蘭子「芳乃ちゃんが闇に飲まれた」 (18)

わりとくだらない話です

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蘭子「くっ……なんと強大な闇の力……っ! 我が瞳に宿りし"魔眼"すら通用しないだと……!?」

芳乃「ふふふ……でしてー」ゴゴゴゴ

蘭子「かくなる上は奥の手……禁術の"邪眼"を目覚めさせるしか……!」

芳乃「わたくしにーそのような小手先の技が通じるとでもー?」ゴゴゴゴ

蘭子「……この力を解き放てば、確かに我が身も無事では済まないだろう……しかし!」

蘭子「我らが友、堀裕子の尊い犠牲をここで無駄にするわけにはいかない! 覚悟!」

歌鈴「あわわわ……」

蘭子「顕現せよ! 狂気の瞳に蘇りし究極奥義、エターナルフォース――――




美穂「あれ、蘭子ちゃんと芳乃ちゃん。それと歌鈴ちゃんも。そんな所でなにしてるの?」

蘭子「あっ美穂ちゃん! あけましておめでとうございます」ペコリ

美穂「あ、うん。あけましておめでとう」ペコリ

芳乃「あけましておめでとうございますー。今年もなにとぞー、よろしくお願い申し上げますー」ペコリ

美穂「こちらこそ、今年もよろしくおねがいします……それで、三人一緒に初詣?」

歌鈴「はい。あ、でも本当は裕子ちゃんも一緒だったんですけど、ちょっと色々あって……」

美穂「?」

蘭子「そんな事より美穂ちゃん! 芳乃ちゃんが闇に飲まれたんですよっ」

芳乃「でしてー」

美穂「???」

蘭子「さっき参拝した時にね、去り際に『闇に飲まれよ!』って言ったら……」

芳乃「がおー」

蘭子「ほらっ、手違いで芳乃ちゃんが闇に飲まれちゃったんです!」フンス!

芳乃「闇のまー、でしてー」

美穂「そ、そうなんだ??」

歌鈴「それで今、芳乃さんと蘭子ちゃんの光と闇の戦いが始まるところだったんです」

芳乃「聖戦《じはーど》でしてー」

美穂「えーっと……よく分からないけど、なんだか楽しそうだね」

蘭子「それに芳乃ちゃん、すごく強いんですよ! さっきも裕子さんが返り討ちにあっちゃって……」

美穂「えっ? 返り討ち?」

――数分前――

裕子『なんと! 芳乃ちゃんが!? そりゃコトだ!』

裕子『蘭子ちゃん、ここは私に任せてください! 私のサイキックパワーでもって見事、闇を追い払ってみせましょう!』

裕子『ムムムム……サイキック~……あれ? ち、力が抜けていく……なぜっ!?』

裕子『!! 芳乃ちゃん……その構えは!』

裕子『ああっ、ダメです! 芳乃ちゃんの手のひらにMPがどんどん吸い取られていくぅ~!』ガクッ

裕子『サイキッカーはMPがなければただの人……ムムム……無念……!』

裕子『……ハッ! そうか、ここは神社……パワースポットでMPを回復すれば……!』

裕子『というわけでちょっとパワースポット探しに行ってきまーす!失敬!』ドヒューン


――――
―――
――


歌鈴「……それっきり戻って来ないんですぅ」

芳乃「ふーむ、少し心配になってまいりましたー。探しに行った方がいいのではー……?」

歌鈴「あの、私が様子を見てきましょうか?」

芳乃「おねがいいたしますー。歌鈴殿もー、足元にご注意をー」

歌鈴「は、はい。行ってきますぅ」

美穂(芳乃ちゃん普通に優しい)

蘭子「裕子さんは犠牲になったんです……犠牲の犠牲に……」

芳乃「ふっふっふー……それでは蘭子、続きをしましょうぞー」

蘭子「うん!」キラキラ

美穂(なるほど、芳乃ちゃんは蘭子ちゃんに付き合ってあげてるんだね。大人だなあ)

蘭子「ククク……芳乃ちゃ……じゃなくて、漆黒を纏いし神の子よ。運命は我々に味方したようだ……」

芳乃「ほー……? そなた、まだわたくしに勝てると思っているのでー?」

蘭子「笑止! 我ら、火ノ国の業を背負いし双子の力を思い知るがいい! さあ、美穂ちゃん!」

美穂「えっ、わ、私っ!?」

蘭子「我がエネルギーを溜めている間、足止めを!」

美穂「あ、足止めって言われても……」

芳乃「次はそなたがわたくしを楽しませてくれるのでー……?」ゴゴゴゴ

美穂(う……あんまりノリが悪いと、蘭子ちゃんにも芳乃ちゃんにも悪いよね……よ、よ~し……)

美穂「えっと……し、漆黒?をまといし、神の子?とかいうそこのあなた! 私が……ミ、ミホタンが相手しますっ」

蘭子「みほたん?」

芳乃「ずいぶん可愛らしい名前の味方でしてー」

美穂「~~~~っ///////」カァーッ

芳乃「そのような小童ー、右手一本で十分でしてー」

蘭子「なにをっ!? 紅蓮に燃えさかる光の勇者を甘く見るとどうなるか、思い知らせてくれるわ!」

美穂「………………」←精一杯のファイティングポーズ

蘭子「……美穂ちゃん、何かすごい技を……!」

美穂「は、はいっ!? えーっと、えーっと……ミホタンカッター!!」えいっ

蘭子「おおっ! 飛び道具!」

説明しよう!
ミホタンカッターとは、美穂のアホ毛をブーメランのように飛ばして敵を切り刻む技である。

芳乃「遅いのでしてー」ヒョイヒョイ

蘭子「くっ、やはりかわされる……けど、まだまだです!」

美穂「えいえいえいっ」スパスパスパ

芳乃「ぬるい……ミホタンの技が一番、なまっちょろいのでしてー」パシッ

蘭子「な!? ミホタンカッターが……右手の指二本で止められた!?」

芳乃「お返しでしてー」ブォン

グサッ

蘭子「うぐっ! に……二指真空把……まさか北斗の血……っ!?」ガクッ

美穂(なんの話をしてるんだろう……)

芳乃「今ので終わりでしてー?」

美穂「……ま、まだです! こうなったら蘭子ちゃん直伝の氷魔法を……!」

蘭子「そんな! それを使ったら美穂ちゃんまで……」

美穂「え、そんな設定あるの?!」

説明しよう!
昨年の初詣の時、美穂は《アブソリュートブリザード》という究極魔法を蘭子から伝授していた。
しかしこの技を使うと美穂の中に眠る氷の魔女も目覚めてしまうので禁術とされている。

美穂「じゃ、じゃあどうすれば……」

芳乃「……ではー、そろそろわたくしから行かせてもらいましょうー」

スッ――

蘭子「!! あの構えは……!」

美穂「ラジオ体操?」

蘭子「違います。あれは福音《天照》降臨の儀式……究極の光魔法! まさか、この地上をもろとも破壊するつもりかっ」

芳乃「心に光がー、満ち満ちてゆくー」

美穂「あれ? 闇に飲まれたんじゃ……」

蘭子「光と闇がそなわり、最強に見えるんです……!」

芳乃「わたくしの怒りも有頂天でしてー」

美穂「怒ってるみたいだね」

蘭子「こうなったら……美穂ちゃん! あれを使うわ!」

美穂「ええ、よくってよ!」

芳乃「もはや何をしようとー、わたくしを止めることはできないのでしてー!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

蘭子「美穂ちゃん!」

美穂「うん!」


芳乃「無駄無駄無駄ー。これで……終わりでしてー!」ブオン


「「石破!!」」

「「LOVE LOVE……!!」」



蘭子「天驚け 美穂「ミホタンカッター!!!!!」ドヤアアアア



蘭子「え?」

美穂「あれ?」

芳乃「おやおやー」

美穂「あっ……ま、間違えた~……////」カァーッ

蘭子「あ~ん、もうっ。クライマックスだったのに~」

美穂「ごめんなさい、つい……」ショボン

蘭子「あ、いえ、そんなつもりじゃなくて……なんていうかその、スーパーイナズマキックにしなかった私も私だし……」



芳乃「……ぐわああー」でしてー


蘭子「!!」

美穂「よ、芳乃ちゃん?」

芳乃「……はっ。ここはー……私は一体なにをー……?」キョトン

蘭子「み、美穂ちゃん! もしかしたら今の合体技が効いて……!」

美穂「え? あ、うん」

芳乃「二人がわたくしを助けてくれたのですかー」

蘭子「然り! 芳乃ちゃんの魂を覆っていた漆黒の闇は我らが火ノ国の絆が見事打ち滅ぼしたり!」

芳乃「ありがたきー」ナムナム

蘭子「なァーっはっはっは!」

美穂(よく分からないけど、めでたしめでたし。かな?)





裕子「おーっと! そうはいきませんよ!」ムムムムーン

蘭子「!??」

歌鈴「裕子ちゃん待って~」ドタバタ

芳乃「裕子殿ー、無事でしたかー」

美穂「歌鈴ちゃんもおつかれさま」

裕子「さあ芳乃ちゃん! MP全回復した私ことサイキックユッコがお相手しますよ!」

蘭子「それもう終わったよ」

裕子「なんと!? せっかくサイキックアイテムも拾ってきたのに!」

美穂「サイキックアイテム?」

裕子「あれ、美穂ちゃんも来てたんですね。そうそう、アイテムというか、コレです!」ジャジャーン

美穂「おふだ……?」

蘭子「なんと禍々しい……!」

裕子「これで芳乃ちゃんの闇を追い払おうと思ったんです! こんな風に!」ペタッ

歌鈴「ふぅ~っ……あっちの方は人がたくさん居て探すの大変でしたぁ~……あれ? いま背中に何か……?」モジモジ

美穂「もう、ユッコちゃん。あんまり変なことばかりしてると



罰が当たっちゃうよ。

言いかけた、その時でした。



私の着物の袖を、誰かがものすごいスピードで掴み、後ろへ引っ張ったのです。



突然の出来事で、一瞬わけがわかりませんでした。


よろめき、倒れそうになる中で、私の視界に映ったのは、いつの間にか目の前に移動していた芳乃ちゃんの後ろ姿。


私と同じように後ろへ引っ張られ、つんのめっている蘭子ちゃんとユッコちゃんの、驚いたような表情。


瞳を灰色に濁し、身体を強く震わせ、膝から崩れ落ちそうになっている歌鈴ちゃんの、死人のように真っ白な顔。


すべての時間が止まってしまったように、それらの風景が私の記憶に焼き付けられました。


そして、その静止した世界で、芳乃ちゃんだけが、ゆっくりと歌鈴ちゃんに歩み寄り(実際は走って駆けつけていたのでしょうけれど)


そっと彼女の額に手を添え、何かを念じるようにぶつぶつと言葉を唱えているのが見えたのです。


次の瞬間、暗転するように世界がぐるりと回り、私は地面に手をついていました。


「きゃっ!?」


その時、私たちの頭上を何か恐ろしいものが通過していくのが分かりました。


やや遅れて、突風。


参拝客たちのささやかな悲鳴と、周囲の木立が風にきしむ音。


次に私が顔を上げると、歌鈴ちゃんの背後、低い空に、神社の石灯篭の上半分がふっとんで、くるくると舞っているのが見えました。


歌鈴ちゃんが芳乃ちゃんの腕の中に倒れこむのと、池の中に墜ちた灯篭が巨大な水柱を上げたのは、同時でした。…………。



…………。

裕子「すみませんでしたあっ」サイキックドゲザー

芳乃「まったくー、わたくしが居なかったらどうなっていたことやらー」

歌鈴「あの、そんなに危ない御札だったんですか?」

芳乃「左様ー。もう少しで歌鈴殿は悪霊に取り憑かれるところでしたー」

裕子「ぅゎょιのちゃんっょぃ」

美穂「神社の人、大丈夫かなあ? 灯篭ひとつ壊しちゃったことになるよね……」

芳乃「ふむー。それは裕子殿がさいきっくぱわーで直してくれるでしょうー」

裕子「あ、あはは…………ゴメンナサイムリデス」

芳乃「冗談でしてー」


美穂「……そういえば蘭子ちゃんは?」

蘭子「こわいこわい見えない聞こえない見えない聞こえない……」プルプル

芳乃「さすがの蘭子もー、本当の神霊には立ち向かえないようでしてー」

美穂「大丈夫だよっ蘭子ちゃん! 何かあったら私がミホタンカッターでやっつけてあげるから!」グッ

蘭子「美穂ちゃん……いや、救いの女神よ!」ウルウル

裕子「決めました! 今年の抱負は『サイキック除霊』をマスターする事とします!」ムムムムーン

歌鈴「わぁ、がんばってください~」パチパチ



芳乃(ふふふ……今年も良い年になりそうでしてー)

なんとなく終わり

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