照「菫、ありがとう」 (46)

照×菫です。

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宮永照はひとりだった。家族も友達も自分の感情さえも全て故郷の長野に置いて、彼女は上京した。

東京に来て最初に見たものは押し寄せる人波。そして、最初に話したひとの名前はーーー弘世菫。他でもない彼女だった。

菫は照が初めての東京に迷子にならないように迎えにきてくれた。別に彼女にその義務はない。義理もない。

だけど菫は同じ部屋に寝泊まりする照のことが気になった。だから迎えにいった。

そんな菫に対し、彼女は礼を述べるどころかそのまま菫の横を素通りした。完全に菫の存在などは眼中になかった。

(東京。お母さん、大丈夫かな)

照は地図を広げ、白糸台の女子寮の所在を確認する。

「えっと、宮永さん? 女子寮の場所が分からないなら案内するが」

その言葉に反するように地図を眺めながら歩き出すが、途中、何度も人波に飲まれかける

照が人波に拐われかける度に菫は照を自分の元まで引き寄せる

菫「お前はまた・・・」

照「うるさい」

菫「はぁー、このままだと日が暮れるな」

照「あなたはもう帰っていいよ」

菫「ひとりじゃ一生たどり着けないぞ」

照「・・・」

照(鬱陶しい)

照「もうどっか行って、鬱陶しい」

その言葉に菫は憤りを覚えた。

菫(こんなのと、これから三年間の寝食を共にしないとならないのか)

そして、深い溜め息を吐き、菫は今後のことを思い、頭を抱えた

そんな菫の様子を無視して、再び彼女は歩き出した。そしてその後ろを辿るように菫が着いてきていた。

菫「場所、分かるか?」

照「・・・」

菫「宮永さん?」

照「・・・」

照(しつこい)

菫(折角、少しでも仲良くなろうとこちらから歩み寄ってるのに、なんなんだこいつは)

それから険悪な雰囲気のまま歩き続けること約1時間。ふたりはようやく白糸台の女子寮に着いた。

照「・・・」

照(大きい建物)

菫「やっと着いたか」

菫(駅前からバスに乗れば15分くらいで着いたんだがな)

ここまで

照「・・・」

照(入っていいんだよね)

菫「どうした、入らないのか?」

照「・・・」

菫「おい、聞いているのか」

照「うるさい」

菫「お前はさっきからなんなんだ。私が何かしたか?」

照「・・・別に」

それだけ返すと照は寮の敷地内に入っていった。そして、その後ろに続くように菫も歩き出す。

寮に入って直ぐにある窓口で部屋の鍵を受け取り、自分の部屋に向かう。歩きながら照は吐き出すように呟いた

照「どこまで着いてくるの?」

菫「なんだ聞いてないのか。私とお前は相部屋だ」

その言葉を聞いた瞬間、ピシャリと照は固まった。

照「は?」

菫「今日から三年間、お前と私は一緒の部屋になるんだ。だからさっきみたいな態度はやめてもらいたい」

照「・・・善処する」

それだけ言うと照は再び、歩き始めた

そして、二人は自分たちの部屋に着き、中に入る。

照「・・・ここが今日から」

菫「ああ、ここが今日から私達の部屋だ」

照「・・・」

照(やっとひとりになれると思ったのに)

照(ま、いい。アレと離れることができたからこれくらいは我慢しよう)

菫「そういえばまだ名乗ってなかったな」

照「?」

菫「私は弘世菫。今日から三年間よろしくな」

照「ん」

菫「・・・」

菫(相変わらず無愛想だな)

ここまで

 それから数日後。その日は待ちに待った白糸台高校の入学式である。

 朝、菫が目を覚ましたときにはもうすでに照の姿はなかった

菫「・・・なんだ、もう行ったのか」

菫(時間にはまだまだ早いというのに)

 菫はここ数日、照と一緒に過ごしてみて分かったことがある。

 彼女は菫との交際を拒絶しているが、そこまで完全に拒絶しているわけではない。

 照のあの険悪な態度も慣れない場所で気を張っていたのだろう

 菫は観察力にはそれなりの自信があった。だからその自信を裏付けに照のことを考えている

 すると、不意に菫は思った。

菫(私は何を考えてるんだろ)

菫「あー、もう、やめだやめ! 他人の気持ちを理解するなんてのはおこがましい」

菫「・・・」

菫「そろそろ準備するか」

 一方その頃、先に寮を出て学校に向かっていたはずの宮永照は、何故か病院にいた。

 花束を片手に照は階段をゆったりと登り、そして突き進み、ある病室のドアの前に立ち止まる。

照(着いた)

 そのまま照はノックもせずに病室に入っていった。

 その病室のベッドに女性が寝ていた。チューブに繋がれ、昏睡していた。

照「お母さん、おはよう」

 女性は答えない。答えられない。

照「今日、入学式があるの。これが私の制服だけど、似合うかな?」

照「・・・」

 そして、照は花瓶に花を活け、最後に昏睡している女性に笑顔を向ける。

照「じゃあ、お母さん。私はもう行くね」

 そのまま照は病院を後にした。

 ―――白糸台の下駄箱前。そこに張り出されているクラス分けの紙の前に菫がいた。

菫「……」

菫(私のクラスは……あった)

菫「……宮永も一緒か」

菫(宮永はもう教室か?)

ここまでです

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