☆ちゃん「『最原くんがんばって☆』……っと」カタカタ【ニューダンガンロンパV3】 (38)


【とある視聴者の家】


目覚まし時計「ソノコトバ、キッテミセル! ソノコトバ、キッテミセル! ソノコトバ……」カチッ

☆ちゃん「ふわぁー、よく寝た☆」

☆ちゃん「おはよう最原くん☆ 今日も気持ちのいい朝だね☆」チュッ

☆ちゃん(実際はただの目覚まし時計だけどね……録音機能付きの)

☆ちゃん「さて、今日も仮病で有給申請してコロシアイ生放送を見ようっと☆」

☆ちゃん(勤め先に迷惑かけちゃうけど、きっと他の視聴者も同じようなことしてるよね。うん)

☆ちゃん「ノートパソコンを立ち上げてっと……今日の最原くんは何してるのかな☆」ポチッ



白銀『キャラクターのコスプレをするだけが、”超高校級のコスプレイヤー”の才能だと思った?』

夢野『どういうことじゃ……?』

白銀『それだけじゃないんだよ……わたしは世界そのものをコスプレする事ができるんだよ!』



☆ちゃん「こんな時間から学級裁判をやってるなんて……寝てなかったら最初から見てたのに☆」

☆ちゃん「どうやら最後のネタばらしとかしてるみたいだね☆」

☆ちゃん「……ってええ? いつの間にそんなところまで話が進んでたの!?」

☆ちゃん「正体のバレた黒幕が生き残りのみんなを追い詰める……物語のクライマックスだよ!」

☆ちゃん「あっ、なんか視聴者のコメントが最原くん達に見えるようになってる」

☆ちゃん「どれどれ、『最原くんがんばって☆』……っと」カタカタ ターンッ

☆ちゃん「おおっ、私のコメントも向こうの画面に表示された☆」

☆ちゃん(今打ちこんだ私のコメントが映ったことは、本当にリアルタイムの視聴者コメントを使ってるんだ……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1490970171


その後も、黒幕は最原くん達に様々な事実を突き付け、生き残り達を精神的に追い詰めていった。
コロシアイが53回も繰り返されていることや、そのダンガンロンパを私達視聴者が望んでいるいうこと。
そして、今の自分は設定を与えられた”嘘”の存在であるということ。
何より、”本当”の自分は本人の意思でコロシアイに参加していたという事実は皆を絶望させるには十分すぎた。


だが、追い込まれた最原くん達は再び立ち上がった。
自分達の死という形でハッピーエンドを否定し、ダンガンロンパそのものを終わらせるのだという。
黒幕を裁く最終投票すら放棄し、コロシアイという娯楽自体にトドメを刺そうというのだ。
そして彼らの矛先は、コロシアイを望む視聴者達にも向けられる。



    こっちはずっと応援してきたんだよ!


                   こんなの私の好きなダンガンロンパじゃないよ!


     展開がメタすぎるって


                  フィクションが世界を変えられるわけねーしwww




最原『フィクションだって、変えられるんだ!』




   説教なんて聞きたくないんだけど!


                  こいつが赤松ちゃんの代わりに死ねば良かったよ!


    キャラが死ぬのがダンガンロンパだろ!


                   コロシアイは、最高のエンターテイメントだよ!?




最原『コロシアイなんて、間違っているんだ!』




     希望か絶望か選びなよ!


                     希望だ!       絶望だ!


   後味の悪い結末なんて嫌だからね!


                   投票放棄で無駄死になんて最悪なオチだ!




最原『無駄じゃない、命を使うんだ!』




    いいから殺し合えよ!


                  本当にダンガンロンパが終わるの?


    まだまだ次回作に期待していいよな!?


              どうせ終わりっこないよね? ダンガンロンパは終わらないよね!?




最原『みんなの手で、ダンガンロンパを終わらせるんだ!』BREAK!


☆ちゃん「終わっちゃったな……ダンガンロンパ」

☆ちゃん「けど、黒幕を追い詰めていく最原くんはメチャクチャ格好良かったな☆」

☆ちゃん(結局、最原くん達の計らいで視聴者も投票を放棄して、ダンガンロンパは否定されちゃった)

☆ちゃん(フィクションの彼らだけでなく、視聴者までもがダンガンロンパを見限ったんだね)

☆ちゃん(コロシアイの配信はそこで途切れてしまったため、彼ら5人がどうなったのか私達には分からない)

☆ちゃん「なんちゃって、私には確認する手段があるんだよ☆」

☆ちゃん(実は学生時代に同級生だったモブ子ちゃんが、チームダンガンロンパに入社してるんだよねー)

☆ちゃん(前に私の家で宅飲みした時、モブ子ちゃんったらコロシアイ会場の場所を私に漏らしちゃったんだ)

☆ちゃん「何が起きてるのか気になるし、ちょっとだけコロシアイの会場を見に行ってみよう☆」

☆ちゃん「せっかくだし手錠とかロープも持って行って、あわよくば最原くんを……ふふっ☆」


【コロシアイ会場の外】


☆ちゃん「着いたー。ここがコロシアイ会場として使われていた建物だね☆」

☆ちゃん「ってドームの天井に大きな穴が開いてる!?」

☆ちゃん(関係者が穴を塞ごうとしてるとかそういう様子もないけど……主催者側もかなり混乱してるのかな?)

☆ちゃん(チームダンガンロンパはこの先どうなるのかな。モブ子ちゃんが路頭に迷うことになっちゃうかも)

☆ちゃん「よし、今のうちに穴から中を覗いてみようっと☆」

☆ちゃん(穴は高い場所にあるけど、よじ登るのは私の得意分野だよ)

☆ちゃん「よいしょ……この壁なら道具無しでも登れそうだね☆」ガシッ

☆ちゃん(学生時代にワンダーフォーゲル部に入ってたからね。スポーツクライミングは私の得意分野だよ)

☆ちゃん「よいしょ、よいしょ……」

☆ちゃん(この壁、なんでチームダンガンロンパのロゴがこんなに書いてあるんだろ。気持ち悪っ)

☆ちゃん「穴の縁にとうちゃーく☆ 中はどうなってるのかな☆」

☆ちゃん(大穴から中を覗いた私が見たのは、崩壊したセットの上でたたずむ最原くん達3人の姿だった)


☆ちゃん「(3人で何か話してるみたいだな……)おーい、最原くん達こっち向いて☆」

夢野「んあっ!? どこからか声が聞こえるぞ!?」

最原「えっ、まさか白銀さんが生きてたとか?」

春川「ねえ、2人とも上を見て。キーボが開けた穴のところに人がいる」

最原「えっ、さっき上を見てた時は誰もいなかったのに……」

夢野「んあー、なんであんな高いところに人がおるのじゃ?」

☆ちゃん「それより3人ともそこで何してるの☆ 他の2人はどうしたの☆」

最原「ええと、キーボくんが空けてくれたその穴から外に出ようと思ってたんだけど……」

春川「キーボが高い場所に穴を空けたせいで、外に出たくても出られなくなってるってわけ」

☆ちゃん「(肝心のキーボくんの姿が見えないけど……)じゃあ脱出の手伝いをしてあげるね☆」

最原「脱出の手伝い……?」

☆ちゃん「うん☆ ロープをここから垂らすから、掴まってくれれば私が1人ずつ引き上げるよ☆」シュルルル


春川(どうするの。明らかに怪しいけど)

夢野(助けるふりして途中でロープを切るなんてことも……うっぷ、東条のおしおきを思い出してしまったわい)

最原「今はあの人を信じてロープで引き上げてもらおう」

春川「正気? あのロープを垂らしてる奴が私達の味方とは限らないんだよ」

夢野「そうじゃ。あやつがチームダンガンロンパとやらの社員である可能性もあるんじゃぞ?」

最原「でも、他にここから脱出する方法はなさそうなんだ。罠だったとしても、今はあのロープに縋るしかないよ」

春川「じゃあ、まずは私が行ってもいい?」

最原「えっ?」

春川「もしあいつがヤバい奴だったとしても、私だったらあいつからロープを奪ってあんた達を引き上げられるし」

夢野「そ、それもそうじゃが……」

最原「じゃあ春川さん、頼めるかな」

春川「うん。もし私があいつに突き落とされるようなことがあったら下で受け止めてよね」

夢野「最原よ。頼んだぞ」

最原「で、できるだけ頑張ってみるよ……」


春川「ロープの人、最初は私がロープに掴まるから引き上げてくれる?」

☆ちゃん「分かった☆ 春川さんは引き上げる時にロープの端を命綱みたいにしなくても大丈夫かな☆」

春川「そういうのはいい。結構体力はある方だから」

春川(それに、何かあった時のために体の自由がきく方がいいし)

春川「じゃあ、頼んだよ」ガシッ

☆ちゃん「任せて☆ 私も体力はある方だから春川さんぐらいなら簡単に引き上げられると思うよ☆」グイッグイッ

最原「春川さん、気をつけてね」

夢野「何かあったら大声を出すんじゃぞ」

春川(トラブルが起きてから大声出しても意味ない気がするけど)


春川(結局、危惧したようなことは何も起こらないまま、私達3人は順次ロープで引き上げられた)

☆ちゃん「よいしょ、よいしょ……ふー、最原くん、お疲れ様☆」

最原「ありがとう、助かったよ」

春川(最初に引き上げられた私も加わり2人がかりで夢野を引き上げ、そして最後に3人がかりで最原を引き上げた)

夢野「穴から出られたはいいが、ここからどうやって降りていくつもりなんじゃ?」

☆ちゃん「私は壁の突起とかを伝ってここまで登ってきたから、同じルートを辿れば降りられると思うよ☆」

最原「えっ、壁をよじ登ってここまで来たの?」

☆ちゃん「そうだよ☆」

春川(この女、いったい何者?)

春川(背格好は入間と同じぐらいにしか見えないのに、人ひとりをロープで引き上げられる体力があるなんて)


最原「この壁を自力で降りるのは、僕にはちょっと無理そうだな……」

夢野「ウチもMPが残り少ないせいで厳しそうじゃ」

春川「私は不可能じゃないと思うけど、なるべく安全に降りたいのは確かだね」

☆ちゃん「それなら、このロープを今度は建物の外側に垂らして、それで降りよっか☆」

夢野「じゃが、上で誰かがロープを持っておかないとこの紐では降りられぬぞ」

最原「周りを見ても、ロープを結んで固定できそうな場所なんてないし……」

☆ちゃん「なら、みんなが降りてる間は私がここでロープを持っておくよ☆」

春川「でも、それだとあんたが最後に取り残されることになるんだけど」

☆ちゃん「大丈夫、私ならロープなしでも降りられるよ☆」

最原「ごめんね、いろいろ迷惑かけちゃって」

☆ちゃん「いいよいいよ。最原くん達の為なら☆」


春川(これといったトラブルも起こらず私達4人は地上に降りることができた)

最原「穴から出る手段が見つからないってなった時はどうしようかと思ったけど、助かったよ」

夢野「キーボめ、あんな高いところに穴を開けおって……」

☆ちゃん「そういえば、肝心のキーボくんはどこへ行っちゃったの☆」

春川「……」

夢野「あやつは……」

☆ちゃん(あっ、マズいこと聞いちゃった流れだこれ)

最原「キーボくんは……壁に穴を開けるために自爆してしまったんだ」

☆ちゃん「そうだったんだ……」

夢野「まぁ、ウチらはガレキの下にいたから、直接爆発を見たわけではないがの」

春川「ところで、あんたはいったい誰なの?」

☆ちゃん(やっぱり聞いてくるよね……)

最原「僕達のことを知ってるってことは、ある程度このコロシアイに関わりがある人ってことだよね」

☆ちゃん「えっと、その……実を言うと、あのコロシアイの”視聴者”の一人なんだ☆」


夢野「し、視聴者じゃと……?」

春川「ということは、あんたも私達の命を見世物にして楽しんでた連中の一人ってことだね」

最原「春川さん、そんな言い方しなくても……」

☆ちゃん「いいんだよ☆ 実際、最原くんの最後の訴えを聞くまでは私もコロシアイ生放送を楽しんでたし☆」

最原「……」

春川「でも、どういう心境の変化があったのかは分からないけど、あんたは私達を助けに来てくれたんだよね」

☆ちゃん「え?」

春川「あんたが来てくれなかったらあのまま途方に暮れてたのも確かだし、一応お礼だけは言っておくよ」

☆ちゃん(どうしよう、元は興味本位で来ただけだったんだけどな)

夢野「相変わらずハルマキは素直じゃないのぅ」

春川「……殺されたいの?」

夢野「んあっ!? て、照れ隠しでその顔をするのはやめい……」

☆ちゃん(ま、結果オーライってことでいっか☆)


最原「ところで、キミは僕達から見たら”外の世界”の人ってことでいいんだよね?」

☆ちゃん「(ノンフィクションの世界ってことかな……)そうだよ☆」

最原「じゃあ、この世界のことを色々教えてくれないかな」

☆ちゃん「例えばどんなことかな☆」

最原「僕達は今日が本当は何年の何月何日なのか……それすら知らないんだよね」

☆ちゃん「……」

最原「だから、些細なことでもいいんだ。僕達に色々なことを教えてほしいんだ」

☆ちゃん「いいよ☆ 最原くん達の為なら☆」ギュッ

最原「ちょ、ちょっと……」


夢野(かーっかっかっか! 最原め、少し手を握られただけなのに顔を真っ赤にしておるわ)

春川(最原はコロシアイの中でだいぶ変わったと思ってたけど、そういう所は変わらないんだね)

夢野(それにしてもいきなり手を握るとは、転子なみにスキンシップの激しい奴じゃのぅ)

春川(確かあいつ、あんたにずっとベタベタくっついてたよね)

夢野(あやつの場合は間違っても男の手を握るなんてことはしなかったと思うがの)

春川(それもそうだね)

夢野(なあ、ハルマキよ。よく見ると最原だけでなくあやつも顔を赤くしてないかの?)

春川(もしかしたら、視聴者としてコロシアイを見てるうちに最原に興味を持ったのかもね)

夢野(あの短い間にファンを作ってしまうとは、最原も隅に置けん男じゃの)

春川(ファンで思い出したんだけど、視聴者からのコメントの中に、やたらと最原に執着したのがなかったっけ)

夢野(そういえばあった気がするが、あれもあやつが書いたものかのぅ)

春川(確か、『最原くんの眼球欲しい☆』ってコメントがあったような気がする)

夢野(ウチは『最原くんの細指折りたい☆』というのを見た気がするのぅ)

春川(ひょっとして……)

夢野(あれらを書き込んでいた者かもしれんのぅ……)

春川(…………)

夢野(…………)

春川、夢野((このままじゃ最原が危ない))


最原「ええっと、じゃあ、今日は20○○年の3月26日なんだね」

☆ちゃん「うん、そうだよ☆」

最原「次の質問なんだけど、白銀さんが言ってた退屈で平和な世界ってのは本当に……」

春川「ねえ、ちょっといい?」

最原「どうしたの?」

☆ちゃん「大丈夫だよ☆」

春川「あんたさ、さっき自分のことをコロシアイの視聴者の一人って言ってたよね」

☆ちゃん「うん、そうだよ☆」

夢野「お主は『最原くんの細指折りたい☆』という視聴者コメントに心当たりはないかの?」

☆ちゃん「!」

最原「!?」

春川「他にも似たような感じのに『最原くんの眼球欲しい☆』ってのがあったんだけど……」

最原「」

春川「疑ってるようで悪いんだけど、こういったコメントを付けてたのってあんただったりしないよね?」

夢野「ど、どうなんじゃ……?」

☆ちゃん「……」

春川「……」

夢野「……」


☆ちゃん「あーあ、バレちゃったか☆」

春川「なっ……」

夢野「お、お主、まさか本当に……!」

☆ちゃん「うん☆ いつもコメントに星マークを付けてたから、みんなから”☆ちゃん”って呼ばれてたんだ☆」

夢野「なるほど。ウチらに見えるようになる前から互いのコメントは見られるようになっておったんじゃな」

☆ちゃん「そうだよ☆」

春川「あんた、本当に最原の眼球を抜き取るつもり……?」

☆ちゃん「流石にそれはしないけど、最原くんを手に入れたいって思いは本当だよ☆」スッ

夢野「て、手錠じゃと!? まさかそれを最原に……!」

☆ちゃん「最原くんは渡さない☆」ゴッ


春川「させない!」

☆ちゃん「おっと危ない☆」

夢野「なっ、ハルマキの攻撃を避けたじゃと!?」

☆ちゃん「かなりギリギリだったけどね☆」

春川(こっちは素手だったとはいえ”超高校級の暗殺者”である私の不意打ちをかわすなんて……)

夢野「最原! いつまで放心しとるんじゃ! はよ逃げんか!」

最原「あ……えっ?」

春川「こいつの目的はあんたを捕まえることなんだよ!」

最原「で、でも……」

春川「いいから早く逃げて!」

最原「う、うん……わかったよ」ダッ


☆ちゃん「最原くん逃がさないよ☆」

春川「ここから先には行かせないよ」スッ

夢野「気をつけるんじゃぞハルマキ……」

春川「言われなくても。こいつの強さはさっきの一撃をかわされた時点でわかっ……」

☆ちゃん「邪魔☆」ドンッ

春川「なっ、ぐっ……」

夢野(んあっ!? あのハルマキをタックルだけで無力化したじゃと!?)

☆ちゃん「さーて最原くんを追いかけよっと☆」

夢野「待てい! 仕方ないのぅ……ウチのとっておきの魔法を見せてやるとするわい!」バッ

☆ちゃん「!?」


夢野はそう言うと被っている帽子を右手で掴んで脱ぎ、引っくり返した。
その瞬間、ポンッ! という軽快な音とともに可愛らしい花がいくつも現れ、宙に舞う。
目くらましのつもりだろうか。



「ふん、ウチの魔法はこの程度ではないぞ?」



そう言って夢野が指を鳴らした途端、ボンッ! という音とともに舞っている花の数が爆発的に増えていった。
瞬く間に視界は花で覆い尽くされ、雪山でホワイトアウト現象に見舞われた時のように方向感覚が奪われていく。
だが、寒冷地域の吹雪とは違い、この花による視界不良はごくごく局所的なものだ。
少し移動してしまえば範囲から抜けられる……そう思っていたが、夢野はそれを許さなかった。



「えっ☆ ちょっとなになに痛い、痛いって!」



いつの間にか鳩の群れがやって来ており、そのまま全身をつつき始めたのだ。
花で視界を遮られていたため直接見たわけではないが、夢野がマジッ……魔法で出したものなのだろう。
つつかれた痛みのせいで、思わず足が止まってしまう。



「かーっかっかっか! ウチの魔法の力、思い知ったか!」


「詰めが甘いよ、夢野さん☆」



完全に足止めできたと思った相手から、そう声をかけられた。
花と鳩の魔法は確かに効いていたと思ったのだが、思い違いだったのだろうか。
予想外の出来事に驚き、夢野は大声を上げてしまう。



「んああああああああああっ!? ウチの結界が破られたじゃと?」



驚きで少しチビりつつ、夢野は声のした方を見る。
シャワーのように降りそそぐ花々の中から現れた☆ちゃんは、両腕と頭に鳩を留まらせていたのであった。
その姿はまるで、生ける止まり木のようである。



「う、ウチの鳩が……」



密かに鳩を呼び戻そうとするも、鳩はその場から動こうとしない。
あの短時間のうちに手懐けられ、完全にコントロールを奪われてしまったようだ。
こやつは”超高校級の鳥使い”か何かだろうか?
もっとも、ダンガンロンパの設定の及ばぬ”外の世界”に超高校級の概念があるのかどうかは不明であるが。


夢野「まさか、ウチの鳩が奪われるとはの」

☆ちゃん「えっとねー、ほんの少しだけど動物と意思疎通ができるんだ☆」

夢野「そうじゃったのか。まるでゴン太みたいだのぅ」

☆ちゃん「ゴン太くんってあの昆虫博士の子だよね☆ 流石にあの子ほどにはできないよ☆」

夢野「この数の鳩を操れる時点でじゅうぶん恐ろしいがの」

☆ちゃん「それでどうするの、まだ私を止める気かな☆」

夢野「今のでMPが切れてしまってのぅ。ハルマキを気絶させられるお主を相手に、ウチができることは何もないわい」

☆ちゃん「そっか☆」

夢野「お主はウチも気絶させていくのか? ハルマキを介抱したいからウチは見逃してくれんかのぅ」

☆ちゃん「安心して☆ 無抵抗の相手に追い打ちをかける趣味はないよ☆」

夢野「それはありがたいわい」


夢野「お主は、ウチとハルマキをどうこうしようとは思わんのだな?」

☆ちゃん「うん☆ 私が興味あるのは最原くんだけだよ☆ レズでもバイでもないからね☆」

夢野「そのように言うということは、やはり最原のことはそういう目で見ておるのだな?」

☆ちゃん「もちろん☆ 最原くん大好き☆」

夢野「んあー、やはりお主はあのコロシアイの放送を見て最原を好きになったのか?」

☆ちゃん「そうだね☆ 最初は純粋にデスゲームを楽しんでたけど、気づいたら最原くんばかり見てたんだ☆」

夢野(いったいどのような心境の変化があったんじゃ……?)

☆ちゃん「じゃあ、私はそろそろ最原くんを探しに行くね☆ 鳩は返しておくよ☆」バサバサ

夢野「んあー、最原の奴を見つけたとしても、あまり本人の嫌がるようなことをするではないぞ」

☆ちゃん「善処するよ☆」タッタッタッ


夢野「足の速い奴じゃのぅ。あっという間にいなくなってしまったわい」

夢野(冷静になってみればあやつが最原に直接的な危害を与えるとも限らんし、捕まっても問題ないかもしれんの)

夢野「手錠で何をするのかが少し不安じゃが……流石にいきなり取って食うなんてことはないじゃろ」

夢野(そう考えると果たして最原を逃がす意味はあったんかの……)

夢野「まあよい。ウチらも最原を探しに行くとするか」

夢野(先に最原と合流して、あやつの目の届かないところに3人で逃げるに越したことはないしの)

夢野「ほれハルマキ、そろそろ起きんか」ペチペチ

春川「んん……あれ、いったい何が起きたっていうの?」

夢野「お主はあやつを止めようとして、その時に気絶させられてしまったんじゃ」

春川「そっか……結局あいつは止められなかったんだね」

夢野「まぁ、ウチが魔法でしばらく足止めしておいたから、最原も少しは逃げられたじゃろ」

春川(花やら鳩やらが散乱しているのはそういうことか……)

夢野「じゃが、最原が逃げ切れるとは到底思えん。あやつより先にウチらで見つけてやろうぞ」

春川「そうだね。最原が逃げていったのってどっちだったっけ?」

夢野「あっちじゃ」

春川「じゃあ、私達も急いで行こう」タタッ

夢野「な、なるべくついていけるように頑張るわい……」タッ


【廃病院】


最原「はぁ、はぁ……ここまで逃げれば大丈夫かな」

最原(言われるがままに逃げた僕は、しばらくすると廃病院を発見した)

最原(延々と逃げてようとすればいつかは体力が尽きてしまうだろうし、ここで少し休もう)

最原「それにしても、廃病院なんてホラーゲームの中だけの存在だと思ってたけど案外あるものなんだね」

最原(ひんやりとした空気が不気味だけど……才囚学園の4階よりはマシかな)

最原「ここで少し気持ちを落ち着けてから、この先どうするかを考えよう」

最原(探したら食べ物とか出てこないかな。ずっと走ってたからお腹が空いちゃった)


最原(鍵のかかってない倉庫に賞味期限の切れていない缶詰があったから、それで少しだけ胃を満たした)

最原「食べ物を口にしたのはいつ以来だっけ。学園崩壊とかもあって碌に食事もできなかったんだよな……」

最原(そういえば春川さんと夢野さんは何か食べられたのかな。というより2人とも今どこにいるんだろう)

最原「連絡をとろうにも携帯電話とかそういうの持ってないんだよな……はぁ」

最原(警察や交番に賭け込んで、誰かに助けを求めてみるというのも考えてみたけど……)

最原「僕達3人が社会的にどういう立ち位置か分からない以上、リスクが高いんだよな……」

最原(というか僕達の名前ってこれ本名なのかな……戸籍とかどうなってるんだろう)

最原「細かいことを考えようとすればするほど情報が少なすぎてどうしようもないや」

最原(インターネットとかを使って情報を集めたくても、やっぱり携帯電話がないからどうしようもない)

最原「さっきの女の人からもうちょっと色々聞いておけばよかったかな……」

☆ちゃん「私のこと呼んだかな最原くん☆」

最原「う、うん……えっ!?」

☆ちゃん「やあ☆」


☆ちゃん「来ちゃった☆」

最原「うわああああああああああっ!?」ダッ

最原(これでも全速力で逃げてきたつもりなのに……なんて足の速い人なんだ!)

☆ちゃん「最原くん逃げちゃダメ☆」ドンッ

最原「うあっ!?」

☆ちゃん「最原くんつーかまーえた☆」

最原(う、嘘だろ、女の人にこんなあっさり組み敷かれるなんて……)

☆ちゃん「最原くんおいしそう☆」ペロッ

最原「ヒッ……」ゾワッ

☆ちゃん「最原くんペロペロ☆」

最原「ちょっ、顔舐めないで……!」ゾワワワワ

☆ちゃん「これで最原くんは私のもの☆」ガチャリ

最原(い、一瞬のうちに手錠をかけられた……!)

☆ちゃん「最原くんいただきます☆」カチャカチャ

最原「(僕のズボンのベルトを……!)う、うわぁぁぁぁ!?」


その時、ゴンッ! という鈍い音がしたかと思うと、僕に跨っていた☆ちゃんさんが急に倒れ込んできた。
何の前触れもなく起こったその出来事に、一瞬頭が真っ白になる。
だが、すぐに我に返り、慌てて彼女を抱き止めた。



「☆ちゃんさん、大丈夫……?」



倒れかかってきた彼女の傍らに転がっていたのは、つい最近見たことのある砲丸。
そして、いつのまにか僕達2人の近くに1人の女の人が立っていた。
楽譜柄のスカートに、鮮やかなピンク色のベスト。肩からは白いリュックの紐が見えている。
ハッとして顔を上げると、色素の薄いサラサラとした髪、そしてそれを留める音符のヘアピンが目に入った。



「なんで、だって、そんな。冤罪で、殺されたはず……」



激しく動揺しているせいで途切れ途切れの擦れた声しか出てくれない。
だが、仕方のないことではないだろうか。
そこにいたのは、最初の事件で処刑されたはずの”超高校級のピアニスト”赤松楓その人だったのだから。


赤松「久しぶりだね。最原くん」

最原「い、生きてたの……? それとも、双子の妹……?」

赤松「どっちも違うよ。私はあの時のおしおきで確かに死んだけど、ここにいる私は”赤松楓”だよ」

最原「えっ、なんで、どうして……」ハッ

最原(よく見ると、赤松さんの体はうっすら透けていた。体の下の方ほど透過率は高く、足先はほとんど見えない)

赤松「あっ、気づいちゃった? どうやら私、幽霊になってこの世に現れちゃったみたいなんだよね」

最原「ゆ、幽霊!? 本当にそんなものが……」

最原(思い返してみれば、真宮寺くんの処刑の時にもお姉さんの幽霊らしきものが見えてたな……)

赤松「現にこうやって最原くんとお喋りできてるわけだし、幽霊は本当にいるってことで間違いないよ!」グッ

最原(赤松さんはそう言うと、懐かしい両手でのガッツポーズを見せてくれた。かわいい)


赤松「でも、どうして私だけ幽霊として出てこられたんだろ。一緒にいたみんなはできなかったのに」

最原「みんな……ってコロシアイで犠牲になったみんなと一緒にいたの?」

赤松「うん。死後の世界っていうのかな? おしおきが終わった後、気づいたら映画館みたいなところにいたんだ」

最原(なんで映画館なんだろう……?)

赤松「その映画館のスクリーンには生きてるみんなの様子が映ってて、最初は天海くんと2人で見てたんだよね」

赤松「次に星くんが来て、2回目の学級裁判の後に東条さんが来て……って感じでどんどん人が増えていったんだ」

最原「思ったより賑やかそうだね」

赤松「うん。真宮寺くんが来てからは大騒ぎで、怒るアンジーさんと茶柱さんをなだめるので大変だったよ」

最原(あんな理由で殺されたらそりゃ怒るだろうな……)

赤松「あと、キーボくんが白銀さんを連れて2人でやってきたときも大変だったなあ」

最原(ロボットも死後の世界に行けるんだ……ってそんなことはどうでもいいか)


最原「赤松さんは恨んでないの? 白銀さんのこと」

赤松「えっ?」

最原「だって、白銀さんはコロシアイを主導した首謀者だったうえ、赤松さんを無実の罪で処刑したんだよ!?」

赤松「……」

最原「憎いとか、許せないとか思ったことはないの!?」

赤松「……そりゃ全く恨んでないと言ったら嘘になるよ」

最原「……」

赤松「チームダンガンロンパがこんなこと企画しなかったら、私達は死ななくて済んだわけだしさ」

最原「だったら……!」

赤松「でも、天海くんの死の原因の一端を私が担ってるのも事実だし、そこはもう割り切ることにしたよ」

最原「……そっか」


最原「それで、どうして急に幽霊になって出てきたの? 今までは出てこなかったのに」

赤松「コロシアイの後の様子をみんなで眺めてたら、最原くんが女の人に追いかけ回されてるのが見えたんだ」

最原(そういえば☆ちゃんさん、あれから気絶したままだけど大丈夫かな……)

赤松「それで、どうにかしなくちゃ! って思ったらいつの間にか私だけ才囚学園の跡地にいたんだ」

最原「赤松さんは才囚学園で死んじゃったから、その場所に戻されたのかもしれないね」

赤松「念のため武器になりそうなものを持って、急いで飛んできたんだよ」

最原「(幽霊だから空を飛んで来られるんだね……)助かったよ。ありがとう」

赤松「結局、私だけが幽霊として一時的に戻って来られたのってなんでなんだろ?」

最原「うーん、他のみんなには当てはまらなくて赤松さんにだけ当てはまることって何か心当たりとかないかな?」

赤松「ええと……今日、3月26日が私の誕生日ってことぐらいしか思いつかないよ」

最原「案外、それが答えなのかもしれないね」

赤松「ええっ、まさか!?」

最原「アンジーさん風に言うと、神様が誕生日キャンペーンで少しだけサービスしてくれたのかもしれないね」

赤松「ずいぶん太っ腹な神様なんだね……」


赤松「そういえば、状況が状況だったからつい持ってきた砲丸で殴りかかっちゃったけど……」チラッ

☆ちゃん「」

最原「……大丈夫。脈はあるみたいだよ」

赤松「よかった……今度こそ本当に人を殺しちゃったかと思ったよ」

最原「何でよりによって砲丸を選んだの?」

赤松「あはは、大きさとか重さとか知ってたからつい、ね?」

最原(赤松さん、幽霊になったせいか前よりなんだか逞しくなったな……)

赤松「最原くん、何だか失礼なこと考えてない?」

最原「き、気のせいだよ……」

赤松「あ、そうだ。入間さんの研究教室からペンチ持ってきたから、手錠の鎖を切ってあげる」バチン

最原「ありがとう……」


その後、僕達の話す声を聞きつけた春川さんと夢野さんがやってきた。
どうやら僕のことを探しに来てくれたらしい。
同じタイミングで、気絶していた☆ちゃんさんが目を覚ました。
砲丸で殴られた後遺症なのか、☆ちゃんさんはさっきまでのことが嘘のように大人しくなっていた。


僕が危機的状況を脱したことで満足したのか、赤松さんは成仏していった。
別れ際にあの時言えなかった感謝と別れの言葉を伝えたところ、赤松さんは満足気な笑顔を浮かべていた。
悲劇的な別れ方をした前回と違い、すっきりした別れ方ができたのは僕にとってもありがたいことだ。


色々情報収集をしたいと☆ちゃんさんに頼んでみたところ、自宅のパソコンを使わせてもらえることになった。
インターネットを使えれば僕達が今、どういう状況に置かれているのかが少しは分かるかもしれない。
何一つ自分達の置かれている状況が分からない3人にとってはとてもありがたいことである。


☆ちゃんさんのノートパソコンで調べてみたところ、僕達3人にとって耳寄りな情報が手に入った。
まず1つ目は、僕の叔父が経営する探偵事務所が本当にあったということだ。
事務所サイトの叔父の名前が僕の記憶と一致したため、僕の親戚に関する記憶は偽りのものではないようだ。
念のため☆ちゃんさんの家の電話を借りて連絡してみたところ、叔父さんも僕のことを知っているという。


次に、春川さんが育てられたという孤児院について調べてみた。
すると、やはり春川さんの記憶通りの孤児院の名前が見つかったのだ。
そちらについても確認のために連絡を入れてみたところ、向こうも春川さんのことを知っているらしい。
ついでに春川さんの記憶の中では”暗殺を請け負う組織”となっていた神明救済会についても調べてみた。
インターネットで得られる限りの情報では、普通の宗教団体にしか見えなかったらしい。
暗殺組織の設定に関しては、白銀さんが言うところの”フィクションの設定”だったのかもしれない。


最後に、夢野さんが所属しているというマジシャンズキャッスルについても検索してみた。
どうやらこちらも実在する団体のようで、団体のサイトに夢野さんの写真が載っていたという。
ただ、歴代のマジシャン・オブ・ザ・イヤーの受賞者名を見ていったが、夢野さんの名前はなかった。
どうやら最年少でマジシャン・オブ・ザ・イヤーに選出されたという経歴は偽りのものだったらしい。
これを見た夢野さんは「ウチはマジシャンではなく魔法使いじゃから気にしておらんぞ」と半泣きで訴えていた。
結構ショックが大きかったみたいだ。


ちなみに、記憶通りの自宅の電話番号に電話をかけてみたところ、記憶通りの声の母親が電話に出たとのことだ。
帰る家自体は嘘偽りのないものだと知ることができてホッした様子だった。


少なくとも生き残った僕達3人に関しては、実際の生活環境に基づいた設定がなされていたらしい。
超高校級の才能は後から付与されたものだった(かもしれない)が、他の記憶は真実と嘘が混ざったものだった。
思ったより楽観視できそうな状況に、僕達3人は心の底から安堵した。


その後は(協力してくれた☆ちゃんさんのものも含め)互いの連絡先を交換した上で、ひとまず自分の元の生活に戻ってみることにした。
どこまでが真実でどこからがフィクションの設定かを確かめに行くのだ。
その後は、この超高校級の才能を生かして活躍するもよし、別の道を探すもよし。


そうやって、僕達の物語は続いていくんだ。



終結

なんでこんなssなんか書いたんっすかね(後悔)
大遅刻してしまいましたが赤松さんお誕生日おめでとうございます(約一週間遅れ)

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