パー「どうして？」

グー「だってさ……どう考えてもおかしいんだよ」

グー「ジャンケンのグー、チョキ、パーは、それぞれ石、ハサミ、紙を示してるだろ？」

グー「で、石がハサミに勝つのは分かる。刃が欠けちゃうもんな」

グー「ハサミが紙に勝つのも分かる。チョキチョキ切れるもんな」

グー「だけどさ……紙が石を包み込んだら勝ちっておかしくね？」

パー「おかしくはないでしょ」

パー「包み込まれたら、出られなくなっちゃうんだから」

グー「そりゃたしかに、網かなんかに包まれたら、石はもう出られないだろ」

グー「でも紙だぜ？　石の重さと硬さなら、簡単に突き破れるだろ」

グー「下手すりゃ、包み込む段階で破れちゃうんじゃねえの」

グー「それにさ、包み込まれたら負けってのがそもそもおかしいよ」

グー「ハサミは刃が欠ける、紙は切られる、ってのは明らかに負けだけど」

グー「でもさ、包まれたら負けってなんでだよ。別にダメージ受けてないのに」

パー「いや、包まれたら負けってのもおかしくないと思うよ」

グー「どうして？」

パー「たとえばレスリングや柔道は相手を押さえ込んだら勝ちじゃない」

パー「そういうことじゃないの？」

グー「だけど、さっきいったようにすぐ突破されるような押さえ込みじゃ、勝ちとはいえないだろ」

パー「むうう……！」

グー「ぐぬぬ……！」



チョキ「まあまあ二人とも、ちょっと落ち着こうや」

チョキ「グーのいうことも分かる」

チョキ「実際に紙で石を包んだって、案外すぐやぶけちゃう可能性も高い」

グー「だろ？」

チョキ「でもさ、そんなこといってたらジャンケンが成り立たないじゃんか」

チョキ「もしグーがチョキにもパーにも勝ったら、みんなグーを出すからずーっとあいこになっちまう」

チョキ「そうなったら困るだろ？」

グー「……いーや困らない！」

グー「ジャンケンはもっとリアリティを追求をすべきだ！」

チョキ「んなこといったってなぁ、他の三すくみを見てみろよ」

グー「他の？」

チョキ「たとえば、蛇、カエル、ナメクジの三すくみ」

チョキ「蛇がカエルより強い、カエルがナメクジに勝つってのはいいとしても」

チョキ「ナメクジが蛇に勝てるわけないだろ？」

チョキ「だけどちゃんと三すくみとして頑張ってるじゃん」

チョキ「もう定着しちゃったものを、今さらリアリティ云々で取り消せないだろ」

パー「そうだよ！」

グー「いーや、納得いかない！　俺はパーより強い！」

グー「パー、勝負しろ！」

グー「……で、もし俺が勝ったら、今後ジャンケンではグーはパーにもチョキにも勝つことにする！」

グー「分かったな！？」

パー「……分かったよ」

チョキ（ったく、強情な奴だなぁ……）

グー「チョキ、合図しろ！」

チョキ「へいへい」

チョキ「んじゃあ……始め！」

グー「うおりゃああああああ！」ﾄﾞｶｯ

パー「うぎゃっ！」

グー「さあ、そっちの番だ！　俺を包み込め！　すぐ脱出してやるけどよ！」

パー「……ようし、ええい！」ｶﾞﾊﾞｯ

パー「どうだっ！」ｸﾞﾜｼｯ

グー（ふん……全然どうってことない）

グー（すぐ拘束をブチ破って……反撃して――）

グー「うっ！？」

グー（なんて……心地いいんだ……）

グー（パーの柔らかい感触、ほのかな温かさ、緩やかな拘束、全てが心地いい……）

グー（まるで……冬のこたつの中のような……）

グー（まるで……お母さんのお腹の中のような……）

グー（出たくない……いつまでもパーに包まれていたい……）

グー（パーの中……あったかいよぉ……）

……

……



パー「おはよう」

チョキ「おっす」

チョキ「こないだはよかったなー、グーが負けを認めてくれてさ」

チョキ「あやうくジャンケンがクソゲーになるとこだったぜ」

パー「うん……だけど……」