【モバマス】まゆ「もっとまゆを夢中にさせてください。」【百合注意】 (45)

 ファンの皆さーん!日本でいちばん!世界でいちばん!宇宙でいちばん!超絶カワイイアイドルといえば~?


 その通り!超絶カワイイ幸子ちゃんこと、輿水幸子でーす!


 コールアンドレスポンス形式だとこういうときに締まらないのが難点ですねぇ。
 さて皆さん、皆さんには自分を図る基準というものをお持ちでしょうか?自分がいちばんだと誇れるもの、誰にも負けないと自負するもの、それらがどれだけ回りに通用するのか考えたことがありますか?
 こんな言い方をされてしまうとけっこうな数の人が口を閉じてしまうと思います。自分に自信をもつというのは、言葉にするのは簡単ですが実際にはとてもむつかしい事です。
 しかし卑屈になればどんなに得意なことや好きなことも怖くて手を出せなくなってしまいます。
 自分の能力を自分に証明するためには、ひたすら周囲と競い合うしかありません。そのために己惚れや慢心で自分をだまして他人と自分を比べる勇気を無理やり引きずり出すのも悪い手ではないと思います。ボクも自分の虚栄心に何度も助けられてきました。
 ですが、今後はそれらに頼る回数も減ってくるでしょう。
 ボクはようやく自分に勇気を与えてくれる基準を一つ、手に入れることが出来たんです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486853946

 その日、ボクはプロダクションが借り上げているマンションの自室から新しく始まるバラエティー番組の打ち合わせのために、事務所に向かう途中でした。
 その道中、ボクはそこに居るはずが無い彼女を見つけたんです。
 彼女は足元に大きなカバンを足元において、近くのコンビニで買ったと思われる地図帳と周りのビル街を見比べながら立ち尽くしていました。
「佐久間まゆさん、ですよね?」
 ボクは彼女に声をかけてみます。もしかしたら他人のそら似かもしれませんので、まずはボクの知り合いかどうかを確認しました。
「え、あの……輿水幸子さん?」
 よかった、どうやらボクの知り合いと目の前の彼女は同一人物の用です。
「お久しぶりですね。こんなところで会うとは思いませんでした。観光ですか?」
「え?えーっと……ご無沙汰しております。実は輿水さんが所属しているプロダクションにお伺いしたいのですが……」
 ボクのプロダクションに?さて、何かお仕事の用事でしょうか?ですが、確か彼女はボクより2つ年上の高校生ですが、さすがに遠く離れた仙台から、モデル一人で東京に出張させたりはしないでしょう。
「お連れの方は?」
「いえ、ここには私一人で来たんです。」
「お一人で?それは大変でしたね。ちょうどボクも事務所に向かう途中だったんです。よかったら一緒に行きませんか?」
「それは助かります。さっきからどの道も同じに見えて途方に暮れていたんです。」
 さっきまで不安そうな表情を浮かべていた顔がぱぁっと笑顔に変わるのを見てボクはドキッとします。一緒に仕事をした時はずっと同じ表情でほとんど目を合わせて貰えず会話もなかったので、初めて彼女の顔を正面から見たのですが、これはかなりの破壊ですね。
「い、いえ礼には及びません。しかし、モデルさん一人で出張なんて、ウチも車ぐらい出してあげればいいのに。」
「あの……違うんです……そちらのプロダクションには連絡を取ってないんです。」
「え?アポ無しで?」
「実は……私、前のプロダクションを辞めて来たんです。」

 彼女と初めて出会ったのは宮城の地方紙の仕事で仙台に来た時のことです。
 初めて出会った彼女はどこか物憂げでずっと遠くを見てるようで、その哀愁漂う姿にボクは心を奪われてしまいました。ああ、人を惹きつけるってこういうことなんだと。
「幸子ちゃーん?今の表情すごくいいよー。でもそのままこっちに目線くれたらもっといいんだけどなー?」
 どうやらまゆさんの顔を見つめ過ぎていたようです。ボクは慌ててカメラに目線を向けました。
 結局この日は日帰りで東京に戻らなきゃいけなかったのもあり彼女と会話する機会はありませんでした。ボクは帰りの新幹線の中でずっと彼女のことを考えていました。
 きっとボクはまだ彼女の域までたどり着いていません、性別に関係なく人の目線を支配できるような力なんて持ち合わせていませんから。
 でも、人を虜にする力を身をもって体験できました。今日の経験は確実にボクを成長させてくれる。
 効果線になって後ろに流れていく景色を眺めながらボクは敗北感と高翌揚感を噛み締めて仙台を去りました。
 ちなみに後日送られた地方紙のサンプルの表紙にはボクが頰を赤らめてまゆさんを見つめている写真が使われていて。その日一日を羞恥でもんもんしながら過ごしました。

「それでは、今日もらった名刺と出演していたタレントさんの名前を全部そのノートに書き込んでください。時間があればそれぞれのプロフィールも確認してメモしておいてくださいね。」
 そう言って、一日中彼女を連れ回して今日の仕事をこなした帰りの車の中で、昨日買っておいた厚めのノートを彼女に渡しました。
 実はこの業界、歌がうまいとか顔が整ってるとかはあまり関係無いんです。アイドルの仕事はプロデューサーさんの力量が8割でアイドル自身の実力はたいして重要ではなかったりします。
 もちろん人様の前で持てる芸を披露して報酬を得てるわけですから素人同然ではお話にもなりません。ですが、誰もが頂点を目指してしのぎを削っているアイドル業界で、素人目に見てわかるほどの差をつけるのは非常に困難です。(オーバランクなんていうとんでもない例外中の例外も存在しますが。)
 ぞんざいな言い方をすれば誰がやっても変わらない。みんなプロなんですから当然といえば当然ですね。
 そこで周りに差をつけられるのがコネクションの力です。誰がやっても同じなら当然信頼できる知り合いに任せたいというのが世の常で、あらかじめお互いに顔見知りであればプロデューサーさんの営業も円滑に進み、取れるお仕事も増えて、あわよくば向こうから仕事がやってくることもあります。
 お仕事が増えればアイドルのメディアの露出も増え、さらに営業もやりやすくなってお仕事が増える。そしてボク達アイドルは任されたお仕事を完璧にこなして周りの信用を得てコネクションを広げていく。
 もちろん類い希な歌唱力や凶悪な個性で強引に駆け抜ける人が居ますが、結局は彼女達もその生まれ持った力で信用を勝ち取っているわけです。
 そして信用を得る足がかりとして、相手のことを覚えるのは非常強力な手段になります。
 誰でも自分のことを覚えてもらって悪い気はしません。さらに、趣味や仕事に理解を示した人には好意的に接するようになるでしょう。
 出会った人のことをひたすらノートに書き込んで暗記する。地味ではありますが、ボクはこれが業界の中で心強い武器になると考えています。

 そういえば説明がまだでしたね。
 あの後まゆさんはウチのプロダクションに移籍することになりました。どうやら彼女は前のプロダクションに一方的に別れを告げ、通っていた学校も辞めて、家族の反対も押し切ってこのプロダクションに所属するために上京してきたそうです。
 ボクはそれを聞いて舞い上がるような気持ちでした。仙台の彼女はボクのことなど眼中になく、もしかしたら名前すら覚えて貰えてないんじゃないかと考えていました。ですがそれは気宇だったようです。
 どうやらボクは知らず知らずのうちに彼女に何かしらの影響を与えて居たのでしょう。それも今まで築き上げてきたものすべてをかなぐり捨てさせるほどの。
 今までひたすらボクがいちばんカワイイんだと自分に暗示をかけていました。それでも自分は数多く居るアイドルのうちの一人でしか無いとずっと感じていました。ですが、ボクを見てくれていた人が居たんです!それも人生をかけてくれるほどに!
 ボクは渋るプロデューサーさんをまゆさんと一緒に説得しました。彼女はボクを追いかけて来てくれたんです、それまで自身を支えてきたコネクションよりもボクの方が有用だと選んでくれたんです。ならばボクはその信用に答えなくてはなりません。

 プロデューサーさんの出した条件は二つ、
・トレードの費用はプロダクションが管理してるボクの口座から建て替えること。
・1年以内に採算がとれるようにすること。
 傍から見れば絶望的な条件ですが、ボクから見ればぬるすぎて笑みがこぼれるようなものでした。
 彼女には人を惹きつける力があります。そんなチート能力があればアイドルとしてデビューするなんて造作もない、むしろ彼女が日の目を見る前に引き込めたことにプロデューサーさんが泣いて感謝するビジョンすら見えてました。
 結果として彼女はこのプロダクションに来て半年もしないうちにデビューシングルが決まり、ボクと一緒にテレビに出演することも増えました。
 もちろんボクが有用な繋がりになる人にどんどん紹介したことや、プロデューサーさんと営業周りに言った際にちょっと無茶な演出を呑むかわりに出演枠を強引にもぎ取ってきたこともあるでしょうが、彼女が真剣にレッスンを受けて、充分な実力をつけてくれたことで、ボクも彼女のことを紹介しやすくなったのも大きな要因の一つだと思います。大事な相手に中途半端な人を紹介なんて出来ませんからね。
 そしてボク自身も彼女が来てから大きく成長したと思います。まず今まで虚栄心に頼って自分を大きく魅せるために「ボクはカワイイ」と相手に押し付けるように言い放ってたのが、確信を持って「ボクはカワイイ」と言えるようになりました。そして今の自信溢れるボクをもっと見て貰うために今まで以上に様々な企画に挑戦できるようになりました。
まあ、当然の結果ですね。スポンジのようにふわふわとした足場で必死に他人と背比べをしていたところに、足元にコンクリートで固められたしっかりとした地面を手に入れたんです。
 どんなに跳んだりはねたしても絶対に砕けない足場、それはボクが他の誰よりもカワイイと保障してくれているように思えます。
 まゆさんを得たことでボクはようやく今まで思い描いたボクになれたんです

 プライベートでもまゆさんと一緒に行動することが多くなり、ボクとまゆさんの相性はほぼ完璧だと思いえるようになった頃、ボクはテーブルの上にまゆさんの赤いノートがおいてあるのを見つけました、ノートに振られている数字は13、ああ、もうそんなに使ったんですね。と、そのノートを手に取りパラパラとページをめくります。最近忙しくなってきたのでサボってるんじゃないかと確認するつもりだったんです。

 他人のノートを勝手に見るなどとんでもないマナー違反です。ボクはそのノートを見るべきじゃありませんでした。

 ノートにはプロデューサーさんのその日の行動が事細かに書かれていました。
 出勤した時間に始まり、ちひろさんとの会話の内容からボールペンのお尻で頭をかいた回数まで。
 そして各項目にまゆさんのコメントが綴られていれ、そのすべてがプロデューサーさんへの好意と思いの丈で、読めば読むほど彼女の愛の重さが伝わってくるようなものでした。
 頭の中で『やめろ』という警告が鳴り響いています。ですがページをめくる手を止めることが出来ませんでした。
 ノートにはプロデューサーさんと会話したアイドルのことも書かれていました。それに対するコメントはとてもじゃありませんがまゆさんが書いたなんて信じたくない内容でした。もちろんそれにはボクのことも書いていて、

15:32
幸子ちゃんと会話、内容は聞き取れず。会話中プロデューサーさんは終始笑顔。

幸子ちゃんがいなければもっとよくプロデューサーさんの顔がみえたのに。

 ボクは手に持ったノートを叩きつけるようにテーブルに放り投げました。頭が今見たことを理解しないようにしています。とにかくここに居てはだめだ。
 ボクは逃げるようにその場を去りました。

 マンションの自室に戻ると、洗面所に飛び込み、歯磨き用のコップを手に取って、中に立ててあった歯ブラシを投げ捨てて蛇口を全開に開き、コップで水を汲んで飲み干しました。
 5回ほど水を飲んだところで鏡の中の自分と目が合いました。
 鏡の中のボクは目をかっと見開き、かたで息をして、まるで何かに絶望して、それを未だに信じられずに、自分の見間違いだと思い込みたくてたまらないような顔でした。
 ボクにはそれがひどく不様で滑稽に見えて、思わず噴き出しました。込み上げてきた笑いが堰を切ったように口から溢れだします。
 もちろん鏡の中のボクもつられて笑い出します。
 鼻の穴を大きく開いて下品で不快な甲高い音をたててゲラゲラと笑うその姿は更に笑いを誘い、ボクは寒さで凍えて死ぬゴキブリのようにその場で蹲り、痙攣して笑い転げます。
「見間違い?そんなわけないでしょ、見慣れたまゆさんの筆跡だったじゃないですか、現実逃避もほどほどにしてくださいよ。」
「それにしても都合のいい頭してますねぇ、撮影中に目も合わせてもらえなかった相手に、人生を変えるほどの影響を与えた?妄想癖もいい加減にしてくださいよ。」
「そんでもって勝手に舞い上がって調子に乗ってAランクアイドルまで上っちゃったんですか?おだてられた豚だってもうちょっと身の程を知ってますよ。」
「そんな顔でよくアイドルを名乗れますね?もはや女の子としてすら失格レベルですね。」
「もう輿水幸子を名乗らないでくださいよ。あなたが輿水幸子だなんて許して貰えると思ってるんですか?」
「見てた人はさぞかし愉快だったでしょうねぇ、アイドルとしてはダメダメですがコメディアンとしては最高ですよ。」
「いっそコメディアンに転向したらどうです?その方が絶対いいですよ」

「ほら、ほら、いってくださいよ『ボクはカワイイ』って、そのブッサイクな面で『ボクは最高にカワイイですねぇ』って。」



「笑うなぁぁ!!!」

 手に持っていたコップを力いっぱいに目の前の鏡に叩きつけます。
「ボクは本気でまゆさんを信じたんです!まゆさんがボクを見てくれてるって!ボクを見ている人が居るんだって!」
 鏡は大きくヒビを入れて変形し、洗面台の形に合わなくなって、そのまま重量にひかれ滑り落ち、辺りにガラスの破片をまき散らしました。
「だからボクはまゆさんに同じところに来て欲しくってここまで引っ張り上げたんです!」
視界の中に何か動くものがあった気がしたのでそちらに振り向きます。そこにはお風呂場の鏡がありました。ボクはコップを思いっきり投げつけます。
「別にいいじゃないですかもう!ボクはAランクアイドルなんですよ?自他ともに認めるトップアイドルなんですよ?」
 お風呂から聞こえるガラスの割れる音を聞きながらボクは洗面所を出て目の前の姿見を蹴り飛ばします。
「もうまゆさんなんかに保障して貰わなくても結構です!このAランクアイドルの称号がボクの『カワイイ』を保障してくれます!」
 そして寝室のドレッサーにいつも持ち歩いてる手鏡を投げて両方とも叩き割ります。
「ボクは輿水幸子です!世界1カワイイ輿水幸子です!宇宙1カワイイ輿水幸子です!誰にも保障して貰わなくても構いません!ボクがカワイイことはボクがいちばん知ってます!!」

 家中の鏡を全部壊したところでやっと落ち着きました。
 もう何も考えたくないので怪我をしないように割れたガラスを片付け、軽くシャワーを浴びてから布団に入り意識を手放しました。

つづきはまたのちほど

 その翌朝、ボクはとてもすがすがしい気分で目を覚ましました。
 あれだけ暴れたんです、そりゃ気も晴れたでしょうね。しかし鏡の中の自分と大喧嘩したなんて誰かに知れたらきっとボクは精神病院行きでしょう。
 ボクは歯を磨こうと洗面台の前に立つと歯ブラシもコップもないことに気がつきました。そういえばどちらもガラスまみれになってしまい危ないので捨てたんでしたっけ。
 ボクは洗面台の棚から新しい歯ブラシと歯磨き粉を取り出すとそのまま台所でコップに水を入れてその場で歯を磨きました。洗面台に戻っても鏡ありませんし。
 洗面台とお風呂場の鏡の修理にいくらかかるか考えながら口をゆすいで顔を洗い、窓のガラスを鏡代わりに身支度を整えます。
 いくらなんでも姿見まで壊すこと無いじゃないですか、結構高かったんですよ?あれ。
 昨日のボクにブツブツと文句を言いながら窓の向こうの自分に笑いかけます。
 そこに居たのはいつものカワイイ輿水幸子でした。

 事務所に入ると既にレッスン着姿のまゆさんがソファーに座ってファッション誌を眺めていました。
「おはようございます幸子ちゃん。」
「おはようございますまゆさん、確か今日は一緒にレッスンでしたね。すぐ用意してきます」
 大丈夫、いつもの輿水幸子でいられます。きっと昨日は疲れていただけなんです。
 冷静に考えればまゆさんだって女の子なんですから、身近な男性に好意を抱くのも当然のことですし、好意を向ける相手が他の女性と話していれば疎ましく思うでしょう。ノートの内容についても、自分のノートに何を書こうが本人の勝手ですし、それ以前に人のノートを盗み見する方が問題です。
 さすがにノートを見たことを謝ることは出来ませんでしたが。その日一日を普段通りに過ごすことが出来ました。


……できると思ってました

 夕方、夕飯の買い物があるからとまゆさんと別れ、スタジオから事務所に戻ると一日中営業周りで事務所を離れていたプロデューサーさんが自分のデスクに着いてました。
「お疲れ、幸子。」
「お疲れ様です、プロデューサーさん。」
 自分の挨拶が妙に素っ気ないことに気がつきましたが、きっと一日中レッスンで疲れていたんでしょう。
「虫の居所が悪いみたいだな、麗さんにしぼられたかい?」
 ですが、レッスンの疲れだけでは無いことがすぐにわかりました。プロデューサーさんの声を聞くたびに胸の奥底から黒いモヤモヤが湧き起こるのが解りました。
「Aランクに上がって気が緩んだんじゃないか?あんまり慢心してると転がり落ちるのはあっという間だぞ?」
 ああ、これは抑えきれないやつです、プロデューサーさんに当たってしまう前に早く事務所を出なければ。
「まあ世界一カワイイ幸子なら問題無いだろうがなガァッ!」
 次の瞬間ボクはプロデューサーさんの椅子を蹴り飛ばしていました。椅子から転げ落ちたプロデューサーさんは目を白黒させてボクを見上げています
「思い上がってなにが悪いんですか?毎回毎回バンジーだのスカイダイビングだの酷い目にあって死ぬような思いをして必死で食らいついて手に入れた地位なんです!ボクがファンたちから貰った絶対的な評価なんです!誇ってなにが悪いんですか?縋り付いてなにが悪いんですか?それともボクはいつまでも自分と他人を見比べてガタガタ震えてなきゃいけなんですか?」
 台詞の内容に特に意味はありません、ただ目の前で尻もちを付いて怯えている人に大声で怒鳴りつけて自分の方が立場が上だと見せ付ける威嚇行為。
「あなたはいいですよね、担当してるアイドル達がいつでもあなたを慕ってくれて、好意を寄せて、劣等感なんて感じてる暇なんてないでしょうに。」
 何も知らない小娘が世の中のすべてを知ったかのよに、まるで自分が悲劇のヒロインであるかのように自分の不幸を自慢する。自分の口から吐き散らしているのに不愉快でたまりません。いっそ思いっきりぶん殴って貰えれば気も晴れるのかもしれません。ですが、プロデューサーさんは泣きそうな顔でこちらを見ているだけで反撃してくれる気配もありません。
 先ほどまで騒がしくはしゃいでいた小学生組がポカンとこちらを見ているのに気がつきました。
「……ごめんなさい、少し気が立っていたようです。今のは忘れてください。」
 急に頭が冷めてきて、強烈な罪悪感がボクを襲います。ボクはプロデューサーさんを助け起こし、蹴飛ばした椅子を元に戻します。
「……俺こそごめんな、そうだよな、お前が頑張って手に入れたAランクだもんな。」
 まるで叱られた子供のようにプロデューサーさんが小さく見えました。あまりにもすんなり謝られて、それがボクにはまるで小さい子のご機嫌を取るように見えてまた癇癪を起こしそうになり、ボクはそのまま走って事務所から逃げ出しました。

 次の日、事務所でプロデューサーさんと会うことはありませんでした。おそらく避けられているのでしょう。ボクとしてもまた頭に血が上るかもしれないのを考えるととても助かります。業務連絡はちひろさん経由でできますし。
 お仕事の方もいつも通りのボクを演じられているので大きな問題はないでしょう。
「幸子ちゃん、ちょっといいですか?」
 帰り支度を整えてるところで、まゆさんに声をかけられました。
「どうしましたか?」
 どうやらまゆさん相手には癇癪を起こさなくて済むようです。むしろまだボクが彼女に慕われていると思いたくなったりと、未だにあのノートを信じられてない自分が居ることに苦笑いしてしまいます。
「確か幸子ちゃん明日と明後日オフでしたよね?まゆもオフなんです。よかったら幸子ちゃんの家にお泊まりさせて貰えませんか?」
 ああ、そういうことでしたか。突然降ってわいたオフで、もしかしたらボクはもうこのプロダクションでアイドルは出来ないんじゃないかと思いましたが、どうやらまゆさんと休みを合わせたからふたりで遊びに行って気晴らししてこいということなんでしょう。プロデューサーさんには思ったよりも気を使わせていたみたいです。今回の件は完全にボクが悪いので気が引けてしまいます。
 しかし今のボクの精神状態でまゆさんと長時間一緒に居られるのでしょうか?また何かの拍子に癇癪を起こしてまゆさんに暴力を振るってしまうんじゃないか。
 昨日のことを考えるとボクはあまり自分のことを信用できません
「晩ごはんはまゆが腕を振るいますよ?食べたいものがあればなんでも行ってください。」
 ボクがどう断ろうか考えているとまゆさんが更に追撃してきます。
 やめてくださいよ。そういう台詞はプロデューサーさんに言ってください。
 あなたが好きなのはボクじゃないんですから。

 「幸子ちゃん、お風呂上がりましたよ。」
 結局ボクは彼女のお誘いを断ることができませんでした。
 どうやらボクはかなりまゆさんに依存してしまってるようです。
 まあ、彼女も同じマンションの住人ですので最悪の事態の時はすぐに逃げられますし。
「洗面台使い辛かったでしょ?すみません、先日割ってしまって、まだ修理を頼めてないんです。」
「いえいえ、ちゃんと手鏡を持ち歩いていますから。それより幸子ちゃん怪我はありませんでしたか?」
「ご心配なく、それじゃボクも汗を流してきます。」
 そう言ってボクはまゆさんと入れ替わりにお風呂場に向かいます。
 脱衣場に入ると洗濯籠にまゆさんの下着が入っていました。
 ボクはなんの迷いもなくそれに手を伸ばそうとする左手を右手で押さえつけます。
 いったいボクは何を考えて居るんですか!
 どうやらボクのまゆさん依存症はかなり深刻なレベルまで進行しているようです。
 今日はお風呂は諦めてシャワーだけで済ませた方が良いかもしれません。

 浴槽の栓を抜くかどうか散々迷ったあと、しっかりまゆさんの残り湯を堪能してからリビングに戻ると、まゆさんがお茶の準備をしてくれていました。……さすがにお湯を飲んだりはしてませんよ?
 まゆさんとのんびりとお茶を楽しんでいると、自分が思っていたよりも病んでいる事に気がつきました 。
 どうもまゆさんの話の中にプロデューサーさんの登場回数が多い気がします。
 おそらくボクが神経質になりすぎてるだけなのでしょうが、まゆさんがプロデューサーさんの名前を口にだすたびに確実にボクの精神を削ります。
「さて、そろそろ寝ましょうか、もう遅いですし。」
 ですから少し強引にお茶会を切り上げてしまいます。
「あの、本当にまゆがベッドを使ってしまってもいいんですか?」
「はい、まゆさんはお客さんですからね。」
 ベッドには来客用の布団を敷いてあり、ボクの布団はその横に敷いてあります。突然の来客で布団を干すことができませんでしたから少し防虫剤の匂いが残っていますがその辺はがまんしてもらいましょう。
「でも突然押しかけちゃったわけですし。」
「なんなら一緒に寝ますか?」
「まゆはそれでもかまいませんよ?」
「ふぇ!?」
 ボクは冗談のつもりでそう言いました。でもよく考えれば普通は同性の相手をそこまで意識する方がおかしいですよね。
「い、いや、一人用のベッドですし狭いですよ?」
「ふふふ、幸子ちゃんはこういうの恥ずかしがっちゃう人なんですね。これ以上わがまま言っちゃうと寝られそうにありませんから、お言葉に甘えさせていただきますね。」
「……それじゃ電気消しますよ。」
「はい、お休みなさい幸子ちゃん。」
 ボクは真っ赤になった自分の顔をごまかすように証明を消して自分の布団のもぐりました。

今日はここまで

 ええ、寝られるわけがありません。ただでさえ理性が弱ってるのに隣でのんきに寝息を立てられていれば、間違いが起きるのも時間の問題でしょう。
 ボクはまゆさんの寝息が安定するのを待って音を立てないように自分が寝ていた布団を掛け布団ごとくるくると丸め、そのままリビングまで転がします。
 朝はまゆさんより先に起きて布団を片付ければ怪しまれたりはしないでしょう。
 ボクは寝る前に一度だけまゆさんの寝顔を見ることにしました。これぐらいなら許されるでしょう。
 すやすやと眠るまゆさんの顔は、普段なら絶対に人に見せないような緩んだ顔をしていて、口なんて開きっぱなしになってます。
 にへら笑いを浮かべて眠る彼女の顔をそっと両手で挟むように触れ、軽く親指で頰を引っ張ってみます。
 するとまゆさんの顔は皮膚が引っ張られて変形し、いつものたれ目が更に強調され瞼の隙間から白目が覗いています。ボクは楽しくなって親指で彼女の頰を捏ね回します。
 しかし、こんなにしても起きないんですね。そんなことを考えていると左手の親指が滑ってまゆさんの唇に触れてしまいます。
 その時でした、まゆさんが左に寝返りを打ったためボクの親指がまゆさんの口の中に入ってしまいました。
 ボクは慌てて手を放そうとすると、今度はそのまままゆさんが口をすぼめて親指に吸い付いてしまいました。
 親指は歯で軽く固定され、指の腹は上顎の溝の部分に押し当てられ、爪を何度も舌がなぞります。
 温かい粘液の感触と親指と唇の隙間を空気が通る音に頭が狂いそうになりながらも、ボクにはまゆさんから親指を取り上げることができませんでした。
 だいたい1分ほどでまゆさんはボクの指を開放してくれました。ボクは残った温もりが逃げないうち唾液でてらてらと光る自分の指をに自分の口に含みます。
 親指には特に味はありませんが、指に残った粘液を残すまいと丹念にねぶり尽くします。
「……幸子ちゃん。」
 急に聞こえた彼女の声に全身が凍りつくような感覚を覚えました。
 しかし、まゆさんは目を覚ます様子はなく、安定した寝息をたてています。
 彼女が寝言でボクの名前を呼んだ、無意識にプロデューサーさんでなくボクを
呼んだ。
 ボクは理性が一瞬だけボクの手綱を握る手を緩めるのを見逃しませんでした。

とりあえず今日は1レス分だけ

 理性から抜け出したボクは思いのほか狡猾で、まず目を覚ましたときに抵抗されないようにヘッドボードに、古紙回収用の紐で彼女の両手を縛り付け、今度は自分の口をまゆさんの口にくっつけましたボクの舌が彼女の唇に触れると、さっきの親指のようにまゆさんは舌に吸いつきボクの舌を甘噛みしながら自分の舌で上顎に押し付けるながら扱きます。
 試しに彼女の口の中を舐め回そうとすると、すぐにまゆさんの舌に取り押さえ定位置に連行され再び何かを絞り出すかのようにボクの舌の根元の方から先端へ向かってまゆさんの舌が動きます。
 ボクが舌に沿わせて唾液を流すとまゆさんの咽が動くのがわかりました。
 しばらく、まゆさんに自分の唾液を飲ませていると、視界の脇で上下する彼女の胸元がパジャマの薄い布一枚だけしか纏っていない事に気がつきました。
 まゆさん、寝るときは上の下着付けないんですね。
 ボクはそっと布一枚で隔たれたそれに手を伸ばして、
「痛っ……」
 触れる直前に舌に噛み付かれ思わず仰け反ります。その隙をついてやっと両手がボクの首根っこを引っ掴みました。
 ボクはそのまま寝室から飛び出し洗面台に頭を突っ込んで蛇口から直前水を浴びます。そして蛇口の髪の毛から流れる水が排水口に滑り落ちるのを息を荒げて睨みつけます。
 なんてことをしてるんでしょう、これじゃまるで強姦じゃないですか!
 しばらく頭を冷やした後蛇口の水を止め、タオル掛けのタオルを引き抜いてタオル越しに自分の頭を掻き毟りその場でうずくまりました。
 ……そうだ、手首解かなきゃ。
 ボクは何度か深呼吸をして覚悟を決め、まゆさんの元に戻ることにしました。
 できるかぎりまゆさんを見ないようにしよう。
 そう心に決めて寝室の扉を開くと、その覚悟が全部無駄になったのがすぐにわかりました。
「よかった、無事だったんですね。」
 暗い寝室のわずかな光を反射するまゆさんの眼と目が合ってしまいました。

平日はなかなか時間が取れない

「やっと目が覚めたんですね。」
 できるかぎり冷たく、落ち着いた声色で、ボクは彼女に話しかけます。
 きっとまゆさんは夜中に強盗が来て、自分を縛ったとでも思ってるのでしょう。ですが、この家にはボクとまゆさんしかいません。誰かが入った痕跡なんてないんです。そうなると誰がまゆさんを縛ったかなんてすぐにわかってしまいます。
「まゆさんは優しいんですね。寝ている間にベッドに縛り付けるような人を心配してくれるなんて。」
 ですから先に白状してしまいます。それもまるで最初からまゆさんを捕らえるつもりだったかのように 。
「あの……その言い方だと幸子ちゃんがまゆをベッドに縛り付けたように聞こえるんですが。」
「はい、ボクがまゆさんをベッドに縛り付けました。この家にはボクとまゆさんしかいませんよ。」
 ああ、まゆさんの顔が凍りつく、恐怖で引きつる、ボクに怯えている。
 ボクはベッドの上のまゆさんに覆いかぶさるように近づきます。もっと怖がるようにもっと逃げ出したくなるように。
「まゆは何か、幸子ちゃんを怒らせるようなことをしましたか?」
 どうやらまゆさんはまだボクを信じてくれているようです。ボクがこんなことをするのは自分の責任だって。
「はい、ボクはカンカンに怒っています。」
 でもいいんです。ボクはあなたが思っているようなマトモな人間ではないのですから。
「もしかして、幸子ちゃんはまゆがプロデューサーさひゃひゃひゃ!」
 まゆさんの頰を抓って黙らせます。
「またです、あなたはいつでもプロデューサーさんのことばかり。今まゆさんの目の前に居るのはボクなんですよ。」
 ボクはあなたがプロデューサーさんのことを口にするのが許せません。
 ボクはあなたの心を知って狂ってしまいました。自分で自分がコントロールできなくなるほどに。ところ構わず他人を傷つけてしまうほどに。
 いえ、もっと前から。
「あの日、ボクもその場に居たんですよ?」
 あなたにあったその日から。

「え?」
 絶対に聞きたくなかった、しかし予想通りの答えでした。
「やっぱり覚えていませんね、あなたはプロデューサーさんしか見てませんでしたからね。」
 ボクは最初から彼女の眼中になかった。ボクは彼女の心を動かすことも、覚えて貰うことも、視界に入ることさえできなかった。
 それは足元にあるはずの、重力とボクを遮る壁が、突然強度を失いまるではじめから無かったかのように消えて無くなったときの感覚に似ています。
 空中のヘリコプターを下から間近で眺めたときのように。
 バンジーコードにつながれて後ろに倒れ込み、青くすんだ空を見下ろしたときのように。
 これから死ぬという感覚。
「あの日、プロデューサーさんはボクの付き添いであの場に居たんです。あなたとのモデルのお仕事のために。」
 でもそれが今はとても心地よかった。
「地方でのお仕事ですからね、さすがに中学生を一人で向かわせることはできませんから。」
 ボクが死んでいくのが。
「ボクはまゆさんのことをよく覚えていますよ。」
 ボクを死なせるのが。
「どこかずうっと遠くの方を見ていて、儚げな表情を浮かべて、とても綺麗な人だと思いました。」
 涙を流して必死で落ちまいと崖にしがみつくボクを。
「手を繋いだり抱き合うようなポーズも取ったんですよ?ボクずっとドキドキしてて、まゆさんに見とれててカメラマンさんに注意されたこともありましたね。」
 左右の小指から一本ずつ指をへし折って。
「そんなあなたが前のプロダクションを辞めてこのプロダクションに来た時は飛び上がって躍り出したくなるぐらいうれしかったんですよ?」
 何度も命乞いするボクを。
「ボクを追いかけて来てくれたんだと思ってましたから。」
 崖から突き落とす。
「ボクも人の人生に影響を与えられるようなアイドルになったんだって。」
 お前は誰にも必要とされてないんだ。
「だからボクはボクに出来ることを全力であなたに注ぎ込みました。」
 お前にできることなんて無いんだ。
「といっても、発言力のある大御所さんやディレクターさんに紹介したり営業回りの時にまゆさんを売り込んだ程度なんですけどね。」
 お前に興味がある人なんて居ないんだ。
「とにかくボクの持てるコネクションを全部使ってあなたが自由にアイドルとして活躍できるようにしました。」
 お前はひとりぼっちなんだ。
「なんてったってボクがカワイイと思ったアイドルなんですから。」
 お前はカワイくなんてない。

今日はここまで

「そういえばまゆさん、ボクの家に鏡が一つもないことにきがつきましたか?こんなに自分のことをカワイイって言ってる子の部屋に鏡が無いなんておかしいと思いません?」
 一度たがの外れたボクはもう止まりません。
「まゆさんの本当の気持ちに気がついたとき。ボクはお腹抱えてのたうち回って笑い転げました。その勢いで家中の鏡を叩き割ってしまったんですよ。おかげで毎朝不便でしかたありません。」
 自分が狂っていることを精一杯アピールします。
「だって滑稽でしょ?自分が人生に大きく関わったと思った相手が実は顔すら覚えていなくて。しかもボクを引き立てるために居るプロデューサーさんに魅力で負けるなんて。」
 もっとまゆさんを怖がらせるように。
「こんなにおもしろいことがほかにありますか!」
 いまにも逃げ出したくなるように。
 もっと深く、もっと深く彼女が傷つくように。

「……あの、ごめんなさい。」
 まゆさんが哀しそうな眼でボクに謝ります。
 まゆさんはなにも悪いことはしていないんですよ?ただ年上の男の人に恋をしただけ。健全な年頃の女の子なら当然のことです。
「謝らないでくださいよ……惨めな気分になるじゃないですか。」
 おかしいのはボクなんです。女の子に恋い焦がれて、しかもその人にとても酷いことをしようとしています。
「プロデューサーさんにも酷く当たり散らしてしまいましたからね、ちょっとお仕事にも影響が出てるんです。」
 まゆさんの心はもうプロデューサーさんの手の中です。ボクにはもう手に入れることはできません。
 ですがその手の中からたたき落として粉々に壊してしまうことならできます。
 一途なまゆさんのことです、彼女がプロデューサーさんの為に大事に守ってきたものをボクが奪ってしまえば、きっともうプロデューサーさんのことを直視できなくなるでしょう。
 そうなればプロデューサーさんは再びまゆさんを再び手に入れることはできません。
「ですから今からボクの方がプロデューサーさんよりも魅力的だって証明します。」
 それにあわよくば彼女の心に永遠にボクを刻み込むことができるかもしれません。
 ボクは彼女の唇にしゃぶり付きます。
 まゆさんがボクの姿を見るだけで吐き気を催すほど嫌悪し、まゆさんがボクの声を聞くだけでうずくまるほど恐怖し、まゆさんにボクが触れただけで首を絞めて死なせようとするほど憎悪するように、深く、深く彼女の心を抉り取ります。
 そうすればボクは彼女の心に生涯にわたってトラウマとして残り続けるのです。
 ボクは自分の着ているものを脱ぎ捨て、まゆさんの身体を隠すじゃまな布を剥ぎ取ります。
 もっとボクを嫌って!もっとボクに怯えて!もっとボクを憎んで!



 だから、そんな嬉しそうな顔でボクをみないでくださいよ。

今日はここまで

注意

この掲示板は全年齢対象です。過度な期待はしないようよろしくお願いします。

 赤いリボンであなたのハートを蝶結び♡、佐久間まゆです。昨晩は幸子ちゃんと蝶結び♡
 ……下品過ぎましたねごめんなさい。お察しの通りちょっとテンション高いです。幸子ちゃんならまゆの隣で寝てますよ♡
 もちろんプロデューサーさん以外の人に身体を許してしまった罪悪感はあります。でもまゆだってだれかれ構わず抱かれたりするほどお尻は軽くありません。
 まゆはただ幸子ちゃんの気持ちには答えなきゃと思いました。こんなに強く、まっすぐにぶつけられた気持ちに、まゆは逃げることも拒むこともしたくありませんでした。
 きっと幸子ちゃんからの愛は、まゆの生涯にわたって1番強い愛なのだとおもいます。これを拒否してしまえばおそらくまゆはこれほど愛されることは無いでしょう。
 きっとプロデューサーさんもこれほど愛してはくれないでしょうね、あの人は誰にでも優しいから。一方通行で返ってこないのは疲れちゃいます。
 だからまゆは幸子ちゃんを選びました。心の準備なんてできない、いま拒否すればきっと幸子ちゃんは二度とまゆの前には現れない。
 そしてなにより、こんなに強い愛が受け入れられないなんて、まゆには許せませんでした。
 まゆは一切後悔していませんよ。軽薄だと白い目で見られても打算的だと後ろ指指されても、まゆの選択肢は間違って無かったとおもいます。
 ただ一つだけ不満なのが、ベッドに縛り付けられて襲われてるのに、拍子抜けするほど優しくされちゃったせいで、まだまだ物足りなくて落ち着かないことでしょうか。紐もすぐに解かれちゃったし。

 目の前の幸子ちゃんは穏やかな寝息を立てて呑気に寝ていますね。
 むこうが先に手を出してきたんですから、こっちが手を出してもかまいませんよね?
 そんな邪なことを考えてると、ゆっくりと瞼を開いた幸子ちゃんと目が合いました。
 幸子ちゃんはのそっとまゆの頭に手を伸ばして引き寄せ、唇が触れるだけのキスをして軽く微笑んだあと、再び瞼を閉じてしまいました。
「また寝ちゃうんですか?」
 もっとまゆを愛してくださいよ、でなきゃまゆが幸子ちゃんを愛しちゃいますよ?
 まゆが幸子ちゃんの胸に手を触れようとすると、突然幸子ちゃんの眼がカッと見開かれ、そのまま飛び退くようにベッドから転げ落ちました。
「幸子ちゃん?あの……」
「ごめんなさい!ボクはなんて酷いことを!」
 そのままその場でおでこを床に擦りつけて謝ってきました。
 さすがに全裸土下座はシュール過ぎるので、まゆもベッドから降りて幸子ちゃんを抱き込むように布団を被せます。
「幸子ちゃん、まゆは怒っていませんよ?」
 そう言って背中をさすってあげると幸子が顔を上げてくれました。
「……ボク、まゆさんのノート見ちゃったんです。プロデューサーさんのことがたくさん書いてありました。……ボクはまゆさんの気持ちを知ってて……プロデューサーさんにとられたくなくて……ボクは……」
 途中から泣きながら幸子ちゃんはまゆに話してくれます。
「こんなことするはずじゃ……しちゃいけなかったのに……」
 まゆは幸子ちゃんにキスをして口を塞ぎました。
 幸子ちゃんがしてくれたように、頰の内側を、奥歯のくぼみを、下の裏を、丁寧に舐めるまわします。
 幸子ちゃんに、昨晩のことは出来心だったと、嘘だったと言わせな為に。
「謝っちゃだめですよ幸子ちゃん、どんなに謝ったって許してあげません。」
 都合のいいことに今日も明日もオフですし。
「まゆのはじめてを奪っちゃった罪は重いですよ?一生をかけて償ってもらいます。」
 そんな冷たいこと言わないでもっと楽しみましょうよ
「だから、」
 ずっとまゆが見ててあげますから。
「もっとまゆを夢中にさせてください。」

以上です。
自分は「朝ちゅん」や「この後めちゃくちゃ(略)」が大好きなので省略部分の提供はできません。
各人の想像力におまかせします。
ご清覧ありがとうございました。

ちなみに
【モバマス】幸子「もっとボクを、ボクだけを見てください。」【百合注意】
【モバマス】幸子「もっとボクを、ボクだけを見てください。」【百合注意】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486628967/)
の裏話になります。
矛盾点も多いのでクレア表とレオン裏ぐらいの関係だと思ってください。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom