始末屋「今日はどういったご用件で?」 (54)

鬱注意

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CASE1 夫婦

「少し、お話を聞いてもいいですか?」

今回の依頼人は加藤賢一 男性 28歳 会社員
依頼相手は妻の加藤美香(旧姓 佐藤) 女性 28歳 専業主婦

「はい…妻と僕とは、高校からの同級生なんです」

ヨレヨレのシャツのサラリーマンはメガネを直しながら語り出した

「初めてあった時、一目惚れしまして」

「高校の頃、彼女は学年でも有名な美人でした。」

「高校生の男子なんて、『性欲のカタマリ』って言うし、あの頃の僕もやっぱり顔…だったのかな。いや、でもなんか違う気がする。
そうだな、強いていうなら『笑顔』に惚れたんですよ。ちょっとクサイかな?」

少し照れ笑いを浮かべながら話を続ける

「あの時は衝撃でした…まさかこんなに人を好きになることがあるなんて…ってね」

-そう言って依頼人は目を細める-

「佐藤さん…か」

「お前、佐藤に惚れたのか?」

「ば、馬鹿言うなって!」

「やめとけって、アイツサッカー部の高杉が好きらしいぜ」

「え、そうなの…?」

「…お前、本当にわかりやすいな」

「…!…うるさい」

『あの頃の僕はそんなに目立たない学生で、一方の妻は、いつもクラスの中心で正直高翌嶺の花でした』

『でも、その頃の僕はまぁ言ってしまえばガリ勉の類で、恋愛事なんて正直二の次でした。難しい大学を狙っていたので忙しかったんです』

「加藤」

「はい」

「お前には先生達、期待してるぞ」

「ありがとうございます」

「(…!佐藤さん達がこっち見てる…)」

「(なにかしたかな…)」

『ある日、妻が告白してきて、付き合うことになったんですね。僕はさっきも言った通り、そういうことに疎かったんで、もう直ぐに夢中になってしまいました。』

「加藤クン、今日も勉強?私にも構ってよ」

「ご、ごめん。あ、明日デート行こう?」

「え、本当ー?ありがとー」



「き、今日はどこに行こっか」

「えー決めてないの?」

「ご、ごめん。あ、あのお店とかどう?」

「えー、まぁいいけど」


「なにか欲しい物ある?」

「えーと、あ、これ可愛い!」

「か、買ってあげるよ!」



「あ、ご、ごめん…お金が足りないや」

「…そっかー」

「あ、こ、これとかは!」

「可愛くない」

「ご、ごめん」

『お金も無かったですし、あとから知ったことですけど、妻はどうやら罰ゲームで付き合ってたみたいで、関係は良くなかったです。』

「寒くなってきたな…」

「誕生日、そろそろかな」

「これとか、どうかな」





「お母さん、これ、ダサくないかな」

「全然大丈夫よ、彼女さんにあげるの?」

「う、うるさいな…感想だけでいいのに」

「…あなたが心から渡した物なら、なんでも嬉しいわよ、きっと」

------

「見てよコレ」

「ダサ…なにそのマフラー」

「アイツが勝手に選んできたみたい」

「えー着けてあげなよー」



「いらない、こんなの」ポイ

「最低ー」

「うるさい」

「おい美香」

「高杉くん!」

「クリスマスの予定空いてる?」

「え、あ、空いてるけど…」

「美香、何言ってんのー、クリスマスこそ加藤クンと居てあげなよ」

「は?美香、お前まだあの罰ゲームやってたの?」

「うるさいなー。なんか別れを言うのが酷になっちゃって」

「そのくせプレゼントは捨てるのにね」

「うるさい」

「俺良いこと思いついた」


「クリスマスの日にデートに誘っといて、こっぴどくネタバラシしようぜ」

「え、それは、ちょっとやりすぎ…」

「いいねいいねー、なに?乗り気じゃないの美香?」

「まーいいけどさー…」

「じゃあその後俺の家で二人っきりな!」

「大胆すぎー。でも、美香羨ましいー」

「クリスマス?」

「うん、忙しい…かな?」

「いや、大丈夫!」

「ありがとう加藤君…!」


「どんなのあげたら喜ぶかな…」

「このネックレスとか…」

「ちょっと高いけど…喜んでくれるかな」

「へへ…」

「え…」

「だからー、美香と付き合えてんのは、罰ゲームなんだってー」

「こいつついていけてねーじゃん」

「マジ受ける」

「…」

「ほ、本当なの?美香ちゃん?」

「美香ちゃんとかきもい」

「わきまえろって」



「…あんたと付き合うわけないでしょ」

「…!」

「そ、そうだよね…はは」

「おい、こいつなんか持ってるよ」

「見せて見せてー…あ、ネックレス」

「!!…そ、それは!」

「アハハ…割と高そうなのがムカつくわ」

「か、返して!お願い!」

「海に投げ込んでやろ」

「や、やめろ!うぁぁあ!!」

「………」



「美香、俺ん家行こうぜ?」

「いいなー美香、高杉君の家」

「…」

「どうしたんだよ美香、ほら行くぞ?」

「…うん」

----------

「加藤、どうしたんだ?もう受験直近なのに、学校休みがちだが」

「なんでもないです…」

「もっとしゃっきりしろ!…先生がっかりだぞ」

『結果、僕は受験に失敗して、二流の大学に入ったんです。そこでも妻と同じ学科だったんですけど、その頃の僕は女性不信になってました』

「加藤くんって暗くない?」

「なんか馴染めないよねー、美香はどう思う?」

「……」

「加藤君」

「!…佐藤さん」

「高校のときは本当にごめんなさい。謝って済むことじゃないけど、あの日から私…心が痛くて…だから…」

「もういいんだ…僕が向いてなかったんだよ…」

「…!! なんでそんなに優しいの!?お前のせいで人生台無しだってなんで責めないの!?」

「僕が悪かったんだ…ごめん、身の程知らずだった」

「加藤君は悪くない!」

「ごめん…佐藤さん」

「謝らないで!!ごめんなさいごめんなさい!」

『後で知ったことだったんですけど、妻は後悔して、僕に謝ってもう一度やり直そうとしてたみたいなんですけど、なんせ僕は不登校になってましたので、全く会えなくて…それでも友達と縁を切って、僕の後を追って同じ大学にきたみたいなんです』



「加藤君…美味しい?」

「美味しいよ」

「加藤君…明日は何時から?起こしてあげるね」

「11時から」

「加藤君…今日はどこに行く?お金の心配はしなくていいよ」

「新宿」

「加藤君」

「加藤君」

「加藤君」

「いい加減にしろ!」

「ぇ…な、なにかした?」

「お前があまりにも必死だったから付き合ってやってたけど、正直もう限界なんだよ」

「高杉が頭から離れない!マフラーを捨てたお前が離れない!ネックレスを捨てたお前が離れない!俺の思いを踏みにじったお前が離れないんだよ!!」

「あ…ぁあ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

「お前が俺と今付き合ってんのも罪滅ぼしなんだろ?もういいんだよ!!失せろ!!」

「ちがう…ちがいます…こんな事言っても、信ぴょう性ないと思うけど…本当に…好きです…ごめんなさい…側にいさせて下さい…」

『その頃はあの頃忘れようとしていたストレスが爆発して、妻にやり返すのが生きがいになっていたんです。最低ですよね。』

「これ…バレンタインのチョコレート、です」

「…見せて」

「う…うん…どう、かな…?」

「…ビッチが作ったもんなんて、食えるわけねーだろ、こんなもん踏み潰してやる」

「え…ぁ…あ…」

「二度と作ってくんな気持ち悪い」

「ご、ごめんなさい…ごめんなさい」


「クリスマス予定空いてる?」

「え、ぁ…わ、私?」

「いまキャンセルされちまって…クリぼっちよりはマシだから」

「あ、あ、空いてます!!い、一緒に…?」

「じゃあ、プレゼント用意しといて」

「ぅ、うん!」

「何かと思えばマフラーとか、なめてんの?」

「ぇ…ぁ…ごめんなさい…でも…首元…寒そうだったから…頑張って編んだんです」

「こんなもんいらねぇよ…ちっ…お前なんかといてもやっぱつまんねぇわ」

「ごめんなさい…そんなこと言わないで…」

「こんなマフラー燃やしてやるわ」

「!!…そ、それだけは…ごめんなさいごめんなさい…許してください…やめて…」



「加藤君…お鍋喜んでくれるかな…」

「えへへ…最近料理練習してるから、喜んでくれたりして…」

「で、電話…」

「ぇ…今日…中止…」

「でも…年末は一緒に、って」

「ぁ…キモいよね…ごめん」

「ほ、他の人と…?」

「…わかりました」

「よ、よいお年を…」

「こ、今月の恋人料金です」

「…なに遅れてんだよ」

「ご、ごめんね、バイト先の支払いが遅れてて」

「知らねーよ…使えねーな」

「ごめんなさい…」



『それでも妻は、こんな最低な僕から離れないでいてくれたんです。どこかに罪滅ぼしの気持ちがあったのかもしれないですけどね。』


『気づいたら妻が、また愛しくなってました』

「クリスマス…加藤君はどうしますか?」

「他の人と…その、予定、入ってますか?」

「もう他の人と付き合うのはやめたよ」

「えっ…」

「いままでごめん…美香…また付き合おう」

「っ……ぁ…また、嘘でしょ…えへへ、もう騙されないよーだ…加藤君は嘘つきだもん」

「嘘じゃない」

「またまたぁ…もう流石に騙されないもん」

「美香」

「……嘘だもん」

「美香」

「嘘って言って!じゃないと…後で辛いから…」

「美香、いままでごめんな…美香がしたことを理由にひどいこと…」

「や、やめて…私を許さないで…許されたら…加藤君との繋がりが無くなっちゃう…」

「美香、ごめん…もういいんだ…」

「ぅっ…ぐすっ…」

「美香、ごめん…これからまた、2人で前を向こう?」

「……ありがとう…うん…」

「美香いままで本当にごめん…」

「もういいの。賢一君。お互い様ってことになったでしょ」

「うん…」

「今日は、賢一君の好きなクリームシチューだよ」

「おーすげー」

「…美味しい?」

「うん、俺、幸せだ」

「私も幸せ」

「そのまま僕達は幸せに暮らしてきたんです」

「あの、お客さん。聞いてる限り我々の仕事が関わる箇所はもう無いように思えますが」

「あ、すいません!つい昔話に夢中になってしまいました」

「まったくだよ…」

「妻が一年前、浮気したんです」

「ただいま」

「おかえりなさい」

「土下座…か」

「あなたに合わせる顔がありませんから」

「相手は…?」

「……」

「会社の上司です」

「…理由は?」

「打ち上げでお酒に酔って関係を持ち、そのまま…」

「あの婚約記念日に帰ってこなかった理由もそれか」

「はい…」

「それで、どのくらいになる?」

「半年くらいです」

「このまま…バレなければ続けようとしていたのか?」

「……」

「俺のこの8年間よりも、アイツとの1日か」

「…!」

「俺はお前にとって…ただの財布か?」

「…!!」

「結局…お前は変わらないんだな…」

「これからもそばにいたいのか?」

「貴方が許してくだされば」

「なら条件がある」

「二度と俺の前で笑うな」

「……!」

「出来ないなら死んでもらう」

「…わかりました…」

「チャンスをくれて…ありがとうございます」

『結局、人間は変われない。妻は心が弱く、僕は心が歪んでいたのかもしれません。妻が僕から離れられないのを知っていて、死ぬより辛い拷問を与えました』

「今日は…結婚記念日ですね」

「……」

「側においてくれて…ありがとうございます」

「……」

「今晩は…あなたの好きなハンバーグにしますね」

「今日は飲んでくる」

「…はい…」

「今日は…あなたの誕生日ですね」

「ご馳走…たくさん作って待ってますから」

「受付の娘と飲んでくる」

「…そうですか」

「冷凍しとけ」

「はい…」

「あなた…今日は帰ってきますか」

「まだ帰れない、インフルエンザは治りそうから?」

「はい…大丈夫です」

「そうか、じゃあ切るぞ」

「はい…」

「…」

「あなた……」

「あなた…毎日お疲れ様です」

「今日は誕生日ですね。プレゼントのネクタイです。」

「いらん。ゴミ箱に捨てておけ」

「…はい…」

「あなた…最近あまりお食べになりませんけど…」

「お前が汚れた手で作ったものだからな」

「…!…ごめんなさい」

「…」

「コンビニで、買ってきますね」

「加藤さん…あなたは重度のガンです」

「そんな…主人は…」

「お前は黙れ」

「あなた…」

「残念ながら…もう手術をしても手遅れだと思います」

「わかりました」

「あなた」

「なんだ」

「もう、終わりにしましょう」

「…そうだな」

「あの…今晩だけ…」

「今晩だけ…聞いてもいいですか…」

「なんだ」

「あなたは…私といて…幸せでしたか」

「幸せなわけがないだろ」

「お前のせいで人生めちゃくちゃだ」

「そうですよね…」

「でも…私は幸せでした」

「そりゃお前はな」

「我儘を通してきてごめんなさい」

「まったくだ」

「子供…産んであげられなくてごめんなさい」

「ほんとにな」

「最低な女でごめんなさい」

「あぁ、見事なビッチだよ」

「最後にもう一つ我儘言っていいですか」

「なんだ」

「最後にもう一度だけ…」

愛して下さい
いや愛される資格なんてない
抱いて下さい
いや抱かれる資格なんてない
キスして下さい
いやキスされる資格なんてない
抱きしめてください
いや抱きしめられる資格なんてない
触れてください
いや触れられる資格なんてない
…なら最後にせめて

「笑顔を見せてください」

「…」

「お安い御用だ」

「……」

「ありがとうございます…」

「こんなこという資格なんてない…けど」

「愛してます…」

妻の笑顔だった

「大丈夫です、約束は、破りませんから」

「つまり加藤さんは」

「はい…妻を[ピーーー]手伝いをして下さい」

「…悔いはありませんか?」

「どちみち私は永くないですし、妻の覚悟に答えたいんです」

「わかりました」






「この携帯が奥さんと繋がっております」

「死ぬのは一瞬ですけど、最後まで話してあげてください」

「…わかりました」

『…あなた?』

「美香…美香なのか…」

『あなた…私、私です』

『あなたが電話をくれたんですか』

「ああ…一つ文句を言いたくてな」

『…はい』

「お前は本当に、最低最悪な嫁だったよ。お前のせいで心に消えない傷が残った」

『ごめんなさい…』

「お前のせいで、俺の人生、堕ちる所まで堕ちたよ」

『あなた…』

「お前なんかと…出会わなきゃよかった」

「お前なんかの笑顔に…惚れなきゃよかった」

『あなた……』

「お前は最低最悪な嫁だよ」

「こんなに…人を悲しませるなんてな…」

『……』

「お前には…ひどいことされたし…してきた…」

「俺たち…世界で最悪な夫婦だよな…」

『ふふ…』

「なにか言いたいことないか?これっきりらしいからさ」


『たくさんあるよ…貴方を何回も裏切ってごめんなさい。側においてくれてありがとう。私は本当に幸せだったよ』

『だから…次の人と幸せにね』

『あなたなら…こんな最低の私と付き合えたあなたなら…きっと幸せになれますから』

『でも…心のどこかで…ぐす…私のこと…少しだけ…ほんの少しだけ…覚えていて…』

『愛してます』

「愛してたよ」

「お願いします」






グシャッ

加藤さんの依頼は終了した

「みっともないですよね…こんな最低の夫婦」

「いえ……虚飾だけ立派な夫婦はたくさんありますが」

「あなた達は今、本当の夫婦になれたように見えます」

「そういっていただけると…嬉しいです」

「…すぐに後に行くよ」

加藤さんはそう呟いて私達に礼を述べて去っていった

書きたかったものを書いただけです。自己満足ですいません。

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