【千年戦争アイギス】王子「アーニャに愛され過ぎてつらい……」 【R-18】 (145)

タイトル通り千年戦争アイギスのSSです。

原作と違って王子がめっちゃしゃべりますし、がっつりエロシーンがあるので苦手な方や未成年の方はブラウザバックお願いします。

アーニャ「王子さまぁっ! 待ってくださいってばあ!!」



王子「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

アーニャ「ちょっとぉ王子さまっ! そんなに必死に逃げなくたっていいじゃないですかぁ!」

王子「必死にもなるさ! ここのところ、毎日毎日ところかまわず求めてきて……」

アーニャ「仕方ないじゃないですか! 私たちには、竜族と人間の架け橋になるっていう使命があるんですからっ!」

王子「時と場所を考えてくれ! そもそも、子供を作るにしても毎日する必要が……」



??「きゃぁっ!?」



王子「うわっ?」

王子「……」

アーニャ「……」

ケイティ「……王子。あなた、私にぶつかる前になにか言ってましたよね?」

王子「あ、ああ。子作りするのに毎日励む必要は……」

ケイティ「……ハァー」

王子「すまない。その、時と場所を考えてくれ、……と」

ケイティ「その言葉、兵舎の廊下を騒ぎながら走り回っていたご自分に言い聞かせてみてはいかがですか」

王子「……申し訳ない」

アーニャ「うー……」

アーニャ「あの、ケイティさん。……ごめんなさい」

ケイティ「全くです。アーニャさんも、本当に王子を想うならそれなりの節度は保ってください」

ケイティ「王子の傍にいる女性として、竜と人の架け橋として在りたいと思うなら、それは尚更ではないですか?」

アーニャ「はぁい……」

王子(いいぞケイティ! よく言ってくれた!)

ケイティ「王子。本当に反省してます?」

王子「あ、ああ、それはもう! 本当~~~にすまなかった!」

ケイティ「…………」

ケイティ「まあいいでしょう。私は公務に戻りますが、お二方とも、お戯れはほどほどにしておいてくださいね」

王子「わかったよ……」

アーニャ「すみませんでした……」

アーニャ「……ごめんなさい、王子さま。私が王子さまを追いかけたせいで、ケイティさんに怒られちゃった……」

王子「そうだな。俺たち二人とも、ちゃんと反省しておくべきだ」

アーニャ「王子さまは、その……ケイティさんが言ってたみたいに、おとなしくて貞淑な子がお好きですか?」

王子「そういうわけじゃない。どんな性格の子でも、俺を慕ってくれるならそれで十分だよ」

アーニャ「えへへ……。……王子さま、大好き!」ギュッ

王子「おっ、おぉ」



王子(そうそうこのくらいでいいんだよこのくらいで! にしても、相変わらずアーニャは柔らかくていい身体してるなぁ……)

アーニャ「……あれ? 王子さま……」

王子「ん?」

アーニャ「その……もしかして、少し興奮してます……?」

王子「へ?」

王子(ま、まずい! こんなときに反応するなんて、俺は俺の身体を恨むぞ!)

王子「……聞かないでくれ、アーニャ」

アーニャ「えぇ~?」

王子「ほら、俺も仕事があるからさ。今はお互い辛抱しとこう。な?」

アーニャ「でも王子さまぁ。本当に、いいんですかぁ?」

王子「いいんだ。さ、今はいったんお別れだ」

アーニャ「でもぉ……」スッ





アーニャ「我慢なんて、しなくていいんじゃないですか……?」ボソッ

王子「……っ」ゾクゾク

王子「いや、その。……そ、それよりさっきから俺を抱きしめるのに力を入れすぎじゃないか? 苦しいんだが……」

アーニャ「離してほしい、ですか?」

王子「そりゃ、まあ。公務もあることだし……」

アーニャ「……じーっ」

王子「ほら、さっきケイティに言われたばかりじゃないか。だから今は自重しよう? な?」


まるで、駄々をこねる妹をたしなめるような。そんな気分で、アーニャに目を合わせた瞬間だった。

彼女の蒼い瞳が、不意に大きくなったと思うと……。

・・・・・・・・・・・





唇に、熱が宿る。脳が柔らかな圧力を知覚したとき、俺は既に彼女の舌に侵入を許していた。


「ん……」


生々しい温かさを伴った、艶めかしい肉に蹂躙される。彼女とのキスは、嫌悪感と紙一重の暴力的な快楽を伴っていた。

ぴちゃっ、ちゅぶっ、ちゅむっ、ちゅぷ。

猥雑で淫蕩な水音が、聞こえよがしに脳裏に響く。キスを始めてからほんの十数秒しか経ってないというのに、既に俺の感覚は柔らかな肉のやすりに犯し尽されていた――。





・・・・・・・・・・・

王子「ぁ……」

アーニャ「ぷはぁ……っ」

王子「あ、アーニャ……」

アーニャ「……ごめんなさい王子さま。王子さまの体温を感じていたら、急にしたくなっちゃって……」

王子「あ、ああ……。だが、これ以上は本当に」

アーニャ「はい。王子さまは、戦以外にもお仕事いっぱいありますもんね」

王子「ああ。だから、さっきも言ったがこんな時に求められても、その……、困る」

アーニャ「わかってます。ですから……」





アーニャ「今夜、改めて王子さまの寝室に伺わせていただきますね……」

王子(……っ)ゾクゾクゾク!

~翌日~



王子「ぅぅ……。ヒーラー、ヒーラーはどこだ?」

ハナ「お、王子? そんなにやつれて、どうしたんですか!?」

王子「おはよう、ハナ。……なに、ちょっと疲れが溜まってるだけだ。心配ない」

ハナ「本当に大丈夫なんですか? ヒーラーの皆さんなら、今ごろ負傷兵の所へ慰問に行っているはずですけど……」

王子「……そうか、そうだったな」

ハナ「ええ。それより王子、本当の本当に大丈夫なんですよね?」

王子「ああ……多分な」

ハナ「多分って、そんな……」

王子「……ふぅ」

ハナ「……」

王子「……ん? ハナ、どうした?」

ハナ「……王子。アタシ、今から踊るのでそこで見ていてください」

王子「? どうしてそんなことを?」

ハナ「悔しいけど、ヒーラーと違ってアタシは他人の傷を直接癒すことはできません……」

ハナ「でも、踊りで人の心を癒すことにかけては誰にだって負けませんよ! 疲れた王子の心だって、アタシが今から元気にしてみせます!」

王子「ハナ……」

ハナ「唐突だと思われたかもしれませんけど、アタシは本気ですよ? 惚れたお方を弱らせたままにしているだなんて、踊り子としての名折れですから!」

王子「……ありがとな。しっかり、見させてもらうよ」

ハナ「はい! ちゃんと、元気になってくださいね!」

王子「ああ……!」

ハナ「~~~♪」


王子(……不思議だな)


ハナ「~♪」


王子(ハナは、なにか音楽のような拍子を口ずさんで踊っている。それだけなのに)


ハナ「♪♪」


王子(……なんだか、彼女から強い言葉で励まされているみたいだ……)

『王子! いつも、民や国のため、アタシたちのために尽力してくれてありがとうございますっ』



『女神様の声を受け、魔物を倒し続け、王子は本当に沢山の人々を助けてきてくれました! アタシたちにも、王子にお返しをさせてください!』



『王子! 辛いときには、遠慮しないでアタシたちを頼ってください! いつだって傍についていますから!』



『だからがんばれ、王子! がんばれっ! がんばれっ!』



王子(ハナ……! お前のメッセージ、俺はちゃんと受け取ったよ……)

王子(ありがとう、ハナ)

ハナ「~~♪ ~~~~~♪♪」



ハナ「……フゥ。以上で終わり、です」

王子「……」パチパチパチ

ハナ「ふふ、拍手ありがとうございます。……どうです? 元気になれました?」

王子「ああ……。ハナの気持ち、今の踊りを通して俺の心にも伝わってきたよ」

ハナ「! それじゃぁ……」

王子「本当にありがとな。ハナのお陰で、元気になれた」

ハナ「どういたしましてっ。王子にそう言ってもらえると、アタシ、とっても嬉しいです!」

王子「実は俺、さっきまでの疲れに関連する悩み事もあって……。でも、ハナの踊りを見ていると、なんだかそれも解決できそうな気分になってきたよ!」

ハナ「そうですか。それじゃあ、これからもアタシの踊りでいつだって王子を元気にしてあげますね!」

王子「ああ、そのときはまた頼む。ありがとう、ハナ」

王子(そうだ。今思い返すと、俺は求められるまま受け身になって、アーニャに対しても遠慮するようになってしまっていたのかもしれない)


王子(だが、それではきっと俺のためにもアーニャのためにもならないだろう。今の状況をなんとかして変える努力が必要だ)


王子(恐れては駄目だ。ハナから貰った力をそのままに、俺の意志としてアーニャにぶつけなきゃ駄目なんだ!) 


王子(これからは何を言われ何をされようと関係ない。俺は俺の意志を突き通す)


王子(アーニャの誘惑になんて、絶対負けない!)

~夜・寝室~





アーニャ「あんっ! 王子さまっ、もっと突いて、もっと!」

王子「……」ギシッ、ギシッ

アーニャ「んっ、そこぉ♪ くぅぅっ」

王子「……」ギシギシギシッ、パンッ!

アーニャ「あはぁっ♪ がんばってください、王子さま! がんばれがんばれっ♪」

王子「……………………!!」パンパンパンパンパンパン!

王子「アーニャっ、アーニャっ! アーニャぁっ!」パチュパチュパンパン

アーニャ「んんぅ! 王子さま、いいです! すっごくイイです!」

王子(ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおいざって時になると断れないばかりかどうしてここまでハッスルできてしまうんだ俺はああああああああああああああああああああああああああ!!!!!)

アーニャ「王子さま、好きっ、すきぃっ♪」

王子「俺もだ。アーニャ、愛してるぞっ」ギシッ

アーニャ「嬉しい……っ! あたしも! あたしも、王子さまのことっ、愛してますっ!」

王子(もう嫌だあああああああああああどうせこの後出すもの出して凄まじい倦怠感と虚脱感に襲われて明日も朝から憂鬱気分で一日中過ごす羽目になるってのにいいいいいいいいいいいいいやめられなああああああああああああああああああああああああい!!!)

アーニャ「王子さま! あたし、今すごく気持ちイイですぅっ♪」

王子「ああ、俺もだ。アーニャ、アーニャあああああああああああああああああああああ!!!!!」パンパンパンパンパンパン!!!!!!!

~翌日~



メメント「それで、どうして王子がボクの部屋にいるのかなぁ? のこのこ一人でやって来るだなんて見上げた度胸だけど、あの竜姫みたいに襲って欲しいわけ?」

王子「そういうことじゃない。ただ、アーニャのことで少し相談があるんだ」

メメント「相談ねぇ。先に言っておくけど、この軍にいる人の大半は、例の竜姫と王子のことに気付いているか、少なくとも何か勘づいてはいると思うよ」

王子「む?」

メメント「いい加減、イライラしてくる人が出てくる頃だろうね。……今、王子の目の前で話してる女の子を含めて……さ」

王子「……気分を害してすまない。でも、俺自身そのことを知っているからこそ、早くこの問題にケリをつけたいんだ」

メメント「はぁ~ぁ。やっと王子と二人きりになれたと思ったら、これだもんね~」

王子「本当にすまない! ケリがついたら、皆とは二人の時間を確保できるようにはするつもりだ。もちろん、メメントとも!」

メメント「本当に?」

王子「本当だ。他の皆との兼ね合いもあるし時間はかかるだろうけど、きっと埋め合わせはする!」

メメント「……ふぅーん。ま、そこまで言うなら解決策を考えてあげなくもないかなー」

王子「あ、ありがとう……」

メメント「とは言っても、有効な手立ては殆どないのが現状かもね」

王子「そんな。……例えば、メメントやウィッチの皆に頼ってアーニャに魔法をかけるとか」

メメント「それはおススメできないなぁ。ボクとしてもそうしてやりたいのは山々だけど、強すぎる魔法をかけると今後の戦に支障が出かねないし……」

メメント「かといって、下手な魔法はまず通じないからね、あの竜姫は」

王子「《真竜の鱗》か……」

メメント「そ。王子が色々贔屓してくれちゃったお陰で、今じゃ話を聞いてもらうにも一苦労だね」

王子「うぐ。よかれと思って、限界まで力を解放してもらったんだけどなぁ」

メメント「まあ、それはともかく。色んな強さの魔法を試しにかけていってもいいけど、あれを実験台にするとなると大変だしさぁ」

王子「そんな言い方……。……だとしたら、一体どうすれば…………」

メメント「本当に、どうすればいいんだろうねー」

王子「むむ……」

王子「……そうだ。確か、メメントが前に俺にかけた淫蕩の魔法があっただろ? せめて、あれで俺の精力だけでも持たせるようにしてくれないか」

メメント「悪いけど、それは絶対お断り」

王子「なぜ?」

メメント「そんなことしたって、最終的に喜ぶのはあの竜姫だもん。王子はボクのものなのに、他の子に遊ばせるために王子に魔法をかけるなんて……!」

王子「……ぅ」

メメント「大体さ、迫られ続けるのが本当に嫌なら王子がきちんと態度で示すべきなんだよ。ボクのところに相談なんて来てないで、さっさとひとこと『嫌だ!!』って言ってくればいいじゃないか……」

王子「…………」

王子「……なあ、メメント」

メメント「なに?」

王子「ありがとう。いいアドバイスだったよ」

メメント「そう? あんな愚痴でよければ、竜姫のせいで王子と話せなかった分まで延々聞かせてあげてもいいよ」

王子「それはまた今度で頼む。……今は、俺がアーニャと向き合わないといけない時だから」

メメント「本当に聞かせるよ? 約束したからね」

王子「ああ。……早速だけど、行ってくるよ。またな、メメント」

メメント「はいはい、どういたしましてー」







メメント「……あーあ。あの竜姫が羨ましいなぁ、ほんと……」

~同日・訓練場~



王子「と、いうわけでだ……。模擬刀とはいえお前に剣を向けるのは心苦しいが……」

王子「俺の言葉を聞かない以上、実力で言うことを聞いてもらうぞ、アーニャ!」

アーニャ「王子さまの言葉はきちんと聞いてますよーっ! 昨晩だって、何度もあたしのこと好きって言ってくれたじゃないですかー!」

王子「そういうことじゃない! とにかく、俺に願いを聞き届けて欲しいのなら、戦いに勝って意志を押し通すしかないぞ! 分かったか!」

アーニャ「えぇ~ー? ……分かりましたけどー」

ソーマ「ちょっと、なんですかこれ? 皆、こんなに沢山集まって……」

クレイブ「何やら、王子がアーニャさんと手合わせを望んだのだそうで。まあ、実態は痴話げんかと変わらないのだと思いますが」

ソーマ「そうなんだ……。確かに、最近色々と大変そうですからね……」

サノスケ「アーニャ殿に悪気がないのはわかりますが……。人目構わず愛情を求めている様を見せられるのは目に毒でござるし、王子には奮起していただきたいですな」

レアン「しかし、本当に勝てるのか? 確かに王子は相当の使い手だが、彼女の力は……」

ダン「そんなもん関係ねぇっ! 王子、あんたが俺以外のヤツに簡単に負けることは許さねーぞぉっ!」

王子「……ッチ!」ブンッ!

アーニャ「わっ! っと……」

王子「……」スッ、ガッ

アーニャ「くぬ……っく」





カシス「あっ。王子が押してるみたいよ!」

リカルド「うむ、剣の鋭さでは王子が優っているな。互いに模擬刀を手にしての勝負だが、こちらの方が明らかに武器の扱いに慣れていると見える」

ユリアン「まあ、王子ならこれくらいはな。……しかし、ここから先がどうなるか……」

王子(計算通りだ。日頃扱い慣れた聖剣《アスカロン》を手にしてない分だけ、アーニャの剣は鈍っている上に聖剣の加護を受けることもない!)

王子(このまま攻撃を続けて押し切ってやる!)



王子「……フッ!」シュッ

アーニャ「っ」キンッ

王子「……!」ピュンッ

アーニャ「!」フゥッ



王子(剣が浮いた! 今なら……)

王子(アーニャが握りなおすより先に……)



王子「……っ!」ブンッ

アーニャ「っ」キインッ

王子(よしっ、弾いた! 俺のかち……)

アーニャ「っ!」グイッ!

王子「なっ……?」

アーニャ「……えいっ」グンッ

王子「ぁっ!?」ドッ

アーニャ「えへへっ。私の勝ちですね、王子さまっ!」






サンドラ「……え? ありなの、今の……」

グローリア「『剣での勝負』とは言ってなかったからね。少なくとも、ここで見ていたあたしたちは聞いていない」

サンドラ「でも、自分の剣が弾き飛ばされると同時に王子の腕を掴んで投げ倒すなんて……」

グローリア「戦場での一対一なら、それもありだろ? あっちの方が一枚上手だったってことさ」

アーニャ「王子さま……。勝った方の言うことを聞くっていうのが、この勝負の約束ですよね……?」

王子「いや、でも、ほら。剣での勝負は俺が勝ったわけだし」

アーニャ「『実力で』って言ったのはそちらの方ですよ? ここまで来て、剣の腕だけが実力だなんて言いませんよね?」ニコッ

王子「ぐっ、それは……」

王子「……」チラッ





ザラーム「まあこんなものか。腕前の優劣はともかく、真竜戦士に正面から剣で戦っても刃が通るまい」

モモ「おまけに、純粋な体力勝負に持ち込まれたらね。あの体勢じゃ勝負はほぼ決まったかな」

アネモネ「油断してしまいましたかね。可哀想ですが、王子の言い出したことですし……」

ロベルト「真っ昼間から面白いもん見れたなぁ。こりゃあ、いい酒の肴になりそうだ」





王子(やっぱり他人事だよね見放すよね仕方ないさうんうん見せ物みたいになった時点でこうなるってことくらい分かってたよクソがッッ!!!)

アーニャ「ね、王子さま」

王子「あ?」

アーニャ「沢山運動して、汗かいちゃいましたね」

王子「あ、ああ」

アーニャ「ですから、二人でお風呂に入って汗を流し合いましょう? これはあたしからの『お願い』です!」

王子「あ、ああ……」

王子「ああああ…………」

・・・・・・・・・・・





「このまま、しましょう?」


互いに向き合い、泡を纏った身体を密着させた状況で、アーニャが言う。


「王子さまのも……ちゃんと、おっきくなってますしっ」


そう言ってアーニャに泡の付いたままの手でしごかれると、快感に神経を揺さぶらされる。

しゅっ、しゅっ、と一定のリズムで愛撫を加えられ、否が応にも高まってきてしまう。


「……王子さま。入れますね……」


既に準備できていたのだろう。俺のペニスを握ったまま、アーニャが少しづつ腰を沈めていく。

器用に挿入れるものだな、と他人事のように感心したのもつかの間、俺の分身は柔らかな肉壁に呑み込まれると同時に快楽の責め苦を味わわされるのであった。

「んっ、んっ、……」


アーニャの身体が上下し、その度に俺のペニスに摩擦が加わる。

互いに向かい合いながらのセックス。俺の方が身長が高いが、若干身を屈めてやることで、いい具合にアーニャの体重を受け止めることができていた。


「……あ、つぃ……」


浴場の湯気に中てられたアーニャの表情には玉のような汗が浮かんでいる。

ウェットな熱感に包まれた彼女の肉体は熱く、柔らかく、心地よい重さを伴って俺の身体へ寄りかかってくる。

ぱちゅん、ぱちゅん、と、アーニャが腰を上下させるたびに、結合部からは淫猥な水音が響く。

俺は淫靡な気分が更に高まっていくのを実感していた。

「気持ちいい、ですかっ?」


その問いかけに肯定の返事を返すと、アーニャは小さく笑った。


「あたしも、気持ちいい、です……っ」


そう言って笑う彼女の表情は、普段のそれからは想像できないほど妖艶で思わず息を呑んでしまう。

自分の胸に密着したままの彼女の双丘と、身体を包む泡から伝わる快楽の波は確実に俺を責め立てていた。

その最中にも摩擦は加え続けられ、アーニャに包まれた俺のペニスは熱と硬度を増していく。


「はっ……、はっ……、……んぅっ」


小さな嬌声と呼吸音が耳に届き、行為への集中力を高めてくれる。

アーニャの柔らかさと、熱と、重みとを感じている内に俺の腰も自然と動き出していた。

「あん……っ」


ぱちゅっ、ぱつっ、ぱっ、ちゅぱんっ。


「王子さまっ。それ、すごい……」


アーニャの声を聞き、ますます抽送のペースが速まる。それと共に、二人を襲う快楽の波と、熱い鼓動も強まっていく。

その波濤が砕けピークに達した瞬間、俺はアーニャの最奥にこれでもかというほど精を放っていた――。





・・・・・・・・・・・

~翌日~



王子「まずい……。本格的にドツボにハマっている……」

王子(しかし、夜にあれだけ求められてから半日しか経ってなかったのによく勃ったなぁ。まあ、昨日はあの一回だけで久々にゆっくり眠れたし、たまにはああいうのも……)

王子「いやいや! その思考がもう駄目だろう! 昼間から浴室でおっぱじめるなんて、王子がやっていいことじゃあない」

王子(ハナやメメントに背中を押されたっていうのに、俺はなにをしているんだろう……)

王子「……はあ」



「王子っ」



王子「?」

王子「クローディア! どうかしたのか?」

クローディア「あの、その……ちょっと、お話ししてもよろしいでしょうか?」

王子「構わないが。なんだ?」

クローディア「えぇ~っと……」

王子「うん」

クローディア「……ごめんなさい。実は、王子の姿を見かけてお話ししたくなっただけで、話題はないんです……」

王子「ははっ、そうかそうか」

クローディア「すみません」

王子「いや、話しかけてもらえて俺も嬉しかったよ。……そういえば、」

クローディア「はい?」

王子「その大剣《ドラゴンスレイヤー》、どこに持っていこうとしているんだ?」

クローディア「あ、これですか。いつもは自室に置いているんですけど……手持ちぶさたな時、たまにこうして持ち歩いてみたくなるんです」

王子「へえ。確か、元は亡くなったお兄さんの……だったよな」

クローディア「ええ。こうしてこの剣に触れていると、なんだか昔のことが思い出されて……」

クローディア「それに、この剣を持ち歩いていると『おっ、大したもんを持ってるねぇ』って感じで、今まで話したことのない人にも声をかけてもらえて楽しいんです」

王子「なるほど。お兄さんが、今も色々と助けてくれているってことなんだな」

クローディア「はい!」

アンナ「王子ー? どちらにいらっしゃるのですか、王子ー?」





王子「おっと、呼び出しだ。……じゃあクローディア、また今度」

クローディア「はい、王子。……えと、今度はちゃんと話題を考えてきますから、散歩でもしながらゆっくりお話ししましょうね」

王子「ああ、楽しみにしてる」

クローディア「それでは……」

王子「ああ。それじゃ!」

王子(それにしても、あんなに奥ゆかしくてほわほわした女の子が大剣を振るうんだものな……。それも、竜の牙で精製された《竜殺し》の曰く付きの大剣を)

王子「……ん? 竜殺し……?」

王子「…………」

王子「…………」ダッ









クローディア「お、王子? アンナさんのところへ行ったんじゃ……」

王子「すまない、クローディア! ちょっと話があるんだ!」

クローディア「へ?」

~翌日・訓練場~




王子(そうさ、仕方のない。仕方のないことなんだ)

王子(昨日の晩は四度もイカされてしまった。こんな性奴隷一歩手前の生活を続けていれば、そのうち俺は身体に異常をきたし下手したら不能になってしまうかもしれない)

王子(だから、なんとしても。心を鬼にしてでも、アーニャを説得しなければならないんだ)

王子(そうさ。たとえ、それが彼女に痛みを強いる結果になろうとも……)

王子(今日こそ、この問題にケリをつける!!)

王子「いいかアーニャ! 何度も繰り返すが、手加減無用の真剣勝負だ!」

アーニャ「お、王子さまぁ……! あたし、王子さまを傷付けるなんてヤですよぅ……」

王子「アイギス様の加護があるから、この場で重傷を負うことは考えなくても大丈夫だ。本当に俺を想うなら、全力でぶつかってきてくれ」

アーニャ「王子さま……」

王子「アーニャ。俺を愛しているんだろう?」

アーニャ「……わかりました。この前みたいに、勝った方が相手にお願いを聞いてもらうんですからね!」

王子「ああ。初めからそのつもりだ」

アーニャ「でも、王子さま……。本当に、その武器であたしに挑むつもりなんですか?」

王子「『真剣勝負』だと言っただろう。これが、俺がアーニャに勝つために選んだ剣だ」

アーニャ「わかりました。……それでは、始めましょうかっ」

王子「ああ……っ!」

王子「てぃっ!」ブゥン

アーニャ「!」サッ

王子「せりゃっ!」ブンッ

アーニャ「っ」ギンッ!

王子「ふぅぅ……」





王子(普段使ってる剣に比べたら、どうしても取り回しは悪くならざるを得ないが……)

王子(意外といい感じだな、《ドラゴンスレイヤー》!)

王子「ぬん!」ブゥッ!

アーニャ「わっ」ギンッ

王子(たった半日とはいえ、クローディアに特訓と借用を承諾してもらえてよかった! 兄貴の形見をマジでありがとう!!)

アーニャ「あたしも……っ」ヒュン

王子「おっと!」

王子(竜殺しの大剣、その威力を知ってかアーニャも普段と違って及び腰……)

王子(攻め方が消極的だし、攻勢に持ち込めば明らかにこっちが有利。ここは一気に決める!)

王子(さあ、《ドラゴンスレイヤー》よ……。本来の持ち主でなくて悪いが、今この時だけ俺に真の力を貸してくれ!)

王子「……いくぞ、アーニャ!」ゴッ

アーニャ「っ、王子さま!」

アーニャ「やっぱり、本気、なんですね」

王子「何度も言っただろう!」ブンッ!

アーニャ「ぐっ!」ギィィンッ

王子「ぬん!」シュッ

アーニャ「くぅっ」キンッ

王子(距離を置かせるな! ここは一気呵成に攻めないと……)

アーニャ「……すみませんでした、王子さま」

王子「!?」ピタッ

アーニャ「あたし、この前も今も、王子さまと『本気の勝負』っていうのがやりづらくて……でも、こうして王子さまと剣を交わし合って、その考えが間違いだったことに気付きました」

王子「……言いたいことはそれだけか?」

アーニャ「あたし、昔は封印されてたから魔物相手以外には力を発揮するのが怖くて……」

王子「そういう話は勝負の後に聞く!」シュガッ!

アーニャ「ですから……っ」ギンッ



アーニャ「今から、本当に本気で王子さまに挑ませてもらいます!」ゴッ!



王子(あ、これアカンやつや)

王子(不完全とはいえ《ドラゴンスレイヤー》のスキルを発動させた状態で決めきれない時点で嫌な流れだなー、とは思ってたけど)


王子(いや、しかし……《ドラゴンスレイヤー》が力を発揮している内は防御を貫通できるし、スキルの効力が切れてもアーニャの聖剣《アスカロン》は《ドラゴンスレイヤー》の斬撃を防御しきれないし)


アーニャ「いきますよ……輝剣《クラウ・ソラス》!」カッ!


王子(ほ~らきたきた。まあ、《アスカロン》の防御なんて気にせず攻め続けて…………)


王子「……えっ?」

王子(何やってんの俺ばっかじゃねえのおおおおおおおおおなんで敵に塩送っといてそのこと忘れてんのおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!)

王子(いや待て! どれだけ俺の記憶力が乏しいとしても、二刀流仕様の《クラウ・ソラス》と一刀流が前提の《アスカロン》を間違えるなんてないはずだ! 一体なぜ……)



王子「……なあアーニャ。一瞬だけいいか?」

アーニャ「なんです?」

王子「お前、《クラウ・ソラス》を装備しているのにどうして剣を一振りしか持ってないんだ?」

アーニャ「だって、一対一の勝負で二刀流にするなんて変じゃないですか」

王子「なるほどわかった」



王子(うん、本当にわかった。俺はもう終わりだということが)

アーニャ「それでは、王子さまがあたしにくれたこの力……遠慮なくぶつけさせてもらいます!」ダンッ!

王子「うぐっ!」

王子(この前の勝負で日和って模擬刀なんかで戦ったからチクショウ! 初めから覚悟を決めて挑んでいれば、こんな失敗はしなかったのに……)

アーニャ「せいっ! ていっ!」ブンッ! ダンッ!

王子「あっあっ」



王子(だってお前、ただでさえ強いアーニャに『強化された魔法剣で周囲の敵をまんべんなく切り裂くスキル』なんて発動されたら……)



王子(いくら竜殺し持ってたって勝てるわけねえよおおおおおおおおおおおおおおちくしょうううううううううううううううう!!!!!!)

王子「ハァ、ハァ……。……ぐぅっ!」

アーニャ「フゥ……。あたしの勝ちですね、王子さま」

王子「……そうだな。俺の、負け、……だ」

アーニャ「今はまだ日が出てますし、一昨日みたいに日中から愛し合っていると皆にも悪いですから」

アーニャ「だから、今晩はいっぱいかわいがってくださいね? 『お願い』ですよ?」

王子「……わかった」

王子(悔しいが、今の俺に言えることは他にない)

アーニャ「うふふっ。あたし、この前と違ってきちんと『節度』、保てましたよね?」

王子「あ、ああ」

王子(誰か彼女にきちんとした教養を授けてやってくれ!)

アーニャ「では、そういうことで。夜になったら、あたしの方から王子の寝室にうかがいますからね♪」

王子「……ああ」

王子「……」





王子「どうしてこうなった……………………」

今回の投下おしまい 続きは後日に改めて

~夜・寝室~





王子(くそっ、くそぉっ! あんなに嫌で憂鬱だったはずなのに……)


王子「ハッ……、ハァッ……」チュブチュブ

アーニャ「うふふ♪ そんなに吸っても、まだお乳は出ませんよ?」

王子「ぅ……」チュパチュパ

アーニャ「ゃんっ」

王子「……っ、」

アーニャ「ん……。優しく、触ってください……」

王子「……」モミッ クニュクニュ

アーニャ「んぅっ」ピクッ


王子(アーニャの身体を堪能せずにはいられないなんて……!)

アーニャ「王子さまぁ……。あたしのココも、触ってください……」

王子「あぁ……」

アーニャ「そっ、それ。そこ、くりゅくりゅ、って……」

王子「アーニャ……」クチュッ

アーニャ「ぁんっ♪ ……あっ、あっ♪」

王子「……っ」クリュクチュクチュクチュ

アーニャ「んっ、ん~~~~! ……んぁっ、ふぅ♪」

アーニャ「……はぁ、あぶないあぶない。あと少しで、いっちゃうところでした……♪」

王子「っ」ギンギン

王子「アーニャ、俺……!」

アーニャ「えぇ。……来て、王子さま」

王子「アーニャ……っ!」ジュプンッ

アーニャ「あぁぁ、王子さまっ」

王子「アーニャ、アーニャっ……!」ヌッ、ツプッ

アーニャ「王子、さまっ。んっ♪」

王子「……クソッ。こんな、こんなに……!」ジュプ、ジュプッ

アーニャ「あんっ、ぁうっ♪」

王子「アーニャっ。お前は、どうしてこんなに……っ」ズプズプ

アーニャ「へ……? 王子さま、なんのことだか……んっ!」


王子(ずっとずっと求められ続けて、昨日だってあんなにしたってのに……)


王子(どうしてこんなに、アーニャと交わるのが気持ちいいんだ!!)

アーニャ「おうじさまぁ……っ」


王子(正常位で向かい合ってるというのに、惜しげもなく乱れた様を晒すアーニャ!)


アーニャ「えへっ、やっぱり、王子さまとするの、とっても……んっ♪」


王子(髪と胸を揺らしながら、俺の汗と唾液に塗れて喘ぐアーニャ!)


アーニャ「王子さまぁ……! すきぃ……!」


王子(際限なく俺の愛を求め、必ずそれ以上の愛情で報いてくれるアーニャ!)

王子「アーニャ……」パンッ、パンッ

アーニャ「ん、キス……」

王子「……っ、んむ、っ……」

アーニャ「んっ……、ん……!」

王子「はぁ……アーニャ、アーニャぁっ!」パチュパチュパツンッ!

アーニャ「王子さまぁ。あたし、もう……」

王子「いけっ、アーニャ! いけっ!」パンパンパン!!

アーニャ「はひっ! ふっ、……っ~~~!」ビクンビクンビクン

王子「はっ、はぁっ、はぁっ……」

アーニャ「王子さま……まだ、元気です、ね」

王子「ああ。……アーニャ。四つん這いになって、後ろを向いてくれないか」

アーニャ「はい。あたし、この体勢でするの、好きです」

アーニャ「王子さま、どうぞ。……しっぽ、邪魔じゃないですか?」クパァ

王子「大丈夫だよ。挿入れるぞ、アーニャっ」ズプッ

アーニャ「ああっ、きたぁっ」


王子(アーニャ、それでも……)

王子「…………」パンパチュパンパンパンパチュッ!!

アーニャ「あっ、あぅっ! おうりしゃま、すごいれふぅ♪」

王子「アーニャ……!」パンパン、パツンッ!

アーニャ「もっろ激しくぅ……♪ 奥まれ、突いてきてくださぃ……」

王子「そんなに、気持ち、いいかっ?」パチュンパチュンパチュンッ!!

アーニャ「はいぃっ! はしたなくて、ごめんなさ、ぃ……っ♪」

王子「気にするな。俺も、気持ちいいっ!」パンッ、パンッ、パンッ

アーニャ「おう、じさ、まぁっ♪」ビクッ、ビクッ

アーニャ「はぁ……。王子さま、今日もよかったです……」

王子「そうか。それは……よかったよ」

アーニャ「王子さま、今日は凄くがんばってくれてましたよね」

アーニャ「ずっと、硬くて熱いままでしたし……、最後も、あたしがいっぱい舐めてあげたら沢山出してくれましたしっ」

王子「おいおい、やってる最中は結構大変だったんだぞ? まあ、アーニャが悦んでくれたならいいんだが」

アーニャ「嬉しかったですよ。でも、王子さまもあまり我慢しないでいいんですからね?」

アーニャ「何度達したって……あたしが、ちゃぁんと受け止めてあげますから♪」

王子「はは。そんなときに、俺に遠慮する余裕が残ってるかな?」

アーニャ「えへへ……。王子さま、おやすみなさい」

王子「ああ。おやすみ、アーニャ」

王子(そうさ、アーニャ。お前と交わるのは、いつだって、どんなにしんどくたって気持ちいいし嬉しいさ)


王子(それでも、このままじゃ駄目なんだよ)


王子(さっきだってそうだ。あんなに盛り上がったというのに、実際にイケたのは最後に口でしてもらった時の一回だけ……)


王子(心は熱を持てても、体がそれについていけないんだ。今のままでいたら、遠くない未来に俺は本当に壊れてしまうかもしれない)


王子(だから、もう……。俺は…………)

覚醒王子「ついに、アイギス様のお力を借りることになってしまったか……」

覚醒王子(戦以外では決して身に着けることはないだろうと思っていた、アイギス様の加護が宿ったこの武具を……女の子一人鎮めるために使おうだなんて)

覚醒王子「……こんなザマをご覧になったら、アイギス様はどう思うんだろうな……」





??「恐らく、純粋に嘆かわしいと思うのではないでしょうか。……はぁ」





覚醒王子「鍵をかけていた俺の執務室に出入りできるとは! なにやつ!?」

アンナ「私です。甲冑の物々しい音が聞こえてきたから何かと思えば、まさか王子がそんな恰好をしているとは……」

覚醒王子「言うなアンナ。これはもう人間と竜人、男と女、俺とアーニャ、互いの存在を賭けた戦いなんだ。全力を尽くさないわけにはいかないのさ」

アンナ「何が存在を賭けた戦いですか。……恐れながら申し上げますが、今の王子が賭けていらっしゃるのはつまらない意地なのではないですか?」

覚醒王子「なっ、なにを」

アンナ「違いますか? ご無礼を承知で申し上げると、私には、今の王子はひねた形でアーニャさんといちゃつこうとしているようにしか見えません!」

覚醒王子「そっ、そんなこと……! 幾らなんでも、遊びやいちゃつくためなんかにこの武具を持ち出すわけがないだろう!」

アンナ「……!」

アンナ「ではお聞きしますが、仲睦まじい女性を説得するためにそのようなものを持ち出す男性が、この国で王子をおいて他にいらっしゃいますか!?」

覚醒王子「うっ。……しかし、そうでもしないとアーニャは」

アンナ「王子。貴方はアーニャさんをどう思っておられるのです? 強引な誘いを受けるのが本当に嫌なら、一度や二度の失敗があっても誠意と言葉を尽くすべきではないのですか? 王子は、今のアーニャさんがそれほどまでに聞き分けのない方だとお思いなのですか?」

覚醒王子「……っ、うるさいな。アンナは、傍から見ているだけだからそう言えるんだろう?」

アンナ「! ……そんな、」

覚醒王子「勘違いしないでくれ。アンナは一番長く俺の側にいてくれたんだし、そんなアンナだからこそ、俺の心情に配慮しながら率直な意見を言ってくれることはありがたいと思っている」

覚醒王子「だが、俺はもう限界なんだ! アーニャのしつこい求愛に構って、構わざるを得ないような状況を作られて……。たとえ無様に思われようと、そんなことを考える余裕も持てないんだよ!」

覚醒王子「そもそも、アンナたちこそどうして俺とアーニャを放っておいてるんだ! 俺たちに遠慮しているのかアーニャの力を恐れているのか知らないが、そっちこそ、誰か彼女に文句の一つでもぶつけてやったらどうなんだ!!」

アンナ「! そ、そんなこと……! ぅ……っく、ぐす……」

覚醒王子「!」

覚醒王子「……た、頼むからこんなときに泣かないでくれ。そうされたら、俺は何も言えなくなってしまう……」

アンナ「ぅぅっ……。……すみません、王子」

覚醒王子「いや……怒鳴ったりして悪かった。今のは、俺があまりにもみっともなかったよ」

アンナ「……いいえ、王子は間違っていません。アーニャさんのこと、私たちのこと、その中心にいらっしゃる王子自身のこと、全部貴方がおっしゃった通りです」

アンナ「私の配慮が至らなかったことをおわびします。……すみませんでした、王子」

覚醒王子「…………」

覚醒王子「その、なんと言うか……俺は大丈夫だから。ああは言ったけど、アンナの言う通りイチャイチャしにいくようなもんだからさ」

アンナ「……王子、無理をなさらないでください。私も、そうさせないように努力しますから」

覚醒王子「でも」

アンナ「先に挑発したのも、悪口を言ったのも私でした。言い訳ではありませんが、その……私にも、今まで溜め込んでいた鬱憤というかなんというか……本当にすみませんでした!」

覚醒王子「もういい。アンナがそんな思いを抱いたのも、俺がアーニャを拒めなかったことに責任があるんだからな」

アンナ「うぅ……。でも、女神様の武器と防具を今回のことに持ち出すのは本当におやめください。王子が大変なのは重々承知ですが、それらは決して私事に利用してはならないものだと思いますので……」

覚醒王子「……ああ、その通りだな。何か、他の手段を考えることにするよ」

アンナ「ところで王子。王子は、あれらを身に着けたとしても全力のアーニャさんに勝てるとお思いなんですか?」

覚醒王子「そ、そりゃあ勝てるさ。剣と鎧が普段のそれに比べて格段に強くなっただけじゃなく、アイギス様の加護を借りればいつもの2倍3倍もの力が出せるんだぞ」

アンナ「ですが、アーニャさんの《クラウ・ソラス》は周囲を斬り刻む魔法の剣技ですよ?」

アンナ「王子がアイギス様の剣を打ち込むところまで接近できたとしても、それまでに身体が保つでしょうか?」

覚醒王子「そ、それは……。……たとえ十分な状態で距離を詰めることが叶わなくても、俺の全霊を込めた一刀を叩きこみ続ければ……」

アンナ「本当の本当に大丈夫なんでしょうね? そもそも、アーニャさん自身非常に防御力が高いですし……」

覚醒王子「だから大丈夫だって! いざとなれば、アーニャが《クラウ・ソラス》の力を解放してる間は逃げ回っていればいいんだからな」

アンナ「……それ、王子が女神様の加護を借りているときのアーニャさんにも同じことが言えますよね?」

覚醒王子「oh...」

覚醒王子「……真面目な話、国を背負うべき立場の俺が、軍に自分より強い者を置いてるってどうなんだろうか……」

アンナ「ま、まあ。為政者としては当然のことですから」

覚醒王子「それでもなぁ……。仲間の力を借りてはいるけど、自らの手で王国を取り戻してきたっていう自負もあるし」

アンナ「まあまあ。王子の強さは、戦以外の場面でも十分に役立っていらっしゃいますよ」

覚醒王子「たとえば?」

アンナ「……先ほどの私のように、荒れてしまった女性でも優しくなだめてくれたり……とか? その優しさも、王子の強さの源ではないでしょうか」

覚醒王子「……優しさか。なんというか、いまいち実感のない言葉だなぁ」

アンナ「うふふ……」

アンナ「それより、早くそれぞれの持ち場に戻りましょう。私も王子も、あまり長話のできる立場ではないですし」

覚醒王子「ああ、そうだな。とりあえず、この武具も外して……と。さあ、部屋から出よう……」ガチャ





ハンゾウ「…………」トビラニミミアテー

カゲロウ「…………」トビラニミミアテー

セシリー「…………」トビラニミミアテー

モーティマ「…………」トビラニミミアテー





王子「…………」

アンナ「…………」

アンナ「あ、貴方たち何してるんですか!! 盗み聞きのような真似をして恥ずかしいとは思わないんですか!?」

ハンゾウカゲロウ「「申し訳ない。ただごとならぬ雰囲気を感じとり、実際に口論が行われていたようなので王子の身に何かあるのではと思い、つい……」」

王子「百歩譲って忍者の二人は許すとして……。そっちの二人は、まさか盗み聞きしていたなんて言わないよな? な?」



セシリー「……私は何も聞いていない」タッ!

モーティマ「! 一人だけ逃げやがって! ちくしょう、俺も……」



王子「そうはいくか!」ガッ

モーティマ「ぐぅっ!」

王子「……何をどこまで聞いたか、正直に吐いてもらおうか」

モーティマ「ほ、本当にそんなつもりじゃなかったんだぜ? ただ、忍者のやつらも言ってるようにデケェ声が王子の部屋から聞こえてきたから、何かあるのかと思ってよぅ」

アンナ「すると、口論を始めたあたりから野次馬が集まり始めたというわけですね?」

王子「なるほど。あの部屋も作戦会議なんかに使うことがあるわけだし、これからは防音性を考慮しなくてはならないな」

ハンゾウ「拙者は一部始終を見ていましたが……いえ、お話が一から十まで聞こえたわけではないのでご安心ください。ですからアンナ殿、そんなに怒らないでいただきたい。非常にすまないことをしたと思って……ア、アンナ殿! ちょっ、誰かアンナ殿を止めてくだされ!」

ハンゾウ「ゴホン……。拙者が見たところによりますと、野次馬が集まりだしたのはご想像の通りお二人の声が荒ぶる前後でした」

カゲロウ「……」コクン

ハンゾウ「何やら物々しい様子で執務室にお入りになった王子を気にかけたのか、我らと同様に扉の前で聞き耳を立てていた方もいましたな」

王子「そうなのか?」

ハンゾウ「ええ。特に王子とアンナ殿の声が響いてからは、今ここにいる者以外で部屋の側に来られた方も少なくありませんでした」

カゲロウ「大体の者は口論が収まるとすぐに去っていったがな……。無論、声を気にして足を止めただけの者も多かったが」

王子(そんなに沢山の人が聞いていたのか……)

アンナ(……なんてこと!)

モーティマ「ま、俺様は声が聞こえてから最後まで居座っちまったがな! はっはっは!!」

アンナ「そんなことは訊いていません」

モーティマ「だから悪かったって。それより二人とも、口喧嘩だか痴話げんかだかは大丈夫なのか? こうして仲良く話してるってことは、ちゃんと決着ついたんだよな?」

王子「ああ、それに関しては大丈夫だ。……にしても、相当大きな声で響いていたんだな」

モーティマ「いや、そこまでうるさいもんでもねえよ。というか、王子の大声があんまり珍しいもんだから聞き耳立ててたってやつもいたんじゃねえか?」

ハンゾウ(むしろそちらの方が多数派であったと思うが……)

カゲロウ(面白そうだし、黙っておこう)

モーティマ「……それよりよ、王子。あんたたち、例の竜姫さんのことで喧嘩になったんだよな?」

王子「ああ。そうだが」

モーティマ「忍者のやつが言ったように、話の内容が全部聞こえたわけじゃないけどよぉ」

王子「歯切れが悪いな。なにが言いたいんだ?」

モーティマ「その、なんだ。『もう限界だ』とかなんとか、不満やら文句やらでどうこうとか言ってただろ? ……あれは、まずかったと思うぜ」

王子「? ……それはどういう……」

アンナ「! ……ハンゾウさん、アーニャさんが去っていった方向はどちらですか!?」

ハンゾウ「あちらでござる。……すみませぬが、どこへ走っていったかまでは……」

王子「!! ……おい、まさか」

アンナ「王子、今すぐ行ってあげてください! 王子の分の仕事は私が「わかった!」





モーティマ「……ったく。女にモテるってのも、気楽なことばっかじゃねえなぁ」

ハンゾウ「王子……。ご武運を……」

王子「アーニャ!!」


王子「アーニャ! どこだ! どこにいるんだ!」


王子「なあ! さっきアーニャが走っていったのを見なかったか!? ……そうか、すまない」 


王子「アーニャを探してるんだ! 見たことがあったら……わかった! ありがとう!」


王子「クソっ……アーニャ! アーニャ!!」

走って、走って、走って……。こんなに走ったのは、王都から逃げ出したあのとき以来かもしれなかった。

王子の俺に、女のため……まして痴話げんか解決のためなどで走り回っている暇もないのはわかっている。それでも、俺は時間の許す限り兵舎や街の中を走り続けた。

アーニャを尋ねて回る中で、近ごろ話す時間をとれなかった人々と話を出来たことや、疲労が幸いして夜にぐっすり眠れたのはケガの功名といえるかもしれない。

しかし、俺が最優先していた目標は果たすことができず。

結局、その日のうちにアーニャと会うことは叶わなかった。

ヴァレリー「気にするなとは言わないが……あまり考えすぎるのもよくないと思うよ。年長者としては、ね」

王子「すまない、ヴァレリー。くだらないことで気を遣わせてしまって」

ヴァレリー「いいのさ。くだらないことだからこそ、頼ってもらえるのが僕には嬉しいよ」


アーニャが俺の前から姿を消した数日後……俺はヴァレリーに今回の件について相談に乗ってもらっていた。酒場で呑んでいると、向こうの方から声をかけてきたのだ。

アーニャの問題は軍中にもそこそこ知れ渡っているようだったし、軍の中でも付き合いが長い彼は、俺のことを呆れつつも心配してくれているのかもしれなかった。


ヴァレリー「王子はもちろんだが、僕が心配していたのはアーニャの方さ。てっきり、王子が彼女が竜人であることについて心ないことでも言ったのか、とね」

王子「……そうか。ヴァレリーは……」


ヴァレリーは、強力な力を行使できるが故に迫害を受けたという経験を語ってくれたことがあった。

こうした辛い話は治癒士や魔法使いにつきものだが、転生を繰り返し常人よりも遥かに長い時を生きてきた彼は、それだけ多くの苦しみを味わってきたのだろう。

そう考えると、彼がアーニャのことを心配するのも頷ける話であった。

ヴァレリー「魔物との戦では、変わらず出撃して剣を振るってくれるんだろう? なら、あの子もきっと王子のことを受け入れてくれるはずさ」

王子「だが、アーニャは俺と視線を交わしたり言葉を交えたりするのを拒んでくるんだ。戦場ではいつも通りなだけに、正直堪えるよ」

ヴァレリー「……きっと、彼女は君に関わることを恐れているんじゃないかな」

王子「は?」

ヴァレリー「これは推測だけれど……彼女は、自分が王子に迷惑をかけているのだと、他ならぬ王子自身の言葉で知らされたのが辛かったのだと思うよ」

ヴァレリー「あるいは、王子と会話することが、仲良くすることが他の女性陣を苛立たせるのではないかと思っているのかも……」

王子「……なるほどね」

ヴァレリーの言うことに首肯する。

確かにアーニャのような境遇にあった者ならば、他人の怒りに敏感になるのも納得できる。差別的扱いを受けたことで攻撃的になる者も珍しくないが、少なくともアーニャはそうではないはずだ。

これまではその反動で俺に積極的だったが、今回のことで内省的な気質が前面に出てくるようになった……ということなのだろうか。


ヴァレリー「少なくとも、嫌われたわけではないと思うのだけどね。今回の件で君が嫌われたら、僕は全面的に君に同情してしまうよ」

王子「ありがとな。どちらに責があるかの話はともかく、これから俺はどうしたらいいと思う?」

ヴァレリー「彼女の心を時間が癒してくれるのを待つべきだろうね。……しかし、こういう答えを君は望まないだろう?」

王子「そうだな。みんなに気を遣わせているのもあるし、できるだけ早く解決したいのが本音だ」

ヴァレリー「互いに話をして、誤解を解ければそれがいいのだけど……」

王子「話をするというのが、今の段階ではなかなか難しいんだよなぁ」

ヴァレリー「……そうだね。なら、こういうのはどうだろう…………」

ヴァレリーの案に則り、俺はアーニャへ手紙を書くことにした。言葉を交わせないなら、一方的にでもこちらの言いたいことをひとまず受け止めさせようという意図があった。

内容は平易な謝罪文。加えて『会って話をしたい』『応じてくれるなら返事がほしい』という趣旨の文章だけである。

こういうときに美辞麗句を並べられたらどんなにいいだろうと思ったが、俺なりに心を込めて書いたつもりだ。

俺は文脈や文字に誤りがないことを確認し、侍女に届けてくれるよう頼んだ。


シャーリー「承りました! か、必ず間違いのないように届けますから、安心してくださいっ」

王子「そんなに気負わなくてもいいからな? グラスや皿と違って、落としても割れたりしないから」

シャーリー「だ、大丈夫です。ちゃんとアーニャさんにお届けいたしますので!」


とりあえず、今の俺に出来るのはここまでだろう。

アーニャが応じてくれるならば会って話し、応じないならば時間の流れでわだかまりが消えるのを待つ。

一抹の不安はあるが、これで俺の心配事はひと段落したのだった。

アーニャから返事の手紙が来たのは、翌日の昼間だった。


『夜、部屋で、待っています。』


部屋というのは、アーニャの自室のことだろう。

返事が来たことを喜びつつ、無事に仲直りができるだろうかと緊張してしまう。

そんな中でも時計の針はいつものように数字を刻み、そのうちに約束の時が訪れる。

兵舎に射し込む月明りを夜の帳が際立たせる中、俺はアーニャの部屋に足を踏み入れるのであった。

今回分の投下おわり 酒場での会話シーン、王子の相談相手の人選は適当でしたがヴァレリー以上にハマるキャラも中々いないのではないかと書き上げてから思いました

・・・・・・・・・・・





「……アーニャ。起きてるか?」


問いかけに応える者はいない。誰から隠れるでもないのに、俺は無意識のうちに、足音も立てず極力静かであろうと努めていた。

部屋の中には、いくつかの棚と洋服ダンス、寝具などの生活用品がある。窓際に置かれた鏡が、わずかな月光を反射しているお陰で暗闇でもそれらの姿を捉えることができた。

以前部屋を訪れた際に見たことがあるが、彼女の調度品は派手なものが少なく、粗野とは言わずともどこか野性的な意匠のものが多い。俺の目の前にあるベッドも王都にいる職人たちの手で丹念に作られたものだが、華美な装飾はほとんどなかった。

彼女の封印が解けて姿を変えた際、体のサイズも変わったことでベッドを新調する必要に迫られたのは、今でも笑いがこみ上げてくる思い出だ。

そして、そのベッドの上では、布団が若干のふくらみを見せている。


「アーニャ。いるか」


呼びかけてみたが、またしても答えは返ってこなかった。

ふと、ベッドの脚に目をやるとリボンが結びつけられているのが分かった。暗いのでわかりにくかったが、部屋の主が好みそうな清涼感のある青色のリボンだった。

部屋の隅で固定されており、かすかな月光に煌めいているのはアスカロンの鞘だろう。

現在は戦闘の武器として使われていないかの聖剣は、今は護身用の備えとして……あるいは、御守りの一種として彼女を守り続けているのだろうと思った。


「アーニャ……」


再び彼女の名前を口にしたが、やはり返事はない。

すう、とひとつ深呼吸をしてみる。

自分の寝室と比べて、どこか爽やかで、女性らしい芳香を感じさせる空気の匂い。それだけだが、これは確かに彼女の部屋の匂いだと思えた。

この空間こそがアーニャの部屋であり、住処であり、寝床であり、巣であり、拠点であり、国なのだ。

生まれ育った里を出て、俺たちの仲間となってから、彼女は俺が与えたこの空間を愛し、守り続けてきてくれたのだ。

きっと、世界のどこよりも小さな国だろう。その国を守る唯一無二のプリンセスは、まさに今その場所でうずくまっている。憧れている「王子さま」が手を差し伸べるのを待っている。

俺は、ベッドの上のふくらみに手を伸ばした。

布団をめくると、その中にはうずくまった人影がある。


「……卵でも温めてるのか?」

「そんなわけないじゃないですか!」


思わず漏れ出た一言に対する強烈なツッコミ。

真剣な話をするつもりで来たのに、今のやり取りでついつい笑みがこぼれてしまう。

アーニャの方はどうだろうか。俺は彼女を正面から見つめるために、身体を屈めて彼女へと顔を近づけた。

「アーニャ」

「王子さま……」


彼女の瞳が湛える蒼は、夜の闇と布団の厚さに覆われた暗さの中でも抵抗なく俺の目に飛び込んでくる。

それはつまり、俺とアーニャの間の距離がそれだけ短くなっているということであった。

視界を支配する蒼は涙で潤んでおり、俺の胸を揺さぶる。すぐ目の前の彼女には、俺の瞳がどんな風に見えているのだろう。


「……」

「……」


俺たちは、一言も発さないまま静かに唇を重ねた。

互いに唇を合わせるだけのキス。俺がアーニャを初めて寝室に呼び、二人で交わり、愛を語り合ったあの時のようなキスだった。


「…………」


今、アーニャは目を閉じて唇を結んでいる。

少しだけ、間が空く。その様子が変わらないのを彼女の意思と受け取り、俺は再びアーニャに口づけた。

二度目のキスも、先ほどと変わらない静かな優しいキスだ。それでも、最初のものより確かに甘い味わいを感じた。

少しだけ身を乗り出して、彼女の頬を撫でる。柔らかで、芯を感じさせるぬくもりが俺の手に触れた。


「…………」


俺は、彼女をじっと見つめる。


「…………」


彼女は、俺をじっと見つめて言う。

「すみませんでした」

「もういい」

「でも、とても迷惑をかけてしまって」

「ああ、迷惑だった。けれどアーニャはそれをやめて、こうして反省しているじゃないか」

「……はい」

「それに、嬉しかった。アーニャがあそこまで想ってくれて、求めてくれるのは」

「……本当ですか」

「嘘じゃない。……まあ、流石に身体が持たなくなりそうだったけどな……」


そこまで言ったところで、俺は冗談めかしてふっと小さく笑った。

「王子……さま」


アーニャの蒼がますます潤んでいく。

あり得ない仮定だろうが、サファイアの宝石が融解していくとすればこんな風になるのだろうなと俺は思った。


「あたし、王子さまのことが好きで、好きで……」

「あたしを助けてくれて、解放してくれて、迎え入れてくれて……愛してくれた王子さまは、あたしにとって本当に大事な大事な王子さまで」

「だから、あたし……あたし、王子さまと離れたくなくて、ずっと触れていたくて、」

「ここに来てから、その思いはもっともっと強くなって。それで、あんな風に、暴走、しちゃって」

「我慢しなきゃってわかってたんですけど、止められ、なくて。皆も、王子さまも大変だって、わかってたのに、」

「でもあたし、王子さまを抱きしめているのが、王子さまに抱きしめてもらえるのが心地よくて、気持ちよくて……」

「……っう、あう、ぅぅぅぅ~……!」


融け出した蒼は、大粒の欠片を落とし始めていた。

「ありがとう、アーニャ」


俺は、彼女の頬に触れていた手に力を込めた。


「俺をそこまで好いてくれて、一緒についてきてくれて、本当にありがとう、アーニャ」

「……ぐすっ。王子さま……」

「アーニャは、もう十分反省した。だからこの件はこれでおしまいなんだ。気に病まなくていい」

「……うっ、ぅぅ……」


泣きはらした彼女の表情は、きっとひどいものだろう。

爽やかなあの蒼とは正反対な、熱い涙と激情によって崩れて真っ赤になっているはずだ。その様がこの暗がりでよく見られないことが、彼女にとっての救いだと言えるのかもしれなかった。

だが、そんなことがなんだというのだろう。

「俺はアーニャのことが心から好きで愛しているし、アーニャも俺のことを同じように想ってくれている」

「この心に芽生えた頃から、その気持ちは変わっているつもりはないし、アーニャも俺に対する気持ちはそれ以上に強くなっていると言ってくれた」

「好きになってから、俺は俺でいたし、アーニャはアーニャでいてくれた」

「だから、それで充分なんだ。そうだろう? アーニャ……」

「王子さま……」


涙が止まった。形を崩していた蒼が、少しだけ熱情を持って俺の顔に近づいてくる。


「王子さま、ずるいです……」


アーニャの方から三度目のキスを交わすと同時に、俺たちは互いの服に手をかけていた。

「はっ……、はっ」


俺は、右手でアーニャの胸を揉みながら左の手で彼女の胸元を露わにしようと試みていた。

アーニャの寝間着は薄い生地で、この瞬間も右の手は彼女の膨らみと熱を感じ取っている。左手は、たった今胸元のリボンを解くことに成功したようだった。

アーニャが不快に感じないよう、乱暴になりすぎないように、それでも夢中で俺はアーニャの胸を触り続ける。

彼女がおとなしくしていたこの二日間安静させていた欲望も活力を取り戻していたようで、俺は下半身に痛いほどの張りを感じていた。

「んっ、にゃぅっ」


俺がアーニャの乳房に舌を這わせる一方で、アーニャは俺の唇を貪りながら同様に俺の服を脱がせようと苦心している。

アーニャと違い、今の俺はボタンもないシャツのような寝間着だった。


「んんっ。んっ、んぅ」


少しの間格闘して、上を脱がすことは難しいと悟ったのだろう。アーニャは手の動きを変え、一方を服の下から俺の胸へ滑り込ませると同時にもう一方の手で俺の股間を愛撫し始めた。

「……っ」


アーニャに触られ、思わず身体が緊張する。アーニャの指が動くと共に、それは一層硬度と熱を強めていった。


「ふ……ふふっ」


妖艶な笑い声を発すると、アーニャは舌で俺の口内を蹂躙する。


「んん……ぷっ、ちゅぶっ、ちゅっ」


ディープキスを続けながらも、彼女の手は俺の胸と、肉棒を擦ることをやめない。

俺は考えることをやめ、それ以外のことを忘れるかのように露わになった彼女の胸を揉み続けた。

「王子さま……」

「あ……」


アーニャの舌は俺の口元を離れ、その下の首筋へと落ちた。

その舌は表皮の上から俺の神経を刺激し、敏感な部分を的確になぞっていく。


「……んっ。おぃし……」


俺の汗を舐めてつぶやくアーニャの舌は、温かさと生温さと冷たさとを数瞬の間にもたらす淫靡の象徴であった。

まるで味見でもされているかのような感覚に、頭がはじけそうになるのを懸命に耐える。

俺の中で高まる熱は、今にも爆発しそうなぎりぎりの状態だ。その中で彼女を愛撫し、愛撫され続けることは気が遠くなるほど辛く、甘美な体験だった。

俺は左手で胸を撫でまわしながら、右手でアーニャの股間に触れた。


「はっ……!」


アーニャが身体を震わせたのがわかった。人差し指で触れた陰部からは、俺と同等以上の熱と、湿度が感じられる。

その熱源を、夢中になって俺は弄り続ける。

指を立てたり、掻いてみたり、俺は一心不乱で貪るようにアーニャの秘部を撫で回した。


「おうり、ひゃまっ」


彼女の声が跳ねるのを聴き、征服欲と優越感が充足するのを実感する。

しかし、それは近付きつつある限界を誤魔化すためのブレーキにはなりえなかった。

「なあ、アーニャ」

「はい」

「そろそろ……」

「……はいっ」


横向きで向かい合っていた体位を変え、俺は膝で身体を支えてアーニャの上に覆いかぶさる格好になる。

俺は膝立ちで、アーニャは寝ころんだ状態で、互いに正対しようとしていた。

「何度見ても、アーニャの身体は綺麗だな」

「王子さまに、何時までも見続けてもらいたいですから」


俺は上着を脱ぎ、アーニャは下着を解いた。


「王子さまのお身体は、傷だらけです。……でも、そのひとつひとつが愛おしくてたまりません」

「その一言が……ひとつひとつのアーニャの言葉が、俺にはとても愛おしい」


俺は下着を捨てて、少しだけ夜の冷やかさを感じた。

上半身をほぼ露わにしたアーニャも、似た感覚を感じているのかもしれなかった。

「……アーニャ。いくぞ」


完全に裸となった俺は、硬度を保ち続ける己の分身に手を添えてしかるべき方向へ狙いを定める。


「……きて」


聞くが早いか、俺はアーニャの最奥に自身を潜り込ませていた。

「……ぅっ、くっ」


アーニャの中はあたたかった。この数日で幾度となく味わい尽した彼女の秘所は、この瞬間にも俺の感覚を犯し尽くそうとしていた。


「はぁ……っ」


その吐息が、手や胸を伝わる彼女の震えが、たった数瞬でどれだけ俺の心を高め、苛んだだろうか。

挿入と同時に俺は神経を肉襞に埋め尽くされ、柔らかな満足感と蠱惑的な熱量に責め続けられていた。

「アーニャすまん、もうっ」


ぎりぎり。本当にぎりぎりの崖っ淵に立たされた気分で俺は告げた。


「お前の中が、気持ちよすぎて……っ。入れてすぐで悪いけど、いってしまいそうだ……」

「王子さま……」


短い呼びかけから続いたアーニャの言葉は、貼りついてくるような粘り気と、背徳的なな心地よさとを伴って俺の耳に届いた。

「受け止めます。あたし。王子さまをぜんぶ受け止めるから。好きなだけ……」

「ア……ニャ…………」


快楽の熱波で朦朧とした意識の中、俺はアーニャの甘い言葉に聞き入っていた。


「いーっぱい、好きなだけ。あたしの身体で、好きなだけ気持ちよくなってください、王子さま」

「あたし、王子さまのことが大好きですから。いつでも、いつまでも、愛してますから」


アーニャが両足を俺の腰に絡めてきているのが分かった。

その所作から、俺の全てを受け止めるという言葉が嘘でないことが伝わってくる。


「だから、好きなだけ出してください、ぜぇんぶ、あたしが受け止めてあげますから……」


正常位のまま俺を見上げるアーニャが、下から手を伸ばす。

彼女は温かさと慈愛とを込めた手で俺の肩を抱き、そして、こう言った。


「王子さま。どうぞ、いってください」





「あ…………」

「……アーニャっ!」


俺は身体を震わせ、身体中の末端から熱が放出されていくのを感じ取った。


「アーニャっ……! アーニャ……っ!」

「アーニャっ……うっ……!」

「アーニャぁ……っ!」


俺の中のすべてを抱いた白い濁流、そのすべてが彼女の中に注ぎ込まれていることがすさまじい快楽と共に俺の脳に伝わっていた。

「アーニャ、アーニャ……っ!」

「アーニャ……好きだ……!」

「アー、ニャ……。アーニャぁ……!」


それ自体は一瞬で終わったにも関わらず、彼女の中に精を放ったことによる悦楽は永遠に等しいものを俺の中に残そうとしていた。


「アーニャ、アーニャ、アーニャ……」

「アーニャ、アーニャっ……!」

「アーニャ……好きだ……っ!」


アーニャの胸に抱き締められながら、俺は自分でも意識しないまま稚拙な愛情表現とアーニャの名前を何度も何度も繰り返した。


「王子さま……」

「アーニャ……」


抱き締められた格好で、どれだけ時間が経っただろう。

俺は、アーニャの胸に顔を埋めながら飽きることなく彼女の名前と愛の言葉を口にし続けていた。アーニャは、先ほどの宣言通りそれらを全て受け止めた上で俺を抱き続けてくれている。


「アーニャっ……アーニャっ……!」

「王子さま……」

「アーニャ、好きだっ……。大好きだ……っ!」

「あたしもです、王子さま。……愛しています」


アーニャの手や胸から伝わる仄かな熱と、己の分身を包む彼女のあたたかさに甘え、俺はそのままアーニャの身体に触れる幸福感を味わい続けるのだった……。

「うふふっ。……出ちゃいましたね? 王子さま」

「ああ……」


言いながら、俺は小さくなったペニスを膣口から抜き出し、アーニャの上に覆い被さっていた身体を布団とシーツの上に投げ出した。


「……気持ちよかったですか?」

「もちろん。……よかったよ」

「えへっ。嬉しいなぁ」


心の底から嬉しそうにつぶやくアーニャの声を聞くと、胸中に、にわかに多幸感が湧いてくる。

横向きでベッドに向かい合ったまま、アーニャの顔を見る。彼女の美しい瞳が、暗がりでもはっきりと目に映った。

「……ね、王子さま」

「なんだ?」

「その…………」


アーニャが口を開きはしたものの、その声音は尻すぼみに小さくなっていく。

「なあアーニャ、どうしたんだ」

「…………」

「遠慮しなくていい。なにか、言いたいことがあるんだろう?」

「……だって、恥ずかしい……です」

「ふっ」


思わず笑ってしまったのは、その感情に俺も心当たりがあったからだ。

臆面もなく愛の言葉を口にしながらも、母親に甘える赤ん坊のようにアーニャに身を預けた先ほどの行為を思い返すと、いかんともしがたいむず痒さを覚えてしまう。

「そうじゃなくて……」

「じゃあ、なんなんだ?」


そう言うと、俺は自然にアーニャの頬を撫でていた。

無意識的にとも言うだろうか。とにかく、アーニャに自分の愛情を伝えると共に、彼女の抱く不安を和らげてやりたい気持ちがあった。

そんなことを考えていたせいか、俺はアーニャの問いかけを聞き逃してしまっていたた。


「……も、ですか?」

「? ……ああ、すまん。もう一度言ってくれ」

「ですから、その……」




「もう一度、王子さまとしてもいい……ですか?」



思わぬ問いかけに、うかつにも俺は言葉を失ってしまっていた。


「……や、やっぱり、難しいですよね。……ごめんなさい」

「いや……」



アーニャが『恥ずかしい』と言っていたのは、このことだったのだ。

元をただせば今回の問題が起こったのは彼女からの過剰なスキンシップによるものであったし、それらを乗り越えてから互いにあれだけ盛り上がった後で二度目を要求するというのは、彼女にとって素直には口にしがたいことだっただろう。

とはいえ……。


「ここでそのまま断ったら、男がすたるよな」

「へっ?」

「アーニャ、そんなに恥ずかしがるな。それがアーニャの素直な気持ちなんだろうし、そのことで負い目を感じる必要なんてない」

「そうですけど……でも、」

「でももなにもない。アーニャがしたいっていう気持ちが自然なものなら、いま俺が抱いてる、アーニャと交わりたいという気持ちも自然なものだ」

「王子さま……」

「アーニャ。お前がしたいって言うのなら、俺は全力でその思いに応えるよ」

「……っ!」

アーニャが身を震わせているのがわかった。できれば、それが喜びに類する感情によるものであって欲しいと俺は思った。

今の言葉は、彼女の気持ちを和らげると同時に二回戦へと盛り上げてやりたいと思ってのものだったが、まさか泣いてはいないだろうか……と、少し不安になる。


「泣いてません。……でも、王子さまのお言葉は嬉しかったですし……ちょっとだけ、泣きそうになりました」

「そ、そうか」

「……でも、本当にいいんですか? 本当の本当に……?」

「ははっ、疑い深いな。ここまで言ったんだから、大丈夫さ」

「えっ!!」

「……って、本当は言いたいんだがな……」

今しがたまで、それも最近にはないくらい高まったのもあって、正直俺の欲棒はダウンしかけているというのが現状である。

彼女をその気にさせた手前もあるし、無論なんとしてでもやる気を復活させたい気持ちではあるが……。


「だったら、あたしが頑張りますね」


言うが早いか、アーニャは瞬く間に布団の中へ潜り込んでいく。


「アーニャ? ……ぉうっ」


気付いたときには、情熱的な彼女の奉仕が始まっていた。

アーニャの舌は、最初にペニスの鈴口をなぞった。

柔らかくなっている竿が握られているのがわかると同時に、先端から根元へかけて、生々しく、ぬめつくような熱が中っているのを感じた。


「……っ。……っ、っ!」

「むっ、ぅ……く」


彼女の舌は独特のリズムで、的確に俺の分身を責めてくる。

その感触に、俺は何故だかトカゲのような敏捷な爬虫類のイメージを想起していた。

しかし、この熱さは爬虫類からは決して感じえないものだ。

「んむっ。……っん、……っ」

「アーニャ、これ、なんだか変だ……!」


ただの快楽とは違う、気持ち悪さと紙一重になっているかのような不安定な気持ちよさ。

感覚の奔流が激しすぎたためか、気付けば俺は目をつむっていた。

より一層の視界の暗さに殊更思うことはなく、それ以上にアーニャに征服されているかのような感情が俺の胸に宿った。


「……っ、ちゅばっ」

「……!」


俺のペニスは、アーニャの口内に呑み込まれた。

熱く、激しい触感が俺の感覚を支配する。彼女の手による、袋に対しての小刻みな愛撫もその感覚を助長していた。

「んくっ、んっ、ん、んっ、むっ……っちゅ」


アーニャの唇は、規則正しく激しいリズムで俺のペニスをなぞった。

膣に出し入れしてるときと似ていて、それでいて全く違う熱感に惑わされる。

アーニャの口技が演出する感触は言い様のないものであり、彼女によってペニスそののものが吸い上げられ、引き戻される感覚はまさしく俺の性欲を引き出すためだけのものであった。

アーニャの奉仕は続く。


「んっ。……ちゅっ、ちゅっ、ちゅば、ちゅっ、ちゅぶっ」


唾を多く含んだことをうかがわせる、この淫猥な音もアーニャの計算の内だろう。

まさに彼女の思惑通り、興奮とともに俺のペニスの硬度は高まっていくのだった。

「……ん。……っ、ん……」

「……っぁ!」


瞬間。忘れかけていた、爬虫類を思い起こさせるあの独特な感触が俺を襲った。

目を開けると、アーニャが再び舌先で鈴口を弄り始めていたのであった。


「んっ、んっ、っ…………」

「アーニャ……なんていうか、すごいな、お前…………」

「えへへ。じゃあ次は……いったん、こうしてみましょうかっ」


アーニャの指が、ペニスを囲うのに的確な輪形を作っていることを俺は肌で感じ取った。

アーニャの握力は、一般女性と比較するとかなり強い方だろう。が、その手は優しく、それでいて確かな熱と圧力を伴って俺のペニスを包んでいた。


「ほらっ、これ、気持ちいいですかっ!?」

「うぁっ! ……ニャ、これ、やば……っ」


アーニャの手は容赦なく動き、ペニスに射精を促した。

ちゅこちゅこと淫猥な音を立てる手技が、フェラチオよりも強く、優しく締め付けてくるような圧力を以って俺の快感を強めていく。

思わず、俺は身悶えするかのような動作でシーツを掴み、視界を閉じていた。

そうして完全な暗闇に身を委ねたとき、下半身に加えられる刺激は更に強まった気がした。

俺は次第に、自らの分身がアーニャの手に握られているということ、それ自体がとてつもない快楽であるという思いに支配されていくのであった。

「すっごく硬くなってるのがわかりますよ。……王子さまぁ。気持ちいいですか?」

「ああっ、いい。それいいぞ、アーニャっ」

「ふふ……」


閉じていた目を開ける。

アーニャの声は聞こえるものの、表情は布団の影に隠れて見えないままだ。

それが却って俺の性感を高めており、また、彼女が言葉を発したり、呼吸をしたりする際の吐息すらも俺の性欲を高めていた。


「確かに固くなりましたけど……もう少し、かなぁ」

「ぁぁ……。好きに、してくれ…………」

「……はい。好きにしますねっ」


アーニャの口唇が、またも俺のペニスを包んだ。俺は再び目を閉じる。

「んぷっ。……こえ、ぷ はっ。……んっ、おうりさまの、…………ちゅ、ちゅ……おひんひん、たべてるみらいれ…………むっ、…………ふき、らんれす……!」


俺のペニスを口に含みながらの舌足らずな言葉が、ますます俺の興奮を加速させる。


「アーニャ…………、いやらしい、な……」

「はひ……。……んっ、……ちゅぶっ、いやらひいあたしは、ひらい、でふかぁ? ……ちゅぷ」

「嫌いなわけ……ないだろっ! むしろ、好き……だ、ぅっ!」

「んん……ちゅっ、うえひぃ…………ちゅっ」


瞬間、熱が俺のペニスを離れていったのがわかった。

吐息の音が近くなっているような気がして、ふと目を開けると、そこにアーニャの顔があった。

「王子さまっ。……元気に、なりましたね……」

「あぁ。アーニャが上手だったから、な」

「えへへ……。王子さまにしてあげるときは、どうすれば気持ちよくなってもらえるのか、いつもあたしなりに考えながらしてきましたから……」


その勤勉さには感銘を受けるが、それが却って俺の身体に無理を重ねさせることに繋がっていたことを思うと、皮肉めいたものを感じてしまう。


「それで、王子さま…………大丈夫、ですか?」

「おう。アーニャが頑張ってくれたしな」

「そんな……。あんなこと言いましたけど、結局あたしはあたしのために王子さまにしただけで……」

「俺も、アーニャに応えたいって言っただろう? どっちのためにしたことだろうと、お陰で俺は復活だ」

「王子さま……」


そう話している間にも、アーニャの手が俺のペニスを愛撫し続けているのは……。果たして彼女の奉仕精神によるものなのか、或いは肉欲によるものなのか。

どちらが真実かは少し気になるが、いずれにせよそれが微笑ましく思えたのは確かであった。

「じゃあ、あの……元気になりましたし……。……挿入れます、ね」


アーニャは愛撫していたペニスを握り直し、俺の身体の上に跨った。

先端が彼女の性器に触れる。次の瞬間、俺のペニスは彼女の中に潜り込んでいた。


「んっ……」

「っく……!」


騎乗位。

その体位で二度目の行為に及ぶことを、俺も、アーニャも、まるで予めそうと決められていたかのように自然と受け入れていた。


「王子さまぁ……っ。王子さま、王子さま……っ」

「っ、っ……!」


アーニャの重みが、俺の身体にのしかかってくる。

体格では大幅にこちらが優っているとはいえ、竜人の身体能力によって生み出される俺への荷重はそれ相応のものがあった。

しかし、そんなものが苦になるはずもない。

「アー、ニャっ……。気持ちいい、ぞ……」

「王子さまっ! あたしも、あたしもぉ……っ!」


二回戦にあたって俺はアーニャの性器に手で触れていなかったが、結合部から微かに聞こえる水音から察するに彼女も充分に興奮してくれているようだ。

それに気をよくした俺は、腰に跨るアーニャを見ながら重力に逆らうようにして腰を振り始めた。


「あんっ、あぁっ! 王子、さまはぁ……動かなくて、いいです、から……ぁんっ」

「でもっ、こっちの方が、二人ともいいんじゃっ、ないか!?」

「そうですけど、……あっ!」

上にまたがった相手が上下運動を繰り返してる最中に下から突き上げるのは簡単ではない。

しかし、一度呼吸を合わせて腰の動きを同調させることに成功すれば、それによって得られる快感を倍加できるのが騎乗位の醍醐味だった。


「王子さま、お願いですから、腰振らないで、くらさいぃぃ……!」

「アーニャ、リズムが乱れて……」

「で、ですから、っぁ……」


息も絶え絶えになりながら、アーニャは動きを止めるように願う。

それを見て、なおこの動きを続けてやりたいという悪戯心が芽生えてしまう。

が、すぐにアーニャが腰を動かすのを止めたため、流石の俺も行為を中断することにした。

「あたしがわがまま言い過ぎて、迷惑かけちゃったから」

「そのことはもう……」

「でも、今こうしてるのも、あたしのわがままですから……」

「だから、今だけはあたしが王子さまに楽をさせてあげたい、って……。…………ダメ、ですか?」


そんなわけないだろう、と言いたくても口に出せなかったのはなぜだろうか。

また、これも自分ではわからないことだが、この瞬間、気付かぬ内に俺はアーニャにキスを求めていた。

「んっ……」

「む……。……アーニャ、好きだ」

「へっ? あ、あたしも大好きですけど、どうしてこのタイミングで……?」

「なんでだろうな……。とにかく、自分でもなぜかわからないけど、アーニャのことが愛おしくなった……」

「……っ! 王子さま……!」


今度は、アーニャからキスをされていた。

舌を相手の口に入れるディープキスでも、相手の口唇を舐め上げる獣のようなキスでもない、シンプルなフレンチキスだ。

だがそれは、同時に「シンプル」の一言では済まされない何か、言い知れぬ情感の込められたキスだった。俺は、アーニャの中に侵入している分身がより硬くなるのを感じた。


「……動きますね」

「ああ」


アーニャが体勢を確認し、俺を見詰める。

どちらからともなく、俺たちはベッドの上で手を繋いだ。


「んっ…………んっ! っふ! んっ……」


アーニャの腰使いはいやらしく、また勢いのついたもので、的確かつ情熱的に俺のペニスを絞り上げていく。

アーニャの中に引きずり込まれる吸入感と、そこから押し出されるような排出感、それらのコラボレーションによって生まれる快感は、他の誰でもない、アーニャとすることでしか得られないものだと思った。

「王子さまっ、王子さま、王子さま……!」

「ああ、アー、ニャ……っ!」

「王子さまっ。すきっ。だいすきっ、ぃ、ぅ……っ!!」

「アーニャ? ……っ!?」


不意に両手を走った痛みは、アーニャがその手を、強く握り締めていたことによるものであった。


「ごめんなさい、王子さま……。あたし、今すごく気持ちよくなって、王子さまの手、ぎゅっ! って握っちゃいました……」

「正直、痛かったぞ。……でも、アーニャが気持ちよくなれたなら、よかったよ」

「王子さま……。やっぱり、王子さまは優しいですね……」

「そうかな?」

「そうですよ。……ねえ、王子さま。聞いてくれます?」

「ん? なんだ?」

アーニャは俺に跨ったまま……互いの性器を交わらせたまま、ベッドに手を突いて俺を見下ろしている。

この短い間に、何度となく目を惹かれた蒼い瞳が今も美しく輝いている。

彼女の表情に視線を向けた恰好で、暗闇でもはっきりわかるアーニャの微笑みに思わず俺は目を奪われた。





「王子さま。愛しています」





それが、寝室での彼女らしからぬ落ち着きを伴った声色だったのもあるだろう。そのときのアーニャの言葉は、今まで耳に入ってきたどんな言葉よりも、強く、強く俺の心に刻み込まれた気がした……。





・・・・・・・・・・・

アーニャ「王子さま、本当にありがとうございました」

王子「礼を言われるようなことじゃないさ」


本心からそう答える。

予期せぬ二度目の情交に消耗したのは確かだが、それを決して後悔しない程度にはアーニャと気持ちを通じ合えたのだから。


アーニャ「……でも、王子さまがまだ……」

王子「いや、まあ。俺も二度目はまだだけど、充分によかったから……」


事実、俺は射精をしてこそいないもののアーニャの言葉と挙動とに充分な満足感を得ていた。

しかし……。

アーニャ「王子さまっ、……あんっ」クチュッ

王子「!? アーニャ、なにして……」

アーニャ「王子さま、まだ元気ですから。あたしが責任もって、最後まできちんとしてさしあげますねっ!」

王子「アーニャ、待っ……! ほんと、大丈夫だから!」

アーニャ「あと少しなんですよね!? あたしが動きますから、王子さまはそのままでいいですよっ」ジュップジュップブッチュポッ!

王子「だから待っ、腰振るのやめ…………なっ、なんでイッたばかりでそんな激しく動ける、ん、だ……?」

アーニャ「王子さまのことが、あっ、大好きですから!」ジュプ、ジュプッ!

王子「説明に……なって、な……!」

アーニャ「んっ、……それっ、それっ!」グリュグリュ

王子「アーニャ、やばい、それ本気でやばい……!」

アーニャ「どうですかっ? あたしの腰使い、上手って言ってくれましたよねっ……?」グリュリュ...ジュプジュプッ

王子「だからやばいってやば、……あっ!!!!」ビクビクッッ

アーニャ「んっ! ……ふふふっ」





アーニャ「今、あたしの中で『びくびくっ』て元気に跳ねてくれたのがわかりましたよ。王子さま……♪」

王子「あっ、あっ、あっ、あぁぁぁ……………………」

・・・・・・・・・・・





……ねえ王子さま。聞いていますか? あたし、王子さまと出会ってから今まで……本当に、本当に楽しいことばかりでした。

もちろん、痛い思いをしたことや苦しい経験だってありました! ……でも、今ではそれもひっくるめて全部、王子さまの所へ来てからの思い出として受け止められているんです。

だからあたし、王子さまに会えてよかったって。心の底からそう思えるんです。

これからも、迷惑をかけてしまうことがあるかもしれませんけど……。ずっとずっと支えていきますから。だから、ずっと一緒にいてくださいね?

最後に、その……。……先ほど言ったことを繰り返すのは、少し恥ずかしい気もするんですけれど……。

でも、やっぱりこれがあたしの中で一番正直で、一番強い気持ちですから。聞いてください。





・・・・・・・・・・・

アーニャ「王子さま。愛しています」

王子「…………」

アーニャ(寝ちゃったのかな? もう遅いし、あたしも寝よっと)

王子「…………」

アーニャ「おやすみなさい、王子さま……」チュッ

王子「…………」





王子「…………ぁ、」




王子「アーニャに愛され過ぎてつらい……」







おしまい

以上で完結でございます。読んでくださったみなさま、真にありがとうございました

結構な分量を書いたことに我ながら驚いたのですが、アイギスの二次創作はやってみたら思った以上に楽しかったです

このSSで主役に据えた王子たちはもちろん、モブ要員としてのひとことだけでも書いていて楽しいキャラクターばかりでした

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