士郎「……俺は、偽物なんだ」 (176)

「……素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

ーー冬木市、衛宮邸。かつて"爺さん"が住んでいた家であり、衛宮士郎が暮らす家。そしてここは、現在は主に魔術の鍛錬を行っている土蔵。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

自分は今、聖杯戦争に参加するためにサーヴァント召喚の儀式を行っている。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。?繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

事前に用意できたのは即興の魔法陣のみ。できれば何かの触媒も欲しかったが、時間にあまり余裕がなかったので仕方ない。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。?聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

魔法陣に魔翌力が集中するのが感じられる。
いよいよだ。いよいよ、この狂った運命を覆すための戦争が始まる。

「誓いを此処に。?我は常世総ての善と成る者、?我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、?抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

魔法陣の中心から眩いほどの光が放たれ、思わず目を腕で隠す。
どこからともなく強い風が吹き、その勢いに後ずさりをしてしまう。
…光と風が収まったのを確認し、改めて目を魔法陣の方にやると、その中央には何かがぼうっと浮かんでいた。
その姿はーーー

「謂われはなくとも即参上。軒轅陵墓から、良妻狐のデリバリーにやって参りました!」

……巫女装束、だろうか?何やら露出の多い和服を身に纏い、獣耳と大きな尻尾を付けた女性だった。

「…あ、なんかドン引きしてません?えーっと、貴方が私のご主人様…ですよね?」

その言葉にはっと我に帰る。
そうだ、彼女とはこれから先共に闘っていかねばならないのだ。見た目なんかに困惑してはいけないし、何より彼女に失礼だ。

「ーーああ、俺がお前のマスターだ」

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【聖杯戦争1日目:開始】


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

『ーー近頃、冬木市内では通り魔事件が相次いでおり、警察が住民に警戒を呼びかけています。被害者はこの一週間で4人に及んでおり……』

「なーんか、最近物騒よねー」
そう言いながらご飯を口の中に放り込んでいくのは、クラスの担任である藤村大河。士郎にとっては姉貴分でもある。

「藤ねえ、食べながら話すのは行儀が悪いって……」

学校ではしっかり者の教師として人望を集めているのだが……ここだとご覧の通りだらけまくっている。オンとオフの差が激しい人だ。

「なーに、士郎?いつの間に私に指図出来るような立場になったのー?」
「いや、別に指図とかそういうわけじゃ……」
「大体ねぇ、私は士郎がちゃーんと成長するまで親代わりをするって切嗣さんに誓ったのよ?だから毎日様子を見に来てるっていうのに、それを士郎ったら…」

申し訳ないが、そんな事情は知らない。
……が、ほぼ毎日様子を見に来てくれる彼女のことは嫌いではない。そもそも嫌いなら毎日のように一緒に朝食を食べてないし。

「…ってあー!もう出ないと遅刻する!テストの採点あったんだーーー!」
彼女はそう言って慌てて家を飛び出した。
朝からテンションが高いようで何よりである。

場面は変わり、通学路にて。

「藤村先生、今日は一段とハイテンションでしたね」

隣でそう言って歩いているのは、後輩の間桐桜。クラスメイトの間桐慎二の妹で、家の手伝いをよくしてもらっている。

「まぁな…」

適当な相槌を言いながら通学路を歩いていく。思えばこの道ももう慣れたものだ。
と、交差点に差し掛かった時。目の前にはあまり見慣れない風景があった。

道路を通過していく何台ものパトカー。あたりには警察官が至る所におり、よく見ると路地裏の方には「KEEP OUT!」のテープが張り巡らされている。

「何でしょう、先輩…」
「……いや、分からん」

先ほどテレビでやっていた通り魔事件の捜査だろうか?だとするなら家のすぐ近くで事件が発生したことになる。

「…まあ、あまり気にするな。桜」
「はい」

「…………」

昼。普段なら教室で弁当を食べたり生徒会室で会長の手伝いをしたりしているのだが、今日は屋上に来ている。
もちろん理由はある。今目の前で膨れっ面をしているこのサーヴァント、『キャスター』と会話をするためだ。
するためなのだが。

「あのー、『キャスター』さん?何をそんなに拗ねてるんです?」
「…だってご主人様、召喚してから私と全然話そうとしてくれないんですもん……」
「仕方ないだろう?桜や藤ねえの前で実体化させるわけにもいかないし…」
「でもでも!念話でもいいんです、もっと私にも構って下さいまし!狐は寂しいと死んじゃうんですよ?」
「なんでさ」

それを言うなら兎だろう。

「てゆーか、何なんですかあの女二人!ハーレムですか!?一夫多妻ですか!?去勢されたいんですか!?」
「分かった、分かったから!取り敢えず落ち着けって!」

閑話休題。

「で、聖杯戦争の話なんだけど…」

先ほどから言っているように、このサーヴァントはキャスター。
キャスターはスキル『陣地作成』と『道具作成』により、時間が経てば経つほど強力になるという特性を持つ。
『対魔翌力』スキルを持つ三騎士クラスとの白兵戦は苦手だが、日数が経過するにつれて十分勝ちの目が出てくるのだ。
つまり、キャスターで聖杯戦争を勝ち残るには、いかにして時間を稼ぐかが鍵になるというわけだ。

「どうする?『キャスター』が陣地作成してる間、俺も外に出ない方がいいよな?」

「……えーっとですね、その事なんですけど……」
「?」

「私、陣地作成とか道具作成とか苦手なんで……ぶっちゃけいつまでも最弱です☆」

「……マジ?」
「大マジです」
「…………」

「一応、魔術攻撃はそこそこですけど、耐久も低いんで……一発喰らったらアボンです」

……………。

……こういう時、何て言えばいいんだろうか。

「うぅっ、すみません。こんなサーヴァントで……。幻滅しましたよね……?」

「……何言ってんだよ。幻滅なんてするわけないだろ?」
「……ふぇ?」

「弱いからって『キャスター』を嫌うはずないって。だって、俺のサーヴァントは『キャスター』しかいないんだから」
「それに、ただ単に正面からの戦いが苦手ってだけだろ?そんなのは戦術次第でどうにでもなるし」

「キャー!ご主人様ったらイケメンッ!」

『キャスター』は自分の言葉に感動したのか、自分の手を握ってブンブンと上下に振っている。耳と尻尾もせわしなく動いていた。
少々オーバーリアクションにも見えるが、サーヴァントが友好的なのは喜ばしいことだ。


その後、大雑把ではあるが今後の方針を決めた。

基本的には周りに不信感を抱かれないためにも普段通りに学校に通うこと。ただしアサシンの対策のため霊体化した『キャスター』が常に共に行動すること。

基本的に夕方、もしくは夜間に探索を行うこと。

そして、可能な限り不意打ちを狙うこと。複数のサーヴァントが戦っているときに漁夫の利を狙えればベストだ。

「じゃあ、こんな感じで。よろしくな、『キャスター』」
「はい!もちろんです、ご主人様!」

こんな感じで進んでいきます。
今更ですが、これはFate/staynightのSSです。
キャラ崩壊・原作設定からの乖離などがあります。ご注意ください。
あと遅筆です。ちまちま書き溜めながら進めていきます。今日はこれだけです

ーー午後3時。

「……どうだ、衛宮?直りそうか?」
所変わって生徒会室。生徒会長でクラスメイトの柳洞一成に頼まれ、画面が真っ暗なブラウン管とにらめっこしている。

「前々から不調ではあったんだが、この度天寿を全うしたらしくてな」
「あのなぁ……さすがに天寿を迎えた機械は直らないぞ?」
「そうか……無理を言ってすまない」

「……一成、俺のロッカーから工具箱をとってきてくれるか?」
「え……ということは…!」
「多分まだこいつは、現役で戦えるさ」
「おお…忝い!」

「ご主人様、なんで無関係なあのメガネの手伝いなんかしてるんですか?」
柳洞一成が先に帰った後、一人で作業をしているところに『キャスター』がふと語りかけてきた。

「いや、別に?あいつは友達だし、これも単なる趣味だ」
かく言う自分は、絶賛修理に苦戦中だ。
思ったより複雑なところで回線がこんがらがっている。これは下校時間ギリギリまでかかるコースかもしれない。ーー午後3時。

「……どうだ、衛宮?直りそうか?」
所変わって生徒会室。生徒会長でクラスメイトの柳洞一成に頼まれ、画面が真っ暗なブラウン管とにらめっこしている。

「前々から不調ではあったんだが、この度天寿を全うしたらしくてな」
「あのなぁ……さすがに天寿を迎えた機械は直らないぞ?」
「そうか……無理を言ってすまない」

「……一成、俺のロッカーから工具箱をとってきてくれるか?」
「え……ということは…!」
「多分まだこいつは、現役で戦えるさ」
「おお…忝い!」

「ご主人様、なんで無関係なあのメガネの手伝いなんかしてるんですか?」
柳洞一成が先に帰った後、一人で作業をしているところに『キャスター』がふと語りかけてきた。

「いや、別に?あいつは友達だし、これも単なる趣味だ」
かく言う自分は、絶賛修理に苦戦中だ。
思ったより複雑なところで回線がこんがらがっている。これは下校時間ギリギリまでかかるコースかもしれない。

「……ま、正義の味方に憧れてたからな。このくらいのことはして当然だ」

「おおー、正義の味方ですか。さすがご主人様、夢が大きいですね!」

「いや……俺は所詮、偽物だから。本物にはどう足掻いてもなれないさ」
「偽物、ですか?」
「……あぁ。俺がやってるのは正義の味方の真似っこにすぎない。こんなの、本物に比べたらおままごとレベルだ」

自分の言葉への返事に困ったのか、沈黙が続く。しばらくして、『キャスター』が口を開いた。

「……でもでも、今はご主人様のおかげであのメガネが助かってます。間違いなく、ご主人様は正義の味方ですよ!」

「……ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しい」

午後7時。
結局、下校時間ギリギリどころか完全にオーバーしてしまった。すっかり日も落ち、夜の闇が街を包んでいる。

「んじゃ、帰るぞ『キャスター』……どうした?」
「……ご主人様、サーヴァントです。それも2体」
「……っ!」

『キャスター』からの報告に、思わず気が張ってしまう。戦争は既に始まっているのだ。

「……場所は?」
「そんなに遠くない、というか学校内っぽいですね。方向は……」

キャスターが言い終わるより早く、激しく金属音が鳴り響く。音が聞こえてきた方向は、学校のグラウンドの方だ。

こういう時、どう行動すべきだろうか。

「ご主人様、どうします?とりあえずは様子見ですかね?」
「……そうだな。とりあえずグラウンドの方に行ってみよう。一応、少しでも気配が悟られないように霊体化して」
「はい、了解しました!」

「はああぁぁっ!」
「フっ!せやっ!」

グラウンドのフェンス付近に着いた時には、戦闘はさらに激しさを増していた。鎧を着込み金髪を後ろで束ねた女性と、和服に身を包んだ侍のような男が切り結んでいる。
……しかし、奇妙なのは女性の武器だ。彼女は剣でも槍でもなく、旗を武器に戦っているのだ。

「なるほど……その刀捌きと立ち振る舞い、お見事です。日本の侍よ」
「得物が旗であってもその腕前。『セイバー』、其方からの賛辞、有難く頂戴する」

自分がここまで到着するのにかかった時間も考慮すると、既に切り結んだ回数は二十では足りないだろう。事実、彼らの戦場であるグラウンドの一部は土が大きく抉れている。
しかし一方で、彼らにはまるで疲れた様子もなく、汗の一滴も垂らしているようには見えない。

(これが、サーヴァント同士の戦い……)
人智を超えたその戦いに、息を呑まずにはいられなかった。

戦闘は続いた。
『セイバー』が攻める。侍のサーヴァントが受け流し、反撃を試みる。『剣士の英霊』が急激に加速し、体制を立て直す。
戦局はまさに膠着状態で、両者一進一退の接戦だった。思わず魅入ってしまうが、今はそれどころではない。
自分は観客ではなく役者なのだ。今は偶然出番がないだけで、いつ表舞台に上がることになってもおかしくない。

「……なあ『キャスター』、あの侍のクラスは何だか分かるか?」
「あれ?マスターにはサーヴァントの能力が見れるんじゃないんですか?」
「いや、この距離だと流石に厳しいみたいだ」
「そうですか……すみません、私にも正確には分からないです。ただ、消去法で考えるとアサシンじゃないかなーって」

日本刀を武器に戦っている時点でランサー、アーチャー、キャスターは除外される。また、普通に会話が出来ているのでバーサーカーでもないだろう。
一番可能性がありそうなのはセイバーだが、女性の方が即ちセイバーなのでこれもあり得ない。
となると最有力候補はアサシン、次点でライダーといったところか。

どちらか片方だけでも真名が分かれば理想的なのだが……旗を武器に戦った女性の英雄なんて、果たして存在しただろうか?

「……む?」
突然、侍のサーヴァントが動きを止めた。負傷を負ったのかと思ったが、そうではなさそうだ。まるで、何かの気配を探しているかのような……。

「『セイバー』よ、ここまでにしておく。どうやら我らの戦いを盗み見する輩がいるようだ」

「っ!」
その言葉が聞こえた途端、全速力で逃げ出した。もし今襲われたら、こちらに勝ち目があるとは思えない。相手は三騎士である『セイバー』と互角の打ち合いをしていたのだ。

例え侍のサーヴァントだけなら対処出来たとしても、最悪の場合『セイバー』も同時に相手にしなければいけないかもしれない。可能性は薄いとはいえ、そうなってしまっては万に一つも生き残れまい。

「キャスター、いつでも戦闘出来るように準備しといてくれ」
『はいっ!』

「もし彼が無関係な人間だとしたら、これ以上戦いを続けるのはいかがなものかと思うのだがな」
「……マスター。指示を」

『セイバー』のマスター、遠坂凛はしばらく悩んだのち答える。
「……構わないわ。ただ、一つだけ条件がある」
「ふむ?」

「『アサシン』、貴方は目撃者を殺さないで。人が残ってるのに気付かなかったのは私の落ち度だから、責任は私がとるわ」

魔術師たるもの、神秘は秘匿しなければいけない。そのためには、一般人の目撃者は殺すしかない。
そんなことは百も承知だし、この決断が心の贅肉なのも分かっている。
ただ、自分のせいで無関係な生徒が犠牲になることがどうしても許せなかった。

「なるほど、承知した。では失礼するとしよう」
そう言って、『アサシン』…佐々木小次郎は姿を消した。

「マスター、どうするんですか?」
戦闘終了後、『セイバー』が尋ねてきた。

「そうね……兎に角、明日目撃者に直接聞くしかないわね。今から追っても間に合わないでしょうし」
「はい…。けど、その目撃した人が誰か分かるんですか?」

「ええ。一応、心当たりがあるわ」
足跡がした方を振り向いた時、一瞬だけ見えた短髪の赤毛。そもそも、こんな時間まで学校に残っているという時点で候補は限られているのだ。
あまり他の生徒と関わらない私の耳にも、否が応でも彼の噂は入ってくる。頼まれたことは断らない、学校の便利屋。きっと、今日も生徒会か何かの手伝いをしていたのだろう。

「衛宮くん。きっと彼に違いないわ。明日、朝一で確認しましょう」

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【聖杯戦争1日目:終了】


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本日の投下は以上です。

サーヴァントは色々ごちゃ混ぜにしてます。マスターはだいたい五次準拠です。もしかしたら五次にいないマスターも出るかもしれませんが

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【聖杯戦争1日目:開始】


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※訂正

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【聖杯戦争2日目:開始】


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結局、他のサーヴァントからの襲撃はなかった。上手く巻けたのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
なので、今日も学校に普通に登校することにした。今日は一人での登校だ。

『一人じゃないですよ、ご主人様♪』
「いや、ナチュラルに心の声読むのやめてくれないかな」

訂正。『キャスター』と二人での登校だ。

昨日の時点で、『セイバー』とアサシンらしきサーヴァントの存在は確認出来た。となると、残るサーヴァントはアーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカーの四騎だ。
アーチャー以外の三騎は基本的に白兵戦を得意とするサーヴァント。それらが互いに消耗しあってくれればベストだ。残った方を『キャスター』が仕留めればよい。

そうなると、問題はアーチャーだ。(多分)遠距離狙撃が可能であるアーチャーをどのように発見するか、前線に引っ張り出すかが課題になるわけだが……

「ねえ、衛宮くん」
そんな事を考えている時、突然声をかけられた。気付けばもう校門の前だ。

声をかけた主が誰かはすぐに分かった。

「遠坂……さん?」
遠坂凛。才色兼備、文武両道。文句なしの優等生で、学園のアイドル的存在だ。
別に衛宮士郎と同じクラスじゃないし、特に接点もないはずだが……

「えっと、何か用か?」

彼女は少し悩む素振りをした後、こう答えた。

「……あなた、マスターなのね?」
「!?…マスターって、何のだよ」
「とぼけても無駄よ。貴方がそばにサーヴァントを霊体化させてることは分かってるわ」

『ご主人様、間違いありません。あの小娘のすぐそばにサーヴァントの気配があります』
「…ああ。遠坂もマスターなんだな」

「で、何の用だよ」

「そうね……もし貴方が私たちの戦闘を目撃しただけの一般人だったら口封じをしてたところなんだけど」
『口封じ』って、最悪殺されたんだろうか。恐ろしい。

「ま、宣戦布告ってところね。日中の学校ではさすがに戦わないけど、そうじゃない所で会ったら容赦しないから」
そのまま彼女は手を振りながら去っていく。自分にはその背中を黙って見ることしか出来なかった。

『……よろしかったのですか?彼女と手を組む選択肢もあったのでは……』
「あぁ…それも考えたけど。向こうにメリットが無いから、どうせ乗らないと思ってさ」

先ほど、彼女は『私たちの戦闘を』と言っていた。ということは、彼女は『セイバー』か『アサシン』のマスターだということ。
昨日の戦闘からして、どちらも強力なサーヴァントだ。きっと、向こうは単騎でも戦えるだろう。であれば、自称最弱のサーヴァントである『キャスター』と同盟を組む必要はない。

「ま、焦る必要はないさ。まだ戦争は始まったばかりだし、しばらくは様子見に徹した方がいいだろ」
そう。『キャスター』の戦力も考えれば今仕掛けるのは無謀だ。当面は敵の出方を伺うべきだろう。ひょっとしたら、その最中に同盟相手が見つかるかもしれない。

『おぉー……なるほど、流石ご主人様。素晴らしい分析です!』
「いや、そんな……このくらい普通だって」

『それはそうと、ご主人様。一つご報告しなければいけないことがありまして』
「ん、何だ?」

『どうやら、この学校に魔術的な罠が仕掛けられているみたいです。それも大量に』
「……なんだって?そんなの全然気付かなかったぞ」
『けっこう巧妙に仕掛けられてるみたいですから、違和感がなくても仕方ありません。ぶっちゃけ私にも正確にはどこにあるかは分かりませんし』
「そうか……でも、罠なんて昨日の夜には無かったはずだよな?」
『はい。つまり、これだけ大量の罠を一晩で設置したとなると……』
「……仕掛けた犯人はかなりの魔術師、ってことか」
『はい。もしくは魔術の心得があるサーヴァントですかね』

書き込み出来てるか不安だけど一応今日投下する分は終了ってことで。
動画作りと新生活の色々が忙しすぎてこっちに手を全然回せてない現状。

その日の放課後。自分は『キャスター』と共に罠を解体することにした。

「罠がもし発動したらウチの生徒や先生がみんな巻き添えになる。それだけは阻止しないとダメだ」
『くっ、イケ魂が眩しい……!……ですが、きっといたちごっこになりますよ?片っ端から解除していっても、また張り直されたら意味が……』

「いいんだよ。罠の展開を遅らせることは出来る。それに、誰が仕掛けたかが分かれば大きいだろ?」
『なるほど!罠を解除した上で張り直すところを待ち伏せするわけですね!』
「ま、そういうことだ」

話を切り上げ、意識を集中する。今いるのは屋上。ここから下へ下へと降りて罠を順に破壊するという寸法だ。

「解析、開始……っ!」

頭の中を高圧電流が流れるような感覚。脳が焼き切れそうなほどの痛みの中、違和感がある場所を片っ端から探って行く。


「……屋上には4箇所。ここから12時の方向に1つ、6時の方向に2つ、4時方向に1つかな」
「はい、分かりました!じゃあちゃっちやまと解除してきますね!」

いつの間にか『キャスター』は実体化していた。自分が言った方に駆け足で向かい、罠を丁寧に解除している。
その間に自分は精神を落ち着かせて、買っておいたペットボトルの水を飲むことにした。

魔術も小規模なものならまだしも、大規模なものやある程度高度なものを使うと体への負担が大きい。
もし校舎全体を一気に解析しようものなら間違いなく廃人になってしまうだろう。手間がかかるとはいえ、一箇所ずつ地道に調べていくしかないのだ。

「はぁ……もっと効率的に出来ればなぁ。どんなに楽だったか……」

「なーに言ってるんですかご主人様。正義の味方は泥臭くあってこそですよ!落ち込む必要はありません!」

「あぁ……そうだな。悪い、らしくなかったかもな。よし、次行くぞ!」
「はい!」


『キャスター』の協力もあって、無事校舎にあった罠は日が落ちる前に全て解除することが出来た。

「いえ……まだです。まだ、とびきり大きい罠が残ってます」
「え……?」
……いや、校舎にはもうないはずだ。それは既に全ての階層を解析し終えている。細かいのならまだしも、とびきり大きいのがあるはずがない。
となると、残る可能性は一つだけ。

「弓道場か……!」

この穂群原学園の特徴として、バカみたいに大きい弓道場がある。理事長の趣味だか何だか知らないが、この町どころか市でも有数の大きさだ。
ここは何かと縁がある場所だ。というか、何を隠そう衛宮士郎はかつて弓道部の一員だったのだ。とはいえ一年以上前に辞めてしまっているが。

こうして弓道場に足を踏み入れるのは本当に久しぶりだ。
だが、いくら久しぶりといえこの異変に気付かないほど愚鈍な人間ではない。

「これは……!?」

そこには、壁一面に書かれた膨大な量の魔術式があった。今は静かに威圧感を放っているが、ここに少しでも魔力が流れたら……考えるだけでも恐ろしい。

「『キャスター』、今すぐ解呪を……っ!?」
その時、閉めたはずの扉から突風が吹き込んできた。同時に感じたのは、『キャスター』と似たような魔力の塊。
今は舞い上がるホコリと月光のせいで姿はよく見えないが……間違いない、サーヴァントだ!


「よお坊主。死にたくなけりゃそれに触るんじゃねーぞ」

ホコリが晴れて見えたのは、青い装束を身に纏い紅の槍を手にした男性だった。ステータスを見るまでもない、間違いなく彼は『ランサー』だろう。

触るなと言われたので、大人しく壁から離れる。ふと横を見ると、『キャスター』が敵意むき出しで『ランサー』を睨みつけている。
このまま戦闘になるのだろうか。そう思っていたところに、予想外の声が聞こえてきた。

「クハッ、ハハハッ!もういい、下がっていいよ『ランサー』」
『ランサー』が霊体化し、今度は声の主が姿を現した。……間違いない、間違えようがない。彼が、『ランサー』のマスターなのだ。

「よお、衛宮」
「慎二……!」

課題レポートと動画作りとポケモンに追われながらも週一投稿のペースは維持していきたい。
今回の描写から分かるように(ぶっちゃけタイトルで分かる)このSSの衛宮士郎は原作とは大きく離れています。
何故本編からこうも違ってしまったのか。そこら辺はSSの後半で分かります。タブンネ。

【余談】
このSSから入ってくれた人がいるみたいで嬉しいです。ぶっちゃけTwitterでの身内くらいしか見ないんじゃないかと思ってたので()
もし興味があって見てやってもいいって人がいたら今日上げた動画も見てね!(露骨な宣伝)

ということで今回はここまでです。お疲れ様でした

間桐慎二。間桐桜の兄で、衛宮士郎のクラスメイト。そして、弓道部の副部長。
だが、彼が魔術師なんて話は聞いたことがないし、そんな素振りだって見たことない。

「慎二、お前……!」

お前が『ランサー』のマスターなのか?お前がこの罠を仕掛けたのか?何のために?この罠が発動すればどれだけの生徒が犠牲になる?そもそも、お前は魔術師だったのか?

言いたいことは山のようにある。だが、何と言っていいのか分からない。お前、の後の句がまるで出てこない。
自分言葉を詰まらせているのを見てか、それとも初めからその予定だったのか、彼は友人に声をかけた。

「衛宮。久しぶりに二人だけで遊ばないか?」
「は……?」
「僕の家で、さ」

彼に案内されるがままに間桐家に入り、大きなソファに座る。
外見通り広々とした部屋とは対照的に照明は薄暗く、なんとも不気味に思えた。

「……いきなりだけど、聞かせてもらうぞ。慎二、お前は魔術師だったんだな?」
「ああ、そうとも。もともと間桐の家は魔術師の家系でね、聖杯戦争のシステムや令呪を開発したのも間桐なのさ」
「そうだったのか……初耳だ」
「というか、衛宮。お前こそなんでマスターとかやってるわけ?お前が魔術師だなんて、こっちこそ聞いてないんだけど?」
「あー……まあモグリでやってたからな。いや、それはどうでもいいんだ」

話が本筋からズレそうだったので軌道修正する。無駄話をする余裕は時間的にも精神的にもないのだ。

「慎二、あの罠はお前が用意したんだろ?」
「ああ。うちの『ランサー』は魔術の心得もあったからね。で?それがどうかした?」
「それがどうしたって……!キャスターに聞いた!あれが起動すれば学校中が火の海になりかねないんだろ!何でわざわざあんなものを!」

「ほら、この学校には遠坂凛っていう生粋の魔術師がいるだろう?僕としても防衛策はとっておきたくてね」
「だからって、あんな危険なものを……!」
「衛宮も知っての通り、僕はケンカが嫌いだ。それに……僕たちは昔からの友達じゃないか」
「………っ」

違う。
今の彼はどこかおかしい。聖杯戦争という大きな戦いに参加したことで、きっと無意識のうちに狂ってしまったに違いない。
そうでなければ、あんな歪んだ顔で笑えるはずがないのだから。

「まぁいいや。今度はこっちから一つ」
「……なんだよ」

「衛宮。僕と協力する気はないか?」
「……!」

「実はマスターになったものの、いかんせんまだ不慣れでね。信用できる仲間がほしいのさ」

……。

どうするべきか。『ランサー』のマスターである彼に、学校を火の海にしようとした彼に、協力を持ちかけてきた彼に。自分は何と言えばいいのだろうか。

そろそろ書き溜めがヤバい。
今回はここまでです。

先週の件は、ほんとすみません。完全に調子乗ってました。忘れて

「……協力できる相手が欲しいのは、こっちだって同じだ。こちらこそ頼む。慎二、俺と同盟を結んでくれ」

「……はっ。さすが僕の友達だ。遠坂凛とは大違いだ」

「ただ、一つだけ条件がある」
「条件?」
「他の、無関係な生徒に被害が出るような作戦は絶対にとらないこと。これだけは必ず守ってくれ」

「あぁ、そのくらい構わないさ。僕だって、無駄な犠牲は出したくないからね」
「じゃあ、同盟成立だ。よろしくな、慎二」
「こちらこそ。ま、精々足を引っ張らないでくれよ」

慎二の軽口に苦笑しながら、握手をする。
ここに、『キャスター』陣営と『ランサー』陣営の協力関係が成立した。

霊体化していた『キャスター』は、二人のマスターを複雑そうに眺めていた。

―――――
――――
―――
――


「……旦那。やっぱあんたにゃ向いてねえよ」
「……そうか」
「旦那にこんな戦争なんざ似合わねえ。今のあんたの手は、他人の心臓を握りつぶすためのもんじゃない」
「……」

「……オレはもう降りますわ。マスターが魔術師でもなくて、願いもないんだったら、俺に戦う理由はねぇ」

「……『アーチャー』。お前は、それでいいのか?」
「あン?いや、いいんすよ。オレの願いなんてあってないようなもんっすし」

「……そうか。それなら、いい」

―――――
――――
―――
――

△▲△▲△▲△▲△▲△▲△


【聖杯戦争2日目:終了】


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【聖杯戦争3日目:開始】


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『……ご主人様。本当によろしかったのですか?』

翌日。通学路で『キャスター』が念話で聞いてきた。今日もまた一人での通学だ。

『あのワカメ、ぶっちゃけ魂がドロッドロですよ?ご主人様とは正反対です』
「……ひっどい言われようだな……」
『いつご主人様を裏切ってもおかしくないですけど。そもそも、なんでご主人様とあんなのがお友達なんです?』

「そうだな……いつからだったっけな。大分前からの付き合いだから、もう覚えてないや」
『……よくご主人様もあんなのと付き合えますね。イケ魂ここに極まれりというか』
「まあ、あいつにだっていい所はあるから。あとは慣れ、なのかな」

『で、同盟は打ち切らないんですね?』
「もちろん。というか、そんなの今更慎二に言い出せるわけないだろ」

もしそんなことを言ったら彼のことだ、十中八九逆上するだろう。
自分に当たってくるだけならまだいいが、最悪の場合ほかの生徒たちにも迷惑がかかる。それだけは避けなければいけない。

『それはまあ、そうですけど……』
「それに、俺は『キャスター』のことを信用してるからな」
『へ?』

「もし俺が慎二や『ランサー』にやられそうになったら、『キャスター』が守ってくれる。そうだろ?」
『……はい!もちろんです!このt…『キャスター』、ご主人様のために頑張ります!』

今回はここまでです。
昨日おとといはちょっと体調崩してました。更新できなくてごめんなさい。


昼休み。自分は慎二に呼び出されて弓道場に向かった。
まだ弓道場には彼が用意したトラップがでかでかと残っている。その存在感は、少しでも魔術の心得があれば近づいただけで存在を感知出来るレベルだろう。

「なあ、撤去しないのか?こっちに発動させる気がなくても、もし暴発でもしたら……」
「大丈夫だって。これは僕の指示がない限り絶対に開かないから。そうだろ?」

慎二が虚空にむかって声をかけると、「おうよ」と、どこからともなく『ランサー』が姿を現した。

「こいつらは俺の『発火』の合図がない限り絶対に作動しないようになってるからな。そういう術式なんだわ」
「そういうこと。だからこれは撤去する必要はないってわけ。残しておけば遠坂への圧力にもなるからね」

「それは……そう……なのか?」
本当にいいのだろうか。
目の前にあるのは、無関係な生徒が犠牲になりかねない爆弾だ。それを、仕掛け人が友達だからって、見過ごしていいのだろうか。

「ま、それは重要なことじゃない。今考えるべきは、どうやって遠坂を倒すかだ」
そこで、慎二は半ば強引に話題を切り替えた。これ以上の追及は難しいと考え、そちらに思考をシフトする。

「あいつのサーヴァントは危険だ。お前もこの前の戦いを見てたんだろ?」
慎二が言っているのは、校庭で侍と斬りあっていたあのことだろう。確かに、あれは人智を超えた戦いだった。
「ああ、しかもそれだけじゃない。あいつはまだ宝具を隠し持っている。それがどれだけ恐ろしいことか」

宝具。英霊たちの伝説やエピソードを象徴する、言うなれば必殺技のようなもの。
もちろん、英霊によって種類や範囲などは様々だ。だからこそ、「分からない」ことが何よりの恐怖なのだ。

「だとすると、最初は相手の戦い方や宝具を見るだけ見て、適当に撤収するのがいいかもしれないな。その後対策を練って……」
「おいおい衛宮、随分消極的じゃないか。そんな時間のかかることしなくても解決策はあるんだけど?」
「……解決策?」

「一撃必殺だよ、衛宮。最初の一発で相手を即死させれば、何もさせずに戦いは終わる。簡単なことじゃないか」
「いや、そんな簡単に言われても……。確かに、それが一番理想的ではあるけどさ」

「それが出来るんだよね、僕のサーヴァントには。こいつの宝具は優れものでさ」
そう言って、慎二は『ランサー』を……正確には、彼の持つ真紅の槍を指差す。

「詳細は省くけど、この槍は真名を解放すれば『必ず心臓に当たる』宝具なんだ」
「……はい?」
「それでいて燃費もよくて、僕みたいなマスターでもしばらくは魔力を補充しなくて済むらしい」

「……それなんてチート?」
「もちろん弱点はあるさ。僕が思いつく限りでも、射程は槍の長さしかないから短いし、複数戦には弱い」
ただ、一対一の白兵戦ならまず最強の武器であろう。敵に回っていたらどれだけ恐ろしいことか。

「あと、相手の運が良いと直撃を免れることもあったりな。ま、それでも俺の切り札であることに代わりはねえ」
と、『キャスター』と雑談していたらしい『ランサー』本人が付け加える。そっけない言い方ではあったが、その表情には自信と誇りが垣間見えた。

「えーっと、つまりはこういうことか?」

まず、今日の放課後に自分が遠坂凛を呼び出す。
『決闘を申し込む。今日の真夜中、弓道場で待つ』
ただし、自分は実際には弓道場には行かず、遠くから監視するだけ。

弓道場に遠坂凛がやってくる。今まで存在に気付かなかった巨大な魔法陣を見て唖然とする。
その隙に彼女のサーヴァントに対して隠れていた『ランサー』が奇襲にかかる。
宝具が当たればその時点で勝ちだし、外れても相手の宝具を確認するまで粘ってから撤退すれば痛み分けだ。

「まあいいさ。戦略なんてのはマスターである坊主たちに任せるわ」
「ご主人様の選んだ方法ならピンポン大正解に決まってますから。私は一向に構いませんよ?」
サーヴァントたちの許可も得た。だが……

「本当にこんなのでいいのか?俺と『キャスター』、ほぼ仕事してないんだけど」
「いいんだよ。下手に足を引っ張られても困るし、同盟を組んでることを悟られるほうがマズいじゃないか」
確かに一理ある。それにこの作戦、上手くいけば自分のサーヴァントが『ランサー』だと誤認させることが出来るのだ。
慎二がマスターということを遠坂凛に把握されていない(これは慎二の自称だが)現状、これが一番賢い戦法ということか。

今回はここまでです。
投下サボりまくっててすみませんでした。たぶん今後も不定期更新になりますが、気長に待ってくだされば幸いです。

ほしゅ

深夜零時。
自分と『キャスター』は、弓道場から少し離れた場所にスタンバイしていた。勿論、弓道場の様子は使い魔で把握できるようになっている。

「そういえば『キャスター』、『ランサー』と何を話してたんだ?」
『んー、基本的には向こうが勝手に愚痴ってる感じでしたよ?「ランサーで現界したのにルーンとかやってられっかよ」みたいな』
「……ルーン?」

ルーン魔術。古代文字を媒介とすることによって効果を発揮する、魔術系統の一種……だった気がする。
必中必殺の槍の名手でありながら、ルーン魔術も使いこなす英霊。これだけヒントがあれば、『ランサー』の真名は比較的容易に特定出来るだろう。

……と、ここで自分は『キャスター』から真名を聞いていないことを思いだす。彼女ならいつ聞いても教えてくれそうだが……
まあ、別に今聞くことでもないだろう。というか正直、狐耳という時点で三択くらいに絞れてるし。

ーーーー
ーーー
ーー


「おらぁっ!喰らいな!」
「くっ……!」

嵌められた。
突如目の前に現れた『ランサー』を見て浮かんだ、遠坂凛の率直な感想はそれだった。

どうやら衛宮くんから受け取った果たし状は罠だったようだ。その可能性も少しは考えていたが、彼の人柄から切り捨ててしまっていたのだ。これが心の贅肉というやつか。
そもそも、何故私はこれほど大きな魔法陣の存在に気付かなかったのか。もし昨日の自分に会えたら、思い切りぶん殴りたいくらいだ。

総じて、自分の甘さが今の状況を生み出してしまったことは間違いない。だが、反省するのはあとでいい。今は、この危機をどう打破するかを考えなくては。

目の前では青装束のサーヴァント……『ランサー』が自分の『セイバー』と戦っている。
『セイバー』は、『ランサー』の不意をついた最初の一撃をもろに喰らってしまっている。幸い急所は逃れたようだが、このまま戦いを続ければ間違いなく不利だ。

自分の後方には巨大な魔法陣……おそらくは地雷のようなトラップとみていいだろう。迂闊に刺激を与えるのは避けた方がいい。

そして、なにより問題なのは、出入り口がサーヴァントたちを挟んで反対側にあることだ。このせいで、自分だけ戦線を離脱して安全な場所に避難する、ということすら難しい。魔法陣に気を取られて、『ランサー』に背後を取られてしまったのがミスだった。

他の陣営の乱入は望み薄。早く決断しなければ、『セイバー』が消耗しきってしまう。

「ーー『セイバー』、宝具の使用を許可するわ。何がなんでも1分は耐えて!」
「分かりました、マスター!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『ご主人様、どうやら『セイバー』が宝具を使うみたいですよ』
「そうみたいだな……というか、かなり思惑通りに進んでるみたいでびっくりだ」

正直、この作戦が上手くいくかは分からなかった。なにせ、相手はあの遠坂凛なのだ。
どこかで作戦の穴を突かれるのではないかと思っていたのだが……今の所、いい具合に慎二が立てた術中に嵌ってくれている。

問題は相手の宝具だ。使用されることで相手の真名も自ずと見えてくるが、その威力がどれほどのものなのか……

「どうした?来ないんならこっちから……行くぜ!」
『ランサー』が紅の槍を手に、『セイバー』へと特攻する。

「『セイバー』!」「はい!」
マスター、遠坂凛の合図を受け、『セイバー』が構えをとる。


「その心臓、貰い受けるーー!」
『ランサー』の槍が禍々しい光を放つーー


「我が旗よ、我が同胞を守りたまえーー!」
『セイバー』の持つ旗が神々しく輝くーー



「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!」

「『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

今回の更新は以上です。かなり遅れちゃって申し訳ない。
保守は単に、スレを落としたくないってだけです。夏が終わるまでには頑張って完結させるつもりですので、出来れば最後までお付き合いください。

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結論から言おう。
『セイバー』の宝具は結界宝具……言うなれば防御技だった。『ランサー』の宝具でもそれを貫通することは出来なかった。
そして、宝具同士がぶつかり合っている隙に遠坂凛はその場から離脱。令呪を用いて『セイバー』を戦線から即座に引かせたようだ。

さらに、『セイバー』が宝具を使ったことによって彼女の真名も判明した。

「聖女ジャンヌ・ダルク……オルレアン救国の英雄ですか。確かに、彼女が最優クラスなのは文句なしですね」

ジャンヌ・ダルク。歴史に詳しくなくとも、誰もが名前くらいは知っているだろう。
又の名をオルレアンの乙女。神の声が聞こえる(らしい)。百年戦争におけるフランスの快進撃の立役者。そして、フランスに裏切られ火刑に処された悲劇の聖処女。

……とりあえず彼女について分かることをざっと並べてはみたものの、これは攻略の糸口になるのだろうか?

そして、慎二のサーヴァント……『ランサー』の真名も同じく判明した。
クー・フーリン。ケルト神話に登場する代表的な英雄。クランの猛犬。必中必殺の槍、ゲイ・ボルグの使い手。

「神代の英雄か……ハイスペックなのも納得だ」
「言っただろう?僕のサーヴァントは優れものだって」

今、自分たちは学校から離れ、慎二の家で再び作戦会議をしている。ここの方が聖杯戦争に関連した資料が多いからだ。少なくとも、そういったものがほぼ何もない自分の家よりははるかにマシだ。

間桐の家は代々御三家として、この冬木の地で行われてきた聖杯戦争に関わってきたそうだ。
しかし慎二が言うには、間桐の家は代を重ねるにつれて血が衰えているらしい。慎二にはほとんど魔術回路が備わっておらず、サーヴァントを召喚でき、それが燃費のいい『ランサー』だったのは運が良かったのだろう。

「『ランサー』は、『セイバー』と戦ってみてどうだったんだ?」
「あの宝具が面倒だな。今回みたいに、あれで時間を稼がれてる間に逃げられちまうと埒があかねえ。逆に、向こうの宝具が使えなくなったらこっちのもんだな」

原則として、宝具はサーヴァント一騎につき一つ。『セイバー』の宝具が防御特化で攻撃力に欠けるのならば、宝具さえ破壊してしまえば攻撃特化の『ランサー』に分がある、ということか。

「ま、そういうこった。一対一、正面からのぶつかり合いなら分けこそあっても負けることはない」

『ランサー』は得意げに笑う。それだけ、このクー・フーリンという英霊には戦ってきた場数や経験、そして自信があるのだろう。

「そうか。……なら、『セイバー』はしばらく放置しておいていいんじゃないか?」

「はぁ?何言ってんだよ衛宮。せっかく遠坂を叩きのめすチャンスなのに」

「慎二、よく考えてみろ。もし『セイバー』じゃないと倒せないサーヴァントが敵にいたら、『セイバー』が消えた瞬間に俺たちの負けが確定する。遠坂もろとも共倒れだ」

「『セイバー』……ジャンヌダルクがいないと倒せないサーヴァント?そんなのいるのか?」
「勿論、いる保証はない。ただ、いない証拠もどこにもないだろ?俺たちが動き出すにしても、持っている情報が少なすぎるんだ」

今、自分たちが分かっているサーヴァントは4騎。
自分の『キャスター』。慎二の『ランサー』ーークーフーリン。遠坂凛の『セイバー』ーージャンヌ・ダルク。そして、マスター不明の(多分)『アサシン』。
残りのサーヴァント……アーチャー、バーサーカー、ライダーについては全く分かっていないのだ。

「だから、しばらくは情報収集に専念した方がいいと思う。行動に出るのは、少なくとも全サーヴァントの姿とステータスだけでも確認してからだ」
「……はっ。衛宮はずいぶん慎重だね。こういう時こそ押せ押せじゃないのか?」
「……これは戦争なんだ。慎重にだってなるさ」

「まあいいさ。確かに、衛宮の言うことにも一理ある。しばらくは様子見に徹するとするか」
「それで頼む。それじゃあ、俺はもう帰るよ。今日はありがとうな」

間桐家を後にして、家路へ向かう。
随分と長かったように感じる1日が、ようやく終わりを迎えようとしていた。

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【聖杯戦争3日目:終了】


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今日の更新は以上です。
3日目長すぎ問題。というか更新サボりすぎですね。ごめんなさい。
次の更新まで、なんか考察とかしてみてください。残りのサーヴァントとかマスターとか。どこかに今後の伏線張ってないかなーとか(張ってるとは言っていない)

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「ウオ■ォ……■■オォ……」
月に向かい、その者は吠える。辺りに飛び散った真紅の液体には目も向けず、ただ拳を振るう。

「クス……クスクス……」
地に目を向け、その者は笑う。喜びと哀しみを一緒くたにしたようなその仮面の下で、ただただ"何か"を見つめる。

その両者は狂気に包まれながら、まるで何かを探しているようで。
失ってしまったものを、■■■いた何かを追い求めているようで。


夜が明け、朝日が昇る。
狂気に満ちた二人は姿を消し、血だらけの"何か"だけが後に残されていた。


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生存報告を兼ねて1レスの幕間だけ投下しました。短くて申し訳ないです。
次の更新はもうちょい早めに出来ると思います。

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【聖杯戦争4日目:開始】


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「ーーということで、今日から部活動はしばらく禁止だから、学校が終わったらすぐ帰宅するように!HR終わり!」

藤ねえ……藤村先生による朝のホームルームが終わり、一限が始まるチャイムが鳴る。
部活動禁止令が出た理由は、先日から起きている通り魔事件だ。恐らく、この事件も聖杯戦争によるものだろう。

サーヴァントは人の魂を喰らうことで魔力を蓄え、パワーアップすることが出来る。俗に言う魂喰いだ。
もしこの通り魔事件が魂喰いによるものだとすれば、時間が経てば取り返しのつかないことになる。早急に手をつけないといけない。

そもそも、無関係な人々が犠牲になっている時点で放っておくわけにはいかないのだ。一刻も早く、この事件を止めなければいけない。
一人でも多くの人を守る。それが、今の自分のやるべきことなのだから。

『流石です、ご主人様!……でも、何故なんですか?』
(何故って……?)

突然、『キャスター』が話しかけてきた。授業中なので念話で答える。
……というかこのサーヴァント、また頭の中を勝手に読んだらしい。正直なところ、出来れば自重してほしいのだが。

『……率直に申し上げます。ご主人様は気負いすぎです!もっと気楽に、自分の幸せのことも考えていいんです!』
(自分の幸せ……か。……でもさ、それは『キャスター』だってそうじゃない?)
『それは、まあ、私はサーヴァントでございますし?それに、ご主人様と一緒にいれれば私は……』

(じゃあ、こっちだって同じだ。俺は、誰かの役にたてれば、誰かを助けることが出来ればそれで十分だ)
『むぅ……本当ですか?』
(あぁ、もちろん。じゃないと、こんな酔狂な真似は出来ないさ)

放課後、商店街で買い物をするついでに探索をすることにした。通り魔事件がサーヴァントやマスターによるものなら、何かしらの痕跡が残っていると踏んでのことだ。
ただ、今回は慎二とは別行動をとっている。常に一緒に行動していては他のマスターに怪しまれるだろうという独断によるものだ。
それ以前に、彼がわざわざこういう自分の身勝手な行動に付き合ってくれると思っていなかったというのもあるが。

商店街のメインストリートは普段通りに営業していたが、心なしか客が少なく活気がないように思われた。
そして、事件現場と思しき細長い路地裏の入り口にはキープアウトテープが張られていた。警察の姿は見えないが、すでにはけてしまったのだろうか。
時間が経っているので血の匂いなどは全くしなかったが、不穏な雰囲気は消えることなく残っていた。


……否。それは、雰囲気なんて漠然としたものではない。

『魔力、ですね。しかも、時間が経ってもご主人様が体感出来るほどのものとなると……』
「……あぁ。間違いなく、サーヴァント絡みのものだろうな」

戦闘行為等において放出された魔力はすぐに消えるわけではない。しばらくの間はそこに残存魔力として僅かに留まり続けるのだ。
もっとも、普通なら長い間残り続けるほどのものではない。よほどのことがない限り、精々1~2時間程度で消えるはずだ。
それが今も残り続けているとなると、人の尺度では測れないほど桁外れの魔力を持つ者……サーヴァントによるものだと考えるのが自然だろう。

しかし……いくらサーヴァントとはいえ、単なる魂喰いで、これほど長時間残るものなのだろうか?

昨晩サーヴァント同士の戦闘行為が行われた弓道場の魔力痕は、朝の時点でほぼ完全に消えていた。一方、同じく昨晩発生したらしいこちらの事件跡ではまだ魔力が感じられる。

この差はどういうことだろう。普通に考えれば逆なはずなのに、何が起きているのか。
事件痕でサーヴァント同士の戦いがあって、被害者はそれに巻き込まれた?それなら魔力痕が残っているのは納得出来る。
納得出来るが……あんなに狭い路地裏で戦いが起きるとは思えない。闇討ちのようなものならまだ分かるが、小規模な戦闘だけで弓道場以上に魔力が残るはずがない。

じゃあ、逆に弓道場の方が自然でないとしたら?例えば、戦闘後に何者かが弓道場の魔力痕を消したとしたら……
……いや、いくら桁外れなサーヴァントの魔力量とはいえ、半日以上経っても魔力が感じられるのは不自然だ。
やはり、路地裏の方が異常だ。だが、何が異常だったのかがまるで分からない。与えられている情報が余りに少なすぎる。

ーー事件当時、あの路地裏で何が起きていた?

今回の更新は以上です。謎をぶん投げて終わるスタイル。
夏に入ったので、頑張って更新頻度を上げていきたい。

『ーーご主人様、あまり考えこむのもよくありませんよ。少し風に当たってみては?』
「……あぁ、そうだな」

気づいたら、もう日が落ちかけている。帰る前にと、公園の自動販売機で缶コーヒーを買う。冷え切ったベンチや喉を通るコーヒーの熱さが、今の季節を感じさせた。

「ーーもうすっかり冬だなぁ……」

頬に冷たい風を感じながら、ぼんやりと空を見上げる。思えば、ここ最近はあまりに激動すぎてろくに休めていなかった気がする。
この瞬間だけは、聖杯戦争のことも考えず、頭の中を空っぽにしてリフレッシュしよう。そんな風に思っていた。

だからこそ、気づくのが遅れてしまったのだろう。

周りに、人の気配がほとんどないことに。

「っご主人様!敵です!」
『キャスター』が突如実体化し、自分の前で臨戦態勢をとる。自分も慌ててベンチから立ち上がった。
周りには人影が一切ない。どうやら人避けの魔術か何かを使われたらしい。
そして、目の前には自分でも分かるほどの魔力を持ったーー幼い少女がいた。

「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは初めてね」
彼女の側にはサーヴァントの姿は見えない。それでも余裕綽々とした態度を崩さないのは、余程の自信があるのか。

「初めまして、シロウ。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
そう言い、幼い少女はお辞儀をする。その立ち振る舞い、その所作の一つ一つから、彼女の育ちの良さが感じられた。

「アインツベルン……?ーーというか、どうして名前を!?」

「別にどうだっていいよね。どうせここで死んじゃうんだから!来なさい!『ライダー』!」

イリヤスフィールが高らかに声をあげ、己のサーヴァントーーライダーを呼ぶ。自分も『キャスター』も同じように身構える。

ーーが。

中々ライダーが姿を現さない。
イリヤスフィールも決めポーズをしたまま動かない。周りに人気がないのも相まって、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えてしまう。
気まずい沈黙の後、公園の入り口に人影が見えた。

「あ、いたいた。こんな所にいたんだ、マスター」
「遅ーい!私が呼んだらすぐ来なさいって言ったでしょ!」
「いやぁ、本屋さんでイリアスを探してたら遅くなっちゃって」

その姿は……子供だった。イリヤスフィールよりは大きいが、
だが、放たれるオーラはそのシルエットからは似ても似つかぬほど強烈なものだった。覇気……とはまた違う。言うなれば……王気。
そのサーヴァントは少年ながらにして、並々ならぬカリスマを発揮していた。

しばらくの間イリヤスフィールの説教が続いたが、やがて『ライダー』がこちらに目を向けた。

「それで、そこに見えるのが相手なのかな?マスター」
「そうよ。やっちゃいなさい『ライダー』!」

『ライダー』が改めてこちらに向き合う。こちらも身構え、臨戦態勢に入る。

「初めまして、『キャスター』のマスターさん……でいいのかな?僕はアレキサンダー。アレクサンドロス3世、でもいいよ。他の名前でもね」
「……アレキサンダー大王?この子供がですか?」

『キャスター』が眉をひそめる。それも当然だ。アレキサンダー、アレクサンドロス、イスカンダル等、数々の異名を持つ『征服王』が、こんな少年だとは到底思えないからだ。

「どういう因果か、この姿で召喚されちゃってさ。大人になったら僕のことも覚えてはいるけど、ちょっと記憶が曖昧でね」

「……『ライダー』?」
「おおっと、少ししゃべりすぎた?分かってるよ、マスター」

そう言って『ライダー』……アレキサンダーは腰につけた剣に手をかける。それと同時に、彼の魔力が上昇するのを感じる。

「さあ、出でよブケラファス!蹂躙を始めよう!」
彼が虚空をその剣で切ると、その切っ先から黒く美しい馬が出現した。そして、彼はそれに飛び乗ると、一気にこちらに向かって突進してきた。

「突撃ーー!」
「来ます、ご主人様!」

『キャスター』は咄嗟に詠唱を行い、防壁を作った。どうにか防いでくれている間に、サーヴァント同士の戦いの余波に巻き込まれないように少しだけ移動する。
ここから先に生身の人間が干渉できる余地はない。サーヴァント同士の、英霊たちの戦いだ。

本日の更新は以上です。
次回、キャスターvsライダー(書き溜め/zero)

「とぉっ!はいやっ!」
『キャスター』が符から色とりどりの魔弾を放つ。その弾幕はあまりに美しく、まるで芸術品のようだ。
「甘いよっ!……ほっ!」
しかし『ライダー』は華麗な馬さばきでそれらを避けきる。時に素早く、時に止まりながら見事に全ての弾を回避した。

「……そろそろ当たってくれてもいいんじゃないですか~?タ……私、そろそろ本気で怒りますよ?」
「当てられるものなら当ててみなよ。僕とブケファラスの動きを捉えられるなら、ね」

心の苛立ちを隠せない『キャスター』とは異なり 、余裕綽々といった表情をしている。しかし内心、『ライダー』ももどかしさを感じていた。
ブケファラスの脚力をもってしても回避が精一杯で、一向に自分の間合いに入ることが出来ない。ダメージ覚悟で突っ込むのも手ではあるが、自分の心許ない対魔力スキルを考えるとリスクとリターンが噛み合わない。
『キャスター』と『ライダー』、どちらのサーヴァントも己の勝機を見出せずにいた。

「なあ、イリヤスフィール!答えてくれ!」

サーヴァント同士が激しい戦闘を繰り広げる一方で、キャスターのマスターはライダーのマスターに対して舌戦を仕掛けていた。
真っ向からの魔術での勝負で、あの化け物じみた魔力を持つ少女に勝てるとは思えない。
ならば、自分に残された武器は「口」しかない。

「俺はお前のことを知らないし、お前に恨まれた覚えも全くない。だから教えてくれ!何で俺を狙うんだ!」
その問いに、イリヤスフィールは笑いながら答える。その笑い声は無邪気でありながら邪悪なものに聞こえた。

「そんなの当たり前じゃない。シロウがキリツグを奪ったんだから、その責任を取ってもらうためよ」

「……?……ごめん、話が全く飲み込めないんだけど。キリツグを奪った……?」

自分の記憶の中に、キリツグという名前の人物は一人しかいない。
衛宮切嗣。10年前に火災の中から士郎を拾った命の恩人。満月の綺麗な夜に息を引き取った士郎の育ての親。
それとイリヤスフィールが……どういうことだ?

「……いいわ、教えてあげる。メイドのミヤゲってやつ?」
まるで事態を飲み込めていない自分の様子を見てか、呆れたようにイリヤスフィールは言う。

「私のお父様はキリツグ。そしてキリツグは10年前に、聖杯戦争に参加したの。アインツベルン代表としてね」
「なっ……!?」
「でも、キリツグは帰って来なかったの。『絶対に迎えに来る』って約束したのに……分かるわよね?貴方がキリツグを奪ったんだもの!」

堰を切ったように彼女の言葉は続く。
「私は許さない。アインツベルンを裏切って、お母様を裏切って、約束も裏切ったキリツグのことを許さない。そして、私からキリツグを奪ったシロウのことも許さない!」

彼女が怒りを募らせ言葉を発するごとに、彼女の魔力が高まるのを感じる。もし彼女が怒りに任せ、ありったけの魔力で自分に攻撃をしてきたとしたら……

ーー今は穏便に事を進めなければいけない。何はともあれ、彼女の怒りを抑えなければ……

「……辛かったんだな」
「な……何よ!知った風な口をきいて!」
「あぁ。俺にお前の気持ちは分からないさ。でも、家族と突然離れ離れになるのがどれだけ辛いかは知ってる」

衛宮士郎は、生みの親とも育ての親とも死に別れてしまった。ある日突然、親と離れなくてはいけなくなってしまったのは自分だってそうだ。それらの苦しみや辛さだって、彼女のそれと通じる所はあるはずだ。

「……それに、切嗣はお前のことを見捨てたわけじゃないはずだ」
「何言ってるの?キリツグは私を、私たちを捨てたのよ。私、ずっと待ってたのに!」
「言ってたんだ。切嗣が死ぬ前にーー」

「ーー『あの子にもう一度会いたかった』ってさ」

「……え?」
嘘だ。今、自分は彼女に嘘をついた。

「その時は分からなかったけどさ、今気づいたんだ。切嗣の言ってた『あの子』って、お前のことなんじゃないかってさ」
違う。自分はそんな言葉は聞いてないし、そんな話をされたこともない。

「……本当なの?」
「あぁ、本当だ。切嗣が死ぬ前に、そう呟いてた」
これだって偽りだ。この場を取り繕うためのでまかせにすぎない。

「……嘘だったら承知しないわよ?」
「嘘じゃない。紛れもなく本当のことだ」
おずおずと自分の顔を覗き込んでくる彼女の瞳を正面から見据える。全てが嘘なんてことはおくびにも出さずに。
あぁーーいつから自分は、こうも簡単に嘘をつける人間になったんだろう。

しばらく自分の顔を見続けていたイリヤスフィールは、やがてライダーに向かって叫んだ。
「……っライダー!帰るわよ!」

「ふーん……いいのかい?」
「もういい!つまんない!」

イリヤスフィールはそう吐き捨てるように言うと、急ぎ足で公園から去っていった。その後を『ライダー』が追う。
その後ろ姿を、自分と『キャスター』は黙って見つめていた。


「……キャスター、大丈夫か?怪我とかーー」
彼女らの姿が見えなくなったのを確認して、自分は『キャスター』に向かって言った。

「問題ありません。魔力は少しばかり消耗しましたが、明日には回復しているかと」
「そうか。ならよかった」
「魔力もちゃんと節約してますの。私、家計に優しい良妻狐ですから♪」

『キャスター』の言葉を適当に聞き流しながら、『ライダー』陣営の突破法を考える。
イリヤスフィール。彼女の貯蔵魔力量はケタ違いだ。自分と慎二が持つ全魔力を合わせても彼女の半分にも及ばないだろう。

となると、持久戦は不利。ならば、速攻で倒すしか勝ち目はない。
幸い、先ほどの戦いを見る限り『ライダー』自身の戦闘力は高いとはいえない。慎二と協力するなり、こちらの宝具を展開するなりすれば勝てない相手ではないはずだ。

ーー帰り道。

『……はっ!しまった!魔力を節約せずに使っていれば、魔力供給と称してご主人様とにゃんにゃんできたのに……!一生の不覚!』
「念話で全部聞こえてるぞ」

いくら魔力消費を抑えているとはいえ、もし遭遇戦になったら『キャスター』も辛いだろう。ということで、自分は家までの道を急ぎ足で歩いていた。
その時、ふとイリヤスフィールの言葉が脳裏に浮かぶ。

『私は許さない。アインツベルンを裏切って、お母様を裏切って、約束も裏切ったキリツグのことを許せない。そして、私からキリツグを奪ったシロウのことも許さない!』

彼女の思う切嗣は、自分の考えていた切嗣像とはいくらか異なるようだ。その食い違いが何故発生したのか、まるで分からない。
本人に聞ければ手っ取り早いのだが、彼は既にこの世にはいない。聖杯に願えば可能かもしれないが、自分には心に決めた願いがある。そもそもの話、聖杯戦争が終結してから切嗣を生き返らせたところでたぶん遅い。
衛宮切嗣。彼は一体、何者なのかーー

『ご主人様!もう家過ぎちゃってますよ!』
「……あっ」

今日の更新は以上です。
もう八月が終わるってマジすか(マジすか)
色々理由はあったんですが、ずっとSSを書き溜める時間が取れませんでした。遅れちゃって本当すみません。
今後も亀進行になるとは思いますが、どうかよろしくお願いします。

同じ聖杯使ってるアポでも普通にハサン以外のアサシン喚べてるしなぁ

コンマテ読み返してみたら、Ⅲのクラス解説に「アサシンという言葉自体が“ハサン”を意味しており、クラス名自体が触媒となり普通に召喚すればハサン・ザッハーハの名を持つ誰が召喚される」って書いてあったわ。
つまりルールを逆に読めば
・アサシンという弱い方から数えた方が早いサーバントを召喚すると決める
・アサシンのクラスに当てはまりそうな英雄を召喚すると強く決める
・召喚する相手と強い縁を持つ触媒を用意する
これで「ハサン以外のアサシン」が召喚できるっぽい。
(バーサーカーみたいに「アサシン限定の召喚の儀」があるのかどうかは不明)

>>158
アポはアレ「並行世界の事件」だって、公式で明言してるし。
そもそもApocrypha=外典だし、あれはGOみたいなもんだぞ?

「だーー、もう!イライラする!」
「まあまあ。落ち着いてよマスター」
「むー……」

アインツベルン城にて、イリヤスフィールは不機嫌さを隠せずにいた。だが、「何に対してイラついているのか」は彼女自身には分からずにいた。
自分が何に対してイラついているのかが分からないことにすら苛立ちを感じているほどだ。
はじめは衛宮士郎を本気で殺そうと思って戦いを仕掛けたのに、気付いたら彼のペースに呑まれていた。
そして、彼が最後に放った言葉。

『切嗣が死に際に呟いていた。「あの子にもう一度会いたかった」ってさ』

この言葉がずっと、彼女の頭から離れずにいた。

頭を抱えながらベッドの上で身悶えるイリヤスフィールの横で、アレキサンダーはニヤリと笑っていた。ただ、それは彼女の様子を見てのことではない。
この聖杯戦争に呼ばれた当初は、そこまでやる気があったわけではなかった。今の自分には強く叶えたい願いはない。戦うこともーー嫌いというほどではないが、かといって好きでもない。
マスターとサーヴァントという主従関係を結んである以上、マスターの言うことには従うつもりではいたが、本気で戦い抜いて勝ちたいという気持ちは全くなかった。

ただ、先刻の戦闘で『キャスター』主従に出会ったことで話は変わった。
『キャスター』の魔術や戦いに惹かれた、というわけではない。無論、彼女の容姿に惚れたわけでもない。
むしろアレキサンダーが興味を持ったのは、そのマスターの方だ。
己の真意に気づかれまいと顔に貼り付けた笑顔の仮面。まことしやかに嘘を言う演技。そして、自身に対してすら嘘をつきながらも決して芯を曲げないという、ある種矛盾したその精神。
"アレ"をもっと観察してみたい。その仮面の下に隠された素顔を見てみたい。
神童と呼ばれた英雄、アレキサンダー。彼の聖杯戦争に、今やっと目的が誕生した。

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【聖杯戦争4日目:終了】


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変な時間に中途半端な内容を投下していくスタイル。

神童アレキサンダー君は察しがいいので、士郎の嘘に気付いています。ただ、面白そうなのでイリヤには言わない。
イリヤに真実を伝えるよりは、自分の中だけに留めておいて楽しみたい。……みたいな感じです。
あと、自分なりに凝った部分もあったりしますが、基本的には原作との整合性はあまり気にしない方針です。気にしすぎると埒が明かない……というかSS自体書けなくなっちゃうので。よしなに。

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【聖杯戦争5日目:開始】


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頭が痛い。
目を覚ました瞬間にまず思ったことがそれだった。

昨日はイリヤスフィールとの戦闘の後は特にイベントは起こらなかった。ので、夕飯を作ったり、蔵で魔術の鍛錬をしたり、いつも通りー戦争が始まる前と同じようなーの過ごし方をしていた。
そして深夜に布団に入り、早朝に目を覚ます。ずっと続けてきた日常だ。聖杯戦争が終わった後でも、衛宮士郎はこんな日々を過ごすのだろう。

布団から身を起こし、寝巻から着替える。外はまだ日が昇りきっておらず、薄暗い。
何となく頭の回転が遅い気がするが、かといって日々のルーティンを崩すわけにもいかない。
まずは軽いランニングからだ。走っているうちに、きっと体調も元どおりに良くなるだろう。

「……士郎、大丈夫?体調悪いんじゃない?」
「え?あ、まぁ……」

そう思っていたが、現実はそんなに甘くなかった。
ランニング後は頭がスッキリした……どころか真逆で、全身を駆け巡る悪寒と、脳を揺さぶられているかのような吐き気に襲われた。
それでもどうにか顔に出さないようにして、朝食を作ったわけだが……
やはり彼女の目は誤魔化せなかった。これが「藤村先生」としての面なのか、「藤ねえ」としての面なのかは定かではないが。

「さっきからご飯食べるのも遅いし。本当に大丈夫?」
「いや、平気だって。ちょっと頭が痛いだけだから」
「無理しちゃダメよ~?本当、士郎ったら昔っから無茶ばっかりして大変なんだから」

それからしばらく藤ねえの昔話が続いたので、曖昧な返事をしながら朝食を食べ進める。普段通りに炊き上げたはずの白飯は、まるで味がしなかった。

「それじゃあ、本当に無理しないでね?辛かったら学校休んでもいいから」

藤村先生はそう言い残し、一足先に学校へと向かっていった。
彼女の姿が見えなくなったのを確認して、体温計で熱を測る。結果、38.7℃。

「……『キャスター』」
「はいっ!何でしょう、ご主人様!」

自分が呼びかけると、『キャスター』はすぐに反応した。彼女には(寝ている時を除いて)常に自分の側で霊体化してもらっている。敵にマスターだと察知されやすくなるデメリットはあるが、それよりも安全性を求めた結果だ。

「今日はもう学校休んで寝るから、家の周りの警戒をしててくれないか?」
「えっ」
「えっ?」
「そこは”看病してほしい”とか”添い寝してほしい”とかじゃないんですか?」
「あー……いや、それは遠慮しとくよ。恥ずかしいし」

「もー、ご主人様ったらシャイなんですからー。私達の関係なんですから、遠慮する必要も恥ずかしがる必要もないんですよ?」

相手の本当の名前を知らない関係を「私達の関係」と言っていいのだろうか。いや、こんな掛け合いが出来るくらいだし、親しくないとは逆立ちしても言えないが。

「それにさ……ほら、『キャスター』が看病に夢中になってる間に敵に攻め込まれたら対処のしようがないだろ?」
「それは……そうかも知れませんけど」
「……まあ、今は気持ちだけ受け取っておくよ。明日体調が回復したら……そうだな、どこかにデートでもいくか?」
「デ、デート!?キャー、ご主人様ってば大胆?」

……こんな事を言うキャラでもなかった。言ってから反省してしまう。
まあ、これも全部風邪のせいってことにしておこう。そう思いながら、水の入ったコップを片手に寝室へと足を運んだ。

今回の投下は以上です。
一応言っておくと、藤村先生と藤ねえみたいな使い分けはわざとしてますので。

夏が終わるまでに完結させるなんて言ってた過去の自分をぶん殴りたい。

※文字化けしてるので追記
「デ、デート!?キャー、ご主人様ってば大胆?」 ← ここの?はハートマークに脳内変換しといてください

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