ガヴリール「ヴィーネの結婚前夜」 (62)

ゆったりと

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ガヴリール「綺麗だよ、ヴィーネ」

 そのヴィーネは、今までに見てきたどのヴィーネよりも美しく
 どのヴィーネよりも私の心を締め付けた。

ヴィーネ「ありがとう、ガヴ」

 世界で一番美しい姿のヴィーネが
 世界で一番最初に私に微笑んでくれた。

 今ならまだヴィーネに手が届く。
 今ならまだヴィーネは誰のものでもない。

 今なら、今なら──

◇高2の夏

ガヴリール「そろそろ帰ろう」

ヴィーネ「あー、ごめんガヴ」

ヴィーネ「私ちょっとこの後用事があって……」

ガヴリール「待ってようか?」

ヴィーネ「いや、いいの!」

ヴィーネ「どうなるかわからないし」

ガヴリール「そう?」

ガヴリール「じゃあお先~」

ヴィーネ「う、うん」

 この時無理やりにでもヴィーネを連れて帰っていれば何か変わっていたんだろうか。
 何の根拠もないくせに、いつまでも今が続くと思っていた。

◇翌日

ヴィーネ「──」テレテレ

ガヴリール「……へ?」

サターニャ「はあ!?」

ラフィエル「あららー、おめでとうございます!」

ヴィーネ「──」

 ヴィーネの言葉が聞こえない。
 ヴィーネの言葉が理解できない。
 私は、親友を祝福出来ない程に堕ちてしまったのか。


 ──ヴィーネに恋人が出来た。

◇夜

 整理しよう。
 私は別にヴィーネに恋心を抱いていたわけではない。
 きっとヴィーネが私より先に恋人を作ったことに衝撃を受けただけだ。
 こんな胸の痛みは一過性のもの。
 明日になれば、すぐ、収まる……

ガヴリール「……寝れない」

ガヴリール「あぁもう、モヤモヤする!」

ガヴリール「まだ二時か……」

ガヴリール「誰でもいいからこのモヤモヤをぶつけたい……」

ガヴリール「普段ならこういう時はヴィーネに相談するけど」

ガヴリール「今ヴィーネの声を聞いたらいっそうモヤモヤしそうだしな」

ガヴリール「サターニャはマトモに会話できるとは思えないし」

ガヴリール「ラフィ……いやまあタプリスかな」

プルルルル プルルガチャ

タプリス『ふぁあい……? どうひたんれすかー? 天真ひぇんぱい?』

ガヴリール「寝てたか」

タプリス『もうこんな遅くですよー?』

ガヴリール「あー、なんかごめんな」

ガヴリール「相談相手が欲しくて」

タプリス『何かお悩みですか?』

タプリス『天真先輩のお役に立てるのならばこのタプリスいくらでもお力添えを!』

ガヴリール「ありがとう、今は素直にうれしい」

ガヴリール「それがさ──」

ガヴリール「──ってことなんだよ」

タプリス『月乃瀬先輩に恋人さんが……』

タプリス『でもそのお気持ちはわからないでもないです』

タプリス『私も、天真先輩にそういうお方が出来たら祝福しなきゃなのに、素直に祝福出来ないかもしれません』

タプリス『きっと天真先輩の事を尊敬していたから』

タプリス『嫉妬? みたいなものは恋心とか関係ないんじゃないかなって』

ガヴリール「そう……だよな」

ガヴリール「きっとヴィーネと仲が良かったから、寂しいっていうだけだよな」

タプリス『月乃瀬先輩も恋人さんが出来たくらいで天真先輩と距離を作るような人ではないと思うので心配はいらないはずです!』

ガヴリール「ありがとう、なんとなく楽になったよ」

タプリス『いえいえ、お役に立てたのなら光栄です』

ガヴリール「じゃあ、おやすみ」

タプリス『おやすみなさい!』

プッ

ガヴリール「そっか、そうだよな」

ガヴリール「むしろこれは嫉妬とかそういうもんじゃなくて」

ガヴリール「私の世話が後回しにされるんじゃないかっていう心配だよな」

ガヴリール「あーすっきりした」

◇翌日

ガヴリール「で、どこのどいつだよ」コソコソ

ラフィエル「あ、あの三人組の右の方ですね」コソコソ

サターニャ「パッと見は地味ねー」コソコソ

ガヴリール「あいつが……」コソコソ

サターニャ「で、どうすんのよ」

サターニャ「本当にただ顔を見てみたかっただけなの?」

ガヴリール「それ以外何もやることなんてないだろ」

ラフィエル「ヴィーネさんを巡って勝負……とか如何でしょう」

ガヴリール「なんでだよ」

サターニャ「それ面白そうね」

ガヴリール「面白くねーよ」

ガヴリール「教室戻る」テクテク

サターニャ「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 色々話を聞くうちに、ヴィーネの彼氏とやらのことが少しずつわかってきた。
 長男で、弟が一人いること。
 進学希望で、公務員を目指していること。
 人当たりがよく、誰からも好かれてはいるが押しが弱くいまいち友人止まりということ。
 ヴィーネへの告白は、決死の覚悟だったこと。


 何か裏をとればヴィーネから引きはがせるかと思って調べていたのに
 知れば知るほどヴィーネから引きはがす理由がなくなってしまった。
 いつの間にか私もこいつにならヴィーネを任せてもいいんじゃないか、なんて思うようになってしまった。

ガヴリール「ヴィーネ、今日は……」

ヴィーネ「うん、一緒に帰ろう」

ヴィーネ「最近一緒に帰れなくてゴメン」

ガヴリール「別に」

◇帰り道

ガヴリール「えーっとさ」

ガヴリール「その、なんだ」

ガヴリール「最近は上手くやっているのか?」

ヴィーネ「なにその父親みたいな質問」

ヴィーネ「彼の話?」

ガヴリール「う、うん」

ヴィーネ「そうね……」

ヴィーネ「うん、凄く楽しい」

ガヴリール「そ、そっか」ズキ

ガヴリール「そりゃ、よかった」ズキズキ

ヴィーネ「──」

ガヴリール「うん」
 
 何も聞こえない。

ヴィーネ「──」

ガヴリール「うん」

 何も聞いてない。

ヴィーネ「──」

ガヴリール「うん」

 何も答えたくない。

ヴィーネ「そういえばサターニャがさ」

ガヴリール「うん」

ヴィーネ「また魔界通販で何か買ったらしいんだけど大きいからって」

ヴィーネ「来週家に集まるように言ってきたのよね」

ガヴリール「それ私も言われたな」

ガヴリール「行く気ないけど」

ヴィーネ「まあ……ろくなものじゃなさそうだしね」

ガヴリール「ヴィーネはいくの?」

ヴィーネ「行かなかったら泣きそうだし」

ガヴリール「それも面白そうだが」

ガヴリール「でもヴィーネは」ズキ

ガヴリール「あいつと一緒に居たいんだろ」ズキズキ

ガヴリール「私たちと遊んでる暇なんてあるのかよ」ズキズキズキ

ヴィーネ「何言ってるのガヴ?」

ヴィーネ「それとこれとは別でしょ」

ヴィーネ「友達との時間はあんまり減らしたくないし」

ヴィーネ「今まで通り」
ガヴリール「でもさ」

ガヴリール「そんなこと言って最近全然一緒に帰ってくれなかったじゃん」ズキズキ

ガヴリール「うちの掃除にも来てくれないし」ズキズキ

ガヴリール「両立できないなら……」

 ──どっちかに絞れよ。
 そんなわがままをぶつけようとして、止めた。

 ヴィーネが困ると思ったから?


 違う。


 もしヴィーネが自分達ではなく、あいつのほうを選んだら
 そう思うと怖くて、怖くて、口に出来なかった。



ガヴリール「もうすぐクリスマスか」

ラフィエル「今年もヴィーネさんのお家でパーティですかね」

ヴィーネ「ごめん! 今年はちょっと無理なの!」

ガヴリール「……」イラッ

サターニャ「そういやあんたはそうよね」

ラフィエル「じゃあ私たちで集まりましょうか?」

ラフィエル「タプちゃんも誘って」

ヴィーネ「あー、そっちも楽しそうだなー」

ガヴリール「じゃあこっちに来ればいいだろ」

サターニャ「流石にそうはいかないでしょ」

ラフィエル「恋人さんとの初めてのクリスマスですしね」

ヴィーネ「本当にごめんね」

ラフィエル「また後日集まりましょう」



サターニャ「ちょっとガヴリール!」

サターニャ「最近ヴィネットと喧嘩でもしてるの?」

ガヴリール「何もしてねーよ」

ラフィエル「やっぱり、ヴィーネさんに恋人が出来たことが関係しているのでしょうか」

ガヴリール「ん……別に」

サターニャ「一応天使なんだからちゃんと祝福してやりなさいよ」

サターニャ「それでヴィネットがあんたに冷たくなるわけでもあるまいに」

ガヴリール「うるさい」

ラフィエル「乙女心とは複雑なものですね」

 結局、サターニャの家で開かれたヴィーネ抜きのクリスマスパーティにも行かなかった。
 今はどう楽しめばいいのかわからない。

 あいつらは今は私やヴィーネのことを忘れて楽しんでいるのだろうか。

 ヴィーネは私たちのことを忘れて楽しんでいるのだろうか。
 ヴィーネのことを考えるとただ胸が苦しくなる。

 クリスマスに恋人同士がすることを想像した。
 イベントの時のヴィーネの推しの強さも相まって
 どんどん嫌な方向に想像が膨らんでいく。


 ──ああ、吐き気がする。


 景気よくラッパでも吹いて人類を滅ぼしてしまおうか。
 そうしたらヴィーネは怒るだろうか
                  悲しむだろうか
                     ──ただ私を恨むだろうか

 たとえ恨みの感情でも、あいつの事を忘れて私の事だけを考えてくれるならそれでもいいか

 なんて思ってしまう私は本当に天使失格だ。

◇翌日

ピンポーン

ピンポーン

ガヴリール「なんだよこんな朝早くから……」

ガヴリール「はいはい」ガチャ

ヴィーネ「まさか今起きたの?」

ガヴリール「ヴィーネ……」

ガヴリール「……っ」

ガヴリール「昨日は……」

ガヴリール「どう、だった?」

 何もなかったのならそれでいい
 もし一線を越えたというのなら私はどうなってしまうだろう。

ヴィーネ「どうって、別に普通だけど」

ヴィーネ「ご飯食べてイルミネーション見て」

ヴィーネ「家に帰っただけ」

ガヴリール「一人で家に帰ったのか?」

ヴィーネ「途中までは送ってもらったけど」

ヴィーネ「どうして?」

 安堵。
 昨日から胸を満たしていた吐き気がおさまった気がした。

ガヴリール「なーんだ」

ガヴリール「てっきりカップルがクリスマスに二人きりーなんていうから」

ガヴリール「ヤる事ヤっちゃったのかと思ったよ」

ガヴリール「そっかそっかヴィーネはまだ清い体か」

ガヴリール「いや私も先を越されたかと焦っちゃって……」

ヴィーネ「……」カァ

ガヴリール「……なんでそんな赤くなってるんだよ」

ヴィーネ「あー、いやその」

ヴィーネ「あはは」

ガヴリール「……」

ガヴリール「は?」

 やばい、吐きそうだ。

 そんなこと知りたくなかった。
 知りたくなかったのに聞かずにはいられなかった。

 ヴィーネはまだだって、そう思いたかった。

 鼓動が早まる。

 胃の奥底から何かがこみ上げてくるのを感じる。

ガヴリール「ごめんヴィーネ」

ガヴリール「帰って」

ヴィーネ「え、ちょっとガヴ」

バタン

 戸を閉めて急いでトイレに駆け込んだ。

 吐き気はするのに吐くことが出来ない。
 気持ち悪さが一向に収まらない。

 ヴィーネが、あんなやつと。
 考えたくないのに
 考えたら吐きたくなるのに
 考えたら死にたくなるのに
 考えたくないのに
 考えたくないのに
 考えずにはいられない。

 頭の中がその事実で埋まる。
 それ以外のことは考えられない。
 
ガヴリール「お、っえ……」

 何度もえずいたが、最後まで落ち着くことはなかった。 

◇高3の春

 あんなに、苦しかったのに少しずつ慣れてしまった。
 初めは死にたい、殺してやりたい、そんなことばかり考えていたのに。

ガヴリール「おはようヴィーネ」

ヴィーネ「おはよう、今日もちゃんと学校来たわね」

 あれから私も私なりにヴィーネの手を煩わせないようにと少しずつ変わっていった。

 ヴィーネのことだからどれだけ忙しくても私の世話をしてくれるだろう。

 でも、あいつが疲れたヴィーネを癒す存在になるのがどうしても許せなかった。

 私がヴィーネの負担を減らせば減らすほどお前は癒す存在じゃなくなるんだよ、ざまあみろ

 

 この数か月間、ヴィーネとあいつの関係は何も変化はなかった。
 実際には変化はあったんだろうけど私たちには何も言ってくれなかった。

サターニャ「ふふん、ちゃんと学校に来るようになって」

サターニャ「私のライバルとしての自覚が出てきたようね」

ガヴリール「そんなもんは1ミリもない」

 実はここ最近サターニャには感謝している。
 こいつが私をふりまわしてくれる時、ヴィーネとあいつの事を少しだけ忘れられる。
 
 だからと言ってこいつじゃヴィーネの代わりにはならないけど。

◇一か月前

ガヴリール「ヴィーネが結婚!?」

ヴィーネ「うん、来月に式を挙げようと思ってるの」

ガヴリール「そりゃまた急な話だな」

ヴィーネ「ずっと話し合ってはいたんだけどいざ決定っていうのが出来なくて……」

ヴィーネ「人生で一番のビッグイベントだからね」

ガヴリール「ついにヴィーネも結婚か……」

 おめでとう。なんて言えなかった。
 こうしている今も吐き気がこみ上げて仕方がない。

 少しずつ慣れたさ。慣れたはずだったさ。
 でも結婚だなんてさ、ヴィーネが誰かのものになってしまうってことだろ?

 ヴィーネはずっと私の隣にいたんだよ。
 ヴィーネはずっと私に優しかったんだ。
 

ヴィーネ「それでね、ガヴ」

ガヴリール「うん」

ヴィーネ「ガヴに、友人代表のスピーチをお願いしたいの」

ガヴリール「え」

ガヴリール「私……?」

ヴィーネ「私の一番の友達はやっぱりガヴだから」

ヴィーネ「ガヴに、お祝いしてほしくて」

ガヴリール「……考えておくよ」

ヴィーネ「お願いね!」

 信用されるってことがこんなに残酷なんだって初めて知った。

 ヴィーネは本気で私がヴィーネの結婚を祝福すると思ってる。

 そりゃそうだ、私は天使だから。

 でも現実はそうじゃないんだ。

 誰よりもヴィーネの幸せを願うべきキューピットは
 誰よりもヴィーネの幸せを願っていない。

 そんな私の言葉でヴィーネは幸せになれるのかい?

終ってはいないです



ラフィエル「それで、お受けしなかったんですか?」

ガヴリール「考えとくって言っただけだよ」

サターニャ「ねえ、あんたってヴィネットのこと好きだったの?」

ガヴリール「そういうのじゃないよ」

ガヴリール「自分でもわからないけど」

 『好き』なんて感情わからない。 
 ただ隣に居てほしかっただけ。

サターニャ「ガヴリールもそろそろ相手見つけないと行き遅れるわよ」

ガヴリール「お前らだって居ないだろ」

ラフィエル「まあ、私にはサターニャさんが居るので」

サターニャ「何言ってるのよ……

ラフィエル「……こんな提案したくはないのですが」

ラフィエル「もし、ガヴちゃんが本気でヴィーネさんの結婚を拒むというのなら」

ラフィエル「ガヴちゃんが、結婚式を壊してしまえばいいのではないでしょうか」

ガヴリール「結婚式を……壊す?」

ラフィエル「友人代表のスピーチを担当して」

ラフィエル「そのスピーチで結婚式の全てをめちゃくちゃにしてしまえば」

ラフィエル「ヴィーネさんの結婚も有耶無耶になるのでは?」

サターニャ「あんたやっぱり悪魔でしょ」

ガヴリール「……」

サターニャ「ガヴリール、本気にしちゃだめよ」

サターニャ「ラフィエルもあんまり変なこと言うんじゃないわ」

ラフィエル「申し訳ありません」

 ラフィが望んでいるのはヴィーネの幸せでもなく私の幸せでもない。
 ラフィはただ面白そうな事を望んでいるだけだ。

 そういう所は昔から本当に変わらない。

 ヴィーネも昔のまま変わらずにいてくれればよかったのに。

ガヴリール「考えておくよ」

サターニャ「ちょっとガヴリール!」

ガヴリール「はは、冗談冗談」

ガヴリール「冗談には冗談で返さなきゃな」

◇その夜

プルルルル

プルルルル

ガチャ

ヴィーネ『もしもし? ガヴ?』

ガヴリール「もしもしヴィーネ」

ガヴリール「スピーチの件、やっぱり受けるよ」

ヴィーネ『本当! 嬉しい』

ヴィーネ『絶対ガヴにやってもらいたいと思ってたんだ』

ガヴリール「私はヴィーネの一番の親友だからな」

ガヴリール「任せとけ、最高のスピーチを考えておくよ」

ヴィーネ『あはは、なんか想像しただけで泣いちゃいそう』

ガヴリール「楽しみにしてな」

 ──決心が、ついた。

 ヴィーネに恨まれたってかまわない。

 私は……

◇当日

ガヤガヤ

ガヤガヤ

タプリス「天真先輩! こっちです!」

ガヴリール「ん、もう皆集まってるのか」

サターニャ「ガヴリールが遅いのよ」

ラフィエル「ガヴちゃん、この間言った事は気にしないでくださいね?」

ガヴリール「ああ、もちろんだよ」

タプリス「神前式じゃないんですね」

サターニャ「あいにく祈る神がいないからね」

ガヴリール「それでもヴィーネなら神に誓いそうだけどな」

ラフィエル「想像が容易いですね」

司会「それでは、両家のご家族のご入場です」

パチパチ
    パチパチ

司会「まもなく、新郎新婦のご入場です」

パチパチ
    パチパチ

 純白に身を包んだヴィーネが、左手にブーケを持ち
 右手をあいつと絡め、入場する。

 会場入りする前にも見た、世界で一番美しい姿のヴィーネ。

 高砂に着き、一礼。着席。

サターニャ「綺麗ね」

ラフィエル「やはり憧れてしまいますね」

タプリス「はぁ……私もいつか……」

ガヴリール「……」

司会「それでは新郎新婦のご紹介を」

司会「新郎は──」

 この日を待ち望んでなんか居なかったはずなのに

司会「──」

 ヴィーネの美しい姿を見ることが出来ただけで来て良かった

司会「新婦は──」

 そんな風に思ってしまう自分がいる。

司会「──」

 私はポケットからスピーチ原稿を取り出し、目を通す。

 何も書かれていない白紙のスピーチ原稿。

 全部全部終わらせるんだ。

司会「主賓挨拶」

司会「主賓は、新郎新婦が出会った時の、新婦の担任である方に努めていただきます」

 グラサンが新郎新婦の前へと歩いていく。

サターニャ「グラサンの姿を見るのも久々ね」

ラフィエル「お変わりありませんね」

ガヴリール「元々髪が無いから変化が分かりにくいな」


グラサン「月乃瀬……いや、もう苗字は違うんだったな」

グラサン「それでも月乃瀬と呼ばせてもらおう」

グラサン「月乃瀬は、真面目で優秀な生徒だった」

グラサン「かと言って大人しい生徒だったかというとそういうわけでもなく」

グラサン「行事へのはりきりようは正直怖かったくらいだ」

ヴィーネ「先生……」カア

ワハハ

グラサン「新郎の──は直接受け持ったことはないな」

グラサン「今日はいらっしゃらないが君の担任の先生がこう伝えてほしいと言っていたよ」

グラサン「クラスの中心にいるわけではないが」

グラサン「クラスにとって必要な存在で」

グラサン「少々推しが弱いところが心配だと」

グラサン「そんな彼が今こうして人生の新たな一歩を踏み出そうとしている」

グラサン「それがまるで自分の事のように嬉しいと」

グラサン「そんな二人の幸せを、心から願う」

グラサン「結婚おめでとう」

パチパチ
    パチパチ

司会「それでは、乾杯の音頭を」

司会「胡桃沢さん、お願いします」

サターニャ「わかったわ」

ガヴリール「お前かよ」

サターニャ「まずは起立してもらおうかしら」

ガタッ
ガタタッ

サターニャ「それじゃあ、ヴィネット達の幸せを願って」

サターニャ「乾杯!」

「乾杯!」

サターニャ「さーて早速食べるわよ!」

タプリス「天真先輩、よそいますよ」

ガヴリール「ん、ああ」

ガヴリール「ありがとう」

ラフィエル「新郎新婦のお姿を写真に収めなければ」

タプリス「あ、私も!」

タプリス「天真先輩も行きましょう」

ガヴリール「私はいいよ」

サターニャ「……じゃあ私も残るわ」

サターニャ「食べるのに忙しいし」

ラフィエル「サターニャさんは色気より食い気ですね」

ガヴリール「……」

サターニャ「」モグモグ

ガヴリール「行かなくて良かったのか?」

サターニャ「散々見たし」

サターニャ「あとでラフィエルに写真送ってもらえばいいしね」

ガヴリール「そうか」

サターニャ「それにあんた一人にしちゃダメな気がして」

ガヴリール「別に何もしないよ」

サターニャ「あんたさっきから気持ち悪いのよ」モグモグ

サターニャ「なんか、『決心しました!』みたいな顔して」

サターニャ「何やらかすかわかったもんじゃないわ」

ガヴリール「お前、結構鋭いんだな」

サターニャ「大悪魔だからね」モグモグ

ガヴリール「でも本当に心配するな」

ガヴリール「きっと……」

ガヴリール「お前が思ってるようなことにはならないよ」モグ

サターニャ「……そう」

サターニャ「あんたがそういうならそうなんでしょうね」モグ

サターニャ「天使が嘘なんてつくわけないもの」

ガヴリール「当たり前だ」モグモグ



司会「お色直しを終え、新郎新婦の再入場です」

ワーワー

ラフィエル「なんだかヴィーネさん、色っぽいですね」

サターニャ「悪魔というより小悪魔ね」

タプリス「そんな月乃瀬先輩も素敵です!」

ガヴリール「あぁ、本当」

 綺麗だなあ。

司会「それでは、ご友人代表のスピーチです」

ガヴリール「私……だな」

ラフィエル「ファイトですガヴちゃん!」

タプリス「大見せ場ですよ!」

サターニャ「あんたそれプレッシャー与えてるわよ」

タプリス「あわわ、うっかりしてました!」

ガヴリール「大丈夫だ、行ってくる」

 ヴィーネの思い通りになんて、ならない。
 私はヴィーネが積み上げてきたものを全部壊してやるんだ。

 全部全部全部、これで終わる。

 ここで終わらせる。

 台無しにしてやろう。
 あることないことぶちまけてやろう。


ガヴリール「えーと、コホン」

ガヴリール「友人代表としてご挨拶を承りました」

ガヴリール「ヴィーネとの出会いは高校入学の直前で──」

 会場の全てが私の言葉に集中している。

 
ガヴリール「ヴィーネは、私からみても最高の女だ」

 ──本当。

ガヴリール「お前最高の女を嫁に出来るなんて前世でどれだけの徳を積んだんだよ」

ガヴリール「幸せにしなかったら私がヴィーネを連れていっちまうからな」

ガヴリール「だから……」

ガヴリール「だから、ヴィーネを幸せにしてやってくれ」

ガヴリール「私は……私はっ」

ガヴリール「お前たち二人の幸せを……」

ガヴリール「心から、願ってる」

 ──これは嘘。

 ずっと、笑顔でいてほしかったんだ。
 涙なんて見たくなかったんだ。
 
 きっとこれが『好き』っていう感情だったんだろう。


 嫉妬に溺れ、嘘に塗れた天使を天使と呼べるだろうか。
 私はそんなものを天使とは思えないね。

 これで私は正真正銘の堕天使になったわけだ。

 ごめんな、ヴィーネ。
 ヴィーネはずっと私を正しい天使にしようとしてくれていたのに。

 もう正しい天使になんて戻れそうにない。
 ヴィーネの積み上げてきたもの、壊しちゃった
 

 ヴィーネのおかげで『好き』を知って
 ヴィーネのせいで天使じゃいられなくなった。

 皮肉なもんだ。 

 ふとヴィーネの顔を見た。

 おいおい、笑っていてほしくて嘘をついたっていうのに
 そんなに泣いてたんじゃ嘘をついた意味が無くなっちゃうだろ。


 だけど、まあ

 こういうのも悪くない。



司会「以上で、閉式とさせて頂きます」

ラフィエル「頑張りましたね、ガヴちゃん」

ガヴリール「天使が祝福しないわけにはいかないだろ」

サターニャ「初めてあんたの事を天使らしいって思ったわ」

タプリス「天真先輩はいつだって立派な天使です!」

ガヴリール「色々と決心がついたよ」

 これからはもう嘘はつかない。

 私が最初からヴィーネへの気持ちに嘘をつかなければ
 もっと違う結末もあったかもしれない。

 だから、もう見失わない。
 
 ヴィーネを幸せにするのは私の役目ではなくなってしまったけれど

 きっと私が幸せにできるものがこの世界にはあるんだろうから

 もう、見逃さない。


前半は負の気持ちをぶつけることが出来て楽しかったです。
終盤は書きたいことが多くてまとまらなかったのが悔しいです。
こんなスローペースで最後まで付き合ってくれた方ありがとうございました。

ところで結婚前夜どこ?

もしよければ過去作もよろしくお願いします。

ガヴィーネ
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