田中琴葉「私、お味噌汁なんだって」佐久間まゆ「えっ」 (112)

===

 一体、何を言ってるんだろう? 深刻そうな表情の、彼女の口から飛び出した言葉。

「だから、お味噌汁。ほら、朝ご飯のイメージの」

 訴えるような二度目の説明を受けたところで……まゆには、全くもって理解できません。
 でも、何もリアクションを取らないワケにもいかないので。

「え、ええと……お味噌汁自体は、分かります」

「うん、だよね? そうだよね!」

「ですが、琴葉さんはお味噌汁……こっちは、理解できません」

 すると私の前に座っていた琴葉さんは「そうよね、そう……」と何やら悲しそうに眉を寄せ。
 その様子を見ていると、何だかまゆの方こそ申し訳ない気持ちになって来ます。


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「ご、ごめんなさい! 何の説明も無しにこんなこと言って……ワケが分からなくて、当然だよね」

「あ、はい……良ければ、最初から。一体何があってそうなったのか、話してもらえると助かります」

 私が彼女にお願いすると、琴葉さんは決まり悪そうにはにかんでから、
 どうして自分がお味噌汁になってしまったのか、その説明を始めてくれました。

「あのね、ついこの間のことなんだけど。エレナのことは……知ってるかな?」

「エレナちゃんですか? はい、知ってますよ」

 エレナちゃん。フルネームは島原エレナ。
 事務所が一つになってからは、主に卯月ちゃんと一緒にコンビを組んで活動している女の子。

 名前から分かると思いますが、彼女はいわゆるハーフの子で、
 六歳で日本へやって来るまでは、ブラジルに住んでいたらしいです。

 その性格は明るく朗らかで情熱的。
 いつも人を元気づけるような笑顔を浮かべ、誰とでも友達になれるような……そんな素敵な女の子。

(だから、プロデューサーさんは同じように笑顔が魅力の卯月ちゃんと
 コンビを組ませたのだと私は勝手に思っています。……余談ですけど)


「そのエレナなんだけど、この前私と一緒に居る時、たまたま通りかかったプロデューサーに質問したの。
『ねぇねぇプロデューサー。ワタシのこと、何かに例えるなら何になるかナ?』って」

「はぁ」

「ちなみにどうしてそんな事を質問したのかって言うと、エレナが出てた番組で、
 司会の人に同じことを聞かれたからで……『エレナちゃんは、自分を何に例えますか』って感じでね」

「それで、エレナちゃんは何て答えたんですか?」

 私が訊くと、琴葉さんは少し困った……と、いうよりは呆れたようにこめかみに手をやり。

「……サンバ」

 ため息と共に吐き出された答えに、私は思わず「あ、やっぱり」と納得してしまったのでした。


「エレナちゃん、大好きですからね。サンバ……というよりは皆と一緒に踊ったり、はしゃいだりするの」

「それ自体は、スッゴク良い事だって思うけど。もう少しこう、可愛らしい物に例えた方が良かったんじゃないってね。
 その時も私が、彼女にアドバイスした直後だったの」

「それで、通りすがりのプロデューサーさんにも質問を」

 琴葉さんが、こくりと小さく頷きます。

「プロデューサーは、少し考えてからこう言ったわ。『エレナは、オレにとっての太陽だよ』」

「太陽、ですか」

「そう、太陽」

 ……正直、例えとしてはありきたりな物に感じますが。
 エレナちゃんの場合は逆に、それ以外のしっくりくる例えが無いようにも思えました。

 ああ、でも、もう一つ候補をあげるとすれば……。


「あの、向日葵とは言われなかったんですね」

 私が言うと、琴葉さんは照れ臭そうに微笑んで。

「実は私も、それ思ったの。でもプロデューサーは『向日葵なら薫だな』って」

「ああ……言われてみれば」

 琴葉さんが言うのはエレナちゃん同様に元気一杯の女の子、龍崎薫ちゃんのことですね。

 確かに彼女は、太陽ほどに熱く(ここで言う熱さは、情熱的という意味です)は無いし……
 爽やかな明るさとでも言うべきか、向日葵という表現が似合います。

 そんな事を私が考えていると、琴葉さんは少しだけ、声のトーンを低くして。

「でね、ここからが本題なんだけど」

「はい」

「私も、その……気になっちゃって」

「気になる、ですか?」

「え、ええ。あの、その……プロデューサーから見た私は、何になるのかなってこと」


 どことなく恥ずかしそうな彼女の言葉は、もにょもにょと小声になっていく。
 それと同時に、その発言を聞いていた私の目からは、光が抜け落ちていたことでしょう。

 ……日頃から気をつけなくちゃと注意していても、そうそう直せるものではありません。特に、ライバルが多い最近は。

 こっそりと心の内で確認するのも「プロデューサーさんから見て」という聞き逃せなかったワンフレーズ。

「だから、エレナの後から聞いてみたの。『私は、アナタの何になりますか』って」

「……それでプロデューサーさんは、何て答えたんですかぁ?」

 私の質問に、琴葉さんは顔を曇らせました。

 話の流れから察するに、答えは既に分かってましたが……
 それでも確認しないと気が済まないまゆは、とっても意地の悪い子です。

 しばらく顔を伏せた後で、彼女はあの人の真意を確かめ直しでもするように、
 一言一言、ゆっくりとした口調で応えました。

「……それが、さっき話した台詞。『琴葉は、オレにとって味噌汁だ』なの」

===

 味噌汁、お味噌汁、味噌スープ……ダメ! 言い方を変えたところで全然意味が分からない! 
 あの日、プロデューサーから告げられた言葉。

『琴葉は、オレにとって味噌汁だ』

 その時は余りに突拍子もない例えだったから、思わず固まってしまって、理由を聞くことすらできなかったけど。
 それからというもの、私の頭には常にこの出来事が引っかかっていて。

 仕事も勉強も手につかないって言うか、そもそもどうして味噌汁なのか、
 その意味は? 理由は? 隠されたメッセージは一体なに!?


 ……うぅ、一時は自分の身体が味噌臭かったりするのかと、不安で気が気じゃなかったけど
(この懸念に関しては、可憐さんと志希から『そんなこと無い』とお墨付きを貰えたことで、ようやく払拭することができた)

 結局、事の真相は闇の中。

 あれからプロデューサーと話す時間も取れないし、会ったところで、面と向かって聞きなおす勇気だって無いし。

 そんな状態でユニットミーティングが始まるのを待っていた私は、どうやら暗い顔をしてたらしく、
 メンバーのまゆちゃんにも「どうしたんですか?」なんて心配をかけちゃうんだもの。

 ……私の方が年上なのに、これじゃ恰好もつかないな。


 でも「悩み事なら、言ってください」と再三尋ねられちゃったら、
 今度は「何でもないよ」なんて意固地になる方がかえって不安にさせちゃうし。

 とうとう私はまゆちゃんに、悩みの種を打ち明けた。

「プロデューサーに言われたんだけど……私、お味噌汁なんだって」

 すると、ポカンとした顔になるまゆちゃん。まぁ、当然と言えば当然よね。

 それから、どうしてそんなことになったのか説明して……全ての顛末を話し終えると、まゆちゃんはどことなく冷めた表情

 ――普段はほわほわとしているまゆちゃんだから、こう感じてしまったのは私の考え過ぎだろう。
 恐らくは、こんな下らない話をしてしまった、自分を自分で情けないと言うか、見下すと言うか、
 だから何もかも自虐的に見えたり感じたり……あぁ、いけない! とにかく、これについては後でじっくり考えよう――

 でこう言った。


「それは、妙なお話ですねぇ」

 左手首に巻いたリボンをそっと撫でながら、まゆちゃんが小さく首を傾げる。

「私が琴葉さんを例えるなら、もっとしっくりとくる例えを出しますよぉ。委員長や優等生、生徒会長なんかも良いですねぇ」

 まゆちゃんの言葉に、つい、無言で頷いてしまう私。
『委員長みたい』も『優等生っぽい』も、確かに私は良く言われる。実際の私は、全然そんな立派じゃないのに……。

「なのに、プロデューサーさんはお味噌汁……?」

「一応言っておくと、私からお味噌の匂いがするとか、そういうことは無かったから!」


 瞬間、まゆちゃんはリボンを弄る手も止めて、キョトンとした顔になると私の顔をまじまじと見た。
 それは驚きと困惑が入り混じった表情。しばらくお互いに見つめ合い、困ったようにまゆちゃんが言う。

「え、ええ、はい。それは……知ってます」

「う、うん」

「むしろその……琴葉さんは、いつも良い匂いですよぉ」

「あ、ありがとう」

 気まずい沈黙、見つめ合う二人。互いに次の一歩が踏み出せないような膠着状態。
 会話を途切れさせてしまったのは、もちろん私のせいであり……ああ、困った。

 でもその時、一人の人物が声を上げ、私たちの沈黙を打ち破ったの。

「も~……琴葉もまゆも、さっきから味噌味噌うるさいの!」

 ミーティングルームのソファーの上。横になっていたその少女はコロリと私たちの方へ寝返りをうつと。

「ミキ、折角お昼寝してたのに~。味噌味噌言うから、味噌おにぎり食べたくなっちゃった」

 眠そうに目を擦りながら、十五歳とは思えない発育の体をむくりと起こす。
 メンバーの中では最年少、星井美希ちゃんが目を覚ましたところだった。

とりあえずここまで。
鬱要素やホラー、バイオレンスにスプラッタな展開は無い、女の子が恋バナできゃっきゃっするだけのお話です。

===

 パカッと空いた炊飯器には、炊き立てのきらつやとしたお米が一杯。

 それをしゃもじでエイッてすくうと、スーツの上からエプロンをした、
 ハニー(プロデューサーの事なの!)がおにぎりをせっせと作り出す。

「美希、すぐにできるからな。今日はいくらでも食べていいぞ」

 とびきりの笑顔と優しい声でそう言うと、ハニーはミキの前に置かれたお皿へ、形の良いおにぎりをポンポンポンと並べてく。
 それは海苔が巻いてあったり鮭が入ってたり、昆布だったりおかかだったり!

「ねぇハニー、この変なのは?」

「それは、でんでんむす君だな。天むすの親戚だ」

「ふーん……よく分かんないけど。とにかくありがとうプロデューサー! ミキね、ハニーのことだーい好きだよっ!」


「はっはっは! オレも美希のこと大好きだぞ!」

「ならミキは、その二倍はハニーのこと大好きなの!」

「なんだと? だったらオレは三倍だ!」

「四倍!」

「五倍!」

 なんて、そんな楽しい時間もあっという間。

 しばらくするとお皿には沢山のおにぎりが山と積まれ、
 ミキはワクワクしながら「いただきます、なの!」とおにぎりを食べるために手を伸ばした。

「ストップ、美希」

 でも、ハニーがミキの伸ばした手を掴んで止める。まるで恋人繋ぎみたいに絡み合う手と手。
 ハニーの手に付きっぱなしだったお米の粒が、まるでのりみたいに二人の手の平をくっつけて……イヤン!

「ハ、ハニー! 急にどうしたの?」

「悪いが、まだ食べさすわけにはいかないな。なんてったって、大事な仕上げが残ってる」

「大事な仕上げ? それってなぁに?」


 ミキが不思議に思ってそう訊くと、ハニーは空いてるもう片方の手を、ミキに見えるようテーブルの下から移動させた。
 すると姿を現したその手には、ピカピカと光る銀色のお玉が握られていて……。

「米には、やっぱり味噌だよな!」

 次の瞬間、ひっくり返されたお玉から、おにぎりの山目がけてドボドボと流れ落ちて来る味噌色の液体。
 その中にはネギにワカメにお豆腐に、あっ! 剥いたアサリも入ってる♪ ……なんて呑気にしてる場合じゃないのっ!

「ハ、ハハハハハハハハニー!? 何するの!? 何してるのっ!?」

「しばれるねぇ、冬は寒いから、味噌汁がうまいんだよねぇ」


 急いで止めようとしたけれど、ハニーはワケの分からないことを呟きながら、
 何もない場所を虚ろな視線でぼおっと見上げ、おにぎりの山に味噌汁を注ぎ続けてた。

 ハッキリ言って異常だよ。

 急いで止めようとしたけれど、ミキの片手はハニーの手とくっついたまま離れないし、
 もう一方の手でおにぎりの乗ったお皿をずらしても、味噌汁お玉は追いかけて来る。

 引けばお皿はテーブルから落ちちゃうし、押せばハニーの前に行っちゃうし……
 も~! ミキには、どうしたらいいか分かんないよっ!

「ハニーっ!? ハニーってば!」

「金髪? 金髪だけはいいんじゃないか――」

 必死で声をかけてみても、ハニーは正気を取り戻さない。

 そうこうしてる間にも、ドンドンと味噌汁に侵食されて、グズグズに形を崩して行っちゃうおにぎりたち……
 ああ、ひたひたのお味噌汁のプールで、でんでんむす君が泳ぎ出す。

 ミキ的には味噌おにぎりも嫌いじゃないけど、かけるなら、せめて固形の味噌にして――!!


「やああぁぁっ! ミキの、ミキのおにぎりがぁーっ!!」

 ハッと、夢から覚めるのは一瞬だ。もがいた両手が宙を探り、寝起きの耳に聞こえて来るのは、深刻そうな話し声。

「だから、お味噌汁。ほら、朝ご飯のイメージの」

「え、ええと……お味噌汁自体は、分かります」

「うん、だよね? そうだよね!」

「ですが、琴葉さんはお味噌汁……こっちは、理解できません」

 それはミキと同じユニットのメンバーの、琴葉とまゆが喋っている声だった。
 どうやらミキの幸せな夢を悪夢に変えた、その原因は二人らしい。

 文句の一つも言いたかったけど、二人の間にある真剣な空気を感じたミキは、口を挟むのを戸惑った。

 だってだって、こーゆー雰囲気知ってるもん。お悩み相談って言うか、スッゴク大切な話をしてる時の空気。
 横から気軽に声をかけるのを、遠慮した方が良い時ぐらい、ミキにだってちゃんと分かるもんね。


 ……だけど夢の中と言ったって、おにぎりは食べそこなっちゃうし、
 目覚め方も悪いしで気分もずーんと落ち込んでいたミキは、もう一度寝る気にもなれなくて、そのまま二人の話を聞いてたんだ。

 そうすると二人は、どーして琴葉が味噌汁なのかって話をした後、何だか妙な空気で固まっちゃって。
 その頃にはミキ、何だかお腹も空いてきちゃって……。

「も~……琴葉もまゆも、さっきから味噌味噌うるさいの!」

 助け舟を出すってワケじゃないけれど、このまま黙っててもしょうがないから、ミキは二人の会話に参加した。
 突然声をかけられて、ビックリした顔になる二人。琴葉が、恥ずかしそうに頬を隠す。

「み、美希ちゃん! いつから話を聞いてたの!?」

「それは、多分最初から。琴葉が味噌汁だとかなんだとか、そんな話に起こされちゃった」

 ミキがやれやれって感じでそう言うと、琴葉は「そんな初めから……」なんて言ってたけど。
 こーゆーものに最初とか最後とか、あんまり関係無いと思うな。


「ねぇねぇそれより二人とも。ミキね、お腹空いちゃった! ……早く調理室に行って、何か食べる物作ろーよ」

 ソファーにコロンと転がったまま、ミキは二人を見上げるようにして訴える。するとまゆが困ったように首を傾げ。

「そうは言っても、プロデューサーさんがまだですから」

「でも、今日のミーティングでやることは、事前に決まってたんだよね? 今から実習始めても、ハニーならきっと怒らないよ」

「だからって、勝手な行動はダメだよ美希ちゃん。
 プロデューサーがやって来た時、部屋に誰も居なかったら、何が起きたのかって驚いちゃうよ」

「むぅ~……でもでも、そんな事でいちいちハニーが驚くわけが……」


 ……無いって言い切れないトコは、プロデューサーの良い所であり悪いトコ。

 ミキだけに限ったことじゃないけれど、ちょっと咳き込んだり調子悪そうにしていたぐらいで、
 有無を言わせず病院に連れて行っちゃうような人だ。
(ちなみにこの心配性で過保護な性格は、担当に加蓮やほたるが加わってから一段と深刻な物になった)

 約束の時間、決められた場所にやって来て、アイドルが一人も居なかったりしたら……

 それこそ集団誘拐でもされたんじゃないかって思い込み、とんでもない騒動を引き起こすのはミキにだって簡単に想像できた。
 ついでに、その後で律子……さんに怒られている姿まで。

「だから、もう少しの間我慢して。……そうだ! お腹が空いてるって言うのなら、
 私の鞄にクッキーが入ってるからそれをあげる」

「ホント? 食べる食べる!」

 琴葉から貰ったクッキーは、味も焼き加減も絶妙な一品。
 それになにより黒糖が混ざったこの味は、前に何度か食べたことがある……きっと響のお手製なの!


 美味しいお菓子を渡されてミキが大人しくなったことを確認すると、
 琴葉たちは味噌汁の話を切り上げて、今度は今後のスケジュールについて話し出した。

 ……そうして時間が経つこと十数分。

 空いていた小腹も満たされて、再びいい感じの眠気がやって来た頃。
 コンコンとノックをする音がして、ゆっくりとミーティングルームの扉が開かれた。

 それはつまり、ようやくハニーが来たってことで。

「ハニー遅いの! ミキ、待ちくたびれたんだからね!」

 急いでソファーから飛び起きて、中に入って来た人影にピョンと飛びつく。

 こうしてミキに抱き着かれたハニーは、いつも「おいおい危ないぞ!」なんて言いながら、
 それでもミキを優しく抱き留めてくれて――。

「わわっ!?」

「きゃあ!?」

 だけどそんな予想と違い、今日のミキたちはそのまま床の上へ倒れ込んだ。

 相手に押し付けた頬っぺたが、まるで枕みたいに柔らかな感触に埋もれて。
 それと同時に、甘い花のような匂いにも包まれる。


「ちょ、ちょっと二人とも大丈夫!? 怪我とか、どこか傷めたりしてないよね!?」

 部屋の中に慌てた琴葉の声が響くと、弱々しいながらも可愛い声が「だ、大丈夫です……」とミキの下から聞こえて来た。

「急だったから、受け止めきれなくて……派手に倒れちゃいましたけど、わ、私はどこも怪我してないです……」

「ミキも、全然大丈夫だよ」

 起き上がりながらそう応え、ミキは下敷きにしちゃった女の子に向かって手を差し伸べた。

「智絵里、クッションにしてごめんなの。ミキ、プロデューサーが来たんだと思って」

 するとミキの手を取りながら、智絵里は「ううん」と首を振って微笑んだの。

「謝らなくちゃダメなのは、私の方だよ、美希ちゃん。……ごめんね? ちゃんと支えられなくて」

緒方智絵里
http://i.imgur.com/OITSsVN.jpg
http://i.imgur.com/DuNrN9u.jpg

とりあえずここまで。

===

 それまで、ただ漠然と胸に抱いてた気持ちより強く、本気で自分を変えたいと思った。
 きっかけは、お気に入りのラジオのコーナーから。

 パーソナリティの女の子は、私と同じように自分に自信が持てない子で、
 それでも彼女は、アイドルっていうお仕事を一生懸命に頑張っていて。

「私、気弱な自分を変えたくて。その為の度胸や勇気をつけるのに、アイドルはピッタリだなって思ったの」

 私の送った質問に答える彼女は、どことなく親近感を感じているようにも思えました。
 自惚れだと、笑ってもらっても構いませんが……それでも彼女の一言が、今の私を作ったことには変わりなく。

「だから、アナタもきっと大丈夫。私だって、一歩を踏み出せたんだから」

 それから約半年後。私は彼女を倣う形でアイドルを目指し、
 なんとか事務所に所属する、大勢の候補生の一人になったのでした。

 でも……。


「アイドル部門、潰れちゃうんですか!?」

 レッスン終わりの更衣室。候補生を中心に広がり出していた一つの噂。
 
 それは業績が伸び悩むアイドル部門を取り潰し、
 所属するタレントのうち何人かは、別の部署へ移動させようという話。

「まだ決定って話じゃないそうだけど、そんな動きがあるみたい」

「まー、しょうがないんじゃない? ウチの事務所って歴史はあるみたいだけど、
 アイドル部門は出来てからまだ何年も経ってないんでしょ?」

「候補生の数は多いけど、本格的にデビュー出来た人は少ないし……」

「大体所属人数に対してさ、プロデューサーが少なすぎ」

「それが次から次へと雇っても、余りの激務に続々と辞めていくらしいよ? 
 だからいつでも千川さんが、忙しそうに走り回ってるの」

「あの人もほんとタフだよねぇ~。いつ来ても事務所にいる気がする」

「まっ、十把一絡げな諸君は戦々恐々としていなよ。
 私はルックスに自信あるから、モデル部門に異動する手だってあるもんね」

「よく言う! その寸動体型で!」

「腹じゃなくて胸を見て、胸を!」


 それでも大半の人達は、余り事態を深刻に受け止めてはいないようでした。
 それは彼女たちにとってのアイドルが、私ほど、大きな意味を持ってはいなかったのか……

 どんな時にでも明るく振る舞いなさいというアイドルとしての心構えを、
 私と違ってキッチリと実践できていたからなのかもしれません。

 とにかく、オーディションに受かって僅か数ヶ月で持ち上がった大問題。

 見た目もちんちくりんで可愛くないし、歌もダンスも苦手だし、人前に出るのは緊張するし……と、
 ダメダメ三拍子が揃った私のような人間は、行動の早い人たちのように他所へ移籍するなんて手段も取れず。

 だからと言ってまた別の人たちのように見切りをつけて、折角入った事務所を辞めることだってできなくて。
 ただただ周りの成り行きに、流されるまま過ごしていたある日のこと。

「どうやら、他所の事務所と合併する動きがあるらしい」

 そんな話が出た頃には、あれだけ賑やかだったレッスン終わりの更衣室も人が減り、ガランと寂しい物になっていました。


「ほ、本当なの? その話」

「まだ、噂段階なんだけどね。なんでも相手側が持つノウハウがどーだとか、ウチの事務所の資本がなんだとか」

「未央ちゃん、その説明じゃ肝心なトコが分かんないよ……」

「それってつまりこーゆーことでしょ? よーするにウチのダメダメ経営陣は、
 ボロボロのアイドル部門を立て直すためにノウハウを金で買ったってワケだ」

「杏ちゃんは、言い方に棘があるにぃ」

「当然! 楽して儲けられると思ってたのに、
 デビューもできなきゃ給料だって入らないもん。これはね、立派な詐欺だよ詐欺!」

 だけど私はそんな偉い人たちの話より(そもそも、聞いたところで理解できたかも怪しいです)
 合併する相手事務所の方が気になって。

「そ、それで一体、どこの事務所と一緒になるの」

「ああそれは……多分、智絵里ちゃんも知ってるとこだよ」


 思えば、この時が私にとっての大きな転機。

「ステージの上の智恵理はさ、まるで妖精さんみたいだな」

 ドキッとして、嬉しくなって、それから変に、胸の奥の方がポワポワと暖かくなっていく。
 初めてのデビュー、初めてのライブ、そして初めて自分のことを認められ、かけられた言葉は言い表せない程に優しくて。

 気づけば私の……ううん、私を含めた多くの『元』候補生たちの担当は、
 例の合併先の事務所に所属していた、ベテランのプロデューサーさんが受け持つことになっていたのでした。

 アイドルとしての日々は新しいことが一杯で、楽しいことや嬉しいことも本当に多くて。
 そうしてお仕事も徐々に増えて行き、元々は別の事務所だったメンバーの子たちとも打ち解け始めたある日のこと。

「喜べ智絵里! 前々からの企画が通って、とうとうお前もユニットデビューだ!」

 突然のユニット活動開始報告。

 大きなプロデューサーさんの体に隠れるように後について、ミーティングルームまでやって来た私。

 初めての顔合わせ。プロデューサーさんが扉を開けて、
 集まっていたメンバーの顔触れを見た私は……思わず息を飲みました。

 だって、そこに集まっていた人達は事務所内でも有名な……。

===

 智絵里ちゃんが部屋にやって来た。それは、元々予定されていたこと。
 でも、プロデューサーさんがここにいない。これは、元々の予定に無かったこと。

「なるほど、プロデューサーは別のお仕事の送迎で、遅れてやって来るんだね」

「は、はい。何でも撮影が長引いちゃっているらしくて。とりあえず私を事務所に降ろして、そのまま現場に行っちゃいました」

 ユニットのまとめ役でもある琴葉さんに、現状の報告をする智絵里ちゃん。
 その横では、美希ちゃんが不機嫌そうに椅子に持たれてます。


「ちぇー、そんなのってないよ。ハニーがいてくれないんだったら、ミキ、なんだかやる気無くなっちゃうの」

 その気持ちは、まゆにだって痛いほどに分かります。
 だって、今日は久しぶりにあの人と会える日だったから。

 お洒落にだって気を遣って、い、いつも着ている服よりも少しだけ、胸元の空いた服を選んでみたの。
 ……正直なところ、肌を出すのに少しの抵抗はあったけど。

「ミキ、もう帰っちゃおうかなー。折角ハニーが喜びそうな、セーターだって着て来たのに」

 そう言ってポーズを取る美希ちゃんの豊満なバストは、セーターによってクッキリハッキリと強調されて。

 む、うぅ……こんな美希ちゃんという明確なライバルがいる以上、
 まゆも献身的なだけじゃない、女の色気も出していかなきゃ、戦えないとは思いませんか?

 ただでさえまゆは、そっち方面では後れを取っていましたから……
 あの日、プロデューサーさんに言われた言葉を、まゆは決して忘れてません。


「あっ、オレスゲー発見しちゃったよ」

「発見?」

「このユニットメンバーのプロフィール。まゆが一番胸無いな」

「ふぐぅっ!?」

 ……たった、たった二言三言のやり取りでしたが、書面に踊る『78』という無慈悲な数字。
 同い年で同身長の智絵里ちゃんでも『79』はあるっていうのに。

「たかが一センチ、されど一センチ。けれど、その一センチの価値は歌より重い」とは、
 尊敬する先輩がグラビア撮影中に言っていた、とっても重みのある台詞です。

>>36訂正
○「よく言う! その寸胴体型で!」
×「よく言う! その寸動体型で!」

とりあえずここまで。


 ……と、いけない。話が逸れてしまいました。

「それじゃあプロデューサーさんが戻ってくるまで、私たちはここで待機ですか?」

 乙女の悩みから思考を切り替え、私は智絵里ちゃんに尋ねることに。
 すると彼女は、小さく首を横に振り。

「あっ……いえ! 先に始めていても構わないと、言伝を預かって来ましたから」

「だったら、移動しましょうか。……ほら美希ちゃん。お待ちかねの実習だよ」

「う~……実習よりも撤収なの」

「もう、ダラってせずにシャキッとしなさい! おにぎり、食べたくないのかな?」

「う、ん……そっか、おにぎりがあるんだよね……」

 やる気の無い子を焚きつけるのに、好物を餌に釣る方法は単純だけど効果的。
 流石はまとめ役の琴葉さん、美希ちゃんを操縦する基本は心得てます。


「じゃあミキはここでお昼寝しながらハニーを待つから、
 おにぎりが出来たら琴葉がミキに、届けてくれると良いって思うな」

「え、えぇっ!?」

「あはっ☆ こんな解決方法を思いつくなんて、今日のミキは冴えてるの! 
 こーゆーの、損して得取れって言うんだよね」

 でも残念、本日は美希ちゃんの方が一枚上手。

「それじゃあ、よろしくなの~」と再びソファーに寝ころんで、
 手のひらをヒラヒラさせる美希ちゃんはまるでワガママ三昧なお姫様を彷彿とさせる姿でした。

「だ、ダメだよ美希ちゃん。勝手しちゃ……!」

「それにことわざの使い方も間違ってる! それを言うなら一石二鳥!」

 そうして彼女が転がるソファーの傍で、オロオロと慌て出す智絵里ちゃんと琴葉さんの姿は、
 気苦労の絶えない召使いといったところでしょうか。


 ……まゆとしてはこのまま美希ちゃんに、大人しく眠っていてもらっても全くもって構わないのですが。
(だってその方がキチンと言伝をこなしたまゆのこと、プロデューサーさんも褒めてくれるでしょう?)

 問題は、その目的がプロデューサーさんを待つ為だというただ一点。

 つまりはこのまま彼女を放置していると、遅れてやって来たあの人が念のためにと
 ミーティングルームを覗いた時にスヤスヤと眠っている美希ちゃんを見つけ、
 まゆの目の届かない場所で起こされた彼女が、プロデューサーさんにベタベタと甘える未来を容易に想像できるから……

 そんな抜け駆けにも思える行動を取られてしまうかもしれない危険性、
 黙って見過ごせるハズが無いじゃないですかぁ。

===

 ぞわり。

 そう表現するのがこれほど的確な感情も無い。
 突然背後から聞こえて来た、甘く、そして妙なねちっこさを纏った一言。

「うふ、美希ちゃんってば」

 一言……そう、たった一言だ。

 その可愛らしい一言が、まるでナイフのような切れ味をもってして、私を容赦なく背後から突き刺した。
 それもただ尖って鋭いナイフじゃない、刃先がギザギザした特別なヤツだ。

 途端に、並んで立っていた智絵里ちゃんが「あ、あうぅ……!」と小さく呻いて私の腕に抱き着いて来る。
 その細い両肩は震え、彼女は萎縮した様子で私にしがみつく手に増々力を込めて行く。


「ダメですよぉ、余り皆を困らせちゃ」

 そうしてまゆちゃんのゆったりとした口調に合わせるように、
 徐々に室内へ広がる圧迫感と言う名のプレッシャー。

「まゆたちはプロデューサーさんにお願いされたんです。
 自分がこの場に居なくても、ちゃんと予定通り行動するようにって……
 ほら、美希ちゃんもまゆたちと一緒に……調理室へ行きましょう?」

 その一種異様な空気を発生させているまゆちゃんの言葉遣いはまるで小さな子供に言い聞かせるように丁寧なのに、
 その言葉に込められた力は……例えるならそう、丁度朋花ちゃんがプロデューサーに詰問する時のように重く、
 有無を言わせぬ正体不明の迫力と気迫に満ちていた。

 その空気に当てられているだけの私たちでさえ、膝が震えてしまってるんだもの。
 このピリピリとした総毛立つようなプレッシャーを、真っ正面からぶつけられている美希ちゃんは……。


「うっ……まゆ、本気だね」

「本気だなんて……まゆはただ、お願いしてるだけですよぉ」

 ……驚き。私たちと違って涼しい顔で、まゆちゃんと真っ向から向かい合っている。

 それでも寝ころんでいた体を起こして居住まいを正しているところを見ると、
 一応はまゆちゃんの迫力を、感じ取ってはいるみたい。

「でもいいよ。ミキもそろそろ、まゆとはハッキリさせたかったから」

「あらそれは……一体何のことかしら?」

「それで隠してるつもりだった? とぼけた振りしても通じないよ。まゆも、プロデューサーのこと好きだってこと!」


 瞬間、私は余りの驚きに感じていたハズの重圧さえ忘れ「えぇっ!?」と大きな声をあげていた。

 まゆちゃんと美希ちゃんが二人同時にこちらへ振り向く。
 縋りついていた智絵里ちゃんが「こ、琴葉さん……!?」と信じられないと言った顔で言う。

「琴葉さん、何言ってるんですか? も、もしかして今まで知らなかった……き、気づいてさえいなかったんですかっ!?」

 智絵里ちゃんの大きな丸い目には、ありありと驚愕の色が浮かんでいて……
 なんてことだ。私はどうやら、大きな思い違いをしていたらしい。

「ま、まゆちゃんは怒ってたんじゃないの? その、美希ちゃんのやる気が無い態度について」

 すると私の問いを受けたまゆちゃんが、困ったような顔になり。

「まゆは……怒ってなんていませんよ。
 ただ少ぉしだけ美希ちゃんの行動は、目ざわ……迷惑……いえ、やっぱりまゆは怒ってます」


「くくくくくっ、まゆったらちゃんちゃらおかしーの! 今さら取り繕ったって遅いんだよーだ!」

 そうしてお腹を抱えるようにして、まるで挑発するように笑う美希ちゃんのことを、まゆちゃんは鋭い表情でキッと見据えて。

「やっぱり貴女、少し邪魔」

「ふーん、だったらミキをどうするの? その可愛いリボンでミキのこと、縛り上げちゃったりでもするのかな」


 ああ、ああ! 事ここに至ってようやく私にも見えて来た。
 二人の間にバチバチと、闘いの火花が散ってることに!

 だけど、それも仕方ないことだよね。だってまゆちゃんも美希ちゃんも二人とも、すこぶる健全な女の子だもの。

 普段から接している頼りがいのある男の人。
 それも年上の大人の人に、恋心を抱いてしまってもおかしくない。

 むしろ恋とはそんな簡単な、ちょっとしたきっかけから始まるってこと、
 私も恵美から聞かされて少しは知ってたハズなのに……。

 ああ、ダメ! ダメだよ私。

「琴葉なら大丈夫さ」とプロデューサーから任されたユニットメンバーが抱える軋轢に、
 今の今まで気がつくことすらできてなかった!

>>49訂正
○その可愛らしい一言が、まるでナイフのような切れ味をもってして、私を容赦なく背中から突き刺した。
×その可愛らしい一言が、まるでナイフのような切れ味をもってして、私を容赦なく背後から突き刺した。

とりあえずここまで。

===

 琴葉が倒れた。

 言葉にすればたったそれだけのことだけど、実際はミキたちが見ている中で突然に、
 唐突に、彼女の体は冷たい床の上へと転がった。

「こ、琴葉さん!?」

 そしてすぐに、智絵里の慌てふためいた悲鳴が響き、倒れた琴葉は苦しそうな表情を浮かべて、
 小さくうわ言を繰り返してた「分からない、分からないよ」って。

 もちろん、ミキたちだって大慌てだよ。

 まゆなんてさっきまでの威勢は何処へやら、真っ青な顔で「どうしよう、どうしよう」ってオロオロしてるし、
 智絵里は琴葉の傍でボロボロ泣き出す始末だし。

 ピリピリしていた部屋の空気は一転、どうしたらいいのかって不安が皆の心を包み込む。


「琴葉さん、琴葉さん!」

「い、今すぐにでも医務室に……そうです、それがいいですよ!」

「でも、でも! こういう時は下手に動かしちゃダメって聞くよ!?」

「だからって、このまま放っておくわけにも……!」

「あ、あぅ……琴葉さぁん……」

 今思えば、ミキたちは軽いパニックだったんだね。

 三人が三人とも、バラバラな行動しかできなくて……本来なら、それをまとめてくれる役の琴葉がいない。

 こんな時、まず最初に何をするべきなのか、何を後回しにできるのか、
 そんなことをちっとも知らないミキたちは、ただ漠然と「琴葉が倒れた」って現実を受け入れるしかなくて。

「まゆ、そっち側を下から支えて!」

「持ちました!」

「じゃあいくよ? せーのっ!」

 結局、ミキたちは彼女を床の上からソファーへ移動させることにした……
 と、いうよりも、そうすることぐらいしか出来なかった。

 意識の無い人の体って、まるで大きな石のように重くって。
 
 とてもミキたちだけの力じゃ、医務室までは運べそうになかったし、
 その間ずっとすすり泣く智絵里が、まるでミキのことを責めてるみたいで辛かった。


 それは多分、まゆも同じだったと思う。

「私、今からでも男の人を呼んで来ます!」

 だから、かな? 居てもたってもいられないって感じでそう言って、まゆが部屋から出て行こうとした時だ。
 彼女が開けるより先に、扉を開けて中に入って来た人がいて。

「悪い悪い、待たせたな……って、なんじゃこりゃああぁぁっ!?」

 それは、ミキたちが今一番必要としてた人。
 普段はちょっとカッコ悪いところもあるけれど、こういう時にはとびきり頼りになるそんな人。

「プ、プロデューサー! 琴葉が、琴葉が……!」

 なのに彼が来てくれて嬉しいハズのミキの胸は、根拠のない「もうこれで大丈夫」ってホッとした気持ちと
「とんでもないことになっちゃった」って罪悪感がぐちゃぐちゃに混ざり合い……

 その切なさにも似た感情に、今にも張り裂けそうになってたの。

===

 世の中の困った人を助け出す、そんなヒーローがもしも存在するのなら、
 まさにこの時、混乱極まる私たちの前に颯爽と現れたプロデューサーさんはヒーローでした。

 最初こそ大げさなリアクションを取っていましたが、部屋の中の様子を一瞥し、
 なにやらただ事でない雰囲気を感じ取ると、プロデューサーさんはすぐさま行動を開始して。

「琴葉、別に怪我してるってワケじゃ無いようだな。なら単に貧血で倒れたか、それともただの立ちくらみか……」

 ソファーに横たわる琴葉さんの体の下にサッと両手を差し込んで、
 プロデューサーさんはそのままお姫様抱っこでもするように、彼女のことを持ち上げたんです。

 それから、私たち三人の方に振り向くと。

「とりあえずまゆは、オレと一緒について来てくれ。美希と智絵里はここで待機。
 なに、琴葉を医務室に運んだら、すぐに戻ってくるからな」


 そうして、部屋を出る直前でもう一度。

「まぁ、心配するようなことは何も無いさ。だから智絵里も、顔をちゃんと拭いておけよ」

 琴葉さんを抱きかかえたまま、まゆちゃんを従えてあっという間に居なくなる。

 そうしてさっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着くと、
 私はまるで少しずつしぼむ風船のように、へなへなとその場に屈みこんでしまったのでした。

「大丈夫でしょうか……琴葉さん」

 小さく呟いたその言葉は、返事を求めないただの独り言。
 大丈夫であってほしい、何事もなく無事でいてほしい。

 でもそれは彼女の身を案じていたと言うよりも、
 美希ちゃんやまゆちゃんとは違い、只々その場で泣きじゃくり、
 オロオロと取り乱すだけで何もできなかった自分を守ろうとしてこぼれた、卑屈さから出たおまじない。


 ……私は、やっぱりダメダメだ。

 アイドルになれば、自分を変えられると思ってた。
 ライブもステージも経験して、それなりに人前にも出れるようになって、私、変われてるとそう思ってた。

 ……でも、本当の所は違ったんだ。

 私、今も誰かの影に隠れては、問題が解決するのを待ってるような、
 弱気で、ズルくて、消極的で……それでいて自分が可愛いだけの、酷い子だ……。

===

 プロデューサーさんの後について廊下を歩く。
 その間ずっとまゆの胸の奥の方は、ジクジクとした疼きにも似た感情に苛まれてました。

 その原因は言わずもがな、前を行く彼の顔は見えなくて、部屋を出てから言葉を交わすこともなく。
 ただ無言で、医務室へと続く道を歩いてゆく。

 すると当然のことと言えますが、琴葉さんをその腕に抱え、
 暗い顔のまゆを引き連れて歩くプロデューサーさんの姿というのは、時折すれ違う人たちの視線を否応なしに集めます。

 それは、ある意味では晒し者。懲罰にも近い状態です。
 自然と顔も下を向き、前を歩く彼の姿は、その足元しか見えません。

「ああ、彼はきっと怒っているんだ」「まゆは今、その罰を与えられている」なんて、

 自分の中の罪悪感とそれに伴う胸の疼きをより大きく、
 そして深刻に広げていくには十分すぎるほどのシチュエーションでもありました。


 事実、琴葉さんが突然倒れてしまった原因がまゆたちの喧嘩に無かったと、言い切ることなんてできません。

「……っと、いけね」

 しばらくそうして歩いているとプロデューサーさんが小さく呟き、突然歩みを止めました。
 もちろん後ろを歩いていたまゆも、半歩ほどの距離を保って立ち止まります。

 くるりと、彼の靴がこちらを向いて、だけど振り向いたプロデューサーさんのその顔を、
 まゆは……まゆは、見上げることができなかったんです。


「まゆ」

 ビクリと、小さく跳ねた私の体。

 ……自分の名前を呼ばれることが、これほど怖かったことはありません。
 普段なら、彼に名前を呼んでもらえるということが、とても嬉しいハズなのに。

 だけど今は……怖い。ただ、単純に。

 戦々恐々と体は強張り、でも、返事をしないわけにもいかなくて。

 震える声で「は、はい」と応えながら、恐る恐る顔を上げると……
 そこにはやはり眉をしかめて私のことを見下ろしている、プロデューサーさんの顔があったんです。

===

「ちょっとちょっと突然どーしたの? まーたこの子は暗くなっちゃって」

 呼びかけられて、ハッとする。
 思わず自分の頬を触り、私、そんな顔をしてたのかな……なんてことを考える。

「まったく琴葉は世話が焼けるね。どうせいつもみたいに悩み事、抱え込んじゃってるんじゃない?」

 悩み事、そう、悩み事。確かに私は言われた通り、大きな悩みを抱えてた。
 ここは行きつけのファミリーレストラン。向かい合う席に座る恵美が、ドリンク片手に言葉を続ける。

「普段からアタシ言ってるじゃん。困ったことがあるんなら、隠さず話して欲しいって。
 ほらほら言ってみ相談してみ? 今度は何に悩んでんの?」


 そう、そうだ。私、悩んでいることがあったんだ。

 一人じゃ答えが出せなくて、誰かに相談したくって。
 だから私、恵美のことを呼んだんじゃない。

「あ……実は、その」

「ふんふん何々?」

「私……の、友達の話なんだけど。れ、恋愛の相談をこの前受けて」

「ほうほうそれで?」

「その子が好きになった相手って言うのが、自分よりもだいぶ年上の」

「だいぶ年上……もしかしてその子の相手って、いい歳したオジサン? オヤジ?」

「ち、違うわよ! 離れてるって言ったって、せいぜい四つか五つぐらい。
 ……その、先生! そう、学校の若い先生が……その子が好きになった相手なの」

「へぇ~、学校の先生が相手ねぇ」

 私の説明を聞いた恵美が、面白がるようにニヤニヤ笑う。
 だけどそれは、別に野次馬根性だとかなんだとか、そういった気持ちから浮かべた笑顔じゃなくて。

 どっちかっていうとそう、子供の稚拙な弁明を、
 吹き出さないように堪えながら聞いてる親のような……って、ちょっと待った。


「それってさぁ、所謂一つのタブーだよね~。
 歳が離れてるのもそうだけど、教師と生徒、本来ならば好きあっちゃマズい禁断の関係」

「うっ……ま、まぁそうだね。……そんなことは、その子にだって分かってるよ」

「それでそれで、二人はもう付き合ってんの?」

「ま、まだだよ。……好きなことに気づいたのも、最近だって言ってたし」

「なら、アプローチ以前の段階かぁ。……ライバルも多いのに大変だねぇ~」

「なっ、なんでわかるの!?」

「なんでって……そりゃ、琴――うほんごほん!
 こんな相談するってことは恋敵が多い人なのかなーってさ、予想はすぐにつけれるって」

 そう言って、持っていたドリンクに口をつける恵美。
 彼女が喉を潤す様子を、私はぼんやりと眺めながら待つ。

 二人だけの店内はとても静かで落ち着いていて、まるで時間の流れが止まっているよう。

 ……そう言えば私、いつの間にここに居たんだっけ?


「でさ、本題に入らせてもらうけど」

 だけど私はトンと恵美がグラスを置いた音によって、意識の行方を戻された。
 いけないいけない! 今はまだ、こっちの話が終わってない。

「もし琴葉がその子の立場なら、その気がついちゃった恋心、どう対処するのが良いと思ってんの?
 アタシ的にはその辺が、問題解決の鍵を握っていると思うワケね」

 恵美の言っていることは、全く持って正論だ。
 物事をスムーズに進めようとする場合、相手の身に立って考えるのは、とても効率的で効果的。

 ……ただ今回の場合で問題なのは、その例え話の人物が、他ならぬ私自身であることで。

「それは、まぁそうだけど。どうも上手く行かないから、恵美に相談したんじゃない」

「ありゃ。頼られてんだアタシって」

「茶化さないでよ。こっちは真面目なんだから!」

「にゃはは、ごめんごめん! もう琴葉~、顔が怖いぞ? あんまマジに受け取っちゃやーよ」


 私の言葉を笑って誤魔化し、恵美がテーブルの上に頬杖をついた。
 そうして私を見つめる視線は、まるでこちらの考えを、全て見透かしているようにも見える。

「まっ、アタシの知ってる田中琴葉を、その子の立場に置いてみれば……導き出される結果は単純。
 何かと理由をつけちゃって、アプローチ以前に諦めちゃうってトコじゃない?」

「……やっぱり、恵美もそう思うんだ」

「思う思う、チョー思う! でね? 告白の真似事すらしなかったのに、
 いつまでもいつまでもその時のことを引きずって、一人でうじうじ悩んでんの。
 夜寝る前に布団の中で、枕をししどに濡らしてさー」

「ちょっと恵美!」

「そんでそんで、そんな自分の女々しさと未練がましさに悩んだ挙句、
 ファミレスに呼び出した親友に、今さら助言を求めたりするね。
『ねぇ私、どうしたらいいと思う?』なんて……相手の男の方はとっくに、他の子とよろしくしてんのに」

「恵美……」

「結局、琴葉は臆病なんだよ。他の子に悪いとか、世間の目が気になるとか言うのは建前でさ。
 本当は、失恋して、傷ついて、相手との関係が以前のような物には戻れなくなることを恐れてる……」

 そうして恵美が、再びグラスを手に取った。

 ……耳が痛いな。

 彼女が私に言うことは、多分、きっと真実だ。
 人は簡単には変われない……私の、この面倒な性格もそう。


「だけど、さ」

 恵美がポツリと呟いて、私のことをジッと見据える。
 その顔はとても真剣で、さっきまでのノリの軽い彼女とは別人に見える。

「当たって砕けた方が良い……なんて無責任にけしかけたりはできないけど。
 それでも挑戦すらしない琴葉は、やっぱ琴葉らしくないよ。普段はなんでも全力で、真面目な委員長タイプなんだから」

「でも、でもそれで……仮に告白したとして、偶然上手く行ったって……
 その後には、その人を好きだった他の子たちとの関係だってあるんだよ? 
 きっと嫌われちゃうに決まってるし、恨まれたってすると思う。
 中にはさっき恵美が言った私みたいに、悲しみを引っ張る子だっていて……」

「まっ、それが恋に勝つってことだかんね。恨み嫉みは勝負の常……それこそアイドルだって同じだよ」

 私の反論に答える恵美は、とても穏やかな口調だった。
 そんな彼女に、私はある質問を投げかける。


「……そのライバルになる子たちの中に、恵美が入ってたとしても?」


 ハッキリ言って、卑怯以外の何でもない。

 親友という存在を、否定の為の材料に使う。
 成就するかも分からない不確かな恋と、大切な友達を天秤にかける。

 ……だけど恵美は、やれやれと言った風に肩をすくめると。

「琴葉はさ、何でも考え過ぎなんだよ。別に出会った物事全部を全部、一度に抱え込む必要なんて無いし。
 いつまでも持ち続けとかなきゃダメってことも無い。
 もしどっかで何か落っことして、その時は困ったり焦ったり悲しんだりしたっても、
 後で余裕ができた時に、取りに戻ればいいだけじゃん。

 それに、どーしてもその時じゃなきゃダメだー! って言うんなら、
 琴葉の持ってるその荷物、半分ぐらいならアタシが預かっといてあげるからさ」

「え、えっと……?」

「とにかく要は、自分の直感に従えってこと! 好きなら好きって伝えた方が、絶対に後が楽だって。
 その後フラれちゃったとしても、アタシらがココで、ちゃんと琴葉を慰めたげる!」


 そうして恵美が、今度はキリッとした顔つきになって言う。

「それに……もしもアタシが琴葉と同じ人を好きになったなら、手加減なんてする気ないよ? 
 全力で琴葉と勝負して、全力で恋心ぶつけあって……だったらアタシが負けちゃっても、素直に祝福できる気がするし、
 お互いにフラれちゃったなら、一緒に残念会を開こーよ」

「恵美……あなた……」

「あっ、でもでもあれだよ? ここ大事! 
 ……もしもその勝負でアタシが勝っちゃった時は、琴葉にも、素直に祝ってもらいたいかな。
 ま、まぁコッチはアタシの希望とゆーか、単なるワガママでもあるんだけど……」

 最後の方は照れ臭そうに、それでも私に真剣に、喋り終えた恵美はグラスに残っていたドリンクを飲み干すと。

「……と、まぁアレだね。なんか偉そうに喋っちゃったけど。ど、どう? 少しは役に立った感じ?」

「もちろんだよ」と、私は恵美に頷いて。すると彼女も、満足そうに「そっか、良かった!」と笑顔で私に応えてくれる。

 ……少なくとも今この世界に、例え他の子たちが私を見放してしまっても最後まで一緒にいてくれる人がいる。
 それだけで私は少し前向きに、そして強くなれたような気がしてくるのだった。

所恵美
http://i.imgur.com/1cW9b9O.jpg
http://i.imgur.com/euDvy0X.jpg
とりあえずここまで。次ぐらいで最後まで行きたい所存。

>>24修正
○その中にはネギにワカメにお豆腐に、あっ! 剥いたアサリも入ってる♪ ……なんて呑気にしてる場合じゃないのっ!
×その中にはネギにワカメにお豆腐に、あっ! 剥いたしじみも入ってる♪ ……なんて呑気にしてる場合じゃないのっ!

===

 プロデューサーが琴葉を連れて、まゆも部屋から居なくなって。
 残された智絵里はさっきから、暗い顔でソファーに腰をおろしてた。

 その横に、ミキも膝を抱えるようにして座ってる。
 二人とも何も言わないし、部屋の中の空気は、相変わらず重く淀んでる。

「……ねぇ、智絵里」

 声をかけると、彼女の体がピクンと跳ねた。
 それから、まるで警戒するような囁き声で「な、何?」っていう小さな返事。

「琴葉、どうして倒れちゃったのかな。
 プロデューサーが言った通り、急に体調、悪くなっただけなのかな」

「そ、それは……」

「ミキには経験無いんだけど。知り合いにね、昔あったんだ。
 ミキとある子がレッスン中にケンカして、その時一緒にいた子がね、今日の琴葉と同じように、突然倒れちゃったこと」


 そうして、話をしながら思い出す。
 あれはまだ、ミキが事務所に入りたての頃。

 ……当時のミキは、事務所では一番の後輩で、
 だけどアイドルとしての実力は他の子よりも上にいると、自分自身ではそう思ってた。

 実際、デビューしてからのミキの活躍は、とっても凄いって言われてたんだ。

 鳥さんを何とかする勢いだーなんてプロデューサーも褒めてくれて、
 ご褒美にミキのお願いを、いっぱいいっぱい聞いてくれてたの。

 ミキ的には、特別頑張ってるつもりは無かったけど、それでも褒められるのは嬉しくって、
 最初の頃はお仕事も、毎日毎日楽しかった。

 ……でも、そんなミキと他の子の間に、なんて言えばいいのかな? 
 溝……みたいなものがあることに、なんとなく気がつき始めたのもその頃で。


「ミキ、また一人でお仕事なの?」

 事務所のホワイトボードに書き込まれた、お仕事の予定で分かる孤独。
 他の子は基本、何人かのグループでお仕事してるのに、ミキの場合はどっちかって言うと、ソロのお仕事が多かった。

「ん? あ、あぁ……その、なんだ。美希は、ウチのエースだからな。ソロの方が、フットワークも軽くできるんだよ」

「フットワーク?」

「ユニットで動く他の子よりも、沢山仕事を任せれるってことさ。美希はその……事務所の稼ぎ頭だし」

「ん~……ってことは、ミキは事務所の代表ってこと? ミキ、事務所で一番のアイドルなんだ!」

 今にしてみれば、無邪気だったなって思う。
 あの時のプロデューサーが見せた曖昧な笑顔には、全然別の意味が込められてたのに。


「……そうだな。事務所の未来は、美希の頑張りにかかってる! ……期待してるぞ」

「任せて、なの! プロデューサー。これからのミキの活躍に、たっくさん期待してていーよ?」

 でも、それからほんの数か月後、答えは突然やって来た。

 事務所も軌道に乗って来て、小さくてもちゃんとした会場で開かれるのが決まったライブイベント。
 ミキも、当然事務所所属のメンバーとして、練習に参加したんだけど……。

 ハッキリ言って、最悪だよ。

 ミキ、それまで事務所にいる他の子と、殆ど関わって無かったし、
 チームワークや全体のバランスがなんとかって言われても、
 ミキからすれば「どーしてこんなこともできないの?」って思うばかり。

 歌も下手だしダンスも鈍いし、位置取りや進行だって一度で覚えられない子ばっか。
 イベントの日が近づくにつれて、ミキ、どんどんやる気も無くしてた。

 だってこんな足手まといに引っ張られた、カッコ悪いパフォーマンスなんか……
 ミキ、恥ずかしくてプロデューサーに見せたくなんて無かったもん。


「悪いけどミキね、今度のイベント出るの止める」

 だからその日、全体練習を見に来てたプロデューサーにミキは抱えてた不満をぶちまけた。

 当然プロデューサーは驚いて、必死にミキの説得を始めたけど、
 周りにいる他のメンバーは、ただ黙って成り行きを見守っているだけだった。

 ……誰もプロデューサーと同じように、ミキのこと引き留めたりしないんだ。

 もちろんそんなことになっちゃう原因は、ミキにあるのは分かってたけど……
 それでも、形だけでも引き留めるってこともなくて。最後には、ある子がポツリと呟いたの。

「その子が止めたいって言うんなら、別に無理して引き留めることもないんじゃないの?
 ……むしろチームの輪を乱すような人は、出てってくれた方が清々するわ」

 ……今思い出しても、胸の奥が痛くなっちゃうな。

 そこからはその子を相手に大喧嘩。延々相手を罵って、ミキの怒りの矛先は、
 彼女以外の別のメンバーにも向けられて……そうして一人の女の子が、気を失って倒れたの。

 それはまるで、今日の琴葉みたいにね。

===

「その時もプロデューサーがアレコレ動いてくれたから、混乱はすぐに収まったけど。
 結局その後も色々あって、ミキね、一時は別の事務所にも行ったんだよ? 
 ……っと、いけない。こっちは今日の出来事と、全然関係ない話だったね」

 そうして喋り終わった美希ちゃんが、私に向かって悲しそうな笑顔を浮かべます。
 それは今まで見たことの無い、初めて目にした彼女の表情。

「ミキ、またおんなじことしちゃったんだね。
 ……その子はミキに責められて、頭が真っ白になったって言ってたけど……。
 琴葉もそうかな? ミキとまゆがケンカしたから、それで、それで……!」


「だ、だけど美希ちゃんもまゆちゃんも、別に琴葉さんを責めたりなんてしてないよね?」

 しかも、どっちかと言えば二人の迫力に当てられて、気を失いそうになってたのは私の方だ。
 でも美希ちゃんは「ううん」と小さくかぶりを振ると。

「ミキね、昔っからなんだ。自分じゃ気づかないうちに、色んな人を巻き込んで、傷つけて。
 だから今日だって分かんないうちに、琴葉を責めるようなこと、ミキはしてたんだと思う」

「でも、でも! 美希ちゃんは本当にそんなこと……」

 けれどもこの時の私は、それ以上続ける言葉が見つからず。

 だって普段の美希ちゃんは気まぐれで、暇があればどこでも眠っているような子だったけど。
 それでも練習中や舞台前には物凄い自信に溢れてて、実際のパフォーマンスも、凄く素敵でカッコ良くて……
 あ、憧れちゃうなって私、内緒で思ってた程なのに。

 今ここで膝を抱えたままキュッと縮こまった彼女の姿は、そんな私の知ってる美希ちゃんと、同じ人だとは思えなくて……

 
 こんな時、私はどうしたらいいんだろう? 大丈夫だよって、声をかければいいのかな? 
 それとも、ただ静かに黙ってる方がいい……のかな。


「……もう、大丈夫だと思ってたのに。
 ミキ、そういう人の気持ち、気づけるようになったと思ってたのに……!」

 呟く声は、震えてた。そしてこの時、私もやっと分かったんです。

 彼女は、私よりもアイドルとして先輩で、ユニットの中でも実力があって。
 だけど、本当は私と何も変わらない、普通の女の子なんだってことに。

「ねぇ、美希ちゃん」

 恥ずかしい話になっちゃいますけど、呼びかけた私の声も震えてました。
 そ、それに……聞き取り辛いほど小さな声だったかもしれません。

「実は私も緊張したり、その、急にビックリさせられちゃうと、息が上手く吸えなくなって、
 顔が真っ赤になるほど熱くなって、それから、頭の中も、真っ白になったりしちゃうんだ」

 ゆっくりと、本当にゆっくりと。震えながら、たどたどしく語った私の言葉。
 美希ちゃんが伏せていた顔をこちらに向け「うん……知ってる」そう、ポツリと私に返事します。


「それでね? さっきのことだけど……琴葉さんは別に、美希ちゃんたちに責められたから、気を失ったんじゃ無いと思う。
 むしろ、その……ビックリしてたみたいだよ? あ……琴葉さん、まゆちゃんがプロデューサーさんのことを、す、す……!」

「……好き?」

「そ、そう! 好きってこと、今の今まで、知らなかったみたいだったから」

 そこまで言って、私は一度大きく息を吸い込みました。

 心臓が、バクバクしてるのが分かります。ただ話しているだけなのに、全身にじんわりと汗を掻き、
 知らず知らずのうちに両手も硬く握りしめて……緊張、してるな。だけど、後、もう少し……!

「琴葉さんはプロデューサーさんに選ばれた、ユニットのリーダーだったから。
 二人がケンカしてるのを、どうにか止めようとしてたと思う。
 だって……一緒に頑張る、仲間だから。チームワーク、大切だよね?」

「……うん」

「でもそのケンカの原因が、自分の考えてたこととは全然違う別の物で。
 琴葉さん、倒れる直前に言ってたよ……まゆちゃんが突然怒りだしたのは、美希ちゃんにやる気が無いと思ったからだって」

「でもミキ、別にそんな気は――」

「そ、そんなことは分かってるよ!」


 思わず、自分でもビックリするほどの大声で、私は彼女の言葉を遮った。

 そしてそれは、美希ちゃんも同じだったみたい。
 私を見つめる彼女の目は、驚きに丸くなっている。

「ご、ごめんなさい! 私その、こういうの、余り慣れてなくて……え、えっと、だからね?
 私が美希ちゃんに言いたいのは、琴葉さんはあの時、パニックになってたんじゃないかなってこと。

 用意してた解決方法が、一瞬で役に立たなくなって。
 それで本当のケンカの原因が、誰かが誰かを好きっていう、デリケートな問題だったから」

 そう、きっかけはきっとそこなんです。

 好きな人を取り合うライバル同士、仲良くするなんて難しくって、
 だけどたったそれだけのきっかけで、ユニットがバラバラになっちゃもっとダメ。

 でもその問題の原因は、今すぐにどうこうできる程小さくもなくて……。
 人一倍責任感があって、真面目な琴葉さんだから。多分、あの一瞬でパンクしちゃったんだと思う……。


「それにね、人に人を好きになるな! ……なんて、誰にもそんなこと言えないよ。
 気持ちって、自分が持ってる分でさえ、上手くコントロールできないのに。
 他人の持ってる心の動きまで、強制なんてできるワケない」

 そしてこれは、自分自身にも向けた言葉。

「だからこんなところで落ち込んで、悩んでる暇があるのなら……一歩、前に踏み出そうよ! 
 今からでも、遅くないハズだから……琴葉さんが目を覚ましたら、最初にまず謝って……
 それから皆でその気持ちと、どう向き合うか話し合おう? 
 そ、それこそ恋愛相談するみたいな気軽さで……話し合えたら良いと思うな」

 美希ちゃんが、喋り終わった私をジッと見る。私も、なんとか顔を背けずに、彼女の視線を受け止める。

 自分の中の考えを、人に伝えることは大変で、上手くできたかの自信も無いけど。
 だけどもう、何もしないまま周りが解決してくれるのを待つような、そんな私ではいたくなかったんです。

 無駄になるかもしれないし、てんで見当違いのことを言ってるだけだったとしても……
 歩き出そうとしない限り、私はいつまでも影の中だから。


「……智絵里の話は、分かったよ」

「美希ちゃん……!」

「ミキね? 昔約束したことがあるの。どんな相手と、どんな場所で、
 どんな勝負をするにしても、ミキは全力で戦ってあげるよって」

「……だから今日も、まゆちゃんとあんなことに?」

「うん、そーだよ。コレは、ミキの大切な人との約束で……あっ、ハニーのことじゃないんだけど……
 それがいわゆるレーギなんだって思ってた。でも今回の件みたいに……全然関係の無い人を、巻き込んじゃうこともあるんだね」

 そう言って美希ちゃんは立ち上がると、ソファーに座る私に向かって、スッとその右手を差し出します。

「え、ええと……?」

「ほら、智絵里も早く立って立って!」

 困惑しながら手を握ると、私は彼女に引っ張られる形でソファーから腰を上げました。
 そうして勢いよく歩き出す美希ちゃんと、そのまま牽かれて行く私。

「ちょ、ちょっと待って美希ちゃんドコ行くの!?」

 慌てて私が尋ねると、彼女は笑顔で振り返って言ったんです。

「一歩、踏み出せばいいんでしょ? 
 ……だったらミキはただ待つよりも、皆の後を追いかけるのが正解だってそう思うな!」

ラストはもう目前なのに、書けども書けどもギリギリで届かないこの感じ。
とりあえずここまで。

===

 私は廊下から医務室の中に移動すると、あの人に気づかれないようにそっと胸を撫で下ろした。

 振り返ったプロデューサーさんの顔を見た時は、高まり過ぎた悲しみで、
 心臓が止まっちゃうんじゃないか……なんてことを考えてしまったけど。

「わ、悪いんだけどオレの代わりに、扉を開けてくれないか」

「えっ」

 プロデューサーさんの額から、鼻筋へと流れる汗一筋。
 ……よくよく見ればその体は、プルプルと小刻みに震えてます。


「か、カッコつけて抱きかかえたのはいいんだけど、このままじゃ……ドアノブが回せないんだよ。
 ……そ、それにそろそろ限界だ。琴葉を……お、落っことしちゃう前に早く……!」

 言われて、ようやく理解する自分の居場所。
 ここは目的の医務室の真ん前で、だけど彼は、その扉を開けないことに困ってました。

「は、はい。今開けます!」

 プロデューサーさんは中に入ると、琴葉さんをそっと寝台へ横たえてから部屋の中をぐるりと見回し
「あのヤブめ、肝心な時にいやがらん」とご立腹。

「これで琴葉の身に何かあってみろ! 野郎、末代まで祟ってやるからな……!」

 物騒な言葉を口にして、それからまゆの方へと振り向きます。

「それで一体、何があったんだ? ……まぁ、大体の予想はついてるけども」

 そうしてまゆが説明をしているうちに、なにやら廊下の方がバタバタと騒がしくなって来て――。

===

 瞼を開くと、そこには心配そうな表情で並ぶ顔が三つ。

「あれ……みんなどうしたの?」

 私がまだぼんやりとする頭のままでそう訊くと、
 一番手前で覗き込んでいた美希ちゃんが「ご、ごめんなさい!」と声を上げた。

 それからまゆちゃんと智絵里ちゃんの二人も同じように、謝りながら頭を下げて来る。

 当然、私には何が起きてるのか分からなくて、どう反応をしていいのか困っていると、
 脇に立っていたプロデューサーが「おいおい琴葉が困ってるぞ」と私たちの間に入ってくれて……。


「って、プロデューサーっ!?」

「あ、あぁ! オレだ!」

 驚きに上体をはね起こすと、ズキンと頭の隅が痛む。
 それはまるで、どこかにぶつけて来たみたいに。

 思わず私が痛んだ箇所を押さえると、プロデューサーの慌てた顔が近づいて来る。

「琴葉、頭が痛むのか!? 畜生! やっぱり病院に直行しておけば良かったか……!」

 そうして私の体に手を添えて、抱きかかえようとするんだもの。
 もう私、取り乱すなんてものじゃなくて!

「だ、大丈夫です! 平気です!」

「しかし!」

「プ、プロデューサーさん落ち着いて!」

「そうだよハニー! 琴葉は大丈夫だって言ってるじゃん!」


 まゆちゃんと美希ちゃんがわたわたした動きでプロデューサーを制止する中、
 智絵里ちゃんが部屋の隅から椅子を持って来て、プロデューサーのスーツを掴む。

「え、えいっ!」

 それから可愛らしい掛け声一つ、彼女に引っ張られる形で椅子の上へと座らせられるプロデューサー。
 普段の様子からは想像もつかない大胆さを見せた智絵里ちゃんに、他の二人もびっくりだ。

「離すんだ智絵里! どうしてオレの邪魔をする!?」

「だ、ダメです! とにかく一度、落ち着いて……でないと私、あの、その……!」

「落ち着いてるとも、オレは至って冷静だ!」

 なんて言いながら、プロデューサーが立ち上がろうとした時だ。


「……めっ!」

 トン。

 智絵里ちゃんの振り下ろした手刀が、プロデューサーの額を打った。

 それはいわゆる小さい子を叱る時にするような、ふんわりとした挙動の優しいチョップ。

 だけど次の瞬間、まるで電流を浴びた様にその体をビクンビクンと痙攣させて
(ちょっと気持ち悪く見えてしまったのは内緒)くたりと大人しくなるプロデューサー。

「ち、智絵里……ちゃん?」

「智恵理、一体ハニーになにしたの……!?」

 何が起きたのかが理解できずに驚愕するまゆちゃんたちに向けて、
 智絵里ちゃん自身、驚いた様子で二人に答える。

「ど、どうしよう……プロデューサーさん……気絶しちゃった!」

===

 爆笑、バカ受け、大笑い。

 言い方は色々とあるけれど、それでも年頃の女の子が公衆の面前で取るには少々難ありって態度なことには違いない。

 だから彼女と違って周囲の視線が気になる私は、
 これ以上店内の注目を集めないうちに、小声で注意することにした。

「ちょっと恵美、いくらなんでも笑い過ぎ」

「でもでもチョップで気絶って、しかも智絵里のチョップで気絶って!」

 だけど笑いのツボに入ったのかな? 
 
 恵美はにゃははにゃははとひとしきり笑い続けると、

 今度はぜぇはぁと息を荒くして机の上にバタリと突っ伏す。


「ひぃ、ひぃ……おっかし……! ちえりんちょぷ、ちょぷ……!」

 ……ちょぷちょぷって何よ。まったく、呂律が回らなくなるほど笑い転げられるような話、私はした覚えが無いんだけど。

 ムッとしたような、呆れたような、そんな表情で見下ろす私と目を合わせた恵美が、だらしない顔のままで尋ねる。

「そ、それで? 結局それからどなったの?」

 けれども私はこの発言に、思わずポカンとなってしまった。
 どなったって、怒鳴るってこと? ……え、えっと。それは一体誰が? ……誰を?

「怒鳴ったって……そんなこと、誰もしないわよ?」

 そんなの、全然身に覚えの無いことだったから。
 不思議に思って逆に聞くと「ふぇっ?」なんて間の抜けた声を上げる恵美。

 一瞬の静寂が二人の間に訪れて、それからすぐにまたもう一度、彼女は可笑しそうに笑い出した。

「く、くふふっ! くふっ……! ちょ、ちょい待ち! ちょっと、本気タンマ!」

「もう! どうして笑い出しちゃうの!」

「だって、だって琴葉がどなるとどーなるって……
 も、や~め~て~! アタシ、笑い死になんてしたくないよ~」


 結局この笑い娘が大人しくなるのには、たっぷり五分が必要だった。
 ようやく大人しくなった恵美を前に、私はさっきの続きを話し出す。

「それでね? 戻って来た先生が処置をしてくれたから、プロデューサーは意識を取り戻したんだけど。
 その時には最初に予定してた時間……ほら、ユニットのミーティングに使う時間を大幅に過ぎた後だったの」

「まっ、そんだけドタバタしてちゃートーゼンだよね」

「だからその日は、実質ミーティング無しで解散。でもその後、美希ちゃんとまゆちゃんの間に、ある取り決めが出来たみたい。
 ……アプローチはお互いに正々堂々、どっちが勝っても恨みっこ無しってね」

 すると恵美は「ほぉ~」と感心したように頷いて。

「そりゃ、立派立派! 立派だよ! いやぁ~恋する乙女同士の友情ってヤツ? なーんか青春って感じで羨ましいねぇ~」

「青春って……恵美も十分若いじゃない! と、言うかまゆちゃんとは同い年でしょう?」

「でもでもほらほら、アタシはまだ恋なんてしてないからさ。
 今はまだ、琴葉やエレナや……他の子と一緒に過ごすのが、楽しくてしょうがない年頃じゃん!」

「……自分で言うのね、そういうこと」

「それにそれにぃ~、偉そうに言ってる琴葉だって、アタシと一緒で恋なんかとは――」


 けれども恵美は、そこまで言って急に喋るのを止めてしまった。
 ……それだけじゃない! 彼女は私の顔をまじまじと眺め、怪訝そうに眉をひそめると。

「……ねぇ琴葉。なんでそんな顔が赤くなってんの?」

「えっ!? そ、そうかな? そんな顔……してたかな?」

「してるよ~! 耳の先まで赤くなって……って、ちょい待ち! もしかして琴葉、ひょっとして……!」

 そこから先は、何て言って誤魔化したか覚えてない。
 なんでなんだって言われると、多分……恥ずかしさのせいで必死だったから。

 か、代わりに! 私は元々恵美に聞いてもらうつもりだった相談の方へ、無理やり話題を切り替えた。
 それが一体、何の相談かと言うと。

「ところで恵美。一つ、困ってることがあって……今日はその相談に乗って欲しいんだけど」

「んー……なに? ユニットのまとめ方とか?」

「う、ううん! お仕事の話とは関係ないの。……えっと、今度は笑わないで真面目に聞いて? 実は――」



「私、お味噌汁なんだって」

「……え゛っ?」

===

 以上、おしまい。

 さて、初めにちょっと言わせてください。刃物だ流血だ殺傷沙汰なんて展開にならなくて、心底ホッとしていると。
 最早説明する必要も無いとは思いますが、
 今回メインに据えた四人は重い……否、想いが強いアイドルとして名前が知られた子たちです。
 それすなわちこの面子が一堂に会す時、そこにはPを巡っての確執と対立が生まれるのは必然。
 一応は「今回は可愛いアイドルたちの恋バナがテーマなんだ! 絶対にそんな流れにするもんか!」と自分を戒めていたものの、
 いつでも刃物は持ち出せるように調理室の存在を提示しておく辺りがもうダメです。完璧に思考が毒されてます。
 正にルール無用のアイドルデスマッチ。亜美真美だってドン引きです。

 実際問題美希が煽り、まゆが怒り、智絵里がオロオロとする中、
 琴葉がその身を挺して血生臭い展開へ発展することを阻止するというスーパープレイが無かったら、
 この話は全く別の結末を迎えていたのは確実です。断言します、一人二人は血を見てました。
 以前美奈子が腹黒くなってしまったように、フィーリングで書いてるとこういうことが多々あります。

 ただそれでも、琴葉は琴葉で他三人とは別のベクトルにやべーです。まぁそこが可愛いんですが、
 個人的に恋に破れても、脳内Pとか作っちゃう可能性を一番感じさせるのが彼女です。
 だって脳内恵美は既に登じょ――閑話休題。

 結局何が言いたいのかというと『エブリデイドリーム』な出来立てユニットの日常の一コマに、
 甘酸っぱい『cherry*merry*cherry』を添えて『追憶のサンドグラス』でジャリジャリさせつつ
『Understand? Understand!』な感じで部分部分はDelicious! Delicious!
 『ホントウノワタシ』を『ふるふるフューチャー』しつつ恋の『風色メロディ』も上乗せしたら、
 全体的に『あいくるしい』感じに収まりめでたしめでたしってことになりませんかね! ……って感じです。
 全部良曲、聴きましょう。

 後はあれ、琴葉味噌汁問題については、恵美と一緒に考えてみてください。
 ちなみに美希は猫、まゆは恋人(付き合ってるとは言ってない)、味噌汁と言えば○○の味。
 言い換えると……Pの仕事上における○○役ってことですね。……肉じゃがの方が良かったかな?

 本編書いてる最中は楽しくて、あとがきもついつい長くなりました。悪い癖です、反省します。
 それではちょっとしたおまけを置いて、お開きにしたいと思います。

 最後までお付き合いしてくださって、本当にありがとうございました。


『おまけ』 以下の駄文は、今回紹介に使ったカードから連想しちゃったネタ話。
 俺はドロドロした話が読みたかったんだよ! って人向け。
 あくまでも大筋を考えただけで、実際に書く予定はございません。

 琴葉はPと付き合っていた。

 しかし、彼女が時折覗かせるその重さは徐々に彼の負担となり、
 バレンタインデーの告白をきっかけに、琴葉を捨てて智絵里と付き合い始めるP。

 だが、元来がクズな男である。

 残業続きのある日のこと、彼は自分に好意を向けている美希が無防備に寝ている姿に欲情し、
 力づくで事に及んだ後、口封じのために美希を殺害。

 後始末にまゆの協力を煽ったはいいが、後日、それをネタにゆすられるP。
 当然智絵里と過ごす時間は減り、気づけばまゆと半同棲。

 そこに、分かれたはずの琴葉から呼び出しが。

 待ち合わせ場所にやって来た彼女は涙ながらに、Pへ衝撃的な事実を告げる。
 自分は、妊娠していると。そしてその父親は、他ならぬP自身だと。

 陸橋に立つ琴葉が自分に背中を向けたその瞬間、悪魔が彼に囁いた。


 数か月後、事務所の中に三度悲しいニュースが訪れる。

 なんとまゆが、一緒にイベントを行っていた智絵里の凶刃に倒れたのだ。
 その場で取り押さえらえた智絵里は、犯行に及んだ理由をこう証言したという。

「Pさんは、まゆちゃんの存在に困ってた。だから私が助けたんです」

 ところが彼女の言うPは既に事務所を退職し、その行方をくらませて久しい。

 智絵里の日記に書かれていた記述を手掛かりに、担当の秋月刑事が向かった先で目にした物。
 それは腐臭と異臭の充満した一面ピンクな部屋の中で、半ばミイラ化した男の遺体。

 その胸には鋭利なハサミが突き立てられ、手足には遺体を拘束するように、
 血の色をしたリボンが幾重にも巻きつけられていた……Pが、何処へも逃げないように。Pが、何処へも行かないように。


 とばっちりを受けた秋月刑事。これ、アイドルゲームなんですよ。
 http://i.imgur.com/tGcMIMt.jpg

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