曜「要望ばかりの自殺志願者」 (16)

ーーこれは悲劇の記録である。


※このssは辻村深月さんの「オーダーメイド殺人倶楽部」という本の設定を少しだけお借りしています。
流血表現などがありますのでご注意を。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486720734

確かあの日は、自転車で出かけていて…どこに出かけたのかは、忘れちゃったんだけど。
街で用事を済ませて家路へ向かうそのとき、何を思ったのかいつもは通らない裏道を通ったんだ。
少し薄暗くて湿度の高いその場所は、なんだか不思議とワクワクした。
だけど、進むにつれて少しだけ変な臭いがしてきた。

最初は全然気にならなかったんだけど、5分もしないうちにむせるような臭いになって、おもわず自転車を止めて口元をふさいだ。
さすがに、やばいと思った。
心臓がバクバクしているのが自分でもよくわかった。口の中が渇いて、妙に苦い。
私の中の好奇心と恐怖心が混ざりあって、私が出した結論は……。
重い足を動かして臭いのする方へ向かっていった。

今思うと、今までにない恐怖心で判断力が鈍っていたんだろうね。
自転車を止めたその先の、曲がり角。
血液の臭いが充満していて息をするのもつらい、そんな場所。
粘度を持った赤い液体が一面に広がっていた。
おそらく、元は猫であっただろうものがいくつか確認できた。
…それは、もう猫と言っていいのか、わからないほどに原型を失ってしまっていたけど。

無意識のうちに口から出たのは自分の声とは思えないほど掠れた声だった。
心臓が痛いくらいに鳴り響く。
非日常的なこの光景を見て私は、気持ち悪いとか、怖いとか思わなかった。ただ、
ーーーとても綺麗だと思った。
はっ、として自分の異常さに気がついた。

私はそのまま逃げるようにして自転車に跨がり、急いでペダルを漕いだ。
私は奇妙な満足感と底のないような不安感を胸に抱いていた。
ふわりと、微かな柑橘類の匂いが漂った気がした。
その日は家に帰るなりご飯も食べずにシャワーを浴びて倒れるように眠ってしまった。

次の日、珍しく水泳の練習もAqoursの練習もなかったから私はぐっすりと遅くまで寝ていた。
目を覚ましたのは私の親友である千歌ちゃんからの着信があったからだった。
重いまぶたを開けて電話に出る。

曜「もしもし、千歌ちゃん……おはよーそろ…」

千歌【おはよ、ってもう10時だよ?珍しくお寝坊さんだね】

曜「ん…たまにはね」

千歌【今から家行っても平気?まぁもう向かってるんだけどさー】

嘘でしょ!ガバッと起き上がる。
何も準備してないよー!?

曜「ま、まって!あと15…いや、30分くらい!」

千歌【わかった!みかんアイス買っていってあげるね~】

またあとでね、と言って電話を切った。
急いで準備しないと!
あーもー!千歌ちゃんはいっつも勝手なんだから!…そういうとこも好きだけどね。
誰に言うわけでもなく呟いて頬が熱くなるのを感じた。
昨日のことも気になるけど、とりあえず今は千歌ちゃんと遊ぶヨーソロー!

曜「お茶持ってきたよー」

千歌「ありがとー!」

曜「千歌ちゃん……聞きたいことって?」

問いには答えずにじっ、と私の顔を見つめる。
幼馴染みの、いつもの顔のはずなのに、なんだか知らない人のような気さえする。
1秒の静寂をも気まずく感じて、もう一度口を開く。

曜「千歌ちゃん?」

千歌「あぁ、うん…ごめん」

千歌「でも、その前に…」

千歌「曜ちゃん何か悩みあるよね?」

曜「……え?」

拍子抜けしてしまった。
私はさっき、何を考えて…?
大好きな千歌ちゃんを怖いとさえ感じていた。

曜「そんなこと…ないよ」

千歌「嘘だ。曜ちゃんマスターの千歌が言うんだから間違いないよ!」

曜「曜ちゃんマスター…?」

千歌「あーもー!とにかく!顔色悪いし…っ」

曜「そっか…心配させちゃって、ごめんね」

千歌「その悩みは千歌には言えないの…?」

曜「そんなことない!…けど、悩みなんて大層なものじゃないし……」

千歌「いいよ、別に。話してみてよ!」

曜「……ありがとう」

千歌ちゃんの優しい言葉に押され、自分の中にあったぐちゃぐちゃとした感情を打ち明けた。
途中からは自分でも何を言っているのかわからなくなってしまったけど、千歌ちゃんはいつもの笑顔で話を聞いてくれた。

千歌「そっかそんなことが……あ、ほら。目こすっちゃだめだよ。泣き虫よーちゃん」

曜「なっ…泣き虫じゃ……!」

千歌「……それで、どう思った?」

曜「どう、って…怖かったよ、すごく……」

千歌「それだけ?」

曜「千歌、ちゃん?どうしたの…」

千歌ちゃんに対する恐怖をまた感じた。
さっきのは、やっぱり、勘違いじゃなかったんだ。

千歌「他には?それしか感じなかったの」

曜「……引かない?」

千歌「うん」

曜「綺麗だな、って思った……かな」

千歌「そっか…!」

ふわりと、千歌ちゃんに包まれた。
いきなりだったから、間抜けな声が出てしまった。

とりあえず書いた分ここまでです。
土日の間には投下するヨーソロー

>>8の後に入るやつ今気付きました。
すみません。




千歌「おっじゃましまーす!」

曜「来るなら先に言ってよ?」

千歌「ごめんごめん…次から気を付けるよー。あ、はい。みかんアイス!」

曜「む…みかんアイスに免じて今回は許してあげよう」

千歌「さっすが曜ちゃん!」

曜「それで、今日はどうしたの?」

千歌「あ、そうそう。聞きたいことがあってさー…ゆっくり話したいから部屋着いてから話すよ」

曜「ふーん…?」

そのときの私は、作詞か衣装か…もしくは両方かな、なんて楽観的なことを考えていた。

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