神谷奈緒 「うつくしいもの」 P 「リンダ リンダ」 (48)



※今回が初めての投稿なので色々とおかしな点があるかもしれません、ご了承ください。
※アイドルマスター シンデレラガールズの二次創作SSです。

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 仕事終わり。
 
 アタシは帰りがけ、事務所に顔を出した。

 別になにか用事がある訳じゃない。

 ただ、ちょっと、何となく。

 今日のラジオであった出来事をプロデューサーさんに話してやろうかな、って。

 「おーっす…ってあれ、誰もいないのかな」

 
 事務所のドアの、その先。
 
 少し汚れた事務机には資料の山があるだけでプロデューサーさんの姿はなかった。
 
 「プロデューサー?ちひろさんもいないのかな…なーんだ」
 
 きっと外回りに出ているんだろう。

 トライアド・プリムスもの活動も最近は安定してきたわけだし、次は大きなステージの仕事でも取ってくるんじゃないだろうか?

 ま、まあ、アタシはどんな仕事が来たって、プロデューサーさんの期待に応えるだけだし……。

 「な、なーんてな」

 自分の考えていたことをごまかすように呟く。

 ちょっと恥ずかしくなってきた、訳じゃないからな!!

 「それにしてもプロデューサーさん遅いなぁ。なにやってんだろ」

 時計を見ると7時30分くらい。

 いつもこの時間帯にはいるはずなんだけど……。

 もう少ししたら戻ってくるだろ。

 そう思いながら取り出す携帯電話。

 起動するアプリはもちろんYoutube……ではなくアルバム、フォトライブラリー。

 「あれ、どこだっけなぁ」

 結構前に撮った写真だから、下の方にいってしまったのかもしれない。

 スクロール。

 もういっちょスクロール。

 「あ、あった」

 ようやく見つけたお目当ての写真。

 タップして拡大するとそこには、満面の笑みを浮かべるアタシと、冴えない色褪せたスーツを着た……プロデューサーさん。

 所謂ツーショット写真ってやつだ。

 この写真を撮ったのは、まだ一ヶ月とちょっと前のはずなのに、すごく懐かしく感じる。


「ふふっ」

 ひとりでに笑みがこぼれる。
 
 っと、ヤバイヤバイ。
 
 あわてて周りを見回すけど、いつもみたいに冷やかしてくる凛も加蓮もいなかった。
 
 それもそうか、今事務所にはあたししかいないんだから。
 
 改めて写真を見直す。
 
 すごく嬉しそうに笑うあたしがいた。
 
 初めてTV番組のオーディションで合格できた日だ、それも当然だと思う。
 
 そして、その隣には恥ずかしそうにはにかむプロデューサーさんがいる。
 
 髪はボサボサで、スーツはヨレヨレ。おまけに色褪せてる。
 
 でも、そんな不格好なプロデューサーさんがあたしにはとっても格好よく見えた。
 

 ドブネズミみたいに 美しくなりたい―――。
 
 写真には 写らない 美しさがあるから―――。

 
 
 今日のラジオ番組の収録で、リスナーさんの一人からとある質問がきた。

 
 『奈緒ちゃんの思い出の歌はなんですか?』って。
 
 今、アタシが歌っているのがその答え。
 
 優しく、それでいて力強く掻き鳴らされるギターもなければベースもドラムもない。
 
 それでもあたしは歌う。



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 リンダ リンダ 

 リンダ リンダ リンダ

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 あれは夏のとても暑い日だった。
 
 友達とアニメの映画を見に行くために公園で待ち合わせをしていたんだ。
 
 でも友達は時間になっても来なくってアタシは待ちぼうけ。
 
 適当な店で涼もうかなぁ、なんて考えていたときに出会ったのがプロデューサーさんだった。
 
 最初は20歳くらいの冴えない、スーツを着た男の人だな。としか思わなかった。
 
 いつもだったらそれで終わり。
 
 ただすれ違って、その日の夜にはもう忘れてる。
 
 だけどプロデューサーさんだけは違った。
 
 いきなりアタシの前で立ち止まると、

 
 
 「アイドルに興味ありませんか?」


 
 名刺を差し出しながら、すごく真面目な顔で……。
 
 始めのうちは信じてはいなかった。
 
 「な、なんでアタシがアイドルなんて…、てゆーか無理に決まってんだろ!!」
 
 でも、いくら拒絶しても諦めなかったんだ。
 
 そして、アタシはプロデューサーさんの熱意と口車にのせられて、アイドルになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――。
 
 な、なぁ?プロデューサーさんはアタシがアイドルになって嬉しいか?
 
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 アタシがアイドルとして活動を始めて数週間が経過した頃。
 
 トレーナーさんとダンスレッスンをしていたときに突然、ドアが壊れるんじゃないかってくらいの勢いでプロデューサーさんが駆け込んできたことがあった。
 
 どうしたんだ?って訊ねると、興奮ぎみに、プロデューサーさんが早口でこう言うんだ。
 
 「奈緒!!お前に!!フェスの、仕事が決まったぞ!!」
 
 そして、プロデューサーさんは大きくガッツポーズをした。
 
 アタシだって嬉しかった、けどあまり素直になれなくて、
 
 「し、しょーがねぇな…!!」
 
 今思えば、顔が緩んでたからあまり意味がなかったように感じる。


 だけど仕方ない。

 アイドルを始めてから最初のアイドルらしい大仕事だったから。

 今までとは全然気合いの入り方が違った。

 レッスンはいつも居残ってやったし、いろんなアイドルのDVDを見て研究もした。

 衣装選びをしたときなんて、プロデューサーさんとあーでもないこーでもない、何て言ってレッスンに遅刻したりもした。

 もちろんトレーナーさんは怒り心頭。一緒に大目玉を食らった。

 それでも、毎日が楽しくて充実していて。

 だからアタシも、プロデューサーさんもフェスの成功を信じて疑わなかった。
 
 けど、神様ってのは時に意地悪だ。
 


 とりあえず今日はここまでです。
 
 続きは明日の7時くらいから開始しようと思います。

 
 


 ―――――――――――――――――――――――――――――。

 
 
 アタシのアイドルとして始めての大仕事は大失敗で幕を閉じた。


 歌では歌詞を間違えるし、音程は外すしでもう最悪。

 おまけに緊張で笑顔はぎこちなくて、得意だったはずのダンスでさえ転んで満足にできなかった。

 「…笑えよ、プロデューサーさん……。あんたに、恥をかかせたアタシを笑ってくれよ……」

 無様だな、ざまぁないぜ、って。

 やっぱり神谷奈緒はアイドルには向いてなかったんだって、そう笑ってくれればあたしだってアイドルに諦めがつくのに……。



 「お疲れさま、奈緒」


 そう言って、プロデューサーさんは優しく頭を撫でてくれた。

 なんで。

 なんでそんなに満足そうなんだよ?

 なんでそんなに優しいんだよ?

 そんなことされたらアタシ……。

 「我慢しなくていい、思いっきり泣いていいぞ」

 この一言が引き金だった。

 アタシはプロデューサーさんの胸に顔をうずめて泣いた。たくさん泣いた。

 辛くて、悲しくて、悔しくて。

 いろんな感情が涙となって溢れ出る。

 それはとどまることを知らない。

 プロデューサーさんは今、どんな気持ちなんだろう。

 アタシにはよくわからない。

 ただ、アタシのことを一番に考えてくれているんだなってことはわかるから。

 だから、今は精一杯甘えておこう。

 明日から、またアイドルとして活動していくために。



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 い、一回だけしか言わないからな…。プロデューサーさん、いつも……あり、がと。

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作者です。

これから仕事があるので更新が遅くな る可能性があります。

あと、言い忘れていましたがP=not武内Pです


 「今日のレッスンは中止!!
  一緒にカラオケにいくぞ、奈緒!!」

 フェスの次の日。

 事務所に顔を出したアタシに、プロデューサーさんが無駄に明るい声で言ってきた。

 で、気付いたら手を引かれてカラオケまで強制連行。

 アタシの意思は無視みたいだ。
 
個室に通されて、ようやくアタシの手は自由になった。


 「いきなりどうしたんだよ、プロデューサーさん。
  カラオケなんかに連れてきてさ」

 少し不満げに訊いてみる。

 別に、本気で不満があるわけではない。ただ、手を握られて恥ずかしかったから。

 その照れ隠しみたいなものだ。

 プロデューサーさんはアタシ
の質問に対して、少し歯切れの悪そうに言った。

 「ちょっと聴いて欲しい、歌があるんだ」

 ぎこちない手つきで機器を操作し、マイクをとって……イントロが流れ出した。
 
少し前の頃に流行った歌だった。
 
だけど、アタシでも曲名を知っているくらい有名な歌。


リンダ リンダ。


それをプロデューサーさんは楽しそうに歌っている。


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 もしも僕が いつか君と 出会い話し合うなら

 そんなときは どうか愛の意味を知ってください

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 最後まで歌いきったプロデューサーさんは、アタシの隣に腰を下ろした。

 「案外、歌うまいんだなプロデューサーさん」

 素直な感想を伝えると、プロデューサーさんは照れたように頭の後ろに手を当てた。

 もしかしたら結構、照れ屋なのかもしれない。

 なーんて考えていたアタシの手を、プロデューサーさんはいきなり握ってきた。

 「うひゃぁっ!!
  な、ななな、なにすんだよぉ、プロデューサーさ ん!!」

 アタシは焦って手を振りほどこうともがくけど、握られている手は全然離れなくて。

 最終的には諦めた。手は握られたままだ。

 プロデューサーさんはアタシが落ち着いたのを見計らって口を開いた。


 「この歌はな、俺の思い出の歌なんだ」

 アタシは黙って耳を傾ける。

 なんとなく大切な話だって思ったから。

 「仕事で失敗したときだったり、壁にぶち当たったとき。
  そんなときは大体聴いてる。
それで、今回なんだが……」

 コホン、と咳払いをひとつ。


 「まあ、小さいことは気にすんな。
  仕事なら俺が沢山とってきてやる。
  失敗なら俺がそれを上回るくらい売り込みに行 ってやる。
  お前が、奈緒が望むのなら、輝いたステージへ...トップアイドルへ俺が連れていってやる。
  だから、またこれからも一緒に頑張ろうな」

 あれ。

 もしかしてアタシ、プロデューサーさんに励まされてる?

 昨日、プロデューサーさんの胸で思いっきり泣いて、吹っ切れてんだけどなぁ。

 だけど、やっぱりプロデューサーさんは、プロデューサーさんだった。

 たぶん今日のレッスンも、無理言って中止にしてくれたんだろう。
 
アタシのために、アタシのことを一番に考えてくれて。

 あー、ヤバイ。
 
嬉しくて顔が勝手にニヤけてくる。


 「……約束、だからな」

 顔がにやけそうなのを精一杯こらえて、アタシはプロデューサーさんを見据える。
 
 「絶対にアタシを、輝く舞踏会(ステージ)に連れていけよな」
 
 「ああ、もちろん」
 
 アタシの手がさらに強く握られる。
 
 大きくてゴツゴツしたプロデューサーさんの手は、誰よりも優しくて、何よりもあたたかかった。
 
 「それが俺の、魔法使い(プロデューサー)の役目だからな。
  輝く舞踏会ステージになんてカボチャの馬車で一直線だ。
  落ち込んでる暇なんてないからなお嬢さん(シンデレラ)」
 
 すごくクサいセリフだった。
 
 聞いているこっちが恥ずかしくなるくらいの。
 
 「……うん、信じるよプロデューサーさん」

 


 ――――――――――――――――――――――――――――――。
 
 お、おいプロデューサーさんっ、しばらくあっち向いてろっ!!

 くぅ~っ、は、恥ずかしいぃ~!!

 ――――――――――――――――――――――――――――――。




 夏も過ぎ去り、だいぶ暮らしやすい季節になった。

 そんな頃。

 アタシはとあるオーディション会場に来ていた。

 『ユメ音21』。

 新人、アマチュアアイドルの登竜門的存在のTV番組だ。

 あの有名な765プロのアイドルたちが出演していたのを、アタシも見たことがある。
 
 「それじゃあ順番がくるまでゆっくりしていてくれ」

 控え室に入ると、プロデューサーさんは担当スタッフの人たちのところへ挨拶に行ってしまった。


 小さな控え室にアタシ一人だけ。

 緊張してきた。

 手足が震えてくる。

 歌詞は、忘れてないかな?

 ダンスの振り付けはどうだっけ?

 表情は、ちゃんとファンの人たちに笑顔届けられるかな?

 不安で、不安で仕方なかった。

 「……怖い、な」

 ポツリ、思わず呟いた。

 前の、フェスみたいになったらどうしよう?

 もうファンのみんなから、がっかりされるのは耐えられない。

 あのとき、ちゃんと吹っ切れたつもりだったんだけどなぁ。

 ダメだな、アタシ。

 大きなため息が漏れる。



 カチ、コチ、カチ、コチ―――。



 そんなあたしを他所に過ぎていく時間。

 アタシの番まで……あと5分。
 
 気付いたら、挨拶まわりに行っていたはずのプロデューサーさんが戻ってきていた。
 
 おそらく、アタシがすごく緊張していることをわかっているんだろう。

 「大丈夫だ、奈緒。
  お前なら余裕でオーディションに合格できるって」

 まるで子供みたいな、無邪気な笑顔が見えた。

 なんだかそれがとても頼もしく思える。

 「あの日みたいに、俺の言葉を信じて欲しい。
  そして、今まで努力してきた奈緒自信を信じてやれ。
  そうしたらあとはなにも心配なんて要らんさ」

 アタシの目の前にプロデューサーさんの握り拳が突き出される。


 「……ああ、信じるよ。
  アタシ自身を、アタシを信じてくれるプロデューサーさんを……」
 
 プロデューサーさんの拳にアタシの拳をぶつけた。

 たったそれだけなんだけど、さっきまであった緊張も不安も、嘘みたいになくなっていて。

 『神谷奈緒さん、オーディション会場までお越しください』

 とうとう、アタシの順番がきた。

 でも、今はもう怖れるものはなにもない。

 「行ってくるよ」

 心強い魔法使い(プロデューサー)がそばにいてくれるから。

 「……ああ、行ってこい」


 ――――――――――――――――――――――――――――――。 
 
 「一応確認だけど、この後もう仕事ないよな、プロデューサーさん?」

 
 オーディションは無事合格し、アタシとプロデューサーさんは事務所への帰路についていた。
 
 「ないけど、どうした?」
 
 「ちょっと寄ってほしい場所があるんだ」
 
 今のアタシなら、きっと恥ずかしがらずに言えると思った。
 
 だから今日、言ってしまおう。
 
 今までの、そしてこれからの……ありがとう、を。
 
 「アタシたちが初めて出会った公園、覚えてる?」

 


 一応、これからクライマックスに入ろうと思っています。
 見返してみると、結構誤字が多い気が……。
 Pの台詞で「奈緒自身」が「奈緒自信」になっていたり、奈緒の一人称「アタシ」が変換されず「あたし」のままだったり……。
 本当に申し訳ないです。


 ―――――――――――――――――――――――――――。

 「いやー、懐かしいな」
 
 実際にはそんなに過去のはずじゃないのに、プロデューサーさんと出会ったのがものすごく昔のように感じる。
 
 それって、毎日が充実してるってことだからだろ?
 
 やっぱりアイドルやって、よかったのかもしれないな。
 
 「それで、なんか話あるんだろ、奈緒」
 
 プロデューサーさんがこっちに向き直る。
 
 やっぱり誰だって気付くよな。
 
 こんなところに連れてきてほしいなんて言ったら。
 
 気付かれたのなら、勿体ぶらずに言ってしまおう。


「…今日みたいに、こうしてステージに立てるのはプロデューサーさんのおかげ、なんだよな……」

 アタシの知らないところで、アタシのために、頭を下げて。

 時には身を削って。

 だけどそんな素振りは全く見せない。

 アタシはそんなプロデューサーさんのことが……。
 
 「…今も覚えてるよ。プロデューサーさんからドレスをもらった時のこと……」


 好き、なのかどうかはまだわからない。
 
 「…今までのこと全部、感謝してる。本当にありがとう、プロデューサーさん。こんなアタシをアイドルにしてくれて、一緒に頑張ろうって言ってくれて。
  アタシも頑張るよ、プロデューサーさんの担当アイドルとして、だからこれからもお互い様、だからな」
 
 だけど、それでもいい。
 
 毎日バカ言いあったり、文句言いあったりしながらでも積もっていくもんって、あるだろ……。
 
 それはアイドルとファンも、アイドルと担当も同じ。
 
 そう思わないか?
 
 「それと、もう一つプロデューサーさんに聞いてほしいことがあるんだ」
 
 だって、なんだかんだ言って、アタシ……こんなにも信じてるんだ。
 


「これから、あたしがどんなに人気になっても、あたしのプロデューサーは生涯ただ一人だけ、プロデューサーさんだけだってこと、絶対に忘れないで…ね!!」


 言いたいことは全部言えたと思う。
 
 そう思ったらなんだか気分が晴れやかになった気がした。
 
 「ごめん奈緒、ちょっと飲み物買ってくる」
 
 アタシの言葉を聞き終えたプロデューサーさんは、まるで逃げるように足早に自動販売機へと向かおうとする。
 
 なんだか様子が変じゃないか?
 
 「ち、ちょっと待ってよプロデューサーさん」
 
 アタシは急いでプロデューサーさんの前に回り込んで……。
 
 泣いていた。
 
 泣いていたんだ、プロデューサーさんが。
 


 「お前には泣き顔見られたくなかったんだけどな。
  だから飲み物買いに行くって言ったのに」
 
 少し照れながらプロデューサーさんは目元の涙を拭う。
 
 「あ、え…ごめんなさい」
 
 家族以外で男の人の涙を見るのが初めてで、なんとなく謝ってしまった。
 
 プロデューサーさんはいつもみたいにアタシの頭を撫でながら、

 「謝らなくていいよ。
  俺は今、ものすごく嬉しいんだ。だからこれは嬉し涙」

 そう言って、もう一度涙を流した。
 
 アタシはそれをハンカチで拭う。


 「……なあ、プロデューサーさん一緒に写真撮らないか?」
 
 なんとなくの思い付き。
 
 このまま今日という日が終わるのがもったいない気がしたから。
 
 「ああ、一緒に撮るか」
 
 プロデューサーさんも同じように思っていてくれたみたいだ。
 
 すぐにカメラのアプリを起動して、っと。
 
 「それじゃあ、撮るからな」
 

 ―――――――――――――――――――――――――――――。


 愛じゃなくても 恋じゃなくても 君を離しはしない
 
 決して負けない 強い力を 僕は ひとつだけ持つ

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 「それから凛や加蓮がプロデューサーさんにスカウトされたり、いきなりトライアド・プリムス結成するってなったり……色んなことがあったよな」
 
 写真を見て思い出に浸っていたら、もう8時。
 
 プロデューサーさんはちょっと前に事務所に戻ってきていて、今は事務処理中だった。
 
 パソコンのキーを叩きながらプロデューサーさんはアタシの言葉に答える。

 「本当に、色々あったよなぁ。
  それにトライアド・プリムスなんていまやAランクのアイドルユニットだし……っと、よし」

 残っていた事務処理も終わったのか、プロデューサーさんは窓なんかの戸締りを始めた。


 「奈緒ー、そろそろ事務所出るぞ」

 アタシはコートを羽織って、携帯電話をポケットにしまう。

 よし忘れ物はないな。
 
 「こっちはオッケーだよ、プロデューサーさん」
 
 「了解、じゃあ電気けすぞー」
 
 スイッチ一つで事務所の電気が消えた。
 
 今日のアイドル活動はここまでだ。
 
 「ドアの施錠もよし……さてと、帰るか奈緒」
 
 はい、と差し出される左手。
 
 アタシはそれを握る。
 
 あの時と同じ、大きくてゴツゴツしたプロデューサーさんの手。


 そうだ、
 
 「なあ、プロデューサーさん。今度の休み、凛と加蓮誘ってカラオケに行かないか?」
 
 きっと楽しいんだろうな。
 
 全然先のことなのに、今からワクワクしてる。
 
 「おう、いいぞ。
  じゃあ、明日くらいに目立たないカラオケ探しておくよ。 
  それで、奈緒は何歌うんだ?」
 
 ニヤニヤしながら訊いてくるプロデューサーさん。
 
 答えなんてわかってるくせに。
 
 アタシが歌うのは、思い出の歌。

 あの時プロデューサーさんが聴かせてくれたように、今度はアタシが聴かせてやるんだ。



               『リンダ リンダ』を。

 
        
――――――――――――――――――――――――――。


 これにて終わりです。
 
 長い間お付き合いいただきありがとうございました。
 
 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、リンダ リンダはバンド『ブルーハーツ』さんの代表的な歌です。
 
 知らないという方はぜひ聴いてみてください。

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