フレンズは繁栄しました【人退×けもフレ】 (347)

 サバンナでした。

 見渡す限りのサバンナでした。

「……やってしまいました」

 わたしは痛む頭を抑え、ひとまず状況を整理します。

「大丈夫かしら、あなた」

「ええ、大丈夫です、はい」

 わたしを気遣ってくれるのはたまたま遭遇したライダースーツらしきものを着用したお姉さんだけです。それも、

「ううん……、あなた、私と同じかばではありませんわよね? 尻尾もない、羽もない・・・・・・。以前お会いしたかばんさんのような方ですわねぇ」

 偶蹄目カバ科カバ属の哺乳動物、カバを自称する一見痛い……、失礼、なりきり系コスプレイヤーの方でした。

 なぜわたしが、普段ならクスノキの里調停官事務所で優雅にお茶をたしなんでいるはずだった国連調停官のわたしがこんなところでこんな目にあっているのか、それを知るには少々時間を巻き戻す必要があります。



 ……バナナは使いませんよ?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489590525

>>1
やめろ

 事務所に国連からの緊急依頼が舞い込んだのは、ボニーさんの里でのトロール騒動がひと段落してすぐのことです。

「……調停官が行方不明、ですか?」

 その知らせを届けに来たわたしの悪友、Yがうなずきます。

「なんでも無人島だって思われてた島に国連の未確認集落があったみたいでさ、接触しに行った調停官がそのまま帰ってきてないんだって」

 人類が衰退期に入ってはや数世紀。我々人類は(厳密には違いますが)その文明レベルを大きく後退させ、ほそぼそと絶滅への道をたどっております。

 そんな中にあって、過去のインフラをどうにか維持し、人類の生活と文明を守る(vip局長作成、国連紹介パンフレットより抜粋)国連です。しかし、中にはその国連が把握できていない集落が存在していることがあります。

 人類と妖精さんとの間を取り持つ我々調停官の任務には、そういった未確認集落への接触と、支援の要請なんかも入っているのです。

 Yによると、仕事熱心なその調停官さんは未確認集落へ出かけたっきり音信不通となり、すでに1か月が経過したというのです。ここに至って国連はその調停官が不測の事故により遭難したと認定、救助隊を派遣することを決定したのだそう。

「……で、なんでそれがうちに?」

「あんた、1人で月行ったり何やかんやしたりしてるだろ? 例の無人島ってのがなんかいわくつきらしくて冒険になれたあんたを先遣隊として派遣しようってなったってさ」

「わたしの仕事は冒険家でも救助隊でもないんですけど!」

「悪目立ちしたあんたが悪い」

 Yが無情にも突き放します。ああ、なぜでしょう。安全な後方任務……、ではなく今日日珍しいホワイトカラーの閑職に就いたというのにこの仕打ちは……。

「ほら、人命かかってるんだから早く行きなよ」

「うう……」

 Yのあんまりにもっともな言葉に、わたしは素直に要請を承諾せざるを得なかったのでした。

>>5
9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

 わたしは助手さんを連れて件の無人島に最寄りの里まで赴きました。まずはそこで情報収集です。事前情報のない冒険など死にに行くことと同義ですから。

「姐さん、集まった情報なんですが……」

 月に行ってから妙に饒舌になった助手さんが、メモ片手に報告してくれます。

「どうも昔、あの島は『サファリパーク』と呼ばれる観光施設だったそうです」

「ああ、あの動物園の進化版みたいなやつですか?」

 人類が繁栄を享受していたころ、世界中に生息する珍しい動植物を集め、鑑賞目的に展示するという施設が人気を博していたと歴史書は記しています。衰退するにしたがってそういった娯楽施設は真っ先に閉鎖されており、現在地球上のどこにも存在していません。

 サファリパークというのは動物園よりもより野生に近い状態で動物たちを飼育する施設だったといわれています。

>>8
―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

「はい。付近の里は、あの島にはサファリパークの動物が生き残っている、と噂しているようです」

「そうですか……」

 報告してくれた助手さんには申し訳ありませんが、その可能性はかなり薄いとわたしは感じました。動物園やサファリパークというのは、個体数を何世代にもわたって維持できるほど多くの動物を飼育することはなかったといわれています。

 島がサファリパークだったのは、伝承から考えても百年近く昔の話です。もちろん、大断絶をはさんでいる以上確かなことは何も言えませんが。

「あと、あの島には妖精さんが沢山出るとか」

「え?」

 そっちの方が聞き逃せませんでした。

「里の漁師の皆さんは、妖精の島だからといって近づかなかったそうです。ところがある日、あの島で人影が目撃されて……」

「国連に通報が言ったという事ですか……」

 妖精さんの島。少なくとも調停官さんが亡くなっている可能性がぐっと減りました。かわりに色々面倒なことになっている可能性が一気に跳ね上がりました。

>>12
―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

 続いて、救助のための道具を準備します。ここでの妥協は一切許されません。安全かる信頼できる装備を用意し、万全の体制を整えなければえらい目を見るのは自分なのですから。

「まずは島に渡るための船を調達したいのですが……」

「すでに漁師さんから一隻お借りしました!」

 さすが助手さん、名前に恥じぬ仕事ぶりです。さっそく船が止めてある波止場に向かいました。

 向かったんですが。

「…………」

「姐さん?」

「助手さん、この波止場、船が見当たらないんですが……」

「あれですよ、姐さん」

 助手さんが指さした先には、廃材の塊が浮かんでいました。

「わたしの目が確かなら、あれは流れ着いた粗大ごみでは?」

「漁師さん曰く船みたいです」

「……イカダの間違いでしょう」

 いえ、イカダの名称すらそれには不釣り合いだと思えるようなものでした。こんなもんに乗ったら最後、二次遭難確実です。むしろ我々の方が危ないです。

「これしかなかったんですか?」

 ひきつる笑顔を浮かべて助手さんいといますと、彼も申し訳なさそうに目を伏せます。

「ありませんでした」

 残酷な返答。しかしこれは助手さんが悪いのではありません。わたしはポシェットに目をやります。

「あまり目立つことをしたくはなかったんですが……」

 自分が遭難するよりましです。ポシェットの中から日持ちのするバタークッキーと丸いカラフルな球体を取り出しました。

「妖精さーん」

「「「「はいー」」」」

 現在の地球の支配者と認識されている、我々の魔法の源流、妖精さんがぽぽぽぽんという破裂音とともに登場しました。

すみません、続きは明日以降になります。

>>22
>乙
9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

続きあげます。

 妖精さんたちはバタークッキーを手にわたしを見上げます。

「にんげんさん、なにがごよー?」

「はい。このボロ船、安全安心な感じにちょちょーっと改造してください」

 困った時の妖精さん。ダメ人間の見本のような状態ですが、もういいのです。背に腹は代えられまい。彼らの扱い方はよく心得てますし、事故など起きないでしょう。

「「「「おまかせー」」」」」

 妖精さんたちはいつものようにごにょごにょと輪になって相談すると、動画を高速再生するかのようにボロ船に散らばっていきました。

「さすがです! 姐さん」

 ああ、助手さんの尊敬の視線が痛い……。ほどほどの勤労を重んじるわたしとしては、妖精さん任せで全部やってしまうのは心苦しい以外のものはありません。

 そうしているうちに、

「「「「おわたー」」」」

 妖精さんの作業が終了しました。

「……終わったんですか?」

 ボロ船は何の変わりもなくそこにありました。手抜きどころか手を入れていないんじゃないかと思えるほど何も変わっていませんでした。

「あのー、大丈夫なんですか、これ」

「ほしょうしょ、いります?」

「いえ、結構です」

 妖精さんが差し出した分厚い豆本をお断りして、助手さんと顔を見合わせます。

「…………」

「…………」

 二人とも無言でした。この無言の中に、我々の言葉にできぬ様々な思いが詰まっていました。

「……試験航行、してみましょう」

「そうしましょう、姐さん」

 わたしはそっと船に乗り込みます。足を置いて、徐々に徐々に体重をかけますが、船がばらける気配はありません。

「やはり、妖精さん効果、という事でしょうか……」

 思い切って重心を船に移動させましたが、びくともしませんでした。

「よかった。これなら大丈夫そうです」

 そう笑顔で振り返った瞬間、私の足が何かを踏みました。

 ガコっと足が沈み込みます。その瞬間、船が振動を始めました。この船、オールで漕いでいくタイプのはずなんですけどねー。

「よ、妖精さん? この隠れギミックは一体全体いかなる作用をもたらしちゃう感じの代物なんですか?」

 動揺が頂点に達しそうなわたしに対する妖精さんの返答は、シンプルで簡単でした。

「あくせる」

 妖精さんが言うが早いが、船は急加速。わたしは慣性の法則にのっとってうしろに倒れ込みました。

「よよよよよよ妖精さんっ!!!!????? なにこれ!? なんですかこれ!?」

 ものの数秒で、単なる手漕ぎボートだったとは思えぬほどの猛スピードに達しました。わたしは縁につかまりどうにか振り落とされないように踏ん張ります。

「じぇっとたーぼですが?」
「おんそくのかべ、こえます」

「ひぃぃぃぃぃ!? 全然安全じゃない!」

「そにっくぶーむ、ぜんぶかいひしますゆえ」

 わーい、音速出ても平気ですねー。なんてことにはなりませんよあたりまえですが。

 とんでもないことになってました。ああ、完全に迂闊。このあんぽんたん。

 妖精さんのコントロールを誤ればこうなるってことぐらいわかってたのに……。人間慣れてきたころが一番失敗するリスクがあるという格言が痛いほど身に沁みました。神話は必ず崩壊するのです。

 いえ、脳内反省会をしている場合ではありません。

「妖精さん! ブレーキぃぃぃぃぃ! ブレーキはどれですかぁぁぁぁぁ」

「こちらになります」

 妖精さんが指示したのは、アクセルの隣にある一見何でもないような木目でした。

「ううぅぅぅぅ……、届かないぃぃぃぃぃ」

 わたしの腕も足も、ブレーキといわれていた場所にぎりぎり届かないところにありました。

 妖精さんは慣性の法則? なにそれ? といわんばかりにとことこ移動していますが、物理的な存在たる私はそんなわけではありません。強烈なGによりちょっと手足を動かすことすら叶わないのです。

「ふぎぃぃぃ、ふぐぅぅぅ」

 嫁入り前の女の子が出していい声ではありませんが、もはやそんなことを気にしている場合ではありません。

 それほどない筋肉を全力で駆使し、ブレーキを押そうと試みます。
 
 突如船が上下に揺れました。

「あっ!」

 伸ばしていた腕があらぬ方向に動きました。そしてガンっとどこかに当たります。

 ウィーン。ウィーン。

 木造手漕ぎ船からは絶対に鳴らないはずのメカニカルな音と振動が伝わってきました。

「ああ……」

 もう悟ります。悟りましたが一応尋ねます。

「妖精さん? これはなぁに?」

「ひこうゆにっとですが?」

 飛行ユニット。まあ、なんと素敵な言葉なのでしょう。

 海面を切る振動がふと消え失せました。加速がどんどん増していきます。

 体にかかるG。体中の血液循環が滞り始め、視界が薄れていきました。


 … … …

 目が覚めると、そこはサバンナでした。

 まごうこと無きサバンナでした。

「…………」
 
 あまりに突飛な場面転換に、目覚めたばかりのわたしの脳は処理オーバーです。まさかアフリカまで飛んで行ってしまったとか。

「あら? お目覚めになって?」

「!?」

 背後から声がしました。振り向くと、そこには水場がありました。そして水場の真ん中に立っているコスプレ少女? が心配そうに立っていたのです。

「あなた、いきなり空から降ってくるんですもの。驚きましたわ。ご気分は?」

「……、だ、大丈夫です」

 サバンナの真ん中にエレガントな女性。しかも、ぴっちりとしたスーツ。加えて、頭にけもの耳。

 奇抜な彼女の格好に、ついついフリーズしてしまいます。

「あなた、鳥のフレンズ? それにしては豪快な飛び込み方でしたわね?」

「ええ、まあ、はあ」

 とりあえず曖昧に返事をします。今だに何が起こっているのかをよく理解できていません。

「まったく、あんなむちゃくちゃなことをするのはサーバルだけかと思っていましたが、そういうこともないんですわね、あ、サーバルはご存じ? さばんなちほーの……」

 わたしが混乱状態にあることなどつゆ知らず、女性はどんどん話しかけてきます。さらに私の体をペタペタ触って傷の有無を確認してくれているのです。

「あの……、すこしよろしいですか?」

「どこか痛みますの?」

「いえ、ここはどこでしょう……」

「さばんなちほーですわよ?」

「もうちょっと具体的に……」

「……? ジャパリパークですわ。もしかして今年の噴火で生まれた方?」

 ジャパリパーク。聞いたことがない地名です。言葉が通じている以上外国ということはないのでしょうけれども……。

「あの……、ご親切にありがとうございました……。あ! そういえば、私が乗ってきた船は?」

「ふね? ああ! あなたと一緒に振ってきた木の板のこと? 邪魔だったから捨ててしまいましたわ」

 帰還の手段、消滅。いえ、命あっての物種です。ここは五体満足に生還できたことを喜び感謝いたしましょう。

 わたしを助けて下さった女性に深々と頭を下げます。

「助けて頂きありがとうございました」

「いいのよ。私も自分の縄張りにあなたが落ちてきたものだから驚いて放り投げてしまいましたし」

「……縄張り?」

 日常生活で聞きなれない言葉です。少なくとも『自分の』という所有格をつけることはない言葉です。

「ええ。私の、カバの縄張りに飛び込んでくるなんて、あなたも無茶なことをなさるわね」

「……え」

カバ?そんなカバな いや、バカな

>>40
9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

>>41
―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

 単語は理解しました。文節もオッケー。ただそれらが連なった文章が理解できません。

 ひとまず最大の疑問点を彼女にぶつけました。

「あなた、カバなんですか?」

「ええ。私はカバのフレンズですわよ」

「…………」

 確かに、なんとなくカバの面影があるような気がしないわけでもないようなあるような……。

 ですがなんとなく理解しました。おそらくこの集落の方々は動物に扮して生活する風習があるのでしょう。きっとそうでしょう。そうであってほしい。

 そう自己暗示をかけた瞬間、女性のけもの耳がぴょこぴょこと動きました。震える指を抑えながらお尋ねします。

「……その耳、本物ですか?」

「おかしなことおっしゃるわね。偽物の耳なんてありますの?」

 絶句。

 あれが本物だとすれば、ほぼ間違いなく彼らの仕業となります。彼らの仕業となればわたしの仕事となります。わたしの仕事だとすれば、これはとんでもない規模で発生していることになります。

 わたしが唖然としているのもなんのその、カバさん(自称)が首をひねりました。

「あなた、何のフレンズですの? 見たところ、尻尾も耳も羽もないようですけれども……」

 文脈で判断するところ、フレンズというのは扮する動物の種類のことでしょう(願望)。

「私、ここの人間ではないんで……」

>>42
1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

「人間?」

「……住民でない、という意味です」

「あら、さばんなちほーの外からいらしたの?」

「いえ、そのジャパリパークの外です」

 そういうと、カバさんの目が点になりました。

「……パークの外?」

 まるで今までの自分を見ているかのようです。つまり、『相手が何を言っているのか全く分からない』といった顔。

「……やってしまいました」

 わたしは思わずつぶやきます。とんでもないところに来てしまった予感がしました。

「大丈夫かしら、あなた」

「ええはい、大丈夫です」

「ううん……、あなた、私と同じカバではありませんわよね? 尻尾もない、羽もない・・・・・・。以前お会いしたかばんさんのような方ですわねぇ」

「……私と同じような方がいらしたんですか?」

 カバさんの言葉が引っ掛かりました。

 彼女の発言から察するに、私と同じ、つまり、動物の格好をしていない人がいたという事でしょう。

「ええ。あなたのように特に特徴もない方でしたわ。自分の縄張りも何のフレンズかもわからないという事だったのでサーバルが図書館に連れていったのですの」

「……その、かばんさん? は他になにかおっしゃってましたか?」

「うーん。セルリアンやサンドスターのこともよく知らない子でしたし、あなたと同じで今年生まれた子かもしれないわねぇ」

>>62
―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

「詳しく教えて下さい! その、セロリ何とかや珊瑚スターの事を!」

 わたしはカバさんに頼み込みました。

 そして悟るのです。カバさんからの説明を受け、わたしは自分の予感が正しかったことを。

 ジャパリパーク。どうやら国連調停理事会始まって以来の、超広域大規模童話災害の現場に間違いありません。わたしは頭を抱えました。

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

ひとまず今日は以上です。

ヤバい……、思ってたより長くなりそう……。

>>75
9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

>>75
1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

乙!
これは"たのしさ"が乗算されそうなSSですね!

>>85
―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

 どうもこのジャパリパークは、動物が変化した存在、『フレンズ』たちが暮らしている場所だというのです。『フレンズ』はサンドスターという物質によって生み出され、またセルリアン、という天敵もいるとか。

 カバさんいわく、セルリアンを見た時はすぐに逃げることが一番良いそう。まあこっちは大した武器もありませんのでそうせざるを得ませんが。

「とりあえず、新入りの子に言うべきことはこれくらいかしらねぇ」

「ありがとうございます、何から何まで」

 カバさんはわたしのことを新しく生まれたフレンズだと思っているようです。

「いいのよ。あ、そうだ。あなたは自分が何のフレンズがわかっているのよねぇ?」

「え? まあ、はい」

「もしよかったら、かばんにそれを教えてあげてくれないかしら?」

 かばんさん。わたしと同じ特徴を持つ、つまりはわたしと同種の方。どうやら記憶喪失となり、自分の正体を探るべく図書館とやらに向かっているとか。

「はい。途中でお会いすれば」

「よろしくね。サーバルが道案内しているんだけれど、サーバルだものねぇ。私、不安で不安で」

 よっぽど心配されるような方なんでしょうか、サーバルさん。

 しかし、ひとまず今後の方針が決まりました。かばんさんという人を回収しつつ外部に救助を求める。むちゃくちゃな気がしますが、一度月面や都市遺跡で遭難しますと、地球上だというだけで何とかなる気がしてしまいます。

「いーい? セルリアンにあったらかならず逃げるのよぉー」

「はーい」

 カバさんに別れを告げ、

「あなた弱そうだから、寝るときは木の上でねぇー」

「はーい……」

 えー、カバさんに別れを告げ、

「こまめに休憩するのよぉー」

「……はーいっ!!」

 里の世話焼きご婦人のような方でした。とても助かりましたが。

 わたしの姿が見えなくなるまでいろいろとおっしゃってくれたカバさんとお別れし、わたしは図書館への道を歩き始めました。

「……そういえば、妖精さんの姿を見ませんね」

 ふと気になりました。これだけ大規模な童話災害ともなれば、妖精さんはそれこそ溢れるほど存在しているはずなのに……。

 わたしはポシェットを漁ります。クッキーやビスケットの類は水を通さない保存紙で包んでいたおかげで無事です。金平糖やキャラメルの類も大丈夫。

 わたしは金平糖の瓶をふたを開けて地面に置きました。

「妖精さーん」

 しかし、彼らは現れません。

「……ここの妖精さんは、シャイな方たちなんでしょうか」

 初心に戻って物陰に隠れこっそり瓶の様子を見守ります。しかし、妖精さんは一人として姿を見せませんでした。

「……妖精さんが、いない?」

 そんなはずはありません。彼らなしでは『フレンズ』という存在の説明がつかないからです。

 しかし待てど暮らせど、妖精さんは現れなかったのでした。

 翌朝。

「……野宿の準備をしてくるべきでした」

 普段ベットを使っているわたしは、硬い地面のせいで痛む節々をほぐしながら起き上がりました。

 カバさんには申し訳ありませんが、木の上で眠るなどという芸当はできません。大人しく火を焚いて地面で一晩を明かしたのです。

 朝食代わりにクッキーを食べ、カバさんからいただいた水を飲みます。

 食事を終えしばらく歩きますと、

「……人工物ですよねぇ、これ」

 金属製のゲートがありました。テーマパークなんかによくありそうな門です。

 そばによってみますと、それほど腐食も進んでいません。

「比較的最近の施設なんでしょうか?」

 少し歩いた森の中には、この施設の地図と紙のパンフレットが残されていました。

 それらも原形をよくとどめています。パンフレットの劣化もほとんどありませんでした。

 都市遺跡などはほとんど植物に覆われてしまっていて、今ではその原型をとどめていません。

 たまにごく一部が妖精さんたちによって元の状態をとどめていることがありますが、彼らがいないここではそんなことは起こりえないはずなのです。

「あるとすれば、今でも誰かが保守管理を行っている、という事でしょうけど……」

 ジャングルの中の小道を進みながらぶつぶつとつぶやきます。この際、サバンナの隣に熱帯雨林があることは気にしません。

 ここにもフレンズたちが大勢いらっしゃりましたが、彼女たちを見ていると、一つのことがわかりました。

 わたしは最初、『動物の格好をした人間』だと思っていたんです。しかし実際の彼女たちは、『人間の格好をした動物』といった方がいいでしょう。

 この差は大きいです。『サンドスターによって動物がフレンズになった』というカバさんのお話を強く裏付けることになりますし。

 しかし、いかんせんヒントが少なすぎます。思考はすぐに袋小路に陥ってしまいました。

「……ま、考えても仕方ないですね」

 謎が謎を呼んでいる気がしますが、今大事なのはかばんさんの救出と里への帰還。ひとまずその辺もろもろの不思議は置いておきましょう。

 と、気を取り直した矢先、

「……川」

 茶色く濁った急流がわたしの行く手を阻んでいたのでした。

閲覧頂きありがとうございます!
ひとまず本日はここまでです。

「……うわぁ」

 木々やなんやらがすごい勢いで流れていきます。橋? そんなもんどこにも見当たりません。

 妖精さんなしで渡ろうものなら、たちまちわたしも木々のように下流へと流されていくことでしょう。こういう場合、う回路を探すのがセオリーですが……。

「地図で見た限り……見た、限り……」

 地図で見た限り、ここに川はありませんでした。地形を現していない地図など存在価値があるのでしょうか、いや、ない。

「あんた、川を渡りたいのかい?」

「え?」
 
 突然声をかけられました。振り返りますと、

「おや? あんた、もしかしてかばんの同類?」

「あなたは……?」

「私はジャガー。普段はここで川渡しをしてんだけどね。こないだからの雨で水かさが増しちゃってさ」

 ジャガーさんは肩をすくめました。

「申し訳ないけど、今はお休みさせてもらってるよ」

「そうですか……」

「悪いねぇ」

 落胆する私に、ジャガーさんは申し訳なさそうに言いました。

「あー、今もあるかはわかんないけど、この上にこの間かばんがかけた橋があるんだ。よかったら案内するよ。ついてきな」

 そういって、ジャガーさんは歩き出しました。

「あの、あなたはかばんさんと面識がおありで?」

 わたしが尋ねますと、ジャガーさんは大きくうなずいて笑いました。

「ああ。あいつはすごい奴だよ。橋をかけたり、ばす? っていうのを動かしたり」

「バス……」

 ということは、かばんと呼ばれる人物は現在バスに乗って移動中という事でしょうか。これは大変です。先を急がなくては……。

「ああ。もしかして、あんたもかばんを探してるのかい?」

「はい。えっと……、同種の方のようだったので……」

「ああ、あいつ、自分が何のフレンズかわからないっていってたもんなぁ。にしても人気だな、あいつも」

「……もしかして、わたし以外にもかばんさんを追っている方がいらっしゃるので?」

「アライグマとフェネックも探してたよ」

 わたし以外にもかばんさんの行方を追っている方々がいらっしゃるようです。名前を聞くにフレンズの方なのでしょう。彼女たちに一体どのような目的があるのか、とても気になります。

 そんなことを話しているうちに、橋とやらに到着したのですが。

「やっぱ流されてたかー」

 もはや見る影もありませんでした。代わりに、

「わーい! たーのっしー!!」

 橋の残骸と思しきロープをぐるぐるぐるぐる回して遊んでいらっしゃる一人のフレンズさんがいらしたのです。

「おーい、カワウソー」

 ジャガーさんが彼女に声をかけますと、彼女も我々に気付きます。

「あ! ジャガー! やっほー!」

 どこまでも陽気そうな方です。カワウソさんはこちらまでスイスイと泳いできます。

「あれ、その子……」

「ああ、かばんの同類らしい。こいつもかばんのこと探してるってさ」

 するといきなり、カワウソさんが抱き着いてきます。

「すっごーい! ってことはあなたもかばんとおんなじこと出来るの!?」

「ああ! そうだな。あんた、この橋直せるんじゃないのか?」

「ええっ!?」

 なんだかとんでもない方向に話が進んでますよ?

「かばんみたいにすっごくてたのしーこと出来るんでしょ! 見せて見せて!」

「あ……、ええー」

 この急流に、橋を、かけ直す? わたしが?

 川幅は少なく見積もっても50メートルはあります。妖精さんがいればロンドン橋でもアカシ海峡大橋(かつて存在した世界最大だった橋だそうです。詳細不明)でもどんとこいですが、今のわたしは魔法の力も使えない裸のサル。それも一人。

「えーっとですね……」

 どうにか断りの文句を考えますが

「楽しみー!!」

「今度はどんなことやってくれるんだい?」

 期待の眼差し、全開。人間、寄せられた期待を裏切るのが一番難しいもんなんですね……。

「ちょ、ちょっと待っててください」

 わたしは学舎で培ってきた知識と経験をフル活用させます。そう、かつての人類は魔法なしでも様々なことをやってのけたのです。人類史が蓄積してきた知恵と技術を使って、この危機を脱するには……。

 ふと、助手さんが読んでいた書物が思い返されました。そう、あれはたしか、中世の戦国時代の本で……。

「あの、みなさん?」

 キラキラした目でこちらを見つめるお二人に言いました。

 川に小舟を並べ、その上に板を敷くことで簡易的な橋を設置するという方法が、中世において編み出されました。人類ってすごい。

 わたしは先人の知恵を拝借することにしたのです。

「おーい、イカダってこんなもんでいいのかい?」

「はい、十分です」

「かばんがやったのに似てるなぁ」

「まあ、少人数で橋をかける方法なんてそんなにありませんし」

 流れ着いていた流木を使用し、イカダを何枚も作成。それを川に浮かべてつないでいくことで橋を作っちゃおうというナイスでイカす素敵なアイデアです。

「少し休憩にしましょうか」

 イカダづくりに奔走して頂いたジャガーさんにクッキーを一枚差し出します。ジャガーさんはそれをいぶかしげに眺めていました。

「……なんだ、この板」

「クッキーというお菓子……、食べ物です。甘くておいしいですよ?」

「食べ物……、ジャパリまんみたいなもんか?」

 一通りにおいをかいだり観察したりしてから、恐る恐るといった風にそれをかじりました。

「…………」

「ジャガーさん?」

「こ、ここ、これ……」

 やっぱり人間向きのお菓子はまずかったのでしょうか……。と思った瞬間、

「うまぁぁぁぁぁぁいいいいいいい!!」

 文字通り、比喩でもなんでもなく飛び上がりました。

「なんだこれ! なんだこれ! 初めて食べたぞこんなもの!!」

「そ、それはよかったです……」

「甘い! 果物なんかとは別の甘さだ! おいしいっ!!」

「もう一枚、いかがですか?」

「いいのかいっ!?」

 ジャガーさんがもう一枚のクッキーに飛びつきます。

「甘い……。美味しい……。これがクッキー、お菓子ってやつなんだねぇ……」

 ここまで美味しそうに食べていただけるのは、調理人冥利に尽きるというものです。

「そうだ! カワウソの奴にも食べさせてやらなきゃ……」

「そういえば、遅いですね、カワウソさん」

 イカダを縛る紐を探してもらうため、カワウソさんにはジャングルの中に入っていただいています。そろそろ帰ってきてよい頃何ですが……。

「ふったりともー」

「あら、カワウソさん、おかえりなさい」

 茂みの奥からカワウソさんが姿を現します。手にはツタを持って。そして、

「ごめんねー。ついてきちゃったー」

 後ろにセルリアンを連れて。

「みゃああああああああっ!?」」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 青い大型のセルリアンが、もはや数えるのも面倒というほど大量に。

 わたしとジャガーさんはとっさに逃げ出します。カワウソさんはジャガーさんの小脇に抱えられて。

「おとなしくしときなよ、カワウソ!」

「わー、はやーい!」
 
「まって……下さい……」

 こちとらか弱い乙女です。ジャガーさんの健脚についていけません。

「ほら、あんたも!」

「うわっ!?」

 ジャガーさんはわたしも抱えました。二人を抱えてもなお、ジャガーさんの速度はそれほど衰えません。

 おもわず感嘆の声が漏れます。

「すごい……」

「フレンズの能力さ。それよりどうしたらいい? このままじゃ追いつかれるぞ!」

 こちらとセルリアンの距離はどんどん縮まっていきます。捕まってしまうも時間の問題です。

「どこか……、隠れられるところを……」

 なにか都合よく洞穴か何かがあれば……、

「ねー、あそこに穴あるよー」

 なんてグットタイミング!

「あそこ! あそこに逃げましょう!」

「よしきた!」

 ジャガーさんがその中へ滑り込みます。

 そこは洞窟、というよりは、崖にできた岩の割れ目といった方がいい場所でした。ちょうど人ひとりが通れるぐらいの細さで、セルリアンは入ってこれません。上を向くと青い空が見えました。

 やつらはしばらく入口の前にたむろしていましたが、やがてどこかへ消えてしまいました。

「ふぅ……、危なかった……」

「すごかったねー」

「今度こそやばいかと思ったよ……」

 危機をやり過ごし、安堵する我々。しかしジャガーさんは少し深刻そうな顔でつぶやきました。

「ここのところセルリアンが多いな……。ちょっとここから離れた方がいいかもしれない」

「昔はこんなにいなかったんですか?」

「まあね。見かけても小さい奴がちらほら、って具合だったし。こうやって何の前触れもなく表れるなんて珍しいのさ」

「あなた髪の毛長ーい! おもしろーい!」

 カワウソさんがわたしの髪の毛で遊んでいるのはほっておいて、この後の対処法を考えます。

 セルリアンはこのあたりをうろついているようなので、迂闊に移動することはできません。一方、ここは安全ですが、いつまでもいるわけにはいきません。

「ジャガーさん、ひとまず夜までここで待機しませんか? まだセルリアンも周囲にいそうですし」

「そうだね。それがいい。あたしは夜目が利くからね」

 姉御肌のジャガーさん。なんと頼りになるのでしょう。

「わー! この髪の毛動くよ! すっごーい! たーのっしー!」

「こらそこ、勝手に髪の毛を動かさないでください」

 いつか妖精さんの道具を使った際の副作用がいまだ残っているようです。わたしは自らの意に反してうねうね動く髪を気合でまとめます。

 その時、ふと影が差しました。



 ところでみなさん、マーフィーの法則ってご存知ですか? ざっくり言っちゃうと、起きてほしくないことに限って起きる、みたいな感じの法則です。

 この場合起きてほしくないこと、というのはセルリアンに見つかること。ここまで書けばお判りでしょう。

 上から我々を覗いていたのはセルリアンの大群でした。

「うみゃあああああああああああ!?」

「わぁぁぁああああああああああ!?」

「きゃあああああああああああ!?」

 ぎょろりとした単眼がいくつもわたし達を見下ろしていました。

「い、いえ! ここならあいつらは手出しできません!」

「そ、そうだよねぇ。ここにいればセルリアンも」

 と言った矢先、出してきました、手。

「うわぁぁぁぁあああああ!」

 手、というより先端に口がついている凶悪なフォルムの触手です。

「うわっ! くそ! えい!」

「よっと、ほいっ。とうっ!」

「きゃっ! もうっ! うわぁっ!」

 伸びてくる触手を器用に避けます。以前ツイスターゲームという古典芸能に親しんだ甲斐があったというものです。

 しかしこんなこといつまでも続けていられません。

「ジャガーさん! カワウソさん! ここは逃げましょう!」

「わかった!」

「えー、これ結構たのしーのに」

 何事も楽しむその姿勢、嫌いじゃありませんよ、カワウソさん。

「でもどうすんの? いま飛びだしたら……」

「セルリアンにパクリといかれるでしょうね……」

 まあここにいてもまもなくパクリといかれるでしょうけど。

 ですが座して死を待つつもりは毛頭ありません。ポシェットの中身を探ります。出てきたのは金平糖の詰まった瓶。

「……セルリアンに我々と同じ味覚があることを信じましょう」

 わたしは数粒を手の平に出すと、それらをできるだけ連中の目に入れるようにしての口に向かって投げました。間髪を入れず金平糖を瓶ごと放り投げます。

 効果は思いのほか大きなものでした。よっぽど味が気に入ったのか、セルリアンたちは瓶に向かって一直線に殺到します。

「今のうちに!!」

 わたしはお二人の手を取ってそっと逃げ出しました。

「すごいねぇ! あんた、サンドスターを出せるなんて」

 ジャガーさんが感心したように私を見ました。

「はあ?」

「うん! 私サンドスターでセルリアンを攻撃するフレンズなんて初めて見たよ~」

 カワウソさんも同じようにわたしの顔を覗きこみます。

 サンドスター? ああ、金平糖のことでしょうか。

「あれは金平糖というお菓子です。サンドスターではありませんよ」

「え、お菓子!?」

 ジャガーさんが飛びつきます。

「もったいない! あんなに美味しいものをセルリアンにやっちゃうなんて!」

「おかしってなーにー?」

「ふ、二人とも!? 近い! 近いですからっ!」

 迫りくる二人を押しのけます。

「このピンチを抜け出せたら差し上げます! ひとまず早く遠くに行かなければ……」

 ぐずぐずしていればセルリアンがやってきかねません。ですから、このあたりからなるべく離れなければなりません。

「早く、遠く……」

 ジャガーさんが考え込みました。そして、

「なんかそれっぽいの知ってるけど」

「こ、これは……」

「なにこれー! すっごい!」

 ジャガーさんが教えてくれたのは、手漕ぎトロッコでした。車体中央にハンドルがついていて、上下に動かすことで前進するものです。

 あちこちさび付いてはいましたが、試しにハンドルを動かすと車体はゆっくり動きだしました。

「ジャガーさん! この線路はどこまでいっているんですか?」

「せんろ? ああ、この棒みたいな奴ならさばくちほーの入口まで通じてるよ」

「よしっ!」

 思わずガッツポーズします。

「カワウソさん、ジャガーさん。この棒みたいなのをぎっこんばっこんしてください。こういう風に」

「ああー、そうやって使うのか。いっつも手で押してたよ。こう、ガーッて押すと結構スピードが出るんだ」

「何これふっしぎー! 楽しー!」

 お二人はノリノリでハンドルを動かします。トロッコも快調に加速。この調子なら、すぐにでもこのセルリアン多発地帯を抜けることができるでしょう。

「ここから助かったら、お二人にお菓子を差し上げます! だから頑張ってください!」

「おお! またくれるんだな!」

「やった! 楽しみー!!」

 これで助かりそう、そう安堵した矢先、

「……、あれ?」

 森の中に、あの青ダルマの姿が見えました。

「…………」

「おーい、どうしたの?」

「じゃ、ジャガーさん、あれ」

 森の中で集団移動の真っ最中のセルリアンを指さすと、ジャガーさんも固まります。

「さ、幸い、まだ気づかれていないようですが……」

「なになにー?? あ、セルリアンだ……」

 カワウソさんもビクリと体を震わせました。

「できる限り音を立てないようにしましょう」

 わたしは声を潜めます。距離があるので、トロッコの通行音は聞こえていないようです。このままうまくやり過ごして……、

 その時、とんでもない音とともにトロッコが脱輪しました。

「きゃぁ!?」

 我々は地面に投げ出されます。

「な、なにごとっ!?」

「ああ、線路に小石が……。これのせいでしょう」

「トロッコさん怒っちゃったのかな?」

 わたしは小石を取り除き、トロッコを線路に戻そうと立ち上がって、セルリアンと目が合いました。

「…………」

 ジャングルの湿気を含んだ風が我々の間を駆け抜けます。永遠に続くかのような沈黙でした。木々のざわめきだけが耳に入ります。

 この場にいる誰もが金縛りにあったかのように固まっていました。

 それを破ったのは、やはりというか当然というか、セルリアンです。連中はあの口の付いた触手をこちらに向け大挙して押し寄せてきます。

「ととととトロッコ! トロッコを! お二人とも早く!」

 急いでレールにトロッコを乗せると、我々は飛び乗りました。

「全速力で逃げましょう!!」

「はいよっ!」

「うん!」

 お二人の全力のおかげか、トロッコはどんどん速度を増していきます。しかしセルリアンとの距離は開きません。それどころか縮まっています。

「もっとスピード出ませんか!」

「これが限界!」

 このままじゃジリ貧です。見たところ、ジャガーさんもカワウソさんも体力的な限界が近づいているように見えます。

 どうにか、どうにかこの危機を脱する方法を考えなければ……。妖精さんさえいればどうにでもなるのに……。

 わたしはふと前方を見ました。線路はまっすぐ伸びており、奥の方でぷっつり途切れていました。

「え?」

 よく目を凝らすと、そこは谷でした。どうやらそこにかかっていたらしい橋が落ちているようなのでした。

 今度こそ血の気が下りました。このままでは谷底へ真っ逆さまなのは確定です。

 ばっと後ろ振り向くと、セルリアンの触手がもうすぐそこまで迫ってきています。前門の谷、後門のセルリアン。

「……悪い、もう、限界」

 ジャガーさんがはぁはぁと荒い息を吐きながらハンドルを手放しました。

「私もー」

 カワウソさんもへたれこみます。漕ぐ者がいなくなったので、トロッコはがくんとスピードを落としていきました。

「あわわ!! みなさん!?」

 あわててハンドルを動かしますが、わたしはただのか弱い乙女です。先ほどまでのようなスピードは出ず、セルリアンとの距離はどんどん詰められて行きます。

「頑張りましょう! ここでへばってはセルリアンのエサですよ!」

 まあ頑張って進んでも谷底に向かいそうですが。わたしも含め、あきらめムードが漂っています。

「ああ、最後にお菓子が食べたかったな……」

「私も食べたかったー」

 わたしは、セルリアンとジャガーさん、カワウソさん。そして迫りくる谷をそれぞれ見比べました。谷の向こう岸までは数十メートルといったところでしょうか。

 もはや賭けに近いですが、ある考えが浮かびました。妖精さんがいれば何でもないでしょう。ですが0Fの今、この作戦が成功する確率は0に等しいです。

 しかしやらずに死んでしまうよりよっぽどましです。わたしは意を決して、ポシェットからキャラメルを取り出しました。

「お二人とも、これをどうぞ」

「お菓子かいっ!?」

「なにこれー?」

「キャラメルです。おいしいですよ」

 包装を破いて、お二人の口に突っ込みます。

「んん~! 甘い! うまい!」

「なにこれ! あまーいっ! すごーいっ!!!!」

 二人の顔がほころぶのをみると、こちらも差し上げた甲斐があるというものです。

「だいぶ回復されましたね? ではもう一度トロッコを漕いでください」

「え?」

 二人の顔が固まります。

「で、でもこの先って……」

「谷だよねー?」

「ええ、谷です。安心してください、飛びますから」

「はぁ!?」

「え!」

 ジャガーさんは驚愕、カワウソさんは期待の表情を浮かべました。

「と、飛ぶって!? あんた鳥のフレンズなの!?」

「いいえ、違います」

「じゃあ無理だよ!」

「大丈夫です。ここからスピードをつけてれば、谷を飛び越せるかもしれません」

「飛び越せなかったら?」

「落ちるだけです」

「…………」 

 顔面蒼白のジャガーさんと対照的に、カワウソさんの顔はキラキラと輝いています。

「あなた飛べるんだね! すっごーいっ! 私も飛んでみたかったんだー!」

 そういって一人ハンドルを動かし始めます。

「あ、カワウソ!?」

「大丈夫ですよ、ジャガーさん」

 わたしはジャガーさんに微笑みかけました。

「わたし、これでも里では……、他のちほーでは魔法使いっていわれているんです」

「まほー、つかい?」

「いろいろ不思議なことが起こせるんですよ。任せて下さい」

「……。わかった」

 ジャガーさんは覚悟を決めたようで、カワウソさんの反対側に立ってハンドルを動かし始めました。

 わたしは前をじっと見つめます。妖精さんがいない、つまりは魔法が使えないのです。神様がわたしの日頃の善行を見ていてくれていることを祈るしかありません。

 若干下り坂になっているせいもあり、速度は順調に上がっていきます。

「頼みますよ、妖精さん」

 今はいない彼らへのお願いも済ませます。

 そして、

 トロッコは空中に飛び出しました。

閲覧ありがとうございます。
今日は以上です。

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

 線路が消え、猛スピードのトロッコが谷を飛びます。遥か下方に川が流れているのが見えました。脳の処理速度が上がったのか、流れる風景がスローモーションのように見えます。

 このまま、対岸へ……。

 しかし、谷幅はわたしが考えていたよりも広かったようでした。トロッコは谷の真ん中に達するより前に下降を始めます。

 ああ、ダメだ。

 そう思った時、わたしの体は動きだしていました。

 両手でカワウソさんとジャガーさんの首根っこをつまむと、トロッコからジャンプしたのです。足の筋肉を最大限駆使し空中に躍り出たわたしは、空中でじたばたと足を動かしつつ、両手に持ったお二人を振り子のように前方に振り上げました。

 そこからはよく思い出せません。

 気が付いたとき、わたしたち三人は固い地面の上に投げ出されていました。

 ばっと顔を起こすと、対岸でセルリアンたちがぼとぼと谷底で落ちていました。

「助かった……」

 わたしの体から力が抜けます。どうやらやっとこさ危機は去ったようです。その時、わたしにお二人がのしかかりました。

「ふぐっ!?」

「すごいねぇあんた! サーバルでもないのにあんなジャンプしちゃうなんてさ!」

「すっごく楽しかった! もう一回やろー!!」

「もう二度としませんっ!」

 それだけはきっちり言っておきます。そしてお二人をどかして起き上がりました。

「……。とりあえず、セルリアンはもうここにはいないんですよね?」

「うーん。匂いや気配はしないねぇ」

「だいじょーぶだよー」

「それは……、よかったです」

 お二人の野生の勘を信じましょう。……若干一名不安ですが。

 その時、わたしのおなかがぐぅ、と鳴りました。

「あれ? お腹すいてんの?」

「……ええ、恥ずかしながら」

 よく考えたら、朝にクッキーをかじった以外何も口にしていません。緊張が解けたせいか、急に空腹が襲ってきます。

「わたし、ジャパリまん持ってるよ! はい、どーぞ」

 カワウソさんがどこからか『ジャパリまん』とやらを取り出し、わたしにくれました。

「これは?」

「ジャパリまん。私たちの大好物なんだー!」

 包装を破くと、中には東洋の饅頭のような食べ物が入っていました。黄色で着色された、子供の頭ぐらいのものです。

 ぱくりとかじりますと、中には味付けのされた餡が詰まっています。味は、その……、なんというか、形容しにくいです。わたしの語彙で表せるとすればうま味がある、としか言いようがありません。

 まずいわけでは決してなく、むしろ美味なのですが。こんな感じのもの、どこかで食べたことがある気がします。人工物っぽいというか、なんというか……。

 わたしが微妙な顔をしていたので、カワウソさんが心配そうに尋ねます。

「おいしくなかった?」

「いえいえ! おいしいですよ。ありがとうございます、カワウソさん」

「そっかー。よかった! これを嫌いなフレンズなんていないもんねー!」

「……皆さんこれを食べられているんですか?」

「うん! そーだよ! ボスがいっつも配ってるんだ!」

 道理で、このパーク内では食物連鎖の跡が見られないんですねぇ。定期的に『ボス』とやらから供給されるジャパリまんのおかげで捕食者と被食者の関係性が崩壊しているのでしょう。おかげでジャガーさんにパクリと食べられることがないわけです。

 ジャパリまんを食べ終えると、わたしの胃袋も満たされたようです。

一時的欲求が満たされますと、次の欲求が生まれてきました。

「紅茶が飲みたい……」

 思い返せば、月に行った時も都市遺跡に行った時も、紅茶は欠かさず持参していました。

 紅茶はわたしの生活の一部なのです。紅茶とともに目覚め紅茶とともに一日を過ごし、紅茶とともに眠る。これがわたしの模範的習慣でした。わたしの祖先は戦場で紅茶を飲んだとか言い伝えられていますし。

 ですがここは国連未発見地域。紅茶なんてとても手に入ら

「あるよ、こーちゃ」

「ええっ!?」

 気が付けば、わたしはジャガーさんの肩をぶんぶん揺らしていました。

「飲み物の紅茶ですよ!? いったいそんなもんどこに!?」

「や、山の、山の上の……。ちょ、ちょっとやめて……」

「あ、すみません」

 興奮のあまり取り乱してしまいました。

「ゴホッゴホ……。あんたこーちゃ好きなんだねぇ」

「はい。で、山の上の?」

「ああ、山の上にアルパカがやってるかふぇ? っていうのがあるんだって。最近鳥のフレンズの間でだいぶ流行ってるらしいよ」

「山の上ってもしかしてあれですか?」

 わたしが遠方に見える成層火山を指さしますと、ジャガーさんは首を横に振りました。

「あっち」

 ジャガーさんの言う山は、わたしが思ったよりずいぶんと近くにありました。ただ、山、と呼称するには、険しすぎました。

「ええ……」

 全周ほぼ崖です。そのうえ山頂付近には雲もかかっています。人が立ち入ることを拒みまくっているかのようでした。

「…………」

 紅茶を飲みたいがためにあの山を登る……。もはや生命の危機すらありそうな道程です。でも紅茶……。

「フェネックたちが行った時はろーぷうぇー? ってやつを使ったっていってたなぁ」

「ちょっと行ってきます」

 文明の利器万歳!

「え? あんたかばんのこと探してたんじゃないの?」

「たまにはほどほどに休む。昔から言い伝えられている家訓です」

「はあ……」

 ジャガーさんが感心しているのか呆れているのかわからない顔で相槌を打ちます。きっと感心してくれているんでしょう、そうでしょう。

「じゃあ気をつけなよ!」

「ばいばーい!」

 ジャガーさんとカワウソさんに別れを告げます。

 ロープウェイは簡単に見つけることができました。そして人力のゴンドラも。

「……紅茶のためです」

 美味しいものを飲んでこその人生なんですよ、たぶん。

 ペダルを延々漕ぎ続け、涼しい気候にもかかわらず汗だくになったころ、ようやく山頂にたどり着きました。

 山頂はよく整備された広場になっています。ここに人がいた時代は展望台か何かがあったのでしょう。その隅に、木造の小屋がぽつんと立っていました。

「ここ、でしょうか……」

『ジャパリカフェ』

 古ぼけた看板にはそう書かれています。営業しているとは到底思えません。

「すみませ~ん」

 ガラガラという鈴の音が響くと同時に、

「いらっしゃぁい! よぉこそぉジャパリカフェへー」

 田舎のおばあちゃんみたいな訛りで迎え入れてくれたのは、噂に聞いたアルパカ・スリさん。

「あのー、ここで紅茶が飲めるって聞いたんですけど……」

 するとアルパカさんは悲しそうに顔を伏せました。

「ごぉめんねぇ。いまこーちゃ切らしてんだぁ」

「え」

「トキにお願いしてぇ、はかせに分けてもらおーとしたんだけぉ、はかせももう持ってないってぇ言われちゃってねぇ」

「え……」

「ごめんねぇ」

「そんな……」

今日は以上です。次回はもうちょっと更新できるようにします。

 紅茶がない。ああ、なんということでしょう(リフォームを終えた後驚くような感じで)。

 い、いえ……、元々、元々ないと思っていたんです。私が聞いたあの話は幻聴のようなものだったのです。そうです、本当はないんです、紅茶。ああ、どこにあるの、わたしの紅茶……。

「大丈夫ぅ?」

「……はい」

「あ、そうだぁ。これどーぞぉ」

 アルパカさんはわたしの前にカップを一つ置きました。

「これは?」

「こーちゃはないけどぉ代わりにこれ飲んでぇ」

 カップの中身には、透き通った緑色の液体が注がれていました。

「……緑茶、でしょうか」

 疑問を抱きつつも、そっと口をつけます。確認? もうそんなことしていられませんよ、ええ。それほどまでに、体がお茶を欲していました。

 その瞬間、大地の香りが脳天を突き抜けました。

「ぐはぁっ!?」

 青々とした草原の息吹が喉の奥で反乱を起こし、かつて草を食んでいた遠い祖先の記憶が遺伝子から揺り起こされます。

 すべての植物を育む土壌の味が舌の上を駆けずり回り、何とも言えぬ苦みによって脳の味覚野が支配されました。

 はっきり申し上げてゲロまずでした。

「あー、やっぱり駄目だったぁ?」

「こ、これは……?」

「そこの広場に生えてる草でいれてみたんだぁ。ヤギ系のフレンズには人気なんだよぉ?」

「で、でしょう……、ね……」

 疲労しきったわたしは、いまだ舌上で叛逆を起こしている雑草ティーの衝撃を受け止めきれませんでした。そのまま意識はブラックアウトしてしまったのです。

 目が覚めると、わたしは横に寝かされていました。

「あ、起きたぁ?」

 アルパカさんがコップに汲んだ水を差し出します。

「ごめんねぇ。せっかく来てくれたのに」

 彼女は頭と耳としっぽをしょんぼりとさせています。

「いいえ、気にしないでください。お気遣いいただきありがとうございます。えーっと、ここ、評判だったみたいですね?」

 これ以上は堂々巡りになりかねないので話題を変えますと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせました。

「かばんちゃんがぁ目印作ってくれたおかげでいーっぱいお客さんが来てくれたんだぁ」

「かばんさん……」

「そぉそぉ。こーちゃもひょーばんになってぇ、みんなたくさん飲んでくれたんだけどぉ」

「そのおかげで茶葉が無くなった、という事ですか……」

「そぉなんだぁ」

 アルパカさんがため息をつきます。

「せっかくお客さん増えたのになぁ」

「……何か、他の方法を考えましょうか」

 なんとなく放っておけませんでした。里でいろいろ世話焼きをしていたからでしょうか。

「他の方法?」

「ええ。紅茶を出すだけがカフェじゃありませんからね」

 幸い、キッチンは整備されているようですし。

… … …

「わぁああー!! すんごいなぁ!」

 クッキー、マフィンにシフォンケーキ。ここで用意できた材料と器具、そしてアルパカさんが作れるレベルのお菓子です。

 アルパカさんはクッキーを一枚口に運びます。

「おいしーなぁ」

「それはよかったです。……よかったですけど」

 ほころぶ彼女の顔に、こちらも思わずうれしくなります。ですが、こっちは割とそれどころでない事態が発生していました。

「この小麦粉……。製造年月日が先週になってるんですよね」

 使い切った小麦粉の袋に印字されている文字は、間違いなく先週の日付。それだけではありません。

「これは牛乳風豆乳。こっちの乾燥卵は植物性……。しかもまだ新しいなんて……」

 これらはキッチンの戸棚に置かれていたものです。カントリー風の雰囲気を壊さないように偽装されていた冷蔵庫には、新鮮な果物も入っていました。生ものはさすがに怖くて使えませんでしたが。逆にここまでそろっているのに、紅茶がないというのが不思議なぐらいです。

 考えられることは一つ。この島のどこかにこれら食品の製造工場が存在し、今でも完璧に作動しているという事。

 しかし、人間の作った施設というものは案外もろいものです。特殊な環境下にあるここでは、百年と持たないはず……。

「考えられるとすれば、誰かが定期的に整備をしているか、妖精さんのおかげか」

「どぉかした?」

「アルパカさん、この小麦粉やお砂糖はあなたが?」

「いんやぁ。こんなのがあるなんて初めて知ったよー」

「ここにはいつから?」

「けっこー前だねぇ」

「じゃあ誰が……」

 製造方法も輸送方法も不明。考えれば考えるほど謎が増えます。

「妖精さんのせい、と言えるなら楽なんですけどねー」

 しかし、ここに妖精さんはいません。こんなにたくさんのお菓子を作ったにもかかわらず。

「よーせーさん?」

 わたしのつぶやきを拾ったアルパカさんが首を傾げます。

「はい。手のひらサイズの……、生き物……、の範疇を超えた存在で、不思議な力をいっぱい使うんですよ」

「へぇ、すごいフレンズなんだねぇ」

「フレンズ……、とはちょっと違いますけどね」

 彼らの正体は、自分はヒトだと思いこんだ我々妖精が追い出した魔法の力が可視化されたものです。普通自在に使役するなんてことはできないのですが、ある程度事情を知っているわたしは例外。おかげで魔法遣い扱いをされたりしていますが。

「……痕跡は見られるんですけど」

 柵一本で激変する植生や気候。そして何よりフレンズという存在。妖精さん抜きで説明する術を、わたしは持ちません。

「まあ、考えてるにしても材料が少ないですね」

 こればかりはお菓子のようにはいかないものです。

 その時、アルパカさんがぽつりと言いました。

「どっちかっていうとぉ、サンドスターみたいだねぇ」
 

「プチモニ。あの島に関する情報は?」

『ほとんど皆無ですね。今本体のデータを全力で漁ってるんですけど』

「まったく、あいつったら遭難者探しに言って自分も遭難するなんて、何回同じことすれば気が済むんだよ、バカ……」

『あ、なんかそれっぽい情報が一件ヒットしました』

「どんなの?」

『えっと、だいぶ古いデータですね。どうも「人類最後の動物園」だとかなんとか』

「あそこが動物園だったってのはわかってるんだよ。それ以外!」

『でもこれ、調停理事会のデータですよ』

「どういうことさ」

『あの動物園『ジャパリパーク』は国連調停理事会の管理下に置かれていたみたいですね。……ん? あれ?』

「Yさーん! MI6の方で船の調達ができそうですー」

「了解! すぐ行く!!」

『あのー、安保理の記録にもここの名前が……。ってもう行っちゃいましたか』

――国連調停理事会。ヒト人類と妖精人類との間を取り持ち、軋轢を避けるべく設置された。設立初期の状況や当時の詳しい活動記録は大断絶により消失。なお、現在その役割はほぼ終了している。

9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

9 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:32:29.95 ID:DV9Bek1G
曜「梨子ちゃん♪行こ?」
>>2
梨子「え、ええ…」

曜「どう?学校には慣れた?」

梨子「うーん…まだ、かな…
曜ちゃん以外に喋る子あんまりいないし…」

曜「そうなの?そっかぁ…」

梨子「うん…」

曜「さ、着替えよっか」

梨子「そ、そうね」

1 名前:名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@無断転載は禁止 [sage] :2017/03/11(土) 00:24:27.16 ID:DV9Bek1G
アニメ本編とは別時空です
>>2
梨子「はぁ…転校して来た途端変な人に絡まれるし付いてないな…私…」

曜「ん?あっ、転校生の子だ♪」

梨子「あ、どうも」ペコリ

曜「千歌ちゃんに追いかけられてばっかりで大変そうだね」アハハ

梨子「千歌ちゃん…あぁ、うん…そうですね…」

曜「んーと…同い年だからタメ口でいいよ?」

梨子「そっか、じゃあそうするね
えーっと…」

曜「あっ、私?私は渡辺曜!曜でも曜ちゃんでも好きに呼んでね♪」

梨子「ふふっ、じゃあ曜ちゃんて呼ぼうかしら」

曜「了解♪じゃあ私は梨子ちゃんって呼ぶね!」

―――


 対峙する私たち三人を残して、絵里は一足先に廃工場内へと進んでゆきました。
 凛と花陽も進行を妨げることはなく、素直に絵里を通しました。


凛「……これで準備は整ったかな」

海未「ええ。絵里を通して貰い感謝します」

花陽「戦う相手は海未ちゃんだから。こっち、ついてきて」


 二人に従い、私もまた一足遅れて廃工場内へと踏み入りました。

 案内されたのは、ことりと絵里が上がった階段の先ではなく、一階フロアの奥でした。
 居並ぶのは、鉄製のクレーンやコンベア、人が何人も入りそうな大型タンクの列、それらを繋ぐ配管の数々。
 もう稼働することのない大型機器類や使用されぬまま放置された廃材が埃を被った状態で残されている、薄暗く湿った旧作業場でした。

お久しぶりです。更新遅れてしまい申し訳ありませんでした。再開します。

「どれもおいしいねぇ」

「ありがとうございます」

 お菓子作りを終えたわたしたちは、クッキーやマフィンを手に一息ついていました。しかし、ここでわたしは大きな間違いを犯していることに気が付いたのです。

「…………」

「…………」

 アルパカさんも気づいてしまったようです。ええ、初歩的なミスでした。わたしが紅茶の代わりにならないかと提案したお菓子の数々、これらを食べていると、

「……紅茶がほしいですね」

「そうだねぇ」

 元々お茶菓子ですものね!(半ギレ)

「こーちゃと一緒に出したらおいしいんだろうねぇ~」

「……そういえば、アルパカさんはどこで紅茶を入手していたんですか?」

「え? ああ、それねぇ、そこの箱の中に入ってたんだぁ。初めてここに来たときぃ、すんごくいいにおいがしたからはかせに教えてもらったんだよぉ~」

 アルパカさんの言った箱は、食器棚の横にちょこんと置かれていました。蓋を開けてみますと、中には何も入っていませんが紅茶の良い香りが漂ってきます。

「前はどんだけ使っても無くならなかったのにー、この間から急に減っちゃったんだぁ」

「なるほど……」

 だいたいタネが見えてきました。

 かつて、自動供給装置と呼ばれるものが都市に張り巡らされていたといいます。情報通信デバイスを利用した物資の供給システムです。生産工場から家庭まで、全自動で物を運んでくれたとか。

 おそらくパークにも同種の装置が存在しているのではないでしょう。生産から流通までのシステムが生きているなど聞いたことがありませんが、この事態を説明するのにはこう言うしかありません。

「なんでまた紅茶だけ機能停止に……」

「こーちゃ、飲みたいねぇ」

「飲みたいですねー、紅茶」

 わたしとアルパカさんが二人してため息を吐いたときでした。

 ピシっ、というラップ音が屋内に響き渡ったのです。割と場数を踏んでいるわたしには、その音が何なのかがわかってしまいました。わたしの耳が確かなら、これは木造建築の断末魔。

「……アルパカさん、つかぬ事お尋ねしますが、このカフェは……、その……、建てられて何年ぐらいですかね?

「さぁ? ずーっと昔からあったよ~」

「……いいですか? そっと、そーっとこの建物から出ましょう」

「へぇ? なんでぇ?」

「このままだとここは……」

 そういいかけたその時、バキバキっという破砕音が鳴り響くと、

「ふぁっ!?」

「ええっ!?」

 床が抜け落ちました。

 下を見ますと、まるで地底のそこまで続いてそうな深く暗い大穴が広がっています。わたしとアルパカさんは、重力に則ってその穴底へと真っ逆さまに落ちていきました。



 ああ、願わくば痛みなく一瞬でつぶれてしまいたいものですね……。

 わたしはヤメタさんとお話していました。覚えていますか? いつか知り合った、ジャガリアンハムスターの彼です。

 イタチたちとの凄まじい生存競争を繰り広げていた彼らとの日々。なんでいまこんなことを思い出すのでしょう。わたしにとってはひどい思い出なはずなのに。あの忌々しい……、忌々しい、妖精さんが作ったあの道具のせいで、わたしは……。

 気が付くと、砂山に埋もれているようでした。おかげで何も見えません。

「んんん!?」

 もぞもぞと動きますと、上に突き出た手が空を切ります。それを頼りに、私は砂山から脱出できました。

「ぱぁっ!?」

 息を胸いっぱいに吸い込むと、強い紅茶の香りが鼻を突きます。あたりを見回すと、そこはなんと、

「これ全部……、茶葉?」

 茶葉の山でした。里の人が総出で飲んでも何十年もかかりそうなほど大量の茶葉です。それが、学舎の体育館ほどのスペースに山のように敷き詰められていました。照明が機能しているため、あたりがはっきりと見渡せます。

わたしはこの茶葉山の上に落ちたおかげで、九死に一生を得たようです。

「あ! 大丈夫だったぁ?」

「ええ、なんとか」

 茶葉をかき分けるようにしてアルパカさんが姿を現します。彼女もどうやら無事なよう。

「ここ、どこだろうねぇ。かふぇの下にこんなところがあるなんてぇ、ぜんぜん知らなかったよ~。こーちゃがいっぱい!」

「貯蔵庫、ですかねぇ。」

 上を見上げると、ちょうど私たちが振ってきたのだろう四角い穴がぽっかり空いていました。天井は高く、穴からここまでも10メートルはありそう。我ながらよく助かったものです。

 天井にはクレーンが設置されており、壁にもいくつか大きな穴が開いています。おそらく製造された茶葉をここに運び込み、あのカフェをはじめとした各施設に分配、配送を行っていたのでしょう。

「さて……、どうやってここから出ましょうか」

「う~ん、ドアもないみたいだからねぇ~」

 アルパカさんも困ったようにあたりを見回します。壁の穴は天井付近にあり、到底届きません。ハシゴや階段の類もなく、脱出は難しそうでした。

 その時、暖色だった照明が突如エマージェンシーなサイレンとともに赤く変わりました。

『禁止地区にフレンズの立ち入りを確認シマシタ。タダチに保護シマス』

「あ、ボスの声だぁ~」

 危険漂う雰囲気の中、アルパカさんののん気な声が逆に際立ちます。

「ぼ、ボスってジャパリまんを配ってるとかいう? 機械音声なんですか、彼女!?」

「う~ん、ボスがしゃべってるの、私もこの間初めて聞いたんだよぉ~。かばんちゃんとはおしゃべりしてくれるんだけどねぇ~」

「なんだか剣呑な感じなんですが大丈夫なんですか!? なんかまずい感じになりませんか!?」

「だぁいじょーぶだいじょーぶ。ボスは悪い子じゃないからぁ。ちょっと無口なだけだよぉ?」

 サイレンの中に、わたしの耳は何か別の音を感じとりました。

「……何か、聞こえませんか?」

 ザク、ザク、という音がどこからか聞こえてきました。その一定のリズムには、なんだか聞き覚えがあります。そう、これは大群が行進しているときにそっくりです。

 アルパカさんも気が付いたようです。

「う~ん、足音?」

 やがて壁に空いた穴から、

「あれぇ、ボス、いっぱい来たね~」

 大量の『ボス』が姿を現したのです。

『『『『保護スルヨ。保護スルヨ』』』』

 蛇口から水があふれるかの如く、次々湧き出るボス。その光景には、思わず恐怖せずにはいられません。わたしはアルパカさんの袖を引っ張り自然と後ずさりします。

「ほほ、本当に大丈夫なんですよねっ!?」

「だいじょーぶだってぇ。しんぱいしょうーだねぇ」

『『『『保護……ほほ、保護ごごごごごご』』』』

「なんだかエラー起きてませんか!?」

「調子悪いのぉ、ボス?」

 リズミカルに更新をしていたボスたちは、私たちを取り囲むと突如としてその動きを止め、バグが起きたように音声不良を起こし始めました。何か他にも不調があるのか、皆細かく震えています。

『……ガガガ、セ』

「せ?」

『セルリアンを確認。排除シマス。排除シマス』

「は?」

 疑問に首を傾げたのは一瞬でした。ボスからけたたましい警報音が響き始めたのです。

「こ、これ、不味くないですか?」

「セルリアン? どこにでたんだろうねぇ」

 そうです。セルリアンが出たということは我々大ピンチ。万が一この部屋の中に出現しようものなら、逃げ場はありません。

 どうしようもないので、ひとまずボスとやらに尋ねます。

「えっと、ボスさん? 我々も逃げたいので、どこか避難所のようなところはありませんか?」

『セルリアンを確認。セルリアンを確認』

「ボスさん?」

『セルリアンを確認、セルリアンを確認』

 ボスはわたしたちを取り囲んだまま動きません。警報音を鳴り響かせながらじっとこちらを見つめるだけです。

 なんとなく、頭の中にいや~な予感がしました。いえ、余りにも突飛な考えです。考えるだけばかばかしいものです。

 ですがこの状況から導き出される仮説の一つとして、

『私がセルリアンと勘違いされている』

 といえなくもないのではないか、とも思えてしまうのです。

 いえ、考えすぎです。たぶん故障か、ほんとにセルリアンが出たかどっちかでしょう。後者だったら困りますが。

「う~ん、セルリアンの気配はしないけどねぇ」

「たぶん故障かなにかですかね?」

「こしょー?」

「今ちょっと調子が悪いんですよ、ボスは」

「やっぱりねぇ~。……ん?」

 アルパカさんが突如上を向きました。

「どうかしましたか?」

 つられて私も上を向きます。そこにあるのは、私たちが落ちてきた穴。そして、

「ア~ル~パ~カ~」

「助けに来たぞぉ~!」

「ちょっと心配してるんですけど~」

「こんなところがあるなんてねぇ」

「ぎゃぁぁぁぁ!! 落ちるぅぅぅぅ」

「…………」

 ぞくぞく落下してくるフレンズたちの姿がありました。

「トキぃ!」

「大丈夫? アルパカ」

 トキさんは地面すれすれで大きく羽ばたき、抱えていたもう一人のフレンズ――姿を見るにヘラジカでしょうか?――を下ろします。

「まにあってよかったんですけど!」

「しょーじょートキも!」

 もう一人、真っ赤な体のショウジョウトキさんはライオンさんを抱えて舞い降ります。

 そして、

「うぎゃぁぁぁふぎゃっ!? やべぇよ! まじやべえよハシビロコウっ!」

「……ごめんなさい、オーロックス。私、トキみたいに飛ぶのが得意じゃなくて……」

 ほとんど紅茶の山に突っ込むようにして着陸したのは、ハシビロコウさんとオーロックスさん。

「どーしたのぉ、こんなとこまでぇ」

「ボスがアルパカがセルリアンに襲われてるって教えてくれたの」

 トキさんがそう説明し、ヘラジカさんたちを紹介します。

「ちょうど近くにいたから、一緒に来てもらったわ」

「やぁやぁ! 私はヘラジカ! この私が来たからにはもう安心だぞ!」

「遅れてごめんねぇ」

ヘラジカさんとライオンさんはさっそくあたりを見回します。

「ボスがいっぱいいるが……、セルリアンの気配はないな」

「匂いもしないねぇ。オーロックス、そっちは?」

「ありません! ところで……」

 オーロックスさんがわたしを指さしました。

「こいつ、誰ですか?」

「ああ! その子ねぇ、かばんさんとおんなじフレンズなんだってぇ~!」

「なに!? カバンと同じフレンズなのか!?」

「へぇ~、私とホワイトライオンみたいな感じかな?」

 一同の視線がじっと私に集まります。もともと人見知りのわたしは居心地の悪さを感じながらも、調停官の仕事で身につけた一握りの社交性を発揮します。

「ど、どうも……」

 無理でした。

 相手が妖精さんならいざ知らず、見た目だけは普通の人間の少女と寸分変わらないのです。妖精さん相手のようにはいきません!

「じゃああんたもヒト? っていう奴なんだな! かばんみたいに不思議な事をいっぱい考えるのか?」

 ヘラジカさんが目を輝かせます。

「ええと、まあ、そんなところです」

わたしはその視線から若干目をそらしつつ、曖昧に肯定しました。そもそもヒトじゃありませんし。発想も凡庸ですし……。不思議な力、取り上げられちゃってますし……。

「ん?」

 みなさんがわたしを取り囲む中、ハシビロコウさんだけが遠巻きにわたしを見つめていました。いや、もうこれは睨んでいました。

「ええと……」

「…………」

 なぜか心の仲間で見透かされているような気分になります。何か知っちゃったんでしょうか、わたし……。

 そんなハシビロコウさんの様子に気付いたのはトキさんでした。

「どうしたの? ハシビロコウ」

「……昔、オオカミから聞いたんだけど」

 ハシビロコウさんがぼそりと口を開きます。

「フレンズ型のセルリアンがいたんだって」


「……え?」


 一瞬でわたしを見つめる目が変わりました。

 凍り付いた空気に脅えるようにあたりをうかがいながら、ハシビロコウさんは続けます。

「ボスは……、アルパカがセルリアンに襲われてるっていってたから。その……、アルパカと一緒にいたあなたが、もしかしたら」

「いやいやいやいや! そんなわけないじゃないですか!」

 疑惑と疑念と疑いに満ち溢れた視線と空気を丸めて燃やしてポイしてしまおうと(ご覧の通り少し狼狽しています)明るい声を持って全力で否定します。

「セルリアンってあのスライムの化け物みたいなやつだったのでは? わたしはどこにもスライム要素はありませんよ?」

 そういってクルクル回って見せます。

「それにほら! おめめも二つありますし!」

「そうだよぉ! この子はセルリアンなんかじゃないよぉ!」

 アルパカさんも援護射撃をしてくれます。これなら彼女たちも納得してくれるはず!

「お前……」

「ヘラジカさん?」

「アルパカを食う気だったのかぁぁぁぁ!!」

「そんな気はさらさらありませんっ!!」

 まさかの聞く耳ナッシング!

 わたしの全身全霊全力の抗議にも耳を貸さず、ヘラジカさんは武器を顕現させ構えました。

「ライオン! オーロックス! 一斉にかかるぞっ!」

「じゃあ私が石を狙うよ」

「はい、大将! 自分とヘラジカでやつの体を削ぎます!」

 削ぐっ!?

「かかれぇぇぇ!!」

 わたし、大ピンーチ!

閲覧いただきありがとうございます。しばらく書き溜めです。次回はもう少し早くあげられるように頑張ります。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom