和田どん「叩かれるの嫌になったから、人間を叩くドン!」 (42)

―ゲーセン―

男「お、太鼓の達人がある!」

女「あ、ホントだ!」

男「ちょっとやってこうぜ」

女「いいね、やろうやろう!」

男「曲はサイレントマジョリティーな!」

女「え~、難しそう~」

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男「ほれっ、ほれっ」ドンッドンッ

女「あーん! 難しい、これ~!」ドンッドンッ

男「よっ、ほっ、よっ!」カッカッ

女「やだ~! 可ばっかり~」カッカッ



『…………』

男「よっしゃ、連打だ!」ドドドドドドンッ

女「え~い!」ドドドドドドンッ


『叩かれるのはもう嫌になったドン……』


男「――ん?」

男「お前、今なにかいわなかった?」

女「何もいってないけど?」

男「気のせいか……」


『だから……人間を叩くドン!』

ドゴォッ!


男「ぐはぁっ!?」ドサッ…

女「え、なになに!? 太鼓が動き出した!?」

和田どん「まずは一匹……だドン」

女「ひっ!」

和田どん「さぁ……開始(はじ)めるドン!」

和田どん「次はお前だドン!」

女「ま、待って! あたしが何したってのよ!」

和田どん「ボクを叩いたドン!」



ドゴォッ!

客A「なんだなんだ!?」

客B「太鼓の達人の太鼓が動き出して……暴れてる!」

客C「みんな逃げろォッ!」


和田どん「おやおや、こんなに人間がいるのかドン!」

和田どん「もう一曲、遊べるドン!」



バキィッ! ドゴォッ! ズギャッ! ドガッ! ドゴォッ!

―ゲーセン前―

ウーウー……! ピーポーピーポー……!

警部「被害は?」

部下「重傷35名、軽傷4名です。犯人は未だにゲームセンター内に立てこもっています」

警部「……犯人の要求は?」

部下「それが……何もないんです」

部下「ただ人間を叩きたいだけ、それだけだ……と」

警部「ふぅ~む、愉快犯か、はたまた精神異常者か……」

警部「犯人に告ぐ! 君は完全に包囲されている! 大人しく投降しなさい!」

和田どん「おおっ、警官がいっぱい集まってきたドン!」

和田どん「たくさん遊べるドン!」

警部「な、なんだあの太鼓の化け物は……!」

警部「ええい、撃て撃てーっ!」

パンッ! パパンッ! パンッ!

キキキキキンッ

和田どん「長年、人間どもに叩かれてきたこの肉体……」シュゥゥ…

和田どん「そんなもんじゃ屈しないドン!」

警部「拳銃が効かない!?」

和田どん「さぁ……開始(はじ)めるドン!!!」

和田どん「リズムに乗るドン!」


ドガッ! バキッ! ドゴッ! ベキッ! ドガァッ!


「ぐはぁっ!」

「うげえっ!」

「ぐぎゃっ!」


和田どん「ふぅ~……いい汗かいたドン!」ニヤ…



部下「機動隊が全滅しました!」

警部「くそっ、撤退! 撤退だっ!」

警部「なんなんだあの化け物は……!」

部下「どうしますか、警部?」

警部「う~む……」

警部「なにしろ、太鼓の化け物なんて今まで相手にしたことがないからな……」



オタク「ぐふふっ、ここはボクにお任せ下さい」

部下「誰だ君は? 危ないから――」

警部「いや、待て」

警部「君はあの化け物について、何か知っているのか?」

オタク「和田どんは『太鼓の達人』というゲームのキャラクターです」

警部「ゲームの……!」

オタク「ゲームキャラの気持ちが分かるのは、やはりボクのような人種のみ」

オタク「ボクがたちまちのうちに事件を解決してみせましょう」

部下「どうします?」

警部「うむむ……一理あるかもしれん。やってみてくれたまえ!」

オタク「和田どん……ボクにはキミの気持ちが分かるよ」

オタク「ゲームをバカにしてきたリア充どもに復讐したいんだろう?」

オタク「ボクたちは仲間だ……さあ……」グフフッ

和田どん「不可」

ドグシャッ!!!

オタク「ぶべらっ!」



部下「瞬殺でしたね」

警部「なんだったんだ、あいつは」

格闘家「ここはオレに任せてくれ」

警部「あ、あなたは……有名な格闘家の……!」

部下「拳銃が通用しなかった相手ですよ? いくらあなたでも無茶です!」

格闘家「あれはゲームのキャラなんだろう?」

格闘家「そういう輩には、心を込めた拳をブチ込むのが一番!」

部下「なんだか説得力ありますね!」

警部「うむ……この人ならやってくれそうな気がする」

和田どん「おっ、強そうな奴が来たドン!」

格闘家「いくぞ……我が拳、受けてみるがいい!」

格闘家「せやぁっ!」


ドゴォッ!


格闘家「フッ、終わった……」

和田どん「この程度かドン?」

格闘家「な、なにっ!?」

和田どん「今度はこっちの番だドン!」

ズドッ!!!

格闘家「ぐふっ!?」

格闘家(な、なんだこの重さは……!? まるでヘヴィ級トップランカー並みのパンチ……!)

和田どん「おおっ、一発で倒せないとは流石だドン!」

和田どん「もう一発……遊べるドン!」ニタァ…

格闘家「ちょ、ちょっと待っ――」

和田どん「開始(はじ)めるドンッ!」

バキィッ!

格闘家「ごふぅ!」

ドゴッ! グシャッ! メキッ! バゴッ! ズギャッ!

和田「50コンボ~」

バキッ! ガッ! ボグッ! メキャッ! グシャッ!

和田「100コンボ~」

ドカッ! ドゴッ! ボゴッ! ズドッ! ガゴッ!



部下「ひ、ひでえ……」

警部「なまじタフなのが、彼の不運だったな……」

ドゴォンッ!

和田「フルコンボだドン!」

格闘家「ぐげえ……」ドサッ…



警部「まさか……彼でも歯が立たないとは……!」

部下「どうしましょう、警部!?」

警部「こうなれば――」

―バンダイナムコ―

社員「ほう、『太鼓の達人』の和田どんが暴走を?」

警部「は、はい……」

部下「何とかしていただけないでしょうか……」

社員「ふっふっふ、私に任せなさい」



社員「壊れたオモチャは処分してあげなくてはね」クイッ

―ゲーセン前―

社員「お久しぶりですね、和田どん」

和田どん「あんたは……ボクを生んだメーカーの社員だドン!」

社員「太鼓風情とはいえ、なかなか記憶力はいいようですね」

社員「しかし、貴方には罰を与えなくてはなりません」

和田どん「拳銃も格闘技も通じなかったボクに、あんたが勝てると思うのかドン?」

社員「余り私を舐めない方がいいですよ、和田どん……」

社員「メーカーの人間として、あなたの弱点は知っています」

和田どん「!」

社員「あなたの弱点は、ずばり――」

社員「普段プレイヤーに叩かれない……側面ッ!」

ドゴォッ!



警部「なるほど! 太鼓の普段叩かれてる部分は、叩かれていたおかげで鍛えられ頑丈だが」

警部「側面は叩かれてないから弱点というわけだ!」

部下「あの一撃には、いくらあの太鼓が頑丈でも耐えられないはず! 事件解決だっ!」

和田どん「これがどうしたドン?」ニヤ…

社員「!?」

社員「バ、バカな……私の一撃は側面を直撃したはず……」

和田どん「あいにく、ボクは弱点を放っておくほどマヌケじゃないドン」

和田どん「今のボクに弱点はない!」ドン!

社員「ひ、ひいい……」ジョボボ…

和田どん「せめてもの情けとして、一発で終わらせるドン!」

バキィッ!

社員「ぐはぁっ!」ドサッ

社員(和田どんは……創造主の思惑を超えて成長しているというのか……)ガクッ

和田どん「さてと……人間叩きを続行(つづ)けるドン!」ザッザッ


部下「うわわっ! こっちに来ましたよ、警部!」

警部「もう……打つ手はない……! 全人類は彼によって叩かれる運命なのだ……!」

警部「全人類は彼のコンボの餌食となり、絶滅(クリア)させられてしまう……!」





そこへ、一人の老人が現れた。

?????「ほぉう? 太鼓の匂いがしたから来てみれば、こりゃなかなか楽しそうな祭りじゃねェか」

部下「誰だあなたは!? 危険だから下がりなさい!」

警部「いや待て!」

警部「あなたは……あなたは……!」

部下「警部、ご存じなのですか?」

警部「日本中の祭りに招かれ、和太鼓を叩きまくっているという生ける伝説!」

警部「ひと呼んで、太鼓の達人!!! ――87歳!」



太鼓の達人「おうよ、“太鼓の達人”とはオイラのことよ!」

太鼓の達人「太鼓の妖怪さんよぉ、次はオイラが相手するぜ」

和田どん「今度はジジイが相手かドン?」

和田どん「いっとくけど、ボクは敬老精神なんざ持ち合わせちゃいないんだドン」

和田どん「そのしわしわの顔面を叩きまくって、グチャグチャにしてやるドン!」

太鼓の達人「おお、おっかねえ。太鼓にそんなクチ叩かれるたぁ、長生きはするもんだ」

太鼓の達人「バチを構えるぜ」スッ…

和田どん「!!!」

この時のことを、事件を目撃していた会社員、矢寺馬夫氏(34)はこう述懐する。

「ええ……達人がバチを構えた瞬間、和田どんの動きが止まったんですわ」

「そうです。ハイ、まるで金縛りにあったように」

「蛇に睨まれた蛙? いや、そのたとえは適切じゃありませんね」

「たとえるなら……長年探し求めた恋人にやっと出会えたような――という表情でしたね」

「和田どん……い~い顔(ツラ)してましたわァ……」

太鼓の達人「あんた、和田さんっていったっけ?」

和田どん「うっ……」

太鼓の達人「あんたの反応を見て、分かったぜ」

太鼓の達人「あんたが動き出し暴れたのは、人間に復讐したかったからじゃねェ……」

太鼓の達人「オイラに叩かれたかったんだろう?」

和田どん「あ、あああ……あああっ……」

太鼓の達人「叩いてやるぜ……和田さん」

太鼓の達人「この“太鼓の達人”が、思う存分なァ!!!」

太鼓の達人「それぇっ!」

ドンドンドコドンッ

ドンドコドンッ

カカカッ

ドドンドドンッ

カカッ



警部「なんというバチさばき……迫力と繊細さを兼ね備えている。さすが太鼓の達人」

部下「子供の頃の、縁日の楽しい思い出が頭に浮かんできて、涙が出てきましたよ」ウルッ

警部「私もさ」グスッ…

太鼓の達人「そぅらぁ!」

ドンドコドンドコドンドコドンッ

カカッ

ドンドンドンッ

和田どん(嗚呼……そうだドン)

和田どん(ボクは……叩かれるのが嫌になったんじゃなかったドン……)

和田どん(ボクはずっと……真の太鼓の達人に……ボクを叩いて欲しかったんだドン……)

和田どん(ボクの望みは……それだけだったんだドン……)





和田どん(ボクは……満足……ドン……)

シュゥゥゥ……


部下「ああっ、和田どんが……ゲームの筺体に戻っていきます!」

警部「『太鼓の達人』というゲームをつかさどる者として、満足したんだろうさ」

警部「なにしろ、本物の達人に叩いてもらったんだからな……」


太鼓の達人「あばよ……和田さん。楽しかったぜ……」



ワァァァァッ! パチパチパチパチパチ…!

警部「太鼓の達人さん、事件を解決していただき、ありがとうございました!」

部下「事件が長期化していたら、死者も出ていたかもしれません」

太鼓の達人「いやいや、オイラも楽しませてもらったよ!」

太鼓の達人「それにしても和田さん……いい太鼓だったよ」

太鼓の達人「『太鼓の達人』か……これからはオイラも遊んでみるとするかな」

太鼓の達人「そうすりゃ、また和田さんが暴れることはなくなるだろうしな」

社員「あちらに筺体がございますので、ささ、どうぞ! 1プレイ100円になります!」

警部&部下(金とるのかよ……)

太鼓の達人「あれ? あらら?」ドンッドンッ

不可 不可 不可 不可 不可

太鼓の達人「なかなか難しいな、これ」ドンッ ドンッ

不可 不可 不可 不可 不可


部下「これ……一番易しい曲ですよね?」

警部「まぁ……本物の和太鼓とゲームはやっぱり違うからな」


和田どん(でも……ボクは幸せだドン!)






―おわり―

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