【ゆるゆり】京子「曜変天目?」 (62)


(ごらく部)

京子「いやー、この前テレビのニュースで見たんだけどさ」

結衣「何をだ?」

京子「茶碗だよ茶碗。世界で3つしかなかった茶碗がもう1つ見つかったんだって!」

あかり「あー、やってたねー」

ちなつ「ああ、曜変天目が見つかったってニュースになってましたね」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482640555


京子「そう、それそれ」

あかり「ちなつちゃん、詳しいんだね?」

ちなつ「そりゃあ、私、本来茶道部志望ですもの」

結衣「ああ、ちなつちゃんはそうだったね」


京子「その茶碗、何とお値段2500万円だって!」

あかり「わぁ、すっごーい」

結衣「茶碗1つで家が買えちゃうな」

ちなつ「ふふん、曜変天目にしてはまあこんな物かって所ですけど」


ちなつ「ほかの3つは国宝ですから。もっと高いのもあるんですよ?」

京子「え?そうなの?」

ちなつ「そうですね。その中で一番高値がついた事あるのが・・・」

ちなつ「徳川家に代々伝わって、春日の局に渡ってその子孫の稲葉家に伝わっていた
稲葉天目というお茶碗ですね」

結衣「それ、いくらの値段がついたの?」


ちなつ「えーと、昔三菱財閥の総帥が当時の価格で
約17万円で購入したそうですから・・・」

ちなつ「これは、今のお値段に直したら17億円くらいらしいですよ」

あかり「ええーっ!?」

結衣「い、家どころかビルが買えるぞ!?」


結衣「な、何でそんな値段がついたの?」

ちなつ「ええ、曜変天目はもともと室町時代から星空みたいな綺麗な見た目で
最高級品として珍重されて来ましたし」

ちなつ「完品が世界で4つしかない上に今はない古代の中国の窯で焼かれたもので、
どうやって作ったのか謎で今だと作れないんです」

ちなつ「そして、徳川家が所有していたと来歴がはっきりしてて
歴史的な価値もあるからですね」

京子「へぇー、ちなつちゃん詳しいね。まるでウィキペディアみたいだ」


京子「それにしても17億かぁー。けど、ウチにもソックリな茶碗があるよ」

結衣「ああ、そう言えばそうだな」

ちなつ「え?」

あかり「本当に?」

京子「うん、ちょっと待ってね。確かこのへんに・・・」ガラ、ゴソゴソ


京子「・・・ほら、これこれ。ここ元は茶道部の部室だからさ」

京子「お茶の道具とかがそのままなんだよね」

結衣「そうそう。だから色んなもん押入れとかに入ってるんだよな」

あかり「わぁ、綺麗。それテレビでやってたのとソックリだね。これも大発見?」

ちなつ「まさか、そんなワケないよあかりちゃん」


ちなつ「曜変天目は、元々数が少なかったから全部記録が残ってて」

ちなつ「あと記録に残ってるのは足利義政から織田信長に渡ったものだけなんだよ」

ちなつ「しかも、それって本能寺の変の時に焼けて無くなちゃった、って話だし」

あかり「てことは、これって良く出来たニセモノって事?」

京子「なんだー、残念」

結衣「まぁ、そんな貴重なものウチの部室にあるワケないしな」


ちなつ「まぁ、それ見た目はすごく本物そっくりですけどね」

京子「あ、でも私知ってるよ?本物だと箱に由来とか書いてるんでしょ?」

京子「これもフタの裏に何か書かれてるけど、ちなつちゃん読める?」

ちなつ「え、ええ、もちろんですよ?(・・・見得張っちゃった)」


ちなつ「え、えーっと・・・(字が達筆過ぎて無理、読めない・・・)」

あかり「ねぇねぇ、何て書いてるの?」

京子「もしかして本物?本物だったり?」

結衣「どう?ちなつちゃん」


ちなつ「・・・山田ゴンベエさんが自分ちの庭の窯で趣味で作ったって」

あかり「なぁんだ」

京子「ちぇー、やっぱニセモノかー」

結衣「ま、そりゃそうだろな」


ちなつ「そうですよ。もしそれが本物でしたらさっき話した稲葉天目と同じか・・・」

ちなつ「それ以上のお値段がつきますよ?これは間違いなくニセモノですけど」

あかり「ニセモノかぁ。こんな綺麗なのにねー」

京子「なーんだ。これ持って『何でもかんでも鑑定団』に出ようと思ってたのに」

結衣「もし出たら、大恥かく所だったな京子」


京子「番組史上2度目の大発見かー?とかさんざん煽られて結局50円とかね」

あかり「あはは・・・。けど大事にして下さいとか言われちゃったりね」

京子「するわけないじゃんねー。もうその場で叩き割ってやるー」



京子「じゃあ、こんなニセモノなんかほっといて」ポン

結衣「ニセモノとわかったとたん扱いが酷いな京子」

京子「別にいいっしょー。じゃあ・・・これこれ」ゴソゴソ


京子「古っぽくて何だか値打ちのありそうなこの茶碗、いいものっぽくない?」

ちなつ「へぇー、これって大井戸茶碗・・・」

ちなつ「のニセモノですね。本物だったら博物館行きですよ」


京子「大井戸茶碗?」

ちなつ「ええ。戦国時代辺りに茶の湯で珍重された貴重な茶碗ですね」

あかり「曜変天目と比べたら、ずい分素朴・・・というかみすぼらしいというか・・・」

ちなつ「ふふん、あかりちゃんは物を見る目がないね」

あかり「ええっ?」

結衣(私も何だか雑で歪んだ茶碗のように見える)


ちなつ「井戸茶碗は、元々昔の朝鮮で日常的に使われるお茶碗だったんだよ」

あかり「え、じゃ、あかり間違ってないんじゃ?」

ちなつ「そこがいいんだよ。狙ってつくったわけじゃない素朴さ、飾りけのなさ・・・」

ちなつ「こういうのを、侘び寂びって言うんだよ」

ちなつ「あかりちゃんには、まだ早いかな?ふふっ」

あかり「もー、子供扱いして!あかりも侘び寂びくらいわかるよ!」


結衣「へぇー、あかりが侘び寂び・・・」

京子「似合わないよ」

あかり「真顔で言わないで!?」


あかり「あかり、子供じゃないもん!
最近、お寿司ワサビ入りで食べられるようになったもん!」プンプン

結衣「ワサビじゃなくて侘び寂びだって」アハハ

京子「やっぱ子供じゃん」

ちなつ「ふっ、あかりちゃんにはまだこの美しさが理解できないみたいね・・・」

あかり「もーっ!」


ちなつ「まぁ、間違いなくニセモノですけどそれ。こんな所に本物なんて。
何だか博物館にあるのとソックリですけどね」

京子「ちなみに、本物はいくらぐらいすんの?」

結衣「お前はどうしてそうすぐ金の話を」

あかり「見た目がそんなだし、高くても100万円くらい?」


ちなつ「そうですね。大井戸茶碗の中には国宝もありますから・・・」

ちなつ「やっぱり、数千万から億は行くんじゃないかしら」

京子「ええーっ!?そんなに?」

結衣「こ、こんなグニャッとしてみすぼらしい茶碗が?」

あかり「でも、これはニセモノなんだよね?」


京子「・・・おっ?これも箱の裏に何か書いてある!」

京子「これは、本物かも知れない!ちなつ先生、鑑定を!」

ちなつ「うむ、任せなさーい(本当は全く読めないんだけど・・・)」


ちなつ「え、えーっと・・・」

あかり「何て書いてあるの?」

京子「本物?本物?」

結衣「落ち着け京子」


ちなつ「・・・山田ゴンベエさんが孫のために粘土こねて作ってあげたって」

京子「ちぇー。また山田ゴンベエの仕業かー」

結衣「器用だなぁ山田ゴンベエさんは」

あかり「ちょっと尊敬しちゃうね」


京子「ニセモノなら、全然価値ないじゃんこんなのー」

ちなつ「まぁまぁ。見た目だけは本物そっくりですから」

ちなつ「これでお茶飲んだら、気分だけは史上最高のお茶会ですよ?」

京子「気分だけなってもなー」


京子「けどまぁ、せっかくだしこれでジュースでも飲もうよ」

結衣「そうだね。たまに使ってあげないと」

あかり「お茶碗も喜ぶね」

ちなつ「茶道具でジュースなんか飲んじゃ本当はダメなんですけど・・・
まぁニセモノだしいっか」


京子「さーて、どうせなら他のも出すか」ゴソゴソ

ちなつ「へぇー、大黒茶碗に織部焼に・・・もし本物だったらどれもひと財産ですよ」

結衣「どうせゴンベエさんが作ったんだろうけどな」


京子「じゃ、私折角だからこの曜変天目でジュース飲んじゃおう」

結衣「私はこの・・・大黒茶碗だっけ?がかっこいい黒さで気に入った」

ちなつ「じゃあ私はこの侘び寂びの井戸茶碗で」

あかり「あかり、この織部焼きって何だか面白くて好きかも」


京子「みんないい?それじゃ、かんぱーい」カチン

結衣「かんぱーい」カチン

ちなつ「ふふっ、曜変天目と大井戸茶碗で
乾杯なんてした事ある人いるのかな?」カチン

あかり「まぁ、本物じゃないけどね」カチン


京子「うーん、オレンジジュースうめぇ!」

結衣「やっぱ、いつもの湯のみで飲むのと違う気がするな」

ちなつ「本物でこんな事したら、怒られるなんてもんじゃありませんね」

あかり「ニセモノってわかってるから安心だね」


京子「そんなにダメな事なの?」

ちなつ「ええ、そりゃあもう」


ちなつ「ベタベタするからこの後洗剤使って洗わなくちゃダメですし」

ちなつ「本物だったら、もう1銭の価値も無くなってるかも知れませんねー」

京子「いやぁ、ニセモノで良かったこれ」アハハ

結衣「本物なら、こんな気軽にジュースなんて入れられないな」

あかり「あ、あはは、万が一本物だったと思うとゾっとするね・・・」


ちなつ「だから、それはありえないんだってば」

あかり「え?なんで?」


ちなつ「もし、この曜変天目が本物だったら織田信長が使ったものって事になるんだよ?」

ちなつ「記録に残ってて現物が見つかってないのって、あとはそれだけなんだから」

あかり「それもそうだね」

京子「そんなすごいの、ウチの部室になんて転がってるわけないしなー」

結衣「本物はやっぱ本能寺の変で焼けちゃったんだろうな」


京子「まぁ、ゴンベエさんが作ったって箱にも書いてあったんだよね」

結衣「間違いなくニセモノだよな」

ちなつ「え、ええ、そうですねー、うふふ」

あかり「・・・それにしても、不思議だねー」


京子「ん?何が?」

あかり「そのお茶碗って、今だと作り方わからないんでしょ?」

ちなつ「そうだけど?」


あかり「どうやって作ったのかなーって」

京子「さぁ、ゴンベエさんに聞いてみたら?」ハハハ

結衣「もしかして、ゴンベエさんは天才かも知れないね」

ちなつ「そうですねー、ははは・・・」


ちなつ「はっ!?」


ちなつ(言われてみれば、そう・・・)

ちなつ(曜変天目って、未だに再現ってできてない・・・)

ちなつ(つまり、ニセモノなんて作りようがないってこと。あるのは全部本物・・・)

ちなつ(もしそうなら、そのお茶碗、織田信長の使った本物・・・17億か、それ以上!?)

ちなつ(憧れだったヨーロッパのお城買えちゃうね。結衣センパイと私が一緒に住む用の)

ちなつ(まぁ、もし、本当に本物ならね・・・)チラ・・・


京子「さーてもう一杯ジュース飲んじゃおーっと」ドバドバ

結衣「あ、私にも頂戴」

あかり「あかりも飲みたいなー。ちなつちゃんは?」

ちなつ「キャーーーッ!?」


ちなつ「な、何て事してるんですか、17お・・・き、貴重な曜変天目で!」

あかり「ん?どしたのちなつちゃん」

ちなつ「茶器でジュースなんか飲んだら、ダメになっちゃいます!今すぐやめて!」

京子「えーなんで?ニセモノだからいいってちなつちゃんも言ってたじゃん」

ちなつ「ああ、今すぐぬるま湯につけて洗わなきゃ、センパイ早くその茶碗をこっちに・・・」


京子「みんなかんぱーい、イエーイ」カチン

結衣「おーう、かんぱーい」カチン

あかり「かんぱーい」カチン

ちなつ「キャーーーッ!?」


ちなつ「何バカな事やってるんですか!」

ちなつ「曜変天目で乾杯する人なんて、誰も居ませんよ!
史上最大のバカですよ本当にもう!」

京子「え?ち、ちなつちゃんだってやってたじゃん」

ちなつ「う、そ、それはそうなんですけど・・・」


京子「へい結衣!パス!」

ちなつ「キャーーーーッ!?」


結衣「うおっ!?や、やめろ京子、子供か!」

京子「やーい、引っかかった引っかかったー」

あかり「京子ちゃん、ニセモノだからって遊びすぎだってばー」

ちなつ「い、いいかげんにして下さい!京子センパイ、壊したら犯罪ですからね、犯罪!」


ちなつ「・・・いいですか、京子センパイ。二度はいいません」

ちなつ「茶碗を、優しく、そっと机に置いて・・・」

ちなつ「両手を、頭の後ろに回すんです、ゆっくりと・・・」

あかり「こ、怖いよちなつちゃん?」

結衣「目がマジだな!?」

京子「あ、アメリカの犯罪者か私は?」


ちなつ「いいですか、そのまま、両手は頭の後ろですよ・・・」ジリ・・・

ちなつ「少しでも動いたら、この輪ゴムマグナムが火を吹きますからね・・・」ジリ・・・

京子「そ、そんな指に輪ゴム巻いたヤツで私を狙わなくても」


ちなつ「・・・曜変天目、確保!じゃあ私、これで帰ります!」

京子「あ、あれ?もう帰るの?」

あかり「あ、みんなが使ったお茶碗どうすればいいの?」

ちなつ「そんなの、ニセモノに決まってるんだから洗剤でもかけて適当に洗っといて!」

あかり「はーい」


~吉川家~


ちなつ「ふぅ、危ない、危ない・・・」

ちなつ「傷でもつけられたら、台無しになる所だった・・・」

ちなつ「けれども、これが売れたら、17億・・・?いえ、もっと?」

ちなつ「うふふ、そうしたら結衣センパイとヨーロッパのお城で・・・。うふふ・・・」

ちなつ「まぁとりあえず、うちの茶道具しまってある所にきちんと保管しておかないとね」


(その日の夜の吉川家)


ともこ「さーて、大学のバザーに出品するうちで使ってない茶道具まとめちゃいましょ」

ともこ「・・・あれ?こんな箱家にあったかしら?」

ともこ「まぁいいわ。これと、あとこれと・・・」










(翌日の夕方)


ちなつ「・・・ない?ない!」

ともこ「ただいまー」

ちなつ「お姉ちゃん、ここにしまってあった曜変天目知らない!?」

ともこ「曜変天目?そんなの、家にあるわけないじゃない」



ともこ「その辺にあったお茶碗、今日の大学のバザーで全部売れちゃったわよ?」

ちなつ「えっ・・・」


ともこ「いい?そもそも曜変天目は、あと記録に残ってるのは
織田信長が持ってたのだけで、それは本能寺の変で焼けちゃったみたいで本物は・・・」

ちなつ「お姉ちゃんの、バカーッ!」







それから、いくら手を尽して探しても曜変天目は見つからなかった。

部室にあったあれは、果たして本物?

それとも・・・。


いずれにしても、その後あのお茶碗の行方はようとして知れなかった。

そう、曜変天目だけに・・・。


(数日後、ごらく部)


ちなつ「はぁ~、ヨーロッパのお城・・・。私の夢が・・・」

あかり「ちなつちゃん、ため息なんてついてどうしたの?」

京子「ジュースで乾杯しようよ。またこの前のニセモノでだけどさ」

結衣「私もちょっと調べたんだけど、この大黒茶碗も億ぐらいするらしいね」


あかり「え?そうなの?」

結衣「あかりの織部焼きだってそのぐらいするらしいよ?」

あかり「へぇ~、こんなカワイイお茶碗が?」

結衣「まぁ、ゴンベエさん作だからそんな価値はないけどね」


あかり「そう。けど気分だけはゴージャスになるね」

結衣「そうだね。所でちなつちゃん、本当にジュースいらないの?」

ちなつ「いえ、そんな気分じゃなくて・・・。みなさんでどうぞ・・・」

京子「そう?それならいいんだけどさ」


京子「さーて、今日はファンチアップルだー」ドバドバ

結衣「ファンチ、美味いよね」

あかり「わぁい、あかりファンチアップルだーい好き!」

ちなつ「ふぅ・・・」


京子「それじゃ、かんぱーい!」カチン

結衣「かんぱーい」カチン

あかり「かんぱーい!」カチン

ちなつ「はぁ、私の夢~・・・」


終わり


以上です。
美術品好きな人ごめんなさい。
読んでくれてありがとうございました

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