サトシ「構わんピカチュウ!!右腕などくれてやれ!!」(34)

ピカチュウ「ピカ!?」

サトシ「やれ」

ピカチュウ「ピ……」

サトシ「やるんだ!!」

ピカチュウ「ピ、ピカァ……ッ!!」ベキッ

イワーク「イワッ!?」

タケシ「バカな、わざとピカチュウの右手をイワークに喰らわせただと!?」

サトシ「気づかないのか?」

タケシ「何!?」

サトシ「今ピカチュウの右腕は、柔らかで無防備な口腔に触れている……」

サトシ「電気を通さない分厚い外皮を有していても、内部からの電撃には耐えられまい」

タケシ「き、貴様……!!」

サトシ「内臓を焼き尽くせ!!十万ボルト!!!」

ピカチュウ「ピ……カァ……ッ!!」バリバリバリ

イワーク「イワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」ジュウウウウウウ

タケシ「俺の負けだ……ジムバッジは渡そう」

タケシ「だがお前の戦い方はポケモンに無理を強いすぎる」

タケシ「見てみろ、お前のピカチュウの右手は赤黒く膨れ上がって骨まで飛び出ているじゃないか!」

サトシ「ポケモンセンターで充分治療可能な傷だ」

タケシ「……ッ!!」

タケシ「そうかもしれない、だがレベル不足を自覚したなら諦めて鍛え直す道もあった」

サトシ「これは俺の選択だ、そしてピカチュウもそれを分かってくれている」

タケシ「……確かにお前は勝利した、だがそんな勝ち方をいつまでも続けてはいられないぞ!?」

サトシ「ポケモンマスターになるためには敗北は許されない」

サトシ「――――許されないんだ」

~ハナダシティ~


カスミ「あー、アンタはあの時の!!」

サトシ「自転車の件はすまなかったな」

カスミ「すまなかったじゃないわよ!」

カスミ「なんで私を無視して逃げ出したのよ!?」

サトシ「ジム戦を控えていたからな……ああするしか無かった」

カスミ「もう、いつかちゃんと弁償させるからね!」

サトシ「ああ、今は……」

カスミ「分かってるわよ」

カスミ「ハナダジムのおてんば人魚、このカスミがお相手するわ!」

カスミ「いくわよ、マイステディ!」

スターミー「フゥ……」

サトシ「いくぞ、ピカチュウ」

ピカチュウ「ピッカ!」

カスミ「スターミー、水鉄砲よ!!」

スターミー「フウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」プシャー

ピカチュウ「ピッ……」

サトシ「避けるなピカチュウ」

ピカチュウ「ピカッ!?」

カスミ「えっ?」

ピカチュウ「ビカアッ!!」ドバッ

カスミ「な、なんで小手調べの技を敢て受け止めるなんて……」

サトシ「……」ニヤリ

カスミ(ヤバい、すごく嫌な予感がする!)

カスミ「スターミー、攻撃は中止よ!とまりなさい!!」

スターミー「フゥ?」ピタッ

サトシ「……流石だなジムリーダー」

サトシ「あと数秒で、水流を通して電撃を食らわせてやったものを」

カスミ「タフなエレブーならまだしも、その子は小さなピカチュウよ!?」

カスミ「そんな相討ち上等の無謀な反撃手段を選ぶなんて……」

サトシ「見た所そのスターミーは相当鍛えこまれている」

サトシ「残念ながら、俺のピカチュウのスピードでは追いつけない」

サトシ「攻撃を避けてからの反撃では簡単に回避されてしまうだろう」

サトシ「だから攻撃中の移動できない隙を突ける反撃手段を選んだ」

サトシ「ただそれだけの話」

カスミ「……ッ!!」

サトシ「さあ、俺のピカチュウはまだ動けるぞ」クイッ

ピカチュウ「ピ、ピカッ!」グッ

サトシ「バトルを続けようか」

カスミ「……最ッ低!!」

カスミ「全力でさっさを終わらせてあげるのがそのピカチュウのためね!」

カスミ「スターミー、バブル光線!!」

スターミー「フウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」ブクブクブク

サトシ「避けろピカチュウ」

ピカチュウ「ピッカ!!」サッ

カスミ「……今度は避けるのね」

サトシ「当たり前だ、不連続の泡の粒では受け止めて電撃を流す作戦は使えない」

カスミ「でも逃げ続けてるだけじゃ勝てない」

カスミ「スタミナ切れで動けなくなったところに直撃するのも時間の問題よ!」

サトシ「それも理解している」

カスミ「なら降参しなさいよ!」

カスミ「今のアンタが勝てる可能性なんてコレっぽっちもないんだから!」

サトシ「…………」ニヤリ

カスミ「えっ?」

サトシ「――――跳べ、ピカチュウ」

ピカチュウ「ピッカア!!」ピョン

カスミ「……アンタバカァ!?」

カスミ(逃げ場の無い空中にこのタイミングで飛び出すなんて自殺行為じゃない!)

カスミ「迎撃よスターミー!バブル光線!!」

サトシ(待っていた、このタイミングを……!!)

カスミ「ッ!!」ゾクッ

サトシ「今だピカチュウ、天井に向かって十万ボルト!!!」

ピカチュウ「ピッ……カアアアアアアアアアアア!!!」バリバリバリ

カスミ「えっ!?」

カスミ「スターミー待って、天井が崩れ……きゃあああああああッ!!」ガラガラガラ

スターミー「フゥゥゥッ……」シュタッ

ピカチュウ「ピカッ……」

サトシ「ピカチュウ、瓦礫に構うな!!」

サトシ「今はお前が狩る側、逃げ惑うスターミーを狙うなど雑作も無い!!」

サトシ「全力で十万ボルトを喰らわせろ!!」

ピカチュウ「ビガッ!?」ベキッ

ピカチュウ「ビッ……ガアアアアアアアアアア!!!」バリバリバリ

スターミー「フウウウウウウ!?」ジュウウウウウ

カスミ「スターミー!!」

サトシ「効果は抜群、直撃して耐えられるものではあるまい」

サトシ「ピカチュウ、まだ意識は保っているな?」

ピカチュウ「ビ、ビガ……」ボロッ

カスミ「スターミー!スターミー!!ああ……」ギュッ

サトシ「ならばこの勝負、俺の勝ちだ」

カスミ「……ッ!!」キッ

カスミ「相討ちみたいなものだけど……一応そっちの勝利は認めてあげるわよ」

カスミ「ほらジムバッジよ、持っていきなさい」

カスミ「だから早く……早くそのピカチュウをポケモンセンターに……」

サトシ「当たり前だ、あの大きさの瓦礫が直撃したんだからな」

サトシ「圧し潰されなかった分だけマシだが、まあ左半身の骨はほとんど砕けているだろう」

カスミ「簡単に言わないでよ!!」

カスミ「アンタの無茶な作戦で痛い思いをしたのはピカチュウなのよ!?」

サトシ「……お前はジムリーダーとして、いや、ポケモントレーナーとして」

サトシ「いったい今までどれだけのポケモンに苦痛を味あわせてきたんだ?」

カスミ「ッ!?」

サトシ「分かったのならば、俺たちのやり方に口出ししないで貰おうか」

カスミ「最ッ低……ポケモンを、自分のパートナーを道具みたいに扱って!!」

カスミ「わざと怪我を負うような指示ばかりだして!!」

カスミ「アンタなんかポケモントレーナー失格よ!!」

サトシ「……かもな」

サトシ「だが俺は勝利した、それが今回の結果だ」

カスミ「まだそんなことを!」

サトシ「そう、勝利という結果……それだけが全てなんだ」

サトシ「それだけが、俺たちには必要なんだ」

――――――そして時は流れ


~セキエイリーグ~


シゲル「誰かと思えばサートシくんじゃあないか」

シゲル「まさか初戦の相手が君になるとはね」

サトシ「…………」

シゲル「だんまりかい?」

シゲル「まあいいや、いけ!カメックス!!!」

カメックス「ガアアアメエエエエエエエ!!」

サトシ「いけ、ピカチュウ!」

ピカチュウ「ピッカ!!」

シゲル「まずは小手調べだ、ハイドロポンプ!!」

カメックス「ガメッ!!」ブシャアアアア

サトシ「避けろピカチュウ!!」

ピカチュウ「ピ……」グッ

ピカチュウ「ピガッ!?」ズキン

シゲル「え?」

カメックス「メエエエエエエ!!!」ズバン

サトシ「ピカチュウ!!」

ピカチュウ「チャー……」ボロッ

シゲル「おい、君のピカチュウ……さっき脚が……」

サトシ「…………」

シゲル「答えろよサトシッ!!!」

サトシ「……ポケモンセンターでの治療は受けさせている」

シゲル「ポケモンは機械じゃないんだぞ!?」

シゲル「大怪我を負えばそれだけ回復にかかる時間も長くなる!」

シゲル「そのピカチュウの脚の引き攣り……いや、それだけじゃない?」

シゲル「なんだ、なんだよその古傷の数……」

サトシ「…………」

シゲル「それによく見れば骨格から歪んでるじゃないか」

シゲル「どれだけ骨折を繰り返せばそうなるんだ、なあ!?」

サトシ「答える義務はない」

シゲル「なっ!?」

シゲル「……く、悪いことは言わない、そのピカチュウは早くボールに戻して他のポケモンを」

サトシ「俺の手持ちはコイツだけだ」

シゲル「……は?」

シゲル「それじゃ、君はその小さなピカチュウに8人のジムリーダーを倒す負担を全部押し付けてきたのか!!」

シゲル「いったいどんな無茶をさせたというんだいッ!?」

サトシ「…………ピカチュウ、十万ボルトッ!!」キッ

ピカチュウ「ビイィィ……ガアアアアアアアアッ!!!」バチバチバチ

シゲル「うわあああっ!?」

カメックス「ガ、ガメエエエッ!!」グッ

シゲル(あれ、不意を突かれて直撃した割にはダメージが?)

ピカチュウ「ピ、ピカ……」ブシュッ

シゲル「お、おい!そのピカチュウほっぺたの電気袋から血が」

サトシ「見ればわかる」

シゲル「そうじゃないだろ!?」

シゲル「さっきのハイドロポンプじゃそんなキズできて無かったじゃないか!?」

サトシ「……気にするな、古傷が開いただけだ」チッ

シゲル「自分の電撃の電圧に耐えられないほど電気袋が深く傷ついたピカチュウなんて」

シゲル「君はその子に今まで何をさせてきたんだ!?」

サトシ「別に……クチバジムでライチュウにくれてやっただけだ」

サトシ「限界まで電圧を上げた電気袋でメガトンパンチを敢て喰らって」

サトシ「破裂した電気袋から放たれた大電力で一気にライチュウを焼き尽くした」

シゲル「なんて酷いことをッ!!」

サトシ「うるさい!!」

サトシ「貴様らに……俺とピカチュウの何が分かる!?」ギロリ

シゲル「うっ……?」

サトシ「俺たちは負けるわけにはいかなかった、今までも、そしてこれらも!」

サトシ「ピカチュウと共にあり続けるために俺はどんな苦しみだって受け止めてやる!」

シゲル「苦しんでるのはピカチュウだけじゃないかッ!!!」

サトシ「俺がこんな命令を下して平気でいるとでも思っているのかッ!?」

シゲル「なっ……?」

サトシ「ピカチュウのことは俺が一番よく知ってるんだ」

サトシ「コイツの痛みも苦しみも、そして覚悟も!!」

サトシ「傷つく覚悟も、傷つける覚悟も無く遊びでポケモンバトルしてるような奴が……」

サトシ「俺たちの絆を、土足で踏みにじるんじゃねえッ!!!」

サトシ「ピカチュウウウウウウ!!十万ボルトオオオオオオオッ!!!!」

シゲル「ああああああああ!!!ロケット頭突きいいいいいいいいい!!!!」

ピカチュウ「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」

カメックス「ガメエエエエエエエエエエエ!!!」

――

―――――

――――――――


~マサラタウン~


サトシ「……ただいま、ママ」

ママ「あらサトシ、テレビ見てたわよ」

サトシ「…………」

ママ「初戦敗退だなんて、無様な結果を世間様に見せて」

サトシ「でもママ!!」

サトシ「俺、ジムリーダーをこの一年で8人も倒して、それで!!」

ママ「言い訳は聞きません」

サトシ「……ッ!!」

ママ「ママ言ったわよね?」

ママ「ポケモンなんかと遊んでるヒマはない」

ママ「お勉強して、いい中学に、いい高校に、いい大学に入らなきゃダメだって」

サトシ「でも……」

ママ「でもじゃありません!!」バンッ

サトシ「ひっ!」

ママ「……トレーナーとしての旅は学歴にプラスとして働くから許可したけど」

ママ「そこでポケモンマスターにならなきゃこれ以上はダメだって約束したわよね?」

サトシ「そ、それは……」

ママ「弱冠十歳でポケモンマスターになれば協会のお墨付きでジムリーダーや四天王に就職できるわ」

ママ「それを自分の人生だと選んだのなら、それを応援するぐらいの理解はママにもあるつもりよ?」

ママ「でもね、サトシは結果を出せなかった」

ママ「分かってる?」

ママ「トレーナーは才能社会、ここで初戦敗退するようなサトシじゃこの先絶対にやっていけないの」

サトシ「……」

ママ「旅に丸一年を費やして、その分みんなよりお勉強が遅れているのよ?」

ママ「復学は留年扱いで可能だけれど、サトシは自分の人生のスタートを一年分浪費してしまった」

ママ「これ以上トレーナーを続けて、役職にも就けないフリーでやっていくなんて許しません」

ママ「ママにはサトシの親として、サトシを立派な大人に育てる義務があります」

サトシ「わかってる、わかってるよママ……」

ママ「サトシ、ママは意地悪で言ってるんじゃないのよ?」

ママ「トレーナーとしての将来をいつまでも夢見てパパがどうなったか」

ママ「ママはサトシにずっと教えてきたわよね?」

サトシ「うん……」

ママ「それでもポケモンと一緒にいたいってサトシのお願いを、ママなりに最大限に聞いてあげた結果なのよ?」

ママ「大人になってもポケモンに関わる仕事をしたいというなら、トレーナー以外の職を選びなさい」

ママ「ポケモン研究家やポケモンドクター……そのためにもいい大学に入らなきゃならないの」

ママ「自分の人生を決めるために、今は我慢して頑張らなきゃいけない時期なのよ?」

サトシ「…………」

ママ「モンスターボールを出しなさい」

サトシ「ママ、それだけは……」

ママ「出しなさい!!」バンッ

サトシ「ひいっ!!」

サトシ「……はい」カチャ

ママ「ピカチュウはオーキド博士を通じて、遠い土地のブリーダーに預けるわ」

ママ「でないとサトシの勉強の邪魔になっちゃうものね」

サトシ「…………」

ママ「8年後、大学受験に合格したら返してあげる」

ママ「だからこれからしっかりお勉強しなさい」

ママ「ピカチュウにまた会うためにね」ニコッ

サトシ(ごめんなピカチュウ……俺はお前を守れなかった)

サトシ(いや、そうじゃない……)

サトシ(お前と一緒に居たいという俺自身のエゴを押し付けて、お前を苦しめてしまった)

サトシ(何度も傷つけた、俺がそうしろと指示を出した)

サトシ(それにピカチュウは全力で応えてくれた……)

サトシ(そうだ、これからピカチュウは戦闘の苦痛からは遠い世界で生きるんだ)

サトシ(そっちの方がピカチュウにとってもいいに決まってる)

サトシ「いいに……決まってるんだ……」

サトシ「俺なんかと一緒にいるより……ずっと……」

サトシ「さようなら……ピカチュウ」



~アニメ ポケットモンスター(完)~

メモ帳から発掘したモノを適当に仕上げて庫出し
当時考えていた残りのジム戦のプロットはほとんど覚えていない

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