ありすちゃんの胸の隙間を埋めたい (34)


※独自設定有り、キャラ崩れ注意


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『あのね、大石ちゃん。シャツのボタンはきちんと止めるべきだと思うんだ。いやいや、僕は大人だからね、まさか十も年齢の離れた少女に対して興奮するような性的倒錯者ではないから大丈夫なんだけれども、とはいえ女の子が胸元を広げているのはどうかと思うんだよね。胸襟を開くという言葉は確かにあるのかもしれないけれど、それはあくまで心の内を開くということであって物理的に胸元を見せるということではないのだし、世の中には大変な人間が結構いるんだ。まして大石ちゃんはアイドルなんだからその胸元を見たくて仕方ないという輩が多くいるだろうし。いやいやもちろん僕はそうではないんだけれどさ──』

 などというプロデューサーの言葉を真面目に聞いていたわけではないけれども然りとて胸元がはだけているという格好は確かに少しはしたないかもしれない、という思いがなかったわけでもない。
 だから大石泉はシャツの第一ボタンをきちんと閉めることにした。
 清廉潔白になったのだ。
 明日からは清純派を名乗ってもいあたかもしれない──いや、清純派で可愛いと言えばやはりさくらなのだろうし、セクシーと言うのならば亜子であり、自分のシャツのボタンが開いていることなんて大したことなんてないのだけれど。

 ところで、そんなことは全く関係のない話になるのだけれども。話は千里の先ほどにも変わってしまうのだけれど。
 ──橘ありすのTシャツ、その胸元が妙に緩く大きく、隙間を作っていて、少し前屈みになるとその中身が見えそうになっているという状況を自分はどのように受け止めるべきなのだろう。

「なるほど、このアプリがタブレットの動作をおかしくしていたんですね。さすが泉さんです。頼りになります」

 尻尾があればパタパタと振っていそうなありすに、素直に可愛いなと思う。
 ところでありすの胸が見えそうだ。

 タブレットに視線を落とすその体勢とありすよりもどうしても視点が高くなる結果上から見下ろす形となる自分では否が応でも見えそうになってしまう。
 しかしありすはまるで気にしていないし、仮に見えそうだと自覚をしていたところで相手が泉であれば然程気にしないだろう。なるほど、胸襟を開くという言葉はまさしく胸を見られようとも構わない関係性というようにも取れる。
 何がなるほどだバカか私は。

 注意をしてあげるべきなのだろう、年長者として。自分はプロデューサーや年長者組の先輩方と比較するとまだまだ子供であるということは自覚しているけれども、それでもまだ小学生のありすよりは年上であり、だからありすにとっての規範となるお姉さんであるべきなのだ。
 叱らなくてもいい。
 怒らなくてもいい。
 ただ少し注意をするだけだ。プロデューサーではないが、その危険性を説明するだけで十分だ。
 そう──それだけでいい。

「あの、ありすちゃん」

「はいっ、なんでしょうかっ?」

 ありすの目は物凄くキラキラと輝いた目だった。

 それはもう、凄く。飼い主を見つけた子犬のように純粋で、尊敬するプロ野球選手と対面している野球少年のように憧れに満ちた、満点の星空のごときキラキラとした目だった。

 ──す、凄く言いづらいっ!

 こんな目をした少女に「胸が見えそうだよ」とか、そんなことを言えたらそれはもう変態と同一ではないか。
 夢や希望を信じる子供に、夢なんて叶わないし希望を持つだけ絶望をするだけなんだよと言うような、例えるならそののうなことと変わらないではないか。

「えっと、今日はその……なんだか普段とは違う服装だね」

 絞り出すように泉が出したのは、そんな当たらずも遠からず、よりも少し遠回りなものだった。

「あ……少し今日は朝にドタバタしちゃいまして、すぐに着れる服装にしたんです。……やはりおかしいでしょうか」

「そ、そんなことないよ! うん、ありすちゃんはいつものように可愛い」

「そ、そうですか? えへへ……お世辞でも泉さんに言われると嬉しいです」


 ──むりむりむりっ! もう言えないよこれ!?

 クール属性所属らしく落ち着いていていつも冷静だと言われる泉ではあるけれども、しかしこのありすの反応にはさすがに取り乱す。凄く取り乱す。
 言えるわけがなかった。このタイミングで胸元開きすぎだよ、なんて言った日にはそれはもう上げてから落とすのこれ以上ないお手本となってしまう。

 そもそもプロデューサーがいけないのだ。プロデューサーが余計なことを言ったせいで変に服装に対する意識をしてしまっただけで、よくよく考えれば見えそうではあっても見えているわけでもないのだし、大きな問題ではないのだ。
 変に意識をするから見えそうだと考えて視線をそちらに向けてしまうだけであり、意識をしなければそもそも見えそうだなんて考えることもないはず、うん。
 大丈夫……大丈夫だよ。たぶん。

「そうだ泉さん、もうひとつこれのことを窺いたいのですが」

「どれど……れ……?」

 ──ああ物凄いギリギリ! やばい!

 タブレットを見せるために身体を寄せて、画面を操作するために前傾姿勢になったことで泉視点でほぼ真上からありすのことを見下ろす形となってしまった。
 結果、ただでさえ見えそうだと思っていたものがより見えそうになっていた。
 もうこれはさすがに注意をしなければいけない。いやしかし、頼れるクールなお姉さん大石泉が、まさか先ほどからずっと橘ありすの胸元を見ていました、だなんて、物凄いパワーワードだ。

 それとなく注意をするという段階を既に飛び越えている。ここまでくるともうだって自分はずっと見ていてずっと気になっていましたと言うようなものであり、ほれはもう橘ありすが寄せる信頼を裏切るには十分な行為である。
 言いづらいとか言ってないでさっさと軽く注意をしておけば……時間が経てば経つほど指摘しにくくなるとは、思考に入れていなかった。考慮の範囲外だ。

 これがさくらや亜子であれば何の躊躇いもなく言えただろう。二人とは長年の付き合いであり、お互いに遠慮もない気心知れた幼なじみという関係である。
 しかしありすとはそうではない。いやいや仲が良くないというわけではない。 どちらかと言えばありすは慕ってくれているだろうという自信はあるし、自分も慕ってくれる年下の存在を可愛いと思っているし、嬉しく思っている。
 とは言え、やはり自分を純粋に慕ってくれている子に対してはできない。

「あの、どうかしましたか?」

「な、なんでもないよ。それよりちょっとだけ離れようか。ごめんね、少しタブレットが見えにくいから」

「あ──す、すみませんっ」

 これで真上から見下ろす形ではなくなったから多少意識をしないで済む。
 ……根本的な解決ではないし、やはり年長者として注意をしてあげなければいけないというのをより強く確認することになってしまっただけかもしれない。
 ありすちゃんを守るために。

 しかしどう伝えるべきか。やはりオブラートに包んで言ってあげるべきだろう。
 自分の尊厳と評価というものを気にしているというものはもちろんあるけれども、そうでなくとも『ありすちゃん、胸が見えそうだよ』なんてことを直球で伝えようものならありすも羞恥に苛まれてしまうだろう。
 年の割に聡明で大人びた価値観を持つありすであれば『痴女と思われてしまった』などと思い込んで部屋から出てこられなくなる、なんてことも考えられる。

 ……このあたり、さくらであれば『えへへ』と笑ってごまかそうとするだけで終わるのだろうけれど。
 あの子はあの子で、少し危機感というものを一度しっかり亜子と共に教育しないといけないかしら。


「──泉さんはやっぱり凄いです。私も泉さんのような、情報処理に優れた人になりたいです」

 物凄く純粋な尊敬の言葉が胸に突き刺さる。
 まさかこんなに純粋に好意を持ってくれる子の目の前で自分は胸が見えそうだなんてことしか考えていないとは言えない。そんなことがバレた日にはありすにとって一生もののトラウマレベルだ。

「ふふ、私がありすちゃんの年の頃は電子機器もありすちゃんほど上手く扱えていなかったし、ありすちゃんなら私みたい、よりもずっと凄くなれるよ」

 私みたいに年下の女の子の胸が気になって仕方ない人間になってはいけない。
 いや、平時であれば気にしていないけれども。プロデューサーが余計なことを言って意識させたせいだけれども!

 ……しかし、どうしたものか。どう言ったものか。ありすちゃんの自尊心を傷つけずに、ありすちゃんの憧れを壊さずに、ありすちゃんにトラウマを残さないように胸が見えそうであるということを伝えるには、いったいどうすれば──

 ガチャりと、思考の迷路を打開をするように扉が開いた。

「あれ、ありすに泉の二人だけか。プロデューサーはいないの? いや、別にいいんだけどね、来週のスケジュール確認に来ただけだからまた後でも。……そうだありす、そのシャツ少し胸元が伸びちゃってるね」

「え? ああ、確かに少し伸びてしまっていますね……」

「とりあえず私の替えのカーディガンを貸してあげるから上に着ておいたほうがいいよ。サイズが合っていないとどうしても隙間から風が入って寒くなるから。風邪引いちゃうよ」

「おばあちゃんみたいなことを言いますね……でも、ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして。……ん、泉どうかした?」


「……いえ、なんでも」

 ………まるで自然に、流れるように。
 自分が必死に苦悩してどうしたものかと考えていたことをあっさりと解決したこの先輩──渋谷凛さんのその手際のよさに、どっと疲れを感じるだけだった。




 後日談。或いはオチ。

「ところで凛さん、替えのカーディガンなんてわざわざ普段から持ち歩いているんですか?」

「あ、それね。実は部屋の外から泉が困ってそうなのが見えたから入る前に通りかかった奈緒から剥ぎ取ってきたんだ」

「鬼ですか」



おわり

いずみんとありすちゃんは絶対に仲が良いと思い書いてみたら何故かいずみんが物凄く苦悩するお話に。指摘しにくいけどしなくちゃいけない、ということはありがちですよねというお話。
ありすちゃんは大きくなったらきっとスラッとした美人になると思う。
ところでもしかしてプログラミングと情報処理って結構違うのではないかって気がしたけど気にしないでおこう。
それでは

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