変わってしまったかのように指一本動かせない。

ガイ(守り抜かなきゃいけない……)

ガイ(俺は、絶対に負けちゃいけない……!)

 昏い闇の中に堕ちかけていた意識を呼び戻す。
 だがどうしたって身体が動かない。オーブに宿った光が剥がれ、トリニティの姿も解除されている。

ガイ(く……そ…………っ)

 その時――

『――ガイさん!』

 頭の中に、声が響いた。

ガイ(……!)

『ガイ、君はまだ、戦えるはずだ!』

ガイ(この、声は……)

『絶対に諦めちゃ駄目だ。この地球の光が、君を待っている』

ガイ(あなたたちは……)

『ガイ。本当の戦いは、ここからだぜ……!』

ガイ(……!)


   ★


ゴーグアントラー「キィィイイッ!!」

メルバ「キュアアアッ!!」

 ゴーグアントラーとメルバが戦いを繰り広げているキャンベラ。
 何の前触れもなく、空から光が降ってきた。その出現に二体は動きを止める。

ダイナ「――シュワッ!」

 その正体は、かつてオーブと共に戦った光の巨人、ウルトラマンダイナだった。


   ★


オペレーターA「長官! パリ本部より入電! 世界各地にウルトラマンが現れ、現在怪獣たちと交戦しているとのことです!」

菅沼「何っ!?」

 各支部から送られてきた映像がモニターに出る。

コスモス『ハアアッ!』

ガイア『ジュワッ!』

ギンガ『ショウラッ!』

 ダイナ以外にも複数のウルトラマンが閻魔分身獣と超古代怪獣たちと戦っていた。


   ★


ガイ(皆さん、どうして……)

我夢『地球の光が僕らを呼んだってところかな』

ショウ『水くさいぞ、オーブ。困った時は呼んでくれって言っただろ』

ガイ(す、すみません)

ヒカル『いいっていいって。さーて、腕の見せ所だな!』

アスカ『いつの間にか、ずいぶんと仲間が増えたんだな。ガイ』

ガイ(はい。おかげさまで)

ムサシ『世界中に散らばっている怪獣たちは僕たちに任せてくれ』

大地『これだけ多くの仲間がいるんだから、何とかできます。なあ、エックス』

エックス『もちろんだ!』

ゼロ『主役は譲ってやるぜ。気張っていけ!』

ガイ(……わかりました!)

ダン『ウルトラマンオーブ。君はひとりじゃない。そのことを、絶対に忘れるな』

ガイ(……!)


マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………」

 魔王獣が放つ闇は更に侵略の手を伸ばし、今ではもう遺跡全体を覆い尽くしていた。
 霧のようにもうもうと立ち込める闇にゼットビートルは太刀打ちできない。距離を取って突破口を探ることしかできない。

マガタノゾーア「アオオオオオオオン…………!!」

 だがその時、マガタノゾーアの目の前に光の柱が駆け上った。
 緑色の風が吹き荒れ、黒煙を消し飛ばす。その中の光景が見えるようになった。

ナオミ「――オーブ!」

 そこには、聖剣を携えたオーブが立っていた。

ジェッタ「ウルトラマンが、帰ってきた……!」



マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………!!」

オーブ「シュワッ!!」

 足元から水飛沫を飛ばしながら、オーブは駆け出した。
 迫りくる鋏をオーブカリバーで払いのける。火のエレメントを宿し、絡まりつこうとする触手を焼き切っていく。

オーブ「――デヤアアーーッ!!」

 ジャンプして、その勢いのまま上顎に剣を振り下ろす。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオオオン…………」


   ★


ゾイガー「ギャアアオオオオオッッ!!」

ジャグラー「グゥッ!」

 一方、ベネチア。少女を逃がしたジャグラーが怪獣たちと戦っていた。
 しかし圧倒的なサイズ差がある。ゾイガーの腕に撥ね飛ばされ赤煉瓦の壁に激突した。

ジャグラー「チッ……」

ゴーグドラコ「キュアアアアッ!!」

 そこにゴーグドラコの影も迫る。石畳に剣を突き立てながらよろよろと立ち上がる。

ゴーグドラコ「キュアアッ!!」

 ゴーグドラコが爪を振り上げた時だった。突然、運河の真ん中から蒼い光が放たれた。

ジャグラー「何だ……?」

『相変わらず、無茶な戦い方は変わってないようだな』

 ジャグラーはしばらく呆然としていたが、その声の正体を思い出して舌打ちをした。

ジャグラー「……チッ」

アグル「――デアアッ!!」

 水中から飛び出してきたのは青い海の巨人、ウルトラマンアグルだった。

アグル『加勢させてもらうぞ』

ジャグラー「……貴様の力など必要ない」

アグル『フッ。なら、そっちは任せたぞ』

 ゾイガーに向かって行くアグルの背中を見ながら、ジャグラーは三度目の舌打ちをした。


   ★


オーブ『――オーブグランドカリバー!!』

 土のエレメントを宿したオーブカリバーを地面に突き立てる。
 二条に分かれた光線が地面を這い、両サイドからマガタノゾーアを襲った。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………」

 マガタノゾーアが口を開き、紫色の光線を放つ。横に飛んでそれを躱す。
 転がって起き上がると、首に触手が絡まった。マガタノゾーアは続けて光線を放とうとしている。
 触手を斬っているとその対処が間に合わない。そう判断したオーブは額のランプを光らせた。

ガイ『ゾフィーさん! ベリアルさん! 光と闇の力、お借りします!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ サンダーブレスター!』

マガタノゾーア「ガァアアオオオオオオオン……!!」

 光線が吐き出される。同時にオーブの全身に光が纏い、サンダーブレスターに変わった。
 両腕を交差させ、サンダークロスガードで光線を防ぐ。光線がやむと、ゼットシウム光輪で触手を断ち切った。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン………………」

 怯んだ隙を逃さない。両手の中に光と闇のエネルギーを溜め込み、それを解き放つ。

オーブ『ゼットシウム――――光ッ線ッッ!!』

 両極のエネルギーを混じり合わせた光線がマガタノゾーアに命中する。
 派手に火花が散り、魔王獣が悲鳴を上げる。悶え上がり、海面が大きく波打つ。

マガタノゾーア「ガァァアオオオオオオオオン…………!!」

 マガタノゾーアの触手が飛んでくるのを見て、オーブは額のランプを光らせながら飛び上がった。


ガイ『ジャックさん! ゼロさん! キレのいいやつ、頼みます!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ!』

 宙返りしながら降り立ったオーブの姿は青いハリケーンスラッシュのものに変わっていた。
 頭部に備わる二本のスラッガーに手を添え、刃状光線“オーブスラッガーショット”を放つ。

オーブ「サアァッ!!」

 オーブのコントロールの下で空中を乱れ飛び、迫りくる触手を細切れにしていく。
 それを見てオーブは地面を蹴った。その全身に光が纏い、そして消える。

オーブ「フッ!」

 オーブはマガタノゾーアの背後に瞬間移動していた。
 手にした槍の先端にスラッガーショットが装着される。レバーを三回引くと、刃がスパークし、光を迸らせた。

オーブ『――トライデントスラーーーッシュ!!』

 背後から無数の斬撃をマガタノゾーアに叩き込む。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………!!」

 呻き声を上げるマガタノゾーア。だが反撃とばかりに身体の周囲に闇を発生させた。

オーブ「グッ、デアアッ……!!」

 ダメージを受けながらも、オーブが再び飛び立つ。


ガイ『タロウさん! メビウスさん! 熱いやつ、頼みますっ!!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ バーンマイト!』

 魔王獣の正面に降り立ったオーブは赤い“バーンマイト”の姿に変わっていた。
 マガタノゾーアの方を振り返りながらファイティングポーズを取る。

オーブ『――――紅に、燃えるぜっ!!』

 マガタノゾーアが口を開き、その中に光を迸らせていた。
 それを見てオーブは右腕を掲げ上げた。右掌に左拳を重ね、全身にエネルギーを溜め込む。

マガタノゾーア「ガァァアアオオオオオオオオオオオオン…………!!!」

オーブ『ストビューム――――光線!!』

 身体を捻り、腕を十字に組む。金色の光線が薄暗い虚空を裂き、マガタノゾーアの光線と激突する。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン……!!」

オーブ「オオオオオオオ……ッッ!!!」

 両者の光線が拮抗する。その衝撃波が海面を薙ぎ、虚空を震動させ、周囲に閃光を撒き散らす。

ナオミ「ガイさん……!!」

シン・ジェッタ「「いけえええええ!! オーブーーーー!!!」」

 小型ビートルの中から祈るナオミ。声を張り上げるシンとジェッタ。
 その声が届いたかのように、オーブの身体に力が漲る。


ガイ『うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!』

 光線の勢いが強まる。金色の割合が増え、加速度的に勢いを増していく。
 マガタノゾーアの殻の孔が激しく明滅し、押し返そうとする。

オーブ「オオオオオオ――――!! デアアアアアッッ!!!」

 そして遂に――――ストビューム光線が押し切った。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオオオオオン…………!!!」

 巻き起こる爆発に悶え苦しむマガタノゾーア。それを見てオーブは地面を蹴った。

オーブ『ストビューム――――ダイナマイトオオオオオオオオオッッ!!!』

 全身に炎を纏いながら突進するオーブ。
 マガタノゾーアが死力を振り絞って光線を放つ。だが炎の鎧に阻まれオーブに届かない。

マガタノゾーア「アオオオオオオオオン……!!!」

オーブ「デアアアアアッ!!」

 そしてオーブがマガタノゾーアに抱きつく。その炎が魔王獣の全身をも覆い尽くす。
 その熱は足元の水を蒸発させていく。引き剥がそうと巻きつく触手を次から次へと焼き切っていく。

オーブ「オォォオオオオオオ――――――サアアッ!!!」

 そして、一際勇ましい掛け声をオーブが上げた瞬間――――

ジェッタ「!」

ナオミ「!」

シン「!」

 オーブとマガタノゾーアは、超巨大な爆発の炎に飲み込まれた。


 熱風が吹き荒れ、離れているビートルの機体をも揺らす。
 席にしがみつきながらもジェッタはカメラを離さなかった。現場は煙がもうもうと立ち込めていて何も見えない。

ジェッタ「どうなったんだ……」

シン「…………」

 しんと静まり返る機体。恐らく世界中がそうだろう。この中継を見ながら、息を呑んで祈っているに違いない。
 徐々に煙が薄れていく。カメラを持つ手に力が入る。手のひらが汗ばみ、気を抜くとカメラが滑り落ちてしまいそうだ。手が細かく震え出す。吐き出してしまいそうな緊張感。

ナオミ「……!」

 ナオミは目にする。薄まった煙の中に、光が浮かんでいるのを。――点滅する赤い光。
 風が吹き、煙を押し流していく。そこに立っていたのは――

オーブ「……ハァァッ」

 そこに立っていたのは、カラータイマーを点滅させるオーブだった。

パイロット「勝った……のか?」

 更に煙が薄れていく。だが、マガタノゾーアの姿はどこにもない。

ジェッタ「や……やった……。やりました!」

ジェッタ「この中継をご覧の全世界の皆さん! オーブが、ウルトラマンオーブが勝利しました!」



魔頭「……フン」

 宙に浮きながらそれを見ている魔頭。彼の耳は世界中に渦巻く熱気を捉えていた。
 閻魔獣と魔王獣の眷族たちをウルトラマンたちが倒している。そしてその大本をオーブが断った。
 そして世界は救われた。そう思っているのだろう。

魔頭「残念だったな、人間共よ。――まだ終わってなどいないぞ」


オーブ「……!」

 オーブが背後を振り向く。違和感を察知したからだ。
 それは――身の毛もよだつ違和感だった。まるで反転した宇宙から飛来したかのような悍ましさ。
 そこにいるだけで世界の法則と倫理が崩れ去っていくような、そんな存在。

オーブ『何……!?』

 空中に闇が漂っていた。それらは命を持ったように蠢き、渦巻き、一ヵ所に集約していく。
 全身にかかる重圧が強くなる。闇がうねり、泥のような質量を手に入れる。それが徐々に形を変えていく。

「オオオオオォォォォォオオオオオオオオ…………」

 それは、何と形容していいか分からない不定形の闇だった。
 ぐねぐねと動きながら虚空を占めていく。その勢いはとどまるところを知らず、瞬く間に巨大化していく。
 オーブの十倍は優に超える大きさになっても巨大化はなおもやまない。その中心が突き出、四つの眼が開き、口が縦横に裂けた。

ジェッタ「……なんだ、あれ……」

 歓喜に包まれていたビートル内は一転して静まり返っていた。
 ジェッタは呆然としていたが、ビデオカメラはそれを映し続けている。世界中にその映像が伝わる。



魔頭「人間の希望とは儚いもの。希望から絶望に叩き落とされれば、より強い闇を生み出す」

魔頭「その闇が魔王獣に更なる闇をもたらし、魔王獣は際限なく力を強めていく」

魔頭「マガデモンゾーア。ザイゴーグの闇を吸収して生まれた“闇黒超魔王獣”だ」

魔頭「さあ、ウルトラマンオーブ? お前のちっぽけな光でこの強大なる闇を掻き消すことができるかな?」


マガデモンゾーア「グォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

オーブ「!」

 大きく裂けた口の中から無数の氷の棘が発射された。
 オーブは咄嗟に飛び上がってそれを躱す。だがマガデモンゾーアは続けて放ち、オーブを追う。

オーブ「グッ――!!」

 必死にスピードを上げて振り切ろうとするが、発射する範囲が広すぎた。
 呆気なく追いつかれ、連撃の雨に襲われる。拳に炎を溜めてそれを振り払おうとするが、数が多すぎる。

オーブ「――ジュアアアッ!!」

 対処できなかった一本が、オーブの腹部を貫いた。
 オーブの身体が海面に落ちる。腹に手をやりながらよろよろと立ち上がる。

マガデモンゾーア「オォォォォオオオオオオオオ…………!!!!!」

 顔を上げると、マガデモンゾーアの口が開かれ、オーブに向けられていた。



ジェッタ「……みんな!」

 突然、ジェッタはビデオカメラを自分に向けて言った。

ジェッタ「みんな、オーブを応援してくれ! 心の底から祈ってくれ!」

ジェッタ「戦っているのは一人じゃない、たくさんの仲間がついているって、そのことをオーブに伝えてくれ!」

 そして再びオーブの方へカメラを向ける。
 今にもトドメを刺されそうになりながらも、超巨大な敵に敢然と立ち向かうオーブの姿を。

ナオミ「オーブ……!」

シン「みんながついてます……!」

ジェッタ「負けるな! ウルトラマンオーブ!!」


   ★


エックス「セヤアッ!!」

ゴルザ「シャアアアオオ……ッ!!」

 エックスはアメリカのラスベガスでゴルザと戦っていた。
 Xクロスチョップで後退させ、ザナディウム光線でトドメを刺す。
 一息ついたところで、大地は何かに気付いた。

大地『これは……』

 エクスデバイザーから出現した二枚のカードが光を放っていた。
 まるで、何かのメッセージを伝えようとするかのように。

エックス『感じる。世界中の光が集まっている』

 人々の姿は避難していて見えない。だが姿が見えなくても、その想いは伝わっていた。

エックス『大地、行くぞ!』

大地『ああ!』

 その二枚をデバイスにセットすると、神秘のアイテム“エクスベータカプセル”と“エクスパークレンス”の形に変わった。
 強く握りしめ、その二つを合体させる。エックスの身体に金と銀に輝く“ベータスパークアーマー”が装着された。

エックス「イィッ、サァッ!!」

 地面を蹴って飛び上がったエックスはその背から翼を展開した。
 十対の鋭利な光の翼だ。それら一枚一枚が光のエネルギーを世界中に飛ばしていく。

大地『みんな、この力を受け取ってください!』

エックス『この星の持つ、希望の力を!』


   ★


ゼロ『よーーっし、力が湧いてきた! 行くぞ、みんな!』

 ゼロのワイドゼロショットが相対していたゾイガーを爆殺する。
 ダイナもコスモスもガイアもアグルもギンガもビクトリーもセブンも、それぞれ戦っていた怪獣たちを打ち破った。


   ★


ガイ『この光は……!』

 ガイは胸の内に宿る光を感じていた。昼の陽射しのように温かくて、燃え上がる炎のように熱い光。
 ガイは、最後の力を振り絞り、オーブリングを翳した。

ガイ『――ウルトラマンさん!』

『ウルトラマン!』

ガイ『ティガさん!』

『ウルトラマンティガ!』

ガイ『光の力――――お借りしますっ!!!』


『フュージョンアップ!』


『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!!』


マガデモンゾーア「オオオオオオオオオオオオオ…………!!!」

 マガデモンゾーアの前でオーブの姿が変わる。
 ウルトラマンとティガの力を融合させた“スペシウムゼペリオン”の姿――
 だがそれはいつもとは違った。金色の光が帯び、その全身を包んでいた。

マガデモンゾーア「ガァアアアアアアアアアッッ!!!」

 マガデモンゾーアが氷の棘を吐き出す。それと同時に、オーブは飛び立った。

オーブ『俺の名はオーブ! 闇を照らして――――』

 氷槍の雨を掻い潜りながら手のひらに光輪を形成する。
 エネルギーを溜め、それを巨大化させる。

オーブ『――――悪を撃つ!!』

 放たれたスペリオン光輪が棘を切り裂きながら突き進む。
 マガデモンゾーアの口に飲み込まれ、背中を突き破って飛び出した。

マガデモンゾーア「オォォォォオオオオオ…………!!!!」

 マガデモンゾーアの眼が怒りに染まる。闇の中から無数の触手を放つ。

オーブ「テャッ!!」

 目にも止まらぬスピードでオーブが宙を駆け抜ける。その軌跡は一本の残光を描く。
 縦横無尽、自由自在に駆け巡り、オーブが通った場所は薄暗い闇が浄化された。


マガデモンゾーア「オォォォォオオオオオオ…………!?」

 マガデモンゾーアが気付く。オーブを追っている間に触手が一本に絡まり合っていたのだ。

オーブ「セヤッ!!」

 スペリオン光輪を投げ、それを根元から切断する。
 切り離された触手は海面に落ちるより先に浄化され、霧散した。

マガデモンゾーア「ガァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 口を大きく開くマガデモンゾーア。蒼白いエネルギーがその中に溜め込まれていく。

オーブ「フッ!」

 対するオーブは右腕を掲げ上げた。左腕を胸の前に構え、開く。両腕に沿った光の帯が直交する。


オーブ『――――グリッタースペリオン光線!!!』


 オーブが両腕を十字に組む。金色の円が広がり、右腕から怒涛の勢いで光線が放たれる。
 暗闇を背に、まるで彗星のように流れる光の奔流。虚空を裂き、一直線に闇黒超魔王獣の元へ駆け走る。


マガデモンゾーア「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


 氷の棘を一束にして打ち出すマガデモンゾーア。
 両者が激突し――――拮抗する間も一切与えず、金色の光線が氷槍を切り裂いた。


オーブ「――――ジュワアッ!!」

 グリッタースペリオン光線がマガデモンゾーアの口内に照射される。
 巨大な闇の塊が蠢き出す。あちこちから裂け目ができ、光の筋が飛び出してくる。

マガデモンゾーア「オォォォォオオオオオオオオ――――――」

 そして、次の瞬間――――


マガデモンゾーア「――――――――――――――――――――――」


 声にならない断末魔を上げながら、マガデモンゾーアの巨体が砕け散った。
 轟音が地球の裏側まで響く。閃光が迸る。空を覆っていた闇を突き破る。闇が切り払われ、太陽の光が降ってくる。

ジェッタ「…………」

シン「…………」

ナオミ「…………」

 SSPの三人はしばらくその光景を見るともなしに見ていた。
 誰も口を利かない。まるで世界中から時間が奪われてしまったかのよう。

 その時、ズシン、という音が鳴った。皆、我に返る。
 オーブが降り立っていた。青空を背に、金色の光を帯びる巨人の姿。

ジェッタ「や…………った…………?」

シン「や……やったんですよ! オーブが勝ったんです!」

ナオミ「やったーーーーー!!!」

 抱き合いながら喜ぶSSP。この三人だけではない。世界中で歓喜が渦巻いていた。


ゼロ『勝ったみたいだな。オーブ』

 各地のウルトラマンからのテレパシーがオーブの元に届く。

ガイ『はい。皆さんのおかげです』

ダン『ちょっと地球を一周してみたが、残っている怪獣はいなさそうだ。これで一件落着だな』

ガイ『セブンさん。お疲れさんです』

ゼロ『おいおい、「ちょっと一周してみた」って。もう歳なんだから自重しろよ、親父』

ダン『余計なお世話だ。……さて、我々はこれで帰ることにするよ』

ゼロ『そうだな。わざわざ直接言ってやんなきゃならないこともなくなっただろうし』

アスカ『ガイ。これからも仲間を大切にな』

我夢『この地球を、よろしく頼む』

ムサシ『もしまた力が必要になった時は、いつでも呼んでほしい』

ヒカル『ああ。世界が違っても、俺たちはこの空で繋がっているからな』

ショウ『今回みたいな水くさいことはなしだぜ、オーブ』

ガイ『――はい。皆さん、お気をつけて』

大地『じゃあ、また!』

エックス『いつかどこかで会おう!』

 世界中から光が飛び立ち、空の彼方へ消えていく。
 オーブは青空を見上げ、静かなさざ波の音にいつまでも耳を傾けていた。


   ★


ミラール「――ガイ!」

ガイ「よっ」

 一か月後、スイスのラ・ショー=ド=フォン。
 再びこの地を訪れたガイは、ブレーメの時計工房の前でミラールと再会していた。

ガイ「もう大丈夫そうだな」

ミラール「うんっ。私ってけっこうラッキーガールみたいで、当たり所が良かったんだって。時計作りにも問題はないってさ」

 ガイは笑顔で頷いて、目を閉じた。首を傾げるミラールの頭の上にぽんと手を置いた。

ミラール「……もしかして、もう行っちゃうの……?」

ガイ「ああ。……風来坊だからな」

 ミラールが目を伏せる。しばらくそのまま無言でいたが、顔を上げると、ポケットに手を突っ込んだ。
 取り出したのは懐中時計だった。ガイの手を取り、それを握らせる。

ミラール「これ、持って行って」

 だがガイは、ゆるりと首を振って、それを返した。
 見上げてくるミラールの眼を見詰めて、言う。

ガイ「ミラール。俺がこれを貰うわけにはいかない」

ミラール「……どうして?」

 ミラールの声は震えている。目尻からぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる。

ガイ「同じ時を共有できたとしても、俺たちは同じ時間の流れの中で生きていくことはできないんだ」

ミラール「…………」


ガイ「八年『も』経ったのに、俺の見た目は全く変わってない。わかるか?」

ミラール「…………」

ガイ「だからこれは、別の奴に渡した方がいい」

 ミラールは手の上の時計を見詰めていたが、決心したように顔を上げた。
 時計を握り込んでガイに突き出す。強引に手を取ってそれを持たせる。

ガイ「……ミラール」

 ガイが言うより先に、ミラールは首を横に振った。

ミラール「違うの。でも、あなたに持っていてほしい」

ガイ「…………」

ミラール「たとえ一緒に生きられなくたって、あなたと同じ時間の中に生きていることは、私にとって励みになるから」

 ミラールの瞳の中できらりと光が輝く。ガイは頷いて、それを受け取った。

ガイ「じゃあ、な」

 帽子を被り直し、背を向ける。
 オーブニカのメロディーを奏でながら去っていくその背中を、ミラールはずっと見詰めていた。

ガイ「…………」

 しばらく歩いたのち、ガイは時計を取り出して蓋を開いてみた。
 時計の針はカチ、カチ、と細かい音を立てながら、新しい時を刻々と刻んでいた。


To be continued...


≪次回予告≫

最後の次回予告はこの俺、ジャグラスジャグラーが務めさせてもらおう。フフフフフッ。

ガイが世界を救った裏で、俺は月へと向かっていた。

荒涼とした灰色の世界。そこに眠るのは、かのウルトラマンエースが封印したと言われる魔王獣……。

さあて、この戦いはどう転ぶかな?

次回、ウルトラマンオーブ 『決戦! 超合体閻魔王獣』


≪登場怪獣≫

“闇黒超魔王獣”マガデモンゾーア
・体長:666m
・体重:880,000t

マガタノゾーアが敗れた後、ザイゴーグの闇を吸収して生まれ変わった姿。
超巨大かつ不定形で、その身体は闇が発生する限りどこまでも膨れ上がっていく。
攻撃方法は口から放つ氷の棘と全身から伸ばす触手。


第五話 『決戦! 超合体閻魔王獣』


 見渡す限りが灰色の地肌とクレーターの世界。
 顔を上げれば地平線に切り取られた真の虚空がどこまでも続いている。

ジャグラー「……ここか」

 ――月。魔人態のジャグラーはがらんとしたその衛星の上をひとりで歩いていた。
 ある地点で立ち止まると鞘から刀をすらりと抜いた。その刀身から紫色のオーラが滲み出す。

ジャグラー「フンッ!」

 地面にそれを突き立てるジャグラー。地面に入った亀裂の奥に電流のように刀からエネルギーが伝わっていく。
 辺りがぐらぐらと揺れ出す。ジャグラーは刀を抜き、ぴょんと飛び退いた。

「グォォオオルルルルルルル……!!」

 地中から怪獣が飛び出してくる。煉瓦を積み重ねて作られたように見える腕と足。
 そこ以外はふわふわとした白い毛に覆われており、頭には大きな耳が広がっている。
 鋭く光る赤い眼。それに挟まれて、額にも赤い結晶体が埋まっている。

ジャグラー「フフッ、“月ノ魔王獣”マガルナチクス。お前の力、お借りするぞ」


   ★


 一方、閻魔獣と魔王獣が消え、平穏が戻った地球。SSPオフィスの上がり座敷で三人はテーブルを囲んでいた。
 その上には紙の資料がやたらと散らばっている。ジェッタとナオミは額を寄せ合って一番上に置かれた紙を見た。

ナオミ「魔頭……」

ジェッタ「鬼十朗……?」

 その紙には「魔頭鬼十朗の生涯研究」というタイトルの論文がプリントされていた。
 添付されている図に自画像とされる絵が載っている。戦国時代には珍しい南蛮風の衣装を纏った男だった。

シン「そうです。『日本太平風土記・異本』の作者はこの魔頭鬼十朗なのではないかと僕は睨んでいます」

ジェッタ「誰なのさ、その魔頭鬼十朗って」

シン「戦国時代の予知能力者と言われていますね。予知以外にも様々な超能力を使うことができたようです。
   しかしその力は危険と見なされた。兵士たちに家を包囲された魔頭は自ら火を放ち、命を絶ったということです」

ジェッタ「ふぅん……」

ナオミ「それでどうしてその魔頭鬼十朗が『異本』の作者って話になるの? 作者不詳だったはずでしょう?」

シン「これを見てください。魔頭が儀式を行う際に使っていたとされる魔法陣の絵です」

 次のページがめくられると、新たな図が載っていた。そこには――

ジェッタ「目玉……」

シン「そうです。魔頭が使う呪術にはこの目玉の紋様が中心にある魔法陣が必要不可欠だった」

ナオミ「『異本』の最初のページには目玉が載ってたわね……」

 ナオミがそう呟くと、ジェッタは何かに気付いたように声を上げた。


ジェッタ「そうだよ! あの目玉のことが何にも解決してないじゃんか!」

ナオミ「そういえば。その後の予言がすごいことばっか書いてたから、すっかり忘れてたわね……」

シン「はい。そして『異本』にはあの目玉――ジェッタ君は“ガンQ”と名付けましたが――の記述がその後一切現れません」

ナオミ「特に重要な情報じゃなかった? もしくは……」

ジェッタ「意図的に何かを隠していた……」

 シンは神妙な顔をして頷いた。

シン「そして、魔頭邸が燃やされた後、その跡に巻物が残っていたと言います。炎の中で、何故かそれだけ焼かれなかった」

ジェッタ「なんて書いてあったの?」

シン「『時空を超え、必ずや我が再臨は果たされん。天下は闇に包まれ、魔頭の王国が築かれるであろう』」

ナオミ「再臨……復活するってこと……?」

シン「恐らく。そしてガンQは既に、この世に現れている――」

ジェッタ・ナオミ「「……!!」」

 シンの言葉に、ジェッタとナオミは揃って息を呑んだ。


   ★


ガイ「――魔頭」

魔頭「相変わらず鼻が利く奴だな。よくぞここが分かったものだ」

 長野県矢渡山脈の山中。森の中にぽっかりと空いた虚。
 その場所で、ガイは魔頭と対峙していた。

ガイ「お前の目的は一体何だ……?」

魔頭「フフッ、この間言ったばかりだろう。此の現世を闇に染めるためだと」

ガイ「そのためにわざわざザイゴーグを蘇らせたのか。マガタノゾーアと戦わせるために……」

魔頭「半分は正解だよ、ウルトラマンオーブ。だが半分は違う」

ガイ「やはりな」

魔頭「分かっていたのか?」

ガイ「お前の持つダークリング……。お前はそれを使って、完全なる復活を果たすつもりだろう」

 それを聞いた魔頭は大きく口を開いて笑い声を上げた。

魔頭「流石だ。流石だよ、ウルトラマンオーブ。そこまで読めているとはな」

 魔頭が両手を大きく開いた。その背後で紫色の紫電が放射状に飛ぶ。
 巨大な存在感が出現したことをガイは肌で感じ取った。その光が晴れるとそこには、頭全体が血走った目玉の怪物が立っていた。


魔頭「だがもう止められん。既に我が計画は完遂している!」

 魔頭がどこからともなく四枚のカードを取り出した。それらを次々とダークリングに通していく。

『ゴルザ! メルバ! ゴーグレイキュバス! ゴーグ超コッヴ!』

ガイ「……っ!」

魔頭「これが我が計画! 世界中に現れた闇の眷族を我が力の糧とする事だ!」

 四重螺旋の闇を纏った魔頭の体がガンQの目玉に吸い込まれる。
 先程とは比べ物にならない暗黒が辺りに撒き散らされる。その衝撃で木々がへし折られ、木の葉が嵐のように飛んでいく。

魔頭『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 地響きが鳴り響き、森が大きく揺れる。
 ガンQの姿が消え、代わりに、五体の怪獣をその身に宿した超合体怪獣が立っていた。

魔頭『超合体! ――――ファイブキング!!』

ファイブキング「グォォォオオオオオオオッッ!!!!」

 メルバの嘴を兜のように被ったゴルザの頭部。
 右腕にはレイキュバスの鋏。左腕にはガンQの目玉。腹部には超コッヴの顔が埋まっている。
 雄叫びを上げながら頭部にエネルギーを溜める。ガイが我に返った時には光線が放たれていた。

ガイ「くっ!」

 咄嗟に転がって爆発から逃れる。起き上がると同時にオーブリングを構えた。


ガイ『ウルトラマンさん!』

『ウルトラマン!』

ガイ『ティガさん!』

『ウルトラマンティガ!』

ガイ『――光の力、お借りします!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン!』


 ファイブキングの前に光の柱が駆け上る。紫色のリングがそれに沿うように昇り、光が弾ける。
 そこに立っていたのはウルトラマンとティガを融合させたオーブの姿、“スペシウムゼペリオン”だった。

オーブ『俺の名はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!』

ファイブキング「グォオオオオピギャァアアアオオン!!!」

 嬉々とした様子でファイブキングが猛進する。
 オーブは手の先から光波を放ち牽制するが、意に介さず突き進んでくる。

オーブ「……!」

ファイブキング「ギャォォォオン!!」

 ファイブキングが鋏を振り回す。オーブの額のランプが紫に光り、素早くそれを躱す。

オーブ「テャッ!!」

 そして拳を叩きつけるが、ファイブキングは全く応える様子を見せなかった。


ファイブキング「アオオオオン……!!」

オーブ「!」

 コッヴの眼が光ったことにオーブは気付いた。
 咄嗟にファイブキングの側面に回り込む。腹部から放たれた光弾の雨から逃れる。

ファイブキング「グオオオオオオオン!!」

 ファイブキングが尻尾を回し、オーブに叩きつけようとする。
 だがオーブは逆にそれを受け止めた。額のランプが赤い光を放つ。尻尾を引っ張り、怪獣の巨体をジャイアントスイングして放り投げる。

ファイブキング「グオオ、グゥウウウ……」

オーブ「――フッ!」

 ファイブキングが立ち上がろうとする間にオーブは右腕を掲げていた。
 怪獣がこちらを振り向くのと腕を十字に組んだのが同時だった。

オーブ『――スペリオン光線!!』

 紫の光線を螺旋状に巻き込みながら青い光の激流が宙を飛ぶ。しかし――

ファイブキング「ケケケケケケ!!」

 ファイブキングが左手を突き出した。ガンQの目玉が光線を受け止める。
 その上で光線のエネルギーがくるくると渦巻き、ファイブキングに届かない。


ファイブキング「イイイイイイ!!」

 ファイブキングが鳴くと、渦巻いていたエネルギーがオーブの方に放たれた。

オーブ「! ジュアァッ……!!」

 それを胸に受け、倒れるオーブ。
 追い打ちとばかりにファイブキングが額と鋏から光線を放つ。オーブの周りで爆発が巻き起こる。

魔頭『ワハハハハハハハ!! これが今の私の力だ、ウルトラマンオーブ! 貴様すら凌駕する最強の力!』

オーブ「グッ……」

 よろよろと立ち上がったオーブの額のランプが淡い光を放った。

『覚醒せよ、オーブオリジン!』

ガイ『オーブカリバー!』

 召喚したオーブカリバーを掴み、剣が宿す四つのエレメントを自身の身体に集わせる。
 蒼い光が弾け、オーブオリジンへと変身した。

オーブ『――銀河の光が、我を呼ぶ!』


魔頭『フン……姿を変えても無意味だ!』

ファイブキング「グオオオピギャァァアオオオン!!!」

 頭部の二対の眼が光る。額から放たれるゴルザとメルバの光線。

オーブ「ハッ!」

 聖剣を翳して光のシールドを作り、それを防ぎ切る。
 両手で柄を握りしめ、オーブは飛び込んだ。ファイブキングの胴体を袈裟切りにする。

ファイブキング「アオオオオン……!!」

 超コッヴの眼が光る。躊躇せずオーブはそこに切っ先を突き立てた。

ファイブキング「アオオオオオン……!?」

オーブ「テャッ!!」

 ファイブキングが狼狽える。オーブは剣を抜き、再び胴体に振り下ろす。
 血の代わりに火花が飛び散る。悶えながらファイブキングは鋏をオーブに叩きつけようとする。

オーブ「フッ!」

 しかしその動きは読めていた。身を屈めてやり過ごし、転がって側面に回る。
 ファイブキングは返す刀で鋏を振り回す。オーブは聖剣を振り上げてそれを迎え撃つ。

オーブ「ドリャアアアッ!!!」

 鋏はオーブに届かなかった。振り下ろされた聖剣が、右腕を半ばから断ち切ったのだ。

ファイブキング「グォオオオオオオオオ……!!」


魔頭『な……何だと……!?』

 遮二無二尻尾を振り回すが、オーブは惜しげもなく聖剣を手放し、バク転して躱した。

魔頭『愚か者め……! この剣さえ壊せば……!』

 地面に落ちたオーブカリバーを踏みつけようとするファイブキング。
 だがオーブが手を伸ばして念じると、オーブカリバーは吸い込まれるように彼の手の中に帰っていった。

魔頭『……!!』

オーブ「――シュアッ!」

 その柄を掴み、カリバーホイールを回す。火のエレメントが宿った剣で炎の輪を描く。

オーブ『オーブフレイムカリバー!!』

 剣を振ると、その輪が飛んでいく。ファイブキングはガンQの目玉を突き出してそれを吸収しようとする。
 だがオーブは続けて聖剣に風のエレメントを宿していた。切っ先をファイブキングに向けると、緑色の風が吹き始める。

オーブ『オーブウインドカリバー!』

 風の吹く流れに従って炎のリングが形を変えていく。
 オーブが剣を振ると風の動きもまた変わった。あたかも身をうねらせる龍のような形となり、ガンQの盾の軌道から逸れつつファイブキングの全身に絡みついた。

ファイブキング「イイイイイイ!!」

 だがガンQの目玉はその状態でも力を発揮できた。火の球となって全身を包もうとする炎がその中に吸い込まれていく。
 しかしその隙にオーブは聖剣を掲げ、上空に光の円を描いていた。


オーブ『――オーブスプリームカリバーーーー!!!』

 剣先から四つの属性が入り交じる破壊光線が放たれ、ファイブキングの腹に直撃した。
 ガンQの目玉は炎を吸い込んでいてこちらまでカバーしきれない。

ファイブキング「グオオオピギャァァアオオオン……!!!」

オーブ「デヤアアーーッ!!」

 オーブが力を強めると、光線の勢いが上がる。
 一瞬、閃光が撒き散らされたかと思うと、ファイブキングの身体は爆発の中に呑み込まれていた。

オーブ「…………」

 オーブが剣を下ろす。だが――

魔頭『まだだ……!! まだ終わらぬ……!!』

ガイ『!』

 必死の形相で魔頭が取り出した二枚のカード。それは――

『ザイゴーグ! マガタノゾーア!』

魔頭『――超合体ッ!!』

 爆炎がふっと掻き消える。まるで周囲の光全てを呑み込むブラックホールのような深淵の闇が虚空に浮かぶ。
 そこから紫電が蜘蛛の巣のように放射状に拡散される。大地が轟き、その存在が地上に降臨した。

                   ギメラ
魔頭『――――ファイブキングG!!』


ファイブキングG「ガァァァアアオオオオオオオオン…………!!! ゴ・ゴ・ゴ・ゴ…………」

 出現したファイブキングは切り落とされた右腕からザイゴーグの棍棒が生えていた。
 潰された腹部には上下反転したようなマガタノゾーアの顔が。両脚の付け根には殻の出口のような穴が空いている。
 ゴルザ・メルバ・ガンQは変わらずだが、背中には無数の棘が生えていた。閻魔分身獣を生み出すザイゴーグの棘だ。

ファイブキングG「ガァァアアアグオオオオピギャァァアアアイイイイイイオオン!!!!」

 合体した全ての部位が咆哮し、空気をビリビリと震わす。
 オーブを睨みつけ、地鳴りを響かせながら歩んでくる。

オーブ「……ハァアッ!!」

 姿を変えた相手にも怯まず、掛け声を上げ、剣を携えながらオーブが駆ける。

ファイブキングG「ガァァアアオオオオオン……!!」

 だがその時だった。両脚の付け根の穴から触手が這い出てきたのだ。

オーブ「!」

 驚く間もなく胴体が絡めとられる。凄まじい力で引き寄せられる。見ると、ファイブキングGが棍棒を振り上げている。

オーブ「グッ!」

 剣を構えて応戦するオーブ。だがファイブキングGの力の方が遥かに上回っていた。オーブカリバーが一方的に弾き飛ばされてしまう。


ファイブキングG「ガァァアアオオン!!」

 オーブを触手で捕らえたまま棍棒で殴りつける。
 横っ面を殴りつけ、返す刀でもう一撃、振り上げて肩にぶつけ、最後に顔面にストレートを叩き込む。

オーブ「グゥゥッ……!!」

 グロッキーになるオーブ。意識を朦朧とさせながらも光輪を形成して触手を断ち切る。

ファイブキングG「グ、ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ……!!」

 後転して距離を取るオーブをファイブキングGは逃さない。
 背の棘が赤く光り、六発が発射される。そのあまりの速度に対応できず、オーブは弾き飛ばされた。

オーブ「デアァ……ッ」

 棘が地面に着弾する。オーブを取り囲むように閻魔分身獣たちが生まれる。

ゴーグゴルザ「グオオオオオオン!!」

ゴーグメルバ「ピギャアアアアアオン!!」

ゴーグアントラー「キィィィイイイッッ!!」

ツルギデマーガ「グォォッルルルル!!」

ゴーグレイキュバス「ギャァアアオオオン!!」

ゴーグ超コッヴ「アオオオオン!!」

オーブ「……!!」


魔頭『絶望の味はどうだ、ウルトラマンオーブ? ――さあ、かかれいっ!!』

 魔頭の一声で分身獣たちが一斉に光線・光弾・熱線を放った。
 オーブはその攻撃をひとつも躱せない。全てが命中し、焼き払われた森の中に倒れ伏す。地面に接したカラータイマーが甲高い音と共に点滅を始めた。

魔頭『最後はこの私の手で葬り去ってやる……。消えろ、ウルトラマンオーブよ!』

 ファイブキングGの四対とひとつの眼が爛々と輝く。
 それぞれがエネルギーを迸らせる。空気が、地面が揺れる。まるで地球が悲鳴を上げているかのように。

魔頭『フフフフフ……この星すらも私に恐怖している! 我が王国はすぐ目の前に……!!』

オーブ「……!」

 必死に起き上がろうとするオーブ。腕で身体を支えようとするが、すぐ力尽きてしまう。
 もう次の攻撃を待つことしかできない。そんな様子を見て魔頭は満足そうに高笑いを上げ、そして言った。

魔頭『死ね』

 一際強いエネルギーが迸る。両腕を突き出し、腹部の口と額を這いつくばるオーブに向ける。
 今にも全ての光線が放たれ、オーブを消し炭にしようした、その時だった。


「――――蛇心剣・新月斬波ッ!!」


 突如、天空から闇の斬撃波が飛来した。


魔頭『ぐおっ……!?』

 不意を突かれて直撃し、エネルギーが途切れてしまう。
 眦をかっと開き、前方を睨みつける魔頭。その斬撃の主が、上空から降りてきていた。

ガイ『ジャ……ジャグラー……』

ジャグラー「こんな小悪党相手に何を苦戦しているんだ、ガイ」

 それは、魔人態のジャグラーだった。人間大だが、左手の上には自身の身長の何倍もある赤い結晶体を乗せている。

魔頭『貴様アァッ! 何者だ!』

 激しい剣幕で怒り狂う魔頭に対し、ジャグラーは不敵な笑みを向けた。

ジャグラー「お初にお目にかかります、ジャグラスジャグラーと申します。以後、お見知りおきを――あっ」

 わざとらしい文句を口にしながら、ジャグラーはわざとらしく首を振った。

ジャグラー「以後、はもうないか。貴方はもうじき死ぬ運命でしたね。フフフッ」

魔頭『誰に口を利いていると思っている! この世の覇者、魔頭王国の主! 我こそは魔頭鬼十朗であるぞ!』

 だがそんな魔頭には構わず、ジャグラーはオーブの方を振り返った。

ジャグラー「立て。オーブ」

オーブ「……! ……グゥゥッ!!」

 力を振り絞り、オーブが立ち上がる。ジャグラーの身体が赤い結晶体と共に宙に浮いた。


ガイ『お前……そのマガクリスタルは……』

ジャグラー「月に眠る魔王獣、マガルナチクスを蘇らせたのさ。こいつは奴から剥ぎ取ったものだ」

魔頭『何だと……! ダークリングは我が手の中! 貴様、どうやって魔王獣を!』

 ジャグラーは手にしていた刀を振ってみせた。その刀身から闇のオーラが滲み出ている。

魔頭『まさか……』

ジャグラー「そう。お前が蘇らせたマガタノゾーアの闇を利用させてもらった。闇の力を使うのは何もお前の専売特許じゃあない」

魔頭『貴様ァァ……!!』

ジャグラー「ハハハハハ! ガイ、ありがたく受け取れ!」

 マガクリスタルを放り上げ、それに向けて目にも止まらぬ斬撃を振るう。
 次の瞬間、結晶体はバラバラに砕け散った。粒子状となったそれがオーブのカラータイマーの中に流れ込んでいく。

ガイ『! このカードは……』

 それがオーブリングを通ると「ウルトラマンエース」のカードになった。

ガイ『ジャグラー、お前……』

 そう言って顔を上げると、ジャグラーの姿はどこにも見えなくなっていた。

ガイ『……礼を言うぜ。ジャグラー』


オーブ「――シュアッ!」

 オーブのカラータイマーと額のランプが淡い光を放つ。

ガイ『メビウスさん!』

『ウルトラマンメビウス!』

ガイ『ギンガさん!』

『ウルトラマンギンガ!』

ガイ『――無限の力、お借りします!!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ メビュームエスペシャリー!』


 光の中でオーブの姿が生まれ変わる。
 身体のところどころに鋭利な青いクリスタルが光る“メビュームエスペシャリー”の姿に。


オーブ『――眩い光で、未来を示せ!』


魔頭『示せるものなら、示してみろ! 行けええいっ!!』

 分身獣たちが動き出す。ガイは新たに六枚のカードを取り出した。


ガイ『ゾフィーさん! ウルトラマンさん!』

『ゾフィー! ウルトラマン!』

ガイ『セブンさん! ジャックさん!』

『ウルトラセブン! ウルトラマンジャック!』

ガイ『エースさん! タロウさん!』

『ウルトラマンエース! ウルトラマンタロウ!』


ガイ『ウルトラ六兄弟の力――――お借りしますっ!!』


『ウルトラオーバーラッピング!!』


 メビュームエスペシャリーの身体にウルトラ六兄弟の力が重なった。
 オーブの全身が光り輝き、その背から七色の剣が七本出現する。

オーブ「――セエアッ!!」

 その内の一本を掴み、掛け声を上げる。すると残る六本が意思を持ったかのように自ら宙を飛んだ。
 襲い来る光弾や光線を難なく斬り払い、分身獣たちを滅多切りにし、爆殺した。

魔頭『な……!?』

 オーブが剣を掲げ上げる。その剣を中心として六本の剣が集い、周囲を巡りながらエネルギーを迸らせる。
 それらは混ざり合い、ひとつの奔流となる。魔頭の眼に映るそれは、一本の巨大な光剣だった。

ファイブキングG「グオオオオオ――――!!」

 反撃の体勢に入るファイブキングG。しかしそんな間を与えず――オーブは剣を振り下ろした。


オーブ『コスモミラクル――――エスペシャリーブレード!!!』


 衝撃波が森を薙ぐ。ざわざわと木々が騒ぎ――そして訪れる静寂。
 ファイブキングGは声も出せない。頭から一直線に、光の亀裂が入っている。

魔頭『お……の……れ…………!!』

 ぐらりと、怪獣の体が倒れる。

魔頭『おのれええええええええええええええ!!!!!』

 魔頭が絶叫し、爆音に掻き消された。
 ごうごうと立ち昇る炎。オーブはそれに背を向け飛び去った。

 ふっと森の炎が消える。戦いは終わり、いつもの静けさが戻ってきた。



ジャグラー「……フフフッ」

 オーブが飛び去ったのを見て、森に潜んでいたジャグラーは怪獣が倒れた跡まで歩いた。
 煤だらけになって転がっているダークリング。スーツの内ポケットからハンカチを取り出し、それを丁寧に拭いながら、ジャグラーは笑みをこぼした。

ジャグラー「また会えて嬉しいぜ。ダークリング……」


ウルトラマンオーブ -Episode EX-  THE END


≪登場怪獣≫

“超合体怪獣”ファイブキング
・体長:75m
・体重:55,000t

魔頭鬼十朗がダークリングを使ってゴルザ・メルバ・ゴーグレイキュバス・ゴーグ超コッヴ・ガンQを融合させた怪獣。
五体の特徴と能力を色濃く引き継いでおり、様々な特殊能力・攻撃方法を持つ。

“超合体閻魔王獣”ファイブキングG
・体長:75m
・体重:150,000t

右腕のレイキュバスと腹部の超コッヴのパーツを破壊され、新たにザイゴーグとマガタノゾーアの力を融合させた姿。
右腕はザイゴーグの棍棒となり、腹部にはマガタノゾーアの顔が埋め込まれている。
足の付け根に空いた穴から触手を伸ばすことができるようになり、背の棘から閻魔分身獣を生み出すことも可能。
「G」は「ゴーグ」と「ガタノゾーア」という意味。


これで終わりになります。
読んでくださった方、ありがとうございました。

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