【艦これ】古鷹「記念日の夜に」 (72)

「…古鷹さん、ごめんなさい」
そう言って渡された冊子に目を向ける。
表紙には「岩川基地第九八分署裏日報 三月」の文字。
「どんな形であれ、私たちは貴女のいない一ヶ月、貴女を騙していたということになる、と思うのだ」
「だから、これはケジメ。貴女に回していた『裏日報』はダミーで、今日までの流れは全部こっちにあるから」
どう裁いてくれても構わない、と押しかけて来た四人を一先ず追い返したのがつい五分ほど前のこと。
『ケッコン』記念パーティーの余熱と、いきなりの告白から頭を切り替えるために、一度大きく息をつく。
そもそも、この艦隊は変わっている点が多いから、余りスマートじゃない私は一から解きほぐさないと混乱してしまうのだ。

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無事立ったのかな。
なんとか今日中に始めたかったんで勢いだけで始めました。
何も問題なければ続きを書いていきます。

焦ると冷静に見えて手順が狂うのは秘書艦補佐組の悪い癖で、秘書艦である私は、それに流されないようにしなくちゃいけない。

そもそもの事の起こりは三月一日。
提督から横須賀で約一ヶ月の研修を命じられたところから始まった感じがある。
秘書艦としての顔つなぎもあったろうけど、恐らく提督の中ではこの時点で何かする気でいたのだろう。
そして、平時はここの秘書艦は三交代制でやっていたものが、私の長期不在を埋めるために二人代理を置くことになった。
その結果、この『裏日報』を機密の観点から今月一月限りで一冊作ることになった。
『裏日報』はそもそも、秘書艦が艦隊の運営状況など、現場から上がる情報を取りまとめて提督に提出する『艦隊日報』とは別に、この基地特有の三交代制に伴う齟齬が起きないように、秘書艦内で内密に情報を交換するためのものだ。
だからこそ機密保持の点から、正規の秘書艦とその補佐以外には見せたくないと思ったし、今回の謝罪に繋がる『ダミー』に至った原因だろう。

「何れにせよ、この『裏』裏日報を読んでみてから、ですね…」
よくわからない話の流れも、この混乱する頭も、きっとこれを読みきる頃にはクリアになっているはず。
そう思い、ページをめくるーー

三月一日 夜 響

臨時で秘書艦に入った響だよ。
しかし、まさか私たちの知らないところでこんなものがあったなんてね。
確かに複数の秘書艦がいる割に上手く回ってるとは思っていたけれど。
霞には「機密だからダメ」って言われたけど、先月分だけとは言わず、追々過去の分も全部読ませてもらいたいものだね。
さておき、報告事項だけれど。『表』に書いたものを除いてしまうとほとんど何も残らない。
提督は昼間『副業』だったらしく、「こんな日に働きたくはないものですね」なんて言っていた位だし。
強いて言えば、如何にも内々に、といった風に「一日艦隊運営を全面停止したらどんな影響が出るか」話を振られた程度のものだ。
一応思いつくままに答えたが、「この話は忘れてくれ」とのことだったので判断は任せるよ。
…意外と書き物っていうのは疲れるものだね。この辺りで失礼するよ。ダズビダーニャ。

因みに浦風が提督に手料理を振舞ってたけど、提督も熱が入って料理対決みたいになってた。
終わったあと浦風はすごい凹んでた。
浦風のモダン焼きも提督のお好み焼き風トマトソースかけも美味しかったよ。

三月二日 昼 霞

響、初回にしては上出来じゃない。ちゃんと大切な情報が入ってるわ。古鷹さんが帰ってきたら正式に補佐に入れるよう打診して貰おうかしら。
まず、提督のやる気は多分『卒業式』ね。半年とはいえ感慨深いんじゃないかしら。
尤も、そんなもの言い訳にもならないから交代時にビシッと言ってやるけど。だめよ、甘やかしちゃ。
問題はもう一個の方よね。私も聞かれたし、響が残しといてくれたおかげで事前に想定して話せたから良かったけど…。
今一つやりたいことが読めなかったわ。
探りを入れても「なんとなく」の一点張りだったし。
秘書艦組で協力して探っていかないとだめかもしれないわね。

浦風の件だけど、「料理のできる女の子」ってアピールポイント、ってどこかできいたと思ったけど、相手がウチの提督だからね…。
浦風には「主食じゃなくてスイーツで勝負しなさい」って伝えておくといいかも。

三月十八日 夜 初霜
提督の試作料理、作りすぎてしまったそうです。
秘書艦は一人五食分持っていくこと。
古鷹さんが戻る前に処理しないといけませんから。

磯風ちゃん、良かったわね。満潮ちゃんはずっと淋しがってたから、きっと良い関係を築けると思うわ。
ただ、貴女の料理は今までも「唸らされる」モノではあったから……
最後に……霞ちゃん、口が悪いって貴女が言えたことじゃないでしょう……?
艦隊で一番口が悪いのは多分貴女ですよ?

三月二十日 昼 初霜

響ちゃん、私も心から同意です。
美味しいからつい手を伸ばしてしまうのだけれど、お腹ははちきれそうなくらい満杯で。
しかも私、「霞ちゃんの口車に乗ってスパイ活動をした罪」とかいって司令官の分まで半分食べさせられて……
古鷹さんの迎えに出たとき「顔色悪いけど大丈夫?無理に出迎えなんてしなくて良いから、すぐ休んで?」って心配されちゃいました。やっぱり古鷹さんは優しいですね。
そのあと、部屋で休んでたら、若葉姉さんに「いつの間に……悪阻とやらは辛いらしいがどんな感じなんだ!?」って目をキラキラさせながら心配されました。お腹が少し膨らんでたのを見て誤解したらしいんですが……。今日からしばらく知らない人扱いしようと思います。

あと磯風ちゃん、私はそんなつもりではないですからね!?
磯風ちゃんならきっと美味しい料理を作ってくれるってわかってますから!

また中断です。まとまった時間を取れず…申し訳ありません。

三月二十三日 夜 響

裏日報の方は古鷹さんが書いてたから、ここは私が書いておくよ。

はじめに言っておくと、第二回も上出来だった。
スペシャルゲストに古鷹さんをお招きした時は流石の笑顔も引きつって見えたけど、あの笑顔が遺影にならずにすんで何よりだよ。私としても、昨日の冗談が遺書にならなくて何よりだ。
今日は洋風だったけど、ハンバーグにデミグラスソース、どちらも申し分なかったね。浜風と浦風の分は少し焦げていたようだけど、その程度はご愛嬌だろう。
明日夜「卒業試験」らしい。ずいぶん早いね、と言ったら、満潮曰く「基本教えたらあとは自分で試行錯誤しかないんだからしょうがないでしょ、あくまで『初心者卒業』よ」とのこと。
メニューは中華だって。Хорошо!

ああ、艦隊運用の方だけど、今日は本当に最小限、緊急対応のみで終了したよ。まだまだ執務時間はあるけど、提督が次月のノルマについて検討を始めたからね。

三月二十四日 昼 磯風

今月の『裏』は何時も以上に内輪だな。
尤も、艦隊運用以外でこんな一大企画が動くのは初めてだから仕方ないか。

今日はいよいよ満潮のフォローなしで料理することになる。
今まで同様レシピ本を見ながらだが、恥ずかしながら、かつてないほどに緊張している。
こういう時は叱咤役に霞が欲しかったが、生憎と今夜秘書艦らしい。
響によれば昨日提督が月次計画を立てたようだから、今夜の秘書艦はその検討で手一杯だろう。
折を見て差し入れでもしてやりたいと思う。楽しみにしていてくれ。

三月二十五日 昼 霞

ようやく事後処理が終わったわ…
何が「楽しみにしておいてくれ」よ。大惨事じゃない。お陰様で響の分まで私が代理よ。
提督は全力で凹んでた。キッチンの修繕に三日かかるって言ってたから、多分その間料理出来ない所為だと思う。
司令官は嬉しそうだった。「やはり磯風は仲間だった」って呟いてたから、そういうことなんだと思う。
正直後始末で疲れ果てててもう何も書く気力が起きないわ。

一応一つだけ、艦隊運用について。明日から古鷹さん指揮で敵母港空襲作戦を実施するって。Saraさんと由良さんに磯風、初霜の編成。二人は今回の件の罰だから、今回の件を不問にする代わりに、三人にこき使われて来なさい。

まあ、初霜が入ってる理由はよくわからなかったけど、多分司令官の中で磯風のお目付役ってことになってるみたいね。提督は一瞬首を傾げてたけど、最後は「ま、いっか」で終わってたわ。

三月二十五日 夜 初霜

霞ちゃん、後片付けありがとう。
でも、なんでその場で説明してくれなかったんですか…?
私、この件は完全にとばっちりですよね?
磯風ちゃんのお目付役って普通に考えたら十七駆陽炎型の三人じゃないかなって思うんですが…
なんて言っても詮無いことですよね。大丈夫です、切り替えて、行ってきます。

そうだ、明日のお昼にパーティー用の物資が届くみたいなので、響ちゃんはギンバイに注意しておいてください。
く・れ・ぐ・れ・も!見逃したり加担したりしないようにね!

>提督は全力で凹んでた。キッチンの修繕に三日かかるって言ってたから、多分その間料理出来ない所為だと思う。
>司令官は嬉しそうだった。「やはり磯風は仲間だった」って呟いてたから、そういうことなんだと思う。


すまんけど質問だ。ここって提督二人だったの?

三月二十六日 昼 満潮

件の罰として磯風遠征中の代理に入った満潮よ。
正直彼女のセンスを甘く見てたわ。まさかあそこまでとは。
簡単に言ってしまえば究極に「融通が利かない」のね。
「あそこのコンロ、少し火力が弱いから」って言ったけど、だからと言って本にあるレシピから何も変えなかった所為で酢豚の豚肉が生焼けで浦風たちはダウン。
方や餡掛け作りでは水溶き片栗粉を作ろうとして、細かく計り過ぎて本体を焦がし、焦って隣にあった小麦粉を撒き散らして粉塵爆発。
……艦娘服でやってなければ死んでたかもね。

とまあ分析した通りを提督に上げたら、「目付役とレシピでの指示をきちんとすれば禁止するほどじゃないな」だって。大概甘いわよね。

ちなみに、古鷹さんは遠征から帰投後、その足で鹿屋の港と高千穂の港を巡視するよう命令が出るって。
その戻りをパーティー当日に合わせたみたい。
というわけで、物資も届いたし、箝口令は本日付で解除。内々の準備ももう全部表立って始めて良いってさ。

三月二十六日 夜 響

一気に基地が騒がしくなったね。
まあ、満潮が真っ先に青葉にリークしたから、当たり前といえば当たり前かな。
しかし古鷹型の三人の湧きようったらすごかったね。すぐに三人分の年休申請と外出願が上がって来たよ。提督も一瞥しただけで即決裁してたしね。
妙高型や改最上型の皆も何か用意するみたいだし、まあ、やっぱり慕われている感じがするね。

ちなみに満潮が先に書いた内容、一つだけ補足するよ。
提督は確かにそこまで重く見てなかったけど、司令官が難色を示してね。
結局自分に責任があるから、と梃子でも動かない姿勢を見せた満潮に、司令官が折れたっていうのが事実だよ。

おや、提督から呼び出しみたいだ。この辺りで。

>>39

ご覧いただき感謝です。
極力分かり辛いようにしてはみましたが、そのつもりです。
当初は同時に登場させないことで叙述トリックでも…と思っていた気もしますが、ご指摘いただいて思い出す有様でした。

三月二十七日 昼 Warspite

I'm very worried about Furutaka.
I hope she's fine, but radiotelegraphies tell us tense situation…

遠征中の第二艦隊から緊急の打電があったのが今朝未明、提督はすぐに高練度の駆逐艦隊を編成し、秘書艦補佐のВерныйを旗艦に据えて救援を実施。
As a result, the slowest battleship is here without any trouble.
愚痴を言っても仕方のないことではありますが…、やはり大恩ある方の窮地に助けに行けないことは焦れるものです。

三月二十七日 夜 Warspite

I continue writing it again, because an emergency continues.

始めに昼に書いた件について少し。
断片的な情報からわかる範囲では、敵母港空襲作戦に出た第二艦隊が途上でsurprise attackを受けたようです。
その際古鷹が大破し、先に書いたdestroyersの救援につながる。
その後の報告で、艦隊は全て帰投中とのことだけれど、個艦の状況については一切が不明。

Fortunately, this surprise attack was before morning. Therefore…
関係した艦娘に箝口令が敷かれただけで、基地としては落ち着いているわ。

尤も、提督の心中は穏やかではなかったと思います。
烹炊所の職員に頼み込んでずっとパーティーに向けて料理の仕込みをしていたし、手伝っている私にわかるほど平静を欠いた手捌きだったもの。

三月二十八日 夜 磯風→霞

私としたことが、実に不甲斐ない。
敵艦隊の出没想定海域外だったとはいえ、索敵に失敗して古鷹さんをあの様な目に合わせてしまった……
せめて彼女が目を覚ますまで、私が

磯風が帰投後休息も取らずに阿呆やってたので力尽くで休ませたわ。あの子本当に加減が下手すぎ。
細部については戦闘詳報に譲るけど、全員の行動に問題なしの判断が降ってるわ、私も全く異存なしのね。
つまり今回の件は事前の想定に問題があったわけで、それは「安全海域」を設定した提督と上層部の責任。
提督の言う通り、「磯風達は良くやった。よくぞ古鷹を生きて連れ帰ってくれた」としか言い様がないものよ。

まぁ、今頃初霜共々ドックでお灸を据えられてるだろうし、ここに書くのはこんなもんでいいかしら。
由良さん、あれで怒ると怖いから……

古鷹さんはまだ目を覚ましていないけど、命に別状はないらしいし、パーティーは予定通り行えるとのこと。
「『快癒祝い』なんて余計なもの付ける予定はなかったんだがな」とは提督の談だけど、やれるだけ万々歳じゃない。

そうと決まれば準備の続きよね。盛大に行きましょ。

三月二十九日 昼 初霜

古鷹さんが目を覚ましました。本当に良かった……
検査もあって一日安静だってことだけど、もう心配ないだろうって。

えっと、この度はまたご迷惑をおかけしました。
響ちゃんと満潮ちゃんが代わってくれるとは言ってくれたけど、私は大丈夫。
ただ、やっぱり皆慰めてくれるけど、古鷹さんは磯風ちゃんを庇って被弾したから……
でも、提督のお叱りは大分効いたみたい。「助けられた命を軽んじるなんて、随分良いご身分になったものだな」って。提督のお怒りモード、久々に見ました。

そんな一幕もありましたが、不幸中の幸いというべきか、古鷹さんがドックで検査を受けてるおかげでパーティーの準備が半ば公然と行われ、結果として遅れていた進捗が計画通りに戻りました。

というわけで、引き継ぎです。
『例のアレ』も小会議室に移しました。
確認して欲しいのですが、あと何人か分足りないので、今夜と明日昼のうちに片付けておいてください。

三月二十九日 夜 磯風

皆、心配をかけてすまない。
提督のみならず、霞にも初霜にも、由良にもさんざ叱られ、流石にこの磯風も反省した。
特に提督は、あれほどまでに言われるのは初めてだったので驚いたぞ。
霞や初霜にそう話した時の反応を見るに、初期からいた者達は知っていたようだがな。

件の『アレ』についてだが、私をはじめ、響、Saratoga、Warspite、満潮にも書いてもらった。
これで全員分揃ったが、もう一つのものにも驚いたな。正規の秘書艦補佐組で話し合い、最後は霞と初霜で決めたはずだが、私も含め武骨の塊だと思っていた。
いやはや、なかなかどうして、やるではないか。これで後顧の憂いなくパーティーに挑むことができるというものだ。

本心を言えば我が手料理を振る舞いたいものだが……暫く禁止の処分を受けてしまったが悔やまれる。

>>42
返答ありがとう。磯風と書くところを提督と書いちゃったのかな?とも思ったんだが気になったんで質問させてもらった
ネタつぶしになってないといいんだけど、ごめんね。>>1もSSも今夜からのイベントもがんばってや

三月三十日 昼 響

提督初の激怒対象だった私がここで回ってくるとは、皮肉だね。
基本的に、彼は冷静を装っているけど短気かつ激しやすいからね。幾年か北辺で暮らしたことで、情動を表面だけは凍りつかせる術を身につけたように見えるよ。
まあ、一つ言えるのは、直截に怒られたということはまだ幸せだってことだろうね。秘書艦補佐のみんなは重々承知してるだろうけど、提督は見込みがないとみれば皮肉という名の猛毒を吐くだけで終わらせる人だからね。

さて、準備の方は恙無く、と言っていいだろう。磯風のテロもなければ青葉の悪ノリドッキリも鎮圧済だよ。
後は夜に霞と提督が最終点検をして終わりさ。
私としては二人が司令官のオーナメントを見た時の反応を記録しておいてほしいところだけど……。提督とWarspiteが「Hopeless!!」と口を揃えた料理のセンスからは信じられない出来だからね。

>>49

こちらこそご指摘ありがとうございます。
更新が安定せず……なんとかイベ開始までに仕上げたいと思う次第であります。

三月三十日 夜 霞

いよいよ明日。人事は尽くした感じはあるわね。
言いたいことは色々あるけど、うちの提督の料理の腕は基地内でもかなりのものだと思うし、司令官があれで意外と演出やら装飾のセンスが良かったから、きっと良いパーティーになると思う。
止まる艦隊運営は……私達でなんとかすればいいし、本当、いい一日になりそうだわ。
あと、ずっと書き忘れてたけど、磯風、ナイスフォロー。貴女のダミーのおかげで今日までなんとか隠し通せたわね。

古鷹さん、全て終わってから私はこの『裏』裏日報を貴女に渡します。不在にしてた一ヶ月、本当はなにがあったかを読んで、明日私達を叱ってください。
最後に、提督がパーティーで話す予定の原稿を転記しておくわ。
どうせあのクズのことだから、本番は上手く喋れないだろうし、なにより私達の気持ちも全く一緒だから。

「古鷹。
君はこの基地が5人の艦娘とともに立ち上がった時から、秘書艦として影に日向に私達を支えてくれた。
『重巡洋艦の良さを知ってください』と言いながら、長いこと艦隊の重巡は君一人で、重圧も人一倍だったのではないだろうか。
それでも、Warspiteが着任するまでの2ヶ月にわたり、艦隊唯一の重火力艦として戦果に大いに貢献してくれたこと、心から感謝している。今となっては、基地開設後初のE海域、周囲に不可能と言われたあの戦闘に加わり、戦果を上げることができたのは偏に君のおかげだと思う。
そんな数々の貢献に対しての勲章と呼ぶには些か物足りないが、私からの信頼の証を君に捧げたい。
指輪とは本来愛を誓うものだと少将殿には言われたが、そんな大それたものではない。
君のこれまでの忠節と貢献に報いるために、この基地一つ目の指輪を、私からの特別な信頼の証として、『古鷹』の就役日である今日、君に受け取って貰えればと思う。
君の歩む道に幸多からんことを」

日報を閉じて深く息を吐く。
一ヶ月の間、大きな問題が無かったことはパーティーの雰囲気を見れば明らかだったけど、引き継ぎ資料でもあるこれを読んで改めてホッとする。
そして、何よりも補佐の皆の成長を感じられることが嬉しかった。
本音を言えば、長期研修に出されることになって少し寂しかった。
私抜きでもこの基地は問題なく回って行く、ということが受け入れ難かった。
でも、こうして皆が互いの足りないところを補いながらやっているのを見て、そして私のために一緒になってくれているのを見て、心の中に温かいものが広がるのを感じる。
皆と一緒なら、きっとこれからも。
そんな温かな想いとともに日報を軽く抱きしめると同時に、遠慮がちなノックの音が響いた。

「古鷹、俺だ」

提督の声。
普段、弁えた人である彼が深夜に女性の部屋の戸を叩く、ということに大きな驚きと緊張が走る。

「は、はい!古鷹に何か御用でしょうか!?」
「……少し、話したいことがあってな。顔だけでも見せてくれないか?」

皆の前では信頼を口にしたが、もしかするともしかするのだろうか。
ふと気になって、つい姿見に目を向けてしまう自身を恥じる。
……でも、だって。

「な、なんでしょう?」

期待と緊張が綯い交ぜになったまま扉を開く。
こんなことなら青葉の揶揄いにもっと耳を傾けておくべきだったかも知れない。

「うむ、実は指輪についてだが、霞達補佐の三名にーー、って、どうした、古鷹?」
「……いえ、何もありません」

今度は落胆と安堵とが綯い交ぜ。
「もしかして、私は『特別な意味』で特別なのでは」という期待が裏切られたことと、そんなあまりに少女的すぎた自身の思考回路と。
いきなりすぎなくてよかったことと、彼が公私の別を弁えていること。
ごちゃごちゃすぎてわからないまま、先ほどまで見ていた日報のある出来事を思い出す。

「提督、私は賛成です。でも、折角ですからーー」

後で私も霞ちゃんに怒られてしまうかな、なんて笑みが浮かんでしまうのでした。

一応これにて一段落とさせていただきます。

いずれ何処かにて前日譚や後日譚でも書きたいと思いますが、その折はもう少し書き溜めて余裕を持って置きたいと思います。
…高々30かそこらの中身に1ヶ月以上とは…

教訓・転職&引越と同時進行でSSを書くべからず

いったん乙。イベントがんばろう。古鷹さん使おうそうしよう

少し遅れましたが、少しだけ後日譚を書いていきます。

>>59

感謝です。
妹の旅のお目付役をしたため私の17春は明日からですが、聞くところによれば最終海域は制限なしとのこと。
是非重巡洋艦の良さを教えてもらいたいところですね。

四月一日 昼 古鷹

昨日、艦隊運用が停止されていた分を取り戻すため、第二以下がフル回転でした。
早速曙ちゃんが愚痴を言っていたので、私が謝ったら逆に混乱していました。
誰かフォローしてあげておいてください。

四月三日 夜 霞

古鷹さんの曙の件、初霜が上手くやってくれていました。口は悪いけど根は良い子なので、あっさり片づいたみたいです。

それはそうと、鎮守府全体がまだ落ち着きなく感じるのは何故かしら。
古鷹さんのパーティーの余韻が抜けてないのかしら、だらしないわね。

最後に連絡。
七日夜、月次計画検討会議なので、ヒトハチマルマルに小会議室集合だって。

四月四日 昼 初霜

また霞ちゃんは……貴女がそれを言います?何時も言ってますよね?
確かに曙ちゃんはその通りの性格ですけど、それを言うなら貴女こそその最たるものでしょうに。

でも、私も雰囲気は気になってます。
お祝い事の空気だけど、何に向けてかがわからないの。
私たちの練度は『もうすぐ』だけど、私たちの『記念日』は三人とも違うわよね。提督は割と担ぐタイプみたいだから、多分この線は違うと思うの。
七日に集まるなら、『あの戦い』かとも思ったけど、祝うような日でもないし……
響ちゃんたちが最近古鷹さんと一緒に行動してるので、それに関係あるかもしれませんね。明日、聞いてみます。

四月八日 昼 磯風

深夜まで会議があった直後の朝番は流石に辛いな。
司令官も珍しく眠気を隠しきれないようだ、演習を命じる声に張りがなかった。

古鷹、霞の言う通りだ。
確かに私たちにとって『あの戦い』は特別なもので、その時の全員が再び集う日を願ってはいるが。
提督は初霜に「何時かまた全員で、次は誰も欠かすことなく、約束の場所に」と誓ったらしい。
私達はその言葉を信じているからな。

しかし、こうは書いているが昨日の霞は見ものだったぞ。
そわそわと提督の一挙一動に過剰に反応し、肩透かしを食らっては溜息、果てには何もなく会議が終わると、いち早く部屋を出て一人百面相。
後ろから見ていて笑い出すのを堪えるので一杯一杯だったな。
……まあ、お陰でこちらはその分落ち着いていられたという面はあるが。

四月九日 昼 初霜

今日は何時になく変な日でした。
秘書艦業務もそこそこに、二十を超える出撃。
しかも、職掌外だから、と普段は滅多に向かわないリランカ周辺。
非番の霞ちゃんには福岡で物資納入に関する折衝指示が出ていました。
艦隊運営が滞った、というわけではないのですが、普段ないことなので、とても気になります。
少し疲れているのでこの位にしておきます。

四月九日 夜 古鷹

みんな、ごめんなさい!
提督が大きな勘違いをしてたことがわかりました!
朝何気なく話して気付いたのだけれど、その所為でここ数日おかしなことが連続してたことがわかりました。
今急いで響ちゃん達に動いてもらっているので、明日、明日全てわかりますから!

四月十日 夜 Warspite

Kasumi, Isokaze, Hatsushimo, Congratulations onynur Kekkon!
三人とも、楽しんでいただけましたか?
Admiralともあろうお方が、三人にとって一番大切な戦いの日を間違えていたなんて。 I was surprised what I've heard.
One American said, A diplomat is a man who always remembers a woman's birthday but never remembers her age.
Accordinng to his words, our admiral is not clever against our impression.
Kasumiが色々言うのも仕方ないことだと思います。
ですが、最後には皆パーティーを楽しんでくれたみたいですし、HatsushimoもIsokazeも何時も以上に頼もしく見えました。
提督が言っていたように、「これからも
力を合わせて、古鷹を、そして私達提督を支えて」いってくださいね。
Best wishes for your happiness!

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