メイド「私の嫌いな貴方様」 (78)





メイド「そもそもから言って、私は貴方様との婚姻に賛成しているわけじゃないんですよ」





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メイド「覚えています? 初めて出会った日のこと」

           ヤカタ
メイド「我が家に突然お館さまがいらっしゃって、婚約者にしたからと言うんですよ」


メイド「なにも知らされてなかった私は大変驚きましたよ。……まあ、私に話がいくわけないですけど……」


メイド「納得は勿論しませんでしたよ。……けれど、旦那さまが決めたこと」


メイド「メイドの私が口出しできるわけがございません」


メイド「ええ、内心どれだけ怒りの火が燃えたぎっていたことか!」


メイド「しかも、貴方様に少しでも時間ができると、顔を見たかった~とかなんとか申し上げられて屋敷まで押し掛けて」


メイド「貴方様はそのとき十三歳ですよ」


メイド「来訪なされたとき、貴方様なんて言ったか覚えてます?」


メイド「将来のお嫁さんと早く仲良くなりたくて、ですよ!」


メイド「普通、十歳の女の子にそんなこと言いますか?! ませてますねっ!」



メイド「え? えぇえぇ確かに喜んでいましたよ。貴方様がいらっしゃる~って」


メイド「ですが、それはそれです」


メイド「いま私は貴方様との結婚に賛成できない、という話をしているんです」


メイド「だったら君の話も関係ない、ですって?」


メイド「そんなこと一々気にするような人と結婚するんですか……ふぅーん……」


メイド「話を続けますよ」


メイド「次は貴方様の別荘に行ったときのことを思い出しましょうか、ねぇ……簡単に思い出せるでしょう」


メイド「あれだけのことをおやりになられたのだから」


メイド「――そう。そうです。そのことです」


メイド「つかぬことをお聞きしますが、貴方様は当時何歳でいらしたでしょうか?」


メイド「――。そうですね、十六歳です」


メイド「と、いうことは?」


メイド「――。勿論そうですね。三歳差なのですから、十三歳ですね」


メイド「そんな男女が? ええ? 夜に別荘を抜け出して二人きり?」


メイド「どれだけ責任感無いんですかね? どんな間違いが起こるか分かったもんじゃないですよ? ねえ?」


メイド「星を見せたかった。ふぅん……見せたかっただけじゃないですよね?」


メイド「そうですね。それを言って泣かせましたね」


メイド「なんですか? 一生幸せにするって? そのフェイスに似合ったあまあま告白ですね」


メイド「古くさいプロポーズにうんざりです」

メイド「で、ですよ。泣いて帰った理由を聞いた旦那さまが……」


メイド「うちの子を君に頼んだ正解だったって」


メイド「奥様も似た調子で」


メイド「はあ……ほんと何かあったらどうするつもりだったんですか?」


メイド「……はあ……もういいです……これだけじゃありませんからね」


メイド「――って、ため息を吐かせている原因は貴方様でしょう!!」


メイド「h……っ! つぎっ!」


メイド「お祭りです! そうお祭り!」


メイド「あの頃はおたがい受験生だったのにも関わらず、よくそんなものにつれていきましたね」


メイド「確かにね、よろこんでいましたよ。わーいデートだ、といって」


メイド「……は? いまはそんなこといいでしょう。結局楽しんでたのでいいんです」


メイド「で、これまた二人で抜け出して? え? 何をしたんですか? え?」


メイド「……。しつこいとか言わない! 照れて顔を赤くしない! ほら……」


メイド「……。そうですよ。そうですそうです。ちゅーですよ、ちゅー、初めての」


メイド「おう、唇は柔らかかったか? ええ? ふざけんじゃねえよ! ……おっと、失礼……なにおふざけあそばれやがりましたのですか?」


メイド「ずっと、ずっと……私はね、大切にしていたんですよ」


メイド「それに突然手を出されたわけですよ。いやね、確かに……」


メイド「確かに許嫁同士、いつかはされるのだと思いましたよ」


メイド「けれどね――え? 嬉しそうだった? だからどうしたのです? 相手が喜べばなんでもしていいと申すのですか? 貴方様は?」


メイド「まあ、もういいですよ。キスの話は」


メイド「そんな色恋に惚けた貴方様の顔を見るのは耐えないことですからね」


メイド「……はあ? それは知っていますよ。私を誰だと思っているんですか?」


メイド「なんだかんだと言いましても、やっぱり一番信用されているのは私ですからね、残念でした!」


メイド「じゃあこの調子で話していきますか」


メイド「ちょっとそこ、逃げない。なんのために内緒で呼び出したと思っているんですか」


メイド「まあ、逃げたくなるのは分かりますよ……。だって、ねえ?」


メイド「キスの次といえばねぇ?」


メイド「……ええ、聞きますよ。聞きますとも」


メイド「貴方様が大学四年になった頃ですか……」


メイド「免許をとった貴方様は、受験の終わった許嫁を連れて遠出しましたね」


メイド「想像してください。互いに将来を約束しあった者同士だけで遠出……」


メイド「相手は明らかにこちらに好意を寄せている……」


メイド「……。間違いが起こらないわけないですよね? ね?」


メイド「……はい。なにも言わなくて結構です。その反応が全てを語ってます」


メイド「やだやだ、これだから最近の若い人は……。男女七歳にして同衾せずって言葉をしらないんですか」


メイド「どうです? 可愛かったですか? どうでしたか?」


メイド「そうですよね。ずっとずっと一緒に居たんですもの、知ってます」


メイド「というより、貴方様より知っています……」


メイド「私だって……」


メイド「……。…………」


メイド「黙ってください……。泣いてませんよ……ただ、好きだったんです……」


メイド「私は……」





メイド「お嬢様のことが……」




メイド「……お嬢様と私は、お友だちとして、貴方様より前に、お嬢様と仲良くしていたんです」


メイド「優しくて、守ってあげなくちゃいけないくらいおちょこちょいで、やっぱり優しくて……」


メイド「――私の一番の人。この人になら殺されてもいい、それぐらい大切な人」


メイド「それなのに……」


メイド「どうして貴方様なんているんですか? どうして、私は貴方様じゃないんですか? どうして……」


メイド「お嬢様……私を選んでくださらなかったのですか……?」



メイド「……。……黙ってください。しゃべらないでください話しかけないでください!」


メイド「――私にそんなに優しくしないでください……」


メイド「嫌いです。嫌い嫌いきらいっ! 男だからって、許嫁だからって、お嬢様と結婚できる貴方様が嫌いです!」


メイド「――っ!!! 知ってますよ! 貴方様がお嬢様のことを大切にしていることくらい」


メイド「お嬢様が嬉しそうに話すんですもの。今日はあれを頂いたとか、手を握って連れていってくれたとか」


メイド「私だってできますよ! プレゼントも、手を握ることも!」


メイド「でも、私は知っています……貴方様からだからあんなに嬉しそうにお嬢様は語っていらしたのだと」


メイド「それに、このことも知っています」


メイド「――貴方様がどれだけお嬢様のことを愛しているのかということを」

メイド「私もね、賛成したくなんかありませんよ、貴方様とお嬢様の結婚なんて」


メイド「でも、認めるしか無いじゃないですか……!」


メイド「私はただのメイドで、お嬢様を連れ出して逃げる力もなければ、旦那さまに婚約を反故にしてもらえる立場でもない」


メイド「それにですよ……」


メイド「お嬢様を一番幸せにできるのは貴方様なんです」


メイド「家柄的にも、経済的にも……それにお嬢様の気持ち的にも……」


メイド「ねえ……貴方様……」

メイド「………………」


メイド「………………はい……」


メイド「そうですか…………」


メイド「……貴方様……」


メイド「どうか……どうか……お嬢様のことをよろしくお願いします……」


メイド「…………」


メイド「はい……そんなこと、当たり前ですよ」


メイド(翌日、お嬢様は嫁ぎ先に行ってしまわれた……)


メイド「ああ……」


メイド(昨晩の式の後始末。散らかった紙吹雪。汚れた食器)


メイド(どれもこれもいなくなってしまったあかし)


メイド「……っ!」


メイド(心中にどうしようもない寂寥感がつまり、私を突き動かす)


メイド(気づいたら駆けていた)


メイド(後ろから、どこいくのよ掃除サボんなとか聞こえたがそんなもん知るか)


メイド(私は――)


メイド「はあ……はあ……」


メイド(お嬢様の部屋……)


メイド(ドアを開け、中に入る)


メイド(そこには当然、誰もいなかった)


メイド「お嬢様……」


メイド(足は無意識のうちにヨロヨロとベッドの方へ……)


メイド(誰もいないベッドへと倒れこむ)


メイド「お嬢様……」


メイド(鼻孔をくすぐる大好きな匂いが、つーんと目奥を撫で上げた)


メイド「っ……お嬢様ぁ……」


メイド(私の大好きな人は、私の大嫌いな人のところへといってしまった)


メイド「私の嫌いな貴方様」


メイド(お願いです。どうか……どうかお嬢様を――私の大好きな人を――幸せに……)

【メイド「私の嫌いな貴方様」】 おわり




【女吸血鬼「いつまで君のことを覚えていられるかな……?」】



少女「はやく起きてください……もうとっくに日が暮れましたよ……吸血鬼さま……」


女吸血鬼「ん? くぁあ~。……そうかい」

女吸血鬼「君、つかぬことをきくが……人間は起きている間何をしている?」


少女「あっ! ついに人間の生活に興味を持ちはじめたんですね!」

少女「いいですよ! 不肖この少女、吸血鬼さまの気になること、頭から尻尾揺りかごから冥府まで、なんでも教えますよ!」キラリーン


女吸血鬼「…………」

女吸血鬼「で? 私の質問の答えは、どうしたんだね?」


少女「ああっはいっ!」

少女「ええっとですね……男は村の外にいって狩りを、女は家で洗濯裁縫、子供は畑や田んぼの手入れですね」


女吸血鬼「つまり生産的に過ごしていると?」


少女「そうですね。生きてくために必要ですから」


女吸血鬼「ふむ……。では私はなんだ? 言ってみろ。人間か、私は?」


少女「は? 嫌ですね、吸血鬼でも痴呆ってあるんですか?」


女吸血鬼「……」ピクッ

女吸血鬼「……そうだな……私は吸血鬼だ」


女吸血鬼「……そう、私は吸血鬼である」


少女「……そうですね。爪先から頭の先まで純吸血鬼ですね」


女吸血鬼「そうだそうだ。いいか君、この私が自身の種族について忘れると言うことは一切ない!」


少女「……名前は?」


女吸血鬼「は?」


少女「自分の名前です……言えるでしょ? ……言えますよね?」


女吸血鬼「………………」

女吸血鬼「……ァ、――ノ……二世だ!」モゴモゴ


少女「はい? そんな噛みきれないものを食べているんじゃなんですから言葉をモゴモゴさせないでください。……ひょっとして……入れ歯が必要ですか?」


女吸血鬼「…………」ブチッ


女吸血鬼「なんたら、なんたらーノ二世だ! ……ふんっ」


少女「なんたらって……覚えてないじゃないですか……!」


女吸血鬼「ええい! そんなことはどうでもいいのだ」


女吸血鬼「あれだ……! 吸血鬼になるときに名前を捨ててきたのだよ! 私は!」

女吸血鬼「ともかく、いま! 大事なことは、私が吸血鬼だということだ!」


少女「はぁ……」


女吸血鬼「君、吸血鬼が死に物狂いで生きるために何か活動していると思うか?」


少女「血を吸――」


女吸血鬼「そう、無い! 無いのだ!」


少女「――? いや、ですから……吸血――」


女吸血鬼「な・い・の・だ!」

女吸血鬼「吸血鬼は優雅であり、気まぐれであり、恐怖の象徴なのだ!」


女吸血鬼「そんな私がだ! なんだ、学者だかなんだかの小娘に起こされなあかんのだ!」


少女「つまり……ここまで散々声を荒げたのは……」


女吸血鬼「そう。私はもう一度眠りにつかせてもらう!」


少女「……正直、目……覚めましたよね?」


女吸血鬼「…………うむ」

少女「一回……おちつきましょう……?」


女吸血鬼「……そうだな……うむ……」


女吸血鬼「…………」


少女「…………」


女吸血鬼「…………」


少女「……落ち着きました……?」


女吸血鬼「…………」


少女「……? 吸血鬼さま? …………?」


女吸血鬼「……くぅ……くぅ……」スヤスヤ


少女「いや、なに二度寝してるんですか! 起きて! 起きてください!」

少女「起きて、私に研究されてください!」ユサユサ


女吸血鬼「ママぁ……あと五分……」


少女「誰がママだ?! あと、ベタだな、おい!」

――――――
――――
――



女吸血鬼「……今回のことは私が寝ぼけていたということで……」


少女「はい……私も吸血鬼さまに不敬な言葉使いを……大変失礼しました……」


女吸血鬼「いいんだ、いいんだ。……忘れてさえくれれば」



女吸血鬼「さて、本題に入ろうか。君、昨日の続きでいいのかね?」


少女「はい。まだまだありますよ」パサァ

少女「ではこのカード、裏に何がかかれているか、分かりますか?」


女吸血鬼「分からない。どうやら私には透視の力はないようだ」


少女「そうですね。次、じゃあ……このカードを手を使わずに動かしてください」


女吸血鬼「同じく無理だ。念動の才能もない」


女吸血鬼「……なあ君、本当にこんな不毛なこと今晩も一晩中続けるのか?」


少女「そうですよ。何かあるはずなんです、吸血鬼の隠された力が」


少女「だってそうですよね。日光に弱い、十字架がだめ、銀のナイフで即死、流水に勝てない、ニンニクアレルギー」

少女「そんな弱点の多い吸血鬼の力が、不老不死(笑)と夜目がきく(爆死)だけですよ!」


少女「そんなわけないじゃないですか!」


女吸血鬼「……君……バカにしてるだろ……?」


少女「いいえ、まさかそんな滅相もない」


少女「ただそんなに多くの弱点があるのなら、不老不死(笑)なんてあってないようなものだと思いますけどね」


女吸血鬼「君…………まあいい……で、そう思ったから、私には何かしらプラスになる能力があると思った訳だ」


少女「ええそうです、さすが聡明でいらっしゃいますね、吸血鬼さまは」


女吸血鬼「……まあ暇潰しになるからいいか……で、次のは?」


少女「そうですね――」


女吸血鬼「――――ほうほう」

――数年後


女「吸血鬼さま、起きて……あれ?」


女吸血鬼「今日は遅かったね、君」


女「吸血鬼さまの起きるのが早いんですよ」


女吸血鬼「そうかい……まあそんな些末事はどうでもいいことだろう」

女吸血鬼「君から譲ってもらった茶をだそう」


女「おねがいしますね」


女吸血鬼「ふむ……そういえば覚えているかい、君がここに通い始めた頃のこと」

女吸血鬼「なんだったか……吸血鬼には何か知られていない力が隠されてるとかなんとか言って色々なことをしたね」


女「……結局すぐ試すことを思い付かなくなって……」


女吸血鬼「そうそう。君はそうして世間話の相手兼、ときどき検査調査の間柄になったんだけっか」


女「早いものですね……あ、ミルクありますか?」


女吸血鬼「ふむ、あるにはあるがもう少しできれるな……申し訳ないが次はミルクを持ってきてくれ」


女「はい。と、ありがとうございます」


女吸血鬼「うむ。熱いからな、気をつけて飲めよ」

女吸血鬼「ところで、君……最近こっちに来る頻度が上がったんじゃないかね」


女「そうですか?」


女吸血鬼「ああ、前は――君が少女だったころは――週に2日3日顔を出す程度だったが……」

女吸血鬼「ここ最近はほとんど毎日だぞ」


女「……居心地がいいんでしょうね、きっと」

女「吸血鬼さまはどうなんですか?」

女「ずっと一人だったでしょう、寂しくなかったんですか?」


女吸血鬼「そうでもない。何せ君たちの村が近くにあるからね」

女吸血鬼「定期的に君のような物好きが来たものさ」


女「物好き……ですか……?」


女吸血鬼「そうだね。わざわざ何が出るか分からない夜の森を抜けてここまで来るんだ」

女吸血鬼「これを物好きと言わずになんと言えばいいか、私は分からないな」


女吸血鬼「それに――」


女「それに、なんです?」


女吸血鬼「寂しさ、という感情が分からなくなるくらい、長く、生きすぎた」


女吸血鬼「寂しさだけじゃない。覚えたことよりも、忘れたことの方が多いくらいだ」


女「…………」

女「それでも――」


女吸血鬼「それでも、なんだい?」


女「……私のことは覚えていてくれますよね……?」


女吸血鬼「――…………」

女吸血鬼「どう……だろうね……」

女吸血鬼「なにせ自分の名前を忘れたくらいだ」


女「……」

――――
――


女「……こんばんは」


女吸血鬼「おや、ひさしぶりだね君」

女吸血鬼「あんな話をしたんだ、もう来てくれないと思ったよ」


女「そうですね、暗にお前のこと忘れるからと言われて、正直悲しかったですよ」


女吸血鬼「すまないね……軽率な発言だった」


女「ええ、本当に軽率……」ピトッ


女吸血鬼「……? どうしたんだね、君。そんなにくっついて……」


女「たいした理由はありませんよ。ただ、忘れてほしくないからです」


女「私が吸血鬼さまの近くにいたということを……」


女吸血鬼「……そうかい」


女吸血鬼「……君は――」


女吸血鬼「君は……随分と年をとったな……」


女「あらひどい。まだ30手前ですよ、私」

女「でも、そうですね、確かに年をとりました。もう少女とは口が割けても名乗れない」


女「……吸血鬼さまは変わりませんね。出会ったころのままです」


女吸血鬼「不老不死だからね。数多くのバッドステータスに埋もれた唯一……いや二つある長所の内の一つだ」

女吸血鬼「これがなければとっくに自殺していたところだよ、私は」


女「……自殺?」


女吸血鬼「気が狂うくらう長く生きているということさ」

女吸血鬼「おっといけない、またも軽率なことをいってしまったよ。失敬失敬。忘れてくれ」


女「……」


女吸血鬼「――おや? よく見ると君、指が綺麗だな」


女「え? 指、ですか?」


女吸血鬼「うむ、指だ」スルリ

女吸血鬼「長くて、白くて、ふむ……」ギュ


女吸血鬼「――絡ませがいのある指だ」


女「……あまり日に焼けませんから……だから白いんです」


女吸血鬼「私と一緒だな」


女「……吸血鬼さまの指も綺麗ですよ……」


女吸血鬼「ありがとう」フッ

――――
――


女「吸血鬼さま……起きてください……」


女吸血鬼「もう、少し……」ムニャムニャ


女「もう……吸血鬼さまったら……」

女「――!」ハッ


女「……」イソイソ


女吸血鬼「……くぅ……くぅ」スヤスヤ



――数時間後



女吸血鬼「んっ……ふわぁ、よく寝た~~っ……」

女吸血鬼「……ん? なんだこれ――」


女「あっ、起きましたか?」


女吸血鬼「……棺桶のなかは狭いんだけどな……」


女「けど、二人寝転がれる広さはありますよ?」


女吸血鬼「ぎゅうぎゅうだけどな」


女吸血鬼「ほら、出るから……動くな」


女「いいじゃないですか。もう少し一緒に入ってましょうよ」


女吸血鬼「……まあ、君がいいのなら」


女「ふふ……」ギュウッ


女吸血鬼「君はいい匂いがするな」ギュウ~


女「吸血鬼さまこそいい匂いですよ」

女吸血鬼「ふはっ、いい年こいた大人二人が何をやってるんだって話だな」


女「……私は、好きですよ。こういうの」


女吸血鬼「そうかい……」

女吸血鬼「じゃあ、もう少しこのままでいようか」


女「眠っちゃうかもしれません……」


女吸血鬼「いいのだよ、君……」

女吸血鬼「夜は長いのだからな、少しの間眠ってもなんら問題はない」


女「はい……」

女「クゥ……クゥ……」スヤスヤ


女吸血鬼「まさか本当に寝るとはな……」クスッ

女吸血鬼「狭いというのに良く寝れるものだ」ナデナデ


女吸血鬼「……大きくなったな。なめた口を利かなくなったのは大人になった証か否か……」

女吸血鬼「そのくせ甘ったれなところは変わらない」フフッ

女吸血鬼「……」


女吸血鬼「この子も、すぐ……」


女吸血鬼「…………」ナデナデ


――数日後


女吸血鬼「――」ムクリ


女吸血鬼「――――」キョロキョロ


女吸血鬼「……今日もいないか」ハァ


女吸血鬼「最近来ないな、あの子……」


女吸血鬼「……事故にでもあったか……? いや事故じゃなくとも怪我をしたのかもしれない……」


女吸血鬼「大丈夫か……?」ソワソワ


女吸血鬼「――ん? あれは……」


女「……久しぶりです、吸血鬼さま……」


女吸血鬼「まったくだ。どうしたんだね、君。心なしかやつれて見えるぞ」


女「身内に不幸がありまして、回るような忙しさをなんとか身一つで回しまして……」

女「やっと落ち着いたので、こちらに来たしだいです」


女吸血鬼「そうか……それは……災難だったな……」


女「いえ…………あの申し訳ありません、忙しさにかまけて顔も出せずに……」

女「心配しましたか……?」


女吸血鬼「……そうだな、心配した。それに謝る必要はない」

女吸血鬼「身内が死んだんだ。私のことよりそちらを優先するのは当然のことだよ……」


女「……父だったんです」


女吸血鬼「そうか……」

女吸血鬼「……話を聞こうか? 思うところがあるのだろう」


女「……父は私にとって唯一の肉親だったんです」

女「学者としても尊敬していたし、男手ひとつで私を育ててくれたことにすごく感謝もしています」


女「それに吸血鬼さまのことを教えてくれたのは父だったんです」


女吸血鬼「……ということは昔君のお父さんと会ったことがあるんだろうな、覚えてないけど……」


女「ええ、父も一度あっただけだけと言っていました」

女吸血鬼「ふぅん……」

女吸血鬼「……寂しいかい?」


女「はい……」


女吸血鬼「……」

女吸血鬼「あーあれだ、君。前にも言ったが夜は長い」

女吸血鬼「君の寂しさをまぎらわすにはちょうどいい」


女吸血鬼「思い出話でも何でもいい……話そうか」

女吸血鬼「誰かと何か話したくてここに来たんだろう?」


女「ありがとう、ございます……」


女吸血鬼「感謝はいらないよ、君」

……


女「――――ということがあったんです」


女吸血鬼「そうかそうか。それは可笑しいな」ケラケラ


女「……ふぅ……ありがとうございますね、吸血鬼さま」


女吸血鬼「君はさっきから感謝してばかりだな」

女吸血鬼「もちろんその言葉を受けとるのはいささかでなく嬉しいのだが……」


女「……吸血鬼さまは……」


女吸血鬼「なんだい? 私としては話せる身の上なんか無いぞ、全部忘れてしまったからね」


女「年を取ったから?」


女吸血鬼「そうだそうだ……悲しいがそんなものだ」


女「不老不死って悲しいですね……」


女吸血鬼「まあ望んでなるものじゃないな……」


女「……」

女「私は――」


女吸血鬼「……君、外に出ようか」

――外


女吸血鬼「ふむ、私には涼しいくらいなんだがどうかね、君?」


女「そうですね……寒くは、ないです」


女吸血鬼「そうか」


女吸血鬼「……君、こちらにおいで」


女「なんですか……?」

女「――うわっ!?」ビクッ


女「これって……?」


女吸血鬼「私の眷属……こうもりだよ」


女「……多く、ないですか……?」ウジャウジャ


女吸血鬼「これだけいないと……できないからな」


女「なにを……って、きゃあっ!」グワッ


女吸血鬼「間違っても、手を放すなよ……」グイッ、タッタッタ


女「そんな――こうもりの上を歩くなんて無理です!」


女吸血鬼「昔な……それこそ人類が衰退する前の映像作品に、こんなシーンがあった……こうもりではなくてカラスだったが……だから大丈夫だよ!」


女「そんな無茶苦茶なっ!!!」


女吸血鬼「ふふっ、どうだい空に近づいた感想は?」


女「死んじゃいますって、へたしたら……」


女吸血鬼「そうはならないよ、君。私がいるからね」

女吸血鬼「そんなことはさておき……ほら――」


女「はい? ぁ…………」

女「星が綺麗……」


女吸血鬼「良いだろう……ここまで空に近いと手が届きそうで……」


女「はい……」


女吸血鬼「星の海。あの中の一つに君のお父様が要るかもしれない……」


女「父が……?」


女吸血鬼「ああ、人は死んだら星になるんだ……」


女「そう、なんですか……? ……そうなんでしょうね…………」

女「…………」ヒトッ


女吸血鬼「…………」シン


女「……ありがとうございました、吸血鬼さま」


女吸血鬼「お別れの言葉は言えたかい?」


女「はい……」


女「――」

女「吸血鬼さまは、こういうこと何度もしているんですよね……?」


女吸血鬼「こういうこと?」


女「死んだ人とのお別れ……」


女吸血鬼「ん……ああ……あるな、私が大好きだった人とも、私を大好きだった人とも……」


女「それは……悲しくないんですか?」


女吸血鬼「不老不死だもの、こればかりはしょうがない……」

女吸血鬼「それにだね、愛した誰かの顔ももう覚えていないし、愛してくれた人の言葉も覚えていない」

女吸血鬼「覚えていない事をどう悲しむのかというのが本音だよ……」


女「……それは悲しいことですよ……」


女吸血鬼「そうなのか……君が言うのなら、そうなのだろうな……」

女「吸血鬼さま……私は……不老不死というものに憧れていました……」


女吸血鬼「……そうじゃないかとはうっすらと思っていたよ」


女「それが吸血鬼を調べている第一の理由です……」


女吸血鬼「ということは、私が付き合わされたあの実験は……」


女「第二理由ですよ。だってもし吸血鬼になれても、あんなに弱点が多いだけだったら生きづらいじゃないですか」


女吸血鬼「まあ、そうだな……中々に不便な体だと日々難儀しているよ」


女「……それに不老不死だと最後には一人ぼっちになってしまう」


女「ねえ、吸血鬼さま――私を――」


女吸血鬼「馬鹿なことを言うんじゃないよ、君っ――! その言葉の先は一時の感情に任せて言っていい台詞ではない!」


女「何でですか?! 吸血鬼さま……あなたのことが好きなんです! あなたを一人にはさせたくない! 悲しい思いにも――」


女吸血鬼「……望んでなるものじゃないんだよ、不老不死なんて――! 吸血鬼になんて――!!」

女吸血鬼「分からないようだから、はっきりと言おう」

女吸血鬼「――私は君を眷属にする気はない!」


女「……」

女「……私もいつかあの星々の中に入ってしまいます……」


女吸血鬼「そうだろうな、君は人間なのだから……」


女「私がそうなっても吸血鬼さまは覚えていてくれますか……?」


女吸血鬼「………………」


女吸血鬼「私は――」

女吸血鬼「――昔、今までで一番愛し愛された人と似たような約束をしたことがある……」


女「はい……」


女吸血鬼「……私はな……その人がどんな名前で、どんな顔をしていたか……まったく思い出せないんだ」


女「…………」ウルッ

女「……ひっ……すん、うぇえ……ん」ポロポロ


女吸血鬼「……地上におりようか」


女「……ひっく……ひっく……は、ぃ……」コクン

――――――
――――
――



女吸血鬼 (あの夜以来、あの子は来なくなった)


女吸血鬼 (これでよかった、これが一番いい結果だ)


女吸血鬼「はぁ――」


女吸血鬼 (窓から身を投げ出し空を見上げる)


女吸血鬼 (まぶしい星の海が目に痛い程突き刺さる)


女吸血鬼 (あの中をあの子のお父様は漂っているのだろう……)


女吸血鬼 (ひょっとしたらもうあの子がいるかもしれない。そう思えるほど時間感覚が狂っていた)


女吸血鬼「……私は……」


女吸血鬼 (あの夜がどれくらい前のことだったか思い出そうとして、止めた)


女吸血鬼 (代わりに星空を睨み付け――)


女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」


女吸血鬼 (誰ともなしに私は呟き、星を見るのに飽きたため窓をそっと閉めて、出涸らしの紅茶を飲むためカップを探した)


>>14-33

【女吸血鬼「いつまで君の事を覚えていられるかな……?」】 おわり



【女「バカじゃないの……」】



女の子「お姉ちゃんどこか行っちゃうの……?」


女性「……うん」


女の子「やだ! だめ! どこにも行かないで……ずっと一緒に遊んでよ……!」


女性「ごめんね、女の子ちゃん……」

女性「でも、夏休みとかには帰ってくるから……そのとき一緒に遊ぼう? ね?」


女の子「……なんで行っちゃうの?」


女性「……お姉ちゃんね――」

女性「先生になりたいんだ……。だから、そのための勉強を大学ってところでしなくちゃいけないの」

女性「その大学ってところはね、この家から通うには遠いから」

女性「だからね、家を出て遠くに引っ越すの」


女性「けっして、女の子ちゃんが嫌いだからって理由じゃないから」


女の子「ほんとう……?」


女性「うん、本当」


女の子「……うぅ……」カチャリ


女の子「これ……あげる……作ったの」ソッ


女性「かわいい! いいの!? 大事にするからね」

女性「そうだ――はい、これあげる。ビーズのブレスレットのおかえし」ソッ、チャラン


女の子「ネックレス――! いいの?! 貰っても!」


女性「うん……前に綺麗って言ってはしゃいでたから。私だと思って大事にしてね」


おばさん「ちょっと女性――もう時間が――!」


女性「ちょっと待ってお母さん――」

女性「ごめんね、女の子ちゃん……お姉ちゃん、もう行かなくちゃ」


女の子「うん……」


女の子「夏休みには帰ってきてよね……ぜったいだよ、ぜったいの約束だよ!」


女性「うん――約束」



女性「じゃあ、またね――」

――――――
――――
――


目覚まし時計「――――」ジリリリリリッ


女「……ん」ガチャ


目覚まし時計「――――」ピタッ


女「……なんで今さら、あんな夢……」ムクリ


女「――お姉ちゃん……」


女 (お姉ちゃんが隣の家からいなくなって数年……)


女 (私は――高校生になった……)


女「入学式って何時からだっけ……」


女 (そう言いながら、ベッド脇を探りあの時のネックレスを掴む)


女 (それを首からかけ、姿見に目を向けた)


女 (そこに写っているのはネックレスをかけたパジャマ姿の私。当たり前だ)


女「よしと……お母さん起こさないと……」


女 (ある種の失望とともに鏡から目を背け、ベッドから立ち上がる)


女 (その時見慣れない制服が壁にかかっているのを見た)


女「はぁ……」


女 (ため息を吐き、部屋を出る。見慣れない制服を着るのは朝食を食べてからでいいだろう……)


女「……」


女 (ぶら下がっているネックレスに触れる)


女 (ここ数年お姉ちゃんとはあっていない……)



女 (朝食は手堅くサンドイッチにした)


女 (何が手堅いのかと言われたら――)

女 (簡単に作れる。お腹にたまる。野菜もとれる。コーヒーによくあう。と、答える)

女 (『手堅い』の意味はよく分かっていない。……きっとみんな納得する事柄、ぐらいの意味だ)


女 (忙しい朝にピッタリ)

女 (だというのに――)


母「また、これ?」


女「……不満があるなら自分で作ってよ」


母「せめて暖かいものが食べたいなあ、お母さんは……」


女「コーヒー飲め」


母「苦いから嫌いなのよね……コーヒー……せめてゆで卵くらいだしてよ」


女「殻剥くのが面倒くさい……」


母「……あんたよくそんなんで片道二時間もかかる高校選んだわね……」


女「……」ムシャリ


女 (黙ってレタスキュウリマヨネーズを挟んだ真っ白くてパサパサしたパンにかじりつく)


女 (電車に乗って二時間の学校)

女 (そこに今日から通うことになる。知り合いはいない。たぶん)


女「自分にとって手堅く選んだらそうなっただけだし……」


母「あんた……手堅くの意味間違ってる」


女 (白けた目をしたお母さんはコーヒーを流し込み、心底苦そうに顔を歪めると)


母「手堅いってのはね、やることが確実に成功して万が一にも危険がないことをいうのよ……」


女「………………ふぅん」


女 (お母さんから目をそらしコーヒーに逃避した。苦かった。人生のよう)






女 ( “ 本当は私も入学式行きたかったんだけど ” とはお母さんの弁だ)


女「仕事だからしょうがない……」


女 (そういう訳で一人電車の座席で外を見る)


女 (乗った電車はダイヤを上から数えた方が早い。ので、もちろんがらがら)


アナウンス「ツギハ――、――」


女 (目当ての駅がアナウンスされる。お降りの際は~足下に~)


女 (そのアナウンスからちょっとして電車は止まった)


女「さて――」カタン


女 (お降りの際になったのでお足下に気をつけてホームへと……)


女「――んんっ……」


女 (伸びをして、階段へ……)


女「――乗り換えるか」


女 (遠いというのはだてじゃない)



女 (席に座ってガタゴトと揺れる。学校が段々と近づく……)


女 (比例的に乗車する人が増えた)


女 (おお、これが満員電車……)


女 (ある種の感動と共に全国の毎朝頑張っているお父さんへ合掌、もちろん心のなかで)


女 (目新しくて、行儀の悪いことだと分かりながらもついついキョロキョロしてしまう)


女「あれ――?」


女 (今一瞬……)


女 (再度、そこに目を凝らす)


女 (これって――)


女 (そこにはスーツを着たいかにもイケてなさそうな男と、見知らぬ制服――つまり私と同じ制服を着た女の子が……)


女「マジか……」


女 (痴漢でござる)


女 (イケてなさそうな男――略して池男の手が制服JK――恥ずかしそうに口をぎゅっと結んでいる――のお尻をサワサワと触っている)


女 (どうしようどうしようどうしよう)


女 (助けるべきなのだろう。だけど、どうやって……?)


女 (私だって非力な女の子だ、助けにいって逆に餌食になるかもしれない。だからと言って見て見ぬふりをするのも――)


女 (こうしている間にも調子にのって鼻を伸ばした池男の手がスカートの中へ――)

女 (って、スカートの中――!? アグレッシブすぎるだろ。膝丈まであるんだぞ、そんなまくし上げて……)


女 (てか、周りのやつは気づけよ。それかそこのJK声をあげろよ)

女「――」ハッ


JK「……――っ」ブルブル


女 (……震えてる。……怖いよね、そりゃ。怖くて声もでないのか――)


女「………………」ソッ


女 (私はスマホを取りだしカメラを起動。そして池男へと向けた)


スマホ「」カシャリ


女「――すぅっ」


女「そこの人、痴漢です!!!」

女 (車両内の視線を一斉に受ける)


女 (私が伸ばした指の先には、呆然として動けずにいる池男が)


女 (やつはすぐにはっとして手を離したがもう遅い)


おじさん「おいお前、そこの女子高生のスカートの中に腕いれてたろ、見たぞ」


スーツマン「押さえろ押さえろ、次の駅で駅員につきだすぞ」


ギャル「つーか、さっき叫んだ子が写真撮ってたし、言い逃れできないってゆ~か」


女 (瞬く間に池男が追い詰められる)

女 (やさしい世界)


女 (そうしている間に、電車が駅についた)


女 (大人の男に連行される池男。天誅でござる)


ギャル「ちょっと、あんた」


女「なに?」


ギャル「あんたもいった方がいいんじゃね、写真のことがあるわけだし」


女「ふむ……」


女 (それもそうか)


女「すみませーん、私も降ります」


女 (人垣を掻き分け車外に降りる)


女 (ちょっと向こうで例のJKがオドオドアワアワしていた)


女「あの……」


JK「あっ……ありがとうございます……」


女「いいよいいよ、これから駅員さんのとこ? 私もいくよ」


JK「えっ!? そこまでしていただかなくても……」


女「写真のことがあるから、いった方がいいかなと思ったんだけど……」


女 (JKは小さく、あっ、と言うと……)


JK「よ、よろしくお願いします……」


女 (消え入りそうな声でそう言った)

女 (話は簡単にまとまった。証拠が有るのだから当然)


女 (池男が睨み付けてきたが、スルースキルAを発動し、視界からアウト)


女 (しばらくして無事、池男はお縄についた)


女 (めでたしめでたし……ではあるが……)


女「まあ、入学式には遅刻だよね」


JK「すみませんすみませんすみません」ペコペコペコリ


女「ああうん……。そんなに謝らなくてもいいから……」


JK「すみません……」

JK「……あ、あの……お名前……」


女「名前? 私は女。見たところおんなじ学校でしょ、よろしく……えっと……?」


JK「ぁ……わ、私の……名前は……お嬢様、です……」オドオド


女「うん、分かったお嬢様さん」


女 (JK改め、お嬢様さんは尚もオドオドして視線が安定しない。視線だけでなく指の動きもせわしない。挙動不審というやつだ)


女「学校が迎えに来てくれるっていうし、気長に待とう」

女「どーせ、入学式っていっても偉い人のやんごとないお話聞くだけだし」


お嬢様「は……はぃ……」ビクビク


女「……」

女「そ、それにしてもさ災難だったね、まさか高校生活最初からこんな目に遭うなんて」


お嬢様「っそ、そう……ですね……」オドオド


女「……お嬢様さんってさ……もしかして、しゃべるの得意じゃない?」


お嬢様「…………はぃ……」ビクッ


女「そっか……ごめ――――」


お嬢様「で、でも! 女さん、が……はなしたいなら……だいじょう、ぶ……ですっ。つ、つつ、つきあい……ます!」


女「――ふふっ」


お嬢様「えっ!?」ビクンッ


女「いやごめんごめん、バカにしてるんじゃないんだよ……ただ、かわいいなって思って……」


お嬢様「かっ!? かわいいっ!? そんな……私……かわいいだなんて……」カアァッ

お嬢様「それにかわいいのなら、お、ぉ……女さん、のほうが……」


女「あっ――私のことは女でいいよ」

女「私の方はお嬢様って呼ぶからさ」


お嬢様「そんなっ!? おそれ多いですよ!?」


女「ふふっ、なにそれ? 面白いね、お嬢様は」


お嬢様「そ、そんな笑わなくても、いっ……いいじゃないですかっ!?」


女「ごめんごめん……ついね」


お嬢様「もう、女さ――お、女は……」


女「うんよろしい」




女「ん――? あの車……」


お嬢様「止まりましたね……あ、でてきた……」


女「え……?」


お嬢様「……? どうか、した? お、お……女!」


女「お姉ちゃん……?」


お嬢様「え……」


?「よかった、見つかった……」

?「お嬢様さんよね? 大丈夫だった……?!」


お嬢様「え、あっ……はい――!」

お嬢様「あの……あなたは……」


?「あっ、ごめんなさい、名乗ってなかったわね――」

女教師「私は女教師……あなたの担任に――」


女「お姉ちゃん――」ギュッ


女教師「えっ?!  きゃっ……ちょ……え?」ギュウ

女教師「もしかして女ちゃん……?」


女「うん……」


女教師「じゃあお嬢様さんを助けた新入生っていうのは……」


女「私……」


女教師「すっごい、こんなことってあるんだ――!」

女教師「とりあえず車、乗って乗って……今からなら入学式が終わる頃にはつくから、LTには間に合う」


女「……ねえ、お姉ちゃん、なんで夏休み帰ってこなくなったの?」


女教師「……忙しかったから……ごめんね、帰るって約束したのに……」


女「………………いいよ、気にしてない」



――――。

女 (お姉ちゃんの車に乗って学校へと向かう)


女 (助手席が空いていたが、座る気になれずスルーして後部座席に座った)


女 (私の横にはチラチラとこちらをうかがうお嬢様が)


女 (何か話したいのかしら、などと思いつつもこちらもスルー)


女 (私は斜め前にある運転席の彼女を見た)


女 (大人の女性)

女 (そんなお姉ちゃんの顔をにらみつける)


女 (ちょっと見ない間に随分変わったこと)

女 (嫌みったらしく内心で毒づいた)


女 (何故だか悲しくなって、そうっと制服の上からネックレスを掴んだ)


女 (お姉ちゃんはここ数年、家――実家に帰って来ていない)

女 (忙しいとかそんなのが理由だろう……)


女 (夏になると、今年こそは帰ってくる、そんな期待を抱いて過ごした)

女 (今年はどうかと夏休みの始め。まだかまだかと待った盆。来なかったとしょぼくれる始業式)


女 (そんな自分に嫌気がさしたのが去年。その夏)

女 (自分の進路を決めあぐね、どうしようかと悩んでいたころ)

女 (いや悩んでいたのは進路のことだけじゃない。手持ち部沙汰な自分の気持ちにも)


女 (そして決めた。今年の夏、お姉ちゃんが帰ってこなかったら遠くの学校に行こうと)

女 (地元にいるとお姉ちゃんといった場所、遊んだことがいちいち感傷を刺激して辛かったから)

女 (新しい場所で人間関係のすべてをリセットして、普通の青春をおくろうと――)

女 (その結果が……)


女「はぁ……」
                ドライブ
女 (とうの待ち人と同じ車に乗って登校か……)


女 (再びお姉ちゃんをじっと見つめる)

女 (シャギーが入ったセミボブの髪、うっすらとされた口紅、甘い匂いの香水……)

女 (化粧なんて私の知っている頃よりしっかりとしている)


女 (やっぱり、大人だ)


女 (ネックレスから手を離した)


女 (いやに悲しくなった……)

女 (あの頃のお姉ちゃんはもういないのだ……)


お嬢様「ぁ、っ――あの、女、ちゃん……?」


女「どうかした?」


お嬢様「ぇ、いや、女ちゃんが変な顔して、先生のこと見てるから……」


女「……知り合いでね、お姉ちゃ……先生と」


お嬢様「そっ、そうなんだ――!」


女教師「ええ、女ちゃんの小さい頃だって知ってるのよ、私」


お嬢様「へっ、へ~。ど、どんな子供だったんですか……その、女ちゃんは……」


女教師「そうね~、よく私の後ろをちょこちょこついてくる子だったな女ちゃんは」

女教師「それがかわいくってかわいくって……どうしたの、女ちゃん……?」


女「いいから……赤信号もう終わってるから、前向いて運転して……」


女教師「あっ、おっけおっけ……むふふっ……!」


女「なに?」


女教師「いやね、かわいいって言われて、赤くなった顔を隠すためにうつむいた女ちゃんもかわいいなって」


女「なっ――!? そんなわけないでしょ!? ただ車酔いして気持ち悪くって俯いただけ! 照れてない!」


女教師「うふふ~そっかそっか~、じゃあ酔った女ちゃんのために早く学校につかないとね」


お嬢様「ぉ、女ちゃん……」


女「お願い……なにも言わないで……」


――――。



女「そのおどおどしてるところが悪いと思う」


お嬢様「ぅ、……やっぱり……?」


 学校につき、お姉ちゃんは車を停めるとの事なので先に校舎に入りスリッパに履き替えた。


 数日前に郵送された手紙に記されたクラスへと足を向けている最中のこと。

 例のオドオドした調子でお嬢様に話しかけられた。


 なんで痴漢にあったんでしょうか、と。

 確かに彼女はチャラく、こういうのもなんだが、いかにも誘ってますよといった風にスカートを短くしている訳じゃない。
 むしろ、いよっ優等生! と囃し立てたいくらい長い丈だ。


 その装いも極めて普通。
 眼鏡をかけた三つ編みといったそちら向けの人に受けそうな外見。
 言ってしまえば地味。大和撫子と言ってもいいかもしれない。いよっ大和撫子!


 が、本来誉めるべき点も今回に限ってはマイナスだ。

 奥ゆかしくもいいが、抵抗しないのとは訳が違う。
 態度や雰囲気で舐められてはいけない。つけあがって今朝みたいなことになる。


お嬢様「ぁ、あの~女さん……どうやったら、度胸ってつきますかね……?」


女「踏んだ場数。あと環境」


お嬢様「……」


 顎に手を当て眉間に皺をつくり思案する彼女。

 答えたことにそんな真剣になられると困ってしまう。
 迂闊なことが言えない感じ。


女「ま……まあ、結局は慣れだよ慣れ。……あっ、だからって毎朝痴漢されろっていってる訳じゃないよ?!」


お嬢様「……ふふっ、そうですね……場数に、慣れ、か……」


お嬢様「でも、凄いな……女ちゃんは……あんなことできて……」


女「とっさだよとっさ。普通は無理。勢いでやったらなんとかなっただけ」


お嬢様「それでも凄いよ女ちゃんは。私には――」


女「……女でいいって――」


お嬢様「へ……あっそうだね……ぉ、お、女……」


女「そういうところから直していこ。そしたら度胸経験値がたまるから……たぶん……」


お嬢様「そういうもの?」


女「そういうもの」

女「っとと、ここまで一緒に来たけど、何組?」


お嬢様「ぁっ、わ、私は2組だよっ……あの、女ちゃ……女は?」


女「おんなじクラス。2組2組」


お嬢様「本当に!? やった! 同じクラスが、いいなーって、その……思ってたから……」


女「そうだね、良かった……」



女教師「あっ女ちゃんにお嬢様さん……」


お嬢様「先生……ひょっとして職員室によったほうがよろしかったですか?」


女教師「いいえ、そのまま教室に行っていいわよん」

女教師「お家のほうにはもう連絡いってるから」


お嬢様「そうですか……」


女「さっさと教室入ろう中で他の生徒待ってるから」


女教師「ぼちぼち体育館から戻ってきてるか……そうね、なにか個人的に聞きたいことがあったら終わってからで」


お嬢様「はい」


 つつがなくLTは終わった。

 出席番号一番の人が適当に挨拶をし、初日終了。


 できるだけ早く帰りたくて、鞄を掴み教室を出ようとして――


お嬢様「あの……女……」


女「……どしたの?」


 呼び止められた。

 ちろりと教卓の向こうを見やると、お姉ちゃんが、友達ができてよかったでござる、といった風な生暖かい目を向けてきていたので見なかったふりをした。

 なにがよかったでござるだ、馬鹿じゃないのか。武士かよ。


 あの人の視線から早く逃げ出したくて、お嬢様の手をとり強引に――


女「外で話そう――」


お嬢様「ぇ――」


 無理やりにお嬢様を引き連れ教室を出た。


 困惑しているお嬢様。ごめん……でござる……。
 そう心中で頭を下げて謝った。


 人一人の手を引いて歩くというのは、なかなか疲れるものである。
 相手が混乱しているうちにやるのだからなおさら。


 トタトタトタ。
 階段を危なっかしくも下りきり、下駄箱の手前まで着て手を放した。


お嬢様「ど、どうしたの突然!?」


女「ごめん……その……お姉ちゃんがいたから……」


お嬢様「……ぇ、どうして先生がいたから? 知り合い、なんだよね?」


女「そうなんだけど……気まずいというか……」

 こちらが一方的にそう感じてるだけ。現にお姉ちゃんはにこやかに私に接してきていた。


 不意に、チクリと胸が傷んでグーにした手で抑えた。
 ネックレスが鼓動に揺れる。

 心臓に一番近いところにあるそれ。

 それはお姉ちゃんから貰った宝物。

 それは昔の――私と一緒にいた頃のお姉ちゃんが、確かにいたという証明。
 逆に言えば、彼女が変わってしまったことの証明に。

 思い出に無い私の知らないお姉ちゃん。


 抱いていた憧憬も。一方的な想いも。
 吹っ切るためにここに来たのに……。


お嬢様「ぉ……女……」


女「あ、うん……ごめんね勝手に……えっと……なんのよう?」


 はっとしてお嬢様に話を促す。
 よくよく考えればお嬢様には失礼なことをした。
 ひょっとしたら、早々に帰ることを決めていた私と違って、誰かと約束があったかもしれないのに……。


お嬢様「ぇっと……今朝、あんなことが、あったから……家の人が迎えに来るの……」


女「うんうん」


お嬢様「あの……車だから、良かったら一緒に……」


女「えっと……遠いよ、うち」


お嬢様「だったら、なおさら……っ、その……一緒に……帰らない?」


女「……じゃあ、迎えに来た人に聞いて、良かったら……」

 正直、この心理状態で二時間も電車に揺られたくなかった。


お嬢様「ほんと!? たぶん……大丈夫って言ってくれると思うから、大丈夫……」


 そんなこんなで一緒に靴を履き替え、駐車場へと。


女「は?」

 駐車場に着くと同時に、目を疑った。
 自分の目がくるくるのぱーになったのかと。

 目をぱちくりさせてもう一度よく見る。
 それでも、普通の生活では滅多に見ることが叶わないそれは、やっぱりそこにあった。

 呆然としてただ見つめるばかり。


 が、そんな私をおいてお嬢様はその車へと足を止めない。

 まるで、その車の持ち主は私だというかのごとく。
 いやいやまさか……。


お嬢様「ど、どうしたの……女……!」


 突然止まった私を不審に思ったのか、振り返りおどおどと問いかけてくる。

女「ねえ……その車って――」


 おそるおそる指を目の前のそれ――黒塗りのリムジンに指を伸ばす。
 指先は動揺で揺れていた。

 そんな私をお嬢様はきょとんとした顔で見つめ――


お嬢様「家のですけど」


 なんてことなく平然とおっしゃられた。

 今度は動揺で口がパクパクして上手く塞がらない。


女「金持ちかよ……」


 やっと出た言葉がそれだった。最低である。


 私の呟きを聞いて、お嬢様はゆっくりその意味を呑み込むと、しまったと目を大きくさせた。

 あまりにも大袈裟に目を見開くものだから彼女の背後にぬらりひょんを空目したが、今は関係ない。

 むしろ彼女がそんな反応をしたものだから、こっちは直ぐに冷静に帰れた。感謝する。


女「ご……ごめんね、不躾に失礼なこといって……」


お嬢様「い……いえいえ……そうだよね……普通こんなデカイ車じゃないよね……」


 妙な空気になりかけたとき――


???「お嬢様――!」


 不意に、初老の男性がこちらに向かって声をかけてきた。

 その燻し銀な声はリムジンのドアが閉まる音と共に――


お嬢様「爺や」


 そう言ってお嬢様は一変、救われたような顔になり男の方に顔を向けた。

 実際、私も変な空気から救われたという気持ちでいたが……爺や、ときたか……。


 これって、あれ? 漫画とかでよく見る、代々家に仕える使用人ってやつ? そんな馬鹿な。


 またもポカンとしている私に、爺やは目を向けて――。


爺や「こちらの方は――?」


お嬢様「あっ、女っていうの……今朝私のことを助けてくれて……」


爺や「ほうほう……では連絡にあった少女というのは、彼女……」


 爺やは見てるこっちがほっこりするような人好きのする笑顔を浮かべた。

 そして、うやうやしく頭を下げて、

爺や「これはこれは、この度はどうもご迷惑をお掛けしました」


女「い、――いえいえ、そんな……」


お嬢様「ねえ、爺や……女を、家まで送ってあげてほしいの……遠いそうなんだけど」


爺や「ええ、いいですよ。なんでしたら当家に招待してもてなしてもいいくらいです」


お嬢様「そうね――それもいいわね! どう、女――まだ午後になったばかりだし、寄ってかない?」


 どうだとばかりに詰め寄られ、


女「ごめん……やっぱり、電車で帰るね……」


 謎に高いテンションに煽られてふらふら。知らない世界に触れてくたくた。

 正直疲れてしまった。もし、このままリムジンに乗ったら帰路全てが私の精神を磨耗させてくることに全力を出してくるだろう。


 これだったら電車で帰った方がましだ。

 そう思えるくらい、今日の自分は他人とかかわる余裕がないと、今更ながら気づいたのだ。


――――
――


女「ただいま……」


 誰もいない家に帰宅。
 ただいまの言葉は薄暗い廊下に吸い込まれて消えていった。

 時計の針音だけが異物。

 今は私しかいない家。その中。


 夜まで帰ってこない母。
 もう帰ってくることのない父。

 そして――


女「お姉ちゃん……」


 変わってしまっていたあの人。

 得たいの知れない感情が心の中をぐちゃぐちゃに塗りつぶす。


 ここには私一人。

 それが心地よくあり、不安にもなった。


 ネックレスを首から外し、握りしめる。


 自室についたら、鞄を部屋のすみに放り込み、制服にシワができるのもいとわず、ベッドに倒れこんだ。


 ぎゅっと、我が身を抱き締める。私はここに一人。




 ……。
 …………。
 ………………。


お姉ちゃん「女ちゃん起きて~遅刻しちゃうから~ほんとっ!」


女「は?」


お姉ちゃん「よかった起きた! じゃあ学校いこいこ! 急がないと」


女「いや、ちょっと……」


お姉ちゃん「いそぐよ――」


 そう言って腕を引っ張られた。

 いつの間にかベッドで寝ていた私に、いつの間にか来た朝。

 そして、いつの間にか同じ学校の制服を来たお姉ちゃん。


 引っ張られベッドから転がり落ちるように出ると、一変。


 そこは誰もいない電車内であり、私が登校したときに使ったのと同じだった。

 人気のない密室。だが、そこには、私と――


お姉ちゃん「楽しみだね~ふふっ、やっとおんなじ学校に通えるよ!」


 彼女が――。


女「お姉ちゃん――?」


お姉ちゃん「どしたの、女ちゃん……」


女「なんで電車に乗ってるの……? なんで制服を着てるの……?」


お姉ちゃん「やだ~、今年からおんなじ高校になったから一緒に通おうって約束したでしょ? でしょでしょ?」


女「そう……だっけ……?」


お姉ちゃん「そうだよ」

目の前にいたお姉ちゃんは寸分違わず私が知っている姿のまま。
どこかおかしいなと思いつつも、深くは考えなかった。いや、考えようとすると頭のなかにもやがかかってうまく考えれなかった。


お姉ちゃん「どうしたの? 変な顔して……」

女「な、なんでもないよ……」

考え込んでいたのが顔に出ていたのだろう。
せっかくお姉ちゃんと一緒にいるのだ。訳のわからない違和感などゴミ箱にポイして楽しくお喋りしよう。

そう思って――


女「ねえ、お姉ちゃん……なんで帰ってこなくなったの?」

知っていたでしょ?
楽しくお喋り。そんなもの私の口からは出てこないって。


お姉ちゃんに対してあるのは、捨てされない恨み辛み。
捨てられたと。忘れ去られたと。帰ってこないお姉ちゃんを思って何度悲しみに沈んだか分からない。

届かない思い。一方通行の無意味な思い。

そんな思いのこもった問いに、お姉ちゃんは――


お姉ちゃん「何がそんなに悲しいのかな?」

質問に質問で返してきた。
予想外の問いに思わず閉口したが、閉じたついでに咀嚼して飲み込んだ。

――何が……何がって――っ?


答えのわかりきった問いに呆れを通り越して怒りが。
肩をプルプル震わして……ふと、何が悲しいのかと思ってしまった。


決まっている。帰ってこなかったことが悲しいんだ。
だったら、再開できたのに喜びはすれど、悲しむ必要はないんじゃない?


お姉ちゃんが私のことを忘れて、夢だった職業に夢中になっていたから?
再開て非難したときすまなさそうな顔をしてたよね。ということはお姉ちゃんも気にかかっていたんじゃない?


――ねえ……。

お姉ちゃん「悲しいのはなんでかな?」

はっとしてお姉ちゃんを見つめる。
その顔は嬉々として輝いていた。


お姉ちゃんに対してあるのは、憧れ。親しみ。
その感情等は、再会すれば満たされて、悲しさなんて消えるはず。

だのに――
悲しさを抱いているこの感情は――


お姉ちゃん「こらっ本当は分かってるのに、分からないふりしないの!」


こつんっ。と、頭を小突かれる。

驚いて目を見開くと、また驚くこととなった。

彼女は大人になっていた。場所も電車の中じゃなくて、教室に。
いつの間に彼女が大人になったのか分からない。自分は制服を着たまま……。

ずきりと心が痛む。
それは何故? 悲しくて。
何故悲しい? それは――


お姉ちゃん「今から簡単な質問をします! 是非素直になってね♡」

もったいぶった口ぶりで、そのうえ教師のように堂々とした態度で、お姉ちゃんは私に向き合った。


お姉ちゃん「女ちゃんが私に抱いている感情は――?」

女「……憧れと親しみ」


お姉ちゃん「ノンノン。それだけじゃないでしょ?」

嘘ついちゃめっ、と指を振る。

その姿にドキリと心臓が高鳴った。
お姉ちゃんの可愛らしい仕種にときめいたとかそんな俗物的な理由じゃない。
もう少しで自分の気持ちに触れてしまう。そう思ったから……。


お姉ちゃんはそんな私を無視して質問を続ける。


――何でわざわざ片道二時間もかかる高校に入学したの?

 それは、この町にいるとお姉ちゃんのことを思い出してしまうから。


――思い出してもいいじゃん。だってただ憧れてただけの人なんでしょう?

 ………………。


――大人になった私を見て悲しくなったのは何故?

 ……それは……知らない人になったみたいで……。


――変わっちゃってたらって思うのが嫌なんだ?

 …………うん。



――変わっちゃてたら? それは誰が?

 ……………………。


決まってる。何でこんな分かりきったことを聞いてくるのか。

そう訝しむ私の隣に――
突如として、制服を着たお姉ちゃんがあらわれた。


ぎょっとして二人いるお姉ちゃんの顔を交互に見比べる。

よく知っているあの頃のお姉ちゃんと、大人になったお姉ちゃん。二人に見つめられ思わず固唾を呑みこんだ。


変わっちゃてたら。その疑問が二人の視線にあてられ脳裏を駆ける。


再会していたお姉ちゃんは化粧も、香水もしていた。あの頃のお姉ちゃんじゃない。
身なりに限った話じゃない。
もし、あの頃のお姉ちゃんと大人になったお姉ちゃんの性格と嗜好――内面が全くの別人になってしまっていたら……。

そう思うと怖いし悲しい。現に当たり前な外面の変化を見て、すごく悲しくなった。


お姉ちゃん「「ねえ――なんで変わっちゃてたことが、悲しいの?」」


女「………………」


お姉ちゃんが左右から私を挟むように抱き締めてくる。
私は何も言わず、それを受け入れた。

次のお姉ちゃんの言葉を待つ。


問いの答えなんて、最初から分かっていた。ただ、触れたくなかっただけで……。


そんな私を見てお姉ちゃん二人は満足そうにニンマリ笑んで、耳元で――


お姉ちゃん「私のことが――」

お姉ちゃん「好きなんでしょ」


お姉ちゃん「再会した私じゃなくて」

お姉ちゃん「昔のもう戻らない私が」


お姉ちゃん「あの頃の私と一緒にデートしたり、恋人になってイチャイチャすることを妄想したりして」

お姉ちゃん「キスしたいとだって考えてる。ああ、そうそう私と■■■■するのを妄想して、悶々と過ごした夜もあったね」



お姉ちゃん「「ねえ女ちゃん――恋愛、という意味で私のことが好きなんでしょう」」


――だから、怖いし悲しい。



左右から甘い声。その声は私の心の奥をほじくりかえす。


そして触れられた――叶わないと知って、隠した私の想いに。


お姉ちゃんが好きだという卑しい想いに。

女「………………、…………」

ドクンドクンと心臓がうるさい。
早鐘のように鼓動が脈打ち、汗がだらだらと溢れでる。呼吸がままならない。苦しい。

触れられたくなかった劣情。今まで憧れだと言い聞かせた下卑た愛情。


小さい私の面倒をみてくれたり、遊びたい盛りの私に構ってくれたいくつも年上のお姉ちゃんに対して恋愛感情を持つなんて自分でもおかしい……そう自覚している。

だから自分の気持ちに蓋をして、忘れようとした。


好きだから。彼女のことを思い出すと辛いし、変わってしまった姿なんて見たくない。
今でも、お姉ちゃんからもらったネックレスを肌身離さず持ち歩いているのがその証拠。

思い出の中のお姉ちゃんにしがみついている――惨めったらしく初恋にしがみついてるだけ。

辛いったりゃありゃしない。忘れられるものなら忘れたい……が、それも許されない。だって、お姉ちゃんと再会してしまったから。
忘れるために遠い高校に通おうとして、そこに忘れたいひと本人がいる。



女「バカじゃないの……?」


やっとのことで絞り出した言葉がそれだった。

グサリ、と。
その嘲りは自分自身を傷つけた。

お姉ちゃんをいつまでたっても求めている私も馬鹿だし、忘れようとして空回った私も馬鹿。


馬鹿な私ばかり。本当に嫌になるよ。


依然として左右にはお姉ちゃんがいて、私を抱きしめてくれている。

その二人に聞こえるようわざと声を大きくして……


女「好きだよ――ずっとずっと好きだったんだよ!!」


ああそうさ。隠してたもんを見つけられたんだ。白状するさ。



好きだよ。大好きだ。世界で一番愛してる。
何年も片思いするくらいお姉ちゃんのことを思っている。

それにだ……認めるよ、私は馬鹿だ。
お姉ちゃんの妹に向けるような愛情に、何をとち狂ったか性愛で返そうとするほどにはな。


私の言葉を聞いたお姉ちゃんたちが満足そうに笑みを顔に湛える。

すると同時に――


女「は……ははっ……」


目の前の摩可不思議現象に思わず渇いた笑い声が洩れた。

お姉ちゃんだ。目の前にお姉ちゃんがもう一人。


その彼女は幾重にも像が重なり、私のよく知っている頃にも見えたし、再会して大人になっていた彼女にも見えた。なんならあまり覚えていない小学生時代のお姉ちゃんでもあった。
確かに一人なのに、そのお姉ちゃんはいろんな年歳のお姉ちゃんに見えた。

なんだこれデタラメだ。

そのお姉ちゃんが段々と顔を近づけてくる。
体は二人のお姉ちゃんに押さえつけられているため動かない。が、そんなことどうでもいい。もとより抵抗する気はないのだから。

私の好きなお姉ちゃん。私の知らないお姉ちゃん。私の覚えていないお姉ちゃん。
全員、同じお姉ちゃん……。


彼女はなんのためらいもなしに唇を重ねてきて――

………………。
…………。
……。



ガバッと、
物凄い勢いでベッドから身を起こした。

お姉ちゃんからキスされるというあまりにもな非現実さに動転、はあはあと息を切らしながら気を落ち着ける。


女「ゆめ……?」


分かっていたことだった。非現実さといったら部屋からいきなり電車内に飛ばされたり、何よりお姉ちゃんが二人出てきたりと、とにかくおかしいものだった。
あり得ないリアル。つまりは夢。虚ろの中で見ていた幻。

そう分かっても……


唇をそうっと触る。
例え夢であっても、例え一瞬であっても、お姉ちゃんと――お姉ちゃんに触れたここ。

感触は覚えていない。たぶん柔らかいんだろうと思うし、きっと溶けてしまうくらい熱いのだろう。
でも、実際に触れたことが無いから分からない。


まだ覚醒しきってない頭でぼんやりとお姉ちゃんのことを考えている私に、カアッと、鳴き声が――


女「――ん……え?」


窓を見る。真っ赤かだった、外は。

夕暮れ黄昏に焼かれた町並み。まるでニンジンがどこかに隠れていそうなほど綺麗に染まった町。これ程綺麗に染まっていたらアリスのウサギも思わず足を止めてしまうんじゃないか、そう思えた。


もう日暮れ。カラスもお家に帰る頃合い。

何時間寝たんだ、私? いや下校に結構な時間を取られるのだから、そんなに寝てないな。二、三時間といったところか。昼寝にしては長かった。


女「……ん」

寝る前から掴んでいたネックレス。
それをまじまじと見つめる。寝てても放さなかったそれ。

思い出されるのは夢の中のこと。お姉ちゃんの言っていたこと。
お姉ちゃんのことが好きだと、私は、認めて――いいや、自覚してしまった。


そこまでくると、再三の疑問、切りとれない不審らがぐるぐると私の中でとぐろ巻く。

私が好きなのはどのお姉ちゃんなのか。


女「はあ……」

ため息を吐き宙空を睨む。
間違いなく好きなのはあの頃――女子高生時代の構ってくれて一番よく知っているお姉ちゃんなのだが……。


時間は戻らないのだから、どうしようもない。戻ったところで……って話だが……。
そもそも時間軸の違う一人物が同一であるか否かとは考えて分かることなのか。今のお姉ちゃんと昔のお姉ちゃんは同じなのか。極端だが例えば、二十歳の人を好きになったとして、はたして赤子時代のその人に懸想するかと。少なくとも私はしない。まったく違う人物であるし、その赤子時代どういう子だったか知らなかったとしたら、好きになる要素が見つけられないから。懸想するやつはただの変態か、もしくは、ウチどんなあんたも好っきやねんとかほざきやがる馬鹿のどちらかだ。


てことで、今のお姉ちゃん。昔の彼女のことを知っているといっても、今の彼女のことは何ら一切これっぽちも知らない。何度も言ってきた通りだ。

女「あれ……?」

はたと違和感。
ネックレスを見る目が見開いた。

女「……ちょっと待て……?」

――何で好きか嫌いかの話になったんだ?


確かに昔のお姉ちゃんのことが好きだ。でも、今は今だ。昔には戻らない。どうにもならないことをウジウジと考えても不毛なだけ。そんなの校長の頭だけで十分だ。


もし、変わっちゃってたらなんて――――それがどうした。

変わっちゃったお姉ちゃんのことは好きじゃないのか? もしかしたらもっと好きになるんじゃないか?


それに――
お姉ちゃんが私にキスしてきた夢が頭に焼き付いて離れない。あれは……どんな年齢のお姉ちゃんも同じだってことなんじゃないか。そう深層心理では思ってるんじゃないのか。


女「ぁ……っ!」


思い出せ。再会したときを。
私がどうして帰ってこなかったのか聞いたときの申し訳なさそうな顔を。

ああいう反応をするってことは少なくとも帰れないことを気にしていたんじゃないか? 申し訳ないって思うくらい私のこと気にしてたんじゃないか?



女「なんだ……」

私が今のお姉ちゃんに対してもっている気まずさ。いや……一方的な、が抜けている……。
それが違和感の正体。

私はただお姉ちゃんが私との約束を守らなかったことに腹をたてていただけだ。


約束が守られなかった=お姉ちゃんのなかで私のことがどうでもよくなった。という図式が成り立って、お姉ちゃんに対してどういう思いを抱けばいいのか分からなくなっただけだ。
でも、お姉ちゃんは、どうして帰ってこなかったのか、という問いにすまなさそうな顔をしていた。つまり、私のことがどうでもよくなった訳じゃない。


だから――


女「んっ――」

ネックレスに口付けた。
そのキスには、さよならをこめて……


女「じゃあね、初恋」


私の好きな人はもういない。遠い昔に消えてしまった。
それでいい。腹を立てる必要はない。帰りをもう待つこともない。

それでも遠い昔の面影は見れるから。

カ ワ ッ チ ャ ッ タ
大人になったお姉ちゃん。
きっと彼女をまた好きになる。変わっちゃってても、大人になっていても――像が重なる――同じお姉ちゃんだから。


女「ああ――馬鹿じゃないの……」

きっとお姉ちゃんが赤ん坊になっても好きになれる。そんな考えが浮かぶくらいにはとんだお馬鹿さんだ。

どんなお姉ちゃんも好きになる。だって、ドキドキしたから……夢の中で幾重のお姉ちゃんにキスされたとき。
お姉ちゃんのことが好きになる。そのことが本能に刻み込まれてるんだろう、きっと。


ネックレスを首から下げた。


鮮明に思い出せる。
彼女の匂い。――どんな香水をつけてるのかな。
大人になった容貌。――化粧の仕方、今度教えてもらおう。


――私は、初恋の人をもう一度好きになるかもしれない。


――――――。


これほど待ち遠しかった朝はない。それほどまでにブラブラ浮き足たつ。
身支度を整え、ちょっと多目に肥えた財布をポケットに押し込み、昨日のうちに時間割りを確認して教科書を詰め込んだカバンを引っ提げて、母と一緒に家を出た。

電車を一回乗り換えて、今は電車のシートに座ってガタンゴトンと揺られている。
少し少し学校に近づいている。そう思うとドキドキした。

お姉ちゃんにもう少しで会える。
ずっとずっと会いたかった人。
好きな――好きになるかもしれない人。


そんな人にもう少しで会えるなんて、嬉しくってたまらない!


気分はハイ、顔はにやけて……。


女「えへへ……お姉ちゃん……」

端から見たら気持ち悪いだろう独り言。でも、それがどうした。
おうそこの変な目で見てきたギャルの女学生、気持ち悪いと勝手に思っておけばいいさ。お前にも誰にも私の思いは止めることなんてできないんだからな。


気づけば、目的の駅がもう少し。
駅についたら、もう少しで学校。もう少しで会える――。


ふえぇ……頬が弛んじゃう。



るんるん気分で学校へと。
だんだんと同じ制服を着た人たちが目につき始める。


ああ、こういうところでも自分が学校に近づいてるんだと実感する。もう少しもう少し……。

ふふんそこの道行く無味乾燥な学生諸君! 君たちはこんなにも心躍る思いをしているかい。私はしている。うらやましかろう?
恋、というのはこんなにも素晴らしいものなのか。好きな人に会えると思うだけで零れ落ちそうなくらい感情が溢れかえってくる。

恋をすると人は変わるなんて言うけれど、恋心を自覚した私にも当て張るのかしらん。


そんな後になって思えば死にたくなるようなタガの外れた心理状態は、校門前にわらわらと湧いている制服を着た野次馬生徒によって収まり、そして野次馬の視線をかっさらっている黒塗りの車を見て完璧になりを潜めた。

私はあの車を知っている。というか昨日見た。もっといえばその車に乗ったかもしれなかった。

思わずびびってしまう程現実離れした光景。私知ってる! 漫画とかで見るやつだ。

人の多さと黒塗りの威圧に気後れして学校に入るのを戸惑っていると――


お嬢様「あっ! 女、おはよう!」


彼女は窓から私を見つけると車から出て、一直線に私のほうへとやってきた。


女「おはよう……お嬢様……」


ひきつった顔で挨拶を返す。思考は冷静に。
もともと日夜浮ついているような愉快な性分じゃない。簡単なことで正気に戻る。今回それのきっかけがお嬢様だった。

女「あの……お嬢様、とりあえず教室行こうか」


住む世界の違う人が目の前にいる。
違う世界が目の前にあるって、結構焦る。

だというのに違う世界の住人であるところのお嬢様は、色々な感情が四方八方飛び散って持て余している私に何ら一切遠慮なく親しみを向けてきた。

そのことで野次馬の視線が私にも向けられる。
視線と一緒に私にも向けられる奇異の念も耳にした。

――あのお金持ちそうな人と友達なのかしら。
――あの二人と一緒のクラスだけど仲良さそうだったよ。
――そういえば遅刻していたわよね、流石ね今の内から重役出勤ですか。


……勘弁してくれ。





不意打ちじみたお嬢様の登場にも頭は慣れ、

むしろあそこでお嬢様に冷や水をかけてもらえたことに感謝していた。


……もしあの思考のままでお姉ちゃんにあっていたら間違いなく大火傷していた。

いやある意味で火傷はしたんだけども……。
大丈夫だよね……ヤンちゃんに目をつけられてお金せびられたりしないよね……?


お嬢様「えっと……なにか迷惑かけちゃったかな……ご、ごめんね、私常識知らずなとっ……ところがあるから」


女「うん、全然大丈夫だから気にしないで、ぜんぜんほんとに」


お嬢様「ほ……ほんとうに――?」


女「…………。ごめん……ありがたいって気持ちと、もう少し自分が周りからどう見えるか考えてほしいって気持ち半々かな……」


お嬢様「自分がどう見られるか……?」


女「そう」


お様様「なるほど……」


私の言葉に何か思うところがあったのか、まるで某石造のように顎に手をあてがい考え込んだ。
が、すぐに何か思い至ったのか顔を上げ口を開いた。

お嬢様「あれ……ありがたいって、なにがです?」


女「……………ないしょ」

好きな人に会えると思って舞い上がっていたなんて言えすか。



今日の予定は一、二限目が学校施設の案内と三、四限目は学力テスト。午後からは部活動説明会となっている。

今は午前の日程が全て終了しお嬢様と一緒にお昼を食べている。
最初は購買でお昼は何か買おうと思ったが、そんな私を見てお嬢様が作りすぎたから私のお弁当を食べるといいと言って五段のお重を取り出した。
明らかに作りすぎたとかそういうレベルの話じゃないが、くれるならとありがたく頂く。

厚く切られたハムの中華炒めに旅館で出てきそうなほど形美しく味の薄い卵焼き等々、思わず笑みがこぼれてしまうほどおいしかった。さすがはお嬢様。
花嫁修行という名目で覚えさせられたのだろうか。
それとも、作りすぎたというのは言葉の綾で、本当は使用人に作らせすぎたのか。どっちだとしても些細な事だけど。

そういった具合で楽しくお昼を過ごしている。


ちなみに今朝から今まででお姉ちゃんとは話せていない。相手が教師だとなかなか一緒に話す時間というものは取れない。
それに加えて何故だかお嬢様が暇を見つけては話しかけてきたためでもあるが。……懐かれたなぁ。


歯がゆさはある。だが私には秘策がある。焦る必要はない。


お嬢様「その……女はさ、何か部活入るの?」


女「一応そのつもりだけど……」


そう秘策とはまさにそれ。
お姉ちゃんが顧問をしている部活に入部する。
同じ組織に所属することで二人の仲は急接近。
名付けて同じ釜の飯を食べて、お姉ちゃんのことも食べちゃおう作戦。


……作戦とか抜きにしても、お姉ちゃんの近くにはいたかった。まだ何の顧問をしているか知らないけど。

ひょっとしたら顧問なんてやってないんじゃなんて思ったけれど、それはないと浮かんで二秒で否定した。
夏休み、いや盆と年末に忙しくて帰ってこれない理由なんて部活の他に何がある。いや、ないね。


女「そういうお嬢様は? どこか入るんでしょ?」


お嬢様「そうだね……女と同じところに入ろうかな」


女「知り合いがいると安心するもんね。でも、やりたくない部活だったら止めときなよ」


お嬢様「う、うん……」


お嬢様の返事に満足して頷き、ひじきに箸を伸ばす。うむ美味。




部活動説明会は体育館に全一年生を押し込み、順番に舞台の上で先輩や顧問の先生がどういった活動をしているのか、
また大会での成績はどうだったのか、といったことを紹介するというものだった。


野球部、違う。サッカー、違う。バスケ、違う。次――。

目当ての人のいない部活のお説明は聞き流し、
お姉ちゃんを舞台の上に探す。けれどなかなか舞台上には上がってきてはくれない。


家庭科部、違う。文芸部、違う。理科部、違う。つ、ぎ…………。


女「ぁ――」

今しがた舞台に上がった人たち――いや、端のほうにいる一人の人物に目が釘付けになった。


豪華絢爛な衣装。お姫様もいたし、それを護る騎士のような恰好をした人もいた。
彼女らの後ろの白面には投射機によりスクリーンが映し出されている。

映し出されているのは、去年の映像だろうか、お姫様を護る騎士の映像が。


映像が流れると同時に白を基調とした百合を彷彿とさせるドレスを着た見目麗しいお姫様がマイクのスイッチを入れた。



お姫様「どうもーっ! 私たち演劇部です!」



やけに元気いっぱいな挨拶。スクリーンに映し出されているおざなりな劇。隣にいるお嬢様は目を輝かせている。


そんなことなどどうでもいい。大事なことは、舞台の端にいる人物。


女「いた――」


お姉ちゃんが、そこに。


見つけたら即決。
お姉ちゃんを食べちゃおう作戦の決行を――。


女「演劇部に入部するわ、私……」


お嬢様「わ、わたしも……入る……」


相変わらず憧憬の眼差しで舞台上を見つめるお嬢様と、お姉ちゃんしか見えていない私。


二人の演劇部への入部が決定した。




今日の日程は全て終了。後は部活動説明会を参考にして個々人勝手に見学するのみだ。
ちなみに一年生は部活動に強制参加なので、興味なくても帰ることは出きない。

そのため、全一年生――二百人くらいだったか――が一斉に校内もしくは、グラウンドを移動している。
人の多さ、その流れがとてもわずらわしい。
さっさと体育館に移動したいのに。

私の横にはお嬢様が。

きらびやかな舞台上にあこがれたのであろう彼女はともかく、
私は不純な動機で名前を書いた入部届けを片手に体育館へと。

好きな人がいるからその部活に入る。うむ、実に不純。おおよそ真面目に部活に取り組むとは思えない。
もし私がきゃぴきゃぴとしたタイプの女子だったら、わぁー先生すごいですぅ……え? 私ですか? 汗かいちゃうから嫌ですぅ、とかほざいて真面目に取り組まないだろう。
だが私は入るからにはちゃんとやる。そりゃそうだ。裏方だろうが何だろうがちゃんと真面目にやって、お姉ちゃんにいいところを見せるのだ。


入部同機は不純だろうが、お姉ちゃんへの想いは純粋だ。頑張ろう。


お嬢様「ああ! な、なんだか、わ……わくわくするね!」


女「ね、ほんとに」


相変わらずどもる彼女に相槌を打ち、

ふと、気になった。


――このどもり具合で演劇なんてできるのか、と。


いや、野暮なことは言うまい。

きっとそんな自分を変えたくて、演劇部に入部するのだろう。

現に舞台の上を見て、目を輝かせていた。
憧れたのだろう。憧れたのだから、それに近づきたい。わかる感情だ。

それに表に立つのは無理でも、裏方という選択肢もある。

表に出るにしても、裏に出るにしても、困っていたら助けてあげよう。友達なんだし。


さて、何はともあれお姉ちゃん。待ちに待ってたのですわ~。
むひひ、仲良くなるぞ。


おっと……また頭があらまな状態に。気を付けないと……。




人の波にのまれながら、くだらないことを考える。
なぜ、部活動説明会が終わったらそのまま現地解散にしてくれなかったのか。なぜいったん教室に戻したのか。
いや後片付けとかあったんだろうけど。その兼ね合いのせいでホームルームもお姉ちゃんじゃなくて副担の中年狸だったし……。
恨むぞう。

そんなこんなで――


お嬢様「おお……!」

やっとこさ辿り着いた体育館は活気に溢れていた。

活動していた部活が演劇部だけじゃなかったのだ。
コートを二分割して、舞台から見て奥がバスケ部、手前がバレー部。


女「おお……お?」


そして、目当ての演劇部は舞台の上…………のみ。

どうやら体育館内的ヒエラルキーは低いらしい。


ううむ……あれじゃあ大して活動できないのではないだろうか。

もしかして熱心に活動してない?

大した結果残してないからあんなに活動場所少ないの?

あれじゃ大人数で練習もできないよ。ひょっとして少数精鋭?


などと、ぐだぐだ疑問を浮かばせ舞台手前で二の足を踏んでいると、


お姫様「あら……ひょっとして、演劇部への入部希望者かしら?」


舞台の上から、近くで見るとやっぱりおざなりな出来を見過ごせないドレスに身を包んだ女性に話しかけられた。


彼女を見てお嬢様は目を輝かせたきっらきらだ。少女漫画だったらキラキラの効果が惜しげもなく使われていることだろう。

お嬢様「は……はい! けっ……見学しても――い、いいで――」


おおう、相変わらずのどもりっぷり。
変な子を見るような眼をされなければいいけど。

と、思っていると、お姫様の姿をした女性は目を見開いてまじまじとお嬢様の、その次に私の顔を見て、きょとんとした顔をした。


お姫様「あれ……アンタたち……」

あれら?
お姫様から演技の仮面がずり落ちたぞ。


お姫様「へぇーなるほどねー……まあ歓迎歓迎。仲良くしようか」


お嬢様「へ……あっ、はい」


なんか気に入られたらしい。


突然崩れた口調。一人訳知り顔のお姫様。

どういうことだと脳が疑問を吐き出して、ふむ、何故かと考える。
よし、今から私はシャーロキアンだ。ホームズの小説、読んだことないけど。

きっとよく観察して真相を明るみにさらけ出すんだ! みたいなことを言っているに違いない。
現場百編だ。事件は現場で起きておる。祖を知れば自ずと真実に至るのだ。
みたいな。

――なお、余談だが、私がホームズが安楽椅子探偵だと知ったのは数年先のことだ。


体育館への移動の最中。思い浮かんだ恨み言。
なぜ、部活動説明会が終わったら現地解散にしてくれなかったのか。なぜいったん教室に戻したのか。
いや、説明会の後片付けとかあったんだろうけど。しかもその兼ね合いのせいかホームルームは副担の中年狸親父だったし。
恨むぞう。

――そんなこんなで


お嬢様「おお……!」

やっとこさ辿り着いた体育館は活気に溢れていた。

活動していた部活が演劇部だけじゃなかったのだ。
コートを二分割して、舞台から見て奥がバスケ部、手前がバレー部。


女「おお……お?」


そして、目当ての演劇部は舞台の上…………のみ。

どうやら体育館内的ヒエラルキーは低いらしい。


ううむ……あれじゃあ大して活動できないのではないだろうか。

もしかして熱心に活動してない?

大した結果残してないからあんなに活動場所少ないの?

あれじゃ大人数で練習もできないよ。ひょっとして少数精鋭?


などと、ぐだぐだ疑問を浮かばせ舞台手前で二の足を踏んでいると、


お姫様「あら……ひょっとして、演劇部への入部希望者かしら?」


舞台の上から、近くで見るとやっぱりおざなりな出来を見過ごせないドレスに身を包んだ女性に話しかけられた。


彼女を見てお嬢様は目を輝かせたきっらきらだ。少女漫画だったらキラキラの効果が惜しげもなく使われていることだろう。

お嬢様「は……はい! けっ……見学しても――い、いいで――」


おおう、相変わらずのどもりっぷり。
変な子を見るような眼をされなければいいけど。

と、思っていると、お姫様の姿をした女性は目を見開いてまじまじとお嬢様の、その次に私の顔を見て、きょとんとした顔をした。


お姫様「あれ……アンタたち……」

あれら?
お姫様から演技の仮面がずり落ちたぞ。


お姫様「へぇーなるほどねー……まあ歓迎よ。仲良くしようか」


お嬢様「へ……あっ、はい」


なんか気に入られたらしい。


突然崩れた口調。一人訳知り顔のお姫様。

どういうことだと脳が疑問を吐き出して、ふむ、何故かと考える。
よし、今から私はシャーロキアンだ。ホームズの小説、読んだことないけど。

きっとよく観察して真相を明るみにさらけ出すんだ! みたいなことを言っているに違いない。
現場百編だ。事件は現場で起きておる。祖を知れば自ずと真実に至るのだ。

――なお、余談だが、私がホームズが安楽椅子探偵だと知ったのは数年先のことだ。

女「…………」


少しぶしつけだが、お姫様の顔をよく見てみる。
薄く化粧の乗った顔。綺麗だ。化粧が上手いのだろう。

さぞや面食いにモテそうだ。羨ましくはない。
……まてよ、お姉ちゃんが面食いだったらどうしよう。
少なくとも化粧が下手なのよりは出来たほうがいいだろうな。

……羨ましくなんてないんだかんね?!


女「…………ん?」

あれ?
この人の顔、どこかで見なかったか?

まじまじと見れば見るほど、見たことあるような気がしてくる。
でも、どこで会ったかが思い出せない。


女「すみません……間違ってたら悪いですけど、どこかで会いませんでしたか?」


お姫様「ふふ」


笑っただけだった。なんでだ? にこにこしているだけで答えてくれそうにない。

お姫様「とりま、見学してきなさい。もうそろそろ始まるから」


まあいいか。この人が誰だろうと知ったことではない。

思い出せないのなら大事じゃないということだ。
前にそういう考えで受験時に必要な書類を忘れて大変なことになったが……まあ、大丈夫だろう今回は。


女「お嬢様、あの人知ってる?」

一応お嬢様にも聞いてみる。
ひょっとしたら、彼女の知り合いかもしれない。


お嬢様「ううん初めて会った……っき、綺麗だよね」

違ったらしい。考えてみれば当たり前。もし彼女の知り合いだったら、私に見覚えがあるのはおかしいか。


お姫様に促されたのでさっそく舞台の上に上がる。


誰かある! お呼ばれいただき参上した!

などと武士ばりばりな馬鹿なことを言う前に、向こうのほうから声をかけてきた。

声をかけてきた人は、まさに私が求めていた人で……


女教師「あ、女ちゃん! 来てくれたんだ! ……おっとお嬢様さんも……二人はもう仲良くなったのかな」


歓迎されたことを嬉しく思い、
お嬢様よりも先に私のことを見つけてくれたことに優越感を覚え、
お姉ちゃんの質問に答えるように、可愛く見えるよう笑顔を浮かばせて頷いた。


女「うん、仲いいよ――。一緒に演劇部入ろうってくらいに」


お嬢様「はっ、はい! ――――……とっ……ともだちっですっ!!」


友達って言うのに、やけに詰まったな。やめろよ。言わせてるみたいに聞こえるだろ。
私がボッチを脅して友達料請求してるやつみたいになるだろ。

……冗談。きっと今までまともに交友関係を築いたことがないから、友達といっていいか悩んだのだろう。
いいよ。私とあなたは友達だよ。もっと自信をもって喧伝なさい。
後になって、えっ? 別にあなたとは友達じゃないよ、なんて裏切るつもりは無いから。一緒にお昼ご飯食べた仲でしょう。


女教師「まあまあ、お嬢様さん、ぜひぜひ女ちゃんと仲良くしてあげてね」


お嬢様「はい! お、女とはも、もっと……仲良くなりたいと、お、思っていますっ!」


女教師「あらあら」


女「――――」

クスクスと笑うお姉ちゃんに思わずぽうっと見惚れにやけてしまう。
天使かよ。ガヴリールはここに降臨しなすった。ははあ。……平伏してたら、寵愛くれないかな……?

あれ……? ガヴリールってどんな天使だっけ? まあいいや。私が知っているってことはすごい天使なんだろう。
お姉ちゃんはすごい。すごく天使。それでいいじゃないか。


お姫様「先生、そろそろ時間です。これ以上待っても、もう一年来ないっぽいですし始めちゃいましょう」


女教師「ん、そうだね。じゃあ始めちゃおっか」

女教師「女ちゃんたち――ほかに三人……だったけ? 一年生いるから、その子たちと固まってくれる」


お姉ちゃんの言葉に正気に返る。天使の言葉は絶対。天使のお言葉は絶対。

舞台の右袖にちらちらとこちらを見てくる数名。見るとタイの色が私たちと同じだった。
つまり、私たちと同じ学年ということ。彼女たちが一年生か。


お嬢様をつれてその集団の中に紛れる。
演劇部の始まりで、それは同時に、お姉ちゃん食べちゃおう作戦の始まりだった。
でーんでーんでーんでーんでどでん。


演劇部員の活動は大きく分けて二つ。

一つは、演劇部の華――舞台上で演じる役者だ。
演目にもよるが、大体十数人が一度の演劇で役をもらうそうだ。

もう一つは裏方。私知ってる、縁の下の力持ちってやつだ。
演劇中、効果音や照明なんかを担当したりする。

それだけじゃなく、脚本書いたり、小道具、背景の張りぼて、衣装を作ったりもする。
こちらは手先の器用な人が杓子をとって部員全員で作業するそうだ。


とりあえず一年生は前期間は裏方だけ。
三年生が引退した後、希望した一年生は十月にある文化祭で、舞台の上に立つことができるそうだ。

だから例年、舞台の上で輝きたくて入部した人はすぐ舞台に立てなくて不満を持つそうだ。
現に自己顕示欲の強そうな娘は唇を尖らせているのを取り巻きに宥められていた。

ふん、愚かな。下積みもなくどこの上に立つというのだね。


……あ、お嬢様も残念そうだ。


女「……先輩がどういう風に演じてるか見て勉強するのも大事だよ」


お嬢様「そ、そうだよね」


少なくとも一年以内には演じられるっていうのに、そんな残念そうにしなくても。

こういうのを生き急いでるていうのかね。違うか。


私は入部動機が不純だから、そんなに演じることに執着がないだけか。


女教師「さてと大体はこれくらいかな。なにか質問は――」


お姫様「先生、活動場所について」


女教師「あっ、そうだったそうだった――明日からは舞台の上じゃなくて、二階の空き教室に集まってね」


どうやら普段は全員で活動するには狭いこの体育館では活動していないみたいだ。
毎日毎日演技の練習をしていないみたいだし。


女教師「じゃあこれから――」


今日はこれからどうするのだろう。
演劇に使う小道具を作ったりするのだろうか。

どさくさに紛れてお姉ちゃんに近づいてやる。
そして……ぐっへっへ~早いとこ食べてやる、性的に。

などと邪なことを考えていたせいだろうか。


女教師「走ろうか」

地雷が空から降ってきた。


女「は?」

お嬢様「はい?」


走り込み? 走り込みですか?

いや、別に走ること自体はいいんだよ。
でも、それだとお姉ちゃんと近づけないじゃん。
君のハートを盗塁だぜ、なんてできないじゃん。
作戦倒れだよ……。


隣を見ればお嬢様も唖然と口を開けている。

……走るのが嫌いなのだろうか。
可愛そうに。運動部じゃあるまいし、まさか演劇部で走ることになるとは思わなかったのだろう。

私も予想外だよ。もっとお姉ちゃんと近づく機会があるものだと。

例えば。例えばだよ――

衣装を作るためお姉ちゃんと一緒に針仕事をしてる最中に、間違えて針先を指に刺しちゃって、
血のにじむ私の指先を見たお姉ちゃんが――

お姉ちゃん『大丈夫? 血が出てるよ! ……舐めたら血、止まるよね』

そして、私の指はお姉ちゃんの口の中。
逆でもいい。私がお姉ちゃんの指を舐めるの。

なんてねっ! なんてねっ!?

…………。
くそう。


着替えて校門前に集合だそうだ。
大人しく運動服に着替えるため女子更衣室へと向かった。






私は走っていた。無我夢中に。
肩口で風を切るこの感覚。振り上げる足は、疲れているのか、重い。けれど、走れないわけじゃない。
むしろ、なおも全速で足を動かす。速く、速く速く、速く――――。
ただ、足を動かす。あの人にもっとよく見てもらうために……。
私の理想。私の計画。私の悲願。そのために――。


女教師「おっ! 頑張ってるね~、女ちゃん。がんばれ~」


よっしゃきたあっっ!!!

これだ。これだよ。これ! 私が求めていたものは。


誰だ。お姉ちゃんにいいところが見せられないとか言ったやつは。
今! 実際に!  お姉ちゃんは私を見て、私の走りを見て、私に……私にぃいっっ!!?


ぐへへへへ、もう私はなんにでもなれる気がする。
いや、なれるね。ウサイン・ボルトにだって。なれるとも。
いけ、私! でんこうせっかだ! ぴっぴかちゅう。

お姉ちゃん。あなたに見てもらえるのなら、バターになるまで走ります!
なんだったらぺろぺろお姉ちゃんのバター……おっと下品だったな。自重しないとR板に転移されてしまう。


さてさて、お姉ちゃんの提案……? 指導……? で走り込みをしているわけだが。

走り始めて最初は、がっかりした。がっかりして、やる気は低迷した。昨今の出版業界のように。
なんでこれから走らなくてはいけないのか、と。やすやすと出来るか、と。
意味わかんねえよ。これが陸上部だったら喜んで走るよ。さっきのバターのくだりじゃないけど、それこそ犬のように。

だって、お姉ちゃんによく見られたいんだもん!


でも、外周じゃあお姉ちゃんの目に入らない。
陸上部じゃないから、タイムがよくてもお姉ちゃんに褒められない。
そりゃ速く走れば驚かれるだろうけれど、驚くだけだ。

好意的に受け取ってもらえれば、やる気があるな、と思ってもらえるかもしれないけど、
なんでこいつ外周なんかに本気出してるの、陸上部行けよ、引くわ~などと思われたら嫌だ。

そんな可能性万に一つもないと思うが(優しいお姉ちゃんに限って、ね)
万に一つも可能性があると思うと、なかなかやる気が出ない。

そもそもやる気云々はお姉ちゃんに見てもらうという前提があってこそのお話だ。

この状況じゃ仕方ないって。
もしもお姉ちゃんが頑張れーって応援してくれたら五里霧中だろうが無我夢中で走るんだけどなぁ……。

などと思考も足もたらたらとさせながらお嬢様と一緒に――もっともお嬢様は走ること、というより運動そのものが苦手なようだが――学校回り走っていると、
一周して、校門に戻ってきた。

そこには――いた。おらっしゃった。おわしあそばせた。

お姉ちゃんが。いたのだ。


女教師「女ちゃんにお嬢様さん――自分のペースでいいから頑張って走って~。あと、二十分!」


私は本気を出した。

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