モルガナ「もう一度、世界を頂戴する」 (28)





???「ほう…… これはまた、変わった運命をお持ちの方がいらしたようだ…… フフ」

???「私の名は、イゴール」

モルガナ(主……?)

イゴール「……お初にお目にかかります。ここは夢と現実、精神と物体の狭間にある場所……」

モルガナ(ここは、ワガハイは……)

イゴール「本来は、何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋……」

イゴール「貴方には、近くそうした未来が待ち受けているのやも知れませんな」

イゴール「しかし貴方もこのような形で表れようとは、貴方と“先の客人”は、似ているところがあるのか……」

モルガナ(ここ、檻か……? なんでワガハイが…… 頭がぼんやりする……)

イゴール「おっと、ご紹介が遅れましたな。こちらは、ラベンツァ。同じくここの住人でございます」

ラベンツァ「お客様の更生のお力添えをさせていただきます。ラベンツァと申します」

イゴール「詳しくは追々に致しましょう…… ではその時まで、ごきげんよう……」

モルガナ(分からん…… でもなんだか、眠たいぞ……)

モルガナ(……)





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モルガナ「はっ!」

モルガナ(夢、だったのか……? なんだか、懐かしい夢を……)

モルガナ「にゃふ……」

???「やっと起きたのか」

モルガナ「あ、ああ……」

???「うなされていたみたいだが?」

モルガナ「ちょっとな…… 変な夢を」

???「大丈夫か? 学校に行く時間だが、今日は置いて行くか?」

モルガナ「いや、ワガハイもすぐに顔を洗って…… ……え?」

???「どうした?」

モルガナ「……なんで」

モルガナ「なんで、ワガハイ達、『ここ』にいる……?」

???「なんでって、ここに住んでるからに決まってるだろ」

モルガナ「それは『昨日までの話』だろ!」

???「……?」

モルガナ「昨日実家に帰ったじゃねーかよ!」

???「どうした、大丈夫か?」

モルガナ「『ジョーカー』…… お前戻ってきたのか? ワガハイが寝てる間に一緒に連れて?
     いや、それはおかしいぞ。なあ、家具もだ、小物も。一週間前にまとめて送ったじゃねーかよ!」

モルガナ「どうして全部あるんだよ! どうして全部『元通り』にあるんだ!?」

ジョーカー「落ち着け」

モルガナ「これが落ち着いてられるかよ!」


 トンットンットンットンッ……


惣治郎「おい、まだ学校行かなくていいのか」

モルガナ「っ! ご主人! どうしてこいつが、ジョーカーがまだここにいるんだよ!?」

惣治郎「お、おう、どうしたニャンコ…… モルガナだったか、腹でも減ったか?」

ジョーカー「どうやらおかしな夢を見たらしい」

惣治郎「こいつが言ってたのか?」

モルガナ「おいご主人! なんで普通に話してるんだよ!」

惣治郎「悪ぃな、生憎俺にゃ猫の言葉は分からん。お話はそいつとしといてくれ」

モルガナ「ご主人……」

惣治郎「んじゃ、カウンターに朝飯のカレーとコーヒー置いてっから、ちゃんと食えよ」

ジョーカー「助かります」

惣治郎「じゃーな、俺は双葉の飯作ってくる」


 トンットンットンットンッ……


モルガナ(ご主人はおかしいと思わねーのか……? ご主人も昨日見送ってたはずだ……)

モルガナ「こりゃ一体どういうわけだ……」

ジョーカー「とりあえず、学校に行こう」

モルガナ「学校ってまさか、シュージンか?」

ジョーカー「他にどこに行く。急ごう、遅刻する」







 キーンコーンカーンコーン


モルガナ(おかしいぞ、どうなってんだこれ……)

竜司『あ? ジョーカーが? そりゃそうだろ何言ってんだ?」

杏『学校に来てるのが? 当たり前じゃん? あ、今年はクラス別れちゃって残念……』

モルガナ(竜司や杏殿に聞いても『普通』だった……)

モルガナ(真や春、祐介にも聞きたいが、真と春はソツギョーしたらしいし、祐介の学校はどこなのか分かんねーし……)




ジョーカー「……ということだそうだ」

祐介「やろう」

真「私も賛成」

杏「私も、ほっとけるわけない」

竜司「良いんじゃね、正義の怪盗団は地道な積み重ねも大事だろ」

双葉「外道許すまじ」

春「うん、なんとかしなきゃね」

ジョーカー「モルガナは?」

モルガナ「あ、ああ…… 良いんじゃないか」

モルガナ(メメントスの探索? ヤルダバオトを倒して消えたんじゃなかったのか? ペルソナ能力だってもう……)

ジョーカー「全会一致だな」

竜司「んーじゃ、行きますかぁ!」




ジョーカー「モナ、頼む」

モルガナ(怪盗装束になった…… 能力は失ったはずなのに……)

モルガナ「ああ、分かってる」

春「何度来ても慣れないな、この風景」

真「これが民衆の心の中って考えると、ちょっと……」

モルガナ「なあみんな、何かおかしいと思わないか?」

杏「おかしい?」

モルガナ「そうだ、ワガハイ達はヤルダバオトを倒して世界を救った。しかし代わりにペルソナ能力は失ったはずだろ?」

竜司「ヤルダ…… 何?」

祐介「何を言ってるんだ?」

モルガナ「忘れたのか? ほら、メメントスの最奥部まで辿り着いたらあいつが」

双葉「メメントスの最奥部にはまだ辿り着いてないぞ?」

モルガナ「なに?」

双葉「メメントスの最奥部目指して攻略中、モナが行きたいって言うから私たちは進んでる」

春「モナちゃん、大丈夫?」

モルガナ「大丈夫か聞きたいのはこっちだ! ワガハイ達は世界を救った! 世界を盗り返したはずだ!」

竜司「おい、マジで大丈夫かモナ? なんか今日変だぞ、学校の時も『ジョーカーがどうしてここにいるんだ』とかなんとかよぉ」

杏「あ、それ私も聞かれた」

真「モナ、もしかして何か思い出したとか?」

モルガナ「あ? 思い出したも何も、ワガハイは全部……」

ジョーカー「いた、あれがターゲットだ、構えろ」

竜司「よっしゃ! いっちょやったりますか!」

祐介「悪は斬る」

竜司・祐介「ペルソナァ!」

杏「許さないんだからね!」

真「堪忍しなさい」

春「正義の怪盗団がやっつけます!」

杏・真・春「ペルソナァ!」

モルガナ「お前ら、どうしてペルソナが!」

ジョーカー「構えろモナ、来るぞ」

モルガナ「……っ」

ジョーカー・モルガナ「ペルソナァ!」

ジョーカー「アルセーヌ!」



ジョーカー「……ショータイムだ」





モルガナ「どういうことだジョーカー、説明しろ」

ジョーカー「どういうことも何も、俺たち怪盗団は正義の限りを尽くす、それだけだ」

モルガナ「そういうことじゃねーよ。聞きたいことは山ほどあるんだ」

モルガナ「『どうしてワガハイ達はこっちに戻ってきたのか』『どうして皆は普通なのか』『どうしてメメントスとペルソナ能力が再度発現しているのか』……」

モルガナ「これだけじゃないぞ、とにかく山ほどだ!」

ジョーカー「落ち着けモルガナ。今日はメメントスの攻略で疲れも溜まってることだし、今日はもう寝」

モルガナ「それどころじゃないだろ! なあ、まさかお前も忘れちまったんのか? いやまさかじゃねーな、間違いねー」

ジョーカー「忘れた? 何を?」

モルガナ「ヤルダバオトとの戦い、メメントス・ペルソナ能力の消滅。そもそもナビだってどうしてまだ使えるんだ? 消えたはずじゃなかったのか?」

ジョーカー「ヤルダバオト? 何のことだ。それにナビが消えるなんて冗談じゃない、メメントスにだって入れなくなるぞ」

モルガナ「そうだ、そうだったんだよ」

ジョーカー「モルガナ、きっと疲れてるんだ。今日はもう寝よう」

モルガナ「おいジョーカー!」

モルガナ(なんなんだ、どうなってやがる……)

モルガナ(ジョーカーだけじゃない、まさか周りの奴らまでこの状況を何とも思ってねーとはな)

モルガナ(それに何より、メメントスとペルソナ能力だ)

モルガナ(確かに12月のあの日、メメントスは消滅し、ワガハイ達はペルソナ能力を失ったはずだ)

モルガン(しかし、確かに今日はメメントスに潜ったしペルソナだって使った……)

モルガナ(…………)

モルガナ(訳が分からん、しかしこのままではまた何か……)

モルガナ(…………)



モルガナ(………)



モルガナ(……)


モルガナ(…zZ)






ジョーカー「……」








モルガナ「ん……」

モルガナ(ここは……?)

ラベンツァ「ようやく目覚めましたか」

モルガナ「ラベンツァ! ここは、ベルベットルームか」

ラベンツァ「はい、その通りです」

モルガナ「おい、おかしいんだ。ジョーカーがこっちにいる、みんなも異変に気付いてないんだ」

ラベンツァ「そのようですね」

モルガナ「どういうことなんだ?」

ラベンツァ「どうやら、また良からぬことが起こりそうなのです」

モルガナ「良からぬこと……」

ラベンツァ「そして貴方達にはまた、ペルソナ能力が宿りました」

モルガナ「ああ、そのこともだ。どうなってんだ? ワガハイ達はもう失ったはずじゃ」

ラベンツァ「ペルソナ能力は反逆の意思と力、貴方のその姿もその心の表れ」

モルガナ「確かに、この姿にまたなるとはな」

ラベンツァ「貴方はまだ、何に対して反逆の意思を持っているのか、気づいていないのかもしれません」

ラベンツァ「ですが、無意識の内に察している。何より、“彼が存在していること”に違和感を覚えている」

ラベンツァ「その違和感を忘れず、信じてください」

モルガナ「待ってくれ、それじゃなんだ。どんな奴が敵かも分からないまま戦えってのか?」

ラベンツァ「そうです」

モルガナ「これはまた、難しい勝負だな」

ラベンツァ「大丈夫です、貴方ならきっと。貴方は、人間の希望ですから」

モルガナ「言ってくれるぜ……」

ラベンツァ「それではまた、必要があれば」




モルガナ(……朝か)

モルガナ(クソ、全く分からん……)

ジョーカー「起きたかモルガナ、学校に行こう」

モルガナ「ああ……」

ジョーカー「下にカレーとコーヒーを用意してくれてるらしい」

モルガナ「……悪い、今日は一人で行ってくれ」

ジョーカー「体調でも悪いのか?」

モルガナ「いや、そういうわけじゃない」

ジョーカー「……分かった」


 トンッ、トンッ、トンッ、トンッ……


モルガナ(さて、これからどうしたものか)

モルガナ(ジョーカーの知り合いから探ろうにも、怪盗団以外の奴にはワガハイの声が聞こえないからな)

モルガナ(竜司と杏殿、祐介は学校か。真と春は学校には行ってないがどこにいるのか分からんしな……)

モルガナ(となると、まずは……)




 ピンポーン


???「うわぁ! お、おきゃ、お客さんか……?」

???「でも、惣治郎もいないし、わた、私が出るのか!?」

???「……居留守だ」


 ドンドンドンッ


モルガナ「ワガハイだ! 居留守してんじゃねー!」

???「ん? この声……」


 ガラガラ


双葉「なんだモルガナか」

モルガナ「ワガハイじゃなくても呼び鈴鳴らされたら出て来いよな」

双葉「バカか! もし強盗や誘拐犯だったらどうするんだ!」

モルガナ「そうそうねーよ、まあ良い、入るぞ」

双葉「あいよ、いらっしゃいましー」







双葉「んで、どした」

モルガナ「ああ、昨日ワガハイが言ってた話、覚えてるか?」

双葉「ああ、ヤルダバオトだっけか?」

モルガナ「そうだ。ワガハイ達はメメントスの最奥部に辿り着きヤルダバオトと対峙し、打倒して世界を救った」

双葉「昨日も言ったけどな、私たちはメメントスの最奥部には辿り着いてないぞ?」

モルガナ「そんなはずはないんだ!」

双葉「夢でも見たんじゃないのか?」

モルガナ「夢な訳あるか! あれが夢な訳!」

双葉「じゃあなんだ、言う通り私たちはメメントスの最奥部に辿り着いていたとするぞ」

双葉「ヤルダバオトとやらを倒し、世界は救われた。にもかかわらず同じ手間をかけてメメントスを攻略してるってのか?」

モルガナ「そういうことだ」

双葉「ふむ、つまりあれか。メメントスの最奥部に辿り着いてもモルガナは自分の正体は分からないままだったのか?」

モルガナ「おい待て、ワガハイの正体が分からないまま?」

双葉「ああ、だってそのために私たちはメメントスの最奥部を目指しているんだろ?」

モルガナ「いや、もう正体は分かったんだよ。最奥部で、ワガハイは何者なのか」

双葉「まじか! なんだ、人間だったのか? それとも猫?」

モルガナ「希望だ」

双葉「キボー?」

モルガナ「ワガハイは、人間の希望を集めて主に作られたんだ」

双葉「…………」

モルガナ「どうした」

双葉「いや、まあそうか、有りうるか、有りうるな」

双葉「認知世界にペルソナ能力なんてトンデモがあるんだもんな、信じよう」

双葉「じゃあなんだ、正体が分かったならメメントスはもう攻略しなくても良いのか?」

モルガナ「それなんだが……」

双葉「何か気になることでもあるのか?」

モルガナ「なぜまだメメントスがあるのか、なぜジョーカーがここにいるのか」

モルガナ「これが分からんままではどうしようもない」

双葉「ジョーカーがここにいたらまずいのか?」

モルガナ「まずいってんじゃないが、一昨日実家に帰ったはずだからな」

双葉「ジョーカーは実家に帰ってないぞ」

モルガナ「ああ、そうらしい。……なあ、一昨日ワガハイ達はどこで何をしてた?」

双葉「別に何も? 私はずっとこの部屋にいて、みんなが学校が終わる頃にルブランに行ったぞ」

モルガナ「そうか、その時みんないたのか?」

双葉「うん、みんないたぞ」

双葉「ジョーカーも、竜司も杏もオイナリも真も春も」



双葉「明智もな」






モルガナ「……アケチ?」






モルガナ「どういうことだ」

ジョーカー「そのままの意味だが」

モルガナ「……質問を変えるぞ。なぜ明智が『生きている』? なぜ明智と共に行動できている?」

ジョーカー「質問の意味が分からない」

モルガナ「分からなくても良い、答えるんだ!」

ジョーカー「おかしなモルガナだ」

モルガナ「ワガハイからすればおかしいのはワガハイ以外の全てだ」

ジョーカー「吾郎は俺たちが獅童から守った、だから生きている。吾郎の考える正義が怪盗団の方針と一致した、だから共に行動している」

モルガナ「守った? 守ったも何も、ワガハイ達の目の前で明智は……」

ジョーカー「覚えていないのか? 獅童の追手から吾郎を匿ったじゃないか」

モルガナ「シドウの追手?」

ジョーカー「ああ、怪我をした明智を奥の路地で見つけてきたのはモルガナだったじゃないか」

モルガナ「……そうだったか」

ジョーカー「少し前から様子がおかしいぞ、大丈夫か?」

モルガナ「平気だ、記憶の混濁が少しな」

ジョーカー「まさか、何か思い出したのか?」

モルガナ「思い出した? 何をだ?」

ジョーカー「モルガナ自身のことに決まってるだろう」

モルガナ「ワガハイ自身? まさか正体のことか? それならとっくに…… ああ、いや、そんなことはない。何も思い出せないままだ」

ジョーカー「……そうか、それは残念だ」

モルガナ「それより、明智の話を聞かせてくれ」




ジョーカー「……。吾郎は、世間を騒がせている精神暴走事件の実行犯だった、全て獅童の命令によってな」

モルガナ「ああ、それは覚えてるぞ」

ジョーカー「しかし吾郎は乗り気ではなかった。だが致命的な弱みを握られていた」

モルガナ「なんだそれは」

ジョーカー「初犯の事実だ。吾郎はペルソナ能力に覚醒して間もない頃、まだ扱いに慣れておらず、意図せずして精神暴走を引き起こしてしまった」

モルガナ「それをシドウに握られたった訳か、だがどうやってシドウはそれを知ったんだ?」

ジョーカー「獅童は認知訶学研究の第一人者、双葉の母・一色若葉に接触していた。そして何らかの方法で研究を乗っ取った」

モルガナ「ん? 待ってくれ、シドウは一色若葉に接触し研究内容を奪った。そしてようやく明智に出会ったってことか?」

ジョーカー「そうなる」

モルガナ「ちなみに、一色若葉はどうなった?」

ジョーカー「殺された」

モルガナ「一応聞いておくが、それは明智の仕業か? それとも別人か?」

ジョーカー「別人だ、吾郎が殺しをするはずがない。だからこそ獅童から逃れ、追われることになったんだからな」

モルガナ(明智が殺しをするはずがない? あいつは何食わぬ顔で何人もあっちで殺してきてるじゃないか!)

モルガナ「……どういう意味だ」

ジョーカー「吾郎はいよいよ獅童から精神暴走に収まらず殺しの命令を受けた、ターゲットは春の父・奥村邦和」

モルガナ「殺してないのか?」

ジョーカー「殺しはできなかった、どうしても吾郎の正義に反する。そう思い姿をくらました」

ジョーカー「しかし獅童の手下の追手は執拗に追いかけてきた、云わば吾郎は獅童の腹心だったからな。なんとしても消さなければならない」

モルガナ「で、逃げる明智をワガハイ達の手で保護、シドウを改心させるために仲間になった、そういうことだな」

ジョーカー「ああ、そうだ」

モルガナ「じゃあオクムラは生きてるのか?」

ジョーカー「ああ、生きている。改心も成功し、今は良き社長となっているそうだ」

モルガナ「なぜシドウは一色双葉は殺したにもかかわらず、オクムラは見逃したんだ?」

ジョーカー「さあ、一色若葉と違って有名人だからじゃないか?」

モルガナ「しかし、オクムラはシドウと繋がっていたのであれば、改心した時点で獅童の情報を公開するかもしれなかった……

     だがシドウは敢えて見逃した、おかしな話だとは思わないか?」

ジョーカー「確かにそうだが、その後獅童は俺たちの手によって改心された。もう気にすることもないだろう」

モルガナ「それもそうか」

モルガナ(大体整理できた。どうやら『この世界』はワガハイが『元いた世界』と微妙に異なっている。

     怪盗団の活動はおおよそ同じ、元の世界と違うのは明智が仲間になっていること、か……

     ならばヒントは明智周りにあると見て間違いないな、いや、そうでなくてはお手上げだぞ)


モルガナ「念のため確認しておくぞ、ワガハイ達はシドウを改心させることに成功、以降の活動目標はメメントスの攻略、これで間違いないな?」

ジョーカー「そうだ」

モルガナ「シドウ以前のパレス攻略はどうなっていた? 特に明智加入前後が知りたい、ニイジマ・パレスはどうだった?」

ジョーカー「……ニイジマ、パレス?」

モルガナ「っ!」

モルガナ(ニイジマ・パレスを知らない? まさか存在しなかったのか?)

モルガナ「……いや、そうか。もう1つ、明智はどうして昨日作戦に参加していなかったんだ?」

ジョーカー「個人的な調査のため、だそうだ」

モルガナ「調査? 探偵業か?」

ジョーカー「ああ、怪盗団に参加してから、より一層自分の正義について真摯に取り組みたいと言っていたからな」

モルガナ「なるほど、そっちはそっちで、ってわけか。これは確認だが、これまでに明智が作戦に不参加だったことはあったか?」

ジョーカー「無い」

モルガナ「それは、全くか?」

ジョーカー「全く無い、それどころか集合は毎回1番ノリだ」

モルガナ「……そうか」

惣治郎「おーい! 俺はもう上がるから、店の戸締り頼んだぞ」

ジョーカー「はーい! 分かりました!」

 バタン カランコロン

モルガナ「話は終わりにしよう。今夜はどこか出かけるのか?」

ジョーカー「いいや、明日はみんなとお花見だからな」

モルガナ「みんなと? 怪盗団のみんなか、明智は来るのか?」

ジョーカー「ああ、来るはずだ。誰よりも楽しみにしていたからな」

      俺は明日の朝、弁当の準備がある。だから今日はもう寝よう」











杏「お待たせー!」

竜司「おせーぞ!」

杏「女子にはいろいろ準備があんのよ!」

真「ごめんなさい、これでも急いだんだけど……」

春「電車が遅延してて……」

双葉「ま、仕方があるまい」

祐介「しかし、もうほとんど散っているな」

杏「確かに、ちょっと時期間違えたかもね」

モルガナ「へえ、今年の桜は散るのが早いんだな」

春「早いかな? 普通じゃない?」

真「例年の満開時期は3月29日あたりらしいわ」

モルガナ「じゃあやっぱり早いじゃないか」

竜司「何言ってんだ、だからフツーなんじゃねえか」

モルガナ「だって今日は3月の」

ジョーカー「良い場所が空いていたぞ」

祐介「早速陣取ろう、ここまで歩いて腹が減った」

竜司「うっし、お手並み拝見と行きますか!」








春「それジョーカーの手作り弁当なのよね?」

祐介「美しい漆塗りだ」

双葉「手作りなのか!? ジョーカーの手作りカレー! カレー食べたい!」

祐介「大盛りで頼む」

杏「お弁当だから、カレーは無いんじゃないかな」

ジョーカー「こっちは辛さ控えめだ」

竜司「あんのかよ!?」

双葉「やったー! さっすがジョーカー!」

祐介「美味い!」

竜司「食べ始めるの早すぎんだろ!」

真「みんなは先に手を洗うのよ」

ジョーカー「お手拭きは1人につき3つある」

竜司「用意良すぎんだろ!」

杏「吾郎は? まだ来ないの?」

ジョーカー「そろそろ着くらしい」

杏「そう、みんな揃ってから食べたいよね。もう食べ始めてるのもいるけど」

祐介「福神漬けはあるか?」

ジョーカー「そっちのタッパーだ」

竜司「あんのかよ!」

明智「お待たせ、ごめんね遅くなって」

モルガナ「っ!」

ジョーカー「待ってた」

明智「ハハッ、今食べ始めたって感じかな? まだ残ってるかな?」

杏「食べ始めてるの祐介と双葉だけだから、他のみんなはちゃんと吾郎のこと待ってたよ」

明智「そう? 悪いね、お詫びに寿司、買ってきたんだ」

竜司「マジか!」

ジョーカー「やったな、モルガナ」

モルガナ「あ、ああ! ワガハイ大トロが食べたいぞ!」

明智「ごめん、スーパーのだから大トロは無いかな」

竜司「残念だったな!」

祐介「イカ、貰っても良いか?」

真「こっち、吾郎のお茶も注いでるよ」

春「これ、私が育てた野菜で作った漬物なの。食べてみて」

明智「ありがとう」

双葉「おい明智! このカレーめちゃくちゃ美味いぞ! ルブランカレーだ!」

ジョーカー「ルブランのコーヒーもあるぞ」

明智「ハハッ、ルブランセットの完成だね、いただくよ」

 ワイワイ ガヤガヤ

モルガナ(明智の奴、本当に怪盗団のメンバーとして馴染んでやがる…… 双葉やジョーカーの言うことは本当だってことか……)










モルガナ「おい明智、腹ごなしの散歩に付き合え」

明智「えっ、僕? ジョーカーや高巻さんじゃなくても良いのかい?」

モルガナ「さっさと来い」

明智「あっ…… ちょっと、散歩に行ってくるよ」

竜司「モルガナと一緒にか?」

祐介「珍しい組み合わせだ」







明智「で、どうしたの?」

モルガナ「明智、お前一昨日どこで何をしていた?」

明智「一昨日? ちょっと探偵業のことで調べることがあってね」

モルガナ「作戦をサボってまで調べなきゃいけないようなことか」

明智「まあね」

モルガナ「『この世界』のことか?」

明智「……この世界?」

モルガナ「何かがおかしい、違和感のある『この世界』のことじゃないのか?」

明智「モルガナ、君は……」

モルガナ「明智、率直に聞くぞ、お前は人を『殺したことがある』な?」

明智「……あるわけないよ」

モルガナ「隠さなくても良いぞ、ワガハイは全てを覚えているぞ、『パンケーキ探偵』」

明智「……パンケーキ、ね」

モルガナ「そうなんだろ?」

明智「ああ、そうだ。僕は君と同じだ」

モルガナ「やっぱりな」

明智「驚いたよ、目を覚ましたら僕は自分の部屋で寝ていた。スマホにはたくさんの通知。

   怪盗団のチャットグループに僕は入ったまま、みんなは僕を仲間だと思っている。

   何かの罠じゃないかと思ったよ」

モルガナ「だから昨日は来なかったんだな」

明智「もちろん調査というのも本当だよ。そもそも僕は死んだと思っていた、なのに生きていた」

モルガナ「……そうか、お前にとっての違和感は『自分が怪盗団にいること』、『自分が生きていること』の2つだけなのか」

明智「ああ、そうだが、他にも何かあるのかい?」

モルガナ「ある、ジョーカーの存在だ」

明智「いてはならない、と?」

モルガナ「ここに、いてはならないんだ。あいつはワガハイを連れて3日前に実家に帰っ…… いや、違う」

モルガナ(3日前じゃない、3日前じゃないぞ! あいつら、桜が散ってることが普通だって言ってた! 日にちが飛んでるんだ!)

モルガナ「おい、今日は何月何日だ」

明智「話の途中で突然だね。今日は4月9日だよ」

モルガナ「そんなに飛んでんのか……」



明智「それで? 僕は彼がいてはならない、という話について聞きたいんだけど」

モルガナ「あ、ああ。あいつはワガハイを連れて先月下旬に実家に帰ったんだ。家具も何もかも送り届けて屋根裏は空っぽ。

     みんなもお見送りをしてくれたはずだった。だが3日前、目を覚ますと全て元通りになっていた、お前以外な」

明智「なるほどね、それは異常だ」

モルガナ「ワガハイは何としても、『元の世界』に戻る方法を見つけ出す」

明智「どうして?」

モルガナ「どうしてだと?」

明智「みんな楽しそうじゃないか、それに怪盗活動で大衆も歓んでいる。“怪チャン”だって、この支持率だ」

モルガナ(過半数ってもんじゃない!)

明智「そこまでして元に戻る必要があるのかい?」

モルガナ「当たり前だ、ワガハイはニンゲンの希望だ。『この世界』は希望など持っちゃいない、縋っているだけだ。

     怪盗団にいつまでも頼ってちゃダメなんだ!」

明智「それを君が言うのか」

モルガナ「今この世界に『本当の怪盗団』はワガハイしかいない。経験したからこそ分かるんだ」

明智「それは君のエゴであり君の正義だ、視野が狭くなっているのでは?」

モルガナ「ワガハイはニンゲンの希望から生まれたんだ! 間違っているはずがない!」

明智「まあ、別に良いんだ、何が正しいかなんてどうでも。さあ、本題に移ろうか」

モルガナ「……ああ、そうさせてもらう。

     先に言っておくがワガハイはお前を仲間だなんて思っていないし信頼もしていない、むしろ怪盗団の、正義の敵だ。

     ワガハイの知ってる双葉の母親の死因はお前によるものだし、春の父親もそうだ、当然許せない。

     だが、『この世界』では怪盗団のメンバーよりもお前の方が『ホンモノ』だ」

明智「…………」

モルガナ「だから明智」









「ワガハイと組んでくれ」




取材のために周回プレイ中です。
お待ちいただけると幸いです。







明智『断る。君と組むことはできない』

モルガナ『なんでだ!?』

明智『なんでだ、とはね。驚くことでもないと思うけど? だって僕にメリットが無い』

モルガナ『こんな偽物の世界で良いって言うのかよ!?』

明智『偽物だと思っているのは僕達だけだ、僕達が忘れさえすれば偽物ではなくなる』

モルガナ『諦めるのか?』

明智『そうじゃないよ、認知の問題さ。本物そっくりの世界、誰も偽物だと思わなければそれはもう本物だ』

モルガナ『ワガハイは諦めない!』

明智『構わないよ、君が何をしようと僕には関係ない。僕は、怪盗団だからね』

モルガナ『お前は『怪盗団』じゃねえ!』

モルガナ『おいコラちょっと待てどこに行くつもりだ!』

明智『帰る』

モルガナ『話は終わってない!』

明智『僕はこれ以上話すことなんてない。僕はもう帰るから、みんなには伝えておいてよ、それじゃ』

モルガナ『おい明智!』






モルガナ(なんでだ……)

     唯一気付いている明智なら、一時的にでも協力できると思った……

     ダメだな、やっぱりアイツは敵だ、少しでも期待したワガハイが甘かったんだ)

ジョーカー「おい、聞こえてないのか?」

モルガナ「ん? あぁ、悪いな、どうした?」

ジョーカー「さっきからずっとボーっとしてる」

モルガナ「少し考え事をな」

ジョーカー「恋煩いか?」

モルガナ「そんなんじゃねえ……」

ジョーカー「そうか。……今夜は出かけてくる」

モルガナ「分かった」

ジョーカー「いってきます」

モルガナ「ああ」

モルガナ「……」

モルガナ「……はぁ」

モルガナ(どうして上手くいかないんだ、ジョーカーは簡単に取引相手を捕まえてたじゃねえか……

     ワガハイじゃダメなのか? ニンゲンじゃないからか? キボウだぞ、お前らから生まれたはずなのに……

     やっぱり、独りでやるしかないってことか……)

モルガナ「ジョーカー……」

モルガナ「……いや、ここには『ジョーカー』はいないんだ。ワガハイがやるしかねえんだ」

モルガナ「やってやる、ワガハイだって怪盗団のメンバーだ! 心の怪盗団なんだ!」


 トンッ、トンッ、トンッ、トンッ


惣治郎「おいニャーニャーうるせえぞ、って、あいつは出かけたんだからどうしようもねえか」

モルガナ「んにゃっ! 悪ぃなご主人……」

惣治郎「あぁ? すまんな、俺ぁあいつらと違って何言ってるか分かんねえんだよ。なんだ、飯か?」

モルガナ「飯? 確かに腹も減ったな」

惣治郎「ちょっと待ってろ、カリカリ取ってきてやる」


 トンッ、トンッ、トンッ、トンッ


モルガナ(待てよ、これで良いのか? たったさっき一人で頑張るって決めたところじゃねえか。

     ジョーカーはご主人に習ってカレーの作り方を覚えてた、飯だって自分で用意できてたんだ!

     対してワガハイはご主人とジョーカーにカリカリを用意してもらうだけ……

     ダメだダメだ! 自立しろワガハイ! 飯くらい自分でどうにかしてみせろ!

     そうだ、そうじゃなきゃ世界だって救えないんだ、ヒーローがお世話してもらうなんてカッコ悪いじゃねえか!

     ご主人に頼ってちゃだめだ! 自分だけの力で生き抜くんだ!!)


 タタタタタッ


惣治郎「うお! なんだニャンコ、飯、要らねえのか!」

モルガナ「気持ちだけで十分だぜ、ありがとなご主人!」

惣治郎「……だから分かんねえんだっつーの」






モルガナ「とは言っても、どうしたもんかなぁ……」

モルガナ「ワガハイだけじゃ電車にも乗れやしねえ。電車に乗れなきゃメメントスがあるシブヤも行けねえし……」

モルガナ「クソ、現実でも車になれりゃあなぁ……」

???「ネコ?」

モルガナ「にゃぁ……(はぁ……)」

???「こんなとこでどうしたの? 野良猫? にしても毛並みが綺麗……」

モルガナ「ん? なんだ、お前、ジョーカーの行きつけの医者じゃねえか」

武見「意外と人懐っこいんだ、逃げないね」

モルガナ「ったく、言葉が通じねえってのは不便だな……」

武見「お腹空いたの?」

モルガナ「んぁ? あぁ、そうだな、結局カリカリ食べてないままだ……」グゥ

武見「へぇ、ネコでもお腹の虫、鳴るんだ。まあいいや、着いてきなよ。猫缶あるから」

モルガナ「にゃぁ(ネコじゃねえけどな)」









武見「ほら、食べな」

モルガナ(って、結局他人から食べ物恵んでもらってんじゃねえかよ!

     でもまぁ、今日のところは、仕方ねえか…… 腹、減ってるし……)

モルガナ「はぐっ、はぐはぐっ、おぉ、はぐ、これ中々、はぐはぐっ、うまっ……」カリカリカリカリ

武見「美味しい?」

モルガナ「あぁ、美味いぞこれ! さてはちょっと高いやつだな!」

武見「……っ!」

モルガナ「どうした? つっても何言ってるか分かんねえか」

武見「いや、まさか成功するとは……」

モルガナ「成功? なんのこ…… にゃぁ!?」

武見「おかわりあるよ」

モルガナ「ホントかぁ!?」パァァ

モルガナ「じゃ・な・く・て! なんでお前、ワガハイと喋ってるんだよ!?」

武見「ちょっと特別なオクスリ混ぜてみた」

モルガナ「オクスリだぁ!?」

武見「モルモット君――― 助手君がいろんなオクスリ欲しがるからさ、こういうのも試しに作ってみたんだけど」

モルガナ「ジョーカーのことか」

武見「キミ、あの子の知り合いなの?」

モルガナ「まあな」

武見「へえ、面白いね。今度あの子にも売ってあげようかな、きっとキミとおしゃべりしたいだろうし」

モルガナ(必要ねえけどな)



モルガナ「なあ、この薬、ずっと効いたままなのか?」

武見「さあ、初めて試してみたから」

モルガナ「そうか、まあ良い。邪魔したな」

武見「どこか行くの?」

モルガナ「ああ、ワガハイも暇じゃないんだ。だがこの薬は渡りに船ってやつだ、助かった」

武見「もしオクスリ切れたらここに来なよ、これも完成品じゃないからさ、いろいろ試したいし」

モルガナ(……!)

モルガナ「ワガハイにもモルモットになれってか?」

武見「そうだね、モルモット2号君」

モルガナ「ワガハイはモルモットじゃねえけどな」

武見「分かってる、ネコでしょ?」

モルガナ「猫でもねーよ!」

武見「ネコじゃないんだ」

モルガナ「それは良いんだ。とにかく、オマエはワガハイにこの薬をくれる。ワガハイはこの薬の治験体になる、そういうことだな?」

武見「うん」

モルガナ「分かった。……『取引』成立ってわけだ!」

武見「モルモット君みたいなこと言うんだね。似てるに免じて、オクスリのお代はあの子にツケといてあげる、知り合いなんでしょ?」

モルガナ「まあな。そうだ、薬が切れる前に行きたいところがあるんだ。電車に乗る方法、何か思いつかないか?」

武見「電車? キミ電車が分かるんだ?」

モルガナ「いつもジョーカーのカバンの中で一緒に乗ってたんだ」

武見「へえ、バレないの?」

モルガナ「子供にバレたこともあるが、ぬいぐるみってことでやり過ごしたぜ」

武見「へえ。なら、あの子に連れて行ってもらえばいいんじゃないの?」

モルガナ「それはできないんだ……」

武見「そう。んじゃ、人間と会話ができるうちに乗せてもらえる人を探してみれば?」

モルガナ「それしかないか……」

武見「ま、私が暇だったら乗せてあげたかったんだけどね。……私も、やらなきゃいけないこと、あるから」

モルガナ「いや、気にするな。薬だけでも大助かりだぜ。じゃ、カリカリもありがとな、また来るぜ」

武見「またね」






モルガナ(さて、まさかワガハイがニンゲンと普通に話せるようになるとはな……

     タケミもさすが、ジョーカーのかかりつけ医だぜ。

     これでようやくワガハイ一人でいろいろ調査ができるんだ、ここからが本番だな。

     でだ、これからの目的は4つ。

     まず1つ目、シンジュクの占い師。アイツの能力でこっちのジョーカーのことを調べれば何か分かるかもしれない。

     2つ目、にゅぅカマーの記者。ジョーカーの身辺調査に使えるかもしれない。

     3つ目、メメントスの実地調査。違和感のある『この世界』の問題点はジョーカー、アケチ、そしてメメントスだ。調べない手は無い。

     そして最後が、アケチだが…… あいつは一応探偵だ、記者に任せても無駄だろう。アイツはワガハイ自ら調べなくてはな。

     その為に、ワガハイをジョーカーに内緒で電車に乗せてくれるヤツを探さなきゃな……)

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