346プロダクション 買収騒動 (88)

――346プロ 役員会議室

「そろそろ時間か」

美城専務が会議室でつぶやいた。
テレビ画面にはニュース番組が流れており、
346プロダクションの会長と役員一同が、その様子を凝視する。

「外資系ファンドのアイアン・パートナーズによるTOB会見。
東京ミッドタウンより生中継です。
現場の田中記者と繋がっております。田中さん!」

ニュース番組のキャスターが説明すると、
画面はスタジオから会見場に切り替わった。

「田中です。
間もなく会見がスタートする予定で……
あ! 今、アイアンの鷹野代表が来ました!」

ダークスーツの男3人が会見場に入って来ると、
壇上に向かって大量のフラッシュが焚かれた。
閃光を意に介さない様子で、彼らは壇上の席に着いた。

「アイアン・パートナーズ代表の鷹野です。
本日は御足労いただきまして、ありがとうございます」

鷹野が手短に挨拶を済ませた。
中央に座るこの男。
堅い印象を与えるスリーピース・スーツを着ており、
いかにも金融マンといった風貌だ。
眼鏡の銀縁が一瞬だけ輝いた。
鋭い眼光で周囲を見渡した。

「我が社は、
東証一部上場企業である株式会社・美城に対するTOB……
株式公開買い付けを実施します」

鷹野は報道陣に向かって宣言した。


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TOB会見の直後、
会議室全体は一瞬の沈黙に包まれた。
しかし、その沈黙はすぐに破られる。

「TOBだと!」

「我が社に対する宣戦布告ですぞ!」

「敵対的買収なのか!?」

役員たちは口々に不満と不安を漏らす。
会議室はざわめきで埋まった。

「落ち着きたまえ」

会長の一言で会議室は静寂を取り戻した。
濃紺のダブルスーツの両肩からは、会長の威厳が滲み出ている。
オールバックにまとめた白髪頭は、その威厳と合う。

「このTOBは敵対的買収ではなかろう。
むしろ友好的買収といえる。
専務。説明してくれ」

会長からのアイコンタクトに呼応して美城専務は頷いた。
そして、席から立ち上がる。
女性にしてはかなり大きい方だ。
すらりとした長身は迫力があり、
仕事着のダークスーツには迫力を増す効果がある。
直立して周囲を見渡した時、ボリュームがある長い黒髪の間で、
大きなエメラルドのイヤリングが少し揺れた。

「この会見の前に、アイアンとは事前に契約書を交わしています。
株式の2分の1以上を取得して経営権を掌握した際、
役員人事にはタッチしないといった契約です。
つまり、美城グループ全体は、今まで通りに運営されるわけです。
そればかりか、ハリウッドからアドバイザーが派遣されます。
我が社にとってはメリットばかりの取引なのです」

美城専務の説明を聴いた役員たちは、一斉にざわついた。

「普通議決権を取得しても行使しないわけか」

「それなら、何のために美城の株を買い占めるのだ?」

「専務! アイアンの思惑は何ですか!」

美城専務は役員たちからの質問に答える。

「企業価値を高める事で株価を吊り上げるのが目的でしょう。
美城株を安く買って高く売りたい……と考えられます」

美城専務は、そう言ってから着席した。

「会社を転売される事はあるのでしょうか?
どこかに吸収合併される可能性は?」

会長が、そう言った役員を見据えながら口を開く。

「吸収合併といった会社の組織改編には、
特別議決権が必要だ。
それを行使する為には、株式の3分の2以上を取得する必要がある。
その心配はなかろう。
株式の35%は美城一族がしっかり握っている。
言い換えれば、拒否権はこちら側が持っているわけだ」

会長は静かに説明した。

「こちらに拒否権がある限り、
あちらは特別議決権の行使は出来ません。
美城グループが解体される心配はないでしょう」

美城専務は言い放った。

「それなら大丈夫そうだな」

「こちらにとっては有り難い話だ」

役員たちは安堵の声を漏らした。
1月らしからぬ熱気の会議は、無事に収束した。

――TOB会見の翌日 346プロ 休憩室

外資系ファンドによって会社が乗っ取られるという話が、
346プロ全体に広がっていた。
学校から事務所に直行した346プロのアイドルたちは、
各々が学校帰りの格好で休憩室に集まった。
不安そうな表情を浮かべながら今回の騒動について語り合う。

「会社がなくなっちゃうの!」

「私達、アイドルが出来なくなるの!」

「そんなのいやだよー!」

10代の少女たちは、状況を悲観的に捉えている。

「シンデレラガールズはどうなっちゃうの!」

「美波さん! どうなるの!」

名前を呼ばれて、一人の女性がソファから立ち上がった。
真後ろでひとまとめにした亜麻色の長い髪を揺らしながら。
優しそうな垂れ目のせいか、メンバーの中で唯一の20代であるせいか、
周囲のアイドルたちより落ち着いた印象だ。
実直な性格が、コンサバティヴで控えめな服装にも表れている。

「みんな、安心して!
シンデレラガールズは今まで通り続けられるよ!」

アイドル・新田美波は仲間に呼びかけた。
アイドルグループ「シンデレラガールズ」のリーダーとして、
アイドル仲間の最年長者として、
皆を落ち着かせるため真剣に呼びかけた。
この一言によって、年下のアイドルたちは静まり返った。

「今の状況を説明するね」

美波は、会社が置かれた状況を丁寧に説明した。
皆の顔を見ながら、説得するように語りかけた。

「会社は大丈夫なんだ!」

「よかった!」

「アイドルを続けられるんだね!」

アイドルたちは安心して喜ぶ。

「……美波さんの説明……分かりやすかったです」

「さすがみなみん!
日商簿記のイメージキャラをやっているから経済に詳しいね!」

美波は照れくさそうに微笑んだ。

「もう! からかわないでよ!」

アイドルたちは普段の明るい様子に戻った。
楽しそうな雰囲気の中、わいわいと談笑する。
ただ一人を除いて……。
しばらくすると、買収騒動とは関係のない話で盛り上がった。
そうこう話している内に時間はあっと言う間に進む。

「そろそろ家に戻る時間だね」

美波は、壁掛時計を見ながら言った。

「そうだね」

「今日はすっかり安心したよ」

コートを着たり鞄を取ったり、各々が帰り支度を済ませた。

「あの……美波さん」

帰り際、一人の少女が美波を呼び止めた。

「卯月ちゃん。どうしたの?」

美波は振り返った。

アイドルの島村卯月は、
少し不安そうな顔を美波に見せた。
彼女の真丸い大きな目は、まっすぐに美波を見据える。

島村卯月は、いかにも女の子らしい性格と外見の持主だ。
栗色の長いくせ毛で、その一部を結んで左脇に束ねている。
カーディガンやフリルスカートといったフェミニンな服装は、
大人しい性格と合っている。
髪型や服装も相まって、少女らしい雰囲気を醸し出している。
そのせいか、不安そうな顔をすると他人の同情を誘う。

「あの、夕食を一緒に食べませんか?
事務所の近くにイタリアンがあるので……」

卯月は美波を食事に誘う。

「イタリアン? 別に良いけど」

こうして二人はイタリアン・レストランに行く事となった。

――イタリアン・レストラン

そのレストランは、
346プロから近い雑居ビルの一階にある。
内装はレンガ造りで落ち着いた雰囲気だ。
壁のレンガは、角が欠けているところも目立つから、
それなりに古くからある店なのだろう。

「卯月ちゃん。良い感じのお店を知っているのね」

「ここのスパゲッティは美味しいんですよ」

卯月は、入口に飾られている食品サンプルを指差した。
二人は、コートを脱いで脇に置いて、
壁際の席に向かい合い座った。そして、料理を注文する。

「私はカルボナーラがいいかな。卯月ちゃんは?」

「私は生ハムのスパゲッティを」

注文してから料理が運ばれて来るまで、卯月は一言も喋らなかった。
美波は心配して卯月の様子をうかがった。

「あの……美波さん」

卯月は、スパゲッティをフォークで巻き取りながら口を開いた。

「何かな?」

「うちのお父さん……銀行員なんですよ」

卯月は唐突に父の話を始めた。

「そうなんだ」

美波はきょとんとした顔で答えた。

「今回の件……アイアン・パートナーズ……
外資ファンドですか……その人たちの事を話してくれました」

卯月の表情が険しくなって行く。

「そ、それで、お父さんは何て言っていたの?」

美波はフォークを止めて訊ねた。

「経営が危ない会社を狙ってやってくる……
バルチャー・ファンドだって言っていました」

卯月はうつむいて答えた。

「バルチャーって……」

「ハゲタカです」

それを訊いた美波は、緊張して固まる。

「ねえ、美波さん……
うちの会社……346プロ……
本当は危ないんじゃないですか?
経営が危ないから狙われているんですよね?
私、なんだか心配です」

か細い声で、卯月は言った。

「た、たぶん、大丈夫だよ……
武内プロデューサーや美城専務がいるから……」

美波は自信なく答えた。

「本当に大丈夫なんでしょうか?
アイドル……続けられなくなったら……
私たちの居場所がなくなります」

「大丈夫だよ! たぶん……」

美波は、確定的な事を何も言えなかった。
その後、二人の間には食器が触れあう音だけが響いた。
店内は暖房が効いているけれど、美波は温もりを感じなかった。

――346プロ 武内プロデューサーの部屋

美波と卯月がスパゲッティを食べている頃、
チャコールグレーの背広を着た大男が一息ついていた。
346プロの中にある自室にて、椅子に座り込んで窓外を眺めながら。

「武内くん。ちょっと入っていいかな?」

「どうぞ」

武内と呼ばれた大男は、自室に客人を招き入れた。

「やあ」

タヌキのような中高年男性が入って来た。
茶色い背広とベージュのニットベストを着ている。

「今西部長」

武内は淡々と客人を部屋に招き入れた。
今西部長は、缶コーヒーを武内の机に置いた。

「コーヒー飲むかね。まだ温かいよ」

「ありがとうございます」

武内は会釈して缶コーヒーを受け取る。
今西部長は室内のソファに腰を下ろした。

「武内くん……アイアンの件ね……どう思う?」

ぼさぼさの白髪頭を掻きながら、
今西部長は武内に問い掛けた。

「上層部は『大丈夫だ』と判断しました……
私は上層部の意向を信じております……
というより、そうする他ありません」

今西部長は優しそうな目で武内を見つめた。

「ブルテリアソースとハコダテ麦酒……
これらの老舗企業が巻き込まれた買収騒動、
武内くんは知っているかい?」

今西部長は武内に訊ねた。

「ニュースで見た程度ですが」

武内は簡潔に答えた。

「そういう買収にアイアンが絡んでいるんだよ。
いずれの件もかなり強引なやり方で進めている。
ブルテリアソースとは最高裁まで行って争ったねえ」

今西部長は、背広のポケットから缶コーヒーを取り出し、
蓋を開けてすすり出した。

「うちとの取引は穏便に済ませています」

武内は率直な感想を述べた。

「どうもねえ……引っ掛かるんだよねえ……
話が美味すぎると思わないかい?」

今西部長は目を見開いた。

「そう……ですかね?」

武内はうなじに手を当てて答える。
返事に困ったような反応を示した。

「世間ではねえ……
『乗っ取り屋』『モノ言う株主』などと言われているのだよ。
そんな外資ファンドの割には……行動が大人しすぎないかな?
経営権にはタッチしない。こちらにはアドバイザーを送り込むだけ。
何か……いつものやり方とは違う気がするんだよねえ……」

今西部長は、そう言ってから缶コーヒーを一気に飲みほした。

――TOB会見の1週間前 アイアン・パートナーズ 会議室

「これより、キックオフミーティングを始めます」

ホワイトボード脇に座る女性が、宣言した。
彼女は、肩まで伸ばした金髪を真後ろに束ねており、
ビジネスマンらしいパンツスーツを着ている。

「司会進行は、エイプリル・ザラが勤めさせて頂きます」

彼女は、流暢な日本語で自己紹介を済ませた。

「それでは、鷹野さん。どうぞ」

エイプリルに呼ばれ、上座の鷹野が立ち上がった。

「今回のディールの相手は、株式会社・美城。
伝統ある興行企業です。
美城の説明を始めてくれ……エイプリル」

エイプリルは、手元のパワーポイントを操作して、
レーザーポインターを右手に持った。

「株式会社・美城は、演劇の興行から始まった会社です。
映画が普及してからは、映画事業にも着手しています。
その後、映画や演劇に出演させる役者を育成するために、
芸能プロダクションを開始。
現在、モデルやアイドルなど幅広い芸能人を抱えております」

スライドを切り替えながら説明した。

「あー、美城といえば『ガジラ』が有名だ。
最近だと『シンガジラ』が大ヒットしましたねえ」

「アニメ映画も盛んですよ。
『貴女の名は』も記録的なヒットです」

会議室にいるビジネスマンたちが、口々に感想を述べた。

「主な事業はどういったものがあるのですか?」

安そうなスーツを着た新人が質問する。

「映画制作会社の346映画、
芸能事務所の346プロダクション、
主な事業はこの二つです。
他にも、映画館やレンタルスタジオもやっています。
渋谷や六本木に346シネマズって映画館ありますね?」

エイプリルが問い掛けた。

「あ、知っていますよ。
へえ、結構手広くやっているんですね」

新人が答えた。

「それで、今回のディールの目的は何です?」

高そうなスーツを着た中年が質問した。

「それについては、私から」

鷹野が立ち上がった。

「今回のディールの目的は……
美城とアンクルサムの合併です」

会議室内がざわついた。

「アンクルサム」

「ハリウッドの大手映画会社ですな」

「ずいぶん大きなバックを持ってきましたね」

ざわめきが止んでから、鷹野は説明を続けた。

「アンクルサムはアジア地域へ進出したがっている。
そのための拠点が欲しいわけです」

「橋頭堡が欲しい、と」

中年ビジネスマンが呟いた。

「つまり、そういう事ですね」

鷹野は簡潔に答えた。
それに対し、中年ビジネスマンは渋い顔をした。

「財務分析担当の立場から言わせてもらいますが。
そのプラン、無理があるのでは?
美城は親族経営の会社、典型的なファミリーカンパニーです。
合併に必要な特別議決権は、創業一族がしっかり握っています。
株式を買い付けても……
プロキシーファイト(議決権争奪戦)はどうするのですか?」

中年ビジネスマンの問いかけに対し、
鷹野は不敵な笑みを返す。

「その点に関しては心配不要です。
美城一族に『協力者』がいますから!」

鷹野が宣言すると、会議室は再度ざわついた。
静寂を取り戻した後、鷹野は説明を続ける。

「アンクルサムと水面下で交渉を進め、
うちにプランを持って来たのは、その『協力者』です。
我々にとっては強力な味方。
今回の件、すでに裏ではシナリオが進んでいます。
今後もシナリオ通りに話を進めるだけです」

――TOB会見から3ヶ月後

美城株の7割をアイアンが掌握した。
そのとき、346映画社長の美城礼一は、
自身が掌握する美城株8%をアイアン側に委任すると発表。
アイアンと346映画は協力し、
アンクルサムと株式会社・美城の合併を推進すると発表した。

――合併計画発表後 346映画 社長室

「おまえから来るなんて……珍しいじゃないか」

冷静な態度で来客を迎えた礼一は、
ワイシャツの襟と青いネクタイを整えながら、
社長室に入って来た美城専務の顔を凝視する。
専務の表情は複雑で、
眉間にしわを寄せて、
驚きとも怒りとも取れる面相になっていた。

「兄さん! これはどういう事ですか!」

専務は、社長室の机に雑誌と新聞を叩きつけた。

「ああ、俺が合併を発表した経済紙ね。
どうもこうも……そこに書いてある通りだよ」

礼一は机上の経済紙を指差して言った。

「じゃあ、こっちの雑誌はなんですか!
『美城一族の御家騒動』ってどういうことです!」

礼一は専務の動揺ぶりをみて、冷笑した。
紺色のスーツの胸元を小刻みに震わせながら。

「それ……『週刊文秋』だろ。
そんなのは想像で面白おかしく書いているだけだよ。
俺はね、御家騒動なんてくだらん事は考えていないさ」

礼一はため息を漏らした。

「アイアンは経営にはタッチしないはず……
しかし、これでは美城が乗っ取られる……
なんで……兄さんはこんな事をしたのです」

専務は困惑したような表情で礼一を見つめた。

「乗っ取りじゃないよ。
経営権に関しては俺たちのグループが掌握する。
美城内部の人間が手綱を握るわけだよ。
今までグループ内はばらばらだったろう?
それを統一しようというわけだ。
アンクルサムとの合併はその一環に過ぎん」

礼一は、肘掛けに手を置いたまま専務を見つめる。
そして、美城が置かれている状況を述べた。

「これがどういう事か分かっているのですか?」

専務が問い掛けた。

「どうって?」

「美城グループで内戦ぼっ発……というわけですよ」

「内戦……というより……
クーデターといった方が正しいだろうな」

礼一は「クーデター」とはっきり宣言した。

「どうして……こんなやり方しかなかったのですか?」

専務は悲しそうな表情を見せた。

礼一は、机上に両肘をついて前のめりになり、
自身の顎の前で両掌を組んだ。
そして、自身の考えを述べる。

「革命というと大げさかもしれんな。
なんにせよだ……
物事を変えるには急進ではダメなのだよ。
二・二六事件を知っているか?
学生運動の左翼学生たちを知っているか?
三島由紀夫の決起を知っているか?
どれも急進すぎたからダメだったろう。
決起して急かしたらダメなのだよ。
日本の人と組織は、そんなのじゃ変わらない。
既存の枠組みの中にいながら変えようとしないと、
誰もついて来ないのだよ。
だから、水面下で静かに動く事が大切だ。
ひっそりと根回しをして状況を作り出すわけだ。
そうして、気が付いたら事態は変わっている。
……クーデターは静かに行われるのだよ。
俺はそうしたから巧く行った」

専務は礼一をにらみつけた。

「兄さんのやり方は、独断専行です。
皆と協調して会社を盛り上げる気はなかったのですか」

礼一は鼻で笑った。そして、立ち上がる。

「協調! 何が協調だ!
そんな段階はとっくに過ぎているんだよ。
俺が改革案を出して、美城の連中はどうした!
俺は国内だけ見ていてもダメだと言い続けてきた。
海外進出を重視しよう!
国際的に通用するコンテンツを重視しよう!
……そんな事は散々言ってきた。
だが、誰もまともに聴いちゃくれない……
保守的な美城の連中は、自己保身と現状維持ばかりで、
外に出る事を拒み続けてきたわけだ。
そんな連中と協調……何を今更!」

「兄さんは、親族に対しそう思っていたのですか」

「そうだな」

少し間を置いてから、礼一は話を続けた。

「もはや、美城は中からの力だけでは変わらん。
俺はその事を悟ったのだよ。
だから、外圧を呼び込んだ」

「外圧……まさか……」

「アンクルサムを招いて、
アイアンを呼んで、外圧をかけた。
すべて俺が仕組んだ事だ。
黒船を呼んだのは、この俺だ。
そうしないと、美城は変わらんからな」

「兄さん……そこまで思い詰めていたなんて……」

「美城を国際的に通用するブランドに育てる。」
それが俺の決意だ。
そうだな……そのためには、まず……
おまえがやっているアイドル部門の見直しは必要だな。
くだらんアイドルなどブランドに泥を塗るだけだ。
女優として通用する者だけを残す」

「そ、それは……ちょっと待ってください」

専務は慌てふためいて抗議しようとした。

「待たない。何を言っても無駄だ。
俺のやり方で346プロにもメスを入れていく!」

「勝手すぎます!
アイドル部門は、私が育てた部門です!
当初、体制づくりには軋轢もありましたが……
今は巧くまとまっているのです。
どのアイドルも活き活きと頑張っています。
そういう環境を整えたのですよ!」

専務は声を荒げて抗議した。

「何といおうが、アイドルなんてくだらないね。
ガキともてない男の為のなぐさみ者じゃないか!
そんなものは、俺が作り上げるブランドに不要だ」

礼一は愛用の腕時計を見た。
黒革ベルトで手巻き式のグランドセイコー……
日本刀のように鋭い菱形の時分針は、
厳格に時刻を示している。
機械式時計の滑らかに進む秒針は、
連続的な時間の進行を表す。

「何とかならないのですか……」

専務は肩を落とす。

「もう時計の針は動いている。
これからは俺のシナリオ通りに進む。
時間に身を任せていればいい。
おまえは優秀な人間だから、
それなりのポストを用意するよ。
ま、話し合いは、この位でいいだろう。
俺も仕事があるから、これ以上は今度にしてくれ」

専務は、うな垂れながら社長室をから出て行った。

読んでくださった方々、ありがとうございます
デレマスの「346プロ」つまりは「会社」に注目したSSです。
中盤以降、美波が中心人物になってきますが……

今日はプロットポイント1までです。
続きは明日以降公開していきます。
全部で3日くらいは掛かるかもしれません。

ハゲタカかな?
NHKのドラマ好きだったわ

みなさん、読んでいただきありがとうございます
今日も再開します
よろしくです

>>28
ハゲタカの影響はかなり受けていますね
映画版・ドラマ版と何度も観ました

――その日の夜 346プロ 駐車場

黒塗りのBMW・サルーンが1台やって来た。

「やあ、どうも鷹野さん」

礼一は、後席から降りてきた鷹野に挨拶した。
美城礼一は、彼の妹をそのまま男にしたような人物だ。
大きな体で、がっしりした肩を持ち、
細面で目鼻立ちがはっきりしている。
外見のせいか、何気ない挨拶さえも鷹揚に見える。

「こんばんは美城社長。
それと、そちらが新田さんですね?
写真で見るよりずっと美しい」

礼一の横には、新田美波が立っている。

「はじめまして鷹野さん。
私を交えて3人で話がしたいそうですが……
どういう用件ですか?
私はアイドルです。ビジネスはよく分かりません。
それでも良いのでしょうか?」

「今日は私たちの事……
それと、今後の事を知って貰いたいのです。
そのためにお呼びしました。
堅苦しい商談などではありませんので……
どうか、気軽に構えてください。」

そう言った礼一は、美波をBMWの後席に案内し、
自分は美波の隣席に座る。鷹野は助手席へと移った。
スーツ姿のビジネスマン2人と私服のアイドルが1人……。

「豪華な車に乗っていますね。
外資系ファンドって景気が良いのですか」

美波は皮肉を込めて言った。
鷹野は、美波の顔を見ながら微笑した。

礼一は、美城グループの状況を、車中で色々と話した。
長年の邦画不振で売り上げが落ちていた事。
銀行から言われるままに融資を受け入れ、
建物や家具を立派にして見栄を張っていた事。
赤字補てんや過剰融資によって、
ひどい債務超過に陥っている事。
……主に会社の惨状について説明した。

「美城一族の経営能力はあてになりません。
だから、僕はアンクルサムと組んで、
美城グループを立て直すつもりです」

美波は、礼一に力強く見つめられた。
鋭い目は気圧されそうな迫力を発しており、
ぎらついた瞳は野心に満ちている様に見えた。
今の美波には、礼一たちが味方かどうか分からない。
ひとつ分かった事は、
礼一が美城グループ全体を立て直したい気持ちは、
本気であろうという気迫だけであった。

「新田美波さん。
あなたのように美しく聡明な方は、
新生・美城グループでも活躍すべきです」

礼一と美波は、互いの目の中を覗き込んだ。
目を見る限り、礼一が真剣であると、美波には思えた。

「な、なんか、照れますね」

美波は、顔を赤らめて礼一から目を逸らした。
期待……それは恋慕や憧れとは異なる熱意だが、
それを男性から向けられてしまうと、
どうしても緊張してしまう。
新田美波は、多くの男性ファンを持つアイドルだが、
対面した男性から熱意を向けられる事に慣れていない。
群衆と対峙する時とは異なる緊張……
個人が発する熱意の迫力を、美波は強く感じた。

「アンクルサムとの合併が済んだら活躍できる。
それは新田さんだけじゃないでしょう。
美城社長! あなたもそうだ」

前を向いたまま鷹野が、話に割り込んできた。
礼一は鷹野の方を見ながら頷いた。

「債務の処理は進んでいるのですよね」

礼一が鷹野に訊ねた。

「MFJ銀行、三友銀行、城西信用金庫……
これらの債務は片づけました。
必要な金はアンクルサムが出資している。
我々も儲かったし、美城も身軽になった。
ま、約束通りの仕事をしただけです」

鷹野は、フロントガラス越しの夜景を見つめたまま、
自慢する様子もなく淡々と話をした。

「どういう事ですか?」

美波が、礼一と鷹野を交互に見ながら訊いた。

「アンクルサムとの合併の際、
美城グループの債務をアンクルサム側が処理する……
そういう約束があるのですよ。
アンクルサムだって、
借金だらけの会社とは組みたくないでしょう。
合併は美城にとって好条件な話なのです」

礼一が説明した。

「ま、アンクルサムにとっても良い話です。
債務整理だけで拠点確保できるのであれば、
そんなに高い代償ではないでしょうから」

鷹野が事務的な口調で状況を述べた。

――東京ミッドタウン リッツカールトン東京

東京ミッドタウンにある高級ホテル……
3人を乗せたBMWは、そこの車寄せに停車した。
ホテルマンが車の方に駆け寄って出迎える。

「ここのラウンジは最高でしてね。
新田さんも気に入ってくれるはずです」

鷹野が、美波を見ながら言った。
車を降りた美波は、玄関に敷かれたマットを見た。
獅子の紋章が大きく描かれており、
滑らかに照り輝く石造りの床と調和している。
ここが特別に高級なホテルである事は、
入口に立っただけで理解できた。
美波は、慣れない空間へ入る事に少し戸惑う。

「気軽に行きましょう」

先に行っていた鷹野が、
振り返って美波にそう言った。
美波は、鷹野の後ろについて歩いた。
廊下を進んだ先にはエレベーターが並んでいる。
出入口の扉は、鏡面加工が施された金色で、
煌めきの中に美波たち3人が映し出された。

「いつもの格好ですけど……私も大丈夫ですか?
ドレスコードに引っ掛かったりしません?
お二人はスーツだから大丈夫でしょうけど」

心配した美波が、鷹野に訊ねた。

「その格好なら大丈夫でしょう。
青いブラウスとベージュの膝丈スカート……
良い色の組合せです。
マローネ・エ・アズーロというのですが、
青と茶の組合せは、イタリアで好まれていますよ」

鷹野は、小さなうんちくを交えながら、美波の装いを褒めた。

エレベーターが到着した。
扉が開くと、
大型獣が発する唸りのような音が、
エレベーターの入口から響く。
美波は一瞬だけ怖気づいたが、
内ドアと外ドアの隙間から吹き上がる風を受け、
エレベーターシャフトを通る気流の音だと気付いた。
エレベーターのドアが閉まると、
客室内は密閉されて、気流の音はぴたりと止んだ。

鷹野は、最上階にあるラウンジ行きのボタンを押した。
エレベーターがゆっくりと動きだし、次第に加速する。
美波は、加速感と共に鼓膜に膨張感を感じた。
低音の耳鳴りがしばらく続く。
高層ビルのエレベーターに乗ると起こる現象で、
気圧差によって起こる。
美波は、地上と異なる世界に登っている実感を、
そうした現象から感じ取った。

エレベーターがラウンジに着いた。
扉が開くと、にぎやかな気配が流れ込んできた。
美波たちはエレベーターから降りる。

「わあ……すごい……」

ラウンジに着いた美波は、感嘆の声を漏らした。
3階建てのビルくらいありそうな高い吹き抜け。
ラウンジ内に並ぶ豪華な調度品。
高級そうな数々の家具。
それらを内包した空間は、
美波にとって非日常の場であった。
外側の壁面は全て窓になっており、
東京中の夜景を一望できる。
美波は巨大な窓の近くへと駆け寄って、
レインボーブリッジと高層マンション群を見た。
都心にありながら、湾岸の夜景がよく見える。
他の位置からは、窓外に渋谷や六本木が見えるようだ。
ここは空の上に造られた宮殿……

美波にはそう感じられた。
ラウンジ内は適度な明るさで、
視界と夜らしい薄暗さが、同時に確保されている。
間接照明により照らされた空間で、調和する光と影。
光の部分が空間に温もりを与え、
陰の部分が空間に奥ゆかしさを与えている。

「綺麗で落ち着く空間ですね」

美波は、鷹野に笑顔を向けながら言った。
鷹野は満足そうに頷いた。

三人は、ラウンジ内にあるソファに座った。
ちょうど3人分の席があり、
その席は、黒い円卓を囲っている。

「さて、何か飲みましょう。
新田さん。お酒は飲めますか?」

鷹野が訊ねた。

「ええ、大丈夫です」

美波はアルコールドリンクのメニューを手に取った。

「僕はマティーニがいいかな。
鷹野さんと新田さんは?」

鷹野と美波は、同じ酒で良いと答えた。
メニューをホテルマンに返して、しばらく待つ。
待っている間、
3人は346映画のヒット作について話をした。
去年はヒット作に恵まれていた、と礼一は喜んだ。
そうこう話している内に、ホテルマンが戻ってきた。

「マティーニでございます」

円卓の上にカクテルグラスが3つ置かれた。
霧の様に白濁した酒……ピンに刺さった緑色のオリーブが沈んでいる。

「カクテルでしょうか……何が入っているのです?」

美波が周囲の二人に訊いた。

「ジンがベースで、ベルモットが少し入っています」

鷹野が答えた。

「マティーニといえば、
ジェームズ・ボンドを思い出します。
あれはウォッカベースのウォッカ・マティーニだけど」

礼一が、マティーニを啜りながら言った。

「007みたいな映画……
346映画でも作ってみたいと思いますか?」

鷹野が、礼一に問い掛けた。

「世界的に通用する映画を作りたいですねえ。
カッコよくて皆が憧れる……
そんなキャラクターを輩出したいものです」

礼一は真剣な顔で答えた。

「新田さん……
ボンドガールみたいな役はやらないのですか?」

少し茶化した様子で、鷹野が言った。

「わ、私が!」

美波は、驚いた様子で鷹野を見つめた。

「新田さんなら出来るでしょう!
世界に通用する日本人女優になれますよ!
私はそう思います!」

礼一は、美波の顔を見つめて言った。
美波は突然の話にどぎまぎした。
照れるというより、困惑してしまった。
自分が世界的女優になるなんて、想像できない。
美波は、アイドル活動を日々頑張る事を考えていたが、
大女優になるという大それた野心は抱いていなかったからだ。
それに、こんなに大きな野心を勧められた事もなかった。
二人がする話は、あまりにもスケールが大きすぎると思える。
想像できないほど大きな野心、
それを目の前に提示される突然の事態。
美波には、困惑する事しか出来なかった。

「私には無理ですよ!」

美波は、慌てた様子で反応した。
唐突な野心の勧めに対して、狼狽しか返せなかった。
……気分を落ち着かせようと思った美波は、
マティーニを一口啜ってみる。
初めて口にするそれは、ほろ苦かった。

「新田さん……
突然こんな話をされても、驚くのも無理はないですよね。
ですが、大げさな夢物語じゃないのですよ。
アンクルサムと合併すれば、
ハリウッドとの太いパイプが構築できる。
美城グループからハリウッド女優を出す事だって、
十分に可能性がある話なのです!」

礼一は、射抜く様な鋭い視線を送りながら、
美波に対して熱弁をふるった。
美波は、礼一の真剣な顔から目が離せなかった。

「私がハリウッドに……」

美波は少し冷静になって、想像してみる。
ハリウッド女優になった姿、
ハリウッド映画に出る自分自身、
レッドカーペットの上を歩く様子、
そうした情景を思い描いてみた。

すると、美波の心中を占める感情は、
困惑から期待へと変化していった。
(ハリウッド女優も悪くない……)
そう思えるようになった。
しかし、ひとつの心配が、
美波の心に引っ掛かっていた。

「女優業も楽しそうですね。
ハリウッド……海外……
新しい世界を想像するとわくわくします。
ただ……ひとつ気になるのです。
女優になるという事は、
アイドルを辞めるという事ですよね?」

「そういう事になりますね」

美波の問いに礼一が答えた。

「アイドルを辞める……それは困りますね。
今、私が一番夢中になれる事は、アイドル活動ですから。
それに、アイドルを突然辞めたら、
仲間もファンの皆さんもがっかりするでしょう。
それはどうかと思います」

美波は今現在の気持ちを述べた。
現在、実際に就いている仕事が、
女優業への憧れにブレーキを掛けた。

「アイドルより女優の方が充実しますよ。
新田さんの様な方を、アイドルにしておくのは惜しい。
ぜひ、女優へ転身してください!
そうすれば、今まで以上に活躍できるでしょうし、
新しい道だって開けるはずです!」

礼一は力説した。
新田美波は、アイドルでいるより女優になるべきだ、と。

「う、うーん……
女優に転身しろと言われましても、
急には決められません!」

美波は強い口調で「待った」を掛けた。
礼一は、決断を迫っている様に見える。
鷹野は、美波と礼一のやり取りを傍観している。
美波は、急に答えなんて出せずにいる。
美波の心中は、再び困惑に支配された。

「私が考える新生美城グループでは、
アイドル部門を重視しません。
世界的で通用する役者の育成を重視します。
新田さんは、私たちの船に是非乗って貰いたい。
急にピンと来ないかもしれませんが、
あなたなら良い役者になれるでしょう」

礼一が話すこの計画を聴いて、
美波の中にひとつの心配事が浮かび上がった。

「あ、あの……
役者として世界に通用しない人……
あくまでアイドル向きの人は、どうなるのですか?」

美波は、不安な表情を浮かべながら訊ねた。

「アイドル部門は大幅に縮小するつもりです。
なので、芸能活動を辞めていただく方も出るでしょう。
今の346プロダクションには、アイドルが多すぎます」

礼一が言うこの話は、要するにリストラ……
しかも、大幅な切り捨てを伴うリストラである。
美波はこの話を聴いて呆然とした。

「話が単刀直入すぎるのでは?
もう少しクッションを入れて伝えたほうが、
彼女のショックは少なかったでしょう」

今まで傍観していた鷹野が、礼一に苦言を呈した。
眼鏡のレンズの奥に見える目付きは、
少し呆れている様にも見える。

「いずれはっきりする事ですよ。
伝えるなら早い方が良いと思いました」

礼一は、鷹野に反論した。

「ま、それも自由でしょう。
貴方の会社の事ですから」

そう言って鷹野は鼻で笑った。

「私には私のやり方がある」

威厳をちらつかせる様に、礼一が言った。

「美城の経営は貴方にお任せします。
人材の勧誘も同じくです。
我が社は、株式と資金繰り以外には関与しません」

鷹野は、そう言ってからマティーニを啜った。
そして、ピンに刺さった緑色のオリーブを、一口で食べた。
美波はうつむいたままでいる。

「新田さん。ショックを受けていますね。
お気持ちは分かります。
アイドル仲間の何人かは辞めるでしょうし、
今とは異なる活動をする人も多いでしょう。
ですが、そういう事も美城の変革に必要なのです。
どうか御理解していただきたい……」

礼一は、美波に対して説得を試みた。


「あの……急な話で……
私、どうしたらいいか分からなくて」

そう言った美波の目は泳いでいた。

「アイドルを辞めて何をするのか?
新生・美城で女優をやるのか?
普通の女子大生に戻るのか?
決めるのは貴女次第です。
今すぐ決める事ではありませんが。
時間は常に進んでいますから、
やがて決断の時がやって来ます」

礼一が現実を突きつけた。

美波は、左腕に着けた腕時計を見た。
両親から成人祝いに貰った腕時計……
ロレックスのオイスターパーペチュアル。
秒針は連続的な動きで青い文字盤上を進んで行く。
時間は確実に前進する。
美波は焦燥を感じた。

「今すぐには決められません。
少し時間をください」

美波は、礼一の真剣そうな目を見ながら言った。
とりあえず、この場は「保留」という形で、
何とか事態を収めた。
だが、所詮は一時しのぎに過ぎない。
美波は、大きなうねりの中に巻き込まれて、
決断を迫られる身となった。

――翌日 346プロ 小会議室

四角いガラステーブルの周囲に、
事務椅子が6脚並んでいる。
美波は一番右奥の席に座った。
美波の対面には武内プロデューサーが座り、
両者の間の席には今西部長が座った。

「礼一くんと飲みに行ってきたんだってね」

今西部長が、美波に問い掛けた。
美波は、昨日の事を詳細に話した。
ですか
「アイドル部門の縮小……」

武内は困惑したような態度を示した。

「礼一くんは相変わらずパワフルだね」

今西部長は苦笑した。

「この会社はどうなっているのですか?
これからどうなるのでしょう?
それに……なぜ、アンクルサムが出てきたのでしょうか?」

美波が、今西部長に訊ねた。

「色々な疑問があるようだね。
無理もない。突然の話で君は困惑しているだろう。
うん、ひとつひとつ答えていくよ。
今、この会社は礼一くんの指揮下に入ろうとしている。
彼の考えは、美城グループの統一だからね。
そうなれば、アイドル部門は縮小せざるを得ない。
アイドルとプロデューサーの中には、
離反して他社へ移る人も多数出て来るだろうよ。
それと、礼一くんとアンクルサムの関係だね……
彼はハリウッドに居た事があるんですよ。
在米時、アンクルサムのゴードン会長に気に入られた。
そのときからパイプが出来ていたんだろうね」

「そういう事情なのですね」

美波は、今西部長の話を訊いて頷いた。

「新田くん……君はどうしたいのだい?」

今西部長は微笑みながら質問した。

「え、私ですか……私は……」

美波は、昨日から決断できずにいた。

「君がどうしたいのか、
君にとってはそれが重要なんだよ」

今西部長は、美波を見つめながら言った。

「私は……女優業への憧れもあります。
しかし、アイドルの仕事をないがしろには出来ません。
ファンや仲間の人を見捨てる……それは出来ない」

美波は、心中の葛藤を告白した。
今西部長は黙って頷いた。

「新田さんは迷っているのですね。
でも、今はアイドルに専念したい、と」

武内が、美波の気持ちを整理して説明した。

「そういう感じです」

美波はうつむいたまま答えた。

「今は様子を見ましょう。
これからの動き次第では最善策も変わってくるでしょう。
新田さんは、状況を常に見て、最善の道を選んでください」

今西部長は決断を急かさなかった。

美波は、今西部長と武内を交互に見て、
首を縦に振った。

「急に決める事ではないですよね。
部長さんの言う通りだと思います」

美波は、現状を整理して落ち着きを取り戻した。

「専務はどうしているのでしょう」

武内が呟く。

「彼女は……
どうやら346プロを独立させる気だよ。
兄妹揃って独立心は強いからねえ……
兄の支配下には入りたくないんだろう。
そのために奔走しているよ……だが」

今西部長が残念そうな顔をした。

「だが?」

武内が続きを求めた。

「……金融機関との交渉が難航しているようだ。
美城グループは礼一くんの派閥に掌握された。
つまり、専務は美城の後ろ盾を失っているんだ。
この状況では、金融機関からまともに相手にされないよ。
うちのプロダクションの資産は、そう多くない。
グループから独立してやっていく程の力はないだろう」

「結局、礼一社長の支配下になるわけですか……」

溜息をついた美波は、心の中で諦観する。

「いや、まだ諦めるのは早いよ。
こっちにも策はある。まだ公開するタイミングではないが……」

今西部長が目を見開いた。

――346プロダクション社用車 車内

社用車のセダンには、
運転手として専務の部下が乗っている。
背広姿の小男で、専務直属の新人事務員である。
新人ゆえに、運転手役などの雑務を任される事が多い。
彼は、車に戻ってきた専務に声を掛ける。

「専務……どうでした?」

「またダメだった。
軽くあしらわれて、全く相手にしてもらえなかった」

美城専務は、社用車の後席で溜息をついた。
美城の威光を失った専務は、
どこの金融機関からも全く相手にされなかった。
融資や出資を受ける為、事業プランを持って行っても、
書類を読んでさえくれない。

「私は無力だな。
今までグループの威光に頼っていた。
それを自分の力と勘違いしていたかもしれない。
今回の事で、それが身に染みて分かったよ。
美城に力があったから、銀行は協力していたのだ。
私なんて……ただの手駒だったのだ。
専務なんて肩書は、
メッセンジャーの肩書に過ぎなかったわけだ」

専務は自嘲しながら言った。

「そんな……自信をなくさないでください。
専務らしくないですよ!」

部下は、専務の方を振り向いて、強い口調で言った。

「結局は兄さんの掌の上で踊るわけか」

専務はうつむきながら呟いた。

――半月後 346プロ 武内プロデューサーの部屋

346プロはグループ本社からの書類を受け、
その内容に衝撃を受けた。

「346プロ 再建計画書……ですか」

渋い顔をした武内が、内容を改めている。
椅子に深く腰掛けており、一見落ち着いているが、
表情には焦りが見え隠れしていた。

「要するにリストラ案だね、これは。
礼一くんの一派が、動き出したわけだ」

今西部長が、缶コーヒーを啜りながら答えた。
前屈みになってソファに座りながら。

管理職各位とプロデューサー各位に配られた書類で、
346プロ全体は騒然となっている。
武内は、アイドルの人事に関する項目を読んだ時、
困惑した表情になった。
なぜなら、プラン通りに話を進めて行けば、
かなりの数のアイドルを切り捨てる事になるからだ。
この書類は、プロデューサーに冷徹な決断を要求している。

「この書類、どうするつもりだい?」

今西部長は、武内に訊ねた。

「今の所は、私の手元に隠しておきます」

武内は、机の引出の中へ書類を放り込んだ。

「アイドルたちには知らせないのかい?
いずれは知らせる時が来ると思うけど……
それは何時にするつもりだい?」

今西部長が訊いた。

「わかりません……」

「実はね……アイドルたちの間では、
これに関する噂が大分拡がっているんだよ
プロデューサーの誰かが、皆に話したのかもしれない。
管理職が廊下で話しているのを、誰かが聴いたのかもしれない。
あるいは……誰かが意図的にリークしたのかもしれない。
まあ、出所は分からないが、確実に噂が拡がっている。
しかも、アイドルの選別が行われる、という形で拡がっている。
……アイドルたちの不安を煽る形だね。
これは私の個人的意見だけど……
不明確なまま噂を放置しておくのは、まずいんじゃないかな?
いっそ正確に事態を伝えたほうが、混乱が少ないかもしれないよ」

今西部長の提案を聴いた武内は、即答を控えた。
彼は、椅子から立ち上がって窓外を眺める。
今西部長に背を向けたまま、時間が過ぎていく。

部屋のドアをノックする音がした。
それに続いてドアが開き、
同時に強い呼び声が発せられる。

「プロデューサー!」

武内は振り返ってドアを見た。
新田美波が立っており、
彼女は強張った表情をみせている。

「話は聴いています!
再建計画書! 見せてください!」

美波は、興奮した様子で、
武内の目前まで歩いてきた。

「ちょ……ちょっと、新田さん!
落ち着いてください!」

武内は、美波をなだめようとした。

「礼一社長がアイドルの人事案を渡した話ですよ!
もう私たちにも拡がっています!
シンデレラガールズのメンバーは、
みんな動揺していますよ!
いっそのこと、はっきり見せてください!」

美波は、武内に強く訴えた。

「こうなってしまったからには、
もう公表したほうが良いようだね。
新田くん。君はまず落ち着きなさい。
君まで動揺していたら、
他の子はもっと動揺するでしょう」

「す、すいません……」

今西部長の一言で、美波は落ち着きを取り戻した。

「分かりました……
隠し通して皆の不安を煽る位なら……
いっそのこと公表しましょう」

武内は、机の引出しから再計計画案を取り出した。

「噂の書類ですね。
それを持って私たちの所まで来てください」

美波は、武内を部屋から連れ出す。
今西部長はその後について来た。

――346プロ 休憩室

美波に連れられた武内は、休憩室までやって来た。
そこはアイドルたちの集会所になっている場所で、
室内にはシンデレラガールズが全員揃っている。

「プロデューサー! どうなっているの!」

「私たちはどうなるの!」

アイドルたちが次から次に問い掛ける。

「みんな! まずは冷静になって話を聴こうよ!」

リーダー格の美波が皆をなだめた。
休憩室内は静寂を取り戻し、
アイドルたちは武内に視線を集中させた。
無言のプレッシャーに気圧された武内は、
書類を抱えたまま棒立ちになってしまった。

「プロデューサー。ちゃんと説明してください。
書類はそこにあるのですから」

美波は、武内に説明するよう促した。

「はい……書類の内容をお伝えします。
結論から申しますと……
シンデレラガールズからピックアップされている人材は、
新田さんだけです。
それ以外の方は、346映画の眼中にはないようです」

書類の内容は、アイドルたちを落胆させた。
新田美波以外は「どうでもいい」という意味で、
その内容は、美波以外のアイドルにとって残酷すぎる。

「私たちはいらないって事!」

「そんな! ひどすぎるよ!」

「アイドルを辞めなきゃいけないんですか!」

何人かのアイドルは、口々に文句を言った。
その他のアイドルは、無言になった。
落胆する者もいれば、目に涙を浮かべる者もいる。

「私たち……せっかく今まで頑張って来たのに」

島村卯月は、涙目になって訴えた。

「プロデューサー。このままでいいんですか?
みんなを救えないのですか?
私はみんなを助けて欲しい……」

美波は懇願した。

「わ、私もこの案を飲み込んだわけではありません。
他のプロデューサーや管理職も同じです!
こんな一方的な勧告は飲み込めません。
対案は提出しますし、可能な限り戦います。
皆さんを残して貰えるように訴えます」

武内は、必死な様子で訴えかけた。

「本当にそんなこと出来るの!
プロデューサー……礼一社長ほどの力はないじゃん!」

「そ、それは……」

武内は狼狽した様子を見せた。
美波にはどうしていいか分からなかった。

「まだ諦めるのは早いよ」

今西部長が前に出て言った。

「部長さん」

「何か策があるの?」

アイドルたちは今西部長に注目した。
落ち着いた様子で、今西部長は皆の顔を眺めた。

「まだ手の内は明かせないけれど……
専務や会長と相談して進めたいプランがあります。
皆の協力が必要なプランなのですが」

今西部長は「プラン」があると明確に言った。
しかし、全貌は明かさなかった。

「本当に大丈夫なんですか?」

「内容が分からないと不安です」

今西部長の話では、
アイドルたちの不安は収まりそうになかった。

「皆さん。しばらく辛抱してください。
時が来れば、皆さんにも協力してもらいます。
今は私を信じてください。どうかお願いします!」

今西部長は、目を見開いて訴えた。
温厚な彼には珍しく、
その言葉は力強い物言いだった。

武内は、愛用の腕時計を見た。
ジャガールクルトのマスターコントロール……
そのシンプルな文字盤は、明確に時を示す。
時計の針は連続的に動き続ける。
時間は確実に進んでいる。

――346プロ 自販機コーナー

入って正面に大きな窓があって、
左右の壁際には自販機が並んでいる。
部屋の中央には休憩用のベンチが並ぶ。
このとき、卯月と美波は二人きりで、
端にあるベンチのひとつを占領していた。

「卯月ちゃん。あんまり落ち込まないで!
まだ何とかなるよ!
部長さんも良い案があるって言っていたじゃない!」

卯月は憂鬱そうな表情を浮かべながら、
炭酸飲料を飲んでいる。

「私なんかダメですよ……
美波さんみたいにはなれません」

美波は、唯一人選ばれた事を素直に喜べなかった。
仲間を置き去りにして、自分だけ先に進むような感じ。
一人だけ安全な立場に置かれた感じ。
そういう感じに抵抗があった。
美波にそのつもりがなくても、
実際には仲間を裏切っているように思えた。

「私だけ選ばれて……
他のみんなは私の事を良く思っていないかも。
私、嫌われちゃったかな……」

美波は、卯月に訊ねた。
そして、この質問を発した事を、少し後悔した。
答えにくい質問だろうと思えたからだ。

「いいえ! そんなことないですよ!
みんなも美波さんの事を応援しています!
アーニャちゃんも『頑張ってください』と言っていました」

卯月は、美波が皆から嫌われていない事を、
一生懸命に伝えようとした。
アーニャとは、シンデレラガールズの一員で、
美波の親友でもある。
最近では、一緒に活動する機会が減ってしまったが。
以前、美波と彼女はよく一緒に仕事をしていた。
美波がデビューした時に、
最初にユニットを組んだ相手は彼女だし、
仕事以外でも大切な親友である。
美波も彼女も、ソロ活動する機会が増えたが、
また一緒に仕事が出来たら良い、とよく話し合っていた。

「そう……アーニャちゃんが……」

美波は、親友からの応援を嬉しいと思った。
同時に、アーニャを置き去りにするような状況を、
憎らしく思った。

「美波さんはせっかく選ばれたんですから……
新しい場所でも活躍してください。
私たちは見守っていますよ」

卯月は、美波の顔を見ながら微笑んだ。
美波は微笑み返したが、
その笑顔には硬さがあった。
なにか、周りに働く大きな力によって、
無理やり流されているような気がする。
美波は、今の状況も仲間の応援も、
素直に受け入れる事が出来なかった。
そして、そんな自分についても悩んでいた。
贅沢な悩みに一人溺れているのだろうか?
悲劇のヒロインを気取っているだけだろうか?
新たなチャンスを不意にしても良いのだろうか?
そういう疑問も、美波の心中にあった。

「卯月ちゃんたちの応援は嬉しいけど……
新しい場所で活躍する事が、本当に良い事なのか分からない。
私も心の中ではもやもやしているんだ」

「美波さんも色々悩んでいるんですね……」

困惑した美波の顔を眺めながら、卯月は言った。

突然、部屋の扉が開く。
金髪碧眼の女性が入って来た。
ポニーテールに束ねたセミロングの髪、
いかにも仕事着といったグレーのパンツスーツ、
彼女はビジネス関係の人なのだろう。
彼女の姿を見た美波は、そう思った。

「346プロのアイドルさんたち?
ちょっとお話してもいいかな?」

「そうです。お話ですか……構いませんよ」

美波が彼女を受け入れた。

「ありがとうね。
アイドルの子たちと話したかったの」

金髪の女性が申し出た。
どう見ても欧米系の白人にしか見えないが、
流暢な日本語を喋っている。

「アイアンの人ですよね?」

美波は、金髪の女性に訊ねた。
346プロに出入りしている西洋人、
ビジネスウーマン風の格好、高い語学力、
これらの条件が揃っている人。
この人はアイアンの関係者だろう、と美波は推察した。

「へえ、貴女って観察力と勘が鋭いね。
その通り。私はアイアンのエイプリル・ザラです。
はじめまして、346のアイドルさんたち」

「346プロ所属の新田美波です」

「お、同じく346プロ所属の島村卯月です」

美波と卯月は、エイプリルに微笑みかけた。

「へえ……あ、あのさ……なんか、意外だな。
私、アイアンの人間でしょ。
アイドルたちから嫌われているかと思ったし、
もっと邪険にされるかと思っていたよ。
無視されても仕方ない、と思って声掛けた」

「そんな……嫌ってなんかいませんよ。
人事に関する騒動は、
アイアンが起こした事じゃないでしょう。
礼一社長が起こした事ですし、
美城グループ内の問題ですからね」

美波が言った。
アイアンは資金面や株式に関する事に関わっているが、
アイドルの人事とその騒動には関わっていない。
それは紛れもない事実であって、
美波はアイアンについて不満を抱いていなかった。
まして、アイアンのスタッフ個人に対しては、尚更である。

「それなら良かったよ。
私も個人的には皆と仲良くやっていきたいからね。
卯月ちゃん……あなた私の妹によく似ている」

言われてみると、エイプリルも卯月と少し似ている。
卯月を金髪碧眼にして彫が深い顔にしたら、
エイプリルみたいな顔になるだろう、と美波は思った。

「私、妹さんに似ているんですか?」

「うん、よく似ているよ。妹は女優をやっているんだ。
ブロードウェイの舞台女優ね」

「へえ、凄いですね……
ブロードウェイか……別世界です」

卯月は目を輝かせた。

「うーん、女優といってもチョイ役ばかりだけどね。
全然有名じゃないし、大して売れてないよ。
その上、いつもロクデナシの男に騙されてばかりなの。
田舎に帰って来いって両親は言うのだけど、
今でも粘り続けているみたいよ」

エイプリルは苦笑した。

「私……妹さんの気持ち分かるなあ。
いつかは沢山のファンに囲まれるって夢が、
レッスンのモチベーションに繋がるんですよ」

卯月は芸能への意気込みを語った。

「そうなんだ……
舞台には魔翌力があるのかなあ。
私の妹もきっと卯月と同じ気持ちね」

エイプリルは頷いた。

「エイプリルさんって、4月生まれですか?」

卯月が唐突に訊ねた。

「そう。だから、名前はエイプリル」

「私と同じですね!
卯月って4月の別名なんですよ。
私も4月生まれだから卯月って名前なんです」

卯月とエイプリルは、互いに顔を見合わせて笑った。

「うちの親も卯月の親も単純ね」

「そうですね」

二人の和やかな様子を、
美波は微笑ましく眺めていた。

「今、アイドルたちは
どういう状況に置かれているの?」

エイプリルが、美波と卯月に訊ねた。

美波はアイドルたちの立場を説明した。
礼一社長が出した再建計画案、
アイドルたちの多くがリストラされそうな事、
アイドルたちは現状に慌てている事、
そんな事情を仔細に説明した。
そして、こうした事情に対して、
アイドルたちの多くが動揺していると話した。

エイプリルは、この話を聴いて困惑した顔を見せた。
礼一社長の強引さには、驚きを隠せないようだ。

「……と、まあ、そういう事情なんです」

「うん、美波の説明でよく分かった。
あなたたち、困った状況に置かれているのね。
それを間接的に手助けしているのは、
アイアンだから、私も責任感じるな……
何とか手助けしてあげたいけど……
礼一社長の経営に関しては口出し出来ないよ」

エイプリルは、申し訳なさそうに語った。

「エイプリルさんが責任を感じる事はないですよ。
だって、礼一社長のプランなんですから」

美波が言った。
それを聴いて、エイプリルは黙って頷いた。

「そう言ってくれると、こっちも安心出来るよ。
私はあなた達を応援しているからね!」

エイプリルは笑顔を見せた。

「私たちは私たちのお仕事を頑張ります。
エイプリルさんもお仕事頑張ってくださいね!」

卯月が言った。

「アイドルの人事は何とかなると思います。
部長さんにも策はあるみたいですから」

美波は、そう言ってみたものの、
何とかなるという確証は持てなかった。

「あなた達みたいにキュートな子なら、
これからもアイドルを続けられるよ!
活躍できる場所は美城だけじゃないでしょ」

エイプリルの何気ない一言を聴いて、
美波と卯月は顔を見合わせた。

「移籍……その可能性もありますよね」

美波は美城から離れる可能性を述べた。
新たな選択肢が増えて、
美波の迷いは更に複雑化した。
移籍を考えるアイドルは出て来るだろう。
そうなった時、346プロは維持できるだろうか?
それ以前に、自分自身がどうするかが問題だ。
美波は新天地探しについて少し考えてみた。
しかし、すぐには答えが見つからなかった。

――346プロ 会長室

「お呼びですか」

会長に招かれた美城専務が、
部屋の入口でそう言った。

「まあ、掛けたまえ」

会長は専務に座るよう促した。
専務は、会長室の黒革張りのソファに座った。
対面には今西部長が座っている。
チーク材のテーブルを挟んで、二人は向かい合う。
テーブルの上には、ファイルが一冊置かれている。

「専務。最近、金融機関を回っているそうだね。
巧く行っているのかな?」

自席に腰かけたまま会長は訊いた。

「どこに行っても全く相手にされません」

専務はため息をついてから答えた。

「そうか……やはりな……」

会長は頷いた。

「もう万策尽きた感じです。
兄さんの参下に大人しく収まって……
私もその下で仕事をするしかないでしょうね」

専務は苦笑した。

「諦めるのはまだ早い。
今日は、今西が面白いプランを持ってきている。
それを読んでから進退を決めても遅くはないよ」

会長は今西部長の方をみながら言った。

読んでくださった方、感想をくださった方、
ありがとうございました。
プロットポイント2の開始地点。
今日はここまでです。
明日で完結です。

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