提督「潮が曙の恋を応援するお話」 (29)

潮「曙ちゃん! 曙ちゃん!」

曙「なによ」

潮「曙ちゃんって提督のことが好きなんだよね!」

曙「……は? ごめん、意味が分からない。あれと私のやりとりを見てよく言えるわね」

潮「私知っているよ? 曙ちゃんはつい好きな人にキツくなっちゃうツンデレさんなんだよね? インターネットに書いてあったもん!」

曙「……そのインターネットが嘘をついているかもしれないじゃない」

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潮「まさか! インターネットは心ない書き込みの情報集合体なんだよ? 心を持たない虫が嘘をつくと思うの? 曙ちゃん?」

曙「……あんたは私に何をして欲しいの?」

潮「曙ちゃんにとって提督は運命の人なんだよ。否定的に辛く当たっても肯定的にデレデレしても、どちらにしろ曙ちゃんは提督が好きってことなんだから」

曙「馬鹿げているわ。私にだって選択する自由意志があるわよ」

潮「ないよ」

曙「は?」


潮「ないよ。だって兵器である艦娘に心なんてないもん。あるのは外部に表出する身体的記号だけ。
 曙ちゃんが表現しうる意味の外延は全て『提督が好き』を含んじゃってる。提督が嫌いというのは曙ちゃんの表現限界を越えているんだよ」

曙「だから、私は提督が好きだと?」

潮「うん!! 曙ちゃんが曙ちゃんである限り必ずそう! 運命だね!」

曙「……それであんたは?」

潮「私? 私は曙ちゃんの恋を応援したいだけだよ! だって見てられないもん! 宿命づけられた恋に悩む曙ちゃんなんて!」

曙「余計なお世話よ。とんだ迷惑」

潮「そんなことないよ!」

曙「そんなことあるわよ」

潮「曙ちゃんみたいなツンデレ型の恋愛はまず外的要因によって己に秘めたる恋心に気づく所から始まるんだよ?」

曙「それで?」

潮「ほら! 私がこうして指摘したでしょ? 外的要因!」

曙「ええ……。それって普通はもっとこうクソ提督が他の娘と仲良くしているのを見てもやもやする嫉妬とかじゃないの?」

潮「わー! 嫉妬したことあるんだね! 曙ちゃん!」

曙「ないわよ」

潮「そっかぁ。じゃあ、私ちょっと提督に犯されてくるね!」

曙「ちょちょっちょっと!! 待ちなさい! あんた馬鹿じゃない!?」

潮「ほらぁ、やっぱりとめる! 嫉妬したってことだよね!?」

曙「いやいや、普通止めるわよ!」

潮「えー、でも提督のこと何とも思ってないならとめないと思うなぁー」

曙「いや、あんたのことが心配なだけよ……」

潮「……?」

曙「……ああ! 分かったわよ! 私は提督が好き! 潮が提督と行為に及ぶのは嫉妬で気が狂いそうになるからやめてね! これでいい!?」

潮「わーい! 曙ちゃんがやっと素直になってくれたぁ! 嬉しいなぁ」

曙「潮、あんたはもっと自分を大切にしなさいよ」

潮「それでどうしよっか?」

曙「なにを」

潮「どうやって提督を曙ちゃんのものにするかってことだよ?」

曙「愛の告白でもしろっていうつもり?」

潮「そんなのじゃ全然ダメだよ!」

曙「じゃあどうしろと」

潮「あのね曙ちゃん、告白して受け入れてもらえたとしてそれで良いの? 曙ちゃん」

曙「いいも何もそれが目的じゃないの?」

潮「これだから曙ちゃんは……いい? 提督は人間さまなんだよ!? 心ある存在なんだよ!? 私達艦娘とは違うんだよ!?」

曙「一緒でしょ」

潮「全く身の程をわきまえなよ曙ちゃん。私達は所詮兵器。構成物質と配列さえ間違えなければ曙ちゃんなんていくらでも作れるの。
 本質的なのはこの肉体構造だけ、肉体だけが求められているの。提督は違うよね?」

曙「そんなの分からないわ」

潮「私達とは異なる人間さまである提督への恋。だったらその成就もまた肉体本位の私達とは違う形じゃなければならないよね?」

曙「さっさと結論を言いなさい。まどろっこしいわ」

潮「うん。じゃあ言うね! 曙ちゃんは提督を殺すべきだよ!」

曙「は?」

潮「曙ちゃんは人間さまの恋愛作法をしらなすぎるよ。いい? 人間の世界では相手を恋に堕とすことを『心を奪う』って表現するんだよ?」

曙「ただの表現じゃない」

潮「やだなぁ曙ちゃん。高尚な理性的動物である人間さまにとって心それ即ち生命なんだよ!? 中絶が認められるのも胎内の赤ちゃんは命がないからなんだよ!?」

曙「ドイツ艦が聞くと怒りそうね」

潮「人間さまにとって「心を奪う」とは「命を奪う」こと! つまり人間さまの恋愛は殺し合いなんだよ! 曙ちゃん!」

曙「それなら殺人罪なんてないと思うんだけど……」

潮「愛にも基準はあるよ! そうじゃないと殺し放題だもんね! 同性同士のホモや年が離れてるロリコンなんてものは当人同士が認め合っても殺し合うと即犯罪になるにきまっているよ!」

曙「私が提督と付き合うとあいつロリコンで逮捕されないの?」

潮「大丈夫だよ! だって曙ちゃんは人間さまじゃなくてただの兵器でしょ!? 道具の外装が幼女ってだけで逮捕されるほど人間界は厳しくない! やったね曙ちゃん! 思う存分殺して良いよ!!」

曙「殺さないわよ」

潮「えええっ!? なんで!?」

曙「殺したところで私に何か得るものがある?」

潮「? ないよ?」

曙「なら殺す必要ないじゃない。普通に恋人同士でも」

潮「何を言ってるの? 曙ちゃん? ただの道具である曙ちゃんに、精神性に依拠する恋愛から得るものなんて何もないのに……」

曙「喧嘩売ってんの?」

潮「だ、だってぇ、ただの物質である曙ちゃんに精神的な情報なんて理解できないよぉ。
 例えばデカルトを悩ました心身問題、現代で言えばチャーマーズの言う意識のハードプロブレムと人類はずっと平行関係にある物的肉体と心的精神の架け橋に苦心してきたんだよ?」

曙「潮、あんたって本当に心ないことを言ってくるわね」

潮「曙ちゃんもだよね?」

曙「あんたよりマシよ」

潮「0にマシも何もないよ、0は0だよ。……だからね、曙ちゃん、曙ちゃんは恋愛から何も得られないのだから、せめて提督にだけでも死を与えてあげよう? ね? 提督を殺そう? ね?」

曙「なんで私が諭されているのよ! あんたでしょ諭されるべきは! 殺して恋愛成就なんて馬鹿げているわ! 異常よ! 殺しても虚しさしか残らないわ!」

潮「どうせ私たちには心なんて見えないのだし虚しいのに変わりないよ。どうせ虚しいのなら人間さまである提督を殺そうよ? ね?」

曙「どうしてもあんたは提督を殺させたいようね。……でももしかしたらあのクソ提督も人間じゃないかもしれないわよ」

潮「…………」

曙「……クソ提督も一応は人間だったわね。悪かったわよ。変に疑って。でも、私は提督を殺さない。あいつが如何にクソでも殺される程じゃない」

潮「もう! 曙ちゃん! 自分勝手がすぎるよ! 提督が可哀想! 殺されない提督が可哀想!」

曙「殺される方が可哀想でしょ」

潮「曙ちゃん、人間さまはね、『理不尽な死』によって初めてその生が燦然と輝くんだよ? それがどうしてか分かる?」

曙「分からないし。分かりたくもない」

潮「人間さまの精神はね至上の正価値を持つけど、薄汚れた肉体は負価値なの。だってそうでしょ? 肉体は道具的で心ないものなんだから、人間さまの本質とは背反するよね?」

曙「人間の価値は肉体によって半減しているとでも?」

潮「だってよく考えてみて? 生前がどんなに救いようのないクズであったとしても、例えば突発的な事故死の後だと、途端にその人への価値は爆発的に上昇するんだよ?」

『あいつはとても真面目で良い奴だった』『死ぬには早すぎた』『肉体の有無ではない』

潮「これは肉体という負価値なる足かせが無くなって、純粋精神として、この世にある人間よりも高次の価値を純然に示せるようになったからだよね!?」

曙「あんたの言い分だとまるで人間は死ぬためだけに生まれてきてるみたいじゃない」

潮「そうだよ! 人間はみんな殺されるべくして生まれてくるんだよ!!
 だってそうじゃないと、母親が愛すべき我が子をこんな低俗で卑劣なこの世界に産み落とす理由がないもん!
 受肉とアセンション! 生命価値の低迷と回復! 較差が大きいほどに喜悦と浄福はより大きく! 自己言及的信仰の大いなる肥大化! かくあれかし! かくあれかし! あはははははは!」

曙「楽しそうな所悪いけどうるさい」

潮「ご、ごめんね? ついはしゃいじゃって」

曙「……一時の気の迷いから出た言葉だと信じているわ。……提督とは頑張って付き合うようにするから、もうそれでいい……?」

潮「どうしてなの……? どうしてそんなに頑なに拒むの? だって曙ちゃんがやろうとしている行為ってデートで食べさせあったり、ただなんとなく隣に座りあって静かに時を過ごすことなんでしょ? おかしいよ! 異常だよ!」

曙「どこがよ? 私には普通の恋人同士のすることを望むことも出来ないわけ?」

潮「提督にとって肉体はただの檻なんだよ? そんなものを対象に愛を育むなんて愚かな肉体崇拝、侮辱的な偶像崇拝だよ。
 分かってるの? 曙ちゃんがしようとしていることは提督を監禁することだよ? ただのお人形遊びなんだよ? もはやそれはツンデレちゃんじゃなくてヤンデレちゃんだよぉ」

曙「どれだけ殺させたいのよ……。いい。私達は艦娘。人類を守る、そうね、あんたに合わせれば、非本来的な肉体を伴う人類を守るのが私達の使命でしょ? 違う? 潮、今のあんたはまるで深海棲艦みたいよ」

潮「違うよ! 深海棲艦のゴミ虫どもは人類を、この素晴らしい人類を根絶しようとしている! 愚鈍! 傲慢! 白痴!
 個人の死の価値はその背景にある人類母体によって基礎づけられるのに、それごと全て掃滅しようとしている! 許せない!」

曙「そうね。私も深海棲艦は許せない。犠牲を減らさないと」

潮「人は孤独に死んでいくべきだよ! 他の生きている奴らみなを脇役に押しのけて生の主役として輝いて死んでいくべきだよ!」

曙「……んー」

潮「私達は健康的な死のために人類を守っているんだよね!? 曙ちゃん!!!」

曙「んー……んー? ……そうね!!!」

潮「曙ちゃん!」

曙「潮!」

潮「わーい! 曙ちゃんと志を共にできて嬉しいなぁ!」

曙「まあ、取り敢えず深海棲艦を憎んでいる点では一致しているわね!」

潮「曙ちゃんには恋も戦争も負けないんだから! 深海棲艦も提督も曙ちゃんより多く殺しちゃうんだから!」

曙「ふん! 大きく出たわね! 潮のくせに私より多く殺すですって!? 深海棲艦を根絶やしにするのはこの私! 曙よ!」

潮「じゃあ行こっか! 戦いはいい! 私達にはそれが必要なんだ!」


おわり

ラブコメって書くの楽しいよね

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年03月08日 (水) 15:15:17   ID: cR3ZdZDH

このうしおこわい

2 :  SS好きの774さん   2017年10月23日 (月) 07:40:09   ID: GotnLRgb

この潮ナニカサレテやがる

3 :  SS好きの774さん   2018年11月17日 (土) 06:30:01   ID: s-CGyvEB

麻原は死んでも美化されてないぞ

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