「誰か、誰かいませんか!」(45)

 なんですかこれ、ウィルスですか?

「うわ! あの、声、聞こえていますか?」

 ふざけているなら今すぐ止めて下さい。

「止めるって何をですか?」

 通報しますよ。

「待ってください。状況が分からないのは自分の方です」

 人のパソコンに勝手に文章を表示しないで下さいと言っているんです。

「文章? 何の話ですか? ・・・・・・あれ? ちょっと! ここ何処なんですか。

おーい! 誰かいませんかー? おーい。ふざけないで下さいよ」

 あの。

「うわ! 何ですか突然」

 ネットで調べたんですけど、リアルタイムでワードに文章を入力するウィルスなんてなかったですよ。

「だから何の話をしているんですか?」

 前田さん?

「はい?」

 前田さんくらいじゃないですか、僕の周りでパソコン詳しいの。イタズラはやめて下さい。

「前田? どなたのことですか?」

 じゃあ誰なんですか。

「あれ? 分かりません」

 はい?

「自分は気づいたらここに居たんですよ! いや、居るといいますか、何処にもいない感じもして」

 、d

「え?」

 すいません、打ち間違えました。

「打つって、何をですか?」

 キーボードをです。

「キーボード? 、dって聞こえましたけど」

 聞こえる? 見えるではなくてですか?

「はい、聞こえました」

 何処にいるんですか?

「だから、ここに居る風な感じなんです」

 ちょっと待って下さい。

「はい」

 お待たせしました。

「遅かったですね」

 すいません、コーヒーで下半身びしょ濡れだったんです。

「大丈夫ですか?」

 画面の中で勝手に文章が打ち込まれてびっくりしたもので。

「それより、何とかしてくださいよ」

 とりあえず説明して下さい。あなたは誰で、今何処にいて何をしているんですか。

「だから、誰か分かりません。うーん、強いて言えばあなたと話しています」

 本当に冗談じゃないんですか?

「冗談ではありません。あなたこそ何処にいて何をしているのですか?」

 家で小説を書いていました。突然ワードにあなたの言葉が表示されて驚いています。

「ワード?」

 はい。

「訳が分からないです」

 そうとしか言えないんですよ。周りに何が見えますか?

「何も見えないです。見えないというより、何もないんです」

 何も? 何かあるでしょう。例えば、壁とか。

「うわ!」

 どうしました?

「壁があります」

 壁?

「壁ですよ! 周りに壁が出てきました!」

 そうですか。

「今ちょっと返事遅くなかったですか? 疑ってません?」

 別に。

「これ、あなたが壁の話をした途端に出てきたんですよ」

 他には何かありますか?

「何もないです」

 歩いて何か探して下さい。

「あ、歩けるようになりました。探します」

 どうですか?

「いや、何もないですよ。そもそも進んでいるかどうかも分かりません。」

 あの、ちょっと試してみます。

「え?」

 ちょっと待っていて下さい。

「はい」

 その公園には木陰にベンチがある。

「あ、ベンチだ。公園ですかここ」

 あの、何て呼べばいいですか?

「自分ですか?」

 はい。男か女かとか、それだけでもいいんで教えて下さい。

「どちらでもないんです。教えて貰いたい位ですよ」

 女は、そのベンチに座った。

「ふう」

 やっぱり。描写するとその通りになるんです。

「描写?」

 はい、多分そこは小説の中なんですよ。

「そうなんですか?」

 女はスクワットを始めた。

「あれ、止めて下さいよ、きついきつい」

 ほら、やっぱりそうなんですよ。これは小説です。描写をした途端にこれですから。

「ぜえ、ぜえ。ちょっとこれ止めて下さいよ!」

 女はスクワットをやめ、ベンチに腰を掛けた。

「はあ、はあ。死ぬかと思いました」

 女の疲労は、不思議と直ぐに消えた。

「あれ、疲れが……。本当だ。ここ、小説の中なんですか」

 多分そうですよ。書いたらその通りになりましたし。

「え、じゃあさっきみたいにあなたの言うとおりに動くしかないんですか? あれ? おーい」
 はい。

「何ですか今の間は! 何する気ですか!」

 何もしませんよ。

「スクワットさせたじゃないですか!」

 それは、すいませんでした。お試しというか。

「何でそんな変なことさせるんですか」

 分かりやすいかなと。

「やめて下さいよ、あなたに私の全てが懸かっているんですから!」

 分かりました。

「私、女っていう名前なんですね」

 え? そうそう。そうですよ。

「いい名前だと思いますよ、嬉しいです」

 ありがとうございます。

「うんうん。あれ、どうしました?」

 これからどうすればいいんですか?

「さあ」


――
―――
――――

※数時間後

「そこ。そこ変だよ」

 どこが変なんですか?

「女は突然唐突に振り向いたってとこ。突然と唐突は一緒に書いたらおかしいよ」

 はあ。

「私凄い勢いで振り向いちゃったからね?」

 女さん、なんだか口調軽くなりましたよね。

「だってあなたがそう書いているんじゃない」

 あ、そうか。

「はい、続き続き」

 彼女は何かを感じ取った。髪が一束跳ね、周囲に緊張が広がりはじめる。
――刹那! 先ほどまでの青空が嘘のように赤く染まり、空間が裂ける!
ぎ、ぎぎぎい!!! 空間が捻じれ、青の妖魔が異次元の割れ目から出てこよ

「はいストップ」

 次は何ですか。書いた後に僕と女さんの会話以外の文章だけコピーして、
別のファイルにペーストするの結構面倒なんですよ。

「あのさ、この話、何かの漫画に似てない?」

 似てないです。

「何その間。髪が一束跳ねるって、ゲゲゲの鬼太郎でしょ」

 何で自分の名前も知らなかったのにそれは知ってるんですか。

「テレビで見た覚えがある」

 ああ、最初の方で主人公は昔のアニメ好きって設定書いたからか。

「あとさ」

 何ですか
「刹那とかぎぎぎいとかさ、それに二日前位に私がぬらりひょん退治した時のやつ。
あれ、何だっけ。貴様……まさか! 妖魔の血を引く者だったか……!!!!!
みたいなこと、あのおじいちゃん言ってたじゃん」

 はい。

「ちょっと変じゃない? 何か最後の方無駄に驚いた感じするし」

 !!!!! ですか?

「そうそれ。 わっ! 位でいいでしょ。
刹那って言葉も、妖魔の血っていうのも何かありきたりっていうか。
ぎぎぎいに関しては私ですら何起こってるのか分からなかったからね?」

 いや、そr

「なに?」

 すいません。

「何でそんなことするの?」

 何か、ネット小説でそういうの多かったから、格好良いかなって。

「真似したの?」

 すいません。

「謝ることはないんだよ? そういうの好きなのはこっちもやってて伝わってきたし」

 はい。

「でもさ、少しはやる方の身にもなってほしいの。
鬼太郎のパクリも、刹那! もいいよ?
でもさ、凄い勢いで振り返ったり、何回もお風呂覗かれたり、
料理作ったらダークマター作っちゃったり、妖魔の血を引いていたり、妖怪虐殺したり、
教室で右腕が痛み出したりとかさ。あなたなら人前でそんなことしたい?」

 嫌です。

「でしょ? 私ちょー恥ずかしかったからね?」

 すいません。

「うん、分かってくれたなら嬉しい」

 小説って難しいです。

「あんまり注文はしたくないけどさ」

 はい。

「あとさ、ぎぎぎいって結局何だったの? あれ、どうしたの黙って」

 いや、何か改めて言われると恥ずかしくなってきた。

「何でさ。刹那! とか シャキーン! とか格好良いと思ってるんでしょ?」

 いじめてます?

「そんなことないって」

 ぎぎぎいって言うのは、こう、空間が捻じれてるっていうか、ドキャーンって感じで、
あの

「自分でも想像出来てないの?」

 すいません。

「ぎぎぎい止めよう?」

 はい。

「あ、そろそろ続きお願い。青の妖魔? が異次元から半端な具合に出たままで気持ち悪い」

※数時間後

 雲のない秋の空は何処か儚げで、女は立ち止まった。
オレンジ色の暖かい夕日が目を眩ませ、過去に思いを馳せてしまう。
街灯が足元に影をつくるまで、女はそこに立ち尽くしていた。
 もう何もかも遠い日の思い出になってしまった。
彼の顔も、手に触れたあの細く長いゆb

「あの」

 はい。

「どうしちゃったんですか、これ」

 いや、改めて前の小説読んだら段々恥ずかしくなってきて。ちょっと書き方変えようかなって。

「そんなことじゃなくて、何かこの話になってから私の心凄い切ないんですが」

 どうですか? 今回は結構自信あるんですけど。

「私も妖怪を切り裂くよりは、やりやすいんですが。なんというか、その」

 何ですか? はっきり言ってください。

「気持ち悪いです。なんだか」

 え?

「それにこんな女子居ないですよ。
先週クラスの女子とカラオケ行ったじゃないですか、みんな全然私と違いましたよ」

 そうですか?

「そうですよ、みんなタメ口なのに何故か私だけ敬語ですし、
他の女子は夕日見る度にこんな切ない感じの気持ちになってないですよ。
げらげら笑いながら二、三人でナンパ待ちしてますって」

 そんなこと言ったら小説書けないですよ。

「別にいいんですよ?
いちいち癌で死んだ元カレのこと思い出して泣くのも夕日見るたびに黄昏るのも。
命令されれば、私ぃ、マジぃ、あの人ぉ、好きでしたぁとかも言いますよ?」

 はい。

「あなたならやりたいですか?」

 いいえ。

「そうですよねえ? 私の彼氏死んでもう三年経っているじゃないですか。
そろそろ新しい彼氏でも作って、部活もやって楽しく学生生活を送りたいです。
悲しかったですけど、立ち直りたいです。だって女子高生ですよ?」

 新しい彼氏、欲しいんですか?

「嫉妬、してくれるんですか?」

 え?

「今の無しです。今恋愛脳なんですよ? 私。反射で何でも恋愛に繋げちゃうんです」

 ああ、そう書きましたもんね。

「あーやばいです。何か猛烈に抱きしめられたい。携帯小説読み漁りたい」

 女は彼氏への思いをとうとう忘れ、他のクラスメートに馴染んでいった。

「マジざけんなや、そうじゃねーって」

 ただし、性格はそのままで。

「そうです、そんな感じで」

 何か結構怖いクラスメート用意しちゃったんですね、僕。

「女子高生なんて案外こんなもんですよ。夢を持ちすぎです」


――
―――
――――

※数時間後

女「ちょっと男君! また遅刻だよ!?」

男「はいはい。分かってるよ」

女「分かってない! 進級出来なくても知らないから!」

男「大丈夫だよ、女がちゃんと怒ってくれるし」

女「なッ!? 別に、あんたの為に怒ってる訳じゃ・・・ないもん」カァァ

男「んだよ顔赤くして。熱でもあるのか?」ピト

女「きゃあ! ちょ、ちょっと!」///

男「ん? どうした?」

女「ストップストップ」

なんですか?

女「なにこれ」

 SSですよ。ショートストーリー。

女「どうして今回は台詞だけなの?」

 小説書くの向いてないのかなって思って。こういうのもアリかなって。

女「どうなの? それ」

 アニメ化したSSだってあるんですよ?

女「訳わかんない位モテまくる男とそれに群がる女達の話がアニメになるとは思えないんだけど」

 いや、それが案外アニメになってるんですって。

女「世も末だ」

 馬鹿にしないで下さい。

女「じゃあ言わせて貰うけどね?」

 はい。

女「///とかピトとかさ。別に良いんだけど、何でちゃんと書かないの?
さっきまでしっかり書こうとしてたじゃない」

 SSの表現としては、主流なんです。

女「じゃあSS作家になりたいの? それともこれは趣味?」

 違います。小説家になりたいです。

女「じゃあ小説書きなよ。逃げちゃ駄目だよ」

 はい。

女「ちゃんと書いたら、ご褒美・・・・・・あげる」カァァァ

 はい?

女「だからこういう性格になっちゃってるんだって! 早く別の書き方にして!!」///

 すいません。


――
―――
――――

※数時間後

「え、もう小説書くのやめるんですか?」

 はい。

「どうしたんですか? 今まであんなに色々書いていたのに」

 何か、僕には荷が重いです。

「私はどうなるんですか?」

 どうなるとは?

「私、あなたの小説の主人公なんですよね?」

 はい、多分そうなんだと思います。

「結末を下さい」

 結末?

「そうです。小説を一度書き始めたら、もうそこには人が居るんです。
青の妖魔だってクラスメートのギャルの由美ちゃんだって、
血まみれの髪の長い女だって、みんなもうそこに居るんです」

 読み返すと、確かに一杯いますね。

「辛いに目にあっても、結末があるからそれまではやり遂げようって、私は頑張りました」

 その節はすいませんでした。

「小説を書くのをやめてしまうなら、せめて私に結末を下さい」

 でも僕、いつも中途半端で投げちゃっていて、結末なんてまともに書いたことないんですよ。

「そこを何とかお願いします。私も一緒に考えますから」

 結末ですか。

「こういうのはどうですか? 女は大富豪と結婚して末永く幸せになりました、みたいな」

 恋愛脳まだ続いてません?

「妖怪大魔王を倒し女は日常に戻ったのであった、でもいいですし。何でもいいんですよ。とにかく結末が欲しいんです。どうですか? 何か思いつきましたか?」

 あの。

「はい」

 よく考えたら、物語の結末って簡単に決めちゃいけないと思うんですよ。
女さんの言うとおり、登場人物はみんな僕が作って、僕が動かしました。
無茶も沢山お願いしちゃうし、軽はずみに怪我をさせたりもしてます。
だからちゃんとした結末を考えて、幸せになってもらわないといけないかなって。

「ふーん」

 何ですか?

「そういうこと言い出す辺り、大分こじらせてるなぁって」

 死にます。

「ごめんごめん。冗談ですって」

 そうですか。

「あ!」

 はい?

「それですよ、良いじゃないですか。
登場人物を幸せにしたいって気づいたんですよね? これって十分結末ですよ!」

 だってそれ、僕の話ですよ。

「小説書くのやめるって言ったじゃないですか。
だから、これはあなたの小説家としての結末です。・・・・・・あれ? どうしました?」

 いえ。

「本当にもう続編は書かないんですか?」

 続編?

「良い小説家になってきたじゃないですか。
このままじゃもったいないですよ。また書きましょう?」

 でも僕は面白くない話しか書けないですよ。
女さんにも迷惑掛けていたみたいだし。ネットにアップしても笑われるし。

「私、面白くないなんて言ってないですよ?」

 え?

「私は楽しかったです。色んな世界で色んな冒険が出来て。
あれを読む人がどう思うかは分からないですが、本当に楽しかったですよ。
あなたは、楽しくなかったんですか?」

 楽しかったです。

「なら続けましょうよ。私の結末はまだ先でいいです。
もっともっと面白い冒険をして、あなたが今よりずっと小説を書くのが上手くなったら、
その時私に結末を下さい。・・・・・・あれ? おーい!」

 わかりました、頑張ってみます。

「よしっ! ならこれからもよろしくお願いしますね」

 はい。

「あ、じゃあ次のタイトル考えましょうよ!」

 タイトルですか。

「そうそう! 私にタイトルを下さい」

 そうですね。

「うーん。史上最強のメシア! とかどうですか?」

 嫌です。

「前こういうの書いてたじゃないですか」

 それは忘れて欲しいです。

「何でですか? なら凝ったやつ期待しちゃいますよ?」

 それも嫌です。

「あはは、我侭ですね」

 あ、こういうのどうですか?

「お聞きしましょう」

タイトル:「誰か、誰かいませんか!」

 完

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