一ノ瀬志希「化け物志希ちゃん」 (49)


初投稿です


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パパ…?

「すまない、志希。」

どうしたの?そんな顔して?

アタシのレポートを見てくれるんじゃなかったの?

いつもみたいにアタシの頭をなでて褒めてくれないの?

「もう俺は…お前が娘には見えない」



「化け物にしか、見えない」


―――

ママは居なかった。

それこそ物心がつくまえからね。

パパの机の上の写真を見ては「この人が私のママか」、っていつも思ってたよ。

パパが「志希はママにそっくりだ」って言われると、何故かわからないけど嬉しかった。

知らない人に似ているって言われてるのに、おかしいよね?

声も匂いも知らない人に似ているって言われて喜んじゃうなんてさ。


まぁママが居なくてもアタシは幸せだったよ、なんて言ったってパパが居たからね!

アタシの成果を自分のことのように喜んでくれるし、アタシが落ち込んだらいつまでも慰めてくれるし。

とってもとっても優しい、理想のパパだよ!

…でも、アタシ以上にぶっ飛んでたね、いろんな意味で。

パパに比べるとアタシなんかまだ可愛いもんだよ、うん。

だからプロデューサーはアタシにもう少し優しくしてもいいんじゃない?無理か!ニャハハハ!

まあまあ、冗談はこれくらいにして。

本当に理想のパパだったよ、あのときまではね。

「化け物」

このときが、アタシとパパの関係の変わり目かな。


アタシはただパパに褒められようとしていただけなんだよ。

認めてもらいたかっただけなんだ。

アタシが何か成功するたびに、心の底から、自分のことのように喜んでくれて、いっぱいアタシを褒めてくれた。

だからアタシはもっと褒めてほしい、もっと褒めてほしいってさらに上のレベルのことを身につけてはパパに見せた。

最初はアタシの成長をパパは素直に喜んでいた、最初はね。


でも、いつからか、アタシの研究レポートを何か恐ろしいものでも見るようになっていった。

馬鹿なことに、アタシはパパの異変に気づかず、更に更に上を目指した。

段々とパパの顔が険しくなっていってることにも気づかないで、愚かにも志希ちゃんは成果をパパに見せ続けた。

気づいたときにはもう遅かったよ。

「化け物」

あのときのあの言葉が、頭の中で何度も何度も再生される。

パパは、アタシとどう接したら良いかわからなくなってた。

アタシは、パパになんて言えば良いのかわからなかった。

どうすれば良いのか、互いにわからなかった。

そのときのパパの部屋のにおいは、多分一生、忘れない。

忘れられない。


今日はここまでです、続きは明日にでも。

初投稿のこんな駄文を読んでいただきありがとうございます。
よかったら前作も読んでください(唐突なダイマ)→
http://twpf.jp/vol__vol


再開します。

ご意見があったので臭み取り作業をしてみましたが、まだ臭みが残ってるかもしれないので都度修正していきます。
こういうのって自分じゃ気づけないから意見してもらって滅茶苦茶助かります。


それからしばらくして、アタシはアメリカの大学に入った。

とにかく、パパと離れたかったんだ。

「もっと高度な研究をしたいから」…なんてパパには言って納得させたけど本当は違う。

アタシをアタシとして見てくれない人がいる家から出たかったからなんだ。

まあパパもアタシとは距離を置きたかったみたいだし、了承してくれたよ。


それに、アタシよりも高いレベルの人はアタシのことを「化け物」なんて思わない…なんて考えもあったよ。

ただの一人の女の子として、「一ノ瀬志希」としてみてくれるかもしれないってね。

まあそんななけなしの希望は簡単に壊されちゃったけど。

「さすがはシキ、さすがはギフテッド、さすがは化け物」

あそこの人たちは、化け物としてのアタシだけを必要としていた。

中身なんて見てなかった。


楽しかったのはほんの数日で、皆が「志希」と呼んでくれたのは最初の最初だけで。

あの人たちにレポートを見せてからは全てが変わった。

あの時以降、あの人たちにとってのアタシは、成果を上げる「素晴らしい化け物」になった。

成果を上げると笑顔で褒めて認めてくれた、「化け物」ってね。

笑顔でアタシを「化け物」って呼ぶ人たちしかそこには居なかったんだよ。

「化け物」って、あの人たちにとって最高の褒め言葉なんだろうけど、アタシにとっては下手な罵詈雑言よりも心をえぐる酷い言葉だった。

成果を出せば出すほど言われる回数も増えて。

アタシを「天才」と呼び、「神の子」と言い、「ギフテッド」と称え、「化け物」と褒め、「志希」としては見ず。

かつて褒められることが大好きだったアタシは、誰かに褒められるだけで軽く吐き気がするようになった。


でもね、アタシは馬鹿だからね。

何をしたら良いのかわからなかった。

結局の所、アタシは化学しか能が無いただの女の子だからさ、全てを忘れようと、よりいっそう研究にのめり込むようになっちゃって。

逃れようと、もっと高いレベルに行けば更に多くの賞賛を浴びて。

更に上に、更に多くの、更に上に、更に多くの…って。

少し考えたらわかる悪循環に、馬鹿なアタシはどっぷりハマっちゃった。

いっそのこと化学とか研究とか、全部やめちゃえば良かったんだろうけど、やめたらそれこそアタシがアタシじゃ無くなるような気がしてさ。

アタシにとって、化学が、たった一つの、最後のよりどころだったんだ。

化学が最後のよりどころだったのは…多分、パパの影響だろうね。

まあそれがアタシの心をキツく、よりキツく締めちゃうんだけど。


それから、耐えられなくなったアタシは逃げるようにして大学から出た。

大学を出てからは、日本に帰ってきて気ままに過ごしてたよ。

何をしたら良いのかわからないし、何かしたいこともなかったし。

あいにく、お金だけはいっぱいあったからね、いろんな所を転々と自由に、何をするわけでもなく放浪してた。

日々を無駄に、送ってた。

そんなときだよ、プロデューサーと出会ったのは。


今日はここまでです、明日は投下できるかわからないから明後日かその次かも。

ネタ被りしてるのかよア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!(汚い高音)


再開します。

有吉反省会でBEMYBABYが流れて笑いが出た。


「ねえ!ちょっと話を聞いてもらえないかな?」

正直に言うと、第一印象は「またか」って感じだった。

いままでもこういう風に声をかけられてたからね、全部断ってたけど。

「自分は、アイドルのプロデューサーをしてる者で…」

今までと違ったのはここから。

「歌って、踊って、輝いて!皆が君を見て!皆が君に夢中になるんだ!」

大きな身振り手振りでいろいろな動きをして、想像も出来ないような世界のことを楽しそうに言って。

アタシは、見知らぬ人のする知らない世界の話に惹かれた。

これまでだったらうさんくさく思ったり、興味なしって決めつけて無視して立ち去るかだったんだけど、なぜか、このときはそうじゃなかった。

何でかな?

「もし興味があったら、この名刺に書いてある場所に来て!いつでも大歓迎だから!」

こうしてキミは、アタシに言いたいことだけ言って立ち去ってったよね。

そのとき、去って行くキミの背中を見ながら、アタシは確かに、人生が大きく変わっていくのを感じた。


「あ、君は!来てくれたんだ!オーディション会場はこっちだよ、案内するね」

「一ノ瀬さん!合格おめでとう!これからよろしくね!」

「すごいよ一ノ瀬さん!初レッスンでもうほとんど完璧じゃないか!」

「一ノ瀬さん、俺の鞄に薬品入れるのはちょっと…」

「い、一ノ瀬さん!で、デビュー!デビューだ!CDデビューが決まったよ!」

「一ノ瀬さん!これ以上の失踪は頼むからやめて!」

「ウグッ…一ノ瀬さん…初ライブお疲れ様…ごめん、ちょっと、涙が…」

「こんなに一ノ瀬さん宛のファンレターが届いて…俺、嬉しいよ…!」

「一ノ瀬さん…なんか最近…自由すぎないかな…?」

「一ノ瀬さん!だから俺の鞄に薬品を入れないで!」

アイドルとしての活動は、アタシにとって化学と同じくらい楽しくて、化学とは違った世界が見えた。

オーディションに合格したときは、飛び上がるほど嬉しかった。

レッスンで久しぶりに褒められたとき、あの吐き気は来なかった。

CDのレコーディングで、実は今までに無いくらいに緊張してた。

アタシの歌をファンのみんなが聴いてくれたとき、笑いながら軽く涙が出た。

ファンレターの文字を、一つ一つ、かみしめるように読んだ。

いつからか、心に余裕が生まれて、前よりも楽しい日々を過ごせた。

続けていく内に、アタシにとって、「アイドル」がもう一つのかけがえのない大切な物になっていった。


でもね、いつからかな、「化学」と「アイドル」だけじゃない、もう一つのかけがえのないものができたんだ。

それはね、プロデューサー、キミだよ。

アタシに新しい世界を教えてくれて、導いてくれた。

アタシに「化け物」以外の意味を与えてくれた。

アタシのことで喜んで、泣いてくれた。

アタシをまっすぐ見てくれた。

このアタシに、初めて「恋」をさせた。

プロデューサーが、アタシにとっての大きな心の支えになったんだよ。


あ、そうそう、ここらでキミに本気で恋しちゃったエピソードでもいこうか。

キミは知らないだろうけどね。

あのときだよ、「つぼみ」のとき。

アタシがアイドルになってから一番大きな壁にぶつかったときに、アタシはキミにこれまでのことをいろいろ話したよね。

心が弱ってたからかな、話さなくても良いことをべらべらと話しちゃった。

パパのこと、大学のこと、アイドルになってからのこと。

初めて人にあんなに話しちゃった。

所々泣いちゃって、つっかえちゃって、上手く伝えられなかった所もあったけど…キミは最後まで付き合ってくれたよね。

まさかキミの方が泣いちゃうとは思わなかったけど。

「一ノ瀬さん…話してくれてありがとう…グスっ…」

まあそこも、キミの好きなところだよ。


でもね、もっと予測がつかなかったよ。

キミがあんなことしちゃうなんてさ。


今日はここまでです、続きは明日にでも。

臭いのが良いのか臭くないのが良いのかどっちかわからないので、良いあんばいにしていけるように調整します。


再開します。

今回で終われ。


キミに全部打ち明けてから、アタシはどうしてか、色々と上手くいくようになった。

レコーディングの時、心のどこかがふっと軽くなった感じがしたよ。

安心と、嬉しさで。

そしてしばらくしてから、ライブで「つぼみ」を披露することになって。

レッスンもリハーサルも、気味悪いくらいに上手くいって。

ライブは大成功だった。

この成功のために、裏でキミが走り回ってたのを知ってるからこそ、アタシは頑張って頑張って頑張った。

だからこそ大成功したんだろうね。

愛の相乗効果ってヤツ?ニャハハ!

なんてね。

でもこれ以外に、もっともっと大変なことをしてたよね。

これは知らなかったなあ。


ライブが終わって、ユニットのみんなと笑い合って、遅いからって打ち上げは後日ってことになった後。

キミはアタシを呼んだよね。

あの人と一緒に。

「…久しぶりだな、志希」

パパと一緒に。


「ごめんねいちの…志希さん。これは俺が勝手にやったことだし、もしかしたらすごい失礼で、志希さんは怒っちゃうかもしれない。」

怒るとか言うよりもそれ以前に、急展開過ぎてわけがわからなくて。

「…でも、あの話を聞いちゃったら、居ても立っても居られなくてね…志希さんのお父さんを、このライブに招待してたんだ」

アタシは戸惑うしかなかったけど。

「しばらく見ないうちに、大きくなったな…志希」

久しぶりに聞いた、全く変わってない聞き慣れた声は、アタシの脳にまっすぐ入り込んで、アタシの心をつかんで離さなかった。


「また、ママに似てきたな。目元と口元なんて、もうそっくりだ」

昔、嬉しかった言葉。

「ライブ、すごかったな…パパ、あの歌、聴いたとき、泣いちゃったよ」

昔みたいな、褒め言葉。

パパの声は、震えて。

「………」

すこし黙ってから。

「…すまない、すまない志希、あのとき、あのとき志希に、志希に…!」

初めてパパは、アタシの前で涙を流した。


「いまでも、あの時の、ことを、思い出すんだ…志希の、あんなに、悲し、そうな顔を…!自分の言った言葉を…!」

涙は、

「志希の、心に、お、大きな傷を、つけてしまったと…!あの、時から、悔やんで、も、悔やみ、きれなかった…!」

多くなって。

「あのときから、家で、志希は、笑わなく、なってしまった…!自分が、志希の笑顔、を、奪って、しまったんだと…!」

多くなって。

「だが、今日、ステージの上に、立った志希は、笑顔で…!生き生きと、して…!楽しそうで…!!」

多くなって。

アタシは居ても立っても居られず、パパの胸に飛び込んだ。


パパに抱きついて。

涙をぐっとこらえて。

今まで言えなかったことを、今。

「…ぱぱぁ、ぱぱぁ…!ごめんなさい…!」

二人とも大泣きしながら、抱き合った。

互いが互いに謝って、抱きしめ合った。

このとき、パパからした匂いは、あのときと似ていて。

アタシはこの匂いを、一生忘れない。

忘れたくない。


「よかった…志希さん、ほんとうによかった…!」

「プロデューサーさんも、ありがとうございます…!」

「いや、自分は、ひぐっ、何もたいしたことなんか…ぐすっ、ぐすっ…」

アタシとパパとプロデューサーと、三人で泣きながら今までのことを話した。

パパのこと、アタシのこと、アイドルのこと。

パパもプロデューサーも、いろいろなことを、包み隠さず語ってくれた。

三人とも泣きながらだから、上手く話せなかったよね。

でもその日の夜は、今までのアタシの人生で一番長く、一番素晴らしい夜になった。

あの夜のことは、忘れないよ。


―――
――


「志希さん起きて、寮に着いたよ」

「むにゃ…」

「良い夢でも見てた?顔が何かすっきりしてるけど」

「ああ、うん、そんなとこ~」

ああ、寝てる間にこれまでのことを思い出してたんだね。

あれを夢、って言って良いのかわからないけど…まあいいや、眠いし。

「まだ寒いから暖かくしてね、それじゃ、また明日。」

「うん……うん、また明日」

また明日。


一人でベッドに寝転ぶと、いつも思うことがある。

あのとき、パパに「化け物」と言われなかったら、アタシの人生はどうなっていたんだろうって。

IFの話だし、どうなっていたのか想像もつかない。

もしかしたら、今よりも楽しくて素晴らしい人生になっていたかもしれない。

でもね。

アイドルになれたのも、化学以外の生きがいを見つけられたのも、パパの本音を聞けたのも。

誰かを本気で、好きになったのも。

全部あの日、あのとき、「化け物」と呼ばれなきゃ経験できなかった。

あの日から、アタシの人生は今に向かって創まっていたんだ


「また明日」

また明日が来る。

明日もきっと、あの日から続いている。

その次の日も、またその次の日も、あの日から続いていく。

「化け物」の志希ちゃんから、つながっていく。

明日はどんな日になるのかな。

いつかキミに、全部話せる明日になるかな。

なんてね♪

~完~


ここまでです、ありがとうございました。

BUMPさんの「ファイター」聴いてたら志希ちゃんが浮かんできたので書きました。
見返すと「ファイター」要素がほとんどないですね、精進します。


前作→
【デレマス】クラリス「懺悔室」
【デレマス】クラリス「懺悔室」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489929056/)

時間とお暇があれば。

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