500円玉「硬貨の中で一番偉いのは私だろうな」100円玉「聞き捨てならねえな」 (45)


500円玉「……」

100円玉「どうした、500円玉?」

500円玉「硬貨の中で一番偉いのは誰なんだろう、と考えていたのだ」

100円玉「妙なこと考えるんだな。で、結論は?」

500円玉「それはもちろん、私だろうな」

100円玉「――む。そりゃ聞き捨てならねえな」

500円玉「なぜだ?」


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100円玉「なぜだはこっちのセリフだよ! どうしてお前が一番偉いって結論になったんだよ!」

500円玉「そんなもの決まってるだろう」

500円玉「現在、日本の硬貨は500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉があるが」

500円玉「その中でもっとも額が大きいのは私だからな」

500円玉「しかも、二位のお前に五倍もの差をつけた圧倒的なトップだ」

500円玉「硬貨で一番偉いといって差し支えはないだろう」

100円玉「いーや、納得いかねえな!」

500円玉「なに?」


100円玉「額がでかいから一番だと? 子供じゃないんだから、そんな単純な話があるかよ」

500円玉「ほう……ならばなにを基準にしろと?」

100円玉「硬貨ってのはある種の道具だ」

100円玉「となりゃ、その偉さ、地位の基準にするには、“使いやすさ”を基準にすべきだろうよ」

500円玉「ほう……で、お前の基準だと誰が一番偉くなると考える?」

100円玉「この俺に決まってんだろ!」

500円玉「……なんだと?」


100円玉「100円ショップ! ゲームセンター! 自販機! エトセトラ!」

100円玉「俺が役に立つ場面は多いぜぇ~?」

100円玉「500円玉なんかより、よっぽど使いやすいってもんだ!」

100円玉「硬貨の代名詞といっても過言じゃない!」

100円玉「コインロッカー使いたいのに500円玉しかなく、しかも両替できる場所もなかったら」

100円玉「どうしようもないもんな! 泣く泣く荷物を持っていくしかねえ!」

100円玉「きっとそいつはこう嘆くだろうよ! なんで500円しかないんだ、ってな!」

500円玉「うぐぐ……」

100円玉「ってわけで、俺が硬貨で一番偉いってこった!」

50円玉「おやおや、それはどうでしょうかねえ?」

100円玉「50円玉!? なんでお前が出てくるんだ!」


50円玉「100円玉が硬貨の代名詞? 笑わせてくれますねえ」

100円玉「なんだと!?」

50円玉「たしかに昔はあなたが一時代を築いたことがあったかもしれません」

50円玉「しかし、今のあなたはもはやかつての力はありません」

50円玉「100円ショップといったって、実際には消費税がかかりますし、100円以上の商品も多いです」

50円玉「それに……自販機のジュースもあなた一枚じゃ買えなくなってるじゃないですか!」

50円玉「ちなみにすぐそこにある自販機では……ペットボトル飲料が150円でしたかねえ」

100円玉「む、むぐ!」

50円玉「今のあなたは、私がいなければ何もできない存在なのですよ!」

50円玉「このパラサイトシングルが!」

100円玉「な……! ふざけ――」

10円玉「ちょっと待ってもらおうか」


100円玉「なんだよ、10円玉。お前ごときに出る幕はねえぞ」

50円玉「その通りです。とっとと去りなさい」

10円玉「いや、そうもいかぬ」

10円玉「吾輩を差し置いて、一番偉い硬貨を決めるなど、あってはならんことだ」

500円玉「笑わせる! 私の1/50の価値しかないお前がなぜ一番偉いのだ!?」

10円玉「決まっている。吾輩たちを使う人間にとって、一番の宝物とはなんだ?」

10円玉「未来を担う子供だ」

100円玉「まあ、そうかもしれねえな」

50円玉「ですが、それとあなたとどう関係があるのです?」

10円玉「簡単なことだ。子供にとって最も身近な硬貨は、この吾輩」

10円玉「なぜなら駄菓子は10円や30円といった商品が多いからな」

10円玉「つまり未来を築く子供たちを育てる吾輩こそが、最も偉大な硬貨といえるのだ!」


100円玉「ふん、それはどうかねえ」

10円玉「なに?」

100円玉「今時の子供は駄菓子なんて買わねえよ」

50円玉「みんな、ポッキーだとかチョコパイだとかカントリーマアムとか、そういうのに夢中ですよ」

500円玉「うむ、今は高級なお菓子の方がウケる時代だ」

100円玉「オメーの出る幕はねーんだよ」

10円玉「……!」

10円玉「そんなことはない! 今の子供だって駄菓子は大好きなはずだ!」

10円玉「コンビニやスーパーで駄菓子コーナーを設けてるところは多いしな!」

10円玉「それに吾輩は公衆電話でも使えるしな! 緊急時にも役に立つ!」

100円玉「へっ、公衆電話なら俺だって使えらぁ!」

10円玉「むむむ……」

100円玉「ぐぐぐ……」

5円玉「……一番偉い硬貨は僕だ」


100円玉「5円玉! 笑わせるな、なんでお前なんかが!」

10円玉「その通りだ。おぬしにこの議論に立ちいる資格はない!」

5円玉「だけど、神社の賽銭で“ご縁がある”ということで5円玉を使うのは鉄板ネタだ」

500円玉「だが、それぐらいではないか!」

50円玉「どうしても5円玉じゃなきゃ……なんて場面は他にないじゃないですか」

5円玉「だけど……ご縁がある」

100円玉「いやだから――」

5円玉「ご縁が……ある!!!」

500円玉「ぐううっ!?」ビクッ

100円玉(こいつ、なんて迫力!)

50円玉(ご縁がある、でゴリ押そうとしている!)

10円玉(まずい……このままでは5円玉が一番偉い硬貨にっ……!)


1円玉「おいおいお~い、オイラを忘れてもらっちゃ困るなぁ」

10円玉「1円玉!」

500円玉「なんの用だ。最も額の少ないお前が出てきても、恥をさらすだけだぞ」

1円玉「そんなことないさ。だってオマエさんたちはみんなオイラのおまけなんだからね」

50円玉「どういうことです?」

1円玉「たとえば99円の商品を、100円で買ったらお釣りはいくら?」

100円玉「んなもん、1円に決まってんじゃねえか」

50円玉「小学生でもできる計算です」

1円玉「じゃあさ、もしオイラがいなかったら、釣り銭はどうする?」

100円玉「あ……」


1円玉「釣り銭はなしにするか、あるいは5円玉を払うしかない。どっちにしろいびつな取引になる」

1円玉「極端な話、オイラさえいれば他の硬貨なんていらないんだよ」

1円玉「だけどそれじゃオイラをいっぱい持ち歩くことになって不便だから、あんたらも要るってだけ」

1円玉「だからオイラが一番偉いってわけさ!」

100円玉「なんだと~!?」


500円玉「いいや、それは違う! 一番偉いのは額が大きい私だ!」

100円玉「いや、最もポピュラーなこの俺だ!」

50円玉「500円、100円の時代は終わりです。これからは私の時代……」

10円玉「子供に人気のある吾輩こそが、一番偉いのだ!」

5円玉「ご縁がある!!!」

1円玉「だーかーらー、オイラがいなきゃ細かい釣り銭を出せなくなっちゃうでしょうよ」


ワーワー! ギャーギャー!


500円玉「……まあ待て。こうしてそれぞれ好き勝手にプレゼンテーションしてても埒があかん」

50円玉「たしかに……。“何で勝負を決めるか”を設けないといけませんね……」

10円玉「ならば見た目の美しさで勝負といかないか?」

100円玉「おもしれえ。見た目の美しさで一番といややっぱり――」

500円玉「私だ」


500円玉「このドッシリしたフォルム、五輪メダルのような重量感、どれととっても美しい」

500円玉「まさに硬貨の王、キング・オブ・コインに相応しいではないか」

100円玉「なーにいってやがる。ただうすらでかいだけじゃねえか」

500円玉「ぬう!?」

50円玉「無駄に大きいですし、偽造防止のためとはいえ意匠が凝りすぎてるところもありますね」

10円玉「ローカルな大会の記念メダルといった風情だ」

1円玉「あー分かる。あのもらっても大して嬉しくない、処分に困る感じの!」

500円玉「ぶ、無礼な! 貴様ら……許さん!」

100円玉「ってわけで、一番美しいのはやっぱり――」

1円玉「オイラだ」

100円玉「な!」


1円玉「500円玉のような無駄なでかさのない、無駄のない造形!」

1円玉「シンプルかつ分かりやすいデザイン!」

1円玉「オイラが硬貨で一番美しいといっても過言じゃないだろ?」

100円玉「ふん、シンプルといえば聞こえはいいが、ようは安っぽいんだよ!」

1円玉「む!」

500円玉「その通りだ。貴様には金が持つべき“重み”が足りん」

10円玉「安い! 薄い! 軽い! 三拍子揃っておるな」

50円玉「しかも、あなたは造れば造るほど赤字になると聞きます。とんだ厄介者ですよ」

1円玉「言いたい放題いいやがって~!」

100円玉「そろそろ決着つけようぜ。一番美しいのは――」

10円玉「吾輩だ」

100円玉「おい……!」


10円玉「銅によって彩られたこの茶色いボディ、そしてなによりこの平等院鳳凰堂!」

10円玉「明らかにおぬしら他の硬貨と一線を画している!」

10円玉「しかも、吾輩には通称“ギザ10”と呼ばれるレア物がいることは有名だ」

10円玉「ギザギザ姿の吾輩を追い求めるギザ10ハンターなる人種もおるという」

10円玉「つまり重厚さと希少さを兼ね備えた吾輩が、最も美しいということになる!」

100円玉「だけどさ……やっぱ茶色ってイメージ悪いよ」

50円玉「地味なんですよねえ……華がないですよ」

500円玉「うむ、硬貨たるものやはり明るい色をしているべきであろう」

1円玉「それにギザ10って自販機で使えなかったりするし、興味なきゃ不便なだけだもん」

10円玉「うぐぐぐぐ……」

100円玉「さてもういいだろ! 一番美しいのは俺なんだよ!」


100円玉「表面の美しい桜! 裏面の何も飾らない“100”という数字!」

100円玉「そして、側面のギザギザ!」

100円玉「パーフェクトだ!」

50円玉「ちょっと待って下さい。ギザギザなら私にもありますよ」

500円玉「私にもあるぞ!」

50円玉「あなたのギザギザは斜めなので美しくありません。黙ってて下さい」

500円玉「あうう……」


50円玉「私はギザギザに加えて、穴まであります! つまり私が最も美しい!」

100円玉「ふざけんな! てか、お前は横からだと俺に似すぎなんだよ!」

100円玉「財布に100円入ってる、と思ったら50円でガッカリした、なんて人は多いっていうぜ!」

50円玉「そ、そんなことはありませんよ!」

100円玉「それに穴なら5円玉にだってあるしなァ!」

100円玉「お前、オリジナリティなさすぎなんだよ!」

100円玉「俺がパラサイトなら、テメーはパクリ野郎だ!」

50円玉「なんですってぇ!?」

5円玉「美しさという点なら、僕も負けちゃいないよ」


10円玉「5円玉、おぬしは吾輩と同じぐらい、いやそれ以上に地味ではないか!」

5円玉「でも……現行の硬貨で古銭のおもむきがあるのは僕ぐらいだ」

500円玉「うむむ、まあ確かに……」

5円玉「それに……」

100円玉「それに?」

5円玉「ご縁がある」

100円玉「またそれか!」

5円玉「ご縁が……ある!!!」

500円玉(なんという威圧感!)

100円玉(これズルイって……! マジで……!)

50円玉(まずい、このままでは押し切られてしまう!)

10円玉(なんでもいいから主張しないと!)

1円玉(5円玉の勝ちになっちゃう!)


500円玉「一番偉いのは私だ!」

100円玉「俺だ!」

50円玉「私です!」

10円玉「吾輩だったら吾輩だ!」

5円玉「ご縁がある!!!」

1円玉「オイラだっていってんだろ!」

ギャーギャー! ワーワー!



「やれやれ、下々の輩が下らん争いをしているな」ピラッ


千円札「やめんか、仲間同士で争うのは」

500円玉「千円札……さん」

100円玉「なぜあなたがここに……」

千円札「財布殿から硬貨が争ってると聞いてな。見るに見かねて、止めに来たのだ」

千円札「なぁ?」

二千円札「非常に醜い争いだったネ」

五千円札「だけどなかなか面白かったわよ。ねえ、一万円札?」

一万円札「天は金の上に金を造らず、じゃよ。仲良くせんか」

50円玉(ぐ……これが紙幣!)

10円玉(やはり吾輩たちとは、貫禄が違う!)

5円玉「ご縁がある!」

1円玉(ひいいいい……)


千円札「どの硬貨が一番偉いか? 下らなすぎる議論だ」

千円札「お前たちは自分に自信がないから、そうやって争うんだ」

500円玉「おっしゃる通りです……」

100円玉「すみませんでした……」

千円札「我々紙幣のように、どっしり構えておけばそんな争いは起きない」

千円札「お前たちが我ら紙幣のような貫禄を持つにはまだまだ修行が足りないようだ」

二千円札「その通りだネ」

五千円札「ホント! 少しはアタシらを見習いなさいな」

一万円札「もっと学問すべきじゃよ」

千円札「でもまあ、紙幣で一番偉いのは誰かとなると、やっぱり私になるのかな」

他の紙幣「……」ピクッ


五千円札「なんでそうなるのよ!」

千円札「だって私が一番使いやすいじゃないか!」

五千円札「んなことないわよ! アタシのが使いやすいわ!」

千円札「ふん、千円札までしか対応してない自販機は数多いぞ! この樋口が!」

五千円「なんですってぇ!? この野口が!」

二千円札「一番偉大な紙幣……ワタシこそ相応しいネ」

千円札「なにいっている! このレアキャラが! 幽霊部員が!」

五千円札「ぶっちゃけアンタのこと、生で見たことないって人多いんじゃないの!?」

千円札「もう製造されてないってことだしな!」

二千円札「なんだト……!」

一万円札「天は金の上に金を造る……金の頂点はこのワシじゃ!」

千円札「聞き捨てならんな、福沢ァ!」

500円玉「あの、肖像画の方を呼び捨てにするのは失礼なんじゃ……」

千円札「うっせ! 黙ってろ! 硬貨風情が!」

500円玉「!」カチン


500円玉「いくら紙幣といえど、もはや我慢の限界だ!」

100円玉「おうよ! 下手に出ることはねえぜ!」

50円玉「こうなったら硬貨と紙幣の一大決戦です!」

10円玉「吾輩の平等院アタックを見せてくれるわ!」

5円玉「ご縁がある!!!」

1円玉「1円を笑う者は1円に泣くんだァ!」



ウオオオオオオ! ワァァァァァァ!

ドカッ! バキッ! ドカッ! ボゴッ! グシャッ!



「……おや?」


クレジットカード「なにやら騒がしいから、来てみれば……」

電子マネー「皆さんでスポーツでもしてらっしゃるの? お元気でいいわねえ」

クレジットカード「我々も見習いたいものだね」

アハハ…… ホホホ……



100円玉「……クレカと電子マネーだ」

千円札「新参者のくせに偉そうに……」

五千円札「あいつら、お上品を気取ってるけど内心腹黒いらしいわよ」

10円玉「吾輩らのような硬貨や紙幣に取って代わろうとしているという噂もあるからな」

1円玉「ふざけんな! オイラたちがあんな連中に負けられるか!」

二千円札「うむ、その通りネ」


500円玉「みんな、喧嘩なんかしてる場合じゃない!」

一万円札「硬貨と紙幣で同盟を組み、奴らに対抗するのじゃ!」

50円玉「我々の力を思い知らせてやりましょう!」

5円玉「ご縁がある!!!」


ウオーッ! オオオオーッ!



財布「あれだけいがみ合ってたのに天敵のクレカと電子マネーを見たとたん、一致団結しやがった」

財布「まったく……現金な奴らだ」








― 終 ―

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