文香「変わり始めた日まで、及びごっこと呼べた日まで」 (5)


これはモバマスssです

過去作
フレデリカ「朝食前の一欠片ごっこ」
杏「気付いた日から、つまりごっこと呼ぶ日から」
文香「決断まで、及びごっこと呼べる日まで」
フレデリカ「最後のデートごっこ」
フレデリカ「人のお金で焼肉ごっこ」
肇「変わり始める日へ、或いはごっこと呼ぶ日へ」
その他ごっこのお話

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「ふぅ…世話の焼ける方々ですね」


「それ、文香ちゃんが言っていいセリフじゃないと思うけどね」


いつもの四人で事務所の部屋で騒いだ後。
ジャンケンに負けた私と杏さんの二人は、飲み物を買いに廊下を歩いていました。
残念ながらこのフロアには自動販売機が無いので、エレベーターを待って下の階に。
音も無く動くエレベーター内で、私は杏さんに微笑みかけます。


「ふふ…フレデリカさんや肇さん程ではないと思いますが」


「いや、杏からしたらどっこいどっこいだから」


心外ですね…なんて、以前でしたら言っていたかもしれません。
ですが、今の私にとって。
彼女達ほど体力はありませんし、バイタルもメンタルも圧倒的に劣っているかもしれませんが。
肇さんやフレデリカさんと、同等に見て貰える事が嬉しいんです。


一緒にいて楽しい仲間達と、同等でいられる。
こんな私でも、誰かと楽しむ事が出来る。
それは、とても素敵な事で。
ずっと続けばいいのに、なんて…



「あ、財布忘れた。文香ちゃん持ってる?」


ポケットに手を当てた杏さんが、そう呟きました。
困りましたね。
お財布がなければ、飲み物を購入出来ません。
そして…


「…すみません、私も部屋に…」


私も、お財布を忘れてしまった様です。
元から杏さんに支払いを押し付けようとしていた訳ではありません。


「おっけー取ってくるから待ってて」


杏さんが、小走りでエレベーターへと戻って行きました。
手持ち無沙汰な私は、自動販売機前のソファに腰掛けます。
ウォーン、と無機質な自動販売機の音だけが響く空間に、私は一人。
どうせでしたら、本でも持って来れば良かったかもしれません。



そう言えば。
私は思い出しました。
以前の、あの人と私のいた部屋が。
この自動販売機スペースからすぐの場所にある、と。


杏さんが戻ってくるまで、まだ時間は優にあります。
腰を上げ、足を動かしました。
特に大きな理由はあります。
ただなんとなく、前の部屋がどうなっているか気になって。


…そう、ですよね。


当然ながら、別の方々の部屋となっていました。
中からは、おそらくアイドルとプロデューサーの声が聞こえます。
ですが、もうこの部屋に思い入れはありません。
だって、既に彼は…


ポーン。
エレベーターがこのフロアに到着した音が聞こえます。
けれど、表示は上行きになっていて。
下から登ってきたであろう男性の方々が、こちらやってきました。


おそらくこの部屋の方に用事があるのでしょう。
邪魔にならないように、私はそのドアの前から離れ自動販売機まで戻ろうとしました。
その時、その男性の内一人が此方を見て。
そして、部屋へ入っていく時に。


「…よく、続けられるな」


ぼそりと呟いた声が、私の心に針の様に突き刺さり。
私の足は、床に縫い付けられました。


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