シスター「里帰りですよ!」神父「え……」(305)

俺は……とある国で神父をしている者だ。

神父と名乗ってはいるが、そんじょそこらの教会にいる神父とは違う仕事を請け負っている。

神の加護を持つ者達……勇者と呼ばれる者やその仲間達が道半ばで力尽きた時、俺は現地まで赴き何とか連れて帰り復活させる。

そんな仕事をしている。


時には森の奥深くで。時にはダンジョンで。……そして時には、人類の敵して立ち塞がる親玉がいる魔王城内部へと足を運び連れて帰ったりもする。

只、これが結構な収入でな!……いや、これはいいか。
何でもない。
ダーティーだが遣り甲斐のある仕事だ。

だが……

……流石に一人では対応出来ない事もある。

あれだ。……異姓への対処ってやつさ。

オッパイポローンと出した女や何かあやしい液体まみれの女、酷いのだと……これ以上はやめておこう。

シャイなボーイ達には刺激がゴッツンコみたいなんでな。


そこで俺は助手を雇う事にした。
もちろん女性のな。

これで俺の仕事に死角は無くなった。……それに色々と期待って言う希望もあるだろ?

何が期待だって?そりゃあお前……同じ職場で男女がいるんだ。オフィスでラブがオープンしちゃう事もあるだろ?

ふふ、やっと俺にもつきが回って来やがったぜ……と、思っていたのさ。

あの時までは。

ある日、勇者のアホ共がとんでもねえ所で全滅しやがったのさ。

なんと、悪の親玉の目の前でな。

これには肝を冷やしたね。
まさか魔王の目の前まで行って勇者のアホたれ共を回収してこなきゃならんとは。

まあ……そこまではいいんだ。うん。

その……なんだ……えっとな?


助手の……シスターって言うんだが、そいつが魔王を倒しちまいやがったのさ……。

こいつ何言ってやがると思われるかもしれんが事実だ。

しかもローキックだけで圧勝ときたもんだ……。

シスターの奴、面接じゃあ修道院出身だって言ってたんだが……その後確り聴けばなんと、自分が居たのは蹴道院なんだと。

まあ……なんだ。

勘違いで世界救っちまったが、別にいいよな。


あ?勇者?……そんなもん必要無いからな。
魔王と相討ちって上には報告してある。

だって言えねえだろ?

勇者でも敵わない魔王をシスターがローキックだけで倒しました!

なんて……。

これにて俺の役目もお役御免で通常業務の普通な神父になったんだが……。



神父「……あっそ」

シスター「な!なんですかその反応は!」

神父「行くなら行けばいいだろうが……」

シスター「………」

神父「なんで俺もお前の里帰りに付き合わなければなんねえんだよ……」

シスター「だって!院長先生がお世話になってる神父様も御一緒にどうぞって言うんですもん……」

神父「蹴道院だかの院長だよな?」

シスター「そうです!」

神父「……俺は都合が悪いんで辞退しましたって返事しとけよ」

シスター「………」

神父 (アホか……誰が魔王を蹴り殺す程の化け物どもの巣になんか行けるか……)

シスター「どうしても嫌ですか……?」

神父「そうだな!」

シスター「………」

神父「……?」

シスター「……何回転したいですか?」

神父「……え?」

シスター「こう……くるぶしの上辺りを蹴り上げるとですね、人間って簡単にクルクル回るんですよ……ふふ」シュビッ!

神父「か、簡単に人間が回ってたまるか……」

シスター「あら?これで行くって言ってくれるかと思いましたけど」

神父「脅しても無駄だ!俺だってな矜持ってもんがあるんだよ!」

シスター「へえ」

神父 (死にたくねえからな!負けてたまるかよ!)

シスター「………」

神父「………」

シスター「……ふ」

神父「……ふ?」

シスター「ふえぇぇん!」

神父「お、おい?」

シスター「じんぶざまがいっじょにいっでぐでないぃぃぃ!」

神父「………」

シスター「びどいですぅぅ!」

神父「ひ、酷くねえし!」

シスター「毎晩んん私のぉぉ湯あみ姿をこそこそ覗いてるくせにぃぃぃ!」

神父「………」

シスター「しかも私の下着で何してるんですかぁぁぁ」

神父「………」

シスター「近所のオバサン達に相談しても『若いんだねー』って言われるだけですしぃぃぃ」

神父「………」

シスター「もおぉぉぉ!」

神父「……同行させていただきます」

シスター「ふえぇぇ……え?」

神父「………」

シスター「……まさか私の泣き落としが効きました?」

神父「俺は……もうこの国じゃ生きていけそうに無い……」

シスター「はぁ……?」

神父「………」

ーー

シスター「ほら!神父様!水平線の向こうまで青空ですよ!」

神父「なあ……」

シスター「はい?」

神父「聞かなかった俺も悪いが……こんな港まで来て……蹴道院ってこの国にあるんじゃないのか?」

シスター「んー、蹴道院は島にありますので」

神父「島……?」

シスター「はい、ここに来るのに大体一ヶ月はかかりましたかね」

神父「………」

シスター「来るときには時化とかで大変だったんですよ!」

神父 (島なら俺の噂が来ることはないだろうが……)

シスター「その時化の中でですね!シーグリフォンが戯れて来て大変だったんですよ!」

神父「シーグリフォン……?」

シスター「はい!もう空とか飛んじゃって参りましたよ!」

神父「そりゃ……参るだろうな……」

シスター「中々にですね、下に降りて来てくれなくって!」

神父「あんまり聞きたくは無いが……どうやって倒したんだ?」

シスター「オーバーヘッドローキックで倒しました!」

神父「………」

シスター「いやあ!足場が悪くてどうかなって思ったんですけどね!」

神父「それはもうローキックじゃ無いんじゃないか……?」

シスター「そんな事ないですよ!……あれ?んん?」

神父「どうした?」

シスター「あッ!おーい!おーい!船長さぁーんッ!」

神父「……船長?」

ウワ!ウワアアアアッ!?

シスター「………」

神父「お前に声かけられたオッサン凄い勢いで逃げて行ったが……」

シスター「酷ぉーい!人の顔見て逃げるなんて!」

神父「………」

シスター「もう!」

神父「……お前、あのオッサンに何やったんだ?」

シスター「何もしてないですよ!この国までお世話になっただけですし!」

神父 (何もしてなくて、あそこまで拒否反応起こすかよ……)

シスター「待ってくださいー!船長さーんー!」

ダダダダダッ!

神父「……俺も追うか」

タッタター



船長「かかか勘弁してくれぇぇ……」ガタガタ……

シスター「………」

神父「えらい怯えてるが……本当に何もしてないのか……?」

シスター「してませんて!ねえ?船長!」

船長「ひぃぃぃ……」ガタガタ……

神父「ふぅむ。なあ……オッサン……」

船長「………」ガタガタ……

神父「オッサン?」

船長「あ、あんた海殺しの
なんなんだ……」

神父「海殺し……?」

船長「………」

神父「何だかな……聞き慣れない単語が次々に出てくるのはどう言う事だシスター」

シスター「………」プイッ

神父「お前な……」

シスター「本当ちょっとですよ?」

神父「………」

船長「あ、あれがちょっとかッ!?ふふふふざけるな!」

神父「だそうだか?」

シスター「……ちょっとシーグリフォンと戯れて、シーワームテンタクルスをゴニョゴニョと、後は

神父「もういい……聴きたくない……」

シスター「えー!神父様から聴いてきたのに!」

神父「良くわかったから……。オッサン……あんたも大変だったな……」

船長「うおおおお旦那ぁぁぁ!」

神父「………」

船長「この女!この女が!」

神父「……よし」ガシッ!

船長「……え?」

神父「シスター、またこのオッサンに頼めば良いよな?」

シスター「はい!神父様!」

船長「な、なにをだ?」

神父「また、お前さんの船に乗せてくれって事だよ」

船長「………」

神父、シスター「………」

船長「……い、嫌だ!断固拒否するッ!」

神父「おいおい、オッサンさぁ……シスターの蹴り見てない訳じゃないだろ?」

船長「あ、ああ……」

神父「もしもがあるかもしれねえなぁええ?オッサンよ……素直じゃねえ奴は長生き出来ないんだせ?」

船長「………」

神父「わかるだろ?」ポンポン

船長「………」コクコク……

神父「なら決まりだな」

船長「アアアアア………」

ーーー

ザザザァン……

船長「行きたくない……死にたくない……」

神父「いやぁ、青空と海以外なんも無いなぁ!シスター!」

シスター「そうですね!神父様!」

船長「悪魔共め……」

神父「神に仕える俺達を悪魔呼ばわりとはいけないなぁ船長?ふふふ」

船長「クッ……」

シスター「んんー!船長さん!今回は船長さんだけなんですか?」

船長「ああ……」

神父「おいシスター……だけってなんだ?」

シスター「えー?前に乗らせて貰った時は、後四人いましたよね?」

神父「………」

船長「………」

神父「おいオッサン……オッサンだけでもこの船は動かせるんだよな?大丈夫なんだよな?」

船長「大丈夫な訳あるか……なんとかここまでこれたが、この先俺だけでこの船動かせると思ってるのか……」

神父「………」

船長「それにな、誰が海殺しの乗る船に乗りたいと思うんだよ……」

神父「……ならこの先はどうなるんだ?」

船長「さあな……難破しない事をお前らの神に祈ってるんだな」

神父「………」

シスター「神父様!あそこ!鳥がいっぱいですよ!」

神父「あ、あほ!今それどころじゃねえんだよ!」

シスター「はい?」

神父「オッサンだけじゃこの船動かせねえんだと!俺らどうなっちまうんだ……」

シスター「それなら大丈夫じゃないですか?」

神父「……あ?何でだ?」

シスター「お舟動かせる人は一応いますし、ほら!私達が手伝ってもいいですし!」

神父「………」

船長「ふん……素人が簡単に出来ると思ってるのか……」

シスター「えー?そこは船長さんが頼りですよ?」

船長「………」

シスター「ね?」

船長「………」

ーー

神父「あぁぁぁぁ」

船長「………」

神父「オッサンんん出港してからどんくらいたったぁぁぁ?」

船長「……十日だな」

神父「まだ着かないのかよぉぉぉ。干し肉、オレンジ、魚のローテーション飽きたよぉぉぉ」

船長「うるせえ!船の上での食事に文句言うな!」

神父「だってさぁぁぁ」

船長「人が神経尖らせて舵とってるって言うのにこいつは……」

神父「あーあ。オッサンさ?」

船長「……今度はなんだ?」

神父「あいつとどうやって出会ったんだ?オッサンにお世話になったとか言ってたが」

船長「………」

神父「思い出したくないのは何となくわかるけどさ……」

船長「あれは……最初からあり得なかったんだ……」

神父「………」

船長「大海原に小舟が一隻……その時点で気が付くべきだった……恐ろしい事が起きる前触れだったとな……」

神父「………」

船長「………」

神父「凄え聴くのが怖えんだけど……」

船長「最初は……難破した船の生き残りかと思ってた……」

神父「………」

船長「あの海殺しに聞けば、あの大海原まで一人で来たと。あの時……何処から?どうやって?と、しつこく問い質すべきだったんだよ……」

神父「聴かなかったのか?」

船長「………」

神父「……?」

船長「若い女が野郎だらけの船に一人でいるんだ……そんな余裕は無かったんだよ……」

神父「あぁ……飢えてたんだな」

船長「………」

神父「それで?」

船長「……最初の災難はシーグリフォンだった」

神父「シスターが言ってたやつか」

船長「どうやらそのシーグリフォンは海殺しを餌にしようと様子を伺っていたみたいでな……」

神父「………」

船長「そこに俺達が現れ、餌が増えた事に歓喜し襲ってきたのさ……」

神父「で、シスターがオーバーヘッドローキックやらでボコボコにしたんだろ?」

船長「そんな生易しいもんじゃない……」

神父「……どうなったんだ?」

船長「あの……あの海殺しが蹴りを出した時……凄まじい破裂音が鳴り響いて……」

神父「………」

船長「シーグリフォンはいなくなっていた……」

神父「そ、それは音にビビって逃げてったんだよな?な?」

船長「そう思うか?」

神父「………」

船長「……暫くした後、血の雨が船に降り注いだ。その血の雨の中……海殺しは静かに笑い……笑……うわあぁぁぁ……」

神父「………」

船長「………」ガタガタ……

神父「……さ、災難だったな」

船長「その災難をまた連れてきたのは誰だぁぁぁッ!!!」

神父「悪かったって……」

船長「悪かったで済むかッ!」

神父「俺の話も聞かせてやるから怒るなよ。な?」

船長「……どうせドラゴンでも蹴り殺しただけだろ。どんな話だろうと驚かんわ」

神父「まあ、聞けって。あいつな?」

船長「………」

神父「魔王を……殺っちまいやがったんだよ……」

船長「………」

神父「………」

船長「さすがにそれは無いだろ。魔王は勇者と相打ちだったって……」

神父「………」

船長「本当なのか……?」

神父「さてね……信じる信じないはアンタ次第だ」

船長「………」

神父様ぁぁーー船長さぁぁぁんーー

神父、船長「………」

神父「……んんん?ん……俺、疲れてるのかな……」

船長「………」ゴシゴシ

神父「あれ……シスターが海の上に立ってるように見えるんだが……」

船長「立ってるな……」

神父「だよな。……なんで?」

船長「知るか……」

神父「そっか……」

シスター「神父様ぁぁ!船長さぁん!」

神父、船長「………」

シスター「?」

神父、船長「うわぁぁッ!」

シスター「な、なな何です!?」

神父「どどどどうやって立ってるんだよ!」

船長「化け物めッ!」

シスター「あー……」

神父「つ、遂に人間止めやがったか!」

船長「化け物めッ!」

シスター「二人共落ち着いてくださいよ!」

神父「つーか、最初から人間じゃ無かったんだな!」

船長「化け物めッ!」

シスター「………」



シスター「いい加減落ち着きましたか?」

神父「あ、ああ……取り乱したぜ……」

船長「化け物めッ!」

神父「こっちはまだだが」

シスター「むう……」

船長「化け物めッ!」

シスター「船長さん!いい加減にしないと蹴っちゃいますよ!」

船長「……ッ!」ビクッ!

神父 (そう言うのはちゃんと反応するんだな……)

シスター「もう!人を化け物なんて言ったらいけないんですよ!」

神父、船長「………」

シスター「わかりました?!」

船長「はい……」

シスター「よし!」

神父「で……聞いていいか?」

シスター「はい?何をです?」

神父「お前は……何で海の上に立ってるんだ……?」

シスター「これですか!ふふふ!」

神父「………」

シスター「実は!」

船長「化け物だからだろッ!」

シスター「……本当いい加減にしてくださいね。怒りますよ?」

船長「………」

神父「じじじ実はなんだよ!?シスター!」

シスター「これはですね!ひー君のおかげなんですよ!」

神父「ひー君……?」

シスター「はい!」

神父「もっとわかりやすく説明して貰えるか……?」

シスター「えっと、ひー君!ひー君!」コツコツ

神父「踵で何してんだ?」

ザザザザザァァッ!

シスター「これがひー君ですよ!」

神父「………」

……「ヒュロロ……」

シスター「ひー君、これが神父様ですよ!」

……「ヒュロ……」

船長「……ぜ、絶氷竜だと……」

神父「知っているのかライデン」

船長「遥か北に生息していると言われる幻のドラゴンだ……決して砕かれる事のない氷の様な鱗を持つと言われる事から絶氷の名が付いたらしい……」

神父「………」

船長「海に含まれる魔力を糧にし、他とは争いもせずひっそりと暮らしているそうだ。だが、一度逆鱗に触れようものなら……視界に入る物全てを蹂躙するらしい……」

神父「………」

船長「それが、人前に現れるのもそうだが……人に従えるなど何故……」

神父「さ、さすがライデン……妙に詳しいな……」

船長「………」

シスター「神父様もひー君に乗せてもらいますか?」

神父「止めとくわ……」

シスター「えー?ひー君大人しいから怖くないですよ?」

神父 (アホか!誰がドラゴン何かに乗るか!)

シスター「むう……」

船長「……古の竜に乗りしその者修道の衣を纏いて大海原へと降り立つべし……」

神父「オッサン……?」

船長「……失われし船上との絆を結び人々を清浄の地へと導かん……」

神父「………」

船長「……導かみちみちみちあひひひひいいい!」ガタガタ

神父「おおおおい!オッサン確りしろ!」



神父、シスター「………」

船長「」ブクブク……

神父「まあ……普通はここまで異常な事が続けば卒倒してぶっ倒れるよな……」

シスター「神父様はひー君見ても普通ですね!」

神父「……人外が近くにいるからな」

シスター「え?……近くにそんな人がいるんですか?」

神父「………」

シスター「……?」

神父「まあいい……それにしてもな、このひー君とやらはどうすんだ?」

シスター「どうしましょう?」

神父「お前ね……」

シスター「な、何となく仲良くなったので……何とかならないですか?」

神父「んー……」

シスター「………」

神父「ひー君とやらは俺の言葉はわかるのか?」

シスター「どうでしょう?ひー君!」

ひー君「ヒュロロ」

シスター「……呼ぶと返事はしてくれますけど」

神父「ふむ……おい、ひー君とやら!」

ひー君「………」

神父「ローキックは痛かったか?」

ひー君「ヒュロ……ロロ……」

神父「痛かったんだな……お前も被害者だったか……」

ひー君「ヒュロロン……」

神父「可哀想に……」

シスター「神父様凄いですね!よく、ひー君の考えてる事がわかりますね!」

神父「正直、お前よりわかりやすいよ……」

シスター「えー?何かひどいです!」

神父「………。で、ひー君とやら。なんでさっきから左しか向いてないんだ?」

ひー君「ヒュロロ……」

神父「……?シスター……」

シスター「………」プイッ

神父「お前、何かローキック以外にしたのか……?」

シスター「し、してないですよ!」

神父「………」

シスター「その……何といいますか……元に戻んなくなっちゃった的な?」

神父「ひー君は左しか向けなくなったって事か……」

シスター「そうじゃなくてですね……」

神父「は?」

シスター「こう……ベコッとと言うか何だかんだでですね……」

神父「……ひー君とやら、こっち向いてみ」

ひー君「………」

ズザザザザ……

神父「うわ……」

シスター「………」

神父「右頬ベッコリいってるじゃないか……」

シスター「ひー君、硬いので元に戻んないんですよ……」

神父「お前、いくらなんでも酷いだろ……」

シスター「し、仕方無いじゃないですか!ひー君は私を食べようとしたんですよ!」

ひー君「ヒュロロン……」

神父「可哀想に……」

シスター「………」



シスター「船長さん!神父様が酷いんですよ!」

船長「」

シスター「私は悪くないのに、ひー君の味方ばかりして!」

船長「」

シスター「それは……ちょっとやり過ぎたかなって思いますけど……」

船長「」

シスター「そう言う時って上司なら部下に優しく諭すとかするもんだと思うんですよ!」

船長「」

シスター「なのに神父様ったら……」

船長「」

シスター「船長さんもそうおもいませんか!?」

船長「」

神父「シスターよ、オッサンがそんなんだから今日はここに停泊だな」

シスター「ふん!」プイッ!

神父「ああん?」

シスター「………」

神父「シスター……悪いのはお前だろ?」

シスター「そうですけども!……でも……」

神父「………」

シスター「私だけが悪いんじゃ無いですもん……」

神父「そうだけどよ」

シスター「………」

神父「はぁ……ひー君も悪いからな後で文句言っといてやるから」

シスター「本当ですか!」

神父「ああ……」

シスター「ひー君はちょっと食い意地が張ってるのでそれもお説教ですね!」

神父「………」

シスター「……?」

神父「まあいいや……とこでよ、これから行く蹴道院ってどんな所だ?」

シスター「蹴道院ですか!そうですねぇ、おっきな島の湖の湖畔に建ってますね!」

神父「へぇ?……意外とまともそうだな」

シスター「まともってなんですか!」

神父「いや……お前みたいなのが他にもいるんだろ?」

シスター「私みたいなのがいるとまともじゃ無いって事ですか?」

神父「まあな!」

シスター「………」

神父「で?」

シスター「……で、院長先生とハイ姉さんとかエンゴブお爺さんがいましてね」

神父「………」

シスター「みんなで仲良く暮らしてるいい場所なんですよ!」

神父「ふぅむ……」

シスター「なにか?」

神父 (今ので、こいつみたいなのが三人はいるんだろうが……)

シスター「?」

神父「お前に蹴りを教えたのは誰だ?」

シスター「院長先生とエンゴブお爺さんですかねぇ」

神父 (その二人は要注意だな……)

シスター「エンゴブお爺さんは神父様みたくエッチですけど!」

神父「………」

ーー

神父「ぶぁぁ……よく寝たぜ」

船長「」

神父「オッサンまだ気を失ってんのかよ……」

船長「」

神父「おい!オッサン!いい加減起きろ!」

船長「……あ……ああ?」

神父「起きたか?」

船長「………」

神父「なんだよ?」

船長「……今は?」

神父「朝だが?」

船長「海殺しは?」

神父「まだ寝てるんじゃねえか?」

船長「……ドラゴンは?」

神父「んん……あら?ひー君いねえな」

船長「………」

神父「いないなら帰ったんじゃないか?」

船長「そうか……まだ俺は生きてい良いって訳か……」

神父「朝っぱらから何言ってやがる……」

船長「普通そうなるだろ!目の前にドラゴンが現れて生きてるんだぞ!」

神父「まあ俺は普通じゃ無いのは慣れてるからな。オッサンも慣れとかないとこれからがキツいぜ?」

船長「これ以上キツくなってたまるか……」

神父 (これから量産型シスターがいる所へ行くなんて言えねえよな……)

シスター「おぱよーございますぅ……むにゃむにゃ……」

……「………」

神父「ああ、起きたか。……ああ?」

船長「……はあ?」

シスター「どーしたんでーすかぁ……むにゃむにゃ……」

神父、船長「………」

シスター「ふあい……?」

神父「……誰だそのガキ」

シスター「がきぃ?」

……「………」

シスター「あええ?……むにゃむにゃ……Zzz」

神父「寝るな!」

シスター「おきてますぅよぉ」

神父「さっきからお前の事を睨んでるそのガキは誰だ!」

……「………」ギロッ

シスター「なに言ってるんですかぁ……私と神父様と船長さんしかいないじゃないですかぁ」

……「………」

神父「後ろを見ろ!」

シスター「えええ?」

……「グルル……」

シスター「おぱよーございますぅ」

神父、船長、……「………」

シスター「誰ですかぁ……むにゃむにゃ……」

……「貴様……我の顔を……」

神父「顔……?その左頬に付いてる鱗みたいなの……」

……「………」

神父「……もしかして、ひー君か?」

絶氷竜「その名で呼ぶな!」

神父「………」

シスター「え?ひー君?」

絶氷竜「貴様もだッ!」

神父「……嘘だろ。なんでまた……」

シスター「ひー君は男の子だったんですね!」

絶氷竜「おのれ……我に抗う力さえあればこんな事には……」

神父「………」

絶氷竜「竜殺しに遭遇するなぞ……」

船長「おい……坊主、そいつは海殺しだ」

絶氷竜「竜殺しだろ。……それと我を坊主呼ばわりか」

船長「はんっ……ヤツは竜殺しなんて生易しいもんじゃ決してねえ!」

絶氷竜「竜殺しが生易しいだと……?」

船長「ああ……坊主にはわかるまい……」

絶氷竜「………」

船長「海の灯火が……船乗りの魂が……ただの一蹴りで磨り潰されて崩れさってく様をな……」

絶氷竜「………」

船長「わかるまい……」

絶氷竜「なるほど。……よくわからんが貴様も体験をしたのだな。絶望なる刃を!」

船長「………」

絶氷竜「………」

ガシッ!

船長「坊主……お前は同志だったか」

絶氷竜「同志……いい響きだな」

神父「………」

シスター「わぁ!ひー君かわいい!」

絶氷竜「よ、寄るな!」

シスター「えー?なんでですか!」

絶氷竜「なんででもだ!」

シスター「ぶーぶー!」

神父「ひー君よ」

絶氷竜「その名で呼ぶなと!」

神父「……なんでまたガキになんてなってんだ?」

絶氷竜「こいつも……人間共は我を何だと……」ブツブツ……

神父「どうなんだひー君」

絶氷竜「ふんっ……そこの海……殺しにやられた傷を癒すのに、この姿になっているだけだ」

船長 (理解者が増えて俺は嬉しいぜ……)

神父「なるほどな。……って事だがシスター」

シスター「酷いですね!こんなかわいい男の子を蹴るなんてどこの誰ですかね!」

神父「お前……それ本気で言ってるの?」

シスター「はい!」

神父、絶氷竜「………」

シスター「ひー君、お姉さんが怒ってあげますからね!ふんすっ!」

絶氷竜「………」

神父「まあいいや……頭数も増えたし航海もちっとは楽になるか。なぁ船長」

船長「まあな」

絶氷竜「……何を言っている?」

神父「何を言っているってなあ?」

船長「ああ、坊主はもうこの船のクルーなんだぜ?」

絶氷竜「………」

神父「俺達とは一蓮托生」

船長「例え火の中水の中ってやつだ」

絶氷竜「………」

神父「昔の友は今も友」

船長「俺とお前の大航海って事だ」

絶氷竜「意味がわからん……」

神父「いざいかん!」

船長「未知と不思議の男の航海へ!」

絶氷竜「………」

神父「そして知ろう!シスターの出生の秘密と蹴りの秘密を!」

船長、絶氷竜「………」

神父「シスターが育った島へいざいかん!ついでにシスターの仲間もいるよ!」

船長「ちょっとまて……」

神父「なんだいオッサン!」

船長「海殺しが育った島ってなんだ……?」

神父「言うの忘れてたが……今、俺達が目指してるのはそこなんだぜ」

船長「………」

絶氷竜「……海殺しの仲間もいるとはどういう事だ?」

神父「あれみたいなのが少なくても三人はいるらしいな!」

絶氷竜「三……人……だと……?」

神父「少なくてもだからな!もっとわんさかいるかもしれねえし!」

絶氷竜「………」

神父「お?ひー君いい表情するなぁ」

絶氷竜「意味がわからん……あの海殺しがまだいると……」

神父「よし!オッサン!」ガシッ!

船長「ッ!?」

神父「ほら、ひー君の肩掴めよ」

船長「………」

神父「どうした?ふふふ……」

船長「……すまん同志」ガシッ!

絶氷竜「何をする!?」

神父「……言ったろ?俺達はもう一蓮托生。誰も逃がさん……」

絶氷竜「………」

ーー

神父「えんやこらしょ!そーら!」

シスター「えんやこらしょ!」

船長、絶氷竜「………」

神父「どうしたどうした!オッサン!ひー君!テンション低いぞぉ!」

シスター「そうですよ!」

船長、絶氷竜「………」

神父「まったく仕方ねえな!」

シスター「そうですね!」

船長「自分の命が風前の灯火ならばこうもなるわ……」

絶氷竜 (絶氷竜たる我が逃げるなどあってはならぬ事だが……何とか逃げおおせねば……)

シスター「船長さんもひー君も院長先生に会えば元気になりますよ!」

神父「シスター……どういう意味で元気になるんだ?」

シスター「んー、院長先生って胸がバインバインってしてて男の人が見たら喜びそうだからです!」

神父、船長 (どうせババアだろうが……そんなんで俺が喜ぶと思ってんのかよ……)

シスター「あー信じてませんね!」

神父「はいはい信じてる信じてる」

シスター「むー……」

絶氷竜「人間の脂肪ごときで我が喜ぶと思っているのか……」

シスター「ひー君と同じくらいの歳の女の子がいるから、ひー君と仲良くしてくれるかもよ?」

絶氷竜「我と歳が同じ人間がいてたまるか!」

シスター「えー?お似合いだと思うけどなぁ」

絶氷竜「………」

神父「しっかしなぁ……おっそいなこの船」

船長「アホ……この人数で航海出来てる事さえ奇跡的なのに、これ以上速度が出るか……」

神父「そんなもんか?」

船長「普通はな!」

神父「ふーん……」チラッ

絶氷竜「寄るな!」

シスター「ひー君って抱き心地いいんですもん!」

神父「……ッ!」ピコーン!

船長「?」

神父「そうか、そうすれば良かったんだな」

船長「……何を考えたかわからんが、俺は死にたくないからな」

神父「大丈夫大丈夫。シスターには頼まんから」

船長「なら安心だが……」

神父「シスターには頼まんって言っただけで安心するなよ……」

船長「あれだけの事を見せられればなるだろ!……で、何をするんだ?本当に危険な事だけはしないでくれよ」

神父「わかってるって。おい、ひー君!」

シスター「ひー君んん!」

絶氷竜「や、やめろぉぉ!」

神父「シスター、ひー君を解放してやれ……」

シスター「えええ?」

神父「ひー君にはこれから一仕事してもらうんだからな」

シスター「一仕事?」

絶氷竜「何をさせるつもりだ……」

ーーー

ザザザザァァァァァ……

ひー君「………」

神父「うをおお!最高だぜひー君!船を引っ張ってもらうのは正解だったな!」

シスター「そうですね!」

船長「坊主!面舵だ面舵!」

ひー君「ヒュロロ……」

船長「それは取り舵だって教えただろ!逆に行くな!」

ひー君「………」

神父「オッサン……ひー君、ドラゴンの姿だがえらい強気だな……」

船長「ふん!例えドラゴンだろうが志しを同じにした奴だからな!同志なら遠慮はいらん!」

神父「そう言うもんか……?」

船長「おおとも!」

ひー君「………」ジトッ……

シスター「ひー君って船長さんの (船) よりずっとはやぁい!」

船長「……!」ニヤニヤ

ひー君「ヒュロ……!」

神父「そう言う心にくるのは言うんじゃない……」

シスター「はい?」

神父「わかってないならいい……で?このままの方角で良いのか?」

シスター「そうですね!最果てはこの方向です!」

神父「そっか」

船長「……さ、最果て?」

神父「ん?オッサンなんだ?」

船長「まさか……日の上の最果てとは言わんだろうな……?」

シスター「何か院長先生がそんな様な事言ってましたね!」

船長、ひー君「ッ!」

神父「ライデン出番だ」

船長「……この世の果てと言われている場所だ。かつて日の上の最果てを目指した勇敢な者達は帰る事は無かったと言う……」

神父「………」

船長「何故帰らなかったのか……一説には日の上……つまりこの世の果てをだ、通りすぎ日の下……あの世の世界まで行ってしまったとか……」

神父「………」

船長「ただ、無慈悲な暴力が勇敢な者達の命を刈り取ったのか……」

神父「………」

船長「人がもう目指す事さえしなくなった……そんな場所だ……」

神父「ナイス説明ありがとうライデン」

シスター「えー?そんな酷い所じゃないですよ!」

船長「もう駄目だ……やはり俺は生きて帰れないのか……」

シスター「………」

ひー君 (日の上の最果てだと……ふ、ふざけている!我ら竜種でさえ容易には近寄らん海域だぞ!)

神父「………」

ひー君 (いかん……このアホ共とこのまま行動を共にしたら我が身がもたんぞ……)

神父「………」

ひー君 (密かに……素早く逃げおおせねば

神父「ひー君よ……」

ひー君「ヒュロ……?」

神父「……逃げようなんて考えてないよな?」

ひー君「ヒュロロ!」

神父「そうかそうか。……ははは、俺の早とちりだったみたいだ」

ひー君「ヒュロヒュロロ!」

神父「……ただ、これだけは言っておくぞ」

ひー君「………」

神父「もし逃げるなら……苦しまずに逝けるなんて思うなよ……」

ひー君「………」

神父「人は……際限なく残酷になれる生き物なんだぜ……」

船長「同志よ、亡骸はになってからでは語れないんだぞ……仲間にな……」

ひー君「ヒュ……」

神父「ふふ……怖いか恐れるか?魔王と呼ばれた者でさえ最後は今のひー君と同じだったぜ……」

ひー君「………」

船長「あー魔王は……もがき苦しみながら逝ったのか……」

神父「そうだな……苦痛しかない、救えない最後だったぜ……」

ひー君「………」

船長「そっかぁー。……同志も……」ボソッ

神父「……同じ轍をな……」ボソッ

ひー君「………」

船長「ははは!おいおい!同志はそんなアホな事するアホじゃないぜ!」

神父「そうだよな!ひー君はそんなにアホじゃないよな!」

ひー君「………」

ーー

ザザザァァ………

絶氷竜「悪魔共め……我をこきつかいおって……」

シスター「あら?ひー君も寝れないの?」

絶氷竜「……ふん」

シスター「やだぁひー君拗ねてるぅ!」

絶氷竜「拗ねてなどおらん!」

シスター「えー?でもでも!」

絶氷竜「でもも案山子もあるか!我の矜持を打ち砕いてさぞ満足だろうな!」

シスター「………」

絶氷竜「少々我を足蹴にしたくらいで思い上がるな!人間風情が我と対等だと思うなよ!」

シスター「ひー君……」

絶氷竜「なんだ!……うっ」

シスター「………」

絶氷竜「………」

シスター「………」

絶氷竜「ふ、ふん!そんな顔しても駄目だ!どうせ心の内では我を馬鹿にしておるのだ……ろ?」

シスター「ぅぅ……ひー君……」

絶氷竜「な何故……泣く……」

シスター「だってぇ……」

絶氷竜「………」

シスター「ひー君をそんなにした人が許せなくて……」

絶氷竜「………………は?」

シスター「ひー君んんお姉さんが慰めてあけますからね!」

絶氷竜「………」

シスター「よーしよしよし!」

絶氷竜「……お前マジか……」

シスター「なんですか!?」

絶氷竜「もういい……なるほど、あの悪魔の頭は今の我と同じ境地にいるのだな……」

シスター「?」

絶氷竜「……はぁ」

シスター「溜め息なんか付くと幸せが逃げちゃいますよ!」

絶氷竜「我に幸運があったならば貴様と会ってはいない……」

シスター「えー?何かそれちょっと酷いです!」

絶氷竜「……海殺しよ」

シスター「ひー君!違いますよ!お姉さん!お姉さんって呼んでください!」

絶氷竜「海殺しよ」

シスター「………」

絶氷竜「日の上の最果て……本当に人がいるのか?いや……生ける者が存在する事が出来るのか?」

シスター「んー?緑も多いし湖も綺麗ですし良い所ですよ?」

絶氷竜「真か……?我らさえ近付く事は無いのだぞ?」

シスター「本当ですよ!そう言えばドラゴンさんは見た事が無いですねぇ」

絶氷竜「………」

シスター「何ででしょ?」

絶氷竜 (本能で危険とわかるだからだろ……。……ドラゴンさんは?)

シスター「んー?」

絶氷竜「……竜種以外は来るのか?」

シスター「良く来ますね!アホっぽいオーガとかアホっぽいオークとかアホっぽいゴブリンとか海を越えて来ますね!」

絶氷竜「………」

シスター「後、アホっぽい魔族?みたいなのもチラホラ来ますよ!」

絶氷竜「そうか……」

シスター「はい!」

絶氷竜 (何故……竜種は近付かんのに他の種族は海殺しの島を目指す?)

シスター「………」

絶氷竜 (何か目指さなければならぬ理由でもあるのか?……一体、何があるのだ最果てには……)

ーーー

ザザザザァァッ!

ひー君「ヒュロロ」

神父「なんだか知らんが、ひー君やる気になってるな」

シスター「そうですね!」

船長「同志!もっと速度を落とせ!船がバラバラになっちまうじゃねえか!」

ひー君「ヒュロ」ふんっ

船長「………」イラッ……

神父「まあオッサンよ、ひー君やる気になってるから良いじゃないか」

船長「良くないわ!こんな所で船が無くなったらどうするんだ!」

神父「そん時は、ひー君の背中にでも乗せてもらえばいいだろ」

船長「……そんな事になったら俺がここにいる存在意義が無くなるんだが?」

神父「そうだなぁ……何だったら助祭にでもなるか?」

船長「それはお前の部下になるって事だよな……ふざけるな……」

神父「この仕事も結構楽しいぞ?」

船長「……悪魔の道に人を引きずり導き、災難を振り撒く事なんて誰がするか」

神父「酷え言われようだな」

船長「酷いのはお前だろ!」

神父「はいはいそうだな」

船長「………」

ひー君「ヒュロロヒュロロ」

神父「あん?……なんだひー君」

ひー君「ヒュロロ!」

神父「ヒュロロじゃわからん……」

船長「日の上の最果てに近付いてるんだ……」

神父「お?じゃあもうすぐ着くのか」

船長「………」ゴクッ……

神父「何、緊張してるんだ?」

船長「俺達は今、偉業を成し遂げようとしてるんだぞ!緊張もするわ!」

神父「あー、誰も帰った事が無いんだっけ」

船長「……軽いな」

神父「まあな。最果てから来た奴をよく知ってるから」

船長「なるほど……」

シスター「ふんふんふーん!……あら?」

神父「シスターどうした?」

シスター「ほら!あっちを見てください!」

神父「あっち?」

船長「なんだありゃ……」

神父「……船?」

船長「いや……そんな形をしてるが、ぐにゃぐにゃ蠢いてるな……」

シスター「まーた性懲りもなく来たんですよ!」

神父「シスターはあれ何だかわかってるのか?」

シスター「はい!あれはゴブリンですね!」

船長「あ、あれが……?」

神父「おい……詳しく説明しろ……」

シスター「詳しくですか?そうですね……蹴道院のある島にはああやってゴブリンとかが良くくるんですよ」

神父「………」

シスター「あれ、お舟の様に見えますよね?」

神父「そうだな……」

シスター「でもあれって、一本の大きな丸太に乗ったゴブリンなんですよ」

神父、船長「………は?」

シスター「丸太にいっぱいゴブリンがしがみついてあんな形になってるんですよね」

神父「………」

船長「そんな訳……ここまで来るのにどうやって……食事とか

シスター「食べ物ならいっぱい乗ってるじゃないですか」

神父「……嘘だろ」

船長「………」

シスター「共食いしてまで蹴道院のある島に来るんですよ。どうかしてますよねぇ!」

神父、船長「………」

シスター「まったく……迷惑なんですよあれ」

神父「……すまん吐いてくる」

船長「お供するぜ……」

シスター「大丈夫ですか?」

ダダダッ!

シスター「あらら」

ひー君「ヒュロロ……」

シスター「ひー君!ちょっとあれに近付いてください!」

ひー君「ヒュロ……?」

シスター「お姉さんがちょちょいと蹴散らしてきますんで!」

ひー君「………」

シスター「ひー君?」

ひー君「………」ふんっ

シスター「あー!何か鼻で笑いましたね!」

神父「うぇ……」

船長「まだだ……まだ耐えられる……」

ひー君「ヒュロロッ!」

クワッ!……ギュオン……ギュオン……

神父、船長「え……」

シスター「おおお!ひー君のお口が光ってますよ!」

神父「なななななな何が!」

船長「おおおおおお起きるって!」

ギュオン……ズババババァァッ!!!

神父、船長「パァァァァァ!」

シスター「きゃああ!カッコいい!」

ーーー

ひー君「ヒュ!」

神父、船長「………」

シスター「ひー君カッコいい!ひー君砲ですよ!ひー君砲!」

ひー君「ヒュガ!」ブンブン!

シスター「あんなの見せられたら痺れちゃいますね!神父様!」

ひー君「………」

神父「な、何が起きた……何をした……」

シスター「ひー君がお口からひー君砲をズババァっとやったんですよぉ!」

神父「……見たまんまな感想はいいから。あれは何だ……」

シスター「さあ?」

神父「ひー君……人型になって説明してくれるか?」

ひー君「ヒュロロ」



神父「で?」

絶氷竜「ふはははッ!見たか!我力を!」

神父「そう言うのは魔王でやってるからもういいって」

絶氷竜「な……」

神父「あれは何だ?何であんな事をした?」

絶氷竜「……あれはだな、ストライクブレスと言ってだな我奔流なる力の源より

神父「ストライク何だかを使った理由は?」

絶氷竜「ブレスだ!」

神父「理由は?」

絶氷竜「ぐぬぬぬ!我の話を聞け!」

神父「……いいから。シスターが後で聞いてくれるから」

シスター「ええ!お姉さんがばっちり聴いちゃいますよ!」

絶氷竜「……話したところで、海殺しには理解出来んだろ」

シスター「ひー君酷い!」

神父「ならオッサンが聴いてくれる……?」

船長「………」

神父「またか……」

絶氷竜「また?」

船長「あひひひひひ!光が飛んでるよ!待て待てぇ!あははは!」

絶氷竜「………」

神父「あーあ、折角ちっとは治ったのに」

絶氷竜「………我のせいか?」

神父「まあな。後で謝っとけよ」

絶氷竜「そうしよう……」

神父「で、何でズバァってしたんだ?」

絶氷竜「目障りな物が我の視界に入ったからだ……」

神父「あれか……あれ?シスターあれは?」

シスター「ひー君がひー君砲で消し飛ばしましたよ!」

神父「そうか……はぁ、ひー君よ」

絶氷竜「なんだ……」

神父「やってしまった事にはもう言わないが、ひー君砲を使う時は一言言ってな?」

絶氷竜「ストライクブレスだ!」

神父「突然、ひー君砲使われるとオッサンがまたおかしくなるからな」

絶氷竜「ストライク……ブレスだ……」

シスター「いいですよねぇひー君砲!アホなゴブリンとかの残骸が残らないので便利ですね!」

神父「あっそ……」

絶氷竜「ストライク……」

シスター「私なんか砂を蹴って始末してるんですけど、残骸があっちこっち散っちゃって困る時があるんですよ!その点!ひー君砲は素敵ですよ!」

神父「………」

絶氷竜「ブレス……」

シスター「一家に一台ひー君砲!って感じですね神父様!」

神父「そんなもん同意するかよ……」

シスター「えー!ひー君砲ですよ?」

絶氷竜「スト……ライ……」

シスター「はい?ひー君なんです?」

絶氷竜「もういい……」

ーー

神父「ぶああ!そろそろ寝るか」

シスター「そうですね!」

船長「夜の散歩は体にいいのです……私は真っ直ぐ歩けます。だって光が……ひひひひ!」

絶氷竜「我……名……」ブツブツ……

神父「おやすみ」

シスター「おやすみなさい!」

船長「あああ涙君とはサヨナラしますサヨナラ涙君」

絶氷竜「また……会う……」ブツブツ……

シスター「この二人どうしましょ?」

船長、絶氷竜「………」ブツブツ……

シスター「こら!寝ないと蹴っちゃいますよ!」

船長、絶氷竜「ッ!?」

ダダダダッ!

シスター「よし!」

ーーー

ひー君「ヒュロロ」

シスター「神父様!見えてきましたよ!」

神父「おーようやくか」

シスター「皆、元気にしてるかな……」

神父「お前みたいのが他にもいるんだろ?」

シスター「いますけど?」

神父「なら大丈夫だ」

シスター「そうですかね?」

神父「ああ」

船長「」

神父「オッサン!起きろ!上陸するぞ!」

船長「う……うあ?どこにだ?ここは海のど真ん中……ああああッ!?」

神父「やっとこさ着きやがったんだよ」

船長「俺の一生もここまでか……」

神父「またそんな事言ってるのか。いい加減に慣れろよ……」

船長「こんなん慣れろって言う方が無理ってもんだろ……」

ひー君「………?ヒュロ?」

神父「ひー君どうした?」

ひー君「ヒュロロ!?ヒュロロ!」

ズシャァァァァァンッ!

神父「なななんだ?!」

シスター「あっちゃ……蹴道院の子達に敵と思われてますね!」

神父、船長「………」

ひー君「ヒュロロ!」

ズシャァァァァァンッ!

神父「な、何とかしろよ!」

シスター「仕方ないですね。私、一足先に行ってきますよ!」

神父「……え?どうやって?」

シスター「とう!」

ズババババッ!

神父、船長「………」

神父「普通に海の上を走ってったな……」

船長「化け物め……」

ひー君「ヒュロ!」

ズシャァァァァァンッ!

神父「色々と言う事があるが、まずはこっちだな……」

船長「坊主!右舷から来るぞ!」

ひー君「ヒュロロン!」

ズシャァァァァァンッ!



……「ああもう当たらない!」

……「なんでなの!お姉ちゃん達は簡単に衝撃波当てるのに!」

……「ふぉっふぉ」

……「え?そっか、もうちょっと力を抜けばいいんだね?」

……「ふぉ」

……「よーし……今度こそ!……ん?」

ババババッ!

……「反撃かな?それにしては……」

シスター「ストーップ!ストップですよ!」

……「あ、あれ?あれ!エンゴブお爺ちゃん!あれお姉ちゃんだよ!」

エンゴブ「ふぉっふ」

……「お姉ちゃーん!お姉ちゃぁぁぁん!」

シスター「とあー!」

ズザザザザァァ!

シスター「到着っと!」

……「お姉ちゃーん!」

シスター「エルちゃん!」

エル「お姉ちゃんおかえりなさい!」

シスター「はい!ただいま戻りました!」

エル「私、院長先生に言ってくる!」

ダダダッ!

シスター「あ、あー……まずは神父様とかひー君と会わせたかったんですけど……まあいいですかね」

エンゴブ「ふぉっふぉ」

シスター「エンゴブお爺さん!お久しぶりですよ!」

エンゴブ「ふぉ」

シスター「元気にしてましたか?」

エンゴブ「ふぉっふ」

シスター「そうですかぁ。皆も変わりなくですかね?」

エンゴブ「ふぉっふぉ」

シスター「なるほど。なら良かったです」

……ヒュロローン……

シスター「そうでした。エンゴブお爺さん!あれ攻撃しないでくださいね!」

エンゴブ「ふぉふ?」

シスター「あそこのドラゴンさんは私をここまで連れてきてくれたんですよ。それに後ろにお舟があってそれにも神父様とか乗ってるんです」

エンゴブ「ふぉっふぁ」

シスター「ええ、そうなんです」



シスター「ようこそ!蹴道院のある島へ!」

神父、船長「ついにか……」ゴクッ……

絶氷竜「ふん……随分と手荒い歓迎だったな」

シスター「そう言わないでくださいよぉ!ひー君見たら仕方無いですって!」

絶氷竜「普通は我を見れば逃げるなりするものだと思うがな!」

シスター「そうですか?」

絶氷竜「常識の外れにいる奴はこれだから困る」

エンゴブ「ふぉっふぉ」

神父「えー……はじめまして?シスターの雇い主の神父っていうもんです」

エンゴブ「ふぉっふぁ」

神父「……?」

エンゴブ「ふぉふぉふぁ」

神父「……シスター、このじいさん何て言ってるんだ?」

シスター「さあ?」

神父「さあ?ってお前……」

シスター「エンゴブお爺さん、ふぉとかふぁしか言わないのでわかりません!」

神父「………」

船長 (おいおい……このじい様見て普通にしてられるんだ……)

エンゴブ「ふぉふ?」

船長 (牙這えてるんだぞ……)

シスター「船長さん!エンゴブお爺さんがよく来たなって言ってますよ!」

神父「シスター、何て言ってるかわからないって言ったじゃねえか!」

シスター「わからなくても何となく何言ってるかわかるじゃないですか!」

神父「……そっかぁ?」

シスター「神父様がひー君を理解するのと一緒ですよ」

神父「うーん……?一緒か?」

シスター「はい!」

エンゴブ「ふぉっふぉ」

絶氷竜「何だ?」

エンゴブ「ふぉっ」

絶氷竜「ッ!?」ゾッ!ババッ!

神父、船長「???」

シスター「おー!流石ですねひー君!ちゃんとエンゴブお爺さんから距離を取ってエライエライ!」

エンゴブ「ふぉふぉ」

絶氷竜 (な、何だ今のは!背中を氷の刃で貫かれた様な感覚は!)

船長「……どうした同志?」

絶氷竜 (このお爺がやったと言うのか……?)ゴクッ……

船長「悩み事があるなら聴こうか?」

絶氷竜「同志……絶対に我の傍を離れるでないぞ……」

船長「え……?いや、あ?」

神父、シスター「………」

船長「ぼ、坊主……いきなり大人をからかうもんじゃねえぜ……」

絶氷竜 (この悪魔の様な領域で……せめて……せめてまともな人間だけは生かさねば我が矜持が許さぬ!)

船長「そそそそりゃおめぇ海の男でダンディーかつワイルドチックな俺に惚れるのはわかるが……男同士だろ?だからな……」

神父、シスター「………」

絶氷竜 (次は引かぬ!絶氷竜の名に賭けて!)

船長「……そのな」

神父「オッサン止めろ……頬を染めるな……」

シスター「ひー君趣味悪い……」



神父、シスター「………」

絶氷竜「汚物を見る様な目で何故、我を見る……」

シスター「ひー君?いいですか、世の中には男と女がいます。そして男女で番になります。一部の例外を除いては……」

絶氷竜「………」

神父「そうだな。……でもなシスター、もしかしたらドラゴンだと違うのかもしれないぞ?」

絶氷竜「………」

シスター「……え?ひー君……」

絶氷竜「その目はやめろッ!……一体何だと言うのだ」

神父「ひー君よ……ハッキリ言うぞ?」

絶氷竜「だからなんだ!」イラッ

神父「いくら惚れたからってコレはねえだろ……」

船長「コレって言うな……」

シスター「そうですよひー君!コレは無いです!」

船長「コレって言うな……」

絶氷竜「惚れたとか何の話だ……?」

船長「みなまで言わずとも俺はわかってる!憧れから愛情への

シスター「黙ってください。それ以上発言したら蹴ります」

船長「……で、でもだ

ズダァーンッ!

シスター「黙ってくださいって言いましたよね?」

船長「」

神父「……容赦なく蹴ったな」

シスター「当たり前です!ひー君とコレがくっつくなんて耐えられないですから!」

神父「そうか……で、ひー君よ。どうなんだ?」

絶氷竜「惚れたとか……何を言っておる。我が人間相手にその様な感情を持つはず無かろう」

シスター「ひ、ひー君さっきコレをに『我の傍らを離れるでないぞ』って!」

絶氷竜「それは……」

シスター「それは?」

絶氷竜「貴様ら海殺しの島へ来てしまってだな……そしてそこのお爺に殺気を浴びせられ我は怯んでしまった……」

シスター「うんうん」

絶氷竜「竜種である我がだぞ……情けない……」

神父「……殺気って?」

シスター「さっきエンゴブお爺さんがちょっとイタズラしたんですよ」

神父「へぇ……」

絶氷竜「このままでは我は負け犬だ……そんな物は我の矜持が許さぬ。だからだな……」

シスター「コレくらいは守れずに何が竜だ!って事ですか?」

絶氷竜「………」……コクッ

シスター「なるほど。ふふ」

絶氷竜「笑いたければ笑え!非力な竜など何の価値も無い……」

シスター「ひー君カッコいいですね!」

絶氷竜「……カッコいい?」

シスター「ええ!私なんかじゃそこまで考えないですもん!」

神父、絶氷竜 (少しは考えて行動しろ!)

シスター「ひー君は良い子です!」

絶氷竜「子供扱いはやめろ!」

シスター「ふふふ!ひー君んん!」

絶氷竜「アアアアやめろぉぉぉ!」

神父「………」

エンゴブ「ふぉふぉふぁ」

神父 (ドラゴンをビビらせるって……この爺様はやっぱヤバいんだな……)

ーー

院長「遠い所からよくお越しくださいました」

神父「ええ、まあ……ははは……」

院長「さぞお疲れでしょう。蹴道院へ御案内致しますので、そこで長旅の疲れを癒してくださいませ」

神父 (おいおい……マジか……)

院長「ミドル、ハイ、お荷物をお預かりしなさい」

ミドル、ハイ「はい、院長先生」

神父 (おいおいおいおいおいおいッ!マジかァァァァッ!)

シスター「神父様?」

神父 (遂に来たな……微妙に違うが神が俺の願いを受け止めてくれたんだな……)

シスター「?」

神父「神よ……心からお礼申し上げ候う……」

院長「あら?どうしたの?」

エル「………」チラッチラッ

絶氷竜「………」

エル「………」チラッチラッ

院長「まあ、ふふ」

絶氷竜「……何故あの娘は我をチラチラと見るのだ?」

シスター「あー!エルちゃん、ひー君とお話したりしたいからですよ!」

絶氷竜「ふん……小娘の御守りなぞ誰がするか」

エル「………」

タッタッター

絶氷竜「なんだ?」

ズダァーンッ!

絶氷竜「ギァァァ……ぐあ……な、何をするかッ!」

エル「……こんにちは」

絶氷竜「は……はあ?」

エル「こんにちは!」

絶氷竜「こ、こんにちは……?」

エル「うん!」ニコッ

絶氷竜「………」

シスター「ふふふ!良かったですねぇひー君!」

絶氷竜「……何が良いものか。蹴られたのだぞ!」

シスター「ここではそう言うもんですよ?」

絶氷竜「ここではこれが普通なのか……?」

シスター「はい!」

絶氷竜「………」

神父「い、院長という事ですが随分と若いのですね!」

院長「見た目だけはそう見えるだけですので」

神父「いやいや!そう謙遜なさらずとも!」

院長「謙遜などは……」

神父「それにお美しい……」

院長「それほどではありませんよ」

神父 (バインバインと揺れるいい物もお持ちで!なんてな!)

ミドル「お荷物をお預かりします」

神父「いや、結構」

ミドル「え?」

神父「お嬢さんの手を煩わせる程ではありません。ははは!」

ミドル「はあ……?」

エル「こっちだよ!」グイッ

絶氷竜「おい!手を離せ!……ひ、引き剥がせない?!」

ズズズズズ……

絶氷竜「引き摺るな!」

シスター「エルちゃんとひー君、仲良くなって良かったですね!」

絶氷竜「良くないぃぃぃ……」

シスター「あらー、もう行っちゃいましたね。神父様!私達も

神父「お嬢さん方、蹴道院までエスコート願いますかな?」キランッ

ミドル、ハイ「………」

シスター「……神父様」スゥ……

ベチィーンッ!

神父「痛ッ!な、何すんだ!」

シスター「行きますよ!もう!」

神父「待て!まだ

シスター「ああ……?」

神父「行きます……」

船長「」

院長「………」ニヤ……



院長「どうぞ。ここが蹴道院になります」

神父「………」

シスター「どうしました?」

神父「いや……何て言うか、凄えまともな建物だなってさ」

シスター「また!失礼ですよ神父様!」

神父「うちの教会の何倍もデカイしよ……こうな?もっと武人を鍛える鍛練場みたいなのを想像してたわけだが……」

シスター「なるほど。でも?」

神父「こいつは王都だかにあった修道院と同じくらいに立派なやつだぜ……」

シスター「ふふー!でしょ!」

院長「ささ、神父様もさぞお疲れでしょう。ロー、お部屋へ御案内頼みましたよ」

神父「ロー……?」

シスター「……私の名前ですけど?」

神父「え!……そうだったっけ?」

シスター「………」

神父「………」

シスター「今度私の名前忘れたりしてら、筋肉の繊維一本一本切断するようにローキックしますからね……」

神父「すまん……絶対忘れねえから、それだけは洒落にならんから止めてくれ……」

院長「神父様、後夕食が出来ましたらお呼び致しますのでそれまではゆっくりとお過ごしくださいませ」

神父「ええ、そうさせて頂きますよ」

院長「それでは後程」

神父「………」

シスター「行きますよ!神父様!」

神父「ああ……あれ?オッサンとひー君は?」

シスター「さあ?」

神父「さあ?ってお前……」



エル「それでね!これが綺麗な石でこっちが綺麗な貝殻で……」

絶氷竜「………」

エル「……私の宝物見ても楽しくない?」

絶氷竜「そうだな」

エル「そっかぁ……」

絶氷竜「ふん、貴様らの力の源が何かを見せれるならば我が見るだけの価値があると言うものだ」

エル「力の源?」

絶氷竜「そうだ」

エル「なにそれ?」

絶氷竜「……知らんのならいい。常識の外にいる者に聴いた我が愚かだった」

エル「そう。次は何して遊ぼうか!」

絶氷竜「遊ばん!」

エル「蹴り合わせする?」

絶氷竜「だから遊ばんと言っておるだろ!」

エル「あ……私に負けるの嫌なんだぁ?」

絶氷竜「なにをぅ!」

エル「そっかそっか、ひー君は女の子に負けるの嫌だからやらないんだ!あはは!」

絶氷竜「ぐぬぬ……小娘が言わせておけば……」

エル「じゃあ蹴り合わせしよ?」

絶氷竜「望むところだッ!貴様の減らず口を紡いでやるッ!」

エル「ふふふ!」

絶氷竜「さあ来いッ!」

エル「はい、足出して。こうだよ」

絶氷竜「ふんす!」シュピッ!

エル「それでね、ローキックをぶつけ合うんだよ!」

絶氷竜「………え」

エル「始めようか!」ビュバッ!

絶氷竜「………」

エル「いっくよー!」ヒュッ!

絶氷竜「お、おう……」ソゥ……

ガシィーンッ!

エル「あはは!」

絶氷竜「お、お前……馬鹿……アホ貴様……」

エル「もう一回ね!」

絶氷竜「むむむむむ無理だ!」

エル「え?なにが?」

絶氷竜「蹴り……合わせが……」

エル「………」

絶氷竜「無理……なんで……」

エル「そうなんだ……」

絶氷竜「………」

エル「ひー君って……弱いの?」

絶氷竜「よわ……い……ぐっ……貴様らに比べたら確かに弱いだろうよ……」

エル「………」

絶氷竜「……貴様達が異常なんだ……」

エル「異常?」

絶氷竜「そうだろ!竜である我をここまで追い詰めるのだからな!」

エル「………」

絶氷竜「………」

エル「ひー君ってドラゴンさんなの?」

絶氷竜「そうだが……」

エル「私、ドラゴンさん初めて見た!」

絶氷竜「………」

エル「しかもドラゴンさんとお友達になったんだよ!スゴいよね!」

絶氷竜「と、友達?やめろ……」

エル「えー、ひー君面白いし」

絶氷竜「………」

エル「もう友達だから!ひー君も蹴り合わせもっと出来るようにしてあげるね!」

絶氷竜「こここ断る!……いや……」

エル「?」

絶氷竜 (そうか……我は敵わぬと嘆くばかりであった……。なるほど、我もきゃつらの様になればよかったのだな……)



船長「うぅ……」

院長「……お目覚めになりましたか?」

船長「こ……ここは……?」

院長「蹴道院の一室になります」

船長「日の上の最果ての?」

院長「はい、そうですね」

船長「………」

院長「御加減はいかがですか?」

船長「まだ脚が痺れてるが大丈夫だ……」

院長「そうですか」

船長「あんた……俺と何処かで会った事あるか?」

院長「いいえ。私は存じ上げませんね」

船長「そうか……」

院長「………」

船長 (この女……なんだ?何かおかしい……いや、海殺しの島にいるんだからおかしいのは当たり前だが……)

院長「何か温かい物でもお持ちしましょうか?」

船長「そうだな……貰おうか」

院長「わかりました。では……」

船長「あ、あのよ……」

院長「はい?何でしょう?」

船長「あいつら……一緒に来た奴らは?」

院長「別室でおくつろぎなさっているかと」

船長「そうか……」

院長「お呼びしましょうか?」

船長「ああ……男の方だけ頼めるか」

院長「わかりました」

船長「………」

院長「準備いたしますので失礼します」

船長「ああ……」

カチャ

船長「………」

船長「ふぅ……」

船長「運命って奴がひねくれてやがるぜ……ったく」

船長「どうしたもんかな。……もし、帰れても誰も信じねえだろうな……最果てに行ってきたなんて……」

船長「まあ……そんな心配は帰れた時に考えればいいんだが」

コンコン

船長「開いてるぜ」

カチャ

神父「これ言うの何度目かわからんが、おうオッサン起きたか?」

船長「ああ」

神父「……見たか?」

船長「いきなりなんだ……何をだ?」

神父「院長さんだよ。凄えよなアレ……」

船長「………」

神父「参ったぜ……ここまで来た甲斐があったよな!」

船長「あの女は止めておいた方がいい……」

神父「あ?……自分が惚れたからか?なあ!」

船長「違うわ!……船乗りの勘ってやつだ。あの女はヤバいって感じるんだよ……」

神父「そんなもん信用出来るかよ……その勘が正しく機能してたらオッサンここにいないだろうよ」

船長「確かにそうだが……だが!」

神父「まあ……誰がなんと言おうと、俺は神が与えたチャンスを逃がしはしねえ!」

船長「あっそ……忠告はしたからな……」

神父「ああ神よ…… 女に囲まれた無人島に流されてのほほんと暮らし、多々エッチな事が起こる……そんな人生にしてくれたのですね……」

船長「女がいる時点で無人島では無いだろ……」

神父「ポロリもあるんだぜ!」

船長「知るかそんなん……」

神父「はあ……後の娘さんもシスターに勝るとも劣らないスタイルだし!期待しかないよな!」

船長「………」

神父「な!」

船長「船乗りより餓えてる神父ってのも如何なものかと思うが……」

神父「如何もクソもあるか!オッサンは興味無いのかよ!」

船長「それはあるが、後の恐怖が勝ってそれどころじゃねえだろ!」

神父「ふん!そんなもん丸めて捨てちまえ!」

船長「それで命まで捨てるつもりはねえ!」



ミドル「はぁ……」

ハイ「なんですの?溜め息なんかついて」

ミドル「男って初めて見たけど……何かガッカリして」

ハイ「まあ、ローが連れてきた者達だからアレじゃないかしらね……」

ミドル「そんなもん?」

ハイ「私が幼い頃は周りにまともな男性はいましたけどね」

ミドル「ふぅん……」

ハイ「ローのお客様ですから、あまり蔑ろにしてはいけませんよ?」

ミドル「それはわかってるよ。でもね……エンゴブ爺っちゃんと同じ感じな男もいたよねぇ……」

ハイ「そうですわね……」

ミドル「……エンゴブ爺っちゃんと同じ事仕出かしたらどうする?」

ハイ「いつもの対応でいいんじゃないかしら」

ミドル「それでいいの……?」

ハイ「何か問題でも?」

ミドル「院長先生が言ってたじゃん……外の世界に住む人はゴブリンとあまり変わらない強さだからって」

ハイ「そうでしたわね……」

ミドル「ハイがいつもの様にしたら首がポンポン抜けちゃうよ」

ハイ「ミドルがいつもの様にしたらレバーが悲鳴を挙げ割れますわね」

ミドル「そうなんだよね……」

ハイ「そうですわね……」

ミドル「ここは院長先生かローに相談かな」

ハイ「そうした方が良いかもしれませんわね」

ミドル「はぁ……」

ハイ「………」

ミドル「それにしてもさ、ローちょっと変わった?」

ハイ「そうでしょうか?いつもの様にチャランポランな感じでしたけど」

ミドル「そうだけど……何て言うか、眼差しが優しくなったみたいな」

ハイ「ん……」

ミドル「………」

ハイ「全然わかりませんでしたね……」

ミドル「そっかぁ……院長先生が言ってた男女の関係になるとあんな感じなのかと思ったけど」

ハイ「それは無いでしょう……ローですよ?」

ミドル「……ああ、ローだもんね」

ハイ「ローが色恋なんて……」プルプル……

ミドル「わ、笑っちゃ悪いよ……」プルプル……

ハイ、ミドル「………」プルプル……

ハイ、ミドル「アハハハハッ!」



シスター「くしゅんッ!」

神父「なんだ風邪か?」

シスター「そんな感じじゃないですけど……」

神父「そっか。なあ」

シスター「なんですか?」

神父「……院長先生は独身だよな?」

シスター「………」ジトッ

神父「ば、馬鹿お前違うって!学術的にだなこう調べる的な好奇心的でキラキラ光った夢をあげるよ的にだな……」

シスター「いいですか、院長先生には絶対にエッチな事しないでくださいね!」

神父「お、おう……」

シスター「それで一回エンゴブお爺さん大変な事になったんですからね!」

神父「………」

シスター「……聴きます?」

神父「いや……いいや……」

シスター「アバラが一本一本飛び出て顎もぱっくりと骨まで割れてですね!」

神父「話さないでいいから!」

シスター「腕と脚なんて五ヶ所くらいカクカクして気持ち悪かったんですよ!」

神父「………」

シスター「神父様がそんな事になったら大変ですからね!」

神父「絶対にエッチな事はしない……」

シスター「はい、そうしてください!」

神父「あのじいさんよく生きてるな……アバラが飛び出てって……」

シスター「そこはエンゴブお爺さんですから!」

神父 (それで納得出来るってどんだけだよ……)

シスター「それで、二人はどこにいるんです?」

神父「……それはお前が知っとかなければいけない事なんじゃないのか?」

シスター「ええ、ですね!」

神父「………」

シスター「で!」

神父「で!じゃない……オッサンは起きて飯食ってて、ひー君はちっこい娘と一緒にいたな」

シスター「へえ、早速エルちゃんはひー君と仲良しさんになりましたかぁ!」

神父「………」

シスター「良い事良い事!」

神父「あんまり聴きたくは無いが……あのちっこい娘も相当なんだろ?」

シスター「相当?」

神父「ほら……ローキックとかさ……」

シスター「ああ!エルちゃんは多分一番強いんじゃないですかね!」

神父「……え?」

シスター「院長先生もエンゴブお爺さんも強いですけど、なんて言うかポテンシャルが高いと言いますか!」

神父「本当かよ……」

シスター「本当ですよ!私と蹴り合わせで互角なんですから!」

神父「蹴り合わせってなんだよ……」

シスター「こうローキック同士をガシーンってぶつけ合うんです!」シュ!

神父「……それがお前と互角?まさか……」

シスター「仕方無いですね!後で見せてあげますから!」

神父「見たくない様な見たい様な……」

シスター「まあほんのお遊びですから、気楽に見ててください!」

神父「そのお遊びが人知を超えるしなもんなんだろ……」

シスター「普通ですよ普通!」

神父「お前のローキックが普通な訳あるか……後のお嬢さんも強い……いや、強いんだろ……」

シスター「まあ、そうですね!ハイ姉さんとミドルも強いですよ!」

神父「そうだよな……」

シスター「なにか?」

神父「あのさ……こう普通の人間はいねえのかよ!」

シスター「みんな普通ですよ?」

神父「もういい……」

シスター「そうですか?」

コンコン

シスター「はーい、開いてますよ!」

カチャ

エル「お姉ちゃん!ひー君連れてきたよ!」

絶氷竜「………」ボロボロ……

神父「ひー君……随分と派手にやられたな……」

絶氷竜「ふふふ……ふふ……」

神父「………」

絶氷竜「ハハハハッ!」

神父「蹴られ過ぎて、ひー君までもおかしく

絶氷竜「なっとらん!」

神父「………」

絶氷竜「同志と同じにするな!」

神父「ならいきなり笑い出したのはなんだ?」

絶氷竜「悠久の時を生き高みにいる我が……更なる高みに登れるのだぞ。これが笑わずにいられるか」

神父「どういうこった?」

絶氷竜「………」

神父「んん?」

絶氷竜「……我がこやつらとここで過ごせば更に強くなると言うわけだ」

神父「ひー君……それマジで言ってるのか?」

絶氷竜「ああ、そうだな」

神父「やはり……正気

絶氷竜「我はいつでも正気だ!そんな軟弱な精神などしておらん!」

神父「そう?……でもそれよ、やめた方がいいんじゃないか?」

絶氷竜「竜種の矜持の為に……我の為にせねばならんのだ」

神父「そうかい……その覚悟はいいが死ぬなよ……」

絶氷竜「我がこやつらを超えるまでくたばらん」

シスター「………」ツンツン

エル「なあに?」

シスター「ひー君と良い仲になりました?」

エル「うん!」

シスター「そうですか!」

エル「さっきね蹴り合わせもやったよ!」

シスター「おお!ひー君頑張りましたね!」

エル「でも……ひー君すぐうぉぉぉとかぐぁぁぁとかなってあんまり面白くなかった」

シスター「ひー君まだまだですねぇ」

エル「そうだね」

神父、絶氷竜「………」

神父「ひー君よ……」

絶氷竜「言うな……わかっている……」

神父「そっか……まあ頑張れよ……」

絶氷竜「………」

ーー

神父「………」

船長、絶氷竜「………」

神父「さて……」

船長「何がさてだ……」

神父「おいおいオッサン察しが悪いぞ!」

船長「………」

神父「ひー君は察してくれるよな?」

絶氷竜「貴様の心中など察せられるか……」

神父「はぁ……ヤレヤレ困ったちゃん達だぜ……」

船長、絶氷竜「………」

神父「いいか、説明するぞ?」

船長「たぶん死を覚悟する事だろ……やめろ!」

神父「大声出すなって!」

船長「そんなに大声で言えない事なのか……?」

神父「そうだがそうじゃなくてだな……」

船長「………」

神父「まあなんだな。野郎がこの部屋に押し込められて俺は窮屈している」

船長「………」

神父「そこでだ!ちょっとした息抜きをしたいと俺は考えたわけだ」

船長「この島で息抜きなど出来るか……」

神父「聴けって!……でだな、シスターに色々聞いたらこの島には温泉があり……この蹴道院にもそのお湯を引いてるらしいんだ……」

船長「お前まさか……」

神父「やっと察してくれたか。クククッ!」

船長「………」

絶氷竜「……同志よ、このイカれた悪魔は何を言ってるんだ?」

船長「女の湯あみ姿を覗こうとしてる……」

絶氷竜「そんな事をして何になる?」

船長「………」

神父「おいおいひー君!男なら!わかるだろ!」

絶氷竜「さっぱりとわからんが……」

神父「はぁぁぁぁ……仕方ねえな!ひー君も行くぞ!オッサンもほら!」

船長「あ、アホ!俺は行かんぞ!」

神父「ハハハ!ひー君!オッサンを連れて来てな!」

絶氷竜「あ、ああ……?」グイッ

船長「や、やめろ同志!」

神父「ヌハハハッ!いざ行かん!男達のヴァルハラへ!」



船長「………」ソワソワ……

神父「ふふふ……オッサンよ、随分と落ち着かない様子だな?」

船長「う、うるせえ……」

キャッキャッウフフ……

神父、船長「………」

絶氷竜「湯あみ姿を見るなら向こうから入った方が良かったのではないか?」

神父「ひー君、そっちは男子禁制……野郎が入る事は叶わないんだぜ……」

絶氷竜「ほう……ならばどうするのだ?」

神父「何処かに覗ける所があるはずだ」

船長「……こっちだ」

神父「………」

船長「………」

神父「はぁ……オッサン?」

船長「………」

神父「やる気マンマンだったんじゃん!」

船長「………」

神父「なんだなんだぁ最初っからいえよなぁ!ほんじゃあさっそく!」

船長「……待て」

神父「あん?」

船長「まずは年長者にその権利を譲るべきではないのかね?」

神父「………」

船長「悪魔よ……そうは思わないか?」

神父「人を悪魔呼ばわりするな……オッサン、ふざけてんのか?」

船長「ふざけてなどいないが?」

神父「普通は提案した者が最初に見るべきだろうよ!ああん!」

船長「そんな事言うなら除き穴を最初に見付けた俺に権利があるだろ!」

神父「………」

船長「………」

神父「おい、人が優しくしてるうちにそこを退けよ……」

船長「ふん、それはこっちのセリフだ。だから譲らん……」

神父「………」ビキビキ

船長「………」ビキビキ

絶氷竜「このな物見て楽しいのか?」

神父、船長「………」

絶氷竜「我には人間の趣向はわからんな」

神父「テメエ!何ちゃっかり覗いてるんだよ!」

船長「いくら同志でもこれは許せんぞ!」

絶氷竜「くだらん。我は戻るぞ」

院長「………」

絶氷竜「これだからアホな人間に関わってもろくな事は無いな」

神父、船長「………」

絶氷竜「なんだ黙って?……ははん、さては己の行為があまりにも稚拙で恥じているのか」

院長「………」

神父、船長「………」

絶氷竜「なるほどなるほど。これをきに学べて良かったな」

神父、船長「………」

絶氷竜「そう緊張した顔をせずとも良いぞ?我はこの程度では怒りはせぬ。それに我しか覗いていぬのだからな」

院長「………」

神父、船長「………」

絶氷竜「ふふふ、なんだ?今頃になって我の偉大さにおののいたか?」

神父「ひ、ひー君……後ろ……」

絶氷竜「あ?後ろ?っと!その前に我を崇めるならその呼び名は即刻やめろ!」

船長「頼むから後ろを向いてくれ……」

絶氷竜「うるさい!まずは呼び名だ!」

神父「違うんだ……ひー君の為に言ってるんだぜ……」

院長「………」

絶氷竜「何が違うか!……ったく……?」

院長「………」

絶氷竜「………」

院長「どなたです?」

神父、船長「ひー君だけが覗きました!」

絶氷竜「貴様らッ!」

院長「そうですか……この島に来て早々こう言う事があると困るのですが……」

神父、船長「ひー君だけが悪いんです!」

絶氷竜「貴様らがッ!」

院長「なるほど。……いけませんよ、こんな事をしては」

絶氷竜「我が悪いわけではない!」

院長「でも、覗いたのでしょ?」

絶氷竜「むぐっ……そ、そうだが……でも!」

院長「でもではありません。悪い事をしたらまずは謝る事です!」

絶氷竜「ぐぬぬ……」

院長「………」

絶氷竜「……謝らぬ!何故興味の無い物を見ただけで謝らなければならぬのだ!」

院長「………」

絶氷竜「覗く事が悪いのは人間の道理だろ!我は竜種だ!そんな物は関係無い!」

院長「なるほど……よくわかりました」

神父「お、おい……ひー君謝っとけって……」

船長「そうだぜ同志……」

絶氷竜「そもそもだな!」

神父「おっと!ひー君それ以上はいけない!」

絶氷竜「何がだ!」

院長「……貴方は人間の輪の中にいるのです。ならば人間の道理に従うべきなのではありませんか?」

絶氷竜「ふん!」プイッ!

院長「仕方ありませんね……」

絶氷竜「………」

院長「覚悟なさい。人の道理に従えないのならどんな目にあうか」

絶氷竜「く……どどどどうせ蹴りだろ!わ、わかってるぞ!」

院長「………」

絶氷竜「芸の無い事だな!ハハハッ……?」

院長「………」

絶氷竜「……は?何故我は貴様と向かい合って座っている……?」

院長「………」

絶氷竜「我の膝の下に入れている腕は何だ……?我の足に貴様の足を絡ませてるのは何故だ……?」

院長「………」

絶氷竜「一体……何故……いいいいいいつの間にこの体勢にィィィィッ!??」

院長「……覚悟なさい」ニヤリ……

絶氷竜「………」

グイッ……

絶氷竜「グキャァァァッ!」

院長「まだ少し力を入れただけですよ?」

絶氷竜「ぐあぁ……ま、ま

院長「それ」グイッ

絶氷竜「ギアァァァッ!」

神父、船長「………」

神父「ひー君えらい叫んでるが、あれ……痛いのか?」

船長「………」

グアラギャャャッ!

神父「んんん……」

船長「あれは足キーロックだ……」

神父「お?久し振りにライデン?」

船長「正式にはキーロック式膝固めと言うらしい……」

神父「………」

船長「相手の膝の裏に腕を通し、自分の足で相手の足を固定……そして少し体重を後ろにかけるだけで相手に激痛を与えると言う技だ……」

神父「………」

船長「素人でも簡単に真似できるらしい……でも良い子は真似しないでね……」

神父「へぇ……」

絶氷竜「も、もう……ゆる

院長「次は……」



絶氷竜「」ピクッ……ピクッ!

神父、船長「………」

院長「さて……」

神父、船長「……え?」

院長「何故、お二方は幼子が悪い事をしたのに止めなかったのです?」

神父「え、えーと……」

船長「そ、そーの……」

院長「それは大人がする役目ではなおのですか?」

神父「そそそその通りです!」

船長「えええ!まったくもって!」

院長「………」

神父、船長「………」

院長「止めなかった大人も同罪です」

神父「い、いや……」

院長「………」

神父「ここここれには深い訳が……?あれ?え?いつの間に俺の足首抱えて……」

院長「………」グイッ……

神父「いぎゃぁぁぁぁ!」

船長「………」

院長「………」グイッ

神父「グキャァァッ!」

院長「………」グイッ!

神父「オゴガァァァァッ!……ひ、ひ、もももう勘弁してぇ……」

船長 (お、恐ろしい……?え……今まで悪魔た退治してたのに、どうしてこの女と俺が足を交差させて……?)

院長「………」ニコリ

船長「………」



神父、船長、絶氷竜「」ピクッピクッ……

院長「ふふふ、久し振りのサブミッションは気持ちいいですね」

ハイ「い、院長先生!何やら凄い叫び声が聴こえましたが……?」

院長「このお三方が道理に反していましたので、少しばかり制裁をしたまでですよ」

ハイ「院長先生の制裁……」ゴクッ……

院長「これで懲りてくれれば良いのですが」

ハイ「………」

院長「ハイ、後は頼めますか?」

ハイ「……わ、わかりました」

院長「よろしくお願いします」

ハイ「………」

シスター「ミドルまた胸大きくなりましたね!」

ミドル「正直、大きくなっても邪魔なんだよねぇコレ」

シスター「………」

ミドル「気を付けないと重心擦れるし」

シスター「……嫌味ですか?」

ミドル「はあ?あんたから話を振ってきたんでしょ!」

シスター「………」

ハイ「………」

ミドル「……ったく。ん?ハイ?どうしたの?」

ハイ「そ、それが……」

シスター、ミドル「……?」

ハイ「これ……」

シスター、ミドル「これ?」

神父、船長、絶氷竜「」ピクピクッ……

ハイ「………」

ミドル「……何でこの人達倒れてるの?」

ハイ「院長先生の制裁を受けたみたいです……」

ミドル「え……マジで?」

ハイ「マジで……」

シスター「ししししし神父様ッ!?」

神父「」

シスター「脊髄引き抜かれて臓物撒き散らしてませんよね!?」

ミドル「見た通り綺麗な死体じゃない……」

シスター「………」

ミドル「院長先生に感謝しなさい。埋葬出来るんだから……」

神父「く……あ……?」

シスター「うわぁぁぁぁん!神父ざまぁぁぁ!」

神父「んん……」

シスター「神父ざまぁ!神父ざまぁ!」

神父「………」

シスター「神父ざまぁざまぁざまぁぁぁ!」

神父「……おいそれやめろ」

シスター「ふぇ?……神父ざまぁぁぁ!」

神父「やめろって!ざまぁ言うな!」

シスター「………」

神父「そんなに俺が院長さんに横乳当てられて足を捻られた事が嬉しいか!?」

シスター「………」

神父「ちょっと太ももがチラチラ見えたのは嬉しかったが凄え痛かったんだぞ!?」

シスター「………」

神父「それをお前は……お前って奴は……」

シスター「……蹴りますね?」

神父「は?」

べちこーん!

神父「いってええッ!ななななにしやがる!」

シスター「今度は!その伸びきってる鼻の下を蹴りますね?」

神父「………」

ミドル (あら?生きてた。……ってそれよりもローがあんなに優しく蹴るなんて……)

シスター「はい、寝そべってぇ」

神父「だ、誰が寝そべるか!」

シスター「残念です」

神父「………」

ミドル「……ロー?」

シスター「なんですか?」

ミドル「調子悪いの……?」

シスター「え?そんな事はないですよ?」

ミドル「でも……いや、いいよ……」

シスター「……?」

ミドル「………」

神父「おいシスター……」

シスター「はい?何ですか神父様」

神父「あの院長さんは何だ……気が付いた時には足を掴まれてたんだが……」

シスター「………」

神父「ありゃ一体……」

シスター「あれは……何でしょうね?ミドルはわかります?」

ミドル「あんなのわかるわけないでしょ……対峙してたと思ったら技かけられてるんだから」

神父「………」

ハイ「あ、あの……」

神父「何でしょうお嬢さん」

シスター「………」イラッ……

ハイ「残りの方はどうしましょうか……?」

神父「……ん」

絶氷竜、船長「」グタァ……

神父「仕方ねえな……オッサンは背負ってくから、シスターはひー君頼むわ」

シスター「ミドル、ひー君お願いします」

ミドル「ハイ、お願い」

ハイ「………」

神父「……ひー君をたらい回しにするな。こんな所じゃなんだから移動するぞ」

シスター「はい!」

ミドル「私達もいくの……?」コソコソ

ハイ「取り敢えず行きましょう……」コソコソ



神父「はふぅ」ドサッ

シスター「はふぅ!」ドサッ!

船長、絶氷竜「」

ミドル「もっと丁寧に扱いなさいよね……」

シスター「さて!神父様!」

神父「なんだよ?」

シスター「何故、院長先生に制裁を食らっていたのか説明してもらえますか」

神父「………」

シスター、ハイ、ミドル「………」

神父「ひ、ひー君がな?あのな……女の裸を見たいって我が儘を言い出してだな……」

シスター、ハイ、ミドル「………」

神父「それでだな……オッサンが一肌脱いだわけよ……な?」

シスターハイ、ミドル「………」

神父「それで、お、俺は……それにちょっと付いてったらご覧の有り様なわけよ」

シスター「……嘘ですよね?」

神父「ううう嘘じゃねえし!本当だし!」

シスター「はぁ……まあ、制裁も食らってますし無事だったので今回は不問にします」

ミドル「……あのさ?それあんたの裸も私の裸も覗かれてたって事だよね?」

シスター「そうですね!でも良いじゃないですか?ミドルのは減るもんじゃありませんし」

神父「お嬢さん、覗いたのはひー君だけだから減りはしないさ!もし俺が覗いていたならこうはいかなかったぜ!」

ミドル「………」

ハイ「………」

ミドル「男ってこんなのばかりなの……?」

ハイ「違うと……多分思いますよ……」

絶氷竜 「ふがっ!」ガバッ

神父、シスター「お?」

絶氷竜「何が起きた……あの激痛はなんだ……」

シスター「ひー君?お姉さんの裸を見たいのはわかりますが、覗いちゃ駄目ですよ?」

絶氷竜「……あ?」

シスター「そりゃひー君くらいの年の頃だったら興味津々なのはわかりますけど!……ね?」

絶氷竜「………」

シスター「まあ……必死で見せてくれって頼まれたら、お姉さんですから?チラッとは……」

絶氷竜「………」

シスター「やだ!ひー君のエッチ!」

絶氷竜「……誰が鱗も無いヒレや翼も無い貧粗な人間の裸など我が興味あるわけないだろ」

シスター「貧粗……」

ミドル「貧粗……」

ハイ「フフン……」ニヤリ

絶氷竜「くだらん」

シスター、ミドル「………」ジリッ……

ハイ「まあまあ、お二人供抑えて抑えてぇ」

シスター「ひー君はレディの扱いがなってないのでわからせないと……?」

ミドル「そうだな。ハイ、退いて……?」

ハイ「ふふふ!」チラッ

絶氷竜「………」

シスター、ミドル「………」

ハイ「ほら!」チラッ

絶氷竜「……ふざけているのか?魚類の貧弱な鱗ごときで我が興味を示すわけないだろ……ったく」

ハイ「………」

シスター、ミドル「ぷぶっ!」

ハイ「……笑わないでください」

ミドル「で、でも……そんな自信満々で見せたのに貧弱って……ぶふっ!」

シスター「そ、そうですよ……ぷっ!」

ハイ「………」

神父 (う、鱗……?人間じゃ無かったのか……?)

ミドル「ほら!」

シスター「貧弱な鱗ごときで我が興味を示すわけないだろ!」

ハイ「………」

シスター、ミドル「ぷぶ!アハハハ!」

ハイ「………」

ミドル「お、お腹いたい……ふっふ……」

ハイ「……並びなさい」

ミドル「じ、冗談だから怒らないで!」

シスター「そうですよ!」

ハイ「スカイハイキックで鎖骨をぶち抜きますので並んでください」

シスター、ミドル「………」

絶氷竜「……そ、そうだ!貴様ら!あの女は一体なんだ!」

神父「あー、ひー君?ここにいるもんだと院長さんのあれが何なのかわからんみたいだぞ」

絶氷竜「………」

神父「ビビるよな……立ってて次の瞬間には組付かれてるんだもんな……」

絶氷竜「悪魔もあれを食らったのか……」

神父「悪魔って言うな。……ひー君のとばっちりでな」

絶氷竜「それは我の台詞だろ!貴様らのとばっちりに我が巻き込まれたんだろうが!」

ハイ「お待ちなさい!」

シスター、ミドル「キャーキャー!」

絶氷竜「うるさい!」

ハイ「はぁああッ!」ブワッ!

ゴチーンッ!

絶氷竜「」バタッ……

神父、シスター、ミドル「あ……」

ハイ「あ……」

神父、シスター、ミドル「………」

ハイ「あ、あの……これは違いまして……」

ミドル「あーあ……」

シスター「ひー君かわいそう……」

神父「違うのに蹴られたのか……」

ハイ「………」

ミドル「こんな幼い子に……」

シスター「容赦の無い一撃を間違いで当てるなんて……」

神父「ひー君……きっとトラウマになったろうな……」

ハイ「………」

ミドル「どう責任取るの?」

シスター「それよりも、当たり所が悪かったらこのまま目覚めない事も……」

神父「ひー君……楽しかったぜ。……お前と過ごした航海の日々……」

ハイ「………」サァ……

ミドル、シスター、神父「………」

ハイ「わ、私は何て事を……」

ミドル「ここは……」

シスター「責任を……」

神父「取るしかねえだろうな……」

ハイ「………」

ミドル「僕たちぃ!」

シスター「私たちはぁ!」

神父「ひー君に対して責任を取る所を見守りまぁす!」

ハイ「………」

ミドル、シスター、神父「みーまーもーりーまーすー」

ハイ「何でそんなに息が合ってるんですか!……じゃなくて……責任なんて……」

シスター「ハイ姉さん……ひー君に何もしないつもりですか?」

ハイ「そう言う訳では……」

神父「ハイお嬢さん……ひー君ならどうなっても良いと?」

ハイ「そ、そんな事は言ってません!」

ミドル「ならどうするの?」

ハイ「確りと謝ります……」

ミドル「面白くない」

ハイ「………」

シスター「もうハイ姉さんならヤンヤヤンヤしてほしいですよね!」

ハイ「………」

神父「お?ワイのワイの囃し立てちゃう?」

シスター「良いですね!」

ミドル、シスター、神父「アハハハ!」

ハイ「貴方たちは……」

カチャ!

エル「ちょっと!」

ミドル「エルなに?」

エル「院長先生がもう少し静かに騒げって!」

ミドル「ああ……」

エル「もう!怒られちゃうよ!」

ミドル「う、うん……そうする。ハイ、そろそろ行こうか?」

ハイ「あの……ひー君は……?」

神父「意外と頑丈だから放っといていいんじゃないか?」

シスター「大丈夫!大丈夫!」

ハイ「そ、そうですか……」

エル「ひー君どうしたの?そんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ?」

神父「ハハハ、嬢ちゃんは優しいな!ひー君ならちゃんと寝かしとくからな」

エル「う、うん?」

ミドル「エルー行くよ」

エル「待ってぇー」

シスター「………」

神父「………」

シスター「ハイ姉さんがミドルにからかわれて、うるさくしたら院長先生かエルちゃんが注意しに来る……」

神父「………」

シスター「ふふ、何も変わって無いですねぇ」

神父「………」

シスター「……良かった。帰れる場所がいつもと変わらないって安心しますね、ね?神父様」

神父「………」

シスター「んん?」

神父「……お前は行かないのか?」

シスター「………」

神父「なあって。一緒に行けよ」

シスター「………」

神父「お前はあの嬢ちゃん達と寝るんだろ?」

シスター「そうですけど……」

神父「はあ……あのな?その心配は無用だぞ?」

シスター「……?」

神父「流石に夜這いなんてしない!紳士はそんな事しないもんだぜ!」

シスター「………」

神父「だから安心して寝ていいぜ」

シスター「あっそうですか」プイッ

神父「……何かまだあるのか?」

シスター「何にも無いですよ!神父様のバカ!」

タタタ……

神父「なんだぁありゃ……ま、いつもの事か。……オッサンとひー君は床で寝かせとけばいいか。俺も寝よ……」

船長、絶氷竜「」



船長「……夢……だよな……」

神父「ぐがぁ……Zzz……」

船長「………」

絶氷竜「Zzz……」

船長「夢だと言ってくれ……誰か……誰か頼む……」

神父「……うんん……」

船長「………」

絶氷竜「ふぁ……ふぁ……Zzz……」

船長「お願いだから……神よ、俺が何かしたのか……こんな事って……」

神父「オッサンんん……うるせえぞぉ……むにゃむにゃ……」

船長「………」

ーーー

シスター「おはようございます神父様」プイッ!

神父「おはよう。朝っぱらからご機嫌斜めだな……」

シスター「ふーん」

神父「………」

絶氷竜「何をブツブツと……」

船長「………」ブツブツ……

神父「昨日のあれ見せられたらオッサンならこうなるよな」

絶氷竜「なるほど」

シスター「ひー君行きましょ!もう朝ごはん出来てますから!」

絶氷竜「……献立は?」

シスター「えーと、謎の野菜スープに謎のお肉を挟んだ謎のパンですよ!」

神父、絶氷竜「………」

シスター「どうしました?」

神父「どうしましたってな……」

絶氷竜「謎のとはなんだ……」

シスター「この島で採れるお野菜とかって良くわかんないんですよね。だからですよ」

絶氷竜「………」

神父「謎のお肉って……ゴブリン何かの肉じゃないだろうな……?」

シスター「失礼ですね!あんなもの食べませんよ!」

神父「なら一体何の肉なんだ……」

シスター「さあ?」

神父「さあ?ってな……」

絶氷竜 (まさかそれが……?この島に巣くう暴力の源だとでも……)ゴクッ……

シスター「おお?ひー君は食べ気満々みたいですよ!」

神父「ひー君マジか……」

絶氷竜 (わけのわからぬ物を食し……超越した力を手にいれたか……)

神父「竜って凄えな……」

シスター「美味しいですけど」

神父「それでもだな……」

絶氷竜 (なるほど。……ならば意図も容易く強くなるわけだ)

神父「……い、いてて」

シスター「………」

神父「お、俺ちょっと腹の調子が……」

シスター「あっそうですか。行きますよ神父様!」

神父「ちょ、ちょっと待て!」

シスター「待ちません!」

絶氷竜「ふふふ……ふははははッ!」

シスター「ほら!ひー君も笑っちゃうくらい期待してるんですから!」

神父「わかったよ……ったく……」



院長「今日の糧が、体を心を健やかに過ごせる為の糧になりますように……」

シスター、ハイ、ミドル、エル「なりますように!」

神父「……なりますように。ほれ、ひー君も同じ様にな」

絶氷竜「不服だが……なりますように……」

船長「………」ブツブツ……

院長「いただきましょう」

絶氷竜 (これがこやつらの秘密か……ふふふ)

神父「………」

シスター「神父様?」

神父「あ?ああ……いただくわ……」

シスター「はーい!」

神父 (見た目は……何か凄え普通だな……)

院長「………」

ハイ「院長先生、今日のスープの出来はどうでしょう?」

院長「よろしいのではないでしょうか」

神父「………」チラッ……

ハイ「ありがとうございます」

ミドル「エル、それ取って」

エル「私より自分の方が近いんだから自分で取りなよ!」

神父「………」チラッ

シスター「はい、ひー君。あーん!」

絶氷竜「そのぐらい己でする!それと!食べさせようとするなら鷲掴みで我の口に詰め込め様とするな!」

シスター「お姉さんが折角優しくしてあげてるのに酷い!」

神父「………」チラッ

船長「………」モグ……

神父 (一応大丈夫そう……なのか?)

院長「神父様、蹴道院の朝食はお口に合いませんか?」

神父「いえいえいえ!何を仰います!この様な素晴らしい食事にありつけて神に心からの感謝を祈っていただけですので!ハハハ!」

院長「なるほど……本職の方は流石に違いますね」

神父「ええまあ!」

院長「それとそちらの方は……」

船長「………」ビクッ

院長「大丈夫なのでしょうか?」

神父「放っといて構いません!」

院長「そうですか……」

船長「………」ガタガタ……

神父「では!いただきますよ院長さん!」

院長「ええ、お召し上がってください」

エル「ひー君!ご飯食べたら遊びに行こ!」

絶氷竜「モグッ……ふん、いいだろう。貴様らの奥許しが我の糧になったのだ。……ふふ、今日の我は昨日の様にはいかんぞ!」

エル「ひー君ヤル気満々だね!楽しみ!」

ハイ「こら、エル?遊ぶのは奉仕が終わってからですよ」

エル「あー……そっかぁ。すぐ終わらせるから、ひー君待ってて!」

絶氷竜「よかろう」

神父 (……普通に美味いな。これなら大丈夫か……?)

ミドル「ロー、それ取って」

シスター「自分の位置が一番近いですから自分で取ってください!」



絶氷竜「ふははははッ!」

エル「………」

絶氷竜「遊んでやるぞ!小娘!」

エル「何か今日のひー君怖い……」

絶氷竜「そうだともさ!我は恐れられる存在だからな!」

エル「そうじゃなくて……まあいいや」

絶氷竜「さあ足を出せ!貴様の驕った根性叩き直してやる!」ビシュ!

エル「………」シュ

絶氷竜「行くぞッ!トァァァアアアッ!」

ガシンッ!

絶氷竜「………」

エル「………」

絶氷竜「ぇぇぇ……ぇぇ……?」

エル「どうしたの?」

絶氷竜「い、いや!何でもない!」

エル「そう?」

絶氷竜 (どどどどどどどどどういう事だ!この激痛は!あの食事がこやつらの力の源ではなかったのか!?)

エル「………」

絶氷竜 (……まさか、全く関係無かったのか?まさか……まさか……)

エル「もう一回やる?」

絶氷竜「………」

エル「……?」

絶氷竜「ふはは……今日はこの辺りで勘弁してやろう……」

エル「………」

絶氷竜「わ、我も小娘を傷付ける程大人気ないわけではないからな……はは……」

エル「………」シュ!

ズダァーンッ!

絶氷竜「グギャアアアッ!なな何をするか!」

エル「あ、いつものひー君だ」

絶氷竜「………」

エル「なんだぁ昨日と同じじゃん」

絶氷竜「くっ……ぐぐ……」

エル「変な物でも食べておかしくなっちゃったと思って心配しちゃった」

絶氷竜「その変な物を食べて貴様らはその力を得たのではないのか?!」

エル「え?やだぁひー君!そんなのあるわけないよ!」

絶氷竜「………」

エル「ぷぷぷ!ひー君おかしい!」

絶氷竜「なら何が貴様らをそこまで高みに……崇高なる力を得た……」

エル「さあ?」

絶氷竜「誤魔化すな!教えろこの小娘!」グワッ

エル「………」ビシュ!

ズダァーンッ!

絶氷竜「ギャアアッ!」

エル「ひー君?ローお姉ちゃんが言ってたけど、れでぃは手荒に扱っちゃあいけないんだよ!」

絶氷竜「お、おのれ……」ググ……

神父「おーおー、ひー君派手にやられてるな」

シスター「そうですね!」

絶氷竜「黙れ悪魔ども……」

神父「で?ひー君よ、お嬢ちゃんとはうまくやってるのか?」

絶氷竜「………」

神父「ひー君は長生きなんだろ?女性扱い方くらい知っとけよ」

シスター「そうですよひー君!」

絶氷竜「そんなものは知るか!」

シスター「ひー君!今からお勉強しましょう!神父様みたくなったら、お姉さん困っちゃいますから!」

神父「俺みたくってなんだ……」

シスター「自分の胸に聴いてみたらどうですかぁ」

神父「………」

シスター、エル、絶氷竜「………」

神父「ば、馬っ鹿お前……そそそれはだな……あれだよ……」

シスター「……何の事を言ってるのか知りませんけど、キョドりすぎですよ」

神父「な!お前謀ったな!」

シスター「………」

絶氷竜「うるさい事だな……?」

エル「ほほう」

絶氷竜「何を関心している?」

エル「ああやって男女の仲が深まるんだって。ミドルとハイお姉ちゃんが言ってた」

絶氷竜「くだらん……」

エル「………」

シスター「それって何ですか?あれって何ですか?」

神父「………」プイッ!

シスター「はぁ……」

神父 (くっ……シスターに溜め息吐かれるとは……何か屈辱的……)

エンゴブ「ふぉふぉ」

エル「お爺ちゃんおはようー!」

エンゴブ「ふぉふ」

シスター「おはようございます。お爺さん、何か来ましたか?」

神父、絶氷竜「何か来た?」

エンゴブ「ふぉふぉぅ」クイクイ

シスター「あー、あっちですか。んー……」

神父、絶氷竜「………」

シスター「まだ見えませんね。エルちゃんはどうです?」

エル「何かいるのはわかるんだけど、まだ何かわからないかな」

シスター「そうですか」

神父「シスター……一体なんだよ。何が来たんだ?」

シスター「この島には色々とアホっぽいのが来るんですよ。それですね!それをエンゴブお爺さんが教えてくれたんです」

神父「アホっぽいの?」

絶氷竜「海殺しの話では、ゴブリンやらがこの島に向かって来てるらしいな」

神父「あの海の上で会ったゴブリンみたいなのか?」

絶氷竜「そうだ。我等、竜種以外の魔物や魔族が最果てのこの島を狙ってるみたいだな」

神父「そんな事聞いて無いんだか……?」

シスター「今、ひー君が説明しましたよ?」

神父「もっと前に説明して欲しかったな!」

シスター「サーセン!てへっ!」

神父「………」イラッ……

エンゴブ「ふぉ」

絶氷竜「………」

エンゴブ「ふぉふぉお」クイ

絶氷竜「……我にアホの相手をしろとでも言うのか?」

エンゴブ「ふぉ」

絶氷竜「ふむ……よかろう」

エル「………」

絶氷竜「小娘、始めに言っておくが……手出しは無用だぞ!」

……「………」

……「……何ガス?」

……「お前は私が神にも等しい存在になって偉くなる事に対して尊敬とか敬意とか……そう言うのが足りないと思うんだけど」

……「そりゃ神になろが魔王になろが魔族様は魔族様ガスから。ええ」

魔族「そうだけども!」

……「ならいいでガスね」

魔族「………」

……「あー、魔族様?もうちょっと高度を上げて貰えると嬉しいでガス」

魔族「お前が重くてこれ以上上がれないんだよ……」

……「……チッ」

魔族「あ?今、舌打ちした?舌打ちしたな?おい!お前舌打ちしただろ!」

……「してないでガスー」

魔族「……いい加減にしろよ?ここまで来たら、私は今!手を離して落ちてお前が海の藻屑となろうともどうでもいいんだからな?」

……「そしたら自分で飛ぶでガス」

魔族「お前……飛べるの……?」

……「はいガス」

魔族「え?なに?私は遠路はるばるアホなお前を抱えて飛んで来たのにその必要は全く無かったって事?」

……「一応、案内はしてるでガス」

魔族「………」

……「………」

魔族「自分で飛んで行け!」

……「ええー?めんどうでガス」

魔族「お前は私の従者だろ!……めんどうなどと宣ってからに……!」

……「……サーセンガス」

魔族「なんだその謝り方は!」

……「………」

魔族「それに取り合えず謝っておこうみたいな態度もだな!」

……「………」

魔族「まだまだあるぞ!そもそもだな!お前は!」

…… (説教中に島には着くでガスかね。まあ、こうしとけば島までは抱えて飛んでぐれるガスねぇ)



絶氷竜「………」

シスター「ひー君の!勝利を願いましてぇ!」

神父、エル「願いまして!」

シスター「我々はエールを送りますぅ!」

神父、エル「送ります!」

シスター「ふぅれーふぅれーひー君!」

神父、エル「ふれ!ふれ!ひー君!」

シスター「セーーーーーーーーッ!」

絶氷竜「やめろやめろやめろッ!」

シスター「えー」

絶氷竜「なんだそれは!我を馬鹿にするな!」

シスター「ひー君に頑張って欲しくって……」

絶氷竜「だからと言ってそれはなんだ!セーーーとか意味がわからん!」

神父「あ、それ俺も意味わかんない」

エル「私も」

シスター「………」

絶氷竜「それにだな……下等な種族にこの島の秘密は渡さん」

エンゴブ「ふぉふぉ」

絶氷竜「ふん……見ていろ。いつか必ずや……ぬ?」

シスター「あー来ましたね!」

神父「……あれ?」

シスター「あれです。いかにもアホっぽい感じがしますね!」

神父「そうだな……」

シスター「ひー君、ひー君の仇はお姉さんが取ってあげますからね!」

絶氷竜「我が敗れる事前提か!ふざけるな!」

神父 (大丈夫だよな……?シスターもいるし……)



魔族「御機嫌よう。……この島に巣くうガーディアンの諸君」

シスター、エル「………」

絶氷竜 (ガーディアン?)

魔族「お前達が護っている物を素直に渡すなら生かしといてやる……ふふ」

シスター「アーホー!」

エル「アーホー!」

魔族「………」

シスター「ほら、神父様もご一緒に!アーホー!」

神父「あ、アーホー……?」

魔族「いきなり御挨拶だな。アホ言う方がアホなんだぞ?」

シスター、エル「え……」

神父、絶氷竜「………」

シスター「……エルちゃんがアホ?」

エル「お姉ちゃんがアホ……?」

神父「そんな事で惑わされるんじゃないよ……」

シスター「そ、そうですよね!私やエルちゃんがアホなわけありません!」

エル「う、うん!そう!」

神父「………」

魔族「随分と動揺しているじゃないか。ハハハッ!」

シスター、エル「くっ……」

絶氷竜「……くだらんやり取りは終わったか?」

魔族「おお、こちらは幾分か賢そうなガーディアンだな。だが……その小さな体で何が出来る?」

絶氷竜「………」

魔族「私も鬼では無いからな……そうだ、お前の攻撃を一度受けてやろう。そうしよう。うん」

絶氷竜「………」

魔族「さすれば、頭の弱いガーディアンでも力の差がわかるだろうよ」

絶氷竜「………」

魔族「来い。……ヌハハハ!」

絶氷竜「後悔するなよ……」ヒュバッ!

ズダーンッ!

魔族「………」

絶氷竜「………」

魔族「……ふん」

絶氷竜「攻撃が通じぬのか……?」

魔族「………」

絶氷竜「馬鹿な……小娘以下にも我は劣ると言うのか……」

魔族「……おい、鎧よ」

鎧「へい?」

魔族「少しの間、お前がガーディアンの諸君達をお相手して差し上げろ」

鎧「いいでガスが……魔族様は何をでガス?」

魔族「少々、横になる」

鎧「……は?」

魔族「」バタッ……

鎧「………」

絶氷竜「………」

鎧「………」

絶氷竜「ふ……ふははははッ!そうだろう!そうなる筈だ!」

鎧「………」

絶氷竜「普通は我に攻撃を加えられればそうなるわけだ!」

鎧 (こ、このアホ!来て早々やられるんじゃないでガス!)

絶氷竜「やはり小娘達がおかしかったのだ。我は弱くは無い!ふははははッ!」

神父「……ひー君えらい嬉しそうだな」

シスター「ひー君はしゃぎすぎですよ!ほら!まだいますから!」

絶氷竜「おっとそうだったな。来い……相手にはならんだろうがな!アハハハハハッ!」



船長「………」

ミドル「オジサン、掃除するからそこ退いて」

船長「……なあ」

ミドル「ん?なに?」

船長「あの女……院長と呼ばれている女の事はどこまで知っているんだ?」

ミドル「院長先生の事って……優しいくて時々怖い先生で私達の母親同然な人……だけど」

船長「………」

ミドル「?」

船長「院長の過去は?」

ミドル「さあ?」

船長「そうか……」

ミドル「まさか!オジサン、院長先生の知り合いなの……?」

船長「知り合いなんかじゃねえ……」ガタガタ……

ミドル「……なに?知らないのにそんな震えちゃって……」

船長 (ここでこの娘に話してもいいのか……過去は過去で今は……違うのだから大丈夫か……?)

ミドル「………」

船長「……知り合いじゃねえが、知ってる奴かもしれん」

ミドル「おお!院長先生の暗部が解き明かされる?ねえ?!」

船長「………」

ミドル「院長先生は女らしいもんねぇ。外だと、さぞやモテたんだうなぁ……」ウットリ!

船長「そんなもんじゃねえ……」

ミドル「……まかさハイみたいに全然モテなかったとか?」

船長「モテるモテないの問題じゃねえ!……あのな、これは真面目な話だから確り聴けよ?」

ミドル「う、うん……」

船長「俺が見た物が本物なら……あの女は海賊だ……」

ミドル「………」

船長「海で魔物より恐れられた凶悪な女海賊ってやつだ……」

ミドル「ウソぉ……?」

船長「他にあんな物をモモに彫りこんだりはしないだろうよ……」

ミドル「オジサンもお風呂覗いたんだ!」

船長「覗いてねえわ!」

ミドル「じゃあ何でそんなの知ってるのよ?」

船長「……足を掴まれた時に見えたんだ」

ミドル「あー……制裁の時にね……」

船長「その時に見た物が本物なら……な。そう言う事だ」

ミドル「院長先生が海賊かぁ。うわ似合わないププッ」

船長「………」

ミドル「それが本当だったとしても私は一向に構わないんだけど」

船長「………」

ミドル「院長先生とは付き合い長いし、信用してるもん」

船長「そうか……」

ミドル「多分、私以外が院長先生が海賊だったって知ってもそうですかで終わっちゃうと思うけどね」

船長「……その海賊が存在してたのが100年前だったとしてもか?」

ミドル「……100年?」

船長「そうだ。船乗りの間では伝説に近いもんになってるがな」

ミドル「なら……院長先生は100年も生きてるって事に……」

船長「なるだろうな」

ミドル「………」

船長「………」

ミドル「でも!それは本当に100年前の海賊かどうかわからないんでしょ?」

船長「そうだが……」

ミドル「ならオジサンの勘違いだよ!」

船長「………」

ミドル「もう!私行くから!」

船長「………」



絶氷竜「………」

鎧「ささ!こいつに手刀を喉笛にスドッととどめを射すでガス!」

魔族「」

絶氷竜「……こやつは仲間だろ?」

鎧「はんっ!仲間?こんな奴が仲間なわけが無いでガス!」

絶氷竜「………」

鎧「長時間働いても賃金の上乗せはしないわ!無理難題を吹っ掛けるわ!挙げ句の果てにはお、オレの尻を……ガス……」

神父、シスター、絶氷竜「………」

鎧「こいつはここで死ねばいいでガス!」

絶氷竜「……はぁ、小娘」

エル「なあに?」

絶氷竜「興が削がれた……後は始末しとけ」

エル「………」

絶氷竜「頼んだ

エル「………」ヒュボッ!

ズダァーンッ!

絶氷竜「ギァアス!お、お前……なんで……」

エル「ひー君!ちゃんとお片付けは自分でしないといけないんだよ!」

絶氷竜「………」

エル「それと!」

絶氷竜「そ、それと……?」

エル「なぁにあの音!ひー君のローキック全然なってないよ!」

絶氷竜「………」

エル「こうだから!」ヒュバッ!

ズダァーンッ!

絶氷竜「グアハッ!き、貴様……」

エル「はい!今度はひー君の番!」

絶氷竜「………」シュッ!

ズダーンッ!

エル「だから違うって!こう!」シュッビッ!

ズダァーンッ!

絶氷竜「あ、アホ……そう何度も蹴りやつがあるか……」

エル「……はい、ひー君の番だよ」

絶氷竜「………」

エル「何してるの?出来るまでやらないと」

絶氷竜「む、無理だ!貴様らの様には!」

エル「私を蹴らないんだったら……蹴るよ?」

絶氷竜「……ぉぉ……ぉ」

神父「お嬢ちゃんよ……あんまりひー君を追い込まないでくれるか?」

エル「………」

シスター「そうですよエルちゃん」

エル「でも……」

神父「お嬢ちゃん、あんまひー君苛めると嫌われちゃうぞ?」

シスター「そうですよ!」

エル「………」

神父「男って奴は厳しくすると離れて、優しくすれば近寄ってくる。その辺の加減が出来ると良い女になるんだぜ」

シスター「そうですよエルちゃん。日夜そう言う事ばっかり考えてる神父様の言葉ですから嘘は無いです」

神父「………」

エル「そっか……」

絶氷竜「……ぅぉぉ……」

エル「………」

絶氷竜「……!」ビクッ!

エル「………」

神父、シスター (頑張って!)

絶氷竜「なななななんだ!まだ我を蹴り足りないと言うか!いいだろう!貴様の気のすむまで蹴れば!」

エル「……あのね」

絶氷竜「ああん!?」

エル「ひー君……蹴ってゴメンね?」

絶氷竜「………」

エル「ひー君に強くなって欲しくて……つい……」

絶氷竜「………」

エル「………」シュン……

絶氷竜「………」

シスター「ひー君?エルちゃんも謝ってる事ですから許してあげてね?」

絶氷竜「……許すも何も……我が弱いのが悪いのだから……」

エル「………」

絶氷竜「小娘が気にやむことはない……」

エル「でも……」

鎧「はーいはーい、程よくボーイミーツガールしてる所悪いんでガスがぁ此方の用件をさっさと処理して欲しいでガスぅ」

絶氷竜、エル「………」

シスター「貴方は何なんですか!今、良いところなんですから空気読んでください!」

神父「そうだぜ!」

鎧「ならコイツにとどめをでガス!そしたら端っこで大人しくしてるでガス」

シスター「………」シュン……

絶氷竜「待てッ!」

シスター「……何で止めるザマス?」

絶氷竜「妙な語尾を入れるな……そいつらに聴きたい事があってな」

シスター、鎧「聴きたい事?」

絶氷竜「そこの金属」

鎧「お、オレでガス?」

絶氷竜「……貴様ら、本能でこの島を目指していた訳ではあるまい。ならば……どうやってこの島の事を知った?」

鎧「………」

絶氷竜「それとだな……ガーディアンとは何だ?」

鎧「………」



ミドル「ハイ……」

ハイ「どうしました?」

ミドル「………」

ハイ「?」

ミドル「あのね……院長先生の事なんだけど……」

ハイ「はい、それがどうかしたのですか?」

ミドル「ハイって院長先生と暮らすようになってどのくらいになるの……?」

ハイ「……?そうですね、私が幼い時に院長先生に預けられましたから……結構長いですね」

ミドル「その時から院長先生は院長先生だったの?」

ハイ「言ってる意味はわかりませんが、今とそう……いえ、変わったのでしょうね……」

ミドル「……昔の院長先生は今と違ってたの……?」

ハイ「………」

ミドル「ねえ!どうなの!?」

ハイ「……はい」

ミドル「そっか……」

ハイ (今までミドルは、そう言う事は気にしないと思ってましたが……)

ミドル「私ね……」

ハイ「はい」

ミドル「……院長先生が海賊だったって、もう百年以上生きてるかもしれないって聴いちゃったの」

ハイ「………」

ミドル「そんな事聞いちゃったらこれからどうしたらいいか……」

ハイ「それは、今まで通りでいいんじゃないですか」

ミドル「それはそうなんだけど……」

ハイ「ミドルは私が人族では無いと知ってますよね?」

ミドル「うん。鱗とかあるし、時々……え、えっと知ってるよ!」

ハイ「……時々なんです?」

ミドル「何でもないよ……」

ハイ「言いなさい……」ジトリ……

ミドル「言うよ……ハイって時々……お魚みたいな匂いがする」

ハイ「えッ!?」クンクンスンスン!

ミドル「………」

ハイ「な、何で今までそんな大事な事を黙っていたのですかッ!?」

ミドル「えー?院長先生がそっとしておきなさいって……」

ハイ「………」

ミドル「それで知ってるからなんなの?」

ハイ「ぉぉぉ……な、何て事……」

ミドル「………」

ハイ「ああああぁぁぁ……」

ミドル「ハイ!確りして!今は臭くないから!」

ハイ「……くさ……」

ミドル「うん!」

ハイ「………」フラッ……

ミドル「ハイ……?」

ハイ「は……はは……私……もうお嫁にいけないです……」

ミドル「………」

ハイ「……横になります。そっとしておいてください……」

ミドル「はぁ……」

ハイ「………」シクシク……

ミドル「あのさ……もしハイがお嫁に往くなら相手はハイと同じ種族って言うの?そう言う人なんじゃないの?」

ハイ「………」

ミドル「それならハイがくさ

ハイ「私は臭くありませんッ!」

ミドル「はいはい……まあ、相手もハイと同じって事でしょ?」

ハイ「………」

ミドル「なら問題無いじゃん」

ハイ「そうですかね……」

ミドル「そうだよ!だからこの話はおしまい!」

ハイ「私としてはおしまいにしてもらっては困る問題なんですが……」

ミドル「で、ハイって何なの?」

ハイ「……私は海人種と言われる種族なんですよ」

ミドル「へえ」

ハイ「例え私が人ではないと、海人種と知ってもミドルは私との付き合いを変えますか?」

ミドル「変わらないかなぁ」

ハイ「なら、院長先生との付き合いも今まで通りで良いのでは?」

ミドル「そっかぁ。そうだね……だけど……」

ハイ「………」

ミドル「………」

ハイ「出来ませんか?」

ミドル「ううん、そうじゃないんだけど……院長先生って悪い人なのかなって」

ハイ「………」

ミドル「私……聞いてみる」

ハイ「そうですか……わかりました」



鎧「さぁ?知らんでガス」

絶氷竜「………」

鎧「そう言うのはアホの領分でしたからガス」

絶氷竜「こいつの事か……」

魔族「」

鎧「ええ、左様でガス」

シスター「ひー君?こう言う輩はさっさと始末しましょうね?」

絶氷竜「……ならん」

シスター「え?何でですか?ローキックでズバズバ蹴り裂くの楽しいよ?」

神父、鎧 (そんなのが楽しいわけあるか……)

絶氷竜「ここは我に任せてはくれんか?」

シスター「………」

絶氷竜「………」

エル「そうやって独り占め

絶氷竜「せんッ!」

シスター、エル「えー?」

絶氷竜「こやつらは……」

神父「ひー君よ、こいつやらないのは何でだ?」

絶氷竜「先程聴いていただろ!金属達がこの島に来れた事とガーディアンについて聴きたいと!」

神父「あー言ってたな。それ知ってどえするんだ?」

絶氷竜「この訳のわからん島と訳のわからん奴等の事が多少はわかるのではないかとな」

神父「なるほど。……知ったら帰れなくなったらどうする?」

絶氷竜「帰る?そんなつもりは初めから無い!我が竜種の矜持を取り戻すまでここに要るつもりだ!」

神父「俺はある程度楽しんだら帰りたいんだが……」

シスター「………」

絶氷竜「我が納得するまでは諦めるんだな」

神父「えー」

鎧「あ、あのでガスな……」

絶氷竜「なんだ?この島の事か?」

鎧「はいガス」

絶氷竜「ほほう……言ってみろ。……くだらぬ事を語るならガーディアンの糧にしてやるからな!」

鎧「ひ、ひぃぃぃ」

神父「おいおいひー君……あんまビビらすと話す事も出来ねえだろうよ」

鎧「そ、そうでガス!」

絶氷竜「………」

神父「仕方ねえ……俺にちょっと話してみ?」

鎧「………」

神父「俺はこいつらみたく暴力に訴える様な事はしない。……それにな?」

鎧「何ガス……」

神父「俺な?結構有名人だったりするのよ」

鎧「へぇガス……」

神父「お前ら界隈って言うの?魔族の間だと有名人なんじゃねえかな?」

鎧「………」

神父「ほら、勇者やらなんやら復活させる粋でイナセなナイスガイの噂とかあるだろ?」

鎧「ナイスガイかは知らんでガスが……確かにチマチマ勇者やらを復活させるけしからん輩はいるでガス」

神父「ふふ……それが俺なんだぜ!」

鎧「ウソぉ……ガスぅ……」

神父「本当だって!な?シスター!」

シスター「あー……確かアホな魔王がけしからん輩って言ってましたね!」

鎧「………」

神父「……ちなみにな?魔王やったのアイツだから。変な事はしない方がいいぞ?」

鎧「………」

神父「でだ。……それをふまえた上で、誰に話せば自分に危害が及ばないかわかるよな?」

鎧「はいガス……」

神父「よーし。じゃ聞こうか」

鎧「……事は、このアホが魔王の城にあった古い書物を見付けた事から始まったでガス」

神父「ふむふむ」

絶氷竜「………」

鎧「その書物に、この島の事や位置が書かれていたらしいでガス」

神父「なるほどなるほど」

鎧「まあ、内容は教えてくれ無かったでガスが」

神父「ケチな野郎だな」

鎧「全くでガス。……で、このアホは始めに、この島の位置を掴む為に下級な魔物に追尾魔法を仕込んで送り込んだんでガス」

神父「………」

シスター「迷惑な事しますね!」

鎧「全くでガス。……何度か送り込んで位置を掴み、そして今の状態になってるんでガス」

絶氷竜「……それだけか?」

鎧「はいガス」

絶氷竜「他には何か無いか?何か呟いていたとか!」

鎧「あー、神を超えた存在になるだか何だか言ってたでガスな」

絶氷竜「神を超える……ここへ来れば……?」

鎧「その予定だったみたいでガス」

絶氷竜「………」チラッ……

シスター「エルちゃん!今日の晩御飯は鎧の丸焼きですよ!」

エル「そんなのいらない……」

鎧「あわわ……」

神父「心配しなくても誰もそんな事しないし食わねえよ……」

絶氷竜「………」

エル「ひー君?」

絶氷竜「この魔族に聞き出さねばならんな。この島のガーディアンの事に神を超える物……」

エル「………」

絶氷竜「………」

エル「……えい!」むにゅ

絶氷竜「な、なにゅをしゅるか!」

エル「そんなにお顔歪ませてたら怖い顔になっちゃうよ!」

絶氷竜「ムニュムニュ……」

エル「はい笑って!」

絶氷竜「………」……にやり

エル「笑顔が固い!」

神父、シスター、鎧「………」ニヤニヤ



ミドル「と言う訳なんですよ!」

院長「………」

船長「お、俺が何でここにいないといけないんだ!」

ハイ「ミドルに院長先生の事を吹き込んだのは貴方ですよね?」

船長「そうだが……」

ハイ「ならば、居るべきです。……生きていたいなら」

船長「………」

ミドル「院長先生……って海賊だったんですか?」

院長「知られてしまっては仕方ありませんね。確かに私は海賊でしたよ」

ミドル「やっぱりそうなんですか……」

院長「………」

ミドル「………院長先生」

院長「はい」

ミドル「その胸で男共を千切っては投げて千切っては投げて!海賊のドンを張ってたんですか!」

院長「……はい?」

ミドル「胸をあげて足をあげてワンツーワンツーみたいな!」

院長「………」

ミドル「もーう胸をユサユサ揺らしながら、『おう!野郎共突貫だぁ!』って!」

院長「………」

ミドル「うわぁぁぁぁ院長先生がぁぁぁぁ!」グワワ!

ハイ「……失礼します」シュッ

ドゴッ!

ミドル「いたッ!な、なに!?」

ハイ「ミドル……暴走し過ぎですよ。院長先生を見なさい」

ミドル「え?」

院長「………」

ミドル「そ、そんな可哀想な子を見るように見ないでください……」

院長「ミドル……その様な事をした事がありますが……」

ミドル「あるんだ!」

ハイ、船長 (あるんだ!)

院長「今はここを預かる身。……昔の様な私ではありませんよ」

船長「………」

ミドル「はい、それはわかってます。怒ると怖いけど優しい院長先生ですから。……あとですね?」

院長「はい」

ミドル「100歳を超えてるって本当ですか?」

院長「はぁ……」チラッ

船長「ッ!」ビクゥッ!

院長「貴方ですか。ミドルに色々と吹き込んでしまったのは」

船長「そそそそそれは……」

院長「別に構いませんよ。確かに100年以上は生きてると思いますね」

ミドル「……院長先生って人間じゃないの?」

院長「んん……何から説明してよいやら……」

ハイ「院長先生、始めから説明された方が良いと思いますが」チラッ

院長「そうですね……」チラッ

船長「ひぃぃぃぃ……」ガタガタ!

ミドル「オジサン……恐れすぎなんじゃないの?」

船長「過ぎない!あ、あの伝説の海賊だぞ!そんなんが目の前に……あああ」

ミドル「………」

院長「仕方ありませんね。私は少しばかり名を馳せた海賊でした」

ハイ、ミドル「………」

ーーーーー


女海賊「ふあははッ!大漁だねぇ!」

子分「へい!」

女海賊「野郎共!引き上げるよ!」

子分「へい!」

女海賊「しかしまぁ……あたしを捕らえに大軍揃えて攻めてきたにしては何とも脆い奴等だったねぇ……」

子分「……それは親分がおかしいんでさ」

女海賊「……そんなの自分でもわかってるんだよ」

子分「膝だけで船艦相手に大立ち回り出来るのは親分だけです……」

女海賊「出来るもんは出来るんだから仕方ないだろ……」

子分「………」

女海賊「なんだ?」

子分「いえね?勿体ねえと思いまして」

女海賊「勿体ない?何がだい?」

子分「その膝でさ。もっとこう他に活かせる事はねえんですか」

女海賊「知るか……」

子分「いっそ魔王なんかぶった押すのはどうです?」

女海賊「魔王ねぇ……興味ないね」

子分「英雄の名を欲しいままに出来るんですよ!」

女海賊「………」

子分「………」

女海賊「お前ね……あたしに英雄なんか勤まると思ってるのか?」

子分「……いいえ」

女海賊「そんなくだらない事するよりも、あたしは海賊やってた方が楽しいんだけどねぇ」

子分「なら!…………」

女海賊「あ?」

子分「………」

女海賊「?」

子分「無い……」

女海賊「なにが?」

子分「親分が海賊以外に出来る事がでさ……」

女海賊「………」

子分「な、何かあるはず!何かきっと……何か……」

女海賊「………」

子分「やっぱりねえや!はははは!」

女海賊「………」

子分「爆笑っすわ!海賊以外に何にも出来ないって!」

女海賊「………」プルプル……

子分「おーい!お前らぁ!親分は海賊以外に何も出来ないんだぜぇ!」

ドグチャッ!

女海賊「ふん……バカが。おい、片付けときな」

子分2「へ、へい……」

女海賊「……?」スンスン

子分2「親分……?」

女海賊「こりゃ、一荒れ来るかね……」

子分2「一荒れですかい?」

女海賊「海の匂いが増したろ」

子分2「???」クンクン

女海賊「海の男がわからないのかい……」

子分2「普通わからないでさ……親分がおかしいだけですぜ……」

女海賊「そんな事無いだろ。……まぁ、何であれ取り敢えず帰るよ!」

子分2「へい!」



ゴゥザッアァァァァッ!


女海賊「………」

子分2「お、親分!このままじゃ船がもちませんぜ!」

女海賊「チッ……」

子分2「親分!」

女海賊「うるさい!黙って生き残る事だけ考えな!行け!」

子分2「へ、へい!」

女海賊「………」

女海賊「……これはちょっと不味いかね。あたしの悪行もこれまでって事かい」

女海賊「まあ、海賊らしい引き際かもね。……お前ら!死にたく無ければ働きな!」

ーー

女海賊「………」

女海賊 (やられちまったね……)

女海賊 (はは……いくら歯向かう馬鹿共を蹴散らせる力があるからって、お自然様には敵わないか……)

女海賊 (……自惚れてたんだね、あたしは。馬鹿なあたしには、このまま海の藻屑になるのがお似合い……)

ブクンッ……

女海賊「……?」

女海賊 (海の底が明るい……?)

ブクンッ……

女海賊「ッ!?」

ブクンッ!……ドサッ

女海賊「な、ななななんだい!?」

女海賊「……息が吸える……砂浜……?……なんで上に海が……」

女海賊「………」

……ザッ

女海賊「……!」

……「おおう?人間……?」

女海賊「あ?」

……「ん……人間だよな?」

女海賊「………」

……「……あれ?ゴブリンだったか?」

女海賊「あたしがゴブリンに見えんのかい……」

……「何となく……こう似てるだろ?」

女海賊「ぶちのめすよ……どこがゴブリンと似てるって言うんだ!似ても似つかないだろうが!」

……「じゃあ何だよ」

女海賊「お前が最初に言った人間だよ!」

……「え?マジ?本当?」

女海賊「………」

……「ほほう、へへえ、ふふん」

女海賊「………」

……「初めて見るな人間。こんなんなんだな」

女海賊「何言ってやがるんだい……お前だって人間だろうが……」

……「いや?俺人間じゃねぇし」

女海賊「……あん?」

……「俺は海人種だがな」

女海賊「あたしを担ごうとしてんのかい」

……「そんな事しねえし。そう言やぁ人間、お前どっから来たの?」

女海賊「そ、そうだ!ここは何処だ!何故、上に海がある!」

……「ここはソットマリーナだが?上に海があるのは当たり前だろ」

女海賊「………」

……「そんな眉間に皺寄せてどうしたよ?」

女海賊「……ソットマリーナって国か?」

……「ああ、そうだよ」

女海賊「どこの大陸の国だい?」

……「大陸ってなんだ?」

女海賊「……は?大陸は大陸だろ……」

……「ああ、そうか!上の住人はそこに住んでるんだったな!」

女海賊「………」

……「爺がそんな事言ってたっけ。でもよ?ここはそんな所じゃねえから」

女海賊「ならどこだって……」

……「海原の中だったかな?そう言う所だぜ」

女海賊「……海の中……」

……「なによ?」

女海賊 (あり得るのか……いや、あり得るんだろうね……)

……「………」

女海賊 (この景色……上に海があるのを見せられたら……)

わあぁぁぁーーかあぁぁぁぁーーッ!

……「やべッ!見付かった!」

女海賊「?」

ズダダダダッ!

傅役「若ぁぁぁぁッ!??」

……「よ、よう……爺……」

傅役「ようではありませぬッ!こんな所でフラフラとぉッ!?」

……「………」

傅役「御自分のお役目を放って何を遊んでおいでか!」

……「べ、別に遊んでなんていねえよ……?」

傅役「………」

……「………」

傅役「ほう、遊んで無いと?」

……「お、おう!そうだぜ!」

傅役「……なら何をなさっておいでで?」

……「……その……あれだよ……」

傅役「………」

……「えっとな……!」チラッ!

女海賊「え?」

……「ここにいる人間を捕まえに来たのよ!」

傅役「ふむ……」

女海賊「……なんだよ?」

傅役「はんッ!ゴブリンごときを人間などと偽っても爺は騙されませぬぞッ!?」

女海賊「………」

……「いやいや!本当に人間なんだって!」

傅役「ゴブリンでしょ!」

……「人間だって!」

傅役「ゴブリンです!」

……「……人間?だよ?」

女海賊「馬鹿野郎!そこは確り人間って言え!」

……「そ、そうか」

傅役「……御主」

女海賊「んだよ!あたしはゴブリンじゃねえからな!」

傅役「若に馬鹿とは何事か!」

女海賊「……だってそうだろ」

傅役「……確かに」

……「………」

傅役「いや!わわわ若!こここれは違いましてな!」

……「馬鹿なのか……俺は……」

傅役「ち、違いますぞ!海王継承権第一位の王子であらせられる若が馬鹿などとは断じて御座いませぬ!」

女海賊「……本当に無いのかい?」

傅役「……多々ありますれば」

王子「おぅい爺!さっきから人間の言う事に一々同意するなよ!」

女海賊「それはお前の日頃の行いが悪いからじゃないのかい」

王子「んなわけあるかよ!」

女海賊、傅役「………」

王子「え……何その無言……あるの……?」

傅役「御自分の胸にしかとお聞きなされればよう御座います」

王子「………」

女海賊「ふん!ボンボンなんてもんはどこも同じなんだね。やだやだ」



傅役「ほうほう。大嵐にやられ船が沈没し、ここへ辿り着いたと」

女海賊「ああ。ここは何だい?あの馬鹿の話だと要領得なくってね」

王子「………」

傅役「……なるほど。若、あれほど学んで何故人に説明の一つも出来ないのですか……」

王子「説明したよ?でもコイツが理解しないから!」

女海賊「あの説明で理解しろって……無茶言うね……」

傅役「大方、だよ?だったかな?言ってな!とか仰っていたんでしょう」

王子「………」

傅役「若……」

王子「い、いいんだよ!俺は偉いからわざわざ人間なんかに説明しなくても!」

女海賊、傅役「うわ……」

王子「なんだよ……」

女海賊「お前、それは無いだろ……」

傅役「その態度は有り得ませんな……」

王子「………」

傅役「もう宜しいです。はぁ……爺が確りと教育しなかったのが悪う御座ったのでしょう……」

王子「そう!爺が悪い!」

傅役「なるほど。若はそうお思いで」

王子「おう!」

傅役「ならばより一層厳しく致さなければいけませんな!」

王子「……え」

傅役「今までの教育は海王に成らせられる方には少々ぬるかっと小見えしますな!」

王子「………」

傅役「されど御安心めされ。これからは手心を加える事など致しませんので。……御覚悟あれ」

王子「………」

女海賊「自業自得ってやつだねぇ。アハハハ!」

王子「アアアアア……」

傅役「若、爺も鬼では御座いませぬ故」

王子「……?」

傅役「共に研鑽しあえれる者も付けましょうぞ」

王子「それでどうなる……?」

傅役「爺も独り故。……双方に教育を施す事は無理な事。その者次第では若への教育が多少弛くなるかもしれませんな」

王子「な、なるほど!」

傅役「………」チラッ

王子「………」チラッ

女海賊「……な、なんだ?」

傅役「では若、お戻りになりましょう」

王子「おう!ははははは!」

女海賊「………」

ーーー

女海賊「………」

傅役「およそ千幾年前、海人、魔族、人間が一つの御宝を廻り争っていた時代が御座いました」

王子「フムフム」

傅役「その戦いで、空は淀み、大地は渇き、海は荒れ……そして戦っていた者達の心は荒んでいきました」

王子「ホウホウ」

傅役「当時の各王達は、このままでは敵味方関係無くうつし世の生ける者が滅んでしまうと考えたので御座います」

王子「それからそれから」

傅役「各王達は御宝を隔離し、それぞれが選び出した最高の戦士を守り人に選び出して御宝を保護したので御座います」

王子「どうしたどうした」

傅役「………」

王子「あっそれ!」

傅役、女海賊「………」

王子「ふんふん!ふんふん!」

傅役「若ぁッ!」

王子「うえ!?」

傅役「何をやっているのです!確りと聴いていたのですか!?」

王子「き、聴いてたよ……?」

傅役「……ならば問いましょう。時の各王達は何を選び出したのでしょうか?」

王子「アレ!」

傅役「………」

王子「うんうん、アレだよアレ!」

傅役「ふざけているのですか……?」

王子「ふざけてなんか……」

傅役「………」

王子「……おい、答えは?」

女海賊「最高の戦士だとさ」

王子「爺!答えは最高の戦士だとさ!」

傅役「女海賊殿!若を甘やかしては困りますぞ!」

女海賊「………」

傅役「もう一国の王子とあろう者が……」

王子「そんな事言われてもよ……」

傅役「うぅ、爺は情けのう御座います……」およよ……

王子「………」

女海賊「なあ……」

王子「なんだ?」

女海賊「アタシは何でお前と訳のわからん事を学ばなければならないんだい……」

王子「そりゃお前は俺様の子分になったからよ」

女海賊「………」

王子「光栄に思えよ?」

女海賊「……ふざけた事ぬかしてるとぶちのめすよ」

傅役「女海賊殿」

女海賊「あん?」

傅役「女海賊殿をあのまま放ってはおけぬ故、一応は国が客分として迎えたのですが……」

女海賊「………」

傅役「何分、身形や荒い言葉使いが目立ってしまいましてな……あれこれと要らぬ話が立つのも不味いのでですな」

女海賊「……で?」

傅役「女海賊殿には傅役補佐と言う形で国に滞在が許されたので御座います」

女海賊「……ふむ」

傅役「いやはや、私の不徳が致すところ申し訳無い……」

女海賊「なるほど。……で、アタシを帰らすつもりは無いんだね?」

傅役「お帰りになられるのなら御自由に。……上へと参られる手段は限りなく少のう御座いますが」

女海賊「チッ……」

傅役「………」

女海賊 (まあいいさ。助けて貰った恩ぐらいは返さんといけないしねぇ。帰るのはそれからだって……)

王子「……難しい話終った?」

女海賊「今の話のどこが難しかったんだい……」

王子「客分とか?帰るのはとか?」

女海賊「それは本気で言ってるのか?」

王子「おおよ!俺はいつだってマジだぜ!」

女海賊「……この国の将来は大丈夫なのかい」

傅役「ぐぬぬ……何かと努力は致してるのですが……」



傅役「ささ、頭を働かせた後は体を働かせる番で御座います」

女海賊「……その頭が働いてるかどうかも怪しいもんだがね」

王子「こいやぁッ!」

傅役「若!手合わせする時は、まずは礼からと何度も言ってるではありませぬか!」

王子「戦場で相手が一々礼なんてするかよ!」

傅役「………」

王子「ふふん!」

傅役「……若がまともな事を……な、何か良くない事が起こる前触れ?!」

王子「………」

女海賊「おい……やるのかやらないのか?」

王子「おう!やるか!」

女海賊「……お前、得物は?」

王子「無いけど?」

女海賊「あん?」

王子「ああ、お前知らないんだっけ。俺ら海人種は武器なんて持たないのよ」

女海賊「………」

王子「民から軍まで皆、素手なんだぜ」

女海賊「へぇ……おい、ジジイ……?」

傅役「なんたる事か……若が……あの馬鹿で間抜けで愚か者な若がまともな事を……」

王子「………」

女海賊「……余程ショックだったみたいだね。おい、ジジイ!確りしな!」

傅役「……は?!な、なにが……」

女海賊「ジジイ、この国には武器を使うやつがいないってのは本当かい?」

傅役「左様。必要がありませぬのでな」

女海賊「……ならどうやって戦うってんだい」

傅役「それは

王子「それはなぁ!己の肉体一つでってやつだぜ!」

女海賊、傅役「………」

王子「己の脚で戦場を駆け!己の拳で敵をねじ伏せる!」

女海賊「………」

王子「力こそパワーだぜッ!」

女海賊「へぇ……」

王子「フンスッ!」

女海賊「……まあ、同感だね。ふふ……」

王子「来な!一丁もんでやるぜ!」

女海賊「ほぅ、なら期待しちゃおうかね」

傅役「はぁ……双方構えて。始め!」



王子「」ボロボロ……

女海賊「よ、弱え……」

傅役「………」

王子「……ぐぁ……や、やるじゃないか……ごふっ」

女海賊「いくらなんでも弱すぎるだろ……」

傅役「………」

女海賊「つまらないねぇ……ジジイ」

傅役「何でしょう?」

女海賊「もっと骨のあるやつはいないのかい?こう口だけの奴じゃなくてさ」

傅役「ふむ……」

女海賊「いならいなら仕方無いけどねぇ……」

傅役「………」

女海賊「……世話になってなんだが、いならいならこの国、貰ってやるよ」

傅役「………」ピクッ

女海賊「アタシより弱い奴らばかりじゃ生きるのも大変だろ?」

傅役「………」

女海賊「あはははは!アタシ直々にお前らを守ってやるさ!」

傅役「……その傲った態度は見過ごせませんな」

女海賊「ほう?ならどうする?」

傅役「宜しい。私が御相手してしんぜよう」

女海賊「ジジイがかい?ふふふ、つまらない冗談だね」

傅役「冗談などでは御座らん。……来なさい」クイクイ

女海賊「………」

傅役「………」

女海賊「死んでも知らんからね」

傅役「………」

女海賊「……くらいな。アタシのコブラソードをさぁ!」グワッ!

傅役「力は線なり……」

女海賊「ヲオオオオッ!」

傅役「線は点と也て……」スゥ……

女海賊「ッ!?」

傅役「点は力へと返る……」バッ!

ズドンッ!!!

女海賊「ガハッ!」

傅役「………」

女海賊「うげがっ……ごほっごほっ!」

傅役「………」

女海賊 (な、なにが起きた……?)

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