木村夏樹のむきだし (70)


18禁かつ若干倒錯的なシーンを含んでおりますのでご注意ください

◆◇◆◇◆◇◆

尾骶骨にヤスリをかけられたような強い疼きに全身が粟立った。
腹部をえぐる異物感に堪えきれず、呻き声が口の端から零れ出る。
腰を掴む手の力加減も、お尻に打ち付けられる汗でネト付いた贅肉だらけの腹の感触も、荒々しい息遣いも、すべてが不快だった。もう何度も経験してきたことなのだけれど、慣れることはなく不快なものはやっぱり不快なまま。
とはいえそれを表情に出さず、わざとらしくない程度に好まれる反応を演技するぐらいの余裕は持てるようになっている。
お尻をえぐられるリズムに合わせて甲高い声を上げてあげると、腰を掴む手の力が強まるのがわかった。単調にならないようにいくつものパターンの喘ぎ声を使い分け、組み合わせることがポイントだ。

数十回以上めちゃくちゃに突き入れられた後、引き抜かれ、身体の向きを変えられ、今度は前から入れられる。
ボクよりも二回りは大きな体のいい歳したオジサンが、母親に縋りつくように抱き着いてくるのは気色悪いことこの上ない。
でもそんな嫌悪感をおくびにも出さず脂ぎった禿げ頭を抱いて、耳元で震えるように喘いであげた。
そうするとこの豚が喜ぶことを知っていたから。
ドロリとした喜悦と欲望に濁った目玉がボクの唇を見ていたので、口を薄く開いてあげると案の定むしゃぶりついてきた。
酷い口臭に頭がクラクラしながらも、恋人にするように舌を絡め、吸い付いて、精一杯サービスする。
するとほどなく本物の豚みたいな叫び声を上げながら果ててしまったので、身体を震わせている間ずっと抱きしめながら頭を撫でてあげた。

腸内にまき散らされる汚液の熱さに鳥肌を立たせながらじっとしていると、ヘソのあたりに冷やりとした感覚があることに気付く。どうやらというかやっぱりというか、ボクもいつの間にか射精してしまっていたらしい。
同じ男に犯され強制的に射精させられてしまう、という屈辱にはいつになっても慣れることが出来なさそうだ。

それでも…。
それでも、自分が担当する子たちをこんな悲惨な目に遭わせるくらいなら、自分がその役目を喜んで引き受けてやるんだと決意を改める。

なんてことはない、弱小プロダクションの出る杭が打たれないためにはそれなりの後ろ盾がいるという、この業界では当たり前の話。
いやひょっとすると、後ろ盾がなければそもそもスタートラインに立つことさえ不可能なのかもしれない。
それをボクなんかが月に何度か特別な接待をするだけで、とある企業の庇護を受けることができる…ボクが少し我慢するだけで素敵なあの子たちの夢の役に立てるんだ…そこに考える余地なんてなかった。
僕がこの人に見初められたのは全くの偶然だったのだけれど、接待の打診されたとき、子どものころからコンプレックスでしかなかった自分の女々しい容姿に初めて感謝した。
まったく、世の中には色んな性癖の人がいるものだ。

ボクの能力ではもう他にやりようはなかったし、後悔もしていないけれど…プロデューサーのボクが枕をしているだなんてあの子たちが知ったらどう思うだろうかと、ぼんやりとした頭が何度も繰り返してきた詮無い思考に捕らわれた。
やっぱり軽蔑されるのだろうか…それとも、プロダクションから出て行ってしまう…?
それは単なる想像だけれど、胸を切り裂かれるような辛い気持ちが湧いてくる。
でももしかしたら、彼女なら…彼女だけは…『アンタ、ロックだな!』なん労ってくれるかもしれないと、自分に都合の良い妄想で胸の痛みを誤魔化した。

ささやかな現実逃避が再び動き始めた豚に邪魔をされ、獣臭立ち込めるホテルの一室に意識が引き戻される。
その動きは疲労もあってか一回目ほどの激しさはなかったので、さりげなく甘く優しい言葉を耳元で呟いてあげた。
すると豚はたちまちに元気を取り戻し、またボクの平らな胸にしゃぶりつきながら激しく腰を動かし始める。
その豚の夢中さにボクは確かな手応えを感じていた。
たぶん、あともう少し…。

◆◇◆◇◆◇◆

ぎゅいーーーん、と最後に愛器をかき鳴らしたタイミングで白色の照明はOFFられて、足元を照らすブルーとパープルの光だけが残った。
演奏も歌もばっちり。ライブ演出もリハ通り。
ただ一つのマイナス点は、アタシの相棒がステージが暗転してからずっとこっちに視線を送ってきていること。

おいおい、違うだろ?
カメラが切り替わるまではじっとしてなきゃ、カッコつかないぜ?

相棒がどんな表情をしてるかは見なくても想像がついた。きっと、目をキラキラ輝かせて満面の笑みに決まってる。

無理もないか! 誰でも知ってるゴールデンタイムの音楽番組に出演できたんだから!
しかも完璧なパフォーマンスで演れたんだからな!

かく言うアタシも顔がニヤケそうになるのを抑えるのがやっとだ。
笑いを堪えられなくなる一瞬前、やっとスタジオの隅からOKのサインが出て、それとほぼ同時に胸にドスンと衝撃が走った。


「なつきち~~~!うわぁ~~~ん!」


相棒、だりーこと多田李衣菜がアタシの胸にダイブを決め、ギターごと抱きしめられちまった。


「ははっ、イイ音だったぜ、だりー!」

「なつきち~~!やったよぉ~~!うわぁ~~ん!」

「おいおい、まだ収録は残ってるんだから…な、泣くなって…」


少し前から急に仕事が増えてきたとはいえ、まだまだ駆け出しのアタシたちにとってはこの番組はかなりの大舞台だった。それを無事成功させた安堵からか、だりーはみっともなく流れる涙を止めようともしない。
清々しいぐらいのその真っすぐさに危うくアタシまでもらい泣きしそうになり、慌てて天井を見上げる。
数回の瞬きで目の潤みを紛らわせてから客席を見渡せば、今度は一曲のためだけに観覧しに来てくれたコアなファンたちの優しい視線に気付いちまって、もう諦めた。
いつまでもこのステージに立っていたいのは山々だが、また雛壇に戻って画面の奥から存在感をアピールするという仕事が残っている。


「最高だぜ! サンキューな!!」


アタシたちを取り囲むすべてに対しての感謝を叫んでから、だりーを引きずる様にして元のスタジオへ戻った。


―――
――


収録後、出演者たちがそそくさと楽屋へ向かう中、アタシとだりーはスタジオの端でセットを眺めながら立ち尽くしていた。


「私たちがこれに出てたなんて…夢みたい…」

「あぁ…いや、今日からはこれがアタシたちのリアルだな…。もっとアガって行くぜ?」

「なつきち……うんっ!」


そんなルーキー感まる出しのアタシたちの背後から聞きなれた声を掛けられる。


「夏樹ちゃん!李衣菜ちゃん!お疲れ様~!」


女にしてはちょっとハスキーな、だが男にしては高すぎる声に呼ばれて振り向いてみれば、小さな姿がこちらにぱたぱたと駆け寄ってくる。


「あっ! Pさん! どうでしたか!? 私たちの歌は」

「完璧だったよ~! ようやくここまで…ぐすっ…これでやっとふ、二人を…日本中に知ってもらえる……うぅぅっ」

「はぁ~~~アンタまで泣くんじゃねーよ!」

「わぷっ」


走ってくるなり泣きべそをかき始めたのがアタシとだりーのプロデューサーだ。
その頭をとりあえずガシガシと撫でると子犬っぽい呻き声を出したのが面白くて、つい髪がぼさぼさになるまで続けちまった。
身長はだりーと同じくらい。体つきは細く、頬はつきたての餅みたいに白くて柔らかそう。
アタシのよりもキューティクルに溢れたサラサラの頭髪は念入りにぼさぼさにしてやっても、頭を一振りすれば元通りになる。
前髪の下から覗くクリクリの瞳はビー玉みたいに澄んでいて、縁取る睫毛はマスカラ要らず。
いわゆる女子力の塊みたいな存在だが…オッパイは無い。
当然だ、なんせ男なんだから。

10人中7人が女だと誤認するようなコイツがアタシたちのプロデューサー。
チワワみたいにちっちゃくてキャンキャン鳴いて、女の子みたいな可愛い男がアタシたちのプロデューサーなんだ。
あぁ、10人中の残りの3人は美少女って言うんじゃないかな。


「ほーら、シャキッとしろ」

「んもう! 夏樹ちゃんはいつもボクをからかうんだから! ボクの方が年上なんだよ!?」

「ははっ、わかったわかった」


20代半ばのオトナの男が頬を膨らまして抗議するのはどうなんだ?と内心思いつつ、いつものように軽くいなしてから改めてお互いを労い合う。


「でもホントにすごいよ! ウチみたいな小さいプロダクションのアイドルが出演できたなんて!」


だりーが思い出したようにPさんの両手を掴み、ブンブンと上下に振り回して喜びを目いっぱい表現する。


「わ、わ…っ!」

「Pさんすごい…ホントに…すごい…っ!」


こうして子犬みたいな二人が手を取り合っているとやっぱり女子のダチ同士にしか見えない。
だりーのあまりの喜びぶりに戸惑いながらもPさんは嬉しそうだ。

また涙目になりそうになっているだりーの瞳にははっきりとした尊敬と信頼の情。
いや、それだけでなく…


「……っ」


ずきり、と不意に胸が痛み、息を飲んだ。
何故か最近この三人でいるときによく感じる切ない痛みだった。原因は…不明。


「は、ははっ…たしかに、アタシらをこの番組にねじ込むたぁアンタにしちゃいい仕事だったぜ! いったいどんな魔法を使ったんだい?」


二人ともアタシのことは見ちゃいなかったが、妙に居たたまれない気分になってしまい取り繕うように冗談を飛ばす。


「そ…れは……っ」

「ん?」

「Pさん…?」


冗談には冗談で返してくれりゃいいのに、何やら気まずそうな顔で言い淀むPさん。
そして一呼吸置いて笑顔を作って…


「それはもちろん…夏樹ちゃんと李衣菜ちゃんの実りょ」

「P~くぅ~ん♪ まだここにいたんだね♪ 探しちゃったよぉ♪」


Pさんが喋り始めたところで、三人以外の声がねっとりと響いた。


「え? あっ…○○社長……っ!?」


○○社長と呼ばれた男がドスドスと足音を立てながらPさんの背後から近づいてくる。
Pさんのすぐ後ろにまで近づいてきたソイツはPさんの肩に親しそうに両手を置き、肩もみをするように指を動かし始めた。
いつの間にか、だりーはPさんの手を放しアタシの背後にまで下がっていた。
デカい…。身長は180センチ以上あるだろうか? しかも肥満体形だから、優にPさん二人分、ひょっとすると三人分近い体重があるかもしれない。この二人が並ぶと、まんま大人と子供にしか見えなかった。


「お…おせわになって、おります…○○社長…」

「はぁい♪ お世話してますぅ~~♪ んふふ♪」

「突然いらっしゃって…どうされたんですか…?」

「それがねぇ~♪ 急にねぇ~Pくんと、打ち合わせ、しないといけないことができてね~♪ わざわざやって来たんだよぉ~♪」

「っ…そ、そうですか…ご足労いただき申し訳ございません…」

二人は明らかに初対面ではないのに、Pさんはこれ以上ないくらいに狼狽しているように見えた。でもアタシは呑気に、どうしても苦手な相手ってのはいるからなぁ、だなんて考えていた。なんか、その、見た感じちょっとアレな人だしな…。


「あぁ~♪ この子たちがPくんのアイドルかぁ~♪」

「あ、はい…。こちら木村夏樹と多田李衣菜です…」


紹介されてしまったので、アタシとだりーは簡単に自己紹介をした。
そしてPさんが大男の紹介をする。


「こちらはね…○○社長。この番組のスポンサーでもある〇〇会社の社長でいらっしゃる方だよ」


○○会社といえば元はベンチャー発祥で急成長した会社だったか。
最近ゴールデンタイムにCMを打っているのをよく見かける。アタシらみたいな零細プロダクションもあれば、こんな景気の良いところもあるのかと呆れたものだ。


「うわっ、すごっ! Pさんそんな偉い人とトモダチなんだっ!」

「トモダチって…だりーおまえな…」

「トモダチ、ねぇ……んふふ♪ そうなんだよぉ♪ ワタシとPくんはトモダチなんだ♪ それもとってもナカのイイ…ね♪」

「っ……」


シャチョーさんは言いながら今度はPさんの肩と背中を撫で回していた。
仲が良いのは結構だが…正直イロイロとキツイ光景だった。いやまぁ、トモダチってんならこれくらい普通なのかもしれないけど…?


「へぇ~~♪ ほぉ~~♪ この子たちがねぇ~~♪ へぇ~~♪」


腫れぼったい瞼の下のくすんだ光がアタシとだりーを見据える。
それは遠慮って言葉知らないのかって問い詰めたくなるような粘ついた視線で、背後のだりーが極微かな悲鳴を漏らしたほどだった。
あぁ…わかった…。アタシ、コイツ駄目だ。
値踏みする視線ってのはこれまで何度も浴びてきたが、コイツのはぶっちぎりで不快だった。
人を商品として、いや、金になるかどうかでしか見ていないのを隠そうともしない失礼さ…。


「ふ~ん♪ まぁいいや♪ 二人ともPくんによぉ~~く感謝するんだよぉ♪」

「あ?」

「○○社長…それは…っ」

「うんうん、分かってるって♪」


Pさんにはもちろんいつだって感謝している。テメエに言われるまでもなくな。
コイツは人を苛立たせる才能でもあるんだろうか…。
危うくガンを付けてしまいそうになったが、なんとかそれは抑えられたはずだ。…たぶん。
そういえば、だらしない腹が動くたびに、口から空気の抜ける間抜けな音が鳴って……その毎二秒後に鼻が獣臭さを捉えて……ゲェ~~そういうことかよ~~!
そこまで気付いてしまうと、後はもうひたすらに気持ち悪く、今にも肺が腐ってきそうな気分だった。
それはだりーも同じだったようで鼻をしきりに擦りながら完全に委縮して、怯える小動物みたいになっていた。


「あー……アタシらはそろそろ楽屋に…」

「うん…そうだね…。二人はもう着替えに行っておいで。ボクは○○社長と…う、打ち合わせがあるから…。二人は先に帰っておいてくれたらいいから…」


そう言ったPさんを残して、アタシとだりーはありがたく楽屋へ下がらせてもらうことにした。
シャチョーさんはPさんの肩に手を回したまま、スタジオのセットの裏の方へ向かっていくように見えた。隅っこでちょっと打ち合わせするだけなのかな?

それにしてもプロデューサーってのはあーいう人間とも仲良くしないとダメなんだな。
ったく、Pさんには頭上がんねーぜ。

―――
――


「さてと…………あ」


他の出演者への挨拶もそこそこに楽屋で着替えを済ませ、だりーと別れた。
だりーは電車で、アタシはバイクで帰宅する。そのつもりだったのだが。
駐車場に停めた愛馬にまたがったところで、今日買ったレコードを事務所に置いてきてしまったことを思い出した。
大舞台を終えた今夜ほど新しいレコードに針を落とすのに相応しい夜はない。とてもじゃないが明日まで待てなかった。
でももう夜の報道番組が始まりそうな時間だから、事務所に残っている人はいないかもしれない。


「しかたねーな。Pさんに鍵もらいに行くか…」


あのブ男にまた会うことになるかもしれないのは心底ゲンナリだが、今のアタシのロック魂はそんなのでは止まらない。
駐車場から引き返し、何食わぬ顔でスタジオへ入り込んだ。

廊下とスタジオを仕切るドアは音もなく開きそして閉じた。
照明のほとんど落ちたスタジオからはやはりスタッフの姿も消えていて、静まり返っている。
セットの裏、Pさんとブ男が向かった先にだけ光が点いているようだった。
それにボソボソという微かな声も聞こえてくるから、まだ打ち合わせは終わっていないのだろう。
そういえば偉いシャチョーさんとの打ち合わせを遮ることになるのだから、どう声を掛けるべきか考え、ふと立ち止まった。
すると丁度そのとき…



  んぐぅ……っ



セットの向こうから妙な音が微かに響いてきた。
それは小型犬の鳴き声みたいで…もっといえばどこかチワワっぽさのある声で…良く知った音色を含んだ声だった。
だりーほどじゃないがアタシも耳の良さには自信がある…間違えるはずがない…。
それはPさんのだとすぐにわかった。

しかし、わからない…。
どうすればそんな声が出るのか…。
なんで打ち合わせ中にそんな声を出す必要があるのか…。

アタシは知らず生唾を飲み込んでいた。
嫌な予感がする…。
今日の本番前の数倍心臓が強く脈打っている。
近づかない方が良い…。
肺が硬直しているように感じる。
今夜の新譜は諦めればいいだけの話なのに、それでも脚はヨタヨタと前へ進んでいく。
Pさんの肩を撫でていたあの男のいやらしい手つきが脳裡をよぎる…。

いや、これはちょっとした確認だ。
なんでもないってことをこっそり確認するだけ。
大丈夫。
きっとちょっと噎せたとか…それだけのことさ。
そんなこと…あるわけ…ないんだから…。


ここで引き返し何も知らないままでいるべきだったのか、それとも知るべきだったのか。
どちらにすべきだったのかなんて、そのときに分かるわけはなかったし、ずーっと後で振り返ったとしても結局は答えは出ないのかもしれない。


これは知っちまったアタシのお話…。
カッコ悪くて、情けなくて、どうしようもないお話だ…。

気付けば直線距離で5mくらいの距離にまで近づいていた。
もちろん無防備に体を晒しているわけじゃない。アタシと二人の間にはセットのスペアか何かが置かれていて、それが丁度いい壁になっていた。もっとも、光があるのは二人の側にだけだったから、よっぽど大胆に物陰から体を出さない限り気付かれることはなさそうに思えたが。
セットの陰に身を隠したまま、左目だけを覗かせると、コンテナケースに腰を下ろしているブ男が正面から見えた。

そして…。


「っ!?」


あぁ…ちくしょう…Pさんは…あぁ……ブ男の前で床に跪いてアタシに背中を見せている…。
両手をブ男の腿に置いて…ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう…頭を上下に動かして……。

アタシは…まだ何も見ていない…。Pさんがブ男の前で跪いているのを後ろから見ただけだ…。
でも…でも!
 
その体勢が意味するところが分からない程、アタシもガキじゃない…。
男同士だっていう否定条件も、Pさんの容姿のことを思い出すと気休めにもならない。

この状況にどうにか別の理屈をつけようと、ショートしっぱなしの脳をフル回転させたところで何も浮かんでこない。

そうこうするうちに有無を言わさぬ答え合わせを押し付けられる。


「あ゛ぁ゛~~♪ Pきゅんのオクチ最高だよぉぉ♪ ほらっ…もっと…おぉぉう♪ 奥まで咥えて…んほぉぉ♪」

「んぶっ!? んんんっ! ぐぷうう゛う゛っ!」


ブ男のグローブみたいな手がPさんの小さな頭を掴み、自分の股間に抑えつけると、やられたPさんの背中がこの距離でも分かるぐらいに大きく震えた。
自分の股間の前でPさんの頭をボールを扱うみたいな手軽さで好き放題にシェイクするブ男…あぁぁぁぁ!

なんだ!なんなんだこれは!?

アタシの頭の中で誰かが意味不明のシャウトを叫び散らしている。
アタシの頭蓋骨がスピーカーにでもなっているんじゃないかってぐらいに頭がグワングワン。
そのくせもうよせばいいのに、アタシの目ん玉はPさんの上下に弄ばれる後頭部を瞬きも忘れて見続けている。
目が離せない。いや、頭が動かせない。いやいや、体の動かし方を忘れてしまったらしい。


「ん゛ん゛ん゛っ!! げぼっ!ごぼぉっ!」

「あらぁ? ごめんねぇPきゅん♪ 突っ込みすぎちゃったぁ?」

「げほっ! んぐげほっ!んっ……はぁーーっ! はぁー、はぁ、はぁ……」


おかしなところまでナニカをつっこまれ噎せたPさんは激しく咳き込んだ後、顔をナニカから逸らすように俯き、ぐったりと呼吸を繰り返す。
ブ男はまたPさんの頭を掴んでナニさせようとしたが、Pさんはまるでイヤイヤをするように小さく首を横に振った。


「んん~? なに? どしたの~?」

「んっ…はぁ…はぁ……はぁ…」

「Pきゅん、もしかしてまだ拗ねてるの~? だから今日急に来たのはごめんって~♪」

「……はぁ…はぁ…」

「もう~♪ 怒んないでってばぁ~♪ 今日だってちゃんとテレビに出してあげたし、演奏の順番だって悪くなかったでしょ?」

「……」


ブ男のちょっとひっかかる言い回し…それを聞いたPさんは俯けていた顔をようやく上げた。
出して…あげた…?
今日…? テレビ…演奏…順番…?
あぁ…ヤバい…寒気がしてきやがった…頭が、足元がフラフラする…。


「んもう♪ Pきゅんはワガママさんだなぁ~♪ じゃあサービス♪ まだペンディングにしてたんだけど、今度のCM…Pきゅんのアイドル使っちゃおう♪」

「っ……!」


あああああああ……だっ、だめだ…気分が……。


「他の候補もいるんだけどね、社長権限で俺がごり押ししちゃう♪ だ・か・ら……ね?」


Pさんがブ男の顔を見上げた後、Pさんが…Pさんが…!
ブ男の前で膝をつき直して…ああああああああ!!!
嘘だ!やめろ!やめてくれ!!!!


「○○社長…いつも…お仕事を恵んで下さって…本当に…ありがとうございます…っ」


手を…床に…頭を…下げて………。


「やっ、違うって~♪ そういう意味じゃないよぉ~♪ 俺とPきゅんのナカじゃないかぁ♪ そんなのより…こっち♪ ね?」

「…………はい。……ぇぁぁぁむっ」

「ほぉおおおおお♪ きたっ♪ Pきゅんのオクチ♪」

「んぷっ…はぁぁんっちゅ…んぶっ……じゅるるるるっ」

「あぁっ!あああっ! やっぱり♪ Pきゅんだけだよぉ♪ 女は…クソだ!」

「んんんっ!? ふむぐうぅぅう!?」

「嫁は外で遊びまわって…キャバで貢いでも愛想笑いばっかしやがって! 買ってんのにぬるいプレイしやがって!」

「ぐむうううううっ!? ふぐうぅぅうっ!?」

「Pきゅんとこのアイドルだって…この俺を汚物を見るような目で!見やがって…! クソっ!クソっ!クソがぁっ!」

「ぐぼぉぉ……っ!!! んぼう゛う゛っ!?」

「はぁ!!はぁ!! 男なのに! こんなに可愛いくて! 俺のことを受け入れてくれる! Pきゅんんん~~~♪」

「ん~~゛~゛~゛~゛っ!!」

「お゛お゛お゛っ!! きたきたぁっ!! イグよぉぉぉ?ねぇイグよぉぉぉん? 全部飲んでねぇ~~♪」

「………!! ……っ!!!」





ウォォオオオ~~~~イグ~~~~





もう限界だった。
味わったことのない恐怖にカラダの芯までビビらされたアタシは、本能が命じるままに踵を返し逃げ出した。
転ぶことも壁にぶつかることもなくスタジオの無音扉をくぐることが出来たのはほとんど奇跡だったと思う。

豚の叫び声も聞こえない、照明の付いた正常な空間に戻ったその瞬間、無意識が押し止めてくれていたモノが逆流してきた。


「う゛っ゛!!??」


口を両手で押さえて近くのトイレに駆け込んだまでは良かったが、個室に入る余裕はなく洗面器にしがみつく。


「う゛えぇぇええええええ゛え゛え゛え゛!!!」


びたびたびた、と威勢の良い音を立ててアタシの口から黄土色の滝が流れた。
膝は震え、立っているのがやっと。
一歩も動くことが出来ないまま、胃の中が空になるまでゲロりまくった。


「はぁーーーっ!はぁーーーっ!ぐっ…はぁっ!はぁ、はぁ」


数分間悶え苦しみ、やっと落ち着いたところで口を漱いて口の中のザリザリした残留物を吐き出した。
目の前の鏡の中のアタシは自慢のリーゼントヘアがみっともなく散らかり、目と鼻と額から一杯に汁を垂れ流している。
あまりの情けなさに、逆に笑えてきてしまう。


「は……はは……これでも数時間前まで…アイドルとしてテレビに…………っ!」


そして思い出してしまった。
アタシたちが今日テレビで歌を披露できたのは何故だったのか。
最近良い仕事が増えてき始めたのは何故だったのか。
ダレがナニをしていたからなのか。


「う゛っ゛!! お゛お゛お゛っ!! お゛え゛え゛え゛~~~っ!」


もう出せるものなんて何も残っていないのに、胃が収縮を止めない。


「はぁぁっ!あ゛ぁ゛ぁ゛っ! もう…でねぇよぉ…カンベンしてくれぇ………う゛っ゛! お゛え゛え゛え゛っ!」


嘔吐感だけが延々と続く…出そうにも何も出せない、いつまでも出し終わらない、だからカラダはいつまでも出そうとし続ける…地獄だった。


「はぁ゛~゛~゛、はぁ゛~゛~゛、はぁ゛~゛~゛」


一体どれだけの時間そうしていたかわからないが、限界だと100回ぐらい思った頃にやっと胃の動きが収まってきた。
その頃には喉はガラガラ…たぶん胃液で灼けた所為だろう。
意外なことに時計を見てみればだりーと別れてからまだ一時間ほどしか経っていなかった。
覚束ない足取りでどうにか駐車場にたどり着き、バイクに跨って人心地。
ところどころバグっていた体の感覚が、慣れ親しんだエンジンの鼓動で解されて正常に戻っていくように感じた。
ヘッドライトの向かう先はアタシのアパートじゃなく……。

―――
――



アタシたちの事務所が入るビルの入り口を少し通り過ぎたところで道端にバイクを停め、事務所の入っている階を眺めると窓ガラスは暗い。
アイツはまだ帰ってきていないようなので、バイクシートに腰かけながら待つことにした。


「さむ……………」


もう季節的には春だが、夜になればライダースを着ていても寒い。
だけどそのときのアタシには澄んだ冷気がカラダを清めてくれているような気がして、寧ろ心地いいくらいだった。

ひょっとしたら今日はもう事務所に帰ってこないのかもしれないとも考えたが、かといってアパートに帰ったとしても眠れるとは思えなかったので構わない。

人通りは疎ら、行き交う車はほとんどなく、時折風に吹かれた街路樹がざあざあと葉音を鳴らすだけ…。
何かを考えるには絶好の環境だろう。
アタシには考えるべきことがたくさんあるはずなのに…何一つ考えるということが出来なかった。
それなのに、頭の奥は冴えわたっているように冷たく…その冷たさは脳みそに夜風が直接吹きつけられているようにも感じられた。


見るともなしに、聞くともなしに、ひたすら待つ。

聞き覚えのあるエキゾーストノートを捉えた頃には、全身の骨が軋むほどに身体はガチガチ。

それから数分して事務所に光が灯ったことを確認したアタシはシートから腰を上げた。


―――
――



  ぎぃぃぃ


ウチの事務所のドアはボロいから開けると絶対に音がする。


「えっ…だ、誰……っ?」


奥からの怯えるような声は予想通りだったが、それに応えることはしないまま、まっすぐと声のした方へ向かう。
パーティションを越えると、自分のデスクから立ち上がりこちらを注視しているアイツの姿が目に入った。


「あ、あれ…? 夏樹…ちゃん…?」


緊張していたPの表情が一気に柔らかい…いつもの笑顔に変わる。


「こんな時間にどうしたの? 忘れ物?」


子犬みたいにPが駆け寄ってくるのを見て、アタシの足はピタリと止まってしまった。
実のところ…アタシは何のためにここに来たのか、そしてこれから何を言おうとしているのか、自分でも分かっていなかった。いや、決められていなかったという方が近いか…。
アタシのハートはあっちやこっちへでたらめに動いて、気持ちの整理なんて全くできていない。
いつもの調子で近づいてくるPを戦々恐々とただ凝視する。


「え…夏樹ちゃん、目腫れてない…? それに唇も紫っぽい…?」

「………っ」


Pが目を細めてアタシの唇を覗き込むように見たそのとき、揺れたPの頭髪から匂ってくるものがあった。
20台の男にしては甘さのある爽やかな匂いと…油っぽさのあるツンとした汗臭さ…。
これまでもどっちの匂いもPから感じたことはあった。
ツンとした汗臭さを感じるのは決まって今みたいな夜で…そのときにはいくらPが女っぽくても一日働けば男臭くなったりもするんだなって思ってた…。
でも…今考えるとPを臭く感じたのは決まって、Pとアタシたちが分かれて仕事をした後に落ち合った場合だったような…。
いや、今ははっきりと分かる…。

Pから感じたことのある男臭さは…あの豚男のものだったんだ…。
Pはずっと今日みたいなことを続けていたんだ……。


「わっ…ほっぺた冷たい! 夏樹ちゃんもしかしてずっと外にいたのっ? あぁもう、こんなに冷やして…」

「ぁ………」


頬に何か温かいものを感じて意識を目の前に戻すと、Pがいつもの気安さでアタシの顔に手を差し伸べていた。
温かい、Pの、手…。
そのPの手はさっきまで…!


「……るな……」

「え…? 夏樹ちゃん?」


凍えた頬を溶かすようなPの手の温かさに言いようのないヌメリを感じてしまう…。
触れられている部分からドロドロの何かおぞましいモノが皮膚に滲み込んでいく気がして、全身が総毛立つ。
その粘つきに絡めとられ、アタシの胸の中で揺れ続けていたメトロノームがついに止まった。


「さわるな゛……っ」

「夏樹ちゃん…声が…」


瞬間、また胃が蠢き出す予感があって、それだけはもう御免だと無理矢理抑え込むように腹に力を入れて、拒絶を繰り返す。


「アタ゛シにさ゛る゛な゛っ!!」

「ぁ…っ!?」


ダミ声の叫びと一緒にPの手を力いっぱい払いのけると胃の動きは止められた。


「夏樹ちゃん…? 喉、どうしたの…?」


手を乱暴に払いのけられたPは、それでもアタシに心配そうな目を向けてきている。
でもアタシの喉が潰れているなんてことは今は全然重要じゃないから、Pの疑問に答えることはしない。


「な゛ぁ…いつ…から…なんだ…?」

「え? なに? なんの話…?」

「いつからな゛んだよぉ゛…?」

「えぇぇ…な、夏樹ちゃん…一体どうしたの…?」


要領を得ないPに苛立ち、アタシはこれまでの仕事を早送りで思い返した。
Pと出会い、だりーと出会い、レッスンと失敗の日々があって、ゴキゲンな楽曲を作り出して、小さなハコなら満員にできるくらいになって…。


「……ま゛さか…」


音楽やってる誰もが夢見る夏のフェス…。アタシらの仕事の質が決定的に変わったのはそれに出てからだった…。その出演者の枠に入れたのは幸運と…実力だと思っていて…それはアタシの誇りだったんだが…。


「なぁ…ま゛さか…あ゛のフェス゛から…なのか…? あの時から…アンタは……あんなことを……?」


Pの瞳を真っすぐに見つめた。そのときのアタシは縋るような懇願するような表情だったと思う。どうかそれは違っていてくれと祈っていた。


「ぇ………いや………なつき…ちゃん…?」


Pの顔が…きょとんとしているだけだったPの表情が…強張っていた…。
まるで、何か思い当たる節があるっていうか、聞かれたくないことを聞かれてしまったっていうような…そんな顔…。
それだけでもう十分すぎるぐらいの答えたっだ。


「な…なんの…こと…? 夏樹ちゃん…?」


作り笑いを浮かべてシラを切るつもりらしいPを今度はしっかりと睨みつけ、言い放つ。


「い゛つからあ゛の社長と寝てるのかって話だよっ!!」

「っ!!??」


Pの顔が見る見るうちに青くなっていく。目は泳いで、唇はフルフルと震えて、肩をブルブル震わせて、ただでさえ小さいのに余計に小さく見える。


「ど………どうして…知ってる…の?」

「ン゛な゛ことはどうでもいいだろうがぁぁっ!!!」

「うわぁっ!?」


Pのふざけた言葉に耐えかねて胸倉に掴みかかると、Pは足をもつれさせ後ろに転び、アタシはそのままPの腹に馬乗りになった。


「はぁ゛~~はぁ゛~~ふ、ふざけんな゛…よ…オマエ…ふざけんな゛よ゛…っ!」

「ぅ…いつつ……」


アタシは胸倉を放さず、鼻先が擦れそうなくらいの至近距離でPの両目を睨みつける。

アタシとだりーが掴んできた成功が端から端から穢れていく…。
アタシとだりーの立っていたステージがどす黒い沼地だったことに戦慄する…。
築いてきたプライドがズタボロに崩されていく…。


「オマエ゛……な゛にやって゛んだよぉぉっ!!」

「ぅっ…な、つきちゃん……っ!」


これまでの人生、まぁ言う程長く生きてもないが、こんなにも憎しみを持って人を見たことはなかった…。
憎しみ…こりゃあ最悪の感情だ…。身体はワナワナ震えるし、動悸はしてくるし、気を抜いたら狂って叫んじまいそうになる。


「夏樹ちゃん…は…はなしを…」

「う゛るせぇぇぇぇえ゛え゛っ!!」


PはPで今にも死ぬんじゃないかってくらい泣きそうな顔してるし…泣きたいのはこっちだってのに…。


「は…………はは…くくっ……ははは……ひゃははははっ………」

「な、夏樹ちゃん…?」


何かのメーターが一周して大笑い。からっからに乾いた笑いが腹の底から溢れてきた。


「ははは……そうか…アタシの思い違いだったわけだ……くふふふっ…最近売れて゛きた゛と゛…ファンが増えて゛きたと思ってたのも……そうか…全部アンタのおかげか……はははっ………」

「ち、違う…それはちがうよぉ……」

「ははは…なにが?」

「確かにあのフェス以来、お仕事が増えてきたのは…○○社長に…お、お願いしたからだけど…っ! でもっ、それはただのきっかけなんだよ…!」

「はぁ?」

「そのきっかけを活かして…チャンスをモノにして…ファンを増やしてこれたのは…夏樹ちゃんと李衣菜ちゃんだったからなんだよ!」


これまで見たことのない必死な顔にアタシは思わず息を呑む。


「だっ、だったら゛…っ! そんな゛…枕なんてことしなくても゛…いつかは…頑張ってれば…いつかはここまで来れたんじゃないのかよ゛…っ!?」

「ぁ……ぅ…ごめん…ごめんね……」

「は? なんだよ?」

「ウチみたいな小さなプロダクションじゃ…いや違うね…ボクじゃだめだったんだよ…」


そのときPは笑ったように見えた…。でもそれが笑っていたはずがない。だって同時にボロボロと大粒の涙を流していたんだから。


「ぼ、ボクの力じゃ…きっかけを作ってあげることさえできなかったんだ…ボクには小さな仕事しか…そんなのをいくら続けたって、
 せいぜい小さなライブハウスが埋められるくらい…そんなんじゃスターにはなれないんだよ…」

「そ…んなの…やってみなきゃ…わかんないだろ…」

「ボクは…っ! 初めて…夏樹ちゃんの歌を聴いたその時から…夏樹ちゃんが……夏樹ちゃんがスターになるための手助けをしたいって………。
 でもボクが役に立つにはもう…これしか方法がなかったんだ……。ごめん…ボクの勝手で…ごめん…夏樹ちゃん…」

「は………んだよ、それ……」


スターになるにはアタシのロックだけじゃダメで、アイドルなんてやって…でもアイドルもやってみれば案外悪くなくて…アタシは…ハートがロックならアイドルでもなんでも良くて…。
でも、こんなことを足掛かりにするだなんて……!そんなの全然…っ!
何もすぐに売れなくたって良かったんだ…。少しづつで良いから実力で…自分たちのロックと音楽でチャンスを掴んで、ファンを増やしていけば良かったのに…。

いや…。

そうなるはずだったんだ…。
そうなるはずだったんだよ!!
それを…コイツは……っ!


「ぅぐっ…! な、なつき…ちゃ……か、は……っ!」


それなのにコイツは!
頼んでもいないのに、あんな手段を使って!
アタシとだりーの音楽に泥を塗るようなことをしやがった!
アタシとだりーでちゃんとやっていけるはずだったのに!


「…ぅ…ぁ……くる…し……!」


コイツが悪いんだ…。
コイツが全部悪い…。
あんな汚いモノ見せられて…死ぬほどゲロ吐いて…プライドを傷つけられて…アタシはなんて可哀想なんだ…まったく…。


「……な、つ………たっ…す……け……」


別にPをどうこうしようってわけじゃない。
ちょうど近くに細い首があったから掴んでみただけ。
アタシの苦しみをちょっとでもわからせてやろうっていう、茶目っ気さ。
そしたらPの奴、目を見開いて、口を鯉みたいにパクパクさせて…本当に良い反応しやがるから、アタシもつい調子に乗って少しずつ手の力を強くしてしまう。
男のくせにこんな華奢な首しやがって、本気で力を籠めたら折れてしまいそうだ…。
顔は真っ赤、目も虚ろになってきたのを見て、流石にブレーキ。それと同時に頭の中のぐちゃぐちゃも落ち着いてきた。

そこで気付いた。
小さいけど妙な異物感…。
尻の下にさっきまでなかった筈の何かが現れていたことに気付いたんだ。
アタシはPの腹というよりかは股間辺りに乗っかっていた。
そこに突然現れた何か硬い棒状のモノ…。


「は……? アンタ…冗談だろ……」

「かはっ! はぁ゛ー゛ー゛ー゛っ、はぁ゛ーーーっ、はぁーーーっ!」


このときのアタシの心情はなんだったろうか?
呆れ? 悲しさ? 失望? 怒り? 一番近かったのはたぶん、悔しさだ。


「はぁーー、はぁーー、はぁーー」


Pはぷるぷる震えながら怯えるような目でアタシを見ていた。

なんなんだコイツは…。

首を絞められて股間をおっ立てて…なんなんだこのド変態は…。
豚男に進んで犯されに行って、土下座して、女のアタシに簡単に組み敷かれて、抵抗もできず殺されそうになって…。
こんなヘタレが男だと…いや、自分と同じ人間だと思えなかった。
そんなに奴にずっとプロデュースされていたことがたまらなく悔しい。


「はは…なんだよ…この硬いのはよ……」

「ぁ…いや…これは…っ!」


尻に感じる硬さは少しずつ存在感を増している。
そこで…アタシの心に魔が差した。
もしこれがあの豚男みたいな奴だったら話は別だが、コイツは見てくれだけは美少女…。
その美少女の股間にどんなモノがぶら下がっているのか、なんの気の迷いか分からないが、アタシは純粋に興味をそそられてしまったんだ。


「…くくっ……見せてみろよ」

「な…待っ! やめて……っ!」


アタシは腰を上げ身体をPの横にずらして、そのベルトに手を掛けた。
Pは慌ててそのアタシの手を掴もうとするが…。


「さわるなっ!!!」

「っ!」


一喝してやるとPの手はピタリと止まった。
そんでまるで飼い主に叱られた小型犬みたいに、色んな気持ちが綯交ぜになってそうなつぶらな瞳でアタシを見つめてくる。
憐れを通り越して滑稽ですらある。


「あの豚に触った汚い手で…アタシに…触るんじゃない……!」

「ぅ………ぅぅぅ~~っ」

「そうだ…オマエはそうやってじっとしてりゃいいんだ……何もするなよ…」


怒鳴ってPを自分の言いなりにすることは妙な快感があった。
アタシがしようとしていることも、このドス黒い昂ぶりも、決してカッコいいモノなんかじゃないし、絶対に人に言えるモノでもない。
でも、だからってそれがどうした。
相手はコイツ…この変態だ…。
こんな奴に人と同じ人権なんて、ない。あるわけがない。
だからアタシが良心の呵責を感じる理由も…ない。


「よい…しょっと!」

「んわぁぁあっ!?」


ベルトのバックルを外し、スラックスのジッパーを開け、スラックスとトランクスを一気にずり下げる。
勢いよくブルンと現れた肉の棒は、Pの腹と同じきめ細やかな白い肌に覆われていた。
その綺麗な艶肌は触り心地が良さそうに見えて、サイズが近いこともあってか赤ん坊の腕を連想してしまう。


「はは……アンタらしく可愛らしいヤツじゃん…」

「んあっ!? やっ…っ!?」


長さは十数センチぐらいだろうか。
どうやらホーケーというヤツらしく、先端の皮の開き口から桃色の肉がチラ見していた。
そして何より…。


「え……あれ…あはっ! アンタ、毛は!? 生えてないの?」

「やぁぁぁぁ~~~っ!」


Pの股間には毛が一切生えていなかった。
男も女と同じように、というか女よりもモサモサに生えているものだと思っていたが…?
ま、こんな女みたいな奴だし…?


「み、みないでよぉっ!」

「オイ、隠すなって。はははっ! 聞いてんだろ? 答えろよ」


Pが手で覆って隠そうとするのを手首を掴んで邪魔をして、この可愛らしい不毛地帯の理由を問い質す。


「ぅ……ぅぅぅっ…○○社長が……ツルツルにしろって……」

「………は?」


だけど、その返答はアタシの期待とは違った。
アタシはてっきりPの体質かなんかだと思っていたのに…。なんで豚野郎の趣味を知らされなくちゃならないんだろうか…。
不意打ちで汚物を見せられたようなもので、一瞬だけ穏やかになりかけていた気持ちがこれまで以上に黒く燃え上がっていく。


「ぎゃんっ!」


手が汚れるとかそんなことはどうでもよくなって、力いっぱいPのアレを握ってやると、Pが面白い鳴き声を出した。


「ははっ! ……こうするんだっけかっ!」

「あうぅぅっ!? やっ! やぁぁぁ~~っ!!」


そして握ったままガシガシと上下に何度かシゴいてやると皮が剥けたらしくテカテカのピンク色が顔を出している。
その後も、力任せにシェイクしてやろうとしたら…。


「痛っ!」

「おっと…悪い」


腰をびくつかせてPが痛みを訴えたので、手の動きを止めてPを見ると、Pと目が合った。


「もうやめてぇぇ…お願い…こんなことはもう……っ」


Pの泣き願を向けられるとハラの奥がジクリと甘痒く疼いて、アタシは顔がいやらしく歪んでいくのを止められなかった。
そこで手の中のPが脈打つとアタシの心臓もでっかく跳ねて、頭のてっぺんから指先までが気持ちよく痺れるっていう関係性に気付く。
気付いちまったらもう止められなかった。


「やぁぁぁっ! もっ…やめ……んんんっ!!」

「わかってるって! はぁ、はぁ…痛くしなけりゃいいんだろ…っ!」

「ちがっ……おねが…いぃぃっ! んあぁ…はぁぁっ!」


手の平と指で撫でるように優しく扱くやり方に変えると、途端にPの声が甘くなる。
それを聴くとアタシの胸の甘いズキズキは天井知らずに大きくなっていく。
アタシはもっとズキズキしたくて、Pのナニに刺激を与えるのに夢中になった。
アタシに触るなっていう言いつけを律儀に守って、胸の前で祈るように手を組んで、恥辱に泣きながら喘いでいるPの姿は、正直にいうと堪らなく可愛く見えて、堪らなくイライラして、アタシの手の動きはより一層入念になる。


「はぁ、はぁ…はは…アンタは…本当に……ははははっ…サイテーだな…っ!」

「あぁぁぁっ! だめぇぇぇ! おねがい夏樹ちゃん…も、もう…やめてぇぇぇっ!」

「え、なに? どうなんの? なぁ!? どうなんの!? あははははっ!」

「ぅぅうぅっ! はぅぅぁああっ! んああぁぁん…!」


Pの腰がカクカクと動き始める。その動きはアタシの手から逃げようとしているようにも、もっと欲しがっているようにも見えた。
気付けばPの先端から何かヌルっとした汁が出ていて手が汚れている。
でも何故か…ド変態で穢れたPの汚い汁のはずなのに…別にそんなに不快じゃなくて…。
そのヌメリも使いながらPを可愛がってやり始めると、当然Pのナニもテラテラとし始めて、その卑猥さにアタシの胸がまたズクンと痛む。


「はぁぁぁぁっ!! やぁぁぁぁあああっ!!」


肉棒はもう破裂寸前の風船みたいにパンパンに張って、Pの腰の動きと鳴き声は動物じみてきている。
そして…。


「んああっ!!!」


一瞬だけ全身を硬直させ、直後腰が痙攣し始めるのと同時に、Pのピストルから白い弾が飛び出した。


「んああっ! はぁうぅぅっ!!」

「うわっ! すご……」


それは確かにドピュだとかビュルルだとかって擬音を付けるのに相応しい勢いだった。
床に寝そべり、ほとんど真上に向けていたナニから噴射されたソレは一メートルは飛び上がったんじゃないだろうか。
そのほとんどはPの太もも辺りに降り注いだけど、いくらかはPのスラックスを汚し、そしてほんの少しはアタシの指を汚した。


「ぅ……ぅぅぅ…ぅぅぅ~~~~~ぐす……っ」


出すものを出し終わり、Pのピストルがデリンジャーになった頃、Pは股間をまる出しにしたまま両手で顔を覆ってさめざめと泣き始める。


「はっ………情けないヤツ」

「うぅぅ…っ! ……ふぐっ! ……ひっく!」


Pのワイシャツに手の汚れを擦り付けると、Pは何をされたのかわかったらしく、泣き声を大きくした。
静かな事務所にPのすすり泣きだけがさめざめと響く。
アタシを駆り立てていた激しい衝動は急激に冷え込んで、その反動からか重く深い倦怠感と、我を失ってしまっていた自分自身への嫌悪感を覚え、自然とため息が漏れた。


「はぁ~~~………死にたい………」

「ふぇ…?」


耳ざとくそれを聞いていたらしいPが気の抜けた声を出し、情けない顔をさらに歪めていく。


「ぁぁ…夏樹ちゃん…そんなこと…死ぬだなんて…ふぐっ……言わないでぇぇぇ…っ! だめぇぇ! 死んだらお終いだよぉぉ…っ!」

「うわっ!? こ、こらっ、離れろ…っ!」

「ボクのことが気持ち悪いなら…うぅぅっ! ひっく……べ、別のプロダクションに移籍できるようにするから…っ! だから…死なないでぇぇぇ~~~っ」

「はぁぁ!? 死ぬわけないだ…ろっ!」

「んあぁっ!?」


急にゾンビみたいに這いつくばりながら縋りついてきたPにビビッて、慌ててデコを押して引き離す。


「本気なわけないだろ……はぁ……アンタ、いつまで丸出しにしてるんだよ…」

「あっ! あぅ…恥ずかしい……」


ヨタヨタと立ち上がりトランクスとスラックスを穿き直すP。


「ぅぅ…濡れてて気持ち悪いよぉ……」


そんなこと知るか。そう胸の中でツッコむとまた一段とダルさが増したような気がした。


「………バカバカしい」


こんなナヨナヨしたヤツのことで、これ以上悩むのが馬鹿らしくなってきた。
ついでにあの豚のことももう思い出したくない。
かといって別のプロダクションへ行って心機一転やり直すという気にはなれそうにない。
それに手段はどうあれ、スターへの道が朧気にも見えている今の環境のことを思い返すと……ロックの欠片もない現実的な判断を下してしまう自分に嫌気が差す。

吐きまくって、怒鳴り散らして、Pをイジメた挙句、結局アタシが選ぶのは現状維持だった…。

もし…。
もしも、だりーだったならどんな選択をするのだろうかという考えが頭をよぎった。
ひょっとするとだりーならこんなクソッタレな現実を前にしても、アタシには思いもつかない真っすぐで、強くて、ロックな道を選ぶんじゃないか…? と、そこまで考えて妄想を振り払う。
いくらなんでもだりーにはこんな汚いモノ見せたくない。


「事務所は辞めない…アンタも…好きにしな」

「え…夏樹…ちゃん…?」

「これまで通りよろしくってことさ…。はは…カッコ悪くて死にたくなるな…」

「ぁ、夏樹ちゃん…っ!」


Pが呼ぶのにも構わず事務所のドアへ向かい、外へ出る。
外の寒さはさっきよりも厳しくなっているように感じられた。

だりーはもう寝ている頃だろうか…?
早く明日が来てほしい…。

無性にだりーに会いたかった。


◆◇◆◇◆◇◆


「ふぁぁぁ~~ねむい~~」


結局昨日はメッセージの着信音が鳴りやまなくて、みんなに返信してたら睡眠不足になっちゃった。
やっぱりあの音楽番組に出たらそうなるよね~~。
アイドルやってるのを知ってた学校の友達からはもちろん、顔を知ってるだけだった人からも(あ、そういえばどこから私のID知ったんだろ…? ま、いいや! これも有名税ってヤツかなっ♪)アイドル頑張ってねって言ってもらっちゃったり。
そうなると返信の文章にも力が入るってもんですよ!
やっぱりファンは大事にしないとね!


「ファン…ファンかぁ……へへっ!」


低空飛行の期間は長かったけど、少し前から大きなお仕事も増えてきてなんだかいい感じ!
昨日までは知る人ぞ知るアイドルユニットって感じだったけど…え、来てる?
もしかして私たちの時代来てる!?
昨日の歌番組出演で更に火がついちゃう!?


「うっひょー! アイドルリーナ! 新章かいま……あ」


道行く人の冷たい視線…。
そういえば通勤時間の街中だった~~。
うひゃ~~!


「……ごほんっ…さ、さ~急がなきゃなぁ~~」


振り上げかけた手を下ろして、その場からエスケープ!

向かうのは学校じゃなくて事務所。
お昼前に音楽雑誌の記者さんからの取材を受けるんだとか。
今日学校へ行けばきっと皆にスター扱いされたんだろうけど、お仕事なら仕方ないよね。かなり残念だけど!

事務所のドアを開ける前に深呼吸。
途中からちょっと小走りだったけど、髪ぼさぼさになってないかなぁ…。
うん…たぶん大丈夫…よし!


「おはよーございまーす!」


ギィギィ鳴るドアを開けながら、誰に向けるでもない元気な挨拶を一発。
目が合った事務員さんに改めて挨拶しつつ事務所の奥へ。
パーティションからひょっこりと顔半分を出して覗くと…あ、やっぱりもう来てる♪
でもさっきの私の挨拶は聞こえていなかったみたいで、パソコンを見つめてお仕事続行中。
もう一度髪に手櫛をかけて、パーティションから身体を出した。


「おはようございます、P-さんっ♪」


昨日のテレビのお仕事を取って来てくれた偉大な私のプロデューサーに、精一杯の元気を籠めて挨拶する。
するとPさんの瞳がこっちを向いて…。


「あ…李衣菜ちゃん…おはよう…」


あれ?
いつもなら私に負けず劣らずの元気な挨拶を返してくれるのに…。テンション低め?


「んん~~? Pさん…もしかして……」


Pさんに近づいて、顔を近くで見ると一目瞭然!


「Pさんも寝不足ですかぁ?」


目の下にくっきりとクマができてた。


「ぁ……あぁ…そうなんだ…寝不足でね…。も、ってことは李衣菜ちゃんも?」

「そうなんです、聞いてくださいよー!」


寝不足の理由を話す私はたぶんドヤ顔。
「ファンが寝かせてくれなくて~」なんて、すっごく芸能人っぽい!?


「そうだったんだね…うん…ファンは大切にしないとね…でも睡眠もちゃんと取るんだよ?」

「はーい、わかってまーす!」


昨日のスタジオでのことや、帰ってから見た録画の映像を頭に思い浮かべると、また胸が高鳴った。


「はぁ~~♪ またあんなすごいステージに立てるかなぁ~? 立ちたいなぁ~」

「大丈夫……二人なら立てるよ…。それに、新しいお仕事の話もあってね…あ、まだ正式発表はされてないから他の人には内緒なんだけど…」

「え? なんですかっ!?」


Pさんのもったいぶった言い方に、思わずデスクに手を着いて身体を乗り出してPさんに詰め寄る。


「り、李衣菜ちゃん…ちょっと近いかな…」

「ぁ…っ」


気付けばPさんの吐息がかかるくらいに近づいてて、自分の顔がぶわぁっと赤くなるのがはっきりとわかった。
Pさんは外見が女の人っぽいから、ついつい女の子同士の距離感になっちゃうんだった…。
平静を装ってデスクに着いていた手を戻して、Pさんの顔から離れる。
それにしてもなんだろう? また大きなフェスに出られるのかな? それとも別のテレビ番組?


「それでね…二人にはCMのお仕事がもらえそうなんだ。昨日会った○○社長がね、自社のCMに二人を使いたいそうなんだ…。
 撮影はまだ先だけど、しばらくすれば打ち合わせも入ってくると思うから……李衣菜ちゃん? 聞いてる…?」


………シーエム? ……CMって?
TV番組の合間に流れるあのCMのこと?
毎日のようにお茶の間に流れるあのCM?


「うわぁ………」


あまりのことに頭が追い付かなくて変な声が出てしまった。


「あの…Pさん…それって…もしかしてスゴイことだったりする…?」

「かなりね。これで二人の認知度も更に上がって、もっとたくさんの人に曲を聴いてもらえるようになるよっ! ふふっ」


テンションの低かったPさんの調子も上がってきたらしく、今日初めての笑顔を見せてくれて、それで私の体温がぐぅぅぅっと上がった。


「うひょーーーっ!」


それを誤魔化すのととりあえずCMの喜びを表現するためにガッツポーズ!


「すごーい!!」


本当にすごいなぁ…。
私とそう変わらない身長でこの業界を走り回って…上手くいかないことが続いてもずっと諦めないで駆けずり回って…それでついにこんな大きな仕事も取ってきちゃうんだから…本当すごい…。


「ん? 李衣菜ちゃん、どうしたの?」


Pさんの寝不足もきっと私たちの為なんだろうなぁって思うと、居ても立っても居られなくなる。
本当は飛びついて感謝したいんだけど、それをすると顔が燃えそうになるのは既に体験済み。
だから妥協点として昨日もしたみたいに、手を取ってブンブンしようとしたんだ。
でも…。


「……っ!」

「ぇ……ぁ、れ……?」


Pさんの手に触れて握ろうとする直前に、Pさんは手を引いて私からスルリ。
その動きはまるで私に触られるのを嫌がる風に見えて…頭で理解するより先に胸がズキンと痛んで思わず呻き声を上げそうになった。


「あ……さ、最近手荒れが気になって、ハンドクリーム使ってるんだ…。だからボクの手に触ると…ネトネトしたのが付いちゃうからね…?」


Pさんは言い訳をするようにそう言って、鞄からまだ未開封の新品の手袋を取り出して両手にはめた。
ホテルのボーイさんがしてるような白くて薄い手袋だった。


「そ、そうなんですか~~っ、手荒れにはハンドクリームですもんねぇ~……」


Pさんの指にクリームを塗った手触りを感じなかったこと、それにそもそも手荒れしているとは全く思えないくらいに綺麗な指に見えていたっていうことを、指摘するのはやめておいた。ううん、できなかった…。


「あ、は、は……」


気まずい…と思ったのは私だけだったのかもしれないけど…妙な沈黙が数秒間。




「なぁ、何? 何の話?」




その沈黙を破ってくれたのは、いつもとはちょっと違うけど私がリスペクトしている声だった。
いつの間にかすぐ後ろまで来ていたみたい。


「なつきち? おはよう…って、声が…」


声がしゃがれている、振り向きざまにそう言おうとしたら、目の前一杯になつきちの顔で。


「だりー…会いたかったぜぇ……あぁ~~」

「ひゃあ!?」


訳も分からないまま、なつきちに抱き締められてしまった…らしい。


「なつきち!? な、な、なに!? どうしたの!?」

「はぁ~~もう少しこうさせて……」

「あわわっ…なつきち…?」


お腹と胸から感じるなつきちの体温と目の前のカッコいいうなじからの香りに、同性なのに妙にドキドキしてしまう。
いや、なつきちに抱きしめられてドキドキしない女の子はいないと思うっ!
両腕ごと抱きしめられて成す術もなくじっとしてるしかなかったけど、なつきちの深呼吸に数回耳をくすぐられると解放された。


「ふぅ~~…。おはよ、だりー」

「う、うん、おはよう…いきなり抱き着いてきて一体どうしたの…? って、声はガラガラだし…あ、瞼もなんか腫れてない?」


改めてなつきちの顔を見ると、泣きはらした翌日みたいに瞼は腫れて、それにPさんと同じようにクマもうっすらとできていて…それに少しやつれて見えた。


「あ~~、ん~~、そうだな……昨日観た映画がちょっとアレでな…泣いて喚いてしてたらこうなっちまった、ってことで…」

「何その映画!? なつきちがそんなになるなんてスゴそう! タイトル教えてよ!」

「ははっ……だりーにはまだ早いよ」

「えぇ~~一歳しか違わないのに~~」


なつきちにポンポンと頭を撫でられると、まぁいいかなんて思っちゃうから敵わない。


「それで……何の話してたんだ?」


なんだかはぐらかされたような気もするけど、言われて思い出して、またテンションが上がってきた!


「そうだ! 聞いてよなつきち! CMだよ! 私たちにCMのお仕事なんだって!」

「CM……へぇ……」

「昨日会った社長の会社のCMなんだって! すごいよね! ゴールデンタイムに毎日私たちがテレビに映っちゃうんだよ!」

「そうか…あの会社の……くくっ」

「あれ…?」


なつきちのリアクションは予想に反して平坦で、ひょっとしたらもうPさんから聞いてたのかなって、Pさんを見てみたら。


「………っ」


Pさんは苦虫を嚙み潰した顔っていうのか…辛そうな表情に見えた。
あれ?
なんでだろう…何か違和感…。
あ、寝不足で眠いの…?


「CMねぇ……くははっ! そりゃあ、すごいなぁ」

「そ、そうだよねっ! いやぁー、こんな仕事よく取ってこれましたね! すごいです、Pさんっ!」

「ぁ……ぅ、ぅん……」


謙遜? それとも、照れてる?
右手で左腕を摩りながら、Pさんは目を泳がせていた。
そのPさんになつきちが近づいて、大げさに頭を下げる。


「アタシたちのためにぃ、いつもお仕事取ってきてくれてぇ、ありがとーございまーす」

「っ……」


なつきちがこんな風に頭を下げながら丁寧にお礼を言う場面なんて見たことあったっけ?なんて考えていると…。


「ほら、だりーも。この人にはいつもお世話になってるだろ?」

「え、あ…そうだね! Pさん! いつもありがとうございます!」

「あざーすっ! あはっ♪」


私もなつきちに倣ってお辞儀をしながら日頃の感謝を伝えた。
…なつきちの声のトーンにわざとらしさ…というか、嫌味っぽさを感じるのは、声がガラガラでいつもと違うように聞こえるから…だよね?


「ぁぅぅ……」


顔を上げると、ニヤニヤしているなつきちと、更に辛そうな表情になってるPさんがいて、また違和感。
あ!正式発表はまだって言ってたのに、こんな風に騒いじゃったのがマズかったとか…? そうだ、きっとそう!
そういうことなら今事務所にいる人はほとんどいないから問題ない!
納得できたところで、またハートがメラメラと熱くなって、手を振り上げた。


「ロック・ザ・ビート新章開幕だね! イェーイッ!」


今度はカッコよく決まったと思う!
そして! ポカンとしている二人に飛び切りのスマイル&ウインク!

そうしたらまたなつきちに抱きしめられて「だりーはそのままでいてくれよ」なんて囁かれたんだけど、一体どういう意味だったのかな?


◆◇◆◇◆◇◆


立ったまま両手をデスクにつかせたPに尻を後ろに突き出させ、アタシはその情けない後ろ姿を堪能していた。

短針と長針が頂上で重なった薄暗い事務所にはもうアタシとPしかいなくて、物音らしい物音はない。
敢えて言うならPの浅く短い呼吸の音ぐらい。
アタシの心臓の音はきっとアタシにしか聴こえていない。
Pの呼吸に合わせて上下する肩がときどき不規則に震えるのは、恥辱に耐えかねてのことだろうか…。
とはいえ、このポーズを命令したアタシについさっき抗議の視線を送ったくせに、横から観察してみれば股間にはテントを張っていた。
秘密の『営業』のことを知ったあの日以来何度となくコイツをイジメてきたが、いまだにこの始める直前のPの矛盾した無様さには昂ぶりを覚えてしまう。

あの日の後のアタシはしばらく魂が抜けたような状態で過ごしていたと思う。
Pのしてきたことを誰かに訴えることもせず、Pに枕をやめさせることもせず、かといって自暴自棄になるわけでもなく、ただ目の前の仕事を淡々とこなしていた。
だけどあるとき腹の奥に燻り続けている熱があることに気付いた。
それと同時にあの夜のPの泣き顔と恥辱に歪んだ顔、呻き声と叫び声、そして一方的に虐げて支配することに異常な興奮を覚えていたことを思い出した。
ハラの熱が全身を疼かせて、またあの甘美で歪な興奮を求めていたんだ…。

理解してしまったら最後、またPを組み敷くまではそう時間はかからなかった。
幸いなことにP自身もどこか予期していたようで、すぐに言いなりにすることが出来た。
そのときのPの泣くのを堪えようとする表情はたまんなかったなぁ…。
そういうわけでアタシはストレス解消用のオモチャを手に入れることが出来たわけだ。


Pを自分の言いなりにしてオモチャにして遊ぶことへの罪悪感が、興奮っていうトッピングで背徳感にすり替わって、良心の痛みも胸の奥のドロリとした甘い痺れに変わっていく。
そうなると心臓のバクバクで全身に送り出されるのはドラッグで汚染された血液みたいなもの。
うっかり目を瞑ってしまったら白目をむいて、そのままトリップしてしまいそうなほどの恍惚感があった。
本来、事務所内に漂う匂いといえば書類の匂いと古い建物独特のかすかな黴臭さぐらいのはずなのに、肺一杯に今この空気を吸い込むと妙に清々しい気分になってきて、自分のタガが一つ二つほど外れていく。

反省中の猿みたいな姿勢のPに、背中から覆いかぶさるようにもたれ掛かって既に膨らみ始めていた股間をまさぐってみる。


「ふぅっ…ん……っ!」

外見からは結構膨らんでいるように見えたが、実際触ってみるとまだ七分といったところ。
膨らみを手で覆うように添わせると、じんわりとした熱が感じられた。


「あふ…っ、ね、ねぇ…夏樹ちゃん…もうこんなことは…やめよ…?」

「はぁ? 何言ってるんだよ?」


手で作ったファールカップを上下に動かすと、思った通りPは腰を震わせて熱い息を吐き出した。


「ココ、こんなにしといてさぁ…あはっ……やめろって言うぐらいならデカくすんなよ」

「んん…っ。そんなぁ…無理だよぉ…夏樹ちゃんに触られたら……はぁっ」


手の平を股間から離して、指先でスラックスのジッパーの金具を摘まんでゆっくりと下ろしていく。


「あっ、あっ、あぁぁ…っ」

「ははっ! やっぱり期待してるんじゃないか!」


ジッパーが開いていくジリジリという微振動が気持ちいいのか、それとも取り出してもらえるのが嬉しいのか、Pの声音に色艶めいたものが混じり始めていた。
Pの背中にぴったりと押し付けた腹から胸にかけてが異様に熱くなっている。
ドクドクという鼓動はたぶんアタシのだけじゃない。


「そら…よっと♪」

「んぁ…っ!」


ジッパーを下ろしきって開いた窓に指先を突っ込んで、Pのブツを引きずり出すと、いつの間にかカチカチに張り詰めていた。
それに、取り出す際の指先の感触からも分かっていたが、先端はすでに汚い涙で濡れている有様だ。
目の前のPのうなじから立ち上る匂いが…石鹸の香りが強かった匂いにPの体臭の割合が増していく。
それを意識的に吸い込むと胸がズキンと痛んだ。
俯いたままのPの耳元に口を寄せて囁く。


「なぁ、ほら…いつもの、言いいなよ」

「ぅ……ぅぅぅ…っ」


まぁ立場を明確にするための恒例行事みたいなものだ。


「…………て…さい…っ」

「はぁ~~? 聞こえないんですけど~~?」

「うぅぅ…っ!」


Pの体温が更に上がった。
きっと今、コイツは顔を真っ赤にしているだろう。
一度深呼吸してから、今度ははっきりと聞き取れる声量でPは言った。


「お、お願いします…ボクの…お、おちんちんをっ! ゴシゴシして気持ちよくしてください…っ!」

「あはっ! あはははっ!」

「ぁ…ぁぅぅ……」


そのPの言葉で、首筋に電マを当てられたんじゃないかっていうぐらいに全身がゾクゾク痺れた。
無理矢理アタシが言わせているだけ…茶番みたいなものだが、寧ろそれが堪らなくワクワクする。
最近気付いたことだが、精神的に人の上位に立って不本意な言葉を吐かせるのは、はっきり言って愉悦以外の何物でもなかった。
ひとりでに口角がゲスな感じに釣り上がっていくのを感じたが、別に誰に見られているわけでもないから気にもならない。
その流れで唇を舌でなぞって潤したのは、ケダモノが獲物を前にして舌なめずりしているのと全く同じ理由だろう。


「そんなに声張んなくても聞こえるからさぁ…。くふっ♪ なに? そんな叫ぶほど触られたいんだ? いいよ。わかったよ…。そんなに言うならやってやるよ♪」

「ぅぅっ…ぅぅぅ~~~っ!」


両手の人差し指と中指の指先でPの棒の先端に触れ、ゆっくりと根元側に皮をズラしてやるとPの赤ピンクの頭がぴょこんと現れる。


「やめろとか言っときながら、触る前からこんなに漏らして…なぁ、アンタ恥ずかしくないのか?」

「ぁぁぁ…はぁぁぁぁ……っ」


滲み出していた汚液を指先で塗り広げると、すぐに赤ピンクはテカテカになった。
手始めに四本の指先でクリクリと赤亀を捏ね回してみれば、Pの腰が引けて逃げそうになったのでアタシの腰で押し返してやる。


「ゴシゴシ、だったっけ?」

「はぁ、はぁぁ……だ、だめぇ……」


右手は棒から放し、Pの肩を掴んで体勢を安定させる。
そうしておいてから左手でPのチンチンを握り締めると異常なまでの硬さ…。
普段は柔らかいモノがこんなにも硬くなるという人体の不思議に、まだ慣れることが出来ずドキッとしてしまった。


「んぁぁ…っ! はぁ…はぁ…っ!」


手の平の中のソレの脈動は胸から感じるPの鼓動とリンクしていて、これがPの…見た目だけは可愛らしいPの…アレなんだっていうことをありありと実感する。
こんなにもエロい形で、硬くて強そうなのに、それを握られると情けない声を出すギャップにまた胸が昂り始めていた。


「ほーら、ごしごし♪ ごしごーし♪」

「ふぁぁ…っ! はぁぅ…ふぁぁぅっ」


ヌメリを竿にも広げるように緩く握ってさする。
指先のヌルヌルした感触にもう嫌悪感はなく、ただ愉しいだけ。
だけどヌメリは思ったほど広がらず、中途半端な濡れ方で皮膚がネチャ付いて、かえって引っかかりが気になりだした。
こうなるとPは普通に痛がり出すので面白くない。別にアタシはPに暴力を振るいたいわけじゃないんだから。


「もっと汁出しなよ。痛いのイヤだろ?」

「そ、んな…出そうと思って…出せないよ…はぁぁっ!?」


根元をキュッと握り締めて先っぽへ向けてしごいてみても、絞り出せたのは申し訳程度の滴だけ。これじゃ焼け石に水だ。
今日はローションは持ち合わせていないしどうしたものかと、記憶の中のエロのページを繰る。
するととりあえず対処法が見つかった。
でも、アタシのを使うのは何かイヤだったのでPのを使うことにする。


「んあぁっ!?」


俯いてハァハァ言ってやがるPの髪の毛を右手で引っ掴んで、顔を上向かせ…。


「口、開けな」

「はぁっ!? な、夏樹ひゃ…むぐっ!?」


Pが口を開けるのも待たず、竿を握っていた左手を突っ込んだ。
ポケットの中をまさぐるように親指以外の四本でPの口内をかき混ぜる。


「ふぐぅっ!? む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛~~~っ!!」
「あはっ! 仕方ないだろ~? 唾使うしかないじゃん♪」


そういえば左手はPの恥部から出た汁で汚れてたけど…ちょっとだし、まぁいいだろ。
四本の指の第二関節までをPの舌に載せてみるとぶにっとした弾力が押し返してくるが、その元気な感触の割に怯えたようにヒクヒクと震えていた。
指先を取り囲む熱くぬるっとした感触…どうやら一瞬にして唾液塗れになってしまったらしい。
それでもすぐに手を引き抜く気になれないほど、その感触はヒワイ過ぎた。
気付いた時には引き抜くんじゃなく、寧ろ奥へ進めていた。


「ん゛ぶっ!? ん゛う゛う゛う゛~~っ!?」

「熱っつ……」


指の腹をぴたりと舌肉に触れさせたまま、感触を愉しみつつゆっくりと奥へ…。
舌の柔らかさ、唾液のヌメリ、ぬるりとした感触の中にある微かな舌肉のザラつき、喉奥からの熱い呼気…神経を研ぎ澄ませた指先から伝わってくる生々しい感触にアタシは夢中になる。


「ぶぐう゛ぅ゛っ゛!!」


人差し指と親指の股が口の端に引っかかる限界まで侵入して指先を遊ばせるとPは全身を震わせてえずいたが、アタシは止めない。


「…ほら、我慢しろって」

「んぶぅーーっ!! ん゛ふ゛ぅ゛ー゛ー゛っ゛!!」

「あはっ! あはははっ♪」


指先を振って舌と上顎の間をバウンドさせ、その度にPが苦しそうに呻くのを嘲笑う。
それに飽きると手の平を九十度回転させ、頬の内側を爪先で引掻いた。
Pの顎をこじ開けながらだから指に歯が食い込んだけど、それも悪くない痛みだった。


「うぶっ!……はぁ゛ーー゛、はぁ゛ーーっ!」

「うわ…ドロドロ…」


散々Pの口内をかき混ぜて手を引き抜いてみると、もう唾液というよりは粘液といった方が良いような具合にドロリとした液で手首までテラついていて、雫だけなら肘まで幾筋も垂れていた…。
一言では言い表せない複雑な匂いが漂ってきて、ゾワッとした感覚がうなじに走った。
とにかく、Pの平凡なサイズのアレを扱くための潤滑油にするには十分すぎる量だ。


ぐちゅっ


「ふあぁぁっ!」

「ははっ! なにコレ? さっきよりも硬くなってないか?」


数分ぶりに触れてみれば、明らかにさっきよりも元気になっていた。
どうやらコイツは口の中をメチャクチャされて興奮していたらしい。
こんな変態だからこそ、アタシも心置きなくイジメられるってものだ。

全体を一撫ですれば肉棒もドロドロのパッキパキ。
これからどんな風にシてもらえるのか期待しているっていうのが丸わかり。
とりあえず竿を握ってゆっくりピストンすると、すぐにPは切ない喘ぎを出し始める。


「ん…っ! はぁ、はぁぁっ! んぅ~~~だめぇ…っ!」

「はぁ、はぁ…何がダメ、なんだよっ」

「はぁっ、はぁぁっ…だめぇ…気持ちいいよう……っ」

「あはっ!」

ついさっきまでこんなことはもうやめろだなんて言っておきながら、この素直さには毎回呆れる。
だが…そのチョロさを面白がるアタシもいた。
気分の良いアタシはサービスとばかりに、Pの一番好みの優しい握り方でゴシゴシを繰り返す。
そうすると、何十回もしないうちに早くも先端のプリッとしたエラが張り出してきた。


「んぁぁぁ…もう…もう…きちゃう…はぁ、はぁぁっ!」

「はぁ? いくらなんでも早すぎだろ…折角苦労して唾付けたのに…」


こんなに早く終わらせるのは勿体ない。苦労した分、きっちりPの情けない姿を見なくちゃ帳尻が合わない。
そう思い竿から手を放して、手のひらでペニスの赤ピンクの先端だけを撫でつける。


「んぁっ! はぅぅっ! はぁっ、はぁっ!!」

「はい、これでちょっと休憩な?」

「あっ…はぁっ! これ…やぁっ……んんん~~~っ!」


先端だけ触られた状態ではそうそうイケるものではないらしく、クリクリと円運動を加えればエラの張り出しは落ち着いていく。


「ん。余裕できたな。じゃ、また…♪」

「はぁぁぁ…っ! んあぁぁ…んんぁぁ…っ!」


そこでまた竿全体をシコる。
でももともとイキかけているチンチンはすぐにエラをデカくして、カウントダウンを再開する。
そうなればまた赤ピンクへの集中攻撃だ。
それを何度も繰り返す。
当然、アタシが飽きるまでずっと続ける。


「んあぅぅっ! はぁぁっ!! 夏樹ちゃ…おね、がい…もう、もう…っ!!」

「ふふっ…イイ顔になってきたな…だけど…もうちょっと頑張ろうぜ?」

「お、おねがい…夏樹ちゃん…お願いします…お願いします…んぁぁぁ……っ!」


Pの哀願に熱が入ってきたのが分かって、背骨が痺れて頭がクラクラしてくる。
心臓がズキズキと甘痒く、いっそのこと誰かに握りつぶして欲しくなる。


「はぁぁっ…はぁぁんっ…お、おねがい…おね…が…」
「あはっ…♪」


Pの口の端から唾液が糸を引いて零れ落ちたのを見たのをきっかけに、自分の興奮が最高潮に届いたのを感じた。
だからもう解放してやろうと思ったのに、その矢先…。


「お、お願い…します…はぁっ、はぁっ! お願いします…ごしゅじんさま…っ! イカせて下さい……っ!」

「……………は?」


思いがけない言葉に唖然としてしまい、竿を握ったまま手が止まってしまった。


「あっ! あああっ! はぁ~~~~っ!」


限界までテンパったPには握られているだけでも十分なのか、肉棒と腰がその瞬間に向けてヒクつきだす。


「んあっ、イク、イクっ! はぁぁイクっ!!!」


そして手の中で一回大きく脈打ったソレは焦らされた分ものすごい勢いで白濁液を噴き出し始めた。
そのほとんどはデスクの上に撒き散らされていく。
口をだらしなく開け、目はどこを見ているかもわからないくらい虚ろ…。

だが…。
ふざけるな。さっきなんて言ったコイツ…?


「んぎぃいっ!?!?」


さっき口を開けさせたのよりもずっと乱暴にPの髪を掴んで顔を上向かせ、快感から引き戻す。


「さっき…なんて言ったよ…?」

「あがっ…はぁっ!? んあぁっ!?」

「ごしゅじんさま、だとぉ~~? テメェ…アタシがいつそんな風に呼べって言ったよ?」

「あっ! やっ…あぐっ!!??」


後ろ向きに引き掴んでいたのを一転、前向きに押し出してPの頭を精液まみれのデスクに抑えつけた。
精液まみれのデスクに左頬を付けられて反射的に逃げようとするPの耳元で呟く。


「アタシを…誰と間違えた? えぇ…ほら…言ってみろよ…なぁ?」

「あ、あぁぁ…ご、ごめっ、ごめっなひゃ…っ」


Pは逃げようとしていたのも忘れて、快感に赤くしていた顔をあっという間に青くして震え出した。


「はは…よりにもよって…アタシを…あの豚と間違えるなんてな……あはは…」

「ち、ちぎゃっ…ちぎゃうの…なひゅきひゃ…」

「黙れよ!!」

「うくっ!?」


最悪…。
気分良く愉しめていたのが最後の最後で台無し…。
何よりも最悪なのが、何故かアタシが泣きそうになっちまってることだ…。
なんでだ…? いや、理由なんてない…あるはず…ない…。
胸がズキズキと…ただ不快に痛い…。


「舐めろよ……」

「え……?」


泣きそうな理由を考えることも、胸の痛みにそのまま耐えていることも、アタシは嫌だった…無理だった…。
いつもより数段薄汚い衝動に任せて、そのことを頭から追い出すしかなかった。


「アンタが汚したんだろ…自分で綺麗に舐めとれよ…」

「な…なひゅひ…ひゃん…ひょ、ひょれは…」

「やれったら!!」

「ぅ………………れろ………ぐすっ」


アタシの剣幕に観念したPは涙を流しながらピンクの舌で精液を舐め始めた。
抑えつけたままではやりにくそうだったので手を放してやると、Pは顔を起こして自分の精液を啜り舐め取っていく。
デスクに着いていた顔の左側面には思った通り、べったりと精液が付いていた。


「ず、ずずっ……ううっ……んれぇ……ずずっ……」


Pの惨めすぎる姿を目の前にして、怒りと興奮と悲しみが胸に渦巻いた。
アタシのハートが黒い炎で醜く焼け爛れていくようなイメージが脳裡に浮かぶ。

目を瞑ってお掃除を続けるPの右頬に顔を近づけると、デスクから立ち上るPの唾液と精液の匂いに鼻が犯されて頭の奥が鈍く痺れた。


「もご……ぷっ!」

「んんっ!?…………ずずっ…れろ……ぐすっ…うぅぅ~~~ぐすっ」


綺麗なままだったPの右頬に唾を吐き付けると、それはすぐに垂れてデスクを汚し、涙と精液と混ざり合って一緒にPに掃除された。
それでようやく、ほんの少しだけだけ気が晴れたように感じた。
その後もPが全ての精液を飲み込むまで、アタシは無言でPの姿を見つめ続けていた。



◆◇◆◇◆◇◆

「私…Pさんのこと…好き、なんだ…」


ギターを脳天に叩き込まれたような衝撃だった。

相談したいことがあるとだりーに言われて、夜の事務所で話を聞いてみればこれだ。
Pは外出中で、さっき事務のおねぇさんも帰ったから事務所にはアタシたち二人だけ。
だから、思わず出してしまったしゃっくりみたいな変な声を聴いたのはだりーだけ。
適当なデスクから拝借した椅子に座るだりーは頬を赤らめてモジモジとしていて、デスクに腰かけていたアタシは尻がズレ落ちそうになった。


「え…Pって…アタシたちのプロデューサーの…?」

「そ、そうだよ、他に誰がいるのさっ!」


言われてみれば、ちょっと前にだりーが熱っぽい視線をPに送っていたことを思い出す。
そこでひょっとしてアタシは、最近だりーのことを見ているようで見ていなかったのかもしれないと気付いた。
アタシの心の支えであり、日常の象徴であるだりーのことは同じ空間にいる時にはずっと見ていた。
でも文字通りアタシが見ていたのはだりーだけで、だりーが何を見ているのかなんて近頃はちっとも気にしていなかった…。


「いや…でも…アイツ…」

「え? 何? Pさんがどうかした?」


だりーが汚れを知らない真っすぐな瞳を向けて聞いてくる。
もちろんそんなだりーにPが裏でしていることなんて言えるわけがない。


「アイツ……女顔だし、背もちっちゃいぜ?」

「うーん…私も最初はそう思ってたんだけどね、いつからかそんなのはどうでもよくなってきたんだっ! へへっ。
それに、寧ろそれが良いっていうか…女の子っぽいのに業界を必死に駆け回って、お仕事を取ってきてくれて…それってすごくロックじゃない!?」

「はっ…」

「………むぅっ」


失笑じみた苦笑いをうっかりとこぼしてしまう。
その所為か、だりーの表情が少し曇ったように見えた。
いやしかし、ロックだって…? アイツが? 
アタシからすれば、アイツほどロックから程遠いヤツはいないんだが。


「ごめんごめん…。アイツは女々しいのと…あと…頼りなくないか?」
「えー、そうかなぁ? 緊張してるときでも、Pさんに大丈夫だよって言ってもらえたら勇気出るんだけどなぁ…えへへ…」

いつのことを思い出しているのか分からないが、だりーは表情を笑顔に変えた。
その柔らかい笑みに一瞬見惚れ…それがPに向けられたものであることに気付いてやるせなさがこみ上げてくる。


「でも…アイツは…アイツはだりーには相応しくない…」

「あれ…? なつきち的にPさんの評価って低い…? 前にPさんは大した奴だって言ってなかった?」

「あ…そ、それは……」


それは枕のことを知る前のことだ。そんな昔の話をされても、正直困る…。
あぁ…見抜けなかったそのときの自分が本当に恨めしい…。


「と、とにかく! アイツのことが好きだなんて…そんなのは考え直した方が良い…っ!」

「あっ、なつきち……」


アタシはデスクから尻を上げて、だりーの呼び声にも脚を止めず事務所を出た。
これ以上Pなんかについてだりーと話していたくなかった。
それに、アイツのことを考えると嫌でも黒い感情を思い出してしまって、とてもじゃないが冷静ではいられそうにない。

あってはならないことだ。
だりーの想いが…この世の何よりも綺麗で掛け替えのないだりーの想いが、よりにもよってあの汚れきったPに向けられるだなんて…絶対にあってはならない。
もしだりーが告ったとして、Pがそれに応える可能性は低いと思うが、あのヘタレが土壇場で血迷って大それたことをしないとも限らない。
アイツにはきっちりと釘を刺しておかないとな…。

釘を刺す…刺す、か……くくっ!


―――
――


その日が来たのはだりーに相談を持ち掛けられた五日後だった。
ちょうど前日にモノが手元に届いて、Pだけが夜の事務所に残っている、丁度いいタイミング。
と言っても、アタシが事務所に居残ってPが外回りから帰って来るのを待ち伏せしていたんだが。
昨日は空振り、今日でビンゴ。


「ただいま帰りました~~って、誰も居な……な、夏樹ちゃん…」


事務所のドアを開いてアタシの姿を認めたPは一瞬だけ硬直した後、平静を装って自分のデスクに着いた。
そして鞄の中から書類を整理しながらどうでもいい世間話を振ってくる。
いつの間にか、手には白い手袋をはめていた。


「夏樹ちゃん……き、昨日渡してくれた新曲のメロディー、すっごく良かったよ…。初めのころとは…雰囲気変わってきてるけど……
 な、なんていうのかなぁ…ロックっていうのかなぁ…とにかくカッコよくて…」


どいうつもりかは分からないが、アタシがPに対してソウイウコトをするようになってからもPは普段は以前と変わらないようなコミュニケーションを取ろうとしてきた。
当然、ぎこちなさがあるからかえって痛々しく感じるんだが。
そのくせ、なぜこんな時間まで事務所に残っているのかについては絶対聞いてきたりしない。聞く必要がないからだ。
アタシがこんな時間に事務所にいる理由なんて一つしかなくて、Pもそれを分かっているんだ。


「で、でも、歌詞はね…ちょっと表現を変えた方が良いかなって思うところもあって…」

「………あ、やっぱり?」


アタシはPのデスクに近づき、着席したままのPを見下す。


「ぁ……」


こくりとPが生唾を飲み込んだのが喉の動きで分かった。
Pに近づくとフローラルな香りが鼻をくすぐった。ついさっきシャワー浴びてきましたっていうような瑞々しいシャンプーの香り…。


「そ、それでね…直した方が良いかなって、ふ、フレーズに…」

「なあ、今日はどんなことされたんだ?」

「っ……!?」


あの日以来、Pから豚の匂いがすることはなくなったが、代わりに豚と会った後にはきっちりシャワーを浴びるようになったらしく、まぁどっちにしろ会ったことは匂いでバレバレなわけだ。


「ぁ…ぅ……」

「ん? ほら、教えてよ?」

「今日は…その…く、クチで……」

「あ、そうなのか?」

「……時間があまりなかったみたいで…ね」

「ふーん…そうか…それは…良かったな」

「う、うん、そうだね…すぐに終わって助かったよ…」


いや、良かったっていうのはオマエのことじゃなくて、アタシにとってなんだが。


「まぁ、いいや」


言いながらアタシはスカートに手を突っ込んだ。
Pは驚いたように目を見開いて、アタシがスカートの中でもぞもぞと手を動かすのを凝視している。


「な、夏樹ちゃん…? 何を…?」

「…っと♪」


パチンと、ソレを体に沿うように固定していたバンドの留め具を外すと、本来アタシにあるはずのない突起がスカートを内側から盛り上げた。


「ぁ…や……うそ………」


まだ日常の雰囲気のあったPの顔が見たこともない速度で凍り付いていく。
アタシはアタシで心臓の鼓動が強くなりだして、指先にほどよい緊張から来る痺れがまとわりついて、でも口の中は唾液で潤っていく…。


「今日はな…趣向を変えて、こういうのを用意してみたんだ」

「ぁ…ぁぁ…やだ……やだぁぁ………」


スカートをたくし上げてシリコン製のペニバンを表に出すと、Pはガタガタと震えるように顔を横に振った。
早くも胸はズキズキと快感に痛んで、吸い込む空気は堪らなく美味い。


「今日はコレでアンタのこと、メチャクチャにしてやるよ…あはっ!」

「や、やだぁぁぁっ! お、お願い…それはやめて…お願いだからぁぁ…っ!」


Pのモノよりも一回り大きいソレの根元を握ってお辞儀させるように振って見せつければ、Pは脱力したように椅子からずり落ち、床に膝をついてアタシに懇願してきた。
上から見下ろすPのつむじと、顔の前で組んだ両手がプルプルと震えていて、アタシは絶対に自分を止められないと思った。
久々に頭がクラクラするくらいに興奮してしまっていたんだ。


「……ひっ」


艶やかな髪を撫でるように手を頭に乗せると、Pは顔を上げイジメてオーラ満載の怯え顔をアタシに晒す。
半開きのプルっとした唇と同じ高さのところにシリコンチンチンの先っぽがあって…、気付いた時にはPの頭に置いた手に力を込めていた。


「んぁ…は…むみゅ!?」

「あは、あははっ!」


先っちょを唇に押し付けると当たり前に唇が歪んで、それだけでもうとんでもなくヒワイに見えてしまう。


「滑り良くしないと入らないもんなぁ~、自分から進んで跪くなんて、流石手慣れてるなぁ~~」

「やぁぁ…っ! ちがっ……んごぉっ!?」


迂闊に口を開いたPにチンチンを突き入れる。


「ん゛ん゛ん゛ー゛ー゛ー゛っ゛!?」

「んっ!? ……はぁ、はぁ!」

長さの半分ほど入れると、Pの呻き声の振動がチンチン伝いに下腹部を揺らして、股から心臓にかけて心地いい電流が走った。
手に更に力を込めてさらに奥へ入れようとしたら、Pは手を胸の前で組んだまま頭の力だけで中途半端に抵抗したので、それならばと腰を前に動かして一番奥まで侵入する。


「ふっ!? ふぐ…っ! ふむっ…ぐぅぅぅっ!!」

「はぁーっ、はぁーっ…これ…やば……っ!」

「んぶっ! ぶぶぶっ!? ごぼっ!!」


喉に異物を挿入された生理反応だろうか、Pの目尻から大粒の涙が零れ落ちた。
目を赤くしながらPはまだアタシに懇願の視線を送っていて、その弱々しさにアタシの暴力性に更に火が付く。


「はぁっ、はぁっ…こう…だっけ…かっ!」

「ごぼお゛お゛っ゛!!??」


Pの髪を両手で鷲掴んで一旦腰を引いてペニバンを途中まで引き抜いてから、また腰を前へ押し出して喉を突くと、酷い呻き声が響いた。
そのまま手の力を緩めずにPの頭を抑えつけて、ペニバン越しにPの喉の感触を味わう。
Pの瞼は痙攣していて、目の焦点はどこにも合っていない。それなのにグチグチと喉を責めれば…。


「ぶぅ゛ー゛ー゛っ! ぶぅ゛ー゛ー゛っ!!」


酷い音色で反応を返してくる。
楽器だと直感した…。
これはPっていう楽器だ。
楽器なら…アタシは手を抜けない。


「くっ…!! はぁっ!! あはっ!! おらっ! 喰らえっ! あははははっ!!」

「ん゛っ! ん゛っ゛! ん゛ん゛っ゛! んぼお゛お゛っ!!?」


喉奥を突いたまま腰を左右に揺らして喉ちんこに横蹴りをくらわせたり、上顎の肉を先端でくすぐって身悶えさせたり、歯磨きみたいに頬肉を内側から押したり…。
思いつく限りの方法を試してみれば、そのいずれでも心ときめく音が奏でられた。
でもやり過ぎたのか弦が切れたみたいにだんだん音もしなくなってきて、見てみればPは涙と涎と鼻水を出しまくりながら白目を剥いていた。


「あはっ!! おいこら! 寝てんな!!」

「う゛……ぶ…?」


腰の動きを止めて、シリコンチンコを途中まで抜いてやる。


「これはさぁ! アンタのためにやってるんだから、自分でも動いて見せろよ。なぁ!!」

「ん゛……………じゅる」


瞳には生気が戻っていないのに、Pが自発的に動き出した。
唾液でベッタベタの唇をモゴモゴ動かして、頭を前後にゆっくりと動かしながらチンコに吸い付く。


「ん゛…ん゛っ……ん゛ぶ……じゅるる……っ」

「くはっ! そ、そうそう……はぁっ、はぁっ…舌も使ってさ…」

「ん゛ん゛……んれ…ちゅぷ…れぇぇぇんぶ…」


人形みたいになったPを見て下っ腹が激しく疼いてきて、言いつけ通りに舌を使い始めたのを見て我慢できなくなって、また腰を突き入れてしまう。


「ごぼぉ゛お゛お゛………んすーーーっ、んすーーーっ」

「あっ…はぁっ! はぁっ! はぁぁぁっ!」


Pの喉の感触と鼻息の熱さで全身が甘痒く痺れた。目の前にパリッと白い火花が散っているようにも見えた。
軽いダルさを感じて棒立ちになると、支えを無くしたPは床に突っ伏して息を吹き返す。


「んぐ……はぁ゛ー゛ー゛っ゛!はぁ゛ー゛ー゛っ゛! ごぼっ!ごほぉっ!!」

「はぁ、はぁ……うわ…なんだよこれ…」


ペニバンはもうグチャグチャ。
粘液を煮詰めてゼリーになる直前まで濃度を上げたような正体不明のドロドロで覆われていて、目を凝らして見ると床のPの口元まで透明の糸を引いていた。
ハンパじゃないヌメリで見るからに滑りが良さそうだ。


「立ちな」

「ごほっ!…はぁー、はぁー……うくっ…」


髪を上に引っ張って立たせて放り投げるみたいにデスクに向かせると、まだ腕の力が戻っていないらしくデスクに突っ伏してしまった。
アタシは構わず尻をこちらに突き出させ、Pのベルトに手を掛ける。


「はぁ、はぁ…! あぁ、クソっ!」


やたらとPの呼吸が荒いなぁなんて思ってたらそれは実はアタシの呼吸で、指先も焦ってるみたいに覚束ない。
いつもはすんなりと脱がせられるのに妙に時間を食ってしまった。
何かに急き立てられるように、強引にPのスラックスとトランクスを足元までずり下げる。
そして目の前に現れる白い尻…。


「チッ…男のくせにこんなケツしやがって…」


予想通り前側と同様に毛の一本も見当たらないお上品なケツ穴が、白桃の山に挟まれながらヒクついていた。
その窄まりが視界に入った瞬間に心臓が過去最高速のビートを記録して、今からこの穴を…人間の内側を犯すんだって思い出すとあっけなく記録を更新する。


「はっ、はぁっ!…やば…やば、やばっ…ちくしょ…手が震えやがる…っ!」

「んぁ……? え、ぁぁ…っ!?」


ペニバンを入り口に当てがって腰を前に突き出しても、ドロドロに汚れた尻の割り目を上滑りしてしまい中に入っていけなくて、その所為で余計に焦ってしまう。時間制限なんて無いのに。


「はぁ~~~ふぅ~~~……ゆっくり、ゆっくりか……」

「あっ…あわっ……あぁあぁああ……っ!」


頭の中のグチャグチャは深呼吸すれば多少マシになって、座薬を入れるみたいにゆっくり押していくことを思い付く。
それは正解だったみたいで、固く閉ざされているように見えたPの穴が、先端をキスさせていると独りでに開いていくように、難なく沈み込み始めた。
だが、先っぽのでっぷりした部分が入り込もうとしたところで…。


「あぁぁっ! だ、だめっ! だめぇぇぇっ!!」

「くっ…この……っ!?」


昏睡状態から回復したPが暴れてだして、折角入り始めていたチンチンが抜けてしまった。


「やだぁっ! やだ、やだぁぁっ!! 夏樹ちゃんっ、お願い! これだけは許してぇぇっ!」

「は? ちょっと…はぁ?」


Pは叫びながら腰を下げてデスクにしがみつくようにして屈んでしまった。これではどう頑張っても入れられない。


「おい、こらっ! ケツ上げろってっ!!」

「ひぎっ!? ひぁあぁあ……いやぁぁ…夏樹ちゃん…お願いだよぉぉ…っ」


髪の毛を掴んで引っ張って立たせようとしても、髪が数本抜けるだけで亀のように目を閉じて固まったPは立ち上がろうとしない。
久しぶりに抵抗されたことにしばし困惑してしまい、そしてすぐにオモチャの分際で抵抗してきやがったことに激しい怒りが込み上げてくる。
それに何より…。


「あぁ? テメェふざけんなよ? あの豚にもう何度もヤラれてるんだろ?」

「……ぁ、ぁぁぁ……くぅぅ…っ!」

「ならいいじゃないか…減るもんじゃないだろ? なぁっ?」

「…ぅぅ…ぅぅぅ~~~……っ! そういうことじゃ…ないの…だ、だめ……だめなのぉ……」

「なっ…はぁ? く、そ…が…っ」


頑なに拒絶を続けるPを、もういっそのこと蹴り上げて殴り飛ばして首を絞めて殺してしまいたいとさえ感じたが、その衝動は一かけらの道徳でどうにか抑え込む。


「このヤロウ…ドブみたいに汚い存在のくせに一丁前に拒否りやがって…」

「ひっ……お願い…許してぇ……っ!」

「……それとも何だ? あの豚は良くてアタシはダメだっていうのか?」

「ぁ………ぅぅぅ…っ」

「アンタは…豚に汚されるのは良くて…アタシは耐えられないって…? ア、アタシが…あの豚よりも……っ」

「ち、違…っ! あぅぅ……」


目を固く閉じたままのPは何かを考えるように頭を抱えて震えている。


「うぅぅ~~~……うぅぅぅう~~~~っ!!」


そして胸に響く唸り声を上げながらついに腰を上げ、さっきと同じようにデスクに突っ伏した。
思い通りになったことに妙にホッとして、何故か熱くなりかけていた目頭がスゥっと軽くなる。


「はっ……それで、いいんだよ…」

「あ…はぁっ…だ、だめ…こんなの…絶対おかしく……あぁぁ……っ」


ケツを割り開いて、窄まりに先端を接触させ仕切り直し。


「ぐゅぅぅぅ……っ!!」


深いぬかるみに突っ込んだみたいに、押せば押すだけずぷずぷとPの体内に沈み込んでいく。


「あ…あぁぁ…すご…簡単に入っていく…っ」

「ぅ゛ぁっ……か…ひっ……!」


可憐な見た目の穴だったにもかかわらず、いとも簡単にペニバンを飲み込んでしまったので、もうワンサイズデカいのを選ばなかったことを後悔した。
Pの尻の柔らかさと温かさをアタシの腰で感じると、胸の奥で何か熱いモノが弾けたみたいに全身が熱くなってくる。


「ぁ゛ぁ゛…っ! あぁっ…あぐ…っ!」


ケツ肉の柔らかさとは対照的にPの上半身は強張っていて、腰は痙攣して、手袋を付けた手は力いっぱいに拳を握り締めてブルブルと震えていた。表情は俯いていて見えない…。


「動くからな…はぁ、はぁ……んっ!」

「だ、だぁぁ……ぎゅぐゅ…っ!」


女の子と変わらない細い腰を掴んで腰を引いてまたゆっくりと突き出せば、一回目よりも滑らかに入って、グチャッとエロい音がした。
そんな音で耳が気持ち良くて、もっと聴きたくて二度三度と腰を前後させる。


「くっ…くはははっ! はははぁぁっ!! ほら! ほらぁっ!」

「あ゛うぅっ! あうぅううっ! あ゛ぁ゛ぅ゛~~~っ!!」


そうすれば段々と腰の動かし方が分かってきて、リズミカルに動かせるようになってきた。
ヤればヤるだけエロ音は酷くなって、Pの声も獣っぽくなって、アタシは更に燃えてくる。
何十回も夢中になって腰を打ち出して、ペニバンに引っかかりを感じて見てみると、唾液が渇いてきてたからみたいで、ペニバンを伝って腿に伝っていたドロドロ唾を手で掬ってチンコになすりつけて、それも乾けばケツの割目に唾液を垂らして補充した。


「たまんないなぁっ!! あはっ! こんなに愉しいならっ! もっと早く! 犯っとくんだったなっ! おらっ!」

「あ゛っ! あ゛っ!! あ゛お゛お゛お゛っ!」

「くくくっ!! ひっでぇ声! ほら、もっと聞かせな!」

「ん゛お゛お゛っ! だえ゛ぇっ!! ぎぃぃぃい゛っ゛!!」


自分の頭を掻きむしるように抱えたPが一際大きな叫び声を上げ、腰の痙攣を大きくする。
ひょっとしてとPのリアルチンコを横から覗き込むと、ブラブラと柔らかいままのソイツから緩くひねった蛇口みたいに白い液がダラダラと流れ落ちていた。


「ははっ! なんだぁ? これシャセーか? ふっ!!」

「だぁ゛ぁ゛っ!? も゛う゛や゛べでぇっ!!」


強く腰を打ち付けてからPチンコを観察すると、アタシのチンコに押し出されるようにまた新たな汚液が零れ落ちる。


「お゛お゛お゛……っ゛!! こ、こわ゛れ゛う゛!! こわ゛え゛う゛っ!!!」

「くはっ! あははっ!! だからぁっ! オマエのことぶっ壊すんだよっ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっ゛!!!」


さっきPがアタシを拒んだ理由が分かってきた。このPの聞いたことのない雄叫びがそのまま答えだろう。
こんな声も快感に頭を振り乱す姿も、アタシだったら絶対に誰にも見せたくない。
でもそこで、Pのこの姿も豚には見せていたっていうことに気付いて、むかっ腹が立ってきてイジメ心がムラムラと起こってくる。


「ふぅ~~~~っ」

「ん゛あ゛っ゛!? あ゛ぁ゛ぁぁ……んぐっ、はぁーーっ、はぁーーっ」


一旦シリコンチンコを引き抜くと、Pは頭を掻きむしるのを止めて上半身をぐったりと弛緩させた。
腰はまだ痙攣を続けていて、ぽっかりと開いたケツ穴をクポクポしているのと併せると、アタシを誘っているようにしか見えなくて、また直ぐに突っ込みたくなってしまうが、どうにか我慢する。


「こっち向いて…デスクに座んな…」

「あぐ……はぁ…はぁ……?」


久しぶりに見たPの顔は真っ赤で、涙と鼻水と涎はより汚くなっていて、アタシはついついニヤケてしまった。
よく分かってないくてもたもたするPの膝を抱えて持ち上げてデスクの上に座らせる。
デスクの奥側にある邪魔な書類を手で押して床に落としてから、そこにPの上半身を仰向けに寝かせ、アタシはPの脚の間に割り込んでチンチンをまたPの入り口に当てがった。


「うわぁぁぁっ……だめ……っ!」


ハッとした表情を見せたPは慌てて、両腕で自分の顔を隠す。


「おらっ…と!」

「んああああ゛あ゛っ!!」


Pの体内にムリュムリュ入り込んで腰同士をくっつければPがのけ反って、まだ残っていた書類がパサリと落ちる音がした。
腕で隠しているのは鼻から上だから、だらしなく開いている口は丸見え。
その中の舌は寂しがるようにヘロヘロと動いていて、それを見ていると妙に唾液が口に溜まってきたから、垂らして潤滑に使った。


「はぁっ、はぁっ! 顔、見せろ…よっ!」

「ふぅぅう゛う゛っ! だ、めぇぇっ!!」


Pの両膝の内側を抑えてケツ穴をちょうどいい高さに据えておいて、そこ目がけてゴキゲンに腰を打ち付ける。


「見せろって…なぁ……っ!」

「だめぇぇっ! いまっ…だめなのぉおおっ!!」

「見せろっ! 見せろっ! みっ! せっ! ろっ!」

「ぐうううっ!! うゅうううっ! んうう゛う゛~゛~゛~゛っ!!」


なかなかの強情さに焦れてきたので、Pのふくらはぎを肩に乗せて上半身で脚を抑えるようにしてからPの手首を掴んで顔の覆いを取り払う。


「あ゛っ……や゛ぁ゛~゛~゛っ゛!?」

「あはぁっ!!」


Pのケツよりももっとトロトロに崩れた表情がそこにはあった。
小鼻ぴくぴく鼻水垂らして、引き攣った頬を真っ赤にして、眉間にしわを寄せているのに目尻をいやらしく垂れ下げて、しかも涙まで溜めて…。
さっきの拒絶はもうこれで完全に許してしまう。
こめかみからプチプチと血管が切れる音がした気がした。
目の前にまた火花が散ってうなじに悪寒じみた快感が走る。
唾液がとめどなく溢れてくるのに口角が上がるのを止められなくて溢れ出そうだったから、仕方なくベロを突き出すとその先から両方のチンコへ唾液が垂れさがった。


「おら、おらっ! どうだっ! おらっ!」

「ぐぅぅっ!! う゛う゛ううっ!! ふぅうう゛う゛う゛っ!!」


ピストンを再開すれば、目を白黒させて見開いて、だらしない口を食いしばる。
そして小休止を挟むともう一段だらしない表情を見せてアタシを喜ばせてくれた。


「ん゛ん゛ん゛~~~~っ! ふぅ゛ぅ゛ぅ~~~っ」

「あっ、こらっ!」


Pが横を向いて恥ずかしい表情を隠そうとしやがったので、片手でPの顎を掴んで正面を向き直させる。


「その情けないドブ顔、絶対アタシから逸らすな。いいな? ずっとアタシの目を見てろよ?」

「あ゛…だめ……も゛う゛おさえられないよぉ……っ」


Pの手首を掴み直す。そのときにPの手袋の布地のざらついた感触が無性に気になって、アタシの言いつけで付けさせていたのも忘れて手袋をはぎ取ってしまった。


「あぁ……はぁぁ゛……なつきちゃ……っ」

「は…な、なんだよ…?」


それで掴む場所を手首から手の甲に変えると、Pは手首を回して生意気にアタシの手を握ってきた。
普段なら突っぱねてやるところだけど、腰振りのための取っ手としては申し分ないし、もうとりあえずまぁいいやって気分になってて、そのまま動きを再開する。


「あう゛う゛うっ! はぁぁぁ゛っ゛! ふぅううう゛っ゛!!」

「はぁっ! はぁっ! どうだ、おいっ!」

「はぁぁあ゛ん゛っ゛! きっも゛っちぃぃ゛! きも゛ち゛い゛ぃ゛い゛っ゛!」

「くははっ! 素直になりやがって…っ! 女にケツ掘られてっ! 気持ちいいとかっ! 終わってんなオマエっ!」

「んぐぅうっ! んああ゛あ゛っ゛! う゛あ゛っ゛! ん゛ああ゛っ゛!」


本当に酷い顔だ。
こんなにクソエロ顔を見せられたら、もっと気持ち良くして歪めてやって、それでもっと自分自身もゾクゾクしたいって気持ちしか起こらない。
ふと、だりーのことを思い出して、もしだりーがPと付き合うことがあったらこの顔をするのはだりーだっていうことに気付いて、行く当てのない怒りが湧いてくる。
あのだりーの顔がこんなに歪められるなんて絶対に許せることじゃない。
それはPによってであろうと、他のどんな男によってであろうと許せない。
それならば、いっそ……?


「なつきちゃん…っ! はぁぐぅうっ! な、つき…ちゃぁあっ!」

「っ…!?」


Pの声で浮かびかけた考えが散らされて、我に返った。
濁った瞳はアタシを見続けていて、手を握る力は痛いぐらいだ。


「は…っ! ふっ! こらっ! 気安くアタシを呼ぶなっ!」

「はぁぁーーーっ! ん゛ん゛っ! なつきちゃぁぁん゛っ!」

「くっ! 呼ぶなってっ!」


いくら言ってもPはアタシの名前を呼ぶのを止めなかった。
Pがアタシの名前を叫ぶたびに、下腹部が疼いて…なんていうかムカつくのに…。
アタシの目を見続けながら、ずっとアタシのことを呼んでくる。
こんな事ならアタシを見ろだなんて言うんじゃなかったか…。


「やめろっ! やめろって!」

「はぁぁうっ! なつ…きちゃぁあん……っ!」

「この……っ!」

「わぁぁあ゛あ゛う゛う゛っ!? そ、それらめ゛ぇ゛っ!!」


ドロドロと汚液を垂れ流しまくりのブニョブニョのPチンコを握ると、途端にPが身を捩り始める。
そして、これまでずっと柔らかかったのがウソみたいにあっという間にガチガチに成長してしまった。


「はははっ! なんだ、元気あるんじゃないかっ!」

「ゆ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ! 両方だめぇええっ!」

「くはっ! 両方するといいんだなっ! ほらっおらっ! ごしごしっ!」

「ひいぃぃい゛い゛い゛っ゛!!」


もう手は掴んでいないのに、ドロドロの自分の顔を隠すことも忘れてPはドピンク声で叫ぶ。
硬くなったからか、蛇口の栓は閉まったが、透明の液は止まらず雫を作っては濡れ落ちてまたすぐに雫を溜めて忙しない。


「あはっ! すげえ!すげえっ!! 気持ちいいか? あぁ!? イクのかっ!?」

「んおおお゛お゛っ゛! いぐっ! い゛ぐ……っ!!」

「はぁいっ! ざぁ~んねぇ~~ん!」

「あ゛あ゛あ゛っ゛!? イ゛かせてぇよぉ゛っ゛!!」


Pがイキそうになると、いつもみたいに先端だけの刺激に切り替えて射精を遠ざける。
Pのあり得ないほどみっともない泣き顔で、また雷に打たれたみたいな快感が脳を焼いて、アタシのカラダの中ももうドロドロだ。


「ほらぁっ! イク? なぁイク? あはははっ!!」

「ぎゅ…っ! ううううっ! な、つき…ちゃん…なつきちゃん! なつ…き…ちゃ…っ!」

「だっ、だからっ! それやめろっ!」

「なつきちゃなちゅきちゃんなつ…ちゃんなつきちゃあああっ!!」


アタシに穴をあけたいのかってくらいに瞬きもせずにPが見つめてきて、うわ言のようにアタシの名前を呼んで…。
アタシの名前の後に何かとんでもないことを言いそうな…そんな恐怖と期待…、いや何で期待なんだ…クソっクソっ!


「クソ…っ!」

「なちゅきちゃ……しゅ…」

「止めろってっ!」

「もがぁっ!?」


Pチンコを焦らす手を放してPの口を抑えこむ。
唇を手のひらでこすって、鼻を豚鼻にしてやって、指先を口に突っ込んでもう喋れなくしてやった。


「あぁあっ! クソっ! クソっ! イケよっ! ほらぁっ!」

「ひゅあああっ! ふゅぅううっ! あがお゛お゛おお゛っ゛!!」


掴んだPの顎を持ち手にしてダメ押しの腰振りをしてやる。
もうリズムもビートも関係ない。
ただ力任せにパンパンしまくって、チンコでPの腹を突き破ってやるつもりでメチャクチャして、Pの腰がデスクから持ち上げるぐらい突き上げてやるとPの目が信じられないって感じで見開かれて、黒目がギョロギョロあっちこっちに動き回って、ついには白目をむく瞬間を目撃してしまった。
そうしたらガチガチのリアルチンコから精液が飛び出して、それはPの顔面まで飛んでアタシの腕と手も一緒に汚していく。


「あ゛がが、がががっ……がひっ……んぶ…っ」

「は…ははは……さ、最高……っ!!」


虚ろで情けない表情のPを至近距離でじっくりと見つめて胸に焼き付けてから、腰を引いて偽物を引き抜く。
Pはデスクに仰向けになったまま脚をだらしなく投げ出していた。


「んっ……くぁっ!?」


人心地ついた…そう思った矢先、全身に隈なく散って渦巻いていたドロドロの熱かウゾウゾと固まりながら、下腹部に集中していく感覚があって、その熱さに思わず呻き声を出してしまう。


「あ、ぁぁぁ……くっ、っはぁっ! んっ…っ!」


ハラが…アソコが…異常な切なさを訴えていた。
キュンキュンとした内側からの刺すような痛みはそれでいて甘くて、とてもじゃないが自宅まで我慢できるような生易しいモノじゃなかった。


「あぁぁっ! くっ…あっ! はぁっ!」


ペニバンのベルトを緩めて外してショーツを下ろすと、笑えないぐらいの濡れ方をしていて、おまけにクリはぴんぴんに立っていて…。


「はぁっ! や…これ………んんんんっ!??」


クリを一撫でしただけで特大のエクスタシーが腰を溶かしそう。
少しでもその刺激をまろやかにしようと、本能的にアソコに指を突っ込んでジュースを掬って、べったりとクリに塗りつけた。


「はぁあっ! あああっ! くあぁんっ!」


イってもイっても満足できなくて、流れる電流はどんどん強くなる。
気付けば、寝そべるPの腰の横に手を着いて、身体を支えながらオナっていた。
そしてPはとっくに意識を取り戻していて、アタシの恥ずかしい姿を驚愕の顔で見つめていた。


「あ…はぁ、はぁ…夏樹ちゃん……っ」

「クソっ…見んな…っ!」

「あぁ…夏樹ちゃんが……はぁっ、はぁ…っ!」


あれだけ出したっていうのにPのチンチンは天井を睨んでいて、Pはアタシのアソコを見ながらそれを扱きはじめる。
Pにオカズにされている屈辱に全身が粟立っているのに、止めさせる余裕すらなくクリを弄り続けるしかなかった。


「あぁぁんんっ! くっ…なんで…なんで…っ! 全然…収まら…はぅっ!」

「はぁっ、はぁっ、はぁぁぁ~~~っ! 夏樹ちゃん……っ!」


仕舞にはデスクを支えにしても立っていられなくなって、床に座り込んでまでオナニーを続ける羽目になる。
目の前には靄がかかって頭はバカになってんのに、手だけは別の生き物みたいに激しくアソコを撫でっぱなし。

すぐ目の前で白い液体が噴水みたいに噴き出していて、それがPの射精だったことに気付けたころに、ようやくオナニー以外のことが考えられるようになった。


「はぁ…はぁ…はぁ……」

「んあ…ぁぅ…はぁ…はぁ…」


気怠い身体に鞭打って立ち上がらせて、Pを見下す。


「はっ……た、担当アイドルでマスかきやがって…本当、オマエはどうしようもないな…っ」

「………ご、ごめん…なさい……ぁう……」

「それに…ケツ掘られてあんなに気持ちよさそうにしてよぉ? あ、案外…枕とか関係なく、好きであの豚に抱かれに行ってるんじゃないのか? どうなのよ、本当のトコロ…くくっ」

「…………ど、どおして…そんなこと…言うの…。そんなわけない…。あの人にやられて…気持ちいいだなんて感じたこと…一度だって…ないのに……う…ぐすっ……」

「………っ」


唐突に心臓に抉り出した方がマシな痛みが走って、耐えられずPの泣き顔から目を逸らしてしまう。


「ど、どーだかっ! ふん…ま、いいや…。それはそうと…」

「ぅ……?」

「だりーには手を出すなよ?」

「ふぇ…? りぃなちゃん? 何の…こと…?」

「オマエに質問は許可してないんだよ。いいな? だりーには手を出すな。…つっても、こんなカマヤローにはそもそも無理かなっ。ははっ」

「あ…夏樹ちゃ……んあっ!?」


起き上がろうとするPの頭をデスクに押し戻して、足首に引っかかったままになっていたショーツを履き直す。
それからバッグを手に取って事務所を出た。
ペニバンは…Pが処分するだろうからまた買えばいいか…。

外に出ると濡れたショーツの冷たさがやたらと主張してきて、ウンザリしながら思わず笑ってしまった。



◆◇◆◇◆◇◆

目を通していた企画書を読み終わらないままに、目の前のローテーブルに放り投げた。
企画の内容は…正直、面白そうだった。
それにメディアへの露出もかなりあるし、そういう意味でも申し分ない仕事だろう。
でも、だからこそ、その仕事が舞い込んできた経緯のことを推測すると気が散ってしまって、最後まで読み切ることが出来なかった。


「bravery…勇気、えぇと…大胆さ…。Immigrant…移民…あああ~あ…へへっ」


隣に座るだりーは英単語帳とにらめっこ中。だが集中しているのかいないのか…。

携帯を見てみると19時を過ぎたところ。
こうして二人並んで休憩スペースのソファに腰を下ろしてもう一時間ほど経つだろうか。
レッスンを終えた報告をしに事務所に立ち寄ったものの、Pは外出していて今日はそのまま直帰することになったと事務のおねぇさんが教えてくれた。
だからアタシもすぐに帰ろうと思ったのだが、だりーにお願いされて事務所に居残っている。
一人で勉強しようとするとかえって集中できないんだとかだりーは言っていたが、たぶんそれは方便で…。


「じゃあ私帰りますから、戸締りお願いしますね」


しばらくすると事務のおねぇさんがそう言って帰っていった。
これで事務所にはアタシとだりーだけ。


「alternative……………………」


途端、分かり易くだりーの集中が途切れた。
ブツブツ言っていたのは止まったのに、単語帳を開き続けていて、そしてそのまま話し始めた。


「私……Pさんにフラれちゃった…」

「……はぁっ!?」


何かしらの相談事があるのだろうと予想していたが、そしてそれはP絡みのことなのだろうとは予想していたが、まさかもう告白してしまっていたとは考えもしなかった。
だりーの気持ちを聞いてからまだ一か月も経っていないんだから。


「昨日、車で家まで送ってもらったときに私のキモチ伝えたんだ……」

「そ……うか……」

「私が…アイドルだからっていうこともあるけど……それよりも…私のことをそういう風には見れない…だってさ……へへ……い、妹みたいに……ぐすっ……思ってるんだってさ……」

「だりー……」


単語帳が少しずつ湿っていく。


「し、知ってた…? Pさんってさ…実は私より身長低いんだよ…? それなのに…わ、わ、私が…妹だなんて…お、おかしい…よね……」

「だりー……っ!」


涙をボロボロ流しながら、それでも平静を装おうとするだりーがあまりに痛々しくて、見ていられなくなったアタシはだりーを抱き締めて、頬で涙を拭ってあげた。


「どっちかっていうと…わたしが…おねぇちゃんで…ひっく…Pさんがおとうと…にみえるよね…? こんなの…お、おかしいよね……」

「あぁ……そうだな……」

「い、いもうとみたいだなんて…そんなの……う……うわぁぁぁぁん、フラれたよぉ~~っ!」


単語帳が床に落ちるバサッという音がして、アタシの背中には二つのか弱い体温。
そのか弱さを補うようにアタシは腕の力を強める。


「せっかくなつきちが…もっと時間をかけた方が良いって…ぐすっ…アドバイスしてくれたのに……が、我慢できなくて……それで見事に玉砕して…世話ないよね……」

「だりー……」


アタシの記憶が正しければ「考え直した方が良い」とは言ったが、だりーはそういう風に解釈していたのか……いやそれよりも、Pはちゃんと断ったんだな…。
だりーが早々に踏み切ったのは想定外だったけど、だりーの想いが成就しなかったことは確かなようで…傷心のだりーを可哀想に思う一方、どこかホッとしてしいる自分がいた。


「だりー…あぁ、可哀想にな……」

「なつきち……んっ」


だりーの後頭部を撫で、また頬擦りをする。
この格好じゃお互いの顔は見えないが、アタシにはだりーがどんな表情をしているか手に取るように分かっていた。
だりーはアタシの表情は分かるだろうか?
いや、絶対にわからないだろうな……なんせ……だりー、ごめんな…アタシはほくそ笑んでるんだから…。
Pにだりーを取られることがないって分かって…アタシは嬉しいんだ…ニヤつくのがやめられないくらいに…相棒なのに最低だよな……ホント最低だ…あぁ…アタシはいつからこんな……。


「なつきち…ありがとう……もう大丈夫…っ」

「ん…そうか…」


だりーの呼吸が安定してくると背中に回っていただりーの腕が離れて、ハグは解かれた。
深刻そうな表情を張り付けてだりーと向き合うと、思った通り目と鼻先を赤くして、それでも涙は止まっていた。


「あ…そうだ! 知り合いのハコ行ってメチャクチャ演るか? それとも、バイクで海岸までぶっ飛ばすか?」

「えへへっ……ありがとう。でも、本当に大丈夫! それに、このモヤモヤはスッキリさせちゃダメだから……」

「ん…?」

「私決めたんだ…絶対諦めないって!」

「……え?」

ついさっきまで弱々しかっただりーの瞳には既に力が宿っていた。
必死に強がりながら、それでいて健気な笑顔は、長く付き合ってきたアタシでも見惚れるぐらいに輝いていて、罪深いアタシの中身を照らされているような気分になる。


「私…Pさんを諦めない…。Pさんが私を妹にしか思えないって言うなら、私はロックアイドルを極めて…イイ女になって…妹なんて言えなくして…それでPさんを振り向かせてやるんだ…っ」

「え……ちょ……」

「一回フラれたくらいで諦めない…何度でもアタックするっ! ネバーギブアップ! これもすっごくロックだよねっ!?」

「っ……!」


だりーの目の前にはアタシがいるのに、その目にはもうアタシは映っていなかった…。
ロックな夢とPだけを見ていた…。

強い…。
呆れるほどに真っすぐでロック…。
でもだからこそ…!


「ダメなんだって…っ!」

「えっ? なつきち?」


だりーの両肩を掴むと、キョトンとした視線が返ってくる。
アタシは捲し立てるように喋った。


「ダメなんだよアイツは…。やめてくれよだりー…アイツのことを好きだなんて、そんなおぞましいこと言わないでくれよ…アイツはチビで女々しくてすぐ泣いてヘタレで…ほら、全然ダメだろ? なぁ?」

「ちょっと…なつきち…? や、やめてよ…」

「なんっで…わっかんないかなぁ…っ! アイツは! とんでもないヤツなんだ! だりーが知らないだけなんだって! 間違ってもだりーが好意を寄せる価値なんてない!」

「やめてっ!」

「だりー……っ!」


不信と非難の混じっただりーの視線がアタシの胸を痛烈に抉っている。


「ね、ねぇ…一体どうしたの? 人の悪口なんてなつきちらしくないよ…?」

「悪口じゃない! 全部本当のことだっ!」

「やめてったらっ!!」

「っ!?」


更に怒りもプラスされただりーの視線。
もし仮にアタシが知っていること全部言えば、だりーだって考えを変えるはずなのに…。
なんでだ?
なんでアタシがだりーにこんな目で見られなくちゃいけないんだ!?
アタシはだりーのために言っているのに!

だりーの見当外れの怒りを向けられて、アタシの頭に血が上っていく感覚があった。
それで習慣的に理性が隅に追いやられて、衝動が手足のコントロールを支配しはじめる。


「だりー……っ!」
「やっ!?」


聞き分けのない子にはどうすればいい?
反抗的な目を向けられた時にはどうすればいい?
抵抗はどうすれば抑え込める?
…全部知ってる。
そんなの簡単だ。
いつもやってることだもんな。
押し倒して、抑えつけて、カラダをまさぐって、気持ち良くしてやればいい。
そうすれば全部ウヤムヤになる。
いつもの相手はPだが、女ならカラダのことを知っている分、より簡単だろう。
だからな? じっとしていれば良くしてやるから……。






「いやぁぁぁぁっ!!!」


「ぐっ!?」



耳をつんざく悲鳴と同時に胸を強く押されて、耐えられずのけ反った。
そして一瞬遅れて、唇にライターの火を押し付けられたような痛みが走る。
指で確かめると鮮やかな赤。それと同じものがだりーの唇も汚していた。


「……ぁ」

「ぅ…ぅそでしょ…何を…しようとしたの…?」


目を見開いて自分の身体を守るように抱き締めているだりー…。
捲り上げられたTシャツの裾からはブラの生地がチラ見して、無理矢理下ろされたみたいなパンティは太ももに引っかかっていて…。
アタシは…一体何をしようと……?


「ねぇぇぇ……っ!? ホント…おかしいよ…最近のなつきち…どうしたの? 何があったの…?」

「…ちが……あ、アタシは……っ!」

「なつきちのね…最近作ってくる曲はすごいよ、カッコいいよ……でも…でもさ…Pさんとロクに喋ろうとしないし…ないがしろにして…悪く言って………そんななつきちは…カッコ悪いよ…っ!」

「ぁ………」


脳みそがミキサーにかけられたみたいに思考プッツン。
目が魚になったみたいに視界がユラユラ。
どれだけ息を吸い込もうとしても肺からは空気が抜けていくばっかりで、ひゅーひゅーっていう風切り音がとても耳障り。

卒倒しそうなので助けを求めようとしていたのか、それとも、無理矢理ナニかをヤろうとしてたのは気の迷いだよだから大丈夫ポンポンってするつもりだったのか、どっちかはわからない。
少なくとも、もうだりーが嫌がるようなことをするつもりは全くなかったと断言できる。


「だりー……?」


でも、だりーに向けて伸ばしたアタシの手は…。



「……ひっ!」



怯え切った表情と短い悲鳴で粉々に砕け散ってしまった。


「だ…りー……ぃや…これは…ちが……ちがくてっ……」


嫌悪と恐怖が滲んだだりーの表情。
それには妙な既視感があった。
いつだったかアタシの背後に隠れるだりーが似たような表情をしていたような…。



「ぁ……ぁぁあああ……」


思い出してしまったらもうダメだった。
急に豚肉の腐った匂いが漂い始めてそれが自分の内側からだってわかった瞬間、アタシは狂ってしまった。


「うわぁぁぁああああああーーーっ!!!」


ソファから跳ね飛んで立ち上がり、頭を掻きむしりながら腐臭に満ちた事務所を飛び出した。

外はいつの間にか土砂降り。でもそれは寧ろ幸いで、その豪雨の中を駆け出す。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!……うそだぁ…うぞだぁぁぁぁ!!」


ものの数秒で下着に至るまでぐっしょり。
それでも悪臭は消えず酷くなる一方だ。


「あはっ………そうか…アタシは…もうっ! とっくに……っ!」


走って、走って、走って。


「アタシは……はぁっ……なんて……サイテーな……」


大好きな筈のだりーを無理矢理襲おうとするなんて…アタシはもう完全に頭がおかしくなっていたらしい。
じゃあそんな頭のおかしいアタシがこれまでPにしてきたことは…?
怒鳴り散らして凌辱して…その癖、取ってきてくれた仕事を平気な顔でこなして…。

……アタシはなんで自分に理があると思えていたんだろう?

Pがどんな想いで、何のために、誰のために、あの豚の相手をしているのかなんて一度だって真剣に考えようともせず、被害者ヅラして弱みに付け込んで、ただひたすらイジメて憂さ晴らし。

はぁ? なんだこれ?

見返りにちゃんと仕事を寄こす豚よりもよっぽど酷いじゃあないか。


「うっ……はぁっ! はぁっ! はぁっ!………ぁぁぁああ゛あ゛ーーーっ!!」


走り続けるのに息が切れて立ち止まれば、汚物のような記憶がフラッシュバックしてくる。
それを発狂したように叫んで食い止め、また走り出す。


グジュグジュの足をただ交互に前へ出し続けて、疲労か寒さかでもう動けなくなりそうな頃に見覚えのあるマンションが見えてきた。


「はは……ちょうどいい……もう終わりにしよう……」



―――
――



「こんなにずぶ濡れでどうしたの!?」


インターホン越しには怪訝な声だったPも、玄関のドアを開けてアタシを見ると血相を変えて部屋に入れてくれた。
そしてアタシをリビングまで連れていくと、収納ケースから取り出したバスタオルをアタシの頭に被せて肌を濡らしている水分を粗方拭き取った。


「すぐにお風呂沸かすから、ちょっと待ってねっ」


そう言ってPがリビングから出て数秒後、ドボドボと水が落ちる音が響き始めた。
戻ってきたPはケトルからマグカップに熱湯を注ぎ、ココアの缶を開けようとしている。
中々開かない缶に苦戦しているPの腕を引っ張って、有無を言わさずラグマットに押し倒した。


「わわっ!? ちょっ、夏樹ちゃん…せめてお風呂入ってからに…風邪ひいちゃうよ…っ」


マウントをとると、Pは勘違いしているようだった。
諦めが染み付いたその表情に、アタシは叫びたくなるくらいに悲しくなってしまう。
だけど、もうPをイジメるつもりはしない。
今日ここに来たのは…。


「なぁ……ちょっと悪いんだけどさ…アタシのこと犯してくんないかな…?」

「…………へ?」


これ以上ないくらいストレートに言ったのに何故か伝わっていないようで、Pはポカンと間抜けな表情を浮かべた。


「なぁ…頼むよ……犯してくれよぉ…メチャクチャにレイプして欲しんだよぉ……」

「は…え……な、何言ってるの…っ?」

「だからレイプして欲しいんだって…っ! なぁ…頼む…この通りだ……っ!」

「ちょ、ちょ…ほんと何なのどうしたのっ?」


Pの腹の上に乗っかったままだが、頭を下げてお願いしたのにPはまだヤってくれないらしい。


「あぁー…っ! ヤラしてやるって言ってるんだからさぁ…大人しくヤってくれよ……っ」

「待って! 何があったのっ? 夏樹ちゃん?」

「だからぁ…っ! 理由なんてどうでもいいじゃん! アンタ、アタシのこと…好きなんだろっ!?」

「っ!」


前々からそうじゃないかって気になっていたことを遂に言ってしまった。
Pの頬があっという間に赤くなったということは、それは見事に的中だったらしい。


「ぁ……ぁぅ……」

「なっ? 好きなアタシのこと好きにしていいんだぞ? ほらっ! ヤれって! ヤってくれよ……頼むよ……っ!」

「な、夏樹ちゃん……」

「頼む……犯して…グチャグチャにして…ボコボコにして…それから…それから……殺してくれ……お願いだから……お願い…します…っ」


アタマがおかしくなって、大好きな人まで傷つけてしまうようなアタシはもういなくなってしまった方がいい。
そしてそれは、アタシが最も酷いことをしてきたPの手によってであるべきだ。
殺してくれるところまでお願いするのは正直負担かなって思わなくもないが、少なくともその一歩前まではしてもらわないと全然辻褄が合わない。


「な、何てこと言うの…っ!!」


いきなりPが腹筋を使って、アタシを押し返して起き上がった。
それでアタシの肩に指を食い込ませながら、睨みつけてきて…なんで睨んでくるんだろうか?
普通、好きな女とヤれるんなら…それにこれまでの仕返しも出来るんだし、嬉々とした表情を見せるとこだろう?


「ねぇ…っ! 話してよ…何があったの? ねぇったらっ!」

「話したら…ヤってくれるのか?」

「やっ……しないよぉ!」

「………ちっ」


当てが外れた。
そう思ったアタシは立ち上がって玄関に向かおうとしたが、すぐに後ろからPに抱き留められてしまう。


「どこに行くのっ!?」

「…他に頼めるヤツを探しに行くんだよ…放せよ……っ」

「そんなの…っ! い、行かせない…っ!」

「あっ…こ、こらっ! 放せって!」

「だめぇぇ……っ!」


いつもならPの抵抗なんて力ずくでどうにでもなるのに、どういうわけか腰に巻きついたPの腕はびくともせず、身体ごと引っ張られて玄関からは遠ざかっていく。
そのままリビングに戻されるのかと思ったが、引きずられていったのは浴室だった。


「なっ、なんのつもりだよ…っ!?」

「もうなんでもいいから、とにかくお風呂入って! 風邪ひいちゃうからっ!」


今から死のうっていう人間に風邪ひくとか言われても困るんだが、と心の中でツッコむ。
バスタブには既に半分までお湯が溜まっていて、温かそうな湯気が立ち上っていた。
その湯気に首を撫でられると途端に皮膚が感覚を取り戻してきて、歯がカチカチと鳴り始める。
そうなると刻一刻と嵩を増していくバスタブのお湯が魅力的に見えてきて、もう目が離せない。


「入って」

「……あ、アンタも…い、い、一緒かよ?」

「一人にするわけないでしょ…。冗談はいいから、そのまま入って。それだけ濡れてたらもう同じでしょ」

「……わ、わかったよ……」


いつになくPの声のトーンが低く、目も据わっているように見えて気圧されてしまった。
ひょっとするとこれがPの怒った時の変化なのかもしれない。


「んっ…ぁぁぁあああ………っ!」


浸けた足先から頭のてっぺんまでヒビが入ったと錯覚するくらいに熱いお湯だった。
それでも足を抜くことはできず、もう片方の足先も突っ込んで、結局溶けるようにバスタブに横たわってしまう。
まだバスタブは満杯になっていないから首元までは浸かれないのが残念だ、と思ったところで狙いすましたように熱いシャワーが降り注いた。
バスタブの脇に座り込んだPがアタシの浸かり切れていない部分にシャワーをかけてくれていた。


「ふぁぁぁ………」

「お湯の温度大丈夫? 熱くない?」

「ぁ……あぁ……ちょうど…いい…」


胸元にかけて、膝にかけて、肩にかけて…頼んでもいないのにせっせと働くPの所為で、アタシのギザギザな感情が削がれていく…。


「だりーに…酷いことをしちまった……」


気付いた時にはもう喋り出していて、アタシはさっきの事務所でのことをPに洗いざらい白状した。


「………な? 死んだ方が良いだろ? こんなアタマおかしいヤツはさ……」

「そう…だったんだね………はぁ~~~~」


Pが俯いて深く息を吐いた。
その後で顔を上げたPの表情からは硬さが取れているように見えた。


「ボクはてっきり……誰かを殺しちゃったんじゃないかと……はぁ~~」

「ころっ…!? はは…流石にそれは………ないぜ…」

「とはいえ、李衣菜ちゃんにしちゃったことは…それはそれで結構深刻だね…」

「だ、だから…っ!」

「だから、ちゃんと謝らないとね?」

「ぁ……くっ……」


そう言ってじぃっと見つめてくるPから目を逸らそうとしても、頬に当てられたPの温かい手のひらに阻まれて、アタシは目を閉じるしかなかった。
その拍子に目尻からポロりと零れてしまって、改めてなんであんなことをしてしまったのかと心底後悔した。


「もっとも、夏樹ちゃんに謝る気があるなら、だけどね」

「謝る…っ! あ、謝りたい……だりー……うぅぅ……」

「うん……」


頬にあった手が頭に乗せられると、一層目がジワジワしてくる。


「それでも、もし…李衣菜ちゃんが赦してくれなくて…夏樹ちゃんがもう限界だって思うなら…そのときはボクも一緒に……………るから」

「へ……?」


最後の言葉がよく聞き取れなくて、聞き返そうと目を開いた瞬間、何故か溺れそうになった。


「あぶぶっぶっ!?」

「まぁ、大丈夫だよ、きっと!」


いきなり顔面にぶっかけられたシャワーで涙と鼻水は流れ落ちてしまった。
カツンと音がするとシャワーが止まって、それでバスタブにも十分にお湯が溜まっていたことに気付く。
Pはこっちがムズムズしてくるくらいにいつもの緩い笑顔を浮かべながら、アタシの額に貼りついた前髪を整えていた。


「スッキリした?」

「あぁ……」


Pの問いかけに曖昧に頷いてしまってから、全然終わっていないことに気付く。


「いや…っ! アタシは…アンタにも酷いことを……あぁ、本当になんて酷いことを……っ! アタシたちのために…
 誰よりも頑張ってくれて…汚れてくれたのに…それなのに…感謝さえせずに…アタシはもっとアンタと話すべきだったんだっ!
 それでもっと別の方法を考えて…別の方法なんか無くたって、だったら一緒に苦しめばよかったんだ……それなのにっ!
 アタシは…っ! 自分のプライドばっかりが大切で…っ! アンタを貶めることでプライドを守った気になって…
 仕舞にはアンタに無茶して興奮するのが目的になっちまってっ! あぁぁぁ……っ!」


振り返れば振り返るほど、何故あれほどまでに凶暴なことが出来たのか、意味が分からな過ぎて自分自身が空恐ろしい。


「ダメだ…やっぱりダメだ…お願いだ…やっぱり……」

「はぁ~~、またそれぇ? ボクのことももういいよ。赦してあげる。はいお終い! って、元々はボクが勝手なことしてたのが
 原因だから、はじめから別に怒ってないけどね…。それになんかこう、イジメられやすいオーラ纏ってる自覚あるし…ははは…」

「は? なんだよ、それ…っ!」


あれだけの悪行をこんな冗談ぽく済ませられて、納得できるわけがない。
食って掛かろうとすると…いや赦しを請う側としてはその態度もおかしいんだが…Pが笑いながら言った。


「じゃ、赦してあげない! でもその代わり、夏樹ちゃんももう謝っちゃダメ、っていうのはどう?」

「そ、れは……っ」


ゾッとするほどにキツイ罰だ。
謝罪することすら封じられれば絶対に赦されることはなくて、結果永遠に心の中で謝り続けることになるんだから…。


「はは……………丁度いい…かも……。アンタ、なかなかエグイな」

「ふふっ」


でも何故か救われた気分になっていて、絶妙な匙加減を発揮してくれたPに心の中で深く頭を下げた。


「夏樹ちゃんってさ、結構カッコ悪いよね」

「ははっ……。だりーにも言われたよ…。そうだな…確かに最近のアタシはとんでもなくカッコ悪かったな…」


昨日までのアタシだったらPにけなされたとしたら烈火のごとく怒り狂っただろうに、今はもう素直に受け止めることが出来た。


「え? 何言ってるの? 初めて会ったときからカッコ悪かったじゃない」

「は……?」


Pは悪戯っぽい笑みを浮かべながら続けた。


「ロック一本じゃスターになるのが無理だったから、アイドルをやるっていうのがまずカッコ悪いでしょ?
 それにレッスンを要領よく終わらせてると見せかけて裏で必死に自主練してるのもカッコ悪いし。
 それに一番カッコ悪いのが、李衣菜ちゃんの前では特にカッコつけたがるところっ! ふふっ!
 李衣菜ちゃんに頼られたい、尊敬されていたいって思ってるのが丸わかりだよ? あとそれにね…っ」

「あっ、あっ、あっ! そ、それくらいにしといてくんないかな…っ!」


自分としては巧くやれているつもりだったのに、痛いところを突かれてどんどん顔が熱くなっていく。
きっともう茹で蛸状態だろう。


「でも…ボクは夏樹ちゃんのそういうところに憧れたんだ…」

「へ…?」

「人知れずあがいて、もがいて上を目指して、カッコつけるところ…カッコ悪いけど、でもやっぱり最高にロックでカッコいいっ!
 ボクはカッコをつけることさえできない人間だから、そんなボクにとって夏樹ちゃんは…本当にアイドルなんだっ!
 その夏樹ちゃんの役に立てるなら、ボクはどんなことだって出来る…っ」

「……はっ……それで枕やってりゃ世話ねぇよ……」

「ぁ、ぅ……っ」

「いや…、もうアンタの信念には口は出さない。思うままにやんな…。アタシはアタシでこれまで通り泥臭くカッコつけて…アンタに汚れ損だなんて思わせないようにするから…」

「夏樹ちゃん…」

「でも…アンタばっかりが汚れるのをただ見てるのはやっぱりフェアじゃない…アタシにも何かできることないか…?」

「それはだめ…。そんなの、ボクがしてる意味がなくなっちゃう。それにね…」


言いながらPは頬が引き攣るくらいに口角を上げていた。


「○○社長はもうしばらくすればいなくなってもらうから、その必要もないよ……ふふっ♪」

「は? え…?」


無邪気どころか、邪悪にしか見えないPの笑顔…それは間違いなく初めて見るものだ。
それでもアタシはその得体のしれない微笑に、不思議と頼もしさを感じてしまっていた。



「今朝渡した企画書はね、実はもう○○社長の力は借りてないんだ。あの企画が通るくらいには、もう夏樹ちゃんと李衣菜ちゃんの実力と人気があるってことだよ。
 あと、ボクとプロダクションの独自の人脈も広がってきてるし」

「そ、そうなのか? いや、じゃなくて、いなくなってもらうって…?」

「○○社長はねぇ…あぁ見えて気を許すと口が軽くなる人みたいで、色んな武勇伝を聞かせてくれたんだ。
 横領とか…。それをあの会社のNo2の人にこっそり伝えて…ね? その人は変な性癖もないみたいで恩もたっぷり売れたから、
 これからはあの会社とはとってもイイ関係になれそうかな…♪」

「は……」


驚いたというか、呆れたというか…可愛い顔して意外と…いや、コイツのエグさはついさっき知ったところか…。


「くっ……はははっ! アンタが一番だよ…Pさん…アンタ、ロックだなっ!」

「ぇ…? 名前……それに……ぅ…………ぐすっ……」


これ以上ないくらいに褒めたつもりなのに何故か泣き出してしまって、変な皮肉に取られてしまったのではないかと不安になる。
でも、それはどう見ても嬉し泣きで、良く見知った方の笑顔だったから傷つけてしまった訳ではないようだ。
さっきの野心的な表情もたまには良いが、やっぱりアタシはこっちの方が……。


「あっ」


涙目笑顔のPさんと目が合った瞬間、猛烈にカラダが疼き始めた。
いつの間にやら胸はドキドキのビートを奏でて、ハラは極上の重低音に包まれたときよりもずっと深くそして甘く痺れていた。
アタシはそれの意味するところをもう誤魔化すのはやめにする。
ここに至ってもまだ衝動的に動こうとする自分にはウンザリだが、Pさんのハートを確認できた今、アタシはどちらかといえば寧ろPさんの為に動こうとしていた。
唇をぺろりと舐めてから、湯に浸かってずぶ濡れの衣服を脱いでいく。


「なな夏樹ちゃん!? なんで急に脱ぎだすの!? 待って、浴室から出るからっ!」

「いや…出なくていい………んっ」


Pさんは出るポーズをとったくせに、アタシが腕を背中に回してブラのホックを外す仕草を顔をそむけつつ横目でばっちり見続けている。
そして肩からストラップをずらしてカップを外そうとするときには、もう完全に顔をこちらに向けて口をパクパクさせながら凝視していた。


「なぁ、Pさん…やっぱりアタシのこと犯してくれない?」

「えっ? いやっそれは……そんなの…だめだよ…っ!」


そんなこと言いながらPさんの視線はアタシの手ブラに釘付け。
そういやアソコを見られたことはあったが、おっぱいを見せたことはまだなかったっけ?


「あぁ、ニュアンスが違うな…。アタシがPさんに抱いてもらいたいんだ」

「へひぇぇ!?」

「Pさんに抱かれて…それでPさんに気持ち良くしてもらいたい…それでPさんも気持ちよくなって欲しいって…そんな気分でもう胸が張り裂けそうなんだよ…」

「あわっ…あわわ…っ!」


バスタブから立ち上がりPさんとの距離を縮めながら、だりーに謝ることがあと何個か増えそうだななんて思った。
それだけじゃなく、もし三人で仲良く…セッション、できればそれは最高にロックだななんて考えちまったアタシは、やっぱりもう本格的にアタマがおかしいんだろう。


「ま、待って……夏樹ちゃんっ! 冷静に…っ!」

「あぁ…待つよ、Pさんのペースでいい…。でも、早くしないと湯冷めしちまうかな…」

「あっ…そそそそういうことじゃなくて…っ! ちょ…あぁぁっ……………」




浴室の壁まで追いつめて…。

Pさんの方から触れてくるまでのしばらくの間、アタシはただひたすら彼の瞳を見つめ続けていた。







【終わり】


何かしら感じてもらえましたら幸いです。

コメントありがとうございます。
三人のセッションのネタはあるにはあるのですが、なつきちが更に格好悪くなってしまいそうなのでお蔵入りの可能性が高いです。
とか言いながら、一か月後には書き始めてるかもしれません

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