「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 Part 12 (1000)

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」とは
  2ちゃんねる - ニュー速VIPで生まれた
  都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたりそんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
  まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりと色々活動しているスレです。
  基本的に世界観は作者それぞれ、何でもあり。
  なお「都市伝説と…」の設定を使って、各作者たちによる【シェアード・ワールド・ノベル】やクロス企画などの活動も行っています。
  舞台の一例としては下記のまとめwikiを参照してください。


まとめwiki
  http://www29.atwiki.jp/legends/
まとめ(途中まで)
  http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html
避難所
  http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/


■注意
  スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
  本スレとはあまりにもかけ離れた雑談は「避難所」を利用して下さい。
  作品によっては微エロ又は微グロ表現がなされています。

■書き手の皆さんへ
  書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップ推奨(どちらも非強制)
  物語の続きを投下する場合は最後に投下したレスへアンカー(>>xxx-xxx)をつけると読み易くなります。
  他作品と関わる作品を書く場合には、キャラ使用の許可をスレで呼びかけるといいかもしれません。
  ネタバレが嫌な方は「避難所」の雑談スレを利用する手もあります。どちらにせよ相手方の作品には十分配慮してあげて下さい。
  これから書こうとする人は、設定を気にせず書いちゃって下さい。

※重要事項
  この板では、一部の単語にフィルターがかかっています。  メール欄に半角で『saga』の入力推奨。
  「書き込めません」と出た時は一度リロードして本当に書き込めなかったかどうか確かめてから改めて書き込みましょう。

◆用語集

 【都市伝説】→超常現象から伝説・神話、それにUMAや妖怪のたぐいまで含んでしまう“不思議な存在”の総称。厳密な意味の都市伝説ではありません。スレ設立当初は違ったんだけど忘れた
 【契約】→都市伝説に心の力を与える代わりにすげえパワーを手に入れた人たち
 【契約者】→都市伝説と契約を交わした人
 【組織】→都市伝説を用いて犯罪を犯したり、人を襲う都市伝説をコロコロしちゃう都市伝説集団
 【黒服】→組織の構成員のこと、色々な集団に分けられている。元人間も居れば純粋培養の黒服も居る
 【No.0】→黒服集団の長、つおい。その気になれば世界を破壊するくらい楽勝な奴らばかり
 【心の器】→人間が都市伝説と契約できる範囲。強大な都市伝説と契約したり、多重契約したりすると容量を喰う。器の大きさは人それぞれである。器から少しでも零れると…
 【都市伝説に飲まれる】→器の限界を迎えた場合に起こる現象。消滅したり、人間を辞めて都市伝説や黒服になったりする。不老になることもある




これはまだ、この街がどこにでもある田舎の村落だった頃の話
――――野心によって身を滅ぼした、哀れな男の末路


閑話【錬金術師になろうとした男】

昭和中期。戦後の復興も終わりが見えた頃のことだ。
2人の男が田舎道で立ち止まり山を仰いでいた。

「どうですか、水井さん」
「――素晴らしい。その一言に尽きます」

感嘆している男、水井栄夫は"風水師"を生業としている。
風水というのは古代中国で誕生した占術の一種であり、
簡潔に説明するならば『気の流れを物の配置で制御する』思想である。
大地の気に満ちた土地に家屋を建てて家人に恩恵を与え、
凶方には竈や水場を配置して、邪気を燃やすあるいは流して祓う。
建築と密接に関係する占術……それが風水である。

昨今の日本は建築に次ぐ建築、開発に次ぐ開発に沸いていた。
そんな時代であるがゆえに風水師にも仕事が次々舞い込んでくる。
ましてやそれが水井のように実績ある風水師ならばなおさらだった。
そしてついに水井の元にある政治家が大きな仕事を依頼してきた。

「これほど強く……肌で感じるほど気に満ちた土地は珍しい」
「私には分かりませんが、そんなに凄いのですか?」
「風水でいう大地の気には川のように流れがあります。
 その流れが溜まった場所に家を建てるというのが風水の基本です。
 しかしこの土地はその範囲があまりにも広い。何か謂れがあるのでは?」

水井に仕事を依頼した政治家はううむ、と唸り顎を撫でた。

「この地域には山神信仰というのが昔あったとは聞いていますが……」
「いわゆる山岳信仰というものでしょうか?」
「かもしれません。今もあの山には山神を祀った社があります」

政治家は咳払いを一つすると水井に向き直った。

「どうでしょう水井さん。この土地の開発計画……
 都市化計画に、どうか協力していただけませんか?」
「都市化計画、ですか」

政治家は水井から視線を外し広がる田畑や草原に目を向けた。

「私はね水井さん。故郷をうんと素晴らしい場所にしたい
 私をここまで育ててくれた人たちに恩返しをしたいのですよ」
「それが都市化というわけですか」
「そう。田舎なんて馬鹿にされない素晴らしい都市にする
 地元の有力者にはね、もう許しを貰っているんです
 どんな都市にしたいかというのも皆で相談して決めました
 あとは少しずつ内容を詰めていくだけ……どこをどんな区画にするかとかね」

政治家は再び水井の方を向いて頭を下げる。

「私の夢と、皆の期待を裏切りたくはないのです
 だから頼みます水井さん。あなたの力を貸してほしい」

水井は少し考えた様子だったが、やがて口を開き話し始めた。

「頭を上げてください……むしろこちらからお願いしたいくらいだ
 こんなに素晴らしい土地の開発計画に携わることができるというのですから」
「そ、それでは?!」
「お引き受けしましょう。この水井栄夫、一世一代の大仕事になりそうだ」
「ありがとうございます水井さん!いや、水井先生!」

興奮して手を握ってきた政治家に微笑みながら
水井は――心の奥でほくそ笑んでいた。

この水井という男、後の世なら契約者などと呼ばれる類の者であった。
彼がその力……己と契約した『風水』を認識した際の話は割愛するが
とにかく水井がこの力を上手く使ってきたことは確かな事実であった。
彼の『風水』は元来の風水とは大きく異なっている。
元来の風水が川に水車を設置して水の流れを活用するものであるとすれば
水井の『風水』は団扇を使って風の流れを起こすものであり、
既にある流れを動力とする元来の風水と
動力で流れを起こす水井の『風水』は対極に位置していたのだ。

しかし水井はこの特性を使いこなしていた。
貧しさに悩む旧家を訪れれば家具を動かして金回りを良くし
子に恵まれぬ富豪に頼まれれば子宝を授けるという美術品を勧めた。
大地の気という大きな流れに左右される元来の風水と違い
水井の『風水』は部屋の調度品1つで望む気を引き寄せられるのだ。
もっとも代わりに別の気が遠ざかるという側面が無いでもなかったが
水井はそれが表面化しないように気を使っていたし
助言に従って望みを叶えた者たちにとっては
その程度の不運は大した負担にはならず、気づかない者が大半であった。

このやり方に眉をひそめる同業者がいなかったわけではない
しかし彼らもまたかつてない仕事依頼の数に忙殺されるようになっていき
結果として水井は誰の妨害を受けることもなくその名を広めていったのだ。

「門はこちらの方角で……ええ、そこには木を植えてください」
「水井先生、ここの墓地はどうしましょうか?」
「どこですか?……これはこのままがいいですね」

開発計画に携わることになった水井は内心笑いが止まらなかった。
誰もが自分のことを先生と呼んで親しみ、指示に従って開発を進めていく。
水井の指示は大地の気の流れを利用する元来の風水と
意図的に流れを生み出す己の『風水』が複雑に絡み合っており
もはや彼以外にその全容を知ることができる者はいなくなっていた。
だからこそ……誰も水井の企みには気づけない。
自宅として提供されている家への帰路で
水井はこの土地に作り出された新たな気の流れを肌で感じていた。

(あの富豪の家にあった魔術書は本当に役に立ってくれた
 本来の風水と私の『風水』、そして魔法陣の集大成
 これが完成すれば……私は魔術書にあったような
 伝説の"錬金術師"にも匹敵する力を得ることができるだろう)

風水の知識で見抜いた気の流れを己の『風水』で細かく操作する。
さらに西洋の魔術で気の力を高め、増大した力の恩恵を自身が受ける。
この計画が正しく成れば、不老不死すら夢ではないと水井は考えていた。

(もっとも都市の完成はまだまだ先だ。それまで野心は隠さねばならない)

一度誰かに不審に思われてしまえば、その綻びが致命傷になることもありえる。
そう決意を新たにした水井は家の前に見知らぬ老爺がいるのを見つけた。

「あの、我が家に何か御用でしょうか?」
「む。貴方が水井栄夫さん……ですかな?」
「そうですが、あなたは?」
「あの山の神社で神主をやっとる者です」
「ああ、山の神を祀っているという」

そんな者が何の用かと不思議に思った水井は
続く神主の発言で肝を冷やした。

「近頃この土地で妙な力の動きを感じますが、あなたの仕業ではないですかな?」
「(なに?!)……それはどういう意味でしょうか」
「風水というのは大地の気の流れを操ると聞きます
 あなたは開発計画に乗じて……この土地で何をなさるおつもりか」

鋭い目で睨む神主に水井は慌てて抗弁する。

「確かに土地の開発で気の流れが変わった可能性はあります
 大地の気は地形に影響を受けますから、大地を均すだけで
 流れが変わってしまうというのもありえない話ではない
 ですがそれは開発を進める中でどうしても発生する問題です
 それを私が意図してやったかのように言われるのは心外ですよ」

それでも水井を睨んでいた神主だったが
やがて諦めたように目線を山の方に向けた。

「……山神様は今も我らを見守っていらっしゃる
 身の丈に合わないことをすれば罰が当たることでしょう」

そう独り言のように呟いて神主は立ち去っていったが
家に入った水井は内心の苛立ちを抑えることができなかった。

(畜生!まさか気の流れを感じられる奴が他にいるとは
 いや、こんな土地でいないと考える方が無理があったか)

握り拳で柱を叩いた水井はギリッと歯を食いしばると
今後の計画についての修正内容を考え始めた。

(こうなったら計画を早めたほうがいいかもしれん
 時間が経つとかえって気づかれる可能性が高まる
 ならば、重要な部分だけ工期を前倒しにさせて――)

時は流れて数年後のこと

ついに水井が住む予定の邸宅が完成した。
この邸宅は水井が開発計画を利用して作り出してきた
気の流れの影響をもっとも受けやすい土地に建てられた。
この土地にはある手順を踏むことで
気の流れが集約され土地に流れ込む仕掛けが施されている。
それを一身に受けたとき……水井栄夫は生まれ変わるのだ。

(ようやく……ようやく私は錬金術師に、不老不死になれる……)

水井は泥酔した状態で家へと帰ってきた。
邸宅が完成した前祝いとして酒盛りをしてきたのだ。
何年も待った計画を構成する最後の部品の完成に
少々ハメを外してしまったのは無理もない話だろう。
調度品をいくつか巻き込んで倒れこむように寝た水井は
起床後、邸宅完成の式典を開くという有力者たちの言葉を思い出し
慌てて身支度をして家を飛び出した。

この時、彼が自身の不運――遅刻寸前の起床時間――に対して
少しでも疑問を持っていればこの土地の未来は大きく変わっていただろう
しかし彼は気付かなかったのだ。
己の『風水』で作り上げた……隣家の人々から幸福を奪ってでも
自身の不運を散らすはずの『風水』の砦が、己の手で破られていることに……

その後、式典会場に向かっていた水井は工事車両の暴走により
あっけなくその命を散らすこととなった。
土地の開発に協力し続けた水井の訃報に少なくない人々が悲しみ
工事車両を動かしていた男には怒りの声が降り注いだ
男の「角の生えた小人が勝手に動かした」という証言は
誰にも信じることはなく、男は罪に問われて連行されていったという。

こうして野心を抱き行動し続けた風水師は
事を急ぐあまり身の回りを疎かにして身を滅ぼした。
しかし彼の置き土産はいまだにこの土地に残されている。

張り巡らされた気の流れと、忘れ去られた魔法陣は
都市のあらゆるモノにその恩恵を与えている。
人も人ならざるモノも区別せず、善いも悪しきも平等に――――





――――その都市が『学校町』と呼ばれている今も、まだ。





これはまだ、この街が神の座す土地でしかなかった頃の話
――――神に命を捧げた女の、その後を見届けた男の記録


 閑話【神を視る女】

私がこの里に身を置いてそろそろ四年になる
この山も今では里の中と同じように
どこに何があるか分かるほどだ
器量の良い嫁を貰い、子も生まれた
こうして筆をとったのはまさに子のためである
堺からこの里にたどり着くまでの旅の中で
私が何を見て、聞いて、感じたのかを
我が子と、我が孫と、我が子孫、末代まで伝えたいがためである

私は堺の商家の子として生まれたが
生まれた頃から物の怪が見えるので親からも疎まれていた
そんな私だがいつの頃からか怪しい力をもっていた
獣を土中に埋めると願いが叶うのである
私は店が繁盛することを願って埋めてきたが
それが見つかり気味が悪いと幾ばくかの銭と共に
勘当され家を追い出されてしまった

しかしながら私はこの力の話を聞いたという
師に引き取られ物の怪について学ぶこととなった
今の私があるのは師のおかげである
そして私は師に言われて物の怪について知る旅に出た
幾度も物の怪に襲われたが、師の教えが私を守ってくれた

そして私はこの里を訪れたのだ
日も弱くなり一晩の宿を借りようと長の家を探していると
不意に大地が揺れて私は転んでしまった
すると近くの家の軒先に立っていた女が

「あなたは山神様が見えるのか」

と問うてきた
私がなんのことかと尋ね返すと向こうの山を指す
いつのまにか大きな人の姿をしたものが山に腰かけて休んでいた
あれほど大きな物の怪は初めて見ると言えば

「山神様を物の怪などと言うのは不敬である」

と女が言うので、それもそうだと
腰かけている山神なる者に詫びた
すると腹に響くような声で

「構わぬ」

と返ってきたので、山神はこれほど遠くの声が
聞こえるものなのかと目を見開いて驚いたものだ

女は里長の娘であるらしく
里長の家へと案内してくれた
女が言うことには

「山神様が見えない者は、山神様が歩く揺れも分からない」

というので不思議なものだなと私は言った
里長はといえば私が宿を借りることを許してくれたが
いっそ里に住んで娘をもらってくれないか
などと突拍子もないことを言いだした
里長いわく、この里で山神様を見ることができるのは
里長の娘……つまりあの女だけであるという
若い衆は見えぬものが見えるという女を気味悪がり
19にもなって嫁に貰いたがる男がいないのだそうだ
少し気になり女に問うと

「山神様が見える人は少なくなり、祖父の代から現れなくなったらしい」

と答えるのでますます気になる
私が宿をしばらく借りたいと頼むと
里長は快く許してくれた

それからしばらく里に留まるうちに女から聞くことには

「山神様は恐ろしい水神を鎮めるために留まっている」
「水神は蛇のような龍で、年に一度目覚める以外は眠っている」
「ひとたび水神が目覚めれば雨と風と雷を呼び嵐が起こる」
「川の水が溢れ里や畑を呑むことがないように
 山神様が水神と戦うことで力を削いで嵐を弱めている」
「見える人が減ったため祈りが減り山神様は力を失ってきている」

というような話であるようだった

「山神様のために祈る以外のことができないことが悔しい」

と話す女の目から涙が溢れていたことをよく覚えている
私もなんとかならないものかと知恵を出してみるが
師の教えにも荒ぶる神を鎮める方法は無かった
そこで私は女に、山神にも聞いてみてはどうかと言った
するとあの腹に響くような声で

「主の力でそこの娘を埋めればあの龍を封じることもできよう」

と山神が言うので思わず顔をしかめてしまった

なぜ私の力のことを知っていると問えば

「神と祀られるのだから"生贄"の力くらいはそれと分かるものよ」

と山神が答えたので、これはそんな名前だったのかと
今更ながら私の身に宿った力のことを新しく知った

「なにか方法があるのか」

と女が問い迫ってきたので
あるにはあるようだが、それにはあなたの命が必要だ
あなたには己の命を捨てる覚悟はおありか
と隠さず"生贄"と呼ぶらしい私の力のことを教えてやった
すると女は頭を下げて

「どうか村を救ってほしい」

とためらいもなく言うものだから
しかし里長は許さぬのではないかと私は言ってやった
ところが里長のところに行ってみれば
娘がここまで頼むのだから親として許さぬわけにはいかぬ
などと言って女が命を捨てることを許してしまった
もはや私はやらぬと言うこともできず
私はこの忌まわしき力を再び用いることとなったのである

山神が言うことには

「生贄は捧げ物と捧げ処と捧げ時と捧げ方が肝要である」

というのでさらに聞いてみると

「捧げ物は清め、箱に入れて捧げ物であると明らかにする」
「捧げ物の入った箱を神が受け取りやすい処に埋める」

というのが此度の正しき捧げ方であるという
箱を用立てるのは里長に頼み
埋める処は山神が示したので
私は女に、師から学んだ身の清め方を教えつつ
捧げ時というのが来るのを待つこととなった
里に留まってしばらくすると山神が

「龍が起きる兆しがある。今より生贄を捧げる儀式を始めよ」

というので女には身を清めてから来るように言って
私は先んじて木の箱を捧げ処に運ぶこととなった
その間にも空は昼だというのに黒雲に覆われて暗くなり
湿った風が木々を軋ませているのが見て取れ
水神とやらが、いかに恐ろしい物の怪であるかを垣間見たのであった

捧げ処へ女が来るまでに風はさらに強まり
もはやいつ嵐となってもおかしくなかった
やがて女が来たのだが箱に入る前に躊躇うような様子を見せる
どうした、怖くなったかと問うてみると

「私が死んだ後の里の皆が心配だ」

となどと言い出すので
しばらく住んで里に愛着も沸いた
事が終わればお前の代わりに里を見守れないかと
里長に頼んでみるつもりだ、と言ってやると

「それならば心残りはない」

と笑みを浮かべながら箱に入っていった
私は箱の蓋を閉じると、山神に対してこの娘を捧ぐ
代わりに山神に力を与え龍を封じることを願う
と大きく声を張って宣言し力を使った
すると箱は大地に染みるように消え跡形もなくなった

「願いと捧げ物は受け取った。必ずや龍を封じよう」

山神が山を震わすような声で答えると共に
黒雲から雫が落ち始め、龍の咆哮が辺りに響き渡った

「おのれ"ダイダラボッチ"はまた我を邪魔するか」

と雷のように轟く声が聞こえたかと思うと
山神より大きい蛇の姿をした物の怪が空に現れた
灰と黒の鱗が体に雲のような紋様を描き
鼻先から二本の長い髭を生やした神々しい大蛇は
山神を絞め潰さんと巻きつくも引き剥がされ
頭の付け根を握られ苦しい声をあげていた

「お前が見えなくなれば信仰は絶えて力を失うだろうと
 水に毒を混ぜ続けたというのに、その男が全てを崩してしまった」

龍は熱した炭のように赤い眼で私を睨んだ

「人が嵐を恐れる限り我は決して滅びぬ
 いずれ封を破りこの地を水に沈めたあとは
 我が顎門をもってお前の子孫を骸へと変えてくれようぞ」

龍はそれだけ言うと再び山神の手の中で暴れたが
山神が龍の頭を大地に叩きつけると目が光を失い
そのまま山神と共に大地の中に溶けるように消えていった
気づけばあれほどの荒天は収まっており
雲の間から陽の光が山を照らしているばかりであった

それから私は女に言ったとおり
里長に頼んで村に残り、封を見守ることとなった
あれから嵐が起こることはなくなったが
山神の姿を見ることもできていない
しかし忘れてはいけない
龍は封じられただけで消えたわけではなく
山神もまた力を失っただけで消えたわけではないのだ

我が子よ、我が孫よ、我が子孫よ。末代まで忘れることなかれ
いずれ必ず龍は封を破りこの地とお前たちに
その積り溜まった怒りをぶつけることだろう
ゆえに我らは備えなければならない
再び龍を封じこの地を守るために
その命をもって事を収めた女の覚悟に応えるために
我らは生涯をかけて備え、そして戦い続けなければならぬ――――



――――この地の平穏を乱す"物の怪"共と





これはまだ、この街が彼らに干渉され始めた頃の話
――――彼らと殺人鬼の交戦、その推移をまとめた資料


 閑話【契約者対処事例***号0**項】



.

その黒服の今日の仕事は、古い資料の再編纂だった。
基本的に資料は記録年代毎に整理されていることが多い。
しかし事件発生数が増えるにつれ資料や記録の数も増えていき
片端から閲覧して参考資料を探すというのは困難になってきた。
それに伴って都市伝説の種類・系統といったもので
記録を分類した新たな資料の必要性を訴える声も増えたのである。
そうして始まったのがこの再編纂という作業だ。
以来交代制でこの作業は常に行われているのだが、
なにせ記録は膨大な量であり、分類を決めるのも
難しい判断が要求される事例が多々見受けられる。
それゆえに未だに手をつけられていない記録も山のようにある。

そんな未分類資料から黒服は1つの文書を取り出し
分類を決める参考にするべく内容を閲覧し始めた。
年代は……19XX年。"組織"がこの街に人員を派遣し
常駐させるようになって間もない頃のものだ。

読み進めていく内に、この資料はどうやら
当時街を騒がせていた殺人鬼が契約者であることが判明し、
その討伐作戦を決行した際の推移を記録したものらしいと分かった。


殺人鬼はまだ年若い少年と少女の二人組。
以下それぞれ対象A、対象Bと記載する。
対象Aの名前は紫崎琢磨。両親を都市伝説の能力で殺害し
強盗殺人を繰り返しながら街に潜んでいる模様。
契約都市伝説は"ムラサキカガミ"と推測される。
対象Bの名前は石井泉。両親が変死体で発見されており、
恐らく都市伝説の能力で両親を殺害した可能性が高いと考えられる。
対象Aと接触した経緯は不明だが共犯関係であることは間違いない。
契約都市伝説は"水晶ドクロ"と推測される。

初めに黒服を2名送るも失敗。黒服2名は失われた。
次に黒服を8名に増員し向かわせるも失敗し全滅。
二度の失敗と交戦情報からの相手の能力の精査が行われ
想定よりもかなり戦闘能力が高いことが明らかになった。

対象Aの能力は『言霊を用いた目標物の破壊』
現在確認されている言霊は"死"のみであり
これを含む言葉を発生することで意図した効果を発生させる。
効果範囲は声の届く範囲であると推測される。
計10名全ての黒服を体の複数箇所の壊死という形で破壊している。

対象Bの能力は『呪詛』『予知』『念動』等がある模様。
なお呪詛は前述の対象Bの両親の変死から
予知は監視中の対象Aと対象Bの会話から推測されたものである。
念動は対象Bが水晶ドクロを空中で動かしたほか
黒服の動きを不可視の力で阻害した形跡があるため
ほぼ確実に有しているものと思われる。

対象Aと対象Bの危険度を上方修正し
戦闘に長けた契約者2名による対象の討伐計画を申請する

【認可】

計画に参加する契約者は【******】【******】の2名
以下、契約者イ及び契約者ロと記載する

初戦は恐らく予知による待ち伏せを受け失敗
対象Aにより契約者イが喉に、契約者ロが腕に攻撃を受け撤退した
治療効果を持つ都市伝説を用いて回復を早めるものとする
対象Aと対象Bの危険度を上方修正し
次作戦にて陽動のため黒服10名の増員と
契約者【******】の計画参加を申請する

【認可】

以下、追加要員である契約者【******】は契約者ハと記載する

次作戦においては黒服を用いて誘導を行い、対象Aと対象Bの分断を行う
対象Aの担当を契約者イ及び契約者ハとし、対象Aの足止めを試みる
対象Bの担当を契約者ロとし、可及的速やかに対象Bの討伐を遂行する

第二次作戦において対象Aと対象Bの討伐に成功した

黒服による対象Aと対象Bの分断は期待通りの成果をあげ
対象Aのムラサキカガミは契約者ハの
"白い水晶"にて破壊効果の大幅な低減が確認された
対象Bとの戦闘により契約者ロが負傷したものの
大きな支障が出るものではなく、自然治癒で問題ないと考えられる

この結果から今後は戦闘能力だけではなく
都市伝説の相性や対抗都市伝説の効果を鑑みて作戦を遂行することで
都市伝説及び契約者への対処が効率化されるものと考えられる

ここで黒服はこの討伐作戦の記録に、まだ続きがあることに気がついた
やや事務的な討伐推移の記録と共にまとめられていたのは
この討伐作戦に参加した契約者が書いたと思われる走り書きだった
こんな主観に彩られたものでも一応資料の一部として保存するべきなのか……
黒服は頭を悩ませながら、もう一度走り書きに目を通した


この記録を読む誰かのためにこれを残します
私は彼の姿を直接見て彼の怒りを直接聞きました
彼は両親に虐待を受け、都市伝説で両親を殺害したといいます
次に路地裏で犯されそうだった彼女のため、また殺人を行いました
彼と彼女は大人を信用していませんでした
彼の硝子のようにひび割れた背中に無数の火傷跡が見えました
彼女の背中にはミミズ腫れが幾つもあると彼は言っていました
そして浮浪児である彼らを助ける者もいませんでした
だから彼らは大人を、世界を憎んでいると言いました
信じて助けたいのはお互いだけだと言っていました

それでも危険だから、私たちは彼らを消そうとしました
どんな事情があろうと罪は罪であり、罰があるべきでしょう
そのことに異存はありません。それでも思うことはあります
******さんは首を断ち斬った彼女に反撃されました
私たちも彼の最後の足掻きに意識を失いました
でもその間際、私は確かに女の子の声を聞いたのです
「生きて。私の力を使って、もう一度だけでも」という懇願を
気づけば彼らの死体は消えていました
黒服さんは討伐が完了したと淡々と告げました
しかし私は思いました。討伐したなんてとんでもない
私たちはこの世に悲しい怪物を生み出したのではないか、と

だからどうか、これを読んだ人に教えてほしいのです

私たちはどうすれば彼と彼女を救えたのですか?
両親を殺した直後に彼を捕まえる?
それとも彼と彼女と出会った時に?
あるいは、私たちはもっと彼らの話を聞くべきでしたか?



――――私たちが彼と彼女を討伐したのは、正しい対処でしたか?


                            閑話【了】

都市伝説"トンカラトン"は路地裏に隠れてようやく一息ついた。
語られている通りに人を襲おうとしたが、逆に何者かの襲撃を受けたのだ。
細長いものに巻き付かれた自転車は恐ろしい力で引きちぎられてしまった。
このまま走って逃げるのか、意を決して襲撃者に立ち向かい撃退するのか……

そんなことを考えるトンカラトンを上から見つめる者がいた。
正面に(▼)マークの描かれた覆面で顔を隠し
トレンチコートに中折れ帽を着用したその人物は、
腕に巻きついている細長い布を下に向かって数本伸ばすと
音もなくトンカラトンの首へと巻きつけ
彼が反応するよりも早く布を引っぱりその首をへし折った。


[警邏記録 G.K記]

注射男     1体 
赤マント    2体 
トンカラトン  1体

今日だけでこれらの都市伝説を始末した
学校町を漂う嫌な匂いに惹かれてやってきたハエ共だ
やはり元を叩かなければキリがなさそうだが
あいにく俺には原因を探るために使えるツテがない
この街でいったい何が起こっているのか
それが分かるまではハエを消すことに注力しよう

相生真理にとって幼馴染の奇行はよくあること
もうとっくに慣れている……と自分では思っているつもりであった。
風呂上がりに自分以外いないはずの家のリビングで
仮装でもしているかのような格好をして
手帳に何事か書き連ねている幼馴染を見つけるまでは。

「邪魔シてルゾ。窓の施錠ハ忘レルな、都市伝説に襲わレかねない」
「……気をつけるわ。都市伝説以外に不審者が入ることもあるみたいだし」

乾いた物が擦れ合うような声で話す幼馴染の忠告に皮肉で返す。

「それで、なんでその格好してるの?またヒーローごっこ?」
「ソのようなものダな。最近ハ、都市伝説の出現数ガ増えていルようダ」
「だからヒーローごっこするわけ?その格好、えーと……なんだっけ?」
「"ゴルディアン・ノット"ダ」
「そうそう、そんな名前だったわね。それ」

(▼)模様の覆面で顔を隠し、トレンチコートを羽織って中折れ帽を被る。
全身に巻きつく細長い布と縄、胴体にだけ巻きついた二本の鎖。
某アメリカンコミックのヒーローをモデルにした幼馴染の描くヒーロー像。
それが目の前の"ゴルディアン・ノット"だ。正直不審者にしか見えないが。

「おじさんとおばさん、反対しなかったの?いや、黙ってやってるのか」
「ソのことダガ、家出シてきた」
「……ごめん、なんて?」
「家出シた」
「はぁ?いやいや、学校とかあるでしょ?」
「荷物なラ持ってきていル」
「ここか!滞在先もとい家出先は私の家か!!」

一軒家のくせに両親は海外を飛び回っているため
部屋が余っているのは事実だ……しかし私を巻き込むなと言いたい。

「今この街で戦闘向きでハない契約者が一人暮らシなのハ不安ダ」
「それは……まあそうかもしれないけど」
「俺なラ大抵の都市伝説ハ倒セル」
「だから家に置いとけと?」
「悪い話デハないダロう?」

確かに私の契約都市伝説"小玉鼠"では
都市伝説に襲われたとき対処しきれるか疑問がある。
それを言われると強行には反対できない。
……なにより幼馴染の頼みである。あまり無下にもしづらい。

「分かったわよ。しばらく置いてあげる」
「感謝スル」
「でもちゃんとおじさんたちにも顔見せなさいよ?」
「元よりソのつもリダ」
「あとずっと気になってたんだけど」

覆面の下で顔を隠した幼馴染が
訝しげな表情をしたのが、なんとなく分かった。

「なんでずっとその声なの?」
「この後また警邏に行くかラダガ?」
「えー……もう夜の11時だけど」
「今日ハ土曜日ダ」
「まあいいけど、せめて私だけのときくらい普段通り話さない?」
「"ゴルディアン・ノット"デいル間ハこのままと決めていルかラ断ル」

それだけ言うと幼馴染は階段を上がっていってしまった。
窓から入ってきたと言っていたから、靴も窓のそばにあるのだろう。
おそらくそのまま窓から出て行くに違いない。

「……合鍵渡しとこ」

いつも窓から出入りされるのは流石に困る。
そう思って合鍵を幼馴染に渡すべく、私も階段を駆け上がっていった。

                                 【第一話 了】

[警邏記録 G.K記]


警邏中に"くねくね"を倒した後、組織の活動を目撃した
相手は"ひき子さん"だったようだが
戦闘していた契約者は危なげなく倒しているように見えた
できることなら契約都市伝説も確認したかったが
黒服の方がこちらに気づいたようだったので撤退する
この距離で俺に気づく相手と戦闘の駆け引きができると考えるほど
自分の力を過信しているつもりはない
それと"組織"の追手かと思い撒こうとした相手は知り合いだった
鼻が利くというのは俺の強みでもあるが
対策と、さらにその対策を考える必要がありそうだ

学校町南区 喫茶店「ヒーローズカフェ」

「――というわけでうちにいますので」
「連れ戻したほうがいいか?」
「いえ、それはいいです。あ、でも食費とかがちょっと」
「分かった。後で届けるよ」

相生真理は幼馴染の家である"ヒーローズカフェ"に来ていた。
喫茶店に思い入れのある幼馴染の母、瑞希さんが提案し
夫である幼馴染の父、美弥さんが承諾して始めたというこの店だが
いたるところにヒーローもののフィギュアやポスターが飾られている。
さらに店内のテレビではヒーロー系の映像が営業中に流され
隅に置かれた本棚には海外のヒーローコミックまで置かれている。
断言しよう。幼馴染がああなったのはこの両親のせいだと……!

「今日は光の巨人なんですか?しかも海外の」
「流して欲しいって私物の持ち込みがあったんだ」

そして悲しいかな、私もそれなりに知識を植えつけられている。
うちの両親は昔から家を空けることが多かったので
私は頻繁に両親の知り合いである篠塚夫妻に預けられてきた。
東区の家を第一の家とすると、ここは第二の家のようなもの。
なので今回は一言断って居住スペースに上がり込み
美弥さんが休憩に入るのを待っていたわけである。
……家出した子の動向とか、店の中でする話じゃないし。

「でも止めないんですか?」
「最近街の雰囲気がおかしいのは俺たちも感じているからな
 しかし俺も瑞希も昔みたいに我武者羅には戦えない
 ならやらせてみるのもいいんじゃないか、と思うわけだ
 まあ何も考えてないわけじゃない。一応見張りにザクロをつけてある」

ザクロさんは美弥さんの契約都市伝説で
"ブラックドッグ"という火を吹く能力を持った大きな黒い犬だ。
底なしのスタミナと体格に見合ったパワーに犬の俊敏性も併せ持つ。
おまけに嗅覚を始めとする知覚能力も高く、人間としての姿まで有している。
私の小玉鼠なんて足元にも及ばないハイスペックである。
なるほど。居住スペースにいないのは幼馴染についているからかと納得した。

「"怪奇同盟"が活動停止状態でなければ、まだやりようはあったんだがな」
「怪奇同盟……ですか」

怪奇同盟の名前は、今まで何度も耳にしている。
それが私の両親と幼馴染の両親が所属していた集団の名前だからだ。
両親はこの集団に所属することが縁で出会ったと聞いている。
だが、現在怪奇同盟は活動できない状態にあるのだという。

そもそもこの街は都市伝説をよく引き寄せるとかで
いくつか都市伝説に関連した名のある集団が拠点を置いているそうだ。
例えば"組織"と"首塚"……この2つは両親の話でもたまに名前が挙がっていた。
組織は都市伝説の存在が表に出ないよう活動している集団らしい。
黒服と呼ばれる者たちと"組織"の庇護下にある契約者によって構成され
危険な都市伝説を狩り、後ろ盾のない契約者を保護しているとか。
しかし昔は巨大な集団であるため派閥争いがあったようだとも
組織の構成員と話す機会があった両親や篠塚夫妻からは聞いている。
首塚はそんな組織に対して反感を抱いた、
かの有名な平将門の怨念なる都市伝説が率いるという集団だ。
自主自立に重きを置く比較的自由な気質の集団であると聞いている。
現在は彼らも組織に対して積極的に抗争を起こすことはないという。
では肝心の怪奇同盟はどんな集団だったのかと
美弥さんに聞いたことがある。その時美弥さんは

「自警団という表現が一番近いんじゃないか」

と言ってから私に説明をしてくれた。
怪奇同盟の行動規範は街とそこに住む人々を都市伝説の脅威から守ること。
確かにこれなら自警団という言葉が相応しいだろう。

では何故彼らが活動できなくなったのか
怪奇同盟には"首塚"でいう将門公のように明確なトップがいた。
都市伝説"墓場からの電話"であるという彼女は"盟主"を名乗り
学校町に点在する墓地を起点にこの街を裏から監視しつつ
構成員である盟友(同志と言い換えてもいいかもしれない)と共に
組織や首塚、あるいはその他の集団と牽制しあいながら
この街を守るために戦い続けていた。
特に20年ほど前は盟友たちの前にその姿を何度も現すほど
精力的に動き大きな事件の解決に尽力していたという。

だが15年ほど前に、彼女は姿を見せなくなった。
どころか彼女の眷属のような立場である幽霊……
"墓守"たちですら彼女の動向がつかめない状況であった。
それでも盟友たちは各自で自警活動を続けていたが
盟主を欠いたことで集団として活動することは難しくなっていた。
それから数年経ち学校町の都市伝説による被害が減り
街が比較的安定した状態になったことを受けて
暫定的なリーダーであった東の墓地の"墓守"は
盟主の動向が分かるまで"怪奇同盟"としての活動を停止し
都市伝説と関わりのない表の生活に注力するよう盟友たちに通達した
こうして怪奇同盟は今のように名ばかりが残る状態になったのである。

「怪奇同盟は無くなったわけじゃない
 俺や瑞希は今でも所属しているつもりだし
 真理ちゃんの両親だってそうなんじゃないかな」
「そう、だと思います」

私の両親は学者だ。それも民間伝承や神話、都市伝説を研究している。
たぶん海外を飛び回っているのも2人にとっては戦いなのだと思う。
彼を知り、己を知れば、百戦危うからず。という言葉がある。
いずれ来るかもしれない戦いのために知識を蓄え備えようとしているのだ。
それが最終的には街と人を、私を守ることに繋がると信じている。
私を放っていることには不満の言葉しか出ないが
たまに帰ってくるとこれでもかと構い倒してくるので
愛されていないとは思っていない。

「それはそれとして、もっと頻繁に帰ってきてほしいですけどね」
「俺もそれは思う。学者ってのはそんなに大変なのかね」
「…………まあ、たぶん、そうなんじゃないですか」

喧嘩腰になりやすく行動力のある母と、妻の押しに滅法弱い父。
帰国が延期になる理由の3分の2くらいは母の暴走の結果だと
気がついてしまったのは何年前だったか……
お願いだから他国で人様に迷惑をかけるくらいなら早く帰ってきてください。
思わず手を組んで天に祈った私を美弥さんが不思議そうに見たが、些細なことだ。

                                         【第二話 了】

空中を滑るように移動し隙を窺う"モスマン"に対して
覆面の人物……ゴルディアン・ノットもまた地上から
モスマンを地に落とす機会を待っていた。
やがてしびれを切らしたのか音もなく突撃してくるモスマンが
間合いに入ったとみるやいなや、ゴルディアン・ノットは
両腕に巻き付いた布と縄のほとんどをモスマン目掛けて撃ち出し、
回避しきれなかった布の一本がモスマンに絡まったのを感じとると
すかさずその一本を引っ張りモスマンを地面に叩きつける。
追加で布を、縄を絡ませながら何度も地面へと叩きつけるうちに
やがてモスマンは光の粒となって消えてしまった。


[警邏記録 G.K記]

モスマンを1体倒した
空を飛び回る蛾を叩くのは面倒だが
光へ近づこうとする限りできないことではない
本当に厄介なのは空を飛びながら水をかけるセミだ
これも何か対策を打つ必要がある
問題は多いがこれくらいは解かなければ
難題を断つことなどできないだろう

相生真理が玄関の扉を開けると、珍しい人物が立っていた。

「文さん?こんにちは、どうしたんですか?」
「こんにちは、真理ちゃん。兄さんに頼まれて結ちゃんの分の生活費をですね」
「あー、そういうことですか。とりあえずあがってください」

篠塚文さん。中学一年生の私と同い年くらいにしか見えない彼女は
美弥さんの妹、つまり我が幼馴染の叔母にあたる。

「結ちゃんはどうしてますか?」
「今は部屋にいる……はずですけど」

そう言って部屋の前まで文さんを案内し、扉をノックする。

「入っていいよー」

返事が戻ってきたのを確認して扉を開けると
手帳に何かを書き込む幼馴染の少女の姿がそこにあった。

「あれ、文さん?なんでここに」
「結ちゃんがここで居候してるっていうから生活費を届けに来たんですよ」
「なるほどなー」
「私も無理に帰ってこいとは言いませんけど
 たまにはちゃんと帰ってお父さんに顔を見せてくださいね」
「はーい」

なんというか、仲のいい姉妹の会話を見ているようである。
外見年齢が近いからそう見えるのか、それとも……

「話は変わりますけど、能力を使ってみてどうですか?」
「んー……別になんともないと思うけど」
「私の時とはまた別のパターンですからね。何かあったらちゃんと伝えるように」
「あいあい」

文さんは都市伝説から人になり、その後都市伝説として契約者を得たという
簡単には説明しづらい、ややこしい経歴がある。
その結果、契約時から肉体の成長が止まってしまったそうだ。
そして誕生したのが見た目は子供、頭脳は大人の稀少存在というわけだ。

結もまた文さんと同じ……ではないが、奇妙な運命を背負って生まれている。
彼女の両親、美弥さんと瑞希さんは"都市伝説化した契約者"だ。
都市伝説と契約した者はたまに、その力を制御しきれず
あるいはその力を使いすぎてしまった結果、人間ではなくなることがある。
例えるなら、吸血鬼の力を使いすぎて自らが吸血鬼に変じるような……
都市伝説に呑まれる、などと表現するその現象を2人はその身に受けた。
それゆえに2人の外見は、10代後半の頃から変わらないままだという。
そんな2人から生まれた娘は、残念なことに普通ではなかった。

"ドラゴンメイド"
ヨーロッパに伝わる半竜半人の乙女。
それが篠塚結……私の幼馴染が生まれ持った都市伝説としての性質。
彼女は人間でありながら都市伝説でもある、異質な存在だった。
都市伝説の力を持ちながら、都市伝説と契約することができる。
ハッキリ言おう。私の幼馴染はバケモノである、と。

「ハッキリ言おう。私の幼馴染はバケモノである」
「そんなことを言うのはこの口かー」

文さんが帰った後の部屋で、言葉の刃を携え斬りかかった私に
結は何が楽しいのか笑顔で近づいてきて、私の両頬をぐにんと引っ張った。
……結は自分がバケモノであることを認めている。
同時にバケモノであるからこそ、自分が何者で、どうあるべきなのか。
その答えを探しているのだと私に言ったことがある。
ゴルディアン・ノット。あるいはゴルディアンの結び目。
その意味するところは"手に負えないような難問"。
彼女のヒーロー像は、彼女なりの答えなのだろう。
古代の王ゴルディアスがどのような答えを期待して
複雑で固い結び目を用意したのかは誰にも分からない。
しかしアレクサンドロス大王は自分なりの答えで結び目を解いてみせた。
それと同じなのだ。彼女は己の答えで、道を切り拓こうとしている。

「んー、そろそろ日が暮れるねー。着替えるからちょっと部屋出てくれる?」
「はいはい」

部屋を出ると中からゴソゴソと音がして、しばらくすると再び中へ呼ばれた。

部屋の中にいたのは篠塚結ではなく"ゴルディアン・ノット"だった。

「夕食の前に俺ハ警邏に行ってくル」
「言うと思ったよ。気をつけてね」
「ああ……済まない。いつも迷惑をかけル」
「いいよ。幼馴染の頼みだからね」

乾いた物が擦れあうような声で詫びる幼馴染に苦笑しつつも言葉を返す。
(▼)模様の覆面の下ではきっと、縦長の瞳孔を持つ瞳を伏せ
ところどころ鱗に覆われた顔で申し訳なさそうにしているのだろう。
その様子を想像して吹き出しそうになったが、なんとかこらえられた。

「実は今日、文さんが肉を買ってきてくれたからね
 帰ってきたらホットプレートで焼肉パーティーだよ」
「ソうか。楽シみにシておく」

一見そっけなく返したようだが、付き合いの長い私は誤魔化せない。
今、声がちょっと上ずったね?

「でハ、いってきまス」
「うん、いってらっしゃい」

今日も私の幼馴染が無事に帰ってきますように。
私は静かに手を組んで、いつものように天へと祈った。

                                    【第三話 了】

【逢魔時】とは、いわゆる夕方、日没前後の昼と夜が移り変わる時刻を指す。
黄昏時とも呼ばれ、その語源は「誰そ彼」……そこの彼が、誰なのか分からないという意味だ。
夕日に照らされた人は黒い影となって表情を覆い隠される。
故にこの時間帯、人影の中に魔に属するモノが紛れ込むと、ある地方では伝えられた。

そして今日もまた、日が沈む――――

日没の約六分前、西区のある廃工場付近に雷鳴が轟いた
雲の少ない快晴の茜空の下、廃工場の長い影に包まれて
対峙するのは赤いマントに身を包んだ男と、白装束の女
尋常でないところを挙げるとすれば、男の方は都市伝説"赤マント"であり――

「あら、外してしまいましたか……少々眠りすぎたようですね」

――――女の身体が半透明で、実体を伴っていないということだろう

紫電に焦がされた地面を意に介さず女に襲いかかる赤マント
だがその攻撃は空を切り、女の反撃がその身を撃ち貫く
辺りに肉の焼けた匂いが漂うが、それもすぐ風に散らされた

「ああ、感じます……私のいない間にまた悍ましいモノがこの地に入り込みましたか」

誰も見る者のいない廃工場の敷地内で、女が独白する

「もはやこれまで、もはやこれまで……穏便に済ませることは、もうできない」

その様子はどこか陶然としているようで、目は中空を見つめるばかり
見ている者があればこう思っただろう。この女は正気ではないのだ、と

「この地にあるべきは人の営みだけ。それを脅かす怪異は、都市伝説は、イラナイ」

女がパンと手を打つと、廃工場の影から蠢くモノ達が体を起こす。
それはまるで、黄昏時の人の影そのもの。逢魔時に現れる、魔性のモノの姿。

「然らば全て、排しましょう。除けましょう。払いましょう。滅しましょう」

影を従えた女が、妖しく見える笑みを浮かべて宣告する

「この地を守るため、人の明日を守るため……私はどこまでも戦いましょう」

日が沈み切ると、陽炎のように女と影達は揺らいで消え去った
しかしそれが夕陽の見せた幻ではないことに、気付いた者もいた

学校町某所

「んー…………こりゃマジで動き出したか?」

男は紙製の人形のようなものを机に置いて立ち上がった

「準備は万端、とも言い難いが……やることは変わらねえか」
「とうさま、ごはんできたってば」
「おお悪い。すぐ行く」

年内にケリをつけてえなあ、などと考えながら
男は女の子に手を引かれて部屋を出て行った
机の上の紙人形は、いつの間にか消えていた


学校町 東区のある墓地にて

「あの、先生?どうかしましたか?急に黙っちゃって」
「……透風さん。いえ、南の墓守」
「! なんですか、東の墓守」
「今晩にも"牛の首"を使います。心の準備を」
「いったい何が……?」
「わかりません。ですが、何かが起こるのは間違いないでしょう」

半透明の身体の男、"東の墓守"遠野弥彦は
半透明の女の子、"南の墓守"間瀬透風に答えつつ、なお考える

(彼女が気づいていないということは、盟主様の気配は勘違いだったのか?)
(悩んでる先生もやっぱりいいなぁ)

どんな時でも己の欲望に忠実な彼女はさておき
彼の懸念が真実であると彼らが知るのは、もう少し先の話である……

今日も学校町の一日が終わる
同時に、長きにわたった"彼女"の沈黙も破られた
それが仮初の平穏に終わりを告げる合図だったのかどうかは

 まだ、誰にも分からない――――


【Next Generation】
【Event "Strangeness of twilight"】
【Shall we play?】

昼と夜が移り変わる逢魔時。出歩く者が少ないのはどこも変わらない
繁華街を有する南区であろうと、人目につかない場所というのは存在する
そんな場所で――たとえば廃ビルの裏の少し広い路地裏――何が起ころうと
都合よく助けが来るなどということは、期待できないのだ

「きゃああああああ!!」

上半身だけの女の子が、飛んでくる壊れた看板に弾かれ壁に叩きつけられる
人間であれば既に死んでいてもおかしくない姿だが、彼女は必死に体を起こす
なぜなら彼女は都市伝説"テケテケ"であり――目の前の敵と交戦中なのだから

「テケテケッ! くそ……なんだっていうんだよ!!」

落ちていた金属製のパイプのようなものを振り回して
周りを囲む人型の影のようなものを牽制しながら、テケテケの契約者は叫ぶ
しかし彼らを襲った敵は、幽霊のような半透明の女性は答えない
代わりにテケテケに向け突き出された半透明の右手が放電を始める
テケテケも危険を感じて動こうとするが、ダメージから体が思うように動かず

「やめろおおおおおおおおお!!!」

少年の叫びも虚しく、路地裏に紫電が迸った。

「……え?」

テケテケは我が目を疑い、思わず声を漏らした。
自分がやられれば契約者が危ない……その一心で最後まで足掻くため
彼女は紫電が自分に向かって放たれる瞬間まで目を閉じなかった

だから彼女は目撃したのだ。都合のいいヒーローの、都合のいい登場シーンを

上から落ちてきた誰かは目の前に何かを突き出し、そこに紫電が吸われていった。
それは板のようなもので、よく見れば誰かの頭の上にも二枚ほど
板のようなものが突き出ていた。わずかな光を反射するそれは……

「鏡……」
「かめん、らいだー……?」

ハッとして契約者である少年の方に目を向け、また目を疑った
少年を囲んでいたはずの影は消え去り、代わりに大きな黒い犬が佇んでいる
赤く燃えるようなその瞳は、半透明の女性に視線を向けていた

「お久しぶりです美弥さん。消えてください」
「ザクロ、彼らを頼む」

半透明の女性の周囲に火の玉が現れ仮面ライダー(?)に降り注ぐ
しかしライダーは誰かに話しかけると、逆に火の雨の中へ駆け出した

「今のうちに逃げますわよ」
「え?あ……は、はい……?」
「テケテケ!大丈夫か?!」

テケテケに声をかけ、左手で首根っこを掴んで引っ張り上げたのは
黒いスーツを身に纏った長い黒髪の女性だった
彼女の右腕には少年が抱え上げられており、心配そうに声をかけてきた

「あの、あなたたちは……」
「これから跳びますので、口を閉じないと舌を噛みますわよ」

とぶ、とはどういうことか……と聞く前に女性は跳躍した。
1.5人分の重量など意に介さぬように壁を蹴り上に向かう。
彼女は近くのビルの屋上に飛び乗るとようやく動きを止め、二人を下ろした

「被害者、回収してきましたわ」
「お疲れ様ですザクロさん。義姉さん、行っていいですよ」
「オッケー!新技『結界武装』を試してくるわ!」
「ほどほどにお願いします」

テケテケがグロッキーな契約者を心配する横で
屋上に居た活発そうな女性と小学生くらいの女の子が
黒髪の女性と何かを話すと、活発そうな女性がいきなり飛び降りた
その体が何故か光っていたのは、おそらく見間違えではないのだろう

「すみません。助けるのが少し遅くなってしまったようで」
「い、いえ……あの、あなたたちは一体何者なんですか……?」

声をかけてきた女の子に、テケテケはようやく質問する
女の子は少し考えた様子を見せ、口を開いた。

「……ただの都市伝説と契約者ですよ。あなたたちと同じです」


一方、路地裏での戦闘は仮面ライダーこと篠塚美弥が押されていた。

「やっぱりパンチやキックは効かないか……そらっ!」

左手から紫電を放とうとした半透明の女性……盟主の前で
美弥がおもむろに両手を打ち合わせると、ガシャンと音がして
盟主の左腕が二枚の鏡によって食いちぎられるように消し去られた

都市伝説"マスクドヒーロー"と化した人間である
篠塚美弥は、戦闘形態への変身能力を有している
また契約している都市伝説と一体化することで
さらに異なる戦闘形態へ変化することもできる
今の美弥は"合わせ鏡の悪魔"であるアクマと一体化した
ツインミラーフォーム……パワーと装甲性能に長けており
鏡を操った特殊攻撃を駆使する戦闘形態になっていた
物理攻撃もエネルギー攻撃もまるで効かない盟主の前では
鏡を介した特殊攻撃くらいしか有効打にならないとを考えての選択だ

だがツインミラーフォームすら盟主の前では力不足だった
左腕が消失したことにも動揺せず、即座に右手が放電を始める
美弥は一歩引き放たれた紫電を構えた鏡に吸わせることで凌いだ

「粘りますね。ではこれでどうでしょう?」
「(うわ、あれはマズいよ契約者!)」

盟主を囲むように八ヶ所で放電が始まる
精度よりも数を重視した同時攻撃に、アクマが焦る

「街の被害はなるべく避けるんじゃなかったのか?」
「これくらいしなければ貴方は倒せそうにありませんので」

そう答え攻撃を開始しようとした盟主を――

「どぉりゃあああああああああああ!!!」

――――弾丸のように突っ込んできた彼女の蹴りが穿った

"超人"篠塚瑞希。夫と肩を並べる契約者だった彼女は
元々優れていた身体能力が人間の限界を超え、ついに都市伝説と化した
その動きは音すらも置き去りにし、ソニックブームが身体を傷つける
それに対して彼女が見つけた答えが、契約都市伝説であり義妹である
篠塚文……都市伝説"座敷童"の境界を定め、結界を作る能力であった
身体と外の境界に結界を纏って装甲と為す……名付けて『結界武装』

この新技の嬉しい誤算として、結界の霊体すら遮る性質が上手く働き
彼女は実体のない都市伝説すら殴ることができるようになっていた
音速に迫った彼女の蹴りは盟主の胴体を消し飛ばし
盟主は苦々しげな表情のまま消えていった。恐らく撤退したのだろう

「悪い、助かった」
「いいっていいって!美弥が救助しなきゃ私も突っ込めなかったし」

篠塚瑞希の高速戦闘は周囲に被害が出やすい
さらにいえば結界を全身に纏うまで少し時間がかかる
そのため先に美弥達が駆けつけて被害者を救助し
装甲性能に優れた美弥だけが残って盟主を惹きつけることで
瑞希がより良いパフォーマンスを発揮できる環境を整えたのだ

「でさ、どう思う?」
「確かに盟主様だったが……様子がおかしいのは確かだな」

かつては怪奇同盟の主力として肩を並べて戦った身だ
あの頃の盟主と比べると、あまりにも攻撃的になりすぎている

「東の墓守……遠野さんに報告はするにしても、まあ今後やることは決まってるな」
「どんな敵が相手でも、街と人々の平和は私たちが守る!」
「ああ。それがヒーロー、そして怪奇同盟のやり方だ」

決意を新たにした夫婦は、夜の帳に閉ざされた路地裏から
仲間が待つ屋上へと跳び上がっていった。不運な被害者を家に帰すために


――――その路地裏から紙の鳥が静かに飛び立ったのを、見た者はいなかった

夏休みも半ばを過ぎたある日のこと
相生家に電話の着信音が鳴り響いた

「――――肝試し?学校で?」
『うん。真理ちゃんも来るよね?』

なぜ行くのが前提なのか。それよりちょっと整理させてほしい

「あのさ、学校って普通夜は施錠されてるでしょ」
『鍵が壊れて施錠できない場所が一階にあるんだよね』
「……監督の先生とか」
『いないよ』
「…………本気なのね?」
『真理ちゃんもしかしてこういうのダメなの?』
「いや、そういうわけじゃないけど」
『うーん、どうしても嫌なら来なくてもいいけど』
「まあできれば、あんまり行きたくないというか……」
『でも篠塚さんは来るって言ってたよ』
「行きます」
『じゃあ夜の11時集合だから』
「時間遅くない?」
『じゃあまたね』

電話が切れた。受話器を置いて、ゆっくりと息を吐く
…………あのバカを問いたださなければ
私は幼馴染を詰問すべく、飲み物を用意して部屋へ向かった

「で、どういうつもり?夜の中学校なんて明らかに危険じゃない」
「んー、それはそうなんだけどねー」

ベッドの上でゴロゴロしていた結が起き上がって座り直す
視線がコップに向かっているが、飲み物の前に回答が欲しい

「登校日があったでしょー?その時に集まって計画しててさー」
「ああ、草むしりの日に……それで?」
「私も最初止めようと思ったんだけどさ、全然聞いてくれないしー」
「普段一人のあんたがいきなり話しかけても、そりゃそうなるでしょ」
「いかんのいー」

頬を膨らませる結だがこれは自業自得だろう
完全な人ではない結は、人と距離をとりたがる傾向がある
人が嫌いだからではない。人ではない自分が人とどう接するべきか
至極真面目に思い悩んだ結果そうなったのである……不器用かっ!
もちろん話しかければ普通に答えるし、当たりが強いわけでもない

ところがここである要素が足を引っ張った。容姿である
結の母親である瑞希さんは十人中九人が美人と答える容姿で
ここに持ち前の明るさが加わり高校生時代男女問わず人気があった
……という風に美弥さんからは聞いている。その結果として
仲良くしていた美弥さんは同級生から睨まれたとか。これはたぶん事実なのだろう

結も母親の容姿の良さをしっかり受け継いでいる
可愛いというより美人という言葉が似合う顔立ち
同年代と比べて細身でスラッとした体型
加えて人に踏み込まず人に踏み込ませずという立ち回り
この結果、私の幼馴染は学校ではまるで『孤高の花』であるかのように
扱われている……というか周囲も接し方に困っているようだ
色々探ろうとしてものらりくらりと誤魔化され
分かることといえば私の幼馴染であり仲が良いということくらいらしく
であれば接触するのは私に任せて遠巻きに眺めるほうが
よほど気が楽なのだろう。いい子なんだけどなぁ、趣味以外

「だからねー、止められないなら一緒に行って万が一に備えようかなって」
「そういうことか……というかそういうのは私にも教えておきなさいよ」
「真理ちゃんまで誘われるとは思ってなかったんだもん」

どうやら気を使ってくれていたらしい
確かに私も好き好んで深夜の学校になんて行きたくはない
が、それはそれとしてみんなの中に結を一人放り込むのも……うん

「とにかく今回は私も参加します」
「うん!みんなと真理ちゃんは私が守るからね!」
「はいはい」

とはいえ本当に何かが起これば私ばかり守るわけにもいかないだろう
私も万が一に備えなければ。結に飲み物を渡しながら、心の中で呟いた

そして肝試し当日、夜の11時
私は電話をかけ誘ってきた友人の両肩を掴み揺さぶっていた

「半数以上!ドタキャンって!おかしいでしょ!!」
「あはは、ごめんごめん!まさかここまで集まりが悪いとはねー」

首とポニーテールと自己主張の激しい胸を揺らしながら彼女が苦笑する
というかブラジャーはちゃんと着用してほしい。後ろの男子絶対困ってるから
当初は私と結を含め、10人で行うはずだった肝試し
蓋を開けてみれば、集まったのは私たちと彼女以外は男子一人だけ
他の6人はといえば、2人は親の目を盗めず外出できないということだが
残り4人はゲームがしたいとかテレビが面白いとかで来ないそうだ
そりゃあ同級生に危ないことはしてほしくないが、これはあんまりだろう

「ま、元々適当に夜の学校見て回って帰るだけなんだしさ。気楽にやろうよ」
「むしろこのまま解散でいいんじゃないかと思うんだけど……」
「えー、せっかく来たんだから真理ちゃんと肝試ししたーい」
「ちょっと結?」
「俺も、来たからにはやりたいって思うんだが……相生さんは嫌なのか?」
「…………あー、もう!分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!」
「そうこなくっちゃね!じゃ、ついてきて。鍵かかってないとこ案内するから」

そう言って彼女が近くの低いフェンスを乗り越えていく
続いて竹刀袋らしきものを背負った男子がフェンスを越えた
最後に大きめの鞄を抱えた結とウエストポーチを確認した私が越える、と

「結」
「うん」

フェンスを越えると空気が明らかに変わったように感じる
結も同じように感じたようで、隣の彼も違和感があるのか眉をひそめていた
もっとも彼女だけは立ち止まった私たちに首をかしげていたが
どうやら予想通り、肝試しは何事もなしとはいかないようだ……

「よし、ちゃんと開いてる……ところでさ」
「なに?」
「せっかく一緒に肝試しやってるんだし、改めて自己紹介でもしない?」

校舎に侵入可能な窓を確認していた彼女がそう言った
といっても、結の方に視線を向けているので、主に結のことが気になるのだろう

「なら私からやるわ。相生真理。結の幼馴染よ」
「えっと、篠塚結。真理ちゃんの幼馴染だよー」
「……真面目にやってよ!」
「だっていまさらでしょ自己紹介なんて」

仮にも同じクラスで数ヶ月一緒だったのだ
懇切丁寧に自己紹介をするほうが変だろう

「あー、じゃあ次は俺が。半田刀也(はんだとうや)だ。怪談とか大好きだ」
「ぐぬぬ……潮谷豊香(しおたにゆたか)!私も怪談好き!」
「あ、私もー」
「私も嫌いじゃないわ」
「この便乗犯!!」

どうしろというのか

「紹介してよ!謎めいた篠塚さんの真実の姿ってやつを!!」
「ないわよそんなもの」

例のヒーローごっこはむしろ仮初の姿なのでウソにはならない
そして結は尻尾が生えたりもするが、紛う事なく人間だ
ならば普段見せている姿もまた真実の姿。つまり話すことはない

「く……ま、まあそれは置いておいて。ここから校舎に入れるわけよ」
「ならさっさと行きましょ。早く帰りたくなってきたし」
「真理ちゃんに同意ー」
「あー……俺も長居はしたくない、かな」
「あんたたち盛り上がり悪くない?!」

いやだって、ねえ?

「とにかく入るわよ!ふっ……ほら、さっさと入って入って!」
「はいはい。よっ、と。ありがと結」
「お安いご用だよー。よいしょ」
「内履き下駄箱に置きっぱなしなんだよな……っと」
「よっし、じゃあ出発!……まずは玄関ね」
「おう、助かる」

豊香が意気揚々と先頭に立ったところで、私と結と彼が窓を振り返る
……校庭に墓石が立ち並び、土の下から青白い手が伸びているのが見える

「"墓地を埋め立てた学校"ってことね」
「やっぱすぐ帰った方がよかったか……?」
「なんとかなるよ。ね、真理ちゃん!」
「いやあんたは大丈夫だろうけど……えーっと、半田君は?」
「一応付いてきてもらってる。ほらアレ」
「どこ?……ああ、"テケテケ"か。戦闘は?」
「俺はともかく彼女はそれなりにできる方、だと思う」
「うーん……じゃあパパッと終わらせたほうがいいわね。一応近くに呼んどいて」
「わかった」
「ちょっとー!?なんでついてこないのよ!!」
「はいはい。今行くから」
「……なあ、潮谷さんさ」
「私と結に聞かれても分からないからね」

雰囲気的に(あと結の嗅覚曰く)彼女も契約者のはずなのに
緊張感がなさすぎではないだろうか。鈍感なのか大物なのか……
なんにせよ、今はこれ以上の厄介事が舞い込まないことを祈るばかりである

ダメでした。何故か開いていた玄関から"ゾンビ"っぽいのがなだれ込んできた
いくらなんでも防犯がザルすぎるでしょ?!

「いやあああああこないでええええええええ!!!?」
「豊香邪魔!ひっつくな!結、頼んだわよ!!」
「ああ、任セロ」
「篠塚さん顔怖っ?!変身系か!!?」
「危ないから刀也さんも下がってください!ここは私が抑えます!」
「でもテケテケ、この数は……!」
「問題ない。俺ダけデ十分ダかラ、テケテケハ反対側の警戒を頼む」
「えっ?!でも刀也さんのご友人を危険に晒すのは」

結を説得しようとしたテケテケの頭上をビュンと影が横切る
結の背中側から黒い鱗に覆われた長い尻尾が伸びて死体の群れに振るわれたのだ
迫ってきた死体の群れが紙屑のように元いた方へ吹き飛ばされていったのを見て
半田君とテケテケは呆然としているようだ。まあ無理もないが……

「ドうシた?一階に留まルのハ不味ソうダ、二階に上ガルゾ」
「いやいやいや!えっ、なに、篠塚さんそんなに強かったのか?!というか声が違う!」
「結は基本週六で都市伝説退治しに行ってるわよ」
「えっ。私と刀也さん週末くらいしかそういうのやってないんですけど……」
「のんきに会話してないで篠塚さんの言う通りに逃げよう?!」
「じゃあ早く立ってよ」
「ごめん真理ちゃん。腰抜けたから担いで」
「無茶言わないでよ。半田君、手伝ってもらっていい?」
「お、おう。で、どうやって運ぶんだ?」
「とりあえず脇に腕を通すように後ろから抱えて。私が足持つから」
「分かった……テケテケは先に階段を登って警戒してくれ」
「分かりました」

半田君が指示を出すとテケテケが階段を駆け上っていった
結の方は……うん、安定して追い払ってる。とはいえ早く上に行こう


「ところで半田君」
「なんだよ」
「たぶん豊香の胸を触ることになると思うけど私が許可する。思いっきりやれ」
「はぁ?!」
「ちょっと真理ちゃん!!?」
「下手に遠慮して力抜いたら落としかねないでしょ。どうせ減るものじゃないし」
「減るよ?!心の中の大切な何かがゴリゴリ削れちゃうよ!!?」
「…………あ、ダメだ。触らないようにすると思ったより力入らねえ」
「でしょう?というわけで豊香。覚悟決めなさい。緊急事態なんだから」
「うー…………や、優しくしてね?」
「いや落とさないようにしっかり持ってね?それじゃそろそろ行くわよ」
「わ、分かった……よっ!」

半田君と二人がかりで発育良好な分、重量のある豊香を抱えて二階に上がる
豊香はその間ずっとこっちを睨んでいた。気持ちは分かるけど必要だったのだ。許せ
さて二階は……ひとまずゾンビに先回りはされていないようだ

「二階に異常なし!」
「分かった、スグ向かう!」

結に声をかけてしばらくは鈍い音が鳴り響いていたが
やがて静かになったかと思うと、顔や喉に黒い鱗を生やした結が上がってきた

「ゾンビは?」
「殴っていたラ消えた。数は多いガ随分と脆いようダ」
「とはいえまた出てきそうよね……どうしたのそわそわして」
「着替えたい」
「……手短にね」
「ああ」

結が鞄を開けていつものトレンチコートと覆面を身に着け始める
こんな時でも格好は気になるのか。と思っていると豊香が話しかけてきた

「みんな……契約者だったのね」
「気づいてなかったの?」
「全然。って、もしかして真理ちゃんは分かってたってこと?」
「結もね。あと半田君もでしょ?」
「まあ、そうだな。流石に何と契約してるのかは分からないけどさ……」
「そんなの私と結だって知らなかったわよ」
「えぇー、なんでみんなそんなに分かるの?」
「雰囲気かな」
「というか豊香が鈍感すぎるんじゃない?」
「そんなバカな」

心なしか肩を落とした様子の豊香だが、すぐ顔を上げて話を続けることにしたようだ

「私の契約都市伝説は"蛤女房"よ。飲むと回復するポーション的なものが作れるわ」
「えっ、尿から?」
「違うわよ!手に湧かせたりもできるの!」
「……も、ってことは尿自体に効果はあるのね」
「の、ノーコメント……」

その反応はもう答えを言ってるようなものだと思う
それにしても回復系は珍しいと聞いた覚えが……となると

「所属は?」
「しょ、所属?」
「あ、俺とテケテケはフリーだから。今のところ困ってないから"組織"のは断った」
「組織のは、っていうと……"首塚"あたりにも接触されてる?」
「前に危ないとこ助けられて名前聞いたくらいだよ。よければ来るか?とは言われたけど」
「助けられたといえばこの前の、かめんらいだー?の方々は何者だったのでしょうか?」
「フリーだったのかもな。ライダーって都市伝説扱いなのかって驚いた……相生さん?」
「……ねえ、そのライダーってショートヘアの女の人か、黒い犬と一緒にいなかった?」
「え?ああ、確かにどっちもいたけど。もしかして知り合いなのか?」
「それ、"怪奇同盟"って集団に所属してる人。というか結のお父さんよ」
「マジかよ……世間は狭いってこういうことなんだな」
「でも怪奇同盟というのは聞いたことがないですね?」
「トップが不在で実質解散状態らしいわよ。良かったら今度会いに行く?」
「本当か!色々話を聞いてみたかったんだよなー!」
「よかったですね刀也さん!」
「ねえ待って。私が置いてけぼりだから!所属ってなに?!組織?首塚?なんのことよ!?」
「潮谷さん……」
「豊香どっちも知らないんだ……」
「その哀れむような感じやめてくれる!?」

いやまあ、実際のところ知らない可能性はあってもおかしくない
契約したとして目立つようなことをしなければ目をつけられることもないはず
半田君は積極的に都市伝説退治をしているようだから接触しやすかったのだ
しかし豊香の都市伝説は戦闘向きではない。表立って動いたことがなかったのだろう
逆に言えば表立って動いていたならば既にどこかに勧誘されていなければおかしい

「そもそも豊香、どうやって契約したのよ」
「昔海水浴に行った時、砂を掘ってたらすごく大きい貝を見つけたの
 それを使って遊んで最後に海に投げたんだったかな……で、最近になって
 夢の中に女の人が出てきて、実はあの時契約してましたって色々説明された」
「なにそのパターン初めて聞くんだけど……待って、昔っていつ?」
「えーっと5年前かな」
「小2から?よく襲われなかった、って豊香は小学校卒業後にこっち来たんだっけ?」
「そうだけど……襲われるってどういうこと?」
「契約者は都市伝説に襲われやすいって聞いたことない?」
「初耳なんですけど?!」

たぶんその夢の女の人、蛤女房なんだろうけど色々抜けてそうな気がする
あと半田君とテケテケは小6の11月頃に出会ったそうだ。意外と最近だ
そんな話をしていると着替え終わった結、もといゴルディアン・ノットが近づいてきた

「待たセたな。ソレデ、ここかラドうやって脱出すル?」
「一番早いのはあんたに窓から運んでもらうこと。でも気になるのよね、この状況」
「ねえ篠塚さんなんでそんな格好してるの?」
「俺もソレは気になル。ソもソも正面玄関の扉ガ開いていルのハ、おかシいダロう」
「確かに妙だよな。普通は施錠されてるはずだし」
「そのマスク手作りとか?ねえ篠塚さんってば」
「何者かが既に校舎に侵入しているということでしょうか……?」
「可能性はあるわね。ゾンビの出たタイミングからして、私たちとほぼ同時だったのかも」
「半田君とテケテケちゃんは気にならないの?気になるでしょ?」
「そういえばゾンビたちが出始めたの、俺たちが入ってすぐだったよな」
「しかも彼らは普段施錠されている玄関から入ってきた。開いてると知っていたのよ」
「奴ラハ我々デはなく施錠を解いた侵入者を追ってきた。ソう言いたいのか?」
「本当に可能性でしかないけどね。でもこれが事実だとすれば……」
「無視しないでよ!!」

豊香が地団駄を踏んでいるが、大事な話をしているのでそういうのは待ってほしい

「私たちの選べる道は二つ。このまま帰ること。もう一つは調査をしてから帰ること」
「俺とシてハ、真理にハスグにデも帰ってほシいところダガ……」
「あれ、篠塚さん真理ちゃんの呼び方変えた?」
「冗談でしょ。私一人で帰宅するくらいならあんたと一緒にいる方が安全よ」
「確かに篠塚さん強いみたいだからな」
「ゴルディアン・ノット、ダ」
「あー……今はゴルディアン・ノットだから、ってさ」
「どういうこと?」
「ああ、ヒーローネームってことか!分かるよそういうの!」
「まあ長いし適当に省略して呼んであげてくれる?」
「えっと、じゃあ……ゴルディーさん?」
「hmm......ゴーディ、デいい」
「おー!愛称もかっこいい!」
「えー、そう?」

男子と結のセンスについていけないのは喜ぶべきなのだろうか
もっとも、ヒーローネーム自体に首をかしげている豊香より染まっている自覚はあるが

「それより刀也さん、私たちは……」
「おっと、そうだな……といってもここまで来て引き下がるのもかっこわるいだろ」
「そうですよね!それなら私は、全力で刀也さんを助けるだけです!」
「ありがとうテケテケ。頼りにしてるからな」
「お任せ下さい!」

そうこうしているうちに半田君は覚悟を決めたようだ
となるとあとは一人だけだが……

「豊香に選択肢はありません。ついてきなさい」
「ひどくない?!」
「逆に聞くけど一人でどうやって脱出するつもりなのよ」
「…………私も連れて行ってください」
「よろしい」

全員の意思は固まった。なら次にやるべきことは――――

「後ろ三秒後行くわよ!3、2、1、ゼロぉ!!」

後方に放り投げた"小玉鼠"が破裂し爆風と共に血肉を撒き散らす
体勢の崩れた"動く人体模型"をテケテケが体当たりで空中に浮かすと
半田君が鉄パイプをフルスイングして叩き壊す。戦い慣れを感じるいい連携だ
手の中に戻った小玉鼠を今度は何も言わず前方のゾンビの群れへ放り込む
ゴルディアン・ノットも心得たもので布紐でそっと落下位置を調整してくれる
群れの中に小玉鼠が落ちたのを見て即座に爆破。ゾンビがいくつか消えたようだ

「ぎゃー!!肉片飛んできたー!!?」
「安心して。小玉鼠の肉片はしばらくすれば消えるから」
「しばらく私このままなの?!」
「戦ってもないのにごちゃごちゃ言わない!……にしても、多いわね」

言ってるそばから後方にまた新しい人体模型がやってくる
幸い"人骨で作られた骨格標本"も人体模型も同時に1つずつしかいられないようだ
後方にゾンビは回り込んでいないので敵が2体だけなのは助かる
なにせ前方では階段を上がってきたゾンビの群れが渋滞を起こしているのだ
ゴルディアン・ノットも奮闘しているがなかなか数が減ってくれない
二階から上は一通り調べた。もう一階しか手がかりを得られそうな場所は残っていない
それなのにいざ降りようとしたら上に向かって溢れ出してくるゾンビたち
慌てて二階廊下に下がったのが裏目に出た。強引に通るべきだったのだ

「手ガ足リないな」

ガシャリとゴルディアン・ノットの胴体に巻きつく鎖が音を立てる
しかしそれに続く幼馴染の呟きを私は否定する

「進展はしているわ。無理をする必要はないでしょ」
「時間ハ有限ダゾ」
「でも手札を切るには早すぎる」
「……なラ、ペースを上ゲルとシよう」

ゴルディアン・ノットの腕や体に巻きついていた布が、縄が、さらに鎌首をもたげる
それは糸と共に紡がれた女性の負の感情から、蛇の姿に変じた帯の妖怪
拡大解釈により蛇の異名である"朽ち縄"をも操るようになった彼女の契約都市伝説
"機尋"――繊維を束ねて形作られた無数の蛇が、主たる女の心の赴くままに牙を剥く
まあ、所詮は布と縄なので牙はないのだが……数の暴力はそれだけで脅威となりうる

長さすら自在の無数の布と縄がゾンビを締めつけ、時に四肢を千切って捨てる
ゾンビの消えるスピードは早まったがゴルディアン・ノットの動きは鈍ってきた
いくら人外とはいえ無数の蛇を操りながら肉弾戦というのは難しいのだろう
ここが踏ん張りどころだと自分の心を叱咤して小玉鼠をゾンビに放る
できるだけ爆発の威力を上げ、より効果的に倒すため群れの奥へ向かって投げる
正直、投げる腕が辛くなってきたがここで私が休むと他の負担が増えるわけで
結局のところ無心で投げて起爆するしか私にできることはないのであった
だから豊香。投げるのに邪魔だから話しかけたり縋りつくのやめてくれないかな?

「刀也さんあれ!」
「おいおい、マジかよ……」

豊香を軽く蹴っ飛ばして引き離していると後ろで動きがあったようだ
人体模型と骨格標本、その後ろから近づいてきたのは……

「"歩く二宮金次郎像"……しかも石像じゃなくて青銅製か」
「真理ちゃん真理ちゃん!これマズいんじゃないの?!」

お荷物状態の豊香に指摘されるのは癪だが、実際状況は悪い
後ろは半田君とテケテケに私の援護があってなお拮抗していたのだ
ここで敵の増援が現れたということは……このままだと後ろが崩れる
どうする?進むことも引くこともできない。足りないのは、戦力……

「やるしか――――」
「――――お前達、伏セていロ!」

ゴルディアン・ノットの声に思考の海から意識が浮上する
見えたのは前方から後方に伸びる、複数の布と縄……それが向かう先は

「早く伏せる!」
「ふぎゃっ?!」

ハッとして状況を分かっていない豊香の頭を掴み、強制的に伏せさせる
廊下にどこかぶつけたらしく痛そうな音と悲鳴が聞こえた。ごめん
チラッと後ろを見るとテケテケは伏せ、半田君は横に飛び退いていた
そしてその奥、布と縄で縛り上げられた二宮金次郎像が持ち上がり……
ゴウッと音を立てて私たちの頭上を通過する。その先にはゾンビの群れ
まるでボウリングでもしているかのようにゾンビという大量のピンが
二宮金次郎像という大質量のボールに弾かれて光の粒へと変わっていく

「走って!階段まで!!」

叫ぶと同時に豊香の手を引っ張って走り出す
廊下からゾンビが一気に減った今が一階に降りるチャンスだ
まだ残る少数のゾンビを消していくゴルディアン・ノットの横を抜けて
階段で未だにひしめき合っているゾンビ達に小玉鼠を放り投げる

「これで……どうよ!」

着弾と同時に今夜一番の威力で起爆。耳に痛い破裂音と
ビリビリと空気を震わせる爆風が階段に空間をこじ開けた

「よし、ゴーディは先に降りて蹴散らして!後は私がやる」
「心得た」
「半田君は豊香をお願い」
「分かったけど、相生さんは?」
「残りを足止めするわ。早く行って!」
「でも……」
「刀也さん行きますよ!」

全員が横を通り抜けたのを確認して小玉鼠を放り、爆破する
集まりかけていたゾンビと人体模型、骨格標本が
まとめて吹き飛んだのを確認して私もみんなの後を追った

「おい、アレなんだ?!」

半田君の声に一階廊下の奥へと目を凝らす
ひしめくゾンビの向こうに白い巨大な何かが暴れるのが見えた

「あの辺りは……なるほどね。ゴーディ、白いのに向かって!」
「分かった!」

ゾンビを蹴散らすゴルディアン・ノットの背中を追うように
肩で息をする豊香を連れて半田君やテケテケと共に移動する
後ろから追いつこうとするゾンビを小玉鼠を散らしていると
遠目で見えていた白いものの姿がハッキリと見えるようになった

「なにこれ……紙で出来た巨人と、ゾンビが戦ってる?」
「いや頭に角がある。巨人というより鬼じゃないか?」

豊香と半田君が何か言っているが、たぶんコイツは……

「ゴーディ!」
「分かっていル」

ゴルディアン・ノットの腕から布と縄が飛び出し鬼を拘束する
振りほどこうとする鬼を、ゴルディアン・ノットが尾で打ち据えた
そして私は……

「二人とも伏せて!」
「へぐぅ?!」
「潮谷さん?!」

豊香の後頭部を掴んで強引に伏せさせるのと同時に
小玉鼠を鬼とは反対の方向に投げつける。そこには

「紙で出来た鳥?!」
「鼻が……鼻が潰れたぁ……」
「テケテケさんお願い!」
「分かりました!」

突撃するも小玉鼠に撃ち落とされた鳥に
テケテケが組み付き床に叩きつけると、鳥はバラバラの紙片になった

「……こレデドうダ?」

鬼の方を見ると、ゴルディアン・ノットが頭部に掌底を叩き込んだところだった
頭が爆散するように吹き飛び、体も後を追うように紙片へと変わっていく

「よくわかんないけど……終わった、のか?」
「終わってない終わってない!だってほらゾンビが!」

豊香の言う通りゾンビが徐々に包囲を狭めて迫ってくる
だが……

『持ち場に戻れ』

威厳を感じる声がすぐ近くの扉の中から発せられる
同時にゾンビは私たちに興味を失ったように踵を返して歩いて行った

『下校時間は過ぎているぞ。君たちも早く帰りなさい』
「……ど、どういうこと?」
「もう肝試しは終わりってことよ」

混乱している豊香の手を引っ張って玄関の方へ歩いていく

「あれ、校長室だよな?てことはあの声は……」
「"歴代校長の写真が動く"とかそのあたりだと思うわ」
「校長だから学校の都市伝説に命令できる、ということでしょうか?」
「たぶんね。何かしら命令出してるのがいそうだな、とは思ってたから」

半田君とテケテケに受け答えしながら考える
二階での襲撃が執拗だったことから、都市伝説に司令塔……
何かしら命令を出している存在がいる可能性は考えていた
問題は私たち以外のもう一方の侵入者だ
紙で出来た鬼と鳥。あれは恐らく――――

「なぁ真理」
「ん、なに?」
「肝試シハ楽シかったか?」

覆面の下に表情を隠して冗談を言う彼に、私も意味深な笑みで言葉を返す

「ま、あんたがいたから退屈はしなかったかな」

                                      【了……?】

――中学校から少し離れた電柱の上に人影があった

「で、陽動の"式神"は両方とも潰されたと」
『ああ。でもまぁ、問題ねえよ。肝心の仕込みは済んだんだろ?』
「ひっひっひ……当たり前だよぉ。儂にかかればちょちょいのちょいさね」
『相変わらず気味の悪い話し方になってるな……しかし見られちまったか』
「消すかい?」
『消すまでもねえよ。それより次だ』
「そうかい。やれやれ、婆使いが荒いねえ」
『だから俺より年下だろうが……』

その言葉を最後に電柱の上から人影は消える
この街の深い夜闇に紛れて、今日も誰かが策謀を巡らせる――


                               【第四話 了】

某都市の空港で、一人の女性が電話をかけていた。

「もしもし篠塚さん?オレオレ、相生澄音。さっき帰国したんだわ」

怪奇同盟の一員、相生澄音。レミングという鼠の群れを手足のように操る
都市伝説"死の行軍"の契約者である。彼女は夫であり戦友である相生森羅こと
"相対性理論の理解者は世界に三人"という都市伝説の契約者と共に世界を巡り
各地でフリーランスの契約者として都市伝説と戦う旅をしていた
もっとも名目上は各地の遺跡の発掘を手伝う、考古学者としての仕事なのだが

「真理は元気?え?ああ……いやいやそんな、迷惑じゃないって。たぶんな」
「真理がどうかしたのかい?」
「あ、ちょっとゴメンな。……おいもやし、話は後にしろよ」
「苛立つとその呼び方になるのやめてくれない?……しかし結ちゃんと同棲中とはね」
「くっそ教える前に知ってるのほんと腹立つ!……あー、お待たせ篠塚さん」

話を再開した澄音に背を向けて、森羅は同行者と話を始める

「でも本当にいいんですか?寄り道に付き合わせてしまうことになりますが」
「久々の学校町ですからね。できれば固まって動きたいのですよ」
「私も妻に同意見です。用心するに越したことはありませんよ」

相生夫妻と同行するのは向こうの空港で再会した時任開司と時任夜空……
"ソニータイマー"の契約者と、"サンチアゴ航空513便事件"の契約者だ
彼らも怪奇同盟の一員であり海外(主にアメリカ)の情勢を
調査するという名目で若い頃から日本と海外を往復している同志であった
一応表向きは日本と海外両方で輸入雑貨を扱った商売をしているらしいが
二人共意味深な笑みを浮かべて黙ってしまうので詳しいことは森羅にも分からない
森羅の能力は耳で聞いた言葉に反応するので、彼らも分かっていて黙るのだろう
森羅自身も深入りするつもりはさらさらなかった。命に関わりそうなので

「それじゃあ、それまで真理をよろしくお願いします。はい、また後日……ふう」
「話は終わったかい?」
「ああ、終わったよ。しっかし久しぶりに真理の顔が見れるなあ!」
「その前に仕事だけどね」
「……おう」
「じゃあ、行きましょうか。まずは食事からかな?」
「ええ、そうしましょう。いい時間ですからね」
「寿司食おう寿司!」
「澄音、落ち着きなよ……寿司でいいですか?」
「構いませんよ。私も食べたいですし。夜空は?」
「私も寿司は久しぶりなので。楽しみです」
「じゃあ適当な回転寿司でも探しましょうか。それでいいよね?」
「おう!早く寿司食おう!」

子供のようにはしゃぐ妻を見て、森羅は苦笑しながら店を探し始めた。
彼らが学校町に入るのは、もう少し先の話である――――

ある日の逢魔時、学校町東区にて

「やってきました学校町!でもなんか嫌な感じがするような?」

首をかしげたのは匂い立つような美しい女性
男なら生唾を飲み込むであろうメリハリのある肢体を包むのは
艶めくレザーらしき質感の黒いスーツとスカート、そして黒のハイヒール
豊かな金髪は西日を浴びて第二の太陽であるかのように輝いている
赤茶色の瞳でキョロキョロと周囲を見渡す彼女の背後で
"逢魔時の影"がゆっくりと身をもたげ、白磁のような首に手を伸ばすが

「ほいっ」

一閃。女性の手に現れた鞭が目にも止まらぬ速さで影を打ち据えた
襲いかかる影の集団をまるで舞い踊るような動きで躱しつつ
女性は口笛を吹きながら右手の鞭を振るって影を散らしていく
やがて日が落ちきる頃には、彼女を襲った影の集団は片付けられていた

「此処も相変わらず……なのかな?生身じゃなかったのが残念
 ま、今は元気いっぱいだし。じゃなかったらこんなとこ来ないけどね」

一年ほど前の話だ。中東のとある紛争地帯で
睨み合う二つの勢力の大部隊が一夜にして両者壊滅という事件があった
彼らは命に別状こそないものの生気を失い数週間寝込むことになったという
この地域を監視していたある組織はこれをある種の都市伝説の仕業と断定
彼らを"捕食"したとみられる存在を危険視し同業組織に警鐘を鳴らした
そしてまた別の悪魔祓いを専門とする欧州の組織が
事件の犯人と思われる都市伝説をルーマニアで補足し討伐にあたった

――――だが、この討伐作戦はあろうことか失敗した

彼らの誤算は二つ。討伐対象が近年発生した若い個体であると見誤ったこと
そして敵を侮った結果、戦力を逐次投入してしまったことである
作戦の失敗によりこの組織は内部の腐敗が浮き彫りとなり解体され
その人員は他の集団、組織へと吸収されたらしいが、これはまた別の話である

さて悪魔祓いを片っ端から返り討ちにしていった犯人がどうなったかといえば
無事に欧州から逃げおおせて現在は極東のとある街を訪れていた
彼女がいまだ無名でありながら悪魔祓いをあしらえるほど強くなったのも
特定の界隈では魔境、特異点と忌まれる彼の地に一時期滞在していたことと
まったく無関係というわけでもないだろう

そう、彼女は学校町に帰ってきたのだ。よりにもよってパワーアップして
彼女こそは名無し宿無し文無しの三重苦を抱える永遠の放浪者
戦場を無に返す平和と性愛の使者。そして獄門寺在処のかつての敵

「と・り・あ・え・ず……久しぶりにアメちゃんに会いにいきますか!」

女性の瞳が赤く輝いたかと思うと、その背中に蝙蝠のような黒い羽が生える
かくして夜の空に一人の悪魔が飛び立った
彼女の今の目的はただひとつ。かつての旧友との再会である

"サキュバス"……新たなトラブルメーカーが街を訪れたことを
皆が(主に獄門寺在処が)知る時は、そう遠くなさそうである――――


                            【了】

北区にある小さな雑貨屋。
店内にはフランス人形やアジアン雑貨、奇妙な形のオブジェなどが雑然と並んでいて、店と言うよりは物置という印象だ。
事実、店主が趣味で収集したり買い取ったりしたものを並べているため物置と呼んでも間違いではない。

「来たぞー、爺」
「いらっしゃい葉ちゃん、夢魔ちゃん」
「うぃーす」

引き戸に取り付けられたチャイムを派手に鳴らしながら入店する葉、そして静かに続く夢魔。
葉は手ぶらなのに対し、夢魔は唐草模様の風呂敷包みを手にしている。
夢魔は風呂敷をカウンターに置いて広げると、そのまま店内を物色し始めた。
爺と呼ばれた店主は広げられた荷物を一つ一つ手に取り整理する。
それらは木の蔓、糸や羽根で丁寧に作られた
御守りだった。

「最近何か変わったことはあったか?」
「そうじゃなあ、近所の畑が荒らされとった事くらいか……後は犬がうるさいとか……」

葉と店主が雑談をしている時、夢魔は店内に飾ってある人形を見ていた。
古びてはいるが、よく手入れのされたビスクドールだ。

「……」
「…………」

夢魔はただじっと、人形の透き通るような碧眼を見ている。

「………………」
「……………………」

正面から、まっすぐに、覗き込むように。
その視線に堪えきれず、人形が、目をそらした。
夢魔はそらした先に回り込んで、なおも覗き込む。
人形の顔は変わっていないはずなのに、最初よりも表情がひきつって見える。

「葉、葉。このビスクドール、シャイガール」
「そうか、ならそれも持ってこい」

店主との世間話は終わったらしく、葉は買い物をして会計を済ますところだった。
御守りを入れていた風呂敷で、今度は買った物を包んでいく。
人形も隙間に詰め込む。

「むぎゃ」
「渡したやつ、大きいのは店先に吊るすやつだからな。古いのは燃やしていいから」
「何かすごい重そうなんだけど、あたしが持つの?」
「いつもすまないねぇ、御守り、わりと売れてるから」
「ねえ、あたしが持つの?」
「御守り以外売れてるの?」
「ねえったら」

結局、夢魔が荷物を持って店を出た。

店を出て山の方へと、道なりに歩く二人。
この辺りは、学校町の他の場所に比べて自然が多く人通りも少ない。
だからと言ってまったく無いわけでもないので、夢魔は翼も角も隠したままで、飛ぶなんてもっての他である。
しばらく進んでいると、三差路に差し掛かった。

「よし、夢魔。少し待ってて」
「早くしてねー」

そういうと、葉は道の脇にある岩へ近づいた。
岩には文字が彫ってあり、それが道祖神であることを示していた。
子孫繁栄や、厄を遠ざける目的で設置されるものである。

「最近は信仰する奴も少ないからなぁ。片付けとかないと」
「荷物重いよー」

愚痴をこぼしつつ、片方は掃除、もう一方は待ちぼうけ。
夢魔に関しては元の膂力から考えて、実際に重い訳ではなく気分の問題であり、要するに退屈なのだ。

しばらくした頃、夢魔の後ろから犬の鳴き声がした。
夢魔が振り向くと足下に黒い色の小型犬がいた。

「キャンキャン!」
「ん? 野良か? よーしよし」
「夢魔ー、あんまりそれに構うなよー」

掃除しながらも注意を促す葉。
それを聞き流して、夢魔は犬を撫でる。
犬も嬉しいのか、しっぽを振っている。

「付き纏われるぞー」
「ねーあんな意地悪言っ……ぅおう」

犬の違和感に気付いて、一歩離れた。
その犬の足が、全て後ろ向きになっていたのだ。
まるで足を取り外して、180度回転させてから、また取り付けたように。
しかしその犬は、まるで普通の犬のように、鳴いて飛び跳ねている。

「森へお帰り、こっちはお前の場所じゃない」
「キャンキャン!」

葉に促され、犬はしばらく駆け回った後、山の方へ駆けていき、茂みに潜り込んで見えなくなった。

「……心臓に悪い」
「ああいうのが来ないように、これが設置されてるんだが……みんな忘れてるんだ。
  まぁ今のは弱ってるみたいだからすぐに消滅するだろう。
  普通は山の主とかが、変なのが発生したり山の外に出たりしないようにしてると思うんだが……」
「居ないんじゃないの?」
「山に流れてる力を見る限り、居ない訳ではないだろう、居ないならもっと枯れてるはずだから。
  上手く管理出来てないのか、あるいは別のところから地脈が流れてるのか……よその山だから、その辺は分からんし管理もできん」
「ふーん」
「用事もすんだし早く帰るぞ」
「じゃあ荷物……」

夢魔の返事を聞く前に、葉はすたすたと先に行く。
夢魔の呟きは空しく風に流されていった。


昼と夜とが入れ変わり、そして混じり合う逢魔時。
夕焼けによって赤く染められる風景。
影は濃くなり、内に含まれるものを覆い隠していく。


「都市伝説……いや、契約者ですね」
「こんばんは。今日は夕焼けが綺麗だね」

半透明の女性、誰が見ても幽霊と判断するであろう存在に声をかけられ、
しかし詠子は楽しそうな微笑みを浮かべたまま、まるでご近所に挨拶する調子で応えた。

「都市伝説は、全て排除しなければ」
「えーそうなんだ。わたしはみんな仲良くしてほしいと思ってるから、それは困っちゃうな?」

女性が腕を詠子へ向けて突き出す。
腕の先からは放電が始まり、それと共に殺気が膨れ上がっていく。
それを感じていないのか、もしくは気にしていないのか、詠子の微笑みを浮かべたまま変わらぬ調子で問いかける。

「ふふっ、じゃあ、わたしとちょっと遊ぼっか?」
「都市伝説の戯れでどれ程の犠牲が出たことか……!」

詠子は後ろへ跳んで、雷撃の発射直前に同じ姿形の4人に分裂したが、1人は直撃して消滅した。
3人はそれぞれ距離を取り、左右に散った2人は女性の上空へ向けて投石する。
ちょうど石が女性の真上に差し掛かった時、それらは真下へと進路を変えて高速で落下し始めた。
しかし石は女性の身体をすり抜けて地面と衝突し粉々に砕け散り、女性には傷ひとつ与えられていない。

「やっぱり透けちゃうね。ならこれはどうだろう?」

詠子はバッグから取り出した光線銃の引き金を数度引いた。
幾つもの光線が女性に向けて放たれるも、接触した瞬間に光線は消滅し、投石と同じく何の効果もなかった。

「光線銃……組織の黒服ですか。都市伝説の管理などする前に全て消し去ればよいです」
「あれ、もしかして吸収してるの?」
「ねえ、どうしようか」
「”トビオリさんっ”」
「これ幽霊にも効いたっけ」

女性が周囲に目を向けた時、いつの間にか詠子の数は10人以上に増えていた。
相談したり、移動し続けたり、逢魔時の影の相手をしたり、それらの中で目に止まったのは、目を瞑り大きくジャンプしている個体だった。
タンッと地面を強く踏む音が響き、その余韻が消え去る前に女性は反射的に複数の雷撃を飛ばし、数人をまとめて消し飛ばした。
音が響いた瞬間に、その個体が一番危険だと感じたからだ。

「”トビオリさん”」
「あ、弾切れちゃった」
「”トビオリさっん”」
「”トビオリさんっ”」
「羽虫のようにわらわらと、切りがない……!」

しかしいくら消しても詠子の数は減らない。
消えた分だけ分裂したり、物陰から現れたりして増えているからだ。
さらに攻撃や撹乱、何もせず空を見上げていたりとバラバラに動き、それぞれのタイミングでジャンプを繰り返す。
撃ち漏らした個体の着地音が、周りの音に紛れてしまう小さな音にも関わらず、女性まで響いてくる。

そして3回目の着地音が響いたとき、いきなり視線の高さが下がった、と女性は感じた。
女性が自身を確認すると、幽体である自分の足が圧縮されたかのように潰されているのを認識したが、それでも雷撃は止めることはしなかった。

「あっすごいね、半分潰すくらいしたつもりだったんだけど、あなた強いのね。でもこれで終わりかな」

詠子が視線を上げたのに釣られ女性がそちらに目をやると、キラリと光るものが見えた。
その形は銃弾、その色は銀色で、紛れもなく退魔の力を持った銀の銃弾だった。
真上から身体を貫かれ、女性は苦しみの表情を浮かべたまま、ふっと姿を消した。

「消滅……逃げた、のかな?」

女性の消えた場所まで歩いて行き、周囲を見回すが、気配は感じられない。
その場でしゃがんで地面にめり込んだ銃弾を確認する。

「あ、これもう退魔の力使いきっちゃってる。うーん、光線銃も調子悪いから組織寄って行こうかなぁ」

詠子は、前に連絡を取ったのはいつだったかな、と思い出しながら、電話で組織に連絡し事後処理の連絡を入れた。

続かない

K-No.の事務所にて
「と、いう訳でウチの神子が襲われたわ」
「言っちゃ何だけどよく無事だったわね?1人だったんでしょ?」
「封印が解けてたのよ、不意をついて再封印したけど、失敗してたら色々終わってたわ」
「死んでも厄介ごと押し付けてくんだから勘弁してほしいわあのクソ親父」
望の報告に影守と希は疲れた様に息を吐く。
「誰かに勘付かれた可能性は?」
「それは無いでしょ、先先代K-No.0のアカシャ年代記自体は結構知られちゃってるけどそれが遺伝する事は私とアンタ達、後は大樹さん、翼、美緒さんの6人しか知らないし、あの一瞬で勘付いた奴がいてもそれを見落とす程アカシャ年代記は甘く無いわ」
「ならそちらは気にしなくて良いか…むしろ問題は」
「逢魔時の影…面倒ね、被害は着実に増えてる」
「現状じゃ原因もよくわかってないしなぁ…気が滅入る」
「何かパーっと明るいイベントとか無いかしら」
3人が深くため息を吐くと外からK-No.2…獄門寺在処が書類を抱えて戻ってきた。
「在処ぁ…こんな気が滅入ってる時に書類なんて…」
「と言われると思って明るい話題もってきましたよ!」
「?」
「じゃーん!」
そう言って在処が広げた書類に書かれていた文字は

「「「合同戦技披露会!?」」」
「数年ぶり開催許可!しかも今回はフリーランス枠も有りですって」
「………運営は?」
「モチロンウチ(K-No.)ですよ」

在処の言葉に影守は改めて深くため息を吐いた。

続く?

戦えて、守れるだけの力があって、その上で目の前で友達がバラバラにされたとして。
色んな物が崩れ落ちて、何もかも分からなくなった死の間際に…より強い力を求めるのは間違いでしょうか?


黒く焦げた裏路地。
プスプスと煙を上げる焦げたアスファルトの匂いが鼻に付く。
「まーたアンタか、新島」
「影守の娘サンじゃないか、久しぶりだな」
私の視線の先にいるのは新島愛人、本人は何一つ悪行を成したわけではないがその在り方や異常性から悪名高い新島友美の息子。
「もう少し綺麗にやれって神子に言われなかった?」
「言われたから綺麗に焼いたつもりだったが…」
道ごと焦がすなっての
「まぁ、逢魔時の影…雑魚相手にこれはやり過ぎだったか」
「厄介な相手に違いはないけどね…」
「数だけの雑魚だとアンタの趣向には合わないか」
「止めてよ、人を戦闘狂みたいに」
「どの面下げその台詞言ってんのかな…」
私、ディスられてる?

「今この場で討伐してやろうか?ファイアドレイク」
「手加減して俺に勝てると思ってるのか?」
「アンタごときに奥の手出す必要があるとでも?」

新島愛人の体から炎が上がる。
私の周囲に包丁が浮かび上がる。

「「!!」」

お互いの放った攻撃は、されどお互いに当たる事は無く、共にその後方にいた影を貫いた。

「ここじゃ邪魔が入るな」
「だね…あぁ、そうだ」
ポケットから姉貴分からもらった広告を取り出す。
「ほら」
「………合同戦技披露会…またやるのか」
「今回はフリーも参加自由だ、来なよ、遊んだげる」
「ここなら邪魔せずにやり合えると…良いだろう」

弱い人が嫌いです。
弱い自分がもっと嫌いです。
弱いと自分は自分でいる事すら許されないのだから…


続く

「よくこんなの作ったわね…」
「鏡の中にも鏡は持ち込めるからね、試してみて正解だった」

合同戦技披露会の会場、鏡の中に作られた仮想空間には闘技場と言うべきか大勢の観客を収納できるスタジアムがそびえ立ち、その中央には複数枚の鏡が円形に並べられている。
上空には巨大なモニターが複数吊るされており、戦場の様子が映し出されていた。

「一般人の目に付かないように大人数を収納できる空間を鏡の中に、更に鏡の中に持ち込んだ鏡を使ってその中に模擬戦用の広大な戦場を構築、前回の経験生かしてこの数年間色々試してたけど役に立って良かったよ」

鼻を書きながら笑う詩織に望も眼を細める。
思えば自分をコピーした都市伝説でしかなかった存在が、契約者も持たずに単独で成長と進化を遂げ続けている。
(まぁ、私をコピーした時点で私と擬似契約に近い状態になってたんでしょうけども)

「ま、そういう事なら今後も頼らせてもらうわ、こっちで管理できる空間は貴重だもの」
「この中なら変なのが紛れ込んでもある程度の察知できるしね」
「実際は?」
「怪しい行動をとれば分かるってレベル」
まぁ、セキュリティとしては及第点だろう。
でだ、後ろを振り返れば夥しい数のゾンビ達が右往左往しながら屋台を組み立て続けている。
「…アンタ達は何やってんの?」
「人がたくさんくるんですよ!」
「儲け時ですよ!」
「今回は俺らは参戦しませんし賑やかしと飲食担当させてもらいます!」
「第5~9小隊買い出し!1~4で設営いそげ!!」
「ゾンビがやってる屋台って客来るのかしら」
「衛生面に不安が残るわね…」

「撮影は前回同様希のキューピーが、観客の誘導は?」
「そっちも希がK-No.の黒服を動かすって言ってたわ、ほら」
望が指差す先にはメイド服姿の女性の一団の姿が、眼を引くとすればその衣装よりも各関節に走った分割線だろう。
「医療班にも回すって言ってたけど…あんだけのマネキンを同時に操作してるんだから影守と希もいよいよ化物ね」
「いんや、あれ殆ど自立させてるみたいよ?希の制御下なのは確かみたいだけど…司会実況はウチの神子を出すわ、後はあの子が何とかするでしょう」
会場、人材必要な物は大体揃えた。
後は………

「ここに集まる連中からどれだけ情報を引き出せるか」
「狐か大淫婦か、盟主さんの尻尾位は掴みたいよね…」

第二回合同戦技披露会…その開催は目前まで迫っていた。

続く

「……それじゃあ、籠を運ぶ役目、頼んだよ」
「へぇ。責任重大なお仕事任せてもらえて光栄やわぁ……しっかり務めさせていただきます」
「相手が相手だしね。慎重にやらせてもらうよ」

 まだ寒い季節でもないだろうに薄手のマフラーを身に着けた男性が、二人の男性に指示を出している
 一人は、二メートルをも越える、体格もいいお男。もう一人は対照的に細く、重たいもの等持ったら腕どころか体の芯がぽっきりオレてしまいそうな体格をしている
 二人の返事を聞いて、マフラーの男性……鮫守 幸太はよし、と頷く
 そうしてから、今度はもうひとり、控えていた女性へと声をかけた

「夢塚さんも。協力してもらって悪いね」
「いえ、保護されている立場なんですし、これくらいは」
「保護しているからこそ、なるべくならもっとゆっくりしてもらいたいんだけど」

 夢塚と呼ばれた女性は、幸太の言葉にそう苦笑して返した
 彼女は一年前、学校町外で「狐」からの誘惑をギリギリのところではねのけ、その結果「狐」の駒に襲撃されていたところを、たまたまそこを通りがかった「首塚」の構成員によって救出され、そのまま「首塚」に保護されている契約者だ
 「忠犬ハチ公が渋谷の街を守っている」の契約者であり、結界を作り出す能力がある
 今回、その能力が必要となり協力してもらう事になったのだ
 用意された籠に、彼女の能力が発動されている

「どうする?合同戦技披露会は見学していく?」
「あ、いえ。そっちは遠慮しときます。「首塚」で保護している子供逹に絵本を読んであげる約束しているので」
「わかった。それじゃあ、子供達待たせるのも悪いね。戻ってていいよ」
「リリカちゃん、鴆はんもいるから大丈夫とは思うけど、後でわてらも行きますね。みんな、やんちゃそやしえらいでしょうし」

 大柄な男がそう言うと、夢塚ははーい、と返事をして、ぱたぱたと戻っていった
 さて、と幸太は視線を、「首塚」の中でもひときわ暗い、ある場所へと向けた

「……じゃ、あの方を呼んでくるよ。籠に入ったら君達を呼ぶから。離れてて」
「鮫守さんは大丈夫なんですか?」
「平気。あの方とは、将門様と一緒にいる時に会った事あるし。将門様の加護が僕には効いているから」

 細身の男にそう答え、幸太はその暗闇の向こうへと、足を踏み入れる
 自分達が所属している「首塚」の首領たる、平将門がこの度誘った、ある人物を迎え入れるために


 「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」
 今回はフリーランス………特にどこぞの組織に所属していると言う訳ではない、と言う者も参加可能であるが故、参加者は以前よりも多くなりそうだ
 そして、それを見学しに来る者も、以前より多いということである

「こんにちは、神子さん」
「よぉ」
「あ、龍哉、直斗。来たのね」

 司会実況を任されたため、その準備をしていた神子のもとに龍哉と直斗が顔を出した
 直斗の方は契約者ではないものの、興味を持って龍哉についてきたらしい
 ……直斗らしい、と神子はこっそりと思った
 この幼馴染は、都市伝説と契約するには器が小さすぎて無理であるのだが、その反動なのか都市伝説や契約者への興味は人一倍、強い

「後で遥や憐、灰人も後で来るはずだぜ。あと、優は参加するつってたな。晃は見学に回るつってたけど」
「え、優参加するの?………うん、まぁ優らしいけれど。ちなみに、龍哉。龍一さんは?」
「お父さんは、お仕事が忙しいので、本日は来られないそうです」

 あらら、と苦笑する
 忙しいものは、仕方ない
 龍哉の父親である龍一は、「獄門寺組」と言う組の組長であるため、常に忙しいのだから

「……あ、それと。鬼灯さんは?」
「興味を持ってはいらしたのですが。「首塚」主催ということで、将門様と遭遇するのが嫌だ、とおっしゃられまして」
「鬼灯、将門様の事苦手だもんな」

 仕方ないさ、と肩をすくめてみせる直斗
 …そう言えば、鬼灯は昔から……少なくとも、神子逹が知っている頃から、将門の事を苦手としていた
 なるべくなるべく、関わらないように遭遇しないようにしていたのを覚えている

「他、誰来るかわかってる?」
「…そう言えば、診療所の先生がいらっしゃる、と灰人さんがおっしゃっていたような」
「かなえは、今日は薙刀の教室あるっつってたから来ないだろうし……」

 戦技披露会が始まるまで、しばし、情報交換を始める
 今回の戦技披露会で、どのような人物が出場するのか
 …情報を集める、と言う意味もあるとはいえ、楽しみなのも、また事実なのだ




 

 ちゅっちゅちゅー、と。ノロイが気配を感じ取ったのか、声を上げた
 次いで、望と詩織も近づいてくる気配に気づき、そちらに視線を向ける

「やぁ、こんにちは」

 足音と気配を隠す様子もなくやってきたのは、フリルたっぷりの黒いゴシックロリータ衣装に身を包んだ男性
 覚えのある姿に、望はその人物の名前を口にする

「小道 郁、だったかしら。何かご用」
「おや、名前を覚えてもらっていたとは光栄だ………上司に言われてね、これを渡しに来たんだ」

 はい、と郁が詩織に渡したのはタブレット型PC
 どういうことか?と説明を求める視線に郁は言葉を続けた

「学校町に在住している事がわかっている、フリーランスの契約者のデータだ。まぁ、「組織」………CNoが把握している範囲のものだから、完全なデータではないけれどね」
「なるほど。KNoである私が、それを受け取ってもいいの?」
「構わないよ。そもそも、CNoが所有している情報は、SNoが持っている極秘情報なんかと違って申請許可もわりとかんたんに降りる資料が多いのだしね」

 ふむ、と詩織はタブレットPCを起動させて、データを確認する
 契約都市伝説が完全に知られている者から、何と契約しているのかはっきりしない者まで、結構な数が記録されている

「フリーランスの契約者も今回は参加可能、との事だからね。そういうデータがあった方がいいんじゃないか、というのが上司の言葉だよ」
「貴方の上司は、確か門条 天地だったわね……一応、跡でお礼をいうべきかしらね。ちなみに、肝心のその上司は?」
「ものすごく参加したがっていたのだが、書類仕事が山ほどあってね」

 恐らく、周囲に止められたのだろう
 仕事があるのなら、仕方ない
 と、言うか。天地が参加したら会場派手にぶち壊した可能性が高いため、ある意味助かったといえるのかもしれない

「それじゃあ、僕は見学に回らせてもらうよ。かなえは来ていないけれど、慶次君は来ていてね。見学に回るそうだから、そっちについておくよ」
「あぁ……「カブトムシと正面衝突」の契約者だっけ?あれ、そいつの担当黒服は?」
「わが上司が仕事に巻き込んだよ」

 …彼なりに「見張る」ためだろうな、と郁はこっそりとかんがえていた
 このところ、天地は愛百合の動向を見張っている様子だったから

「……無事、何事もなく終わるといいね」
「不吉なフラグたてるのやめてくれる?」

 失礼、と笑って、郁はこの場を後にした

 ……さて、どのような契約者が参加するのか
 とても、とても、楽しみだ



「……それでは。「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」、これより開始します」

 その開始の音頭を取ったのは、「首塚」所属で側近組の一人である幸太
 ……将門の姿は、その場にはいない

 かわりに、何やら御簾によって四方を囲んだスペースが作られており、その横には籠が置かれている
 どうやら、籠に乗って運ばれてきた人物が御簾の中にいるらしい

 ……そして、気付ける者は気づくだろう
 御簾と籠に、かなり強い結界が貼られている事に
 それは、中に入る者を守るためと言うよりも………その中に入る者から、周囲を守るために貼られたもので、あるような

「「首塚」首領将門公は、本日所用により欠席となります。よって、代わりに……」

 御簾の中からの圧倒的な威圧感を気にしている様子もなく、幸太はにっこり微笑み、言葉を続けた

「将門公がお呼びしました、「長屋王」が。この度の合同戦技披露会を観戦なさります」

 「長屋王」
 きちんと日本史を勉強した者ならばわかるだろう
 それは、かつての実在の人物
 そして、日本最古の怨霊
 将門に勝るとも劣らぬその圧倒的な気配を御簾の中から漂わせながら、それは小さく、笑った



 ……これにて
 「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」が、開始された





to be … ?

「……ね、憐」
「んー?どしたっす?あきっち」

 ひとまず、いつでも治療班に回れるように備えておきながらも、今は見学席にいた憐
 晃に声をかけられ、首を傾げた
 手にスマホを持ったまま、晃はぽそ、ぽそ、と問う

「…「教会」、からは誰が来たの?……付き添いで来た、って、聞いた」
「あ、俺も気になってた。学校町に滞在している「教会」面子って数少ねぇだろ。こういうの出たがるような奴いたっけか?」

 遥も、く、と憐に近づいて問う
 ここに神子か咲夜がいればツッコミをいれそうな距離だが、残念ながら二人共いない
 ついでに言うと、優も参加枠の方に入っているため、ここにいない。ツッコミが深刻に足りない

「えっと、参加するのはー………あ、今から、試合始まるっすよ」

 憐の言葉に、その場にいた皆の視線がモニターへと集まった
 ……そして、遥が「げっ」とでも言いたそうな表情を浮かべる

 そのモニターに映し出された光景は、試合開始と同時に試合会場全体が、一気に凍りついていっている様子だった



 逃げたい
 その青年は、心からそう思った
 あ、なんかのハリウッド映画でこんなシーンあった気がする。とも同時に思っている辺り、ちょっとは余裕がある
 あくまで、ちょっとだ。ちょっとでしかない

 全力疾走している彼が通った後の道が、左右の壁が、バキバキと凍りついていっている
 恐らく、放置すればこの会場全体が凍りつくのではないだろうか

「じょうっだんじゃねぇ!」

 叫びつつも、走る、走る、走る
 フリーランスの契約者である彼が合同戦技披露会に参加したのは、己の実力をアピールするためだった
 そのつもりであったのだが、それが叶う予感は、あまりない
 対戦相手がどうやって決まったのかは彼にはわからないのだが(案外、あみだくじとかなのかもしれない)、とにかく自分は運が悪いようだ
 当たった相手が、悪い

 氷で出来た翼を羽ばたかせ浮かび上がっているその男は、司祭のような服装をしていた
 その翼もあって天使を連想させるかもしれない。が、天使があんなサド顔浮かべるとは思いたくない
 試合開始と同時にふわりと浮かび上がり、そしてあの司祭を中心点として、辺りが凍りつき始めたのだ
 手加減も何も合ったものではない

「……せめて、一撃っ!」

 だが、逃げてばかりでは参加した意味もない
 ざわり、契約都市伝説の能力を発動させる

 体が、動物の毛で覆われていく。筋肉が肥大化し、爪が伸びていく
 遠吠えのような声を上げると、彼は勢い良く地面を蹴って跳び上がった。直後、その地面もびしり、と音を立てながら凍りつく
 壁を蹴り、どんどんと跳び上がり、空を飛ぶ司祭へと向かって、豪腕を振り下ろそうと……

「なるほど、人狼か」

 それは猫のような目を細めて、嘲笑った

「それじゃあ、届かねぇな」

 振り下ろした爪先が、司祭に当たるその直前
 ぴしり、とその爪が凍りつき出した時にはすでに遅く
 「狼少年」の契約者であるその青年の意識は、氷の中に閉ざされた




「……なんで、よりによってあの氷野郎が来たんだ」
「カイザー司祭とジェルトヴァさんは、こういうの興味なくって。で、メルセデス司祭が「暇つぶしだ」っつって出る気満々だったんで。俺っちがお目付け役としてつかされたっす」

 先に名前を出した二人は仕事で忙しく来られなかったのだから、仕方ない
 ……とは言え、憐があの男相手にブレーキになれるか、と言うとなれるはずもなく

 「クローセル」という悪魔そのものである男、メルセデスは、試合会場を完全に凍りつかせながら楽しげに笑っていたのだった






続かない

 第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会
 死ぬまで戦うわけではないが、当然のごとく負傷者は出る
 そして、その負傷者を治療する治療班と言うものが当然の如く、存在しているのである
 治療班には「組織」や「首塚」の構成員だけではなく、他組織やらフリーランスの治癒能力持ち契約者も参加していた
 治癒能力を持つ都市伝説契約者は貴重だ
 都市伝説やらそれに類する存在は数多存在すれど、その中で治癒能力を発動できる者は一割にも満たないと言われている
 同じ治癒能力にしても、個々によってどれだけ治癒できるかも変わってくる
 戦技披露会においては、怪我人が出るにしてもただの切り傷打撲だけですまない場合もあるため、様々な状況に対応できるよう、人材が集まっていた

「いやぁ、だとしても。ここまで見事に氷漬けとは」
「芯まで凍ってたらアウトだよな、これ」

 じゅわぁ
 メルセデスによってかっちんこっちんに凍らされた狼少年を解凍する灰人と診療所の「先生」
 灰人は治療系都市伝説ではないものの、「切り裂きジャック」との契約の影響にプラスして診療所の手伝いもしているせいか治療技術はある
 よって、「先生」の助手として治療班に参加していたのだ

 戦技披露会の出場者になるつもりは灰人にはなかった
 未だ、油断すると「切り裂きジャック」として暴走しかねない自分が出場しても、他者の迷惑になるだけだ
 それなら、治療班に回っていた方がいい
 性格的に色々と問題がある「先生」ではあるが、治療技術については本物だ
 契約都市伝説に頼らない治療技術も持っているのが、ありがたい。性格に問題はあるが

「…そう言えば、「先生」。あんたも試合に参加するんじゃなかったのか?」

 予備の包帯を取り出しながら、灰人は「先生」に問うた
 だいぶ解凍されてぷるぷるしている狼少年の治療を続けつつ、「先生」が答える

「正確には、私ではなく私の作品が参加、だね」
「………ちょっと待て。猛烈に嫌な予感がしてきたぞ」
「なぁに、大丈夫大丈夫。自立行動するし、殺さない程度の加減するように設定してあるから」

 …それでも嫌な予感しか無い
 ちょうど手が空いていた事もあり、灰人は試合会場を映し出す画面へと視線を移した


 戦闘のための空間が広がる
 町中を思わせるフィールド………では、ない
 それは荒野を思わせる舞台だった
 少し風を感じるが、突風と言う程ではないため、特に問題はない

「……先生も、またすごいもの作ったわね」

 それを見上げて、優はそう口にした

 でかい
 説明不要と言いたくなる程に、でかい
 それは、土で形作られたゴーレムだ
 ヘブライ語で「胎児、未完成、不完全」を意味する名を持つそれは、「生命なき土くれ」とも呼ばれる
 無機質な材料に生命を吹き込み作られる魔法生物とも言われる
 ユダヤの伝承によるとラビ(律法学者)がカバラの秘術によって作り出すとされており、ユダヤ人を差別や圧政から守るために創造されたと言う
 ……最も、今ではゲームで魔導師が作り出す存在として、広く知られているのだろうが

 戦技披露会に参加した優の対戦相手
 それが、このゴーレムだった
 診療所の「先生」が作ったゴレームだ
 ……あの人は医者として働いてはいるが、元々本業は「創り出す」存在だった。それを思い出す

「まぁ、幸いにして材料は土みたいだし……それなら、いける!」

 っば、と能力で出現させた赤いちゃんちゃんこを羽織る
 「赤いちゃんちゃんこ」としての戦闘能力を引き出し………一気に、ゴーレムへと接近した
 ゴーレムの動きは、とろい。スピードでは圧倒的に優が勝っていた

「どぉんっ!!」

 ごがぁんっ!!と、優の拳がゴーレムの頭を木っ端微塵に粉砕した
 頭を失いながらも、ゴーレムはぶぅんっ、とその太い腕を振り回したが、優は己へと襲いかかったゴーレムの右腕を安々と蹴り崩す
 頭と右腕を失い、ゴレームはふらふらとバランスを崩し

 粉々に砕け散っていたその頭と、腕が。破壊された事によってまき散らかされた土を吸い寄せていきながら、再生していく
 しかも、ただ再生していくだけではない
 この荒野のフィールドの地面の土をも少し削り取っていっており、右腕が先程よりも一回り大きくなっている

「そう簡単には終わらないか……おぉっと!!」

 重力に任せて振り下ろされたゴーレムの腕を、両腕をクロスさせて受け止めた
 ミシミシミシッ、と、地面が重量によってヒビ割れていく

「せぇいっ!!」
 

 がごしゃぁあああん!!
 受け止めていたゴーレムの腕を、ぽんっ、と弾き飛ばした後、そのままアッパーカットで破壊
 そうしてから、とんとんっ、とゴーレムと距離を取った
 闇雲に破壊していても、辺りの土を使って再生してしまう
 ならば、どうするべきか
 ゴーレムの「弱点」を、知識の中から引っ張り出す

「……確か、特定のワードの頭部分削ればいいのよね。ロレーナさんが言うには」

 そこさえ壊せば良いのなら、どうすれば良いのか
 優は静かに拳を握りしめ、ゴーレムを睨みつけた



「どこだと思う?「אמת」の文字が刻まれているのは」

 モニターから試合の様子を見ながら、遥がそう口にした
 はて、と、龍哉は首を傾げる

「どこなのでしょう?少なくとも、表面上はどこにあるのか、わかりませんね」
「……内部に隠している、のだと思う。ゴーレムの弱点だから」

 珍しくスマホには視線を落とすこと無く、じっとモニターを見つめる晃がそう続けた
 そう、「אמת」の文字はゴーレムの弱点だ

「「אמת」の一文字、「א」を消して「מת」にしてしまえば、ゴーレムは活動が止まるっすからね」

 ゴーレムの体には、「אמת」と刻まれており、それが原動力となる
 しかし、その一文字を削り「מת」(死んだ)にしてしまえば、活動を停止
 ゴーレムは、ただの無機物へと戻るのだ
 つまるところ、攻撃されるとまずい弱点である
 本来の伝承であれば額にその文字が書かれた羊皮紙が張られていると言うが、診療所の先生が作り上げたゴーレムは、ゴーレム本体のどこかに文字を刻んでいるタイプらしい
 すなわち、戦いながら文字を見つけるしかないのだ

「確かに、表面上見えねぇが……なんでだろうな」
「すっげー、嫌な予感を感じるっすね」

 憐の言葉に、遥が頷く
 直斗や神子がこの場にいたら、同じく頷いていた事だろう

 そして、モニターに映し出されているゴーレムは、優の攻撃によってあちらこちらに穴が空いたりしつつ再生を繰り返し

『ーーーー見つけたぁ!!』

 優の声が、モニター越しに響き渡った



 おい
 おい、ちょっと待て

「おい、そこのセクハラの権化。どこに文字刻み込んでいるんだ」
「確かに私はおっぱいと太ももの観察者であるという自覚はあるがセクハラはせんぞ。YESおっぱい、NOタッチだ」

 違う、今言っているのはそういうことじゃない
 とりあえず、後で一発殴ろう、と灰人はそう心に誓った

 モニター越しに見えた、「先生」が作成したゴーレム
 その………人間で言うと、股間の部分。そこに「אמת」の文字が刻まれていたのだ
 セクハラと言いたくなっても悪くないだろう

「場所的に、女性は触りたがらんだろうし、男性は攻撃を躊躇するだろう?」
「ナイスアイディアみたいに言うな」

 確かに、言われてみればその通りなのかもしれない
 かもしれない……………が

「たった今、優がゴーレムの股間の「אמת」の「א」を打ち砕いたぞ」
「おや」

 うん
 優に、そんな事を気にするデリカシーがあるか、と問われれば、「ない」と断言するのが幼馴染である灰人の意見である
 きっと、他の幼馴染組も、全く同じことを考えただろう

 優は、男の急所くらい、平気で攻撃する

 まぁ、どちらにせよ、「先生」は一発殴ろう
 もう一度、そう心に誓いながら、崩れたゴーレムの残骸踏みつけながら勝利のポーズを取る優の姿をモニター越しに眺めたのだった






終われ

「「ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは。」。ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました…………」

 おしまい、と
 絵本を読み終えてリリカはぱたんっ、と絵本を閉じた
 ……それを合図に、リリカの読み聞かせを聞いていたちみっこ逹の目に、ぶわっ、と涙が浮かぶ

「ごん、かわいそう……」
「かわいそうー……」

 ぴぃいいいいいい、と泣き出してしまった子も出た
 その状況に、リリカはあわわっ、と慌てる

「あ、あれ?ど、どうして!?」
「リリカちゃんの読み聞かせ、上手やったからね」

 あわあわしているリリカの様子に、大男……舘川 無(なし)は苦笑した
 そう、リリカの絵本の読み聞かせがあんまりにも上手だった為、ちみっこ逹が感情移入してしまって泣き出したのだ
 ……読み聞かせに「ごんぎつね」を選んだ時点で、予測しておくべきだった事態かもしれないが

 ぴぇえええええ、と泣いている子供逹を、鴆がそっと撫でる
 そうしながら、リリカと無にしせんを向けた

「勝手元にお菓子と飲み物あるから、子供達の分、持ってきてくれる?」
「あ、は、はい」

 勝手元……つまりは、台所だ
 「首塚」所有の離れ小島に匿われるようになって一年、この館の構造もだいたいは覚えている
 リリカは立ち上がると、無と共に台所へと向かった

「うーん……「忠犬 ハチ公」の絵本の方が良かったでしょうか」
「どちらにせよ、同じ結果になったと思うんやけどもなぁ……にしても、リリカちゃんは犬が好きやね」
「はい!大好きです!!」

 それはもう、と笑うリリカ
 だからこそ、「忠犬ハチ公が渋谷の街を守っている」の都市伝説と契約したようなものだ
 ……そのせいで、大変な目にもあったのだが
 台所で子供逹用のお菓子を取り出しつつ、リリカは一年前の事を思い出し、小さく、震えた

「…結界を張る能力って、貴重なんですね」
「そうやね。都市伝説契約者の中でも結界を張る能力は、治癒系能力者と同等に貴重だと聞いとるよ」

 飲み物と人数分のコップを取り出しながら、無が教えてやる
 リリカは、今まで他の都市伝説契約者とはあまり接触してきていなかったのだ
 学校町の都市伝説発生率と契約者の数が異常なのであって、学校町ではない場所で生活していたリリカにとっては、それが当たり前だったのだろう
 「首塚」に匿われるようになってから、契約者の数に驚いていたのだし

「聞いた話では、「怪奇同盟」の関係者で「座敷童」の契約者の子が、結界に関してエキスパートらしいけど……他にいたかなぁ」
「なるほど……私も、結界能力がなければ襲われなかった………うぅん、でも襲われたけど、結界能力のお陰で助かったし……」
「リリカちゃんは、「狐」の誘いを断って襲われたんやったね」

 そうなんです、とリリカはちょっぴり、ぐでり、とした
 ……アレは、本当に怖かった

「妾の配下になれ、って言われたけど。嫌な予感が拭えなくて断って……その瞬間に配下の人に襲われて、怖かったです」
「栄ちゃんと藤沢君と一緒に、あそこ通りすがらなかったら危なかったなぁ……」

 リリカを保護した時の事を思い出し、しみじみと無はそう呟く
 たまたま、転移系能力者と一緒にあの場を通りすがってよかった
 そうじゃなければ、結界を張る能力があるとはいえ、危なかっただろう

「軽自動車だのバイクだの、びゅんっびゅん突撃してきて……あれ、結界なかったら、死んでたのかな」
「……そうかもなぁ」

 ぞわわわわっ、とリリカは体を震わせた
 できれば忘れたいが、そうそう忘れられる事でもない


 記憶に刻まれたあの顔は、なかなか忘れられない
 あの時の「狐」が使っていた人間の少女の顔と、「狐」の命令によってリリカへの攻撃を開始した、あの契約者の、顔を




to be … ?

 試合と試合の合間、神子は参加者の資料に目を通していた
 その横に、郁が持ってきたフリーランスの契約者の資料のデータが入ったタブレット型PCが置かれている
 試合の実況を任せられたため、こちらの資料も参考に実況しようという試みである

「次の組み合わせで出るフリーランスの契約者は………」
「あぁ、こいつだろ。「九十九屋 九十九」」

 ほら、と隣りにいた直斗が、勝手にタブレット型PCをいじってそのデータを出した
 ここに直斗がいるのは、実況の手伝いでだ
 神子の幼馴染グループのうち、誰に手伝ってもらおうか、となった際に直斗が「面白そうだから」と立候補したせいである
 …もしかしたら後で誰かに交代するかもしれないが、ひとまずは直人が担当だ

「どれどれ……契約都市伝説は「不明」。まだわかってないのね」
「契約者なのはわかってても能力分からない、とかはよくあるんじゃないのか?特にフリーランスの奴だとさ。契約都市伝説がバレてると、弱点もバレたりするし」

 それもそうね、と頷く神子
 直斗の言う通り、どこの組織にも所属していないような一匹狼タイプの契約者には自分の契約都市伝説をあなるべく明かさないようにする者も多い
 特に、その契約都市伝説を利用して「仕事」するようなものであれば、なおさらだ
 都市伝説との契約によってどのような力を発揮できるかは、たとえ同じ都市伝説であろうとも個々によって変わってくる
 能力の使い方によっては、契約都市伝説が何であるのかわからないというのもざらだ
 だが、その都市伝説特有の「弱点」と言うやつはどうしても共通しがちであり、都市伝説がバレれば弱点も見抜かれ、対策されるという可能性が高い
 特定の組織に頼らず、能力を仕事に活かして生活しているような者であれば、契約都市伝説がバレるのは避けたいところだろう
 この、「九十九屋 九十九」と言う青年も、そういったタイプなのかもしれない

「えぇと、表向きは針金アートの展示と販売の店を経営………「表向き」。ね」
「そう、表向きだな」

 九十九屋 九十九に関する資料
 それには、この一文が記されていた

『暗殺等に関与の疑いあり。完全な証拠はまだないが、報酬次第でそのような仕事も請け負うらしい』





 

 試合会場は、町中を思わせる作りとなっていた
 隠れながらの戦闘も可能なフィールドである
 彼女、篠塚 瑞希は油断なく、前方で微笑んでいる青年を見据えた
 茶色い髪をオールバックにし、薄手のセーターにジーンズと言うラフな服装をしている
 両手をジーンズのポケットにつっこんで、特に構えた様子もなく立っている
 しばし、相手の様子を警戒していたが………あちらから攻撃してくる様子も、ない
 …恐らく相手もまた、動くのを待っているのだろう

「仕掛ける気がないのなら、こっちから!」

 「超人」と呼ばれる所以を、この若者に見せてあげるとしよう
 すぅ、と一呼吸
 すでに、全身に結界を纏い終えている
 前方にいる青年……九十九屋 九十九へと向かって、一気に距離を縮めようとした

 薄く、九十九屋が笑って見えて
 きらり、何かが……

「………っ!!」

 ぞくり、と悪寒を感じて
 っば、と後方へと大きく跳んで再び九十九屋と距離を取る

 瑞希と九十九屋の間
 そこにいつの間にか細い、細いワイヤーが何本も張られていたのだ
 そのまま突っ込んでいたら、このワイヤーによってずたずたに引き裂かれたことだろう

「流石に気づくか」

 相変わらずポケットに両手を突っ込んだまま、九十九屋は笑った
 つい一瞬前まで、そこにワイヤー等なかったはずだ
 つまり……あのワイヤーは、九十九屋が出現させた、と言うことなのだろう
 見れば、九十九屋の周囲に、まるで結界でも貼っているかのように無数のワイヤーが張られていた
 これをかいくぐって攻撃するのは、少々骨か

「……それなら!」

 だんっ、と地を蹴り飛び上がる
 そして、勢い良く、すぐ傍の壁を蹴り壊した
 九十九屋の頭上から瓦礫が降り注ぐ。たとえ、ワイヤーを貼っていようとも重量で押しつぶせるだろう

 さぁ、どうでるか

 瑞希としては、これで九十九屋を倒せるとは思っていない
 ただ、これで相手がどう動くか、見るだけだ

 かくして、九十九屋は瓦礫の下敷きになどならなかった
 くんっ、と、まるで何かに引っ張られるように斜め上へと跳び上がり、瓦礫を避ける
 そうして、とんっ、と、空中に「立った」

(……違う。あれ、ワイヤーの上に立ってる?)

 そう、張り巡らせていたワイヤーの上に立っている
 ワイヤー自体が九十九屋の体重に耐えられるのかという疑問はあるが、よくよく見れば九十九屋自身の体にもやや太めのワイヤーが絡みついており、恐らくワイヤーを使って自身を宙吊りにしているような状態なのだろう

「なるほど、ワイヤー使い、と」
「そういう事だね」

 空中から見下ろし、九十九屋は笑う
 …両手はまだポケットの中に入れたまま。隠し玉でもあるのだろうか

 …思考する時間等与えない
 そうとでも言うように、四方八方、建物の影から太いワイヤーが飛んできた
 恐らく、試合開始前に申請を出して仕掛けておいたものなのだろう
 襲いかかるワイヤーを、瑞希はひらひらと避けていく

「それで、あなたはそこで高みの見物?」
「そりゃ、接近されたらヤバそうな相手にわざわざ接近するほどバカでもないしな」

 ッガ、ッガ、ッガ、ッガ、ッガ!!と、九十九屋が操っているのだろうワイヤーが地面へと突き刺さり、辺りを切り裂いていく
 嵐のような猛襲をさばきながら………視界の端にうつった物を、瑞希は見逃しはしなかった
 先程、九十九屋の頭上に落とそうとした瓦礫
 それに、くるくる、くるくるとワイヤーが巻き付いていっていて
 ぐぅんっ、と。全面にワイヤーが巻きつけられた大きな瓦礫が持ち上げられた
 それはそのまま、ごうっ、と轟音を上げて、まるで巨大なハンマーのように瑞希へと叩きつけられた




to be … ?

(危ない危ない……)

ワイヤーに包まれた瓦礫を大きく避けて、瑞希と九十九屋の距離がさらに開く
反射的に手が出そうになったが、今日までの都市伝説との戦闘経験がそれを押しとどめた
突然その場に張られたことといい瓦礫に巻きつく器用な動きといい
ワイヤーが技術ではなく都市伝説によって操作されているのは明白である
下手に接触すればこちらを絡めとるくらいのことはすると考えるべきだ

(これが結なら引っ張り合いに持ち込むんだけど、ワイヤーじゃちょっとね)

瑞希の娘である篠塚結は、契約した都市伝説"機尋"で細い布や縄を自在に操る
しかし九十九屋が操るのはワイヤーだ。細いため掴みにくく切断力がある
義妹にして契約都市伝説の彼女がこの場にいれば物の数ではないだろうが
あいにくと今回は自力のみでの結界武装だ。本職と比べれば強度は数段劣る
ワイヤーには極力触れないよう立ち回るしかない、と瑞希は結論づけた

ワイヤーを避けつつも瑞希は再び壁を蹴り壊して瓦礫を作り出す
そして手頃な大きさのものを掴むと九十九屋に向けて投擲した
両手を使って二個同時。しかし飛来する瓦礫を九十九屋は危なげなく対処する
迎撃するように瓦礫にワイヤーが巻きつき、勢いを殺したうえで放り捨てられた
その様子を確認すると瑞希は再び手近な建物を蹴り壊して瓦礫の山を作る
両手で掴んだのは人の背丈にも届く大きな瓦礫。流れるような動きで
瓦礫を投げると、迫るワイヤーを避けるためすぐにその場から飛び退いた

(これは避けるか。最初と同じね)

流石に重量があるとそう簡単には防げないようだ
その割にはワイヤーが巻きつく動きを見せていたのが気になるが……
少し開きすぎた距離を詰めようと追いかければ、簡単にその答えは出た
先ほど投げた瓦礫がワイヤーに巻き包まれて横合いから殴りかかってくる
地面がひび割れるほど踏み込んで、迫る即席ハンマーの横を高速ですり抜ける
単純に反対方向へ避けなかったのは鈍く光る即席の罠を目の端に捉えたからだ
まったく油断も隙もない。ここまでやりにくい相手は久しぶりである
もっとも、攻め手の尽くを避け続けられている向こうも同じ気持ちかもしれないが

 

(とはいえこのままじゃジリ貧よね)

小出しにして時間を稼いでいるが、瑞希が全力を出せる時間はそう長くない
具体的には急速にカロリーを消費していくので長引くと空腹で倒れるのだ
一応申請したうえで懐にチョコレートを忍ばせているものの
多少行動時間を延長したところで事態が好転するということはないだろうし
食べるところを見られればあからさまな持久戦に持ち込まれる可能性もある

(せめて彼の、接近された時の札くらいは切らせたいところだけど)

流石に遠隔攻撃と持久戦で完封されるのは戦う者としての矜持が許さない
目標は至近距離で一撃入れること。そのためには無理をしてでも
相手の意識を逸らして距離を詰め切るための"一拍"を作り出さなければならない
整理しよう。遠距離でこちらが使える手は2つだけ
大きめの瓦礫を投擲すること、そして距離を詰めること。とてもシンプルだ
まずは瓦礫を用意する必要がある。ワイヤーの結界を押しつぶせて
相手が避けることに集中したくなるような大きなものをだ
例えば家屋が丸ごと向かってくれば流石に驚くことだろう
できればそれを連続で行えればより効果的だ。他に投げられそうなものは……

「あ」

思わず声が出る。なんで思いつかなかったのだろうか
周囲にある大質量をぶつけるのであれば、何も横ばかり見る必要はない
  ・
 下から抜き取ってしまえばいいのだ

(なんにせよ仕込みが必要ね。バレないように動けるかしら?)

チラリと九十九屋の表所を伺うが、不敵な笑みを浮かべるばかり
対抗するようにニッと笑ってから強く地面を踏み砕き走り出す
ワイヤーを避けつつ、原型を留めるように家屋の下側を破壊する
巨大な瓦礫を投げつけながら、地面を踏み割り駆け抜ける
たまに物陰でチョコレートを貪ってカロリーを補給しつつ―――準備は整った

「反撃開始といきますか」

口元を拭った瑞希の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた
      ケモノ         カリウド  
凶暴な都市伝説が熟練の契約者に牙を剥かんと迫る――――

                                         【続】

 相手が慎重に動いている様子に、九十九はふむ、と思考を巡らせた
 ひとまず、高所から相手の動きを観察してはいるが………どうやら相手は地面にヒビを入れ続けているようだ
 一体、何をしようと言うのか

(……まぁ、せっかくだ。利用させてもらうか)

 前もって、この戦闘部隊に仕掛ておいたワイヤーの量はかなりのものである
 ワイヤーの質量で押しつぶせなくもない、とは思うが……

(相手は身体能力強化系に見えるな。皓夜ほどの怪力かどうかまではわからないが)

 どちらにせよ、質量で押しつぶすと言うのもつまらない
 もう少し「遊んで」、相手の能力を観察させてもらおう

 ……いつか、あの女性が。自分達にとって脅威となるかもしれないのだから
 備えておく事に、こしたことはないのだ


 ……カリ……………カリ、カリ、カリ………

「………?」

 今、何か聞こえた?
 瑞希は警戒し、辺りを見回した
 目視できる範囲に、ワイヤーは見えないが

 ……カリ、カリ…………ガリガリッ、ガリ

 本当に、本当に小さな音
 油断していれば聴き逃してしまうような、それほどまでに小さな
 その音を、瑞希は聴き逃しはしなかった
 そして、数多の都市伝説と戦ってきた経験が告げる。「跳べ」、と
 本能からの警告に従い、一足でその場から一気に跳んで移動した

 ほんの一瞬前まで瑞希が立っていたその、足元から
 ガリィッ!!と、何かを削るような音と共に、ワイヤーが飛び出してきた
 瑞希を貫くことに失敗したワイヤーは、また地面の下へと戻っていく

(いつの間に………、まさか、これ、私が作ったヒビを通って?)

 そう、瑞希が自身の作戦の為に割り続けていた地面のヒビ
 ワイヤーは、そこから飛び出してきたのだ
 つくもが瑞希の作戦に気づいたかどうかはまだわからないが、どうやら彼は、瑞希の作り出したヒビを逆に利用しようと考えたらしい
 恐らく、地面を割り続ければ割り続ける程に、そのヒビをワイヤーが這っていき、そこから攻撃してくるのだろう

(聞こえてきていた音は、ワイヤーが地面の中を進んでいる音だったのね)

 微妙にヒビがつながっていなかった箇所は、削るようにして繋いでいたのだろう
 元から広い九十九の攻撃範囲が、更に広がったということだ

 それでも、瑞希は不敵に笑う
 すでに、こちらの支度は整っている
 …仕掛ける事は、出来る
 ぽんっ、と口の中に一口大のチョコレートを放り込み、もぐもぐっ、と飲み込むと
 仕掛けるべく、動き出した


「………!」

 ごぉおおおおお、と轟音が聞こえた気がした
 投げつけられた、二つの家屋
 …家を投げつける等、非常識極まりない攻撃だ
 この空間だからこそ許される荒業といえるだろう
 だが、このくらいならば、避けられ………

「は?」

 瑞希がとった行動を前に、九十九は思わず、魔の向けた声をあげた
 …思えば、先程の家屋もこちらに投げつけられた訳ではなかった
 ただ、彼女は、烏賊置く二つほぼまるごとを、「上空に放り投げた」のだ
 そしてその直後、地面へと手を突っ込み、地面をまるでちゃぶ台返しでもするかのように、宙へと放り投げてきたのだ

「これは、ちょっと洒落にならな……っ!!??」

 ごがががっ!!と
 滞空していた家屋二つが、連続で蹴り出される
 己に巻きつけていたワイヤーを操り、それを避けるべく移動した
 あれは、流石にワイヤーで受け止めきれる質量ではない
 家屋を避けながらも、更にこちらへと向かう攻撃を補足する
 先程ちゃぶ台返しされた地面が、そのまま突っ込んできているのだ
 

 ……不意打ち用に隠していたワイヤーも使ってしまうが、仕方ない

 ぎゅるるるっ、と、ワイヤーがあちらこちらの地面から、建物から、一気に飛び出す
 そしてそれらは、まとめて、九十九に向かってきている地面だった物へと巻き付いて
 ギャリギャリギャリギャリギャリ、と耳障りな音を立て………地面だったその塊は、バラバラになった
 これであれば、ワイヤーでじゅうぶんに防ぐことが出来る

「……なるほど」

 ふと、口を出たこの言葉
 果たして、どちらが発したものか

 恐らく、地面を「抱えて」突進してきていたのだろう
 破壊したそれの向こう側から、瑞希が飛び出してきた


 危なかった
 大きな塊は避けていたから受け止めきれないのだろう、とは思っていた
 ……が、「破壊できないとは言っていない」と言うやつだったのか
 嫌な予感を感じて、とっさに少しだけ後ろに引いてよかった

 どちらにせよ、接近は出来た
 すぅ、と息を吸い込んで

「            !!!!」

 肺に蓄えた空気を、口を通して一気に外へと撃ち出した
 モニター越しに見ている人逹にも結構な大音量として聞こえたかもしれないが、仕方ない。ちょっと我慢してもらおう

 大音量による一喝
 至近距離でのそれに、さしもの九十九もポケットに突っ込んでいた両手を出して耳をふさいだ
 多分、鼓膜は破れてない………だろう、多分、きっと、恐らく
 万が一破れていても、治療班の人が頑張ってくれると信じるまで

 本命につながるための。「一泊」が生まれた
 そのまま、攻撃の体勢へと入る

「ハリネズミは、好きか?」

 ……ふと、耳をふさいだままの九十九がそう呟いた

 気づく。九十九がポケットから手を出したことで、辺りにばらまかれたものに
 きらきらと、宙に投げ出された、無数の針
 いや、これは針ではない
 正確にはこれも「ワイヤー」だ。先端を尖らせ、短く切った
 重力に従い、地面へと落ちていこうとしていたその無数の短いワイヤーは、九十九の、未だ不明の契約都市伝説の能力によって操られて

 四方八方から、一斉に、瑞希に向かって発射された






to be … ?

辺りにばらまかれたのは、無数の針状に加工されたワイヤー
それが四方八方から、一斉に、自分に向かって発射された

――――それがどうした?

迷わず脚に力を込めて空を蹴る。"超人"の脚力がそれを可能にしている
射出された針の雨と九十九屋に向かって進む体が衝突する
主に体の前面が針に覆われたようになるが、大した問題ではない
どころか運のいいことに両目とも無事だ。左耳はちょっとちぎれたようだが
肉薄したところで九十九屋の服から不意打ちのようにワイヤーが飛び出した
まだ接近用の札があったようだ。さらに体にワイヤーが突き刺さる。だが、

「届いた……!」

九十九屋の右肩を瑞希の左手が掴む。即座にワイヤーが出てきて
左手をズタズタに切り裂いていくが、肩の骨がビキッと音を鳴らすほど
強く掴んだ左手はそう簡単には外れない。というか外さない
"超人"篠塚瑞希は満身創痍だった。土埃に塗れ、無数の針が突き刺さり
左耳は欠け、ワイヤーに巻きつかれ、体力は残り少なかった
しかし彼女は知っていた。どれだけ周囲に被害が及ぼうが
ここは他に人もいない仮初の空間であって大したことにはならない
どれだけ怪我をしてしまおうが治療だって受けられる
ましてや彼女は"超人"である。そもそもこの程度の傷、時間があれば治る
そうした取り返しのつく諸々を使い尽くして得ることができた
現在の彼女と九十九屋の距離は――――紛れもなく、彼女の間合いであった

ワイヤーに邪魔されつつも大きく振りかぶられた右腕を見て
笑みが引きつった九十九屋九十九が何かを言おうとして口を開く
 

しかし

「引き分けね。いい勝負だったわ」

少し遅かったようだ
掴まれて逃げ場のない九十九屋の鎖骨付近に瑞希の右拳が叩き込まれ
痛みゆえか衝撃で揺さぶられたか、九十九屋の意識は闇に沈んでいった
九十九屋の意識が無くなったということは、あれほど手ごわかったワイヤーが
一時的に制御を失うということでもある。つまり二人は落下を始めた

「あー……私が下になるべきよね」

実のところもう少し強めに殴るつもりだったのだが
カロリー切れで最後の一撃はちょっと弱まってしまっていた
つまり空を蹴って落下を和らげるとかはできないので
せめて頑丈な瑞希が下になっておけば多少彼へのダメージは軽減されるだろう
チラッと九十九屋を見るが、フリではなく完全に気絶しているようだ
とはいえ死なないようにギリギリ手加減したのが弱まった一撃
おまけにワイヤーの仕込まれたセーターだ。防御力は多少あるはず
せいぜい鎖骨にヒビが入ったかちょっと折れたくらいだろう
治療を受ければすぐに健康体になれると思う。まあ推測でしかないが
そんなことを瑞希が考えているうちに瓦礫の山に落下した二人
ところがモニターに映る二人はまるで動く様子を見せなかった

「…………お腹が減って動けない。助けて」

フリーの契約者「九十九屋九十九」 VS 怪奇同盟所属「篠塚瑞希」
二人の戦技披露は両者行動不能で幕を閉じたのであった

                          【治療風景に続く】

 さーて、と言うように、その「先生」は瑞希の負傷具合を見つめ、こう結論づけた

「治療してもらえる事わかっていたからと言って、人妻がここまで怪我を顧みないのはどうかな、って思わなくもない」
「それって、人妻関係あるの?あと、お腹減って本当動けないので何かください」
「おおいに関係ある………我が助手よ、こちらのご婦人の為に何か食べ物持ってきてくれ。確か、「夢の国」が屋台出していたと思うから、そこから。間違っても……」
「わかってる。間違っても死人の屋台で買ってはこない」

 衛生上問題ありまくりだろ、等と言いながら灰人が治療室を後にした
 先程の篠塚 瑞希と九十九屋 九十九の対戦は引き分けで終わった
 が、怪我の具合から言えば、明らかに瑞希の方が重傷だ
 あちらこちらにワイヤーによる刺し傷切り傷。ついでに言えば地面に落下した時の全身打撲
 左耳はちぎれているし、しかも、ワイヤーの弾丸は刺さりっぱなしである
 ワイヤーの弾丸は深く刺さってしまっているものは、そう簡単に抜けるような状態ではなくなってしまっている為、仕方ない部分もあるが

 まずは突き刺さったままのワイヤーを外さなければ、と「先生」が考えていると……ぱたぱたと、治療室に近づいてくる足音
 その足音から誰が来たのか感じ取ったのか、「先生」は扉が開くと同時に告げる

「すまんが、こちらのご婦人の治療を頼めるかな?我が助手の従兄弟よ」
「わかってるっす、その為に来たんすから」

 治療室に飛び込んできたのは、見学者席で試合を見ていたはずの荒神 憐だ
 試合の結果から、重傷者が出たことがわかって急いでやってきたらしい

「うむ、頼む………っと、その前に。人妻の上に乗っかるというある意味役得だったそちらの青年、もう意識はあるね?」
「役得も何もないと思うが、意識ならある。どうかしたか?」

 ぱちり、と
 負傷者用の寝台に寝かせられていた九十九が、目を開いた
 どうやら、試合が終わって少しして意識が戻っていたらしい
 起き上がるのはまだ億劫なようで、首だけ動かして「先生」を見る

「今、君が問題なく能力を使える状態なのであれば、こちらのご婦人に突き刺さったままのワイヤー、全部一気に抜いて欲しいのであるが、できるかな?」
「………出来るが、その瞬間に出血が始まるぞ」
「構わん。我が助手の従兄弟な少年よ。ワイヤーが抜けたらすぐに治癒出来るね?」
「はぁい、出来るっすよ」

 寝台に寝転がったまま動けません状態の瑞希に憐は近づいていき、す、と手をかざした
 その様子を見て、九十九が能力を発動する
 瑞希に突き刺さったままだった針のようなワイヤーが、一気に全て、抜ける
 

 血が流れで始めるよりも先に、憐が治癒を開始した
 ばさりっ、と憐の背中に光り輝く天使の六枚翼が出現し、瑞希にかざした手のひらからぽぅ、と淡く白い光が溢れ出す
 暖かな光が注ぎ、瑞希の傷が治癒されていく
 全身の刺突による傷を、ワイヤーで切り裂かれた傷を、落下時の全身打撲を
 ……そして、千切れた左耳まで、治癒によって再生していく

「うむ。やはり「ラファエル」の本気の治癒はすごいな」

 憐のその治癒の腕前を見つめながら、「先生」はしみじみとそう口にした
 彼もまた人ならざる力によって他者を治癒する事ができるが、それは薬等を使っての治癒である
 憐のように、直接癒やすのとはまた違うのだ

「俺っちは、まだまだっす。腕一本再生しろー、とか言われたらすげー時間かかるんで」
「最終的に再生させられるんなら、十分にすごくない?」

 痛みが消えた自身の体の様子に少し驚きながら瑞希がそう問うたが、憐は首を左右にふる

「俺っち自身がまだまだ未熟なせいで、「ラファエル」の力なら歩Bらい治せるはずの傷を治療できない、とかもよくあるんで。もっと、力使いこなせるようにならないと」

 へらり、と笑いながらそう答える
 謙遜している、と言う様子でもなく、心からそう考えているように

「……………君は。自分の力を、少し重たく受け止めすぎだと思うがねぇ」

 ぽそり、と、「先生」が口にしたその言葉が、憐に届いていたかどうかは、わからない




 ……なるほど、これはすごい
 九十九は素直にそう感心していた
 こちらには治癒の力は向けていなかったのだと思う
 だが、治癒の力の余波なのだろうか。あの六枚翼が展開されると同時に辺りに飛び散り、その羽根が届いていた九十九の体のまた、治癒されていたのだ
 よくてヒビが入っていたはずの鎖骨の辺りの痛みが、完全に消えている

(貴重な治癒能力者、しかも能力も高い………「聞いていた通り」だ)

 その、高校生にしては少し小柄な憐の姿を、九十九ははっきりと記憶したのだった






to be … ?

第二回合同戦技披露会の会場にマイク越しの音声が響き渡る。
「決着!決着です!!九十九屋九十九VS篠塚瑞希!!
 結末は両者起き上がれずドロー!!」
「二人共医務室に運ばれていくな、舞台の修復も始まった」
「この辺自動化されてるから良いわよねー、さぁここまでで三試合どれもコレもドハデな試合だった訳ですが!!」
「派手と言うか被害が尋常じゃないな・・・」

スピーカーを通して響く声は実況籍の神子と直斗の物、契約者と都市伝説犇くこの会場では貴重な一般人となる。
実況とはいう物の実際の所実況しようにも参加者の動きが激しく追いつかない為、試合と試合の間の間を持たせるのが主な仕事になっているが。

「あのクラスの契約者同士がぶつかるとそうもなるわねー、それを隠蔽してる組織の苦労が察せられるわ・・・・・・しっかし、これまでの勝者を見るとメルセデス司祭に優に第三試合に関してはドローだけど・・・組織が一寸情けないぞー!」
「組織と首塚がメインだが、確かに今のところ組織と首塚がそれほど目立ってない」


「フフフ、言われてるわよ、大樹さん」
「いや、それよりもですね・・・」
会場の一角、限られた人間しか近づかないVIPルームの傍に敷かれているブルーシート。
その上には弁当の類が広げられ、一組の男女が座っていた。
いや、座っていたと言うよりも正確には・・・
「そろそろ退いてもらえないでしょうか?」
「嫌よ」
ブルーシートに座っていた大門大樹を逃がさぬ様にと、その膝の上に大門望が陣取っている状態だ。
「一応仕事中なのですが・・・」
「奇遇ね、私もよ・・・・・・ハイ、大樹さん、アーン」
大樹の膝に納まりながらも器用に弁当箱から中身を大樹の口へと運んでいく。
「・・・あーん・・・・・・こんな事してて良いんでしょうか」
「良いのよ、ってかコレも仕事の内よ」
「と、言いますと?」
「各組織の交流の場を設け友好を深め、いざと言う時の連携を密にしつつ、お互いの戦力を披露し、己が勢力を誇示、更には後進に先達の力を見せる・・・と言うのが表向き」
甘える様な素振りで大樹の胸に頬を寄せる望・・・端から見れば子供がじゃれてる様にしか見えないがコレで30超えてるのだから質が悪い。
「・・・表向きと言うのは?」
「こういう場に参加するフリーランスは興味本位の輩も多いでしょうけど、選手として参加しているとなると話は別・・・己の力の誇示か、腕試しか、それとも別の目的か・・・好戦的な奴等よね、そういうのでこちらが見落としていた存在を認識するいい機会だわ」
「我々が見落としていたフリーランスの脅威を表に出すと?」
「在処の発案よ、最近狐だとか影とか世間が騒がしくなってきているから、ここで活躍したフリーランスで、組織が把握してなかった奴が居れば、そいつはかなり怪しいって事にならない?」
「成る程」
「あの子なりに子供達の危険の目を少しでも摘みたかったんでしょうね
 だから大樹さんはここで私を甘やかしつつ試合を観戦するべきだわ」
「あの・・・・・・見回りや情報収集を行いながら観戦と言うのは・・・」
「別に良いけどその代わり私が欲求不満で夜が凄いわよ?
「・・・・・・・・・次の試合が始まるようですね」


「ここらで一寸良い所見てみたい!そんな訳で次の試合は組織からこの人!!」
神子の言葉と共に舞台に現れたのは黒いスーツ姿の女性
「C-No.所属の契約者!影守美亜!!」
「続けてもう一人はフリーランスだ」
直斗の言葉と同時に少年が飛び込む。
「・・・新島愛人!!」
「コレより、第四試合開始!!」

続く

 

「黄。ここで何をしてるの?」
 嫌悪感も露わに声を掛けてきたのは藍。
 ここは南区の廃工場。「凍り付いた碧」のアジト。
「お前たちは知らなくていい」
 黄はそれだけ答えると、また黙々と作業に戻る。
 先日接触した、「あの御方」の配下の者たち。初めて会った、志を同じくする者…悪くはない。
(これぐらいでいいか)
 廃工場だけに、金属類には事欠かない。ワイヤーだけは近くの別の廃工場から調達してきたが、鉄やニッケル製の物品は、工場内のものでほぼ賄えた。
「なになに?」
「黄じゃない。藍の部屋で何してるの」
「鉄材に、金属塊…こんなものを人の部屋に運び込んで、何してるんだ」
「いずれ知ることになる。今はまだいい」
 その時にはもう手遅れだがな。黄は藍たちに気取られぬようにほくそ笑んだ。
「お前等こそ、いつも飽きずにつるんで、今日は何処へ行くんだ」
 黄が皮肉めいた笑いを向けると、キラは黄の目の前に一片の紙片を差し出した。
「合同戦技会…なんだこれは」
 訝しげな様子の黄に、キラが薄い胸を反らして答える。
「だれでも参加できるんだってさ。一応トモダチいないあんたにも教えてあげるわよ」
「あいにく俺は興味ない」
「そう?じゃあ」
 澪の一言を残して、一行はアジトから出て行った。
「…ふん」

 ところはかわって戦技会会場。
「慶次さん」
「なんだ、ο(オウ)-Noのところのガキ共か」
「強硬派」と「穏健派」凡そ相容れない者同士の会話など、いい雰囲気になりそうもない。こういう場を取りなすのが得意なのは真降だ。
「チビ達が出るって言い出して。僕たちはお目付役兼手合わせ役です」
「ってことは…」
「ええ。次の試合は僕と澪ちゃんです」
「ふーん」
 慶次はま、がんばれやとだけ答えて、眼前の試合に集中している。
「それじゃ、僕たちはこれで」

 慶次から離れた轟九と真降は、互いに目線を交わした後、慶次に視線を戻した。
 …正確には、慶次を冷たく見つめる、彼の担当黒服に。
「…兄さん」
「…ああ、相当ヤバいな、あれ」



「コレより、第四試合開始!!」

実況席から流れた試合開始の一言。
その言葉が終わるが早いか、新島愛人の両腕が飛んだ。

「!?」

驚愕に見開かれた目が、僅かに後方を確認し、見えたのは背後の建物に包丁で縫いつかれた自信の両腕、そして・・・

「遅い」

両腕を落とすのとほぼ同時に自身の背後に移っていた、影守美亜の足が、腹に叩き込まれるのとほぼ同時に両の足が自身から切り落とされる瞬間だった。

『ま・・・まなとぉぉぉぉぉ!?』
『見えなかったな・・・』
『え!?ちょッえぇ!?龍哉!居るよね?!一寸こっち来て解説ー!!』

実況席が酷く混乱している様子が聞こえてくるが無視して良いだろう。
そう結論付けて切り落とした足を踏みつける。
コレで両腕と両足を取った、胴体は蹴った際に勢いをつけ過ぎて前方の建物に激突、そのまま瓦礫の下敷きに。

「戻れ」

突き刺した手足の返り血を浴びた12本の包丁が自身の周囲を囲むように浮遊する。
内の4本は刃渡りが凡そ70センチ程、ここまで来ると刀にしか見えないがマグロの解体等で使われる立派な包丁である。

「これで、私の勝ちで良いよね?」
「流石にそれは困るかな」
「・・・何?都市伝説発動する前に斬っても駄目なわけ?」

愛人を沈めた瓦礫の下から火柱が噴出し徐々に人の形へと整っていく。

「行き成り四肢切断とは品がないな」
「手足切られたなら大人しく死んでろよ」

愛人を中心に周囲に炎が燃え移る。
美亜の周囲を刃物が12、24、48、96、192とその本数を膨れ上がらせ愛人へと打ち出されるがその全てが炎と化した愛人の身体をすり抜けていく。

「炎を斬れると思っているならお笑い種だ!!」

愛人の体から放たれた炎は意思を持つかの様に美亜を囲み

「その程度!!」
「まだあるのかよ!?」

美亜を中心に追加で展開された包丁が250本
その全てを無作為に射出し炎を掻き揺らし、その一瞬を突いて飛び出す。

「次!!」

更に追加で200本程を展開。
宙に浮いている包丁を足場に上へ上へと高度を上げていく。

「空に逃げる気か」
「いやだって、アンタ能力的に下は危険域だからさ・・・」

新島愛人の都市伝説ファイアドレイク、ドラゴンの一種とされその体は炎でできていたと言う。

「ま、確かに炎さえあれば俺は無敵だ」
「その炎を自前で用意できるから質が悪い・・・」

最早地上は火の海で、言い換えるならその燃え盛っている火全てが新島愛人だ。

「さぁ、俺を攻略できるか?影守サン?」
「正直詰みに近いけどさ・・・ま、奥の手はあるし足掻くよ」

フィールドに散らばってた刃物が美亜の元へと集まっていき、更に虚空から後続の包丁が排出される。

「おいおいおいおい、いくつ溜め込んでやがった・・・」
「父さんにも見せた事のない、これが私の限界一杯・・・4000本!!」

4000の包丁が空を覆い・・・

「土台ごと刻み潰す!!」
「全て焼きつくす!!」

まるで天井が落ちていくかのように同時に地に向かって放たれた包丁と、フィールド全体から湧き上がった火柱がぶつかり合った。

続く

「はい、お呼ばれしたのでお邪魔させていただきます」
「うん、ごめんね、龍哉。私達じゃちょっと見えないからさ……」
「確かに、美亜さんは素晴らしいスピードですね」
「すごくのんびりしたテンポで言ってくれてるけど見えてるのね、やっぱり」

 ややぽわん、とした様子で勝負の様子を見ている龍哉
 が、愛人と美亜、二人の戦闘を一瞬たりとも見逃している様子はない
 生まれついての才能と今までの戦闘経験によって培われた動体視力なのだろう

「愛人の奴も無茶するよな。まぁいつものことだが」
「はい、ですが。その件について、治療室にいる「先生」から連絡が。憐さんが泣きそうになっているそうで」
「……愛人ー、後で遥に睨まれる覚悟しとけー」

 愛人の実力はわかっているつもりだ
 あの程度で怯むはずがないということもわかっている
 …それでも、あの優しい幼馴染は泣きそうになっているのだろう
 直斗はその事実を理解する
 ちゃらちゃらとした軽い調子の仮面をいくら被ろうとも、その根っこが変わることはない

 ……ずっと知っている
 だからこそ、その危険性も、よくわかっているつもりなのだ



 あぅあぅあぅ、と画面に映し出される戦いにおろおろしている憐
 瑞希の治療が終わっても、また大怪我する人がいるかもしれないから、と言って治療室に残っていたのだ
 愛人の契約都市伝説の能力の性質上、腕や足がもげようともどうと言うことはない、と言うことは憐もわかっているはずだ
 そうだとしても、幼い頃から見知っている相手が傷つく事を悲しんでいる

(こういうところを見ていると、本当、戦闘には不向きな子なのだがねぇ)

 それでも、いざ戦闘となれば母から借りている「シェキナーの弓」で容赦なく敵対者を撃ち抜けるのが憐だ
 心を痛めていない訳ではないのだろうが、それを押し殺して戦える
 遥や、「教会」のあの異端審問官は憐の優しい面を思い、なるべく戦わせないように動くらしいが……

(あの凍れる悪魔の御仁は、それを「馬鹿げている」とでも言うのだろうね)

 さて、今のうちに次の治療の準備をするとしよう
 瑞希に渡すための食事を買いに行った灰人も、そろそろ戻ってくるだろうし
 愛人と美亜の怪我の具合によっては、憐にだけ任せるのではなく、自分も働かなければならない
 微妙にスプラッタ感あふれるその戦いを、特に怯えた様子もなく驚いた様子もなく眺めながら、「先生」はどこまでもマイペースだった


 だから、気づいていたとしても気づいていなかったとしても、何も言わない
 泣き出しそうな顔で試合の様子を見ている憐を、さり気なく観察している者がいた、その事実に




to be … ?

もともと不利な試合という事は承知している。
物理攻撃しか使えない自分と、物理無効の新島愛人。
部の悪い賭けなのはわかっていたから野鎌達は今回連れてきていなかった。
が…

「ここまで!?」
「抜いた!」

ぶつかり合った包丁と炎、しかし炎の勢いは止まず壁を抜いて正確に自身へ向かってくる。
咄嗟に体を振って避けた…と思ったが

「クソ…」
「まずは一本、さっきのお返しだな」

左腕の肩から先が無い。
気の遠くなる様な痛みが逆に意識を失う事を許してくれない。

『腕が!腕が!?』
『消し炭ですね』

実況の声で大体の状況はわかる。

「全力だったんだけどな…」
「相性が悪かったな、にしても追い詰められてる割には顔が笑ってる様に見えるが」

当然じゃないか

「このままじゃ死んじゃうよね、私」
「早めに治療しないと危険だな」
「でも、負けるのヤだからまだ続けたいんだよね」
「なら、その意思が取れるまで焼き尽くす」
「なら、焼き尽くされる前にアンタ倒さないとね」
「できるか?」

愛人から放たれた炎が今度は右腕を焼いた。

「これで二本」

痛い痛い痛い、ホント痛い。
しかも腕が無くなったからバランスも取りづらい。
父さん怒ってるかなぁ…母さんは確か見に来ては無いはず無いよね?無いと言って、こんな姿見られたら何言われるか…

「追い詰められてるなぁ、私」
「まだ折れないのか?」
「トーゼン」

だってさ

「こんなに楽しくなってきたのに?」
「……」
「このままじゃ、負ける、負けて運が悪けりゃ死ぬ、助けは期待できない、てかいらない、私1人で何とかしたい、ほら、今私こんなに試されてる、これで終わりか?お前はどこまでやれるんだ?まだやれる事はあるんじゃないか?って、勝つも負けるも生きるも死ぬも私次第」

こんなに楽しい事あるか。

「そういうのは勝ち目がある時だけだろ?あんたの攻撃は俺には届かないぞ?」
「そーだね」

一応、新島愛人の能力に攻撃を通せる契約者は結構いる。
実際3年前、望さんははないちもんめでこいつを縛ったし、翼さんの能力でこいつは本体を直接焼かれた、そうでなくとも例えば炎熱を無力化する獄門寺在処、水を操る獄門寺龍一、父さんのかごめかごめなら炎化してても本体の首を切り落とすだろう。

「けどさ、私の目指してる所に行くならこれくらい乗り越えなきゃさ」
「何?」

さぁ、勝負だ、勝つか負けるかは多分五分五分。

「はぁ!」

生き残っていた包丁で地面を突き刺し土を跳ね上げ瓦礫を砕き砂埃を上げる。

「目潰しのつもり…!?」

放たれた炎が私の足を貫くがそれよりも包丁が円陣を組んで私を囲う方が早かった。
父さんにも誰にも見せた事のない本当の切り札、行くよ…

「かごめかごめ」
 

騒めく観客席、会場は影守美亜が起こした砂煙で何も見えない。

『ちょっとちょっと何も見えないんだけど!カメラさん音声も拾えないの!?』
『無茶言うな!』
『………あっ』
『こんどはなに!?』

龍哉の上げた驚きの声に会場に目をやると煙から何かが勢いよく放り出され…

『おい、アレは…』
『愛人……愛人!?』

地面に落ちて転がる愛人。
そして煙の向こうから現れたのは…

『影守美亜!』
『あ、腕治ってる』
『………神子さん、愛人、あれ意識完全に飛んでます』
『えっ?マジで?んーじゃあ勝者影守美亜ー!!ちょっと影守さん!観客席に見えない状態で決着とか勘弁してくださいよ!!』

医務室に運ばれる愛人とキューピーに引きずられていく美亜。
何も見えなかった件で観客に謝罪する神子と直斗。
それらを尻目に龍哉は先ほどの光景を思い返す。

煙の中でぶつかり合った何か、愛人と美亜だとしか思えない。
しかし

(あれは、人間だったのでしょうか…?)

僅かに捉えた輪郭。
それには…

(翼に尾があった)

疑問は尽きない、しかし隣を見れば神子達は次の試合の準備に移っている。

(今は飲み込んでおくべきですか)

龍哉は疑問を口にする事なく、意識を次の試合へと切り替えた。

続く

 はらはらと、輝く羽根が舞い散る
 それは、この治療室全体を覆うかのように………

「えーっと、腹パン?腹パンだけっすよね?腕とかまたうっかりぼろっとちぎれた状態にはならないっすよね?」
「OK、落ち着こうか、少年。とりあえずダメージは腹パンだけっぽいから治療もそこだけでいいと思うよ。だからその天使の翼しまおう?私の仕事無くなりそうなレベルで治療室に治癒の力ばらまかれまくってるよ?後で倒れるからやめよう?」

 えぅえぅと、泣きそうになりながら憐が愛人の治療を行っている
 モニター越しに戦闘の様子を見ていたとはいえ……と言うよりも、見ていたからこそ余計にこの有様なのだろう
 決着の瞬間がよく見えなかった
 そのせいで、愛人が見た目はせいぜい腹パンされた程度の怪我に見えるが、内部はボロボロなんじゃないかとか心配してしまっているのだ

「美亜さん、本当にほんっとうに、腹パンだけっすよね?実は内臓ドログチャぁになってるとか、ないっすよね?」
「うん、大丈夫。大丈夫だから、泣きそうな顔で言わないで。なんか後が怖い」
「……なら、いい……いや、腕やら脚やらずばずば切ってた時点であまりよくねーっすけど………とりあえず、美亜さんの怪我も愛人の怪我治療し終わったら治療しますね。美緒 さんに、美亜さんの戦いっぷりはお知らせ済っすから」
「私は、疲れ切ってるだけだから治療はいらな……」

 …………………

 Why?

「待って、さっきなんて」
「え?腕やら脚やらずばずば切ってた時点であまりよくねーっすけど…って」
「そこじゃなくて!最後!」
「美緒 さんに、美亜さんの戦いっぷりはお知らせ済っすから……ってところっす?」

 あぁああああああ、と言う心境に陥る美亜
 いつの間に、本当にいつの間に!?

「あえて言うなら、私が少年に頼まれて試合の様子をフルスペックハイビジョンな感じで君の母君へと動画でLIVE中継しておいた!母親として、娘の様子は心配だろうしね!!」
「ちょっとぉおおおおお!?」
「ちなみに、つい先程、父君の方にも動画で試合の様子は送りつけたから安心したまえ!!」

 良い笑顔で親指たててくる「先生」
 いや、安心できない、と美亜は頭を抱えるしか無い

「いや、泣きそうな顔の少年にお願いされると私も弱くてねぇ、後が怖い意味で」

 等と呑気に笑いながら、「先生」はこれっぽっちも悪く思ってない様子で言い切った
 跡でお覚えていろ、と恨みがましく睨みつけた

「あ、ちなみに服ボッロボロでちと再生は難しいね。予備の服としてナース服とバニーガールスーツとメイド服g」

 ずごすっ!!
 あ、戻ってきた灰人に背後から蹴り倒された
 めきゃっ、とちょっと背中を踏まれている先生から視線を外しつつ、美亜は治療室のベッドの中に潜り込んだのだった





終われ

 愛人と美亜の試合が終わって、次の試合までの休憩時間の事
 二人の試合開始前にその姿を見つけていた晃は、とことこ、と近づいていった
 そうして、くっくっ、真降の服の袖を引っ張った

「え?……あぁ、晃君ですか。こんにちは」
「……こんにちは。真降君も、試合を見に?」
「はい。まぁ、出場するチビ逹のお目付役兼手合わせ役かねてですが……そちらは」
「………試合、見に来た。優は出るけど、自分含めてみんなは、出ない」

 試合に出ないのだから、神子の手伝いで実況の方に……とも、ちょっと考えていたのだが
 そもそも、自分ではうまくしゃべれないから無理だろう、と晃は実況係は辞退していた
 TRPGでGMをやっている際はすらすらと喋る事ができても、それ以外では少し、喋るのは苦手だ
 ………TRPGやる時のように、誰かになりきっていれば実況が出来ただろうか。流石に、試す気にはなれないが

「……さっき」
「?」
「愛人と美亜さんの試合の、前。慶次さん逹、見てた?」

 そう、愛人逹の試合が始まる前
 真降が慶次と郁の様子を見ていた辺りから、晃は真降逹の姿に気づいていた
 …遥の方は、気づいていたかどうかわからない。治療室に向かった憐の事で頭の半分以上が使われていたはずだから
 事実、今も遥はまだ真降の方に気づいていないようだ

「気になること………あった?」
「……まぁ、少し」

 ちらり、真降がもう一度、慶次と郁を見る
 二人は、試合の合間にフリー契約者の資料に目を通しているようだった
 あの契約者は来ていないらしい、等と話しているのが少し、聞こえてくる

「彼の担当黒服が彼を見る視線が、少し……」
「………?………慶次さんの担当黒服、郁さんじゃ、ない」
「あれ?」
「………慶次さんの担当、は。赤鐘 愛百合の方。ANo」

 少し考えている様子の真降
 納得がいったのか、あぁ、と声を上げる

「そうだ、郁さんはかなえさんの担当でしたね」
「ん、そう………郁さんも、慶次さんと一緒にいる事、結構多いけど」

 ややこしい、とは晃も思う
 強行派である愛百合からの影響を少しは薄めようとしているのか、慶次はかなえと郁と共に行動する事も多いのだ
 最近では、その二人どころか天地と組むことすらあると言うが

 ……と、真降が「あれ?でもそれじゃあ……」と、新たな疑問が浮かんだようではあったが

「…あ、次の試合、始まる」

 そう、次の試合が始まる
 遥が「げ」と言う声を上げているのが聞こえてきた

 次の試合の出場者の片割れは、遥が「絶対にかなわない」と常に言っている、あの人だ
 





 対戦相手であるその女性を、キラはじっと観察した
 長い黒髪は頭の天辺でポニーテールにされており、銀色のリボンで結ばれている。翡翠色の瞳は、まっすぐにキラを見つめ返してきていた
 武器らしい武器は持っていない。服装はパーカーにジーンズと、戦闘用なのか地味な格好だ

(……日景 アンナ。「首塚」所属……日景 翼とセシリアの娘にして長女。日景 遥の姉)

 キラがすでに持っている情報は、それくらいだろうか。確か、遥より二つ年上……今年で18歳だったはず
 対してアンナの方は、どの程度キラの情報を持っているのだろう
 実はお互い、契約都市伝説に関する情報は与えられていない
 試合の中で、相手の契約都市伝説を見抜け、と言うことなのだろうか

『それでは、第5試合、開始っ!!』

 開始の合図
 小さく、アンナが笑った

「はーい、それじゃあ………年下相手でも、容赦はしないわよ?」

 アンナが、静かに構えた
 あれは、何の格闘技の構えだったか………どちらにせよ、戦闘方法は接近戦か
 契約都市伝説も、接近戦闘向きのものなのだろうか
 油断なく、キラは手元に氷の剣を作り出そうと………

「え?」

 ……どろり、と
 氷の剣の表面が、溶け始めた
 それに驚いた瞬間、アンナが地を蹴り接近してくる
 繰り出された拳を避け、一旦、距離を取った
 もう一度、氷の剣を作り出しながら、ちょうどよい距離を保とうと

 ぐちゃり

「っ!?」

 地面の感触が、おかしい
 見れば、どろり、と、地面が溶けてきているような……

(これは……彼女の契約都市伝説の正体と、能力を把握しないと、危ない)

 アンナもアンナで、キラの契約都市伝説を見定めようとしている気配がある
 どちらが先に見抜くことが出来て対応できるか、まさに、それが求められようとしていた



to be … ?

 観客席では、試合に出る準備をしていた澪や、試合観戦をしていた藍が、異変に気づいていた。
「変だね。いつものキラなら、迷わず突っ込んで行くのに」
「同士桃に考えがあるとは思えないし、相手の能力に足止めされてるのかも」
 酷い言いようだが事実だ。実際、今のキラに策らしい策はない。だが闘志は損なわれてはいなかった。
(地面のこの様子…ぬかるんでるのか、あるいは…溶けてる?)
 そう判断したキラは地面に向けて吹雪を放つ。
「凍れ!」
 ぴきぴきと音を立て、融けかけた地面がアンナに向けて凍り付いていく。
「だぁあああああ!」
 すかさず凍った地面の上を全力疾走。アンナとの距離を詰めて氷の剣を振りかざす。

 どろり

 またしても、氷の剣が溶け出すが、キラは構わず振り下ろした。切れ味は犠牲になっても、打撃には使えるはずだ。
「っ!」
 氷の剣を紙一重でかわしざまに、アンナの蹴りがキラの脇腹を掠める。
「…っ!ととっ」
 蹴りのダメージ自体は大したことはないものの、融けた地面に足を取られてよろめいた。
「隙あり」
 キラの体勢が崩れたのを見逃さなかったアンナの、続けざまの蹴りがキラを襲う。
「わっ!っよっと!」
 キラも紙一重で続けざまの蹴りをかわしていくが、融けた地面に足を取られる自分の方が接近戦では不利と悟り、距離を取ろうと下がる。
「さーて、どうしたもんかな…」
 物を溶かす都市伝説。「コーラは骨を溶かす」を拡大解釈しているか、はたまた他の都市伝説か。
「これならっ!」
 アンナに向けて吹雪を放つ。
「!」
 正確には、アンナの足下に向けて。
「これは…」
 アンナの両足が、地面に氷で封じ込められている。
「いまのうちっ!」
 どうせ溶かされてしまうのだ。その前に速攻で片を付けなければならない。
「いっけえええ!」
 じゅっ

 嫌な音を立てて、アンナの足下の氷が溶ける。間一髪、氷の剣をかわした。


 観客席では。
「ね、藍、あの都市伝説なんだと思う?」
「そうね…いくつか候補はあるけれど」


続く

 ……なるほど、凍らせる能力なのだろう
 何度溶かしても、氷の剣を出してくる。それだけではなく、足元も凍らせてくる

(相性の問題で言うと、普通に考えればこっちが有利なんでしょうけれど)

 それでも、油断はしてはいけない
 アンナは、そう考えていた
 勝負において最も危険なのは、油断、慢心、そして軽率
 慎重たれ、しかし大胆たれ
 慢心していても勝負に勝てるのは、「首塚」首領たる「将門」様のような圧倒的な存在だけ
 そして、自分にはまだ、それだけの圧倒的な力はない
 だから、油断しない。慢心しない。軽率な考えは抱かない
 本当であればもう少し距離を詰めて攻撃を続けたいところであるが、あまり接近し続けるのも危険だろう
 ……一瞬で凍りつかされてしまえば、そこまでなのだから

(あの子の能力の効果範囲がわかればいいんだけど……)

 こちらの能力が届く範囲は「視界が届く範囲」……自分の父親と同じだ
 彼女、桐生院 キラの能力が視界が届かない範囲まで届く場合、こちらは不利となるだろう

(それでも、相手の動きはまずは封じたいわね)

 だから、発動する
 自身が契約している都市伝説による能力を
 先程までは足元を「溶かす」ことで動きを封じようとしていたが、そちらはすぐに対処される
 ならば、別のものを溶かすとしよう
 幸いにして、この銭湯ステージは町中をイメージした作りになっている
 …町中以外のステージだったのは、優とゴーレムの試合くらいだろうか
 戦いを魅せやすいステージとなると、町中の方がいいのだろうかと勝手に考えながら………見た先は、キラの周辺の建物

 能力を使い、効果が発動するまで少し時間がかかってしまうのがこの能力の欠点だ
 前もってある程度能力を発動させていた地面に、先に効果が現れる

「っわ、わわ……!?」

 キラの対応は早い
 すばやく地面を凍らせて溶けた地面に足がめり込むのを防ぎ、こちらへと氷の剣を生成しながら接近してくる
 その攻撃を避けながら、能力の発動を続ける

 ……そろそろ、いける!

 キラが作り出した地面の氷を利用して、滑るように移動してキラから距離を取った
 そして、能力により「温度をあげていた」建物へと止めを刺すように強く、能力を使った


 溶けた、融けた
 キラが立っている位置の左右の建物が、地面が
 ほぼ同時に、溶け融ける
 足元のバランスを崩した上で、建物のいち部を溶かし、崩した建物の上層を彼女に向かって崩していく
 一歩間違えば下敷きになって大惨事だが……恐らく、大丈夫だろう
 彼女も契約者なのだから


 溶かす事、融かす事
 それが、アンナが契約した「人肉シチュー」の能力だ
 見える範囲の者の、物の温度をあげていき、融点に達した時点で溶かし融かす
 その都市伝説で語られている、長時間風呂で煮込まれ煮崩れた女性のように溶かし崩すのだ
 本来、人間にしか効果が及ばないその能力を契約によって人間以外の物体にすら効果が及ぶようになった
 ……もっとも、元から実体のないものには効果が及ばないのだが


 ………さぁ、どう動く?
 圧倒的質量をキラの頭上へとふらせながら、アンナは次のキラの動きを警戒した



to be … ?

 はらはら、はらはらと
 何か、羽毛のようなものが降り注いでくる感触
 羽毛のようなそれはふんわりと暖かく、優しく

「………まな?」

 呼んできた声は、かつてそう呼んできた声よりもう少し成長した声だった
 …昔からそうだった。優や晃、神子の事はそのまま呼んでいたが、他の面子の事は「なお」とか「はる」と少しだけ縮めて呼んできていた
 怖がりで臆病ではあったけれど、信じた相手には人懐っこかった
 それは、三年ぶりに会って、話し方も雰囲気も、「表向き」が全て変わっても同じだった
 そうして

「………っ」
「あ、ま、まだどっか痛い?大丈夫?どこ、痛い?」

 はらはら、はらはらと
 輝く羽根が舞い散る
 憐の「ラファエル」の能力によるものだろう
 この舞い散る羽根にも治癒の力があると知ったのは、目の前で怪我した誰かを見て憐がパニックになり、能力を暴発させた時だった
 あの時、怪我をしたのは誰だったか………

「少年、ストップー。本格的に私の仕事がなくなると言うか、一歩間違ったらこの治療室が君の羽根で埋まるからやめよう?」

 ……聞き覚えあるようなないような大人の男性の声
 ようやく意識がはっきりしてきて、目を開く
 こちらを見下ろし、泣き出しそうな顔をしている憐と、目があった
 やはり、背中から「ラファエル」としての天使の翼が出ている
 先程まで……否、今現在まで降り注いでいる羽根は、やはり憐の治癒の羽根だったようだ
 それは、まるでこちらを埋めるように降り注ぎ続け………
 …………………待て

「憐、待て、待った。埋もれる。窒息する」
「窒息はせんと思うけれど、ふっわふわのものに埋もれたある意味幸せ状態かもしれんよ?」
「そこのおっさんは憐を止めたいのかもっと能力使わせ続けたいのかどっちだ!?」

 先程にも聞こえた声の男性に、相手が誰かも確認せずにツッコミを入れた
 がばっ、と起き上がる。体の痛みは消えている。が、急に起き上がったせいか、くらり、目眩がした

「まな、まだ寝てないと……」
「いや、憐、大丈夫だ」

 えぅえぅと泣き出しそうになっている憐の様子は、昔と何も変わっていない
 ……何年経とうとも、その根っこはそのままなのだろう

「……本当に?本当に、大丈夫?我慢とか、していない…?」
「していない。大丈夫だ。そこまで心配しなくてもいい」

 そうだ、憐は昔から心配しすぎだ
 ……いや、昔よりも、心配性になっているような?

「………なら、いいんだけど」

 うつむくその顔と、喋り方は、昔と同じかそれ以上に弱々しく

「……………咲季さんみたいにいなくなってしまうのは…………嫌だよ」

 そう呟いた声は、小さく、震えていた



「……あの少年は、本当に怖がりであるねぇ」

 ちくちくと、美亜用の服を作りながらそう口にした「先生」
 …なお、彼女の体のサイズは測っていない。「目測でわかっているから大丈夫」との事だが、そちらの方が大丈夫じゃないのではないだろうか

「怖がりにも程があると思うけど……後、服は穴だらけなだけだから別に作らなくとも」
「失った恐怖が大きすぎたから仕方ないのだろうね。そしてお嬢さんの服に関しては、年頃のお嬢さんがそんなボロボロの服ではいかんよ……っと、できた」

 す……と、「先生」が完成させた服
 それは腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートに、白いブラウス
 腰のクビレを際立たせ、胸が大きい場合ボンキュッボンを強調させ、ブラウスで清純な雰囲気を醸し出させる………

 ごがすっ!!

「普通の服にしろっつったろ」
「はっはっは。我が弟子よ、後頭部踏みつけられると流石にちょっと痛いぞ」

 みししっ、と灰人に後頭部踏みつけられている「先生」の様子に、「あぁ、いつもこうなんだな」と謎の納得をした美亜であった





to be … ?

 御簾の向こう側の気配が、小さく笑ったのがわかった

「楽しまれているようですね」

 幸太が声をかけると、「あぁ」と短く、返事が返ってくる
 御簾越しであっても、モニターに映し出される試合の様子ははっきりと見えているらしい
 楽しんでいるのならば、何よりだ
 なにせ、将門公からの頼みとは言え、無理に来てもらっているのだし………

「……他の連中から、見物の権利を勝ち取ったかいがあったと言うものだ」

 …………
 …どうやら、将門の知り合いの祟り神の中から、誰が試合の見物に来るかでちょっとした勝負事があったらしい
 どこで勝負したのかわからないのだが、勝負の現場が大変な事になっていそうである
 もっとも、幸太にとっては学校町での出来事でないならば、あまり関係ない事だが

(今のところ、おかしな動きをする者もなし、か)

 白面九尾の狐、バビロンの大淫婦、「怪奇同盟」の盟主
 これらのうち、いずれかの尻尾をつかめたら
 そのような目的もあって、今回の第二回合同戦技披露会は開催された訳だが

(どこまで、尻尾を出してくるだろうね)

 そして、尻尾を出してきたとして
 「その情報を掴んだ者がどれだけ、情報を流してくる」だろうか?

(……どう転んだとしても。「狐」に関わる物語の結末は、変わりはしないのだろうけれど、ね)

 ほんの一瞬だけ、「鮫守 幸太」ではなく「ハッピー・ジャック」としての顔になり
 しかしすぐに元に戻って、幸太は試合を映し出すモニターへと、視線を戻した



 御簾の中で、長屋王はくつろいだ様子で試合を見ていた
 「もにたー」とやらは彼が生きていた時代からすれば妖術の類にも見えるものだが、流石に時代が移り変わっている事は理解している
 今の時代にはそのような技術もあるのだろう、と言うことで納得している
 そもそも、自分達のような存在が「都市伝説」と呼ばれている時点で、自分逹の時代とは違うのだ

(……しかし、なかなかに面白いものだ。これならば、「曾我兄弟」にでも譲ってやってよかったか………】

 …いや、ここで馬鹿な騒ぎを起こさすような輩を牽制する意味では、自分が来るのが正解だっただろう
 己は、大きな問題が発生しないようにとの抑止力なのだから

 ちらり、御簾の隅に置かれた、小さな犬の像を見る
 この御簾の中から、己の祟り神としての力が漏れ出さないための結界を張るために、何だったかの契約者が置いていった物だ
 ここに来るまでの籠の中にも置かれていたところを見ると、これが結界能力発動の鍵となるらしい

(…結界を張った者は、「狐」から逃げていて将門の元に保護されたのだったな………「狐」め、随分と暴れたらしいな)

 幸い、己の膝下は「狐」に荒らされていない
 あちらも祟り神や神に相当する者が守護する土地にはあまり積極的に手を出さなかったのか、それともたまたま、狙われなかっただけか
 …どちらにせよ、将門の完全な膝下ではないとはいえ、あの男が執着している学校町と言う土地に手を出した時点で、今後さらに派手に動くことに違いはない

(学校町に入ってからは、「狐」当人の動きは一切ないようだが………何か企んでいるにしても、妙だな)

 気配も何もかも消え失せ、配下すらも「狐」を見つけられずにいるらしいとの話も聞く
 …まるで、「狐」自体が消え失せてしまったかのような状況

(………何者かに、「封印」でもされたかのような)

 だとしたら、封印したのは誰なのか
 何故、封印した事実を他者に話していないのか………


 「長屋王」には、現状推察しか出来ない
 なにせ、彼はこの「物語」のゲストキャラに過ぎず、「物語」に深く関わるわけではないのだから
 ただ、彼はこのように考える
 何者かが「狐」を封じているのだとして、しかし、それを「首塚」や「組織」等にも一切知らせていないのは、その者に何か考えがあるのだろう、と




to be … ?

 観客席にて。
「藍はどう思う?」
「あの溶けるような崩れかた…『コーラは骨を溶かす』を拡大解釈してるのかも」
 澪は頷きつつ、思索を巡らせる。
「溶ける…崩れる…もしかして」
「何か考えがあるの」
「あるじゃない、他にも人体が溶ける都市伝説」
「…あ!」
 緑は話についていけず不満げだ。
「話が見えない。お前ら何が言いたいんだ」
「藍、せーので言うわよ」
「早く言え」

『人肉シチュー』

 観客席の憶測はさておいて、キラは頭上に降りかかる溶け崩れた家屋の対処を急いだ。
(これだけの建物を全部凍らせるヒマはない。それなら…)
 頭上に力を集中し、降りかかる建物を凍らせる。
「行けっ!」
 そのまま左右と足下に張り巡らせた氷をアンナの方まで延ばしてゆく。
 分厚い、氷のトンネルが出来た。
「たあああああっ!!」
 氷の上を滑りながら手元に氷を生み出す。先の尖った細い棒。氷の槍だ。
 ひゅんと投げると、アンナはなんと言うことのないようにひらりとかわす。
「かかった!」
「!?」
 下半身の違和感に気づいたアンナが視点を下げる。
 …下半身が全て、分厚い氷に覆われている。氷の槍は、下半身を凍らせる間、注意を逸らせる罠だったのか。
「これっくらいなら、直ぐには溶かせないでしょー!」
 キラは拳を氷で固め、アンナに向かって振りかぶる。
「アイス・ナックルパーンチ!」


「この勝負、同士浅葱はどうみるの?」
「互いの能力を喰い合っているうちは互角、だとおもう」
「同士桃の攻撃範囲は、どれくらい?」
「一応、視認できる範囲全て。吹雪はもう少し広範囲に出せるけど。それより…」
「それより?」
「戦況が膠着状態になって、決着を急ぐと、キラが危なくなる」
 キラはせっかちだしね、と澪は苦笑いして、拳をアンナに振り下ろそうとするキラに、真剣な眼差しを注いだ。



続く

 建物を溶かし崩すような大技を使った
 その時点で、「あぁ、焦れてきたんだな」と遥は判断していた
 なにせ、自分の姉である。ある程度考え方はわかる

(……と、なると。こりゃ「奥の手」使うかもしれないな)

 「奥の手」はいくつか持っているはず
 そのうちの一つは確実に使うだろうな、と

 その遥の予想は、すぐに当たる事となる


 振りかぶられた拳を、アンナは確かに見ていた
 下半身の分厚い氷を溶かすには間に合わないはずだった

 そう、「氷を溶かす」のは、間に合わない

「…………え?」

 ぐちゃっ、と
 キラの目の前で、アンナの体が「溶け崩れた」
 すかり、キラの拳は空を切る

「どこに……!?」

 分厚い氷での中には下半身すら、残っていない
 慌てて覗き込めば、どうやら地面を「溶かして」地面に逃げ込んだらしい……と、言うよりも

(まさか、「自分の肉体も溶かし崩せた」!?)

 先程からの能力の及ぶ範囲を見るに、視界の範囲内を溶かし崩しているのだろう、と言うのはわかっていた
 なるほど、たしかに自分自身にも視線は届くだろうが………

(……待って。自分を溶かす、なんて無茶をやって………そもそも、「溶け崩れた」状態で視界の届く範囲、ってどれくらい?)

 警戒して辺りを見回す
 どこから、飛び出してくるのか、とそこを警戒し……

 ………ぼごぉっ!!

「っわわ!?」

 キラが立つ位置、その周りをぐるっ、と囲むように、地面が一気に崩れ落ちた
 バランスを崩しそうになり、急いで体勢を立て直す
 そして、その直後………溶け落ちた地面の向こう側から、アンナが飛び出してきた


 少しだけ、遡る
 実況席から試合の様子を見ていた神子は、アンナの体が溶け崩れた瞬間、思わず「うわぁ」と声を上げていた

「慣れないなぁ、アンナのあの「奥の手」」

 自らの肉体に向かって「人肉シチュー」の能力を使い、溶かし崩す
 アンナが使う「奥の手」の一つだ
 溶け崩れた状態でもアンナの意思は残っており、痛みを感じる事もなく、その溶け崩れた状態のまま自由に行動出来る
 若干、視界の広がる範囲が狭くなるのが欠点、とは当人が言っていた言葉だが、溶け崩れた体を広範囲に広げれば、広がった分視界が届く範囲は広がるのだから、半分詐欺だ
 しかも、溶け崩れた状態から元の姿に戻るのは、ほぼ一瞬で完了してしまう
 当人が能力を使いこなす為に努力した結果とはいえ、なかなかに反則気味だろう

(ただ、流石に長時間溶け崩れた状態ではいられない、とも言ってたのよね。となると………)
「……こりゃ、アンナさん本気になってきたな」
 

 神子の思考を知ってか知らずか、そう口に出した直斗
 そう、先程までも決して手加減していた、と言う訳ではないのだが、本気でもなかった
 しかし、あの奥の手を使った以上、本気と見ていいだろう

「そうなりますと、そろそろ………」

 次にアンナが使う、今まで使っていた能力
 「人肉シチュー」の応用で発動可能なその能力を使うだろうと、龍哉が口に出しかけたのと
 アンナが、それを使いだしたのは、ほぼ同時だった


 繰り出された蹴りを、キラは分厚い氷を作り出す事で不正だ
 しかし……

(攻撃が、さっきまでよりも重たい!?)

 それだけ、ではない

「早………」
「遅いっ!!」

 っひゅっひゅっひゅ、と連続して繰り出される蹴撃
 早い
 一撃一撃のスピードも、上がっているのだ

「まさか、身体能力が上がって…………熱!?」

 攻撃を避けながら、気づく
 自分の、足や腕の部分だけ、「体温が上がってきている」と

 ……一定ラインよりも体温をあげられたら、溶かされる!!

 ひゅうっ、と自分の足と腕を氷で覆い、体温を下げる
 が、相手は能力を発動し続けているのだ
 遅かれ早かれ、溶かされる可能性はある

「なら、一気に……」
「……決める!!」

 相手も、考える事は一緒だったのか
 アンナのスピードが、さらにあがった

 半ば残像すら残しながら、一気にキラの懐へと潜り込んで

「ーーーーーーっ!!??」

 重たい一撃
 いや、一撃ではない。連撃を浴びたのだと理解したのと
 キラの意識がぶつりっ、と途絶えたのは、ほぼ同時だった


「ーーーーっふぅ」

 きゅう、と気絶したキラを見下ろし、アンナは息を吐き出した
 「人肉シチュー」の能力を自分に使用し、「意図的に体温をあげる」事によって、「熱量エネルギーを身体能力へと変換させる」
 ……父親である日景 翼が、「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力を自分自身に使う事によってやっていることと同じ事を、アンナもまた出来た
 ただ、父親とは違いかなり最新の注意を使いながらでなければ間違って自身の肉体を溶かし崩してしまうため、精神力の消耗が激しい
 使いだしたからには、一気に勝負を決めるしかなかったのだ

「…に、しても。自分を「溶かし崩す」のも、「溶かし崩さない程度に体温を上げて身体能力をあげる」のも、使わないつもりだったのに」

 使わなければ勝てなかった
 つまり、自分はまだまだ、と言うことである

 もっと、鍛錬が必要である
 アンナはそう、自覚したのだった




to be … ?

 キラとアンナの戦いの決着がつき、(主にアンナが)戦闘舞台を派手に壊したので修復と言うか次の試合までの準備というその時間
 慶次はフリー契約者の情報をタブレットPCで確認していた
 郁が望逹に渡した物と同じ情報だ
 普段。CNoが管理している情報をここまで自由に見る機会は慶次にはないため、これを機会に試合の合間合間に読み込んでいた

「……「人間にも発情期が存在する」の契約者は、流石に来てねぇか」
「そのようだね。まぁ、いくらでも悪用できる都市伝説と契約しながらも、それを悪用せずに何年も過ごしている人物だ。どこの組織にも加わっていないようだし、今後もそのつもりであるなら、こういう目立つ場には現れないだろうね」

 何人か、契約都市伝説の関係や当人の人間性から「要注意」となっている者を主に確認し、この会場に来ているかどうか探してみる
 今のところ、その手の人物で目立っていたのは「九十九屋 九十九」くらいだろうか
 他も、ちらちらと姿は見かけたが試合にはまだ参加していなかったり、そもそも参加する気がなさそうな者のようであった

「………っと、どうやら、次の試合のようだよ」
「ん?あぁ、そうか………って」

 ちょっと待て
 モニターに映し出される会場の、その中央に立つ人物の姿に、慶次はそのツッコミの言葉を叫びそうになったのを、すんでのところで、押さえ込む事に成功した


「……それでは、次の試合は特別試合。スペシャルマッチとなります!」

 実況席にてそのように言いつつ、「大丈夫なのかなぁ」ともちょっぴり思う神子
 そう、スペシャルマッチ、である
 それも、1対多数の
 モニター越しに映る会場のど真ん中に、全身「白」と言い表したくなるような男の姿があった

「「組織」X-No,0事ザン・ザヴィアー!本来なら色々仕事でこういう場に参加できないはずなのですが、明日で日本に滞在していられる時間が切れるとの事で……」
「日本で発生中の仕事に手を付けると半端になるから、と言う理由で仕事に手を付ける訳にはいかない、と」

 「マリー・セレスト号」と「さまよえるオランダ人」の多重契約をしてしまい飲み込まれたザン
 能力は強大であるが、欠点として「さまよえるオランダ人」の特性により、一つの場所に長い間とどまる事ができないのだ
 今回も「狐」の件やら「怪奇同盟」の盟主暴走の件やら、本来上位Noも仕事は山積みであるはずなのだが、そちらの仕事をさせてもらえないための、今回の試合への特別参加だ
 ……もっとも、ザンにとっても、これに参加することである程度情報を集めようという意図があるのかもしれないが

「えー、流石に「組織」上位Noとなると、ヘタな人とぶつかっても瞬殺が予想されます。よって、今回は特別ルールとして、ザン・ザヴィアーと他多数の契約者との1対多数の戦いとさせていただきます」
「ザンさんの勝利条件は、参加者全員を気絶、もしくはギブアップさせる事。他の参加者の方々は、誰か一人でもザンさんに一撃を加えられた時点で勝利となります」

 他にも、ザンは一部の能力に関しては使用しない、などの制限がある
 制限があってちょうどいいくらいなのだ、あの「組織)上位Noは
 一時期「組織」を離れていたあの男が「組織」に戻った事は、「組織」にとって大きな利益である事だろう

「…………では、説明終わり!試合開始!!」

 神子が試合開始を宣言すると同時
 ザンの周辺の空間がぐにゃり、歪んで

「あっ」
「おー、さっそくやったな」

 ザンの周辺に出現した大量の海水と巨大な烏賊の姿に、直斗は感心したような声を上げた


 ビルが立ち並ぶオフィス街のような戦闘フィールド。その地面を海水で満たしていく
 もしかしたら溺れた奴がいるかもしれないが、多分大丈夫だろう。死にはしない

 己の周辺にはクラーケンを出現させ、ザンは海水の上に立ちながら辺りを見回す
 自分以外は全員倒せばいい。なんともシンプルな事だ

「さぁて、どこから来る?」

 遠距離からの狙撃か、それとも正面から来るか
 警戒していると……近づいてくる、気配
 水中から迫るそれに気づくと同時、ザンはクラーケンの足へと飛び乗って、高く跳ぶ
 その瞬間、一瞬前までザンの立っていた位置をがぶりっ、と
 巨大な生物の牙が、空振った


「…………でっか!?」

 ザンへと襲いかかった巨大生物を見て、思わずそう口にした神子
 龍哉は、モニターをじっと見つめて首を傾げる
 

「ずいぶんと、大きな鮫ですね。どのような都市伝説でしょうか?」
「……「メガロドン」辺りじゃね?UMA系の。確か、それと契約してるフリー契約者の情報あったよな」

 直斗がそう口にすると、えっと、と神子はタブレットPCで「組織」から渡されたフリー契約者の情報を見る
 そうすると、たしかに、いた
 「メガロドン」との契約者が

 メガロドン自体は、約1,800万年前から約150万年前にかけて実在したとされる巨大鮫である
 その歯の化石は、日本においてはしばらく「天狗の爪」とも呼ばれていたと言う
 一時期は最大個体の全長は40メートルはあるだろうとも言われていたが、流石に否定されており、推定値で約13メートルや20メートルと言われている

 ……が、今現在、ザンへと飛びかかり、再び水中へと潜った巨大鮫の姿は、全長40メートル程であった
 メガロドンは今現在も生存している、と言う生存説としての都市伝説のメガロドンなのだろう
 契約者本体とは別にメガロドンが出現するタイプなのか、契約者自身がメガロドンに変化するタイプなのかは、わからないが………前者であった場合、契約者は海水に飲み込まれずに無事だと言うことだろうか

「しかし、巨大クラーケンと巨大鮫の対決………」
「前にみんなで見た、鮫映画を思い出します」
「うん、ちょっと思い出すけど、流石にあれはハリケーンと一緒に飛んできたり………は………」

 …モニターに、ちょっぴり信じられないものが、映る

「おー、すげぇな。メガロドンってビルを泳ぐのか」
「泳ぐわけないでしょ!?いや、たった今、泳いでるけど!?」

 そう、そうなのだ
 メガロドンが、ビルの側面を「泳いでいる」。まるで、ビルの側面を「海面」として認識しているかのように

 某国において、何故か鮫系パニック映画は人気があるのかB級C級Z級と低予算っぽい鮫映画は多い
 その中で、「鮫がこんなとこ泳ぐ訳ねぇだろ!?っつか、こんなところに鮫でるか!?」と言うのがあったりなかったりするが………それの影響でも受けたのだろうか

 とにかく、ビルの側面を泳いだメガロドンは、そのままビルから飛び出してザンへと襲いかかっている
 ぐるりっ、とクラーケンの足に捕らえられ、みしみしと潰されそうになってはいるが……海面を、すぅー、すぅー、と巨大な鮫の背びれが横切る
 どうやら、メガロドンは複数いるようである

「ちなみに、他の参加者は……?」
「あ、溺れている人を回収している方が」

 モニターの済を、時折ふっ、ふっ、と船の影がよぎっていたのを、龍哉は見逃していなかった
 ボロボロの漁船が、契約者以外の人間も救助している最中らしい

 今のところ、ザンへ攻撃を加えているのはメガロドンだけだが………まだまだ、攻撃参加者は増えそうだ


 海水を出してもらえた事は、彼にとっては幸運だった
 「首塚」所属、「良栄丸事件」の契約者である良永 栄(さかえ)は、自らの契約都市伝説で生み出した漁船でもってザンが大量召喚した海面を進んでいた
 大地も走れるこの漁船だが、流石にスピードが落ちてしまうのだ
 だが、こうして海面であれば本来のスピードで移動出来る
 自身は船の制御に集中し、船とともに召喚した乗組員のミイラにおぼれている他の契約者を回収させていく
 ザンへの攻撃も行いたいが、今は他の契約者の回収が優先である
 自分以外の契約者に、ザンへの有効な攻撃を行える者がいるかもしれないのだから

「……っと、うわ!?」

 が、油断はできないようだ
 ミイラが回収しようとした相手が契約者ではなく、ザンの能力で呼び出された狂える船員で襲い掛かってくる事もある
 慌てて、ミイラ逹に命じて再び海へと突き落としたが、他の回収した契約者も同じように狂える船員に応戦している
 そう簡単には、終わらせてはくれない、と言うことだ



 まるで水没した都市のようになった戦闘フィールド
 そこを舞台に、ただ一人を狙った戦いは、まだ始まったばかりである








to be … ?

医務室にて
「……………咲季さんみたいにいなくなってしまうのは…………嫌だよ」
「居なくなりはしない、その為の力だ」
まぁ…確かに
「親父お袋は愚か姉さんまで失踪してる現状信じろと言うのは酷かもしれんが……俺だって置いてかれる気持ちはよく分かってる積りだ、燐や遥よりは長生きする予定だしなぁ」
だから泣くなと、年上の幼馴染の頭を撫でてため息をつく。
しかしさっきの試合、買ったと思ったが負けた。
いや、何となく美亜が最後に撃った能力のタネはわかってるので最初から焼き殺すつもりで行けば勝ててた可能性は高い。
反省点は多い。

『……それでは、次の試合は特別試合。スペシャルマッチとなります!』
「スペシャルマッチ?」
医務室のモニターから聞こえてくる声に思わず首を傾げる。
見れば隣のベッドで先生とやらが作った服に袖を通してる美亜も同じ様子だ。

『「組織」X-No,0事ザン・ザヴィアー!本来なら色々仕事でこういう場に参加できないはずなのですが、明日で日本に滞在していられる時間が切れるとの事で……』
「「……………」」
『えー、流石に「組織」上位Noとなると、ヘタな人とぶつかっても瞬殺が予想されます。よって、今回は特別ルールとして、ザン・ザヴィアーと他多数の契約者との1対多数の戦いとさせていただきます』
「燐スマン」
「先生、この服もらって行きますね」
「「ちょっとX-No.0ボコってくる!」」
「ダメー!?」
「組織の上位ナンバー相手に戦うチャンスなんだよ!?」
「美亜さん、アンタご両親にバレてヤバイってさっき言ってたじゃないか」
「お小言確定してるなら後どんだけ暴れても関係ないよね!?」
「俺はさっきの反省点を見直したいからだな」
「まなはさっきあんだけ無茶したんだから絶対安静!!」
ギャーギャー言い合いしてる間にも試合は進んでいき…場面が少し動いた。

『さぁ、いぜん勢いを増すクラーケンvsメガロドンのB級クリーチャー対決!まるでアルバトロスの映画だ!?』
『鮫映画に鮫が出てくるだけでも評価できるな……お?』
実況席から上がる疑問の声。
モニターに映るは宙に浮かぶ無数の刃物がクラーケンの足をメッタ刺しにする光景。

「……………」
医務室の全ての視線が美亜に突き刺さる。
「い、いや…私じゃないよ?」
「て、なると誰が………」


クラーケンの足の上で戦場を見渡していたザンの目がそれをとらえた。
クラーケンの足をメッタ刺しにした刃物の群れ。
それは正確には刃物では無く…
「刃物を握った腕?」
こんな事をする存在に少しだけ心当たりがある。
刃物が飛んできた方へ目をやる。
やはりいた。

宙に浮かぶ無数のメイド姿のマネキン人形の群れ。
それぞれが手に大型の刃物や鈍器、あるいは盾を装備している。
人材不足を解消する為に投入された都市伝説によって稼働する自律駆動型のマネキン人形。
K-No.の黒服達。
そして、それらを統括し操る存在がいるとすれば………いた。

「加減が効かないかごめかごめと刃物は縁を切るは使用禁止、となると今回は私しか使えないわよ?」
「それで十分…なんて言える相手じゃないが手数は足りてる、暴れるにはちょうどいい」
「実戦からかなり離れてるけど勘鈍ってない?」
「ならここで取り戻すさ」
「OK、行くわよ契約者」
「あぁ、行くぞ希」
組織の幹部、No.0の1人にして唯一の人間。

「K-No.0」
「腕試しです、付き合ってもらいますよ…X-No.0」

影守蔵人が参戦した。

続く?

「…K-No,0まで出ているとなると、やっぱり参加し」
「駄目ーーーっ!?まなっちはまだ絶対安静ーっ!!」

 引き続き、ザン相手のスペシャルマッチに参加しようとする愛人を引き止める憐
 愛人の様子にちょっとは精神的な余裕が出てきたのか、喋り方が3年前からのものに戻りつつある

「…つーか、先生!先生もっとちゃんと止めて!今、この現場で一番医療知識しっかりしてる人!!」
「うむ、まぁ止めてもあまり効果がない予感しかないのであるが。とりあえず、そこな少年」
「何だ?」

 何やら、また新たに布を手にしている「先生」に声をかけられ、とりあえずそちらを見る愛人
 にこり、と「先生」は特に怒っている様子もなく笑ったままで、こう告げる

「先ほどまで、私があちらのお嬢さんの服を優先して作っていたのでうっかり忘れがちであると思うが、今の君は全裸だ。流石に医務室出るのやめよう?」

 そう、そうなのだ
 「先生」が女性優先だと言わんばかりに服がボロボロになった美亜の服の作成を優先していた為見落としがちかもしれないが、愛人は今現在全裸なのだ
 あの戦闘の結果全裸になって、そのままだったとのである

 この姿のまま、バトルフィールドに向かうというのは、大変と問題がある

「…シーツまとえば」
「チラリズム満載になるねぇ。どちらにせよやめようか」

 ちらり、愛人が憐を見れば、「絶対安静じゃないと駄目」とでも言わんばかりの表情
 ちらり、今度は灰人を見れば、「いいからおとなしくしておけ」と言わんばかりの表情

 ………総合して考えた、結果

「構わない、行く」
「駄目ーーーーっ!!」

 がっし!!
 それでも行こうとした愛人を、憐が全力で止めた

「憐、あのな。戦闘中は服が破けようが全裸になろうが、そんな事を気にしているようじゃ勝てる勝負にも勝てなくなるんであって……」
「それは戦闘中や緊急事態の話であって、今のお前は戦闘中じゃないし、あの戦闘はお前がどうしても参加しなきゃいけないような緊急性のあるものじゃない」

 憐に対して喋っていた愛人だったが、そこに灰人が容赦なくツッコミを入れた
 っち、と愛人はこっそり舌打ちする

「とりあえず、憐。離せ」
「離したら、まなっち、即戦いに向かうでしょ?」
「あぁ」

 ごがっ

「~~~~っ!?」
「清々しいまでに即答しない」
「あ。アンナさん」

 いつの間に、治療室に来ていたのだろうか
 アンナがごんっ、と愛人にげんこつ喰らわせ、強制的におとなしくさせた
 瞬間的に身体能力を強化して、強めにげんこつしたらしい。じんじんと痛むのか、愛人が頭を抑えている

「先生、大丈夫とは思うんだけど、ちょっと診察してくれるかな?遥が「念の為診てもらって来い」ってうるさくて」
「うむ。来なかったら我が助手に呼んでこさせようと思っていたからちょうど良かった。肉体を溶かし崩して戻す、と言うことをやったのだからね」

 憐が撒き散らしてしまった治癒の力がこもった羽毛を半分避けつつ、椅子を引っ張り出してくる先生
 取り出していた布地を、一旦端に置いた
 ……愛人の服の替えをなんとかするのは、またもや後回しになったらしい

「ほら、まなっちー。そもそも、冷静に考えたらもう選手受付終わってると思うから参加無理っすー。ここで大人しく見てるしか無いと思うっす」
「っく……なんという事だ………!」

 がっくりと、愛人がうなだれている間にも、モニターには試合の様子が映し出され続けている


 ………また、少し、戦況が動き出そうとしていた
 




 無数のマネキン人形の群れを見て、さて、とザンは思案する
 普段と違い、今回は試合であり、自分は一部の能力を使用しない、と言うことになっているのだ
 どう片付けたらいいものか………と、言うより

「影守、希。お前ら仕事はどうした」

 そう、仕事
 希が操るキューピー人形逹はこの試合の撮影を続けているはず……であるし、観客の誘導も、あのメイド姿のマネキン逹が動いているはずである
 医療班……は、問題ないのだろう。そもそも、あの「先生」が本気で仕事をするのなら、一人でも十分なのだし、本気で仕事をするのなら

「私の制御下ではあるけれど、殆ど自立行動させてるから大丈夫よ」
「この試合に参加した程度で、それらの制御が外れる訳でもないからな」
「なるほど」

 ……ただ、これは仕事があるからと今回の戦技披露会に参加できない天地が悔しがりそうではある
 後で教えておいてやろう

「だが、クラーケンを攻撃しているだけじゃあ、俺には届かないぞ?「クラーケンの足を落とせばいい」と思っているわけでもないだろう?」

 確かにクラーケンの足は滅多刺しにされている
 されてはいるが、この程度でどうにかなるクラーケンではない……と、言うよりも、それ以前に
 ザンが召喚できるクラーケンは一体ではない
 ざばぁあああっ、ともう一体。今度はタコ型のクラーケンが出現した
 それに、ザンの能力はクラーケンを呼び出す事だけではなく………

「撃ち方用意っ!!」

 と、その時
 突如として、少女の声が響き渡った
 その直後

「ーーーーー撃てぇっ!!!」

 そのような号令と共に
 大砲の発射音が、連続して響き渡った


「なんかすごい事になったーっ!?ザンに向かって、大砲が連続発射されてる!?って言うか、大砲ってここまで連射できたっけ!?それと何、あの海賊船!!??」

 思わず一気にツッコミする神子
 モニターに映し出されているのは、巨大な海賊船
 それが海賊船であるとわかるのは、その大きな帆は黒く、中央にドクロマークが描かれていたからだ

「……黒髭辺りじゃないか?海賊の。あの船、大砲40門近くあるだろ?「クイーン・アンズ・リベンジ」……アン女王の復讐号だと思うんだが」
「よく見てるわね、直斗。それと、よくそれで黒髭だってわかるわね」

 海賊黒髭
 それは、都市伝説ではない……が、伝説的な海賊と呼んで良い存在である
 大航海時代が終わった直後の海賊時代、その時代に生まれ落ち、大暴れした大海賊………エドワード・ティーチこと黒髭
 一般の船人だけではなく他の海賊逹からも恐れられたと言うその男は、ところどころに導火線が編み込まれた豊かに蓄えられた黒い髭が特徴であり、爛々と光る目は地獄の女神そのものである、とも言われた
 部下からすら悪魔の化身と恐れられたその男はカリブ海を支配下に置き、酒、女、暴力に溺れ莫大な財産を手に入れた
 世界でもっとも有名な大海賊であり、海賊としてのイメージを決定づけた大悪党である

 今、ザンに向かって大砲を撃ちまくっているその巨大な船は、その黒髭が使っていたと言う海賊船「クイーン・アンズ・リベンジ」………日本語で言うところのアン女王の復讐号のようだ
 40門もの大砲から、絶え間なく、連続してザンを攻撃し続けているが……

 だが、その猛撃はザンには届いていない
 ザンとその海賊船との間に、巨大な闇が生み出され、それが大砲の攻撃を全て飲みこんでしまっているからだ
 まるでブラックホールのようなその闇は、ザンが「マリー・セレスト号」の神隠し説の応用で生み出したものである
 その闇はザンと影守との間にも生み出され、マネキンの接近を防ぎ始めた

「あぁ、あの能力は使用可能だったのか」
「防御に使うのはオッケー。攻撃に使ったら問答無用で相手死にかねないから駄目だけど」
「なるほど、通りで「メガロドン」相手は使ってない訳だ」

 神子の説明に、直斗は納得したような声を上げた
 あの闇に飲み込まれると、その部分は容赦なく消滅させられてしまう
 生きた人間に使うと、高確率で一撃必殺になりかねないのだ
 死亡者を出す訳にはいかないので、攻撃には使えない

 ………だから、ザンを攻撃し続ける「メガロドン」に対して使えないのだ
 複数出現しているメガロドンであるが、その中のどれかが、契約者が変化した姿である可能性を否定できない
 故に、メガロドン相手には使えない
 ザンは「メガロドン」の攻撃を、ずっとクラーケンによって防ぎ続けている
 

「ただ、あれだけ闇の範囲が広いとモニター越しだとちょっと状況わかりにくくなっちゃってるわね」
「ですね。それに、闇の範囲が広すぎて、狙撃が難しくなったようです」
「そうねー………って、龍哉待って。狙撃って何」
「試合開始してすぐの頃から、ザンさん、ずっと狙撃され続けていましたよ。さりげなく、クラーケンの足で防いでいましてけれど」
「え、マジ?」

 はい、と神子に対して龍哉は頷いて見せた
 オフィス街のような戦闘舞台、その立ち並ぶビルのどこかに狙撃手が潜んでおり、ザンを攻撃し続けていたらしい
 最も、さり気なく防がれ続けている為、あまり効果はないようだが……

「あぁ、ザンさんも動きましたね」
「え、え?」

 囲まれた闇の中
 いつの間にか、ザンの姿が消えていた


「撃て撃て撃てぇっ!!弾幕を薄めるなぁっ!!」
「はっはぁ!!今の御時世で、ここまで派手にぶっ放せるとは思っていなかったぜ!野郎共、マスターの指示通り撃ちまくれぇ!!!」

 甲板の上で、前髪をカチューシャでしっかりとまとめているせいで少々でこっぱちに見える海軍提督のような服装をした少女と、いかにも海賊と言った出で立ちの豊かな黒髭を持った男が船員に指示を出し続ける
 「海賊 黒髭」の契約者である外海 黒(とかい くろ)と、契約された存在である黒髭は、それはもう生き生きと攻撃を繰り出していた
 「クイーン・アンズ・リベンジ」を召喚し、それに付属する船員逹と共に戦うと言う戦闘方法が主流であるが為、現代社会においては非常に戦いにくくて仕方がなかったのが、ここでは思う存分に戦えるのだ
 楽しいに決まっている
 相手は「組織」のNo,0クラス、これくらいやっても問題あるまい

 自分達の攻撃によって仕留められるか、と問われると………絶対に出来る、と断言出来ないのは少々悔しいが
 だが、こちらが絶え間なく攻撃し続ける事によって、他の者へのザンの注意が引きつけられるならば、一撃を当てるチャンスくらいにはなるだろう

 と、その時
 何かに気づいた黒髭が、黒の腕を引いた

「……!マスター。こっちだ!」
「っむ!?」

 ごぅんっ、と
 ザンが生み出した闇の範囲が狭まったと思うと、ごぅっ!!と、クラーケンの烏賊足が横薙ぎに襲い掛かってきた
 人間の身長を有に超える野太い烏賊足が、「クイーン・アンズ・リベンジ」のマストを掠める
 ぐらり、と風圧で船が多少揺れた
 これくらいならば、問題は…………

「……ったく、再生能力はともかく、身体能力強化なし、となればこういう手段とるしかないんだよな」

 先程、烏賊足の被害を免れたマストのすぐ傍で白いコートが、はためいた

「貴様……っ!?」
「おい、マスター。あの野郎、さっきの烏賊足で自分自身をここまで運ばせたみてぇだぞ」

 いつの間にか船に乗り込んでいたザンの姿に警戒する黒と、どうやってここまで移動してきたのかを見抜いたようにそう口にする黒髭
 …その通りである、黒髭の言うとおりに、ザンはここまで移動してきた
 生み出した闇でもって、烏賊足に己の身を包ませる様子を誰にも見せようとせず、こうして移動してきたのだ
 かなり、無茶苦茶な移動方法である
 ザンのように優れた再生能力持ち……と言うより不死身でなければ、衝撃で死にかねない

「むちゃくちゃな………っだが、わざわざこちらに飛び込んでくれるとは!」

 船に乗り込まれては、大砲による攻撃は使えない
 だが、自分達が使える能力はこの「クイーン・アンズ・リベンジ」の召喚使役だけではない
 海賊が扱う武器………カットラスやフリントロック銃を手元に出現させる事もまた、出来るのだから
 黒は手元にフリントロック銃を出現させ、ザンへとその銃口を向けた

 外海 黒は、その外見通りの年齢な中学二年生である
 いかに黒髭と言うトップクラスの海賊と契約していたとしても、当人の戦闘経験はさほど多い訳ではない
 故に、彼女は気づけなかった
 あたりに漂いだした、アルコールの香りに
 彼女が契約している黒髭の方が先に気づいて

「ばっか、マスター。今すぐ逃げ………っ」

 黒髭の言葉が終わるよりも先に
 ニヤリ、笑ったザンを中心に、爆音と爆風が撒き散らされた
 

 「マリー・セレスト号」。乗組員が誰一人残っていない状態で漂流していたところを発見されたその船には、様々な都市伝説が語られた
 何故、船員が誰一人残っていなかったのか、そこには様々な説が好き勝手に唱えられた
 それらの中には「船員が皆神隠しにあってしまった」だの「クラーケンに襲われた」だのと言うものがあり、ザンの能力はそれらに由来したものなのだ
 そして、その様々な説の中にはこんなものも存在する
 「船の中には、空になったアルコールの樽が9つあった。すなわち、それらの樽からアルコールが漏れ出し、船内にアルコールのモヤが発生。それを見て船が爆発すると危険を感じた船員が船を脱出した」と言うもの

 その説の応用であろう大爆発は、黒と黒髭を吹き飛ばし………更にいえば、「クイーン・アンズ・リベンジ」そのものをも、吹き飛ばした
 黒髭は黒を抱え込み、海面へと着水する

「ぷはぁっ!!……マスター、気絶していねぇだろうな!?」
「げほ……っ。見くびるな。この程度で意識を飛ばすものか」

 黒髭に抱えられた状態で、海面から顔を出す黒
 気絶してしまえばそこで失格だ。そう簡単に意識は飛ばせない
 しかし………

「ティーチ、すぐに船に戻……」
「戻りてぇのは、山々なんだがな」

 二人の目の前で、「クイーン・アンズ・リベンジ」が沈んでいっている
 ザンが起こした爆発でマストが吹き飛んだ上、船底まで穴を空けられてしまったらしい
 「クイーン・アンズ・リベンジ」はたとえ沈められようとも、また召喚は出来る………ただし、一度沈められた場合、最低24時間後でなければ、改めて召喚はできない

「あの男は……」
「向こうだ」

 黒髭が指した先。再びクラーケンの足に乗ったザンが先程までと同じ位置へと移動しようとしている最中だった
 ……届かせられる攻撃手段が、なくなってしまった
 もはやリタイアも同然の状況に、黒は悔しげにザンをにらみあげた


 繰り出され続ける影守からの攻撃と、何処かから繰り出され続けている狙撃。そして「メガロドン」の攻撃を防ぎながらザンは考える
 どうやら、こちらの様子を伺っている者も複数いるようだ
 先程の海賊船相手だけではなく、もうちょっと、仕掛けてやろうか

 クラーケン逹へと、指示を出す
 まだ海面には姿を出していないクラゲ型クラーケンは引き続き待機させ、烏賊型とタコ型へと司令を飛ばす

 巨大な烏賊の足とタコの足が、暴れ狂い出す
 あちらこちらのオフィスビルを薙ぎ倒し、飛びかかってきた「メガロドン」をぐるり、絡め取って

 ぶぅんっ、と
 全長40メートルもの巨体の「メガロドン」を、影守に向かって、投擲した




to be … ?


「影守!!」
こちらに向かって落ちてくるメガロドン・・・回避はまぁ間に合わない。
地上ならともかく、今は空中で、それも浮遊してるのではなく、周囲に浮かせたバラバラキューピーを足場に跳躍してるだけだ。
「希、来い!」
希が自分に捕まったのを確認すると同時に刀を鞘に納め居合いの構えを取る。
やる事は今までとかわらない。
「かごめかごめ」
次の瞬間影守の姿はその場から消え、メガロドンより遥か上空で、黒服の首が一つ飛んだ。

『K-№0が消えた?』
『かごめかごめの瞬間移動能力!?』
『あらかじめ上に待機させていた黒服さん達が一人を囲む形を取っていたのですね』

影守の「かごめかごめ」は斬首の歌。
囲った対象の行動を制限し、あらゆる条件を無視しその背後への移動と斬首が一体化した都市伝説である。
「かごめかごめを回避に転用したのか」
「普通にやっちゃ避けれませんでしたし、貴方と同じで攻撃には使えませんが回避ではその限りじゃない」
そう、影守の「かごめかごめ」もまた一撃必殺、模擬戦では本来使用できる能力ではない。

「っと、助かった・・・大丈夫か?」
影守が片手で握っている今しがた切った部下の首に声をかける。
「はい、首のパーツが真っ二つですが部品交換で即座に復帰可能です」
「あんたは一度下がって部品の交換を、残りは4体1組で散開、常に中央に1体置いて残り3体で囲むように動きなさい、影守の回避で首が破損した場合は速やかに離脱、首の部品交換が済み次第復帰、良いわね?」
戦場に召還された全てのマネキンから了解の声が上がる。
「行け!」
指示通りに4人一組となった黒服達が四方八方からザンに迫る。
「黒服程度でどうにかなると・・・」
投げられたメガロドンを避け、クラーケンの攻撃をかわし、闇による足止めすらくぐりぬけた一部の黒服達は、しかしてザンに届かずあるいは返り討ちになる、が
「は思ってませんが」
そのザンに直接返り討ちにされた黒服の首を切り落としながら影守と希がザンの目前に現れる。
「どれか一組でも肉薄できれば後は俺達が届く!」
「有りかよそれ」
「都市伝説の応用なんて言ったもん勝ちでしょう」
「違いない、が・・・ここは俺の領域だぞ?」
そう、影守とザンがにらみ合っているこの場はクラーケンの足の上・・・つまり
「お前等だけ振り落とすのは簡単だよな」
「影守、それ位想定済みよね?」
「・・・・・・どうしよう」
「もっかいやり直せ」
ザンのその一言でクラーケンの足はうねり、影守は海へと落下していった。

続く?

(治療室はここですね。少し遅くなりましたが、そろそろ治療も終わっているでしょうか)

心の中で呟きながら歩いてきたのは、大きく見積もっても中学生くらいの見た目の女性
かつて都市伝説から人となり、人から都市伝説に返ったレアケース
自在に境界を定め、表裏を分け隔てる結界能力を持つ防衛のエキスパート
篠塚文。篠塚瑞希と契約した都市伝説"座敷童"にして、瑞希の夫である美弥の妹だ

(兄さんは笑って流していましたが、義姉さんには体を大事にしてもらいたいものです)

治療の最中に邪魔するのも迷惑かと思い、時間潰しに兄へと事の次第を電話してみれば
「瑞希が問題ないと思ったんだったら、大丈夫だろ」と笑って切られてしまった
もしやアレは信頼という名の、のろけだったのだろうか。と頬を膨らませつつ文は中に入る

「……なんですかこの有様は」

治療室は大量の羽が撒き散らされていた。状況が分からず中を見渡すと
翼を生やした人……よりも寝かされている見知った人物に目がいく。というか瑞希だった

「文、よく来てくれました。割と真面目に口以外動かないので助けて。料理はそこの人が」
「そこまで満身創痍になる必要あったんですか?……すみませんうちの義姉が」

周囲に頭を下げて近くの男性から料理を受け取り、瑞希の口に突っ込んでいく

「ほういえばふぁ」
「飲み込んでから話してください」
「……んくっ。そういえばさ、アレ」

瞬く間に消化されたとでもいうのか、いやその辺りは突っ込みきれないことの多い瑞希だが
彼女が右手でモニターの方を指差す。今映っているのは……

「スペシャルマッチで"組織"の幹部と対決ってすごいですよね……それで?」
「うん。いや今ちょっと色々乱戦で荒れてるけど、ほらビルの上」
「ビルの上…………あれ?」

水没したオフィス街。水面下からいくつものビルが突き出ている
一瞬、その屋上の一つに人影が見えた……というか、見覚えのある衣装が……

「ゴルディアン・ノット…………え、参加させたんですか?!」
「うん」

あっけらかんと言う瑞希に対して、文は思わず額に手をついて俯いた
 

戦技披露会。"組織"幹部のX-No.0ことザン・ザヴィアー対複数というスペシャルマッチ
水没したオフィス街へと変わった戦場は序盤から既に混沌とし始めていた
なにせ最初の一部の参加者が水に呑まれてしまったうえに
クラーケンvs巨大な"メガロドン"という大怪獣バトルが勃発
さらに挑戦者としてK-No.0という組織の大物二人目が殴り込みをかけたのだ
見方を変えると、彼ら以外は大量の水に即応できず出鼻をくじかれたか
あるいは一旦、様子見をすることにしたか。このどちらかなのであろう
そんな中、主戦場から離れたビルの屋上に佇む者がいる
トレンチコートに中折れ帽を被り、黒い逆三角模様の覆面を被った怪しい人物
ゴルディアン・ノット。高所に移動し水を逃れた彼は静かに観察を続けていた
彼が様子見を続ける間にも戦場は動く。海賊船が砲撃を開始し砲撃音が響き渡る
しかしザンの周囲に展開された闇が肝心の砲撃を無力化している
そこまで確認してゴルディアン・ノットは視線を主戦場から、眼下の水面に向けた
おもむろに腕や脚に巻かれた細布や縄がしゅるしゅると動き始め――


「…………うわぁ」
「思ったより派手にやるわね」

治療室でモニターを見つつ、文は絶句し瑞希は面白そうに呟いた
注目しているのは怪獣大決戦でもNo.0同士の戦いでもない。見知った者の動向だ
隣の屋上に渡されたロープを巻き取って、人影が別の屋上へ飛び移る
その間にも下から漂流者を装っているらしい狂える船員が
細布に絡めとられ水面から上空に釣り上げられる
さらに他の細布がその体に絡んで……ブチリと力任せに引きちぎられた
恐ろしいことにこれを数体分同時に、素早くこなしながら
無事なビルの屋上へと移動を繰り返し主戦場に近づいているのである

「相変わらずなんというか、凄まじい戦い方ですね……」
「そういうの気にしてないみたいだから」

篠塚結が使う"機尋"の恐ろしいところは、一本一本に無視できないパワーがあることだ
今は移動しながらだが本腰を入れて操作を始めると手元で布が分裂し始めて
数の暴力と化すこともある。まあそれを軽くあしらえるのがそこの篠塚瑞希なのだが

「あ、海賊船爆発した」
「何が起こってるのかサッパリ分からないんですけど……」
「X-No.0が何かしたってのは分かるのにねー」
 

さて、主戦場に近づきつつあったゴルディアン・ノットだが
残念なことにクラーケンが暴れたことで進む先のビルはほぼ倒壊していた
しかし彼は一旦立ち止まると、ある方向を見つめる
そして長すぎる距離を苦もなくロープを渡して、無事そこに降り立った
そう、沈みかけている海賊船"クイーン・アンズ・リベンジ"に

「…………難題ダ。ダかラこソ、挑戦シガいガあル」

ゴルディアン・ノットの体を中心に細布とロープが爆発的に広がる
伸長自在の繊維の束がボロボロの船体に巻きつき、ついには覆い始めた
同時に沈みかけていた船が少しずつ浮上し始める
水面下で無数の布が柱のように絡まり合ってつっかえ棒のように
船底と地面を押し離そうとしているのだ。だが……

「hmm......」

さしもの彼にも当然限界というものがある。無理やり沈没を防いでも
元のように動かすことはできない。どうにか動かしても亀の歩みだ
このままでは狂える船員が乗り込んだり、クラーケンのいい的となるだろう
ではどうするのかといえば、答えはこうである

「……あレガいいか」

呟くと崩れたビルの残骸に向けてさらなる布やロープを幾重にも渡す
そして布を縮めることでビルの残骸に向けて船体を引っ張り動かす
近づいたところで今度は船底から伸ばした布の柱で船体を持ち上げた
船底がほぼ水面より上に出て、ビルの残骸に船底が引っかかる
傍から見れば座礁したようにしか見えないが
なんにせよこれで船が水没することは一時的とはいえ防ぐことができる
なお彼が船に降り立ってからここまで1分もかかっていない
クラーケンに襲われることを考えてのスピード勝負で
彼は簡易的だが固定砲台を作り上げたのだ。まあ、肝心の砲手がいないのだが

「サて、ここかラドうスルベきか……」

必要のない布やロープを巻き戻しながらゴルディアン・ノットは独白する
戦闘はまだまだ、始まったばかりであった

                             【続】

 観客席の片隅にて。
 黒髪を顎のあたりで切りそろえ、ベレーを被った、浅倉澪・マリアツェル―にしか見えない少女、しかしその正体は澪の母親、浅倉ノイ・マリアツェルがお手製の弁当を広げていた。
「さー、召し上がれ!」
 いの一番に手を付けたのはキラと轟九。
『いっただきまーす!』
 ノイお手製のおにぎりにかぶりつき…動きが停止する。
「む…」
「ぐ…」
「?どーしたの?ふたりとも」
 その様子を見た柳と緑がおにぎりを口に運ぶ。
「うん!ノイちゃんの作るものなら、何でも美味しいよ!」
 あてにならない柳に代わり、緑が事実を告げる。
「…このおにぎり、甘いぞ」
 ノイはしばしぽかんとして、数秒後。
「うそー!」
 自身もおにぎりを口に運び、がっくりと肩を落とす。
「粗塩とお砂糖、間違えちゃったんだ…」
 慌ててフォローを入れようとしたのはキラ。
「ま、まあおかずは食べられるし!ほら緑、あんたもフォローしなさい、あんたの将来の義理の母なのよ!」
 その言葉にはてなマークが飛び交う大人たち。
「義理の…?」
「母?」
 よせ止めろと制止する緑を押しのけ、キラが堂々と宣言した。
「緑はねー!澪のボーイフレンドなの!」
 しばしきょとんとする大人たち。一瞬おいて。
「…澪に、ボーイフレンドだと!」
「澪ちゃん、ホントなの!?」
「澪ってば遅ーい。あたしが澪くらいの頃には、もう柳と」
「ちっ、違う、違う!」
 緑の必死の否定も、大人たちには届かない。
「いいじゃない、緑」
「藍!ああもう、なんで女ってやつはこうなんだ!」

 周囲の喧噪とは離れたところで、澪は熱心にザンとメガロドン、それに海賊船の戦いを眺めていた。
「澪ちゃん、興味ある?」
 澪の様子を見てとった真降が水を向ける。
「うん。あれと戦えたらおもしろいかなって」



続く

 さて、治療室は忙しくなっていた
 原因は、只今行われている、X-No,0ことザンとのスペシャルマッチだ
 試合開始と同時にザンがステージの地上を海水で満たしてしまった為、それに対応しきれず溺れて気絶した者がどんどこと治療室に運ばれ続けているのだ
 更に、ザンが戦闘舞台に立ち並んでいたオフィスビルを派手に破壊した結果、初手の海水を逃れて潜んでいた者が烏賊足もしくはタコ足になぎ倒されて気絶したり、落ちて溺れたりで更に気絶者が増えた
 治療室には憐が撒き散らしてしまった治癒の力がこもった羽根が大量にあるとは言え、溺れた者に関してはきちんと処置をする必要がある

「……それを、こうしてパッパッと対応出来てんだから。やっぱり優秀なんだよな、あんた」
「はっはっは、もっと褒めても良いのだよ、我が助手よ」

 が、だ
 そうしてたいへんと忙しいさなか、「先生」は特に慌てた様子もなく、てきぱきと対処していっていた
 治療室のベッドに、どんどんと治療を終えた患者が寝かされていく
 灰人ももちろん手伝っているが、それにしても早い
 一人で数人分もの仕事をこなしていっている

「これ、私はそろそろ回復したし、邪魔になるかしら?」

 次々と患者が運ばれてくる様子に、瑞希がそう「先生」に問うた
 ある程度食べた為、動けるようにはなっている

「あぁ、いや。念の為、検査をしたい。治療はすでにすんでいるが、何かしら身体に問題がおきていては困るしね」
「特に問題はないと思うけれど……」
「自分ではそう思っていても、知らず知らずのうちに何か起きている、ということはあるものさ」

 手慣れた様子で治療していきながら、「先生」は瑞希にそう告げた
 ぼろぼろと問題発言をしている「先生」であるが、一応医者としてはしっかりしているし、優秀であるらしい

「に、しても。全くもってあの御仁は容赦がない事だ。一部「今回はこれは使わない」と言うような制限があるからこれですんでいるのであろうなぁ」
「そうね、ぜひとも戦いたかった………!」
「やめよう、ご婦人。あの御仁容赦ないのと烏賊足タコ足にご婦人のような女性が絡め取られたら青少年の何かが危ない」
「何言っているんですか、この医者」
「殴りたかったら殴って大丈夫だぞ」

 文のツッコミに、灰人がそう助言した
 助言と言って良いのかどうか不明だが、殴っても問題ないらしい
 灰人にとって「先生」は師匠のような存在であるはずであり、この扱いでいいのかと問われそうではあるが、少なくとも灰人はこの扱いを問題であると感じていないようであるし、「先生」も全く気にしていない

「……あれは、昔と変わっておらんね、本当に」
「?…貴方は、ザンの事を以前から知っているのですか?」
「まぁね。私は「薔薇十字団」所属だ。「組織」から逃げ回っていた頃のあの御仁とは何度も会っているよ」
「………貴方、年齢いくつなの」

 思わず、そう口に出す瑞希
 この「先生」とやら、外見年齢は20代半ばから後半程度に見える
 しかし、ザンが「組織」から逃げ回っていた頃、となると20年以上も前の話になる
 都市伝説関係者となると、幼少期からそれらに関わっていた可能性があるとはいえ、「薔薇十字団」所属でザンと接触していた、となればそれなりの年齢になるはずなのだ
 瑞希の言葉に、「先生」は楽しげに笑って

「さてね。見た目よりは爺のつもりであるよ」

 と、そう答えた


 ………ザンとのスペシャルマッチは、まだ、続いている
 


 ざざざざっ、とボロボロの漁船が「クイーン・アンズ・リベンジ」へと近づいていく
 ゴルディアン・ノットがそちらに視線を向けると、そこから黒と黒髭が飛び出し、「クイーン・アンズ・リベンジ」へと乗り込んできた

「何者かは知らんがよくやった、褒めてつかわす!これで、また大砲による攻撃が可能だ」

 黒は、ない胸をはりながらそうゴルディアン・ノットへと告げた
 彼女は、相手が何者であろうとも常にこの態度を崩さない
 そのせいで中学校の教師からは再三注意されているのだがお構いなしだ
 故に、この場においても初対面(実は初対面ではない可能性があるのはさておく)であるごルディアン・ノットに対してもこのような態度だった

「この船の持ち主か……砲撃ガ、可能なんダな?」
「あぁ、そうだ。「大海賊 黒髭)と契約している外海と言う。無事な砲台があれば、可能だ」

 ザンの起こした爆発によって、大砲も何門か破壊されてしまっている
 流石に、40門もの大砲での一斉発射は流石に不可能だろう
 ……少なくとも、20門程度は無事なようであるが

「どうする、そっちの船に残るのか?」

 と、下の方から、声
 黒と黒髭をここまで運んだ栄が、良栄丸から声をかけたらしい
 「クイーン・アンズ・リベンジ」の周辺には、まだザンが呼び出した狂える船員の姿はないようで、良栄丸に救出された契約者逹もほっと息をついているようである

 今、この段階になってようやく
 少しは、参加者同士で話し合えそうではあるが

「…………」

 クラーケンを操り、飛びかかる「メガロドン」の攻撃をいなしながら
 ザンが、何かを探し始めていた





to be … ?

半壊した海賊船"クイーン・アンズ・リベンジ"の元に集まった参加者達
今回のスペシャルマッチの条件が1対多の戦いであることを考えると
これは貴重な機会である。そう判断したのだろうか、栄に返答する外海を
半ば押しのけるようにしてゴルディアン・ノットが甲板から下へ顔を覗かせる

「おい、少シ聞きたいのダガ」

突然出てきた黒い逆三角(▼)の覆面男(?)に参加者達が思わず沈黙する
彼らの驚き、あるいは困惑をよそにゴルディアン・ノットは言葉を重ねた

「あのザンという男に一撃入レル自信があル奴ハいルか?」
「それは、どういう意味だ?」

困惑する彼らを代表して良永栄が意図を尋ね返すと
ゴルディアン・ノットは乾いた物が擦れるような声で説明を始める

「見たとこロあの男、遠距離かラの攻撃ハほボ無力化シてシまうラシい
 役割を分けルベきダロう。あの男に攻撃スル者と、デカブツを抑えル者とダ」
「そういうことか……」
「今ここに集まっていル者達にも戦闘のやり方デ向き不向きがあルハズダ
 俺ハ近接戦闘もデきルガ、本気デやルなラデカブツの方ガ相手シ易いかラな」
「何か手があるのか?」
「切ル手札くラいハ当然持っていルとも。ソレデ、お前達ハドうなんダ?」



参加者達が集まってザンを倒す手立てを考え始めた頃
メガロドンとザンが操るクラーケンの戦いに変化があった

「……ん?」

モニターを見ている者にはザンが唐突に何もない水面を注視したように見えた
その下にクラゲ型クラーケンが潜んでいることを知っているのは
指令を出したザンのみ。仮に途中で誰かが気がついたとしても水中だ
そう簡単に手が出せるものではない……そのはずだったのだが
 

クラゲ型クラーケンから伝わってきた意思は「攻撃を受けた」と「とても疲れた」だ
疲れたと訴えるほど攻撃に抵抗したのだとすれば、流石に気づかないのはおかしい

(つまり……攻撃を受けた結果、疲労させられたか?)

抵抗を指示するが、思ったように動けず攻撃を受け続けているらしい
その結果どんどん疲労が酷く……動きが悪くなっていく悪循環に陥っている
これ以上は隠れていても無意味と判断し、ザンは一度クラゲ型を浮上させることにした
ゆっくりと水面上に顔を出したクラゲ型クラーケン……その頭の上に、誰かいる

「ぷはぁ……ん~、やっぱり空気があるってステキっ」

水に濡れて体に張りつく金色の髪をかきあげながら
黒いマイクロビキニで豊満な肢体を申し訳程度に隠した美女が立ち上がる
しばらくキョロキョロ周囲を見回したかと思うと

「イエ~イ!在処ちゃん見てるぅー?お姉さんが帰ってきたゾ☆」

唐突にカメラ目線でダブルピースをしながら謎のアピールを行った
さらにウインクをした瞬間に何故か彼女の周囲でピンク色のハートマークも飛んだ
モニターの向こうで一部の人々が困惑と混乱の渦に飲み込まれたのとは対照的に
ザンは内心のアレコレに蓋をして冷静にタコ型クラーケンに攻撃を指示する
ふざけた格好と態度だがクラゲ型を疲弊させたと思われる相手を放っておく理由もない

「うわっとと?!……もう、女性にはもっと優しくしなきゃダメよ?」

タコ型の触手による薙ぎ払いに対して、彼女は空中に逃げた
コウモリのような黒い羽に赤く輝き始めた瞳。そして攻撃により引き起こされた事象
ザンが脳内で彼女の都市伝説の正体を絞り込む。恐らく――

「まったく!おイタをする子にはお姉さんがお仕置きしちゃうよ!」

ヒラリヒラリと触手を避けながら、ついにタコ型の上に降り立ちしゃがむ女性
例の攻撃が来るとタコ型に振り落とすよう指示を出し

「なに?」

一瞬。本当にわずかな時間、驚きでザンの意識に空白ができる
想定とは違った攻撃方法、そんなこともできるのかという思考の逸れ
本来なら特に問題なかったはずのそれは、エネルギーを充填した直後の
彼女にとって千載一遇のチャンスであり……結果、彼女はやり遂げた

「きたきたきたぁ!これはもう在処ちゃんの評価うなぎのぼり待ったなしでしょ☆」

タコ型クラーケンの体表にいくつものハートマークが浮かぶ
予想外なことにタコ型クラーケンの支配権が彼女に奪われていた
彼女への警戒レベルを引き上げながら、ザンは面白そうに笑みを浮かべた

                                             【続】

 ゴルディアン・ノットの問いかけに……少し悩んだのは、栄
 その様子に、クラーケンがビルを薙ぎ倒した際に落下し、良栄丸に救出されていた蛇城が気づいた

「できそうな者に心当たりが?」
「…あぁ、いや。俺の知らない奴だから断言は出来ない。ただ、「ずっと攻撃機会を狙っている」奴がいる事は、把握している」

 この試合が始まってすぐ、ほんの一瞬だけ良栄丸に乗り込んできた存在
 足場がほしい、とそう言ってきた相手の条件を飲んだ結果、今、「メガロドン」が複数出没していると言ってもいい

「……そういえば。かなりの速度で動き回っている影がちらほら見えましたね」
「確かに、視界の済をちラほラと黒いものガ横切ってハいたな……」
「忍者みたいな格好していたから、ようはそういう都市伝説なんだとは思うが。しっかりとどんな能力かは聞いていない。この感じだと、気配遮断やスピード強化とかそういうったもんだとは思うんだが」

 今のところ、接近しきれていないようではある
 烏賊やタコの触手の合間を掻い潜れていないのだろう

「烏賊やタコを抑えるんなら、「メガロドン」……と言いたいんだが、現状防がれてんだよなぁ。ビルに潜って不意打ち、もやっているはずなんだが。それでも駄目か」
「クラーケンの攻撃を引きつけてくれているだけありがたいと思うべきか。しかし、あの男。どれだけのクラーケンを呼び出せるのだ」

 ちらり、ザンの様子を見ながら黒がそう呟いた
 烏賊型とタコ型のクラーケン。それに加えて、水中にも何やら、いる
 生半可な契約者であれば、一体の召喚使役が精一杯だろうところだが、「マリー・セレスト号事件」に飲まれたザンはザンは、その都市伝説のうちの「クラーケン説」だけで、三体同時召喚使役等やってみせるのだから、規格外だ

「クラーケンにゃ、ドラゴンみてぇな姿やら、シーサーペントみてぇな姿やら説がたくさんあっからな……エビやらザリガニやらの甲殻類の姿で描かれた事もある。そこら辺まで召喚して操れたりしたら、流石にこっちの手が足りなくなるぜ」
「流石に、そこまでの数の同時使役はないだろう………ないよな?」
「途中から気弱になんなよ、マスター………大砲は、やっぱせいぜい使えて20門だな。爆発でだいぶやられた」

 さすが本来は海の男と言うべきか、黒髭はクラーケンに関する知識もある
 ……あったとしても、絶望に傾く情報が増えるだけに終わったが
 一応、警戒すべき事が増えたと思えば良いのだろうか

「そちラの女性ハ?一撃、当てラレルか?」
「…口惜しい事ですが、難しいですね。何度も狙撃を試みましたが、クラーケンによって防がれました」

 昔と違い、サングラスとマスクは外すようになったものの、相変わらず口裂け女と誤解されそうな赤いコート姿の蛇城が答えた
 にょろり、胸元からは「白い蛇」が顔を出し、ちろちろと舌を動かしている
 この「白い蛇」の力で多少は水を操れるものの、残念ながらこの大漁の海水をどうにかできるか、と言うと別問題である


 そして、彼らがそうして話し合っている間に、再び戦況は動き出す
 サキュバスの出現と共に
 




「神子さん、視界を塞がれますと、試合状況が見えないのですが。お母さんの名前が呼ばれた気がしますし」
「うん、何ていうかね。龍哉には見せちゃいけないものが映ってる気がしてね。ワタシ的にはあぁ言うのも見たほうがいいと思うんだけど、後で蛇城さん辺りがうるさそう」
「蛇城さん参加してるしなー。ザンじゃなくてサキュバス狙撃しなけりゃいいんだけど」
「そうねー。とりあえず直斗、サキュバスの姿写メとるのやめなさい」

 神子の言葉に、直斗はっち、と小さく舌打ちした
 まぁいい。恐らく、晃辺りがちゃんとムービーで撮ってくれていると信じよう

「タコの支配権奪われたのか、あれは………っと?」

 画面越しに、ニヤリと笑うザンの表情を見て
 あぁ、まだ呼んでない奴呼ぶ気だな、と直斗は感づいた


 影がさした
 自分の頭上に、何かが出現したのだ、とサキュバスは気づく
 先程から、烏賊型クラーケンに迎撃されまくっているメガロドンが飛んできたわけではない。何か、別の……

「……!?」

 ぐわっ!!と
 サキュバスの頭上に出現したそれを見て、サキュバスがまず抱いた感情は

「グロッ!?」

 耐えきれずに、思わず口に出してしまった
 そう、グロい
 あえて言うなら、短めの触手がびっしりと生えているような、そんなものが……サキュバスに向かって、落ちてきている
 慌てて避けようとするのだが、そのクラーケン並の大きさのものが落ちてくるとなると、回避は非常に困難であり
 サキュバスに操られているタコ型クラーケンが慌てて撃退しようとしたのだが、触手を絡みつかせて引っ張ろうにも、同程度のパワーのものに落下の勢いが加わっている訳で……

 サキュバスの頭上に召喚された、ヒトデ型クラーケンは、そのまま容赦なくサキュバスへと襲いかかった


 あのヒトデ型まで呼ぶのは久しぶりだ
 疲れているクラゲ型はしばらく休ませるとして、烏賊型だけだと少し防御に不安があるか

「……そうなると、他にも呼ぶべきだな」

 そう呟くザンの後方から、ビルの残骸から飛び出してきた「メガロドン」が襲いかかる
 その巨大な牙はザンへと………届かない

 メガロドンのその巨体が、叩き落される
 ごぅんっ、と腕を振り上げた、それは。これまで召喚されてきたクラーケンと同程度の大きさの…………ザリガニ型クラーケンだった




to be … ?


戦技披露会。
組織のX-No.0であるザンVSその他大勢というむちゃくちゃなスペシャルマッチ。
開始早々に水没したビル街と化した会場ではそれぞれが自分の能力を活かして動いていた。
その中で主に救助を行っている良栄丸、そのぼろぼろの船の操舵室の屋根の上にY-No.660、黒服Yは立っていた。
見た目はどこにでもいる普通の黒服であるが、目立つ所を上げるとすれば、背中に1.5mほどの巨大なライフルを背負っていることか。
髪も服もびしょ濡れの状態ではあったが、特に戦闘に支障はないようだ。
人差し指と親指を立て銃の形にし、ザンをいる方向へ向けると。

「アーマーショット(徹甲弾)、装填」

手の横の空中に黒色の弾丸が現れる。
まるで、そこに見えないリボルバー式拳銃があるかのように、6発ずつ円形に計12発が浮いている。

「発射」

宙に浮いていた銃弾は左右に別れて弓なりの軌道を描いてザンへと飛んでいく。
しかし隙間を狙ったにも関わらず、クラーケンの触手の滑らかな動作によって全て防がれてしまう。
的に対して弾が小さ過ぎるのか、ほとんどダメージも通ってはいないようだ。
黒服Yは新しく弾丸を作り出してはあらゆる角度、さまざまな軌道を取って発射するものの、その全てはクラーケンに防がれてしまう。
撃ちながら反応を観察し、次はどう撃てばよいのか考えていく。
タコ型のクラーケンはおそらく攻撃用で、接近してきた者を薙ぎ払うべく動いている。
イカ型はおそらく防御用、頻繁には攻撃せずに守りを固めているようだ。
威嚇するかのようにゆらゆらさせている触手が、魔弾を防いだ時と同様にたまに位置を変えていることから、他にも遠くからの攻撃を受けていることが窺える。
1対多数という状況で、クラーケン2体を使役して防御を固めたうえで攻撃までしている。

「……うん。無理だね」

そう言いつつも今度は背負っていたライフルを手に取り構えた。
銃口からは黒い霧のようなものが溢れている。

「よーし、ちょうどチャージ完了したぞ」

守りが固いなら、守りを崩せるほどの一撃を。
脚を前後に開き反動に備える。
ストックを肩に当て、慎重に狙いを定める。
衝撃に負けぬようにしっかりと脚を踏ん張る。
通用するかどうか分からないなら、とりあえず今撃てる最大出力で。

「行け、ブラックジャベリン!」

発射の反動で肩が軋む。
風が唸りをあげて吹き抜ける。
放たれた魔弾は一直線にクラーケンへと突き進む。
そして触手に突き刺さると肉を抉りとるように蹂躙し、大砲で撃たれたかのような大穴を開けた。

続く

支配権を奪われたタコ型に代わってザリガニ型が投入されたため
依然としてメガロドンはクラーケン二体を突破することができずにいた
ザンはチラリとタコ型に絡みつかれるヒトデ型を見たものの
すぐメガロドンの契約者を探すべく目線を外した

(あそこまでやれる奴がこの程度で終わらないのは分かりきったことだしな)

気絶でもして支配権を手放してくれればそれに越したことはないが、本命は時間稼ぎだ
ヒトデ型はさっそく例の攻撃……エナジードレインを受け始めている
そこまでは予想の範疇だ。巨大なクラーケンが疲弊し切るまで生命力を奪うのに
どれだけ時間がかかるかはクラゲ型が攻撃された時の状況を元に推測できる
さらにクラーケン一体分を平らげられたところでこちらにそれほど影響はない
だがこの間にメガロドンをなんとかできれば状況は大きくこちらに傾くだろう
そう考えるザンの目の前で烏賊型の触手が一つ、穿たれた


一方、良栄丸とクイーン・アンズ・リベンジに集まった参加者達は
依然としてザンとクラーケンに対抗する有効な手段を見出せずにいた
主戦場となっているザンの周囲でなにやらクラーケンがやられたり
逆に増えたりといった動きはあったが、状況が良くなったとも言い難い

「この海水が無ければやりようはありそうですが……」
「そうは言ってもなぁ」

この状況に適応できる能力者ではいまいち攻めきれていないのが現状だ
蛇城が言うように海水が無ければ取れる手が増えるとは栄も思っている
しかしそれで勝てるかも分からないし、そもそも海水をどうにかする手段がない
さらに言えば海水を一旦どうにかしてもまた水没させられる可能性が高い
どう考えても八方塞がりだろう……そう思っていると
 

「要スルに足場ガ必要なのダロう?」
「確かにそういう話だが、もしやできるのか?」

覆面の男の発言に黒が聞き返す。確かに彼の能力はどうやら布や縄を操作できるらしい
それならば一時的に足場を組むこともできるだろうが……少し心許ないのが正直なところだ

「手札を切レバ、10分ダけ足場を作ルことガデきル」
「10分だけか」
「ああ。暴走サセないためにもソレガ限界ダ」
「ちなみになにをするつもりか聞かせてくれるか?」
「水面上に布と縄を張リ巡ラセ足場を編む。修復も随時可能ダ」
「ふむ……範囲はどうだ」
「街一つやレないことハないガ、負担ガ大きい。会場の端まデハ勘弁シてくレ」
「待て待て待て」

今こいつはなんと言った。街一つを布と縄で覆えるということか
10分だけだとしても、地形を変えるという点ではザンと似たようなことができると

「お前それ、本当か?」
「このゴルディアン・ノット。この場デ出来ないことを言うほド、阿呆デハないつもリダガ」
「船一つ覆い包む奴が切札を使うと言うんだ。それくらいは出来てもおかしくはないだろう」
「ああ、切レと言うなラスグにデもやレルゾ。一度切レバ試合中ハもう使えんガ」

栄は今更ながら知った覆面男の名前も含めてどうしても怪しく思わざるをえなかったが
黒のほうはクイーン・アンズ・リベンジの一件もありこの話に信憑性があると感じていた
有効な手段は未だ見つからず、しかし議論は着実に進展していた――

                                                   【続】

「あれと戦ったら、面白そうかなと思って」
 澪の言葉に素早く反応したのはキラ。
「澪もそう思う!?あたしも行きたーい!」
「だめよ同士桃。あなたもう負けたでしょ」
「あーあー。あそこで食らうなんて。やっぱり体術もやっとけばよかったかなー」
「まあまあ、勝負なんか時の運なんだから」
 キラを宥める柳に便乗して、ノイも言い切る。
「うん。一生懸命戦ってるキラ、カッコ良かったよ!それで十分じゃない?」
「ノイさん…」
 ちょっぴりうるうるするキラの頭上に、不意に黒い影が現れ…落下する。

 ひゅる…どしーん!!

 わずかな風切り音と共に落下してきた少女は、キラの頭上にものの見事に衝突した。

「…!き、キラ!?」
「キラっ!」
 黒い影の衝突で一発KO、気絶したキラに、隠れシスコンの真降と親友の澪が駆け寄る。
 黒い影の正体は少女。年の頃なら7~8歳程度の、白いフリルいっぱいのブラウスに、タックと共布フリルがたっぷり施された白いジャンパースカート。
 肩ぐらいまでのピンク色の髪には赤い薔薇が両端にあしらわれた、レースたっぷりのやはり白いヘッドドレス。所謂白ロリといった格好だ。
「…まほろ?」
 ノイの口から、学校町から姿を消した親友の名がぽろりとこぼれる。
「あたしは、ひかりよ」
「ひかり?それがあなたの名前?」
 少女は頷き、一通の手紙を出すと、ノイに向かって差し出した。
「これ読んでね」
 はてなマークが飛び交う一同を余所に、「ひかり」が両手を天に差し上げる。
 その手の中に、少女の身の丈以上の長さの、無骨だがそれ故に美しい、銀の槍が現れた。
「アカシックレコードに接続…データロード完了!よしっ!」
 そしてひかりは、一同に向かってばいばいと手を振った。
「じゃーあたし、あのザンって人と戦ってくるから、そのキラって子、救護室に運んであげなよ。じゃーまたあとでね!」
「ちょっと待って、あなた一人じゃ危ない!」
「澪ちゃん、僕も行くよ、水上戦なら足場がいるだろう?」
 慌てて澪と真降がひかりの後を追う。
 残されたノイたちがひかりに渡された封筒を開けると、ひらりと落ちたのは一枚の便せん。

『ボクのムスメのひかりを、学校町で修行させたいのですよ。よろしくですよ。 幻』
「幻…!」
「ああもう分かってたよ。こういう手紙書く子だっていうのは、つくづくわかってた…でも。帰ってきてくれたんだね」
 

 ノイは感激しきり、柳は文句は言いつつも、内心ではノイの親友が戻ってきたこと、ノイが喜んでいることを喜んではいた。
「じゃ、俺たち、こいつを救護室へ運んできます」

 「場所ちょっと貸してね?」
 クイーン・アンズ・リベンジの舳先にちょこんと陣取ったひかりは、お辞儀をした。
 他の選手たちは不審顔。いくら契約者とは言え、こんな年端も行かない子どもが戦えるものなのか?
「わー!ロブスターだー!」
 ザリガニ型クラーケンを見たひかりは歓声を上げ、手鏡を取り出した。
 「アルキメデスの鏡」この都市伝説との契約で、ひかりは鏡さえあれば、光と熱を自在に操ることが出来る。
 手鏡の照準をザリガニ型クラーケンに合わせようとするが…
「あーもう!あっちこっち動いて、ねらいがさだめられない!」
 気がついたら、フィールド内の水がちょっとした温泉くらいの温度になっていた。
「こうなったら、水温をもっともっと上げて、みんなゆでちゃえば…!」
「参加者で溺れている奴もいるんだ。やめてやれ」
 他の参加者が止めに入ったその時。
「ひかりちゃん、大丈夫?」
「全く、いきなり水の温度が上がるから、氷が溶けて溺れるところだったよ」
 凍らせた水を足場にして、澪と真降がクイーン・アンズ・リベンジにたどり着いた。
「さっ、どうする?澪おねえちゃま、真降おにいちゃま?」
「あれ?ひかりちゃん、なんで…」
「あたしたちの名前を知っているの?」
 問われたひかりは手にした自らの銀の槍を、さも大事そうに抱きしめた。

「アカシックレコード、だよ」



続く?

「K-No.0ともあろう者が情けない…」
「それは自虐でしょうか?K-No.02」

宙に浮くマネキンと希が見下ろすそれは巨大な烏賊型クラーケンの足に絡め取られているK-No.0 影守である。

「返す言葉もない…」
「そんなんだから教え子にも舐められてんのよ、アンタは、私の契約者なんだからもっとしっかりと……」
「これで愛想尽かさないのだからK-No.02も大概底抜けの阿保かお人好しかと」
「最近アンタ等私に対してキツくない?」
「いえ、人形と人形使いと言う立場上別に逆らえない鬱憤を晴らしているとかそういうことはございませんよ?」
「ええ、何がメイド服だよもっとマシな服着せろやボケとか思っていても口にはしませんよ?」
「してる、今めっちゃ口にしてるよ!?」
「「「何のことやら」」」

マネキン一同の言葉に希は宙に浮いたまま膝を抱える。

「覚えてなさい、この模擬戦終わったら辱めてやる」
「格下の煽りで逆ギレとか小物臭が半端ないですよ」
「もう少し心にゆとりを持ちましょう」
「余裕の無い女性はモテませんよ?」
「同年代のK-No.1(望)やK-No.2(在処)が旦那は愚か子供までいるのに1人独り身で焦るのは分かりますが」
「あんた等マジで覚えてろよ!?」
「いっそ誰か紹介して貰えばどうでしょう?」
「どこの馬の骨ともわからん輩に希はやれんぞ」
「………親の過保護も嫁き遅れの原因でしたか」
「いや、別に紹介とかされても…」
「そもそも未だに初恋拗らせて引きずってる時点で負け組ですよね、先に進める筈無いですよね」
「相手が結婚どころか子供までいるのに未だに引きずるのは流石にどうかと」
「いやしかし義娘兼契約都市伝説として手元に置いたK-No.0も悪いかと」
「その辺りどうなんです?」
「答え辛いわ!」

まぁ確かに聞かれても答え辛い。
あの頃のゴタゴタとか美緒との関係とか一言では説明しにくいし。

「てかさっさとこれ解いて戦線に復帰するぞ!」
「私達に捨て身同然の戦いさせておいて失敗とかしばらくやる気になれません」
「「なれません」」
「仕方ないわね……」

先程まで膝を抱えていた希がゆらりと立ち上がる。
顔は笑っているがその目は笑っていない。

「影守…しばらくそこでぶら下がってなさい………ちょっと私は八つ当た……X-No.0ぶっ飛ばしてくるから」
「えーと…希?」
「自立させてたバラバラキューピーの制御権全部私に戻して強制操作、そのまま全機時限自爆装置起動!」
「「「「「「「「ちょっ!?」」」」」」」」
「目標X-No.0、全機まとめて突っ込みなさい?」
「強制特攻とかそれが人のやる事でしょうか!?」
「残念ね、私人じゃ無いもの」
「これが初恋拗らせた恋愛敗者の闇ですか…」
「いいからとっとと行けや」
「「「「この鬼!悪魔!喪女!」」」」

そんな叫びと共にマネキン達はザンへと突撃し、大きくな爆炎が上がった…

続く?

実況席にて
「神子さん、僕は何時まで視界を塞がれていれば良いのでしょう?」
「うーん、もう暫くかなぁ・・・具体的にはアレがやられるまで」
「しかし、見えなければ実況もままなりません」
「気になるなら後でこの神子姉さんが手取り足取り個人授業やって上げるから今は我慢しといてねー」
「神子、何気にトンデモ無いこと言ってるけどお前大丈夫か?」
「ハハハ、私こそ蛇城さんに狙撃されそう・・・あ、絵里さんに齧られるのが先かな?直斗、そん時はフォローよろしく」
「神子さん、大丈夫ですか?」
「一寸顔色悪いぞ?」
「うーん、ちょっとしたら落ち着くと思う・・・・・・・・・あの何だっけ、飛びこんできたロリっこ?ひかりちゃん?何かあの子が出てきた辺りからこう体の内側がゾワゾワする感じがね?何か妙なテンションになると言うか・・・・・・」

所変わってvip席
「・・・あら?」
「望さん?」
「・・・このスペシャルマッチ、アカシャ年代記・・・アカシックレコード関係の契約者が混ざってるわね」
「何ですって?」
「神子が何かゾワゾワしてるわ・・・多分そこまで極端な影響は無いし大丈夫だと思うけど・・・・・・この件で下手に動く方が危ないわ、何かあるって言ってる様な物だもの・・・あ、希が自爆した」
「影守さんは放置ですか・・・」
「元人間の都市伝説にとって契約者はそれ程重要じゃないから・・・・・・まぁ、影守も見せるべきものは見せたし仕事は済んだと思って良いんじゃないかしら?」
「仕事?」
「攻撃用、それも一撃必殺のかごめかごめを回避に使ったでしょ?都市伝説は使い方次第だって言う実演よ、それにここでザンに一撃与えて見なさいな、そんだけ出来て前線にも出ずに後進育成・・・現場からすればふざけんなって今でも言われてるのに風当たりが余計キツクなっちゃう」
「現場との軋轢が?」
「そりゃあねぇ・・・それなりに戦えるのに前に出ずに後ろに引きこもってる訳だし、しかも首塚とか獄門寺組とか外部の人間で上位No.固めて・・・・・・事の経緯とか立場をちゃんと把握してる昔っからの連中ならそうでもないけど、最近入ってきたような連中の陰口は酷い物よ?」
「成る程」
「組織も一枚岩じゃないとはよく言った物だわ・・・・・・あ、戦場が・・・・・・いえ、ザンが動いたわ」

続く?

 それに、一番はじめに気づいたのは蛇城が契約している白蛇だった
 すぅ、と首を伸ばし、空を見上げ始める
 その様子に、実況者の約一名を後で狙撃すべきかどうかわりと本気で悩んでいた蛇城が、白蛇に問う

「……?どうしました?」
「巫女よ、どうやら一雨きそうだぞ」
「雨?……あれ、戦闘フィールドって、お天気変わるんだっけ?」

 蛇城と白い蛇のやり取りに澪が首を傾げ、頭上を見上げ

「…………え?」

 いつの間にか、戦闘フィールドの空、と呼べる高さに、黒い雨雲が出現し始めていた
 それも、戦闘フィールド一帯、全てを覆うような……

「……!そちらの白い蛇、水の操作できますか!?」
「可能です」

 何かに気づき、慌てた様子の真降の問いかけに蛇城が答えた、その直後

 ーーーーーざぁあああああああああああああああああああああ!!!


「あっ」
「やっぱやったか。思いっきり画面見えにくくなるが、仕方ねぇか」

 実況席で、呑気にそんな声を上げる直斗
 戦闘フィールド全体に、強烈なスコールが降り注いでいる
 視界も、音も、何もかもかき消してしまう程のそれを発生させたのは、間違いなくザンだろう
 彼の「マリー・セレスト号」には、スコールを発生させる能力もあったはずだ

「神子さん。現場がよく見えない状況でありましたら、そろそろ目隠ししている手を外してくださっても良いかと」
「カメラがサキュバスどアップにしちゃうと言う事故を否定しきれないからまだ駄目」
「駄目でしたら、仕方がありませんね」
「龍哉、もうちょっと粘れ。あと、神子。お前が絵里さんに噛まれそうになっても俺はフォローしないぞ。ポチ辺りに頼め」
「人語理解できる程度に頭いいとは言え子犬に頼れってのもどうよ」

 ここまで酷いスコールが振られるとまともに実況は出来ない
 龍哉が目隠しを外されたとしても、流石に難しいだろう
 ………ただ

「……おや?何か聞こえましたね」
「え?」
「………だな。何か、鳴き声みたいなのが」

 微かに、微かに
 スコールの音に混じって、何か……


 雨の音が、視界も何もかも塗りつぶしていく
 それでもかろうじて、そのスコールは良栄丸とクイーン・アンズ・リベンジの周辺へは降り注いでいなかった

「ギリギリ、間に合ったようですね」
「助かった。こんだけ酷い雨だと良栄丸も少しヤバイ」

 蛇城が契約している白蛇が、水を操る力で持って、この辺りのみ雨が届かぬようにしてくれたのだ
 ただ、本当にごく狭い範囲のみである。雨を防げているのは
 ザンがいる辺りなど、この位置からは全く見えなくなってしまった
 ヒトデに襲われたサキュバスもどうなったかわからない
 なお、余談ながらヒトデは基本肉食なのだが……死人を出してはいけない試合なので、食われては居ないだろう。多分
 


「雨か………ソろソろ、動かなけレバ危ないかもシれんな」
「…そうだね。この雨に乗じて、X-No,0が何か仕掛けてくるかもしれない」
「動くべきか。号令をかければ、すぐにでも大砲は発射出来……」

 黒が、大雑把にザンがいた方向を見据えながら、そう口にした………その時

「……ッマスター!5時の方向だ!」

 この大雨の中でもかろうじて見えるのか、それとも経験からくる勘か
 黒髭が、己の契約者たる黒へと警告を飛ばした
 その警告に、黒は黒髭が告げた方向へと向き直り

「撃ち方用意っ!!………撃てぇ!!」

 黒が司令を出したその瞬間、クイーン・アンズ・リベンジに無数の船員が現れた
 それらは大砲を構え、黒が見据える方向へと砲撃を開始する

 ーーーーークルァアアアアアアアアア

 スコールによる轟音の向こう側から、何かの鳴き声が、響き渡る
 一瞬だけ、ゆらり、と、巨大な影が見えた

「…おい。ありゃシルエットから見てシーサーペントだぞ」
「シーサーペント、と言っても形状色々いるからなんともいえないが……それっぽいな」

 黒髭と栄は、見えたそれをシーサーペントである、と判断した
 先程の20門もの大砲の砲撃で、それにどの程度ダメージが入ったかはわからない
 ひかりもまた、微かに見えるシーサーペントと思わしきシルエットに攻撃しようと………

「……栄!」

 と
 栄しかいないはずの良栄丸の操舵室の中から、別の男の声がした
 数人がぎょっとしてそちらを見ると、操舵室の中にあった大きな箱の蓋が開いており、そこから男が顔を出している

「深志?お前、見つかったらヤバいから隠れてろって………」
「もうバレた!「メガロドン」がザンの闇で防がれ始めてる。それと、あのシーサーペントっぽいクラーケンの他に、もっとドラゴンよりの顔のクラーケンがこっちに向かってきてる!まだ少し遠くてはっきり見えないが、他にももう一体!」

 栄から深志と呼ばれたその男が、そう警告した
 その発言内容に、気づいた者が数名

「「メガロドン」の契約者か」
「あぁ、そうだ……召喚使役型とバレたから、ザンが遠慮なく闇で「メガロドン」を攻撃し始めたんだろ。視覚は共有できるが、ダメージ共有はないからな」

 近づいてくる影に関しては、「メガロドン」との視覚共有で確認したらしい
 今も、深志は視界を半分、「メガロドン」と共有し、何匹もの視界を切り替えて状況を確認し続けていて

 その「メガロドン」の一体が、巨大なハサミによって切り裂かれ、消える
 ヒトデ型クラーケンと共にサキュバスに襲いかかっているザリガニ型クラーケンとはまた別に、はさみを持つ個体………エビ型クラーケンが、ゆっくりと良栄丸へと近づいていっている

 別方向、良栄丸の真下からは、翼を持たぬ巨大な竜の姿をしたクラーケンが
 さらにもう一体、先程クイーン・アンズ・リベンジの砲撃を受けたシーサーペント型クラーケンが
 それぞれ、良栄丸へと襲いかかろうとしていて


 ……そして、さらにもうひとつ、クラーケンとは別の攻撃手段をいつでも放てるように構えて
 さてどう動くか、と、ザンは笑った



to be … ?


突如降り始めた豪雨によって視界は遮られた。
海賊船からの砲撃によって、豪雨の奥に一瞬だけ大きな影が見えたが、黒服Yにはそれが何なのかは分からなかった。
他の参加者の会話の内容を聞くに、シーサーペント型のクラーケンらしいことは分かった。
そもそも分からないなら黒服Yも会話に加われば良いのだが、最初にタイミングを逃して以降、どうにも入れないでいる。
どうせ参加しても新しい情報を出せるわけでもないし、自分が考えたことは誰かが似たような事が言ってるからなど思って、結局そのままである。
そんな状態のまま黒服Yはシーサーペントのか影が見えた方向を見ていたが、あまりダメージを与えられてないように感じた。
攻撃をしようとする気配が衰えてないからだ。
そして、足下からも這い上がってくるような悪寒を感じた時、すぐさま操舵室の屋根から飛び降りた。
いきなりの行動に着地地点の近くにいた者が驚いていたが、構わず船の縁に駆け寄り下を覗きこんだ。
何が居るのかは分からないが、何かが下から攻撃しようとしているのは分かった。
波打って奥がほとんど見えない海面にライフルを向けると、

「クラックショット(破砕弾)装填! ごめん、ちょっと足支えてて!」

クラックショット。
貫通力の高いアーマーショットに対して、クラックショットはほとんど貫通力を持たない。
かわりに、着弾時に弾丸の持っているエネルギーを全て解放する。
つまり着弾した箇所で破裂し、その衝撃でダメージを与える技である。
今、ライフルを囲むように、数十発の弾丸が現れている。

「ちょっと揺れるかも。クラッカー!」

技名の合図と共に、すべての弾丸が海中へ発射される。
弾丸は、迫ってくるクラーケンへと向かっていき、その直前で全ての弾丸が一点に集まり、お互いに衝突しあい、一斉に破裂した。
重なりあった衝撃は、指向性を持った衝撃波となって、クラーケンの眼前で炸裂した。

続く

ザンの能力により豪雨に覆い隠された会場
良栄丸とクイーン・アンズ・リベン周辺のみがこの影響から逃れていた
逆に言えばその他は例外なく豪雨の只中に存在するということだ

「もー、いきなり乗りかかるなんて大胆……って、なにこれ!?」

水上、もといクラーケンの上で戦っていたサキュバスも例外ではない
すっかり萎びたヒトデ型をタコ型に持ち上げさせてみれば
周囲は先の見えない豪雨という状況だ。しかし彼女の動揺は長く続かなかった
雨の中からザリガニ型クラーケンがはさみを突き出して、それどころではなくなったのだ
タコ型を強く叩いたはさみだがその軟体にはあまり効いた様子はない
肝心のサキュバスの方もまた、タコ型の上を転がって難を逃れていた
タコ型はヒトデ型を放り捨てるとザリガニ型に絡みつき動きを封じにかかる
抵抗するザリガニ型の上に、タコ型の触腕を伝ってサキュバスが飛び乗った

「雨痛い!風強い!こうなったら……効率は悪いけど速さ重視で行きますか!」

サキュバスの体に翼や尻尾が生え、彼女の瞳が赤く輝く
体の表面から、あるいは翼や尻尾が変化しぬらぬらとした触手が現れる
伸びた触手はタコ型とは別にザリガニ型の体に絡みついて

「お姉さんの全力、見せちゃうんだから☆」

ニッと笑うと同時、サキュバスの体や触手に触れたところから
ザリガニ型の生命力が吸収されていく。身悶えるザリガニ型だが
タコ型に押さえつけられている状態ではサキュバスを振り落とすことも叶わない
だが速さ重視とはいえ相手は巨体のクラーケン。吸い尽くすのに一分はかかる
様相の変化したこの会場で一分という時間は果たして短いのか、長いのか
大量の精気を溜め込みつつも、サキュバスは内心焦りを感じていた
 

ところ代わって良栄丸とクイーン・アンズ・リベンジに集まった契約者達
彼らは豪雨に包まれた会場と、メガロドンの契約者である深志の証言から
ザンが攻勢に出始めたということを否応無く認識させられていた
豪雨の限定制御に大砲での砲撃、水中での爆音……彼らはそれぞれ
自身の持つ能力を駆使してザンの攻勢に抗い反撃の機会を探す
そしてそれは覆面の彼も、例外ではない

「外海」
「む、なんだ?見ての通り忙しいのだが」
「帽子を預かってくレ。俺もデル」
「おわっ!?」

返答も聞かず中折れ帽を黒の頭に被せると甲板を歩き
クイーン・アンズ・リベンジの舳先から水面を見下ろすゴルディアン・ノット
彼のトレンチコートからザンのものにも似た闇が溢れ体を包み始めた
彼が覆面を脱ぐと同時に頭部も闇に包まれて見えなくなり……

「おい!水中には今クラーケンが――――」

気づいた黒の声は聞こえなかったのか、無視されたのか
ゴルディアン・ノットは空中に身を投げ出し、水中へと落ちた

 ゴォン    ゴォォン

水中から先ほど黒服の男の銃撃が齎した破裂音とは明らかに違う
まるで鉄の壁に重いものを打ち付けるような鈍い音が響く
立て続けに二回、三回と繰り返す音に数人が水中に意識を向け

 バキンッ

鎖が断たれる鋭い音が、鳴り響いた

最初に事態を理解したのはメガロドンの契約者、深志だった
視界を共有しているメガロドンの目に映っているのは
先ほど攻撃を受けて一旦良栄丸から距離をとったドラゴン型クラーケン
その首に掴みかかる黒い鱗を纏った巨大な腕だった
豪雨の向こうでドラゴン顔のクラーケンが水中から顔を出し
続いてヒレのある足、どっしりとした体がなんとか見えたところで
何名かがドラゴン型を持ち上げる巨大な黒い腕という異常に気づく

 ――――――ギュラァアアアアア

腕から逃れるように咆哮をあげつつ身をよじるドラゴン型に対し
黒く長い鞭のようなものが水中から現れてその身を打ち据えた
やがて水中から出てきたのはビルを悠々と見下ろす巨体
ドラゴン型クラーケンにも劣らないドラゴンに似た頭部
左右に一本ずつ、さらに背から長く伸びた一本の合計三本の腕
ビルを軽く越す体高よりさらに長いように見える尻尾
全身は黒い鱗に包まれており、その姿は直立した黒いドラゴンと形容するほかない
強いて言うならば翼の類がないことが特徴かもしれない

 ヴァアオオオオオオオオウウ

黒いドラゴンの咆哮が一瞬、雨の音すらかき消した。思わず数名が耳を抑える
さらなる異変に最初に気づいたのは、やはり深志だった
水中を縦横無尽に何か細いものが行き来しながら水面へと向かっている
やがて隙間なく編まれた繊維製の足場が水面に浮上する
少し離れたところではシーサーペント型のクラーケンが
まるで水揚げされる魚のように水中から引きずり出されていた

「……怪獣映画再び」

誰かが漏らしたその言葉に、周囲が心の中で同意した

                                     【続】

「戦技披露会?」
「そうっす」

 すっかり肌寒くなった頃、ボクは憐君から戦技披露会へのお誘いを受けた。

「組織や首塚が合同で開催するイベントっす。すずっちも来ないすか?」
「うーん。でも、ボクどこにも所属してないよ。行ってもいいのかな?」
「問題ないっす! 契約者なら、観戦も試合への参加も自由っすよ」
「そっか。なら、行ってみようかな」
「わかったす」

 そんな経緯で、ボクは戦技披露会に来た訳なんだけど……。

「何、この怪獣大決戦!?」

 ひたすら、度肝を抜かされっぱなしだった。

「No,0ってあんなに強いの!?」
「そりゃ、No,0は各Noのトップだからな。チートで当たり前なんだよ」

 取り乱すボクに比べ、トバさんは冷静。クラーケンと黒い竜の戦いを見ながらも、呑気に寝そべっている。
 周りを見ると、殆どの人が同じように落ち着いた様子だった。屋台の料理を食べたり、仲間同士で話したりと思い思いに過ごしている。あのくらい、驚くことじゃないとばかりに。
 契約者ってすごい、ボクは改めて思った。
 
「……ボクも、いつかはこうなるのかな」
「何の話ですか?」
「あ、ううん。何でもないよ、緋色さん」

 笑みを浮かべ誤魔化す。

「それより、ボクちょっと治療室まで行ってくるから」
「お友達に会いにいくんですか?」
「うん。何か食べたくなったら渡した財布で買ってね」

 ボクは、二人に背を向け歩き出した。

――続く?――

ーー戦技披露会 

「三尾、お前は医務室に行け」

戦技披露会の当日、いきなり三尾はそう告げられた。

「医務室ですか?」
「ああ、そこで治療の補助をしろ。もう話は通してある。
 今日は治療系のが集まってるからな、お前の能力の参考にできることがあるかもしれん」
「ありがとうございますっ、葉さま」

医務室での治療の仕事となると、他の仕事を同時こなす事はできない。
だから、三尾が今日やろうと思っていた事を、他の人に頼むために確認すると、既に他の人達へ割り振られていた。
おそらく葉が先にやっていたのだろう、こういうイベント事となると手際が非常に良い。
なぜ普段からこの性能を発揮してくれないのか。
問いただした所で逃げるか、はぐらかされるかのどちらかなのを、長く仕えている三尾はよく知っている。
むしろ、流れに逆らうと労力が増えるだけなので、そのまま流れに乗った方が結局早く済む。
手際よく身支度を整えた三尾は、小走りで部屋を出ていった。
それを見送った葉は大きく背伸びして呟いた。

「よっし、これでゆっくり観戦できるな」



ーー医務室

三尾が戦技披露会会場内の医務室に行くと、すでに連絡は来ていたらしく治療のサポートや備品の整理などを指示された。
能力的にも止血の即効性はあるものの、傷自体の治癒には時間がかかるため、治療するとしても軽症の患者のみだろう。
医務室なので、白衣か何か着た方がいいのだろうかと思い、先生と呼ばれていた白髪の男性に尋ねると、

「では服が汚れてはいけないからこのナース服を」
「なに着せようとしてんだっ!」

どこからか純白のナース服を取り出した白髪の男性は、即座に少年によって蹴り飛ばされた。
その弾みで服は三尾の手元へ飛んでくる。
三尾は生地や縫い目などを確認するが、コスプレ用ではなく、実用に耐えうるちゃんとしたものだ。
デザインとしてはややスカート丈が短いようだが、普段夢魔が三尾に着せようとする服と比べると露出も少ない。
見た感じではサイズもちょうど良さそうである。

「ありがとうございます。着替えて来ますね」


ーーー


着てみるとサイズは体のラインに沿ってぴったりだった。
一般的な半袖タイプのもので、左前に並んでいる大きなボタンで留めるタイプだ。
丈は太ももの中程まで見える、やや短めのもの。
受け取った時には気付かなかったがオーバーニーソックスとナースキャップも入っていた。
全て着用して、再び白髪の男性の所に行くと、

「うむ、私の見立てに間違いはなかっ」

白髪の男性はセリフの途中で少年にまた蹴り飛ばされた。

続く?

「……おや、「アカシックレコード」か。実に懐かしいねぇ」

 恐らく、そう口にした当人は、本当に何気なくそう言っただけなのだろう
 そもそも、あの「組織」X-No,0とのスペシャルマッチの現場に「アカシックレコード」などという規格外の都市伝説契約者が本当に参加しているのかどうかは不明である
 だが、そうだとしても、その可能性が少しでもあるのならば、この場を一刻もはやく離れるべきだ、とそう感じた
 「先生」と呼ばれている白髪赤目の白衣の男が件の言葉を口にしたのは、スペシャルマッチの様子を映し出している画面を見ながらだった
 それだけで、ほんの少しでも「アカシックレコード」の契約者、もしくはそれに類似した能力の持ち主が、この治療室に来る可能性があるのならば
 ここから離れるべきだろう、何かしらの理由で、己について調べられる前に

「……運ばれてくる人数も増えてきたし、俺はもうここを出るが。構わないか?」
「うん?治療は終わっているし、違和感や痛みが残っていないなら、問題ないよ」
「あぁ、どこも痛みは残っていないよ」

 なら良し、と「先生」とやらは笑って、こちらの対戦相手だった女性の診察に入った
 こちらが与えた傷も治療したのだし大丈夫だと思うのだが、「念の為」だそうだ
 恐らく、都市伝説やその使い方の関係なのだろう
 「人肉シチュー」の契約者についても、己の肉体を溶かすと言う使い方をしていたせいか、当人に目立った怪我がなくとも診察していた
 万が一がないようにしっかり診察している、そういうことなのだろう

(…記憶方面を読まれる、と言うことはなかったから、良かったな)

 そうなっていたら、まずかった
 自分が「あの方」の配下であることは、絶対に知られてはいけないのだ

 九十九屋 九十九はす、と治療室を出ると、観客席へと向かって歩き出した
 途中、治療室に知り合いでもいるのかそちらに向かっている少年とすれ違いながら、思案する

(診療所もやっていると言う「先生」とやらの治癒能力がどんなものか見たかったんだが………まぁ、いいか。別の治癒能力者を確認できた。聞いていた話通り、あちらの治癒能力はかなり優秀だな)

 「ラファエル」の契約者、荒神 憐。「ラファエル」の治癒能力に特化した契約者であると言う話は本当だった
 あれは「使える」
 「あの方」が見つかり次第、あの少年を誘惑してこちらに引き込むべきだろう
 治癒能力者が一人いるかいないかで、生存率と言うものは大きく変わる

(あの少年の精神的な弱みもわかった。うまくやれば、「あの方」が見つかる前でもこちらに引き込めるな)

 大きな収穫を得られた
 この情報を、今後に活かさなくては

 観客席が並ぶエリアへと入っていくその時、ふと、冷たい空気を感じたが九十九屋はあまり気にせず観客席へと向かい
 ………自分を見ていた、凍れる悪魔の視線に、気づくことはなかった
 


 空井 雀がそっと治療室を覗き込むと、そこは忙しさのピークは脱したようだった
 スペシャルマッチの初手で溺れた人達の処置はもう終わったのだろう
 ぐっしょり濡れている服を乾かしている者や、まだ意識が戻らない……と言うより、気絶からスヤァへとモード移行した者がベッドで寝ていたりしているが、慌ただしい様子はない
 そんな中で、雀は自分を戦技披露会へと誘った相手を探す

「……あ、いた」

 憐は、ちょうど溺れた拍子に怪我をした人の治療をしているところだった
 ぽぅ、と掌から溢れ出す白い光が、傷を癒やしていっている
 傷を癒やす様子は以前にも、見た
 以前と違うのは、憐の背中から淡く輝く天使の翼が出現していた事だ
 よくよく見ると、治療室の床や寝台の上に羽根が散らばっている

「おや?怪我人かな?」

 と、何やら女性を診察していたらしい白衣の男性が雀に気づいた
 診察は終わったようで立ち上がり、雀へと視線を向けて

(………あれ?)

 何か
 じっと、「視」られたような
 そんな感覚を、確かに感じた

「……っと、すずっち。来たっすね」

 その感覚は、憐に声をかけられたことで途絶える
 怪我人の治療が終わったらしい。普段通りのへらりとした笑顔を向けてきた

「わが助手の従兄弟よ、もうそろそろ、その翼はしまっても大丈夫だよ。君も疲れただろうし、だいぶ羽根が散らばっているから治癒の力はそれで十分だ」
「ん、そうっす?……あんま疲れてないし、平気っすけど」

 と、白衣の人に言われて憐はすぅ、と天使の翼を消した
 白衣の人の言い分からすると、散らばっている羽根にも治癒の力があるのだろう………ようはこの治療室は今、治癒の力に満ち溢れていると言っていいのかM沿いれない

「そちらの少年、知り合いかい?」
「はぁい。クラスメイトっす」

 へらん、と笑って白衣の男性に答えている憐
 ぱたぱたと、雀に駆け寄ってきた

「大丈夫?忙しくない?」
「ん、平気っすー。俺っちは、「先生」やかい兄のお手伝いしてるだけっすから」

 雀の問いに、憐はへらりと答えてくる
 一応、その顔に疲労の色は見えないが、実際のところはどうなのだろうか

「他のみんなも来ているんだよね?龍哉君や直斗君、神子ちゃんは実況やってるみたいだけど…」
「来てるっすよー。はるっち逹は観客席にいるはずっす。後で合流するっす?俺っちはっもうちょいこっちのお手伝いしてるっすけど………」
「君は、もう休んでも大丈夫なのだけどねぇ」

 白衣の男性が苦笑する
 そうして、こっそりと、雀に話しかけてきた

「……すまんが、少年。後で彼をここからなんとか連れ出してくれるだろうか?」
「え?」
「当人、顔に出さないようにしているが、これだけ治癒の羽根をばらまいたのだからだいぶ疲労している。ヘタをシたら倒れかねんからね」

 それは困る、と
 「あとで怒らられるのは私だからねぇ」と、自分のことだというのにまるで他人事のように言いながら、白衣のその人は苦笑したのだった


to be … ?

 医務室に来たボクは、いきなりお医者さんに頼みごとをされた。

「……すまんが、少年。後で彼をここからなんとか連れ出してくれるだろうか?」
「え?」

 それは、憐君をここから連れ出して欲しいというもの。
 どうやら、治療の羽を出しすぎたせいで疲労しているらしい。このままだと、倒れる可能性もあるとの事だった。

「わ、わかりました!」

 あまりに予想外な出来事。ボクは、慌てて返事をした。

「頼むよ。そう焦らなくていいから」

 お医者さんは、軽く微笑みながら次の怪我人の下に向かっていった。
 入れ替わりに、憐君が話しかけてくる。

「すずっち、『先生』と何の話してたっすか?」
「え。いや、大したことじゃないよ。それよりも凄いね。この部屋中の羽根、全部憐君が出したんでしょ」
「そうっすよ。このくらい、朝飯前っす! なんで、もうちょっと治療を――」
「も、もう十分じゃないかな!! ほら、あのお医者さん。『先生』も羽根だけで十分だって言ってたし」
「いや、念には念を入れるっす!」
「入れちゃうかー!」

 説得の失敗に、ボクは一人頭を抱えた。うん、もうちょっとコミュ力を上げる必要がありそう。
 さてさて、次はどうしようかと考えていると鶴の一声が飛んできた。

「憐、ここはもういいから休んでこい」
「ちょっと、かい兄まで何っすか。俺っち、まだまだいけるっす」
「いいから、行ってこい。お前が倒れたりしたら患者も心配する」
「え?」
「もしかしたら、自分達のせいで倒れたんじゃないかと思うかもしれない」
「そ、それは……」

 かい兄と呼ばれる人の説得に憐君は揺れた。自分のことだけでなく、患者さんの話を持ち出されたのが効いたらしい。
 そして。

「……わかったす。あと少ししたら休憩に入るっす。すずっち、それまで待ってもらっていいっすか?」
「うん!」

 内心、ほっと一息つきながら返事をする。完全に、あの人のおかげだけど目的は達成できた。……後で、機会を見てお礼をしておこう。
 憐君が離れていき、一人残されたボクはテレビに目をやり

「エビフライ!?」

 絶句した。

続く?

戦場に現れたクラーケンと同等、あるいはそれ以上の体躯を誇る黒い二足歩行型のドラゴン
この姿こそがゴルディアン・ノットの切札であり、彼の真骨頂であった
"機尋"と並ぶ彼のもうひとつの契約都市伝説。それは"鎖室エリア"
某駅の鎖で封鎖された扉と、その奥から現れた黒く大きな五本足のトカゲという都市伝説
この都市伝説は彼が生来持つ都市伝説を補助・強化する形でその力を発揮した
平素は都市伝説としての力に制限をかけて万が一の暴走という危険を減らし
有事には体を巨大化させ腕などの部位を増やして戦闘能力を向上させることも可能
さらには機尋の使用にも支障なく、むしろ普段以上に使うことができるのだから
まさに切札と称するに相応しい能力であると言えるだろう
だが無論のこと、この切札にも欠点が存在する。それが時間である
制限をかけて抑えていた力を強化して解放するというのは
人間と都市伝説の間を行き来する彼にとって、天秤を大きく傾ける行為に他ならない
一度大きく傾いた天秤はそれだけ平衡へと戻るのに余計な時間がかかる
力を解放し続けた時間に比例した期間、都市伝説側へ性質が固定されてしまう
それが鎖室エリアによる強化による欠点であり、彼がこの能力を多用できない理由だ

背から伸びる腕が掴んだドラゴン型クラーケンの首を潰さんとばかりに握りこまれる
時折鞭のように振るわれる尻尾に打たれながらも暴れて抵抗するドラゴン型
ゴルディアン・ノットは空いていた両腕を使いドラゴン型の体を押さえにかかった
その腕の表面から解けるように布や縄が剥離してドラゴン型を拘束していく
動きが緩慢になったドラゴン型、その前足を噛み千切らんと
ゴルディアン・ノットは巨大な口を開き、咆哮をあげて牙を突き立てた
ミシミシブチブチという骨が軋み肉が裂かれる音が豪雨と強風の中に消える
だが突然、風雨を貫くようにして水流がゴルディアン・ノットの背に襲いかかった
背後からの攻撃に体勢を崩し、ドラゴン型を取り落としつつ振り向いた彼は
鎌首をもたげて口を開き、ゴポゴポと喉奥に水を蓄えたシーサーペント型を睨む
再び水流が放たれると同時、大量の海水が再び会場を水で満たさんと放たれた

ヴァアオオオオオオオオウウ

再び黒いドラゴンの咆哮が会場の空気をビリビリと揺らした
 

咆哮と呼応するように侵食する海水を逆に飲み込むように足場全体がせり上がっていく
シーサーペント型の放った水流は、対抗するようにいくつも屹立した布と縄の柱で
勢いを幾分か散らされつつも再びゴルディアン・ノットに直撃した
しかし水流に逆らうようにゴルディアン・ノットはシーサーペント型との距離を詰め
その体を三本の腕と巨大な顎で捕まえ持ち上げにかかった

 ―――――クルァアアアアアアアアア

己に食らいつく黒いドラゴンに三度目の水流をぶつけようと口を開くシーサーペント型
その頭部を"四本目の"黒い腕が殴りつけ、口を抑えて閉じさせる
ゴルディアン・ノットは鎖室エリアの能力を使い体に新たな部位を追加したのだ
さらにギョロリと後ろ向きに一対、新たに生えた両眼が背後に迫るドラゴン型を睨み
長い尻尾が迎撃のために振るわれる。同時にシーサーペント型を掴んだ腕と顎には
その体を引きちぎろうと力が込められていく。布と縄に覆われながら
黒いドラゴンの四本の腕と顎によって引っ張られ続けたシーサーペント型は
ついに断末魔の咆哮を上げながら体を引き裂かれて活動を停止したのであった
動かなくなったシーサーペント型の体を放り捨てたゴルディアン・ノットは
尻尾で牽制していたドラゴン型に向き直り、咆哮と共に掴みかかった


「もー!いったいどこにいるのよ!!」
一方、無事にザリガニ型から生命力を奪って虫の息に追いやったサキュバスはといえば
あまりの風雨の強さから完全にザンの姿を見失って困っていた
「というかこれカメラ中継できてるの?在処ちゃんにお姉さんの活躍見せられなくない?!」
こんな時にカメラの心配をするのは余裕の現れか、それとも変わり者の証明か
なんにせよハート柄のタコ型クラーケンを連れて彼女は足場の上を移動していく
その先にあるはずの、座礁した海賊船を目指して

                                        【続】

 一方その頃。クイーン・アンズ・リベンジの上では。
「わーい!おっきなエビ!エビフライにしたら、なんにんまえかなあ」
 鋏を振り上げたエビ型のクラーケンを前に、上機嫌の幼女と苦笑いをする黒髪の少女に、色素の薄い青年。
「さて澪ちゃん、どうしようか?」
 肩をすくめて問う真降に、澪は銀の大鎌を呼び出し、
「殺ります?」
 紫色の瞳を眇め、いたずらっぽく笑う澪。本気か否か真降にも判断が付きかねる。
「いや、死人は出さない事になっているし、都市伝説といえど、それは良策じゃないね」
「じゃあ真降さんには良策が?」
 真降はまあねとだけ応えると、とととっと前に走り出していった幼女に視線を向けた。
「とりあえずお手並み拝見といこうか。危なくないように目は配るよ」

「ふぁいやー!」
 ひかりが手鏡をかざすと、周りの気温が俄に上がり、炎が巻き起こる。
 エビ型クラーケンが鋏を振り回し抵抗すると、炎が風にかき消され、鋏と胴体の一部に熱が入り、赤く染まる。
「殻の焦げる、いい匂いが…」
「いやいや、食欲をそそられる匂いだね、これは」
 突然浴びせられた熱に、エビ型クラーケンは鋏を振り回して怒り狂った。
「あれー!?エビフライにならないの。おかしいなあ」
 手鏡をのぞき込み首を傾げるひかりに、年長者たちは苦笑いだ。
「ひかりちゃん、エビはね、衣を付けて油で揚げないと、エビフライにはならないんだよ」
 しっかり者の澪が、珍しく斜め上なアドバイスをした。
「やっぱり、はじめからこうすればよかったー!」
 ひかりは無骨な銀の槍を掲げ、何事か呟く。
「全知全能なる記録。その光と闇よ。わが意に応えその記すところを書き換えんことを」
 天上から光が降り注ぎ、エビ型クラーケンは…
 一尾の、巨大エビフライと化していた。
「えびー!」
 様子を見ていた澪と真降は茫然自失。
「そんな、バカな…」
「これが、『ロンギヌスの槍』…『アカシックレコード』の力…」
 エビ型…否、エビフライ型クラーケンは、自らに起こった変化もつゆ知らず、鋏をふりふりひかりに向かってゆく。
「えびー!」
「ひかりちゃん、危ない!」
 間一髪、真降が水面ごとクラーケンの下半身を凍らせて動きを封じる。
「これで当面は凌げるね」
「でも…時間の問題ですよね、これ」
 クラーケンが氷を割る前に、何とかしなければならない。
 

「全身凍らせることは、可能ですか?」
「時間があるなら」
「分かりました。時間の稼ぎ方を考えます」
 二人の会話は、それで十分だった。


その頃観客席では、一人の少女がもじもじそわそわしていた。
「神子、どうしたの」
「んっ…いや、なんでも…」
(なんだろ、この…体の中をかき回されるような、変な感じ)
 なにかを感じ取るように、闘技場で銀の槍を手にした幼女に、視線を向けた。


続く

 神子が、まるで何かを感じ取っているかのようにそわそわとしている
 その様子に気づいた直斗は

「………………厄介な能力使いやがった」

 と、ぼそり、実況のマイクには入らないよう、そう呟いた
 その声は、忌々しそうな、今にも舌打ちしそうなものだったが

「?何か言った?」
「いや、何も」

 神子に問われた時には、普段通りの軽い調子の声に戻っていた
 そうしながら、神子に告げる

「とりあえず、さっきからそわそわしてるみたいだけど。この試合終わったらすぐ手洗い行けよ。こういう場で漏らしたら属性付けられるぞ」
「そういう意味でそわそわはしてないっ!?」

 力いっぱいの神子のツッコミを軽く流しながら、直斗は試合会場を映し出すモニターに視線を戻した
 激しいスコールによって、ほぼ何も見えないも同然の状態が続いているが……

「龍哉、今、どんな状態になってる?」

 龍哉なら、自分達より多少は見えているであろう
 そう判断し、直斗は龍哉に問うた
 ようやく、龍哉が神子の目隠しから解放されたおかげで、もう少しマシに実況できそうだ
 そうして、龍哉はその問いに答える

「そうですね。ザンさんが呼び出していましたエビ型のクラーケンが、エビフライになりましたね」
「「何が起きてる試合会場」」

 思わず、直斗と神子の言葉が重なった
 本当に何が起きている、試合会場

「……まぁ、どちらにせよ。そろそろ決着つくだろ」
「どうしてそう思うの?」
「思ったより時間かかってるし。そろそろ、ザンが焦れてくるだろうからな」

 スペシャルマッチの試合の経緯を思い返す
 ザンは「試合の最中に武器を補充していた」のだ
 そろそろ、それを使うだろう、と。直斗はそう確信していた


 次々と特攻し、自爆してくる人形逹をクラーケンの足で防ぐ
 ただ、そろそろ決着をつけるべきだな、とザンはそう考え出していた
 さて、人形を特攻させまくっている彼女をどうしようか………

 ごぅんっ

「あ」
「影守ーーーーっ!?」

 あっ
 何気なくクラーケンの足で特攻を防いだら、クラーケンの足で絡め取ったままだった影守が人形の自爆特攻をもろにくらった
 あれ、生きてるだろうか

「っく……なんて酷い事を……!」
「会話聞いてた感じ、人形に八つ当たりで自爆特攻させてる時点でお前も酷くないか?」

 希の言葉にザンは思わずツッコミを入れた
 が、希はそれを華麗にスルー(と言うより聞かないフリ)して、ザンを睨みつけた

「しかも、さっき影守に当たったので人形ストックがほぼ尽きた……!なんて事なの……!」
「そら、あんだけ特攻かましまくったら残機なくなるわ」

 自業自得だろう、とツッコミを入れながら、ザンは傍らにブラックホールを思わせる穴を空けた
 その真っ黒な空間を見て、希が警戒する

「…それ、攻撃には使っちゃ駄目なんでしょ?今回は」
「あぁ、「直接」攻撃に使うのは、駄目だな」

 そう、「直接」は駄目だ、「直接」は
 ……だが、この使い方なら許される
 漆黒のその向こう側から顔を覗かせ始めたそれに、希は対応しようとして………
 




 時は、ほんのちょっぴりだけ遡り

「はぁい、来ちゃった♥」

 ようやく、クイーン・アンズ・リベンジと「良栄丸」の辺りまで移動完了したサキュバス
 そこにいた面子に、ウィンクを一つ飛ばし

 ………っぱん、と、銃声が響き渡った

「危なっ!?いきなり撃ってくるなんて大胆……♥」
「……っち、外しましたか」

 何があったか、と言えば。蛇城がサキュバスを見た瞬間、問答無用で発砲したのである
 残念ながら(?)、サキュバスが支配権を奪い取ったタコ型クラーケンによって防がされたようだが

「味方を銃撃するのはどうかと思うんだけど」
「若に見せてはいけない姿をしていたので、今のうちに撃ち落としておくべきだと判断しました」

 黒服Yのツッコミにもこの反応を返す蛇城
 反省している様子はない、と言うより、隙あらばまた撃ち込む構えだ

「そのタコの支配権、完全に奪い取っているのか?突然、支配権を奪い返され、タコが暴れだすなどということはないだろうな?」
「大丈夫大丈夫、そう簡単に支配権奪い返されるほど、お姉さんは甘くないぞ♥」

 ゴルディアン・ノットの帽子を抱えた外海に問われ、セクシーポーズとりつつ答えるサキュバス
 そう、彼女とて熟練の実力者サキュバスである
 一度誘惑して支配権を奪った存在を、そう簡単に奪い返されたりはしない
 そう、やる気がなくならない限りは………

「在処ちゃんにお姉さんの活躍見せなきゃいけないんだもの、無様な姿は晒さないんだから」
「念のため言うが、奥方様……在処様は、会場には来ていないぞ」
「えっ」

 蛇城からの容赦なき言葉に、一瞬霧散しかけるサキュバスのやる気
 が、ギリギリのところで、サキュバスは耐えた
 落ち着こう、淫魔はクールかつ情熱的であれ。会場に来ていなくとも、後で録画映像を見たりとかあるかもしれない。どちらにせよ無様な姿を晒す訳にはいかないのだ

 と、茶番を切り上げ、真面目にこの状況をどうすべきかとなった、その時

「………あ?」
「黒髭、どうかしたのか?」
「…今、爆音がしなかったか?」

 直ぐ側の音しか聞こえない…どころ、その音さえかき消しかねないスコールが降り注ぐ中、黒髭が何やら聞きつけた
 そして、その音は彼にとって聞き覚えのある、馴染みのある音であり

 直後、この場にいる全員が悪寒を感じた
 びちびちっ、と、タコ型のクラーケンがビチビチと暴れだす

「っきゃ!?あれ、どうしたの?」

 サキュバスが問いかけるが、タコ型クラーケンは人語を話すことはできない
 代わりに、びっちんびっちん足で海面を叩き、何かを訴え……その足の動きが、おかしい
 何か、痺れているような

「痺れ………まさか!」

 深志が慌てて、辺りを泳がせていた「メガロドン」と視界を共有した
 近場を泳がせていた「メガロドン」の視界が、それを捕らえる

「げ……っ栄、今すぐ「良栄丸」をこっから移動させろ!」
「無茶言うな。海水がなくなった分、スピードが落ち……っ!?」

 しゅるり、と
 何か、半透明の細いものが「良栄丸」に絡みついてきた
 黒服Yと蛇城が絡みついてくる触手のようなそれを銃撃するが、後から後から伸びてくる

「なにこれ!?」
「クラゲ型のクラーケンだ!サキュバスに吸われた後放置されてんのかと思ったら、一旦引っ込めて召喚し直しやがったんだな!?」

 澪の叫びに応える深志
 そういえば、サキュバスに生気を吸われ放置されていたはずだったのだが………スコールが降り注ぎ始めて以降、姿が見えないと思ったらそういうことなのだろう
 スコールに紛れて、接近してきていたらしい
 触れた瞬間に相手を痺れさせるであろうその触手から、「良栄丸」に乗り込んでいる面子は距離を取る

「…でも、このお船を沈めるだけのパワーはないのかな?」

 エビフライ型クラーケンがびたーんびたーんと己の進撃を封じる氷を破壊しようとしている様子を横目で見つつ、ひかりはクラゲ型クラーケンの触手の様子に首を傾げた
 

 そう、どうやら、「良栄丸」を沈めるようなパワーはクラゲ型クラーケンにはないらしい
 もしも、沈められるのならばこれだけ絡みつかせた時点でとっくにやっているはずだ
 では、このクラゲは何の為に?

「まるで、ここから移動させないために絡みついているような……」

 そう、口にしたのは誰だったか
 その言葉が最後まで続く前に、クイーン・アンズ・リベンジ、「良栄丸」、そして黒いドラゴンと化していたゴルディアン・ノットの真上に、漆黒の闇が生まれる
 触れたものを容赦なく吸い込み消し去るその闇の向こう側から、何かが、無数に………

「…あれは、まさか」
「クイーン・アンズ・リベンジが放った大砲の弾!?」

 そう、黒と黒髭が容赦なくザンに向かって撃ち込みまくっていた大砲の弾
 ザンの能力で闇の向こう側に吸い込まれていたそれらが、一斉に姿を表して
 希相手にやったように、大砲の弾は容赦なくザンへの挑戦者逹に降り注いだ


 厄介な連中は一箇所に集まっていたようである
 召喚しなおしたクラゲ型クラーケンで「良栄丸」の動きを封じ、そこに吸い込んでストックしておいた大砲の弾を返しまくる
 これで、「良栄丸」は落ちるだろう
 大砲の弾だけで落ちなかったら、他にも過去に吸い込んだ攻撃を放出していけばいい

「あとは、あそこに合流していない、まだ潜んでる奴一人ずつ見つけて落としていけば終わるだろ」

 そうじゃなくとも、これだけのスコールだ
 運が良ければ、もう落ちているだろう
 このエリアから回収されていないところを見るに、まだ気絶していないらしい影守の方も、もう少し強めにクラーケンに絞めさせて落とせば………

「っと」
「が!?」

 ザンへの奇襲を試みた小さな人影が、イカ型クラーケンの太い足に叩き落された
 ずっと、気配を潜ませ攻撃のチャンスを狙っていたらしい
 ザンが攻勢に転じた様子を見て、今仕留めなければ挑戦者側は勝てない、と踏んだか
 叩き落された、忍びのような服装の人影は、そのまま地面へと落下していって

 ぺふしゅるんっ、と
 イカ型クラーケンの足に、そっと抱きとめられた

 スコールがゆっくりと晴れていく

「…………やりやがった」

 ぽつり、呟いたザンの右肩
 そこに、小さな苦無がざっくりと、突き刺さっていた



【戦技披露会 スペシャルマッチ ザンへ一撃を加える事に成功しました 挑戦者側の勝利です!】




to be … ?


 合同戦技披露会の会場を歩き回っていた舞は、知った顔を見て挨拶をしに行った。
「黒服Dさん。それにはないちもんめの嬢ちゃん。お久しぶり」
 気付いた二人は舞を見て一瞬目を細め、それぞれ納得したように頷いた。
「ええ、久しぶりね」
「お久しぶりです」
「いやぁ、将門サンに酌でもしてやろうと思って行ったら本人居なくてさ、
ごみごみしてるとこ行っても疲れるからVIP席に誰か知り合いいねえかなって歩いてたらいい感じに寛いでるの見つけちまった」
 舞は手に持った酒を置いて二人の傍に立つと、少女が確認するように口を開いた。
「あなた、半分ここに居ないわね?」
 はないちもんめの契約者、望の言葉に舞は頷き、
「まあ、いざという時に俺たちの意思でここから抜け出せるように、な。別の異界が体に干渉してるんだ。自衛自衛。
 それより、さっきのX-No.0の戦闘、凄かったな! リアル怪獣映画だぜ!」
 そう言うと、舞は二人とこれまでの試合について軽く意見を交換した。
 あらかた話した上で、舞は懐かしむように目を細め。
「今回の参加者にもけっこういるっぽいけど、学校町の契約者って今もかなり居るんだろ?」
「私達が外見年齢相応だった時と比べるとあまり変わらないか、少し少ないくらいよ」
「ってことはかなり異常だな」
 苦笑が漏れる。
「それでもなんとかしていくわ」
「おお! 立場がある奴のそういう言葉はかっこいいぜ」
 手を打ち鳴らして応えた舞は、「しっかし……」と二人に視線をやる。
「Dさん、その絵面けっこう犯罪ちっくだな」
「恥ずることのない夫婦のワンシーンよ。ねえ、大樹さん?」
 当の本人は観戦用のモニターを見つめている。試合はまだ始まっていないのにだ。
 舞としてはからかってやろうかと思ったが、それより先に望が言う。
「今更ナンバーで大樹さんを呼ぶのってどうなの?」
「出会い時点でそれだったからなあ、今更ってのもある。それに、俺たちにとってDさんのDは≪組織≫でいう№のDとはまた違う意味あいがあるからなあ」
 望が「そうなの」と頷き、大樹がスクリーンこら目を移した。
「舞さん、そのお酒は?」
 舞は嬉しそうに瓶を振る。
「ここに来る前にフィラちゃんに頼んでVIP席進入許可のお礼に行ったらヘンリエッタ嬢ちゃんが逆にくれたワイン。なんと本物の≪悪魔の蔵≫の代物だそうだぜ」
 美味し過ぎて盗み飲みが多発したためにそれを防ぐ意味を込めて流れた悪魔の蔵の噂があるが、本物ということは、本当に悪魔がいる蔵から持ってきたのだろう。
「≪組織≫の備品でないことを祈りたいわね」
「あの方でしたら大丈夫なはず……です」
 大樹は相変わらず胃がキツそうだ。その不憫な姿に郷愁じみた親愛を舞は感じる。
「しっかし、文字通り尻にしかれちゃってるね、Dさん」
 望は大樹の足に収まっている。犯罪的な画とは言ったが、これはこれで微笑ましい。
 大樹はこほん、と咳払いし、
「一応、仕事もしておりますのでご容赦を」
「いや休めよ」
 思わずツッコミをいれるが彼は聞かないだろう。それは望の顔を見ればよく分かる。
 これは彼の不治の病なのだと思いながら、舞はこの二人にも縁が深い契約者が試合に出ていた話を蒸し返す。
「そういえばさ、チャラい兄ちゃん――いや、翼さん、か。あいつの娘大きくなったよな」
「ええ、時間は過ぎていきますね」
 大樹が感慨深く頷く。
 

「始めはあの兄ちゃんが産んだんじゃないかと思ったもんだ……」
「ああ、≪801穴≫との契約が一部界隈で疑われてたみたいね」
「そんな騒ぎも、もう十年以上前なんだもんなあ」
 舞も深く時間を噛みしめる。
 普段はあちこちを転々としては≪マヨヒガ≫に迷い込んだ者の相手や問題の解決などを行っているものだが、
後進の本格的な育成なんてものに手を出してみるのも面白いかもしれない。
「舞さんは今日はお一人ですか?」
 大樹の問いにいや、と舞は手を振る。
「元T№1と0。それに昔≪首塚≫に居たモニカって子と、その契約都市伝説の≪テンプル騎士団≫が来てるよ。
フィラちゃんは≪首塚≫の本島に行って昔の仲間と話してるんじゃねえかな」
 言っていると、妙齢の女と初老の男がやって来た。
「ここに居たか、舞」
「やあ、いろいろ買って来たよ」
 元T№の1と0。高坂千勢と高部徹心は、二人揃って大量の袋を持っていた。
 徹心は隻腕に≪夢の国≫のロゴが入ったものをいくつも下げている、千勢も同じ物を持っていたが、それ以外にテキ屋の屋台で買ったかのようなビニール袋があった。
「ああ、ちょっと面白そうな屋台を見つけてな、ちょいと買ってきた」
 指差す先にあるのはどう見ても死人が働いている屋台だ。手を振ってきているが、その動きで肉が剥がれ落ちそうで見ていてハラハラする。
 ……あれ、食品に混ざってないか?
 舞と同じことを思ったのか、望が言う。
「衛生的に大丈夫なの?」
 千勢は「大丈夫大丈夫」とあっけらかんと言って地面に座り、
「≪桃源郷≫の桃を毎日食ってるんだ。今更異物を食った所で死にゃしない」
 ここら辺の無頓着っぷりは舞にはまだ理解できない。
 徹心が苦笑で「まあ、こちらでもお食べください」と言って≪夢の国≫産の食べ物を渡す。
 舞は世界一有名なネズミの顔の形をしたピザを受け取り食すことにした。
「そういえば、Tさんはいらっしゃらないんですか?」
 大樹があたりを見回しながら言うと、望が「あ」と応じる。
「そういえば、急遽Tさんの名前が今日の参加者に追加されてたらしいわよ」
 大樹がおお、と唸り、千勢が笑う。
「あれはせっかくの機会だからと言って過去の負債を精算しに行ったよ。これにて晴れて昔のT№は円満に≪組織≫から離れることができるというわけだ」
「過去の精算?」
 望の疑問に、徹心が応じる。
「昔……たしかR№の物資調達の責任者の女性だったかな? 彼女直々にエリクサー合成の際の副産物として出来たアルコールを返却してくれと言われていてね」
「当時徹心は引きこもってたから、これを知ったのはしばらく後に出された≪組織≫の季刊誌でなんだ。
 たまに痴漢術みたいな面白いネタがあったので愛読していたが、ちと海外に出てる間に購読を忘れていた……。今ではどうなっているのだろうな」
「よく考えたら≪神智学協会≫との決戦の前に≪組織≫での資料を処分していた時、あの時破り捨てたあれの中に請求書があったんだろうなと思うんだけれど……」
「いかんな徹心」
「破り捨てていたのは君だよ」
 そんな幹部達の光景を見つつ、舞はこう思う。
 ……世界よ、これが≪組織≫だ……っ!
「ああ、そういえばそんな呼びかけもありましたね」
 大樹が思い出している呼びかけは、もう何十年も前のものだ。自分が所属している№でもないのにそれを覚えているということは、その時かなり胃を痛めていたのだろう。
「参加することで≪組織≫に対する負債を帳消しにするとなると、普通の参加の仕方ではないんでしょう? 連戦でもするの?」
 望の言葉に、舞は首を振る。
「俺らはただの契約者でしかねえからそんな大それたことはしたかねえな。
 ヘンリエッタの嬢ちゃんとかに掛け合ってここら辺を落としどころにしてもらうかとなったのは……まあ、あれだ」
 モニターに視線をやると、そろそろ次の試合が始まりそうだった。
「参加したのはいいけど、警戒されて相手が居なかった子の相手をするって感じかな」
「あら、ぼっちの子が居たの……ねえ、それってもしかして」
 望が言いかけた言葉の後を引き継ぐように、実況が次の対戦カードを告た。
『次の試合は…………≪夢の国≫と――T?』
『なんなのこのあからさまな偽名』
 舞は頷く。
「相手は夢子ちゃんだ」
 


   ●

 舞は実況の声を聞いて二人に問うた。
「この声、Dさんと嬢ちゃんの娘さんの声か?」
「ええ、そうよ」
「≪組織≫に提出されている偽の情報そのままで紹介するようにお願いしていますので、面倒なことにはならないと思いますよ」
 会場がどよめく中でそんな会話をしていると、実況がプロフィールを読む声が聞こえた。
『えー、Tは、かつて≪組織≫に存在したT№に所属しており、
№0を含めて構成員全てが≪組織≫を去るきっかけとなった≪神智学協会≫との≪太平天国≫後継を巡る争いの最中、
上位№から年季明けということで≪組織≫脱退を許可された構成員とのことです』
 説明にほう、と頷きが会場のそこかしこで上がる。元≪組織≫所属ということである程度の戦闘はできるだろうと判断したのだろう。
『続きまして、≪夢の国≫ですが、これは説明するまでもありませんね。彼のテーマパークにまつわる都市伝説の集合体です。
過去に諍いもありましたが、今回は≪組織≫≪首塚≫と共に屋台なども出して戦技披露会の盛り上げに一役買っております。
――是非屋台に買い物しに来てね。って、これただの宣伝じゃないの』

『未確認情報ですが、どうやら≪夢の国≫はかつて≪神智学協会≫とT№の決戦の際、戦闘参加者の友人として参戦したことがあるとのことです』
『決戦には≪首塚≫からも幹部クラスが参戦したという話も出ていますね。こうしてみるとこの対戦カードはなかなか因縁深いとも言えます』
 宣伝に続いた男の声での補足説明に、舞はそういうことになってるのかと内心で呟く。
 その横で、千勢が莞爾と言う。
「縁だな」
「こういう運びになった発端がどさくさに紛れて請求書や返還要求を破り捨てたことだというあたり、
親の因果が子に報いていてなんとも味わい深いね」
「私は良い息子を持っただろう徹心」
「不憫でならないよ」
 そんな会話の周りからは「あの胡散臭い名前の奴、かわいそうに」というニュアンスの言葉が聞こえてくる。
 舞としては不思議なシンクロに頷くしかないが、
「知らないって怖いわね」
 望が言い、スクリーンが試合会場を映した。
 


   ●

 試合会場は無人の繁華街をモチーフにした場所だった。
 左右に商業施設らしい背の高い建物が並ぶ無人の目貫通りに、数メートルの間を空けてTさんと夢子は向かい合っていた。
「今回催しの相手になってくださったこと、≪夢の国≫の王たる私、夢子の名において感謝いたします」
 可憐に、それでいて威圧感のある夢子にTさんは会釈を返した。
「この度は王にまみえる幸運にあずかったこと、感謝いたします」
 Tさんが礼から顔を上げると、夢子が歯に何か挟まったような顔をしていた。
 彼女は少し考えた末に、手を上げて指を一つ鳴らす。
「よし」
 改めて、と言うように夢子は簡素なワンピース型の服の裾をつまんで華麗に堂々とカーテシーを決めた。
「≪夢の国に流れるカラス避けの電波≫を拡大したものを流しました。映像と音は届きますが、声だけは拾えませんよTさん」
「そうか」
 Tさんは、口元を隠して楽しそうに笑う夢子に親しい口調で言う。
「今回の件だがな、俺たち……というか母さんがやらかした件への精算という意味合いもあるので俺の方にもメリットはある。お互いにその辺りの感謝は無しにしよう」
「あら、そうなのですか。あの方も愉快なお人ですね」
「まあ、たまに起こるならそういう判断でもいいのだがな」
 Tさんは肩の力を抜き、次の呼吸で気を引き締めた。
「ともあれ、せっかくだ。十分に力を尽くさせてもらう」
「ええ、私たちも、力を入れてかかります――このような機会、滅多にございませんもの」
 夢子の表情があけすけに楽しげなそれから、奥に何かを隠した意味深なものに変わる。
 戦技披露会ということで、今回Tさんと夢子はそれぞれに戦闘に際して条件を付けていた。
 曰く、 
 ≪夢の国≫は主要なマスコットは全て屋台で出張らせた状態で戦う。
 Tさんは生身一つで戦闘する。
 ≪夢の国≫は王を対戦相手の可視範囲内に存在させる。
 攻防の様こそこの見世物の華であるため、Tさんは戦術的に優位を得るためであっても隠伏や遁走を極力行わない。
 アトラクションを長引かせず、短期決戦にする構えだ。
 それらの条件でもって互いをどう倒すか、Tさんも夢子も考えていた。

   ●

 ……≪夢の国≫があらゆる手を尽くしてくるならば、俺一人では決して敵わない。

 ……Tさんがあらゆる手を尽くしてくるのならば、≪夢の国≫はおそらくその総力を挙げても落とされてしまう。

 しかし、

「この限定条件下ならば」
「勝たせていただきます」

 こうして試合が始まった。


『あー、申し訳ございません。どうやらお二人の声を拾うことができない不具合が発生してしまっているようです。
皆さまにおかれましてはそのまま観戦ください』
 実況がそう知らせてくる。
 傍目にも≪夢の国≫が何かしたのは明らかだが、試合続行には問題はなさそうでなによりだと舞は思う。
 体に干渉している≪夢の国≫から漏れる声を聞くに、二人はやる気満々らしい。
 ……あんま大きな怪我をするようなことにならなければいいんだけどな。
 あの二人の様子では、それは難しそうだ。
「あんなに戦意に満ちていてくれると主催者側としては嬉しいかぎりね」
 そう言いつつ、望は舞に目を向ける。
「声を消しても唇が読める奴らには無意味よ。いいの?」
「まあ、何を言ってるのか完全に読み取るのは難しいだろうし、
もしTさんと夢子ちゃんの親密さに気付かれても昔Tさんが≪夢の国≫に招待されたことがあるからとか、そんなふうに言い張ればいいだろ」
「まあ、そうね。音声に完全に残されているわけでもなし、気にする必要もないか」
 画面の中ではTさんの体の各所が光り始めていた。
「そろそろ動く」
 千勢が言うと同時、Tさんが一気に距離を詰めて夢子の肩と足にそれぞれ自分の手と足を引っ掻けた。
 接近の勢いを利用して横回転させるように夢子を転ばせにかかったTさんは、倒れかけの夢子の腹に続けざまに膝を入れた。
 ……うわっ。
 その絵面に思わず自分の腹を押さえてしまう。
 その間にも、Tさんは止まらずに夢子を蹴り上げている。
まるでサンドバッグか何かのようだなどと思っている間に一分近く経ったが、Tさんの攻撃は続くし夢子は反撃をしない。
 ……反撃どころか夢子ちゃん、ろくに防御もしてないんじゃないか?
 一切防御をしているように見えない夢子の様子に、舞は少し違和感を覚えた。
「夢子ちゃん、なんで攻撃を防がないんだ?」
 もう気を失っているというわけでもないだろうと思って言うと、答えてくれる声があった。
「馬鹿息子は今≪ケサランパサラン≫への祈祷による身体強化で格闘戦を仕掛けているな。
 あれは直接やってみると分かるが、くせ者だ」
「ってーと、どういうこった?」
「同じ力の入れ方でも、発揮される力が祈りの具合によって異なるんだ。
これは戦闘慣れしていればいる程に無意識下で行われる力の入れ具合による動きの先読みを裏切ってくるから感覚が狂わされることになる」
 へえ、とリカちゃんが感心した後に首を傾げ、
「でも、夢のお姉ちゃん、近くで戦うこと、あんまりないの」
「そうだぜ。夢子ちゃんはあっちこっちに瞬間移動してヒットアンドアウェイするタイプだから格闘戦ばりばりってわけじゃねえ。
 素人ならあれ、逆に避けやすいんじゃねえの?」
 

 その問いに、千勢は指を二本立てた。
 一本の指を曲げ、
「馬鹿息子の動きに対して先読みを行わず、
見たままで対応することになるから素人の方が避けやすいというのは正しいが、素人が反応できる速度で攻撃は行われていない」
 それに、と千勢はもう一本の指を曲げる。
「馬鹿息子の足元を見てみろ」
 言われるがままに見てみると、なんとも面妖なことに、
「地面が光ってたりするな」
「そうだ。いやらしいことに足を踏むごとに地面になんらかの幸せを願っているらしい。
その結果、偶然にも足元が崩れたりといったことが起きているようだな。
 そうした仕組まれた偶然の積み重ねで何発かに一発。夢子が体勢を立て直そうとするタイミングだろう、
体が動いた瞬間に攻撃が決まっている瞬間がある」
「動いた瞬間には一発当たってるってことか?」
 そのような動きには記憶があった。
 ……ルーモアの所のカシマさんができるって言ってた気がするな。あれはたしか……。
「無拍子ってやつか」
「擬似的なものになるが、その通りだ。あれは素人ではどうしようも無い」
 千勢は食料を漁りながら話を締める。
「認識を二重にずらした攻撃に対応できないのなら、あの距離では夢子は不利だ」

   ●

 的確に呼吸のタイミングを潰す攻撃を受けながら、夢子はこのままでは鞠つきの鞠扱いされてしまうと考えていた。
 一撃もらうごとに視界が暗転し、明らかに内蔵がダメになっている。
 Tさんもこちらが不死なものだからか、加減をしてくれるつもりはないようだ。
 ……では、
 そろそろ反撃でしょうか、と夢子は来る一撃に対して急所を晒した。

   ●

 Tさんは夢子が敢えて体の中で骨も無く肉も薄い部分を晒し、反射的なものも含めた防御手段の一切を捨てて一撃を受けたのを感じた。
 深く肉に足先がめり込む。
 人体相手ならばそれがどこだろうと骨を砕いて内蔵を潰せる一撃だ。それが人体の特に柔い部分に入った。
 致命の一撃。だが、その手応えにTさんが感じたのは焦りだった。
 ……しまった。
 蹴りの反動で力を失った夢子の体が遠くに飛ぶ。追いすがるために一歩動かなければならない位置だ。
 思考のタイミングを潰すように叩き込んできた攻撃のテンポがずらされる。
 身をもって空けられたその一瞬で、
 ――≪夢の国≫の王様はね?
「どこにでも居て、どこにも居ないんだよ?」
 Tさんが姿勢を下げると、その直上を風切り音が走っていった。
 大げさなほど反った刃を振り抜いた夢子が笑みで告げる。
「攻守交代。です」
 


   ●

 攻撃を抜けた夢子が、今度は転移しながらTさんに次々と攻撃を繰り出していた。
 さっきまでと攻撃する側と受ける側が入れ替わった状態だ。
「これが、≪夢の国≫の中に一人しかいないがどこにでも居る住人という都市伝説。偏在化の力か」
「どう思う徹心?」
「うーん、僕では対応できないね。あれを受け切れるのは勘がいい者だけだろう。僕はその辺りはさっぱりだ」
「あれ、わざと隙作って攻撃を誘ってるわね。ある程度手管をわきまえているのならあっちの方が消耗は少ないのかしら」
 望の言葉に徹心は「そういうものなのか」と感心する。
 ≪夢の国≫が在る所にはどこにでも、住人と一緒に王様が居る。
 どこにでも居るから、攻撃の当たる場所には居ない。
「どこにも居ない夢のお姉ちゃんにどうやったら攻撃を当てることができるの?」
 リカちゃんが肩で首をかしげるので舞は少し考えてみた。
 これまで夢子に攻撃を当てる人は結構居た。攻撃を当てる方法は有る。
 それを事実として理解した上で、舞は結論を出す。
 ……分からん!
 なのでこの場の誰かに問うことにした。
「どうやって当てるんだ?」
「核となる王様は一人必ず存在しているということが肝だな」
 なんかよく分からない生き物の肝を食べながら千勢が言う。

   ●

 夢子が背後に現れるのを読んだTさんは、身を捻りながら肘を打ち込んだ。
 読みは当たり、Tさんの肘に骨を砕く手応えが来る。
 と、同時に足元のアスファルトが突然砕けてバランスが崩れる。体が後方に傾いて、その胸先を刃物が薙いで行く。
 幸運にも攻撃を逃れたTさんの目の前で「あれ?」という顔をしている夢子は骨を砕かれているはずなのに平気そうだ。
 ……もう治っているのか……。
 刃物が振り直される前に夢子を殴りつけようとした拳が空を切る。
 消えた夢子の次の一撃が来る前に、Tさんは道の端に跳んだ。
 跳びながら商業施設のセールを告知する幟を片手に一本ずつ取り、着地の際に幟の竿を地面で削って先端を尖らせる。
 夢子が、今度は眼前で腰だめにテーブルナイフを構えた状態で現れるので、Tさんは足腰の強化を願いもう一歩後ろに跳んだ。
 射程からTさんが離れたのを見て動きを止めた夢子に向けて、Tさんは両手に持った幟に加護を付与して投擲する。
「わっ!?」
 驚いた顔の夢子が消失する。
 次の瞬間、彼女はガードレールの上にしゃがみこんで座っていた。
「あぶないあぶな――」
 その彼女めがけて光の玉が一つ向かっていた。
「っ」
 Tさんが、幟の投擲と同時に夢子を追うよう願った光の玉を放っていたのだ。
 夢子はその場から転移して回避するが、光の玉は尚も彼女を付け狙う。
 夢子は追ってくるそれを見て、首を傾けた。
「困ってしまいましたね」
 そんな言葉を残して夢子は消え、次の瞬間にはTさんの直上に現れた。
 抱きつくように両手を広げた夢子が迫り、Tさんは勘か、それともその行動も読んでいたのか、自然な動作で一歩を下がった。
 すかされた夢子は空の腕を虚しく抱きしめて不満げに言う。
「いけずです」
 その背後には光の玉が迫っている。
 それを気にしているのかいないのか、夢子は両手の指で×を作ってまた消える。
 彼女を追っていた光の玉は、追尾対象の消失に対応しきれず、勢いを残したままTさんに向かって来た。
 Tさんが回避しようとすると、背後から声が割って入る。
「だぁめ」
 背からTさんの両脇に両手が突き出す。
 細く華奢なそれは夢子のものだ。
 Tさんを拘束して逃さないつもりらしい。
 迫る自身の攻撃を視界に入れながら、Tさんは口を開いた。
「点では当てるのが難しいか」
「王を討つならば並の幸運では足りませんよ」
「なるほど」
 Tさんが頷くと、柔らかい物に何かが突き刺さるぐちゃ、という粘着質な音が聞こえ、彼を締め付けようと迫ってきた夢子の腕の動きが止まった。
「では、もう少し工夫をこらす」
 Tさんがその場で身を回した。
 背後に居た夢子は右肩から左脇を抜けた幟によって地面に縫いとめられていた。
 Tさんの背後では、迫っていた光弾がもう一本の幟に貫かれた破裂音がする。
「体内から拘束してくれと願をかけた。幸せの圏内に引きずり込んだぞ」
 夢子がワンピースをみるみる赤く染め、血の泡を零しながら言う。
「っ……お、みごと……っ」
 こいつで勝つことができれば幸せだと願い、Tさんは掌を夢子に向けた。
「破ぁ!」
 


   ●

『大金星でしょうか? 今、幟に貫かれた≪夢の国≫が、なんか謎の光に飲まれました……っ』
 そして、Tさんから放たれた光の残滓が消えた後。幟に貫かれた夢子の姿はなかった。
 あるのは、大通りを下水が見えるまで抉り抜いて対面にあったビルに穴を空けた光の軌跡だけだ。
「うわぁ、Tさんえぐい攻撃をしましたね」
「決めるにはよいタイミングだったのです。あそこで変にためらえば幸運を侵食した≪夢の国≫がまた反撃に出ていましたよ」
「あ、ユーグのおっちゃんにモニカ」
「おや、そちらは……たしか」
「Dさん、紹介しとくぜ。こっちが元々≪首塚≫で匿われてたモニカって子で、こっちの騎士のおっちゃんが≪テンプル騎士団≫のユーグだ」
 挨拶をする二人の内、蜂蜜色の髪をした大学生くらいの女性、モニカが舞に言う。
「あの……ここってVIP席になりませんか? 勝手に入ってきちゃってますけど……」
「≪組織≫の知り合いにOKとってあるから大丈夫だって。それに、ほら、ユーグのおっちゃんが自分の正体まったく隠そうとしないせいで人が多いところだと注目されるだろ?」
 望がユーグの甲冑を見て納得する。
「あー、いかにもって感じですものね。教会の連中なんか、心中複雑になりそうだわ」
 ユーグが鼻で笑って言う。
「そのようなこと、いちいち気にしても仕方ありません。やましいことなど無いのですから、堂々としていればいいのです」
「騎士殿はそれくらいの意気でモニカを襲ってやればいいのにな」
 海洋生物っぽい何かの肉の串を食中酒といただく千勢が試合会場を眺めながら言うと、騎士が反論する。
「それとこれとは話が違います千勢。道を共にするという約束を違えず、傍に侍る騎士として私は在るだけです」
「あら、でもそんな騎士様のせいで私も成長が止まってしまいましたし、いろいろな意味でこんな体にされてしまった責任をとってくださってもいいのではありませんか?」
 この二人はここ数年相変わらずの関係だ。
いつまでユーグがモニカを突っぱねられるかを見ているのが楽しいので積極的な手出しはしていないが、これはもう時間の問題だろう。
 ……陥落するとしたらそのおっぱいにだな?! ええ?!
「……舞、何か私に言いたいことでもあるのですか?」
「いや? ただ、その時が来たらどういじめようかとか考えてる」
「そうです。盛大にいじめてあげてくださいな」
「お嬢様、いじめはいけません」
 至極まっとうなことを言いながら、ユーグはこういう話題の時にいつもするように露骨に話の流れを変える。
「ところで、今のでどれだけのダメージを与えられたとお嬢様は考えますか?」
「あの状態からの攻撃です。これで王様本人は相当な痛手を負ったのではありませんか?」
 それにいつも乗っかってあげるモニカの優しさ溢れる解答に対して、その場のほとんどの者が首を横に振った。
「そうだね、たしかに≪夢の国≫の核に一撃を見舞えたけれど、せいぜい一回殺したといったところだから、まあ効果は微々たるものだと思うよ」
「殺したら死んじゃうんじゃないの?」
 そう言ってリカちゃんが首を捻る。
 よく考えると頭のおかしい会話を理解できずにいるらしい。頭に浮かぶ疑問符が見えるようだ。
 徹心のおっちゃんは言葉を探すように宙を眺め、
「あの子と戦うなら対人戦闘だと思ってはいけないってことかな」
 リカちゃんが首を捻りすぎて人体では再現できない珍妙な状態になる。
「伝わらないかー」と徹心が困った笑みを浮かべる。
 と、実況が≪夢の国≫の健在を告げた。


   ●

「本命をあの追跡弾と思って他をあまり気にかけていませんでした。油断です」
 Tさんの目の前に出てきた夢子には傷一つ付いていなかった。
 隠しているとか、そういうことはありえない。
 なぜなら、
『≪夢の国≫、これ、全裸ですけど大丈夫なんでしょうか?』
 夢子は未完成な少女のものにも、これこそが完成形である美術品のようにも見える自らの体にぺたぺた触れて、興味深げに頷いた。
「寺生まれってすごいですね!」
「いや……服くらい着たらどうだろう」

   ●

「ダメージ受けると服が破れるってどこの漫画よ」
「ああ夢子ちゃん、もう少し恥じらいを持つようにって言ってるのに……」
 望と舞がそれぞれ言う。その横で騎士の目を塞ぎながらモニカがスクリーンを眺め、
「大事な部分に光が映り込んでいて見えないですね」
 撮影班は頑張っているのかちょくちょくアングルを変えてくるが、謎の光は見事に局部を隠していく。
 それを見るにつけ、モニカは幼い頃から折に触れて感じることを呟いた。
「寺生まれってすごいなぁ」

   ●

「ふふ、衣服なんて無くても困りはしませんよ」
 夢子はそんなことを言いながら、長い髪で胸元を隠してみたり、気に入らないのか肌蹴てみたりしている。
 正面からそれを見せられているTさんはこめかみを押さえつつ、
「そうはいかんだろう。マスコットたちが慌てている姿が目に浮かぶ」
「でも、Tさんが隠してくれていますし、私としてはあなたになら裸も内蔵も全部見せても差し支えありません」
「俺はあるのだが」
 Tさんの言葉を受け流して、夢子はくすくすと笑いながら解放感全開で両手を大きく広げた。
「ああ、楽しくなってきちゃいました。
 それでは第二幕です。
 もっと楽しみましょう――私の王子様!」

 大の字で裸を見せつけていた夢子が敵意の欠片も感じさせないままに髪の中からテーブルナイフを抜いて投げつけた。
 あんな自然体で攻撃されたら、ナイフが刺さっても誰に攻撃を受けたかなんて分からないんじゃないかと思いながら舞が試合を見ていると、
唇を読んだらしい望が口を開いた。
「あら、あの子ったらあんなこと言ってるわよ」
「あれなぁ、夢子ちゃんが≪夢の国の創始者≫から助けられた時にあの場に居た人が王子様認定されてるから、
黒服さんも俺もあの子の王子様なんだよな」
「ほう……」
「嬢ちゃん怖い怖い」
 舞は笑い、
「夢子ちゃんが恋をすることは生涯ないよ。
 あの子は王様であってお姫様であり、少女であって女性でもあるんだけど、それよりもなによりも≪夢の国≫だからな。
国は民や文化を愛することはあっても人に恋をしねえ」
「……なんというか、あなた、賢くなったわね……」
「これでも博士号持ちだぜ!」
 人や、単なる生命とも異なるもの。それが≪夢の国≫という存在だ。
 とはいえ、元人間である彼女は感情をもっている。長い付き合いから推察するに、特に喜楽の感情が強く出るタイプであり、
「あー、ありゃ結構テンション上がってるな」

   ●

 ナイフを弾いたTさんの目は、夢子が消えた代わりに、一瞬前まで存在しなかった建物が屹立している様を映していた。


   ●

 モニカが「あ」と呟く。
 試合を映すカメラの映像が乱れたのだ。
 映像がガタガタと音をたてて揺れ、見ていると酔いそうになる。
 思わず目を逸らそうとしたモニカは、スクリーンに一瞬表示された世界一有名なネズミのロゴを見た。
 それを期に、映像が安定する。
 しかし、試合を観戦する者達は回復した映像に違和感を覚えることとなった。
 スクリーンに映し出される映像のアングルがそれまでとは明らかに違うのだ。
 ≪夢の国≫がまた何かしたのだろうと判断していると、主催者に近しいらしい≪組織≫所属の夫婦がため息交じりに言うのが聞こえた。
「……会場、乗っ取られたわね」
「後でカメラは返してくださいね」
「まあ、たぶん返してくれるんじゃねえかな」
 舞が答えているが、目線を合わせようとしていないので自信はないのだろう。
 おお、と観戦者が唸る声が聞こえてくる。
 スクリーンの中ではカメラが映し出す光景が、アングルなど問題にならないレベルで異変をきたしていた。
 カメラがゆっくりと周りを映していく動きに合わせて建物群があぶり出しのように、
あるいは元からそこにあったものが騙し絵のごとく別の姿を観察者に認識させたかのように、ファンシーなものへと変わっていく。
 そんな自分の視覚か脳を疑いたくなるような光景を360度分じっくりと見せつけたカメラが最後に映したのは――

   ●

 Tさんは、つい先程までは近代的な大通りだったはずの道の奥に忽然と現れた山を見ていた。
 急峻な岩肌からは勢い良く水が流れており、その源泉である山の頂には夢子が居る。
 そして彼女の足の下には巨大な影があった。
 黒い表皮に、人など楽に丸呑みにしてしまいそうなその巨体は、
「クジラ……モンストロか?」
「山鯨です!」
「俺の知る山鯨は四つ足なのだが」
「気にしては負けです。先程の鮫を見て思いつきました! ビルを泳ぐ鮫がいるなら山に浮かぶクジラが居てもいいのです!」
「なら鮫を出せばよかったのではないか? 人間に捕えられた魚を探す作品で出ていたろう」
「大きさをりすぺくと? しました。それに原作では彼は鮫です!」
 夢子は胸を張って得意満面な顔だ。
 そんな彼女はデフォルメされたおかげで一目で不機嫌なのだと解る表情のクジラの上で仁王立ちになり、Tさんを指差した。
 その指とTさんを結ぶように、急流の流れが続いている。
 Tさんは、足元を流れる下水――から姿を変えた整えられた水路を見て、また山に視線を戻す。
「……それはマスコットでは?」
「あやつり人形の男の子はグレーゾーンと言ってました」
 今頃、その子の鼻が伸びているのかいないのか、不意に賭けをしたくなる。
 そんなTさんをよそに、高みで夢子が告げる。
「幸運では回避できない、面の攻撃をお見舞いしますね」
 


   ●

『ピノキオのクジラですかね?』
『≪夢の国≫からTまで一直線の道になっています。これは急いで逃げなければまずいのではないでしょうか』
 実況を聞きながら、千勢が謎肉を齧る。
「クジラか……先程の海産物達といい、今日は漁に出たくなる日だな」
「あれって食えるのか?」
 千勢と舞の感想にユーグが唸る。
「なぜこの国の人間はなんでも食べようとするのだ……」
「国民性かなぁ」
 徹心が苦笑で言葉を重ねる。
「さて、クジラがあの急流を下ってくるしかないというのなら、回避はそう難しくはないのかな?」
 ユーグが首を振る。
「あれはまずい。私も過去に苦労させられた……」
 大樹が同意する。
「あれは……狙われていますね」

   ●

 Tさんはその場から動くに動けない状況に陥っていた。
 水路を挟むようにして並び立っている建物の中から無数の視線を感じたのだ。
 物陰や扉の隙間、窓の格子の奥からそれらの視線は来る。
 こちらの一挙手一投足を綿密に観察しているようなのにどこか子供の尾行ごっこのようにおざなりで、
こちらを見て楽しげに笑う声が聞こえてくるようなのにもかかわらず密やかで張り詰めたような、
そんなどこかにズレを感じさせる歪な気配
――≪夢の国≫の住人の気配だ。

 おそらくTさんが動けばそれがスタートの合図となって建物から攻撃が飛んでくるのだろう。
 そうなれば蜂の巣かハリネズミになった後にクジラの餌食だ。
 クジラに狙われているにもかかわらず回避のための行動を一切取らないTさんの様子に、
自分たちが狙っていることがばれたと遅ればせながら悟ったのか、もはや隠す気もないらしい気配が重圧として押し寄せてくる。
 そんな下々の様子を把握しているのか、夢子はクジラの頭の上にぺたんと座りこんだ。
 裸の王様に座られたせいか、明らかにクジラの顔がデレデレとしたものになる。
 それに反応してか、周りから感じられる住人の気配がガラの悪いものに変化した気がする。騒がしい。
 ともあれ、夢子は慕われているようだ。
 ……重畳重畳。さて、強引に逃げようか。
 そう考えて移動しようとしたTさんは、足首に違和感を得て目を向けた。
 左足に、異様に長い手が絡みついていた。
 その手の先は排水口の中へと続いている。
「――っ」
 気配が多すぎて水路に潜んでいたモノの気配に気付くことができなかった。
 まずい、と思う間に建物のそこかしこから飛び道具が放たれた。
 



   ●

 石から光線銃までを含めた雑多な攻撃がTさんが居る場所を穿っていく。
 飛び道具が着弾する衝撃で土埃が舞い上がって視界が塞がれるが、夢子はTさんの位置を電波で把握している。
 それによると、Tさんは射撃の集中箇所にて現状健在。
 物量で穿つ面の攻撃はTさんをその場に釘付けにすることに成功したようだ。
「それでは――」
 夢子は手を振り上げ、叫んだ。
「スプラッシュ!」
 発声と同時に足元のクジラが急流を下り始めた。
 クジラの巨体は山肌を削りながら攻撃の収束地点に向けて駆け下っていく。
 その進路を塞ぐように、投擲用の槍が幾本か突き立てられた。
 槍が地面に刺さると、その周囲が何かを主張するように発光する。
 幸福の加護で補強し、道を塞ぐつもりだろうか。
 彼に物が渡る可能性があるような攻撃は控えるように指示しておくべきだったろうかと思うが、たった数本の槍ではいくら幸福で固めようとも、この巨体を止めることはできまい。
 だから、と夢子は結論する。
「いっちゃえ!」
 言葉に応じるようにクジラが潮を噴く。
 元、目抜き通りを抉っていったクジラは、Tさんが居る位置で土砂ごと唐突に跳ね上がって地面ごと彼が居る位置を丸齧りにした。
 盛大に座礁したクジラが潮を噴いて土埃を鎮める。
 淡水に濡れる体に心地よさを感じながら、夢子は息を吐いた。
「あー、スリル満点でした」
 満足の言葉は、こう続く。
「ね、Tさん?」
 問いに対して、荒い息で返答があった。
「たしかに、丸呑みにされそうになるのは、心臓に悪いな」
 そう言ってTさんはクジラの口の端から出てきた。
 クジラがなんとかTさんに噛み付こうと口をモゴモゴさせるが、額に立ったTさんがバランスを崩すことはない。
 食べることは諦めたのか、泥で汚れた体を水で流す彼を振り落とそうとするかのようにクジラが身を揺する。
 流石に立っていられなくなったのか、額から飛び降りて地面に逃れたTさんは、クジラから距離を取る。
 彼に合わせるようにカメラも下がり、距離を空けたことによってTさんがクジラに齧られなかった理由がはっきりと観戦者にも明かされた。
 クジラの口には槍がつっかえ棒として挟み込まれていたのだ。
 クジラが悔しそうな呻き声をあげて口を閉じようとする。その動きに合わせて槍は今にも壊れそうにきしむが、なんとか耐えていた。
 そのつっかえ棒の結果として、Tさんは泥で汚れてはいるものの、それ以外に目立った外傷は見られない。
 夢子は頬に手を当てる。
「それはもはや幸運ではなく、幸いを鍵にして運命を捻じ曲げていますね」
 そう零した夢子は、ぺちん、と音を立ててクジラの表皮を叩いた。
 同時に、クジラの口から煙が漏れ出す。
 Tさんはそれを見て、体を発光させた。
 彼が何らかの行動に出る前に夢子は告げる。
「私たちの方が早いです」
 クジラが口から何かを吐き出した。
 それは≪夢の国≫の住人だった。
 ≪夢の国≫側の新たな行動に合わせるように、建物群からの攻撃が再開される。
「――っ」
 Tさんの体を中心にして結界が張られ、攻撃の第一陣は防がれる。
「まだ、このまま押し切ります」
 彼の結界が、途切れず続けられる攻撃に耐え忍ぶ音を聞きながら、夢子は次の指示を出した。
「とつげき!」
 声に従ったのはクジラから吐き出された住人達だった。
 彼らは皆、手に黒い球体に縄の導火線という、デフォルメされた爆弾をそれぞれ抱えており、当然の如くそれには火が着いている。
そんな者たちが銃火飛び交う中へと突撃した当然の帰結として、
 大爆発が起こった。

   ●

 爆発の余波は、ファンシーさを追究した結果歪な形になっていた建物群のいくつかを吹き飛ばしていた。
 瓦礫の中からはそれぞれ個性的な腕が伸びては自分たちの無事を知らせている。
 そんな彼らに手を振り応えると、夢子はその手を打ち合わせた。
 ぱん、と射撃音の中でも耳に通る音がして、建物の瓦礫の下から何かがせり上がってきた。
 電飾できらびやかに飾られたそれは、場違いなほどに愉快なメロディーを流して移動を開始する。
 パレードのフロートだった。
 女性型の住人が慌てて持ってきた新しいワンピースを頭から被されながら、夢子は言う。
「第三幕――≪夢の国≫(わたしたち)のパレードをお楽しみください、ね?」


『圧倒的な物量で圧してるわね』
『T選手は大丈夫なんでしょうか?』
 実況の声を聞きながら、千勢は≪夢の国≫の甘味に手を出す。
「ここまで囲まれた状況に追い込まれてしまったのなら、一度撤退して立て直すしかないわけだが、
それは馬鹿息子たちが取り決めたルールでは違反か。王自らが前線ではしゃいでいるからまだ勝ちの目はあるが、さて、どうするのかな?」
 スクリーンの中では光の玉がいくつも飛んでいる。
 でたらめな方向へ光が飛んでいくのを見るに、盲撃ちではないだろうか。
 実況がTさんがここから勝ち目があるのかと煽る声が聞こえ、それを受けた形で千勢は一人ごちる。
「≪夢の国≫は不死者をその構成員とする不死の国だが、倒せないということはない。
 私の経験から言うと、不死者は殺し続ければいずれ死ぬ」
「千勢姉ちゃん、なんかすっげえバカっぽい」
「とはいえ事実だね」
 徹心が支持するとそれだけで何故か発言に説得力が出る。
「なるほど……っ」
 舞が真剣に頷く姿にこれも人徳かと思いながら、千勢は言葉を継ぐ。
「そもそもこの世に存在するもの全てがいずれ壊れ死に滅びゆく。
物も生命も現象も概念もいずれは果てる。そんな世界の中で不死を装っている以上、その不死には綻びがあったりする」
「あー、昔に物品系都市伝説で不死になってた奴がいたんだけど、道具が失われて不死を失ったな。つまりそういうことか?」
「それも一つの例だな」と応じて続ける。
「≪夢の国≫には、その不死性によって病に倒れてからも死ねずに苦しみ狂った創始者が居たな。その狂う、というのも人格破壊という一つの殺害方法だ」
「あ、病は効くっていう部分を狙って夢子ちゃんを襲ってきた奴も居たぜ」
 その試みが行き着く先は≪夢の国≫の消滅ではなく、発狂した夢子の統治による≪夢の国≫再びの狂化であった。
「でもそれじゃあ≪夢の国≫を倒すってことには繋がらねえな」
 それが実現していたら、世界は今よりもう少し殺伐とした方向に舵をきっていたのだろうと千勢は思う。
「と、まあそんなわけで死ぬまで殺し続けるというのは、彼女については、この試合のルールや画的にもあまりおすすめの方法ではないな。
 馬鹿息子も美少女を殺しまくるヒール役を務めたくはなかろう」
 千勢の結論に頷きつつ、大樹が手を挙げた。
「それでは、創始者が病に倒れてから冷凍睡眠によって眠っていたという都市伝説にあるように、氷漬けにしてしまうというのはどうでしょうか?
 夢子さんも≪夢の国≫の主である以上、凍結による封印と、指揮者不在による≪夢の国≫の混乱は対≪夢の国≫の手段として有効だと思うのですが」
「アレは≪冬将軍≫と正面から対決して消滅させている。やるならよほどのものでなければ封印しきる前に何らかの脱出手段を使われてしまうだろう」
 ユーグが、こちらも手を挙げて応じる。
 つまり、と受けたのは望で、
「元TNo.0のおじさんがさっき言ってたけれど、≪夢の国≫……彼女を個人として捉えたらいけないのよね。
それこそ国落としをするつもり――国という概念を落とす気でいなければいけないと、そういう方向で考えてみるとどうなの?」
「そうだね……≪夢の国≫の領域から夢子君を隔離する。あるいは、≪夢の国≫を侵食して彼女の領域を奪ってしまうというのはどうだろう? 彼女の不死性を剥ぎ取れないかな?」
「いえ、元TNo.0。夢子さん自体が≪夢の国≫でもあるので不死性の剥奪はできないでしょう」
「黒服さんの言うとおりだな。つってもそれで夢子ちゃんの力を大きく制限できるってのは試合が始まった時の夢子ちゃんと今のテンション爆上げな夢子ちゃんを比べりゃあ分かる」
 スクリーンの中ではいつの間にか存在していた火山が唐突に噴火して、狙いすましたかのように噴石が射撃の集中する辺りに降り注いでいる。
 千勢はチュロスの先端でスクリーンを指し、
「そう。国土を荒らす、というのは有効な方針であるわけだ。少なくとも≪夢の国≫の核である王を引っ張り出せるか、彼の国を撤退に追い込める。
 手段としては数で侵略をかけるのもいいし、天災規模の攻撃を長時間継続させるというのもいいだろうな
――それに対する処置に耐える覚悟が仕掛ける側にも必要だが」
「そうなると、終末論系の都市伝説は応手として使えますね」
 モニカが仮に終末論を操れる者がいた場合、どのような結果になるのかを想像するように目を細める。
「王を捕らえた上で叩き込むことができれば勝てるやもしれません」
 ユーグがモニカの肩に手を置き、大樹と徹心、舞が思考の正しさを肯定するように頷く。
 

「でも」
 舞が言い、その後を千勢が引き継ぐ。
「馬鹿息子はそれらの大規模な攻撃手段を持っていない」
 食後の酒に手を出した千勢が「代わりに私が出ておけばよかったか……」とのたまい出すのを見るに、彼女は良い気分のようだ。
 野球観戦をするおじさんとか、そんな気分なのだろう。
「Tさんは、攻撃の規模で国を傷つけることは叶わないのですよね」
「ええ、そうなると、彼は別の手段を考えなければなりません」
 モニカの言葉に答えを理解しているらしいユーグが応じる。
 騎士が答えを知っていると見て取ったモニカは眉間に皺を寄せて考え始め――会場がどよめく声を聞いた。
 見ると、城が浮いていた。

   ●

「以前からこのお城、なかなか攻撃力が高いんじゃないかと思っていたのです」
「その思考の出所如何では試合後に少し説教の必要があるかもしれんな」
「より尖ってるから眠り姫版よりも灰かぶり姫版の方が強いという結論に満場一致で達しまして」
「皆まとめて反省会だ」
 灰被り城が宇宙船と海賊船の艦隊に上下逆さまで吊り上げられている。
 上下逆さなのは先程の発言どおり、尖った方が下の方が攻撃力が強そうだからだ。
 ……そろそろ建て直しを検討していましたし、よい機会ですね。
 そんなことを思いながら、夢子は空に鎮座坐する白亜の城を見上げた。
 視界の端でTさんが放つ光弾が城の先端をかすって空に消えていく。
 フロートと住人からの攻撃は続いていて、時たま爆発音などが聞こえてきているが、
Tさんの声はその中から無事を報せるように聞こえてくる。
 返答一つに応じるようにパレードのフロートが一つ破壊される。
マスコット勢が居ないとはいえなかなかのハイペースだが、フロート破壊の間隔は攻撃開始時よりも開いている。
 彼は常に動き続けて体力を削られているのだ、このまま時間をかければ制圧することも可能だろう。
 そう、国という概念の前では一個人が抗しきれるはずがない。
 そうは思うが、
 彼とは倒し、倒され、助けられ、共闘した仲だ。その強さは理解している。
彼ほどの英雄ならば一国を一人で相手取ることも可能かもしれない。
 ……油断はなりません。
 今後、何かしらの手段による形勢逆転の可能性がある以上。
物量で押さえ込んでいる今、大物で押し潰して早々に決着をつけるのが最善の一手。
 だから、
「城の落下が目に見えているのに降伏をしないのも、きっと生き残るあてがあるからですよね?」
 そんな信頼をもって、
「これにて終幕です!」
 遠慮なく、夢子は城を落とした。
 


   ●

 落下したおとぎ話の城は、地面を打撃しながら砕けていった。
 地面が鳴動して、土砂と建材と住人が土煙のように舞い上がる。
 巨大な建造物が自重によって先端から順番に潰れては崩壊していく様子は、
子供の積み木遊び染みたコミカルさと相まって現実感がなく、しかし崩壊に巻き込まれていく建物を見るに見まごうことなき現実だ。
 収まる気配がない土煙を眺めながらユーグが呆れ顔で言う。
「今日はよく建物が投げつけられる日ですね」
「祭りだからな。ほら、トマト投げる国もあるんだから城投げる国もあるさ……っと、ありゃあ……」
 舞が目を凝らす。
 ≪夢の国≫では、収まらない土煙に紛れて人の形をしたもやが発生していた。
 よく見ると、崩れた城の窓やら隙間やらからもやは出てきているようで、それらは普通の
≪夢の国≫の住人とは違う体の欠損のしかたをしている。
 具体的には、体や顔に分かりやすく包帯などを巻いており、
「なんつーか、分かりやすく衣装を整えた幽霊って感じだな」
「あれならば、落下に巻き込まれようとも瓦礫に埋もれようとも動き続けることができるね」
 舞が感想し、徹心が評する。
 1000人目を求めているという都市伝説が囁かれる、≪夢の国≫の999人の幽霊達だ。
「お兄ちゃん、だいじょうぶなの?」
 城の落下が収まって惨憺たる光景の一部が見えるようになったせいか、リカちゃんが流石に心配そうに訊く。
 そんな人形の小さな頭を撫でて舞は頷いた。
「大丈夫大丈夫。リカちゃんも知ってるだろ?
 寺生まれはすげえんだ」


 夢子は逃げていた。
 転移に転移を重ね、倒れた建物を壁にし、崩れきれずに残った城の一室に隠れるが、その彼女を追って光の玉が群れになって追ってくる。
「撃って!」
 号令に応じて空から大砲や光線が降ってきた。
 光弾を上から叩き潰すつもりだった砲撃は、しかし光を消すことはできずに地面に突き刺さる。
 思い起こせば、おかしかったのだ。
 Tさんの光弾は、願いさえすればその通りに飛ばすことができる。にもかかわらず、
制圧戦に持ち込んでからというもの、彼の光弾はこちらに当たっている様子がなかった。
 願掛けをする余裕すらないのだと判断していたが、こうなってみて理解が及ぶ。
彼が砲撃に押し込められている間に放っていた光弾は全て夢子を囲い込むために放たれていた。
 それに気付いた時には既に手遅れだった。
 ……失敗しました。
 城を落として自分から今回投入したパレードと住人の大半を一時戦闘不能にしてしまった。
 現在行われている空からの砲撃で彼を倒すのは、建物からのそれでも仕留めることができなかった以上、難しいだろう。
「というか、城の下敷きになってどうしてあの方は生きてらっしゃるのでしょうか」
 あの人は、そう、あくまで一生命体のはずなのに。
 砲撃に紛れてゴーストがTさんに襲いかかっているはずだが、彼に対して幽霊を差し向けるのは流石に相性が悪い。
 光弾の囲みから転移しつつ、こうなればTさんの所に自ら飛び出してみようかと考えていると、目の前に当のTさんがいた。
「あ……」
 砲撃が彼を避けて降る中、両手に幽霊を掴んで消滅させたTさんは夢子を迎える。
「導いてくれる幸福を招くことに成功したようだ」
「幽霊を掴まないでくださいよ、不条理ですねえ」
 既に光弾が追いつき周りを囲っている。
 Tさんの体は各所が光っており、夢子が何らかの動きを見せればその瞬間に彼女に攻撃が殺到するだろう。
 

 ……逃げることは、たぶんできますね。
 が、この光の群れだ。すぐに囲いは追いつくだろうし、態勢を立て直すことを考えれば彼の可視範囲外まで逃れておきたい。
 しかしそれはルール違反。≪夢の国≫のアトラクションとしては興行失敗だ。
 ……いつの間にか形勢逆転ですね。
 悩む夢子にTさんの言葉が来る。
「意趣返しでもあったんだ。≪ケサランパサラン≫との契約者としての俺が≪夢の国≫に勝てるのか、とな
 だが、俺一人では君にはどうやら届かないようだ」
 Tさんは肩をすくめた。
「なので、ここからはいつかの祭りの続きをしようと思う」
 そう言って、Tさんは口端を吊り上げた。
「以前は革命になってしまった国落としの続きだ。
 あの創始者のように住人達に裏切られてくれると俺としては楽なのだがな。
どうだろうか、≪夢の国≫。今ひとたびの落陽を迎えないか?」
 その言葉に、夢子は自身でも珍しいと思う感情を得ていた。
「……そのようなことを言わないでください」
 一度溢れれば、言葉は止まらない。
「あのような方と、一緒にしないでください」
 淡々と感情を言葉に変換していくごとに。この場を一時やり過ごそうという考えが選択肢から消えていく。
「私達は、あのような在り方を変えようとしてここまで来たのです」
 変化を否定できる者はいないと胸を張って言えると夢子は思う。万人にそう思われるよう努力をしてきた。
 だからこそ、
「私を解き放ったあなたが、それを言わないでください。なにより」
 両の手を広げて大切に思う皆に王は告げる。
「≪夢の国≫の皆は、これまで誰一人として、≪夢の国≫を裏切ったことなどありません」
 彼らが反旗を翻すとすれば、それは為政者に対してのみだ。
「そして、皆の信任を受けた私は王として告げます。私はこの国の旗を巻くことはありません」
 夢子が手を上げると袖の中から抜き身のナイフが飛び出した。
「たとえ相手があなたの全てでも、です!」
 感情の正体を怒りに近しいなにかだと感じながら彼女は転移を行う。
 Tさんの背後に回ってなんの変哲もないナイフを――狙いを定める余裕もなく突き刺そうとする。
 突き立てることができれば内蔵売買の都市伝説で相手の力を奪い吸収して勝ちが決まる。
 が、Tさんの体は夢子が触れる寸前に振り返った。
「今後の課題は夢子ちゃん本人の近接戦能力かな」
 そして、試合開始直後に見せられたあの認識できない動きで光が放たれる。
「破ぁ!」
 反応出来ないそれは、しかし夢子にしてみれば食らって尚自身の攻撃を続けられる一撃のはずだった。
 だが、
 ……え?
 その一撃は、先程夢子を呑んだ光の一撃とは種類が違った。
 バラバラに刻まれても行動を繋げられるはずの体が動きを止める。
 自身を確立させるための大切な何かが失われたような脱力感。
 それは、夢子をして自身を構成する目に見えない要素が直接削られるという、未知の感覚を得る一撃だった。
「――――」
 


   ●

 倒れた夢子にTさんが近づいてくる。
 周りには光の玉が油断なく浮いており、その外には住人が集い始めている。
 空にはファンタジーとSFの混成艦隊があって、土台部分が残った城が噴火と決壊した水路の音を背景に哀愁を漂わせて聳えている。
 自分が暴走してしまった際に見る最期の景色はきっとこれだろうとぼんやり思いながら、夢子は口を動かす。
「≪寺生まれで霊感の強いTさん≫……その力、今回の戦闘で今、始めて使いましたね」
 挑発に乗って啖呵まで切ってこれだ。夢子は自身の至らなさに呆れてしまう。
それでも住人達が伝えてくる意思が彼女を心配するものであると知覚して、先程の感情を洗い流すような笑いが込み上げてきた。
「都市伝説殺しの力を使うにあたって逃げられなくなるタイミングをはかっていたんだ。いきなり使ってこれを警戒されてしまうと勝ち目がなくなってしまうのでな」
「私は死が遠いので、いろんな殺され方を体験したつもりなのですが、初めての感覚です……戦ってみてわかりました。なるほど、貴方の在り方は私たちとは少し違うのかもしれませんね」
 都市伝説として己を構成している部分を抉られている。この感覚を言葉に替えるには己の中に体験が足りなかった。
 ……せめてこれを受けた経験が過去にあれば、あんな行動はとらなかったのにな。
 そんな一撃を食らわせたTさんは降ってくる噴石を砕きながら「大した違いはないさ」と言い、頭を下げた。
「それよりも、先程は済まなかった。あのタイミングを逃せば勝てないと思ったんだ」
「いじわるを言う人は嫌いです」
 首を背けると、Tさんはどう言葉をかけようか迷うように唸り、
「あー……今度、舞やリカちゃんと一緒に遊びに行くので許してはくれないか?」
 夢子は深く息を吸い込んだ。
 一瞬吸い込んだ空気が体内に取り込まれずに漏れだしていくような感覚に襲われる。
 負傷の種類としては自分の内蔵売買の都市伝説と同列の攻撃だろうと思うが、これはきつい。
 ……≪冬将軍≫様は、よく耐えたものですね。
 違和感無く動かすことができるようになった上半身を起こして砲撃も噴火もやめさせると、さて、と状況を確認する。
 Tさんは自分を狙っている。
 自分は中途半端に転移で逃げると光弾の陣に囚われるだろう。遠くに逃げるのは試合の形にならない。……やはりルール違反だ。
 住人に光を破壊させようとすれば住人が光を食らう。不死の住人とはいえ、あの攻撃では再生も一瞬では済むまい。
 空の船を落とすことを含め、住人たちが総攻撃をしても、これまでの様子を見るに、Tさんは逃げ延びられる。
いつまでもは続かないだろうが、この距離で互いに喰らい合えば形成不利なのは彼が作った檻の中で王という核を天敵に対して晒し続ける夢子だ。
 

 Tさんの困り顔を納得として、夢子は言った。
「よろしい。特に許します。そして……私の負けですね」
「そうか」
 Tさんは体から力を抜くと、大儀そうに伸びをした。
「なんとか、判定で俺の方が優勢か」
「ええ。悔しいですけれど、今後の課題も見えました。それで良しとしましょう」
「そうだな。近接戦闘もだが、挑発にも乗らない落ち着きが必要だな。煽るのならば母さんが天下一品だ、今度語録を作らせようか」
「挑発はですね、あなただから熱くなってしまったのですよ」
 Tさんは夢子の発言の意を取りかねたのか首を傾げた。
 それに対して答えるつもりはない。夢子はTさんの疑問を微笑で流す。
 先の発言を意味を正確に伝えられる必要のない言葉だと判断したのか、Tさんは話題を変えた。
「が、まあ無名の俺が勝つと正直まずい。≪マヨヒガ≫も満員御礼になったら安穏な生活が崩れるし、
≪夢の国≫を与しやすいと考える手合いが荒らしにこないとも限らん」
「そうですね。私も格闘戦を指南して頂きたいですし、そのためにもお互いの安穏とした生活は護らなければなりませんね」
 笑う夢子が「どうぞ」と示すと、地面には棺が現れていた。
「キスすると目が覚めると評判のベッドです」
「寝ないようにしなければな」
 Tさんが苦笑して棺型ベッドに寝転がると、周囲に浮遊していた光が消え失せた。
 同時にもやと土煙が沈静化する。
 アトラクションの終了だ。

『≪夢の国≫の勝利です!』
 

 実況が告げるのを聞きながら、目を閉じたTさんが思い出したように言う。
「カメラを返しておくように。それと、この異界も返還しよう」
「はい。では、会場に戻ったら宴とまいりましょう。舞さんがおいしいお酒をお持ちのようですよ」
 Tさんが頬を緩めた。
「それは楽しみだ」
 弓なりに曲がる瞼を見やりながら彼女が手を打つと、≪夢の国≫は異界を返還して消え去った。

   ●

「さて、じゃあ俺そろそろ行くわ。また会おうぜ」
 試合終了を確認した舞が手を振ると、彼女が連れて来ていた者達がそれぞれ礼を言って会場に散り始める。
 気付けば買ってあった食料がなくなっている。相応の時間が経ったのだ。
「夫婦水入らずにしてやらねえとな。俺達は一足先に宴だ」
 そう言いながら舞が足を向ける先にはTさんと夢子が居た。
「お久しぶりです」
 そう大樹たちに挨拶をしたTさんは、舞から瓶を渡される。
 どういう経緯でもらった酒なのかの説明を聞き、Tさんは実に嬉しそうに笑った。
「それはそれは、礼状を出さねばな」
「だな。せっかくもらった酒だし、一足先に俺達は俺達でお疲れ様会して飲んじゃおうぜ」
 舞が言うと、夢子が心底無念そうに言う。
「舞さん、申し訳ないのですが私はこれから少し、マスコットの皆からお説教を受けなくてはいけないようです」
 夢子が≪夢の国≫の屋台の方を見るので舞が目で追いかけてみると、屋台に詰めているマスコットが妙な威圧感で夢子を見ていた。
「あー、そりゃついてねえな」
「いえ、いいのです。後の説教のことを考えなくなるくらいに楽しかったのですから」
 夢子は舞に微笑みかける。
「次回は舞さんもリカちゃんも、一緒にアトラクションを楽しみましょうね」
「あんまり激しいもんじゃなけりゃ遊びにいくぜ」
「そうおっしゃってくれるから大好きです」
 そう言って夢子は舞に抱き着く。
「絶対に、ぜったいにまた来てくださいね?」
 犬か猫のように体を擦り付けると、リカちゃんを舞の肩から攫い上げ、夢子は名残惜しそうに舞から離れた。
「では、苦行に挑んでまいります……。リカちゃんも一緒に、ね?」
「おつきあいするの」

 仕方ない、というように応じたリカちゃんを撫でると、夢子は大樹と望に向かって頭を下げ、
「それでは、また後で。あなた方もしばらくは夫婦水入らずでお過ごしください」
 夢子はリカちゃんを胸元に抱いたまま忽然と姿を消した。
 そして気付いてみれば、周りには大樹・望夫妻と自分達しか居ない。
「……あ、そうか、だからリカちゃんを連れてったのか」
「の、ようだな」
 Tさんと舞は顔を合わせて笑い合う。
「そんなもの、今更気にしなくてもいいのにな」
 とはいえ、せっかく気を遣ってもらったのだからと、舞はTさんの腕に両手を絡めた。
「で、どっか怪我とかしてねえのか? ん?」
「わざわざ言わなくともその内治る」
「じゃ、それまでどっかで木陰で休もうぜ。ほら、Dさんと望嬢ちゃんみたいな感じでさ。俺が枕になってやるよ」
 そう言ってその場から離れながら、舞は大樹と望に手を振った。
「邪魔したな。また、今度はキナ臭くない時にゆっくり茶でもしようぜ。
なんなら家に来てくれてもいいしさ」
 むしろ大樹については≪マヨヒガ≫の家具を持って帰ってもらうべく無理矢理宴会にでも招こうかと考える舞の背に、二人の声が届く。
「ええ、よろしくお願いするわ。またね」
「お元気で」
 見送りの言葉に「おう」と答え、舞とTさんは会場のいずこかへと姿を消した。

 「先生」による診察を終えて、アンナはぐぅ、と背伸びしながら観客席へと戻っていっていた
 ついでに、「夢の国」が出している屋台で何か買っていこうかと思って、そちらへと足を向けた時だった

「アンナ」
「え?……あ、お父さん」

 声をかけられ、立ち止まる
 肩まで伸ばされた金の髪は毛先が赤や緑など色とりどりカラフルに染められている……と、言うか、そもそもその金髪自体、確か染めたものだったとアンナは記憶していた
 褐色の肌も、日焼けによるもの。元は色白だと聞いている
 自分の父親だと言うのに、せいぜい20代後半くらいに見えるのは………何故だろう
 飲まれた訳でもないのに妙に若々しい点に関しては、「血筋ではないだろうか」と言うのが祖父の言い分だった。そういえば、祖父も年齢のわりにはだいぶ若く見える

 とまれ、アンナを呼び止めたのは彼女の父親である日景 翼だった
 「首塚」においては古参メンバーの一人であり、「首塚」首領の平将門の側近の一人でもある
 アンナにとっては、誇らしい父親である

「「先生」に診察してもらってきたか?」
「えぇ。遥に言われたから」
「言われる前に行けよお前も。全身溶かしたとなると、何か異常起きる可能性高ぇんだぞ」
「はーい。特に異常感じなかったし、大丈夫だと思ったんだけどな」
「油断はするな、って遥共々、言われてんだろうが」

 わかってる、と苦笑してみせるアンナ
 アンナ当人としては少し心配しすぎでは?とも思うのだが、翼は翼で都市伝説の影響が知らず知らずのうちに強くなっていた事があるそうなので心配なのだろう
 …それに、遥の件もあるのだし、心配しすぎくらいがちょうどよいのかもしれない

「とりあえずさ、「先生」が大丈夫、って言ってくれたんだから大丈夫よ。そういうとこで嘘つく人じゃないもの、「先生」は。性格色々問題あるけど」
「……まぁ、たしかにそこは安心か。性格には問題ある奴だが」

 当人が聞いていたら笑いながら抗議しそうな事で父娘同意する
 事実、あの「先生」は若干性格に問題があるのだから、仕方ない

「私は、これから「夢の国」の屋台で何か適当に買って戻ろうと思ってたけど。お父さんは?」
「俺は、ちょっと話したい奴いるからそいつ探してた………糞悪m,メルセデス見てないか?」
「氷の司祭様?……試合に出てたのを見た以外は、見てないけれど」

 なにせ、あの試合は一瞬で終わった
 メルセデスは傷一つついていなかった為、治療室にも行っていないだろう
 案外、自分の出番はもう終わったから帰っているかもしれない

「そうか………わかった。もうちょい探してみる」
「見つけたら連絡する?」
「あぁ。頼んだ………っと、そうだ。お袋も来てるから、見かけたら適当に挨拶しとけ」
「マドカさんも来てたんだ。わかった」

 年齢の割には気持ちが若く(父に言わせれば「年甲斐もない若作り」らしいが)、祖母と呼ぶには抵抗がある祖母が来ていると知ってアンナは少しうれしい気持ちになる
 きちんと、挨拶しておかなければ

 それじゃあ、と別の道へと歩きだした父を見送り、自分も屋台へと歩きだして

「……そういえば、お父さん。氷の司祭様に何の用事なのかしら」

 と、小さく、アンナは首を傾げた


「そうかい。そっちも大変なんだねぇ」
「えぇ、多少は………でも、マドカさんだって、旦那様が社長ともなれば、大変なのでしょう?」
「あたしゃ、会社の経営関連はさっぱりだからねぇ、その方面は一切ノータッチだから」

 楽させてもらってるよ、とマドカが笑う
 その様子に、彼女もまた小さく笑った
 今でも占い師を続けている彼女だが、夫は「大」がつくレベルの富豪である
 彼女は彼女で、それなりに気苦労があるはずの立場だ
 果たして、どちらの立場の方がより気苦労が多いか………となると、そこは個人差が出るところになるが
 ただ、一つ言えること
 それは、二人共立場ある人間の妻であると同時に、自分も旦那も都市伝説契約者である、と言う共通点があり

「近頃は、「狐」とやらの方でむしろ神経尖らせてる感じだねぇ、あの人は」
「あぁ………それは、あの人も同じですね。「薔薇十字団」も関わっている「アヴァロン」と言う場所に、「狐」に誘惑されかけた人が入り込みそうになったとかで……」
「……そういや、うちの人もそんな事を言ってたねぇ………ヨーロッパの方の色んな組織が混乱しかけたそうだね。「レジスタンス」なんて大変だったとか」

 自然と、このような会話になることもある
 どちらも亭主がヨーロッパを拠点とする組織とつながりがあるから、余計なのだが
 

「今は日本の、それも学校町に来てるんだろう?あんた、占いは昔通りテントでやってるって言うけれど、大丈夫なのかい」
「えぇ………「薔薇十字団」の方が、警護についてくださっていますので、なんとか。マドカさんは……」
「こっちも、亭主の部下が警護についてくれてるから、なんとか」

 約20年ぶりの、学校町での大事件だ
 あちらこちらバタバタとしているし、危険も増える

 ………マドカにとっての孫も巻き込まれた二度の事件は、彼らにとっては大事件であっただろうけれど、学校町全てを巻き込む程ではなかった
 これほどまでに大きな事件は、本当に久しぶりなのだ

「……色々、心配ではあるんだけどね」
「あるのですけれどね」

 戦技披露会、その観客席から試合を見ながら、2人はそっと笑う

「…割合、大丈夫そうなんだよねぇ」
「そうなのですよね」

 なにせ、平和な学校町であっても、これだけの若い契約者が存在している
 そして、少し悲しい事ではあるが戦い慣れている
 …きっと、大丈夫なのだろう

(………そう、きっと、大丈夫)

 大丈夫なのだ
 彼女は、そう信じるしか無い

 …………たとえ
 たとえ、学校町の今後を占ってみた、その際に引いたカードが
 いつの間にか混ざっていた、白紙のカードだったのだと、しても


 もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ
 ハムスターのごとく、ご飯を食べているちみっこがいる
 赤いはんてんを羽織ったそのチミっ子は、それはそれは美味しそうに、「夢の国」の屋台で買ったパストラミのサンドウィッチを食べていた
 その様子に、彼女を膝の上に座らせている赤いマントの男は少しほっとする
 ようやく、「夢の国」に対するわだかまりが薄らいできた証拠だろう
 そうじゃなければ、「夢の国」が提供する物を口にするのも嫌がっていた可能性が高いのだから

「ん、これ美味しいのです!赤マント、そっちのチョコクロワッサンとスイートポテトパイもよこすのですよ!」
「赤いはんてんよ、買ってきた物を君一人で食べ尽くすつもりかい?あんまり食べすぎると、いくら都市伝説とは言え太………よーし、落ち着こうか、はんてんをひっくり返そうとするのはやめたまえ」

 はんてんをひっくり返して「青いはんてん」状態になろうとした赤いはんてんに、そっと要求された物を差し出す赤マント
 赤いはんてんは、ぱぁああああ、と表情を輝かせてそれらを受け取ると、またもきゅもきゅもきゅ、と食べ始めた
 ……このライスブレッドだけでも、奪われる前に食べておこう、と判断し、赤マントはそれを己の口へと運ぶ

「はむ……に、しても。すげー戦いっぷりなのですよ」
「うむ、そうだな。やはり私は参加せずとも正解であった」
「赤マントだったら、数秒でノックアウトな可能性もあったのです」

 まぁな、とあっさり答える赤マント
 X-No,0ことザンとのスペシャルマッチに参加しようかとも考えたが、結局やめたのだ
 今現在、学校町を騒がせている問題の一つである赤マント事件、それに自分が関わっていない事を示すチャンスではあったが、相手が相手なので「役に立てそうにもないな!」と判断して男らしく参加しない事にしたのだ
 ……なお、余談であるが。赤マントが参加していた場合、転移能力でもって一瞬でザンに接近できる為、一瞬で勝負をつけることができたのだが、赤マントはそれに気づきつつもスルーしていた
 根本的に、当人が戦闘に向いていない……ということにしているのだから、仕方ない

「「狐」とか、久々に騒ぎが色々あるですからね。あんまし外出歩けないし、こう言う時だけでも思いっきり羽目をはずすですよ。だから、後でまたもうちょっと「夢の国」の屋台の食べ物買いに行くですよ!」
「全くもってその通りだな。我々のような契約者なしの都市伝説はおとなしくしているに限る。で、赤いはんてんよ。その屋台に払う代金だが」
「当然、赤マントが払うのです」
「うん、わかっていたがね!」

 ……まぁ良い、彼女が元気であるのなら
 赤マントはそう結論づけて、己の財布が瀕死となる覚悟を決めたのだった



to be … ?

 ひやり、と辺りの空気が冷え込んでいる
 その事実を気にした様子もなく、その男は思案していた
 悪魔としての本性を表には出していないものの、その男がこの場にいると言うただそれだけで、空気が冷え込む
 こうして能力が漏れ出しているのは、思考の海に沈んでいるせいなのかもしれない

(さて、どうするか……)

 軽く首を振ると、ぱきぱきと空気中の水分が凍りつく音がした
 じわりと染み出す力の余波で生まれた小さな氷の結晶は、すぐに空気中に溶けて消える

(試合ではつまらない雑魚にあたったが、他に面白い奴はいたな。これからどう動くか、楽しませてもらうか)

 彼、メルセデスは悪魔である正体がバレた今も、様々な裏取引の結果「教会」にとどまり続けている
 メルセデス自身、「教会」に所属したままの方が自分にとって都合よく動けるのか、そのまま所属し続けているのだ
 故に、今の彼は(一応)「バビロンの大淫婦」の捜索自体は真面目にやっていた
 今回の戦技披露会への参加も、「バビロンの大淫婦」絡みの契約者がいないかの確認が主な目的である
 自分の対戦相手を含め、今まで試合に参加していた者逹。そして観客席にいる連中からは、「バビロンの大淫婦」の気配は一切、なかった
 ようは本来の仕事に関してはハズレだ
 その代わり、見つけた「面白い」もの
 この情報をどう活かすか、考え込んでいた時だった

「あぁ、居やがった」
「あ゛?……お前か」

 声をかけながら近づいてくる気配に、メルセデスは小さく舌打ちする
 …辺りの気温が、平常通りに戻る
 メルセデスから溢れ出ている冷気の影響が消えた訳ではない
 近づいてくるその人物の周囲が、ほのかに温かいのだ

「よぉ、氷野郎」
「よぅ、暖房野郎」

 「首塚」側近組筆頭。「日焼けマシンで人間ステーキ」の契約者。日景 翼
 能力的に相性が悪いはずのその男が、睨みつけるような表情を浮かべながら近づいてくる様子に、メルセデスは楽しげに笑った



 正直なところ、翼としてはこの凍れる悪魔の事は苦手だ
 セシリアと結婚した事で年上の義弟となったカラミティは随分懐いているらしいが、翼にとっては「厄介な相手」以外の何物でもない
 今も、何か面白い玩具でも見つけたような表情を浮かべてきている

「俺に何か用か?」
「あぁ、「狐」絡みの件でな」
「………「狐」、ねぇ?「教会」は「狐」関連はほぼ動いちゃいねぇんだ。俺は情報らしい情報は持っていないぜ?」

 残念だったな、と肩をすくめてくるメルセデス
 そんな彼に翼は疑いの眼差しを向けた

「おぉ、怖い怖い。こっちとしては現状、「狐」サイドから直接ちょっかいかけられてもいないからな。そっち絡みは積極的に動けないんだよ」
「ヨーロッパの方で「アヴァロン」に「狐」辛みのやつが侵入仕掛けたんだろ?ありゃ、「教会」にとっても問題なんじゃねぇのか?」
「表向き、「関係ない事になっている」。直接命令がこないかぎりは、積極的に動く理由にならねぇな」
「「教会」としては、か。じゃあ、お前個人としては?」

 「狐」絡みで、この男は何か知っている
 翼はそう確信していた
 メルセデス当人の性格を考えると「狐」に加担していると言う事はないだろうが、何かしら情報を掴んでいるのは確かなのだ

(「教会」本部から、何か資料を取り寄せてたっつーし……ちょっとでも、何か聞き出せれば、と思ったんだが)

 …自分では、少し聞き出すには難しいかもしれない
 メルセデスに気づかれぬよう、翼は小さく、舌打ちした





to be … ?

「いやはや、派手にやったよねぇ、彼も。流石と言うべきか」

 等と口にしながら、「先生」はてきぱきと怪我人逹の手当てを終えていた
 次いで、行っているのは何やら服の作成

 ……くしっ、とくしゃみの音が治癒室に響き渡った
 ザンとのスペシャルマッチは挑戦者側の勝利となった訳だが、ザンが返した「クイーン・アンズ・リベンジ」の大砲の弾が降り注いだ「良栄丸」と「クイーン・アンズ・リベンジ」は見事に撃沈した
 そんな中でも、重傷者が出なかったのは幸いだ
 あの場に居た誰頭が、とっさに防御でもしたのかもしれない
 一番の重傷者は大砲の弾の直撃を受けたらしいサキュバスだが、契約者ではなく都市伝説(それも、結構な実力者)であるおかげか、意識が飛んだ状態であったものの今はすぷー、と心地よさ気な寝息を立てている
 どちらにせよ、船が撃沈した以上、そこに乗っていた者逹は水中に落ちたのだ
 スコール+クラーケン召喚の歳に付属するらしい海水に落ちてしまえば、ずぶ濡れにならない方がおかしい
 よって、スペシャルマッチ参加者のほとんどがずぶ濡れ状態になり、大きなバスタオルに包まっている状態だ
 着替えはあまり、どころかほぼ用意されていなかった為、また「先生」が作っているのである
 …………なお、「具体的にきちんとリクエストしておかなければ、どんなデザインの服が出されるかわからない」と言う事実は、灰人が一気に運ばれてきた怪我人の治療に専念した為、伝え忘れたままである
 今現在、白衣が作ってる服は思いっきりフリルたっぷりの物なのだが、はたして誰用なのだろうか

 もっとも、大半がバスタオルに包まっている中、そうではない状態の者もいる
 一人は、ゴルディアン・ノット
 その出で立ちのせいもあり、ずぶ濡れ度はかなり高いのだが「大丈夫ダ」の一点張りだ
 「先生」は「後でちゃんと診察させてもらうよ」と言っていたのだが、それに関しても「大丈夫」と告げている
 大砲の弾を受けこそしたが、ダメージを受けた際の形態が形態だった為か、さほど大きなダメージとならなかったのだ
 一応、水分は絞ってきた……つもりであるし、急いで着替える必要もないはず、と当人は判断しているのかもしれない
 もう一人、ずぶ濡れの服を脱ごうともせず、バスタオルにも包まっていない人物
 それは、スペシャルマッチにてザンに一撃を当てる事に成功した忍び装束の人物だった
 目元がかろうじて見えるだけのその忍び衣装は、スコールに晒された為にぐっしょりと濡れている
 ゴルディアン・ノット同様、一応絞って水分は落としたようであるが、忍び装束越しでも小柄で細身とわかる体付きの為、心配そうに見ている者もいる(主に、まだ治療室から出ていなかった憐)

「…お前ハ、ソロソロソの装束を脱いデ、着替えた方ガ良いのデハないか?」

 ゴルディアン・ノットがそう声をかけたが、その忍びは声を発する事もなく、ふるふる、と首を左右にふるだけだ
 ぽた、ぽた、と水滴が床に落ちる

 この忍び、治療室に来てからと言うもの、一言も言葉を発していない
 「先生」が治療を行う為に診察しようとした際も、手で軽く制してふるふる、と首を左右にふってみせた
 診察なしでの治療は困難……と思われたが、憐が治療室にばらまいてしまった治癒の羽がまだあった為、それで治療sをシたから怪我はもう問題ないだろう
 ただ、そのずぶ濡れ状態では風邪を引きかねない
 そして、ずっと口を聞く様子がない
 声を出せない、と言うよりも、むしろ……

「そういえば、試合中も身振り手振りだけで話していなかったような………声がでない?」

 ずぶ濡れの髪をタオルで拭きながら深志が問うたが、ふるふる、とまた首を左右に振ってきた
 「喋れない」のではなく「喋らない」。そういうことなのだろう
 顔は隠す。体型も、細身とはわかるが忍び装束ゆえ細部はわからない。そして声も出さない、となると

「まぁ、大方「レジスタンス」所属だろ。それなら、正体は隠すわな」

 黒髭がそう口にした瞬間
 ぴくり、その忍びの身体が小さくはねた
 黒髭の言葉に、バスタオルに包まっていた黒が首をかしげる

「どういうことだ?」
「あのな、マスター。「レジスタンス」は元々、少数精鋭でのステルスや潜入捜査が得意なんだよ。「MI6」には流石に負けるが、スパイの数もかなりいる」
「正体がバレたらまずい、と」

 なるほど、と真降は納得した様子だ
 中には堂々と「レジスタンス」所属である事実を公言している者もいるが(灰人の母親なんかがその例だ)、「レジスタンス」所属の大半は、おのれが「レジスタンス」所属である事を公言することはないという
 この忍びも、そうした「レジスタンス」の一員であるならば、正体を晒すような真似はしない、そういう事なのだろう

 そうではない、と言う可能性は、この時、治療室に入ってきた男によってあっさりと否定された

「そういう事なんだよ。まだその子は自分の正体バラせるだけの子じゃねーんだわ」

 ひょこり、と治療室に顔を覗かせた大柄な男の姿に、「げ」と黒髭が嫌そうな顔をした
 オールバックにして逆立てた銀髪にサングラス、ライダースーツという出で立ちの、どうやらヨーロッパ方面出身らしい外見の男だ

「おや、「ライダー」殿。日本に来ていたのか」
「おーぅ。お仕事あるんでねー。さて、「薔薇十字団」の「先生」よ、うちの、回収してっていいな?」

 「ライダー」と呼ばれた男は、そう「先生」に告げた
 …黒髭が、先程までは「先生」の視線から黒を守るようにしていたのが、「ライダー」相手からも守るような位置へと移動した事に、気づいた者はいただろうか?





to be … ?

 すくり、と忍びが立ち上がった
 とととっ、と「ライダー」と呼ばれた男性に近づいていき………そっ、とライダーの背後に隠れた
 まるで、人見知りの子供のような行動だ
 単に、「正体が見抜かれる可能性」を減らそうとしただけなのかもしれないが

(……こりゃ、この中に顔見知り、もしくは、少なくともあの忍者が知ってる奴がいる、って事か)

 そのように黒髭は考えた
 ……そう言えば、自分の契約者の方をなるべく見ないようにしている

(マスターの学校関係者か……もしくは近所に住んでいるか。はたまた契約者の親の会社関連か………どっちにしろ、あまり関わり合いたくはねぇな)

 「レジスタンス」にはあまり関わり合いたくない
 それが「海賊 黒髭」としての考えである
 契約者である黒が関わると言うのならわりと全力で止めるだが、今後どうなる事やら

(「レジスタンス」とは何度かやりあってるし、関わり合いたくねぇ……味方にできりゃ心強いだろうが、あそこは支部っつか、「どこに対するレジスタンス」かによって違うしよ)

 ようは、色々と面倒だから嫌だ、と言う理由なのだが
 ……後で、契約者に、もうちょっときっちり「レジスタンス」について説明しよう
 この時、黒髭はそう強く、心に決めた


「一応、服越しとは言え治療はした。ただ、何かあったら、すぐに連絡………こっちに、その子の正体が知られたくなかったら、そちらの治療役に頼んでちゃんと見てもらうように」
「おーぅ。一応、確認はしとくわ。傷残ったら可哀想だし」

 手元で何やら作業しながらの「先生」の言葉に、ライダーは軽い調子でそう返した
 見た目からシて日本人ではないようなのだが、日本語ペラペラだ。それを言うなら、「先生」も明らかに日本人ではないのだが

「あんたは、スペシャルマッチに参加しなかったのか」
「いやぁ、本国の上司に参加していいかどうか確認したら「僕は面倒かつつまらない仕事中なのに、そんな面白そうな事参加するなんてズルい」って却下された」

 栄の言葉に、ライダーは肩をすくめながらそう答えている
 どうやら、上司は日本には来ていないらしい
 参加したかったんだがなぁ、とライダーは残念そうだ……どこまでが本心かは不明だが

「じゃ、そういう事で。この子の着替えはこっちがなんとかするけど、他のスペシャルマッチ参加者逹は風邪引くなよ」

 そう言うと、ライダーはひらひらと手を振りながら、治療室を後にした
 忍びはその後をついていき………ぺこり、一礼してから、治療室を出た
 不意打ちとはいえ、ザンに一撃を与えたあの忍びは、どこの組織にも所属していなかったのであればスカウトがあちこちからきた可能性があるが、「レジスタンス」にすでに所属していると判明したならば、そういったスカウトも来ないのだろう
 ライダーがわざわざ忍びを迎えに来たのは、そう言ったスカウトの類が来ないように、「レジスタンス」所属の者であると知らしめるために来たのかもしれない

「……ある意味、過保護だねぇ」
「?何が??」

 ライダー達を見送りながら、ぽつり、「先生」が口にした言葉が耳に入ったのか、ひかりは首を傾げた
 「なんでもないよ」と「先生」は笑いながら、作業を続けている
 ひかりはもう一度首を傾げて……が、特に気にする事でもないと判断したのか、思考を切り替える
 彼女が考えることは、一つ

「せっかく、おっきなエビフライ作ったのになぁ……」

 そう、これである
 あの巨大なエビ型クラーケンをせっかくエビフライにしたのに、食べることが出来なかった
 彼女は、それがとっても残念なのだ

「せめて、ひとくち食べたかったな…」

 と、そう口にすると
 

「ふむ、しかしお嬢さん。あのスコールの中にさらされていたならば、あのエビフライ、水分でぶよぶよになってしまって味が落ちていたのでは?」

 ……………
 「先生」の言葉にっは!?となり、ガビビビビン、とショックを受けるひかり
 そう、誠に残念ながら、「先生」の言う通りだろう
 かなりの水分に晒されたであろうエビフライは、揚げたてさくさくの美味しい状態ではなかったのだ
 美味しく食べる事など、あの試合会場にスコールが降り注いでいた時点で無理だったのだ
 ガーンガーンガーン、とショックで固まった後、若干、涙目でぷるぷるしだしたひかり
 と、そこに「先生」が救いの手を差し伸べる

「さて、お嬢さん。可愛らしい服がずぶ濡れになってしまっているからね。はい、乾くまでこちらを着ているといいよ」

 ひらりっ、と
 「先生」が、先程までずっと作っていたそれを広げてみせると、ひかりが「わぁ」と嬉しそうな声を上げた
 それは、可愛らしい、黒いゴスロリのワンピースだったのだ
 首元のリボンやスカートを見るに少々デザインは古めかしいが、ひかりにぴったりなサイズである

「おじさん、ありがとう!」
「どういたしまして。さて、次作るか」
「だから、せめてリクエスト聞いてから作れ」

 っご、と灰人に脳天チョップツッコミをしたが、「先生」はスルーしてさっさと次の服を作り上げている
 どうやら、また女性物を作ろうとしているらしい。レディーファーストだとでも言うのだろうか
 なんとなく楽しげに、「先生」はその作業を続けていた


(……際立っておかしなところはない、よね?)

 「先生」の様子を何気なく伺いながら、三尾は少し不思議に思っていた
 この「先生」に関して、実は「組織」で少し、話を聞いたことがあるのだ
 三尾が担当する仕事絡みではない為、又聞きだったり噂が大半なのだが、共通している事は一つ
 「あの「先生」は厄介だ」と言う事
 何故、よりにもよって学校町に来たんだ、と、学校町に来た当初、天地が頭を抱えていた様子も見たことあるような。ここで「先生」を見ているうちに、それを思い出した
 ……何故、そのような評価なのか?
 治療の手伝いをしつつ何気なく観察していると、「海賊 黒髭」は自分と自身の契約者に関しては、「先生」に治療されないように、と言うより、接近すらされないようにしている事に気づいた
 契約者の方はともかく、黒髭の方はかなり「先生」を警戒している
 その警戒っぷりは、「先生」が学校町に定住し始めた頃の天地にどこか似て見えて

(彼に聞けば、わかるのかな)

 と、聞く聞かないはともかくとして、三尾はそう判断したのだった


to be … ?

忍びが「ライダー」と呼ばれた男性と共に退室してから少しして

「……ソロソロ頃合いか」

唐突に乾いたものが擦れるような声でそう呟くと、
ゴルディアン・ノットはゆっくりと外海の方へ近づいた

「外海、帽子を」
「うむ。確かに返したぞ」

外海が差し出した中折れ帽をグローブをはめた手で受け取ると
ゴルディアン・ノットはまだ湿った様子の▼模様が描かれた覆面の上から被った

「シかシ今回ハ試合にこソ勝てたガ、己の未熟サを痛感スル戦いダった」
「確かにそうかもしれないな……」

ゴルディアン・ノットの言葉に悔しそうな表情を見せる外海
それが見えているのかいないのか、彼は言葉を続けた

「俺ガヒーローを名乗レル日はまダ先のようダ
 目と手の届く者スラ守レないようデハな……」
「……だがお前は、最後のあの時に」
「結果を伴わない過程に大シた意味ハない
 それは過程の無い結果もまた然リ……
 二つが揃ってようやく、俺ガ目指ス在リ方となルのダ」

外海の言葉を遮って言い捨てると
ゴルディアン・ノットは背を向けて歩こうとする
 

「待て」

その背にもう一度、外海が言葉を投げかける

「余計な世話かもしれないが、本当に診察を受けなくていいのか?」

戦場で言葉を交わし共闘した相手に対して
外海は純粋な善意、その体を心配して確認の問いかけをする

「大丈夫ダ」

そして返された言葉に「ああ、やはりそう答えるか」と思って

「ソレにあの男に体を見セルのハ、少々気乗リシない」
「………………うん?」

続いた言葉に違和感を覚えて、声を漏らした頃には
ゴルディアン・ノットは治療室を出て行った後だった


                                           【続】

 治療室を出て少し歩いたところで、ゴルディアン・ノットは冷たい空気を感じた
 比喩表現ではなく、本当に空気が冷たい
 まるで、真冬の寒空の下を歩いているかのような冷気
 完全に乾ききっていない布の表面が、ぱきり、凍ったような

 冷気の主はすぐに見つかる
 司祭服を着た髪の長い男その男を中心に、辺りに冷気が広がっている
 戦技披露海が始まってすぐ、その実力を見せつけていた「教会」所属の男だ
 契約者……ではなく、契約者付きの都市伝説。飲まれた存在でもなく、契約者本人は戦技披露会には参加せず、単体で参加したという変わり種だ

 男は、何やら思案している様子だった
 己が強い冷気を発しているのだという自覚もあまりない様子だ
 このように辺りに冷気が漏れているせいか、辺りに他に人影は見えない
 別の通路を通るべきか、とゴルディアン・ノットが考えだした、その時

「あーっ!メルセデス司祭様、駄目っすよ。冷気、思いっきりダダ漏れ状態っす!」

 後方から、そんな声がした
 振り返ると、ぱたぱたと少年が駆け寄ってきていた
 ゴルディアン・ノット……にではなく、レイキの発生源たる男、メルセデスにだ
 少年の姿は見覚えが合った、と言うよりつい先程までいた治療室で見た顔だ
 ぱたぱたと忙しく「先生」の手伝いをしていたうちの一人で、「先生」から「休もう?君がばらまいた羽で十分治療できるから君はもう休もう??」と何度か言われていた……確か、憐とか呼ばれていたか
 憐の背後、もう一人同じ年頃の少年が居て、駆け出した憐のあとを追いかけてきている
 メルセデスは憐に声をかけられた事に気づいたようで、顔を上げ………冷気が、弱まっていく

「もう。考え事してる時に冷気ダダ漏れになるの悪い癖っすよ」
「別に、このふざけた催し物の参加者ならこの程度平気だろ」
「戦闘向きじゃねー人もいるっすし、冷気が弱点な人もいるだろうから、っめ、っす」

 自分より有に頭一つ以上大きい上、正体を隠す必要もないからか悪魔独特の威圧感を放つメルセデス相手に、慣れているのか恐れた様子もなく注意をしている
 …もっとも、憐のような少年の注意等、メルセデスは意に介していないようだが
 その事実は憐も理解しているようで、むぅー、と少し困ったような顔をしてこう続ける

「……カイザー司祭様も、気をつけるように、って言ってたでしょう」
「っち」

 あからさまな舌打ちをして、漏れ出していた冷気が完全に止まった
 契約者の名前なのだろうか。流石にそれを出されると従わざるをえないのだろう
 メルセデスは、ゴルディアン・ノットや憐の後から駆けてきた少年にも気づいたようで、この場を立ち去ろうとし

「あぁ、そうだ、憐」
「何っす?」
「………「見つけた」からな」

 ぴくり、と
 一瞬、憐の表情が強張った様子を、ゴルディアン・ノットは確かに見た

 メルセデスはそのまま、すたすたとどこかへと立ち去っていってしまう

「憐君、どうしたの?急に走り出して……」
「あ、えーっと。なんでもないっすよ、すずっち。問題は解決したんで」

 追いついてきた少年に、へらっ、と笑いながら答える憐
 そうして、ゴルディアン・ノットにも視線を向けて

「んっと、メルセデス司祭の冷気の影響、受けてないっす?凍傷とかの問題なさげっす?」

 と、心配そうに問いかけてきた

「あぁ。特に問題ハない」
「そっか、ならいいんすけど………じゃ、すずっちー、観客席戻る前に、何か屋台で買っていこう。死人の屋台以外で。死人の屋台以外で」
「大事な事だから2回言ったんだね……って、死人の屋台?」

 ぱたぱたと、少年二人は立ち去っていく
 憐の方は少しふらついているようにも見えたが、とりあえずは大丈夫なのだろうか

 ……あのへらりとした笑みに、一瞬強張った瞬間の、感情を一切感じさせない表情の影は、なかった





 

 時刻は、少し遡る

「年頃のレディの身体に何かあっては大変だし、きちんと検査したかったのだが」

 仕方ないねぇ、と退室していくゴルディアン・ノットを見送りながら、「先生」はぽつり、そう呟いた
 ……つぶやきつつ、また服を完成させている

「うむ、こんなところか。フリルをもう少しつけても良かったが、他の者の服も作る必要ある故、これで」
「わぁ、見事にフリルいっぱいのホワイトロリータ」
「白き衣纏いし死神がいても良かろうて」

 はい、と「先生」から渡された、フリル多めのホワイトロリータワンピースを受け取る澪
 恐ろしいことに、サイズを聞いてもいないのにサイズがぴったりだ
 目測で、完全にサイズを把握したというのだろうか

(……「先生」。もちろん、これは本名ではなく通称。所属は「薔薇十字団」。学校町にやってきたのは三年前……)

 …そのような「先生」の様子をチラ見しながら、三尾は考える
 やはり、きちんと思い出せない
 「先生」に関して、特に天地が何か言っていた気がするのだが、三年前と言えば久々にバタバタしていた時期であったし、そもそもYNoはCNoとさほど親しく付き合いがあるわけでもない
 元々、他のNoからの情報が不足しているとも言うが

 念のため、もうちょっと知っておくべきではないか
 そう感じたのは、黒髭が異常なまでに「先生」を警戒しているせいだ
 灰人の「先生」に対する扱いのぞんざいさ(一応師弟関係らしいのにいいのだろうか)のせいで、「先生」が危険人物とは思えないのだが、あそこまで露骨に警戒していると流石に気になる

「連絡先の交換?」
「あぁ。このところ、「狐」だの人を襲う赤マントの大量発生だの……それに、誘拐事件が相次いでいるとも聞く。私は組織だった集団とはほぼ縁がなく、都市伝説関連の情報源が乏しくてな……少しは情報がほしい」

 なので
 黒髭の契約者たる黒が、「首塚」所属である栄と何やら話している間に、三尾はこっそりと黒髭に近づいた

「あの、ちょっといいですか?」
「あ?……「組織」か。何か用か?」

 三尾に声をかけられ、黒髭は怪訝そうな表情を浮かべた
 少し警戒されている気がしたが、構わず問う
 流石に、小声でだが

「「先生」の事、警戒しているようですが。何故です?」
「……お前、「組織」だろ。あの白衣のことわかっているんじゃないのか」
「立場上……と言うか所属Noの性質上、そういった情報が少し入りにくいものでして」
「…マジか」

 把握していなかったのか、と言うように黒髭が少し頭を抱えたような
 ちらり、と黒髭は「先生」と灰人の様子をうかがってから、三尾に告げる

「あの白衣、元は指名手配犯だぞ」
「え」
「何が原因かまでは知らねぇが、発狂して正気失って、かなり色々やらかした奴だぞ。「組織」「教会」「薔薇十字団」「レジスタンス」、全てを敵に回して戦いきった化物だ」

 ちらり、三尾はまた、「先生」を見る
 ……正気を失っている様子はない

「今は、一応正気に戻ってるらしいぜ。じゃねぇと、指名手配も解除されないし、「薔薇十字団」に所属も出来ねぇだろ」
「でしょうね。天地さんが頭を抱えていたのは、そういう事ですか」

 恐らく、だが
 「先生」が学校町に来たのは、学校町が様々な意味で特殊な場所だからだ
 いくつもの組織の勢力がひしめき合い、しかし全面戦争にはならない場所
 …そこに「先生」を置くことによって、かつて指名手配されていた頃に買った恨みで何かしら起きないように、との処置なのだろう

「しかし、今はもう指名手配されていないのであれば、警戒する必要は…」
「ある。正気戻ったつっても、腹の底では何考えてるかわかりゃしねぇ。今、噂の「狐」絡みじゃないだけマシではあるが」
「そこは断言するんですね?」
「……断言してぇんだよ。あれが「狐」の勢力下に入っていたら、シャレにならねぇ」

 吐き捨てるように、黒髭は言い切った

「いくら俺だって、「賢者の石」と契約したと言われるような奴とは戦争したくねぇよ」





to be … ?

スレ立て、代理転載お疲れ様でした

では、これより投下させていただきます
時間軸的に「戦技披露会」と同時間軸になります

 カタカタとキーボードを叩く音と、さらさらと紙の上にペンを走らせる音がする
 普段はそれなりの人数がいるはずのその部屋に、今いるのは二人だけだ

「他のC-Noの方々はどうしましたの?」

 愛百合はキーボードを叩きながら、ややむすっとした調子でそう問うた
 書類を確認し、サインを入れながら天地は答える

「それぞれ別の仕事を割り振ってる」
「郁は、「組織」と「首塚」の合同戦技披露会に行ったと聞いたけれど」
「それも仕事だ。慶次と組んで「組織」以外の参加者、及び観戦者に関する情報収集」
「……慶次君の担当は私なのに、どうして彼が?」

 つ、と天地がペンを走らせる動きが止まった
 ちらり、愛百合の表情を確認し、ため息をつく

「慶次は、お前から少し離れて色々勉強すべき時期だからな。お前がべったりついたまま、って訳にもいかないだろ」
「あら、私、あの子を息子のように思いながら、色々教えてきたつもりよ?」
「だからこそだ。今のままだと、お前の色が強すぎる」
「……それでは、いけないのかしら?」

 伺うような視線が天地へと向けられた
 天地は特に迷うこともなく回答する

「ただ一人の黒服にだけ影響され続ける、ってのはあまりいい傾向じゃねぇな。自覚のあるなし関わらず、視野が狭まる可能性が出てくる」
「それを言ったら、二十年以上もたった一人の黒服に担当され続けた契約者もいるでしょう?」
「あれは例外だ。っつか、あのヤンデレコーラを担当できるのがただ一人しかいねぇ。その上、あのヤンデレコーラが担当黒服の影響受けてるかっつーと受けてない上にヤンデレ加速傾向だ」

 愛百合が口にしたそれが誰であるのか即座に理解し、言葉を返す
 あの兄弟愛こじらせすぎた上、最近では家族愛も盛大にこじらせようとしているヤンデレと他の契約者を同じように扱ってはいけない
 取扱い注意なあの男の担当が大門 大樹以外になったならば、それこそ制御不能になるのは目に見えている

「かなえはまだ、契約者やってる同級生からの影響受けられるが、慶次の方は大学通ってる訳でもないし、そうはいかないだろう。お前がいない状態で他の奴と接触させて、勉強させるのが一番なんだ」
「……納得いかないわねぇ。手塩にかけて育てた子に、悪い影響が出ないか心配よ」
「そこは、育てた身として育てた相手を信頼してやれよ」

 それはそうなんだけど……と、少し渋っているような表情を愛百合は浮かべてくる
 まるで、実の子のように面倒を見ている契約者を心から心配しているように、そう見えるのだが………

(本当に、心配しているんだったらいいんだがな)

 表に出すことなく、天地に化けているディーデリヒ・ダンジェルマイアはそのように考えた
 「組織」DNo上位陣が一人、実質DNoの親衛隊と呼ばれるメンバーのうちの一人である彼は「ドッペルゲンガー」であり、何者にでも化けることが出来る
 本物の天地から依頼され、こうして天地に化けて愛百合を見張っている訳なのだが

(ダレンを殺そうとしてきた連中と、同じ雰囲気がするんだよな………天地が「狐」の件とは別に警戒している訳だ)

 「狐」の件に乗じて何かしでかすかもしれない、と言う警戒ゆえなのだろう
 「狐」絡みでも、今現在、警戒している相手がいるようではあるが……

(ハンニバルの言うことばかり聞いていた餓鬼が、立派に考えるようになったもんだ)

 愛百合の今までの働きぶりや過去の実績に関する資料の内容を思い返しながら、ディーデリヒ天地のふりをしながらの愛百合の観察を続けていた



 一方、その頃
 学校街・獄門寺組本家にて

「……以上が、こっちで掴んでいる情報だ。「狐」のスパイに関しては、引き続き、俺の権限で極秘で調査を続ける」

 そのように、天地は報告を終えた
 「狐」に関する情報交換会。「組織」「首塚」「教会」「レジスタンス」と言う大きな組織だけではなく、「獄門寺家」「マッドガッサー一味」も加わっての、ある意味で豪華な顔ぶれだ
 未だに「組織」が他の組織と交流していると文句垂れてくるような奴(代表例:愛百合)もいる為、この会議への参加は極秘だ
 もっとも、天地以外にも似たような事情を抱えている者がいないと言う訳でもない
 今まさに資料に目を通しているカイザーもその筆頭だろう
 普段の面子ならともかく、今、「教会」本部から派遣されているジェルトヴァが嫌がる顔をしそうだ
 そうした点を考えると、将門が「良し」と言えばほぼ問題がなくなる「首塚」や、同じく龍一の方針に組員の大半が賛同して動く「獄門寺組」は少しうらやましい所だ。トップの判断ありきである為、そのトップにかかる重圧は恐ろしい事になるが

(いっそ、「レジスタンス」くらいのバランスがちょうどいいのかもしれないな)

 ちらり、視線を向けた先では「レジスタンス」において所属している事実と名前が知られている荒神 ウル
 学校街在住の日本人と結婚したため、学校街にとどまっている事も増えたが、元々はヨーロッパを中心に世界中の「レジスタンス」支部を周っていた、「レジスタンス」でも上位の実力者
 上下の関係が「組織」等と違って厳密ではなく、支部によって行動方針や敵対対象が変わる「レジスタンス」であれば、今のように他組織との情報交換会も問題はないのだろう

「「教会」では、子飼いの契約者が何人か行方不明、か」
「はい。大半は殺害された可能性が高いのですが……一人だけ。学校街で目撃談がありました」
「アメリカではオカルトミュージアムで封印・管理していたはずの「アナベル」が姿を消したそうだ。他の諸々のヤバイ物が表に出なかったのは幸いといえば幸いだが」

 カイザーとウルがそれぞれ、資料に書き記していた情報を改めて口に出した
 確か、「教会」子飼いの契約者の中で行方不明となっており、かつ、学校街で目撃談があったのは「死神を閉じ込めた樽」の契約者だったはずだ
 死神に分類される都市伝説を問答無用に無力化して閉じ込める能力を持っている
 死神でさえあればどの国のどのような伝承であろうとも無力化する上、場合によっては契約者まで無力化出来ることはわかっている
 と、なると、他に気になる事は

「その「死神を閉じ込めた樽」の契約者、死神以外を樽に閉じ込めることは?」
「………出来ない、となっていますね。少なくとも、「教会」ではそう把握しています」
「じゃあ。出来る可能性もある、と言う事ね?」

 カイザーの返答を聞いてそう口に出したのは「首塚」の面子として来ていた鮫守 虎吉
 そろそろ結構な年齢になっているはずだが、相も変わらず女の姿をしている。「父親と母親、両方こなす」と言う彼の誓いは、息子が結婚しても続いているらしい

「否定はできません。行方不明になる前は出来なかったとしても、行方不明になってから出来るようになった可能性もありますので」
「死神だけを閉じ込めるんなら、死神に該当する奴を出さなければいいだけの事だが、それ以外もとなると厄介度が増すな………どう対処しろってんだ」

 小さく唸る
 少なくとも、死神相手であれば問答無用で閉じ込める樽の能力
 死神以外にも効く場合もそうなのかどうか……「もしも」の可能性ばかり考えても仕方ないと言われるかもしれないが、警戒するにこした事はない
 都市伝説に関することは、少し警戒しすぎるくらいがちょうどよいのだと、ここに集まっている者逹はよくわかっていた

「狐の一派に襲われた子を一人、「首塚」で保護してはいるけど……彼女を襲った相手はだいぶ攻撃的な能力だったみたいだから、「死神を閉じ込めた樽」ではないのよねぇ」
「あぁ、車やらバイクやら、弾丸みたいに飛ばしてきたって奴か……超能力系統でサイコキネシスか、とも思ったが」
「そもそも、サイコキネシスだったら、当人に対して使いそうなものだが……」
「……だよなぁ。正体がわからない以上、こいつも要警戒、か。鬼灯が持ってた情報ん中にも、それらしい能力の奴はいなかったからな」

 獄門寺家の客人となっている鬼灯
 三年前から「狐」を追い続け、時に戦闘となり「狐」に従う者逹を薙ぎ払ってきたあの男は、久々に獄門寺家に着くやいなや「狐」に従う者逹の情報を、自分が把握している限り龍一に提供した
 その情報を龍一が「首塚」等に流す事によって、「狐」に誘惑された者はかなり捕まったり………捕まる直前に自ら命を絶ち、死んだり消えたりしていった
 今現在、「狐」に誘惑されるなりなんなりして配下となり、かつ生き残っている者は数える程度だ

「アメリカの「ピエロ人形」の契約者、ヨーロッパの「ファザー・タイム」。日本の、どの伝承の奴かまでは不明だが「鬼」か」
「姿を消した時期から見て、「アナベル」や「死神を閉じ込める樽」の契約者辺りも加わっている可能性がありますね」

 他にも、まだ戦力が居る可能性はある
 鬼灯は、全ての「狐」の配下を把握できた訳ではないのだから
 それでも、だいぶ追い詰めてきたはずだ
 後は、「狐」………「白面金毛九尾の狐」本体を見つけ出すだけなのだが、それに関する情報は現状、ほぼない
 なんとかしなければ

「……「白面金毛九尾の狐」に「バビロンの大淫婦」。人を襲う「赤マント」の大量発生に、「怪奇同盟」の盟主の暴走。ほんっと、一気に発生しやがって」
「「バビロンの大淫婦」に関しましては、本当、申し訳ないです」

 天地のぼやきに、カイザーが心底申し訳なさそうにそう言った
 本来は「教会」がなんとかしなければいけない案件が学校町まで流れてきた結果、他組織まで巻き込む事態となってしまっているのだ
 一応、まだ「教会」所属であるカイザーとしては胃が痛い問題だろう

「将門様が、「何か、学校町全体に違和感を感じる」とも仰っていたし……何かしら、起こっているのかもしれないわね」
「あぁ。そう言えば「ライダー」も。学校町に来てすぐ、地理を把握するためにざっとバイクで回った後に「何か妙な感覚がする」と言っていたな。あいつは感知系能力は持っていないから、ただの勘だとは思うが……」

 ふぅ、とため息を付きながらの虎吉の言葉に、ウルも憂鬱そうにそう言った
 …恐らく、「ライダー」とのやらは勘が良いのだろう。いい意味でも、悪い意味でも


 情報が回る、伝わる、新たに湧き出る
 自分達とその家族を、身内を
 学校町を、世界を

 何かを守るために、彼らは力を合わせる

 いくつもの組織が、集団が、害なす者を狩るべく動き続けていた



to be … ?

花子さんの人、投下お疲れ様です
改めて書かれると、この時間軸の学校町ヤバイですね
各組織・集団の皆様の健闘を祈ります

>>200
「バビロンの大淫婦」はクソ雑魚状態になってるから割合どうでもいいとして、「狐」と盟主様と「凍り付いた碧」がやばい

>>201
「狐」陣営はその3つだと保有戦力トップっぽいので危険
次点の「凍り付いた碧」は思想的に危険というか虐殺起こってるみたいだからなぁ……
盟主は時間帯限られてるのと一般への被害がほぼないからマシかもしれない

スレ立てと転載作業、お疲れ様です
遂にR板ですね……

花子さんの人も乙です
獄門寺本家が拠点になるんですね
気になったのは「アナベル」です
これは都市伝説が実在化したものではなくて、本物の方でしょうか……?

「次世代ーズ」は現在ですと9月頃のお話になると思います
行きます

>>203
>「狐」陣営はその3つだと保有戦力トップっぽいので危険
いやまぁ、「狐」陣営も戦闘苦手なのもいるんで大したことは……
ない、って言いたかったね(九十九屋から視線をそらしながら)

>>204
拠点、って訳じゃないですが、内緒の情報共有会だったので獄門寺家が集まりやすかったんでしょう

>これは都市伝説が実在化したものではなくて、本物の方でしょうか……?
ぶっちゃけ、本物も都市伝説として動いていいかな、て

Q つまり?
A モノホンが都市伝説本体として勝手に動いているイメージです

概要(仮)

これは、「学校町」という通称をもつ町にやってきた、高校生の男子の話です
彼はある目的をもってこの町へやってきました
いずれ、彼の口から理由が語られるでしょう


この町には、「都市伝説」という存在と、それと契約を結んだ「能力者」が実在します……


 

 
 美人さんと出会ったあの雨の夜から数日後の晩、俺は相変わらず逃げ回っていた
 しかも今度の相手は都市伝説じゃない、嬉しいことに「組織」所属の契約者ときたもんだ

「馬鹿じゃないの」

 感激のあまりつい本音が漏れる
 全く涙まで出てきやがったぜ畜生

 歳の近そうな女の人でしかも美人さんと出会えたもんだから、てっきりツキが回ってきたものと勘違いしていた
 そうではなかった、良いことが起これば漏れなく悪いことも起こるとはよく言ったものだ

 隠す気の全くない殺気が迫ってくる
 後方からの霊圧を伴ったそれは未だに俺を追跡していた
 なんで俺をここまで追い回すんだ!? 以前の赤マントの方がまだ可愛げがあったぞ!?

「馬鹿じゃないの」

 走りっぱなしで正直余裕はないが吐き捨てずにはいられない
 今は兎に角逃げなければ
 ねっとりと絡み付いてくる大気を振り切るように脚を動かす






 時は少しだけ遡る

 俺は夜中に学校町の東区を散歩していた
 四月から不定期に始めた夜の散歩は今じゃ日課になりつつある
 ここはもう半年近く歩き回ってるが、まだまだ分からないことが多過ぎだ
 東区は学校町の中で最大の区域だと耳にした覚えがあり、町の中央も東区に含まれるらしい
 なので散歩の範囲はかなり広く、予めポイントを決めて散策しないとあっという間に迷いだすことになる

 ここ最近は東区の北側ばかり見て回っている
 個人的には北側のニオイは好きだし、山に近くてのどかな雰囲気がある

 だが

 俺は顔を上げて前方の校舎を見た
 学校町内で最大と言われている中学校だ
 古い学校のようで近いうち創立80年か90年を迎えるらしい
 三年前、この中学で10人もの女子生徒が屋上から飛び降りた
 そしてそれは飛び降りなんかではなく、中学の教師が生徒を突き落としていた
 犠牲者の中には教師の実の娘も含まれていたらしい

 ひどい話だ

 評論家気取りの連中は近頃の親世代の価値観や責任感の崩壊を批判している
 ワイドショーが昨今の孤児の急増について特集を組んだりするのも今となっては珍しくない
 俺だってある意味親に捨てられたような身だし、この突き落とし事件にしてもどこか他人事とは思えなかった

 で、だ
 何故俺が中学校のフェンスをよじ登って中へ侵入しているのか
 単純な話、敷地に沿って遠回りするより校庭を抜けて行った方が近道という真実に気付いたからだ
 

 
 校庭を突っ切って近道するのは今回が初めてじゃない
 自分が見た限りだと警備員さんは巡回していないようだった
 万が一誰かと鉢合わせしたりしたら、謝罪して近道しようとしただけだと説明するつもりだ

 校庭特有の砂の感触を踏みしめつつ、夜の闇の中にある校舎の方へ目を向ける
 物静かな中にもどことなく剣呑な空気を感じるのはこの中学の持つ歴史の重みか、先の事件現場だからなのか
 とにかく足早にここ突っ切ろうと校舎から前方へと視線を動かして、思わず立ち止まった


 誰かが、いる


 先程までニオイも気配もまるで何も無かったが、確かに誰かが立っている
 人物のシルエットからして警備員さんでは無さそうだ

「何度か見かけた顔だ」

 その声は思いの外、若い
 若いというか中学か高校くらいと見るべきか
 下手すると俺と歳が近いかもしれない、あと多分男だ

「不思議な気配だな、気配が殺したかと思えば微かに気配を滲ませる、それを不定期に繰り返している」

 俺が固まっているうちにも、そいつはゆっくりとこっちへ歩を進めてきた

「当初は何かの合図かとも思ったが、まあいい。契約者だな?」
「っ!?」

 息を、飲んだ
 悟られたか?
 さらに一点気付く
 目の前のそいつは腰に刀を差していた

 咄嗟に感覚を全開にする
 何やら古いニオイだが間違いなく都市伝説由来のソレだ
 加えて特有の臭気を微かに感じる
 思わず舌打ちしたくなった

「『組織』所属の契約者か……!?」
「いかにも」

 こちらの問いに、野郎は即答
 少々まずいぞ、遂に『組織』関係者と遭遇だ


「このような場所で会ったのも何かの縁だ、是非手合わせを願いたい」
「お断りだ!」

 切るように告げて明後日の方向へ地面を蹴った
 何がなんでもこの場から逃げないと!

 だが、不意の殺気

 勢いづけて逃げ出そうとした脚を急停止させた直後、逃走先の前方の地面が破裂した
 両腕で顔を庇い飛来する砂石に耐える

「背を向けて逃げ出すとは、いい度胸だ」
「ふざ、け……っ!!」

 

 
 どうやら俺を逃がすつもりは無いらしい
 手合わせがしたいらしい野郎を睨み、先程破裂した地面の方に視線をやる

 地面は破裂したのではなく、青白い光を発する槍が刺さっていた
 俺の逃げ道を封ずる為に投げたものだ
 地面からやや離れた方を見れば、槍を投げた主がいた

 古めかしい甲冑を纏った人物は全体から青白い光を発している
 武者だ、どこをどう見ても武者だ、しかも俺の推測が正しければ都市伝説だ
 恐らく野郎が契約している個体だろう
 その表情は影の所為で全く見えないがこちらに注意を向けているのは嫌でも分かる
 何故って新たに槍を肩に担ぐようにして構えていたからだ

 まるで槍投げ選手のようだ
 俺が逃げようとしても更に槍を投げて牽制するつもりだ、そういう意志を感じる
 てかおかしいだろ!? あんな長柄の槍って普通投げて使うもんじゃ無いだろ!?
 しかも甲冑着込んだままで槍を投げてくるっておかしいだろ!?
 普通は弓で狙うだろ!! いや射られても困るけども!!

「これで心置きなく勝負ができるというものだ」
「一方的に仕掛けてきやがって何が『心置きなく勝負』だ、アンタ」

 率直な感想が口を衝いて出る
 あちらは既に抜刀しており、よほどやり合いたいらしい
 いや、色々言いたいことはあるが、相手は『組織』だ
 道理と誠意が通用する相手とは思えない

 手合わせすると見せかけて、隙を突いて逃げる
 もうこれしかない

「参る」
「ふざけやがって……!」

 右手を前方へ差し出す
 手元から“黒棒”を生成し、同時に一気に距離を詰める

「ッしィ――ッ!」

 息を吐きながら右薙ぎを狙って“黒棒”を振るう、がヤツは受けた
 鍔迫り合いに持ち込む積りは無い、さもなくば引き技で俺がアウトだ
 足元が砂地だからかやけに滑るが知るか! 向かって左側へ回り込む

 相手より速く、もっと速く! 打ち込まれる前に!

 大地を摺るように足を捌き、野郎と距離を取る
 相手の体を注視、既に脚へ力を込めている。間合いを詰めて斬りかかる積りか
 チャンスは今だ

 “黒棒”の形成を崩し、鞭のようにしならせた
 そしてそのまま一気に、ヤツの脚に目掛けて一撃をぶち込んだ

 が、ヤツはこれを

 「面白いな」

 普通に捌いた

 

 
 剣客は下半身の防御が疎かになるので実戦では先ず脚を狙え、と言ったのは誰だったか
 少なくともこれは実戦を生きる刀使いには通用しない話だ
 ああそうとも、かつて刀使い相手に下半身ばっか攻めた挙句一本取られまくったのがこの俺だ

 そしてやり合って分かったが目の前の相手は強い、間違いなく強い
 俺はそもそも刀使いでは無いが、それでも相手の力量くらいは分かる
 こちらの攻撃を捌きつつ余裕でこちらの隙を観察しているのが嫌でも伝わってきた

 相手は正眼に構え、改めてこちらに相対している
 今度こそ突っ込まれたら間違いなくヤバい
 ならば

 鞭状の“黒棒”を引き寄せ、再度前方へ叩き付ける
 但し、今度はヤツにではなく、地面に向かってだ
 抉られた砂石は野郎目掛けて飛散した

「っ!?」

 野郎が息を飲む気配を掴んだ
 身を翻して、あの鎧武者の方へ疾走
 武者の方は先程のように槍を構えているが、遅い
 かなり距離はあるが“黒棒”の射程内だ、迷うことなく武者へと打ち込む
 鞭は武者の片脚に絡まった――そのまま引き戻すように“黒棒”を振るうと武者はそのまま転倒

 急げ急げ急げ!

 この隙に逃げ出さなければ俺が危ない
 足を動かし、ようやくフェンスに辿り着くと縋るようによじ登りフェンスを跨いで――校庭の方を見た
 先程の野郎は抜き身の刀を握ってこっちへ疾走していた
 おまけにその横に仲良く並ぶように鎧武者も槍を担いで走って

「ボエェーッ!!??」

 俺は間抜けな声と共にフェンスから転落した
 飛んできた槍がフェンスに突き刺さり、衝撃で揺さぶられたからだ
 校庭側に落ちなかったのは幸いだ! てかあの体勢から投げるのかよ!?
 槍は俺がいた所の大体横に突き刺さってるぞ!? 本気で俺を殺す気だったのか!?

 驚いている暇はない
 俺は転げるように逃げ出した






 無我夢中でかなり走った
 以前赤マントに追い掛けられた時より頑張った気がする

 後方を確認するがもう霊圧も殺気も無い
 撒いたか? 撒けたのか、俺!?

「っしゃァァあああーッッ!!」

 謎の喜びのあまり思わずガッツボーズだ


 

 
 俺には肉親はいないが仇ならいる
 その一つが「組織」だ
 とはいえ態々敵対するほど俺も向こう見ずではない
 向こうから突っ込んでこない限りはな!

 しかし、だ
 今回の出来事に関してはかなりまずい気がする
 今夜のことが切っ掛けで、ある日突然「組織」がやって来たらどうしようかね
 「組織」に歯向かった貴様は不届千万! よって死刑! ってな具合にだ
 この町に来る前に色々想定した中でもかなり良くない方のパターンだ


 「狐」が討伐されるのを見届けるまで、果たして俺は逃げ切れるだろうか


 思わず溜息が出る
 まだ起こってないことを悩んでても仕方ない、今は考えるのを止めにした

 ガムシャラに走った所為で自分が今どこを歩いているのか本格的に分からなくなっている
 多分東区の真ん中辺りだろう、遠方より微かに繁華街の喧噪が聞こえる
 とりあえず、以前と同じように南区を目指すか

 そうだな
 曇掛かった夜空を仰ぐ

 本格的に自主トレを再開しよう
 もう暫く夜間徘徊もとい夜の散歩は控えよう
 あと近道だからって中学校へ侵入&校庭を横断するのはもう止めよう

 そう決意した

















□■□

投下が三が日中に間に合わなかった……
しかも未だにピュアなラブコメパートに未到達……おのれ

今回も事件などの関係を間違えないよう頑張りましたが
ツッコミなどあれば是非とも


書いててふと気付いたのは
今回の舞台の東区最大の中学は、土川咲李さんの母校だと思うのですが(wiki調べ)
結ちゃんと真理ちゃんが肝試しに入ったのも、東区の中学でしょうか……?

今回もwikiで調べながら書いていました
学校町の中学校は東区最大の中学以外にも、各区に一校ずつあるようですね
しかし東区中学は古く、また五角の一点でもあるので、色々考え込んでいました


>>205
こいつぁ失礼しました
しかしこの密集具合は凄まじいものが……慣れてなければ胃がヤラれそうです(率直な感想)


本当に胃が痛くなってきた……wikiも纏めないとだな
オマケ挟んで後に、いよいよヒーローズカフェにお邪魔します
今日中にまた来ます

次世代ーズ投下、お疲れ様です

結と真理は東区の中学校通いとして書いてます。そういや明言してなかった気がする
ぶっちゃけ中学生は特別な事情以外東区最大の中学校に集めればいいと思うの(暴論)

あとすごくどうでもいい話なんですが
親世代の美弥と瑞希の出身高校が不明です。中央高校じゃないのは確定なんですけど
盟主「設定のよりにもよってそこが穴空きってバカなんじゃないですか?」
誰と同じ、あるいは違う高校かっていう話はした覚えがあるんですけどね?
例えばルーモアのサチさんとは同じ、中央高校の獄門寺君とは別、みたいな
でも肝心の、じゃあどこの高校なのかって話を明言した覚えも記録も見当たらない
たぶん南区の商業高校か、東区にある……かもしれない中央ではない高校なの、かな?
アクマ「かもしれないって、それ恐らくスレで一番詳しくなきゃいけない人が言う台詞じゃないよね」
(目逸らし)

おはようございます、次世代の人乙ですー

三年前の事件は、一般に知られている情報はそんな感じで問題ないです
事情知ってる人に聞けば、真実を話してくれるかもしれないし話してくれないかもしれません
(聞きたいなら、情報伝えるネタ書くよ)

>今回の舞台の東区最大の中学は、土川咲李さんの母校だと思うのですが(wiki調べ)
はい、咲李やこちらの次世代キャラは、みんなそこの中学校出身です
戦技披露会で出した外海 黒や謎の忍びも、そこの中学校にかよっています

>しかしこの密集具合は凄まじいものが……慣れてなければ胃がヤラれそうです(率直な感想)
俺もそう思う(鎮痛な面持ち)


>>213
あー、お二人の出身高校、アクマの方がどこの高校だって仰ってたようなきがするんだが、俺も思い出せない
力になれず申し訳ない

 
改めまして花子さんの人に感謝の土下座orz
「狐」の話ですが、「学校町に移動するまでの間に近隣の町で事件を起こしていた」
という部分に言及していくことになりそうです、よろしくお願いします……


>>213
篠塚さんの出身高校ですか?
自分が見た限り、wikiの「設定一覧 学校町」に載ってました


>754 :VIPがお送りします [sage] :2009/07/15(水) 22:49:54.93 ID:d0IkWHY30
>ちなみに町の中央付近に高校がひとつ。
>東区の南側に「怪奇同盟」本部の墓地と、アクマの契約者の通う高校があります。
>それと東側のどっかにもう一つ高校があったかもしれん。
>
>中学校は大きいひとつの他に、各区内にひとつずつはある。
>小学校は東区のみ、三つ。


東区の高校だという記憶がありましたが、東区には高校が二つあるんですね
あと、避難所だったと思うけど「中央高校はブレザーで東高校はセーラー」というのを覚えています
ああとも、ハッキリ記憶しておりますの!(血走った笑み)
セーラー服が好きですの……! セーラー服が大好きですのォォ……!!(血走った笑い)
真面目な話、地味に3年近く溜めこんでいたネタを出します(ぬるり)


>>214
>(聞きたいなら、情報伝えるネタ書くよ)
おお! ありがとうございます! いよいよ花子さん所の方と接触だろうか
ただ、そうですね、次世代ーズの“彼”に関する情報をもう少し出してからでもよろしいでしょうか
今の段階だと彼はあまりにも学校町の契約者を警戒してるフシがあるので、次回でここをばくはつします
彼は南区商業高校の生徒なのですが……本当に大丈夫なのかコイツ

 
 面白い人間を見つけた
 それが流石 丈(さすが たけし)の、“彼”に対する最初の印象だった
 前々から見かけることはあったが契約者である可能性に至ったのは最近だ

 不思議なことに“彼”からは全く気配を感じなかった
 いや、気配はあるはずだがかなり「薄い」のだろうと当初は考えていた

 だがそうではなかった

 見掛ける内の数度だけ、強い気配が放たれるのを察知したのだ
 違和が疑惑に変わり、流石は意を決して彼に接近することにした

 平日夕方の南区
 “彼”を見つけたとき、流石は一度だけすれ違うように歩いた
 最接近の機会に意識を集中させ“彼”の気配を感じ取るためだ

 そのときの“彼”の気配は至極「薄かった」
 だが、ごくわずかに都市伝説の気配がした


 “彼”は契約者かもしれない


 気配を断つことができる契約者はそう珍しいものではない
 それにこの町には大量の契約者が居住しているのだ
 珍しいことではない

 だが流石はわずかに感じ取った都市伝説の気配の中に何かを感じた
 是非手合わせをしてみたい、その思いを抱いたのは丁度そのときだ
 “彼”には何かがある、流石の直観はそう断じていた

 で、あれば
 いつ会うべきか
 これが問題だ

 “彼”は南区でよく見掛けたが、秋口より東区でも姿を見るようになった
 夜間に歩き回っている所を確認できたのは流石にとって僥倖だった
 流石も早速、夜間の徘徊を開始した






 そして

「何度か見かけた顔だ」

 夜中、東区中学の校庭にて

 初めて“彼”に話し掛けたとき、流石は歓喜と緊張で震えていた
 相対して分かったが、背は自分より高く、年齢は思っていたよりも近そうだった
 当初は成人しているのかと思っていたが、もしかしたら高校生くらいかもしれない

「不思議な気配だな、気配が殺したかと思えば微かに気配を滲ませる、それを不定期に繰り返している
 当初は何かの合図かとも思ったが、まあいい。契約者だな?」
 

 
 自分が何を話しているのかは最早どうでも良いことだ
 早く、早く手合わせがしたい

 普段はこういった衝動に衝き動かされることなど無い
 “彼”、目の前の男にはやはり何かがある
 流石はその答えが知りたかったのだ

「『組織』所属の契約者か?」
「いかにも」

 “彼”の声色は敵意を含んでいたが、契約者かという向こうの問いに、内心流石は打ち震えていた
 “彼”が契約者であるという確信があったわけではないが、これではっきりした
 “彼”は契約者とは何かを知っている

 更にだ、“彼”は自分が「組織」所属であることを見抜いていた
 やはりこの男は只者ではない! 早く仕合いたい!

 だが

「手合わせを願いたい」
「お断りだ!」

 あろうことか“彼”は逃げ出そうとした
 しかし、そのようなことは想定の内だった
 予め待機させていた契約都市伝説、「校庭に現れる落ち武者の霊」に“彼”の足止めをさせる

 怒りと喜びが腹の底を渦巻く
 逃げるとは何事だ、是非仕合せてもらう
 “彼”は怒っているようだが、それはこちらの話だ
 手合わせを放棄して逃げ出そうなど、決して許されることでは無い

 “彼”は憤慨したように、黒色の木刀状の物体を創造した
 間違いなく“彼”は契約者だ、それに加えて“彼”の気配は未だに微弱である
 通例、契約者が能力を発動する際、平時よりも気配が強くなるが、“彼”にはそれが無い
 やはりこの男、何かがある

 “彼”が先んじて木刀を振るってきた
 その一撃を受けてこちらも刃を向ける
 流石は昂る興奮を抑えることができない
 “彼”は油断なく立ち回り、距離を取ろうとする
 勝敗が決するまで、この男を離すわけにはいかない!

 不意に“彼”の姿勢が崩れる

 片手持ちで振るってきた木刀状のそれが変形した
 まるで鞭のように波打ちながら、自分の脚に直撃しようとする

「面白いな」

 この男、創造した物質を柔軟に変形させることもできるらしい
 中々の熟練者に違いない、思わず笑みが零れそうになる
 今度はこちらから攻めようと刀を構える
 それが自分が払うべき礼というものだ


 だが

 

 
「っ!?」

 あろうことか、“彼”は鞭と化した木刀で校庭の土砂を抉り飛ばしてきた
 飛散した石と砂から顔を庇い刀を構え直した時、既に“彼”は逃走し、武者の霊を転倒させていた

 頭に血が上った

 なんという奴だ
 仕合いを放棄して逃げ出すなど
 しかも目潰しなどと汚い手を使って


 その腐った性根を斬り殺してやりたい所だ


 奴は既に校庭のフェンスをよじ登っていた
 起き上がった武者の霊、直正衛門は手に持った槍を振り被って投擲
 槍は奴の横に直撃し、フェンスを揺さぶり、奴は奇声を上げてフェンスの向こう側へと転落した


 追跡し、叩きのめす


 流石と武者の霊は疾走した
 必ず捕らえて、そのふざけた精神に手合わせの何たるかを注入するのだ






 結果、流石と武者の霊は“彼”を見失った
 東区中学を抜けて街道を走り回った挙句、二人は三叉路に出ていた

「ふむ」

 先程よりも幾分か頭が冷めてきた
 “彼”と仕合うため、力量をはかるために挑んだのだが

「悪いことをしたか……?」

 顧みれば“彼”は手合わせに消極的だった
 いや、あからさまに嫌がっていたと見た方が適当だ

 むう、流石は思案する
 興奮のあまり激情に流され、結果として好機を逸したと見るべきだ
 万が一、次回“彼”に出会ったときは、今晩の非礼を詫びた方がいいだろうか

 一抹の申し訳なさを心の片隅に抱いた、そのとき


「ぬゥッ!?」
「……何者だ」


夜道、前方に新たな影
怪しい風体の二人組が立っていた
 

 
 見たところ、前の一人は麦わら帽子にコートという出で立ち
 だがコートから覗く体や腕には深紅の包帯が巻かれているではないか
 その後ろに控える者は羽織りも何もなく、露骨に全身を深紅の包帯で覆っている

「『トンカラトン』か?」
「如何にもッ!!」

 麦わらの者は低い声でそう唸ると、大仰な身振りで前へ歩み出る!

「おゥ、おゥおゥおゥおゥ! しッかと耳にするがいいッ!
 我が名は『朱の師団』四番隊副隊ちょ――つオッッ!?!?」


 不意に鋭い殺気
 直後、道路の舗装が爆ぜた


 即座に受け身を取り、コンクリート塀の陰に潜り込む
 気配は上方からだ、遮蔽物で身を庇いつつ様子を窺うと上空に何かが滞空していた
 大きな翼をはためかせているそれは、人の形をしているがそうでは無い

「あれは『モスマン』か?」
「ぬゥゥ! 名乗りの途中で不意打ちを仕掛けるなどッ! アヤカシの風下にも置けヌ奴ッ!!」

 大声で抗議する方を見やれば、先程の「トンカラトン」二人組も遮蔽物に身を隠し上空の狼藉者に怒鳴り散らしている
 それだけではない、二人組の内の一方は、どこから取り出したのか拳銃のような物を「モスマン」に向けているではないか

 乾いた発砲音が夜の静寂を切り裂く
 だが、「モスマン」は怯んだようには見えない
 それどころか、羽搏きを続ける翼が一瞬、不気味に揺れた

 大気を叩くような音と共に「トンカラトン」の近くのアスファルトが炸裂
 どうやら、上空の「モスマン」は何らかの射撃能力を持っているようだ

 ふと流石が横を向くと、武者の霊は新たな槍を創造し投擲の構えを見せていた
 流石が止める間もなく、武者の霊は槍を投擲
 しかし「モスマン」には到底届かない

「駄目だ、直正衛門。民家に被害が出る」

 流石は再度槍を投げようとした武者の霊を制した
 正面を切ってきた「トンカラトン」はともかく、上空の「モスマン」はまずい
 遠距離の攻撃方法を持たない我々では手の打ちようがない

 流石は携帯を取り出し、専用回線へ架電した
 これは迷うことなく流石が所属する「組織」の対処すべき事案だ

「こちら“オサスナ”、学校町東区で『トンカラトン』二体、『モスマン』一体と会敵
 位置情報は送信通りだ。現在、『モスマン』の攻撃を凌いでいる」

『位置を特定した。これより応援を送る
 「狐」の配下の可能性もある、十分に警戒せよ』

「了解」

 通信を切り、状況に備える
 “彼”のことは「組織」に報告する積りは無い
 あれは自分の失態であり、故に自分で片づけるべき件だ
 流石はそう判断して、目前の状況へと意識的に注意を払った

 我々と、「トンカラトン」、そして「モスマン」
 襲撃してきた「モスマン」の方は討伐するとして
 「トンカラトン」の方も、出方次第では捕縛が必要になるだろう
 流石は、能力によって創造された刀を引き寄せ、状況の観察を続ける

 少年の名は流石丈
 中学三年生の男子にして武者の霊の主
 そして、「組織」強硬派に所属する、「契約者」である




□□■

 


Q.(現在の時間軸は9月の頭頃(?)なので、合同戦技披露会は未来の出来事になるのですが)
  サスガ君は合同戦技披露会に出場しないんですか?


A.

流石「……」

流石「告知は受けたが出場できなかった」
流石「担当の黒服に出場するなと釘を刺された」
流石「戦技は見世物では無い、というのが理由だ」
流石「所属契約者の能力を明かしたくない、というのが本当の理由ではないだろうか」

流石「ちなみに披露会への見学参加も許されなかった」
流石「不服だ……」










 高校一年生
 初恋の人には「ガキっぽいから」という理由でフラれた


「組織」所属の契約者
 名前は流石 丈(さすが たけし)で強硬派所属の中学三年生男子
 契約した都市伝説は「校庭に現れる落ち武者の霊」
 彼女や好きな人はいないし興味もない


落ち武者の霊
 通称「直正衛門」、本名は不明
 契約の影響か、常に面頬で顔面を隠している
 嵌ってしまった女性のタイプはニャーKBのフササ(本命)


「朱の匪賊」兄者
 絶賛花嫁募集中


「朱の匪賊」ヤッコ
 上に同じ








 

 
前回(>>207-211)の裏の話
流石……
「評判や期待のとおりの事実を確認し、改めて感心するさま。なるほど、たいしたもの。」という意味の名詞だが
人名と名詞ではゴッチャになるとややこしい
今回は漢字で書いたが、これからは様子を見つつカタカナで書くかも


花子さんの人に土下座しますorz
全部暴露してやるんだ!!
次世代ーズに登場した「トンカラトン」集団は
実は「狐」の勢力を加勢するために学校町にやってきたんだ!!
まだ二人組しか出てませんが実際は学校町内に大勢潜伏しています。合流できるかどうかは別の話です
もう一度花子さんの人に土下座orz


次回はいよいよ「ヒーローズカフェ」1回目の訪問です
男がナンパされます
よろしくお願いします

次世代ーズ投下、お疲れ様です
うーんこの漂う戦狂いの雰囲気……組織の人材は厚い(棒)

>>215
ありがとう……ありがとう……!
wikiの方にあったのか、手持ちのメモにないから見てなかったが
というかこのくらい覚えておけよ俺と思わずにはいられない

そしてそうか、東区が高校二つでセーラーとブレザー……
確かにそんな会話した気がする。ということは瑞希はセーラー美少女戦士だったのか()
そして在処ちゃんはブレザーと。なるほどなあ

夕食支度前に覗いたら投下きてた。乙でしたー
戦闘狂の気配を感じる!
なんか、仲良くなれそうな人に覚えがががあ

>ただ、そうですね、次世代ーズの“彼”に関する情報をもう少し出してからでもよろしいでしょうか
はーい、了解です
もしも、三年前の事件が起きた中学校を調べたい、とか言う事情があるなら、楽に中学校に侵入できる(と言うか、堂々と入れる)方法あるよ、とも提示しておきますね

>今の段階だと彼はあまりにも学校町の契約者を警戒してるフシがあるので、次回でここをばくはつします
ここに、契約者ではなく、かつ三年前の事件の事を知っており、都市伝説や契約者の事をよく知っている男がいてな(直斗をじっと見る)

>実は「狐」の勢力を加勢するために学校町にやってきたんだ!!
何……だと……ww

すでに魅了済か、魅了済でないかだけ確認して大丈夫でしょうか
あいつ、学校町に入ってから(作品内時間軸的に3月から)、とある理由で一切、一切配下を増やせていないのですよ

 
いま書いてますが今夜中に間に合うかなァ……


>>222
瑞希さんは今でも高校の制服持ってたりするんだろうか、
ふと罰当たりなことを思い至りましたが……どうなんですか!? 着たりするんですか!?


>>223
ありがとうございます
ここで書くのもアレかなと思い、裏設定スレに置いておきました
ツッコミ所ありましたらどうぞお気軽にお願いします……します……
当初、あの長い話を順序立てて花子さんの人に意向確認していくつもりでした
本当に……本当に申し訳ありません……orz

あと、中央高校のイケメンズと接触した場合、男は絶対に挙動不審になる
直斗さんの場合、男の二言三言を聞いただけで彼の身上と目的を見抜くと思います
男は誤魔化そうとするが、真の目的の方も見抜くと思いますね!
その為の情報開示をですね、早い所進めてですね……

絶対にここから甘々なラブコメに持って行ってやる……!

>>224
……あるかもしれんけど、サラシで後年膨らんだ部分潰さないと着れないんじゃないかな
そしてそこまですると体が動かしづらいので戦闘に支障が出る。だから普段はまず着ない
美弥は成長が当時から完全に止まっているので今でも普通に着れると思いますが

確認したけど上がってなかったからセルフ代理投下

“出会い”とは時に残酷である



「あれ、何か動いた?」



決して交わるはずのなかった一人と一人



「――――何ダ、“アレ”ハ?」



やがて彼等は邂逅し



「ヘビでもいるのかな? 野生のヘビとか興奮だわ。おーい」



「私ハアノヨウナ“異形”ヲ見タ事ガ無イ……一体何ダ!?」



そして



「つってヤマカガシやマムシだったらどうしよ…う?」

「待テ! オ前ガ何者カ……ッ、光ッ――――――」






―――――――開闢の時だ。がっひゃっひゃっひゃ……

「…何あれ」

黄昏町という町がある
時は2004年8月、熱いナイフのような日差しの中、セミの合奏が響くその黄昏町の山奥
小学校低学年程の少年―――黄昏裂邪は、不思議そうに独り呟いた
それもその筈である
ガサガサと草の中を動くヘビか何かを追いかけていた彼にとって、その光景はあまりにも想定外だった
木に凭れ掛かる人間……の、ような“何か”
黒いローブを身に纏い、顔は窺い知れない
いや、本当に顔はあるのだろうか
覗き込めば忽ち飲み込まれてしまうような、見るからに黒しかないそれは、
まるで闇がローブを纏い形を持っているかのようだった
仮に裂邪が現実を見過ぎ、常識に埋もれた大人だったなら正気を保てなくなるだろう
だが彼は幼かった
ヘビじゃないけど凄い奴見つけた――――そのくらいにしか気に留めていなかった

「ねぇねぇ」
「……子供カ……何ノ用ダ?」

胃を揺さぶるような重い声で、“何か”は答える
よく見れば、肩で息をしているようだった

「えっと…誰? てか、人間?」
「…質問ガ多イナ……マァ、良イダロウ
 少年…都市伝説トイウノヲ知ッテイルカ?」
「あ、知ってる知ってる、「口裂け女」とか「トイレの花子さん」とかでしょ?
 ……え、もしかして都市伝説なの!? うわーナマで初めて見た」
「騒ガシイナ…如何ニモ、我々ハ「シャドーマン」ト呼バレル都市伝説ダ
 都市伝説ハ、同種デモ性質ガ異ナル場合ガ多イ…
 我々ハ人知レズ影ヲ彷徨イ渡リ歩ク……ソウヤッテ今日マデ過ゴシテキタ」
「今日までって?」
「クフフフフ…我ナガラ馬鹿ナ事ヲシタモノダナ
 我々ハ光ニ弱クテナ…少シ外ニ出レバ、コノ様ダ」
「ッ……死んじゃう、のか?」
「人間ニ譬エレバ…ソウナルナ
 コノ世カラ我々ハ跡形モ無ク消エル
 強イテ言エバ、オ前ノ記憶ノ片隅ニ残ル位ダロウ」
「おい、消えるって…死ぬってそんなことなのかよ
 辛いとか悲しいとかないのか!?」
「人間ヤ他ノ生物、或イハ他ノ都市伝説ニハアルダロウ…私ニソンナ便利ナ感情ハ無イ
 只、私ハコノ世界ヲ見タカッタ」
「……世界?」
「ドウイウ理由デ、ドウイウ工程デ我々ガコノ世ニ生マレタノカ…
 分カリ得ナイガ近付ク事ハ出来ヨウ
 コノ世ニ存在スル全テノ生物、事象、光景―――――ソノ全テヲ記憶シタカッタ
 最早戯言デシカ、無イガナ……全テガ、遅カッタ」
「遅くないよ。まだ、間に合う」
「……何?」

裂邪は、「シャドーマン」の傍でしゃがみ込むと、
顔をのぞきながら、すっ、と手を差し伸べた

「…何ノ真似ダ?」
「ボロっちい本に書いてた。都市伝説は、人とケイヤクできる
 どうやればいいか分かんないし、どうなるかも分かんない
 でも、ケイヤクすればお互いに強くなれるって…そう書いてたと思うんだ」
「正気カ? オ前モ死ヌカモ知レンゾ」
「俺は死なない。俺にも夢があるんだ
 お前と…「シャドーマン」と、同じ」
「ッ……」
「俺も生き物が好き。黄昏町の山も川も、いっぱい遊んでいっぱい探した
 違う。こんな小さな町で生き物を見たいんじゃない
 ライオンやパンダ、ジンベエザメ、ホッキョクグマ、ペンギン
 この世界の生き物を、ありのままで見てみたい
 頑張って生きてる姿を、そのままで
 だから……一緒に行きたいんだ、「シャドーマン」と」
「少年…」
「ねぇ、「シャドーマン」…俺と、契約しない?」

裂邪が言い終えるや否や、「シャドーマン」の身体が、僅かに震え始めた
笑っているのか、それとも泣いているのか
それはもう、誰にもわからない

「…強カナ少年ダナ…良カロウ、気ニ入ッタ
 ドノ道消エユクコノ命……オ前ニ預ケヨウ!!」

瞬間
裂邪がふと、己の両掌を広げてみた
熱い
何かが流れ入ってくるような、不思議な感覚
今までに感じたことのない体験が、暗に成功したことを知らせてくれる
都市伝説との、契約を

「こ、これって、成功したのか―――――うおっ、「シャドーマン」?」

気が付けば「シャドーマン」は、すくっと立ち上がっていた
こちらもまた、不思議そうに辺りを見回して

「……何トイウコトダ……奇跡カ?」
「おぉ、元気になったじゃん!
 あれ? でも光、苦手じゃ…」
「成程、契約スレバ都市伝説モ力ヲ得ルト聞イタガ…コレ程トハ
 少年ヨ、有難ウ。オ前ハ命ノ恩人ダ」
「え、あ、いや、その…ウヒヒヒ、バカ、照れるだろ」
「ダガ…都市伝説ノ契約者トナッタ今、何ガ起コルカ分カラナイ
 我々モ尽力スルガ…常ニ死ト隣合ワセダトイウコトヲ忘レルナ」
「大丈夫大丈夫、俺喧嘩強いし
 あ、そうだ、「シャドーマン」」
「ム?」

「折角だから名前決めようぜ?
 ほら、「シャドーマン」って長いし」
「名前…我々ニハ無カッタ文化ダガ、良イダロウ」
「よし! じゃあ今日からお前は“ツキカゲ”な!」
「エッ」
「え? ダメ?」
「イヤ、何カコウ……シックリコナイ」
「んーじゃあ……何かない?」
「ソウダナ…“シェイド”、ハ如何ダ?」
「おーカッコいい! んじゃ改めて、俺は黄昏裂邪! よろしくなシェイド!
 あともう一つ、“我々”って言ってたけど、シェイドって一人じゃないの?」
「…ホウ、随分面白イ所ニ気ガ付クナ」
「生き物観察大好きだからね」
「先ズ質問ダガ、『カツオノエボシ』ヲ知ッテルカ?」
「電気クラゲって言われる猛毒のクラゲだね
 でも本当はクラゲじゃない、それは見た目が似てるだけ
 幾つものヒドロ虫っていう小さな生き物が集まって、それぞれの役割を持って1匹の生き物に……
 え、ってことはどっかに違う形の「シャドーマン」が幾つもいるってこと?」
「…私モモウ一ツ聞コウ。年齢ハ?」
「ん? 8歳。小学2年生」
「ア、ソウ……ソノ通リダ
 移動ヤ捕食、ソレゾレニ長ケタ個体ノ“私”ガ影ノ中ニイル
 私ハ“脳”―――思考ヤ記憶、ソシテ意思疎通ヲ司ル」
「マジか! すげぇな、じゃあ1回出してみ―――――――――――――、て、」

ふら、と膝をつき、少し呼吸が荒くなる
裂邪は自身に何が起こったのか分からなかったが、それでも気づいた
――――死ぬかと思った、と

「ドウシタ?」
「…なんか、影の中のシェイドを意識したら…」
「ソウ、カ……恐ラク、未ダソノ時デハ無イノダロウ
 オ前ガ成長シタ時……ソノ時ハ見ラレルダロウナ」
「うーん、残念だけど、まぁいっか」
「デハ私ハ戻ルトシヨウ
 必要トアラバ呼ンデクレレバ良イ
 我々ハ、常ニ影ノ中ニイル」

そう言って、すぅっ、とシェイドは裂邪の影の中へと消えていった
「じゃあな」と呟いて、裂邪は笑みを浮かべて山の中を歩き出す
陽は傾き始め、黄昏時を迎えようとしていた












自宅の押し入れに隠してあった1冊の古い本
父親に強く叱られたが、その内容はしっかりと覚えていた

「ウヒヒヒヒヒ……ヒハハハハハハハハハハ!!
 本当に…本ッ当に出来るんだ、世界征服!
 これからシェイドと一緒に! 邪魔する奴らをぶっ殺して!!
 この綺麗な地球を、俺のものにするんだ!!
 ヒハハハハハハ!! ヒィッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

山奥に、少年の高笑いが木霊する









(ウワァ………大丈夫カ、コノ先……)







   ...to be continued

改めて新スレ乙ですのン
戦場も変わって心機一転、今年も宜しくお願いします

一言で表すならば――――順調

全て、順調に進んでいる

奴の――――黄昏裂邪の成長が





2004年8月、弟より少し遅れて契約者になった黄昏裂邪だが、
奴にしか無いもの……“黄昏の呪い”、それも“初代”と同じものを持っていた
だが、まだ覚醒していなかった
必要なものは、“質”と“量”
故に全てを整えた

「のっぺらぼう」として倒された我が分身が「蠱毒」の呪いを乗せたとも知らず、
小娘が集めた6,000もの都市伝説を我武者羅に倒した愚か者よ
既に十分な力を持ちながら、拠点を学校町へと移り第2段階へ
予め作っておいた元人間の都市伝説と接触させ、さらに契約にも成功し、
次々と他の都市伝説とも契約を結んでいった
ひどく遠回しになってしまったが、“贈り物”も気に入ってくれたようだ
面白いことに“XADOMEN計画”のディシリオン・ダークナイトや、
「生命エネルギー」の作った合成都市伝説とも契約している
そして……




遂に―――――覚醒めた




あれから10年の月日が流れた
“我”が遊んでやっても対等に相手が出来る程になった
だがまだ足りない
早く上り詰めて来るがいい
この“我”と肩を並べるほどの高みに!!










「来てやったぞ、黒幕」
「……む?」

薄紅色の風が吹く、弥生の終わり
黒尽くめの少年――黄昏裂邪は、とあるビルの屋上でローブを靡かせる男を呼び止めた
その顔は全くと言って良い程、印象に残らない、何とも言えない顔であった
説明しようとすれば、想像しようとすれば、脳味噌が悲鳴を上げる
あれは果たして、貌なのか、と――――

「これはこれは…何故ここに?」
「この間中央高校を卒業したんだ
 俺は晴れてR-No.の任務を熟すだけの社会人になる訳だが……どうもすっきりしないんだ
 俺やミナワ、ナユタにローゼちゃん―――幾多の人々の人生を引っ掻き回して滅茶苦茶にする、
 そんな奴がこの世の中にのさばってるってんなら…そいつを片付けなきゃ、“Rangers”の名が廃る」
「つまりどういう事だ」
「お前の物語は今日で最後(レッツト)だ、ニャルラトテップ!!―――――――解放!!」

スマートフォンをバックルに翳せば、金の枝のペンダントが黄金の鎌へと変化する
同時に、背後に侍るようにシェイド、上空から理夢とミナワ、ウィル、ナユタ、
そしてビルの下からゆっくりとビオが顔を出し、男を――ニャルラトテップを包囲した

《砲撃用意,完了》
『あの世でゼノン達に宜しくしてくれたまえ』
「ここで会ったが百年目ェ! 潔くお縄に入んなせぇ!!」
「テメェの見せる悪夢はお終いだ! 俺様が食ってやる!!」
「私の……お父さんと、お母さんの……仇……貴方だけは、許せません!」
「…裂邪ト会エタノハオ前ノオ陰ダ、礼ハ言オウ
 然シコレ以上ノ愚行ハ認メル訳ニユカン」
「がっひゃっひゃっひゃ…全員集合ということか」
「何が可笑しい?」
「何が、だと? 滑稽な事しかないでないか!
 ここにいる者達は、“我”という存在があってここにいるのだぞ!?
 それが今、我を殺そうとここに集った…がっひゃっひゃっひゃ!! 「ティンダロスの猟犬」を得た人間を思い出す
 あらゆる時間と空間に同時に存在するこの“這い寄る混沌”を殺せば、
 待ち受けるのは時間逆説という更なる混沌だ!!
 我はこの世の人類に力を与えた! ある者は繁栄、ある者は破滅!
 幾重にも積まれた成功と失敗の輪廻が無となるのだぞ! それを理解しているのか、貴様らは!?」
「知るか! 正されたものは乱したい、乱されたものは正したい! それだけだ!!
 お前が消えてカオスがやってくるなら、俺が秩序ある世の中に戻してやる!!」
「がひゃっ………その意気や、良し!!」

突如飛び上がったニャルラトテップを、ビオの機関銃とチタン弾の雨が捉える
が、それらは何らかの力によって寸でで止められ、跡形もなく消失した

《命中0,目標損傷0,理解不能...?》
「今のって…魔法か何かですか!?」
「がっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!
 この程度、全ての魔導書を暗記している我にして見れば動作もないことだ!
 貴様等もこの弾丸同様、片腕で捻り潰す事も出来る!
 我には何者も打ち勝つ事は出来ん――――“神”さえも!!!」
「なら簡単だ、俺が“神”を超えれば良い!! 覚悟しろ邪神!!」
「まぁ……そう焦るな、黄昏裂邪
 まだその時ではない」

ヴッ……………ン
裂邪の目の前に、闇が広がった
声を聞き、裂邪はシェイド達も同じ状況である事と、何処かに閉じ込められた訳ではないことが分かった

「っち、何のつもりだ!?」
「なぁに、これから少しばかり旅を楽しんで貰おうと思ってな?」
「旅だと!? ふざけんな! 姿を見せろ!!」

辺りを見回す裂邪
だが、何処を見ても闇、闇、闇
終に彼は気づいてしまった
視界の外にある、光
これは闇に覆われているのではない
闇が、目の前に“立っている”…そして裂邪の視界を遮るように動いていたのだ、と
それに気づくや否や、更に声がする

《異常発生,異常発生,亜電磁力反応eeeeeeerrorrrrrrrrrrr》
「何だこれッ、吸い込まれt」
「きゃあっ!! ご主人さm」
「ッ!? ミナワ!理夢!ビオ!!」
「一体ェどんな術をっ、お、おわぁっ!?」
「ウィル!! 何が…!?」
「ク……ニャルラトテップ! 何ヲシテイル!?」
「言っただろう? 旅をしてもらう、と
 その闇は扉……その先にはこの世界とは限りなく近く、果てしなく遠い世界」
『まさか…並行世界へのっ、くぅっ!?』
「ナユタ!?……並行世界、だと?」
「その通り
 貴様等の知らぬ、異なる時間の流れる世界……
 当然、我のような空間干渉能力を持っていなければ帰ってくることすら儘ならない
 要はつまり、暫しの別れだ」
「フザケタ事ヲ…!! 今直グニ貴様ヲッ、ヌゥッ!?」
「シェイド!!……ニャルラトテップ!!
 見ていろ、俺は必ず帰ってくる!!
 お前を夢幻泡影に帰すまで、俺は絶対に滅ばない!!」
「がっひゃっひゃっひゃ……楽しみだ。しかし
 さらばだ、黄昏裂邪」



ほんの、一瞬
闇が消え、そこに立つのは一人だけ
ニャルラトテップ、ただ一人
2015年3月末
黄昏裂邪は、この世界から消滅した











【 夢幻泡影Re: † Catastrophe of Crawling Chaos 】











   ...to be continued

あれこれ考えた結果、一番書きたいものを書こうと
というわけで時代は2015年、裂邪が(確か)高校卒業直後です
めちゃくちゃすっ飛ばしとるけど…この話が書きたかったんや…

【それは日記帳……と言うよりも、正確には自身の考えを書きなぐるためのメモ帳に近いようだ】
【小さいが分厚く、表紙は革製でしっかりしている。長く愛用している物のようだ】
【その一部のみ、抜擢する】


20XXねん ○がつ×にち

ぼくはみんなとはなにかちがうらしい
ときどき、みんなとかんがえがずれる
なんでおなじじゃないんだろう

20XXねん ■がつ▲っか

みんなちがうのはあたりまえ、とおとうさんがいった
でもやっぱり、ぼくだけなにかちがうのはきっとへんなのだとおもった
みんなにはないしょにしたほうがいいとおもう

20XXねん ×がつ×にち

(書いた文章が黒く塗りつぶされている)
としでんせつにおそわれた
たぶん、こわかったのだとおもう
みんながしんでしまうのがなによりもこわかった
(続きは真っ黒に塗りつぶされている))


20XX年 ●月◇日

しられないようにしなくては
きっと、ぼくはいじょうなのだ
しられたら、みんなにきらわれるかもしれない
かくさなければ

20XX年 ◇月◎日

さくりさん、と言う人がやさしくしてくれた
でも、あの人はとしでんせつけいやくしゃじゃない
としでんせつのこともしらない
あまりかかわるべきではない

20XX年 △月●日

さくりさんがけがをした
どうして、かばったのだろう
どうして、あの人はにげなかったのだろう
にげだしたほうが、ずっと楽だと思うのに

20XX年 △月▽日

あの人はやさしい
やさしいけど、お人よしすぎる
ふかいりさせるべきじゃない

20XX年 ◇月●日

ほおずきさんが「あのじょうちゃん、都市伝説につけこまれやすいぞ」と言っていた
せいしつ上、そういうのがわかりやすいらしい
「都市伝説のえいきょうをうけやすい」とも言っていた
気をつけるようにつたえておかないと

【ここより数年分、取り留めのない穏やかな日々について書かれている為省略】

20XX年 ◆月□日

咲季さんは来年受験生だ
どこの高校に行くつもりなの、と聞いたら「中央高校」と答えられた
それなら、自分もあそこに行こうか
皆で同じ高校に行けたらいいな

20XX年 ■月◎日

みんなの前では、時々隠せない
本当なら隠さなければならないのに

でも、知られても嫌われなくてよかった
咲季さんには知られないようにしないと

20XX年 ◆月×日

愛人がいなくなった
どこに行ってしまったんだろう
【「探索・監視を要請すべき?」と言う一文に線が引かれて消されている】

20XX年 ◎月□日

飛び降りがあった
事故?自殺??

20XX年 ◎月◎日

東区に新しい診療所
「先生」がどんな人か確認しに行く

20XX年 ◎月◆日

また飛び降り
他殺?(都市伝説絡みの可能性あり。調査開始)

20XX年 ◎月×日

「狐」が学校町に入り込んでいるとのこと
いくつかの組織や集団が警戒し始めている
気をつけるよう言われた

20XX年 ◎月△日

犯人→咲季さんの父親?
証拠を固める必要あり
咲季さんには気づかれないように

20XX年 ◎月◇日

「組織」ANoの黒服が咲季さんに接触していたのを確認
咲季さんが思い悩んでいる
何を吹き込まれたのだろうか




20XX年 ◎月●日

咲季さんが死んだ
絶対に許さない、殺すなんて生ぬるい、もっと苦しめなければ



.

20XX年 ◎月○日

証拠確保、踏み込む
【三行ほど、真っ黒に塗りつぶされていて読めない】

20XX年 ●月●日

鬼灯さんが「狐」を追いかけに行くと言って学校町を出た
何かわかったら、先々で伝えてくれると約束してくれた
行き先もわかっている、生存報告もしてくれる
安心できる

愛人や咲季さんのようにいなくなってしまう訳じゃない
大丈夫

【約2年と数カ月分程記述を省略】

20XX年 3月26日

「狐」、学校町侵入を確認
見つけ次第対処

20XX年 3月27日

「狐」、力と人格消滅?
もしくは、何らかの事情で表に出なくなっている
要観察・監視
「組織」過激派、もしくは強行派に知られた場合、宿主ごと始末される可能性あり
宿主の生命を優先するものとし、皆以外には極秘とする

20XX年 3月29日

「狐」の配下が学校町に入ってきているはず
鬼灯さんから、近々日本に戻るとの連絡
「狐」の移動した跡にいる「狐」配下を始末しながら来るとの事
学校町にも来てくれるはず

20XX年 4月23日

「狐」の人格・能力、共に表面化する様子なし

20XX年 6月9日

「教会」から異端審問官が派遣されるとの事
あの人でほっとした。他の異端審問官は面倒
「バビロンの大淫婦」、時期が悪い。見つけ次第処分

20XX年 7月××日

愛人が帰ってきた
「狐」「バビロンの大淫婦」どちらの影響も受けていない事を確認
心配させた借りはそのうち返してもらう
【小さく、「生きていてくれてよかった」と続けられている】


20XX年 8月1日

「狐」相変わらず人格・能力共に表面化せず
「バビロンの大淫婦」と接触するとまずいかもしれない

20XX年 8月8日


Xを確認
手を出しにくい立場
彼女に何かあっては困る
【小さく「先生」に協力要請の必要あり?と追記されている】





to be … ?

メインキャラの誰かの日記もどきぽい
愛人君が帰ってきた月とか適当です。はないちもんめの人に焼き土下座
何月か修正あったらご連絡ください。wiki掲載時に修正します

 

 注文したアイスティーを一口飲む
 美人さんの方はココア系の飲み物を口にしていた
 何やら飲んだらめっちゃ元気が出そうな感じのドリンク名、だったはずだ

 怒涛のヒーロー攻勢が引いた為か、心に余裕が――生まれない
 美人さんと二人、喫茶店で話をしているという今の状況に意識が行ってしまう
 どこか愁いを帯びた美人さんは俺みたいなのがそう易々と出会える相手では無いし、こんな機会は二度も無いだろう

 そもそも、あの雨の日に出会ったとき
 俺が咄嗟に口走ったお茶のお誘いに彼女は「また今度」と答えた
 この語の意味するのは女性がよく使うという奥ゆかしい断り文句のはずだ
 事実コンビニで買ったエンタメ雑誌にもそう書いてあった

 そこから本当に誘われるだなんて、完全にアウェーだ
 いや嬉しいんだけども! 気恥ずかしいほど嬉しいんだけども!

 しかもアレだぞ? チェリーボーイをキルするような格好だぞ!?
 美人さんの胸元に目が行ってしまいそうになるのを理性が抑えに掛かる
 彼女は今、店内のテレビの方に視線を向けているから少し見てもバレ――じゃなくてっ!!


 俺の脳みそでは早くも理性と欲望がシーソーがっこんがっこんを始めていた

『いいですか早渡、素直に欲望を開放なさい。そしてこのビューティーをホテルに引っ張り込め! やるべきことをやれ! この童貞野郎!』

 欲望の側に陣取っているのはエンジェル早渡だ、こいつは常に俺をピンクの世界に引きずり込もうとする

『駄目だ脩寿! お前アレだろ! 男を磨くって自分に誓っただろ! 流されるな! 自分の欲望に敗けんじゃねえ!』

 対して理性を司るデビル早渡はかつて俺が心に決めたことを想起させてくれる真の友人なのだが、常に劣勢気味の奴だ

 『いい加減無駄な努力は止めるのです、早渡。お前が望みに望んだ巨乳女子ですよ? 土下座して頼み込んでとっととそのおっぱいに埋もれろ!!』

 負けるなデビル早渡! 負けるな俺! 俺は自分を超えるって決めただろうがッ!!


「あの、いいかしら?」

 美人さんの声に我に返れば、彼女はこちらを見て笑っていた
 先程よりもクスクス笑っている

「え、あー、なんか、おかしかったっすか……?」
「ごめんなさい。あなた今、ものすごい顔していたわ。百面相」

 俺の中の葛藤が顔に出ていた、だと?
 全てを見透かされたかもだ、顔面が燃え上がるように熱い
 恥ずかしい……、どこかに穴があったら真っ先に飛び込みたいくらいだ

「そろそろ、お互いに、自己紹介、しませんか?」

 美人さんは一頻り笑った後でそう提案してきた
 涙が滲むほどおかしかったのか
 ほんとに恥ずかしい

 とにかく自己紹介だ
 こういうのはレディーファーストで無いことくらい俺でも分かるぞ、お先に行こう
 

次世代の人乙です
甘酸っぱいデートのような光景にニヤニヤ
美人に弱いなぁww


>一方淫婦に対する思い切りの良さが怖い
「バビロンの大淫婦」に対して思い切りがいいのであって、大淫婦が憑いてるだろう人間に対しては温情を見せると信じて……!(打ち切り風)

花子さんとかの人乙ですの
日記調の話って好きだわ
好きなのになかなか書けないから辛いわ
その対象の変化を表すのにはもってこいなんだけどな、狂っていく様とか

次世代ーズの
人乙ですの
「シャドーピープル」と契約した美少女だと
これはお持ち帰りd(影に飲まれました


>>244
英題を訳すと“這い寄る混沌の結末”になるぜ
つまりそういうことだぜ!
あととんでもなく斜め上に話が進むことをここでお詫びするぜ(ぇ

次世代ーズ投下お疲れ様です

>厨房にいた男性の方は店長だろうか
>そういえば店を出るとき俺を見ていた気がする
美弥(店内放映リストにアンパンマンを加えなきゃな……)
とか思いながら見送ってましたね間違いない
ご当地ヒーローも抑えてる放映リスト、いったいどうなってるんですかね?

しかし美弥君、成長止まって高校生の頃のままの、若い姿でいる割に
渋い雰囲気纏えるなんてずいぶん努力したんだろうなと思いました
でも確かに美弥のヒーローイメージはハーフボイルドライダーに影響受けてるはずなので
こういう方向に向かうのは当然か。これたぶん結ちゃんは父親も手本にしたんだな……

あとね早渡君、その大和撫子っぽい見た目のは君の思ってるような女性ではないぞ
君がこの間遭遇したような戦闘狂が入ったヒーロー(ヒロインではない)なんやで……
盟主「そもそも篠塚一家全員見た目詐欺なのでは?」
へ、変身してない結ちゃんは見た目とそこまで差異はないし(震え声)

>>256
>その対象の変化を表すのにはもってこいなんだけどな、狂っていく様とか
クトゥルフTRPGなんかだと日記見かけたらヒントゲットのチャンスよな(ただしSAN値チェックの危険性あり)

>これはお持ち帰りd(影に飲まれました
無茶しやがって……

>>257
>あとね早渡君、その大和撫子っぽい見た目のは君の思ってるような女性ではないぞ
>君がこの間遭遇したような戦闘狂が入ったヒーロー(ヒロインではない)なんやで……
普段は大和撫子で、戦闘時のみ戦闘狂って素敵じゃね?(お前の好みは聞いてない)

>盟主「そもそも篠塚一家全員見た目詐欺なのでは?」
見た目詐欺とかよくあるよくある(一部自キャラから全力で視線をそらしながら)

>>258
>普段は大和撫子で、戦闘時のみ戦闘狂って素敵じゃね?(お前の好みは聞いてない)
良いか悪いかでいえば良いと思います(目逸らし)
でもね、ヒロイン力は低いんじゃないかなーって
アクマ「逆に聞くけどヒロイン力高いキャラクターってうちのメンバーだと誰なのさ?」
小さい頃遊んでくれたお姉ちゃんというエピソードを有しながら
相反する妹属性を持ち料理上手で一途な想いを向ける篠塚文って娘がですね
アクマ「何も間違ってないはずだけど、そもそもその設定がおかしい」
あと云百年処女で乙女的反応が期待できる盟主様かな
盟主「張り倒しますよ?」

>>259
>ついでに魔術が載ってたり
あるある

>>260
>でもね、ヒロイン力は低いんじゃないかなーって
えっ、それなりにヒロイン力ある方では


なお、うちの連中で一番ヒロイン力高いのは、次世代編だと推定憐辺りですかね(視線をそらしながら)

>>261
>えっ、それなりにヒロイン力ある方では
そうかバトルモノであることを踏まえると戦闘能力が高いのは
相棒的な方向性からヒロイン力がそこそこ高く見える……?


うーん、ヒダル神の契約者が小学校を襲撃して
子供たちを人質にとって組織に金を要求する話とか
思いついたけどすぐ対処されそうだから目的を変えた方が良さそうだ

 
皆さん乙です

>>255
確かに早渡は美人に弱い
いや弱いかな……まあ弱いな
後、場のノリと空気に乗ってしまう所がある

>>256
実は夜さんを出すにあたりシャドーマンの人の目が怖かったことをここで白状しますの……
夜さんは学校町にあの伝説の「シャドーマン」の契約者、黄昏裂邪氏がいることを知らないはずだ

>>257
なんかもう本当に恐れ多いです
美弥さんはゴルディアンと逢魔時の方でかなり渋めの雰囲気があったので
多分こうだろうと書いた結果が8話でございます
感謝ですの!

>あとね早渡君、その大和撫子っぽい見た目のは君の思ってるような女性ではないぞ
早渡「えっ? えっ??」
彼は一応鼻が利くという設定がありますが能動的に感覚を開かないといけない点と
場の雰囲気に乗ってしまいやすい面があるので8話で「カフェ」に行った時
篠塚さん夫妻が契約者である事には全く気づいてませんね

あと、アクマの人に確認しておきたいんですが
美弥さんは半田刀也君や早渡のことをどう呼称しますでしょうか
2度目の訪問時に美弥さんにご挨拶となるはずなので今のうちにご確認でございます……


この場で日向ありすがどんな子かバラしてやりたい衝動と戦っている
彼女は元主人公枠のはずかしいことの被害担当である

 


 日が大分西に傾いた学校町の東区
 高校近くの路地、電柱の影に隠れるようにして彼女は佇んでいた

 東区高校のセーラー服を着た彼女は携帯に目を落とす
 つい先程同じクラスの友人から彼女宛に送信されたメッセージだ


   『 ありすごめーん(。・ε・。)
     あと5分くらいで終わるから待ってて(人ゝω・)
     スマン八(-_-;)  』


 今日はこの友人と一緒に級友のバイト先へ遊びに行く積りだったのだが
 肝心の友人は何かの仕事を少し残しているらしい、HRの前にそういう話を聞いた

 仕方ない、待つか。彼女はメッセージを読んで嘆息する
 とはいえ友人を待つ彼女は急いでいるわけでもない
 今日は図書室も休みだし、時間はある


 彼女のもとへ一人の警察官が近づいてきたのはそのときだった
 少女は顔を上げる前より彼の存在を察していた


「すいません、こんにちは」

 少女は眼鏡越しに、目の前に立つ警察官を見詰めた
 警察官の顔は不気味なほどに無表情だ

「少し調査にご協力頂きたいのですが」
「その前にいいですか?」

 肩ほどまでの髪を揺らして彼女は警察官の手元を観察する
 彼の手は腰に吊られた拳銃のホルスターに置かれていた

「最近、不審者が増えてるみたいなんですけど」
「ええ。ですから私達も東区を警邏していまして、その調査を」
「その不審者というのは、お巡りさんの格好をしているらしいんです」

 警察官の言葉を遮るように話すと、彼は無表情のまま押し黙った

「学校側からも通達が出てるんですけど
 お巡りさんは最近、必ず 二人で パトロールするようになったらしいんですよ」

 眼前の男の瞼が小さく震えた

「申し訳ないんですけど。お巡りさんの警察手帳を見せてもらえません?」


 一瞬の沈黙の後
 警察官の手が銃把に掛かった




 

 

 だが
 警察官を装った男が、銃を抜き取るよりも速く



「                        」



 彼女は何かを小さく呟いていた


 その瞬間
 警察官は雷に打たれたように硬直


「んんんっ♥ んんん゙ん゙ん゙っ♥」


 そのままアスファルトへ倒れ伏してしまった


「きっ♥ ぎも゙ぢい゙い゙ぃ゙ぃ゙っ♥」


 男の口から低く唸るような譫言が漏れ出る
 その内容が何やら変質者めいていた点はひとまず措こう


「はぁ……、『偽警官』、これで四人目ね」

 少女は忌々しげにかぶりを振ると倒れた「偽警官」を眼鏡越しに睨みつける
 そして嘆息しながら独り言のように呟いた


「何やってるのかしらね、『組織』は」





















□□■

 
× 篠塚さん夫妻は契約者
○ 篠塚さん夫妻は都市伝説化した元契約者

やってしまった……すいませんorz



憐さん……憐ちゃん……うふふ

次世代ーズ投下お疲れ様です
増加する偽警官被害か。組織も対応する件が増えて大変だろうなぁ

>>263
あー、組織に要求するならその方向のほうが良さそうですね
具体的に何を要求しているのかは明言しないでいけばいいかな
文章にできるかちょっと考えておこう

>>264>>267
あれだけアワアワしてたら気づかないのは仕方ないよね……
都市伝説が喫茶店開くって想像もしづらいだろうし
ましてや容姿に都市伝説の特徴があるわけでもない
契約者の話を始めた時にここで話していいのか?
と気づければ早かったんだろうけど、あの様子じゃそんな余裕はなさそうだ

>美弥さんは半田刀也君や早渡のことをどう呼称しますでしょうか
呼称かー、男子学生だからひとまず苗字+君ってところかな?
それ以外は苗字+さんなんじゃないかな。真理ちゃんは真理ちゃんだけど
夫婦とか家族で人が来た場合は名前で呼びそうなもんだけど
瑞希に関してはあの通り学生相手なら名前+君(ちゃん)でいいと思います

次世代の人乙でーす!
偽警官も増えてるか……また「組織」のお仕事増えちゃう
頑張れ「組織」。頑張れまた仕事が増えるだろう大樹。書類仕事が増えるだろう天地も頑張れ


さて、何を優先して書くかな
戦技披露会で書きたいものは大体書いた(はず)だから、後は何か反応返すネタあったら書くくらい(のはず)だし
襲撃ネタか、いい加減「バビロンの大淫婦」ちょっとはだすか?

次世代ーズの人乙ですのン
偽警官…何があったのか教えて貰おうかうへへへ(同じ目に遭いました

>>264
恐れるな!誇りを捨てるな!
さあ迷わず行くんだ! GONG鳴らせ!(雄々しく舞い踊る次世代ーズの人
ジャムプロはおいときーの
被りは寧ろ俺は嬉しい、能力とか使い方が気になるし
そしていつから伝説化したんだw

>>268
「悪魔の囁き」レベルの都市伝説が要求されたに違いない
とか妄想するのも楽しいなぁ


あー雨だー
昨日月が暈被ってたしなー
仕事やだー

 
皆さん乙です


>>268-269
アクマの人、ありがとうございます
今週金曜までに二度目の訪問回まで行けるかな、と思います
そして美弥さんへの挨拶が終われば情報開示が完了しますの

>>270
>偽警官も増えてるか……また「組織」のお仕事増えちゃう
(遠い目)
「組織」のお仕事……まだ増えるかもです(目逸らし)

>>271
ぎ、銀河の海にダイブですか!?(モンキーダンス踊りながら)
高奈先輩には色々頑張ってほしいですが果たして……!
あと偽警官を倒した女子は自分は変態ではないと頑なに信じています
そして地の文おじさんは主に彼女に恥ずかしいことをさせます

行きます
 

 


次世代ーズ

 前回は>>265-266です
 これまでのお話はwikiの編集を待ってね!


 

 




 色々あったがもう金曜だ、早いな
 何だかここ最近は都市伝説絡みの出来事が多い
 この町に越してきた四月から動いてはいたものの進展は遅かった

 四月に人面犬のおっさんとその仲間に出会えたのは良かったが、その後はさっぱりだ
 空七の一件も大家さんの一件も「怪奇同盟」の盟主さんに挨拶する件も進展は殆ど無かった

 それが九月に入って一気に動き出しそうな気がする
 高奈先輩と友達になったことがそれを予感させて仕方がない
 不思議な話だ、もしかしたら四月からの行動が今につながっている?
 まさかな

 そして一気にといえば美人さんとの出会いも増えた、気がする
 具体的にはやっぱり高奈先輩との出会いだったり「ヒーローズカフェ」の店員さんだったりする
 商業の女子に心が砂漠になったときや合コンの数合わせで参加したときの顛末に比べたら凄い進展だ
 もしや本当に“ツキ”ってヤツが俺の方向に向き始めたのだろうか
 まさかな

 ただし、だ
 今になって一番不安なのはこの後のことだ
 良いことが起これば漏れなく悪いことも起こる、という格言がある
 実際、最初に高奈先輩と出会えた後日、俺はなんか変なの(組織の変なの)に絡まれてしまった
 いやあえらい目にあったぜ、あの夜は

 俺の予感が正しければ、そろそろ悪いことが起きるのではないか
 あのなんか変なのに追い回された一件は決して小さい出来事ではないぞ
 用心には用心を重ねた方がいいに決まっている、現に今もうっすらと赤マントにニオイがするからな

 そう、赤マントだ
 四月頃から学校町内で都市伝説を見ることはあった
 何せここは学校町だ、都市伝説を目撃する確率は決して低くない
 だが最近は幾らなんでも増え過ぎじゃないか、他の人が目撃しててもおかしくない

 気になるのは今の時点でニオイを感じるという一点だ
 俺の知る限り、徘徊性の都市伝説は日中と人っ気のある場所は避ける
 実際この学校町にしても、都市伝説を見る時間帯は圧倒的に夕方と夜が多い
 夕方はともかく、日の出ている内に目撃したことはほとんど無かった
 じゃあこの赤マント臭は何なんだろうね

 立ち止まる

 今、俺は東区にいる
 あのなんか変なのの一件以来、夜間の散歩はしていない
 してはいないんだが、東区の散策は下校のついでに続けていた
 そして今は夕方だ、つまりもう都市伝説が出没してもおかしくない時間帯だ

 まさか、近くに赤マントがいるのか?
 俺は感覚を開いてニオイをよく確認しようとした



「助けてくださぁーい!」

 

 


 悲鳴だ

 今のは確かに女の子の悲鳴だ
 距離は近いぞ、丁度この近くから聞こえたはずだ

 直前まで考えていた内容の所為でまさか赤マントが出たのかと疑問がよぎる
 いや、そんなことは現場を確認すれば一発で答えが出る
 俺の足は既に動いていた

 声の聞こえた場所へ走る



「助けてぇぇー!!」



 曲がり角に入ったとき、俺は悲鳴の主を見つけた
 恐らく転んだのだろう、道路に倒れて手で顔を覆っていた
 おさげロールというべきかドリルな髪が目を引く制服姿の女の子だ

 そして女の子の前にいるのは――赤マントじゃねえか!! 奴らは二体いるぞ
 気色悪いことに手をわきわきさせながら、徐々に女の子に対して距離を詰めていた

 迷う理由など全く無い、俺は速歩でこちらに近い方の赤マントに近づいた
 奴らがこちらに気づいた気配は無いが当たり前だ、俺は気合で気配を閉じている

 夕方とはいえまだお天道様は沈んでないんだ、悪いことができると思うなよこの野郎


「 跪け 」


 肩を手で叩くと同時、赤マントの体は膝から地に崩れる
 余所見している猶予など無い、崩れた赤マントの脇をすり抜けてもう一体へ間合いを詰める

 後ろから胸ぐらを掴むように手を回すと同時に腰の辺りを装束ごと引っ掴んだ
 慌てた様に赤マントは身を捩るが逃がす積りなど無い、引き寄せながら足を払い、そのまま後方へ投げ飛ばした

 赤マントの悲鳴を聞いたがそんなものは無視だ
 女の子に近寄り、肩に手を掛けて膝裏に手を滑り込ませた

「ひっ、ひィィィっ!?」
「ちょっ、ごめんね! 逃げるよ!!」

 女の子をお姫様だっこで抱き上げるとそのまま前方へ疾走
 抱き寄せて分かったがこの子は契約者じゃない、普通の一般人だった
 ニオイだ、契約者特有のニオイが無い、あと体重軽いな!?
 一瞬余計なことが頭をよぎったが、振り払う

 今は赤マントから逃げるぞ














 

 




 先程の場所よりも開けた十字路に出た
 後ろはどうだ、奴らの気配は――無い、ニオイも無い

 今回も上手く逃げられたんだろう、警戒するに越したことは無いがひとまず安心だ

「あのー……、君、大丈夫? 立てる?」
「……こ、怖かったですの」

 女の子は全身がふるふる震えて涙目になってる
 血の気が引いているのを見るに余程怖かったんだろう

「立てるかな、よっ」
「きゃひっ、あっ、ご、ごめんなさい! まだ、無理ですのー……」

 足からゆっくり下ろしたが膝が凄く震えている、確かに無理だ

「ちょっと待ってね、おぶるから。よっ」
「あう、ご、ごめんなさい!」

 素早く立ち位置を変えて女の子をおぶった
 まさか施設時代の救護実習で習った技術がここで活きるとはな

「あの、ありがとうございます。あの変な人達に追い掛けられて、怖くて、転んで」
「あ、あー……、そうだったの」

 彼女は凄い大声で助けを呼んでいたが、俺以外に人を見なかったな
 そもそも都市伝説が徘徊しているときって人の気配がかなり薄くなることが多い
 東区は閑静とはいえ一応は住宅街だから悲鳴を聞いて誰かが来てもおかしくないんだが

「あれだよ、ほら! 最近はなんか変質者が多いみたいだから、大通りを通った方がいいよ!」
「うぅぅー、気をつけますの……。でもアルバイトに遅れるからよく近道を通ってましたの……」
「……アルバイト?」
「はい、五時からですの……」

 五時かー、おぶってるから時計を確認できないけど勘が正しければもうすぐ五時じゃないかな?

「……バイト先まで送ろうか?」
「えっ? あっ、あのっ、すいません! よろしくお願いしますのっ!」

 OK、女の子の頼みは引き受けるのが、ほら、男としてなんかアレだ
 話を聞けば、バイト先というのが東区のかなり奥の方にある喫茶店らしい

「商業高校の方ですの?」
「うん、早渡脩寿って言います、よろしくね」
「私はコトリーと申しますの! 高校一年生ですの!」
「マジかっ!? てっきり中学生だと思ったけど!! てか俺とタメだよ!? 敬語使わなくてもいいよ!?」
「まあそうでしたの!? でも私は普段からこういう話し方ですわ!」

 女の子の制服は東区高校のでも東区中学のでも無いので別の区の中学かと思ったぜ
 話を聞けば辺湖市新町の高校に通ってるらしい、背丈からして中学生だと判断したが甘かったな

 コトリーちゃんは先程よりも大分落ち着いたらしい、素の彼女はかなり朗らかな女の子のようだ


「ちょっと急ぐね」
「あう、お願いしますの!」


 いくら変質者(赤マント)に襲われたとはいえバイトに遅刻はまずいよね
 コトリーちゃんを抱え直すと足を速め、東区の奥へと急いだ



□■□

 

次回投下24時間以内にいけるかな……?
お話の中の「「怪奇同盟」の盟主さんに挨拶する件」は次の次の次(13)で詳しく出ます
早渡は盟主さんがたいへんなことになっていることを全く知りません
何故彼が墓地で墓守さんと接触しなかったのかも暴露するぞ

次(11)と次の次(12)を24時間以内に……行けるかなあ……

ところで盟主さんの現状がめっちゃエロく感じるのは果たして自分だけでしょうか?

あと今回出た女の子は10月時点で出すと宣言していたドリルの子です
ttp://ux.getuploader.com/tosidennsetu/download/90/09.png
ユメウサギさんの着せ替えキャラメイクをお借りしました
着てる服はバイト先の制服でこの上からエプロンを着ます

コトリー「やりましたの! やっとですの! よろしくお願いしますの!」

 

いままでのあらすじ

 大変!学校町に「白面九尾の狐」(誘惑特化)がいるだけでも厄介なのに、「バビロンの大淫婦」までやってきちゃった!
 ただでさえ学校町は「赤マントの大量発生」に伴う子供の失踪事件が相次いでいたり、都市伝説や契約者を襲う謎の存在がわんさか湧いている最中なの
 このままじゃあ、学校町がかつてのように事件起きまくり物騒さ120%突破の安心して住めない町になっちゃう!
 死なないで、「組織」で仕事している人達の胃!
 貴方達が頑張ってくれれば、一般の人に都市伝説絡みの事件を隠蔽させ続けられるんだから!

次回「また黒服Dこと大門 大樹の胃が死にそうで怖い」

 デュエルスタンバイ!!







と、言う冗談はさておき、今までのお話はまとめwikiの「次世代の子供達」をご参照ください
ttp://www29.atwiki.jp/legends/pages/4996.html

 それは、己にとって最大レベルの屈辱だったのだ

 「バビロンの大淫婦」は、そのように考える
 己の誘惑に一切屈する事がなかった「教会」の異端審問官の男
 そのような相手であったとしてもたやすく堕としてきていた
 だと言うのに、あの異端審問官には「バビロンの大淫婦」としての誘惑が効かなかったのだ
 あの異端審問官の意志力が強かったのか、それとも、心に強く、強く想う相手がいたのか、はたまたその両方か
 とにかく、「バビロンの大淫婦」に誘惑される事がなかったあの男はよ、容赦なく燃え盛る鞭を振るい………それによって、彼女は顔に大きな傷を負った
 適当に操っていた人間共を捨て駒にし、片割れたる七つ首の獣すら捨てて必死にあの場から逃げて……

(……あぁ、なんて忌々しい)

 思い出しただけで、血が逆流したような感覚を覚える
 この手で八つ裂きにする事は………残念ながら、できない
 彼女は「バビロンの大淫婦」の堕落しきった女としての側面をもって生まれた存在だ
 戦闘力は騎乗にしていた七つ首の獣に完全に依存していた為、その獣が死んだ今、彼女に戦闘手段はない
 逃げ込んだ極東のこの国の、この町で、戦力となる者を誘惑し、手駒にしなければ
 ……それも、現状、難しいのだが

 「バビロンの大淫婦」が潜伏しているのは、小さなアパートだった
 こんな狭苦しい場所でこそこそと隠れ住まなければならない状況事態、彼女にとって屈辱的でしかない
 そして、彼女が隠れ住むその部屋に………鏡は、ない
 本来、鏡があるはずの洗面台にすら、鏡はなかった。ただ、割れた鏡の残骸が微かに残っている程度だ

(忌々しい、忌々しい……っ!この、傷さえなければ………!)

 顔の半分以上を覆う、大きな火傷痕
 こんなもののせいで、魅了の力をうまく行使できなくなってしまっていた
 これでは、まともに手駒を増やすことすらできない


 ……積んだ、と
 そう諦めてもおかしくない、その状況で。しかし「バビロンの大淫婦」は諦めない
 生きるために、この世の全てを堕落させる為に、堕落せぬ者は全て殺し尽くすために
 諦めることなく、次の手を考え続ける


(肉体を、変えなければ)

 こんな傷跡のある肉体ではなく、別の身体に
 若く、美しい女の体に乗り換える必要がある
 この町、学校町にたどり着いてから、「教会」に見つからぬようにしながら獲物を探し続けて

(……あの時、見た。あの少女に)

 …そう、あの少女
 複数人で楽しげに歩いていた少年少女逹の中で、己の肉体にするにふさわしい少女が一人、いた
 あの少女の肉体を奪えば、どんな相手でも籠絡する事ができるだろう
 どうやら、少女の周囲には契約者も多いようだ
 少女の肉体を奪ったならば、周囲の人間から籠絡していって………この学校町全てを、堕としてしまおう


 斧が顔を傷つけた者への忌々しさと、少女の肉体を奪ってからの計画立てを同時に行いながら
 「バビロンの大淫婦」は未だ、静かに、学校町に潜伏を続けていた

 まだ、少女は気づかない

「………っきし」
「おや、咲夜さん。風邪でもひかれましたか?」
「うーん?……大丈夫だと思うんだけど」

 自らが、恐ろしい相手に目をつけられた事実に

「最近、ぐっと冷え込んできてるからな。気をつけろよ」
「えぇ、気をつけるわ。インフルエンザにはまだ早いとは思うけど………ただの風邪でも、怖いしね」

 少しずつ

「風邪のひきはじめかもしれないっすから、今日は暖かくして早めに寝るっすよ?夜更かしはっめ、っすー」
「大丈夫。元々美容のために夜更かしはしないわ」
「さすが、徹底してるわよね、その辺」

 ……少しずつ

「そりゃ、美容は気をつけるわよ女ですもの……そうやって気をつけてる私の美に、一切気づかない連中もいるんだけd」
「憐も、風邪気をつけろよ?お前、昔から体調崩すと一気に悪くなりやすいし……」
「主にあんたの事よ、このナチュラルホモ筆頭ぅうう!!!」
「あだっ!?」
「はるっちーっ!?」

 己の運命が、転がり始めている事に
 …否

「……いつもの事だから、気にしなくていいと思う」
「憐の肩に手を回した時点で自業自得だから、放置しなさい、憐」

 とっくの昔に、己の運命は転げ落ち続けていた事に
 彼女はまだ、気づかない


to be … ?

安定のタイトル入れ忘れ
とりあえず、フラグを太くしておいた

皆さん投下お疲れ様です
やっとバビロンの大淫婦出てきたけどこれ次の登場シーンでコロコロされそう(真顔)

>>270
戦技披露会は……打ち上げやるみたいな話ありませんでしたっけ(うろ覚え)

>>277
外出身の契約者が怪奇同盟に言及する貴重なシーンじゃないかな?これ
地方団体だから知名度なんてお察し、のはずなんだけどな。不思議だ(本気で首傾げ)

>ところで盟主さんの現状がめっちゃエロく感じるのは果たして自分だけでしょうか?
(洗脳されて操られている強い味方女性と考えるとわからなくも)ないです

※ 注意 ※

これからお見せする話は“並行世界”という設定をより明確に表現するにあたり、

当スレの意向を1980°程反れた内容となっております

苦手な方、というよりは「いやいやそれはないんじゃないの?」という方は、

裂邪編さえ読めばそれとなーく分かるように作る予定ですので読み飛ばして下さって構いません

何卒、ご理解とご協力をお願い申し上げます

「…ん……ッ!!」

目が覚めた
と同時に、紫色の長髪の少年―――ナユタは飛び起きた
反射的に「ティルヴィング」を構えたが、警戒を解くと様々な情報が頭に流れてくる
倦怠感
目覚めたばかりだというのに、長旅でもしたかのような疲れ
違和感
学校町に蔓延っている都市伝説達の気配が、微塵も感じられない
そして、僅かな温もり
気が付けば、彼はベッドの上だった

「お、気ぃついたみたいやな」
「見りゃわかるだろ!ってか、大丈夫か? 酷く魘されてたが」
「腹減ってねぇか? カップ麺で良けりゃ作るぜー」

我に返り、ナユタは3人の男を認識する
関西弁で話す、黒い短髪で糸目の男
心配そうな表情を浮かべる、茶色がかったセミロングの男
部屋の奥に食事を取りに行った、黒いロングヘアで耳にピアスをつけた男
何れも十代後半くらいで、赤を基調とした同じ服装をしていることから、
彼等は何処かの学生であると推測できた
見たことがある服だな、とナユタは思うが、うまく思い出せない

「……すまない、少々取り乱した
 感謝するよ、どうやら僕は君達に助けられたようだね」
「お、日本語話せたのか、良かった
 厳密には他の奴がお前を見つけたんだ、海岸で気を失ってるところをな
 …あぁ、俺は相成 英雄(アイナリ・エイユウ)」
「ワイは三頭 京也(ミガシラ・キョウヤ)や、よろしゅう」
「カップ麺出来たぞー、あ、俺ぁ双首 運命(フタクビ・サダメ)な」
「食事まで、すまない…僕はナユタ。改めて礼を言う、ありがとう
 ところでここは何処かね、日本で間違いはないか?」
「(見た目の割に口が達者やなぁ)ズルズル
 せやで、ここは西アカデミア島、オシリスレッド寮の103号室や」
「……えーっとすまない、もう一度言ってくれたまえ」
「西アカデミア島の、オシリスレッド寮103号室や」ズルズル

ナユタは聞き覚えがあった
勿論、彼の知る日本の領土にそんな地名は存在しない
だが、確かに彼の記憶には存在した
裂邪に見せられた、アニメや漫画に登場したものだということを

(まさか……『遊戯王GX』の並行世界に飛ばされたのか?
 しかも、あの作品に登場したのは本校とノース校……ここは西だと言った
 本編ではないスピンオフ…二次創作……何とも言えないがそんな世界に…
 しかし仮にそうだったとして、こんな世界の話を本スレに上げる気なのか作者は?)
「ナユタ?」ズルズル
「え、あぁ、西アカデミア島か、そうだったのか
 ということは君達はこの……デュエルアカデミア・ウェスト校の生徒で、決闘者だ、と?」ズルズル
「ん? お前も決闘者だろ?」ズルズル
「えっ」
「あ、ナユタと一緒に流されてたんだ、デッキ
 確認したら無事だったよ。奇跡、って奴だな」ズルズル
「さすがに濡れてもうたら、大事なカードとさよならせなあかんでな」ズルズル

ふと、食事の手を止め、傍らに置かれていたデッキケースを取った
裂邪に譲って貰ったものであり、デッキのカードも全て、自分が組み上げたものに間違いなかった

(……こんなものを持って歩いてた覚えはないのだが…まぁ、好都合か)
「ふぅ、ごっそさん。んじゃ、ゼロ呼んでくるわ、目ぇ覚めたってな」
「ゼロ?」
「お前を助けた奴だ。本名じゃないが、この学校の連中は皆そう呼んでる」
「へぇ…(カイザーやサンダーのような決闘者…相当腕が立つということか)」
「あ、せやったら。ナユタ、待っとる間一戦やらへん?」
「む?」
「っちょ、ズリぃ!? 抜け駆けすんなよ京也!?」
「はよゼロ呼んで来いw いや、ナユタって見た目からして中等部くらいやろ?
 最近の中等部ってどんなもんなんやろか、と思うてな?」

「って俺等オシリスレッドだからな!? 下手したらお前がのされちまうぞ!?」
「ええから行ってこいっちゅうに、なんやったら決闘録画しとくさかい」
「ぃ、よーし、んじゃ行ってくらぁ…」
「おいちょっと待て、ナユタはさっき目が覚めたばかりだぞ?
 もう少し様子を見てから」
「いや、受けて立つよ
 腹ごなしにしても、起床後の準備運動にしても丁度良い
 何より、果たし状は素直に受け取る心情でね」

若干、だが
ナユタはこの並行世界の雰囲気に流されつつあった
カードゲームは普通、テーブルの上や床で出来るものだが、
彼は「ティルヴィング」を手に取ると、京也や英雄と共に外に出て、京也と広く距離を取った
その時に初めて気づかされたのだ

「……あれ? ナユタ、デュエルディスク持っとらへんの?」
「あ」
「そういえば…あの剣とデッキしか見当たらなかったな」

現実を見たのも束の間
「ティルヴィング」を持っていた右腕が紫色に燃え上がり、
なんとデュエルディスクを象り始めた

「「うおおおおおおおおかっけぇ!!」」
「いやいやこれは嘘だよ! こんな能力がある訳が!?」

ちゃんとデッキをセットできる始末
はふ、と溜息を吐くナユタ
彼は悟った。どうにでもなる事もある、と

「……準備をしたまえ京也君
 君が何をしようとも、僕は全てを拒絶する……!」

そしてノリノリである

「ええで! 太古の力、見せたるわ!」

京也のデュエルディスクも展開する
かたや文字盤に、かたや紫炎が浮かび上がり、“8000”と表示される
そして両者の掛け声と共に戦いの火蓋が切って落とされるのだ

「「決闘!!」」

京也 LP8000
ナユタ LP8000

「先攻は譲ってあげよう。念の為だが、先攻1ターン目はドローフェイズは行われない…良いね?」
「そんなん常識や、ワイのターン!
 ワイは『俊足のギラザウルス』を特殊召喚や!」

フィールドに現れたのは、細身で小型の肉食恐竜
涎を垂らしながら、踊るように軽やかなステップで辺りを警戒している

俊足のギラザウルス ATK1400

(おぉ……これがヴァーチャル・ソリッド・ビジョン……凄い迫力だね)
「『俊足のギラザウルス』が特殊召喚に成功した時、相手は墓地からモンスターを蘇生できるんやけど…
 ま、1ターン目やから何もおらへんわな
 さらにワイは『ギラザウルス』をリリース! 『暗黒ドリケラトプス』をアドバンス召喚!」

突如、細身の肉食獣は巨大な嘴の餌食となる
縄張りは、より巨大かつ強靭な主のものとなった
全身は黒というよりは暗く、相反して派手な羽毛がびっしりと全身を覆う
その草食獣は、地響きを立てながら、威嚇するようにカンカンと嘴を甲高く打ち鳴らした

暗黒ドリケラトプス ATK2400

「ほう…1ターン目からアドバンス召喚か」
「攻撃はどうせ出来へんし、どう来るか分からへんからな、様子見や
 カードを1枚セットして、ワイはターンエンド」

京也 LP8000 手札3

「では僕のターン……の前にここまで空気になってしまっている英雄君に台詞をあげよう」
「え、あ、えーと…ほ、ほっといてくれ」
「どうも。僕のターン、ドロー……ふむ
 速攻魔法『手札断札』を発動
 互いに手札を2枚墓地に送り、2枚ドローする」
「あらら、手札事故かいな?」
「いやぁついてなかったね」

京也 手札3→1(捨『大くしゃみのカバザウルス』『ジュラック・ヴェロー』)→3
ナユタ 手札5→3(捨『沼地の魔神王』『エクリプス・ワイバーン』)→5

「…ここで墓地に送られた『エクリプス・ワイバーン』の効果発動
 デッキから光属性または闇属性の、レベル7以上のドラゴン族モンスター1体を除外する
 僕は『裁きの龍』を除外しよう」
「『裁きの龍』やて?……【ライトロード】かいな?」
「さて、どうかな?
 僕は『召喚士アレイスター』を召喚するよ」

ナユタの場に現れたのは、白衣を纏った銀髪の青年
手に持った魔導書らしき書物と楔のような杖からは、何か異様なオーラが溢れ出している

召喚士アレイスター ATK1000

「攻撃力1000? あかんなぁ、ワイの『暗黒ドリケラトプス』は2400や!」
「『アレイスター』は戦闘より魔術に長けていてね
 場に出た瞬間に、デッキから『召喚魔術』を手札に加えられるんだ」
「そいで?」
「見せてあげるよ。魔法カード『召喚魔術』発動
 『召喚魔術』は通常、手札のモンスターしか融合素材に出来ないけど、
 『召喚獣』モンスターを融合召喚する場合はフィールド、墓地から除外することで素材に出来る」
「ゆ、融合召喚やて!?」
「フィールドの『アレイスター』、墓地の『エクリプス・ワイバーン』を融合
 上級召喚魔術、レベル9
 魔法名ディシリオン・ダークナイト
 彼の地より、あらゆる概念を掻き消す輝ける戦車を、ここに呼び出さん
 融合召喚――――純白の機械騎士、『召喚獣メルカバー』!!」

紫炎に叩き付けられるカードの縁取りは、紫
専用の『融合』魔法カードで行われる融合召喚は、名の通り複数の決められたモンスターを掛け合わせることで成立する
今、2体のモンスターが、1体の強力なモンスターとなって出現したのだ
それにしてもやはりこのナユタ、ノリノリである

召喚獣メルカバー ATK2500

「除外された『エクリプス・ワイバーン』の効果を発動しておくよ
 除外しておいた『裁きの龍』は僕の手札にやってくる」
「2500……成程な、それやったらワイの『暗黒ドリケラトプス』も」
「さらにもう1枚……『召喚魔術』を発動」
「「2枚目!?」」
「ギハハハ……良いことを教えてあげるよ
 『召喚魔術』は『召喚獣』モンスターを融合召喚する場合…相手の墓地のモンスターも素材に出来るんだ」
「ッ!? ワイの、モンスターを……!?」
「京也君の墓地に眠る『俊足のギラザウルス』、
 そして僕の墓地の『沼地の魔神王』を『アレイスター』の代わりに融合
 上級召喚魔術、レベル8
 魔法名ディシリオン・ダークナイト
 彼の地より、マグマの如き荒々しさ、大地の如き堅牢さを持つ巨人を、ここに呼び出さん
 融合召喚――――その腕で全てを原初に帰せ、『召喚獣メガラニカ』!!」

島がそのまま人になった――――――それはそんな姿をしていた
全身にマグマが煮えたぎり、地震のような揺れを轟かせながら、それは鈍重に歩く
ぎょろり、と不気味な一つ目で、我々を見下ろしながら

召喚獣メガラニカ ATK3000

「攻撃力……3000……!?」
「『青眼の白龍』と同じ攻撃力………!?」
「(この世界の3000基準はまだ『青眼』なのかね)
 さて、そろそろバトルフェイズと行こうか
 『メルカバー』で『暗黒ドリケラトプス』を攻撃」
「かかったなぁ! 罠カード『炸裂装甲』発動や!
 攻撃モンスターは木っ端微塵! 『メルカバー』はさよならや!」
「言っただろう? 僕は全てを拒絶する、と
 『メルカバー』の効果発動! 手札の罠カード『魔法名―「大いなる獣」』を捨て、
 同じ種類のカード効果、つまり罠カードの効果を無効にし……除外する」
「なっ……てことは、」
「攻撃は続行! “ディヴァイン・チャリオット”!!」

京也 LP8000→7900

「ぐっ……」
「そして『メガラニカ』の直接攻撃…“マザー・コンティネンタル”!!」

京也 LP7900→4900

「…な、なかなかやるやないか、見直したで中等部
 ワイも負けとれへんわ! 今逆転したるからよぉ見とれ!!」
「あー、申し訳ない
 もう君のターンは来ないよ」
「ハ?」
「知ってるだろう? 速攻魔法は自分ターンのバトルフェイズなら手札から発動できる
 速攻魔法『法の聖典』! 『召喚獣』をリリースし、属性の異なる『召喚獣』を融合召喚扱いで特殊召喚する
 僕は『メルカバー』をリリースし、融合の術式を構築
 中級召喚魔術、レベル7
 魔法名ディシリオン・ダークナイト
 彼の地より、穢れた魂を聖なる炎で焼き尽くす死の三人組を、ここに呼び出さん
 融合召喚――――煉獄よりの死神、『召喚獣プルガトリオ』!!」

召喚獣プルガトリオ ATK2300

「融合モンスターから……別の融合モンスターやと!?」
「バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターは当然問題なく攻撃ができる
 『プルガトリオ』の直接攻撃、“トリニティ・イラプション”!!」

京也 LP4900→2600

「~~~~~~っ!!………な、なんや、結局残っとるやないか
 はったりもええ加減に」
「見たまえ、僕の手札は残り2枚
 1枚は『エクリプス・ワイバーン』で加えた『裁きの龍』だ
 もう1枚が分かるかね?」
「……まさか…また速攻魔法ォ?」
「御名答。手札の『裁きの龍』を捨て、速攻魔法『超融合』発動
 フィールドの『メルカバー』と『メガラニカ』を、融合させる」
「融合モンスター2体を、さらに融合だと…!?」
「っちゅうか、『裁きの龍』が手札コストとか勿体ないやろ!!」
「“勿体ない”で決闘が通るとは思わないことだね
 バトルシティで海馬瀬戸が見せてくれたように、“神”のカードをリリースしなければならない時が来るかも知れない
 何かを捨てなければ、何かは得られない……僕がそうだったように」
「…何?」
「最上級召喚魔術、レベル10
 魔法名ディシリオン・ダークナイト
 六つのエレメントを宿した、禍々しくも神々しい“彼の地”を、今ここに呼び出さん
 融合召喚――――全てを受け入れ拒絶せよ、『召喚獣エリュシオン』!!」

脳のような、星のような何か
そこから伸びる骨のような身体のような何か
それらを覆う薄い膜と、それを支えるアーチ状の手のような翼のような何か
それは果たして生物なのだろうか
天使か、悪魔か―――神なのか
誰にもわからないが、それ故に、ナユタはそう呼んだのだろう――――“彼の地”と

召喚獣エリュシオン ATK3200

「…やはり僕は……敗北すらも拒絶する……
 『エリュシオン』で直接攻撃、『ビーイング・ノット・ユートピア』」

京也 LP2600→0

ソリッド・ビジョンが消え、決闘の決着を知らせる
疲れたようにどさっと地面に腰を下ろした京也に、ナユタと英雄が駆け寄った

「いやぁ……舐めとったわ、あかんなぁ
 めっちゃ強いやん、中等部やばいわ」
「…うん、お褒めに預かり光栄だ、と言っておこうかな」
「連続融合召喚……見てて物凄い迫力だったな……
 ところで、さっきの言葉はどういう意味d」
「ヒッハハハハハハハハハwwww
 超すげぇじゃん今の! 超決闘してぇ!!」
「「あ、ゼロ」、それとお帰り運命」
「ギリッギリ終わりかよ! もうちょっと粘れよ京也!!」

ナユタは硬直した
何処かで聞いた声、そして笑い方―――――ゆっくりと、振り向いた
運命が連れてきた、“ゼロ”と呼ばれる男
黒尽くめの服装、右目が隠れるような長い前髪、平均的な背丈
都市伝説もいない、何もかも知らない世界で、ただ一つだけ、同じだったこと
紛れもなく、目の前にいる彼は

「……マスター?」



   ...to be continued

という訳で皆様乙、これから話見てくるの

ナユタのやってきたのはなんと『遊戯王』の世界
そしてそこには裂邪そっくりな男が――――ッ!?
という感じですが、酷い裏話があるので避難所のどこかに書いてこようかしら

>>294
まぁ、俺は戦技披露回関連はどうしても書くべきやつは大体書いちゃった(はず)なので
後は他のキャラがこちらのキャラと何か会話とか情報引き出しやりたいなら答えるし、会って縁をつなぎたいなら会わせるし、打ち上げはじまったら何かしら反応させるかなくらい

俺の場合、今ちょっと事件起こす順番で悩んでるってのもある
襲撃を後に持ってくるか前に持ってくるかで、襲撃中の連中の様子若干変わるからな…

>>295
せっかくだから結ちゃんには交友関係を広げてもらいたいんだよなぁ
まずは治療室に戻って外海さんと(素)顔合わせかな?
あとこっちは、そう、サキュバスがまだ眠ってるね……ど、どうしよう……?

二択だったらダイスで決めればいいんじゃないですかね(適当)


よし一応書けたし投下します

「はぁっ……はぁっ……」
(マズいマズいマズいマズい……!)

私、相生真理は油断していたのかもしれない
最近遭遇していなかったから、組織やその他が狩っていることを知っているから
多少は対処する自信があったから、幼馴染が「守る」と言ってくれたから
だから……忘れていた。この街がどれほど危険な場所なのかということを

(数全然減らな、あっぶな?!近すぎる、爆発の威力は上げられないか……)

"逢魔時の影"のことを話には聞いていた
それでも出会わないと、出会っても対処できると思っていたのだが……
買い物帰りに突然地面から立ち上がるように周りを囲まれて、どうしろというのか
咄嗟に"小玉鼠"を爆破して包囲を抜けただけ及第点は貰えると思う

(確かこの先に袋小路が……っぶない?!)

私の小玉鼠の弱点は一度に一体しか召喚できないこと
どうしても爆破した後、もう一度爆破するまでに時間が空いてしまう
無限に四方八方から湧き出す影の波状攻撃は相性が悪いと言わざるを得ない
こうなったら壁を背にして日が落ちきるのを待つのが得策だろう

(確かここを曲がったところに、)
「……あ」

目の前には袋小路にぎゅっと詰まった影の群れ
後ろからは手を伸ばし私の背に追いすがる影の群れ
完全に囲まれたと知って、思わず足を止め声を漏らした私は……

このあと訪れる激痛に、歯を食いしばって耐えるしかなかった

日没の約三分前、雲のない快晴の茜空の下
学校町北区の路上で影に囲まれ男と女が対峙していた
片方は作務衣に雪駄を履き、煙草を咥えた中年の男
そしてもう片方は黒髪を靡かせ白装束に身を包んだ……半透明の女性

「ようやく会えたなあ、オイ。手間取らせやがって」
「あなたは契約者、ですね。消えなさい」
「うるせえ」

男の言葉に反応するように右手を伸ばし、紫電を飛ばす女性
しかし男の懐から飛び出した何かが紫電とぶつかりあって相殺する
それを見た女性は周囲に無数の火の玉が灯していく

「ったく、時間もねえし用件だけ伝えさせてもらうぞ――」

男が右腕を振るって紙のようなものをバラまくと
紙は路上に落ちず矢のように女性に放たれていき
またそれを迎撃するように火の玉が男性へ放たれる
紙と火の玉の弾幕がぶつかり合った末に残ったのは……
火の玉を相殺して佇む男と、紙に穿たれ腹と腕の欠けた女性の姿であった

「テメエは俺が殺してやる。ああ勘違いするなよ、女の方じゃない
 なあ、全部見えてるし聞こえてんだろ?知らないとでも思ってたか?
 もう一度言う。テメエは俺が殺してやる。それで全部終わらせるから覚悟しとけや」

男は煙を吐き出しながら、そう言った

東区の中学校のテニスコートで、潮谷豊香は部活仲間に声をかける

「ねえ今、揺れなかった?」
「豊香の胸が?」
「地震の話だからっ?!」
「胸には自信がありますって?もってる女は言うことが違うよねー。いっぺん死ぬ?」
「生きるっ!!」
「あ、やっぱり揺れてたよね。震度2くらいかな……あれ?雨?」
「なに言ってんの。今日は一日快晴……つめたっ!ウソ?!」

ぽつり、ぽつりと降り出した雨に彼女達は慌てて片付けを始める
それが終わった頃には、揺れのことなどすっかり忘れてしまっていた



薄闇の中消えていく女性を見届けた男は
咥えていた煙草の火を消すと踵を返し

「ああそうだ。お前もどこの奴だか知らねえが、お仲間に伝えとけ
 『こっちの邪魔はするな。邪魔するようならただじゃ済まねえぞ』ってな」

こちらを睨みつけてそう告げると、歩き去っていった

……男が視界から完全に消えたのを確認してから移動を始める
この件をどう伝えるべきか、考えながら――――

……重い体を動かして、玄関の扉を開く

「もー、真理ちゃん。用事があるとは聞いてたけど
 こんなに遅いなんて聞いてない……真理ちゃん?!血が出てるよっ!!?」

慌ててかけよってきた結に買い物袋を突き出して持たせ、靴を脱ぐ

「大丈夫よ……見ての通り、ただの鼻血だから……」
「どう考えても大丈夫な様子には見えないんだけど。え、まさか何かに襲われた……?」
「ほんと大丈夫だから、心配しないで……あーでも、ちょっとお願い」
「な、なに?」
「今日の食事当番代わって……ちょっと寝てたい、から……」
「合点だよ真理ちゃん!そ、それで本当に何があったの?私何を塵にすればいいの?」
「…………いいから、寝かせて」

あたふたしながら周りをうろうろする結に「大丈夫」を連呼して
自室に戻った私は、着替えもせずベッドに倒れ込んだ

(……心配かけちゃった、な)

自分の軽率な行動と、結に泣きそうな顔をさせたことを後悔しながら
私の意識は暗転していった――――


余談だが、この翌日からしばらく結は私にべったりくっついて
まったく離れようとしなくなった。それこそトイレの時ですら……
軽率な行動は己を苦しめると、身を持って実感させられる一件だった

                                 【了】

逢魔時の怪、イベント進行です
どうやら盟主の暴走について何か知っていそうな男がいる、ということが
名も無い一人の組織の契約者または首塚のメンバーあたりから伝わった、かもしれない
あと意味深な地揺れと降雨が起こりましたが、こちらからも何か感じた人がいる、かもしれない
かもしれないばかりですが、次があったらたぶんもっと大きく動きます

あ、視点がグルグルしてますがこういう感じです
相生真理→名も無い契約者→三人称視点→名も無い契約者→相生真理

アクマの人乙でーす
イベント進行したな……俺も進めなければ
意味深な地揺れと降雨に、勘がいい組が気づくかもしれないし気づいても動くかどうかは別なのだ

>二択だったらダイスで決めればいいんじゃないですかね(適当)
うーむむ……どうすっかなぁ
具体的に言うと、死亡フラグ組が死ぬのが先か襲撃が先かって感じだからなぁ
描写が一部ガラっと変わってしまう

>>302
地揺れは地脈への干渉(エネルギーの引き出し)に付随して起こりました
降雨は雲が明らかに不自然な動きしてるので雨乞いや水操作能力の関与が疑われるでしょうね

>>302
なるほど。ならば襲撃を先にして死亡フラグ組の生存を少しだけ引き伸ばしましょう
……伸ばしてるうちになにか死亡フラグに介入あるかもしれないし(自分でやるとは言っていない)

>>303
んなこったろうと思ったぜ!

>なるほど。ならば襲撃を先にして死亡フラグ組の生存を少しだけ引き伸ばしましょう
こう言われたが、考えた結果「死亡フラグ片付けてからの方が、襲撃の時切羽詰まった感じでていいな!」って結論になりつつありましてね
つまり、だ


死亡フラグ組と関わりたい人、関わりたいなら今のうちにな!
遅くなっても今月中には死亡フラグ組の死亡確定者は死亡し、介入次第でどうなるかわからん組の生死と生き残った人が物語からフェードアウトするかどうか決まるんで!!

なぜか知らんが安価が被ってしまっているな。寝よう(迫真)

あ、中年の男は避難所で雑談を見ていた皆さんならお察しの通り
北区の神社の神主です。まあ名も無き契約者はたぶん顔知らなかったんでしょうね
名前は贄守幸彦、40代後半です。次に出てくるのはいつかな(目逸らし)

>>304
確かカブトムシの慶次君にフラグ立ってたのは覚えてる
…………どうやって介入したものかなー(腕組み)

>>305
>…………どうやって介入したものかなー(腕組み)
ぶっちゃけ、助けるだけなら「通りすがりの仮面ライダーだ!」して怪我してる人を治療するだけでも大丈夫っちゃ大丈夫です
少なくとも死亡するかどうか微妙なうちの一人は結構な重傷な予定だけど

>>306
>ぶっちゃけ、助けるだけなら「通りすがりの仮面ライダーだ!」して怪我してる人を治療するだけでも大丈夫っちゃ大丈夫です
なるほどうちは治療(意味深)シーンに備えて潮谷豊香を待機させればいいのか(納得)

 
シャドーマンの人乙です!
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約し(て、決闘の火蓋を切って落とし)た能力者達」、ありだと思います
ルールの方は、昔なんかを生け贄にしてデーモンの召喚を召喚した頃からどうなってるのか分からないんですが
しかし「ゼロ」なら分かるぞ、その昔シャドーマンの人が避難所で語ってたかつての主人公だったかの記憶があります

アクマの人も乙です!
真理ちゃんは逢魔時の影の方に襲われたのか、何をされたのか心配です
神主さんの能力発動をみて、まさか「陰陽道」の能力者かと慌てて避難所を確認したらばっちり書いてあった……
あと神主さんめっちゃワイルドな御方やん……

>>286
>外出身の契約者が怪奇同盟に言及する貴重なシーンじゃないかな?これ
言われてみればそうですね
あれです。むかし学校町を訪問したときに養い親が世話になって……
説明するより書いて出した方が速いかもしれないので頑張ります!

流れが速いな、食らいついていかないと
行きます
 

 



「メゾン……ド、ラルム?」
「はい! 『ラルム』ですの!」



 学校町東区、のさらに奥
 コトリーちゃんは東区の奥がバイト先だと話していた
 だが厳密に見るとここは既に学校町ではなくて東区に隣接する町だ
 引っ越してきたばかりの頃に地図と睨めっこして学校町の範囲を追ったのでよく覚えている

 俺は今、コトリーちゃんのバイト先にいた
 俺の隣にいるドリル髪な女の子が赤マントに襲われていたコトリーちゃんだ
 彼女をおぶって逃げ出した後バイトへ行く途中だったと言うのでここまで送ったんだ
 襲われたショックで腰が抜けていたようだがもう大丈夫そうなのでお店の前で彼女を下ろした

 バイト先だという喫茶店を眺める
 店の前の看板には「メゾン・ド・ラルム」とあった
 白いレンガの外壁だ、鉢植えの緑色がよく映えている
 こういう例えが正しいかは分からないが可愛い雰囲気のお店だ

 よし、帰ろう!

「じゃあ、コトリーちゃんバイト頑張ってね」
「あっ待って下さいっ!」

 腕を掴まれた

「あのっ! 助けてもらったお礼がしたいですの! ご馳走させて下さいっ!」
「いいよそんな! 悪いって!」
「わ、私の問題ですわ!」

 コトリーちゃんは俺の腕を両手で握っている
 しっかり掴んで離す気は無いようだ、意外と力強いな!?

「助けてもらったのに何もお礼しないだなんて、私が納得できませんの!」

 ((> x < ;)))みたいな顔して俺をお店の中へくいくい引っ張り込もうとする
 わ、分かったから! ちょ、分かったから! ああもうなんてこった!

「わ、分かったよ! 入る! 入るから!」

 彼女は既に扉へ手を掛けていた
 ドアベルが大きく響く、何故だか緊張してきたぞ

 意外と広めの喫茶店だった
 シックな内観だがやっぱりその雰囲気は可愛い感じだ

 今の時間帯は然程混んでいるわけではないらしい
 喫茶店の中では年配の女性客が数名談笑をしている

 お店の外装から薄々予想はしてた
 正直言って10代の野郎が入っていいようなお店では、ない


 

 


 今の気分を率直に話すと
 可愛いウサギさん達の村に突如薄汚い野良犬がやって来た! って感じだろうか

「いらっしゃいませー」

 奥から出てきた店員さんと目が合う
 コトリーちゃんと同じ年くらいの子だ、思わず会釈してしまった
 ん? 何だろう、店員さんが口に手を当ててめっちゃ目を見開いてこっち見てる

 俺か? 俺なのか?
 まだ何も悪いことはしてないはずだけど何だ!?
 何かやってしまったのか俺!? まさかドレスコード違反か!?

「あらまあコトリーヌちゃん! 彼氏さん連れて来たのぉ?」

 いきなり横から声が掛かり心臓が飛び出しそうになった
 そちらを見れば先程の年配女性客の一人だろうか、ニコニコ顔で近づいてきている

「違いますのっ!! 私、さっき変質者に追い掛けられましたの!! この方が助けてくれましたの!!」
「あらまっ!! 変質者ですってぇ!? 怖いわねぇ! 気を付けなきゃダメよぉ!!」
「あうっ! わ、分かってますのっ!」

 おばちゃん特有のテンションを前に若干圧倒される
 それと今の会話だと何だか俺こそがその変質者ではないのかという錯覚にだな

「今の時間は空いてますの! テーブル席で待ってて下さい! こっちですの!」

 おばちゃんを振り切るようにしてコトリーちゃんに引っ張られ奥の席に案内された
 ありがたいことに先程のおばちゃんグループからは離れたテーブル席だ

「ちょっとてんちょーに話をつけてきますの! そのままお待ちくださいませね!」

 パタパタと奥の方へ行くコトリーちゃんを目で追う
 入れ違いに先程会釈した店員さんがこっちへやって来た

「いらっしゃいませ。あの、『ラルム』へようこそ」

 お水とメニューを持ってきたことに軽く会釈で応じる
 テーブルにお水を置いてくれた手は白く――ふるふる震えてるぞ?
 思わず店員さんの顔を見ると、めっちゃ赤い顔をして俺の目を見ていた

「あの……脩寿くん、だよね……?」
「!?」



 待て



 学校町に来てから女性に名前呼びされたことは一度もない、これは確実
 そしてこの店員さんは俺の名前を知っている。つまり俺のことを知っているわけで

 過去に会ったことがあるってことだよな。ならば、この子は一体、誰だ?

 

 


 高校に入って真っ先に叩き込まれたのは次のことだった
 世の女性の容姿には二種類あってそれは「美人」と「カワイイ」である、と
 これに関しては酷い目にあったので、この命題は世の中の真実として俺の中に君臨している

 そして目の前の店員さんは10人中10人の早渡が「カワイイ」と即断するタイプの女の子だ
 この天使のような顔立ちならば、いくらボンクラな俺の頭にも記憶として焼き付いているはずだ

 俺の脳みそがフル回転を始める
 商業の子では無い、確実だ。こんな可愛い子は商業にはいない
 商店街で会ったことがある? いや無い、会ったのは年上の方々ばかりだ
 勿論、俺がこのお店に来たのは初めだから過去にここで出会ったということは無い

 ならば学校町に来る前に出会った?
 七つ星団地で厄介になっていたときに? 無い、誓っていい

「あの、覚えてないかな? ナナオの施設で、一緒だったんだけど……。覚えてないよね……」


 最後の可能性に行き当たる前に、彼女が答えをくれた


「嘘っ……!? ナナオの、施設の!?」
「っ……うん! 脩寿くんはANクラスだったよね、私は普通クラスだったから」


 まさかだ
 まさか、この町でナナオ時代の子と出会えるなんて、思ってなかった


「あのっ、あのね……。私、脩寿くんに助けられたことがあって。それで覚えてて」
「えっ、えっ?」
「あの、初等部のときに施設にいっぱい犬が入ってきて、そのとき、脩寿くんに助けてもらったんだけど」
「ああ……あああ!!!」


 思い出した。いや、言われるまで思い出せなかった
 チャイルドスクール時代の話だ、大量の野犬が施設内に入り込んできた事件があった
 忘れもしない。俺が初めて人前で都市伝説――ANを発現させたときだ。忘れられるわけがない

 そしてあのとき
 俺は一人の女の子を助けた記憶がある
 遠い過去の話だ、でも今でもはっきりと、思い出せる

「あの、白い子犬を助けようとして飛び出してった、あの、女の子……?」
「……っ!! 覚えて、たんだ。……うんっ、そうです。あのとき助けてもらった、はいっ!」
「言われて思い出したよ、うん! でもまさか、本当にあの時の?」


 なんということだ
 まさかあの子とこんな形で再会するとは


「脩寿くん、本当に覚えてたんだ」
「いやあ、言われて思い出して言うのもアレだけど。忘れられないや」


 そうだ、忘れられるはずがない
 あの事件は表向き、施設内に野犬が入り込んだということになっている
 だが本当は違う。あれは何者かが作為的に引き起こした人狼の襲撃だった

 当時、俺がその事実を知ったのはもう少し後になってからだ


「あの、……ええと。ごめん、名前を聞いても、いいかな」
「えっ、あっ……はい。  千十です。遠倉千十って言います」
「千十ちゃん」


 駄目だ、初めて聞く名前だ
 だけど、知らなかったとは言いたくなかった


「俺の名前は、あの、もう知ってると思うけど」
「うんっ! 早渡、脩寿くん。ずっと覚えてたよ!」

 何だか恥ずかしさと申し訳なさが込み上げてきた
 しかもこの状況、というか感情は、物凄いデジャブだ
 それもそうだ、高奈先輩のときのそれと非常によく似ている


 

 


「脩寿くんは、ナナオ出た後にすぐ学校町に来たの?」
「え? ああ、いや違うんだ。実は俺、今年の四月にこっちに越してきたばかりで」
「そうだったんだ」
「千十ちゃんは、ナナオの後にこっち来たの?」
「うん、お姉ちゃんと一緒にすぐここに来て、中学校からずっとこっちで」


 そうか、ナナオが潰れた後にすぐ学校町へ引っ越してきたのか


「あのっ、脩寿くん。もし良かったら、あの、……お友達になって下さいっ!」
「えっ嘘、あの、えっ、いいの? 本当に? 嬉しいよ!」


 千十ちゃんからの突然の申し出に、嬉しさのあまり挙動不審さに加速が掛かりそうだ

 てか最近凄いな、俺
 高奈先輩に続いて可愛い女の子と友達になれるとは
 四月からの不毛具合と比較したら何だこれは雲泥の差だぞ

 まさか“ツキ”ってヤツが非常に猛烈な勢いで俺に接近しているのではないだろうか


「俺もほら、引っ越してきて心細かったんだ
 まさかナナオ時代の子と再会できるなんて思ってなかったし」

 友達が増えるってのと、特に女の子の友達が増えるってのは大きい
 友達自体はいるにはいるが商業のダチ公は野郎ばっかりだし
 そもそも、それはそれ、これはこれで話が別だ!!

「ええと、あれだ。連絡先を教えた方がいいよね?」
「あっ……、ごめんなさい。今アルバイト中だから、携帯をロッカーに置いてあって」
「えっあっそうか、ごめん! じゃああの、俺の連絡先を書いて渡すね」
「いいの!? ごめんなさい! あのっ、ありがとう!」

 ペンは、持ってる
 男の流儀ってわけじゃないがボールペンは常に携帯してる
 だが紙が、ない

 辺りを見回すがそれらしい物はない
 いや、ある。テーブルの上の紙ナプキンだ
 一枚抜いてボールペンを手に取り、電話番号とメルアドを書くことにした

 何だか気恥ずかしくなってきたぞ
 紙が無いとはいえ紙ナプキンに書くことになるとはな
 俺も高奈先輩に倣ってこれからはブレザーにお洒落な便箋を忍ばせておこう


「千十~、てんちょーが呼んでますの~!」


 ビビってペンを取り落としそうになった
 コトリーちゃんがこっちへ近づいてきている

「えっ、あっ、ごめんタマちゃん! 今行きますっ!」

 んなっ!? アドレスを渡しそびれてしまった
 ていうかまだ書いてる途中だ、間に合わなかったか

「これは私からのお礼ですわ! 無料ですわ! ごゆっくりどうぞ、ですわ!」

 コトリーちゃんはお店の制服に着替えていた
 カップに入った紅茶とケーキの乗った皿をテーブルに置こうとする
 急いでアドレス書きかけの紙ナプキンを脇の方へどけた

 

 

「メニューはお下げしますの」
「ああ!? ちょっ、コトリーちゃん待って!」

 考えるより先にコトリーちゃんを止める
 駄目だ、これを食べてハイ終わりは駄目だ!
 それにほらあれだ、俺はお金を払っていないし!

「あの、コトリーちゃん。俺、ここで晩ご飯を食べていくことにするよ」
「あら、そうですの? ……まさか、早渡さん。気を遣ってますの?」
「いや違うよ、ほらあの! お腹もグーペコだしさ!」

 実にジャストタイミングで腹の虫が鳴った
 運が良いとしか思えない、グッジョブだ腹の虫!

「初めて来たお店だし、折角だから奮発して美味しいの食べて帰りたいんだ!」
「むー……、何だか気を遣われてる気がしますけど、……じゃあ分かりましたの!」

 コトリーちゃんはむうと唸っていたが、やがてメニューを見せてくれた
 よし、これでもう少し喫茶店に長居できるな!

「なんかコトリーちゃんのオススメってある?」
「『ラルム』はフレンチとイタリアンって建前ですの、あくまで建前ですの。例えばこの――」


「やあ、君! どうも初めまして!」


 出し抜けに真横から声を掛けられてビックリした
 ついでにコトリーちゃんも「いぴッ!?」と変な声を上げて驚いていた

 いきなり声を掛けてきた人を見る
 若い男性だ、格好からして喫茶店のスタッフさんだ
 業務用の帽子を被ったその人は俺を見ながらニコニコしている


「うちのコトリーちゃんを助けてくれたんだってね!
 本当にどうもありがとう! これも何かの縁だと思ってね!
 どうかな!? もし良ければ君も一緒に『ラルム』で働かないかい!?」

「ちょっ、てんちょー!? やめて下さい!! お客様ですのよ!?」
「あ、あー、すいません。俺、他にバイトしてて」

「掛け持ちでもいいから! 本当にお願いだよ! ウチは女の子しかいないんだ!
 男独りでやってるとさ、時折無性に泣きたくなることがあるんだよね! 頼むよ!!」


 その男性はニコニコしながらそんなことを言う
 途中から俺の手を取ってお願いしてきたが、その目は泣きそうになっていた
 繰り返すが、顔は笑っていて、目が泣きそうになっている


「てんちょー! お客様困ってらっしゃいますの! それにキッチンはどうしましたの!?」
「大丈夫!! 千十ちゃんが一人でやってるから!!」
「何やってますの!? 早く! キッチンに! 戻って下さいませ!!」
「そっちの男の子がウチでバイトしてくれるって言うならすぐにでも戻るよ!!」

「すいません、時間が……無いっす」

「ほらぁ!! お客様困らせるのやめて! 早くキッチンに戻って! ですの!!」


 店長さんはコトリーちゃんに背中を押されて半ば無理矢理奥へと押しやられていった
 かなり落ち込んでる様子が店長さんの背中から伝わってくる
 そんなに男手が欲しかったのか、店長さん……


 

 

 コトリーちゃんが肩で息しながら戻ってきた

「早渡さん、ごめんなさい。普段は悪いてんちょーじゃありませんの」

 凄くバツの悪そうな顔をしている
 こっちが申し訳ない気分になってきた
 もういっそのこと、この喫茶店で働いてみるか?

「でもこれ以上スタッフ増やしたら、てんちょー怒られてしまいますの」

 話を聞くと、喫茶店の数字はその道ウン十年のパートさんが管理しているそうだ
 店長さんでは務まらないらしく、パートさんには完全に頭が上がらないらしい

「ところで早渡さん。千十とはお友達でしたの?」
「えっ、ああ。どうも幼馴染だったみたいで。俺もさっき知ってさ、ビックリだよ」
「そうでしたの!?」

 ただ何というか、幼馴染という言葉が適当かどうかは分からない
 俺は千十ちゃんを知ってたが、顔と名前は覚えていなかった

「運命というものですわね……。羨ましいですわ、羨ましいですわ」

 コトリーちゃんは妙な関心の仕方をしている

「ちょっと! ちょっと待ってて、ですの!」

 コトリーちゃんは少し慌てた様子で奥の方へ行ってしまった


 ふとテーブルに広げられたメニューに目を落とした
 確かにイタリアンだ、あとフレンチだったか。でも建前がどうとか言ってたな

 その前に、だ。書きかけのアドレスを書き上げなきゃ
 脇に除けた紙ナプキンを手に、連絡先の残りを書き込む

「あのっ、……脩寿くん」
「!」

 顔を上げると千十ちゃんが戻ってきた
 思わず席を立った

「千十ちゃん、これ。お願いします!」

 書き上げたばかりの連絡先を両手で差し出し、お辞儀する

「あっ、こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 千十ちゃんも、それを両手で受け取ってくれた

 顔を上げると奥からコトリーちゃんがこっちを窺っていた
 「よしっ!」とガッツポーズを取っている

「初いわねぇ♥」

 そこへおばちゃんの声が掛かる
 先程の年配女性とその同席のおばちゃんズがめっちゃニヤニヤしながらこっちを見ていた

 まさか一部始終を全部見られてたのかよ、んっとーに恥ずかしいな!!

 千十ちゃんの方を見ると彼女の顔は耳まで真っ赤になっていた
 俺も同じ気分だ、今なら顔から火が出せそうな勢いだ










□□■

 
ようやくラブコメパートか?
ありがとうとごめんなさいと恥ずかしいが頻出ワードですが
このワードが減れば減るほど距離が近づいていく、はずですよね多分

あと現世代と次世代の間にどういった技術革新があったのか分かりませんが
彼らが持ってる携帯はスマホでいいのだろうか

24時間以内に投下という話でしたが、実際は42時間後になってしまい……よんじゅうにじかん……?!


 

 




 夢を、見ていた

 もう遠い昔の話だ

 親のいない俺は施設で育った

 そこでANと契約を結んで訓練を受けた

 次世代を担う人材になっていく為の訓練だった

 だけど、俺達は然程そういったことを意識していなかった



   『みんな、昨日のおさらいだ。三つの合言葉、覚えてるね?』



 誰もがあの人に憧れていた

 俺にとってもあの人は憧れだった

 誰もがあの人になろうと頑張っていた



   『器の大きさはー?』


     『『『じゅーにんといろー!』』』



 懐かしい

 もう戻ってくることのない日々

 これはあの頃の記憶の欠片に過ぎない



   『力の強さはー?』


     『『『おもいのつよさー!』』』



 俺はあの人には、なれなかった

 それを知ったとき俺は初めて早渡脩寿になろうとした

 そして――今の俺はどうだ。なれたのだろうか、早渡脩寿に



   『技の形はー?』


     『『『そーぞーりょくー!』』』



 もう、分からない

 今となっては、何も

 俺が何者なのかどうかすら




 俺は、今、夢を見ている

 全てが、夢なら、良かったのに



 

 



「――、――」


 目が覚めた
 時計を確認すると深夜二時半
 いつもの起床時間だ、バイトの準備をしないと

 酷く懐かしい夢だった
 上体を起こして軽く頭を振った
 もう少し続きを見てたかった気もするが、起きなきゃな

 携帯を弄ってメールを確認する


『今日はありがとうございました!
 これからも、どうぞよろしくお願いします!』


 顔が緩みそうになる
 喫茶店で晩ご飯を食べた後、おばちゃんズに絡まれてしまい
 途中店長さんの度々の乱入もあって、結局閉店間際まで喫茶店で過ごしてしまった

 帰宅して後に届いたのが、この千十ちゃんからのメールだ
 商業のダチ公の話ではツイッターやらラインやら色々あるらしいが詳しくは知らない
 千十ちゃんの電話番号とメルアドだけで俺にとっては十分だった

 ここで一つ罪を白状しなければならない
 千十ちゃんを南区のホテルに連れ込んでお互いに欲望を吐き出すという刹那の妄想は
 今となっては数枚のティッシュと共に、秋の夜が作り出す影と闇のあわいへと消えていった

 今となっては後悔している
 一応本気で言ってるんだ、これは
 こんな気分になったのは初めてだったと言い訳する積りは無い
 ああそうとも、俺は最低のクソ野郎だ。言い訳などできるはずが無い

 罪悪感が酷い
 全部俺の劣情が悪い



 強く頭を振って欲望の残滓を追い出す

 もう一度、千十ちゃんからのメールを眺めた

 施設時代の子に再会できるとは思わなかった
 小さい子犬を助ける為に、野犬の群れが疾駆する校庭に進んでいった、あの子と

 目を閉じた
 こうして出会えたことを大切にしたい

「千十ちゃん、か」

 いい友達でいたい
 理由もなくそう思えた










□□■

続けて乙ですのー!
おぉう、幼い時の記憶ぅ……

> 今となっては数枚のティッシュと共に、秋の夜が作り出す影と闇のあわいへと消えていった
(そっと温かい眼差しで見守る)


>彼らが持ってる携帯はスマホでいいのだろうか
少なくとも、こちらの次世代子供キャラ逹が持ってるのはスマホですね
親世代から20年くらい後の世代なんで、ぶっちゃけスマホよりもうちょっと高性能なもん出てる気がしますが書き手の想像力が追いつかないというかぷち近未来SFみたいなもんしか浮かばなくて自重した

>24時間以内に投下という話でしたが、実際は42時間後になってしまい……よんじゅうにじかん……?!
十分速いと思うよ!思うよ!!


あ、そうそう
脩寿君……学校町最大の中学校で三年前に起きた事件、詳しく知りたい?
知りたい場合、また中学校の辺り、行ったりします?

 
早渡サイテー、な回です
今後こんなお下品な話が時々来ます
おもらしも多分来ますし、エッチなのも……あるかなあ?
次世代ーズはこんなお話ですので、学校や職場で読む時はどうか後ろの人にお気を付けください

>>319
早渡「マジっすか!? いいんですか!?」
ただ早渡としては三年前の事件よりも「狐」の動向の方が気になってると思います
彼は本当に「狐」が学校町にいるのか確信が持てていません
自分以外の誰かから「多分まだ潜伏してるよ」と言われたら安心するはず
いや待て、三年前の事件も真相を辿れば「狐」に行き着くので……つまりだ
早渡「いやもう『狐』の情報が無いんで誰か助けて下さい」
早渡が中学校近辺に行くとしたら放課後~夕闇の時間帯だと思います
夜間はほら、組織の怖いヤツ(>>207-211参照)に追われて以降徘徊を控えてますので

実は中央高校組と高奈先輩が知り合いだった、という体で行く方向も考えましたが
さすがにそれは花子さんの人の都合に関わるので

ところでこれ大体九月くらいの話になるのか
すると花子さんの人の>>280-281の話は、10~11月くらいだろうか
……急がないとだな

>(そっと温かい眼差しで見守る)
ありがとうございます……ありがとうございます……orz

次回は裏設定のアレを本編で暴露しつつ
北区神社へお詣りの後に「ヒーローズカフェ」2度目の訪問(挨拶)です
具体的には次の点に答えます
・なんで早渡は学校町に来たの?
・早渡が言ってた盟主さんへの挨拶ってなに?

長くなりそうなので途中で断定的に分割する
アクマの人、お世話になります……orz

 



>>319
三年前の事件か……
改めて状況を考えると、世間話として振られたら
早渡「あー、なんか胸糞悪い事件があったっぽいですね」
と乗ってくると思います

お夕食は麻婆だー、と夕食作り始める前にレス

>>320
>早渡が中学校近辺に行くとしたら放課後~夕闇の時間帯だと思います
よし、それなら将門様とセットで遭遇じゃないルートでいけるな(何やろうとしてた)
「狐」が学校町にいる事に関してはきちんと情報渡そう

遭遇時期、9月で大丈夫……かな?

>実は中央高校組と高奈先輩が知り合いだった、という体で行く方向も考えましたが
問題ないのですぜ?

>すると花子さんの人の>>280-281の話は、10~11月くらいだろうか
あ、これ11月です
戦技披露会もハロウィンも終わった後
……11月前半から半ばくらいじゃないですかね



>>322
ありがとうございます
9月で大丈夫です
あと大事なことを忘れてましたので
前のように裏にアレしておきました、アレです
どうもすいません

>あ、これ11月です
い、急ごう……

所用に出向き、そして書く
wikiもだな

ごちそうさまでした

>前のように裏にアレしておきました、アレです
確認しておきました
なるほど了解。大丈夫なんとかなるなる

>い、急ごう……
俺の書くスピード遅いから大丈夫大丈夫

皆様乙ですの
によによしたりハラハラしたり忙しいスレだな!(褒め言葉

>>308
>ルールの方は、昔なんかを生け贄にしてデーモンの召喚を召喚した頃からどうなってるのか分からないんですが
その時代で止まってると…今のルール説明したらパンクするなぁ(割とマジで
あれから融合、儀式以外に3つの召喚法が登場してですね

○『チューナー』というモンスターを使って2体以上が1体の強力モンスターになる『シンクロ召喚』!
●同じレベルのモンスターを“重ねる”! レベルじゃないよ“ランク”だよ! 回数制限付き強力効果目白押し『エクシーズ召喚』!
☆魔法カードになるモンスター!? 2つの『スケール』で5体同時召喚を狙え! 可能性の架け橋『ペンデュラム召喚』!

アニメの新シリーズが始まる度に追加されて……今年の春にまた始まるらしいがどうなるんだ

>しかし「ゼロ」なら分かるぞ、その昔シャドーマンの人が避難所で語ってたかつての主人公だったかの記憶があります
ちょっとまって心当たりがない
俺以上の記憶力の持ち主だと……!?

次世代ーズ投下お疲れ様です

神主登場は10月~11月前半かな?こっちの黒幕いつ出るんだろうか(震え声)

>>308
おっさんで風格出そうとしたらああなりました。酒と煙草は神主の命(迫真)
能力についてはその通り「陰陽道」の「式神」です
ざっくり説明すると「紙を媒介に呪術を行使する」能力ですね
紙で獣や妖を象って操り、攻防様々な呪符で魔に立ち向かう退魔師をイメージ
なお戦闘用の呪術しか使えないので占術方面では全く使えません
弱点?色々書き込まれた紙のストックが無くなれば
残るのは生身ですのでそうなってから囲んで叩きましょう

あ、真理ちゃんは心配しなくても大丈夫ですよ
作中で彼女もそう言ってますから……ね?

>神主登場は10月~11月前半かな?こっちの黒幕いつ出るんだろうか(震え声)
なるほど、それなら「狐」騒動最終決戦中のどさくさに紛れて盟主様にちょっかいだしても許されるな!!(?)

>弱点?色々書き込まれた紙のストックが無くなれば
燃やそう

>作中で彼女もそう言ってますから……ね?
おにいちゃん!
ぼく、とってもいやなよかんがするよ!!

>>327
>なるほど、それなら「狐」騒動最終決戦中のどさくさに紛れて盟主様にちょっかいだしても許されるな!!(?)
許されます(断言)
そして狐終わったらそのまま盟主様完全暴走からの黒幕登場に繋げたい(願望)

>燃やそう
水で濡らされるのはどういうわけか対策してるみたいだが
炎熱系能力者に片端から焼却させるのは普通に効きそう(真顔)

>おにいちゃん!
>ぼく、とってもいやなよかんがするよ!!
いやほんと闇落ちとかそういうのは一切ないですからご安心ください
相生真理はいつだって篠塚結の味方です!(笑顔)

次世代の人へ
ちょっと避難所の裏設定スレで質問ぶん投げたのでお時間ある時に確認していただけると幸い

>許されます(断言)
やったぜ(将門様がなんか数名と作戦会議初めたの見ながら)

>炎熱系能力者に片端から焼却させるのは普通に効きそう(真顔)
なるほど

>相生真理はいつだって篠塚結の味方です!(笑顔)
ぼくしってるんだ
このすれでそのてのえがおをしんじちゃだめだって(震え)

>>329
>やったぜ(将門様がなんか数名と作戦会議初めたの見ながら)
あっ(察し)
とうとう首塚が介入してくるんですね。まだ会話ほぼ通じないけど頑張ってね……
あとキスシーンは生身でできる機会を後で用意するからもうちょっと待ってて将門様

>ぼくしってるんだ
>このすれでそのてのえがおをしんじちゃだめだって(震え)
ところでこれはそんなに重要な話ではないのですが
相生真理の母親、相生澄音の契約都市伝説は"死の行軍"で
いわゆるネズミの一種を召喚して使役する能力なんですよね
そして遺伝なのか鼠系の都市伝説と親和性がある真理は小玉鼠と契約しています
それから父親、相生森羅の方は"相対性理論の理解者"という
都市伝説と契約しているんですよね。仰々しい名前の割に
何か話を耳で聞くと関連する事柄を連鎖的に知るという地味な能力ですけど
…………父親の遺伝子はどうなったんでしょうねえ?(首傾げ)

>>330
将門様が神主に軽めの祟り(箪笥の角に小指ぶつけたりおみくじ引くとよくて凶だったりくじ引き全部外れる程度)やってもいいかって顔してるの

>とうとう首塚が介入してくるんですね。まだ会話ほぼ通じないけど頑張ってね……
ちょっとなー、強引だけど正気保たせる方法できないかな、って

>…………父親の遺伝子はどうなったんでしょうねえ?(首傾げ)
やっぱりこのすれのひとのえがおはしんようしてはいけなかった

>>331
>将門様が神主に軽めの祟り(箪笥の角に小指ぶつけたりおみくじ引くとよくて凶だったりくじ引き全部外れる程度)やってもいいかって顔してるの
やめたげてよぉ?!wwwww

>ちょっとなー、強引だけど正気保たせる方法できないかな、って
ふむ、毒抜きするのかな?といっても正気になったとして盟主から出てくる情報はまるで核心には触れないぞ……?

・なんらかの干渉を土地(地脈)ごと受けているが、何をされているのか詳しくは分からない
・そのため恒久的に暴走を止めるには土地から盟主を剥がす必要があるが
 霊体はラジコンのようなものなので霊体と土地を遮断しても霊体が霧散するだけ
 さらに言えば調整役を失った場合、膨大なエネルギーがどう暴発するかが予想できない
・どこかに土地の力(地脈や魔法陣のアレ)が流されているようだが場所の特定はできていない
・元凶の心当たりはない(黒幕の能力を知らない&黒幕の干渉がまだ間接的であるため)
・例の男?見覚えはあるのですが……ここ20年の移住者ではないと思います(盟主、神主のことはほぼ頭から抜けている模様)

出せそうな情報羅列したけどほんと盟主役に立たないなァ。特に最後
盟主「だ、だって神主って代替わりしますし今代はまるで表に出てこなかったですし……」
神主「目立たないように20年以上隠れて準備し続けてた俺の努力が実を結んだな」
※本編時間軸でまったく名前も姿も出てこなかった理由付けはこうなりました

>やっぱりこのすれのひとのえがおはしんようしてはいけなかった
結局のところ真理ちゃんは多重契約者で華麗に影をぶっ飛ばして能力の代償払っただけってのが揺るぎない真実です

>>341
>やめたげてよぉ?!wwwwwwwwww
致命的じゃないから大丈夫!(?)
「何か……おかしい………っまさか!?スタンド(都市伝説)攻撃を受けている!?」ってなるかなーって

>ふむ、毒抜きするのかな?といっても正気になったとして盟主から出てくる情報はまるで核心には触れないぞ……?
ちょっくら強引なその方法で正気保たせる事できたら、地脈的なものの影響で暴走ってのは確定情報として与えられそうだし
まぁ何より、盟主様が暴走状態なのが嫌なんでしょう、将門様

あと、最近気づいたが、神社の神事の回数減ってるの、獄門寺家や日景家が「あれ?」って気づきそうな気もしてきてな…(記録とってそうだから)

>結局のところ真理ちゃんは多重契約者で華麗に影をぶっ飛ばして能力の代償払っただけってのが揺るぎない真実です
うわーぉ

>>342
>致命的じゃないから大丈夫!(?)
死ななきゃ安いね(おめめグルグル)

>ちょっくら強引なその方法で正気保たせる事できたら、地脈的なものの影響で暴走ってのは確定情報として与えられそうだし
情報が増えるのはよいことです。じゃあもっと積極的に情報出してよという意見には目をそらします(棒)
将門様は女性に優しい素敵なお方です(ヨイショ)

>あと、最近気づいたが、神社の神事の回数減ってるの、獄門寺家や日景家が「あれ?」って気づきそうな気もしてきてな…(記録とってそうだから)
ぶっちゃけあからさまに減ってるから気づいてると思いますよ
なんで神事が行われないのかという真意がひた隠しにされていただけですから
年齢設定から逆算すると分かるんですけど、現神主って就任当時20歳くらいの若造なので
先代が急死してよくわかってないバカ息子が業務放棄してるくらいにしか思われていなかったのではないかと(※盟主はそう思ってる)

>うわーぉ
例えるならロールシャッハの友人ナイトオウル二世は激痛と疲労を代償に
スーパーオジマンディアスとなることができるが、その度にDr.マンハッタン化していくみたいな?(わかりづらい)

>>343
>死ななきゃ安いね(おめめグルグル)
まぁ問題は「スタンド(都市伝説)による攻撃かっ!?」って感づく事はできても、しょぼすぎて将門様の祟りだとは気づかれないだろうなー、ってことですね
ただ、攻撃を受けた事とちょっと後述する事で、自分のやってることがバレてるか…?と言うプレッシャーはかけられるかな、って思ってます

>ぶっちゃけあからさまに減ってるから気づいてると思いますよ
>先代が急死してよくわかってないバカ息子が業務放棄してるくらいにしか思われていなかったのではないかと(※盟主はそう思ってる)
あぁ、あからさまに減ってるなら、古い家とか学校町にいる社長組で「もう継いで長いんだから、神事は真面目にやりなさい」的プレッシャーかけられるな
うち、獄門寺家の龍一のように都市伝説契約者がその中に交じるわけで。万が一神主さんが都市伝説契約者を察知できる場合、前述の将門様の祟りとあわせて、自分がやっていることがバレている…と言うプレッシャーになるかなー、って

なお、プレッシャーかけてる側(旧家&社長組)に自覚あるかどうかは別とする

>スーパーオジマンディアスとなることができるが、その度にDr.マンハッタン化していくみたいな?(わかりづらい)
Dr.マンハッタンでマーベルでも屈指の強キャラじゃなかったっけ

みなさんお疲れ様です
うぃきを整理してついでに時系列表をつくりました
ひょうというよりはリストとよぶべきしろものだが
なにかこれかいておいてほしいなどご要望があればどしどしおたよりをおねがいします

>>344
状況が動き始めた現在は何かやってることがバレてもそれほど気にしないんじゃないかなー?
神主がやってきたことって本人の認識だと大事の前に小事を切り捨ててるようなもので
状況的に後ろめたいことをやってるのがバレたし自重しよう、という段階はもう過ぎてるんですよね
ここで動くのをやめた結果、黒幕に対処できなかったらまず死ぬのは一般市民だぞ、と悪びれなく言いそう

神主の行動の理由は
いずれ黒幕が復活して周辺地域ごと一族を滅ぼしにかかる
→なら子孫に先送りせず俺が黒幕をぶっ倒して負の遺産を精算する
しかし危険な賭けになるのは間違いないのでバレたら余計な横槍が入るかもしれない
→周囲を騙してギリギリまで気づかれないように準備を進めよう
……お前もうちょっと頼れる奴いなかったのかよとは思う(神主陣営、神主含め3名)

ただそうですね、神事やれーっていう地元民からの突き上げは
流石に神主も対処せざるをえないだろうというのも事実なので……
たぶん本編と次世代編の間にあった事件の少ない時期というのは
神主が突き上げくらって真面目に神事をやっていた期間なんじゃないですかね?
じゃあ現在はどうなっているのかといえば、たぶん効果が出ないように神事の工程を変更してる……

>Dr.マンハッタンでマーベルでも屈指の強キャラじゃなかったっけ
チート化するかは分からないけど人間性をどんどん喪失していく模様
とはいえ作中では影響ないですけどね。孫世代があったらその頃には都市伝説化してるかも?


>>345
編集お疲れ様です。この感じだと冬の項目すごく膨らみそうだなあ

次世代の人wiki更新乙でーす

>>346
いや、旧家とかのプレッシャー云々に関しては、神主が何かやらかそうとしてるって知らなくてもやりそうだな、って思い付いてしまって
神主さん結婚してたっけも含めて(お見合い写真の山を抱えてそうな人を見ながら)

>ここで動くのをやめた結果、黒幕に対処できなかったらまず死ぬのは一般市民だぞ、と悪びれなく言いそう
「わかった、対処すればいいんだな?」って答えそうなのがいる

>しかし危険な賭けになるのは間違いないのでバレたら余計な横槍が入るかもしれない
次世代連中が人のこと言えないんだが、こっちの次世代連中は盟主様関連は「鬱陶しい」とは思ってるけど手を出す気がないんだよなぁ
若干名、辛辣な事言いそうなのはいるが

>……お前もうちょっと頼れる奴いなかったのかよとは思う(神主陣営、神主含め3名)
神主さん……言いにくいが、頼れるお友達とかおらへんかったん……?(そっと見守りながら)

>編集お疲れ様です。この感じだと冬の項目すごく膨らみそうだなあ
狐編は秋(11月)で終わるから問題ないな!

>>347
>神主さん結婚してたっけも含めて(お見合い写真の山を抱えてそうな人を見ながら)
神主は結婚してないです。お付き合いしている人もいないです
でも元孤児の女の子と一緒に住んではいます。どうやって引き取ったのかは知らないですが(目逸らし)

>「わかった、対処すればいいんだな?」って答えそうなのがいる
対処に協力すると確約が得られるなら情報も開示してくれると思いますよ
どうにも信用できなくて自分から協力要請はしていませんが
それはそれとして戦力は多い方がいいとも思ってるはずなので

>次世代連中が人のこと言えないんだが、こっちの次世代連中は盟主様関連は「鬱陶しい」とは思ってるけど手を出す気がないんだよなぁ
>神主さん……言いにくいが、頼れるお友達とかおらへんかったん……?(そっと見守りながら)
人間自分のことで手一杯ですからね。逆にそういうものだと思ってるから
悪い方向(今はどうにかなってるんだから未来に任せる)に相手の意見が傾くことを警戒して協力要請できてないんですが
ついでに言えば風水師水井がやらかした(らしい)という件を伝え聞いていたり
気がついたら組織という外様の集団が街にガッツリ入り込んでたりという状況下で
どこに目があるのか分からないし外様は信用しきれないしで、むしろ2人味方がいるだけ頑張った方なのでは……?
それはそれとしてこう書いてみると神主めちゃくちゃ人間不信っぽいですけどね……

>>348
>神主は結婚してないです。お付き合いしている人もいないです
大量のお見合い写真持っていかなきゃ(決意)

>対処に協力すると確約が得られるなら情報も開示してくれると思いますよ
協力要請する為にも、神主さんがやらかしてる事知らないと駄目だしなー
そして、協力するにしても「その件については協力するが、神事減らした事によって起こったことの責任はとってもらうよ」ってのもいるだろうし

>どこに目があるのか分からないし外様は信用しきれないしで、むしろ2人味方がいるだけ頑張った方なのでは……?
よく頑張ったがやはり……もうちょっと戦力欲しかったな……
「信頼しきれなくとも、利用できる奴作ればよかったじゃん」って言いそうな奴がいるので正座させておく

>>349
神主「事を終えるまで妻を娶るつもりはないぞ……?(引きつった笑顔)」
なお責任案件については残りの生涯かけて尽力してくれると思いますよ
というかその責任を投げ出すような人間なら、積極的に負の遺産を精算しようとか思わないでしょうし

>よく頑張ったがやはり……もうちょっと戦力欲しかったな……
>「信頼しきれなくとも、利用できる奴作ればよかったじゃん」って言いそうな奴がいるので正座させておく
利用できるやつを作るために行動することそれ自体が
目を向けられるデメリットを伴うとか考えてたんじゃないですかね……
やっぱりこの神主だいぶ人間不信入ってるじゃないか(震え声)
こいつ絶対過去になんかあっただろ……

>>350
>神主「事を終えるまで妻を娶るつもりはないぞ……?(引きつった笑顔)」
神社の跡取りについてとか考えてますか、40代ともなると結婚相手も限られてきますよとか言う言葉と共にお見合いおばさんのごとく持ち込まれるお見合い写真を楽しみにな!(許可出たら書くかもしれないし書かないかもしれない)(優先順位敵には後ですが)

>というかその責任を投げ出すような人間なら、積極的に負の遺産を精算しようとか思わないでしょうし
都市伝説云々知ってる人ならその辺話せば結婚しない事情わかってくれるかもしれないが、都市伝説云々わかってない人だと上記の理由でお見合い写真の山が

>やっぱりこの神主だいぶ人間不信入ってるじゃないか(震え声)
雑談によって明らかになっていく神主さんの人間不信よ……


花子さんの人、乙です
いよいよ咲夜さんにスポットがあたるんでしょうか?
ところで最近かなえさんが酷い目に遭う(婉曲表現)夢を見たんですが疲れてるのかな……

>>325
シンクロ召喚までなら何とかって感じです
5D'sのキングとDホイールの活躍を何度か目にしたので……
あと今は生け贄召喚とはいわずにアドバンス召喚ということも初めて知りました

因みに>>311で出た遠倉千十さんは「とおくらせと」と読みます
せんじゅではないですし海馬コーポレーションの社長でもありません
決闘者でもない……と思う。多分


そして今回の話ですがガチガチというより雰囲気だけ感じて頂けたら幸いです(ふんわりと)
行きます

 




「実は。以前から、あなたのことを、見ていたの」

 文脈が違えば心拍数が一気に上がりそうな発言だ
 もちろん色んな意味で

「五月、だったかしら。『組織』の黒服を、遠巻きに見ている、あなたを、見たことが、ある」
「ああ、ばっちり見られてたわけっすね。俺」

「そのときから、声をかけたいと、思っていたわ」




 週明けの放課後、俺は高奈先輩に誘われて町を案内されることになった
 四月に引っ越してきたとはいえ、もう学校町のあちこちは見て回った
 だがこういう好意には素直に甘えたい

 学校町は大まかに四つの区域に分けられることは知っていたが
 北区の山から流れる川によって分割できることは先輩に教えられて知った

 この日は彼女の提案もあって俺達は北区の神社を目指していた
 放課後すぐの約束だったので俺も先輩も制服のままだ
 先輩の私立のブレザー姿は新鮮だった




「早渡君は。『組織』を、避けているの?」

 そうだ
 率直に言えばそうだ
 俺は「組織」を避けている

 「組織」。社会の害悪となる都市伝説を駆逐し、その力を管理する集団だ
 だが連中がやっていることはそれだけじゃない。都市伝説の隠蔽もまた彼らの職分だ
 そして俺が「組織」を避ける理由はそこに関わってくる。正しく言うと彼ら「組織」は俺にとって仇だった

 先輩は俺が「組織」を避けていることは勘付いていたのか
 先輩に見られてたというときの行動があからさま過ぎたのだろうか
 もしかしたらあのとき、「組織」の黒服も俺の方に気付いてたかもしれない

「私も、よ。早渡君」
「え……?」

 俺が答える前に、先輩が口を開いていた
 横に並んだ先輩の顔を見る。いつもの穏やかな表情だ

「私も、『組織』とは関わらないように、しているわ」
「『組織』に加われって強要されたんすか?」
「いいえ、そうではないの」

 先輩は穏やかな声で答えた

「私の、好きだった人は。『組織』の黒服に、殺されたの」
「ッ……!?」


 理由は、重過ぎるものだった


「あの人は。黒服と刺し違えたけれど。私は、あの人を、助けられなかった」


 

 

 訊くべきでは無かった。あまりにも軽率過ぎた
 何と声を掛ければいいんだ

「早渡君」

 先輩と目が合う。表情は柔らかい

「気にしないで。あの人は、私のここに、いるわ」

 そう言いながら自分の胸に手を当てる

「先輩……」
「それに、ね」

 先輩は何故か悪戯っぽく笑った

「一年に一度は、あの人に、逢えるから。それが、私にとっての、楽しみなの」
「逢えるん、ですか?」
「ええ。年に一度だけれど」

 先輩はどこか遠くを見ている

「だけど、今年は、ケンカ別れしてしまったから。来年、来てくれるか、心配ね」
「あの。それって……?」
「お盆に、戻ってくるのよ。あの人。まだ、未練が、あるの」

 そう話しながら、先輩はもう一度悪戯っぽく笑う
 それは未だ見たことのない、先輩の不思議な表情だった
 思わず目を逸らした。俺なんかが見てはいけない気がしたんだ

「あの人。私に、まだ。未練があるの。意地っ張りだから、絶対に、認めようと、しないけれど」

 でも、と高奈先輩は言葉を続ける

「だからって、逢えるからといって。『組織』のやったことを、忘れられる、わけではない
 黒服にも、それなりの、理由があって、あの人を、始末しに、きたと思う。でも
 だからといって、『組織』を許せるほど。私は、大人じゃない」

 それが、高奈先輩が「組織」と関わらない理由
 そりゃそうだ。最愛の人をぶっ殺しに来た連中を許せるはずがない

 実は今の話で色々聞きたいこともある
 先輩に恋人がいたことや、お盆に死者が戻ってくる伝承が実在するのか
 だが今は、それを訊くべきときでは無い。俺なんかが訊いて良いことでも無い

 ぐっと抑え込む

「俺も、『組織』とは関わりたくないです」

 正直このタイミングで切り出していいのか迷う
 だが「ヒーローズカフェ」を後にしたとき俺は決めたはずだ

「昔話をすることになるんですけど。いいっすか?」



 高奈先輩は頷いた


 

 

「俺は親がいなくて、施設で育てられたんですよ。『七尾』って知ってますか?」
「ええ。知っているわ。でも、『七尾』は、確か」
「はい。丁度俺が六年のときに潰れました」


 俺がいた施設は、簡単に説明すると養育施設と保幼小中高一貫校が一緒になった感じの学校だ
 こうまとめてしまうと我ながら凄い所にいたんだな、俺
 それはいいとして、だ

 ここ20年のうちに急増した孤児の問題は社会にとっても解決すべき問題だった
 背景については色々議論があるけど今は措こう

 そうした問題に対処しようと動いたのがこの国の大企業だ
 彼らは積極的に教育や児童福祉の部門を創設して問題解決に乗り出した
 「七尾」もまたそうした複合企業の一つで、俺はその「七尾」の施設でお世話になった

 勿論この話には裏がある
 大体20年くらい前にこの国の政界の裏でとんでもない計画が進んでいた
 隠蔽され続けてきた都市伝説の存在を利用して政治・経済界の両面で莫大な利益をあげようと
 一部の政治家と都市伝説業界の関係者が結託して長期的規模の壮大な陰謀を巡らせていたのだ

 医療を例に取ろう
 現行の製薬産業に対して所謂“霊薬”が登場したらどうなるだろう?
 優れたお医者さんに対して“治癒系の契約者”が登場したらどうなるだろう?
 都市伝説由来の存在や技術や製造物が現行の市場において圧倒的優位性を持つのは言わずとも明らかだ

 そして、そうした力を一部の者達が独占できるとしたらどうなるだろう?

 美味しいパイがそこにはある
 今までには無かった、美味しくて大きなパイが

 かくして暗黒メガコーポとも呼ぶべきこの国の一部の大企業はその素敵な可能性に目をつけた
 都市伝説業界は、彼らにとって新たなパイであり、金のなる木であったというわけだ
 木になる果実を口にすればどんな結果を招くのか、彼らは熟慮しなかったようだ

 そして当然の話だが、都市伝説業界の番人達はこれを看過しなかった
 どう考えても荒唐無稽過ぎるこの陰謀は実行前に阻止された
 そのとき動いた勢力の一つが、恐らく「組織」だ
 結局、陰謀家達は人知れず粛清された
 そこまではいい

 裏の世界を知った大企業の幾つかは、この夢の市場を諦められなかった
 彼らは都市伝説業界の番人達の目を盗んで、何とか夢の力を手中に収めようとした

 だが結局の所、彼らは表の人間だ
 やりたくても出来ることには当然限界がある
 彼らには知識も技術も無く、ましてや実在化した都市伝説の何たるかを知らない

 だから彼らは「基礎研究」を進めた
 番人達の目を盗みながら、ゆっくりと、しかし、着実に
 そうした「基礎研究」に手を出した大企業の一つが、そう、「七尾」だった

 「七尾」は孤児達の中で適正のある子を調査・特定した
 来るべき都市伝説の市場を担っていく人材を育成するためだ
 適正のある子供達は一つのクラスに集められ、集中的な訓練を受けることになった

 ところで、「七尾」時代の終盤に俺はこんな話を聞いたことがある
 都市伝説に適正を示す子供達は10年ほど前をピークに明らかに増加傾向にあった
 そのほとんどが“孤児”だ、孤児の増加と子供の契約適合者の増加は軌を一にしていた
 まるで社会全体が“学校町”になったかのようだ、研究者の一人がそう零したのを覚えている



 話を戻そう


 

 

「ニュースで、何度か、目にしたわ」
「表向きはスキャンダルでしたからね、施設の子に性的虐待って」


 「七尾」は俺が小学校六年に相当する学年のときに解体された
 施設職員が組織ぐるみで性的児童虐待の問題を隠蔽していたのが発覚したからだ
 この事件がきっかけとなって世間の批判を浴びた「七尾」は、遂に児童福祉の部門を潰すことになる
 同時に「七尾」系施設の子供達は新たな受け入れ先を探す難民と化した
 当時のワイドショーは連日「七尾」問題で大賑わいだった

 ニュースでは以上のように報道されている
 だがこれはあくまで表向きの理由だ
 なら真相は? お察しの通りだ


「早い話が『七尾』も裏で都市伝説の研究を進めてて、それがバレたんですよ」


 少し話が込み入るが、性的虐待自体はあった

 実際に施設の教職員が子供達に猥褻行為をやらかし問題になったことは以前にも何度かあった
 というか普通に逮捕者も出したし、報道もされたし、お役所の内部調査も行われたが
 その度に七尾のお偉いさん達は「誠に遺憾であり」の一点張りで切り抜けていた

 それが先の性的虐待の隠蔽報道のときには施設解体にまで発展したのだ
 何故今回はここまで? と思う者あり、ようやく潰れたかと思う者あり
 評論家気取りの御仁共は銘々が好き勝手に意見を宣っていた

 施設を解体するに際して、叩けば幾らでも出る埃を利用したと見るのが適当な所だろう


「研究の一環で『七尾』は都市伝説に適正のある子を特定して、契約させて、訓練してたんです」
「それは、つまり、早渡君も」
「はい。俺もそこでANと契約して、教育されました。あ、“AN”ってのは実在化した都市伝説のことです」


 俺も今でこそ都市伝説と呼んでいるが、実際にこの“都市伝説”という語を使うときはある種の前提に立っている
 つまり、それが話としての都市伝説ではなくて、話が実在化した存在を意味する語であること
 そして、実在化したのは狭義の都市伝説だけとは限らないこと
 こうした前提だ

 「七尾」ではこれを“Actualized Narratives”、「顕在化した語り」とのニュアンスを持ったANという語で呼んでいた
 俺達のような適正ありの子供達は、契約書の形で封印されたANと契約を結び、能力者となった
 そして同期の連中と一緒にANのお勉強が始まったというわけだ


「俺もANクラスのメンバーとして同期の奴らと一緒に訓練されました。それで」

 言葉を区切る
 俺達は既に東区を抜け、北区に入っていた
 北区は学校町でも静かな雰囲気をたたえた場所だ

 神社までもう少し距離があるだろう

「『組織』はANクラスの奴らを確保したかったんだと思います」

 

 

「俺達は『組織』が襲撃するって話を聞いて
 先生達に半分無理矢理『七尾』から叩き出されました」

「『組織』が、来たのね?」
「はい、俺も自分の目ではっきり見ました」


 「組織」が襲撃する、という話を聞かされた
 突然の話だった。襲撃の実に数時間前の時点だ
 俺達ANクラスの連中は文字通り這う這うの体で逃げ出した


「俺もダチと一緒に逃げた所を黒服に追跡されて、ヤバかったっす」
「大丈夫、だったの?」
「はい、本格的にヤバいってときに
 『七つ星団地』って所の兄ちゃん達に助けられました
 それで、俺とダチは助かったんです。助かったんすけど」


 高奈先輩の顔を見た
 これを、話すべきだろうか
 先輩はじっと俺を見詰め返している

 先輩に嘘を吐きたくなかった


「同じANのクラスに、初恋の幼馴染がいたんですよ」


 アイツのことだ


「まあ施設解体の日に告って、すごいフラれ方しちまったんすけど」


 アイツは「組織」に連行された。アイツは自分から「組織」に随っていた
 そんな話を聞いたのは「七つ星」に厄介になって大分経ってからだ

 今となっては確かめようもない話だが、「組織」はアイツを回収したがっていたらしい
 その理由は予想がつく。アイツは優秀で強力な契約者だった
 彼女は「七尾」の最高傑作と呼ばれた存在だ


「アイツは『組織』に連行されて、それで俺は『七つ星』で世話になって」


 俺は「七つ星」で用心棒見習いの傍ら、アイツの情報を集めていた
 アイツが学校町にいるという真偽不明な情報を耳にしたのもその頃だ


「で、俺が『七つ星』でバウンサーとして本デビューしてから一年くらい経ったときに」


 あの日のことは今でも思い出す


「アイツが死んだって話を聞きました。組織の命令で『狐』討伐戦に駆り出されて、殺されたと」


 「組織」に首輪を付けられ、連中に飼育されることになったアイツは
 当時から問題になっていた「狐」を討伐する非公式の作戦に参加したそうだ


 で、死んだ


 

 


「早渡君」


 先輩は立ち止まった
 それは静かな声だった


「あなたは、その子の。仇を、討つために、学校町へ、来たの?」


 目を、見返す
 強い意志を感じる眼差しだった
 俺の目を、心を、突き刺すように見詰めている

 俺は首を横に振った


「『狐』は強いって聞いてます。正直俺が勝てる相手じゃないっす」


 自覚はある
 相手は強力な精神干渉能力、“魅了持ち”だ
 加えて強すぎる配下で周囲を固めているという話だ、到底太刀打ちできる相手ではない


「『狐』の連中も色々やらかしてるわけですから、ほら
 『組織』とか『首塚』とかに目を付けられてるわけじゃないっすか
 だから、多分、そういう勢力が『狐』を討伐するんじゃないかって、そう思ってます」


 既に「狐」はお尋ね者だって話だ、いずれ誰かが倒すだろう
 きっと誰かが、倒してくれるはずだ。この町の、誰かが。きっと


「俺は。 ――『狐』の討伐を見届けるために、学校町へ来ました」


 高奈先輩は黙って俺の話を聞いていた
 だが、何か言いたげな目で俺を見詰めていた

 先輩から視線を外す


「だから、そういう過去のこともあって『組織』とは関わりたくないっす
 『七尾』が裏で都市伝説研究やってて目を付けられたんだから、自業自得なんすけど」


 「組織」にも「組織」なりの理由があったのだろう
 だが、そんなものは結局あちら側の都合に過ぎない


 「七尾」に非があったとしてもだ
 俺にとって、あそこは家のようなものだった
 親に捨てられたような俺にとって、縋るのはあそこしか無かった

 

 


「『組織』相手に挑もうなんて思っちゃいません
 ただ、今はもう。連中とは関わりたくないだけっす」


 「組織」が憎くないと言えば大嘘になる
 控えめに言って連中は俺にとっての仇なことには変わりない
 育ててくれた場所を壊し、初恋のアイツを死に追いやった連中だ


 そうは言っても
 相手は「組織」、強大な勢力だ
 連中を敵に回すほど俺は無謀でも無いし、勇敢でも無い
 向こうから積極的に仕掛けてこない限りは、こちらも事を構える積りは無い



「神社、見えてきましたね」



 ようやく目的地が見えてきたな

 正確には山の上の神社へと続く、長い石段だ
 最初に神社へ来たときは登るのに一苦労するんじゃないかと思ったもんだ


「早渡君」


 高奈先輩に呼ばれる
 先輩は先程と同じ眼差しで俺を見詰めていた


「あなたの、幼馴染の子の、名前。聞いても、いいかしら」


 秋の風が通り抜ける
 俺は先輩の目をしばらく見詰め返し、神社の石段の方へ顔を背けた


「九宮空七(くみや うるな)です」



 俺達は石段へと進んだ










□■□


長いので全体を四分割しました
急いでつけ加えると七尾施設解体と襲撃は別個の事項です
襲撃の方は「組織」の暗黒面(まだ息がある)が関与しているものと
穏健派の一部が勘付いてる頃とは思いますが……?

今回は早渡の怒りの方にフィーチャーしてますがコイツの「組織」と「七尾」に対する感情はもう少し複雑
だが果たして彼は本当に「組織」と関わらずにいられるのだろうか(いや、無理)

これで大方の情報開示は終わったか?
次の投下は金曜あたりに……間に合うだろうか

次世代の人乙ですー
穏健派は、まぁ感づいてるだろうなぁ
天地辺りが「いい加減にしろよ」と思っていたり、いざとなれば「狐」騒動のどさくさに紛れて始末してやろうかとか穏健派と思えないこと考えてそうで(奴は元過激派)

>だが果たして彼は本当に「組織」と関わらずにいられるのだろうか(いや、無理)
まだ書けてないが、クロスさせていただくネタで関わるかもね!(非情)


さて、調子良ければ今夜中にクロスネタ書けてない事をごまかすように何らかの情報提示ネタ投下できたらいいね

 戦技披露会の試合と試合の、その合間の事

「しっかし、死者は出さない事ってなってるって聞くが。派手にやる奴が多いな」

 試合を見た感想として、慶次が一番強く抱いたのはそれだった
 思ったより、かなり派手に能力を使っている者が多い
 あれでも、「切り札」や「隠し玉」は出さなかった契約者もいるのだろうが、それでもかなり容赦なく能力を使っていた者がいた印象がある
 一歩間違えば死者が出ていたのでは、とも

「まぁ、治療係として「先生」が呼ばれているそうだからね。それを知っている人なんかは、ちょっとくらいの大怪我でも大丈夫と判断したんじゃないかな」

 慶次のつぶやきにそう答えたのは郁
 「ちょっとくらいの大怪我」はだいぶ矛盾しているのではツッコミを入れたくなったが、ぐっと、押さえ込み
 「先生」、と言うその名前に、脳裏に浮かぶのは診療所の某白衣が頭に浮かび、「あれか……」と言う心境だ

「あのセクハラの権化、そんなに優秀なのかよ」
「そうだね。色々と問題もある人物だが、優秀ではあるよ。色々と問題もある人物だが」

 2回言っている
 大事な事なので2回言った、と言う奴なのだろうか

「「薔薇十字団」所属だったよな、あの白衣。学校町にいる「薔薇十字団」メンバーは数が少ないからあいつが優秀なのかどうか判断し難いんだが」
「優秀だよ。彼、アハルディア・アーキナイトは能力だけを見れば優秀なんだ………だからこそ、「薔薇十字団」も「組織」も、他の組織も困っているんだろうけれどね」

 そう言いながら、郁は苦笑してきた
 慶次は、あの「先生」が元指名手配だった事くらいしか知らないし、どのような罪状で指名手配を食らっていたのかも知らない
 ただ、三年前に天地が盛大に頭を抱えていた事を覚えているだけだ
 愛百合から「あの男は信用しちゃ駄目よ」と言われていたので、常に警戒するようにはしていたが
 慶次がそう考えていると、郁がふぅ、と小さくため息を付いて

「……そう。優秀だ。それ故に。天地も今回の「狐」の件で、彼相手の交渉に頭を悩ませているのかもしれないね」

 と、そのように口に出したのだから

「あ?………どういうことだよ」

 慶次は、その言葉に反応する

「あぁ、君はANo所属だから聞いていなかったかもしれないね………「狐」が、今年に入って学校町に侵入したらしい。そこは把握しているね?」
「当たり前だろ。確か、3月だったか?「狐」が学校町に侵入したらしいのは」

 周辺がバタバタしていたから覚えている
 かなえが青い顔になっていて、ひどく不安そうであったし
 ……もっとも、それ以降、「狐」の所在はわからないままのようだが……

「そう、3月の「狐」が学校町に入り込んだと言うその日。「狐」の反応が消えた、その時………その場に、あの「先生」がいたらしいんだよ」
「……どういうことだ?」
「どういうことなんだろうね?」

 肩をすくめてくる郁

 「狐」の反応が消えた、その時
 その場に「先生」がいた?

「当人は、その場にいた事は認めているけれど「狐」がいた事は知らない、って言っているらしくてね」
「ただ、問題人物でもあるし怪しい、ってか?」
「そういう事さ。怪しい、けれど黒とも言い難い。だから、君達にはその情報が渡っていなかったんだよ」

 なるほど、と悔しいが慶次としてもその意見は認めざるをえない
 この情報を愛百合が知ったら、「先生」に対して徹底的に尋問を開始し、少しでも怪しいと判断したら処分すべき方向で考えたはずだ
 問題の多い人物とはいえ、「薔薇十字団」所属である
 喧嘩を売られない限りはどの組織に対しても中立を保つあそこに、喧嘩を売りたくないだろう

「一応、君には話したが。愛百合には伝えないでくれよ」
「わかってるよ。それに、あの「先生」が本当に優秀なら、愛百合がヘタに動いたとして、俺と愛百合じゃ太刀打ちできねぇんだろ」
「だろうね」
「わかってても、即答されるとムカつくな」

 事実なら、仕方ないのだが
 ……さて、この情報をどう判断すべきか
 慶次は考え込みながら………郁に気づかれないように、ひっそりとスマホを操作して、メールを送っていた



to be … ?

クロスオーバーネタ書けてないので出し忘れていた情報ぶん投げてお茶を濁す
具体的にどの試合の合間とか書いてないので、戦技披露会に来ていた人は自由にこの会話聞こえちゃって問題ないです


こりゃ駄目そうだ
皆様は体調にお気をつけください
インフルエンザが流行しているそうです

全く本編と関係ないんですがアクマの人に質問です
ネックおばさんとRBの電波ジャック深夜ラジオは
次世代編でも絶賛放送中なんでしょうか
あ放送回が好きでした……


改めまして花子さんの人乙です!
慶次さん、何だか順調にフラグを立ててない……?
しかし逆に言えば戦技披露会までは彼の安全が保障されている!
それ以降は……慶次さん超頑張れ

>>372
×……あ放送回が好きでした
○……あの放送回が好きでした
..orz.....

金曜には間に合わなかった
余裕もってやった方がいいな
行きます


●次世代ーズ

 前回のお話は>>359-365です
 wikiはhttp://www29.atwiki.jp/legends/pages/5139.htmlにまとめられています



●読んでなくても何となく理解できるあらすじ

 彼、早渡脩寿は学校町南区に通う高校一年生の男の子
 この四月に学校町へ引っ越してきたんだ
 九月に入ってからは、美人な先輩と友達になったり
 すごく美人な店員さんと出会ったり、組織の変なヤツに追い回されたり
 同じ施設出身の女の子と再会したり、色々素敵なコトが起こっているぞ!

 この日は美人な先輩に学校町を案内されることになって
 北区の神社に行くことになったんだ
 道すがら早渡は自分の生い立ちについて先輩に教えるんだけど
 コイツは養育施設の出身で、そこで都市伝説と契約した能力者だったんだ
 色々あって施設は「組織」に潰されて、幼馴染は「組織」に連行されたんだけど
 実はその幼馴染、数年前の「狐」討伐戦で死んじゃったんだって!
 早渡は「狐」の討伐を見届けるために学校町へやって来たんだけど……
 一体これからどうなっちゃうんだろうね!

 え? トンカラトン? マジカル☆ソレイユ……?
 ごめん……、何のことだかさっぱり分からないや……



●三行あらすじ

 美人な先輩に学校町の案内に誘われた!
 先輩と一緒に神社に行くことになった!
 神社に着いた

 



「早渡君は。引っ越してきたとき、神様に、ご挨拶、した?」
「初めて学校町に来たときすぐ神社に行きました。そういうの大事っすよね」



 放課後、高奈先輩に身の上話をしつつ北区の神社へやって来た
 学校町の案内ついでに神社へ行こうというのは先輩の提案だ
 そして俺達は今、神社へ続く長い石段を上っている
 にしても何故神社に?



「学校町にはね、七不思議が、あるの」

 先輩の話によると、学校町には古くから伝わる七不思議が存在する
 そしてそれには表と裏があるらしい

「裏の、七不思議は。契約者にも、関わるものなの」

 高奈先輩はこれから、この内の一つを俺に教えてくれるという

「裏七不思議、ですか」
「そう。その一つは」


 長い石段を上り切った
 これで神社に来るのは三度目になるだろうか
 神域特有の雰囲気を肌で感じながら、拝殿の方へ顔を向ける


「『組織』から、隠れるための、おまじない」










 鳥居の前で一礼し、神域へと入った
 鳥居をくぐる際に体全体にかすかな抵抗を感じる

 平日の夕方前だからか、参拝者は俺達以外に見当たらなかった
 だが気配はある。それはここが力を有した“場”である徴なのかもしれない

 普段“神”をそこまで意識することの無い俺にとっても、ここが何であるのかは分かる


 背筋を正す

 手と口を清めた後、拝殿へ向かった

 

 
 会釈と共に、手持ちの十円玉を賽銭箱へ入れる


(あら。――ごめんなさい、早渡君。清めの十円玉を忘れてしまったわ)
(ああ、大丈夫っすよ、多分)

 鳥居をくぐる前に先輩から一通り話は聞いていた
 “おまじない”には予め清めておいた十円玉が必要らしい
 だが、まあなんだ。こういうのに大切なのは信心の方だろう。きっと

 それに、先輩の好意はありがたいが俺は既に「組織」の奴とかち合っている
 今後「組織」絡みでやばい事態に発展しなければ、俺としてはそれだけで御の字だ


 雑念を頭の中から追い払う
 緒を引くと大きな音を立てて鈴が鳴った

 深い礼を二度繰り返す
 そして二度柏手を打った
 拝殿に音が大きく反響する


(そして、おまじないを、唱えるの)


 拝殿に手を合わせたまま、目を閉じる


「どうか私を『組織』から隠してください、どうか私を『組織』から隠してください……」



     どうか私を『組織』から隠してください



 目を開く
 拝殿にもう一度、礼をした

 神前の気配は神社へ入ったときから変わらずに在る
 その空気を感じながら、軽い一礼と共に下がった


 拝殿を後にする


 神社に限らず、神域へ来ると常にこの感覚に囚われる

 「視られている」という感覚だ

 だがここで振り返るのは失礼だ

 それくらいは言われずとも理解できる


 もしかしたら、これこそが「神の坐す」顕われなのかもしれない

 

 

 一度拝殿へと向き直って一礼した後に、鳥居を出た
 高奈先輩は石段の近くで待っていた

 来るときは意識しなかったが、神社は北区の山にある
 この場所からは学校町を一望できる

 傾きかけた陽が町全体を照らしていた
 これからやって来る黄昏時が、やがて町を包むだろう

 夏が終わり少し涼しくなった秋の風が吹き抜ける
 町を背にしてこちらを見る先輩の髪は、風を受けてそよいでいた


「学校町は、好きになれそう?」
「分かんないっす」

 先輩の問いに答える

「ただ、不思議な町だって思ってます」
「そう」


 遠い街並みに目を向ける

 この町に都市伝説や契約者がいて
 この町に「組織」やその関係者がいて
 そして、この町の中に俺や高奈先輩がいて

 そのことがどことなく不思議に思えた


「私は、この町が、好きなの」

 先輩は髪に手を当てながら、町の方へ顔を向けた

「早渡君。――私に、力になれることは、ない?」
「……『狐』のことを訊きたいっす」

 そう、「狐」だ
 奴も、奴の配下もまたこの町にいる。いるはずなのだ
 四月から自分なりに動いてはみた。だが、全く手掛かりが無い

 先輩は知っているのだろうか


「ごめんなさい。私にも、よく、分からないの」

 そう答えながら、高奈先輩は石段を下り始めた
 俺も先輩の後に続く

「『狐』は、三年前にも、この町へ来たわ。知っている?」
「はい、そういう話も聞きました」
「そして、『狐』は、学校町へ、戻ってきた」

 それが今だ

 

 

「あれは、警戒すべき、存在ね。私も、消息が、知りたかった」

 先輩の言葉に耳を傾ける

「関わりたくない、とはいっても、相手のことを、知らなければ
 備えることが、できないから。だから、私も、それなりに、調べていたの」

 先輩は石段を下りながら顔を俺の方へ向けた

「多分、『狐』は。まだこの町に、いるわ
 何故、この町に、戻って、来たのかも。何故、この町に、留まって、いるのかも
 何故、姿を、隠し続けて、いるのかも。その、理由は、全く、分からないけれど、ね」

「そうっすか……」

 「狐」は、多分まだいる
 ただし、この町のどこかで息を潜めている

 息を吐いた
 大きな手掛かりが得られたわけではない

 だが
 少しだけ、ほんの少しだけ、前へ進めた気がする

「あの、先輩。いいっすか」

 俺には隠し続けてることが多い
 これでも一応自覚はしてる積りだ

 石段の途中で立ち止まった先輩に、一歩近づく

「耳を借ります」

 そう告げた後に、一瞬後ろめたさが脳裏をかすめていった
 先輩から情報を得て、自分の情報を先輩に伝える
 これは、先輩が嫌う行為では無かったか?

(ギブ・アンド・テイク、という、考え方。好きでは、ないの)

 少しの後悔が頭をもたげた
 でも、先輩に隠し事をしたくない
 高奈先輩はここまでしてくれているのに

 躊躇いを振り切るように先輩の耳に顔を近づける
 先輩の髪からは花のような香りがした
 両手で筒を作って耳を包む


 秘密の話を、伝えた
 顔を、離す


 「先輩、あの……」
 「言わないわ、誰にも。約束します」
 「あの、ありがとうございます」

 

 

「でも」

 そう言いながら、先輩は悪戯っぽく笑った

「迂闊ね、早渡君。石段を下りて、話した方が、良かったのでは、ないかしら?」
「え、なんで……ですか?」
「だって」

 神様に、聞かれてしまったかも、しれないでしょう?

 先輩はそう続けて微笑んだ
 なるほど、神様か
 そこまでは考えてなかった

 俺は思わず頭を掻いた





 石段を下り終え掛けたときだった

 数段先を行く先輩の後頭部を漫然と眺めながら、ふと疑問に感じた
 どうして先輩はここまで俺によくしてくれるんだろう

 思い切って尋ねてみた

「私は、自分が、お節介焼きだって、自覚はあります」

 先輩はそう答えた

「時々それで、相手に、迷惑を掛けたりするけれど
 早渡君は。迷惑だった、かしら。はっきり教えて、ね」

「いえそんな! 嬉しかったっすよ!」
「そう……」
「それに先輩みたいな美人さんと出会えるとは思ってなかっ……お」
「ありがとう。お世辞でも、嬉しいわ」
「いえ、あの」

 余計なことまで口から出てしまった
 そのなんだ、恥ずかしい……!
 思わず手で顔面を覆った
 俺の今の言葉は控え目に見ても失言だよね!!

「私も、大変なときには
 早渡君に、助けてもらうかも、しれないけど
 そのときは、どうか、よろしく、お願いしますね」

「あっ勿論っすよ!」

 これには即答する。ただ、どうなんだろう

 これこそ失礼な考えかもしれないが
 先輩にとって大変なことってあるのだろうか
 何だか全部自分独りで解決しそうな雰囲気あるけどな
 

 

 俺達は石段を下り切った
 余談になるが階段というのは上るときより
 下るときの方がしんどいのは俺だけだろうか
 ついでに言うと下るときの方が何というか怖さもある

「早渡君」

 先輩が俺に声を掛ける

「何か、他に。訊いておきたいことは、あるかしら?」
「そうっすね……」

 考える
 実は四月から全然進展の無かった一件がある

 先輩は知っているだろうか
 折角の機会だ、訊いてみよう


「先輩、あの」


 陽はゆっくりと西へ傾きつつある
 空はだんだんと朱に染まりつつある時分だ


「先輩は、『怪奇同盟』って知ってますか?」



















□■□


前回、大方の情報開示は終わったと言いましたが
訂正します、全然まだまだじゃないか!!
怖いなあ……土曜中にどこまでやれるかなあ

七不思議ネタにタッチしましたが突っ込みあればよろしくお願いします
以前チラ裏スレで話題が上った七不思議の裏表ですが未完成でした
七不思議って現世代と次世代とでは内容に変遷が生まれたりしそうだが
そこはどうなんだろうか……

あと神社の描写についてです
避難所とwikiを見つつよく分からない部分は省いて書いたが
果たしてこれで良かっただろうか
手水舎があるかどうか曖昧でしたが多分ありますよね?
神主さんは高校生二人組がやって来たことに絶対気付いてるはず

ようやく本題に入りました
話がヒーローズカフェ二度目の訪問へ移ります
ここから段々テンションがおかしくなっていきます
今日中にあと一、二発行きたいです

次世代の人乙でーす
体調、お大事にね。風邪気味状態が延々続いてる俺が言えたことじゃないけど
すまねぇな、早渡君……君とクロスオーバーさせるネタ、普通に「組織」メンバー関わってくるわてへぺろ
つまりはクロスオーバーネタ頑張る。こ、今月中に書ければいいのですが。そもそもフラグ連中なんとかするの今月中の予定だからなんとかせねばね


>慶次さん、何だか順調にフラグを立ててない……?
…さて、彼は一体、誰にメールしたんだろうね
まぁメール自体はフラグにあまり関係ないんだけど()

 学校、と言うものに通った経験はない
 「組織」内部で教育自体は問題なく受けられるし、表向きの学歴も「組織」によって用意される
 都市伝説事件に関わる上での心構えも当然のように教えられる。「組織」の一員として生きていくのであれば、学校に通う必要性等全くない

 ……そう、考えていたのだが

「日常に溶け込むんだったら、やっぱ学校は通った方がいいと思うぜ」

 花屋にて、花束を作ってもらうのを待っている間に直斗はそう言ってきた
 花の種類は色々とあるようだが、店員が一人だけと言う店だ。店員が花束作りに集中している間なら、多少きわどい話題でも大声でなければ大丈夫そうだ

「潜入捜査とかもやるんだったら、余計にな。「一般人」装えるかどうかは重要だろ」
「まぁ、そうだけどよ………俺だって、一般人装うくらいは」
「できてないぞ」

 さらり、と直斗は断言してきた
 むっ、としたくなるが、直斗は一応「一般人」と言う枠組みに入れても良い人間だろう
 そんな人間から見て、自分は「一般人」と言うには違和感がある、そういう事か
 直斗が、言葉を続けてくる

「一般人、っつーには隙がないっつか…