【ガルパン】×【古畑任三郎】 待機命令 (45)

※今回はVS西絹代です。

※被害者は辻さんですが役人ではなく知波単の前隊長の辻つつじさんです。

古畑『えー、ちょっと前、断捨離って流行ってましたが、どうしても捨てられないものって
ありますよねえ。例えば何か思い出のある物とか、深い思い入れがある物とか、買ったとき
とても高価だった物とか。でも、思い出や思い入れがあっても、高価だったとしても、早く
処分した方がいい物も存在します。例えば…、殺人の凶器とか』

『学園艦法人・知波単学園主催・第43回社会人剣道大会』


古畑「いやあ、西園寺くん、惜しかったねえ。もう少しだったのに」

西園寺「最近仕事にかまけて稽古を怠ってましたからねえ」

古畑「でも君が剣道の段持ちで、その上こういう大会に出場してるなんて知らなかったよ」

西園寺「たいしたことじゃありませんよ、剣道は警察官の必修技能の一つですし、この知波単の大会は
有段者であれば誰でもエントリーできる草大会ですからね」

古畑「今泉くん、君も見習ったら?文武両道とはこのことだよ」

今泉「いや、僕は古畑さんと同じで頭脳労働が専門ですから」

古畑「…」

西園寺「…」

『ではこれより、戦車隊隊長、西絹代と戦車隊の有志6名による居合道の演武を開始します』

西園寺「ほら、彼女が戦車隊の名物隊長、西絹代さんですよ」

古畑「ああ、あの有名な…」

西園寺「僕の実家の寺が彼女のご実家の壇那寺で、彼女のご実家は檀家の総代なんです。昔から家族ぐるみで
お付き合いさせてもらってます」

古畑「ふーん、そうなんだ、それにしても彼女美人だよねえ」

西園寺「ええ、それに人柄も最高で、学園艦一の人気者だそうですよ。戦車隊だけじゃなくてもう学園艦の実質的な
トップだと言ってもいいくらいだそうです」

絹代「やあ、西園寺さん!試合見てましたよ!惜しかったですねえ!」

西園寺「やあ絹代さん、お久しぶりです」

絹代「本当にお久しぶりです、曽祖父の法要以来ですか。和尚さんたちはお元気ですか?」

西園寺「ええ、父も兄も元気です。あ、紹介しますね、こちら上司の古畑さんと先輩の今泉さんです」

古畑「いやあ、どうも、古畑と申します。西園寺くんがお世話になっております」

今泉「やあ、今泉といいます!よろしくお願いします!」

絹代「お噂はかねがね聞いてますよ、難事件をいくつも解決した大変な名刑事さんだそうで」

古畑「いやあ、それ程でもありませんよ。あ、SMAPの事件を解決したのも私です」

西園寺「…」

古畑「こちらこそ、西さんのご活躍はいろんなところで拝見させてもらってますよ。私、戦車道の試合見るのが
大好きなもので。特にあれはよかったですねえ、あの大学選抜チームと高校生連合チーム試合。大洗女子学園を
救うために十八番の一斉突撃を封印して、偽装と待ち伏せに徹したゲリラ戦術に転換したところなんか」

絹代「あれをご覧になってたんですか、ありがとうございます」

古畑「それにしても大胆な戦術の転換でしたねえ、知波単の試合は何度か拝見しましたが、いままでとは
正反対の戦術と言っても過言ではありませんよ」

絹代「どのみち突撃戦術のみではこの先生き残れないと思ってましたからね、まあそれも下の者に意見具申されて
渋々といったところなのですが」

絹代「でも、それが今OG会などで問題になってまして、『勝利のためとはいえ知波単の伝統をないがしろにするのか』って。
自分も悩んでいます、果たして本当にあれで良かったのか、伝統を守って敗北するのと諸先輩方が守ってきたものを捨ててまで
勝利を収めるのとどちらがいいのかと…」

古畑「署の近くにね、ラーメン屋があるんです。今のご主人で3代目になる老舗のラーメン屋です。今流行りの家系とかじゃなくて
昔ながらの店なんです。行列ができる程じゃありませんがいつ行っても繁盛してます」

絹代「はあ…」

古畑「そこのご主人に聞いたことがあるんです、『何十年も同じ味を守り続けるのは大変だろう』って。そしたらご主人はこう言うんです、
『ずっと同じじゃない、時代に合わせて少しずつ味を変えてる。ずっと同じだといつか必ず味が落ちたと言われる』って。本当の意味で
伝統を守るってそういうことじゃないでしょうか」

絹代「そうか…、そうですね、ありがとうございます、いいお話を聞きました!」

古畑「いえいえ、たいしたことは言ってませんよ」

つづく

絹代「やはり旧態依然のままでは生き残れないのですね。いや、本当に勉強になります」

福田「あの…、西隊長、辻先輩がお見えになってますが…」

絹代「またか、道場の応接室にご案内しろ」

古畑「ご来客ですか?」

絹代「ええ、前隊長でOG会のうるさ方ですよ。私が戦術方針を変えたのが気に入らないようで…」

剣道場・応接室

絹代「福田、呼ぶまで来なくていいぞ」

つつじ「この大事な時期に剣道大会とはな、呑気なものだ」

絹代「草大会とはいえ伝統のある大会ですからね」

つつじ「伝統をないがしろにしている者の台詞とも思えんな」

絹代「またその話ですか。今の知波単にとって一斉突撃は必勝の戦術ではなくただの自己満足だと
申し上げたはずです。今のままでは我々に未来はありません」

つつじ「で、卑怯な手を使って不名誉な勝利を得るわけか」

絹代「…」

つつじ「まあいい、この話はこの先も平行線のようだな。今日は次回のOG会で貴様の解任を動議する
ことを伝えにきたんだ。今、根回しを進めているところだ」

絹代「…どういうことですか?」

つつじ「貴様のような臆病者にこれ以上隊長を任せておけんということだ」

絹代「…で、自分たちに都合の良い傀儡に首を挿げ替えるということですか」

つつじ「口が過ぎるぞ」

絹代「待ってください!自分は我が身が惜しくてこう言っているわけではありません!確かに戦車道は
スポーツではなく武道であり、結果が全てではないのは認めます!ですが、大洗のこともあります!
このまま結果を出せずにいれば戦車道どころか知波単そのものの存続を危うくするかもしれんのです!
それがわからんのですか!?」

つつじ「やはり貴様を隊長に推したのは間違いだったな。貴様のような臆病者は叩き出してやる」

絹代「くっ…!御免!」

絹代、飾ってあった日本刀でつつじを刺殺。

福田「失礼します、隊長、大きな音が…、ひぃっ!誰か!誰か来て!」



西園寺「こ…、これは一体…」

古畑「んー、胸を一突きかあ、この様子だとおそらく即死だったみたいだねえ、西園寺くん、通報よろしく」

西園寺「もうしてあります」

古畑「手際がいいねえ、今泉くんも見習いなさいよ。凶器は日本刀だね、それも一番値打ちのあるやつだよ」

西園寺「なんでわかるんですか?」

古畑「そこの飾り棚、その一番目立つところに掛けてある刀を見てごらん」

古畑「その刀、私、刀剣類はあんまり詳しくはないけどそれだけ拵えが粗末なんだよねえ、ちょっと抜いてみて」

西園寺「血痕とか血の曇りはありませんが…」

古畑「んー、やっぱりねえ。それ、鍛造じゃなくて削り出しで作ってあるよ。多分昭和に入ってから軍用刀として
大量生産されたやつを居合の練習刀に作り直したやつだねえ。そんなふうに飾っておく種類の刀じゃない、おそらく
とっさに一番手近にあった刀で刺殺して、それが値打ち物だって気付いて安いのと取り換えたんだろうねえ。この人、
西さんと会ってたんだよねえ、その本人は?」

西園寺「今、剣道場にいるようです」

つづく

細見「おい!貴様ら!一体どういう権限でこんな真似をしている!学園艦の艦内は生徒による自治が
認められているはずだ!陸の刑事の出る幕ではない!これは学園憲兵隊の仕事だ!」

古畑「んー、洋上を航海しているときなら学生の治安官と海保の管轄なんでしょうが、今は港に停泊中
です。管轄の千葉県警が来るまではとりあえず警視庁の捜査員である私たちが担当するのが筋ってもの
でしょう。違いますか?」

玉田「くっ…!」

古畑「西さん、よろしいですか?」

絹代「…」

古畑「西さん、凶器の刀はどこですか?物証である刀は見当たりませんがそれ以外の状況は
全てあなたの犯行を指示しています。今、ご自分から全てを認めて出頭すればだいぶ罪が
軽くなると思います」

絹代「古畑さん、先程も申しましたが知波単は変わらねばなりません。今ここで捕まるわけにはいかない
のです。然るべき時が来たら必ず責任を取ります。ですからここは見逃しては頂けませんか?」

古畑「西さん、私の立場上それは絶対にできません。重ねて聞きます、凶器の刀はどこですか?」

絹代「申し訳ありません、ですがこれは私の本意ではないと言わせてください」


『緊急事態発生により、本艦はこれより離岸、出港します。部外者の方は直ちに退艦願います。繰り返します、…』

古畑「西園寺くん、県警のほうはまだ来ないの?」

西園寺「艦の昇降口で憲兵隊と押し問答やってるんですよ、このままじゃ警察が艦内に入る前に出港しちゃいます」

古畑「んー、どうやら戦車隊や憲兵隊だけじゃなくて航海科や機関科にも西さんのシンパが大勢いるみたいだねえ、
物証である凶器の刀が見つかる前に出港してしまえば逃げ切れると踏んでるんだろうねえ」

今泉「このままでは本当にそうなっちゃいますよ、岸から離れた時点で陸の警察は管轄権を失います」

古畑「とにかく刀を探そう。これだけ大きな船だ、動き出すまでにはかなり時間が掛かると思うよ」

つづく

古畑「剣道場からこの部屋まで廊下が一本だけ、この部屋に凶器になった刀はない、
途中の廊下か道場のどこかということだねえ」

西園寺「それにしても、彼女がこんなことをするなんて…」

古畑「おそらく突発的なことだったんだろうねえ、思わず刀を隠してしまったら自分でも
予想していなかった方向に周りが動き始めたんだろう。彼女、ちょっと周りに流されるところ
があるみたいだねえ、彼女自身のためにも早く見つけないと」

今泉「でも古畑さん、廊下も道場も隠せそうなところは見当たらないですよ。それに殺害してから
まだほんの数分じゃないですか。本当に日本刀なんですか?懐に隠せるナイフとかじゃ…」

古畑「いや、西さんを最後に見たときにはそれらしいものは持っていなかったし、第一、高価な
日本刀じゃなきゃあんな風に安物とすり替えたりしないよ」

西園寺「誰か共犯者がいて、そいつに渡したとか…」

古畑「んー、それもないねえ、彼女と接触したのは福田さんだけだったけど、その福田さんも手ぶらだったし、
他の人間があの部屋から出てきた様子はなかったよ」

今泉「あっ!このドア開けたら中庭ですよ!どっかに穴掘って埋めたとか」

古畑「そんな時間はなかったよ、埋めた跡も見当たらないし、穴を掘る道具もないし」

西園寺「そこまでしなくても、例えば芝生をめくってその下に放り込んだとか」

古畑「んー、いい線いってるけどそれもないだろうねえ、彼女、手にも袴の裾にも泥はついてなかったよ。
着替えるどころか手を洗う時間もなかったはずだよ」

西園寺「とにかく探しましょう、どこかに必ずあるはずです」

古畑「そうだねえ、さっき言ったように、道具を使わないと隠せないところや時間の掛かるところは除外できるねえ」

西園寺「そうなると相当絞り込めるはずですが…」

古畑「彼女の様子はどう?」

今泉「相変わらず道場で正座してます」

古畑「じゃあそこから動くなって言っといて。あ、あと応接室から道場までこれ以上誰も入らないようにしといて」

西園寺「一体どこにあるんだ…、消えるはずないのに…」

古畑「とにかく手分けして探そう、もう時間がないよ」




細見「隊長!安心してください!隊長のことは必ず我々が守ります!」


絹代「すまない…、今は何も言わないでくれ…」

つづく

西園寺「我々以外の部外者は全員退艦したようです。船が離岸するまであと20分くらいだそうです」

古畑「んー、県警のほうはどうなってるの?」

西園寺「まだ憲兵隊と押し問答してます、出港するまで頑張る構えのようですね。海保や水上警察にも連絡しましたが、
これじゃ捜査員が乗船するまでに事件そのものがうやむやになりかねませんよ」

古畑「うーん…、消えてなくなるはずはないんだ、どこかに必ずあるんだけど…」

西園寺「応接室にあった刀は全て抜いて見ましたがどれも違いましたし…」

古畑「んー、弱ったなあ」

西園寺「ちょっと今泉さん!何やってるんですか!」

古畑「どうしたの?」

西園寺「今泉さん、スマホで落語なんて見てたんですよ!」

古畑「この状況下で何やってんの君は」

おでこペチっ

今泉「いや、何かいい手はないかなあって検索してたらいつの間にか…、気楽家有楽ですよ、ほら、
以前古畑さんが逮捕した気楽家雅楽の師匠の。いやあ、やっぱり当代随一の名人と言われるだけあって
面白いなあ」

再びおでこペチっ

古畑「…で、演目は何?」

今泉「『道具屋』です」

古畑「…『道具屋』?」

今泉「知りません?ほら、古道具屋の店番を頼まれた男が…」

古畑「知ってるよ。『道具屋』…、そうか、今泉くん、お手柄だよ。西さんのところへ急ごう」




古畑『「木を隠すなら森の中」という諺がありますが彼女は凶器の刀を一体どこに隠したのか?ヒントは…、「道具屋」です』


次回解決編につづく。

古畑「西さん、戦車隊の隊長だけあって、あなたはとても大胆な人ですねえ、普通の人なら
思いついても実行しようとは思いませんよ」

絹代「何のことですか?」

古畑「今泉くんにそこから動くなと言われたとき、あなたは内心『しめた』と思ったんでしょうねえ。
そこなら隠してある刀に近づく人間を見張ることができます」

古畑「落語の演目の『道具屋』というのをご存知ですか?」

絹代「いえ、存じません、それが何か?」

古畑「古道具屋の店番を頼まれた男が騒動を起こすという噺なんですが、その中にこんな件があるんです。
店に来た客が『そこに置いてある短刀を見せてくれ』と言うんです。でもその短刀は錆びているのかいくら
引っ張っても鞘が抜けない」

絹代「…」

古畑「店番の男と2人掛かりで引っ張ってもビクともしない。いい加減疲労困憊したところで
店番の男がこう言うんです、『抜けないかもしれませんねえ、木刀ですから』」

絹代「!」

西園寺「古畑さん、その話が一体…」

古畑「我々は古道具屋の客と正反対の勘違いをしてたんだよ」

古畑「いいかい、古道具屋の客は木刀を木鞘に入った真剣だと思ってたんだ。その逆といえば…」

西園寺「ああっ!まさか!」

古畑「いくら探しても見つからないわけだよ、ずっと目の前にあったんだから」

古畑、壁の木刀掛けから1本を手に取って『抜刀』する。

古畑「いやあ、盲点でしたよ、一番値打ちのある刀というから黒鞘や朱鞘の立派な拵えのものを想像してましたよ。
まさか白木拵えの奉納刀だったとねえ、年季が入って鞘も柄も黒ずんでしまってるからますます木刀にしか見えません」

古畑「刀身に血の曇りがありますねえ、これは研ぎに出さなければ消せません。拭き取ったくらいじゃダメです。
それにここ、血を拭き取ったときにうっかり付けたんでしょうねえ、血染めの指紋があります。これは西さん、
あなたの指紋で、この血は被害者のものでしょう、違いますか?」

絹代「…」

古畑「一緒に陸の警察に出頭してもらえますね?」

絹代「…出港を直ちに中止させろ」

細見「は…ですが…」

絹代「聞こえなかったのか!早くしろ!」

細見「はっ…はい!」

古畑「ありがとうございます」

絹代「一時の短慮で全てを台無しにしてしまいました。これはきっと『卑怯な真似をするな』という
天の配剤なのでしょうね…」

古畑「んー、どうでしょうか、私は神様なんて信じていませんが、もしかしたらそんな力が働いたのかもしれませんねえ」

絹代「ああ、一度行ってみたかったなあ、古畑さんの仰ってたラーメン屋って」

古畑「いつでもご案内しますよ。罪を償って自由になったらぜひご一緒しましょう」



                             終

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