モノクマ「卒業、おめでとう!!」 (113)



まいぞのさんが クロにきまりました。




※ ぶっちゃけこの二人好きでSS書き始めたんだけど
  桑田ほとんどしゃべらない。

※ キャラ崩壊に注意。

※ どうあがいてもBAD END




舞園   「私は出られる……この狂った学園から出られる!!……ふふ、あははははっ!!
      勝った、勝った、勝った!!!私は勝ったんだ!!!」

モノクマ 「んー、サプライズでおしおきボタン押させてあげたのは間違いだったかな?
      まあいいや。それじゃ舞園さん、学級裁判おつかれさま。君のおかげで楽しい学園生活だったよ」

舞園   「どうでもいいから、早く扉を開けて下さい!!私にはその権利があるんでしょう!?」

モノクマ 「あれ、ぼくの送る言葉聞いてなかった?ゆとり世代はせっかちだね……
      まあいいか。どうせここを出たら、のんびりしてる暇なんてないんだろうし」

舞園   「当たり前じゃないですか!みんなが待ってる……みんなが、私を求めているんです!!」

モノクマ 「おお、恐い恐い。初恋の人がとんだファム・ファタールだったなんて、苗木くんもビックリだよ……
      じゃ、せいぜい外の世界を楽しんでね。うぷぷぷぷぷ」ポチッ


ゴゴゴゴゴゴ…


待っててね、みんな。今すぐ帰るから。

キラキラした照明、空間を振るわせるコール、たくさんのペンライト……

私が帰る場所……


私のいるべき世界に!!!


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491050541


舞園  「…………」

舞園  「……………え?」


暗く、淀んだ空。ひたすらに広がる瓦礫。渦を巻く黒煙。ひっきりなしに聞こえてくる銃声。
誰かの悲鳴。遠くで燃え盛る、赤い炎――。


舞園  「ど、どういうこと……?なんなの、これ……」


一歩、足を踏み出す。ぐに、となにか柔らかいものを踏んだ。おそるおそる下を見る。
……人だ。モノクマの仮面をかぶった男の人が、血の海に沈んでいた。

どうして気づかなかったんだろう?よく見るとそこかしこに、死体が転がっている。


舞園  「いっ……いやあああああ!!!……モノクマ、モノクマ!!」


振り返った扉は、固く閉ざされていた。


舞園  「答えてよ、モノクマぁ!!!どうなってるの、何が起こっているの、教えてぇぇ!!!」ガンッ、ガンッ


必死に鉄の扉を叩く。もちろん、返事なんてない。
手がすりむけて血が出ても、私は叫ぶのを止めなかった。


舞園  「教えてよ……」ズルズル

その場にへたりこむ私の耳に、『カチッ』と冷たい音が響く。
反射的に顔を上げる。モノクマの仮面をかぶった男の人が、機関銃を私の頭に向けていた。


舞園  「嫌ッ!!!」ゴンッ

男   「ぐっ……あ、このッ…!」


体のどこにそんな力があったのか、機関銃を手でおさえて、男の人の股間を蹴り上げる。
男の人がひるんでいる隙に、私は急いでその場から逃げ出した。


_____________


舞園  「はあ、はあっ、はあ……!」


一体、どうなってるの……?
目に映るのは、瓦礫が広がる地面と、崩れかけた廃墟だけ。時々……甲高いサイレンが鳴り響く。


舞園  「いたっ!!」ドサッ


何かに足をとられて転ぶ。


舞園  「ひっ……!」


最初に見えたのは、潰れた頭。カッと見開かれた両目。苦悶に歪んだ表情。
そういえば、外に出てからまともな人間に会っていない気がする……。
モノクマの仮面をかぶった、凶暴な人か……物言わぬ死体か。


舞園  「もういや……こんな所いたくない……!」ズルッ


なんとか立ち上がって、また歩き出す。
そうだ……事務所に行けば、メンバーがどうなったか分かるかもしれない。
電車は動いていないから、線路にそってひたすら歩く。


そのうち、喉が渇いた。蛇口をひねっても、当たり前だけど水は出ない。


舞園  「うっ……うええっ、ん、ぐぅっ…」ゴクゴク


四つんばいになって、水たまりに顔を突っこむ。口の中の砂だけをペッペッと吐き出して
水面に映る自分の顔を見ると、あまりの惨めさに泣きたくなった。
髪の毛の先から落ちた雫が、水面に円を作る。


舞園  「……えっ?」


一瞬。
本当に一瞬だけ、私の背後に誰かが映った。

バッと振り返る。 ……誰もいない。


舞園  「今のって……」

気のせい?
ううん、あの赤い髪。白いジャケット……見間違えるはずなんかない。だけど。


舞園  「……今は、早く事務所に行かなくちゃ」


立ち上がって、制服の袖で口元をぬぐう。
だけど、私の歩みは次なる敵に阻まれた。


舞園  「…………」ぐうう~


誰も聞いてなくてよかった。アイドルがお腹を鳴らすなんて、みっともなすぎます。
とりあえず、ポケットの中にあったキャンディーを舐めて我慢しましょう。

すうっ…


舞園  「!?」


さっき見えたのは、やっぱり彼だった。私の前方、倒れかけた電柱の影に揺らぐ影。

超高校級の野球選手……桑田怜恩。私が殺した人が、両手で顔を覆っている。


舞園  「……どうでもいいですけど」


無視して歩きだすと、桑田くんの姿はふっ…と陽炎のように消え去った。

……暑い。日差しが照りつける時間帯になると、頭から背中がじりじりと熱をもってくる。
それでも立ち止まるわけには行かない。モノクマの仮面をかぶった人たちが襲いかかって
くるのを走って逃げる。銃声と悲鳴が、棒みたいになった足を前へ進める。


舞園  「事務所に着いたら、まずは……まずは、みんなでお茶でも飲んで……」


視界の端で血しぶきが上がる。モノクマの仮面をかぶった学生服の集団が、よってたかって
何かに鉄パイプを振り下ろしていた。私は顔を背けて、できる限り早く彼らの前を横切る。


舞園  「それから、それから……やっぱり、リハーサルがしたいですね。一曲でもいいから、
     みんなでダンス合わせて……アカペラかな?」

やがて、電柱の表示が事務所のある街に変わった。
そういえば、ダンスやボーカルのレッスンで通いつめたスタジオも同じ街にありましたっけ……

レッスン帰りにこっそり通ったクレープ屋も、雑貨屋も、爆撃を受けたみたいになっている。

目印にしていた赤いレンガ造り風のビルを曲がると――


舞園  「……よかった、あった……」ハァハァ

事務所の入っているビルは、きちんとそこに建っていた。
割れたガラスが散乱した階段を上って、モノクマの顔がスプレーで落書きされた扉を開く。

舞園  「やっぱり、誰もいない……ああ。でも、こんな状況で逃げてない方がおかしいですよね……」

中は滅茶苦茶に荒らされていた。
社長が座っていた黒い革のソファも、観葉植物も倒れている。ガラスケースの本棚も割られて、
中にあったファイルケースや書類が散乱していた。


桑田  『……………』

舞園  「そこはお客さん用のソファですよ、桑田くん」

いつの間にかまた、桑田くんがいた。
ソファに深く腰かけて、目元をしきりにぬぐっている。
幽霊なんて見るのは初めてだけど、3回目ともなれば慣れてきた。


舞園  「もしかして、泣いてるんですか?……桑田くんには、悲しむ権利がありますもんね。
     気になってる女の子に呼び出されて、わけも分からないまま殺されて。
     私が一番傷つけた相手かもしれませんね」

桑田  『……………』

舞園  「どうして何も言わないんですか?短気なあなたのことですから、私に恨み言の一つも
     言うと思っていたのに」

桑田  『……………』

下を向いたまま、桑田くんは片手を上げた。私が立っている扉から、斜め右にある部屋。
桑田くんはそこをまっすぐに指さしている。


舞園  「……そこに、何かあるんですか?」


私が聞くと、桑田くんはこっくりとうなずいた。
幽霊に従うのもおかしいけど、とりあえず右の部屋に行ってみる。


舞園  「なんでしょう、あれ?」


床に、黒いファイルが落ちていた。拾ってみると、希望ヶ峰学園の校章が入っている。
ホコリがついていない…ということは、最近置かれたもの?


舞園  「ねえ桑田くん、何か知りませ……」


振り返ると、彼はもう消えていた。……幽霊になっても、マイペースな人ですね。
わざわざここに置いたということは、私が来ることなんてお見通しってわけですか。


……なんでしょう。とても嫌な予感がします。
この分厚いファイルを読んでしまったら、後戻りできないような……


舞園  「……でも、読むしかないですよね。たった一つの手がかりですから」


私は何度も深呼吸して、ファイルを開いた。


______________


気がつくと、私は床にうずくまって号泣していた。
口からは獣みたいな声が漏れて、天井に反響する。

ひっく、ひっくと横隔膜が震えて、涙とか鼻水とかで顔はぐしゃぐしゃで。
目の前に散らばった写真や書類がぼやけて見えた。


舞園  「どうして……どうして、忘れられていられたの……」


――ごめんなさい。



舞園  「ねえ、どうしてよ!!!どうして、私たち……殺しあわなきゃいけなかったの!!!?
     なんで、なんで、なんで!!!」ガンッ、ガンッ


ごめんなさい、みんな……ごめんなさい……



床を殴りつける拳の皮がめくれて、血がにじむ。
何度も何度も何度も何度も何度も殴って、手に力が入らなくなって……


舞園  「うっ、うう……ううううううっ……!!」


追いつめられて、騙されて。この手が掴んだのは希望なんかじゃない。
ただの、孤独だ。


舞園  「私、もうアイドルじゃないんだ……普通の女の子にも戻れないんだ……
     ただの人殺し?最低な人間。いいえ、人間以下の……」フラッ


アイドルとしての虚像も、舞園さやかとしての芯もなくして、今の私はただの抜け殻。


舞園  「誰か……誰か…………」ヨロヨロ


舞園  「誰か………私は悪くないって、言ってください……私、間違ってませんよね?
     だって、それがルールだったじゃないですか!!
     あんなにがんばって、学級裁判だって勝ったのに!!」ヘナッ


舞園  「なんで……こんな苦しみを知らなきゃいけないんですか!!!」


割れた天井から空を仰いで叫んでも、答える声はなかった。


__________

今日はここまで。


舞園  「あれから、何日経ったのでしょうか……。
     たぶん、それほど長い時間は経っていないと思います……」カリカリ


ミニナイフで床に数字を刻むと、私は窓に近づいてつぶやき始める。


舞園  「えー、今……わたし、舞園さやかはぁ……渋谷109の7階にいまあす……あ、スクランブル交差点が
     見えてきましたよー。すっごいたくさん人がいますねー!今日もモノクマ仮面の人たちは元気です!
     おっ?交差点にぃ…バイクが、入ってきましたー…改造バイクみたいですねー」

舞園  「あははは、すごいですよー。バイクがモノクマ仮面の人たちを、いち、にい、さん……
     5人も殺しちゃいました!新記録ですねー。あ、向こうではマシンガンを乱射してる人がいますよ。
     金属バットの人もいます。じゃあそろそろ、本日のスペシャルゲストに来ていただきましょう!」

舞園  「えー、私のクラスメイトでもある……桑田怜恩くんでーす。
     毎日毎日、ありがとうございまーす……」


独りでぱちぱち、と乾いた拍手をする。壁にもたれかかって座る桑田くんは、今日もしくしく泣いていた。


舞園  「ふふ、桑田くんも私がおかしくなっちゃったって思ってるんですか?……思ってるんですよね。
     違うんですよ。私は頭が変にならないようにこうやって喋ってるんです。  
     だって、見てくださいよ!どこもかしこも瓦礫と死体ばっかりで。
     生きて動いてる人たちはみーんな恐い人ばっかりで。
     あんな人たちとまともな話なんてできると思いますか?さすがにのんきな桑田くんでも
     無理だって分かってくれますよね?」

桑田  『…………』

舞園  「ほら、"卒業"から今日でちょうど3ヶ月経ったんですよ」


床の数字を指さすと、桑田くんは涙で濡れた顔を動かして、ちょっとそこを見る。


舞園  「この3ヶ月、桑田くんとしかお話してませんね。まあ、独り言なんですけど。
     声を出さないでいると、なんだか自分が自分でなくなっちゃう気がするから……
     ただ、それだけの理由なんです」

舞園  「そういえば……ずっとついてくるつもりなんですか?それならいつか、    
     声を聞かせてくださいね。いつもだんまりじゃ私、さみしすぎて死んじゃうかもしれませんよ」

そう。桑田くんはいつも泣いているだけ。
何か伝えようと口を動かすこともあるけど、いつも聞こえない。


舞園  「そういえば桑田くん、私のこと好きでしたよね。……でも、私たちは価値観が違いすぎますから。
     付き合ってあげてもよかったけど、きっとどちらかが我慢することになってたと
     思いますよ。だからあの距離感がちょうどよかったんです。あれでよかったんです」

桑田  『……………』

舞園  「そういえば、桑田くんが泣いている顔を見るのは初めてですね。
     笑ってる顔、怒ってる顔、無関心な顔……あの二年間で私が見たのは、これだけでした」

桑田  『……………?』

舞園  「だって桑田くんは、泣きたくなったらいつもどこかに行ってしまうから。
     かっこつけたがりな人だから。桑田くんの泣き顔なんて、いつか探しに行った苗木くんが見たっきり。
     正直に言うと、羨ましいなあって思いましたよ、苗木くんのこと。
     だから私、あなたに言ったんです」


舞園  「泣いてる顔や、照れてる顔。恥ずかしがってる顔や嬉しそうな顔も見たいけど……
     
     やっぱり、


     "死んだ瞬間の顔が見たいです"って」


そう言うと、桑田くんはびくっと体をこわばらせた。
別に恐い意味じゃないのに。


舞園  「大神さんは"なんと恐ろしい事を"って怒って……朝日奈さんも苗木くんも、みんな
     びっくりしてましたけど……本当に思ったんです。桑田くんの死に顔を見られたら。
     死ぬ瞬間まで一緒にいられる、そんな関係でいられたら……幸せだなあって」

舞園  「あれ?……あれあれ?これって、やっぱり私も桑田くんを好きってことなんですか?」

桑田  『?』

舞園  「ふふふふふっ……よかったですね。私たち両想いだったみたいですよ」ぐう~


賞味期限切れの菓子パンを取り出して、一口かじる。
食べているうちに、桑田くんはまたすうっ…と消えてしまった。


舞園  「困りましたね、水がなくなっちゃいました」

まだ世界が正常なころだったら、ミネラルウォーターを買うんですけど、
あいにく今は常識が通じないのです。
汚くない水が欲しければ、誰かから奪うしかありません。


立ち上がって、武器代わりにしている鉄パイプを取る。
階段を下りて、一階のエスカレーター横に身を潜めた。
片膝をついて待つ私の耳に、人の足音。


舞園  「えいっ」


グシャッといい音がして、モノクマ男さんの膝が砕けた。

ゴッ、ドゴッ、バキッ。

倒れたモノクマ男さんの頭めがけて、鉄パイプを振り下ろす。最初は嫌だったけど、
もうひとり……いえ、14人を殺した私に恐いものなんてありません。

舞園  「はあ、はあっ……はあ……あ、よかった。やっぱり持ってましたね……」

動かなくなったモノクマ男さんのホルスターを探ると、半分以上残っているペットボトル。

舞園  「これで2日はもちますね……じゃあ、そろそろ…っ、!?」ガンッ


立ち上がろうとした頭に、衝撃。
殴られた、と気づくのには時間がかかった。床に倒れこんだ私を、何人かの男の人が取り囲む。

男A  「あ、こいつあれじゃね?ちょっと前にあったさあ、コロシアイの生き残り」

男B  「どれどれ……あー、やっぱそうだわ。アイドルの…なんつったっけ」

舞園  「つうっ……!」グイッ

髪の毛をつかまれて、顔を上げられる。毛根がミシミシきしんで痛い。


男B  「まあいいや。どうせ名前聞いても意味ねーし」ケラケラ

男C  「おい、こいつ水持ってんぞ!全部いただいちまおーぜ!」ギャハハハ

男A  「ま、運が悪かったってことで。わりーなほんと」


………

……………あれ?


舞園  「ええと、たしか私、水を探しに行って……そのあと、何があったんでしたっけ?」


ぼんやりした視界が、少しずつクリアになって行く。
頭がぐらぐらする。お腹が痛い。お腹のあたりに、何かが突き刺さっている。
あれ、私の鉄パイプですか。あんな丸っこいものでも、刺さると痛いんですね。初めて知りました。


舞園  「……あ、水……取られちゃいました……てっきり、乱暴されると思ったのに……ふふ、
     こーんな、かわいい…アイドルの体より、水のほうが大事、なんですか……
     ほんと、世も……末、ですね……」ゴフッ

私は、鉄パイプで床に縫いつけられていた。指先はもう冷たくなって、ぴくりとも動かない。
太もものあたりがずっしりと重い。

舞園  「……あれっ?」


黒い点がちらつく視界に、見覚えのあるスニーカーが映る。
視線を少しずつ上げていくと、こげ茶色のパーカーにぴょこん、とアホ毛の立った男の子が見えた。

舞園  「なえ、ぎ…くん……?」

苗木  「久しぶりだね。舞園さん」にこっ

苗木  「舞園さんは生きるべきだ。たとえ人間として許されない道を選んだとしても……それが、
     超高校級のアイドルとして希望を勝ち取った舞園さんの償いだと、僕は思うよ」

私を見下ろして、苗木くんが言う。
その頭は半分潰れて脳が見えていた。
苗木くんは、折れて変な方向に曲がった手を私の方へ差し伸べて「生きよう、舞園さん」と力強く言った。


大和田 「ああ?テメー何甘っちょろい事抜かしてんだぁ?」


低い、ドスのきいた声。
私は重い頭をどうにか動かして、そちらを向く。

大和田 「オレたちゃこの女のおかげで苦しみぬいて死んだんだぞ。
     のたうち回っても血ヘド吐いても終わらねー処刑を受けてなぁ!!!憎んでも憎み足りねえ、
     一秒たりとも生かしちゃおけねえ、そう思っちゃいけねーってのかぁ!!?」ボキッ、ゴキッ

石丸  「僕は苗木くんの意見に賛成だ!!舞園くんはたしかに人非人だが、そんな彼女にも
     償いの機会が与えられるべきだろう!!!なぜなら獣にも生きる権利はあるからだ!!
     そんな獣以下の畜生にも出来る償いがあるかどうかは、はなはだ疑問だが!!!」ハッハッハ


大和田くんは指を鳴らして、私を睨みつける……のだろうけど、
なぜか目の前のひび割れた床には、バターが一つあるだけで、声と音だけが聞こえてくる。
胸を真っ赤な血で染めた石丸くんは、両手を広げて陽気に笑っていた。


腐川  「ば、売女で人殺しなんて……そんなの、生きる価値ないじゃない……早く死になさいよ、
     私たちが受けた苦痛と同じだけの絶望を味わって、さっさとこの世からおさらばしなさいよ、
     舞園だってそれを望んでるはずよ!!!だからこんな茶番劇をしてるんでしょ!!?」

風に吹かれてぺらんっとなった腐川さんが叫ぶ。

舞園  「やめて……もう、やめて……」

セレス 「うふふふ、お久しぶりですわね舞園さん……こんな見苦しい姿をお見せすることになって、
     残念極まりないですけど、これがあなたの罪の姿ですわよ……
     何ボサッとしてんだよクソビッチが!!![ピーーー]、[ピーーー]、[ピーーー]!!!
     とっとと[ピーーー]ぇぇぇぇ!!!!今すぐその鉄パイプで頭かち割って死にやがれぇぇぇ!!!」

舞園  「お願いだからもうやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


身をよじって、[ピーーー]、[ピーーー]!!!とがなるセレスさんの声をかき消すように叫ぶ。
私はいつの間にか、あの裁判場にいた。重苦しい地下の空気を、亡霊たちの罵声がふるわせる。


朝日奈 「そうだよ、モノクマが出してきたおしおきスイッチを押したのは舞園ちゃんじゃない!!
     桑田一人じゃ飽き足りないってわけ!?最低だよ……私、舞園ちゃんとは仲良くなれそうって
     思ってたのに!!!ちょっとでも悪いって思ってんなら、死んじゃいなよ!!!」

大神  「舞園よ……お主の罪は、どうしても償うことは出来ぬ。あの学級裁判の間はたしかに、
     クロであったお主の命一つが我らの命より重かった。しかし外へ出た今は、我らの屍の上に立つ
     己の穢れに怯えるばかり……そんな臆病者の償いに、一体どれほどの価値があると言う?」

葉隠  「んー、俺は苗木っちに賛成するべ。生きてなきゃ舞園っちは悔い改めることも
     できねーんだぞ?それに、今生きてることのほうが、舞園っちにとっちゃ何倍も辛いはずだべ。
     舞園っちが[ピーーー]ばたしかに俺らはスッキリするけどな、それじゃ俺らが死んだのも
     なーんの意味もねえってことになっちまうべ。俺はそっちの方が辛れーけどな」


……ああ、これは。


不二咲 「うっ…う、ううっ……どうしてみんな、舞園さんにひどいこと言うのぉ……?
     こんな可哀想な目にあったんだよ、もう十分だよぉ……許してあげようよ……」グスグス

山田  「舞園さやか殿……僕としましても、その…許してさしあげたいのは山々なのですが……
     何もそれをネタに"エロ同人みたいに!エロry"的な展開には
     いたしませんが……目には目を、歯には歯をという言葉がありましてな……」タラー

江ノ島 「だあってろキモヲタ!!つーかさあ、あたしが槍でブッ刺されたのって、こいつのせいじゃね?
     そうだよ、こいつが人殺しなんてしなきゃ、あたしが死ぬこともなかったじゃん!!!
     チョー最悪!!あたしだってやりたい事いっぱいあったんだよ!!?あんたのせいで、あんたのせいで
     全部台無しになってんだよ!!!さっさと[ピーーー]よ舞園さやかぁぁぁ!!!」

学級裁判だ。
私はずっと……あの地獄にいたんだ……。


霧切  「もう、終わりにしましょう……彼女の中で答えが出ているのは明白じゃない?」


永遠に続きそうな罵声に、終止符を打ったのは霧切さんだった。
今から思えば、十神くんと霧切さんは私が犯人だって解っていた。
だけど、二人ともみんなの心を動かすほどの信用はなくて……結局、スロットに並んだのは
苗木くんの顔だった。


十神  「舞園……俺たちは、お前の罪の意識から生まれた幻なんだ。罵ってほしい、許さないでほしいと
     願っているのもお前だ。この学級裁判で答えを出すのはお前自身しかいない。
     さあ、どうする?舞園さやか。お前の罪はどんな幕引きがふさわしいと思う?」

眼鏡ごしの目を静かに細めて、十神くんは私の答えを待っている。


舞園  「わ、私は………」カフッ


舞園  「わたしは………」ポロッ




           「さっきから聞いてりゃ、オレを無視ってギャーギャーと……
            幻覚の分際で、マキシマムうぜーんだよテメーらは!!!」


聞き覚えのある声が、響き渡った瞬間。
裁判場の天井が、パキッと割れた。空間にひびが入って、少しずつ大きくなる。

バキバキ、ミシミシときしむ裁判場の一点。赤いバツ印のついた遺影が、現れたその人によって蹴倒された。


桑田  「……ったくよお、走馬灯ならもっとマシなもん見とけっつーの」

舞園  「……え、くわ、た…くん……?」


桑田くんは証言台の柵をぴょんっと跳びこえて、私のすぐ横にしゃがみこんだ。
鉄パイプに手をかけて、ぐっ…と力をこめる。

舞園  「くっ、いった……!」

桑田  「我慢しろよ、あともうちょいっ……!」ずるりっ

幻の裁判場が、崩壊していく。口々に私を罵っていた仲間たちが、煙のように消えていった。


舞園  「なんで……なんで、話せてるんですか……?」

桑田  「ひっでえな、オレの声を聞いてなかったのは舞園ちゃんの方じゃねーかよ」

鉄パイプを投げ捨てた桑田くんは、「起きれっか?」と首をかしげる。


舞園  「もしか、して……桑田くんは、ずっと……私のために、泣いてくれていたん、ですか……?」

桑田  「……」

舞園  「だって……私が、憎いんだ…った、ら……みん、なみたいに……罵っても、いいのに……今、だって……助けて、くれて……」

桑田  「……」

舞園  「……もう、いいんです。死ぬことより、ずっと……置いていかれるほうが、恐い、から……」

桑田  「マジでいーのかよ。あとちょっと踏んばってりゃ助けが来るぜ。命あってのなんとやらじゃねーの?
     オレを殺してった覚悟はその程度か?」

舞園  「お願い、わた、し……も、連れて、いって……みんなの、ところ……に、」ずるっ

桑田  「はあ……マジで自己チューな女だな。そんなに皆といたかったんなら、大人しくしてりゃ
     よかったろーがよ。……つーか、オレが連れてけるのは、天国とか……そういうとこじゃねーし。
     そこに確実に苗木たちがいるって保証もねーんだけど」

舞園  「どこでも、いいんです……桑田くんが、いたら……どこでも……」

桑田  「……生きてる間に聞きたかったなー、その台詞」


差し出された手を、私は迷わず握りしめた。


視界が、真っ白になった。

_______________


職員A 「幸せそうな顔で死んでますね、彼女」

職員B 「……あー、しっかし…やり切れねえなあ……コロシアイ学園生活の生き残りを発見、
    至急保護せよっつーから来たのによ、まさか目の前で死なれちまうなんて」ガシャガシャ

職員A 「未来機関に保護されていたら、もっと違う未来があったんでしょうか」

職員B 「さあな。……じゃ、さっさと死体を回収して本部に戻るぞ」




ED1:深い眠りが覚めたら

ひとまずこれがBADです。

が、ここで舞園さんを前に進めるのがコンマの力。
コンマ直下で判断。

偶数の場合は、GOOD ENDへの道が開かれます。
奇数なら、舞園以降のクロが脱出したIFになります。

コンマ直下↓

舞園さんセーフ。コンマの神様は彼女を見放していなかったようです。
明日はGOOD ENDにいきます。
次からはもうちょっとコンマの難易度下げましょうか。


おまけで学級裁判(舞園さんVer)の投票後。


モノクマ 「うぷぷぷぷ……そうです、今回のクロは苗木くんではありません!!!
      "超高校級の野球選手"桑田怜恩くんを殺したのは……
      ななな、なんと!!"超高校級のアイドル"舞園さやかさんでしたー!!!」


残酷な、宣告。
スロットに並んだ苗木くんの顔に『ブッブー!!』とクイズ番組の不正解みたいな音がかかる。
最後まで学級裁判の流れを変えようと頑張っていた霧切さんが、あきらめたように目を伏せた。


朝日奈  「う……嘘でしょ?舞園ちゃんが……じゃあ、あの時包丁を持ち出したのはホントに」

舞園   「ごめんなさい…苗木くんに脅されたなんて嘘です。
      部屋を交換してもらったのも、ネームプレートを入れ替えたのも私なんです」

十神   「では、シャワールームに残っていた希望ヶ峰リングも……」

舞園   「苗木くんがガチャガチャでゲットしていたのを、十神くんが見ていたって聞いたから……
      証拠品にするために、苗木くんから貰ったのをあえてシャワールームに落としたんです。……ふふ、
      一番不安だった十神くんが見事に騙されてくれて、ほっとしました。

      血のついた包丁を苗木くんの部屋の引き出しに入れて。
      返り血のついた服は裁縫セットの裁ちばさみで細かく切って、トイレに流した。
      
      ああ、私の髪の毛が落ちていなかった理由がまだでしたね。簡単です」


私は自分の髪の毛に手をかけて、ずるっ…と下へ落とす。ウィッグネットを外して
ベリーショートに切った髪を見せると、山田くんが「アイドルの必需品ですか!!」と崩れ落ちた。

      
舞園   「……他に聞きたいことはありますか?」

苗木   「……」

苗木   「一つだけ、いいかな」

舞園   「はい。どうぞ」

苗木   「後悔はしていないの?……この結果に」

舞園   「後悔なんて、するわけないじゃないですか。私はルールに則って、自分の力で天国行きの
      チケットを勝ち取ったんですよ。それの何が、いけないんですか?」ニコッ

苗木   「舞園さん……」

苗木くんは目を伏せて、「僕のこと、信じてくれたのは……嘘だったの?」と聞いた。

舞園   「……分かりません。だけど、苗木くんのこと、嫌いではありませんでしたよ。
      きっと、普通に出会えていたら……」

苗木   「そっか。うん……そう、だよね……きっと、普通に、仲良くなれていたら……」ぽろっ

苗木   「終わりのない、明日をっ…信じ、られる……そんな、毎日をっ…過ごせて、いたのかなあ……!」ぽろぽろ


書いていて心が痛んできた。


おまけその2・舞園さんMTB(マシンガントークバトル)ぽいもの


「そんなの嘘です!!」  「部屋の交換なんか、していません……」  「全部苗木くんの指示なんです!!」

「苗木くんがやれって言ったから!!!」 「桑田くんを刺すなんて、そんな恐いことするわけないじゃないですか!!」

「うるさい!!バカバカバカバカバカーッ!!!」 「どうして信じてくれないんですか!!?」

           
           「だいたい、返り血がついた服はどうやって始末したっていうんですか!!!」
          


>>ハサミの接合部についていた血液

「これで証明するよ!!!」   


COMPLEATE!!


_____________

ごめん。正直MTBうろ覚えだった。
今日はここまで。


舞園  「どこでも、いいんです……桑田くんが、いたら……どこでも……」


そう云うと、桑田くんは一瞬だけ、パアッと嬉しそうな顔になって。
すぐにまた元の表情に戻った。


桑田  「……わりーけど、一緒には行けねー」

舞園  「どう、して」

桑田  「オレさ、舞園ちゃんから見たらすっげーワガママで自己チューな奴に見えてたかも 
     しんねーけどさ。オレって、あんまし楽な人生じゃなかったんだよな」

結局、野球もやめさせてもらえなかったし。
それ以外の『なにか』も見つけらんなかったし。
とどめは一生シェルター暮らし。オレがたった一つ自慢できる才能まで食いつぶせってんだぜ。

――オレの人生、なんだったんだよ。

そう問われて、私は何も言えなかった。


桑田  「希望ヶ峰に入ったばっかの頃もさ。おんなじ発言で舞園ちゃんキレさして。
     んだよこの女、沸点低すぎんだろって思った。第一印象はお互い最悪」

肩をすくめた桑田くんは、「アイドルのくせに煽り耐性ねーのな、お前」と付け加える。

舞園  「……そんな……こと、ありました?」ぽかん

桑田  「ハァ!?あんな分かりやすくブーたれといて忘れてっとか、オメーの脳みそって
     マジで絶望的な容量してんのな!!」

きっと、私にとっては大したことじゃなかった。
彼の方はしばらく気に病んでも、私はその場で怒りをあらわせば終わってしまえるほどの。

桑田  「まあ、せめて自分の気持ちぐらいは、自由でもいいだろって思ってたんだよ。
     どーせ野球以外に何も見つかんねーだろってのは分かってたし。
     んな矛盾のカタマリみてーなオレに比べて、舞園ちゃんは
     好き、嫌いってのがはっきりあってさ。キラキラして見えてさ。うらやましかった」

桑田  「舞園さやかは、オレの憧れなんだよ」


その一言で、私は何もかも察した。
いつの間にか、周りはきれいなお花畑になっている。遠くで、見覚えのある影たちが揺れていた。


舞園  「いやです……連れて行って、私も……」ぽろっ

桑田  「見せてくれよ。本当に自由な人生ってやつをさ。生きてりゃどーにかなんだろ?」

舞園  「無理、ですってば……独りで、どうやって…生きて、いけば……」ぽろぽろ

桑田  「……あーっ、くそっ!!んじゃ、ハッキリ言えばいーのかよ!?オレをブッ殺しといて、
     楽に[ピーーー]ると思ってんじゃねーぞ!!オメーはまだこの世界でたっぷり絶望して、
     死にたい、でも生きてたいって葛藤しまくってりゃいーんだよ!!!

桑田  「オレのうさ晴らしのために絶望しろ!!オレの未練のために絶望しろ!!辛れー現実に絶望しろ!!」

桑田  「でなきゃマジでオレの人生なんだって話になんだろーが!!そんくらい理解しろよアホ!!!」

言いたいことを言い切って、ハアハアと荒い呼吸をする桑田くんを、
私はただぽかんと眺めていた。


舞園  「……ぷっ、あははははっ!あ、アホって…よりによって最後がアホって!……あははは!!」

うっかり吹き出した。傷口がジンジン痛んで辛いけど、笑いはおさまってくれない。

桑田  「……んだよ、何がおかしーんだよ」むっすー

舞園  「……ほんと、何にでも素直じゃなくて、ひねくれててっ……ふふふっ、
     死んでも、変わらないんですね……桑田くんは。そういうところ、可愛いですよ」

桑田  「なっ……おま、そういうヨユーなとこがムカつくんだよ!!いっつもさあ、オレばっか
     アホみてーじゃん!!最後くらい締めさせろっての!!」カァーッ

舞園  「あ、赤くなった。照れてるんですか?」

桑田  「う、うっせ!!うっせーっての!!テレビもゲームもなくて、飯もロクに食えなくて、布団でも
     寝れねー、家もねー、んな大変な、何の楽しみもねー世界で長生きすればいーんだよオメーなんか!!!
     ババアになるまで苦労しちまえアホ!!!」

舞園  「アホって言うほうがアホなんですよー。いたた……」

桑田  「んな小学生みてーな返ししてんじゃねーよ!!どうせオレは悪口もバリエーションねーし!!」

舞園  「素直じゃないエールをありがとうございます。……大往生目指してがんばりますね?」

桑田  「あーあーせいぜいがんばってろ、しばらくこっち来んじゃねーぞ!!
     オメーの顔なんて一世紀は見たくねーかんな!!!
     苗木は凹むだろうけどよ、そんなあいつを散々いじって遊んでやる!!」

お花畑の方に走って行った桑田くんは、くるっと振り返って叫ぶ。

桑田  「舞園さやかのアホー!!大っ嫌いだ、オメーなんか!!」

舞園  「私は大好きですよー!!」

桑田  「!?……うう、くそっ!」

と、桑田くんは首元のネックレスを引きちぎった。足を高く上げたきれいなフォーム。投げられた
それは、きれいな放物線を描いて私の手に落ちてくる。

舞園  「!?」ぱしんっ

桑田  「それ見るたびにオレを思い出して、罪悪感で死にたくなりゃいーんだよオメーなんか!!
     オメー、なんかっ……」ぽろぽろ

ざあっと風が吹いて、舞い上がった花びらが桑田くんの姿をかき消す。

そして、視界が真っ白になった。


______________


ピー…  ピー…


規則正しい音が耳元で聞こえる。やわらかい感触。すこし肌寒い。
重たいまぶたを開いて、状況確認。腕に、針が刺さっていて、その先に点滴が見えた。

「ようやくお目覚めか?」


知らない声。目だけを動かしてみると、白衣を着た男の人。お医者さんでしょうか。


医師  「ここは未来機関の第××支部で、俺はそこの医者だ。おっと、動くなよ。
     まだ腹の傷が縫い合わさったばかりだからな」

舞園  「私……助かった、んです……か……?」

医師  「そうだ。安心しろ、未来機関が責任を持ってお前を保護する。この支部にいれば
     何の心配もない」

舞園  「外には……」

医師  「お前みたいにひ弱な女が、3ヶ月も無傷で生き延びたのが奇跡なんだよ。何かの力が働いてるとしか
     思えないレベルのな。はっきり言うが、ここから一歩でも出ればもう身の安全は保証しない。
     あの中継で、お前の顔と個人的なデータは全日本に知れ渡った。
     もうまともな生活が送れるとは思わないほうがいいぞ」

舞園  「……」

覚悟はしていたけれど、言葉にされるとずっしりと重みを持ってくる。
私の罪が、日本中に……ううん、お医者さんは言葉を選んだけど、世界中が知っているなんて。


医師  「そういえば、右手は大丈夫か?」

聞かれて、私はやっと自分の右手が拳を作っていることに気づいた。

医師  「お前を回収した奴らが、いくら力をこめても解けないもんだから諦めちまってな。 
     そのまま手術した。まったく、力自慢の即応班が情けないもんだ」フーッ

舞園  「……もしかして」

そっと開いた手には、チェーンのついた南京錠があった。

舞園  「!!」

医師  「そうだ、腹が減ってるだろ。今食事を持ってきてやるから、ちょっと寝てろ」

ぱたん、と扉が閉まる。耳鳴りがする……同時に、体の奥底から何かの力が湧いてきた。


舞園  「……このまま、ここにいて……いいんでしょうか……
     私は、まだ……外でやるべきことが、あるのではないでしょうか?」

自分自身に問いかけてみる。答えは……『イエス』だ。

……私の右手にはまだ、希望が握られている。


舞園  「だったら、やることは一つ……ですよね!」

はねるように起き上がって、点滴の針を外す。ぶつっとちぎれるような音がして、
わずかな血が飛び散った。窓の鍵を外して、半開きになったところから迷わず飛び下りる。


「患者が逃げたぞ!」「なんだと、見張りはどうした!」「動けないと思ったもので……」「早く追え!」

芝生に着地した私を、いくつかの声が追いかけてくる。だけど、立ち止まるわけには行かない。


走りながら、チェーンを首に引っかけた。裸足の裏が小石でこすれて、縫われたばかりの傷が鈍く痛んで。

――その痛みが、私に生きていることを教えてくれる!!
  まだ立ち止まるなと、行き先を示してくれる!!


舞園  「――っ、ら、ああああっ!!」


呆然としている警備員を半ば突き飛ばして、ゲートをくぐる。
その瞬間仰ぎ見た空は、びっくりするほど青かった。


_____________


舞園  「……さて、と」カチャンッ

ひび割れた鏡に映った私は、前とはだいぶ違って見えた。

腰まであった長い髪は男の子みたいに切られて、すり切れたジーンズに汚いTシャツ。

これが、今ここにいる私。この絶望の世界を生きていく、舞園さやかだ。


舞園  「さて、今日はどこに行きましょうか……」

その時、遠くで「タタタッ」と断続的な銃声が聞こえた。

舞園  「っ、!」バッ

窓の下を、モノクマの仮面をかぶった男が闊歩していた。
逃げていく子供の足元に弾丸を放って、子供たちが泣き叫ぶのを笑っている。


舞園  「…………助けよう」ギュッ


壁に立てかけておいた金属バットを取ると、しっかりグリップを握りしめる。
呼吸を止めて、いち、にい、さん。
男が再び引き金に指をかけた瞬間、私の体は宙を舞っていた。

そのまま振りかぶったバットを、


舞園  「――っ、!!」

男の、脳天に。


男   「ぐあっ!?」ドテッ

舞園  「あっ、だ、大丈夫ですか!?」あせあせ

倒れた男の背中に乗っかって、モノクマ仮面を脱がせる。
男は「大丈夫なわけねーだろうが!!」と逆ギレしてきた。……むかっ。

舞園  「……ちょっと、寝ててください」ゴチンッ

バットのグリップでうなじを突いて気絶させると、おびえ切って縮こまっていた子供たちが
やっと安心したように肩の力を抜いていた。


舞園  「向こうの大橋が見えますか?あそこを渡ったら築地です。
     未来機関の人が橋の出口にいますから、もう大丈夫ですよ」なでなで

まごまごしている子供たちを、橋の入口まで連れて行ってあげる。

舞園  「じゃあ、私は行きますからね」

本当はすごく心配だし、ついて行きたいけど。
自分たちの力で生きていく覚悟がなかったら、こんな世界では生きられませんから。
ここでお別れです。


「あ、あの!」

背中を向けて歩きだした私を、一番年かさの子が呼び止めた。

「なまえ……おねえさんの名前、おしえて!」

「どうしてですか?」

「助けてもらったこと、覚えておきたいから!」

「私は、舞園さやかといいます」にこっ

短く名乗って、今度こそ歩き出す。背中ごしに「さやかさん、ありがとー!」とかわいい声がした。


舞園  「……これが、私なりの償いです」

舞園  「だからいつか、報いてもいいと思ってくれたら……」

舞園  「その時こそ、私を連れてってくださいね。桑田くん」


胸元の南京錠が、太陽の光を浴びてきらっと輝いた。



ED2:REBIRTH DAY

舞園さん、GOOD ENDです。
基本、BADは死(例外もあり)になります。

最初は舞園だけ書く予定だったけど、
スレタイ的にはクロ全員分で書くほうがいいかな?

おk
とりあえず桑田からちまちま
書いてくわ。

下手だけどEDカードっぽいもの。

http://ux.getuploader.com/sssokuhouvip/download/129/%E7%94%BB%E5%83%8F+011.jpg

しくじった。くそ恥ずいからもう一回。

http://ux.getuploader.com/sssokuhouvip/download/130/%E7%94%BB%E5%83%8F+011.jpg

______________



桑田  「………………」

桑田  「………あ、……終わった……?」

桑田  「ははっ…ち、ちげーんだよ……オレはさ、あ。服ぐちゃぐちゃ……血、洗わなきゃ。
     なんだっけ、ちがうんだってば。ごめんなさいって、そうじゃなくて、オレは、ちがう」

桑田  「だって、舞園ちゃんがさ。いきなりさ、ちげーって。どうせオレは、ちがうっての。ごめん。
     襲ったって、あ、着替えねーと。嘘つかれて。ねみーな、ちがう。あと、部屋も、掃除して。
     殺すつもりなんか、なくて、ごめんなさい、だって」

桑田  「だって、お前だけじゃねーんだよ、オレだって、帰らなきゃいけなくて、
     カントクと、チームメイトが、待っててっ、オレが投げなきゃ、誰が」

桑田  「だからッ……!!殺されるわけには、いかなかったんだよぉ!!!」

桑田  「………だ、から……オレは、……わるくねえって……」ぽろぽろ

桑田  「……わるく、な……」



なんか桑田かわいそう…
証拠の隠滅してる時も、心のどこかで返り討ちにした舞園に謝ってたんだろうか…

桑田は中継を見ている(と思われる)花音が助けに来てくれればどうにかなりそうだが……


シェルター化当日が青空ってネタはどっかで見た気がするので、低気圧を召還。

>>38
たぶんごめんなさいって気持ちはずっとあったと思う。アホ(ryでわかりづらいけど。

>>39
花音が出るかどうかはまだ不明。


_____________


モノクマ 「はりきって行きましょう、おしおきターイム!!!」

赤いおしおきボタンに、ハンマーが振り下ろされる。

その、刹那。

なぜなんだ、と繰り返す石丸。怒鳴る大和田。泣いている不二咲。ふるえる朝日奈と、それを抱きしめる大神。
死にたくない、と頭を抱える葉隠。黙って眼鏡を外す十神。目を閉じる霧切。オレを罵るセレス。
泣き叫ぶ山田と、腐川。

罵声と泣き声の渦の中から、オレはその声を聞いた。


苗木   「……ッ、お父さん、お母さん、こまる……」

苗木   「ごめんね、こまる……お兄ちゃん、帰れなかったよ……」

パカッと足元の床が割れて、浮遊感。ややあって、両足はすとんっと固い床につく。
ここはオレのために用意されたボックスらしい。手すりにもたれて下の処刑場を眺めるオレの隣に、
ひょこっとモノクマが出てきた。

モノクマ 「やっぱり人が死ぬ瞬間っていうのは、最高の娯楽だね!!
      超高校級の価値ある生命が無意味に消費される……ワックワクの、ドッキドキだよね!!」ハァハァ

桑田   「……そうかよ」

モノクマ 「あ、これ使う?」

はい、と渡されたオペラグラスを「いらねーよ」と投げ捨てる。


オレの視界が、悲鳴と血しぶきで塗りつぶされた。


玄関ホールの扉の前で、オレとモノクマだけの卒業式。


モノクマ 「えー、桑田怜恩くん。あなたは……希望ヶ峰学園の全課程を修了したことを、ここに証明します」おっほん

桑田   「…………?」すっ


真っ白な紙に印刷されていたのは、あの数字。



【11037】


頭が、どくんっと大きく脈打つ。


桑田   「――っ、!?」

モノクマ 「うぷぷぷぷ……ほんの卒業祝いだって」


「怜恩くん」


モノクマ 「全部、"返して"あげるよ」



舞園  「じゃーんっ!これ、なんだと思いますか?」

舞園  「ヒントは……私の大事な人の名前です!」

舞園  「分かりませんか?ほら、こうやって……ローマ字をひっくり返すと。数字みたいに見えるでしょう?」

舞園  「ふふふふ、学級日誌の"11037"って、怜恩くんのことだったんですよ。びっくりしました?」


――さやかちゃん。


石丸  「今日で、外とはお別れだな……玄関ホールの封鎖まであと一時間か。
     せめて最後は青空を見たかったが、あいにくの大雨だ……」

石丸  「僕は、非常に幼稚なことを思いついたのだが……笑わずに聞いてくれ。
     最後にみんなで、思いっきり泥遊びをしないかね?」

大和田 「なんだよ兄弟、たまにはいいこと思いつくじゃねーか!!」

不二咲 「うんっ!すっごく楽しそう!!」

十神  「お、俺は行かないぞ……泥にまみれて遊ぶなど「十神クン、覚悟ーっ!!」…ぶっ!?
     苗木、貴様……ただで済むと思うな!!」

苗木  「うわ!?」べちゃっ

十神  「ハハハ、いい面になったじゃないか!!どうだ、十神白夜の泥団子の餌食になりたいという奴から
     外に出ろ!!はははははっ!!」バチャバチャ

苗木  「吹っ切れるといつもこうだよね、十神クンは」あははは

腐川  「こ、高校生にもなって泥遊びなんて……最後だと思えば、悪くないけど……」

セレス 「………」とんっ

山田  「安広多恵子殿!?お洋服が汚れますぞ!!ささ、傘を……」

セレス 「いりませんわ!!だってこの汚い雨にまみれるのも、今日しか味わえないんですもの!」にこっ


大神  「男女のチームに分かれて投げ合うのはどうだ?」

朝日奈 「それじゃ桑田がいる男子チームが絶対勝っちゃうじゃん!!ここはグッとパーで」

葉隠  「つーか、もう何も考えねーでいいべ!!……ここは童心にかえって……
     うおおおお、雨だあああああ!!!っひょー、気持ちいいべーっ!!!」バシャバシャ

戦刃  「あーあ、みんな行っちゃった……」

江ノ島 「ガキばっか。こいつらが世界の希望とか、マジかって話だよねー」

石丸  「僕たちは絶対に!!この外にもう一度出てみせる!!!」

大和田 「おーおー、やってやらあ!!絶望なんかに負けっかよー!!!」

不二咲 「雨の中で叫ぶのって楽しいね!ボクも……"絶対に、生きてやるからなーっ!!"」


みんな。


舞園  「えいっ!……あはは、超高校級の野球選手にデッドボール当てちゃいました!!」

舞園  「あははは、ははっ、は……あー、すっごく楽しいです!今私、幸せーっ!!」ドサッ

舞園  「泥んこで、校庭に大の字になってると……全部、嘘みたいですね」

舞園  「世界が大変なことになってる、とか……私たち、これからずっと学園に閉じこもるとか……
     全部、嘘みたいです……」

舞園  「……」

舞園  「私たち、どうなっちゃうんでしょうか……なんだか、すごく不安になってきちゃいました」


――別に、今までどーりでよくね?


舞園  「今までどおり?」


――みんなで楽しくやってりゃいーじゃん。それでもさやかちゃんが不安だってんならさ。


「オレがなんとかしてやっから」

「約束ですよ?怜恩くん」



桑田   「あっ……あ、あ、ああああっ……!!」ガチガチ

モノクマ 「うぷぷぷぷ……卒業、おめでとう!!君の殺意に敬意を表して、
      最ッ高の絶望をプレゼントしてあげるよ!!!」

髪をかきむしる。足に力が入らない。その場にへたりこんだオレを、
モノクマは気味の悪い笑顔で見下ろす。オレの絶叫に玄関ホールの扉が開く音が重なって、かき消した。

一旦切る。
モノクマの口調ってつかみづらい。まるでイカの皮むきだ。


こんな話書いてる時に言うのもなんだけど


花→桑からのだべカノは萌える
だべカノもっと増えろください


____________



背後で、鉄の扉が閉まる。


桑田  「はッ、ははははっ……」へなっ

桑田  「……んで、忘れてたんだ………オレはッ……こんな世界のために、あいつらを……!」


ざりっ……


「おいおい、マジでこいつが桑田怜恩なわけ?」

「こんなヘタってちゃすぐに死んじまうだろ」

「んじゃ、俺らで殺してやんのがいいかもな!俺ら超優しー!!」


桑田  「……っ、!」

ゴッ……!

とっさに転がって避ける。さっきまでオレがいた地面に、金属バットがめりこんでた。


「あーあ、避けんなよ。人殺しのくせによ……」

モノクマのお面をかぶったそいつが、残念そうに言った。


桑田  「だ、誰だよ……オメーら……」


「ひっでー!マジで忘れられてんの!?」

「さっすが"超高校級の野球選手"だよなあ!格下はゴミってわけかぁ!?しびれるねえそのゲスさ!!」

「ヒントはユニフォームでぇーっす!!」

そいつらは全員、青のストライプが入ったユニフォームを着てる。

桑田  (……思い出した。
     こいつら、オレが甲子園の決勝でノーヒットにした、あの学校の……!)


「しっかしよぉ、オレらこんなヘタレにやられたんだよなー」ぐいっ

桑田  「!?は、はなっ……」


「あ、そんならこのヘタレに騙されて死んだ"希望"どものほうがマヌケか!」

「ギャハハハ、言えてるー!!」



地面にうつ伏せに倒されて、動けないように背中をおさえつけられる。

「お友達を殺しちゃうなんて、いけない子だねー」

「よーし、そんな悪い子には"おしおき"だ!」


モノクマ野球部員が、オレの右手の爪を持ち上げた。
みし、ときしむ感触。

桑田 「や、め」

べりっ。

桑田 「――っっ!!」


「人差し指もいこっか?」

べりっ。べりっ。べりっ。


桑田 「……っ、ぐ、うぅっ…!」

「なんか反応つまんねーな。そろそろ腕いっちゃう?」

金属バットが振り上げられた、次の瞬間。



「ザコどもが、汚い手でお兄ちゃんにさわるなぁぁぁ!!!」

「がっ!?」

オレの腕を折ろうとしていたそいつが、きれいに吹っ飛んだ。


花音 「助けに来たよ、レオンお兄ちゃん!!」

桑田 「……お前、生きて」

花音 「話はあと!ほら、逃げよう!」ぐいっ


「あっ、くそ……待ちやがれ!!」


_____________



花音 「はあっ、はあ、はあっ…こ、ここまで来れば……たぶん、へいきっ……」ドサッ

桑田 「こ、こんなに走ったの……マジで、一年ぶり……」ゼー、ハー


足は力が抜けてるし、心臓はすげーバクバクしてる。
あのシェルター生活で、意外に筋力落ちてたんだな。

桑田 (トラッシュルームのボタンは、火事場の馬鹿力ってやつか……)

ガレキの中を走って、階段を上った18階。
連れてこられたのは角部屋だった。破けたソファを「よっこらせ」と立てた花音はめっちゃうれしそうだ。


花音 「ここ、私のアジト。たまーにネズミ出るけど、まあまあ快適だよ」

桑田 「18階ならそうそう人も来ねーだろうしな」

花音 「うん。今の世の中はサバイバルだからね。体力残しとかないとマジで命にかかわるし」

「チョベリバなんてレベルじゃないよ、世紀末だよ」と花音は肩をすくめる。


花音 「そうだ、爪……はがされたんだよね。サイテー、あいつら……超高校級の野球選手の利き手の爪
    はがすなんて……次会ったら、あいつらの指全部へし折ってやる」

憎々しげにつぶやいた花音は、救急箱を取り出してオレを座らせる。

桑田 「……そうだ、叔父さんたちは「死んだ」……やっぱりか」


消毒をしながら、花音はぽつぽつと自分に起きた出来事を語り始めた。


花音 「あの絶望的事件が起こったとき、コタツでぬくまってたの。そしたら、いきなり変なモノクマのお面かぶった
    奴らが来てさ。お父さんとお母さんはどっちも殴られて……わかんないけど、死んじゃったんじゃないかな。
    そのあとはどっかのマンション連れてかれて、ずっとそこに閉じこめられてた」


絶句したオレにかまわず、花音は「それからね」と続ける。


花音 「どれくらい経ったのかな……たぶん、一年半ぐらいだと思う。いきなり部屋にモノクマが来て、眠くなって……
    気がついたらガレキの中に倒れてた。ちっちゃいテレビが目の前にあって……コロシアイ学園生活の中継が始まったの」

桑田 「中継……?」

花音 「お兄ちゃんたちのコロシアイ、全部外に流れてたんだよ」

桑田 「!?じ、じゃあ……オレが舞薗を殺したのも、学級裁判も」

花音は「全部見てたよ」と暗い表情で答えた。

花音 「さっき襲ってきたやつら、その放送見て待ち伏せしてたんだよ。
    ……お兄ちゃんのこと怨んでるやつら、たくさんいるから……」

包帯を巻き終えた花音は「お兄ちゃんは悪くないよ」と顔を上げる。

花音 「たとえ世界中がレオンお兄ちゃんを非難しても……私は絶対、お兄ちゃんの味方だから」

ふわっと抱きしめられる。

桑田 「……ふっ、う、うぅぅっ……!」

花音 「私が、レオンお兄ちゃんを守るから」

大丈夫、大丈夫だよと繰り返す花音の胸に顔を埋めて、
オレは理由の分からない嗚咽をこぼした。


_______________

桑田 (『卒業』から、今日で5日目だ)

桑田 (オレのいとこは……平和だったころから何となく知ってたけど、図太い神経と度胸だけなら
    "超高校級"だったらしい。
    死体のポケットをまさぐって、食えるモンか武器持ってねーか探すのなんて当たり前だし。
    モノクマのお面かぶったやつらが下を通ったら、上から石を落とすなんてコトもフツーにする)

桑田 (オレは……どうすればいいんだ)

桑田 (花音みたいに開き直って生きてきゃいいのか。……それとも)


下から、『ドンッ』と何かが叩きつけられる音がする。

今日もまた一人、この世界に耐えられなくなったまともな人間が死んだ。


桑田 (……終わらせるか)


オレはふらふらと立ち上がって、ベランダに向かう。
ここは18階だ。ちょっと勇気を出せば、固いアスファルトがオレの頭を粉々に砕いてくれる。
オレに一番ふさわしい場所に、連れて行ってくれる。


桑田 「…………」


一歩だ。あと一歩、踏み出せば……   「お兄ちゃん!?」


桑田 「かの、」ガシッ

花音 「ダメッ!!そっちに行っちゃダメぇ……!!」ぐすっ

花音 「いやだよぉ……せっかく、また会えたのに……お兄ちゃんがいなきゃ、私ッ……どうやって
    生きてけば……」ぽろぽろ

桑田 「………」

桑田 「わーったよ……手ェ離せ」

花音 「やだ……」ギュー

桑田 「……もう、こんな事しねーから。……約束する」


そこまで言って、やっと花音は手を離してくれた。

花音 「私っ……もう、レオンお兄ちゃんしかいないの……」ぐすぐす

花音 「お兄ちゃんが、いるから……がんばって、生きてこうって……お、思えっ……」ぽろぽろ

ひっく、ひっくとしゃくり上げながら泣く花音に、
オレは本当に取り返しのつかないことをしたんだと、改めて気づいた。

ドサッ。

遠くでまた、何かが落ちる音がした。

_____________

桑田 (卒業から、7日目)

桑田 (オレの目の前には、うつ伏せに倒れた死体がある)

桑田 「わりーけど……服だけとっかえてくれよ。……代わりにオレの服やるから」


死体から服をはぎとるのって、なんだっけ。……あ、羅生門だ。芥川の。
夏休みの補習サボったオレに、「反省文の代わりに読書感想文を書きたまえ!!」ってイインチョが言ったんだ。
……めんどくせーから流し読みして終わったけど。


桑田 (ワイシャツと、ださいカーキ色のズボン。仕上げに、そいつのかぶってたキャスケット帽をもらう)

桑田 「ピアス……」

花音 「外した方がいいと思うよ。ぶっちゃけ目立つし」


アクセサリーも全部外して、そいつに着せたジャケットのポケットに突っこんだ。
そういやこのリング、苗木が誕生日プレゼントでくれたんだよなとか。
大和田が「その南京錠、いいセンスしてんな」って言ってくれたこととか。
次から次へ、思い出す。

……もう、全部亡くしたのに。


花音 「なんか、思い出すね」チョキチョキ

桑田 「何をだよ」

花音 「お兄ちゃんが甲子園出る時のこと」チョキチョキ

花音 「カントクが電話してきてさ、"たのむ、丸刈りにしてくれ。その代わり俺も10キロやせる"とかイミフな
    交換条件出してきたじゃん?そういやあのカントク、甲子園終わった後さらにデブってたよね。
    ……お兄ちゃん、抽選の日の朝になってやっと床屋行ってさ」チョキチョキ

花音 「今さら遅いかもしんないけどさ。あん時のお兄ちゃん、けっこーイケてたよ」ジョリジョリ

花音 「はい、終わり。……帽子とっちゃダメだよ。顔覚えてる人に会ったら襲われちゃうから」ぽふっ

すっきりした顎に手を当てると、ヒゲがなくなっていた。
床に散らばった髪の毛を足で払って、立ち上がる。


桑田 (オレが亡くしたものは)

桑田 (友達と、大好きだった女の子と、本当は好きだった野球と、好きになりかけていた音楽と)


『桑田怜恩』


桑田 (自分まで亡くして、まだ生きていたいって思うのかよ)

桑田 (最低だな、お前)


窓ガラスに映った自分の顔が、ぐにゃっと歪んで見えた。

___________


切ります。


??? 「誰か……そこ、いるの……?……て………」

??? 「助け……て………」


桑田  (崩れたガレキの下から、声がした)


"絶望"どもが仕かけた地雷だの爆薬だので、建物が崩れるのは珍しくない。
こいつは運悪くそれに巻きこまれたらしい。
倒れた鉄柱のすきまから、白い腕だけが動いているのが見えた。


??? 「おね、が……助け……誰か………」

??? 「助けて……」


花音  「……行こう」

桑田  「助けねーのかよ?」

花音  「……崩落に巻きこまれたこの子がマヌケなだけだよ。モタモタしてる間に"絶望"どもが来たら
     私たちまでやられる」

桑田  「だけど……」

花音  「自分の命は自分で守る。それが、今の"常識"なんだよ」


それだけ言って、花音はぐいっと俺の手を引っぱる。

――その時だった。


??? 「助けて……お兄ちゃん……」


桑田  「…………」ぱしっ

花音  「レオンお兄ちゃん?」

桑田  「……13人も殺した奴が言うのはちげーかもしれねーけど……オレ、やっぱ無理だわ」

近くに落ちていた鉄パイプを拾って、ガレキのすきまに差しこむ。

桑田  「ふんっ……、ぐっ……!」ギリギリ

花音  「お兄ちゃん、何やって……」

桑田  「いーから手伝えアホ!……ふんぬっ!」グググッ

花音  「……ああもう、知らないからね!」グイッ


少しずつ、コンクリートの柱が持ち上がる。破片がパラパラ落ちる中に手を差しこんで

「つかまれ!」と叫んだ。強い力でつかまれて、一瞬びくっとする。

桑田  「……よかった、まだ生きてたか」

花音  「早く!もう腕限界……」

桑田  「くっ……!」ずるずる

??? 「……うっ……私、助かった……?」

桑田  「おい、平気か?……うわっ!?」

??? 「うっ……ううっ、うわああああん!!」


がばっと抱きついてきたそいつが、すげーデカい声で泣き出した。


花音  「ちょっ、あんた……声デカいって!」

??? 「ううっ…こわかった、こわかったよぉ……!もっ……もうっ、このまま……
     死んじゃうんじゃ、ないか……って……!!」ぐすぐす

花音  「……つーか、お兄ちゃんから離れてよ!」ぐいっ

??? 「お兄ちゃん……?……ごっ、ごめんなさい!」ばっ


そいつは顔を真っ赤にして「べ、別に私……そういうわけじゃ」とかイミフなこと言い出した。
半袖のセーラー服に、アンテナが立った頭。……アンテナ?


桑田  (あれ?こいつ……)

花音  「まあ無事だったんならいいけど。じゃ、私たちはもう行くからね!……なんで私たちの服のすそつかんでるの?」

??? 「あ、あの……なんでだろ?」

花音  「悪いけど、足手まといを連れてくほどアホじゃないの」

??? 「うっ……」ぐさっ


花音  (……どうする、お兄ちゃん。なんか泣き出しちゃったよ)ひそひそ

桑田  (泣かしたのオメーだろ!……ちょっと安全そーなとこまで連れてくとか無理か?)ひそひそ

花音  (こいつがお兄ちゃんの顔知ってたらヤバいじゃん!……うう、でもここに置き去りにするのはちょっと心が……)ズキズキ



ふわっ。


桑田  「!?」

花音  「あっ……」


一瞬の、油断。


??? 「はい、帽子」すっ


そいつは背伸びして、じーっとオレの目を見ている。
思わず一歩下がったオレに、つまさき立ちのまま近づいて、


??? 「ちょっと、かっこいい……」キラキラ

??? 「……かも」


脱力。

二重の意味で、脱力。


桑田  「なんだよ……」


そいつの手から帽子を取って、またかぶり直す。


花音  (よかった……でも、レオンお兄ちゃんを知らないんだったら、
     人がいそうなところに連れてってあげるくらいはいいかな……)

花音  「分かった。いいよ、一緒に行こう」

??? 「え、い……いいの?」ぱあっ

花音  「ただし!"希望"がいそうな所までだからね!ずっとじゃないよ!」

??? 「あ、ありがとう!」

そいつのアンテナがぴょこっと立った。うれしいと立つのか。高性能だな。


??? 「あ、ごめんなさい……助けてもらったのに、名乗りもしないで」


次の瞬間、そいつの口から出た名前に――オレは負の奇跡って言葉を思い出した。


こまる 「私は、こまる……苗木こまるっていいます!」

桑田  「な、えぎ……?」


――リフレイン。


苗木  『……ッ、お父さん、お母さん、こまる……』

苗木  『ごめんね、こまる……お兄ちゃん、帰れなかったよ……』

――終了。


桑田  「超高校級の、幸運……」

こまる 「お兄ちゃんのこと知ってるんですか!?」

ぽつり、と呟いた無意識の言葉に、こまるがびっくりしてる。
そうだ、苗木は抽選枠だから、フツーの人間は知らねえんだ。


花音  「私たちのいとこが希望ヶ峰にいて……」

こまる 「いとこ……もしかして、超高校級の人?」

花音  (チョベリバ……ううん、マジヤバだ)

花音  (下手にごまかすとしつこそうだし……そうだ、お兄ちゃんの顔見て無反応ってことは、大丈夫かも)

花音  「知ってるかな。"超高校級の野球選手"の、桑田怜恩。あれが私たちのいとこだよ」

桑田  「かの……」

こまる 「ああ、あの人」


さっきまで笑顔だったこまるの表情が、ふっと暗くなった。


こまる 「あの人……許せない。お兄ちゃんを殺しておいて……クラスメートを殺して、のうのうと卒業なんて……
     私のお兄ちゃんは!!もうっ、帰ってこないのに!!」

桑田  「――っ、」

こまる 「……許せなっ……あんなに、お兄ちゃんとっ……仲良くしてたのにッ……!!」ぼろっ

こまる 「憎いっ……憎くて、憎くて、たまらない!!」

歯を食いしばって泣き出したこまるは、涙をぬぐって「ごめん」と言った。

こまる 「ごめん……いとこなんだよね……」ぽろぽろ

花音  「…………」

桑田  「…………」


ああ、思い出した。

_________


苗木  「あれ、こまる?」

こまる 「お兄ちゃん!……と……」

桑田  「ひっでー!一回会ってるじゃん、こまるちゃん!」

こまる 「あー、……ああ!思い出した!桑田さんだ!すっごいハデだから覚えてたんだった!」

桑田  「オレを覚える要素、見た目だけかよ!」ガーン

苗木  「こんなとこで何してるの?」

こまる 「ん?友達待ってるの。お兄ちゃんたちは?」

苗木  「遅いお昼ってとこかな。……桑田クン、あいかわらずハンバーガー食べるの下手だね」

桑田  「いちいち人の食い方にケチつけんなよ。これがオレ流」

苗木  「ハンバーガーをバラバラにして食べる人、初めて見たよ……」

桑田  「う、うっせーよ!だいたいなあ、こんなジェンガみてーなバランスの料理、キレーに食える方が
     おかしーんだよ!」

苗木  「僕はできるよ?」もぐもぐ

桑田  「うぐっ……」

こまる 「あはは、超高校級でもできないことってあるんですね!……ふっ、あははは!」

桑田  「笑うなってのー!くそ、苗木オメーのせいだぞ!こまるちゃんの前で恥かかせやがってよー!」

苗木  「ええ!?なんて理不尽な……」

こまる 「あははははっ……」

_________

なあ、こまるちゃん。

お前が憎いって思ってる相手は、目の前にいるんだぜ。



こまる 「……ごめん、取り乱して。二人を憎むのは違うよね……」

こまる 「おどすわけじゃないけど、一緒に行って、いいかな。
     ほんと、人がいそうな所に着いたら別れるから」

花音  「……約束だよ」

こまる 「あ、まだ二人の名前聞いてなかったね……」


微妙にギクシャクした感じ。
オレの正体がバレたら、絶対それどころじゃなくなるけど。


花音  「私は仲島花音。……花音でいーよ。んで、こっちがお兄ちゃんのれ……」

怜恩、と言いかけたのか、花音は口を閉じて「怜」と言い直す。


こまる 「よろしく、花音ちゃん……怜くん」


差し出された手は、冷たかった。

――なんで、出会っちまったんだ。

オレは唇を噛みしめて、目の前の『妹』を見ていた。


_______

切ります。


こまる 「はっ……はあっ、はあっ……もうだめ……」へなっ

花音  「あとちょっとだよ、頑張ろうよ」

こまる 「二人が足早すぎるんだってば!一晩中ずーっと歩いてるのに、なんでへばってないの!?」

花音  「その体力でよく今まで無事だったね……あとさ、私だって元気じゃないよ。……でも、ここらへんは絶望が多い危険地帯だから」


分かってんの?と言われて、こまるは「う」とたじろぐ。


桑田  「……しょうがねーな、ほら」

こまる 「……へ?」

桑田  「もう歩けねーんだろ、おぶってやるよ」

こまる 「……で、でも……怜くんだって」

桑田  「……ここでへたばられる方がメーワクだっつってんだよ」ひょいっ

こまる 「ひゃっ!?」

桑田  「……なんだ、軽いじゃねーか」

こまる 「ちょっ、い、いきなりはやめてよ!」カァァッ


花音  (レオンお兄ちゃん……なんか、こまるに甘いっていうか)

花音  (……怖がってる?)

花音  (……)

花音  (……やっぱりこまるは、安全な人たちを見つけたら置いてこう)

________


桑田  「よっ……と、着いたな」どさっ

こまる 「あ、ありがとう」

桑田  「……」

こまる (また、だんまりだ……帽子も深くかぶってるし、人見知りなのかな)

こまる (でもこの人、けっこう力持ちなんだなあ。ここまで長い道だったけど、全然へばってないし……
     さすが、"超高校級の野球選手"のいとこなだけあるよね)

桑田  「で、ここで何すんだよ?」

花音  「まず水でしょ。それから食料と……あと、消毒薬と包帯もいるかな。こっからは強行軍だから。
     こまるの家って豊島三区でしょ、遠いじゃん」

こまる 「今いるのが文京区だよね。希望ヶ峰学園がある……豊島区とは隣り合ってるけど、
     絶望の人たちから隠れて歩いたら、迂回していくことになるから……」

桑田  「だいたい2、3日は見といた方がいいか」

こまる 「ご、ごめんね……私のせいで」

花音  「…………」

花音  「謝んなくていいよ。自分の家がどうなったか気になるのは当たり前だし。私たちもそこまではついて行ってあげる。
     やっぱ、見捨ててくのは心が痛むから」

こまる 「ありがとう、花音ちゃん、怜くん」

花音  「でも、そこでさよならだからね」

こまる 「そんな……家までついてきてくれるだけでも、うれしいよ」


オレたちがいるのは、廃墟になったショッピングモールだ。
1階から8階まであるけど、エスカレーターは動いてねーし、床は血まみれ。
正直、ここに何か役だつものがあるとは思えない。


花音  「えーと、B1Fがドラッグストアで……7Fがレストランフロアか。じゃ、お兄ちゃんは7Fで
     こまると私が地下ね」

こまる 「えっ、3人一緒じゃないの?」

こまるの顔が不安げになった。

花音  「バラけた方が早いっしょ。お兄ちゃん、ついでに6Fで下着とかの替え残ってたら持ってきて」

桑田  「わーったよ」

こまる 「ちょっ、怜くんお願い!一緒に……」

花音  「ほら、行くよ!」ずるずる


_______


桑田  「やっぱ、何もねーか」

めちゃくちゃに荒らされたレストランの厨房で、冷凍の肉まんを拾う。半分溶けかかってるけど
食えないことはなさそうだ。

そこで、ぶら下がったままの包丁が目に入った。


桑田  「包丁持ち出す奴がいたのに"まあいいか"で済ました朝日奈も、危機感なかったよなあ……」


たぶんみんな、信じていたのかもしれない。
殺し合いなんて起きない。あんな映像はいくらでも作れると。


13人が思い止まった殺人という選択肢を、舞園とオレはあっさり選択した。

その結果が今だ。


桑田  「…………」

桑田  「とりあえず、こまるを家まで送って……誰か、信頼できる人たちに預けて……それから……」

桑田  「オレにそれからなんて、あんのか?」


呟いても、答えはない。

_______


こまる 「あ、ばんそうこうあったよ!」

花音  「あっても困るもんじゃないし、見つけたら拾って」

こまる 「うん」


床のがれきをよけながら歩く私に比べて、花音ちゃんはすごく身軽だ。
いちいち「よいしょっ」ってがれきをどかす私の横で、包帯とか消毒薬を拾って、さっさと袋に入れる。


こまる 「ね、ねえ。花音ちゃんも私と一緒で、監禁……されてたんだよね」

花音  「そうだよ。それがどうかした?」

こまる 「ううん、すごいなあって」

花音  「ハァ?78期生の家族が二人も拉致られたんだよ。そこおかしいって思わないわけ?」

こまる 「も、もちろんおかしいって思ってるよ。だけど……花音ちゃんはすごくしっかりしてて、
     頼りになるから……」

こまる 「今だって……私、傷の手当てができるものを探そうなんて、思いつきもしなかった……」ギュッ

花音  「生きる!って決めたら、自然とやるべきことは分かるよ。こまるは、今はまだ心の整理がついてないだけ」


こまる 「そっか……うん。じゃあ、せめて今やるべきことをやるよ。お兄ちゃんがここにいたら、
     たぶんそう言うと思う。すごく前向きな人だったから」

花音  「そんで、死ぬ時も前のめり?」

こまる 「それなんて龍馬!?」

花音  「……」

こまる 「……」

花音  「ごめん……不謹慎だった」

こまる 「……ぷっ」

こまる 「……ぷふっ、ふっ、あははは!……私たち、息ぴったりだ!…あははは……」


ひー、ひーと笑っているこまるに、つられて花音も笑い出す。


ガタッ…


こまる 「!?」


「あっれー、こんな所に美少女はっけーん!」

「どっちもBってとこかなー。お前あーいうの好みなわけ?」

「ついでにいい思いしたってバチあたんねーだろ」


花音  「……!」

こまる 「だ、誰!?」


いきなり入ってきた男たちに、花音はスタンガンを取り出した。


花音  (モノクマの面をかぶった奴が、1、2、3……5人。走って逃げるにしても足場が悪いし)


ちらっと背後を見る。こまるは震えている。

花音  (どうしよう。こまるだけ走らせて)

ぐいっ

花音  「いたっ……!」

こまる 「花音ちゃん!……きゃっ!?」


「あーあー、ダメだって。女の子がんな物騒なモン振り回しちゃさあ」

「んじゃ、俺こっちのギャルね」

「終わったらこっちにも回せよ」


どさっ


花音  「はっ、離せアホ!変態!!」

こまる 「た……助けて……」



「助けて、怜くん!!!」






瞬間、こまるの耳のすぐ横を熱いものがかすめる。


「ぐあっ……!いっ、てえっ……!!」

「んだ、どこから……っで!」


こまるのセーラー服を脱がそうとしていた男の手に、小石が命中していた。

ゴッ、ガンッと音がして、二人を襲っていた男たちの頭が次々と撃たれる。


こまる 「怜、くん?」


押さえつけていた手が離れて、起き上がったこまるは姿を探す。

自分たちがいる地下の広場を見下ろす7Fの手すりごしに、桑田が小石を握りしめていた。


花音  (超高校級のコントロール、なめんなよ……ってか)

花音  (ハァ……あんなスゴ技やっちゃったら、怪しまれるじゃん。どーやって言い訳しよ……)

こまる 「す……」

花音  「は?」

こまる 「すっごい!さすが超高校級のいとこだね!」きらきら

桑田  「……」

こまる 「あ、ありがとう!おかげで助か「さっさと行こうぜ」……あ、うん……」


「あ、いっぱいあったね」「ん、こんだけありゃいいだろ」「じゃあ行こっか。こいつらの他にも絶望がいたら困るし」



こまる (今、やるべきことかぁ……)

こまる (決めた。今の借りをちゃんと返す!まずはそれから!)

こまる (だったら、ちょっとでも足手まといにならないようにしないと)

桑田  「おい、なに突っ立ってんだよ。置いてかれてーのか、おまる」

こまる 「おまるじゃない、こ、ま、る!!」ぷくー

桑田  「……んでそんなリアクションに困る名前なんだよ」

こまる 「こまるだけに?」

桑田  「つまんねーな」

こまる 「あっ」

桑田  「!」ぱしっ


床の割れ目に足をとられたこまるの手を、桑田がつかんで止める。


こまる 「あ、また……助けられ、ちゃった……あはは……ほんと、みっともないなあ」

こまる 「こんなんじゃ、すぐ死んじゃうね」

桑田  「……オメーは絶対死なせねえよ」

こまる 「……え」ぐいっ


手を引かれて歩く間、後ろのこまるが少しだけ顔を赤くしているのに気づいていたのは、
振り返った花音だけだった。

____

切ります。

なんか花音がバラしちゃいそうだなー

兄妹揃って異性に耐性ないからなー


>>68

空気は読めるけど大事なところで口を滑らせちゃうのが花音のイメージ

>>69

苗木お兄ちゃんは難聴系主人公の素質を持ってるしね
こまるは意外と男子に人気ありそうだ


__________


ショッピングモールを出て、二日。

明日には、こまるの家がある豊島三区に入る。


こまる 「……ねえ、まだ起きてる?」ごそっ

桑田  「……早く寝ろよ、交代で見張りするって決めただろ」

こまる 「だって、眠れないんだもん……目を閉じると、いろんなこと考えちゃって」

桑田  「……」

こまる 「ほんとは……すっごく怖いの……家に帰るのが」


こまるの目に、たき火の炎が揺れている。


こまる 「あの日のこと、ちょっとずつ思い出してきたんだ。おやつを食べてたら、いきなり……家に、ライオンが、入ってきて、
     ……お父さんが、頭から、かじられて」

こまる 「お母さん、白いエプロンしてた……そこに血がいっぱい飛び散って……お母さん、フライパンでライオンに殴りかかって……
     私にっ、"逃げなさい"って」

こまる 「私……体が、動かなかった……お母さんが食べられるの、ただ……見てた……」

こまる 「お母さん、が、食べられてる間に……男の人が、入ってきたの……黒いコート着た、怖い目つきの人……
     その人が、私をかついでトラックに乗せたんだ……すごく動物くさくて、真っ暗で……すうっと気が遠くなって……
     気がついたら、知らない部屋に閉じこめられていて」

こまる 「それから、何日も、何日も、ずっとそこにいた……モノクマが私を外へ連れ出すまで、ずっと……」

桑田  「……」

こまる 「お兄ちゃんを助けに行かなきゃ、って走り出して……でも、その間にお兄ちゃんは死んじゃって……泣いているうちに
     建物が崩れてきて、"ああ、私ここで死ぬんだな"って思った。こんなところで、一人で死んでいくんだな、って」

こまる 「だからね、怜くんが"つかまれ"って手を差し伸べてくれた時……すごく、うれしかったんだ」


ありがとう、と言われて。

胸のあたりがキュッと痛くなる。


こまる  「あのさ、怜くんって年いくつなの?」

桑田   「……19」

こまる  「へー、うちのお兄ちゃんより1こ上だ。大学とか行ってた?」

桑田   「……いや」

こまる  「じゃあ彼女は?」

桑田   「……」


――怜恩くん



桑田   「……なんでオレの話なんか聞きたがるんだよ」

こまる  「えーと……なんでだろ?」

桑田   「おい」

こまる  「だって怜くん、あんまりしゃべらないし。いつも帽子かぶってて、目合わせてくれないし。
      せっかく一緒にいるのに、何にも知らないままってさみしいから」

桑田   「……知らないままの方がいいことだって、あるだろ」

こまる  「?」

桑田   「……なんでもねーよ」

こまる  「怜くん……」うとうと

桑田   「……今度は何だよ」

こまる  「……くぅ」こてっ

桑田   「おい、人の肩枕にすんなよ。離れろ、おまる」

こまる  「……zzz」

桑田   「ハァ……しょうがねーな」

______________


花音  「たぶん、地図はもう役に立たないと思うよ。景色変わっちゃってるし。
     目印になりそうな建物とかない?」

こまる 「えーと、たしか向こうに労働会館があったはずなんだけど……ないや」

花音  「他には?」

こまる 「えーと、電波塔……もない。小学校……も崩れてるし……しょうがないから、歩いて探そう」

桑田  「足元」

こまる 「え?……きゃっ!」ぐらっ

桑田  「だーかーら、気をつけろって言ったろ」がしっ

花音  (……)

花音  (こうなるのは、わかってた)

花音  (レオンお兄ちゃんは、何だかんだいっても絆されやすいもん。とくに、女の子には)

花音  (でも……)


『私たち、息ぴったりだ!』


花音  (私も、こまるのことは好きだよ。普通に出会っていたら、きっといい友達になれたよ)

花音  (だけど、私は桑田怜恩のいとこで、あんたは苗木誠の妹なんだ。
     だからこのまま、ただ一瞬の友達として、さよならしなきゃいけないのに)

こまる 「花音ちゃん?」ひょいっ

花音  「!……なんか、あったの?」

こまる 「ううん、別に。ただ、花音ちゃんが苦しそうな顔してたから」


花音  「なんでもない、行こ」

こまる 「花音ちゃん……」

花音  (離れたくないよ、こまる)

こまる 「……」

こまる 「ねえ、花音ちゃん。手ぇつなごっ?」

花音  「嫌。ガキじゃあるまいし」

こまる 「だって、手つないでくれたら私も転ばなくて済むし、怜くんにメーワクかけないから!ねっ?」ぎゅっ

花音  「……」///


歩いている間、こまるがふと「ねえ」と聞いてくる。

こまる 「花音ちゃんは、いとこさんのこと、憎いって思わないの?」

花音  「レオンお兄ちゃんを憎んだりするわけないじゃない」

こまる 「……大事な人だったんだね。でも、その人のいとこっていう事実は、花音ちゃんを苦しめることになると思うよ」

花音  「そんなの、当たり前じゃない。13人も殺したんだから。だけど、私はそれが悪いことだとは思わない」

こまる 「……!!」

花音  「こまるには酷な話かもしれないけど……レオンお兄ちゃんが殺されるか、あのアイドルが殺されるかだったんだよ。
     それに、見方を変えてみれば……返り討ちになったアイドルと、学級裁判で騙された奴らだって、悪いって言えるじゃん。
     コロシアイのルールに負けたってことだもん」

こまる 「それは……」

花音  「……ごめん」

こまる 「ううん、花音ちゃんはやっぱりいろいろ考えてるんだね。私はまだ、よくわからないんだ。
     いとこさんを恨めばいいのか、モノクマ……絶望を恨めばいいのか、それとも……全部忘れて生きていけばいいのか」

こまる 「だけど、私はたぶん……同じ状況にいても、"それ"を選べなかったと、思う。
     きっと殺した相手のことは忘れない。その人たちが生きて、笑って、普通に暮らしていた時のことを
     思い浮かべる。たとえ相手が動かない死体になっていても」

花音  「……」

こまる 「その道を自分の手で選ぶのは……私にとって、"怖れ"だから……
     きっと、いとこさんも今ごろ、同じ気持ちなんじゃないかな」

花音  「……当たり障りのない意見、ってわけじゃなさそうね」

こまる 「……花音ちゃんと怜くんに会ってから、ずっと考えてたことなんだ」

花音  「レオンお兄ちゃんも同じように、それを怖れている……って?」

こまる 「うん……私は、そう思うよ……」


こまる (お兄ちゃん。ごめんね。私、いつかは許してあげたいんだ。桑田さんのこと)

こまる (きっと、お兄ちゃんも……同じ気持ちだって、思うから)


_____________


こまる 「あった……」

桑田  「家は無事だったか、よかったな」

こまる 「門は壊れてるし、玄関のドアも傾いてるけど……うん、入れそうだよ。
     なんのおもてなしもできないけど、さ、入って入って!」ガタガタ

花音  「いいの?」

こまる 「もちろん!……ただいまー、友達連れてきたよー」


もう出迎える家族はいない。こまるはわざとらしいぐらい明るい声を出して中に入る。


こまる 「あ、靴はそのままでいいからね」


玄関に入る。動物の爪で破かれた壁紙と、倒れた靴箱。多分『飼育委員』の先輩がやったんだろーな。


桑田  「お邪魔します……」

リビングもめちゃくちゃだ。苗木の家には数えるほどしか来たことねーけど、ちゃんと覚えてる。
でっかいソファは破けて中綿が飛び出てるし、きれいなクロスがかかってたテーブルも真っ二つだ。

桑田  (なんで、オレ…こんな、ちゃんと覚えてんだ……前来たの、いつだっけ?)

桑田  (そうだ、オレの誕生日だ。……ちょっと困らせてやるつもりで、押しかけたんだ)


_________


苗木父 『いらっしゃーい……おっ?君はたしか、誠の友達の……桑田くんだったっけ?』

苗木  『どうしたの、家まで来るなんて。…あっ、もしかして初詣?』

桑田  『突然ですがクイズです。1月3日は何の日でしょーか』

苗木  『えっ?』

桑田  『チッチッチッ……』

苗木  『制限時間あるの!?じゃあ…三が日!』

桑田  『ブッブー、正解はオレの誕生日でした』

苗木母 『あら、おめでとう』ぱちぱち

苗木  『……』

苗木  『………ああっ!!』

桑田  『やっぱ忘れてやがったか……』

苗木  『ご、ごめん……なんかあったなってのはボンヤリ覚えてたんだけど……』

桑田  『ちなみに大みそかはブーデーの誕生日だ。その調子だとそっちも忘れてんな?』

苗木  『うっ……』ズキッ


桑田  『あーあ、ずりーよなあ。自分は女子全員にプレゼントもらって、盛大に祝ってもらったくせによー』

苗木  『ううっ…!』ぐさっ

桑田  『ダチの誕生日は正月とまとめちゃえばいいじゃない、ってわけですかー。薄情ですねー』

苗木  『ご、ごめん……実はまだプレゼントも買ってないんだ……って、父さん!?』

苗木父 『誠……父さん悲しいぞ……お前が友達をないがしろにする子だったなんて……』ぽろっ

苗木母 『いいから早くプレゼント用意してきなさい、山田君の分も忘れずにね!』ぐいぐい

苗木  『えっ、えっ、えっ?』

________


なんだか、ずいぶんと昔の出来事のような気がする。


桑田  「……」


床に、べっとりと血がついている。死体がないのが、せめてもの救いだと思った。

こまる 「あ、ちゃんとあった!うれしいなあ」

花音  「なにそれ、オーブン?」

こまる 「うん、お母さんが買ったんだ。ドイツ製のオーブン!大きいでしょ」

________


苗木母 『ごめんなさいね、あの子ったら……なんのおもてなしもできないけど、とりあえず座って。
     せめてケーキを焼いてあげるから、待ってて』

桑田  『あ、そんな気ィ遣ってもらわなくても……マジで"おめでとう"だけ言ってもらえりゃいいと思って来たんで』

苗木父 『あれは人をもてなすのが好きなんだよ。遠慮しないで』

桑田  『は、はあ……』

苗木母 『よいしょっ、っと……』ガコッ

桑田  『うわっ、デカいオーブンっすね』

苗木母 『ドイツ製なの。向こうではこれでも小さいのよ。……あ、ケーキっていっても本当に簡単なの。
     粉とバターと卵を、同じ量だけ混ぜる焼きっぱなしのケーキ。本当は生クリームとかのせてあげたいけど……』

桑田  『いえいえ、あのっ、マジでほんと、簡単でいーっすから!』

________


こまる 「じゃあ、私ちょっと自分の部屋見てくるね。花音ちゃんも来る?」

花音  「う、うん」



桑田  「……」

桑田  「ごめんなさい……おじさん、おばさん……」

桑田  「ふっ…う、ううっ……ふぐぅぅっ……!」ボロボロ



ガタッ


桑田  「……うっ、ううっ……」

花音  「二階には誰もいなかったよ。……はい、ハンカチ」

桑田  「、っ、うっ、あ、ああっ……!」

花音  「うん。大丈夫。私がいてあげる。私が、一緒にいてあげる」ポンポン


花音  「桑田怜恩は、私が守るから」


「……花音ちゃん?」


花音  「――!!」バッ

花音  「……え、こま、る……?二階に、いたんじゃ」

こまる 「今、なんて言ったの……」

花音  「……聞いてたの?」

こまる 「答えてよ、ねえ……花音ちゃん、その人、お兄ちゃんだって、言ってたよね。
     ずっと、引っかかってた。あんな距離を、人一人しょって歩けるわけない。あんな小さな石を、
     7階から命中させるなんて、普通の人にできるわけない!!
     でも、あなたならできるよね。水晶玉を、トラッシュルームのシャッターから、投げた、あなただったら」


こまるは、キッチンに落ちていた包丁を拾う。その手が、カタカタと小刻みに震えていた。


こまる 「"仲島怜"……ちがう、そんな人、いない。そこにいるのが、だって、その人が、お兄ちゃんの」

こまる 「そうなんでしょ?……"桑田怜恩"」

桑田  「……ああ、そうだよ」

花音  「お兄ちゃん!」

桑田  「オレが、桑田怜恩だよ」

こまる 「……!」グッ


こまるは、包丁を両手で握りしめた。


そうだよ、オレが。……お前の兄貴を、クラスメートを殺して、のうのうと生きてるクソ野郎だよ。


こまる 「よくもっ……よくも、お兄ちゃんを……」

花音  「やめて!お願い!!」

こまる 「私のお兄ちゃんは、"やめて"なんて通じなかった!!!」

花音  「こまるっ……」

こまる 「あんな惨い死に方をっ、していい人じゃなかった!!優しくて!前向きで!あったかくて!!
     自慢の、お兄ちゃんだったんだからぁ!!!」

こまる 「だから、あなたはっ、今……ここで!!!」ダッ

花音  「こまるーーー!!!」


_____________

切ります。


①刺す
②刺さない

多数決↓

どちらかはBAD直行。



刺す→3票
刺さない→4票


ちなみに「刺す」を選ぶと、こまるが逃げ出して花音がそれを追いかけるのは共通ですが、3人とも死んでいました

今回は軽い(?)グロ注意

________________


パラ…


桑田  「……っ、こま、る」


胸が苦しい。馬乗りになったこまるの包丁が、顔のすぐ横に突き刺さっていた。


こまる 「……くっ……!」


首に、包丁を捨てたこまるの指がかかる。


桑田  「ぐっ…う、かはっ、……ッ、あ゛ッッ!!」

こまる 「死ね、死んでよっ!!」ギリギリ

花音  「こまる、!……ああ、っ……やめて、やめて……っ!」

こまる 「じゃ、ましないで!!」グイッ

花音  「!」ドサッ


ぎりぎりと絞められて、視界に黒い点がちらつく。
すうっと気が遠くなりかけた、その瞬間。

ぱっ、と。

なんの前触れもなく、こまるは手を離した。


桑田  「ゲホッ、…ぇ゛、うえっ…げほっ!」


喉をおさえて咳きこむオレの横で、
こまるは床に頭をこすりつけて「うう……」と声を絞りだす。


こまる 「うっ、あ、ぁっ、ああ、あ゛あああーーっっ!!!」

こまる 「なんで、なんで、なんでぇぇぇ!!!!!」


絶叫。

心臓を握りつぶすみたいな、絶叫。

こまる 「あっ、あ、あ、あぁぁあ!!!!!!」


こまるは、両手で耳を塞いで、転がるように逃げていく。


花音  「……あ、こまる……こまる!」

走り出そうとした花音は、オレとドアを見比べてモタついてる。


桑田  「いつまでも、オレの後ついてるだけかよ……花音」

花音  「……行ってくる」ダッ


こまるの後を追いかけて、花音も走っていった。



「あ、ハアッ……はあっ、はあ……」

のどをおさえて、ふらつく足で立ち上がる。
薄暗いキッチンの中、冷蔵庫のドアが少しだけ開いているのが目に入った。


桑田  (そうだ、なんでオレはこまると出会ったんだ?)


ずっと、頭の中にあった疑問。


桑田  (偶然……違う、誰かが、こまるをあそこに連れてきたんだ。オレと出会うように)

桑田  (なんのために?)


うぷぷぷぷ……


桑田  「っ、!?」バッ

桑田  「……は、ははっ……幻聴かよ……ん」

真っ二つになったテーブルに、小さい血文字。


『レイゾウコ』


どくん、と心臓が高鳴る。少しだけ開いた冷蔵庫のドア。手をかける。冷たい空気が漏れてくる。


桑田  (ダメだ、やめろ、開けるな!!)


ガチャッ…


桑田  「……あ……?」


『Welcome Home Komaru!!』


冷蔵庫の奥の壁に、デカデカと書かれた血文字。


桑田  「お、おじさ……おば、さん……」ガタガタ


二人はたしかに、そこにいた。
その目はうっすらと開いて……オレを見てはいなかった。


灰色の肌、パサついた髪、うつろな瞳、半開きの口、乾いた血……


桑田  「あ……」


だって、冷蔵庫の中の二人には、首から下が、なかった。


桑田  「う、あっ……あ゛っ、あぁあぁあああっっ!!!!」


叫んだ瞬間、ごろっとおじさんが転がり落ちた。


桑田  「ひっ!!?」ガタガタ

桑田  「、も、もうっ……やめろ、やめてくれよぉぉぉ!!!」


_______

桑田  「…………」

桑田  「………あ?」


気がつくと、オレは外にいた。前にも、こんなことがあった気がする。

……そうだ、舞園を殺した夜だ。

気がついたら、舞園が死んでいて……頭はふわふわして、だけど血の匂いも、ぬめる両手も、現実味があって。

桑田  「おじさん……おばさん……」

右手に帽子を握りしめて、地面にうずくまるオレの耳に、かすかな悲鳴が届く。


桑田  「この声……こまるか!?」

苗木の家じゃない。ずっと遠くから聞こえた。

桑田  「……こまる……」


『だからね、怜くんが"つかまれ"って手を差し伸べてくれた時……すごく、うれしかったんだ』

『ありがとう』


桑田  「……ちゃんと、償うから……」ヨロッ

桑田  「だから、今だけ……お前を助けさせてくれよ、こまる……」


人殺しの手でも、差し伸べることだけはできるから。

______________


花音  「ハアッ、はあっ……たしか、こっちの方に……」

花音  「……こまる」


すべり台も砂場もめちゃくちゃに壊された公園の中、たった一つだけ残ったブランコに、
こまるは座っていた。ゆっくりと顔を上げて、「花音ちゃん」と呼ぶ。


花音  「……ごめん」

こまる 「なんで、あやまるの」

花音  「私、全然分かってなかった……こまるがどんな気持ちで、今、生きてるのか……
     コロシアイに負けたのは……あの人たちが死んだのは……弱いからだって……そう思ってた。
     仕方ないことなんだって、そう思いこまなきゃ」ぽろっ

こまる 「……」

花音  「自分がッ、辛かったから……!わ、私……こまるの気持ちより、お兄ちゃんと自分の方が、大事だった……!」ぽろぽろ

こまる 「ちがうんだよ、本当に……花音ちゃんが、苦しむことじゃないんだよ」

こまる 「私……ずっと、考えてた。今ごろ、桑田さんは、どうしてるんだろうって。
     苦しんでいるのかな、悲しんでいるのかな、それとも、なんとも思ってないのかな。って」

こまる 「でも、私がそんなことを考えてる間も……あの人はずっと、すぐそばで苦しんでいたんだおyね」

こまる 「……あの人と、お兄ちゃんたちに、どんな違いがあったっていうのかな。……きっと、ないんだよ。
     お兄ちゃんも……ううん、15人みんな……"それ"を選ぶ可能性を持っていたんだ。
     だからっ……あの人にすべての罪を押しつけて、憎みたくない!
     分かってた、分かってたのに!」

こまる 「憎しみが、止まらなかった……!裏切られたって、思って……目の前が、真っ赤になって……!」


泣き出したこまるを、私はそっと抱きしめる。
今度は、突き飛ばされなかった。


花音  「こまる……これだけは聞いて。お兄ちゃんはね」

こまる 「花音ちゃん、危ない!!」

花音  「――えっ?」


振り返った先にいたのは、鉄パイプを振りかぶる男だった。



桑田  「……い、おい……」

桑田  「おい、花音!!」


ああ、お兄ちゃん。来てくれたんだ。


桑田  「しっかりしろよ!……ここで、何が」


ごめん、こまる、守れなかったよ。

ともだち、なのに。


桑田  「……何だって?……聞こえねえよ、花音!」


あー、頭痛い……でも、なんか……いい気分……

だってね、『花音ちゃん』って呼んでくれる友達……初めて、だったんだ。

だから、私……


桑田  「やめろ、目ェ閉じんな、花音!……かのん、花音!!」


ねえ、レオンお兄ちゃん。


花音  「ごめ、ん……ね……やく、そく……まも、れな……」

花音  「まも、る……って、いった……の、に……おにいちゃん、の……こと……」


ずっと、ずっと、ずっと。

たとえ世界中がお兄ちゃんを非難しても、私は絶対、レオンお兄ちゃんの味方だよ。


花音  「おにい、ちゃ……」


だいすきだよ、レオンお兄ちゃん。


__________


切ります

Welcome home=おかえり。
長い時間家を空けた人への表現。


もしかして桑田が生きたからその分の不運が花音に来た?

こまる見ちゃったのか…?


>>89

刺されていたら桑田は助けに行けないので、こまるは……

>>90

こまるは見てません

____________


桑田 「……花音?」


頭から血を流した花音は、ぴくりとも動かない。


桑田 「花音、……おい、花音、目ェ開けろよ、花音……なあ」ユサユサ

桑田 「……」


ああ、そうか。

13人も殺したクズが、普通の人間みたいな顔して生きようとしたバチが当たったんだ。

胸のあたりが、すっと冷たくなった。


桑田 「……やってやる」


花音の手に握られたスタンガンを、自分のポケットに入れる。

花音を殺して、こまるを誘拐して、何がしてーのかは知らねえ。興味もねえけど。


桑田 「おまえ、あいつのこと好きだったもんな。オレが代わりに助けに行ってやるよ」

桑田 「人殺しにふさわしいやり方でなァ……!」


握りしめた手のひらに、爪が深く、食いこんだ。


_____________


見上げれば、電波塔のアンテナ。見下ろせば、ガレキと廃墟に変わった街。
小さな足場に、両手を縛られて布を噛まされた私と、三人の男がいる。


「本当に、グズなやつだな!豚の方がまだ使い道あんぞ!!」


太った男の人がツバを飛ばして怒鳴る。


「おい、あんまり興奮すんな。もうすぐ受け渡しの時間だぞ」


もう一人がなだめたけど、効果はないみたいだ。


「俺は二人ともさらって来いつったろ!!数字も分かんねえような知恵遅れなんて、
 絶望したって反吐の役にもたたねえんだよ!……おい、聞いてんのか!!」

怒られてるのは、背の低い男の人。

ハァハァとよだれを垂らして私を見ている。


「きれいなお肉だね……肌もぷりぷり、産毛がうっすら生えてるのも高ポイントだよ……ねえ、
 ちょっとぐらい削ってもいいかな?いいよね?」ハァハァ

「おい、そいつは"愛玩用"だ、手ェ出すんじゃねえぞ」

「こーんな可愛い子が、元の形すら分からない料理になるなんて……指一本でいいから食べたいなあ!」ベロォッ

こまる 「ううっ…!」ぞわあっ

「腸間膜をペリペリーッてはがしてあげようか?靭帯をカリカリに揚げて塩で味つけしようか?それとも眼球をえぐった
所に君の内臓で取った熱々のスープを注いであげようか?」ハァハァ

「この世からサヨナラしたくなけりゃ、しばらく寝てろ!!」ドカッ


私のほっぺたを舐めていた男が蹴られた。

理不尽な暴力の連続に、背筋が震える。


「つーか、こいつにそこまでの商品価値があんのか?」


こまる (商品価値……なに、私のことを言ってるの?)


「胸はそこそこあっけど、んな綺麗な顔じゃな。泥水に顔突っこんだ事のねえガキなんざ相手にされねえよ」

「こういうのが好きな変態だっていんだろ。無理なら食肉に回せばいいだけだ」


こまる  「!!」

こまる  (今、この人……食肉って……)ガタガタ


「ま、愛玩用は早めにペケつくからな。どっちみち最後は肉か、実験用か……」

「爆弾にくくりつけてトランクに突っこむってのもあんぞ」

「あー、早いとこ金貯めて、んな商売とはオサラバしてえなァ」


何を言っているのか、よくわからないけど。
私が殺されるってことは分かった。


こまる (花音ちゃん……どうなっちゃったんだろう……)


モノクマのお面をかぶった人たちに袋叩きにされた花音ちゃん。

あっという間だった。止めることもできなかった。


『逃げて、こまる!!』

『逃げなさい!!』

必死に立ち向かう花音ちゃんの背中が、お母さんと重なった。


こまる (私ッ……やっぱり、何もできなかった……友達が殺されたのに、立ち向かうこともできないで……!!)ぽろっ

こまる (ごめん、花音ちゃん……こんな弱い私で……ごめんね……)

こまる (私が、もっと……強ければ……!)


ギュッと目をつぶった瞬間、私の耳に、階段を駆け上がる足音が届いた。


ギイッ…


こまる 「……!!」


入ってきたのは、桑田さんだった。帽子を目深にかぶって、ドアから半分顔を出している。


桑田  「あ、あ……あの…ぼ、ぼく……」オドオド


「おせえぞ。"商品"ならそこだ、持ってけ」

「見ねえ顔だな、初めてか?」


桑田  「は、はい……あ、ぼく、知らな…えっと…」


「なんだ、喋れねーのかこいつ?」ハハハ

「頭足りねえんだろ、いじめてやんなよ。おいガキ」


ドスッ


「……あ……?」ボタボタ


太った男の腹に、深々と突き刺さった包丁。


桑田 「……なあ、お前ら、人殺したことねーだろ」


刃が引き抜かれる。勢いよくふき出した血が、視界を真っ赤に染めた。


「ひっ……ひいっ!」


桑田 「オレはあんぜ」 


腰を抜かしたもう一人の肩を、桑田さんの足が押す。


桑田  「だからっ、大人しく死ね!!」


――ぐしゃっ。


人間の、潰れる音がした。



桑田  「こまる、無事か……「危ない!!」


そこで、蹴とばされていたもう一人が目を覚ました。
血まみれで倒れている仲間を見つけると、桑田さんの胸倉をつかみ上げる。


桑田  「ぐっ……!」


「おま、おまえェェェ!!何をしてんだぁぁぁ!!!」ギリギリ


首を絞めあげられて、桑田さんの足がわずかに宙に浮く。


桑田  「に、にげ……ろ、こま、」

こまる 「あっ……、あ、あっ……!」ガタガタ

桑田  「オメー、はっ……生きろ……!ぜった、いっ……に……」


焦点の合わない目で、叫ぶ男。桑田さんの腕が、だらんと垂れ下がる。


こまる 「いっ、嫌だ……逃げるなんて、嫌だよ……」
 

呆然と見つめる私の指先に、冷たいものが当たった。


こまる 「あっ……」


……血がべっとりついた、包丁だ。

次に、動かなくなった死体が見えた。


こまる 「はあっ……はあーっ、ハアーッ……」


こまる (ここで逃げたらいつか、私もあんな風に死ぬんだ)


こまる (その時はもう、守ってくれる人なんかいない)


今度こそ、たった一人で。


こまる  「たっ……闘わなきゃ……」ガタガタ

こまる  「勝たなきゃっ……生きられない……」


縛られたままの両手で、包丁をつかむ。
カタカタと震える刃先を、男の背中に向けた。


こまる 「やらなきゃ……生きるために……!」


――そうだ。

初めからずっと、分かっていたじゃない。


『殺されるわけには、いかなかったんだよぉ!!!』


こまる (強い者が、弱い者の命を食べて、生きていく)


脳裏に、腹から血を流す舞園さんが浮かぶ。


こまる (私が見て見ぬふりをしてただけで、それは当たり前のことだったんだ)


プレス機に潰されたお兄ちゃんが思い出される。


こまる (闘え……)


こまる (闘え……)


頭のどこかに、ばちんっと電流が走る。初めての感情に、私の中の何かが砕け散った。


――闘え!!!


視界が、一気にクリアになった。


こまる 「――ッ、あ゛、あああぁあァああッッ!!!」


雄たけび。踏みこんだ足。振りかぶった包丁。


刃先が、男のうなじに食いこんだ。

_____________


桑田  「…………」

桑田  「……こまる?」ハッ


また、意識が遠くなってた。何かあったかいものに包まれてる。
それがこまるだと分かるまで、数秒かかった。


こまる 「……怜くん、私……私ねっ……ちゃんと、選んだよっ……!」


泣いてるこまるの向こう側、めった刺しになった男が、倒れてる。

オレもこまるも、返り血でグチャグチャで、床に転がった包丁はボロボロになってた。


桑田  「なん、で……」


喉が痛え。

言わなきゃなんねえ事が沢山あるってのに、なんで声が上手く出ねえんだ。


こまる 「怜くん。私は絶対に怜くんを赦さないよ」


目線をしっかり合わされて、思わずたじろぐ。


こまる 「だって、怜くんが生きているのは、お兄ちゃんたちが死んだからでしょ。
     13人の血が、肉が。取って代わったその体を」


心臓の上に、手が置かれる。


こまる 「殺(ゆる)してあげるわけにはいかない」

桑田  「こま、る」

こまる 「だから、一緒に作り直そうよ。私たちがなくしたものを。
     友達も、家族も、居場所も。
     だって私も、独りぼっちだから」

桑田  「……今さら、どうやって生きてけばいいんだよ」

桑田  「オメーは簡単に言うけどよぉ……オレにはもうっ、なんも残ってねえんだよ!!」

こまる 「それは違うよ!」

こまる 「違う……怜くんはまだやり直せる。ううん、最初から何もなくしてなかったんだよ。
     だって、私を助けてくれた。私に生きる意味をくれた」

こまる 「だから、一緒に生きていこう」


差し伸べられた血まみれの手は、泣きたいくらいあったかかった。

___________


江ノ島 「あーあ、やっぱ桑田はダメだったかぁ」


「苗木の妹も覚悟決めちゃったし。つまんなーい」

「せっかく出会うように仕向けてあげたのになぁ」

「絶望の化学反応を起こしてくださるのを期待したのですが……」


江ノ島 「は?何言ってんの?アタシが言ってんのはさあ、"希望は前に進むんだ!"的な?
     そーんな反吐が出そうなくらい健全な展開になんなかったことに対してだっつーの!」


「まっさかよォ、罪悪感と生存本能を免罪符にして絶望に落ちるなんてなー」

「まったくじゃあ!!どこまでも清く生きるか、潔く命を絶つか、それこそが"希望"と言えるじゃろう!!」


江ノ島 「うん、うん。だからさ、またすぐに会えるよ」

___________



桑田  「よっ……と、こんぐらいでいいか」バシャッ

こまる 「……」スッ

桑田  「オレがつけるか?」

こまる 「ううん、私がやる」シュッ

こまる 「お父さん……お母さん……ばいばい」


ゴオッ…


こまる 「これで私たち、放火の前科もついちゃったね」

「未成年だから、大丈夫かな」と呟いたこまるは、すぐに「あ、私たち殺人もあった!」とアンテナを立てる。

桑田  「まさか苗木ん家に火ィつけることになるなんてなぁ……」

こまる 「……お父さんとお母さん、これでちゃんと天国に行けるかな」

桑田  「いい人たちだったから、たぶんな」

こまる 「花音ちゃんも一緒でよかったのかな?」

桑田  「一人増えるくらい大丈夫だろ。子供好きな人たちだったし」

こまる 「だね。もう一人娘ほしかったーって言ってたから、たぶん喜んでくれるよ。
     ……これからどこに行こっか」

桑田  「さあな。とりあえず歩こうぜ」

こまる 「うん。……ねえ怜くん、手ぇつなご?」

桑田  「嫌だ。あと足元」

こまる 「わあっ!」ずるっ

桑田  「……学習しろよ、おまる」

こまる 「こ・ま・る!……あっ、向こうに人いるよ」

桑田  「おいおい、なんか機関銃的なモン構えてんぞ。しかもこっちに向けてやがる」

こまる 「話は通じるかな?」

桑田  「両手上げてみたけど、無理っぽいわ」

こまる 「じゃあ」

包丁を取り出したこまるは「やりますか」と前を向く。

桑田  「やるしかねーな」

オレも鉄パイプを取り出して、握りしめた。

_________


江ノ島 「自分の中に芽生えたのが"絶望"だって気づいた時……あいつら、どんな顔するのかな?」くすくす


「うっひょー!!想像するだけでアタマがフットーしちゃうっすー!!」

「ふゆうぅ……その時は解体の手順を手とり足とり……えへへぇ…」にこにこ


江ノ島 「だからそれまで、"迷える子羊"を探して遊ぼっか。どんな時代でも人間は、破滅に向かって歩く生き物なんだからさ。
     ある意味で桑田もこまるも、"正しい人間"なのかもよ?」

_________


こまる 「ねえ、怜くん」

桑田  「んー?」

こまる 「この体、大事にしようね」

桑田  「……どういう意味だよ」


そうだ、こまるのおかげで分かったんだ。

オレはまだ終わってない。可能性は残ってる。

もう何も、怖がんなくていいんだ!!


桑田  「あー、今日もいい天気だよなァ」

こまる 「そうだね」


見上げた空は、灰色の雲に覆われていた。



ED:PSYCHEDELIC LOVER

ひとまずこれがEDになります。
こまるに刺し殺された場合は、因果応報だけど桑田的には満足して死ねるEDでした。


パ ロ ネ タ の 平 和 は 終 わ り だ

というわけで、続き。

_____________


桑田  「……で」

桑田  「どこ行きやがったんだおまるのヤロー!!!」


花音を埋めたオレは、とりあえず地面を観察した。

ヘンゼルとグレーテルみてーに、なんか落としてってくれてるのを期待してだ。

結果、なんもなし。


桑田  「くそ、手がかりナシかよ……どーやって探せってんだ?」


フツーの発想だったら、探偵とか、交番とか?

どっちも役立たずだ。


桑田  「つーか、こまるなんか連れてって何の役に」


瞬間、頭ン中に電流が走った。

誰が、じゃない。

何のために、こまるが必要なのか、だ。


桑田  (肉にして食っちまうか、クスリの実験台にするか、人間爆弾にするか。花音からこの三つは聞いてた)

桑田  (でも、あいつはそこそこ顔もいいし、胸もでけーし、"そっち"だろーな)

桑田  (……胸クソ悪ぃ)


<うぷぷぷぷぷ……


また、あの声が聞こえた。

どっから沸いて出やがったのか、振り返った先にいる。


桑田   「ハナッからオメーの計画通り、ってわけかよ」

モノクマ 「やだなあ、ボクはただ"見てただけ"だよ。何もかも、君自身が選んでいるんじゃないか」

桑田   「んじゃ、こまるが連れてかれた場所も知ってんだな?」

モノクマ 「教えてあげてもいいけど、君はどうするつもり?
      ……ハッ!まさか"命を助けた借りは体で払え"って!?そんな不純異性交遊はこのモノクマが許さーーん!!」

桑田   「……もういい。オメーに聞いたオレがバカだった」

モノクマ 「いつ捨てるの?今でしょ!」

桑田   「とっくに捨ててるしそれはやんねーぞ」

モノクマ 「ショボーン……よく考えると、こまるさんが同意した時点で和姦になっちゃうよね……」

桑田   「まずテメーの発想にガッカリしろよ。オレもう行くかんな」

モノクマ 「あ、そっち逆方向だよ?」

桑田   「…………」


_______


世界が壊れても、人間の欲望っていうのはあんまし変わんないらしい。



桑田   「なんだ、ここ?」キョロキョロ

モノクマ 「オトナの遊び場……分かりやすく言えばスラム街だね。トシマ区一番のにぎわいだよ」

桑田   「……肉がぶら下がってんぞ」

モノクマ 「あんまりノロノロ歩いてると桑田くんも吊るされちゃうかもよ?ここは古い肉でも
      平気でソーセージにして食べちゃうからね!」

桑田   「ハデなおねーさんがいっぱいいるし」

モノクマ 「ミネラルウォーター1本で遊べるよ?」

桑田   「冗談じゃねーよ」

モノクマ 「あ、そっか。君、舞園さんと……」

桑田   「黙って、ろ!」ギリギリ

モノクマ 「いたたたた!!学園長へのっ、暴力は、校則いは「卒業したから無効!」オマエラに動物愛護の精神はないのかー!!」ジタバタ


歩くテディベアは目立つし、うっかりすると踏みつぶされそうになる。

(オレは別にこいつが壊れてもいいけど)

道案内がいなくなるのは困るので、抱えて持ってく。


ふわっ。


桑田   「……なんか、すげー変な匂いすんな」


道路に集まって、パイプを吸ってる奴らがいる。

煙の中を歩くうちに、頭がぐらぐらしてきた。

目の前で火花が散って、空がきらきらして見える。


モノクマ 「うぷぷぷ、あれはね、"世界の希望"にはふさわしくないものだよ。現実から逃げたいションボリボーイにおすすめの……」

桑田   「なんかやべえ!ダッシュだダッシュ!」ダッ


走ってその場を離れると、道路がカラフルな色に染まっていた。


桑田   「あ……?なんだこれ、アートってやつ?」

目をゴシゴシこするオレの前に、モノクマがぴょんっと飛び下りる。

モノクマ 「ボクはね、キミの中にある絶望と希望のどちらが勝つのか見たいんだ」


ああ、モノクマがなんか言ってる。

耳がキーンッてなって、わかんねー。


モノクマ 「キミはたしかにあの時、希望を手にしたつもりだったね。
      果たしてそれが、絶望へ変化することがないと言い切れるのかな?」


裏路地に入る。階段を下りる。

足はふらふら、目の前に、ドアが。


苗木  「こまるを助けるというのは、知った上でのことなのかな」


モノクマが消えて、苗木が現れる。


苗木  「僕たちの血肉がそっくり取って代わった君の肉体が持つ、融合作用のことを」

桑田  「なに、言ってんだよ……苗木。分かんねえよ……」フラッ

苗木  「君はね、僕たちの死が織りなす永久に不変のリバイバルなんだ。だからこそ君は生きることを
     諦めちゃいけない。そのために罪を重ねることを怖れる必要もない」

苗木  「そう。僕たちはいつも君のそばにいる。それだけは忘れないでほしいな」

苗木  「そろそろ目覚める時間だよ。さあ、扉を開けて」


ギイッ…


桑田  「……!!」


視界がクリアになって、体が軽くなる。

同時に、真っ暗な中に人が集まってるのが見えた。


「ひっ……!」

「だ、だれ……」

集まってる女の中に、アンテナを見つけてホッとする。


桑田  「こまる!」

こまる 「……なんで、ここが」

桑田  「ケガしてねーか?なんもされてねーか?……話は後だ、出んぞ」

こまる 「――!」ヒュッ


息を呑んだこまるが、真っ青な顔でオレの背後を指さす。

振り返った瞬間、視界が真っ赤に染まった。

________

いったん切るよー

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