穂乃果「とあるマンションの一室で」 (243)

ラブライブ!×GANTZのパロです
GANTZ原作とは武器等の設定、ストーリー展開は異なります


前作
千歌「GANTZ?」
千歌「GANTZ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1477559947/)



前作を読んで頂くと話がより分かりやすくなると思います

更新ペースは遅めなのでご了承ください


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483797702


~カタストロフィ ガンツの部屋~


穂乃果「――…ガンツ、沼津チームと繋げてくれる?」




――ブウゥゥン…




ダイヤ『あら? 通信ですか…って穂乃果さん!?』

穂乃果「あなたは…ダイヤちゃんだね? でも、まだ一度も会って話した事無いはずじゃ……」

ダイヤ『わたくし、μ’sの大ファンなのです! 年齢を重ね、大人びた顔でも一目で分かりますわぁ!!』キラキラ

穂乃果「あはは……それは嬉しいよ」



穂乃果「そこに千歌ちゃんは居る?」

ダイヤ『………』

穂乃果「ダイヤちゃん?」

ダイヤ『千歌さんは…三年前に亡くなりました。理由を説明すると長くなるので省きますが、本人の希望により再生はしていません』


穂乃果「……そっか、ごめんね?」

ダイヤ『お気になさらず。代わりにわたくしが伺います』


穂乃果「うん、お願いするね。――単刀直入に聞くけど、敵の宇宙船内部のマップデータってもう手に入れた?」

ダイヤ『んな!? そんなものが既に出回っているのですか!!?』

穂乃果「その反応じゃ、まだ持ってないみたいだね。実は知り合いのアメリカチームのメンバーからデータを送って貰えたんだよ」

穂乃果「宇宙船の弱点も捕らわれた人々が収容されている座標も分かってる」


ダイヤ『なんと……』


穂乃果「私達のチームは他の国と合同で迎撃に向かうつもり。データはこれからそっちに送るから、どうするかはあなた達で決めて?」

ダイヤ『分かりました。貴重なデータ、ありがとうございます』



穂乃果「……後ね」チラッ

「………」ソワソワ


ダイヤ『穂乃果さん?』

穂乃果「――…私のチームから一人、そっちのチームの応援に向かわせようと思うんだけど…問題ないかな?」


「っ!!」


ダイヤ『本当ですか!? 人手は多い方が助かるので大歓迎なのですが……よろしいのですか?』

穂乃果「まあ……この子は本来そっちのチームの子だからね」

ダイヤ『はい?』


穂乃果「ただ、暫く時間が掛かるから準備が出来次第、応援の子はこっちから転送するね」

ダイヤ『そうですか、分かりました』

穂乃果「じゃあ切るね。検討を祈るよ」




――プツン…




「ほ…穂乃果さん!? 私このタイミングで帰るんですか!!?」

穂乃果「だって帰りたいでしょ?」

「でも……」

穂乃果「これを逃したら、もう一生曜ちゃんやみんなに会えないかもしれない…それでもいいの?」

「………」


穂乃果「まあ、最終的に決めるのは自分だからさ。よく考えてね……“千歌ちゃん”」





プロローグはこんな感じで
基本的にある程度書き溜めてから投稿します

またこれからよろしくお願いします

――
――――
――――――
――――――――


~三年前 9月~


穂乃果(秋葉原で沼津チームと合同で行ったミッションから暫く経った。星人との戦闘で荒れ果てた街も徐々に復興し、ほぼ元に戻った)

穂乃果(ミッションの後、部屋でみんなにカタストロフィの事を話したけど…各々複雑な顔をしていた.
解放を目指して戦っていた にこちゃん、花陽ちゃんは特に険しい表情だったけど、大切な人を守るためにこの先も残る決断をしてくれた)


穂乃果(この件については話すかどうか散々悩んだけど、みんなは訊けて良かったと言ってくれた)

穂乃果(今は休日、私の家には凛ちゃんと花陽が来ているんだけど――)




穂乃果「――…それってどういう意味?」

凛「いや…あれ? ちょっと怒ってる??」アセアセ

穂乃果「あ、ごめんごめん。別に怒ってないから安心して」アセアセ


花陽「いきなり『本当に何十回も100点取ったの?』なんて疑ったらそりゃ怒るよ」

穂乃果「だから怒ってないってば!」



凛「――…でもさぁ、穂乃果ちゃんは凛達が全滅してから一人で全員再生させて、強化装備もハードスーツまで持ってるわけでしょ?」

穂乃果「まあ…」

凛「凛を再生してもらったのが二年前で、その時は海未ちゃん、ことりちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃんがいたにゃ」

花陽「その次が真姫ちゃんで最後が花陽だったんだよね?」

穂乃果「三回連続で高得点の星人が大量に出てきたミッションだったから短期間で100点が取れたんだよ」



凛「で、凛より先に再生されたメンバーに誰が最初に再生されたか訊いたの」

花陽「それでどうだったの?」


凛「――…海未ちゃんとことりちゃん、絵里ちゃんだった」

花陽「三人? 三人同時に再生されたんだね」

凛「でも、それっておかしいよね?」

花陽「?」

穂乃果「………」



凛「だってさ、一回のミッションで獲得できる点数は100点までだよ? だから再生出来るのは一人だけなんだよ。他に仲間がいるなら別だけど、海未ちゃん曰く穂乃果ちゃんしかいなかったみたいだし…」

花陽「あっ」


凛「――…ねぇ、穂乃果ちゃんはどうやって三人も同時に再生できたの?」






穂乃果「うーん…どうしてそんな事知りたいの?」

凛「だって、一気に三人も再生出来る方法があるなら連続してやらなかったのは何でかなーって思っちゃって……」

花陽「もしかして……話すと命が危ない…とか?」ビクビク


穂乃果「……まぁ、隠す必要は無いかぁ」ポリポリ

穂乃果「そうだよ、私は数十回も100点は取って無い。みんなが生きている時に間違って二番を選んだ1回と凛ちゃん達の再生に5回、武器の選択で3回だから計9回だね」



凛「やっぱりにゃ」ウンウン

花陽「9回でも凄すぎると思うけど…」



穂乃果「それで、三人同時に再生出来た理由なんだけど――」





――――――
――――
――


~翌日 都内大学 中庭~


真姫「――…なるほどね、過去にそんな事があったの」

凛「そうだにゃあ……衝撃だったよぉ」ズーン

花陽「穂乃果ちゃんにまだこんな隠し事があったなんて…」



真姫「ただまぁ、今後もあるかもしれないわけでしょ? その…緊急ミッションってやつ」

花陽「うん…ここ数年間無かったからいつ来てもおかしくないとは言ってたよ」

凛「でもなんであの時にこのミッションについても話さなかったのかにゃ?」

真姫「戦力が整ってきたから、わざわざいう必要が無いと思ったんでしょうね」

花陽「それに全員残るって決めたから、緊急ミッション後の事も問題無いし」

凛「誰か一人だけ100点メニューから一番が選べなくなるってやつ? 確かにそうだね」


真姫「来たら来たで戦うまでね。覚悟だけは今のうちからしておくわ」ガタッ



花陽「もう授業?」

真姫「ええ、午後からは死体の解剖なのよ~。じゃあね」ヒラヒラ



凛「…行っちゃった、昔の凛なら死体の解剖なんて見れないと思うけど…今はもっと凄いの見てるからへっちゃらだろうけどね!」ニヤリ

花陽「私も見ながら御飯食べられる気がするよぉ」アハハ…




~~~~~~


~夜 秋葉原~


希「お! えりちや~ん」フリフリ


絵里「希? こんな時間に女の子が外出?」ヤレヤレ

希「まだそんな遅い時間じゃ無いやろ? そんな事言ったらえりちも一緒やん」ケラケラ

希「――…まぁ、そろそろ来る頃かなと思って最近は心の準備をしとるんよ」

絵里「そうね…」




絵里「あなた程経験を積んでも、やっぱりまだ怖いものなの?」

希「うーん、別に怖くは無いよ。これはウチが昔から転送前にやってるルーティーン…みたいな?」


絵里「なるほどね。……あら? あそこでからまれてるのって…音ノ木の子じゃない?」

希「うん? …ほんまや」



二人が話している場所の少し先
裏路地に続く入り口付近で三人の少女が話している
一人は音ノ木坂学院の制服
もう二人はこの近辺では見ない制服を着ていた

見るからにガラの悪そうな二人
どうやらカツアゲの真っ最中であった




生徒「――…で、ですから……持ってないんですって」

チンピラA「そりゃ無いっしょ? あんたどう見ても裕福そうな家の子じゃん」

チンピラB「ウチらの力、見たでしょ? あんたの骨なんて小枝みたいにポキポキ折れるんだよ~」ニヤニヤ



希「へー、それは凄いなぁ。女の子なのに馬鹿力やん?」

チンピラA「あん? あんたら誰だよ!!?」グイッ

絵里「………」チラ




仲裁に入った希は襟元を強引に掴まれる
穏やかな状況では無いが希は全く動じない




希「おーお、いきなり掴み掛らなくてもええやん?」

チンピラA「やけに余裕じゃん? 本当に潰されたいのか、ああ!?」イラッ

生徒「や…止めてて下さい! その人たちは無関係じゃないですか!」

希「かまわへんで~」ヒラヒラ


絵里「(首元のメーター……手にしている黒い手袋、手首には首元と同じメーターが付いているわね)」

絵里「希、間違いないわ」

希「そっか、ほな……――」


チンピラA「何コソコソ話してんだよ!!」バキッ!

希「っ!?」バタッ




しびれを切らした少女は希の顔面を殴り飛ばす
絵里と希はもう分かっているが、この少女はスーツを着用している
恐らくもう一人も同様だろう

スーツを着た人間は常人の何倍もの身体能力を得る事が出来る
その力で人の顔を殴れば大怪我じゃ済まない
実際、殴られた希はそのまま倒れて全く動かない



チンピラB「バッ…!? それはヤバイって!!」ゾワッ

チンピラA「あ……いや、だって……」ビクビク




少女は自分のした事を酷く後悔した
ちょっと脅して小遣い稼ぎをしよう
そんな軽い気持ちでカツアゲをしていたのに…
その場の感情で一般人を殴り殺してしまった




生徒「あ……あぁ…きゅ、救急車ぁ!! 警察も…」ガクガク

チンピラA「ちょっと……それは――」



絵里「――…その必要は無いわ。希もいい加減悪ふざけは止めなさい」ヤレヤレ

希「えー、でも殴られたんよ? “ぼーこーざい”で警察呼んでもらわな」ムクリ

チンピラB「は? え……なんで…?」


絵里「見た所、あの部屋に行ったのはまだ最近ね。初めてのミッションを運良く生き残ったみたいだけど、くだらない使い方しないできちんと訓練した方が身の為よ?」

希「ウチが死ななくてラッキーやったな♪」



絵里「希、音ノ木の子と一緒に表に出ていて。私はこの子達と少しお話があるから」

希「分かった。ほな、行こうか?」

生徒「あ、はい。ありがとうございました」ペコリ




絵里「――…さてと、あんた達は一体どこのチーム? 少なくとも東京では無いわね」

チンピラB「か、神奈川…です。ここには遊びに来ただけ……です」

絵里「そう。じゃあ、こんな事は今まで何回もやってきたの?」

チンピラA「……はい。スーツの力見せつけて色んな奴から巻き上げました」


チンピラB「あの…やっぱり警察に……」

絵里「そうね、本来ならそうする所だけど…今回は見逃してあげるわ」

チンピラB「………」ホッ




絵里「――…ただ」ゴソゴソ




そう言って絵里はカバンから何かを取り出した
右手に握られたそれは、スカーフが被さっていて何か分からない

それを彼女に突きつけると…




――ギョーン! ギョーン! ギョーン!




チンピラA「ちょっ…ええ!!?」キュウゥゥゥゥン…




彼女達もその独特な音で絵里が握っていたものが分かった
Xガンである
突然の発砲に驚きと恐怖を感じた二人は思わず腰を抜かす

そんな二人を絵里はまるで“ゴミ”を見るような目で見降ろしていた




絵里「今度、希を殴り飛ばすようなふざけた事してみなさい? 同じスーツ組でも問答無用でぶっ殺す」

チンピラA「あ……あ…」ガクガク

絵里「これに懲りたら、今後悪さする事は控えることね。……いいわね?」ニコ


チンピラA・B「「……はい」」





~~~~~~


希「えりち…何したん?」

絵里「え? 別に何もしてないわよ」

希「ふーん……あの子達、凄い勢いで去っていったけど?」

絵里「まぁ、“ちょっと”強めに叱っただけよ♪」

希「ちょっと……ねぇ」ジトッ


絵里「そんな事より、気が付いた?」

希「うん、そろそろ転送が始まるね……」

絵里「それじゃあ、転送が始まる前にもう一度あの裏路地に行きましょうか――」






~~~~~~


~ガンツの部屋~


ことり「あああ……デザインの提出期限が近いのにぃぃぃ」

にこ「…ことりはどうしたわけ?」

穂乃果「なんか学校で出された課題の期限が近いんだって。気分転換にウチでやってたら転送されちゃったの」

にこ「それはお気の毒に」ヤレヤレ



ことり「今も考えるしかない…紙とペンさえあれば……」ブツブツ


海未「諦めなさい、ことり。考え事しながらこなせる程甘くないですよ」

ことり「うぅ……分かってるよぉ」グスン




花陽「はむ……はむ…」モグモグ

真姫「今回は何おにぎりを持ってきたの?」

花陽「今回は昆布、おかか、鮭の三種類です! 転送の知らせを感じてから具入りのおにぎりをついに三種類も握れるようになりました!!」エッヘン

凛「初めは形の崩れたおにぎりしか作れなかったのに、今はキレイな形をしたのが三つも作れるなんて……かよちん、成長したにゃあ~」ウンウン

花陽「これで花陽はいつもの三倍は戦えます!!」ゴゴゴ

真姫「………」ヤレヤレ



希「お! もうみんな来てたんやね」ジジジジジ

絵里「私達が最後か」ジジジジジ


穂乃果「絵里ちゃん、希ちゃん!」

海未「これで全員揃いましたね」

ことり「今回も追加メンバーは無しかぁ」

にこ「ここ何年も追加されないから9人が最大なんじゃない?」

凛「今さら新人が増えてもお互いやりにくいにゃ」


真姫「――…音楽が始まったわ」




ガンツからはいつものようにラジオ体操の音楽が流れる
そして定型文が表示された後
今回のターゲットが表示された



ガンツ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
さむらい星人 特徴:つよい 好きなもの:刀 火薬 口くせ:ござる、ござる』




絵里「これはまた…ずいぶんと人間に近い星人ね」

花陽「おでこに二本の角が無ければ星人だって分からないです……」

にこ「侍か、わざわざ剣で挑もうなんて事する人はいないわよね?」チラッ


穂乃果・海未「「!?」」ドキッ

にこ「……呆れた、どうしてご丁寧に敵の得意分野で戦おうと思ったわけ!?」

海未「私も得意です! 得意分野で戦うのは正しい選択なのでは?」

にこ「海未は結構。問題は穂乃果よ! あんたは銃でもやれるでしょ!?」



穂乃果「い、いやー…今度海未ちゃんと剣道勝負をする事になって、その練習を……なんて…あはは」

ことり「穂乃果ちゃん……」

にこ「あ…ああ……私の理解の次元を超えていたわ…」

にこ「あんたにとって、ミッションはもうそのレベルにまで下がったのね。前回までの殺戮マシーン穂乃果はもういないわけですか!」

穂乃果「殺戮マシーン!!?」

にこ「点数に貪欲だったあの穂乃果はもう死んで、今やミッションはお遊びなのね。そーですかそーですか」プンプン

絵里「まあまあ、そんなに怒らないの。穂乃果がミッションで気を抜く何てことは無いから大丈夫よ」

希「そうそう。今までが殺伐とし過ぎただけやん? これくらいのユルさがあった方が落ち着くよ♪」

にこ「絵里…希……」


真姫「くだらない喧嘩はそれくらいにしなさい。転送始まってるわよ?」ジジジジジ

凛「よーし、今回は100点まで行くにゃあ!!」パシンッ

花陽「ふぅ……頑張るぞ!」グッ




穂乃果「――…よし、行こう!」キリッ





今回はここまで

Aqoursの時とは雰囲気が全く違う感じになりましたね…

~~~~~~


~地下鉄 車内 最後尾~


にこ「ちょっと…ここ電車の中じゃない!? しかも、普通に乗客いるし!」

真姫「とんでもない場所に転送されたわね。……それに」チラッ



乗客「なーにあの人達…いきなり現れたわね」「変な格好…コスプレイヤー?」「あれ? あの中にいるツインテの子、にこちゃんじゃない?」「マジ!? なら撮影か何か?」



凛「なんか……普通に見えてるみたいだよ!?」

花陽「み、見られたら私達殺されるんじゃ…」ゾワッ


穂乃果「大丈夫だよ。最近ミッションから周りの人にも見えるようになったみたい」

ことり「そうなの?」

穂乃果「アメリカでは一か月前からだそうだよ。日本も最近星人との戦闘で大きな痕跡が残るようになっちゃったからね…隠しても無駄だって判断したんじゃないかな?」

穂乃果「ただ、このまま写真とか撮られると後で面倒だからステルスを使おう」スゥゥ

真姫「りょーかい」スゥゥ



乗客「え、消えたぞ!?」「すげー…どうなってんだ?」「写真撮りたかったのに」




希「……この人達どうするん?」

穂乃果「説明したところで信じてもらえない。ここで戦闘になったら出来るだけ助ける努力はしよう」

ことり「………」

海未「まあ、敵の素早い殲滅が最善の策だと思います」

凛「仕方無い…よね」





絵里「――…敵が来たわよ」カチャ




向かいの扉からぞろぞろと星人が現れてきた
見えるだけで5体
奥の方にも何体かいるようだ

さむらい星人というだけあって
腰に全員日本刀を携えていた

乗客も星人の登場にざわつき始めている




穂乃果「向こうから現れてくれるなんてね」シュッ

にこ「Zガンは邪魔になるわね…いつも通りの二丁スタイルで行きますか」カチャ

ことり「…あれ何?」




星人の一体が何やら細長い物を肩に担ぎ片膝立ちになり
こちら側に向けてきた
ことりや何人かのメンバーには見覚えが無かったが
希にはそれが何か一目で分かり、同時に驚愕した

名前を聞けば誰でも知っている
だが実際に見た物は恐らく日本には余りいないその兵器の名は……





希「――…ロケットランチャーや!! こんなところでなんちゅうもんぶっ放そうとしてるんや!!!」ゾワッ

絵里「はあ!?」




希が叫んだ瞬間
星人はロケットランチャーの引き金を引いた
発射された弾頭は真っ直ぐ穂乃果達に向かってきた

回避したところで狭い車内では逃げ場が無い
スーツの防御機能で生き残る可能性はあるが
周りの乗客は即死だ


海未と穂乃果は希が叫ぶほんの一瞬早く飛び出していた
手には展開済みのガンツソードが握られている
穂乃果よりほんの少し前に出ている海未は
弾頭に対して下から斬り上げるように――



――スパッ



海未は飛んでくる弾頭を寸分の狂い無く
縦に真っ直ぐに切り裂いたのだ

二つに分かれた弾頭はそのまま側方の窓を突き破り
外へ飛び出した




海未「――…一歩、遅かったですね? 穂乃果」クスッ

穂乃果「ちぇ、あんなに綺麗に斬っちゃってさ…海未ちゃんが先で良かったよ」ヤレヤレ


にこ「……一体どんな反射神経してるのよ?」アゼン

絵里「伊達に長年ツートップやってないって事よ」


海未「ふふ…拳銃の弾丸程度までなら斬って見せましょう」カチャ





ロケットランチャーを打ち込んだ星人とその周りの奴らは
懐からまた何か取り出し穂乃果達に向ける
それはオートマティック拳銃に長いマガジンが付いた外見をしていた
恐らくマシンピストルと呼ばれるものだと海未はすぐに分かった




海未「――…あー、それ使っちゃいます? 流石にそれは無理ですね…」アハハ…




五人の星人は一斉に撃ち始めた
車内に大量の銃弾が飛び交う
穂乃果達は慌てて座席の端に身を隠すが
何が起こっているのか理解できない乗客は次々に被弾する




にこ「何なのよあいつら! “侍”のくせにさっきから近代兵器ばっかり使いやがって…そこは火縄銃でしょうが!!」

真姫「ずいぶんと余裕じゃない? ツッコミが冴えわたってるわよ」

絵里「パニックになら無いのは流石 にこ ね」

花陽「ど…どうするの?」




穂乃果「真姫ちゃん、聞こえる?」

真姫「なに?」

穂乃果「この銃弾の中でもあの距離狙える?」

真姫「はあ!? 私に被弾しろっていうの!!?」

穂乃果「このスーツなら対物ライフルの弾も防げるから大丈夫だよー。それで、狙えるの? 無理なの?」




真姫「――…仕方ないわね!!」ダッ




穂乃果の無茶な指示通り、真姫は飛び出し瞬時に構えた
そもそも命中精度の高くない銃なので思ったほど当たらなかった

構えてから撃つまで一秒弱
その間、右足の付け根と左肩に被弾したが
真姫は正確に星人の銃を撃ち抜いた



銃の破壊を確認した穂乃果、海未は星人に突っ込む
他のメンバーも同様に距離を詰める

二人が斬り合う中、残った星人は後ろの車両へ逃げて行った




穂乃果「何体か逃げた! 誰か追って!!」

にこ「私が行く! 花陽、凛、来て頂戴!!」ダッ

花陽「はい!」

凛「了解だにゃ!!」





~~~~~~


にこ、凛、花陽は車両を移動しながら星人を撃退いていく
日本刀を抜く暇さえ与えず、正確に急所に一撃を与えて怯ませ
確実にトドメを刺す凛

この数年、園田家に通い続けて習得した剣術で圧倒する花陽

素早い身のこなしで斬撃を回避し、Xガンで仕留める にこ


三人は知らないがこの星人、一体20点の強敵である
高校時代の彼女達ならば三人がかりでやっと倒せるレベルである




凛「やっぱり人型は手応えが無いね」

にこ「バカ言ってんじゃないの。楽に倒せるに越したことないでしょ?」

花陽「人が少ない…奥に逃げたのかな?」

にこ「ここは倒したから次の車両に行きましょう」




三人は車両を移動する

そこには顔を包帯で覆われた細身の星人が立っていた
腰には他の星人同様、日本刀を下げており
銃は持っていないようだった

――…にこ達はこの星人を知っている
三年前、新宿でのミッションで遭遇しているのだ





にこ「……まさかこんなところで会うなんて」

花陽「………」

星人「ああ? どっかで会ったか?」


にこ「三年前の新宿って言えば分かるかしら?」

星人「三年前だぁ…あー、あの嬢ちゃんか。お仲間に再生されたのか」



星人「そこの嬢ちゃん達を逃がす為にツインテのあんた一人立ち向かったんだったなぁ…まぁ、すぐにぶっ殺してやったが」

にこ「………」

星人「結局すぐに追いついて二人も瞬殺したっけな」

凛「………」

星人「あの時はハンター狩りの手伝いだったが…今回は俺らがターゲットって訳だ」

花陽「………」



星人「これでも、今までハンターとは何十人も戦って来たんだ。相手の強さなんてニオイですぐに分かる……」





星人「――…嬢ちゃん達、本当にあの時と同じ人間か? 全く別の生き物になってるじゃねぇか」

にこ「…誉め言葉として受け取っておくわ」ニヤッ


星人「前は遊び半分で戦ったが、今回はマジだ」ギロッ

花陽「そうですか」カチャ


星人「一応訊くが…いいか?」

にこ「?」




星人「――…一人ずつ順番に来ないか? そうすりゃ、長く遊べて嬉しいんだがな…」




凛「……って言ってるけど、どうする?」

にこ「はは、笑える冗談ね。……三人で仕留めるわよ」カチャ

花陽「そういう事ですので、覚悟してください」



星人「だろうな…かかって来やがれ!!!」




~~~~~~


ことり「――…せい! おりゃあ!!」キン! ズバッ!

星人「っ!?」ブシュ!

ことり「私の見た目で油断したね? こう見えて強いんだよぉ」


絵里「ことり、片付いたならこっちも手伝って!!」グググ

ことり「任せて!」




穂乃果と海未が前で斬り合っている中
その少し後方でことり、希、絵里が戦っていた

元々戦闘能力の高い ことりは少々手こずったもの
星人の撃退に成功した
残る敵は、絵里と希が相手をしている二体だけだった




真姫「………」ギョーン!ギョーン!


絵里「うおっ!? 爆発した!!?」

希「真姫ちゃん!? ウチの点数がぁ……」ズーン

ことり「あらら、真姫ちゃんが全部倒しちゃったの?」


真姫「全く…どうしてわざわざ同じ刀で戦おうとするのよ。距離取ってXガンで撃った方が早いじゃない!」ムスッ

絵里「それはあなたの射撃が正確なのと、今の星人が私達に手一杯だったからでしょ?」

ことり「この狭さじゃどこを狙ってるかバレバレだし…星人の動きもかなり速かったからXガンだと簡単にかわされると思うな」

真姫「……なるほど」


希「点数を横取りされたのはショックだったけど、無事に終わったからいいか」





真姫「――…んで、あそこの二人はいつまで遊んでいるわけ?」ジトッ

希「そうやね、なんか話しているみたいだけど?」

絵里「油断するなって にこ に言われてるのに……」

ことり「あははは……」





穂乃果「――…え? 沼津のチームが何だって?」キン!ガキン!

海未「あのチームにいた果南さんという子がかなり筋が良くて…是非手合わせ願えないかと」シュッ!キン!

穂乃果「果南? ああ、最後に天狗の腕を斬り落としたあの子か。千歌ちゃんに連絡すればいいんだろうけど、連絡先知らないんだよね」ガキン!

海未「そうですか、だったら直接沼津に行ってみるしか……」


星人「こ、こいつら!! 俺たちを相手に喋りながらだと!!?」



海未「………!」ズバッ!

星人「がはぁ!!?」ブシャー!!

海未「さむらい星人っと言われたので期待したのですが…拍子抜けです。剣術に関しては私達地球人の方が上だった、というわけですね」



星人「んな!?」

穂乃果「よそ見しない!!」グサッ!

星人「ごオオ!!?」




穂乃果と海未にとってこの星人は全く相手にならなかった
適当に斬り合った後
あっさりと倒す

これがこの東京チーム、μ’sのミッションでよく見る光景である
二人で喋りながらは今回が初めてだったが
前回の秋葉原戦のような強敵以外はもうこのメンバーの敵にはならない





穂乃果「それで? ミッションが終わったら本当に沼津に行くの?」

海未「まさか、流石にドン引きされますよ」フフフ

穂乃果「良かった…ついに戦闘狂になったのかと思ったよ」ハァ



絵里「それを穂乃果が言う?」

穂乃果「ええ!?」

真姫「あんた達、もう少し真面目に取り組もうと思わないわけ? こっちは命懸けでやってるのに…バカみたいじゃない」ヤレヤレ


ことり「にこちゃん達の方はどうなったのかな?」

希「一応応援に……あれ?」ジジジジジ



穂乃果「あっちも終わったみたいだね――」





今回はここまで
明日の更新で少し間が空くと思います

GANTZって強キャラほどあっさり倒されるイメージありませんか?

同じ感想を持ってる方がいて嬉しいです!
今作でも自分の思うガンツ要素は入れていきたいですね

――
――――
――――――
――――――――


~さらに三年前 新宿~



花陽「――…あ…腕が……腕がああああぁぁぁぁ!!!!」

凛「かよちん落ち着いて!! すぐ止めるから!」


星人「おいおい、たかだか腕を斬っただけじゃねぇか。いちいち騒ぐなよ?」ヤレヤレ

にこ「このっ!」ギロッ



星人「そもそも嬢ちゃん、慣れない刃物を使うもんじゃ無いよ。それは素人が触っていい代物じゃ無い」

花陽「ハァ……ぐうぅぅ…痛い……」ズキッズキッ


星人「きちんと剣術でも教わっていたら…もう少し楽しめたんだがなぁ」




凛「に…にこちゃん、ヤバイよ! 何か作戦とか無いの!?」

にこ「そうね…一つだけ残っているわ」

凛「!? 早くそれをやろう!! 凛はどうすればいい?」





にこ「――…穂乃果か海未が呼べればベストだけど、誰でもいいから遠距離で戦えるメンバーを連れて来なさい」

凛「……は?」

にこ「こいつは私が相手をするから花陽を連れて助けを呼びに行けって言ってるの。バカなあんたでも分かる簡単な作戦でしょ?」


凛「あんな化け物一人で相手出来ると本気で思ってるの!?」

にこ「当然よ。勝つのは無理でも、“負けない戦い”なら出来るわ」

凛「でも……」



にこ「いい? このまま戦っても三人とも死ぬだけよ。でも一番動ける凛がすぐに助けを呼べれば逆に全員助かる」

凛「………」

にこ「分かったらさっさと行きなさい!! あいつの親切にいつまでも待っててくれないわよ!!!!」


凛「……うん、すぐに呼んでくるから……待ってて!!」ダッ!




にこ「……待たせたわね?」

星人「気にするな。ただ……あんなのが遺言で本当に良かったのか?」



にこ「遺言? 面白い冗談を言えるのね」フンッ

星人「その度胸だけは認めてやる。嬢ちゃん、名前は?」ニヤ





にこ「――…“矢澤 にこ”よ、よーく覚えておきなさい!!!」ダッ



――――――――
――――――
――――
――



星人「(あー…やっと思い出した。弱いハンターはすぐに忘れるんだが、こいつらは弱い癖に度胸だけはあったからな…記憶に残ってたんだな)」

星人「(確かあの後、矢澤は秒殺。逃げた二人にもすぐに追いついてぶっ殺してやったけな……今思い出しても本当に弱っちい奴だった)」

星人「(それが――)」




花陽「――…ふっ!!!」シュッ!




花陽は星人の刀による攻撃を全て捌き
空いたボディに凛が正確に打撃を与え
隙間から にこ のXガンが襲う

Xガンと刀による攻撃は絶対に受けるわけにはいかない
やむ追えず喰らう凛の打撃がじわじわと効いていた




星人「(合図も無いのになんつう連携だ!? それぞれがどんな攻撃をするのか完璧に分かっていやがる!?)」

星人「(このままじゃジリ貧だ……なら、遠距離から鬱陶しい攻撃をする矢澤から仕留める!!)」




花陽の斬撃を弾き、凛の痛打を歯を食いしばって耐え
にこ目指して素早く距離を詰める




にこ「……焦ったわね?」ニヤリ

星人「っ!!!?」グイッ




何かを感じ取った星人は強引に身体を横にする
その瞬間、星人の身体があった場所にガンツソードが飛んできた

先ほどまで花陽が握っていたガンツソードを投げつけたのだ
その弾道は正確に心臓を貫いていた
悔しさで顔を歪ませていた花陽が星人の目に映った




星人「(強引過ぎたか!? だがこれで奴は武器を失った。矢澤を倒せば次は――)」




――ガシッ!




星人「は?」チラッ




突如、腰に凛の腕が回された

花陽が刀を投げつけたと同時に
身を低くして星人に急接近したのだ

凛は背後から星人の脇下に頭を入れる
両腕で相手の胴に腕を回しクラッチして持ち上げ
そのまま後頭部を床に叩きつけた




凛「にゃああああぁぁぁ!!!」グオッ!




――ドゴ!!




星人「ゴはぁあア!!!?」




凛のバックドロップが決まり、星人は動けなくなった
花陽と にこ も近くに寄る





にこ「私がトドメを刺す。いい?」カチャ

花陽「うん。にこちゃんがやるべき事だと思うよ」

凛「早く終わらせてよね」



星人「あー待て、一言だけいいか?」

にこ「何?」


星人「刀の嬢ちゃん、しっかり剣術を学んだじゃねぇか。あの時とは別人だったぜ?」



花陽「当然です! 今日の花陽はいつもの三倍強いですから」エッヘン

星人「――…そうか、そりゃ勝てるわけ無いな」フフフ




――ギョーン!





~~~~~~


~ガンツの部屋~


ことり「――…なんか、拍子抜けだった気がする」

穂乃果「前回が強すぎたんだよ。今回だって決して弱くはない星人だったよ?」

海未「ええ、星人が私達を甘く見ていただけです」


にこ「あんたらが言っても説得力無いのよ!」

凛「でもことりちゃんの言う事も分かるにゃ。因縁の相手だった星人も大したこと無かったし…」

花陽「そうかな…花陽は余裕が無かったけど……」


にこ「そうは見えなかったわよ? 花陽だったら一人でも倒せたでしょうね」

凛「うんうん、かよちんは昔とは比べ物にならない程強くなってるよー」ニコニコ

花陽「そ、そうかなぁ…えへへ」




希「今回は誰も倒せんかったわ…無得点かぁ」ガッカリ

絵里「そうね、誰かさんが横取りしたせいでね?」チラッ

真姫「……悪かったわね」プイッ




全員の転送が完了し
ガンツが採点を始めた



ガンツ『ねこ(偽) 20点 TOTAL 98点』



凛「あの星人20点もあったんだね」

花陽「一体で20点の強敵だったってことなんだ」




ガンツ『白米さん 20点 TOTAL 88点』




花陽「…ふぅ」




ガンツ『にこ 50点 TOTAL 120点』




希「お、にこっち100点越えやん!」

真姫「どうするの?」



にこ「どうするって、再生する子もいないことだし二番しか無いでしょ? ガンツ、今すぐ用意しておきなさい」





ガンツ『まきちゃん 40点 TOTAL 113点』




希「あーあ、今回は稼げるミッションやったねー」ブーブー

真姫「もう! さっきから謝ってるじゃない!! 二番を今すぐ用意して」




ガンツ『エセロシア人 0点 TOTAL 97点』

ガンツ『ドム 0点 TOTAL 91点』




希「……ほーう、今回はドムかぁ。機嫌が悪いときに限ってそーいうあだ名をつけるか…」プツン…


絵里「ちょっ!? こんな所でZガンを撃たないでええええ!!!!」ガシッ

穂乃果「やばっ!?」ガシッ

にこ「抑えなさい!」ガシッ


希「放せえええ!!! 今回ばかりは許せんのやああああ!!!!!」ジタバタ





ガンツ『(・8・) 20点 TOTAL 98点』




ことり「毎回思うんだけど、これってなんて読むんだろう…」




ガンツ『園田師範 20点 TOTAL 101点』




海未「師匠の次は師範ですか。そんな器では無いのですがね。二番でお願いします」




ガンツ『ほのか 20点 TOTAL 75点』




穂乃果「これで全員終わったね。じゃあ帰ろっか」


ことり「そうだね! 急いで帰らなきゃ」

花陽「あぁ、そう言えば課題が終わって無かったんだっけ?」

ことり「そうなの!! お先に失礼しますぅ」バタバタ



凛「着替えないで行っちゃった…本当に焦ってるんだね」ギチギチ

希「痛い痛い痛いいい!!凛ちゃん絞まってる! 完全に決まってるからあああ!!」


絵里「見事なコブラツイストね…スーツで関節技が防げないのは驚きだわ」

にこ「……凛って最近、プロレス技にハマってるの?」

花陽「テレビで観てから色々練習してるみたい。誰で実験してるか分からないけど…」

真姫「………クシュッ」





ことり「――…あ、あの……」ヒョコ

海未「ことり? 忘れ物ですか??」

ことり「違うの。なんか、ドアノブが触れないんだけど…」

にこ「触れない? ミッションが終わったんだからそんな事あるわけ無いじゃない」

真姫「早く帰りたいのにそんなウソつくわけ無いでしょ」


穂乃果「………」

絵里「じゃあなんで――」





その瞬間、ガンツから再びラジオ体操の音楽が流れ始めた
今までに無いイレギュラー
ガンツの画面には『緊急』という文字が大量に表示されていく




希「な、何これ……」

海未「“緊急”ですか」


凛「これって……穂乃果ちゃん!?」

絵里「穂乃果は何か知っているの?」



穂乃果「うん、私は知ってる。これはみんなが居ない時に私が一人で二回経験した“緊急ミッション”だよ」




今回はここまで
次の更新は暫く空く可能性があります


前作で拾えなかった緊急ミッションです
原作には無い設定なのでご了承ください

不快に感じさせてしまい、申し訳ありませんでした

これまでも特定の推しの方にとって
不快に思われた文章があったかもしれません

ただ、私は推しキャラはいますが嫌いなキャラは一人もいないという事だけは伝えさせて下さい

ありがとうございます
そう言って頂けると幸いです

お待たせしました
これからも頻度が落ちると思いますが
エタらないように頑張ります

――――――――


ことり「――…緊急ミッション?」

穂乃果「そうだよ。ガンツは今その準備中だね」

絵里「準備? 一体何を準備するっていうの?」


穂乃果「説明が必要だね…完了まで時間がかかるから順番に説明するね」



穂乃果「今、ガンツはガンツを製作した企業、マイエルバッハ社にあるメインサーバーにアクセスしてるんだよ」

にこ「メインサーバー?」

穂乃果「このガンツが日本中、世界中に存在している事は知ってるよね?」

希「うん、海外のミッションにも参加したことがからね」

穂乃果「ガンツには今まで死んだ大勢の人間がデータとして残されているけど、一定数を超えると古いデータから順番に削除されるんだ」

ことり「じゃあ、遥か昔に死んじゃった人は再生できないんだ……」


穂乃果「基本的には出来ないよ。――…でも例外がいるんだ」

海未「例外とは?」




穂乃果「100点を獲得した人間だよ」

穂乃果「一度でも100点を獲得したメンバーは各地にあるガンツからメインサーバーにデータが転送、そこで半永久的に保存されるの」

凛「なら、凛達も保存されてるって事?」

穂乃果「勿論全員されているよ。100点を取る度に本人データは更新されてるから今回取ったメンバーも新しく保存されたはずだよ」

絵里「データがあるって事は…知らない間に私達が再生されている可能性があるって事?」ゾワッ


穂乃果「……可能性はあるだろうね。確認する手段が無いからどうしようもないけど」




にこ「ちょっと待って、どうしてそんなデータが保存されているサーバーと今通信しているわけ?」

穂乃果「――…ここからがミッションの内容だよ」

海未「……まさか」



穂乃果「緊急ミッションで戦う相手は、これまでに100点を取った人間とメモリーに保存されているその人間と相性がいいメンバー……簡単に言えばスーツ組との本気の殺し合いって事になるのかな」



ことり「ウソ…でしょ……」

真姫「………」クルクル

絵里「穂乃果は二回経験したって言ってたわよね?」


穂乃果「みんなが死んでから半年くらいに一回やったよ。確か……“クロノ”と“カトウ”、あと“カゼ”っていう男性三人組だったかな?」

にこ「男三人を穂乃果一人で倒したっての…」

希「じゃあ、二回目はどんな人と戦ったん?」




花陽「!?」ピクッ

穂乃果「え? いや、それはその……」アセアセ

にこ「ん? どうして動揺してるのよ? 変な質問じゃ無いでしょ」

穂乃果「う、うん…確かにそうだけどさ……」シラー


真姫「別に言ってもいいんじゃない? まあ、私は凛と花陽から聞いたときにドン引きしたけど」

凛「あはは…」


絵里「何よ、三人だけ知ってるのはズルいわ!」

ことり「うーん……私は何か思い出せそうなんだけど…」ムムム

海未「ことりもですか? 私もさっきから何か引っかかるんですよね……」ウーム


にこ「喋っちゃいなさい、穂乃果」




穂乃果「わ、分かったよ……二回目の相手は――」

にこ・希・絵里「「「相手は?」」」








穂乃果「――…“私”を含めたμ’sのメンバー…です」アハハ…


にこ「………は?」

絵里「ちょっと待って、え? つまり穂乃果は一人でこのメンバーと相手したの??」

希「ウソでしょ?」

真姫「ドン引きでしょ? あの海未だけでも相手にするのが恐ろしいのに、メンバー全員って……しかも自分自身すらも倒してるのよ、一人で」

花陽「知らなかったとは言え、穂乃果ちゃんに昔殺されていたのはショックでした…」

凛「凛も穂乃果ちゃんには勝てなかったんだよねぇ」



穂乃果「待って待って、確かに戦ったけど殺して無いよ!?」

ことり「どういう事?」



穂乃果「このミッションでは相手を殺す必要は無いの。スーツを無力化すればいいんだよ」

穂乃果「ただ、スーツを無力化してもお構いなしに襲ってくるから戦闘不能まで追い込まなきゃダメだけど……」

にこ「…つまり、穂乃果は私達に何をしたの?」




穂乃果「――…ええっと、スーツを壊した後、動けないようにする為に手足の骨を砕いたりXガンで撃たせて頂きました」エヘヘ


8人「………」ジトッ


にこ「あー…ことりを躊躇わないで撃てたのも納得だわ」ヤレヤレ




穂乃果「だ、だって仕方ないじゃん! ガンツが必ず襲ってくるようにみんなを設定されてるんだもん……私だってやりたくは無かったよ!!?」


希「なるほど、例え知り合いでも絶対に戦闘は避けられないようになっているんやね」

にこ「スーツを壊すだけでいいっていうのが救いね」

花陽「知らない人とはいえ、命を奪うのは嫌です……」

凛「でも相手は100点取るくらいの実力なんでしょ? 大丈夫かなぁ」ムムム

真姫「そこは問題無いんじゃない? 穂乃果一人でも何とかなったわけだし、今回はこれだけ実力者が揃ってるから楽勝なはずよ」




希「あ、ガンツの画面が変わってるよー」

穂乃果「本当だ! 画面には今回のメインターゲットが表示されるんだけど………っ!?」





ガンツ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
高海 千歌 特徴:つよい 好きなもの:みかん 曜 口くせ:曜ちゃん』





にこ「この子なの? 随分と幼いのね。中学生くらいじゃない」

花陽「あれ? この顔、どこかで見た覚えが……」

凛「あの子だよ! ほら、新宿のミッションで一緒だった静岡チームにいた中学生の!!」

真姫「そう言えばいたわね。あの後100点を取っていたってわけか」

希「中学生なのにようやったなぁ…」


ことり「穂乃果ちゃん……これって…」

穂乃果「うん、多分相手は前回一緒に戦った静岡チームだね。既存のデータだと中学生のままだから、千歌ちゃんはまだ100点を取っていないって事か」

海未「でもこの高海さんは中学生ですよ? なら中学時代の戦友がメンバーとなるのでは?」

穂乃果「その頃のデータはもう削除されているよ。それに“相性のいいメンバーと一緒になる”って言ったでしょ? 前回の星人の量からして100点を獲得したメンバーは多いはず。中学時代のデータとは言えその辺の記憶はガンツが調整してくると思う」

海未「なるほど、時代のギャップは問題無いのですね」


絵里「でも……年頃の女の子と戦うってのも気分が悪いわね」

花陽「もしかしたら、ルビィちゃんとも戦う事になるかもしれないんだよね…ファンだって言ってくれたのに」シュン

にこ「腹くくりなさい。やらなきゃ私達が殺されるのよ? 相手は“偽物”なんだから遠慮はいらないわ」


穂乃果「偽物か…それは違うんだよね」ボソッ

海未「? 何か言いましたか?」




穂乃果「何でもないよ。――…もうすぐ転送が始まる。もう一度言うけど、今回は殺す必要は無い。でも、危ないと思ったら躊躇しないでトドメを刺して! 相手は本気で来るからね!!」




――ジジジジジ






~~~~~~


~新宿 区役所前~



希「――…レーダーで見る限り、五か所に散らばっているね」

穂乃果「二人組が四つに単独行動が一つか…秋葉原の時と同じだね」


凛「なら、こっちも秋葉原と同じ組み合わせで行こうよ」

花陽「全員で一か所ずつ向かうのはダメなの?」

ことり「それぞれ距離があるし、制限時間もいつもの半分しかないから間に合わないと思うよ」



海未「なら、単独行動をしている方は私が向かいましょう。間違いなくあの人だと思いますから」


にこ「前回と同じなら希とね。サクッと終わらせましょ?」

希「任せてな!」


真姫「私はビルの屋上とかから狙撃するから、相手お願いねー」クルクル

凛「凛に丸投げ!?」


絵里「花陽、準備はいい?」

花陽「大丈夫です! 早速向かいましょう」


ことり「私もいつでも行けるよ」

穂乃果「そうだね。じゃあ行こうか」






~~~~~~


~のぞにこ 花園神社前~


にこ「一番近いところに来たけど…だれがいるのかしら?」

希「………にこっち、目の前」カチャ

にこ「…分かってるわ」カチャ



「お、おねぇちゃん!! にこさんに希さんだよ!!? ミューズの!」パアァ

「おおお落ち着きなさい!! 相手がだだ誰だろうとへへへへ平常心でででですわ!!」ワナワナ



希「………(真顔)」

にこ「思ってたのと…なんか違うなぁ」ジトー



にこ「――…希、お願い」

希「はいよ」ギョーン!




希は、はしゃぐ二人に躊躇無くZガンを撃ち込んだ
隙だらけの二人はあっという間にぺちゃんこになる
……はずだった




「――…その銃、わたくし知っていますわよ?」ダッ




希「んな!?」

にこ「なんで!? あの子はこのZガンを見た事が無いはずなのに!?」



「記憶を共有してるんですよ。おねぇちゃんは初見でもルビィや鞠莉さんは知っていますから」ニコ


「それにしても……いきなり撃つなんて、ひどいじゃありませんか?」



希「当たり前やん? 開始の合図があると思ったんか?」


「いいえ、むしろ嬉しいですよ。私達に遠慮も手加減も無しで戦って頂けるようなので」フフフ




にこ「……希、こりゃ楽に終わりそうに無いわね」

希「そうやね…気合入れていかな」パシンッ


にこ「――…行くわよ、黒澤姉妹!!!!」ダッ





~~~~~~


~まきりん 大型電機 屋上~


「あら? 一人で来たの??」


凛「それはこっちのセリフにゃ。さっきまで二人組で行動していたよね?」

「確かにそうね♪ でも、私のスタイル的に遠距離でサポートしてもらった方がいいかなって」

凛「そう言えばあの時も格闘メインで戦っていたっけ」

「一度殴り合いの死闘ってやってみたかったのよねぇ! ここに来たのが貴方でラッキーね♪」

凛「金髪で巨乳……戦う理由としては十分にゃ…!!」ゴゴゴ


鞠莉「戦うか……“殺し合い”の間違いでしょ」ニヤッ

凛「どうでもいいよ。凛はあなたを戦闘不能にすればいいだけにゃ」



鞠莉「あら、意外と優しいのね。まあ、こっちは殺す気満々だけどね♪」ニコニコ

凛「――…覚悟するにゃ!!!」ダッ




――――――


真姫「――…さて、凛のサポートの為に別のビル屋上に来たわけだけど」

「えへへ、先客がいるずら」ニコ


真姫「そうね。確かあなたとは一度も会った事は無いわね?」

「私の名前は国木田 花丸ずら! よろしくお願い致します、西木野さん♪」


真姫「私の名前は知ってるのね。…んで、どうするの?」

花丸「マルはここから鞠莉ちゃんの援護を頼まれているずら」

真姫「奇遇ね、私も同じ理由でここに来たわ」クルクル


花丸「……じゃあ、陣取り合戦だね」カチャ

真姫「ええ、あなたにはここで眠ってもらうわ」カチャ




――ギョーン! ギョーン!






~~~~~~


~えりぱな 西武新宿駅前~


絵里と花陽が辿り着くと
そこには二人の少女が待ち構えていた

無論、どちらも覚えのある人物であった




花陽「――…あの子は、前に部屋に居たよね?」

絵里「ええ、まさか静岡チームにいるとはね……梨子さん」



梨子「ふふ、覚えていてくれたのですね? 何年も前のことなのに」

絵里「厄介ね、私の記憶が正しければ…この子強くなかった?」

花陽「うん、海未ちゃんも認めていたくらいだったよ」


梨子「まあ、あの時よりは弱くなっていますけどね。ブランクってやつです」

花陽「隣にいるのは善子ちゃんだね」

善子「へぇー、意外。よく覚えていたものね」



絵里「さて、一応訊くけど……自らスーツを無力化する気は無いかしら?」

善子「――…あるわけ無いじゃない?」ニタァ


梨子「手加減なんて、しないでくださいね――」カチャ





~~~~~~


~うみ 百貨店 屋上~


海未「――…やっぱり、あなたでしたか」フフフ

「ん? あぁ、海未さんか…参ったなぁ」

海未「一度、手合わせしたいと思っていましたよ…果南」



果南「あはは、そりゃどうも」

海未「同じスーツ組と戦う機会なんて無いと思っていましたよ」

果南「…分かっているの? これからやるのは“試合”なんかじゃない、“殺し合い”だよ。どっちかが死ぬまで戦わなくちゃいけない」

海未「そうですね…だからこそ、果南の本当の実力が分かります」

果南「私の評価、結構高いんだね。喜んだ方がいいのかな?」



海未「――…ええ、μ’sのメンバー以外で二人目ですよ。私が認めた実力者は」シュッ

果南「それは光栄だね」ニヤッ






~~~~~~


~ほのこと 東宝ビル前~



「――…良かった、二人が来てくれて」


ことり「ここにはもう一人いるはずだよね? 曜ちゃん」

曜「そうですよ、千歌ちゃんがこのビルの屋上にいます」

穂乃果「上に行くにはあなたを倒してから、って事でいいの?」ジッ


曜「いいえ、穂乃果さんは行ってください。千歌ちゃんは一対一で戦いたいそうなので」

穂乃果「なら、もしここに私以外が来たらどうするつもりだったの?」



曜「その時は私が相手をするだけです。何人来ようが、誰が相手だろうか屋上には行かせません」

穂乃果「なるほど、じゃあ私が二人で曜ちゃんを倒してから行くって言ったらどうする?」

曜「……穂乃果さんはそんな事はしない、千歌ちゃんはそう言っていました」



曜「ただ、穂乃果さんがその気なら…千歌ちゃんには悪いけどここで倒します!」ギロッ


ことり「大丈夫。曜ちゃんは私が相手をするから、穂乃果ちゃんは上に行って」ニコ

穂乃果「うん、気を付けてね――」




今回はここまで
またスーツ組同士の戦いかよって思いますよね…
もう少しだけお付き合い下さい

補足
メインサーバーに保存・更新される条件が「100点を取ったメンバー」と語られていますが
過去に解放を選んだが、再び部屋に戻って再度100点を取った場合、新たにデータが保存されます
すなわち、千歌や梨子などのメンバーは中学時代と高校時代の二つのデータが保存されている設定で物語を進めていきます

~~~~~~


にこと希はZガンを連射する
試した事は無いがこの武器の威力ならば一撃でスーツを無力化出来る
二人はそう判断したのだ

しかし、相手もそう簡単には当たらない
にこの弾幕も
希の偏差射撃も
全て見極められかわされる

神社周辺の道路はZガンにより穴だらけになっていた




にこ「ウソでしょ!? 何で避けられるのよ!!?」ギョーン!ギョーン!

希「取り敢えずこのまま逃げ場を無くそう!!」ギョーン!ギョーン!



足場の悪い場所にしてしまえば避けるのは困難だ
しかし、ダイヤもそんな作戦は分かり切っている
一気に距離を詰めた



ダイヤ「させると思いますか!!!」ダッ!

希「しまっ………!!」



希の懐に潜り込んだダイヤによる掌底が胸の中心に炸裂
鋭く重い一撃が身体の内部に響き、ダメージを与える
呼吸困難に陥り、動きが鈍った希にダイヤは確実にXガンを撃ち込む

にこがすぐさまフォローに入るが
ダイヤは再び後退して距離を取った




にこ「希! 大丈夫なの!?」

希「ゴホッゴホッ……だ、大丈夫や。助かったよ」


にこ「このまま闇雲に撃ち続けても無駄みたいね…隙を作る必要がある」

希「そうやね……どうしたものか」




ルビィ「――…おねぇちゃん、もういいんじゃない? 早く花陽ちゃんに会いたいよ」

ダイヤ「そうですわね、早く決着をつけてしまいましょうか」


にこ「はい?」イラッ

希「随分と舐めてくれるやん?」ピキピキ




苛立つ二人
そんな事はお構いなしに会話を続ける黒澤姉妹




ダイヤ「ルビィ、“アレ”を使いなさい」

ルビィ「…分かった」ピピッ




ダイヤに何かを許可されたルビィは手首のコントローラーを操作した
そして、ルビィの身体に“何か”が転送され始めた

二人はこの装備が一体何かよく知っている……
100点装備の一種
Zガン獲得後、さらに100点を取り続けることで得られる装備
――ハードスーツがルビィに転送が完了された



希「――…ちょっと、冗談やろ!?」ゾワッ

にこ「あの子、穂乃果レベルに強いって事なの!!?」




ハードスーツを身に纏ったルビィは二人目がけて突っ込んできた
このスーツで殴られれば一撃で壊されかねない
二人は攻撃を中止
必死に攻撃を回避する




希「にこっち! 一旦引くで!! ステルスや!」スウゥゥ

にこ「分かった!!」スウゥゥ


ルビィ「ピギィ!? 逃げちゃった……」

ダイヤ「どうかしらね…警戒はしておきましょう」





――…にこと希は近くの建物の陰に身を隠した
ハードスーツを持ち出された今
圧倒的不利な状況に追い込まれてしまった




にこ「どうするのよ…あのスーツの耐久値ってとんでもなく高いんでしょ!?」

希「Zガンで壊せるかどうか…一番手っ取り早いのは同じハードスーツで戦う事だけど」

にこ「穂乃果以外持ってないでしょ? 今から呼ぶのは無理よ…」

希「だよね…二人で何とかするしか無いかぁ」ウーム


にこ「策はあるの?」

希「……一応ある」

にこ「…リスクが高い作戦なのね。取り敢えず話してみて?」

希「作戦はこうや――」




~~~~~~


凛「――…にゃああ!!」ブン

鞠莉「ふっ!!」バシッ!




凛と鞠莉は武器を一切使わない格闘戦を繰り広げていた
凛は型にはまらない、経験と直観に任せた戦法
鞠莉は巧みな足技を軸にした戦法
両者の実力は拮抗していた




凛(甘く見ていたわけじゃないけど、ここまで強いとは思わなかったにゃ!?)


鞠莉「ふっ!!!」グルン!

凛「んにゃ!!?」バキッ!




鞠莉の強烈な回し蹴りが凛のこめかみにヒット
地面に叩きつけられる

頭部へ追い打ち攻撃をするが
凛は身体を転がしギリギリで回避する




凛「ふぅ…危ない危ない」

鞠莉「完璧に決まったと思ったんだけどなぁ。でも、いいダメージは入ったかな?」

凛「厄介な足技だにゃ…」

鞠莉「うふふ、凄いでしょー」ニコニコ



凛(真姫ちゃんは何してるの……援護があれば楽に倒せるのに)

鞠莉「――…そろそろかしらん?」ニヤリ

凛「……?」




鞠莉の意味深な発言
その瞬間、凛の周辺の地面が連続して爆発し始めた

間違いない、凛に対するXガンによる攻撃だった
精度は高くない
しかし、間違いなく何発か被弾している




鞠莉「こっちの援護射撃ね。これでまた追い詰めた!!」ダッ

凛「そんな!! 真姫ちゃん!?」



~~~~~~


真姫「――…ったく、嫌な戦法ね」




真姫は物陰に隠れている
一刻も早く花丸を無力化し
凛の援護に向かいたい

そんな真姫に花丸が取った作戦は至極単純
二丁のXショットガンを構え
片方を真姫
もう片方を凛に向けて連射するだけ

逃げ場の少ない屋上ですぐに物陰に隠れてしまったのが悪手だった
ひたすら連射され、完全に身動きが取れない




真姫(さて…どうしたものかしら? 何発受けられるか分からない以上、被弾覚悟で突っ込むのはリスクが高いわね)

花丸「隠れてるだけじゃ倒せないずら! 早くしないと仲間が死んじゃうよー」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

真姫(……仕方ない、やってみるか)ガシャン


花丸「……あれ? まさか!?」タッタッタッ




異変に気が付いた花丸は凛への攻撃を中止
急いで真姫の隠れる場所に向かった

そこにはすでに真姫の姿は無かった




花丸「やっぱりビルから飛び降りたずら。爆発音に合わせて行けば気が付かなかったのに…まあ、この場からいなくなったのは好都合だね。これで正確に凛さんを狙える」




真姫が居なくなった事を確認した花丸は再び狙撃ポイントに戻ろうと踵を返す




――ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!




花丸「――…ずら?」キュウゥゥゥゥン


真姫「なるほど、五発当てれば無力化出来るのね」バチバチ

花丸「す…ステルスモードっ!?」

真姫「私がそんな間抜けな事するわけ無いでしょ? 簡単な罠に引っかかるとは詰めが甘いわね!」ドスッ!

花丸「ごッ!!」




真姫の拳がみぞおちに深々とめり込む
花丸の余りの激痛にそのまま意識を失った




真姫「後で結束バンドでも見つけて縛っておけば大丈夫そうね。早く凛の援護に向かわないと――」

~~~~~~


絵里「ほらほら、よ~く狙いなさいよ!」

善子「ちょこまかと鬱陶しいわね!! いい加減当たりなさいよ!!」ギョーン!ギョーン!




善子のXガンによる攻撃が、ことごとくかわされる
全く当たらない攻撃に善子は焦りを感じ始めた




善子「だったら、直接叩くまで!」ダッ!

絵里「あら? わざわざ近づいてくるなんて優しいのね」ヒョイッ

善子「んな!?」スカッ




あっさりかわされる善子
体勢が崩れたところにXショットガンを撃ち込む絵里
慌てて避けようとする善子だが
そのまま地面に抑え込まれ身動きが取れなくなってしまう




絵里「今更逃げられると思った? 近づいた時点であなたの負けだったのよ」グググ

善子「このっ! なんで…私だって弱くは無いはずなのに!?」


絵里「そうね、射撃の腕も動き方も100点を取っただけの実力はあると感じたわ。ただ……」

善子「?」キュウゥゥゥゥン



絵里「――…ただ相手が私だった。それがあなたの敗因よ」ゴキッ!

善子「がああああぁぁぁぁ!!!!!」ジタバタ



身体を抑え込んだ力により
スーツに過負荷がかかり善子のスーツは機能を停止
絵里はそのまま肘の関節を外した




絵里「ええっと、穂乃果は手足の骨を砕いたんだったかしら?」

善子「ひぃ!」ゾワッ

絵里「冗談よ。骨は砕かないし、命までは奪わないわ」


絵里「関節を外すだけで勘弁してあげる。安心して、大人しくしていれば痛くないと思うから♪」ニコ



~~~~~~


「ぎゃあああああぁぁぁ!!!」




花陽「!? 凄い悲鳴…絵里ちゃんの声では……無い??」

梨子「よっちゃん……負けちゃったか」

花陽「まあ、相手が絵里ちゃんだからね。穂乃果ちゃんと海未ちゃんがずば抜けているから目立っていないけど」

梨子「……よっちゃんは本当に不運な子ね」ハァ


花陽「そろそろ私達も勝負を決めよっか?」

梨子「……ええ、二体一だと勝ち目が無いし」カチャ




お互いガンツソードをメインに戦う
まだスーツへのダメージはどちらも無い

睨み合い続けた両者が今、激突する――



~~~~~~



にこと希が身を隠してから少し経った
警戒をし続ける姉妹だが二人に動きは全くない
ルビィは次第に苛立ちを募らせる




ルビィ「ねえ、もう次に行ってもいいんじゃないかな。このスーツにびっくりして逃げたんだよ」

ダイヤ「そうね…もう行きましょうか」





希「――…にこっち!! 頼んだで! ここはウチが食い止めるから穂乃果ちゃんを!!!」

にこ「任せなさい! すぐに戻ってくるわ!!」




近くのビルから希とにこが飛び出した
希の手にはZガンは無かった




ルビィ「正気? 武器も持たずにこのスーツを渡り合えると思っているの?」

希「当たらないなら、あんなにデカい銃は邪魔なだけやん? それに今回は勝つ必要は無いし」

ダイヤ「時間稼ぎですか…何分持つんでしょうねぇ!!」




先に飛び出したのはルビィ
その巨大な両腕で希の身体に殴りかかる

一撃たりとも受けるわけにはいかない
ルビィの連撃をギリギリで捌く
そのたびにじりじりとスーツにダメージが蓄積されている




ルビィ「ほらほらぁ!! このままじゃ、なぶり殺しにしちゃうよぉ!!!」

希「くっ…そのスーツ相手はしんどいなぁ!!」




突如、ルビィの肘辺りからジェット噴射が作動し拳が加速される
ハードスーツの機能をよく知らない希にとってこれは大きな誤算



――ドゴッ!!



回避もガードも間に合わず
拳は希の腹部に深々とめり込み後方の壁に吹き飛ばされた




希「がはぁぁ!!?」

ルビィ「あれ? 今ので壊れないんだ。意外と丈夫なんだね」

希「ハァー…フゥ、そのスーツにそんな機能があったなんてね…無知って怖いわぁ」


ダイヤ「もういいわ。ルビィ、止めを刺しなさい」

ルビィ「うん。出来るだけ楽に逝かせてあげるから、抵抗しないでね?」




ルビィは一歩ずつ希の元へ近づいて行く
希は先ほどのダメージがまだ残っているため動けない



希「ヤバイなぁ…このままじゃ本当にお陀仏やん」

ルビィ「……やけに余裕だね。これから死ぬんだよ、怖くないの?」


希「ウチが死ぬって? それはありえへんな。この勝負はウチらの勝利で終わる。これは決定事項やで」

ルビィ「………」

ダイヤ「……殺しなさい」



希「――…ウチは死なない、仲間が必ず助けてくれる。……頼んだで、にこっち!!」





――ズドドドン!!!




Zガン特有の弾丸がルビィを上から押し潰す
ハードスーツはまだ壊れないが地面に押し付けられ身動きが取れない

間髪入れずに何度も何度も発射されるZガン
いくら耐久値が圧倒的に高いとは言え
これ以上当たり続けるわけにはいかない
ルビィは焦る




ルビィ(ヤバイよ……でも、あの銃は連射するほど威力と範囲が落ちる! 最低出力のタイミングなら脱出出来る!――)








にこ「――って考えているでしょうね。だとしたら甘いわ」ギョーン!ギョーン!



にこはZガンの射程距離ギリギリの物陰から連射している
その両手にはZガンが二丁握られていた
にこ自身の物と希が託した物である

最低出力になる前に切り替え
常に一定の威力でダメージを与えていく





ルビィ「どうして!? 威力が全く落ちないよ!!!?」


ダイヤ「ルビィ!!! あの女ぁ…逃げたんじゃ無かったのかああ!!!!」

希「――…おー怖いなぁ。それがあなたの本性なん?」ニヤ




希は にこ による援護射撃を確認すると同時に
ダイヤの背後へと回り込んだ
ルビィに気を取られていた彼女に対し希は……




ダイヤ「んな、いつの間にっ!? ……ピ、ピギャアアアアアァァァ!!!!」

希「どうや! この技はスーツ越しでもダメージが入るのは身をもって体験済みやで!!!」ギチギチギチ




にこはその様子を見ながら希とダイヤの方に近づいてきた
勿論、ルビィにZガンを連射し続けながら


にこ「希……この局面でコブラツイストを選ぶのね」ヤレヤレ

希「当たり前やん。これなら完全に拘束出来るし、今度凛ちゃんに仕返しする練習にもなるからねぇ」ギチギチギチ


ダイヤ「痛い痛い痛い!! ギブギブううう!!!!」

にこ「……ハードスーツの方はもう大丈夫みたいね。壊れて中身の本体が見えているわ。多分死んでない…と思う」

希「そう? ならこの子のスーツも無力化して。早くしないとウチのスーツが壊れてしまうんよ」ギチギチ


にこ「分かったわ。そのまま抑えていてよー」




にこはホルスターからXガンを取り出し
ダイヤのスーツが壊れるまで撃ち続けた

スーツが壊れた瞬間
今までの痛みとは比べ物にならない激痛に襲われ
叫ぶ暇も無く意識を失った



希「あちゃー…加減を間違ってしもうた。この子、大丈夫かな?」キュウゥゥゥゥン

にこ「どうでもいいわよ。それよりもあんたのスーツが壊れた事の方が問題よ」

希「あらら、ほんまや。壊れちゃった」


にこ「じゃあこれからは……ん?」ピピピ

希「連絡やん。ウチのはさっきの戦闘で壊れてもうたからな。誰からなん?」

にこ「ホント、この通信機の耐久性は何とかならないのかしら……ええっと、全体通信ね。発信者は……真姫だわ」



~~~~~~


凛「――…ヤバイヤバイヤバイ!!」




凛は止むことの無いXガンによる狙撃を避け続けていた
この屋上には遮蔽物が全く無い

鞠莉に近づけば誤射を恐れて狙撃は止む事は予想できる
しかし鞠莉も狙撃手もそんな事は分かり切っている
鞠莉は常に一定の距離を取りながらXガンを構えてけん制している
射程圏内に入れば数発の被弾は免れない
最初の狙撃で何発被弾したか分からない以上、一発たりとも当たるわけにはいかなかった




鞠莉「頑張れ~。動き続けなきゃ当たっちゃうよ!」ニヤニヤ

凛「このっ! 真姫ちゃんだったら動いていても当てちゃうのに、そっちの相方は
へたっぴだね!!」ハァハァ

鞠莉「煽ってるつもり? 当たればベストだけど、あなたの体力が削ることが目的だから問題ないわ~♪」


凛「ぐぅぅ…」ハァハァ

鞠莉「まあ、その真姫ちゃんって子が援護してくれるはずだったんでしょ? それが無いって事は……」ニタァ


凛「………っ!?」キュウゥゥゥゥン




凛のスーツが壊れた
逃げる事をやめた凛はその場に立ち尽くす
狙撃は少し前から止んでいた



鞠莉「あは♪ 遂に壊れたわね! これでチェックメイトよ!!」ダッ!



勝機とみた鞠莉はトドメを刺すべく距離を詰める
――そんな状況で凛は笑みを浮かべていた




凛「――チェックメイトか…それって自分の事を言ってるのかにゃ?」ニヤァ

鞠莉「……は?」キュウゥゥゥゥン




今度は鞠莉のスーツが壊れた
自身に何が起こっているのか理解出来なかった

凛はその隙を見逃さない
すぐさま距離を詰め、Xガンを弾き飛ばす
ギョッとした鞠莉に対し凛は自分の頭を彼女の腕の下に入れ、正面から相手の腕を抱え込むように腰に手を回し、そのまま後ろに投げつけた




鞠莉「なっ!!? スーツのアシスト無しで!?」

凛「あなたとは鍛え方が違うんだにゃああああぁぁぁ!!!」グオンッ!




――ドゴッ!!!




「ノーザンライト・スープレックス」と呼ばれるこの技が見事決まり
鞠莉の意識を刈り取った




凛「はぁ…はぁ……結構危なかったにゃ。スーツが壊れた時はもうダメかと思ったよ」




――ピピピ



凛の手首に付いている腕輪が鳴り出した
腕輪のディスプレイを確認すると“真姫”と表示されていた






――――――――


東京チームは全員、腕輪型の通信機を装備している
真姫により考案、穂乃果の知り合いの技術者により開発されたこの通信機は
一定の範囲内にある同一機と音声もしくは文字による通信が可能である
呼び出し音や音声は指向性なので隠密行動時でも音漏れすることは無い
ただ、精密機械なので耐久性はそれ程高くないので戦闘中に強い衝撃が加わると
すぐに故障してしまう欠点がある


Xショットガンで鞠莉のスーツを無力化
凛がトドメを刺したのを確認した真姫はこの通信機で凛を呼び出す




凛『真姫ちゃん!? 援護が遅くないかにゃ!!? あと少しで殺されるところだったんだよ…』

真姫「狙撃準備が出来た事は通信機で伝えたはずよ。だからスーツが壊れたのに立ち止まったんでしょ?」

凛『そーだけど…壊れる前に何とかして欲しかったなぁ』

真姫「こっちだって色々あったのよ。間に合ったんだからいいじゃない」

凛『ぶぅぅ……それで、これからどうするの?』

真姫「取り敢えず合流しましょう。私がそっちに行くから待ってて」

凛『了解にゃ~』

真姫「じゃあ、通信を――」




スコープを覗きながら通信をしていた真姫
通信を切ろうとしたまさにその瞬間
凛の背後から何者かが近づいて来るのが見えた
その手には刀のような武器が握られている




真姫「っ!!? 凛後ろおおお!!!!!!」




――ザシュ!!




真姫の叫びも空しく背後から斬り倒される凛
すぐさま狙撃態勢に入るが“襲撃者”はステルスモードを起動
姿を見失ってしまった
真姫は急いで通信機で呼びかける




真姫「凛!! 応答しなさい!!」

凛『……ま…き……ちゃん…』

真姫「今すぐ行くから、意識をしっかり保ちなさい!!」

凛『………』


真姫「凛? りいいいいん!!!!」




今回はここまで

戦闘描写を文章で表現するのって本当に難しい…



――
――――
――――――
――――――――


百貨店の屋上には刀がぶつかり合う音が響いていた
海未は二刀流による圧倒的な手数で攻め
果南はそれを何とか防いでいた

海未の剣捌きはとても美しく、洗礼されたものだった
並の剣士では数秒も相手をすることは出来ないだろう

そんな海未に対し果南は鍔迫り合いに持ち込んだ




果南「全く…素人が見ても惚れ惚れする剣捌きだね。凄すぎるよ」

海未「長年の鍛錬のおかげですよ。私からしてみれば、私の剣を捌けるあなたの方が凄いと思いますが?」

果南「どうも。それにしてもまぁ、斬り合いってこんな感じなんだね? 小さい時に千歌や曜とやったチャンバラとは大違いだよ」

海未「チャンバラ…ですか?」

果南「私には流派ってやつは無いから、その道の達人からしてみれば相手にならないだろうね」バキッ!

海未「っ!!」




果南は海未の腹部を蹴り飛ばし一定の距離を取る
両者は刀を握りなおした




果南「基本的に戦い方は見て覚えてきた。見て、頭でイメージして、実践する。それで大体の事は出来たよ」

海未「ほう…なら、私の剣捌きも既に自分の物に出来たのですか?」

果南「いや、まだ出来ないよ。そこまで簡単な動きじゃない事は分かっている。ただ……」

海未「?」



果南「――ただ、海未さんの真似は出来ないけど、動きはもう見えてるよ」ニヤッ

海未「っ!!?」ゾワッ




不敵にほほ笑んだ果南は再び距離を詰める
海未も応戦するも果南の動きが先ほどまでと明らかに違う
防戦一方だったのが一転、海未が防がなければならない攻撃が増えていった

それどころか海未の身体をかする攻撃もあった




海未(馬鹿な!? いくらなんでもこれ程の成長速度はあり得ない!?)

果南「秋葉原戦で海未さんの戦いを見てから、今この瞬間もずっとイメージしてたんだ! それに、運動神経だけは誰にも負けない自信があるからね!!」ドゴッ!




果南の攻撃が海未の手首に直撃
持っていたガンツソードは空中に放り出され遠くの地面に突き刺さる




果南「さて、これで一刀流になったわけだけど…取りに行く?」

海未「必要ありません。二本が一本になったところで私の強さに変わりありませんから」カチャ

果南「そっか。弱くなるんじゃないならいいか。でも、次で決めるよ」カチャ


海未「ほう…舐められたものですね」

果南「私はまだ死ぬわけにはいかない……ここで海未さんを倒してみんなに会わなきゃいけないからね」

海未「………」


果南「――だから、ここで死んで!!」ダッ!




両者は駆け出す
防ぐ事など考えていない
自分が出せる最大の一太刀を先に当てた方が勝つ
海未と果南は、ほぼ同時に刀を振り下ろす


必殺の一撃をスーツに受けたのは――







海未「…お見事です」キュウゥゥゥゥン




膝から崩れ落ちる海未
果南は後ろから海未の首筋に刀の刃を当てる



果南「動かないで。手に持ってるガンツソードの刃を引っ込めてから渡して。その後ゆっくりとこっちを向いて」



海未は素直に従い、武器を渡し果南の方を向いた
どんな表情をしているか興味のあった果南だったが
予想に反し、海未は取り乱すどころか冷静に果南の目を見つめていた




果南「うーん…意外だな。負けるなんてちっとも思っていなかったはずだったのに、まさかの敗北。少なくとも動揺してると思ってたのに」

海未「えぇ。あなたの成長速度には驚きましたが、私の実力なら負ける事は無かった…」

果南「だね。私の実力を評価したくせに、自分は最後まで本気で戦わなかった…真剣勝負で慢心するなんて最低じゃない?」

海未「耳が痛いですね…そのせいで殺されるんですからとんだ大バカ者です」


果南「………」

海未「どうしました? トドメを刺さないのですか?」


果南「…本当に手を抜いたの? あなたほどの人が命懸けの戦いで慢心するなんてあり得ない。理由を教えて欲しい」



果南にはどうしても理解できなかった
自分の身体能力には絶対的な自身はある
だとしても、長年戦い続けていた海未をこうもあっさりと倒してしまった
手加減する理由など何処にも無い
体調が悪かったのか? ケガをしていたのか? どうしても理由が知りたかった

そんな問いかけに海未は申し訳なさそうな表情で答えた




海未「そうですね…今まで怪物や人型の星人とは何度も戦い、倒してきました。しかし、今回のように人間と戦うのは初めてでしてね。負ければ殺される事など分かり切っていましたが……どうしても刃を向ける事を躊躇ってしまいました」

果南「……っ、くだらない。勝負を舐めているとしか思えないよ!」

海未「全くです…これでは穂乃果達に顔向けできません」

果南「だったら醜くても最後まで足掻いて見せなよ。どうして生き残ろうとしない!?」


海未「…どうしてですかね。自分でも不思議なくらいです…死にたくない気持ちは確かにあります。ただ、どんなに考えてもこの状況を打開する作戦が思いつきません。打つ手なしなんですよ」

果南「………」


海未「――…ですから、ひと思いに殺して下さい。お願いしますね」ニコ


果南「そっか…なら、お望み通りにしてあげる」カチャ



海未(穂乃果、ことり、皆さん…申し訳ありま――)




――グシャッ!!!





~~~~~~



曜「あの後、穂乃果さんとはお話出来ましたか?」

ことり「うん、おかげで穂乃果ちゃんが今まで隠してきた事とかも訊けたよ」

曜「…そうですか。良かったですね」ニコ


ことり「それで…私達も決着をつけなくちゃいけないんだよね」

曜「その必要はありませんよ。勝負ならもうついてます」

ことり「っ!?」


曜「ああ、構えないでいいですよ。ほら、私のスーツをよく見てください」

ことり「え……何でもう壊れているの?」

曜「私に戦う意思はありません。千歌ちゃんと別れた後に自分で壊しました」

ことり「どうして? ガンツに戦う事を強制されているんじゃ…」

曜「まあ、好戦的じゃない子は人格をちょっといじられているみたいだけど、私は大丈夫でした。それにここで足止めするには戦うより会話の方が長く出来そうだからね」

ことり「そう? スーツが壊れているのが分かった瞬間にあなたを殺して屋上に行く可能性だってあると思うんだけど」

曜「じゃあ、私を殺して先に行く?」


ことり「……止めておく。無抵抗の女の子を撃ち殺すなんて後味が悪すぎるよ」

曜「ふふ、なら暫く私とお喋りしてもらおうかな」





~~~~~~


~東宝ビル 屋上~



穂乃果「――…久しぶり、なのかな? 一か月前に会った時より幼くなったね。千歌ちゃん」

千歌「一人で来てくれたんですね、高坂さん。あなたが会った私が誰だか分かりませんが久しぶりなのは間違いないですね」



穂乃果(間違いない。この千歌ちゃんは初めて会った時、三年前の姿。理由は分からないけど…)


千歌「あのミッションで高坂さんの戦いを見てからずーっと憧れていた。高坂さんみたいになりたい、その一心で以降のミッションに参加し続けた。まあ、色々あって解放を選んでしまいましたが」

穂乃果「憧れ…ねぇ。一対一になりたかった理由は何? まさかお喋りしたかっただけ、なんて言わないよね?」


千歌「――…同じスーツを着た人間と、ましてや高坂さんと戦える機会なんてこれを逃したら二度と来ない。それに私達のメンバーであなたと渡り合えるのは私だけだ」




――ピピピ




穂乃果「……ちょっとごめん。通信が入った」

千歌「そう。分かったよ」





穂乃果「どうしたの?」

真姫『全員聞こえる!? 凛がやられた!!』

穂乃果「!?」

真姫『今止血してるけど…出血が多すぎる。このままじゃ死んじゃう!!』


絵里『凛は自分が戦っていた相手に負けたの?』

真姫『いいえ、背後から別の人間に倒された。メンバーの誰かが既にやられた可能性が高い…今オフラインなのは希、花陽、海未だけど、どうなってるの!?』

にこ『希は無事よ。私達の相手は二人共無力化した』

絵里『花陽は今戦闘中よ。私の相手も無力化済み』


穂乃果「って事は……やられたのは海未ちゃん?」ゾワッ

ことり『そんな…海未ちゃんが負けた……!?』

にこ『私達は海未が向かった場所に向かう!!』

真姫『任せた。レーダーによれば敵は絵里と花陽の場所に向かっている。気を付けて!!』





千歌「通信は終わりましたか?」

穂乃果「…うん。待たせたね」

千歌「表情が暗くなった…悪い知らせだったみたいですねぇ」ニヤッ


穂乃果「そうだよ…仲間が危機なんだ。悪いけど急いで終わらせなきゃいけなくなった」

千歌「本気で戦ってくれるって事ですよね? それなら何だっていいですよ」

穂乃果「手加減は一切なしだ。気絶で済ませようと思っていたけど、そんな余裕は無い。うっかり殺しちゃっても文句言わないでね?」カチャ

千歌「そう来なくっちゃね! さぁ、行くよ!!!」




今、東京チームと沼津チームの両リーダーが激突する――





~~~~~~


花陽「………」ギロッ

梨子「フゥー…フゥー……はは、本当にあなた花陽さんですか? 別人みたいに強いじゃないですか」



花陽と梨子の戦闘は終盤に差し掛かっていた
楽に勝てるとは全く思っていなかった
最低でもスーツの無力化までは追い詰められると踏んでいた

しかし、実際には手も足も出なかった
梨子の斬撃は全て見切られ、防がれた




花陽「海未ちゃんに剣術を直々に教わりましたから。梨子ちゃんじゃもう相手になりません!!」

梨子「剣には自信があったんだけどな。花陽さんがここまで強くなっていたのは予想外」

花陽「…いつまでも守られているだけの私じゃない。足手まといだった“小泉 花陽”は、あの時にもう死んだんです」



花陽「トドメです。悪く思わないでくださいね!!」ヒュン!




息を切らし、その場に立ち尽くす梨子へ斬りかかる
花陽は勝利を確信したが――




「――…させると思う!!!」

花陽「っ!?」ガキン!

梨子「か…果南さん!? 勝ったんですね!」

花陽「くっ…一体誰が負けたの!?」


絵里「花陽!!」

花陽「絵里ちゃん? どうしたの!?」

絵里「そいつは海未と凛を倒した! 気を付けて!!」

花陽「……凛ちゃんが…やられ……た?」

絵里「今終わらせれば間に合う可能性がある。私も一緒に戦うから急いで倒しましょう!!」


果南「簡単に言ってくれるね? 悪いけど相当強いよ、私」

花陽「………」

絵里「花陽、しっかりしなさい。動揺している場合じゃ――」



花陽「大丈夫だよ…私は落ち着いている。見た所二人はどちらも近距離型、私が相手をするから絵里ちゃんは後方から狙撃して」

絵里「了解よ」カチャ




最初に仕掛けたのは果南だった
両手に握る刀で花陽に斬り込む
これを防ぐが、時間差で梨子も攻撃に加わってきた

二人のコンビネーションはそれ程よくは無いが
ジリジリと花陽を追い詰めていく
絵里も援護に入りたいが、巧みな位置取りで狙いが定まらない




絵里(この! 動きが巧い。私の腕じゃ、けん制するだけで精一杯でダメージを与えられない…)ギョーン!ギョーン!


花陽「あなたの剣筋…海未ちゃんと似てますね。もう自分のモノにしたのですか!?」キンッ!キンッ!

果南「まあね! でも完全に同じじゃない。参考にしているだけだよ!!」ブンッ!


梨子「ふっ!」シュッ!

花陽「きゃっ!!」ドゴッ!




捌ききれなくなってきた斬撃が花陽のスーツにダメージを与える
徐々に攻撃を受ける回数も多くなっている



絵里「このままじゃ危ない…私も加わるわ!!」

花陽「来ちゃダメ!!」

絵里「!?」


花陽「刀持ち相手じゃ、絵里ちゃんは相性が悪い。絵里ちゃんはそのまま銃でけん制していて!!」

絵里「でもそれじゃ、花陽がやられるでしょ!? 一人で無理する場面じゃない!!」


果南「喋る余裕なんかないでしょ!!」ズバッ!

花陽「っ!!?」キュウゥゥゥゥン

梨子「ッ! もらったあああ!!」




ついに花陽のスーツが壊れた
梨子がトドメの一太刀を振りかざす

花陽はギリギリかわしつつ、すれ違いざまに腹部へ斬り付けた
この一撃で梨子のスーツも機能を停止した




梨子「くっ…流石に耐えられなかったか」ギリッ

果南「お手柄だよ! これであの金髪の子だけだ」


花陽「ハァ……ハァ…」カチャ

絵里「花陽!? もう下がりなさい!! 次に攻撃を受けたら――」



果南「逃がすと思う? このまま殺すよ!!」ダッ!

花陽(マズイ、スーツのアシスト無しじゃ防げない! 致命傷だけは避けないと!?)


絵里「花陽おおおおお!!!!」





――ガキン!!




果南「んな!?」

「これ以上メンバーは傷つけさせない…絶対にね!!」


花陽「こ……ことりちゃん!!」

ことり「遅くなってごめんね? 間に合ったみたいで良かったぁ」フゥ


果南「また一人増えたか…何人だろうが相手してやる!!」

ことり「周りが見えていないみたいだね? 仲間の心配はしなくていいの?」


梨子「ぎゃあああああぁぁぁ!!!」バンッ!

果南「梨子!?」ゾワッ




絵里による狙撃で梨子の右腕が弾け飛んだ
想像を絶する痛みが梨子を襲う




果南「このっ!! よくも梨子を!!! 絶対にぶっ殺して――…っ!?」キュウゥゥゥゥン

ことり「もう、あなたの負けだよ。大人しく降参してくれれば命までは奪わない」

果南「どうして!? まだ攻撃は受けていないハズなのに!!?」





真姫「――…間抜けね。そんな場所で突っ立っているなんて、どうぞ撃ってくださいって言っているものじゃない」



果南のスーツを壊したのは、ことりでも絵里でもない
今戦っている地点の50m後方の屋上にいる真姫である
正確に三発の銃弾を当て、見事破壊に成功した





花陽「もういいでしょう? これ以上無駄な血は流したくないの。だから……」


果南「ふざけるな……こんな所で負けてたまるかあああ!!!」ダッ!




スーツが壊れてもなお、果南は花陽へ襲い掛かる
しかし花陽はその場から動こうとはしなかった
そして、その表情はとても悲しみに満ちていた――



果南「がああ!?……あがああああぁぁぁ!!!!」ブシュウウゥゥ



真姫による狙撃で果南の左腕が破裂する
激痛でその場に跪くがすぐに立ち上がり向かってくる



果南「ぐうぅぅぅ……! まだ…まだ……戦える…ぞおおお!!」フラフラ




傷口からは滝のように血が噴き出している
立ち上がるどころか、意識を保っているのが不思議なくらいに




花陽「どうして……そんなになってでも戦おうとするの!?」

果南「ハァ…くはぁ……それが…私の役目…だからだ……一人でも…多く、お前たちを殺す……その為に…ここにいる!!」

ことり「そんな…あんまりだよ……」

絵里「いくらデータから生み出したコピーだからって…人間にここまでやらせるの!!?」ギリッ



果南は歩みを止めない
いつの間にか手を伸ばせば届くくらいの距離まで近づいていた



果南「殺す……絶対…にぃぃ……殺………殺して……お願い」ジワッ



果南の悲痛な叫びは花陽にだけ届いた
もう彼女にしてやれる事は一つしか残されてはいなかった



花陽「……分かりました。今、楽にしてあげますね」ヒュン!




――グシャ!!





~~~~~~

戦闘は一方的だった
いや、もはや戦闘と呼べるものでは無い
“赤子の手をひねる”とはまさにこの事だろう

千歌がXガンで攻撃しようとすれば、同じXガンで破壊され
ガンツソードで攻撃すれば、同じ武器で弾き飛ばされ
スーツによる格闘戦に持ち込めば、一方的に殴られ投げ飛ばされた

今は仰向けに倒れている千歌に馬乗りになっている状況である




千歌「ヒュー…ヒュー……なんで…なんで通じないの!!」

穂乃果「確かに中学生にしては強いよ。動きや技のキレは才能を感じた。私の動きを参考にしたみたいだね」

千歌「………」


穂乃果「でもね、全部私の下位互換なんだよ。格闘も剣術も射撃も。よくそんなんで私に挑もうと思えたね? 十年早いんだよ」

千歌「っ!!」


穂乃果「…あなたは、あの時の千歌ちゃんとは別人だね。足りない技術をガンツに無理やりインプットされた。前の千歌ちゃんの方がよっぽど強かったよ」

千歌「そっか…下位互換かぁ」

穂乃果「あなたに言っても仕方ないとは思うけど……人の命で弄ぶのもいい加減にしなよ! 何の為にこんな戦いをしなくちゃいけないんだ!!」


千歌「……何ででしょうね。私も知りたいですよ」


穂乃果「…そう」

千歌「さあ、早く壊してください。そうすればこのミッションも終了です」

穂乃果「分かってる。じゃあ、行くよ――」




――ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!




穂乃果「何!?」キュウゥゥゥゥン

千歌「え?」キュウゥゥゥゥン



何者かの狙撃により二人のスーツは同時に壊れた
発砲音のした方向を見るとそこには――




曜「――…穂乃果さん、千歌ちゃんから離れて下さい」カチャ

穂乃果「曜ちゃん!? ことりちゃんが相手をしているはずじゃ!?」

曜「ことりさんなら増援に向かいましたよ。私のスーツは最初から壊していましたし、戦う意思も見せませんでしたから」

穂乃果「どうするつもり? なんで撃ち続けて私を殺さなかったの?」

曜「……私は、人を殺したくない。千歌ちゃんから離れてくれさえすれば――」




――ジジジジジ




千歌「っ!? 転送が始まった!」

曜「んな!? 今すぐ千歌ちゃんから離れろ!!」カチャ

穂乃果「ええ!? そんな事言われてももう転送が……って、これはマズイ!!?」

千歌「へ?」

曜「千歌ちゃん!!?」




~~~~~~


~ガンツの部屋~


希「――海未ちゃんは…亡くなっていたよ。綺麗に首を落とされていた」

ことり「信じられない…あの海未ちゃんがっ!?」ジワッ

絵里「……海未」ギリッ



花陽「……凛ちゃんは…どうなったの?」

真姫「………っ」

にこ「真姫が応急処置をしたのよ? 凛がこんな所でくたばる人間じゃない。信じて待ちましょう」

真姫「…いいえ、正直に言うわ。凛は背中を左肩から右腰に掛けて斬られていた。あの時止血したって言ったけど、多分あの深さじゃ剣先が心臓に達していたと思う……だから凛は………」ジワッ

花陽「いいんだよ。真姫ちゃんは悪くない。今回は運が悪かっただけ…それに、まだ生き返るチャンスは残っているからね」

真姫「ごめんなさい……本当にごめんなさい…」ポロポロ




――ジジジジジ




絵里「帰ってきたわね。穂乃果は無事で何よりね」

希「ん? 直前まで何かに乗ってたんか。妙な体勢やん……ね、ええ!?」ゾワッ


千歌「………」グッタリ



ことり「どういう事!? どうしてその子も一緒に転送されているの!?」


にこ「その顔、間違いなく今回のメインターゲットの“高海 千歌”じゃない!! まさか…まだ終わっていないってわけ!?」カチャ

絵里「意識が無いうちに殺す!!」カチャ



穂乃果「ストップ、ストップ!! 大丈夫だから。ミッションも終わっているし千歌ちゃんも襲ってこないよ」

絵里「どうしてそう断言できるの!? さっきまで私達を殺そうとしてきたメンバーの一人なのよ!!」

花陽「絵里ちゃん、落ち着いて。この部屋に転送された時点でそれはリセットされているの。もし、緊急ミッション中の人格のままだったら絵里ちゃん達も“あの時”穂乃果ちゃんに襲い掛かっているよ?」


絵里「は? 意味が分からないのだけど…」

真姫「絵里も以前、今と同じような方法でこの部屋に来たのよ。絵里だけじゃない、海未とことりも一緒にね」


ことり「……あ、思い出した。ミッションが始まる前に引っかかっていたのってこの事だったのか」

絵里「どういう事なの? 詳しく説明して!」



穂乃果「――…私が前に緊急ミッションでμ’sのメンバーと戦ったって話したよね。全員を無力化して転送が始まった時に、ふと思ったの。この転送中に今倒れているメンバーに触れていればどうなるんだろうってね」

にこ「転送中に持っているモノは一緒に転送される……」


穂乃果「そう。その仕組みが人にも適用されるんじゃないかって考えたの。だから近くにいた三人に触れたままでいたら、予想通り成功。しかもミッションの記憶は消されていて人格も戻っていたんだよ」

希「なるほど、このミッションにだけ使えるメンバー再生の裏技みたいなものか」









真姫「でも…今回は絵里達を連れてきたのとは訳が違う。あなたはとんでもない事をしたのよ」

穂乃果「……うん」

花陽「とんでもない事?」


真姫「連れてきたこの子、本来は沼津チームの子なのよね? 秋葉原のミッションでこの子は死んだの?」

ことり「……死んでない。重症は負っていたけど転送されているのを見たよ!」

真姫「時間経過からみて、あの時一緒に戦っていたのは高校生になったこの子。しかも、まだ生きているとなると……」



希「同じ人間が二人いるって事になる…」

真姫「さらに姿は三年前っておまけ付き。この世界に存在してはいけない人間が誕生したってわけね」

にこ「…どっちの千歌にとっても迷惑な事よね。面倒な事になる前に始末するべきよ」


穂乃果「え!? 本気で言ってるの!!?」

真姫「にこちゃんの言う通りよ。このまま生かしても不幸になるだけ。意識のない今しかチャンスは無い!」

希「人を……人殺しをするって言うんか!? 真姫ちゃん、にこっち!!!」

にこ「こいつは人じゃない、人の姿をした“偽物”よ!! この子の為にもこの時代に生かしておくわけにはいかない。だから――」





ことり「――…いい加減にして!!!!!!!」

にこ「っ!?」ビクッ!

穂乃果「ことり……ちゃん?」



ことり「いくら何でも、言っていい事と悪い事があるよ。この千歌ちゃんが偽物だって言うなら、同じ方法で再生された私や海未ちゃん、絵里ちゃんも偽物だって言うの?」

にこ「そ……それは…」

ことり「何が正しいかは分からない。けど、今千歌ちゃんの命を奪うのは間違ってる! 絶対にやらせないよ…」ギロッ


にこ「このっ…!」ギロッ


絵里「ちょっ…やめなさい二人とも!!」アセアセ



真姫「じゃあどうするの? 帰る家も無い、学校にも通えない、この子の知人にも知られてはいけない、その他諸々の問題を抱えた子を一生養うつもり? この子を生かすって事はそういう事よ」

ことり「………っ」ギリッ





千歌「――ん……んん…あれ? ここは……どこ?」

穂乃果「…気が付いたみたいだね。ここは東京だよ。どこまで覚えている?」

千歌「ほえ? 穂乃果さん!? あれ…確か100点を取って、それから解放されて……っていうか、穂乃果さん大人っぽくなりました?」


穂乃果「……千歌ちゃん、落ち着いてこれから話すことをよく聞いて。あなたの身に何が起こった、詳しく説明するから――」

今回はここまで

更新ペースはまた落ちると思います



――――――
――――
――


千歌「……じゃあ、私は後から再生された“二人目”って事なの…?」

穂乃果「……うん。高校生になった千歌ちゃんが今も生きてるよ」

千歌「なら……私は…私は………」ウツムキ


穂乃果「千歌ちゃん…あのね――」

千歌「…………――ないでよ」ボソッ

穂乃果「え?」




千歌「――…ふざけないでよ!!! 私の命を何だと思ってるんだよ!!!!」

千歌「何なんだよ…三年後の世界とか、もう一人いるとか……納得出来るはず無いししたくもないよ!! このっ!!」ダッ!


穂乃果「待って! どこに行くの!?」タッタッタッ




絵里「出て行っちゃった…ドアが開くって事は採点は無いのね」

にこ「凛と海未の再生は次回か」

花陽「………」


ことり「ちょっと…千歌ちゃんの事はどうするの!? 飛び出して行っちゃったんだよ!?」

にこ「…別にどうもしないわ。私には関係ない」

真姫「気の毒だけど今回ばかりはどうしようもない。穂乃果が責任を取るしかないわね。……まあ、力を貸してほしいって頼まれたらその時は考えるけど」

絵里「現実的に厳しいのは確かよね……」

ことり「どうして…どうしてそんなに冷たいの……?」ジワッ



花陽「…あれ? 希ちゃんはどこ?」キョロキョロ







~~~~~~


千歌「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ


穂乃果「待ってってば! どこに行くの!?」ガシッ

千歌「放してよ!!」バッ!


穂乃果「…っ!!」

千歌「どこに行くかなんて決まってる、内浦に…私の家に帰るんですよ!!」

穂乃果「帰ってどうするの? そこに“千歌ちゃん”はもういるんだよ」

千歌「じ、事情を説明すれば大丈夫だよ。“私”だったらきっと理解してくれるし受け入れてくれる!」

穂乃果「…家族のみんなは? 友達は? ガンツの事情を伝えられない人にはどうやって説明するつもり?」

千歌「……っ!? うるさいんだよ!! だったらどうしろって言うのさ!? そもそも、あんたのミスでこんな事になったんだ!! どうして……どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!!!」ポロポロ

穂乃果「………っ」ギリッ




希「――…その辺にしとき」

穂乃果「の、希ちゃん……」

希「いきなりこんな状況になってしもうたんや、誰だって取り乱す。今は落ち着く時間と場所が必要だと思うん」

千歌「落ち着く場所? そんな場所なんて……」


希「暫くの間、私の家においで?」

千歌「え?」

穂乃果「それはダメだよ! これは私の責任なんだから、千歌ちゃんは私の家で……」

希「どうやって親御さんと雪穂ちゃんに説明するん? 最終的には穂乃果ちゃんに任せるけど、準備が出来るまではウチが面倒をみるよ。一人暮らしのウチなら何も問題無いからね」

千歌「ちょっと! 何勝手に決めてるのさ!! 私は別に……」


希「千歌ちゃんも今は実家に帰らない方がいいと思う。そもそもこんな時間に電車は動いてないし、中学生がウロウロしてたら補導されてまうよ。警察に捕まったら余計に面倒な事になりかねないしね」

千歌「くぅ……」

希「穂乃果ちゃんもそれでええ?」

穂乃果「うん…ごめんね? すぐに何とかするから、千歌ちゃんをお願い」


希「はいよ。ほな千歌ちゃん、帰ろうか――」




――――――
――――
――


~希自宅~


希「さあ、あがって。お腹すいたよね? 何か用意するからちょっと待っててな」

千歌「…いえ、結構です」

希「そっか…じゃあ、取り敢えず着替えようか。ウチの服で我慢してね。明日一緒に買いに行こうか」

千歌「……はい」






希「――うん、サイズもそこまでズレていないね。良かった良かった♪」

千歌「………」

希「これからはそこのベッドで寝てね。ウチは布団で……」

千歌「いえ、今日は寝ません。って言うか、眠れないですよ…。それにこれからも東條さんがベッドを使ってください」

希「千歌ちゃん…」

千歌「おやすみなさい。今日はお疲れさまでした――」





――――――
――――
――


~翌朝~


希「――…ウチはこれから大学に行くけど、千歌ちゃんはどうする?」

千歌「……別に」

希「まあ、家に居てもいいし外出するのも構わない。でも、外出するときは時間帯を考えてな? 昼間に中学生が街をウロウロしているのは不自然やからね。人目には気を付ける事」

千歌「…分かってますよ」

希「部屋の合鍵は渡しておく。あとこれはウチの携帯番号ね。何かあった時はここに連絡して。16時には帰るから、その時間までには家にいてね」

千歌「はい。いってらっしゃい」フリフリ

希「! ……うん、行ってきます」ニコッ





――――――
――――
――


~正午~


千歌(……暇だなぁ。何もしないっていうのがここまで苦痛だとは思わなかったよ。東條さんが帰ってくるまでまだ時間もあるし、この時間帯なら外に出てもいいかな?)




――ガチャ




千歌(さて…この街に来たことなんて無いから迷子にならないようにしないとね。取り敢えず真っすぐ進んでみようかな)




~~~~~~


千歌(ここは…神社かな? こんな場所に立派な神社があるなんて)

千歌(…誰もいない。平日の昼間だし当然か)キョロキョロ


千歌「はぁ…ここでも独りなんだね、私……」ボソッ




「あれ? 千歌ちゃん?」

千歌「え? …どちら様ですか?」

花陽「やっぱり千歌ちゃんだ。私は“小泉 花陽”です。あの部屋のメンバーなんだけど…見覚え無いかな?」

千歌「あぁ…小泉さんって名前だったんですね。ランニング中…ですか?」

花陽「うん。私の学部はまだ夏休み中だから、時間が空いている時にトレーニングしているの。千歌ちゃんはどうしてここに?」

千歌「…別に、やる事が無かったので適当にフラフラしていたらここに着いただけですよ」

花陽「そ、そっか…動きやすそうな服装をしているから、てっきり運動してるのかと思ったよ」アハハ…

千歌「…そうですか」



花陽「……ねえ、隣座ってもいい?」

千歌「はあ…トレーニングはいいんですか?」

花陽「今は千歌ちゃんとお喋りしたいからいいの。今は一人でやってるし」





花陽「昨日はあのまま飛び出したっきりだったけど、あの後どうしたの?」

千歌「東條さんの所で暫く居候することになりました。そのうち穂乃果さんの所に行くみたいですけど」

花陽「良かった…ちゃんと暮らしていく場所はあるんだね」

千歌「…良くは無いですよ。完全にお荷物じゃないですか、私」

花陽「う、うん……」



千歌「小泉さんはいつも一人でトレーニングしているんですか?」

花陽「あぁ…いつもは違うよ。海未ちゃんと凛ちゃんと一緒にやってるんだ。海未ちゃんは私に剣を教えてくれた師匠で凛ちゃんは小さい頃からの親友なの」

千歌「確か同じμ’sっていうスクールアイドルのメンバーでしたよね。今日は二人とも用事か何かですか?」

花陽「……うん、二人ともちょっと遠くに行っちゃったからね。当分の間は私だけでやる事になりそうだよ」

千歌「東京チームはみんな普段からトレーニングをしているんですか?」

花陽「どうだろう…最初の頃は生き残る為にみんなと一緒に訓練とかしたけど、大学とか仕事とかで忙しくなっちゃったから今は私くらいしかやってないと思う。正直言って、私が一番弱いからさ」アハハ…

千歌「ふーん……」





花陽「あの、もしよかったら私のトレーニングに付き合ってくれないかな?」

千歌「私が?」

花陽「勿論断ってもいいよ。ただ、独りでやるより誰かと一緒の方が色々出来るからさ……ダメかな?」

千歌「…いいですよ。どうせやる事ないですし…毎日暇しているよりかマシです」

花陽「あ、ありがとう! じゃあ、明日からはここに集合して一緒に――」パァァ



千歌「あれ? 明日からなんですか? 別に今から始めてもいいですよ」

花陽「え、いいの?」

千歌「16時から東條さんとの用事があるので、それまではお付き合いします。まずはランニングから、ですよね?」

花陽「うん! よろしくね――」ニコッ




――――――
――――
――


希「――…それで、さっきまで花陽ちゃんと一緒にトレーニングしていたんか?」

千歌「は、はいぃ……まさかランニング10kmの後に階段ダッシュ10往復×10セット、筋トレに竹刀の素振りとかとかとか……。あの身体のどこにそんな体力があるだって感じですよ」グッタリ

希「あはは、元は海未ちゃん考えたメニューだからね。普段はもう少し距離も回数も多いんよ? 千歌ちゃんの為に軽めにしたつもりなんやろうけど、花陽ちゃんの感覚も結構狂ってしもうたんかな?」

千歌「うへぇ!? あれで軽め…簡単に引き受けるんじゃ無かったぁ」ズーン

希「うーん…千歌ちゃんが嫌だって言うなら、ウチから花陽ちゃんに伝えておこうか?」



千歌「……いいえ、辞めません。せっかく誘ってもらえたんですから頑張りますよ!」

希「ふふ、なら良かった」ニコッ

千歌「ただ…今日の買い物は延期でお願いしますぅ……もう一歩も動けません」グデーン

希「仕方ないなぁ、取り敢えず適当に下着とか必要なものはウチが買ってくるよ」

千歌「すみません…」


希「じゃあ、行ってくるね。今日の夕飯も買ってくるから、ちょっと遅くなるけど我慢してなー」

千歌「分かりました。いってらっしゃい」フリフリ





~~~~~~





穂乃果「あれ? 千歌ちゃんはどうしたの?」

希「花陽ちゃんとトレーニングして疲れ切っちゃったみたいでね。家で倒れてるよ」

ことり「そっかー…せっかく千歌ちゃんと一緒に服を選べると思ったのになぁ」ガッカリ

希「まあ、本人はいないけど服は買わなきゃいかんからね。ことりちゃんには千歌ちゃんが似合いそうな服を選んでもらうよ。……値札は見ないでええからね?」ニヤリ

穂乃果「希ちゃん!? それはちょっと……」

ことり「うん! 千歌ちゃんにピッタリなお洋服を選ぶよ!! 値札は見ずに」

穂乃果「ことりちゃんまで! 大丈夫だよね!? 信じてるからね!!?」

ことり「ん~~♪ どんな服にしよーかなー」ニコニコ

穂乃果「」




希「千歌ちゃんの件は家族には説明したん?」

穂乃果「それが中々難しくてね…説得するにはもう少し時間が掛かりそう。それと千歌ちゃんの身分証とか住民投票とか諸々も用意しなきゃね」

ことり「そ、そんなもの用意できるの?」

穂乃果「“そういう”ものを作る事が得意な人と仲がいいんだ。ただ、他に依頼が来てるみたいだから完成するまで一か月だってさ」

希「…大丈夫なん?」

穂乃果「心配しないで。その人も“私達と同じ”だから。それに、千歌ちゃんが不自由なく暮らしていく為に必要なものは可能なだけ揃える。私にはそれくらしか出来ないからさ」


ことり「…一人で全部やろうとしないでね? 私達も力になるから」

希「そうやで。無理だけはあかん」

穂乃果「分かってるよ。ありがとうね」ニコッ




――――――
――――
――





希「ただいまー!」

千歌「お帰りなさ……ってその荷物は!? もしかして全部服なんですか!!?」

希「あはは…調子に乗って買い過ぎちゃった♪」テヘッ

千歌「買い過ぎたって…お金は大丈夫なんですか?」

希「大丈夫やで。割り勘で買ったからね」

千歌「割り勘? 誰かと一緒だったんですね」

希「うん。穂乃果ちゃんとことりちゃんも一緒だったんよ」

千歌「へぇー…穂乃果さんも一緒だったんですか」ギロッ

希「千歌ちゃん……あんまり穂乃果ちゃんを責めないであげて? あの子も凄く責任を感じている。今だって千歌ちゃんの為に色々――」


千歌「…ごめんなさい。昨日の今日じゃ、まだ気持ちの整理は出来ないですよ」ウツムキ

希「そ、そうやね…ごめんな?」

千歌「大丈夫です。洋服、ありがとうございました。二人にも伝えておいて下さい」ニコッ

希「了解や。それじゃあ、御飯の用意するね! もう少しだけ待っててな―――」







――――――――――
――――――――
――――――
――――
――


~一か月後~



花陽と千歌は木刀で打ち合っていた
誰もいない公園には木材のぶつかり合う音が響く
全力で斬り付ける千歌を花陽は最小限の動きで回避する

千歌は数少ない隙を見つけ、攻撃を繰り出す




千歌「――…はああ!!」シュッ!

花陽「甘いです!!」ドゴッ!

千歌「ぐへぇ!」ドサーッ




渾身の一撃も見切られる
すれ違いざまに背中を叩かれ、体勢を崩した千歌はお腹から地面に滑り込んだ


花陽「動きが遅すぎます。そんなヘロヘロな剣じゃ私に届きません!」

千歌「そんな事言ったって20km走って、階段ダッシュ10往復×20して、さらに筋トレもこなした後だよ!? ヘロヘロにだってなるよ」プンプン

花陽「あ…ご、ごめんなさい。前より距離と回数を増やせば疲れるに決まっているよね…配慮が足りませんでした」シュン…


千歌「…全く、そこは謝るんじゃなくて檄を飛ばすところですよ? 『何甘えた事を言ってるんだ! しっかりやれ!』って感じに」

花陽「え…でも千歌ちゃんにはお願いして付き合ってもらっているわけだし、そんな上から目線で言えないよぉ」アセアセ



千歌「ふふふ…小泉さんらしいや。確かに、前はお願いされて参加しましたけど今は違います」

花陽「?」




千歌「――…改めてお願いします。私も一緒にトレーニングにお付き合いさせてください!! ……花陽さん!!」

花陽「っ! うん…こちらこそよろしくお願いね、千歌ちゃん!」ニコッ



千歌「じゃあ、もう一勝負お願いします」カチャ

花陽「うん、いつでもかかっておいで!」カチャ




――――――
――――
――


千歌「ぐはぁぁ、全く勝てない。木刀じゃなくて本物の刀だったら何回斬り殺されてるんだろう…」バタリ

花陽「そりゃ、私の方が海未ちゃんにみっちり稽古をつけてもらったからね。そう簡単には負けないよ」

千歌「これで一番弱いって言ってるんだもん…このままじゃ千歌はただの足手まといじゃん」ハァ

花陽「そんな事は無いと思うよ? 今は体力が極端に減ってる状態で動いているわけだから、万全の状態なら間違いなく十分戦えるハズ」

千歌「そうかなぁ…同じメニューをやってる花陽さんはピンピンしてるのになぁ」

花陽「スタミナは徐々に付けていくとして、剣の腕はもう私に匹敵するんじゃないか?」

千歌「本当ですか!?」パァ

花陽「教えた事は全部覚えているみたいだし、ヘロヘロな状態でも私の剣をしっかり捌けてる。私なんかよりよっぽど才能があるよ」

千歌「えへへ、ありがとうございます! 花陽師匠の教え方が上手だから上達も早かったんですよ」

花陽「うふふ、ありがとう。じゃあ、そろそろ終わりにしようか?」

千歌「はい。今日もありがとうございました」ペコリ

花陽「うん。気を付けて帰ってねー」フリフリ





~~~~~~




千歌「あ…明日は希さんと出掛ける予定があるんだった。花陽さんに戻って伝えないと」

千歌「花陽さん、まだ神社にいるかな? ………お、良かったまだ居る。花陽さ――」



花陽「――…凛ちゃん、海未ちゃん、私が師匠って呼ばれちゃった。びっくりだよね」

千歌(花陽さん? 誰と話して…)サッ


花陽「初めは不安だった…そこそこ辛いメニューだったから、付き合ってもらってる千歌ちゃんにはいつ辞められてもおかしくなかったからね」

千歌(ああ、辛いメニューだって自覚はあったんだね)


花陽「それでも毎回付き合ってくれて…今では一緒にやらせてくださいって逆にお願いされちゃった。もう嬉しくて泣きそうだったよ…」

千歌(………)


花陽「でも…やっぱり二人にも一緒にいて欲しかった! どうして……どうして死んじゃったの!?」ポロポロ

千歌(やっぱり……あの二人はもう亡くなっていた)


花陽「う…うぅ……凛ちゃん……ヒック …海未ちゃん……寂しいよぉ…」ポロポロ




千歌(……凛さんと海未さんが羨ましいな。こんなに悲しんでくれる友達がいるなんて。私には…もういないよ……)



――――――
――――
――


~翌日 大学~


真姫「隣、いい?」

花陽「真姫ちゃん…いいよ。一緒に食べよう」




花陽「………」モグモグ

真姫「……」モグモグ

花陽「……」モグモグ


真姫「…最近はいつも一人で食べているの?」

花陽「うん。真姫ちゃんが忙しくなっちゃったからずっと一人だったよ」

真姫「ごめんなさい…無理してでも一緒にいるべきだったわね…」

花陽「あ、謝らないで。私が勝手に一人になっているのが悪いんだよ」アセアセ


真姫「凛が…凛がいなくなってから、一か月経ったのね」

花陽「…うん」

真姫「私達、結構長くあの部屋にいるけど…メンバーが欠けたのは今回が初めてよね」

花陽「そうだね…死んじゃっても、その時100点を取った人がすぐに再生していたから……」

真姫「次のミッションで再生できるって分かってはいるけど…凄く辛い……」

花陽「穂乃果ちゃんは…もっと辛かったんだろうね。私には想像もできない……絶対に挫けちゃうよ」



真姫「……そう言えば、最近は凛と海未とやっていたトレーニングやってるの?」

花陽「やってるよ。今は千歌ちゃんに付き合ってもらってる」

真姫「あの子とねぇ……どんな様子?」

花陽「最初は全然心を開いてくれなくてね…いつ辞めちゃうかビクビクしていたけど、今では下の名前で呼んでもらえるくらいに仲良くなれたよ」ニコ

真姫「ふーん…あの子はこれからどうするつもりなのかしら」クルクル

花陽「希ちゃんの家に居候しているけど、そのうち穂乃果ちゃんが引き取るらしいよ。穂乃果ちゃんもなんか色々準備してるみたい」

真姫「そう……。じゃあ、私はそろそろ行くわね」

花陽「うん。わざわざ来てくれてありがとう」






~~~~~~


~穗むら~


千歌「このお店は? 和菓子屋さんみたいだけど」

希「ここは穂乃果ちゃんのお店。千歌ちゃんを連れてくるように頼まれたんよ」

千歌「……」




――ガラガラ




穂乃果「いらっしゃいま……ああ、希ちゃんに千歌ちゃん。いらっしゃい、わざわざ来てくれてありがとう」

希「今日はどうしたん? メールでも詳しい事は教えてくれなかったけど…」

穂乃果「まあ、内容が内容だからデータで残るのはちょっとね…。私の部屋で待ってて。すぐに行くから」





~~~~~~




千歌「――…この書類は何?」

穂乃果「これはあなたの戸籍だよ。と言っても本物じゃない。“高波 千歌”という人物が高坂家に養子として入ったって設定で作成している」

千歌「つまり…これは偽物ってこと?」

穂乃果「この先、生きていくにはどうしても必要になるからね。その道のプロに作ってもらったからバレる心配は無いよ。ただ、千歌ちゃんは中学生だからまだ学校に通わないといけない。来週から「音ノ木坂中学校」に転校生として編入してもらう事になってる」

希「随分急な話やね。制服とか教科書とかは間に合うん?」

穂乃果「大丈夫、その辺はもう揃っているよ。勝手に色々進めちゃったけど、千歌ちゃんが嫌だって言うならもう一度作り直すよ? 時間はかかるけど…」


千歌「そこまで準備してもらったのに今更断れないですよ。ありがとうございます」




希「しかしまぁ…ここまで用意したとなると、いくら使ったん? 相当な金額になったやろ?」

穂乃果「全部タダだよ。お願いした知り合いには私に“大きな借り”があるからね。これでチャラにしてあげたよ」

希「おぉ…一体どんな借りやったんや……」ゾワッ


穂乃果「あと、これも渡しておくね」

千歌「スマホ? 私のですか?」

穂乃果「無いと不便でしょ? メンバー全員の電話番号とアドレスが登録されている。
後は好きなように使っていいよ。通信制限には気を付けてね?」






――――――
――――
――

~希自宅~


希「良かったね。これで普通の中学生に戻れそうやん」

千歌「普通…ではないんじゃないかな? 何もかも……いえ、何でもないです」

希「……ただまぁ、これで千歌ちゃんと一緒に暮らせるのも終わっちゃうんやね。せっかく仲良くなれてきたっていうのにちょっと残念やわ」ガッカリ

千歌「ご迷惑をお掛けしました。希さんに拾われていなかったら今頃そうなっていたことか…」

希「とんでもない! 千歌ちゃんとの生活は凄く楽しかったで? 気が向いたらいつでも泊まりに来ていいからね!」

千歌「希さん……ありがとうございます」ニコ



希「よし、今日の夕飯は豪華にしようか! 何を作ろ………っ!?」ゾクゾクッ

千歌「こ、これって…」



希「――…準備しよう。転送が始まるで」








今回はここまで。
コメントを書き込んでくれる方にはいつも感謝しています!

~~~~~~




~ガンツの部屋~


穂乃果「――…全員揃ったね。今回のミッションで必ず海未ちゃんと凛ちゃんを生き返らせる! 当然、誰も犠牲にならずに!!」

絵里「具体的にどうするの?」


穂乃果「前回のミッションで絵里ちゃんが97点でことりちゃんが98点だった。今回のミッションで星人の強さも数も分からない。取り敢えず一体一点と仮定して、ことりちゃんは二体、絵里ちゃんは三体の星人を真っ先に倒してもらう。他のメンバーはそのサポートに専念して」


ことり「責任重大だなぁ…しっかり仕留めないといけないんだね」

真姫「了解。その後は二人を守りながら残りの星人を殲滅すればいいのね」

穂乃果「その通りだよ。このミッションはスピードより安定を重視する。数が少ないようなら全員で一緒に行動するよ」


にこ「後ろからXショットガンで足でも撃ってればいいわけね。簡単じゃない?」

真姫「油断してると遠距離攻撃喰らって即死するわよ? ぼけーっとしないでよ」

にこ「はあ!? にこがそんな間抜けな事するわけないでしょ。バカにしないでくれる?」イラッ


希「でも、秋葉原の時に安易に倒れた敵に近づいて死にかけたやん?」

にこ「……あっ」ダラダラ

真姫「ほら見なさい。にこちゃんは間抜けなのよ」クルクル

にこ「」



千歌「……」ブルブル

花陽「怖がらなくていいんだよ? 今回は戦う必要がないんだから」

千歌「そういうわけにはいかないですよ。この日の為に、花陽さんとトレーニングしてきたわけですし。せめて足手まといにならないようにしなくちゃ」

花陽「…そうだね! トレーニング成果をみんなに見せつけないと! 頑張ろうね、千歌ちゃん」ニコッ

千歌「花陽さん……はい! 頑張ります!!」グッ!




――ジジジジジ




穂乃果「転送が始まった! 行くよ!!――」




~~~~~~




~八王子 住宅街~


にこ「ウソでしょ? 12体しか居ないじゃない!」

真姫「今回は二人以外に100点に達するメンバーは出てこないわね」クルクル

希「二か所に固まっているね。ウチらも分かれるん?」

穂乃果「うーん…4人なら大丈夫かな。にこちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん、真姫ちゃんは南側をお願い」

絵里「了解よ。行きましょうか」

にこ「サクッと終わらせてねー」





ことり「よろしくね、千歌ちゃん♪」ニコッ

穂乃果「無理はしないでね?」

花陽「訓練の成果を見せましょう!」

千歌「……はい。頑張り…ます」




――――――
――――
――



ことり「レーダーだとこの辺りなんだよね?」

穂乃果「あー…いたいた。ちょっと大きめのキツネみたいな星人だね」

星人「グルルルゥゥ……」


花陽「よし……私は星人の足を斬ります。ことりちゃんは動きが鈍ったところを確実に倒してください」シュッ



三人は各々武器を構えた
星人は穂乃果達の姿を確認すると、すぐさま襲い掛かってきた

――標的は千歌
唯一、武器を構えていない彼女に一斉に襲い掛かる



花陽「千歌ちゃん!?」

穂乃果「来てるよ! 早く構えて!!」

千歌「…え? うわぁ!?」




慌ててガンツソードを展開するが、剣先を噛みつかれてそのまま奪われる
止む追えず素手による格闘戦に切り替えるが、まるで当たらない



千歌「このっ! 当たってよ!!」ブンッ!

穂乃果「落ち着いて! そんなに速くない、冷静に見極めて!!」


花陽(おかしい…訓練中の花陽はあの星人以上の動きのハズ。それと渡り合える千歌ちゃんが苦戦するなんて…)

ことり「千歌ちゃん! 斜め後ろに思いっきり飛んで」カチャ

千歌「わ、分かりました!」



ことりの指示通り後ろに飛ぶ
それと同時に先ほどまで千歌がいた場所が円形状に削り取られた
ことりがZガンを使用したのだ
千歌を囲んでいた星人をまとめて三体仕留めた




千歌「はぁ…はぁ……」


ことり「ノルマは達成したよ。後は任せるね?」

穂乃果「うん。この程度の星人なら五秒もかからないよ」カチャ

花陽「逃げないでくださいね? 追いかけるのは大変ですから…」シュッ




新規メンバーや数回経験した人間なら苦戦を強いられただろう
それだけの実力は十分あった

星人にとって最大の不幸はこの場所に現れてしまった事
10分もかからないうちに地球に来たこの星人は絶滅したのだ……







――――――
――――
――


真姫「――…援護なんて必要ないじゃない! 弱すぎでしょ…」ハァ

にこ「全くよねー。動きもノロマだったし、負ける要素ゼロって感じ」




千歌(う、ウソでしょ!? 私には速過ぎて全く攻撃が当たらなかったのに…)


ことり「千歌ちゃんお疲れ♪ 緊張したと思うけど悪くない動きだったよ。おかげで私も楽に倒せました」ニコッ

千歌「そ、そうです…か。良かったです……」




にこ「しょうもないウソついてどうするの? その子の為にならないわ」

ことり「にこちゃん?」

にこ「あの程度の星人、ことりなら単独でも倒せていたわ。それにこの部屋には穂乃果や絵里、今はいないけど海未みたいな化け物並に強い子やそれに近い実力者がすでに揃っている」



にこ「つまり、別にあんたなんて必要ないのよ。精々邪魔にならないように自分の身を守る事だけに専念することね」


千歌「…っ! あはは、そうですよねー。承知してます……はい」ウツムキ

花陽「……」

真姫「……」クルクル

絵里「にこ!! そんな言い方は無いんじゃない!?」

にこ「…ふん」プイッ


千歌「絵里さん、いいんですよ。矢澤さんの言っている事は合ってますから…あはは」



穂乃果「――…採点だよ」




ガンツ『(・8・) 15点 TOTAL 113点』




ことり「三番……園田 海未ちゃんを生き返らせて」




――ジジジジジ




海未「――…え?」ジジジジジ

ことり「おかえり、一か月ぶりだね?」

絵里「まさか海未がやられるとは思ってもいなかったわ」




ガンツ『園田 0点』




海未「なるほど…私は死んでいたのですか。……情けないですね」アハハ…





穂乃果「――…ホント情けないよ、恥ずかしくないの?」

海未「!」

ことり「ほ、穂乃果ちゃん?」


穂乃果「自分は強いから一人で大丈夫とか言ってたくせに、あっさり殺されてさ。分かってるの? これでμ’s最多死亡数で海未ちゃんは堂々の一位になったんだよ」

海未「……」

穂乃果「これから単独行動するの禁止ね。当然だよね? だって海未ちゃんはメンバーの中で一番多く死んじゃうくらい弱いんだからさ」

海未「…はい」



穂乃果「私が…私達が海未ちゃんを守るから。もう二度と負けないで。もう……私やことりちゃんを悲しませないでよ」ジワッ

ことり「本当だよ…生き返るからって簡単に死なないでよ……」ポロポロ

海未「……はい! 私は…私はもう二度と死にません……絶対に!!」ポロポロ





ガンツ『エセロシア人 10点 TOTAL 107点』




絵里「三番よ。星空 凛を再生しなさい」




――ジジジジジ




凛「にゃ?」ジジジジジ


花陽「凛ちゃん!!」ダキッ


凛「かよちん!? どうしたのさ!?」アセアセ

花陽「うぅ…うぅぅぅ……」ポロポロ


にこ「あなたは今まで死んでたのよ。絵里が100点取って生き返らせたってわけ」

凛「ええ!? じゃあ、凛の98点も消えちゃったのぉ」ガーン

真姫「呆れた…花陽や私がどれだけ辛い思いをしたと思っているわけ?」


花陽「うぅ……ふふ、凛ちゃんらしくて安心した。――…おかえり、凛ちゃん」ニコ

凛「…ただいま。寂しい思いさせてごめんね?」





ガンツ『白米さん 10点 TOTAL 98点』

ガンツ『ノンタン 5点 TOTAL 96点』

ガンツ『ほのか 10点 TOTAL 85点』

ガンツ『まきちゃん 5点 TOTAL 18点』

ガンツ『にこ 5点 TOTAL 25点』

ガンツ『普通怪獣 0点』




凛「あれ、普通怪獣? この子は一体誰なの? 凄く見覚えがあるんだけど…」ウーン

海未「っ!? 凛は知っているでしょ!? 緊急ミッションでガンツに表示された画像の子です!!」

凛「ああ!! え、でもなんでその子がここに!?」



千歌「………」



穂乃果「あー…その事は後で説明するからさ。今日はもう帰らない? 海未ちゃん達の家族も心配してるだろうし」

花陽「千歌ちゃんの説明は任せてください。明日私が二人にしますから」


花陽「千歌ちゃん、明日も神社に集合ね?」

千歌「……はい」





――――――
――――
――



~翌日 神田明神前~



凛「――…なーんか不思議な感覚だなぁ。凛にとってはこの特訓は昨日もやった事なのに、かよちんは一か月ぶりなんだよね?」

海未「あのメニューを一人で続けたのですか?」

花陽「違うよ。千歌ちゃんと一緒にやってたんだ。一人だったら続けるのは無理だったよ…海未ちゃんのメニューって辛いし」アハハ…

凛「ほぇー、海未ちゃん無しであのメニューを続けたのかにゃ。凛だったら絶対無理だよー」



海未「…その千歌さんの事ですけど、一体どういう事なのですか?」

凛「そうそう、何者なの?」

花陽「…千歌ちゃんが来てから話すよ。だからもう少し待っていて」

凛「……って言ても、集合時間からもう30分も過ぎてるよ?」

海未「時間にルーズな方のですか?」

花陽「そんな事は…いつもだったら私が着く前に来てるんだけど……」

海未「連絡してみてはどうですか? 番号は知っているのでしょう?」

花陽「そうだね、電話してみ……あれ? メールが来てる…千歌ちゃんからだ」ポチポチ

凛「なんて送られてきたの?」



花陽「『今後、トレーニングは一人でやります。今まで一緒にやって頂きありがとうございました。これからは以前のように三人でやってください』だって…」ゾワッ

海未「どういう事ですか!?」

凛「もう来ないって事?」


花陽「電話が繋がらない…電源を切ってるみたい」

凛「他に連絡先は無いの?」

花陽「……希ちゃんなら知ってるかもしれない――」





~~~~~~



穂乃果「――…つまり、千歌ちゃんが行方不明ってこと!?」

希『そうや! 花陽ちゃんの所に行くって言ってたのに…携帯も電源切ったまま部屋に置いてあったんよ』

穂乃果「千歌ちゃんがお金どのくらい持ってるか分かる?」

希『必要になった時に渡してたから…仮に使わないで取っておいたとしても三千円あるか無いかだよ』

穂乃果「…沼津に帰るなら十分な金額だね」

希『まさか千歌ちゃん、実家に帰ったって事!?』

穂乃果「分からない…とにかく私は千歌ちゃんを探す。希ちゃんは家で待機していて。もしかしたらひょっこり帰って来るかもしれないから」

希『分かった。頼んだで――』ピッ



穂乃果「……どこにいったの…千歌ちゃん――」




~~~~~~



――千歌は公園のブランコに座っていた
花陽とのトレーニングの帰りにたまたま見つけた小さな公園で
一人になりたい時は必ずここに来ている
無論、この場所は誰にも教えていない秘密の場所なのだが――



「――…見ーつけた♪ まさかこんな所に居たなんてね」ウフフ

千歌「え!? どうしてここが……」

「目の前にマンションがあるでしょ? そこに住んでいるのよ」

千歌「なるほど…それならすぐに見つかっちゃいますよね。誰から連絡を受けたんですか、絢瀬さん」

絵里「希よ。『千歌ちゃんが行方不明になったー!!』って大慌てでね、私も探しに行こうと思って外に出たらすぐに見つけたってわけ」

千歌「行方不明って…大ごとになっているんですね」

絵里「イキナリ花陽との約束すっぽかしたり、携帯置いたまま居なくなったりすればそうなるわよ」

千歌「すいません…どうしても一人になりたかったので」ウツムキ

絵里「…そう」





―――――――――




絵里「取り敢えずみんなには見つけた事は報告した。場所までは教えてないから安心して」

千歌「…ありがとうございます」



絵里「さて…千歌ちゃんは何を抱えているの? 無理にとは言わないけど、話してみない?」



千歌「絢瀬さんは――」

絵里「絵里でいいわ」

千歌「…絵里さんは私の事どう思っていますか?」

絵里「どうって…一緒に戦うメンバーの一人だと思っているわよ」


千歌「――…じゃあ、もし私が死んだら生き返らせてくれますか?」

絵里「……」

千歌「…そこまで絵里さんとは仲良く無い事は分かってます。でも、同じ質問を希さんや花陽さんにしても即答は出来ないでしょう」

千歌「昨日、凛さんと海未さんが生き返った時…みなさん泣いて喜んでいましたね。特に花陽さんは嬉しかったハズです。今までずっと一緒にトレーニングしていた人が戻って来たんですもん。当然のことですよね?」

千歌「そんな光景を見ていて…考えちゃったんです。私が死んだら悲しむ人っているのかなって」


絵里「……」

千歌「私にも家族や幼馴染がいます。でもそこに“私”はすでに存在している。私が死んでも悲しんでくれるどころか、その事すら知ることは無い」

千歌「むしろ、私にとってもμ’sのメンバーにとっても…私がこうして生きているより、さっさと死んだ方がいい」

絵里「…どうして?」

千歌「だってそうでしょ? 穂乃果さんは責任を取る為に色々と私に用意してくれた。私さえいなければ負う必要のない危険な事やお金まで使ってさ……私を殺しちゃえば済む話なのに」

絵里「…」


千歌「……あの部屋で矢澤さんに“あんたなんか必要ない”って言われた時にやっと気が付きました。――…あぁ、この世界に偽物の私の居場所は無いんだなって」ジワッ

千歌「心から心配してくれたり、悲しんでくれたり、喜んでくれたり、褒めてくれる人なんて居ない……私はガンツが生み出した使い捨ての駒なんですよ」ポロポロ

千歌「私が行方不明になって心配したのだって、“本物の私”に何か不都合なことが起きるんじゃないかって思ったからでしょ?」

絵里「…さあね? それは本人に訊かなきゃ分からないわ」

千歌「……」



絵里「正直に話せば私にとってあなたは、あの部屋のメンバーくらいにしか思っていないわ。今はそれ以上でもそれ以下でもない」

絵里「あなたを生き返らせるかどうかだけど、自発的にはやらないでしょうね。頼まれればやるでしょうけど」

千歌「そうですか…」


絵里「――…でもそれは、あなたが偽物だからってワケじゃない。単純に千歌ちゃんとそこまで親密な関係じゃ無いからよ。千歌ちゃんだって赤の他人を生き返らせようなんて思わないでしょ?」

千歌「そりゃ…そうですけど……」


絵里「確かに、千歌ちゃんの存在について否定的なメンバーもいる。立場上、家族や幼馴染に会えないのは悲惨だと思う。ただ、居場所が無いっていうのは違うと思う」

千歌「……え?」


絵里「希の家で暮らしていたり花陽と一緒にトレーニングしていたのでしょ? だったらそこはあなたの居場所で間違いない。あの二人が義務感や責任感で一緒にいたように見えたかしら?」

千歌「……でも――」

絵里「そもそも、どうして自分が本物か偽物かにこだわっているのかしら?」

千歌「?」

絵里「μ’sの何人かはあなた達の言う“本物”の千歌ちゃんに会っているみたいだけど、私は会ったことが無いのよ。だからあなた以外の千歌ちゃんを知らない、私にとっての“本物”は今、目の前にいる千歌ちゃんなのよ」

絵里「これから千歌ちゃんは色々な人と出会うと思う。その人にとって“高海 千歌”という人物はあなたが本物になる。けどね、内浦で暮らしている千歌ちゃんと秋葉原で暮らしている千歌ちゃん、二人に年齢の違いはあるにしても、どちらも“高海 千歌”本人よ。私達のほとんどがそう思っている」


千歌「矢澤さんは違うみたいですけど……」

絵里「でしょうね。でも本心は違うはずよ」

千歌「本当かなぁ…」




絵里「――…さ、お喋りはここまで。神田明神に向かいなさい。花陽が待っている」

千歌「え? でももう行かないって伝えましたし……」

絵里「メールで済ませるつもり? 今まで付き合ってもらった相手に対してそれは失礼よ。本気で辞めるなら直接話しなさい」

千歌「…分かりました」

絵里「よろしい。じゃあ、また今度ね♪」





――――――
――――
――



凛「あっ! 普通怪獣ちゃん来たよ!」

海未「全く…心配しました」ヤレヤレ

千歌「凛さん…海未さん……」



花陽「――…随分と遅かったね。待ちくたびれちゃったよ?」

千歌「…ごめんなさい」ペコリ

花陽「千歌ちゃんがどうしてあんなメールを送ったのか、理由は大体予想できているよ」

千歌「……」

花陽「……あの部屋でにこちゃんに言われた事覚えている?」

千歌「『あんたなんか必要無い』って言われた事ですか? ホントその通りだなって――」



花陽「私はにこちゃんのあの発言、とてもカチンと来ました」

千歌「花陽さん?」

花陽「大体千歌ちゃんの戦いを見てもいないくせに必要無いって決めつけるなんて! そもそも千歌ちゃんは海未ちゃんに鍛えられた私とマンツーマンで鍛えたんですよ? 役に立たないハズが無い、自信をもって断言できます!!」プンプン

千歌「……はい」ジワッ

花陽「これからは私だけじゃなくて、凛ちゃんや海未ちゃんも一緒です。もっともっと強くなって、にこちゃんを見返してやりましょう!」

千歌「…はい」ポロポロ

海未「そんな事を言われたのですか。花陽の師匠としても聞き捨てなりませんね」

花陽「だから、辞めるなんて言わないで? 突然居なくなったら悲しいし寂しいよ…」

海未「まずは遅刻した罰として千歌さんにはいつもの倍の量のメニューをこなしてもらいましょう。仮に辞めるとしても、今日までは付き合ってもらいます」ニコ

凛「うへぇ…それじゃ本当に次回から来ないんじゃ――」



千歌「分かりました! 花陽さん、凛さん、海未さん、これから私も皆さんと一緒に訓練に参加させてください。お願いします!!」

花陽「…うん! よろしくね」ジワッ

凛「これからは楽しくなりそうだにゃー♪」

千歌「じゃあ、メニューは……」


海未「いつもの倍なのでランニングは40kmですね。時間も時間なので今日はそれだけでいいですよ。三時間で走り切らなければ次回のメニューも“少し”厳しくなります」ニコニコ

千歌「」

凛「き、厳しくないかにゃ?」

花陽「ほら、海未ちゃん遅刻には厳しいから。自分が遅刻した時も凄いメニューこなしてたし」アハハ…




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~12月 穂むら~


穂乃果「――…あ! 希ちゃん、いらっしゃい」

希「こんにちは♪ 今は穂乃果ちゃんが店番なんやね」

穂乃果「そーなんだよ、雪穂はまだ学校でお母さんは出掛けちゃったし…寂しく店番中なのです」

希「あれ? この時間なら千歌っちが居るんやないの? 今日も花陽ちゃん達と一緒なん?」


穂乃果「ううん、昨日の朝から静岡に行ったよ。みんなに連絡しなかったっけ?」

希「あー…そう言えば行くって連絡入ってたね。確かインフルエンザで三日間学校閉鎖になったんだよね」

穂乃果「そうそう。せっかく時間が出来たから幼馴染みの顔を見に行きたいんだってさ。平日なら学校に行けば確実に会えるからね」

希「今更やけど…一人で行かせて大丈夫なん?」

穂乃果「問題ないと思うよ。そのくらいの判断は出来るハズ。海未ちゃん達とも結構相談したみたいだし」

希「ウチにも相談して欲しかったなぁ…千歌っち、穂乃果ちゃんの所に住むようになってから一回しか泊まりに来てくれ無いんやで」ズーン

穂乃果「千歌ちゃんも色々忙しいみたいだよ? 最近じゃ、運動部の助っ人に引っ張りだこなんだって。この前バスケの試合観に行ったけど、一試合フル出場して一番走り回っていたのに息一つ乱して無かったよ」

希「ちょっ…どんな部活に入ればそうなるん?」

穂乃果「千歌ちゃんは帰宅部だよ。海未ちゃん達との訓練に参加していたら部活の練習なんか時間が無くて出来ないよ」

希「ええ…今までちゃんと訓練内容を聞いた事なかったけど、一体どんな事しとるん?」

穂乃果「基本的には体力作りと剣術指導だってさ。対人以外はスーツ着ないでやるみたい。海未ちゃんが復帰した初めの頃はひたすら走らされたみたいでね…40kmを三時間切れなんて無茶苦茶な課題出したんだよ!? 流石に文句言いに行ったよ!」プンプン

希「ほとんどフルマラソンやん…ウチだったら次回から参加しないで」アゼン


穂乃果「それがさ…千歌ちゃんも根性あってさ。次回からその距離はメニューから外されていたんだけど、休日の早朝自主練で40km走るようになってね…もうすぐ四時間切るってさ」

希「う、ウソやろ……」

穂乃果「静岡に行くのだって、海未ちゃんに『走っていくのはどうでしょうか』なんて言われたみたいでね。千歌ちゃんも今更40kmも130kmも変わらないなんて言い出して…完全に感覚が狂っちゃったみたい」ハァ

希「…もしかして朝から出発したのって……」ダラダラ


穂乃果「その通りだよ…ただ、スーツは着せたし走るのは横浜まででそこからは電車を使うよう言いつけたよ」



希「千歌っちはすっかりスタミナお化けになってしもうたんやね。剣術の方はどうなん?」

穂乃果「結構筋はいいみたい。花陽ちゃんが自分と同じくらいまで成長したって嬉しそうに言っていたよ」

希「悔しがるんじゃなくて喜ぶあたりが花陽ちゃんらしいね」

穂乃果「花陽ちゃん曰く『弟子は師匠を超えるもの。千歌ちゃんはそれが早かっただけです』だってさ。『ただ…私は海未ちゃんを中々越えられませんが』って付け加えていたけどね」

希「海未ちゃんより強くなってる花陽ちゃんかぁ……あんまり想像できひんな」ウーン

穂乃果「花陽ちゃんも最初の頃に比べたら遥かに強くなってるよね。うかうかしていたら私が先に追い抜かれるかも」

希「もうとっくに追い抜かれているかもよ? 今度勝負してみたら?」ニヤニヤ

穂乃果「あはは…機会があったらね」ダラダラ

希「ウチもそれなりに訓練してるよ。いつまでも穂乃果ちゃんと海未ちゃんに頼るわけにはいかないからね」

穂乃果「それはそれで寂しい気がするなぁ…困ったら頼っていいんだよ?」ドヤァ

希「ふふ。もし穂乃果ちゃんでも勝てない敵が現れても、この10人で力を合わせれば絶対に大丈夫や」

穂乃果「…カードがそう言ってたの?」

希「――…ううん、こんなの占うまでも無いやん?」ニヤッ




~~~~~~


~原宿 カフェテリア~



「相席いいですかぁ?」

にこ「はい? どうしてわざわざ……なんだ、ことりだったの」

ことり「えへへ、こんな所で偶然だね。座っていい?」

にこ「いいわよ。しばらくゆっくりしているつもりだったし」

ことり「ありがとう♪ 今日は休みなの?」

にこ「ええ、珍しくバイトも養成所の練習も無い日でね…オシャレなカフェでゆっくりするのも悪くないじゃない?」

ことり「そうだね。にこちゃんにはピッタリのお店だと思うよ」ニコニコ





にこ「――…あの子って今は静岡の実家に行っているのよね?」

ことり「え? あ、うん。そのハズだけど…にこちゃんが千歌ちゃんの話題を出すなんて珍しいね」

にこ「…別に。あの子、学校でこころと知り合ってそのまま友達になったのよ。この前、家に遊びに来たわ」

ことり「ええ!? 千歌ちゃんはこころちゃんがにこちゃんの妹だって知ってたの?」

にこ「まさか。苗字が一緒なのは分かってはいたみたいだけど、家で私の顔を見た瞬間に青ざめていたのが一目で分かったわ」ハァ

ことり「そりゃそうだよ、だってにこちゃんは千歌ちゃんのこと嫌い…でしょ?」

にこ「嫌い……か」

ことり「?」

にこ「正直言うと嫌いでは無いわよ。今思えばあの時だってどうしてあんな事言ったのか…凄く後悔しているくらいよ」

ことり「…どういう事?」

にこ「それが自分でもイマイチ分からないのよ。あの子の前に立つと本心と違う言葉が出ちゃうの…まるで自分から突き放すような言葉がね。…最低でしょ?」

ことり「……うん。千歌ちゃんに対するにこちゃんの発言は許されるものじゃないよ」

にこ「あの子がどうこうって話じゃない。多分これは私自身の問題だと思う。せっかくこころと仲良くしてくれているのに、私のせいで関係にヒビが入るのは避けたいわ」

ことり「私じゃ力になれないの?」

にこ「そうね…何が理由か分からない以上、話す事が無いの。だから、今は関係が悪化しないよう努力するつもりよ」

ことり「分かった…早く千歌ちゃんと仲良くなれるといいね!」ニコッ

にこ「……ええ」


ことり「それにしても意外だったな~。絶対に存在を認めないって立場だと思ってたよ」

にこ「…最初は少しそう思っていた。でも、こころと楽しそうにお喋りしている姿を見ていたらさ……この子も正真正銘人間なんだなって感じてね。あの時、本当に消さなくてよかったと思ってる。止めてくれてありがとう、ことり」

ことり「……じゃあ、お礼にこのお店で一番おいしいケーキをご馳走してもらおうかな♪」ニコッ

にこ「ふふ、お安い御用よ! どれどれ……って高っ!? ケーキ一個1500円ってどんだけよ!?」

ことり「んん~~楽しみだなぁ♪」






~~~~~~



~神田明神 境内~



海未「――…今日はここまでにしましょうか」

凛「ふにゃあぁぁ…疲れたよぉ」グッタリ

花陽「凛ちゃんお疲れ。はい、水だよ」

凛「ありがとう!」ゴクゴク



海未「……私達だけで訓練するようになってから三年…ですか」

凛「え? 突然どうしたの?」

海未「いえ、こうして三人で訓練したのが久しぶりだったので。花陽が私に頼み込んできた日の事を思い出しました」

海未「突然メールで呼び出されたと思ったら、『私を弟子にしてください!』ですからね。とても困惑しましたよ」フフフ

凛「私に相談してくれなかったのはショックだったな…二人で走っているのを目撃した時は海未ちゃんにかよちんを取られちゃったと思ったよ」プンプン

花陽「あはは…まさか初日に発見されるとは思わなくてね。終わったら連絡しようと思っていたんだよ?」

海未「正直、ここまで二人が付いて来るとは思っていませんでした。μ’s時代とは遥かに厳しいメニューを組んでいたので」

凛「あ、その自覚はあったんだね」

海未「アイドル活動とは違い、生き残る為の訓練でしたから…妥協はしたくなかったのです。気が付いたらあんなメニューに……」

花陽「……いつまで続くんだろう」ボソッ

凛「にゃ!? かよちんはやっぱり嫌だったの!? まあ、千歌ちゃんが加わって海未ちゃん張り切っちゃったせいでメニューが前より辛くなったから無理ないよ…」

海未「やっぱり厳しすぎましたか…自分でも辛いと感じていたのでやり過ぎ感は否めないです……」ズーン

凛(これにも自覚あったんだにゃー…)


花陽「あ、違うよぉ! メニューに対しての不満じゃないよ」アセアセ

花陽「確かに辛いけど、みんなと一緒にやるのは楽しいからこれからも続けたいと思ってるよ。ただ…穂乃果ちゃんが前に話していたカタストロフィの事を考えるとね……」

海未・凛「「……」」

花陽「私達が戦っているのは来たるカタストロフィに向けての予行練習。いつか本番の日が訪れるわけだから、この訓練も終わっちゃうよね?」

海未「まぁ…そうなりますよね」

花陽「こうやってμ’sのみんなと会えるきっかけが無くなっちゃうのが寂しいなって思っちゃった。あの部屋は嫌いなんだけどさ」

凛「そんな事思ってるの? かよちんも意外とおバカさんにゃ~」

海未「そうですね。花陽はお馬鹿さんです」

花陽「え……ええ!?」


凛「きっかけなんて作ればいいんだよ。なんなら、グループラインで一言言えばすぐに集まるよ」

海未「流石に毎回全員と会えないとは思いますが、メンバーが会いたいと呼びかけているのに無視をする人は居ないですよ」

花陽「……そうだね。どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう…二人の言う通り、私はお馬鹿さんでした」アハハ…


海未「全ての戦いが終わったら、みんなで美味しいご飯でも食べに行きましょう!」

凛「お、いいねぇ~。最近、美味しそうなラーメン屋を見つけたからそこに行きたいにゃ!」

海未「いやいや、どうしてラーメンなのです? もっと他にあるでしょう!」

凛「えー、だったらどこにするのさ!」

海未「そ、それは……って今考える必要は無いでしょう! 終わってからみんなで考えればいいのです!!」

花陽「わ、私は美味しい白米があるお店がいいです!!」

海未「花陽…話聞いていましたか?」ヤレヤレ



千歌ちゃんが沼津に帰っている時の話も書こうかと思いましたが、今作はμ'sメインなので省略します

言葉足らずでした
今は省略するだけで物語がひと段落したら書きます

時系列的にはここで前作の追加ストーリーと同じになっています
なので、カタストロフィはこの三年後ですね
(多分また時間は飛ばすと思いますが…)



――――――――
――――――
――――
――




~某大学 薬品庫~


絵里「――…ええっと、止血剤と強心剤は……お、あったあった♪」ゴソゴソ

真姫「…ったく、毎回ひやひやするわね。バレたら退学どころか逮捕されるわよ?」

絵里「問題は問題にしなければ問題にならないのよ。それに大した薬品じゃないんだから簡単にバレないって」

真姫「…普通は定期的にチェックされてすぐに発覚するものなんだけど? 一体どんなトリックなのよ」

絵里「ここの管理者の子とちょっと仲が良くてね。仕入れ数とか色々改ざんしてもらってるってカラクリよ。直接の受け渡しだと見られた時に迷惑がかかるから、夜にコッソリ頂いているってわけ」

真姫「はぁ…。ちなみに、私を見張り役として指名した理由は? ステルスを使えば姿が見えないんだし、居る意味無くない?」

絵里「あ、確かに。なんで真姫に声かけたのかしら…?」

真姫「……あ?」イラァ

絵里「お、怒らないでよ。一人じゃ心細かったから、この大学の関係者に居て欲しかったの! 夜の学校なんて怖すぎるでしょ」アセアセ

真姫「…まあいいか。さっさと詰めちゃいましょ」

絵里「そうね。注射器とかはもう用意できてるの?」

真姫「ええ。一応今も持ってきてるわ。夜だし、時期的にも今日ミッションが来てもおかしく………あ」ゾクゾク

絵里「噂をすれば、ってやつね。急いで用意しましょうか――」






~~~~~~


~ガンツの部屋~




――ジジジジジ




凛「にゃあぁぁ……久々のミッションだね! テンション上がるにゃあ!!」

絵里「り~ん! 元気なのはいいけど、勝手に暴れまわらないでよ」

真姫「そうよ、援護する身にもなりなさいよね」ジトッ

花陽「凛ちゃん……」ハァ…



希「おぉ! にこっちはお仕事無かったんやな。随分ラフな格好で転送されてるやん」ニシシ

にこ「まあね、折角のオフだったのに…ホント迷惑よ!」プンプン




海未「穂乃果、ことり、お久しぶりです」ペコッ

ことり「久しぶり! 元気だったぁ?」

穂乃果「うん、いつもと変わらず元気にやってたよ」

ことり「海未ちゃんは……前よりちょっと変わった?」

海未「ええ、カタストロフィ事を話してもらってから日々の鍛錬にもより真剣に取り組めるようになりましてね…ここで100点をより多く取る為の備えは万全ですよ」ニコ

穂乃果「おぉ…こりゃ、もう私より断然強くなっちゃったんだろうな」アハハ…

海未「どうですかね? 強さには色々ありますから。そうだ、今度手合わせしませんか? 無論、スーツは無しで」

穂乃果「い、いやー…さすがにそれじゃ私に勝ち目が無いなぁ」ビクビク




――ジジジジジ




千歌「――…あれ? もしかして私が最後ですか??」


凛「あ! 普通怪獣ちゃんだ!!」パァ

千歌「ちょっと凛さん! ガンツが付けたあだ名で呼ばないで下さいよぉ」プンプン

花陽「そうだよ、前から嫌がってるでしょ?」

凛「えー…可愛いあだ名だと思うんだけどなぁ」シュン

千歌「あ、いや…そんなに落ち込まないで下さい」アセアセ


にこ「年下困らせてどうすんのよ…」

真姫「気にしなくていいわよー」ヤレヤレ

千歌「は、はあ…」



絵里「確か今日は…まだ静岡のはずよね?」

千歌「はい、明日の朝に帰る予定でした」

希「そっか~、なら帰りの交通費が浮いてラッキーやな♪」

千歌「え? まあ、そうなりましたね……ん? なんかデジャヴ……」ムムム



ことり「それでどうだった? “年上の同級生”に会って来た感想は?」


千歌「――…そうですね、まさか曜ちゃんが今も戦ってるなんて…それも果南ちゃんも一緒だったのは驚きましたね」

千歌「そう言えば、穂乃果さんから教えてもらったメンバーのほとんどは卒業したみたいでしたよ? あの場にいませんでした」



穂乃果「そうなの? 千歌ちゃんじゃなくて曜ちゃんが残ったって事なのかな……」

千歌「そこまでは分かりませんが…とにかく、曜ちゃんに気付かれなかったのはラッキーでした」フゥ

穂乃果「そうだよ! 仕方のない状況だったとしても、何でステルスを解いちゃうのさ!? 危うくバレちゃうところだったんだよ!?」

千歌「うぅ……ごめんなさいぃ」グスン

海未「まぁ、電話で知らされた時は焦りましたが、バレなくて本当に良かったですね」

ことり「でも災難だったね? お忍びで帰ったのに星人との戦闘に遭遇しちゃうなんてね」


千歌「……でも、曜ちゃんの姿や声が聴けて良かったです。きっと“未来”の千歌とも仲良くやってるはずです」

穂乃果「ねぇ、やっぱり私の事恨んでる?」

千歌「まさか! 穂乃果さんが情けをかけてくれなかったら、今生きていません。法律上存在しない私を養ってくれている穂乃果さんには感謝していますよ」

穂乃果「でも…」


千歌「その時が来たら私から打ち明けます。私の存在は曜ちゃんと“私”にしっかり決めてもらいますから」ニコ

穂乃果「そっか……」




ガンツ『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』





千歌「――…さあ、もうすぐ今夜のミッションが始まります。今回も気合い入れていきましょう!」

穂乃果「……うん! よろしく頼むよ、千歌ちゃん!!!」


千歌「――――はい!」




いつものように音楽が流れ終わり今回のターゲットが表示された
ただ、その表示はいつもと少し違っていた



絵里「さーて、今回はどんな星人が相手なのかし…ら……」ゾワッ

花陽「……っ」ギリッ

海未「復帰早々、厳しいミッションになりそうですね…」




ガンツ『Weは今から
この方をヤッつけてにgo to下ちい
Chimera星人 特徴:very strong 好きなもの:human We’s favorite:jouzi』




千歌「ちめら星人? と言うか、表示もなんか変だよね…今までアルファベット表記なんか無かったのに」キョトン

穂乃果「千歌ちゃん、今回は覚悟してね…相当厳しい戦いになると思う」

希「装備もキッチリ準備せなあかんね」

絵里「真姫、さっき用意したあれを配っちゃいましょ?」

真姫「そうね。全員このポーチを身に付けなさい。中に強心剤と止血剤が入っているから自分や仲間が危なくなった時に注射して。ただ、一本ずつしか用意出来なかったし、ポーチも普通の物だから強い衝撃で簡単に壊れるから注意して」

にこ「通信機の次は薬剤かぁ…本当に準備いいわね」

絵里「もっと早く用意出来れば良かったんだけどね。中々薬学部の子と関係が作れなくて苦労したのよ」

凛「関係を作る…絵里ちゃんが言うと何だか意味深だにゃ」


千歌「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 穂乃果さんが厳しい戦いになるっていうくらいのミッションって一体何なんですか!?」




――ジジジジジ




穂乃果「……行けば分かるよ。とにかく、単独行動は禁止ね」





~~~~~~


穂乃果達が転送された場所は高いビルが多く立ち並んでいる交差点の真ん中だった
辺りは逃げ惑う人々、人間の遺体、星人と思われる生物の死体が転がっていた

建物外壁へのビルボードの設置が多く、世界中の企業の広告や巨大ディスプレイ、ネオンサインや電子看板が目立ち表記は全て英語だった
そこは千歌もテレビや雑誌で見た事のある場所であり、以前μ’sが海外ライブを行った場所でもあった



穂乃果「――…懐かしい場所に来たね」

千歌「こ…ここって、アメリカ……何ですか?」

希「ニューヨークのタイムズスクエアやね。見る限り既に戦闘は始まっているみたい」

ことり「どうする? 穂乃果ちゃん」

穂乃果「そうだね…取り敢えずはニューヨークチームの人と合流しよう。私達が参戦したって事はそれだけ戦力が足りないって事だからね」

海未「それがいいですね。敵の情報もいくつか分かっているかもしれませんし」

にこ「決まったなら早く行きましょう。いつまでも突っ立っていたら危険よ」


穂乃果「よし、それじゃあ……」




――スパッ




穂乃果「――…は?」ブシュッ



――…油断していたわけでは無い
周囲に星人の姿が無い事は転送直後に確認済みだった

ただ……
流石に転送直後に攻撃は無いだろう
武器を持った集団に斬り込んでくる星人はいないだろ
そんな考えが全員の頭の隅にあったのは事実だ
移動開始が後数秒早ければ回避出来ていただろう

上空から降ってきたカマキリと人間を掛け合わせたような星人が穂乃果の左腕の肘から先を斬り落とした

確か原作でもアメリカチームって強キャラポジションでしたよね?
もしかしたら英語での会話シーンがあるかもしれませんが
全部翻訳サイトを使いますので雰囲気だけお楽しみください

凛「…にゃ?」


千歌「え……な…に……?」






攻撃を受けた穂乃果でさえ自分の身に何が起きたのか理解出来ていない
星人はそんな事はお構いなしに、その鎌で穂乃果の首元目がけて振りかざす

突然の出来事にメンバーのほとんどが未だ呆然と立ち尽くしている
――ことりと海未を除いて


ことりは素早く穂乃果の首根っこをつかみ、自分の身体側に引き寄せた
海未は星人と穂乃果の間に割って入り、刀で攻撃を防ぐ




海未「――何をしているのですか!! 全員周りをよく見なさい!!!」



慌ててもう一度見渡すと、先ほどまではいなかった星人の姿がメンバーを囲むように現れていた
穂乃果は声にならない激痛に耐えながらも素早くポーチから注射器を取り出し、傷口に直接打ち込んだ




穂乃果「~~~~っ!!? 正面の星人二体は私達で何とかする! みんなは他の星人の相手をして!!」

ことり「穂乃果ちゃん、その腕で戦うつもりなの!?」

穂乃果「斬られたのは利き腕じゃないし止血剤も打った。それに、あの星人二体は三人じゃないと厳しい!!」



目の前では穂乃果を斬った星人と海未が斬り合っている
その後ろには額に蜘蛛のような目が付いている人型の星人が長い棍棒を肩に乗せながらこちらに歩いてきている
見るからに強敵である事は間違いなかった




ことり「…分かった、でも無理だと思ったらすぐに逃げてね。捨て身の特攻なんて承知しないんだから!」

穂乃果「大丈夫…ことりちゃんと海未ちゃんがいれば片腕で十分だよ!」ニッ




穂乃果はガンツソードを展開
臨戦態勢に入っていた。本気で片腕で戦うつもりなのである
他のメンバーももう止める気は無いようだ




絵里「――…さあ、行くわよ! 一刻も早くこの場から奴らを引き離す!!」ダッ!

千歌「…っ! 穂乃果さん!!」

穂乃果「…心配なんかいらないよ? 私の事を思ってくれるなら、早く他の星人を倒してミッションを終わらせて」

千歌「で…でも……」



花陽「――…穂乃果ちゃんの言う通りだよ! 早く行くよ!」

千歌「…分かりました。後で必ず合流しましょう!!」ダッ!




このような場合に備えて予めチーム分けを決めていた

戦闘能力や得意武器を考慮し
絵里、にこ、真姫のチームと凛、花陽、希、千歌のチーム
周囲を囲んでいた星人を引き付けてそれぞれその場から離れた――



~~~~~~


~初期転送位置より南南西500m~


ガンツの標準装備である黒いスーツ
装着者の身体能力と防御力を飛躍的に上昇させる
高所から着地する際には脚部から高圧の気体を噴射し衝撃を吸収し、また、衝撃や圧力に対しても自動的に防御効果を発揮、剥き出しである頭部も防護される
超音波や高温の炎などからも人体を保護し、Xガンによる射撃も無効化するなどミッションで生き残る為には必要最低限の装備である

しかし、刃物や先端が鋭く尖った武器や溶解液などには弱い
今までのミッションにおいても、スーツの耐久を無視して体を斬られたり溶かされたりしたメンバーも少なくない

よって、星人がそのような攻撃を仕掛けてくる気配がある場合はXガン等の銃による攻撃が推奨される


逃げている最中に希と凛と逸れてしまった花陽と千歌は一体の星人と対峙している
場所は裏路地で両サイドは建物の壁で囲まれており、お互い逃げ場が無い

両腕の肘から先が太くなっており黄色と黒のストライプ柄、手の甲からは大きな針が伸びている
頭からは触角の様なものが生え、それはまるで――




千歌「――…蜂……みたいだね」

花陽「キマイラ星人ってガンツが言ってたから、地球の生き物と混合してその能力を得た星人なのかもしれない。もしベースが蜂だとしたら…オオスズメバチとかなのかな」

千歌「逃げている最中にアメリカチームがゴキブリの擬人化みたいな星人と戦っていたから、てっきり私達も似たような星人が相手だと思ったけど…」

花陽「その時レーダーを確認していたんだけど、アメリカチームが戦っていた星人はレーダーに映っていなかったの。今回は共闘じゃなくて分担なんだと思う」

千歌「つまり…増援は無い……って事?」

花陽「凛ちゃん達と逸れちゃった今、この星人は私達で何とかしないといけない。…準備はいい?」

千歌「勿論です! いつでも行けます!!」




『千歌&花陽 vs キマイラ星人(ベース:オオスズメバチ)』




最初に仕掛けたのは花陽だった
素早く敵との距離を詰め、腰から肩にかけて斬り落とす軌道で振り抜く
星人は針で難なく弾きもう片方の針で花陽の顔面へ突き立てる
―しかし、千歌の上空からの斬り下ろしに対処するため花陽への攻撃を中断し防御に回った

日はまだ浅いものの、この数か月間共に訓練してきた二人
大体の動きはお互い予測できるほどには成長している

星人は防戦一方だった



千歌(よしっ!! このまま倒せる!!)




二人の連携攻撃で徐々に星人を追い詰めているように思えた…



星人「…っ!!」ガッ



星人は千歌の斬撃を針で滑らすように軌道をずらし、そのまま顔面を鷲掴んで地面に叩きつけた
その威力はアスファルトに大きな亀裂を作るほどで、生身で受けたら間違いなく頭蓋骨はぐちゃぐちゃに潰されていただろう



千歌「ごはっ!!?」

花陽「千歌ちゃん!?」



星人の反撃は終わらない
千歌に気を取られた花陽の肩に一突き……
今度こそ針が突き刺さった

深く刺さる前に後ろに飛んで回避したものの針はスーツの耐久を無視し
花陽の左肩に大きな穴を空けた

叩きつけられた千歌は頭を掴んでいる星人の腕を斬り落とそうとするが
それを察知し、星人は手を放して千歌から距離を取った




千歌「花陽さん!? 肩が……!」ゾワッ

花陽「大丈夫、そんなに深くないから。あの針はスーツで防げないから突きには用心してね」ドクドクッ



肩の傷口からは花陽の血がドクドクと流れ続けている
明らかに浅い傷ではない事は素人の千歌にも分かってしまった

不安な表情で見つめる千歌に花陽は優しく微笑む



花陽「どう…したの? こんなケガなん……てミッションが終わればすぐに治るよ。そんな事より、あの星人の倒し方を…考えよう」ヒュー…ヒュー…

千歌「…そうですね。あの星人、私達の動きを完全に見切っています。正面から倒すのは厳しいですね」

花陽「うん、それは…同感だよ。場…所が悪いっていうのも……あるけど、動きに無駄が無くて隙が見当たらない」ゼーゼー

千歌「だったら一度引きますか?」

花陽「…あの星人をかわして逃げる自信……ある?」ゼーゼー

千歌「…無理ですね」

花陽「……っ」ヒューヒュー




花陽は星人の力量を打ち合いの中で察してしまっていた
μ’sでこの星人を倒せるのは海未や穂乃果くらいだと

二人では間違いなく勝てない
このまま戦えばどちらも殺される
逃げるのが最も有効な作戦だが、今回は戦う意外の選択肢がない

さらに状況は最悪である…


花陽(マズいなぁ……このままじゃ…)



花陽は先ほどの攻撃により体内を毒で侵され全身に激痛が走っていた

昆虫サイズの蜂では毒の量は微量なのですぐに死亡することは無いが
人間大の量では一度に数百匹のオオスズメバチに刺されたのと同じ量の毒を注入されている
既に蕁麻疹や呼吸困難、吐き気などのアナフィラキシーショックの症状が出始めており、いつ死んでもおかしくない状況だ

激しい吐き気に襲われおう吐する




花陽「っ!? おえええぇぇぇぇ」ボトボトッ

千歌「花陽さん!? 大丈夫でs――」

花陽「大丈夫…問題無いよ」ニコ

千歌「大丈夫なわけ無いじゃないですか!?」

花陽「――…それより、星人を倒す作戦を考えたよ。聞いてくれる?」

千歌「え……?」





~~~~~~


~初期転送位置より南西400m~



凛と希の目の前には2m程の大型の星人と大量の一般人と数人のスーツ組の遺体が転がっていた

分厚い甲殻を身に纏い、左手は蟹のような爪、蟹をベースとした星人であるのは一目瞭然であった

爪には潰れた頭部が挟まっている
挟まれたらスーツでも防御出来るか確信が持てない



凛「――…これって、やばくない?」

希「アメリカチームのXガンが効いてなかった…甲殻が厚過ぎるし再生もするから倒す前に接近されてアウトって感じやね」




だったら、そう言って希は持っていたZガンを星人に連射した
ズドン、ズドン、ズドンと星人の頭上から見えない円柱を叩きつける

しかし、星人は少し怯むだけで効いている様子は全く無い




凛「希ちゃん! 全然効いてないよ!?」

希「当て続ければ流石に潰れるハズ! 凛ちゃんも武器を拾ってあいつの足を攻撃して!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



凛は指示通りにアメリカチームが持っていたXショットガンを拾い攻撃する

甲殻にヒビが入ったり一部がはじけ飛んだりするものの、すぐさま再生
一歩ずつ二人に近づいてくる

武器による攻撃を嫌う凛は銃を捨てて格闘戦に切り替えた



希「ダメや! 近づくのは危険すぎる!!」

凛(打撃は効き目がない。頸椎への関節技で一気に決める!!)キュイィィィン!!



素早く背後に回り込み、スーツの最大出力で締め上げる

しかし星人は苦しむどころか構わず進み続ける


数秒後に攻撃されている事に気が付いた星人は爪で凛を掴み
背中から地面に叩きつけた

その威力は人がバウンドで1m跳ね上がるほどのものだった
そのままもう一度掴み、今度は凛の両脇をギリギリと締め上げる



凛「あが、がああああああぁぁぁ!!!!?」キュイィィィン



スーツも凛の身体を守るためフルパワーで防御している
だが、それも長くは続かない。青く輝いていたメーターがチカチカと点灯し始めた

これはスーツの機能が停止するまでもう時間が無い事を示す




希(このままじゃ凛ちゃんが! お願いや…この近くにあの武器が落ちていて!!)キョロキョロ

希「あ!! あった! 間に合えぇぇ!!!」ギョーン!



希が探していたのは捕獲用の銃であるYガンである
動きを封じ、転送するだけのこの銃ならXガンやZガンが通用しない程の硬い星人でも倒すことが出来る

標準武器であるこの銃はXガンに比べ用意されている数も極端に少なく、さらに補充もされない

東京チームは全てのYガンを紛失、破損している為持ち込む事が出来ない
従って、今回のように合同ミッションで拾うしか入手する手段が無いのだ



Yガンは見事命中
希は直ちに転送を開始して凛を解放した

どさりと地面に倒れた凛
スーツは壊れていないが、息苦しそうに小刻みな呼吸をしている



凛「の……希…ちゃん……」ハッハッハッ

希「しっかりしい!! どこが痛むんや!?」

凛「り…両脇の……所…。息すると……痛い……」ズキンッズキンッ

希「…肋骨が折れているんやね。取り敢えず安全なところに移動するよ。出来るだけ揺らさないようにするけど多分滅茶苦茶痛いと思うから……ごめんね?」

凛「だい……じょうぶ…にゃ。へへ…油断した……訳じゃないけ…ど、あっさり…やられちゃったな……っ!!?」ズキンッ

希「もう喋らんで! 運が悪かっただけや。生きているだけで十分でしょ?」

凛「……いや、そういう…わけにはいかない……よ。周りを見て…」




周囲を見渡すと先ほど転送したのと同じタイプの星人が一体また一体と現れ続けた
その数5体

爪が左右逆だったり両方にあったりといた個体差はあるものの、希一人で倒すのは恐らく不可能だろう

凛は痛みに耐えながらもう一度立ち上がる



凛「ふー…ふーっ。凛が注意を引くから、一体ずつ確実に転送して」

希「無理や! 骨が折れた状態で動き回れるわけないやん!!」



凛はポーチから注射器を取り出し、負傷した箇所に注射した
以前、真姫がミッションの為に用意した痛み止めなのだが、気休め程度の効果しかないだろう
それでも、少しでも動けるならば問題無い



凛「よし…もう大丈夫。頼んだよ、希ちゃん!!」ダッ!

希「くっ…! やるしかないんか!!?」カチャ!




『凛&希 vs キマイラ星人(ベース:タスマニアン・キング・クラブ)×5』





~~~~~~


~初期転送位置より北東500m~


この場所は逃げ惑う一般人と襲い掛かる星人、それと戦うアメリカチームと大混戦であった

倒しても点数にはならないが、絵里達もアメリカチームに協力していた




にこ「この筋肉質なキモイゴキブリは何なのよ!? ちょこまかと鬱陶しい!」ギョーン!ギョーン!

絵里「体が一回り大きい個体には気を付けなさい! 触れただけでスーツごと持っていかれるわよ!!」ギョーン!

真姫「このっ! 数が多すぎる!!」ギョーン!ギョーン!


そんな時、大量に星人が集まっている場所から悲鳴が聞こえてきた

切羽詰まった声で何かを叫んでいる


アメリカ人「No No Nooo!! Help,help meee!!!」


真姫「っ!? あのままじゃヤバイ!」

にこ「私が行く!! 真姫、援護お願い!」ダッ!




にこは複数の星人に囲まれ、パニック状態に陥ったスーツ組の一人の援護に向かう

星人は襲っている人間に気を取られ、にこの接近に気が付いていなかった為数は多かったが、殲滅は容易に完了した

助けを呼んでいたアメリカ人は未だ混乱しており、更にスーツも壊れていたがケガはしていなかった



にこ「落ち着いて、もう大丈夫よ! あぁ…英語じゃなきゃ通じないか。ええっと、イットオール オッケイ ナウ!」

アメリカ人「ハァ…ハァ、Ok…ok. Thank you. Well…who are you?」

にこ「ええ!? うーんと…アイアム ニコ。アイム ザ グレイティスト アイドル イン ザ スペース!!」

アメリカ人「…Really? Sorry, I don’t know」

にこ「で、ですよね~。流石にそこまで有名じゃないか…」アハハ…

アメリカ人「Other day, I check you……t!? Watch out!!」ドンッ!

にこ「きゃっ!?」




にこは突然突き飛ばされた
直前に何か叫んでいたが、あまり英語が得意ではない彼女には何と言っていたか理解できなかった

折角助けたのに何するのかと文句を言おうと顔を上げると、さっきまで確かにあったその人の額から上がごっそり削り取られていた

慌てて見渡すと、同じように体の一部分が削られていたり、穴が開いている人間が多数倒れていた

遺体の近くにはソフトボール並の大きさをした鉄球が埋まっている



にこ「何なのこれ…。絵里、真姫!! 気を付けて! 訳の分からない攻撃が来てる!!」

真姫「はあ!? そんなのどうやって気を付けるのよ! 具体的には何なの!」

にこ「知らないわよ! さっき助けたアメリカ人が突然死んだの!! 何が起きたのか全く分からなかった」

絵里「もしかしたら、透明になれる星人が潜んでいるのかもしれない。周囲に何か不自然な事が起きていないか注意し――」




――ドスッ!!



絵里の胸元で大きな鈍い音が響いた
遠方から目にも止まらぬ速さで絵里に直撃したそれは、遺体のそばに落ちていたものと同じだった

スーツの防御力により貫通まではしなかったものの、鉄球が当たった場所にくっきりと痕が残るほどの威力だ




絵里「かっ……は…。い、一体何……が……」ヨロッ

にこ「正面から狙撃されている!! 早く隠れなさい!!」




近くに居た真姫は絵里を助けに駆け付ける

しかし、そんな真姫を絵里は残る力を振り絞って押し返す




絵里「来る…なああ!! 隠れなさい!!」ドンッ!

真姫「んな!?」




絵里の目には前方から何かを投げようとしている星人の姿が映っていたのだ

突き飛ばした直後、真姫の胸を押しのけた絵里の腕は鉄球によりあり得ない方向に折れ曲がった




絵里「~~~~~っ!!!?」

真姫「絵里!? 絵里いいいい!!!」



Yガン最強説
作中で多用されなかったのは強すぎたからなのかな?




――――――――――
――――――――


――…五年前、スクールアイドルだった私はある日突然宇宙人との殺し合いに巻き込まれてしまった
私は星人がたくさんの人を殺している姿を目の当たりにして、怖くて何もできなかった
ただ、泣くことしかできなかった

何回かミッションをやっていく内に、戦う決心のついたメンバーが増えていった
私も何度も戦おうと思ったが、それは出来なかった



『私が戦うから無理をしなくていいよ』『かよちんは安全なところで待っていればいいにゃ』

そんな言葉を言われて、内心ホッとしていた
私が戦う必要は無い、痛い思いをしなくていい
それが何より嬉しかったからだ
今思えば、本当に最低だったと思う…


そんなある日、私を庇って海未ちゃんが死んだ
この部屋に来て初めてメンバーが死んでしまったのだ

何もしていない、役立たずの私を庇ったせいで

――私は自分の弱さを呪った



今度のミッションでは凛ちゃんとにこちゃんが私を逃がす為に犠牲になった
そこまでして生かされたのにもかかわらず、私も星人に殺された


薄れゆく意識の中、心の底から強くなりたいと生まれて初めて思った

――誰かに守られるだけではない、誰かを守る力が欲しいと



暫くして、穂乃果ちゃんに生き返らせてもらった
穂乃果ちゃんの友達でなければ、こんな役立たずが生き返らせてもらえる事は無いだろう
本当に感謝している

このままではいけない…
私はすぐに園田家の道場の門を叩いた

大切な人を守る強さを手に入れるために…

その為なら海未ちゃんの厳しい修行にも耐えられた
辛いと感じた事はあっても、辞めたいと思った事は一度も無い

弱い自分はあの時に死んだのだ





目の前の敵は今まで戦って来た中で最も強いだろう
恐らく二人が生き残るのは不可能だ
どちらかが犠牲にならねばならない

死ぬのは今でも嫌だ
でも、自分の無力さで仲間が死ぬのはもっと嫌だ

大切な人を守る為なら、命だって惜しくない
死ぬのだって怖くない



花陽(――…もう私のせいで仲間を殺させはしない……今度は私が仲間を守る番だ)



――――――――――
――――――――


千歌「本気で言ってるんですか!? 危険すぎます!」

花陽「大丈夫。絶対に当たらないように注意するから。千歌ちゃんはタイミングをミスしないようにしてね。多分チャンスは一度きりだから」

千歌「…っ。それに関しては問題ありませんが……」




花陽の作戦はこうである


まず、花陽が先行して敵に接近して、敵の針による突き攻撃を誘発させる
武器を手放し両手を自由にして星人が攻撃を繰り出した腕をそのまま掴み取ることで一時的に動きを封じ、その隙に星人の死角から千歌が飛び出して星人を切り倒す

持っている武器を手放すタイミングを誤れば針で体を貫かれるし、早過ぎれば攻撃の意思が無い事が見抜かれて千歌の攻撃は回避されて戦闘は長期化するだろう

花陽は自身に残された時間が少ないことは分かっている
何としてもこの作戦を成功させ、目の前の星人を倒す必要があった



花陽(大丈夫…全身痛くてたまらないけど、身体はまだ動く。私に倒す力が無くても、千歌ちゃんにあれば問題無い。これで確実に星人を仕留めるっ!)


花陽「――…行くよ、千歌!!」ダッ!

千歌「はいっ!!」



作戦通り、花陽が先行し星人に接近する
五メートル…四メートルと近づき、あと一歩で刀の届く距離になろうとしていた



花陽「っ!!!?」グサッ!



その瞬間、星人は予想外の攻撃を仕掛けてきた

まだ針の届かない距離にもかかわらず、素早く左拳を突き出す
その勢いで針先を発射させた

しかし花陽は回避も防御もしなかった。その針は右わき腹にグサリと突き刺さるが構わず突っ込んだ



そして最後の一歩を踏み出し、星人へ斬りかかる

後は武器を手放すタイミングだけだったが……



星人が最小限の動きで繰り出される最速の攻撃は人間の動体視力で捉えられる速度を超えていた

その拳は掴む間もなく、花陽の腹部に直撃する

口元や傷口から血が溢れ出る







花陽(…やっぱり見えないですよね。針を飛ばしてくるとは思いませんでしたが、急所に当たらなければどうでもいい…最初からこの瞬間を待っていましたよ!!)ガシッ



花陽は引き抜こうとしている腕を掴み取った

驚愕の表情を見せる星人に花陽は不敵な笑みを浮かべた




花陽「ふふ……捕まえましたよ? これで…終わりです」ニコッ




――グサッ!




花陽の背後から飛び出した千歌が星人の腹部に刀を突き刺した



千歌「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」



刺したまま捻じ曲げて刃を上に向け、そのまま一気に斬り上げた

後ろに倒れた星人の頭部をXガンで破裂させ、完全に沈黙させた




千歌「はぁ…はぁ……。やった、やりましたよ花陽さん! 二人の力で倒せたんですよ!! ……花陽さん?」

花陽「……っ」ボトボトッ



もう、限界だった
致死量を遥かに超える毒と内臓を傷つけられたことによる大量出血で立っている事すら出来なかった

先ほどまでの激痛はいつの間にか消えていた
あらゆる感覚が徐々に消えていく…

千歌が必死で何か叫んでいるのが薄っすらと見えるが、聞き取る聴覚は既に失っていた




花陽(ああ…私、また死ぬんだ。三回目だけど、この感覚は慣れないものだね…。覚悟していたからそこまで怖くない…かな?)

千歌「――――っ!!! ――!!!」ポロポロ

花陽(そんなに泣かないで? 遅かれ早かれ毒で死んじゃう事は分かっていたからこんな無茶したんだよ。千歌ちゃんだって私の様子を見て薄々分かっていたよね?)

花陽(この前、凛ちゃんにあんな事言ったばっかりなのに…。きっと悲しむだろうなぁ……ごめんね、凛ちゃん…私はダメだったけど、きっと生き残ってね?)

花陽(――…ただ………もう一度だけ……凛ちゃんに逢いたかったな。暫く居なくなる……けど…、元気で……い………て欲し…い……な)



花陽「」ガクン

千歌「う…そ……花陽……さん。死なないでよ…置いて行かないで下さいよ……うぅ」ポロポロ

千歌「ぅぁあぁ…あああああああぁぁぁぁ!!!!」





―――小泉 花陽……死亡




~~~~~~



凛「か……はぁ……」ドサッ

希「凛ちゃん!?」



力尽きた凛はその場に倒れた

希が確実にYガンを命中させられるようにする為、重症を負いながらも一人、囮役として戦い続けていた

しかし、痛み止めは傷を治す薬ではない
折れた肋骨により、まともに呼吸が出来なかった

ほぼ無呼吸状態での戦闘など長く続くわけも無く、星人を二体転送した時点で動けなくなった

痛み止めも効き目が薄く、痛みと呼吸困難で意識は朦朧としている



希(このままじゃマズい…星人を全員ウチに引き付けなあかん!!)

希「凛ちゃん! しっかりしい!! そのままだと死んじゃう!!」

凛「」





――――――――――
――――――――


あー、しんどい
どうして凛はこんなしんどい思いをしながら戦っているのさ?

そもそも肋骨を砕かれているんだよ。ちょっと動いただけ、息するだけでも死ぬほど痛いのに痛み止めまで注射して戦うとか頭おかしいでしょ!?

凛は一体何を考えているのか…自分でも分からないにゃ


…しかもその痛み止めすらあんまり効果が無いし
真姫ちゃん絶対許さないにゃ

あーあ、折角生き返ったのにまた死んじゃうのかー
死ぬならこんなに苦しまないで、もっと楽に逝きたかったなー…



『…凛ちゃん?』


にゃ? この声は…かよちん??


『凛ちゃんに訊きたい事があるんだけど、いい?』


これは…一昨日の会話だね
ええっと…何を話したんだっけ?


確かにYガンにもそんな弱点がありますね。
最強の武器など無く、適材適所ってことですか。

続きを書く時間が余り取れないので少し遅くなります



――
――――
――――――


凛『どうしたの?』

花陽『あのさ…この前貸した心理学のノートはどうなったの? ちゃんと写した?』

凛『あ…すっかり忘れてたにゃ』ダラダラ

花陽『やっぱり…必修科目なんだからちゃんとやらなくちゃダメだよ。ただでさえ留年しているんだから後が無いんだよ』

凛『ぐっ、耳が痛いよ…あの教授の授業は必ず眠くなるからなぁ』ムムム

花陽『だから私が代わりに全部ノート書いているんだよ。一緒に授業受けてるの凛ちゃんしかいないんだから頑張ってよ? 一人で授業受けるのなんて寂しくて辛いんだからね…』グスン

凛『わ、分かってるよ! もう かよちん 一人で授業受けさせないから泣かないで!?』アワアワ

花陽『お願いだよ? 訓練が厳しいのは分かるけど本業は勉学なんだからね。ノート早く写して返してよ』

凛『はーい。今日中に写すからもう少し待ってて!』




――――――
――――
――


――…あー、そう言えば かよちん とそんな会話してたな
しかもノートまだ書いてないし…って、なんでこのタイミングでこんな事思い出しているの? もっと他の事思い出そうよ…

このまま凛が死んじゃったら、かよちんは一人で講義を受けるんだよね
また寂しい思いをさせちゃうのか……


――それは嫌だな
凛が死んでいた期間、何度も泣いていた事は千歌ちゃんから聞いている
これ以上、凛のせいで かよちん を悲しませるわけにはいかない
かよちん にはいつも笑顔でいて欲しいんだよ

それに借りてるノートだって返さないと かよちん が困っちゃうもんね?
だから、こんな所で死ぬわけにはいかないにゃ!



凛(原点を思い出せ…。凛は、かよちんの笑顔を守る為に強くなろうと決意した。だからこんな星人さっさと倒して、合流するんだ!!)




――――――――――
――――――――


凛「……ん…かはぁっ……」パチッ



再び意識を取り戻した凛の目に入って来たのは、星人の巨大な爪に挟まれている希の姿だった

凛の時とは異なり、脇腹ではなく、両腕で押しつぶされないよう必死に抵抗している
スーツは通常時の数倍膨れ上がっており、表面には無数の筋が浮かび上がっていた
フルパワーで抵抗しているにもかかわらず、徐々に爪が体の方に近づいている



凛(このままじゃ希ちゃんが死んじゃう!? 何とかしなくちゃ…)グググ

凛(痛っ~~~!!!? さっきよりすごく痛い! 少しでも力を入れるとダメだ…)

凛(…こうなったら、真姫ちゃんから貰ったこの薬を使うしか……)ゴソゴソ



――――――



真姫『いい? この薬は痛み止めより強力なものよ。投与すれば瞬時に全身の痛覚神経のみを完全に停止させるわ。お腹に刃物が刺さろうが、四肢をもぎ取られようが痛みを感じる事は無くなる』

凛『ふーん…そんなに凄い薬なんだねぇ』

真姫『ただし効果は数分間のみ。効果が切れれば本来感じるはずだった痛みが一気に襲ってくるし開発されたばかりの新薬だから副作用もどんなものが発症するか予想も出来ない』

凛『なら使わなきゃいいんでしょ? 前に貰った痛み止めもあるし、こんな薬いらないよ』

真姫『痛み止めだって必ず効くわけじゃないわ。急いで逃げなくちゃいけない場面で痛くて動けませんじゃマズいでしょ? そんな時に使うのよ』

凛『なるほどね~』

真姫『分かってるとは思うけど、戦闘続行の為に使うのは駄目よ。傷を治す薬じゃないんだからケガをしたまま無理をすればその分の代償は大きい…最悪死ぬことだってあるんだからね!』

凛『分かってるよ。痛くて戦えない時は素直に大人しくしてるにゃ』



――――――



凛(危ない薬なのは分かってる。でも、このまま何もしないで二人とも死ぬくらいなら……)



――プシュ



希「ぐっ…ぐうううぅぅぅぅ!!」キュイィィィン!!

希(な、なんちゅう力や!? 全力を出しているのに押し返せない!!?)

希(スーツも壊れる寸前や…ここでウチは死ぬの?)


凛「――んにゃああ!!!」グシュッ



凛は希を拘束していた星人の眼球に指を突き刺した

全身を硬い甲殻で覆われているが、目は守られていない
凛の不意打ちの目潰しに怯み、拘束が解かれる



希「凛ちゃん!? どうして動けるん!!?」

凛「そんな事はどうでもいい! Yガンはどうしたの!?」

希「あの星人の足元や!」


それを聞き、凛はYガン目がけて駆け出した

痛みは薬により感じていないが、相変わらず正常な呼吸が出来ない
酸素不足で頭はくらくらするし、吐き気も酷い

それでも凛は止まらなかった

星人の攻撃をスライディングで回避しつつ、Yガンを回収
射撃が苦手の凛でもほぼゼロ距離ならば外さない

射出したワイヤーで拘束し、すぐさま転送を開始した



凛「はぁ…はぁ…。これで最後だよね…?」

希「う、うん。それよりどうして動けるの? こう言っちゃ悪いけど、死にかけの状態だったよ…ね?」

凛「これを使ったんだよ」スッ

希「え?! それって…本当に使っちゃったの!?」ゾワッ

凛「……」

希「凛ちゃん?」



凛(あー…目がぼやけてきたにゃ。頭もクラクラするし、これが副作用ってやつかな? 意識も…だんだん……とお……く………)バタッ

希「え、えっ!? しっかりして!! 凛ちゃん!! 凛ちゃんってば!!」ユサユサ



―――星空 凛……戦闘不能



~~~~~~


絵里(ぐうぅぅ…胸が、心臓が痛い。腕も明後日の方向に折れ曲がったし…本格的にやばいわね。っていうか、時間の流れがやけに遅いわね。直撃した鉄球が中々落っこちないし)

絵里(この、なんて言うか思考が加速しているこの感覚…これで二度目ね。間違いなく死ぬわね)

絵里(もう…真姫もにこも、そんなに悲しい顔しないでよね? これは命懸けの戦いなんだから死人が出るのは当たり前。今回は私だっただけなんだから)

絵里(ただ、このままやられるのも何だか癪ね。今、正確に敵の位置を把握しているのは私だけ)

絵里(胸を潰されて呼吸が出来ない…さっき叫んじゃったからもう声を出すほど息が残っていない。どうやって伝えるか……)



絵里「――――っ」パクパク

真姫「っ!!?」


絵里(ふふ……伝わったかしら?)

真姫(前方のタワー屋上!? あんなところから攻撃しているの!!?)



絵里の口の動きを読み取り、敵の大体の位置を知った真姫はすぐに銃を構える
スコープに映った星人は腕の下から羽が生えた鳥の様な姿をしていた

鉄球を握り締め、既に次の攻撃の準備に入ろうとしていた



真姫「間に合えええぇぇぇぇ!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


真姫の放ったXショットガンで仕留めた頃には星人は持っていた鉄球を投げ終わっていた
それが一体何を意味するのか…



真姫(だ、大丈夫よ…星人は素手で投げていたんだから必中なわけがない。あの投球は絵里に当たっていない…)ガタガタ

にこ「ま…真姫……ちゃん。え…えり……絵里が…」

真姫(な、何を言ってるのよ……真姫ちゃんが速攻で狙撃したのよ? 間に合わないハズが無い。絵里は無事よ…そうでしょ?)チラッ



真姫は銃を下し、ゆっくりと絵里の方を向く

絵里は薄っすらと目を開けたままその場に立ちすくんでいた
ただ、その胸の中心部…ちょうど心臓がある位置にぽっかりと大きな穴が開いていた
星人の投げた鉄球は寸分の狂いも無く、絵里の心臓を貫いたのだ

絵里は真姫達の方へ顔を向け、弱々しく微笑むと…膝から崩れるようにその場に倒れ込んだ



真姫(う…うそ……絵里が死んだ? 間に合わなかったの? なら私のせいで絵里は死んだ?? どうしよう…どうしようどうしよう――)ポロポロ

にこ「真姫!!!」

真姫「っ!?」ビクッ

にこ「敵がまた来てる。逃げるの? 戦うの? どうするのよ!?」

真姫「え、ええっと……その…」ワナワナ

にこ「いい? 絵里が死んだのは真姫ちゃんのせいじゃない!! 絵里の為に今できる事はこの戦いで生き残る事だけよ。ここで私達が死んだら、誰が絵里を生き返らせるのよ!?」

真姫「にこ…ちゃん」

にこ「しっかりしなさい。私一人じゃ生き残れない…真姫の力が必要なのよ」

真姫「……そうね。絵里の犠牲を無駄にする訳にはいかない。こいつら全員倒してみんなと合流するわよ!!」

にこ「了解よ! 援護は任せた!!」ダッ!




―――絢瀬 絵里……死亡



~~~~~~


『海未 vs キマイラ星人(ベース:ハナカマキリ)』



海未は穂乃果の腕を斬り落とした星人を前にしているにも関わらず、自分がとても冷静に戦えている事を自覚していた

スーツを容易く切り裂く鎌を刀で正確に弾き続ける
一撃でも食らえば即死という極限の緊張感の中、海未には攻撃の軌道がハッキリと見えていたのだ



海未(不思議な感覚ですね…穂乃果を傷つけられて怒り狂うと思っていました。星人も私と同じ二刀流。とても激しい攻撃ですが…っ!!)



――スパッ!



海未の一太刀で星人の片方の腕を斬り落とす
星人は堪らず後ろに飛びのいて距離を取ったが…



海未「逃がすと思いますか!!」ダッ!

星人「っ!?」ゾワッ



一瞬で距離を詰め、トドメを刺しに行く

今回はここまで
更新が遅くなって申し訳ありませんでした


~~~~~~


『穂乃果&ことり vs キマイラ星人(ベース:アシダカグモ)』



この星人の特徴は何といっても圧倒的な瞬発力、反射神経、筋力である。そして体と顔には空気の僅かな変化から敵の動きを先読みできる体表の毛と8つの目が備わっている

穂乃果達と遭遇する直前までアメリカチームの手練れ二人を相手し、無傷で倒すほどの戦闘力を誇っている

対する穂乃果は先ほどの奇襲により、左腕の肘から先を失っているので本来の力を十分に出せる状態では無かった

無いハズだったのだが…



穂乃果「うりゃあぁぁ!!!」ブンッ!

星人「!?」ブシュッ!



星人の棍棒による攻撃を全て片手に握った刀で受け流し、足による格闘術を交えながら着実にダメージを与える

片腕を失った人間が行える動きでは到底ない

援護に向かった ことり だったが、今の穂乃果に対してそれは足手まといにしかならない事をすぐに悟った

とは言え、もしもの為に備えてZガンでロックオンし続けており
いつでも援護できる態勢は一応整えている



ことり(だ、大丈夫なの…? 止血はしたけれど、傷口を塞いだわけじゃない。無理して動き続ければまた出血しちゃうよ)アワアワ



――ヒュン



星人「!!」グサッ!

穂乃果「うおお!? 何だ!!?」ギョッ



突如、星人の頭部にガンツソードが突き刺さった
飛んできた方向を向くと、ゆっくりとこちらに歩いて来る海未の姿があった



穂乃果「ちょっと海未ちゃん! いきなりあんな物投げつけないでよ!! 私に当たったらどーするのさ!?」プンプン

海未「当たらないタイミングで投げたんですから問題ありません。そもそもなんで穂乃果が一人で戦っているのですか? まともに戦える体じゃないでしょう!」

穂乃果「だって銃が当たるタイプじゃ無かったんだもん。接近戦ならことりちゃんより私の方が強いから任せてもらったんだよ」

海未「だとしても、ことりと協力して戦いなさい! 出血死したいのですか!?」

ことり「穂乃果ちゃんはケガ人なんだから、今回は大人しくしておこう?」

穂乃果「むぅ…でもさぁ――」



――バリバリバリ!!



ことり「きゃああ!!!?」バンッ!

穂乃果・海未「「!!?」」



電撃が直撃し、ことりが持っていたZガンがいきなり大爆発した
スーツは故障しなかったが、武器は使い物にならなくなった

三人の前方には攻撃をしたであろう星人が立っていた

その見た目は今までの星人と異なり、金髪で白人の様な風貌で人間と区別がつかない程である

突き出した指先からはバチバチと電気が帯電しており、もう片方の手には大きな両手剣を携えている





海未「大丈夫ですか!?」

ことり「だ、大丈夫! 100点の武器は壊れちゃったけど…」


星人「No way….I was surprised to defeat him」

穂乃果「流暢な英語だね…。地球の言語を理解できるタイプの星人となると相当厄介だね」

海未「電気を操る能力ですか。それに、あの武器…間違いなくスーツでは防げないでしょうね」

星人「33? Xzgjw@kiy:@sfbsf@t@at@4kt」

穂乃果「え? 今なんて言ってた??」

ことり「全然分からないよ…?」

星人「jw…3……あー、発音はこんな感じか? 伝わっているか?」

海未「…日本語も理解しているのですね」

星人「一応訊くぞ? 抵抗しなければ楽に殺してやるけど、どうする?」

ことり「…だってさ。どうしよっか?」

海未「宇宙人でも面白い冗談を言う方がいらっしゃるんですね」カチャッ

穂乃果「取り敢えず二人で斬り込もうか。ことりちゃんは援護をお願い」シュッ

ことり「任せて! ……二人とも気を付けてね」




『ことほのうみ vs キマイラ星人(ベース:???)』



先に仕掛けたのは星人の方だった
一瞬で距離を詰め、穂乃果の首筋目がけて剣を振り抜く


海未「――っ!! 穂乃果!!!」

穂乃果「――――ッウ!!」ギリッ!



――ギギギギッ!!



穂乃果は真正面から受け止めるのではなく、刀で滑らすように軌道をズラして防御する

初撃を防がれ、星人に隙が生れた
海未はすかさず斬りかかる


海未と穂乃果の巧みなコンビネーション攻撃に星人は感嘆の声を漏らした



星人(あの二人を倒しただけの実力はあるな。特に片腕の女…俺の斬撃をここまで正確に捌くとはな。少しでもタイミングを外せば軌道をズラせずに真っ二つにされるというのに、当たり前のようにやってのけていやがるぜ)キンッ!ガキンッ!

星人(二刀流の方も巧いな。俺でも“今は”二刀をここまで操れない。こりゃ、無傷で勝つのは厳しいかな?)ギギギッ!


穂乃果「ッ!! 海未ちゃん!!」

海未「とったあぁぁ!!」シュッ!



――ザシュッ!



海未の渾身の一太刀が星人の体を切り裂いた

手応えは十分であり、刃先は心臓まで確実に達している深さであった

――…しかし



星人「――ほぉう」ニヤッ

海未「うっ!!?」ゾワッ

穂乃果「海未ちゃん!!」ドカッ!



星人は海未の斬撃をものともせず、剣を振り下ろす

予想外の攻撃に硬直した海未を穂乃果は蹴り飛ばす

直撃は避けられたものの、剣先が左目を掠めた



海未「ぐぅ…! め、目が……」ボタボタ

穂乃果「ごめん! 間に合わなかった…」ギリッ

海未「いえ、おかげで死なずに済みましたよ。ありがとうございます。…それよりもあの星人ですが」

穂乃果「再生するタイプだね。しかも、傷が入った瞬間に即時再生する」

海未「確かに心臓を切り裂きました。それでもダメならば頭を斬るしか――」



――バン!



穂乃果「えぇ!? いきなり頭が破裂した!!?」

ことり「あれ…当たっちゃった?」アワアワ



ことりの狙撃により、星人の頭部は破裂
随分とあっさりとした幕引きだった



ことり「ええっと…横取りした感じになっちゃってごめんね?」

穂乃果「構わないよ~。倒せちゃえば何だって良かったんだし。むしろ早く決着がついて助かったよ! ありがとう、ことりちゃん」ニッ

海未「……いいえ、まだ終わっていませんよ」



頭を失った星人が未だに倒れない
それどころか、握っていた剣を地面に突き刺して腕組までしだしたのだ

そして、グジュグジュと奇妙な音を立てながら徐々に損傷部位が再生されていく



星人「はぁ~…やってくれたな。頭を壊されたのは本当に久しぶりだ」グジュグジュ

ことり「う、うそ……」

穂乃果「今ので死んでくれたら楽だったのにな」ハァ

海未「なら、次は再生出来ないほど細切れに切り刻んでみましょうか…」カチャッ

星人「それじゃ足りないなぁ。俺を殺すなら肉片一つ残さないように消滅させなきゃ何度でも再生するぞ?」ニヤリ


穂乃果「へぇー…殺し方を教えてくれるなんて随分甘いんだね?」

星人「なーに、教えても問題無いから言ったまでさ。何故なら……」

穂乃果「?」

星人「こっからは…俺も本気で殺しに行くからなぁ!!」ダッ


穂乃果「くっ!?」ガキンッ!

海未(さっきより速い!? 動きも格段に巧くなっています!)キンッ!

ことり「このっ!」カチャッ


星人「邪魔をするなあ!!!」バチバチッ!!

ことり「きゃっ!!?」バチンッ!

海未「ことり!?」

星人「よそ見していいのか?」ブンッ

海未「!!? 痛っっ~~~!!!」ブシュッ!

穂乃果「一旦下がるよ!!」

海未「分かりました!」ダッ

星人「何だ? また作戦会議か? 何度やってもここで死ぬのは変わらないぞ」ヤレヤレ



穂乃果「海未ちゃん、さっき斬られた傷は大丈夫?」

海未「ええ、そこまで深く斬られていません。戦闘続行に支障は無いでしょう」ズキズキッ

穂乃果「ことりちゃんは? スーツ壊れてない?」

ことり「大丈夫だよ!」

海未「さて…スーツと同等か、それ以上の力に再生と放電能力を兼ね備えたあの星人をどう倒しましょうか」

ことり「Xガンや刀で攻撃しても直ぐに再生しちゃうんじゃ、このまま戦っても勝ち目は無いよね…」

海未「奴の言う通り、一撃で肉片も残さずに倒せる武器となると――」

穂乃果「……Zガンだね。奴を倒せる武器はこれしか無い」

ことり「そっか、だから真っ先に壊しにきたんだね」

穂乃果「二人とも通信機はまだ使える?」

海未「いえ、さっきの戦闘で壊れてしまいました…」

ことり「私も…電撃を受けた時に壊れちゃった」

穂乃果「…なら、メンバーを呼ぶには直接行かないといけないって事だね」



穂乃果「……ふぅーーーーーっ」スッ

海未「穂乃果?」

穂乃果「――…私が出来るだけ時間を稼ぐ。その隙に二人はみんなを見つけてZガンを手に入れてきて。きっとアメリカチームが落としたZガンがその辺に落ちているハズだから」

ことり「ちょっ…何言ってるの穂乃果ちゃん!?」

海未「そうです! あんな星人をたった一人で相手出来るハズがないでしょう!? 死ぬ気ですか!!?」

穂乃果「そんなわけないじゃん。まあ、心配してくれるなら早く見つけて戻って来てよね?」

海未「でしたら! 私も一緒に残ります!!」

ことり「ダメだよ! ここは私が残る!」

穂乃果「…この中で一番強いのは私だよ。それに、正直言って一対一の方が戦いやすいから、一人で残った方が時間も稼げるし、生き残る事が出来るメンバーも増えるでしょ?」

ことり「で、でも…」

穂乃果「何? 私の指示に従えないの?」ギロッ

ことり「っ!」ビクッ

海未「ほ、穂乃果…」

穂乃果「もたもたしている時間は無いよ。分かったなら早く行って」

ことり「……」ギリッ

穂乃果「――…行って!!! グズグズしないでよ!!!」

海未「…ことり、行きますよ」グイッ

ことり「い、いや…嫌だよ!! 穂乃果ちゃん!!!」ジワッ

海未「このまま戦えば三人とも死にます! 今は知りうる情報を仲間に知らせるのが先決です!!」


星人「おいおいおい!! 見す見す逃がすと思うか!!」ダッ!



――ガキン!



星人「!?」

穂乃果「あんたの相手は私だ。暫く付き合ってもらうよ?」キュイィィィン!!

星人「ほう…その鬼気迫るその表情、これなら楽しめそうだ」ニヤッ

穂乃果「このっ…余裕かましてるんじゃ、ねええええ!!!!」ギンッ!

星人「さーて、目標は三分…いや、二分持てば合格だ。精々頑張るんだなぁ」

穂乃果「おおおおお!!!!」ブンッ!



――キンッ! キンッ! キンッ!



星人「あははは! いいぞ! その攻めの姿勢は評価してやる。俺が戦って来た原住民の中で貴様は頭一つ抜けているだろう!」

星人「――…だからこそ、惜しいな」ガキンッ!

穂乃果「ぐっ! ぐうぅぅぅ…」ギギギッ!

星人「やはり片腕では受けきれないか。鍔迫り合いになれば完全に力負けする。万全な貴様と戦ってみたかった」グググ

穂乃果「こ…の……っ! まだ負けてないでしょ!!」ドゴッ!

穂乃果「ふぅ…ふぅ…ふぅ……」カチャッ

星人「どうした? まだ一分も経っていないのにもう息切れか?」

穂乃果「……!」ギロッ

星人「…いい眼だ。さあ、かかって来いよ」クイクイ

穂乃果「舐めないでよ!!!」ダッ!



――ヒュン!



星人「残念。ハズレだ」シュッ

穂乃果「んな!? しまっ――」ゾワッ



――ブシャッ!!




~~~~~~


千歌「――…希さん!」

希「千歌っち…無事やったんやね」フゥ

千歌「は、はい…“私は”無事でした」ウツムキ

希「……」


真姫「みんなここに居たのね」

にこ「ふう…まあまあ残っているみたいで安心したわ」

希「…凛ちゃんはまだ生きていよ? かなり大怪我を負ってるから比較的安全な場所に置いてきたんよ」

希「えりちは…どうしたん?」

真姫「……」

にこ「…死んだわ。私達を庇ってね」

希「…そっか」

千歌「花陽さんも…」

にこ「もういいわ」

千歌「!!」

にこ「過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ! 死んだメンバーの為にも、このミッション必ず生き残ろうじゃない!」

希「にこっち…」

にこ「この辺りの星人は真姫ちゃんと一緒に大体片付けたわ。後は穂乃果達ね」

真姫「片腕を斬られた時は焦ったけど、あの三人なら大丈夫でしょ」

にこ「花陽が倒されたのは痛いけど、希と穂乃果が今回100点に達したハズ。これなら、死んだ二人も生き返らせられるわ」

千歌「そ、そっか! 良かった…」ホッ

にこ「まだ気を抜くんじゃないわよ。転送が始まるまでは終わっていないんだから」

希「穂乃果ちゃん達から連絡はあったん?」

真姫「いいえ無いわ。三人ともオフラインになってる…故障しているみたいね」

千歌「大丈夫…なんですよね?」

真姫「穂乃果達を信じられないの?」

希「心配しなくても大丈夫や。ウチらは奇襲に備えながらここで待っていればいいんよ」

にこ「時間的にもそろそろ終わってもいい頃よね」



海未「――…っ!! 皆さん、ここに居ましたか!!」

ことり「良かった…! 結構早く合流できた!」

にこ「ほらね? 無事に帰って…って海未!? その目はどうしたのよ!? それに体中切り傷だらけじゃない!!?」

海未「そんな事はどうでもいいです! それよりも、Zガンを持っていませんか!?」

真姫「え? 私は無いけど…」

希「ウチのはさっき星人に破壊されてもうたよ」

千歌「っていうか、ここにいる全員持っていませんよ?」

ことり「ど、どうしよう…このままじゃマズいよぉ」アセアセ

にこ「それより穂乃果はどうしたのよ!? 何で一緒じゃないの!?」

海未「それは――」



「おや? まだ仲間がこんなに沢山いたのか。まあ、全員女なのは少々ガッカリだったな」



海未「んな?! どうして…」

ことり「あ…あの星人が……持ってる腕って………」ガタガタ

星人「ん? ああ、これか。いわゆる戦利品ってやつだな。首でも良かったんだが…一応配慮したんだぜ」プラプラ

にこ「ど、どういう事よ!? 穂乃果はどうなったのよ!?」

海未「私達があの星人の情報を皆さんに伝える時間を稼ぐ為に、一人で戦っていたのです。……ですがっ!!」ギリッ

真姫「あなた達でも勝てない星人だったの…?」ゾワッ

ことり「あの星人は放電能力と異常なまでの再生能力があるよ! 倒すには一撃で体を消滅させる威力があるZガンが必要なの!!」

海未「今度は私と ことり が時間を稼ぎます! 皆さんは早くZガンを見つけてください!!」


星人「逃がすと思うか?」ビュン!




――ザクッ!



希「……え?」ドクドクッ



千歌「の…希さん!!?」

にこ「真姫! すぐに手当して!!」

真姫「あ…あぁ……」ガクガク

星人「もう遅い。正確に心臓を貫いた。苦しまないで死ねる事に感謝するんだな」


希「ぐ…は……」バタッ

にこ「希…のぞみいい!!!」

千歌「イヤ、嫌だよぉ……希さん! 希さんってば!!」ポロポロ


海未「自ら武器を手放すとは…どういう事か分かっているのですか?」

星人「勿論だ。あの片腕の女が一番強いんだろ? だったら貴様らなら素手で十分だ」ニヤッ

海未「……舐められたものですね」プツンッ

ことり「他のみんなは早く探しに行って! 正直何分稼げるか分からないから!!」

千歌「グスッ……わ、私も残ります!」

海未「千歌!?」

千歌「射撃なら真姫さんと にこさんに任せた方がいい。私は海未さんと同じでこっちの方が得意ですから」カチャッ

海未「何を馬鹿な事言っているのですか!? 千歌の実力じゃ手も足も出ません!! 師匠の私が言うのですから間違いないです!!」

千歌「……それでも、時間を稼げるならっ!」


星人「ごちゃごちゃうるさいな…今ここで全員ぶっ殺して――」



――スパッ!



星人「あ?」


クルクルと星人の首が空中を回る
この場にいる全員が何が起こったのか理解できなかった

ぼとりと首が地面に落ちる

その近くには少し短めのガンツソードを口に咥えた、両腕の無い女性の姿があった――




―――東條 希……死亡

一発喰らったらアウトだと戦闘が短めになっちゃいますね
でも、実際はこんな感じなんでしょうね


――
――――
――――――



――ドサッ



星人「…これで貴様は武器を持つことは出来ないな」

穂乃果「があ……ぐぅぅ……あ」ドクッドクッ

星人「まあ、この出血量ならほっといても死ぬだろう。そこで這いつくばりながらこれまでの思い出にでも浸っているんだな」ダッ!


穂乃果(く、悔しい…それに情けないっ!! 何が「私が一番強い」だ! 何が「時間を稼ぐ」だ! それでこのざまなのかよっ!!)ジワッ

穂乃果(ぐぐぅぅ、腕が死ぬほど痛い。それにこの血の池…全部私の血なんだよね? うわー…こりゃダメだわ)ドクッドクッ

穂乃果(今回も最終局面で戦えなくなっちゃったんだ。μ’sが全滅した時も沼津チームと合同だった時もそうだった)

穂乃果(まあ、今回は今までとは違って私は死ぬんだけどね…なんだかんだこの部屋に来てから初めて死ぬのか…私)

穂乃果(自分で言うのも何だけど、本当によく頑張ったよ。五年間も戦い続けたんだもん。その中の丸々一年は私だけで戦い抜いたわけだし)

穂乃果(…諦めても誰も文句言わないよね……みんなには悪いけど、私はここでリタイアするよ…)




穂乃果「………」チラッ



穂乃果(――……スーツは…まだ壊れて無いんだ。なら、まだ戦えるじゃん)

穂乃果(両腕を斬り落とされても戦う意思がまだ残ってるとか…狂戦士って名乗っても差し支えないなぁ)


穂乃果(…私は生き残る為に戦っているんじゃない、みんなを無事に帰す為に戦っているんだ。だから、命ある限り立ち向かう覚悟を“あの時”したじゃないか!)

穂乃果(そもそも私にリタイアなんて選択肢は無いんだよ。武器を持つ腕が無くても、立ち向かう足があれば十分だね)



穂乃果「だって…私はこのチーム、μ’sのリーダーなんだから……!!」ガリッ




――――――
――――
――


穂乃果は咥えていた刀を吐き捨て、こちらの方に歩み寄ってくる
左腕は肘から先、右腕は肩から無くなっており、見るも無残な姿になってしまった彼女を見たメンバーは思わず絶句していた



穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃんごめんね? 二分も稼げなかったよ」

海未「ほ、穂乃果…あなたって人は……」

にこ「どうして…どうしてそんなになってもまだ戦おうとしているの!? どう考えたって立ち上がる事すら出来ないケガをしているでしょ!!?」

穂乃果「…そうだよ。出血は止まらないし、心臓の鼓動は弱まるし、激痛で頭がおかしくなりそうだし、生きているのが不思議だったよ。でも私は何度だって立ち上がる」

穂乃果「体の異常は真姫ちゃんから貰った薬を片っ端から全部打ち込んで何とかしたよ」

真姫「ぜ、全部!? そんな事したら…」

穂乃果「いいの。何もしないで死ぬより、数秒でも奴の事を足止めする方を選んだんだからさ。覚悟の上だよ」

穂乃果「まあ、死に体の私に出来る事なんて精々避雷針かサンドバックくらいだろうけどね」アハハ…

海未「……」


穂乃果「……という訳で、にこちゃん達は今すぐZガンを探し出して奴を確実に倒す作戦を考えてね? それまでの時間は私が何としてでも……」

海未「――…いいえ。“私達”がやります」

穂乃果「え?」

ことり「そうだよ。今の穂乃果ちゃん一人で出来るハズないでしょ?」

穂乃果「で、でも…」

ことり「一人では無理でも、私達三人なら出来る。だって私達は無敵の幼馴染みでしょ?」ニコッ

海未「そうです。さっきは従いましたが、今度は穂乃果が行けって言ったって私と ことり は残りますよ」

穂乃果「……」コクッ

ことり「だから、後のことは千歌ちゃん達に任せるね。必ずあの星人をやっつけてね」

千歌「え…ちょっと……任せるって…」

にこ「……分かったわ、私達に任せなさい。行くわよ、二人とも」

真姫「……っ」ジワッ


穂乃果「あぁ…もし私を再生する事になったらさ、他のみんなを先に選んでね?」

千歌「?」

穂乃果「ほら、私以外は大学に通ってるでしょ? 長期間休んじゃったらまた留年って事になったら困るじゃん。…困るよね?」

にこ「あのねー…縁起でもない事言ってるんじゃないわよ。両腕が無いくらいでくたばるような人じゃないでしょ」

穂乃果「……にこちゃんの中の私は相当の化け物なんだね」アハハ…


にこ「――…後であの部屋で会いましょう。またね」





――――――――――――


海未「ふぅ…行きましたね」

ことり「すぐに見つかるといいんだけど…」


穂乃果「………」ガタガタッ

海未「穂乃果?」

穂乃果(ここで失敗すれば今度こそ全滅しちゃう…。そうなれば二度と生き返る事は出来ない。みんなと会えなくなると思うと…震えが止まらない――)ガタガタッ



――ギュッ



穂乃果「こ、ことりちゃん? 海未ちゃん?」

ことり「大丈夫、あの三人ならきっと倒してくれるよ。私はそう信じてる」

海未「そうですよ。私達は私達の役割を果たすだけです」

穂乃果「…うん、そうだね」ニコッ

ことり「ふふ、穂乃果ちゃんはやっぱり笑顔じゃないとね!」


海未「ところで穂乃果、一つ確認していいですか?」

穂乃果「ん?」


海未「――…穂乃果は時間を稼ぐと言いましたが、別にアレを倒してしまっても構わないのでしょう?」

ことり「え!? まあ…それがベストだろうけど……」

穂乃果「…ぷっ、アハハハハ!! この場面で清々しい程盛大な死亡フラグを立てちゃうんだね。最後に大笑いさせてもらっちゃったよ、海未ちゃん!」ケラケラ

海未(あれ~? 割と本気で言ったのに…何故笑われたのですか??)


星人「おいおい…随分と楽しそうじゃねえか?」

穂乃果「そう言うあなたも、結構再生に時間が掛かったね?」

星人「…チッ」

穂乃果「…海未ちゃん、分かっているよね?」チラッ

海未(私が斬った時は完全に切り裂く事が出来ていなかった。損傷部位を分離させてしまえばその分、再生に時間が掛かる。中途半端な攻撃は無意味というわけですか)コクッ


海未「――…覚悟は決まりました。躊躇わずにやり遂げて見せましょう」カチャ!

穂乃果「頼んだよ? 無駄死は御免なんだからね」

ことり「……うぅ」ジワッ

海未「ことり、泣かないで下さい。これは予め決めていた事なのですから」

ことり「でも…海未ちゃんの気持ちを考えたら……」グスッ

穂乃果「二人ともごめんね? …でも今の私にはこれくらいしか出来ないからさ」ニコッ




穂乃果「――…じゃあ、行くよ!!」ダッ


星人(おいおい、真っすぐに突っ込んでくるだと? 防御も出来ないその体でか…相当な死にたがりだな!!)



――グシャ!



穂乃果「っ!!」ボトボトッ



星人の手刀は穂乃果の腹部から背中にかけて貫く

間違いなく致命傷、星人は確かな手応えを感じていた
ただ、回避行動もせずにあっさりと攻撃を受けた穂乃果に対し、星人は違和感を覚えた


穂乃果「……へへ、全然効かないね!」ニヤリッ



――ガブリ



星人(何!!? この女、腹に風穴開けられたのに構わず噛みついてきやがった!?)ブシュッ

星人「この…!! 痛みで動けないハズなのにどうしてだ!!?」

穂乃果(生憎、痛覚は薬で遮断しているんでね。私の役目はお前の動きを一瞬止める事……ここだよ、海未ちゃん!!)


海未「―――――っっっっ!!!!」ジワッ



――スパッ!



海未はガンツソードを振り抜いた。
その斬撃は星人の身体を完全に切り離す。
――無論、穂乃果の体ごと一緒に…



星人(こいつ…仲間ごと斬りやがった……!?) ゾワッ



真っ二つに切り裂かれ、穂乃果の上半身は後方へ落下する
薄れゆく意識の中、最後に目にしたのは涙と悲痛な表情で顔をグシャグシャにした海未の姿だった



穂乃果(ごめん…そりゃ辛いよね。でもこれは穂乃果が命令したことだからさ、海未ちゃんが気に病む事じゃない…だからそんな顔しないでよ?)

穂乃果(にこちゃん、真姫ちゃん、千歌ちゃん…あ……と…は任せ……た…よ――)ドサッ


海未「ことり!!! 奴を撃ってください!! 息の根が止まるまで!!!!!」

ことり「う、あああああああぁぁぁぁ!!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!





―――高坂 穂乃果……死亡

~~~~~~


千歌「っ! あった、ありましたよ!!」

にこ「これでやっと最低限の装備は整ったわけね」

真姫「…初めからこれがあれば、穂乃果達が無理をする必要は無かったのよね」ギリッ

千歌「そう…ですね……」ウツムキ

にこ「今更そんな事を言ってどうなるの? 私達が今話すべき事は、これからどうやってあの化け物を倒すかでしょう」


千歌「確実に仕留めるなら、やっぱり死角から狙撃って感じになるんですかね?」

真姫「Zガンの射程はそれ程長くないわ。近くの建物の陰に隠れて撃つしか無いんだけど…外せば奴はZガンを破壊しに来るハズ。失敗は許されない」

にこ「なら、私達の中からも最低一人はあの化け物の気を逸らす為の囮役が必要って事ね」

真姫「…まあ、必然的にそうなるわね」

千歌「……っ」ゴクッ


重い沈黙が続く
無理もない、ここで囮役を引き受けるというのとは即ち死を意味する
誰だって死にたくは無い
寧ろ、仲間の為に自らの命を懸ける事の出来る人間が特殊なのである。

ただ、ここにはそんな“特殊な”人間が多く集まったチームであった
千歌は大きく息を吐き、この沈黙を打ち破った


千歌「…囮役に最適なのは、あの星人と渡り合えるだけの力を持っている人。この中で一番強い人って事ですよね?」

真姫「まあ、弱かったら囮にもならないからね。でも、ここでいう“強さ”の定義は何? 射撃なのか、剣術なのか、格闘術なのか…それによっては適任者が違ってくるわ」

千歌「勿論全てで優れている人です。なお且つ、ここで死んでも誰も悲しまない、命の価値が一番低い人が適任だと思います」

にこ「へえー…よく分かっているじゃない」


覚悟は出来ていた
今まで海未に鍛えられた自分なら勝つことは無理でも、倒すための隙を作る生み出す力は付いている

ガンツによって作られた偽物(クローン)である自分ならば、例え死んだとしても内浦に本物(オリジナル)が生きていれば問題無い
寧ろここで死ねば、高坂家にこれ以上負担をかける事も無くなる
存在しないハズの人間が消える事は正しい選択なのだ


千歌(矢澤さんや真姫さんには待っている家族がいるんだ。私が役割を全うすることでこのミッションが終わるのならば、それが最善の選択だよね……)


千歌「……なので、囮役に相応しいのは…わt――――」
にこ「私が一番適任ね。うん、私以外考えられないわ」

千歌「は? いや、何で…どう考えたって私の方が適任でしょう!? 海未さんに鍛えられた私なら矢澤さんより絶対あの星人と戦えます!!」

にこ「はああぁ? 海未に鍛えられたって言っても、たかが数か月間でしょう? こっちは四年も戦っているの。あんたとは年季が違うのよ、年季が!!」

千歌「だ、だとしても命の価値についてはどうなんですか!? 偽物の私は他の人より遥かに劣っているでしょう!!?」

にこ「ナンセンスね。ガキんちょが偉そうに価値なんて語ってるんじゃないわよ」

にこ「囮役に適役なのは、強くて、価値のない人間だっけ? あんたは何一つ当てはまって無いじゃない。年下は黙って先輩のいう事を聞けばいいの!」

千歌「ど、どうして……死ぬんですよ? それなのに何で自分から名乗り上げるんですか!? 私がやるって言っているのに…そもそも矢澤さんは私の事嫌いなハズなのに…」

にこ「……ええ、嫌いよ。でもそれは“あんたの事”じゃ無いわ」

千歌「え?」

にこ「そんな事はどうでもいいの。単純に中学生の、年下のあんたに守られるのが気に食わなかっただけよ。分かったならさっさと行きなさい」シッシッ

真姫「Zガンの射程内に隠れる場所が無いわ。少し離れた所に身を隠して、チャンスが来たら射程内まで急接近して撃つ」

にこ「それでいい。チャンスだと思ったら仮に射程内に私がいたとしても、構わず撃ちなさい。躊躇なんてしたら呪い殺すから覚悟することね」

千歌「……」

にこ「さあ、行きなさい。いつ奴が戻ってくるか分からないんだから。…信じているわよ、二人とも」ニコッ


~~~~~~


海未「――…はぁ、はぁ…はぁ……くっ」ドロッ

星人「やってくれたな…俺にここまで再生を繰り返させた生き物は貴様らが初めてだ」グシュッグジュグジュ

ことり「う、海未ちゃん…」ジワッ


海未は星人のすぐ近くで片膝立ちをしながら息を切らしている
持っていた刀は手の届かない場所に突き刺さっており、スーツもおしゃかになっていた
残った武器はホルスターに収めたXガンだけだが、この距離では発砲前に防がれてしまう

ことりのスーツも壊れ、持っていた武器と両足を星人により粉砕されてしまい戦闘続行は不可能だ


海未「…ふふ、私達の攻撃も全く無駄だったわけではないようですね。明らかに再生スピードが落ちていますよ?」

星人「…あぁ?」イラッ

海未「勝ち目は無いと思っていましたが、案外そうでも無い様で……」



――ボキッ!!



海未の左腕をまるで小枝を折るかのようにへし折った
激痛に顔を歪ませるも、声は出さなかった



海未「っっっ!!? ……何か、しましたか?」フフッ

星人「いちいち癇に障る女だな…貴様は簡単には殺さんぞ。死よりも恐ろしい痛みを味わせてやる」ピキピキ

星人「そうだなぁ…まずはあの女でデモンストレーションといこうか。俺を何度もバラバラにしやがったお前でな!!」ギロッ

ことり「っ!!」ガタガタッ

星人「命乞いでもしたら少しは楽に殺してやるが、どうする?」ニヤッ

ことり「……」ギロッ

星人「…恐怖で声も出ないか」



星人はことりのもとへ歩み寄る
目にいっぱいの涙を浮かべながらも、決して取り乱す事は無く
星人をにらみ続ける


海未(ことり…強くなりましたね。高校時代のあなたなら、恐怖でただただ泣き叫んでいたでしょう。でも今は自らの役割をしっかりと理解し、そして果たそうとしています)

ことり(星人は完全に頭に血が上ってる。私達の役目は撃破では無くて時間稼ぎ。私達を殺すのに沢山時間をかけてくれるなら好都合なんだよ)

ことり(痛いのはもう慣れてる…後はあっさり死なないように出来るだけ耐えるだけ。大丈夫、私なら大丈夫……)ガタガタ

海未(……ですがね――)カチャ!



――ギョーン!ギョーン!ギョーン!



海未はXガンを連射した
発砲に気付いた星人は慌てて振り向く

しかし、その銃口は星人に向けられてはいなかった……



ことり「う、海未……ちゃん? なん…で―――」




――バン!ババン!!



ことりの体はXガンにより木端微塵に吹き飛んだ
爆発により飛散した血液で星人と海未は真っ赤に染められる



星人「……貴様」

海未(…ことりはもう立派に役目を果たしました。ここからは私一人で十分、ことりも一緒に苦しむ必要はありません)

海未(人を殺める日が来るとは思いませんでしたが、まさか相手がどちらも親友とは…)


星人「貴様、自分が何をしたのか理解しているのか?」

海未「……」ニコッ

星人「そうか…なら貴様には“二人分”味合せてやらねばなぁ」バチバチッ!!

海未(ことり…穂乃果……ごめんなさい。二度と死なないと約束しましたが、どうやら守れそうにありません――)



この後、電撃による閃光と轟音が数分間鳴り響いた
どれほどの痛み、苦しみが彼女を襲ったか計り知れない

しかし、海未はその命果てる最期の瞬間まで悲鳴を上げる事は無かった




―――南 ことり、園田 海未……死亡



――――――――――
――――――――


初めてあの子と会ったのは三年前のミッション中だ
関わった時間は短かったけど、仲間の為なら自ら進んで危険な事に立ち向かっていく
勇気と力がある子だという事は分かった


私は、素直に凄いと思った

私にとって仲間はμ’sのメンバーだけ、守る対象は必然的にこの8人だけ
それなのにあの子は初めて会った私達の為にも命がけで戦っていたのだ

私にはそれだけの力は無い
私の実力で守れるのは精々、その時近くで一緒に戦っているメンバーくらいだという事は理解している


そんな中、μ’sのメンバーでは無いあの子が同じ部屋に転送されてきた

あの子の実力は知っている
あの子の力があれば生き残る確率がうんと上がる事は分かっていた



でも、私はあの子を拒絶した



“偽物”だとか“必要ない”だとか散々酷い言葉をあの子に言ってしまった
言葉を発する度に、心がズキズキと痛む感覚があった

どうしてそこまで拒絶したのか正直自分でもよく分かっていなかった



でも、今やっと分かった



“あの子はμ’sのメンバーでも無ければ、ガンツによって生み出されたクローン。仮に見捨てても誰にも迷惑が掛からない”


例えμ’sのメンバーで無いとしても、同じ部屋の人間が危機に陥った時に見捨てるという考えが浮かんでしまう自分に吐き気がする

今までメンバーが増える事は無かったのにどうして今更増えたのか、あの子さえ来なければこんな気持ちにはならなかったのに…
無意識にそんな風に考えてしまう自分が嫌だったのだ

だから突き放すような言葉をいい、自分の近くに寄せないようにしていたのだ



あの子が囮役をやると言い出す事は最初から分かっていた
だって私の知っている“高海 千歌”という人間はそういう人間だから
まだ中学生なのになんて強い心を持った子なのだろう

私はそんな子を見捨てる程薄情な人間なの? いいや、違うでしょう?
この先を考えれば、私よりあの子が生き残った方が全員を再生できる確率は高い


――だからこの役目は私が引き受けるわ
そして、もう一度チャンスがあるのなら今までの事をきちんと謝りたい
あの子に、千歌に非は全くないのだから




――――――――――
――――――――


にこ「――…ふふ、一人になった途端に何を語り始めているのかしら。あー、恥ずかし」

真姫「そーね、随分と大きな声で語っていてたから見えない誰かと話しているかと思ったわ」クルクル

にこ「は? ちょっ……どうしてあんたがここにいるのよ!? 千歌と一緒に行ったんじゃ…」

真姫「だって、Zガンは一丁しか無いのよ? それなのに二人で離れても仕方ないでしょ。だから残ったのよ」クルクル

にこ「…この役目を引き受けた以上、自分がどうなるか理解しているんでしょうね? 先に言っておくけど、私にあの星人から真姫を守る力は無いわよ」

真姫「……一人より二人の方がいいに決まってるわ。私はそう判断したまでよ」

にこ「そう…だったら真姫、悪いんだけど私と一緒に死になさい」ニコッ

真姫「…上等よ。派手な死にざまを見せつけてやろうじゃない」ニヤリ

自分のssのキャラってあんまりキャラ固有のセリフ言ってないですね
「ハラショー」とか「スピリチュアルやね」とか



――――――――――
――――――――


目を覚ますとそこは、今まで戦っていた場所とは不思議な空間で仰向けに倒れていた

空は雲一つない青空が広がっていて、辺りは足首くらいの背丈の草が生い茂っている

体を起こすと正面には小川が横切っていて、その向こう岸には見覚えのある人影があった


「……かよちん?」

花陽「……」ニコッ


花陽は何も言わずにただ微笑んだだけだった
立ち上がって傍に行こうとするが、上手く力が入らない

その間にも後ろから絵里、希、穂乃果、ことり
続々と親しい人達が小川の向こう側に歩いていく


「みんな? ちょっと待ってよ!」


三人とも制止を無視して花陽のもとへ行ってしまった


「もう! 無視するなんて酷いよ。一緒に連れて行ってよー!」


その声が聞き、振り返る穂乃果だったが、複雑な表情を浮かべながら首を横に振った


「どうして…? みんなそっちに行くのに、置いてけぼりは嫌だよ!」



――ぽんと肩を叩かれた
振り向くとそこには、海未の姿があった


「海未ちゃん? 海未ちゃんも行っちゃうの? だったら――」

海未「……」フルフル


やはり首を横に振るが…


海未「―――」パクパク


何と言っているか聞き取る事は出来なかったが、海未に触れられた事で自分が星人との戦闘で意識を失っている状況だったという事を思い出すことが出来た

そして、聞こえはしなかったが、何を伝えようとしたかは理解できた



『――みんなを頼みましたよ』




――――――――――
――――――――



――ヒタッ…ヒタッ…ヒタッ



にこ「――…来たわね」



にこ達の前にはすっかり変わり果てた星人の姿があった
右手には希を殺めた両手剣が再び握られている
辛うじて人の原型は留めているが、腕や足の皮膚や肉の一部が所々消滅して骨がむき出しになっており、その眼は血走っていた

星人がここに現れたという事は海未達がどうなったかは明白だった



星人「ふぅーふぅー…ああ、イライラするなあ!! どいつもこいつも雑魚の癖に無駄に抵抗しやがってえええ!! 今度はお前らか!!!!」ブチッ!

真姫「完全にキレてるわね。これなら戦いやすいんじゃない?」

にこ「ことりと海未が十分過ぎる程時間を稼いでくれたおかげで、千歌も配置についているハズよ。後は奴の攻撃をかわして、動きを抑えれば…私達の勝ちよ」

真姫「分かってるわ。やるわよ、にこちゃん!!」

星人「殺す……ぶっ殺してやる!!!!」ゴオオオ!!





にこ、真姫は星人へ一直線に駆け出す
二人に迷いは無かった

怒りに任せた薙ぎ払いを紙一重で回避
にこはそのまま星人の背後へ回って羽交い絞め、真姫は足元へ飛びつき拘束する



星人「このっ!! 放せ!! 放せええええええ!!!!!!」

にこ「誰が放すもんですか!! このまま一緒に死んでもらう!!」キュイィィィン!!

真姫「ここで…ここで終わらせる!!」グググ


星人「――…もう、いい加減にしやがれええええええ!!!!!!」バチッ!



――バチバチバチバチ!!!!!



星人は体中から大出力の電撃が放出させる
その威力は電気を発生させている星人の自らの体をも傷つける程である

スーツの機能によって辛うじて耐えられる痛みとなっているが、長くは持たないのは明らかだった



にこ「ぎぎぎぎいいいぃぃぃぃいいぃぃ!!!!!?」ビリビリビ!!!

真姫「ぎゃあああああ!!! ぐぐぐぐぐううぅぅぅ!!!!」ビリビリビ!!!

星人「グオおおおおぉぉぉぉ!!」ビリビリビ!!!


にこ「何を…何をしてるの!!! 早く撃って!!!……千歌あああああ!!!!」



にこ達が電撃を浴び始めたとほぼ同じタイミングで、身を隠していた千歌は射程圏内まで接近していた
Zガンを構え、後は引き金を引き――



千歌「――…は?」



誰が見ても、間違いなく絶好のタイミングだった

千歌が引き金を引くほんの一瞬、電撃によるダメージで足を抑えていた真姫の力が緩んでしまったのだ
星人は足を勢いよく振り、真姫をノーバウンドで数メートル吹き飛ばす

そして、握っていた剣を自らの腹部に突き刺した
当然、羽交い絞めにしていた にこ も無事では無かった


にこ「ごふっ…!!?」


急所を貫かれ、力尽きる にこ
その頭を掴み取りって側方に投げ飛ばす
そして千歌を瞬時に発見し、駆け出した

ここの一連の行動をZガンが効果を発揮するまでのタイムラグ中に行ったのだ
効果が発揮された頃には、星人は範囲外まで脱している

――作戦は失敗だ



千歌「そんな…!? 撃つのが遅かった? 私のせいで失敗?? 二人を無駄死ににさせたの!?」


パニックに陥り頭の中が真っ白になる千歌
そうこうしている間にも星人の魔の手が迫る


真姫「千歌!! 千歌ああああ!!!!!」

千歌(終わった…私のせいで……)ジワッ


星人は片手を突き出し、千歌の顔面を捕らえ――




――パシッ!!




「――…まだ終わってない。終わる訳には…いかないんだよ!!」




千歌「………え?」


星人の手が千歌に届く事は無かった
誰かが腕を掴んだのだ

視界には星人の手の平しか見えていないが、すぐ近くに人の気配を感じていた
ゆっくりと首を動かして気配のする方へ目線を向けるとそこには――



千歌「り……凛さん!!」


凛「んにゃああ!!!」バキッ!


凛は力の限り星人の顔面を殴りつけた
苦痛に顔を歪ませながらも、ホルスターからYガンを取り出して発射させる
そして大きく体勢を崩された星人に拘束用のワイヤーを命中させた


凛「痛っっ!! 今だよ千歌ちゃん!! トドメを!!!」

千歌「ッあああああああ!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!


星人「貴様らあああああああああああ!!!!!」



――ズドン!ズドドドン!!!



断末魔をかき消すようにZガンが炸裂する
星人は跡形も無く消滅した
今度こそ再生することは無い

――戦いは終わったのだ



凛「はぁ、はぁ…ぐうぅ」グラッ

千歌「凛さん!?」

凛「だ、大丈夫…それよりも、にこちゃんの所に行って!」



凛の指示に従い急いで向かう

仰向けに倒れている にこ の近くには既に真姫が駆けつけていた

にこの手を握り、涙を流しながら必死に呼びかけている



真姫「にこちゃん!! お願い…しっかりしてよ!!」ユサユサ

千歌「矢澤さん!!」


千歌も真姫と一緒の手を握りながら呼びかける


にこ「ま…き? ……奴…は……?」

真姫「倒したわ! 戦いは終わったの。もう帰れるのよ!!」

にこ「……そう。千歌……やったの…ね……」

千歌「ごめんなさい! 私が撃つのが遅かったせいで矢澤さんが…!! 本当にごめんなさい!!」ポロポロ

にこ「な…に、言ってる……のよ。元々…その予定……だった…でしょ?」

千歌「でも…でもぉ……」


自分を責める千歌に にこ 優しく微笑みながらこう告げる


にこ「よく……やった…わね……。ち…か……」

千歌「…っ!!」



――ジジジジジ



真姫「転送が始まった! これで助かるわ!!」

にこ「」

真姫「…にこちゃん? うそ、にこちゃん!!?」ゾワッ


にこは千歌に微笑んだその表情のまま、呼びかけに答えなくなった
握った手はいつの間にか冷たくなっている


千歌「矢澤さん!! 何で…あと少しなのに!! ……にこさん!!!」ポロポロ

真姫「嫌…嫌嫌嫌嫌あああ!!! 起きなさい!!! 目を開けなさいよおおおお!!」ジジジジジ



――…しかし、にこが再び目を覚ますことは無かった…



~~~~~~

~ガンツの部屋~


千歌「凛さん…さっきは助けてくれてありがとうございました」ペコリ

凛「…うん。ちょっと遅かったみたいだったけどね…」

真姫「どうして動けたの? 希から凛は動けなくなったって聞いていたけど」
凛「希ちゃんがこの薬を置いていってくれたんだ」スッ

真姫「!? あなたこの薬を二度も使ったのね……よく死ななかったわね」

凛「…まあね」


千歌「あ、あの…凛さん。その…花陽さんの事ですが――」

凛「大丈夫、分かってるよ。…あの夢で川の向こうに行ったメンバーはそういう事だったんだね……」ボソッ

千歌「夢?」

凛「うんん、何でもないよ。それよりも、真姫ちゃんは大丈夫なの? さっきはその…にこちゃんが死んじゃってさ……」

真姫「……取り乱しちゃってごめんなさい。覚悟はしていたんだけれど、いざその時になったらね…」



――ジリリリリリ



真姫「採点ね。ここで一人でも100点が居れば…」

千歌「……」ゴクリッ




ガンツ『まきちゃん 35点 TOTAL43点』

ガンツ『ねこ(偽) 25点 TOTAL25点』

ガンツ『普通怪獣 89点 TOTAL89点』



千歌「えぇ!? 一気に89点!!? 私、星人を二体しか倒していないのに…」

真姫「今回の星人は全員がボス級の強さを誇っていたものね。生き残っていれば100点のメンバーも多くいたって事ね…」

凛「これで少なくとも一か月はみんな会えないんだ」シュン

千歌「そう…ですね」


真姫「この部屋も随分と大きく感じるわね…ここまでメンバーが少なくなった経験は初めてよ。正直、不安しかないわ……」

千歌「また今回みたいなミッションが来たら…どうなるんですかね」



部屋には重苦しい空気が漂う
少なくとも一回はこのメンバーでミッションをこなさなければならない
その時、運悪く今回と同等の難易度のミッションが来た場合、頼みの戦力である穂乃果、海未や前線で戦うメンバーのほとんどが死亡してしまった今、間違いなく高確率で全滅するだろう

だが――



凛「――…そんな事を考える必要は無いんじゃないかな?」


真姫「凛?」

凛「今までだって始まるまでミッションの内容は分からなかったわけじゃん。もし、今回と同じようなミッションが来ても、凛達のやる事は変わらない。星人を全滅させてこの部屋に帰るだけ。作戦だったらみんなで考えればいい」


凛「だって…一人じゃない、私達は三人もいるんだよ?」


千歌「!」

真姫「…その通りね。無意味な事を考えて不安がっても仕方ないか……ふふ、流石は二代目リーダーね」

凛「落ち込んだり悲しんだりしている場合じゃないにゃ」

凛「絶対生き残って、みんなを生き返らせるよ。泣くのはみんなが帰ってきてからにしよう?」ニコッ

真姫「…ええ」



凛「それじゃ採点も終わったし、帰ろっか。あ、凛は色々持って帰るものがあるから先に帰ってて!」

千歌「だったら私も手伝いますよ? 何を持って帰るんですか?」

凛「あー、そうだね……」エヘヘ

真姫「…分かった、先に帰ってるわ。行くわよ、千歌」グイッ

千歌「え? 真姫さん??」

凛「二人ともまたね~! 千歌ちゃん、後で明日以降どうするか連絡するよー」ヒラヒラ



――バタン



凛「……行ったね」


ふぅ…と息を吐きガンツの前に座り込む
手で表面をさすりながらじっとガンツを見つめる



凛「ガンツ、メモリーに保存されている人間を表示して」



――ブゥン



凛「……はは、かよちん、絵里ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん、にこちゃん……本当にここに保存されちゃったんだね」

凛「凛が生き残る側になった事が無かったからさ…これから暫くかよちんが居ない生活っていうのが全然想像できないや」ペシペシ

凛「これからは、かよちんの代わりに授業は寝ないでしっかり受けて、ノートも綺麗に書かないとね。あー、でも後期のテストまでに戻って来ないとかよちん留年しちゃう…ま、その時は凛も一緒に残るから安心してにゃ~♪」ペシッペシッ


凛「でも、一人であの授業を受けるのはしんどいな…行きも帰りもぼっちだし、お昼ご飯だって一人席になるね。これで、凛が死んだ時のかよちんの気持ちが分かる気がするよ」

凛「大丈夫、凛なら…大丈夫。みんな…凛達が絶対に生き返らせるからさ……だから……」


凛「………」



――ドン!



拳をガンツに叩きつける
先ほどから手で軽く叩いていた凛だが
いつの間にかその手は拳となり
段々と力も叩く頻度も多くなっていた

そして



凛「………てよ」ボソッ



凛は耐えられなくなった



凛「……返してよ………返せよ!!! みんなを返せよ!!!! かよちんを返せよおおおおお!!!!」バン!


凛「何で…何で死んじゃうのさぁ……かよちんが居ないと凛は…凛は……うああああああああん」ドン!ドン!


凛「…ヒック、あぁ…ああああああぁぁぁ……かよ…ちん……!!」ポロポロ



~~~~~~


真姫「…凛の奴、ドアの向こうまで聞こえてるっての」

千歌「……はい」

真姫「あんな事言ってたくせに、自分だけわんわん泣くとか…本当ズルいんだから」ジワッ


千歌「私が…あの時花陽さんと一緒にいた私が、もっと強ければ!!」ギリッ!

真姫「…そんな事を言ったらキリがないわ。最強だと思っていた海未が、無敵だと思っていた穂乃果が死んだのよ? どんなに強くなったって死ぬときは死ぬ。最後はその時の運なのよ」

千歌「でも!!」

真姫「自分を責めたって誰も生き返らない。私達がやるべき事は、今回の反省を次回にどう生かすか、違う?」

千歌「……」

真姫「今後、自分はどうするべきか、今はそれだけ考えなさい。いいわね?」

千歌「…はい」コクッ

真姫「よろしい。取り敢えず私達はこのまま帰って、凛にはここで思いっきり泣いてもらいましょう。鉢合わせたらお互い気まずいし」

千歌「私がするべき事…か……」

無事に終われるか不安


――――――
――――
――

~三日後 穂むら~

こころ「ごめん下さ~い」ガラガラ

千歌「あ! こころちゃん、いらっしゃい♪ 結構早く部活終わったんだね?」

こころ「はい、今日は用事のある人が多かったので。今日は千歌ちゃんがお店番なの?」

千歌「そうだよ。まあ、雪穂さんが学校から帰ってきたからもうじき交代だけどね」

こころ「そうなの? じゃあ、千歌ちゃんがまだやってるタイミングに来られてラッキーです」ニコッ

千歌「ふふ♪ あ、和菓子を買いに来たんだよね。何にする?」

こころ「そうですね…じゃあ、穂むら饅頭を5つ…いえ、4つ下さい」

千歌「…4つだね、分かったよ」ゴソゴソ


千歌「はい、詰め終わったよ。ありがとうね」

こころ「……」

千歌「こころちゃん?」

こころ「…お姉さまが、にこお姉さまが帰って来ないのです。もう三日も」

千歌「……」

こころ「前にもこんな事がありました。あの時は一年近くも行方不明になって…でも、結局は帰ってきて! また……今回も…今回もきっと帰ってきますよね…? 待っていればきっと………っ」ジワッ

千歌「…大丈夫だよ。にこさんも穂乃果さんも…必ず帰ってくる。だからお互い信じて待とう?」

こころ「ち、千歌さん…」ヒック



――ガラガラ



真姫「――…千歌の言う通りよ。にこちゃんは私が必ず連れ戻す。何年かかろうが…絶対にね」


凛「そこは“私達が”って言うところでしょ? 一人だけカッコつけないで欲しいにゃ」


凛と真姫が来店してきた
どうやら話は外で聞いていたようだ

そんな二人の発言に こころは…


こころ「凛さん、真姫さん…その……三人の事は、信じてもいいんですよね?」

千歌「どういう意味?」

こころ「お姉さまだけではなく、千歌さん達までいなくなってしまったら…そう考えるともう頭がおかしくなりそうで……!!」ジワッ


こころ「…約束してください、私の知らないうちに突然居なくならないと…」

千歌「こころちゃん……」



~~~~~~


真姫「こころちゃんとあんな約束をしたんだから、簡単に命を懸けるわけにはいかなくなったわね、千歌」


千歌「……私は、こころちゃん にとって居なくならないで欲しい人間になっていたんですね」

凛「千歌ちゃん?」

千歌「正直言って こころちゃん とは少し仲のいい友達くらいにしか思っていませんでした。仮に私がある日突然居なくなったところで、多少気にかけてくれるとは思うけど暫くしたら忘れるんだろうって。その程度の関係のつもりだったんです」


千歌「…もしもの時は真っ先に囮役をやる覚悟で戦ってきましたし、その為に力を付けてきました。これこそが偽物の私が出来る最適な役目だと、そう自分に言い聞かせて」

千歌「その囮役も穂乃果さんや にこさん達に持っていかれて…そして私が生き残った」

千歌「私が死んでも誰も悲しまない、誰にも迷惑がかからない…そう思っていた」

真姫「でも違った。こころちゃんにとって千歌は失いたくない大切な友達だった」

千歌「……はい」


凛「そもそもさー、千歌ちゃんは本当に自分が死んでも誰も悲しまないと思っていたのかにゃ? 凛達がそんなに薄情な人達だと思ってるの?」

千歌「へ?」キョトン

凛「数か月とはいえこれまで一緒に特訓した仲じゃん。それに、穂乃果ちゃんや にこちゃん だって千歌ちゃんに生きて欲しいって思ったから自分を犠牲にしてでも戦ったんだと思う」

真姫「そうね。あなたの命は、もうあなただけのものじゃないわ。こころちゃんの為にも、私達の為にも、この先も生き残ってもらわなくちゃね」

凛「…仲間が死ぬのは、もう二度と見たくない。だから千歌ちゃん、もう自分の事を悲観的に捉えるのはもうやめて欲しいな。…約束だよ?」

千歌「…はい。分かりました」ニコッ


凛「――それじゃ、そろそろ訓練と行きますか~」ンン~

千歌「ええっと、今日は射撃がメインでしたっけ?」

真姫「そうよ。『構えて撃つ暇があったら、殴った方が早いにゃ~』とか言ってたあの凛が遂に本気で銃の使い方を学びたいって……この日が来るまで何年かかった事か」ヤレヤレ

凛「あはは…流石にこの人数で一人だけ銃が使えないのはマズイかなって」

真姫「全く…遅すぎるのよ」



千歌「あの、色々考えたんですけど…結局、自分がすべき事って次のミッションで生き残る為に強くなるくらいしか無いんですよね」

千歌「個々が穂乃果さん並の強さを得るには全く時間が足りないけど、三人で力を合わせれば穂乃果さんに届く…いや、それ以上の力にする事は出来ますよね!」

真姫「当然よ! いつまでも穂乃果や海未に頼り切りってのも癪だわ」

凛「へへっ、みんなが帰ってきた時、凛達の抜群のチームワークを見せつけて驚かせてやろうにゃ~♪」

千歌「はい! やってやりましょう!!」グッ


――――――――――
――――――――
――――――
――――
――


~2月 ガンツの部屋~


凛「あ~あ、明日は試験だってのにミッション…これじゃまた留年だよぉ。ついてないにゃ」ガッカリ

真姫「別に問題ないでしょ? 花陽が留年するなら凛も残るって言っていたじゃない」

凛「そうなんだけどさぁ……ん? なんで凛がそのつもりだって事を真姫ちゃんが知ってるの? 話した事無いよね?」

真姫「え、あ、それは…だって凛の事だからそのつもりなのかな~って…思っただけ…よ?」ダラダラ

凛「……」ジーーッ


千歌「そ、そんな事どうでもいいじゃないですか。ほら、あの日以来のミッションなんですから、気合入れましょう!」

真姫「ち、千歌の言う通りよ! そろそろ音楽が鳴り始める頃だし」クルクルクル

凛「…まあ、いいか」ハァ

千歌「それにしても、人数が減ったのにメンバーの追加は無いんですね。大量に新入りが来てもおかしくないのに」

真姫「逆に好都合じゃない? その分点数がばらつかないで済むわけだし。今回で最低でも一人は取り戻すわよ」

千歌「一番点数の高い私が頑張らないといけないって事ですよね!!」

凛「頑張るだけじゃなくて、無理しないって事も忘れないでね~」

真姫「まあその辺は大丈夫でしょ。それに、今の千歌なら並のボスでも単独で撃退出来るハズよ」

千歌「それを言うなら真姫さんと凛さんも一緒ですよ。その為の特訓だったんですから!」

凛「ま、油断しないで挑もうよ。落ち着いて戦えば無事に終わるにゃ」


凛の発言に二人は唖然とした


凛「…え、どうしたの?」

千歌「いや…その、まさか凛さんが一番まともな事を言うとは思わなかったので…」

真姫「本当よ。予定では凛が『今回はパパッと終わらせちゃうにゃ~』とか言った後に、今あなたが言ったセリフを私が言うハズだったのに」

凛「……そう」ジトッ

そんな会話をしているうちに、ガンツからはラジオ体操の音楽が流れ始める

いつものブリーフィングが終了し、後は転送を待つだけだった
いつもと違うのは人数だけ

頼れる年長組も、最強の幼馴染トリオも、大切な親友も、今は不在
でも、あの時とは違って不思議と暗い気持ちにはならなかった

泣き叫んでも、怒り狂っても、絶望しても、みんなは帰って来ない
戦って勝つ、これ以外に方法が無いと再確認したことで迷いは無くなった

――準備は整った
これは失ったメンバー取り戻す戦い
誰も知らない、とあるマンションの一室から、彼女たちは今夜も戦地へ転送されるのだった



~~~~~~



――ジジジジジ



千歌「――…あれ? 凛さん、真姫さん??」


千歌が転送された場所に二人の姿は無かった

転送タイミングはほぼ同時だったので、二人が先に行ってしまった可能性は低い
そもそも、千歌を置いていく理由が無い

自分だけ別の場所に転送されたと考える方が自然だ


千歌「取り敢えず、通信機で連絡を……あら? 操作不良?? あ、この前壊したんだった…すっかり忘れてた」ガーン


千歌「でも…ここってどこだろう? 山の中にある小さな神社みたいだけど……何だか見覚えがあるんだよなぁ」キョロキョロ



そこは周囲を木々に囲まれた小さな神社で遠くには海が見える
千歌にとってここはとても懐かしさを感じる、そんな場所だった

その感覚が千歌の記憶を呼び覚ます


千歌「…え? ここって、まさか――」




~~~~~~


凛「――…もう! なんでガンツはたまにバラバラに転送するのさ!? 勘弁してほしいにゃ!!」プンプン

真姫「ダメね、オフラインになってる。これじゃ、すぐに合流するのは厳しいわね」


凛「そもそもここはどこ? どこかの島みたいだけど」

真姫「少なくとも東京では無いのは確かね」

凛「流石にそれは分かるよ。それにしても…大きなホテルだね~」ホエ~



千歌とは別の場所に転送された二人の目の前にとても立派なホテルが建っていた
一目で高級なホテルだと分かるほどである



真姫「…あ、私ここ泊った事があるわ」

凛「ええ!? こんな高級そうなホテルに泊まったの!!?」

真姫「でも結構昔の事だし、一回しか泊まったことが無いから名前が思い出せないのよね……うーん、何だったかしら」ムムム

凛「あ、あそこに看板があるよ。見てくるにゃ~」タタタ

真姫「ちょっと待ちなさい! 勝手に行かないでってば!」



駆け出す凛を真姫は慌てて追いかける



真姫「全く! 勝手な行動は止めなさいよね!? いつ星人に襲われるか分からないんだから!!」

凛「……」

真姫「…凛? 聞いているの?」



看板を見つめたまま黙っている凛
彼女に無視されて多少イラっとした真姫だったが、視線を看板に移す

そこには大きくカタカナでホテル名が書かれていた
恐らくこれは経営者の苗字がそのままホテル名となっているのだろう

ただ、この苗字は二人にとって聞き覚えのある苗字だった



真姫「――…『ホテルオハラ』ですって?」

ここまで読んで頂きありがとうございました。
μ'sを主人公とした今作はここで一旦完結となります。

いつになるか分かりませんが、別スレにてGANTZ×ラブライブ!のssを完結させるつもりなので良かったらまた読んで頂けると幸いです。

思っていた以上にこの作品を読んでくれている方や続きを待っている方が多くてとても嬉しいです!
今度は前作で生き残ったAquorsメンバーを主役とした短めの話を書く予定です。

(モチベを上げる為にも、書き始めようとは思っています)

よろしくお願いします。

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