武内P「次の休みは他社のアイドルと泊まりで旅行に行ってきます」 (127)

書き溜めありです。
以下前置き的注意点。

※一応アニメ準拠ではありますが、ゲーム準拠のネタ・設定等も混在しています。
※メインはモバマスですが、アイマス・エムマス等のキャラも登場します。
※ミリマス未プレイのため、765プロは13人のままです。エムマスも未プレイですが都合上315プロ所属になってます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486372563

――夜、事務所

ちひろ「プロデューサーさんが連休なんて珍しいですね。どこかへ出かけられるんですか?」

武内P「はい。……久しぶりに旅行へ。丁度スケジュールの調整ができましたので」

ちひろ「お友達とですか? ふふっ、楽しそうでいいですね」

武内P「友達……では、ないのですが……。他社のアイドル、ということになるのですけれど」

ちひろ「え? どういうことですか?」

武内P「実は……」

<トゥルルルルルル

武内P「少し失礼します。……はい。お世話になっております。……はい。はい。了解しました。今からですと20分ほどで到着できると思います。はい。失礼いたします」ガチャ

武内P「すみません。現場でトラブルがあるそうなので、今から行ってきます。時間的に今日はもう戻ってこれないと思いますので、終り次第直帰します」

ちひろ「わかりました。お気をつけて」

武内P「それではよろしくお願いします」

ちひろ「行ってらっしゃーい。……あ、結局誰と出かけるのか聞きそびれちゃった」

???「…………」

未央「……今の話、聞いてた?」

凛「うん。聞き間違い……じゃないよね」

卯月「た、他社のアイドルって、どういうことでしょう」オロオロ

未央「移籍の相談……とか? でもそういう大事なことだったらしれっと言わないよね、プロデューサーのキャラ的にさ」

凛「でもはっきりと言ってたじゃん。悪びれる感じもなかったし」

卯月「もしかして、引き抜きでもするんでしょうか?」

凛「ほたるみたいに移籍してきた子はいるけど、あの子は元のプロが倒産したからでしょ? 引き抜きって……さすがにやらないでしょ」

卯月「そうですよね。プロデューサーさん、スカウトは結構無茶なところありますけど、そういう波風の立ちそうなことはしませんからね」

未央「ていうかさ、百歩譲って引き抜きだったとしても、いきなり旅行に誘うって大スキャンダルだよ」

凛「とすると……」

卯月「……やっぱり、デートでしょうか」

三人「…………」シーン

卯月「ご、ごめんなさい! 変なこと言っちゃいましたね!」

凛「ううん。確かにプロデューサー、ここの誰かと付き合ってるって話聞いたことないから、可能性としてないわけじゃない」

未央「だからってあんな風に堂々とご旅行デートの話する? 浮いた話も彼女自慢も聞いたことないじゃん」

卯月「それに、あのプロデューサーさんが、私たちに隠れて余所のアイドルとデートするなんて、ちょっと信じられない……というか、信じたくない、です」

三人「…………」

凛「……ここでとやかく言ってても解決しないんだし、直接聞いてみようよ」

卯月「聞くって、どうやってですか? もう出かけちゃいましたよ」

凛「電話する」

未央「待ってよしぶりん。多分だけど、移動中だとしたら出てくれないよ」

卯月「運転中は絶対に電話に出ませんからね。それにあの様子だと、現場の方が優先でしょうし……。誰と出かけるのか気になりますけど、お仕事の邪魔をしたらダメですよ」

凛「……でも。このままモヤモヤしたままなんて、卯月は嫌じゃないの?」

卯月「それは……」

未央「あ、そうだ! 現場でトラブってる、って言ってたから、誰かアイドルの現場なわけでしょ? その子に連絡すればいいんじゃん! で、誰と旅行に行くのか聞いてもらう!」

凛「それいいかも。でも誰の現場だろう」

卯月「スケジュールボード見てみましょう!」

凛「えーっと、今現場入りしてるのは……うーん……結構いるなぁ……」

未央「こうなりゃローラー作戦だ! 片っ端から電話してみよう!」

……30分後……

未央「ダメだー……誰かわからーん……」

卯月「……考えてみたら、トラブルの最中に電話なんて出られませんよね」

凛「卯月、それもっと早く気づいてよ……私も気づかなかったけど」

<ブーン ブーン ブーン

未央「あれ、ちえりんから電話だ。……もしもーし」

智絵里『もしもし、未央ちゃん? さっき電話してくれたみたいだけど……出られなくてごめんね。どうかしたの?』

未央「いやー、ちょっとプロデューサーがそっち居ないかなーって思って」

智絵里『プロデューサーさん? プロデューサーさんなら、さっきまで一緒だったよ』

未央「え、ほんと!?」

未央「ちょっと二人とも! ちえりんのところに居たって!」

卯月「本当ですか!」

凛「じゃあ早く聞いてみてよ」

未央「ちょい待ち……もしもしちえりん? それで、ちょっとプロデューサーに代わってほしいんだけどさー」

智絵里『あ、ごめんね。さっきまでは居たんだけど……別の現場でも何かあったみたいで、そっちに行っちゃったの』

未央「なんですと!? だ、誰の現場に行くかって聞いてる?」

智絵里『ううん。誰とまでは聞いてないんだけど……。急ぎの用事だったら、プロデューサーさんに直接電話してみたら?』

未央「あー……いや、急ぎってわけじゃないんだけどさー……。超個人的な大事な用件っていうか、なんて言うか……」

智絵里『な、何かあったの……?』

未央「実はねー……」

智絵里『ぷ、プロデューサーさんが……他のプロダクションのアイドルと、旅行……!?』

未央「さっきちひろさんと話してるの聞いちゃったんだよね」

智絵里『そ、それって……プロデューサーさんが……引き抜かれちゃうってこと!?』

未央「え? あー。それは考えなかったなぁ……」

智絵里『ど、どうしよう……プロデューサーさんが……いなくなっちゃったら……私……私……!』

未央「も、もしもし? ちえりん?」

智絵里『かな子ちゃん……杏ちゃん……! どうしよう……!』グスッ

かな子『ど、どうしたの、智絵里ちゃん』

杏『やっとお仕事終わったんだしさー、早く帰ろ……おわっ、智絵里ちゃん泣いてるの?』

未央「……ダメだ。こりゃあもうまともに話せそうにない」プチッ

凛「で、なんだって?」

未央「いや、それがもう別の現場に行っちゃったんだって。しかもちえりんに伝えたらパニクっちゃった」

卯月「智絵里ちゃん、大丈夫でしょうか……」

未央「うん。なんか悪いことしちゃったよ。……しっかしどうしようかなー。こうなったら、直接プロデューサーに聞くしかないかー」

凛「…………」

卯月「凛ちゃん?」

未央「しぶりん、どうかした?」

凛「もし、さ……。もしも、聞いてみて……嘘ついたり、隠されたりしたら、どうする?」

卯月「だ、大丈夫ですよ! もし本当に隠したいことなら、ちひろさんにあんな風に言ったりしませんから!」

未央「そーだよ! しまむーの言う通り。隠すつもりがあるなら、最初から適当な理由つけて誤魔化すってば」

凛「じゃあ、隠さなかったとしてだよ。正直に答えてくれて……どこの誰とか知っちゃったら……それでも二人は、これからも普通に仕事出来る? そのアイドルと共演した時、平然としてられる?」

未央「そ、それは……」

卯月「…………」シュン

凛「別に、私がプロデューサーのことを好きとかってわけじゃないけど……なんか、嫌だよ。知らないところで誰と付き合おうと勝手だけど、だからって別の事務所のアイドルとなんて……」

未央「……しぶりんがそんなこと言う所為で、私まで不安になってきちゃったじゃん……」

卯月「……うう。わ、私だって嫌です。もし共演なんてなったら……きっと、変に意識しちゃうと思います……」

三人「…………」

未央「……なんか、本当のこと聞くの……怖くなってきちゃった……」

卯月「……わっ、私が、電話してみます!」

未央「おわっ、しまむー!?」

卯月「不安だけど……でも、やっぱり、気になりますから!」

<プルルルルルル

<プルルルルルル

<……現在、電源が入っていないか、電波の届かない場所に……

卯月「出ない……」

ちひろ「あれ? 三人とも、まだ残ってたんですか」

未央「ちひろさん。ごめんね、プロデューサーにちょっと電話したら帰るから……」

ちひろ「プロデューサーさん? 何か緊急の連絡?」

凛「緊急ではないけど……」

ちひろ「そうなの? だとしたら、休み明けになるまで待つことになっちゃうけど、大丈夫?」

未央「え? なんで?」

ちひろ「プロデューサーさんって、オンとオフの切り替えがはっきりした人だから。休み中は仕事の電話やメールは基本的に見ないって人なのよ。そうでもしないと仕事を気にして休めないからーって、入りたての頃に先輩にそうしろって指導されたんだって。だからどうしてもの時は、プライベートの方に連絡入れるしかないかな」

凛「え」

卯月「と、言うことは……」

未央「し、明々後日までこのモヤモヤを抱えることに……!?」

――翌日、某駅

武内P「――お待たせしました」

冬馬「お、やっと来たか」

北斗「それじゃあ行くとしますか」

翔太「いや~、でもまさか346のプロデューサーさんと旅行する日が来るとはね~」

武内P「……本音を言うと、私としても意外と申しますか……。こういう仕事ですから、あまり友人と旅行という機会もありませんし」

冬馬「だからってよく俺らの旅行についてくる気になったよな」

武内P「私の先輩で、とてもお世話になった方の頼みですからね。僭越ながら付き添いをさせていただきます。普段、共演の際にも315プロのみなさんにはお世話になっていますから。346では男性アイドルの部門がありませんし、こうしてジュピターのみなさんと直接お話が出来るのは貴重な体験になると思っています」

翔太「ちょっと、オフの日くらい仕事の話は持ちこまないでよねー」

北斗「俺たちも一度プロデューサーさんとはじっくり話してみたいと思ってたんで、いい機会ですよ」

冬馬「こんなとこでくっちゃべってないで、早く行こうぜ!」

武内P「よろしければ、先に駅弁を買って行きませんか。御代は旅費ということでお預かりしていますので、私にお任せください」

冬馬「おっ、気前いいじゃねえか!」

翔太「せっかくだし、一番高いのにしようよ!」

――中庭

莉嘉「えーっ!? Pくん、違うプロのアイドルと旅行デートしてるのー!?」

みりあ「ずるーい! みりあも一緒に行きたかったー!」

きらり「そ、そうだねぇ。今度はみーんなで、一緒に旅行したいにぃ」

杏「…………」

莉嘉「でもPくんもひどくなーい? デートするなら、こーんなに近くにイケてる美少女がいるのにさー!」

きらり「帰ってきたらぁ、めぇーっ! て、言わないとねー」

杏「……きらり」ヒソヒソ

きらり「なあに杏ちゃん?」

杏(お泊り旅行デートってことはさ、これ結構ガチで子供は聞いちゃダメな案件じゃ……)ヒソヒソ

きらり「んきゃぁ~!! はずかすぃーから言ったらダメだにぃ~!!」ドガッ

杏「ぐふっ」

――某温泉街

冬馬「うわっ、射的とかマジでフツーにあるんだな! さっすが観光地!」

北斗「誰が一番多く落とせるか、勝負する?」

翔太「勝負はともかく、ちょっと面白そうだね。やってみようよ!」

武内P「折角ですので、私も参加させていただきます」チャッ

翔太「……プロデューサーさん、なんて言うかさ。銃持った姿の貫録が違うね」

冬馬「俺は勝負には手を抜かねーからな! トップは俺がもらう!」パーン

北斗「エンジェルちゃんのハートを狙うように……」パーン

翔太「へへっ! こういうの、結構得意なんだよね!」パーン

武内P「……そこです」パーン

冬馬「アンタが銃撃ってると、本職っぽく見えるな……」

北斗「店主さん、ちょっと怯えてない?」

――カフェ

みく「……ありえないにゃ。破廉恥にゃ!」

李衣菜「ど、どーせ根も葉もない噂でしょ?」

菜々「ちひろさんに尋ねたら、他のアイドルと出かけるって言っていたのは本当らしいです……」

夏樹「ふーん。ロックっつーか、節操なしっつーか……。ま、色恋沙汰なら当人の問題なんだし、アタシにゃ関係ないな」

李衣菜「関係ないって……。なつきちはプロデューサーが居なくなってもそれでいいわけ?」

夏樹「そこも含めて当人の問題だろ? プロデューサーだって立派な大人なんだ。仮にどこかにヘッドハンティングされたって噂が本当だとして、本人が決めたっていうなら、そこに口出しする権利はないさ」

菜々「そ、それはそうですけど……。でも! ナナはまだまだいてほしいです! ナナが自分を見失いかけた時も、みくちゃんと、連れて来てくれたプロデューサーがいたから……だから自分を貫くことができたんです!」

みく「……そうにゃ。口出しする権利はなくっても、言いたい文句はいっぱいあるにゃ!」

李衣菜「みくちゃん……。うん、そうだね! このまま黙って見過ごすなんて、ロックじゃないよ!」

夏樹(どっかのアイドルと旅行に行ってるって話以外は噂なんだろうけど……水差すのもなんだな。理由はとにかく盛り上がってるし、そっとしておくか)

――テレビ局

スタッフ「――それでは15分後に撮影再開しまーす!」

春香「みんな、お疲れ様ー。撮影も順調でよかったねー。これなら時間通りに終わりそうだよ」

凛「……あの、天海さん」

春香「はい?」

未央「えーっと、ですねぇ。ぶしつけな質問なんですけど……」

卯月「あ、あのっ! そちらのプロダクションで、今日明日お休みの人って居ませんか!?」

春香「それはまた、いきなりな質問だね……。どうして、って聞いていいかな?」

卯月「そ、そのー……。えっと、それは、ですね……」

未央「あのー……ナイショにしておいてもらえます?」

春香「なんだか事情あり、って感じみたいだね。うん、秘密にする」

凛「うちのCPのプロデューサーって、お会いしたことありますよね」

春香「プロデューサーさんって、あの背の高い、ボディーガードみたいな人?」

卯月「はい、そうです」

未央「そのプロデューサーが……別のプロダクションのアイドルと、旅行に行ってるみたいなんです」

春香「え、えぇー!? それ、本当なの……?」

凛「……本人の口から聞きました。盗み聞きみたいな形ですけど」

春香「へぇー……。でもそんな人には見えなかったけどなー。仮に彼女がいても、のろけ話とかしなさそうなタイプだと思ったし」

卯月「私たちも、ずっとそう思ってたんです。でも、私も未央ちゃんも一緒に聞いてたんです」

未央「それで気になっちゃって……。私たちだけじゃなくて、プロダクションのみんなもざわざわしちゃってるし」

春香「なるほどね。それでさっきの質問かー。そういうことなら教えるよ」

春香「とはいえ、私も他の子のスケジュールまで完全には把握できてないから……。この後千早ちゃんと美希とは一緒に収録の予定だよ」

未央「少なくともその二人は違うってことかー……」

春香「そもそもの話になっちゃって申し訳ないんだけど、765のみんながそっちのプロデューサーさんと付き合うとはちょっと考えにくいかな。あまりにもつながりが薄いし」

凛「疑っておいて失礼なんですけど、私もそう思います」

卯月「……わかってるんです。違うんだって。でも……」

春香「うん。本当に違うって知って、安心したいだけなんだよね」

未央「はい……」

春香「うんうん。大丈夫。そういうことなら、力になれる限りは協力するよ」

卯月「あ、ありがとうございます!」

春香「あと覚えてるところだと、竜宮の三人と律子さんは今日か明日撮影だって言ってたかな。それと私は明日、朝から雪歩と貴音とドラマの撮影が入ってるから、その二人もオフじゃないね」

凛「残っているのは、高槻さん、菊地さん、双海真美さん……」

未央「……冷静に考えて、だよ? やよいちゃんと真美ちゃんと一緒に旅行って、絵面的にメチャクチャヤバくない?」

春香「常識的にはありえないよね。あってほしくないって言う方が正しいかな……」

卯月「だとすると……」

春香「真のスケジュールはどうだったっけなー……。電話した方が早いかも。ちょっと待ってて」プルルルル

凛「すみません、本当にありがとうございます」

真『――もしもし、春香? 電話なんてどうしたの?』

春香「真? いきなりごめんね。真は今日って仕事だっけ?」

真『んーん。明日までオフだよ』

春香「!?」

春香「え、えーっと、ちなみに今日はどうしてるの?」

真『あれ、言わなかったっけ。久々に旅行してるんだ!』

春香「へ、へぇー……」ダラダラ

<マコトー

春香(男の人の声!?)

真『あ、ごめん。呼んでるからちょっと切るね。また後でかけ直すよ』プツッ

春香「……」ダラダラダラダラ

卯月「あ、あのー……?」

凛「汗すごいですけど……」

春香「……真、旅行中だった。今日明日オフだって」

未央「えっ」

春香「で、でも待って! 落ち着こう! 万が一、真が彼氏と旅行なんてなったら、絶対にあんな普通のテンションじゃないはずだし!」

卯月「でも……タイミングがあまりにも……」

凛「……」

春香「早とちりしちゃダメだよ! ちゃんと本人に話を聞いてからでも遅くないから!」

未央「で、で、ですよね……はは……」

春香(どうしよう……。何を言っても取り繕ってるようにしかならない……)

春香「真、後でかけ直してくれるって言ってたから、その時にはっきりさせれば――」

スタッフ「撮影再開でーす! 準備お願いしまーす!」

春香「あ」

……撮影終了後……

凛(……結局、気になってミスちゃった。時間が押した所為で天海さんも電話してる場合じゃなくなっちゃったし)

未央「あ! ああー! アドレス交換しそびれたー!!」

卯月「じゃあ仮にあっちでわかっても、確認できませんね……」

凛「……菊地さんとプロデューサーって接点あったっけ」

卯月「うーん……。一緒に現場に来てもらった時に会ってるとは思います」

未央「でもプロデューサーがちょっかい出すとは、どーしても思えないんだよね」

凛「それは……私だってそう思うけどさ……」

卯月「だ、だけど、このタイミングで旅行って……」

未央「あー、もう! 結局もっとモヤモヤしただけじゃーん!」

――出版社

春香「――っていうことは、さっきのってお父さんだったの?」

真『そうだよ。たまには恩返しってことで、家族旅行だって言わなかったっけ』

春香「そ、そーだったんだ。なーんだ、よかったぁ……」

真『なんだってなんだよー。春香こそ電話なんてしてきて、一体どうしたのさ』

春香「実はね――」

真『――ええっ!? CPのプロデューサーさんが!?』

春香「そうだって、NGsのみんなが言ってたんだ。私も半信半疑だけど、モヤモヤしてたみたいだから、みんなに予定が入ってるってわかれば安心するかなーって思って調べてたんだよ」

真『で、ボクに電話してきたんだ。……っていうことは、もしかして三人には勘違いされてるの?』

春香「ちゃんと否定はしておいたよ? ……信じてもらえたか、自信ないけどね」

真『へっへー♪ ってことはぁ、ボクがあのプロデューサーさんとデートしてても不思議じゃないって思われてるってことかぁ!』

春香「いや、違うんじゃないかな……。タイミングがよすぎたからってだけで」

真『違うって酷くない!? ボクだって最近は結構男の人からもファンレター貰ってるんだよ!』

春香「あははは……あ、そろそろ取材だから切るね。お土産期待してるから!」

真『どーしよっかなー。意地悪言うから春香には何もないかもよー』

春香「あっ、ひどーい! それじゃ、楽しんできてね」

真『うん。あ、もしプロデューサーさんのお相手のアイドルが判明したらボクにもすぐ教えてね! それじゃ!』プツッ

春香「……あーよかったー。これでひとまず、潔白は証明できそう。早速連絡しないと…………あ」

春香(ば、番号交換し忘れてた……)

千早「春香。電話終わった?」

春香「あ、うん。……ところで千早ちゃん、NGsの誰かしらの電話かメアドって知ってる? CPの子でもいいんだけど」

千早「春香が知らないのに、私が知ってるわけないじゃない。特に連絡することもないし……」

春香「だ、だよねぇ……。じ、じゃあ美希は?」

美希「ん、なに~? CPの子のメアド? 知らないよ」

春香「そっかぁ……どーしよー……」

美希「それより取材始まるって。春香も早く準備するの」

春香「は~い……」

――旅館

武内P「卓球、ですか」

冬馬「折角四人いるんだし、ダブルス勝負しようぜ!」

翔太「別にいいけど、チーム分けどうする?」

北斗「ここは公平にグッパーでいいんじゃない」

冬馬「よーし。それじゃいくぞ! グッパージャス!」

翔太「冬馬くんとかー。負けちゃったなぁ……」

冬馬「おい、勝手に決めつけるなよ!」

北斗「俺はプロデューサーさんと、ですね。楽しみだな」

武内P「あまり経験はないので、足を引っ張ってしまうかもしれませんが……よろしくお願いします」

翔太「で? 負けたらペナルティはあるの?」

冬馬「罰ゲームか。面白そうだな」

武内P「……羽目を外し過ぎた内容ですと、承服しかねますので」

北斗「んじゃまあ、ライトなところで……負けたチームはこの後夕飯までの時間、勝ったチームに敬語で接する、っていうのは?」

冬馬「それ、プロデューサーだけ何にもデメリットねーな」

翔太「じゃあじゃあ! そうなったらプロデューサーさんは逆に敬語禁止っていうのは?」

北斗「いいね。タメ口のプロデューサーさん、どんな風か気になるね」

武内P「……以前にも346で同じようなことがありまして、上手くいきませんでしたが……その、努力します」

――中庭

蘭子「……」グスグス

美波「蘭子ちゃん。そんなに心配しなくても大丈夫よ」

アナスタシア「ダー。プロデューサーは、私たちのこと、見捨てたりしません」

蘭子「で……でも……次に、プロデュースする、アイドルと……顔合わせ旅行、してるって……」グスグス

美波「それは根も葉もない噂じゃない。私たちが信じなくてどうするの」

アナスタシア「蘭子。プロデューサーは蘭子のこと、パニマーチ、理解するために、すごく頑張ってました。だから、私たちも、ヴィエーリチ、信じましょう」

蘭子「美波さん、アーニャさん……。……うん。そう……我こそが、我が友の暗雲を打ち砕く光とならねば!(私がプロデューサーを信じなくちゃいけませんよね!)」

アナスタシア「いつもの蘭子、戻ってきました。ヤラッド、嬉しいです」

美波「ふふふ、それでこそ蘭子ちゃんだわ」

美波(ごめんね、蘭子ちゃん、アーニャちゃん。……そんなこと言っている私が一番、不安で仕方ないなんて……弱いままだな、私)

――レッスンスタジオ

美嘉「…………はぁ」

奏「今日はなんだか、イマイチ身が入ってないわね」

美嘉「……ゴメン」

奏「プロデューサーさんのこと、気になってるって顔ね」

美嘉「……ありえない。あいつが別の事務所のアイドルと旅行とか……」

奏「そうね。意外だったわ。……知らない子に先を越されるくらいだったら、私もちょっかい出してみればよかったかしら」

美嘉「奏。今アタシ、そういう冗談で笑える余裕ないの」

奏「あら、冗談なんて。それなりに本気よ? まあ彼女でもないのに嫉妬するっていうのも、身勝手な話よね」

美嘉「嫉妬なんて、してない……。アタシはただ、担当の子たちほっぽって、のんきに違うプロの子とデートに行くような不誠実なところに腹が立ってるだけ」

奏「そう? じゃあそういうことにしておこうかしら。あーあ……。私もチャーミングなプロデューサーから、デートのお誘いでも受けてみたいわね……」

美嘉(……なんでアタシこんなにイライラしてるんだろう。馬鹿みたい。別にアタシの担当でもないのに……)

――居酒屋

瑞樹「……あーっ! 私も旅行行きたーい!」

早苗「でもねー、やっとアイドルも軌道に乗り始めたところで、どこかのプロデューサーに誘われてホイホイ旅行する勇気はないかなー。行きたい気持ちは別にして」

瑞樹「そうねー。局アナしてた時だったらせいぜい週刊誌で1、2ページ書かれるくらいで済んだだろうけど、今もしお泊りデートしてすっぱ抜かれたら炎上しちゃうわよね」

早苗「あたしはプロデューサー君のことあんまり知らないけど、もし未成年の子が相手だったらシメないとダメね」

瑞樹「んー、私もそこまで接点ないから……。でもちょっと話した感じだけでも実直で真面目そうなのは伝わってくるし、仕事も出来るタイプみたいだし、有望株なのは間違いないわ!」

早苗「へー。ねえ、楓ちゃんの方が彼のこと詳しいでしょ? どうなのよ」

瑞樹「そうよ! 実は内心、気が気じゃないんじゃない? 今日はいつもみたいに飲んでないし」

楓「んー? ふふふ、想像にお任せします。……ごめんなさい、ちょっとお手洗いに」スッ

早苗「……ねえ、瑞樹ちゃん。楓ちゃんって本当のところ、彼との関係ってどうだったのか知ってる?」

瑞樹「前に彼が担当してたのが楓ちゃんだったって話?」

早苗「そうそう! なんか直接聞けなくてねー。デリケートな感じするし」

瑞樹「元担当だったらしい……って話は聞くけど、私も真偽のほどは知らないのよね。前にちょっと聞いてみたらはぐらかされちゃって、それっきり」

早苗「ふーん。……それにしても。本当に今日は、楓ちゃんの飲んでる量が少ない。少なすぎる。怪しい……」

瑞樹「あら、刑事の勘?」

早苗「女の勘よ! あたし刑事課じゃないし」

瑞樹「じゃあやっぱり、そういうこと、なのかしらね」

――居酒屋裏

楓「……番号、変わってないはず」プルルル


――旅館

北斗「いやぁ、華麗な勝利は気分がいいね」

冬馬「プロデューサー……いや、プロデューサー様。しれっとお強すぎやしませんかね、あんた……。シングルスでもダブルスでもボッコボコ……」

武内P「その、恐縮です……」

翔太「いやー、見事にストレート負けしちゃうなんてねー。北斗様、お茶でございます」

北斗「……自分で提案した罰ゲームだけどさ、なんか二人が丁寧だと調子狂うな」ズズズ

冬馬「俺だって好きでこうしてるんじゃねーですよ!?」

翔太「ほらほら冬馬くん。仁奈ちゃんみたいな喋り方してないで、さっさと勝者たるプロデューサー様にお茶をお出しして」

武内P「……あの。私もこのようなことには不慣れですので、いつも通りにしていただけないかと」

北斗「プロデューサーさんに同意。やっぱりいつも通りが一番いいや」

翔太「あ、そう? 短い召使い生活だったなー」

冬馬「くっそー。次は絶対に倒してやるからな! 覚悟しておけよ!」

北斗「冬馬、それまた負ける奴が吐くセリフ」

<ブーン ブーン

武内P「……すみません。電話が入ったようですので、少し失礼します」

冬馬「ん? おう」

武内P「……か、高垣さん? ……もしもし」

楓『もしもし。楓です』

武内P「どうかされましたか? ……この番号にかけてくるということは、何か緊急の用件でもあったということでしょうか」

楓『いえいえ。お休みなのにごめんなさい。……どこかのアイドルと旅行に出かけられたっていう話を小耳に挟んだので、誰とかなーって気になっちゃって』

武内P「ああ、そういうことでしたか。実は315プロのプロデューサーの方に、ジュピターのみなさんとの旅行に保護者役で付き添ってくれないかと頼まれまして。それでご一緒させていただき、温泉地に来ています」

楓『…………ふふっ。そう、でしたか。ふふふっ』

武内P「あの、高垣さん? どうかされましたか?」

楓『いえいえ。なーんでもありません。温泉、私も行きたいなぁって思いまして。あ、お土産楽しみにしてますね♪』

武内P「はい。……ご用件というのは、それだけ……ですか?」

楓『ええ。それじゃあ温泉楽しんできてくださいね、風呂デューサーさん。ふふふふふ』プツッ

武内P「もしもし? ……酔っていたのかな」

冬馬「なぁ、プロデューサー。今の「高垣さん」って、あの高垣楓?」

武内P「……聞いていらしたんですか。ええ、そうです」

北斗「羨ましいなぁ。いいですよね、大人の女性って感じで、神秘的で」

翔太「プロデューサーさんのそれって、仕事用の電話じゃないよね?」

武内P「ええ、私用のものです」

翔太「ということは、高垣さんは個人的な番号を知ってて連絡かけてきたってことかー」

北斗「へぇ……。さすが敏腕プロデューサー。隅に置けないですね」

武内P「あの、何か誤解をされているようですが……」

冬馬「ふっふっふ……晩飯の時の話題が決まったな」

北斗「後学のために、ぜひともいろいろお聞きしたいところですね。さあさあ行きましょう」

翔太「ご飯は美味しいって評判らしいし、話のネタも面白そうだし、いい旅行だね~」

武内P「あ、あの、みなさん?」

――居酒屋

楓「楓が帰っできましたよー♪」

早苗「遅かったじゃない……って、なんかテンション高くない?」

楓「そうですか? あ、店員さん、生中お願いします」

瑞樹「いつもの調子に戻ったのはいいけれど、何かあったの?」

楓「えー? ふふふ、うれいなしって、うれしいなー。なんて。ふふふふ」

早苗・瑞樹「???」

楓「あ、きたきた……それじゃあ改めて、プロージット!」

早苗・瑞樹「か、かんぱーい」

瑞樹(ちょっと、いきなりどうしちゃったの楓ちゃん?)

早苗(おっかしいなぁ……勘が外れたのかしら)

楓「……っぷはー。あー、おいしい♪」

――女子寮

小梅「……」シュン

輝子「こ、小梅ちゃん。……どうか、したの」

小梅「……CPのプロデューサーさんがね、いなくなっちゃうかもしれないって」

輝子「え、えぇ……? あのカラカサタケみたいな、背の高いプロデューサー、だよね……」

小梅「うん……」

輝子「そういえば、小梅ちゃん……よく電話したり、話したりしてたよね……」

小梅「……プロデューサーさん、きっと、いいゾンビになりそうな人なのに……」

輝子「……き、今日は一緒に、ホラー映画見ようか……。ま、マタンゴ、見る?」

小梅「輝子ちゃん……ありがとう。うん、一緒に見よう……。蘭子ちゃん、誘ってくるね……」スッ

輝子「あっ……そ、それは……」

<キャー

――卯月・自室

美穂『――そうなんだ……。旅行に行ってるって話、本当だったんだね……』

卯月「うん……」

美穂『元気出して、卯月ちゃん。きっと真さんと、っていうのは思い過ごしだと思うよ。春香さんも否定してたんでしょう?』

卯月「それは、私も多分違うと思うんです。……でも、違ったとしても、誰かとは一緒に行ってるわけですし……」

美穂『……。……こういうこと聞いちゃうのも、あれなんだけど……卯月ちゃんは、プロデューサーさんのこと、気になってるの?』

卯月「へぇっ!?」

美穂『ご、ごめんね、いきなり変なこと聞いちゃって』

卯月「き、気になってるっていうか、やっぱり私のことを担当してる人だし! 気になってるけど、あ、でも変な意味じゃなくって! 仲の良い友達に知らない親友がいて寂しくなっちゃうみたいな!」

美穂『わ、わかった! わかったよ卯月ちゃん! だから落ち着いて!』

卯月「ご、ごめんなさい。でも、本当言うと……やっぱり、他のアイドルと一緒になるっていうのは、嫌かなって」

美穂『卯月ちゃん……』

卯月「私がプロデューサーさんと……その……い、一緒になりたいとか、そういうわけじゃないんです。なんて言ったらいいのかな……CPや、たまに美嘉ちゃんや小梅ちゃんみたいに、他の子たちのこともプロデュースしてくれてますよね。だけど、みんなじゃなくて、誰か一人だけしかプロデュースしてくれなくなっちゃう、みたいに思うと……凄く寂しいんです」

美穂『…………』

卯月「他のアイドルと一緒になったら、やっぱりどうしてもその人が一番になっちゃいますよね。そうしたらもう、私のことをプロデュースしてもらえなくなっちゃうのかな……って」

美穂『……私もその気持ち、わかるな。もし私のプロデューサーさんが同じようなことになったら、きっと私も悲しくなっちゃうと思うもん……』

卯月「美穂ちゃん……ですよね。やっぱり寂しいって思うの、特別なわけじゃないですよね」

美穂『うん。きっとみんなもそうなんだと思う』

卯月「えへへ……ありがとうございます。やっぱり美穂ちゃんに電話してよかった」

美穂『私こそ、頼ってもらえて嬉しいよ。あ、そういえば、私の方のプロデューサーさんもね……』

――旅館

冬馬「……それマジかよ。でも全っ然、イメージ湧かないな……」

武内P「……私も初めは面食らったというか……驚きました。初めのうちは、寡黙な方かと思っていましたから」

翔太「ダジャレって、実際どんなこと言うの?」

武内P「例えば……新しい衣装があったらしい、ですとか。このステッキとってもステキ、とか」

冬馬「見事におっさんのそれだな」

武内P「あとは、クリス……あっ」

北斗「クリス?」

武内P「い、いえ……。他には、ですね……」

翔太「誤魔化した! 今、完全に誤魔化したでしょ!」

冬馬「おいおい、プロデューサー。言いかけたことはちゃんと言わないと、こっちも気になっちまうだろ~?」

北斗「クリス……ということは、クリスマスですか? まさか……聖夜に二人で……?」

冬馬「白状しろ! ちゃんと白状するまで今夜は寝かせないからな!」

武内P「……はぁ。その、ですね。以前、一度クリスマスに食事に出かけた際に」

翔太「うわぉ。あのトップアイドルとクリスマスデートとか……。プロデューサーさんっておとなしそうな顔して、やることはやってるんだね~」

武内P「こ、断っておきますが、やましいことは何もありません。まだ彼女がアイドルになって一年が経った頃の……初めての大きなライブの後だったので、労いと成功の祝福を兼ねたディナーだったんです」

北斗「そこで愛の告白を……ってわけですか。ロマンチックだ……」

武内P「……すみません、続けさせていただきます。その場で高垣さんは、ホーリーナイトは素直に楽しまナイト、というダジャレを口にされてました」

冬馬「すっかり脱線しちまったけど、そういやダジャレの話してたんだったな……」

北斗「凄いな……そんなムードたっぷりな場でダジャレって……。さすがの俺もそんな女の子と付き合ったことはないですね」

翔太「もうダジャレなんてどうでもいいから、もっと続き聞かせてよ。その後、どうなったの?」

武内P「で、ですから、特に何もありませんよ。お互いに分別のある大人ですから」

冬馬「いやいやいやいや……これはまだ、掘り下げていく必要があるな……! 羨ましそうな話、もっと教えろよ!」

――ハンバーガーショップ

加蓮「……じゃあ、結局誰が相手かっていうのはわからず仕舞いなんだ」

凛「うん……」

奈緒「旅行……デート……う、うわー」

加蓮「765じゃないとなると、後は876、961、こだま……うーん、山ほどあって調べようもないなぁ」

凛「調べたって、嘘つかれたり隠されたりしたらもうわかんないから……」

加蓮「だよね。私がデートする立場だったら絶対隠すし」

凛「だから、もう気にしない……っていうのは、無理だけど……。詮索するのは空しくなるから、もういいかなって」

加蓮「あのプロデューサーの彼女かー。うーん……全然想像つかないな。どっちかと言えばおとなしそうな、文香さんみたいなタイプの人なら納得かも」

凛「ちょっと加蓮、楽しんでる?」

加蓮「あ、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど……どうも現実感がなくって」

凛「……きっと私も、直接プロデューサーの口から聞いてなかったら、鼻で笑っておしまいだったと思う」

加蓮「直接っていうのが大きいよね。他の人が言ってるんだったら誤解だろうなとか、どうせ噂でしょってなるけど、あの人冗談とか嘘とか言わなそうだしね……」

凛「別に彼女がいるっていうのはどっちでもいいんだよ。他所のアイドルっていうのが嫌なんだ」

加蓮「うん、それはちょっとね。同じ事務所の中でも気まずい感じになりそうだけど、別の事務所っていうのはやだよ」

凛「でしょ? 私のこと、この世界に連れてきたのはプロデューサーなのに……他のアイドルが本当は一番で、私たちのプロデュースを本気でやってくれてるんじゃなかったのかな、なんて、疑いたくないんだよ……」

加蓮「凛……。ところで奈緒、いつまで悶々としてるつもり?」

奈緒「ふえっ!?」

凛「さっきから黙り込んでるけど、一体何考えてたの」

奈緒「あ、いや、べ、べべべ、別に変なことなんか考えてないからな!」

加蓮「誰も何も変なことだなんて言ってないけど?」

奈緒「い、いや、イメージに反してしれっと旅行デートするなんて、あの人もちゃんと大人の男の人なんだなーって」

加蓮「見直したんだ」

奈緒「見直したってわけじゃないけど……。あたしたちが知ってるのなんて、ほんのちょっとの側面でしかないんだよなー、って思ってさ。昔のことも知らなければ、プライベートなんて全く未知なわけだし」

凛「それは……そうだけど」

奈緒「だからこそ、見えてる部分をちゃんと信じるしかないんだよな……。少なくとも、あたしが知ってる限りのプロデューサーさんは、凛のことを本当に大事に思ってるからこそ、常務のプロジェクトであっても背中を押してくれたように思えたし」

凛「……!」

加蓮「……どうしよう。奈緒がいいこと言ってる……。さすが学年上なだけあるー……」

奈緒「ひ、人が真面目に話してる時に茶化すなよなー! 別にいいこと言おうとかしてないし! 加蓮がそんなこと言うから、恥ずかしくなってきた……」

凛「……ごめん。私、勝手にひどいこと考えてた。奈緒の言う通りだね……。プロデューサーは一度だって手を抜いたことなんて、なかったよ。例えこれから何があっても、それだけは……本気で取り組んでくれてたって事実は揺るがない」

加蓮「お、吹っ切れた」

凛「まあでも、次に会った時には……どこのアイドルと行って、どんなつもりで私たちのこと放っておいたのか、それだけは問い詰めようかな」

奈緒「嫌な吹っ切れ方したなー……」

加蓮「彼氏が浮気したら、きっとこんな調子で追い詰めるんだろうな」

奈緒「うわー、怖っ。相手が反論したら「言い訳聞きたいなんて、私言った?」とか、反論の余地片っ端から潰しそう」

加蓮「それで謝っても「謝ってほしいなんて一言も言ってないんだけど」とか、凄い淡々と責めるの」

凛「ちょっと二人とも……勝手に失礼な妄想しないでくれない?」

加蓮「きゃー。ポテト一本あげるから許してー」

奈緒「じゃああたしからもポテトを捧げよう」

凛「私の分もうあるからいらないんだけど……」

――旅館

武内P「……ということが」

冬馬「……悪い。軽々しく羨ましいとか言っちゃって」

北斗「さすがの俺も、そういうタイプのヘヴィな状況は経験ないですね……」

翔太「お姉さんに囲まれてるのに、ちっともちやほやされてる感じじゃないのかー……」

武内P「電話で止めたんですが……みなさん、場の空気のせいもあって、大いに盛り上がってしまったそうで……。到着した時には、その……どう手を付ければよいものかという泥酔ぶりで……」

冬馬「志乃さんってライブでもワイン飲んでるって話は聞いてるから意外じゃなかったが……礼さんやレナさんまでべろべろになるまで飲むのかよ……」

北斗「もっと落ち着いた人かと思ってたんですけどね。早苗さんも噂は耳にするからそう驚きでもないですけど、あの楓さんが、ねぇ……」

武内P「高垣さんはビールフェスに行かれた時も、それはそれはよく飲まれて……」

翔太「プロデューサーさんって、結構苦労してたんだね……。はい、お刺身一切れあげるから元気出して」ヒョイッ

武内P「……恐縮です」

――カフェ

藍子「そっか……。それで未央ちゃん、今日はなんだか元気がなかったんだね」

未央「心配かけちゃってごめんねー……。もう気になっちゃってダメダメだよ~」グデーン

茜「元気出してください!」

未央「茜ちんは相変わらず元気いっぱいだねー」

茜「はい!!」

藍子「旅行の相手って、本当に一人なの?」

未央「それはハーレムってこと? いやいや……まさかそこまで……」

藍子「そ、そうじゃなくて! ……例えば子役のアイドルたちの引率とか、そういう可能性ってないのかな」

未央「……うーん、それは考えてもみなかったなぁ。じゃあさ、あーちゃん。仮に子役の引率だったとしても、プロデューサーが引っ張り出される理由ってなんだろ? だって普通はプロダクションの人が着いて行けばいいってだけの話じゃん」

藍子「理由? なんだろう……知り合いのプロデューサーさんに頼まれた、っていうのはどうかな。小さいプロダクションで人手が足りなくて、担当の人が急病で行けなくなっちゃったとか」

未央「あー、それくらい重なれば、確かにあるかもねー。プロデューサーって義理とか大事にしそうだから、引き受けそうだし。……あああー、でも私の頭の中では、プロデューサーが逢引してるところしか想像できないよー!」

茜「合挽きですか! ハンバーグ食べたくなってきちゃいますね!」

藍子「その合挽きじゃなくて、デートの方の逢引!」

茜「え!? で、デートですか!? ……誰と誰が?」

未央「さっきからなんの話だと思って聞いてたの茜ちん……。プロデューサーが、どこか他のプロダクションのアイドルと旅行に行ったって話だよ」

茜「ふ、ふ、二人で旅行ですか!? …………ひゃああぁ~~~! ち、ちょっと走ってきますね!!」ダダッ

藍子「あ、茜ちゃーん! ……行っちゃった」

未央「刺激が強すぎたみたいだね……。話を戻すけど、あーちゃんだったらこんな時、どうしたらいいと思う?」

藍子「えーと、それは……気持ちの切り替え、っていうこと?」

未央「まあ、そういうことになるのかなぁ」

藍子「落ち込んじゃった時は、お散歩かな。街の景色、ねこさん、綺麗なお花……そういうステキなものを眺めているうちに、辛い気持ちがいつのまにかなくなってるの」

未央「すごくあーちゃんらしいね」

藍子「未央ちゃんは、落ち込んだ時ってどうするの? ……って、今がまさにそうなのに、こんなこと聞くのもおかしいかな」

未央「カラオケとか、やけ食い! ……っていうのは、ちょっとくらい落ち込んだ時ならいいんだけどね。こう見えて私、小心者でさー、落ち込んじゃうと、もうそれっきり。……前にさ、私、NGsのデビューライブの後ね……恥ずかしい話なんだけど、すっごい落ち込んで、アイドル辞めるー! なんて言っちゃったこと、あったんだ」

藍子「ええっ!? そんなことあったの?」

未央「あはは……正直、今思い出すともう自己嫌悪でいっぱいになっちゃうんだけどさ。一番最初に美嘉ねぇのライブ出ちゃったから、ライブと言えばもっと人がたくさんくるんだって勘違いしてたんだよね。で、プロデューサーとすれ違って、飛び出して、練習もサボって引きこもって……」

藍子「それで、その時はどうしたの?」

未央「落ち込んでた。もうなんにもしないで、ただただひたすら、さながら沈没船のよーな気持ちでふさぎ込んでましたよ、ええ。……プロデューサーが家までわざわざ来てくれたのに、会いたくなくて避けちゃったくらい落ち込んだ」

藍子「……」

未央「それでもプロデューサー、懲りずに家まで来てくれてさ。しかも、雨の中、ずぶ濡れになってまでだよ? そりゃ警察に通報されちゃうよね、あはは……。でもさ、プロデューサーは、こんな私を見捨てないで来てくれたんだよ……。その時にライブのお客さんの写真持ってきてくれて、見せてくれたんだ。お客さんのみんなが笑顔の写真だった……。その時になって、やっと自分がバカだったってことに気が付いたんだ」

藍子「……未央ちゃんのプロデューサーさんは、本当にいいプロデューサーさんだね」

未央「うん。そうなんだよねー。いいプロデューサーだよ、本当に! ……そっか。私って落ち込んだ時は、誰かに助けてもらってたんだ。あの時はプロデューサーと、しぶりんとしまむーに。今もあーちゃんと茜ちんに助けてもらった。……茜ちんどっか行っちゃったけど」

藍子「私、別に何もしてないよ」

未央「ううん。こうやって一緒に居て話を聞いてくれたおかげで、なんだか元気出てきた。だから、やっぱりあーちゃんのおかげだよ」

藍子「えへへ……ありがとう」

<ダダダダダダダダダ

茜「――戻りましたー!! 走ったら、喉が乾いちゃいました!」

未央「あははは。茜ちん、ありがとう」

茜「?? なんだかわかりませんけど、どういたしまして!」

未央「そうだよね。多分、あの真面目って言葉に服を着せたようなプロデューサーだもん。きっとあーちゃんの言う通り、何か理由があるんだと思う。そうじゃなくて、もし彼女だったとしたら、それはそれでネタになるし!」

藍子「いつもの未央ちゃんに戻ったみたい。それじゃあ励ましついでに、藍子お姉さんが未央ちゃんにケーキを買ってあげようかな」

未央「え、ほんとにー!! うれしー! あーちゃん愛してるー!!」ガバーッ

茜「じゃあ私はお茶をあげます! どうぞ!」ドンッ

未央「嬉しいけど、茜ちんはまず落ち着いて水分補給しよう?」

――深夜、旅館

<ブーン ブーン ブーン

冬馬「……んん?」

翔太「……なに~?」

北斗「ん……冬馬、ケータイ鳴ってるよ……」

冬馬「……悪ぃ。誰だ、こんな夜中に…………涼?」

北斗「へー……」

冬馬「…………北斗、翔太。ちょっと廊下出るぞ」

北斗「どうしたんだ?」

翔太「眠いよ~……」

――旅館、廊下

北斗「で? わざわざここで話すようなことって、涼君からのメールの件?」

冬馬「お前も知ってるだろ。涼の従姉って、765の秋月律子だってこと」

北斗「ああ。それが一体……」

翔太「こんな夜中にわざわざ話すようなことなの?」

冬馬「いや、なんか、その秋月律子から涼に連絡があったらしくってさ、それが「346のプロデューサーが他プロダクションのアイドルと旅行に行ってるって、346のアイドルの間で騒ぎになってるけど何か情報知らないか」ってことだったらしいんだよ……」

北斗「……へぇ」

冬馬「それで涼のやつ、俺たちの旅行の話思い出して、確認のメール送ってきたってことらしいんだわ」

翔太「そうか……なるほどね~。確かに「他プロダクションのアイドルと旅行」って言葉、間違ってないね」

北斗「俺たちとの旅行が、デートか何かと勘違いされてたのか。はははっ」

冬馬「346の連中にホントのこと教えて、騒ぎを収めてやった方がいいかな」

翔太「連絡先知ってるの?」

冬馬「いや、知らん」

北斗「んー……。でもさ」

冬馬「ん?」

北斗「俺たちが本当のこと教えて収まればいいけど。元をただせば俺たちの旅行にプロデューサーさんが同行してるからお前らが悪い、って逆恨みされる可能性もない?」

冬馬「いや、恨まれるのおかしいだろ。別に男同士の旅行じゃ恨まれる要素ないし」

翔太「わっかんないよ~? 女の子って結構そういう怖い所あるから。それに同じプロダクションの中だったらまだしも、別のところの人引っ張って来てるわけだからね」

冬馬「マジかよ……。じゃあどうすればいいんだよ」

北斗「うーん、そうだな……よし。保険をかけておこう」

翔太「保険?」

冬馬「何するつもりだ、北斗」

北斗「手土産を用意しておけば、許してもらえるかもしれない。丁度明後日の現場はNGsの子たちと共演だったからね」

冬馬「手土産だぁ? 饅頭とか煎餅でどうにかするつもりかよ」

北斗「そうじゃなくてさ……いいや、ちょっと二人とも待ってて」ガチャ

翔太「部屋に戻ってどうするんだろう」

冬馬「そんなあげて喜ばれるようなもの、部屋にはなかったと思うけどな……」

北斗「お待たせ、二人とも」ガチャ

冬馬「早かったな。で、手土産ってなんなんだよ」

北斗「これこれ……」スッ

翔太「……はっはーん。北斗くん、よく思いついたね」

冬馬「こ、こんなんで本当にいいのかよ……?」

翔太「僕はこれ、いいと思うな。きっとこれなら喜んでもらえるよ」

北斗「だろう? どうせならもう少しバリエーションがあるといいんだけど……」

翔太「大丈夫。僕も今朝からもう結構な数を――」

――二日後、事務所

武内P「おはようございます」

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます。旅行はどうでしたか?」

武内P「ええ、とても楽しく過ごせました。ジュピターのみなさんとお話が出来たのも、とても貴重な体験になりましたし」

ちひろ「ああ! ジュピターの皆さんとご一緒だったんですか。肝心なことが聞けなかったから、私も大変だったんですよ」

武内P「大変……とは?」

ちひろ「プロデューサーさんがどこかのアイドルと一緒に旅行に行ってる、っていう話だけが独り歩きしてしまって……聞いていた子もいたから否定もできなくて、みんなにあれこれ聞かれても答えようがなかったんですからね」

武内P「そ、それはご迷惑をおかけしました……! 美城専務や今西部長にはお伝えしていたので問題はないかと思っていましたが、千川さんにお伝えするのを失念していました。申し訳ございません」ペコリ

ちひろ「次からは気を付けてくださいね? 私もちょっと気になってたんですから。もしかしてデートかな? なんて」

武内P「……アイドルの皆さんとデート、というのは、さすがに……。ましてや他のプロダクションの方と、などというのは……」

ちひろ「ふふふ、知ってます。プロデューサーさんは真面目ですもんね。でもCPの子たちが心配してましたから、ちゃんと誤解は解いてあげてくださいね」

武内P「……はい」

ちひろ「あ、ところでそれってお土産ですか?」

武内P「はい。みなさんでどうぞ。……では、行ってきます」

ちひろ「行ってらっしゃい。さて、お土産はっと……あら、美味しそう。一つもらっちゃおーっと」モグモグ

――会議室

<ザワザワ

武内P「……失礼します」ガチャ

全員「プロデューサー!!」

武内P「お、おはようございます」

智絵里「プロデューサーさん! どこにも行かないでください!」

美嘉「……アンタ、どの面下げてここに来たつもり!?」

莉嘉「聞いたよPくん! 今度のオフはアタシと旅行行こうよー!!」

みく「Pチャン! みくたちまだまだプロデュースしてほしいにゃ!」

武内P「み、みなさん。どうぞ、まずは落ち着いて話を……」

李衣菜「落ち着いてなんかいられないよ! もしプロデューサーが違うプロダクションに行くっていうなら、私たちの音楽で説得してみせるから!」ジャーン

かな子「お菓子作ってきたんです! 美味しいものを食べて、思い直してください!」

杏「今日はお仕事お休みにして、ゆっくりとプロデューサーの話を聞こう。うん、それがいいよ」

きらり「杏ちゃん、そうやってサボったらダメだよぉ?」

武内P「あの、みなさん、どうか話を……」

美嘉「話って何!? 今更どんな言い訳するの!?」

美波「美嘉ちゃん、落ち着いて……」

みりあ「ねーねー、誰とデートしてたのー?」

武内P「いえ、デートではなくて……」

智絵里「や、やっぱり引き抜きだったんですね……!」グスッ

<パンッ!

全員「!?」

凛「……みんな、ちょっと落ち着こうよ」

未央「そうそう。プロデューサー困ってるじゃん」

卯月「そ、それで。誰との旅行だったのか、聞かせてもらえますか……?」

武内P「……はい。実は――」

……説明終了……

凛「……はぁ……。心配して損した……」

未央「ということは、デートじゃ……」

武内P「違います」

卯月「も、もちろん、引き抜きとか転職っていうわけでも……」

武内P「はい。……私が関わっていられる限りは、ここでみなさんのプロデュースを続けさせていただくつもりです」

智絵里「よ、よかったぁ……ううっ……かな子ちゃ~ん」グスグス

かな子「よかったね、智絵里ちゃん!」ピョンピョン

莉嘉「なーんだ、デートじゃなかったんだ。つまんないのー。折角プロデューサーの恋バナ聞けると思ったのにー」

みりあ「ねー。楽しみだったのにー」

美嘉「へ……へぇ……。な、なーんだ。そーだったんだー……。へぇー……」

美嘉(よ、よかったぁ……!!)

アナスタシア「ウラー! よかったですね、蘭子、美波」

蘭子「うん……!」

美波「……本当に、よかった。やっぱりプロデューサーさんは、私たちを見捨てなんてしないのよ」

きらり「デートじゃなかったって! 杏ちゃん、よかったにぃ」

杏「杏は別にデートでもなんでもよかったんだけどねー。まあでも智絵里ちゃんとかな子ちゃんが安心してるみたいだから、よかったんじゃない?」

李衣菜「ま、まあ私はプロデューサーがそんなことしないって信じてたけどね!」

みく「嘘にゃ。めっちゃ疑ってたにゃ。その態度はロックじゃないにゃ」

李衣菜「う、うるさいなー。そうだ、なつきちと菜々ちゃんに教えてあげよう」

蘭子「あっ、私も小梅ちゃんに連絡しなきゃ……」

武内P「このたびは不用意な発言とみなさんへの周知を怠った結果、混乱を招いてしまい申し訳ありませんでした」ペコリ

凛「……こっちこそごめん。ちゃんとした話も聞かないまま、勝手な噂や想像しちゃって……」

未央「話を広めちゃったのも私たちだったし……」

卯月「765のみなさんの手も煩わせてしまいましたし……うう」

武内P「……さて、そろそろお仕事に戻りましょうか。NGsのみなさんは私と共に現場へ。他のみなさんも、それぞれの現場やレッスンへ向かってください」

全員「はい!」

――移動中、車内

未央「今日の現場って、ジュピターと共演だったよね」

凛「うん……ちょっと文句言いたくなるな」

卯月「り、凛ちゃん?」

凛「あっちが悪いわけじゃないけど、気持ち的にさ。一応、混乱の原因担ってるわけだし」

未央「わお。しぶりん、理不尽……。……でもちょっとわかるかも。だってさー、315だって男のプロデューサーくらいいるだろうし、同行するのって何もうちのプロデューサーじゃなくたってよかったはずだよね」

卯月「確かに……」

凛「それに高校生だったら別に保護者なんていなくても、旅行くらい問題ないでしょ? いくらアイドルとはいえさ」

卯月「そう言われると、そうですね。海外旅行だったらまだしも、国内の旅行で一緒に行く必要はないかなって思います」

凛「だよね? わざわざ他のプロダクションの人間引っ張ってきてまで、同行させる必要ないよね」

武内P「そろそろ到着しますので、準備をお願いします」

三人「はーい」

――テレビ局

冬馬「おっ、プロデューサー」

武内P「おはようございます。先日はお世話になりました」ペコリ

北斗「いえいえ、こちらこそ」

翔太「また今度一緒に行こうね~」

武内P「ええ、機会があれば。……本田さん、渋谷さん、島村さん。ディレクターの方に挨拶してきますので、先にみなさんで準備をしておいてください」

凛「うん、わかったよ。行ってらっしゃい。……ジュピターさん、おはようございます」ジトッ

冬馬「お、おはよう……ございます」

未央、卯月「……」ペコリ

冬馬(お、おい北斗、翔太。お前らが言う通り、これ怒ってるだろ)

北斗(言った通りだろ?)

翔太(やっぱりこうなったか~)

凛「うちのプロデューサーが、みなさんと楽しく旅行させていただいたようで」ツーン

冬馬「い、いや、こっちもわざわざ来てもらって悪かったなって思ってて」

冬馬(駄目だこれ。絶対に取りつく島ナシだ! 北斗! さっそく手土産を差し出すぞ!)

北斗「こちらからも感謝の気持ちを込めて、こちらを受け取ってほしいんだけど」スッ

未央「スマホなんて出してなに……って、これ!」

卯月「えっ……ぷ、プロデューサーさんの寝顔……ですか?」

凛「……ぷっ。ぐっすり寝てる」

翔太「隙のない人っぽいし、こんな写真、中々貴重なんじゃない~?」

北斗「食べられるお土産は貰ってるだろうから、俺たちからはこんなものをと思ってね」スッスッ

未央「あーっ! 旅館の浴衣着てる! スーツ以外の姿って初めて見たー!!」

卯月「こっちは私服です! へぇー……普段はこんな服着てるんだぁ……」

凛「ねえ、さっきの寝てる写真もう一回見せてよ……ぷぷっ。やっぱり寝相すっごくいい……。ね、寝てる時もピシッとしてるんだ……あははっ」

未央「うわ、卓球してんじゃん! めっちゃ腕ぶれてほぼ消えてるし! すんごい強そう! あっはははは!」

卯月「ねえ凛ちゃん、未央ちゃん! これ、プロデューサーさん射的してますよ!」

凛「うわ、なにこれ!? あはははははっ! これ、殺し屋にしか見えない!!」

未央「お、奥にいる店主さん超ビビってる! めっちゃ青ざめてる! あっはっはっはっ!!」

<キャッキャッキャッ

冬馬「すげぇ……北斗、お前の言う通りになったわ……」

北斗「だろう?」

翔太「旅の思い出にーって、撮りだめておいてよかったよ」

北斗「……というわけで。写真全部送ってあげるから、アドレス教えてもらえる?」

凛「はぁ……はぁ……お、お腹痛い……。……え? アドレス? うん、はい」ピッ

北斗「……よし。登録したよ。それじゃあ、後で全部まとめてプレゼントするから」

未央「しぶりん、絶対その写真、私にも送って!」

卯月「私にもください!」

凛「わ、わかってる。……あははは。あー……面白すぎる……。じゃあ、絶対送ってよ」

北斗「もちろん。それじゃあ今日はよろしくね」

三人「はーい」

冬馬「……。マジであっという間に怒りがなくなったみたいだな……」

翔太「プロデューサーさん、愛されてるね~」

冬馬「ネタにされてるだけじゃねーのか?」

――局内、撮影現場

武内P「みなさん、お待たせしました」

凛「う、うん」

卯月「……」プルプル

未央「……お命、頂戴します。バキュン!」ボソッ

凛「んぐふっ」

卯月「ぅんっく……っ」プルプル

武内P「……どうかなさいましたか?」

凛「な、なんでもない、から」

凛(ちょっと未央、やめてよ!)

未央(ご、ごめん……)プルプル

卯月「ぷ、プロデューサーさん。……卓球、お好きですか?」

未央「ぶほっ!」

凛「んぶっ!」

武内P「? 造詣は深くありませんが、やるのは好きですね。先の旅行でもジュピターのみなさんと少し試合をさせていただきました。……しかし、どうしてそのような質問を?」

卯月「い、いえ、深い意味は……」

未央(し、しまむー、直球投げるの勘弁してよ……)プルプル

凛「へ、へぇ。と、ところで、プロデューサーって寝相はいいの?」

卯月「んくふっ」

未央「へぶっ」

武内P「み、みなさん? 本当に大丈夫ですか?」

凛「だ、大丈夫だから、教えてよ」プルプル

武内P「はぁ……寝相、ですか。特に悪いと言われたことはありませんが……」

凛「へぇ……そう……ふっふふ」プルプル

武内P「???」

未央「ぷ、ぷろっ、プロデューサー。昔、ひ、ひぃっ、ヒットマンだった、ことはっへへへ」

凛「くふぁっ! ……み、未央!! やっ、やめてっあはははははははっ!!」

卯月「も、もう、あははっ、む、無理、無理です! あはははははは!!」

未央「あははっはははっはっはっは!!」

武内P「あ、あの、みなさん、本当にどうされたんですか……!?」

スタッフ「……あのー。そろそろ、リハーサルをしたいんですけどー……」

凛「ごめっ、あははっ、ごめんなさいっ! おね、あははははっ、がいだから、あとちょっと待ってくださっははははっ!」

冬馬「うわー……」

……5分後……

三人「…………」グッタリ

冬馬「……というわけで、俺たちが悪かった」

武内P「そういう理由でしたか……」

北斗「ここまであの写真に影響力っていうか、破壊力があるとは、正直予想外でしたね」

翔太「これもひとえにプロデューサーさんの日常がミステリアスだからかもね」

武内P「…………」

凛「ご、ごめん、なさい……準備します」フラフラ

未央「どうしよう……もう一日分の体力使い切ったかも」グデー

卯月「が、頑張りますね……」ヨロヨロ

冬馬「で、どうする? アンタが嫌だって言うなら、画像送るのやめるけど」

武内P「いえ。……今回、CPのみなさんにはご迷惑をかけてしまいましたから。理由はどうあれ、みなさんが楽しんでいるのであれば、水を差すつもりはありません」

翔太「対応が大人だね~、プロデューサーさん。頑張ってたくさん写真撮った甲斐があるよ!」

北斗「本人の快諾もいただけたことだし、気兼ねなく送らせてもらいますね」

武内P「ええ。……それでは、ジュピターのみなさんも、リハーサルに向かってください」

冬馬「はいはい。じゃ、またな」

――夕方、事務所

武内P「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい、プロデューサーさん。……ふふっ」

武内P「どうかされましたか?」

ちひろ「これ、私ももらいましたよ。じゃんっ♪」スッ

武内P「……千川さんまで……」

ちひろ「プロデューサーさんの寝顔、初めて見ちゃいました。事務所で居眠りしないですもんね。私服姿も新鮮です!」

武内P「そうですか……」

ちひろ「浴衣も似合ってますねー。今度、紋付き袴着て写真撮ってみませんか? きっと似合うと思うんですよ」

武内P「……すみません、みなさんのところへ行きますね」

ちひろ「あ、プロデューサーさーん……。行っちゃった。からかいすぎちゃったかしら。……それにしても、本当にこの写真は新鮮ね。もう何年も一緒に仕事してるけど、オフの顔を見るのは初めて」

――廊下

奏「プロデューサーさん。……ふふっ、旅行デートの真相、聞いたわよ」

武内P「速水さん……その節は、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」

奏「私は別にそんなにどうということはなかったからいいのよ。美嘉は慌ててたけど。……そんなことより、これ、これ」スッ

武内P「……はぁ」

奏「あら、リアクション薄いじゃない。つまらないの」

武内P「今朝はNGsのみなさんに……先ほども千川さんからも見せられましたので」

奏「凄いじゃない。アイドルより話題のプロデューサーなんて。いっそアイドルデビューしてみたら? なんてね。ふふふ」

武内P「……」

奏「ね、ね。それよりこのお風呂上りの写真……濡れた髪が張り付いて、顔も上気してる。いつもより肌も見えていて、なんだかすごくセクシーでドキドキしちゃった」

武内P「あ、あまり不用意にそのようなことを口走らないでください。……事務所内とはいえ、公の場であることには変わりないのですから」

奏「ふーん。スキャンダルが怖い?」

武内P「……怖いです。速水さんの経歴に傷がついてしまいますから」

奏「へぇー……気遣ってくれるんだ。優しいのね、プロデューサーさん」

武内P「346の社員として当然のことです」

奏「社員として、ね。じゃあ……貴方個人としてだったら、私のこと、どう――」

美嘉「か・な・でぇ……? こぉーんなところで、なぁに、してんの……?」

奏「あら、ざーんねん。厄介なのに見つかっちゃった。……ふふっ、それじゃあプロデューサーさん、この続きはまた今度ね」タタッ

美嘉「あっ、こらぁ! ……まったく、油断も隙もないんだから……」

武内P「城ヶ崎さん。……正直なところ、助かりました。ありがとうございます」

美嘉「え!? あ、そ、そうだね! 困ってたみたいだから、まあ助け舟って感じ!?」

美嘉「そ、それより、あの写真! アタシも見ちゃったよ~。ほれほれ~★」バーン

武内P「城ヶ崎さんまで、お持ちでしたか……」

美嘉「アタシもプロデューサーと知り合ってそこそこになるけど、プライベートなんて見たことなかったからねー」

武内P「そうですね……。あまりプライベートの時間をアイドルの方と過ごすことはありませんから」

美嘉「ね、もっとカッコいい私服、今度選んであげよっか! カリスマJKの隣に立っててもおかしくないワイルドなプロデューサーにコーデしてあげちゃうよ~?」

武内P「……検討させていただきます」

美嘉「じゃあ考えておいてね。あんまりアタシが独り占めしてたら怒られちゃうから、そろそろ行っていいよー。じゃあね!」

武内P「はい。お疲れ様です」ペコリ

美嘉「…………」

美嘉(……それにしても、この浴衣姿の写真……アイツ、結構マッチョなんだ……。鎖骨も胸板も結構くっきりしてるし……ちょっとこれは、ヤバいかも……)ジィーッ

――会議室

<ワーワー キャー ザワザワ

武内P「……失礼します」ガチャ

みりあ「あ、プロデューサー! やっと来たー!」

莉嘉「こっち座って座って~!」ポンポン

武内P「……旅行の話、ですか」

智絵里「プロデューサーさんも射的で遊んだりするんですね。ふふふ」

かな子「温泉いいなぁ。今度は温泉のお仕事もしてみたいです! あ、お土産のお菓子美味しかったです!」

きらり「浴衣姿ばっちし似合ってるにぃ☆ たまにはこうやってぇ、Pちゃんの色んなファッションも見てみたいな~」

杏「プロデューサー、寝てる時もビシッとしてるんだね。もっとさぁ、寝る時くらい力抜いてだらーっとしようよ」

美波「ふふっ。卓球しているプロデューサーさん、どこか楽しそうですね。前の合宿みたいに水鉄砲で遊ぶことがあったら、今度は一緒に参加してくださいね」

アーニャ「このファタグラーフィヤで、プロデューサー、イイツォー……卵、食べてるの、なんだか可愛いです」クスクス

蘭子「我が友も、勝利の暁には栄光の拳を掲げるとは!(プロデューサーさんも勝った時にガッツポーズするんですね!)」

小梅「ぷ、プロデューサーさん……。旅館のお部屋に、お札とか貼ってなかった……? 夜中に物音とか、金縛りとか……」ワクワク

みく「みくたちと一緒の時には一線引いてるのに、男の子と一緒だと楽しそうにするんだにゃー? みく悲しいにゃー……」

李衣菜「私たちとももうちょっと遊んでくれてもいいんじゃないですかー?」

夏樹「言ってやるなよだりー。それにしても、この射的の写真、ハマりすぎて笑えるな……なあ、プロデューサー、サングラスかけてみないか? アンタ、すっごい似合うと思うよ。もっとも、職質増えるだろうけどな。あははっ」

菜々「ナナも最近仕事が増えて疲れが溜まってきちゃって……温泉でリフレッシュしたいなぁ」

みりあ「いいなー。今度はみんなも連れてってほしいなー。それか凸レーションのお仕事とか!」

莉嘉「Pくん楽しそー! 温泉もいいけど、それより沖縄とかハワイに行きたーい!」

武内P「あの、い、一斉に言われましても……」

未央「よかったねープロデューサー。写真のお土産、大好評でさ!」

凛「私もこういう一面見れてよかったよ……ふふふふっ」

卯月「凛ちゃん、本当にその寝てる写真がお気に入りですね」クスクス

凛「だって、これだけ微動だにしない人、珍しくない? 口も全く開いてないし、隙なしって感じでさ」

未央「なんかちょっと死んでるみたいだよね、それ」

凛「うわっ、そう言われると一気に怖く見えてきた……やめてよ未央」

卯月「私はこっちの写真が――」

未央「それもいいけど、やっぱり未央ちゃん的にはこっち――」

ちひろ「私はこっちがいいかな――」

……30分後……

全員「――お疲れ様でしたー!」

武内P「……お疲れ、様です」グッタリ

ちひろ「みんな、お疲れ様でしたー。……すっかりいいおもちゃにされちゃいましたね、プロデューサーさん」クスクス

武内P「千川さんも途中から来て、一緒になって楽しんでいましたよね……」

ちひろ「あら、バレちゃってました? そんなお疲れのプロデューサーさんに、はい。ドリンクをどうぞ」スッ

武内P「……いつもありがとうございます。助かります」

ちひろ「いえいえ。お土産と写真のお礼ですから。珍しいものが見られましたし」

武内P「……その。アイドルでもない自分の写真が、そんなに面白いものでしょうか?」

ちひろ「面白いですよー。身近な人の普段と違う姿を見るっていうのは、凄く面白いです」

武内P「そう言われると、理解できる部分もありますが……」

ちひろ「しかも! それが日常が謎に包まれたプロデューサーさんのオフショットなんですから、なおのこと面白いです!」

武内P「そ、そうですか……」

ちひろ「それに、最近はもうアイドルのみんなとの間にわだかまりはないようですけど、今回の一件でもっと距離が縮まった気がしませんか?」

武内P「……そうですね。みなさん、今日はいつも以上に、はしゃいでいらした気がします」

ちひろ「でしょう? いい機会だったじゃないですか。……最近はみんなも忙しくなって、以前みたいにCPのみんなで集まることもなくなってきているのに、それでもこうして集まってくれたんですよ」

武内P「はい……ジュピターの皆さんにはもっと感謝をしなくてはなりませんね。結果的にこのようにみなさんとお話をする時間を作るきっかけになってくれたんですから」

ちひろ「うんうん。私もこんなにたくさんの貴重な写真がもらえたんだから、感謝しないと。……スーツじゃないプロデューサーさんも素敵ですよ」クスクス

武内P「笑いながら言われても、説得力がありませんよ……」

ちひろ「だって……ふふふっ。いつも大人しいプロデューサーさんが、卓球で勝ってガッツポーズしたり、射的して遊んでたり、面白くって……あははははっ」

武内P「すみません、そろそろ失礼しますね……」

ちひろ「はーい。お疲れ様です」クスクス

ちひろ「あ、そうだ。一応、あの人にも送っておこうかしら」スッ

――専務執務室

<ブブブ ブブブ ブブブ

美城専務「……ん。……千川君からメール?」

美城専務「…………」スッ

美城専務「………………ぷっ」

ここで本筋は完結です。お付き合いありがとですー。

以後は武楓エピローグになります。恋愛要素は薄いよ!

――夜、エントランス

武内P「…………ふぅ」

今西部長「おや、今帰りかい? ……なんだかすごく疲れているみたいだね」

武内P「部長。お疲れ様です。……少々、アイドルの皆さんの熱量にあてられまして」

今西部長「ははは。わかったぞ、例の旅行の件か。君も大変だねぇ」

武内P「いえ。私が説明を怠ったことが原因ですから、自業自得です」

今西部長「その点は私も申し訳なかったと思っているんだ。千川君かアイドルの誰かしらが聞きに来てくれさえすれば、説明できたんだがね。大騒ぎになっていると知ったのは、全て終わった今日になってからだったんだ」

武内P「そんな……ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

今西部長「いやいや、迷惑だなんてことはないよ。まあ、君も帰ってゆっくりと休むといい。それじゃあ、ご苦労様」

武内P「はい。お先に失礼いたします」ペコリ

武内P「ふぅ…………ん?」

???「――プロデューサー。よかった、まだ残ってたんですね」

武内P「お疲れ様です。……ああ、高垣さんでしたか。すみません。帽子とサングラスの所為で、気が付くのが遅れました」

楓「はい。……その反応だったら、変装成功ですね」

武内P「と、申しますと……」

楓「久しぶりに、コレ、行きません?」クイッ

武内P「……珍しくそのような服装をされていたのは、そのためでしたか」

楓「ここだといろいろとなんですし、とりあえず出ましょうか」

武内P「……はい」

――居酒屋、個室

楓「……ここに来るの、本当に久しぶりですね」

武内P「前にご一緒してから、もう一年半は経つでしょうか。ここは変わりませんね」

楓「私もプロデューサーと一緒に来たのが最後です。……ここだけは、他の人にも紹介してないんですよ。初めてのレッスンの後、初めてあなたが連れて来てくれた、思い出のお店ですから」

武内P「懐かしいですね……」

楓「ええ。でもあの時と今は違う……」

武内P「……そうですね」

楓「消費税……こんなに高くなるなんて……」

武内P「そこですか」カクッ

楓「大事なことですよ! 積もり積もったそのお金で、お酒がどれだけ買えたと思ってるんですか!」

武内P「高垣さんのそういうところは変わってませんね」クスッ

楓「変わったのはプロデューサーですよ。たくさんありますけど、一番変わったのは、その呼び方。……二人の時くらい、前みたいに呼んでくれてもいいんじゃないですか?」

武内P「……まあ、皆さんの前でもないですし。では、今だけは……昔のように楓さんと呼ばせていただきます」

楓「わーい。ちゃんと下の名前で呼んでくれましたー♪」

武内P「それにしても、急にどうされたんですか? 旅行中にも私用の電話にわざわざ連絡をしてこられましたし……」

楓「電話をしたのは、言ったように誰と旅行してるのか気になったからです。……そういう人じゃないってわかっていても、真偽のほどは確かめておきたかったんですよ。引き抜きなんて噂聞いちゃったら、さすがに」

武内P「申し訳ありません。私の説明不足で、楓さんにもご迷惑をかけてしまいましたね」

楓「迷惑なんて……。ただのやっかみ、やきもちですから」

武内P「……そういう返事に困ることをおっしゃるのは止めていただけないでしょうか」

楓「やきもち楓です。あっ、何にもダジャレになってない。文字数だけしか合ってない、ふふふふ。焼き鳥頼んじゃおう」

武内P「最近は仕事の方はどうですか」

楓「久しぶりに実家に帰った時のお父さんみたいなこと聞くんですね」

武内P「…………」

楓「うそうそ。そうですねー、ドラマやバラエティやCM、ラジオにCDにライブ……楽しいし、忙しいです。あと、実はまだちょっと、寂しいです」

武内P「……申し訳ありません」

楓「責めてるわけじゃないんです。プロデューサーは、どちらかと言えば……新人さんを発掘して、軌道に乗せる。そういう能力に長けている人ですから。会社だって、独り立ちしたアイドルよりも、これから輝きそうな子を担当させようって考えるのも、当然のことだって納得はしてるんですよ」

武内P「…………」

楓「でも、本当は……また私のことを、プロデュースしてほしいです。モデル部門から飛び出してきた私を……まだ人見知りでどうしようもなかった私を、一人のアイドルに。……シンデレラにしてくれたのは、プロデューサーのかけてくれた魔法だったから」

武内P「……私も。楓さんとまた一緒に仕事がしたいという気持ちはあります。あの頃から、ずっと……」

楓「……でも美城専務がいるうちはダメそうですね。啖呵切っちゃいましたし。ふふふ」

武内P「ええ。そうですね……。あの時は驚きました。……でも」クスッ

楓「でも?」

武内P「本音を言えば……スカッとしました」

楓「そーッスか? ふふふ」

武内P「あの場所でのライブだけは、誰にも邪魔させたくなかった。例え専務であっても。……ただ、もう私には口を出す権利がなかった。だから、楓さんが専務の仕事を蹴って、あの場所でのライブを選んでくれたと聞いた時は、本当に嬉しかったです」

楓「ふふ……覚えてますか? 初めてのライブの前。楽屋で不安と心細さからガチガチに緊張した私に、プロデューサーが元気づけようとして、かけてくれた言葉を」

武内P「あれは……は、恥ずかしいので、もう忘れてください……」

楓「絶っ対に忘れたりなんてしませんよ。「初ライブは、つらい舞台になんかなりません」……最初、まさかそんなこと言うなんて思わなかったから、私もぽかーんとしちゃって。あ、冗談言ってくれたんだって気が付いて笑うまで、10秒くらいかかっちゃったんですよね。ふふっ」

武内P「……言い訳をさせていただくなら。あの当時は私も新人で、いっぱいいっぱいだったんです……」

楓「でもあの一言のおかげで、初めてのライブを笑顔でやりきることが出来たんですよ。ライブ後に来てくれたみんなと一緒に写真を撮ってくれましたよね。……あの人たちと一緒の写真を見たとき、こんな新人の自分にもファンがいてくれるって、初めて実感できたんです」

武内P「本当に……あなたも、ファンの皆さんも、いい笑顔をしていました。プロデューサーとして、あなたをプロデュース出来て、心からよかったと思えた瞬間でした」

楓「だからNGsの子たちと一緒にプロデューサーがライブに来てくれた時、嬉しかった……。どうしても、成長した私を見てほしかったから」

武内P「前に私が同じ舞台袖に立っていた時とは、比べものにならないくらいの数のファンがいましたね。楓さん自身の歌唱力や表現力も、格段に増していましたし。それでも、あの笑顔だけは変わらなかった」

楓「よくよく考えると、プロデューサーに初めて笑顔を見せたのって、ここでレッスン終わりに飲んだ時でしたっけ」

武内P「……折角のいい思い出に、水を差さないでいただけますか」

楓「うふふふっ。水差しついでに水割りおかわりしちゃおうかな」

武内P「飲まれるのもいいですけれど、ほどほどになさってくださいね」

楓「プロデューサーさんがほとほと困り果てるくらい飲みたい気分なんですけどね。ふふふ」

武内P「他の方とも飲みに行かれるようになったと聞きましたが」

楓「この間、丁度プロデューサーに電話をかけた時は、瑞樹さんと早苗さんと一緒でした。二人とはよく飲むんですよ。たまに友紀ちゃんとも。結構みなさんとご一緒して、一升は飲んでますね」

武内P「そうでしたか。楽しそうで何よりです」

楓「プロデューサーさんは、最近はご無沙汰ですか?」

武内P「担当のみなさんは未成年ですからね。たまに今西部長とは飲みに行きますが、前ほどの頻度ではありません」

楓「じゃあ今度、みんなで飲んでいる時に呼びつけ……お誘いしますね」

武内P「……いつかのように、みなさん手の付けられないくらいに酔い潰れているような状況は困りますよ」

楓「……あれはさすがに反省してます。集まったプロデューサーさんたちにもしこたま怒られましたし」

武内P「当然です。宅飲みだからまだよかったですが、万が一外であんなことになったら、みなさんには断酒していただいていましたよ」

楓「酒を断つなんて……叫びたつなるような、恐ろしいことを……!」

武内P「健康のためにも、お酒はほどほどにしてください。……それはそれとして、みなさんと楽しそうにしていらっしゃるようで、安心しました」

楓「……初めの頃の私は、本当に人見知りでしたからね。あの頃の私に、いろんな人と自分から飲みに行くようになるなんて話しても……きっと信じないと思います」

武内P「初対面の時から普通に話していらしたので、そう告白された時は少し驚きました」

楓「どうしてだったんでしょうね。プロデューサーとは不思議と自然に話が出来たんです。思い当たるフシもないですし」

武内P「私もあまり飲みに誘うということはしないのですが……楓さんと話しているうちに、不意に言葉が突いて出てしまったんです」

楓「私って結構ツイてたんですね。ふふふ」

武内P「その後すぐに、己の迂闊さを知ることになったわけですが……」

楓「毎度毎度ご迷惑をおかけしております」クスッ

武内P「笑いごとではありません……。まだお互いに新人だったから良かったものの、今だったらおぶって帰るなんて考えられませんよ……」

楓「プロデューサーにおんぶしてもらうの、楽ちんでよかったんですけどね♪」

武内P「……今日は記憶を失くされるほど飲まれないようお願いします」

楓「そういえば。……プロデューサーさん、あれから酔い潰れることはありましたか。ふふふふふ」

武内P「そっ……! ……そのことも、もう、忘れてください……っ」カァーッ

楓「あれは忘れられません。まさかあんなに――」


――1時間半後、駅前

楓「送っていただきありがとうございました」

武内P「本当にここまででよろしいですか?」

楓「はい。今日はそこまで酔ってないですよって」

武内P「……それでは、私もこれで失礼します」

楓「はい。……また今度、一緒に飲みに行きましょう」

武内P「そうですね。私もまたご一緒したいです」

楓「約束ですからね。指切りしましょう……はい、ゆーびきった。では、お疲れ様です」

武内P「ええ。……お疲れ様です」

――翌日、テレビ局楽屋

瑞樹「――ねえねえ楓ちゃん! この写真もう見た?」

楓「写真? ……これ、プロデューサーさんですか」

瑞樹「例の旅行の時のらしいのよ! 愛梨ちゃんが未央ちゃんから送られてきたんだって。私にもくれたの。彼もこんな風に遊んだりするのねぇ。遊んでる写真に、ほら! こっちは寝顔!」

楓「ふふっ……普段の寝顔はこうなんだ」ボソッ

瑞樹「ん? 何か言った?」

楓「いえいえ。面白いので私にも送ってくれますか?」

瑞樹「いいわよ! あっ、そろそろ出番ね。準備しないと」

楓「出番なので、ばーんと行きましょう。ふふふ」

楓「……」スッスッ

楓(――あの日。プロデューサーさんが、たった一度だけ酔い潰れた日)

楓(私が肩を貸して介抱し、私の部屋まで連れて来た、あの夜)

楓(出会ってから担当を外されるまでの間、プロデューサーさんは私の写真をたくさん撮ってくれた。でも、たった一度だけ、たった一枚だけ、私が撮った秘密の写真)


――昨晩、居酒屋

楓「――まさかあんなに、寝相が悪いと思いませんでした」

武内P「……深酔いした時だけ、ああなってしまうみたいで……。両親曰く、普段は寝返りもうたないらしいのですが」

楓「ふふふふふ……まだ大事にとっておいてあるんですよ。あの時の……こ・れ」スッ

武内P「そっ……! そんなみっともない写真、早く消してください……!」


楓(まだ本当に人見知りで……何より、そんな勇気はなかったから、写真を撮っておしまいだったけど)

楓(もし、もう一度、あんな機会があったら、その時は……)

楓「……スキャンダル、起こしちゃおうかな。……なんて、ね♪」

これで終わりです。お付き合いありがとうございます。
武内Pは過去に楓さんの担当だったと信じてるがゆえにこのような展開にしてみました。
武内Pいいよね……。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom