にこ「魔法の終りとハードボイルド・ワンダーゾーン」 (57)

・ラブライブ!SSです。

・小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を少しモチーフにしてます。

・ギャグ成分多めです。

・かなり作者の自己満足になっています。いろいろ臭いところが多いですが、よければ楽しんでください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486788880

にっこにっこにー!

みんなのハートに笑顔届ける矢澤にこにこー! みんな元気だったにこ?

μ'sがラブライブ優勝を果たしたのは、もう数年も前のこと…。

あれからメンバーはそれぞれの進路を選んだけど、やっぱりにこにーにはアイドルへの道しかないにこ!

素敵な衣装に、豪華なステージ! そしてお客さんの熱狂!

ああ! 宇宙No.1アイドルって大変よね! 今日もにこにーは奮闘中!

―――のはずだったんだけど…


にこ「にっこりの魔法~」ジャカジャカ

通行人A「……」スタスタ

にこ「笑顔の魔法~」ジャカジャカ

通行人B「……」スタスタ


なんで路上ミュージシャンなんてやってんのよ私!! どうなってるわけ!?

<秋葉原駅前>

にこ「……」ジャカジャカ ジャーン

にこ「…ありがとうございました」

シーン……

にこ「……はあ」

にこ(また誰も聞いてないじゃないのよ…)

にこ「今日はもうやめましょ…」ガサゴソ

にこ(帰ってDVDでも見よ…)ガサゴソ


?『………』ザッザッザッザッ ピタッ


真姫『ちょっとにこちゃん?』

にこ「げっ」

真姫「なに帰ろうとしてんのよ! まだ1曲しかやってないじゃない!」

にこ「帰るわよ、突然思い出したけどDVDの返却期限が今日までなのよ」

真姫「ハァ?」

にこ「期限を守らないと大変なの! にこは警察に捕まるし真姫ちゃんも共犯にこ~♪」

真姫「……」

にこ(もちろん延滞くらいで捕まるわけないわよ、でもTSUTAYAのレンタルを知らないお嬢様は…?)

真姫「そうなの…それは大変ね…、それなら…」

にこ(ふふっ、ちょろいものね)

にこ「そうなの、だからすぐに帰って、急いでDVD見て、返しに行かないと間に合わないの~」

真姫「……はあ、仕方ないわね、わかったわ」

にこ「じゃ、そういうことでよろしく~! お先にこ~」

真姫「いやいや、ちょっと待ってよ、そうじゃなくって」

にこ「????」

真姫「買っちゃえばいいじゃない、借りてるDVDを…そうすれば返さなくて済むわ?」

にこ「ハァ?」

にこ「…思った以上に世間知らずねアンタ」

真姫「何よ!」

にこ「………はあ」

にこ「もう少しやってくわ」ガチャ

真姫「もう、無駄な時間とらせないでよ」

真姫「さっきはダメだったけど、にこちゃんの歌を聞いてくれる人、きっといるんだから…」チラ

にこ「………」ガサゴソ

真姫「ちょ、ちょっと…、なにか返事しなさいよ」

にこ「励ましてくれてありがと……、その言葉で燃えて来たわ」

真姫「にこちゃん…」

にこ「あっ、そこのジッポオイル取って」

真姫「いいけど…これ何に使うの…?」

にこ「ギターを燃やすのよ」ボタボタボタ

真姫「なんでよ!」

にこ「知らないの、ジミ・ヘンドリックスのギター炎上儀式を…? にこの最も敬愛するアーティストよ」

真姫「ジミヘンくらい知ってるわよ! だけどなんで秋葉原の駅前で火を起こすのよ!」

にこ「人類の進化と火には密接な関わりがあるわ…、私たちの祖先は知恵をつけるにつれて火を扱えるようになった」

にこ「火は灯りや温もりを与えてくれるもの…、そういった意識は脈々と受け継がれ、現代人の中にも潜在的に生きてるはず」

にこ「つまり火を起こせば、みんな安心感を覚えて笑顔になれる…! これがにっこりの魔法よ」

にこ「そしてギターが燃えて演奏できなくなれば早く帰れるわ」

真姫「結局そっちじゃない!」

にこ「実は一度やってみたかったのよ……ファイヤー!」

真姫「ちょっと! これこそマジで警察来るわよ!」

男「あ、あの…すみません…!」

真姫「ほら来た!」

にこ「マジ!?」

にこ「いや違うんですこのオイルはギターの汚れ取りのためで別に燃やそうとしてたわけじゃ…」

真姫「思いっきり『ファイヤー!』って言ってたわよ」

にこ「あわわわちょっと!」アセアセ

男「い、いえ…あの僕、別に警察じゃなくて…」

真姫「えっ?」

にこ「ぶはぁ~! 何よおどかさないでよ!」

男「すみません…」

真姫「い、いや、いいんです、こっちの勘違いだったから…」

男「いえ…」

真姫「あっ…そういえば、何か私たちに用事があったんじゃ…」

男「は、はい! あの…! 僕、あの…!」

にこ「ナンパならお断りなんですけど~」

真姫(ちょっと! 丁寧に対応しなさいよ! スカウトかもしれないんだから!)ヒソヒソ

にこ(んなわけないでしょ! ギターにドバドバ油塗ってるところ見てスカウトしにくる業界ってどこよ!)ヒソヒソ

男「あの…その…」

男「矢澤にこさんと西木野真姫さん、ですよね…?」

真姫・にこ「…!!」

男「僕、大ファンなんです…! μ'sの…」

にこ「ありがと、でもよくわかったわね、もう何年も活動してないのに」

真姫「………」

男「はじめてライブ見たときから、ずっと、忘れられないんです」

男「それで…お願いなんですけど…」

男「μ'sの曲…、歌ってもらえませんか…?」

真姫・にこ「………!」

男「………?」

真姫「…ごめんなさい、私たちμ'sの曲はやってないの」

男「そ…そんな! ギター燃やしながらでもいいです! アカペラでもいいんで!」

真姫「…そういう問題じゃなくて」


真姫「昔の曲はもう…」

男「………?」

真姫「………」

にこ「いいじゃない、やるわよ」

真姫「えっ?」

にこ「せっかくのリクエストだもの、応えないと曲が泣くわ」

にこ「ま、私にもそれなりに思い入れはあるけどね…、あんまり深く考えすぎないことよ」

にこ「…だってアンタの曲でしょ?」

真姫「……」


にこ「さて、じゃあどの曲を聞きたい? アコギ1本しかないから演りにくいのもあるんだけど」

男「は、はい!『夏色えがおで1,2,Jump!』がいいです!」

にこ「それがいっちばん難易度高いやつだって言ってんのよ!」

男「えっ、ダメですか…?」

男「はじめて聞いた時にすごく好きになって、いつかもう一度ライブに、って夢見てたんですけど……」

真姫「………!」

男「でも、結局………」

真姫「…ねえ、にこちゃん」

にこ「…わかってる、やるわよ」

にこ「真姫ちゃんコード譜持ってるわよね」

真姫「私のカバン…iPadに入ってるわよ」

にこ「は~い、よいしょっと」ベチャ

真姫「ちょっと! 油まみれの手で触らないでよ!」

にこ「…さて、と」

にこ「ま、今のやりとりでわかってると思うけど」

にこ「ぜんっぜん練習なんてしてないから、どんなひどいことになるかわかんないわよ」

男「い、いえ、構わない、です」

にこ「そ、ならやるわよ、真姫ちゃんコーラスよろしく」

真姫「……特別よ」

にこ「ワン、ツー」コンコン


Summer Wing ♪


男「……!」ドクン

真姫・にこ「~♪」

男(うわっ、本物だ……! ホントに夢みたいだ…)


にこ(…しばらく歌ってないのに、案外覚えてるものね)

『ねえ、にこ? 意識が夢の世界に旅立ったまま戻ってこなくなる、ってどんなものかしら?』

にこ(…余計な言葉まで思い出したわ)

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<数年前 下校中>

にこ「ふああ、今日も疲れたわ…」スタスタ

絵里「………」ペラッ

にこ「…アンタ本読みながら歩くと怪我するわよ」

希「絵里ちはこのごろ読書家さんなんよ」

にこ「へえ、『カラマーゾフの兄弟』とか『共産党宣言』なんて読みながらウオッカをあおるわけね」

希「ロシアへの偏見入りまくりやん」

にこ「で、今回は何を読んでるわけよ?」

希「さあ?」

にこ「当ててあげるわ、ロシア文学の最高峰、『平家物語』よっ! なんてね」

希「それはこの前読み終わったやんな、絵里ち?」

にこ「マジ!?」

絵里「……はあっ!」パタン

希「読み終わったん?」

絵里「ええ、すごくよかった…」

にこ「それで、現代ロシア文学の巨匠ことドストエリチカーさんは何を読んでたのよ?」

希「ぷっ、変な名前やね」

絵里「………」

絵里「ねえ、にこ?」

絵里「意識が夢の世界に旅立ったまま戻ってこなくなる、ってどんなものかしら?」

にこ「な、何よ急に…?」

絵里「私思うのよ……、μ'sに入って、ラブライブに出場して、毎日楽しく踊ってる」

絵里「こんな夢のような日々が本当に夢で、その世界が永遠に続けばいいのに、って…」

希「最近の絵里ちは賢さを取り戻して来とるなあ」

絵里「失った覚えはないんだけど…」

にこ「ふうん、面白い哲学ね」

絵里「そういう内容の小説だったの」

希「ウチらが生きてる現実は本当に現実なのか、それとも蝶が見てる夢なのか、みたいなアレやね」

絵里「たまにそういう根本的なところを考え込むことってない? 生まれて来た意味みたいな」

にこ「そんなの簡単じゃない」

にこ「生きるってことは、何かを成し遂げた証を残すこと」

にこ「叶わない夢でも、ちっぽけな夢でも、それに向かって進んでいくのが人生よ」

にこ「もしここが終わらない夢の世界だとしても関係ない、にこが夢を目指してることに揺らぎはないわ」

にこ「夢を追うのを諦めた時が、矢澤にこの終わりよ……って! アイドルらしからぬリアルな本音を語っちゃったじゃない!」

希「ほえ~にこっちもシリアスなことを言うんやねえ…」

にこ「もう! いいでしょ、ホラ別の話題! なんかないの!?」

絵里「あっ、聞いて!? この前電子レンジでゆで卵作ろうとしたら…」

にこ「オチが見えてるわよ!」 

希(あちゃ~やっぱりまだ賢さが足らんなあ)

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ジャーン ジャーン ジャジャーン

にこ「………ふう」

男「」パチパチパチパチパチパチ!

真姫「…っはあ! 久しぶりにしては、まあまあだったわね」

男「もう…感動しました…言葉にならないくらい…!」パチパチパチパチ!

真姫・にこ「…ふふっ」

男「やっぱり…本物だったんですね…」

男「最初話しかけたときは…漫才コンビかと思ったんですけど…」

にこ「はあ!?」

男「ひい!」

男「お二人は…アイドルをやめてアーティスト活動を…?」

にこ「そんなところね、私がパフォーマンス担当で、こっちが作曲担当」

にこ「さ、撤収するわよ」グイ

真姫「えっ、ちょっ」

にこ「思い出に浸りたい気分なの、一軒付き合いなさい」

男「あ、ありがとうございました…!」


にこ「やっぱダンスがないとあの曲の魅力は半減ね~」スタスタ

真姫「どうやって踊りながらギター弾くのよ! 二人羽織でもする!?」

にこ「それイケるかもしれないわね…」

真姫「バカじゃないの!」



男(いやあ感動したな~)

男(そうだ、皆に教えてあげなきゃ…)

男(今日アキバでμ's見た…っと)カコカコ

<居酒屋>

真姫「もう、μ'sの曲やるなんて、びっくりしたわよ」

にこ「ふーん、そういう割にはイキイキと歌ってたじゃない?」

真姫「そ、それは、懐かしくてなんだか…」

にこ「そう、それは私も感じたわ」

にこ「っていうか演奏してみりゃこんなものよね」

にこ「あの頃の曲は9人全員じゃないと歌えない、って封じ込めてたけど」

にこ「案外、こんなものなのよ」

真姫「曖昧すぎてわかんないわよ、あっ、米焼酎ロックおねがいします」

にこ「あら、シブいの飲むのね」

真姫「別に、花陽のマネよ」

にこ「あの頃にしがみ付きたくないと思ってたけど」

にこ「とらわれ過ぎてもいけないのよ」

にこ「時間の波ってやつね」

にこ「………」

にこ『泳ぎ始めなければ、石のように波の底に沈んでしまう』

にこ『だって…』

真姫『だって時代は変わるものだから』

真姫「ボブ・ディランね」

真姫「にこちゃんこそ渋いセンスしてるわ」

にこ「にこの最も敬愛するアーティストよ」

真姫「さっきはジミヘンだったじゃない……って! この焼酎お米の味がしないわ! 何よ!」

にこ「するわけないでしょ! 初心者か!」

真姫「そうだ、酔っちゃう前に言っとくけど」

にこ「何よ、愛の告白ならもうちょっといい場所あると思うけど」

真姫「違うわよ!」

真姫「私そろそろ卒業研究で忙しくなるのよ、だから…」

真姫「しばらく作曲もできないし、路上に出て歌うなんてもっと無理」

にこ「……そういえば薬学部だったわよね」

真姫「なに忘れちゃってんのよ」

にこ「……げっ、同時に思い出しちゃった、明日の朝バイトだったわ」

真姫「はあ? 今から見なきゃいけないDVDもあるんでしょ?」

にこ「ぎゃ~! もう酒飲んでる場合じゃなかったわ!」

真姫「急なタスクが2個、まさしく”にっこにっこに~”って感じね」

にこ「…やっぱ酔っぱらってんじゃない?」

真姫「ナニヨ!」

<にこの部屋>

にこ「はあ~」ガチャ

パチン

にこ「テレビ、エアコン、パソコンっと」ピッピッピ

にこ「ぶはあ~」ゴロン

にこ「…なにやってんのよ私」

にこ「……ああ~映画見なきゃ」

ガチャ ウィーン ピッピッ

にこ「ふう」

テーテレレレレレテレレン♪

【男はつらいよ】

にこ「にこもつらいわよ~」

にこ「…このシリーズ、いつも寅さんの夢から始まるのよね」

にこ「もし今の暮らしが夢だったとして」

にこ「目覚めたときには、私もフッツーに大学生活してたりするのかしらね」

にこ「……はあ」

にこ「………」

にこ「………」スヤスヤ

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チュン! チュンチュン!

にこ「だあ~! 朝になってるじゃないのよ!」

にこ「って時間!! バイト!! やっばーーー!!!」

にこ「やっばーーーーー!!!」シャワー
にこ「やっばーーーーー!!!」モグモグ
にこ「やっばーーーーー!!!」ダッシュ

【喫茶店ハニーパイ】

にこ「いやっばあああああーーー!!!」カランコロン

にこ「…ッはあ! はあ…!」ゼエゼエ

店長「おはよう矢澤さん、ハイウェイをかっとばして来た感じだね?」

にこ「はあ…! はあ…! 私のダッシュは…ングッ…! 殺人兵器並みのスピードですから…!」

店長「やりきった感がすごいけど今から開店だからね…?」

にこ「どうせ今日もお客さん来ないと思いますけど…」

店長「ふふん、来ると思って待っておくんだよ、ホラよく言う…”チャンスの神様には前髪しかない”ってやつね」

にこ「ふう~ん、そ~ですかあ~」

店長「じゃあまずはレコードかけようかね、今日の一発目は何がいい?矢澤さん」

にこ「う~ん、エンヤで!」

店長「さては眠るつもりか!?」

ガラーーン

店長「………」

にこ「………」ボケー

店長「………」

にこ「……ヒマです」

店長「……そうだね」

にこ「…東京とは思えないくらいの閑散っぷりですよ」

にこ「もっといい立地に移転したり、広告打ったり、しないんですか?」

店長「まあ半分趣味でやってる店だからね、繁盛しすぎてもそれはそれでさあ…」

にこ「わたし、なんだかこうして何もしない時間が続くのって性に合わないんですよね~…」

にこ「将来への歩みを止めたような気がしてきちゃって」

店長「………」

にこ「…というわけで、外で客引きして来ますね~! にこっ!」

店長「ああっ出た! この前もそうやって本当はTSUTAYA行ってたの知ってるからね!」

にこ「ギク!」

カランコローン

店長「ん! ホラお客さん来たよ!」

にこ「は~いキッチン入りま~す…」

店長「いらっしゃいませ~2名様ですね、ご注文は?」

『私は軽めの朝食セットがいいです~』
「わ、私は~…ど、どうしようかな…」
『もう!早く決めてよ~』

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にこ(………)ジャブジャブ 

にこ(ほーんと何やってんのよ私…)カチャカチャ

店長「オーダーです、フレンチトースト~、焼きりんご~」

にこ「は~い」

店長「それとおにぎり大きめ~」

にこ「は~い…ってはい!? そんなメニューありましたっけ!?」

店長「チキンライス用のご飯があるからそれで作れるでしょ、頼んだ!」

にこ「どこのどいつよ朝イチのコーヒー屋でご飯単品ガチ食いしようとするのは!?」

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凛『どこのお店に行ってもやっぱりかよちんはご飯頼むにゃ~』

花陽『ううっ…喫茶店でおにぎりなんて非常識だったよね…どうしよ…』

花陽「それより凛ちゃんありがとね…朝早くからつきあってくれて」

凛「ううん全然にゃ! かよちんこそ今日は最終面接なんだよね…やっぱり緊張してる?」

花陽「当然だよ~! 凛ちゃんがいるから大分落ち着いたけど…それでもご飯が喉を通らないよ…」

凛(んん? そう言うわりにはさっき巨大おにぎり注文してなかったかにゃ…?)

花陽「凛ちゃんのほうはもう決まったんだよね、就職」

凛「なんとか!半年後には凛もOLにゃ! 凛でもどうにかなったんだし、かよちんなら心配ないよ!」

花陽「うう~不安だよお~」


店長「お待たせしました、こちらコーヒー2つ、トースト、焼きりんご、おにぎりでございます」

花陽「わあっ、キレイなおにぎり!」

凛(うわああ! おにぎりデカイにゃ!!!)

店長「よろしければ後ほど朝限定のサービスをお持ちいたしますね~」

店長「矢澤さ~ん、ゆで卵2個お願いできますか~?」

にこ「は~い」

花陽「………あれ? あの奥にいる店員さん…」


花陽「やざわ…?」

凛「卵を……2個…?」


りんぱな『やざわ…にこ……! 矢澤にこーーー!!???』


にこ「!?」ビクゥ

凛「にこちゃん!!! にこちゃんだにゃ!!!!」

にこ「だ、誰よ!!!私はアンタなんか知らないわよ!!っていうかその喋り方、星空凛でしょ!! あれ?知ってたわ!!!」

花陽「うそ…うそ…にこちゃん本物だ…!」

にこ「ってことはそっちのリクスーは花陽ね、なーんだ手間がはぶけたわ」

花陽「へ…? 手間がはぶけたって…?」

にこ「喫茶店で爆弾おにぎり注文するようなトンデモ客の顔を一度見てみたかったのよっ!」

花陽「ひいい!ゴメンナサイ」

凛「あはははははは!!」

にこ「………あんたら相変わらずねえ」

凛「にこちゃんこそ元気いっぱいにゃ」


店長「楽しそうだね~知り合い?」

にこ「あっヤバ! ゆで卵!」

店長「あ~いいよいいよ! せっかくなんだから仕事は止めてしばらくお話してなさいって」

店長「…たぶん今日もそんなに来る人は多くないだろうし」

にこ「マスター…」

店長「だから君が客になってくれ」

にこ「あ~ハイハイ!」

にこ「へえ~アンタら就活してんのね~、時の流れは早いわ!」

花陽「にこちゃんとは私たちが大学入るときに会ったのが最後だもんね、3年半ぶりくらい?」

にこ「そうね、まあともかく2人ともまともな人生を歩んでいそうで安心したわ」

花陽「”まともな人生”かあ…本当にそうなのかなあ…」

凛「う~ん、とりあえず周りに合わせて就活はしたんだけど」

花陽「将来の人生設計なんて全然考えてないし、考えてもわかんないっていうか」

にこ「何言ってんのよ、そういう人たちが大多数じゃない、みんなそう思いつつ社会人になって気づいたら老人になってんのよ」

花陽「だけどね、私もいつの間にか”なんとなく”で動くようになっちゃったなあ、って」

凛「そうだよね~、なりたい自分!みたいなのがあって行動してるにこちゃん、真姫ちゃんが羨ましいにゃ」

にこ「…私の生き方は決してそんなに羨ましがられるもんじゃないわよ、真姫はともかく」


凛「凛はね、来年からフッツーの会社で働くんだ、パソコン叩いて、お茶を汲んで、コピー機の紙を補充して」

凛「でもそれならこれまでの凛の大学生活はなんだったのかなあ、って思うよ、西洋美術専攻だったのに!」

にこ「はあ!? そんな高尚な学問やってたの!?」

凛「3年間の勉強で凛が得たものはこの一発ギャグだけ……ミケランジェロ!!!」ポーズ

花陽「ぶっ!! そのダビデ像のモノマネ…!何度みても顔つきがキテる…!!」プルプル

凛「からの~! ボッティチェリのヴィーナス!!!」フワァ

にこ「ぎゃはははは!! 神聖な表情!!!」

凛「にこちゃんはまだやってるんだよね、駅前でギター持ってゲリラとかテロとか辻斬りとか?」

にこ「物騒な言い方やめなさいよ! ただの路上ライブよ!」

花陽「コツコツ続けてるんだね…人気あるんでしょ?」

にこ「ぜ~っんぜん!そこらの野良猫と一緒よ! …でもたまに立ち止まって聞いてくれる人がいるのよ、だから続けてる」

にこ「インパクトで目を引けばウケると思って、この前はギター炎上パフォーマンスをしようとしたんだけど」

凛「んん!? ホンモノのテロ行為してないかにゃ!?」


にこ「そろそろデモテープでも作ってレコード会社に応募かけようかな、とも思うわけだけど真姫も忙しそうでね」

花陽「ああ~聞いてる聞いてる」

凛「この前3人で飲み会したもんね!」

にこ「あら、なによ忙しいとか言うくせにちゃっかり遊んでんのねあの子」

凛「凛たちが呼べば二つ返事で来てくれるにゃ!」

花陽「ふふん」

凛「あっそうにゃ! その時の真姫ちゃんたら酔っ払っちゃって!」

花陽「…ぷぷぷ」

凛「米焼酎飲みながら『お米の味がしない!!!ナンデヨ!!』って叫んでたにゃ!」

にこ「それ昨日私と飲んだ時も言ってたわよ! なんで頭いいのに学習してないの!?」

花陽「真姫ちゃん以外で誰かに会ったりするの?」

にこ「う~んそうねえ~、絵里とか希とはご無沙汰ね、こっちで働いてるのは知ってるけど」

花陽「あっ!こっちにいるんだ!」

にこ「穂乃果とことりと海未はたまに私の演奏聞きに来てるわよ、3人そろって」

凛「へえ~3人とも変わらない感じかにゃ?」

にこ「ことりと海未は変わらないわね、邪魔にならないように遠くで見てくれてることが多いわ」

にこ「穂乃果はいつの間にか目の前でヘドバンしながら『オ”イ”!オ”イ”!』って拳突き上げてるわ、あの子は最高よ」

花陽「ろ、路上でそこまで盛り上がる人いるの!? パリピすぎるよ!」

凛「ふ~ん、じゃあ皆元気そうにゃ! よかったよかった~」

にこ「そうね~」

凛「そうにゃ~」

にこ「…」

花陽「……」

凛「………」

にこ「…………」

ボーン ボーン

凛「……ってかよちん! 時間時間!」

にこ「はっ!そうよ!アンタ行く時間じゃないの!?」

花陽「……!!!!」


花陽「ぴ…ぴええええええええええええ!!!」

凛「かよちん!落ち着くにゃ!深呼吸深呼吸!」

花陽「う、うん! …スゥーッ…スゥゥゥーッ…スゥゥゥ…グッ! ッググググ…! カヒー!カヒー!」

凛「かよちん!!息吐くの忘れてる!!吐かなきゃ!!!」

花陽「…はああああっ! はあ!はあ! う~ん、余計胸が苦しくなってきたよう…」

にこ「仕方ないわね、この矢澤にこがとっておきの面接突破術を授けてあげるわ…安心しなさい」

花陽「え…?」

凛「頼もしいにゃ!!」


にこ「いい? 面接の最後には”逆質問”の時間があると思うんだけど、言われるままに質問をしては並の就活生どまりなのよ」

にこ「就活生の立場じゃどうせ薄っぺらい質問しかできないわ、だからあえて質問をせず熱意をぶつける!」

にこ「具体的にいきましょう、さあ面接官がこう言うわ、『それでは最後に何か質問はございますか?』と」

にこ「そこで花陽は静かに立ち上がりバッグを肩に抱える…」

にこ「そして自信たっぷりの顔で虚空を見つめてこう叫びなさい」

にこ『ミケランジェロ!!!』ドヤァァァァ

凛「パクリだにゃ!」

花陽「……き」

花陽「来た!!!!! これで勝てるよ!!!!」

凛「ちょっと!!ダメダメダメダメ!! 人生をドブに捨てることになるにゃ!!」

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カランコロン
アリガトウゴザイマシター


にこ「はあ~、若い子の相手は疲れたわ~」グター

店長「またまた~、あんなに楽しそうにしてたくせに」

にこ「無理して合わせてただけです~」

店長「それにしても…若いっていいなあ…」

にこ「どうしちゃったんですか」

店長「いやね、若い頃は目の前に無限の可能性があってさ、人生の選択肢が目の前に現れるたびに本気で悩んで…」

店長「だけどこうしておじさんになったら、もう選択肢は出てこなくなっちゃってさ」

にこ「髪の毛も出てこなくなりますし~?」

店長「!」ピキピキ


にこ「まあ確かに就活が終わったら最後、そのあとの選択肢ってそうそう現れないと思います」

にこ「その大事な分岐点に、2つも年下の後輩たちが差し掛かってるんだなあ、ってしみじみしちゃいましたけど」

にこ「私みたいなのが言うのも変ですけど、みんなと同じ道だとしても、自分の人生の方向を決めるのはすごい勇気なんだなって」

にこ「そう考えると、あの子らがちゃんと歩み始めたことには敬意を払わなくちゃいけませんね」

にこ「な~んちゃって! にこっ!」

店長「あっ…”敬意を払う”で思い出したけど…」

にこ「はい?」

店長「あの2人…お会計払ってもらってないね…」

にこ「ぐあああ!!やられた!!!!!」

【数日後】


<秋葉原駅前>

にこ「さ~てさて、今日も歌いますかね~」スタスタ

にこ「ん~? なんかいつもの場所に軽く人だかりが…ひいふうみい…8人ってとこね」

にこ「な~にたむろってんのよ、今からそこは矢澤にこのテリトリーなんだか…ら…? んん!?」


『あっ!キターーーーーー!!!!!』
『ほ、本物だーーーーー!!!!』
『ウオオオオオオオオオ!!!』


にこ「な、なにーーーーーー!?」

ファン1「矢澤にこさん…ですよね! 僕…ずっとファンで!」

にこ「へっ? 私の!?」

ファン2「まさか…まさかまだ活動を続けてくれてるなんて…!」

にこ「な、なによなによ! いつもはそんなこと言ってくれる人なんて来ないのに!」

ファン3「僕心配してたんです…! きっともうアイドルなんてやめちゃって、他の誰かのものになっちゃったんだろうか…って」

ファン4「僕も!」
ファン5「我輩も!」
ファン6「拙者も!!」

にこ「はああ!? アンタらのものになった覚えもないわよ!!!」


ファン7「そうだ! にこにーはみんなのものなんだ!!」
ファン8「極めて個人的な見解を申し上げますと我々に遍く愛を恵み与えるその姿こそ創始者たる証であり偶像崇拝としてのですね」スチャ

にこ「ちょ、ちょっとみんないい…?」

にこ「えっと…集まってくれたのは本当に嬉しいんだけど…それにしてもなんでこんな突然…」

ファン1「ハイ!」

にこ「あっ、どうぞ…」

ファン1「Twitterで拡散されてて…!」

にこ「………ああ~、なるほどね、ちなみにどんな内容で?」

ファン2「μ’sの矢澤にこがアキバでパフォーマンスしてて…!」

にこ「ふむふむ(たぶん発信源はこの前のあの男ね…?)」

ファン3「容姿も歌声も当時と変わらず瑞々しいままで…!」

にこ「ええっ!?あらあらあら!!」

ファン4「ギターを燃やしながら生肉を食いちぎって、高速ドラミングで失神するって…!!!」

にこ「ああ!? 途中で話が捻じ曲がってるわよ!!」


にこ(しかも拡散された割には見に来たのが8人って少なすぎじゃない…!?)

にこ「まあいいか!」

にこ「それじゃ~聞いてね! 私のオリジナル曲!『にこぷり女子道!』」

ザワ…!? ザワザワ…!?

にこ「あ、あれ…!? 反応が芳しくないけど」

ファン1「ハイ!」

にこ「どーぞ」

ファン1「あの…ライブのド頭の定番といえばやっぱり『ぼららら』かな、ってみんな期待してて…」

にこ「ああ~μ’sの曲ね…、演ってあげたいのはやまやまなんだけど…」

にこ「久しぶりすぎて忘れかけてるというか…うまく歌える自信がないのよね」

ファン2「そ、それなら僕たちが歌います!」

にこ「……は?」



ファン『たーしかな今よりも~!!』

ファン『あたらしいゆめ~!!』

ファン『つ~かまえたい~!!!』

ファン『オ”イ”! オ”イ”! オ”イ”!』


にこ「男クサすぎるわよ!!」

にこ「お、おっけーおっけー…情熱はじゅうぶん伝わったわ」

にこ「まったく!しかたないわね特別よ! お返しに私が本家の歌をお聞かせするわ」

にこ「歌詞間違えても許してにこね~!」

ファン「フゥウウウウウウウ~!」

にこ「…ワン、ツー、スリー、フォー」コンコンコンコン

(なんてね…μ’sの曲を忘れられるわけないじゃない…)

にこ「~♪」

(この歌…ほーんと夢見がちな歌詞なのよね…)
(夢とか…憧れとか…挑戦とか…)

(…なんで私大学行かずに音楽なんてはじめちゃったんだろ…)
(あの時心の中を大きく占めていた感情はいつしか…どこ行っちゃったのかな)


にこ「~♪」

(そう…諦めかけて…くじけて…そしてまた立ち上がって…)
(そんな繰り返しの中で私は…知らず知らず夢を捨てたの…?)


(ううん違う…たぶん違う…きっと私はまだ憧れてる…)

にこ「~♪」

(笑顔を届けたい…みんなを笑顔にする存在に憧れてるのは今も同じ…)
(だから違うんだ…私はあの夢を忘れたんじゃなくて、今はまた別の夢を見てる…)

(そう、少人数でもいい…こうして楽しんでくれる人たちがいること…)

(私はそんな自分の夢が…やっぱり憧れに向かっているこの時間が……!)

(そんな私自身のゆずらない思いが…!!)


ファン『ダイスキ!!!!!!!!』


にこ「ふふっ!」


ジャッ ジャッ ジャカジャーン♪

<真姫のアパート>

ピンポーン ピポッピポッ ピンッポー ピポッピン…ポーン

ガチャ!!

真姫「小学生みたいなピンポン連打やめてよ!」

にこ「ごっめーん、お邪魔にこ~」

真姫「まったく…何歳よアナタ」

にこ「うっわ~! 部屋の中専門書だらけ…」

真姫「しかたないでしょ、勉強してるんだから」

にこ「遺伝学、薬理学、有機化学、分子生物学…ひえ~学問的すぎてガクガクしてきたわ」

真姫「小学生かと思ったら今度はオヤジギャグ?」


にこ「ねーねー、アンタの夢ってさあ、画期的な新薬を作ってたくさんの病気の人を救う、だっけ?」

真姫「何よイキナリ、でもそういう職業につくには知識も技術も経験もまだまだ私に足りてない、だから学んでるのよ」

にこ「ふ~ん大変ね~」

真姫「たとえば遺伝学では、遺伝子多型って言ってヒトでも個人それぞれ微妙に遺伝子配列が違うことを学ぶわ」

真姫「そして薬理学とかは、どの薬がどういう仕組みで病気を治すのかを教えてくれる」

真姫「つまりこの知識を組み合わせれば、にこちゃん個人だけを毒殺できる薬品が作れるってわけ、それが本当の私の夢よ」

にこ「マジ!?」

真姫「で? なんで来たのよ、こんな突然に?」

にこ「そうね~大事なユニット会議ってところかしらね」

真姫「ユニット会議~? じゃあ前言ってたアレね?デモテープ録って送ろうって話し合いね?」

にこ「ううん違うの、私さ、路上ライブやめるわ」

真姫「………?」

にこ「音楽活動をやめる」

真姫「………!!」



にこ「まあ~、にこも来年で24だし? そろそろ現実見なきゃな~って!」

にこ「真姫ちゃんも24になったらわかるわよ、24! 西木野だけにね!ぷぷぷ」

真姫「……バカ…!」

にこ「そう言われるのもしゃーなしよね、私が馬鹿だったわ」

真姫「…バカ! バカ! バカバカバカ!」

真姫「なんで? なんでなんで!? バカ! なんで? バカ?」

にこ「返事できないから乱れ打ちやめてよ!」



真姫「なんでよ…」ジワァ

にこ「………」

真姫「なんで諦めちゃうのよ!」

真姫「昔何度も言ってたじゃない! 『夢を追うのを諦めた時が矢澤にこの終わり』とかなんとか!」

真姫「終わってんじゃないの!今!この瞬間! だったらなんで生きてんのよ!人生も終えなさいよ!」

真姫「バカみたいじゃない!私も! 夢に向かって頑張ろうとか言って!毎日努力して!」

真姫「そうやってどうして皆自分の可能性を見捨てちゃうの!?」

真姫「凛も!花陽も! 体育の先生とかアイドルのマネージャーとか言ってたのに!」

真姫「私だけ…私だけ懲りずにそれらしい夢を掲げたまんまで…」

真姫「こんなことやってるとだんだん周りを見下しちゃうのよ…! あの人も…またあの人も夢から逃げた、って!…でも私だけは違う、って…」

真姫「そんな自分が嫌! でもきっと本当は私だけずっと子供のまま取り残されてるのよ…!」

真姫「………っ!」

真姫「にこちゃん……っ」

真姫「やめちゃうの…?」グスグス


にこ「バカね、やめないわよ」

にこ「やめるけど、やめないわ」

真姫「………」

真姫「……わかんない…論理的にしゃべって…?」グス

にこ「ああもう! これだから理系脳は!!」

にこ「まずピアノ使わせて、1曲歌うわ」 パカッ

真姫「……イミワカンナイ」

にこ「いいから! これは決意の歌よ」

にこ「私じゃなくてジョン・レノンの言葉だけど…ね」


にこ「~♪」ポロン ポロロン


にこ(ジョンはビートルズ解散後、ソロになってこの”God”という曲を歌った)

にこ(彼はバンド時代『夢の紡ぎ手』になろうとしていたけど、その時代が終わり、ジョンという単なる人間になった)

にこ(いろんな夢や憧れにすがっていたけど、それをやめて自分自身の道だけを信じる、という生き方を宣言した曲)


にこ「ホント名曲よね」

にこ「今の私は等身大の矢澤にこよ、過去の自分がどうだろうと今の私が、私」

にこ「夢を見るのをやめるなんて決して言わないけど、ちょっとした方針変更ね」

にこ「今度は等身大の夢を抱えることにしたわ」

真姫「…だから…意味わかんない……」

にこ「私がこれまで抱えていた夢はね、たぶん大きすぎて」

にこ「視界をすっぽり覆ってしまって私は何も見えてなかったんだと思う」

にこ「前に進んでいたつもりでも、前が見えないからずっとぐるぐる回って元の位置に戻ってきてた」

にこ「夢の世界から出られなかったってわけね」

にこ「でもそんな中で失敗して、やり直して、また挑戦してたら、少しずつだけど背が伸びてきて」

にこ「徐々に徐々に視界が開けてきたの」

にこ「だから今は自分の足元が、これから進んでいく道がしっかり見える」

にこ「そんな感じよ」

真姫「でもにこちゃん…高校のころから身長伸びてないじゃん…」

にこ「もののたとえよ!!!」


真姫「…もうぜんぜん意味わかんないけど、要するに」

真姫「前は”宇宙No.1アイドル”を目指す、とか言ってたけどそれは高望みだから」

真姫「結局”府中No.1アイドル”くらいで妥協しようってことね?」

にこ「…なんかうすら寒いオヤジギャグが聞こえた気がするけど、まあそうよ」

真姫「だいたい把握したわ… っていうかなんで急にそんなこと言い出したのよ」

にこ「う~ん…さっきアキバでいつもの路上演ってきたわけ」

真姫「あらそう」

にこ「そしたら私がソロライブやってる、って情報がネット上で広まってるみたいで、ファンが待ってたのよ!」

真姫「はあ!? まだにこちゃんのファンなんているの?」

にこ「それがいるのよ! で、何人集まったと思う?」

真姫「50人くらい」

にこ「8人よ8人!少なっ!あんなにアイドルファンの集まるアキバで8人!? なんかその瞬間に踏ん切りついたわ」

真姫「あっはっは! それはこれ以上続けるだけ無駄ね! 私たち、とっくに時代遅れだったんだ」

にこ「ホーント! でもね同時に感じたの、たとえ少人数でも笑ってくれる人、楽しんでくれる人がいるなら」

にこ「それはやっぱり私の人生において一番の軸になる目標なんだなって」

真姫「じゃあこれからどうするの…? 府中でキャバ嬢にでもなる気?」

にこ「違うわよ! だったら歌舞伎町に行くっつーの!ってか府中から離れなさいよ! もう!!」 

にこ「まあ、今度はアンタの話に戻るけど」

にこ「真姫ちゃんの夢はさ、きっと大きすぎもせず小さすぎもしない」

にこ「届きそうで届かないところにあるの、だから諦められないのよ」

にこ「そして、自分のやりたいことと、やるべきことが一致していることを誇りに思いなさい」

にこ「勉強が好きで得意な人間が、人を救うための学問をやりたい…とっても合理的で素敵な夢よ」

にこ「そういう才能を持って生まれてきた以上、その夢を叶えるのはアンタの義務だから」

にこ「がんばんなさいね」

真姫「………」

にこ「…私もがんばるから」

真姫「………」

にこ「おやおや? 感動のあまり言葉も出ないにこ?」

真姫「………」スースー

にこ「寝てんじゃないわよ!(小声)」

【喫茶店ハニーパイ】

にこ「マスター、お話があるんですけど」

店長「おっ? おおお、おいおいどうしたんだいきなり…! うわわわなんか緊張するな」

にこ「あの…私に…」

店長「…!!」ゴクリ

にこ「私に…コーヒーの淹れ方を教えてくれませんか…?」

店長「………へい?」

にこ「お願いします!」ペコリ

店長「…ぶはあ~~~っ」

にこ「マスター…?」

店長「…いや拍子抜けしたんだよ、もうちょっと重い話をされるのかと思って」

にこ「私そんなキャラじゃないんで~」

店長「それはともかくもちろんOKだよ、しかしなんで突然? しかも僕に」

店長「もしかして僕の淹れるコーヒーの魅力にハマったな? なんだあ~言ってよ~」

にこ「いやそれは違うんですけど~」

店長「おん?」

にこ「実は最近、ちょっと考え事をしてて」

にこ「それで考えついた答えなんですけど、私も将来、いつかお店をやってみたいなと思ったんです」

にこ「お客さんは少ないけど、だからこそ一人一人にしっかり幸せを届けられる、こんなお店を持ちたくなって」

にこ「マスターみたいな生き方を、真似しようかなって」

店長「…い、いやあ~そんなお世辞ばっか並べても何も出ないよ~」テレテレ

にこ「(出るのはお腹の肉くらいですもんね~)」ボソ

店長「おおん!?」


店長「まあ僕も初めから喫茶店やりたかったわけじゃなくて、いろんな選択肢の果てになぜか、ね」

にこ「そうなんですか」

店長「矢澤さんは洋楽好きだからわかるよね、この店名、ハニーパイの由来」

にこ「ホワイトアルバムに入ってる”Honey Pie”って曲…、優しくて素敵な名前だと思ってました」

店長「ありがとう、僕はその曲が大好きなんだよね」

にこ「あっそれだけ? けっこう薄っぺらい理由で名付けたんですね~」

店長「お世辞と暴言を交互に繰り出すのやめて! 心が乱れる!」

店長「その”Honey Pie”って曲の歌詞を知ってる?」

店長「故郷イングランドからアメリカへ渡って一躍大女優になったハニーパイって女性がいて、彼女に対して昔の恋人が」

店長「僕はやっぱり君がいないとダメなんだ~、故郷へ戻っておいでよ~、って」

店長「会って言えたらいいのになあ、って歌詞」

にこ「結局言えてないんですね」

にこ「まあ、そんなこと言っちゃう男なんてプライドなさすぎって感じがしますけど」

店長「でももしその選択を迫られたとき、ハニーパイはどっちを取るのかなって考える時がある」

店長「そんな男は無視してアメリカに残るのか、それともスッパリ帰郷して質素に暮らすのか」

店長「あるいは10年後とか女優として見向きもされなくなった頃に、こっそり故郷へ帰るのか」

店長「僕らだって、どれが正解なのかは決して知りえない、けど、どの道を選ぼうが必ず僕らは、その向こうに幸せがあることを祈ってる」

店長「そういうひとつひとつの決断を、僕は肯定してあげたい」

にこ「………」

にこ「マスターって、こういう趣味の話のときには早口でしゃべり倒すオタク的な片鱗を見せますよね」

店長「」ピキピキ

にこ「そもそもあの曲にそんな深い意味あるんですか? かなり軽い感じの小曲ですけど」

店長「ポールがどんな気持ちで書いたのかわかんないけど、意味は無いかもしれないね」

店長「でもでもちゃんとラインを読んだからこそ、曲の魅力が倍増して聞けるからね」

店長「まあその逆の場合も然り、なわけだけど、たとえば一見ラブソングに聞こえる曲も本当はドラッグの…」ペラペラ

にこ(やっば、本格的にオタクスイッチ入れちゃったわ)


店長「あっラインっていうのは歌詞のことだよ」

店長「君らがよく使うラインじゃなくって英語のLineという単語の意味は…」ペラペラペラ

テコテコテコテテン! テコテコテコテテン!

店長「………」

にこ「あの…まさにラインで電話かかって来てるんですけど」

店長「ああ…気にせず出ちゃってくれ…(泣)」


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にこ「」ポチ

にこ「もしもしにこにこ~!」

にこ「あら、どうしたのよ」

にこ「ええ!マジ!? マジのマジのマジ!?」

にこ「こりゃあ~飲むっきゃないわね!!」

にこ「私が酔い潰れるって!? バカね~その前にお酒がなくなって居酒屋が潰れるほうが先よ! な~んちゃって!」

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<居酒屋>


穂乃果「それじゃ~! 凛ちゃんと花陽ちゃんの就職をお祝いして!!」

「カンパ~~~~イ!!」

穂乃果「オ”イ”! オ”イ”!」

海未「やかましい!! 一体何歳なんですかアナタは!!」

穂乃果「ご、ごめん…」

にこ「そうよ、あまりの精神年齢の低さに花陽がビビってるわよ」

花陽「ううん全然、むしろこんなにお祝いしてくれて嬉しいよ~!」

真姫「大人の返答ね」


ガラガラ オツレサマ ゴトウチャクデース


希「ごめ~ん! お待たせ!」

絵里「遅れてごめんなさい!!」

凛「キターーーーにゃ!」

ことり「絵里ちゃん! 希ちゃん!」チュンチュン

海未「本当に久しぶりですね!二人とも!」

穂乃果「ってことは!?これで全員集合だよっ!奇跡!奇跡だよねっ!? くうぅぅぅ!テンション上がるー!」

にこ「イエーーーイ!」

凛「イエーーーーーーーーーイ!!」

絵里「あらら…まあ楽しそうで何よりよ」

希「相変わらずやね~、特にそこの2人は…」



穂乃果「オ”イ”! オ”イ”!」ブンブン

にこ「オ”イ”! オ”イ”!」ブンブン

花陽「だってにこちゃんがね~! 最終面接直前に!」

花陽『ミケランジェロ!!』ドッヤァァァァ

花陽「とかやるから! 私面接中に思い出し笑いでプルプルしちゃって!」

花陽「も~大変だったんだから!」

絵里「アッハハハハ!! それ面白すぎ!お腹よじれるほど笑えちゃう…!!」

にこ「腹がよじれるほど笑う…、これが本当の腹笑(ハラショー)ってね! にこっ!」

希「う、うわあ~」

にこ「つまんなそうな希にも、にこっ!」

真姫「笑顔の押し売りになってるわよ!」

穂乃果「いやいや、でもやっぱり楽しさを与えてくれるにこちゃんの存在は偉大だよ!今も変わってなくてよかった~!」

海未「その通りです! いかがですか?アイドルではなく漫才師を目指しては」

にこ「適当言ってんじゃないわよ! まあそんときは”オーシャン&スマイル”って名前でデビューするわ」

海未「オーシャン…? ちょっと待ってください、私もメンバーに入っていますね!?」

にこ「それに…にこはもうアイドル卒業しちゃうから」

穂乃果「……………え?」


全員『えっ、ええ~~~~っ!!!!!?』


真姫「出た! それこの前ウチで泣きながら熱唱しつつ高らかに宣言してたわよね」

にこ「泣いてたのはアンタのほうよ!」

海未「卒業って…アイドルはかけがえのない夢だったのではないのですか…!?」

にこ「まあね、でもいろいろあんのよ」

真姫「そうそう、あのとき聞きそびれたけど、結局これからどうするの?」

にこ「ああそれね、私自分のお店建てるわ、アイドル喫茶」

凛「にゃ!?」

ことり「きゃ~!すごい!!」

花陽「アイドルを諦めたわりにはまたでっかい野望だね~」

真姫「ホントよ! なにが等身大の夢よ!」

絵里「でも、ちゃんと自分のこと見つめ直したのね」

穂乃果「えらいよ…にこちゃん…! がんばれにこちゃん…」グスグス


にこ「だからアイドル矢澤にこは本日をもって卒業!」

にこ「最後の私のアイドルとしての生歌唱、みんな聞きたいわよね?」

全員「……」

にこ「ね!?」

凛「凛はお手洗いに行くにゃ~」

希「ウチも!」

にこ「はあ!? ライブでそれやったらマナ悪よマナ悪!」

にこ「路上ライブでの最大観客動員数は8人」

にこ「今日ここにいる皆と同じ人数だったわ」

にこ「だからたぶんこの規模が、私が幸せを届けてあげられる限界なのかもね!」

にこ「それじゃみんなを! 今日一番の笑顔にするわよ~!」


にこ『~♪』

絵里・希「にーこ! にーこ! にーこ!」


にこ『~♪』

まきりんぱな「にーこ! にーこ! にーこ!」


にこ『それぞれがす~きなことを信じ…て……』

にこ『いれ…ウッ……ヴァアアアアアアア(泣)』


ことり「にこちゃん泣かないで!」グスン

にこ「ううううううううううう”!!!」



穂乃果「ヴォイ!ヴォイ!!(号泣)」

海未「ヴォォォォイ!!!!ヴォォォォイ!!!(号泣)」

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にっこにっこにー!

みんなのハートに笑顔届ける矢澤にこにこー! みんな元気だったにこ?

μ'sがラブライブ優勝を果たしたのは、もう数年も前のこと…。

あれからメンバーはそれぞれの進路を選んだけど、やっぱりにこにーにはアイドルへの道しかないにこ!

素敵な衣装に、豪華なステージ! そしてお客さんの熱狂!

ああ! 宇宙No.1アイドルって大変よね! 今日もにこにーは奮闘中!

―――のはずだったんだけど…


にこ「にっこりの魔法~」ゴリゴリゴリ

やかん「……ピィィィィィィーー!!!」カンカンカン

にこ「笑顔の魔法~」コポコポコポ


にこ「はいお待たせしました! にこ特製の脳天に響くブレンド! 名付けてブレーンバスターにこ~」

店長「味のほうはまだ仕方ないけど…せめて名前だけは暴力的な感じにしないでくれよ…」


って!! なんでコーヒー作りなんてやってんのよ私!! どうなってるわけ!?

カランコロン

にこ「いらっしゃいませ~」


穂乃果「聞いたよ!にこちゃん! 超特製ブレンドが完成したんだって!?」

ことり「にこちゃんのコーヒー、楽しみっ!」

海未「ぜひそれをいただきたいです」

希「ウチらも飲みたいやんな~絵里ち?」

絵里「ええ、期待してるわよ?」

真姫「私はアールグレイで」

花陽「ええっ!?そこはブレンドコーヒー頼んどこうよ!」

凛「じゃあ凛はラーメン!!」


にこ「かしこまりました~ ドンペリピンク人数分入りま~す」

絵里「喫茶店で会計100万円いっちゃうわよ!?」

花陽「ひいい! ぼったくり店に来ちゃったよ~!!」

希「任しとき! そんな悪徳店にはウチがスピリチュアルパワーで悪魔の霊を定着させたるよ!」

にこ「はあ!?ごめんやめてお願い調子乗ったわ!! だからオカルト的な風評だけは!!」


店長(いや~僕の店も賑やかになっちゃったなあ~)

にこ(もう、何年経ったのかな…?)

にこ(誰かに笑顔を届けるアイドルの仕事に憧れたのは、いつの頃からだっけ…)

にこ(いつしか私も子供じゃなくなって、夢みる時代は過ぎ去りつつあって)

にこ(ラブライブ!の魔法は解けちゃったかもしれないけど)



にこ「は~いブレンドコーヒーのお客様お待たせしました~」

にこ「穂乃果のは特別、スーパーウルトラ濃厚エスプレッソにしたわ!」

穂乃果「うっわあ~! この液量の少なさが貴重さを表現してるね~!」ズズッ

真姫「お湯足りなくなっただけじゃないのそれ…?」

穂乃果「ッヴォエエエ! ヴォエエエエ!!」ガタン!

ことり「ホ、ホノカチャン!?」

にこ「ちょっとお客様~ 店内でのオイオイコールはご遠慮いただいておりますが~」

穂乃果「まずくてむせてるんだよ!!!!」

海未「ぷっ…! くすくす…!」

絵里「ふふふ、楽しいわね!」クスクス

「アッハハハハハハハハ! キャハハハハハハハ!」



にこ「笑顔の魔法なら、まだまだ使えるんだから!」


おわり

読んでいただいた方、ありがとうございました~!

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