小橋若葉「これがうさぎ小屋ですか?」チノ「いいえ、ラビットハウスです」 (33)


【わかば*ガール】×【ご注文はうさぎですか?】


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―木組の街―

萌子「わぁぁ。綺麗な街だねー」

真魚「本当だねー。もう日本じゃないみたい」

直「異国情緒漂うって感じだよな」

萌子「若葉ちゃんもそう思うよね?」

若葉「そうですか? 前に家族で行ったフランスの地方の街並みに似ていて新鮮味がありませんわ」

直「このセレブがっ!

若葉「でも、今回は皆さんと一緒なので前よりもずっと素敵な景色に見えます!」

萌子「若葉ちゃん……」

若葉「ああ、まるで天国に来たかのよう」

若葉「もう何も……思い残すことはありませんわ」フラリ

真魚「ちょ、若葉ちゃん!?」

萌子「若葉ちゃん大丈夫!?」

直「おい待て! 死ぬな! 戻って来い!」

萌子「なあんだ、おなかが空いてただけだったんだ」

若葉「ええ。みんなとお出かけするのが楽しみ過ぎて、朝食が喉を通らなかったもので」

直「それ普通逆じゃないのか?」

真魚「そんなことより見てみて。うさぎがたくさんいるよっ」


ぴょんぴょんっ


萌子「わぁ~。可愛いねぇ」

若葉「この街には野生のうさぎさんがたくさん棲んでいるそうです」

直「へぇ」

萌子「わ、こっちに寄って来たよ」

若葉「人に慣れているのですね」

真魚「柴さん、動物好きそうだし、なでてみたら?」

直「それ柴犬からの連想か」

真魚「あったりー☆」

直「別に特別好きってわけでは……」

ぴょこぴょこ

直「お……」

萌子「あ、柴さんのほうに近づいてきたよ」

若葉「きっと柴さんになでてもらいたいのですわ」

直「……そ、そうなのかな」ナデナデ

萌子「わー、気持ち良さそうだねー」

真魚「そのままだっこしてあげたらどう?」

直「え、嫌がらないか? 噛んだりしない?」

若葉「とてもおとなしそうなので、きっと大丈夫です」

直「そ、そうか」ひょい

直(わ、すごいもふもふしてる。……か、可愛いな)

若葉「ほほえましい光景ですわね」

萌子「柴さん、何だかその子のお母さんみたい」

真魚「確かに。柴さんがまるで女の子のように見えるっす」

直「ボク……わ、私は最初から女だっ」

直「ほら、もういいから。今度はお前が抱いてやれよ」

真魚「まおはいいっす」

直「何でだ? 意外と動物苦手なのか?」

真魚「だって~野良のうさぎっすよ。何かビョーキとか持ってたらヤだしー」

直「お前なあ……」イラッ

萌子「おなかも空いてきたし、何か食べに行こうか」

若葉「それがいいですわ。私ももうペコペコで、今ならご飯三杯はいけますわ!」

直「喉を通らないんじゃなかったのか?」

真魚「若葉ちゃんって食べてもあんまり太らなそうだから羨ましいなー」

萌子「あ、見て。あそこにクレープの屋台があるよ」

若葉「金髪の女の子が売り子をしていますわ」

真魚「クレープのいい匂いがこっちまで。まおもクレープ食べたいなー」

直「いいけど、自分で金払えよ?」

シャロ「いらっしゃいませ♪」キラキラキラ

シャロ「ご注文は何になさいますか?」ニコッ


直「一分の隙もない営業スマイル! 気品漂う優雅な身のこなし!」

真魚「背景が金色に輝いて見えるっす!」

若葉「何だかとってもギャルっぽい!」

萌子「ギャルっていうか、お嬢様みたいな感じじゃないかな?」

若葉「写真を撮らせてもらってもいいですか?」

シャロ「え、いや……すみません、お客様、そういうのはちょっと……」

若葉「ちょっとならいいんですね!」パシャパシャパシャパシャ

シャロ「ちょっとぉ~!?」

萌子「若葉ちゃん、撮り過ぎ!」

直「そもそも許可もらってない!」

真魚「店員さーん、まおはこのカフェモカゼリー&生クリームで」

――――
――

若葉「ふふ、たくさん撮らせていただきましたわ」

萌子「よかったね、若葉ちゃん。ちゃんと許可をもらえて」

シャロ「ギャルが好きって……変わった子ね」

直「ああ。変わってるけど、悪い奴じゃないんだ」

真魚「今回は柴さんに免じて許してあげてー」

直「何で私なんだよ」

シャロ「いえいえ、別に怒ってるわけじゃないし」

若葉「写真を撮らせていただいてありがとうございます。えっと……」

シャロ「あ、私? シャロよ」

若葉「シャロさん。クレープも、とてもおいしかったですわ。ごちそうさまでした」

シャロ「いえいえ、どういたしまして」

若葉「これ、少ないですが……チップです」つ札束

シャロ「えっ」

若葉「受け取ってください」ズイ

シャロ(お、お札の……束が……こんなに……)ガクガク

若葉「さあ」ズイズイ


シャロ「こ、こんな大金、受け取れましぇぇぇん――――っ!!」

――――
――

シャロ「へぇ、この街に観光に来たの」

萌子「そうなんだー。綺麗な街だって観光ガイドに紹介されてて、一度来てみたかったの」

若葉「シャロちゃん、お店のほうはもういいのですか?」

シャロ「いいのよ、今日のバイトの時間はもう終わりだし」

直「女子高生でバイト掛け持ちして生計立ててるって凄いなー」

真魚「シャロちゃんってお嬢様みたいな雰囲気あるけど、意外と庶民派なんすね」

シャロ「え、ええ……そうね」

真魚「これからどこ行く~?」

直「何かあんまり歩くのも疲れるから、どっか座れる場所でゆっくりしたいな」

真魚「柴さん、年寄り臭いっすよ」

若葉「シャロちゃん、この街のお薦めの場所があったら教えてもらえませんか?」

シャロ「そうねえ、いろいろあるけど。どういう所に行きたいの?」

若葉「ギャルの聖地とか!」

シャロ「聖地!?」

萌子「私はどこか、木組みの建物に入ってみたいなー。中がどんなふうになっているのかも見てみたいし」

真魚「ゆっくり座れてギャルのいる木組みの建物っすか。シャロちゃん、心当たりある?」

シャロ「そうねえ」

シャロ「じゃあ、この近くにあるコーヒー専門の喫茶店なんてどうかしら。私、帰りに寄ろうと思ってたから案内してもいいわよ」

萌子「喫茶店かあ」

真魚「それ、いーっすね。ちょうど小腹も空いてきたとこだし」

直「さっきクレープ食べたばかりだろ。でもまあ、この時間帯ならそんなに混んでないだろうし。専門店のコーヒーを味わうってのもいいか」

若葉「ギャルは? ギャルはいますか?」

シャロ「うーん、ギャルかどうかは分かんないけど……私の友達が働いているわ」

若葉「それは楽しみですわ!」

萌子「お店の名前は何ていうの?」

シャロ「ラビットハウスよ」

―ラビットハウス―

若葉「これがうさぎ小屋ですか?」

チノ「いいえ、ラビットハウスです」

若葉「……」キョロキョロ

若葉「うさぎがどこにもいませんわ」

チノ「……」

若葉「うさぎ小屋みたいにこぢんまりとしていて可愛らしいお店ですわね」

チノ「……」

若葉「い、いえ! 今のは決して狭いというわけではなくて! 決して!」

チノ(何だこの客……)

ココア「いらっしゃいませー♪」

ココア「あれ、チノちゃん。どうしたの?」

チノ「いえ、何でもないです。よく考えたらココアさんのほうがもっと変わった客でした」

ココア「ふぇ? それどういう意味~?」


リゼ「いらっしゃいませ! って、シャロじゃないか」

シャロ「お客さんを連れてきました。さっき出合ったんですけど、この街に観光に来たそうで」

萌子「わあ、素敵なお店だねー」

真魚「シックな感じって言うのかな? 雰囲気あるねー」

直「良かった、空いてるみたいだな。待たないで済む」

リゼ「ラビットハウスにようこそ。どうぞお好きな席へ」

萌子「どこの席にする?」

直「窓際より奥の方がいいな」

真魚「ここでいいんじゃない? まおはこの席で」

直「じゃ、私はここで」

萌子「あれ、若葉ちゃんは?」


ココア「若葉ちゃんもティッピー触ってみる? もふもふだよっ」

若葉「はい。ほ、本当にもふもふですわっ」

もふもふもふもふ

ココア「あはははははっ」

若葉「うふふふふっ」

ティッピー「こ、こりゃ、くすっぐたい~~♪」

直「意気投合すんの早! つか何だあの白いの!?」

リゼ「あれは毛玉だ」

チノ「アンゴルモアウサギのティッピーです」

萌子「あれ、気のせいか、さっきあのうさぎさんが喋ったような……」

真魚「たぶん気のせいっすよ……」

シャロ「この子の、チノちゃんの腹話術なのよ」

直「腹話術!?」

チノ「は、はい……」

真魚「レベル高過ぎ!」

――――
――

萌子「すごーい。やっぱりシャロちゃんってお嬢様だったんだ」

リゼ「ああ、私の可愛い後輩さ」

シャロ「か、かわっ……!」

真魚「お、シャロちゃん照れてる?」

シャロ「べ、別に照れてるわけじゃっ……」カァ

直(わー、可愛いなー。くそう……なんか、くそう)

若葉「後輩ということは、リゼさんは年上なのですか?」

ココア「うん、リゼちゃんは私たちよりいっこ上なんだ」

真魚「ココアちゃん、先輩相手にちゃん付けで呼んでるの?」

ココア「そうだよ~。リゼちゃんはやっぱり『リゼちゃん』って感じだよねー」

シャロ「いや、その理屈は分からないけど」

リゼ「まあ、別に私も悪い気はしないぞ。ちょっと馴れ馴れしいかも知れないけど」

リゼ「誰に対しても好意的で、ひとの気持ちに寄り添える。そういうのがココアのいい所だと思う」

ココア「リゼちゃん……」

シャロ「リゼ先輩……」

直「おおー」

萌子「わあー」

リゼ「な、何だ? 私何か恥ずかしいこと言ったか!?」カァ

真魚「いやいや、なんだかいいなーって」


チノ「ご注文の品をお持ちしました」

若葉「わぁぁぁ」

真魚「えー、何これ!」

直「コーヒーの上に……絵?」

萌子「これ、ラテアートだね」

若葉「ラテアート?」

チノ「コーヒーの表面に泡立てたミルクで絵を描くことです」

リゼ「うちの店ではサービスでやってるいるんだ」

真魚「すごーい! ミルクでこんなのが描けるなんて」

直「でもこれ何の絵なんだ? 抽象画?」

シャロ「私にもよく分からないわ」

ココア「ティッピーだよね、チノちゃん」

チノ「はい、そうです」

ティッピー「え、わし?」

萌子「どうして分かるの?」

ココア「チノちゃんのことなら何だって分かるよ。だって私、チノちゃんのお姉ちゃんだもんっ」

真魚「え、二人は姉妹なんすか?」

チノ「違います。他人です」

ココア「ばっさり!? も~、チノちゃんつれない~」ぎゅ~

チノ「ちょ、ココアさん、あんまりくっつかないでください。鬱陶しいですっ」

チノ(本当の姉妹ではないですが……もう、大切な家族ですよ。ココアさんは)

萌子「二人とも仲いいんだねー」

真魚「ほっこりするっすねー」

若葉「素敵ですわ! 私もラテアートを体験してみたいです」

ココア「じゃあ若葉ちゃんもやってみる? 私がやり方を教えてあげるよ」

若葉「はい! コーヒーメーカーはあちらですね!」ガタッ ダッ

直「おい落ち着け若葉ー」

真魚「先に出してもらったコーヒーを飲まないと冷めちゃうっすよー」


ココア「こうやってー、それで、こんなふうに」

若葉「ふむふむ」

シャロ「あの子って、いつも好奇心旺盛ね」

萌子「若葉ちゃんも、家がお金持ちのお嬢様でね。ずっと箱入り娘で過ごしてきて」

リゼ「そうなのか」

チノ「……」

千夜「……」

直「それで知らないことが多くて、何にでも興味持って突っ走っちゃうって感じだよな。とくにギャル関連で」

シャロ「そうそう、それよね。また何でギャルに憧れてるの?」

真魚「前に若葉ちゃんがぽろっと言ったんだけど、本当は『ギャル』じゃなくて『普通の女の子』になりたかったんだって」

リゼ「普通の女の子……」

萌子「きっと普通の女子高生のように、友達とお喋りしたり、遊びに行ったり、一緒に勉強したり」

萌子「そういう何でもない毎日を送ることが、若葉ちゃんの願いだったんだと思う」

シャロ「なるほどね」

リゼ「分かるぞ、その気持ち。そして、その願いはきっと叶ったんだろうな」

シャロ「そうじゃなきゃ、あんな楽しそうな顔しないわ。素敵な友達を持ったわね」

萌子「素敵な……」

直「友達……」

真魚「いや~、何だか照れるっす」

チノ(素敵な友達)

チノ(私もなかなか人と上手く喋れなくて、人づきあいが苦手でした)

チノ(そんな私を快く受け入れてくれたマヤさんとメグさん)

チノ(リゼさんやシャロさん、千夜さんたち……そして、ココアさん)

チノ(皆さんに出会ってからの毎日は、それまでよりもずっと楽しいものです)

チノ(若葉さんも、いい人達に出会えたんですね。良かったですね、若葉さん)

千夜「いい話だわ……」

シャロ「って千夜!?」

直「?」

リゼ「いつの間に店の中にっ」

千夜「結構前からいたんだけど、みんなお話に夢中で声を掛けづらくて。和菓子の宅配帰りに寄ってみたの」

萌子「和菓子の宅配?」

千夜「初めまして。千夜といいます。ココアちゃんと同じ学校に通ってるわ。うちは甘兎庵っていう甘味処でね」

リゼ「千夜は和菓子屋の若女将なんだ」

真魚「へぇー、すごいっすね! だから和服なの?」

千夜「ええ。お店の制服なのよ」

ココア「みんな、見てみて~。若葉ちゃんの描いたラテアートだよ。あ、千夜ちゃんも来てたのっ」

千夜「こんにちは、ココアちゃん。そちらが、若葉ちゃんね」

若葉「チヤさん、ですか? ごきげんよう」

千夜「あら、ごきげんよう」

萌子「若葉ちゃん、どんな絵を描いたの?」

直「どれどれ」

若葉「あまり上手くできなかったので、お恥ずかしいですが……」

シャロ「これは……」

リゼ「十字架か? 丸っこいが」

真魚「アメーバじゃないすか? それか柴さんの顔」

直「お前なあ」イラッ

千夜「ミルクがにじんでいるけれど、花びらのようにも見えるわね」

ココア「千夜ちゃん、近いよっ」

チノ(4枚の花弁だとして、よく見ると端に切れ込みが……ハートのような形)

チノ「もしかして、四つ葉のクローバー?」

若葉「正解ですわ!」

真魚「ああー、なるほど」

リゼ「確かに言われてみるとそう見えなくもないな」

萌子「でも若葉ちゃん、どうして四つ葉のクローバーを?」

若葉「えっと、それは……」

ココア「モエちゃんたちみんなのことを思い浮かべて描いたんだって」

萌子「え……」

真魚「私たち……」

直「四人をか?」

若葉「あの、その……これからもずっと四人一緒でいられるようにと……」

若葉「四つ葉のクローバーのように離れ離れにならないようにと……そういう願掛けといいますか」

萌子「若葉ちゃん」

若葉「モエちゃん、まおちゃん、柴さん。これからもよろしくお願いしますわ!」

萌子「うん、こちらこそ。よろしくね、若葉ちゃん」

真魚「よろしくっす、若葉ちゃん」

直「よろしくな、若葉」


千夜「やっぱりいいわね、友達って」

シャロ「そうね」

ココア「うんっ」

リゼ「ああ」

チノ「……」

ティッピー「……ふむ」

チノ「はい、そうですね」

――――
――


萌子「ごちそうさまでした。コーヒーもお料理もとってもおいしかったです」

リゼ「そう言ってもらえると光栄だ」

真魚「ええー、こんなにパンもらっちゃっていいの?」

ココア「うん。たくさん焼いたから、お土産。みんなで食べて」

真魚「じゃ、遠慮なくいただくっす!」

直「いやちょっとは遠慮しろよ」

千夜「帰りの時間は大丈夫?」

萌子「うん、まだ大丈夫だよ。若葉ちゃんの家の門限にも間に合うはず」

シャロ「ずいぶん門限が早いのね」

若葉「はい……」

萌子「どうしたの、若葉ちゃん。浮かない顔して」

若葉「今日は本当に楽しい一日でしたわ。ココアちゃんたちとも仲良くおしゃべりできて」

若葉「もう別れなければならないと思うと……本当に名残惜しくて」

チノ「若葉さん」

若葉「チノちゃん?」

チノ「私も、皆さんとお話できて、楽しい一日でした。是非またうちに来てください。ラビットハウスはいつでも、ここにありますから」

ココア「そうだよ。絶対また会えるよ。私たち、もう友達だもんっ」

若葉「と、友達……。ココアちゃんたちとも、私は友達になれたのですか?」

ココア「もちろんだよ」

シャロ「あらためてよろしく、若葉」

リゼ「元気でな、若葉」

千夜「今度は甘兎庵にもぜひ寄ってちょうだいね。若葉ちゃん」

萌子「よかったね、若葉ちゃん。友達が増えて」

若葉「……み、みなさんっ……うぅ……」ぽろぽろ

直「おいおい泣くなって」

若葉「ありがとうございます……私、私……こんなに嬉しいことはありません」

若葉「本当に……幸せです」


直「それじゃ、そろそろ」

真魚「お暇するとしますか」

萌子「またね、みんな」

ココア「またね、若葉ちゃん。絶対にまた会おうね。約束だよ」

若葉「はい。約束です……ココアちゃん、チノちゃん、シャロちゃん、リゼさん、千夜ちゃん」

ココア「……」

チノ「……」

シャロ「……」

リゼ「……」

千夜「……」


若葉「ごきげんよう」





こんな小さな幸せが

ずっとずっと続きますように




                                        (おしまい)

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