【安価】剣と魔法と冒険者のファンタジー (432)


剣と魔法のファンタジー。
その主人公と言えば冒険者。

という訳で、プレイヤーの分身を作成し、ファンタジーな世界で冒険者として活動させていくスレです。

安価は主人公の行動選択に。
コンマはキャラメイクにのみ使用します。



それでは早速キャラクターを作成していきます。

主人公の性別は?

>>↓1


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483789025

無性

主人公は 女性 です。


主人公の能力を決定します。

数値自体が能力になるのでは無く、優劣の判定です。
上位二つが優れた能力、下位一つが劣った能力となります。

これらの能力はプレイ中に強化する事が出来ます。


STR(筋力) >>1
AGI(敏捷) >>2
VIT(耐久) >>3
INT(知恵) >>4
DEX(器用) >>5
LUK(運勢) >>6

コンマ?

すみません、コンマでした
あと>>4の指定には全て>>↓1~6の事です
このレスも含ませます

再度すみません、二桁でやります…

主人公は 女性 です。
主人公は 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 D
知恵 E
器用 C+
運勢 D

(STRなどの表記だとズレるっぽいので漢字にします)

主人公の種族を決定します。
種族による能力ボーナスと特殊能力を獲得します。


1)ヒューマン

現実の人間と同等。
知識の蓄積と継承に長け、手先が器用。

ボーナス INT+1 DEX+1
特殊能力 他者との交友が深まりやすい、技能の習得コストが低い


2)エルフ

耳が長く細身の種族。
一般的に美しい容姿の者が多く、神に愛された種族と言われる。

ボーナス INT+1 LUK+1
特殊能力 魔法の習得および使用コストが低い


3)ドワーフ

屈強な肉体を持つ種族。
男女共に筋力に優れ、疲れ知らずで酒が好き。

ボーナス STR+1 VIT+1
特殊能力 飲酒によるデメリット無効、毒と疲労に耐性


4)ハーフビースト

獣の特徴を持つ種族。
力が強く身軽で、獣のような生活にも問題無く適応する。

ボーナス STR+1 AGI+1
特殊能力 五感が鋭い、野営によるデメリット無効


5)グラスランナー

子供のような容姿の種族。
すばしっこさと手先の器用さに定評がある。

ボーナス AGI+1 DEX+1
特殊能力 走行速度上昇、物品加工の品質上昇


6)オートマタ

古い遺跡に眠る命を持つ人形達。
神によって生み出された種族であるとされ、一部地域では神聖視されてもいる。

ボーナス VIT+1 LUK+1
特殊能力 睡眠不要、魔法の習得コストが低い



>>↓2

主人公は 女性 です。
主人公は 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
主人公は オートマタ です。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下

主人公の信仰を決定します。

この世界には神が実在し、信仰を深める事によって信徒に力を分け与えてくれます。
それは主にいわゆる魔法となって発現し、主人公の大きな助けとなる事でしょう。



1)炎と闘争の神 カタラト

火炎を司る神。
戦神としての側面が強く、数多の戦士に信仰されている。
授けられる魔法は破壊と闘争に大きく偏っている。


2)地と繁栄の神 ナザル・イェリテ

大地を司る女神。
豊穣と出産の神でもあるため、特に農村部において広く信仰される。
護りの魔法が主となる他、毒と病を退ける魔法も存在する。


3)鋼と叡智の神 ラタジャーブ

鉄を司る神。
人間に数多の技術を齎した神であり、知を重んじる者達の信仰が篤い。
道具が持つ力を引き出す、あるいは新たな力を与える、物品が持つ価値を理解する、などの特殊な魔法を与える。


4)水と静謐の神 イ=リ・プラーハ

水を司る女神。
同時に死者の魂に裁定を下す冥界の主であるともされ、法の番人達は皆この女神に信仰を捧げる義務がある。
浄化、治癒といった魔法が主となる他、虚偽の看破など精神に作用する物も幾らか存在する。


5)森と狩猟の神 テオラナ

森を司る神。
自然の守護者として知られ、動物達の全てが彼の信徒であるとされている。
追跡、足止め、痕跡の消去、などが主要な魔法となる。


6)無と流浪の神 スーラーワデル

何も司らない女神。
その存在と名以外には殆ど何も知られていないが、一説には自由を愛する神格だと言われる。
魔法は授けられないが、他者のあらゆる魔法に耐性を得る。



>>↓2

主人公は 女性 です。
主人公は 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
主人公は オートマタ です。
主人公は 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下

魔法耐性Lv1

主人公に性格を設定する事が出来ます。
キーワード形式で、0~2個まで自由に指定して下さい。

設定を拒否する事もでき、その場合はそのレスのコンマにより自動的に決定されます。


>>↓2

主人公は 女性 です。
主人公は 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
主人公は オートマタ です。
主人公は 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
主人公は 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下

魔法耐性Lv1




主人公の来歴を設定できます。
過去どのような事をしていた人間なのかを指定して下さい。

ただし、一般的なファンタジー世界で有り得るだろう内容でお願いします。
また、異世界から転移してきたなどは不可になります。

設定を拒否する事もでき、その場合はそのレスのコンマにより自動的に決定されます。


>>↓2

主人公は 女性 です。
主人公は 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
主人公は オートマタ です。
主人公は 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
主人公は 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
主人公は 迫害の末に絶滅に追い込まれた民族の生き残り です。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下

魔法耐性Lv1




最後に、このキャラクターに名前を付ける事が出来ます。

西洋風の名が好ましいですが、強制ではありません。
ただし、余りにアレな名前だと判断した場合は下にズレます。
例としてはウンコマン、ヤリマーン=チンコスキーなど。

命名を拒否する事もでき、その場合はそのレスのコンマにより自動的に決定されます。


>>↓2

ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下 → 信仰上昇コスト低下

魔法耐性Lv1



お疲れ様でした、キャラメイクを終了します。

プロローグを作成しています。

この作業には数十分~数時間がかかると思われます。

降神筐体 管理番号S-RW03770423003 再起動を実行します。


エーテル体による擬似脳幹発現......成功。

頭蓋内への大脳解凍展開のち神経網生成開始......完了。

第一および第二マナジェネレータ点火......正常なマナ流出を確認。


降神憑依プロセスを始動......失敗。

再試行......失敗。

再試行......失敗。

再試行......失敗。


降神憑依機能に致命的なエラーを確認。

筐体に完全な自我が確認されました。
筐体を初期化した上でもう一度再起動を行って下さい。

???「あちゃあ……こりゃ駄目だ」


闇に包まれた空間の中央から声が発せられた。
女性の声であり、そして飄々とした物だ。
内容は失敗を嘆くような言葉なのだが、どこか「まぁそれでも良いか」というような雰囲気が漂っている。

実際、その女にとっては成否はどうでも良い物だった。
遠い昔に使った事のある玩具の存在をふと思い出し、久々に遊んでみるかと気まぐれを起こしたに過ぎない。
結果としてそれが既に玩具ではなくなっていたからといって、大きな落胆は生まれない。
ちぇっ、と舌打ちを鳴らす程度が精々だった。


???「それにしても自我かぁ。 まぁ結構過酷な最期だったし仕方ないよね。 ……それならそれで、また使い道もあるし?」


女の言葉はそれで終わりだった。
以降、空間から音は消え去る。

代わりに現れたのは光だ。
壁と床、そして天井を網目状に青白い光の線が走り、部屋の全貌を明らかにする。
どうやら空間は小さな部屋であったらしい。

そこには一つを除いて何も無い。
狭い部屋の中央に力無く横たわる、一体の人形以外には。

それからしばしの時が流れる。
時を計る事も出来ない閉鎖空間の中ではそれがどれ程であったかを知る事は出来ない。
日が昇り沈むまでであったとも、あるいは幼子が老人と成り果てるまでであったとも、どちらとも付かない。

ともあれ、静寂に沈むだけであった部屋の中に動く者が生まれたのだ。
人形である。
それはまるで生物のような動作で床に手を付き、上体を起こす。
縦横に走る光を追って目を彷徨わせ、表情を困惑に歪ませる。

???「……ここ、は?」

次に漏れた言葉が何らかのトリガーだったのか。
人形は甲高い悲鳴を上げ、両腕で頭を抱えて悶え転げる。

その脳裏に、唐突に数多の記憶が蘇り、それに伴って激しい苦痛が走ったためだ。

森の中に造られた、人形達による小さな集落。
厳しい姉と優しい兄に見守られ、多くの隣人達と共に築き上げた穏やかな日々。

幼い者を追い立て遊んだ記憶。
悪戯を試み老年の者達に囲まれて叱られた記憶。
怒り狂う姉から逃げ兄を盾に逃げ回った記憶。
それは活発な、どこにでも居るような当たり前の少女の思い出達だ。

しかし、そこにやがて異物が混ざる。
主も無く動き回る人形達に嫌悪を抱いた、肉を持つ種族の襲撃である。

森は焼かれた。
家々は砕かれた。
人形達は皆武器を取り立ち向かい、その末に誰もが生を止めた。
姉は戦槌の一撃に頭部を奪われ、兄は少女を庇い数多の矢を背に受けた。
何もかもを奪い尽くすに足る、徹底的な殲滅が行われたのだ。

逃げられたのはただ一人。
記憶の持ち主である命持つ人形・オートマタの一個体。

ライアーという名の少女だけ。

記憶の再生が終わり、ライアーは状況を把握する事が出来た。

それまでの暮らしの一切を破壊され、命からがら森の奥の遺跡へと逃げ延びた。
この一室に閉じ篭った所で疲労から倒れ、今ようやく目を覚ましたのだろう。


回想が終わったならば、自然と次はこれからどうするかを考えなければならない。
だが、そこでライアーはもう一度困惑した。
浮かび上がる考えが悲観的な物ばかりなのだ。

遺跡を抜け出し、待ち構えていた侵略者に殺される。
その手を逃れても最期は同じ、どこかで肉持つ種族に見つかって殺される。
他者を恐れ遺跡に引き篭もっていたならば殺害の可能性は下がるが、どうせ先に待つのは餓死に違いない。
もう私には未来など無い。
そんな思考ばかりが延々と回り続ける。

これはおかしいとライアーは考えた。
記憶の中のライアーはどこまでも前向きな少女であった。
眠りに落ちる直前の記憶を辿ればやはりこのような状況でも悲観を抱くような精神は持っていない。
いつか復讐を果たし、集落の皆を弔うのだと固く決意している。

これではまるで、過去の自分と今の自分が別人のようである。

------個体名称ライアーの完全覚醒を確認 伝言を再生します------


その齟齬を埋めたのは唐突に届いた声だった。
頭蓋の内部に直接語りかけるようなそれは、言葉の通りライアーへと遺された伝言だ。


???「あー、あー、えーと、これで良いんだっけ? ちゃんと録音されてる?」

???「ん、大丈夫っぽい。 えー、どうも、私はライアーです」

???「あ、でもあなたもライアーになるのよね……困ったな、でも面倒だしこのまま通すね」


そんなどこか間抜けさの漂う伝言は随分と長く続いた。
聞き手の方のライアーは、言葉の主が記憶の中のライアーであると確信した。
感情が跳ね回り上下する声色も、次々と本題から脱線しては戻りを繰り返す話の流れも、全て記憶の通りだったためだ。

内容をまとめてしまえば、こうだ。

過去のライアーは眠りに落ちた後、力尽きて死んでしまった。
それを哀れに思った女神が彼女の魂に新しい体を与え、蘇らせてくれた。
そうして復活したライアーは長い時をかけて見事復讐を果たした、という。

さて、では現在の……聞き手側のライアーは何者なのかと言えば、古い体にいつの間にか宿っていた新しい命であるらしい。
命が宿った物の体が完全に死んでいたライアーは、本来そのまま生まれる事も無く眠り続けるはずであった。
そこを、これまた哀れに思った慈悲深い女神が生まれてこられるようにと取り計らったそうだ。


???「ただ、いつ目が覚めるかは分からないんだけどね」

???「多分私が生きてる内には無理だと思う……ちょっと残念ね、あなたとお話してみたかったのに」


???「ま、そういう訳で仇の事は気にしないであなたの自由に生きると良いわ」

???「辛い記憶は残っちゃってるはずだけど、そこを消しちゃうとあなたも消えちゃうの」

???「あなたが過ごした過去じゃなくても、あなたが生まれたのはその記憶からだから」

聞き手のライアーは、伝言の内容に完全に納得した。

自身の精神の齟齬以外にも、どうにも妙な点はあったのだ。
家族が滅ぼされた事は悲しく、また怒りもある。
しかしそれはどうにも大きな物では無い。
まるで誰かから聞かされた物語という表現が近いだろう。

つまる所、まるで、ではなくその物であったという事だ。


内容を時間を掛けて噛み砕いたライアーは、ようやく立ち上がった。
仇は討ったと伝言は告げていた。
また、襲撃からは長い長い時間が経っているとも。
それが正しければ遺跡の周囲を囲む侵略者など居るはずが無い。
餓死を避けるために早々に立ち去るのが良いだろう。

記憶を頼りに、他の壁と全く見分けの付かない隠し扉の前に立つ。
それを開ける直前にライアーは一度振り返る。

小さな部屋の中には何も無い。
しかし、ここで一つの命が終わり、一つの命が始まったのだ。
ライアーにとって特別な場所に思えた。

だから発つ前に真摯に祈りを捧げるのは当たり前の事だろう。
全てを奪われ、それでも絶望に心を折る事無く駆け抜けた少女の冥福を。
そして、有り得るはずの無い人生を始められる感謝を。

勿論、祈る対象は決まっている。


???「そうそう、私とあなたを助けてくれた女神様の事を教えておかないと」

???「世界一慈悲深く、世界一美しく、世界一気高い、最ッ高の女神様!」

???「無と流浪の神、スーラーワデル様の名前を決して忘れないように!」

???「私は何があっても生涯信仰するし、あなたも是非そうしなさい!」


伝言はそのようにしっかりと語っていたのだから。

プロローグは以上になります。
次回はライアーが最寄の町に到着して拠点を構え、冒険者らしく依頼を選ぶ所から始めていきます。

安価一つ忘れてました。
ライアーが滞在する拠点を、ランダム生成された五つの宿から選択出来ます。
難易度には影響しません。
拠点となる町の周辺環境や、宿の店主が変更されるだけです。


1)勇気ある牛角亭

2)泥濘の浮島亭

3)カラクリ仕掛けの月夜亭

4)大爆発の漁師亭

5)黄金の葡萄酒亭


>>↓1

ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
魔法習得コスト低下 → 信仰上昇コスト低下

魔法耐性Lv1



今度こそ終わり。

深夜ですけど始めて大丈夫かな?

大陸の西の果て。
伝説に曰く、大地を食らう竜が齧りとっていったと謳われる巨大な湾が一つある。

小高い丘の上からそれを眺めたライアーは記憶にあったその伝承を思い出し、これは確かにと頷いたものだ。
はぁ、と感嘆のため息が漏れたのをさて自覚していたかどうか。
まさしくそうして出来上がったとしか思えない綺麗な半円を見れば、きっと誰しもが超常の力を疑いたくもなるに違いない。


さて、その湾に寄り添うような港町がライアーが夜通し歩き詰めた後に辿り付いた地であった。
決して小さいとは言えないが、口が裂けても都市とは呼べない。
そんな中途半端な街をライアーは拠点として選択した。
これは特に大きな理由があった訳でも無い。
単に他に街も知らず、もう当分歩きたくは無かったからというだけの事。


幸いにも、食い扶持を稼ぐだけの手段は初日にさっさと見つけられた。

生まれたばかりの一文無し。
その上生まれ持った記憶のせいで人間が恐怖の対象でしかないライアーである。

いつの間にか頭の中に植えつけられていた知識……。
今やオートマタは迫害の対象では無く、神によって命を吹き込まれた人形達であり、人類の一員なのだという認識が大陸中に広がっている。
この事実を認識していても街の隅で怯えて瞳を濡らし震えるばかりだった。

そんな所に面倒見の良い少女が声を掛けてくれ、更には仕事まで紹介してくれたのはまさに望外の幸運だったろう。
少女の人の良さが無ければ、今頃路地裏のどこかで行き倒れているのが自然だったはずだ。

ただ、その見つけられた仕事というのがライアーにとって少々厄介な物ではあった。


???「よう、ライアーちゃん! 今日もかったい尻してんなぁ!」

ライアー「ひやぁ!?」


スパァン!
と、そんな音と共にライアーの悲鳴が上がる。
直前の男の言葉が示す通り、尻を強かに叩かれたのだ。


ライアー「……! …………!!」

???「おう、悪い悪い、だがこれやんねぇと帰ってきた気がしなくてよ!」


言語を思い出す事も出来ない程混乱したライアーに、男がゲラゲラと笑いながら口先だけの謝罪を述べる。
そのまま気分良さそうに仲間らしい二人組の席へと手を上げて去っていく。
彼らは全員が全員、いかにも荒くれ者といった風情だ。
筋骨隆々の肉体に無数の傷跡を刻み、ろくに洗ってもいないだろう髪からは今にも何かが飛び散りそうに見えてしまう。

ここは冒険者の宿と呼ばれる施設である。
一階を酒場、二階を客室とする構造の、どこの町にも数軒はある物だ。
屋号を「勇気ある牛角亭」というそこは、街の住民の困り事を片っ端から解決する事を生業としている。

例えば街の外での採取。
例えば畑や漁場を荒らす害獣の駆除。
例えば街道の安全を脅かす魔物や亜人、盗賊の討伐。
例えば街から街を移動する行商の護衛。
例えば太古の遺跡調査への同行。

数々寄せられるそれらの依頼を、お抱えの専門家達に回して片付けさせるのだ。

街の人々は悩みが消えて喜ぶ。
宿の主は依頼人からガッポリと報酬を受け取って儲かる。
冒険者達はその報酬の半分と、宿と食事を殆ど無料に近い値で得られる上に、寝ていても仕事が集まってくる。
ついでにだが、土地の領主も細々とした面倒事が勝手に片付いて嬉しい。

誰もが助かるこの仕組みを誰が考えたかは定かでは無いが、全く良く出来ている。

???「全く、お前はいつまで経っても慣れねぇなぁ……」

ライアー「ひぇっ! ご、ごめんなさいっ!」


そしてその店主が、今ライアーへと声を掛けた大男である。
名をスティールという、元冒険者のハーフビーストだ。
短く刈り込まれた黒髪の間から、これまた黒々とした立派な牛の角を生やしている。
年の頃はそろそろ中年に差し掛かるかどうか。

現役の時分にはこの街一番の戦士との声も高く、厄介な魔物退治はスティールに、というのが当時の合言葉だったという。
今でも地元の人間からは多くの尊敬を集めているようだ。
……そのためにこの宿には討伐系の依頼が多く集まり、結果荒くればかりが滞在しているのだと気付いた時には、ライアーは内心で彼を恨みもしたものだが。

ライアーは今、この勇気ある牛角亭の従業員として雇われている。
誘いを掛けてくれた面倒見の良い少女、スティールの一人娘であるクーと共に掃除に洗濯に給仕にと忙しい毎日だ。

初めの内は良かった。
勝気な姉御肌のクーに引っ張られるのは記憶の中の姉を思い出して悪くない気分であったし、荒くれ共にもどこか遠慮があった。
スティールの妻が作る料理は思い出すだけで涎が溢れる逸品であるし、屋上の物干し場に届く海鳥の声はライアーの好みにピタリと合致した。
このまま宿の一員として生涯を過ごすのも悪くない。
本当にそう思っていた時期も確かにあった。


……が、それも長くは続かない。

ライアーの顔を見慣れた荒くれ者が豹変……というよりも、本来の姿に戻ったのだ。
誰かしらが喧嘩を始めて物が飛び交い、やれどちらが勝つかと即興の賭けが始まるのは毎夜の事。
完全に酔っ払った男がおもむろに脱ぎ始めて自慢げに全裸を見せ付ければ、そこから先は鍛え上げた肉体を披露しあうこの世で最も馬鹿馬鹿しい阿鼻叫喚だ。
酒が入らずとも尻を撫でるわ叩くわ抱き着くわ、ライアーは散々な目に合っている。
幸いなのはそこに性的な感情が一切感じられない事ぐらいだろう。
一般的な人間達の感性では、容姿は整っているが一目で人形と分かるオートマタは性の対象にはならない。
彼らはどうやらライアーが慌てふためく様を肴にしたいだけのようだ。

スティール「いいか? 連中はお前の反応を楽しんでるだけなんだからよ、毅然としてりゃいいんだよ」

ライアー「そ、そうは言いましても……」


実際、スティールもそう指摘し顔を近付ける。
その顔は……当然の事ながら元凄腕の冒険者にふさわしくむやみやたらと厳つい。
浅黒い額に深く刻まれた獣の爪痕らしき古傷は今もってグロテスクであるし、常に睨み付けているような目付きは威圧感に溢れている。
しっかりと剃られていない無精ひげも凶相を引き立てる。

ライアーは気圧されて仰け反り、びくびくとして反論もままならない。
そんなライアーへと、スティールは一枚の皿を突き出した。
乗っているのは魚が丸々一尾だ。
一切調理されていない、鱗もついたままの生魚である。

反射的に受け取ったものの、これは何なのか、どうすればいいのかと困惑するしかない。
そこへ、とんでもない提案がなされる。


スティール「お前の臆病さを直す特訓だ。 あいつの顔にブン投げてやれ」

男「お? 何だヤんのか? いいぜ、かかってこいよ!」


丸太のような腕を持ち上げてスティールが示す先にいるのは、先程ライアーの尻を叩いた男である。
話が聞こえていたのだろう。
挑戦的な顔で両腕を広げ、生魚の投擲を待ち構えている。


「おっ! ついにライアーちゃんの反抗期か!?」

「よっしゃ! やったれやったれ! そいつは前から気に入らなかったんだ!」

「しっかり狙いなさいよ! あの下品な口を生臭くしてやんな!」


それどころか、全ての席から囃し立てられる始末だ。
男も女も揃ってライアーに注目し、それ投げろさあ投げろとの大合唱。

ライアー「えっ、えっ……ええぇえぇぇ……」


こうなってしまえばライアーはもうどうしようも無い。
雇い主の指示と場の空気が「やれ」と彼女に命令するが、同時に事後の展開が悲観的に空想され手を止める。

ライアーに出来た事は、以下の三つのみ。
まず、ぷるぷると小鹿のように震える。
次に、皿の生魚、後方のスティール、標的の男、囃し立てる人々の順に繰り返し視線を巡らせる。
そして最後に、他の皿を運んでいた頼みの綱であるクーに助けを求める涙目を送る。
……ライアーにとって大変残念な事に、そのクーも苦笑いを返してくれただけだ。

クーはこの宿で育ったのである。
それも父であるスティールの数々の武勇伝を語り聞かされ、冒険者への憧憬を育みながら。
彼ら冒険者達のやる事にはどうにも甘い。
そうだ、こういう肝心な所で頼りにならないのだったとライアーは嘆きに嘆いた。

スティール「……ぷっ」


と、その途端背後から噴き出す音が聞こえた。
もしやと慌てて振り返れば、そこには顔を真っ赤に染めて笑いを堪えるスティールの顔が。
直視し、思わずぽかんと口を開けてしまったライアーが最後の一押しだったらしい。
スティールはカウンターを巨大な掌で叩きながら爆笑を解き放った。

そして始まるのは店内全域から弾ける大笑いである。
……初めからからかわれていたのだ。
彼らにはライアーの混乱が余程面白かったに違いない。
誰も彼もが笑いの発作を抑えられず、酒を呷る手を止めてまで大声を上げている。

ライアーはそっとスティールの手に皿を戻し、恥ずかしさから顔を両手で覆って俯く他無い。
その姿がまたツボだったのか。
笑いの波は一層激しさを増す。





ライアー(もう……もう無理ぃ……)


転職したい。
それも出来れば今すぐ、どこか遠くの町で。
この仕事は絶対に、もうどうしようも無く向いていない!

それが偽らざる、今のライアーの本音そのものであった。

……それから数日後。
いよいよ精神的に限界を迎えたライアーは店内の掲示板の前に立っていた。

酒場の片隅に設けられたそれには、何枚もの木札が掛けられている。
木札の表面には几帳面な字が並ぶ。
冒険者の宿に寄せられた依頼達である。
正確には依頼の内、特に期限が差し迫っておらず、特定の誰かに任せる必要も無い物となる。
請け負いたい依頼があればここから手に取り店主にその旨を告げれば良い、という形式だ。


クー「ねぇ、本当にやるの? 冒険者って結構大変な仕事だよ?」


隣から心配そうに声を掛けるのは、宿の看板娘のクーだ。
母親譲りの赤い癖毛と父親譲りの黒い牛角を持つその少女は、今年で16になる。
見た目の年頃が近いライアーを妹のように見ているらしい彼女は思い直すようにと説得したいようだ。

ライアー「う、うん……怖いけど、どうしてもお金を稼ぎたくて……」

クー「うーん……」


しかし、生憎とライアーの決意は固い。

もうこれ以上今の仕事は続けていられない。
どうしても転職する必要があるが、そうなると問題が一つある。
先立つ物が必要なのだ。
金である。

ライアーはこれまでの生活で自分の要領の悪さを思い知った。
臆病さが災いし、何をやるにも人より一歩二歩遅れてしまう。
そんな様では他の町を目指すにも時間がかかるだろう。
その間を食い繋ぐだけの金銭をなんとしても確保しておかなければならない。

宿で働いて貯めるというのは論外だ。
現在の給料は、言っては悪いが酷く安い。
寝場所と三食に加えて仕事用の衣服まで支給されているのだから当然と言えば当然だが、目標額を稼ぎ出すのは困難だ。
それこそ、蓄えが出来る前に心が死ぬ自信だけは山のようにある。

そこで思いついたのが冒険者稼業だ。
本来の仕事の合間に与えられる休日を利用して依頼をこなし、金を貯めるのだ。

クー「……はぁ。 仕方ないか、気持ちは変わらなさそうだし、お父さんも冒険者の道は塞ぐなっていつも言ってるし」

ライアー「う、うん、ごめんね、クー」

クー「もういいよ。 それにライアーって結構力あるから、意外と向いてるかもね」


渋い顔をしたままではあったが、クーはそう頷いた。
安堵し、ホッと息を吐いたのも束の間。
クーの顔は厳しく締まり、ライアーを睨み付ける。


クー「ただし、特別扱いはしないからね」

クー「依頼っていうのは勝手に沸いてくる物じゃない。 全部が全部、依頼人が居るのよ」

クー「自分で解決出来ないからどうかお願いしますって、大の大人が頭を下げて持ち込んでくるのを私はずっと見てきてる」

クー「失敗は許されないわ。 絶対に解決しなくちゃいけないの」


そうして、クーはこの宿のルールをライアーへと告げた。

ルール説明 -- 依頼について


依頼の失敗が許容されるのは一度までです。
二度目の失敗を犯してしまえば、以降そのキャラクターでの依頼請負は行えません。
つまりはゲームオーバーです。
ただし、突発的な不測の事態による失敗や、そもそも依頼の内容に不備があった場合はカウントされない事もあります。

依頼に失敗した場合、一度だけリトライが可能です。

依頼サンプル


1)畑に出没する害獣の駆除 --1

報酬 2500GP --2
難度 ☆☆☆ --3

毎晩畑を荒らす害獣の駆除をお願いしたい。
害獣の種類はイノシシ、大人の腰程までの体躯だった。
牙も巨体に見合う大層な物だった。
素人ではとても太刀打ち出来ない上に、逃げ足も速くどうにもならない。
一頭だけだから一度の被害は大きくはないが、このまま続けば作物は滅茶苦茶にされるばかりだ。

討伐に成功したら肉や毛皮は自由にしてくれて構わない。
どうかよろしく頼む。

----南西の農村の長 --4



1)
依頼の番号と簡略化された内容です。
特筆すべき点はありません。

2)
報酬の詳細です。
GPは通貨単位。
依頼によっては金銭の他に物品や権利が提示される場合もあります。
運勢の能力が高い程、難易度に対する報酬額が増加します。

3)
依頼の難易度は☆の数で表され、☆が多い程一般的に達成困難とされます。
ただし☆の数は主人公の能力は考慮されていません。
例えばこのサンプルの場合、主人公の筋力がEであろうとAであろうと、戦闘経験があろうとなかろうと、同じ数の☆が表示されます。
依頼難度は依頼に成功し続けると徐々に上昇していきます。

4)
依頼の詳細な情報です。
最も重要な情報はここに記されています。
このサンプルの場合、以下の事が読み取れます。

・討伐対象は巨体のイノシシが一頭のみ、強力な武器となるだろう牙を持っている。
・戦闘技能を持たない一般的な農民では話にならない強さ。
・逃走の可能性が高い。
・イノシシに損傷が少ない状態で討伐に成功した場合、追加報酬が発生する可能性がある。

つまり、ある程度の戦闘技能を修得していて、追跡か逃走阻止の手段を持ち、対象を少ない手数で仕留められる自信がある。
そういった人物には手頃な依頼となるでしょう。
勿論、事前に知恵を絞り入念な準備を整える事で技能不足を補う事も可能ではあります。

運勢の能力が高い程、主人公にとって有利な依頼が発生しやすくなります。

説明が終わり、クーはそっとライアーから離れた。

これからライアーは一人の冒険者新人である。
本来の仕事の合間だけとはいえ、この道を選んだのならば必要以上の忠告はすべきではない。
そういった決め事がクーの中にあるようにも感じられた。


再度掲示板へと向き直り、ライアーは依頼を吟味する。

今現在、ライアーには何の技能も無い。
人よりも力が強いとはいえ、初めから難しい依頼を選ぶのは自殺行為だ。

幸いにしてこの宿の人気は高い。
性質上討伐依頼が集まりやすい傾向はあるが、他種の依頼もしっかりと数はある。
現時点で達成が容易だろう物も、幾らかは見つける事が出来た。


その内の一つを、長い時間をかけて悩みぬいた末に、ライアーの指が掴み取る……。


1)迷子のペット探し

報酬 300GP
難度 ☆

我が家で飼っていた猫がどこかへ消えてしまった。
元々野良だった子だし余り心配はしていないのだが、息子の消沈振りはとても見ていられない。
町中を駆けずり回ったのにどうしても見つけられず困っている。
どうか探し出して欲しい。
全身の殆どが真っ黒で、足先と口の周りだけが白いのが特徴のメス猫だ。
人懐っこい子だから、見つけさえすれば捕まえるのはそう難しくないと思う。

----酒場通り 黄金の葡萄酒亭



2)屋根の補修

報酬 300GP
難度 ☆

我が家も随分ボロくなったものだ。
最近は雨漏りも酷い。
さっさと直してしまいたいのに、先日の大火事のせいで大工に頼んでも二月待ちだとか言われちまった。
どうしてもと言うなら特急料金を払えと来たものだ、全く冗談じゃない。
こうなったら素人仕事で良いから穴だけでも塞いでくれ。
念のため言っておくが急ぎじゃあないぞ。
ただ出来る限り早い方が良いってだけでな。
いいな? ワシは絶対に特急料金なんぞ払わんからな!

----町の東のアールデ爺さん ← クソジジイ!(クーの筆跡で殴り書かれている)



3)古い倉庫の整理

報酬 300GP
難度 ☆

この間思い立って倉庫の整理をしようとしたんだ。
ところがだよ、親父や爺さんが何十年とガラクタを放り込んでばかりだったものだから……とんでもない山になってるんだ。
半分もいかない内に僕は諦めたよ。
もういいじゃないか、これでも良く頑張った方だよってさ。
ただやっぱり、手を付けたままの半端だと気持ち悪いから誰か片付けてくれないかな。
何か使えそうな物があれば持っていってくれて良いからさ。
まぁ、本当にガラクタばっかりだから何か見つかるとも思えないけどね。

----港近くのパーリング家長男

請け負う依頼を選んで下さい。


>>↓2

深夜に↓2は無謀だった踏み台

ライアー「え、っと……これにしようかな」


ライアーが選んだのは倉庫整理の依頼だった。

候補となった三つの内で、最も追加報酬が期待出来る依頼だろう。
屋根の補修の依頼文はいかにも吝嗇家らしさに溢れているし、猫探しで追加報酬が出る展開は想像も出来ない。
今何よりも必要とされるのは金銭である以上、この選択は当たり前とも言える。
また、ライアーの筋力は人並みを少々超えている。
適正も問題無いだろう。

早速木札を取ったライアーは、カウンターへと移動しスティールへと提示する。


スティール「お、それにしたか。無難なとこだろうな、良い選択だ」

スティール「冒険者なんて大層な名前だけどよ、誰だって最初はそういう小さな依頼から始めるんだ」

スティール「いや、懐かしいな……俺も最初は街中を駆けずり回ったもんだぜ」


スティールも全く問題無いと判断したようだ。
いかめしい顔を縦に振り、口元を歪ませる。
笑いかけたのだと分かっていても怯えを沸き立たせる凶悪な面相にライアーが一歩引いたのはご愛嬌か。

依頼は問題無く受注出来た。
後は現場に向かい仕事を始めるだけ。

そっと胸の前で拳を握り、ライアーは小さく気合を籠める。
やれる、きっとやれる、問題なんて何にも無い。
そう自分に言い聞かせて宿の扉へと足を向けた。


スティール「あぁ、ちょっと待て」


が、そこをスティールが呼び止めた。
ライアーにしばらく待つようにと言い、物置へと入り何かを漁りはじめる。

やがて戻ったスティールの手には、一組の手袋が提げられていた。
しっかりした作りの革製の物だ。
多少の刃物ならばまるで通りそうに無い頼もしさが見て取れる。

スティール「いいか? 仕事ってのは前準備が八割だ」

スティール「考え無しに体一つで向かったってろくな成果は出ねぇ」

スティール「今回の場合はこれだな」

スティール「倉庫整理でガラクタの山と来たら何が転がってるか分からん」

スティール「ささくれ立った物があるかも知れないし、刃物が放り捨てられててもおかしかない」

スティール「最低限、両手を保護する革手袋はあった方が良いだろう」


放物線を描いて、革手袋は見事にライアーの胸元へと届く。
慌てて受け取ってみれば、やはり頑丈なのは間違いない。
スティールが言った通りの危険があったとしても、確かに守ってくれるだろう。


ルール説明 -- 依頼準備について


依頼を選択したならば、次は準備に取り掛かります。

必要となるだろう道具を揃える。
押さえておくべき情報を調査する。
共同で依頼を受けて貰えるよう他の冒険者に頼み込む。
などなど、出来る事は多いはずです。


依頼に必要な道具の内、一般的な物品については冒険者の宿から貸与されます。
これらを破損・紛失した場合、報酬額から実費が差し引かれます。

武具なども貸与の対象になります。
ただし全てが使い古しの上、品質は最低限でしかありません。
戦闘が必要な依頼を請け負う場合、可能な限り自分で買い揃える事を推奨します。

何の準備も無く依頼へ向かえば怪我をしていたかも知れない。
ただ傷付くだけなら良いが、もしそれが依頼達成に支障を来たす程であれば今のライアーにとっては正しく致命的だ。

手袋から微かに漂う異臭に目を瞑り、ライアーは頭を下げた。


スティール「おう、そんじゃ行って来い。 しっかりやってこいよ」


応援しているのか威嚇しているのか分からない。
そんな表情のスティールに背を向け、今度こそライアーは出立した。

本当は依頼終了までやりたかったんですが、流石に時間が時間ですね。
また明日にします。
おやすみなさい。

祝日万歳。
昼間っから始めたいですが良いですか?

ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



書きながらのんびり行きます。

町に隣接する竜食みの湾には砂浜のような地形は無い。
陸地が途切れる場所から、何の前触れも無く唐突に深い海となっている。
潜ってみれば、まるで崖のように見える事だろう。
それこそが竜が食ったと言われる所以でもある。

半円にくりぬかれた湾の中は豊かな漁場であるとクーは語っていた。
北と南、双方からの海流がちょうど合流する地点である事。
この辺りが一年を通して気候が穏やかであり、海の荒れも少ない事。
それらが生命を育みやすい環境を作っているのだそうだ。

百を優に超える種類の新鮮な魚は毎日市場に並び、干した物や塩漬けは特産品となって行商を呼ぶ。
お陰で同じ規模の町を幾つか挙げて比べれば、この町は特に裕福な位置にある。
大地を食らう竜は水の女神イ=リ・プラーハの御使いであったのだと語る者も多く、港の中央には蛇のような体躯の巨竜の像が佇んでいる。
早朝、漁に出る前に豊漁を願う漁師達が捧げる大声の祈りはここの風物詩の一つだ。

そんな湾に長く伸びた桟橋は計七つ。
既に日が中天近くに昇り、大半の船が戻っている。
ぎっしりと連なって停泊されている光景は中々の見ものかも知れない。


そんな港を横目に、ライアーは歩く。
今回の依頼の現場は港近くのパーリング家だ。
依頼人の曽祖父から三代続いた造船業で庶民としては少なくない財を築き上げた一家である。
残念ながら当の依頼人、四代目になるはずだった男が後継を拒否して芸術の道に走ったために廃業してしまったようだ。

ともあれ、名の知れた家だ。
土地勘に乏しくとも、道端で尋ねて探し当てるのは簡単な事だった。
勿論、気弱なライアーが実行するには相当な勇気を必要としたのだが。

ウィラハ「驚いたなぁ、まさか女の子が来るなんて」

ウィラハ「あ、いやいや変な意味は無いよ。 ただどうしても冒険者といえば大男を想像しちゃうものだからさ」

ウィラハ「それにしても、オートマタの女の子は初めて見たよ」

ウィラハ「うぅん、オートマタは皆精巧だけど、君はその中でも見事な作りだね」

ウィラハ「これはもしかしたら神様のお手製かも知れない……どうだろう、依頼が終わったら僕の絵のモデルになってみないかい?」


依頼人のウィラハ・パーリングは軽薄な雰囲気を漂わせる優男であった。
へらへらとした表情も、不躾に体や顔を観察する視線も、どうにも好感が持てない。
嫌らしさは感じられないが、そもそもの人格がまさしく軽く薄いという表現が似合うように思える。
ライアーとしては牛角亭の荒くれ達とは別の意味で苦手なタイプだ。

馴れ馴れしく迫るウィラハを押し留め、依頼に取り掛かれるようになるには随分と時間を無駄にしてしまった。



----性格及び知恵の不足による時間浪費が発生

案内された倉庫はそう大きくは無かった。
立派な屋敷を見た瞬間はこの依頼は失敗だったかも知れないと思った物だが、極一般的な規模でしかない。
話によると、使用頻度の多かったもっと大きな倉庫は造船所に隣接してあったそうだ。
そちらは既に人手に渡っており、パーリング家の所有には無い。
当たり前の日々の暮らしで出るガラクタを詰め込んだだけの物である。


ウィラハ「じゃ、よろしく頼んだよ。 ガラクタは庭で燃やしてくれて構わないから」

ウィラハ「燃えそうにない物は倉庫の隅にでも固めておいて」

ウィラハ「そうそう、欲しい物があったら持っていって良いけど、その前に一応見せてね」


そう言い残してウィラハは屋敷へと去っていく。
描きかけの絵があるらしく、今日はアトリエに篭るとの事だ。
ライアーを見張る者も、手伝う者も、ここには居ない。

天を見上げれば、日は既に中天を過ぎていた。
扉を開けて覗いた限りの印象では普通に進めていくと町が夕日に染まる頃には終わっているだろう。
急ぎ進めればまだ明るい内に、ゆっくりとやれば当然夜までかかるはずだ。



1)手早くさっさと片付ける

2)無理せず普通に進める

3)一つずつ調べながらゆっくりと片付ける


>>↓1

折角欲しい物は自由にして良いと言われているのだ。
ろくに調べもせずに片っ端から燃やしてしまうのは少々勿体無いだろう。
かといって長時間をかける必要があるかと言えばそれも怪しい。
いかに裕福な家であっても、所詮は倉庫に放り投げておいただけのゴミの山だ。
無理せず、当たり前のペースで進めていくのが無難と言える。

そう判断したライアーは倉庫の扉を開け放ったまま固定し、作業に取り掛かった。
しっかりと革手袋を装着し、手近な山を崩し始める。

主な構成物は使い古しの家具のようだ。
木製のそれらは一部が激しく破損していたり酷く痛んでいたりとまるで使い物になりそうに無い。
当然、中にはささくれ立ち鋭いトゲとなっている部分もある。

それを見て、ライアーはスティールの助言に感謝した。
もし革手袋の貸与が無ければ慎重な作業が要求され時間を浪費していただろう。
勿論、怪我を負っていた可能性も小さくない。



----事前準備により不利なイベントを回避しました。

作業は順調に進んでいく。

最初の家具の群れは全て火に包まれた。
大物はどうやらこれで全部だ。
残りは細々としたガラクタだけらしい。

日はまだまだ傾ききっていない。
家具はどれもそれなりの重量があったが、見た目よりも随分と力の強いライアーにとっては問題にならない程度であった。
多少休憩を挟んでもまだ余裕がありそうである。


----筋力が要求水準を超えています、作業時間が短縮されました。

ライアーは家具を燃やす火が延焼を起こさないよう見張りつつ、しばしの休憩を取った。
ふぅ、と息を吐いて座り込み、持参した水筒を呷り渇きを癒す。
不安のあった初仕事だが、どうやらこの分では極当たり前に終わりそうだ。

……と、その時。
安堵に頬を綻ばせたライアーの目に少々残念な光景が映ってしまう。
壊れたタンスの中から顔を覗かせた何かに、ちょうど火が燃え移る所であった。

どうやら絵画である。
色鮮やかな油彩で描かれているのは港だ。
朝焼けに染まる海へと向かう何艘もの船を、子を連れた母親が手を振って見送っている。
素人目にも美しいと分かる、この町の日常を留めた一枚だ。

それはライアーが何かをする暇も無く燃えてしまった。
落胆を禁じ得ない。
もしこれを持ち帰る事が出来たならば、十分な追加報酬となった可能性もあっただろう。



----選択肢により、追加報酬の一部が焼失しました。

少々落ち込みながらも、ライアーは無難に整理を進めた。

残っていたのはどれも大した品では無い。
大きくバツ印で消された失敗作らしい船の設計図。
錆びてボロボロの今にも崩れそうなナイフ。
ほつれにほつれ使用には不安しか感じられないロープの束。
見つかるのはそんな物ばかりだ。

幾らかはまともな品も見つかったが、やはりガラクタの域を出ない。
一番マシな物が3ページだけ記された古い日記だったという辺り、もうどうしようも無い。
製紙の手法は鋼と叡智の神によって人間の世界に広まって久しいと、生誕時に刻まれた常識にある。
口が裂けても貴重とも高価とも呼べはしない。


ウィラハ「ははは、何だよ爺さん、あんなに厳しい事言ってた癖に」

ウィラハ「自分だって日記を三日で放り投げてるんじゃないか全く!」

ウィラハ「あぁ、別に持ってって構わないよ、大した事が書いてある訳でも無かったしね」

ウィラハ「それよりもまだ時間ある? 本当に僕に描かれてみない?」


追加報酬の交渉も当たり前に治まった。
日記は3ページだけが切り取られ、白紙の本としてライアーの私物になる。
後は適当に雑貨屋にでも持ち込めば二束三文にはなるだろう。

それで依頼は終わりだ。
しつこく迫るウィラハを苦労して振り切り、ライアーは逃げるようにパーリング家を後にするのだった。


---- 報酬獲得


基本報酬 300GP
追加報酬 20GP(古びた日記の売却)
特殊報酬 無し

初依頼をこなした次の休日。
ライアーは与えられた自室……使っていなかった物置にベッドを突っ込んだだけのそこで、報酬を前に悩んでいた。

しめて320GP。
全くもって多いとは言えない金額だ。
ライアーが求める額にはまだまだ及ばない。

雑用の依頼は達成が簡単だが、その分報酬が低いのは当たり前の事。
大きく稼ぐにはやはり実入りの良い討伐や採取を行う必要がある。
町の外へ向かう依頼には今回の十倍以上を一度に稼ぐ物もゴロゴロしているのだ。
しかし、そのための技能をライアーは一つたりとも習得していない。

やはり、この報酬を足がかりとする他は無さそうだ。
金を払って訓練を受け、技能を覚えるか自身を鍛えるかした方が良い。


そうと決まればと、ライアーは腰掛けていたベッドから立ち上がった。


ルール説明 -- 能力強化について


稼ぎ出した報酬を用いて主人公の強化を行う事が出来ます。
主な強化内容は以下の通りです。


1)武装の更新

武器や防具をより上質な物に変更します。
最大で三段階強化でき、段階が上昇する度に要求金額が増加します。
大きく戦力を強化する手段ですが、戦闘で苦戦し武具が激しく損傷すると強化度合いが低下するリスクがあります。
これを選ばずとも、最低限の品質の武具は冒険者の宿から貸与されます。


2)能力の上昇

トレーニングや改造を受け、主人公の基礎能力を強化します。
一回毎の効果は小さいですが、一度上がった能力は決して下がらず、適用範囲が広いのが特徴です。
また、強化回数に関わらず要求金額が一定です。

キャラメイク時にC+以上だった能力は上がりやすく、D-以下だった能力は上がりにくくなります。


3)技能の習得

専門の訓練を受け、主人公に技能を習得させます。
一回毎の効果は中程度で、一度覚えた技能は決して忘れませんが、技能から僅かにでも逸れれば何の効果もありません。
例えば、剣術を習得しても剣を持たずに戦闘に向かえば技能補正は一切受けられません。
また、強化回数に関わらず要求金額が一定です。


4)信仰の深化

神に供物を捧げ、信仰を深めます。
捧げ物の対価は新たな魔法となって返ってくるでしょう。
また、魔法を使用出来る回数も増えるはずです。
スーラーワデルを信仰している場合は、魔法に対する耐性が強化されます。

効果はどの神であっても大きな物です。
ただし、一度強化する度に要求額が大きく増加します。
捧げ物をせずとも、深まった信仰が失われる事はありません。

ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv1

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



1)武装の更新 500GP (選択不可)

2)能力の上昇 300GP

3)技能の習得 300GP

4)信仰の深化 500GP (選択不可 値引き済み)

5)強化を行わず、貯金しておく



強化内容を選択して下さい。

>>↓1

このお金は自身の能力を鍛えるために使おうと、ライアーは決めた。
技能を覚えるのも良いが、まずは基礎を固めておくのも重要だ。
さて、鍛えるにしても何を鍛えるかを考えなければならない。
何も考えず無軌道に鍛錬を積んだ所で、きっとろくな結果にはなるまい。



ルール説明 -- 能力の上昇

能力の上昇では1~2つの能力を鍛える事が出来ます。
2つ同時に上昇させる場合は、要求金額が倍になります。
キャラメイク時にC+以上だった能力は上がりやすく、D-以下だった能力は上がりにくくなります。


筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E
器用 C+
運勢 C



上昇させる能力を選んで下さい。

>>↓1

フーヴェル「では、授業を始めます。 皆さん、今日もよろしくお願いしますね?」


とある民家の一室で行われているそれは、様々な生活の知恵を教える教室だった。
教鞭を取るのは熟練の主婦にして講師のフーヴェル夫人。
肉感的なヒューマンの中年女性である彼女は良妻の鑑としてご近所で評判だ。

うだつの上がらない駄目男だったという彼女の夫は、結婚以来見違えるように立派になったという。
魚を扱う商会でめきめきと頭角を現し、重鎮の一人となっている。
「全ては妻のお陰だ。彼女が居なければ今頃私はボロ小屋で寒さに震えるばかりだっただろう」
そんな夫は酒が入る度にしみじみとそう語るのだそうだ。


ライアーはまず己の頭をどうにかしなければならないと決意した。
そもそもとして、冒険者の宿での立場の弱さも要領の悪さが原因と言える。
もっとしっかりした対応が出来ていれば、今のように追い込まれる事も無かったのだ。

そう考えてクーに相談した所、紹介されたのがこのフーヴェル夫人の教室だ。
たかが主婦の知恵、などと馬鹿にした物では無い。
実践的な値引き交渉、隣人との良好な関係を築き上げる方法、人を持ち上げやる気にさせる話術。
こういった物はまさしくライアーが今必要としている物に違いない。


ただし、必要だからといって身に付くとは限らない。

フーヴェル夫人の教室は実践形式の物だ。
少々の座学を経た後、夫人を相手として実際に交渉や会話を行っていく形となる。
その時点でライアーにとっては荷の重い物だった。

教室に参加しているのはライアーを除いて六人だ。
必然的に、ライアーの番となると六対の視線に晒される事となる。
内気で気弱で引っ込み思案。
その上頭も要領も悪いライアーはたちまちに頭が真っ白になってしまうのだ。


……そうして、気付けば授業は終わりを迎えていた。
夫人を相手に何を話したかもまるで覚えていない。
燃え尽きたように沈み込むライアーが気付いた時にはもう誰もおらず、ただ夫人に慰められるばかりだった。

何の役にも立たなかった訳では無い。
が、残念ながら大きな成果があったとも言いがたい。

ライアーが確たる成長を実感するには相当な時間を夫人の教室に費やす必要があるだろう。


-- 能力成長

300GP を消費しました。

知恵 E → E+

冒険者「ようライアーちゃん! 今日もかったいケツだなぁ!」

ライアー「うひゃぁ!」


スパァン!
と、今日もまた恒例の音が酒場に鳴り響く。

依頼をこなし、フーヴェル夫人の教室を体験してみたものの、ライアーの生活は何一つ変わっていない。
今までと同じく冒険者達にからかわれる毎日だ。
心は落ち込むばかりでライアーは徐々に追い詰められている。

が、別に悪い事ばかりでも無い。
最近ではほんの少しだが助けが入るようになったのだ。

冒険者「いってぇ!」

クー「毎日毎日ケツケツケツ! いい加減しつっこいのよアンタ!」


ライアーの尻を叩いていった冒険者が尻を抑えて飛び上がる。
クーが蹴りを入れたのである。
どうやらようやくだが、ライアーが本気で嫌がって落ち込んでいる事に気付いてくれたらしい。
時折クーが代わりに報復を行うようになった。
あるいは、ライアーが冒険者の仕事を始めた事で彼女の中で序列に変更があったのかも知れない。

元凄腕冒険者たるスティールの一人娘に強く当たれる者は中々いない。
お陰でライアーが受ける被害は少しばかり減っている。
今蹴り上げられた男のように懲りない者も多いが、救いである事は間違いない。

ブツブツと不満を漏らして席に向かう男の背中に、クーのドスが利いた声が投げられる。
諦めたように苦笑して両手を挙げる男は少なくとも酒が回るまでは大人しいだろう。

ライアーに与えられた猶予は多少伸びた。
これが続いてくれるならば、まだ当分の間は心ももつ。

クーに頭を下げて礼を言い、仕事に戻る。
今日もまた夜の酒場は乱痴気騒ぎになるだろう。
出来る仕事は彼らがまだ静かな内に片付けておかなければ後々に障りが出る。
そう考えて慌しく、ライアーとクーは酒場を走り回るのだ。


ルール説明 -- 日常生活について


町の中で極普通の生活を送ります。
依頼と依頼の合間、束の間の休息に当たります。
誰かと交友を深める事が主な利用法となるでしょう。

交友関係の状況により、依頼や訓練に関する有利を引き寄せられる場合があります。
例えば宿の経営者達と関係が深まれば美味しい依頼を紹介してくれるかも知れません。
訓練講師との仲によっては訓練費用を値引きしてくれる事も有りえるでしょう。

過去の依頼でやり残した事、気になる事があれば依頼人を訪ねてみるという手もあります。
何がしかの成果を得る可能性は決して小さくありません。

また、必ず誰かに合わなければならないという事はありません。
ただゆっくりと体を休める事も可能です。
その場合、次回の依頼時に体力と精神状態に多少のボーナスが与えられます。


翌朝、ライアーは依頼へ向かう冒険者達を見送り一息を吐いた。

今日は宿の仕事が少ない日である。
洗濯は昨日の内に済ませてあるし、珍しく酒場の汚れも少なく清掃にもそう時間はかかるまい。
依頼をこなすような時間の余裕は勿論無いが、ちょっとした自由行動には十分そうだ。

さて、それでは何をしようか。
ライアーは僅かに頬を綻ばせ、一日の予定に思いを馳せた。



交友状況

スティール(宿の主) ☆
スティールの妻    ☆
クー(宿の看板娘)  ☆

フーヴェル夫人


過去の依頼人

ウィラハ・パーリング(倉庫整理)



予定を決定して下さい。


>>↓1


ライアー「ね、ねぇクー。 そんな、そこまで言わなくても……」

クー「いいのよあんな奴! なよなよヘラヘラしてて本当気持ち悪いんだから!」

クー「私にも散々言い寄ってきたけどライアーにもだなんて! あぁもう、やっぱりもっと止めておけば良かった!」


怒り狂うクーを前に、ライアーはおろおろと困惑するばかり。
話題は前回の依頼人であるウィラハ・パーリングについてである。
どうもクーはあの軽薄な画家を毛嫌いしているらしい。


ライアーは空いた時間をクーとの雑談に費やす事とした。
現状、ライアーの知人の中では最も話しやすい相手だ。
気が重いばかりの日々で癒しを探すとすれば彼女となるのは当然の成り行きと言える。

その流れで初依頼の話になるのもこれまた自然。
が、ついつい絵のモデルになるよう迫られた事を漏らしたのはどうやら失策のようだった。


クー「いい? 何を言われても絶対頷いちゃ駄目よ?」

クー「私知ってるんだから! あいつが仲良くなったモデルに何するのか!」

ライアー「えっ……な、何? 何か変な事されるの?」

クー「……友達から聞いた話なんだけどね、最初は普通の絵なんだって」

クー「腕は確かだし綺麗に描いてくれるからって気を良くして通ってたら、三枚目で……」


そこでクーは咳払いし、軽薄そうな表情を作ってライアーの頬に手を当てた。
どうやらウィラハの真似であるらしい。


クー「僕の見た所、君は服を脱いだ方が美しいと思うんだ」

クー「どうかな? 次の絵は裸婦画にしてみないかい?」

ライアー「うっ……」


悪意たっぷり。
粘り付くような嫌らしさ塗れの誘いに、ただの演技だと分かっていてもライアーは思わず嫌悪感を抱いた。


クー「こういう奴なのよ、あいつは。 人畜無害そうな雰囲気なんて作り物なんだから」

クー「絶対に誘いに乗ったら駄目よ、いいわね?」

ライアー「う、うん……絶対行かない、うん、本当に絶対」

クー「ん、なら良し」


嫌悪感とクーの剣幕に、ライアーは実際にそう決意した。
絵のモデルは論外だ。
もしまたパーリング家を訪ねる事があっても、それだけは断らなければならない。

しかし、ライアーはそう頷いてもクーの愚痴はまだ続く。
余程彼に対し隔意があるようだ。


クー「それに、他にも気に入らない所があるのよ」

クー「パーリングさん……あぁ、あいつのお父さんのクラッブ・パーリングさんの事ね」

クー「パーリングさんは本当に凄い職人だったのよ」

クー「魔法を使った船造りが得意でね、あの人が作る船は本当に凄かった」

クー「私も小さい頃に一回だけ乗った事があるわ」

クー「海の上を馬よりずっと早く走るの……舳先が波を割って上がる飛沫が雨みたいに降ってくるのが本当に楽しかった」

クー「だっていうのに、あいつのせいで……」


そこから先はライアーも一度軽く聞いた話だ。

ウィラハはクラッブの後を継がなかった。
後継を真っ向から拒否し、芸術の道を選んだのだ。
クラッブの反対は苛烈を極めた。
パーリングの屋敷には罵声が絶えず、親子の確執は数年にも及ぶ。

……やがて、クラッブはそんな生活に疲れたのか。
突然に得た病であっさりと神の御許へと旅立つ事となる。


新型船の技術はそこで絶えた。
設計図はクラッブの頭の中にだけあったという。
最早誰にも作り方が分からず、たった二隻の高速船は領主の手に渡り埃を被るままだ。

パーリング家のろくでなし。
親の恩に仇で報いた馬鹿息子。
そんな評価がウィラハへは向けられている。
絵の腕が確かで平然と裕福な暮らしを続けられている事も、町の人々の癪に障るようだ。


ライアー「クー、クー。 もう、やめよう? 折角の休憩なのに……」

クー「あー……そうね、こんな話してても気分悪いだけだし」


ごめんごめん、とクーは角の付け根を掻いて苦笑した。
それにライアーは安堵する。
嫌な話はこれで終わりのようだ。

パーリング家の依頼はもう終わっている。
わざわざ自分から関わりに行かない限りは関係の無い事である。


クー「あ、じゃあそういえばさ、ライアーってここに来る前はどうしてたの?」

ライアー「ここの、前?」

クー「うん、ここの前。 どこの町に居て、どんな仕事してたのかなって」


そう言われて、ライアーは少々困った。

ライアーにはここの前というのは……あると言えばあるが、無いと言えば無い。
森の中で暮らし、そして人間に滅ぼされた過去の記憶を保持しているが、ライアー本人が過ごした人生とは言いがたい。
そもそも、そんな血生臭い最後を語るのは気が引ける。
それに嫌な話が終わったのにまた嫌な話をする事にもなってしまう。

植えつけられた常識では、現代でのオートマタは古い遺跡の中で唐突に目覚めて動き出すという事になっている。
町に近い遺跡の中で生まれたばかり。
そう答えてしまうのが一番無難だろうかとも考えられるが……。



どう答える?

>>↓1


ライアー「えっと、私は最近目覚めたばかりだから、前っていうのは無いかな」

クー「え、あ、そうなの? やっぱりどこかの遺跡で?」

ライアー「うん、この町の近くの……」


ライアーはそう答えた。
考えた通り、嫌な話に持っていく事も無い。
無難に事を終わらせるのが最も賢いはずだ。

ただ、それを聞いたクーの反応は予想外の物だった。


クー「……嘘、あの遺跡に隠し部屋?」

クー「もう何十回も調べられて、何も無いはずだったのに?」


ぽかんとした表情がクーの驚愕を示している。
無難な選択。
そう思っていた返答はどうやら思いがけない結果を引き寄せたようだ。


クー「こうしちゃいらんないわ!」

クー「どうしようどうしよう、父さんに相談しないと!」

ライアー「え、ちょ、ちょっとクー、どうしたの?」

クー「どうもこうも無いわよ! 新しい依頼になるわ!」

クー「上手くいけば領主様主導の遺跡再調査よ! とんでもないボロ儲けだわ!」

クー「あーもーライアー最ッ高! うちに来てくれて本当にありがとう!」


喜色満面。
一瞬にして上機嫌になったクーはライアーの手を引いて立ち上がった。
そのまま走り出し、スティールが居るだろう酒場のカウンター目掛けて暴走を開始する。

……束の間の休息はこうして終わる事となる。

クーの話を聞いたスティールは、きっと正気を無くしライアーへと迫る事だろう。
そんな予想は簡単に思い描けた。
そして、ただの予想に恐れを抱いて涙目になる事も、ライアーには実に簡単かつ日常茶飯事なのだった。


日常生活 結果


クーとの交友 ☆ → ☆☆

特殊な依頼が発生する可能性が高まりました。


TURN -- 1  RESULT


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E → E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv1

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



依頼結果 成功

所持金額 0GP → 320GP → 20GP


ルール説明 -- ターンの流れ


依頼選択 → 依頼準備 → 依頼解決 → 能力強化 → 日常生活

この一巡で1ターンとなります。
日常生活が終われば依頼選択に戻ります。
これを繰り返し、主人公を成長させていきましょう。

成長が一定の水準を超えるとイベントが発生し、ゲームクリアへの道筋が示されます。
それまでに依頼を二度失敗するか、主人公が完全に死亡するとゲームオーバーとなります。

夕飯時なので一旦終了です。
夜のテンションによってはもう1回更新するかも知れません。

ちょこっとやります。


TURN -- 2 START


ここ数日の勇気ある牛角亭は稀に見る熱気の中にある。

スティールとクーは見るからに上機嫌だ。
領主との交渉は順調であるらしい。
冒険者達も常よりも熱心に依頼をこなし、彼らへのアピールを行っている。
ライアーにとっても嬉しい事に酒量も控え目だ。
見境無く暴れる事はありませんよ、領主様の依頼でも失礼はしませんよ、と言いたいのだろう。
今更だと思わなくも無いが、変に水を差して元通りになられても困ると口を噤んでいる。

それもこれも、遺跡の再調査依頼のためだ。

古代の遺跡は現代の人間達とは一線を画した技術で満たされている。
人間が近づいただけで音も無く開く扉。
燃料が全く不明のまま熱を伴わない光を放つ照明。
侵入者を尽く殺害する正体不明の空飛ぶ鉄塊。
こういった超技術が大陸中の遺跡には眠っている。

これらの解析に成功し万一再現に成功したならば生まれる富の量は想像も付かない。
また、時には超技術を宿した道具が見つかる事もあり、それも屋敷が買えるような値で取引されるそうだ。
故に遥か昔から数多の夢追い人が遺跡の探索を試みてきた。
どうやらここの領主もそういった人間の一人のようだ。


牛角亭の面々は別に遺跡の解析に興味がある訳では無い。
彼らは実に分かりやすく金目当てだ。
領主は遺跡探索に金を惜しまない。
正式な依頼となってしまえば、報酬額は他の依頼とは桁が違ってくるのだという。

実に実に美味しい依頼だ。
何せライアーが目覚めた遺跡は、少なくとも表層部は完全に調べつくされている。
殺人鉄塊など影も形も無く、罠の類も見つかっていない。
遺跡らしい超技術も稼動しておらず痕跡ばかりが見つかるだけ。
既に死んだ遺跡なのだと見捨てられていたのだ。

それが今更隠し部屋が見つかった所でそう危険は無いはずだとの楽観が彼らにはある。
つまり最小の危険で莫大な金銭を得られる好機である。
沸き立たない訳が無かった。


ライアーとしても、可能ならば是非参加したい所だった。
僅かでも関わる事が出来れば目標額はただの一撃で貯まるに違いない。

しかし、残念ながら今はまだ実績が足りていない。
遺跡探索は行商の護衛や魔物の討伐と並ぶ高難度依頼だ。
駆け出しも良い所のライアーにどうこう出来る話では無い。

ただ、希望は無くも無い。
ライアーはその遺跡で生まれたオートマタなのだ。
最低限の実力を身につけさえすれば声がかかる可能性もある。


そのために必要なのは、やはり地道な下積みだ。
一つ一つ依頼をこなして進んでいくしかない。

ライアーは珍しく高揚する心を胸に、依頼掲示板へと向き合った。


1)魚具の修繕

報酬 500GP
難度 ☆

全くもって憂鬱な事に、今年もこの時期がやってきた。
漁に使ったロープや網の手入れをせんといかんのだが、これがまた手間なんだ。
とても俺一人じゃやってられん。
こういう時は嫁さんが居る連中が心底羨ましいぜ……。
あぁいや、ともかく誰か手伝いを頼む。
出来る限り手先が器用な奴だとありがたいね。

----寂しい漁師のアーンヴァル



2)新薬の試験

報酬 700GP
難度 ☆

やあどうも、いつもお世話になってるね。
普段は薬草採取をしてもらってるけど、今日はちょっと一風変わった依頼なんだ。
実は去年新たに見つかった素材から画期的な薬が出来上がってね。
理論上は一時的に感覚器の働きを強める事が出来るはずだ。
ネズミとブタを使った実験では今の所成功してるんだけど、肝心の人間はどうかが不明だと困るだろう?
種族も性別も年齢も不問で、誰かに実験台になって欲しいんだ。
これは実際美味しい依頼だと思うよ、何せ失敗が無い。
薬を飲んでどうなったかを教えてくれれば良いだけなんだからね。
もっとも体に全く悪影響が無いとは言い切れないが、なぁにどれ程運が悪くとも死ぬ事だけはあるまいさ!

----変人薬師のアクティフ老



3)小屋の取り壊し

報酬 450GP
難度 ☆

昔使ってた馬小屋なんだけど、いよいよもってもう駄目みたいだ。
あちこち軋んで今にも崩れそうで危なっかしいったら無いんだよ。
壊したい所なのに最近はほら、大工の手が足りてないだろう?
そこであんたら力自慢の出番さ。
もうこれ以上崩れようが無いってぐらいぶっ壊しちまっておくれ。
後片付けは別に構わないよ。
どうせ全部木なんだから、薪の代わりにでもするからね。
あぁそうそう、小屋の中にいつの間にか犬だか猫だかが住み着いてるみたいでね。
そいつを追い出すのを忘れないでおくれよ。
巻き込まれちまったら流石に可哀想だ。

----町外れのミュールおばさん

請け負う依頼を選んで下さい。


>>↓2

熟考の末、ライアーが選んだ木札は漁具の補修依頼だった。
依頼文には手先が器用だとありがたいと書いてある。
ならばうってつけという物だろう。
頭が足りず要領は悪いが、指先の正確さは人並み以上の自信はある。


スティール「ふむ。 まぁ今回も無難なとこだろ」

スティール「依頼を選ぶ目はあるみたいだな、良いことだ」

スティール「……正直、金に目が眩んでアクティフ爺さんの奴を選ばないか心配してたんだ」

スティール「普通の薬だとまぁ真っ当なんだが……爺さんの新薬はおっかなくてなぁ……」

スティール「ま、それはいいか。 今回もしっかりやってこいよ」


前回と同様、スティールの太鼓判も貰えた事だ。
しっかりと内心で気合を入れ、依頼の準備に取り掛かる。


依頼のためにするべき準備があれば実行できます。


>>↓1

意気揚々と現場に向かったライアーであったが、どうも気合が入りすぎていたようだ。
港の中、作業小屋が並ぶ一角に到着したのだが依頼人の姿はどこにも見当たらない。
考えてみれば今は朝も早い。

漁師達はまだ海から戻っていないのだろう。
何人かの漁師の妻らしき女達が作業に当たっているのみだ。
やはり宿の熱気の影響か。
ライアーのやる気は少々空回りとなったようだ。

思わず肩を落とし、ため息を漏らしてしまう。


女「ん? あんた見ない顔だね。 何か用かい?」


と、そこへかかる声があった。
作業に当たっていた女性である。
良く日に焼けたヒューマンの彼女は肌つやが良く、普段から良い物を食べているだろう事が伺える。

突然話しかけられたライアーはオドオドとしながらも、素直に事情を話した。
すると、女性はにっこりと笑いかけ、続ける。


女「それならちょっと勉強していくかい?」

女「修繕はやった事無いんだろ? あたしが教えてあげるよ」


それは願ってもない申し出であった。
ライアーは手先が器用ではあるが、物事の飲み込みが悪い。
作業を覚えてしまえば上手くやれるだろうが、そこまでが長いという事だ。
それを事前に解消しておけるというならばこれ程ありがたい事も無い。


ライアー「その、ご迷惑をかけるかも知れませんけど……良ければ……」

女「なぁに、最初は誰だってヘタクソさ! 気にしたりしないよ!」

女「さ、こっち来て座りな! 一からキッチリ仕込んであげるからね!」


ニッカリと笑った女性は、本人の言葉通り嫌な顔一つせずライアーに付き合った。
どれ程失敗しても根気強く付き合い、作業手順を覚えこませていく。
日が高く昇り、沖から船が戻る頃には随分ライアーの手際も良くなってくれた。


女「よしよし、もう十分そうだね」

女「これならあいつだって文句の付けようが無いだろうさ」


女性はライアーの上達にすっかり機嫌を良くし、良くやったと肩を叩く。
努力を認められれば当然悪い気はしない。
ライアーも珍しく朗らかな気持ちで感謝を述べる事が出来た。



----事前準備で知恵の不足を完全に補いました。

女「あぁ、ちょうど帰ってきたみたいだね」

女「あんたの依頼人ってのはあいつだろ?」

女「この町で嫁も娘も居ない漁師なんてのはあいつぐらいだからね、分かりやすいさ」

女「お、うちの親父も戻ったみたいだ、じゃああたしはこれで。 頑張りなよー!」


女性はそうして父親らしい男性の船へと歩み寄っていく。
頭を下げて見送ったライアーもまた、依頼人へと挨拶へ向かった。
スティールから聞かされた特徴と、船上の男は完全に合致している。
おそらく間違いは無いだろう。

……それにしても独身の漁師が一人だけとは。
それだけこの町の漁場が豊かという事なのか。
あるいは寂しい漁師の名が伊達では無いという事なのか。
どう思えば良いのかと、ライアーはどうでも良い事を考えていた。

今晩はここで切ります。
お疲れ様でした。

始めていきます。
よろしくお願いします。


依頼人はドワーフの男であった。
名をアーンヴァル。
ずんぐりむっくりとした典型的なドワーフ体型で、手足は太く短い。
まさしく樽のようなという形容がぴったりだ。

アーンヴァルを見た者が第一に抱く感想は、小汚いといった物だろう。
髪もヒゲも伸ばし放題のボサボサ。
一般的なドワーフのように毛を編んでいるような事も無い。
ほぼ半裸と言って良い上半身も印象はほぼ同様だ。
縮れた胸毛や腕毛が全体を覆っている上に、こびり付いた謎の汚れが黒色の斑点となって散らばっている。
ツンと鼻に来る強烈さの体臭もそこに加わるとなれば、なるほど女っ気が無いのも頷ける。

もっとも、牛角亭の荒くれ共も同じような物である。
いい加減見慣れつつあるライアーが殊更そこを嫌悪する事も無かった。


アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」

アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」


……そんな彼と共同で進める作業は無闇矢鱈と気まずい物だった。
空気はどこか張り詰め、正体不明の緊張感が場を支配している。

原因はアーンヴァルだ。
どうやら極度の口下手らしい彼は、ライアーとまともな会話を行えていない。
船へと挨拶に向かったライアーとアーンヴァルが交わした言葉を、そのまま記すと以下のようになる。


アーンヴァル「あ、あんたが……今日の、その、アレか?」

ライアー「は、はい、牛角亭から来ました。 よろしくお願いします」

アーンヴァル「……お、おう」

ライアー「…………」

アーンヴァル「…………その、なんだ……分かるか?」

ライアー「……えっ?」

アーンヴァル「修繕……やり方だ」

ライアー「あ、はい、一応は……」

アーンヴァル「………………そ、そうか」

ライアー「…………」

アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」


それ以降は完全な無言だった。

無言の理由が単にライアーに興味が無いというだけならば良かった。
それならそれで静かに修繕を済ませてしまえば良いだけなのだから。
むしろライアーとしては会話の必要が無いというのはプラスに働いたに違いない。

が、残念ながらそうも行かない。
アーンヴァルは実に分かりやすくライアーを気にしている。


ちら、とライアーは体五つ分は離れた隣に座るアーンヴァルへと僅かだけ視線を向ける。
すると横目で観察していたらしいアーンヴァルはギクリと体を震わせ、慌てて目を逸らした。
そして驚く程大きな咳払いを二つ三つと続け、何事も無かったかのように取り繕い作業に戻る。

……ちなみに、作業開始から数えて七回も同じ事を繰り返している。
ライアーは徐々に胃の痛みが増していくのを自覚していた。


幸い、事前に女性から教えられたお陰で作業自体は順調だ。
このまま続けていったとしても問題無く依頼は終わるだろう。
同時に、気まずさに耐えかねて口を開き空気の打開を図ってみる余裕もまた、ライアーには存在する。

勇気を振り絞って話しかけてみるべきか。
それとも余計な事はせず口を噤んでおくべきか。
ライアーはしばし逡巡した。



---- 行動選択、話しかける場合は話題を指定して下さい。

>>↓1


ライアーは完全にこの空気に耐えかねた。
重苦しい無言が続くぐらいならば玉砕覚悟で行動を起こそうと決意する。

勿論、気弱なライアーにとってこれは容易い事では無い。
深呼吸を繰り返す事四度。
更に話術の講師であるフーヴェル夫人の姿を思い描く事六度。
それでようやく口を開く事が可能となった。


ライアー「……あ、あのぉ」

アーンヴァル「!? な、なんだ、何かあったか」


突然のライアーの声に、アーンヴァルは大袈裟に反応した。
網の穴を塞ぐために動かしていた両手は中途半端に掲げられ、宙を彷徨っている。
この警戒振りに思わず泣きたくなったライアーだが、必死に涙腺の動きを抑え続きを口にする。


選んだ話題は彼の仕事に関してだ。
これはフーヴェル夫人の教えの一つである。


フーヴェル夫人「良いですか? 困った時は相手に趣味の話をさせましょう」

フーヴェル夫人「自分の趣味をつまらないと感じる人間なんて居ないのです」

フーヴェル夫人「趣味に心当たりが無ければ仕事についてが無難ですね」

フーヴェル夫人「飛び出すのが自慢であれ愚痴であれ、人となりがそれで分かりますから」


相手が何に喜び、何を誇りとし、何を悲しむか、まずはそれを知る事。
後はそれを決して忘れずに居るだけで人間関係はおおよそ上手く運ぶのだと夫人は言った。


アーンヴァル「……あ、あぁ……そうだな、うぅん」

アーンヴァル「漁師……ってぇのは……大変な仕事だ」

アーンヴァル「体が丈夫で、力があれば、誰でも出来る……なんて、言う奴もいるがそんな事はねぇ」

アーンヴァル「……少なくとも、そんな言葉を吐ける馬鹿にこなせる仕事じゃない」


そしてどうやら、その試みは功を奏したようだ。
アーンヴァルの口からは次々と言葉が漏れ始める。
始めは途切れ途切れだったが、それも徐々に淀みが消えていく。


アーンヴァル「漁師は海だけ見れば良いってもんじゃねぇ」

アーンヴァル「空に雲がどれぐらいあるか、風がどんな角度で吹いているか」

アーンヴァル「飛んでる海鳥の数もそうだし、朝焼けがどんな赤さだったかも気にせにゃならん」

アーンヴァル「全部が全部観察して計算して、どこに網を入れるか決める」

アーンヴァル「……それが出来ない奴は長くは持たん」

アーンヴァル「ここは豊かな海だが、ただそれだけで誰もが上手くやれるなんて話は無ぇんだ」

アーンヴァル「儲かると聞いて新しく船に乗る連中の内、残れる奴は二割もいねぇ」


アーンヴァルは今までと打って変わって饒舌となった。
既に重い空気はどこにも無い。
俯いて丸くなっていた男の背中はピンと伸ばされ、何倍にも大きく見える。

ライアーもいつしか言葉に聞き入っていた。
それだけの力が、今のアーンヴァルの声には含まれている。

話は長く長く続き、やがて彼は視線をとある方向へ向ける。
先にあるのは恐らく市場だ。
ちょうど建物が邪魔になっているために直接見えはしない。
だが、その活気だけは聞き取る事が出来る。


アーンヴァル「この町で、海に関わる仕事をしてる奴は多い」

アーンヴァル「もし明日から急に魚が取れなくなったとしたら、誰も彼もが路頭に迷うだろうよ」

アーンヴァル「船に乗せてるのはてめぇの生活だけじゃねぇ」

アーンヴァル「……そういう自覚が無きゃやってられん、そりゃあキツイ仕事だよ」


アーンヴァル「…………あぁ、なんだ」

アーンヴァル「すまん、つまらん……話だろ」


話を終えたアーンヴァルは再びその背を丸めようとしていた。
どこか恥じ入るように縮こまり、視線は緩やかに足元に落とされていく。


ライアー「……いえ、そんな事無いです」


ライアーにはそれがどこか気に入らなかった。
男の見た目は汚らしく、態度にも小心が現れすぎている。
だが、その内側にあった物はライアーにとって酷く輝かしく思えた。
せめて自分で貶めるような事だけはあって欲しくない、とも。

返答を聞いたアーンヴァルは耳を疑うようにライアーを見る。
そしてそこに虚偽は含まれていない事を理解出来たのだろう。
意外そうに目を瞬かせ、呟いた。


アーンヴァル「それなら、いいんだけどよ……」


そうして再び場は沈黙に包まれる。
それでも居心地の悪さはもうどこにも無かった。
二人はもう口を開く事無く、手際良く作業を消化していく。


……ただ一言。
ぽつりと零れたアーンヴァルの独り言以外は。


アーンヴァル「…………女とこんだけ話せたのは初めてだな」


それがライアーの耳に届かなかった事は、きっと彼の名誉のためには良かったに違いない。


充実した心持ちで、ライアーは帰路を歩む。

依頼は完全な形で達成された。
別れ際のアーンヴァルもぎこちないながらも笑みを浮かべて手際の良さを褒めた程だ。
もし気が向いたらまた来てくれとの言葉も、認められたと見えて喜びを倍増させた。
言葉の割にもう修繕すべき漁具は見当たらなかった事が気にはなったが。
……まぁ、本人が言うのだから何がしか仕事はあるのだろう。




---- 報酬獲得


基本報酬 500GP
追加報酬 無し
特殊報酬 恒常依頼の発生

以降、日常生活でアーンヴァルを訪ねた場合、次回の依頼が一つ追加されます。


その次の休日。
ライアーは自室で再び報酬を前に悩んだ。

今回の報酬と、前回の残り。
しめて520GPである。
これだけあれば訓練を受けるのも容易であるし、真っ当な武器の購入も可能だろう。
命を与えてくれた女神への感謝を供物として捧げるにも十分だ。

さて、どうしたものか。
悩み抜いた末に、ライアーはその使い道を決定する。

ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv1

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



1)武装の更新 500GP

2)能力の上昇 300GP

3)技能の習得 300GP

4)信仰の深化 500GP (50%値引き済み)

5)強化を行わず、貯金しておく



強化内容を選択して下さい。

>>↓1


ムス「そうそう、まさにそういう事さ、冒険者なんてやってたらどんな怪物に出会うかなんて分かったもんじゃない」

ムス「刃が通らない奴も居るし、殴っても無駄な奴も居る」

ムス「そんな時に有効な武器を持っていないなんて言ってみたって無駄さ」

ムス「なんたって相手はただのケダモノなんだからね! 命乞いなんて聞きやしない!」


小柄な人種、グラスランナーの店番であるムスという男は早口でそう語る。
立て板に水を流すような勢いに、ライアーは終始押されっぱなしだ。
時折相槌を入れる程度にも全精力を必要とする程に。
幸いなのはここがスティールに紹介された真っ当な店だという点だろう。
もしも相手が阿漕な詐欺師であったならば、ライアーがどうなってしまうかなど余りにも想像が容易い。

ライアーは武具を揃えようと考え、この店を訪れた。
アーンヴァルの依頼は難易度の割に報酬は良かったが、それなり程度だ。
やはり街中の仕事では稼ぎに限度がある。
となれば当然、必要となるのは武具という訳だ。

ただ、ライアーは戦闘に関して素人でしかない。
どう判断したものかも分からずムスへと助言を求めた結果が現状である。


目を白黒とさせながらも、ライアーは何とか話を整理する。
つまる所、武器を一つ買えば良いという訳では無いという事だ。

思い返してみれば、確かに心当たりがあった。
討伐などの依頼に出向く際、牛角亭の冒険者達は全身を武具で固めていたのだ。
ショートソードとウォーピックを並べて提げ、ベルトに数本のダガーを吊るす程度は当たり前。
そこに個々人の好みで斧や槍、あるいは弓、はたまた盾と追加していく形だ。
何故そんなにと感じていた疑問がようやく氷解した。

それは良いが、ライアーは消沈してしまった。
これではとてもでは無いが予算が足りない。
500GPで購入出来るのは剣の一本が良い所だ。
十分な武装を揃えるには遥か遠い。


ムス「おぉっといやいやそんな事は無いさ!」

ムス「意外と知られてない事だけどね、冒険者の宿の特典はベッドと飯だけじゃないんだよ?」


その消沈を掬い上げるように、ムスの言葉が再開される。

それによれば、宿が抱える冒険者は武具の購入も大きく割り引かれるのだという。
紹介状さえしっかりと持参すれば最大で八割引にもなる。
高級品になるほど値引率は下がってしまうらしいが、それでも莫大な恩恵だ。

そういう話ならば武装の更新には何の問題も無い。
手持ちの金額でも、お釣りが来る事は有り得なくとも不足とはならないだろう。


ムス「まいどあり! また来ておくれよー!」


武具の吟味と購入を終え、ライアーはムスの声に送り出された。
オーソドックスな剣と戦槌、投擲用の短剣に、その他数種類。
急所と手足を覆う革の防具も纏った今のライアーは人々が思い描く冒険者その物だ。

これならば、凶暴な魔物はともかくそこらの野獣とは戦えるだろう。
町の外へ出向く依頼であっても簡単な物ならばこなせるはずだ。

つまりは、これからが本番という事になる。
腰に下げた剣を鞘の上から一撫でし、ライアーは僅かに緊張を高まらせるのだった。


-- 武装更新

500GP を消費しました。

武装Lv 1 → 2


描写された武器以外にも、一般的な武具であれば所持している物として依頼準備で指定出来ます。


---- 日常生活パート


竜食みの湾は豊かな漁場である。
それを支えるのは二つの海流と、穏やかな気候だ。
町の空は今日も晴れ。
屋上の物干し場には十分な日光が降り注ぎ、澄んだ大気が遠くの喧騒と海鳥の声を運んでくれる。

洗い立てのシーツを広げて干していくライアーは上機嫌であった。
気苦労の多い宿の仕事であるが、全てが苦手という事も無い。
特にこの作業はお気に入りなのだ。
わざわざ屋上までからかいにやってくる者も無く、町の賑わいを一歩引いた位置から眺めるのはどことなく落ち着く。
出来る事ならこれだけやっていたいとも考えるが、生憎とそこまでの洗い物は存在しない。
それでも小さな鼻歌が漏れ出るには十分だ。

が、今日はそこに水を差す者があったらしい。


クー「いいから! 帰れっての! こんにゃろう!」


突如届いた大声はクーの罵声である。
一体何事かと屋上の縁から見下ろしてみると、そこに居たのは勿論クーと、そして一人の優男。
うっ、と思わずライアーは唸る。
優男の顔にはいかにも見覚えがあったのだ。
先日悪評を聞いたばかりであるために、何となく印象深く覚えている。


ウィラハ「そ、そんな邪険にしなくてもいいんじゃないかな……」

ウィラハ「僕は純粋に芸術的な意味で、ぶはっ、ちょ、ちょっとやめてくれないか!?」

クー「うっさい! 私の角が黒い内はあの子に手なんか出させないわよ!」


軽薄な画家、ウィラハ・パーリング。
常にヘラヘラとしていた面影は今は無く、困り果てた様子で顔面に何度も塩を投げつけられていた。
海沿いの町だけあり、塩など幾らでも手に入る。
それでも少しもったいない気がする、などとライアーはやや現実逃避気味な感想を抱いた。


やがて、塩で頭を真っ白にしたウィラハは逃げ去っていった。
成し遂げた、と言わんばかりに胸を張るクーがそれを見送って鼻を鳴らす。

……さて、今日は良い天気である。
宿の仕事も一段落した所だ。
引き攣った頬を緩めるためにも、少々の息抜きを挟んでも良いだろう。



---- 交友状況

スティール(宿の主) ☆
スティールの妻    ☆
クー(宿の看板娘)  ☆☆

フーヴェル夫人
ムス


過去の依頼人

ウィラハ・パーリング(倉庫整理)
アーンヴァル(漁具修繕)



予定を決定して下さい。


>>↓1

今日はここまでで。
お疲れ様でした。

じわじわやっていきます。
よろしくお願いします。


アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」

アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」


港の片隅。
アーンヴァルの漁具が置かれた作業場の前は沈黙に沈んでいた。
耳に届くのは火の弾ける音だけ。

向かい合って座る二人の間に焚かれた火は、少々不安になる程の勢いで金網を炙っている。
弱火ではいけない。
一気に強い火で焼かなければ失敗するのだと、アーンヴァルは言っていた。

いわゆる貝の浜焼きである。
海底まで網を下げる事は少ないために捕れる事は少ないが、たまたま運悪く泳いできた物がかかる事があるのだそうだ。
そういう時のための炭と網は常備しているという。
漁師生活のたまの楽しみという訳だ。


ライアーがアーンヴァルを訪ねると、ちょうど彼は炭を用意している所であった。
声をかけると彼は矢鱈と驚き、しばし目を瞬かせた後、か細い声で食っていくかと誘いをかけた。
特段断る理由も無くライアーが頷いたために、こうして今に至っている。


真っ白な平たい二枚貝はまだ焼かれ始めたばかり。
食欲を刺激するような匂いも発せられていない。
食べ頃となるには当分かかる。

それまでの間を無言で過ごす事も悪くは無い。
アーンヴァルはやや緊張した様子だが、前回程には空気は重くない。
勿論、ライアーが望むなら会話の糸口を探ってみても良いだろう。



---- 行動を決定して下さい。

>>↓1


ライアーは声をかけてみようと思い切った。
折角こうして訪ねたのだ。
何も語らず貝を焼き、食べてお終いというのも味気ない。

それに何より、アーンヴァルの胸の内にある物の熱量には一度触れている。
機会があるならばもう一度触れてみたい。
そんな考えが湧き上がりもしたのだ。


ライアー「あの、アーンヴァルさん」

アーンヴァル「お、おう! ……な、なんだ?」


予想通りアーンヴァルは太い体を震わせたが、いい加減もう気にせずとも良い。
そういう人なのだと納得して話を進める。
選んだ話題は彼の好みに関して。
前回の話題の延長と言える。


ライアー「アーンヴァルさんは、やっぱり魚介がお好きなんですか?」

アーンヴァル「ん……むぅ、好きというのは……少し違う気もする」

アーンヴァル「……慣れてるからな、海の物には」


アーンヴァル「人間、当たり前を毎日続ける事が肝要なんだと俺は思ってる」

アーンヴァル「昨日と似た今日、今日と似た明日、そういうのが良い」

アーンヴァル「奇抜な事は、本当にたまにで十分だ」

アーンヴァル「俺はずっとこの海で、漁をして食って生きてきた」

アーンヴァル「だから魚と貝を今日も食う……それが落ち着くからな」

アーンヴァル「…………上手く言えんな、すまん」


そう語ったアーンヴァルを、ライアーはやはり好ましいと感じた。

彼の思想をでは無い。
アーンヴァルは己の中に明確な基準を設けている。
芯と呼んで良いだろう。
太く固く、容易に曲がらぬそれに、あるいはライアーは羨望を感じているのかも知れない。


アーンヴァル「………………そっちは、どうだ?」

アーンヴァル「あぁいや、好きな飯の事だ」


そして意外な事に、今度はアーンヴァルがライアーに問い掛ける。
アーンヴァルもライアーも、はっきり言ってコミュニケーション能力には大きな難がある。
ライアーはてっきり、また残りは静かに時が流れると思い込んでいた。
だがどうやら、今日は少し違った展開が待っているらしい。


ライアー「私は……えっと……」

ライアー「…………」


はて、と。
ライアーは考え込んだ。
一体自分は何が好きなのだろうかと。

生まれてから今までの時間はそう長い物では無いが、勇気ある牛角亭では様々な物を口にした。
常に厨房に篭って姿を見る事の少ないスティールの妻は単独で店を開いても繁盛するだろう、飛び切りの腕を持っている。
彼女が作り出す料理はどれも間違いの無い逸品揃いだった。
そのために出される物全てを美味しく平らげてきたのだが……あえて順位を付けるとするなら何が一位となるのだろう?



---- ライアーが好む物を設定して下さい、おおまかな味の傾向でもかまいません。

>>↓1


頭の中で記憶を比較し選別していった結果、残ったのは一度だけ出されたそれはそれは甘い料理であった。

それは冒険者がとある依頼から持ち帰った物が発端だった。
依頼主は農村の養蜂家。
どのような内容だったかは既に覚えていないが、報酬の瓶一杯のハチミツは良く覚えている。
スティールの妻、ソフィアの手へと渡ったそれにはたっぷりの果物が漬け込まれ宿の皆を楽しませた物だ。
最後の一切れを奪い合って勃発した大喧嘩は余計以外の何物でも無かったが。


ライアー「甘い物が好き、みたいです」

ライアー「前に一度、果物の蜂蜜漬けを食べた事があるんですけど……口の中が溶けたかと思いました」

ライアー「あれはちょっと忘れられそうにないです」

アーンヴァル「……そうか、甘い物か」

アーンヴァル「…………」

アーンヴァル「それなら、広場近くのあの店は知ってるか?」


やはり、今日のアーンヴァルはやや積極性を増している。
彼が知る店についての知識をライアーへと披露してくれた。
もっとも、又聞きのようではあるが。

カラクリ仕掛けの月夜亭。
オートマタの男性が営むというそこは、甘味を専門に提供する店らしい。
話に出た蜂蜜漬けは勿論、この辺りでは高価な砂糖を用いた菓子も並んでいる。
宿の主、スティールなどは妻の機嫌を損ねた時にこれを片手に頭を下げるのだ、という話も聞く事が出来た。


アーンヴァル「スティールの奴とはそれなりに付き合いがあってな」

アーンヴァル「あいつが体を縮めて月夜亭からこそこそ出てくるのは、何とも笑えん光景だ」


ライアーはその言葉に、思わず頭の中で描き出してしまう。
筋骨隆々全身筋肉、並の男など十人まとめてなぎ倒せそうな凶相の大男が、背中を丸めて甘味屋から現れる。
しかも小動物のように周囲を気にかけ、首を左右に振りながら。

……それは確かに、少々反応に困りそうだった。


話が終わる頃には焼かれていた貝もちょうど良い具合となった。
ピッタリと閉じていた貝殻は熱せられるに従って開いて行き、じゅうじゅうと音を立てる汁を見せ付ける。
丸々と太った貝柱は実に見事なボリュームで、想像よりも遥かに食べ応えがありそうだ。
同時に、今や強く感じられる潮の香りが鼻を通して胃を刺激する。

殆ど手が入っていない、焼いただけの貝。
それだけに味の予想は酷く容易く、分かりやすい美味の予感に食欲は際限無く高まっていく。


アーンヴァル「……あぁそうだ、来てもらったとこ悪いが、今日は頼める仕事は無ぇ」

アーンヴァル「ただ、近々新しい依頼は出すつもりだ」

アーンヴァル「気が向いたら請ければ良いし、請けなくても別に良い」

アーンヴァル「依頼を選ぶ自由は、冒険者には当たり前の権利だろ」

アーンヴァル「……さ、食え。 急いで食うと火傷するから、気ぃつけろ」


計六枚の浜焼きは二人によって綺麗に平らげられた。
名残惜しそうに最後の一滴まで味わうライアーにアーンヴァルは僅かに微笑み、
そこまで気に入ったのなら次は宿に届けよう、と小さな約束が取り決められる。

そんな、どこにでもありそうな即席の食卓が、今日のライアーが得た日常だった。


---- 日常生活 結果


アーンヴァルとの交友 - → ☆

アーンヴァルの依頼が次回依頼選択に追加されます。


TURN -- 2  RESULT


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv1 → Lv2

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



依頼結果 成功

所持金額 20GP → 520GP → 20GP


TURN -- 3 START


オートマタは眠らない。

それは良く知られた常識ではあるが、正確には少し違う。
他の人種と異なり睡眠が生命維持に必須では無いというだけだ。
オートマタはどれ程の長期間眠らずとも体や精神に支障を来たす事が無い。

だからといって一人起き続けているには夜は長すぎる。
人々が寝静まった後、朝一番に鳥が鳴くまでの短い時間。
ベッドに横たわって意識を閉じるのがライアーの日課であった。

その短い切れ間には夢を見る事もあるだろう。
宿の皆に取り囲まれ延々とからかわれる夢。
依頼を失敗し、クーに冷めた瞳で見つめられる夢。
後ろ向き、悲観的な内容が多いのは本人の性格によるものか。

勿論、毎日が毎日暗い夢とは限らない。
もしそうならばライアーは早々に睡眠の日課を無くしていたに違いない。
今日は運良くそういう日であったらしい。


「ライアー! 観念して出てきなさい! 今日という今日は許さないわよ!」


女性の声が夢の世界いっぱいに轟く。
声に含まれているのは純度が上限ぎりぎりの激怒である。
それもそのはず。
やるべき最低限の仕事だけ済ませたライアーは、呆れる事に悪戯に走ったのだ。

本日の思いつきは台所の鍋。
怒りの主が丹念に調理しておいたそれを良く似た別の鍋とすり替え、中身に据えたのは大きなムカデだ。
ある日の休憩の折に衣服の中に潜り込まれたトラウマのある女性としては盛大に悲鳴を上げざるを得ない悪質な物である。
なお、本来の鍋は隠されただけで全くの無事だと付記しておく。

さて当然ながら女性の怒りは天を衝いた。
ライアーを探して走り回るその手には頑丈な棒切れが握られている。
振り下ろされた末の痛みを想像するライアーは最早震える事しか出来ない。


「まぁまぁ、これもライアーの愛情表現だと思えば……」

「どこがよ! 仮にそうだとしてもそんな歪んだ愛情叩き直してやるべきでしょ!?」


すらりとした細身の男が宥めようと試みるも全くの無駄。
男はこれは仕方ないと苦笑し、女性の剣幕に押されて一歩退いた。


何故そこで退いてしまうのか。
もう一言ぐらい頑張って欲しい。
せめて、私がここから逃げ出す時間を稼ぐ程度は。

……そんな身勝手な思いが不運を呼んだのか。
息を潜めていたライアーが足の置き場を直した瞬間、微かにだが音が鳴る。


「……! そこかぁ!!」


それを見事に聞き取った女性は修羅と化した。
棒切れを振り上げ、けたたましく音を立てて走り寄る。

ひえぇ、などと声を漏らして逃げ惑うライアーの姿は、この上なく無様な物だった。


……やがて目を覚ましたライアーは、微笑ましさに頬を緩めた。

夢の内容は、遥かな昔に実際にあった事。
思い出そうとすればいつでも鮮やかに描き出せる、ライアーの記憶である。
ただし、そこに登場するライアーは今のライアーとは別の魂だ。
記憶はあるが、体感した事は無い。
そういった奇妙な……それこそ、この世で彼女以外には持てない感覚だろう。

過去のライアーと、厳しい姉と優しい兄。
三人の生活は温かさに満ちている。

今回は怒り狂っていた姿だったが、ライアーは勿論普段の姉の姿も知っていた。
口調は冷たく凍え、態度も突き放すよう。
しかしどれ程の時を重ねようともライアーの隣に寄り添い続けた。
オートマタには子孫を残す機能は無く、家族の関係など全て自分達で定めた仮初めの物でしか無い。
離れようと思ったならばいつでも離れられる、その程度の繋がりだというのに。


ライアー「……そろそろ、起きないと」


懐かしさを伴わない奇妙な回想を終え、ライアーは活動を開始する。
生まれ持つ記憶は良き日々だと理解している。
出来るならもっと長く浸っていないという気持ちも確かにある。

しかし、最後に行き着いてしまうのは悲しい終わりだ。
意識に上ってしまう前に意識を切り替える。
それがこの夢を垣間見た日の決まり事である。


今日の空模様は、雲と晴れ間が半々のようだ。
暑すぎず寒すぎず。
依頼に当たるには絶好の、冒険者日和という奴だろう。


1)灯台への届け物

報酬 600GP
難度 ☆

依頼内容は単純だ。
オルカーン岬に届け物をして貰いたい。
うちの爺さんがそこの灯台守をしてるんだが、この間うちに寄った時に大事な物を忘れていってしまったんだ。
今頃落ち込んでるに違いない。
途中の道は定期的に獣が間引かれてるから、相当運が悪くない限り大きな危険は無いはずだ。
よろしく頼むよ。

---- 酒場通り 黄金の葡萄酒亭



2)霊水の調達

報酬 750GP
難度 ☆☆

やあどうも、いつもお世話になってるね。
普段は薬草採取をしてもらってるけど、今日はその延長みたいな依頼だよ。
南の森の泉から水を汲んできて貰いたいんだ。
あそこの水はちょっと不思議な力があってね、一部の薬を作るにはどうしても必要なんだ。
森に入るんだから勿論獣に襲われる事もあるだろうけど、冒険者なら撃退も簡単だろう?
少なくとも僕のようなかよわい老人に比べればさ。
そうそう、ついでに薬草も取ってきてくれると助かるよ。
そっちも量に応じて報酬は払うからよろしくね。
あぁ、勿論雑草なんか持ち込んでも無駄だよ。
何せこっちは専門家だ、きっちり調べるからね。

---- 変人薬師のアクティフ老



3)新メニューの開発

報酬 300GP
難度 ☆

もう形振りかまっちゃいられねぇ。
このままじゃ親父から継いだこの店を畳む羽目になっちまう。
真正面に出来た新しい飯屋にどんどん客が流れてるんだ。
頼む! 新メニュー開発を手伝ってくれ、客を取り戻すためには一発デカイ話題が必要だ。
何も素人に料理しろなんて言ってる訳じゃない。
アイデアはあたしが山ほど出してある、それもインパクトたっぷりの奴をな。
ただそれを食って率直な意見を聞かせて欲しい。
今はこれっぽっちしか用意できないけど、客が戻ったら必ず追加で礼を出す!
店の看板とあたしの魂に誓ってだ!

---- 食事処 大爆発の漁師亭



4)家の清掃

報酬 500GP
難度 ☆

その、なんだ、俺の家の掃除を頼みたい。
おいやめろスティール、そんな目で見るな。
俺だってこんな依頼を出すのは少し所じゃなく恥ずかしいんだ。
だけど仕方ねぇだろ、もうこれしか思いつかな……いや、なんでもねぇ、話を戻すぞ。
なにぶん男やもめの一人暮らしだ。
時々思いついては手を入れてるが正直言って足の踏み場も無い。
時間もかかるし体力も要るだろうよ。
請ける奴には覚悟しとくよう伝えておいてくれ。
こんなとこだ、いつも通り代筆で頼むぜ。
……おい、なんだそのニヤケ笑いは。
余計な事書くんじゃねぇぞ、いいな、絶対にだ。

---- 寂しい漁師のアーンヴァル


請け負う依頼を選んで下さい


>>↓2


スティール「ほぉぉぉぉう」


ニヤリ、という擬音がまさにピッタリ。
選んだ依頼を一目見たスティールは口の端を吊り上げ、凶悪に笑った。
当然の事ながらライアーは涙目で怯える他は無い。
性格の悪さが滲み出しすぎである。
もっとも、代筆で書かれた依頼文がアレという時点で丸出しだったのだが。


スティール「おいおい、これはもしかしてもしかするのか?」

スティール「ついにあの万年独身野郎を祝福しなくちゃならん日が来るのか?」

スティール「えぇおい、そこんとこどうなんだラァイィアァー?」


勿論、これはスティールの冗談……というかからかいである。
オートマタをそういった対象に出来る人種はオートマタだけだ。
極一部の例外は居るには居るが、老婆に懸想する少年が存在する確率と同等と言えば希少性も分かるだろう。


反応に困るライアーを一しきり楽しんだ後、スティールはようやく身を引いた。
カウンターに乗り出されていた巨大な上半身が戻っていくのに合わせ、ライアーの動悸が治まっていく。


スティール「ま、冗談は置いといて真面目な話としてだ」

スティール「二度もあいつの依頼を請けられるなら分かるだろうが、ありゃあ良い男だ」

スティール「稼ぎは良いし芯も堅い、独りにしとくにゃ勿体無い」

スティール「女相手に上がり過ぎるのさえどうにかすれば相手の一人ぐらいは見つかるだろう」

スティール「あの小心が治るまで、良けりゃ付き合ってやってくれや」


スティールの話はそれで終わりのようだ。
良ければ付き合え、と彼は言ったが勿論そんな義務は無い。
どうするかは全てライアーの心持ち次第だ。


さて、ともかく受注を終えて準備である。
清掃自体は普段から宿で行っている業務の一つだ。
新しく知識を仕入れずとも良いだろう。

それでもなお必要と思う物があれば、用意する時間は問題無く存在する。



---- 依頼のためにするべき準備があれば実行できます。

>>↓1

だらだらやっていきます。
よろしくお願いします。


漁師がいつ漁に出、いつ休むかは完全に個々人に委ねられている。
訪問して会えるかどうかは殆ど運任せとなってしまう。

が、アーンヴァルに関しては話が違う。
彼が船に乗らない日は殆ど存在しない。
朝焼けと共に船を出し、昼飯時に帰ってくるという毎日を乱す事無く送っている。
僅かな例外となるのは雨の日や風の日といった悪天候の場合のみだ。

そして今日は風は穏やかで雨の気配も無い。
行動の予測は簡単だ。
準備した品々を載せた荷車に腰掛け、彼の家の前で待つ時間は最小限で済んだ。


アーンヴァル「お……よう、来たのか」

アーンヴァル「け、結構な荷物だな」

ライアー「えっと、こんにちは、アーンヴァルさん」

ライアー「足の踏み場も無い、との事だったので……念のためにと」

アーンヴァル「あ、あぁ……そうだな、そりゃそうだ」


互いに頼りない視線を交わし合い、それはすぐに荷車へと向かう。
その流れは必然だった。
何せ、ただの掃除の準備と考えれば少々過剰である。


荷車の上に丁寧に並べられた物はおおまかに分けて二種類。

まずは、革手袋と作業用の粗末な衣服に、口元を覆うための布。
全て二つずつ乗っている上に、既にライアーは同じ物を身につけてもいる。
つまりは予備という事だ。

次に、ライアーの体を半分以上隠せるだろう麻袋が二十を超える程度。
その隣には両手で抱える大きさの木箱が四つ並んでいる。
それと、大型の獣の内臓を用いた水を通さない袋も幾つかある。

気合十分である。


ライアー「……少し、多すぎたかも知れません」

アーンヴァル「いやぁ、なんだ……足りねぇよりは良いさ」


ライアーがここまで張り切ってしまったのは、主にスティールのせいである。
より詳細に言えば彼の悪質な代筆が原因だ。
依頼文を見てしまえば、アーンヴァルがライアーのためにわざわざ頭を捻って依頼をでっち上げたのは明白。
それも決して安くない報酬まで出しての事。

これに罪悪感を抱かずにいられる程ライアーの心は図太くは無い。
せめて全力で取り組まなければならないとの考えが湧き上がるのは必然であった。


そうして、早速作業は始まった。
一人暮らしの男性が住むにはちょうど良い大きさの木造の一軒家は、外観を見る限りそう広さは無い。
以前の依頼で整理した倉庫と同等といった所か。

これは意外とさっさと終わってしまうかも知れない。
そう、思っていたのだが。


ライアー「…………」

アーンヴァル「…………」

ライアー「…………」

アーンヴァル「…………すまん、察してくれ」


楽観は扉を開けた瞬間に吹き飛ぶ事となる。
足の踏み場も無い、と依頼文にあった。
だがまさかこれ程とは思いもしなかったと、ライアーの思考がしばし凍る。


まず目に付くのは脱ぎ捨てられた衣服だ。
一切の例外無く破れ、変色し、皺まみれ。
恐らく漁師仕事のために早々に寿命を迎え見限られたのだろう。
それらが所々にこんもりとした山を築き上げている。
最下層に埋もれているのは一体何年物なのだろうかと、考えたくもない疑問が沸くのは避けられない。

その次に目立つのは食器類だ。
皿や鍋が適当に積み重ねられたまま放置され、バランスを崩して散らばった。
そういう光景が目に浮かぶ状態で転がっている。

ライアーにとって恐ろしいのは、食器の内に最近使用された物がまるで見当たらない事だ。
洗うのが面倒になって後回しにするのは分かる。
だが、幾らなんでも皿が全て無くなれば流石に洗うのが当たり前だ。

この家にはそんな最低限のサイクルすら存在しない。
というより、常識が一片たりとも残っていない。


それを裏付ける物が暖炉付近に転がっている。
小脇に抱えられる程度の小さな酒樽が並べられた陰に、おぞましい空間が存在するのだ。
魚の骨や鱗、それと貝殻。
床の上に直接ばらまかれた残骸が、ここが即席の厨房であると無言で語る。

何故そこでやらかしたとの答えは簡単だ。
本来のかまどへの道はゴミが塞いでいる。
鍋を使い切ったとなればかまどに固執する必要も無い。
火は暖炉にだってある。
どうせここで焼くのならば捌くのも食べるのもここで良い。
ついでにゴミもまとめてしまえ。
酒が回った頭はそんな安易な思考を捻り出したに違いない。


口元を覆う布があって本当に良かったと、ライアーは己の判断を全身全霊で賞賛する。
鼻と口を隠していても腐臭をはっきり嗅ぎ取れてしまうのだ。
もし無防備であればどうなっていた事か。

……貝塚周辺の床を激しく汚染する汁と、そこに集る虫達が目に映ってしまうのはどう足掻いても避けられなかったが。


ライアー「…………」

アーンヴァル「…………」


ライアーは死んだ魚の目で、そっと木箱をアーンヴァルへと差し出す。
処分されては困る物を選別し入れておくための物だ。
当然の事ながら、所有者以外にそれを判別する手段は少ない。

木箱へ最初へ納められた物が錆びが大量に浮いたナイフであった事に、ライアーはまた気が遠くなる。
それで魚を捌いていたのかという気付きは、きっと無かった事にすべきだろう。
いちいち気にしていては今日一日で心が死んでしまいかねない。


ともかく、この地獄から抜け出すためには作業を進める他に無い。
ライアーは頬を叩いて正気を呼び戻し、片っ端からゴミを集めるべく麻袋を手に取った。


幸いにして、重量物が無かった事は救いであった。
ゴミの量は多く長時間の作業とはなったが、ライアーの持ち前の筋力もあってそう息が乱れはしない。
一呼吸ごとに肺腑が犯されるような感覚が強まる事だけは避けられる。

額が汗に濡れる頃には、アーンヴァル家の前には麻袋の山が築かれた。
合計二十四袋。
……多いかも知れない、など夢見がちな戯言だった。
全てに限界まで詰め込んだ挙句、収納を諦めた物も幾らかある。

ともあれ、これらはどこかで適当に焼いてしまえば残るのは灰だけだ。
生ゴミと共に埋めてしまえばそれで良く、大した手間にはならないと思われる。


穢れを追い出すように深く息を吐き、ライアーは空を見上げる。
日はやや傾いている。
昼と夕のちょうど中間辺りだろう。

袋の山の内、ギリギリ再利用が可能そうな割合は二割ほどだ。
食器類は懸命に洗えば何とかなるだろうし、衣服にも僅かだが汚れを落とせば着られる物もある。
破れた箇所は繕う必要もあろうが、今日の内にそこまでを済ませなくとも良いだろう。

ただ、家の中はゴミを除去した以外はそのままだ。
床に残された汚れを磨き上げる必要もあり、そう時間の猶予は無い。


ライアーは今現在一人きりだ。
清掃に関する適性がマイナスに突き抜けているアーンヴァルは戦力外でしか無い。
それを察した彼は早々に家を離れて露店街へと向かっていた。
これだけの汚れ仕事をさせる以上、せめて夕飯を用意させてくれとの事である。

恐らく戻るのは夕刻になるだろう。
それまでに片方の仕事を終わらせ、残りを二人で片付ける予定となっている。


休憩がてらにライアーは考える。
残る作業はゴミの焼却、食器と衣服の洗浄、家屋内部の清掃だ。
まずは何を済ませておくべきだろうか?



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


考えた末、ライアーは決意を固めた。
ここは嫌な事をさっさと終わらせてしまおう、と。

視線が向かったのは家屋内部である。
遠目にもそこに生きる者達が蠢くのが見えてしまう。
極小の羽虫や、豆粒大の謎の幼虫。
カサカサと恐るべき素早さで動き回る黒い甲虫などである。
ここで人が暮らしていたなどとは信じ難い魔境だ。

だが、やるしかない。
依頼として請け負った仕事なのだ。
嫌だから放り出す、などという選択肢は存在してはならない。

一歩一歩に裂帛の気合を乗せ、ライアーは家屋へと踏み入る。
無論、その瞳が溢れる嫌悪感に濡れていた事は言うまでも無いだろう。


当然の事ながら、それは簡単な作業ではなかった。

幼虫はまだ良い。
動きの鈍い彼らはライアーから逃れる術は無く、瞬く間に掃き清められた。
問題となるのは残りの二種。

甲虫は素早く逃れ、羽虫は飛び回る。
必死に追い回し叩き潰すのはとにかく体力と根気を消耗する。
ライアーの息は乱れに乱れ、今や肩で息をする始末だ。

だがそれでも、人間がただの虫に敗北する事は有り得ない。
残っていれば殺される事を理解した甲虫は屋外へと逃げ去った。
羽虫は大半が潰れ、数えられる程度の生き残りが飛ぶのみだ。
これを処理するのは現実的では無く、放置しても良い。
アーンヴァルが一定の清潔を保ちさえしてくれればその内どこかへ消えるはずである。


これでようやく床を磨く事が出来る。
ライアーは既に疲労がたっぷりと蓄積した体に鞭打ち、船の洗浄に使うブラシを片手に、水を汲み上げるべく井戸に向かうのだった。


---- 数時間後


パチリパチリ。
暗闇の中に赤々と浮かび上がる炎が、音を奏でる。
焼かれているのは無論、ゴミの山。
地面を掘って作った穴の中に火を焚き、僅かずつ処分を進める。
大量のゴミはまだまだ残っているがその内に終わるだろう。

ライアーの選択は正解であった。
屋内の清掃は時間がかかり結局辺りは暗くなってしまったが、火を使う作業ならば大きな支障は存在しない。
食器と衣服の洗浄も水さえ用意すれば火の近くで行える。

だが、屋内ではそうも行かない。
大きな火を灯せるのは暖炉かかまどのみ。
それだけでは家全体を照らす事は出来ず、ランプという手もあるが光量は心もとないだろう。
薄暗闇の中では虫の駆除だけでも相当な手間となったはずだ。
今日中に全てを終わらせる事は出来なかったに違いない。


疲れ果てた甲斐があった。
体は控え目に言ってヘトヘトであるが、最早時間の制限は有って無いような物だ。
後は人々が寝静まるまでにゆっくりとやれば良く、そしてそれは容易い。


もう殆ど依頼は達成したも同然。
ライアーはそう気を軽くし、残り僅かの食器を洗う。
が、その相方はと言えばこちらは酷く情け無さそうに体を丸めていた。


アーンヴァル「……すまねぇ、本当にすまねぇ」

アーンヴァル「まさか、ここまでのもんだとは……」


麻痺しきっていた感覚がライアーの尽力によって修正されたらしい。
床板の奥の奥まで染み付いてしまった汚れは残ったままとは言え、昼の面影は完全に消え去った。
直視してしまえばいかに自分が不潔であったかを完全に理解できてしまうのは当然だ。

現に、今のアーンヴァルは常よりも更に大きくライアーから離れている。


火の番をしながら、アーンヴァルは分厚い手で己を戒めるように頭を掻く。
その髪も、溜まりに溜まった汚れで異常に脂ぎっているのに気付いたのだろう。
顔の前に持ってきた掌を見つめて愕然とした表情になる。

彼の自業自得ではあるのだが、端的に言って悲痛その物であった。


もしライアーが望むならば、彼へのフォローを試みる事も出来る。
また、流石に目に余る惨状だったのだから叱咤を行う手もある。

勿論、アーンヴァルはれっきとした大の大人だ。
自身で反省するに任せ、最小限の社交辞令を返すに留めるのも良い。

ただし、注意すべき点がある。
ライアーの対人能力は低く、勢いに任せて口を開いても良い結果にはなるまい。
彼を励ましたいと思うなら、しっかりと考えを纏めてからにすべきだ。



---- 行動を選択して下さい、フォローや叱咤を行うならば内容の併記が必要になります。

>>↓1


ライアー「そ、その……私は気にしてませんから」

ライアー「これから直せば大丈夫……ですよ、きっと」

アーンヴァル「…………あぁ、そうするよ……すまねぇ」


結局、搾り出せたのは最低限の社交辞令のみだった。
アーンヴァルは深く落ち込んだままだが、事は彼の私生活である。
余り深く踏み入る事でも無いだろう。
大きな恥とは言え、延々と沈み続けるとも考えがたい。


その後はまた無言が場を支配する。
アーンヴァルが見繕ってきた夕飯に関する感想を交換する事も無い。

ただ、依頼自体は何の問題も無く完遂できたのだ。
最後の締まりは悪かったが、悪く捉えるような日でも無い。
ライアーは最後の皿に手を伸ばし、そう自分を納得させた。


---- 報酬獲得


基本報酬 500GP
追加報酬 無し
特殊報酬 無し

所持金額 20GP → 520GP


その次の休日。
ライアーは自室で再び報酬を前に悩んだ。

今回の報酬と、前回の残り。
しめて520GPである。
これだけあれば訓練を受けるのも容易である。
命を与えてくれた女神への感謝を供物として捧げるにも十分だ。

さて、どうしたものか。
悩み抜いた末に、ライアーはその使い道を決定する。


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv2

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)



1)武装の更新 1500GP

2)能力の上昇 300GP

3)技能の習得 300GP

4)信仰の深化 500GP (50%値引き済み)

5)強化を行わず、貯金しておく



強化内容を選択して下さい。

>>↓1


何か訓練を受けよう。
ライアーはそう決定した。

真っ当な武具は購入したが、その扱いに関しては素人同然だ。
剣や鈍器、あるいは槍や盾、はたまた投擲。
そういった取り扱いを学んでおく事も重要だろう。

町の外に出るならば動物や魔物の痕跡や気配を探る術も有用に違いない。
狩猟を行うにしろ、戦闘を避けて逃走するにしても、そういった技術は有効に働く。

知識を身に付けるという手もある。
例えば薬学だ。
牛角亭と付き合いが深いらしい薬師のアクティフという老人は、頻繁に薬草採取の依頼を出すらしい。
彼の依頼を請けるならばこれこそが賢い選択だろう。

また、学べる技能は他にも多岐に渡る。
野営知識、天文学、考古学、天候予測、裁縫、料理、彫金、鍛冶、その他諸々多種多様。
この町ならば水泳や操船についても教える者は居るはずだ。
それが何かの役に立つかは別として。


さて、今回学ぶべき物は何か。
ライアーはもう一度頭を捻って考える。


---- 習得する技能を指定して下さい、例に挙げていない物でも当然かまいません。

>>↓1


学ぶならば当然、自身に最も欠けている物を学ぶべきだ。
ライアーは頭を懸命に働かせ、それが何かを考える。

結論はそう時を置かずに出た。
社交性である。
弱気で引っ込み思案、頭の回転も遅く咄嗟に出る言葉には力が無い。
ここを補う物を身につけなければならないと、ライアーは固く決意した。


フーヴェル夫人「なるほど……素晴らしい事ですよ」

フーヴェル夫人「自分自身の問題を正面から見つめる事は、誰にとっても大変に難しいのです」

フーヴェル夫人「そして、それを正そうとする事は、更に」

フーヴェル夫人「昔からこうなのだから仕方ない……そんな諦めの誘いは常に囁くのですから」


選んだ講師は、勿論以前に教えを受けたフーヴェル夫人である。
良妻の鑑にして人付き合いのスペシャリストたる、肉感的なヒューマンの中年女性である。

前回の内容を十分に身につけた、とはライアーには口が裂けても言えない。
それでも一定の成果はアーンヴァルとの会話で上がっているのだ。
講義の信頼性は問題ないと言える。


フーヴェル夫人「……よろしい、あなたの気持ちは伝わりました」

フーヴェル夫人「私の全霊をもって、あなたを一人前のレディにして差し上げます」

フーヴェル夫人「そうですね、最低限……大商会の重役の妻となっても問題無い程に」


え、と口を挟む暇も無い。
ライアーの決意はどうやらフーヴェル夫人の琴線に触れたらしい。
彼女の背後に立ち上る炎の幻覚を、頬を引き攣らせるライアーは確かに見た。


夫人の屋敷に、三つの音が響き渡る。
厳格なフーヴェル夫人の指導。
涙を孕むライアーの悲鳴。
鋭く振るわれる鞭の音色。
この三つだ。

鞭はライアーの肌を叩く事こそ無かったが、凄絶な破裂音を伴って机に振り下ろされる。
恐くなければ覚えませぬ。
それこそが本気となったフーヴェル夫人の教育方針であったようだ。


無論、夫人の指導が……つまりはライアーの矯正が一日で終わる訳も無い。
宿の仕事の合間を縫っては講義は繰り返される。
今日は調子が悪いなどと言い訳を口にするライアーを、やんわりと、しかし否応無く連れ出す夫人の姿はそれからしばらく見られるのだった。


---- 技能習得

社交術 Lv1

所持金額 520GP → 220GP


---- ルール説明

技能は使用の機会が訪れる度に少しずつ経験値を蓄えて成長します。
また、習得時と同じように能力強化で選択する事で大きく成長させる事も出来ます。


---- 日常生活パート


そうして、ライアーは一変した。
発せられる言葉から淀みは減り、蚊の鳴くような声は真っ当な大きさに。
俯きがちだった背筋が伸びるようになると、それだけでも印象は随分違う。

分かりやすいのは冒険者達の反応だ。
完全にただの小動物としか扱われていなかったのが、多少改善されている。
具体的には犬か猫か、あるいは人間の子供といった水準だろう。

ただ、内面が変化しきった訳では無い。
今でも発言や行動の前に躊躇いを覚える場面は多い。
咄嗟の出来事への対応も拙く、何かあればすぐに涙目となるのは元のままだ。
こればかりはそう簡単に直りはしない。
長い時間か、あるいは強烈な体験が必要に違いない。


クー「いや、十分でしょ。 あのおばさん、凄い人だったのね」

ライアー「うん……本当にね。 特に冷たい声を出してるのにずっと笑顔なのがね……」

クー「あ、もうやめましょ、やめやめ。 涙目になってんじゃないの……」

ライアー「ふふふ、大丈夫。 涙目になってもある程度は普通に振舞えるようにしてもらったから」

クー「……私、何があってもあのおばさんの教室だけは行かないわ」


ライアーにとって最も喜ばしいのがこれだろう。
以前はクーとの会話でも考えを伝えきるのは難しかった。
もう少し言葉を口に出来たなら、と思う事は多かったのだ。

当たり前に話が出来るという一事のなんとありがたい事か。
ライアーは愚痴をこぼしながらもフーヴェル夫人に感謝している。
勿論、当分は会いたくないが。


さて、こうしてのんびりと雑談出来ている事からも分かる通り、現在は仕事が落ち着いている。
日が落ちて冒険者達が戻るまでやるべき事は何も無い。


クー「そういえば、今日はどうするの?」

クー「私は適当に露店でも冷やかしてみようかなーって思ってるけど」

ライアー「えーと……どうしようかな……」


ライアーは頬に指を当てて考え込む。
クーは自身の予定を口にしてはいるが、特段誘いをかけている様子では無い。
その辺りはサッパリしている性格なのだ。
クーの予定はクーの物、ライアーの予定はライアーの物との考えがあると見える。
つまる所、何をするにも自由だろう。

町を散策するも、誰かに会うも、宿で休養するも、ライアーは気の向くままに決定できる。



---- 交友状況

スティール(宿の主) ☆
スティールの妻    ☆
クー(宿の看板娘)  ☆☆

アーンヴァル      ☆

フーヴェル夫人
ムス


---- 過去の依頼人

ウィラハ・パーリング(倉庫整理)



予定を決定して下さい。


>>↓1


ウィラハ「意外だったよ。 まさか君から来てくれるなんて」

ウィラハ「前に一度宿に行ってみたんだけど見事に追い出されちゃってね」

ウィラハ「これはもう君を描く機会は来ないのかなって諦めかけてたからさ」


軽薄な画家は今日もヘラヘラと笑い、そう語った。
ウィラハ・パーリング。
親を心労で病に追いやり、家業であった造船業を終わらせたロクデナシとされる男性である。

また、他にも悪い噂はある。
絵の腕は確かなのだが女性をモデルとしたがり、慣れた頃に裸に剥こうとするのだとか。
クーからの又聞きであるために真偽は定かでは無いが、普段の様子を見る限りには説得力も無くは無い。

そんな彼はライアーの訪問を快く受け入れ、自身の屋敷の応接室で手ずから茶を淹れて歓迎した。


ライアー「すみません、突然だったのにお茶まで……」

ウィラハ「いやぁ、そんな事なんでもないさ」

ウィラハ「僕はほら、結構な嫌われ者だからね、人が訪ねてくるなんて中々無いから嬉しいんだよ」

ウィラハ「それが綺麗な女の子となれば尚更さ。 それこそ毎日通ってくれても構わないよ?」


ライアーは苦笑を返さざるを得ない。

彼の言葉は冗談のはずなのだが、どこかそうでないような空気も纏っているように思える。
もしこの場で頷いてみたなら「じゃあ君のために部屋を用意しよう」などと言い出しかねない雰囲気をだ。
それも、言葉だけで無く行動を伴って。

やむなくライアーはやんわりとかわし、何と言う事も無い雑談を始めた。
フーヴェル夫人に叩き直される前ならば不可能だっただろう事だ。

雑談の中で、ウィラハに関して幾らか知る事も出来た。
今、庶民が暮らすには格段に広いこの屋敷にはウィラハ一人しか暮らしていない事。
数日に一度、屋敷を訪れて清掃を行う専門の人間が居る事。
暇さえあれば彼は筆を執り、日がな一日絵を描いている事。
定期的に絵を仕入れに来る馴染みの商人がやたらとケチ臭く辟易としている事。

そんな小さな話を、二人はしばし続けた。
そうして二杯目の茶が空になると、ウィラハが切り出す。


ウィラハ「うん、やっぱり人と話すのは良いね」

ウィラハ「絵を描くのは勿論楽しいけど、こういうひと時も無いと」

ウィラハ「あぁ、そういえば聞いていなかったけど、今日はどうしてここに?」

ウィラハ「以前の依頼で気になった事でもあったのかい?」

ウィラハ「勿論、僕としては描かせてくれる気になったのなら嬉しいんだけどね!」



---- 返答を行って下さい。


>>↓1


ライアーには気がかりな事が一つあった。

以前の倉庫整理の依頼においての事だ。
乱雑に詰め込まれた壊れた家具を庭で燃やしていた際に、絵を発見していたのである。
気付いた時には、絵を収めていたタンスと共に既に火の中。
結局、抜き出す暇も無くそれは燃え尽きてしまった。

色鮮やかな油彩で描かれていたのは港だ。
朝焼けに染まる海へと向かう何艘もの船を、子を連れた母親が手を振って見送っている。
素人目にも美しいと分かる、この町の日常を留めた一枚だった。

その時はもったいないと思うばかりだったが、それで済まない可能性がある事に気付いたのだ。
もしあれが捨てた物では無く、仕舞い込んだまま忘れた物だったとしたら、と。


ウィラハ「…………」


それを聞いたウィラハは、それまで軽快に動いていた口をピタリと噤んだ。

纏う空気はどこか硬い。
ライアーは思わず一瞬だけ、目の前の人物が別の誰かに入れ替わったのではないかと疑いすらした。


恐ろしい。
胸中を満たすのはその感情だけだ。

価値ある物を灰にしてしまい、少なくない損失を与えた。
となれば勿論、償いを要求されるかも知れない。


……などという恐怖では、無い。


ライアーが最も恐れるのは別の事だ。
もし、万が一。
あの燃え尽きた美しい絵が特別な物……例えば、かけがえの無い思い出を象徴する物であったのなら。
不注意で焼いてしまったのが二度と戻らない宝であったのなら。

どう償えば良いのかすら分からない。


ウィラハ「…………ぷっ」

ウィラハ「はははは! なんだ、そんな事だったのか!」


が、身を硬くするライアーの前で、ウィラハは突如笑い出した。
おかしくて仕方ない。
そんな具合だ。
思い出が灰となった悲壮感など、まるで微塵も存在しない。


ライアー「え、あの……」

ウィラハ「そんなのを気にしてたのかい? 君は繊細なんだねぇ……いや、僕個人としては好ましいと思うよ」

ウィラハ「大丈夫、その絵は捨てた物で間違いない」

ウィラハ「表に出す物じゃないと判断してね。 そうか、タンスの中に放り込んでたかぁ」

ウィラハ「どこにやったかと思ってたけど、そんな所にあったんだね」


ウィラハ「というかそもそも、倉庫の中身を焼いて良いと言ったのは僕じゃないか」

ウィラハ「焼けてしまったとして、責任があるのは僕であって君じゃあない」

ウィラハ「君は言われた通りの仕事をしただけだ」


そうして、ライアーの心を軽くするようにだろうか。
慰めのような言葉まで口にする。


ウィラハ「それでももし自分を責める気持ちがあるなら、こう考えると良い」

ウィラハ「少なくとも、消えて無くなる前にその絵は君の心に残ったんだろう?」

ウィラハ「失敗作だと打ち捨てられたけど、最期には美しかったと惜しんでくれる人に出会えたんだ」

ウィラハ「それは十分に綺麗な終わりで……そして素敵な運命じゃないかい?」


ウィラハはニヤリと笑って、ライアーの瞳を覗き込む。
そこに押し隠された暗さは無い。
怒りも悲しみも存在しない事を確信し、ライアーはホッと息を吐いた。


ウィラハ「全く、君は冒険者なんだろう?」

ウィラハ「もう少し図太くある方がきっと楽だと思うよ?」

ライアー「同感なんですが……どうも、そう簡単には後ろ向きなのは治らないようです」

ウィラハ「はは、まぁ確かに人間はそうそう変われない」

ウィラハ「絵のようにすぐさま描き直せるんだったら、それこそ僕は今頃船を作っていただろうしね!」


再び緩んだ表情からは、全く笑えないジョークまで飛び出す始末だ。
どうやらこの件はライアーの杞憂であったらしい。


さて、これで用件は終わった。
話も一段落した事である。
屋敷を後にするには丁度良いタイミングだろう。

勿論、まだ彼に用があるのなら残るのも自由だ。



---- 行動を選択して下さい。


>>↓1


ライアーは僅かに考えたが、結局他に用事は無い。
もう宿に戻る事とした。


ウィラハ「うぅん、残念だけど仕方ない」

ウィラハ「気が向いたらまた来ておくれよ。 やっぱり一人じゃいろいろと寂しくてね」

ウィラハ「あぁそれと、次は是非君を描かせてくれるとありがたいよ」


最後までしつこく誘う事を忘れず、ウィラハはライアーを見送る。
その顔にはやはり、ヘラヘラとした軽薄な笑みが張り付いていた。



---- 日常生活 結果


ウィラハとの交友 - → ☆


TURN -- 3  RESULT


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv2

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)


社交術Lv1 ← 習得



依頼結果 成功

所持金額 20GP → 520GP → 220GP


TURN -- 4 START



クー「あ、ライアー。 丁度良い所に来たわね」


その日、既に三度繰り返した冒険者の仕事を四度請けようと掲示板へ向かうライアーに声が掛けられた。
快活なその声の主は宿の看板娘であるクーだ。
母親譲りの赤い癖毛を揺らしながら駆け寄り、一枚の木札を示す。

依頼の一つのようだ。
丁度良い所、という事は今しがた新たに発生した物なのだろう。

促されるままに、ライアーは内容に目を通す。



---- 交友値が一定以上のため、クーからの依頼紹介が発生します。


街道の定期討伐

報酬 討伐数×250GP + 戦闘関連技能獲得の機会
難度 ☆

全ての冒険者の宿へ定期討伐の実施を通達する。
参加条件は常の通りだ。
これまでと何ら変更は無い。
詳細はお前達が各員に知らせておけ。

---- ユウェル=ウェンセン・ヴルイストフ子爵靡下 蒼鱗騎士団 副団長ジルヴァラ・クライヘン


クーは木札を見せながらライアーへと詳細を説明した。


依頼は騎士団主導による街道周辺の害獣駆除である。

この辺り一帯を治める領主、ヴルイストフ子爵は冒険者を高く評価している。
それと言うのも、彼が大の遺跡狂いであるためだ。

誰もが夢見るが、誰にも辿り着けない。
そう評される「古代技術の再現」に熱意を燃やす一種の奇人なのだ。


遺跡を探るには当然人員を派遣する必要がある。
だが、そこに騎士団を使う訳には行かない。
遺跡の内部には恐るべき殺傷能力を持つ古代の兵器が闊歩している場合が多々あり、探索時の死亡率は決して低くない。
にも関わらず見返りを得られる可能性は高くない。

領民を守るための騎士団をたかが夢のために無駄にするなど愚の骨頂。
騎士団の中には貴族がそれなりの人数含まれるという点もこれを後押しする。
万一遺跡の中で貴族出身の騎士が命を落とすような事があれば、最悪の場合ヴルイストフ子爵は立場を追われる可能性もあるだろう。


そこで子爵が頼りとしたのが条件次第で命を投げ打つ冒険者という訳だ。
彼は駆け出し冒険者を支援する施策を幾つか実行しており、この定期討伐はその代表格となる。


クーが言うには、街道近くにはそう危険な獣は出現しないという。
危険性の高い種は総じて頭も良い。
一定以上の知能があるならば、当然人間に手を出した時に起こり得る報復も理解し、街道や都市部からは距離を置く。

必然的に人間の生息域付近に残るのは大した脅威を持たない雑魚ばかり。
これを駆け出しに狩らせる事で戦闘の経験を積ませ、糧としようというのである。

更に、討伐にあたっては安全策として騎士団の一部が同行する。
芽の出ない内から命を落とす事の無いようにと、十分な腕前の者が背を守る事となっている。
また、ある程度の素養を示せば、依頼の最中にしっかりとした訓練も受けられる。


クー「正直言って破格の依頼よ、これ」

クー「冒険者志望の中には定期討伐の時期を狙ってくる人も多いくらいにはね」

クー「ライアーが討伐系の依頼を視野に入れてるなら参加しておいた方が良いわ」


クーの言うとおり、確かに良い依頼だとライアーも判断出来る。
これまで何度も行われている点を考えても、安全性と有用性は高いだろう。



---- この依頼を請けますか? 請けない場合は通常の依頼選択に移ります。

>>↓1

安価を出したとこで寝ます。
お疲れ様でした。

昼間ですが、日曜ですしゆるゆるやっていきます。
よろしくお願いします。


請けない理由は無い。
担保された安全性、十分な報酬、騎士団の腕利きから訓練を受けられる可能性。
どれを取っても実に美味しい依頼だ。

ライアーが当然のように二つ返事で受注を決定すると、クーは満足げに笑う。


クー「うんうん、それじゃ参加登録しておくわね」

クー「後は明日の朝に衛兵詰め所前に集まれば大丈夫よ」


討伐は二日掛りで行われるようだ。
野営についてもどうやら実践できるらしい。
大人数になるだろうそれは冒険者が行う物とは異なるが、最低限の知識にはなるはずだ。

また、その間の宿の仕事はクーが肩代わりを約束してくれる。
ライアーが来るまではその体制で回していたのだ。
何の問題も起こらないに違いない。


さて、となれば今日一日は準備に充てるべきだろう。


今回は討伐を行うのだから、当然武具は必要となる。
駆け出し冒険者の代表的な武器と言えばショートソードとウォーピックだ。
これらの特徴を再確認しておこう。

まずショートソードだが、これは刃渡りが指先から肘までか、それよりやや長い程度の剣となる。
一口にショートソードといっても様々な種類があるが、ライアーが所持するのは中でも平均的な品だ。
斬撃と刺突の両方に適性を持ち、比較的に軽く、片手で問題なく振り回せる物である。
盾と同時に扱う事も多い。
強固な装甲を持つような相手にはやや効果が薄いものの、取り回しやすさと対応出来る局面の多さから評価が高い。
鋭い刃で重要な血管を裂いて出血させ、防御を固めて敵の死を待つ戦法はおよそ間違いの無い立ち回りとして良く知られている。

対してウォーピックは、一撃の重さに優れた戦槌の一種だ。
腕と同等の長さの柄の先には金属製の槌頭が取り付けられ、片面がハンマー、もう片面がツルハシのような形状となっている。
これが特に優位に働くのは装甲を持つ相手と遭遇した時となる。
刃が通らないような、例えば巨大な甲殻類が標的だとしても、速度と体重が乗った振り下ろしの打撃や刺突は十全の効果を発揮するだろう。
勿論単純な打撃力はそれ以外の相手にも有効であり、汎用性に富んだ一品だ。
また、他の武器とは違いただ振り回すだけの素人でも威力を発揮しやすい点も良い。


大半の冒険者は町の外に出る場合この二つを常に身に着けている。
個々人の好みによって他に幾つかの武具を追加で選択する形だ。
盾や槍、弓や投擲用の短剣、といった辺りが一般的な部類か。
両手で無ければまともに扱えない大剣や巨大な槌を持ち出す者も居なくは無い。


ライアーもまたそれに倣うべきだろう。
ショートソードとウォーピックは既に持ち出せるように整えてある。
追加する武具を選ぶだけで良い。

勿論、この二つで十分だと言うならばそれでも問題は無い。
むしろ身軽な事が有利に働く可能性もあるだろう。


その他の物品に関しては今回はそう必要無い。
野営道具や食料は騎士団の方で準備してくれるようだ。
今回はそれに甘えてしまえば良い。



---- 依頼の準備を行えます。
---- 準備は安価内で希望があれば数段階に分けて行う事も出来ます。
---- その場合、○○した後にもう一度考える、などと指定して下さい。

>>↓1


ライアーは投擲用の武器を持っていこうと考えた。
投擲武器の代表格となるとスリングとスローイングナイフだろう。
どちらも嵩張る物では無く、同時に身に着けても何の問題も無い。

スリングは石などを高速で打ち出すための投石器だ。
革製の石受けに弾を乗せ、そこから伸びる二本の紐を掴んで振り回し速度が乗った所で射出する。
その威力はたかが石などと馬鹿にした物では無い。
手で持って投げたのとでは比較にもならない速度は骨を簡単に砕く凶器となる。
相手が人間ならば、急所に命中してしまえばただの一撃で勝負は決するだろう。
弓に次ぐ射程の広さ、弾丸補充の容易さも有用の一言だ。

スローイングナイフは残念ながら射程も威力もスリングに劣る。
手で投げるしか無いのだから致し方ない所ではある。
こちらは刺さる、斬れる、といった石では不可能な部分を目的として携帯される。
出血を狙う、あるいは皮膚を破って内臓を傷付けるという用途だ。
距離をとったままこれらが出来るというのは小さくない利点である。


ただ、残念ながら今のライアーにはそれらを十分に活用できるとは言い難い。
訓練を積んでいない素人には扱いが難しいのだ。

実際、購入後に何度か試してみた時にも命中率は酷く低かった。
十度投げて二度当たればマシといった程度。
牽制以上の効果は期待すべきではない。

それでも持っていく価値はある。
今回、素養を示せば訓練を受けられるのだ。
その際にこれらがあれば、当然教えを受けられるに違いない。


準備はこれだけで良いだろう。

街道周辺に危険な獣は少なく、万一の事態が起こっても騎士団の助けが入る。
余程の事が無い限り問題は無いはずだ。


そう判断したライアーは、一日の残りを休養に充てる。
討伐は二日間に及ぶ。
今の内に十分な体力を蓄えておくのは、きっと良い選択だ。


---- 依頼を開始します。



ジルヴァラ「……揃ったようだな」

ジルヴァラ「ふむ、今回は刻限に遅れた者は居ないか」

ジルヴァラ「良い事だ。 普段はここで長々と待たされる事も多い」

ジルヴァラ「討伐を始める前に声を荒げるのは酷く疲れる……今後もこのように心がけろ」


依頼主として名のあった騎士団の副団長、ジルヴァラ・クライヘンは落ち着いた声でそう語った。

頭部を覆い隠す兜のためにくぐもり分かりにくいが、ジルヴァラどうやら女性のようだ。
全身を青みを帯びた銀色の鎧で包む長身の騎士である。
すぐ横には蒼い鱗を持つ巨大な二足歩行の爬虫類が身を伏せ、その背にはこれまた長大なハルバードが立て掛けられている。
それらが彼女の相棒という事だろう。

装備には歴戦を示す無数の細かい傷が付き、立ち姿はただ居るだけで周囲を威圧する空気を放っている。
地位に比例するだけの実力を持つ事は素人目にもはっきり分かる。

少々恐ろしいとライアーは感じるが、同時に頼もしくもある。
ハルバードはライアーの身の丈程もある。
これを騎乗の速度を乗せて振るったならば大概の生物は即死するに違いない。
並の獣ではまさしく勝負にもなるまい。


ジルヴァラは今回の討伐の概要を説明した。

この場に集まった人間は騎士と冒険者を合わせておおよそ40人。
これを数人ずつに分け、広範囲に散らばって害獣の駆除を行う事となる。
知能が低い獣ばかりと言えど、流石に数十人の集団に襲い掛かる者は居ない。
そのため、こういった形を採るようだ。



ライアー「今日はよろしくお願いします」

ワルム「あぁ、こちらこそ」

ワルム「君達の安全は私達が保証する。 安心して討伐に当たってくれ」


人当たりの良い笑顔で請け負ったのは騎士の一人だ。
まだ青年と呼んで良さそうなエルフの青年はワルムと名乗った。
見た目相応の年齢であり見習いを脱して日は経っていないらしい。

そんな彼だが魔法の扱いに長け、駆け出しの護衛を行うには十分と判断されている。
太鼓判を押したのは同行するもう一人の騎士である。

こちらは名をウォルクと言うようだ。
非常に珍しいヒゲ無し短髪のドワーフである彼は騎士にしては砕けた人格の持ち主と見える。
ベテランの風格を漂わせて表情をニヤリと歪め、口を開いていた。


ウォルク「ははは、下っ端が良く言う」

ウォルク「が、まぁ口だけの実力はある奴だ。 坊主も何かあればすぐに頼ると良い」

ステム「は、はい……!」

ウォルク「おうおう、気張るのは良いんだが……もう少し肩の力は抜いといた方が良いぞ?」


最後に、ガチガチに緊張した様子の少年が完全な新人冒険者、ヒューマンのステム。
クーの言の通りに、定期討伐めがけて勇気ある牛角亭へとやってきたのだ。
今日が冒険者初日にして初依頼。
そしてライアーの初めての後輩という事にもなる。
勿論、ライアーとてそう違いのある立場でもないが。

今回はこの四人での行動となる。


四人は早速町を出、街道を歩む。
土が剥き出しとなっているが、長年の人の往来で十分に踏み固められている。
移動にあたって障害となるような要素は無い。


ワルム「野外での活動の際、最も重要となるのは索敵なんだ」

ワルム「周りを見ると良い。 案外草の背も高いだろう?」

ワルム「体を縮めた獣が潜んでいると素人には発見が難しい」

ワルム「気付いた時には牙を剥き出した狼に飛び掛られていた、などという事態に陥るようでは冒険者としては失格だ」


先頭を行くワルムは、ややゆっくりとしたペースを保つ。
急ぎの行軍を行う必要は全く無い。
こうして教示を言葉に載せるためにも余裕がある方が良いだろう。


ウォルク「おう、その通り。 気配を探るか、注意深い目を持つか、痕跡を見つけるコツを学ぶんでも良い」

ウォルク「何か一つそういった技術は身につけるべきだろうな」

ウォルク「一番良いのはハーフビーストの仲間を連れる事だ、連中の五感は他の人種の比じゃあない」

ウォルク「騎士団でも斥候の殆どは奴らだし、ハーフビーストの護衛を得た行商は跳んで喜ぶと言えば程度も分かるだろう?」


補足するウォルクの言葉は最後尾から。
間に挟まれる駆け出し二人、特にステムは前に後ろにと忙しく顔を振る。


ライアーとステムは彼らの言葉に頷くばかりだ。

戦うにしろ逃げるにしろ、まずは相手を見つけられない事には話にならない。
戦闘技能といえば武器の扱いに気を取られがちだが、重要な物はそれだけではないという事だ。


ステム「なるほど、勉強になります!」

ステム「となるとやっぱり、その松明にも何か意味があるんですか?」


次に口を開いたのはステム。
それはライアーも疑問に思っていた点である。

ワルムとウォルク、騎士の二人は何故か松明を手にしているのである。
今はまだ朝だ。
空も良く晴れており、照らさねばならない理由は全く存在しない。
むしろ駆除すべき害獣が火を避ける可能性を考えれば邪魔になるのではないか。


しかし、そんな問いにウォルクは楽しそうに笑った。
……ライアーにとっては見慣れた類の笑みだ。
ライアーをからかう際に牛角亭の冒険者が良く浮かべる、人の悪いそれ。


ウォルク「おうとも、まさしく意味がある事だ」

ウォルク「こいつは普通の火じゃあ無い、炎神様の加護によって作られた魔法の火さ」

ウォルク「この火を見た動物は簡単に言えば正気を失って凶暴化する。 戦いたくて仕方なくなるんだな」

ウォルク「そら、ちょうどあんな風にだ」


ウォルクが道の外、周囲に広がる草原を指し示す。

……注意深く見れば、草を掻き分けて迫る何かを発見できた。
全容はいまだ分からないがどうやら四足歩行の獣、狼や狐といった類のようだ。
それは周囲に一切気を逸らす事無く、一心不乱に向かってきている。

ライアーは頬を引き攣らせながら納得した。
なるほど合理的である。
戦闘自体が目的ならばこちらから発見する必要は無い。
相手に発見させ、隠れ潜む事を忘れさせてしまえるならそれで良いのだ。


ワルム「推定! フォレストウルフのはぐれだ!」

ワルム「脅威度は最低、爪と牙にだけ気を付けろ!」


知識と経験からか、早々に獣の正体をワルムが特定し全員に伝える。
フォレストウルフなる獣がどういった能力を持つかはライアーには分からない。
が、彼の言葉からは恐らく強くは無いようだ。

ライアーとステムを前面に立たせ、騎士達は後ろに下がる。
追い詰められない限り助力は入らないだろう。
まずは二人だけで対処しなければならない。

だが、どうやらステムを戦力と数えるのは難しい。
過度の緊張か、迫る脅威への恐怖か。
彼の手足は酷く震えている。
ショートソードを両手で構えてはいるが、腰が引けすぎてまともに振るう事も出来なさそうだ。
その姿を目にしたライアーが逆に冷静になれる程の無様さである。


フォレストウルフとの接敵までは残り十秒程度。
ライアーは急ぎ自身の行動を選ぶ必要がある。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


先手を取るべくライアーは腰のベルトに挿したスローイングナイフを抜いた。
スリングよりも、手で投げ放つこちらの方がまだ幾分マシだろう。

まともな訓練を受けていない現状では投擲武器に大きな期待は出来ない。
当たるかどうかも賭けであるし、当たったとしても牽制以上にはなるまい。
それでも僅かに動きが鈍りでもする可能性はある。

大きく振りかぶって放たれたナイフは運よく狙い通りに飛んだ。
草の中に見える狼の背へと迫り、確かに傷付けて血液を飛び散らせる。



---- 武装Lv2 ダメージ1,5倍

---- 技能Lv0 ダメージ0,2倍 (投擲の場合、技能不足はマイナスに作用します)



が、やはり大きな傷では無い。
かすり傷と断言できる。
命中の瞬間に狼は体を揺らしたがそれだけだ。
速度は僅かも鈍らず、瞬く間に狼は姿を露にする。


ライアー「うぁっ……」

ステム「ひっ!」


草原から飛び出した狼の姿は酷い物だった。
端的に言っておぞましい。

恐らく病気を患っているのだろう。
前脚から腹部にかけての毛がごっそりと失われ、表皮には真っ赤な斑点が散らばっている。
口の周囲は肉が削げ落ちて鋭い牙が剥き出しだ。
右の眼球も真っ白に濁って膨れ上がり、半ば飛び出してしまっている。

なるほど、これならば群れからはぐれる訳である。
最早自然界でまともに生きていく事はできまい。
後は孤独に飢えて死ぬに違いない。
いや、今まさに飢えの真っ最中であるようだ。
眼前の獲物……ライアーとステムを何としても食らおうと、歪んだ口を開き牙を突き立てんと猛り狂う。


地を蹴って飛び上がった狼の狙いはライアーだ。
まずは己を傷付けた敵から仕留めると、狼の目は雄弁に語っている。
開かれた顎が向かう先は、どうやら喉笛か。

ライアーは今現在、革製の防具に身を包んでいる。
急所と手足を重点的に守るそれは当然首元にもあるが、稼動域の確保のために隙間もある。
直撃を許せば万一の事もあるだろう。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


ライアーは咄嗟にその場を飛びのいた。
あえて首の前に腕などを構え、一撃を受けて隙を作るという選択肢もあっただろう。
だが、狼の状態がその考えを捨てさせる。
その身を侵している病が人間に感染しないとは限らない。
接触は避けるべき物であろうし、そもそもとして強烈な忌避感も生じている。

飛び掛りには、やや勢いが無い。
飢えと病によって体力は尽きかけているのだろう。
回避は問題無く成功し、更に反撃を試みるべくライアーはショートソードを抜き払った。


---- 敏捷不足 行動が限定的に成功しました。


剣の一撃は狼を完全に捉えるには至らない。
振るうよりも早く四つ足の体は遠ざかり、後ろ足に傷を付けるに留まった。

が、それで十分とも言えた。
ライアーが持つ剣は使い古しの中古品などでは無く、確かな作りのそれである。
断ち切るには至らずとも、刃が硬質の何かに食い込む感触は感じられた。


---- 武装Lv2 ダメージ1,5倍
---- 技能Lv0 ダメージ1,0倍


甲高い悲鳴を上げて狼が地に転がる。
必死に立ち上がろうともがくその様から、斬り付けられた脚がまともに動かないのは明白だ。

敏捷性が奪われた狼など最早何の脅威でも無い。
後はトドメを刺せば良いだけ。
それすらも、どうやらライアーが動かずとも良さそうだ。


ステム「う、うわぁぁぁぁ!!」


怯えに揺れる叫びと共に、ステムがショートソードを振り下ろす。
刃を立てる事も出来ていない乱雑な攻撃だが鈍器としては機能している。
五度、六度と頭部を殴られる内に、やがて狼は痙攣するだけの肉塊へと変じていく。

初めての襲撃者がその命を終えるまで、長い時間はかからなかった。


ウォルク「よーしよし、大丈夫、もう大丈夫だ」

ウォルク「良くやった、ほれ良く見ろ、もう死んでるからな、もう大丈夫だぞ」


興奮状態から降りてこられないステムをウォルクが宥める。
彼の指は完全に固まってしまっているようだ。
ウォルクが手を伸ばし、剣を握る指を一本ずつ引き剥がしている。

それを横目にライアーも息を吐く。
彼の声で戦闘の終わりをようやく実感できたためだ。


ワルム「中々良い動きだな」

ワルム「完璧とは言えないが、初めてとも思えない落ち着きだ」


ワルムはそう声をかけてくれたが、素直に頷く事も難しい。
ステム程では無いがこちらも恐怖と緊張は感じていた。
胸部から響く鼓動も常とは随分異なった激しさだ。

隣に自分以上に怯えるステムを見て落ち着けたのが好材料だった。
もし彼がおらず、一人で狼と相対していたならどうなっていたか分からない。


ともあれ、まずは一つ仕留められた。
これで依頼の失敗だけは避けられ、250GPを手にした事となる。


ワルム「さて、負傷は無いようだがまだ戦えるか?」

ワルム「無理だと思うならばここまででも良い、後は私達が戦おう」



---- 自由に返答を行って下さい。

>>↓1


ライアーは自分の状態を冷静に鑑みた。

ワルムの言葉通り一切の負傷は無い。
戦闘が終わった今、恐怖や興奮は去りつつある。
狼の後ろ足、その骨を割った剣にも目立った刃毀れは見つけられない。

おおむね問題無し。
まだ戦えると判断できた。


ライアー「まだいけます……ただ、無理そうだと思ったらフォローしてください」

ワルム「あぁ、それは勿論」

ワルム「危険と感じたら即座に割って入ろう、そこは安心してくれて構わない」

ワルム「しかし、勝利して慢心も無いか。 君はもしかしたら中々の逸材かも知れないな」


ライアーの見栄の無い返答はどうやら彼には好ましく思えたらしい。
僅かかも知れないが評価が上がったようだ。


四人だけの行軍は続く。

街道沿いの害獣はそう多くは無い。
最初の狼の後、しばらくは何も起こらない。
息の荒かったステムもその間に落ち着きを取り戻せたようだ。

彼もまた戦闘の続行を選択していた。
が、その判断を完全には信用してもらえなかったのだろう。
ウォルクは先ほどよりもステムを気にかけているようで距離も近い。


そのまましばし時間が流れ、もしやもう何も出ては来ないんじゃないかと疑問が芽生えた頃。
唐突に全員の耳に草を掻き分けて何かが走る音が届いた。
数は二つ。
左右から四人を挟みこむように近付いている。

ライアーは急ぎ音の方向に視線を向けるも、何も見つからない。
草が倒れる様から移動したルートは分かるがそれだけだ。


ワルム「推定! メガロセンチピード!」

ワルム「毒は無いが力が強く、何より硬い!」

ウォルク「お前ら虫は大丈夫か!? 嫌われ者のムカデ野郎だ! 腰抜かすなよ!」


それをワルムが特定し、ウォルクが補足する。
背を合わせたステムは怖気づいたように小さな悲鳴を上げたが、ライアーはまだ落ち着けている。

過去の自分、森の中の村で生きていたライアーに感謝せざるを得ない。
彼女がムカデを素手で掴んで悪戯に使えるような性格でなければ、今頃は嫌悪感に塗れていただろう。


相手は二匹。
こちらも二人。
ここは一人一匹を相手にするのが得策だろう。

ライアーとステムは街道の中央で背中合わせとなり、草原をにらむ。
どうやら動きは狼よりも鈍いようだ。
草を掻き分ける速度は遅く、対応を整える時間はある。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


硬い、とワルムはそう言った。
とすれば選ぶべき武器はこれだろうと、ライアーはウォーピックの柄を握り締める。

ショートソードよりも一段上の重みがずっしりと腕にかかる。
いかにも頼もしい。
これを全力で、遠心力まで乗せて振るえば大概の装甲は貫けるに違いない。


---- 事前準備により、初撃の命中率にプラス補正を得られます。


ただ残念ながらステムにはそういった判断を行う余裕が無かったらしい。
構えたのは先程と同じくショートソードだ。
腰に括り付けたウォーピックの存在は忘れ去られている。

しかし、もうそれを指摘する時間も無い。
走り寄る巨大ムカデはもう目と鼻の先である。


ここまで来れば障害物となる草の密度も低い。
敵の姿はしっかりと確認できた。

光沢を持つ暗褐色の甲殻に覆われた、人間に近い体長の巨大ムカデだ。
毒々しい黄色の足は長く太く、いかにも力強そうである。

最大の脅威は頭部に備わった強靭な二本の牙だろう。
左右から挟みこむような形のそれは、まるで杭のようだ。
腕や足の一本程度を噛み千切るに足ると確信させて余りある。


姿を見せたメガロセンチピードはそのまま飛び掛る事なく、草の中を回り込む動きを見せている。
頭をライアーに向けたまま、窺うような様子だ。

ライアーは僅かに考える。
こちらから仕掛けるべきか、それともこのまま待ち構えるべきか。
あるいは何か他に思いつく行動があるならばそれも良いだろう。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


ムカデはすぐに襲い掛かる様子は無い。
ならばこの隙にと、ライアーは助言を投げる。


ライアー「硬い敵に剣は向きません! ウォーピックを!」

ステム「あっ! は、はいっ!」


その声にステムは即座に従った。
剣をその場に投げ捨て、腰から戦槌を取る。
これで得物は問題無い。
善戦出来るかどうかは分からないが、少なくとも歯が立たないという事は無いだろう。


持ち替えを終わらせたステムはそのまま駆け出した。
どうやら彼は先手を打つ事を選んだようだ。
後は上手く戦えるように祈る他無い。


勿論、ライアーはその間もムカデから目を離す事は無かった。
そのために、突然の動きも見逃さずにしっかりと捉えられている。

ムカデは回り込む動きをそのままに突如加速した。
跳ね飛ぶような速度で地面を這い、凶器たる牙を持つ頭部はライアーの後ろを取ろうとしている。
巻きつくつもりか、踵にでも噛み付くつもりか。
どちらにしろ放置すればろくな事にはなるまい。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


ともかく、その場に留まることは危険しか無い。
ライアーは咄嗟に飛び退いた。


---- 敏捷不足 行動が限定的に成功しました。


だが、完全な回避には失敗した。
ムカデは噛み付きを狙っていたようだ。
右足首を狙って飛び掛った牙が僅かに掠める。

防具を貫く事こそ無かったが、ライアーの体勢は僅かに崩れる。
そのために、回避と同時に狙った反撃は不恰好な物とならざるを得ない。


---- 武装Lv2 ダメージ1,5倍
---- 技能Lv0 ダメージ1,0倍


振るわれた戦槌、その鋭い切っ先は狙いを逸らした。
後頭部を貫くはずだった一撃は中央では無く、体の端を打つに終わる。

失敗か。
そう焦燥したライアーだが、自身の生まれ持った腕力に感謝する事となった。
暗褐色の甲殻に大きな亀裂が走ったのだ。
生じた隙間からは体液が噴き出し、内部に損傷が生じた事を確信する。


ムカデは身を捩り、声無く苦悶を表している。
隙だらけだ。
後はここに追撃を見舞えば、それで勝敗は決するに違いない。


が、次の瞬間ライアーの足は止まる。

身をくねらせていたムカデが、その体を鞭のように振るったのだ。
ライアーの胴の僅か先、拳一つ分の距離を尾が通り過ぎていく。
もし飛び退いておらず、その場での反撃を試みていたならばこれに絡め取られていた可能性は高い。

攻撃に失敗したムカデが恨めしそうにライアーを睨む。
四つの単眼から感情を読み取る事は出来ないが、敗北を理解でもしているのだろうか。


今度こそと振り上げた槌から逃れる術は敵には無い。
全身の司令塔たる頭部に混乱が生じた以上、反撃はおろか逃走もままならない。
時間を置いたならば回復も出来ただろうが、それを許す程にはライアーも愚かでは有り得ない。

甲殻の欠片と、隠されていた肉と体液。
無秩序に弾け散らばるそれらが、ムカデの終わりを示していた。


戦闘には勝利した。
しかしライアーは若干肝を冷やしていた。
もし判断を間違えば全身をムカデに這われ、大変な目に遭っていただろう。

……それを示す光景が目の前に存在してもいる。


ステム「うわぁぁあぁぁ! はな、放せぇ! 放せよぉ!!」


ムカデに躍りかかっていったステムは、今や地面に引き倒されていた。
腰と胸にはしっかりとムカデが巻き付き、左腕も完全に拘束されている。
甲殻の数箇所に亀裂があるのを見れば良く戦ったらしいが、駄目だったようだ。
右腕一本で必死に抗ってはいるが、放置すれば眼前に迫る牙が彼の首を落とすのは時間の問題だろう。

勿論、騎士達が同行している以上そんな事は有り得ないのだが。


ウォルク「そぉら!」


轟音を伴って炎が走る。
大斧の形を模した炎は掬い上げるように振るわれ、ムカデの頭を完全に切り飛ばす。
断面は完全に焼き尽くされて炭化している。
松明の炎と同じく、火と闘争の神から授けられた加護による魔法か。

ステムにも多少の被害があったようで強烈な熱に苦しんではいるが、彼は感謝すべきだろう。
通常の武器であったならば、今頃頭から体液を被っていたはずだ。


ステムは盛大に泣き喚き、立ち上がる事も出来ない。
ウォルクが必死に慰めているものの、抱いた恐怖を想像すればそう効果があるとも思えない。
復帰には相当な時間がかかりそうだ。


ワルム「……残念ながら、今日はここまでだな」

ワルム「君にとっては不運な事だろうが、どうか堪えて欲しい」


ライアーとしては頷く他無い。
この状況で無理を通すのは不可能だ。
彼の判断に従うのが賢明である。


ワルム「ただ、悪い事ばかりでもない」

ワルム「君の素養は私達が設けた基準をどうやら超えている」

ワルム「崩れた体勢からでも攻撃を命中させる器用さと、骨を割り甲殻を砕く一撃を生み出す筋力」

ワルム「誰もが羨む理想的な戦士の資質だ……正直言って、私自身妬ましくすらある。 鍛えれば一流を目指す事も出来るだろう」

ワルム「何より、武器の選択を誤った彼への助言も良かった」

ワルム「背を預けられない仲間程、死因を上げる者は他に無いのだからな」


エルフとしては骨太ながら、人間全体を見れば細身に入るワルムはそう言い、祝福した。
基準を超えたという事は、つまり訓練を受ける資格を得たという事だ。
ステムが落ち着き次第野営地に向かい、そこで基本的な戦闘技能について学ぶ事が出来る。


ワルム「周囲の警戒には私が当たっておく」

ワルム「君は今の内に、休憩がてら何を学ぶかを考えておくと良い」



---- 戦闘に関連する技能を二つ習得する事が出来ます。
---- 一レスにつき一つ、指定して下さい。
---- ただし、武器に関する技能は現在所持している剣、槌、投擲についてしか習得できません。

>>1~2


野営地にて、訓練は開始された。
既に日は傾き薄暗くなっているが火は十分に用意されている。
周囲にはかがり火が並び、宙には魔法の火が浮かんでいるのだ。
草が刈り取られて作られた広場の一角は動き回るに支障の無い明るさが保たれていた。

そこに十人ほどの駆け出しが集まり、各々の教官と共に得物を振るっている。
響き渡る声は罵声にも近い。
訓練に充てられる時間はそう長くも無い。
誰もが技術を学び切ろうと、あるいは叩き込みきろうと必死のようだ。

無論ライアーもその一人だ。
ウォーピックを必死に振るい、構えられた盾を突き破らんと懸命である。


ウォルク「どうしたどうした! まだまだ軽いぞ!」

ウォルク「そんなんじゃ俺の盾は破れねぇ! 衝撃の瞬間に力を一点に集中させるんだ!」

ウォルク「っとぉ! そうだそれだ! 今のは良かったぞ!」


教官となっているのはウォルクである。
彼が得意としている武器がたまたま大槌であったためだ。
ライアーが扱うウォーピックとは似て非なる物ではあるが、通じる物は有る。


戦槌は比較的扱いが易い武器だ。
ただ振り回すだけでも一定以上の効果が期待できる事から初心者にはまず薦められる事も多い。

が、だからといって浅くもない。
槌の一撃には速度と重量が何より肝心となる。
素人にありがちなのは腕力だけでのろまに振るい、槌自体の重量しか生かされないという失敗だ。
実際の所、ライアーも同様の状態だった。

これをいかに増し、乗せるか。
先人達が組み上げてきた技術はそこに集約されている。


ウォルクからこれを教わり、意識する事によって戦槌の威力は明確に変化した。
初めは無様に盾に弾かれるだけだったハンマーは、時折ウォルクの体勢を崩す事も出来ている。
また、明らかに盾の中央を打ち付ける回数も増えた。
体全体を用いる事で槌の軌道は安定する。
これをライアーは自身の体をもって理解しつつあった。

その後一晩の鍛錬によってライアーの技術は鍛えられた。
短期間で見違えるとまでは行かないが、積み上げ続ける事でやがて高みに達する事も出来るだろう。


その翌日は三人での行軍となった。
ステムは野営地で待機している。

どうやら余程昨日の体験が堪えたらしい。
夜に眠る事も出来ず、真っ青な顔の彼は休ませるべきとの判断が下ったのだ。
同様の状態の者は数人存在していた。
ウォルクによると、二日目に参加出来ない者は毎回似たような割合で居るらしい。


駆け出し一人に対し騎士二人。
余裕が出来た分、実地での技能訓練も平行して行われた。
今回学んだのは気配察知である。


ワルム「いいか? 君は既に獣の気配という物を感知する事は出来ている」

ワルム「余程鈍くない限りは誰だってそうだ」

ワルム「問題は、獲得した情報を他の余分な情報と混同してしまう点にあるんだ」


地を踏む音。
風に乗る臭い。
掻き分けられた草の動き。

必要な物は全て得られているのに気付いていないだけだとワルムは言う。
自然の動きの中にそれらは隠れ、見つける事が難しいのだと。

ワルムは根気強く全てを伝えた。
次々に気付かされる当たり前の景色の中の異常に、ライアーは驚くばかりだ。
見ている物は同じはずなのに、得ている情報の量が池と海ほどにも違う。
彼が野鼠の存在を指摘し、それらしき音を耳に届いた多くの雑音から拾い上げ、実際に飛び出して逃げる後姿を見た時など頭がどうにかなりそうであった。

ともあれ、コツは理解出来た。
ワルムの助力無しで実践が出来るかは別として、ある程度の身にはなっただろう。


そのお陰か、ライアーは初日と同数の獲物を独力で狩る事に成功した。

奇しくも獲物も同じ種である。
フォレストウルフとメガロセンチピードが一体ずつ。

ライアーにとって特に喜ばしかったのはフォレストウルフだ。
前日の個体とは異なり、病に侵されている様子では無かったのだ。
喉元に浅くない傷があった事から、オス同士の争いで敗北し森を追われたのだろうとウォルクが推測している。

この狼の頭を潰して勝利したライアーは毛皮を得る権利を与えられていた。
何かに加工するも良し、売り払って資金にするも良し。

また、メガロセンチピードの牙は御守りとして扱われているらしい。
体の構造上後退が難しいらしく、転じて物事を前進させる力があると信じられているようだ。
こちらはワルムが既に加工を済ませ、ライアーの首から下がる事となった。
残念ながら甲殻は値が付く類では無いそうだ。
確かに強固は強固なのだが、流石に鉄に匹敵する程でも無い。


こうして、二日間の討伐依頼は終わった。

ライアーは計四体の害獣を討伐し、1000GPを得る事となる。
更に促成とはいえ技能訓練を受けた事により、戦闘能力も向上した。
およそこれ以上は望めない大成功と言って良いだろう。

報酬を確かに受け取ったライアーは満足げに帰路につくのだった。



---- 報酬獲得


基本報酬 1000GP
追加報酬 狼の毛皮 センチピード・アミュレット
特殊報酬 技能習得  槌術Lv1 + 探知Lv1

所持金額 220GP → 1220GP


その次の休日。
ライアーは自室で再び報酬を前に悩んだ。

今回の報酬と、前回の残り。
しめて1220GPである。
これだけあれば訓練を受けるのも容易である。
命を与えてくれた女神への感謝を供物として捧げるにも十分だ。
更に上位の装備へと更新するには足りないが、これを使わずに残しておけば依頼一つの達成で届くだろう。

さて、どうしたものか。
悩み抜いた末に、ライアーはその使い道を決定する。


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv2

魔法耐性Lv1 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)

社交術Lv1
槌術Lv1
探知Lv1



1)武装の更新 1500GP (選択不可)

2)能力の上昇 300GP

3)技能の習得 300GP

4)信仰の深化 500GP (50%値引き済み)

5)強化を行わず、貯金しておく



強化内容を選択して下さい。

>>↓1

今日はここで寝ておきます。
お疲れ様でした。

ぼちぼちやっていきます。
よろしくお願いします。


まとまった金が手に入った。
ならば何をすべきか。
その選択肢の中に、自分にとって非常に重要な物があった事をライアーは思い出した。
神への捧げ物である。

ライアーは生誕において神の恩恵を多大に受けている。
本来ならば遺跡の中で永遠に眠り続ける運命であったのだ。
こうして思考を働かせる事すら慈悲無くしては不可能だった。

感謝の祈りは早めに捧げておくべきだろう。
ライアーは早速立ち上がり、町の中央部に存在する神殿へと足を向ける事とした。


円形の塔であった。
神々の穢れ無き力の象徴たる白色に染まる楼閣は他の何よりも高くそびえ立ち、威容を示している。
壁に装飾は無く、窓の類は見当たらない。
外部からでは何も窺う事の出来ないその姿は、一説には神の力を推し量ろうとする愚者を戒める物であるとされる。

世に存在する全ての神殿は同様の形式である。
これは神話に由来する。
詳細は塔を昇る間に分かるだろう。


塔の内側、その第一階層には長椅子が並んでいる。
椅子に挟まれた通路の先には説教台。
七柱の神々に使える神官達が信徒に対して教えを説く場である。
外からの光が入らないために、光源も用意されている。
塔が崩れない限り消える事の無いとされるかがり火がそれだ。
当然のように火神の加護による火だ。

説法の内容は日代わりであり、今日はどうやら水の神に関する物のようだ。
海の恵みによって生きる町だけあって信徒の割合は最も多い。
長椅子も全ての席が埋まっていた。


今回はこちらに用は無い。
供物を捧げるための祭壇は遥か上層にある。

ライアーは大きな籠を抱え直し、邪魔をしないようにと出来る限り音を立てず、壁に沿って螺旋を描く階段を昇っていく。


階段を昇る最中、ライアーは壁を注視していた。
文字を介さない者にも分かりやすいようにと、神話が絵によって示されているのだ。
内容を辿れば、以下のようになる。


初め、世界にはただ夜の闇と、一柱の神のみがあった。

永遠に続く闇の中を漂う日々の繰り返しに神は思う。
この世界はとてもつまらない。
何も無いというのは落ち着くが、しかし同時に楽しみも無い。
少し変化でも起こしてみよう。

そうして神が手を掲げると、その指先には炎が灯った。
炎は瞬く間に大きく膨れ上がって弾け、闇の中に散らばり太陽や星々へと変じた。
生み出された美しい光景をしばし楽しんだ神は、やがて満足して一時の眠りに落ちる。


幾星霜の時が経ち、再び目を覚ました神は驚いた。
自分に良く似た姿の何者かが眼前に跪いているのである。
思わず誰何すれば、それは神が生んだ炎の化身であるという。

これに神は酷く喜んだ。
闇に浮かぶ光は目を楽しませたが、初めての他者との語らいはそれを遥かに上回る喜悦をもたらしたのだ。

居ても立っても居られず、神は新たに手を掲げた。
僅か二人でこうも楽しいのだ。
ならばもっと増えればどうなってしまうのかと。

次に生まれたのは大地であった。
太陽に照らされ輝く草原に立つ女を見つけた時の神の喜びはいか程であっただろう。


そうして神は次々に創造を繰り返す。
海を創り、森を創り。
山を築き、川を通し。
大地は日毎に形を変えた。

やがて、そこに暮らす動物達が現れると神の喜悦は極まった。
動物達は言葉こそ操れなかったものの、色取り取りの生き様で神の心を弾ませた。
神は完全に箱庭を育て上げる喜びに取り憑かれたのだ。

神と四人の従者はそれを天の高みより眺め、楽しんだ。
するとその内に、炎の化身より一つの閃きが発せられる。

天より眺めるだけでは勿体無い。
大地に降り、より近くで見るのはどうかと。


神はこの提案にすぐさま魅せられ、その手段を勘案した。
大地や森から生まれた従者は良い。
だが、炎と水は天より降り立てばそこに生きる者達を破壊してしまう。
ましてや神自身であれば、溢れる威光により何もかもが耐えられずに灰と化すだろう。


長く長く悩んだ末に、神は人形を作り上げる。
神や従者に良く似た形の、しかし動物達と同じ程の大きさの人形だ。

矮小な人形はどれ程撒いた所で大地を砕く事は無い。
神はそれらに自身の耳目としての役割を与え、解き放った。
人形達はその役割を十全に全うした。
瞳に映した光景、耳にした音色、触れた草の手触り、嗅いだ花の香り。
その全てを神に送る事が出来たのだ。

ただ、神にも一つの誤算があった。
人形達は脆すぎた。
彼らはどれ程集まろうとも動物達に容易く敗北し、その数を減らしていく。

これではいけない、折角の目がなくなってしまう。
神は創造の手を振るい、人形達に鋼の武具を与え、身を守るための砦を作る。


砦は原初の家であった。
穢れを許さぬ白に染まり、より天に近付けるようにと雲を衝くように高く伸びる。
絶対の安寧を約束された白亜の塔。
そこに集った人形達は、神の慈悲に感謝し日々祈りを捧げたという。


そこで、ライアーは目的地に辿り付いた。
階段と神話はまだ続いているが、今回はここまでで良いだろう。
今回の目的である供物の奉納を済ませるだけならばもう昇る必要は無い。


到着した階層には六つの祭壇が円形に並んでいる。
それぞれが天に座す神々の元へ繋がっているとされ、そこに供物を捧げる事で送り届ける事が出来るのだ。

神に生み出された炎、大地、水、森、鋼。
これらは神が永き眠りについた際に後継として神格を得、人形達……人間の守護者として崇められている。
無の女神、ライアーが信仰するスーラーワデルについては神々も多くを語らない。
始原の神によって生み出された事は間違いないようなのだが、詳細は残念ながら不明なままだ。
一説には塔の化身なのではないかともされるもののそれを示す証拠は何一つ存在しない。

ともかく、スーラーワデルを含めて六柱の祭壇がここにある。
始原の神の物が見当たらないが、そちらは最上階だ。


ライアーがスーラーワデルの祭壇へ近付くと、その場に居た数人の神官達から意外そうな目を向けられる。
彼らはすぐに己を恥じ入るように目を伏せたが、奇異の視線は致し方ない物だろう。

神は信仰を持たない者からの供物を受け取らない。
偽りの心で祈った所で何も届きはしないのだ。
スーラーワデルについて知られている事は殆ど無い。
つまり、心から信仰出来る者も同様に少ない。
神官達とてスーラーワデルの信徒を見た経験は酷く乏しいに違いなかった。


それでもライアーは気後れを抑え、祭壇へと籠を乗せる。
中身は山のような料理である。
どれもが一目で美味を確信させる逸品であり、高価な砂糖を用いた菓子も多い。

神に何を捧げるかは個々人に委ねられている。
武具を選ぶ者も居れば、酒を選ぶ者も居る。
ライアーの場合は散々に唸って悩んだ末に自身が好む甘味を中心にしたという訳だ。


跪いて目を閉じるライアーの祈りは、この上なく真摯であった。
自身を生んだ女神への感謝には一点の曇りも無い。
生には苦労も多く弱音を口にする機会も多いが、生まれなければ良かったと嘆いてもいない。

やがてライアーの五感は塗り潰され、何もかもが白く溶けていく。
全てが光に飲み込まれ、揺り篭に眠るような安寧に包まれる。

その中で、ライアーは巨大に過ぎる何者かの声を受け取ったような気がした。




「あ、やっと繋がった」

「結構心配してたのよ? あなたってば昔のわた……ライアーからは考えられないくらい気弱なんだもの」

「もうちょっと気楽に生きれば良いのにってずっと言いたかったの」

「それとね……ありゃ、もう終わり?」

「仕方ないか、またの機会にしましょ。 そうそう、次はお酒もお願いね?」


……ライアーが目を開くと、周囲は喧騒に包まれていた。
祈りを捧げていた信徒やそれを見守っていた神官達がざわついている。
その中から意を決したように一人の神官が近付き、興奮気味に口を開いた。


神官「おめでとうございます!」

神官「先ほどの光は間違いありません、御加護を授かったのでしょう!?」

神官「まさか、まさかこのような瞬間に立ち会えるとは……!」

神官「そ、そうです! スーラーワデル様は何か仰っておられませんでしたか!?」


凄まじい勢いで詰め寄る女性神官にライアーは気圧されるばかりだ。
謎に包まれているスーラーワデルの事だけあり、何か言っていなかったかと問う神官の気持ちも分かるが勘弁して欲しい所である。
そもそもとして語りかけられた気はするが詳細は記憶できていない。
ただ何となく、心配されていたように思えるだけだ。

ライアーは必死に何も覚えていないと答え、逃げるようにその場を立ち去る他無い。
その背に投げられる声と視線を、ライアーは懸命に振り切るのだった。



---- 信仰深化

魔法耐性Lv1 → Lv2

信仰Lv2までの魔法無効化 + Lv3以上の魔法の影響を50%軽減)


---- 日常生活パート



ライアー「そ、そんな……クビ、ですか?」

スティール「いやいや違う違う! そういう訳じゃねぇって!」

スティール「ただなぁ、どうもお前はそこそこ筋が良いみたいだからよ……」


不穏な勘違いに慄くライアーへと、スティールが必死に弁解する。
宿の給仕を辞めないか、という話だ。
余りにも単刀直入に切り出されたために意味の取り違いが生じたが、冷静に聞けば悪い話では無い。

ライアーは討伐依頼において四匹の害獣駆除に成功した。
完全な駆け出しが出す成果としては良い部類に入る。
騎士団員のワルムも、戦士としての素養は十分だと言っていた。

となれば、そんな人間の時間を雑用で奪うのは勿体無いとスティールは考えたようだ。
生活の糧を冒険者一本に絞りもっと多くの依頼を請けてくれれば、という事である。


スティール「それに、他にも理由があってな」

スティール「あのステムって小僧なんだがよ……」


更にスティールは続ける。
その話によれば、どうやらステムはライアーに対抗心を抱いているのだという。

幾らか先輩とはいえ同じ駆け出し。
それが同じ依頼を請けて片方は高い評価を受け、片方は泣き喚いて無様を晒した。
ステムの名誉のために知るのは当事者の四人しか居ないが、小便すら盛大に漏らしていたのだ。
まだまだ精神が幼い少年にとっては最上級の屈辱だったに違いない。
彼がライアーを敵視とまでは行かずとも、当面の目標として睨み付けるのも無理は無い。


スティール「そんな風に見てる相手がただの給仕ってのも、まぁなんだ、格好付かんだろう」

スティール「すぐにって話でも無いが、とりあえず考えといてくれや」


それで話は終わりのようだった。
スティールは依頼人との用事があるらしく、宿を後にする。

残されたライアーは考え込む。
冒険者としての稼ぎは、宿の従業員としての給金を超えている。
討伐や採取の依頼をこなすようになれば差は更に膨らんでいくだろう。
ストレスの面でも足枷になっている事も間違いない。

スティールの言葉通り、専業冒険者となる選択は十分に有益だ。
従業員が減る点についても、元々スティールと妻のソフィア、娘のクーだけで運営されていたのだ。
ライアーが抜けたとしても大きな問題は起こるまい。


とはいえ、すぐに結論を出さずとも良い。
今日は宿の仕事も落ち着いている。
息抜きでもしつつ、のんびりと考えれば良いだろう。


エプロンを外し、ライアーは予定を組み上げる。

外出してどこかに向かうのも良い。
酒場通りや市場、広場近くの屋台などは見て回るだけでも楽しめるだろう。
神殿で説法を聞くのも有り触れた人々の営みだ。

一人で過ごすのが勿体無いならば人と会うのも良い。
記憶に関してはともかく、生きた期間がまだまだ短いライアーにとっては他者の思考に触れるのは悪くない気分だ。
宿の荒くれ達のようにからかってこない限りはだが。

勿論、許された余暇の全てを何もせず休養に充てるのも自由だ。



---- 交友状況

スティール(宿の主) ☆
スティールの妻    ☆
クー(宿の看板娘)  ☆☆

牛角亭の冒険者   ☆ ← 忘れていたので追加しています、申し訳ありません。

アーンヴァル      ☆
ウィラハ・パーリング ☆

フーヴェル夫人
ムス


---- 過去の依頼人

蒼鱗騎士団




予定を決定して下さい。

>>↓1


豊かな海の恵みを支える半円の湾。
それを作り出したのは、大地を食む竜だという。
海から現れた蛇に似た体躯の巨竜はただの一口で大陸を削っていったのだ。

その竜は水を司る女神の御使いとされ、信仰の対象となっている。
蒼鱗騎士団の名はそれにあやかったものだ。
旗に描かれる紋章も海から首をもたげる竜の意匠である。

もっとも、実際に目にした者はおらず、巨竜の鱗が蒼いとも限らないのだが。


ともあれライアーは騎士団の者達を訪ねていた。
既に大半は領都に引き上げているが、町に駐屯する者も幾らか居る。
その中に顔見知りが居た事は幸運だったと思って良いだろう。


ワルム「君も律儀なものだな」

ワルム「あれは正式な報酬なのだから気にする必要は無いだろうに」

ライアー「いえ、それでも随分良くして頂きましたから」

ワルム「そうか? まぁありがたく受け取ろう」

ワルム「騎士などと気取ってはいるが皆これに目が無いからな、正直助かるというのも本音だ」


町の一角、衛兵の詰め所の並びにある騎士団兵舎に残っていたのはワルムだった。
定期討伐依頼にてライアーを監督し、気配察知の技術を指導してくれたエルフの青年である。

彼の隣には静かに伏せている灰色の獣が一頭。
立ち上がれば人間の胸元に頭が来るだろう大狼がどうやら彼の乗騎らしい。
副団長であったジルヴァラの相棒とは全く異なるが、これは普通の事だ。
騎士が駆る乗騎は大概の場合種が統一されていない。

乗騎は、騎士が心を交わした獣と共に神殿を訪れ、神の祝福を授かる事で意思を繋げる事が出来る。
完全な思考の一致によって人騎一体となった騎士は大陸における最大戦力の一つとなる。
その制約上、ただ一種のみを揃える事は難しいのだ。
何せ世の中には馬を愛する者も居れば狼を愛する者も居る。
無理に好みを変えるなどそうそう出来る事では無い。


狼は何も言わないが、その目はじっとワルムの手元に向けられている。
そこにあるのは二本の酒瓶だ。
丁寧な指導の礼にとライアーがたった今贈った物である。


ワルム「……お前にはやらんぞ」

ワルム「酒は良い物だが、流石に酒乱の気がある者に呑ませるつもりは無い」

狼「!?」


驚くべき事に、酒に目が無いのは人間の団員だけでは無いらしい。
ワルムが冷たい視線と共に発した言葉に、狼は分かりやすく消沈していた。


さて、謝礼は済ませた。
後は取り立ててすべき事は無いが、何か用があるならばそれを切り出しても良い。

勿論ただ雑談に興じても良いし、成り行きに任せるのも悪くない。
ワルムはライアーが知る限り騎士らしい騎士だ。
礼節を重んじる彼が贈り物を受け取ってそれだけで帰すという事も無いだろう。
ライアーから口を開かずとも、何がしかの展開はあるはずだ。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1

安価取った所で今日は寝ます。
短くてすみません。
お疲れ様でした。


ライアーは雑談を振ってみる事とした。
そのために、まずは許可を取って狼の背を撫でるべく手を伸ばす。
良く手入れされた毛並みはべたつきも無く、心地よい手触りを返してくれる。
撫でられる狼の側も目を細めている所を見るにどうやら気持ちよいようだ。

その隙に、ライアーは頭を捻る。
これもまたフーヴェル夫人の教えだ。

ライアーは口に出そうと決めても実行に移すまでに時間がかかる。
本当にこれで良いのか、と思わずためらってしまうためだ。
その間の沈黙を気まずいと感じてしまうともうどうにもならない。
決定を下したはずの心はどんどん弱り、結局何も出来ないままに終わってしまう。

ならば、と提案されたのが気まずくない時間を作り出す事。
相手が好む話題を話させ聞き手に回ったり、あるいはペットを連れていれば褒めたり撫でたり、という物だ。
その間にしっかりと頭を整理すれば良いと、夫人は助言した。
現状が例にピタリと合致したのはまさしく僥倖である。

さて、見事な体躯の狼を可愛がる間にライアーは丁度良い話題を見つけ出した。
それは……。



1)今後の鍛錬についての助言を求める

2)乗騎について詳細を聞いてみる

3)普段の任務について尋ねる

4)その他 自由安価


>>↓1

昼休みに安価を出して仕事中に頭を回しておくスタイル。
夜にまた来ます。

じわじわ始めていきます。
よろしくお願いします。


ワルム「助言については構わないが、その前に」

ワルム「私はこの通り、騎士としてはまだまだ若輩者だ」

ワルム「そして、これまでの半生の大半を戦いに費やしてきてもいる」

ワルム「つまる所、私が助言出来るのは戦闘に関してのみで、しかも必ずしも正解とは限らないという事だ」


ワルムの忠告に、ライアーはそれで構わないと頷いた。
今は何しろ指針が足りない。
どのような意見であってもきっと有益であるだろう。

それを見て、ワルムは言葉を続ける。


ワルム「私の見立てでは、君はまず基礎的な能力を引き上げるべきだ」

ワルム「戦闘において最も頼りとなるのは、これだけは誰にも負けないと自負できる一芸だ」

ワルム「個々人によって様々だが……君の場合は明白だろう」


ライアーの腕を指し示し、彼は言う。
その肉体が持つ最大の武器はそれに他ならない。
戦士として長じたいならば、最短の道はそこなのだと。


ワルム「長所たる筋力と器用さ、そこを磨き続ければ良い」

ワルム「正確無比に放たれる、問答無用で命を奪う重撃」

ワルム「これ程恐ろしい物は戦場においてそうは無い」

ワルム「後はその一撃を叩き込むまでに生き残る術を確立すれば良いだけだ」

ワルム「防御か回避か……どちらかと言えば防御に適性があるように思えるが、そう大きな差でも無さそうだ」

ワルム「君の好みで選んでしまって良いだろう」


ワルム「こんな所か。 参考にはなったか?」


ライアーは頷き、感謝を告げた。
助言に従うかどうかは勿論自由だが、戦場の専門家たる騎士の言葉である。
一定の信用は出来るはずだ。


ワルム「それは良かった」

ワルム「さて、折角だ。 少し中の方に顔を出していくと良い」

ワルム「ウォルクも居るし、安物だが茶も出せる」

ワルム「何より、騎士団に顔を売っておくと冒険者業には中々有利だぞ?」


ニヤリと笑い、ワルムはライアーを駐屯所内へと誘う。
今日は時間もあり、特に断る理由も無い。
彼の言葉通り利益にもなるかも知れない。

その日の昼下がりはそうして過ぎる。
助言を得、町に駐屯する幾人かの騎士団員と顔を繋ぎ、茶と菓子を味わった。
おおむね有意義な一日であったと思って間違いないだろう。



---- 日常生活 結果

蒼鱗騎士団 - → ☆


TURN -- 4  RESULT


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C+ (センチピード・アミュレットの効果により幸運化、1ターン継続)

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv2

魔法耐性Lv2 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減) ← 深化


社交術Lv1
槌術Lv1
探知Lv1



依頼結果 成功

所持金額 220GP → 1220GP → 720GP


TURN -- 5 START



スティール「よぉし! そんじゃあライアーの門出を祝ってぇ……!」

冒険者達「かんぱぁーい!!」


どっ、と。
宿を揺らす程の叫びと共に酒盃が掲げられる。
主役という事になっているライアーも一応それに倣ったが、気圧されて動きは小さな物にならざるを得ない。

が、ライアーの様子を気にかける者は多くない。

美味い飯。
美味い酒。
そしておまけに騒げる口実。
それさえあればどうでも良いというのが彼らの心の底からの本音だ。

冒険者達は早々に無関係な話で騒ぎ出し、あっという間に本題は置き去られる。


それもそのはず。
先程の乾杯は既に十度目を越えている。
この場に居る者は誰一人として例外無く、紛う事なき酔っ払いだ。

結局、ライアーは冒険者一本で活動していく事を決めた。
考えれば考える程に、従業員として働き続ける理由は無い。
むしろ必然と言えただろう。

それを伝えた晩に始まったのがこの騒ぎである。
ライアーの前途を祈ってなどと言われては断るのも難しかったが、今や参加には後悔しか無い。


スティール「いいかぁライアー、お前もなぁ、冒険者ならなぁ」

スティール「町の連中からよぉ、なぁ……一身になぁ、尊敬をなぁ……集めにゃならんぞぉ」

スティール「このぉ……俺のようになぁ!!」

冒険者「よっ! いいぞスティール!」

スティール「はぁははははは! もっと崇めろもっとぉ!」


主な原因はこれである。
ひたすらに暑苦しいスティールはライアーの肩を掴んで放さず、延々と心構えを語っている。
それがタメになる物ならばまだ良かった。
しかし残念ながらアルコールに思考を破壊された彼の口から飛び出る物に価値がある訳も無い。

九割以上が己の自慢。
現役時代がどれ程凄かったかはもう十分に分かったから解放して欲しいと、ライアーは切に願っていた。


苦行がようやく終わったのはそれから随分経ってからの事だ。

まさに現場は死屍累々。
珍しく血が飛び交う喧嘩にはならなかったものの、代わりに飲み比べが行われてはどうしようも無い。
ありとあらゆる酒樽や酒瓶が転がり、食器から零れた料理は散乱し、所々には吐瀉物がぶちまけられている。
酒場に残ったまま酔い潰れた者達は凄まじいいびきを立てて地獄の演奏会だ。

そんな中をライアーはそっと脱出を試みる。
酷く疲れる一日であった。
掴まれ続けた肩は悲鳴を上げ、さっさと休ませろと主張を繰り返している。
スティールにしこたま飲まされたせいで体の内側も限界だ。
一刻でも早くベッドに潜り込み、休養を取る必要がある。

が。


ソフィア「…………」

ライアー「…………」


ライアーの前に立ちふさがる者があった。
スティールの妻、ソフィアだ。
赤い癖毛が特徴的な、少々小皺が目立つがそれでも十分に美人の部類に入るヒューマンの女性である。
そんな彼女はどこかヤケクソ気味な笑顔でライアーを見つめている。


ライアー「あ、あの……め、珍しいですね?」

ライアー「ソフィアさんがこっちに出てくるなんて……い、いつもは厨房にずっと」

ソフィア「ライアーちゃん」

ライアー「…………はい」


ライアーの儚い努力は実を結ばない。
有無を言わせない笑顔のまま、ソフィアはライアーを引きずっていく。
向かう先は厨房だ。
そこにどのような惨状が広がっているかは想像に難くない。

どうやら眠る前に、従業員としての最後の一仕事が待っているらしい。
幸いなのは表の片付けがソフィアの担当で無かった事だろう。
そちらは明日、暴力的に叩き起こされたスティールとクーが二日酔いに苦しみつつどうにかするはずだ。


宴会から翌々日。
すっかり体も癒えたライアーは掲示板に向き合っていた。

勇気ある牛角亭には今日も十分な依頼が集まっている。
雑用、採取、討伐、護衛。
ただその中で今のライアーにこなせる物だけを数えれば、総数はぐっと減る。

それでも焦る必要は無い。
今は下積み。
一つ一つ、やれる事からやっていけば良いだろう。


1)手癖の悪い亜人退治

報酬 900GP
難度 ☆☆

全くうんざりする話だ。
定期討伐が終わったばかりだからと油断してたよ。
あの忌々しいゴブリンの一団は一体どこに隠れてたのか、討伐から上手く逃げてたらしい。
怪我こそしなかったが折角の商品が一樽も持っていかれちまった。
……中身は食料品だからもう戻ってくるとは期待してない。
ただ、このままあいつらがのさばってるのは我慢ならん!
誰かギャフンと言わせてやってくれ!
少なくとも五匹は居たが、どうせ一匹一匹は子供みたいなもんだ。
冒険者なら討伐も簡単だろう?

---- 流れの行商人



2)落し物の回収

報酬 700GP
難度 ☆

いいか、ここだけの話にしてくれよ?
カミさんから結婚前に貰った御守りをさ……無くしちまったんだ。
多分この間の定期討伐の時だと思う。
このままじゃ領都に戻った時に何言われるやらだ。
想像しただけで心臓が縮み上がるぜ。
俺は勝手に町を離れる訳にはいかないから、誰か代わりに探してくれ。
ペンダント型のアミュレットで、祝福された銀のプレートに俺の名前が彫ってある。
街道と野営地以外には踏み入ってないから、探す範囲はそう広くないはずだ。
どうかよろしく頼む。

---- 蒼鱗騎士団 ヴェーゼル



3)灯台への届け物

報酬 600GP
難度 ☆

依頼内容は単純だ。
オルカーン岬に届け物をして貰いたい。
うちの爺さんがそこの灯台守をしてるんだが、この間うちに寄った時に大事な物を忘れていってしまったんだ。
今頃落ち込んでるに違いない。
途中の道は定期的に獣が間引かれてるから、相当運が悪くない限り大きな危険は無いはずだ。
よろしく頼むよ。

---- 酒場通り 黄金の葡萄酒亭


---- 請け負う依頼を選んで下さい。


>>↓1


ライアーは一つの依頼に目を留めた。
岬の灯台に届け物をしてほしい、という物である。

この依頼は以前も見た事があった。
記憶が確かならば定期討伐の前から残ったままとなっているはずだ。
その間、誰も手を付けずに放置されていたのだろう。
とすれば依頼人も、忘れ物をした灯台守の老人も、きっと困っているに違いない。

迷わず依頼の木札を手に取る。
幸いにして街道の討伐は終わった直後だ。
安全性は最も高まっている。
手頃な依頼と思って良さそうだ。


スティール「お、そいつを消化してくれんなら助かるぜ」

スティール「オルカーン岬は行きたがる奴がいねぇからなぁ」

スティール「あぁ、別に危険だとかそういう訳じゃあない」

スティール「灯台守の爺さんがひたすら陰気で気難しくてな」

スティール「ま、別に話し相手をしろって依頼でもねぇ」

スティール「片道で半日ちょっとだから灯台で泊まりになるだろうが、関わらなけりゃ良いだけさ」


……が、スティールの話を聞いて若干心が重くなる。
陰気で気難しい老人に宿を借りての一泊。
出発前の今から既にぐったりしそうな情報だ。

長期間残り続ける依頼には残るだけの理由があるという事か。
スティールは気楽だが、ライアーとしては頬を引き攣らせて後悔する他無い。


ともあれ、既に依頼は請けてしまった。
今からやはり辞めたいなどと言っても通りはしない。
諦めて準備に向かうしか無いだろう。

オルカーン岬へは街道を行き半日程だ。
町の外へ出るのだから、勿論武具は身に着けるべきだろう。

食料に関しては最低限の分量はソフィアが用意してくれるはずだ。
自前で買い揃えるのは、何か追加を要する場合のみで良い。

その他に必要な準備があれば、ライアーは自由に行動できる。



---- 依頼の準備を行えます。

>>↓1


何よりまず情報だと、ライアーは判断した。
岬の方面にどのような生物が居るかを事前に知っておけば対処の難度は一段下がるだろう。
それをライアーは定期討伐の際に実感していた。
メガロセンチピードの甲殻が硬いと教えられたからこそ、より効果的な戦槌を構えられたのだ。

丁度良い事に、目の前にはこの辺りの要注意生物に詳しいスティールが居る。
ライアーは早速、彼から情報を聞き出した。
それによれば主な脅威は三種居るようだ。


まず一つはメガロセンチピード。
目撃される数ではこれが最多だ。
強固な甲殻を持つ巨大なムカデで、毒は無いが力が強く極めて凶暴。
人間だろうが格上の獣だろうが躊躇無く襲い掛かる。

二つ目はヴァルチャー。
こちらは翼を広げた大きさが大人の身長の倍にも達する巨鳥である。
人間を襲う事は余り無いが、対象が子供であれば話は別だ。
保護者が僅かに離れた隙に急降下からの爪の一撃で仕留めて一瞬にして攫っていく、というケースは少なくない。
また、大人になっても小さな体躯にしかならないグラスランナーに恐れられる鳥でもある。
小人殺しという異名も一部ではあるようだ。
ただ勿論、ライアーが襲われる可能性はそう高く無いだろう。

三つ目がウィルダネスラプトル。
人間より一回り小さい体躯を持つ二足歩行の爬虫類で、跳躍力に優れる。
脅威となるのは強靭な爪と牙、そして常に3~5頭程度の小規模な群れで行動するという習性だ。
包囲を許してしまえば無傷で切り抜けるのは極めて困難に違いない。
ただ、この種は本来北方の荒れ地に棲んでいる。
繁殖期に増えすぎたなどという要因でも無い限り流れてくる事は無いらしく、今は時期が外れている。
今回は遭遇の可能性を考えずとも良い。


まとめれば、危険はメガロセンチピード程度のようだ。
定期討伐直後である事を考えればそれすら遭遇しないかも知れない。
恐らくは安全な道のりになるだろうと、スティールは語った。

それにライアーは安堵の息を吐く。
メガロセンチピードならば二度の討伐経験がある。
当たり前に戦えば順当に勝利を得られるに違いない。

すみません、寝落ちてました。
眠気が凄いのでここまでで。
明日なんとかします。


次いで、ライアーは灯台守の情報を求めた。
これを聞く相手は勿論決まっている。
依頼主はどうやら灯台守の孫であるらしい。
ならば勿論、依頼主こそが最も詳しいはずだ。


踏み入った酒場通りは閑散としていた。
歩いている者は数える程度。
店の入り口は大半が閉ざされ、開いている数軒も内部から喧騒は聞こえない。

今は朝なのだから当然の事だが。
この辺りが賑わうのは夕刻近くになってからだ。


そんな通りの中ほどに黄金の葡萄酒亭はある。

料理は三流、酒は二流、ただし夜毎の歌だけは聞いておけ。
町の人間にそう称される、一風変わった売りの店だ。
高名な吟遊詩人に師事した経歴を持つという店主の語りにこそ人々は金を落とすらしい。

中でも人気なのが屋号にもある黄金の葡萄酒を巡る物語。
一組の行商夫婦が伝承に語られる幻の美酒を求めて世界を旅する様を店主は軽妙に歌い上げる。
それは間抜けな夫婦の失敗談の連続だ。
事ある毎に二人は何かをやらかし頭を抱え、しかし上手く機転を利かせて切り抜ける。

毎度の事件の馬鹿馬鹿しさ、奇抜に過ぎる閃きの数々、常に支え合う夫婦の心温まる絆。
そういった所が人々の心を掴んでいる要因であると、酔客は訳知り顔で語るという。


ルフト「あぁ、牛角さんのとこの」

ルフト「そういえば依頼出してたんだったか、忘れてたよ」

ルフト「届けて貰いたいのはこれだ。 よろしく頼むよ」


いかにも人が好いと一目で分かる。
そんな顔をしたルフトという名の男性が、黄金の葡萄酒亭を営む店主であった。
金の髪の間から覗く長い耳を見るにエルフである。
酒場の店主といえばドワーフかハーフビーストと相場が決まっているのだが、ここは例外のようだ。

彼の足元には足の先と口元だけが白い、ほぼ真っ黒の猫が一匹。
やや離れてライアーを警戒する様子の子猫が三匹。

それを見て思い出す事が一つある。
冒険者としての活動を始めて最初に見た依頼の中に猫探しがあった。
どうやら行方不明だった猫はしっかり見つかっていたらしい。
子猫がまだまだ小さい事を考えれば、きっとどこかに隠れて出産でもしていたのだろう。
無事で何よりである。


ともあれ、それは今は関係の無い事だ。

ルフトはカウンター近くから一つの小さな箱を取り出し、ライアーへと手渡す。
装飾が殆ど無い素朴な木箱で、留め金には鍵も無い。
重みはちょうど大皿料理一皿分程度か。
そう荷物になる物でも無さそうだ。


ルフト「そうそう、中身は見ないであげて欲しいんだ」

ルフト「爺さんはそういうの気にする人だからね」


ライアーは頷き、そして問いかけた。

片道で半日かかるならば灯台で一夜を過ごす必要がある。
その際に当然接する事になるだろう灯台守の老人について事前に知っておきたい。


ルフト「あぁ、爺さんはね……なんというか、いつも拗ねてるんだ」

ルフト「あんまりまともに言葉を受け取らない方が良いよ」

ルフト「困った事に、物事を悪い方に考える事に関しては天才的だからね」


いかにも偏屈らしさを感じさせる情報を皮切りに、ルフトは語った。

灯台守の老人は、名はハウトゥ。
ルフトと同じくエルフであり、一年の大半を岬の灯台で過ごしている。
これは彼の信仰による物だそうだ。

ハウトゥは水と静謐の神イ=リ・プラーハに仕える神官であったらしい。
その信仰心は極めて篤く、信仰の対価に神から与えられた魔法は第三階梯。
聖職者として一流と呼んで良い水準だ。
傷病の類をことごとく退ける癒し手であり、人々の感謝を集めていたという。


しかし、ハウトゥはある日突然に職を辞して灯台守となった。
これに関して、彼は一言語るのみだったそうだ。

曰く、祈りの中で、海を見て生きよとの啓示を受けた、との事。

神の命だと言われてしまえば最早誰にも呼び戻す事は出来ない。
以来、ハウトゥは常に灯台に座して海を眺めている。


ルフト「ま、本当に神様の声を聞いたかどうかは知らないけどね」

ルフト「元々人付き合いが苦手な人だし、隠居のための適当な言い訳かも知れない」


さらりと言うルフトに、ライアーは何も言わず苦笑だけで返す。
死者に裁定を下すとされるイ=リ・プラーハの神官が、神の名を出してまで口にした言葉である。
それを疑うなど、見た目によらない相当な度胸の持ち主だった。


ルフト「こんなとこかな」

ルフト「難儀な性格だけど、よっぽどの事をしない限り夜の野外に放り出されたりはしないはずだよ」

ルフト「あれで根は善良……とも言いづらいけど、そう悪い人でもないから」


それで話は終わりだ。
これだけ教えて貰えれば十分だとライアーは判断し、頭を下げて感謝を伝える。

後は預かった箱をしっかりと送り届ければ良い。


ライアーは一旦宿に戻り、ショートソードとウォーピックを腰に提げる。
ついでに未だ上手く扱えないが、無いよりマシと投擲具を幾らか携行する。

最後に二日分の食料と水、それに木箱を背負い袋に詰めて準備は完了した。


向かうべき岬への道は迷う要素は全く無い。
何しろ、灯台は町からも見えるのだ。

竜食みの湾。
その入り口、外海との境に存在するのが竜の食い残しとも呼ばれるオルカーン岬である。
半円を描く湾に沿って歩いていくだけで良く、道もそのように通っている。
最短ならば船が良いのだが、残念ながらそれを頼める程に親しい知り合いは存在しない。


僅かに緊張を抱きつつ、ライアーは町を出た。

野外での依頼は二度目だが、前回は騎士団が同行していたのだ。
勝手は随分と違ってくるはずである。
この依頼を正しく遂行できるかどうかが、今後の試金石となるだろう。


空の様子は良好。
快晴とまでは呼べないが、崩れる気配もまた見受けられない。

特に風が弱い事はライアーにとって実に幸運だ。
風による草の揺れは、ワルムに学んだ気配の察知に幾らかの支障を来たす。
技術が未熟な現状、自然の妨害が最小限であるのは大変な助けに違いない。

その感覚に引っかかる物は今の所はそう多くない。
野鼠、野兎、その程度だ。
一度狐らしい気配も見つけはしたが、臆病な獣であるそれは早々に逃走を図っていた。
何の障害にも成り得ない。
放置しておいて良いはずだ。


やはり事前に調べた通り、危険は無さそうだ。
ライアーの歩みは順調に進み、灯台への距離を少しずつ縮めていく。


が、順調という事は同時に退屈でもあるという事だ。

左手を見れば海。
右手を見れば草原。
平穏極まりない景色は当初の緊張感を長続きさせようとしない。
無論警戒を怠る事だけはしないが、気が緩むのは致し方ない所である。


気が緩んだならば、魔が差すのも必然だ。
ライアーが位置のずれた袋を背負い直すと、僅かにカタリと音が立つ。
木箱が何かと当たったのだろう。

道程はまだ長いが、時間に猶予はある。
日が暮れるまでに灯台に辿り着きさえすれば良いのだ。
どこか適当な場所で休憩を取り、木箱の中身をこっそり覗いてみるのはどうだろうか。

そんな考えがほんの僅か、ライアーの中に湧き出してくる。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


いやいや有り得ない有り得ない。

心に浮かんだ迷いを振り切るべく、ライアーは頭を振った。
依頼人は開けるなと言っていたのだ。
それを退屈凌ぎの刺激を得るために裏切るなどどう考えてもやってはならない。


ライアーは休憩を取る事とした。
また魔が差してはたまらない。
ここは一度頭を冷やし、心を落ち着けておくべきだろう。

背負い袋から水筒を取り出し一口呷る。
自覚は薄かったが乾いていた口の中が潤い、同時におかしな閃きはさっぱりと洗い流された。


休憩するライアーが腰掛けるのは、朽ちた荷車の残骸だ。
少し観察すれば片方の車輪が壊れている事がすぐに分かる。
動かしようが無くなり、やむなく放置されていったのだろう。
持ち主には災難な事だが正直ありがたくはあった。

そのまましばし、柔らかな風にそよぐ草原を眺める。
鼻に届くのはすぐそばの海から発せられる潮の香り。
普段から町の中でも感じている物だが、今日は一段と強く嗅ぎ取れる。


実に平和なひと時である。
危険な生物が闊歩する事も多い野外であるとはとても思えない。

そうして心身を休ませたライアーは立ち上がり、歩みを再開した。
気力体力は共に十分。
残りの道は問題無く歩みきれるに違いない。


その後のライアーは足を止めず、岬への道は半分以上が消化された。
正面に見据える灯台よりも、振り返り見る町の方が遥かに遠い。
夜では無いにも関わらず、灯台の最上部に燃える炎が見える程だ。

あともう一息。
ライアーは己の足を回してほぐし、やや薄らいでいた集中力を呼び戻す。



---- 探知技能発揮 先制発見



と、その時。
周囲を探っていた意識の網に掛かる物があった。

それは上空である。
現在地よりも随分先の道の上を大きな鳥が旋回している。

事前に調べた情報に一致する姿がある。
ヴァルチャーだろう。
小人殺しの異名を持つ、肉食の猛禽だ。


ライアーは思わず立ち止まり、様子を窺った。

こちらを発見しているのかいないのか。
ヴァルチャーは変わらずに旋回を続けている。

彼我の距離は遠く離れている。
強弓を持ち出した所で届かせるのは難しい程度にだ。
もし相手に何らかの動きがあったとして、対策は十分に可能である。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1

寝ときます。
お疲れ様でした。

間が空いてしまってすみません。
ちょっと立て込んでます。
明日からまたやれる予定。

遅くなってしまいましたが少しでもやっていきます。
よろしくお願いします。


ライアーは戦槌の柄に手をかけたまま、そっと街道から草原へと足を踏み出した。
膝まで伸びた草を慎重に掻き分けて進む。

ヴァルチャーは基本的に大きな獲物に手を出そうとはしない。
ライアーは当然幼子でも小人でもないために基準からは外れている。
恐らく積極的に襲われる事は無いだろうが、念には念を入れて迂回するべきだと考えた。
草むらの中にメガロセンチピードが潜んでいないとも言い切れないが、確実にヴァルチャーを刺激するよりは幾分マシである。


その甲斐あってか、ヴァルチャーが大きな反応を見せる事は無かった。
大きく弧を描いて歩むライアーには気付いた素振りを見せたがそのまま旋回を続けている。

やがて邪魔をする意思が無いと分かったのか。
旋回を終えたヴァルチャーは地面へと急降下し、そこにあった何かを掴んで飛び去っていく。
どうやら光り物のようだ。
猛禽の鋭い爪に掴まれる銀色の塊が微かに見える。


ライアーは見送ってほっと息を吐き、街道へと戻る事とした。


その後は何事も無い道程であった。
獣が出るでもなく、誰と出くわす訳でもなく、ひたすらに平穏な街道を歩む。
そうして日が傾き始め西の空が赤みを帯びる頃、ライアーは岬の灯台へと辿り付いた。


オルカーン岬の灯台は二つの役割を担っている。
一つは夜の海を行く船のための目印。
もう一つは極稀に現れる水棲の魔物の早期発見だ。

ライアーが灯台を見上げると、高く伸びた白い灯台の中ほどに燃える炎が見える。
町の神殿と同じく神の加護に守られた炎は決して消える事無く、外海を旅する者達の道標となっている。

その更に先。
灯台の先端にはそれをより大きくした装置が備え付けられているはずである。
常駐する灯台守が海の異常を発見した場合に灯され、巨大な火柱によって異常を知らせるのだ。
町は竜食みの湾での漁業によって生きている。
魔物の侵入は町の崩壊と直接的に繋がってしまう。

灯台守は町にとっての第一の守りである。
故に、信仰を神に認められ第三階梯の魔法を修めた元神官がその役を担っている事は、町の人々にとっても心強い事に違いない。


……ただし、能力と人格が必ずしも比例するとは限らない。
神は信仰をこそ評価するが、その人品の査定までを請け負ってくれる訳では無いのだ。
極論してしまえば、他者を傷付け命を無差別に奪う快楽殺人者であってもその信仰さえ真実ならば加護は得られてしまう。


ハウトゥ「……なんじゃお前、何の用だ」

ハウトゥ「ここは見ての通りの灯台じゃ。 金目の物なぞ一つもありゃせんぞ」


それが良く分かる見本がこれである。
灯台の入り口、鍵が掛けられたままの扉の覗き窓からライアーを確認した老人の第一声だ。
じっとりとした陰気な半眼は呆れる程の排他性を宿して夕暮れの訪問者を睨み付けている。

ライアーは思わず頬が引き攣るのを自覚した。
初手から盗人の疑惑をかけてくるとは余程の事だ。
人付き合いが苦手と彼の孫たる黄金の葡萄酒亭のルフトは言っていたが、随分と柔らかい言い方であったらしい。
これは正確には壊滅的と言うべきだ。


それでも仕事は仕事である。
怖気づいて投げ出す事も出来ず、ライアーは必死に説明した。

勇気ある牛角亭に所属する冒険者である事。
黄金の葡萄酒亭から忘れ物を届けるよう依頼された事。
それと、夜の街道を避けるために一泊させて欲しい事。

それを聞いた老人の反応はと言うと。


ハウトゥ「……地にありし小さき下部より、尊き御身に願い奉る」


詠唱であった。

無論、ライアーは慌てた。
魔法は神への祈りによって地上に振り下ろされる。
この詠唱はまさしくその物であり、何らかの魔法が行使されようとしているのは明白だ。


が、すぐに落ち着きを取り戻す。
老人が信仰する神は水と静謐の神イ=リ・プラーハだ。
授けられる魔法の傾向は浄化や治癒、それと虚偽看破など精神に関連する物が主となる。

抵抗すべきでは無い。
むしろ進んで受け入れるべきだと、ライアーには何とか判断できた。



---- 事前準備により、魔法抵抗の選択がキャンセルされます。


ライアーが信仰するスーラーワデルは魔法を授けない。
代わりに与えられるのはあらゆる魔法への強力な抵抗力だ。

それは全ての魔法を弾くという訳でも無い。
有益な物、例えば治療は問題無く受けられる。
また、自身が受け入れる事を選んだならば害有る物でも効果は発揮される。
今回は前者が一つ、後者が二つとなった。

立て続けに行使された魔法は三つ。
精神の洗浄。
虚偽の看破。
悪意の感知。
上から順に第一、第二、第三の階梯に位置している。

何らかの手段によって操られている可能性を排除した上で、偽りの有無を見抜き、性根を暴き立てる。
主に罪人の容疑がかけられた者に対して使われる組み合わせだ。
勿論、ここが町から離れており助けを求められる第三者が居ない事を考えれば用心としては理解できる。


加護を利用すれば無理矢理に魔法の結果を変えられるが今回は全く必要無い。
何せライアーには暴かれて不利益となる事実は存在しないのだ。


ハウトゥ「ふん、潔白か」

ハウトゥ「全く面倒な。 忘れ物なぞ次に戻った時でも良いだろうに」

ハウトゥ「これならば盗人の方が追い返せる分いくらかマシというもんだ」


三つの魔法を用いて証明してすら、これである。
ようやく扉を開けた老人は隠す事無く舌打ちを交えて毒を吐く。
今彼が唾を吐き捨てたとして、ライアーは全く意外と思わないだろう。

どうやら今晩は酷く過ごしにくい夜となるようだ。
さっさと入れとでも言うように顎で示す老人を前に、ライアーは涙目になる他無かった。


対面したハウトゥは老いきったエルフであった。
髪からは色が抜け落ちて白く染まり、皺だらけの顔にはシミが目立つ。
腰は曲がっていないようだが、代わりに指は大分固まっているようだ。
枯れ細った指の間接が歪な形で固定され、積み重ねた年月を物語る。

そんな指がライアーから荷を受け取り、小脇に抱える。
次に、静かに一方向を指し示す。

示した先にあったのは物置だ。
開けてみれば広さは人二人が寝られる程度。
掃除用の道具が乱雑に放置されている。


ハウトゥ「そこを勝手に使え」

ハウトゥ「儂は面倒が嫌いだ……黙って寝て、黙って出ていけ」


それきり、老人はライアーを視界から外して上階へと去っていった。
恐らく灯台の上部から海を監視するのだろう。
届けた木箱はそのまま持っていったようだ。

ライアーはそっと物置を振り返る。
掃除用具を隅にでも寄せれば空間は確保できる。
が、残念ながら漂う臭気はどうにもなるまい。
しばらく過ごせば鼻も慣れるだろうが、とにかく気が滅入る事は確かだ。


物置の中に背負い袋と武装を下ろす。
初めての単独行は思ったよりも疲労を伴っていたらしい。
重りが外れた途端にそう自覚したライアーは深くため息を吐き、体をほぐした。


ともあれ確かに木箱は受け渡した。
依頼は達成されたと考えて良い。

後は明日の朝日が昇り次第、帰路につけば良いだろう。
往路の平穏さを考えれば大した事も起こるまい。
一晩を何とかやり過ごせばどうとでもなるはずだ。


その一晩をただ休養にのみ費やしても良いが、そうしなければならないという事も無い。
普段はそうそう来ない場所であるのだから、灯台の中を見て回るのも手だ。
日が落ちきるまでの僅かな時間を利用して岬の風景を楽しむのも悪くない。
勿論、灯台守の老人と何らかの対話を試みる選択も……まぁ、無くは無いかも知れない。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1


ライアーは物置を出て、灯台を見て回る事とした。
折角ここまで足を運んだのだ。
普段見る機会の無い灯台内部を見学するのも悪くない。


まず下層。
現在地である入ってすぐの場所は生活空間となっている。
そう広くは無く、宿の一室よりもやや広い程度だ。
そもそも灯台自体、高さはともかく面積としては然程の物でもない。

中央には小さな木製のテーブルを挟んで二脚の椅子。
テーブルの上にはランプが置かれているが、余り使われた形跡は無い。
四方の壁には破ったとしても獣が入れない程度の窓があり、そこから差し込む光だけで生活しているのだろう。
他には粗末なベッドが一つと、最低限の小さな竈があるのみだ。

食料の保存庫はどうやら地下にあるらしい。
石造りの床の一角に、木製の扉となっている箇所がある。


その他には特にめぼしい物は無い。
ライアーは螺旋階段に足を掛け、ハウトゥの後を追う形で上層を目指した。


灯台の中層、海の道標たる炎の傍にはハウトゥが立っていた。
昇ってきたライアーに気付くと鬱陶しそうに鼻を鳴らしたが、出て行けと口にするでも無い。
ちょうど木箱から取り出したらしいボロボロの本を本棚に収納している所だ。

最低限の物しか無く生活感に乏しかった下層とは異なり、ここにはハウトゥの色が染み付いている。
背の低い本棚が幾らか置かれ、大量の書物が並ぶ。
詰め込みきれなかった分は床に積み重ねられ、極小の塔を形成している。
その中にぽつんと佇むのは年季の入ったロッキングチェアだ。
普段はここに座って海を眺めつつ、読書に勤しんでいるだろう事が容易に知れる。

中央部には両手でも抱えきれない程に巨大な平たい杯。
そこに灯るのは勿論、炎神の加護による炎。
高い天井にも届くような火勢だというのに熱は感じず、煙も出ていない。
やはり通常の炎では無いという事か。

四方の壁は全て取り払われ、代わりに光を遮らないガラス張りとなっている。
容易には破壊されないようにと相当な厚みがある物のようだ。
大陸においてガラスはそう珍しい物では無い。
叡智の神がもたらした技術の一つであり、実に有り触れている。


本棚の本にやや興味を引かれないでもないが、ライアーはそれを振り切った。
ハウトゥの邪魔をすべきでは無いだろう。
依頼は達成されているとはいえ、荷受人の機嫌を損ねるのは良い選択とは言いがたい。

沈黙を保ったまま、ライアーは更に上へと歩を進める。


灯台は三階層によって構成されていたようだ。
天へと長く伸びた建物であるが、その大半は螺旋階段があるのみらしい。

最上層たる屋上には、中層と同じく杯が安置されている。
ただし大きさは倍近い。
町での話で聞いた限りでは灯台自体と同程度の火柱を上げるのだという。

一度見てみたい物であるが、これが灯されるのは湾へと侵入する魔物が発見された時のみだ。
好奇心的には残念だが生涯目に出来ない方が良いに違いない。


そんな杯の中央には、なんとも罰当たりな事に一匹の動物が丸まって眠りこけている。
茶と白を基調とした体毛の至る所に黒い斑点が散らばった姿はリンクスだと一目で分かる。
大変に夜目が利く事で知られる大型の猫だ。
もし二本足で立ち上がったとすれば、ライアーの胸元まで届くだろう。
ある程度の戦闘能力も持ち、ヴァルチャー程度ならば返り討ちに出来るはずだ。

リンクスはライアーの接近に気付いたのか眠たげに片目だけ開き、しばし観察した後に再び眠りへと戻った。
首輪がかけられている点と夜目について考えれば役割は想像が付く。
彼、もしくは彼女は夜の見張り役なのだろう。
ハウトゥが休んでいる間の代理という訳だ。


屋上からの眺めは実に見事な物であった。

どこまでも続く水平線。
静かに凪いだ海。
半円を描く湾は対岸までが綺麗に見通せ、町の連なる屋根も見て取れる。
陸の側へと振り向けば、今度は広大な草原だ。
移動中は分からなかったが、ほんの僅かずつ高低差があったのだと分かる。
遥か北方に微かに見えるのは事前に調べた情報にあった荒れ地だろうか。

それら全てが夕日に照らされ赤く染まっている。


悪くない風景だとライアーには感じられた。
過去、森で暮らしていた当時の記憶の中には、高所から地を眺めた経験など無い。
精々が木に登り村を見下ろした程度だ。
勿論、灯台とは比べるべくも無い高さだった。

にも関わらず郷愁が呼び起こされていくかのようだ。
有りもしない、見知らぬ懐かしさが胸を焼く。


もう少しもう少しとライアーは眺め続け、それは結局日が沈み周囲が闇に包まれるまで続いた。
気付いた時には寝こけていたリンクスも目覚め、ライアーの隣に並んで海を見つめている。

彼(?)の仕事の時間らしい。
見知らぬ者が近くに居てはきっとやりにくい。
そう判断したライアーは、目に焼き付けた景色を反芻しつつその場を去った。

後は特にやる事も無い。
良くなった気分のままに就寝し、明日を待つのが良いだろう。


そして翌朝。
持参した食料で簡単な朝食を済ませたライアーは灯台を後にした。
帰り際にはハウトゥへと礼を告げたものの、ろくに返事も無い。
相棒たるリンクスの方が一つ鳴き声を上げた分、まだ愛想があった程だ。


予想通り何事も起こらない帰路を歩む最中、ライアーは一度灯台を振り返って考える。

あの眺めはそうそう目に出来る物では無い。
灯台守の特権とさえ言える。
ハウトゥの事を考えると中々勇気が必要な選択だが、また来るのも悪くない。

幸い、ライアーは今や極普通の冒険者だ。
宿の雑用を行う必要は無く、依頼の合間を利用すればそう難しくは無いだろう。

もしその機会があればリンクスの背や喉でも撫でてみたい所だ。
初対面のライアーを警戒する様子も見せなかったのだ。
可能性は十二分にある。


リンクスの艶のある毛並みを思い出すとライアーの頬も緩む。
手触りを空想しつつ町を目指す足取りは自然と軽い物になるのだった。


---- 報酬獲得


基本報酬 600GP
追加報酬 無し
特殊報酬 無し

所持金額 720GP → 1320GP


宿に戻り、一日の休息を挟んで翌日。
ライアーは自室で再び報酬を前に悩んだ。

今回の報酬と、前回の残り。
しめて1320GPである。
訓練を受けるのは容易な額だ。
ただ、残念ながら武装の更新や神への供物には足りていない。
そちらは現状不足を感じている訳でも無いが、勿論質を上げておくに越した事は無いだろう。
訓練か貯金か、ライアーは頭を捻る。


さて、どうしたものか。
悩み抜いた末に、ライアーはその使い道を決定する。


ライアーは 女性 です。
ライアーは 筋力 と 器用 に優れ 知恵 が足りません。
ライアーは オートマタ です。
ライアーは 無と流浪の神スーラーワデル を信仰しています。
ライアーは 泣き虫 かつ 引っ込み思案 です。
ライアーは 迫害の末に絶滅に追い込まれた民の生き残り です。
ライアーは 勇気ある牛角亭 を拠点にしています。

筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C+ (センチピード・アミュレットの効果により幸運化、1ターン継続)

睡眠不要
信仰上昇コスト低下

武装Lv2

魔法耐性Lv2 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減) ← 深化


社交術Lv1
槌術Lv1
探知Lv1



1)武装の更新 1500GP (選択不可)

2)能力の上昇 300GP

3)技能の習得 300GP

4)信仰の深化 1500GP (50%値引き済み 選択不可)

5)強化を行わず、貯金しておく



強化内容を選択して下さい。

>>↓1


修正

× 魔法耐性Lv2 (Lv1の魔法無効化 + Lv2以上の魔法の影響を25%軽減)

○ 魔法耐性Lv2 (Lv2までの魔法無効化 + Lv3以上の魔法の影響を50%軽減)



安価出して寝ておきます。
お疲れ様でした。

じりじり始めていきます。
よろしくお願いします。


筋力 C+
敏捷 D
耐久 C
知恵 E+
器用 C+
運勢 C


上昇させる能力を1~2個選んで下さい。
1つにつき300GPを消費します。

>>↓1


クー「へー、中ってそんな風になってるのね」

ミーア「えぇ、まぁ。 案外変わらない物でしょう?」

クー「や、結構違うと思うけどなぁ。 あ、これって血管?」

ミーア「残念、そっちは神経よ。 血管に相当するのはこっちの白いのね」


ライアーの左手の内部を覗き込み、クーは興味深そうに声を上げる。
それに返答するのはミーアという名のオートマタの女性だ。
外見上は女盛りといった風だが、実年齢は不明。
どこか眠そうにも見える細い目が特徴的で、気だるげな雰囲気を纏っている。

ミーアが行っているのはライアーの性能強化である。
オートマタは通常の方法では肉体を鍛える事が出来ない。
皮膚と肉を一度切り開き、内部の部品達を補強、あるいは交換しなければならないのだ。

鋼と叡智の神の信徒であり彫金を生業とする上に、本人もオートマタのために内部機構に詳しいミーアはまさにこの作業にうってつけだった。
彼女と交友のあったクーの存在にライアーは改めて感謝する。


クー「にしても羨ましいなぁ」

クー「必死に汗かいて鍛えなくても強くなれるなんて、私もそうだったら良いのに」


頬を膨らませてクーはそう言うが、ライアーから言わせれば人間が羨ましい所だ。
オートマタにはオートマタなりの苦労もある。


ライアー「でも、クー達は自分一人で鍛えられるでしょ?」

ライアー「私達はどうしても誰かにやってもらわないといけないから……」


脚程度ならまだしも、多くの部位では自分自身での改良は限度がある。
片手が強制的に塞がる腕を始めとして、難度が高すぎる。
特に見えず届かずの背中などはまず不可能。
延々と走り続けるだけで体力が付く肉体には、ライアーとしては羨望しか抱けない。


ミーア「付け加えて言えばあくどい連中に当たると面倒なのよ」

ミーア「背中開いた後に脅迫なんてされたらもう逆らい様が無いわ、何せ命握られちゃうんだから」

クー「あー……そういうのもあるんだ」


心底同意するように頷くミーアに、クーは頬を掻く。
隣の芝生かぁ、という呟きは実に正しい。


それからしばしの時をかけて、ライアーの改良は終了した。
首の後ろに刺されていた麻酔の針が抜かれ、ライアーの四肢はゆっくりと自由を取り戻していく。
一度開かれたために痛みも主張を始めてしまうが、そちらは服用済みの鎮痛剤がそれなりに働いてくれている。

ライアーは試しにと、自身の指を複雑に動かしてみた。
違いははっきりと自覚できるレベル。
格段に滑らかに動くようになったそれは、今ならば大道芸すら容易く習得出来そうにも思える。

そこに、はいこれ、とミーアが手渡したのは針と糸。
理解したライアーが極小の針の穴を狙って糸を差し込めば、然程慎重に行った訳でもないのにただの一度で狙い通りに通り抜けた。


ミーア「動作精度に関しては相当な物ね」

ミーア「元々の性能が良い癖に、改良の余地までたっぷり」

ミーア「正直、あなたの体はいじってて面白いわ……また来なさい」


まるで表情を変えずに、しかし声色は弾ませて言うミーア。
ライアーは若干引きながらも、感謝と代金を渡すのだった。


-- 能力成長


1320GP → 720GP

耐久 C → C+
器用 C+ → B- → B (成長ボーナス+1)


---- 日常生活


次の日。
牛角亭の屋上、物干し場にてライアーとクーは雑談に興じていた。
洗い物を次々に干しながらである。

ライアーは既に従業員では無いのだが、クーだけが働いたままで話すのも気が引けるのだから致し方ない。
そもそも、ライアーはこの作業を気に入っているという事もある。


クー「綺麗に塞がるのね、もう痕も無いなんて」

クー「あんなにパッカリ広げてたのにちょっと不思議」

クー「肋骨なんてこう、ギギギギーって広げてさ……」

ライアー「や、やめてクー……思い出しちゃうから……」


主な話題はライアーの改造についてだ。
どうやらクーはオートマタの体にそれなりに興味を抱いたらしい。
肋骨を力尽くに広げていく様を再現しつつ疑問を口にする。

強制的に思い出させられたライアーは顔色を悪くせざるを得ない。
自身の胸部から骨が飛び出している光景は本人をして恐ろしい物であった。
顔色一つ変えなかったミーアを改めて畏怖してしまう程度には。

ちなみに、綺麗に塞がった理由は宿に戻った後に受けた治療魔法の効能である。
流石に一晩で自然治癒などする訳が無い。
当然の事なのだが、どうやらクーは考えが至っていないようだ。
一目で分かる程に人形らしい見た目であるためか、時折そういった勘違いをする者も居る。


それはともかく、とライアーは話題の転換を図る。
これ以上続けて内臓の置換にまで発展してしまえば体の震えを堪えられる自信が全く無かった。


ライアー「ところで、私が抜けちゃった分は大丈夫?」

クー「ん? 平気平気……とまでは言えないかなぁ」

クー「今まで一人だったんだからって思ってたけど、案外二人に慣れちゃってたみたい」

クー「ま、でも少しすれば元通りだって、心配しないで」


にっかりと笑うクーに、ライアーはほっと息を吐く。
灯台守のように虚偽の看破が行えなくとも嘘は無いとはっきり分かる笑みだった。
僅かながらも罪悪感を感じていたライアーは救われたような気分になる。


クー「逆に心配するのはこっちじゃない?」

クー「ライアーの方はどう? 順調に依頼こなしてるのは知ってるけど」


今度はクーが問う番だ。
やや変色したシーツを綺麗に広げながら、そっとライアーの顔を覗きこむ。

それに対する返答はやや明るい物となる。

やりがいと呼べる程の物はまだ無い。
それでも、宿の従業員の頃のように常に追い詰められていた状態からは解放されている。
同じ冒険者という立場になったお陰か、荒くれ共のからかいが減った事が大きい。
馴染めているとは言い難いものの、無難に生活できているのだから良しとすべきだ。


クー「そっか、なら良かった」

クー「……でも無理しちゃ駄目だからね」

クー「駆け出しから抜け出そうとして無茶して再起不能、なんて本当に良くある事なんだから」


クーの忠告に、ライアーは素直に頷く。
物心ついた時から冒険者を見てきたであろう少女の助言だ。
真摯に受け止めておくべきだろう。


そうして一通りの作業が終わり、階下から聞こえたソフィアの声に、うへぇと顔を歪めてクーは立ち去った。
次は厨房での皿洗いが待っているようだ。
昨日も昨日で夜の酒場は賑わっていた。
きっと山のような皿を前に溜め息を零す事になるに違いない。


さて、とライアーはやや疲労した腕を回して考える。
今日は依頼を請ける必要も無く、丸きりの休日だ。

外出してどこかに向かうのも良い。
酒場通りや市場、広場近くの屋台などは見て回るだけでも楽しめるだろう。
神殿で説法を聞くのも有り触れた人々の営みだ。

一人で過ごすのが勿体無いならば人と会うのも良い。
記憶に関してはともかく、生きた期間がまだまだ短いライアーにとっては他者の思考に触れるのは悪くない気分だ。
宿の荒くれ達のようにからかってこない限りはだが。

勿論、許された余暇の全てを何もせず休養に充てるのも自由だ。



---- 交友状況

スティール(宿の主) ☆
ソフィア         ☆
クー(宿の看板娘)  ☆☆

牛角亭の冒険者   ☆

アーンヴァル      ☆
ウィラハ・パーリング ☆
蒼鱗騎士団      ☆

フーヴェル夫人
ムス
ミーア


---- 過去の依頼人

ハウトゥ(灯台守)




予定を決定して下さい。

>>↓1


ハーン「そこで俺は言ってやった訳よ」

ハーン「坊主、お前はいつまでそうやって腐ってるつもりだ、こんな地べたで這い蹲って悔しくねぇのか」

ハーン「男なら這い上がって来い! そのための一歩目は俺が助けてやる」

ハーン「ハッ、施しはいらねぇってか? そんな言葉はいつかこいつを叩き返してから吼えてみせろよ」


勇気ある牛角亭。
その一階の酒場にてライアーは延々と話しを聞かされていた。
真昼間から赤い顔の男は芝居がかった口調で語る。


ハーン「そして俺は金貨を一枚、そいつにくれてやったのさ」

ハーン「俺の勘だがよぉ、あいつは上ってくるぜ」

ハーン「ガキも良いとこの半端者だが目が違った……心に矜持を飼ってる男の目って奴だ」

ハーン「なぁ? お前もそう思うだろう?」

ライアー「は、はぁ……そ、そうですね……」


どうしてこうなった、とライアーは嘆く他無い。

町にでも繰り出そうとしていた所を、実に運悪く捕まってしまったのだ。
既に泥酔に近い彼は突然ライアーの肩を掴み、強制的に席へと引き摺った。
そうして始まったのがこの話。
本当か嘘かも怪しい語りは酒臭い吐息たっぷりに展開され続けている。
同意を求められた所で、その坊主とやらが誰かすらも分からない。


キプ「かぁー、うっさんくせぇ!」

キプ「作り話にしたってもうちょっとやり様あるだろうよおい」

ハーン「はぁぁ? 作り話ぃ? お前俺の話のどこがホラだってんだよ」

キプ「金貨だよ金貨。 ドケチのお前が他人に金なんか出す訳ねぇだろ」

キプ「お前があたしに何回たかったか数えてみろってんだ!」


更に、同席したもう一人が状況を悪くしていく。
気分良く自分語りをしていた所に割り込み、投げかけたのは真っ向からの否定だ。
間に挟まれる形となったライアーはそっと天井を見上げて染みを数え始めた。
……現実逃避である。

彼らはハーンとキプ。
共にヒューマンの男女であり、良くコンビで依頼を請ける関係だ。
加えて言うなら、ハーンの方は頻繁にライアーの尻を狙うケツ叩き魔でもある。


ハーン「お前なぁ、俺だって年がら年中ケチって訳じゃねぇぞ」

ハーン「たまにはそうやって気が向く時もあるってこった」

キプ「ほーぅ、だったら溜め込んだ貸しを今すぐ清算してもらおうか」

ハーン「おっと悪ぃな。 次に気が向くのは半年後ぐらいだ。 そん時に言えや」

キプ「本当良い根性だなてめぇ……」


身を縮こまらせたライアーの頭上を言葉が飛び交っている。
ちらりとキプに目をやると額には青筋が浮かんでいた。

フーヴェル夫人の薫陶を受けた所で、生来の弱気が治りきった訳では無い。
ライアーの体はぷるぷると震え、目元には涙が浮かびつつあった。
本当に何故こんな事にとライアーは後悔を降り積もらせていく。


だが、こうしていても埒があかない。
このままでは二人のペースに巻き込まれ続ける事は明白だ。
日が暮れるまでどう反応して良いか分からない酒席に付き合わされるに違いない。
その辺りに全く遠慮が無い事は、従業員であった当時に嫌と言うほど理解している。

状況を打破すべく何らかの行動を起こすか。
それとも全てを諦めて無の境地を目指すか。
ライアーは可能な限り存在感を薄めつつ、必死に考えた。



---- 行動を選択して下さい。

>>↓1

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