小林「バイト始めたって?」 トール「はい!」 (69)

~自宅~

トール「カンナも小学校に行き始めましたし、家事が終わってから暇なんですよね」

トール「ですから、近所に出来たメイド喫茶に努めることにしたんです」

小林「ほう、メイド喫茶か」

トール「はい!割引券差し上げますから、暇な時にでもお越しください!」

小林「うん、じゃあ今度、カンナちゃん連れて行ってみようかな」

カンナ「メイドきっさってなに?」

小林「メイドさんが接客してくれる喫茶店の事だよ」

カンナ「おおー」

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~翌日~

~メイド喫茶DLR前~


小林「こんな所にメイド喫茶ができてたんだ」

小林「前は病院だった気がするんだけど……改装したのかな」

カンナ「コバヤシー、はやくはやくー」

小林「うん、行こうか、カンナちゃん」

小林「……」

小林「それにしても、DLRって何の略だろ」

メイド「いらっしゃいませ、お嬢様方~」

小林「あ、すみません2名で」

メイド「仰せつかりました、奥にお席へどうぞ~」

カンナ「おおおー、トール様みたいな格好してる」

小林「メイド喫茶だからね」

小林「それにしても、思ったより落ち着いた雰囲気の店だな」

小林「割と点数高いかも……」

トール「あ、小林さんじゃないですか!来て下さったんですね!」ズサー

小林「うん、割引券もあるし、トールが迷惑かけてないか見学に来た」

トール「迷惑なんてかけてないですー!寧ろ貢献しまくってます!」

小林「本当に~?」

トール「本当です!その証拠をお持ちします!」

トール「という訳で、ご注文はいかがなさいますか?ご主人様」

小林「私は女なんだし、お嬢様じゃないの?」

トール「ご主人様って呼び方の方が、より従属性が高い気がしますから」

小林「まあいいけど……」

カンナ「わたしはオムライスがいいー」

小林「じゃあ、私も同じので」

トール「ガッテンです!」

小林「もうメイドじゃないよね、その喋り方」

小林(それにしても……)

小林(かなり良い雰囲気の店なのに、全然お客さんいないな)

小林(見える範囲で一人しかいない)

小林(メイドさんの数は多いのにコレだと、売上やばいんじゃないのかな)

トール「おっまたせしました~♪」ズサー

小林「ずいぶん早いな」

トール「メイドの火力をもってすれば、この程度造作もないのです!」

小林「メイドに火力はいらんだろう」

カンナ「おいしそ」

小林「うん、そうだね、冷めないうちに食べちゃおう」

カンナ「いただきまーす」

小林「いただきます」

トール「ふふふ、ごゆっくり♪」

小林「……」モグモグ

カンナ「……」モグモグ

小林「うん、普通においしい……けど」

カンナ「トール様が何時も作ってくれてるオムライスと同じ?」

小林「だね、これだとわざわざメイド喫茶に来なくてもよかったかも」

小林「ねえ、トール、他のメニューは……」

小林「あれ?」

小林「トール?」


シーーーン


小林「どこ行ったんだろ……」

小林「というか、他のメイドさんもいなくなってる」

小林「お昼休み?」

小林「いや、飲料店で全員出払うなんてありえないだろうし……」

周囲を見渡すが、誰もいない。

先ほどまでは、居たはずだ。


入り口付近で来客を待つメイドが。

テーブルを拭いているメイドが。

カウンターの奥の厨房で料理を作っているメイドが。

皿を洗っているメイドが。

テーブルに座って料理を食べていた客が。


確かにそこに居たはずだ。


なのに、誰もいない。

店内は、静まり返っていた。

まるで廃墟のように。

いや、違う。

微かな、音が聞こえる。

水気を含んだ音が。


ピチャ、ピチャと。


その音は、先ほどまで客が座っていた方角から。

聞こえてきていた。


そこで小林は気づいた。

客が座っていたテーブルの下から。

足が見えている。

靴を履いたままの、人間の足が。


ひょっとして、病気か何かで倒れたのだろうか。

心配になった小林は、声をかけた。


「あの、大丈夫ですか?」


返事はない。

「参ったな、店員さんに伝えようにも誰もいないし……」

「えーと、救急車呼んだ方がいいですか?」


そう言いながら、小林はテーブルに近づいた。

水音が強くなる。


ピチャ、ピチャ


料理でもこぼれたのか。

それとも、出血でもしてるのか。


不安なイメージは強くなる。

そして、その席を覗き込んだ時。

音の正体が判った。

そこには、客が倒れていた。

若い女性が、床に倒れていた。

そして、その女性の上に。

メイドさんがいた。

まるで、覆いかぶさるようにして。

何をやってるのか、最初は解らなかった。

介抱してるのだろうか。

いや、いや、違う。

違うのだ。

そのメイドさんは。

違う事をしていたのだ。

ピチャピチャと音を立てて。

ああ、ああ、何てことだ。

信じられない。

信じたくない。

そのメイドさんは。

客の首筋に、唇を近づけ。

八重歯を皮膚に食いこませて。

下で肌を味わいながら。

一心不乱に。

貪っていたのだ。












性的な意味で。

小林「な、何してるんですか」

メイド「……」ピチャピチャ

客「……」ビクッビクッ

小林「あ、あの」

メイド「……」ピタッ


メイドは、やっと小林の声に気付いたのか。

客を貪るのをやめて、こちらを見た。


そして、ニコリと笑った。


メイド「お客様、今、ご奉仕して差し上げます」


フラリと立ち上がり、こちらに近づいてくる。

そのスカートの中からは、何か液体が滴っていた。

ポタリ、ポタリと。

小林「い、いや、いいです、もう帰りますから!」

カンナ「こばやしー、料理は?」

小林「べ、別のお店で食べようね、カンナちゃん」

カンナ「わかったー」

小林「お、お金はここに置いておきますから!お釣りはいりません!」


小林は店の扉を開けようとする。

だが、開かない。

鍵がかかっているようだ。

絶賛営業中なのにね。

「お客様、お客様、お待ちください、お客様」


メイドさんが近づいてくる。

扉の元に。

小林のもとに。

必死に扉のノブを回すが、開く気配がない。


ガチャガチャ

ガチャガチャガチャガチャ


「な、なんで!?」


そうしているうちに。

メイドさんの手は、小林の身体に。


「た、たすけて……」

メイドの手が、小林に触れる直前。

小林の足元から細い糸のような光が放出された。


「コバヤシをいじめちゃ、めー」


カンナだ。

雷竜であるカンナが、体内から電撃を放出したのだ。

電撃の糸はメイドに絡みつく。


「しびれますっ」


そう言い残し、メイドは床に倒れた。


「あ、ありがとうねカンナちゃん、助かった」

「……」

「カンナちゃん?」

「……はっ、ちょっと気を失ってたのー」

「だ、大丈夫?」

「今日は充電してなかったから、電気がたりないだけ」

「そっか」


ほっとしながらも、小林はメイドの様子を注意深く観察する。

カンナの電撃で気絶しているようだ。

だが、どうしてこのメイドは客を襲っていたのだろう。

どうして客をレイプしていたのだろう。

なぜレズレイプしていたのだろう。

不思議な話だ。

小林「うーん、正直ちょっとこのメイド喫茶は怖いかな」

小林「外に出たいけど……扉があかない」

カンナ「ふきとばすー」

小林「いや、駄目だよカンナちゃん、外に誰か歩いてたら巻き添えになる可能性あるし」

カンナ「んむー……」

小林「店の奥にも扉があるみたいだし、あっちから出れないか見てみようか」

カンナ「わかったー」

~バックスペース~


小林「失礼しまーす」

小林「……」

小林「こっちも、誰もいないな」

小林「というか、随分奥まで廊下が続いてるな」

小林「もしかして、バックスペースの方が店内より広いんじゃないか」

カンナ「まっくらー」

小林「うん、暗いね……スマホのライト機能で照らしてみよう」


スマホからの光で、廊下が照らされる。

何の変哲もない廊下が、奥まで続いていた。

その途中に、誰かが倒れている。

「あの……」


倒れているのは、女性だった。

声をかけても反応が無い。

気絶しているようだ。

よく見ると、服は半ば脱がされ、下着が見えてしまっている。

この人も、このメイド喫茶の客だったのだろうか。


「いったい、いったいこのメイド喫茶DLRで、何が起こってるんだ……」

小林たちは、バックスペースを一通り調べた。

厨房ではコンロに火が付いていて、鍋の中身が湯だっていた。

休憩所にあるコーヒーカップからは、まだ湯気が出ていた。

無人のトイレの前に、女性物の靴が並べて置いてあった。

明らかに先ほどまで人がいた痕跡が残っていた。


だが、誰もいない。

従業員であるはずのメイドは、ただの一人もいなかった。


更に、外部へ出る扉や窓には、全て施錠されていた。

小林「うーん、外に出れないな……困った」

カンナ「コバヤシ、コバヤシ」クイクイ

小林「ん、どうかしたのカンナちゃん」

カンナ「こっちに、階段あった」

小林「階段?」

カンナ「うん」

小林「あ、そうか、確かに外から見たこの建物には上の階があった」

小林「てっきり各階に別のテナントが入ってるのかと思ってたけど」

小林「もしかして、この建物全てがメイド喫茶のバックスペースなのかな」

小林「……」

小林「広すぎない?」

確かに階段はあった。

だが、その先も暗いままだった。

照明のスイッチらしきものはあるが、入り切りしても点灯しない。


「……先に進んでみるしかないか」


意を決した小林とカンナは、スマホの光を頼りに二階へ登って行った。

二階に上がると、微かに声が聞こえだ。

複数の人間の声だ。


「従業員の人たちは、この階にいるのかな?」

「何とか事情を話して外に出して貰わないと……」


2階には複数の部屋があるが、どこから声が聞こえるか判らない。

仕方なく、手前の扉から確認していくことにする。

「失礼しまーす」

小声でそう言いながら小林は扉を開けた。

中には沢山のロッカーが並んでいる。

更衣室のようだ。

メイドさん達は、毎日ここで着替えをしているのだろうか。


「けど……誰もいないな」


スマホの光で部屋の中を見渡しながら、小林は呟く。

部屋の中には食べかけのお菓子や、衣服が散乱している。

あまり掃除は行き届いていないようだ。





「……あれ、けど」


小林は、少し不審に思う。

何故、衣服が散乱しているのだろう。

ロッカーがあるのだから、その中に入れればいいのに。

そう考えた時、ロッカーの中から、ガタリと音がした。


「だ、誰かいるの?」


小林はそう声をかける。

だが、ロッカーからは何の反応もない。

その時、小林は想像してしまった。

もしかしたら、このロッカーの中には。

並んでいる全てのロッカーの中には、メイドさん達がいるのではないか。

隠れているのではないか。

そして、誰かがロッカーを開けるのを。

手ぐすね引いて待っているのではないか、と。


どうなるのだろう。

もし、そんなメイドさんのロッカーを開けてしまったら。

自分はどうなってしまうのだろう。

小林は、去ろうとした。

更衣室から去ろうとした。

君子危うきに近づかず、という言葉もある。

自分があの客のように、レズレイプされてしまう可能性があるなら尚更だ。


だが、その時、小林の足元で声がした。


「コバヤシ、いまここから音がした」

「あけてみるー」


制止する暇もなかった。

カンナは、ロッカーの扉に手をかけ。

開けた。

開けてしまった。

ロッカーの中には、人がいた。

女性がいた。

その女性は、小林の上にのしかかってきた。


「う、うわああああ!」


思わず小林は女性を押しのける。

女性は力なく、そのまま床に崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、はぁ、び、びっくりした……」

「コバヤシ、だいじょうぶ?」

「う、うん、大丈夫……けど、この人、どうしたんだろう」


女性は眠っているようだった。

衣服に乱れはない。

何故ロッカーの中に居たのだろう。


「コバヤシー、こっちのロッカーにもおんなのひと、いる」

「え?」



カンナの言うとおりだった。

別のロッカーにも、別の女性が押し込まれていた。

その女性はうまく荷物に支えられる形で、ロッカーに収まっている。

念の為に、全てのロッカーを見てみた。


全てのロッカーに、女性が詰められていた。


小林と同年代と思われる派手な女性。

もっと小柄な、学生くらいの年齢の綺麗な少女。

カンナと同じくらいの背格好をした、可愛い女の子。


様々な女性が、ロッカーの中で眠っていた。

いや、気絶しているのだろうか。

揺すってみても、目を覚まさない。

小林「何この光景、怖いんだけど」

小林「全員私服で、年齢もバラバラ……って事は、お客さんなのかな」

小林「お客さんを捕まえて、ロッカーの中に閉じ込めてる……って事?」

小林「猟奇的すぎでしょそれ」

小林「……」

小林「よ、よし、警察に電話しよう」

小林「さっきまでは、まあ、個人間の恋愛のトラブルとかの可能性もあったけど」

小林「ダメだこれ、もう私の手には負えない」


小林は、スマホを弄って110番を入力する。

だが、反応はない。

アンテナが1本も立っていないのだ。

小林「くっ、なんで!」

カンナ「コバヤシ、この女の人たち、どうしよ」

小林「ううん、申し訳ないけど、ロッカーの中に置いておくしかないかな」

小林「助けたいけど、流石に人数が多すぎる」

カンナ「わかったー」


倒れていた女性も、再びロッカーに詰めなおされる。

扉を閉めて、元通りにしておく。


小林「電波が通じないとなると、何とか扉の鍵を探すしかないのか……」


小林は、更衣室を後にした。

廊下に出ると、再び声が聞こえた。


微かな声。

囁くような声。

睦言のような声。


小林「……次は、隣の扉を開けてみよっか」

カンナ「わかったー」

小林「あと、カンナちゃん、扉開ける時は注意してね」

カンナ「うん」


そっと、扉を開ける。

仮に中に人がいたとしても、気づかれないように。

少しだけ。

少しだけ。




扉の隙間から、中を覗いてみる。

そこには、複数の人影があった。

大半は、メイドさんだった。

店内で見かけた、清楚系のメイド服を着たメイドさん。

彼女達は、四つん這いになり何かを貪っていた。


何を貪っているのだろう。


考えるまでもなかった。

メイド達の中心で横たわる女性。

彼女が、この部屋で唯一の獲物だった。

唯一、メイドでない存在が彼女だった。


彼女の手や足は、メイドの手で押さえつけられていた。

複数のメイドの手が、彼女の衣服の中に潜り込んでいた。

顔を押さえつけられ、メイド達の唇で印をつけられていた。

身もだえも、嬌声も、全てメイドに封じられていた。


「お嬢様、お嬢様、ご奉仕します」

「サービスします、誠心誠意尽くします」

「だって私達は、メイドですから、お嬢様のメイドですから」


それは、決して奉仕ではなかった。

奉仕させられているのは、寧ろ女性の方だった。

だが、メイド達はそのことに気づいていない。

メイド達は決して達することなく、熱心に、女性の身体を一方的にむさぼっていた。

小林「うわあ……」

カンナ「わー」

小林「これガチなやつじゃないか」

小林「集団レズレイプじゃないか」

小林「しかもよく見たら……部屋の隅で、裸の女性が何人か気絶してる」

小林「……そうか、もしかして」

小林「さっきの更衣室に閉じ込められてた女性は、備蓄なんだ」

小林「メイド達の餌が尽きないように、あそこに女性を備蓄してるんだ」

小林「ああやって、貪りつくされた女性が力尽きたら」

小林「また別の女性を更衣室から連れてくるんだ」

小林「お、恐ろしい……」

カンナ「コバヤシー」

小林「ん、どうしたのカンナちゃん」

カンナ「あのメイドたち、目が赤い」

小林「え?」

小林「確かに、あのメイド達、目が赤い」

小林「なんでだろ」

カンナ「あれは、亜竜なの」

小林「亜竜?」

カンナ「竜以外の生物が、竜の影響を強く受けると、竜の因子を受け継ぐことがあるの」

カンナ「それが、亜竜」

小林「つまり……あのメイド達は、ドラゴンになっちゃってるって事?」

カンナ「変身とかはできないけど、力は強くなってるし、少しくらいなら魔法もつかえるの」

小林「なんでそんなことに……トールがこの店で働き始めたから影響を受けちゃったとか?」

小林「いや、けどトールと暮らしてる私は何も異常がないし……」



そこまで話した時、小林は気づいた。

部屋の中から聞こえていた声が、止んでいることに。



恐る恐る中を覗くと。

真ん中にいた女性は、白目をむいて気絶していて。

メイド達は、その赤い目で、小林の事をみつめていた。

「う、うわあっ!」


思わず、声を出して扉から離れる。

どうしよう、どうすれば。

そう悩んでいる間に、扉からメイド達が。


這い出してきた。


メイド達は、四つん這いだった。

何故か、四つん這いだった。


それが、今のメイド達の生態に適しているからだろうか。

適しているから、そう進化したとでもいうのだろうか。


1階にいたメイドは、ちゃんと二足歩行していたというのに。


メイド達は、小林に向かって、こう言った。


「お嬢様、お嬢様、新しいお嬢様」

「いっぱい、いっぱい、ご奉仕します、お嬢様」

「メイド、お好きなんですよね、こんな店に来るくらいですし」

「いっぱい、包んであげます、メイドである私達で、たくさん、たくさん」

「ご寛ぎ下さい、お眠りください、お食べください」

「どんなお嬢様でも受け入れてさしあげますから」

「さあ、さあ、さあ、さあ、大丈夫です、怖がらなくていいですから」

「ふふふふふ、クスクスクスクスクス、あははははははは」

「か、カンナちゃん!」

「おー」


カンナの放電。

糸のような電撃は、メイド達を数人痺れさせる。

だが、それは焼け石に水だった。

メイドは、部屋から出てくる。

次々と。


「カンナちゃん、もう一度……!」

「……」


充電不足。

そう、今のカンナは連続して電撃を放てない。

その隙に、メイド達は床を這い接近してくる。

メイドの手が小林たちを掴みとる前に。

何とか小林は、カンナを抱えて飛びのいた。


「……あ、寝てたの」

「カンナちゃん、あっち!」

「わかったー」


小林は、抱えたカンナをメイド達に向ける。


放電。

命中。

沈黙。

移動。

放電。

命中。

沈黙。

移動。


放電後に気を失うカンナと、それを守り移動する小林。

じり貧と思われていたが、2人は何とかメイド達を全て気絶させることに成功する。

小林「はぁ、はぁ、はぁ、疲れた……普段から運動してなかったツケがこんな所で……」

カンナ「コバヤシ、だいじょうぶ?」

小林「わ、わたしは、平気」ハァハァ

カンナ「けど、辛そう」

小林「た、確かに……これが続くと、辛いかも」

カンナ「ごめんなさい、私がちゃんと充電しておけば……」

小林「悪いのは、カンナちゃんじゃないよ、寧ろ助かってる」ナデナデ

カンナ「あ……」

小林「ありがとうね、カンナちゃん」

カンナ「んぅ!」

小林「さて、メイドさん達を撃退したのはいいけど、ここからどうしよう」

カンナ「鍵さがすー」

小林「そっか、メイドさん達の服を漁れば鍵が出てくるかも」

小林「よし、さっそく……」


小林は、メイドさん達の服を探ろうとした。

だが……。

清楚系のメイド服を着て倒れている彼女達を見て、罪悪感が湧く。

彼女達は気絶してる。

その様子は、先ほどとは打って変わって普通の人間と変わりない物だ。

普通の、可愛らしいメイドさんにしか見えない。


彼女達のポケットを調べても、本当にいいのだろうか。

何か、背徳感が半端ないのだけど。


そんな葛藤を振り切って、小林はメイドのポケットに手を入れて探り始める。

布質の柔らかいメイド服を通して、彼女達の身体の形が感じられる。

何故かドキドキする。

小林は別にレズビアンではないのだけれども、メイドだけは別腹なのだ。

何人かのメイドから、鍵を入手することができた。

鍵には名前が書いてある。


「冷凍庫の鍵」

「勝手口の鍵」

「3階への鍵」


冷凍庫の鍵は、不要だろう。

勝手口の鍵でなら外への扉を開けられただろうが……途中で折れてしまっている。

残るのは3階への鍵。


更に上の階へ、行く必要があるのだろうか。

鍵が見つからない以上、仕方ないのだけれども。


「コバヤシー、3つ目の扉に、階段があった」

「ふう、じゃあ、上に行ってみようか」


小林は、ため息をつきながらそう言った。

階段を上がると、扉があった。

施錠されている。

先ほどの鍵で開くのだろうか。


カチリ


試してみると、鍵はあっさりと、回った。

そっと扉を開けて、中の様子を見てみる。


そのフロアは広かった。


2階までは幾つかの通路と部屋で、間切りがしてあった。

その逆で、3階は壁が存在せず、全てのスペースが1つの部屋として設置されている。

何らかの倉庫として使われているようだった。

そこには、大量の荷物が置いてある。


木箱。

壊れたテーブル。

薄汚れたキグルミ。

布が被せられた大きな荷物。

蛍光灯の束。


「ここは、無人なのかな……」

「それとも、荷物の影に誰かが潜んでいるとか……」


小林が、そう呟いた直後、荷物の一部が、グラリと動いた。

ズルリ、と音がする。

何かが這いずっている音だ。

何が、這っているのだろう。


メイドか。

メイドなのか。


それは、ある意味で正解で。

ある意味で不正解だった。


這っているのは。

先ほど見えていた、荷物だった。

それは、それは荷物では、なかったのだ。

布の被せられた荷物、ではなく。








巨大な身体を持つ、メイドだったのだ。

そのメイドは巨大だった。

だが、決して人間の身体が肥大化したのではなかった。


組み合わさっているのだ。

複数のメイド達が組み合わさり、巨大なメイドとして形成されているのだ。

よく見れば、それが判る。

メイド達は、お互いの手や足を握り。

顔や股間を寄せ合い。

密着し、同調し、結びついていた。


その体を構成するすべてのメイドさんは。

小林を見て、ニコリと笑った。


「おじょうさま」

「わたしたちは、おじょうさまを、おもって」

「こんなに、こんなに、おおきく、なってしまいました」

「これで、いっぱい、ごほうし、できます」

「いままでの、なんばいも、なん十ばいも、なん百ばいも、なん千ばいも」

「ああ、ああ、なんて、しあわせ、なんでしょう、おじょうさま、おじょうさま」



巨大なメイドさんは、他の荷物を蹴散らしながら突進してくる。


「おじょうさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


あんなものに飲み込まれたら、死ぬまで離してもらえない気がする。

それどころか、捕まった時点でメイド達の身体で圧死してしまう。

……そんな結末に、ほんの少し後ろ髪を引かれるメイド愛好家の小林ではあったが。

何とかメイドの突進を回避する。


「カンナちゃん!お願い!」

「がんばるー」


カンナからの電撃がメイドを貫く。

だが。


「おじょうさま、おいかけっこ、ですか」

「わかりました、おつきあいします」

「おじょうさまの、お遊びに、つきあうのも」

「メイドのつとめです、から」

「そのかわり」

「つかまえたら」

「つかまえたら、ふ、ふふふふ」


巨大さ故。

いや、群体であるが故、この程度の電撃では効果はないようだ。


例えば、もっと、もっと大きな電撃なら。

全てのメイドを一網打尽にできるほどの電撃ならば、或いは。


だが、カンナの充電が不十分な今、そんな電撃を放つことはできない。

ここに来るまでに1階や2階のコンセントを調べたが、全て通電していなかった。

だから、ここ3階でも、それを試すのは難しいだろう。


仮にコンセントが生きていたとしても、そこにカンナを留まらせなければ充電はできない。

そんな悠長なことをしていると、あのメイドの突進を受けてしまう。

「おじょうさまぁぁぁぁぁ、どちらにおられますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


メイドさんは、荷物の物陰に隠れた小林たちを探している。

探しながら、荷物を破壊し、机を砕き、壁をたたいている。


「どうしよう、どうすれば……」

「コバヤシ、私が」

「え?」

「私が囮になるから、にげて」

「カンナちゃん……」

「私なら、多分平気」

「ダメだよ、そんなの」

「けど……」

「ここで逃げても、私1人だとすぐにメイドに捕まっちゃうよ」

「ううー……」

「それに、こんな可愛いカンナちゃんを放ってなんて、逃げられるはずないって」

「コバヤシ……」


そこまで会話とした時、小林たちが隠れていた荷物が破壊された。

「みつけ、ましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


見つけられた。

見つかってしまった。


メイドさんは、小林を掴もうと手を伸ばしてくる。

その動きは、緩慢だ。

回避することは容易い。

容易いのだが……。


もう、隠れるところがないのだ。

倉庫にある荷物は、ほとんど破壊されてしまった。

その残骸が倉庫の中に散乱している。

走るのに支障が出るほどに。


このままでは、何時かは捕まる。

あのメイドの緩慢な動きでも、端に追い込まれてしまえば、何時かは。


「私は、レズレイプされてしまうのだろうか」

「ドラゴンレズレイプされてしまうのだろうか」

「集団ドラゴンレズレイプされてしまうしか、ないのだろうか」

「……」

「……いや、生き残るすべは」

「まだある!」

小林は、走った。

カンナを抱えて走った。

散乱した残骸のせいで、素早く走ることはできない。

だが、走ったのだ。


メイドが、くるりと、こちらを向く。


「にげられ、ませんよ、おじょうさま」

「すぐに、すぐに、おいつきます、から」


そう言いながら、迫ってくる。

メイドには、散乱した残骸など関係ない。

全て、全て踏み潰して突進してくる。

その移動速度は、小林よりも、早かった。









だが、メイドが追い付いてくるよりも早く、小林は「そこ」に到達できた。

床に飛び散る残骸の一つ。

破壊された何らかの清掃重機の中に内蔵されていたであろう。


バッテリーの元へ。


バッテリー外箱の表示ランプは「充電済み」になっていた。

恐らく、この店の電源が落ちる前に充電してあったのだろう。

つまり、この中にはたっぷりと詰まっているはずなのだ。



カンナの力の源が。



「カンナちゃん!」

「いただきます」


小林は、カンナとバッテリーを抱えて走る。

少しでも時間を稼がないといけない。

カンナが充電する時間を。


だが、それは果たされなかった。


何かが背中に当たった衝撃と共に、小林は地面に倒れこむ。

起き上がることができない。

何故ならば、小林の上には。

メイドの、巨大な手が乗せられているからだ。


「つかまえ、ました、おじょうさま」

「ふ、ふふふふ、ごほうし、して」

「さしあげますねぇぇぇぇぇぇぇ」


メイドの巨大な手から、沢山の手が伸びる。

その手は小林の頬を撫で、首筋を擽り、手を握り、足を掴んだ。

そのまま、小林をメイドの中に、取り込もうとする。

疲れ切った小林は、抵抗すらできない。


目の前に、メイドが見える。

掌を構成したメイドの顔が。

その顔が、近づいて。

小林の頬に、キスを。

その直前、凄まじい雷光が巨大メイドの上半身を吹き飛ばす。

それでも相殺できなかった電撃は、そのまま壁を破壊して空を貫く。



カンナの持つ最大の攻撃。

サンダーブレスの一撃である。



巨大メイドを構成していたメイド達が、ポトポトと地面に落ちる。

残る下半身や、腕も、その後を追うかのように崩れ落ちる。



メイド達は、同調していた。

肉体だけでなく、恐らくは意識も。


群体であるが故に「多少の欠損」には耐えられた。

だが「大多数の欠損の痛み」には耐えられなかったのだろう。

痛みはフィードバックを起こし、全てのメイドに伝達されてしまったのだ。



「コバヤシー」

「ああ、カンナちゃん……」

「コバヤシ、だいじょうぶ?しびれなかった?」

「うん、平気平気……またカンナちゃんに助けられたね」

「そんなことない、私の方がコバヤシにたすけられた」

「ふふふ、じゃあ、お互い様だね」クスッ

「んぅ!」

メイド達は生きていた。

亜竜化の影響か、電撃に対する耐性があったのだ。

だが、それでも全員が意識を失っていた。

亜竜としての力を失うほど、力を消耗していた。


「うーん、メイドさんのポケットから鍵を入手したんだけど……」

「おー、4階の鍵」

「……けど」

「うん」

「この壁に空いた穴から、外に出られるよね」

「けがの、こうみょう?」

「だね、3階くらいの高さなら外に人がいるって事もなかっただろうし」

「ドラゴンに戻ってだっしゅつするー、コバヤシ、つかまって」

「うん」


ドラゴン化したカンナにつかまり、小林はほっと溜息をつく。


「終わった」

「全て終わったんだ」

「帰ろう、私達の家へ」


こうして、悪夢のような時間は終わりを告げた。

~数日前~

~メイド喫茶L~


トール「さあ!メイド喫茶ラブリーの皆さん!召し上がってください!新メニューです!」

メイド1「わーい、コック長の料理美味しいんですよね~」

トール「コック長じゃなくて、メイドですから」

メイド1「はーい」

メイド2「美味しいですけど、この肉、何の肉ですか?」

トール「私の肉です」

メイド2「またまたー」


トール「正直、小林さん以外に私を食べさせるのは業腹ですが」

トール「この実験に成功すれば、恐らく小林さんも食べてくれるはずです」

トール「より美味しさの増した、私の尻尾を」

トール「見れば食べずにはいられない、魅了の料理を」

トール「ふふふ、待っててくださいね、小林さん……」


メイド1「ごちそうさまでーす」

メイド2「うーん、何だか身体が」

メイド1「あれ、そういえば……熱く」

メイド2「なって……き……ま……」


バタン

バタン


トール「うーん、また失敗しましたか」

トール「ま、仕方ありません、テキトーに解毒しておきますか」

こうして、トールのバイト先は竜因子によって汚染された。

メイド達は全て、トールの料理の実験台になっていた。


彼女たちにとって、それは回避し得ぬ、災害であった。

バイトのトールが持ち込んだ、災害だった。

バイトハザードである。

トールは「メイド達のに入り込んだ竜因子を解毒した」と考えていた。

だが、全てを除去することはできなかったのだ。


メイド達は、仕事が終われば、帰宅して自分の生活に戻る。

普通の人間として、普通の生活している。



だが。

自分の周囲にドラゴンがいる場合にのみ状況が変わるのだ。

そのドラゴンが強い欲望を抱くと、それに同調して亜竜化してしまうのだ。



結論から言うと。

「メイド喫茶に勤めるトールが、勤務時間内に小林に対して強く欲望を感じた時」にだけ。

メイド達は「同性への性的欲求を抑えられないメイドラゴンレズビアン」へと変貌してしまうのだ。

トール「ああ、小林さん、今頃仕事してるなんでしょうか、ああ、カッコいい小林さん、ハァハァ」

メイド1「……」

客「え?こっちに来てほしいって?どうして?ちょ、何ですか、い、いや、やめっ、もごもご」



トール「今夜の食事、どうしましょう、小林さんには美味しい物を食べてほしいですし、例えば私とか、ハァハァ」

メイド2「……」

客「え、トイレが壊れてるから奥にあるトイレを使ってほしい?判ったわ」



トール「昨日お風呂で小林さんの背中を流してる時、小林さん少し顔が赤かった気がします、ハァハァ」

メイド3「……」

客「ひ、引っ張らないで!やめて!た、たすけっ……!」



トール「……はっ、妄想していたらもうこんな時間……」

トール「それにしても、最近、お客さん少なくないですか?」

メイド1「そうですねえ、というか、来たお客さんが何時の間にか居なくなってる事もちらほら」

トール「食い逃げですか?いけませんね」

メイド2「けど、何故か不満感とかはないんですよね、不思議です」



メイド達は、亜竜化している間の記憶を一切持っていない。

それどころか、都合の悪い部分は記憶を捻じ曲げ「何の問題もない」と解釈してしまうのだった。

これが、メイド達がトールから受け継いだ48のメイド技の一つ「脳内改ざん」である。

トールの欲望は、小林が来店した時、ピークを迎えた。


「小林さんが、小林さんが私を見に来てくれました」

「ふ、ふふふ、うれしい、凄く嬉しい」

「食べてくれています、小林さんが、私の料理を、このメイド喫茶で」

「そうだ、そうです、私が個人的に立ち上げた4階の実験室に置いてある、あの料理を」

「あの料理を、小林さんに食べていただきましょう、そうすれば、そうすれば、ふふふふ」


メイド達の亜竜化も、最高潮に達する。

全ての思考、全ての意識が「同性への従属的性欲」への変換される。

それは、竜因子の元の持ち主であるトールに逆流してくるほどの勢いだった。

トールの「意識」と、メイド達の「性欲」が混ざり合う。


トールの意識が、メイド達に流れ込み。

メイド達の性欲が、トールを満たす。

良循環。


こうして、トールは群れの頭になった。

こうして、メイド達はトールの手足となった。

~4階~


トール「ふ、ふふふ、小林さん早く来ないかなあ」

トール「下の階のメイド達を倒したんだし、もう来るはずですよね」

トール「楽しみです、小林さんの驚く顔が」

トール「まさかメイド達の頭が私だなんて、思ってもみなかったでしょうし」

トール「そうです、驚いて私に詰問するんです」

トール「どうしてこんなことをしたのかって」

トール「けど、けど答えは決まっています、全ては愛故にです」

トール「小林さんへの愛が元凶なのです」

トール「小林さんは、きっと悩むでしょう」

トール「そこで私が手を指し延ばします」

トール「小林さんが、私と共に来てくれれば、全て解決するのですよ、と」

トール「小林さんは、私の手を取ってくれます」

トール「きっと、とってくれます」

トール「そうすれば、あとはもう、ドラゴンレズセックス祭りの開催ですよ」

トール「幕開けですよ!」

トール「ああ、小林さん、まだかなあ、早く来ないかなあ」

トール「こばやしさぁん……」


トールの欲望は、流れ出す。

下の階で気絶しているメイド達の竜因子を、再び刺激する。

亜竜化が、始まる。

先ほどよりも、強い亜竜化が。

~自宅~


小林「はー、疲れた……」

カンナ「おなかすいたのー」

小林「トール、ご飯出来てる?」



シーーーン



小林「……あれ」

カンナ「コバヤシ、トール様は……」

小林「そ、そっか、トールもあのメイド喫茶に居たんだった」

小林「この家に居てくれるのが当たり前みたいに思ってたから、すっかり忘れてた」

カンナ「むかえにいくのー」

小林「そうだね、迎えに行ってあげないと」

小林「けど、1階から3階までは居なかったし……」

小林「4階に避難してたのかな?

こうして、トールを迎えに戻った小林たちは。

復活した強化亜竜メイドさん達に行く手を阻まれ。

油断していた所を捕縛され。

何人ものメイドさん達に愛撫され。

ひゃんひゃんひゃんと鳴かされて。


最後の最後に「小林さん来ないふぇぇぇぇ」と泣いていたトールと4階で再会することになるのだが。



それはバイトハザート2でのお話。







おわり

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