美希「ねぇ、でこちゃん?」 (10)

「ねぇ、でこちゃんー」

見ているテレビに飽きちゃって、ミキはそう声をかける。
テレビに夢中、それも恋人のミキの声に気づかないほどに夢中の伊織からは返事なし。
でこちゃんの眼は箱根を駆ける選手たちに釘付けらしい。

「でこちゃんってばー」

「何よ、今いいとこなのに」

ようやく返事があったと思ったら、一言ピシャリ。
駅伝にいいとこも何もあったもんじゃない。ゴール間際ならともかく。
なーんて考えちゃうのはミキがあんまり駅伝知らないだけ?

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「まだ3区なんでしょ? まだまだ先は長いよ」

「バカねー、あんた。 3区ってのはね、駅伝でおいて最も大事なとこなのよ。 そもそもねー」

毎年恒例の駅伝解説が始まった。
最初はミキと同じで駅伝なんかにてんで興味が無かったくせに。
いつの間にかハマっての。
誰に教えられたんだろう?
パッと頭に思い浮かんだのは、やよいと春香。
そういえばミキがカウントダウンライブでいない時に3人で過ごしたとか何とかで、あぁその時か。

なのでこの時期になると、伊織はどてらを羽織ってみかんを頬張りながら駅伝を見るのが常となっている。
そしてこうやってミキが放っておかれるのも恒例となっている。

「つまんないのー、ねぇ初詣いこーよ」

そうやって甘えてみたところで、だ。

「はいはい、これが終わったら行ってあげるわよ」

と返されるのも恒例なの。

嘘つけ、と心の中で言う。
終わったら明日の駅伝の情報をチェックしだす癖に。
こうなったら。

「でこちゃーん」

「何よ」

後ろからコタツに入っている伊織に抱きついてみる。

伊織のお尻をよいしょと膝で挟んでみる。
膝で柔らかさを楽しむのと同時に、足の指先の熱が、どんどん失われていく。

「構ってほしいの」

「終わったら構ってあげるわよ」

抗議の言葉は、こっちを見もせずに口に突っ込まれたみかんで塞がれる。

「でこちゃん、わざと酸っぱいのよこしたでしょ」

「たまたまよ、たまたま」

「振り返るくらいしたっていいの」

それっきり会話なし。
部屋には実況する声とミキの不機嫌が充満していく。
伊織の、……バカ。

「ねぇ、美希?」

「何?」

ツンツンを隠そうともせずにそう答える。
一応顔を上げたところで、唇に温かい感触を感じる。
伊織の顔が、ミキの側にあった。
単純だなと、チョロいなと自分でも思う。
キス、しかもたった一回で嬉しくなって、許しちゃうんだから。

それでも。

「でこちゃん、ミキの膝の上に座ってよ。ミキも足入れたいの」

「元の場所に戻りなさいよ」

「でこちゃんと一緒に入りたいの」

しょうがないわねー、と言いながら伊織がミキの膝の上に乗る。
ふと目をみやると伊織のつむじが眼に入るし、同じシャンプーの匂いが鼻をくすぐった。
これは、これで?
あと一回くらい貰ってもいいよね、なーんて。

終わりです。お読みいただいてありがとうございました。

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