先輩「やあ、後輩君」男「……」 (31)



男「…………」カリカリ






先輩「やっ」

男「……あ、先輩。お疲れ様です」

先輩「どうもどうも、お疲れ様。それで、どう?」

男「ダメですね。今年も、先輩と二人きりになりそうです」

先輩「あ~やっぱりか~。今年こそは新入部員入ってくるの期待してたんだけどな~」

男「しょうがないですよ。元々文芸部なんてそんなものです」

先輩「まぁ、そうだよねぇ」

男「運動できる人は運動部に行きますし、できない人にだって文化部を選ぶ権利があるわけです」

先輩「ワープロ部、将棋部、囲碁部、あと吹奏楽部と……。他になんかあったっけ?」

男「演劇部写真部美術部放送部ですよ。まったく、私立みたいに人がたくさんいるわけじゃないのに部活だけは多いんだから」

先輩「勧誘は?」

男「一応やったはやったんですけど……どんな反応されたか聞きたいですか?」

先輩「一応聞いておこうかな」


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男「『え、この学校文芸部なんてあったんですか!?』とのことです。どうやら僕たち、存在すら認知されていないみたいです」

先輩「あちゃ~、それって結構致命的だよね」

男「致命的っていうか、無理ですよ、無理。ありもしない部活に入ろうとする人がどこにいるんですか」

先輩「そこはほら、君がもっと宣伝していかないと」

男「宣伝……何をですか?」

先輩「え」

男「僕ら、文芸部なのにそれっぽいこと何もしてないですよね? 文化部が輝くと言われている文化祭ですら、去年僕らは冊子の一つも作らなかったんですから」

先輩「あ~……」

男「ま、いいじゃないですか二人でも」

先輩「部の存続的にはよろしくないけどね」

男「来年、きっと誰かが入ってくれますよ。部員が少なくても廃部の声がかからないのは僕達で証明できてますしね」

先輩「ん~……ま、そうだね。くよくよしても仕方がない! 明るく過ごすのが一番だって!」

男「それをあなたが言いますか……」

――――――――――




ガラガラ



男「……はぁ」

先輩「どうした? 暗いぞ?」

男「あ、先輩……今日は随分と早いんですね」

先輩「今日はそういう気分だったんだよ。それで? 何かあったんでしょ?」

男「……」

先輩「あ、もしかして世に聞く5月病ってやつ? 連休明けの学校がつらいんでしょ!」

男「違いますよ。そんなんじゃないです」

先輩「それじゃ、どうしたの?」

男「……変人だって、クラスの友人に言われました」

先輩「変人?」

男「そうなんですよ。曰く『独り言が多いし、文芸部員だし』って」

先輩「そりゃ、酷い言われようだね」

男「先輩もそう思いますよね? 独り言が多いのは否定できないんですけど……」

先輩「よく虚空に話しかけてるもんね~」

男「茶化さないでください。その言い方だったら、独り言の方がずっといいです」

先輩「文芸部だからっていうのは?」


男「そのまんまの意味らしいですよ。零細部に所属してるだけで変人扱いです。ひどいとは思いませんか?」

先輩「う~ん、どうだろ。どっちにせよ、君は変わってると思うよ」

男「そうですか?」

先輩「変人も変人、ド変人だよ」

男「ド変態みたいに言わないでくださいよ」

先輩「文芸部だって、まぁ、変わってるし」

男「どういう意味ですか?」

先輩「君がもの好きってこと。文芸部に入ろうとするだけで、変人ポイントはぐっと上がるし。君も言ってたでしょ? 文化部を選ぶ権利があるわけですって」

男「そりゃ、言いましたけどね」

先輩「まぁ、いいんじゃないかな。変人どうし仲良くしようよ」

男「……そういえば、聞き忘れてたんですけど」

先輩「ん?」

男「先輩は、どうして文芸部に入ったんですか?」

先輩「どうして、か……忘れちゃったなぁ」

男「忘れた、って……」

先輩「結構前の話だしね。でも、わたしが文芸部に入った時は結構人もいたし、にぎわってたのは事実なのかな」


男「そうなんですか?」

先輩「そうそう。同級生はいなかったけど、2年生の先輩が確か3人いて、3年生の先輩は2人いたかな?」

男「へぇ」

先輩「あの時は楽しかったなぁ。先輩と本を交換したり、毎日まさしく文芸部って感じで……」

男「……それが今では、って言いたい顔ですね」

先輩「だって君さ、全然本読まないじゃない! 最近は来ても勉強勉強って」

男「しょうがないじゃないですか、それは」

先輩「君、おバカだしね」

男「おバカって言わないでください! 変人の方がまだマシですよ」

先輩「ま、せいぜい頑張ってくれたまえよ。おバカくん」

男「先輩!」


――――――――――




ガラガラ

男「先輩は、いないか……」




スタスタ ポスン



男「……」カリカリ カリカリ






先輩「暑いね~」

男「うわぁああ! 先輩、いつ来たんですか!?」

先輩「今だけど」

男「まったく、驚かせないでくださいよ」

先輩「勝手に驚いておいてそれはないでしょ。君が集中してるようだったから、抜き足差し足、気付かれないように私も気を遣ってたんだから」

男「思いっきり驚かせようとしてるじゃないですか」

先輩「あはは……それは?」

男「夏休みの計画表です。この夏こそ、実りのあるものにしたいですからね」

先輩「ちょっと見せてよ。……うわ、一日8時間も勉強するの? 頑張るね~」

男「ふふん、志だけは高い男ですよ僕は」

先輩「計画表通りにいった試しは?」


男「……」

先輩「ま、そんなことだろうと思ったけどね」

男「ぐっ……」

先輩「どう見たって君は宿題を最終日まで取っておくタイプだし?」

男「くそ、反論できないのがつらい……」

先輩「で、だ。後輩君よ」

男「なんですか?」

先輩「君の夏休みの計画は一度置いておいて、だ。夏と言えば、君は何を思い浮かべる?」

男「夏と言えば、ですか?」

先輩「そ、夏と言えば」

男「う~ん、プールとか? 後は、海で泳ぐイメージがありますね」

先輩「うんうん。他には?」

男「他に、ですか? う~ん、う~ん……」

先輩「あと10秒ね!いーち、にー」

男「ちょ、ちょっと待ってください! ス、スイカ! 甲子園!」

先輩「ごー、ろーく」

男「ち、違うんですか?」

先輩「きゅー、じゅう。はい、ブブー」

男「スイカと甲子園じゃダメなんですか……」


先輩「いやあ、別に悪くはないと思うよ? ただ、君はやっぱりおこちゃまなんだね」

男「お、おこちゃま?」

先輩「出てくる答えが子供っぽいってこと。ある意味素直な君らしくていいけどさ」

男「……じゃあ、正解はなんなんですか。そこまで言うんだったら、僕を唸らせるような答えが返ってくるんですよね」

先輩「ふふん。ずばり! やっぱり夏と言えばひと夏のアバンチュール! 恋でしょ!」

男「……はぁ」

先輩「なにその反応! 先輩傷ついちゃうな~」

男「何かと思えば恋ですか……別に、夏じゃなくったって恋くらいいつでもするもんですよ」

先輩「ちっちっち……。甘い、甘いんだよ君は。君が最初に言った答えはなんだったっけ?」

男「最初、ええと、プールですか?」

先輩「そう、プール!即ち水! 夏には、水着があって! 夏祭りがあって! 当然祭りの中には花火があって! そして何より時間がある!」

男「はぁ……」

先輩「君みたいなシャイボーイが恋人を作ろうもんなら、これほどの機会はないってもんでしょうよ」

男「いや、夏だからって僕は僕ですよ。どうせモテないです」

先輩「またまたぁ、気になっている人の一人や二人はいるんでしょう?」

男「……」

先輩「何故私を睨む」

男「いーえ。いないですよ、気になってる人」

先輩「えー、つまんないな~」

男「つまんなくって結構。……あ」


先輩「どうしたの?」

男「そういえば、もう一つありましたよ。夏と言えば」

先輩「その心は?」

男「ホラーです。怪談の夏」

先輩「……」

男「この学校にまつわる話なんですけどね?……って、露骨にイヤーな顔してる。先輩、そういう話苦手でしたもんね」

先輩「だって、ねぇ」

男「散々僕をからかったんですから、ちょっとくらいつき合ってくださいよ」

先輩「……ま、これでおあいこってことで許そうじゃないか。特段苦手なわけでもないしね」

男「よっ、それでこそ先輩! それで、うちの七不思議なんですけど、知ってますか?」

先輩「七不思議?」

男「そう、七不思議。どこの学校でもあるようなやつなんですけど、うちにもあるみたいなんですよ」

先輩「へぇ。長いこと学校にいたけど知らなかったよ。で、内容は?」

男「他愛ないです」

先輩「は?」


男「それが、どこの学校にもあるようなやつなんですよ。例えば、そうですねぇ。トイレの花子さんが七不思議の一つです」

先輩「うそでしょ? 花子さんって、何番目かのトイレの個室をノックするとかしないとかいうアレ?」

男「先輩の記憶が不明瞭すぎるのは置いておいても、そうなんです」

先輩「そんな子供だましのやつが、高校生になっても語り継がれてるの? うちの学校で?」

男「はい」

先輩「…………うそでしょ?」

男「残念なこと嘘じゃないんです」

先輩「他の七不思議は?」

男「確か、夜音楽室の楽器が勝手に演奏されてたとか、夜階段の段数が一つ増えてたりだとか、夜校庭にある銅像が動き回ったりだとか、夜トイレの鏡を見ると女の人が映ってたりだとか、夜体育館でバスケットボールのドリブルの音がするとかです」

先輩「見事に夜ばっかりだね」

男「夜ばっかりですね」


先輩「もう一つは?」

男「もう一つは………………」

先輩「……」ゴクリ





男「忘れちゃいました」

先輩「」ズコーッ

男「いや、ズコーってあんた……。今時そんなコテコテの反応する人いないですよ」

先輩「いや、君ねぇ。随分と引っ張って忘れたはないでしょうよ」

男「忘れたんだから仕方がないじゃないですか。思い出せたらそのうち話しますよ」

先輩「……これは罰が必要だね」

男「へ?」

先輩「折角私が好きでもない怪談話に付き合ってあげたのに、こんな拍子抜けな話を聞かさせると思ってなかったよ」

男「それは、その……すみません」

先輩「どんなお仕置きにしようかなぁ」

男「あの、出来ればお手柔らかにお願いしたいのですが……」

先輩「うーん…………よし、決めた!」

男「……」ゴクリ

先輩「罰として、夏は私とひと夏のアバンチュールを過ごしなさい!」


男「えっ…………ええええええええええええええ!?」





先輩「……というのは冗談で」

男「」ズコーッ

先輩「……君もズコーッしてるよ?」

男「あ、つい」

先輩「まぁ、いいや。この夏は計画表通り、一日8時間きっちり勉強すること」

男「!」

先輩「君の怠け癖だって、こうして約束すれば多少は改善されるかもしれないでしょ?」

男「先輩……」

先輩「ま、言っちゃえば恋人のできる可能性の無い君は、勉強くらいはちゃんとして多少なりとも自分を高めなさいってことなんだけどね」

男「それさえ言わなければ格好良かったのに」

先輩「なんか言った?」

男「い、いいえなにも。わかりました。しっかり勉強してみせますよ…………多分」

先輩「よろしい。せいぜい頑張ってくれたまえよ? 後輩君」


――――――――――


先輩「それで?」

男「……」

先輩「夏休みも終わり、9月に入ったわけなんだけどさ」

男「……」

先輩「そうそう、9月と言えば、明日なにがあるか知ってる? ヒントを出すと、学校のイベントです」

男「……さい」

先輩「うん?」

男「文化祭……です」

先輩「はい、大正解です! 文化祭とは読んでの通り、文化部が大いに活躍する祭典だねぇ」

男「……」

先輩「……で、何かいいわけは?」

男「ほんっとうにすみませんでしたああああああああ!!」

先輩「いやぁ、まさかとは思ってたんだけどねぇ」


男「一応言い訳をさせてもらうと、出すつもりはあったんですよ。ただ、この鳥頭がそれを許さなかったんです」

先輩「君の鳥頭も相変わらずだねぇ。ま、しょうがないさ」

男「本当にすみません……」

先輩「……あ、そういえば、夏休みは何してたの?」

男「……先輩の言いつけ通り、勉強してましたけど」

先輩「おっ、本当に?」

男「ええ。元々自分で計画を立てていたことでしたし、やり遂げてやろうかと」

先輩「おっ、そこは評価できるね。……一応聞いておくけど、ひと夏のアバンチュールは?」

男「……」

先輩「おっと、いい。言わなくていいよ。その表情と間ですべてわかってしまった」

男「どうせ、僕はモテませんよだ」

先輩「君も悪くはないと思うんだけどねぇ」

男「心にもないフォローありがとうございます」

先輩「そんなことはさておき。やっぱり、今年の文化祭もダメだったかぁ」

男「……うすうす、そんな気はしてたんじゃないですか?」


先輩「うん、そんな気はしてた」

男「……怒らないんですか?」

先輩「なんで?」

男「だって、その……」

先輩「気にしてないよ」

男「え?」

先輩「今の私は君と過ごす時間がなによりなんだよ。だから、まぁ。君がここに来てくれるなら別に構わないって感じかな」

男「そのセリフ……」

先輩「そのセリフ?」

男「勘違いされますよ」

先輩「勘違いだと思う?」

男「えーと……」

先輩「ま、いいじゃないかそんな些細なことは。明日の文化祭、是非とも楽しんでおくれよ。今年も友達と回るんだろう?」

男「はい、多分そうなりますね」


先輩「去年のように、はしゃぎすぎて服に飲み物をこぼさないようにね」

男「はい。……ってなんでそれを!?」

先輩「そりゃ、私がその現場を見てたからでしょうよ」

男「見てたんですか!?」

先輩「あの時の君の慌てっぷりったら……ククッ」

男「ええ、もう……。その時のこと、割と苦い思い出なんですから思い出させないでくださいよ」

先輩「でも、文化祭は楽しかったんでしょう?」

男「それは……はい」

先輩「そういうわけだよ。今年もぜひ楽しんでくれ」

男「先輩は……」

先輩「ん?」

男「……いえ、なんでもありません」

先輩「……ふふっ」

男「どうしました?」

先輩「いんや、なんでもないよ。……気持ちだけ、受け取っとく」

男「……」


――――――――――



男「……」カリカリ カリカリ

男「えと、これは……積分して……」

男「……うん? 答えでないぞ。……う~ん?」






先輩「やっ。今日もやってるね~」

男「あ、先輩」

先輩「何やってんの?」

男「数学ですよ」

先輩「うげっ、数学……」

男「苦手ですか?」

先輩「苦手も苦手、もう見たくないくらいだよ」

男「俺もそうなんですよ。でも、苦手をそのまんまにしておくのもできないですしねぇ」

先輩「そうだよねぇ。……あーあ、数学なんて、掛け算割り算までできたら生活に困らないのにね」

男「まったくです。でも、そんなことも言っていられないし、頑張りますよ」

先輩「うんうん、その心意気やよし! いい点数とれるように頑張ってくれたまえ」


男「他人事だなぁ……」

先輩「だって他人事だよね?」

男「そうですけどね」

先輩「はぁ。……もう、年もあけるねぇ」

男「あけますねぇ」

先輩「もう時期卒業だねぇ。早いもんだねぇ」

男「早いもんですねぇ」

先輩「……君は、良かったの?」

男「何がですか?」

先輩「文芸部なんかに入っちゃって。もっと違う部活に入ったら、また違った青春が遅れただろうにさ」

男「僕は、別に後悔していませんよ」

先輩「本当?」

男「ええ。文芸部らしいことはしなかったですけど、先輩と過ごすの楽しかったです」

先輩「おお、嬉しい言葉だね。先輩冥利に尽きるってもんだよ」

男「尽きてください。そのくらいしてくれないと、僕も浮かばれないってもんですよ」

先輩「いやほんと、いい後輩をもって先輩は幸せだよ」

男「結局……」

先輩「結局?」

男「僕の目的は果たせなかったんですけどね」


先輩「目的、ねぇ」

男「まぁ、それもありっちゃありなんですけどね」

先輩「うん、わたしもそう思うよ」

男「先輩がそれを言いますか……」

先輩「君がヘタレているのが悪い! ……違う?」

男「違いませんよ。すべて僕の力不足です」

先輩「いさぎいいねぇ」

男「口先だけなら何とでも言えますから」

先輩「そのいさぎよさがあれば、恋人の一人くらいはできそうなもんなのに」

男「余計なお世話です」

先輩「はは……」







先輩「もうちょいで、卒業だねぇ……」

男「ええ……」

――――――――――





男「……うっ、グスッ……」

先輩「泣くなよ。旅立ちの日に、涙なんか似合わないぜ?」

男「それは、そうですけどぉ……」

先輩「こういう時、先輩としてはどう声をかけたらいいのやら……とりあえず」





先輩「卒業、おめでとう」

男「……ぅ、あ、ありがとう……ございます」




先輩「だから、泣くなって。大学も無事決まったんだろう?」

男「はい……といっても、まだ滑り止めだけですけれども」

先輩「それだけでも大したもんだよ。私はできなかったからね」

男「……」グスッ

先輩「…………ねぇ、夏休みのさ、始まる前に話したこと覚えてる?」

男「……スイカですか?」

先輩「なんでそこでスイカが出てくるのかね……そうじゃなくって、七不思議の話」

男「……」

先輩「私さ、あの時は知らないふりしてたけどさ、7つ目の不思議、知ってたんだ」

男「……そうだったん、ですか」

先輩「ほかならぬ私自身のことだよ? なーんで君は知らないと思ったのかな」

男「あー……そうですね、僕が阿呆でした」

先輩「この学校の七つ目の不思議……それは」

男「『文芸部には幽霊がいる。10年前、交通事故で亡くなったこの学校の女子生徒が、自分をいじめていた生徒たちへの恨みを忘れられずに文芸部室に漂っているのだ』…………違いますか?」

先輩「正解。と言っても、実際はいじめなんかなかったわけだけれども」

男「……」

先輩「人のうわさも75日って言うけど、人じゃないうわさはいつまでも残り続けるもんなんだねぇ。ま、うわさじゃなくて事実なんだけど」

男「……すみませんでした」

先輩「何が?」

男「先輩の、その、『未練』みたいなものの正体、僕は気が付いていたんです」

先輩「おっ、答えは?」

男「うわさには続きがあります。『その女子生徒は、事故に遭った時、文化祭に出すための原稿を大切に抱えていた。その原稿には、自分がいじめられていたことを告発するような内容が書かれていて、それが誰にも読まれなかったことが彼女の一番の未練になっていたのだ』……と」

先輩「……ちょっと尾ひれがつきすぎだけど、正解かな」

男「僕、文集出そうと思えば出せたんです。夏休み中、秘密で書いてました。でも、先輩といる時間が、僕は……っ」

先輩「言わなくていいよ。言わなくていい」

男「…………僕、この文芸部に入ってよかったです」

先輩「私も、君と3年間過ごせてよかった。君は頭は悪かったし、わたしを成仏させるなんて啖呵切ったのに結局できないし、霊感だけはいっちょ前で、おまけに私に恋心を抱いちゃうようなおバカな子だったけど」

男「ぐっ」

先輩「それでも、君と過ごせてよかった。私が3年生の時はね、後輩が入らなくて、ずっと寂しかったの」


先輩「だから……君は最高の後輩だよ。今まで本当にありがとう」

男「…………いつか、また会いに行きます」

先輩「うん」

男「その時は、きっと僕は聡明で、先輩への恋心も忘れて、それできっとあなたを成仏させて見せます」

先輩「うん」

男「だから、その時は…………うぅ、ぅぅう……」

先輩「うん」

男「その時は、後輩として僕を迎え入れてください……先輩……」

先輩「お待ちしてるよ、後輩。……よし! 今日だけ大サービス! 私の胸に飛び込んでこい!」

男「先輩っ……先輩……せんぱああああああい!」ダッ












先輩「あ、私霊だから飛び込んでもすり抜けるだけだった」

男「」ズコーッ

――――――――――




「……やぁ、後輩君」



「お久しぶりです、先輩」



「髪、染めたんだね」



「ええ。この髪のおかげかは知らないですけれど、ひと夏のアバンチュールってやつも経験できました」



「そっか」



「……他の文芸部員は?」



「てんでだめ。誰も入らなかったよ。なんで廃部になってないのか不思議なくらい」



「じゃあ、ある意味ちょうどいいですね」



「うん。にしても、大学生って暇なの? 今日平日だよね」



「サボりました。母校の文化祭ですしね」



「……そっか」



「はは……聡明には、なれそうもありませんね。でも、書いてきました。先輩専用なので、あいにく冊子は一冊だけですけど」



「うん」



「文芸部員の男が、先輩に恋をする話です。……どうですか?」



「合格点は、読んでから決めるよ。でも、本当に……」






「ありがとね、後輩君」





おわり

終わりです。読んでいただいてありがとうございました。
ありがちな話なので、ネタが被ってるssとかがあったら申し訳ありません。

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