貝木泥舟「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」 (74)

俺は金が好きだ。

なぜかと言えば、金はすべての代わりになるからだ。
ありとあらゆるものの代用品になる、オールマイティーカードだからだ。

物も買える、命も買える、人も買える、心も買える、幸せも買える、夢も買える。

とても大切なもので、そしてその上で、かけがえのないものではないから、好きだ。

この世は金が全てだ。

俺は金のためなら[ピーーー]る。

平塚「おい貝木、これはなんだ?」

貝木「授業で出された課題を書き上げただけだが?」

平塚「私はどうしてこんなふざけた作文になったのかと聞いているんだ」

平塚「なんだこれ!なぜにこうなった!!」

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貝木「ふざけた作文?俺は至極当然の事を書いたに過ぎない」

貝木「何であれ金は必要であるし大切だろう?」

貝木「今お前がここに居ることができるのも金の力あっての事なのだから」

貝木「俺の作文を否定する事、それ即ち自らの存在の否定と同じだ」

平塚「小僧、屁理屈を言うな……」

貝木「小僧?いや、年齢からすれば俺を小僧と言っても不思議ではないか」

平塚「その口を今すぐ閉じろ、でないと鉄拳制裁を下すことになる」

貝木「そう怒るな、しわがまた一つ増えてしまうぞ?平塚」

平塚「減らず口を…なぁ貝木、君に友達はいるか?」

貝木「友情は人をダメにするからな、だから友達は作らない」

平塚「それはいないのと同じだよ……まぁいい少しついてきたまえ」

―――

雪乃「…平塚先生、入る時はノックをお願いしたはずですが?」

平塚「すまない雪ノ下、だが君はノックをしても返事をした試しが無いじゃないか」

雪乃「返事をする間もなく先生が入ってくるんですよ」

雪乃「それで、隣の不吉な感じの方は?」

平塚「彼は入部希望者だ」

平塚「おい貝木、自己紹介をしてやれ」

貝木「俺は入部を希望した覚えは無いんだが」

雪乃「あら?自己紹介もしてくれないのかしら?」

雪乃「自己紹介なんてその辺の小学生でもできるわよ?」

貝木「……俺の名は貝木という」

雪乃「カイキ?」

貝木「貝塚の貝に、枯れ木の木と書いて貝木だ」

雪乃「丁寧な自己紹介をありがとう貝木君」

雪乃「私は雪ノ下雪乃、漢字は……」

貝木「その名は良く知っている名前だ…詳しく説明せずとも構わない」

雪乃「そう…ならいいわ、手間が省けたわね」

平塚「よし!両者の自己紹介も終わった所で、早速本題へと入ろうじゃないか!」

平塚「まず貝木、君にはここでの部活動を命じる」

平塚「勿論、異論反論抗議口答えは一切無しだ、わかってるな?」

貝木「あぁ…わかった」

貝木「(俺はわかったと返答しただけだ)」

貝木「(機械的に、それこそ俺の発した一言に心は一つも篭っていない)」

貝木「(詰まるところ、素直に部活動に準じるかどうかは別問題ということだ)」

平塚「そして雪ノ下、君には彼の更生を依頼する」

平塚「彼を見てもらえばわかると思うが……」

平塚「腐った根性の持ち主であり、守銭奴で友達0の憐れむべき人間なのだ」

飯落ち
一時間後に

平塚「もう一度言う、君に彼の更生を依頼したい」

平塚「引き受けてくれるな?」

雪乃「先生からの依頼なので無碍にはできませんし、承ります」

平塚「そうかそれは良かった!では後の事は頼んだぞ雪ノ下!」ガララ

貝木「…………」

雪乃「…………」

雪乃「はぁ……そんな所に立ってないで座ったらどうなのかしら?」

貝木「そうさせて貰おう」ガタンッ

貝木「それにしても全く状況が掴めない…まずここは何部だ?」

雪乃「当ててみたらどう?」

貝木「ふむ……別にいいがそれだけだとつまらないな」

貝木「勝った方が負けた方に一回だけ命令できる権利を賭けるのはどうだ?」

雪乃「いいわよ?その代わり回答権は一回だけとするわ」

貝木「わかった、ではここが何部か当ててやろう」

貝木「ここは奉仕部だ、どうだ?正解か?」

雪乃「な、なんで…わかったの?教えて貰えるかしら?」

貝木「簡単なことだ、この教室に入る時、入り口の奉仕部と書かれている表札を見かけたからだ」

貝木「あんな物、見まいとしても嫌にでも目につく」

雪乃「じゃあ貴方は最初から知っている上で何部か私に聞いたの?」

貝木「そうだ」

雪乃「……会って間もない人間相手に嘘をついて恥ずかしくないのかしら?」

貝木「そもそもお前が親切に真摯に向き合って、何部か正直に答えていればこうはならなかった」

貝木「容易に賭けに乗ってしまったことも悪手、まず人の言葉を信じるな、疑え」

貝木「今回の件からお前が得るべき教訓は……」

貝木「人を見たら詐欺師と思えということだ」

雪乃「……貴方は根本から終わっているみたいね」

雪乃「平塚先生に頼まれた以上責任を果たすわ」

雪乃「貴方のその捻くれた性格を矯正してあげる」

今日はおしまいです
また後日

貝木「捻くれた性格?心外だ」

貝木「俺の心が傷ついてしまったではないか、どうしてくれる?」

雪乃「そうやってこりずに嘘をつく…貴方は呼吸をするように嘘をつく人間なのね」

貝木「あーそうだそうだ、俺は呼吸をするように嘘をつく人間だよ雪ノ下」

貝木「だがなぁ…程度はあれ、嘘をつかない人間がどこにいる?」

貝木「そんな人間、俺は今まで一度も見たことがないぞ」

雪乃「貴方が孤立しているのもその捻くれた感性が原因だとはっきりわかるわ」

貝木「俺は友達を作らないだけだ、本気を出せば友達100人なんぞ余裕だ」

雪乃「また戯れ言を……!!」

平塚「邪魔するぞ?」ガラ

雪乃「平塚先生ノックを…!」

平塚「すまないすまない」

平塚「それにしても雪ノ下、彼の更生に手こずっているようだな?」

雪乃「本人が問題を自覚していない所為です」

貝木「俺は元からこういう人間だ、だから俺は悪くない」

雪乃「貴方のそれは逃避と同じよ……」

貝木「逃げる事の何が悪い?この世にあるほとんどの問題は逃げることで解決するだろう?」

雪乃「それじゃあ悩みは解決しないし…誰も救われないじゃないっ!」

平塚「二人共少々落ち着きたまえ」

平塚「今回はお開きとして、明日仕切り直しとしようじゃないか!」

雪乃「先生がそう仰るなら……」

―――

貝木「……」ガララ

雪乃「こんにちは貝木君、まさか来ると思わなかったわ」

貝木「俺にノックをしろとは言わないんだな…お前は平塚が嫌いなのか?」

貝木「俺から見てもあいつは教師として有能な部類に入ると思うのだが」

貝木「(女性としては低能で、既に終わっているのは間違いないが)」

雪乃「貴方に一般常識やマナーを期待してないだけよ」

貝木「おいおい…俺を見くびってもらったら困るぞ!」

貝木「俺は常識ある人間だと自分で思ってる」

雪乃「貴方それ神様に誓って言える?」

貝木「神様でも何でも構わないぞ?何ならお前に誓ってもいい」

雪乃「はぁ……もういいわ」

今日はおしまい
また後日

雪乃「それより、どうして貴方は奉仕部に来たのかしら?」

雪乃「もしかしてマゾヒスト?罵られるのが好きなの?」

貝木「平塚に言われたから仕方なく来ただけだ」

貝木「それと、人を勝手に変態に仕立て上げるんじゃ無い」

雪乃「ならストーカー?」

貝木「どうして俺がお前に好意を抱いている前提で話が進んでいるんだ」

雪乃「違うの?」

貝木「違う…お前に好意を抱くくらいなら、俺は金を抱いていたいぞ」

貝木「なあ雪ノ下、何故俺がお前に好意を抱いていると思った?」

雪乃「……私って昔から可愛かったから」

雪乃「近づいてくる男子は大抵私に好意を寄せてきたの、だからよ」

貝木「…過去の経験則に俺を当てはめた訳か」

貝木「けれども、お前を好きになる奴もいるんだなぁ?」

貝木「物珍しい、不自然極まりない」

雪乃「あら?誰からも好かれない可哀想な日陰者が嫉妬しているようね?」

雪乃「でも、好かれない人間の方が余っ程良いかもしれないわよ」

貝木「幸せ者の発想だな、なぜそう考えのか意見を述べてみろ」

雪乃「……小学校の頃、上履きを60回ほど盗まれたことがあったの」

雪乃「うち、50回ほど女子に盗まれた」

雪乃「おかげで毎日上履きを持って帰る羽目になったわ」

貝木「大変だったんだなぁ」

貝木「(俺はそんな心にもないことを言ってのける)」

貝木「(何せ一度も経験した事がないのだから共感も何もない)」

貝木「(人は自らの目で見た物しか、経験した事しか理解できない生き物だ)」

貝木「(それは俺も例外ではない)」

雪乃「えぇ大変よ?だって私可愛いから」

雪乃「でも仕方のない事なのよ、人は皆完璧では無いから」

雪乃「弱くて醜くて、すぐに嫉妬し蹴落として、嘲笑う」

雪乃「この世界は不思議な事に優秀な人間ほど生きづらいのよ」

貝木「――――正に、出る杭は打たれる、だな」

貝木「でも、出過ぎた杭は案外打たれないものなんだぜ?」

トントン

貝木「っと…来客のようだな」

貝木「正直者で真面目な俺は、邪魔にならない為にも黙っておくことにする」

貝木「(勿論俺にとっての邪魔は、奉仕部以下含め雪ノ下雪乃であると付け加えておこう)」

雪乃「一言二言が余計なのよ貴方は……」

雪乃「どうぞ、入っていいわよ」

由比ヶ浜「し、失礼しまーす…」

由比ヶ浜「平塚先生に言われて来たんですけど…」

由比ヶ浜「って何でカッキーがこんなとこにいんの!?」

貝木「(誰だこいつは……馴れ馴れしい)」

貝木「俺がここの部員だからだ…」

貝木「それと、今度カッキーと言ったらぶっ飛ばすからな」

由比ヶ浜「えっ……ご、ごめんカッキー……」

貝木「……」

きょうはおしまい
また後日

雪乃「貴方、2年F組の由比ヶ浜結衣さんね?とにかくまずは座って頂戴」

由比ヶ浜「私の事知ってるんだ……」

貝木「雪ノ下の事だ、大方、全校生徒を覚えているんじゃないか?」

雪乃「そんな事は無いわよ?だって貴方の名前は知らなかったのだから」

貝木「俺の名を知らなかったのは単なるリサーチ不足が原因だろう」

貝木「対して俺は、全校生徒の名前を言えるぞ?優秀なお前と違って」

雪乃「つまらない嘘をつくのは辞めなさい」

雪乃「それにリサーチ不足というより私の心の弱さの問題よ」

雪乃「貴方の存在から目を背けてしまった私の脆弱な心がいけないのよ」ニッコリ

由比ヶ浜「な、なんか楽しそうな部活だね!」

貝木「今の光景が楽しそうに見えるなら、お前にオススメの眼科を紹介してやる」

貝木「大丈夫だ、問題はない…頭の悪さも治せるからなぁ」

貝木「だが紹介料は貰う、金を払え」

由比ヶ浜「そういえば私、最近目も悪くなったし、頭も痛いんだよねー」

由比ヶ浜「って私の事バカにすんなし!」プンスコ

雪乃「きっちりとお金は取るのね…意地汚い人だわ」

貝木「ただ働きは割に合わないからな」

貝木「それより由比ヶ浜だったか?何か相談事があって、奉仕部にわざわざ足を運んだんだろう?」

貝木「あくまで、奉仕部の部員としての活動を遂行するという意味でお前の話を聞いてやる」

由比ヶ浜「あ、ちょっとカッキーには相談しにくいなーって」

貝木「(始めての奉仕活動は、意外な事に戦力外通告を受け失敗――)」

貝木「ならば俺は役ににすら立たんだろうなぁ、実にすまない」

貝木「己の無力さに悔いるばかりだ」

貝木「しかしそんな事を言っても仕方が無い、ひとまず退散させて頂こう」ガタン

雪乃「そのまま家に帰るつもりでしょう?逃さないわよ」

雪乃「後で呼んであげるから、部室の外で待ってなさい」

貝木「わかった、部室の外で待っておくとする」

貝木「(と言うのも嘘である)」

貝木「(よし、帰ろう)」っカバン

雪乃「鞄は置いて行きなさいよ?」

――――

貝木「クッキー?」

雪乃「手作りクッキーを食べて欲しい相手がいるそうなの」

雪乃「でも自信が無いから、クッキー作りを手伝って欲しいというのが彼女の依頼」

貝木「そんなの友達に押し付けて、馬鹿みたいに和気藹々とした雰囲気の中でやれば良いじゃないか」

雪乃「友達のいない貴方が言うと、説得力が微塵も感じられないわね」

由比ヶ浜「カッキー酷すぎ!」

由比ヶ浜「でも友達にあんま知られたくないし」

由比ヶ浜「こんなマジっぽい雰囲気合わないから……」

貝木「……自分の気持ちをひた隠しにして」

貝木「気持ちとすれ違う言葉で話さなければ、つまり語らなければ」

貝木「付き合うこともできない友達とやらは実に不便だな」

由比ヶ浜「で、でもさぁ…最近皆やってないって言うし…」

貝木「その周囲に合わせようとするの辞めてくれないか?」

貝木「酷く、不愉快だ」

雪乃「……」

由比ヶ浜「……か……かっこいい……!」

雪乃「えっ…!?貴方、彼の話を聞いていたの?結構キツイこと言っていた気がしたけれど…」

由比ヶ浜「うん!言葉は酷かった!でも本音で話してるって感じがしたの!」

貝木「俺の言っていたことは嘘だったかもしれないぞ?」

貝木「(俺にかもしれないを追求すればキリがないかもしれないがな)」

由比ヶ浜「たとえ嘘でも真でもいいよ!私がそう思ったから、じゃダメ?」

貝木「(……由比ヶ浜結衣のような人間は初めてだ)」

貝木「(どうしてこうも前向きに……ポジティブに物事を捉えられるのか)」

貝木「(興味深い、おもしろい女だ)」

貝木「取り敢えず一度作ってみればいいんじゃねえの?」

貝木「不運な事に雪ノ下雪乃もいるんだ」

貝木「一緒に作れば、それなりの物が出来上がるだろう」

由比ヶ浜「うん!」

――――

貝木「なんだ?これは?」

由比ヶ浜「クッキーだよ!」

貝木「…化学兵器の開発、生産及び使用は条約で禁止されているので」

貝木「この忌々しくそこはかとなく不吉な感じを漂わせている汚物は」

貝木「早く廃棄するべきだと思うのですが?」

由比ヶ浜「なんで急に敬語!?それに失礼すぎだし!」

由比ヶ浜「これ私が作ったクッキーだよ!?」

雪乃「味見しなさい、貝木君」

貝木「よせ、話し合おう…俺は苦くて不味そうな食べ物が大嫌いなんだ」

貝木「(他人の苦虫を噛み潰したような顔は好きだ…大好物と言ってもいい)」

雪乃「でも、どうしてここまで失敗するのかしら…」

貝木「もしかしてお前はうまいクッキーを作りたいのか?」

雪乃「……何が言いたいのかしら?」

貝木「見当違いをしているって言いたいのさ」

貝木「10分後、またここに来い」

貝木「俺が本当の手作りクッキーって奴を見せてやるよ」

――――10分後

由比ヶ浜「頂きます……」パクッ

由比ヶ浜「ってこのクッキーおいしくない!」

貝木「そうか……ならば、このクッキー全て雪ノ下にくれてやろう」

雪乃「やめなさい」

由比ヶ浜「や……別にそこまでしないでもいいってゆーか……一応全部ちゃんと食べるし……」

貝木「それは殊勝な心掛けだ、まあこのクッキーは全て、由比ヶ浜のなんだがな」

由比ヶ浜「」

貝木「いいか?手作りクッキーに必要なのは美味しさじゃない」

貝木「むしろ味の悪い方が適している」

雪乃「それはどういう事?」

貝木「握手券って知ってるだろ?あんな悪徳商法に引っかかる人間がいるくらいだ」

貝木「人間は単純で、単細胞生物みたいな奴らばっかりなのさ」

貝木「…可愛い女の子が自分の為に作ってくれた手作りのクッキー」

貝木「不味さもインパクトがあっていいじゃないか」

貝木「他とは違った、味のある手作りクッキーを演出できる」

貝木「だからまぁ…そんな物以上に心が揺らぐものなんて金ぐらいしか無いんだ」

由比ヶ浜「最低ー!!けどカッキーも揺らぐの?」

貝木「あぁ揺らぐとも、なにせ他人から無償で、食べ物を貰えるのだからなぁ」

貝木「ただより高い物はない」

由比ヶ浜「ふぅーん…そういうものなんだ」

雪乃「で?由比ヶ浜さんはどうするの?」

由比ヶ浜「うーん…自分なりのやり方でためしてみることにするよ!」

由比ヶ浜「ありがとうね、雪ノ下さん!それとカッキーも!」

――――数日後

雪乃「本当に良かったのかしらね…先週の由比ヶ浜さんの依頼…」

貝木「別に良かったんじゃないか?」

雪乃「……私は、限界まで挑戦するべきだったと思うのよ」

雪乃「それが最終的に、由比ヶ浜さんの為になるんじゃないかと…」

貝木「めでたい奴だな雪ノ下雪乃」

貝木「良い事を教えてやる、努力は人を裏切らないが、夢を裏切る事はあるんだぜ」

雪乃「え?」

貝木「夢なんて所詮、幾ら努力した所で実らない方が多い」

貝木「ただ、そこに努力したと言う事実が…そう、真実があれば慰めにもなるだろう」

貝木「自分の心に蓋をして、自分の気持ちに嘘をつく事ができる」

貝木「つまり今回の件からお前が得るべき教訓は……」

貝木「努力とは自分を慰める為の大義名分でしか無い――ということだ」

雪乃「甘すぎるわね…気持ち悪い」

トントンッ

由比ヶ浜「やっはろー!!」

貝木「帰れ」

由比ヶ浜「何でだし!?」

雪乃「由比ヶ浜さん、何か用かしら?」

由比ヶ浜「えっと…この間のお礼って言うか」

由比ヶ浜「クッキー作ってきたから一緒に食べよ?ゆきのん!」

雪乃「ゆきのん!?」

貝木「(こうして――――虚実入り交じる描写、有る事無い事織り交ぜて)」

貝木「(奉仕部のまちがった青春が始まる)」

アニメ一話分終わり

次は二話分

今日はおしまい

『動物の生態』

動物は基本、群れるものである。
無論、野生動物に限ったことではなく人間も同じである。

しかし俺に言わせてみれば、どうして安易に群れるのか、徒労を組むのかが謎で仕方が無い。どうかしている。
もっとも謎は謎でしかなく、俺が全く理解できないわけではないと、付け加えておくことを忘れる俺でもない。

ミルが満足した愚か者であるより、不満足なソクラテスである方を選んだように。
人間が群れなければ生きていけないと言うのなら、俺は人間でなくてもいい。

俺なんて奴がいればだが。

――――

平塚「なぜ君は生物のレポートで群れることを罪悪のように書いているんだ」

貝木「平塚も独身で群れていないではないか」

平塚「私は相手がいないだけだ……!」

貝木「ときに、平塚は現国の教師だったはずだ」

貝木「どうしてそのレポートを持っている?」

平塚「私は生活指導も兼任している、故に生物の先生に丸投げされたんだ」

平塚「で?これのどこが動物の生態なんだ?」

貝木「俺の観察と考察から導き出した結論だぞ」

貝木「それとも、元旦の初詣で命よりも大切な金を」

貝木「まるでゴミか何かのように手荒く放り投げる人間達の生態でも書けと言うのか?」

平塚「君は本当に捻くれ者だな……呆れて物も言えないよ」

貝木「それは嘘だな」

貝木「本当に呆れてしまったって奴は、目もくれず無視するもんだぜ」

平塚「……ところで君から見て雪ノ下雪乃はどう映る?」

貝木「脆い、だな」

貝木「雪ノ下雪乃は真っ直ぐ純粋で、嘘偽り無い、嘘みたいな性格をしている」

貝木「正しすぎると言うべきか……だから脆い、付け入る隙が有り余る」

貝木「なにせ正しすぎるのは、悪を知らなさすぎると言うことでもあるからな」

貝木「無智の智ならぬ無智の無智、だ」

平塚「そうか、非常に優秀な生徒ではあるんだが……」

平塚「世の中が優しくなくて正しくないからな、さぞ生きづらかろう」

貝木「俺もこの世を生きやすいと思ったことなんて一度もないさ」

貝木「自分の人生が安いと思ったことなら何度かあるがな」

平塚「……私は、君たちがうまく社会に適用できそうにない所が心配だよ」

平塚「だからつい、君たちを一箇所に集めておきたくなる」

貝木「さしずめ、奉仕部はサナトリウムというわけか」

平塚「そうかもな……しかし君たちは見ていて面白い」

平塚「だから私の手元に置きたいだけ、かもしれんな」

――――昼休み

貝木「(この日俺は、昼食を自分の教室で取っていた)」

貝木「(突然雨が降ってしまったのだ…降水確率が20%だったにも関わらず、だ)」

貝木「(その為に、お気に入りの場所が使えず、敢え無く教室を使わざるを得なかった)」

貝木「(しかし、天気予報はあてにならんな)」

貝木「(あんな詐欺まがいのサービスを提供し続けるTV業界は問題がある)」モグモグ

由比ヶ浜「あの……私ちょっと、お昼休み行くとこあるんだ」

三浦「そーなん?ならレモンティー買ってきてよレモンティー!」

三浦「あーし、飲み物持ってくるの忘れてさ」

由比ヶ浜「…けど私、戻ってくるの5限になってからっていうか」

由比ヶ浜「お昼まるまるいないから、それはちょっとどうだろ……みたいな?」

三浦「はぁ…?なにそれ?そういえば結衣、最近付き合い悪いよね?」

三浦「それとなんか関係でもあんの?」

由比ヶ浜「それは……やむにやまれぬと言うか、私事で恐縮ですと言うか…」

三浦「それじゃわかんないんだけど?言いたいことあるんでしょ?」

由比ヶ浜「ご、ごめん……」

三浦「ごめんじゃなくてさ、はっきり言ってくれん?」

貝木「(身内同士の争いか?愚かだな、見苦しいの一言に尽きる)」モグモグ

貝木「(…………さて、自問自答だ)」

貝木「(今、由比ヶ浜結衣の為に、無償で助けてやる気持ちがあるか……)」

貝木「(子犬のように怯えきったあの小娘を見てられないという気持ちが俺にはあるか……)」

貝木「(NOだ、絶対にない、むしろ遠巻きに見ている方が楽しいまである)」

貝木「(ならば、キャンキャン吠えているあの女を黙らせるために、俺は無償で何かできるだろうか)」

貝木「(NOだ……まずあの女は誰だ)」

貝木「(ならば、由比ヶ浜結衣を助けたあと、平塚に報告するのは?)」

貝木「(目障りな人間の地位が低下し、相対的に俺の地位が向上するのは自明の理)」

貝木「(これらを踏まえて、俺は無償で由比ヶ浜結衣を助けてやることができるか……)」

貝木「(YESだ)」ガタン

貝木「その辺にしたらどうだ?お前の友達が怯えきってるじゃないか」

貝木「それと、女王様気取りの振る舞いは友達を減らすことに繋がるぞ?」

貝木「まぁどう思ってくれてもいいさ、お前の友達が減ったところで、俺が損する訳じゃないからな」

三浦「は、はあ!?急に何言ってんの!?意味分かんないんだけど!」

貝木「意味が分からないのなら、お前はその程度の人間だったということだ」

三浦「……さっきからうっさい!!」

葉山「まあまあ、二人共落ち着いて?」

三浦「ふんっ!!」

――廊下

雪ノ下「らしくないことをするのね」

貝木「俺にメリットがあると思ったから助けただけだ」

雪ノ下「そう……ただ、貴方が助けなくても、私が割って入っていたわ」

貝木「遅れたくせに何を言う?そういうのを負け惜しみって言うんだぜ」

雪ノ下「知らないの?ヒーローは必ず遅れてくるものなのよ」

貝木「(……食えない女だ)」

由比ヶ浜「ね、ねえカッキー///さ、さっきはその…ありがとね?」

雪ノ下「お礼は済んだかしら?それじゃあ部室に行きましょう」

由比ヶ浜「う、うん!じゃあねカッキー!」フリフリ

貝木「(平塚に報告してくるか……多少、脚色してもバレやしないだろう)」トコトコ

きょうはおしまい
つぎはたぶん2じくらい

――放課後、奉仕部前

貝木「お前たち、そこで一体何をしているんだ?」

由比ヶ浜「わ、わぁ!?」

雪ノ下「い、いきなり声をかけないで貰えるかしら…!」

貝木「もはや声掛けすら許されないのか」

貝木「(挨拶をして事案になる男の気持ちってこんなんだろうなぁ…)」

由比ヶ浜「ち、違うよ!その、部室に不審人物がいたから、つい!!」

貝木「不審人物……?」ガラ

材木座「待ちわびたぞ……!貝木泥舟……!!」

貝木「どちら様ですか?」

材木座「我を忘れたというのか!見下げ果てたぞ!相棒!」

由比ヶ浜「相棒って言ってるけど?」

材木座「そうだ相棒!貴様も覚えているだろう!地獄のような時間を共に駆け抜けた日々を…!」

貝木「体育でペアを組まされたかもしれないな」

貝木「で、何の用なんだ、材木座?」

雪ノ下「やっぱり貴方の知り合いなんじゃない!」

材木座「我は奉仕部に依頼があり、ここへ参ったのだ!」

材木座「平塚教諭曰く、奉仕部は我の願いを叶えてくれると言うではないか!」

雪ノ下「私たちは貴方の願いを叶えるわけではないの、ただお手伝いをするだけよ」

雪ノ下「とにかく、依頼の内容を教えてもらえるかしら?」

材木座「う、うむ……我の依頼は、自作の小説を読んで、感想を聞かせてほしいというものだ」

貝木「小説家になりたいのか?」

材木座「勿論だ!なのでこの度、ライトノベルの新人賞に応募しようと思ってな」

材木座「だが友達がいないので感想も聞けないのだ……」

雪乃「さらりと悲しいことを耳にしたような……」

由比ヶ浜「ネットの投稿サイトとかでいいんじゃない?」

材木座「それは無理な相談だ、あやつらは酷評ばかりするからな」

材木座「多分、我が死んでしまう」

由比ヶ浜「心弱すぎ!」

雪乃「……わかったわ、貴方の依頼を受けましょう」

材木座「おぉ!感謝する!」

――翌日、放課後

材木座「さて、では感想を聞かせてもらうとするか」

雪乃「ごめんなさい……私にはこういうのはよくわからないのだけれど」

材木座「構わん!好きに言ってくれたまえ!」

雪乃「……つまらなかったわ、想像を絶するほどのつまらなさよ」

雪乃「まずこのルピは何?例外の方が多い規則と書いて『アンリミテッドルールブック』?」

雪乃「これ、どこから来たのかしら?」

材木座「さ、最近のライトノベルはルピに特徴があって……!」ガクガク

雪乃「それと、文法もめちゃくちゃね」

雪乃「小学校の低学年からやり直したほうがいいと思うわ」

雪乃「最後に、完結していない物語を人に見せるのはどうかと思うわ」

雪乃「まず一般常識から身につけましょうね」ニッコリ

材木座「ぁ……!ぁ……!!」ガクガク

材木座「そ、そこのお主……!お主も感想を聞かせてくれ……!」

由比ヶ浜「え、えっと…難しい漢字いっぱい知ってるんだね!凄いよ!」

材木座「」

貝木「安心しろ、大事なのはイラスト、内容は二の次だ」

貝木「中身が薄くとも、有名なイラストレーターが担当すれば売れる安い商売だからな」

材木座「」

雪ノ下「これで依頼は完了ね」

材木座「また……自作の小説を持ち込んでいいだろうか?」

由比ヶ浜「ドMなの……?」

雪乃「別にいいけれど、酷く言われてまだやるのかしら?」

材木座「無論だ!酷評されはしたが、我は感想を聞けて嬉しかったのだ」

貝木「(……酷評ばかりされたはずだ、誰も、そこまで褒めてやしない)」

貝木「(なのに――嬉しいと、こいつもまた興味深いな)」

貝木「(好奇の目で見ざるを得ない)」

材木座「また、読んでもらえるか…?」

貝木「あぁ、依頼してくるなら、また読むぜ」

材木座「そうか!なら新作ができたら持ってくる……!さらばだ……!」

――翌日、昼

由比ヶ浜「あれ?カッキーじゃん!なんでこんなところにいんの?」

貝木「見ればわかるだろう?昼食を取っているんだ」

由比ヶ浜「え?なんで?教室で食べればいいじゃん」

貝木「……ここは俺のお気に入りの場所なんだ」

貝木「そう安々と、変えられん」

由比ヶ浜「ふーん?」

貝木「それより、お前はなぜここに来たんだ?」

由比ヶ浜「えっと、ゆきのんとじゃけんで負けてさ!罰ゲーム?で来たんだよ!」

貝木「俺と会話することが罰ゲームなのか?」

由比ヶ浜「そんなわけないじゃん!カッキーは感じ悪いなぁ」

貝木「冗談だ、どうせジュースかなにか買ってこいと命令されたんだろ?」

由比ヶ浜「うん!」

由比ヶ浜「あっそうだ……カッキー、入学式のことって覚えてる?」

貝木「突然どうした?」

由比ヶ浜「いやーちょ、ちょっとね!気になるっていうか!」

貝木「あいにく、入学式の日は交通事故に遭ってしまってな」

由比ヶ浜「事故……それってさ……」

貝木「詮索しても無駄だぞ?あまり記憶が残ってないからな、何も答えられない」

由比ヶ浜「そ、そっか……」ホッ

貝木「(そういえば、事故の後、偉そうな黒服の人間が俺に謝罪しにきたな)」

貝木「(治療費と慰謝料を全額負担すると言っていたか、少し上乗せして了承したが)」

戸塚「あれ?由比ヶ浜さん?」

由比ヶ浜「おっ!彩ちゃんじゃん!よっす!!」

戸塚「よ、よっす///」

戸塚「由比ヶ浜さんと貝木君はここで何してるの?」

由比ヶ浜「な、なにもしてないよ!」

貝木「由比ヶ浜がパシリになっているだけだ」

戸塚「パシリ…?」

由比ヶ浜「ち、違うよ!!誤解しないで!ただの罰ゲームだし!」

由比ヶ浜「それで、彩ちゃんはもしかしてテニスの練習?大変だね」

戸塚「好きでやってることだから苦にならないよ」

戸塚「そういえば、貝木君ってテニス上手だよね?」

由比ヶ浜「そうなの?」

貝木「自分で上手だと感じたことはないが、不得意と感じたこともない」

戸塚「全然上手だよ!フォームが凄く綺麗だし!」

貝木「そうか、で、お前は誰だ?」

由比ヶ浜「えっ……?同じクラスなのに知らないの?」ヒキッ

貝木「(クラスメイトだったのか……)」

貝木「俺は女生徒との親交が極端に少ないからな、仕方がない」

貝木「(男子生徒との親交もないまである)」

戸塚「ぼ、僕男の子だよ///」

貝木「……俺は騙されないぞ」

――――

体育教師「お前らー!二人組を作れ!!」

戸塚「貝木君!!今日、いつもペア組んでる子がお休みしてるんだ」

戸塚「よかったら、僕と組まない?」

貝木「いいぞ、俺も一人、手持ち無沙汰でどうするかなと思っていたところだ」

戸塚「あ、ありがとう///」

~~数分後~~

戸塚「やっぱり貝木君はテニス、上手だね!」

戸塚「もしかして経験者だったりするの?」

貝木「いや」

戸塚「そっか…あの、ちょっと貝木君に相談があるんだけど」

貝木「相談?」

戸塚「うちのテニス部、すっごく弱くて人数が少ないんだ……」

戸塚「だから、貝木君さえ良ければ、テニス部に入ってくれないかな?」

貝木「ふむ……」

貝木「(本来なら断るが…入部を口実として奉仕部から退部できれば…)」

貝木「(なおかつ、テニス部にも入部せず、そのまま雲隠れすれば俺の一人勝ちだ)」

――――奉仕部

雪乃「夢物語を語るのはやめなさい」

雪乃「貴方に集団活動ができるわけないでしょう?無理なものは無理なのよ」

雪乃「たとえテニス部へ入部しても、貴方みたいな人間が歓迎されると思って?」

雪乃「排除されることはあって、歓迎は絶対にないわよ」

貝木「酷い言い草だな……」

雪乃「そう?一応私の経験に基づいたアドバイスなのだけれど?」

貝木「ほう?」

雪乃「私帰国子女なのよ、中学生の頃編入したのだけど、学校中の女子は私を排除しようとしたわ」

雪乃「誰一人として、私に負けないように、自らを高めようとする人間はいなかった」

雪乃「あの低脳ども……!」ワナワナ

貝木「はぁ……戸塚の為にもどうにかならないのか?」

雪乃「らしくないわね……何か裏がありそうだわ」

貝木「裏も表もない、初めて他人に頼られたから舞い上がっているだけだ)」

貝木「(感の鋭い女め……)」

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