【ミリマス】午前五時よりの使者(なおしほ) (38)

・アイドルマスターミリオンライブのSSです。
・主要登場人物は横山奈緒と北沢志保の二人。
・ライブイベント当日の朝、朝早くに劇場に来てしまった二人のお話です。

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「ふぁぁあ……」
気の抜けたあくびを一つ。これでもう何度目か。どうしてこの眠気が昨晩のうちに来なかったのかと横山奈緒は思っていた。
彼女の目の前に見えるのは765ライブシアター。通称“劇場”。奈緒の本日の戦場だ。もっとも今は誰の姿もなく閑散としている。現在朝の五時。数時間後に大勢の人が集まるとは到底思えない光景だ。それもそのはず、時刻は朝の五時。奈緒は始発で劇場に来たのだ。もっとも集合時間は早朝ではなく十一時。リハーサルも午後からの開始だ。
それではなぜ奈緒はこんな早朝に劇場に来ているのか。
端的に言えば、寝付けなくて朝を迎えてしまい、「それならもう劇場行こう」と思ったからだ。家に居ても落ち着かないし、仮に劇場で眠ってしまってもきっと誰かが起こしてくれる。家にいるよりは遥かにマシと奈緒は判断したのだ。
守衛のおじさんに会釈し、劇場に入っていく奈緒。奈緒の眠たげな様子に何かを察知し、おじさんも何も言わずに通してくれた。
「……はぁ。ホンマ今日大丈夫やろか」

すいません、読みにくくなってしまいましたね…。
再度書きますごめんなさい。

「ふぁぁあ……」
気の抜けたあくびを一つ。これでもう何度目か。
どうしてこの眠気が昨晩のうちに来なかったのかと横山奈緒は思っていた。
彼女の目の前に見えるのは765ライブシアター。通称“劇場”。奈緒の本日の戦場だ。
もっとも今は誰の姿もなく閑散としている。
現在朝の五時。数時間後に大勢の人が集まるとは到底思えない光景だ。
それもそのはず、時刻は朝の五時。奈緒は始発で劇場に来たのだ。
もっとも集合時間は早朝ではなく十一時。リハーサルも午後からの開始だ。
それではなぜ奈緒はこんな早朝に劇場に来ているのか。
端的に言えば、寝付けなくて朝を迎えてしまい、「それならもう劇場行こう」と思ったからだ。
家に居ても落ち着かないし、仮に劇場で眠ってしまってもきっと誰かが起こしてくれる。
家にいるよりは遥かにマシと奈緒は判断したのだ。
守衛のおじさんに会釈し、劇場に入っていく奈緒。
奈緒の眠たげな様子に何かを察知し、おじさんも何も言わずに通してくれた。
「……はぁ。ホンマ今日大丈夫やろか」

複数ユニットでの合同ライブイベント。
今回奈緒が組んだユニットにとっては初めての出演となり、非常に重要なステージである。
それにも関わらず寝不足に緊張。コンディションは不良中の不良。
さらには不安とライブ前独特の高翌揚の混ざった不思議な精神状態。一言でいえば不安定ということだ。
「おはよーございますー! 横山奈緒、到着しましたー!」
元気を振り絞り、声にして発散したがそれに応えてくれる仲間は誰もいなかった。
奈緒がダントツで一番乗りだ。
「……そらそうやな」
奈緒自らが発する音しか楽屋にはない。自らの荷物を置いて早速今日歌う曲を流しながら口ずさむけど、その歌に合わせてくれるユニットのメンバーはこんな早朝から来るわけがなかった。
「はぁ……これ、ホンマにアカンかも」

せめて誰かいたなら雑談でもしてこの気持ちを紛らわせるのに。
みんなきっちり時間通りに来るのだろう。
やっぱり無理矢理でも寝ようかと思って机に顔を伏せようとした。
だがそのとき奈緒の耳に自分のものではない、何者かの音が届いてきたのだ。
誰だろうと奈緒は顔を上げて、その人物の到着を待った。もちろん期待に胸躍らせながら。

「……呆れた。本当に来ているなんて」

ドアを開けた人物は今日の出演メンバーではなかった。
だが、奈緒にとっては大事な仲間の一人であった。

「志保……?」
楽屋に入って来たのは北沢志保。奈緒と同じ765プロに所属しているアイドルだ。

「なんで志保がおるん?」
「……呆れた」

二回目の台詞。それも心底ガッカリしたような顔を志保はしていた。
志保はため息を一つ吐いてから、手に持っていた自分の荷物をテーブルの上に置く。
数時間もすればテーブルの上はメイク道具やらアイドルの荷物やらで一杯になるだろう。
今は志保と奈緒の荷物しかなく、志保の荷物が机上の空白をより強調しているようだ。

「志ぃ保ー。何でそんなに機嫌悪そうなん? というか、今日出演日じゃないやん? なんや、忘れもんでもしたん?」

奈緒の疑問ももっともだ。
今日の劇場は北沢志保ソロとしての出演も、ユニットとしての出演も予定されていない。
奈緒も志保はオフだと聞かされていた。
だったらなぜここにいるのか。応援にしてもあまりに早過ぎではないだろうか。

「……まぁ冗談を本気と受け止めた私も悪いんですけど」

そう言って志保はスマホの画面を奈緒に見せる。
画面に写されているのは奈緒と志保の通話アプリでの会話だ。
それを見てすぐに奈緒は自分の過ちに気付いた。

昨夜の奈緒と志保の会話はこうだった。

『あーホンマに眠れへん! めっちゃヤバイわー』
『そうですか。私、そろそろ寝ていいですか』
『志保冷たい!』
『冷たくてもいいですから寝て下さい』
『いっそ朝まで起きてたほうがええんちゃうかな』
『コンディション最悪確実ですね。お願いだから寝て下さい』
『んー夜明けまで待って始発で劇場、アリやな』
『ないです。本気で寝て下さい!』
『じょ、冗談に決まっとるやん。ほな、おやすみー』
『はい、おやすみなさい』

「奈緒さんのことだから結局朝早くから劇場に来るんだろうなぁと薄々思っていました。そうしたら案の定……」

志保の読みは当たった。内心当たって欲しくなかったに違いない。

「あはは……お見通しやったか。あ、でも何で志保来たん? 私が来るのは予想していたとしても志保が来る必要はないやん」
「ボイスレッスンがあるので少し早めに来ました。……あと駄目な先輩のコンディションを心配するのは後輩の役目ですから」
「誰が駄目な先輩やねん!」

ツッコミを入れながら奈緒は考えていた。
レッスンは正午少し前からのはず。少し早めにしては早過ぎる。
そう奈緒は思ったが、あえて聞かないことにした。
理由はどうあれ、自分以外の誰かが来てくれたという事実が物凄く嬉しかったからだ。

「まぁええわ。ありがとうな、志保」
「……別に。奈緒さんがしっかりと仕事するならそれでいいですから」

そう言いながら志保は奈緒の正面の席に座った。
広い楽屋に少女二人。空はまだ夜と朝の境界線。実に静かな世界だった。

「それで、早く来て何をするつもりだったんですか?」
「んー最悪ここで寝ても誰かが起こしてくれるかなって。でもそれ以外はなーんも考えてへんねん」
「本当に考えなしで来たんですね。……それで、寝るんですか? いいですよ、私起きてますから起こしますよ?」

せやなぁ、と奈緒が言おうとすると静かな世界に突然の闖入者があった。
ひどく気の抜けた、けれどこれからまず何をすべきかを教える大事な使者だった。

「くぅぅ~……」

その使者の正体は奈緒の腹の虫だった。

「もしかして朝ごはん食べてないんですか?」
「うん。『コンビニのご飯は駄目だよ!』って前に美奈子に怒られてもーてなー。
せやかてこんな朝早くにコンビニ以外開いてへんし、とりあえずケータリング来るまで水で耐えよかな思うてたんやけど」
「あぁ美奈子さん。それは仕方ないですね」

きっとコンビニで食事を賄っていると耳に入ったなら即佐竹食堂へ連行だ。
奈緒も志保も美奈子の店の料理が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
だが物には適量がある、というのも事実なのであった。

「気持ちはわかりますけど、眠るにも体力を使いますし、ライブまで持ちませんよ。食事は少しでもしておいたほうがいいと思います」
「そんなん言うてもどっこもお店やってへんやん」

奈緒の言葉を聞かないふりをして、志保は自らのカバンから小さな布の袋を取り出した。

「……はい」
「や、志保。『はい』って言われても。それなんなん?」
「自分で確かめて下さい」

視線を奈緒から逸らしながら、志保はその袋を奈緒に手渡した。
中から出て来たのは白い弁当箱だった。

「おべんとう……?」
「自分用に作って来たんですけど、作りすぎたのでついでに奈緒さんの分も作りました」
「―っ! ……志ぃ保ー!」

後輩の気遣いに心を打たれ志保に抱きつこうとするが、二人の間にあるテーブルがその衝動の邪魔をした。

「やめて下さい! 回り込んで来なくていいですから!」
「えー! ……んでも、ほんまおおきに。めっちゃ嬉しい」
「……ついでですから気にしないで下さい」

また視線を逸らした志保を横目に奈緒は早速弁当箱の蓋を開ける。
中身はさらに奈緒を感動させるものだった。

「おおおお! めっちゃ美味そうやん!?」
「ライブ前ですからあまり濃いものは避けましたけど」

志保の言葉通り全体的に野菜中心のあっさりとしたメニューとなっていた。
それでも彩りは鮮やかで奈緒の食欲をそそった。

「そうなん? あ、でもこれ私の心のソウルフード、たこ焼きやん。これは味濃くあらへんの? いや嬉しいんやけど」
 
奈緒から向けられる疑問と視線に、バツの悪い顔をして志保が扉のほうを向いた。

「……スペースが空いていて、他に入れるものがなかっただけです」

志保がわざわざ自分の弁当にたこ焼きを入れるとは思えない。
それはつまり……。
そこまで考えて奈緒は思考を止めた。志保の不器用な心遣いに余計な詮索は野暮だから。

「なぁなぁ、食べてもええ?」
「はい。そのためにつくっ……持って来たんですから」
「えへへ。ほな、いただきまーす!」

早速ひと口食べた奈緒。すぐに彼女の歓喜の声が聞こえてきた。

「んー! めっちゃ美味い!」
「そうですか。よかったです……ってご飯はよく噛んで下さい! ライブ前なんですから」
「せやかて志保の弁当めっちゃ美味しいんやもん。お箸が止まらへん」

志保の言葉もそこそこに奈緒は弁当を食べ続けた。
一方の志保は奈緒に何も言わなかった。
言葉を聞いてくれない奈緒に呆れたのか。それとも素直に喜んでくれる奈緒の言葉に照れていたのかもしれない。

「はー食べた食べた。ごちそうさまー」
「お粗末さまです」

弁当の隅まで何も残すことなく奈緒は弁当を食べ終えた。
ライブ前なので多過ぎず、かといって質は高い。
志保の心遣い溢れる弁当に奈緒は満足感でいっぱいになっていた。

「志保は料理できるんやろなーって思っとったけどアタリやな。これ、大変やなかったん?」
「……まぁ小さいころからやっていますから。もう慣れました。それに……美味しそうに食べる姿を見るの、嫌いじゃないですし」
「うん、ホンマわざわざおおきに。せやからまた食べさせてーな?」
「ついでに作っただけなのに……まぁ気が向いたら」

やったー、と奈緒が返すと志保はヨソを向いて、ソファへと身体を沈めていった。
照れ隠しなのか、カバンからスマホを取り出して操作を始めた。
志保を見て奈緒も何かやろうと楽曲のおさらいを始めた。

再び訪れた沈黙の時間。
時刻はまだ朝の六時前。
当然だが、楽屋に二人以外の誰かが現れる気配はない。
志保は暇つぶしの道具をスマホから本へと変え、その正面で奈緒は今日披露する曲を音楽プレイヤーで聞いていた。
互いに干渉することなく各々の時間を過ごしていた。
だがそれもすぐに終わりがやって来た。

「やばい」

イヤホンを取って歌詞カードを放り投げると奈緒は机に伏し始めた。

「何がですか? 体調ですか? それとも歌詞が覚えられないとか」
「眠くなってきた」

ほとんど眠れていないことと、食事を入れたこと、そして志保と話して心が落ち着いたことが原因だろう。
突然の眠気は、まるでせき止められていた川の水が堤防の決壊で一気に流れ始めてきたかのようだ。

「まだ集合時間もリハも何時間も先ですし、寝ていたらどうですか? 今のうちに少しでも休んでおかないと体力もたないと思います」
「せやなぁ……」

顔を上げた奈緒は立ち上がって部屋を歩き始める。
一体どうしたのかと志保は思った。
早朝劇場入りは予想できた志保だったが、この先の奈緒の行動は予想できなかった。できるわけがなかった。
何せ相手は眠気が最高潮に達しつつあって思考回路が機能しているか疑わしいのだから。

「じゃあ失礼するでー」

 そう言って奈緒がやってきた場所は。

「……奈緒、さん? あっ、ソファのほうが寝やすいですよね。すいません、至らなくて」

楽屋のソファは驚くほどフカフカで座り心地がいい。
机に伏すよりもソファなら気持ち良く眠れるかもしれない。
志保はすぐにソファを明け渡そうと立ち上がろうとしたが、すぐに奈緒に制された。

「ちゃうねん。志保はそのままでええから」

志保の言葉を聞く前に奈緒は志保の隣に座り、何の躊躇もなく自らの身体をぱたりと倒した。
その先にあるのは志保の太ももだ。

「ちょっ!? 何で私の足を使うんですかっ! 起きて下さい!」
「ええやん。ソファのクッションやと頭の高さが合わへんし。私、枕には結構こだわりあるんや」

嫌がる志保だが、お構いなしに奈緒は志保の膝に頭を埋めて行く。見上げる奈緒、それを見つめる志保。

「にひひ、やっぱりぴったりや。それに気持ちええなぁ」
「変なことを言わないで下さい! それと私まだいいとは言って……!」
「お願いやー。寝させてー今ならスッキリ眠れる気がすんねん。あとで何でもするからー」

その言葉はズルい。そう志保は思った。口には出さないけれど。

「……結局何もしない気がするんですが」

代わりにこう言って遠まわしに許可を与えた。志保にとっては奈緒をよりベストの状態でステージに上げるのが最大の目的なのだから。

「そや、よく眠れるように絵本読んでやー」
「子供ですか……。まぁ持って来てはいますけど」

やったー、と奈緒は喜ぶ。
絵本を読んでいる時の志保の顔は普段とは違う、優しげな顔をしていることを奈緒は知っていた。
それを見られる貴重な機会と密かに心の中でガッツポーズをした。

「……じゃあ読みますよ」
「うん」

だが、その貴重な機会を奈緒は自ら手離すことになった。

奈緒の要望に応えて志保はカバンの中から一冊の本を取り出した。
常にカバンに入れてあるお気に入りの一冊の絵本だ。
この絵本の朗読をするのは志保の弟が小さいころに読み聞かせて以来だった。
表紙をめくり、一呼吸入れてから最初の一文を口に出し始めた。

「あるところにうさぎの王国がありました。……え?」

志保の疑問は物語に対してではない。本に半分隠れている、膝の上の主に対してのものだった。

「すぅすぅ……」

安らかな顔で奈緒は寝息を立てていた。

「……呆れた。まだ始まってすらいないのに」

文句は言いつつも、怒りはない。今日のこれからを考えると今は寝てもらったほうがいい。
自らの膝の上という点はどうかと思ったが。

「さっき何でもするって言っていましたよね。……考えておきますから」

絵本を閉じ、ソファの脇に置いた。
空いた両手をどうしようかと思ったが、それを察知したかのように奈緒が左手を握ってきた。

「っ!? 奈緒さん、起きてるんですか?」

顔を覗き込んでみると奈緒は穏やかな顔で眠っていた。
狸寝入りしている様子もない。けれど手は離そうとはしてくれなかった。

「ほんと、世話の焼ける先輩ですね……寝るときくらい大人しくできないんですか」

そうは言うものの、志保も繋がれた手を積極的にほどこうとはしなかった。
奈緒の手は暖かく、まるで子供が眠いときに体温が上がっていくようだった。
志保は小さいころの弟も眠くなるとそうだったなと思い出す。
奈緒と同じく、弟が志保の手を離そうとしなかったことも。

膝の上には奈緒の頭、志保の左手に奈緒の右手。
おかげで志保は身動きが取れなくなってしまった。
絵本を開こうと手を伸ばしたが、やめた。
突然訪れた静寂の世界に聞こえるのは一定のリズムで紡がれる奈緒の寝息。
まるで奈緒が志保を眠りの世界へ誘っているかのようだ。

奈緒が眠ってから十分ほど。志保もまた眠りの世界へと旅立った。無論、奈緒の手を握りながら。

「……んぅ」

再び目を覚ました志保の膝にいたのは奈緒だ。
眠る前と変わらずそこに彼女はいた。
時計を確認すると四時間ほど経過していた。奈緒の集合時間まであと一時間ほど。
もう起きていないと駄目だろう。

「奈緒さん、そろそろ起きてください」
「ん……」

起きない。
まだ眠気のほうが勝っているのかもしれない。
無理にでも起こせばよいのだが、そうすべきか志保は迷っていた。
あまりに気持ち良さそうに奈緒が眠っているからだ。

「……もうっ。あとで少しだけですよ」

僅かな仏心を出したのが災いするとは志保は思いもしていなかった。

再び奈緒の寝息を聞きながら時計が進むのを待っていたが、楽屋の外から明らかに自分たちではない何者かの声と足音が聞こえて来たのだ。

「おはようございます! ちょっと早めに来ちゃいまし……」
「あっ」

楽屋に入って来たのは志保と奈緒と同じ765プロに所属するアイドル、七尾百合子だった。

「あっあのっ! そのっ……お邪魔しましたー!!」

入って来てすぐに楽屋から出て行ってしまった。
無論、志保の膝枕と二人の手つなぎを見ての反応だ。

「待って百合子さん! ……ほら! 奈緒さんいい加減起きて!」

こういうときは得てして目覚めないものだ。お約束とはそういうものなのだから。

「百合子ちゃん、大声出してどうしたんでしょう? 亜利沙ビックリしちゃいました」
「何か中にいたのかしら。嬉しそうな顔していたのが気になるけど」

続々とやってくるアイドル達。
徐々に近づく声と比例して志保の焦りは高まっていた。
そんな志保の気持ちを知らずに一向に起きる気配のない奈緒。いや正確にはもっと悪化していた。

「んん~……」

気だるげな声とともに寝返りを打って、志保に相対するような形になった。
少しだけ暖かい奈緒の吐息が志保のおなかを刺激してくる。

「ちょっと! いい加減起き……」

志保の言葉を遮るように楽屋に入って来たのは松田亜利沙と馬場このみの二人だった。

「……あぁーなるほど。だから百合子ちゃん」
「か、勝手に納得しないで下さい!」
「むふふ、これはスクープの匂いですね!」
「亜利沙さんやめて下さい! 誤解です!」

自らの言葉を証明するため志保も立ち上がろうとするが、奈緒が志保をがっちり掴んで離してはくれない。

「奈緒さん! 本当にもう起きて下さい!」
「ん~……もう少し」
「あー気にしないで志保ちゃん。お構いなく」
「このみさんっ! だから違うんです! 起こすの手伝って下さい!」

このあと奈緒が起きるまで志保の必死の弁解は続いたという。



『今日はホンマありがとな』

家に帰って来てすぐに奈緒から志保へメッセージが届いた。

『別にいいですよ。公演見ましたけど、しっかりできていたみたいですし。お疲れ様でした』
『ありがと。志保のおかげやで。……そうや、何でもする言うたけど、志保は何がええ?』

志保は眠りかけの奈緒との約束など諦めていたし、別にどうでもよかった。ただ、奈緒が覚えているなら権利を行使しない理由などない。

だから志保はこうメッセージを送った。

『そうですね。私は来月が新ユニット公演なので、その時奈緒さんも早朝に来てもらいましょうか?』

半分皮肉で冗談、もう半分は表現できない感情の言葉。
奈緒は何て返してくるだろうか。送ってから志保は不安になってきた。だから急いで『冗談です』と入力し、送ろうとした。

だが、それよりも早く奈緒から返事があった。

『……お弁当作ったほうがええの?』と。

 志保はこう返した。

『ついででいいです』と。


おわり

書き忘れてましたが、今作は以前某合同誌に寄稿したものです。
2年近く前ですが、いい機会なので公開しました。

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