【モバマスSS】蟲喰う幸子 昆虫スイーツ編 ~美味しいから大丈夫だよ♪~ (44)


モバマスSSです。

エロもグロも有りませんが、昆虫食をモチーフにしたSSです。

そういうのが無理な方にはグロ要素がありますので、閲覧注意でよろしくお願いいたします。

後、オリキャラと一部アイドルの家族構成にオリジナル要素が含まれます。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483458044

皆さんお元気ですか??カワイイボクですよっ!!


最初にボクが昆虫食にハマった理由を紹介してから、あれからしばらくが立ちました。




今では友紀さんや文香さんなどの昆虫食仲間も増えましたし、


「昆虫食に興味が出て来た」


等の声も巷からチラホラ聞こえて来る様になり、嬉しい限りです。




昆虫食仲間が増えて、または興味を持ってくれている人が増えてくれて大変嬉しいのですが、
そんな人達に向けて、注意点を二つだけ述べたいと思います。

一つは毒。


昆虫は案外毒を持っている物は少ないのですが、(特に日本では)稀に居ます。(ツチハンミョウ・ドクガ等)
食材として売ってるモノは、ほぼ間違いなく問題ないと思われますが、自分で採集した物を食べたい、知らない虫を食べたい、
と言うチャレンジ精神溢れる方は、まず、図鑑で調べる努力をお忘れなく。


案外、地味な生き物程毒を持っている物です。



後、毒と言えばハチですが、ハチは針にさえ気を付ければ食べれます。

てか、ご馳走です。




第二に火は絶対に通す事。


コレは鉄則です。


死にたくなかったら守りましょう。


病原菌や寄生虫、食中毒、あらゆるものから貴方を守ってくれます。火は偉大です。



しかも大抵香ばしく、美味しくなります。
本当に偉大です。






この二点を守ればまあ、それほど酷い事にはならないと思います。


でも最後には自己責任ですけどね。




昆虫食、食べる時には、慎重に。




お気をつけて。





などと、長々と脅かしましたが、コレは別に昆虫食に限った話ではないですよね。


フグだって部位によっては毒を持ってますし、豚肉だって生で食べれば危ないです。




要は昆虫だからと言ってそう構えず、通常の食品を扱う様にして食べれば良いと思います。


普通に美味しい物も沢山有りますので、食わず嫌いは単純に損ですよ??




機会が有れば、是非。






さて、そんな昆虫食にハマっているボクですが、今日は文香さんに誘われて、
都内のあるお寿司屋さんに虫寿司を食べに行ってきました。




蒸し寿司じゃありませんよ、虫寿司です。




最初は、ボクも勘違いして、


「蒸し寿司ですか??お寿司を蒸すんですか??」


と思わず文香さんに聞き返してしまいました。


友紀さんは【押し寿司】かと思ったそうです。成程、そのパターンもありますね。


そんな訳で、聞き違いでもなんでもなく、ガチで虫を使ってる虫寿司だった訳ですが、
文香さん曰く、蒸し寿司も関西では普通に有るそうですね。


寡聞にして存じませんでしたが、ボクのカワイサに免じて許してください。


さて、虫のお寿司です。




虫がネタのお寿司なんて初めての経験でしたが、見た目のインパクトだけに頼らない繊細な仕事で、大変感動しました。


スズメバチや蚕の蛹の握りや、イナゴの佃煮の握り、軍艦はカミキリムシの幼虫や竹虫の中身を絞り出したモノや、
蜂の子を塩味で仕上げたヤツを寄せたモノ。


コチニールで色付けした紅白の酢飯に、カマキリの子供やアリなどを散らした、ちらし寿司等、
工夫が凝らされた品々が続々出てきました。




勿論、味も花丸満点です。




お店を紹介してくれた文香さんに感謝しつつ、大満足で舌鼓を打ったのでした。


そんなお店で出された素晴らしい品々の感想をお互いに話し合いながら、
友紀さんと文香さんと連れだって歩いて寮に帰ると、寮の前に一人の女の子が座り込んでいるのが見えました。




一瞬、ファンの人かな??とも思いましたが、その女の子を見るなり、文香さんが、


「咲来ちゃん……っ!?」


と、声を挙げ、女の子に駆け寄っていったのです。


相手の女の子もその声を聴いて、振り返るなり文香さんに駆け寄り、


「文香お姉ちゃんっっ………っ!!」


と、文香さんに抱きついて来ました。




どうやらお知り合い同士だったのでしょう。


それにしても何やら様子が変です。




咲来ちゃんと言う少女は文香さんの胸に顔を埋めるなり、まるで赤ちゃんの様に大声で泣き始めました。


その泣き声は、感動の再開と言うにはあまりにも激しく、また、声に恐怖が混ざっている様な……
上手く言えませんが、そんな感じがしました。



少女を抱きしめながらも、どうしたものか自分では判断しかねたのか、
助けを求める様にボクと友紀さんの方を見る文香さん。




いや、そんな顔されても。




全く事情が分かりませんので、とりあえず事情を聴くために寮に上がってもらってはどうか、
と提案する友紀さんのアイディアを受け入れ、咲来ちゃんを寮の中に案内する事にしました。


寮に部外者を入れるのは本来好ましい事ではありませんが、女の子ですし、セーフですよね。


その後、ボクは文香さんの部屋でお茶を入れるなどして様子を見ていたのですが、必死に宥める文香さんの努力が報われたのか、
咲来ちゃんも次第に落ち着きを取り戻してくれたご様子。


そして、ポツリポツリとではありますが、文香さんをイキナリ尋ねて来た訳、
思わず泣きだしてしまった訳を、私達に語り始めてくれたのです…。


彼女の名前は鷺沢咲来(さぎさわさくら)、文香さんの伯父さんの一人娘で、文香さんの従妹に当たるそうです。


この伯父さんとは、文香さんがアイドルになる前に働いていて、
今でも偶にバイトしている書店を経営している叔父さんとは別の方の様です。


咲来さんと文香さんは親戚の中では比較的年も近く、また性別も同じと言う事で、
二人は昔から仲が良く、今でも何かと連絡を交し合ってるそうです。


そんな咲来さんが何故連絡もせずに、急に文香さんを訪ねて来たかと言うと……、


「私…、このままじゃあ、お父さんにヤクザに売り飛ばされちゃう………」


と、泣き声混じりで、人身売買と言う衝撃の理由をボク達に告げて来たのです。




その余りの話の内容に、文香さんが丁度口に含んでいたお茶を、盛大に机に吹き出してしまった程でした。




お茶を吹く文香さん……レアですね…。


画像を保存していれば、ありすさんに横流しでもしたら、
かなり無茶なお願いでも聞いて貰えそうだったのに、とても残念です。


慌ててティッシュで机を拭く文香さんと友紀さんを見ながら、
ボクはそんな事を考えていました。


しかし、咲来さんの話を詳しく聞いてみると、そんな呑気な事を考えている暇などなさそうです。

なんでも、文香さんの伯父さんが経営していた喫茶店が最近、不景気等複数の要因が重なり、
客数の減少が著しく、起死回生に打って出るために新メニューを打ち出す事にしたそうです。


その新メニューが地元長野の特徴、昆虫食を前面に打ち出したメニューだったそうで……。


それはまあ良いのですが、そのイチオシの一つが、近場で話題になっていたイナゴのソフトクリームを参考にした、
バッタソフトクリームだそうで……。


いやいや、なんでアレを参考にしたし。


ボクもネットで画像を見たことが有りますが、どす黒いイナゴの佃煮がソフトクリームに集ってる様にトッピングされ、
正直、あまり食欲をそそられるイメージでは有りませんでした。


ボクは平気ですけどね、多分美味しく食べれます。

でも一般の人には、ちょっと厳しいのではないでしょうか………。


ボクがそう言うと、咲来さん曰く、全くその通りだとの事。

噂を聞き付けた観光客はチラホラやって来て物珍しそうにスマホで撮影して食べて行くものの、
地元の常連さん達は目に見えて減り、観光客もリピーターとして定着はしてくれず、経営は前にも増して悪化したそうで。


やっぱり。


言っちゃあなんですが、飲食店の経営の経験のない14の小娘が予想できる事を予想できなかったなんて、
文香さんの伯父さん、経営の才能ないのでは……??

咲来さんは、そんな父親を家族と一緒に不安げに見守っていたのですが、
つい先日、高校での部活が顧問の先生の都合で休みになり、偶々早く家に帰って来たそうです。



すると玄関には見慣れない大きな革靴が。



お客さんが来てるのかな??


そう思った咲来さんは、邪魔しない様にこっそり家に入り、声がするお茶の間の様子を覗いてみました。

すると、そこには深刻な顔をする文香さんの伯父さんと、黒いスーツを着た巨漢の、
如何にも人を二、三人は殺してそうな凶悪な人相のヤクザらしき人物が、向かい合って座っていたそうです。



その顔の恐ろしさに慌てて身を隠した咲来さん。



何事かと思いそのまま身を潜め、二人の会話をこっそり聞いていると……


「咲良……ウチで預かる……仕事……お金……」


と言ったワードが途切れ途切れに咲来さんの耳に聞こえて来たそうです。



咲来さんも今時の女の子です。
ちょっとエッチな過激な少女漫画等も読んでいるそうで、頭にピン、と来るものがあったそうです。



『風俗に売られる!!!!』



その漫画の影響でそう思った咲来さんは、大慌てで自分の部屋に入り、こっそり貯めていたお小遣いを手に、
自分の味方になってくれそうな文香さんの居る東京まで逃げて来た、との事でした。

はー、大変だったんですねぇ……。そりゃ泣き喚きもしますよ。

思った以上に壮絶な話の内容に、友紀さんと顔を見合わせながら頷き合います。


しかし、そこまで聞いても文香さんの表情は、何処となく半信半疑の様でした。



文香さん曰く、伯父さんはとても温厚で優しい人で、家族をとても大事にしている人格者だそうです。


一人娘の咲来さんの事も、親戚が集まる度に自慢話が飛び出して来るほどの子煩悩で、
どれほどお金に困っても娘を風俗に売り飛ばすなど考えられない、との事でした。


しかし、咲来さんが嘘や冗談等をいう子でも無いんですよね……、と、文香さんは、困った様子の思案顔です。


ボクや友紀さんはその伯父さんを存じ上げませんので、口を挟む訳にも、相談に乗る訳にも行かず、
ただ、文香さんの考え込んでるその横顔を、睫毛長いなぁ、カワイイボクと言えどうらやましいなぁ、
とか思いながらじっと見ていました。


友紀さんなどはもう、テレビを付け、番組をナイターに切り替える始末です。


ボク達がそうこうしていると、文香さんは考えが纏まったようで、やにわに立ち上がると棚から貯金通帳を持ち出し、
机にスッと置き、

「安心してください…咲来ちゃん……、お金が必要なら……全額私が出します…。
 何かの間違いとは思いますが……咲来ちゃんを風俗なんかに…行かせませんから……」


と、大胆にも程がある宣言をしました。




『特に必要が無かったのでアイドル活動を始めてからほとんどのギャラを使わずに入れてある』
と言うその通帳を、文香さんに断って中身を見てみると、あまりの額に思わずひっくり返りそうになりました。


恐るべし、売れっ子アイドル。確かに喫茶店の一回や二回は余裕で救えそうです。


「…キューバから助っ人、二、三人連れてこれるよ……」


友紀さんも流石に目を丸くしていました。




「あっ、ありがとう!!文香お姉ちゃん!!」


咲来さんは、ウルウルと目に涙を溜めて感謝の言葉を発しながら、再び文香さんの胸に飛び込みました。


「いいんですよ……お金なんて……、大事な咲来ちゃんには代えられませんから……」




抱きしめあう二人、麗しき従妹愛。



ええ話やなぁ…。
ボクも思わずそっとハンカチで目尻を抑えます。

そんな感動の渦の中、空気を読めない強奪をするチームを応援する、空気を読めないガールである友紀さんが、
その雰囲気を見事にブチ壊す発言をしだしました。




「でもさ…文香ちゃんがお金出しても、根本的な解決にはなってないよね…」


それを聞いて、抱きしめあったまま、ピシッと固まる二人。


「単純にお金出してこの場は話が収まっても、その喫茶店の方どうにかしないと、また同じことの繰り返しなんじゃない??」


いや、ボクもそう思いますが、このタイミングで言わなくても。


「経営の……方をどうにかしないとダメ、って事なんでしょうか……」


文香さんがまた、無言で考え始めました。

こうなると文香さんは長いんですよね。


ボクはヤレヤレと溜息をつきながら立ち上がり、不安そうにオロオロと様子を見ている咲来さんを落ち着かせる為に、、


「お茶、お代わり要りますか??」


と、聞きながら、自分達の分を含めてお代わり分のお茶を沸かしに行きました。





すると、しばらく考え込んだ後、文香さんは、


「取り合えずお金は出します…。万が一にも咲来ちゃんを風俗に売られる訳にも行きませんから……」


静かな言葉の中にも力強さを秘めて、そう呟く文香さん。



「でも、確かに何度も出せるほどお金が有る訳でもありません……。
ので、お金と同時に喫茶店を立て直す新メニューを提案しようと思うのです……」

「そのメニューで喫茶店の経営が上向いてくれれば、
咲来ちゃんには何も心配無くなると思うのですが…どうでしょうか…??」


不安そうに私達に尋ねる文香さん。


「いいんじゃないでしょうか??問題はそんなメニューが提案できるかどうかですが……腹案はあるんですか??」


私がそう答え、尋ね返すと、文香さんは困った顔で、


「それが……あまり料理は得意ではないので……お菓子作りなどしたことが無く……」


と、どうやらその辺のアイディアは固まってないご様子。


ボクもそれほど料理やお菓子作りが得意と言う訳では有りません。 
テレビの前で相手チームの猛攻にヤジを飛ばしている人も、多分同じ様なモノでしょう。



途方にくれて文香さんと顔を見合わせ、涙目の咲来さんの視線を持て余していると、
救いの考えは思わぬ方向から飛んできました。


遂にグランドスラムを叩き込まれ、贔屓チームの息の根が止まった友紀さんが、
こちら側の会話に、本格的に身を乗り出してきたのです。




「やった事ないお菓子作りで売れるお菓子の事を考えるなんてさー、
やった事ない野球でプロの球打つみたいなモンじゃん?? 無理だよ」


と、お茶を飲みながらあっけらかんと言い放ち、私達を絶句させました。


余りの事に私達が何も言えず、口をパクパクしていると、慌ててとりなす様に、


「あーあー!でも、無理だから諦めろ、って訳じゃなくてね??」


そういうと、友紀さんは片目をウィンクして、

「無理ならさ、打てるプロ連れてくればいいじゃん??」

と、私達に提案して来て、私達の顔を揃ってきょとん、とさせたのです。





翌日、私達は改めて寮の食堂のキッチンに集合しました。


とりあえず咲来さんは文香さんの部屋に泊まったらしいです。

一晩ゆっくり寝て大分落ち着いたようで、表情は泣き顔から普通の顔に戻っていました。


こうしてみると、流石ウチの事務所でもトップクラスの美人と評判の高い文香さんの従妹、かなり整った容姿です。



まぁ、それでもボクのカワイイランキングトップは微塵も揺るがないんですけどね!!






そして、今日は私たち以外に一人、メンバーが増えていました。


友紀さんが、


「今日はアドバイザーとして、頼れる主砲を連れて来たよ~?? 
346が誇るスイーツクィーン、三村かな子ちゃんでーす!!」


大げさに手をヒラヒラさせると、照れたような笑顔を浮かべたかな子さんが、
私達に向かってニッコリ微笑みながら歩いてきました。



「お菓子作りするんだよね?? それならちょっとだけ自信あるから、分からない事あったら色々聞いてね??」

と、自信満々に、そして

「虫入りは……ちょっと自信ないけど……」

と、あはは、と若干自信なさそうに付け足しました。


そうなんです。咲来さんとも話し合ったのですが、提案する新メニューは虫を使ったスイーツに限定する事にしたのです。

一度虫で失敗したからには虫で評判を取り返さないと、悪評は何時まで経っても収まりませんからね。



無理なお願いしたみたいで大変申し訳ないです、かな子さん……。




ボク達が殊勝にもかな子さんに恐縮していると、友紀さんはそんな事を知ってか知らずか、


「346のスイーツ作りの双璧の、もう一人の方の愛梨ちゃんにも声掛けたんだけどねぇ……
虫入りって話したら、涙目で全力でお断りされちゃってねぇ……」


と、トホホと言った感じで付け加えました。




まあ、それは仕方ないですよね。

むしろ、かな子さんがオッケーしてくれた事の方が驚きです。

その事をかな子さんに尋ねてみると、


「え? 美味しければ大丈夫だから、平気だよ??」


と、ありがたい言葉を頂きました。本当に頼りになります。


「うーん、軸足のブレ無いスタンス、コレは四番気質たっぷりだね!!」


と、友紀さんも言葉の意味は良く分かりませんが、とにかく凄い賞賛です。




何にせよ、素人の集まりからプロ顔負けのスイーツの達人が加わったことで、計画に光が差し込んできました。

そしてメニューに付いて色々と話し合おうとした矢先、文香さんが遠慮がちに、


「あの……まず、言い出した私から…、提案の意味を込めて…、一つ考えてみたモノがあるのですが……」


と、みんなの前におずおずと一つの袋を差し出してきました。



それは、ちょっとこんがりと美味しそうな焼き色の付いた、クリーム色のクッキーでした。


「イナゴを空煎りして、すり潰して粉にして、生地に混ぜ込んで焼きました……」


少し自信なさげに呟く文香さん。


いやいや、美味しそうですよ。文香さん。

それでは失礼して一つ頂いてみましょう……。

全員、袋に手を伸ばし、口に運びます。




うん……コレは……(ポリポリ)


食べている全員が無言なのを受けて、文香さんが、

「あの…どうでしょうか……??」

と不安げにみんなに尋ねてきました。



「えーと、素朴な味と言いますか何と言いますか!」

「そ、そうそう!お母さんが作ってくれるクッキーみたいで……」


ボクがかな子さんと顔を見合わせてフォローに入ろうとしたら、友紀さんが


「んー、何ていうか地味??」


剛速球の感想をブツけてました。


「不味い訳じゃないし、コレはコレで良いと思うけど、コレを食べに態々人が来てくれるかなぁ…??
 インパクト無いよね」


もうやめて!!文香さんのライフはゼロですよ!!


目に見えてしょぼーんとしてる文香さんに、


「で、でも来るお客さんがみんな昆虫食べる訳じゃないし!!
どうしても無理な人の入門編って事でいいんじゃないかな!?」


と、咲来さんがフォローを入れました。


それでどうやら文香さんも立ち直ってくれたようです。

咲来さん、ナイスフォロー!!


とは言え、確かにインパクトには欠けました。


此処はインパクト重視で次に行ってみましょう。




そこで次に出て来た物は…コオロギのチョコフォンデュでした。


コオロギは香ばしくて大変美味しい昆虫なのですが、もう見た目が『ザ・虫』と言う感じで
初心者には敬遠されがちです。


そこで、素揚げしたコオロギを串に刺し、チョコフォンデュにして隠してしまえばインパクトを稼ぎつつ、
見た目も良くなると思ったのですが……。


コレが大大失敗でした。


チョコで隠れると言ってもその触角と足は流石に隠れ切りません。先端はチョコが零れ落ちてしまいます。


そして、触角と足だけがでたチョコでコーティングされたコオロギと言うのは…、
もう正に串に刺したゴキブリそのものでした……。


色が悪いのかなぁ…、と、かな子さんがミルクチョコレートにしてくれたものの、
ゴキブリの種類がヤマトゴキブリから巨大なチャバネに変った程度の変化しか見られません。


一匹一匹触角と足を取るのも手間ですし、商売には向かないかもしれませんねぇ……、
コオロギの香ばしさとチョコの甘みのハーモニーが大変美味なんですけど。(ポリポリ)


(咲来さん以外全員美味しく頂きました)

次に出て来たのは、かな子さん力作のタガメのバタークリームケーキでした。


輸入されたタガメは塩蔵されているので、しっかりと塩抜きし、
羽を開きお尻とお腹ををキッチンバサミで切り落とします。


そして手で殻を開き、中身をスプーンで掻き出すのですが……。


普通の女の子なら泣きが入るこの作業、(実際、咲来ちゃんは目を背けてリタイアです)
かな子さんは鼻歌交じりでタガメの中身を掻き出しています。


食材として見るならば平気なのでしょうか…?? 


手際よくタガメの中身をバタークリームに混ぜ込むかな子さんに頼もしさすら覚えます。


そして、スポンジを三つに切り、中にクリームを塗って挟み、重ねたら側面と上もクリームで塗って完成です。


見た目は普通のケーキですね。これまたインパクトに欠けるのでは…と思いましたが、
そんなものは一口、頬張った瞬間吹っ飛びました。


口に入れた瞬間、口内に広がる上品な洋梨の様な芳香。


タガメは洋梨の匂いがする、とは聞いていましたが、これほどとは!!


友紀さんの話によると、ウォッカ等につけてお酒に香りづけする人もいるそうです。

凄いですね、タガメ。



試食した全員からの評判も良く、コレはもう決まりではないかと思ったのですが、
その時、文香さんが何気なく手にしたスマホを見て、


「あっ……コレ……、無理そうです……。輸入のタイワンタガメ、値段結構します…」

そう言いながら文香さんから示されたスマホの画面には、結構なお値段の表示が出ていました。

たっか!タガメって高級食材なんですね……。 

日本では希少な昆虫ですから輸入に頼るしかないのも理由の一つでしょうか…。


コストの面でコレも無理そうだ、と言う事がわかりました。次です。



そして、最後に出て来たのが…はちみつ酒(ミード)のシャーベットです。


友紀さんが持って来てくれたハチミツ酒を湯と砂糖、粉ゼラチン、レモン汁を混ぜ、
アルコール度数1%未満にまで下げて、泡だて器でかき混ぜます。


それを冷凍庫で冷やし、反凍結の状態にします。
この間に卵白に砂糖を混ぜ、角が立つくらいに泡立て、メレンゲを作っておきます。


そこで冷凍庫に入れていた物を突き崩しながらメレンゲと混ぜ、再び冷凍庫へ。




固まったら器に盛りつけ、完成です。


その上に空煎りしたミツバチをハチミツに絡ませたのを2、3匹乗せれば完成です!!




うーん!シャリッシャリのシャーベットに甘いミードの香りが漂いますね。


上品な甘みも楽しめ、とてもイイ感じです。


インパクトも上に乗せたミツバチがアクセントに成り、良いのでは無いでしょうか??
苦手な人はヒョイっと除ければ良いわけですし。


しかも、ミードもハチミツもミツバチもそれほど元手が掛かりません。


コレは完璧です。


このシャーベットを試食した時、思わずボク達は顔を見合わせ、頷き合いました。


コレならきっと咲来さんのお店の看板メニューになってくれるでしょう!!


ボク達は手を取り合って、その完成を喜んだのでした。



そして、ボク達はさらに後日、咲来さんを連れて、長野の咲来さんのご実家の喫茶店にやってきました。


咲来さんはボクと友紀さんの前に立ち、不安そうに文香さんの手を握ってドアの前で俯いています。

そんな咲来さんを励ます様に、文香さんが咲来さんの手をキュッと握ると、
咲来さんは勇気づけられたかのように深呼吸を一つして、意を決した様に喫茶店のドアを開けました。

店内に響き渡るドアベルの音、その音を聞きつけて、暗い表情でカウンターの奥に座っていた男性が、

「いらっしゃい……、何名様で……」

と、ボク達に声を掛けたと思いきや、咲来さんの顔を見るなり、ワナワナと震え始めました。


すると突然、

「さっ、咲来ぁあああああ!!何処に行ってたんだいっ!? 心配したんだぞぉおおおおっ!!」

と、叫び声を挙げながら、咲来さんの方に駆け寄って来ました。


咲来さんはそのオジサンの様子を見て、一瞬だけ嬉しそうな表情をしましたが、
その後顔を強張らせながら、文香さんの後ろに隠れるにして、そのオジサンを睨みつけました。


状況から察するに、この人が咲来さんのお父さんでしょうか??


見るからに人の好さそうなオジサンで、とても娘を風俗に売り飛ばすような人には見えないのですが……。


そんな咲来さんのお父さんは、自分を避ける様に文香さんの後ろに隠れる娘に、

「さ、咲来……??」

と、心底困惑顔の模様です。

その様子を見て文香さんが、

「あの……お久しぶりです…伯父さま…。
 咲来さんの事で少し…お尋ねしたい事が有るのですが……」

と、緊張感が走る二人の間に割って入りました。


そんな文香さんを見て、文香さんの伯父さんは、

「あ、あれ??文香ちゃん?? どうして此処に??」

と、不思議そうな顔をしているので、文香さんが丁寧に説明を始めました。

咲来さんが文香さんの元に居た事を、
そして咲来さんが何故東京の文香さんの元に来たのか、その理由を。


すると、文香さんの伯父さんは、膝元から崩れ落ちながらも、両手を床につきながら大声で叫びました。


「そんなバカなっ!!私が咲来をヤクザなんかに売り飛ばす訳がないじゃないかっ!!」

「じ、じゃあ、誰なのよっ!!あの殺し屋みたいな人相の男の人は!!私見たんだから!!
 あの人と私とお金がどうのって話してるのっ!!」


ヤクザとの取引を全力で否定する文香さんの伯父さん。

しかし間、髪を入れずに鋭く突っ込む咲来さんに、文香さんの伯父さんは、モゴモゴと言葉を濁します。

「あ、あの人は……」


口ごもる所を見ると、やっぱり怪しいです。何だか裏がありそうですね…。

ボクがそう思っていると、咲来さんもそう思ったのか、声を荒げ始めました。


「やっぱりヤクザだ!! 」「誤解なんだよ!!」 と、言い合う親子。


それを傍から見ている私達三人。


如何したモノかと顔を見合わせていると、その時、喫茶店の駐車場に一台の車が入ってくる音がしました。


それを聞きつけた文香さんの伯父さんが、

「ああ!そうだ!!丁度彼が来る予定だったんだ…!!
 ……恥ずかしい話だが、全部ワケを話す……。彼からも話を聞いて欲しい……」


と、何故か文香さんの方をチラチラ見ながら、その場に居る全員に告げました。


え”っ”、まさかのヤクザご入店ですか??


ボクは慌てて横に居た友紀さんと頷き合うと、スマホを取り出し、
ボクは早苗さんの、友紀さんは巴さんの番号に手を掛けました。


コレで最悪の場合、ヤクザに拉致とかされてしまっても、広島の武闘派と国家権力が動いてくれる可能性が高まります。

とは言え、怖い事には変わりないんですが……。

そんな訳で緊張した面持ちで、近づいてくる足音にプルプル震えながら、喫茶店のドアを眺めていると……。

見るからに凶悪そうな面相の、見上げる様な身長の大男がドアベルを鳴らして、

喫茶店に………あれっ??


「失礼します……。おや、皆さんお揃いで……、一体どうされたのですか…??」


そう、ボク達に声を掛けながら入店して来たのは、ボク達の事務所のプロデューサーの一人である、武内Pでした。


どうしたのかはこっちが聞きたいくらいですよ……、武内Pさんが何故??

掻い摘んで訳を話すと、武内Pさんは人を二、三人は殺しているヤクザと間違われた事には、
大いにショックを受けていたようですが、此処を訪ねた理由を懇切丁寧に説明してくれました。


なんでも事の始まりは、喫茶店の経営が不審な事に頭を悩ませていた文香さんの伯父さんが、
親戚の集まりの時に、文香さんがアイドルデビューした事を聞きつけたのが最初の切っ掛けだった様です。


みるみる売れっ子になった文香さんが下世話な話、相当稼いでる事を聞きつけた文香さんの伯父さんは、
一つのある計画を思いつきました。

親の贔屓目を抜きに見ても、文香さんと同じくらい可愛いと確信している、
自慢の娘である咲来さんがアイドルになってくれれば、喫茶店の一気に負債を払えるのではないか、

と、そう思ってしまったそうです…。


そんな訳で文香さんのバイト先の叔父さんから346プロへの連絡先を教えてもらった伯父さんは、
文香さんの担当でもあるモバPさんに連絡を取ったそうです。

ですが、生憎モバPさんは先日卯月さんがやらかした件で、
上の方から研修と言う名の罰ゲーム的な出張を命じられて、しばらくの間、留守だそうです。


それでも売れっ子アイドルである文香さんの従妹ともなれば、容姿的にも話題的にもスカウトを逃す手はありません。


そこで事務所の上層部は急遽、同じ第一営業部のプロデューサーである武内PさんをモバPさんの代わりに派遣したそうです。


「そこで最初は研修生から始める事、必ずしも成功する訳では無い事を説明していたのですが…、
 確かに断片的に聞けば怪しい状況だったかも知れません…。申し訳ありませんでした……」


丁寧に頭を下げる武内Pさんを見て、咲来さんは、腰が抜けた様に地面に座り込んで、


「なにそれぇ……じゃあなんで言ってくれないのよぅ……恥ずかしい…っ」

顔を真っ赤にして顔を手で覆いながら、前もって説明してくれなかった自分の父親に恨みがましい視線を向けました。


「それは…その…父さん、ちょっと情けなくてな……話が具体化するまでは……伏せておこうかと……」


あー、まぁ、確かにその気持ちは分かりますけどね。

自分が作った負債を娘に尻ぬぐいしてもらおうとしてる訳ですもんね、ちょっと娘さんには話し辛いですよねぇ……。


とはいえ、その結果がこんな大騒ぎになってしまった訳なのですが。


その後は怒りに任せて、しかしどこか安心したような大声で父親を責めたてる咲来さんと、
ひたすら娘に頭を下げ続ける文香さんの伯父さんを、ボク達四人はただただ眺めているだけでした。


でも、文香さんもどことなく嬉しそうですし、人身売買の事実も無かったし、で、ボク達もこれで一安心です。

何の問題も有りませんね!!


大解決です!!


ただ、状況を良く分かってない武内Pさんだけが、不思議そうな顔で首を手で押さえていましたが……。

後で帰りながら説明する事にしましょう……。

その後、咲来ちゃんは高校を卒業したらアイドルの研修生として、東京に出てくることが決まりました。

文香さんも仲のいい従妹が来る事に、とても嬉しそうです。


それまで喫茶店の方は大丈夫なのかな?

と、思ったりもしましたが、どうやらボク達が色々考えた新メニューが好評なようで、
以前とは比べ物にならないくらいお客さんが来てくれてるようで。


それを聞いて、ボク達は本当に良かった、と思いましたね。


皆で話し合った結果が無駄にならずに済んで、大変嬉しいです♪


ボク達が太鼓判を押したはちみつ酒のシャーベットはとても好評で、
その噂を聞き付けた以前の常連客さんも、段々戻って来てくれている様で本当に何よりです。


しかし、一番驚いたのは、新メニューの一番人気のメニューはそのシャーベットではなく、
あのどう見てもGの串揚げにしか見えないコオロギのチョコフォンデュらしいです……。


やっぱり昆虫を食べに来る人が一番求めてるのは、強烈なインパクトなんですかね……。
確かに美味しかったことは美味しかったですけど…。

何か内心は複雑ですね。



まあ、それはともかく、ヤクザに売り飛ばされる少女も、娘を風俗に親に売り飛ばす鬼畜親も居なくてなによりです。

やっぱり平和が一番ですしね。



そんな事を思いながら、咲来さんから届いたお礼の手紙を読み返しながらほっこりしていました。

すると、休憩室の方から、何やら歓声が上がったのです。


「何これ!!超おいしーっ!!」

「洋梨のケーキかな?? かな子ちゃん、コレ凄く美味しいよ!!」

そんな賞賛の声が次々に聞こえてきました。



洋梨??


「うふふ、そうでしょ?? ここ最近では私の中で一番のヒットだと思って作って持って来たの、
気に入ってもらえてよかったー♪」


そんな嬉しそうなかな子さんの声。


…あ、これヤバくないですか?? 待ってください、かな子さん!?
その行為は平和を破壊してしまいますよ!!?? 美味しければなんでも大丈夫な訳ではありません!!


ボクは止める為に、慌てて休憩室に駆けつけようとその場から駆け出しました。


しかし、時既に遅し、休憩室では、

「これ、中に何が入ってるの?? 洋梨??」

そう尋ねながらケーキを頬張る他のアイドルに、


「ううん、洋梨じゃないよ? コレだよ~♪」


かな子さんが自分の手さげ袋の中から、邪気無く取り出そうとしたモノを見て、
ボクは諦めて目を瞑り、耳を塞ぐのでした。



その次の瞬間、部屋中に響き渡る絶叫に備えて。





【完】






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