青年「土属性だってやればできる」 (83)


青年「指名手配されちまった」

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*


青年「はぁ……はぁっ……」タッタッ

「追っ手が来たわよ!」

青年「はいよっ」ゴソゴソ


>予め革袋に入れておいた土を握り、全力で追っ手へ向けて投げつける


「ほ~、土を鋭く固形化させられるのね」

青年「土を持ってないと無理だけどな」

「……やっぱり地味ね」

青年「死ね」


*


「こっち!はーやーくー!」

青年「はぁ…はあ……けほけほ。足ガックガク……」ガクガク


>詰めれば丁度二人程入れる空間がある、大きな木の幹へと雪崩込んだ


「ちょっ変なとこ触んないでよ」ドスッ

青年「っつぁ……ハミ出てるんだって!」

「押さないで―――って土臭っ!」

青年「土臭いってなんだよ!」

「なんかこう……地味なパッとしない臭い」

青年「このクソ女……」

「しっ……!」

>追っ手の声……正確には、国の兵士達の話し声が微かに耳に入る


「あの男はどこへ…?」

「ちっ、森でこの暗さじゃ流石に無理があるな」

「ですね。一旦引き上げましょうか」

「あぁ。そうだな」



青年「……」ゴクリ

「……」

青年「行ったか…?」コソコソ

「……たぶん」

青年「どうする。魔物も居ないみたいだし、ここで一晩過ごすか?」

「魔物、ねぇ……」

青年「うん?」

「まぁいいわ。それよりアンタとこんなに近く、しかも一晩も居たんじゃ土女になるわ」

青年「土土うるせぇよ。土まみれにしてやろうか」

「ふん……。ところで、アンタ誰?」

青年「名を聞く時は、まず自分から名乗るもんじゃないか?」

「めんどくさ!だから土属性って言われんのよ」

青年「土属性は関係ないだろ…!」

「大きな声出さないでよね、土」

「私は……そうね、賢者とでも名乗っておこうかしら」

青年「じゃあオレは……そうね、青年とでも名乗っておこうかしら」

賢者「真似すんじゃないわよ」

青年「で、賢者さんは何故追われてんの?」

賢者「アンタのせいよ、アンタの」

賢者「あぁ……何でこんなコトに……」ガク

青年「パンツから始まる出会いって笑えるよな」ハハハ

賢者「笑ってる場合じゃないでしょ」

賢者「思えば、今日は何かと運が悪かったのよねぇ……」

青年「長くなりそうだから、歩きながら話しません?」

賢者「ホント覚えときなさいよアンタ……」スク


*


賢者「この森を―――って、今の現在地どこよ……」ペラッ

賢者「がむしゃらに走ってきたせいか、迷子になっちゃったわ」

青年「もうここで野宿にしないか?」

賢者「バカね、明日にはさっきの何倍もの数の兵が来るわよ」

賢者「だから早朝前にこの森を抜けるの」

青年「あの倍以上来るのは面倒だな」

青年「んーむ。こっちか」スタスタ

賢者「ちょっ…アンタ道わかんの?」

青年「まぁこれでも、土属性マスターだからな」ニヤリ








賢者「それでマスターさん、ここはどこかしら?」

青年「お前オレに闇の幻惑魔法かけた?」

賢者「往生際が悪いわよ。迷子になったって言いなさいな」

青年「違う、オレが森を迷子にさせてやったのさ」

賢者「しゃーない、ちょっと目を瞑ってて」スッ

青年「はい?」


>カッッ と音がしそうなくらい強い閃光が一瞬、辺りの暗闇を埋め尽くした


青年「ぐぉ"ぉ"ぉ"……」

賢者「はいはい。現在地わかったから、とっとと走って抜けるわよ」

青年「待って」

賢者「まだ何か?」

青年「目がやられたから、手を引いてもらっても良いですか……」スッ

賢者「これだから土属性は……情けないわね」ギュ


>数十分、森をひたすら駆け……


賢者「見えた、ようやくね」タッタッ

青年「ぉ……おぅ……」ハァハァ

賢者「もう少し先に洞窟があるわ。そこまで頑張りなさい」グイッ

青年「もうむり」ヨロヨロ

賢者「もぅ……」スッ


 ヒュゥゥ……


青年「んお…?」

賢者「追い風を私達の周辺に吹かせたから、踏ん張りなさい」

青年「……わかった」タッ


*


青年「追い風のお陰で、なんとか洞窟に辿り着いた……」

賢者「手頃な場所……ま、ここでいいかしら」スッ

 バゴゴゴゴッッ

青年「お前、水属性の魔法が使えるのか……」

賢者「何言ってんの、全部使えるわよ」

青年「はい…?」

賢者「どうでもいいけど、アンタこの入り口塞げる?」

青年「一応……。よっ」

>ボコッと地を盛り上げ入り口を塞ぐ

賢者「ふぅ、ようやく落ち着けるわね」ポゥ

青年「その周りにぽわぽわ浮いて光ってるのは何だ?」

賢者「あぁこれ。光魔法を応用して……って、どうせ使えないだろうし説明はいいわね」

青年「光魔法が使えるとか、お前もしかして凄い人なの?」

青年「光と闇は本当に素質がある、エリートって奴しか使えないと聞いたが……」

賢者「だから言ったでしょ。全部使えるって」

賢者「この世に大きく別けて五つ、正確には七つだけど……」

賢者「言わずと知れた炎、水、雷。そして風に土ね」

賢者「知ってる?魔法の素質って遺伝しやすいのよ」

賢者「そして、炎と水と雷が人口の過半数を占めてるらしいわ」

賢者「風もこの三つに比べたら少ないけど、それでもそこそこ数はいるわ」

賢者「で。土属性だけは何故か少ないのよねぇ?」

青年「……」

賢者「つ~ま~り、土属性は独り身が多い。……後はわかるわね」プクク

青年「土属性が何をしたって言うんだ!」

賢者「存在そのものが残念ってことね」

賢者「残念って言うか……何から何まで地味?」

青年「クソ、せめて風属性の素質があれば……」

賢者「あったら?」

青年「風属性だと、『今日は風が騒がしいな……』なんてセリフも爽やかでカッコよくなる」

青年「でも土属性だと、『今日は土がミディアムレアだな……』みたいなセリフしか言えねぇんだよ」

賢者「そんなこと考えてるから土属性なのよ」

賢者「素質は性格にも表れやすいって言われてるけど、まさしくね」

賢者「アンタはジメジメとした土みたいな性格」

青年「あぁそうだよ、学生時代だってボッチだった」

青年「そんなことも露知らず、教師は『は~い、みんな二人ずつ藩を作って~』なんて軽く言うんだぜ」

青年「藩ってなんだよ、歴史に名を残せってのかよ…!」

青年「幼少期なんて『お前のかーちゃん土属性~!』なんて言われるし」

賢者「さてと。明日からどうしようかしら」

青年「聞けよ」

賢者「ぎゃーぎゃーウルサイのよ。男ならもっと余裕を見せなさいな」

青年「余裕と言えばお前、魔法を使うとき何も言わないんだな」

賢者「あぁ、口上ね。『アースクエイク!』みたいなダッサイやつ」

青年「おいそれオレのことか」

賢者「確かにぃ?魔法を使う上で、自己暗示はなかなか良い調味料よ」

賢者「イメージは大事だし、決まった口上を発すことで、自身の力を100パーセント近くまで出しやすいわ」

賢者「でもね、私は言いたい。恥ずかしくないの?って」

賢者「しかもね、更にその上を行くヤバイのが居るワケよ」

賢者「『アースクエイク!』だけならまだ可愛いもんだわ」

賢者「中には『聖なる大地よ……我が言霊に応え~~云々』とかカッコつけて長ったらしいのを言う人が居るとか、想像しただけで鳥肌もんよ」

青年「オレことだな!」

賢者「あーすくえいくっ」

青年「まぁいい、オレには【アースクエイク】より更に強い隠し玉があるのさ……」

賢者「隠し玉?」

青年「お前には特別に教えてやるよ。魔法名【ガイアブレイク】だ」ニヤ

賢者「ダサ……いやもうダサいを通り越して泣けてくるわね……」

賢者「ていうかアンタ、土属性使うのに大地の女神を破壊してどうすんの」

青年「ガイブレを使うと世界そのものが終わってしまうのでな……」

賢者「略すくらいなら変えなさいよ」

青年「ガイアブレイクって響き、カッコよくね?」

賢者「はいはいカッコイイわね。……でもね」

賢者「カッコイイだけじゃこの先やってけないわよ?」

賢者「まずね、私達は追われてる身なワケ」

賢者「行く宛は無い、プランも無い」

青年「金も無いしな」

賢者「私はあるわよ」

青年「……」

賢者「……」






青年「ぼくたち仲間ですよね?」ニコ

賢者「生憎、私には土属性の仲間は居ないわね」

賢者「って、そんな事はどうでもいいの。一体どうしてくれるワケ?」

青年「と言いますと?」

賢者「トボケんじゃないわよ!アンタのせいで指名手配されてんのよ!」

青年「脱獄したからじゃないか?」

賢者「してないわよ!」

青年「オレと一緒にしたじゃん」

賢者「したわよぉ……」グス

青年「そもそもお前がパンツ落とすからだろ?」

賢者「落としてないわよ!」

青年「ポケットから落ちた瞬間を見たんだけど」

賢者「落としたわよ……」ガク

賢者「いや待って。元を辿れば確かに私のパンツから始まったわ」

賢者「でもよく考えてみなさい。こうなったのは、アンタが国のお偉いさんを天井に弾き飛ばしたからでしょ?」

青年「だからやってないって!」

賢者「私は再三言ったわ。非礼なことは絶対にしないでよって」

青年「超人気店の美味い飯を食ってたしな」

賢者「そしたらアンタなんて言った?」

賢者「『態度悪いし、そう言われるとやりたくなっちゃうよな~ ドゴォ!』よ」

青年「あれはオレじゃないって」

賢者「『やべ、手が……いや魔法が滑った』」

青年「すまん」ドゲザ

賢者「私まで牢獄に入れられるし、どうしてくれんのよ」

青年「出られたしいいじゃん」

賢者「指名手配っていうオマケ付きでね」

青年「でも本当にアレは、オレじゃないと思うんだけどなぁ……」

青年「なんこう、不本意というか……」

賢者「土魔法使えるのアンタしか居なかったでしょ」

青年「それが決定的だったな」

賢者「あぁもう……! はぁ……」グテー

青年「まぁ何とかなるよたぶん」

賢者「アンタ、本当にそう思ってるの?だとしたらお気楽ね」

青年「え…?」

賢者「私達が居たの、中央国よ」

賢者「炎、水、雷、風、光の計五つの都市があるのは知ってるわよね?」

青年「土がハブられてるのは納得がいかんが……」

賢者「中央国ってのはね、言わば五つの都市の要みたいなもんよ」

賢者「つまり、私達に逃げ場無いの。数日もすれば五つの都市に手配書が回ってるわよ」

青年「どうすんの…?」

賢者「それを言ってんでしょーが!」

賢者「ホントにどうすんのよぉ……」グス

青年「とりあえず寝るか、パンツ娘」モゾモゾ

賢者「しかも、よりにもよってこんな土野郎と……ハァ」

賢者「……寝よ」モゾモゾ


   ~今日の日記~


指名手配されてお先真っ暗になりました

こんな感じでゆるゆるといきます

土の匂いの物質ってゲオスミンだっけか

土属性って地味だよね

土魔法使いが主人公のフリゲ思い出した

乙です!
なかなか面白そうw

土属性って結構強いと思う
ダサいけどな!

土って、ほんと冷遇されるよな

昔のTRPGだと埋葬って最強の土属性魔法があったな

スレタイみたいなラノベあったな

ポ、ポケモンだと土属性(岩・地面)は攻撃面は強いし・・・

アニメだと暗黙の了解として使われない地震さん

ガブリアスは最強の土属性だな

土竜って名前だけは強そう


*


賢者「ん……」ムクリ

賢者「……朝か」


賢者「…………」チラ

青年「が~ぐぅ……」

賢者「ふん!」ゲシッ

青年「痛っ」

賢者「起きなさい。出るわよ」

青年「ママ、お腹空いた」

賢者「誰がママよ。そこら辺の土でも食べてなさい」モッキュモッキュ

青年「……オレにも、そのサンドイッチらしきものをくれよ」

賢者「嫌よ」

青年「オレ達はこれから、生死を共にする仲間……だろ?」ニコ

賢者「アンタだけ苦しんで死になさい」

青年「何故食い物を持ってるんだ」

賢者「逃げる時にチョチョイと布に包んだだけよ」

青年「……頼む、オレにもくれ」

賢者「はぁ?人に乞う時はどうするのか知らないのかしら」

賢者「『くれ』、じゃないでしょ?」

青年「お願いします、恵んでください」

賢者「土下座して靴舐めたら考えてあげる」スッ

青年「ペロペロペロペロ!」ドゲザ

賢者「アンタにプライドってもんは無いの」

青年「そんなものは土に埋めてきた」

賢者「少しは掘り起こしておいた方が身の為よ……」

青年「で、サンドイッチは」

賢者「私は『考える』って言っただけなんですけど」

青年「お前の体も舐めまくるぞ!」

賢者「ごめんもう食べちゃった☆」

青年「むんっ!」ガバッ

賢者「ちょ、やめ!服引っ張んな!」

青年「お前の服からまだ食い物の匂いがする…!!」グイーッ

賢者「なんつー嗅覚よ……」

青年「まだ持ってんだろ?あん!?」ゴソゴソ

賢者「な…に触ってんのっよ!」ドスッ

青年「いっつぇ……げほげほっ…おえぇぇ……」ガク

賢者「そんなに悶えるほど…?」

青年「前から思ってたけどさ、お前結構力あるよな」

賢者「ふふん。そこら辺の魔法使いと一緒にしないでくれるかしら」フンス

青年「魔法の扱いが上手いやつ程、体力とかは無さそうイメージなんだが……」

賢者「魔法の事ばかりで他が疎かになる奴は三流よ」

賢者「私は寝る間も惜しんで鍛えてきたの」

賢者「そうでもしないと、置いていかれるしね」ボソ

青年「そのプニプニした柔らかそうな体のどこにそんな力が……」ジー

賢者「な、なによ」

青年「結構良い身体してるな~と」

賢者「」(無言の水魔法)

青年「痛い」

賢者「次は痛いどころじゃ済まないわよ」

青年「遺体になりそうだよな」

賢者「どうでもいいから、早く入り口の塞いでるアレ、どけてよ」

青年「無理」

賢者「は?」

青年「無理だって。そんな力は無い」

賢者「じゃあどうやって外に出るのよ!?」

青年「お前が壊せば良いんじゃないか…?」

賢者「え?……ぁ」

青年「……」

賢者「……そ、そうよ。わかってたわよ」

賢者「私は、あ~え~て!チャンスをアナタにあげてたワケ」

青年「何のだよ」

賢者「ほ、ほら。土魔法を披露する…?」

青年「ふーん」

賢者「ァ、【アクアプファイル】!」バシュシュッ

    ガラガラ…

賢者「さっ。行くわよ!///」スタスタ

青年「ふーーん?」スタスタ


*


 ザ 
 | ザ
 | |
  |


賢者「雨降ってる……」

青年「いや待て、これは好都合じゃないか?」

賢者「なにがよ」

青年「オレ達は飲水を持っていない」

賢者「だからこの雨を溜めておけばって?」

青年「そういうこと」ニヤリ

賢者「私、水魔法使えるんですけど」

青年「……」

賢者「ちなみに頑張れば、飲める程度の水は作れるわ」

青年「私めにもお恵みを……」

賢者「しんどいから二人分とか嫌よ」

青年「お願いします水が無いと死んでしまうんですぅぅ!」ガバ

賢者「んもうっ 抱きつかないでよ!」

賢者「アンタは雨でも飲んでなさいな。ドヤ顔で言ってたし」

青年「僕も綺麗な水が飲みたいんだよぅ!」

賢者「ろ過はアンタお得意の土を使うでしょ。いけるいける」

青年「もはや土魔法関係ねぇ!」

賢者「いっそ、ろ過師にでもなったら?」

青年「アクアプファイル」ボソ

賢者「っ!?」ビクッ

青年「あれれ~おかしいなぁ。昨日はダサいだのなんだの、あれだけ人に言っておいて」

青年「なーんか技名っぽいのを言いつつ、魔法を使ってた人が居たな~」

青年「見た目からして、水の矢ぽかったけどぉ」

賢者「……///」プルプル

青年「果たして名付ける必要はあったのかなぁ?なーんて」

賢者「ア、アンタ幻聴でも聴こえんてんじゃないの?」



青年「……」

賢者「……」










賢者「【アクアプファイル】!」

青年「【アースクエイク】!」


 シュバババッッ  ドゴォ!


>地を裂き盛り上がった厚い土壁を、いくつもの鋭い水の矢が突き刺さる


賢者「……やるわね」

青年「……お前もな」フッ










青年「今のやり取り、ちょっとカッコイイな」

賢者「馬鹿言ってないでとっとと行くわよ」スタスタ


*


賢者「……」スタスタ

青年「なぁ……」スタスタ


賢者「なに」

青年「追っ手、来ないな」

賢者「ほ~。アンタにしてはなかなか鋭いわね」

賢者「私もそれを考えてたわ」

青年「洞窟を抜けてきたけどさ、なーんにも音沙汰が無い」

賢者「ん~……」キョロキョロ

賢者「ちょっとこっち来なさい」グイッ

青年「なんだなんだ」

賢者「この辺なら遠くから見えないわね」

賢者「私の覚えてる限り、ここは中央国と雷都との中間地点より少し手前よ」カキカキ

青年「お前、地図も頭の中に入ってるのか」

賢者「まぁね」フフン

賢者「大雑把に書くと……」



【中央国】
       洞窟
    森


      洞窟 現在地
         ↓

  山      ○  龍山 
             
        森 滝   森



賢者「こんな感じよ」

賢者「で、現在地より更に南東の先に‘‘雷都’’があるわ」




青年「この前言ってた雷の都市か」

賢者「そそ。……正直行きたくは無いけどね」

青年「そりゃ指名手配書が出回ってるからな~」

賢者「それもあるけど、雷都ってあんまり良い噂を聞かないのよ」

青年「秘密を知れば殺される……的なヤバイ感じ?」ハハハ

賢者「よく知ってるわね。雷都は黒い噂が耐えない所よ」

青年「うそん……」

賢者「まぁでも、逆に紛れやすいかもしれないわね」

青年「大丈夫なの…?」

賢者「さぁ?」

青年「さぁって……っと。気になったんだが、この龍山ってのは何だ?」

賢者「あぁこれ。竜や龍が住み着いた山は‘‘龍山’’って表記されんのよ」

賢者「ちなみに。竜(リュウ)と龍(ドラゴン)って別けられるわ」

青年「別けてなんの意味が?」

賢者「竜ってのはそこら辺の魔物より強い程度……まぁそれでもカナリ強いけども」

賢者「……でもね、龍だけは本当にヤバイわよ」

青年「や、ヤバイ…?」

賢者「えぇ。龍は何十人もの兵と魔法使いで、ようやく犠牲者を出して撃退程度にしか出来ないほどには強いの」

青年「オレ達が殺りあった場合……」

賢者「間違い無く瞬殺でしょうね」


*


青年「ん……水の音?」

賢者「近くに大きな滝があるから、川も近くにあるんじゃないの」

青年「そこで魚取れるんじゃないか?」

賢者「ならアンタよろしく」

青年「か~ったく。ぐ~たら女だなぁ」つ杖

賢者「待ちなさい。私の杖をどうする気よ」ガシ

青年「釣り竿に」

賢者「していいわけ無いでしょう?」

青年「また文句か。やれやれ」ハァ

賢者「私が間違ってるような言い方は納得行かないわね」


――

――


賢者「ほ~ら。早くそこに雨避けでも作って」ユビサシ

青年「なんでオレが作らなきゃならんのだ」

賢者「なにか?」


 ボゴゴッ


青年「こんな感じでよろしいでしょうか」

賢者「ヘッタクソな雨避けねぇ」

青年「ならお前が作れよ!」

賢者「あ"ぁ"ん"?」

青年「いえ……賢者さんの方が適役なのでは、と」

賢者「一応追われてる身なの。極力、魔力の消費は抑えておきたいのよ」

青年「さいですか」

賢者「はぁ……今日はアンタとアホなやり取りしてたせいで、全然進めなかったわね……」カキカキ

青年「あのぅ、地面に何を書いてるんです?」

賢者「念の為に光魔法で結界張っとく」パンッ

青年「なるほど、なら見張りは必要無いな」

賢者「そうね。でも自分の身は自分で守りなさいよ?」トントン

青年「地面……あっ」チラ

賢者「じゃ、おやすみ~」

青年「待ておい!オレも結界とやらの中に入れろよ!」

賢者「範囲を大きくすると、しんどいんだってば」

青年「やだやだ!オレも入りたい!」ジタバタ

賢者「駄々こねないの。子供か」

青年「……そうかい。わかったよ」

賢者「あら、物分りが良いわね」

青年「一つだけ。魔物の他に、お前の側には獣が居るということを忘れるなよ」

賢者「はぁ…?何言ってんの」

青年「オレは男。そしてお前は女だ」

青年「無防備に寝てる女に何もしない程、オレは甘くないぜ?」

賢者「昨日なにもしなかったじゃない」

青年「き、昨日はたまたまだ!」

賢者「ふぅん。じゃ、良いわよ?やってみなさいよ」

賢者「どうせそんな度胸も無いくせ―――――





青年「なかなか柔らかい胸だな」モミモミ

賢者「は……ぇ…?」

青年「すぅうぅぅぅ……はああぁ……」スンスン

青年「いい匂い」b

賢者「あ、あああアンタ……!!なにやってんの!?///」ドスッ

青年「ぅごっ……」ヨロ…

賢者「しんっっじらんない!普通そこは手を出さないトコでしょ!?」

青年「そんなマイルール持ち出されましても」

青年「でもこれでわかっただろ?オレは手を出すときは出すからな」

賢者「最っ低……」ジトー

青年「最低で結構。入れてくれるのかくれないのか」

賢者「入れたら手を出さないの?」

青年「そうだなぁ、入れてくれたら考えてやるよ」ニヤニヤ

賢者「……ホント最低」

青年「襲ってほしいのか?」

賢者「ちっ。逆に聞くけど、殺してほしいの?」

青年「えっ」

賢者「アンタ、私を誰だと思ってるワケ?」

青年「魔法をそこそこ扱える女の子」

賢者「馬鹿ね。自分で言うのも何だけど、私は国でもなかなかの魔法使いよ」

賢者「その気になれば、アンタなんて文字通り一瞬で殺せるわ」

青年「またまた、この期に及んでご冗談がお上手ですなぁ!」

賢者「……」スッ


>ドンッッッ と破裂音が耳に響いた直後、視界にある少し遠くの山の頂付近が紅く染まった


賢者「流石に山全部は疲れるけど、まぁこんなもんよ」

青年「……寝るか」モミモミ


    ~今日の日記~


つまらない日記ね。土属性の変態だけじゃ見栄え悪いから私が華をつけてあげるわ


余計なことすんなよ!


ちょっと書き込まないでよね!
交換日記みたいになってるじゃない


これオレの日記!!

おつおつ
イチャイチャしやがってw

いいコンビじゃないか

面白い


*


賢者「起きなさい。朝よ」

青年「ママ、お腹空いた」

賢者「よちよち、お腹空いたんでちゅね~」

青年「おぇー……」

賢者「アンタは私にどうして欲しいのよ」

青年「まさか乗ってくるとは思わなかった」

賢者「暇なのよ、主にアンタのせいで」

青年「オレを暇つぶしに使わないでくれますかね」

賢者「どうにかして私を楽しませろ」

青年「もはや命令かよ……」

賢者「土野郎はそれがお似合いよ」

青年「なんで土属性ってだけでこんなに嫌われんの……泣いていい?」

賢者「そうねぇ。土属性は元々はそんなに嫌われては無かったはずよ」

賢者「最初は、地味でショボい属性って認識」

賢者「でも土属性って、荒くれ者とか変わったやつが多いでしょ?アンタも含めて」

青年「言い返せないのが辛い」

賢者「昔から、何か事件が起きると高確率で土属性の素質を持つ者だったのよ」

賢者「だから段々と、土属性は嫌われ者になったって感じね」

青年「ほ~ん……」

賢者「決定的だったのが十年前。あの大事件は覚えてる?」

青年「大事件?どこで?」

賢者「アンタ中央都に住んでたんじゃなかったの」

青年「十年前と言えば、丁度どっかに連れて行かれた頃だったな」

賢者「最近になって移り住んだの?」

青年「そうそう。闇都って所に居たんだ」

賢者「また珍しい所に行ってたわね」

賢者「闇都って言えば、色んな意味で頭のおかしいのが住んでる都じゃない」

青年「五大都市から外されたのが悲しい……」

賢者「そこから移り住んで戻ってくるって、何か用事でも?」

青年「人探し、かな」

賢者「誰よ」

青年「お世話になった人なんだけど、丁度さっき言ってた大事件が起こった頃に所在がわからなくなったなぁ……」

賢者「……その人は中央都に?」

青年「多分。巻き込まれたりしてないと良いんだけど」

賢者「そうね……私は実際、目の当たりにしたけど、酷いもんだったわよ」

青年「どんな感じだったんだ?」

賢者「アンタ、土の造形は出来るんだっけ」

青年「一応簡単なのものは……」スッ


 ボココッ


青年「まぁ動かせたりはしないけどな」

賢者「動かせたらアンタやばいわよ」

青年「何故に!?」

賢者「己で操れる土人形を、私はゴーレムって呼んでるんだけど」

賢者「その事件……中央都に攻め込んできたのは、よりにもよって相当な数のゴーレムだったのよ」

賢者「アンタが土の造形が出来て、更に動かせるとなると、捕まってた可能性は大いにあるわ」

青年「そ、そうなのか……」

賢者「で。話戻すけど、嫌われる理由はこの事件からきてるんじゃないの」

青年「とばっちりじゃん……」

賢者「嘆いたって仕方がないわ。世間なんてそんなもんよ」

青年「……もう良いけどな。だって指名手配されちゃったもん☆」

賢者「それよそれ。ホントどうしてくれんの?」

青年「不毛な争いはやめようぜ。オレ達はもう仲間だ」

賢者「言っておくけど、非は十対ゼロだからね?」

青年「おいおいっ オレも少しは悪いってっ」コノコノ

賢者「ア ン タ が 十よ!!」

青年「ジュウジュウ聞いてると肉が食いたくなるな」

賢者「食べ物の話しないで。余計お腹に響くから」

青年「昨日から何も食べてないしな……」

賢者「ん」ポイ

青年「おっと」キャッチ

賢者「水飲んでりゃ数日くらい持つわよ」

青年「命がな!オレは空腹なんだよ……」ゴクゴク

賢者「そろそろ行きましょ。追っ手が来ないとも限らないし」スク

青年「そうだ――――な……?」

賢者「どうしたのよ」

青年「な、なにアレ」ユビサシ

賢者「あん?」チラ

青年「凄いスピードだな」

賢者「みるみる近づいて来るわね。まるで私達の居場所が目的地みたく」


青年「……」

賢者「……」











  ズズンンッッ!!!


賢者「ドラゴン来た」




*


青年「ひょええぇぇ!?」ダキッ

賢者「ええぇぇ!?!ナンデ!?」ダキッ


 『やはり人間か』


青年「喋った!」

賢者「知識を持った賢い龍は、人語を喋られるらしいわよ……」

 『一晩逃げる時間を与えてやったと言いうのに……』

 『その度胸、認めてやろう』

青年「なになに、一体全体何が起こってるんです…?」

賢者「ちょっとそこのドラゴン!私達に何の用よ!」

 『貴様らの宣戦布告……しかと受けてやろう』

青年「宣戦…布告……?」

賢者「はあぁ?な~に言っちゃってんのこのドラゴン」ププッ

賢者「いつ誰がそんなことしたのよ!」

青年「ちょ、ちょっと待て賢者……」

青年「えっ……やだやだ嫌な予感しかしない!」

青年「あのぅ、一つだけお聞きしても?」

 『……良いだろう。申せ』

青年「貴方様はどちらへお住みでしょうか?」

 『我の住処……それは貴様らの眼前にある山だ』

青年「そ、そうなのですね。ありがとうございます」

青年 (山……)





青年 (やべー!!昨日のだ!)

賢者「ふん!あんなショボい山に住んでるなんて、たかが知れてるわね!」

賢者「行くわよ!囮よろしく!」

青年「何でオレが囮なんだよ!」

賢者「大きい魔法を撃つときは時間かかんのよ!」

 『………………』

青年「く、くそ……やるしかねぇ!」

青年「【アースクエイク】!」


 ボゴッ


賢者「全然効いてないわよ!」

青年「ならこれならどうだ!【ガイアブレイク】!!」

青年「【ガイアブレイク】とは! 地を割り、その無数の岩片を四方八方から相手に叩き込む魔法である!!」


 ガガガガガガッッッ!!


青年「やったか…!?」

 『……何かしたか?』

青年「ちっくしょう……姉御ぉ!頼んます!」

賢者「どいてなさい!……オ"ォォラ"ァ"ァッッ!!」


>ズバババッッ と、つんざく音と閃光が迸り、雷魔法らしきものがドラゴンに直撃した


青年「今度こそやったか!?」

賢者「やったに決まってるでしょ!」フンス


 『ガアアアアアァァッッ!!!』


>全く効いていないとでも言うかの様な咆哮が体に響く


青年「やべぇもう無理だ……シンダフリ」バタッ

賢者「あわわわ……私も」バタッ

青年 (お前まで死んだフリは不自然だろ!)ヒソヒソ

賢者 (どーしようも無いんだし仕方ないでしょ!)ヒソヒソ


 『…………』


青年 (さようなら、オレの人生……)

青年 (さようなら、土属性……)






 『……ふぅむ』










 『アレ?死んだ?』


青年 (ん…?)

賢者 (へ…?)

 『いや~よかった、咆哮で死んでくれて』

 『でも咆哮で死ぬって案外マヌケな人間だな……ククッ』

 『正直人間を潰すのは気持ち悪くて、おれっち嫌いなんだよなー』

 『あのプチっていう感触……うぅっ、想像しただけで震えるわ~』

 『ていうかぁ、おれっち別に殺したくて人間を殺してる訳じゃ無いんだけどなー』

 『やらなきゃ殺られるからやってるだけでぇ……』

 『なんなの?おれっち見るとどいつもこいつも魔法ぶっ放してきて意味わからんのですけど~』

 『つーか、いたたたた……さっきの人間の魔法、マジで痛いわ。はぁ、死ね!あ、もう死んでるか』ガハハッ

青年「わあ!」ガバッ

 『ぴょおっ!?』ビクッ

賢者「なんなの、このドラゴン……」

 『びっくりした~……驚かすなよ』

 『あっ――――

青年「おいドラゴン」

 『……おほん』

 『ほぅ。まだ息絶えていないとは……な!』ギンッ

青年「まさか魔法が効いていたなんてなぁ?」ニヤニヤ

青年「【ガイアブレイク】!」

 『あぁ悪い、オマエのは効かんよ』

青年「姉御ぉ!」

賢者「ごめんもう無理」

青年「あわわわ……」

 『ハァァ……てかオマエ、土属性?』

青年「あ、ハイ……」

 『ハ~……。土属性とは関わりたく無いんだよなァ』

青年「どういう意味だコラ」

 『土属性ってキメェのばかりで近寄りたくねェんだよ』

 『おれっちの知り合い……知り合いとすら言いたく無いが、土の同胞が居るわけよ』

青年「えっ 土のドラゴン!?」

 『ソイツさぁ……いや、やめよ』

青年「言えよ!気になるだろ!」

 『自分の目で確かめてくんね? 今回は見逃してやるからさ』

青年「見逃してくれんの…?」

 『うん。だって土属性殺すと呪われそうだしぃ』

 『あ、そこのオマエ』

賢者「私…?」キョトン

 『そうそう。なかなか良い魔法使うじゃん。この雷龍こと、おれっちに雷魔法で勝負たぁ、なかなかやるね』

 『じゃぁおれっち帰るわ。次、山にちょっかい出したら今度こそ殺すからな』


 バサッ……バササッ!



青年「……」

賢者「……」









青年「寝るか……」

賢者「そうね……」

 
   ~ 今日の日記 ~


そういえば、お世話になった人ってどんな人なの?


ん~オレが魔法を教わった人
あと、やたら過保護な人だった


ふぅん。やっぱり会いたい?


会いたいね。会ってお礼を言いたいかな






*


*


*

 
   ~ 古ぼけた手帳 ~


メジャーな炎属性や水属性等は派手で使い勝手も良い


対して土属性は地味だ


しかし。光属性ある所に闇属性がある様に


地味な土属性があるからこそ、メジャーな属性が輝くというものだ


だから私は脇役でも構わない

今日はここで終わります

なにやら因縁の匂い…
乙です

雷でこれとか土はどんなのになってしまうの


賢者「朝よ、起きなさい」ユサユサ

青年「ママあと五分待って……」

賢者「何度繰り返せばいいのよ、このやり取り……」ハァ

青年「今日で三日目だな」

賢者「そろそろ先に進みましょうよ」

青年「ちょっと待って。試したいことがあるんだ」ゴソゴソ

賢者「なに?」

青年「まぁまぁ、土でも弄って遊んでてくれ」タッタッタッ

賢者「…?」


>十五分後…


青年「おまた~」

賢者「それなによ」

青年「近くに川があったから、魚取ってきた」ピチピチ

賢者「ほ~、よく取れたわね」

青年「これでな」ニヤリ

賢者「それ私の杖じゃない。アンタまた勝手に使って……」

青年「杖の先に鋭くした土の塊を蔦で括りつけて、モリにしてみました」

賢者「なんて原始的なの……」

青年「これで食料は確保できるぜ」ドヤ

賢者「その川、案内しなさい」

青年「え…?お、おう」


*


青年「ここです」

賢者「なかなか綺麗じゃない。魚は……」キョロキョロ

賢者「居たわね。それっ」ビリリッ


 プカー…


青年「は?」

賢者「ほれっ そいやっ それっ」ビリリッ

 プカー…プカプカー……

賢者「水の中に居るし、雷魔法をチョロっと当てたら、モリなんて使わなくても捕れるわよ」

青年「オレの苦労とは一体……」

賢者「ほ~ら、ボサっとしてないで。早く浮いてるの捕ってきて」

青年「へいへい……」ジャブジャブ


*


青年「いつもの焚き火で魚焼くか」

青年「火を」

賢者「ん」ボフッ

青年「風で少し火力上げて」

賢者「ん」ヒュゥー

青年「鱗を取り除いた魚をちょちょいと並べてっと……」ススススッ

賢者「この魚、市場にも出回ってる魚だし美味しいわよ」

青年「マジで…?」

賢者「うん」


 パチパチパチ……パチチッ


賢者「…………」ボー

青年「そろそろか」ゴソゴソ

青年「ほい」スッ

賢者「ありがと……」

青年「んむんむ……」モグモグ

青年「うめぇ……焼き魚がこんなに旨く感じるのは久しぶりだ」

賢者「……うん」モッキュモッキュ

青年「しかし保存用の魔道具持ってないし、鮮度保てないから毎回捕りに行く必要があるな」

賢者「……そうね」

青年「どうした、元気が無いぞ」

賢者「……」






賢者「……グス。泣けてくる……」

賢者「私…ホントに何してるんだろ……」ポロ

賢者「パンツ拾われて、指名手配されて、胸揉まれて、匂いまで嗅がれて……」

賢者「挙句、こんな変態と昼夜共にするとか……」

賢者「普通の女の子なら命を断ってるわよ」ヒック

青年「全部オレのせいだな」

賢者「ほんとにね」

青年「まぁ……謝ってもどうにもなんないし、許してくれとも言わない」

青年「その代わり、何かあったら全力で手を貸すから」b

賢者「当たり前よ。それでもお釣りが来るわよ」

青年「というか、どうする?」

賢者「なにがよ」

青年「目的とか、どこに行くかとか」

賢者「もうどうでも良くなったわ……」

賢者「面倒だし、ここで暮らそうかしら」

青年「夜が少し寒いこと以外は、割りと住み心地良いよな」

賢者「近くの森に行けば果実なんかもありそうだしね」

青年「あ~、それいいね。今度見に行こうか」

賢者「アンタって、割りとポジティブよね」

青年「そうしないと生きていけなかったからな」

賢者「……そ。」


*


 パチパチパチ……
  
     パキキッ…


賢者「アンタって、何か夢や目標とかあんの?」

青年「んー……無いな」

賢者「ふ~ん」

青年「お前は何かあるのか?」

賢者「私も…無いわね」

青年「ねーのかよ」

賢者「必死に勉強して、体も平均並みに鍛えて、ようやく仕事が順調になってきたと思ったらアンタのせいでパアよ」

青年「それは申し訳ない……」

賢者「それに、夢や目標とか、考える暇なんて無かったわね」

青年「さいですか」

賢者「ま~でも。こんな状況になっちゃったし、これからゆっくり考えるのも悪くはないわ」

青年「夢かぁ……」

賢者「アンタ、道具でも作れば?」

賢者「そうそう。土属性の魔法って、土を他の性質のものに近づけることが出来るしね」

賢者「例えば……」パキキッ

賢者「こんな風に、土を金属に近づけることだってやり用によっては出来るわよ」

青年「それなぁ、疲れるだろ?」

賢者「疲れるわね。てか、どんな魔法も凝れば凝るほど疲れるわよ」

賢者「炎にしたって、ただ炎球を飛ばすのと、何かしらの形を作って飛ばすのとでは大きく変わるわ」

賢者「そういや造形、出来るんだったわよね」

青年「簡単のならな」

賢者「魔法で形あるものを造るって、それなりに技術とセンスが必要なのよ」

賢者「だから、やっぱりアンタは何か造ることに向いてるんじゃないの」

青年「じゃあ道具屋でも開いちゃう?」

賢者「アンタだけで頑張んなさい」

青年「一緒にしてくれないのかよ!」

賢者「故意に一緒に暮らすとか、勘弁願いたいわ」

青年「そんなこと言うなよ。一緒に脱獄した仲じゃん?」

賢者「……そうね。私には脱獄する勇気は無かった」

賢者「こうして生きていられるのは、青年のおかげかもしんない。ぁ、ありがと……///」モジモジ

青年「賢者…!」パァ

賢者「でも。そもそもアンタが余計なことしなければ、こうならなかったんだけどね」

青年「すんません……」シュン



賢者「さて、と。明日にはここを発つわよ」

青年「どこに行くんだ…?」

賢者「ここでダラダラ暮らすのも悪くないけど、どうせなら色んな所に行きましょうよ」

青年「なら……近いところだと雷都だっけ?」

賢者「そうね。目的地は雷都にしましょ」

青年「了解。明日に備えて準備しとくか」


―――
――


*

>―――龍山


「昨日はどうだった~ 雷ちゃん」

雷『見た感じ普通だったね。おれっちに魔法ぶち当てて来るし元気なんじゃないの』

「魔法?土の?」

雷『そうそう。でも、もう一人の人間の方が強かったなァ』

「一緒に逃亡してる子ね。なるほどなぁ」

>腰まで伸びている琥珀色の長いポニーテールを揺らし、くすくすと笑っている

雷『あの人間は将来有望かもしれんね。おれっちに雷魔法で傷をつけるとは思わなかった』

「雷ちゃんに雷魔法で傷? 凄いじゃない」

雷『傷って言っても、ほんのかすり傷だけどなー』

雷『つーか、自分で様子くらい見にいけよ』

「君が低空飛行したせいで村が半壊したの。それを直しに行けって君が言ったんでしょう?」

雷『あんな所に村を作る人間が悪いね』

「あのねぇ、直す私の身にもなって欲しいの」

「直す度に『神の使い』だの言われて面倒なのよ」

「ただ土魔法で、元の形に似せて直してるだけなのにさ」

雷『何年前だっけ……おれっち、あのキモい人形を壊しまくってやったじゃん。お互い様ってコトで』

「それは感謝してる。ありがと~ね」ニコ


*


「じゃぁ私、そろそろ……」

雷『行くのか。雷都は今、メンドクセ~ことになってるってのに』

「あそこを落とされると困るの」

雷『暇だし連れて行ってやろうか?』

「気持ちだけ受け取るね。でも良いわ、自分で行く」スッ


 ボココッ……


「私を乗せる暇あるなら、村を壊さない飛び方を練習してなさい」


>そう彼女は言うと、馬の形をした土人形に騎乗し、駆けて行った


雷『全く過保護な人間だ。どうせ自分で様子を見に行くのだろう』




雷『……やはり、人と言うのは見ていて飽きない』


雷『いつも時代は人が創り、人が終わらせる』


雷『今よりも発展していた文明でさえ己の力で毀してしまうのだから……』





雷『……どれ。少し肩慣らしでもするかな……』バサッッ


   ~ 今日の日記 ~


賢者って彼氏とかいるの?


いないわよ。いないけど何か?


やっぱり。
まぁアレでいるって言われたらショック死しそうだ


は?『やっぱり』ってなに?
覚えときなさいよアンタ!!!

この強キャラ感

見守られてる…


*


青年「むむむ……」スッ


 ボココッ……ボコッ


賢者「んん……」モゾモゾ

賢者「……ふあぁ……。~ん。アンタ朝から何してんの…?」

青年「小舟を作ってた」

賢者「……なんで??」

青年「昨日川に行っただろ?あそこを下ろうぜ」

賢者「そうね。じゃ、そうしましょ」スク

青年「えっ」




――


――


*


青年「ぐっぬぬぅぅ…!!重っ!」グイー

賢者「川の近くで作れば良かったんじゃないの?」

青年「お前天才だな」

賢者「アンタが馬鹿なだけでしょ」

 ザップン!

賢者「ところでコレ、土ぽいけど大丈夫なの?」

青年「大丈夫だ。泥舟に乗ったつもりでいてくれ」

賢者「ふーん」ドサッ

青年「……」

賢者「どうしたの?早く行きましょうよ」

青年「今日のお前はどうしたんだ…!」

賢者「なにが?」

青年「普通ツッコむだろ!急に川下りなんて頭おかしいのかって!」

賢者「そうね」

青年「泥舟に乗ったつもりって所も……見たまんまだろ!」

賢者「かもしれないわね」

青年「いつもの賢者はどこに行っちまったんだ……」ガク

賢者「私決めたわ。もう青年に任せる」

青年「な、なにを…?」

 ヒュゥーーー

青年「追い…風……?」


賢者「行くわよ…!」ボフッ

青年「あのっ、ちょ、タンマタンマ!」

賢者「人生に待ったなんて出来ないわよ」

青年「違う!オレ泳げないんだって!」

賢者「知ったこっちゃないわね!」

青年「知ってくれよ!」


 ガコン!!
    
     ズカンッッ

ドゴッ

     ガ
     ガ
     ガ


青年「早い速い疾い!!沈むって!」

賢者「アンタの舟はそんなヤワじゃないでしょっ」

青年「一応表面は丈夫にしてるけど、あくまで土だぞ!」

賢者「もういっちょ追い風!」ビュゥゥッ

青年「聞けよ!」

賢者「この川は雷都の方向へ流れてるはずよ。このまま一気に行きましょ!」

青年「も、持ってくれよ舟…!」

賢者「大丈夫大丈夫、いざとなったら――――



賢者「―――あっ」

青年「何だよその不安な『あっ』は」

賢者「……」

青年「はやく!」

賢者「この先……滝よ」

青年「なんてこった……」


*


青年「……」ヨロヨロ

賢者「っくしゅ」ブルブル

青年「さっきは本当に死ぬかと思った」

賢者「高かったわね~」

青年「お前、風魔法でフワフワしてたじゃん……」

賢者「アンタが抱きついてくるから、一緒に滝にドボンよ」

青年「旅は道連れって言うだろ?」

賢者「そんなとこまで一緒にしなくていいの」

青年「今日はもう休む準備するか……」

賢者「これじゃあ雷都に着くのは、いつになるかわからないわね」

青年「……ま、ゆっくり気長に行こうぜ。時間は一杯あるしな」

賢者「……そうね」


*


賢者「少し風に当たってくるわね」

青年「もう夜遅いし、遠くには行くなよ?」

賢者「大丈夫よ。すぐそこだから」


――


――


賢者「ふぅ……」ストン

賢者 (もう本格的に、逃避行するしか道はなくなったわね……)

賢者 (今更周りについていけるはず……無いわよね)ハァ


青年は何故一緒に居てくれるんだろう


自分の努力を無碍にしてきた私と。


共犯者だから…?―――いやいやいや。私は何もしてないわね


飲水の時や魚の時だって、アイツが頑張ろうとしていたのを全部私が奪った。
そんな事を数えだしたらキリが無いくらい


普通の人なら、嫉妬や憎悪の感情を私に向けてくる筈だ


それでも青年は―――――


青年『流石、賢者だな』


いつも褒めてくれた


青年『凄いじゃん、今度教えてくれよ。できるかどうかは置いといて……』


私を認めてくれた


賢者 (……私を馬鹿にしてるのかしら…?)

賢者 (それとも、心の底で嘲笑ってるのかしら)


青年『賢者って何でもできるんだな』


……過大評価しすぎよ。


魔法の素質はだいたい人によって一つから二つ


素質は複数のものを持っていれば便利だ


でもデメリットが無い訳じゃない


光属性と闇属性の相性が悪い様に、他の属性もそれぞれ相性の悪い属性がある


私は確かに全ての属性を扱える


でも……逆に言えば扱えるだけ。極めることはできない。
何故なら、全ての属性を扱えるから。


相性の悪い素質同士は喧嘩をする。
その喧嘩は魔法を使う上でどうしても邪魔になる。


良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏……


必死に努力しても、どうすることも出来ない


賢者 (今は必要とされるかもしれない)

賢者 (でもこの先もずっと、なんてそんな保証はどこにも無い)

賢者 (いずれ私は必要とされなくなる存在になる)


周りから嫉妬されたって良い


それで私を見てくれるなら。


悪意をぶつけられても良い


それで私を必要としてくれるなら。


取り残されたくない。
誰かの上に立たないと私の存在価値を見いだせない


一人は嫌だ


だから一番じゃないと―――


賢者 (一番じゃないと私は……)ギュ




青年『なぁ賢者。お前は下しか見てないんだな』

青年『上を見てみろよ。こんなにも星が輝いてる』

青年『誰が強いとか賢いとか、そんなので価値を決めることなんて無い』

青年『それに。賢者……君はこの夜空の星を見上げ、星と星の輝きを比べて、価値を決めたりするか?』

青年『どの星だって綺麗に輝いてる。人だって同じだ』

青年『一人一人、ちゃんと綺麗に輝いてる。それを比べたりする必要は無いんだよ』

青年『賢者を必要とする人は必ずどこかに居ると思うよ。……オレとかな』


賢者 (……)

思い返せば、青年は私のことをいつも気にしてくれていた


寒い夜は上着を貸してくれたり、ワザと馬鹿なことをやって、少しでも緊張を解こうとしてくれたり


そして引っかかることがある。
中央都でのこと……
本当にあの時、青年が魔法を使ったのかどうか


対して私は何だ。
青年の善意を無碍にし、自己中心的な行動ばかり。


賢者 (最低なのはどっちって話ね……)グス

賢者 (……ぐす……。もう別れた方が良いのかな……)

アイツは……青年は、自分なりの考えを持って前に進んでる

私は立ち止まってばかり。


賢者 (……ん)チラ

青年「アッ…ヤベッ……ぐ~ぐ~」モゾモゾ

賢者 (ヘタクソか!もう少しマシな誤魔化し方をしなさいよね)

賢者 (はぁ……。青年と居れば、私を引っ張って行ってくれるのかしら―――――

賢者 (―――ううん。私も自分で進まなきゃダメね)スタスタ

賢者「青年……起きてる?」

青年「ぐ~ぐ~……」

賢者「……ありがと。一応お礼を言っておくわね……おやすみ」モゾモゾ

青年「……うん。おやすみ」

賢者「やっぱり起きてんじゃないの」

青年「しまった」


   ~ 今日の日記 ~


逆にアンタは彼女とか居るの?


いるよ


そ、そうなの。へ、へ~……意外ね……ふ~ん……


嘘だけども。


えっ ホン\/\/\/良かっ/\/\―\/―//\\―
   ほ~ん、まぁそうだと思ってたわ。うんうん。うん。


『ホントに』と『良かった』しか読み取れないだが……


そこは消してるんだから読まなくていいの!……ばか

もうラブラブじゃないかよ…

賢者が死ぬかもしれない……

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