ダイヤ「愛らしき口もと、目は緑」 (19)

ラブライブ! サンシャイン!! のSSで、
ナイン・ストーリーズのパロディです。


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電話が鳴ったとき、強く磯の匂いが吹いた。それは裏手の内浦湾からのものか、
あるいは彼女たちから発されたものか。

果南「いっそ出ないでおこうか」

ダイヤ「さて、どうしたら良いでしょう。果南さんはどう思います?」

果南「出ても出なくても大した違いは無いだろうね」

果南は、黒髪の女が身体を支えている腕の肘の上あたりに左手を潜り込ませ、上へ上へと指を動かし、
二の腕と胸のなま温かい肌の間にその手を差し込んでいった。

逆の手で枕元にあった携帯をタップすると、じっとりと湿った声が耳の奥で反響する。

千歌「果南ちゃん? もしかして寝てた?」

果南「千歌? どうしたの?」

千歌「寝てた?」

果南「いや、いいよ。ちょうどお風呂から上がったところなんだ」

千歌「本当にわたし、果南ちゃんを起こしちゃったんじゃないよね? 嘘じゃない?」

果南「嘘じゃないよ、実を言うとわたしは一日平均4時間くらいの睡眠----」

千歌「わたしが電話したわけはね、果南ちゃん、ダイヤさんが帰るのに気がつかなかったかなと思って。
ダイヤさん、ルビィちゃんと一緒に帰っちゃったのかな?」

一瞬だけ頰から携帯を離し黒髪の女を見やる。
女は、右腕を突いて起き上がった格好のまま携帯の主を見守っていた。
その目は、警戒や思案の色もなく、ただ見開いているといった感じで、
大きさも持ち前の大きさなら、色もまた持ち前の色を湛えているばかりだった。

果南「いや、気づかなかったな。今日は千歌んちに泊まると思ってたけど」

千歌「じゃあ、果南ちゃんはダイヤさんが出て行くところを全然見てないんだね?」

果南「そう、実は見てないんだよ。本当言うと、わたしは今夜何一つ見てないんだ。
中に入ったとたん、曜に取っ捕まってさ、採寸を取るとか言ってさんざん着せ替えられたよ。
それで、どうしたんだい? ダイヤが行方不明にでもなった?」

千歌「知るもんか。わたしには分かんないよ。ダイヤさんを知ってるでしょ? 
あの人、距離が近いんだもん。パーティに中てられて、一体どんなことになるかわたしには見当もつかないな。
ひょっとしたら、ただ----」

果南「ルビィには電話してみたの?」

千歌「うん、でも繋がらないんだ。どうなってるのかなあ。
わたしはダイヤさんがルビィちゃんといっしょに出たのかどうかも知らないんだもん。
やっきりしちゃうな」

果南「まあ、大方、鞠莉がどこかに誘ったんじゃないかな。
大丈夫だって、流石にダイヤも恋人の誕生日は忘れてないでしょ。いまにご機嫌で千歌んちに----」

千歌「わたしは、ダイヤさんがどっかの女の子が引っかけたんじゃないかって思うんだ。
あの人、目を話すとすぐ女の子といちゃつくんだもん。ダイヤさんなんて嫌いだ。
今回は本気だよ、音ノ木坂の9人の女神に誓ったっていい、ついこないだも----」

果南「千歌、今どこにいるの? 十千万?」

千歌「そうだよ。ホーム・スイート・ホームだ。やっきりしちゃうな」

果南「まあ、なるたけ気を楽に----おい、どうしたんだ、泣いてるのかい?」

千歌「知るもんか」

果南「そっか。いいから、気を楽に持つんだ----聞こえてる?」

千歌「ごめんね、果南ちゃんを一晩中寝かさないでいるんだよね、わたしのすることはなにもかも----」

果南「そんなことはもう考えるなって。わたしの睡眠時間はこのところ平均4時間くらいのものなんだから。
それに大事な幼馴染の事だからね----千歌? そこにいる?」

千歌「いるよ。ねぇ、果南ちゃん。どうせ起こしちゃったからさ、これから果南ちゃんちに行っちゃダメかな?」

果南「……今からかい」

千歌「うん。果南ちゃんが良いなら。ほんのちょっといるだけだよ。
わたしはただ、どっかに腰を下ろしたいんだ。腰を下ろして----、どうするのかな? とにかく行っちゃダメ?」

果南「そりゃあ千歌が来るのは大歓迎だけど、正直言って、ちゃんと腰を落ち着けて、
気を楽に持って、ダイヤが戻るのを待ってたほうが良いと思うよ。正直そう思うな。
ダイヤがいざ戻ってきたときに千歌がわたしのところにいたらさ、またややこしいことになるんじゃないかな」

千歌「そうかな。わたしはもう分かんないや」

果南「いや、そうだよ。いいかい、今すぐベッドに飛び込んで、気を楽にして、
後でまた電話をかけたくなったらかけたらいい。話がしたくなったらね。
そして、くよくよしないこと。これが肝心だ。聞こえてる? わたしの言った通りにすぐやってくれるね?」

千歌「分かったよ」

果南はそれからもしばらく携帯を耳にあてていたが、そのうちに電話を切った。

ダイヤ「千歌さんはなんと仰ってました?」

すかさず黒髪の女が訊ねた。果南は枕元からオレンジ・ジュースの注がれたコップを取った。
コップはふたつあって、どちらが自分のものか一瞬迷ったけれど、過たず自分のものを選べた様である。
一口飲んでから深く息をついた。

果南「こっちに来たいってさ」

ダイヤ「まあ! それで、果南さんは何て言いました?」

果南「聞こえてたはずだよ。もっかい言うのは嫌だな」

ダイヤ「果南さんは素晴らしかったですわ。まさに天晴れです」

果南「わたしが天晴れだったかどうかは怪しいところだね……、明日からどうしようかな」

ダイヤ「天晴れですわよ。あなたは素晴らしかったわ。それに比べて私はペシャンコ。
完全にペシャンコですわ。ねぇ、私を見てください!」

果南「うぅん、冷静に考えると二進も三進もいかない状態だね。やっちゃったかな。
まるで突拍子もないもんだから、考えようにも----」

ダイヤ「果南さん----ちょっと失礼」

黒髪の女は急いでそう言うと、身を乗り出し「口元にジュースが」
と言いながら果南の唇を指の腹で素早く払ったが「あら、気のせいでした」そう言って元どおりに身を引いた。

ダイヤ「いいえ、あなたは天晴れでした。私のほうはてんで犬にも劣る女の感じです」

果南「とにかく、面倒なことになっちゃったな。確かに千歌は今や大変な----」

突然電話が鳴り出した。
果南は「ちくしょう!」と短く叫んだが、着信音が繰り返される前に携帯を取った。

果南「もしもし?」

千歌「果南ちゃん? もう寝た?」

果南「いや」

千歌「あのね、果南ちゃんも知りたいだろうと思ったから。ダイヤさんが今うちに来てくれた」

果南「なんだって?」

果南は目の上に左手をかざした。スタンドは背後にあるのだけれど。

千歌「そうなんだ。ついさっき来てくれたばかり。果南ちゃんと話してから10秒くらいだったかな。
今お手洗いに行ってるから、その間に電話しておこうと思って。ホントにありがとう、果南ちゃん。
あ、寝てたんじゃないよね?」

果南「いや、いいよ。わたしはただ----いや、寝てなんかいないよ」

果南は、かざした手の指を額に当てたまま、そう言って咳払いした。

千歌「そう? あのね、どうも善子ちゃんが急に泣き出しちゃったみたいでさ、
ダイヤさんとルビィちゃんが慰めてたらしいんだ。詳しくは分かんないけどね。
とにかくダイヤさんは今うちにいるよ。とんだ無駄騒ぎだったね」

千歌「これは正直言って沼津って町のせいだと思うな。
だから考えるんだけど、大人になったらさ、ダイヤさんと上京しようかなって。
ダイヤさんはμ’sが大好きだから、例えば秋葉原なんかに行ったら有頂天になって喜ぶと思うんだ」

千歌「分かるでしょ、つもりその----果南ちゃんは別だけど----この片田舎でわたしの知ってる人たちは、
みんなノイローゼみたいなものだからさ。分かるでしょ、わたしの言う意味?」

果南は答えなかった。かざした手の下で、その目は閉ざされていた。

千歌「今夜の内にでもダイヤさんに話しちゃおっと。それとも明日かな。
ダイヤさん、まだすこし疲れてるみたいだから。ようするに、ダイヤさんはやっぱり良い人なんだ。
そう、わたしたちが付き合いたての頃に書いた歌詞があってさ、『愛らしき口元、目は緑』って----」

果南「あのね、千歌」

果南は額の手を取りながら口を挟んだ。

果南「急にひどく頭痛がしてきたんだ。どうしてこんなことになったのか、見当もつかないけれど。
ごめんだけど、この電話切ってもいいかな? 明日の朝また話すから----いいかい?」

それからちょっと耳をすましていて、果南は電話を切った。今度も黒髪の女はすぐさま話しかけた。
が、果南は返事をしなかった。

そして再びオレンジ・ジュースを----それは女のだったけれど----を取り上げると、
口に持って行きかけたが、コップは指の間から滑り落ちた。
落ちた先が布団だったからか、ガラスのぶつかる音はいっさいしなかった。

黒髪の女は染みを作るまいとして、果南が持ってきたティッシュ・ペーパーに手を伸ばしたが、
果南は、いいから大人しく座ってな、と言い、女は手を引っ込めた。

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