男「天女!? 天女がいる!」 (243)


男「俺んちのトイレに」

天女「あれ?」


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男「なぜ」

天女「な、なぜって言われても」

男「水浴び?」

天女「しません」

男「汚い」

天女「してません!」

男「寄るな」

天女「してませんってば!」


男「……まずいまずいそうじゃない落ちつけ俺」

天女「そうですよ失礼です。人を何だと思ってるんですか」

男「相手はコスプレして人んちのトイレに入ってる不審者だ。刺激しないように110番、これだ」

天女「あ! なにぶつぶつ言ってるんですか! 不審者じゃありません!」

男「あ、気にしないでください。ここでちょっと待っててもらえますか?」

天女「待ちません! 話を聞いてください!」

男「後でゆっくり聞かせていただきますので俺は少し電話を」

天女「警察は嫌ですやめてくださいお願いですぅ!」

男「ええい放さんか!」


男「ゼーハー……」

天女「フーヒュー……」

男「……分かった、話を聞こう」

天女「ありがとうございます……」

男「で、なんなんだ?」

天女「ええと、どこから話したものでしょう」

男「まずはあれだろ。お前、何者だ?」

天女「わたしですか? トイレットペーパーです」

男「は?」

天女「だから、トイレットペーパーの精ですってば」


男「……」

トイレットペーパー「……」

男「トイレットペーパー」

トイペ「はい」

男「の精」

トイペ「そうです」

男「いち、いち、ぜ——」

トイペ「110番禁止ぃ!」バシィ!

男「あ、てめ!」


トイペ「なんですか。なんなんですかあなた! 人が丁寧に名乗ったっていうのに!」

男「黙れ! 頭のおかしい輩の対応には専門家が要るんだよ!」

トイペ「頭おかしくないです! 全くの正常です!」

男「説得力がゼロだ! むしろマイナスだ!」

トイペ「なんでそんなひどいこと言うんですか!」

男「これでもまだ柔らかい言い方だ感謝しやがれこの不審者!」

トイペ「……分かりました。聞きましょう。何が不満なんですか」

男「自分をトイレットペーパーとか名乗っちまう奴に対するごく普通の対応だと思うが」

トイペ「なるほど、証拠が欲しいと。そういうことですね」

男「いや違う」


トイペ「ふふふ、ならば見せましょう、わたしがわたしであるという証明を!」

男「おい聞けよ」

トイペ「そいや!」ビュッ!

男「!?」


 グルグルグルグル……


男「な……」

トイペ「トイレットペーパーで簀巻きにされる気分はいかがですか?」フフン!

男「……」ビリィ!

トイペ「ああ!?」


トイペ「わたしの、必殺技が……」

男「いや、トイレットペーパーだし。つーか……本当に……」

トイペ「あ、信じる気になりました!?」

男「もう少しだけ話を聞く気にはなった」

トイペ「やりぃ!」

男「……。なんでいきなり人の姿になってるんだ?」

トイペ「それには深い訳が」

男「深い訳?」


トイペ「付喪神って知ってます?」

男「長い年月を経て物に魂がやどるって、アレか?」

トイペ「そうです。わたし、それです」

男「トイレットペーパーの、付喪神? いや……馬鹿言うなよ」

トイペ「思い出してください。心当たりはあるはずですよ」

男「そんなこと言っても…………あ」


……

男『やっぱ掃除をさぼるとよくねえな。押入れの奥がひどいひどい』ガサガサ

男『よっこらしょっと。ん?』

男『トイレットペーパー? の買い置き?』

男『あー、これもう二年前から入れっぱなしのやつか』

男『……ま、使えるだろ』

……


トイペ「それです! それがわたし!」

男「ちょっと待て!」

トイペ「なんです?」

男「付喪神はもっとこう、何十年単位の年月が必要だろ!? 違うのか!?」

トイペ「ちっちっち」

男「?」

トイペ「トイレットペーパーは消費が早いんですよ?」

男「だから?」

トイペ「二年でもトイレットペーパーにとっては五十年くらいの価値があります」

男「知らん!」


トイペ「まあわたしもいきなりこうなってびっくりしましたが——って、ん?」


 モシャモシャ……


トイペ「わわっ!?」

インコ「チュル?」

トイペ「わたしの羽衣に何するんですか!」

インコ「プキュ……」

男「くぉおおおおおおらッ!」

トイペ「はひ!?」

男「俺のピーちゃんをいじめるたぁどういう了見だ!?」

トイペ「ぴ、ピーちゃん?」


インコ「チュルン!」

男「このセキセイインコのピーちゃんは俺の心の友だ!」

トイペ「は、はあ」

男「もしこれ以上ピーちゃんにひどいことしたら燃やす!」

トイペ「そんな過激な」

男「付喪神だか何だか知らんが、ここではピーちゃんが一番、俺が二番、お前は最下層だ!」

トイペ「鳥類が一番……」

男「なんか文句あるか?」

トイペ「なななないです! そのライターはしまっといてください!」


インコ「〜♪」モシャモシャ

トイペ「ああああわたしの羽衣ぉ……」

男「なんか言ったか?」

トイペ「いいえ何もぉ……」

男「ならばよし」

トイペ「ううう……」

男「とりあえず話す事がなくなったのなら出ていけ。……と言いたいところだが」

トイペ「?」

男「ピーちゃんがお前を気に入ったみたいだからな。しばらくはここにいてもいい」


トイペ「本当ですか!?」

男「ただし!」

トイペ「な、なんです?」

男「さっきも言った通りここではピーちゃんが一番だ。もし、それを乱すようなことがあれば……」

トイペ「し、しません! しませんて!」

男「誓えるか」

トイペ「誓います! 必要なら靴も舐めますしお尻も拭きます! トイレットペーパーなので!」

男「い、いや、そこまでしなくてもいいが……とにかく、気をつけろよ」

トイペ「はい!」


……

男「それじゃあ行ってくる」

トイペ「大学、頑張ってくださいね!」

男「おう」


 ガチャ バタン……


トイペ「……」

トイペ「……さあて」


トイペ「家探し! 家探しです!」

インコ「チュル?」

トイペ「主導権を握るには、まず敵を知ること! 敵の弱みを握ること!」

インコ「チュルル?」

トイペ「止めないでくださいよピーちゃんさん。あの人がいない今、あなたの権力はゼロなんです!」

インコ「チュル……」

トイペ「と、いうわけで! 早速ベッドの下をがっさがさー!」


 ドサドサドサァ……


トイペ「出てきましたよ。秘密の品の数々!」

トイペ「ではではあんちくしょうの性癖は何でしょうねえ」

トイペ「ん?」

トイペ「『鳥類大全』?」


トイペ「こっちは鳥類の図鑑、こっちは鳥類関連の科学雑誌……」

トイペ「よく見ると本棚もそういうのばっかりですねえ……」

トイペ「……」


男『ここではピーちゃんが一番、俺が二番、お前は最下層だ!』


トイペ「す……筋金入りの鳥類至上主義者、というわけですか」


トイペ「……ふ」

トイペ「ふふふふふふ……」

トイペ「いいでしょう! そっちがその気ならば!」ダン!

インコ「プキュ!?」

トイペ「こっちも全力です! 全力で、お相手いたしましょう!」

トイペ「いざ!」クワ!


男「満足したか?」

トイペ「すみませんでした」

男「ったく、つまらないこと考えてくれやがって」

トイペ「マジすみませんです」

男「まあいい」

トイペ「え? 許してもらえるんですか?」


男「ただし!」

トイペ「……!」ビク

男「部屋をきっちり片付けること」

トイペ「もちろんです!」

男「そして!」

トイペ「はひ!」

男「今夜はピーちゃんと一緒の部屋で寝てもらう」

トイペ「ええ!?」

男「加えて!」

トイペ「まだあるんですか!?」

男「今からお前はペー子だ。そう呼ぶ」


ペー子「なんですかそれぇっ!」

男「いやトイレットペーパーって呼びにくいし」

ペー子「いやでもそんなネーミングって……ピンクのカメラ好きじゃないんですから!」

男「まあそういうことで。ピーちゃんをよろしく」

ペー子「ちょっとぉ!」


 ギィ……バタン

続きます


翌朝

男「ふわぁ……よく寝た」

男(さて)

男「起きてるかピーちゃん、ペー子」ガチャ

インコ「チュルン!」

男「おう、おはようピーちゃん!」

男「ってあれ? あいつはどこ行った?」

ペー子(ここです)


男「ん? なんだ? 今何か声が……」

ペー子(だからここですってば)

男「ペー子?」

ペー子(ええ、わたしです。いや、ペー子と呼ぶのを認めたわけじゃありませんけども)

男「……なんでトイレットペーパーに戻ってるんだ? いや戻ったって言い方はおかしいかもだが」

ペー子(こんなに小さくなってしまいました。普通のトイレットペーパーです)

男「なぜに?」

ペー子(わたしが思うにピーちゃんの相手で活力とかそういうものを使い果たしたせいかと)

インコ「モシャモシャ」


男「ふーん、なるほど?」

ペー子(心なしか冷たい反応です)

男「いやだってあまり興味ないし」

ペー子(ひどい)

男「こんなもんだろ」

ペー子(めそめそ)

男「いやそんな泣き方されても」

ペー子(しくしく)

男「泣き声を変えろとは言ってない」


男「で、ずっとそのままなのか?」

ペー子(いえ、多分力が戻れば人の姿になれると思います)

男「そうか。じゃあ俺大学行ってくる」

ペー子(ええ!? 待っててくれないんですか!?)

男「いや、単位大事だし」

ペー子(わたしがこのままだといろいろ困りますよ!?)

男「例えば?」

ペー子(……)

男「適当こくなよ」

ペー子(ぴ、ピーちゃんの遊び相手とか!)

男「そのままでも大丈夫だろ。なあピーちゃん」

インコ「チュルルルルン!」

ペー子(お、鬼! 悪魔! あなたに心はないんですか!)

男「俺の心はピーちゃんに捧げた!」

ペー子(言い切った!?)


ペー子(こ、この鳥類狂信者めぇ……)

男「なんとでも言え。それじゃあ行ってくるからな」

インコ「チュル!」

ペー子(ううう……)


一時間くらい後

ペー子「ふっかーつっ!」ガバ!

インコ「ピャッ!?」

ペー子「はー、ようやっと力が戻りましたよ! こーれーでー」ニヤリ

インコ「チュル……」

ペー子「もうあなたにモシャモシャなんかさせませーん! ここからはわたしの天下です!」

インコ「ピューィ……」

ペー子「げっこくじょう! げっこくじょう! やっほーい!」

インコ「チュル!」キッ

ペー子「な、何ですか? やるつもりですか?」

インコ「……」ジリ

ペー子「やるんなら徹底的にやりますよわたしは。小鳥だからって手加減なんて絶対にしませ——」

インコ「チチチチチチッ!」バサバサ


 <ギャアアァァ!

ノリと勢いで書き切れればいいなと思います
それでは初日はここまで。どうもでした




ペー子「ううう……セキセイインコ恐るべし……まさか手も足もでないとは」

ペー子「チビ鳥のくせにぃ……」

ペー子「いえ、でも! 負けた訳ではありません! これはそう、勇気ある撤退! いつの日か返り咲くための布石!」

ペー子「ですから恥じることはないです。わたしは全力を尽くしたんですから!」

ペー子「見てなさいピーちゃんさん! あなたを倒すのはわたしです!」

ペー子「それまではせいぜいその小さな居城でふんぞり返っていなさい!」

ペー子「それで、その、あの……」

ペー子「えーと……」

ペー子「やーい馬鹿ー! あほー!」


  「あれなにママー?」

  「しーっ、見ちゃいけません!」


ペー子「ふう。鬱憤晴らし完了」

ペー子「さあて、どうしたもんですかねえ」

ペー子「このまま無理に戻っても第一ラウンドのリプレイですし」

ペー子「相手は予想外に凶暴。そして強力。うーん……」ポクポクポクポク……

ペー子「!」チーン!

ペー子「にゃーん!」


ペー子「そうですそうです、鳥の天敵といえば猫さんじゃないですか!」

ペー子「相手がどんなに強い鳥だろうと食物連鎖は覆せません!」

ペー子「虫さんは鳥さんに食べられ鳥さんは猫さんに食べられ、そして猫さんはわたしにモフられる!」

ペー子「となれば猫さんと友達になってピーちゃんさんにぶつけるのが最善!」

ペー子「多少血を見る争いになりそうですが、時代というのは多量の出血の上に成り立っているのです!」

ペー子「ああわたしってなんて罪深い……」

ペー子「……懺悔完了」

ペー子「と、まあそういうわけでー」

ペー子「ザ・血みどろ☆猫さん友達大作戦開始です!」


ペー子「にゃーん!」

ネコ「にゃっ!?」

ペー子「猫さん猫さん、わたしの手駒に、もとい友達になってくださいにゃん」

ネコ「……」ジリ

ペー子「あ、待って、逃げないで。ほらほらティッシュあげますから」

ネコ「……」ダダ!

ペー子「あー! 待ってぇ!」


  「なんだあれ?」

  「知るか。ああいうのが出る季節なんだろ」


……

ペー子「なかなか猫フレンドができませんねえ……」

ペー子「やっぱりトイレットペーパーをティッシュと偽ってるのが駄目なんでしょうか」

ペー子「いいのに。トイレットペーパー」

ペー子「使い勝手がいいし安価だし生活必需品だし」

ペー子「全てはきっと便所紙というイメージのせい」

ペー子「おのれイメージを定着させた不届き者め」

ペー子「……ちくせう」

ネコ「にゃん?」


ペー子「あ! 猫さん!」

ネコ「にゃーん」スリスリ

ペー子「わ、人懐っこい。ほーら喉下かきかきー」

ネコ「ゴロゴロゴロ……」

ペー子「……」

ネコ「……?」

ペー子「可愛い!」

ネコ「っ」ビク!


ペー子「この子うちの子にする! 作戦とか関係なしに!」

ネコ「にゃーん」

ペー子「ほーら、一緒に帰りましょうねー。あなたの名前は今日からネピアちゃんですよー」

ネコ「にゃーん?」

「いや連れていかれたら困るなあ」

ペー子「んん?」


茶髪「やあこんにちは」

ペー子「? こんにちは」

茶髪「その猫、うちのなんだ。もってかれちゃうとちょっと困る」

ペー子「ええ? そうなのネピアちゃん?」

ネコ「にゃー」

ペー子「違うって言ってます」

茶髪「え? いや、その。首輪してない?」

ペー子「首輪? あ」

茶髪「節子。おいで」

ネコ「にゃーん」トコトコ

ペー子「ああ!? ネピアちゃーん!」

茶髪「いやだから節子だって」


ペー子「うう……なんで猫さんすぐ裏切ってまうん?」

茶髪「いや知らないけど……」

ペー子「残念です」

茶髪「ええと、なんかごめん」

ペー子「いえいいんです。地味に呪っておきましたから」

茶髪「え?」

ペー子「これからあなたが使うトイレットペーパーは全て微妙に湿っていることでしょう」

茶髪「うわあ確かに地味……」


ペー子「猫フレンド探しは振り出しですねえ……」

茶髪「ん、何それ?」

ペー子「実はかくかくしかじかで」

茶髪「家のインコを懲らしめたい? 穏やかじゃないなあ」

ペー子「あなたには分からないでしょうけどこれは戦争なんです」

茶髪「インコを手なずけるんだったらもっといい手があると思うよ」

ペー子「え。ほんとですか?」

茶髪「うん。そうだなあ、例えば——」


……

男「ただいまー」

ペー子「おかえりなさーい」

インコ「チュルン!」

男「何か変わったことはなかったか?」

ペー子「別にありませんよ」

男「そうか。って、あれ?」

ペー子「どうかしました?」

男「なんかでっかい鏡があるけど」

ペー子「ピーちゃんさんへのプレゼントです!」


男「プレゼント?」

ペー子「ええ。インコは鏡が好きだって聞いたので」

男「へえ。気がきくじゃねえか。よかったなピーちゃん」

インコ「〜♪」

男「ん? でもどこから買ってきたんだ? お前金なんて持ってたっけ」

ペー子「買ったわけじゃないですよ?」

男「え? じゃあこれどうしたんだよ」

ペー子「公衆トイレから拝借してきました!」

男「戻してこい馬鹿野郎!」

ペー子「ええ!? そんなあ!」

続きます


……

魔界 魔王城


ペー子「——くうっ!」ドサ!

男魔王「はーっはっは! 我に勝てると思ったか愚か者めが!」

ペー子「この……!」

男魔王「無駄だ無駄だやめておけ。こちらには魔神様がついておられるのだぞ」

鳥魔神「チュルン!」

男魔王「おお! 見よ! あの美しいお姿を!」

鳥魔神「チュルルルルルル!」ゴゴゴ……

ペー子「く……! なんて強大な魔力……!」


ペー子(このままじゃ……)

鳥魔神「チュールン!」

男魔王「なんですって魔神様!? しかし! く……分かりました」

ペー子「……?」

男魔王「……勇者ペー子よ、魔神様からのご慈悲だ」

ペー子「慈悲?」

男魔王「そうだ。お前はトイレットペーパーながら見事この城まで辿りついた」

ペー子「……」

男魔王「その戦いぶりに敬意を表して魔神様の奴隷となることを許そう」

ペー子「……!」

男魔王「どうだ? 悪い話ではあるまい? もし受け入れるならば命は助かるぞ?」


ペー子「ど、奴隷になれば……ほ、本当にわたしの命は助けてくれるんですか……?」

男魔王「くくっ……ああ、約束しよう。お前の忠誠心と交換だ。さあ魔神様の足に誓いのキスをしろ!」

鳥魔神「チュルルルルン!」

ペー子「 だが断る 」

男魔王「何ィ!?」

ペー子「この勇者ペー子が最も好きなことのひとつは、自分が絶対的優位と思っている奴に『NO』と断ってやることです……」

男魔王「この!」

ペー子「出でよ切り札! 魔人『エリ・エール』ッ!」


 ズギャアアァァァン!


エリ・エール「ERYYYYYYYYYY!」ドドドドド!

男魔王「な!?」

鳥魔神「プキュ……」


ペー子「いっけぇっ!」

エリ・エール「エリエリエリエリエリ!」ガスガスガス……

男魔王「ぐおおおおお……!」

エリ・エール「エリーエ・イィィィィルッ!」ドン!

男魔王「ガハァッ!」

鳥魔神「チチ!?」


 カッ! ドゴオォォン!


ペー子「……」

ペー子「あなたたちの敗因はたった一つ。たった一つの単純な答えでした……」

     ・
     ・
     ・

ペー子「ムニャ……えへへぇ。てめーは俺をぉ……」

男「起きやがれ便所女ァ!」

ペー子「へぶぅ!?」


ペー子「な、何が……はっ! 魔王!」

男「誰が魔王だ誰が」ゴス!

ペー子「いだぁ!」

男「寝ぼけてないでさっさとピーちゃんの世話を始めやがれ」

インコ「チュルー」

ペー子「ううう助けて魔人エリ・エールぅ……」

男「なーに訳の分からんこと言ってんだか」


ペー子「ピーちゃんさんの餌を換えて」

ペー子「次に飲み水も交換する」

ペー子「それから床の掃除して」

ペー子「羽根のツヤのチェック……」

ペー子「ってこれじゃあほんとに奴隷じゃないですかー!」

インコ「チュル?」

男「うるさい黙って手ぇ動かしてろ!」


ペー子「こんなのってありませんよまったく」ブツブツ

ペー子「仮にもわたしは付喪神です」

ペー子「神ってついてるんですよ神って。ペーパーだけに」

ペー子「神は敬うもんです。敬って畏れるもんです」

ペー子「だからわたしはもっとよい待遇を手に入れてしかるべきなんです」

ペー子「こうなったらあるべき地位を回復せねばなりません」

ペー子「策としては、そうですねえ……」

ペー子「その一、頼みこむ。論外。その二、威圧する。無理。その三、誰かに頼る。友達いません……ぐすん」

ペー子「と、なると……」

ペー子「!」ピコーン!

ペー子「弱みを握る!」


ペー子「はいそこ、既に一回失敗してるとか言わない!」

インコ「ピキョ?」

ペー子「リベンジです。今度こそ確実に弱点を探り出しますよぉ!」


……


男「やべえ、遅刻しちまう!」

男「それじゃピーちゃんにペー子、行ってくるからな!」

インコ「チュル」

男「って、あれ。ペー子は?」

インコ「プキュ……」

男「まあいいや、それじゃ!」


 ……バタン!

続きます

前回分に一部エロい表現がありました。お詫びいたします


ペー子(……ふっふっふっふ)

ペー子(無事、潜入に成功しました。敵もまさかわたしがこんな手段を用いるなんて予想の外でしょう)

ペー子(気づいている様子は微塵もありません)

ペー子(この調子なら余裕で目的を達成できそうです)

ペー子(でーはー……)

ペー子(スニーキングミッション、スタート! です!)


男「ふー、間に合った」

  ペー子(おや、もう到着ですか。近いんですね、大学)

男「……」トサ

  ペー子(んん? 周りに人がいる気配はしますが、挨拶はしないんですねえ)

男「……ふん」

  ペー子(もしかして友達いないんでしょうか)

男「本でも読むか」

  ペー子(ぶふっ! 典型的なぼっちじゃないですか! メモっときましょう!)

男(ん? 今なんか笑われたような)


  ペー子(さーてどんどん出てきなさい恥部秘部隠し事!)

男「はーかわいいなあ」ペラ

  ペー子(かわいい? 何の本でしょうか)

男「ちょっとポッチャり気味で、それでいて綺麗な瞳で」

  ペー子(もしや家には隠せなかったあんな感じやこんな感じの書籍を大学で!? なんと大胆な!)

男「麗しきかな麗しきかな」

  ペー子(しかも一人呟いてます。かなりイタい人です。これもメモっとかないと)

男「ぐふふふふ……」

  ペー子(うわぁこれはひどい)

男「やっぱフクロウは最高だな」

  ペー子「ふざけんなし!」

男「!?」


男(な、なんだ? 今すげえ近くから声が……)

  ペー子(おっといけない。ついツッコミが)

男「鞄の中からしたような」ガサゴソ

  ペー子(あ、まず……)

男「……」

  ペー子(……)

男「なーんだ、トイレットペーパーか」

  ペー子(ほっ……)

男「とでも言うと思ったかこの便所女!」ベシィ!

ペー子(あいたぁ!)


男「出てこい」

ペー子「はい……」ズルズル


  「な、なんだなんだ?」

  「……エスパー伊東?」


男「どういうつもりだ?」

ペー子「ぺ、ペー子家に一人じゃ寂しくって♪」

男「それなら仕方ないな」

ペー子「ありがとダーリン♪」

男「ちなみに今のカウントは二だ。俺の機嫌を損ねるたびに増えてくぞ」

ペー子「カウント?」

男「お仕置き折檻の強度だ」

ペー子「ひええ!」


ペー子「ち、ちなみに最高は?」

男「五だ」

ペー子「……具体的には?」

男「燃やす」

ペー子「超シンプル!」


ペー子「嫌ですぅぅペー子燃やされるのいやですぅぅ……」

男「ええいすがりつくな鬱陶しい!」

ペー子「許してもらえるまで離れませんんんん……」

男「少しでも反省する気があるなら講義が終わるまで外でてろ!」

ペー子「……はい」スゴスゴ……

男「ったく」


  「……なんだったんだ?」

  「知るかよ。類は友を呼ぶって奴じゃねえの?」

  「変人は変人に好かれるんだな」


 ヒソヒソ ヒソヒソ……


男「……チッ」


男「……」ガチャ

ペー子「あ、終わりました?」

男「……ちょっと来い」グイ

ペー子「え、あ、はい?」


……


大学キャンパス北端 林

ペー子「へえぇー。こんなところがあるんですねえ」

男「山手の大学だからな。ここなら人は来ない」

ペー子「え!? もしやかよわいわたしにあんなことやこんなことを!?」

男「……」

ペー子「いやーんっ!」

男「カウント三」

ペー子「まじサーセンした」


男「よいしょ」トサ

男「お前もまあ座れよ」

ペー子「は、はい」

男「……さて。なんでついてきた? お前のおかげでがっつり恥かいたぞ」

ペー子「え、えーと……その」

ペー子(考えろ、考えるんだペー子ォ!)


……

ブレインフォーラム in ペー子

ペー子A「ここは素直に白状したほうが……」

ペー子B「駄目だ馬鹿野郎! 燃やされたいのかてめーは!」

ペー子C「その通り! ここは何としてでも無難に切り抜けるべきにゃん!」

ペー子D「では何か案はあるのだろうな」

ペー子A「適当にごまかすとか……?」

ペー子B「気をそらすに限るぜ!」

ペー子C「隙を見て逃げちゃうにゃん!」

ペー子D「ふざけるな便所紙ども! 真面目に考えんか!」

ペー子A「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか……!」

ペー子B「そうだそうだ! てめーだって糞にまみれて流される運命だろうが!」

ペー子D「口を慎まんか若造!」

ペー子C「ごろごろにゃーん!」

ペー子B「ぶりっ子もしゃしゃり出るんじゃねー!」


 ギャーギャー!


『落ちつきなさいわたしの可愛い子供たち』

ペー子A「母さん……!」

ペー子B「お袋……!」

ペー子C「ママ……!」

ペー子D「母上……」

トイレの神様『争ってはなりません。こういうときこそ力を合わせねばならぬこと、賢いお前たちなら分かるはずですよ』

ペー子A「ごめんなさい……」

ペー子B「……わりぃ、言いすぎた」

ペー子D「儂もすまんかった」

ペー子C「許してにゃん♪」

ペー子ABD「死ね」

ペー子C「え」


トイレの神様『いいですか、お前たち。お互いに認め合いなさい、愛し合いなさい』

トイレの神様『さすれば道は開かれます。扉は開かれます』

トイレの神様『明けない夜はありません』

トイレの神様『ですから強く生きるのですよ』

トイレの神様『雄々しく生きるのですよ……』

ペー子ABCD「はい……!」

……


ペー子「えぐっ、ぐすっ……愛って素晴らしいですねえ……!」

男「いや意味が分からんが」

ペー子「つまりそういうことです。ではわたしはこれで」

男「待たんかい」ガシ

ペー子「ひーんっ」

男「どうせ俺の弱みを掴もうとかそういう魂胆だったんだろ?」

ペー子「ち、違います! こ、これはそう、あなたを想う愛ゆえにしたことで」

男「なになに、『敵はぼっち。友達なし。おまけに大学でエロ本を読む不届き者』」

ペー子「あーわたしのメモー!」

男「ったく、くだらんこと考えやがって」ビリビリ ポイ!

ペー子「あああああ……」


ペー子「憎恨怒忌呪滅殺怨……」ブツブツ

男「うわ気味悪っ……つってもあんなメモ何の役にも立たねえぞ」

ペー子「へ?」

男「エロ本の勘違いは言うまでもないとして、確かに俺はぼっちだが、それを気にしたことなんて全くねえし」

ペー子「……」

男「だいたい誰かとつるむなんてダサくてやってらんねえよ」

ペー子「……若干の厨二病、と」メモメモ

男「……」ビリビリ

ペー子「あーまた破ったー!」


男「どう思おうと自由だけどな。俺は、一人が、好きなんだ」

ペー子「強がりの可能性を検討」メモメモ

男(カウントを四に上げとこう)

ペー子「あれ? そういえばもう次の講義はいいんですか?」

男「あ? ああ、今日はあれだけで終わりなんだ」

ペー子「じゃあ帰ります?」

男「いや、昼過ぎまではここにいる」

ペー子「ここって……この林に、ですか?」

男「ああ。もしよかったらついてくるか?」

ペー子「?」


湖の近く 小高い丘

ペー子「すごい。きれーい」

男「いいとこだろ? 水鳥を観察するにはもってこいなんだ」

ペー子「観察? ですか?」

男「変か?」

ペー子「変と言うわけでは。ただ、どうしてわざわざ?」

男「大学卒業したらな、俺……鳥類学者になりたいんだよ」

ペー子「鳥類学者?」

男「そ。だから今からこうして自主的に研究してる」

ペー子「はぁー。熱心なんですねえ?」

男「大したもんじゃねえよ。ただ、鳥が好きだからな……」

ペー子「ふうん?」

     ・
     ・
     ・

続きます

ぶっちゃけ自分も詳しくないんですが、事前調べでは理学部の生物・動物学科あたりが手堅いらしく、その辺に設定してあります
あとは農学、獣医学あたりからもなる人はいるとか

サークル等無所属の理由は話の中で書いて行ければと思う次第


男「……」ジィー

ペー子「なんかごつい双眼鏡ですねえ」

男「よりよく観察するにはよりよい道具が必要だからな」

ペー子「いますか鳥は?」

男「結構来てるな、カルガモが多い」

ペー子「ふうん」

男「……」

ペー子「……」

男「……」

ペー子「ひ」

男「ん?」

ペー子「ひまーッ!」

男「黙れ鳥が驚くだろうが!」


ペー子「た、叩くことはないじゃないですかぁ」

男「うるさい静かに待ってろ」

ペー子「むー。だいたい鳥の何がいいっていうんですか」

男「あ?」ギロ

ペー子「う……だ、だってなんかみんな似たようなもんでしょう」

男「本気で言ってんのか?」

ペー子「え、ええまあ」

男「…………ふっ」

ペー子「なんですかその馬鹿にした笑いは!?」

男「いや、まあ確かに素人なら仕方ないと思ってな」

ペー子「なんですって!? じゃあ説明してみてくださいよ!」

男「ああいいぞ。まず鳥類の定義からだけどな——」

ペー子(……しもた。これはまずいパターンやで工藤)

     ・
     ・
     ・


三十分後

男「——で、あそこにいるのが」

ペー子「zzz...」

男「……」

ペー子「ううん、焼き鳥おいしいムニャ……」

男「この不埒者ォ!」ガスゥッ!

ペー子「みぎゃぁッ!!」


男「人の話を聞いていないばかりか鳥様を食べるなどと!」

ペー子「すみませんすみません! この通りですからなにとぞライターだけは!」

男「チッ……ったく」

ペー子「助かった…………でもなんでそこまで鳥が好きなんですか?」

男「あ?」

ペー子「いやえっと、鳥に詳しいのはすごくよくわかったんですけど、そこまでのめり込む理由が分からなくて」

男「……」

ペー子「?」


男「鳥。鳥な」

ペー子「はい」

男「あいつら潔いんだよ」

ペー子「は?」

男「人間と違ってさっぱりしててな、しがらみとかねえしウジウジしねえし誰かの顔色うかがうなんてしねえし」

ペー子「……」

男「何よりも常に一生懸命、真っ直ぐなんだよ。眩しいくらいにな」

ペー子「はあ」

男「そういうところが好きだ」


ペー子「もしかしてと思ったんですが」

男「ん?」

ペー子「友達がいないのってそこらへんのことと関係あったりします?」

男「……そうだな」

ペー子「人嫌い?」

男「人間は鳥と正反対だ。人の目がどうとか人間関係がどうとかイケてるイケてないとか。そんなことばかりでうんざりくる」

ペー子「ふうん」

男「くそくらえだ。誰が何しようが構わねえじゃねえか。もっとガチンコでいけねえのかよ」

ペー子「なんだか、大変ですね」

男「あ?」

ペー子「え? いやだって、そういう見方ってなんかカドが立つじゃないですか。生きにくくないですか?」

男「……」


男「……仕方ねえだろ性分なんだから」

ペー子「それに、ですよ? あなたからは潔く見えるだけで鳥だっていろいろしがらんでるかもしれませんよ?」

男「ん……」

ペー子「鳥だっていろいろ思うところはあるんじゃないですか? 恋煩いしたり近所づきあいに苦労したり」

男「それはないと思うが」

ペー子「言い切れますか? 鳥だって悩みますよきっと」

男「どうだか」

ペー子「だってほらほら、トイレットペーパーだっていろいろ考えて悩んでますし」

男「考えて悩んでる?」

ペー子「なんか文句ありますか!?」


ペー子「まったく。人が珍しく真面目にしゃべったっていうのに」

男「確かに珍しかったな」

ペー子「うるさいです!」

男「まあなんにしろ言えるのは鳥類最高、人類ろくでなしってことだ」

ペー子「ふん! もう鳥バカさんのことなんて知りませーん!」

男「へいへい。俺はウォッチングに戻るから静かにしてろよ」

     ・
     ・
     ・


ペー子「zzz...」

男「……」ジィー

ペー子「ムニャ……んむぅ?」

男「あ? どうかしたか?」

ペー子「……なんかこう、すごく必死すぎて引く感じの鳴き声しません?」

男「んー? ああこれか。ヒバリだな」

ペー子「美空?」

男「ちげえ。上見ろよ」

ペー子「はい?」


ペー子「……何も見えませんけど」

男「よーく見ろ。あの辺りだ」

ペー子「んー。あ! いました! あれですね!」

男「すげえ高いとこ飛ぶよな」

ペー子「うわー飛び方も必死」

男「ああやって一生懸命縄張りを守ってるんだよ」

ペー子「へえー」

男「……」

ペー子「どうしたんですか?」

男「羨ましいもんだと思ってな」

ペー子「あんな必死な人が町にいたら正直引きますけど」

男「そういうことじゃねえよ!」


男「俺が言ってるのは……あんな高いところ飛べるなんていいな、ってことさ」

ペー子「?」

男「こう、下界のつまんねえことは置き去りにできるだろ」

ペー子「はあ」

男「ああやってどこまでもどこまでも上昇し続けてさ」ゴロン

ペー子「……」

男「このクソみてえな世界におさらばできればな、って思うよ……」

ペー子「危篤レベルの厨二病、と」メモメモ

男「おい」


男「まあいいか。お前みたいなやつにはわかんねえよな」

ペー子「む。なんですかその引っかかる言い方」

男「べっつにぃ? エセ天女にゃ言ってねえよ」

ペー子「エセ天女!? エセ天女って何ですか!?」

男「事実だろ」

ペー子「どこがエセですかどこが!」

男「便所紙じゃねえか。飛べもしないくせにほざくなよ」

ペー子「……」カッチーン!

ペー子「ちょっと立ってください」

男「……なんだよ?」

ペー子「いいから立ちなさいいぃ!」グイィ!

男「耳引っ張るな馬鹿野郎!」


男「いつつ……なんなんだよ」

ペー子「あなたは言いましたね? わたしが飛べもしないエセ天女だと」

男「言ったが?」

ペー子「きいいいいぃぃぃに入りませんッ!」

男「だから?」

ペー子「わたしは確かにトイレットペーパーの付喪神ですが! 同時に天女でもあります!」

男「はあ」

ペー子「ですから、証拠を見せます! 今から飛びますよ! この羽衣で飛んで見せようじゃないですか!」

男「飛べるのか?」

ペー子「飛べますとも! そこから飛び立ちます!」

男「へえ。頑張れよ」

ペー子「あなたも一緒です!」ガシ

男「へ?」

ペー子「ではいざ!」

男「ちょっ! 待——!」


ペー子「うぃーきゃーんふらーいっ!」バッ!


 ブワ——ッ!



 <ベシャ!


大学キャンパス内

ペー子「おっかしいですねー……」

男「ぬぁにがおっかしいなだこの便所女が……」


  「なんだあの泥だらけ」

  「男の方はブツガクの変人じゃね?」

  「もうかたっぽは、なんだ? コスプレ?」


ペー子「おおすごいですよ構内の視線を二人占めです」

男「誰のせいだ誰の……ああ腰いってえ」

「うわあひどい有様だね」

男「……!」

ペー子「あれ?」


茶髪「やあ久し振り」

男「……お前か」

ペー子「ネピアちゃんの飼い主さん!」

茶髪「いや節子だけど……」

男「? お前ら顔見知りか?」

ペー子「はい!」

茶髪「こっちも驚きだよ。君たちが知り合いだなんて」

ペー子「この間はありがとうです!」

茶髪「インコちゃんとは仲直りした?」

ペー子「おかげさまでなんとか!」

男「……何の話をしてるんだ?」イラ

ペー子「あ、えーと……」

男「話せよ」

ペー子「じ、実は」


男「ふーん……ピーちゃんと喧嘩してたのか」

ペー子「ごめんなさいライターだけは許してください。ほらほらこの通り服従のポーズ」

男「……ふん」スタスタ

ペー子「あれ?」

茶髪「おや行っちゃうのかい?」

男「……」ピタ

茶髪「物研サークルには顔出してくれないんだ?」

ペー子「物研?」

茶髪「動物生態研究サークルのこと」

男「……俺はとっくに退部したはずだが?」

茶髪「でも来ちゃいけないことはない」

男「行く理由がない」

茶髪「……」


茶髪「やれやれ、人嫌いは相変わらず?」

男「ふん」

茶髪「いい加減なんとかしなよそのねじ曲がった性格。そんなんでこの先やってけると思ってるのかい?」

男「あ?」

茶髪「そんな人を見下すような態度じゃ周りに迷惑かけるばかりじゃないか」

男「それがどうした」

茶髪「みっともないからやめろって言ってるんだよ。勝手に自分の殻に閉じこもってツンツン尖って」

男「……」ツカツカツカ!

茶髪「……」

男「チャラチャラしたクソ軟弱のくせして俺に意見すんな」ギロ

茶髪「軟弱はどっちだか」

男「は?」


茶髪「どうせ傷つくのが嫌で逃げ回ってるクセに」

男「言ってる意味がぜーんぜんわっかんね」

茶髪「馬鹿にも分かるように言ってほしい?」

男「べっつに。どうせ聞く価値もないことだろうしな——っておい便所女!」

ペー子「はい?」

男「さっきから何やってる?」

ペー子「いえ茶色さんへの応援の舞を」

男「カウント五」

ペー子「ひええ!」


男「チッ……」スタスタ

ペー子「って、あれ?」

茶髪「……」

ペー子「行っちゃいました……」

茶髪「あのー。いい?」

ペー子「はい?」

茶髪「君はあいつの何なの?」

ペー子「居候?」

茶髪「疑問形なんだ」


ペー子「なんというか、言っても信じないでしょうし」

茶髪「よくわからないけど。便所女? なんか穏やかじゃない呼び名だね」

ペー子「なんていうかひどい扱いです」

茶髪「うーん? まあ本当に困ったら連絡してよ。力になるから。これあげる」

ペー子「名刺?」

茶髪「うちの医院のだよ」

ペー子「はあ。よく分かりませんけど、ありがとです。それでは」

茶髪「うん。じゃあね」

続きます


アパート

ペー子「……」チラ

男「………………」

ペー子(うわぁ……)

インコ「チュルー?」

男「……ピーちゃん」

ペー子(なんか気まずっ。気まずすぎます!)

ペー子(そういえば折檻カウントも振り切った気がしますし、迂闊に発言できないこの感じ!)

男「ペー子」

ペー子「ひゃい!?」

男「ちょっとそっちの部屋行ってろ」

ペー子「え?」

男「早く行け!」

ペー子「あ、アイサーッ! ペー子は疾風迅雷の勢いで撤退いたしますーっ!」


 ——バタン!


男「……」

インコ「ピキョ……」

男「チッ……!」

インコ「……」

男「……なあにが動物生態研究サークルだ」

男(気にしてるのは動物じゃなくてサークル内での立ち位置や人間関係じゃねえか)

男(気が合わないやつはいないように扱ったり、ハブったり、挙句の果てに目に見えない上下関係作って暗黙の了解にしたり)

男「フン……人間なんてそんなもんだよな。分かってはいるんだよ。でもよ……」


『ねえ、なんで……ぼくのこと無視するの……?』


男「やっぱりろくなもんじゃない……俺なんて……」

男「くそ……っ!」


ペー子「……」

ペー子「……?」

ペー子(『俺なんて』? どういうことでしょうか)

ペー子(ああいうタイプって悪いことは全部世間のせいにして、自分を責めるような繊細さは持っていないはずですが)

ペー子(うーむ……っていうか、弱み掴もうとしたのはいんですけど)

ペー子(これはきっと弱みというより地雷ですよねえ……うーん)

ペー子(……まあ一応)メモメモ


翌日

ペー子「なんだか最近急に暑くなりましたね。ペー子です」

インコ「プキュ」

ペー子「でもそんな日だって大丈夫。この魔法のスイッチさえ入れれば」ピッ

エアコン<ブオー!

ペー子「あ〜、涼しいです〜」

インコ「」

男「……」ガチャ

ペー子「あ、おはようございます。今日は遅起きですね」

男「……ああ」

ペー子「……ええと」

男「なんだよ?」

ペー子「いや! なんでもないです」

男「……そうか」


ペー子「えと、その、今日も湖の丘に行くんですか?」

男「そうだな。行くな」

ペー子「わ、わたしも行きたいなー、なんて」

男「なら俺は講義終わってからだから先行って待ってろ」

ペー子「了解です!」ビシィ!

男「道は覚えたよな? じゃあ俺はもう行くから」

ペー子「え? ご飯はいいんですか?」

男「食欲わかねえ。それじゃ」

ペー子「ちょ、ちょっと待ってくださいよう! 何か食べた方が」タタタ!


 ……バタン


エアコン<ブオー


インコ「プキュゥ……」


湖 丘

ペー子「ついなんとなくで来たいなんて言っちゃいましたけど」

ペー子「ぶっちゃけ暇ですねえ……」

ペー子「……」

ペー子「鴨が一羽。鴨が二羽。鴨が三羽」

ペー子「……なんかしっくりきません」

ペー子「焼き鳥一本分。焼き鳥二本分。焼き鳥三本分」

ペー子「これです!」

「いやおかしいと思うけど……」

ペー子「へ?」


女「こんにちは」

ペー子「? こんにちは」

女「不思議な数え方するんだね」

ペー子「そうですか? この方がわくわくしません?」

女「する?」

ペー子「空腹感がうずくのが難点と言えば難点ですが」

女「そ、そう」

ペー子「ところでどちら様ですか?」

女「この大学に通ってる学生よ」

ペー子「わたしに何か用でした?」

女「そういうわけじゃないんだけど。お気に入りの場所に人がいたから」

ペー子「お気に入りの場所。誰かさんと同じですね」


女「もしかしてカラスくんの知り合い?」

ペー子「? いえ鳥類に知り合いはいません。紙業界には顔がきくんですが」

女「紙業界? 実家が製紙業を営んでるとか?」

ペー子「流通しているトイレットペーパーは大体顔見知りです」

女「? なんかよく分からないけどすごいんだね」

ペー子「スローガンは打倒ウォシュレット。わたしたちは断固戦います」

女「そ、そう。頑張ってね」

ペー子「ありがとうございます」


ペー子「ところでカラスくんって言ってましたけど、なんなんです? もしかしてあの鳥バカの知り合いですか?」

女「あ、多分そう。鳥バカってあの人の事だよね。だとしたらやっぱりカラスくんの知り合いなんだね」

ペー子「あだ名か何かですか?」

女「そそ。その鳥バカをわたしはカラスくんって呼んでるの。なんか妙に賢そうで偏屈な感じが似てない?」

ペー子「そういわれてみれば人に煙たがられてるところもそっくりですね」

女「あはは。だよね」

男「なにやら盛り上がってるな?」

ペー子「ッ!」ビックゥッ!


女「あ、カラスくん」

男「来てたのか」

ペー子「お、驚かさないでくださいよ」

男「誰が煙たがられてるって?」

ペー子「いえあのその別に……」

女「久しぶり。講義は終わったの?」

男「まあな」

女「こっちもさっきあがったんだ。ちょっと一緒してもいい?」

男「別に俺に断ることじゃねえだろ。勝手にしろよ。俺は適当にウォッチングしてるから」

ペー子(ん?)


ペー子「お二人は、なんです? 知り合いなんですよね?」

男「知り合いっていうか」

女「なんだろうね?」

男「俺はここをバードウォッチングに使ってて」

女「わたしは後からここを見つけてお気に入りの場所にしたの」

ペー子「へ、へえ」

ペー子(なんでしょうこの息の合い具合は)


男「とにかく俺はあっちでウォッチングするから邪魔するなよ」

ペー子「あ、はい」

女「うん、わかった」


……


女「ところでさ、さっきから気になってたんだけど」

ペー子「はい?」

女「なんか不思議な格好してるよね? 天女?」

ペー子「はい、そうですよ。ふふふ」

女「可愛いね。コスプレ? どこで売ってるの?」

ペー子「コスプレじゃないですよ! わたしは正真正銘の天女です!」

女「本物?」

ペー子「う……ほ、本物です!」


女「ふうん?」

ペー子「う、疑ってますね!」

女「え? そんなことないよ?」

ペー子「し、信じてくれるんですか!?」

女「うん。信じるよ、天女様」

ペー子「……」

女「?」

ペー子「うわーんっ!」

女「ええ!? なんで泣くの!?」


ペー子「この姿になってから初めて天女扱いしてくれる人に巡り合いましたぁ!」

女「な、なんか大変だったんだね」

ペー子「不審者扱いされたりコスプレ扱いされたり挙句の果てには便所紙呼ばわりされたり!」

女「よ、よしよし、もう大丈夫だからね」

ペー子「ふえーん……」

女「ほら、泣きやんで?」

ペー子「……ありがとうござました」

女「ハンカチいる?」

ペー子「いえ大丈夫です」シュルシュル

女(どこからともなくトイレットペーパーが!?)

ペー子「チーン!」


ペー子「……なんだかこれ以上なくいい気分です」

女「ふふ。よかったね」

ペー子「晴れ晴れとした最高のコンディション。今なら行ける!」

女「どこに?」

ペー子「あの大空です!」

女「え?」

ペー子「羽衣で飛ぶんですよ!」

女「飛べるの?」

ペー子「わたしは天女ですよ? 飛べないはずないじゃないですか」

女「な、なんとなくだけどやめといた方が」

ペー子「いいえやります! それでは!」

女「ちょっと、待っ——!」


ペー子「あーいきゃーんふr


 <ベシャ!


男「ん?」


ペー子「キュウ……」

男「ったく、またやらかしやがって」

女「大丈夫?」

男「人一人背負うくらいならわけねえよ」

女「そう?」

男「じゃあ、こいつ運ぶから俺はもう帰るわ」

女「ん、分かった。じゃあね」

男「おう」


アパート

男「っと、着いたぞ」

ペー子「んむ!」ドサ

ペー子「あれ? ここは?」

男「アパートだ」

ペー子「運んでくれたんですか?」

男「感謝しろよまったく」

ペー子「あ、ありがとです」

男「ふう。……って、ん?」

ペー子「どうかしました?」

男「なんか寒くねえか?」

ペー子「え? ……あ」

男「まさか……!」


 ガチャ!


エアコン<ブオー

男「エアコン点けっぱなしじゃねえか!」

ペー子「そ、そういえば朝バタバタしてて……」

男「くっそ、電気代が……ん?」

インコ「プキュ…………」

男「あ……!」

ペー子「あれ? なんかすごく膨らんでますね? 食べ過ぎ?」

男「……こんの——馬鹿野郎ッ!」ベシィ!

ペー子「いっったぁ! 何するんですか!」

男「何するんですか、じゃねえ! これは病気だ!」

ペー子「びょ、病気!?」


男「インコはな、温度変化や寒さに弱いんだ! エアコンで簡単に風邪もひくんだよ!」

ペー子「そ、そんな!」

男「ピーちゃん大丈夫か!?」

インコ「キューイ……」

男「まずい、早く医者に診せねえと……」

ペー子「い、行きましょう!」

男「この時間開いてるとこは少ないんだ!」

ペー子「ええ!?」

男「夕方過ぎちまったからな、夜間もやってるとこじゃないと……」

ペー子「じゃ、ど、どうしたら……」

男「探すんだよ! 夜間もやってるとこを! 俺がネットで調べてくる!」

ペー子「は、はい!」


インコ「……」プルプル

ペー子「ごめんなさいピーちゃんさん……わたしのせいで」

インコ「キュー……」

ペー子「うう、わたしも何かしないと……どこか頼りになりそうなところ……」

ペー子「あ」


『困ったら連絡してよ』


ペー子「茶色さんところの動物医院! 夜間も……やってる!」

ペー子「ありました! ありましたよ! 開いてるとこ!」

     ・
     ・
     ・

続きます

もうそろそろ終盤に入る感じ
土日使ってちまちま投下で終わらせるつもりなので、もしよかったら最後までよろしくです


夜 動物医院の前

ペー子「……」


 ガチャ


ペー子「!」

茶髪「やあ」

ペー子「どうも……」

茶髪「中、入らないの?」

ペー子「その……」

茶髪「入りにくい?」

ペー子「ええ、まあ」


茶髪「そんな気にしなくても大丈夫だって。インコちゃんただの軽い風邪だったらしいし」

ペー子「でも。あの人の大事な友達を酷い目に遭わせちゃったことに変わりはないですし」

茶髪「確かにそれはよくないことだね。でも君だけの責任かな?」

ペー子「?」

茶髪「聞いた感じ、朝はなんだかあいつもぼんやりしてたらしいじゃない。あいつの不注意のせいでもあるよ」

ペー子「……けど」

茶髪「ほらほらそんな泣きそうな顔しない!」ポンポン

ペー子「すみません……」


茶髪「だいたいあいつは大袈裟すぎるところがあるんだ」

ペー子「……?」

茶髪「好きなもののことになると誰でもそうかもしれないけどさ、あれはすごかったなあ」

ペー子「あれって?」

茶髪「あいつが物研サークルにいた頃なんだけどね、他の子と大喧嘩したんだ。なんでだと思う?」

ペー子「わかりません。なんでですか?」

茶髪「鳥と猫はどっちが情に厚いかって」

ペー子「は?」

茶髪「鳥も猫もどこか薄情なところがあるだろ? でもあいつは猫なんかより鳥の方が愛情を理解する、なんて言い張ったんだよ」

ペー子「ぷふっ。なんですかそれ」


茶髪「面白いだろ?」

ペー子「あの人らしい気がします」

茶髪「ウケたようでなによりだよ。やっぱり君は笑ってる方がいいね」

ペー子「え」

茶髪「落ち込んでるのはちょっと似合わないよ」

ペー子「そ、そうですか?」

茶髪「うん。なんか湿っぽいトイレットペーパーみたい」

ペー子「あ。あの時のことまだ根に持ってますね?」

茶髪「呪われたのはたまらなかったなあ」

ペー子「ふふ」


ペー子「ありがとうございます、なんか慰めてもらっちゃって」

茶髪「いや? 僕は思った事を言ったまでだよ」

ペー子「気づかい上手ですね」

茶髪「よく言われる」

ペー子「そこは謙遜しないんですね」

茶髪「いい性格だろ?」

ペー子「ふふ。自分で言いますか」

茶髪「自分を認められる奴はできる奴ってことさ」

ペー子「あははっ」


『やっぱりろくなもんじゃない……俺なんて……』


ペー子「……あ」


茶髪「ん?」

ペー子「あ、いえ……」

茶髪「どうかした? 言ってみなよ」

ペー子「……その、ですね」

茶髪「うん」

ペー子「あの人が自分のことを卑下してたって言ったら、信じます?」

茶髪「あいつが?」

ペー子「はい」

茶髪「まあ、あり得るんじゃないかな」

ペー子「え?」


茶髪「しがらみが嫌いっていうあの手の潔癖症にはね、二種類いるんだ」

ペー子「二種類?」

茶髪「汚い他人が嫌いなタイプが一つ」

ペー子「それ以外にもあるんですか?」

茶髪「もう一つが、汚い自分が嫌いで、それに付随して他のみんなも嫌いなタイプだよ」

ペー子「???」

茶髪「難しいことじゃないさ。自分が嫌いな人って他人も好きになれないもんだよ」

ペー子「あの人も?」

茶髪「断言はできないけどね。でも……きっとそうだと思うよ」

ペー子「どうしてですか?」

茶髪「同じにおいがするんだ。僕も同じだったからね」

ペー子「え?」


茶髪「正しくあることができない自分ってのがいる」

ペー子「……」

茶髪「僕もそんな自分が嫌いでね。同じ理屈で他人も嫌いだった。なんで平気で嘘吐いたり裏切ったりするんだよってね」

ペー子「……茶色さんが?」

茶髪「そうはみえないだろ? これでも折り合いはつけてきたから」

ペー子「大学デビュー?」

茶髪「懐かしいなあ。僕、昔はぼさぼさの黒髪で眼鏡だったんだよ。こんなぶ厚いやつ」

ペー子「ふへえぇ……人に歴史あり、ですねえ」

茶髪「そういうこと。まああいつに同情はしてるよ。ついきついことも言っちゃう。昔の自分を見てるみたいで歯痒くてさ」

ペー子「なるほど」


茶髪「あいつは世界中全ての人が嫌いみたいだけど、本当に大嫌いなのはきっと自分なんだ」

ペー子「……」

茶髪「そんな自分を通して見た世界はきっと薄汚れて見える。だからあんななのさ。もったいないよ」

ペー子「……何かあったんでしょうか」

茶髪「さあね。そこまでは知らない。っと。そろそろ終わったころじゃないかな」

ペー子「あ。そうですね。じゃあわたし、中入りますね」

茶髪「うん」

ペー子「ありがとうございました!」

茶髪「帰りは気をつけてね」

ペー子「はい!」


……

  (……あれ? ここはどこでしょう?)

少年「うう……ぐすっ……」

  (……誰か、泣いてる?)

少年「おれは……なんで……」

  (どうかしたんですか?)

少年「おれ……おれ、親友を裏切っちゃったんだ……」

  (裏切った?)

少年「……その子を、無視したんだ」

  (無視したって……それはどうして?)

少年「皆が、その子を無視してるから、おれだけ仲よくしてたら同じ目にあうんじゃないかって、怖くて……」


  (……)

少年「おれ……おれ……」

  (じゃあ、謝りに行きましょうよ。わたしも一緒に行きますから)

少年「もう、だめなんだ……」

  (え?)

少年「その子、学校来なくなって……引っ越しちゃったんだ……」

  (そんな……)

少年「おれは……最低だ……」

  (……)

少年「大っきらいだ、自分なんて……!」

……


アパート


  チュンチュン……


ペー子「んむぅ……?」

インコ「チュルー」コツコツ

ペー子「ピーちゃんさん!」

インコ「チュルン!」

ペー子「病気、治ったんですね! よかった!」

男「zzz...」

ペー子「起きてください鳥バカさん! ピーちゃんさん元気になりましたよ!」

男「……んあ?」

ペー子「ほら、見てください!」

インコ「チュールン!」

男「ピーちゃあぁん!」


男「ピーちゃん! よかった! ピーちゃん!」

インコ「キューイ!」

男「心配したんだぞお……ああよかったよかった!」

インコ「プキュ……」

男「あ、は、腹減ったか? ちょっと待ってろよ!」


 ドタバタバタ……


ペー子「あはは……」


ペー子「いやあ、でもホントによかったあ……これで一安心」

ペー子「……ん? そういえばなんか夢を見ていたような」


『大っきらいだ、自分なんて……!』


ペー子「……」

インコ「チュル?」


 ガチャ!


男「ご飯だぞピーちゃん!」

インコ「キューイ!」

ペー子「あのう」

男「ん? どうした?」

ペー子「あなたは、その……」

男「?」

ペー子「いえ、やっぱりいいです」

男「なんだよ気になるだろ」

ペー子「なんでもないですよ」

男「ならいいが」

ペー子「……」

またあとで来ます


……

湖 丘

女「ふうん、そんなことがあったんだ」

ペー子「大変でしたよー。……まあわたしのせいなんですけどね」

女「なんとかなったみたいだし、万事オーケーじゃない?」

ペー子「茶色さんもあなたも優しいですね」

女「部長もわたしも思ったことをそのままいってるだけだよ」

ペー子「部長?」

女「ああ言ってなかったっけ? あなたの言う茶色さんはうちの物研サークルの部長なの」

ペー子「知らなかったです。でも、なんか納得感もあったり。っていうかあなたも物研所属だったんですねえ」

女「器が大きいよねーあの人は」

ペー子「全くです。どこかの鳥バカさんとは大違いです」


女「……そういえばこの前聞きそびれてたんだけどさ」

ペー子「なんですか?」

女「ペー子ちゃんって、その、カラスくんの何なの?」

ペー子「何、とは?」

女「同居してるんだよね?」

ペー子「はい。……ああ!」ポン!

女「なんか、そういう関係なのかなーって」

ペー子「気になります?」

女「気になるよー。教えて教えて」

ペー子「そうですねー。しいて言えば奴隷です」

女「え?」

ペー子「便所女なんて呼ばれてます」

女「ええ!?」


ペー子「毎夜毎夜あんなことやこんなことを強要されて」

女「そ、そんな」

ペー子「ああ汚されたわたし。よよよ……」

男「適当言うな」ゴス!

ペー子「あだぁッ!」


女「カラスくん」

男「ん?」

女「わたしよくないと思うな、そういうの」

男「は?」

女「同居してるからって、女の子にその……無理矢理変なこと」

男「してない!」

ペー子「あんなに激しくしたくせに」

男「おのれはああぁッ!」ギギギ!

ペー子「いだだだだだだだ!」

女「本当にしてないの?」

男「するか! こいつが面白がってふざけてるだけだ!」

女「……」

ペー子「てへ☆」

女「ペー子ちゃん……だめだよそういう冗談は」


男「ったく、油断も隙もない」

女「ふう、でもほっとした」

ペー子「まあ犯罪者が知り合いにいたんじゃ心休まりませんしね」

女「それもあるけど。ええとじゃあ、二人は恋人、ってわけじゃ」

男「断じてない!」

ペー子「不名誉です!」

男「んだとコラァ!」

ペー子「秘儀・紙隠し!」

男「避けるなクソ女ァ!」

女「……仲いいね」

男「どこがだ!」


女「なんか羨ましいなあ」

ペー子「前から思ってましたがあなたも大概変人ですね」

女「そう?」

男「まあ普通これ見て羨ましがったりはしないだろ」

女「ふふ。そうかもね。っと、時間になっちゃった。わたし、もう行くね」

男「おう、じゃあな」

女「うん。またね」


ペー子「……なんか引っかかりますねえ」

男「何がだ?」

ペー子「なんかこう、女の勘というか」

男「お前そんな高度なもの備わってたのか」

ペー子「うるさいです! ————はっ!」

男「?」

ペー子「わたし、ちょっと行ってきます!」タタタ!

男「え? あ、ああ」


ペー子「あのー!」

女「? ペー子ちゃん?」

ペー子「単刀直入に聞きます。もしかしてホの字ですか?」

女「え?」

ペー子「だーかーらー、鳥バカさんのこと、もしかして」

女「……分かる?」

ペー子「なんとなく」

女「はー、すごいねペー子ちゃん」

ペー子「いやでもあれだけ露骨だとむしろ分かりやすいというか」

女「一応アピールみたいなものだからね」


ペー子「でも、一体なんでよりにもよって?」

女「よりにもよって、って」

ペー子「いやだって。あんな鳥しか頭になさそうな人じゃなくたってあなたならより取り見取りでしょうに」

女「恋に理屈って必要?」

ペー子「限度がありません?」

女「……ふふ。まあそうかもね。でも本当によく分からないんだ」

ペー子「ふうん?」

女「カラスくんってさ、すごく頭良くて、いつも成績トップで、わたしの目標だったんだよね」

ペー子「目標?」

女「うん。実を言うと、なんであんな変人に勝てないんだっていつも不満だった」

ペー子「あーそれは分かる気がします」

女「で、ずっと意識してるうちに……ちょっと、こう」

ペー子「それは分かる気がしません」


女「なんて言うかさー、カラスくんはすごく純粋なんだよね」

ペー子「え、どこが?」

女「なんか世の中の不条理が許せないって、そんな感じじゃない?」

ペー子「あ……」

女「真っ直ぐなんだよね。いや、心が真っ直ぐな分性格は曲がっちゃったみたいだけど」

ペー子「……」

女「まあ子供っぽいといえば子供っぽいんだけど。わたしはカラスくんのそういうところがいいみたい」

ペー子「はあ……やっぱりよく分かりません」

女「っと。時間がギリギリになっちゃった。本当に行かないと」

ペー子「あ、ごめんなさい」

女「じゃあね。あ、それから」

ペー子「?」

女「ペー子ちゃんには負けないから」

ペー子「は?」

女「カラスくんはわたしがもらうよってこと! それじゃ!」タタタ!


ペー子「……」

ペー子「……は?」

ペー子「いやいやいや!」

ペー子「あんな鳥バカなんてちょっと対象外っていうか限りなく守備範囲外というか!」

ペー子「それだけは絶対にないです! ないないないです!」

ペー子「あってたまるもんですか」

ペー子「……」

ペー子「あってたまるもんですかーっ!」

男「何がだ?」

ペー子「はう!? 魔人エリ・エールッ!」

エリ・エール「ERYYYYYYY!」ズギュウゥン!

男「うおおお!?」

     ・
     ・
     ・

今日はあと一回ほど


翌日

ペー子「うー……なんだか、やりにくい感じです」

ペー子「全然そんな気はなかったのに、言われると意識してしまうというか」

ペー子「でも意識してしまうということは、前から自分の中にそんな気持ちがあったということで」

ペー子「……いやいやいや」

ペー子「あの人は鳥バカです。鳥バカはまともな人間じゃない。そんな人間をわたしがそのす、す、す…………になるはずがない」

ペー子「だから当然の帰結としてわたしはあの人のことなんて大嫌いなわけで、弱みを握ってけちょんけちょんにしたいわけで」

ペー子「……」

ペー子「……弱み握ったら、言うこと聞いてもらい放題ですねえ」


ペー子「……」ポー

ペー子「!」ハッ!

ペー子「いけないいけないしっかりしなさいペー子! ピンクな想像に支配されてはなりません! よりによってあの人で!」

ペー子「……」

ペー子「……えへ」ニヘラ

ペー子「……ってちがーうッ!」ダン!

インコ「ピキョ!?」


男「さっきから何なんだ!」ガチャ!

ペー子「ひゃい!?」ビックゥッ!

男「よくわかんねえがごちゃごちゃうるさいんだよ!」

ペー子「あ……その」

男「こっちは勉強やその他諸々で忙しいんだから静かにしてろっての!」

ペー子「……はい」

男「……? なんか妙に大人しいな」

ペー子「べ、別にそんなことありませんよ!」

男「何か企んでるのか?」

ペー子「そ、その通りです! 今超絶すごいこと考えてますから覚悟してなさい!」


男「……」ツカツカツカ

ペー子「っ!」ビク!

男「……」

ペー子(か、顔! 近い近い!)

男「もしこれ以上変なことしたらマジ燃やすからな?」

ペー子「はひ……」

ペー子(い、息がほのかにかかって……クラクラしますぅ……)

男「よし。じゃあ俺は戻るぞ」

ペー子「……」モジモジ

男(なんだかよく分からん奴だな……怪しい)


湖 丘

ペー子「あなたのせいですっ!」

女「え?」


女「何のこと?」

ペー子「しらばっくれるのはやめなさい! あなたが昨日言ったことです!」

女「……ああ! カラスくんはわたしがもらうよってやつ?」

ペー子「そうです! わたしには負けないとか言ったあれです!」

女「あれがどうかしたの?」

ペー子「あれのせいでなんだか妙な感じなんですよ!」

女「……ははあ。なんか意識しだしちゃったんだ?」

ペー子「そうです! そんな気なんて全くないのに!」

女「ほんとにぃ?」

ペー子「あ、当たり前じゃないですか! なんであんな人をす、す……にならなくちゃいけないんですか!」

女「ペー子ちゃんって意外とウブ?」

ペー子「うるさいです!」


ペー子「あんな人、違います! なんでわたしがあんなひどいことする人を!」

女「ストックホルム症候群?」

ペー子「……なるほど。いや違います!」

女「素直になっちゃいなよー」

ペー子「違うったら違いますぅっ!」

女「どうだかねえ……」

ペー子「とにかく! わたしはあんな人興味はありません!」

女「じゃあわたしが取っちゃっても問題ないよね?」

ペー子「う! そ、それは……」

女「わたしお弁当作ってきたんだ。カラスくんと一緒に食べてくる。じゃね」タタタ!

ペー子「あ、ちょ……」

ペー子「……」ポツーン


ペー子「どどどどうしよう」

ペー子「いや、落ちついて。落ちつきなさいペー子」

ペー子「そう、わたしは自分で言った通りあの人に興味はありません」

ペー子「あるはずがないんです。だってあの人鳥バカですし」

ペー子「だから問題ない問題ない……」

ペー子「……」

ペー子「あああああモヤモヤするうううぅぅぅッ!」ブンブンブン!

今日はここまで
この感じだと予定通り明日中に終わりそうです
それでは


女「カラスくーん」

男「ん?」

女「おべんとあるんだけど、一緒に食べない?」

男「いいのか?」

女「ちょっと多く作りすぎたんだ。もしよかったらもらってよ」

男「……。じゃあお言葉に甘えて」


……


女「……」ジィー

男「……なんだよ?」

女「いや、おいしいかなって」

男「うまいけど……」

女「そ。よかった。ふふ」

男「……」


男「あの、さ」

女「ん? なに?」

男「なんかこう、いろいろよくしといてもらってあれだが」

女「うん」

男「あんまり俺に関わらない方がいいぞ」

女「なんで?」

男「なんで、って。俺変人扱いされてるだろ?」

女「それが?」

男「こういうところみられたらお前も同類にみられるし」

女「そういうのはどうでもいいかなあ」

男「それに、俺って……やなやつだし」

女「そう?」

男「いや性格悪いのは知ってるだろ? 今はいいかもしれないけど、そのうち嫌な思いすることになるだろ」


女「性格が悪いかどうかなんて見る人次第だよ」

男「……」

女「それに嫌な思いしたとしても、それは関わったわたしの責任でもあるでしょ」

男「そう、か?」

女「難しく考えすぎだよー」

男「そう、かな?」

女「そうそう」

男「それでもさ」

女「もう。いいからさ、わたしの好きにさせてよ」

男「お、おう」


男「……」モグモグ

女「今更だけどいい景色だねー」

男「だなあ」

女「好きだよ、わたし」

男「んぐ!?」

女「こうして綺麗な景色見ながら食事するのって」

男「あ……ああ、そういう意味な」

女「カラスくんと一緒だとなお楽しい」

男「そ、そうか?」

女「えへへ」

男「……っ」


男「そ、そういえば!」

女「ん?」

男「大学祭が明後日だよな」

女「そういえばそうだねえ」

男「物研からはなんか出すのか?」

女「旧館の三階使って研究発表展示会やるよー」

男「ふうん」

女「ん、なになに? もしかして参加する?」

男「いや?」

女「もったいないなあ、せっかくこうやって研究してるんだから成果発表してみなよ。部長にはわたしから言っとくからさ」

男「……やめとく」


女「……なんで?」

男「いや、その。分かるだろ?」

女「分かんないよ」

男「……俺、嫌われてるからさ」

女「嫌われてはないと思うよ。変人扱いはされてると思うけど」

男「なんか妙な形でサークルも抜けちまったし、今更顔出しにくいっていうか」

女「無理に顔は出さなくていいよ。研究成果だけ展示するってのもできるし」

男「……」

女「あ、大丈夫、大学祭終わったらちゃんと返すからさ」

男「そういうことじゃなくて。その」

女「ん? なに?」

男「お前はさ、なんで俺にそんなよくしてくれるわけ?」

女「……」


女「……ふふ。なんでだと思う?」

男「物珍しさとか罰ゲームとか」

女「ひど。わたしそんな奴に見えた?」

男「そ、そうじゃないんだ……ただ」

女「うん」

男「なんていうか、考えてることがあり得なさ過ぎて、口にしずらい」

女「なになに? 言ってみなよ」

男「いや、本当にあり得ないことだから」

女「それってさ、もしかして、わたしがあなたのことを」

男「っ!」

女「……みたいな?」

男「う……そ、その……。はは……馬鹿みたいだよな。俺みたいなのがさ」


女「それはどうかなあ?」

男「え?」

女「ふふー。どう思う?」

男「え……え?」

女「あのさ!」

男「お、おう」

女「大学祭、一緒に回らない? 二人で」

男「は?」

女「一緒に大学祭をすごそってことだけど。ダメ?」

男「あ……え、ええと」

女「強制はしないけどさー」

男「……」

     ・
     ・
     ・


男「まあそういうわけで」

ペー子「大学祭を、一緒に、回る……?」

女「そうなの」

男「もしよかったらお前も——」

ペー子「行きませんッ!」

男「うお!?」

ペー子「お二人だけでお楽しみください!」プイ!

女「ごめんねペー子ちゃん」

ペー子「ふんっ!」

男(『ごめんね』?)

女「じゃあわたし、明日は忙しいから学祭当日ね」

男「おう、じゃあな」


ペー子「……」ツーン

男「お前は何を怒ってるんだ?」

ペー子「べっつにー。怒ってなんかいませーん」

男「いや怒ってるだろ」

ペー子「怒ってないですよ。わたしを怒らせたら大したもんですよ」

男「まあよくわかんねえけど。俺はもう帰るからな」

ペー子「え? もうですか?」

男「ああ、研究成果を展示することになったからな、準備しとかないと」

ペー子「ふうん」

男「お前はどうする?」

ペー子「後から帰りますっ!」

男「……わかんねえ奴」

逆算してあと四回ほどの投下

細かいけど恥ずかしすぎるレベルの誤字なので訂正

>>182
男「なんていうか、考えてることがあり得なさ過ぎて、口にしずらい」

男「〜〜〜、口にしづらい」


大学祭当日

女「カラスくんおそーい!」

男「悪い!」

女「もう。すっぽかされたかと思ったじゃん」

男「うん、ごめん」

女「罰としてなんか奢ってよ」

男「アイス売ってるみたいだしそれでいいか?」

女「おっけーおっけーそれで上等!」


ペー子「……」コソ

ペー子「なにやら楽しそうですねえ」

ペー子「あの鳥にしか興味のなかったおバカさんが妙にうれしそうにして」

ペー子「なんか気に入りません」

ペー子「ていうか、この胸のちくちくはなんでしょう」

ペー子「むー……」

ペー子「あ、移動始めました。わたしも動かないと」

ペー子「……この惨めさはどうにかなりませんかねえ」


女「そういえば、カラスくんの研究レポート部長に渡しといたよ」

男「大丈夫だったか?」

女「問題なし。驚いてたよ。すごい完成度だって」

男「そうか?」

女「わたしもちらっと見たけど、あそこまで詳しく調査ってできるものなんだね」

男「ま、まあ好きも長じればそれなりにはなるんだよ」

女「でもすごいよ。今度調査のやり方とかレクチャーしてくれない?」

男「ああ了解」

女「あ! あっちでなんかやってるよ! 行ってみよ!」

男「お、おう」


 ——ギュッ!


ペー子「あーッ!」

ペー子「い、いま……! いまいま、手、繋ぎましたよ!」

ペー子「わ、わたしだって繋いだことないのに」

ペー子「ひ……」

ペー子「ひどいいいいぃぃっ!」

ペー子「羨ましいいいいぃぃっ! わたしも繋ぎたいいいぃぃっ!」

ペー子「……はっ」

ペー子「べ、別に羨ましいなんて言ってませんから! 今のは気のせいです!」

ペー子「だ、だから変な勘違いしないでよね! 絶対だからね!」


  「なんか変なのがいるな」

  「警備係に通報したほうがいいかな?」


……

女「——はー、面白かったね演劇部の演目」

男「確かによかったけど、ちょっとジャンルがな」

女「恋愛物、嫌い?」

男「なんかこっぱずかしくないか?」

女「純愛ステキじゃない」

男「そこは否定しないけども」

女「……。ねえ、カラスくん」

男「ん?」

女「ちょっと来てほしいところがあるんだけど」

男「あ? ああ」


ペー子「——はー、ようやく警備係の人から解放されました」

ペー子「まったく、人を何だとおもってるんでしょうね」

ペー子「勝手にわたしを不審者扱いだなんて」

ペー子「——っと? なんか二人がキャンパスを離れて行きます」

ペー子「あれは……湖の方向でしょうか」


 ——ビュオオォォゥ……!


『風が強くなってきました。事故や怪我にご注意ください。特に火を扱う団体はくれぐれも——』

また後ほど


女「さすがにここまで来ると人がいないね」

男「そうだな。このまま湖の方に行くのか?」

女「うーん。ここでいいかな」

男「?」

女「二人きりになりたかっただけからね」

男「え?」

女「……」

男「……え?」


女「……」スウゥ……ハァ

女「……うん、よし」

男「な、なんだよ?」

女「わたしも緊張するときくらいあるよ」

男「緊張?」

女「想いを伝えるときって、緊張しない?」

男「想い……?」

女「うん、そう。想い」

男「それって」

女「多分カラスくんが……うん、あなたが思ってる通りだよ」

男「……」

女「わたし、あなたのことが好きです。付き合ってください」ペコリ


男「……」

女「ダメ、かな?」

男「いや……その」

女「わたしじゃ……不満?」

男「そんなこと! ……俺にはもったいないくらいだ」

女「じゃ、じゃあ」

男「もったいないんだよ」

女「え?」

男「お前は、俺なんかじゃ釣り合わない」

女「……なんで?」

男「俺は最低な奴だから」


女「なんで、そんなこと言うの?」

男「事実嫌な奴だろ、俺」

女「そんなことないよ!」

男「……」

女「何か理由があるの? 教えて。わたし、頑張るから」

男「お前がどうとかいうことじゃないんだ」

女「じゃあなんで……!?」

男「……」

女「……言えないってこと?」

男「……」

女「そう……そっか。わたしには言えないことなんだ」


女「……悔しいな」

男「……なあ」

女「ごめんね!」

男「え?」

女「無理言っちゃった。カラスくんにもいろいろ事情があるんだよね」

男「いや、その」

女「だからごめん! 今日のことは忘れて」

男「……」

女「じゃあ……わたし行くね」


 ……タタタ!


男「……」

男「……やっぱ、最低だな、俺」


 ガサッ!


ペー子「……」

男「ペー子?」

ペー子「……」ツカツカツカ!

男「なんだよお前まさか覗いて——」


 パァンッ!


ペー子「この、超絶特大あんぽんたん!」

男「な……? てめ、いきなり何しやが——!」

ペー子「馬鹿を殴って何が悪いって言うんですか!」

男「んだと便所女!」

ペー子「クソ野郎はどっちですかッ!?」

男「っ!」

ペー子「過去になにがあったか知りませんけどね、だからって人を巻き込んでいいはずないでしょう!」

男「巻き込んでなんて……」

ペー子「いいえ巻き込んでます! 自分の古傷の痛みに酔って今、この場で、確かに一人の女の子を傷つけました!」

男「そ、そんなこと」

ペー子「ないなんて言わせませんよ!? あの人泣いてたじゃないですか!」

男「……え?」

ペー子「気づいてなかったんですか? あの人が泣くはずないなんて甘えてたんですか!?」

男「そ、そん……」

ペー子「言い訳なんて聞きたくありません!!」


男「…………俺の何が分かるっていうんだよ」

ペー子「言わないものは分かるはずないじゃないですか。あの人に少しでも説明しましたか?」

男「偉そうにするなよ! 俺にも俺の事情があるんだ! それなのに無理して付き合えってのか!?」

ペー子「なんでッ! なんでその事情を打ち明けなかったんですッ!」

男「それは……」

ペー子「結局怖くて逃げただけじゃないですか。本気で想いに応えるつもりなら、打ち明けて一緒に乗り越えなさい!」

男「ぐ……」

ペー子「行きますよ」

男「……え?」

ペー子「追いかけるんですよ!」

男「で、でも」

ペー子「つべこべ言わず追いかけるんです! ……好きな人を二度も殴らせないでください」

男「え?」

ペー子「さあ、早く!」

男「……お、おう」

また後ほど


……

 ビュオォォッ! ミシ、ガタン!


「ヤバい! 風が強すぎる! 崩れるぞ!」


 ガラ ガラガラ……! ——ボッ!


……

 ザワザワ ザワザワ……


男「あ……」

ペー子「え……」


 ゴオオオォォォォォ!


  「旧館が火事だ!」

  「誰か消防に連絡したか!?」


男「な、何が起きたんだ?」

ペー子「さあ……」

茶髪「二人とも!」


ペー子「茶色さん!」

男「一体何が起きたんだ!?」

茶髪「旧館の前でやってた焼鳥屋が強風で倒れて、使ってた火が燃え上がったんだ!」

男「それで火事が!? 怪我人はいないのか!?」

茶髪「それが、あの子が……」


燃え落ちる旧館


 ゴオオォォ……!


女「ゴホっ……ゴホっ!」


ペー子「は!? なんであの人が!?」

茶髪「あの子、なんでか中に入ろうとして……止めたんだけど振り切られて」

男「何やってんだよ!」

茶髪「すまない……」

男「すまないじゃねえよ!」

ペー子「鳥バカさんっ! 茶色さんを責めても何もなりません!」

男「くっ……」

男「! まさか……俺の、せい?」

茶髪「ぼくは応援を呼んでくる! 消火器をありったけ集めてくるよ!」


 タタタッ!


男「くそ、どうすればいい!?」

ペー子「ええと、ええと……」キョロキョロ

男「俺もどっかから消火器を……」

ペー子「! 待ってください!」

男「なんだよ!?」

ペー子「ありました! 手がありましたよ!」

男「本当か!?」

ペー子「でも……」

男「なんだよ! 急がねえと!」

ペー子「……っ!」キッ

男「な、なんだよ?」

ペー子「鳥バカさんに問います。命を賭ける覚悟はありますか?」

男「……は?」

ペー子「今度こそ人を助けてみせるという気概は、ありますか!?」

男「……」


『大っきらいだ、自分なんて……!』


男「……」


男「……無論だ!」

ペー子「その意気やよし!」

男(今度こそ、助ける!)

ペー子「じゃあこっちです! 来てください!」


男「……水道の蛇口?」

ペー子「いきますよ……!」


 ビュッ! シュルシュルシュルシュル……


男「うお!?」


 ——ギシ!


ペー子「見ての通りあなたの身体をトイレットペーパーで保護しました」

男「まさかこれで突入するってのか!?」

ペー子「はい。わたしの全力で生成した紙、そして繋がってる部分を通してこの蛇口から水を供給してあなたを火から守ります」

男「……」

ペー子「だから聞いたんです。命を賭ける覚悟はあるかと」

男「……上等だ!」

ペー子「ではいってらっしゃい!」

男「おう!」ダッ!


男「うおおおおおおッ!」


 ガシャーンッ!


  「な、なんだ!?」

  「ミイラ男みたいのが飛びこんで行ったぞ!?」


 ゴオオオオォォォッ!


男「くっ、火勢が強い!」

  (鳥バカさん!)

男「ペー子!?」

  (繋がった部分を通して声を届けてます。こっちは大丈夫ですから早く彼女を!)

男「つっても、一体どこに……」

  (彼女が行きそうな場所に心当たりは!?)

男「……物研の展示会場。三階だ!」


男「うらァ!」ガシャン!

女「ぅ……」

男「いた!」

男「よし……!」ガシ

  (早く脱出を!)

男「分かってる!」ダッ


  ガラガラガラ……!


男「!」


男「まずい、退路が!」

男「……ペー子? ペー子!?」

  (……ハァ、ハァ)

男「大丈夫か!?」

  (だいじょうぶ、です……)

男「退路が断たれた。どうする?」

  (どこか、外に、出られる所は?)

男「……窓しかない。逃げられない」

  (……ふふふ)

男「どうした!?」

  (鳥バカさん。わたしがなんだか覚えてます?)

男「便所女……?」

  (ふふ、違いますよ。天女です。正真正銘の天女です!)


男「???」

  (鳥バカさん。飛んでください。いえ、飛びましょう)

男「は!?」

  (飛びましょうっていったんです……ッ!)

男「ば……無理だろ!」

  (無理じゃありません! わたしだってたまには役に立ちます!)

男「く……」

  (わたしにだって、最後くらい……好きな人ぐらいは守れます!)

男「え……?」

  (飛んでください! 鳥バカさんッ!)


 ゴッ! ズオオオオオッ!

男(く! 火が!)

男「ちくしょう!」

男「豪語したんだから——」ダッ!



男「しっかり役に立てよエセ天女————ッ!」ガシャアアァァン!



 ビュオオオオオォォォッ!


男「うおおおおおおおッ!?」

男(駄目か!? ぶつかる——)


 ……ブワッ


男(!?)



 ————フワっ


  「あ」


     ・
     ・
     ・

次でラストです


女「——」

女「……う」

茶髪「! 目を覚ましたよ!」

女「あれ……ここは?」

男「病院だ」

女「……ああそっか。わたし、火事で……」

茶髪「大丈夫? 痛いとか苦しいとかない?」

女「大丈夫、みたいです」

茶髪「よかった……」


男「……なんであんな無茶したんだよ」

女「……」

男「俺の、せいか?」

女「違うよ」

男「じゃあなんで」

女「……レポート」

男「え?」

女「カラスくんの研究レポートを守らなくちゃって。そう思ったら身体が勝手に動いたの」

男「そんなことで……」

女「そんなこと、じゃないよ。すっごくよくできてたもん、あのレポート」

男「でもよ……!」

女「それに! ……嬉しかったの。カラスくんがわたしを信じてそのレポートを託してくれたのが」

男「……」


男「……そっか。はは、そうだな」

茶髪「……?」

男「俺は、物研にレポートを託した訳じゃない。お前に託したんだもんな」

女「……そうだよ」

男「ありがとな」

女「うん……!」


女「……あ。そういえばペー子ちゃんは?」

男「……」

女「それにわたし、なんで助かってるの?」

茶髪「こいつが助けてくれたんだよ」

男「……」

女「カラスくんが?」

男「俺だけじゃない。ペー子もだ」

女「……なんか覚えてる。すっごく優しい風に包まれたような感じがして」

男「……」

女「そう。ペー子ちゃんの声が聞こえたんだ。あとはよろしく、って」

男「……っ」

女「……どういうこと? なにがあったの?」

男「っ……っ……」

茶髪「僕も知りたいな。話してくれないかい?」

男「……ああ、いいさ。二人には、話しておこうと、そう思ってたんだ……」


     ・
     ・
     ・

女「……」

茶髪「……」

男「……以上が、ペー子と俺の全てだ」

女「ペー子ちゃんが付喪神……」

茶髪「彼女の力でなんとかなったと、そういうわけかい」

男「信じられないのも無理はないと思う……」

女「わたしは信じるよ」

茶髪「そうなると僕も信じない訳にはいかないな」

男「ありがとう……」

女「それで? 今ペー子ちゃんは?」

男「これが、蛇口のそばに落ちてた」


茶髪「トイレットペーパーの」

女「芯?」

男「あいつ、言ってた。最後だって。俺たちを守るんだって」

女「そんな。じゃあ……」

男「ああ。力を使い果たしたんだと思う……」

茶髪「なんとかならないのかい?」

男「分からない……でも、あいつは最後だって言ったんだ……!」

女「……」

茶髪「……」


男「……」

男「まあ、そういうわけだ。お前を直接助けたのは俺だけど、ペー子の力なしには無理だった」

女「うん」

男「あいつに感謝してくれよ。天に還ったあいつにさ」

女「うん……!」グス

男「俺は行くよ」

茶髪「え、どこに?」

男「こいつの、墓を作らなくちゃ」

茶髪「……そうか。どこにつくるんだい?」

男「俺が一番好きな場所。そこにする」

茶髪「分かった。……彼女も喜ぶと思うよ」


湖 丘

男「……」ザクザク

男「……」ジャッ!

男「……こんなもんか」

男「小さい、穴だな……」

男「それでも心を込めて掘ったんだ。ゆっくり眠れよ」

男「……」

男「夕焼けが目にしみるな」

男「目が痛い。痛いよ……」


アパート

男「ただいま」

インコ「チュルン!」

男「ああ、ピーちゃん……」

インコ「チュル?」キョロキョロ

男「どうした?」

インコ「プキュー……」ウロウロ

男「……。ああ、そうか」

男「もう、いないんだ、ピーちゃん。ペー子は、いないんだ」

インコ「キューィ……?」

男「もう、いないんだ……!」


ある存在の大きさは、その喪失によってしか測れない。

そんなことを言ったのは誰だったろうか。

分からない。調べる気にもならない。

ただただ、その言葉の苦みだけを、強く強く噛みしめた。

ただただ、とめどない涙をあふれさせた。

もう取り戻せない日々を思いながら。

時の流れが、優しく涙をぬぐってくれる日を待ち望みながら。


終わり?


男「グス……」


 ガチャ!


男「?」

「ただいまー」

男「!?」


男「ペー子!?」

ペー子「あ、どもです。ただいまです」

男「え……え……?」

ペー子「まったく誰ですかね、わたしを土の中に埋めやがったのは。おかげで泥まみれです」

男「いや、え? どうして、お前……」

ペー子「あ、なんだか力が戻ったみたいです。いつもより時間かかりましたけど」

男「で、でもお前、最後って」

ペー子「なんかこう、ノリに流されること、誰でもあると思うんです」

男「こ、こんのッ!」

ペー子「ひ、ひえ!」

男「馬鹿野郎……」ギュッ

ペー子「あっ……」

男「馬鹿野郎……!」

ペー子「……えへへ」ギュッ


動物生態研究サークル 仮部屋

茶髪「というと、あれかい? あれだけ悲壮な雰囲気を出しておいて、全部勘違いだったと」

ペー子「ええ、まあ。そういうことです」

男「このお騒がせ馬鹿が」

女「でもよかったじゃない。終わりよければ」

ペー子「全てよし、です!」

男「もう付き合いきれねえ」


男「はー。でもよかった」ボソ

ペー子「ですよねー」ニヤニヤ

男「うお!?」

ペー子「ぎゅってしてくれましたもんね。ぎゅって!」

女「え? なにそれカラスくん」

男「あ、いやそれはその、雰囲気というか……あれだよあれ!」

女「あれ、じゃわかんないよ!」

ペー子「わたしは分かりますよ! だって相思相愛ですもんねー」

女「聞き捨てならないよそれは!」

男「え、ちょっと、おい」

女「いつものところで決着つけよう」グイ

男「うお!?」

ペー子「あーずるい! わたしも腕組みしますぅ!」グイ!

男「もう……勝手にしやがれ!」


 ……バタン


茶髪「まったく、かしましいね」

茶髪「羨ましいようなそうでもないような」

茶髪「でも間違いないのは」

茶髪「すっごく眩しいなってことかな。ね、ピーちゃん」

インコ「チュルン!」


今度こそ、終わり

やっぱり自分にはギャグレベルが足りないことを痛感しました
それでも付き合ってくれた人に感謝です。それでは

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