凛「ここは……プロデューサーの学生時代?」(40)

ちひろ「何見てるんですか?」

モバP「!?」

ちひろ「プロデューサーさん?」

モバP「あ、いえ……別に大したものでは」

ちひろ「写真でしたよね?」

モバP「仕事で使う資料ですよ」

ちひろ「そうなんですか?」

モバP「はい」

prrrr

モバP「電話ですよ、ちひろさん」

ちひろ「はぁ……今日も大変ですね。そんなプロデューサーさんにオススメの商品があるんですが……」

モバP「間に合っています」

ちひろ「そうですか……はい、こちらCGプロダクション………………」

同時刻

晶葉「栄養剤を作ろうとして、手違いでタイムマシンを作ってしまった……」

晶葉「便利だが歴史を歪めてしまうかもしれない。処分しよう」

晶葉「おっと、助手に呼ばれていたのを忘れていた。タイムマシンはここに隠しておこう」

10分後

凛「……休憩室には誰もいない、か」

凛「ん?なんだろこれ?」カチッ

凛「えっ?」

『アナタ・ノ・イキタイ・ジダイ・ハ・イツ・デスカ』

凛「時代?……どこか押しちゃったのかな?」

凛「……行きたい時代ね……プロデューサーの学生時代とか……?って、なに言ってんだろ私」ボソッ

『ショウ・チュウ・コウ・ダイ・カラ・センタク・シテ・クダサイ』

凛「小中高大……って学校のことだよね?それじゃ高校かな……とか言っても仕方ないんだけどさ」ハァ

『オキ・ヲ・ツケテ・ヨイ・タビ・ヲ』ピカァ

凛「え……?もしかして……本当にタイムマシーンな……の……?」グニャァ

『グッド・ラック』

晶葉「さてと、タイムマシンを解体するか……って、おい!それはダメだ!早く離れろ!戻れなくなるぞ!」


『激しい閃光に包まれた私は、次の瞬間……現在から消失した』


晶葉「大変なことになった……」

20XX年

モバ友A「なあ、進路とか考えてる?」

モバ友B「はぇえよ。オレらまだ一年じゃん?アレだろ、金持ちとかじゃね?」

モバ友A「それ進路じゃねぇから」

モバ男(モバP)「俺は喫茶店とかかな。接客とかやってみたいし」

モバ友A「バイトじゃん!」

モバ男「いや、店とか出したいなって話」

モバ友B「定年後のオッサンかよ」

モバ友A「モバ男は現実的なくせに、実現不可能なこと平気で言うよね」

モバ男「無理かな?」

モバ友A「出店とか金掛かんじゃん?資本金?っつうの?金なきゃ喫茶店とか総理大臣級の無理ゲー」

モバ友B「最低貯金1000万から出直せゴミクズ」

モバ男「卒業後すぐじゃねーし。最初は色んな店で働いてさ、料理の修行でもするよ」

モバ友A「出た真面目」

モバ友B「んだよそれ、ひひっはぁー」

モバ男「……今日バイトだから。俺先行くな」

モバ友A「お土産よろしくー」

モバ友B「ンジャメナー!」

モバ男「お前ら馬鹿だろ……」

美優「…………」

喫茶ロドリゲス

マスター「いぇーす!モバ男!侍の意地見せるときヨ!」

モバ男「ドリンクは任せて下さい」

マスターは日本と忍者をこよなく愛するアメリカ人だ。

マスター「手裏剣バーガーいいアイデア、バッド、失敗理由ワカリマせん〇みつお」

モバ男「日本じゃ受けないと思いますよ。無駄にデカいし……」

マスター「ノゥーノゥー!侍ならどんな大きさでも逃げタリしませんヨォー?」

モバ男「侍は絶滅しました」

マスター「あ、聞きたくないです」

モバ男「……探せばいるかも?」

マスター「イェェェース!ザァァァッツラァァイっ……痛ぇ」

モバ男「舌噛みますよ?」

マスター「遅えよ」

カランカラン

モバ男「いらっしゃいませ」

マスター「イラッシャイマセ」

「お届け物でーす」

マスター「あ、はい」

「ここにサインお願いします」

マスター「はいどうぞ」

「ありがとうございました。またご利用ください」

マスター「……」

数時間後

マスター「フゥ~。……今日はお客ナッシング」

モバ男「帰りますね」

マスター「明日もバック・トゥ・ザ・ロドリゲス」

モバ男「お疲れ様でした」

モバ男(進路ねえ……。大学に進学して、ただ時間の流れに身を任せて、社会に出て)

モバ男(成り行きとかは嫌だな。はぁ……将来か……)

モバ男「ん?」

??「……ぅ……ん……」

モバ男(女の子が倒れてる?)

モバ男「あの!?大丈夫ですか!?」ユサユサ

??「……ん?……は?プロデューサー……?」

モバ男(よかった。無事みたいだ)

??「っ!?」

モバ男「大丈夫ですか?」

??「嘘……なんで……?……若返った?てか若い……」

モバ男「あの?大丈夫?」

??「そんな……」

モバ男「もしもし?」

??(本当に過去にタイムスリップしちゃった!)

??(どうしよう……)

モバ男「平気?」

??「え?あ……大丈夫、大丈夫だから」

モバ男「そうか。よかった。こんな場所で倒れてるから心配したよ」

??「……ありがと」

??(過去のプロデューサーに会っちゃった……。これ絶対マズいよね、私のせいで未来変わっちゃうかも)

モバ男「もし辛いなら病院行ったほうがいいよ」

??「本当に大丈夫」

モバ男「ん、わかった。じゃあ俺は帰るから」

??(……うっ。荷物もなにも持ってない。私今無一文なんだけど……!)

??「あ、ちょっと待って」

モバ男「はい?」

??「お金……貸して」

??(私馬鹿なの?)

モバ男「……ワケあり?」

??「記憶……そう!記憶がないんだ!」

モバ男「記憶?」

??「うん。自分が誰かも思い出せない……から」チラッ

モバ男「マジ……?」

??「うん」

??(最悪だよ!)

モバ男「そうか。なら1万渡すから、とりあえず警察とかに相談したほうがいいよ」

??「……ありがと」

モバ男「それじゃ」

??(お金は貸してくれたけど、絶対怪しい人だと思われた……)

??(記憶喪失って……)

??(そんなことより追いかけなきゃ!)

??「……いない」

私は渋谷凛。
ひょんなことから過去に来てしまったアイドルだ。

凛「……帰れるのかな?」

その呟きは、街の騒音で虚しくかき消されていった。

・・・・・
・・・・
・・・
・・

モバ男「大丈夫?」

凛「え……」

涙が出そうになった。

数時間彷徨い続け、夜の不安と孤独に圧し潰されそうになっていた私は、道端ですっかり力尽きていた。

私の瞳に映るプロデューサーの姿は、今よりもずっと若くイケメンだった。

その整った容姿は、女子ならば放ってはおかないだろう。

一度見失った目的の人物に出会えた安心感からか、緊張の糸が切れた私はその場で意識を失った。

……疲れたよ。
ずっと歩き通して、自分を知ってる人なんて誰もいない孤独な世界。

このまま帰れなかったらどうしよう。

不安で胸がいっぱいだった。
精神的な疲労は限界で……。

会いたいよ。

プロデューサー。

Pさん。

意識が浮上する。

見知らぬ天井、見渡せばマンションの一室のようだ。

モバP「気がついた?」

凛「え?」

視界に影が覆い、私の顔を覗き込むプロデューサーと目が合った。

凛「Pさん、若いね」

モバ男「え?なんで俺の名前……」

当然の反応だろう。

私とプロデューサーは今日が初対面だ。

凛「ここは?」

モバ男「あっ……!ごめん!」

凛「ん?」

モバ男「いや!違うんだ!突然倒れたからさ!救急車呼ぼうとしたら、君が止めたから!」

記憶にない。

モバ男「何かワケありなのかと思って!ほら、記憶ないとか言ってたし!だから俺の部屋に連れてきたんだけど……」

顔真っ赤で余裕のないプロデューサーが可愛い。

凛「そうなんだ。ありがとう」

結果的に助かった。

病院や警察に連れて行かれたら困ったことになっただろう。

今の私は学生証も保険証も有していない。

この世界に私の存在を証明するモノはない。

存在するのは……まだ幼い渋谷凛。

彼女と私をイコールで結ぶことは不可能だろう。

DNA検査でもしない限りは。

モバ男「何か持病とかあったりした?」

凛「ないよ。ずっと歩き通しだったから、疲労と貧血で倒れただけ」

モバ男「そうか。体に問題ないならいいんだ」

凛「うん。助けてくれてありがとう」

モバ男「……いや、放置はできないし。当然のことをしただけだよ。むしろ最初に会ったときにもっと事情を聞くべきだった……すまない」

顔、真っ赤だよ?

凛「ごめん。記憶がないなんて嘘なんだ……」

モバ男「……そっか」

凛「私は……凛。鷺沢凛」

咄嗟に嘘をついた。

頭に浮かんだ彼女に、心の中で謝罪する。

モバ男「鷺沢さんか」

凛「私のことは凛と呼んでほしいかな」

モバ男「あ、ああ。わかった」

モバ男「俺は――だ」

愛しい彼の名前。

凛「Pさんって呼んでいいかな?」

モバP(モバ男)「いいけど……」

室内を見渡す。
こじんまりとした部屋だ。

物は少なく、綺麗に整っている。

マンションかな?

凛「Pさんって、一人暮らし?」

モバP「そうだが……」

お金もない、身分証もない、行くあてもない。

この時代でも、私の命運はプロデューサーが握っているみたい。

凛「私のこと、ワケありだと思ったんでしょ?」

モバP「……そりゃあな」

凛「……正解だよ。今の私には居場所がない。親はいないし、保護者もお金もない。これは本当」

凛「途方に暮れていたんだ。もう体を売るしかないかな、って……」

Pさんの顔色が変わる。

モバP「っ……!」

凛「Pさんが助けてくれなかったら、私は……」

嘘だけど。
金銭的にヤバかったのは事実だしね。

凛「だから……ここに置いてくれませんか?」

モバP「……そんなこと言われたら」

プロデューサー優しいから。
断れないよね。

会ったばかりの子を信用しすぎだよ?

モバP「……好きなだけ居てくれていい」

ほらね。
女の子に優しすぎるのも考えものだよ。

凛「私まだ経験ないけどさ、Pさんなら私の体……好きに使ってくれていいから」

頬が熱い。
叩かれた!?

モバP「自分を安売りするな!見返りがほしくて助けたわけじゃない!」

そっか。どこまでもお人好しなんだね。

凛「……ごめんなさい。私どうかしてた。私にはもう頼れる人がPさんだけだから、嫌われたくなくて……」

モバP「嫌ったりしないって。こっちこそ叩いて悪かった。……絶対見捨てたりしないから」

戸惑いながらも私の頭を撫でてくれるPさん。

Pさんを手に入れたいという下心だったけど、Pさんは本気で心配してくれた。

なんだか申し訳ない気持ちになる。

モバP「そういえばさっきさ、名乗る前に俺の名前呼んだよな?」

凛「学生証」

モバP「え?」

凛「落ちてたから」

モバP「……ない」

用意していた言い訳。
私の唯一の所有物。

モバP「そういうことか」

凛「拾って見てたらPさんが来たから。同じ人だなって」

モバP「なるほど」

抜き取ったのは頭撫でられてたときだけど。

モバP「拾ってくれてありがとな」

凛「……気にしないで」

少し罪悪感。

凛「晩御飯、私が作るね」

モバP「いいのか?」

凛「家事くらいさせて」

モバP「助かる」

冷蔵庫の中は空で、二人で買い物に出掛けた。

モバP「凛の料理美味しかった!」

凛「ふ、ふーん。まあ、悪くないかな」

花嫁修行で猛特訓しといて良かった。

プロデューサーは絶対私にウェディングドレス着せないマンだからね。

そういう仕事回ってこないのはさ、花嫁衣装は俺と結婚するときにだけ見せてくれって意味だよ、きっと。

プロデューサーも罪な人だね。

モバP「ベッドは一つしかないから凛が使ってくれ」

凛「ダメ。気を遣わなくていいから」

モバP「女の子を床で寝かせるわけにはいかないだろ」

凛「一緒に寝れば解決だよ?」

モバP「解決じゃねーよ!」

一時間以上の舌戦で、勝ったのは私。

二人並んで横になる。

凛「……ありがとう」

モバP「……別にいいって」

愛する人の温もりを感じながら、私の波乱の1日は幕を閉じた。

Pさん。
優しくて誠実で体力もあって、収入も安定してる。

何より彼の人と為りを私が知っている。

今さら他の男に冒険するつもりはない。

今のPさんは高1。
私とタメだ。

この時間旅行がいつまで続くのかわからない。

3年間かもしれないし、3日間かもしれない。

私にとっては過去の世界。

全部瞞しかもしれない。
長い夢から覚めたら、今まで通りの日常が帰ってくるんだ。

けどそれまでは……。
せっかくだから楽しもう。

アイドルじゃない私と、プロデューサーじゃないPさんの、奇妙な同棲生活がこうして始まった。

朝がきて、まだ見慣れない天井。

隣には大切な彼。

まだ夢は続くんだ。

私は安堵していた。


テレビの中にも、アイドルとしての自分はいない。

Pさんを起こさないよう朝食を作る。

卯月、未央、加蓮、奈緒……皆……会いたいよ。

大切な絆が断たれたように感じられて、私は少しだけ涙した。

凛side fin

少女は泣いていた。
昨夜自分を手玉に取った少女がだ。

利用されているとすぐに気づいた。

俺は学生証を落としていない。

彼女が俺の学生証を抜き取るところを見てしまった。

事情があるのだと思った。
余裕があるように見せてはいたが、彼女は必死だった。

それだけはわかった。

両親が遠い地にいる俺は、高校に入ってすぐに一人暮らしを余儀なくされた。

仕事の都合じゃ仕方ない。
けど、それに俺が付き合う必要はない。

転校は頭になかった。
気楽な一人暮らしだ。

最初は楽しかった。
自由があった。

そんな気楽さを感じていたのは最初だけ。

食事、洗濯、掃除。
一人で生きるということは、自分を背負うということ。

生活の負担は全部自分に返ってくる。

そして孤独だった。

友人たちがいて、他人と交流できる学校生活は、俺の唯一の心の支えとなっていた。

家に帰っても誰もいない。

独り言は増える一方で、テレビには惨めなツッコミ。

彼女を作ろうと思った。
きっと今より幸せになれるから。

それも最初だけ。

不思議なことに、俺は何度も告白された。

可愛いと人気の子からも。

それでも、実際に彼女を前にしたとき、「何か違う」と思ってしまった。

彼女たちは俺の理解者にはなれない。
冷静に分析する冷たい自分がいた。

彼女たちは恋がしたいだけなんだ。

人気があるらしい俺と付き合うことは、彼女たちのステータスになるのだろう。

価値観の違いだ。

純粋に自分を想ってくれる子。
俺は理想的な彼女を求めていた。

単純に家族のような存在に飢えていたのかもしれない。

友人は俺をバカにする。
勿体無いから食っとけとか、贅沢すぎる、とか。

俺はきっとバカなのだろう。
好きになったらずっと一人を想い続けるような。

20代30代以降の一部にある結婚を前提とした必死なお付き合い。

退路のない恋愛だ。

人に飢えた人間は愛も重いのか?

恋愛がしたいんだ。

モバP「……凛」

彼女は美しかった。
誰よりも。

助けたのも、下心がなかったなんて言えない。

彼女の居候を認めたのも、本当は止めるべきなのに、家族が増えたなんて逆に喜んでしまった。


彼女の存在は未知だ。

家族がいない。何もない。

独り。

それを信じたわけじゃない。

ただ一つ信じられることは、彼女は俺を知っていたということだ。

凛「おはよう」

彼女は何事もなかったかのように振る舞う。

モバP「おはよう」

俺はそれに合わせる。

何かが変わるかもしれない。

不思議で、どこか怪しい、魅力的な彼女との同棲生活。

テーブルには朝食が並んでいる。

凛「ごめん。勝手に作っちゃったけど……」

モバP「気にすんな。ありがとう」

彼女の作った味噌汁を口にして、俺を優しく見つめる彼女の姿を目にしたとき、俺はもうとっくに恋に落ちていたのかもしれない。

それはまだ、ほんの小さな気持ち。

モバP「美味しいよ」

凛「そう?ならよかった」

こんな生活も悪くない。
そう思ってしまった。

2年近く前にちょっとだけ書いたやつ出てきたから完成させようと思う。
これからもちょくちょく投下していきたい。
とりあえず本日はここまで

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