【艦これ】禍福は絡み合う触手の如し ~鎮守府水着の乱~ (238)

*息抜きのつもりが本気に

*地の分あり。むしろ半分くらいそれです。苦手な方はスルーを

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【艦これ】エラーねこのなく頃に 艦こまし編
【艦これ】エラーねこのなく頃に 艦こまし編 - SSまとめ速報
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プロローグ



禍福はあざなえる縄の如し――という言葉がある。
幸福と不幸は表裏一体であり、不幸な出来事が幸運な出来事につながることもあれば、またその逆もあり得るという意味合いの言葉だ。
「塞翁が馬」も同じような意味の言葉だったはずだ。

正直なところ、この禍福云々に関してあえて言及するなら、わざわざこんな小難しい諺で言い表すようなことでもないのでは? と思う。
昔の人間はこういう取るに足らないありきたりなことを小賢しく表現するのがよっぽど好きだったのだろう。


などと、現実逃避をするほど、その言葉がこの上なく似合う状況――もとい、その成れの果てというのが、まさに今の自分の境遇なのだろうなと俺はこれでもかとばかりに思い知らされていた。


「ロリ司令、こちらが午後の演習の報告書になります」

「そうかご苦労。だが霧島、その呼び方はやめろ。それだと俺が幼女になってしまう。訂正しろ」

「そうですね、失礼しました。ロリコン司令」

「霧島、この数日間それについて口を酸っぱくして言っているが、俺はロリコンでは断じてない。訂正しろ」

「そうですか? では訂正しますね触手大好き幼児性愛司令」

「…………」

その眼鏡カチ割るぞ霧島ぁ。
そう言いたいのを必死に抑えつけ、手渡された報告書にざっと目を通して確認印を押す。


「……それでは、私はこれで失礼しますね。ロリコン司令」

報告書が適切に処理されるのを見届けた霧島が一礼して執務室を出て行った。

……最後、呼び方がロリコン司令に戻っていたな。
触手大好き幼児性愛司令は思いのほか呼びにくかったのだろう。語感もあまり良くないからな――いや、そうじゃなくて。

「ハア"ア"ァァァァァ……あのクソ真面目な霧島までなんなんだよもうチクショーめぇ」

盛大に溜め息を爆発させて机に突っ伏す。
こんな扱いをされるほど悪いことしたかよ俺は…………確かにあれは外部に漏れたら外面は最悪だろうけど。
いやだがあれは何かの間違いで――と、俺は危うく思い出したくもないあの出来事を掘り返しそうになり、グッとストップをかける。

しかし、思い出さないようにするというのは、思い出すようにするのと同義なわけで。


結局、心理的ブレーキがほぼほぼ効かないまま、俺は"こう"なった事の発端のであるあの日に思いを馳せることになった――




「どうしたものかな、これ……」


真夏の盛りが鳴りを潜め始め、残暑が肌を焼くある日の朝。
執務机の上に置かれた二つの"それ"の処理に俺は頭を捻っていた。いや処理と言うほど物々しいものでもないけれども。

「むー……誰かに譲るか……?」

そんなことを一人でブツブツ呟いていると扉が三度ノックされる。

「提督、大淀参りました」

「ああ、入れ」

「はい、失礼します」

そう言って、大淀が静かに入室してきた。
執務用のファイルを片手にしたいつも通りの佇まいの大淀だ。


「おはようございます、提督――おや?」

すると大淀、執務机の上のそれが早速目についたようだった。まあ、これ見よがしに置いてあるからな。


物珍しげな大淀の視線の先、彼女の興味を引いたであろうそれは――榛名と大和の水着姿のフィギュアだった。


榛名の方は白一色のビキニ。大和は白と赤を基調としたビキニ。両名とも腰にはパレオ(だったか?)を巻いた大変瑞々しい水着姿となっている。

「提督? これは一体……?」

「少し前に大本営の広報部から通達があったろ。何て言ったっけ……確か、艦娘だらけの水泳大会、だったか? あれの完成品だそうだ」

「ああ、そういえばありましたね。へぇ、これがそうなんですねー……」



昨今、艦娘に対する一般人の好感度は彼女達の命がけの活躍により良化傾向にある。
しかしながら、軍事機密も多分に絡む彼女達に対して未だに偏ったイメージを持つ層の人々も少なからず存在する。

そこで大本営が誇る広報部は、艦娘達のことをよりよく知ってもらい、親しみやすい存在であることをアピールするため、イメージアップ企画なるものを度々一般に向けて展開している。

その内容は多岐に渡る。

艦娘によるボランティア活動やオーケストラ演奏会といったイベント(最近では艦娘アイドルグループのライブコンサートなるものまであるのだとか)の開催。

艦娘を題材とした書籍や映像作品等(最近では艦娘との恋愛シミュレーションゲームなるものも発売されたらしい。このあたりから俺は疑問符を浮かべ始めた)の発売。

艦娘に関連した各種グッズ(最近の人気商品は艦娘抱き枕カバーらしい。最早何が何だか)の販売。


そしてこの度、その一環として実施されることになったのが『真夏の艦娘だらけの水泳大会!』と称されるキャンペーンである。
……何だこのトチ狂った企画は。というのが俺の第一印象だ。

一部の量販店や書店・コンビニエンスストアではずれなしのクジを販売し、そのクジの当たり度によって真夏らしい格好――つまり水着姿の艦娘グッズが賞品として手に入れられるという企画だ。
普通の格好の艦娘グッズも中にはあるようだが、メインは言うまでもなく水着の方だろう。


で、今俺の目の前にある二体のフィギュアもそれぞれその一種である。

しかも――


「確かクジの賞品でしたよね? 何等の賞品なんですか?」

「大和のが一等。榛名のが二等だ」

「上二つじゃないですか。どうされたんですかこれ? もしかして広報から送られてきたサンプルかなにかで?」

「まさか。この件に関してうちはモデルやら撮影やらの依頼は一切なかったんだぞ。そんなところにわざわざこんなもの贈ってこないだろ」

「え、じゃあ……」

「ああ……昨日、二つとも俺が当てた。二回引いたらその二つだったんだよ」

「二かっ……ええっ!?」


大淀に軽く驚かれた。クジを引いた本人である俺もかなり驚いたのだから当然の反応だろう。
分母がどのくらいかは分からないが、クジを二回だけ引いて、それで一等二等を狙い撃ちする確率がいかほどのものか。

馴染みの書店の店主も目を丸くして「こんな強運の持ち主が提督なのは頼もしい限りだ」と言っていた。そう言ってくれるのは有り難いが、俺はこんなことで運を使いたくはなかったよ。

「提督。お言葉ですが、あまりこういうことで運気を消費してしまわれるのはどうかと……」

お前もそう言うと思ったよ。何も言い返せない。

「……それにしても、すごい再現度ですね」

「ん? ああ、そう……なのか?」

「ええ、お二人ともスタイルが良いですからね――」


と、そこでフィギュアを眺めていた大淀の視線がピタリと止まる。
大和と榛名のある一部分をしばらく見つめて、そしておもむろに自分の胸元へと目を向ける。

「…………ハァ」

それから天井を仰いで溜め息を一つ。その表情を窺い知ることはできない。

あー……大淀? "それ"に関して俺に力になれることはないが…………小さいのも、悪くないと思うぞ?
セクハラになるから絶対口にはしないが。

「……ふーん、そうか。すごい再現度、か。俺は現物を見たことがないから今一よくわからないが。そうなのか、これ」

「あら? 提督、お二人の水着をご覧になったことがないのですか? 私はてっきり」

「よく考えてみろ。他所の大和と榛名はどうだか知らんが、うちの二人がこんな格好して俺の前に出てくると思うか?」

「なるほど確かに。恥ずかしがってやらないでしょうね」

「プライベートでは姉妹や仲間内で見せ合ったりしてるようだがな」


異性の前で肌をあまり晒さない奥ゆかしいそのスタンス。嫌いじゃない。
しかしそうもったいぶられると、少しだけそういうのも見てみたいと思うのは男としては普通の反応だろう。
少しだけ。すこーしだけ、な。

ちなみに彼女らの姉妹には、奥ゆかしさなど放り投げて水着姿で抱きつこうとする姉と、普段から褐色肌色増し増しの漢らしい痴女みたいな妹がそれぞれいるわけだが。そっちに関してはもっと自重してほしいと切に願う。

「それで大淀、このフィギュアどうしたらいいと思う?」

「どうしたらって、普通に自室に飾られては?」

「普通の格好のフィギュアならそれでも良かったけどな。ほら、あれだ。水着とはいえ部下のあられもない姿のそれを部屋に置いとくのは複雑な気分になるというか。本人達に知られたら良い気もしないだろうし」

下手すればセクハラで憲兵コースまである。それだけは避けておきたい。


「あの二人なら喜びそうなものですけど……でしたら、いっそ本人達に差し上げては?」

「お前、自分の部屋に自分の水着姿のフィギュアが置いてあるのどう思う?」

「………………ないですね」

「だろうな」

俺だって自室に自分のフィギュアが飾られてるところなんか想像しただけで鳥肌が立つわ。
男物の水着フィギュアがあるかどうかは知らんがな?

「となると、やはり艦娘の誰かに、ということになりますね」

「そうなってくると、まず大和と同室の武蔵と金剛姉妹も除外するとして――」


と、そこからフィギュアの処遇について二人並んであれやこれやと話し込んでいると、騒がしい足音が徐々に近づいてくるのを感知した。
ああ……またなのか。


「グッッモォーニン、テイトクぅーー! モォォォニング・ラァァァァヴ!」


「ノックしろって俺いつも言ってるんだよなぁ……」

「ア"ア"ァァァウチッ!? アタマがぁぁぁぁ!」

扉を勢いよく開け放って跳んできた紅茶馬鹿の顔を片手で鷲掴んでクローしてクランチ。
俺の手の中で金剛がワタワタと悶え苦しみ始める。


「ああっお姉さま!?」

「だから抑えた方がいいといつも言っているのに……」

「ハハハ……」

「ん? なんだお前らも来たのか。おはよう」

「あ、はい。おはようございます司令。大淀さんも」

「提督、大淀さん。おはようございます」

「はい。おはようございます。お二人とも」

金剛に続いて入ってきた姉妹のうち、霧島と榛名が扉を閉めて俺と大淀に挨拶をする。
比叡は頭を締め上げられてる金剛を前にあたふたしていて、それどころではないようだ。


とりあえず金剛の頭から手を放すことにする。

「いい加減学んでほしいものだな。ノックはきちんと。あと廊下を走るな。駆逐艦にだってできるぞこのくらい」

「Sorry……でも、テイトクだって悪いんだカラネ?」

「は?」

「ワタシのテイトクへの迸るLoveが、この身をテイトクのもとへ早く速くと駆り立てるのデース。そう、いわばこれはテイトクのGuilty――」

「今度は両手でいくか」

「ア"ア"ア"ァァァ、マイヘェェッド!?」

「お姉さまぁぁぁっ!」

再び悲鳴を上げる金剛とやはりあたふたする比叡。

朝っぱらから俺は何をしているのだろうな。







「それで、何か用か?」

「はい。用と言うほどではありませんが、司令を朝食にお誘いしようと思いまして」

「ご迷惑でなければ、ですが……」

「迷惑も何もあるかよ。大淀も一緒に来るか?」

「はい。私もよろしければ」

唸りながら床で頭を抱える金剛とそれを介抱している比叡を他所に、落ち着いた雰囲気で話が進む。
やっぱり金剛型の下二人はこういうとき大人しくて助かる。
変なところで面倒くさいのは上二人同様だが。

と、そこへ再びノックが三回。


「提督よ、武蔵並びに大和。入室するぞ」

「ああ、入っていいぞ」

「ん。失礼する」

扉越しにそう返して武蔵が、その後ろから大和が執務室に入ってきた。

「おはよう。武蔵。大和」

「ん。おはようだ、提督」

「はい。おはようございます。今朝は随分と賑やかなのですね」

「ちょうどいつも通り金剛を返り討ちにしてやったところでな。それで、お前たちは何の用だ? ああ、あれか。昨日の演習の報告か?」

「そうだ。報告書を出すついでに久しぶりに朝メシでも一緒に、と思ったんだが。どうやら先を越されたようだな」

「そうか。だったらお前達も一緒に行くか?」

「いいのか? ではそうさせてもらおう。大和もそれでいいか?」

「ええ。私は提督とご一緒できるのならよろこんで」

「じゃ、それで」


随分と大所帯な朝食メンバーになってしまったな。
そんなことを思いながら武蔵から報告書を受け取り、それを執務机の上に置いておこうとして――ふと、思い出す。

何か忘れてないか、と――

「うん? 机の上に何かありますね――」

するとそこで、金剛を看ていた比叡が何かを見つけたようだ。

「「あ」」

そこでようやく、俺は机の上のフィギュアの存在を思い出した。
どうやら大淀も忘れていたらしい。
そして俺がそれについて言及するよりも早く、比叡が声を上げる。

「金剛お姉さま、これ榛名と大和さんのフィギュアですよ! しかも水着の!」

「What's!?」「おや……」「何だと?」「「え・・・・・・」」


一斉に視線が比叡と机の上に向く。
しかもなんということだろうか。モデルになった二人もちょうど今ここにいるわけで。
これは早めに弁明しておかねば。

「あー……あのな、それは――」

「ワーオッ、ホントデース! あられもナイ姿の榛名と大和デース!」

「おい馬鹿。語弊があるだろその言い方」

「ほぉう、これは中々……そうか、お前もついに……ふむ」

「何勝手に納得してる武蔵。いいかこれはだな――」

「いやー司令がこういうのを集めていらっしゃるとは意外でしたねー…………私じゃなく榛名の、というのは少しばかり不満がありますが」

「霧島少し黙ろうか。あと最後何て言った?」

「は、はるにゃはっ、は、恥ずかしい格好の榛名を提督が持っていても、ぜんぜんっ、大丈夫れすっ!」

「全然大丈夫じゃないやつだなそれは」

「て、提督? あの、その……お、お手柔らかに、お願いしますね?」

「一体何のことを言ってるんだ大和?」


「ヘーイ、テイトク! どーして榛名と大和ナノ!? ワタシのFigureは?」
「それはむしろ私が欲しいです! 司令、もし持ってるなら私にください!」
「いっそ四姉妹フルコンプで揃えてほしいところですね、司令?」
「は、はるなは、四人全員恥ずかしい格好でもダイジョウブですっ!」
「その理屈でいくなら、私のもあってしかるべきだと思うのだがな。どうなんだ、提督よ?」
「えっ、ちょっと、武蔵!?」

ええいもうっ。一人だけならまだしも、こんだけいると騒がしくて説明がしづらい。
頼むから少し黙ってひとの話をちゃんと聞いて?
君ら比較的大人だろ?
俺泣くぞ? いい歳した大人の俺が。


とりあえずここまで。もう一方のやつと並行して書いていければと思います


ちなみに私は6回引いて榛名さんと大和さんがいらっしゃいました

来年、ぼくは死ぬのかな? と、思いました(小並感)

さぁさ行きましょうか





「――と、いうわけだ」

その後結局、大淀の助けを借りてようやく話をすることができた。
ああ……どっと疲れた。

「司令、あのーその……あまりこういうことで運を使われるのは、いかがなものかと」

「同感だ。そういう運気や幸運は大規模作戦までとっておいてほしいものだ。験を担ぐ意味でもな」

うちの火力担当眼鏡共が大淀と同じことを言ってきた。
何だ、眼鏡組はそういうの気にするタイプの連中なのか? この分だと鳥海あたりも同じことを言いそうだ。

「Oh……この榛名の、もしかしてワタシのよりBigger?」

「ふーむ、どうでしょう……でもこれは、私よりは確実に大きいですよ。お姉さま」

「ちょ、二人ともどこ見てるんですか!?」

霧島以外の三姉妹が榛名フィギュアを囲んで何やら話し込んでいる。
……あまり聞かない方が良さそうだ。

「うわぁ……こんな、露出の多い……うわぁ……」

一方大和は、よせばいいのに、顔を真っ赤にしながら自分のフィギュアを手に持って色んな角度から観察していた。怖いもの見たさだろうか。
こちらも今はそっとしておこう。


「まあ、それで。俺が持ってるわけにもいかないから、誰か貰い手はいないかと大淀と話していたわけだ。なぁ大淀?」

「ええ、そうですね」

「ん? 何故貰い手を探す必要がある? お前の部屋に飾ればいいだろう」

「武蔵お前、自分があんな姿になったフィギュアを上司が自室に飾ってたらどう思う?」

「どうって、私は別にどうとも思わんが…………ああ、なるほどな。確かに、一理ある」

未だに顔を赤くしてフィギュアを見ている大和の方を一瞥して武蔵が頷く。
どうやら俺の言いたいことを分かってもらえたようだ。察しがよくて助かる。

「榛名の方も多分そうだろうから、気まずい思いをさせないよう誰かにくれてやろうと思ってな」

「そういうところは変に気が利くのですね、司令は」

「それはどういう意味だ霧島?」

「いえ何でも。というか、そんな手間をかける必要はないと思いますよ」

「何? どういうことだ?」

「気を回すだけ無駄、ということですよ。榛名、あと大和さんも少しいいですか?」

「? 何ですか霧島?」「は、はいっ。何でしょう?」


唐突な霧島の呼びかけに榛名と大和が寄って来る。
大和は少し慌てていたのか、フィギュアを持ったままパタパタとやってきた。まさか気に入ったのだろうか?

「少しお聞きしたいのですが。司令が自室にお二人の水着フィギュアを飾られていたら、どう思いますか?」

「な、おま……」

どんだけストレートな物言いをしやがるこの自称艦隊の頭脳は。ついに武蔵と同じ脳筋眼鏡になり果てたか。

こんな聞き方された二人が「正直気持ち悪いのでやめて欲しいと思うけど、何て言ったらいいんだろう」みたいなニュアンスの苦笑とも愛想笑いともとれるような表情でこっちを見てきたら、俺はこの後の執務を全て放り投げてでもフィギュアの貰い手探しを敢行するぞ?

そうなったら執務は全部霧島に丸投げすることにしよう。確か今日の秘書艦ではなかったはずだが、知らん。


「えっ……えっと、それは……」

「………………」

ほら見ろ、やっぱりこういう反応になるだろうが。
大和は口ごもるし、榛名は黙り込んだまま目も合わせてくれない。
丸投げ決定。

「あの……正直に言うと、すごく、恥ずかしいのですが……」

「はい。榛名も、想像するだけで……顔が熱くなってしまいます」

今日の秘書艦は……おお、鳥海だ。
良かったな霧島。同じ眼鏡四番艦同士仲良く執務に励んでくれ。

「でも、大切にしてくださるのなら、私は全然構いません、よ?」

「榛名も……そのフィギュアを榛名だと思って見てくださるなら…………っ、せ、正確には、榛名がモデルになったわけではないですけどっ!」

とりあえず、まずは掲示板に張り出しでもして――って、ん?

「はい? お前達、それで本当にいいのか?」

「ええ。提督のお好きなように」

「はい。榛名も大丈夫です」

「……………」

「とまぁ、こんな感じですし」

「……そうか、分かった。善処しよう」


心なしかしたり顔の霧島。少しイラッときたが、まあいい。
どうやらセクハラ容疑はかけられずに済むようだ。
俺が気まずいという問題はまだ解決していないが。

とりあえず箱に入れて棚の端にでも置いておこう。無難に。

「ハァ……まあいい。遅くなったが、とりあえず食堂行くぞ」

疲れたし、腹が減った。執務前までに早く回復しておきたい。

そう考えながら歩き出そうとした――その時だった。



「ところで司令。これ、どっちの方が可愛いと思いました?」



と、比叡の言葉。

その瞬間、何故だろうか。執務室の空気が固まったような錯覚を覚えた。


「あ、どっちが綺麗か、でもいいんですけど。どうです――って、あれ?」

少し遅れて、比叡も雰囲気がどこかおかしいことに気づいたようだった。

「Oh……比叡」

「ハァ、お姉さまはまったく……」

「比叡さん……」

「思ってもあえて口にしなかったのに、お前というやつは……」

「「………………」」

頭を抱える金剛と嘆息する霧島。
可哀そうなものを見るような目をする大淀。
呆れたように肩をすくめる武蔵。
そして笑みを浮かべたまま固まる榛名と大和。

俺も最初は「何か変なこと言ったか?」と思ったが……なるほど、面倒くさいことを聞きやがったなこいつ。と、遅れて理解した。

「……まあ、比叡がKYなのは今に始まったことではないデスからネー。仕方ないデース」

「ちょ、お姉さまヒドいですっ」

「そうですね。仕方ありませんね」

「霧島まで!?」

「でも、そういうところも比叡さんのいいところでもあると私は思いますよ?」

「フッ。違いない」

『フフフフフフ』と彼女達が微笑みあう――それがふいに一斉に俺の方を向いた。


「で、どっちがイイんデスかテイトク?」

「おい、今うやむやにして微笑ましい感じで誤魔化す流れだったろうが金剛」

「ン~~それでも良かったんだケド、もう言葉として出ちゃったシ、正直なところワタシも気になってたカラ……ねぇ?」

「そうですね。仕方ありませんね」

「ええ。そうですね」

「はっきりさせておくのも一興だろう」

「ですよねですよねっ」

何だこの団結力。怖い。

「ささっ、司令。気合い、いれて、答えてください」

「何も遠慮はいらんぞ。さあ」

「ぐっ……お前ら」

両手に二人のフィギュアをのせて比叡が迫る。


「ホ~ラ、司令~どっちが良いんですか~?」

「そら、どっちの水着がいいんだ?」

「ほらほら早く答えるデース」

「…………そうだな、俺はどっちも――」

「"どっちも良いと思うぞ?"は無しでお願いしますね、提督?」

読まれた……!? クソ、流石大淀。
というか、お前はこういう時は俺を助けてくれる側だと思ってたんだけど。

「あ、あの、みなさん。それ以上は……」

「提督も困ってますし……」

「はーいお二人は少し下がっててくださいねー」

助け舟ならぬ助け艦・大和と榛名が霧島に阻まれる。
そこはもっと強気で助けに来てほしかった。

孤立無援。いつから執務室はアウェーになってしまったのか。
こいつらこういう話題で妙なノリになるところが本当に手が付けられん。女子かよ。


「………………」

仕方ないので、突き出された二人のフィギュアを改めて見比べることにした。
正直、どっちが良いかと聞かれても……本当にどっちも良いとしか言えないのだ。

このフィギュアの再現度が文句なしという前提があるのなら、実際の二人の水着姿もさぞかし素晴らしいものなのだろう。
健康的な肌。スラリと長い脚。引き締まった腰回り。出るところはちゃんと出て――ああ、駄目だ。これ以上はいろいろマズい気がする。

「ん"~~~~~…………」

「あ、あの司令。そんなに怖い顔で唸らなくても……」

「うるさい。お前達がどっちか決めろと言ったんだろうが」

「そこまで悩むことですか」

「まあ、提督の気持ちも分からんでもないがな」

と、そこで武蔵がまるでこちらを思いやるかのようなことを言い出した。


「何かを選ぶということは何かを選ばないということだからな。言動が慎重になるのも仕方ないというものだ」

「そうネー。Fair mindなテイトクのことだから、二人に気を遣って答えに困るのも無理ないネ」

「私達の自慢の姉妹だからな。どちらも甲乙つけ難いというのもあるだろう」

うんうんと頷き合う金剛と武蔵。
言い出しっぺの金剛にそれを言われるのは何か違う気もするが。
ともかく、どうやらこれでひとまずの平穏を得た――



「まーそれでも、榛名の方がCuteに決まってマスけどネ?」「だがまぁ、うちの大和には勝てないだろうがな」



「「…………ん?」」



――と、少しでも思った俺が馬鹿だった。

今日はここまで


Availコラボのデザインが良さげでびっくり。でもピンクは勘弁な

はい、お久しぶりです。
投下しますです。


「ン~~武蔵? 今とーっても気になること言いませんでシタ?」

「奇遇だな。私も今同じことを聞きたかったところだ、金剛」

「「………………」」

「……いやいや。確かに大和のSwimwearもPrettyでLovelyだケド、やっぱり榛名の方がBetterだと思いマスヨ?」

「妹思いなのはいいことだがな、より魅力的なのはと聞かれれば大和の水着の方に軍配が上がると私は思うぞ?」

「「………………」」


「「………………フ、フフフフ。ハハハハハ。ハーッハッハッハッ!」」


素敵な三段笑いを披露してくれる金剛と武蔵のやりとりが怖くてたまらない。
俺だけじゃない、この場に居る誰もが今にも爆発しそうな二人の様子に戦々恐々としていた。

そして――


「Don't be silly! うちの榛名の方が可愛いに決まってマース!」

「そちらも可愛いのは認めよう。だがその上で、やはり大和の方が一歩抜きんでているというのが何故わからん!?」

「それなら聞くケドっ、この純白のSwimwearと榛名のCombinationが生み出す清楚さと可愛らしさ、"守ってあげたくなる女の子"感、大和に出せますカ!?」

「それは違うぞ金剛。そういった雰囲気を醸し出すのも大切だが、結局のところ女の水着姿の魅力というのはいかに色気をふりまけるか、だ。見てみろ大和の胸と尻を。榛名にあれは真似できまい!」

「Styleなら榛名だって悪くないデース! それに榛名は努力もちゃんとしてマース。陰でBust up exerciseだって頑張ってるんだからネ! 追いつくのも時間の問題デース!」「お姉さま!? どうしてそれを!?」

金剛の暴露に比叡と霧島がうんうんと頷く。知らぬは本人ばかりなり、ということなのだろう。
……そうか、そんなことをしているのか、榛名。


「第一、大和のBustだっていつもあのけしからん徹甲弾ブラで盛ってるの、ワタシ知ってるんだからネ! どーせ水着のときだって盛ってるんでショ?」

「愚問だな。確かにお前の言う通り、少しばかり見栄を張るため、あとついでに申し訳程度の胸部防御力を得るために大和はあのブラを着用している。だが流石に水着のときまで着けはしないさ。どうやったって隠しようがないからな。そもそも、あれが無くても大和の胸は十分デカい」「ちょっと武蔵っ!? 何を言ってるの!?」

武蔵の反論に比叡と霧島と大淀がうんうんと頷く。確かにあれを差し引いても大和の胸部は驚異的なサイズを誇っている、と思う。
……そうか、それでも見栄を張りたかったのか、大和。

「ぐぬぬぬぬ……」

「もう止めよう金剛。どうやらお前と私とじゃ平行線のようだ」

「……そのようデスネ」

ようやくその結論に至ったらしい。
だがそこに至るまでに榛名と大和は洒落にならない損傷を心に負ったようだった。主に羞恥で。
部屋の隅を見れば、壁に向かって塞ぎ込む榛名と大和の姿が。
そしてそれを慰める比叡と霧島と大淀。


金剛と武蔵はお互い自慢の姉妹のためを思っての議論だったのだろうが、結果この始末だ。どう収拾をつけるつもりなのか。

もうすでに嫌な予感はしているのだが。

「やはりここは第三者からの意見が必要デース」

「ああ、同感だ。そういうわけで――」


「テイトク、どっちがいいデース?」「提督よ、どっちがいいんだ?」


「結局俺に戻って来る流れなんだよなぁ。知ってた」

無言の圧力をかけてくる二人の視線が突き刺さる。
あと視界の端で比叡達もこちらを見つめてくるのが見える。

何かしら言わないとこの場は収まらないのだろう。
俺としても早く終わらせて朝食に行きたい。さっきから腹が減って仕方ないのだ。
かと言って、適当なことや迂闊なことを言えばもっと面倒なことになるかもしれない。発言には気を付けたいところ。
ああ、なんて面倒くさい。


まったく、たかがフィギュアの一つや二つごときで何故朝からこんな目に遭わねばならんのだ…………ん? フィギュア?

――そうだ。閃いた。

「なぁ二人とも。俺からも一応確認しておきたいんだが。お前達の言う"どっちがいい?"というのは、そのフィギュアのどっちの出来がいいかという意味か? それとも、榛名と大和の水着姿のどっちがいいかという意味か? そこらへんはっきりさせておきたい」

「モチロン後者デース!」

「無論後者だ。まぁ最初は前者だった気がするが、今となっては些細なことだろう」

「そうか……それなら悪いが、お前たちの問いには答えられそうにないな」

「Why!? この期に及んでまだ渋りマスカ!」

「日和見は良くないな。男らしく決断してもらおうか」

「そうは言うがな、そもそも前提がおかしいのだから答えようがないわけで」

「何だと?」

「どういう意味ネ?」


……フッ、かかった。

「いいか? お前達が判断材料として提示しているそれはフィギュアだ。どんなに再現度が高い出来映えだろうとあくまでフィギュア、人形――どうしたって本物のそれよりは劣る代物だ。それだけを見て本人達の水着姿に優劣をつけろというのは些か無理がある」

「そ、それは……」

「む……」

「し・か・も、モデルになっているのは他所の鎮守府の榛名と大和。うちの鎮守府自慢の榛名・大和本人ですらない。なのにそれを参考にしろと? さらに加えて、俺は二人の本物の水着姿など一度たりとも目にしたこともない。それでどうやって甲乙つけろと? 言っておくが、想像力とやらで補うのも限度があるからな?」

どうだこの完璧な理論は。ぐうの音も出まい。
この状況ならば紅茶馬鹿と脳筋眼鏡を相手に、たとえT字有利を取られようと負ける気がしない。思わず高笑いしてしまいそうだ。

さあ、さっさと諦めて朝食にしようじゃないかEveryone。俺は、腹が、減っている。

「確かに、テイトクの言う通りデース。失念してマシタ……」

「ああ。私としたことが、そんなことにも気付かずに言い合っていたとは……恥ずかしい限りだ」

反省してくれたのなら重畳だ。これからも今日の事を教訓として、俺になるべく面倒をかけないようにしてくれると助かる。

さぁ、早く食堂へ行こう――




「うん? だったら、実際に水着を着て見てもらったらいいんじゃないですか?」



――と、そこで比叡の言葉。

おや、デジャヴかな?


「「「え?」」」


俺と榛名と大和の声が重なった。

「そうデース! Figureじゃ判断できナイ。本物も見たことがナイ。だったら本物の榛名達のSwimwearをテイトクに見せて決めてもらえばいいのデース!」

「それなら確かに何の問題もない。でかしたぞ比叡!」

「流石はワタシの自慢の妹ネ!」

「え、そんなぁ。エヘヘヘ……」

しまった、そっちは想定していなかった!
ていうか比叡貴様ぁ! 一度ならず二度までも余計なことを……ッ!


いやだが待て。逸るな。そもそもそんなこと榛名と大和が許容できるわけがない。


「あ、あのお姉さまっ。榛名、提督の前で水着になるのは――」

「No problemネ榛名! ワタシが、いやワタシ達が、どこに出しても恥ずかしくないようCoordinateしてあげるヨ!」

「榛名の水着で司令をギャフンと言わせてみせるんだから!」

「ええぇぇぇぇ……!?」


「武蔵? あのね? そんなに気を遣わなくても大丈夫よ? それに、ほら、そんなの恥ずかしいし――」

「大和。女は度胸、何でも試してみるものさ。なーに心配するな。持っている武器はこちらの方が上なのだからな。それらを前面に出して一点突破。これだ!」

「お願いだから話を聞いてぇぇ……!」


そうだよなー押し切られるに決まってるよなー奥ゆかしいにも程がある二人だからなー。

「そうと決まったら善は急げネ! 早速着替えに行くヨ、榛名! テイトク、Just a moment!」

「ええっ!? 今からですか!?」

「こちらも行くぞ大和! 出遅れるなよ! 提督、ちゃんと待ってるんだぞ?」

「ちょ、そんな、待って武蔵ぃぃ!?」

「だぁぁぁっ、いい加減にしろっ! 俺は腹が減って――」


「お二方、お待ちください!」


今にも姉妹を引きずって走り出そうとしていた金剛と武蔵に、突然の待ったがかかる。
入り口に仁王立ちしていたその声の主は、霧島だった。

今度は何だ。俺はもうついていけないよ。

「この勝負、私に預からせていただけないでしょうか?」

「霧島? 一体どういうことネ?」

「お姉さま。そして武蔵さん。私思うのです。せっかくあの榛名と大和さんが司令の前で水着になるのです。今からパッと着替えてパッと司令に見せて『ハイ、どっちがイイでしょー?』では……あまりに味気ないと思いませんか?」

おいおい何を言い出すつもりだねこの脳筋眼鏡2ndは。

「どうせやるのならもっとしっかりと、多角的に二人の水着の魅力を競い合う正式な決闘の場を設ける、というのはいかがでしょうか? 勿論、公平を期すために私はあくまで中立――そうですね、司会進行あたりなどに身を置くつもりです」

「ホホゥ、それで徹底的にやり合おうというわけデスカ」

「なるほどな……面白い、その勝負のった」

「ワタシ達も望むところデース」

「フフッ、お二人ならそう言うと思っていました」


何故競う当人じゃないのに盛り上がってんだこいつら。
そして霧島。お前ただイベント事でマイクが握りたいだけだろ。

「そういうわけなので、今はどうか矛をお納め下さい。後日改めて勝負の場を設けますので。司令もそれでよろしいですか?」

「へ? あ、ああ」

まさか俺に確認を取ってくるとは思ってなかったので少し驚いた。
ん? 後日? 今じゃなくていいのか。ならもうなんでもいいさ。

「そうだな、時間があるときなら俺は構わんぞ。まあ、ほどほどにな」

「ご許可いただき、ありがとうございます。それでは榛名、大和さん。早速詳細を詰めていきたいのでご同行お願いしますね。とりあえず食堂に行きましょうか」

「あの、霧島? 本当にやらないとダメ?」

「私としても、できればもっと穏便に……」

「二人とも……覚悟を決めてください」

「Yeah! Let's Goネ! テイトク、See you later!」

「あ、待ってくださいお姉さまっ。司令、失礼しますね」

「ああまで言ったんだ。今度はしっかり白黒つけてもらうぞ? じゃあな提督」

「それでは、私もお先に失礼しますね。また後程」


両脇に榛名と大和をホールドした霧島を先頭に、騒がしい金剛型と武蔵、大淀がぞろぞろと去っていった。

あとに残ったのは俺だけ。一分前の喧騒がまるで嘘のよう。
どうやら俺と朝食に行くのは無しになったようだ。
……少し、すこーしばかり寂しい。

などと思っていると、開け放たれた扉の影からヒョコっと鳥海が顔を覗かせてきた。

「あ、おはようございます、司令官さん。本日の秘書艦、鳥海参りました――けど、何かありましたか? 結構な人数が執務室から出てきたみたいでしたが」

「あーそうだな…………俺にもよくわからん」

「はあ……」

一応、場を収めてくれた霧島に感謝をするべきなのだろう。まーた何か面倒なことになったような気もするが。

だがよくよく考えてみれば、悪いことではないのかもしれない。
霧島のことだから、まさか執務の邪魔になるようなことはしないだろうし。
水着見て"どっちがいいでSHOW"するだけなら大事にもならないだろうし。
何より、あの榛名と大和が水着を披露してくれるというのだから…………ん、悪くない。あの二人には悪いが、少しばかり楽しみにさせてもらおう。


しかしまあ、とりあえず。今やるべきことは――

「腹が減った。いい加減食堂に行こう……いや、今行くとあいつらにまた出くわすかもしれん。鳳翔に頼んで何か作ってもらうか。お前も一緒にどうだ?」

「はいっ、ご一緒します」

笑顔で頷いた鳥海を見て、俺は鳳翔に二人分の朝食を依頼するべく内線の受話器を取るのだった。





しかし、俺は失念していた。

あいつらが何かを企んで、それが俺の想定内で終わるわけがないのだということを。

そしてそんな時、あいつらは俺に対して一切容赦をしないのだということを。








「ところで鳥海。昨日宝くじの三等が当たったと言ったらどうする?」

「わぁっ、すごいですね! おめでとうございますっ。あ、でも、そういう幸運はできれば大規模作戦の時に発揮していただけると……あ、す、すいませんっ、差し出がましいことを……」

やっぱりお前もそう言うのな。

今回はここまで。

もう一方のやつもなるべく近日中に更新するので許してつかぁさい。なんでもしまかぜ。

さぁさ。いくザマス。



「やっぱりSwimwearで競い合うと言ったらBeach Flagsがイイネー」

「それでは身軽な榛名に有利になってしまうだろう。オイルレスリングなんてどうだ? くんずほぐれつ、色気もあって提督も喜ぶだろう」

「んー……それだと今度は体格に差がある大和さんが有利になっちゃいますよ。公平な勝負にするのは難しいんじゃないですか?」

「ではクイズ勝負というのはどうでしょうか? これなら公平だと思いますが」

「水着でクイズ大会というのは少しばかり地味かと……ああでも、野球拳式にすれば盛り上がるかもしれませんね」

「それじゃパレオ込みでも三回しか脱げないヨ。それならアレとかどうネ。間違える度にslopeが上がって池にドボーンするノ」

「それは面白そうだ。そういうのは明石のやつに頼んだら作ってくれるかもしれんな」


「「………………」」


ガヤガヤと賑わいを見せる朝の食堂の外。いくつかのテーブルが並ぶテラスの一角。
戦艦四人と軽巡一人が額をつき合わせるようにして何事かを話し合っていた。
言うまでもなく、榛名と大和の水着対決についての会議である。

矢継ぎ早に繰り出されるのは勝負の種目案についての諸々。
最早対決する本人達のことなどまるで慮ることのないそんな意見の数々に、榛名と大和は暗い顔を俯かせて絶句していた。傍から見れば死刑を待つ囚人と錯覚してしまいそうなほどである。

「しかし、これだけのことをするとなると大分大がかりになってしまいますね。会場の手配とかも必要ですし。時間もかなりかかりそうですし……少し難しいかもしれません」

「ムムム……やっぱり審査だけで勝負するしかナイのカナ~?」

「「…………ホッ」」


検討の結果、無難な水着審査だけで事が済みそうであることにそっと胸を撫で下ろす当事者二人。
だがそれでも最低限水着姿を晒すことになっていることに気づき、すぐに消沈した。

そんな無難な平穏に向かって停滞しつつあった場に乱入する者があった。

「Hi! ヤマト! そんなDownerな顔してどうしたの?」

「わぁっと……って、アイオワさん? もう、びっくりするからいきなり抱きつかないでください」

「Sorry Sorry. みんなもGood morning!」

「アイオワさんいきなり走っていかないで――あら、皆さん。Buon giorno」
「まったく忙しないんだから……これだからアメリカは――ん? ああ、Buon giorno. 今日も賑やかそうね」

突然後ろから大和に抱きついてきたアイオワに続いて、イタリアとローマが金剛達のテーブルにやって来た。
どうやらこの三人で一緒に朝食をとっていたところらしい。


「それで、何話してたの? Funnyなコト?」

それぞれ挨拶を返した面々にアイオワが尋ねた。
彼女と肩を組んだままの大和はその瞬間遠い目をした。

「実はですね――」

かくかくしかじかと大淀が事の顛末を話すと、アイオワ達は三者三様の反応を見せた。

「Wow! ヤマトとハルナのSwimwear Contest!? Fantastic!」

「あら~、それは何というか……大変そうですね」

「また相も変わらず馬鹿なことを考えたものね。やれやれ……」

「でも時間とかセットとかの問題で企画が難航してまして。このままだと今一盛り上がりに欠けるというか……」

「I see. Hum……」

霧島の話を聞いて、アイオワは何やら考え込むような素振りを見せる。
すると突然、頭上に電球を浮かべたような表情になった。


「ねぇ。そのContest、Meも出ていいかしら?」

「はい?」

「競うRivalが多い方がContestは盛り上がるモノよ? それにMeだってAdmiralにSwimwearを見てほしいわ」

「Hey! ちょっと待つデース! これはうちの榛名と大和の女のPrideをかけた一騎打ちデース! 空気を読むネ、アイオワ!」

「チッチッチッ……コンゴウ。ニッポンのことに疎いMeでも流石にわかるわよ? Airは読むものではなく、吸うものよ」

「全然わかってねーデスこのAmeri艦! ほら武蔵も何か言ってやるデース!」

「私は別に構わんが? 相手が一人増えたところでうちの大和の勝利は揺るがないからな」

「あら、言ってくれるじゃないムサシ。このBiggest Battle ship class のBody……ヤマトにだって負けてないわ。もちろんハルナにもね」

「フッ、面白い」

「"面白い"じゃないデースこのBattle junky共ガー!!」

「これは、困りましたね……」


急な展開に頭を抱える金剛と眉をひそめる霧島。
しかし事態はここで止まることはなかった。

「あの~でしたら私も参加したいのですけど~……」

恐る恐る、しかしはっきりと。イタリアまでもが参加表明を出したのだ。

「え!? ちょっと姉さんっ、何言ってるの1?」

「あの、ほら。今年の夏は提督に水着をお見せする機会がなかったから……」

「わざわざ見せる必要だってないわよ。それに百歩譲って見せることにしたとしても、なにもこんな馬鹿騒ぎに混ざらなくたって――」

「ローマ、私だって戦艦よ? 名誉は戦って勝ち取るわ」

「訳が分からないわ姉さん!?」

「Yeah! 話が分かるわねイタリア。Meと一緒にヤマトとハルナに目にもの見せてあげようじゃない!」

「ええ。もちろん、あなたにも負けないわよアイオワさん」

「望むところよ!」

「姉さんお願いだから戻ってきて!?」


手を取り合って意気投合するアイオワとイタリアに、慌てふためくローマ。

そして更に、そんな騒ぎを目ざとく見つけてやって来る者たちがいた。

「何? 朝から騒がしいわね、あなた達は」
「あ、みんな。Guten Morgen!」
「Guten Morgen. それで、これは一体何の騒ぎだ? アイオワがまた何かしでかしたのか?」

喧騒に誘われやって来たのはドイツ勢のトップ3。ビスマルク、プリンツ・オイゲン、グラーフ・ツェッペリンの三人だった。

「またとは何よグラーフ。今日はまだ何もしてないわよ。実はね――」

かくかくしかじかと、今度はアイオワの口から事の顛末が語られる。
彼女は当事者ではなかったので、大淀から聞いた話に若干の尾ひれがついたり背びれがなかったりしたが、概ね聞いた通りをドイツの三人に話して聞かせた。


「へぇ……面白そうじゃない。そういうことなら当然、この私も参戦しないわけにはいかないわね。まぁ? 競うまでもなく私が一番なのはわかりきっていることだけど」

「ハイハイッ、ビスマルク姉さまっ。私も出たいです!」

「勿論構わないわ。私とあなたとグラーフで一位から三位までの表彰台を独占してやるわよ」

「待てビスマルク。何故私も参加することになっている? 御免被るぞ。こういう催しは私には向いていない」

「何を言っているの。そんな大層な胸ぶら下げといて水着コンテスト出ないとかあり得ないわよ。勝てる勝負をみすみす逃すつもり?」

「なっ……!? い、いやしかしだな――」


「ヒエ~~なんだか大事になっちゃう気が……」

「ああ……これ本当にどうしましょう。って、あれ? そういえば金剛お姉さまは……?」

「………………」

やけに静かだと思い、比叡と霧島が目を向けると、金剛は俯いたまま口をつぐんでいた。
しかし、その肩は小刻みに震えている。


((あ、これそろそろ"来る"かな))

二人がそう思った時だった。


「みんないい加減にするネー!!」


一喝。その場にいる誰もがピタリと話を止め、金剛を見た。

「これは榛名と大和の決闘ダッテ言ってるのに勝手にメチャクチャにして、もう怒ったんだからネ! みんなしてそんな勝手なこと言うナラ――」

(流石お姉さま! 頼りになります!)

(さあビシッと言ってやって下さい。お姉さま)

((できればこのまま中止の方向でどうか……!))

だがそんな比叡達の期待や榛名と大和の祈りも虚しく――


「そんな勝手言うんだったら――ワタシだって出てやるんダカラ!」


((((ええぇぇぇ!? そっちぃ!?))))



「榛名に悪いと思って遠慮してたケド、ワタシだってテイトクにもっとApealしたいデース!」

「お姉さまはすでに先々週、水着で司令に迫ってたじゃないですか!」

「あんなんじゃ全然ダメヨ! あの朴念仁にはチクリとも刺さらなかったネ! だから今度は確実に悩殺してやるデース!」

「ああ……金剛お姉さま…………」

これもう止められないやつだ、と霧島が諦めかけた時。

「まったく、やれやれだな金剛。呆れ果てたぞ」

「武蔵さん……」

そう、まだ彼女がいた。
大和型二番艦・武蔵。冷静かつ堅実に艦隊を率いるその姿は、誰もが頼り憧れる大戦艦。
彼女ならばひょっとすると、この場をうまいこと収めてくれるかもしれない――

「お前までそう言うのなら――私も出ねばならんだろうが」

――そう期待した自分が愚かだったと霧島は思い知った。
やはりあれは脳筋だったのだ。


「そういう訳だ大和よ。お前とも敵対してしまう形になるが、すまないな」
「え、いや、あの……」

「自分勝手な姉でSorryネ、榛名。でもやっぱりこれは譲れないのデース」
「えっと、そもそも榛名は……」


「だが、決戦の場でお前と競えるのを楽しみにしているぞ大和」「正々堂々、ワタシとも勝負デース! 榛名!」


((ああー……これやっぱり逃げられないやつですね……))


そうして金剛達がワイワイと騒いでいると、一体何事かと艦娘達がぞろぞろと集まって来た。

「お、なになに~どしたの?」
「北上さん、近づかない方が……」

「あれ? みんなどうしたんだろう?」
「ぽい~?」

「何か騒がしいなオイ」
「あら本当~。何かしら~?」


その他大勢。
鎮守府でもトップクラスに目立つ面子がこうも騒いでいれば、気になってしまうのも仕方ない話であった。
そして結果――

「ほぉーう、面白そうじゃーん。私も出たいなー」
「もう鈴谷? 淑女がそうみだりに肌を見せるのはあまりよろしくありませんわよ?」

「山城、腕が鳴るわね……!」
「まさか出る気ですか姉さま!?」

「何!? 夜戦!? 夜戦なの!?」
「違います姉さん」

「いっひひ~。水着でもあたしがいっちばーん!」
「うふふ。私のちょっといい水着、みせちゃおっかなー」

「水着、だと……ッ!?」
「長門? 何で鼻血出してるの?」

「そうか、やはり瑞雲か」
「あーはいはい瑞雲ね。瑞雲瑞雲」

――こう話が広まっていくことになるのは当然の帰結であると言えた。


「あの……霧島さん、これは……」

「………………」

恐る恐る声をかける大淀に対して、霧島は無言だった。
しかし彼女にはこの場において言うべきこと――やるべきことが、もうわかっていた。


「分かり申した皆の衆! この霧島、分かり申したでございますぅっ!」


突然勢いよく立ち上がり、良く通る大声で彼女はそう言った。語調がおかしくなるのは毎度のことである。

「皆さんの意気込みよく分かりました! その上で申し上げましょう」

毅然とした態度で彼女は告げる。
そう、彼女は決意したのだ。


「この霧島――ここに"鎮守府水着コンテスト"の開催予告を宣言いたします!」


この流れに乗らないでどうする――と。彼女の中のお祭り好きな司会者魂がそう告げたのだった。

本日はここまで

大会開始までもう少しかかるんじゃよ

さぁさ、いきましょう
提督の苦難編その一


五日後



「――さて、と。今月の海域の制圧度は……」

昼下がりの廊下を歩きながら手元の報告書に軽く目を通す。
毎月月末頃に提出される各海域の制圧率をまとめた報告書で、これを見て必要であれば追加の作戦を立案するのだ。
しかしながら、どうやら今月はその必要はないようだ。

「ま、今月は休府日のある月だったからな」

休府日というのは、この鎮守府に制定された二ヶ月に一度の完全休日のことだ。
完全の名の通り、全艦娘と提督である俺はもちろんのこと、妖精から物資の搬入業者に至るまで鎮守府関係者全員がもれなく休める唯一の日である。
この日に仕事をしているとすれば食堂にいる間宮と伊良湖と調理補助当番の艦娘数名くらいなものだ。しかもそれも朝食時のみ。


ただし、付近の海域に深海棲艦が現れれば当然完全休日だろうと緊急出撃もあり得る。
そうならないために、この日がある月の艦娘達は普段よりも気合いを入れて海域攻略に乗り出す。"確実に休みが欲しいなら徹底的に"というわけだ。

その甲斐あって、今まで一度も休府日が妨げられたことはない。
今回の休府日は三日後。無事に迎えられそうだ。

俺としても非常に有り難い。この日は溜まっている本や戦艦模型やらにいい加減手をつけたいと思っていたところだからな。
鎮守府の自室にいると構ってちゃんな駆逐艦やら軽巡やら戦艦やらが邪魔しにくるだろうから町まで出て、そこで久しぶりにのんびりと趣味に没頭できる休暇を楽しむのだ。
良い。実に良いぞ。


「……しかし。それにしても今回はやけに念入りだな」

休府日のことを加味しても、今月後半の戦闘における追撃回数や敵艦の撃破数が著しい増加を見せている。それも五日前ぐらいから。
何かあっただろうか?

「あ、司令。ここにいましたか」
「お、ホントだ。おーい、しれーかーん!」

考えながら歩いていると、正面から誰かの声が聞こえてきた。

「ん? ……ああ、霧島と青葉か」

手元の書類から目を上げると、廊下の向こうから霧島と青葉が早足にやってくるのが見えた。

青葉は相変わらず首からカメラを提げており、霧島は片手に書類らしきものと小さなクーラーボックスのようなものを肩から提げていた。
クーラーボックス? 何故に?


「どもです司令っ」

「見つかってよかった。探しましたよ司令」

「探したって、どうかしたのか?」

「はい。実は三日後の休府日に第一訓練場を使用する許可を頂きたくて」

「訓練場? なんでまたそんな日に?」

「詳しくはこちらの方を」

そう言って霧島は手にしていた書類を丁寧に差し出してきた。
どうやら申請書らしいそれを受け取り、俺は目を向けた。

「えーと……使用申請場所と、使用申請日。使用目的は、イベント…………"第一回 ドキッ!? 艦娘まみれの鎮守府水着大会! ズドンもあるよ"?……何だこの頭の悪そうなタイトルは」


「ひどーい! せっかく青葉が頭を捻って考えたのに!」

「お前が? ……そうか、なるほど。納得だ」

「一体何に納得したんですかぁ!?」

「いや別に。で、何だこれは?」

「端的に言いますと、水着コンテストですね」

「水着…………ん? そういや霧島、榛名と大和の水着対決はどうなったんだ?」

あれからまるで音沙汰がなかったからすっかり忘れていた。
あいつらのことだからお流れになることはないだろうと思っていたのだが。

「ですから、これがそうです」

「は? いやこれがって、一対一の対決にしてはやけに規模が大きいようだが?」

「ええ。実は――」


それからかくかくしかじかと、霧島があれからの事の顛末を聞かせてくれた。
要約するとつまり――

・あの二人の対決で公平かつ盛り上がれる競技の選別が難しい。しかも規模と時間と手間もすごいことになりそう。

・それなら対決内容をあえて水着審査のみにし、参加人数を少し増やせばそこそこ盛り上がるのでは?

・そんな話をしてたら参加希望がぞろぞろと。ならば乗るしかない。このビッグウェーブに。

・今に至る。

――といったところ。

……ちょっと待てや。


「いやいやおかしいだろ? 規模が大きくなるのを最初避けてたのに結局こうなったら本末転倒もいいとこじゃないか」

「司令、そこは発想の逆転というやつです。規模が大きくなる? それならいっそ大きくなっちゃってもいいさ、と。幸い今月は休府日のある日でしたから、開催をその日にすれば問題ありませんでしたし」

「ええぇぇ……いや待て、これそもそも榛名と大和の一騎打ちが元だったんだろ? こんな大事にしたらあまり意味が――」

「そこは大丈夫ですぅ! 榛名さんと大和さんには審査のトリを飾っていただくので、対決の意味合いも薄れません!」

「当然他の方の水着も素晴らしい仕上がりが予想されるでしょうが……まあ、あの二人ならそれに喰われない良い勝負ができるでしょうと判断いたしました」

「それに規模を大きくしても他の娘が協力してくれますし!」

「普通に二人の水着見て勝敗決めるだけじゃ駄目だったのか?」

「「それだけじゃつまらないじゃないですか」」


ああ……まーたこれだよ。お祭り好きここに極まれり、だ。
そしてようやく理解した。連中、このためにいつも以上に海域攻略に精を出してたってわけか。

まったくこいつらは…………まあ、楽しそうにしているようだし。別にいいか。

「分かった、許可する。申請書にはあとで判を押しておこう。ああ、あと言うまでもないとは思うが、くれぐれも仕事に支障のないようにな」

「心得ております司令。ありがとうございます」

「司令官、ありがとうございますぅ! よーし、これで心置きなく準備が進められます!」

「ええ、そうね」

ワイワイキャッキャッとはしゃぐ二人。年頃の見た目に似つかわしい様子が微笑ましい。

惜しむらくは、俺はそんな彼女らが当日楽しんでいる様を見ることできないことだ。


そう、俺はその日町でのんびり過ごすともう決めているのである。
こんなあからさまに色々激しそうな催しなんて見てたら心が休まる気がまるでしない。
しかも規模が規模なだけに丸一日つぶれてしまうだろう。せっかくの休日なのに。

榛名と大和の水着姿を見損ねるのは些か残念ではあるが、致し方ない。またいつか機会があったら見せてもらおう。

「俺は当日見に行けないから無茶はあまりしてくれるなよ? 問題が起きてもすぐに対応できないからな」

そう言い残して、俺は「それじゃ」と声をかけてその場を後にしようとした。

「「はい?」」

すると、霧島と青葉は間の抜けたような声を漏らした。


「え? 司令官今何て言いました?」

「ん? 問題が起きてもすぐに対応できない――」

「いえ、その前です前」

「当日見に行けないから無茶するな?」

「「は?」」

「は?」

「「え?」」

「え?」

「あの、司令官? まさか来ないつもりですか?」

「ああ。その日はちょっと別件があってな。残念だとは思うが」

「ちょっと司令、榛名達の水着を見て下さるのではなかったのですか? 困ります。司令はいらっしゃるものと思って審査員をやってもらうつもりでしたのに」

「そんなこと言われても俺だって困るわ。確かに構わんとは言ったが、それは榛名と大和の二人だけの場合だ。まさか休府日まで使って参加者何十人もの規模になるとは微塵も思ってなかったよ。ほどほどにしろと言ったはずだろうが」


「で、でも司令官っ、水着ですよ? あの娘やあの娘の可愛い水着やエロい水着が見たくないんですかぁ!?」

「正直休みを使ってまで見たいとは」

「それでも男ですかぁ!?」

だって、可愛らしいのは割と普段から変わらんだろうし。中大破したら水着よりもっと扇情的な格好になってたし。今更な感が。

「そもそも別件とは一体何なのですか? 外出されるのですか?」

「あー…………」

外で本読んだりしてのんびり過ごすんだよと正直に告げようとして、思い留まる。
そんなこと言おうものなら、こいつらときたら「そんなのいつでもできるでしょう?」とか「そんなことよりこっち来てくださいよ!」とか言い出しかねない。いや絶対言う。


「……実は、久しぶりに実家に帰ろうかと思ってな」

嘘だ。
面倒くさいのであまり帰りたいとは思っていない。

「ご実家、ですか?」

「そう。去年の年末は帰れなかったからな。この機にちょっと、と思ったわけだ。親も寂しがっているかもしれんしな」

勿論嘘だ。
あの両親は俺が帰省しても「あら来たの」と淡白な反応しかしてこない。
挙句これ幸いと家の大掃除を手伝わせるまである。人類の守護者たる鎮守府の提督も実家ではただの労働力なのだ。

「へーそうですかー……」

「………………」

「そういうわけだ。すまんが審査員は他を当たってくれ」

そして俺は今度こそ「それじゃ」とその場を後に――


「まったく、駄目ですよ司令? 嘘をついては」


――しようとしたら、霧島にそんなことを言われてしまった。

今回はこれで

今年もそろそろ水着の季節が……来る

ではいきます
提督の苦難編その二


「…………嘘、だと?」

「はい。司令は次の休府日、実家に帰るつもりなどないのでしょう?」

「おいおい何を根拠に――」

「カワカド書店の二階……」

「……!?」

ぼそりと青葉が聞き流せない単語を呟いた。

「司令官、あそこの店主さんと仲がよろしいみたいですねぇ…………そこで休日を過ごされるんですか?」

バレている。俺が行きつけの書店の個室を借りて休日を過ごそうとしていることが完全にバレている。

俺の憩いのシークレットプレイスが割れていることには今更驚かないが、どうしてその日に俺がそこへ向かうと知っている? 誰にも話していないはずなのに――


「とぼけても無駄ですからね? 大淀さんから話は伺っておりますので」

――って、そうだったー大淀には少し前に話してあったんだったー。
まさかそこから漏れるとは。クソぅ、あいつなら大丈夫だと思って話したのに。

「それで……どうされます?」

どこか勝ち誇ったような顔の霧島。
この問いはつまり、俺に予定通りの休日を過ごすのか、それとも考えなおして水着コンテストに審査員として参加するのかを聞いているのだろう。
それと同時に、"前者を選べばどうなるかわかってんだろな?"と暗に言っている――ような気がする。

具体的には、休みを満喫中の俺のもとに刺客を差し向けて妨害してくるといったところか。
何それ怖い。ヤクザだよこいつら。


――と、まあ。そんな扱いを度々受けている身としては"ああ、またか"という心境になるわけで。
そして、この後の流れも概ね決まってくる。大体俺が折れて事が進むのだ。

だが――

「ハァ……まったく。仕方ない奴らだな、お前たちは」

「それでは……」

「ああ。お前たちの希望通り、俺も参加してやるよ――――とでも言うと思ったか馬鹿共が!!」

「「ええぇぇぇ!?」」

驚きを隠せない二人。
そうそう、その顔が見たかった。


「あまり俺をナメないでもらおうか! 毎度毎度お前らに流されるままだと思うなよ? 阻めるものならやってみろチクショーめが!」

「うわっ、何かやけっぱちですよこの人! もーいいじゃないですか。休日ゆっくり過ごすなんていつでもできますよ?」

「それがいつもできてねーから言ってんだろうがよぉ青葉ぁ! 毎回毎回非番の日にまで誰かしらが絡みに来るせいで自分の事ができやしない。それに俺知ってんだからな! その内の三割くらいにお前が関わってることを!」

「ギク……! い、いやいやでも、それは司令官がみんなに愛されてる証拠で――」

「俺のことを愛しているなら、たまには気ぃ遣って平穏な休みを寄越せと言わせてもらおうか!」

「分かりました。そういうことでしたら、司令の休府日の次の非番の日には誰も司令の邪魔をさせないようにいたします、というのはいかがですか?」

「残念ながら霧島よ、それはそれであてにならん。"そんなこと知ったこっちゃねーぜヒャッハー!"と俺のところに来る奴がこの鎮守府に何人いると思っている?」

お前のところの長女とかな。


「それにさっきも言っただろう。毎度毎度お前らに流されるままだと思うなよ、と。ここらで一度抗っておかないと、お前たちは際限なく調子に乗るからな」

「えーそんなぁ!? 行きましょうよーしれいかーん」

「嫌でい。今度という今度は折れんぞ」

わーわー煩い青葉を前に腕組みしてふんぞり返ってみせる。
俺の心はテコでも動かんという鋼の意思表示である。徹甲弾でも貫けぬと知るがいい。

「なるほど。それではどうしてもコンテストには来ていただけないと?」

「まあ、そうなるな」

「……そうですか。残念です」

そう言って霧島は溜め息を一つ。気落ちしたように肩を落とした。どうやら引き下がってくれるようだ。
おやおや、今日はやけに素直じゃないか――


「本当に残念です…………できればこれは使いたくなかったのですが……」

――と思っていたら、霧島が肩にかけていたクーラーボックスに手を伸ばしているのが見えた。

何だ? 秘密兵器でも出すか?
悪いが比叡のクッキーとかでもなければ俺の決意は揺るがない――

「実はこんなこともあろうかと、比叡お姉さまにクッキーを――」

瞬間、俺は駆けだした。
霧島に背を向け、脇目も振らず、初速から最速を絞り出す。火事場の馬鹿力とはまさにこれと言わんばかりの全力だ。
今の俺は島風すらも凌駕する――

「残念! ここは通しませんよー」

――しかしまわりこまれてしまった!


「青葉そこどけぇ! 俺の命に関わる!」

「んー気持ちは痛いほど分かるんですがねぇ……」

「駄目ですよ青葉さん。しっかり足止めしてください」

「おま、ふざけろ霧島ぁ! それは流石に洒落にならんぞ!?」

「当然です。洒落ではなく本気ですから。私には実行委員長としてコンテストを絶対に成功にさせるという責任と義務があります。そのためには司令の参加が必要不可欠なのです。手段は選んでいられません」

「でもそれ俺が死んだら元も子もないやつぅ!」

「ええ、ですから…………分かっていただけますね?」


満面の笑みであった。龍田のそれと近しいものを感じる。
"これを口に捻じ込まれたくなければ……分かってんな?"という、この上なく容赦のない脅迫っぷり。テロリストかよこいつら。秘密兵器どころか決戦兵器まで持ち出してきやがって。

……ああ、まったく。本当にこればかりはどうしようもない。命は惜しい。要求を飲むしかない。



――なーんて、こいつらは考えるているのだろうな。




「…………ク、ククククク、フフフフフ。フハハハハハッ!!」

「えっと、司令……?」

「何て見事な三段笑い……恐怖のあまり気でも違ったんでしょうか?」

「いやいや違うよ。つくづく俺もナメられたもんだなぁと……あまりにも滑稽で可笑しくてなぁ。つい」

「? それはどういう意味でしょうか?」

やれやれ、やはり分かっていないようだ。
俺はおもむろに廊下の窓際へと歩み寄り、手近にあった窓を一つ開け放った。

「ま、まさか飛び降りるつもりですかぁ!?」

「おやめください司令っ! ここ三階ですよ!?」

的外れも甚だしい。誰がそんなことをするものか。



「まったくお前らは――――詰めが甘いんだよぉっ!」


そう高らかに言い放ち、俺は勢いよく振り返りながら懐から"それ"を取り出した。

それは、ボタンが二つ付いているだけの、手の平サイズの小さな何の変哲もないただのリモコンである。

「そ、それはっ!?」

「まさか……っ!?」

しかし、俺の手に握られたそれの意味するところを知り、霧島と青葉の目が見開かれる。

「そのまさかだ――見るがいい、これが俺の力だ! 来いっ、護衛特務艦・神通ぅ!!」

雄叫びと共に、俺は頭上に高々と突き上げたリモコンのボタンの一つを押した。



突然だがここで説明しよう!
"護衛特務艦"とは、この鎮守府の最高指揮官である提督を護衛する、いわばセキュリティポリスの任を担う艦娘のことである!
提督は自分の身に危険が迫っていると判断した時、または執務を妨害する障害が目の前に現れたと判断した時に、任意でこれを呼び出すことができるのだ!

通常、出撃前・演習・訓練等以外で艦娘の地上での艤装の装着は禁止されており、艤装を装備していない艦娘の基礎体力は見た目相応の一般人と変わらぬレベルにまで抑えられる。
しかし、護衛特務艦に指定されている艦娘は例外として艤装の一部の常時着用が許可されているのだ!

一部着用のため、出力は通常着用時の三分の一程度だが、それでも護衛としては十二分な能力を地上でも発揮できるのだ!

現在、護衛特務艦に指定されているのは機動力に優れた川内型軽巡の三人。
朝05:00から夕方17:00までの担当は神通、それ以降から翌日の05:00までの担当は川内、二人とも鎮守府にいない場合は那珂が補欠として担当している。(なおこの三人がいない時は秘書艦が臨時でこの任を帯びる)

そして彼女達は鎮守府のどこにいようが、どんな状況であろうが、提督のコールがかかってから三十秒以内に提督の元へと全速で駆けつけ、正義と力の執行者となるのである!



「恐れ慄け! たとえ戦艦と重巡だろうが、艤装のないお前達に神通は止められんぞ! 覚悟するがいい!」

「"これが俺の力だ!"とか言って、結局他力本願じゃないですかぁ!」

「知った事か! さあ、あいつにみっちり絞られるがいい! フハハハハハ――!」

何だか自分でもキャラがおかしくなっているような気がするが、まあいい。これで俺だってやるときはやるのだぞという意思を示せただろう。

初めて神通を呼んだとき、執務室の窓ガラスをぶち破って来たことを踏まえて、念のため窓から突っ込んできても大丈夫なように窓も開けておいた。
急いで来るのはわかるが、毎回ガラスを破られるのは勘弁してほしいからな。
……川内みたいに天井裏突き破って来られたらどうしようもないが。

さてさてさーて、そろそろ来る頃だろう。


――と、思っていたのだが。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………あれ?」

来ない。それどころか近づいてくる気配すらない。
おかしい。神通ならもう姿を見せてもいい頃合いなはずなのに。

どうした、何故来ない? さっき食堂で見かけたからいないことはないだろうし、出撃も今日はなかったはず。トイレか?
まさか、このコールスイッチが壊れていたりとか? もう一回試すか――

「残念ながら司令、神通さんなら来ませんよ」

さらっと、とんでもないことを言われた。

今回はここまで

ちなみに、コール一回につき、川内は夜戦三回権、神通は一日秘書艦権、那珂はライブ開催一回権が与えられるそうな

こっちもいくデース


「…………何、だと……?」

「私達が彼女達のことを失念するわけがないじゃないですか。既に対処済みですよ」

「対処済みって……まさかお前ら、神通にそれを……!」

あいつにそのバイオ兵器を食わせたというのか……!? 目的のためなら同僚すら犠牲にするとはなんて非道な――

「あ、いえ。取引きを持ちかけたら協力を承諾してくれました」

「はあぁぁぁ!?」

「青葉さんが激写した秘蔵写真数枚を差し上げることを条件に、この時間帯の司令からのコールを無視してくれるようお願いいたしました」

「あ、神通さんを責めちゃダメですよ? 最後までとっても悩んでましたし、青葉たちが若干ゴリ押したところもありましたから。まあでも、あの娘も女の子だった、ってことで!」


「馬鹿な、あの神通が悪に屈しただと……!? 一体どんな写真を条件にすればそんなことが罷り通るんだ……」

「そりゃモチロン司令官の――ゲフンゲフン。いえ何でもないです」

「待ておい今何つった――」

「そういうわけで司令、そろそろ観念してください」

「――ってクソっ、それどころじゃないか……!」

神通があてにならないと分かった以上いつまでもここには居られない。自力でなんとか突破しなくては。
しかし突破した後は? こいつらが簡単に諦めるとは思えないし、仮に逃げ切ったとしてどこに逃げ込めばいい? 大淀や神通のこともあるから他にも協力者がいるかもしれない。逃げた先がそれでは完全に詰んでしまう。あ、お腹すいた。いやそうじゃなくて、そもそも……って、ああもう面倒だ。こうなったら窓から飛び降りてやる。3階? 知るか。最悪足が逝くだけだ。命に比べれば軽い――


「とりゃあ! 隙ありです!」

「ぬおっ!? しまった……! ええい離せぃ!」

「わわっと! ちょっと、じっとしてて下さいっ!」

ぐだぐだと考えているうちに背後から青葉に羽交い絞めにされてしまった。
迂闊ッ、考えるより前に動くべきだった……!
しかもこいつ意外と力が強い。艤装はなくとも流石は重巡というべきか。
あと俺の背中に決して小さくない膨らみが当たっている。お前いいのかそれ?

「ナイスです青葉さん。そのまましっかり捕まえていてください」

「りょーかいです!」

「りょーかいですじゃねぇこの馬鹿!」


ジタバタする俺と青葉に向かって、霧島がゆらりと動く。
霧島はしゃがんで小脇に抱えていたクーラーボックスを静かに床に置き、留め金を外し、フタを開け放つ。
するとボックスの中からは白いもやが溢れ出した。
湯気?――いや違う、あれは冷気だ。

「いやいや待て待て、なんでクッキー入れてるボックスから冷気が漏れてくるんだ。おかしいだろ」

「お気づきになられましたか。実はこのクッキー、常温だと急激に昇華してしまうので、致し方なくこのように保存してあるのですよ」

「それ生物が口にしていいモノの最低条件すら満たしてねぇじゃねーか!」

昇華ってあれだろ? 固体が液体の過程すっ飛ばして気体になることだろ? そんなのドライアイスぐらいでしか見たことないぞ。絶対クッキーがやっちゃいけない状態変化だぞ?


「まあまあ、とりあえずご覧になってください」

そう言って霧島は氷か何かが敷き詰められているボックスの中から取っ手のついた円筒形の金属製ケースを取り出した。
次いで取り出したケースのフタを取り外し、備え付けのピンセットの先をその中に突っ込んだ。


そして霧島がピンセットで挟んだそれを取り出すと――――空間に穴が開いた。


…………いやいやいやいやおかしいおかしい。

あまりの光景に自分の頭か目がおかしくなったのかと疑ったが、よーくよーく目を凝らすと、その正体がわかった。


それはただの黒い物体なのだ。それもただ普通に黒いだけではなく、一切の光沢がなく物体表面の凹凸すらも判別できないほどの真っ黒さ。
あまりに黒すぎるため、ピンセットで摘まれたそれが存在する空間だけぽっかりと穴が開いたように錯覚してしまったのだ。
そう、それはさながらブラックホールのように。

しかも霧島の言った通り、どんどん気化していくせいか空間を侵食するように闇色のもやがそれから立ち昇っている。

そういえば聞いたことがある。
ベンタブラックとかいう、ほぼ全ての光を吸収するという超黒物質なるものが存在するという話を……。

「司令。これが比叡お姉さまがお作りになられた……チョコクッキーです」


なるほど、チョコクッキーならぬ超黒ッキーというわけか。
こやつめ、なかなかうまいことを言いおる。ハハハハハ………………笑えない。


そうだな。もう正直、改めて言うまでもないとは思うが――これ食べ物じゃないよ。


嗚呼、比叡。お前はどこにいても俺の平穏を妨げるというのか――――


「さ、司令。どうされますか?」

「こんなの食べたら、司令官消滅しちゃいますよ?」

前方には笑顔でダークマターを突き出す霧島。

背後には自分の胸を押し潰さんばかりに抱きついてまで俺を拘束する青葉。

そして、逃げ場も逃げる手段も最早思いつかない俺。


眼前に迫る死の瘴気に、俺は――――








「今回の説得は少し手こずりましたねぇ。まさかあんなに抵抗するとは……根回しはしておくものですねぇ」

「悪い気はいたしますが、仕方ありません。今回のイベントは司令がいなくては成り立ちませんから」

「んーでも口約束で大丈夫ですかね? 一応参加表明を一筆書かせておいた方が良くありませんか?」

「そこは大丈夫でしょう。司令はたとえ口約束でも、それを違えたりはしませんから。それはあなたも知ってるでしょう?」

「……そうでしたね。司令官ってば、あんな風に無理矢理何か頼んだ時は嫌そうな顔を隠しもしないし、隙あらば愚痴を垂れ流したりしますけど、一度引き受けたことをすっぽかしたり、途中で投げ出したりしないでなんだかんだで最後までちゃんと付き合ってくれますもんね」

「ええ。そして私達はそれに甘えてしまっている、と。フフフ、司令からすればたまったものではないでしょうね」

「アハハ、そうですねぇ」


「………………」

「………………」

「…………あてにならない、と司令はおっしゃっていましたが。司令が次の非番の日をゆっくり過ごせるよう、みんなにきちんと言い含めておきましょうか」

「あ、青葉も手伝いますよ。禁を破った人は恥ずかしい秘密を号外で暴露しちゃいます!」

「フフ、ありがとう………………ところで話は変わるのだけど、例の写真……私にもいただけないかしら?」

「えーあれですかぁ? かーなーりのレアものですよぉ?」

「そこをなんとか――」

「そうですねぇ――」



今回はここまで

やべぇよ今年の夏があと一月くらいで終わりそう

こちらも生存報告を
夏が終わりそうですが、知ったこっちゃねーと水着大会を書くつもりです
懲りずに待っていただければ幸いです

あい、すんません。こちらはまだかかります。
首を長くしてお待ちください。

はい
少しだけですが許して下せえ



"水着コンテストの審査員として提督の参加が正式に決定"

その報せはその日のうちに鎮守府中に拡散した。
発端を考えれば"まあ、そうなるな"という今更な一報であったが、その各所への影響力は小さなものではなかった。

例えばそう――





「く、くぅまぁのぉぉぉぉっ!!」

「もう、なんですの? 騒がしいですわよ鈴谷」

「コ、コンテストっ、提督来るって、マ、マジなの!?」

「マジも何も、もともとそういう流れの話だったでしょうに。今更そんなに驚くようなことかしら?」

「鈴谷そんなの聞いてないし!? てっきり身内でワイワイするものだとばかり……」

「提督も身内ですわよ」

「そーいうことじゃなくてっ! ああもうっ。ど、どうしよう、水着どうしよう~!」

「どうしようって、あなた今年も新しい水着買ってたありませんの」

「ムリムリムリムリ! あんな恥ずいの提督の前で着れるわけないじゃん!」


「自分で選んでおいて恥ずいって……それなら、また新しいのを買いに行ったらよろしいのではなくて?」

「それができないから困ってんの! 鈴谷、コンテストの日まで出撃とか演習とかで町に出られる余裕ないんだよぉ……あ、そ、そうだ! 熊野は? 熊野は町行ける余裕あるっ!?」

「お生憎様。わたくしもそのような余裕はありませんわ。なので、わたくしが代わりに買いにいくのは無理ですわよ」

「そんなぁ~……八方塞がりぃ~」

「諦めて今ある水着で出なさいな。いいじゃありませんの。あなたの普段のイメージ通りで似合ってましたわよ? あの水着」


「ぜーったい無理っ! みんなには見せられても提督にだけはみせられないからっ!」

「ほーんとメンドくさいですわね。だったらもういっそ出なければよろしいのにと言いたいところですが、そういうわけにもいかないのですわよね、どうせ…………ハァ、仕方ありませんわね。わたくしのを貸してあげますわ」

「や、それは無理っしょ。熊野のじゃサイズ合わないし。胸とか」

「……ム~カ~つ~き~ましたわ~……一捻りで黙らせてやりますわ!」

「え、何? 熊n――」

「とぉぉぉおおおう!!」

「ちょぉっ!?――――」





「あははは……あの二人も大変そうだね。三隈もたしかコンテスト出るんだよね? 水着の方は大丈夫かい?」

「ええ。私、これにしようと思うのですけど……どうかしら? もがみん」

「へぇー、どれどれ――え"。そ、それ?」

「少し色が派手かなとも思ったのですけど、たまにはこういうのもいいかなって」

「色が派手な以前にちょっと露出が多そうなんだけど……」

「? 何を言っているの? もがみん。水着なんだから普段より露出が多いのは当たり前でしょう?」

「そ、そういうことじゃなくてだね……」

「ちなみにお揃いの水着、もがみんの分も用意してあるの。これを着て一緒にコンテストに出ましょう?」

「いやいやいや、ボクはいいよ! 水着で大勢の前に出るとかちょっと恥ずかしいし!」

「あら? そうなの? もがみんったら意外に恥ずかしがりやさんなのね」

(むしろ君にはもっと恥じらいを持ってほしいよ三隈……)



「北上さん本気ですか!?」

「もちろんだよ大井っち。最初は見てるだけにしようかと思ったけどさー、提督が審査員ってことなら出ないわけにはいかないよねー。ここでやらなきゃ女が廃るってもんだよ」

「もうっ負けず嫌いも大概にしてくださいっ。北上さんの水着姿なんて見せたら、提督の理性が吹っ飛んでしまうに決まってます! きっとその後、北上さんが人気のないところに行ったところを見計らって…………危険過ぎますっ!」

「むしろ望むところなんだけどなー。そんな提督も見てみたいし」

「ダメですっ。考え直してください」

「えー別にいいじゃないさー。お祭りは楽しんでなんぼだよ? なんだったら大井っちも出てみれば?」

「な、なんで私が。北上さんや姉さん達の前ならともかく、他の人の前なんて……特に、提督とか」


「大井っちスタイルいいからねー。水着なんて着て見せたら提督喜ぶんじゃない? 目の保養になって」

「………………」

「まあ出ないんだったらそれでもいいけどさ。私にとってはライバルが一人減るわけだし」

「……わかりました。私も出ます」

「およ? いきなりどういう風の吹き回し?」

「別に、考え直しただけです。確かに、せっかくのイベント事ですし、楽しまないと損ですからね。北上さんが出られるなら私も出てみようかなと……少し思っただけです」

「ふーん、そっかー。ま、そーいうことにしておきましょうかね」

「……ちょっと北上さん、なんでニヤニヤしてるんですか?」

「べっつにー何でもないよー。にひひ」




「――と、いうわけらしいニャ」

「なので木曽も出るクマよ」

「はぁ!? なんでそうなる!? 何が"なので"だよ!?」

「だって艦隊に三人しかいない雷巡のうち二人がコンテストに出るクマよ?」

「だったら残りのもう一人も出た方が何となくスッキリするニャ。仲間はずれはよくないニャ」

「何だよその理屈!? お、俺は嫌だからな!?」

「残念ながら拒否権はないクマ。長女命令クマ」

「姉妹の結束を見せつけるためにも、木曽にも頑張ってもらうニャ」


「なっ!? クッ…………だ、だったら、姉さん達も出るんだよな!? 姉妹の結束とか言うんだったら、当然出るんだよな!?」

「うんうん出る出る、出るクマよ」

「多摩たちも頑張るニャ。だから安心するニャ」

「そ、そうかよ…………うぅぅ……あ、あんな格好で、人前とか……俺なんかが」

「だーいじょうぶクマ。木曽もあの二人にも見劣りしないイイもの持ってるクマ。自信持つクマ」

「提督も驚くこと請け合いニャ。お姉ちゃんたちが保証するニャ。心配いらないニャ」

「…………わかったよ。それなら、頑張って、みる」


((フッ……計画通りクマ・ニャ))


今回はここまで

もう少しで本戦にいけそう

さてさてこちらはいくでやんす

決戦(?)前編その二




「ねえ漣、コンテストの水着どうするの?」

「んー、今年のでいいんじゃね? ってなってる。結局ここの四人内でしか着て見せてないわけだし」

「そっか。じゃあアタシもそれでいいかな。潮はどう?」

「私もそうするつもりだよ。新しいの買うのも何だかもったいないし」

「そいつぁ聞き捨てならねえぜ潮殿! 妥協はいかんぜ妥協は! チミはむしろもっと肌を出していかなければ。特にこの凶悪な潮っぱいを強調する感じで!」

「ふわぁぁぁっ!? 漣ちゃんっ!? も、揉まないでぇぇっ」

「うーむ……やはりこの重量感、戦艦や空母のおねえさま方にも引けはとらないと思うのじゃが……どう思うね、朧くん?」

「やめてあげなよ漣。そういうの、無理強いはよくないと思うよ」


「ちぇーもったいないのに~~…………ところで、先程からROM専なぼのやんは水着どうすんの?」

「どうするも何も、私出ないから関係ないわよ」

「なんですと!? 正気かぼのやんっ!?」

「正気だからよ。何が水着コンテストよ、馬鹿馬鹿しい」

「えー……せっかくぼのやんの分もエントリーしといたのにー」

「ハァ!? なに勝手なことしてんのよアンタぁっ!」

「フフフ、我ら七駆は一蓮托生。おはようからおやすみまで、コンテストだって一緒なのさ」

「わけわかんないこと言ってんじゃないわよ! 私は出ないからねっ」

「曙ちゃん……やっぱり、コンテスト出るのはイヤ?」

「い、イヤっていうか……だ、大体潮、アンタが一番こういうの苦手なはずでしょ!? なんでノリノリなのよ!?」


「えっと、その……たまにはこういうのも良いかな、って思って……」

「ハァ? 何よそれ……」

「チッチッチッ、わーかってないなぁ、ぼのやんは」

「どういう意味よ」

「"水着を見られるのは恥ずかしい"でもそれ以上に"提督はこの水着どう思ってくれるんだろう?"……そんな乙女心を抱いた潮は大人の階段を登り始めたのだよ」

「そ、そうなのかな?」

「そ う な ん で す。まあ? 恥ずかしくて未だに提督の前で水着になれないお子様な誰かさんには縁のない話でしょうな」

「なっ!? だ、誰がお子様よ! 私別に恥ずかしくなんてないしっ」

「おっや~? 誰もぼのやんのこととは言ってないぞよ~?」

「くっ……!?」


「ハア……仕方ありませんな。それならぼのやんのエントリーはキャンセルしてきてあげましょう。せいぜい漣たちが大人の階段を駆け上がっていくのを観客席で指を咥えて見ておるがいいよ」

「っ!……上等じゃない。そこまで言うなら私も出てやるわよ!」

「曙、別に無理しなくてもいいよ?」

「無理とかしてないし! クソ提督の前で水着になるなんて……よ、余裕だし」

「ほほう、そうかい……では出場ということで問題ないですな?」

「の、望むところよ」

「わあっ。曙ちゃん、一緒に頑張ろうね」

「べ、別に、頑張るとかないし……」


(やっぱチョれーな、ぼのやん)(毎度毎度清々しいまでのチョロさだね……)





「ねぇねぇ翔鶴姉っ、出てみようよ!」

「イ、イヤよ瑞鶴っ、大勢の見てる前であんな格好になるなんて……それに提督もいらっしゃるらしいし……」

「だからいいんじゃない! あのムッツリの面の皮を公衆の面前で剥ぎ取ってやるのよ。大丈夫! 翔鶴姉ならできるって! 改二改装してから翔鶴姉色々スゴくなってるから! もう"ボーンッ"ってなってるから!」

「それどういう意味よ!?」

「とりあえず、面積小さめのビキニとかパンチがあっていいと思うんだよね――」


「呆れた。聞くに堪えないわね五航戦」


「っ!? 加賀さん……!」

「自分は矢面に立たないどころか、姉ばかりに無理を押し付けようとする……程度が知れるというものよ」


「か、加賀さんには関係ないでしょ!」

「そうね。実は内心怖気づいていたあなたが姉に頼ろうがどうしようが、私には関係のない話だったわ。ごめんなさいね」

「くっ…………~~~~ぅぅううう上等じゃない! そこまで言うなら私だって出てやるわよ! 攻めっ攻めな水着であの朴念仁を爆撃してやるわ!」

「ず、瑞鶴? あまり自棄になっては――」

「翔鶴姉っ、止めないで! 意地があんのよ女にはぁ!」

「ええぇぇ……」

「そう。それならせいぜい頑張りなさい。その様を赤城さん達と一緒に見物させてもらうわ」

「え? もしかして加賀さん出ないの?」

「ええ。生憎、見世物になるのは好きではないの。そういうのはあなた達に任せるわ」


「へーそーなんだー。なるほどーそっかー……ふぅ~ん」

「……何? その顔は」

「いーえー別にー? 私に何やら言う割には加賀さんは出場しないんだなぁ、って。ま、それもしょうがないのかなぁーなんて思っただけでーす」

「何が言いたいのかしら?」

「大したことじゃないですよ? ただ、あの一航戦の加賀さんでも女の魅力を競うのには自信がおありではないようなので、水着コンテストなんて出たくても出られないんだろうなって。でもまーまーどーぞお気になさらず。加賀さんはいつも通り観客席でモグモグしてればいいんじゃないですかね?」

「……頭にきました。いいでしょう、その挑発、のってあげます」


「ほーう? それはつまり?」

「私もコンテストに出ると言っているのよ。あなた達に格の違いを教えてあげる」

「フッ、望むところよ」

「あ、あの瑞鶴? そういうことなら私は別に出なくても……いいわよね?」

「何言ってるの翔鶴姉」「何を言っているのかしら」

「いつもネチネチうるさい加賀さんを一緒に見返してやろうよ!」

「五航戦二人でかかってきなさい。ちょうどいいハンデだわ」

「ええぇぇ、そんなぁ……」


今回はここまで。筆が遅くて誠に申し訳ない
それでもあえて一言

秋月型の水着がヤバめで俺のがヤバい

こちらもぬるりと投稿



「ハァ…………なあ、本当に私も出なきゃ駄目なのか?」

「当たり前でしょ。私達で表彰台を独占すると言ったじゃない。ドイツ艦隊が優秀なのは戦闘だけではないことを知らしめるのよ」

「その自信は一体どこから来るんだ……」

「ダイジョーブです! グラーフさん美人でスタイルいいですから、きっと表彰台に上がれるはずです!」

「まあ一番上に立つのはこの私だから、あなたは二位か三位になってもらうのだけど」

「僕も応援するよグラーフ。頑張ってね。もちろんビスマルクとオイゲンもね」

「……まぁ、頑張って」

「あ、ああ。ありが、とう?…………ん? レーベとマックスは出ないのか?」

「うん。マックスが出ないって言うから、僕も今回はいいかなって」

「…………」


「ビスマルク? こう言ってるが、この二人は出さなくていいのか?」

「何言ってるのよグラーフ。表彰台独占するなら三人で十分でしょう? 本人達が出たがらないなら別にそれで構わないわ。子供相手に無理強いなんてしたくないし」

「そこは常識的なんだな……」




「ねぇマックス、本当にいいのかい?」

「何が?」

「コンテスト、出なくていいのかなって」

「いいわよ別に。ああいうの、出るのも見るのも苦手だから。ビスマルク達には悪いけど、当日は近くの対潜哨戒でもして時間を潰すことにするわ。他にすることも特にないし」


「せっかくの休みなのにマメだねマックス……それじゃあ僕も一緒にそっちに行こうかな」

「レーベ、別に私に気を遣わなくていいわよ。コンテスト見に行きたいならそっちに行っても――」

「いいんだ。それよりもマックスを一人で哨戒に行かせる方が気になるよ。鎮守府近海とは言っても、もしものことがあるかもしれないからね。ダメかい?」

「ふぅん……まぁ、好きにしたらいいわ。あなたも物好きね」

「うん、そうだね。でもそうなると少し勿体ないよね。せっかく水着買ったのに、結局今年の夏は一度も着れず仕舞いになりそうだ」

「仕方ないわよ。任務と遠征続きで海水浴なんて気にもなれなかったし。まさか水着で出撃するわけにもいかなかったし」

「水着で出撃してる人もいたけどね…………うん? そうだ! こういうのはどうかなマックス――」


この度はここまで
短くてすまない。いやほんと
来年も懲りずに待っていただければ幸いです

レッツゴーコンゴー




「ナイ……ナイ……どこにもNothingネ~!! ガァーーーッ!!」

「あわわわわ、お姉さま少し落ち着いて……!」

「ああ……こんなに散らかして。もう、あとで片づけるの手伝ってくださいね、お姉さま。それで、何が無いんですか?」

「ワタシのSwimwearがナイんだヨ!」

「水着ですか? ここにあるじゃないですか」

「それはこの前着てテイトクに受けが悪かったやつネ。探してるのは別のSwimwearネ!」

「別の? もしかして、"アレ"ですか?」

「That's right! こんな日のために用意しておいたあのSexy Dynamiteな必殺のSwimwearネ!使うなら今しかない!――と、思ってたのに、それがどこにもナイんだヨ~!」


「なるほど……そういうことでしたか」

「Yes! だから霧島も探すの手伝ってくれると助かるネ。それにしても、ホントにどこにいったかな……比叡、そっち見つかりましたカ?」

「ご、ごめんなさいっ、こっちも見つかってないです……」

「むぅ、ソウデスカー……ン? もしかしてアッチだったかな……? ワタシちょっとアッチ探してくるネー!」

「あ、はいー」




「…………よろしいのですか? お姉さま」

「え? な、何が?」

「金剛お姉さまの探している水着、比叡お姉さまが持っておられるのでしょう?」

「ウグッ!? ナ、ナンノコトカナー……」

「とぼけなくても結構ですよ。昨日それらしいものを持って何やらゴソゴソしてたのをお見かけしてましたので。違いましたか?」


「あぅ、見られてたかぁ~……ハァァァ~……」

「らしくありませんね。金剛お姉さまを困らせるようなことをなさるなんて。何か訳がおありなのですか?」

「……聞いても怒らない?」

「怒りませんよ。まあ、内容によってはどうだか分かりませんが」

「ぅ~~……あの、その……」

「はい」

「……あの水着、結構露出とかすごいでしょ?」

「そうですね。私にはとても着れそうにないデザインでした」

「でね、あれを着たお姉さまを……司令には見せたくないなって、思っちゃって……」

「はあ、なるほど。恋敵にあの姿の金剛お姉さまを見せたくない、と。聞いてみればなんてことはない、いつもの比叡お姉さまらしい理由ですね」


「うん。それにね……」

「それに?」

「……あの水着姿を見たら、司令もきっとお姉さまに夢中になっちゃうだろうから……それも、なんか嫌だなって」

「………………」

(頬赤らめて指先ツンツンさせて……金剛お姉さまや榛名が乙女チックなのは言わずもがなといった感じでしたが、比叡お姉さまもなかなかどうして…………これは私もうかうかしていられませんかね)

「金剛お姉さまの水着姿を司令に見られるのも、司令が金剛お姉さまの水着姿を見るのもイヤ、と」

「うん…………」

「ハァ……分かりました。そういうことでしたら、私は何も見てないし何も聞いてないことにしますね」

「霧島……ありがとう。あと、ゴメンね」


「いえいえ。後日間宮で何か奢って下さればそれで。でも、そうなると……少しマズいですかね」

「え。な、何が?」

「私の計算によりますと、そろそろ金剛お姉さまが――」


「ア"アァァァァ、ゼンっゼン見つからないネーー!! こうなったらLast Resortネ! 潜水艦の娘達からスクミズを借りてきマース! 戦艦の身体に潜水艦のスクミズ……フフッ。このUnbalanceさが醸し出すAbnormalなFetishismでテイトクを虜にするデース!」


「――とまあ、あんなことを言い出すかなと」

「ちょおぉぉっ!? お姉さまぁぁっ!?」

「離すデース比叡! もうこれしかナイんだからーっ!」

「お姉さま気を確かにっ! いくらお姉さまでもそれは流石に見ててキツいと思いますっ」

「なっ!? それどーいう意味ネ比叡!?」

「ヒエェェェ!? ご、ごめんなさいぃぃぃ!」




「ハァ……やれやれですね。そういえば、榛名はどこ行ったのかしら?」


今回はここまで


2万近くあった鋼材全部消費しても出なかったのに、余ったGP消費のために砲撃演習やったら金剛改二がポロッと出たときは脳汁ドバドバでしたわ

こっちはもうしばらく待って欲しい。あと少しっ、あと少しだから!
かるーくレイテでも攻略しながら待っててくだせぇ

あと二・三日待って!
もう少しっ、もう少しだからぁっ!

二・三日って言ったじゃないっ、このクズ!

……はい、すいません。お待たせしました。コンテスト前日編最後です
これが終わったらようやく本筋でさぁ

ちょっと真面目テイストでお送りします



「………………」

昼間の暑さが若干後を引く夕暮れ時。
艦娘寮の屋上で榛名は一人物思いにふけっていた。

彼女は一人になりたい時、よくここを訪れていた。
別段ストレスや悩み等が普段から特にあるわけでもないが、何となく一人で考え事をしたい時はあるというもの。そんな時、彼女の足は自然とこの場所に赴くようになっていた。

とはいえ、屋上とは得てして一般的にそういう場所になりがちもので、一人なりたいといざ着てみれば既に誰かが先に居たり、後から誰かがやって来たりといったことが多々ある。
そうなると榛名は、相手に気を遣って屋上を後にしたり、あるいはその誰かとちょっとした世間話や相談事をしたりされたりしていた。


しかし今は彼女以外には他に誰もおらず、屋上は彼女の貸し切り状態になっていた。

「………………」

少し強い風に髪を泳がせて、ここから一望できる水平線を屋上のフェンス越しに榛名はぼんやりとただ眺めていた。


しばらく彼女がそうしていると、彼女の視界の下端――この寮の一階玄関口の辺りから何やら騒がしい気配がしてきた。
彼女がふとそちらに視線を落とすと、寮から出ていくとても見慣れた後ろ姿の二人が見えた。

「あれは……お姉さま?」

足早に歩き去って行こうとする金剛と、金剛の腰に縋りついて半ば引きずられていく比叡。
声はここからではよく聞き取れないが、一体どうしたのだろうと榛名はその様子を窺うことにした。




妹を引きずってでもどこかへ行こうとする金剛。

引きずられていく比叡。

しばらくすると根負けしたのか、疲れたように肩を落として足を止める金剛。

縋りついていた金剛の腰から離れてその前に立ちはだかる比叡。

何やらわいのわいのと騒いでいる様子の二人。

そこで突然比叡の右腕を取り、見事な一本背負いを決める金剛。

綺麗に投げられ、地面に大の字になる比叡。

そのまますかさず比叡に袈裟固めをかける金剛。

するとどこからともなく現れて地面を叩きながらカウントを取り始める霧島。

3カウントの後、霧島に腕を掲げられ高らかにガッツポーズを決める金剛。

そして地面で伸びたままの比叡。


……本当に、何をしているのだろう。そう思わずにはいられない榛名だった。


「もう、お姉さま達ったら」

しかしながら、そこは鎮守府きってのムードーメーカー金剛シスターズが一人。あんな姉妹達の珍騒動など日常茶飯事なので特に驚くようなこともなく、困ったように笑いながら、あの三人に合流しようかと榛名は振り返りフェンスに背を向けた。

するとその時、彼女の視線の先、屋上へ出る扉が開かれた。

「…………フゥ」

扉を開けて屋上に上がってきたのは、長髪長身の艦娘だった。

「大和さん?」

「え? ……あ、榛名さん」




そこから自然に和気藹々と雑談を始める二人だった。

互いの近況や姉妹のこと、あと提督に対するあれやこれやについて。元々話の合う二人ということもあり、こうして二人きりで出会えば花を咲かせる話題には事欠かなかった。


そして当然、今のこの二人が揃えば自ずと話題になることは決まっていた。

「そういえば、いよいよ明日……ですね」

「……ええ。そう、ですね」

大和の一言に、途端に歯切れが悪くなる榛名であった。
それを見て、自分も同じ立場である大和も苦笑する他なかった。

何の事かとわざわざ口にするまでもない。明日は水着コンテストがあるのだ。

「まさかこんな大事になるだなんて、榛名思ってもいませんでした」

「私もです。まったく、武蔵達には困ったものだわ。こっちの気も知らないで勝手に盛り上がっちゃって」

「はい、本当にその通りです」

そう言って、二人して盛大に溜め息をついた。お互いこの期に及んでなおコンテストへの出場は甚だ不本意だということをこれみよがしに表した一息であった。
ただそこで"コンテストなんか知ったこっちゃねーや"と投げ出せるほど彼女達は我の強い性格ではなかった。

そう、お互いそういう控えめな性格であると知っていたものだから、大和のこの後の発言は榛名を少しばかり驚かせた。


「……でもね榛名さん。正直に言うと、もう少し状況が違っていたら、案外私も武蔵達と一緒にはしゃいでたかもしれないって思うんです」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ。私も何だかんだ言って勝負事は好きな方ですから。勝てる見込み――優勝できるような可能性が多少なりともあるなら、きっと前向きな気持ちでコンテストに出られたんじゃないかな、って」

まあ、水着勝負は流石に少し恥ずかしいのだけれど――と、大和は照れたように頬を掻きながらそう付け加えた。
それに対して、榛名は小首を傾げる。

「でもそうおっしゃるということは、今の状況だと大和さんはご自分が優勝できる見込みがないと思っていらっしゃるのですか?」

「そうですね……だって――」

そこで大和は榛名をジッと見つめて、寂しげな顔で言う。


「――提督の前で、こういう女性の魅力を競うような勝負……私、榛名さんには勝てる気がしませんから」



「え……」

思いがけない言葉に、榛名は目を丸くした。

「もちろん他の方を軽んじてるわけではないんですよ? でもやっぱり私の中では榛名さんは別格というか、勝てるようなイメージが思い浮かばないんです。これがもしクイズ大会や体力勝負の類だったら、こう気負わずにいられたのかもしれません。あるいは提督が審査員ではなかったら……なんて、そんなことを考えたりもしました」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。そんな……榛名なんて、大和さんにそう思っていただけるほど大層なものでは……」

「そんなことはありませんよ。榛名さんは可愛くて綺麗で気立ても良くて、そして提督と一番付き合いの長い戦艦で……もうこれだけで私には勝機がないといいますか……」

「そ、そんなっ、大げさですっ。榛名より大和さんの方がずっと素敵だと思います! それに付き合いの長さを言うなら、初期艦だった叢雲さんの方が――」

「確かに叢雲さんにも色々と勝てる気はしないのですけれど……それでも同じ戦艦として、どうしても榛名さんの方を意識してしまうんです。それに提督も、榛名さんには特別な思い入れがあるようだと金剛さん達から伺っていますし」

「それは……」


確かにそれについて、榛名は否定することはできなかった。それだけのことが彼女と提督の間にはあったのだから。
ただその"思い入れ"は、提督と艦娘――上司と部下としての関係から来るものであって、大和や他の艦娘達が想像しているようなものでは決してないのだと、彼女は声を大にして言いたかった。

しかし、代わりに彼女が口にしたのは――

「…………それを言うなら、榛名だって……大和さんには、絶対勝てる気がしないです」

「え……榛名、さん?」

急に声を落とし、物憂げな表情を浮かべる榛名に大和は戸惑いを隠せなかった。

「提督にとって榛名が特別だというなら……大和さんは、それ以上に特別な艦娘なはずです」

「ッ……あの、榛名さん――」

「大和さんは……戦艦大和は、提督の憧れで特別で―― 一番大切だった人、でしたから……」

「榛名さん、でもそれは――」

「はい、わかっています。今の大和さんと"あの大和さん"は違うんだって、よくわかっているんです…………でも」


俯いて、自分の胸を押さえるように両腕を掻き抱いて、今にも泣き出しそうな声音で榛名は告げる。


「それでも、"提督がまた私を選んでくれなかったらどうしよう"って……そんな考えが、どうしても頭を離れてくれないんです……ッ」


榛名の脳裏を巡るのは――提督と"彼女"が笑い合っていた、今となっては遠いいつかの光景。
仲睦まじいその二人の姿は、見ているだけでとても微笑ましくて――見ているだけで胸が張り裂けそうなほど苦しいものだった。

割って入ることなど、とてもできなかったあの二人の絆。明日のコンテストで提督が水着姿の大和を目の当たりにして、それをまた見せつけられるようなことがあったら、自分はどうしたらいいのだろうか――あのフィギュアの騒動があった朝の執務室から今日ここに至るまでずっと、彼女は思い悩んでいた。

そうして鬱々とした想いは蓄積し、今こうして当の大和本人を前に決壊してしまった。


「榛名さん……」

「…………すいません。こんなこと言われても、大和さん困っちゃいますよね……」

「そんな、私の方こそ無神経なことを言ってしまって……ごめんなさい」

「いえ、そんなに気にしないでください。榛名は……榛名は…………」

大丈夫ですから――と、いつものように笑ってみせることが今の榛名にはできなかった。
どうしてあんなことを口走ってしまったのかと、自己嫌悪で彼女はどうにかなってしまいそうだった。

もういっそこのまま、明日のコンテストも棄権してしまおうか――そんな自暴自棄じみたことを考え出した、その時だった。


「……でも、今ので気が変わりました。榛名さん。私、明日は勝ちにいかせてもらいます」



「えっ……」

大和の突然のその発言に、榛名は耳を疑った。

「榛名さんの気持ちは痛いほどよくわかります。私も同じ状況だったら、きっと今の榛名さんみたいになっていたでしょう。だって――」

そして、真摯な顔つきで榛名を見据えて大和は言う。


「――私は提督のこと、諦めるなんてできませんもの。榛名さんがそうなっているのも、提督のことを諦めきれていないからでしょう?」


「ッ……!」

そう、諦めてしまっているのなら今更何も思い悩むこともない。少しばかりの寂寥感はあるのだろうが、その程度のことでしかない。

だが、今こうして胸を焦がすような想いに苛まれているのは、ひとえに自分が心から納得していない――諦めていないから。これはそういう単純な理屈。


「だったら、するべきことは一つ。勝つために――提督にとっての一番になるために、胸を張って堂々と勝負に臨む。少なくとも私はそうします。尻込みして負けようものなら、それこそ悔やみきれませんから」

「…………」

「それに今の意気消沈した榛名さんになら、私でも難なく勝てるような気がしますし。提督もいつも言っているでしょう? "勝てると思ったら全力ブッぱだ"って。だからこの好機、みすみす逃す手はありません……もう一度言います。私は明日、全力で勝ちにいきます」

「…………」

「それで、榛名さんはどうされますか?」

「……どう、って――」


「私に――"大和"に、また"勝ち"を譲っていただけますか?」


「――――――」

再び脳裏を過るのは、あの日々の記憶。

届かない憧れと想いに軋む胸を押さえて、笑い合う二人の幸せを見ていることしかできなかった、かつての自分。

時が過ぎ、薄れることはあっても決して消えることはなかったその記憶。
しかしそれを再び現実として目の当たりにする。そんなことが起こり得るとするならば。

大和の問いに対する榛名の答えは――――ただ一つだった。



「――いいえ、譲れません。榛名はもう、負けたくありません!」


彼女の胸を焼く焦熱が、今砲火となって炸裂する。

「榛名はずっと提督のことを想っていました。大和さんよりもずっとずっと長く強く……その自負は今も変わりません。その想いに誓って、一度ならず二度までもあなたに――"大和さん"に負けるつもりはありません! 勝ちを譲るなんてもってのほかですっ!」

だから――と、どこまでも真っ直ぐな眼差しで榛名は大和を見つめ返す。


「榛名も、明日は勝ちにいかせていただきます。大和さんには――いえ、誰にも、榛名は負けません!」


鋼を思わせるような強い意志で、もう一歩も引かぬという覚悟で、榛名はそう告げた。

普段の穏やかな佇まいからはかけ離れた、戦場を駆ける戦艦の威厳に満ちたその姿。並の艦娘なら気圧されて然るべきその気迫を前に、大和は――


「はい。そう言ってくれると信じていました」


――朗らかに笑って、そう返したのであった。


「え……あの、大和さん?」

予想とは大分違う反応が返ってきたことに戸惑う榛名に、大和は静かに微笑んで右手をそっと差し出した。

「榛名さん。明日は正々堂々、全力で、お互い頑張りましょう。まぁその、水着コンテストで何をどう頑張るのかは、よくわかりませんけれど、ね?」

「大和さん……」

差し出された手とその笑顔を見て、大和が何故突然あんなことを言い出したのか、榛名はようやく悟った。

放っておけば面倒な相手が勝手に潰れて消えてくれただろうに、それをわざわざらしくもない言い方で焚きつけて煽って。
結果、彼女にとっての一番の強敵であるらしい自分は完全復活を遂げてしまった。

それでも、笑ってそれを迎えてくれた彼女のその振る舞いが、いつかの"彼女"を思い出させた。

(そういうところに、榛名は負けてしまったのかもしれませんね……)

でも――と、すっかり軽くなった胸の内から自然と溢れる笑みを零して、榛名は大和の手を取った。



「後悔しても知りませんよ? 榛名に塩を送るような真似をしてしまって」

「構いませんよ。塩や砂糖の備蓄にも私自信がありますから」

「もう、何ですかそれ。ふふふ」

「お互い勝っても負けても、恨みっこはなしですよ?」

「それは……ちょっと難しいかもしれません。負けたら妬みっこくらいまでは許してほしいです」

「フフッ。わかりました。じゃあ、それで」

「ええ」


そうして二人は互いの健闘を誓い合った。

固く交わされた握手で結ばれた彼女達の姿は、沈みゆく夕日の残照よりも強く綺麗に輝いて見えるようだった。





かくして戦乙女達はそれぞれの想いを胸に、この夏最後の決戦の日を迎える――――










「フゥ~…………アレ? なんでワタシ、比叡とレスリングなんてしてたんだっけ?」

「よ、4ラウンドも、やって、ようやくっ、我に返りましたか、お姉、さま……っ」









「ただいま。今戻ったぞ」

「おかえり。随分遅かったわね」

「ああ、すまない。少し野暮用でな」

「ふーん…………あら、その手に持ってる水筒みたいなものは何?」

「これか? 霧島からのお裾わけだ。金剛の新作らしい」

「あら、そうなの? ありがたいわ。早速いただきましょうか。お茶の用意するわね」

「いや、今日はもう遅い。こんな時間に間食というのもあまり良くはないだろう」

「んー……それもそうね。じゃあ明日の朝にしましょうか」

「それがいい。さあ、早く寝るとしよう。お前は明日早いのだろう?」

「ええ。審査員は色々と準備があるらしいから。まったく、本当は私も出場したかったのだけど……でもまあ、頼まれて悪い気はしないし、これはこれで楽しそうだから、別にいいけど。フフ」


「そうだな。私も……実に楽しみだ」


今回ここまで

よくあるお話。ここの提督にとって大和は二隻目。あとはもうご察し

良い話っぽいだろ? でもプロローグを思い出してほしい。ああなるオチが待ってるんだぜ? 胸が熱いな

現在鋭意執筆中
近日中にちょろっと投稿します
瑞雲でも愛でながらお待ちください

お待たせしました
やっと本編。その始まり




「水着――それは、夏の水辺の女を彩る装甲」


「水着――それは、異性の胸を撃ち抜く夏の女の主砲」


「つまり水着とは、夏の女の戦闘艤装に他ならない。そしてそれは我ら艦娘もまた然り」


「その艤装を纏って競うのは火力でも制空力でも対潜力でもなく、女の魅力」


「そこに艦種による性能の垣根はなく、あるのはただ己の実力のみ。最も強い夏の女とは、最もイカした水着の女ということ」


「であるならば、ここに疑問が一つ……この鎮守府で一番強い夏の女とは、果たして誰なのか?」



「「その疑問――今日ここで答えを出しましょう」」



「「"第一回 ドキッ!? 艦娘まみれの鎮守府水着大会! ズドンもあるよ"! 開幕ですっ!」」



拡声された霧島と青葉の声がそう宣言した瞬間、会場からドッと歓声が上がった。屋外だというのに騒がしいことこの上ない。
二百名近い艦娘が、せいぜい小学校の体育館程度の広さのこの特設会場に一同に会すればこうも騒々しくもなるのだろう。

「鎮守府のレディース&ガールズの皆様。おはようございます。そしてお集まりいただき誠にありがとうございます。今回司会進行を務めさせていただきますは私、金剛型四番艦・霧島と――」

「重巡・青葉ですっ。よろしくお願いしまーす!」

二人の紹介に、盛大な拍手が返ってくる。相も変わらずノリの良い鎮守府の面々である。

「いやーそれにしても盛況そうでなによりですねぇ霧島さん」

「ええ。本日はお日柄も良く、絶好のイベント日和と言えるでしょう」

「会場設営が昨日の昼過ぎからだったので間に合うかビミョーなところでしたが、何事もなく終わって良かったです」

「そうですね。思えば今回、発案からわずか一週間程度であったにも関わらずこのように無事に開催できたのは、ひとえに皆様のご協力があったからこそです。この場を借りて、皆様に御礼申し上げます」


「もー霧島さんってば相変わらず固いですねぇ」

「何事も感謝の心は大事ですから。さて、挨拶等はこのへんで。まず今大会概要の簡単なおさらいをば」

「冒頭で言いました通り、この大会は鎮守府一の夏の水着女性を決めるものとなってます」

「参加条件は二つ。この鎮守府所属の艦娘であることと、水着着用であること。自薦他薦は問いません」

「わざわざ言うまでもないような条件ですけどねぇ」

「ただし着用する水着に関して、大本え――提督指定の共通水着は不可とします」

おい、なんで今言い直した? 大本営指定であってるぞ? 俺の趣味みたいに聞こえるからやめれ。

「これは、自分に合う水着を選んでくるセンスも評価に含まれるという観点からの判断です。ご了承下さい」

「まあどうせなら地味な共通水着より華やかな水着を見せてほしい、ということで!」


「はい。そして審査形式ですが、審査は各艦種で部門ごとに分けられて行われます」

「駆逐・軽巡・重巡・空母・戦艦・特殊艦の六部門ですね」

「それぞれの部門で審査を行い、最終的に各部門での一位と全部門での総合上位三位を決定する流れになります」

「なお各部門の一位の方には、本日協賛となってます甘味処間宮より特上間宮券が贈呈されます。さらに総合上位三位になられた方には、酒保・甘味処間宮・居酒屋ほうしょう等、協賛として参加してくださった鎮守府内各所で使用できる特別券が贈呈されます。協賛していただいたみなさん本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます。そして審査方法ですが、こちらは五名の審査員による採点方式で行われます」

「出場者はステージ登壇後、水着を審査員と会場のみなさんに一通り披露して、アピールポイントや意気込みなどを語っていただきます。それを受けて、審査員の方は採点をしていただく形になります」

「各審査員の持ち点は二十点。五人の合計百点満点で採点されます」

「あとは至ってシンプル。点数が最も高い方が勝者ですっ」


青葉の言葉に会場が再び沸き上がる。本当に一々ノリのいい連中である。

「フゥ……さて、概要としてはこんなところですかねぇ。あとは各自お手元のパンフレットで確認してくださいね」

「ええ…………では、堅苦しいのはここまで。ここからはアゲて参りましょうか!」

「イエイっ! 待ってました霧島さんっ!」

二人のやり取りに再三会場が沸く。
この二人のこういう仕事の手慣れた感には毎度のことながら感心させられる。
……艦娘って、何だっけ?

「まずは、審査員のご紹介から参りましょうっ!」

「厳正な審議の下、選ばれたる五名の公正な審査員……その一人目は――――」





「…………」

薄暗い中、霧島と青葉のその振りを聞いて、俺は二歩程踏み出して木目調の正方形の床の中央に立つ。
すると、その床が機械が軋む音ともにゆっくりと上に持ち上がっていく。

「提督、グッドラック!」

暗がりからの夕張の激励に俺は溜め息で返し、腕を組んで、昇っていく床に身を委ねた。



『何はともあれこの人がいないと始まらない! 挙げた戦果は数知れず。堕とした女も数知れず。我らが鎮守府のトップオブトップ! てぇいとくぅぅ!』



ステージ上にせり上がってくるや否や、何やらとんでもない煽り文句が耳に飛び込んできた。
もうこの時点で俺はこのテンションにはついていけなさそうだと察した。

「はい。まあ事前に告知してましたので、今更驚くようなことはないとは思いますが。司令、本日はお時間を割いて参加していただき、誠にありがとうございます」

「司令官は今回、"鎮守府男性代表"枠として審査員に選ばれました。と言っても、鎮守府で唯一の男性ですからねぇ。司令官が審査員に選ばれるのは必然でした。さ、司令官っ。ついに始まりました水着大会。今のお気持ちは?」

「カエリタイ(部屋に)……カエシテ(休みを)……」

「お? 闇墜ちした吹雪さんのモノマネですか? 似てますねぇ」

似てたまるか。吹雪に失礼だろうが。
そしてこの野郎、俺の渾身の恨み節をスルーかちくしょうめ。


「え、えーと……では司令、出場者の皆さまに何か一言を」

その一方で霧島は、俺に若干気を遣うような面持ちでこちらにマイクを向けてきた。こっちは多少は申し訳なく思っているのだろうか。

そうか。それなら俺もそれなりに気の利いたことを喋るとしよう。

「あー……水着ではしゃぐのは構わないが、肌の出し過ぎで風邪とかひかないよう気をつけるように」

こんなところか。
ちらりと二人の様子を窺うと、霧島はわずかに嘆息し、青葉はやれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。
まあ、そうなるよな。

「はい。司令、どうもありがとうございました」

「ありがとうございました。あ、ちなみに総合一位の座に輝いた艦娘には、司令官より特別賞として何かが贈呈されます。お楽しみに!」

「待てコラ、聞いてないぞそんなこと!?」


「さっき唐突に思いついちゃったもので。なので司令官、表彰式までには何か考えといてくださいね?」

「振りが乱暴にも程があるぞ青葉ぁ!」

「まあまあ。最悪何も思いつかなかったら、"一回だけ司令官が何でもいうこと聞く権"とかでも喜ばれると思いますんで、だいじょーぶですよ」

青葉がそう言った瞬間、周囲がざわついた。
そしてどこからともなくギラつくような視線が何条も突き刺さってきたような錯覚を覚えた。

何だろう……すごく、身の危険を感じるな。

これはどうにかして拒否しておきたいところだが、もう会場の空気が"一位になったら俺から何かがある"という期待で固まってしまっているようだった。
これを覆すのは……もう無理だろう。せめて無難な感じに茶を濁しておかねば。青葉ワレェ……。

「クッ……わかった。何か考えておこう」

そうぼやいて、俺は大きく溜め息をついた。
まだ自分が登場しただけというのにこの疲れよう。メインの審査が始まったら一体俺はどうなってしまうのか。

嗚呼まったく、今日は長い一日になりそうだ……。


今回はここまで
五周年、感慨深いですな

こちらも大分かかりそうです。面目ない。

お茶集めなきゃ……

こちらは近日中にはポチポチいきます
お待ちください

近日中と言ったな。すまないあれは嘘になった。面目ねぇ

ではいきます


「ではでは続きまして二人目の審査員をご紹介しましょう! 二人目は"大人のお姉さん"!」

霧島に案内され、ステージ上に設置された審査員席に着くやいなや青葉がそう切り出す。
そういえば、俺以外の審査員はあとは全員艦娘だと聞いたな。水着コンテストで審査員がほぼ同性しかいないのはどうなんだろうと思うが、仕方ないか。

それにしても"大人のお姉さん"か。というとやはり重巡とか戦艦、空母あたりの誰かだろうか。

『皆さんご存知、世界に誇れる我らがビッグセブンが一人――』

ビッグセブン――そのワードを聞いて、真っ先に脳裏に浮かんだ人物を脳内で排除し、消去法でその妹の方が審査員であろうと俺は当たりを付けた。
なるほど。確かに陸奥なら最近のファッションとかに精通しているようだから審査員としての目は確かだろう。"大人のお姉さん"の肩書もしっくりくる。良い人選だ。


まああれだ、駆逐艦も参加するこのコンテストで"あの"姉の方が審査員に選ばれることなんてまさかあり得な――


『長門型戦艦一番艦――長門さぁぁんっ!』


――と、青葉は言い放った。

するとステージ中央、先程俺が乗っていたエレベーターが動き出す。
そしてゆっくりとステージ上に現れたのは、腕組みをして不敵な笑みを決め込んだ長門だった。威風堂々と仁王立ちするその姿が似合うのは、ヒーローロボットかこいつくらいなものだろう――


「――って、なんでだよ!? そこは普通陸奥だろ!? なんで長門!? 出オチにも程があるわ!」

「お、やっと調子出てきましたか司令官」

「言ってる場合か! お前あのロリコンに駆逐艦の水着姿なんて見せてみろ。理性のタガが外れたただの獣になり果てるぞ。審査員どころじゃない……って、そもそも何故長門を選んだ? 駆逐艦とか海防艦が絡むと"公正"の"K"の字もないだろうが」

「それがですね司令。私達も当初は陸奥さんに審査員をお願いしていたのですが、その陸奥さんが今朝方体調不良で緊急入渠されてしまいまして……」

「はい? 何? また何か爆発したのか?」

「いえ、どうやらそういうわけではないみたいでして。詳細は分かりかねますが、見たところ肌がとても青ざめていて、まるで生気を根こそぎ持っていかれたような状態でした」

「なんだそれ怖」

「あ、でも命に別状はないって明石さん言ってましたよ。今日一日寝てれば大丈夫だそうです」


「別状あったらこんなことしてる場合じゃないもんな…………ということは、あの長門は……」

「はいです。陸奥さんの代理で来てもらいました」

「何分突然のことで他に頼める方がいらっしゃらなかったものですから」

「……なるほど」

ようやく合点がいった。
恐らくだが、謎の体調不良に陥った陸奥の第一発見者は同室の長門だったのだろう。で、自室からドック、医務室まで付き添い、様子を見に来た霧島達にその場で代理を頼まれたといったところか。まあ至って自然な流れだろう。

自然な流れ……謎の体調不良…………何か引っかかる気がするが。


「しかし、よりにもよって長門かぁ……」

「――まったく、先程から黙って聞いていれば随分な物言いじゃないか提督」

「あん?」

俺のぼやきにふてぶてしく応じるのは長門であった。

「提督が私に対してどのような懸念を抱いているのかは、まあ今更わざわざ聞くまいよ」

「自覚はあるんだなお前」

「だがこの長門、頼まれた以上、責任をもって審査員の任を全うするのみだ。ビッグセブンの名と亡き陸奥に誓って」

「おい、妹を勝手に殺すな」

「長門型の審美眼は伊達ではないよ。公明正大な審査を約束しよう」

「それ水着の駆逐の前でも同じこと言えるか?」

「………………無論だ」

「その間が無ければお前の言葉の四割くらいは信じてやれたのになぁ…………ハァ」

もういいや。俺は知らんぞ。こいつ選んだの俺じゃないし。何が起きても俺の責任じゃないし。

「大丈夫ですよ司令官。いざっていうときの策はありますんで」

「そうかい。じゃあ任せたよ」

まあ、あまり期待はしないでおこうか。

今回はここまで
あと三人審査員を紹介したらようやく本筋です。
その前に今年の水着が実装されそう……

生存報告ー
塩分と水分は大切にね

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