瑠璃「バレンタインの日」(34)


※融合次元が来る前の平和なエクシーズ次元でのお話です。


深夜・黒咲家……

隼(ん、瑠璃の部屋の電気がまだ点いている?)

隼「瑠璃、まだ起きているのか?」ドアガチャ

瑠璃「きゃ! ちょっと、兄さん! ノックくらいしてよ!!」

隼「それは悪かったな……ん? 勉強していたのか?」

瑠璃「え? あ、これは、その!?」アタフタ

隼(瑠璃が隠した本は……成る程な)

隼「もう今日は遅い。早く寝ろ」

瑠璃「え? あ、うん」


翌朝・ファミレス……

隼「瑠璃が俺の為に手作りチョコを作ろうとしている」

アレン「はい?」

隼「昨日遅くまで部屋で洋菓子の本を読んでいた。チラリとしか見えなかったがあれはチョコのページだった」

隼「そして今日は朝からサヤカの家に出掛けている。今頃は間違いなくチョコを作っているはずだ」

アレン「あーそういえば明日はバレンタインだったな」

隼「今までは市販の物をくれていたのだが……どういう風の吹き回しだろうな」フッ

アレン(何だか今日の隼、えらく機嫌が良さそうだな)


アレン「だけど仮に瑠璃が本当にチョコを作っているとして、それが隼の分だって決まった訳じゃねえだろ?」

隼「おかしな事を。瑠璃が俺以外の誰にバレンタインのチョコを渡すというんだ?」

アレン「それはほら、瑠璃の気になる相手とか……」

隼「まだ瑠璃にそんな男はいない!!」テーブルドン!!

アレン「おい、周りの目もあるからあまり大きな声は出すなよ」

隼「下らん事を言うからだ。まあ今年はお前やユートも貰える可能性はあるな。勿論義理だが」

隼「だが瑠璃も手作りチョコは初めてだから苦労しているはずだ。その場合俺だけ手作りでお前達のは市販の可能性もあるが……仮にそうでも残念に思うなよ」

アレン「その根拠のない自信、なんかムカつくな」

隼「しかしまさか瑠璃から手作りのチョコを貰える日が来るとはな……正直感慨深いものがある」

アレン「あーそうかい。良かったな、隼」

隼「ホワイトデーの事も今からしっかり考えておかなくてはな」フフッ



同時刻・笹山家……

瑠璃「――という訳で早速ユートに渡すチョコを作るわよ!」

サヤカ「頑張ろうね、瑠璃!」


瑠璃「バレンタインは女の子の聖戦! 明日のバレンタインで私はユートに自分の想いを……」

瑠璃「つ、伝えるのはまだ恥ずかしいけどちょっとでも距離が縮まればいいな~と思ってます! はい!///」

サヤカ「瑠璃、そこは嘘でももっと積極的に行こうよ~」

瑠璃「い、今はこれでいいのよ! それより早く作りましょう。せっかく材料も用意してきたんだから」

サヤカ「そうだね……って、あれ? 瑠璃、材料の中にラッピング済みの箱があるんだけど? これチョコ?」

瑠璃「ああ、それは兄さんとアレンの分。2人には少し悪いけど今年のバレンタインはユートのチョコに全力を注ぎたいの!」

サヤカ「まあ手作りは特別な人だけにしたいよね。私も同意見だよ」


…………

サヤカ「さて、わりとサクサク作業は進んだね」

瑠璃「予習はしてきたからここまではね。そんなに複雑な作業もないし……ただ」

サヤカ「何か問題?」

瑠璃「いや、型をどうしようかなって」

サヤカ「え? このハートの奴を使うんじゃないの?」

瑠璃「そのつもりだったんだけど……流石にこれ使うと……ユートに本命って思われそうだし……///」ゴニョゴニョ

サヤカ「あれ、瑠璃って今本命チョコ作ってるんだよね?」

瑠璃「そうだけどぉ~///」


サヤカ「駄目だよ、瑠璃。そんな事じゃ何時まで経ってもユートと恋人同士にはなれないよ?」

瑠璃「こ、こ、恋人って!?///」

サヤカ「なりたくないの?」

瑠璃「い、いや、その……なりたいか、なりたくないかって聞かれたら……な、なれたらいいなって思うけど……///」モジモジ

サヤカ「じゃあ頑張らないと! ユートって優しいけど色々と鈍い所あるから瑠璃がハッキリしないと何時まで経っても関係は進まないよ?」

瑠璃「それは何となく分かる……気がする」


サヤカ「瑠璃、さっき自分でも言ったじゃない。バレンタインは女の子の聖戦だって……なら明日頑張らなくて何時頑張るの? これはチャンスなんだよ?」

瑠璃「サヤカ……分かったわ! 私、頑張ってみる!!」

サヤカ「その意気だよ。じゃあまず型はハートで決まりとして……そうだ、アイ・ラブ・ユーのメッセージも書いちゃおうか♪」

瑠璃「ちょ!? そ、それは流石に無理! 絶対に無理!!///」

サヤカ「駄目だよ、さっき頑張るって宣言したばかりでしょ? さて、ラッピングの方も気合を入れて……」

瑠璃「ふぇ~///」アワアワ



その後、2人のチョコレート作りは夕方近くまで行われた。


…………

夜・瑠璃の部屋……

瑠璃「…………」ドキドキ

瑠璃「あ、ユート? わ、私! 瑠璃です!!」

瑠璃「ごめんね。こんな時間に……え? シャワー浴びてた?」

瑠璃「じゃあ今ユートは……な、何でも無い! 変な想像とかしてないか! って、そうじゃなくて!!///」

瑠璃「そのね、明日なんだけどね……」

瑠璃「空いてたりする、かな?///」

…………


翌日・バレンタイン当日……

瑠璃「……寝坊したぁぁぁぁ!?」

隼「朝から騒がしいぞ。今日は学校休みだろう?」

瑠璃「休みでも約束があるの! ああ、せっかく頑張って準備したのに何でこんな日に限って……」アタフタ

隼「仕方ない。近くまでバイクで送ってやるから早く用意しろ」

瑠璃「本当! ありがとう、兄さん!!」

隼「構わんさ。それに今日は俺の方がお礼を言う日だからな」

瑠璃「へ?」


…………

ハートランド駅・西口前……

ユート(約束より大分早く着いてしまったな。瑠璃、一体何の用だろう?)

アレン「よう、ユートじゃねえか」

ユート「アレンか。こんな所で会うなんて珍しいな」

アレン「久々に隣町のカードショップにでも行こうと思ってな。お前は何してんだ?」

ユート「瑠璃と待ち合わせだ。俺に何か渡したい物があるらしい」

アレン「瑠璃と? はは~ん、やっぱり手作りの行先は隼じゃなくてユートか。まあそりゃそうだよな」


ユート「何の話だ?」

アレン「また惚けやがって。この色男め~」ニヤニヤ

ユート「なぜ肘で突く?」

アレン「だったらお邪魔虫は早々に退散してやるか。じゃあなユート、しっかり受け取ってやるんだぞ」ノシ

ユート「おい、話がまったく見えない……行ってしまった。アレンの奴、何なんだ?」

<キャッキャウフフ

ユート(それにしても今日はやけにカップルが目に付く様な……気のせいか?)


…………

隼「ここでいいのか?」

瑠璃「うん、ありがとう兄さん! これなら約束の時間に何とか間に合いそう!」

隼「そうか」

瑠璃「じゃあ行くね。本当に助かったわ、兄さん」

隼「ああ……ところで瑠璃」

瑠璃「ん、何?」

隼「……いや、何でも無い。気を付けてな」

瑠璃「? うん、じゃあ」ノシ

隼(焦るな隼……お楽しみは瑠璃が帰ってからだ)ノシ


…………

<ワイワイガヤガヤ

瑠璃「今日は人多いなぁ……駅前を待ち合わせ場所にしたのは失敗だったかも」

瑠璃(ユートは? ユートは何処?)キョロキョロ

瑠璃「あっ」

ユート「…………」

瑠璃(居た、ユートだ!)

瑠璃(いよいよ……本番なのね)ゴクリ

瑠璃(大丈夫、大丈夫……ユートも来てくれたし、チョコレートも上手く出来たし……後はこれを渡すだけ)

瑠璃(さあ勇気を出して……行くわよ、瑠璃!)

瑠璃「…………」

瑠璃(……あれ?)


ユート「…………」

瑠璃(お、おかしいなぁ……ユートを見てたら何だか足が……う、動かない?)

瑠璃(何だか膝も震えてるし……やだ、今になって凄く緊張してきちゃった……こ、声も掛けれない……)

瑠璃(それに何だか渡すチョコも不安になって来た……本当に上手く出来てるのかな? そもそもいきなり手作りとか渡されて嫌に思われないかな?)

瑠璃(どうしよう……頭の中がぐるぐるしてる……どうしよう、どうしよう、どうしよう……)

ユート「…………」

瑠璃(ユート……!)

ドン!

瑠璃「きゃあ!?」ドテッ

通行人「おっと、失礼」トコトコ


瑠璃「あいたた……」

ユート「瑠璃?」

瑠璃(き、気づかれた!? こっちに来る!)

ユート「おい、大丈夫か?」

瑠璃(ど、どうしよう? でもここまで来たなら覚悟を決めて……あれ?)

瑠璃「……紙袋」

ユート「え?」

瑠璃「私がさっきまで持っていた紙袋は……あっ!」キョロキョロ


瑠璃(次の瞬間、私の目に映ったもの)

瑠璃(それは少し離れた場所に落ちた紙袋。その紙袋から飛び出したであろうユートに渡すはずのチョコレート)

瑠璃(そしてそのチョコ目がけて走って来る自転車……って、自転車!?)

瑠璃「だ、駄目ぇーーー!!」


……グシャ!!


瑠璃「…………」

チョコの入った箱「」

ユート「瑠璃?」

瑠璃「チョコ……」ジワッ

ユート「おい、大丈夫……!?」

瑠璃「うっ、ぐすっ……えぐっ……うぅ……」ポロポロ

<ナンダナンダ?

<オンナノコガナイテル?

<ナニカアッタノカ?

ユート「……瑠璃、一先ずここは移動しよう? 立てるか?」

瑠璃「うっ、えぐっ……ひくっ……」

ユート「行こう」


…………

公園・ベンチ……

瑠璃「…………」ションボリ

ユート「……落ち着いたか?」

瑠璃「……ごめんなさい」

ユート「別に謝る必要はないさ」

瑠璃(せっかく作ったのに……サヤカに手伝って貰ったのに……チョコレート、台無しにしちゃった……)

瑠璃(でもこれは多分、私がグズグズしてたせい)

瑠璃(挙句にこうやってユートに心配掛けさせて……何やってるんだろう、私?)グスン


瑠璃「本当に……ごめんなさい」

ユート「だから謝らなくていい。俺としては瑠璃にそんな悲しそうな顔を見せられる方が困る」

瑠璃「…………」

ユート「……ところで今日、俺に渡したい物があるって言ってたな」

瑠璃「それは……」

ユート「それってこれの事か?」

っ潰れた箱

瑠璃「拾って来たの!? ち、違うの! それはユートのじゃ……」

ユート「でも箱に『ユートへ』って書いたカードがあるぞ?」

瑠璃「はう!?」


ユート「俺のでいいんだな? じゃあ開けるぞ」

瑠璃「ま、待って!」アワアワ

ガサッ……

ユート「これは……チョコか?」

瑠璃「…………」

瑠璃(案の定、というか……箱の中のチョコはグチャグチャで……)

瑠璃(形とか書いた文字とか、もう分からなくて……)

瑠璃(とてもユートに渡せるものじゃ……無い……)

瑠璃「要らないよね……そんなチョコ……」

ユート「…………」

瑠璃「ごめんなさい。もう捨てていいから……」

ユート「あむ」パクッ

瑠璃「!?」


ユート「うん、美味しい。俺はそんなに舌は肥えてないがこれは美味しいと断言出来る」モグモグ

瑠璃「ちょ、ちょっとユート!?」

ユート「何だ?」パクッ

瑠璃「何食べてるのよ!?」

ユート「何ってチョコレートだが?」

瑠璃「そうじゃなくて! そんな潰れたチョコレートを……」

ユート「別に食べるのには問題は無いさ。箱に入っていたから汚れても無いし」

瑠璃「だけど!」

ユート「これ、瑠璃の手作りだろ?」

瑠璃「え?」


ユート「何となく食べてみてそう思ったんだが……違うのか?」

瑠璃「違わない、けど……」

ユート「だったら尚更食べないと損だろう。瑠璃がわざわざ俺にチョコを作ってくれるなんて……こんなに嬉しい事は無いさ」

ユート「ありがとう、瑠璃。感謝する」ニコッ

瑠璃「…………」

ユート「ところで急に何でチョコなんか作ってくれたんだ? 今日って何かの記念日だっけ……瑠璃?」

瑠璃「…………」ポロポロ

ユート「お、おい? 何また泣いて……俺、何か失礼な事言ったか?」オロオロ

瑠璃「違う……違うの……ユート……」

ユート「瑠璃……!?」

……ガバッ!


ユート「る、瑠璃? ちょ、何急に抱き着いて……///」

瑠璃「……ありがとう」

ユート「え?」

瑠璃「ありがとう……私……私……」

ユート「…………」

瑠璃「ありがとう……」

ユート「……おかしな瑠璃だな」

ユート「お礼を言うのは俺の方だろう」ギュ

<おわり>


おまけ1「神月アレンの場合」

アレン(今頃、ユートの奴は瑠璃からチョコ貰ってんだろうな)

アレン(いや、別に寂しくなんかねーし。羨ましくなんかねーし)

アレン(でもこうやって1人で買ったパック剥いていると何か寂しくなるよな)

アレン「あーくそ、狙ったカードが1枚も出やしねえ……」ハァ

サヤカ「――何1人で辛気臭い顔してるのよ?」

アレン「サ、サヤカ!? 何でお前がここに?」

サヤカ「アレンの家に行ったらここに居るって聞いたから」

アレン「そ、そうか。で、何か用かよ?」


サヤカ「別に用ってものでもないけど……はい」

アレン「……これ、もしかしてバレンタインのチョコか?」

サヤカ「昨日瑠璃と一緒に作ったの。お店のより美味しくはないかもしれないけど一応味見はしてあるから」

アレン「これを俺に?」

サヤカ「毎年渡してるでしょ? 手作りは初めてだけど……分かってると思うけど義理だからね。そこは勘違いしない様に」

アレン「べ、別に勘違いなんてしねえよ! でも、その……わざわざサンキューな」

サヤカ「うん……それとこっちも、はい」


アレン「ん、2個もくれるのか?」

サヤカ「こっちは瑠璃から。アレンに渡してあげてって頼まれてたの」

アレン「え! マジ! 瑠璃もくれるの♪」パァァ

サヤカ「……何か私のチョコより嬉しそうだね」

アレン「あ、いや、そんな事は……」

サヤカ「瑠璃のチョコが貰えるなら私のチョコは要らないよね。やっぱりそれ返して」

アレン「いや、何でそうなるんだよ? ていうか何をお前急に怒ってんだよ? お、おい、サヤカ!?」

<ワーワー


おまけ2「黒咲隼の場合」

瑠璃「…………」

隼(帰宅してからずっと瑠璃がリビングの机に顔を伏せてる)

瑠璃「何で私あんな恥ずかしい事を……思い出しただけで顔から火が……ああ……あぁ……///」ブツブツ

隼(そして何やらブツブツと呟いている。何かあったのか?)

隼「瑠璃、大丈夫か?」

瑠璃「! に、兄さん!? 居たの?」

隼「さっきからずっと居たぞ。それより何かあったのか?」

瑠璃「べ、別に何も! あ、そうだ。兄さん渡す物が……」ガサゴソ

隼(遂に来たか)


瑠璃「はい、バレンタインのチョコ。何時もありがとうね」

隼「ああ、受け取っておこう」

瑠璃「じゃあ私お夕飯まで部屋に戻ってるから。じゃあね」ノシ

隼「ああ」ノシ

隼「…………」

隼「さて……」

隼(瑠璃が俺の為に作ったチョコレート。早速拝見させて貰おうか)

隼(ほう、しっかりとした包装だな。まるで売り物のチョコの様だ)ガサガサ

隼(というか本当に売り物のチョコの様な……去年も同じ物を見た様な……)

隼(これはもしや……手作りでは、無い?)


隼「…………」

隼「…………」

隼「……成る程、そういう事か」

隼(手作りチョコをプレゼントしようとしたが瑠璃の奴、失敗したな)

隼(そして仕方なく市販のチョコを用意したのか。おそらく今日出掛けたのもこのチョコを用意する為)

隼(まったく瑠璃らしいというか……来年は期待しているぞ、我が妹よ)フッ

<本当におわり>


隼「…………」

隼「…………」

隼「……成る程、そういう事か」

隼(手作りチョコをプレゼントしようとしたが瑠璃の奴、失敗したな)

隼(そして仕方なく市販のチョコを用意したのか。おそらく今日出掛けたのもこのチョコを用意する為)

隼(まったく瑠璃らしいというか……来年は期待しているぞ、我が妹よ)フッ

<本当におわり>


読んでくれた人、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom